(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-28
(54)【発明の名称】標的化合物の特性化方法(METHOD FOR CHARACTERISING TARGET COMPOUNDS)
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220218BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538293
(86)(22)【出願日】2019-12-28
(85)【翻訳文提出日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 FR2019053312
(87)【国際公開番号】W WO2020141281
(87)【国際公開日】2020-07-09
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520085280
【氏名又は名称】アリベール
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】カリチュ ヤニス
(72)【発明者】
【氏名】アルヒーポフ キリル
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA03
2G043DA05
2G043EA01
2G043EA14
2G043FA03
2G043GB21
2G043LA03
2G043NA01
(57)【要約】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
【請求項2】
【請求項3】
【請求項4】
【請求項5】
【請求項6】
【請求項7】
【請求項8】
【請求項9】
【請求項10】
【請求項11】
前記分析システムが、表面プラズモン共鳴イメージングに基づく電子ノーズであるか、またはそれぞれが1つの感受性部位を形成する複数の別個の電気機械共振器を含む分析システムである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、流体試料(fluid sample)中に存在する標的化合物を、好ましくは表面プラズモン共鳴イメージング(imaging)に基づく技術を用いて電子ノーズ(electronic nose)で特性化する(特徴づける)(characterize)ことである。
【背景技術】
【0002】
先行技術
例えば、流体試料に含まれる、標的化合物、臭気分子または揮発性有機化合物を、特性化して分析する能力は、様々な分野において、特に健康の分野、および香水産業のフレグランスの分野、食品加工産業の分野、並びに限られた公共または私的な場所(自動車、ホテル業、共用施設等)などにおける嗅覚の快適性に関して、ますます重要な問題となっている。
【0003】
様々な特性解析(特性評価)手法(characterization approach)が存在するが、これらは特に、標的化合物または受容体が、事前にマーカーで「標識」される必要があるか、またはされる必要がないかという点で互いに異なる。例えば、そのようなマーカーの使用を必要とする蛍光による検出とは異なり、表面プラズモン共鳴(SPR)による検出は、いわゆる標識不使用(label-free)技術である。
【0004】
標的化合物が気体(gaseous)または液体試料中に含まれる場合、それは、電子ノーズ内で、特にSPRイメージングを介して実施することができる。表面プラズモン共鳴特性解析技術は、電子ノーズの感受性部位(sensitive site)に置かれた受容体と標的化合物との間の吸着および脱着相互作用を表す光学信号(シグナル)(signal)をリアルタイムで測定することを可能にする。次いで、標的化合物と受容体との相互作用の化学的または物理的親和性が先験的に知られていない限り、標的化合物の特性化は、感受性部位について測定された光信号から相互作用パターンを得ることにある。異なる(differentiated)吸着特性から利益を受ける、調製された(prepared)(または「官能化された(functionalized)」)表面上への吸着および表面からの脱着は、表面に付着した気体中に存在する分子を決定することを可能にする。入射光子と表面の変化する電子雲との相互作用はエネルギー移動を生じ、気体の励起に従ってパターンを更新する。
【0005】
これに関して、
図1Aおよび
図1Bは、特許出願WO2018/158458に記載されているような電子ノーズの例を示している。電子ノーズ1は、通常、流体供給装置2と、SPRイメージングにより測定する光学装置3と、処理ユニット(processing unit)(図示せず)とを備えている。
