IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォーティ セブン, インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(54)【発明の名称】c-Kitに対するヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20220111BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220111BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20220111BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220111BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/10 200Z
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 111
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021529294
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(85)【翻訳文提出日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 US2019063091
(87)【国際公開番号】W WO2020112687
(87)【国際公開日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】62/771,526
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517054604
【氏名又は名称】フォーティ セブン, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Forty Seven, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リュウ, ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ソンパリ, カビサ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明では、c-Kitに特異的に結合する抗体ならびに幹細胞置換およびがん処置においてこのような抗体を使用する方法を提供する。本発明では、それぞれ配列番号2~4の、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3を含む成熟重鎖可変領域、ならびにそれぞれ配列番号6~8の、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3を含む成熟軽鎖可変領域を含むが、ただし、位置をKabatに従って付番して、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQから選択される1、2または3つのCDR残基の置換が存在する、ヒトc-Kitに特異的に結合する抗体を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ配列番号2~4の、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3を含む成熟重鎖可変領域、ならびにそれぞれ配列番号6~8の、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3を含む成熟軽鎖可変領域を含むが、ただし、位置をKabatに従って付番して、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQから選択される1、2または3つのCDR残基の置換が存在する、ヒトc-Kitに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3が、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3が、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQの前記置換が存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3が、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3が、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQの前記置換が存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記成熟重鎖可変領域が、配列番号13、17または21(AH2、AH3またはAH4)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示し、前記成熟軽鎖可変領域が、配列番号53(NL2)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示し、示される前記配列番号からのいかなる変動もKabatにより定義される前記CDR外である、前記請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
Kabat付番による重鎖1位が、Eである、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
前記成熟軽鎖可変領域の以下の位置が、アミノ酸により以下:
9位がLにより占有され、
12位がPにより占有され、
14位がTにより占有され、
15位がPにより占有され、
18位がPにより占有され、
20位がSにより占有され、
22位がSにより占有され、
37位がLにより占有され、
43位がSにより占有され、
45位がQにより占有され、
74位がKにより占有され、
77位がRにより占有され、
78位がVにより占有され、
79位がEにより占有され、
84位がGにより占有される、
のように占有される、前記請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項7】
前記成熟重鎖可変領域が、配列番号13、17または21から選択される配列を有するが、ただし、1位がEであってもよく、前記成熟軽鎖可変領域が、配列番号53の配列を有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
前記成熟重鎖可変領域が、重鎖定常領域に結合し、前記成熟軽鎖可変領域が、成熟軽鎖定常領域に結合する、前記請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項9】
前記重鎖定常領域が、ヒトIgG1である、請求項7に記載の抗体。
【請求項10】
ヒトc-Kitへの結合がAMG191と比較して増強されている、前記請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項11】
ADCPがAMG191-IgG1と比較して増強されている、前記請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項12】
ADCCがAMG191-IgG1と比較して増強されている、前記請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項13】
前記請求項のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
内因性HSPCを除去する方法であって、有効なレジメンによる前記請求項のいずれかに記載の抗体を、除去を必要とする被験体に投与するステップを含む、方法。
【請求項15】
c-Kitを発現するがんを処置する方法であって、有効なレジメンによる前記請求項のいずれかに記載の抗体を、前記がんを有する被験体に投与するステップを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願では、2018年11月26日出願の米国特許仮出願第62/771,526号の利益を主張し、すべての目的のために、この全体を参照により組み込む。
【0002】
配列表の参照
本出願は、2019年11月25日作成のtxtファイル540687US SL_ST25 31,466バイトにより配列を含み、これを参照により組み込む。
【背景技術】
【0003】
c-Kit(CD117)は、受容体型チロシンキナーゼIII型であって、特定の細胞型の増殖を生じる物質であり「スチール(steel)因子」または「c-Kitリガンド」としても知られる幹細胞因子(SCF)に結合する。この受容体が幹細胞因子に結合すると、その内因性チロシンキナーゼ活性を活性化する2量体を形成し、次いでこれは、細胞においてシグナルを伝播するシグナル伝達分子をリン酸化および活性化する。c-Kitは、骨髄中の特定の型のHSPCの同定に使用する細胞表面マーカーである。造血幹細胞(HSC)、多能性前駆細胞(MPP)および骨髄系共通前駆細胞(CMP)は、高レベルのc-Kitを発現する。c-Kitに対する抗体は、幹細胞置換療法における内因性細胞の除去に使用可能であると提唱されている(国際公開第2016/033201号、国際公開第2008/067115号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/033201号
【特許文献2】国際公開第2008/067115号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、それぞれ配列番号2~4の、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3を含む成熟重鎖可変領域、ならびにそれぞれ配列番号6~8の、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3を含む成熟軽鎖可変領域を含むが、ただし、位置をKabatに従って付番して、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQから選択される1、2または3つのCDR残基の置換が存在する、ヒトc-Kitに特異的に結合する抗体を提供する。
必要に応じて、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3は、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3は、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖64位のKからQの置換および軽鎖30位のNからQの置換が存在する。
【0006】
必要に応じて、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3は、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3は、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖60位のNからAの置換、重鎖64位のKからQの置換および軽鎖30位のNからQの置換が存在する。
【0007】
