(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ブレーキシステムおよびブレーキシステムを運転するための方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20220111BHJP
B60T 13/122 20060101ALI20220111BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T13/122 B
B60T13/74 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525827
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(85)【翻訳文提出日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 EP2019074958
(87)【国際公開番号】W WO2020098998
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】102018219516.1
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ボルヴェルク アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ナーゲル ヴィリ
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB03
3D048BB25
3D048CC54
3D048HH15
3D048HH16
3D048HH18
3D048HH26
3D048QQ07
3D048RR17
3D246BA02
3D246DA01
3D246GA01
3D246GA04
3D246GB37
3D246HA03A
3D246JA12
3D246LA04Z
3D246LA10A
3D246LA16Z
3D246LA33Z
3D246LA56Z
3D246LA57A
3D246LA73A
(57)【要約】
【課題】 本発明は、車両のためのブレーキシステム(100)およびブレーキシステム(100)を運転するための方法に関する。
【解決手段】 一次アウトレット(10A)を有するシリンダ室(10)内でスピンドル駆動手段(7)によってしゅう動可能な一次ピストン(11)と、前記シリンダ室(10)内に突入する、前記一次ピストン(11)内で同軸的にしゅう動可能なインレットプランジャ(6)とを備えたマスタブレーキシリンダ(1)を有しており、ホイールブレーキシリンダ(20)を備えたホイールブレーキ回路(2)を有しており、ポンプモータ(30)と、該ポンプモータ(30)によって駆動される、前記ホイールブレーキシリンダ(20)に連結されたポンプ装置(31)とを備えた圧力変換装置(3)を有しており、閉鎖状態で前記マスタブレーキシリンダ(1)の前記一次アウトレット(10A)を前記ホイールブレーキ回路(2)から分離し、開放状態で前記マスタブレーキシリンダ(1)の前記一次アウトレット(10A)を前記ホイールブレーキ回路(2)に接続する切換弁(4)を有しており、制御装置(5)を有しており、該制御装置(5)は、第1の運転モードで前記切換弁(4)を閉鎖し、かつ前記ポンプモータ(30)を、前記ホイールブレーキシリンダ(20)がブレーキ圧を調整するために前記インレットプランジャ(6)の軸方向移動量を表す操作信号に依存して操作されるように運転するために設けられていて、さらに前記マスタブレーキシリンダ(1)の前記スピンドル駆動手段(7)を、前記一次ピストン(11)の軸方向運動による前記インレットプランジャ(6)の軸方向移動に対抗して、所定の特性に従った、ストロークに依存する反力が作用するように運転するために設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のためのブレーキシステム(100)において、
一次アウトレット(10A)を有するシリンダ室(10)内で軸方向にしゅう動可能な一次ピストン(11)と、前記シリンダ室(10)内に突入していてブレーキペダルに連結するために設けられた、前記一次ピストン(11)内で同軸的にしゅう動可能なインレットプランジャ(6)と、前記一次ピストン(11)を軸方向に操作するための、前記一次ピストン(11)に連結されたスピンドル駆動手段(7)とを備えたマスタブレーキシリンダ(1)を有しており、
少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ(20)を備えたホイールブレーキ回路(2)を有しており、
ポンプモータ(30)と、該ポンプモータ(30)によって駆動される、前記ホイールブレーキシリンダ(20)に連結されたポンプ装置(31)とを備えた圧力変換装置(3)を有しており、
閉鎖状態で前記マスタブレーキシリンダ(1)の前記一次アウトレット(10A)を前記ホイールブレーキ回路(2)から分離し、開放状態で前記マスタブレーキシリンダ(1)の前記一次アウトレット(10A)を前記ホイールブレーキ回路(2)に接続する切換弁(4)を有しており、
制御装置(5)を有しており、該制御装置(5)は、第1の運転モードで前記切換弁(4)を閉鎖し、かつ前記ポンプモータ(30)を、前記ホイールブレーキシリンダ(20)がブレーキ圧を調整するために前記インレットプランジャ(6)の軸方向移動量を表す操作信号に依存して操作されるように運転するために設けられていて、さらに前記マスタブレーキシリンダ(1)の前記スピンドル駆動手段(7)を、前記一次ピストン(11)の軸方向運動による前記インレットプランジャ(6)の軸方向移動に対抗して、所定の特性に従った、ストロークに依存する反力が作用するように運転するために設けられている、ブレーキシステム(100)。
【請求項2】
