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特表2022-512951アミン官能基、カルボン酸塩官能基、およびホウ素官能基を含む化合物とその潤滑剤添加剤としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】アミン官能基、カルボン酸塩官能基、およびホウ素官能基を含む化合物とその潤滑剤添加剤としての使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 159/12 20060101AFI20220131BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20220131BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/26 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C10M159/12
C07F5/02 Z
C10M139/00 A
C10N40:26
C10N40:25
C10N30:04
C10N30:06
C10N30:10
C10N30:12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021524409
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(85)【翻訳文提出日】2021-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2019080562
(87)【国際公開番号】W WO2020094796
(87)【国際公開日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】18306474.0
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505036674
【氏名又は名称】トータル・マーケティング・サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】ドイヤン・ヴァレリー
【テーマコード(参考)】
4H048
4H104
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AB60
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA75
4H048VB20
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BB24R
4H104BE02R
4H104BJ05R
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104DA06R
4H104LA02
4H104LA03
4H104LA05
4H104LA06
4H104PA42
4H104PA45
(57)【要約】
【課題】改善された洗浄力および酸化安定性を有利に提供すると共に、潤滑油に優れた洗浄力と清浄性をもたらし、使用中の油のレオロジー特性を低下させない、反応生成物を提供する。
【解決手段】少なくとも以下:
-アルカリ金属またはアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物であって、任意でヒドロカルビル基により置換され、任意で過塩基化された化合物、
-ホウ素化合物、
-アミン成分であって、次の中から選択された成分:
-第4級アンモニウム塩、および
-2つまたは3つのアミン官能基を備える化合物であって、少なくとも1つのアミン官能基が、少なくとも1つのヒドロカルビル基により置換され、任意で1つ以上のアミン官能基が少なくとも1つのモノアルコキシ基又はポリアルコキシ基により置換されている化合物、
の反応に起因して生じる生成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下:
-アルカリ金属またはアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物であって、任意でヒドロカルビル基により置換され、任意で過塩基化された化合物、
-ホウ素化合物、ならびに
-アミン成分であって、次の中から選択された成分:
-第4級アンモニウム塩、および
-2つまたは3つのアミン官能基を備える化合物であって、少なくとも1つのアミン官能基が、少なくとも1つのヒドロカルビル基により置換され、任意で1つ以上のアミン官能基が少なくとも1つのモノアルコキシ基又はポリアルコキシ基により置換され得る化合物、
の反応に起因して生じる生成物。
【請求項2】
請求項1に記載の生成物であって、任意でヒドロカルビル基によって置換されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、モノアルキル置換サリチル酸塩、モノアルケニル置換サリチル酸塩、ジ-アルキル置換サリチル酸塩、ジ-アルケニル置換サリチル酸塩、カルボキシレートで官能化したカリックスアレーン塩(特にサリチル酸カリックスアレーン塩)、およびそれらの混合物の中から選択される、生成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生成物であって、任意でヒドロカルビル基によって置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、式(I)の化合物:
【化1】
(式中、
Rは1~50個の炭素原子を含むヒドロカルビルを表し、Rには1つ以上のヘテロ原子が含まれていてもよく、
aは整数であり、aは0、1又は2を表す)
のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の中から選択される、生成物。
【請求項4】
請求項3に記載の生成物であって、任意でヒドロカルビル基によって置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、式(IA)の化合物:
【化2】
のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の中から選択される、生成物。
【請求項5】
請求項4に記載の生成物であって、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、アルカリ金属サリチル酸塩及び/又はアルカリ土類金属サリチル酸塩の中から選択される、生成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の生成物であって、ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸錯体、酸化ホウ素、独立して1~4個の炭素原子を含むアルキル基を有するホウ酸トリアルキル、C-C12アルキルボロン酸、C-C12ジアルキルホウ酸、C-C12アリールホウ酸、C-C12ジアリールホウ酸、C-C12アラルキルホウ酸、C-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体から選択される(有利には、ホウ素化合物はホウ酸である)、生成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の生成物であって、アミン成分は、以下:
-式(VII)に対応する第4級アンモニウム塩
【化3】
-式(IV)のジ-アミン
NX-Ra-NZ (IV)
-式(V)のトリ-アミン
NX-Ra-NY-Rb-NZ (V)
(式中:
Xは、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
Yは、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
は、対イオンを表し、
及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択され、
、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素原子を1~40個含むアルキル基およびアルケニル基の中から選択され、
RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素原子を1~20個含むアルキル基およびアルケニル基の中から選択され、
及びZのいずれもがアルキル基又はアルケニル基Rを表す場合、これらは互いに異なっていてもよい)
の中から選択される、生成物。
【請求項8】
請求項7に記載の生成物であって、アミン成分が、式(IVA)に対応する化合物:
【化4】
(式中:
x=2、3、4)
の中から選択される、生成物。
【請求項9】
請求項7に記載の生成物であって、アミン成分が、式(VB)に対応する化合物:
【化5】
(式中:
x=2、3、4、
y=2、3、4)
の中から選択される、生成物。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の生成物であって、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素原子を14~22個(好ましくは14~18個、より好ましくは16~18個)含む、直鎖状のアルキル基又はアルケニル基の中から選択される、生成物。
【請求項11】
請求項10に記載の生成物であって、R、R、R、及びRは、動物性および植物性の油脂(獣脂油、ココナッツ油及びパーム油など、好ましくは獣脂油)に由来する、生成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の生成物と、基油とにより構成される、潤滑剤組成物。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の生成物または請求項12に記載の潤滑剤組成物を使用する方法であって、2-ストローク船舶用エンジン及び4-ストローク船舶用エンジン(より好ましくは2-ストローク船舶用エンジン)を潤滑するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性有機化合物のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩と、ホウ素化合物と、第4級アンモニウム塩および2つ又は3つのアミン官能基を含む化合物から選択されるアミン成分との反応生成物に関する。本発明はまた、この反応生成物を含む潤滑剤組成物、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油の主な機能の1つは、摩擦を減らすことである。ただし、多くの場合、潤滑油を効率的に使用するためには、付加的な特性が必要となる。例えば、船舶用ディーゼルエンジンなどのような大型ディーゼルエンジンで用いられる潤滑油は、特別な考慮を要する動作条件に晒されることが多い。
