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特表2022-519238アルミニウム合金製の板または帯の製造方法ならびにそれにより製造された板、帯または成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-22
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製の板または帯の製造方法ならびにそれにより製造された板、帯または成形品
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/047 20060101AFI20220314BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20220314BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220314BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20220314BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220314BHJP
【FI】
C22F1/047
C22F1/053
C22C21/06
C22C21/10
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544421
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(85)【翻訳文提出日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2020052375
(87)【国際公開番号】W WO2020157246
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】19154632.4
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518247391
【氏名又は名称】アーエムアーゲー ローリング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】パウル エーベンベルガー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー フラーグナー
(72)【発明者】
【氏名】ボード ゲロルト
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ポガチャー
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス シュテンペル
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ヨット. ウゴヴィッツァー
(57)【要約】
アルミニウム合金製の板または帯の製造方法ならびにそれにより製造された板、帯または成形品が示される。粗い表面およびひずみ模様は、特別な組成およびミクロ構造を有する冷間圧延した板または帯が、再結晶焼なましと、続いて加速冷却とを含む熱処理にかけられる場合に回避することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム(Mg) 2.0~5.5質量%、
マンガン(Mn) 0.2~1.2質量%、
任意で
ケイ素(Si) 0.45質量%まで、
鉄(Fe) 0.55質量%まで、
クロム(Cr) 0.35質量%まで、
チタン(Ti) 0.2質量%まで、
銀(Ag) 0.2質量%まで、
亜鉛(Zn) 4.0質量%まで、
銅(Cu) 0.8質量%まで、
ジルコニウム(Zr) 0.8質量%まで、
ニオブ(Nb)0.3質量%まで、
タンタル(Ta) 0.25質量%まで、
バナジウム(V) 0.05質量%まで
および残部としてアルミニウムならびに製造に起因して不可避の不純物を含有し、前記不純物がそれぞれ最大0.05質量%および合わせて0.15質量%以下であるアルミニウム合金製の板または帯の製造方法であって、次の方法工程を有する:
圧延用インゴットを鋳造する工程、
前記圧延用インゴットを均質化する任意の工程、
前記圧延用インゴットを熱間圧延して、熱間圧延した板または帯にする工程、
前記の熱間圧延した板または帯を最終厚さに冷間圧延し、任意で前記板または帯の中間焼なましを伴う工程、ここで、前記の最終厚さに冷間圧延した板または帯が、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子を有する少なくとも1種の金属間相を有する、