前記ポンプ装置(31)のアウトレットがホイールインレットバルブ(34)を介して前記ホイールブレーキシリンダ(20)に接続されていて、前記ポンプ装置(31)のインレットがホイールアウトレットバルブ(35)を介して前記ホイールブレーキシリンダ(20)に接続されており、前記ホイールアウトレットバルブ(35)を介して中間貯蔵装置(36)が前記ホイールブレーキ回路(2)に接続されており、この場合、前記制御装置(5)は、前記第1の運転モードで、前記一次ピストン(11)がこの一次ピストン(11)によって前記シリンダ室(10)の体積をもはや増大させることができないストッパ位置にあるときに、前記切換弁(4)および前記ホイールアウトレットバルブ(35)を開放し、かつ前記スピンドル駆動手段(7)を、前記一次ピストン(11)が前記ストッパ位置から退出移動せしめられ、それによって前記インレットプランジャ(6)および/または前記一次ピストン(11)によって押し退けられた体積が前記中間貯蔵装置(36)に供給されるように、運転するために設けられている、請求項1記載のブレーキシステム(100)。
【請求項3】
前記制御装置(5)は、第2の運転モードで、前記切換弁(4)を開放し、かつ前記スピンドル駆動手段(7)および/または前記ポンプモータ(30)を車両制御信号に従って、前記ホイールブレーキシリンダ(20)がブレーキ圧を車両制御信号に依存して調節するために操作されるように運転するために設けられており、この場合、前記制御信号は、車両に連結するために設けられた、前記制御装置(5)の車両インターフェース(51)によって提供される、請求項1または2記載のブレーキシステム(100)。
【請求項4】
前記制御装置(5)は、前記第2の運転モードで、前記スピンドル駆動手段(7)を、前記インレットプランジャ(6)の軸方向移動によって生ぜしめられた、前記シリンダ室(10)の体積変化が前記一次ピストン(11)の逆向きの軸方向移動によって補正されるように運転するために設けられている、請求項1から3までのいずれか1項記載のブレーキシステム(100)。
【請求項5】
前記制御装置(5)は、前記第2の運転モードで、前記一次ピストン(11)がこの一次ピストン(11)によって前記シリンダ室(10)の体積をもはや増大させることができないストッパ位置にあるときに、前記切換弁(4)および前記ホイールアウトレットバルブ(35)を開放し、かつ前記スピンドル駆動手段(7)を、前記一次ピストン(11)が前記ストッパ位置から退出移動せしめられ、それによって前記インレットプランジャ(6)および/または前記一次ピストン(11)によって押し退けられた体積が前記中間貯蔵装置(36)に供給されるように、運転するために設けられている、請求項3または4記載のブレーキシステム(100)。
【請求項6】
前記インレットプランジャ(6)がインレットロッド(65)によってしゅう動可能であり、前記インレットプランジャ(6)は、好適には前記一次ピストン(11)に支持された第1のスプリング(81)によって、前記インレットロッド(65)に向かう方向に付勢されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のブレーキシステム(100)。
【請求項7】
前記スピンドル駆動手段(7)が、駆動装置(71)と、この駆動装置(71)によって軸方向にしゅう動可能なスピンドル(73)と、前記スピンドル(73)に接続された支持プレート(74)とを有しており、この場合、好適には前記一次ピストン(11)は第2のスプリング(82)によって前記支持プレートに向かう方向に付勢されている、請求項1から6までのいずれか1項記載のブレーキシステム(100)。
【請求項8】
前記支持プレート(74)は、前記シリンダ室(10)を画定するハウジング(15)に支えられたリターンスプリング(83)によって付勢されており、この場合、前記リターンスプリング(83)はさらに、前記支持プレート(74)または前記一次ピストン(11)の半径方向のショルダ(13)に支えられている、請求項7記載のブレーキシステム(100)。
【請求項9】
前記マスタシリンダ(1)がタンデムシリンダとして構成されていて、前記一次ピストン(11)に追加して二次ピストン(12)を有しており、該二次ピストン(12)が、前記一次アウトレット(10A)と二次アウトレット(10B)との間に位置する、前記シリンダ室(10)の領域内で軸方向にしゅう動可能である、請求項1から8までのいずれか1項記載のブレーキシステム(100)。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載のブレーキシステム(100)を運転するための方法において、
前記インレットプランジャ(6)を軸方向で移動させ、この際に第1の運転モードで、前記インレットプランジャ(6)の軸方向の移動量を表す操作信号を生成するステップと、
前記切換弁(4)を閉鎖するステップと、
前記ホイールブレーキシリンダ(20)が前記操作信号に依存して操作されるように、前記ポンプモータ(30)を運転するステップと、
前記一次ピストン(11)の軸方向運動による前記インレットプランジャ(6)の軸方向移動に対抗して、所定の特性に従った、ストロークに依存する反力が作用するように、前記マスタブレーキシリンダの前記スピンドル駆動手段(7)を運転するステップと、
を有している、ブレーキシステム(100)を運転するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両、特に例えば乗用車または貨物自動車等の自動車のためのブレーキシステムは、一般的な形式で電気液圧式のブレーキシステムとして実現されている。標準的に、このような形式のブレーキシステムは、アクチュエータピストンを備えたマスタブレーキシリンダを有している。マスタブレーキシリンダは、直接手動で操作可能であるかまたはブレーキ倍力装置を用いて操作可能であってよい。ブレーキ倍力装置を用いた場合、マスタブレーキシリンダは標準的な形式で、手動で操作されたインレットピストンの軸方向の移動量を表す操作信号に従って駆動される。マスタブレーキシリンダ内で発生された液圧は、ブレーキ圧を上昇させるためにホイールブレーキに伝送される。このようなブレーキシステム内にはしばしば圧力変換回路が組み込まれており、この圧力変換回路は、マスタブレーキシリンダに依存することなしにブレーキ圧を変換できるようにするために、インレットバルブおよびアウトレットバルブを介してホイールブレーキに接続された圧力発生装置を有している。このようなシステムは、例えば特許文献1に記載されている。