【0003】
低速2ストローククロスヘッドエンジンに用いられる船舶用潤滑油には2種類がある。1種類目は、シリンダ-ピストンアッセンブリの潤滑を確保するためのシリンダオイルであり、2種類目は、シリンダ-ピストンアッセンブリを除く全ての可動部位の潤滑を確保するためのシステムオイルである。シリンダ-ピストンアッセンブリ内では、酸性ガスを含む燃焼残留物が潤滑油と接触している。
【0004】
酸性ガスは、燃料油の燃焼によって生成する。これらは具体的には硫黄酸化物(SO,SO)であり、燃焼ガスおよび/またはオイル中に存在する水分と接触すると加水分解される。この加水分解により、亜硫酸(HSO)又は硫酸(HSO)が生成される。
【0005】
ピストンライナーの表面を保護し、過剰な腐食摩耗を防ぐために、これらの酸を中和する必要があるが、これは通常、潤滑油に含まれる塩基性部位との反応によって行われる。
【0006】
オイルの中和能力は、その塩基度によって特徴付けられるBN、つまり塩基価(Base Number)によって測定される。これは、標準のASTM D-2896に従って測定され、オイル1グラムに相当する(等価な)炭酸カリウム(potash)の量をミリグラム単位で表示したものとして表される(「KOHのmg/g」又は「BNポイント」とも称される。)。BNは、使用される燃料油の硫黄含有量に合わせてシリンダオイルの塩基度を調整することを可能にするための標準的な基準であり、燃料中に含まれる硫黄の全てを中和し、燃焼および加水分解によってこれらを硫酸に変換することを可能とする。
【0007】
したがって、燃料油の硫黄含有量が高いほど、船舶用油のBNを高くする必要がある。これが、BNが5~140mgKOH/gの様々な船舶用油が市場に出回っている理由である。この塩基度は、中性洗剤、および/または不溶性の金属塩(特に金属炭素塩)による過塩基性洗剤によって、提供されている。主として陰イオンタイプの洗剤は、例えば、サリチル酸塩、石炭酸塩(フェネート)、スルホン酸塩、カルボン酸塩タイプなどの金属石鹸であり、不溶性金属塩の粒子が懸濁状態に維持されてミセルを形成する。通常の中性洗剤は本質的に洗剤1グラムあたり(典型的には)150mgKOH未満のBNを有し、通常の過塩基性洗剤は、本質的に洗剤1グラムあたり150~700mgKOHのBNを標準的な方法で有する。潤滑油中のこれらの質量パーセントは、所望のBNレベルに応じて固定されている。
【0008】
環境への懸念から、特定の地域、特に沿岸領域では、船舶で使用される燃料油中の硫黄レベルの制限に関する要件が出されている。このため、IMO(国際海事機関)が発行した規則MARPOL附属書6(船舶による大気汚染防止規則)が、2005年5月に発効した。これによれば、重油燃料中の硫黄含有量に関して4.5%w/wが世界的な上限として設定され、またSECA(硫黄排出規制区域)と呼ばれる硫黄酸化物の排出を規制する区域が創設された。これらの区域に入る船は、指定された値を準拠するために、最大硫黄含有量が1.5%w/wの燃料油を使用しているか、あるいはSOx排出を制限するための他の代替処理を使用している必要がある。ここで、w/wという表記は、それが含まれる燃料油または潤滑組成物の総重量に対してその化合物が占める重量パーセントを示している。
【0009】
より最近では、MEPC(海洋環境保護委員会)が2008年4月に会合し、規則MARPOL附属書6の修正案を承認した。これらの提案については、以下の表に要約してある。彼らは、最大硫黄含有量に関する制限がより厳しくなり、2012年以降に、世界の最大含有量が4.5%w/wから3.5%w/wに減少するシナリオを示している。SECA(硫黄排出規制区域)は、新しい制限(reduction)が追加されてECA(排出規制区域)となり、2010年以降に最大許容硫黄含有量が1.5%w/wから1.0%w/wになり、またNOおよび粒子の含有量に関する新たな制限が加えられた。
【0010】
【表1】
【0011】
大陸横断航路を航行する船舶は、地域の環境制約に応じて、複数の異なる重油燃料を使用しており、運用コストを最適化することが可能となっている。最適化が可能な状況は、燃料油の最大許容硫黄含有量の最終レベルに関係なく、継続する。したがって、現在建設中のコンテナ船の大部分は、複数のバンカータンク(bunker tank)の利用を提供しており、一方は「外洋」用に硫黄含有量の高い燃料油を貯蔵し、他方は「SECA」用に硫黄含有量が0.1%w/w以下の燃料油を貯蔵している。これら2つの種類の燃料油を切り替えるには、エンジンの運転条件の調整、特に適切なシリンダ潤滑油の使用が必要になる場合がある。
【0012】
現在、硫黄含有量の高い(3.5%w/w以下)燃料油の存在下では、BNが約70以下の船舶用潤滑油が用いられている。硫黄含有量の低い(0.1%w/w)燃料油の存在下では、BNが約40以下の船舶用潤滑油が用いられる。これらの2つのケースでは、船舶用潤滑油の中性洗剤および/または過塩基性洗剤によって提供される塩基性部位が必要な濃度に達すると、十分な中和能力が達成されるが、燃料油の種類を変更する度に潤滑油を変更する必要がある。
【0013】
さらに、これらの潤滑油にはそれぞれ、次の観察結果から生じる使用期限がある。硫黄含有量の低い(0.1%w/w)燃料油の存在下で、高BNのシリンダ潤滑油を使用するとともに、潤滑レベルを一定に保つと(at a fixed lubrication level)、塩基性部位が著しく過剰になり(高BNになり)、未使用の過塩基性洗剤のミセル(不溶性の金属塩を含む。)が不安定性化するリスクが生じる。この不安定化によって、主にピストンクラウンに不溶性の金属塩(例えば、炭酸カルシウム)の堆積物が生じ、最終的にはライナー研磨タイプのエンジン(liner-polishing type)において過剰な摩耗が生じるリスクにつながる。さらに、低BNのシリンダ潤滑油を使用することは、硫黄含有量の高い燃料油の存在下では、総中和能力の観点から十分ではなく、したがって腐食の重大なリスクを招く可能性がある。
【0014】
したがって、低速2ストロークエンジンのシリンダの潤滑を最適化するためには、燃料油およびエンジンの運転条件に適合したBNを有する潤滑油を選択することが必要となる。この最適化をするとなると、エンジンの柔軟な運転性が低下し、ある種類の潤滑油から別の種類の潤滑油への切替えの実行を要する条件を定めるために、乗組員の側でかなりの技術的専門知識が必要となる。
【0015】
現に、船舶用エンジン、特に2ストローク船舶用エンジンの運転条件は、ますます厳しくなっている。したがって、エンジン(特にエンジンの高温部、例えば、セグメントピストンポンプアッセンブリ)と直接的に接触する潤滑油においては、高温耐性を有することが保証されるべきであり、またそれにより、エンジンの高温部で堆積物が形成されるのを抑制し又は防止できることが保証されるべきであり、またそれだけではなく、燃料の燃焼時に生じた硫酸を良好に中和できることが保証されるべきである。
【0016】
硫黄含有量が高い燃料の存在下でも、硫黄含有量が低い燃料の存在下でも使用することができ、良好な高温耐性を維持しつつ、硫酸を良好に中和する能力を有し、そのためエンジンの高温部で堆積物が形成されるリスクを少なく抑えることが可能な、船舶用洗剤が、必要とされている。
【0017】
また、硫黄含有量が高い燃料の存在下でも、硫黄含有量が低い燃料の存在下でも使用することができ、BN(特に70以下のBN)を有し、良好な高温耐性を維持しつつ、硫酸を良好に中和する能力を有し、そのためエンジンの高温部で堆積物が形成されるリスクを少なく抑えることが可能な、船舶用潤滑油も、必要とされている。
【0018】
また、時間が経過しても(特にエンジンの運転時にも)、粘度が上昇する虞が全くないか、または殆どないような、2ストローク船舶用エンジンを含む船舶用エンジンに用いられる潤滑油が、望まれていた。
【0019】
本発明の目的は、上述の欠点の全部または一部を克服することができる、潤滑油添加剤を提供することである。本発明の他の1つの目的は、潤滑剤組成物内での配合が容易に実施できる、潤滑油添加剤を提供することである。
【0020】
本発明の他の1つの目的は、上述の欠点の全部または一部を克服することができる、潤滑剤組成物を提供することである。本発明の他の1つの目的は、配合が容易に実施できる潤滑剤組成物を提供することである。
【0021】
本発明の他の1つの目的は、船舶用エンジンを潤滑するための方法を提供することであり、特に、低硫黄燃料および高硫黄燃料のいずれも使用される2ストローク船舶用エンジンを潤滑するための方法を提供することである。本発明の他の1つの目的は、船舶用エンジン(特に非常に低硫黄の燃料で使用される2ストローク船舶用エンジン)を潤滑するための方法を提供することである。本発明の別の1つの目的は、船舶用エンジン(特に2ストローク船舶用エンジン)の高温部位における堆積物の形成を低減する方法を提供することである。
【0022】
特許文献1(米国特許出願公開第2015/0299606号明細書)には、金属を含まない洗浄剤および酸化防止剤が開示されており、これらは、酸性有機化合物、ホウ素化合物、ポリエチレンイミンなどのポリアミン、並びに任意のアルコキシル化アミン及び/又はアルコキシル化アミドの反応生成物を含む、潤滑油に用いることができる。
【0023】
特許文献2(欧州特許出願公開第0955288号明細書)には、従来の第4級アンモニウム塩または水酸化物化合物を、安息香酸またはサリチル酸またはそれらの塩と反応させることによって調製された化合物、およびそれらを潤滑剤組成物に使用することが、開示されている。
【0024】
特許文献3(欧州特許出願第1968985号明細書)には、還元灰洗浄剤/酸化防止化合物が開示されており、これらは、酸性有機化合物、ホウ素化合物、およびアルコキシル化アミン、及び/又はアルコキシル化アミドの反応から生じる。これらの化合物は、潤滑油や燃料添加剤として有用である。
【0025】
特許文献4(欧州特許出願第2627741号明細書)には、ヒンダードフェノール酸生成物のホウ酸油可溶性ヒドロキシル化アミン塩が開示されており、これは少なくとも1つのアミン官能基がヒドロカルビル基で置換されているジアミンまたはトリアミンをホウ素含有化合物およびフェノール酸と反応させることによって調製される。
【0026】
特許文献5(米国特許出願公開第2005/172543号明細書)には、酸性有機化合物、ホウ素化合物、および塩基性有機化合物の反応生成物を含む組成物と、それの潤滑油用および炭化水素燃料用の洗剤添加剤としての使用が、開示されている。
【0027】
特許文献6(欧州特許出願3072951号明細書)には、潤滑剤組成物に用いるための洗剤組成物が開示されており、前記洗剤は以下を含む:過塩基性スルホン酸カルシウム、並びに、金属を含有しない低灰分洗剤であって、酸性有機化合物、ホウ素化合物、及び1種以上のアミンを含有するアミン成分の反応生成物を備える低灰分洗剤。