必要に応じて、成熟重鎖可変領域は、配列番号13、17または21(AH2、AH3またはAH4)に対して少なくとも85、90、95、98または99%の配列同一性を示し、成熟軽鎖可変領域は、配列番号53(NL2)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示すが、ただし、示される配列番号からのいかなる変動もCDR外である。
【0008】
必要に応じて、Kabat付番による重鎖1位は、Eである。必要に応じて、成熟軽鎖可変領域の以下の位置は、アミノ酸により以下のように占有される:9位がLにより占有され、12位がPにより占有され、14位がTにより占有され、15位がPにより占有され、18位がPにより占有され、20位がSにより占有され、22位がSにより占有され、37位がLにより占有され、43位がSにより占有され、45位がQにより占有され、74位がKにより占有され、77位がRにより占有され、78位がVにより占有され、79位がEにより占有され、84位がGにより占有される。必要に応じて、成熟重鎖可変領域は、配列番号13、17または21から選択される配列を有するが、ただし、1位がEであってもよく、成熟軽鎖可変領域は、配列番号53の配列を有する。必要に応じて、成熟重鎖可変領域は、重鎖定常領域に結合し、成熟軽鎖可変領域は、成熟軽鎖定常領域に結合する。必要に応じて、重鎖定常領域は、ヒトIgG1である。必要に応じて、抗体は、ヒトc-Kitへの結合がAMG191と比較して増強されている。必要に応じて、抗体は、ADCPがAMG191-IgG1と比較して増強されている。必要に応じて、抗体は、ADCCがAMG191-IgG1と比較して増強されている。
【0009】
本発明では、上記の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0010】
本発明では、内因性HSPCを除去する方法であって、有効なレジメンによる上記抗体を、除去を必要とする被験体に投与するステップを含む方法をさらに提供する。
【0011】
本発明では、c-Kitを発現するがんを処置する方法であって、有効なレジメンによる抗体を、がんを有する被験体に投与するステップを含む方法をさらに提供する。
【0012】
定義
モノクローナル抗体または他の生物学的実体は、単離形態で典型的に提供される。これは、抗体または他の生物学的実体が、典型的に、この生成または精製から生じる干渉タンパク質および他の夾雑物から少なくとも50%w/w純粋であることを意味するが、モノクローナル抗体が、その使用を促進することが意図される過剰量の薬学的に許容される担体(複数可)または他のビヒクルと混合される可能性は除外しない。モノクローナル抗体は、生成または精製からの干渉タンパク質および夾雑物から少なくとも60%、70%、80%。90%、95%または99%(w/w)純粋であることがある。単離モノクローナル抗体または他の生物学的実体は、その精製後に残存する優勢な高分子種であることが多い。
【0013】
特異的結合は、大きさが検出可能に高くなり、少なくとも1つの無関係な標的に生じる非特異的結合と識別可能である。特異的結合は、特定の官能基間の結合の形成または特定の空間的適合(例えば、錠と鍵の型)の結果であり得るが、非特異的結合は、通常、ファンデルワールス力の結果である。しかし、特異的結合は、抗体が1つかつ唯一の標的に結合することを必ずしも意味しない。本発明の抗体は、典型的に、少なくとも10、10、1010、1011または1012-1の親和性でc-Kitに特異的に結合する。
【0014】
基本的抗体構造単位は、4量体のサブユニットである。各4量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対を含み、各対は、1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部は、抗原認識の主な原因となる約100~110またはこれよりも多いアミノ酸の可変領域を含む。この可変領域は、切断可能なシグナルペプチドに結合されて最初に発現する。シグナルペプチドを有しない可変領域は、成熟可変領域と呼ばれることがある。したがって、例えば、軽鎖成熟可変領域は、軽鎖シグナルペプチドを有しない軽鎖可変領域を意味する。各鎖のカルボキシ末端部は、エフェクター機能の主な原因となる定常領域を定義する。
【0015】
軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEにそれぞれ定義される。軽および重鎖では、可変および定常領域は、約12またはこれよりも多いアミノ酸の「J」領域により繋がれ、重鎖はまた、約10またはこれよりも多いアミノ酸の「D」領域を含む。一般に、Fundamental Immunology, Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y.,1989, Ch. 7を参照されたい(すべての目的のために、この全体を参照により組み込む)。
【0016】
免疫グロブリン軽または重鎖可変領域(本明細書においてそれぞれ「軽鎖可変ドメイン」(「VLドメイン」)または「重鎖可変ドメイン」(「VHドメイン」)とも呼ぶ)は、3つの「相補性決定領域」または「CDR」により分断される「フレームワーク」領域からなる。フレームワーク領域は、抗原のエピトープへの特異的な結合に関してCDRをアラインメントさせるように作用する。CDRは、抗原結合の主な原因となる抗体のアミノ酸残基を含む。アミノ末端からカルボキシ末端までに、VLとVHの両ドメインは、次のフレームワーク(FR)およびCDR領域:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。VLドメインのCDR1、2および3はまた、本明細書においてそれぞれ、CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3と呼び、VHドメインのCDR1、2および3はまた、本明細書においてそれぞれ、CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3と呼ぶ。
【0017】
アミノ酸の各VLおよびVHドメインへの割当は、CDRの任意の従来定義に従う。従来定義は、Kabatの定義(Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (NationalInstitutes of Health, Bethesda, MD, 1987 and 1991))、Chothiaの定義(Chothia &Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917, 1987; Chothia et al., Nature 342:878-883, 1989);CDR-H1はChothiaおよびKabatのCDRの複合である、Chothia Kabat CDRの複合;Oxford Molecularの抗体モデル化ソフトウェアにより使用される、AbMの定義;ならびにMartinらの接触の定義(worldwide web bioinfo.org.uk/abs)を含む。Kabatは、種々の重鎖間または種々の軽鎖間の対応する残基を同一の番号に割り当てる、広範に使用される付番の定法(Kabat付番)を提供している。他に特定しない限り、抗体の可変領域における位置の付番は、Kabat付番である。抗体が、CDRの特定の定義(例えば、Kabat)によるCDRを含むと考えられる場合、この定義は、抗体に存在する最小数のCDR残基(すなわち、Kabat CDR)を特定する。CDRの別の従来定義内であるが、特定する定義外である、他の残基も存在することは除外しない。例えば、Kabatにより定義されるCDRを含む抗体は、他の可能性もあるが、特に、CDRがKabat CDR残基を含み他のCDR残基を含まない抗体、およびCDR H1がChothia-Kabat複合CDR H1であり、他のCDRがKabat CDR残基を含み他の定義に基づくさらなるCDR残基を含まない抗体を含む。
【0018】
用語「抗体」は、インタクトな抗体およびその結合断片を含む。典型的には、断片は、別々の重鎖、軽鎖Fab、Fab’、F(ab’)2、F(ab)c、Dab、ナノボディ、およびFvを含む標的への特異的結合について、これらが由来するインタクトな抗体と競合する。断片は、組換えDNA技術により、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的分離により生成することができる。また、用語「抗体」は、二特異性抗体および/またはヒト化抗体を含む。二特異性または二機能性抗体は、2つの異なる重/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である(例えば、Songsivilai and Lachmann, Clin. Exp. Immunol., 79:315-321 (1990);Kostelnyet al., J. Immunol., 148:1547-53 (1992)を参照)。
【0019】
また、例となる二特異性抗体は、(1)各軽鎖および重鎖が2つの可変ドメインを短いペプチド結合により直列に含む、二重可変ドメイン抗体(DVD-Ig)(Wu et al., Generation and Characterization of a Dual Variable DomainImmunoglobulin (DVD-IgTM) Molecule, In: Antibody Engineering,Springer Berlin Heidelberg (2010))、(2)2つの単一鎖ダイアボディ(diabody)の融合であり、標的抗原のそれぞれに2つの結合部位を有する4価の二特異性抗体が生じる、Tandab、(3)scFvとダイアボディとの組合せであり、多価分子を生じる、フレキシボディ(flexibody)、(4)Fabに適用する場合、異なるFab断片に結合する2つの同一のFab断片からなる3価の二特異性結合タンパク質を得ることができる、プロテインキナーゼAにおける「2量体形成およびドッキングドメイン」に基づく、いわゆる「ドックアンドロック(dockand lock)」分子、または(5)例えば、ヒトFc領域の両末端に融合する2つのscFvを含む、いわゆるスコーピオン分子であり得る。二特異性抗体の調製に有用なプラットフォームの例としては、BiTE(Micromet社)、DART(MacroGenics社)、FcabおよびMab2(F-star社)、Fc操作IgGI(Xencor社)またはDuoBody(Fabアーム交換に基づく、Genmab社)が挙げられる。
【0020】
用語「エピトープ」は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、1つまたは複数のタンパク質の3次折り畳みにより並置される近接アミノ酸または非近接アミノ酸から形成され得る。近接アミノ酸から形成されるエピトープ(直鎖エピトープとしても知られる)は、変性溶媒への曝露時に典型的に維持されるが、3次折り畳みにより形成されるエピトープ(コンフォメーションエピトープとしても知られる)は、変性溶媒による処理時に典型的に失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3個、より通常は、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸をユニークな空間的コンフォメーションにおいて含む。エピトープの空間的コンフォメーションを決定する方法は、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols, in Methods in Molecular Biology, Vol. 66,Glenn E. Morris, Ed. (1996)を参照されたい。