前記の最終厚さに冷間圧延した板または帯を熱処理する工程であって、再結晶焼なましと、続いて加速冷却および任意で前記の加速冷却した板または帯の安定化とを含む工程、ここで、前記の熱処理した板または帯が、60μm以下の平均結晶粒度Dを有し、かつ前記平均結晶粒度D[mm]および1mmあたりの前記アルミニウム合金における前記の第1の粒子の数Aが、条件
√D×A>1.8
を満たす、前記方法。
【請求項2】
√D×A>2、殊に>2.5
であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再結晶焼なましを、300℃以上、殊に600℃まで、好ましくは450℃~550℃で行う、および/または
殊に180℃未満、殊に室温への前記加速冷却を、少なくとも10K/s、殊に少なくとも20K/sまたは少なくとも50K/sの冷却速度で行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2.5℃/s未満、殊に2℃/s未満または1℃/s未満または0.75℃/s未満の冷却速度を遵守して前記圧延用インゴットを凝固させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記の任意の均質化を450℃~550℃で少なくとも0.5h行う、および/または
前記熱間圧延を280℃~550℃で行う、および/または
前記冷間圧延を、殊に前記中間焼なまし後に、10%~65%、殊に15%~65%の圧延度を有する最終厚さになるまで行う、および/または
前記板または帯の前記の任意の中間焼なましを300℃~500℃で行う、および/または
前記の任意の安定化を80℃~120℃で少なくとも0.5h行うことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記中間焼なまし後の圧延度[%]および冷却速度[℃/s]の積が、条件10≦圧延度×冷却速度≦50、殊に20≦圧延度×冷却速度≦45を満たすことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属間相、好ましくは一次金属間相が、Al-Mn基を有し、殊にタイプAl13(Mn,Fe)またはタイプAl15FeMnSiまたはタイプAl12MnまたはタイプAlMnのものであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルミニウム合金が、
マグネシウム(Mg) 4.0~5.0質量%および/または
マンガン(Mn) 0.2~0.5質量%および
任意で
亜鉛(Zn) 2.0~4.0質量%
を含有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
マグネシウム(Mg) 2.0~5.5質量%、
マンガン(Mn) 0.2~1.2質量%、
任意で
ケイ素(Si) 0.45質量%まで、
鉄(Fe) 0.55質量%まで、
クロム(Cr) 0.35質量%まで、
チタン(Ti) 0.2質量%まで、
銀(Ag) 0.2質量%まで、
亜鉛(Zn) 4.0質量%まで、
銅(Cu) 0.8質量%、
ジルコニウム(Zr) 0.8質量%まで、
ニオブ(Nb) 0.3質量%まで、
タンタル(Ta) 0.25質量%まで、
バナジウム(V) 0.05質量%まで
および残部としてアルミニウムならびに製造に起因して不可避の不純物を含有し、前記不純物がそれぞれ最大0.05質量%および合わせて0.15質量%以下であるアルミニウム合金製の板または帯であって、前記板または帯が、60μm以下の平均結晶粒度Dを有し、かつ5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子を有する少なくとも1種の金属間相を有し、かつ前記平均結晶粒度D[mm]および1mmあたりの前記アルミニウム合金における第1の粒子の数Aが、条件
√D×A>1.8
を満たし、ここで、前記板または帯は、再結晶焼なましと、続いて加速冷却および任意で前記の加速冷却した板または帯の安定化とを含む熱処理にかけられていることを特徴とする、前記板または帯。
【請求項10】
√D×A>2、殊に>2.5
であることを特徴とする、請求項9に記載の板または帯。
【請求項11】
それぞれの第1の粒子の結晶構造が、200超、殊に400超の転位を有することを特徴とする、請求項9または10に記載の板または帯。
【請求項12】
前記アルミニウム合金における前記の第1の粒子の数Aが、10粒子/mm以上、殊に25粒子/mm以上、好ましくは35粒子/mm以上であることを特徴とする、請求項9から11までのいずれか1項に記載の板または帯。
【請求項13】
