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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(54)【発明の名称】外科用ハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61L 26/00 20060101AFI20220316BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20220316BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20220316BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20220316BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220316BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220316BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L29/04 200
A61L29/14 300
A61L29/16
A61L31/04
A61L31/14 300
A61L31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545302
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 NZ2020050004
(87)【国際公開番号】W WO2020162764
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】62/803,119
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521341628
【氏名又は名称】チトゲル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン,サイモン ラエ
(72)【発明者】
【氏名】ゴシュ,スミタ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA12
4C081AA13
4C081AC08
4C081BA14
4C081CD031
4C081CD091
4C081CE11
4C081DA12
4C081DC12
(57)【要約】
外科用創傷パッキング材又はステントとして使用するための、保湿剤と組み合わせたキトサン誘導体とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの組み合わせに由来する外科用ハイドロゲルが開示される。外科用ハイドロゲルの前駆体成分を含む滅菌キットも開示される。ハイドロゲルを調製するためのキット及びその個々の成分を滅菌する方法も開示される。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルを調製するためのキットであって、
N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液を含む第1の容器;
固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む第2の容器;
ハイドロゲルの調製中にアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを懸濁するための水性緩衝液を含む第3の容器;並びに
第1の容器、第2の容器及び第3の容器を囲む滅菌可能なバリアシステム;
を含み、
保湿剤が、第1の容器及び第3の容器のいずれか又は両方に存在する、キット。
【請求項2】
前記保湿剤がグリセロールである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記滅菌可能なバリアシステムが、エチレンオキシドに対し透過性である、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記キットが、シリンジ、カニューレ及びシリンジ対シリンジコネクタなどの、ハイドロゲルを調製するための装置をさらに含む、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
前記装置が、軟質プラスチックチューブ及び前記プラスチックチューブに埋め込まれた1以上の柔軟なワイヤーを含む柔軟なカニューレを含み、前記柔軟なワイヤーが、前記プラスチックチューブの長さに沿って部分的に又は完全に延びる、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記柔軟なカニューレが、シリンジに接着されるように構成された第1の開口端、及び内視鏡下副鼻腔手術に関連する外科創傷の部位にハイドロゲルを適用するように構成された前記柔軟なカニューレの第2の開口端を含む、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記N-スクシニルキトサンが、水、生理食塩水、又はリン酸ナトリウム緩衝液などの、緩衝液に懸濁される、請求項1に記載のキット。
【請求項8】
前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマーが、乾燥固体として提供される、請求項1に記載のキット。
【請求項9】
前記N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度が、約1w/v%~約10w/v%である、請求項1に記載のキット。
【請求項10】
前記キット中に存在するアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとN-スクシニルキトサンポリマーとの相対比率が、1:0.2~1:1である、請求項1に記載のキット。
【請求項11】
前記第2の容器が、約230~約440mgの固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む、請求項1に記載のキット。
【請求項12】
前記N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度が、約1w/v%~約10w/v%である、請求項1に記載のキット。
【請求項13】
前記第1の容器が、約8~約15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液を含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記第3の容器が、約8~約15mlの緩衝液を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項15】
前記緩衝液が、約30w/v%~約50w/v%の保湿剤を含む、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
滅菌ハイドロゲルを調製するためのキットを滅菌する方法であって、
i.N-スクシニルキトサンポリマーの溶液を第1の容器に密閉する工程;
ii.N-スクシニルキトサンポリマーを含む前記密閉された第1の容器を、蒸気滅菌により滅菌する工程;
iii.固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを第2の容器に密閉する工程;
iv.前記固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む前記第2の容器を、ガンマ照射滅菌により滅菌する工程;
v.水性緩衝液を第3の容器に密閉する工程;
vi.前記水溶液を含む前記第3の容器を滅菌する工程;
vii.前記第1の容器、第2の容器及び第3の滅菌した密閉容器を、ハウジングに密閉する工程;
viii.エチレンオキシドへの曝露により、前記第1の容器、第2の容器及び第3の容器を含む前記ハウジングを滅菌する工程
を含む、方法。
【請求項17】
N-スクシニルキトサンポリマー、前記滅菌固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマー及び前記滅菌水性緩衝液を含む滅菌水溶液が、滅菌後少なくとも12ヶ月間、室温で検出可能な分解を受けない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーが粉末である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記緩衝液が、約30w/v%~約50w/v%のグリセロールを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ハイドロゲルを調製する方法であって、
1.水溶液中に固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを溶解して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製する工程;
2.N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液と前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせて、混合物を形成する工程;
3.前記混合物にハイドロゲルを形成させる工程
を含み、
前記混合物が保湿剤をさらに含む、方法。
【請求項21】
前記保湿剤がグリセロールである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
工程2が、工程1が実施されてから少なくとも10分後に行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
N-スクシニルキトサンポリマーを含む前記水溶液と前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液が組み合わされた少なくとも10分後に、ハイドロゲルを形成する前記工程が起こる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
8~15mlの水性緩衝液が、230~440mgのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと組み合わされる、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度が、約1w/v%~約10w/v%である、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
8~15mlのアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液が、8~15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液と組み合わされる、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記ハイドロゲルが、約2w/v%~10w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記ハイドロゲルが、約2w/v%~10w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記ハイドロゲルが、約3w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