【0021】
抗体間の競合は、試験下の抗体により参照抗体の共通抗原への特異的結合が阻害されるアッセイにより決定する(例えば、Junghans et al., Cancer Res. 50:1495, 1990を参照)。競合結合アッセイにおいて測定したとき過剰量の試験抗体(例えば、少なくとも2×、5×、10×、20×または100×)により参照抗体の結合が少なくとも50%阻害される場合、試験抗体は、参照抗体と競合する。一部の試験抗体により、参照抗体の結合が少なくとも75%、90%または99%阻害される。競合アッセイにより同定される抗体(競合抗体)は、参照抗体と同一のエピトープに結合する抗体、および参照抗体により結合するエピトープに十分に近位の隣接エピトープに結合して立体障害が生じる抗体を含む。
【0022】
用語「薬学的に許容される」は、担体、希釈剤、賦形剤もしくは補助剤が、製剤の他の成分と適合し、そのレシピエントに対して実質的には有害でないこと、および/またはこのような担体、希釈剤、賦形剤もしくは補助剤が、ヒトへの非経口投与のための医薬組成物への含有についてFDAにより承認されているか、もしくは承認可能であることを意味する。
【0023】
用語「被験体」は、予防的または治療的処置のいずれかを受けるヒトおよび他の哺乳動物被験体を含む。
【0024】
アミノ酸置換を保存的または非保存的置換に分類する目的では、アミノ酸は、以下のようにグループ化する:I群(疎水性側鎖):met、ala、val、leu、ile;II群(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;III群(酸性側鎖):asp、glu;IV群(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;V群(鎖配向に影響する残基):gly、pro;およびVI群(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は、同一クラスにおけるアミノ酸間の置換を含む。非保存的置換は、このようなクラスのうちの1つのメンバーと別のクラスのメンバーとの交換を構成する。
【0025】
パーセント配列同一性は、Kabat付番の定法により最大限にアラインメントした抗体配列により決定する。アラインメント後、対象抗体領域(例えば、重または軽鎖の成熟可変領域全体)を参照抗体の同一の領域と比較する場合、対象および参照抗体領域間のパーセント配列同一性は、対象および参照の両抗体領域における同一のアミノ酸により占有された位置の数を、ギャップは計数せずに、2つの領域のアラインメントした位置の総数で割り、100を掛けてパーセントに変換したものである。
【0026】
1つまたは複数の列挙する要素を「含む(comprising)」か、または「含む(including)」組成物または方法は、詳細には列挙しない他の要素を含み得る。例えば、抗体を「含む(comprises)」か、または「含む(includes)」組成物は、抗体を単独でまたは他の成分と組み合わせて含み得る。
【0027】
値の範囲の指定は、範囲内または範囲を画定するすべての整数および範囲内の整数により画定されるすべての部分範囲を含む。
【0028】
文脈から他に明らかでない限り、用語「約」は、記述される値の非実質的変動、例えば、測定値の標準誤差(例えば、SEM)内の値を包含する。
【0029】
統計学的有意性は、p<0.05を意味する。
【0030】
ヒト化抗体は、非ヒト「ドナー」抗体由来のCDRをヒト「アクセプター」抗体配列に移植する遺伝子操作された抗体である(例えば、Queenの米国特許第5,530,101号および第5,585,089号、Winterの米国特許第5,225,539号、Carterの米国特許第6,407,213号、Adairの米国特許第5,859,205号、ならびにFooteの米国特許第6,881,557号を参照)。アクセプター抗体配列は、例えば、成熟ヒト抗体配列、このような配列の複合、ヒト抗体配列のコンセンサス配列、または生殖系列領域配列であり得る。したがって、ヒト化抗体は、完全または実質的にドナー抗体由来のCDR、ならびに可変領域フレームワーク配列および存在する場合、完全または実質的にヒト抗体配列由来の定常領域を有する抗体である。対応する残基(Kabatにより定義される)の少なくとも85%、90%、95%または100%がそれぞれのCDR間で同一である場合、ヒト化抗体のCDRは、非ヒト抗体の対応するCDRに実質的に由来する。Kabatにより定義される対応する残基の少なくとも85%、90%、95%または100%がヒトアクセプター配列と同一である場合、抗体鎖の可変領域フレームワーク配列または抗体鎖の定常領域は、それぞれヒト可変領域フレームワーク配列またはヒト定常領域に実質的に由来する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1-1】図1Aおよび1Bは、HB-10716として寄託されたハイブリドーマにより生成したマウス抗c-Kit抗体の成熟重および軽鎖可変領域を示す。
図1-2】図1Aおよび1Bは、HB-10716として寄託されたハイブリドーマにより生成したマウス抗c-Kit抗体の成熟重および軽鎖可変領域を示す。
【0032】
図2-1】図2Aおよび2Bは、本発明の5つのヒト化重鎖成熟可変領域および2つのヒト化軽鎖成熟可変領域の成熟重および軽鎖可変領域をマウスおよびヒトアクセプター配列と比較して示す。ヒト化配列の可変領域フレームワークは、AMG191のものと同一であるが、CDRは異なる。
図2-2】図2Aおよび2Bは、本発明の5つのヒト化重鎖成熟可変領域および2つのヒト化軽鎖成熟可変領域の成熟重および軽鎖可変領域をマウスおよびヒトアクセプター配列と比較して示す。ヒト化配列の可変領域フレームワークは、AMG191のものと同一であるが、CDRは異なる。
【0033】
図2-3】図2Cでは、AMG191の結合を、CDR置換を有するそのバリアントと比較する。CDR置換バリアントのすべてが、結合の増強を示した。
【0034】
図2-4】図2Dでは、AMG191の結合を、他のCDRの置換を有するバリアントと比較する。このようなバリアントは、結合の減少を示した。
【0035】
図3-1】図3Aおよび3Bでは、6つのヒト化重鎖成熟可変領域および3つのヒト化軽鎖成熟可変領域の配列をAMG191、マウス配列およびヒトアクセプター配列と比較して提供する。このようなヒト化鎖では、可変領域フレームワークは、AMG191抗体におけるものと異なる。また、ヒト化鎖の一部は、CDRにおいて異なる。
図3-2】図3Aおよび3Bでは、6つのヒト化重鎖成熟可変領域および3つのヒト化軽鎖成熟可変領域の配列をAMG191、マウス配列およびヒトアクセプター配列と比較して提供する。このようなヒト化鎖では、可変領域フレームワークは、AMG191抗体におけるものと異なる。また、ヒト化鎖の一部は、CDRにおいて異なる。
【0036】
図3-3】図3Cでは、同一のCDRを有するが可変領域フレームワークが異なる(種々のヒトアクセプター配列の使用から生じる)ヒト化抗体と、AMG191の結合を比較する。新たなフレームワーク(NF)を有する抗体は、高い親和性を有する。
【0037】
図3-4】図3Dでは、AMG191と比較して新たなフレームワークに基づきCDR置換をも有するさらなるヒト化バリアントと、AMG191の結合を比較する。バリアント抗体の3つすべては、高い親和性を有した。
【0038】
図4図4では、CDR置換および異なる軽鎖可変領域フレームワーク(重鎖可変領域フレームワークは同一)の存在によりAMG191と異なる3つのヒト化抗体と、AMG191の結合を比較する。バリアント抗体の3つすべては、高い親和性を有した。
【0039】
図5図5では、AMG191、野生型IgG1定常領域を有するAMG191のバリアントの食作用活性を、本発明の5つの新たなヒト化抗体と比較する。新たなバリアント、特には、HF12およびNF112は、特には、低い試験濃度において、食作用の増加を示した。
【0040】
図6図6では、AMG191のADCC活性を、2つの新たなヒト化バリアントHF112およびHF12ならびにアイソタイプ対応無関係対照と比較する。HF112およびHF12は、さらなるADCC活性を有した。
【0041】
図7図7は、HF12およびHF112によるSCF誘導HSPC増殖の阻害を、AMG191、AMG191-ヒトIgG1および陰性対照と比較して示す。
【0042】
図8図8では、抗c-Kit抗体のマスト細胞脱顆粒を、陽性対照A23187およびIgE+抗IgEと比較する。
【発明を実施するための形態】
【0043】
配列の簡単な説明
配列番号1~4は、HB-10716の抗体の成熟重鎖可変領域ならびにCDR-H1、H2およびH3である。
【0044】
配列番号5~8は、HB-10716の抗体の成熟軽鎖可変領域ならびにCDR-L1、L2およびL3である。
【0045】
配列番号9~12は、ヒト化重鎖AH1の成熟重鎖可変領域ならびにCDR-H1、H2およびH3である。
【0046】
配列番号13~16は、ヒト化重鎖AH2の成熟重鎖可変領域ならびにCDR-H1、H2およびH3である。
【0047】
配列番号17~20は、ヒト化重鎖AH3の成熟重鎖可変領域ならびにCDR-H1、H2およびH3である。
【0048】
配列番号21~24は、ヒト化重鎖AH4の成熟重鎖可変領域ならびにCDR-H1、H2およびH3である。
【0049】
配列番号25~28は、ヒト化重鎖AH5の成熟重鎖可変領域ならびにCDR-H1、H2およびH3である。
【0050】
配列番号29は、AMG191の成熟重鎖可変領域である。
【0051】
配列番号30は、IGHV1-46*01の可変領域配列である。
【0052】
配列番号31~34は、ヒト化軽鎖AL1の成熟軽鎖可変領域ならびにCDR-L1、L2およびL3である。
【0053】
配列番号35~38は、ヒト化軽鎖AL2の成熟軽鎖可変領域ならびにCDR-L1、L2およびL3である。
【0054】
配列番号39は、AMG191の成熟軽鎖可変領域である。
【0055】
配列番号40~43は、IGKV4-1*01の可変領域配列および3つのCDR-L1、L2およびL3である。
【0056】
配列番号44~50は、ヒト化重鎖NH、NH1、NH2、NH3、NH4およびNH5ならびにIGHV3-23*01の成熟重鎖可変領域である。
【0057】
配列番号51~54は、ヒト化軽鎖NL、NL1、NL2およびIGKV2-28*01の成熟軽鎖可変領域である。
【0058】
I.概要
本発明では、ヒトc-Kit(SwissProt P10721)に特異的に結合する抗体を提供する。抗体は、HB-10716として寄託されたハイブリドーマにより生成される、これまでに開示されているマウス抗c-Kit抗体のヒト化形態を表し、これは、それぞれ配列番号1および5の成熟重および軽鎖可変領域を有する。このマウス抗体は、AMG191として、これまでにヒト化されている(米国特許第7,915,391号を参照)。AMG191のKabat CDRは、これらが由来するマウス抗体と同一である。AMG191は、CreativeBiolabs社から市販されている。
【0059】
本発明の抗体は、HB-10716として寄託されたマウス抗体に実質的に由来するCDRをヒトアクセプター配列に移植し、必要に応じて、以下にさらに記載するように特定の位置において置換したものである。
【0060】
