(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(54)【発明の名称】冷間圧延及び焼鈍された鋼板、その製法、並びに車両部品を製造するためのそうした鋼板の使用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220119BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220119BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531720
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(85)【翻訳文提出日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 IB2019060361
(87)【国際公開番号】W WO2020115637
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/059625
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ・ディエゴ・カルデロン,イレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】エル,ジャン-クリストフ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA07
4K037EA08
4K037EA11
4K037EA13
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4K037FM01
4K037FM04
4K037GA05
4K037GA08
4K037JA06
(57)【要約】
冷間圧延及び焼鈍された鋼板であり、以下を重量で含み:0.6<C<1.3%、15≦Mn<35%、6≦Al<15%、Si≦2.40%、S≦0.03%、P≦0.1%、N≦0.1%、場合によっては、独立して3%までの、Ni、Cr及びCuから選択される1つ以上の任意の元素を含むことができ、及び、場合によっては、累積2.0%までの、B、Ta、Zr、Nb、V、Ti、Mo、及びWから選択される1つ以上の元素を含むことができ、組成の残部が鉄及び製錬由来の不可避的不純物で構成され、前期鋼板の微細組織が、1%~10%の間の規則化フェライト、任意に10%までのカッパカーバイドを含み、残部はオーステナイトでできており、並びに、前記鋼板の密度が7.2以下であり、及びオーステナイトマトリックスのFWHMが0,700~1,100の間である、鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延及び焼鈍された鋼板であり、重量により表して、以下:
0.6<C<1.3%、
15≦Mn<35%、
6≦Al<15%、
Si≦2.40%、
S≦0.03%、
P≦0.1%、
N≦0.1%、
を含み、3%までの個々の量の、Ni、Cr及びCuから選択される1つ以上の任意の元素を含むことができ、及び2.0%までの累積量の、B、Ta、Zr、Nb、V、Ti、Mo、及びWから選択される1つ以上の元素を含むことができ、組成の残部が鉄及び製錬由来の不可避的不純物で構成され、
前記鋼板の微細組織が、1%~10%の間の規則化フェライト、任意に10%までのカッパカーバイドを含み、残部はオーステナイトでできており、並びに、前記鋼板の密度が7.2以下であり、及びオーステナイトマトリックスのFWHMが0,700~1,100の間である、
鋼板。
【請求項2】
炭素成分が0.8%~1.0%の間に含まれる、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
マンガン成分が18%~30%の間に含まれる、請求項1又は2に記載の鋼板。
【請求項4】
アルミニウム成分が6%~10%の間に含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項5】
前記鋼板が、少なくとも1000MPaの極限引張強度、及び少なくとも700MPaの降伏強度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項6】
オーステナイト成分が90%~98%の間に含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項7】
オーステナイト成分が12ミクロン未満の平均粒径を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項8】
オーステナイト成分が10ミクロン未満の平均粒径を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項9】
フェライト成分が、5ミクロン未満の平均粒径を有する、2%~10%の間である、請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項10】