【背景技術】
【0002】
いわゆるブレーキバイワイヤシステムもますます使用されている。このようなシステムは、例えば特許文献2に記載されている。このブレーキシステムでは、マスタブレーキシリンダの操作によってシミュレータ装置内に液圧が生ぜしめられる。マスタブレーキシリンダによって生ぜしめられた圧力が検出され、この検出された圧力を用いて、電動機およびこの電動機を用いて移動可能な押し退けピストンを有する圧力発生装置を用いて、ホイールブレーキを操作するためのアクティブ回路内で調節される目標ブレーキ圧が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許公開第0281769号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許公開第102011079454号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、車両のためのブレーキシステムが設けられている。このブレーキシステムは、マスタブレーキシリンダを有しており、このマスタブレーキシリンダは、一次アウトレットを有するシリンダ室内で軸方向にしゅう動可能な一次ピストンと、シリンダ室内に突入していてブレーキペダルに連結するために設けられた、一次ピストン内で同軸的にしゅう動可能なインレットプランジャと、一次ピストンを軸方向に操作するための、この一次ピストンに連結されたスピンドル駆動手段とを備えている。つまり、一次ピストンを軸方向に移動させることによって、シリンダ室の体積を変えることができる。追加的に、インレットプランジャによってシリンダ体積を変化させることができる。ブレーキシステムはさらに、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダを備えたホイールブレーキ回路を有しており、またポンプモータと、このポンプモータによって駆動される、ホイールブレーキシリンダに連結されたポンプとを備えた圧力変換装置を有している。ブレーキシステムは、切換弁を有しており、この切換弁は、閉鎖状態でマスタブレーキシリンダの一次アウトレットをホイールブレーキ回路から分離し、開放状態でマスタブレーキシリンダの一次アウトレットをホイールブレーキ回路に接続するようになっている。本発明によればさらに、制御装置が設けられており、この制御装置は、第1の運転モードで切換弁を閉鎖し、かつポンプモータを、ホイールブレーキシリンダがブレーキ圧を調整するためにインレットプランジャの軸方向移動量を表す操作信号に依存して操作されるように運転するために設けられていて、さらにマスタブレーキシリンダのスピンドル駆動手段を、一次ピストンの軸方向運動によるインレットプランジャの軸方向移動に対抗して、所定の特性に従った、ストロークに依存する反力が作用するように運転するために設けられている。
【0005】
本発明の基礎を成している着想は、切換弁を用いてマスタブレーキシリンダをホイールブレーキシリンダから液圧式に分離し、マスタブレーキシリンダをブレーキ感覚シミュレータとして使用し、圧力変換装置を用いてホイールブレーキシリンダ内でブレーキ圧を発生させる、という点にある。マスタブレーキシリンダをブレーキ感覚シミュレータとして運転するために、インレットプランジャの移動時に一次ピストンがスピンドル駆動手段によって、インレットプランジャに反力が作用するように調節され、この際に、反力が、インレットプランジャの軸方向の移動距離または調節ストロークに依存した所定の変化に従って調節される。所定の変化または所定の特性は、例えば、直線的な変化、放物線状の変化またはより高い勾配の多項式に従った変化であってよい。インレットプランジャの軸方向の移動距離は、例えばストロークセンサを用いて検出することができ、この場合、ストロークセンサによって検出された値が操作信号を形成することができる。一次ピストンの調節によって、インレットプランジャの操作に基づいて発生する、シリンダ室の体積変化は、完全にまたは部分的に補正され得るので、ストロークシミュレーションが実現される。
【0006】
マスタブレーキシリンダをブレーキ感覚シミュレータとして使用することによって、反力の様々な特性を自在に調節することができるという利点がある。しかしながら、特にマスタブレーキシリンダは、圧力変換装置の運転故障時に、切換弁が開放されることによって、ブレーキ圧を発生させるために使用することができる。従って、このブレーキシステムは、感じとられる出力損失なしに、安全モードでさらに運転することができる。これによって、システムのフェールセーフが改善される。
【0007】
ブレーキシステムの1実施例によれば、ポンプ装置のアウトレットがホイールインレットバルブを介してホイールブレーキシリンダに接続されていて、ポンプ装置のインレットがホイールアウトレットバルブを介してホイールブレーキシリンダに接続されており、ホイールアウトレットバルブを介して中間貯蔵装置がホイールブレーキ回路に接続されている。中間貯蔵装置は、例えば隔離された蓄圧器として、または周囲圧力下にあってスニッファ孔を介してシリンダ室に流体接続されたリザーバタンクとして実現されてよい。
【0008】
