IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マトリバックス,インコーポレーテッドの特許一覧

特表2022-513077クロストリジウム・ディフィシル多成分ワクチン
<>
  • 特表-クロストリジウム・ディフィシル多成分ワクチン 図1
  • 特表-クロストリジウム・ディフィシル多成分ワクチン 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(54)【発明の名称】クロストリジウム・ディフィシル多成分ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/08 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K39/08
A61P31/04 ZNA
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/39
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527120
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(85)【翻訳文提出日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 US2019061793
(87)【国際公開番号】W WO2020102717
(87)【国際公開日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】62/768,220
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521211136
【氏名又は名称】マトリバックス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】キリーン,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン,トーマス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA23X
4B065CA45
4C084AA22
4C084NA05
4C084ZB091
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C085AA03
4C085AA05
4C085AA38
4C085BA12
4C085CC07
4C085DD02
4C085DD03
4C085DD07
4C085DD08
4C085DD10
4C085DD62
4C085EE03
4C085EE06
4C085FF02
4C085FF03
4C085FF21
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
(57)【要約】
少なくとも2つの成分(a)及び(b)の混合物を含んでなる、クロストリジウム・ディフィシル感染に対抗するための免疫原性組成物を開示するものであり、成分(a)は、クロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の株の不活化した細胞、又はクロストリジウム・ディフィシル菌の1種以上の株由来の細胞表面抽出物を含み;そして成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの少なくとも1つのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含む。免疫原性組成物の投与は、前記組成物で免疫した被験体において免疫応答を誘発し、少なくとも1種のクロストリジウム・ディフィシル株及び少なくとも1つのクロストリジウム・ディフィシル毒素と反応する抗体を産生させるのに有効である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の1種以上の株の不活化した全細胞、又はクロストリジウム・ディフィシル菌の1種以上の菌株由来の細胞表面抽出物(CSE)、及び
(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチド、
を含んでなる免疫原性組成物であって、哺乳動物の被験体へ投与される場合、クロストリジウム・ディフィシル感染及び/又は再感染(再発)に対する防御を付与する、野生型クロストリジウム・ディフィシルを認識する抗体の産生と少なくとも1種のクロストリジウム・ディフィシル毒素を認識する抗体の産生とを誘発するのに有効である、前記組成物。
【請求項2】
1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株由来の全細胞を含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項3】
1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株由来のCSEを含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項4】
CSEが表1に明記される1種以上のタンパク質を含む、請求項3の免疫原性組成物。
【請求項5】
CSEが、CbpA、GroEL、CD3246、CD2381、CD0873、Dif51、Dif130、Dif192、Dif208、Dif208A、Dif232、及びCDTの1以上を含む、請求項3の免疫原性組成物。
【請求項6】
CSEが、クロストリジウム・ディフィシル細胞のデオキシコール酸ナトリウム懸濁液より調製される、請求項3の免疫原性組成物。
【請求項7】
クロストリジウム・ディフィシル細胞が、高毒性クロストリジウム・ディフィシル株を含む、請求項6の免疫原性組成物。
【請求項8】
クロストリジウム・ディフィシル細胞が、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027を含む、請求項6の免疫原性組成物。
【請求項9】
CSE調製物に、CbpA、GroEL、CD3246、CD2381、CD0873、Dif51、Dif130、Dif192、Dif208、Dif208A、Dif232、CDT、及び表1に明記されるタンパク質の1以上が添加されている、請求項6の免疫原性組成物。
【請求項10】
組換え的に発現される1以上の細胞表面成分を含む、請求項3の免疫原性組成物。
【請求項11】
1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株が、クロストリジウム・ディフィシルのリボタイプ001、003、027、106、012、014、及び036を含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項12】
2種のクロストリジウム・ディフィシル株由来の全細胞又はCSEを含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項13】
熱処理、UV又はγ線照射、ホルムアルデヒド処理、抗生物質での処理、又はアルコール類での処理によって全細胞が不活化される、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項14】
エタノール、イソプロピルアルコール、フェノール、トリクレゾール、又はこれらの組合せでの処理によって全細胞が不活化される、請求項13の免疫原性組成物。
【請求項15】
β-プロピオラクトン(BPL)での処理によって全細胞が不活化される、請求項13の免疫原性組成物。
【請求項16】
クロストリジウム・ディフィシルの培養物を65℃~80℃で少なくとも20分間加熱することによって全細胞が不活化される、請求項13の免疫原性組成物。
【請求項17】
クロストリジウム・ディフィシル細胞をホルマリンに懸濁させることによって全細胞が不活化される、請求項13の免疫原性組成物。
【請求項18】
成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAのトキソイド及び/又はクロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのトキソイドを含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項19】
成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの非毒性ポリペプチド断片及び/又はクロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの非毒性ポリペプチド断片を含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項20】
配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40に対して少なくとも50%の同一性を有する非毒性ポリペプチド断片を含む、請求項19の免疫原性組成物。
【請求項21】
アクトクスマブへ結合する、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの非毒性ポリペプチド断片を含む、請求項19の免疫原性組成物。
【請求項22】
ベズロトクスマブへ結合する、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの非毒性ポリペプチド断片を含む、請求項19の免疫原性組成物。
【請求項23】
成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの少なくとも1つのCROP領域、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの少なくとも1つのCROP領域、又はこれらの組合せを含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項24】
成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのポリペプチドC末端の716アミノ酸又はその免疫原性断片を含む、請求項23の免疫原性組成物。
【請求項25】
トキシンA及び/又はトキシンBが、1種より多いクロストリジウム・ディフィシル株由来の毒素を含む、請求項18の免疫原性組成物。
【請求項26】
トキシンAポリペプチド断片及び/又はトキシンBポリペプチド断片が、1種より多いクロストリジウム・ディフィシル株由来の断片を含む、請求項19の免疫原性組成物。
【請求項27】
成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルのリボタイプ003、027、106、001、012、014、036、及び078から成る群より選択される1種以上の株由来のポリペプチドを含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項28】
成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株由来のポリペプチドを含む、請求項27の免疫原性組成物。
【請求項29】
成分(b)が、配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項28の免疫原性組成物。
【請求項30】
成分(a)が、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株の不活化した全細胞を含み、成分(b)が、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株由来のトキシンA及び/又はトキシンBの非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含む、請求項1の免疫原性組成物。
【請求項31】
(c)アジュバント、
をさらに含んでなる、請求項1~30のいずれか1項の免疫原性組成物。
【請求項32】
アジュバントが、アラム、ミネラルオイル、植物油、水酸化アルミニウム、フロイント不完全アジュバント、又は生体適合性マトリックス材料の微粒子若しくはビーズより選択される、請求項31の免疫原性組成物。
【請求項33】
成分(c)がアラムである、請求項31の免疫原性組成物。
【請求項34】
クロストリジウム・ディフィシルの1種以上の株と反応する抗体を産生し、そして1種以上のクロストリジウム・ディフィシル毒素と反応する抗体を産生する免疫応答の誘発に有効な免疫原性組成物を作製する方法であって:
(1)第1成分(a)を第2成分(b)と混合し、前記第1成分は、クロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の株の不活化した細胞を、前記第1成分で免疫された哺乳動物の被験体において免疫応答を誘発してクロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の株と反応する抗体を産生させるのに有効な量で含んでなり、前記第2成分は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを、前記第2成分で免疫された哺乳動物の被験体において免疫応答を誘発して前記トキシンA又はトキシンBの少なくとも1つと反応する抗体を産生させるのに有効な量で含んでなり;そして
(2)工程(1)の前記混合物を、クロストリジウム・ディフィシルに感染し易い哺乳動物の被験体へ投与するために製剤化する、
ことを含んでなる、前記方法。
【請求項35】
被験体においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫応答を誘発する方法であって、(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを含んでなる免疫原性組成物のある量を前記被験体へ投与することを含んでなる、前記方法。
【請求項36】
抗生物質を投与することをさらに含む、請求項35の方法。
【請求項37】
抗生物質で治療される被験体においてクロストリジウム・ディフィシル感染を妨げるための予防方法であって、(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを含んでなる免疫原性組成物を該被験体へ投与することを含む、前記方法。
【請求項38】
被験体において感染を治療する方法であって、該感染を治療するのに有効な抗生物質の量と、(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを含んでなる免疫原性組成物の再感染を予防するための量とを該被験体へ投与することを含む、前記方法。
【請求項39】
クロストリジウム・ディフィシル感染に関連した病原性症状を予防的に軽減させる方法であって、(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの少なくとも1つの非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる組成物を前記被験体へ投与することを含む、前記方法。
【請求項40】
受動免疫法をさらに含む、請求項39の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願と援用
[0001] 本願は、2018年11月16日出願の米国仮特許出願第62/768,220号に対する優先権を主張する。
【0002】
[0002] 上記出願と、その中で又はそれらの審査の間に引用されるすべての文献(「出願引用文献」)とその出願引用文献において引用又は参照されるすべての文献、並びに本明細書において引用又は参照されるすべての文献(「本明細書引用文献」)と本明細書引用文献において引用又は参照されるすべての文献は、本明細書において又は本明細書に援用されるどの文献においても言及されるあらゆる製品についての製造業者の製品説明書、記載書、製品仕様書、及び製品シートと共に、本明細書に援用され、本発明の実施おいて利用し得る。より具体的には、すべての参照文献は、それぞれ個別の文献が本明細書に援用されると具体的かつ個別に明示されるのと同じ程度で本明細書に援用される。
【0003】
技術分野
[0003] 本発明は、免疫原性組成物、ワクチンを作製する方法、及びワクチン投与の方法に関する。具体的には、本発明は、(a)クロストリジウム・ディフィシルの不活化した全細胞又は細胞抽出物、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる1以上のポリペプチドを混合物中に含んでなるクロストリジウム・ディフィシルワクチンに関する。
【背景技術】
【0004】
[0004] クロストリジウム・ディフィシルは、CDCによる2013年の差し迫った脅威リスト(米国における抗生物質耐性の脅威、2013年(AR脅威レポート)、https://www.cdc.gov/drugresistance/biggest_threats.html)に収載された多剤耐性の芽胞形成菌であり、抗生物質療法を受けているか又は長期の入院滞在を経験している高齢成人において主に発生する院内感染の一般的な原因である。皮肉にも、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は、まだ抗生物質に対して顕著に耐性ではないが、ほとんどの感染症は、抗生物質療法に直接関連している。従って、CDIは、一般に抗菌薬関連下痢症(AAD)と呼ばれる。
【0005】
[0005] クロストリジウム・ディフィシルは、院内の抗菌薬関連下痢症及び大腸炎の最も重要な単一の同定可能な原因として認識されており、今やCDIは、健常な周産期女性、小児、抗生物質投与を受けていない患者、及び最近の医療被曝がほとんど無いか又は全く無い患者といったかつては低リスクとみなされていた集団のコミュニティにおいても出現している(アメリカ疾病管理予防センター(CDC)、Severe Clostridium difficile-associated disease in populations previously at low risk-four states、MMWR Morb Mortal Wkly Rep., 54: 1201-1205 (2005))。
【0006】
[0006] CDIは、抗菌薬関連下痢症の全症例の10~25%と偽膜性大腸炎のほとんどすべての症例の原因である(Bartlett, J. G., Clin. Infect. Dis., 18(Suppl. 4): S265-S272 (1994))。近年、クロストリジウム・ディフィシル下痢症の発生率の劇的な増加が観測されており、発生数と重症度の顕著な増加が注目されている(DePestel, D. et al., J. Pharm. Pract., 26(5): 464-475 (2013))。この罹患率の増加に並行して、CDIに関連した有病率及び死亡率の対応する増加もあるが、このことは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)リボタイプ027、北アメリカパルスフィールド1型(NAP1)、又は制限エンドヌクレアーゼ分析(REA)BI型と同義的に指定され、従来リボタイプ027と称された、かつては稀な株の出現及び急速な伝播と一致している(Zilberberg MD, Emerg. Infect. Dis.; 14:1756-1758 (2008))。