フェライト成分が、1ミクロン未満の平均粒径を有する、3%~9%の間である、請求項1~9のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項11】
カッパカーバイドが5%未満である、請求項1~10のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項12】
カッパカーバイドが4%未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項13】
前記鋼板が金属コーティングで被覆されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項14】
前記鋼板が、アルミニウム系コーティング、又は亜鉛系コーティングで被覆されている、請求項13に記載の鋼板。
【請求項15】
以下のステップを含む鋼板の製造方法:
ー 請求項1~4に記載の組成を有するスラブを供給するステップ、
ー そのようなスラブを、1000℃を超える温度で再加熱し、少なくとも800℃の最終圧延温度で熱間圧延するステップ、
ー 熱間圧延された鋼板を、600℃未満の温度で巻取るステップ、
ー そのように熱間圧延された鋼板の第1の冷間圧延を、30%~80%の間に含まれる圧下率で行うステップ、
ー そのように冷間圧延された鋼板の第1の焼鈍を、700℃~1000℃の間に含まれる焼鈍温度までそれを加熱し、それをその温度で5分未満維持し、及び、少なくとも30℃/秒の速度でそれを冷却することにより行う、ステップ、
ー そのように焼鈍された鋼板の第2の冷間圧延を、10%~50%の間に含まれる圧下率で行うステップ、
ー そのように冷間圧延された鋼板の第2の焼鈍を、700℃~800℃の間に含まれる温度までそれを加熱し、それをその温度で少なくとも1分~150時間維持し、及び、少なくとも30℃/秒の速度でそれを冷却することにより行うステップ。
【請求項16】
第1の焼鈍温度が800℃~950℃の間に含まれる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
巻取温度が350℃~500℃の間に含まれる、請求項15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
第2の焼鈍の維持時間が2分~10時間の間である、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
酸洗がサンドブラストによって行われる、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
さらに、最終被覆ステップを含む、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
車両の構造部品又は安全部品の製造のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の鋼板、又は請求項15~20のいずれか一項に記載の方法により得ることができる鋼板の使用。
【請求項22】
前記鋼板のフレキシブル圧延により得られた、請求項15に記載の部品。
【請求項23】
請求項15~23のいずれか一項に記載の部品を含む車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にオーステナイトを含む微細組織を示す低密度鋼板に関する。本発明による鋼板は、陸上自動車などの車両のための、安全部品又は構造部品の製造に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
環境上の制約により、自動車製造業者は、自社の車両からのCO2の排出量を継続的に削減するよう強いられている。そのために、自動車製造業者にはいくつかの選択肢があり、主な選択肢として、車両の重量を削減すること、又はエンジンシステムの効率を改善することがある。これら2つの手法を組合わせることによって、進歩が達成されることが多い。本発明は、最初の選択肢、すなわち、車両の重量を削減することに関する。この非常に特異的な分野において、代替手段としては2つの手順がある。
【0003】
最初の手順は、その機械的強度のレベルを向上させる一方で、鋼の厚みを削減することからなる。あいにく、この解決法は、機械的強度の増加に伴う延性の不可避的な損失は言うまでもなく、ある種の自動車部品の剛性の低下、及び乗客に対して不快な状態を生み出す音響上の問題の出現により、その限界を有する。
【0004】
2つ目の手順は、鋼を他のより軽い金属と合金化することによる、鋼の密度を削減させることからなる。これらの合金のうち低密度のものは、魅力的な機械的及び物理的特性を有し、一方で重量を大幅に削減することを可能とする。
【0005】