【0028】
特許文献7(米国特許出願公開第2016/0281014号明細書)には、過塩基性スルホン酸カルシウムおよび低灰分洗剤を備える潤滑油洗剤組成物が開示されており、低灰分洗剤には、金属が含有されず、アルキル化サリチル酸などの酸性有機化合物と、ホウ素化合物と、アミン成分との反応生成物が含まれている。
【0029】
特許文献8(欧州特許出願1783134号明細書)、特許文献9(欧州特許出願2316823号明細書)、および特許文献10(欧州特許出願2322591号明細書)には、内燃機関の潤滑油用途向けの、中高TBN洗浄分散添加剤の調製について、開示がされている。これらの添加剤は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩からなり、任意で過塩基性である。
【0030】
これらの文献のいずれにも、以下に定義される、酸性有機化合物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、ホウ素化合物と、アミン成分との反応生成物については開示されていない。
【0031】
アルキル化サリチル酸、ホウ素化合物、およびアミン成分を組み合わせた添加剤は、耐腐食性と耐摩耗性に優れている。しかしながら、これらの化合物の中には、潤滑油中に含まれる添加剤の量を増加させると、中和反応が生じることで油粘度が上昇し、潤滑効果が薄れてしまうものがある。他の化合物の中には、油粘度の上昇に関しては満足が行く程度に十分に制御されていたが、洗浄性能が不十分であったものもあった。また他の化合物の中には、洗浄性能に関しては満足が行く程度に十分であったが、中和反応が生じたときに油粘度が上昇してしまう点に関しては不満が残るものもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0299606号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0955288号明細書
【特許文献3】欧州特許出願第1968985号明細書
【特許文献4】欧州特許出願第2627741号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/172543号明細書
【特許文献6】欧州特許出願3072951号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2016/0281014号明細書
【特許文献8】欧州特許出願1783134号明細書
【特許文献9】欧州特許出願2316823号明細書
【特許文献10】欧州特許出願2322591号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
したがって、効果的な耐腐食性および耐摩耗性を同時に提供し、潤滑効果を高めるために使用時に十分なレオロジー特性を提供し、高い洗浄性能を提供し、またそれによって堆積物の形成を防ぐことが可能な、潤滑油添加剤が必要とされていた。
【0034】
本発明の反応生成物は、改善された洗浄力および酸化安定性を有利に提供する。さらに当該反応生成物は、潤滑油に優れた洗浄力と清浄性をもたらし、使用中の油のレオロジー特性を低下させることがない。これらは優れた耐腐食性および耐摩耗性を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明は少なくとも以下:
-アルカリ金属またはアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物であって、任意でヒドロカルビル基により置換され、任意で過塩基化された化合物、
-ホウ素化合物、
-アミン成分であって、以下から選択された成分:
-第4級アンモニウム塩、
-2つまたは3つのアミン官能基を備える化合物であって、少なくとも1つのアミン官能基が、少なくとも1つのヒドロカルビル基により置換された化合物、
の反応生成物に関する。
【0036】
本発明はまた、少なくとも以下:
-アルカリ金属またはアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物であって、任意でヒドロカルビル基により置換され、任意で過塩基化された化合物、
-ホウ素化合物、
-アミン成分であって、次の中から選択された成分:
-第4級アンモニウム塩、
-2つまたは3つのアミン官能基を備える化合物であって、少なくとも1つのアミン官能基が少なくとも1つのヒドロカルビル基により置換され、任意で1つ以上のアミン官能基が少なくとも1つのモノアルコキシ基またはポリアルコキシ基で置換され得る化合物、
の反応生成物に関する。
【0037】
本発明はまた、このような反応生成物および基油を備える潤滑剤組成物に関する。
【0038】
本発明はまた、2ストローク船舶用エンジンおよび4ストローク船舶用エンジン(より好ましくは2ストローク船舶用エンジン)を潤滑するための製品または潤滑剤組成物の使用に関する。
【0039】
好ましい実施形態によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸塩化合物は、モノアルキルで置換されたサリチル酸塩、モノアルケニルで置換されたサリチル酸塩、ジ-アルキルで置換されたサリチル酸塩、ジ-アルケニルで置換されたサリチル酸塩、カルボキシレートで官能化したカリックスアレーン塩、(特にサリチル酸カリックスアレーン塩、)およびそれらの混合物の中から選択される。
【0040】
より好ましい実施形態によれば、任意でヒドロカルビル基によって置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、式(I)の化合物のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の中から選択される。
【0041】
【化1】
式中:
Rは1~50個の炭素原子を含むヒドロカルビルを表し、Rには1つ以上のヘテロ原子が含まれていてもよく、
aは整数であり、aは0、1又は2を表す。
【0042】
好ましい変形例によれば、式(I)において、aは1又は2を表す。
【0043】
別の変形例によれば、式(I)において、aは0を表す。
【0044】
さらにより好ましい実施形態によれば、任意でヒドロカルビル基によって置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、式(IA)の化合物のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の中から選択される。
【0045】
【化2】
【0046】
好ましい変形例によれば、式(IA)において、aは1又は2を表す。
【0047】
別の変形例によれば、式(IA)において、aは0を表す。
【0048】
好ましい実施形態によれば、ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸錯体、酸化ホウ素、独立して1~4個の炭素原子を含むアルキル基を有するホウ酸トリアルキル、C-C12アルキルボロン酸、C-C12ジアルキルホウ酸、C-C12アリールホウ酸、C-C12ジアリールホウ酸、C-C12アラルキルホウ酸、C-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体から選択される。有利には、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0049】
好ましい変形例によれば、アミン成分は、4つのヒドロカルビル基を有する第4級アンモニウム塩の中から選択され、有利には、ヒドロカルビル基はC-C40アルキル基またはC-C40アルケニル基から選択される。
【0050】
この変形例の好ましい実施形態によれば、アミン成分は以下から選択される:
-式(VII)に対応する第4級アンモニウム塩であって、
【化3】
式中、Wは対イオンを表し、
、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素原子を1~40個含むヒドロカルビル基(有利には、炭素原子を1~40個含むアルキル基またはアルケニル基)の中から選択される。
は用途に適合する(compatible)任意の対イオンとすることができる。
は、ハロゲン(例えばCl)から選択してもよい。
【0051】
別の好ましい変形例によれば、アミン成分は、2つ又は3つのアミン官能基を含む化合物の中から選択され、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのヒドロカルビル基により置換され、任意で、1つ以上のアミン官能基は少なくとも1つのモノアルコキシ基又はポリアルコキシ基により置換され得る。
【0052】
この変形例によれば、好ましくは、アミン成分は、2つ又は3つのアミン官能基を有する化合物の中から選択され、少なくとも1つのアミン官能基は、炭素原子を1~40個含む少なくとも1つのヒドロカルビル基によって置換され、有利にはC-C40アルキル基またはC-C40アルケニル基により置換される。ここで、任意で、1つ以上のアミン官能基は、C-Cアルキル基モノアルコキシ基又はC-Cポリアルコキシ基により置換することができる。
【0053】
より好ましくは、アミン成分は、2つ又は3つのアミン官能基を有する化合物の中から選択され、少なくとも1つのアミン官能基は、炭素原子を1~40個含む少なくとも1つのヒドロカルビル基によって置換され、有利にはC-C40アルキル基またはC-C40アルケニル基によって置換される。
【0054】
この変形例の好ましい実施形態によれば、アミン成分は、式(IV)のジアミンから選択される:
NX-Ra-NZ (IV)
式中、
Xは、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択され、
、R、及びRはそれぞれ独立して、炭素原子を1~40個含むアルキル基又はアルケニル基の中から選択され、
Raは、炭素原子を1~20個含むアルキル基又はアルケニル基の中から選択され、
及びZのいずれもがアルキル基又はアルケニル基Rを表す場合、これらは互いに異なっていてもよい。
【0055】
この変形例の別の好ましい実施形態では、アミン成分は、式(V)のトリアミンの中から選択される。
NX-Ra-NY-Rb-NZ (V)
式中、
Xは、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
Yは、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又はアルキル基若しくはアルケニル基Rの中から選択され、
、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素原子を1~40個含むヒドロカルビル基(有利には、炭素原子を1~40個含むアルキル基およびアルケニル基)の中から選択され、
RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素原子を1~20個含むアルキル基およびアルケニル基の中から選択され、
及びZのいずれもがアルキル基又はアルケニル基Rを表す場合、これらは互いに異なっていてもよい。
【0056】
好ましい実施形態によれば、式(IV)、(V)、及び(VII)において、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素原子を14~22個(好ましくは14~18個、より好ましくは16~18個)含む直鎖状のアルキル基又はアルケニル基の中から選択される。
【0057】
より好ましい実施形態によれば、R、R、R、及びRは、例えば獣脂油、ココナッツ油及びパーム油のような、動物性および植物性の油脂(好ましくは獣脂油)に由来する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
「本質的に~からなる」という用語に1つ又は複数の特性を伴っている場合には、明示的に記載された構成要素またはステップに加えて、本発明の特性および特徴に実質的に影響しない他の構成要素またはステップもまた、本発明のプロセス又は材料に含まれ得ることを意味する。
「X~Yで構成される」という表現は、特に明記されていない限り、境界に含む場合も含む。この表現は、ターゲット範囲には、X値とY値、及びXからYまでの全ての値が含まれることを意味する。
【0059】
「アルキル」とは、飽和炭化水素鎖を意味し、直鎖状構造、分岐鎖構造、又は環状構造であってもよい。
「アルケニル」は、直鎖状構造、分岐鎖構造、又は環状構造であり得、少なくとも1つの不飽和(好ましくは1つの炭素-炭素二重結合)を含む、炭化水素鎖を意味する。
「アリール」は、芳香族炭化水素官能基を意味する。この官能基は、単環式または多環式であってもよい。アリール基の例として、フェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセンなどが挙げられる。
「アラルキル」は、アルキル鎖置換基を含む芳香族炭化水素官能基(好ましくは単環式)を意味する。
「ヒドロカルビル」は、1つのアルキル、アルケニル、アリール、アラルキルの中から選択される化合物または当該化合物の断片を意味する。いくつかのヒドロカルビル基においては、特に記載がある場合には、ヘテロ原子を含む。
【0060】
「過塩基性」とは、金属塩又は錯体の類を指す。これらの材料は、「塩基性」、「超塩基性(superbased)」、「超強塩基性(hyperbased)」、「錯体」、「金属錯体」、「高金属含有塩」などとも呼ばれている。過塩基性生成物は、金属の化学量論に従えば存在するであろうと考えられる量を超えるほどの金属を含有し、また、その金属と反応する特定の酸性有機化合物(例えば、カルボン酸)を有するという特徴を有する、金属塩または錯体である。
【0061】
「全塩基価(total base number)」又は「TBN」という用語は、生成物1グラムを中和するのに必要なKOHの当量ミリグラムを指す。したがって、TBNが高い場合は、強く過塩基性に偏った生成物を反映しており、その結果、酸を中和する際の予備の塩基が多く存在することとなる。生成物のTBNは、ASTM規格番号D2896またはそれと同等の手順に従って決定することができる。
【0062】
[アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩]
任意でヒドロカルビル基により置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、少なくとも1つの安息香酸塩フラグメントを含む分子のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であり、芳香環は、少なくとも1つのヒドロキシ官能基を有するとともに、場合によっては1つのアルキル置換基、アルケニル置換基、アリール置換基、又はアラルキル置換基を有していてもよい。これらの置換基が存在する場合、ヒドロカルビル置換基およびヒドロキシ官能基は、カルボキシレート官能基に対して、そして互いに対して、オルト、メタ、又はパラ位に位置するとしてもよい。ヒドロカルビル置換基は、炭素原子を1~50個含むとしてもよい。
【0063】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物には、サリチル酸塩(ヒドロキシ-2-安息香酸塩)、ヒドロキシ-3-安息香酸塩、およびヒドロキシ-4-安息香酸塩が含まれるが、好ましくはサリチル酸塩である。
【0064】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物であって、ヒドロカルビル置換基を有する化合物には、モノアルキルで置換したサリチル酸塩、モノアルケニルで置換したサリチル酸塩、ジ-アルキルで置換したサリチル酸塩、ジ-アルケニルで置換したサリチル酸塩、カルボン酸塩で官能化したカリックスアレーン塩(特にサリチル酸カリックスアレーン)、およびこれらの混合物が含まれるが、これら限定されるものではない。
【0065】
カリックスアレーンは、複数のフェノール単位からなる大環状化合物であり、それぞれのフェノール単位がパラ置換されてメチレンブリッジにより接続されることにより構成されてもよい。この環状オリゴマーは、4~16個のフェノールを連続して含み、これらが環を形成し、各フェノールはメチレンブリッジ(-(CH)-)又はこれと同様のブリッジにより接続される。
【0066】
1つの変形例によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、アルカリ金属塩の中から選択される。好ましくは、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、又はカリウム(より好ましくはカリウム)である。
【0067】
第2の変形例によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、アルカリ土類金属塩の中から選択される。好ましくは、アルカリ土類金属は、カルシウム、バリウム、マグネシウム、又はストロンチウム(より好ましくはカルシウム)である。
【0068】
第1実施形態によれば、任意でヒドロカルビル基によって置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、以下の式(I)の化合物のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩から選択される。
【0069】
【化4】
式中:
Rは、炭素原子を1~50個含むヒドロカルビルを表し、Rは1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよく、
aは整数であり、aは0、1、又は2を表す。
第1の変形例によるとa=0である。
別の変形例によると、a=1又は2である。
a=2の場合、2つのヒドロカルビル基は同一又は互いに異なっていてもよい。
有利にはa=1である。
式(I)のヒドロカルビル基は、アルキル、アルケニル、アリール、及びアラルキル基を意味し、1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
式(I)のヒドロカルビル基は、直鎖状構造、分岐鎖構造、又は環状構造であってもよい。
Rのヘテロ原子は、O、N、Sの中から選択できる。例えば、-OH、-NH、若しくは-SH置換基として、又は、-O-ブリッジ、-NH-ブリッジ、-N=ブリッジ、若しくは-S-ブリッジのうちの1つ又は複数として存在してもよい。
好ましくは、Rはヘテロ原子を含まない。
好ましくは、Rは、アルキル基及びアルケニル基の中から選択される。
有利には、Rは、炭素原子を1~50個含むアルキル又はアルケニルを表す。
好ましくは、Rは、直鎖状構造または分岐鎖構造の、アルキル基またはアルケニル基から選択される。
さらに有利には、Rは、炭素原子を1~50個含む直鎖状構造のアルキルを表す。
好ましくは、Rは炭素原子を12~40個含み、さらに好ましくは、Rは炭素原子を18~30個含む。
【0070】
有利には、式(I)において、-OH及び-COOHは、フェニル環のオルト位にあり、式(I)の分子は、サリチル酸または式(IA)のサリチル酸誘導体である。
【0071】
【化5】
式中、
Rとaは、式(I)と同じ定義を有し、これらのパラメータの好適な変形例は式(I)のものと同じである。
【0072】
サリチル酸ナトリウムは市販されている(CAS番号:54-21-7)。
【0073】
アルカリ金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩化合物は、特に、少なくとも1種のアルキルフェノールをアルカリ金属塩基で中和してアルカリ金属アルキル石炭酸塩を得て、次にアルカリ金属アルキル石炭酸塩を二酸化炭素でカルボキシル化することによって調製することができる。
【0074】
アルカリ土類金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩化合物は、アルカリ金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩を酸性化してアルキルヒドロキシ安息香酸を形成し、さらにアルキルヒドロキシ安息香酸をモル過剰のアルカリ土類金属塩基と反応させることによって得ることができる。
【0075】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩化合物の調製方法は、特に欧州特許出願第2316823号明細書に開示されている。
【0076】
第2の実施形態によれば、任意でヒドロカルビル基により置換された、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、カリックスアレーン構造のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の中から選択される。本発明によるカリックスアレーン構造は、式(II)のヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸であるm単位と、式(III)のフェノールであるn単位と、を備え、m単位とn単位とが互いに結合して環を形成している。
【0077】
【化6】
式中:
は、炭素原子を1~50個含むヒドロカルビルを表し、Gは、1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよく、
bは整数であり、bは0、1、又は2を表し、
Qは独立して、2価のブリッジグループを表し、