【0007】
[0007] 2015年のCDC研究では、米国における年間ほぼ50万件のCDI症例のうち約1万5000件が死につながることがわかった。CDI単独の入院症例の平均医療費は35,000ドルより高く、医療体制への推定年間費用負担は、30億ドルを超えている。
【0008】
[0008] 病院及び介護施設では、院内感染爆発が頻繁で制御することが難しく、病棟が閉鎖されて除染された後でも生じる場合がある(Bender, B. S., et al.; Lancet ii:11-13 (1986), 31)。3次医療病院では、37%までの患者が感染し、7.8%が病気になる(Samore, M. H., et al., Clin. Infect. Dis. 18:181-187 (1994))。ほとんどのクロストリジウム・ディフィシル下痢症患者が療法に応答するが、55%までの頻度で再発が起こり得る(Bartlett, J. G., Clin. Infect. Dis., 18(Suppl. 4): S265-S272 (1994))。
【0009】
[0009] クロストリジウム・ディフィシルは、胃腸(GI)管に対して、腸管上皮へ結合してそれを傷害することができる2種の毒素を放出することによって、その効果を発揮する。トキシンA(腸毒素)とトキシンB(細胞毒素)は、CDIの病態生理に対して異なったやり方で寄与する。トキシンAは、GI管における体液の分泌と炎症全般に関連している。トキシンBは、再発性CDIにおける病毒性の主たる決定因子であって、結腸へのより重篤な傷害に関連している(アメリカ疾病管理予防センター 院内感染; https://www.cdc.gov/hai/organisms/cdiff/cdiff_clinicians.html)。
【0010】
[0010] クロストリジウム・ディフィシルのトキシンB(TcdB)に対する最近の集中研究は、2種のアイソフォーム:VPI 10463のトキシンB(「TcdB1」、配列番号1)のような、従来型(historical)株又は非高毒性株由来のトキシンB(「トキシンBHIST」)と、BI/NAP1/027のトキシンB(「TcdB2」、配列番号2)のような、クロストリジウム・ディフィシルの高毒性株由来のトキシンB(「トキシンBHV」)を明らかにした。高毒性株では、トキシンBHVは、典型的な株由来のトキシンB(トキシンBHIST)より、細胞ベースのアッセイにおいておよそ10倍細胞傷害性であって、マウスの毒素負荷モデルにおいて少なくとも4倍致死性である。このトキシンBHVの毒性増大は、C末端領域のアミノ酸配列(即ち、1651位からC末端の2366位までのアミノ酸のスパン)における相違によるものである。
【0011】
[0011] 現在のところ、CDIの1次及び2次予防の方法については論争の的になっている。プロバイオティクスや抗生物質を含めた多くの予防形式が提唱されてきたが、米国感染症学会(IDSA)によって推奨されているものは1つも無い。IDSAガイドラインに現在含まれる唯一の予防手段は、抗菌薬管理と清潔な殺菌表面の維持により衛生状態を高めることである(Kociolek LK, et al., Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 13(3):150-60 (2016))。
【0012】
[0012] CDIによって引き起こされる潜在的な重篤度とその障害は、その発生数の上昇と相俟って、予防の課題を公衆衛生上の差し迫った問題としている。様々なトキソイドワクチンへのこれまでの研究は、それらが予防手段として有望であることを示唆している。これまでに3種の治験ワクチンが第2相/3相臨床試験において評価されてきた。先進的な臨床開発中のワクチン候補物質は、トキシンAとトキシンBHISTを標的とする。最近、サノフィ社は、クロストリジウム・ディフィシルのそのトキソイドA及びトキソイドBの混合ワクチンの開発を中止したが、そのことは、トキソイド単独の予防アプローチでは、CDIの再発疾患を予防するのに十分でないことを示している。ファイザー社とバルネバ社は、トキシンAトキソイドとトキシンBHISTトキソイドに基づいた、それぞれのトキソイドベースのワクチンプログラムを進め続けている。FDAは、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBを標的とするモノクローナル抗体である、メルク社のベズロトクスマブ(ジーンプラバTM)を、CDI患者の治療及び再発性CDIの予防のための抗生物質療法と併用することに承認したが、ジーンプラバTMは、CDI関連症状の改善にごく部分的に有効であって、高毒性クロストリジウム・ディフィシル株にはさほど有効でなく、CDI患者の約40%にCDI再発の減少が観察されたすぎない。
【0013】
[0013] CDIの発生増加とCDIの予防に有効なワクチンが市場に無いことに照らして、クロストリジウム・ディフィシル感染に対する防御となる免疫応答を高めるために有効な予防アプローチを発見する必要性が依然としてある。さらに、CDI治療のための改善された治療用ワクチン及び免疫療法への必要性がある。
【発明の概要】
【0014】
[0014] 本発明は、クロストリジウム・ディフィシル感染に対抗するための混合ワクチンアプローチを提供する。本明細書に記載のワクチン組成物は、感染性因子としてのクロストリジウム・ディフィシル菌と、クロストリジウム・ディフィシル感染によって産生される最も病毒性の産物としての主要なクロストリジウム・ディフィシル腸毒素とを標的とするように設計されている。
【0015】
[0015] 本発明は、
(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の1種以上の株の不活化した全細胞、又は クロストリジウム・ディフィシル菌の1種以上の株由来の細胞表面抽出物(CSE)、及び
(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチド、
を含んでなる免疫原性組成物に関するものであり、前記組成物は、哺乳動物の被験体へ投与される場合、野生型クロストリジウム・ディフィシルへ結合する防御抗体の産生を誘発し、少なくとも1つのクロストリジウム・ディフィシル毒素へ結合する防御抗体の産生を誘発するのに有効である。
【0016】
[0016] 特定の態様では、本発明の免疫原性組成物には、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株由来の不活化した細胞又は細胞表面抽出物(CSE)が含まれる。例えば、本発明による免疫原性組成物には、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株由来の不活化したクロストリジウム・ディフィシル細胞又はCSEが含まれ得る。ある態様では、クロストリジウム・ディフィシル株は、クロストリジウム・ディフィシルのリボタイプ001、003、027、106、012、014、036、又は078を含む。
【0017】
[0017] 1つの態様では、本発明の免疫原性組成物は、2種のクロストリジウム・ディフィシル株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物を含む。例えば、本明細書に記載の免疫原性組成物の成分(a)には、クロストリジウム・ディフィシル株VPI 10463の不活化した細胞とクロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株の不活化した細胞が含まれ得る。
【0018】
[0018] 本明細書に記載の免疫原性組成物の全細胞成分(a)では、選択されるクロストリジウム・ディフィシル細胞は、例えば、熱処理、UV又はγ線照射、あるいはホルムアルデヒド若しくはホルマリン、アルコール類(エタノール、イソプロピルアルコール、フェノール、トリクレゾール等のような)、アセトン、チメロサール、又は抗生物質(β-プロピオラクトン(BPL)のような)のような試薬での化学処理によって不活化される(即ち死滅させる)。特定の態様では、成分(a)のクロストリジウム・ディフィシル細胞は、実質的にすべての細胞を死滅させるのに十分な時間の熱処理によって不活化される。さらなる態様では、熱処理は55℃以上で、例えば56℃で1時間、80℃で30分間、又は100℃で15分間実施される。
【0019】
[0019] 代替態様では、免疫原性組成物の全細胞成分(a)は、クロストリジウム・ディフィシル細胞をホルマリン(即ち、ホルムアルデヒド水溶液、典型的には37%)で処理することによって調製される。ホルマリン処理は、好適には、細胞懸濁液中1%~5%(v/v)ホルマリンを使用して行い得る。
【0020】
[0020] 代替態様では、全細胞成分(a)は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株由来の細胞表面抽出物(CSE)を含む。ある態様では、CSEは、クロストリジウム・ディフィシル細胞のデオキシコール酸塩懸濁液より調製される。ある態様では、CSEは、表1に明記される1種以上のタンパク質を含む。ある態様では、CSEは、CbpA、GroEL、CD3246、CD2381、CD0873、Dif51、Dif130、Dif192、Dif208、Dif208A、Dif232、CDTの1以上を含む。ある態様では、クロストリジウム・ディフィシル細胞由来の抽出物に、CbpA、GroEL、CD3246、CD2381、CD0873、Dif51、Dif130、Dif192、Dif208、Dif208A、Dif232、CDT、及び表1に明記されるタンパク質の1以上が添加される。補充タンパク質は、クロストリジウム・ディフィシル又は組換え微生物より精製することができる。
【0021】
[0021] 本明細書に記載の免疫原性組成物のクロストリジウム・ディフィシルのポリペプチド成分(b)では、選択されるポリペプチドは、例えばホルムアルデヒドでの処理によってトキソイド形態へ不活化された、クロストリジウム・ディフィシルの全長のトキシンA及び/又はトキシンBであっても、免疫原性を保持するトキシンA及び/又はトキシンBの非毒性断片でもよい。特に言及されるのは、複合反復オリゴペプチド又はCROPを含有する、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのC末端ドメインより調製されるポリペプチドである。特定の態様には、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのC末端の716アミノ酸の全部又は一部を含んでなる1以上のクロストリジウム・ディフィシルのポリペプチドが含まれる。特定の態様では、本発明による免疫原性組成物のポリペプチド成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルの高毒性BI/NAP1/027株のTcdB1651-2366を含む。別の態様では、該組成物は、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40に対して少なくとも50%の同一性を有するTcdB断片を含む。別の態様では、非毒性ポリペプチド成分は、そのグリコシルトランスフェラーゼ、セリンプロテアーゼ、又は送達ドメインの1以上の突然変異によって中和されるTcdA若しくはTcdBタンパク質又はその断片を含む。別の態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの非毒性ポリペプチド断片は、アクトクスマブへ結合する。別の態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの非毒性ポリペプチド断片は、べズロトクスマブへ結合する。
【0022】
[0022] 追加の態様では、免疫原性組成物のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド成分(b)は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル株由来のトキシンA若しくはトキシンB又はトキシンAとトキシンBの両方のポリペプチド断片を含む。特定の態様では、クロストリジウム・ディフィシルの非毒性ポリペプチド断片は、クロストリジウム・ディフィシルのリボタイプ001、003、027、106、012、014、036、078、及びその他から成る群より選択される1種以上の株に由来する。さらなる態様では、クロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチドは、クロストリジウム・ディフィシルの高毒性株に由来する。特定の態様では、クロストリジウム・ディフィシルのポリペプチド断片は、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株のトキシンBに由来する。特定の態様では、トキシンBの非毒性断片は、配列番号3のアミノ酸配列を有する。
【0023】
[0023] 他の態様では、本明細書に記載の免疫原性組成物のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド、即ち、無毒化されているが、接種される哺乳動物の被験体において、利用されるトキソイドに対応する野生型毒素を認識する抗体応答を誘導するのに十分な免疫原性を保持する、全長の毒素タンパク質を利用し得る。クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBは、ホルムアルデヒド処理などの好適な手段によって無毒化し得る。
【0024】
[0024] 本明細書に使用されるように、「野生型」という用語は、自然状態でクロストリジウム・ディフィシルに見出されるか又は観察される、クロストリジウム・ディフィシルの株、遺伝子、又は特徴を示すために使用される。
【0025】
[0025] 特定の態様では、ポリペプチド成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルの1種より多い免疫原性ポリペプチドを含み得る。他の態様では、成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルの2種以上のポリペプチドの混合物を含む。好適な成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルの1種の株又は多種の株に由来する、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAトキソイド、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBトキソイド、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの非毒性断片、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの非毒性断片、又は上記ポリペプチドのいずれか又はすべての組合せの少なくとも1つを含むものである。
【0026】
[0026] ある態様では、免疫原性組成物の不活化した細胞成分(a)は、天然に存在する(野生型)クロストリジウム・ディフィシル株又はそのような株由来の細胞表面抽出物(CSE)を含む。別の態様では、不活化した細胞成分(a)は、クロストリジウム・ディフィシルの毒素非産生株、クロストリジウム・ディフィシルの芽胞形成欠損株、又は毒素非産生性及び芽胞形成欠損性である株の不活化した細胞、又はこれらの株由来の細胞表面抽出物(CSE)を含む。別の態様では、不活化した細胞成分又は細胞表面抽出物(CSE)(a)は、BI/NAP1/027株のクロストリジウム・ディフィシル細胞に由来しており、免疫原性組成物の非毒性ポリペプチド断片成分(b)は、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株由来のトキシンBの免疫原性部分を含む。特定の態様では、非毒性トキシンB断片は、配列番号3のアミノ酸配列を有する。
【0027】
[0027] さらなる態様では、本発明の免疫原性組成物は、追加成分(c)アジュバントも含む。特定の態様では、アジュバントは、アラム、ミネラルオイル、植物油、水酸化アルミニウム、フロイント不完全アジュバント、及びTLRアゴニスト(CpGオリゴヌクレオチドのような)の群より選択される。
【0028】
[0028] 他の態様では、本発明は、クロストリジウム・ディフィシルの1種以上の株と反応する抗体と、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル毒素、特にトキシンA又はトキシンBのタンパク質と反応する抗体とを産生する防御性免疫応答を誘発するのに有効な免疫原性組成物を作製する方法に関するものであり、該方法は:
(1)第1成分(a)を第2成分(b)と混合し、前記第1成分は、クロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物(CSE)を、前記第1成分で免疫された哺乳動物の被験体において免疫応答を誘発してクロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の株と反応する抗体を産生させるのに有効な量で含んでなり、前記第2成分は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを、前記第2成分で免疫された哺乳動物の被験体において免疫応答を誘発して少なくとも1つのクロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBと反応する抗体を産生させるのに有効な量で含んでなり;そして
(2)工程(1)の前記混合物を クロストリジウム・ディフィシルに感染し易い哺乳動物の被験体へ投与するために製剤化する、
ことを含んでなる。
【0029】
[0029] 利用されるトキソイド及び/又は非毒性ポリペプチドのトキシンA又はトキシンBの断片は、免疫された被験体においてトキシンA又はトキシンBを中和する抗体の産生を誘発するのに有効であることが望ましい。
【0030】
[0030] 本発明は、哺乳動物の被験体においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫応答を誘発する方法をさらに提供するものであり、前記方法は、(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物(CSE)、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを含んでなる免疫原性組成物のある量を前記被験体へ投与することを含んでなる。