特に、米国特許出願公開2003/0145911号明細書は、良好な成形性及び高い強度を有する、Fe-Al-Mn-Si軽量鋼を開示する。しかしながら、そうした鋼の極限引張強度は800MPaを超えることはなく、あらゆる種類の形状を有する部品を作成する上で、その低い密度という利点を最大限生かすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0145911号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、7.2未満の密度、少なくとも1000MPaの極限引張強度、及び少なくとも15%の引張伸びを示す、鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましい実施形態において、本発明による鋼板は、7.1以下又は7.0以下の密度、少なくとも1000MPaの極限引張強度、少なくとも750MPaの降伏強度、並びに少なくとも18%の引張伸びを示す。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することで達成される。本鋼板は、請求項2~16の特徴も含む。他の目的は、請求項17~21に記載の方法を提供することで達成される。他の態様は、請求項22~24に記載の部品又は車両を提供することで達成される。
【0010】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の、発明の詳細な説明から明らかになるだろう。
【0011】
あらゆる理論に束縛されることは望まないが、本発明による低密度の鋼板は、その特異的な微細組織により機械的特性の改善を可能とする。
【0012】
鋼の化学的組成に関し、炭素は、微細組織の形成、及び目的とする機械的特性への到達において、重要な役割を果たす。その主要な役割は、鋼の微細組織の主要な相であるオーステナイトを安定化し、及び強度を与えることである。炭素の成分が0.6%未満であると、オーステナイトの割合が低下し、よって合金の延性及び強度の両方が低下するだろう。
【0013】
カッパカーバイド(Fe,Mn)3AlCxの主要な構成元素として、炭素は、そうしたカーバイドの析出を促進する。しかしながら、炭素成分が1.3%を超えると、粒界におけるそうしたカーバイドの粗大な状態での析出が促進され得、合金の延性の低下につながる。
【0014】
十分な強度を得るためには、好ましくは、炭素成分は、重量で0.8%~1.3%の間、より好ましくは、0.8%~1.0%の間である。
【0015】
マンガンは、主に、非常に大量のマンガン及び炭素と合金化させることにより、室温まで下がってもオーステナイトが安定化し、不安定化してそれをフェライト又はマルテンサイトへ変態させることなく、大量のアルミニウムを含有させることができるという事実により、この系において重要な合金元素である。合金が優れた延性を有することを可能にするために、マンガン成分は15%以上でなくてはならない。しかしながら、マンガン成分が35%を超えると、β-Mn相が析出し、合金の延性が低下するだろう。
【0016】
したがって、マンガン成分は、15%以上であるが35%以下に制御されるべきである。好ましい実施形態において、マンガン成分は15.5%以上であり、又は16%超ですらある。この量は、より好ましくは、18%~30%の間、及び18%~25%の間ですらある。
【0017】
高マンガンのオーステナイト鋼にアルミニウムを添加することで、合金の密度を効果的に低下させることができる。さらに、そのことで、オーステナイトの積層欠陥エネルギー(SFE)が大きく増加し、次いで、合金の歪み硬化の挙動が変化する。アルミニウムは、ナノサイズのカッパカーバイド(Fe,Mn)3AlCxの主要な元素の1つであり、したがって、アルミニウムを添加することで、そうしたカーバイドの形成を有意に高める。本合金におけるアルミニウムの濃度は、オーステナイトの安定化及びカッパカーバイドの析出を担保する一方で、他方ではフェライトの形成を制御するように、調整されるべきである。したがって、アルミニウム成分は、6%以上ではあるが15%以下に制御されるべきである。好ましい実施形態において、アルミニウム成分は、6%~12%の間、好ましくは、6%~10%の間である。
【0018】
ケイ素は、高マンガン及び高アルミニウム鋼に含まれる一般的な合金元素である。ケイ素は、規則化フェライトDO3の形成に対して、非常に強力な効果を有する。さらに、ケイ素は、オーステナイト中の炭素の活性を高め、及び炭素のカッパカーバイドへのパーティショニングを増加させることが示された。さらに、ケイ素は、脆いβ-Mn相の析出を遅延又は防止するのに使用できる、効果的な合金元素として記載されている。しかしながら、2.40%以上の成分では、伸びが減少し、ある種の組立工程において望ましくない酸化物が形成する傾向があり、したがって、ケイ素成分はこの限界値未満を保たなければならない。好ましくは、ケイ素の成分は、2.0%未満であり、有利には、1.0%未満である。
【0019】
硫黄及びリンは、粒界を脆化させる不純物である。それらの成分は、十分な熱感延性を維持するためには、それぞれ0.03%及び0.1%を超えてはならない。
【0020】
窒素成分は、AlNの析出及び凝固時の体積欠陥(発泡)の形成を防止するためには、0.1%又はそれ未満でなくてはならない。
【0021】
ニッケルは、水素の鋼中への浸透に正の効果を有し、及び、したがって、水素に対する拡散障壁として使用することができる。ニッケルは、フェライト中にB2成分などの規則化した化合物の形成を促進し、さらなる強度を与えるので、効果的な合金元素としても使用することができる。しかしながら、コスト上の理由により、他の成分に対し、ニッケルの添加は最大4%かそれ未満、及び、好ましくは、0.1%~2.0%の間に制限するのが望ましい。他の実施形態において、ニッケルの量は0.1%未満である。