前記金属間相、好ましくは一次金属間相が、Al-Mn基を有し、殊にタイプAl13(Mn,Fe)またはタイプAl15FeMnSiまたはタイプAl12MnまたはタイプAlMnのものであることを特徴とする、請求項9から12までのいずれか1項に記載の板または帯。
【請求項14】
前記アルミニウム合金が、
マグネシウム(Mg) 4.0~5.0質量%および/または
マンガン(Mn) 0.2~0.5質量%および
任意で
亜鉛(Zn) 2.0~4.0質量%
を含有することを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項に記載の板または帯。
【請求項15】
請求項9から14までのいずれか1項に記載の板成形した板または帯からなる成形品、殊に車両部品、好ましくは車体部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製の板または帯の製造方法ならびにそれにより製造された板、帯または成形品に関する。
【0002】
従来技術
5xxx-アルミニウム合金もしくはAl-Mg基のアルミニウム合金の強度および成形性もしくは延性、殊に深絞り成形性を調節するために、前記板または帯もしくは前記アルミニウム合金板またはアルミニウム合金帯の金属構造において、より微細な平均結晶粒度、すなわち60μmまたは欧州特許出願公開第0507411号明細書(EP0507411A1)によれば50μm未満の平均結晶粒度にすることは公知である。60μm以下のそのようなより微細な結晶粒度の場合に不利なことは、塑性変形した板または帯の表面のタイプAひずみ模様、すなわちリューダース線のおそれがあることである。したがって、Al-Mg-Mn合金は、例えば、ssf(strech strain free)品質またはffa(ひずみ模様の少ない)品質、すなわちタイプAひずみ模様がないかまたは減少していることが要求される、車体製造における外板パネルへの適性が限定的である。
【0003】
発明の説明
したがって、本発明の課題は、主合金元素のうちの1種としてMgを有するアルミニウム合金製の板または帯の製造方法ならびに比較的高い強度および成形性ならびにssf品質またはffa品質を有する冒頭に記載された種類の板または帯を生み出すことである。そのうえ、前記方法は操作において単純であり、かつ再現性があるべきである。
【0004】
本発明は、前記方法に関して課された課題を、請求項1の特徴により解決する。
【0005】
本発明によれば、前記方法における前記板または帯は、アルミニウム合金製、すなわちマグネシウム(Mg)2.0~5.5質量%、マンガン(Mn)0.2~1.2質量%、任意にケイ素(Si)0.45質量%まで、任意に鉄(Fe)0.55質量%まで、任意にクロム(Cr)0.35質量%まで、任意にチタン(Ti)0.2質量%まで、任意に銀(Ag)0.2質量%まで、任意に亜鉛(Zn)4.0質量%まで、任意に銅(Cu)0.8質量%まで、任意にジルコニウム(Zr)0.8質量%まで、任意にニオブ(Nb)0.3質量%まで、任意にタンタル(Ta)0.25質量%まで、任意にバナジウム(V)0.05質量%までおよび残部としてアルミニウムならびに製造に起因して不可避の不純物を有し、前記不純物はそれぞれ最大0.05質量%および合わせて0.15質量%以下で有する組成を有するアルミニウム合金製である。
【0006】
前記方法は、次の方法工程を有する:
・圧延用インゴットを鋳造し、
・前記圧延用インゴットを熱間圧延して、熱間圧延した板または帯にし、
・前記の熱間圧延した板または帯を最終厚さに冷間圧延し、
・最終厚さに冷間圧延した板または帯を、再結晶焼なましと、続いて加速冷却とを含めて、熱処理する。
【0007】
任意に、前記方法は、次の方法工程を有していてよい:
・前記圧延用インゴットを均質化し、
・前記板または帯を、前記の熱間圧延した板または帯の最終厚さへの冷間圧延の際に、中間焼なましし、
・前記の加速冷却した板または帯を、前記熱処理の際に、安定化させる。
【0008】
本発明によれば、前記熱処理前に、前記の最終厚さに冷間圧延した板または帯は、5μm~10μmの平均粒子径(ASTM E112の切片法により測定)を有する第1の粒子を有する少なくとも1種の金属間相、殊に一次金属間相を有し、これは、前記熱処理前の前記方法工程によるものである。例えば、少なくとも鋳造および冷間圧延においては、殊に前記中間焼なまし後に、前記板または帯が、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子を有する少なくとも1種の金属間相を有するように互いに調整される。これらの第1の粒子、ひいては一次粒子は、相対的に粗大である。そのうえ、前記一次相のこれらの粒子は、後続の再結晶焼なましに対してもしくは後続の熱処理に対しても、高い安定性を有する。
【0009】