【0006】
光学測定装置3は、気体試料を受け入れることを目的とした測定チャンバ4を備え、チャンバ内には、感受性部位6のマトリックスアレイが配置された測定キャリア5が配置されている。測定キャリア5は、標的化合物と相互作用するのに適した種々の受容体が固定された金属層から形成され、種々の受容体は、互いに異なる感受性部位6を形成するように配置される。次いで、これらの受容体は、金属層と誘電体媒体、ここでは気体媒体との間の界面に配置される。
【0007】
それは、さらに、励起放射線(exciting radiation)を発する光源7と、イメージセンサ8とを備える。光源7は、表面プラズモンをその上(thereon)に発生させることを可能にする作用角θRで、測定キャリア5の方向に励起光放射(exciting light radiation)を発するのに適している。そして、励起光放射の反射部分がイメージセンサ8によって検出される。反射された放射線の光強度は、測定キャリア5の屈折率に局所的に依存し、それ自体は、生成される表面プラズモンおよび各感受性部位6に位置する物質(material)の量に依存し、この物質の量は、感受性化合物と受容体との間の相互作用に依存して経時的に変化する。
【0008】
電子ノーズの処理ユニットは、標的化合物と感受性部位6の受容体との相互作用(吸着および脱着)に関する動力学的(kinetic)情報をそこから抽出する目的で、各感受性部位6について、「センサグラム」、すなわち、イメージセンサ8によって反射および測定される放射線の光強度の時間の関数としての変動を分析するのに適している。
【0009】
最後に、流体供給装置2は、センサグラムの分析およびそれによる標的化合物の特性化を可能にする条件下で、標的化合物を測定チャンバ4に導入するのに適している。
【0010】
これに関して、Brenetらの論文、タイトル:気相揮発性有機化合物を検知するための表面プラズモン共鳴イメージングに基づく高選択的光電子ノーズ(Highly-Selective Optoelectronic Nose based on Surface Plasmon Resonance Imaging for Sensing Gas Phase Volatile Organic Compounds)、Anal.Chem. 2018、90,16,9879-9887は、SPRイメージングに基づく電子ノーズを使用して気体試料を特性化する方法を記載する。
【0011】
特性化方法は、標的化合物と受容体との間の相互作用の動力学が定常平衡状態(steady equilibrium state)に達するように、気体試料を測定チャンバに供給することからなる。
【0012】
より正確には、流体供給ステップ(工程)は、以下を含む:初期フェーズ(phase)と呼ばれる第1フェーズ、この第1フェーズでは、気体試料は、標的化合物を含まず、キャリアガスのみから形成される;注入フェーズと呼ばれる第2フェーズ、この第2フェーズでは、気体試料はキャリアガスと標的化合物から形成される;および、解離フェーズと呼ばれる第3フェーズ、この第3フェーズでは、標的化合物が測定チャンバから排出される。初期フェーズでは、注入フェーズで取得した測定光信号から、後で減算することを目的とした基準光信号を取得することができる。注入フェーズは、流体供給装置を介して実行され、その結果、センサグラムは、遷移同化状態(transient assimilation state)とそれに続く定常平衡状態の存在を明らかにする。次いで、この定常平衡状態に達すると、処理ユニットによる標的化合物の特性化が可能になる。
【0013】
しかしながら、標的化合物と受容体との間で、定常的な吸着/脱着平衡状態が到達されているか否かにかかわらず、より簡単かつ迅速な方法で、標的化合物を特性化することを可能にする特性化方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、先行技術の短所(drawback)を少なくとも部分的に改善することであり、より具体的には、流体供給に関する動作条件および測定チャンバ内の定常的な吸着/脱着平衡状態を得るために設計される流体供給装置の構造を必要としない、より簡単かつ迅速な標的化合物の特性化方法を提供することである。この特性化方法は、SPR技術に基づく、好ましくはSPRイメージングに基づく、電子ノーズを使用して実施することができるが、他の技術、例えば、NEMSまたはMEMSタイプの電気機械共振器の技術などを使用して実施することもできる。