1実施例によれば、制御装置は、第1の運転モードで、一次ピストンがこの一次ピストンによってシリンダ室の体積をもはや増大させることができないストッパ位置にあるときに、切換弁およびホイールアウトレットバルブを開放し、かつスピンドル駆動手段を、一次ピストンがストッパ位置から退出移動せしめられ、それによってインレットプランジャおよび/または一次ピストンによって押し退けられた体積が中間貯蔵装置に供給されるように、運転するために設けられている。つまり、一次ピストンがストッパ位置から離れる方向に移動せしめられ、それによってシリンダ室の体積を縮小するかまたは液圧流体をシリンダ室から押し出すことによって、シリンダ室が完全に満たされないように保証される。押し出された体積は、切換弁を介してホイールブレーキ内に押しやられ、ホイールブレーキからホイール排出弁によって中間貯蔵装置内に押しやられる。
【0009】
別の実施例によれば、制御装置は、第2の運転モードで、切換弁を開放し、かつスピンドル駆動手段および/またはポンプモータを車両制御信号に従って、ホイールブレーキシリンダがブレーキ圧を車両制御信号に依存して調節するために操作されるように運転するために設けられており、この場合、制御信号は、車両に連結するために設けられた、制御装置の車両インターフェースによって提供される。この場合、ブレーキ圧は、切換弁の開放時に、一次ピストンおよび/または圧力変換装置によって発生される。好適には、これは、一次ピストンと圧力変換装置とによって共通に行われる。何故ならばこれによって、スピンドル駆動手段およびポンプ装置にはそれぞれより小さい負荷がかかるからである。このことは、構成部材にとってやさしいか、または構成部材をより小さい負荷に合わせて設計することができる。制御信号は、車両の自律走行運転時に、距離データに基づいて特にオンボードコンピュータによって生成され、制動要求を表すことができる。
【0010】
別の実施例によれば、制御装置は、第2の運転モードで、スピンドル駆動手段を、インレットプランジャの軸方向移動によって生ぜしめられた、シリンダ室の体積変化が一次ピストンの逆向きの軸方向移動によって補正されるように運転するために設けられている。従って、インレットプランジャの操作は、運転者によって無効にされるか、またはインレットプランジャの操作によって生ぜしめられたシリンダ室の体積変化によって無効にされる。つまり、一次ピストンは、インレットプランジャによる体積変化に対応する距離だけ戻り移動せしめられる。これによって、インレットプランジャは簡単な形式で、追加的な構成部材なしに、ホイールブレーキ回路から機能的に分離され得る。特にこれによって、インレットプランジャの操作によるブレーキ圧の変化は生じない。
【0011】
別の実施例によれば、制御装置は、第2の運転モードで、一次ピストンがこの一次ピストンによってシリンダ室の体積をもはや増大させることができないストッパ位置にあるときに、切換弁およびホイールアウトレットバルブを開放し、かつスピンドル駆動手段を、一次ピストンがストッパ位置から退出移動せしめられ、それによってインレットプランジャおよび/または一次ピストンによって押し退けられた体積が中間貯蔵装置に供給されるように、運転するために設けられている。スピンドル駆動手段による一次ピストンのこの操作は、第1の運転モードのための前記操作と同様に、一次ピストンがストッパ位置にあるときに行われる。
【0012】
別の実施例によれば、インレットプランジャがインレットロッドによってしゅう動可能であり、インレットプランジャは、第1のスプリングによってインレットロッドに向かう方向に付勢されている。このような形式で、インレットプランジャはインレットロッドに向かって押しやられるので、インレットロッドが戻り方向に移動せしめられる際にインレットプランジャはインレットロッドに当て付けられる。しかしながら、インレットプランジャは、第1のスプリングの力に抗して、インレットロッドとは無関係に送り方向で移動させることができる。これにより、場合によっては、例えば第2の運転モードでインレットロッドが一緒に持っていかれることは避けられる。第1のスプリングは例えば一次ピストンに支持されていてよい。
【0013】
別の実施例によれば、スピンドル駆動手段が、駆動装置と、この駆動装置によって軸方向にしゅう動可能なスピンドルと、スピンドルに接続された支持プレートとを有している。支持プレートは、一次ピストンのための連動部材を形成しているか、または一次ピストンが支持プレートに当接している。オプション的に、一次ピストンは第2のスプリングによって支持プレートに向かう方向に付勢されているか、または第2のスプリングによって支持プレートに押し付けられる。これによって、支持プレートと一次ピストンとの間の堅固な固着が保証される。
【0014】
別の実施例によれば、支持プレートは、シリンダ室を画定するハウジングに支えられたリターンスプリングによって付勢されている。リターンスプリングは、第1の端部でハウジングに当接し、第2の端部で支持プレートに当接していてよい。選択的に、リターンスプリングは、第1の端部でハウジングに当接し、第2の端部で一次ピストンの半径方向のショルダに当接し、それによって一次ピストンを支持プレートに押圧するようになっていてよい。
【0015】
別の実施例によれば、マスタシリンダがタンデムシリンダとして構成されていて、一次ピストンに追加して二次ピストンを有しており、この二次ピストンが、一次アウトレットと二次アウトレットとの間に位置する、シリンダ室の領域内で軸方向にしゅう動可能である。一次アウトレットには別の切換弁を介して別のホイールブレーキ回路が接続されていて、別のホイールブレーキ回路のホイールブレーキシリンダは、前述のように、圧力変換装置のポンプモータによって駆動される別のポンプを介して操作され得る。
【0016】