鼻腔及び/又は副鼻腔での外科創傷に関連する癒着、肉芽形成、浮腫、口狭窄症又は口の開存性の低下のいずれか1つを予防する又は最小限にする方法であって、
1.水溶液中に固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを溶解して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製すること;
2.N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液と前記アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせて、混合物を形成すること;
3.前記混合物にハイドロゲルを形成させること
を含み、
前記混合物が、さらに保湿剤を含み、
前記鼻腔及び/又は副鼻腔での前記外科創傷の部位に前記ハイドロゲルを適用すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用創傷パッキング材又はステントとして使用するための外科用ハイドロゲル、外科用ハイドロゲルを調製するための滅菌キット、及び外科用ハイドロゲルを調製するためのキットを滅菌する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書全体にわたって、先行技術の説明は、そのような先行技術が広く知られているか、又は本技術分野で共通の一般的な知識の一部を形成することを認めるものとして考慮されるべきではない。
【0003】
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)は、米国だけで毎年約50万症例が実施され、世界的に最も一般的な外科的処置の1つである。例えば、ESSは、副鼻腔炎の有効的な治療法として広く使用されている。
【0004】
ESSの術後合併症は、過度の出血、癒着、肉芽形成、浮腫、及び口狭窄症、又は口の開存性の低下、及び感染症などの他の問題を含む。
【0005】
従来、取り外し可能なパッキングが、過度の出血を止め、癒着を減らすために使用されてきた。しかし、このパッキングの除去は、患者にとって非常に痛みを伴う可能性があり、著しい粘膜外傷を伴う。
【0006】
近年、パッキング材としてのハイドロゲルの使用に対する関心が高まっている。ハイドロゲルは、親水性ポリマーネットワークであり、それらの柔らかく柔軟な性質と高水含量により多くの生物学的用途を有する。
【0007】
外科創傷、特にESSに関連する外科創傷の治療に有効であるためには、ハイドロゲルは、特定の一貫性又は粘度を必要とする。ハイドロゲルは、シリンジにより又はチューブを介して創傷部位に適用でき、創傷部位に付着し、少なくとも治癒の初期段階中に所定の位置にとどまることができなければならない。
【0008】
外科創傷用の創傷パッキング材として特に見込みのあるハイドロゲルパッキング材は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋されたキトサン誘導体を含むポリマーネットワークを含む。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋されたキトサン誘導体を含むハイドロゲルは、WO2009/028965に記載されており、その内容は参照により完全に組み込まれる。
【0009】
創傷パッキング材としてキトサン誘導体/アルデヒド誘導体化デキストランポリマーハイドロゲルを用いる1つの課題は、ハイドロゲルが適切な一貫性又は粘度を有することを保証することである。
【0010】
そのため、本発明の発明者らは、商業的に実行可能な貯蔵期間を有し、例えば、ハイドロゲルが使用される外科的処置の間又は直前に、医療従事者が容易に使用して、外科用ハイドロゲルを調製できるキトサン誘導体/アルデヒド誘導体化デキストランハイドロゲルのための、安定なかつ滅菌の前駆体材料を含むキットを考案した。
【0011】
外科的処置で使用するためのキットを提供する際の課題は、キット全体が、手術室の厳密な滅菌要件を満たすか、又は患者の感染の可能性を最小限に抑えるか若しくは防ぐのに十分に滅菌されている必要があるということである。滅菌のプロセスは、表面上に存在するか、若しくは液体に含まれる任意の形態の生命体を排除又は死滅させるために使用される任意の操作を指す。ハイドロゲル前駆体を含む外科用キットを効果的に滅菌するには、いかなる1つの成分も分解することなくキットの全ての成分を効果的に滅菌する滅菌戦略の決定が必要である。
【0012】
したがって、本発明の目的は、商業的に実行可能な貯蔵期間を有する、ハイドロゲルステントを調製するための滅菌キット、又は滅菌ハイドロゲル前駆体成分を含む創傷パッキング材を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
キトサン誘導体/アルデヒド誘導体化デキストランハイドロゲルの一貫性は、経時的に変化することが判明した。ハイドロゲルの貯蔵期間(ハイドロゲルが安定な一貫性を有する期間)は、気密性で滅菌性のある包装内であっても、数日又は数週間の単位であることが判明した。これは、キトサン誘導体とアルデヒド誘導体化デキストランとの間の架橋の程度の変動によるものと思われる。そのため、ハイドロゲルの貯蔵期間は非常に短いので、すぐに使用できる製品としてハイドロゲルを製造及び販売することは商業的に実行可能でない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、少なくとも部分的には、水溶液中のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの固有の不安定性の発見、アルデヒド誘導体化デキストランとキトサン誘導体の架橋から調製されたハイドロゲルの不安定性の発見、及び滅菌の既知の方法に対するこれらの成分の感受性の発見に基づく。
【0015】
したがって、本発明は、少なくとも部分的には、3つの部分(固体アルデヒド誘導体化デキストラン成分、キトサン誘導体溶液、及び緩衝液)を含むハイドロゲルを調製するための滅菌キット、並びにキットが商業的に実行可能な貯蔵期間を有するように、キットを滅菌するための方法の提供に関する。
【0016】
本明細書に記載及び特許請求される発明は、この本発明の要約に記述又は記載又は参照されるものを含むが、これらに限定されない多くの属性及び実施形態を有する。これは、包括的であることを意図しておらず、本明細書に記載及び特許請求される発明は、この本発明の要約で特定された特徴又は例に限定されず、例示の目的のみのために含まれ、限定ではない。
【0017】
本発明は、医療用ハイドロゲルを調製するためのキットを提供する。ハイドロゲルは、外科用ステント又は創傷パッキング材として特に有用である。以下に詳述するように、キットは、ハイドロゲルを調製するために使用する前に組み合わされる、別々の滅菌ハイドロゲル前駆体を含む。前駆体は、個別にパッケージ化され、個々の前駆体は、キット中で組み合わされてよい。キットは、事前に測定され、個別にパッケージ化された各前駆体の量、各前駆体を組み合わせるのに必要な装置、及び使用説明書を含んでよい。
【0018】
本発明のキットの製造は、キットの各成分、及びキット全体が、手術室で使用するために十分に滅菌されることを確実にするという課題を克服した。キットの成分が異なる滅菌条件下で劣化しやすい場合に特定の課題が生じる。個々のハイドロゲル前駆体の滅菌方法は知られているかもしれないが、キット全体の滅菌プロトコルを決定することは、ハイドロゲル前駆体の分解に対する感受性及びキットで使用される包装の特性により複雑である。
【発明の効果】
【0019】
ハイドロゲル
一態様では、術後ケア及び外科創傷治癒に使用するためのハイドロゲルであって、水溶液中のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋されたジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むハイドロゲルが提供される。
【0020】
一実施形態では、ハイドロゲルは、保湿剤をさらに含む。関連する実施形態では、保湿剤はグリセロールである。
【0021】
別の実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン基及びアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋される。
【0022】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、N-スクシニルキトサンポリマーである(キトサンN-スクシンアミドポリマーとしても知られている)。
【0023】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋している。一実施形態では、N-スクシニルキトサンは、N-スクシニルキトサンのアミン基とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋される。
【0024】
一実施形態では、ハイドロゲルは、約2w/v%~10w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。一実施形態では、ハイドロゲルは、約2%~10w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0025】
好ましくは、ハイドロゲルは、約2w/v%~約8w/v%、より好ましくは約2w/v%~約6w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。最も好ましくは、ハイドロゲルは、約5w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0026】
好ましくは、ハイドロゲルは、約2w/v%~約8w/v%、より好ましくは約2w/v%~約6w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。最も好ましくは、ハイドロゲルは、約3w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0027】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとN-スクシニルキトサンポリマーとの比は、1:0.2~1:1であり、より好ましくは1:0.4~1:0.8であり、最も好ましくは1:0.6である。
【0028】
一実施形態では、ハイドロゲルの含水量は、約60%~約80%であり、より好ましくは約65%~約75%であり、最も好ましくは約72%である。
【0029】
一実施形態では、ハイドロゲルは、10w/v%~約30w/v%、より好ましくは約15%~約25%、最も好ましくは20%の保湿剤を含む。一実施形態では、保湿剤はグリセロールである。
【0030】
一実施形態では、ハイドロゲルの含水量は、少なくとも部分的に緩衝液を含む。好ましい緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液を含む。好ましい濃度は、0.3%のリン酸緩衝液を含む。緩衝液は、好ましくは約7~8、より好ましくは約7.2~7.6のpHを有する。