【0015】
【0016】
【0017】
以下は、この特性化方法のうちのいくつかの好ましいが非限定的な態様である。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
分析システムは、表面プラズモン共鳴イメージングに基づく電子ノーズであってもよく、またはそれぞれが1つの感受性部位を形成する複数の別個の電気機械共振器を含む分析システムであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の他の態様、目的、利点および特徴は、それらの好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むことでより明確に明らかになるであろう。この説明は、非限定的な例として、添付図面を参照して与えられる。
既に説明した、
図1Aおよび
図1Bは、先行技術の一例による電子ノーズおよび測定キャリアの感受性部位の断面における(
図1A)および上から見た(
図1B)部分概略図である。
図2Aおよび
図2Bは、電子ノーズによって測定されるセンサグラムSu
k(t
i)の例、すなわち、従来型(conventional)といわれるプロファイルの場合(
図2A)および劣化型(degrade)といわれるプロファイルの場合(
図2B)における、様々な感受性部位によって反射され、電子ノーズのイメージセンサによって測定される、光放射の光強度の時間の関数としての変動の例である。
図3は、一実施形態による特性化方法の様々なステップを示すフローチャートである。
図4Aは、劣化型プロファイルセンサグラムSu
k(t
i)における時間の関数としての変動、および注入パラメータP
inj(t
i)における時間の関数としての変動(連続した太線)、およびその閾値P
inj,
th(t
i)における時間の関数としての変動(太い破線)を示す。また、
図4Bは、
図4Aの部分的かつ詳細な図を示しており、より正確には、P
inj(t
i)およびP
inj,
th(t
i)における時間の関数としての変動を示しており、流体供給ステップにおける標的化合物の注入のフェーズP2を特定(同定)することを可能にする。
図5Aおよび
図5Bは、
図2Bに示されているものと同一または類似の劣化型プロファイルセンサグラムSu
k(t
i)を合計することによって得られる補正信号Sc
k(t
i)における時間の関数としての変動の一例(
図5A)、ならびに正規化信号Sn
k(t
i)における時間の関数としての変動(
図5B)および対応する安定性パラメータP
s(t
i)における時間の関数としての変動の一例を示す。
図6Aおよび
図6Bは、
図2Bに示されているものと同一または類似の劣化型プロファイルセンサグラムSu
k(t
i)にローパスフィルタリングを適用することによって得られる、補正信号Sc
k(t
i)における、時間の関数としての変動の一例(
図6A)、ならびに正規化信号Sn
k(t
i)における、時間の関数としての変動の一例(
図6B)、および対応する安定性パラメータP
s(t
i)における、時間の関数としての変動の一例を示す。
図7Aは、センサグラムが劣化型プロファイルを有する場合の、一実施形態による特性化方法によって得られた相互作用パターンの一例を示す。また、
図7Bは、
図2Bに示されているものと同一または類似のセンサグラムに関連する瞬間相互作用強度I
int(t
i)における時間の関数としての変動の一例を示す。
【0029】
特定の実施形態の詳細な開示
図および説明の残りの部分において、同一または類似の要素を示すために同じ参照が使用されている。また、図の明瞭性を向上させるために、種々の要素は縮尺通りに示されていない。さらに、様々な実施形態および変形は、相互に排他的ではなく、互いに組み合わせることができる。特に明記しない限り、「実質的に(substantially)」、「約(about)」および「のオーダーの(of the order of)」という用語は、10%以内、好ましくは5%以内を意味する。
【0030】
本発明は、測定装置、流体供給装置、および処理ユニットを含む分析システムによって、流体試料に含まれる標的化合物を特性化することに関する。以下に詳述するように、測定装置は、標的化合物を含む流体(気体または液体)試料を受け入れるのに適した測定チャンバを含み、そこで、測定チャンバは、複数の別個の感受性部位に配置され、それぞれは、吸着/脱着によって標的化合物と相互作用するのに適した少なくとも1つの受容体を含む。
【0031】