、G、G及びGはそれぞれ、OH、H、又は炭素原子数が1~50個のヒドロカルビル基(1つ以上のヘテロ原子を含みうる)であり、G、G、G及びGのうちの1つ又は2つはOHであり、
m及びnは、以下が成り立つ整数:
mは1~8であり、
nは少なくとも3であり、
m+nは4~20である。
【0078】
変形例によれば、bは0を表す。
別の変形例によれば、bは1又は2を表す。
有利には、m+nは5~12である。
b=2の場合、2つのヒドロカルビル基Gは同一であっても、異なっていてもよい。
式(II)及び式(III)のヒドロカルビル基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、及びアラルキル基であって、1つ以上のヘテロ原子を含みうる基を意味する。
式(II)及び式(III)のヒドロカルビル基は、鎖状構造、分岐鎖構造、又は環状構造のいずれであってもよい。
、G、G、G及びGのヘテロ原子は、例えば、O、N、Sから選択することができ、これらは例えば、1以上の、-OH、-NH、若しくは-SHなどの置換基、又は-O-ブリッジ、-NH-ブリッジ、-N=ブリッジ、若しくは-S-ブリッジなどのブリッジとして存在し得る。
【0079】
好ましくは、Gは、アルキル基およびアルケニル基から選択される。有利には、Gは、1~50個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニルを表す。さらに有利には、Gは、1~50個の炭素原子を有する直鎖状構造のアルキルを表す。
好ましくは、Gは、12~40個の炭素原子を含み、さらに好ましくは、Gは、18~30個の炭素原子を含む。
【0080】
好ましくは、単位(II)は、以下の式(IIA)に対応する構造から選択される:
【0081】
【化7】
式中、G、Q、およびbは、式(II)と同じ定義を有し、これらのパラメータの好適な変形例は、式(II)のものと同じである。
【0082】
式(III)において、有利には、Gは水酸基である。
有利には、G、G及びGはそれぞれ独立して、H、又は炭素原子の数が1~50個のアルキル若しくはアルケニルを表す。さらに有利には、G、G及びGはそれぞれ独立して、H、又は炭素原子の数が1~40個の直鎖状構造のアルキルを表す。
【0083】
好ましくは、G、G及びGはそれぞれ独立して、Hおよび1~30個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基の中から選択され、さらに好ましくは、Hおよび4~25個の炭素原子を有する直鎖状アルキルの中から選択される。
【0084】
複数のユニット(II)が存在する場合、それぞれのユニット(II)は同一であっても、異なっていてもよい。複数のユニット(III)は、カリックスアレーン分子内で同じであっても、異なっていてもよい。環状構造内に複数のユニット(II)が存在する場合(m>1)、ユニット(II)とユニット(III)とは、ランダムに分散されていてもよい。
【0085】
各Qはそれぞれ独立して、-S-、及び、式-(CHG-で表される基の中から選択されてもよく、ここでGは、水素または1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビル基の中から選択され、cは1~4の整数である。有利には、各Gは、H又は1~6個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、さらに好ましくは、各GはHである。
【0086】
好ましくは、ブリッジ基(架橋基)Qの少なくとも50%は、式-(CHG-により独立して表される。好ましくは、cは、1~4の整数であり、各Gは、H又は1~6個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、さらに好ましくは、各GはHである。
【0087】
有利には、全てのQが、-(CHG-の中から選択され、cは1であり、各Gは、H又は1~6個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、さらに好ましくは、各GはHである。
【0088】
特定の実施形態によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、任意でヒドロカルビル基によって置換され、過塩基性である。
【0089】
第1の変形例によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、過塩基性アルカリ金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物から選択される。
【0090】
過塩基性アルカリ金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩化合物は、例えば、アルカリ金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩のカルボキシル化および過塩基化によって調製することができる。このような方法は、欧州特許出願第1783134号公報に特に開示されている。
【0091】
第2の変形例によれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、過塩基性アルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物の中から選択される。
【0092】
過塩基性アルカリ土類金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩化合物は、例えば、アルカリ金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩から調製するか、あるいはアルカリ土類金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩を過塩基化することによって直接得ることができる。アルカリ土類金属のアルキルヒドロキシ安息香酸塩化合物の調製方法は、特に欧州特許出願第2322591号公報に開示されている。
【0093】
変形例によれば、ホウ素化合物とアミン成分との反応において、任意でヒドロカルビル基によって置換されたアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物は、アルキルフェノールとの混合物として使用することができる。
【0094】
この変形例によれば、混合物は、アルキルフェノール並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物との混合物の総モル数に基づいて、最大50モル%のアルキルフェノールを含んでいてもよい。このような混合物およびそれらの調製は、例えば、欧州特許出願第1783134号公報および欧州特許出願第2316823号公報に開示されている。
【0095】
[ホウ素化合物]
ホウ素化合物は、ホウ酸、ヒドロカルビルボロン酸、ホウ酸エステル、ヒドロカルビルホウ素エステル、酸化ホウ素、ホウ酸錯体の中から選択される。
【0096】
ホウ素化合物は、例えば、ホウ酸、酸化ホウ酸、ホウ酸錯体、アルキル基がそれぞれ独立して1~4個の炭素原子を含むホウ酸トリアルキル、C-C12アルキルボロン酸、C-C12ジアルキルボロン酸、C-C12アリールホウ酸、C-C12ジアリールホウ酸、C-C12アラルキルホウ酸、C-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体から選択される。
アルキル基およびアルコキシ基は直鎖状構造、分岐鎖構造、又は環状構造であってもよい。
ホウ酸錯体は、1つ以上のアルコール官能基を含む分子を有する錯体である。
有利には、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0097】
[アミン成分]
アミン成分は、第4級アンモニウム塩、および2つ又は3つのアミン官能基を有する化合物(ジアミンおよびトリアミン)から選択され、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのヒドロカルビル基で置換され、任意で、1つ以上のアミン基を、1つ以上のモノアルコキシ基又はポリアルコキシ基により置換することができる。
【0098】
第1の変形例によれば、アミン成分は、第4級アンモニウム塩から選択される。
この変形例によれば、第4級アンモニウム成分は、式(VII)の化合物の中から有利に選択される:
【0099】
【化8】
式中、
、R、R、及びRは、それぞれ独立して、1~40個の炭素原子を含むヒドロカルビル基の中から選択される。
は、この用途に適合する対イオンを表す。より具体的には、Wは、反応条件に適合するものでなければならず、この反応を阻害するものであってはならない。例えば、Wは、Clとしてもよい。
【0100】
式(VII)の「ヒドロカルビル基」は、好ましくはアルキル基およびアルケニル基を意味し、これらは直鎖状構造、分岐鎖構造、または環状構造であってもよい。
【0101】
、R、R、及びRの好適な実施形態は、以下に詳細に開示されている。式(VII)の化合物は、Akzo社より、Arquad(登録商標)およびEthquad(登録商標)の商品名で市販されている。
【0102】
第2の変形例によれば、アミン成分は、2つ又は3つのアミン官能基を有する化合物の中から選択され(ジアミンおよびトリアミン)、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのヒドロカルビル基で置換され、任意で、1つ以上のアミン官能基を、1つ以上のモノアルコキシ基又はポリアルコキシ基により置換することができる。
【0103】
この変形例によれば、好ましくは、アミン成分は2つ又は3つのアミン官能基を有する化合物(ジアミン及びトリアミン)の中から選択され、少なくとも1つのアミン基は少なくとも1つのヒドロカルビル基で置換され、好ましくは、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのC-C40ヒドロカルビル基により置換され、任意で、1つ以上のアミン官能基を、C-Cモノアルコキシ基またはC-Cポリアルコキシ基によってアルコキシル化してもよい。
【0104】
より好ましくは、アミン成分は、2つまたは3つのアミン官能基を有する化合物(ジアミン及びトリアミン)の中から選択され、少なくとも1つのアミン官能基は、少なくとも1つのC-C40アルキル基又はC-C40アルケニル基により置換される。
【0105】
この変形例の第1の実施形態によれば、アミン成分は、ジアミンから選択される。この実施形態によれば、アミン成分は、モノヒドロカルビル及びジヒドロカルビルアミノヒドロカルビルアミン(IV)の中から有利に選択される。
NX-Ra-NZ(IV)
式中、
Xは、水素、アルキル基又はアルケニル基Rの中から選択される基を表す。
及びZはそれぞれ独立して、水素、アルキル基又はアルケニル基Rの中から選択される。