【0031】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液は、約6~8のpHを有する。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液は、約6.5~7.5のpHを有する。
【0032】
キット
さらなる態様では、本発明のハイドロゲルを調製するためのキットであって、以下のハイドロゲル前駆体:
・ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー
・アルデヒド誘導体化デキストランポリマー
を含む、キットが提供される。
【0033】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、N-スクシニルキトサンポリマーである。
【0034】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンなどのジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを溶液として提供する。この例では、誘導体化キトサンポリマーは、水、生理食塩水、又はリン酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液に懸濁され得る。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの水溶液は、約6.5~7.5のpHを有する。一実施形態では、溶液中のN-スクシニルキトサンポリマーの濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。一実施形態では、濃度は、約3w/v%~約7w/v%、最も好ましくは約5w/v%である。
【0035】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、乾燥粉末として提供される。乾燥粉末としてのアルデヒド誘導体化デキストランポリマー成分の提供は、成分の安定性を向上させ、そのためキットの貯蔵期間を延ばす。
【0036】
キットは、ハイドロゲルの調製中にアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを懸濁させるリン酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液をさらに含んでよい。
【0037】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマーは、第1の容器に包装され密閉される。第1の容器は、バイアル又はアンプルなどのガラス容器であってよい。第1の容器が蓋を有する場合、蓋は、プラスチック樹脂、金属又は他の適切な材料から作製され得る。
【0038】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、第2の容器に包装され密閉される。第2の容器は、バイアル又はアンプルなどのガラス容器であってよい。第2の容器が蓋を有する場合、蓋は、プラスチック樹脂、金属又は他の適切な材料から作製され得る。
【0039】
一実施形態では、キットはさらに緩衝液を含む。一実施形態では、緩衝液は、固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを懸濁又は溶解するためのものである。一実施形態では、緩衝液は、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを懸濁又は溶解するためのものである。アルデヒド誘導体化デキストランポリマー又はジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの溶解に適する任意の医薬として許容される緩衝液を使用してよい。緩衝液は好ましくは、約7~8、より好ましくは約7.2~7.6のpHを有する。一実施形態では、緩衝液の濃度は約3w/v%である。一実施形態では、緩衝液はリン酸ナトリウムである。緩衝液は、第3の容器に包装され密閉される。第3の容器は、バイアル又はアンプルなどのガラス容器であってよい。第3の容器が蓋を有する場合、蓋は、プラスチック樹脂、金属又は他の適切な材料から作製され得る。
【0040】
一実施形態では、ハイドロゲルは、保湿剤をさらに含む。一実施形態では、保湿剤はグリセロールである。保湿剤は、キット中の別の成分として提供されてよく、又は代わりに緩衝液中で組み合わされてもよい。あるいは、又は加えて、保湿剤は、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー溶液中で組み合わされてよい。一実施形態では、保湿剤はグリセロールである。
【0041】
キットに提供される保湿剤の量は、10w/v%及び約30w/v%、より好ましくは約15w/v%~約25w/v%、最も好ましくは20w/v%のキットから調製される、生じたハイドロゲル中の量に相当する。
【0042】
一実施形態では、保湿剤は、緩衝液中で組み合わされる。一実施形態では、約30w/v%~約50w/v%のグリセロールを含む緩衝液が提供される。一実施形態では、グリセロール含量は40w/v%である。緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液であってよい。
【0043】
キットは、ハイドロゲルを混合及び調製するための装置、並びにハイドロゲルを外科創傷に適用するための装置:
・流体分配コネクター
・2以上の混合カニューレ
・柔軟なカニューレ
・2本の20mlのシリンジ
をさらに含んでよい。
【0044】
キットの柔軟なカニューレは、本発明のキットから調製されるハイドロゲルと組み合わせて有利に使用されるように開発されてきた。特に、柔軟なカニューレは、副鼻腔及び/又は鼻腔における外科創傷などのESS処置に関連する外科創傷に、本発明のハイドロゲルを適用するために開発された。
【0045】
一実施形態では、柔軟なカニューレは、軟質プラスチックチューブ及びプラスチックチューブに埋め込まれた1以上の柔軟なワイヤーを含み、柔軟なワイヤー(複数可)は、プラスチックチューブの長さに部分的に又は完全に沿って延びている。一実施形態では、柔軟なカニューレの柔軟性は、プラスチックチューブに埋め込まれた2本の柔軟なワイヤーに由来する。一実施形態では、柔軟なカニューレの第1の開口端は、例えば、ルアーロック又はルアースリップ機構を介して、シリンジに接着するように構成される。一実施形態では、柔軟なカニューレの第2の開口端は、外科創傷の部位にハイドロゲルを適用するように構成される。
【0046】
チューブに埋め込まれた柔軟なワイヤーは、カニューレを外科創傷の部位に(例えば)鼻又は他の身体開口部を介して挿入できるように、柔軟なカニューレが手動で曲げられ特定の構成に成形されるのを可能にする。したがって、カニューレの柔軟性は、患者にさらなる外傷を引き起こすことなく、外科創傷部位へのハイドロゲルの正確な適用を可能にする。
【0047】
プラスチックチューブ自体は、カニューレの挿入時又はハイドロゲルの適用時に、患者に外傷を起こさないほど十分に柔らかい軟質プラスチック材料である。
【0048】
一実施形態では、柔軟なワイヤー材料はステンレス鋼である。
【0049】
一実施形態では、キットは、キットの成分を収容するためのバリアシステムをさらに含む。例えば、バリアシステムは、ハイドロゲル前駆体成分及び前駆体成分からハイドロゲルを調製するための装置を収容するように適合される。バリアシステムは、エチレンオキシドに対し透過性である。エチレンオキシドにより滅菌されると、バリアシステムは、システムの内容物の滅菌性を維持する。
【0050】
一実施形態では、バリアシステムはプラスチックを含む。一実施形態では、バリアシステムは、タイベック(登録商標)(デュポン)などの不織布HDPE繊維を含む。
【0051】
一実施形態では、バリアシステムは、滅菌されたハイドロゲル前駆体成分の容器と、必要に応じて、ハイドロゲルを調製するための(必要に応じて、事前滅菌された)装置を搭載し、その後、バリアシステムは、エチレンオキシド滅菌により滅菌される。必要に応じて、前駆体成分及び装置は、バリアシステムに搭載される前に、手術室で使用する成分を保護し提示するために、熱成形されたトレイ又は包装内に搭載され得る。
【0052】
一実施形態では、キット成分の搭載後に、バリアシステムは密閉される。一実施形態では、密閉されたバリアシステム及びその内容物の滅菌は、エチレンオキシド滅菌により行われる。
【0053】
バリアシステムは、滅菌バリアシステムとして機能することが意図される。例えば、バリアシステムは、微生物バリアを提供し、使用時点で、ハイドロゲル前駆体成分及びハイドロゲルを調製するための装置の滅菌提示を可能にするべきである。この実施形態では、バリアシステムは、エチレンオキシドに対し透過性であり、その結果、バリアシステム、及びバリアシステムの内部に密閉された成分は、エチレンオキシドへの曝露により効果的に滅菌され得る。
【0054】
キットは、バリアシステムを囲む保護包装をさらに含んでよい。保護包装は、使用時点まで、バリアシステムとその成分への損傷を防ぐように機能する。一実施形態では、保護包装は、密閉可能なクラムシェル容器を含む。別の実施形態では、保護包装は、段ボール包装を含む。
【0055】
キットは、発泡体の内側部分(必要に応じて、各成分及び/又は装置の一部を受け取るためのくぼみを含む)、製品のラベル及び使用説明書をさらに含んでよい。
【0056】
一実施形態では、キットは、単回使用のキットである。単回使用のキットは、外科創傷の部位への適用のためのハイドロゲルの量を調製するのに十分な量及び/又は相対的な割合で、ハイドロゲルの各前駆体成分を含む。特に、単回使用のキットは、ESSに関連する外科創傷への適用に十分なハイドロゲルを調製するのに十分な量の前駆体を提供する。
【0057】
一実施形態では、キット中のハイドロゲルの各前駆体成分は、ハイドロゲルの単回使用の調製のために事前に測定される。単回使用は、ハイドロゲルがステント又はパッキング材として機能するように、1回の外科的処置での外科創傷へのハイドロゲルの適用に関する。特に、外科的処置はESSである。ESSに関連する外科創傷への適用に必要なハイドロゲルの量は、約15~25mlである。
【0058】
例えば、単回使用のキットは、
・40w/v%のグリセロールと共に8~15mlのリン酸ナトリウム緩衝液を含む容器A
・230~440mgのアルデヒド誘導体化デキストランポリマー粉末を含む容器B
・8~15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液を含む容器C
を含む、個別に包装され、密閉された容器を含んでよい。
【0059】
一実施形態では、成分は、ハイドロゲルが前駆体成分から容易かつ簡便に調製され得るような正しい相対的割合で提供される。
【0060】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、キットに提供される各成分の全体が組み合わされると、約2w/v%~約8w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマー、より好ましくは約2w/v%~約6w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマー、最も好ましくは約3w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを有するハイドロゲルが調製される量で提供される。