【0031】
[0031] 本発明はまた、被験体においてクロストリジウム・ディフィシル感染の病理学的効果を予防的に軽減するか又はそれを予防する方法を提供し、前記方法は、(a)クロストリジウム・ディフィシル菌の少なくとも1種の株の不活化した細胞又は細胞表面抽出物(CSE)、及び(b)クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド又は非毒性の免疫原性ポリペプチド断片を含んでなる少なくとも1つのポリペプチドを含んでなる組成物を前記被験体へ投与することを含んでなる。
【0032】
[0032] 本発明による組成物及び方法の追加の態様及び利点について、以下に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】[0033] 図1は、マウスの体重を感染前の出発体重と比較した%変化について図示するグラフである。体重減少は、マウスにおけるクロストリジウム・ディフィシル感染の病的状態の代用マーカーである。マウスの群(n=5)を、アラムをアジュバントとする不活化したBI/NAP1/027細胞(「全細胞ワクチン」、図中WCVと略記)で、隔週で3回腹腔内免疫した。追加処置群は、WCVと、TcdB2のC末端断片を含む免疫原性ポリペプチド(BI/NAP1/027のトキシンBのアミノ酸1651~2366位、図中「CROP」と表記)との組合せで免疫した。第3回目の免疫から約2.5週間後、第4回目の10個のWCV細胞の免疫を、追加のCROPの有無にてマウスへ腹腔内投与した。第4回目の免疫から約2.5週間後、マウスは、7日間の抗生物質処理の後、1用量あたり10個のクロストリジウム・ディフィシル芽胞の胃内投与を受けた。各個別の動物より体重測定値と糞便ペレットを、感染後20日間の本研究の残余期間に指定の間隔で採取した。プロット点は、各実験群の5匹のマウスの0日目の体重に対する体重の%の幾何平均である。
図2】[0034] 図2は、有毒性クロストリジウム・ディフィシルを負荷したマウスの生存曲線と幾何致死時間を提示するグラフである。マウス(n=10)を、アラムをアジュバントとするトキソイドBHV又はCROPBHVで、隔週で3回腹腔内免疫した。第3回目の免疫から2週間後、マウスに100ngのトキシンBHVを負荷して、生存をモニターした。この実験には2つの薬剤非投与群があり、1群にはトキシンBHVを負荷し、別の群には負荷しなかった。このデータは、CROPBHVでの免疫は、トキシンBHV負荷に対する完全な防御を付与し、一方、トキソイドBHVでの免疫は、毒素負荷に対して80%の部分的防御を付与したことを実証している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[0035] クロストリジウム・ディフィシルによって産生される毒素のみを標的とするワクチン療法とモノクローナル抗体療法は、CDIに関連する疾患症状の原因を中和することが可能であるが、感染の間に増強される毒素産生の源であって、再感染と伝播のリザーバーである細菌それ自体を標的とするものではない。防御用クロストリジウム・ディフィシルワクチンについて本明細書に開示される新規アプローチは、クロストリジウム・ディフィシル細胞に提示される細菌表面抗原とクロストリジウム・ディフィシル細胞によって産生される細菌毒素の両方を標的にすることである。本明細書に開示される混合ワクチンの概念は、高齢者、入院予定の成人、長期療養施設の入居者、及び抗生物質の長期使用が求められる併存疾患のある患者が含まれる、CDI罹患リスクが高い患者においてCDI(及びCDIの再発)を防御することを目的とする。
【0035】
[0036] 本明細書に開示される2成分免疫原性組成物は、クロストリジウム・ディフィシル菌表面抗原と、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA及び/又はトキシンBの両方を標的とする防御免疫応答を誘発するように設計される。従って、本発明のワクチンには、予防的かつ療法的に有効な能力がある。
【0036】
[0037] 不活化された細菌全細胞は、全細胞百日咳ワクチンにおいて、そして弱毒生結核ワクチン、腸チフスワクチン、及びコレラワクチンにおいて、免疫原としての効力が証明されている。しかしながら、クロストリジウム・ディフィシルを使用する全細胞免疫の公表症例では、CDI誘導性の死と非致死性の下痢に対する実験動物における防御のレベルは40%以下であった。Torres et al., Infection and Immunity, 63(12): 4619-27 (1995)を参照。本明細書に開示されるクロストリジウム・ディフィシル混合ワクチン組成物は、いずれかの成分単独の使用より高いレベルの防御免疫応答を提供するとみることができる。
【0037】
[0038] 本発明の免疫原性組成物は、クロストリジウム・ディフィシルの不活化した(即ち死滅させた)全細胞、又は細胞表面抽出物(CSE)と、非毒性クロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド成分の混合物とを含み、毒素ポリペプチド成分は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAのトキソイド、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのトキソイド、トキシンAの免疫原性断片、トキシンBの免疫原性断片、又は上記ポリペプチドのいずれか又はすべての組合せであり得る。この免疫原性組成物は、1種のクロストリジウム・ディフィシル株又は多種のクロストリジウム・ディフィシル株由来の全細胞と非毒性ポリペプチドとを利用し得る。特定の態様では、不活化した全細胞成分又は細胞表面抽出物(CSE)は、BI/NAP1/027株のような、クロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の高毒性株より作製され、非毒性ポリペプチド成分は、BI/NAP1/027株のような、クロストリジウム・ディフィシルの少なくとも1種の高毒性株より作製される。特定の態様では、非毒性ポリペプチド成分には、TcdB2のトキシンB C末端断片、特にTcdB21651-2366が含まれる。さらなる態様では、ワクチン組成物には、アジュバント、例えばアラムが含まれる。
【0038】
不活化したクロストリジウム・ディフィシル細胞
[0039] 本明細書に使用されるように、「ワクチン」は、広義には、該ワクチンを接種された動物においてCDIの症状を予防するか又は改善する免疫応答を刺激することが可能な、投与可能な形態のあらゆるタイプの生物剤を意味すると定義される。従って、下痢、腸炎症、胃腸組織の壊死、又は腸管における体液貯留といった、CDIに特徴的な症状の発生又は重篤度が非免疫被験体に比較して低下することも、本発明の目的ではワクチンと呼称してよい。
【0039】
[0040] 「被験体」及び「患者」という用語は、本明細書において交換可能的に使用され、温血動物、特に哺乳動物を意味すると理解されよう。この用語の範囲及び意味内にある動物の非限定的な例には、モルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、動物園の動物、サル、非ヒト霊長動物、及びヒトが含まれる。
【0040】
[0041] 本発明の目的では、「クロストリジウム・ディフィシルの感染株」という用語は、例えばその株の毒性を弱める天然又は人工の突然変異があっても、哺乳動物の被験体において増殖可能な株を意味する。例えば、本明細書に記載の組成物の全細胞成分は、野生型クロストリジウム・ディフィシル、即ち、天然に見出される株を利用することができ、本発明による使用のために不活化される、。あるいは、本明細書に記載の組成物の不活化した全細胞成分は、クロストリジウム・ディフィシルの毒素非産生株、クロストリジウム・ディフィシルの芽胞形成欠損株、毒素非産生で芽胞形成欠損性でもある株、又は他に病原性でない別の株を有利に利用することができる。そのような非病原性株の使用は、ヒトのような被験体においてコロニー形成の可能性有し、意図しない病原性の感染につながるクロストリジウム・ディフィシル培養物の有毒性画分が不活化処理後に残らないことを確実にするのに好ましい場合がある。
【0041】
[0042] 本発明は、クロストリジウム・ディフィシル感染を哺乳動物の被験体において制御するのに有効な新規ワクチン組成物を提供する。本発明のワクチン組成物は、組成物の調製に使用されるクロストリジウム・ディフィシル株、並びにワクチン組成物の調製に使用されるものとは異なる株に対する免疫応答を提供するのに有用である。
【0042】
[0043] 本明細書に記載されるワクチン組成物の調製に使用されるクロストリジウム・ディフィシルの特定の株又は株の組合せは、極めて重大なわけではないが、全細胞成分及び/又はトキシンB成分の供給源としての、BI/NAP1/027のようなクロストリジウム・ディフィシルの高毒性株の使用は、最も有毒なクロストリジウム・ディフィシル病原体に関連した抗原部位に対する抗体応答を誘発すると推定されるため、好ましいはずである。患者分離菌のような環境又は天然の供給源から、又はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、バージニア州マナッサス)のような様々な培養寄託機関から、好適なクロストリジウム・ディフィシルを単離し得る。組成物成分の供給源として有用な特定のクロストリジウム・ディフィシル株には、限定されるものではないが、クロストリジウム・ディフィシルのVPI 10463株及び他の高毒性株、又は限定されるものではないがリボタイプ001、003、106、012、014、027、036、及び078が含まれる非高毒性株が含まれる。本発明における使用に適したクロストリジウム・ディフィシルの高毒性株には、制限エンドヌクレアーゼ分析によりBI群と分類される株、パルスフィールドゲル電気泳動によりNAP1型と分類される株、PCRリボタイピングによりリボタイプ027と分類される株、及び/又は毒素遺伝子多形タイピングによって毒素型IIIと分類される株が含まれる。Merrigan et al., J. Bacteriol., 192(19):4904-4911 (2010)を参照。全細胞の培養、又は非毒性トキシンA又はトキシンBポリペプチド断片のベクター構築及び組換え産生のためのトキシンA/BコードDNAの供給源として適した株は、クロストリジウム・ディフィシルNAP1型、ATCCに寄託された毒素型III株(受託番号:BAA-1870)である。具体的には、不活化した細胞成分を調製するために、1種より多いクロストリジウム・ディフィシルの使用と、1種以上の毒素タンパク質由来の1種より多いトキシンA/Bトキソイド又はトキシンA/Bポリペプチド断片の使用とが考慮される。
【0043】
[0044] CDI患者では、クロストリジウム・ディフィシル表面成分に対する血清抗体が見出され、集団は異なるが、症候性保菌者と非症候性保菌者の両方に存在する。このような抗体とそれらの集団における差異は、本発明のCSP調製に参考になる。例えば、本発明のある態様では、症候性保菌者より非症候性保菌者の方が最も望ましくないクロストリジウム・ディフィシル-宿主相互作用をよりよく妨げることができるという理論に基づいて、非症候性保菌者由来の血清抗体のレパートリーへ結合するか又は非症候性保菌者のような抗体応答を誘導するワクチンのCSP組成物を調製するか又は選択する。本発明のある態様では、CSP組成物の調製又は選択において、症候性保菌者により豊富にあるような抗体を誘導するCSP成分を回避するか又は選択しない。
【0044】
[0045] 本明細書に開示される組成物を調製するためのクロストリジウム・ディフィシル細菌の繁殖は、増殖を支援する培地を利用する慣用条件下の培養によって有効になし得る。多様な慣用の固体及び液体培地が本発明の使用に適し得るが、大量生産には、液体培養での増殖が特に好ましい。好適な液体培養の1例は、ヒツジ脱線維血液が添加された慣用のトリプティックソイ寒天培地の使用であり、嫌気性ガス混合物(例えば、80%N/10%CO/10%H)下にて37℃で培養するが、実施者は、本明細書に記載の使用に適した多くの他の培地及び培養条件を承知していよう。クロストリジウム・ディフィシルの培養での繁殖後、遠心分離又は精密濾過のような任意の好適な手段によって全細胞を回収する。
【0045】
[0046] それらの繁殖と回収の後で、クロストリジウム・ディフィシルの細胞を、該細胞を不活化する(即ち死滅させる)のに有効な化学的及び/又は物理的処理に付す。該細胞を死滅させるのに有効な処理とは、本明細書では、好ましくは該細胞を破壊せずに、免疫された哺乳動物(ヒトが含まれる)において抗体応答を誘発する該細胞の能力を保持したまま、その生存細胞の99%以上を死滅させる処理と定義される。この不活化処理は、死滅させる細胞の細胞表面抗原の特異性を未処理細胞に比べて実質的に改変してはならない。全生存細胞の100%を死滅させる処理が典型的には好ましいはずであるが、熟練した実施者であれば、100%の細胞死がいつでも容易に達成可能なわけではないことを認識していよう。好ましい態様では、生存細胞のホルマリン処理によって、死滅させたインタクト(intact)クロストリジウム・ディフィシル細胞を調製する。あるいは、該細胞は、熱処理、UV照射、又はγ線照射によって死滅させてもよい。死滅細胞ワクチン又は「バクテリン」の調製に使用されている多様な他の不活化技術のいずれも本発明での使用に適しており、これらには、限定されるものではないが、アルコール類、特にエタノール又はイソプロピルアルコールのような脂肪族アルコール、フェノール、トリクレゾール等での細胞の処理、ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液、通常37%)、ホルムアルデヒド、アセトン、チメロサール(メルチオレート)、β-ラクタム抗生物質等での処理が含まれる。熱処理と他の不活化技術は、好ましくは、表面タンパク質変性を引き起こさない条件下で行われる。好適な熱処理には、例えば、55~65℃で1時間の加熱、又は80~90℃で30分間(又はより高い温度でより少ない時間)が含まれる。処理の時間及び条件は、当然ながら、選択される特定の方法に伴って変わるものであって、定型的な試験によって容易に決定することができる。
【0046】
[0047] 1つの態様では、クロストリジウム・ディフィシル細胞を、培養容器において該細胞の99%より多くを死滅させるのに十分な時間、ホルマリンへ曝露する。典型的には、培地中のホルマリン濃度は、約1%~約5%(v/v)、好ましくは約1%~約3%(v/v)の範囲に及ぶだろう。99%~100%の死滅を達成するための特定のホルマリン濃度に適した曝露時間は、「死滅(%)」対「処理時間」の致死死滅曲線から容易に決定し得る。
【0047】
[0048] 発酵と不活化に続いて、例えば、濾過又は遠心分離によってクロストリジウム・ディフィシル細胞を濃縮し、不活化した細胞の高密度懸濁液を入手して、細胞ペレットと発酵培養液を分離する。この分離した細胞は、ワクチン組成物の第1成分として使用するために保持し得る。無細胞培養液の形態である濾液は、それがインタクトなトキシンBの供給源とみなされない場合は典型的には廃棄されるが、それをさらに処理して、本発明による混合ワクチン組成物の第2成分として使用するために非毒性トキシンBポリペプチドを入手することができる。これは、可能な手順ではあるが、処理済みの全長のクロストリジウム・ディフィシルのトキシンBを共免疫原として使用することは、トキシンBを培養液から分離することの難しさのために、そしてこの方法を通してインタクトなトキシンBを保持する(これにより、当該組成物の使用より望まれない毒性を招く場合がある)リスクがあるために、好ましくない。
【0048】
[0049] クロストリジウム・ディフィシルによる感染、別名、抗菌薬関連下痢症(AAD)は、しばしば抗菌薬治療に続いて発症するが、それは、既存の芽胞又は摂取された芽胞の発芽が栄養細胞のコロニー形成と拡張をもたらすためである。摂取された芽胞が結腸中で発芽して、細胞毒素とより多くの芽胞を産生する栄養細胞の集団を確立させる。感染が発現するのは、正常な腸内細菌叢が例えば抗生物質によって混乱して、クロストリジウム・ディフィシルが腸にコロニー形成することができる場合である。2種の関連した毒素、TcdAとTcdBは、宿主細胞への移行(entry)後すぐに、Rho、Rac、及びCdc42が含まれる低分子量GTPアーゼをグリコシル化することによって作用する。疾患の臨床症状の原因となるのは、これら毒素の作用である。このクロストリジウム・ディフィシル毒素がほとんどの疾患症状の原因であるのに対し、その芽胞は、腸内に潜伏し続けることができて、持続因子にも伝播因子にもなる。
【0049】
[0050] クロストリジウム・ディフィシルは、独自の2次細胞壁ポリマーを含有する、高度に脱アセチル化されたペプチドグリカン細胞壁を保有する。この細胞壁へ結合しているのは、SlpAから形成されて28個以上の関連タンパク質を含んでなる必須S層である。このS層に加えて、多くの他の細胞表面タンパク質が同定されていて、それに含まれるいくつかは、宿主コロニー形成に役割がある(Kirk et al, 2017, Characteristics of the Clostridium difficile cell envelope and its importance in therapeutics[クロストリジウム・ディフィシル細胞外皮の特徴と治療薬におけるその重要性], Microb Biotechnol. 10, 76-90; doi: 10.1111/1751-7915.12372)。
【0050】
[0051] 芽胞において、ゲノムは、その外側単層膜(leaflet)へ並置した、ペプチドグリカン(PG)層のある脂質2重層によって区切られた中央のコンパートメント中に堆積している。このPG層は、発芽細胞壁として知られていて、芽胞が発芽を完了するときに生成される発芽後成育細胞の壁として役立つ。発芽細胞壁は、熱耐性の獲得及び維持に必須な、修飾されたPG形態の厚い層であるコルテックス(cortex)に包まれている。コルテックスは、多重タンパク質の殻に被包されていて、宿主生物又は捕食生物によって産生されるPG破壊酵素の作用からそれを防御する。クロストリジウム・ディフィシルでは、この殻がエキソスポリウム(exosporium)として知られる構造内にさらに包囲されている。この殻とエキソスポリウムは、存在する場合、発芽の引き金となる低分子との相互作用が含まれる、芽胞の環境との即時相互作用に媒介する(Pereira et al, 2013, The Spore Differentiation Pathway in the Enteric Pathogen Clostridium difficile[腸内病原体、クロストリジウム・ディフィシルにおける芽胞分化経路],PLoS Genet. 9(10): e1003782, doi: 10.1371/journal. pgen. 1003782)。