本発明の別の態様によれば、前記実施例の1つによるブレーキシステムを運転するための方法が提供されている。本発明によれば、インレットプランジャが軸方向で移動せしめられ、この際に第1の運転モードで、インレットプランジャの軸方向の移動量を表す操作信号が生成される。別のステップで、切換弁の閉鎖が行われ、ホイールブレーキシリンダが操作信号に依存して操作されるように、ポンプモータの運転が行われ、一次ピストンの軸方向運動によるインレットプランジャの軸方向移動に対抗して、所定の特性に従った、ストロークに依存する反力が作用するように、マスタブレーキシリンダのスピンドル駆動手段の運転が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の1実施例によるブレーキシステムの概略図である。
【
図2】本発明の別の実施例によるブレーキシステムのマスタブレーキシリンダを示す概略図である。
【
図3】本発明の別の実施例によるブレーキシステムのマスタブレーキシリンダの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面の概略的な図で示した実施例を用いて本発明を詳しく説明する。
【0019】
図面の図中、同じ、機能的に同じおよび同じ作用を有する要素、特徴および構成部材には、他に説明されていない限り、それぞれ同じ符号が付けられている。
【0020】
図1は、車両のためのブレーキシステム100の1例を示す。ブレーキシステム100は、マスタブレーキシリンダ1、少なくとも1つのホイールブレーキ回路2、圧力変換装置3、ホイールブレーキ回路2毎に1つの切換弁4、制御装置5、およびホイールブレーキ回路2毎に1つのオプション的な高圧切換弁9を有している。
図1に例として示されたブレーキシステム100は、第1のホイールブレーキ回路2Aおよび第2のホイールブレーキ回路2Bを有している。
【0021】
図1に例として示されたマスタブレーキシリンダ1は、軸方向に延びるシリンダ室10を画定するハウジング15を有している。
図1に例として示されたマスタブレーキシリンダ1は、一次ピストン11および二次ピストン12を備えたタンデムシリンダとして構成されている。一次ピストン11およびオプション的な二次ピストンは、シリンダ室10内で軸方向にしゅう動可能に支承されている。ハウジング15は、一次アウトレット10Aおよび二次アウトレット10Bを有している。一次アウトレット10Aは、シリンダ室10の第1の軸方向端部15Aと、この第1の軸方向端部15Aとは反対の位置にある第2の軸方向端部15Bとの間に配置されている。二次アウトレット10Bは、一次アウトレット10Aと、シリンダ室10の第2の軸方向端部15Bとの間に配置されている。一次ピストン11は、第1の軸方向端部と一次アウトレット10Aとの間に延在する、シリンダ室10の第1の領域内で軸方向にしゅう動可能である。二次ピストン12は、一次アウトレット10Aと二次アウトレット10Bとの間に延在する第2の領域内で軸方向にしゅう動可能である。一次ピストン11と二次ピストン12とは、それぞれハウジング15と協働してシリンダ室10の、ピストン11,12の軸方向の位置決めによって可変である有効容積を規定する。
【0022】
図1に例として示されているように、マスタブレーキシリンダ1はさらにインレットプランジャ6を有している。インレットプランジャ6は、一次ピストン11に対して同軸的に配置されていて、一次ピストン11の軸方向孔14内で軸方向しゅう動可能にガイドされている。
図1に例として示されているように、インレットプランジャ6はシリンダ室10内に突入している。インレットプランジャ6は、
図1に例として示されているように、特に円柱状に構成されていてよい。シリンダ室10内に突入する内側の端部区分で、インレットプランジャはオプション的なショルダ61を有している。好適な形式でインレットプランジャ6は、内側の端部区分とは反対側に配置されたインレットプランジャ6の外側の端部区分に作用するインレットロッド65によって、軸方向にしゅう動可能である。インレットロッド65は、インレットプランジャ6を車両(図示せず)のブレーキペダルまたはブレーキレバーに連結するために用いられる。インレットプランジャ6は第1のスプリング81によって、軸方向に沿ってインレットロッド65に向かう方向に付勢されていてよい。第1のスプリング81は、
図1に例として示されているように、例えば二次ピストン12で支えられていてよい。二次ピストン12はさらに、この二次ピストン12の、一次ピストン11とは反対側に配置され、ハウジング15の端壁で支えられているスプリング84によって・・・いてよい。
【0023】
一次ピストン11を軸方向に移動させるために、マスタブレーキシリンダ1はスピンドル駆動手段7を有している。
図1に例として示されているように、スピンドル駆動手段7は特に、例えば電動機の形の駆動装置71と、駆動装置71によって軸方向にしゅう動可能なスピンドル73と、スピンドル73に接続された支持プレート74とを有していてよい。駆動装置71は特にスピンドルナット72を介してスピンドル73に連結されていてよい。駆動装置71とスピンドルナット72とは、ハウジング15に関連して定置に配置されている。スピンドル73は外ねじ73Aを有している。スピンドルナット72は、スピンドル73の外ねじ73Aに対応し、かつこの外ねじ73Aに噛み合う内ねじ72Aを有しているので、駆動装置71によってスピンドルナット72が回転させられると、スピンドル73は軸方向に移動する。スピンドル73は好適な形式で一次ピストン11に対して同軸的に配置されている。特にインレットロッド65は、
図1に例として示されているように、スピンドル73の内孔73Bを貫通して同軸的に延びていてよい。
図1に例として示されているように、さらにオプション的に、駆動装置71はスピンドルナット72に対して同軸的に配置されている。
【0024】
支持プレート74はスピンドル73の軸方向の一端部に配置されていて、スピンドル73に対して直交する半径方向に延在する。