【0061】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマー溶液は、キットに提供される各成分の全体が組み合わされると、約2w/v%~約8w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー、より好ましくは約2w/v%~約6w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー、最も好ましくは約5w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを有するハイドロゲルが調製される量で提供される。
【0062】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマーに対するアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの比は、1:0.2~1:1、より好ましくは1:0.4~1:0.8、最も好ましくは1:0.6である。
【0063】
一実施形態では、滅菌され、密閉された容器に含まれる滅菌成分は、少なくとも12ヶ月間、好ましくは少なくとも18ヶ月間、より好ましくは少なくとも24ヶ月間、貯蔵安定である(すなわち、室温で検出可能な分解を受けない)。
【0064】
したがって、本発明の態様では、滅菌ハイドロゲルを調製するためのキットであって、
-N-スクシニルキトサンポリマーを含む滅菌水溶液を含む第1の滅菌容器;
-滅菌固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む第2の滅菌容器;
-ハイドロゲルの調製中にアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを懸濁するための滅菌水溶液を含む第3の滅菌容器;及び
-第1の容器、第2の容器及び第3の容器を封入する滅菌バリアシステム
を含み、保湿剤が、第1の容器及び第3の容器のいずれか又は両方に存在するキットが提供される。
【0065】
一実施形態では、保湿剤はグリセロールを含む。
【0066】
一実施形態では、キットは、シリンジ、カニューレ及びシリンジ対シリンジコネクタなどの、ハイドロゲルを調製するための装置をさらに含む。装置は、軟質プラスチックチューブ及びプラスチックチューブに埋め込まれた1以上の柔軟なワイヤーを含む柔軟なカニューレを含み得、柔軟なワイヤー(複数可)は、プラスチックチューブの長さに沿って部分的又は完全に延びる。一実施形態では、柔軟なカニューレは、シリンジに接着するように構成された第1の開口端と、内視鏡下副鼻腔手術に関連する外科創傷の部位にハイドロゲルを適用するように構成された柔軟なカニューレの第2の開口端を含む。
【0067】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンは、水、生理食塩水、又はリン酸ナトリウム緩衝液などの、緩衝液に懸濁される。
【0068】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、乾燥固体として提供される。
【0069】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。
【0070】
一実施形態では、キット中に存在するアルデヒド誘導体化デキストランポリマーに対するN-スクシニルキトサンポリマーの相対的な比は、1:0.2~1:1である。
【0071】
一実施形態では、第2の容器は、約230mg~約440mgの固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0072】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。この実施形態では、第1の容器は、約8~約15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液を含む。
【0073】
一実施形態では、第3の容器は、約8~約15mlの緩衝液を含む。この実施形態では、緩衝液は、約30w/v%~約50w/v%の保湿剤を含む。
【0074】
滅菌方法
滅菌は、病気を引き起こす微生物を殺すだけでなく、胞子及び細菌などの伝染性病原体を排除することもできる。滅菌は、外科的処置で使用される、又は手術室のいくつかの場所に存在する、材料にとって、不可欠である。滅菌方法の選択は、滅菌される材料の種類に依存した。
【0075】
一態様では、本発明のキットを滅菌する方法であって、
-蒸気滅菌によりN-スクシニルキトサンポリマーの溶液を滅菌する工程;
-第1の容器にN-スクシニルキトサンポリマーの滅菌溶液を密閉する工程;
-ガンマ照射滅菌により固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを滅菌する工程;
-第2の容器に滅菌されたアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを密閉する工程;
-緩衝液を含む水溶液を滅菌する工程;
-第3の容器に滅菌水性緩衝液を密閉する工程;
-エチレンオキシド滅菌により、第1の容器、第2の容器及び第3の密閉容器を含むハウジングを滅菌する工程;及び
-第1の容器、第2の容器及び第3の密閉容器が滅菌環境で収容されるように閉じたハウジングを密閉する工程
を含む方法が提供される。
【0076】
一実施形態では、溶液中のN-スクシニルキトサンポリマーの濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。一実施形態では、濃度は、約3w/v%~約7w/v%、最も好ましくは約5w/v%である。一実施形態では、蒸気滅菌によるN-スクシニルキトサンポリマーの溶液の滅菌は、オートクレーブを用いて行われる。
【0077】
一実施形態では、蒸気滅菌法は飽和蒸気を使用する。一実施形態では、蒸気滅菌法は、約121℃(250°F)の一定温度で行われる。一実施形態では、蒸気滅菌法は、少なくとも15分間の保持時間の間行われる。
【0078】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、固体粉末である。一実施形態では、固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは非晶質である。一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー粉末の滅菌は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを少なくとも25kGyのガンマ線量に曝露することにより行われる。一実施形態では、ガンマ線量は、約25kGy~約35kGyである。
【0079】
N-スクシニルキトサンポリマー溶液を、第1の容器に包装し密閉する。第1の容器は、バイアル又はアンプルなどのガラス容器であってよい。第1の容器が蓋を有する場合、蓋は、プラスチック樹脂、金属又は他の適切な材料から作製され得る。一実施形態では、密閉された第1の容器の外側は、エチレンオキシド滅菌により滅菌される。
【0080】
一実施形態では、エチレンオキシド滅菌法は、30℃~60℃の温度で行われる。一実施形態では、エチレンオキシド滅菌法は、30%を超える相対湿度で行われる。一実施形態では、エチレンオキシド滅菌法は、空気、窒素、二酸化炭素又は他の不活性ガス又はガスの混合物中200~800mg/lのエチレンオキシド濃度で行われる。一実施形態では、エチレンオキシド滅菌法は、少なくとも3時間行われる。
【0081】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを、第2の容器に包装し密閉する。第2の容器は、バイアル又はアンプルなどのガラス容器であってよい。第2の容器が蓋を有する場合、蓋は、プラスチック樹脂、金属又は他の適切な材料から作製され得る。一実施形態では、密閉された第2の容器の外側は、エチレンオキシド滅菌により滅菌される。容器の外側の滅菌法の温度は、内部のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを劣化させないほど十分に低くなければならない。
【0082】
キットは、さらに緩衝液を含んでよい。緩衝液は、固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを懸濁又は溶解するためのものである。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの溶解に適する任意の医薬として許容される緩衝液が、使用され得る。好ましい緩衝液は、リン酸ナトリウム緩衝液を含む。一実施形態では、緩衝液は、約7~8、より好ましくは約7.2~7.6のpHを有する。一実施形態では、緩衝液の濃度は、約3w/v%である。緩衝液は、第3の容器に包装され密閉される。第3の容器は、バイアル又はアンプルなどのガラス容器であってよい。第3の容器が蓋を有する場合、蓋は、プラスチック樹脂、金属又は他の適切な材料から作製され得る。一実施形態では、緩衝液を含む第3の容器の外側は、蒸気滅菌により滅菌される。
【0083】
一実施形態では、キットは、ハイドロゲル前駆体成分からハイドロゲルを調製するための装置をさらに含む。一例では、キットは、液体ハイドロゲル前駆体成分を取るためのシリンジ又は他の器具、カニューレ、シリンジ対シリンジコネクタ、及びハイドロゲル前駆体を混合し、ハイドロゲルを調製するための他の器具を含む。一実施形態では、装置は、エチレンオキシド滅菌によって滅菌される。
【0084】
したがって、本発明の態様では、滅菌ハイドロゲルを調製するためのキットを滅菌する方法であって、
i.第1の容器にN-スクシニルキトサンポリマーの溶液を密閉する工程;
ii.蒸気滅菌によりN-スクシニルキトサンポリマーを含む密閉された第1の容器を滅菌する工程;
iii.第2の容器に固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを密閉する工程;
iv.ガンマ照射滅菌により固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む第2の容器を滅菌する工程;
v.第3の容器に水性緩衝液を密閉する工程;
vi.水溶液を含む第3の容器を滅菌する工程;
vii.ハウジング中の第1の容器、第2の容器及び第3の滅菌密閉容器を密閉する工程;並びに
viii.エチレンオキシドへの曝露により第1の容器、第2の容器及び第3の容器を含むハウジングを滅菌する工程
を含む方法が提供される。
【0085】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、固体粉末である。
【0086】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマー、滅菌固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマー及び滅菌水性緩衝液を含む滅菌水溶液は、滅菌後少なくとも12ヶ月間、室温で検出可能な分解を受けない。