一部の抗体は、CDR H1、H2およびH3を含む、配列番号1の成熟重鎖可変領域、ならびにCDR L1、L2およびL3を含む、配列番号5の成熟軽鎖可変領域を含むが、ただし、少なくとも1つのCDR残基の置換が存在する。CDR H1、H2およびH3は、好ましくは、配列番号2~4をそれぞれ含み、CDR L1、L2およびL3は、好ましくは、配列番号6~8を含む(すなわち、Kabatにより定義される)が、ただし、少なくとも1つのCDRの置換が存在する。CDRの置換は、位置をKabatに従って付番して、好ましくは、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQから選択される。このような置換は、1、2または3つすべてが存在し得る。一部の抗体は、重鎖64位および軽鎖30位における置換を含む。一部の抗体は、重鎖60位、重鎖64位および軽鎖30位における置換を含む。一部の抗体は、重鎖60位および軽鎖30位における置換を含む。一部の抗体は、重鎖60位および重鎖64位における置換を含む。一部の抗体は、Kabat CDRの置換を有しないが、ただし、重鎖60位および64位ならびに軽鎖30位における置換を個々に、または収載する組合せで有する。Kabat CDRの他の任意の置換が存在する場合、このような他の置換の存在が1、2、3、4または5つ以下であることが好ましい。
【0061】
本発明の抗体の一部は、AMG191に存在する残基と比較してCDR残基の少なくとも1つの置換の存在により、AMG191とは異なる。好ましい置換は、位置をKabatに従って付番して、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQである。このような置換は、1、2または3つすべてが存在し得る。一部の抗体は、重鎖64位および軽鎖30位における置換を含む。一部の抗体は、重鎖60位、重鎖64位および軽鎖30位における置換を含む。一部の抗体は、重鎖60位および軽鎖30位における置換を含む。一部の抗体は、重鎖60位および重鎖64位における置換を含む。一部の抗体は、AMG191のKabat CDRと比較して置換を有しないが、ただし、重鎖60位および64位ならびに軽鎖30位における置換を個々に、または収載する組合せで有する。Kabat CDRの他の任意の置換が存在する場合、このような他の置換の存在が1、2、3、4または5つ以下であることが好ましい。
【0062】
重鎖60位および64位ならびに軽鎖30位において個々または組合せでCDRを置換すると、ヒトc-Kitに対する結合親和性の向上が付与され得る。また、置換は、ある位置のヒト生殖系列残基とのマウス残基の置き換えを表し、これ以外が同じなら、ヒト化抗体のヒト特性が向上する。以下の表1では、HB-10716として寄託されたマウス抗体、AMG191および3つの本発明のヒト化抗体において、重鎖60位および64位ならびに軽鎖30位を占有する残基を比較する。
表1
【表1】
【0063】
加えて、またはあるいは、本発明のヒト化抗体の一部は、種々の可変領域フレームワーク配列の存在によりAMG191のものとは異なる。AMG191は、マウスCDR配列をIGHV1-46*01 IGKV4-1*01の生殖系列フレームワークに重および軽鎖についてそれぞれ移植することにより得られた。本開示では、IGH3-23*01の重鎖可変領域フレームワークおよびIGKV2-28*01の軽鎖可変領域フレームワークへのCDRの移植を提供する。このようなフレームワークにより、AMG191のものよりも高い結合親和性が付与されることが見出されている。本発明の一部の好ましい抗体は、AMG191の重鎖可変領域におけるものと同一の復帰変異を組み込んだIGHV1-46*01に基づく重鎖可変領域フレームワークおよびIGKV2-28*01に基づく軽鎖可変領域フレームワークを含む。フレームワークのこのような組合せにより、AMG191と比較した親和性向上の利点が、IGH3-23*01の重鎖可変領域フレームワークおよびIGKV2-28*01の軽鎖可変領域フレームワークの組合せを有する抗体に対する発現向上の利点と組み合わされる。
【0064】
したがって、本発明の一部の好ましい抗体は、AH2、AH3およびAH4に対応する配列番号13、17または21に指定する鎖のいずれかの配列を有する成熟重鎖可変領域ならびにNL2に対応する配列番号53の配列を有する成熟軽鎖可変領域を有する。重鎖可変領域配列は、CDR置換を重鎖60位のみ、重鎖64位のみ、または重鎖60位および64位に、すべてKabat付番により有することによって相互に異なる。CDR置換を除いて、この重鎖可変領域配列は、AMG191の成熟重鎖可変領域と同一である。配列番号13、17および21の重鎖配列は、Kabat71(RからA)、73(TからK)および78位(VからA)における可変領域フレームワーク置換(すなわち、ヒトアクセプター残基をマウスドナーへ)を含む。MからIの69位におけるさらなる置換が存在する。
【0065】
配列番号53の成熟軽鎖可変領域は、CDR置換を30位に有する。また、配列番号53の成熟軽鎖可変領域は、種々のアクセプターの選択により、可変領域フレームワークのいくつかの位置において、以下のように、AMG191の成熟軽鎖可変領域とは異なる:
9位がLにより占有され、
12位がPにより占有され、
14位がTにより占有され、
15位がPにより占有され、
18位がPにより占有され、
20位がSにより占有され、
22位がSにより占有され、
37位がLにより占有され、
43位がSにより占有され、
45位がQにより占有され、
74位がKにより占有され、
77位がRにより占有され、
78位がVにより占有され、
79位がEにより占有され、
84位がGにより占有される。
【0066】
配列番号53の成熟軽鎖可変領域は、ヒト生殖系列由来のマウス残基への可変領域フレームワークのいかなる復帰変異をも含まない。
【0067】
また、本発明では、例示する配列のバリアントを表す重および軽鎖可変領域を有する抗体を提供する。例えば、本発明は、配列番号13、17または21のいずれかに対して少なくとも85%、90%、95%、98または99%の同一性を有する成熟重鎖可変領域、および配列番号53に対して少なくとも85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有する成熟軽鎖可変領域を有する抗体を含む。示される配列からのいかなる変動も、好ましくは、Kabatにより定義されるCDR外である。また、変動は、好ましくは、指示する配列(Kabat付番による71、73および78位)において復帰変異を受ける可変領域フレームワークの位置に存在しない。一部の抗体では、いかなる置換も、Kabat付番による重鎖69位には存在しない。一部の抗体では、変動は、可変領域フレームワークの位置(複数可)に存在するが、配列番号53がAMG191の成熟軽鎖可変領域とは異なるものを除く。他の抗体では、変動は、配列番号53がAMG191の成熟軽鎖可変領域とは異なる、可変領域フレームワークの位置(複数可)に、必要に応じて、可変領域フレームワークにおける他の位置(複数可)と組み合わせて存在する。一部の抗体では、配列番号53がAMG191の成熟軽鎖可変領域フレームワークとは異なる、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の可変領域フレームワーク残基が維持される。一部の抗体では、変動は、保存的置換(複数可)によるものである。一部の抗体では、重鎖の1位のQは、Eにより交換して、ピログルタミン酸変換の可能性を低下させることができる(Liu, et al., 2011, J. Biol. Chem., 286: 11211-11217)。グルタミン酸(E)のピログルタミン酸(pE)への変換は、グルタミン(Q)からよりも緩徐に生じる。グルタミンからpEへの変換において1級アミンが失われるため、抗体は、さらに酸性となる。不完全な変換によって抗体において不均一性が生じ、これは、電荷に基づく解析方法を使用すると多重ピークとして観察され得る。不均一性の差は、プロセス制御の欠如を示し得る。
【0068】
抗体は、ヒトc-Kitに対する結合親和性、ADCP、ADCCおよびSCF誘導HSPC増殖の阻害について、実施例において提供するアッセイを使用して試験することができる。また、抗体は、国際公開第2016/033201号に記載のように、動物モデルにおいてスクリーニングすることができる。本発明の好ましい抗体は、このようなアッセイを使用して測定した場合、AMG191またはそのヒトIgG1型を超える、ヒトc-Kitに対する結合親和性の増強、ADCPの増強および/またはADCCの増強および/またはSCF誘導HSPC増殖の阻害の増強を有する。また、好ましい抗体は、そのリガンドのヒト幹細胞因子へのヒトc-Kitの結合を阻害する。
【0069】
また、本発明では、AMG191またはそのヒトIgG1型と比較してヒトc-Kitを発現する細胞に対する、ヒトc-Kitへの結合および/またはADCPおよび/またはADCCの増強のための手段を提供し、この場合、増強は、本実施例におけるように測定される。例となる手段は、配列番号13、17または21のいずれかの成熟重鎖可変領域および配列番号53の成熟軽鎖可変領域を有し、ヒトIgG1重鎖定常領域およびヒトカッパ軽鎖定常領域を有する抗体である。AMG191と比較したCDRにおける重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび/または軽鎖30位のNからQの置換は、例となる手段の増強特性に寄与する。このような手段は、薬学的に活性の担体とともに医薬組成物に組み込むことができる。
【0070】
抗体は、他の因子もあるが、特に、定常領域の発現または選択の条件に応じて、翻訳後修飾、例えば、グリコシル化を受けていても受けていなくてもよい。
【0071】
II.定常領域の選択
上記の重および軽鎖可変領域は、ヒト定常領域の少なくとも1部分に結合させることができる。定常領域の選択は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害、抗体依存性細胞食作用および/または補体依存性細胞傷害を所望するかどうかにある程度依存する。例えば、ヒトアイソタイプIgG1およびIgG3は補体依存性細胞傷害を有し、ヒトアイソタイプIgG2およびIgG4はこれを有しない。また、ヒトIgG1およびIgG3では、ヒトIgG2およびIgG4よりも強力な細胞媒介エフェクター機能が誘導される。ヒトIgG1は、本発明の抗体にとって好ましい。軽鎖定常領域は、ラムダまたはカッパであり得る。
【0072】
軽および/または重鎖のアミノまたはカルボキシ末端における1つまたはいくつかのアミノ酸、例えば、重鎖のC末端リジンは、ある割合またはすべての分子において欠損しているか、または誘導体化され得る。置換を定常領域において行って、エフェクター機能、例えば、補体媒介細胞傷害もしくはADCCを低下もしくは上昇させるか、またはグリコシル化部位を除去する(例えば、Winter et al.、米国特許第5,624,821号;Tso et al.、米国特許第5,834,597号;およびLazar etal., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:4005, 2006を参照)か、あるいはヒトにおいて半減期を延長させることができる(例えば、Hintonet al., J. Biol. Chem. 279:6213, 2004を参照)。抗体の半減期を延長させるための例となる置換としては、250位のGlnおよび/または428位のLeuが挙げられる(定常領域については、この段落においてEU付番を使用する)。M252Y/S254T/T256Eも、N434AまたはS、T250QおよびV3089Pと同様に半減期を延長させる。234、235、236および/または237位のいずれかまたはすべてにおける置換により、Fcγ受容体、特には、FcγRI受容体に対する親和性が低下する(例えば、米国特許第6,624,821号を参照)。次の置換:F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、S239D/I332E、S239D/I332E/A330L、S298A/E333A/K334A、S239D/I332E、S239D/I332E/A330LおよびS298A/E333A/K334Aのいずれかにより、エフェクター機能が上昇する。