説明の残りの部分では、分析システムは、表面プラズモン共鳴(SPR)イメージングに基づく電子ノーズである。しかし、他の特性評価技術を使用してもよい。これに関して、分析システムは、電子ノーズの代替として、MEMS共振器(MEMSは、微小電気機械システム(micro-electro-mechanical system)の頭字語である)またはNEMS共振器(NEMSは、ナノ電気機械システム(nano-electro-mechanical system)の頭字語である)を含んでもよい。この種の技術は当業者に公知であり、このような分析システムの例は、文献EP3184485に記載されている。分析システムは、互いに異なる複数の電気機械共振器を含み、各共振器の表面は、受容体の存在によって機能化され、したがって感受性部位を形成する。既知の方法では、標的化合物と感受性部位の受容体との間の相互作用は、電気機械共振器の共振周波数の変更(modification)を引き起こす。したがって、電子ノーズのSPR技術と同様に、共振周波数の変動を測定することにより、標的化合物と問題のランクkの感受性部位の受容体との間の相互作用を表す測定信号Sk(ti)を得ることができる。共振周波数の変動は、とりわけ、ピエゾ抵抗または容量性測定を介して測定することができる。
【0032】
一般に、特性化(特徴づけ)とは、流体試料中に含まれる標的化合物と分析システムの様々な感受性部位の受容体との相互作用を表す情報を得ることを意味する。問題の相互作用は、ここでは、標的化合物が受容体に吸着および/または受容体から脱離する事象である。したがって、この情報は、相互作用パターン、または言い換えれば、標的化合物の「識別特性(シグネチャ)(signature)」を形成し、このパターンは、例えば、ヒストグラムまたはレーダーチャートの形で表すことができる。より正確には、分析システムがN個の別個の感受性部位を含む場合、相互作用パターンは、N個の代表的な情報項目によって形成され、これらは、問題の感受性部位について得られた測定光信号の強度に相関する値から形成される。
【0033】
一般に、標的化合物は、電子ノーズによって特性化されることが意図され、流体試料中に含まれる要素である。これらは、例示として、とりわけ、細菌、ウイルス、タンパク質、脂質、揮発性有機分子、無機化合物であり得る。さらに、受容体は、感受性部位に固定され、標的化合物と相互作用する能力を示す要素であるが、感受性化合物と受容体との間の化学的および/または物理的親和性は必ずしも知られていない。様々な感受性部位の受容体は、好ましくは、標的化合物と相互作用するそれらの能力に影響を及ぼす、異なる物理化学的特性を有する。これは、例えば、とりわけ、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、ポリペプチド、タンパク質、有機ポリマーの問題であり得る。
【0034】
簡単に上述した
図1Aおよび
図1Bを参照すると、電子ノーズ1は、電子ノーズの測定チャンバ4内に導入される流体試料中に含まれる標的化合物、例えば、とりわけ、臭気分子または揮発性有機化合物を特性化することを可能にする光電子システムである。ここで、これらの図に示す電子ノーズ1は、当業者には知られている、いわゆるクレッチマン構成の特徴を有するが、本発明はこの構成に限定されるものではない。流体試料は、液体または気体試料であってもよい。説明の残りの部分では、これは気体試料の問題である。
【0035】
電子ノーズ1は、分析される気体試料を受け入れることが意図された測定チャンバ4内に配置され、互いに異なる複数の感受性部位6を含み、それぞれが、研究対象の標的化合物と相互作用することができ、したがって、試料と異なる様式で相互作用することができる、受容体から形成される。感受性部位6は、それらが分析される標的化合物に関して、化学的または物理的親和性の点で、異なる受容体を含むという意味で互いに異なり、したがって、1つの感受性部位6から次の感受性部位6まで異なる相互作用情報を送達することを意図している。感受性部位6は、測定キャリア5の別個の領域であり、互いに隣接していてもよいし、離間していてもよい。さらに、電子ノーズ1は、例えば、任意の測定ドリフトを検出するため、または欠陥のある感受性部位を識別するために、複数の同一の感受性部位6を含んでもよい。
【0036】
電子ノーズは、SPRイメージングタイプの光学測定装置3を備え、各感受性部位6について、ここでは、問題の感受性部位6に関連する光信号の強度の測定を介して、標的化合物と受容体との相互作用を定量化することができ、ここで、この光信号は、光源によって放出される励起光放射の一部、ここでは反射部分である。測定した光信号の強度は、標的化合物と受容体間との間の相互作用と直接相関している。