【0087】
一実施形態では、エチレンオキシド滅菌は、30℃~60℃の温度で行われる。一実施形態では、エチレンオキシド滅菌は、30%を超える相対湿度で行われる。一実施形態では、エチレンオキシド滅菌は、200~800mg/lのエチレンオキシド濃度で行われる。一実施形態では、エチレンオキシド滅菌は、少なくとも3時間行われる。
【0088】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー粉末の滅菌は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを約25~約35kGyガンマ線量に曝露することにより行われる。
【0089】
一実施形態では、緩衝液は、蒸気滅菌により滅菌される。
【0090】
一実施形態では、キット中に存在するアルデヒド誘導体化デキストランポリマーに対するN-スクシニルキトサンポリマーの相対的な比は、1:0.2~1:1である。
【0091】
一実施形態では、第2の容器は、約230~440mgの固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0092】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。
【0093】
一実施形態では、第1の容器は、約8~約15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液を含む。
【0094】
一実施形態では、第3の容器は、約8~約15mlの緩衝液を含む。
【0095】
一実施形態では、緩衝液は、約30w/v%~約50w/v%のグリセロールを含む。
【0096】
一実施形態では、ハウジングは、シリンジ、カニューレ及びシリンジ対シリンジコネクタなどの、ハイドロゲル前駆体成分からハイドロゲルを調製するための装置をさらに含む。
【0097】
一実施形態では、キットは単回使用キットである。
【0098】
一実施形態では、本方法は、エチレンオキシド滅菌により密閉ハウジングを滅菌する工程をさらに含む。
【0099】
ハイドロゲルの調製方法
前駆体成分からのハイドロゲルの調製は、成分がクロスリンクしハイドロゲルを形成するのに十分な時間を可能にする、成分の組み合わせにより実行され得る。
【0100】
一態様では、ハイドロゲルを調製する方法であって、単一容器内で、固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと水溶液を組み合わせて、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製すること、及びその後、N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液を添加して、混合物を形成することを含む方法が提供される。混合物はその後、シリンジにより引き上げられ外科創傷の部位に適用される、ハイドロゲルを形成させられる。
【0101】
一態様では、ハイドロゲルを調製する方法であって、
1.水溶液と固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを組み合わせて、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製する工程;
2.N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせて、混合物を形成する工程;
3.混合物にハイドロゲルを形成させる工程
を含み、混合物が、保湿剤をさらに含む、方法が提供される。
【0102】
一実施形態では、保湿剤は、グリセロールである。
【0103】
一実施形態では、工程1及び/又は工程2は、混合物全体にわたって成分の徹底的な混合及び実質的な均質性を確実にするために、それぞれ、溶液及び/又は混合物の攪拌をさらに含む。
【0104】
一実施形態では、工程1は、第3の容器(緩衝液)の内容物を第2の容器(アルデヒド誘導体化デキストランポリマー)に添加すること、続いて第2の容器を密閉すること及びその内容物を攪拌して溶液を形成することにより行われる。撹拌は、容器を少なくとも10秒間手動で振盪すること、より好ましくは20秒間攪拌することにより行われてよい。一実施形態では、溶液は、第1のシリンジ及び第1のカニューレにより引き上げられる。アルデヒド誘導体脱誘導体化デキストランポリマーの完全溶解を確実にするために、溶液を、一定期間放置する。好ましくは、溶液を、少なくとも10分間、より好ましくは15分間放置する。
【0105】
一実施形態では、工程2は、第2のシリンジ及び第2のカニューレを用いて、N-スクシニルキトサンポリマー溶液を引き上げることにより行われる。N-スクシニルキトサンポリマー溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を次いで、組み合わせる。一実施形態では、2つの溶液は、シリンジ対シリンジコネクタを介して第1のシリンジと第2のシリンジを連結すること、第1のシリンジと第2のシリンジ間で溶液を繰り返し移すことにより溶液を混合することにより組み合わされる。
【0106】
一実施形態では、工程3は、N-スクシニルキトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液の混合物を少なくとも15分間放置して、この溶液をハイドロゲルにさせることにより行われる。
【0107】
一実施形態では、工程1の水溶液は、水性緩衝液である。緩衝液は好ましくは、約7~8、より好ましくは約7.2~7.6のpHを有する。
【0108】
一実施形態では、工程2は、工程1が実行されてから少なくとも10分後に行われる。工程1と工程2を実行する間に時間を設けることは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーが水溶液に完全に溶解することを保証する。
【0109】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、N-スクシニルキトサンポリマーである。
【0110】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに対するジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーの相対的な比は、1:0.2~1:1、より好ましくは1:0.4~1:0.8、最も好ましくは1:0.6である。
【0111】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー溶液の濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。一実施形態では、濃度は、約3w/v%~約7w/v%、最も好ましくは約5w/v%である。
【0112】
一実施形態では、約8~15mlの水性緩衝液が、230~440mgのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと組み合わされる。
【0113】
一実施形態では、約8~15mlのアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液が、8~15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液と組み合わされる。
【0114】
一実施形態では、成分は、ハイドロゲルが前駆体成分から容易にかつ簡便に調製され得るように、正確な相対的な比で提供される。
【0115】
一実施形態では、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、キットに提供される各成分の全体が組み合わされると、ハイドロゲルが約2w/v%~約8w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマー、より好ましくは約2w/v%~約6w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマー、最も好ましくは約3w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを有して調製される量で提供される。
【0116】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー溶液は、キットに提供される各成分の全体が組み合わされると、ハイドロゲルが約2w/v%~約8w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー、より好ましくは約2w/v%~約6w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー、最も好ましくは約5w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを有して調製される量で提供される。
【0117】
一実施形態では、ハイドロゲルは、混合物を形成するために、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせてから約10分後に使用するのに適している。一実施形態では、ハイドロゲルは、約15分後に外科用ステント又はパッキング材として使用するのに適している。一実施形態では、外科創傷は、内視鏡下副鼻腔手術に関連する。
【0118】
一実施形態では、ハイドロゲルは、その調製後最大で6時間、外科用ステント又はパッキング材としての使用に適している。
【0119】
したがって、本発明の一態様では、ハイドロゲルの調製のための方法であって、
1.水溶液に固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを溶解して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製する工程;
2.N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせて、混合物を形成する工程;
3.混合物にハイドロゲルを形成させる工程
を含み、
混合物が保湿剤をさらに含む、方法が提供される。
【0120】
一実施形態では、保湿剤はグリセロールを含む。
【0121】
一実施形態では、工程2は、工程1が実施されてから少なくとも10分後に行われる。
【0122】
一実施形態では、ハイドロゲルを形成する工程は、N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液が組み合わされてから少なくとも10分を要する。
【0123】
一実施形態では、8~15mlの水性緩衝液は、230~440mgのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーと組み合わされる。
【0124】
一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマー溶液の濃度は、約1w/v%~約10w/v%である。
【0125】
一実施形態では、8~15mlのアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液は、8~15mlのN-スクシニルキトサンポリマー溶液と組み合わされる。
【0126】