【0073】
ヒト定常領域は、種々の個体間でアロタイプ変動およびイソアロタイプ変動を示す。すなわち、定常領域は、種々の個体の1つまたは複数の多型位置において異なり得る。イソアロタイプは、イソアロタイプを認識する血清が、1つまたは複数の他のアイソタイプの非多型領域に結合するという点においてアロタイプとは異なる。
【0074】
III.組換え抗体の発現
ヒト化抗体は、組換え発現により典型的に生成する。組換えポリヌクレオチド構築物は、抗体鎖のコード配列に作動可能に結合する発現制御配列を典型的に含み、天然関連または異種発現制御エレメント、例えば、プロモーターを含む。発現制御配列は、真核または原核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクト可能なベクター内のプロモーター系であり得る。ベクターを適切な宿主に組み込むと、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベル発現ならびに交差反応する抗体の採取および精製に適する条件下に維持される。
【0075】
このような発現ベクターは、エピソームまたは宿主染色体DNAの不可欠な部分のいずれかとして宿主生物において典型的に複製可能である。一般には、発現ベクターは、例えば、アンピシリン耐性またはハイグロマイシン耐性の選択マーカーを含み、所望のDNA配列により形質転換した細胞の検出を可能とする。
【0076】
E.coliは、抗体、特には、抗体断片を発現させるために有用な1つの原核宿主である。微生物、例えば、酵母も、発現に有用である。サッカロミセス属(Saccharomyces)は、発現制御配列、複製起点、終結配列等を所望のとおりに有する、適するベクターを有する酵母宿主である。典型的プロモーターは、3-ホスホグリセリン酸キナーゼおよび他の解糖系酵素を含む。誘導可能な酵母プロモーターは、とりわけ、アルコール脱水素酵素、イソシトクロムC、ならびにマルトースおよびガラクトース利用の原因となる酵素由来のプロモーターを含む。
【0077】
哺乳動物細胞は、免疫グロブリンまたはこの断片をコードするヌクレオチドセグメントを発現させるために使用することができる。Winnacker, From Genes to Clones, (VCH Publishers, NY, 1987)を参照されたい。インタクトな異種タンパク質を分泌可能ないくつかの適する宿主細胞株が開発されており、CHO細胞株、種々のCOS細胞株、HeLa細胞、HEK293細胞、L細胞、ならびにSp2/0およびNS0を含む非抗体産生ミエローマを含む。細胞は、非ヒト細胞であり得る。このような細胞のための発現ベクターは、発現制御配列、例えば、複製起点、プロモーター、エンハンサー(Queenet al., Immunol. Rev. 89:49 (1986))、ならびに必要なプロセシング情報部位、例えば、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列を含むことができる。発現制御配列は、内因性遺伝子、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(bovine papillomavirus)等に由来するプロモーターを含むことができる。Coet al., J. Immunol. 148:1149 (1992)を参照されたい。
【0078】
あるいは、抗体をコードする配列は、トランスジェニック動物のゲノムへの導入およびトランスジェニック動物の乳における後続の発現のための導入遺伝子に組み込むことができる(例えば、米国特許第5,741,957号;米国特許第5,304,489号;および米国特許第5,849,992号を参照)。適する導入遺伝子は、乳腺特異的遺伝子、例えば、カゼインまたはベータラクトグロブリン由来のプロモーターおよびエンハンサーと作動可能に結合する軽および/または重鎖のコード配列を含む。
【0079】
目的のDNAセグメントを含むベクターは、細胞宿主の型に応じた方法により宿主細胞に導入することができる。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションは、原核細胞に一般に利用されているが、リン酸カルシウム処理、エレクトロポレーション、リポフェクション、微粒子銃、またはウイルスに基づくトランスフェクションは、他の細胞宿主に使用することができる。哺乳動物細胞の形質転換に使用される他の方法は、ポリブレン、原形質融合、リポソーム、エレクトロポレーション、および微量注入の使用を含む。トランスジェニック動物の作製では、導入遺伝子は、受精卵母細胞に微量注入し得るか、胚幹細胞のゲノムに組み込んで、このような細胞の核を除核卵母細胞に導入し得る。
【0080】
抗体重および軽鎖をコードするベクター(複数可)を細胞培養物に導入して、細胞プールを増殖生産性および産物の質について無血清培地においてスクリーニングすることができる。次いで、最も産生した細胞プールをFACSに基づく単一細胞クローニングに供して、モノクローナル系を生成することができる。7.5g/L培養物よりも大きい産物力価に対応する、1日に1細胞あたり50pgまたは100pgを超える特異的生産性を使用することができる。また、単一細胞クローンにより生成した抗体は、濁度、ろ過特性、PAGE、IEF、UVスキャン、HP-SEC、炭水化物-オリゴ糖マッピング、質量分析、および結合アッセイ、例えば、ELISAまたはBiacoreについて試験することができる。次いで、選択されたクローンは、複数のバイアルに保存し、後続の使用のために凍結して貯蔵することができる。
【0081】
発現すると、抗体は、プロテインA捕捉、HPLC精製、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等を含む、当技術分野の標準的手順に従って精製することができる(一般には、Scopes, Protein Purification (Springer-Verlag, NY, 1982)を参照)。
【0082】
抗体の商業生産のための方法を利用することができ、コドン最適化、プロモーターの選択、転写エレメントの選択、ターミネーターの選択、無血清単一細胞クローニング、細胞保存、コピー数の増幅のための選択マーカーの使用、CHOターミネーター、またはタンパク質力価の向上を含む(例えば、米国特許第5,786,464号;米国特許第6,114,148号;米国特許第6,063,598号;米国特許第7,569,339号;国際公開第2004/050884号;国際公開第2008/012142号;国際公開第2008/012142号;国際公開第2005/019442号;国際公開第2008/107388号;国際公開第2009/027471号;および米国特許第5,888,809号を参照)。
【0083】
IV.核酸
本発明では、上記の重および軽鎖のいずれかをコードする核酸をさらに提供する。必要に応じて、このような核酸は、単一ペプチドをさらにコードし、定常領域に結合するシグナルペプチドにより発現し得る。核酸のコード配列は、調節配列と作動可能に結合して、コード配列の発現が確実となり得る(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、転写終結シグナル等)。重および軽鎖をコードする核酸は、単離形態で生じ得るか、または1つまたは複数のベクターにクローニングし得る。核酸は、例えば、固相合成または重複するオリゴヌクレオチドのPCRにより合成することができる。重および軽鎖をコードする核酸は、例えば発現ベクター内に、1つの近接する核酸として繋がれていても、または分離しており、例えば、発現ベクターこれ自体にそれぞれクローニングされていてもよい。
【0084】
V.コンジュゲート抗体
本発明の抗体は、細胞傷害性または細胞増殖抑制性部分にコンジュゲートさせて、細胞傷害のさらなる機構をもたらすことができる。
【0085】
一部のこのような抗体は、免疫毒素として作用するように修飾することができる。例えば、米国特許第5,194,594号を参照されたい。例えば、植物に由来する細胞毒素であるリシンは、二機能性試薬S-アセチルメルカプトコハク酸無水物を抗体に、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸スクシンイミジルをリシンに使用することにより抗体にカップリングさせることができる。Pietersz et al., Cancer Res. 48(16):4469-4476 (1998)を参照されたい。カップリングすると、リシンのB鎖結合活性は失われるが、リシンのA鎖の毒性能力も抗体の活性も損なわれない。同様に、リボソーム集合の阻害物質であるサポリンも、化学的に挿入したスルフヒドリル基間のジスルフィド結合を介して抗体にカップリングさせることができる。Politoet al., Leukemia 18:1215-1222 (2004)を参照されたい。
【0086】
一部のこのような抗体は、放射性同位体に結合させることができる。放射性同位体の例としては、例えば、イットリウム90(90Y)、インジウム111(111In)、131I、99mTc、放射性銀111、放射性銀199およびビスマス213が挙げられる。放射性同位体の抗体への結合は、通常の二機能性キレートを用いて実施し得る。放射性銀111および放射性銀199の結合では、イオウに基づくリンカーを使用し得る。Hazra et al., Cell Biophys. 24-25:1-7 (1994)を参照されたい。銀放射性同位体の結合では、アスコルビン酸による免疫グロブリンの還元を含み得る。111Inおよび90Yのような放射性同位体では、イブリツモマブチウキセタンを使用することができ、このような同位体と反応して111In-イブリツモマブチウキセタンおよび90Y-イブリツモマブチウキセタンをそれぞれ形成する。Witzig,Cancer Chemother. Pharmacol., 48 Suppl 1:S91-S95 (2001)を参照されたい。
【0087】
一部のこのような抗体は、毒性化学療法薬、例えば、マイタンシン、ゲルダナマイシン、チューブリン阻害物質、例えば、チューブリン結合剤(例えば、アウリスタチン)または副溝結合剤、例えば、カリケアマイシンとコンジュゲートさせることができる。
【0088】
VI.治療適用
本発明の抗体またはこのような抗体を組み込んだ医薬組成物は、種々の状態の処置に使用することができる。例えば、このような抗体は、それを必要とする被験体における内因性造血幹および前駆細胞(HSPC)の除去において使用することができる。内因性HSPCの除去は、幹細胞置換療法における最初のステップである。幹細胞置換療法は、一部の点で欠陥を有する内因性HSPCの減少または除去、および置換HSPCとのこれらの交換を一般に含む。置換HSPCは、自家、同種異系または異種であり得る。内因性HSPCは、機能または発現を損なう遺伝性変異の結果(例えば、鎌状赤血球貧血またはサラセミア)、血液がんの結果、またはがんの処置において使用される化学療法による損傷の結果として欠陥を有している可能性がある。また、内因性HSPCが移植片の免疫攻撃を生じるため、内因性HSPCは、移植臓器と組み合わせて交換し得る。
【0089】