【0051】
[0052] ペプチドグリカン(PG)は、細胞の形状及び完全性とアンカー細胞壁タンパク質(CWP)を維持するように機能する、細菌細胞壁の必須成分である。PG構造は、概ね保存されていて、短いペプチド鎖が架橋結合した長鎖グリカンポリマーからなる。この多糖骨格は、β-1→4結合型2糖類であるN-アセチルグルコサミン-N-アセチルムラミン酸(GlcNAc-MurNAc)のポリマーより構成される。
【0052】
[0053] クロストリジウム・ディフィシルの細胞表面には、3種のアニオン性多糖類が同定されている。第1のもの(PS-I)は、元はリボタイプ027株において同定されて、分岐鎖ペンタグリコシルリン酸反復単位からなって、少数派の株においてのみ見出される。第2(PS-II)のヘキサグリコシルリン酸反復単位のポリマー(PS-II)と第3(PS-III)の脂質結合型グリコシルリン酸ポリマー(PS-III)は、より広く分布している。グリカンは、T細胞非依存性抗原であるが、キャリアタンパク質へコンジュゲートされると、これらの分子は、T細胞依存性メモリー応答を誘発することができる(Kirk et al, 2017)。
【0053】
クロストリジウム・ディフィシルより誘導される細胞表面抽出物(CSE)
[0054] 本発明のある態様では、細胞表面抽出物(CSE)が全 クロストリジウム・ディフィシル細胞由来の抽出物を含む。本発明において同定されるどのクロストリジウム・ディフィシル株も制限無しに含まれる、どのクロストリジウム・ディフィシル株も、CSEを調製するのに使用することができる。CSEは、細胞表面のタンパク質及び多糖類が制限無しに含まれる、防御免疫応答を誘発する抗原性分子を含む。これらの部分精製抽出物は、有利にも、例えば、PAGE、ELISA、又はクロマトグラフィーによるCSE成分の特性決定と、既定のタンパク質及び多糖成分のワクチン中への再現可能な送達に適用可能であって、不活化した全細胞を含んでなる免疫原性組成物に比較して、反応原になりにくい場合がある。ある態様では、前臨床免疫原性試験において、例えば、効力及び/又は一貫性(consistency)についてCSEを評価する。
【0054】
[0055] 本発明の組成物の調製用のクロストリジウム・ディフィシル株の繁殖は、その増殖を支援する培地を利用するどの慣用条件下の培養によっても影響を受ける場合がある。多様な慣用の固体及び液体培地が本発明の使用に適し得るが、大量生産には、液体培養での増殖が特に好ましい。好適な液体培養の1例は、ヒツジ脱線維血液が補充された慣用のトリプティックソイ寒天培地の使用であって、嫌気性ガス混合物(例えば、80%N/10%CO/10%H)下に37℃で培養するが、実施者は、本明細書に記載される使用に適した多くの他の培地及び培養条件を承知していよう。クロストリジウム・ディフィシルの培養での繁殖後、細胞を遠心分離又は精密濾過のような任意の好適な手段によって回収して、-80℃で凍結保存する。
【0055】
[0056] 本発明のある態様では、細胞表面抽出物(CSE)を調製するために、凍結細胞ペーストを周囲温度まで融かしてから、元の培養量の1/50容量で0.5%デオキシコール酸ナトリウムに再懸濁させる(即ち、1000mLの培養液であれば、20mLの0.5%デオキシコール酸ナトリウムに再懸濁させることになる)。次いで、この細胞溶液を、60℃で16~24時間、振り混ぜながら(例えば、振盪インキュベーターにおいて225rpmで回転させながら)インキュベートする。インキュベーション後、この細胞溶液をインキュベーターから取り出して、周囲温度へ平衡化する。続いて、細胞をこの溶液より遠心分離(6000rpm、4℃で10分間)によって分離して、CSE含有上清を採取する。次いで、このCSEについて、BCAタンパク質アッセイとアントロン(anthrone)アッセイをそれぞれ使用して、タンパク質と多糖の含量を特性決定する。より具体的には、ある態様では、CSEの成分タンパク質と他の細胞表面分子について量と純度を分析する。特性決定に続いて、CSEは、免疫原性組成物を調製するために使用される準備状態にある。
【0056】
細胞表面分子
[0057] クロストリジウム・ディフィシル表面成分は、増殖と生存においてだけでなく、宿主とその免疫系との相互作用においても重要な役割を担っている。すべてのクロストリジウム・ディフィシル株が外側細胞表面上に表層(S層)タンパク質(SLP)を発現するが、これは、宿主腸管細胞への接着、サイトカイン産生の誘導、及び免疫系によるクロストリジウム・ディフィシルの認識に関与している(Ryan et al, 2011, A role for TLR4 in Clostridium difficile infection and the recognition of surface layer proteins[クロストリジウム・ディフィシル感染と表層タンパク質の認識におけるTLR4の役割], PLoS Pathog 7:e1002076;Bianco et al, 2011, Immunomodulatory activities of surface-layer proteins obtained from epidemic and hypervirulent Clostridium difficile strains[流行性及び高毒性クロストリジウム・ディフィシル株より入手される表層タンパク質の免疫調節活性], J Med Microbiol 60:1162-7;Collins et al, Surface layer proteins isolated from Clostridium difficile induce clearance responses in macrophages[クロストリジウム・ディフィシルより単離される表層タンパク質は、マクロファージにおいてクリアランス応答を誘導する], Microbes Infect 16:391-400)。細胞表面成分の例には、細胞壁タンパク質(CWP)とS層タンパク質(SLP)が含まれる。コロニー形成に関与するSLPの非限定的な例には、アドヘシンCwp66(Waligora et al., 2001, Characterization of a cell surface protein of Clostridium difficile with adhesive properties[接着特性のある、クロストリジウム・ディフィシルの細胞表面タンパク質の特性決定], Infect. Immun. 69, 2144-2153. doi: 10.1128/IAI.69.4.2144-2153.2001)とプロテアーゼCwp84が含まれる。Cwp66タンパク質は、クロストリジウム・ディフィシルのゲノムによってコードされる遺伝子産物の大きなファミリーの1つであって、slpA遺伝子によってコードされる、高度に発現される表層タンパク質(SLP)に対して有意な相同性がある(Calabi et al, 2001, Molecular characterization of the surface layer proteins from Clostridium difficile[クロストリジウム・ディフィシル由来の表層タンパク質の分子特性決定], Mol. Microbiol. 40:1 187-1199;Karjalainen et al, 2001, Molecular and genomic analysis of genes encoding surface-anchored proteins from Clostridium difficile[クロストリジウム・ディフィチル由来の表面固着タンパク質をコード化する遺伝子の分子及びゲノム解析], Infect. Immun. 69: 3442-3446)。Cwp84は、表面に露出して、菌株間で保存され、SlpA前駆体を2つの成熟SLP(高分子量(HMW)-SLPと低分子量(LMW)-SLP)へ切断して、コラーゲン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンを分解する(Janoir et al., 2007, Cwp84, a surface-associated protein of Clostridium difficile, is a cysteine protease with degrading activity on extracellular matrix proteins[クロストリジウム・ディフィチルの表面付着タンパク質であるCwp84は、細胞外マトリックスタンパク質に対する分解活性のあるシステインプロテアーゼである], J. Bacteriol. 189, 7174-7180. doi: 10. 1128/JB. 00578-07;Chapeton Montes et al., 2013, Influence of environmental conditions on the expression and the maturation process of the Clostridium difficile surface associated protease Cwp84[クロストリジウム・ディフィチルの表面付着タンパク質、Cwp84の発現と成熟プロセスに対する環境条件の影響], Anaerobe 19, 79-82. doi: 10.1016/j. anaerobe. 2012. 12. 004)。別の細胞表面タンパク質は、菌株の間で高度に保存されている、フィブロネクチン結合性タンパク質のFbp68である(Barketi-Klai et al, 2011, Role of fibronectin-binding protein A in Clostridium difficile intestinal colonization[クロストリジウム・ディフィチルの腸管コロニー形成におけるフィブロネクチン結合性プロテインAの役割], J. Med. Microbiol. 60, 1155-1161. doi: 10.1099/jmm.0.029553-0)。
【0057】
[0058] 全部ではないがほとんどのクロストリジウム・ディフィシル株は運動性であって、腸管コロニー形成に参画する細胞表面の鞭毛及び線毛のタンパク質及び構造が関与する。鞭毛のFliCとキャップタンパク質のFliDは、in vitroでマウス粘液へ結合する(Pechine et al, 2018, Targting Clostridium difficile Surface Components to Develop Immunotherapeutic Strageties Against Clostridium difficile Infection[クロストリジウム・ディフィチル表面成分を標的とする、クロストリジウム・ディフィチル感染に対する免疫療法戦略の開発], Frontiers in Microbiology 9, 1-11)。数種の線毛タンパク質があって、そのC末端領域が多岐的である一方、N末端疎水性領域は、相対的に保存されている(Maldarelli et al, 2014, Identification, immnogenity, and cross-reactivity of type IV pilin and pilin-like proteins from Clostridium difficile[クロストリジウム・ディフィチル由来IV型線毛及び線毛様タンパク質の同定、免疫原性、及び交差反応性], Pathog. Dis. 71, 302-314. doi: 10.1111/2049-632X. 12137)。
【0058】
[0059] 細胞表面タンパク質とコード遺伝子には、限定されるものではないが以下が含まれる。
【0059】
【表1】
【0060】
表1は、クロストリジウム・ディフィシル株630の例示のタンパク質系列を提供する。本発明には、クロストリジウム・ディフィシルの全菌株とそれに由来するタンパク質、抽出物、及びCSEが含まれる。
【0061】
これらコードタンパク質のドメイン構造は、決定された機能又は推定の機能とともに決定されてきた。Cwpタンパク質の多くはパラログ(paralogs)であって、明らかに同じ先祖タンパク質より複製によって派生して、新しい役割又は機能へ進化している(例えば、Fagan et al., 2011, A proposed nomenclature for cell wall proteins of Clostridium difficile[クロストリジウム・ディフィチルの細胞壁タンパク質について提唱された命名法],J Med. Microbiol. 60: 1225-1228 を参照)。
【0062】
[0060] 細胞表面抽出物は、以下も含み得る。
[0061] GroEL:このHsp60タンパク質は部分的に膜結合性である。GroEL特異抗体、並びに精製GroELタンパク質は、クロストリジウム・ディフィシルの細胞付着を部分的に阻害する。
【0063】
[0062] CD3246:このタンパク質は推定の細胞壁固着アドヘシンを含む。
[0063] CD2381:このタンパク質は推定の細胞壁固着アドヘシンを含む。
[0064] CD0873:これは、接着に役割を有する細胞表面のリポタンパク質を含む。
【0064】
[0065] CbpA:このタンパク質は、「CD3145」としても知られており、コラーゲン結合タンパク質を含む。
[0066] Dif44:このタンパク質は、「CD0844」としても知られており、クロストリジウム・ディフィシル由来の細胞表面タンパク質、cwp25を含む。
【0065】
[0067] Dif51:このタンパク質は、「CD0999」としても知られており、クロストリジウム・ディフィシル由来のABCトランスポーター基質結合タンパク質リポタンパク質を含む。
【0066】
[0068] Dif130:このタンパク質は、「CD2645」としても知られており、クロストリジウム・ディフィシル由来の推定の細胞外溶質結合タンパク質を含む。
[0069] Dif192:このタンパク質は、「CD1035」としても知られており、クロストリジウム・ディフィシル由来の細胞表面タンパク質、cwp16(推定のN-アセチルムラモイル-L-アラニンアミダーゼ)を含む。
【0067】
[0070] Dif208、Dif208A:このタンパク質は、「CD2831」としても知られており、クロストリジウム・ディフィシル由来のコラーゲン結合タンパク質を含む。
【0068】
[0071] Dif232:このタンパク質は、「CD1031」としても知られており、クロストリジウム・ディフィシル由来の細胞壁固着タンパク質を含む。
[0072] CDT:このタンパク質は、BI/NAP1/027のような、クロストリジウム・ディフィシルの高毒性株によって頻繁に産生される毒素である。
【0069】
[0073] 本発明のある態様では、CSEの個別成分を精製するか又は組換え的に発現させる。本発明のある態様では、1種以上の精製成分、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種以上の成分をCSEへ加え、目的とする抗原のレベルを上昇させる。本発明のある態様では、1種以上の精製成分、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種以上の成分を組み合わせてCSEを産生する。
【0070】
[0074] クロストリジウム・ディフィシルの表面成分には、多糖類とリポタイコ酸が含まれる。PS-Iは、ラムノースとグルコースより構成される分岐鎖五糖類リン酸リピートのポリマーであるが、低いレベルで発現されるので、結果として入手することが難しい。免疫原性PS-Iは、合成することができる(Martin et al, 2013, Immunological evaluation of a synthetic Clostridium difficile oligosaccharide conjugate vaccine candidate and identification of a minimal epitope[合成したクロストリジウム・ディフィチルオリゴ糖コンジュゲートワクチン候補物質の免疫学的評価と最小エピトープの同定], J. Am. Chem. Soc. 135, 9713-9722. doi: 10.1021/ja401410y)。PS-IIは、ほとんどのクロストリジウム・ディフィシル株にわたって保存されており、グルコース、マンノース、N-アセチルガラクトサミンより構成される六糖リン酸リピートのポリマーである(Ganeshapillai et al, 2008, Clostridium difficile cell-surface polysaccharides composed of pentaglycosyl and hexaglycosyl phosphate repeating units[ペンタグリコシル及びヘキサグリコシルリン酸反復単位より構成されるクロストリジウム・ディフィチル細胞表面多糖類], Carbohydr. Res. 343, 703-710. doi: 10.1016/j.carres.2008.01.002)。多くの事例では、免疫原性であるために、多糖類を担体タンパク質へ共役させる必要がある。例えば、ネイティブPS-IIとジフテリアトキソイドへ共役した合成PS-IIハプテンは、ともに免疫原性である(Adamo et al, 2012, Phosphorylation of the synthetic hexasaccharide repeating unit is essential for the induction of antibodies to Clostridium difficile PSII cell wall polysaccharide[クロストリジウム・ディフィチルPSII細胞壁多糖に対する抗体の誘導には、合成六糖反復単位のリン酸化が必須である], ACS Chem. Biol. 7, 1420-1428. doi: 10.1021/cb300221f)。
【0071】
[0075] 本発明の治療用及び予防用組成物中のCSEのタンパク質成分と多糖類成分は、様々な比で存在することができる。本発明の態様では、タンパク質の多糖に対する好適な比には、限定されるものではないが、約1:100、1:50、1:20、1:10、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、19:1、20:1、50:1、又は100:1(重量比)が含まれ得る。
【0072】
非毒性のクロストリジウム・ディフィシルのトキソイド、トキシンA断片、及びトキシンB断片