一実施形態では、ハイドロゲルは、約2w/v%~10w/v%のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含む。
【0127】
一実施形態では、ハイドロゲルは、約2w/v%~10w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0128】
一実施形態では、ハイドロゲルは、約3w/v%のアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを含む。
【0129】
外科創傷へのハイドロゲルの適用方法
一態様では、副鼻腔における外科創傷に関連する癒着を防止する又は最小限に抑えるための方法であって、本発明のハイドロゲルを調製すること、及び外科創傷の部位にハイドロゲルを適用することを含む方法が提供される。
【0130】
一態様では、副鼻腔における外科創傷に関連する浮腫を防止する又は最小限に抑えるための方法であって、本発明のハイドロゲルを調製すること、及び外科創傷の部位にハイドロゲルを適用することを含む方法が提供される。
【0131】
一態様では、副鼻腔における外科創傷に関連する肉芽形成を防止する又は最小限に抑えるための方法であって、本発明のハイドロゲルを調製すること、及び外科創傷の部位にハイドロゲルを適用することを含む方法が提供される。
【0132】
一態様では、外科創傷を治療する方法であって、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー及びグリセロールを含むハイドロゲルを、外科創傷の領域に適用する工程を含む方法が提供される。
【0133】
一態様では、副鼻腔における外科創傷に関連する口狭窄症若しくは口開存性の低下を予防又は改善する方法であって、本発明のハイドロゲルを調製すること、及び外科創傷の部位にハイドロゲルを適用することを含む方法が提供される。
【0134】
上記の態様の一実施形態では、ハイドロゲルは、本発明のキットから調製される。一実施形態では、本方法は、
1.固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを有する水溶液を溶解して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製すること;
2.N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせて、混合物を形成すること;
3.混合物にハイドロゲルを形成させること
を含み、混合物がさらに、保湿剤を含み;かつ
外科創傷の部位にハイドロゲルを適用すること
を含む。
【0135】
上述の態様の実施形態では、外科創傷は、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)に関連する。
【0136】
したがって、本発明の態様では、鼻腔及び/又は副鼻腔における外科創傷に関連する癒着、肉芽形成、浮腫、口狭窄症若しくは口の開存性の低下のいずれか1つを予防又は最小限にする方法であって、
1.固体アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを有する水溶液を溶解して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を調製すること;
2.N-スクシニルキトサンポリマーを含む水溶液とアルデヒド誘導体化デキストランポリマー溶液を組み合わせて、混合物を形成すること;
3.混合物にハイドロゲルを形成させること、
を含み、混合物がさらに、保湿剤を含み;かつ
外科創傷の部位にハイドロゲルを適用すること
を含む方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0137】
詳細な説明
定義
本明細書に記載の個々の滅菌法は、当業者によって理解されるであろう。誤解を避けるために、「蒸気滅菌」は典型的には、約121℃(250°F)の一定温度で飽和蒸気を使用する。この温度では、少なくとも15分の保持時間が、滅菌を達成するために必要とされる。
【0138】
本明細書で使用される用語「キトサン」は、ランダムに分布したβ-(1,4)結合のD-グルコサミンとN-アセチル-D-グルコサミンで構成される線状多糖を意味する。キトサンは、キチンの脱アセチル化により生成できる。α-キトサンとβ-キトサンの両方が本発明での使用に適する。脱アセチル化の程度(%DA)は、キトサンの溶解性及び他の特性に影響を与える。市販のキトサンは典型的には、約50~100%の脱アセチル化の程度を有する。完全脱アセチル化キトサンのモノマー単位を、下の式Iに示す。
【化1】
【0139】
本明細書で使用される用語「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」は、キトサンポリマーのD-グルコサミン残基のいくつかのアミン基と環状無水物との反応により誘導体化された、キトサンポリマーを意味する。ジカルボキシ基の例としては、N-スクシニル、N-マロイル及びN-フタロイルが挙げられる。N-スクシニルが好ましい。
【0140】
「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」は、他の官能基で部分的に誘導体化されてよい。この二次誘導体化は、ジカルボキシ基で誘導体化されていないアミン位置で又はD-グルコサミン残基のヒドロキシ基でのいずれかで起こり得る。例えば、キトサンの-OH基と環状無水物との反応は、アミド置換基ではなく、又はそれに加えて、エステル基を含むいくつかのモノマーをもたらし得る。二次誘導体化がジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアミン位置に存在する場合、ポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーとのクロスリンクを形成できるほど十分な遊離アミン基を保持する必要がある。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、D-グルコサミン残基のいくつかのアミン基と環状無水物の反応によってのみ誘導体化される。
【0141】
本明細書で使用される用語「N-スクシニルキトサンポリマー」又は「キトサンN-スクシンアミド」は、キトサンポリマーのD-グルコサミン残基のいくつかのアミン基上にN-スクシニル基を付加することにより誘導体化された、キトサンを意味する。「N-スクシニルキトサンポリマー」又は「キトサンスクシンアミド」は互換的に使用され得る。N-スクシニルキトサンポリマーのモノマー単位を、下の式IIに示す。
【化2】
【0142】
スクシニル化の程度は様々であり得る。典型的には、それは、約30~70%であるが、N-スクシニルキトサンポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランとの架橋を形成できるほど十分な遊離アミン基を保持しなければならない。N-スクシニルキトサンポリマーはまた、「ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー」について(上記で)論じられる二次誘導体化を含み得る。
【0143】
本明細書で使用される用語「N-スクシニルキトサン」は、アミン位置でN-スクシニル基でのみ誘導体化され、かつ他の官能基との二次誘導体化を含まない、N-スクシニルキトサンポリマーを意味する。
【0144】
本明細書で使用される用語「デキストラン」は、短いα-(1,3)側鎖を有するα-(1,6)グリコシド結合で構成されるグルコース多糖を意味する。デキストランのモノマー単位を、下の式IIIに示す。
【化3】
【0145】
デキストランは、ロイコノストック・メセンテロイデスB512Fによるショ糖含有培地の発酵により取得できる。分子量1KDa~2000KDaのデキストランが、市販されている。
【0146】
本明細書で使用される用語「アルデヒド誘導体化デキストランポリマー」は、反応性ビスアルデヒド機能を与えるために、いくつかの近傍の2級アルコール基が酸化されたデキストランポリマーを意味する。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーはまた、他の官能基により他の位置で誘導体化されてよい。好ましくは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、近傍の2級アルコール基でのみ誘導体化される。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの代表的なモノマー単位を、下の式IVに示す。
【化4】
【0147】
本明細書で使用される用語「ハイドロゲル」は、高分子間の空間を満たすポリマー鎖と水の3次元ネットワークからなる2成分系又は多成分系を意味する。
【0148】
本明細書で使用される用語「組織」は、ヒトを含む生物の体内で1以上の特異的な機能を実行するように共に作用する、関連付けられる細胞間物質を有する形態学的に類似の細胞の集合体を意味する。組織の例は、筋肉、表皮、神経及び結合組織を含むが、これらに限定されない。
【0149】
用語「組織」はまた、大動脈、心臓、胸膜腔、気管、肺、心膜及び囲心腔などの胸部組織;胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓、胆嚢、腎臓及び副腎などの腹部及び後腹膜組織;男性と女性の生殖管及び尿路の組織を含む骨盤腔組織;脊柱及び神経、硬膜神経及び末梢神経などの中枢並びに末梢の神経系組織;骨格筋、腱、骨及び軟骨などの筋骨格系組織;眼、耳、首、喉頭、鼻及び副鼻腔などの頭頸部組織を含むが、これらに限定されない1以上の組織の種類を含む器官を包含する。
【0150】
本明細書で使用される用語「癒着」は、組織間又は器官間、又は手術などの炎症性刺激後に形成される組織とインプラントの間の異常な接着を意味する。
【0151】
用語「肉芽形成」は、創傷の表面上での新しい結合組織及び血管の成長を意味する。
【0152】
用語「浮腫」は、細胞外液の蓄積を意味する。外科に関連する浮腫の場合、「浮腫」は、体の組織、特に皮膚に非常の多くの体液が閉じ込められるときに生じる腫脹を意味する。
【0153】
用語「口狭窄症」は、血管の異常な狭窄を意味する。
【0154】
用語「口の開存性」は、血管の開放性の程度と閉塞の相対的な欠如を意味する。
【0155】
癒着形成しやすい組織は、炎症性刺激にさらされた組織である。例えば、限定されないが、内視鏡下副鼻腔手術、腹部手術、婦人科手術、筋骨格手術、眼科手術、整形手術及び心血管手術などの外科的処置に関与している組織。組織はまた、機械的損傷、疾患、例えば、骨盤炎症性疾患、放射線治療及び異物の存在、例えば、外科インプラントなどの他の事象に続いて癒着形成しやすい可能性がある。
【0156】
本明細書で使用される用語「創傷」は、ヒト生物を含む生体における組織への損傷を意味する。組織は、内臓などの内部組織又は皮膚などの外部組織であってよい。損傷は、外科的切開又は組織への意図しない力の適用に起因する可能性がある。創傷は、擦過、裂傷、貫通などの機械的傷害、並びに火傷及び化学的傷害による損傷を含む。損傷は、潰瘍、病変、痛み、又は感染症で生じるなど徐々に発生した可能性もある。創傷の例とは、挫傷創傷、切開創傷、貫通創傷、穿孔創傷、穿刺創傷及び皮下創傷を含むが、これらに限定されない。
【0157】