そのような組成およびミクロ構造で、高い強度および成形性ならびにssf品質またはffa品質を有する板または帯が製造でき、しかも、そのうえこの最終厚さに冷間圧延した板または帯が前記熱処理後に60μm以下の平均結晶粒度D(ASTM E112の切片法により測定)を有し、かつ前記平均結晶粒度D[mm]および1mmあたりの前記アルミニウム合金における前記の第1の粒子の数Aが条件√D×A>1.8を満たす場合に、例えばこの板または帯において前記熱処理の前記再結晶焼なましがそのように実施される。前記再結晶焼なましに続く加速冷却により、異なる熱膨張係数に起因して、その組織内に、しかもアルミニウムマトリックスと前記金属間相の前記の第1の粒子との間に内部応力が生じ、このことが、前記金属間相の第1の粒子で十分な数の自由転位をもたらす。それによって、前記板または帯の成形の際に、リューダース線転位は不必要であるかまたは必ずしも形成されるとは限らない。これは、不都合な変形の場合でももしくは成形した板または帯の複雑な幾何学的形状の場合でも同様である。
【0010】
そのうえ、この方法は、その操作において単純であり、かつ例えば前記加速冷却のための水冷により、板または帯をssf品質またはffa品質において製造するために、最も高い再現性を有する。
【0011】
前記板または帯における転位の数は、√D×A>2である場合に、前記方法においてさらに高めることができる。殊に√D×A>2.5である場合に、前記板または帯は、比較的複雑な幾何学的形状または不都合な塑性変形の場合にも前記の成形した板または帯の表面のひずみ模様、例えばタイプAのリューダース線をおそれる必要なく、比較的高い品質要求を満たすことができる。
【0012】
前記方法は、前記熱処理の際に前記再結晶焼なましが、300℃(セルシウス度)以上、殊に600℃までの温度で保持することにより行う場合に、その再現性においてさらに改善することができる。このことは、前記再結晶焼なましが450℃~550℃で行われる場合に、さらに改善することができる。そのうえ、この焼なまし温度は、前記組織に加速冷却により十分に予備応力をかけて、さらに続いて必ずしもリューダース線転位をしない転位を前記の第1の粒子で生成するのに十分でありうる。
【0013】
これは殊に、前記の加熱された板が少なくとも10K/s(ケルビン毎秒)、殊に少なくとも20K/sまたは少なくとも50K/sの冷却速度で、加速冷却される場合であり、その際に、殊に180℃未満、殊に室温へのこの加速冷却を行うことができる。
【0014】
前記平均粒子径において十分に大きく形成される第1の粒子は、前記圧延用インゴットが2.5℃/s未満の冷却速度(もしくは冷却率)を遵守して凝固する場合に保証することができる。これは、前記冷却速度が2℃/s未満または1℃/s未満または0.75℃/s未満である場合に、さらに改善することができる。そのうえ、それによって、前記平均粒子径の場合による低下は、後続の方法工程により、例えば前記冷間圧延により阻止して、前記熱処理前の5μm~10μmの平均粒子径を保証することができる。
【0015】
そのうえ、前記の任意の均質化は、450℃~550℃で少なくとも0.5h保持することにより行うことができる。
前記熱間圧延は、280℃~550℃で行うことができる。
前記最終厚さへの前記冷間圧延は、10%~65%、殊に20%~50%の圧延度で行うことができる。殊に、前記中間焼なまし後の前記冷間圧延は、前記の5μm~10μmの平均粒子径の再現性を改善するために、10%~65%、殊に20%~50%の圧延度で行う場合が利点でありうる。
前記の任意の中間焼なましは、300℃~500℃で保持することにより行うことができる。
前記の任意の安定化は、80℃~120℃で少なくとも0.5h保持することにより行うことができる。
【0016】
前記熱処理前の5μm~10μmの平均粒子径は、殊に、前記中間焼なまし後の圧延度[%]および冷却速度[℃/s]の積が、条件10≦圧延度×冷却速度≦50、殊に20≦圧延度×冷却速度≦45を満たす場合に、保証することができる。
【0017】
前記金属間相がAl-Mn基を有する場合には、前記アルミニウム合金においてひずみ模様が特に安定的に回避される転位を生み出すことができる。好ましくは、前記金属間相は、タイプAl13(Mn,Fe)またはタイプAl15FeMnSiまたはタイプAl12MnまたはタイプAlMnのものである。前記一次相のこれらの第1の粒子は、特に安定な相である。また、前記一次相が前記金属間相を形成して、前記板または帯の熱処理との相互作用で十分な数の転位を生み出すことが考えられる。
【0018】
ゆず肌およびひずみ模様を回避しながらの高い強度および成形性は、前記アルミニウム合金(Al-Mg-Mn基を有する)が、マグネシウム(Mg)4.0~5.0質量%および/またはマンガン(Mn)0.2~0.5質量%を有する場合に前記方法により達成できる。