図1に例として示されているように、オプション的に支持プレート74は、半径方向に関連して外側の領域で、軸方向に延在する単数または複数の抗張ロッド75によってガイドされている。オプション的に支持プレート74は中央の切欠を有しており、この切欠を通ってインレットロッド65が突き出している。支持プレート74はさらに、リターンスプリング83によって軸方向に沿ってスピンドル73に向かう方向に付勢されていてよい。リターンスプリング83は例えば、
図1に示されているように、ハウジング15および支持プレート74自体に支持されていてよい。
【0025】
図1に例として概略的に示されているように、支持プレート74に、特に支持プレート74から軸方向に突き出す突起部に差分ストロークセンサ86が配置されており、この差分ストロークセンサ86は、支持プレート74に対して相対的なインレットロッド65の位置の変化を検出するために設けられている。差分ストロークセンサ86は例えば誘導式センサとして実現することができ、インレットロッド65に磁石エレメント86Aが配置されていることができるので、差分ストロークセンサ86は、インレットロッド65の軸方向の移動量に基づく磁界の変化を検出する。
【0026】
ブレーキシステム100の手動式の運転モードで、運転者は例えばブレーキペダルまたはブレーキレバー(図示せず)を操作することによってインレットロッド65を軸方向に移動させることができる。この移動量は差分ストロークセンサ86によって検出され、この差分ストロークセンサ86は相応の操作信号を発生させる。駆動装置71は、操作信号に応じて、例えば制御装置5によって運転されるので、スピンドル73は支持プレート74およびひいてはこの支持プレート74に支持された一次ピストン11を移動させる。これによって、シリンダ室10の有効容積は減少され、液圧流体(図示せず)は一次アウトレット10Aを通ってシリンダ室から押しずらされる。オプション的な二次ピストン12は、一次ピストン11によって押し退けられた非圧縮性の液圧流体によって同様に軸方向で移動され、液圧流体を同様に二次アウトレット10Bから圧送する。
【0027】
各ホイールブレーキ回路2A,2Bは、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ20を有している。
図1に例として示されているように、各ホイールブレーキ回路2A,2Bはそれぞれ2つのホイールブレーキシリンダ20を有している。ホイールブレーキシリンダ20は
図1では単にシンボリックに示されているだけである。ホイールブレーキシリンダ20は、液圧流体によって操作可能であって、液圧流体の圧力に依存して摩擦面に力を加えるために設けられている。液圧流体の圧力はブレーキ圧と呼ばれる。
【0028】
図1にさらに概略的に示されているように、一次アウトレット10Aおよびオプション的に二次アウトレット10Bはそれぞれ、切換弁4を介してそれぞれ1つのホイールブレーキ回路2A,2Bに接続されている。切換弁4は好適には無電流開放式の電磁弁として構成されている。閉鎖された状態で各切換弁4はマスタブレーキシリンダ1の一次アウトレット10Aおよび場合によっては二次アウトレット10Bを、各ホイールブレーキ回路2A,2Bから分離し、つまり流体接続を遮断する。
図1に例として示された開放された状態で、各切換弁4はマスタブレーキシリンダ1の一次アウトレット10Aおよび場合によっては二次アウトレット10Bをホイールブレーキ回路2に接続するので、液圧流体は、ブレーキ圧を上昇させるために、シリンダ室10からホイールブレーキ回路2A,2Bに圧送され得る。
【0029】
図1にはさらに概略的に圧力変換装置3が示されている。圧力変換装置3はホイールブレーキ回路2毎に、単数または複数のポンプを備えた1つのポンプ装置31を有している。圧力変換装置3はさらにポンプモータ30を有しており、このポンプモータ30はポンプ装置31を駆動する。ポンプ装置31は、このポンプ装置のインレットに供給された液圧流体の圧力を増大させて、インレットに対して増大された圧力を有する液圧流体をアウトレットに提供するために設けられている。
【0030】
図1に概略的に示されているように、ポンプ装置31のアウトレットは、好適な形式でホイールインレットバルブ34を介して各ホイールブレーキ回路2の単数または複数のホイールブレーキシリンダ20に接続されている。特に、ホイールインレットバルブ34は、切換弁4とホイールブレーキシリンダ20との間に延在する液圧流路40内に配置されている。ポンプ装置31のインレットは、好適には
図1に示されているようにホイールアウトレットバルブ35を介して、同様にホイールブレーキシリンダ20に接続されている。ホイールアウトレットバルブ35は、特にホイールブレーキシリンダ20とポンプ装置31のインレットとの間に延在する液圧流路41内に配置されている。
【0031】
ホイールインレットバルブ34およびホイールアウトレットバルブ35は、特にそれぞれ電磁弁として実現され得る。ホイールインレットバルブ34は好適な形式で無電流開放式の電磁弁として実現されている。ホイールアウトレットバルブ35は好適な形式で無電流閉鎖式の電磁弁として実現されている。
図1には、ホイールインレットバルブ34は開放された状態で示されていて、ホイールアウトレットバルブ35は閉鎖された状態で示されている。
【0032】
さらに
図1に例として示されているように、オプション的な中間貯蔵装置36がホイールアウトレットバルブ35を介してホイールブレーキ回路2に接続されていてよい。
図1では例えば液圧流路41に接続された蓄圧器が中間貯蔵装置36として示されている。
図1にシンボリックに示されているように、蓄圧器はばねによって付勢されたピストンを有しており、このピストンは、液圧流路41内の圧力がばねのばね定数によって予め規定された限界値よりも小さくなると、中間貯蔵装置36内に存在する液圧流体を中間貯蔵装置36から液圧流路41内に戻す。その代わりに、中間貯蔵装置36は、内部に周囲圧力が支配しているリザーバタンク(図示せず)として構成されていてもよい。リザーバタンクは好適な形式で、インレット16を介して流体ガイド可能にシリンダ室10に接続されており、この場合、スピンドル駆動手段7とは反対側の、一次ピストン11の軸方向端部領域にスニッファ孔16Aが形成されており、このスニッファ孔16Aは一次ピストン11のストッパ位置でインレット16を開放し、それによってリザーバタンクとシリンダ室10との間で液圧流体が交換され得る。このようなリザーバタンクは、追加的に蓄圧器に設けられていてもよい。