本明細書に開示される数値の範囲(例えば、1~10)への言及は、その範囲内の全ての関連する数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9及び10)並びにその範囲内の合理的な数の任意の範囲(例えば、2~8、1.5~5.5及び3.1~4.7)への言及も組み込むことを意図しており、したがって、本明細書に明らかに開示される全ての範囲の全てのサブ範囲が、明らかに開示される。これらは、具体的に意図されるものの一例に過ぎず、列挙される最低値と最高値の間の数値の全ての可能な組み合わせは、同様の方法でこの出願で明示的に記述されると考えられるべきである。
【0158】
用語「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味又はいずれかの意味の明示的な支持を提供するために捉えられるものとする。
【0159】
この本明細書を通して、単語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」などのバリエーションは、記述された要素、整数又若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程のグループの包含を暗示するが、任意の他の要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程のグループの排除を暗示しないと理解される。
【0160】
本明細書を通して、特に具体的に記述されないか又は文脈が特に必要としない限り、単一工程、物質の組成、工程のグループ、又は物質の組成のグループへの言及は、それらの工程の1つ及び複数(すなわち1以上)、物質の組成、工程のグループ又は物質の組成のグループを包含すると捉えられる。
【0161】
ポリマーネットワーク
本発明は、2つの周知のポリマー:キトサンとデキストランの誘導体化及び架橋により形成されるポリマーネットワークを含む。ポリマーは、3次元ポリマーネットワークを急速に形成し、水溶液中にハイドロゲルを作り出す。ハイドロゲルの特性は、2種類のポリマー成分の誘導体化及び架橋を変更することにより、特定の用途に合わせて調整できる。
【0162】
その最も広い態様で、本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランに架橋されたジカルボキシ誘導体化キトサンを含むポリマーネットワークを提供する。
【0163】
本発明で用いられるジカルボキシ誘導体化キトサン成分及びアルデヒド誘導体化デキストラン成分は、WO2009/028965に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0164】
キトサン成分
キトサンは、広く入手可能であり、様々な供給元、例えば、Sigma-Aldrich(www.sigma-aldrich.com)から商業的に入手できる。
【0165】
あるいは、キトサンは、キチンの脱アセチル化により調製できる。多くの脱アセチル化の方法が、当技術分野で知られており、例えば、加熱時の水酸化ナトリウムの濃縮溶液中でキチンを加水分解し、次いで、水でろ過及び洗浄することによりキトサンを回収する。キチンは、α-キチン又はβ-キチンのいずれかとして存在する。キチンは、甲殻類、昆虫(inset)、真菌、藻類及び酵母に見られ、α-キチンは、ロブスター、カニ及びエビなどの甲殻類の殻から主に得られ、β-キチンは、イカの甲に由来する。キチンの両方の種類は、本発明で使用するためのジカルボキシ誘導体化キトサンを調製するために使用できる。
【0166】
一般に、市販のキトサンの平均分子量(MWav)は、約1~1000kDaである。低分子量のキトサンは、約1~50kDaのMWavを有する。高分子量のキトサンは、約250~800kDaのMWavを有する。任意のMWavのキトサンを、本発明で使用できる。
【0167】
キチンの脱アセチル化は、生じたキトサンがそのポリマー骨格に沿って遊離の第1級アミン基の大部分を有することを意味する。キトサンの脱アシル化の程度は、脱アセチル化されたグルコサミン単位のみが誘導体化又は架橋に利用可能であるため、本発明のポリマーネットワークの特性に影響を与える可能性がある。加えて、キトサンの溶解度は、脱アシル化の程度に依存する。
【0168】
本発明での使用に最も適するキトサンポリマーは、約40%~100%の脱アセチル化の程度を有する。好ましくは、脱アシル化の程度は、約60%~95%、より好ましくは約70%~95%である。
【0169】
本発明で使用するキトサンは、キチンの脱アセチル化により遊離状態にされたアミンでジカルボキシ誘導体化される。ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、キトサンを環状酸無水物と反応させることにより作製できる。本発明での使用に適する環状酸無水物は、コハク酸無水物、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、グルタル酸無水物、シトラコン酸無水物、メチルグルタコン酸無水物、メチルコハク酸無水物などを含む。
【0170】
好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、キトサンと、スクシニル無水物、フタル酸無水物、又はグルタル酸無水物の1以上との反応から作られる。より好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、キトサンとスクシニル無水物との反応から作られる。
【0171】
誘導体化は、当技術分野で周知の任意の方法により達成できる。例えば、固体キトサンを、DMF中の環状無水物の溶液中で加熱するか、又はメタノール/水混合物に可溶化し、次いで無水物と反応させてよい。誘導体化プロセスでの使用に適する他の溶媒は、ジメチルアセトアミドを含む。乳酸、HCl又は酢酸などの酸を添加して、キトサンの溶解性を向上させることができる。NaOHなどの塩基は典型的には、アセチル化アミン基のいくつかを脱アセチル化するために添加される。
【0172】
例示的な方法は、WO2009/028965で提供されている。使用する方法は、使用される環状無水物及び/又はキトサンの平均分子量に応じて選択できる。キトサンと環状無水物の両方が、使用される溶媒中で実質的に溶解又は膨潤できるべきである。
【0173】
好ましい一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンは、N-スクシニルキトサンである。N-スクシニルキトサンの調製方法は、当技術分野で周知である。例えば、「N-スクシニルキトサンの調製とその物理化学的性質(Preparation of N- succinyl chitosan and their physical-chemical properties)」、J Pharm Pharmacol.2006,58,1177-1181を参照されたい。
【0174】
環状無水物とキトサンの反応は、ジカルボキシ基を有する遊離アミン位置のいくつかをアシル化する。例えば、使用する環状無水物がコハク酸無水物である場合、アミン基のいくつかはN-スクシニル化される。N-スクシニル化に続くNaOH処理は、キトサン中のアミン基からアシル基のいくつかを除去する。NaOH処理の温度を上げると、WO2009/028965で実証されるように、存在する遊離アミン基の割合が増加する。
【0175】
アシル化の程度は、生成物中のC:Nの比で示される。アシル化の程度はまた、 nmrにより決定できる。N-スクシニルキトサンポリマーを、以下に表す。式Vは、ポリマー中に存在する3種類のD-グルコサミン単位であるN-スクシニル化-D-グルコサミン、遊離D-グルコサミン、及びN-アセチル-D-グルコサミンを示す。
【化5】
【0176】
一実施形態では、xは約60~80%であり、yは約1~15%であり、zは約10~25%である。
【0177】
別の一実施形態では、xは約60~80%であり、yは約1~30%であり、zは約2~25%である。
【0178】
高度の無水物置換は、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーをより可溶性にするが、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーへの架橋を妨げる可能性がある。
【0179】
一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、約20%~80%ジカルボキシ誘導体化される。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、約30%~60%ジカルボキシ誘導体化される。より好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、約45%~50%ジカルボキシ誘導体化される。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、約50%~90%ジカルボキシ誘導体化される。好ましくは、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、約60%~80%ジカルボキシ誘導体化される。
【0180】
デキストラン成分
デキストランは、主にα-1,6結合により連結されたD-グルコース単位で構成される多糖である。高分子量の粗デキストランは、スクロース上でロイコノストック・メセンテロイデスを成長させることにより取得できる。生じた多糖を加水分解して、低分子量のデキストランを得る。
【0181】
デキストランがジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーに架橋できる前に、それを活性化する必要がある。反応性ビスアルデヒド官能基は、酸化によりデキストラン上の近傍の2級アルコール基から作製され得る。典型的な方法は、WO2009/028965の中に提供されている。生じたアルデヒド誘導体化デキストランポリマーは次いで、ジカルボキシ誘導体化キトサンの第1級アミン基に還元的にカップリングされて、本発明の架橋ポリマーネットワークを形成できる。
【0182】
一実施形態では、酸化剤は、過ヨウ素酸ナトリウムである。他の適切な酸化剤は、過ヨウ素酸カリウムなどを含む。
【0183】
酸化生成物であるアルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、実際には少量の遊離アルデヒド基しか含まない。アルデヒド基のほとんどは、アセタール及びヘミアセタールとしてマスクされ、それらはデキストランの遊離アルデヒド形態と平衡状態にある。遊離アルデヒド基のいくつかの反応は、平衡を、アセタール及びヘミアセタール形態から、より多くの遊離アルデヒド基の形成に向かってシフトさせる。
【0184】
酸化度は、使用される酸化剤のモル比により影響を受けることがある。より高い程度の酸化は、架橋に利用できるより多くの部位を有するアルデヒド誘導体化デキストランポリマーをもたらす。しかし、より低い程度の酸化は、より可溶なアルデヒド誘導体化デキストランポリマーをもたらす。過ヨウ素酸反応も、デキストランポリマーの分子量を劇的に減少させる。
【0185】