【0022】
クロムは、固溶硬化により鋼の強度を増加させるための、任意の元素として使用できる。クロムは、本発明による鋼の高温腐食抵抗を高めもする。しかしながら、クロムは、積層欠陥エネルギーを減少させるので、その成分は4%を超えてはならず、好ましくは、0.1%~2.0%の間、又は、0.1%~1.0%の間である。他の実施形態において、クロムの量は、0.1%未満である。
【0023】
同様に、任意に、4%を超えない成分で銅を添加することは、銅に富んだ析出物の析出による、鋼の硬化の1つの手段である。しかしながら、この成分を超えると、銅は、熱間圧延された鋼における表面欠陥の出現の元となる。好ましくは、銅の量は、0.1%~2.0%の間、又は、0.1%~1.0%の間である。他の実施形態において、銅の量は0.1%未満である。
【0024】
ホウ素は、非常に低い固溶度、及び格子欠陥と強力に相互作用して粒界で偏析する強い傾向を有する。したがって、ホウ素は、粒間でのカッパカーバイドの析出を制限するのに使用できる。好ましくは、ホウ素の量は0,1%未満である。
【0025】
ニオブは、効果的な結晶微細化剤であるので、鋼の強度と靭性を同時に増加させることができる。さらに、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、バナジウム、チタン、モリブデン、及びタングステンも、窒化物、炭窒化物又は炭化物の析出による硬化及び強化を達成するのに、任意に使用できる元素である。しかしながら、それらの累積量が2.0%、好ましくは1,0%を超えると、過剰な析出により靭性の低下を引き起こす恐れがあり、それは回避しなければならない。
【0026】
本発明による鋼板の微細組織は、1%~10%の間のフェライト、任意に10%以下のカッパカーバイドを含み、残部はオーステナイトよりなる。
【0027】
本発明による鋼の主要な相として、オーステナイトのマトリックスが存在し、本発明による鋼中に少なくとも90%の体積分率で存在し、好ましくは、90%~98%の間の体積分率である。本発明のオーステナイトは、好ましくは12μm未満、より好ましくは10μm未満の平均粒径を有する。本発明のオーステナイトの歪み状態は、{311}面に対応する回折ピークの半値全幅(FWHM)の測定を通じた、X線回折により評価される。X線回折は、格子の寸法、結合長、結合角、格子秩序の詳細を含む、結晶状物質の内部格子に関する詳細な情報を提供する、非破壊的な分析技術である。それは、単結晶の微細化と直接関係し、X線分析より得られたデータを解釈し及び処理し、結晶構造を得る。通常、X線回折装置は、そのような結晶構造を同定するための機器である。本発明によれば、鋼板は、オーステナイトのマトリックスを有し、オーステナイトのマトリックスは面心立方格子系を有する。したがって、オーステナイト格子の歪み状態に対する感度が最も高く、したがって、転移密度に対する影響を最もよく表すと考えられている、{311}面に対応した回折ピークを分析し、半値全幅(FWHM)を測定した。本発明のオーステナイトのFWHMは、0.700°~1,100°の間である。
【0028】
本発明による鋼の微細組織中には、フェライトが、体積分率で1%~10%の間、好ましくは、2%~10%の間、より好ましくは、3%~9%の間で存在する。しかしながら、本発明のフェライトは、顆粒状に限定された形状を有し、帯状のフェライトは、鋼の延性及び成形性を大きく低下させるので除外される。好ましくは、フェライト顆粒は、5μm未満、より好ましくは1μm未満の平均粒径を有する。そのようなフェライトは、通常の無秩序フェライトαの形態でもあり得、又は(Fe,Mn)Al組成を有するB2構造として規則化された形態、若しくは、(Fe,Mn)3Al組成を有するD03構造として規則化された形態でもあり得、
したがって、本発明による鋼中には、一般に、α、B2構造、及びD03構造が観察されうる。
【0029】
カッパカーバイド(Fe,Mn)3AlCxが、本発明による鋼板の微細組織中に、体積分率で10%まで、好ましくは5%未満、より好ましくは4%未満、及び有利には1%超存在してもよい。本発明のカッパカーバイドは、粒内カッパカーバイド(例えば、オーステナイト粒内に析出した、いわゆる粒内カッパカーバイド)、及び粒間カッパカーバイド(例えば、オーステナイト粒間に析出した、いわゆる粒間カッパカーバイド)の両方を含む。ナノサイズのカッパカーバイドの均一で等質な析出により、合金の強度が増加する。
【0030】
本発明による鋼板を腐食から保護するためには、好ましい実施形態において、鋼板は、金属コーティングにより被覆される。金属コーティングは、アルミニウム系コーティングであってもよく、又は亜鉛系コーティングであってもよい。
【0031】
好ましくは、アルミニウム系コーティングは、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1%~8.0%のMg、及び、任意に0.1%~30.0%のZnを含み、残部はAlである。
【0032】