、R、及びRはそれぞれ独立して、1~40個の炭素原子を有するアルキル基およびアルケニル基の中から選択される。
Raは、1~20個の炭素原子を有するアルキル基またはアルケニル基の中から選択される。
及びZのいずれもがアルキル基又はアルケニル基Rを表す場合、これらは互いに異なっていてもよい。
【0106】
この変形例の第2の実施形態によれば、アミン成分はトリアミンの中から選択される。この実施形態によれば、アミン成分は、有利には、モノヒドロカルビル及びジヒドロカルビルアミノヒドロカルビルアミノヒドロカルビルアミン(V)の中から選択される。
NX-Ra-NY-Rb-NZ (V)
式中、
Xは、水素、アルキル基又はアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
Yは、水素、アルキル基又はアルケニル基Rの中から選択される基を表し、
及びZはそれぞれ独立して、水素、アルキル基又はアルケニル基Rの中から選択され、
、R、R、及びRはそれぞれ独立して、1~40個の炭素原子を有するアルキル基およびアルケニル基の中から選択され、
Ra及びRbはそれぞれ独立して、1~20個の炭素原子を有するアルキル基およびアルケニル基の中から選択され、
及びZのいずれもがアルキル基又はアルケニル基Rを表す場合、これらは互いに異なっていてもよい。
【0107】
以下に記載する、R、R、R、及びRに関する詳細な説明および好適な実施形態は、式(IV)、(V)、(VII)に関連する。
【0108】
式(IV)、(V)、(VII)中の「ヒドロカルビル基」は、好ましくは、アルキル基およびアルケニル基を意味し、これらは直鎖状構造、分岐鎖構造、又は環状構造であってもよい。
【0109】
、R、R、及びRは、好ましくは、直鎖状アルキル基および分岐鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基および分岐鎖状アルケニル基の中から選択される。さらに好ましくは、R、R、R、及びRは、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基の中から選択される。
【0110】
、R、R、及びRは、好ましくは4~30個(さらに好ましくは8~22個)の炭素原子を有するアルキル基およびアルケニル基の中から選択される。
【0111】
好ましい変形例によれば、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、14~22個(好ましくは14~18個、より好ましくは16~18個)の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基の中から選択される。
【0112】
、R、R、及びRの基は、互いに異なっていてもよいが、1つの実施形態では、これらは同じであってもよい。これは、そのような材料は、より経済的に生産できるためである。それらが同じであるか否かに関係なく、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、化学原料または天然源(例えば、天然油脂)に由来するものとすることが好ましい。それは、特に天然源が使用される場合、R、R、R、及びRの各々は、様々な長さのアルキル基およびアルケニル基の混合であってもよいことを意味する。好ましくは、R、R、R、及びRは、例えば獣脂油、菜種油、ヒマワリ油、大豆油、亜麻油、オリーブ油、パーム油、ヒマシ油、ウッド油、コーン油、スクウォッシュ油、グレープシード油、ホホバ油、ゴマ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、シア油、マカデミア油、綿実油、アルファルファ油、ライ麦油、サフラワー油、ピーナッツ油、ココナッツ油、およびコプラ油、ならびにそれらの混合物のような、動物性および植物性の油脂に由来する。
【0113】
好ましくは、R、R、R、及びRは、獣脂油、ココナッツ油、およびパーム油に由来する。好ましくは、R、R、R、及びRの基は、獣脂油から得られる脂肪族基を表し、脂肪-アルキル(アルキレン)ポリアミンの対応する混合物が形成される。
【0114】
、R、R、及びRは、動物性および植物性の油脂に由来し、それは、R、R、R、及びRは、動物性および植物性の油脂から得られる脂肪酸を還元することによって得られる混合脂肪族鎖に対応することを意味する。
【0115】
いくつかの変形例によれば、水素化基R、R、R、及びRを使用すると有益な場合がある。ただし、特定の原料では、水素化をした後にも、かなりの量の不飽和結合が残る場合がある。あるいは、原料のR、R、R、及びRの基は、不飽和である。また、式(IV)、(V)、(VII)の化合物であって、R、R、R、及びRのうちの1つは完全に飽和し、別の1つは不飽和であるような、アミン生成物は、本発明に従って使用することができるアミン生成物である。
【0116】
以下に記載するRaおよびRbに関しての詳細な説明および好適な実施形態は、式(IV)および式(V)の両方に関連する。
【0117】
RaおよびRbは、好ましくは直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基の中から選択される。有利には、RaおよびRbは、アルキル基の中から選択され、さらに好ましくは直鎖状のアルキル基の中から選択される。さらにより好ましくは、RaおよびRbは、2~4個の炭素原子を有する直鎖状のアルキル基の中から選択される。さらに有利には、RaおよびRbは、以下の中から選択される:
-CH-CH-、-CH(CH)-CH-、及び-CH-CH-CH-。
【0118】
好ましい変形例においては、RaおよびRbは、以下の中から選択される:
-CH-CH-、及び-CH-CH-CH-。
【0119】
式(IV)の変形例の好適な実施形態によれば、アミン成分は、式(IVA)に対応する化合物の中から選択される:
【0120】
【化9】
式中、RおよびXは、式(IV)で示したのと同じ定義および好適な実施形態を有し、x=2、3、4である。
【0121】
式(V)の変形例の好適な実施形態によれば、アミン成分は、式(VB)に対応する化合物の中から選択される:
【0122】
【化10】
式中、RおよびXは、式(V)と同じ定義および好適な実施形態を有し、x=2、3、4であり、y=2、3、4である。
【0123】
[反応生成物]
任意でヒドロカルビルで置換される、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩と、ホウ素化合物と、アミン成分との反応は、任意の適切な方法で生じさせることができる。
【0124】
例えば、反応は、最初に、適切な溶媒の存在下で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビルにより置換したもの)と、ホウ素化合物とを、所望の比率で混合することによって実施することができる。
【0125】
適切な溶媒は、例えばナフサや極性溶媒であり、極性溶媒は例えば水やアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)である。
【0126】
有利には、反応は、(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸塩化合物:ホウ素化合物)のモル比率が、約(15:1)~約(1:5)、好ましくは(5:1)~(1:2)、より好ましくは(4:1)~(1:1)の状態で行われる。最も好ましい比率は、約(2:1)である。
【0127】
十分な時間が経過すると、ホウ素化合物は溶解する。次に、混合物にアミン成分がゆっくりと添加され、中和が生じ、所望の反応生成物の形成が起こる。
【0128】
有利には、(ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸塩化合物:アミン成分)のモル比率が、約(15:1)~約(1:5)、好ましくは(5:1)~(1:2)、より好ましくは(4:1)~(1:1)となるように、アミン成分が添加される。最も好ましい比率は、約(2:1)である。
【0129】
有利には、(ホウ素化合物:アミン成分)のモル比が約(10:1)~(1:10)、好ましくは(5:1)~(1:5)、さらに好ましくは(2:1)~(1:2)となるように、アミン成分が添加される。最も好ましい比率は、約(1:1)である。
【0130】
反応は、概して約0.5~5時間(より好ましくは1~4時間)にわたって、反応媒体の温度を約20℃~約100℃(例えば、約50℃~約75℃)に維持することにより、有利に行うことができる。
【0131】
反応が完了した後、溶媒を反応媒体から蒸発させることができ、好ましくは、真空下で蒸留することにより溶媒を蒸発させる。あるいは、溶媒は、このように使用される反応生成物との混合物中に維持されてもよい。特に、蒸留によって溶媒を除去する間に、必要に応じて希釈油を加えることによって、粘度を調整してもよい。
【0132】
この反応に起因して生じる生成物には、化合物の複雑な混合物が含まれる。反応生成物の混合物は、1種又は複数種の特定の成分を単離するために分離をする必要はない。したがって、反応生成物の混合物は、本発明の潤滑剤組成物としてそのまま使用することができる。
【0133】
反応は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)と、ホウ素化合物と、アミン成分とに加えて、他の反応物質を用いることにより、実現することができる。
【0134】
しかしながら、本発明によれば、反応生成物は、好ましくは、少なくとも1種のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)と、少なくとも1種のホウ素化合物と、少なくとも1種のアミン成分と、で本質的に構成される反応物質(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因することにより、生じる。
【0135】
さらに好ましくは、反応生成物は、少なくとも1種のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)と、少なくとも1種のホウ素化合物と、少なくとも1種のアミン成分と、のみからなる反応物質(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因することにより、生じる。
【0136】
第2の好適な実施形態によれば、反応生成物は、少なくとも1種のホウ素化合物と、少なくとも1種のアミン成分と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)およびアルキルフェノールの混合物と、で本質的に構成される反応物質(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因することにより、生じる。
【0137】