【0019】
特に高い強度は、前記アルミニウム合金が付加的に亜鉛(Zn)2.0~4.0質量%を有する(Al-Mg-Zn基)場合に達成できる。任意に、このアルミニウム合金はさらに銅(Cu)0.8質量%までを有していてよい。
【0020】
本発明は、前記板または帯に関して課された課題を請求項8の特徴により解決する。
【0021】
アルミニウム合金製の前記板または帯が、このような合金含有率、すなわちマグネシウム(Mg)2.0~5.5質量%、マンガン(Mn)0.2~1.2質量%、任意にケイ素(Si)0.45質量%まで、任意に鉄(Fe)0.55質量%まで、任意にクロム(Cr)0.35質量%まで、任意にチタン(Ti)0.2質量%まで、任意に銀(Ag)0.2質量%まで、任意に亜鉛(Zn)4.0質量%まで、任意に銅(Cu)0.8質量%まで、任意にジルコニウム(Zr)0.8質量%まで、任意にニオブ(Nb)0.3質量%まで、任意にタンタル(Ta)0.25質量%までおよび残部としてアルミニウムならびに製造に起因して不可避の不純物という含有率を有し、かつ前記不純物がそれぞれ最大0.05質量%および合わせて0.15質量%以下を有する場合には、例えば車体製造における外板パネルに要求されるような、十分に高い強度および成形性/延性が達成できる合金組成が利用できる。
【0022】
ゆず肌およびひずみ模様、とりわけリューダース線がないことは、成形した板または帯上で、この板または帯が、60μm以下の平均結晶粒度D(ASTM E112の切片法により測定)を有し、かつ5μm~10μmの平均粒子径(ASTM E112の切片法により測定)を有する第1の粒子を有する少なくとも1種の金属間相、殊に一次金属間相を有し、その際に平均結晶粒度D[mm]および1mmあたりの前記アルミニウム合金における前記の第1の粒子の数Aが条件√D×A>1.8を満たす場合に可能になりうる。そのうえ、前記板または帯が、再結晶焼なましと、続いて加速冷却とを含めた熱処理に、および任意に前記の加速冷却した板または帯の安定化にかけられていることが必要である。それによって、前記の第1の粒子で前記板または帯の組織における転位が生成される。これらの第1の粒子、ひいては一次粒子は、前記板または帯のミクロ構造がさらに調節される前記熱処理に対しても安定である。
【0023】
こうして、本発明による60μm以下の平均結晶粒度Dは、前記板または帯の比較的微細な結晶粒により、高い強度および成形性が可能になることをもたらす。
【0024】
しかしながら、最後に挙げたものは、前記の成形した板または帯の表面のひずみ模様により損なわれない。なぜなら、本発明によれば、前記板または帯中に存在する第1の粒子が、5μm~10μmの限定された平均粒子径を有し、ならびに平均結晶粒度D[mm]および1mmあたりの前記アルミニウム合金における前記の第1の粒子の数Aが条件√D×A>1.8を満たすからである。
【0025】
すなわち前記製造方法において、前記板または帯が、再結晶焼なましおよびその後の加速冷却により熱処理される場合には、これは、前記組成およびそれから得られるミクロ構造に基づいて、前記板または帯における十分に高い数の転位を引き起こしうる。これは、複雑な幾何学的形状の場合でさえもリューダース線転位の形成を防止する。したがって本発明によれば、好ましくはAl-Mg基(もしくは主合金元素のうちの1種としてMg)を有するアルミニウム合金製の板または帯がssf品質またはffa品質で製造されており、前記板または帯はそのうえ、例えば車体製造における外板パネルに十分な強度および成形性において傑出しうる。
【0026】
前記板または帯における転位の数は、√D×A>2である場合に、さらに高めることができる。殊に√D×A>2.5である場合に、前記板または帯は、比較的複雑な幾何学的形状または不都合な塑性変形の場合でも成形した板または帯の表面のひずみ模様、例えばタイプAのリューダース線をおそれる必要なく、比較的高い品質要求を満たすことができる。
【0027】
十分な数の転位は、前記の成形した板または帯上のひずみ模様を回避するために、それぞれ第1の粒子の結晶構造が200超、殊に400超の転位を有する場合に得ることができる。これは、前記板または帯が、加熱によりおよびその後の加速冷却により、それぞれの第1の粒子での前記結晶構造が200超、殊に400超の転位を有するように熱処理された場合に達成できる。
【0028】
好ましくは、前記の第1の粒子の数Aが10粒子/mm以上であり、これは、ひずみ模様を回避するために十分な、前記板または帯における前記転位の分布を可能にすることができる。これは殊に、前記の第1の粒子の数Aが、25粒子/mm以上、好ましくは35粒子/mm以上である場合である。