また、c-Kitに対する抗体は、c-Kitを発現するがんの処置において使用することができる。このようながんは、血液がん、例えば、AMLおよび固形腫瘍、例えば、マスト細胞がん、精巣間質性がん、胃腸間質性がん、メラノーマ、乳がんおよび肺がんを含む。c-Kitの発現は、免疫組織化学アッセイにより決定する場合、好ましくは、組織対応正常対照細胞よりも高いレベルである。
【0090】
抗体は、意図する目的、例えば、内因性HSPCまたはc-Kitを発現するがん細胞の減少を達成する投与量、投与経路および投与頻度を意味する有効なレジメンにより投与される。一部の場合では、有効性は、個々の患者において、歴史的対照または同一患者における過去の経験と比較して観察することができる。他の場合では、有効性は、処置される患者の集団の前臨床または臨床試験において、処置されない患者の対照集団と比較して実証することができる。
【0091】
例となる投与量は、固定投与量として、少なくとも0.05mg/kおよび最大10mg/kgであり、例えば、約0.05~10mg/kgまたは0.1~5mg/kgまたは5~750mgである。投与量は、他の因子もあるが、特に、患者の状態および以前の処置に対する応答、もしあれば、処置が予防的または治療的であるか、および障害が急性または慢性であるかに依存する。
【0092】
投与は、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻腔内または筋肉内投与であり得る。一部の抗体は、動脈内または皮下投与により全身循環に投与し得る。静脈内投与は、一定期間、例えば、30~90分にわたる、例えば、注入による投与であり得る。
【0093】
抗体は、1回または複数回、投与し得る。複数回である場合、間隔は、例えば、毎日、毎週、2週毎、毎月または四半期毎であり得る。
【0094】
VI.医薬組成物および使用方法
非経口投与のための本発明の抗体を組み込んだ医薬組成物は、無菌および実質的に等張性(250~350mOsm/kg水)であり、GMP条件下で製造され得る。医薬組成物は、単位用量形態(すなわち、単回投与のための用量)により提供され得る。医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を使用して製剤化され得る。製剤は、選択される投与経路に依存する。注射では、抗体は、水溶液中、例えば、生理学的に適合する緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理食塩水もしくは酢酸緩衝液中に製剤化され得る(注射部位における不快感を低下させるため)。溶液は、調合剤(formulatory agent)、例えば、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤を含み得る。あるいは、抗体は、適するビヒクル、例えば、無菌の発熱物質除去水による構成のために、使用前には凍結乾燥形態であり得る。
【0095】
レジメンでは、処置される状態の処置において有効な別の薬剤(例えば、がん処置のための化学療法剤または生物製剤)と組み合わせて投与し得る。
【0096】
処置後、処置された被験体の状態は、処置に応答性の変化(例えば、内因性HSPCの数の減少)またはc-Kitを発現するがん細胞の数の減少についてモニターすることができる。
【0097】
VII.他の使用
また、本発明の抗体は、イムノアッセイ、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学によるc-Kitの検出に使用することができる。このような試験は、がんがc-Kitを発現し、本発明の方法による処置に適するものとなるかどうかの決定に有用であり得る。また、抗体は、c-Kitを発現するHSPCの親和性クロマトグラフィーによる濃縮に使用することができる。
【実施例
【0098】
1.材料および方法
抗体Vクローニングおよびシーケンシング。抗ヒトc-Kitハイブリドーマ細胞株をATCCから購入した(HB-10716)。重(VH)および軽鎖(VL)可変領域をクローニングしてGenscriptによりシーケンシングした。
【0099】
抗体ヒト化およびCDR置換。HB-10716のヒト化を、マウス抗体由来のCDR残基をヒト生殖系列フレームワーク(FR)に導入することにより実施した。簡潔には、マウスVHを、対応するCDR残基および少数のフレームワーク(FR)残基をヒトIGHV1-46*01またはIGHV3-23*01へ慎重に組み込むことによりヒト化した。マウスVLは、対応するCDR残基および少数のフレームワーク(FR)残基をヒトIGKV4-1*01またはIGKV2-28*01へ慎重に組み込むことによりヒト化した。マウスおよびヒトのFR残基間の差を個々にモデル化して、CDRコンフォメーションに対するこれらの考えられる影響を調査した。抗体をさらにヒト化してヒト化抗体の結合親和性を向上させるために、CDRの残基を選択して、ヒト生殖系列配列の対応するCDR残基に変異させた。
【0100】
細胞トランスフェクション。293F細胞をFreeStyle(商標)293発現培地(Invitrogen社)下で培養した。一過性トランスフェクションを、抗体重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターの同時トランスフェクションにより、293fectinトランスフェクション試薬(Invitrogen社)を使用し、製造者の指示に従って実施した。4~5日後、トランスフェクトした細胞の上清を収集して、抗体分泌についてELISAにより試験した。簡潔には、96ウェルのプレート(Nunc社、Roskilde、デンマーク)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中1ug/mlのヤギ抗ヒトFcガンマ抗体により4℃で16時間コーティングした。PBS中0.4%のBSAによる室温で1時間のブロッキング後、単離した上清を1/3段階希釈により加え、室温で1時間インキュベートした。その後、プレートを3回洗浄して、HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトカッパ特異的抗体とともに室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートは、TMBにより展開した。反応は、2MのH2SO4により停止させ、ODは、450nMにおいて測定した。
【0101】
抗体精製および特徴付け。培養上清をプロテインA Sepharoseカラム(GE Healthcare社)に適用した。カラムは、PBSにより洗浄し、次いで、タンパク質を溶出緩衝液(0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液、pH3.0)により溶出した。採取した画分を1MのトリスpH9.0により中和した。最終的には、精製試料をPBSに対して透析した。溶出抗体画分の純度は、10%のゲル上、還元または非還元条件下でのドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により解析した。バンドは、クーマシーブリリアントブルー染色により可視化した。
【0102】
ELISAによる抗原結合活性測定。96ウェルのプレート(Nunc社、Roskilde、デンマーク)を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中1ug/mlのヒトc-Kit-Fc融合タンパク質により4℃で16時間コーティングした。PBS中0.4%のBSAによる室温で1時間のブロッキング後、抗c-Kit抗体を1/3段階希釈により加え、室温で1時間インキュベートした。その後、プレートを3回洗浄して、HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトカッパ特異的抗体とともに室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートは、TMBにより展開した。反応は、2MのH2SO4により停止させ、ODは、450nMにおいて測定した。
【0103】
in vitroでの食作用アッセイ。MHC-1がん細胞を洗浄して計数し、次いで、1×105細胞を含む無血清IMDM25μLを各ウェルに加えた。最終濃度10μg/mLの抗体処理物(25μL)をウェルに加えて、37℃で30分間インキュベートした。30分で、TrypLEによってこれまでに収集したマクロファージを計数して、5×104細胞を無血清IMDM50μL中に播種した。プレートは、37℃で2時間インキュベートした(エフェクター:標的=1:2)。パーセント食作用は、フローサイトメトリー解析により算出して、GFP+マクロファージを調べた。
【0104】
ADCCアッセイ。ナチュラルキラー細胞を、StemcellTechnologies社(Vancouver、BritishColumbia、カナダ、カタログ#17855)のEasySepヒトCD56陽性選択キットを使用してヒトPBMCから単離した。単離した細胞を、10%のFBSおよび100U/mLの組換えヒトIL-2(PeproTech社、RockyHill、NJ、カタログ#200-02)を補充したRPMI1640培地中で終夜培養した。GIST-T1細胞を5uMのカルセインAM(ThermoFisherScientific社、Waltham、MA、カタログ#C3100MP)により37℃で10分間標識し、次いで、2回洗浄した。抗c-Kitまたはアイソタイプ対照抗体を、0.0003~30ug/mLに10倍段階希釈して、V底アッセイプレートに移した。標識したGIST-T1細胞を、その後、活性化ナチュラルキラー細胞をアッセイプレートに加えて、最終的に1:5の標的対エフェクター比とした。2時間のインキュベーション後、上清を採取して、きれいな平底プレートに移した。プレートは、SpectraMaxM3蛍光プレートリーダー上で励起490nm、発光520nmおよびカットオフ515nmによりSoftMaxPro7.0ソフトウェアを用いて読み取った。パーセント比溶解(percent specific lysis)を相対蛍光単位(RFU)に基づいて、次の式:[(試験RFU-平均バックグラウンドRFU)/(平均最大RFU-平均バックグラウンドRFU)]×100により算出した。この場合、バックグラウンドは、エフェクター細胞+抗体を有しない標的細胞であり、最大溶解は、エフェクター細胞+溶解緩衝液を有する標的細胞である。データは、GraphPadPrism7.05による解析である。パーセント比抗体依存性溶解(percent specific antibody dependent lysis)は、抗体濃度に対してプロットした。
【0105】
HSPC増殖アッセイ。凍結臍帯血CD34+幹/前駆細胞(ALLCELLS社、カタログ#CB005F)を、20ng/mlのヒト組換えSCF(STEMCELLtechnologies社、カタログ#78062)、20ng/mlの組換えヒトFlt3リガンド(Peprotech社、カタログ#300-19)および20ng/mlの組換えヒトTPO(Peprotech社、カタログ#300-18)を補充した、HSC維持培地であるStemSpanSFEMII(STEMCELLtechnologies社、カタログ#09605)中に再懸濁した。1ウェルあたり約3000幹細胞を3つのCOSTAR超低クラスター96ウェルプレート(Corning社、カタログ#7007)上に播種した。プレートを1250rpmにより4℃で5分間遠心分離して、抗c-Kit抗体を有するか、または有しないHSC維持培地200ul中に細胞を三連で再懸濁した。4つの抗c-Kit抗体AMG191、AMG191-G1、HF12およびHF112を0.1、1、10および50ug/mlの濃度で試験した。細胞増殖は、1、3、5および11日目にCountbright絶対計数ビーズ(InvitrogenTM社、カタログ#C36950)を使用して試験した。AMG191は、297位のN→E変異を有するためグリコシル化されず、エフェクター機能が低下する。AMG191-G1または-IgG1は、野生型ヒトIgG1定常領域を有する。