さらにより好ましくは、この第2の好適な実施形態によれば、反応生成物は、少なくとも1種のホウ素化合物と、少なくとも1種のアミン成分と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)およびアルキルフェノールの混合物と、のみからなる反応物質(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因することにより、生じる。
【0138】
この第2の好適な実施形態によれば、前記混合物には、アルキルフェノール並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物との混合物の総モル数に基づいて、最大50モル%のアルキルフェノールが含まれてもよい。
【0139】
[潤滑剤組成物]
本発明はまた、潤滑油(又は潤滑剤)組成物中に添加する添加剤として、上記のように開示された反応生成物を使用することを対象とする。また、本発明は、そのような添加剤を含む潤滑剤組成物も対象にしている。
【0140】
有利には、潤滑剤組成物は以下を含む。
・60~99.9%の少なくとも1種の基油、
・0.1~20%の、少なくとも上記で定義した、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)、ホウ素化合物、及びアミン成分の、少なくとも1種の反応生成物、
パーセンテージは、組成物の総重量と比較したときの成分の重量として定義される。
【0141】
さらに有利には、潤滑剤組成物は以下を含む。
・60~99.9%の少なくとも1種の基油、
・0.1~15%の、少なくとも上記で定義した、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)、ホウ素化合物、及びアミン成分の、少なくとも1種の反応生成物、
パーセンテージは、組成物の総重量と比較したときの成分の重量として定義される。
【0142】
[基油]
概して、本発明に係る潤滑油組成物は、第1の成分として、「基油」とも呼ばれる潤滑粘度の油を含む。本明細書で使用する基油は、以下の用途のいずれかに使用される潤滑油(潤滑剤)組成物を形成するために用いられる潤滑粘度の、現在公知である又は将来的に発見される任意の油であるとしてもよい:例えば、エンジン油、船舶用シリンダ油、油圧油などの機能性流体、ギア油、トランスミッション液(例えば、オートマティック・トランスミッション液)、タービン潤滑油、筒形ピストンエンジン油、コンプレッサー潤滑油、工作油、およびその他の潤滑油並びにグリース組成物。
【0143】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、船舶用エンジン潤滑油組成物であり、好ましくは、それらは2-ストローク船舶用エンジン潤滑油組成物である。
【0144】
概して、本発明に従って潤滑剤組成物を配合するために使用される、「基油」とも呼ばれる油は、鉱物由来の油、合成由来の油、又は植物由来の油、およびそれらの混合物であり得る。本願(application)で概して使用される鉱物油または合成油は、以下に要約するAPI分類で定義されたクラスの1つに属する。
【0145】
【表2】
【0146】
グループ1のこれらの鉱油は、選択されたナフテン原油またはパラフィン原油を蒸留し、続いて、溶媒抽出、溶媒若しくは接触脱ろう、水素化処理又は水素添加などの方法によりこれらの留出物を精製することにより、得ることができる。
【0147】
グループ2及び3の油は、例えば、水素化処理、水素化分解、水素添加、及び接触脱ろうの組み合わせによる、より厳しい精製方法によって得ることができる。グループ4及び5の合成塩基の例には、ポリアルファオレフィン、ポリブテン、ポリイソブテン、アルキルベンゼンが含まれる。
【0148】
これらの基油は、単独でまたは混合物として使用することができる。鉱油は、合成油と組み合わせてもよい。
【0149】
本発明の潤滑剤組成物は、SAEJ300の分類に従って、SAE-20、SAE-30、SAE-40、SAE-50、又はSAE-60の粘度グレードを有する。
【0150】
グレード20の油は、100℃で5.6~9.3mm/sの動粘度を有する。
グレード30の油は、100℃で9.3~12.5mm/sの動粘度を有する。
グレード40の油は、100℃で12.5~16.3mm/sの動粘度を有する。
グレード50の油は、100℃で16.3~21.9mm/sの動粘度を有する。
グレード60の油は、100℃で21.9~26.1mm/sの動粘度を有する。
【0151】
好ましくは、第1の態様及び第2の態様による潤滑剤組成物はシリンダ潤滑剤である。
【0152】
2ストロークディーゼル船舶用エンジンのシリンダ油は、SAE-40~SAE-60の粘度測定グレードを有し、概して100℃での動粘度が16.3~21.9mm/sに相当するSAE-50が選択される。通常、2ストローク船舶用ディーゼルエンジンで用いられるシリンダ潤滑油の従来の配合は、グレードSAE40~SAE60、選択的にはSAE50(SAEJ300の分類に基づく。)であり、少なくとも50重量%の鉱物及び/又は合成起源の潤滑基油を含み、それらは例えばAPIグループ1クラスの船舶用エンジンでの使用に適合している。それらの粘度指数(VI)は、80~120の間で構成され、それらの硫黄含有量は0.03%よりも大きく、それらの飽和物質含有量は90%未満である。
【0153】
2ストロークディーゼル船舶用エンジンのシステムオイルは、粘度測定グレードがSAE-20~SAE-40であり、概して、100℃での動粘度である9.3~12.5mm/sに相当するSAE-30が好ましくは選択される。
【0154】
これらの粘度は、添加剤と、例えば中性溶媒(例えば、150NS、500NS、又は600NS)基油などのグループ1の鉱物基油およびブライトストックを含む基油とを混合することにより、得ることができる。添加剤との混合物として、選択されたSAEグレードに準拠した粘度を有する、鉱物由来基油、合成由来基油、又は植物由来基油の任意の組み合わせを使用することができる。
【0155】
本発明の潤滑剤組成物中の基油の量は、潤滑剤組成物の総重量に対して30重量%~90重量%、好ましくは40重量%~90重量%、より好ましくは50重量%~90重量%である。
【0156】
本発明の一実施形態では、潤滑剤組成物は、標準ASTMD-2896に従って決定された、潤滑剤組成物1グラムあたり最大50ミリグラム(好ましくは最大40ミリグラム、有利には最大30ミリグラム)の水酸化カリウムの塩基価(BN)を有する。特に、潤滑剤組成物1グラムあたり10~40ミリグラム(好ましくは15~40ミリグラム)の範囲の水酸化カリウムを有することが好ましい。
【0157】
本発明の別の実施形態では、潤滑剤組成物は、標準ASTMD-2896に従って、少なくとも50、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも70、有利には70~100のBNを有する。
【0158】
[添加剤]
任意で、組成物の高温での粘度と低温での粘度の両方を増加させる役割を担う1種以上の増粘添加剤、あるいは粘度指数(VI)を改善する添加剤によって、上記基油の全部または一部を置換してもよい。
【0159】
本発明の潤滑剤組成物は、特に当業者によって頻繁に使用されるものの中から選択される、少なくとも1種の任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0160】
1つの実施形態では、潤滑剤組成物は、中性洗剤、過塩基性洗剤、耐摩耗剤、油溶性脂肪族アミン、ポリマー、分散剤、消泡剤、又はそれらの混合物の中から選択される任意の添加剤をさらに含む。
【0161】
洗剤は、典型的には、長い親油性炭化水素鎖と親水性頭部を含む陰イオン性化合物であり、関連する陽イオンは、典型的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属陽イオンである。洗剤は、好ましくは、カルボン酸、スルホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属(特に好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウム)塩、並びに石炭酸塩の塩の中から選択される。これらの金属塩は、洗剤の陰イオン基に対してほぼ化学量論量の金属を含んでいてもよい。この場合、特定の塩基性にも寄与するが、非過塩基性または「中性」洗剤を指す。これらの「中性」洗剤は、典型的には、ASTMD2896に従って測定したBNが、150mgKOH/g未満、100mgKOH/g未満、又は80mgKOH/g未満である。このタイプのいわゆる中性洗剤は、潤滑剤組成物のBNに部分的に寄与してもよい。例えば、アルカリおよびアルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウム)のカルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、石炭酸塩、ナフテン酸塩などの中性洗剤が使用される。金属が過剰である場合(洗剤の陰イオン基に対する化学量論量よりも多い場合)これらはいわゆる過塩基性洗剤である。これらのBNは高く、150mgKOH/g洗剤よりも高く、典型的には、200~700mgKOH/g洗剤、好ましくは250~450mgKOH/g洗剤である。過塩基性洗剤の特性を提供する過剰の塩基は、油中の不溶性金属塩の形態で存在し、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、好ましくは炭酸塩として存在する。過塩基性洗剤において、これらの不溶性塩の金属は、油溶性洗剤の金属と同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。それらは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウムから選択されることが好ましい。したがって、過塩基性洗剤は、油中に可溶性金属塩の形態で存在する洗剤によって潤滑剤組成物中に懸濁状態に維持される不溶性金属塩から構成されるミセル状である。これらのミセルは、1種以上の洗剤によって安定化された1種以上の不溶性金属塩を含んでいてもよい。単一タイプの洗剤可溶性金属塩を含む過塩基性洗剤は、概して、後者の洗剤の疎水性鎖の性質に従って命名される。したがって、洗剤がそれぞれ石炭酸塩、サリチル酸塩、スルホン酸塩またはナフテン酸塩である場合、それらは、石炭酸塩、サリチル酸塩、スルホン酸塩、ナフテン酸塩タイプと称される。ミセルが疎水性鎖の性質によって互いに異なるいくつかのタイプの洗剤を含む場合、その過塩基性洗剤は混合タイプと呼ばれる。過塩基性洗剤および中性洗剤は、カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、石炭酸塩、およびこれらのタイプの洗剤のうちの少なくとも2種を組み合わせた混合洗剤の中から選択することができる。過塩基性洗剤および中性洗剤には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウム(好ましくは、カルシウム又はマグネシウム)の中から選択される金属をベースにした化合物が含まれる。過塩基性洗剤は、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ土類金属炭酸塩からなる群の中から選択される金属不溶性塩(好ましくは炭酸カルシウム)によって過塩基化されていてもよい。潤滑剤組成物は、上で定義されたような、少なくとも1種の過塩基性洗剤および少なくとも1種の中性洗剤を含んでいてもよい。