【0029】
前記金属間相がAl-Mn基を有する場合には、ひずみ模様が安定的に回避される転位を前記アルミニウム合金において生み出すことができる。好ましくは、前記金属間相は、タイプAl13(Mn,Fe)またはタイプAl15FeMnSiまたはタイプAl12MnまたはタイプAlMnのものである。前記一次相のこれらの第1の粒子は、特に安定な相である。また、前記一次相が前記金属間相を形成して、前記板または帯の後続の熱処理により十分な数の転位を生み出すことが考えられる。
【0030】
ゆず肌およびひずみ模様を回避しながらの高い強度および成形性は、前記アルミニウム合金がマグネシウム(Mg)4.0~5.0質量%および/またはマンガン(Mn)0.2~0.5質量%を有する場合に達成できる。
【0031】
特に高い強度は、前記アルミニウム合金が付加的に亜鉛(Zn)2.0~4.0質量%を有する(Al-Mg-Zn基を有する)場合に達成できる。任意に、このアルミニウム合金はさらに銅(Cu)0.8質量%までを有していてよい。
【0032】
本発明による板または帯はさらに、特に、板成形による成形品、殊に車両部品、好ましくは車体部品の製造に適当でありうる。好ましくは、前記板または帯から、ブランクが製造され、板成形法を行うことができる。
【0033】
一般に、前記平均結晶粒度および前記平均粒子径が、ASTM E112の切片法により測定されることが挙げられる。
好ましくは、前記アルミニウム合金はAl-Mg基を有する。
さらに、前記板または帯は、50μm以下、40μm以下または30μm以下の平均結晶粒度Dを有していてよい。
【0034】
さらに、前記冷却速度(もしくは冷却率)は、2.4℃/s未満、2.3℃/s未満、2.2℃/s未満、2.1℃/s未満、2.0℃/s未満、1.9℃/s未満、1.8℃/s未満、1.7℃/s未満、1.6℃/s未満、1.5℃/s未満、1.4℃/s未満、1.3℃/s未満、1.2℃/s未満、1.1℃/s未満、1.0℃/s未満、0.9℃/s未満、0.8℃/s未満、0.7℃/s未満または0.6℃/s未満であってよい。
【0035】
一般に、前記帯が、スリット帯または板へ分離されるかまたは前記板または帯からもブランクが分離されて、これらの半製品を成形する、例えば板成形することできることが挙げられる。前記成形は、深絞り、ロール成形等であってよい。
【0036】
一般に、前記アルミニウム合金が、例えばタイプEN AW-5083またはEN AW-5086またはEN AW-5182またはEN AW-5454またはEN AW-5457またはEN AW-5754のものであってよいことが挙げられる。
【0037】
本発明を実施するための方法
達成される効果を検出するために、例えば冷間圧延した半製品、すなわちAl-Mg-Mn基を有するアルミニウム合金製の薄板およびAl-Mg-Zn-Mn基を有するアルミニウム合金製の薄板を製造した。次の、
【表1】
および残部としてアルミニウムならびに製造に起因して不可避の不純物からなり、前記不純物がそれぞれ最大0.05質量%および合わせて0.15質量%以下を有するアルミニウム合金を使用した。
【0038】
これらの薄板の製造を、次の方法パラメーターにより行った:
【表2】
WQ:水焼入れ(加速冷却の一例として)
AC:静止空気中の冷却。
【0039】
これらの薄板から、ブランク、すなわち板切断物を製造し、これらを車体部品、すなわちボンネットに成形し、すなわち板成形、しかも深絞りした。
【表3】
【0040】
実施例1
化学組成C1を有するタイプAA5182(Al-Mg-Mn基)の合金から、板厚1.2mmの薄板A1を製造した。その圧延用インゴットの製造を、比較的低下した冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは63%であり(3.25mmから1.2mmへ)、かつ最終的な熱処理を500℃で行い、続いて水焼入れした。前記薄板A1の平均結晶粒度もしくは最終粒度は15μm(ASTM E112の切片法により測定)となり、かつ前記一次金属間相中に、1mmあたり44個の、5μm~10μmの平均粒子径(ASTM E112の切片法により測定)を有する第1の粒子が見出された。これらの一次粒子は、そのうえ比較的粗大に形成されていた。そのうえ、前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は44であり、条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たす。
【0041】
5.4の√D×A値で、規準(√D×A>1.8)を満たす。引張試験は、前記薄板A1の表面にリューダース線を示さなかった。したがって、前記の第1の粒子を有する本発明による金属間相は、前記成形の際のリューダース線を防止するのに十分な数の転位を引き起こすことができた。