【0037】
SPRイメージングによる測定の文脈において、光学測定装置3は、すべての感受性部位6から発生する光放射をリアルタイムで取得するのに適している。したがって、複数の感受性部位6によって放出される光信号は、同一の光センサ8で取得された画像(image)の形で、一括してリアルタイムに計測される。
【0038】
したがって、光学測定装置3は、いわゆる励起光放射を感受性部位6の方向に送信し(transmit)、測定キャリア5上に表面プラズモンを発生させるのに適した光源7を備えている。光源7は、発光スペクトルが中心波長λcを中心とする発光ピークを有する、発光ダイオードから形成することができる。光源7と測定キャリア5との間には、種々の光学素子(レンズ、偏光子など)を配置することができる。
【0039】
光学測定装置3は、さらに、イメージセンサ8、すなわち、励起光放射に応答して感受性部位から発生する光放射の画像を収集するのに適したマトリックスアレイ光センサを備える。イメージセンサ8は、マトリックスアレイ光検出器、例えばCMOSまたはCCDセンサである。したがって、それは、好ましくは、複数の画素(ピクセル)が、所与の感受性部位6に関連する反射光放射の一部を取得するような空間分解能である、画素のマトリクスアレイを含む。
【0040】
処理ユニット(不図示)は、特性化方法の文脈で以下に説明する処理動作を実行させることを可能にする。それは、少なくとも1つのマイクロプロセッサおよび少なくとも1つのメモリを含むことができる。それは、光学測定装置3に接続され、より正確にはイメージセンサ8に接続される。それは、データ記憶媒体に記憶(store)された命令を実行することができるプログラム可能なプロセッサを含む。それは、さらに、特性化方法を実施するために必要な命令を含む少なくとも1つのメモリを含む。このメモリは、また各測定時に算出された情報を記憶するのにも適している。
【0041】
以下に説明するように、処理ユニットは、カレントタイム(現在時刻)(current time)tiで、ランクkの感受性部位と関連する光学測定信号Sk(ti)を決定するために、測定期間Δtにおいて所定のサンプリング周波数feで取得した、いわゆるエレメンタリイメージ(elementary image)と呼ばれる複数の画像を記憶処理するのに特に適している。
【0042】
流体供給装置2は、標的化合物の有無にかかわらずキャリアガスから形成される気体試料を測定チャンバ4に供給するのに適している。上述のように、流体試料は、変形例として、液相(キャリア液、標的化合物を含むまたは含まない)内にあってもよい。この目的のために、前記装置は、キャリアガスのリザーバと、標的化合物のソース(source)とを含む。それは、測定チャンバ4の入口に接続された複数の流体ラインを含むことができ、バルブおよびマスフロー(mass flow)レギュレータを含むことができる。したがって、それは、測定チャンバ4に、標的化合物を含まない少なくとも1つのキャリアガスを、例えば、初期フェーズおよび解離フェーズにおいて、供給することができ、標的化合物を注入フェーズにおいて注入することができる。測定チャンバ内の標的化合物の濃度が経時的に一定であることを確実にすることができる場合もあれば、そうでない場合もある。
【0043】
図2Aは、センサグラムそれぞれが従来型であると言われるプロファイルを有する特性化方法の文脈において、それぞれが電子ノーズの1つの感受性部位に関連するセンサグラムSu
k(t)の例を示す。すなわち、以下に説明するように、それらは、標的化合物と受容体との間の定常平衡状態の存在を明らかにする。
【0044】
センサグラムは、標的化合物と感受性部位の受容体との間の相互作用を表す信号における時間の関数としての変動に対応する。この例では、それは、ランクkの感受性部位に関連する、有用信号(useful signal)と呼ばれる、光信号Suk(t)の強度の問題であり、ここでは、より正確には、標的化合物と感受性部位の受容体との吸着および脱着相互作用に関連する、問題のランクkの感受性部位の屈折率の変更に対応する反射率ΔRの変動の問題である。
【0045】
公知の方法では、従来型プロファイルのセンサグラムは、初期フェーズP1、標的化合物の注入フェーズP2、次いで、解離フェーズP3を示す。センサグラム信号の強度は、問題の感受性部位の受容体の数に比例する。
【0046】
初期フェーズP1は、標的化合物を含まない、キャリア流体のみの測定チャンバへの導入に対応する。したがって、センサグラムは、測定環境の基準信号特性を表す。よって、この基準信号は、標的化合物の相互作用を表す有用信号を得るために、続いて、測定信号から差し引かれることが意図される。