[0076] 本発明による免疫原性組成物の第2成分は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのトキソイド、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの免疫原性部分、又はこれらの組合せを含んでなる非毒性ポリペプチドである。TcdA(308kDのトキシンA)とTcdB(269kDのトキシンB)のタンパク質は、大きなクロストリジウム細胞毒素(LCT)ファミリーに属し、49%のアミノ酸同一性を共有する(Just, I. et al. 2004 Rev Physiol Biochem Pharmacol 152: 23-47)。この細菌の染色体には、tcdA遺伝子とtcdB遺伝子、並びに3つのアクセサリー遺伝子が位置し、19.6kbの病原性遺伝子座(PaLoc)(142)を形成する。TcdAとTcdBは、互いに構造的に類似して(von Eichel-Streiber, C. et al. 1996 Trends Microbiol 4: 375-382)、少なくとも3つの機能性ドメインを含んでなる。TcdAとTcdBの両方のC末端領域は、上皮細胞の表面への毒素結合の原因となる。このC末端は、受容体結合ドメイン(RBD)を含有して、β-ソレノイド構造を有する(Ho, J. G. et al. 2005 Proc Natl Acad Sci USA 102: 18373-1837)。この毒素の一次構造の中央部分は、該毒素の標的細胞への移行に潜在的に関与していて、N末端は、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有する触媒ドメインである(Hofmann, F. et al. 1997 J Biol Chem 272: 11074-11078)。TcdAのRBDの結晶構造は、セレノイド様の構造を明らかにした。両方の毒素において、RBDの境界は、1850位のアミノ酸付近である。このC末端と宿主細胞受容体の間の相互作用が受容体媒介性エンドサイトーシスを始動させると考えられている(Florin, I. et al. 1983 Biochim Biophys Acta 763: 383-392;Karlsson, K. A. 1995 Curr Opin Struct Biol 5: 622-635;Tucker, K. D. et al. 1991 Infect Immun 59: 73-78)。
【0073】
[0077] TcdA/Bの上皮細胞への結合は、受容体媒介性エンドサイトーシスと細胞質への移行を誘導する。一度内在化されると、エンドソームpHの減少がコンホメーション変化を誘導して、それが疎水性転移ドメインの曝露と酵素性N末端(グリコシル-トランスフェラーゼドメイン(「GT」)とシステインプロテアーゼドメインドメイン(「CP」)を含んでなる)の挿入をもたらし、孔形成を介したエンドソーム中への移行を可能にすると考えられている。切断されるとすぐに、GTドメインは、UDP-グルコース由来のグルコース残基をRho-GTPアーゼへ移すことが可能であって、それによって細胞シグナル伝達を不活化すると考えられている。他の効果の中でも、Rho-GTPアーゼの阻害は、アクチンの細胞骨格及び密着接合(tight junctions)の調節不全を引き起こして、膜透過性の増加とバリアー機能の喪失をもたらして、下痢、炎症、及び好中球と自然免疫応答の他の成員の流入を生じる。
【0074】
[0078] 全長のトキシンA又はトキシンBのタンパク質が当該免疫原性組成物に含まれる場合、それは、トキソイドにされる、即ち不活化される(非毒性にされる)が、そのトキソイドが作製される毒素を認識する(結合する)抗体を産生する防御免疫応答を誘発する能力を保持すべきである。この毒素を不活化するどの方法も使用してよいが、典型的には、全長の毒素がトキソイドになるまで、該毒素をホルムアルデヒド又は熱で処理する。
【0075】
[0079] 他のワクチン組成物では、トキシンA及び/又はトキシンBの非毒性断片(例えば、該毒素のN末端でコードされるグルコシルトランスフェラーゼ活性を欠損している断片)を利用する。トキシンA又はトキシンBの非毒性断片を使用する場合には、ネイティブなトキシンA又はトキシンBを認識する抗体を産生する防御免疫応答を誘発することが可能であるのに十分なトキシンA又はトキシンBタンパク質の部分を使用すべきである。
【0076】
[0080] TcdA(308kDa、受託番号:P16154)とTcdB(270kDa、受託番号:P18177)は、2,710個のアミノ酸と2,366個のアミノ酸をそれぞれ有して、それらのアミノ酸配列の48%が同一である。この毒素は、活性-切断-送達-結合[Activity-Cutting-Delivery-Binding](ABCD)モデル(Jank et al, 2008, Structure and mode of action of clostridial glucosylating toxinss: the ABCD model[クロストリジウムのグルコシル化毒素の構造と作用機序:ABCDモデル], Trends Microbiol. 16: 222-29)によれば、少なくとも4つの主要機能ドメインから成る。N末端の生理活性ドメインAは、被感染細胞のRhoタンパク質を修飾するグルコシルトランスフェラーゼ活性を収容する。この毒素のC末端部分は、受容体結合に関与する。C(切断)ドメインは、ドメインAに後続して、プロテアーゼ機能を保有する。Dドメインは、毒素(又は毒素のN末端部分)の標的細胞の細胞質基質中への送達に主に関与する。
【0077】
[0081] TcdAの結合(B)ドメインとTcdBの結合(B)ドメインは、通常、残基1,832~2,710と残基1,834~2,366の範囲にそれぞれ及ぶと定義されて、複合反復ペプチド(combined repetitive peptides)(CROP)と呼ばれる反復配列を特徴とし、TcdAでは、30残基の7つの長いリピートと15~21残基の31の短いリピート、そしてTcdBでは、30残基の7つの長いリピートと20~23残基の21の短いリピートのあるソレノイドフォールを含んでなる(Ho et al, 2005, Crystal structure of receptor-binding C-terminal repeats from Clostridium difficile toxin A[クロストリジウム・ディフィチルトキシンA由来の受容体-結合C末端リピートの結晶構造], PNAS 102: 18373-78;Murase et al, 2014, Structural basis for antibody recognition in the receptor-binding domains of toxins A and B from Clostridium difficile[クロストリジウム・ディフィチル由来のトキシンA及びトキシンBの受容体-結合ドメインにおける抗体認識の構造的基礎], J. Biol. Chem. 289: 2331-43)。
【0078】
[0082] 非毒性であって免疫原性でもあることが示された、多様な修飾型又は末端切断型のトキシンA及びBのポリペプチドについて記載されている。例えば、WO2011/068953、WO2013/040254、WO2014/176276、Aktories et al., 2017, Clostridium difficile Toxin Biology[クロストリジウム・ディフィチル毒素の生物学], Annu. Rev. Microbiol. 71: 281-307 を参照。
【0079】
[0083] 本発明による組成物では、いずれの免疫原性で非毒性のトキシンA又はトキシンBポリペプチド断片も使用し得るが、特に言及されるのは、いずれの毒素でも細胞表面受容体結合部位を含む、複合反復オリゴペプチド(CROP)領域を含有する、トキシンAとトキシンBのC末端部分から誘導されるポリペプチドである。特定の態様では、トキシンA又はトキシンBの免疫原性断片は、トキシンA又はトキシンBの細胞表面受容体結合部位へ結合して該受容体への結合を妨げる抗体を誘発する。CROP領域は、高度に免疫原性であることが示されているため、複合反復オリゴペプチド(「CROP領域」)を含有するクロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのC末端領域は、本発明の実施にとって特に興味深い。クロストリジウム・ディフィシル株の全長トキシンBのアミノ酸1651~2366から構成されるポリペプチドは、非毒性のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド断片を選択するときに含めるのが好ましいトキシンBタンパク質のセグメントである。クロストリジウム・ディフィシル株の全長トキシンAのアミノ酸1649~2710から構成されるポリペプチドは、非毒性のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド断片を選択するときに含めるのが好ましいトキシンAタンパク質のセグメントである。クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの別の有用なセグメントは、アミノ酸1834~2366由来のCROP領域である。クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの別の有用なセグメントは、アミノ酸1832~2710由来のCROP領域である。
【0080】
[0084] 本発明のある態様では、非毒性クロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド断片が、抗トキシンB抗体のエピトープであるトキシンBの部分を含む。そのようなエピトープを含んでなる断片には、限定されるものではないが、10463株由来のSPNIYTDEINITPVYETN(配列番号7)、YPEVIVLDANYINEKI(配列番号8)、TVGDDKYYFNPINGG(配列番号9)、ASIGETIIDDKNYYFNQS(配列番号10)、EDGFKYFAPANTLDEN(配列番号11)、PANTLDENLEGE(配列番号12)、AIDFTGKLIIDE(配列番号13)、NIYYFDDNYRGAVE(配列番号14)、HYFSPETGKAFK(配列番号15)、IGDYKYFNSDGVM(配列番号16)、HFYFAENGEMQIGVFNTEDGFK(配列番号17)、INDGQYYFNDDGIMQV(配列番号18)、YKYFAPANTVNDNIYG(配列番号19)、ESDKYYFNPETKKA(配列番号20)、NNNYYFNENGEMQFGYINI(配列番号21)、及びQNTLDENFEGESINYT(配列番号22)、並びにBI/NAP1/027株由来のSPNIYTDEINITPIYEAN(配列番号23)、YPEVIVLDTNYISEKI(配列番号24)、TIGDDKYYFNPDNGG(配列番号25)、ASVGETIIDGKNYYFSQN(配列番号26)、EDGFKYFAPADTLDEN(配列番号27)、PADTLDENLEGE(配列番号28)、AIDFTGKLTIDE(配列番号29)、NVYYFGDNYRAAIE(配列番号30)、YYFSTDTGRAFK(配列番号31)、IGDDKFYFNSDGIM(配列番号32)、YFYFAENGEMQIGVFNTADGFK(配列番号33)、INDGKYYFNDSGIMQI(配列番号34)、YKYFAPANTVNDNIY(配列番号35)、ESDKYYFDPETKKA(配列番号36)、DNHYYFNEDGIMQYGYLNI(配列番号37)、及びQNTLDENFEGESINYT(配列番号38)が含まれる。
【0081】
[0085] 本発明の別の態様では、非毒性のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド断片は、10463株由来のトキシンBのアミノ酸2152~2341:DDNGIVQIGVFDTSDGYKYFAPANTVNDNIYGQAVEYSGLVRVGEDVYYFGETYTIETGWIYDMENESDKYYFNPETKKACKGINLIDDIKYYFDEKGIMRTGLISFENNNYYFNENGEMQFGYINIEDKMFYFGEDGVMQIGVFNTPDGFKYFAHQNTLDENFEGESINYTGWLDLDEKRYYFTDEYIA(配列番号39)を含む。さらに別の態様では、非毒性のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチド断片は、BI/NAP1/027株由来のトキシンBのアミノ酸2152~2341:DENGLVQIGVFDTSDGYKYFAPANTVNDNIYGQAVEYSGLVRVGEDVYYFGETYTIETGWIYDMENESDKYYFDPETKKAYKGINVIDDIKYYFDENGIMRTGLITFEDNHYYFNEDGIMQYGYLNIEDKTFYFSEDGIMQIGVFNTPDGFKYFAHQNTLDENFEGESINYTGWLDLDEKRYYFTDEYIA(配列番号40)を含む(WO2013/040254を参照)。
【0082】
[0086] 別の態様では、非毒性のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチドは、べズロトクスマブへ結合するトキシンBエピトープを含む。べズロトクスマブの2つのFab領域は、クロストリジウム・ディフィシル株VPI 10463の2つの別個の部位、2つのCROP単位にまたがるTcdB CROPドメインでTcdBへ結合する。第1部位(「E1」)は、アミノ酸1806~1961内の不連続エピトープから成り、第2部位(「E2」)は、アミノ酸2007~2093内の不連続エピトープから成る。注目すべきことに、E1とE2の間で共通する18個のべズロトクスマブ相互作用残基の中で、同一であるのは10個にすぎないが、その8個のアミノ酸置換のうち6個は、保存的である(Orthe et al, 2015, Mechanism of Action and Epitopes of Clostridium difficile Toxin B-neutralizing Antibody Bezlotosumab Revealed by X-ray Crystallography[X線結晶解析によって明らかにされた、クロストリジウム・ディフィシルトキシンB中和抗体、ベズロトクスマブの作用機序とエピトープ], J. Biol. Chem., 289: 18008-18021)。
【0083】
[0087] 別の態様では、非毒性のクロストリジウム・ディフィシル毒素ポリペプチドは、アクトクスマブへ結合するトキシンAエピトープを含む。TcdAのCROPドメイン内には、残基2162~2189と残基2410~2437にある同一のアミノ酸配列に集中した、2つの別個のアクトクスマブ結合部位がある(Hernandez et al, 2017, Epitopes and Mechanism of Action of the Clostridium difficile Toxin A-Neutralizing Antibody Actoxumab[クロストリジウム・ディフィシルトキシンA中和抗体、アクトクスマブのエピトープと作用機序], J. Mol. Biol. 429:1030-1044)。
【0084】
[0088] 代替態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの非毒性の免疫原性ポリペプチド断片は、タンパク質を非毒性にする少なくとも1つの突然変異、例えば、欠失、置換、挿入、又は短縮化を含む。ある態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの免疫原性ポリペプチド又はポリペプチド断片が少なくとも1つの突然変異をグルコシル-トランスフェラーゼドメイン(クロストリジウム・ディフィシル株VPI 10463のトキシンAでは、配列番号4のアミノ酸1~541;クロストリジウム・ディフィシル株BI/NAP1/027のトキシンAでは、配列番号5のアミノ酸1~541;クロストリジウム・ディフィシル株VPI10463のトキシンBでは、配列番号1のアミノ酸1~543;クロストリジウム・ディフィシル株BI/NAP1/027のトキシンBでは、配列番号2のアミノ酸1~543)の中に含む。
【0085】
[0089] トキシンBの無毒化は、当該技術分野で知られた適正な方法(例えば部位特異的変異導入)を使用して、野生型トキシンB抗原のグルコシル-トランスフェラーゼドメインのアミノ酸配列又はコード化核酸配列を変異させることによって達成し得る。本発明の態様では、変異したトキシンB抗原は、配列番号1又は2の野生型トキシンB抗原配列に対して、1以上のアミノ酸置換(即ち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30以上の突然変異)を含む。例えば、この変異した抗原は、配列番号1又は2のトキシンB抗原配列のアミノ酸270、273、284、286及び/又は288位に対応する1、2、3、4、又は5ヶ所の位置での置換を含み得る。
【0086】
[0090] トキシンAの無毒化は、当該技術分野で知られた適正な方法(例えば部位特異的変異導入)を使用して、野生型トキシンA抗原のグルコシル-トランスフェラーゼドメインのアミノ酸配列又はコード化核酸配列を変異させることによって達成し得る。本発明の態様では、変異したトキシンA抗原は、配列番号4又は5の野生型トキシンA抗原配列に対して、1以上のアミノ酸置換(即ち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30以上の突然変異)を含む。例えば、この変異した抗原は、配列番号4又は5のトキシンA抗原配列のアミノ酸283、285、及び287位に対応する1、2、又は3ヶ所の位置での置換を含み得る。
【0087】
[0091] ある態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの免疫原性ポリペプチド又はポリペプチド断片が、切断又はシステインプロテアーゼ酵素ドメイン(クロストリジウム・ディフィシル株VPI10463のトキシンAでは、配列番号4のアミノ酸542~769;クロストリジウム・ディフィシル株BI/NAP1/027のトキシンAでは、配列番号5のアミノ酸542~769;クロストリジウム・ディフィシル株VPI10463のトキシンBでは、配列番号1のアミノ酸544~767;クロストリジウム・ディフィシル株BI/NAP1/027のトキシンBでは、配列番号2のアミノ酸544~767)に、該プロテアーゼを不活性にする少なくとも1つの突然変異を含む。
【0088】
[0092] ある態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの免疫原性ポリペプチド又はポリペプチド断片は、転移ドメイン(クロストリジウム・ディフィシル株VPI10463のトキシンAでは、配列番号4のアミノ酸770~1808;クロストリジウム・ディフィシル株BI/NAP1/027のトキシンAでは、配列番号5のアミノ酸770~1808;クロストリジウム・ディフィシル株VPI10463のトキシンBでは、配列番号1のアミノ酸768~1833;クロストリジウム・ディフィシル株BI/NAP1/027のトキシンBでは、配列番号2のアミノ酸768~1833)に、該プロテアーゼを不活性にする少なくとも1つの突然変異を含む。