【0042】
実施例2
化学組成C2を有するタイプAA5182の合金から、板厚1.2mmの薄板A2を製造した。その圧延用インゴットを、1.8℃/sの冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、かつ前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは15%であり(1.41mmから1.2mmへ)、最終的な熱処理を500℃で行い、続いて水焼入れした。そのうえ、前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は27であり、条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たす。
【0043】
前記熱処理後の前記薄板A1の平均結晶粒度もしくは最終粒度は35μmとなり、かつ前記一次金属間相中に、1mmあたり12個の、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子が見出された。2.24の√D×A値で、規準(√D×A>1.8)を満たす。引張試験は、前記薄板A2の表面にリューダース線を示さなかった。したがって、前記の第1のもしくは一次粒子を有する本発明による金属間相は、前記成形の際にリューダース線を防止するのに十分な数の転位を引き起こすことができた。
【0044】
実施例3
化学組成C3を有するタイプAA5182の合金から、板厚1.2mmの薄板A3を製造した。その圧延用インゴットを、1.8℃/sの冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、かつ前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは18%であり(1.46mmから1.2mmへ)、最終的な熱処理を500℃で行い、続いて水焼入れした。前記平均結晶粒度もしくは最終粒度は29μmであり、かつ前記一次金属間相中に、1mmあたり14個の、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子が見出された。そのうえ、前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は32であり、条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たす。
【0045】
2.38の√D×A値で、規準(√D×A>1.8)を満たす。引張試験は、前記薄板A3の表面のリューダース線を示した。したがって、前記の第1のもしくは一次粒子を有する本発明による金属間相は、前記成形の際のリューダース線を防止するのに十分な数の転位を引き起こすことができた。
【0046】
実施例4
化学組成C4を有するタイプAA5182の合金から、板厚1.2mmの2枚の薄板A4.1およびA4.2を製造した。その圧延用インゴットを、1.8℃/sの冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、かつ前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは25%であった(1.60mmから1.2mmへ)。最終的な熱処理を、薄板A4.1の場合に500℃で行い、続いて水焼入れした。これに反して、薄板A4.2を、370℃で最終的に熱処理し、続いて静止空気で冷却した。
【0047】
双方の薄板A4.1およびA4.2の平均結晶粒度もしくは最終粒度は32μmであり、かつそれらの一次金属間相中に、1mm2あたり12個の、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子が見出された。2.14の√D×A値で、双方の薄板A4.1およびA4.2は規準(√D×A>1.8)を満たす。
【0048】
そのうえ、前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は45であり、双方の薄板A4.1およびA4.2は条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たす。
【0049】
前記薄板A4.1とは異なり、前記深絞り後の前記薄板A4.2上に、リューダース線が現れる。前記薄板A4.2上に、同じ組成およびミクロ構造にもかかわらず、静止空気中のよりゆっくりとした冷却により、リューダース線を防止するのに十分な数の転位を前記組織中に形成することができなかった。前記薄板A4.1のその加速水冷は、すなわち、前記の第1のもしくは一次粒子を有する金属間相が、前記成形の際のリューダース線を防止するのに十分な数の転位を引き起こすことができることをもたらした。