【0047】
標的化合物を注入するフェーズP2は、キャリア流体および標的化合物から形成された流体試料の測定チャンバへの導入に対応する。このフェーズは、遷移同化状態P2.1とそれに続く定常平衡状態P2.2を含む。
【0048】
遷移同化状態P2.1は、標的化合物が測定チャンバに注入されるとき、標的化合物と受容体との間の相互作用における漸進的であるが指数関数的な増加(ラングミュア(Langmuir)の法則)に対応する。次いで、同化状態におけるセンサグラムの指数関数的成長は、脱着事象よりもより多くの吸着事象が存在するという事実による。
【0049】
この点に関して、標的化合物A(Aは分析物を表す)と受容体L(Lはリガンドを表す)との間の相互作用は、標的化合物Aが受容体L上に吸着して標的化合物/受容体LA(LAはリガンド-分析物を表す)を形成する定数ka(mol-1.s-1における)、および化合物LAの解離に対応する脱着の定数kb(s-1における)によって特性化される可逆的効果であることに留意されたい。比kd/kaは平衡解離定数kD(モルにおける)を形成し、これは受容体Lの50%が飽和する標的化合物Aの濃度cAの値を与える。
【0050】
定常平衡状態P2.2は、化合物LAの濃度cLA(t)が一定のままdcLA/dt=0のとき、すなわち、定数kaと標的化合物cA(t)および受容体cL(t)の濃度の積(吸着事象数)が、定数kdと化合物LAの濃度cLA(t)の積(脱着事象数)に等しいとき、または言い換えると、以下の反応速度式dcLA/dt=ka×cA×cL-kd×cLA=0のときに到達される。応答信号の最大定常状態値は、標的化合物Aの濃度cA(t)に比例する。感受性部位における受容体Lの飽和は、標的化合物Aの濃度cAが十分である場合に達成され得る。
【0051】
解離フェーズP3は、測定チャンバ内に存在する標的化合物を除去するステップに対応し、その結果、化合物LAの濃度は、通常、指数関数的に減少する。
【0052】
上述の反応速度式から明らかなように、定常平衡状態P2.2では、注入ステップP2において、測定チャンバ内の標的化合物Aの濃度cA(t)を一定に保つ必要がある。したがって、標的化合物Aの濃度cA(t)が時間とともに変化しても平衡状態には到達することはできない。したがって、電子ノーズの流体供給装置は、測定チャンバ内の標的化合物の濃度cA(t)を正確に制御することが必要であり、ならびに、特性化方法は、標的化合物を流体的に管理するための厳密なプロトコル、および厳密かつ制御された動作条件を含む必要がある。
【0053】
図2Bは、電子ノーズの感受性部位に関連するセンサグラムSu
k(t)の別の例を示す。それらは、特に、プロファイルが定常平衡状態P2.2を示さないという点で、
図2Aに示されているものとは異なり、したがって劣化していると言われる。
【0054】
センサグラムSuk(t)は、初期フェーズP1、標的化合物を注入するフェーズP2、および解離フェーズP3も含む流体供給ステップで得られる。ここで、初期フェーズP1および解離フェーズP3は、上述したものと同様である。対照的に、注入フェーズP2では、センサグラムSuk(t)が大きな強度変動を示すことがわかるので、よって、いかなる遷移同化状態P2.1を特定することも、定常的平衡状態P2.2を特定することもできない。
【0055】
このタイプの劣化型センサグラムプロファイルは、測定チャンバ内の標的化合物の濃度cA(t)が経時的に変化する状況を表すことができる。その場合、標的化合物が受容体に吸着する速度と受容体から脱着する速度との間の定常平衡状態は得ることはできない。これらのセンサグラムは、経時的な濃度cA(t)の値を制御することができず、特に、標的化合物が一定濃度cA(t)を有していない場合に、実際の制御されていない条件下で電子ノーズが使用される場合に、簡略化された流体供給装置を使用して得ることができる。したがって、一例を挙げれば、それは、屋外に存在し、その濃度を制御することができない臭気の注入の問題である可能性がある。
【0056】
本発明に係る特性化方法は、従来型プロファイルまたは劣化型プロファイルを有するセンサグラムに基づいて、すなわち、測定チャンバ内の標的化合物の濃度cA(t)が一定であるか否かに基づいて、標的化合物を特性化することを可能にする。この特性化方法は、さらに、標的化合物に関する追加情報、例えば、受容体によって吸着された標的化合物の瞬間的な集団(instantaneous population)を表す瞬間的な相互作用強度Iint(ti)、および注入フェーズP2の期間における標的化合物に対する受容体の総曝露レベルなどを提供することができるという利点を有する。ここで、「瞬間的な」特性は、イメージセンサの積分時間、その取得期間Δtなどに関連するものであり、(はるかに速い)物理的吸着/脱着効果の有効特性時間に関連するものではない。