【0033】
各ホイールブレーキ回路2にはさらに、それぞれ1つの高圧切換弁9が設けられており、この高圧切換弁9は、特に無電流閉鎖式の電磁弁として構成されていてよい。
図1では、高圧切換弁9はシンボリックに閉鎖された状態で示されている。閉鎖された状態で、各高圧切換弁9は、マスタブレーキシリンダ1の一次アウトレット10Aおよび場合によっては二次アウトレット10Bを各ホイールブレーキ回路2から分離する。閉鎖された状態で各高圧切換弁9は、マスタブレーキシリンダ1の一次アウトレット10Aおよび場合によっては二次アウトレット10Bを各ホイールブレーキ回路2に接続する。
【0034】
図1にシンボリックに示された制御装置5は、スピンドル駆動手段7,特にスピンドル駆動手段7の駆動装置71、ポンプモータ30、並びに切換弁4、ホイールインレットバルブ34、ホイールアウトレットバルブ35、ブレーキシステム100のオプション的な高圧切換弁9と、機能的に接続されている。機能的な接続とは、特に情報伝送のために設けられた接続、例えば有線式のまたは無線式のデータ接続であると解釈される。制御装置5は、特にデータまたは信号をブレーキシステム100の構成要素から伝送し、かつこれらの構成要素で受信するための制御インターフェース50を有している。さらにオプション的に車両インターフェース51が設けられていてよく、この車両インターフェース51で車両(図示せず)のデータまたは信号が受信され、かつ車両に伝送され得る。制御装置5は特に、受信されたインレット信号に基づいてアウトレット信号を提供するために設けられている。このために制御装置5は、特にプロセッサ(図示せず)および不揮発性のデータメモリ(図示せず)を有している。
【0035】
簡潔に記述した前記手動式の運転モードにおいて、制御装置5は高圧切換弁9を閉鎖状態に保ち、切換弁4を開放状態に保つ。ホイールインレットバルブ34は開放状態に保たれる。ホイールアウトレットバルブ35は閉鎖状態に保たれる。例えば運転者の操作に基づいてインレットロッド65によってインレットプランジャ6を移動させることにより、操作信号が例えば差分ストロークセンサ86によって生成される。従って、操作信号はインレットプランジャ6の軸方向の移動量を表す。制御装置5は、スピンドル駆動手段7、特にスピンドル駆動手段7の駆動装置71、およびオプション的に追加してポンプモータ30を、ホイールブレーキシリンダ20が操作信号に依存してブレーキ圧を調節するために操作されるように運転する。つまり、ブレーキ圧を増大させるために、一次ピストン11およびオプション的に二次ピストン12がスピンドル駆動手段7によって各アウトレット10A,10Bの方向で軸方向に移動せしめられ、それによって流体が各ホイールブレーキ回路2内に圧送され、それによってブレーキ圧が上昇される。さらに、ブレーキ圧はポンプ装置31によって上昇され得る。
【0036】
第1の運転モードで、制御装置5は、切換弁4を閉鎖し、ホイールブレーキシリンダ20がインレットプランジャ6の軸方向の移動量を表す操作信号に依存してブレーキ圧を調節するために操作されるように、ポンプモータ30を運転する。操作信号は、例えば差分ストロークセンサ86または別のセンサ例えば絶対ストロークセンサ(図示せず)によって提供される。絶対ストロークセンサは、インレットプランジャ6の軸方向の移動量を表す信号を提供するために設けられている。従って、運転者がインレットロッド65およびひいてはインレットプランジャ6を移動させるときに、運転者の制動要求を表す操作信号が生成される。制御装置5は、例えばソフトウエアとしてメモリに記憶された演算規定を用いて操作信号から調整信号を算出し、この調整信号をポンプモータ30に伝送する。ポンプモータ30は、ホイールブレーキシリンダ20内の所望のブレーキ圧を調節するためにポンプ装置31を相応に運転する。
【0037】
第1の運転モードで、制御装置5は、予め規定された特性に従った、ストロークに依存する反力が、一次ピストン11の軸方向運動によるインレットプランジャ6の軸方向の移動量に対抗するように、スピンドル駆動手段7または駆動装置71を運転する。特に、一次ピストン11の軸方向運動によって、手動式の運転モードにおいてホイールブレーキシリンダ20によって生ぜしめられた反力がシミュレートされる。予め規定された特性は、一般的にインレットプランジャ6の軸方向移動距離に依存した、インレットプランジャ6に作用する反力の変化によって表される。この反力は、一次ピストン11の軸方向移動量によって調節可能である。何故ならば、切換弁4は閉鎖されているからである。制御装置5は、例えばソフトウエアとしてメモリに記憶された演算規定を用いて操作信号から調整信号を算出し、この調整信号を、反力を生成するためにシリンダ室10内に予め規定された圧力を発生させるために、スピンドル駆動手段7に伝送する。
【0038】
図1には、例としてストッパ位置にある一次ピストン11が示されている。この位置で、一次ピストン11が支持プレート74に当接し、支持プレート74はスピンドルナット72にぶつかっている。これによって、一次ピストン11は一次アウトレット10Aに対して最大可能な間隔を有している。これにより、シリンダ室10の体積は一次ピストン11によってもはや増大可能ではない。従って、シリンダ室10内の圧力はもはや一次ピストン11の軸方向移動によって低下され得ない。反力の所望の特性をさらに臨機応変に調節可能とするために、制御装置5により生成された信号によって、各ホイールブレーキ回路2の少なくとも1つの切換弁4およびホイールアウトレットバルブ35が開放される。さらに制御装置5は、支持プレート74がスピンドルナット72から遠ざかり、それによって一次ピストン11がストッパ位置から退出移動されるように、スピンドル駆動手段7を運転する。これにより、一次ピストン11がシリンダ室から退出移動することよって押し退けられる液圧流体の体積は、ホイールアウトレットバルブ35を介して中間貯蔵装置36に供給される。このような形式で、要求されたブレーキ圧は一定に保たれ、さらに運転者のための所望のペダル感覚がシミュレートされる。