【0050】
実施例5
化学組成C4を有するタイプAA5182の合金から、板厚1.2mmの薄板A5を製造した。前記圧延用インゴットを、1.8℃/sの冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、かつ前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは63%であり(3.25mmから1.2mmへ)、最終的な熱処理を500℃で行い、続いて水焼入れした。前記平均結晶粒度もしくは最終粒度は10μmであり、かつ前記一次金属間相中に、1mmあたり12個の、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子が見出された。
【0051】
1.2の√D×A値で、リューダース線がない規準(√D×A>1.8)を満たさない。そのうえ、前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は113であり、条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たさない。前記深絞り後に、リューダース線を検出した。したがって、前記の第1のもしくは一次粒子を有する金属間相は、前記成形の際のリューダース線を防止するのに十分な高い数の転位を引き起こすことができなかった。
【0052】
実施例6.1
化学組成D1のAl-Mg-Zn-Mn基を有する合金から、板厚1.2mmの薄板A6.1を製造した。その圧延用インゴットを、1.8℃/sの冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、かつ前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは18%であった(1.46mmから1.2mmへ)。最終的な熱処理を500℃で行い、続いて水焼入れした。前記加速冷却後に、安定化を100℃で3h(時)実施した。前記結晶粒度もしくは最終粒度は28μmであり、かつ前記一次金属間相中に、1mmあたり14個の、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子が見出された。2.34の√D×A値で、規準(√D×A>1.8)を満たす。そのうえ、32の前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は32であり、条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たす。
【0053】
引張試験は、前記薄板A6.1の表面のリューダース線を示した。したがって、前記の第1のもしくは一次粒子を有する本発明による金属間相は、前記成形の際のリューダース線を防止するのに十分な数の転位を引き起こすことができた。
【0054】
実施例6.2
化学組成D1のAl-Mg-Zn-Mn基を有する合金から、板厚1.2mmの薄板A6.2を製造した。その圧延用インゴットを、1.8℃/sの冷却速度(もしくは冷却率)で凝固させ、かつ前記熱間圧延および冷間圧延での圧延工程を、標準スキームに従って実施した。前記冷間圧延での最後の圧延パスは63%であり(3.25mmから1.2mmへ)、最終的な熱処理を500℃で行い、続いて水焼入れした。前記結晶粒度もしくは最終粒度は10μmであり、かつ前記一次金属間相中に、1mmあたり14個の、5μm~10μmの平均粒子径を有する第1の粒子が見出された。1.4の√D×A値で、リューダース線がない規準(√D×A>1.8)を満たさない。そのうえ、前記中間焼なまし後の冷却速度および圧延度の積は113であり、条件10≦圧延度×冷却速度≦50を満たさない。
【0055】
前記深絞り後に、リューダース線が確認された。したがって、前記の第1のもしくは一次粒子を有する金属間相は、前記成形の際のリューダース線を防止するのに十分な高い数の転位を引き起こすことができなかった。
【0056】
本発明による全ての実施例、すなわちA1、A2、A3、A4.1およびA6.1は、それぞれの第1の粒子のそれらの結晶構造が200超、殊に400超の転位を有することが共通している。
【0057】
一般に、「殊に」は“more particularly”として英語に翻訳することができることが確かめられる。「殊に」が前に置かれている特徴は、省略することができる任意の特徴とみなすべきであり、したがって、例えば請求の範囲を限定するものではない。同じことは「好ましくは」に当てはまり、“preferably”として英語に翻訳される。
【国際調査報告】