【0106】
2.結果
(a)抗c-Kitハイブリドーマ可変領域クローニングおよびシーケンシング
抗ヒトc-Kitハイブリドーマ細胞株をATCCから購入した(HB-10716)。ハイブリドーマクローンHB-10716の特異性を、ヒトc-Kitに結合させるELISAにより調べた。HB-10716の重および軽鎖可変領域を、ユニバーサル抗体プライマーを使用してハイブリドーマからクローニングした。各V遺伝子産物の複数のクローンをシーケンシングして、PCRにより誘導されたエラーをモニターした。HB-10716のVHおよびVLのヌクレオチド配列を決定し、推定したアミノ酸配列を図1AおよびBにそれぞれ示す。
【0107】
(b)抗体のヒト化およびCDRの置換
CDR移植の鋳型として使用するヒト抗体フレームワーク(FR)を選択するために、マウスHB-10716VLおよびVH領域をヒト生殖系列配列のものと比較した。マウスHB-10716VL領域のFRは、IGKV4-1亜群との高い相同性を有することが見出され、VH領域のFRは、ヒトIGHV1-46亜群との高い相同性を示した。したがって、ヒトIGKV4-1およびIGHV1-46由来のFRを、ヒト化HB-10716をデザインするための基礎として使用した。HB-10716およびIGKV4-1/IGHV1-46配列間で異なり、抗原結合における影響を有し得るFR領域におけるアミノ酸位置を、分子モデル化により同定した。FRにおける同一残基は維持し、非同一残基は、分子モデル化プログラムに基づいて、維持するか、または置換した。さらに、VHおよびVLのCDR領域における残基を分子モデル化により同定した。CDR置換は、部位特異的変異誘発により行った。
【0108】
表2では、生成した新たなヒト化抗体およびこれらの重および軽鎖成熟可変領域成分を要約する。簡潔には、AFと指定する抗体は、AMG191と同一の可変領域フレームワークを有する。NFと指定する抗体は、AMG191と異なる可変領域フレームワークを有する。HFと指定する抗体は、AMG191と同一の重鎖可変領域フレームワークおよび異なる軽鎖可変領域フレームワークを有する。2-1、11、12、112および3の番号は、それぞれH54/L30、H60/L30、H64/L30、H60/H64/L30、H95/L30の位置におけるCDR置換の存在を示す。
表2
【表2】
【0109】
H60、H64およびL30における、単独または組合せによるCDR置換によって、結合が増加した(AF11、AF12およびAF112、表2、図2A~C)。最も重要なことには、H60およびH64における残基は、ヒト生殖系列配列に復帰変異を導入して、AF11、AF12およびAF112のヒト化抗c-Kit抗体をよりヒト化させた。その上、H54、H95またはL27における単一アミノ酸CDR置換(表2、図2A~B)により、AF-2-1、AF-3およびAF-1-1のヒト化抗c-Kit抗体の結合が損なわれた(図2D)。
【0110】
抗c-Kitヒト化抗体、NFは、IGHV3-23*01およびIGKV2-28*01の種々のヒト生殖系列配列をフレームワークとして使用したCDR移植により生成した(表2、図3A~B)。抗体NFは、AMG191と比較した場合、結合活性の上昇を示した(図3C)。次いで、H54、H60、H64、H95、L27およびL30における同一のCDR置換をNFに適用した(表2、図3A~B)。H60、H64およびL30におけるCDR置換は、IGKV4-1/IGHV1-46フレームワークを有する抗体に機能しただけでなく、IGHV3-23*01/IGKV2-28*01フレームワークを有する抗体にも機能した。H60、H64およびL30における、単独または組合せによるCDR置換によって、NF11、NF12およびNF112の結合活性が上昇または維持された(図3D)。
【0111】
ヒト化HF11、HF12およびHF112は、表2に示す種々のVHおよびVLを組み合わせることにより構築し、これらはすべて、AMG191と比較した場合、結合活性の上昇を示した(図4)。
【0112】
(c)ヒト化抗c-Kit抗体によりマクロファージ媒介食作用が促進される
次いで、発明者らは、ヒト末梢血由来マクロファージによるヒトがん細胞の食作用を可能とするヒト化抗c-Kit抗体の能力を調査した。AMG191が、サイレンシングされたFcを有するため、発明者らは、AMG191と同一の配列を有するAMG191-G1を生成したが、ただし、AMG191-G1は、活性ヒトIgG1Fc定常領域を有する。AMG191では、PBS対照と比較した場合、食作用が誘導されなかったが、AMG191-G1では、活性ヒトIgG1の足場を有するため、予想通り高い食作用活性が誘導された(図5)。AMG191-G1では、0.1、1および10ug/mlにおいて同等レベルの食作用活性が誘導された。AMG191-G1とは対照的に、ヒト化AF12、AF112、HF12、HF112およびNF112は、低い濃度においてさらに強力であり、0.1、1またはさらに10ug/mlにおいてAMG191-G1のそれよりも高い食作用活性が誘導され、ヒト化AF12、AF112、HF12、HF112およびNF112については低い治療的用量が必要とされることが示唆された(図5)。データは、AMG191-G1、AF12、AF112、HF12、HF112およびNF112が、すべてヒトIgG1型式の抗体であり、AF12、AF112、HF12、HF112およびNF112が、さらに強力であることを示す。これはおそらく、フレームワークおよび/またはCDR置換に起因する、AF12、AF112、HF12、HF112およびNF112の結合親和性が高いためである。
【0113】
(d)ヒト化抗c-Kit抗体により強力なADCCが誘導される
ADCC活性を誘導するヒト化抗c-Kit抗体の能力をGIST細胞に対して試験した。AMG191により、試験したいずれの濃度においてもADCCは誘導されなかった。HF12およびHF112により、ADCCが用量依存的に媒介された(図6)。
【0114】
(e)ヒト化抗c-Kit抗体により造血幹/前駆細胞(HSPC)の増殖が阻害される
自己複製能が低下した系統拘束細胞を次第に生成する、階層的に組織化したプロセスにより、造血幹細胞(HSC)から成熟造血細胞を発生させた。細胞表面タンパク質チロシンキナーゼc-Kitは、この同属リガンド、幹細胞因子(SCF)と相互作用してHSCの自己複製を調節する。c-KitのSCFとの相互作用を遮断することにより、発明者らは、ヒト化抗c-Kit抗体がHSPCの増殖を阻害可能かどうかを試験した。図7に示すように、SCFにより、任意の抗体処理物の非存在下でHSPCの増殖が誘導された。しかし、AMG191、AMG191-G1、HF12およびHF112により、HSPCの増殖が阻害された(図7)。その上、HF12およびHF112では、HSPC増殖の阻害は、AMG191およびAMG191-G1による阻害よりも強力である(図7)。これはおそらく、フレームワークおよび/またはCDR置換に起因する、HF12およびHF112の結合親和性が高いためである。
【0115】
(f)ヒト化抗c-Kitによりマスト細胞の有意な脱顆粒は誘導されない
【0116】
cKITは、造血幹細胞および成熟マスト細胞上で発現される。マスト細胞は、骨髄におけるCD34+造血前駆細胞に由来する。種々の末梢組織への遊走時に、このような前駆細胞は、cKITとともに高親和性IgE受容体、FcεRIを発現する成熟マスト細胞に分化する。抗原が、マスト細胞上のIgE刺激FcεRIに結合すると、脱顆粒ならびに化学媒介因子、例えば、ヒスタミンおよびトリプターゼとともにサイトカイン、ロイコトリエンおよびプロテアーゼの放出が引き起こされる。化学媒介因子の放出により、アレルギーの古典的症候が生じる。臨床使用では、抗c-Kit抗体により造血幹細胞は減少するが、マスト細胞の脱顆粒は誘導されないことが望ましい。
【0117】
健常ヒトドナーの末梢全血から分化した表現型決定成熟マスト細胞(CD34-、FcεRIα+、cKIT+)を種々の濃度のHF12およびHF12ヒト化抗c-Kit抗体(10、1、0.1および0.01μg/ml)とともに7時間インキュベートした。A23187(10μM)およびIgEに加えて抗IgE(各10ug/ml)を陽性対照として使用した。本発明の方法において記載するように吸光度方法を使用してβヘキソサミニダーゼの放出を測定することにより、脱顆粒を定量した。
【0118】
ヒト初代マスト細胞は、in vitroで分化し、9週の終わりにCD34-、FcεRIα+およびcKIT+表現型を示し、これは、成熟マスト細胞の表現型特性と一致した。次いで、カルシウムイオノフォアA23187、または抗IgEと組み合わせたIgEにより細胞を刺激した。βヘキソサミニダーゼの放出により測定した場合、A23187およびIgE+抗IgEにより、マスト細胞脱顆粒が効率的に誘導された。
【0119】
抗c-Kit抗体による細胞の直接的処理または抗IgG抗体による抗c-Kit抗体の架橋結合によって、A23187および抗IgE処理の脱顆粒と比較した場合、有意なマスト細胞脱顆粒は誘導されなかった(図8)。また、プレート上での抗c-Kit抗体の固定化は、マスト細胞脱顆粒に対してほとんど影響しなかった。また、種々の濃度の抗c-Kit抗体の存在下におけるマスト細胞とNK細胞の同時インキュベーションによって、試験したすべての濃度においてマスト細胞脱顆粒は誘導されなかった。
【0120】
結論として、カルシウムイオノフォアA23187、または抗IgEと組み合わせたIgE処理の脱顆粒と比較した場合、抗c-Kit抗体HF12およびHF112は、in vitroでの初代ヒトマスト細胞の脱顆粒に対してほとんど影響しなかった。
【0121】