有利には、亜鉛系コーティングは、0.01%~8.0%のAl、任意に0.2~8.0%のMgを含み、残部はZnである。
【0033】
本発明による鋼板は、任意の適切な製造方法により製造することができ、当業者はそれを明確にすることができる。しかしながら、以下のステップを含む、本発明による鋼板の製造方法を使用することが好ましい:
- 本発明による組成を有するスラブを供給するステップ、
- そのようなスラブを、1000℃を超える温度で再加熱し、少なくとも800℃の最終圧延温度で熱間圧延をするステップ、
- 熱間圧延された鋼板を、600℃未満の温度で巻取るステップ、
- そのように熱間圧延された鋼板の第1の冷間圧延を、30%~80%の間に含まれる圧下率で行う、ステップ、
- そのように冷間圧延された鋼板の第1の焼鈍を、700℃~1000℃の間に含まれる焼鈍温度までそれを加熱し、それをその温度で5分未満維持し、及び、少なくとも30℃/秒の速度でそれを冷却することにより行う、ステップ、
- そのように焼鈍された鋼板の第2の冷間圧延を、10%~50%の間に含まれる圧下率で行うステップ、
- そのように冷間圧延された鋼板の第2の焼鈍を、700℃~880℃の間に含まれる温度までそれを加熱し、それをその温度で少なくとも1分~150時間維持し、及び、少なくとも30℃/秒の速度でそれを冷却することにより行うステップ。
【0034】
本発明による鋼板は、好ましくは、上記組成を有する、本発明による鋼から作成された、スラブ、薄スラブ、又はストリップのような半製品を、流延し、流延した供給ストックを、1000℃を超える、好ましくは1050℃を超える、より好ましくは1100℃~1150℃の温度に加熱し、鋳造後、中間的な冷却なしにその温度で直接使用する方法を通じて、製造される。
【0035】
熱間圧延のステップは、800℃を超える温度で行われる。帯状フェライトの形成による延性の欠如を通じた、あらゆる亀裂の問題を回避するために、最終圧延温度は、好ましくは、850℃以上である。
【0036】
熱間圧延の後、ストリップは、600℃未満、好ましくは350℃以上で巻取りしければならない。好ましい実施形態において、過剰なカッパカーバイドの析出を回避するために、巻取りは350℃~450℃の間で行われる。
【0037】
上記工程により得られた熱間圧延された製品は、通常の様式で酸洗作業を行った後に、冷間圧延される。酸洗は、サンドブラストで行うことが好ましい。
【0038】
第1の冷間圧延のステップは、30%~80%の間、好ましくは40%~70%の間の圧下率で行われる。
【0039】
この圧延ステップの後、鋼板の第1の焼鈍を、700℃~1000℃の間に含まれる焼鈍温度までそれを加熱し、それをそのような温度で5分未満維持し、及び、少なくとも30℃/秒、より好ましくは、少なくとも50℃/秒、並びに、さらにより好ましくは、少なくとも70℃/秒の速度でそれを冷却することにより行う、ステップ。好ましくは、この焼鈍は連続的に行われる。
【0040】
焼鈍温度及び時間を制御することで、上記の特徴を有する、完全にオーステナイトであるか又は2相からなる組織を得ることができる。
【0041】
この第1の焼鈍ステップの後、第2の冷間圧延ステップの手段により、10%~50%の間、好ましくは、15%~40%の間の圧下率で、素材に予備歪みを施した。鋼板は、第2の冷間圧延ステップを経ることで、歪み硬化を通じて強度を増すことができた。
【0042】
この第2の圧延ステップの後、鋼板を、700℃~880℃の間に含まれる焼鈍温度まで加熱し、それをそのような温度で1分~150時間維持し、及び、少なくとも30℃/秒、より好ましくは、少なくとも50℃/秒、さらにより好ましくは、少なくとも70℃/秒の速度で冷却することで、第2の焼鈍が行われる。好ましくは、この焼鈍は連続的に行われる。この第2の焼鈍の間、オーステナイトのマトリックスが回復し、おそらく転移密度が減少してゆくように再結晶化する。このような進行の間接的な測定値は、{311}面に対応する回折ピークに対するX線回折により測定された、半値全幅(FWHM)により与えられる。その間、カッパカーバイド及びフェライトなどの硬質相の析出が発生する。さらに、フェライトは規則化反応を経て、DO3及びB2の生成が促進され得る。これらの微量成分の組合わせにより、超高強度及び超高延性の間を両立させた鋼が提供される。
【0043】
これらの2回の焼鈍ステップの後、鋼板は、腐食に対する保護を改善させるために、任意に、金属コーティングの操作に供される。使用されるコーティングの工程は、本発明の鋼に適用される任意の工程であってよい。電気又は物理蒸着を挙げることができ、特に、ジェット蒸着が注目される。金属コーティングは、例えば、亜鉛系であってもよく、又はアルミニウム系であってもよい。
【実施例】
【0044】
表1に収載された組成を有する2つのグレードを、スラブに鋳造し、及び、表2に収載された工程パラメータに従い加工した。
【0045】
【0046】
【0047】
得られた試料を分析し、対応する微細組織成分及び機械的特性を、それぞれ表3及び表4に収載した。
【0048】
【0049】
【0050】
本実施例は、本発明による鋼板が、その特異的な組成及び微細組織により、標的とする特性のすべてを示す唯一の鋼であることを示す。
【国際調査報告】