【0089】
[0093] 代替態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンAの非毒性の免疫原性ポリペプチド断片は、トキシンAの最小長の10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、又は2650個のアミノ酸を含む。代替態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBの非毒性の免疫原性ポリペプチド断片は、トキシンBの最小長の10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、又は2350個のアミノ酸、又はトキシンAのアミノ酸1649~2710、又はトキシンBのアミノ酸1651~2366、又はトキシンAのCROP領域(アミノ酸1832~2710)又はトキシンBのCROP領域(アミノ酸1834~2366)を含む。このトキシンA又はトキシンBの配列は、10463株、高毒性株BI/NAP1/027、又はあらゆる他のクロストリジウム・ディフィシル株に由来し得る。
【0090】
[0094] 本発明の代替態様では、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBの非毒性の免疫原性ポリペプチドは、同じか又は異なる、連続又は不連続である、及びどの順序でも連結している、2個以上のトキシンA又はトキシンBの断片を含む。例えば、ハイブリッドポリペプチドが2つのTcdA抗原と1つのTcdB抗原を含む場合、それらは、N末端からC末端まで、A-A-B、A-B-A、B-A-Aの順序であってよく、ハイブリッドポリペプチドが2つのTcdB抗原とTcdA抗原を含む場合、それらは、N末端からC末端まで、B-B-A、B-A-B、A-B-Bの順序であってよい。一般に、TcdA抗原とTcdB抗原は、交互にあってよい(例、A-B-A又はB-A-B)。
【0091】
[0095] 本発明の代替態様では、毒素のタンパク質又は断片は、本明細書で明記されるトキシンA又はトキシンBの配列又は断片に対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の同一性を有する。
【0092】
[0096] 「%類似性」、「%同一性、」、又は「%相同性」という用語は、特定の配列に言及する場合、ウィスコンシン大学GCGソフトウェアプログラムに明記されるように使用される。
【0093】
[0097] 本発明による免疫原性組成物の第2成分を調製するときは、クロストリジウム・ディフィシルの1種以上の株由来の、不活化した全長のトキシンA又はトキシンB、又は非毒性トキシンA又はトキシンBポリペプチド断片を使用し得る。さらに、第2成分は、1以上のトキソイド、1以上の毒素ポリペプチド断片より構成されても、トキソイド材料とポリペプチド断片材料の組合せを使用してもよい。このように、非限定的な例として、本発明による免疫原性組成物は、成分(a)クロストリジウム・ディフィシルの1種以上の株の不活化したクロストリジウム・ディフィシル細胞(例えば、不活化したクロストリジウム・ディフィシルVPI 10463細胞と不活化したクロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027細胞の混合物)に加えて成分(b)VPI 10463由来のトキシンAのトキソイド、VPI 10463由来のトキシンBのトキソイド、BI/NAP1/027由来のトキシンAのトキソイド、BI/NAP1/027由来のトキシンBのトキソイド、クロストリジウム・ディフィシル株VPI 10463由来のトキシンA又はBのC末端断片(例えば、トキシンA又はBのCROP領域)を含んでなるポリペプチド、クロストリジウム・ディフィシル BI/NAP1/027株由来のトキシンA又はBのC末端断片(例えば、トキシンA又はBのCROP領域)を含んでなるポリペプチド、又はこのようなトキソイド及びポリペプチド断片の1より多い組合せより構成され得る。CROP領域を含有する好ましいポリペプチド断片は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのC末端の716アミノ酸を含んでなるポリペプチド、特に、クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株由来のトキシンB(TcdB2)のような、高毒性株由来のトキシンB(トキシンBHV)の1651~2366位のアミノ酸である。
【0094】
[0098] 特許請求される免疫原性組成物の第2成分において使用されるどの非毒性ポリペプチド断片も、精製を単純化して、保持される毒性の課題を回避する、組換え的に産生されるポリペプチドであることが好ましい。多様な細菌発現系中への挿入を指令するようにトキシンA又はBのポリペプチド断片をコード化する組換え構造遺伝子を容易に合成し得て、そのポリペプチド産物は、当該技術分野の実施者に知られた慣用の方法によって容易に単離され得る。
【0095】
[0099] トキシンBHV負荷に対する防御について評価する実験では、10匹のトキソイドBHV免疫化マウスのうち毒素負荷に対して防御されたのが8匹であるのに対し、CROPBHV免疫化マウスは、毒素負荷に対して完全に(10匹のマウスのうち10匹)防御されて(実施例;表3;図2)、CROPBHVが全長の不活化トキシンBHVと同等又はそれ以上にきわめて有効な免疫原であることが実証された。
【0096】
免疫原性組成物の調製
[00100] 本発明による免疫原性組成物は、成分(a)(例えば、不活化したクロストリジウム・ディフィシル全細胞の懸濁液(例えば再懸濁ペレット)又はCSP調製物)と成分(b)(例えば、少なくとも1つのトキシンA又はBのトキソイド、及び/又は少なくとも1つの非毒性のクロストリジウム・ディフィシルのトキシンA又はトキシンBのポリペプチドの溶液)の単純な混合によって調製し得る。成分(a)と成分(b)の適正比は、当業者によって決定し得る。ある態様では、10~1011個の細胞又は10~100μgのCSE(多糖量に基づく)を提供するのに十分な不活化した全細胞(WC)又は細胞表面抽出物(CSE)成分(a)を使用すべきであり;そして、4~500μgのトキソイド又は非毒性ポリペプチド断片を提供するのに十分なトキソイド/毒素ポリペプチド断片成分(b)を使用すべきである。多重免疫を考慮するならば、他の量も使用してよい。この成分の量は、混合ワクチン組成物で被験体を免疫することより生じる抗クロストリジウム・ディフィシル抗体又は抗トキシンA/B抗体の力価に影響を及ぼすように、当業者の自由選択で、独立的に調整してよい。
【0097】
[00101] 上記の成分(a)と成分(b)を少なくとも含有する免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量又は投与量での製剤化によって投与用に調製し得る。この製剤には、当該技術分野で知られた医薬的に許容される担体及びアジュバントがさらに含まれ得る。
【0098】
[00102] 免疫学的に有効な量又は投与量とは、本明細書において、免疫化した哺乳動物の被験体において完全又は部分免疫を誘導する(防御免疫応答を誘発する)量であるとして定義される。処置済み被験体の集団において免疫が誘導されたとみなせるのは、集団の防御のレベル(CDI症状の件数の減少又はCDI症状の重症度の減少によって裏付けられる)が非ワクチン化対照群のそれより有意に高い(少なくとも80%の信頼水準で測定され、好ましくは95%の信頼水準で測定される)場合である。適正な有効投与量は、当該技術分野の実施者によって、定型的な実験によって容易に決定することができる。
【0099】
[00103] クロストリジウム・ディフィシル細胞の好適な治療用量は、約10~約1011個の細胞、又は約10~約10個の細胞、又は約10~約10個の細胞、又は約10~約1010個の細胞、又は約1010~約1011個の細胞を含む。クロストリジウム・ディフィシル細胞表面抽出物(CSE)の好適な治療用量は、約0.001μg/kg~約100mg/kg、又は約0.01μg/kg~約1mg/kg、又は約0.1μg/kg~約10μg/kg、又は約1~約5μg/kg、又は約5~約10μg/kg、約10~約50μg/kg、約50~約100mg/kg、約100~約500μg/kg、約500μg/kg~約1mg/kg、約1~約5mg/kg、約5~約10mg/kg、約10~約50mg/kg、又は約50~約100mg/kgを含む。本発明の療法では、CROPBHV又はTcdA又はTcdB2、又はトキシンA若しくはBのトキソイドの好適な用量は、約5μg/kg~約100mg/kg、又は約5~約10μg/kg、約10~約50μg/kg、約50~約100mg/kg、約100~約500μg/kg、約500μg/kg~約1mg/kg、約1~約5mg/kg、約5~約10mg/kg、約10~約50mg/kg、又は約50~約100mg/kgを含む。
【0100】
[00104] 典型的には、当該免疫原性組成物は、少なくとも1×10個のクロストリジウム・ディフィシル細胞又は25μgのクロストリジウム・ディフィシルCSEと、少なくとも5μgのトキシンA及び/又はBトキソイド又は非毒性トキシンA及び/又はBポリペプチドを含有するものである。
【0101】
[00105] この用量は、免疫化の技術分野の当業者に公知のように、被験体の年齢、健康状態、以前の感染の既往歴、及び免疫状態に多かれ少なかれ依存する場合がある。用量は、1日で分割されても非分割(unitary)でもよく、1回投与であっても適正な間隔で反復投与されてもよい。
【0102】
[00106] 本明細書に使用されるように、「医薬的に許容される担体」という用語には、所望される特定の剤形に適合するような、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、又は他の液体媒体、分散又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、濃化又は乳化剤、保存剤、固体結合剤、滑沢剤、等が含まれる。「レミントン製剤科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」(Gennaro監修、マック・パブリッシング、ペンシルヴェニア州イーストン、1995)は、医薬組成物を製剤化する場合に使用される様々な担体とその調製のための既知技術を開示する。担体は、例えば、IP、IV、皮下、粘膜、舌下、吸入又は他の鼻腔内投与形態、又は他の投与経路が含まれる、あらゆる投与経路に続く滞留時間を延長するように選択される。
【0103】
[00107] 医薬的に許容される担体として役立ち得る材料の諸例には、限定されるものではないが、ブドウ糖及びショ糖のような糖類、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンのようなデンプン類、セルロースとその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースなど);トラガカント粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;ココア脂及び坐剤ワックスのような賦形剤;落花生油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油のような油剤;ポリエチレングリコールのようなグリコール類;オレイン酸エチル及びラウリル酸エチルのようなエステル類;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;発熱物質除去水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、及びリン酸緩衝溶液、並びに他の非毒性の適合可能な滑沢剤(ラウリル硫酸ナトリウムとステアリン酸マグネシウムなど);並びに、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味及び芳香剤が含まれて、製剤技術者の裁量に従って、保存剤と抗酸化剤も該組成物中に存在し得る。
【0104】
[00108] 死滅される細胞の懸濁に適した医薬的に許容される担体には、限定されるものではないが、水、生理食塩水、ミネラルオイル、植物油、水系カルボキシメチルセルロース、又は水系ポリビニルピロリドンが含まれる。当該2成分ワクチン製剤は、有っても無くてもよいアジュバント、抗菌剤、又は当該技術分野で慣用である他の医薬活性剤も含有してよい。それに限定されるものではないが、好適なアジュバントには、限定されないが、ミネラルオイル、植物油剤、アラム、フロイント不完全アジュバント、フロイント完全アジュバント、QS-21、塩類(例、AlK(SO、AlNa(SO、AlNH(SO)、シリカ、カオリン、ムラミルジペプチド、炭素ポリヌクレオチド(例、ポリICとポリAU)、及びQuilAとアルヒドロゲル、生体適合性マトリックス材料の微粒子又はビーズ(例えば、寒天、ポリアクリレート)が含まれる。実施者は、他の担体又はアジュバントも同様に使用し得ることを認識されよう。
【0105】
[00109] 上記のように、本発明は、クロストリジウム・ディフィシル細胞、クロストリジウム・ディフィシル抽出物、クロストリジウム・ディフィシル細胞表面調製物、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA及び/又はトキシンBのトキソイド又は断片、及びこれらの組合せを含んでなる、組成物、ワクチン、及びそれらの成分を提供する。
【0106】
[00110] 本発明の免疫原性組成物は、死滅細胞、抽出物又は細胞表面調製物、及びトキソイド/毒素ポリペプチド断片が免疫応答を誘発することを可能にする、限定されないが、腹腔内(i.p.)、筋肉内(i.m.)、又は皮下(s.c.)注射、経口投与、又は粘膜(例、鼻腔内(i.n.)、胃内(i.g.)、膣内、直腸(r))投与のようなどの慣用な経路によっても、被験体の哺乳動物へ投与してよい。
【0107】
[00111] 当該免疫原性組成物は、例えば、該コンジュゲートを含有する溶液剤又は散剤の吸入によって、胃腸管又は気道の中へ導入することができる。いくつかの態様では、当該組成物は、皮膚パッチ剤を介した吸収により投与することができる。非経口投与は、使用されるならば、概して注射を特徴とする。液体溶液剤又は懸濁液剤、注射に先立つ液体中での溶解又は懸濁に適した固体形態、又は乳化剤のいずれとしても、慣用の形態で注射剤を調製することができる。より最近改訂された非経口投与用のアプローチでは、一定の投与量レベルが維持されるような、徐放系又は持続放出系の使用を伴う。
【0108】
[00112] 当該成分は、同じ経路又は異なる経路によって、一緒に投与しても、又は別々に投与してもよい。該成分は、同時的に投与してよく、またそれらは、連続的に、即ち一方を他方の先に投与してもよい。
【0109】
[00113] ある態様では、初回の免疫には、筋肉内注射が好ましい。2回目又は追加の(booster)免疫は、それと同じ経路でも異なる経路でもよい。このように、本発明のある態様では、初回の免疫と2回目又は追加の免疫には筋肉内注射が好ましい。別の態様では、初回の免疫に筋肉内注射が好ましいのに対し、2回目又は追加の免疫には、例えば、好ましいか又は簡便な経口免疫が好ましい。当該組成物は、単回用量で投与しても、複数の用量で投与してもよい。該組成物が頻回投与での投与用に処方される場合、投薬の時機及び量は、当業者によって容易に決定し得る。
【0110】
[00114] 治療有効量とは、少なくとも1つの症状又は状態を改善する活性薬剤の量を意味する。活性薬剤の治療効果と毒性は、細胞培養物又は実験動物での標準的な創薬手順、例えば、ED50(この用量は、集団の50%で治療効果がある)とLD50(この用量は、集団の50%に対して致死的である)によって決定することができる。毒性効果の治療効果に対する用量比が治療係数であって、それは、LD50/ED50の比として表現することができる。大きな治療係数を明示する医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイと動物試験より入手されるデータを使用して、ヒト使用のための様々な投与量を製剤化する。
【0111】
[00115] 投与量は、単回投与計画によっても頻回投与計画によってもよい。当該成分は、同じ組成物又は異なる組成物において一緒に投与することができる。初回免疫計画、及び/又は追加免疫計画では、各成分の頻回投与を使用し得る。該成分の頻回投与量は、一緒に、又は別々に(例えば、異なる時間での、又は異なる経路による投与)投与することができる。頻回投与計画において、その様々な用量は、同じ経路によって与えても、異なる経路(例えば、非経口での初回投与と粘膜への追加投与、粘膜への初回投与と非経口での追加投与、等)によって与えてもよい。頻回投与は、典型的には、少なくとも1週空けて(例、約2週、約3週、約4週、約6週、約8週、約10週、約12週、約16週空けて、等)投与される。
【0112】
[00116] 本発明によって産生されるワクチンは、他のワクチンと実質的に同じ時期に(例えば、専門医療又は予防接種センターへの同じ医療相談又は通院の間に、又は予定入院に先立って)、例えば、肺炎ワクチン、麻疹ワクチン、流行性耳下腺炎ワクチン、風疹ワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン、MMRVワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTPワクチン、結合型インフルエンザ(H. influenzae)b型ワクチン、不活化ポリオウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、結合型髄膜炎菌ワクチン(4価A-C-W135-Yワクチンのような)、呼吸器多核体ウイルスワクチン、等と実質的に同じ時期に患者へ予防的に投与してよい。
【0113】
[00117] ある態様では、本発明のワクチンを療法的に投与する。ある態様では、当該ワクチンは、活動性クロストリジウム・ディフィシル感染の患者へその活動性感染を治療すること、及び/又はCDIの再発を防ぐことの両方のために投与される。理論に束縛されるものではないが、当該ワクチンは、クロストリジウム・ディフィシル細胞の宿主の細胞との相互作用を妨害又は阻害する、クロストリジウム・ディフィシル細胞の表面分子及び毒素に対する特異的免疫応答を刺激することによって被感染宿主の免疫状態を改善すると考えられている。従って、CDIの初発後でも、治療用量を効果的に投与することができる。ある態様では、ワクチンの療法的投与を使用して、再発性CDIを軽減又は予防する。理論に束縛されるものではないが、本発明のワクチンは、宿主細胞の相互作用に媒介してそれによって再感染又は再発を妨げる、特定のクロストリジウム・ディフィシル成分に対する免疫応答を誘発すると考えられている。