上記または下記に引用するすべての特許申請書、ウェブサイト、他の公開文献、受託番号等は、すべての目的のために、個々の各項目を参照によりそのように組み込むと個々に詳細に示す場合と同程度に、この全体を参照により組み込む。配列の種々のバージョンが受託番号とその時々において関連する場合、本出願の有効出願日に受託番号と関連するバージョンを意味する。有効出願日は、適用可能な場合、受託番号を参照して、実際の出願日より前または優先権出願の出願日を意味する。同様に、公開文献、ウェブサイト等の種々のバージョンがその時々において公開される場合、他に指示しない限り、出願の有効出願日に最近に公開されたバージョンを意味する。本開示の任意の特徴、ステップ、要素、実施形態、または態様は、他に詳細に指示しない限り、他の任意のものと組み合わせて使用することができる。本開示は、明確さおよび理解を目的とする例示および例のために、いくぶん詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲内において特定の変更および修飾が行われ得ることは明白である。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2022507962000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-07-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ配列番号2~4の、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3を含む成熟重鎖可変領域、ならびにそれぞれ配列番号6~8の、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3を含む成熟軽鎖可変領域を含むが、ただし、位置をKabatに従って付番して、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQから選択される1、2または3つのCDR残基の置換が存在する、ヒトc-Kitに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3が、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3が、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQの前記置換が存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3が、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3が、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQの前記置換が存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記成熟重鎖可変領域が、配列番号13、17または21(AH2、AH3またはAH4)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示し、前記成熟軽鎖可変領域が、配列番号53(NL2)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示し、示される前記配列番号からのいかなる変動もKabatにより定義される前記CDR外である、求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
Kabat付番による重鎖1位が、Eである、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
前記成熟軽鎖可変領域の以下の位置が、アミノ酸により以下:
9位がLにより占有され、
12位がPにより占有され、
14位がTにより占有され、
15位がPにより占有され、
18位がPにより占有され、
20位がSにより占有され、
22位がSにより占有され、
37位がLにより占有され、
43位がSにより占有され、
45位がQにより占有され、
74位がKにより占有され、
77位がRにより占有され、
78位がVにより占有され、
79位がEにより占有され、
84位がGにより占有される、
のように占有される、求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
前記成熟重鎖可変領域が、配列番号13、17または21から選択される配列を有するが、ただし、1位がEであってもよく、前記成熟軽鎖可変領域が、配列番号53の配列を有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
前記成熟重鎖可変領域が、重鎖定常領域に結合し、前記成熟軽鎖可変領域が、成熟軽鎖定常領域に結合する、求項1~7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
前記重鎖定常領域が、ヒトIgG1である、請求項7に記載の抗体。
【請求項10】
ヒトc-Kitへの結合がAMG191と比較して増強されている、求項1~9のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
ADCPがAMG191-IgG1と比較して増強されている、求項1~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
ADCCがAMG191-IgG1と比較して増強されている、求項1~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
求項1~12のいずれか一項に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
除去を必要とする被験体において、内因性HSPCを除去するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体を含む組成物
【請求項15】
c-Kitを発現するがんを有する被験体において、c-Kitを発現するがんを処置するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体を含む組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
重鎖60位および64位ならびに軽鎖30位において個々または組合せでCDRを置換すると、ヒトc-Kitに対する結合親和性の向上が付与され得る。また、置換は、ある位置のヒト生殖系列残基とのマウス残基の置き換えを表し、これ以外が同じなら、ヒト化抗体のヒト特性が向上する。以下の表1では、HB-10716として寄託されたマウス抗体、AMG191および3つの本発明のヒト化抗体において、重鎖60位および64位ならびに軽鎖30位を占有する残基を比較する。
表1
【表1】

【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0108
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0108】
表2では、生成した新たなヒト化抗体およびこれらの重および軽鎖成熟可変領域成分を要約する。簡潔には、AFと指定する抗体は、AMG191と同一の可変領域フレームワークを有する。NFと指定する抗体は、AMG191と異なる可変領域フレームワークを有する。HFと指定する抗体は、AMG191と同一の重鎖可変領域フレームワークおよび異なる軽鎖可変領域フレームワークを有する。HB-10716により産生される抗体に関連する、以下の表2の鎖のそれぞれに存在するCDR置換を、図2A~2Bおよび図3A~3Bに示す。
表2
【表2】

【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0121
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0121】
上記または下記に引用するすべての特許申請書、ウェブサイト、他の公開文献、受託番号等は、すべての目的のために、個々の各項目を参照によりそのように組み込むと個々に詳細に示す場合と同程度に、この全体を参照により組み込む。配列の種々のバージョンが受託番号とその時々において関連する場合、本出願の有効出願日に受託番号と関連するバージョンを意味する。有効出願日は、適用可能な場合、受託番号を参照して、実際の出願日より前または優先権出願の出願日を意味する。同様に、公開文献、ウェブサイト等の種々のバージョンがその時々において公開される場合、他に指示しない限り、出願の有効出願日に最近に公開されたバージョンを意味する。本開示の任意の特徴、ステップ、要素、実施形態、または態様は、他に詳細に指示しない限り、他の任意のものと組み合わせて使用することができる。本開示は、明確さおよび理解を目的とする例示および例のために、いくぶん詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲内において特定の変更および修飾が行われ得ることは明白である。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
それぞれ配列番号2~4の、Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3を含む成熟重鎖可変領域、ならびにそれぞれ配列番号6~8の、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3を含む成熟軽鎖可変領域を含むが、ただし、位置をKabatに従って付番して、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQから選択される1、2または3つのCDR残基の置換が存在する、ヒトc-Kitに特異的に結合する抗体。
(項目2)
Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3が、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3が、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQの前記置換が存在する、項目1に記載の抗体。
(項目3)
Kabatにより定義されるCDR H1、H2およびH3が、それぞれ配列番号2~4であり、Kabatにより定義されるCDR L1、L2およびL3が、それぞれ配列番号6~8であるが、ただし、重鎖60位のNからA、重鎖64位のKからQおよび軽鎖30位のNからQの前記置換が存在する、項目1に記載の抗体。
(項目4)
前記成熟重鎖可変領域が、配列番号13、17または21(AH2、AH3またはAH4)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示し、前記成熟軽鎖可変領域が、配列番号53(NL2)に対して少なくとも85、90、95、98、99%の配列同一性を示し、示される前記配列番号からのいかなる変動もKabatにより定義される前記CDR外である、前記項目のいずれかに記載の抗体。
(項目5)
Kabat付番による重鎖1位が、Eである、項目4に記載の抗体。
(項目6)
前記成熟軽鎖可変領域の以下の位置が、アミノ酸により以下:
9位がLにより占有され、
12位がPにより占有され、
14位がTにより占有され、
15位がPにより占有され、
18位がPにより占有され、
20位がSにより占有され、
22位がSにより占有され、
37位がLにより占有され、
43位がSにより占有され、
45位がQにより占有され、
74位がKにより占有され、
77位がRにより占有され、
78位がVにより占有され、
79位がEにより占有され、
84位がGにより占有される、
のように占有される、前記項目のいずれかに記載の抗体。
(項目7)
前記成熟重鎖可変領域が、配列番号13、17または21から選択される配列を有するが、ただし、1位がEであってもよく、前記成熟軽鎖可変領域が、配列番号53の配列を有する、項目1に記載の抗体。
(項目8)
前記成熟重鎖可変領域が、重鎖定常領域に結合し、前記成熟軽鎖可変領域が、成熟軽鎖定常領域に結合する、前記項目のいずれかに記載の抗体。
(項目9)
前記重鎖定常領域が、ヒトIgG1である、項目7に記載の抗体。
(項目10)
ヒトc-Kitへの結合がAMG191と比較して増強されている、前記項目のいずれかに記載の抗体。
(項目11)
ADCPがAMG191-IgG1と比較して増強されている、前記項目のいずれかに記載の抗体。
(項目12)
ADCCがAMG191-IgG1と比較して増強されている、前記項目のいずれかに記載の抗体。
(項目13)
前記項目のいずれかに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
(項目14)
内因性HSPCを除去する方法であって、有効なレジメンによる前記項目のいずれかに記載の抗体を、除去を必要とする被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目15)
c-Kitを発現するがんを処置する方法であって、有効なレジメンによる前記項目のいずれかに記載の抗体を、前記がんを有する被験体に投与するステップを含む、方法。

【国際調査報告】