【0039】
第2の運転モードで、切換弁4は制御装置の相応の信号によって開放され、スピンドル駆動手段7および/またはポンプモータ30は、車両制御信号に従って制御装置5によって、ホイールブレーキシリンダ20が車両制御信号に依存してブレーキ圧を調整するために操作されるように、運転される。この場合、制御信号は、所定の車両インターフェース51によって制御装置5に提供される。これにより、第2の運転モードで、制動要求を表す信号は、運転者によるインレットプランジャ6の操作によって提供されるのではなく、外部の信号生成器、例えば車両の自律走行中にルートデータに基づいて制御信号を生成する、車両のオンボードコンピュータ(図示せず)によって提供される。この場合、制御装置5は、スピンドル駆動手段7およびポンプモータ30を、手動式の運転モードに基づいて前記形式で制御する。
【0040】
オプション的に、制御装置5が第2の運転モードで、インレットプランジャ6の軸方向の移動によって生ぜしめられたシリンダ室10の体積変化が一次ピストン11の対抗する軸方向移動によって補正されるように、スピンドル駆動手段7を運転するようになっていてよい。つまり、ブレーキシステム100が第2の運転モードにあるにも拘わらず、運転者が例えばインレットロッドの操作によってインレットプランジャ6を軸方向で移動させる場合、これは例えば差分ストロークセンサ86またはその他のセンサによって検出可能であるが、一次ピストン11は、シリンダ室10の有効容積が一定に保たれるように、移動される。これによって、ブレーキ圧の意図しない変化が運転者により行われることは避けられる。
【0041】
一次ピストン11が第2の運転モードのブレーキシステム100の運転中にストッパ位置にあるときに、制御装置5は少なくとも1つの切換弁4および相応のブレーキ回路のホイールアウトレットバルブ35を開放し、一次ピストン11がストッパ位置から退出移動するように、スピンドル駆動手段7を運転し、それによってインレットプランジャ6および/または一次ピストン11によって押し退けられた体積が中間貯蔵装置36に供給される。
【0042】
図2には、例として別のマスタブレーキシリンダ1が示されている。このマスタブレーキシリンダ1は、
図1に示されたマスタブレーキシリンダ1とは特に、インレットプランジャ6を軸方向に沿ってインレットロッド65に向かって付勢する第1のスプリング81が、一次ピストン11に支えられている点が異なっている。
図2に例として示されているように、インレットプランジャ6は、オプション的なショルダ61を備えた内側の端部区分とは反対側に位置する外側の端部区分に、半径方向に突き出すストッパ62を有しており、このストッパ62を第1のスプリング81が押圧する。
図2に例として示されているように、ストッパ62は特に帽子形またはスリーブ形に構成されている。
【0043】
オプション的に、
図2にはさらに、第2のスプリング82が設けられており、この第2のスプリング82は一次ピストン11を軸方向に沿って支持プレート74に向かって付勢する。第2のスプリング82は、一次ピストン11の、支持プレート74とは反対側に配置されている。特に、
図2に例として示されているように、第2のスプリング82は一次ピストン11と二次ピストン12との間に配置されていて、二次ピストン12で支えられていてよい。
【0044】
図3は例として別のマスタブレーキシリンダ1を示す。このマスタブレーキシリンダ1は、
図2に示されたマスタブレーキシリンダ1と同様に構成されていて、
図2に示されたマスタブレーキシリンダとは特に、リターンスプリング83が支持プレート74を直接押圧するのではなく、一次ピストン11の半径方向のショルダ13を押圧する点で異なっている。
図3に示されているように、一次ピストン11の半径方向のショルダ13は、一次ピストン11から半径方向に延びていて、好適には支持プレート74に対面する、一次ピストン11の端部区分に配置されている。
【0045】
本発明は、前記複数の実施例を用いて具体的に説明されているが、これらの実施例に限定されるものではなく、多様な形式で改良可能である。特に前記複数の実施例の組み合わせも考えられる。
【符号の説明】
【0046】
1 マスタブレーキシリンダ
2 ホイールブレーキ回路
2A 第1のホイールブレーキ回路
2B 第2のホイールブレーキ回路
3 圧力変換装置
4 切換弁
5 制御装置
6 インレットプランジャ
7 スピンドル駆動手段
9 高圧切換弁
10 シリンダ室
10A 一次アウトレット
10B 二次アウトレット
11 一次ピストン
12 二次ピストン
13 半径方向のショルダ
14 軸方向孔
15 ハウジング
15A 第1の軸方向端部
15B 第2の軸方向端部
16 インレット
16A スニッファ孔
20 ホイールブレーキシリンダ
30 ポンプモータ
31 ポンプ装置
34 ホイールインレットバルブ
35 ホイールアウトレットバルブ
36 中間貯蔵装置
40,41 液圧流路
50 制御インターフェース
51 車両インターフェース
61 ショルダ
62 ストッパ
65 インレットロッド
71 駆動装置
72 スピンドルナット
72A 内ねじ
73 スピンドル
73A 外ねじ
73B 内孔
74 支持プレート
81 第1のスプリング
82 第2のスプリング
83 リターンスプリング
84 スプリング
86 差分ストロークセンサ
86A 磁石エレメント
100 ブレーキシステム
【国際調査報告】