【0114】
[00118] 本発明の組成物は、細胞媒介性免疫応答と体液性免疫応答をともに誘発する可能性がある。この免疫応答は、好ましくは、長続きする(例えば、中和する)抗体と、クロストリジウム・ディフィシルへの曝露時に速やかに応答し得る細胞媒介性免疫を誘導する。一般に、細胞媒介性免疫と体液性免疫を始動させる、及び/又は増強させるには、2種類のT細胞、CD4細胞とCD8細胞が必要と考えられている。CD8 T細胞は、CD8補助受容体を発現し得て、一般的には、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)と呼ばれている。CD8 T細胞は、MHCクラスI分子上に表示される抗原を認識するか又はそれと相互作用することが可能である。
【0115】
[00119] CD4 T細胞は、CD4補助受容体を発現し得て、一般的には、ヘルパーT細胞と呼ばれている。CD4 T細胞は、MHCクラスII分子へ結合した抗原性ポリペプチドを認識することが可能である。MHCクラスII分子と相互作用するとすぐに、CD4細胞は、サイトカインのような因子を分泌することができる。これらの分泌サイトカインは、B細胞、細胞傷害性T細胞、マクロファージ、及び免疫応答に参画する他の細胞を活性化することができる。ヘルパーT細胞又はCD4細胞は、そのサイトカインとエフェクター機能が異なる、T1表現型とT2表現型という2種の機能的に別個のサブセットへさらに分類することができる。
【0116】
[00120] 活性化T1細胞は、細胞性免疫を高める(抗原特異的CTL産生の増加が含まれる)が故に、細胞内感染へ応答する場合に特に有用である。活性化T1細胞は、IL-2、IFN-γ、及びTNF-βの1以上を分泌し得る。T1免疫応答は、マクロファージ、NK(ナチュラルキラー)細胞、及びCD8細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化することによって、局所炎症反応を生じる場合がある。T1免疫応答はまた、B細胞とT細胞の増殖をIL-12と共に刺激することによって免疫応答を拡げるように作用する場合がある。T1刺激されたB細胞は、IgG2aを分泌する場合がある。
【0117】
[00121] 活性化T2細胞は、抗体産生を高めるが故に、細胞外感染へ応答する場合に有用である。活性化T2細胞は、IL-4、IL-5、IL-6、及びIL-10の1以上を分泌し得る。T2免疫応答は、将来の防御のために、IgG1、IgE、IgA、及びメモリーB細胞の産生を生じる場合がある。
【0118】
[00122] 増強された免疫応答には、増強されたT1免疫応答とT2免疫応答の1以上が含まれ得る。T1免疫応答には、CTLの増加、T1免疫応答に関連したサイトカイン(IL-2、IFN-γ、及びTNF-βのような)の1以上の増加、不活化マクロファージの増加、NK活性の増加、又はIgG2a産生の増加の1以上が含まれ得る。好ましくは、増強されたT1免疫応答には、IgG2a産生の増加が含まれよう。
【0119】
[00123] T1アジュバントを使用して、T1免疫応答を誘発し得る。T1アジュバントは、一般に、アジュバント無しの抗原の免疫に比べて、増加したレベルのIgG2a産生を誘発するものである。本発明における使用に適したT1アジュバントには、例えば、サポニン製剤、ウイロゾーム(virosomes)とウイルス様粒子、腸内細菌リポ多糖(LPS)の非毒性誘導体、免疫刺激性オリゴヌクレオチドが含まれ得る。本発明における使用に好ましいT1アジュバントは、CpGモチーフを含有するオリゴヌクレオチドのような免疫刺激性オリゴヌクレオチドである。
【0120】
[00124] T2免疫応答には、T2免疫応答に関連したサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-6、及びIL-10のような)の1以上の増加、又はIgG1、IgE、IgA、及びメモリーB細胞の産生の増加の1以上が含まれ得る。好ましくは、増強されたT2免疫応答には、IgG1産生の増加が含まれよう。
【0121】
[00125] T2アジュバントを使用して、T2免疫応答を誘発し得る。T2アジュバントは、一般に、アジュバント無しの抗原の免疫に比べて、増加したレベルのIgG1産生を誘発するものである。本発明における使用に適したT2アジュバントには、例えば、ミネラル含有組成物、オイルエマルジョン、及びADPリボシル化毒素とその無毒化誘導体が含まれる。本発明における使用に好ましいT2アジュバントは、アラムのようなミネラル含有組成物である。
【0122】
[00126] 好ましくは、本発明には、T1アジュバントとT2アジュバントの組合せを含んでなる組成物が含まれる。好ましくは、そのような組成物は、増強されたT1応答と増強されたT2応答、即ち、アジュバント無しの免疫化に比べた、IgG1とIgG2aの両方の産生の増加を誘発する。なおより好ましくは、T1アジュバントとT2アジュバントの組合せを含んでなる組成物は、単一のアジュバントでの免疫化に比べて(即ち、T1アジュバント単独での免疫化、又はT2アジュバント単独での免疫に比べて)増加したT1免疫応答、及び/又は増加したT2免疫応答を誘発する。
【0123】
[00127] この免疫応答は、T1免疫応答とT2免疫応答の一方でも両方でもよい。好ましくは、免疫応答は、増強したT1応答と増強したT2応答の一方又は両方を提供する。
【0124】
[00128] 増強された免疫応答は、全身免疫応答と粘膜免疫応答の一方でも両方でもよい。好ましくは、この免疫応答は、増強した全身免疫応答と増強した粘膜免疫応答の一方又は両方を提供する。好ましくは、粘膜免疫応答は、T2免疫応答である。好ましくは、粘膜免疫応答には、IgAの産生の増加が含まれる。
【0125】
[00129] ある態様では、治療又は予防が本発明のワクチンを追加(booster)注射又は追加用量で投与することを含む。クロストリジウム・ディフィシル ワクチン追加は、被験体の免疫系の再曝露が免疫を高めるか又は免疫を防御レベルまで回復させることをもたらす。
【0126】
[00130] このように、1つの態様では、CDI患者の治療が、本発明のワクチンを投与して患者の「初回刺激された(primed)」免疫系を追加免疫することを含む。この追加免疫は、感染の間のどの時点でも、制限無しに、CDI症状が検出又は観測された時点で、あるいは、CDI症状が検出又は観測されてから約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週、又は2週以上後に投与することができる。
【0127】
[00131] 別の態様では、ワクチン接種又はCDIによってすでに免疫した被験体では、治療が、本発明のワクチンを投与して免疫を防御レベルまで回復させることを含む。追加免疫を投与するための時間の非限定的な例には、初回免疫の1、2、3、4、5、7、10、12、15、及び20年後が含まれる。ある態様では、追加免疫投与の必要性、望ましさ、又は時機は、環境要因(例えば、リスクのある労働環境、又は予定入院)より生じる。
【0128】
[00132] 本明細書に記載されるワクチンはまた、患者の症状を治療又は改善するための受動免疫血清として使用し得る中和抗体を産生するのに有用である。上記に記載したようなワクチン組成物は、中和抗体応答が産生されるまで、ウマのような動物又はヒトへ投与することができる。次いで、これらの中和抗体は、症状を呈している患者を治療するために、採取し、精製して、利用することができる。
【0129】
[00133] 本発明に従って、中和抗体は、クロストリジウム・ディフィシル疾患の症状を明示する患者へその病原体の効果を中和するのに有効な量で投与される。この中和抗体は、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、等で投与することができる。ある態様では、この中和抗体は、クロストリジウム・ディフィシル感染の影響を改善すると同時に宿主免疫応答を刺激するために、本発明の免疫原性組成物とともに投与される場合がある。別の態様では、この中和抗体は、抗生物質療法とともに投与することができる。典型的に投与される中和抗体の量は、約1mg~1000mgの抗体/kg、より好ましくは約50~200mg/kg(体重)である。
【0130】
[00134] ある態様では、本発明の免疫原性組成物又はワクチンを、クロストリジウム・ディフィシル感染を予防又は治療するための別の薬剤とともに投与し得る。この薬剤は、当該組成物又はワクチンと同時的に投与しても、連続的に(例えば、一方を他方の先に)投与してもよい。
【0131】
[00135] 抗生物質での治療又はその投与の間、又はそれに続くようなある状況では、腸管内菌叢の自然バランスが乱される。結果として、クロストリジウム・ディフィシルがより蔓延して、感染の症状につながる可能性がある。従って、本発明の免疫原性組成物は、基礎疾患を治療する抗生物質と共に使用し得て、その間に、当該免疫原性組成物は、クロストリジウム・ディフィシル感染を予防的に防止するか又は改善する。
【0132】
[00136] 本発明のある態様では、本発明の免疫原性組成物の有効量を、抗生物質を投与する前、投与するのと同時、又は投与した後のある時点で、該抗生物質と一緒に、又は別々に被験体へ投与する。この方法は、潜在する感染を治療するのに適しているどの抗生物質との使用にも有効であって、より具体的には、クロストリジウム・ディフィシルAADに付随することが知られている抗生物質との使用に有効である。どの抗生物質も抗菌薬関連下痢症、又はより重篤なクロストリジウム・ディフィシル感染関連病態の1つを引き起こす可能性があるが、最も一般的な起因薬剤は、アンピシリン、クリンダマイシン、セフポドキシムのようなセファロスポリン類、及びすべてのフルオロキノロン類である。従って、上記の方法は、抗生物質クロストリジウム・ディフィシルAADに頻繁に関連することが当該技術分野で知られている抗生物質が組み込まれる治療計画に特に適している。故に、いくつかの態様では、本発明の組成物が、上記に列挙した抗生物質のような抗生物質をさらに含み得る。
【0133】
[00137] 本発明は、凍結乾燥されたワクチン調製物及びキットを提供する。
[00138] 凍結乾燥、又はフリーズドライ法は、脱水生成物の製造において水分を除去するためによく使用される技術である。一般に、水性組成物の「フリーズドライ」には、3つの工程を伴う。第1に、水性組成物を低温の条件下で凍らせる。第2に、減圧と低温の条件下での昇華によって、凍結水を除去する。この段階で、組成物は、通常約15%の水分を含有する。第3に、減圧とより高温での条件下での脱着によって、残留水分をさらに除去する。この凍結乾燥法の最後に、「パスティーユ(pastille)」又は「ケーク(cake)」とも呼ばれる、凍結乾燥品が生成される。この凍結乾燥品は、ごく低い残留水分(約0.5%~約5%重量/重量)と非晶形の乾燥材料を含有する。この特殊な状態には、「ガラス質(vitreous)」としての資質がある。
【0134】
[00139] しかしながら、凍結乾燥の前とその間のような製造段階の間には、そしてまた免疫原性組成物とワクチン組成物の保存の間には、生物学的成分の免疫原性活性の実質的な損失が観測される。生物学的成分の完全性は、免疫原性組成物及びワクチン組成物の免疫化効率が保持されることを保証するように守られなければならない。生物学的成分の免疫原性活性は、宿主又は被験体へ投与されるときに免疫学的応答を誘導して刺激する能力によって測定される。
【0135】
[00140] ウイルスの凍結乾燥に先立って、スクロース、ラフィノース、及びトレハロースのような糖類が安定化剤として様々な組合せで加えられきた。弱毒化した生の生物学的成分、特にウイルスを含有する様々なワクチンを安定化させるその能力について、多数の化合物が検査されてきた。そのような化合物には、SPGA(スクロース、リン酸、グルタメート、及びアルブミン;Bovarnick et al. (1950) J. Bacteriol. 59, 509-522;米国特許第4,000,256号)、ウシ又はヒトの血清アルブミン、グルタミン酸のアルカリ金属塩、アラム、ショ糖、ゼラチン、デンプン、乳糖、ソルビトール、Tris-EDTA、カゼイン加水分解物、ラクトビオン酸ナトリウム及びカリウム、並びに1金属原子性又は2金属原子性のアルカリ金属リン酸塩が含まれる。他の化合物には、例えば、SPG-NZアミン(例えば米国特許第3,783,098号)とポリビニルピロリドン(PVP)混合物(例えば米国特許第3,915,794号)が含まれる。
【0136】
[00141] 「フリーズドライ」は、凍結乾燥を伴って、懸濁液を凍結させた後で水分を低温での昇華によって除去する方法に言及する。本明細書に使用されるように、「昇華」という用語は、組成物が固体状態から液体にならずに気体状態へ直接変化する、組成物の物的特性の変化に言及する。本明細書に使用されるように、「T’g値」は、それ未満では凍結組成物がガラス質になる温度に対応する、ガラス転移温度と定義される。
【0137】
[00142] 本発明による免疫原性の懸濁液又は溶液をフリーズドライする方法は、(a)免疫原性の懸濁液又は溶液を本発明の安定化剤と接触させることによって、安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液を生成する工程;(b)この安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液を、安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液の約T’g値未満の温度まで大気圧で冷却する工程;(c)この安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液を低温での氷の昇華によって乾燥させる工程(即ち、1次乾燥又は昇華の工程);及び(d)さらに圧力を下げて、この安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液の温度を高めることによって、過剰の残留水分を除去する工程(即ち、2次乾燥又は脱着工程)を含む。
【0138】
[00143] 冷却工程(b)は、約-40℃未満の温度で起こり得る(水分凍結工程)。安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液を低圧での氷の昇華によって乾燥させる工程(c)が起こり得るのは、例えば、約200μbar以下の気圧であるが、約100μbar以下の気圧では、さらなる圧力の低下が起こり得る。最後に、安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液の、過剰残留水の除去(d)の間の温度は、例えば、約20℃と約30℃の間の温度で生じる。
【0139】
[00144] このフリーズドライの方法は、弱毒化した生のイヌ・パラミクソウイルスとパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1つの活性免疫原性成分を含んでなる免疫原性の懸濁液又は溶液でも実施することができ、これを本発明による安定化剤と混合して、凍結乾燥された安定化した多価の免疫原性又はワクチンの組成物を入手する。
【0140】
[00145] この凍結乾燥済みの材料の含水量は、約0.5%~約5%(w/w)、好ましくは約0.5%~約3%(w/w)、そしてより好ましくは約1.0%~約2.6%(w/w)の範囲に及び得る。
【0141】
[00146] 有利にも、少なくとも1つの嵩高剤(bulking agent)を含んでなる安定化した免疫原性の懸濁液又は溶液は、約-36℃~約-30℃の間の高いT’g値を有する。高いT’g値は、凍結法及び/又はフリーズドライ法の水分凍結工程の間でのより高い温度を可能にして、それによって弱毒化生ウイルスや活性免疫原性成分のストレスへの曝露を減らして、活性の実質的な損失が回避される。
【0142】
[00147] 水分凍結と1次及び2次乾燥の間のその除去が含まれる各工程では、本発明の免疫原性懸濁液又は溶液中の病原体のような生物学的成分が機械的、物理的、及び生化学的なショックへ処され、そのことは、病原体又は生物学的成分の構造、外観、安定性、免疫原性、感染性、及び生存性に対して潜在的に有害な効果を及ぼす。
【0143】
[00148] 本発明の安定化剤は、フリーズドライ法の間と保存の間、弱毒化された生病原体の良好な安定性を可能にする。この安定性は、フリーズドライ工程前の感染力価と、凍結乾燥済みの安定化した免疫原性組成物又はワクチン組成物の4℃で12ヶ月の保存後の感染力価の間の差によって計算することができる。良好な安定性は、有利にも、1.2 log10だけの差、そして好ましくは1.0 log10だけの差を含み得る。当業者には、感染力価を定量するための方法がよく知られている。また、この安定性は、線形回帰計算及び/又はアルゴリズムを使用して、保存期間の間のlog10力価と力価測定の時点を適合させることによって推定することができる。
【0144】
[00149] さらに、本発明の安定化剤は、良好なアスペクト(aspect)、換言すると、規則的な形状と均一な色を有する凍結乾燥されたパスティーユを可能にする。不規則な形状は、パスティーユの全部又は一部が交換や剪断の後で受け器(recipient)の底へくっついて動かない状態であること(不動アスペクト)の存在によって特徴づけることができる。また、糸巻きの形状(糸巻きアスペクト)又は該パスティーユの水平面での2部分への分離(重複排除アスペクト)を有するパスティーユ、又は不規則な孔のあるムースのアスペクト(スポンジアスペクト)を有するパスティーユ、又は泡が受け器中にあるアスペクト(メレンゲアスペクト)を有するパスティーユは、不規則な形状を有するので、受け入れられない。
【0145】
[00150] 本発明による安定化剤を使用して上記に記載したフリーズドライ法によって入手される、安定化した凍結乾燥済みの免疫原性組成物又はワクチン組成物は、本発明に含まれる。
【0146】
[00151] 本発明のさらなる側面は、本開示の粉末ワクチン組成物を含有する第1容器と、場合によっては、希釈剤を含有する第2容器を含んでなるキットを提供する。あるいは、抗原性成分を有する第1容器と、粉末ワクチン組成物の他の構成成分を有する第2容器と、場合によっては希釈剤を有する第3容器を含んでなるキットを提供する。あるいは、粉末ワクチン組成物を有する容器だけを有するキットを提供する。キットは、有利にも、混合と投与についての説明書を含有する。
【0147】