【0057】
図3は、一実施形態による、標的化合物を特性化する方法のフローチャートを示す。流体試料はここでは気体試料である。
【0058】
第1のステップ100において、気体試料を備えた電子ノーズの測定チャンバの流体供給が活性化される。このステップは、最初の第1のフェーズP1、標的化合物を注入するフェーズP2、そして次に解離フェーズP3を含む。
【0059】
この例では、流体供給装置は、濃度cA(t)が必ずしも一定に保たれることがなくても、測定チャンバ内に標的化合物を注入するのに適している。濃度cA(t)は、時間の関数として実質的な変動を示し得るのと同様に、一定のままであり得る。いずれの場合も、濃度cA(t)は、常に、電子ノーズの検出限界に対応する最小濃度を上回っていると推測される。したがって、注入フェーズは必ずしも定常平衡状態を示すとは限らない。
【0060】
測定信号を決定し、データを処理する以下のステップは、流体供給ステップにおいて実行され、安定性基準が満たされるまで、複数の連続する(successive)測定時間tiにわたって繰り返される。したがって、各反復で、iは1つの測定時間tiに関連付けられ、これはカレントタイムとも呼ばれる。
【0061】
【0062】
より正確には、イメージセンサは、2つの連続する測定時間ti―1とtiを分離する期間Δtにおいて、サンプリング周波数feで、N個の別個の感受性部位のマトリックスアレイの、基本画像(elementary image)と呼ばれる、複数の画像Iemを取得し、mは、基本画像Ieの取得ランクである。サンプリング周波数feは、10画像/秒であることができ、取得期間Δtは、数秒、例えば4秒であることができる。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
さらに、測定チャンバ内の標的化合物の濃度cA(t)が一定でなく、したがって、センサグラムが定常平衡状態P2.2を示さない場合であっても、特性化方法は、相互作用パターンを生成することができる。したがって、「実際の条件」の下で、すなわち、単純化された動作条件および単純化された流体供給プロトコルの下で、標的化合物を特性化することが可能である。したがって、これにより、特性化方法が単純化され、また、特にバルブおよびマスフローコントローラの観点から、流体供給装置の構造的複雑性が軽減される。同時に、この正規化されたインジケータは、サイト(site)間の速度論で起こり得る可能性があり、研究された標的化合物の特性となる可能性がある、競合への窓へのアクセスを提供する。
【0080】
図4Aおよび4Bは、注入フェーズP2を識別するサブステップ510を示す。
図4Aは、
図2Bにおけるものと同様の劣化型プロファイルセンサグラムの場合における、有用信号Su
k(t
i)における時間の関数としての変動、注入パラメータP
inj(t
i)における時間の関数としての変動、およびその閾値P
inj,th(t
i)における時間の関数としての変動を示す。
図4Bは、
図4Aの一部を詳細に示す。特に
図4Bは、注入パラメータP
inj(t
i)における時間の関数としての変動(破線)、および閾値P
inj,th(t
i)における時間の関数としての変動(実線)を示す。閾値P
inj,th(t
i)は、流体供給ステップの初期フェーズP1のトレーニングフェーズ内にあり、その後、設定された一定の値を有することが分かる。注入パラメータP
inj(t
i)により、期間T
learnにおいて、P
inj,thの最終設定値を定義することができる。続いて、時間の関数としてのその変動は、P
inj(t
i)がP
inj,thより高いか等しいか、またはより低いかによって、注入フェーズP2、次いで解離フェーズP3を識別することを可能にする。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
特定の実施形態について説明した。様々な修正および変形は、当業者には自明であると思われる。
【0086】
前述のように、標的化合物を含有する流体試料は、気体または液体であり得る。この特性化方法は、好ましくは、SPRイメージングに基づく電子ノーズによって気体試料を用いて実施されるが、電気機械式NEMSまたはMEMS共振器による分析などの他の分析技術を実施してもよい。
【国際調査報告】