【0162】
ポリマーは、典型的には、2000~50000ダルトン(M)の低分子量を有するポリマーである。ポリマーは、PIB(2000ダルトン~)、ポリアクリレート又はポリメタクリレート(30000ダルトン~)、オレフィン共重合体、オレフィン及びアルファ-オレフィン共重合体、EPDM、ポリブテン、高分子量(粘度100℃>150)を有するポリアルファ-オレフィン、並びに水素化または非水素化スチレン-オレフィン共重合体の中から選択される。
【0163】
耐摩耗性添加剤は、これらの表面に吸着された保護膜を形成することにより、摩擦から表面を保護する。最も一般的に使用されるのは、ジチオリン酸亜鉛、又はDTPZnである。また、このカテゴリーには、様々なリン化合物、硫黄化合物、窒素化合物、塩素含有化合物、およびホウ素化合物が存在する。耐摩擦添加剤には、様々なものが存在するが、最も広く使用されているカテゴリーのものには、金属アルキルチオホスフェートのような硫黄リン添加剤(特に亜鉛アルキルチオホスフェート、より具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート又はDTPZn)がある。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OR)(OR))で表され、ここでR及びRはアルキル基であり、好ましくは1~18個の炭素原子を有する。DTPZnは、典型的には、潤滑剤組成物の総重量に対して約0.1~2重量%のレベルで存在する。アミンリン酸塩、硫化オレフィンを含むポリスルフィドも、耐摩耗性添加剤として広く使用されている。また、任意で、例えば金属ジチオカルバメート(特にモリブデンジチオカルバメート)のような、潤滑剤組成物中の窒素および硫黄タイプの耐摩耗性および極圧添加剤を見つけることができる。グリセロールエステルも耐摩耗性添加剤である。モノ-、ジ-、トリオレエート、モノパルミテートおよびモノミリステエートについて言及することができる。一実施形態では、耐摩耗性添加剤の含有量は、潤滑剤組成物の総重量に対して、0.01~6重量%(好ましくは0.1~4重量%)である。
【0164】
分散剤は、特に海洋分野での用途において、潤滑剤組成物の配合に使用される、周知の添加剤である。それらの主な役割は、潤滑油に最初から存在するか、あるいはエンジンの使用中に出現する粒子を、懸濁状態に維持することである。分散剤は、立体障害を生じさせる(play)ことによって、粒子の凝集を防ぐ。分散剤はまた、中和反応に相乗効果をもたらしてもよい。潤滑油添加剤として使用される分散液は、通常、比較的長い炭化水素鎖(概して50~400個の炭素原子を含む)に関連する極性基を有している。極性基は、典型的には、少なくとも1つの窒素、酸素、又はリン元素を含む。コハク酸に由来する化合物は、潤滑油添加剤の分散液として特に有用である。また、特に、無水コハク酸とアミンの縮合によって得られるスクシンイミド、無水コハク酸とアルコールまたはポリオールとの縮合によって得られるコハク酸エステルも使用される。次に、これらの化合物を、硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸及びホウ素含有化合物または亜鉛を含む様々な化合物で処理し、ホウ酸塩スクシンイミド又は亜鉛ブロック・スクシンイミドを生成することができる。アルキル基で置換されたフェノール、ホルムアルデヒド、および第1級または第2級アミンの重縮合によって得られるマンニッヒ塩基も、潤滑剤の分散剤として使用される化合物である。本発明の一実施形態では、分散剤含有量は、潤滑剤組成物の総重量に対して、0.1重量%以上(好ましくは0.5~2重量%、有利には1~1.5重量%)であってもよい。PIBスクシンイミドファミリー(例えば、ホウ素化または亜鉛ブロック・スクシンイミド)からの分散剤を使用してもよい。
【0165】
その他の任意の添加剤は、消泡剤(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリレートなどの極性ポリマー)の中から選択できる。それらはまた、酸化防止剤および/または防錆添加剤(例えば、有機金属洗剤またはチアジアゾール)の中から選択され得る。これらの添加物は当業者に知られている。これらの添加剤は、概して、潤滑剤組成物の総重量に基づいて0.1~5%の重量含有量で存在する。
【0166】
一実施形態では、本発明に係る潤滑剤組成物は、油溶性脂肪アミンをさらに含んでいてもよい。
脂肪アミンは一般式(VI)で表される:
R’-[(NR’)-R’]n-NR’R’ (VI)
式中、
・R’は、少なくとも12個の炭素原子と、任意で窒素、硫黄、又は酸素の中から選択された少なくとも1つヘテロ原子とを含む、飽和または不飽和の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を表し、
・R’、R’、及びR’はそれぞれ独立して、水素原子、又は飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐鎖状の、炭化水素基であり、任意で窒素、硫黄、又は酸素の中から選択された少なくとも1つヘテロ原子を含み、
・R’は、少なくとも1つの炭素原子、並びに、任意で窒素、硫黄、又は酸素(好ましくは酸素)の中から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む、飽和または不飽和の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を表し、
・nは整数であり、nは1以上であり、好ましくは1~10(より好ましくは1~6)で構成され、特に1、2,または3から選択される。
【0167】
好ましくは、脂肪アミンは、一般式(VI)の化合物であり、ここで、
・R’は、12~22個(好ましくは14~22個)の炭素原子を含む、飽和または不飽和の、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を表し、任意で窒素、硫黄、又は酸素の中から選択された1つのヘテロ原子を含み、および/または
・R’、R’、及びR’はそれぞれ独立して、水素原子;12~22個(好ましくは14~22個、より好ましくは16~22個)の炭素原子を有し、飽和または不飽和の、直鎖状または分岐鎖状炭化水素基;(R’O)-H[式中、R’は、少なくとも2個(好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個)の炭素原子を含む、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を表し、pは1以上であり、好ましくは1~6(より好ましくは1~4)で構成される];及び(R’N)-H[式中、R’は、少なくとも2個(好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個)の炭素原子を含む、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を表し、pは1以上、好ましくは1~6(より好ましくは1~4)で構成される]を表し、および/または、
・R’は、2~6個(好ましくは2~4個)の炭素原子を含む、飽和または不飽和の、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を表す。
【0168】
一実施形態では、一般式(VI)の脂肪アミンは、潤滑剤組成物の総重量に対して0.5~10重量%、好ましくは5~8重量%を表す。
【0169】
本発明に係る潤滑剤組成物に含まれる、上記のような任意の添加剤は、とりわけ基油に個別に添加することにより、別個の添加剤として潤滑剤組成物に組み込むことができる。しかしながら、それらの添加物はまた、船舶用潤滑剤組成物に用いる添加剤濃縮物に組み込むことにしてもよい。
【0170】
[船舶用潤滑剤の製造方法]
本開示は、上に開示したように、基油と、上で定義したような、少なくともアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)、ホウ素化合物、及びアミン成分の反応生成物とを、混合するステップを含む、船舶用潤滑油を製造する方法を提供する。
【0171】
[エンジンの潤滑への使用]
本発明はまた、上に定義された、少なくともアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)、ホウ素化合物、及びアミン成分の反応生成物の、潤滑エンジン(好ましくは船舶用エンジン)への使用に関する。具体的には、本発明は、上で定義された、少なくともアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)、ホウ素化合物、及びアミン成分の反応生成物の、2ストローク船舶用エンジンおよび4ストローク船舶用エンジン(より好ましくは2ストローク船舶用エンジン)を潤滑するための使用に関する。
【0172】
特に、上で定義したような、少なくともアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシ安息香酸塩化合物(任意でヒドロカルビル基によって置換したもの)、ホウ素化合物、及びアミン成分の反応生成物は、2ストロークエンジン及び4ストローク船舶用エンジン(より好ましくは2ストロークエンジン)を潤滑するために、シリンダ油または系油として、潤滑剤組成物に使用するのに適している。
【0173】
本出願はまた、2ストローク船舶用エンジンおよび4ストローク船舶用エンジン(より好ましくは2ストローク船舶用エンジン)を潤滑する方法に関し、この方法には、上に開示した船舶用潤滑剤を前記船舶用エンジンに適用する工程が含まれる。特に、潤滑剤は、シリンダ壁に適用され、典型的にはパルス潤滑システムによって、あるいは潤滑剤を噴霧することによって、2ストロークエンジンを潤滑するためのインジェクタを介してピストンのリングパックに対して適用される。本発明による潤滑剤組成物をシリンダ壁に適用することにより、腐食に対する保護が向上し、エンジンの清浄度が向上することが確認できている。
【国際調査報告】