[00152] その使用と被験体への投与のために、当該粉末ワクチン組成物は、希釈剤での再水和によって復元させることができる。この希釈剤は、典型的には、脱イオン水又は蒸留水のような水であるが、当該技術分野で知られた生理溶液又は緩衝液も含み得る。希釈された場合の粉末ワクチン組成物、又は復元された使用準備済みの粉末ワクチン組成物は、非経口又は粘膜経路による注射のような、本明細書において考察した手段によって、また好ましくは、噴霧による経口又は点眼投与によって、動物へ投与することができる。しかしながら、溶かした粉末ワクチン組成物の投与は、鼻腔内、経皮、又は局所の投与を含み得る。
【0148】
[00153] 以下の実施例は、本発明をさらに例解することを企図しており、添付の特許請求の範囲によって規定される、本発明の範囲を制限することを企図するものではない。
実施例1
[00154] クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株の試料をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(バージニア州マナッサス)より入手した(ATCC(登録商標)BAA-1870)。グリセロールストックを使用して、50mLのブレインハートインフュージョン-L-システイン(BHI-Cys)増殖培地の種培養液(BHI:BD Bacto #237200;L-システイン:シグマ #168149)に接種し、これを嫌気性条件下にて37℃で一晩(17時間)増殖させた。この種培養液に対して、光学密度(OD600)読取りと異物混入試験を実施した。1Lの新鮮な還元BHI-Cys培地に種培養液を0.1のOD600まで接種し、OD600が約1.0に達するまで(5~6時間の増殖)37℃で嫌気的にインキュベートした。細胞を遠心分離(6000rpm、20分間、4℃)によって採取して、1×PBSで3回洗浄した。最後の洗浄後、ペレットを1×PBSに再懸濁させて、系列希釈液を調製して、コロニー形成単位(CFU)の数を播種によって測定した;顕微鏡と血球計算器、さらに試料のOD600読取りを使用して細胞を計数した。このペレット懸濁液を、異なる不活化処理に使用するために、2つの等量へ分割した。一方の分量は1%(v/v)ホルマリンに調整し、揺らしながら4℃で24時間インキュベートした。他方の分量は、80℃の水浴中で30分間熱処理した。それぞれの不活化処理の後、1×PBSで3回洗浄した。最後の洗浄後、細胞を遠心分離によって濃縮し、ペレットを1×PBSに再懸濁させて系列希釈液を調製し、CFU数を播種することによって、不活化処理後の生存細胞数の低下を測定した。加工済み細胞のホルマリン処理は、細胞の系列希釈液をBHI-Cys-0.1%TAプレートに播種して、嫌気性条件にて37℃で48時間インキュベートすることによって定量されたように、クロストリジウム・ディフィシル細胞の8logより大きい不活化をもたらした。加工済み細胞の80℃での熱処理は、細胞の系列希釈液をBHI-Cys-0.1%TAプレートに播種して、嫌気性条件にて37℃で48時間インキュベートすることによって定量されたように、クロストリジウム・ディフィシル細胞の7logより大きい不活化をもたらした。顕微鏡と血球計算器を使用してから試料のOD600読取り値へ相関させて、細胞を計数した。
【0149】
[00155] ホルマリン処理及び熱処理したクロストリジウム・ディフィシル細胞懸濁液を4℃で保存した。免疫化の当日、10~10個の不活化細胞を0.5mg/mLのアラムアジュバント(アルヒドロゲル(登録商標)滅菌水酸化アルミニウムゲル;インビトロジェン)と混合することによって、ワクチン候補物質を調製した。混合ワクチン処理群では、5μgのTcdB2免疫原、即ち、TcdB21651-2366のポリペプチド断片(配列番号3)を、同一のアラムアジュバント処理した不活化全細胞懸濁液へ加え、投与前に周囲温度で少なくとも2時間インキュベートした。
【0150】
[00156] クロストリジウム・ディフィシルのトキシンB免疫原は、TcdB2毒素のC末端の716アミノ酸をコードする発現ベクターで形質転換された大腸菌BL21(DE3)細胞(ノバジェン(EMD-ミリポア))において発現される組換えポリペプチドであり、CROPBHVと表記される。この培養物を、動物性成分フリー培地で増殖させ、0.1mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)(Teknova、カタログ番号:I3325)で誘導して25℃で一晩増殖させた。CROPBHVは、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、次いでアフィニティ樹脂での精製によって可溶性細菌溶解液より捕捉した。
【0151】
免疫化
[00157] BALB/cマウスの群(n=5)を、1%ホルマリンを使用するか又は熱処理によって不活化した10個のクロストリジウム・ディフィシル細胞を、5μgのCROPBHVの同時投与の有無で、隔週で3回の腹腔内注射によって免疫した。この実験には、免疫を受けない薬剤非投与マウスの対照群が1つ含まれた。3回目の免疫から約2.5週間後、4回目の免疫の10個の細胞を、5μg CROPBHVの有無でマウスへ投与した。4回目の免疫から17日後、マウスを抗生物質処方で7日間処理し、クロストリジウム・ディフィシル芽胞で感染し易くした:簡潔には、5種の異なる抗生物質(バンコマイシン 0.045mg/ml、メトロニダゾール 0.215mg/ml、カナマイシン 0.4mg/ml、ゲンタマイシン 0.035mg/ml、及びコリスチン 850U/ml)のカクテルを飲料水にてマウスへ投与し、さらに100μlのカクテルを週に少なくとも3回強制投与した。マウスを通常の飲料水へ2~3日間戻した後で、生菌での負荷の前日に、クリンダマイシン(10mg/kg)を腹腔内投与した。
【0152】
[00158] 胃内強制投与によって、10個のクロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027芽胞をマウス群に負荷した。マウスについて、体重とクロストリジウム・ディフィシル感染の他の症状を毎日モニターした。結果を図1に示す。図1は、感染前のマウスの出発体重に対する体重の%変化をグラフにする。クロストリジウム・ディフィシル感染の病的状態の代用マーカーである体重減少を、クロストリジウム・ディフィシル芽胞の投与後20日間にわたり8つの時点で測定した。クロストリジウム・ディフィシルでの負荷後3日目まで、全細胞ワクチン(WCV)+CROPBHVで免疫したマウスは、WCV単独で免疫したマウス又は薬剤非投与マウスよりも体重減少が少なかった。感染後10日目以降、WCV+CROPBHVポリペプチドで免疫したマウスは、WCV単独で免疫したマウス又は薬剤非投与マウスよりも速やかに体重を回復し続けた。感染後約3週間で、CROPBHVの有無でWCVを投与したマウスは、感染前の体重に匹敵する体重を回復した。全体的に、WCVで免疫したマウスは、クロストリジウム・ディフィシル芽胞負荷の後に薬剤投与を受けないマウスほど体重が減少せず、よりゆっくり減少する。
【0153】
[00159] さらに、WCVの共免疫原としてのCROPBHVの追加が、顕著に大きな防御免疫応答と、クロストリジウム・ディフィシル芽胞負荷からのより急速な回復をもたらすことを観察した。各群についてELISAで定量したIgG抗体力価を表2に提示した。抗CROPBHV IgG抗体力価を測定するために、プレートをCROPBHVタンパク質でコーティングし;抗全細胞IgG抗体力価を測定するために、プレートを不活化した全細胞タンパク質でコーティングした。4回目の免疫から9日後の64日目に、プールした抗血清を回収して、IgG抗体力価を定量した。
【0154】
【表2】
【0155】
実施例2
[00160] トキシンBHV負荷に対する防御について評価する実験では、CROPBHV免疫マウスは、毒素負荷に対して完全に防御され(マウス10匹のうち10匹)、一方、トキソイドBHV免疫マウスは、10匹のうち8匹が毒素負荷に対して防御された(表3;図2)。これらのデータは、CROPBHVが全長の不活化トキシンBHVと同等又はより優れた好ましい抗原であることを実証した。
【0156】
【表3】
【0157】
実施例3
[00161] 毒素非産生クロストリジウム・ディフィシル株の試料を、Dr.Dale Gerding(ハインズ退役軍人病院、イリノイ州シカゴ)より入手した。グリセロールストックを使用して、50mLのブレインハートインフュージョン-L-システイン(BHI-Cys)増殖培地の種培養液(BHI:BD Bacto #237200;L-システイン:シグマ #168149)に接種し、これを嫌気性条件下にて37℃で一晩(17時間)増殖させる。種培養液について、光学密度(OD600)読取りと異物混入試験を実施する。1Lの新鮮な還元BHI-Cys培地に種培養液を0.1のOD600まで接種し、OD600が約1.0に達するまで37℃で嫌気的にインキュベートする(5~6時間の増殖)。細胞を遠心分離(6000rpm、20分間、4℃)によって採取し、1×PBSで3回洗浄する。最後の洗浄後、ペレットを1×PBSに再懸濁し、系列希釈液を調製して、コロニー形成単位(CFU)の数を播種によって測定する;顕微鏡と血球計算器、さらに試料のOD600読取りを使用して細胞を計数する。ペレット懸濁液を、異なる不活化処理に使用するために、2つの等量へ分割する。一方の分量は、1%(v/v)ホルマリンへ調整し、揺らしながら4℃で24時間インキュベートする。他方の分量は、80℃の水浴中で30分間熱処理する。それぞれの不活化処理の後、1×PBSで3回洗浄する。最後の洗浄後、細胞を遠心分離によって濃縮し、ペレットを1×PBSに再懸濁して系列希釈液を調製し、CFU数を播種することによって、不活化処理後の生存細胞数の減少を測定する。加工済み細胞のホルマリン処理は、細胞の系列希釈液をBHI-Cys-0.1%TAプレートに播種して、嫌気性条件にて37℃で48時間インキュベートすることによって定量されるように、典型的には、クロストリジウム・ディフィシル細胞の8logより大きい不活化をもたらす。加工済み細胞の80℃での熱処理は、細胞の系列希釈液をBHI-Cys-0.1%TAプレートに播種して、嫌気性条件にて37℃で48時間インキュベートすることによって定量されるように、典型的には、クロストリジウム・ディフィシル細胞の7logより大きい不活化をもたらす。顕微鏡と血球計算器を使用してから試料のOD600読取り値へ相関させて、細胞を計数する。
【0158】
[00162] ホルマリン処理及び熱処理したクロストリジウム・ディフィシル細胞懸濁液を4℃で保存する。免疫の当日、10~10個の不活化細胞を0.5mg/mLのアラムアジュバント(アルヒドロゲル(登録商標)滅菌水酸化アルミニウムゲル;インビトロジェン)と混合することによって、ワクチン候補物質を調製する。混合ワクチン処理群では、5μgのTcdB2免疫原、即ち、TcdB21651-2366のポリペプチド断片(配列番号3)を同一のアラムアジュバントで処理した不活化全細胞懸濁液へ加えて、投与前に周囲温度で少なくとも2時間インキュベートする。
【0159】
[00163] クロストリジウム・ディフィシルのトキシンB免疫原は、典型的には、例えばTcdB2毒素のC末端の716アミノ酸をコードする発現ベクターで形質転換された大腸菌BL21(DE3)細胞(ノバジェン(EMD-ミリポア))において発現される組換えポリペプチドである。培養物を動物性成分フリー培地で増殖させ、0.1mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)(Teknova、カタログ番号I3325)で誘導して、25℃で一晩増殖させる。TcdB2のC末端ポリペプチド断片は、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、次いでアフィニティ樹脂での精製によって可溶性細菌溶解液より捕捉することができる。
【0160】
免疫化
[00164] BALB/cマウスの群(n=5)を、1%ホルマリンを使用するか又は熱処理によって不活化した10又は10個のクロストリジウム・ディフィシル細胞を、5μgのCROPBHVの同時投与の有無で、隔週で3回の腹腔内注射によって免疫する。この実験には、免疫を受けない薬剤非投与マウスの対照群が1つ含まれる。3回目の免疫から17日後、マウスを抗生物質処方で7日間処理し、クロストリジウム・ディフィシル芽胞で感染し易くする:簡潔には、5種の異なる抗生物質(バンコマイシン 0.045mg/ml、メトロニダゾール 0.215mg/ml、カナマイシン 0.4mg/ml、ゲンタマイシン 0.035mg/ml、及びコリスチン 850U/ml)のカクテルを飲料水にてマウスへ投与し、さらに100μlのカクテルを週に少なくとも3回強制投与する。マウスを通常の飲料水へ2~3日間戻した後で、生菌での負荷の前日に、クリンダマイシン 10mg/kgを腹腔内投与する。胃内強制投与によって、10個のクロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027芽胞をマウス群に負荷する。マウスについて、体重とクロストリジウム・ディフィシル感染の他の症状を毎日モニターする。
【0161】
[00165] 全体的に、WCVで免疫化したマウスは、クロストリジウム・ディフィシル芽胞負荷の後で薬剤投与を受けていないマウスほど多くは体重が減少せず、よりゆっくり減少する。さらに、WCVの共免疫原としてのTcdB2 CROPポリペプチドの追加は、顕著に大きな防御免疫応答と、クロストリジウム・ディフィシル芽胞負荷からのより急速な回復をもたらす。
【0162】
実施例4
[00166] クロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027株の試料をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(バージニア州マナッサス)より入手した(ATCC(登録商標)BAA-1870)。グリセロールストックを使用して、50mLのブレインハートインフュージョン-L-システイン(BHI-Cys)増殖培地の種培養液(BHI:BD Bacto #237200;L-システイン:シグマ #168149)に接種し、これを嫌気性条件下にて37℃で一晩(17時間)増殖させた。種培養液について、光学密度(OD600)読取りと異物混入試験を実施した。1Lの新鮮な還元BHI-Cys培地に種培養液を0.1のOD600まで接種し、OD600が約1.0に達するまで(5~6時間の増殖)、37℃で嫌気的にインキュベートした。細胞を遠心分離(6000rpm、20分間、4℃)によって採取し、細胞ペーストを-80℃で保存した。
【0163】
[00167] 細胞表面抽出物を調製するために、細胞ペーストを周囲温度で融解してから、80mLの0.5%デオキシコール酸ナトリウムに再構成した。次いで、細胞溶液を60℃に設定した振盪インキュベーター(225rpm)に入れて16~24時間インキュベートした。細胞溶液をインキュベーターから取り出して周囲温度まで冷却後、6000rpmで4℃にて遠心分離して細胞を除去した。細胞表面成分を含有する上清をさらなる加工処理用に確保した。上清に、5000Daの分子量カットオフのある濾過膜を用いる接線流濾過を施して、初めにデオキシコール酸塩を流し去ってから、上清を5~10倍濃縮した。濃縮された上清を細胞表面抽出物(CSE)と名付けた。CSEを分析して、標準検定法を使用してタンパク質含量を測定し、炭水化物の存在を測定するアントロンアッセイを使用して多糖含量を測定した。
【0164】
[00168] クロストリジウム・ディフィシルのトキシンB免疫原は、TcdB2毒素のC末端の716アミノ酸をコードする発現ベクターで形質転換された大腸菌BL21(DE3)細胞(ノバジェン(EMD-ミリポア))において発現される組換えポリペプチドであり、CROPBHVと表記される。培養物を動物性成分フリー培地で増殖させ、0.1mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)(Teknova、カタログ番号:I3325)で誘導して、25℃で一晩増殖させた。TcdB2のC末端ポリペプチド断片は、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、次いでアフィニティ樹脂での精製によって可溶性細菌溶解液より捕捉した。トキシンA免疫原を類似のやり方で精製した。
【0165】
免疫化
[00169] BALB/cマウスの群(n=5)を、5μgのCROPBHV又は5μgのTcdAポリペプチドの投与の有無にて、25μgの多糖を含有するCSEで、隔週で3回の腹腔内注射によって免疫する。この実験には、免疫を受けない薬剤非投与マウスの対照群が1つ含まれる。3回目の免疫から17日後、マウスを抗生物質処方で7日間処理して、クロストリジウム・ディフィシル芽胞に感染し易くする。簡潔には、5種の異なる抗生物質(バンコマイシン 0.045mg/ml、メトロニダゾール 0.215mg/ml、カナマイシン 0.4mg/ml、ゲンタマイシン 0.035mg/ml、及びコリスチン 850U/ml)のカクテルをその飲料水にてマウスへ投与し、さらに100μlのカクテルを週に少なくとも3回強制投与する。このマウスを通常の飲料水に2~3日間戻した後で、生菌での負荷の前日に、クリンダマイシン 10mg/kgを腹腔内投与する。胃内強制投与によって、10個のクロストリジウム・ディフィシルBI/NAP1/027芽胞をマウス群に負荷する。マウスについて、体重とクロストリジウム・ディフィシル感染の他の症状を毎日モニターする。結果は、CSE+トキシンB抗原での免疫が、薬剤非投与群より回復が速く感染症状が少ないCSEのみで免疫したマウスより防御的である(体重回復が速く疾患症状が少ない)ことを示すと予想される。
【0166】
[00170] 以上の記載は例示的であって、本発明を制限するものではないと理解されたい。本開示の全範囲と添付の特許請求の範囲に規定の発明について考慮すれば、当業者には追加の態様が可能であって、提起されよう。
【0167】
DNA/アミノ酸の配列の索引
[00171] 本明細書には、本発明において同定されたポリペプチドのアミノ酸配列を明記する配列表が含まれる:
配列番号1:VPI 10463のクロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのアミノ酸配列
配列番号2:NAP1/027株のクロストリジウム・ディフィシルのトキシンBのアミノ酸配列
配列番号3:クロストリジウム・ディフィシルTcdB21651-2366のアミノ酸配列
配列番号4:VPI 10463のクロストリジウム・ディフィシルのトキシンAのアミノ酸配列
配列番号5:NAP1/027株のクロストリジウム・ディフィシルのトキシンAのアミノ酸配列
配列番号6:クロストリジウム・ディフィシルNAP1/027株由来トキシンAのCROP領域のアミノ酸配列。
【0168】
【表4-1】
【0169】
【表4-2】
【0170】
【表4-3】
【0171】
【表4-4】
【0172】
【表4-5】
図1
図2
【配列表】
2022513077000001.app
【国際調査報告】