一実施形態では、酸化度は、約30%~約100%であり、より好ましくは約50%~約100%である。最も好ましくは、酸化度は、約80~約100%である。WO2009/028965は、異なる程度でアルデヒド誘導体化(又は酸化)したアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを用いて調製した本発明のポリマーネットワークのゲル化時間を比較している。より高度にアルデヒド誘導体化されたデキストランポリマーは、より低い分子量を有し、N-スクシニルキトサンの溶液と溶液中で組み合わさると、より速くゲルを形成する。
【0186】
誘導体化の程度は、ヒドロキシルアミン塩酸塩との長時間の反応と、その後の、解放されたプロトンの滴定を用いて測定できる(Zhao,Huiru,Heindel,Ned D、「ヒドロキシルアミン塩酸塩法によるポリアルデヒドデキストランにおけるホルミル基の置換度の決定(Determination of degree of substitution of formyl groups in polyaldehyde dextran by the hydroxylamine hydrochloride method)」 Pharmaceutical Research(1991),8,400-401ページ)。
【0187】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基は、近くのヒドロキシル基と反応しやすく、水中でヘミアセタール又はヘミアルダールを形成することが判明した。したがって、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、水溶液中で時間とともに劣化し、実行可能な貯蔵期間を短縮させる。したがって、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、特に、製造から12ヶ月を超えて、その貯蔵期間を最大化するために固体として保存されるべきであることが判明した。
【0188】
キトサン成分とデキストラン成分の架橋
本発明は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋されたジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーを含むポリマーネットワークを提供する。一実施形態では、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、N-スクシニルキトサンポリマーである。一実施形態では、N-スクシニルキトサンポリマーは、N-スクシニルキトサンポリマーのアミン基とアルデヒド誘導体化デキストランポリマーのアルデヒド基を介して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋される。好ましくは、N-スクシニルキトサンポリマーは、N-スクシニルキトサンである。
【0189】
本発明はまた、上述したポリマーネットワークを生成する方法を提供する。
【0190】
本発明のポリマーネットワークを作製するために、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーが、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋される。これは、2つのポリマーの水溶液を混合することにより達成できる。例えば、WO2009/028965を参照されたい。
【0191】
一実施形態では、その中でポリマーマトリックスが形成する水溶液は、約6~8、好ましくは約6.5~7.5のpHを有することが望ましい。これは、ポリマー成分の別々の水溶液のpHをこの範囲内に調整してから、2つの溶液を混合することにより達成できる。あるいは、個々のポリマー成分の水溶液のpHを、透析後、凍結乾燥前に調節できる。pHは、任意の適切な塩基又は酸を用いて調整できる。一般的に、pHは、NaOHを使用して調整される。
【0192】
一実施形態では、水溶液の一方又は両方は、1以上の医薬として許容される賦形剤を独立して含有し得る。一実施形態では、水溶液は、独立してNaClを含有し得る。好ましくは、NaClの濃度は、約0.5~5w/v%である。より好ましくは、NaClの濃度は、約0.5~2w/v%であり、最も好ましくは約0.9w/v%である。
【0193】
一実施形態では、水溶液は、リン酸ナトリウムなどのリン酸緩衝液(例えば、NaHPO)、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、乳酸緩衝液、クエン酸緩衝液及び重炭酸緩衝液を含むが、これらに限定されない1以上の緩衝液を独立して含んでよい。
【0194】
保湿成分
保湿剤の存在は、架橋特性又はゲル構造に影響を与えることなく、ゲルを柔らかく保つのに役立つ。特定の例では、ハイドロゲルは、約20%のグリセロールを含む。保湿剤の使用は、保湿剤が環境への水分の損失を低下させ、そのためより長い期間ハイドロゲルの所望の物理的特性を維持するので、ハイドロゲルがその使用により長く先立って調製されることを可能にする。ハイドロゲルは、手術前に調製されてよく、手術が2~3時間の通常時間よりも長く続く場合には、調製後6時間以内に使用できる。ハイドロゲルは、6時間の時間枠内で物理的又は化学的特性を失わない。一実施形態では、保湿剤は、グリセロールである。
【0195】
本発明のハイドロゲル
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと反応して、三次元架橋ポリマーネットワークを生成する。このポリマーネットワークは、その中でそれが形成される水溶液を用いてハイドロゲルを形成する。本発明のハイドロゲルは、医薬用途、特に、創傷治癒、手術の癒着の予防、及び出血の低下(止血)に使用するのに適する特性を有する。
【0196】
理論に束縛されることなく、創傷表面への本発明のハイドロゲルの適用は、この空間内のフィブリン及び血栓の形成を防止し、それにより癒着のその後の形成を防止すると考えられる。
【0197】
ハイドロゲルの特性は、2つのポリマーの誘導体化及び架橋を変更することにより、特定の用途に合わせて調整できる。
【0198】
本発明のポリマーネットワークにおいて、キトサンのD-グルコサミン残基のアミン基は、
(a)アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに架橋されてよく、
(b)ジカルボキシ基でアシル化されてよく、または
(c)(元のキチン材料から)アセチル化されてよい。
【0199】
高度のアセチル化及び/又はジカルボキシアシル化は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと架橋するより少ない遊離アミン基を残す。その結果、2つのポリマーの水溶液が混合される場合、生じる重合の量は、ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーのアシル化及びアセチル化パターンの影響を受ける。これは、今度は、ハイドロゲルがどれだけ速く形成されるかに影響を与える。ポリマーの希薄溶液中でポリマー化がほとんど起こらない場合には、ハイドロゲルは形成されない。
【0200】
ジカルボキシ誘導体化キトサンポリマー及びアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの水溶液は、約2~約10w/v%の各成分を含む。
【0201】
一般的に、等しい濃度の2種類のポリマーの水溶液が混合されて、本発明のハイドロゲルを形成する。しかし、異なる比率のジカルボキシ誘導体化キトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを用いることができ、ただし、2種類のポリマーの特性は、混合された場合それらが架橋して本発明のハイドロゲルを形成するものである。
【0202】
当業者は、
(a)キトサンの脱アセチル化の程度、
(b)キトサンのジカルボキシ誘導体化の程度、
(c)アルデヒド誘導体化デキストランの酸化度、及び
(d)水溶液中の濃度
のパラメータを操作でき、その結果、成分ポリマー溶液は、混合時に急速に架橋して、ハイドロゲルを形成する。
【0203】
キット
本発明のキットは、別々に密閉されたハイドロゲル前駆体、ハイドロゲルを調製するための装置、ハイドロゲルを調製するための説明書及びキットの成分を収容するための滅菌バリアシステムを含む。例示的なキットは、ハイドロゲル前駆体:
・40w/v%のグリセロールを含む12mlのリン酸ナトリウム緩衝液を含む密閉バイアルA
・350mgのアルデヒド誘導体化デキストランポリマー粉末を含む密閉バイアルB
・0.3%のリン酸ナトリウム緩衝液中12mlのN-スクシニルキトサンポリマー(5w/v%)溶液を含む密閉バイアルC
を含む。
【0204】
例示的なキットは、ハイドロゲルを調製するための装置:
・流体分配コネクター
・2つの混合カニューレ
・柔軟なカニューレ
・2つの滅菌20mlルアーロックシリンジ
・前駆体及び装置を含むバリアシステム
をさらに含む。
【0205】
エチレンオキシド滅菌処理によりバリアシステムが滅菌されると、キットの全ての成分は、無菌であり、手術室での使用に適する。
【0206】
滅菌バリアシステム及びその内容物への損傷を防ぐために、非滅菌保護包装を用いて、滅菌バリアシステムを封入してよい。
【0207】
本発明のキットは、1種以上の生物活性剤を含むようにさらに適合され得る。例えば、1種以上の生物活性剤を、ジカルボキシ誘導体化キトサン及びアルデヒド誘導体化デキストランの一方又は両方と組み合わせることができる。
【0208】
上述したように、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、少なくとも12ヶ月の貯蔵期間にわたりその安定性を確実にするために、固体として提供される。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは有利に、アモルファス形態であり得る。
【0209】
N-スクシニルキトサンポリマーは、固体として提供でき、キットのエンドユーザーにより溶液に溶解できるが、本発明者らは、N-スクシニルキトサンポリマーが、固体形態とは対照的に、溶液としてキット中で有利に提供されることを発見した。これは、N-スクシニルキトサンポリマーが吸湿性であり、したがって製造工程中に溶液として取り扱うことがより容易であるからである。さらに、N-スクシニルキトサンポリマーは、水溶液中で溶解するのが遅いことが判明した。製造において、及びハイドロゲルの調製において便宜上、N-スクシニルキトサンポリマーはしたがって、溶液として提供される。
【0210】
柔軟なカニューレは、柔らかいプラスチックチューブとプラスチックチューブに埋め込まれた2本のステンレススチールの柔軟なワイヤーを含む。ワイヤーは、プラスチックチューブにより完全に囲まれ、実質的にプラスチックチューブの全長に沿って伸びる。柔軟なカニューレの第1の開口端は、例えば、ルアーロック又はルアースリップ機構を介してシリンジに接着するように構成され、柔軟なカニューレの第2の開口端は、外科創傷の部位にハイドロゲルを適用するように構成される。
【0211】
キットの滅菌方法
キットのハウジングを含むキットの内容物は、無菌であり、手術室での使用に適している。
【0212】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマー
最も影響しやすい前駆体成分は、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーである。アルデヒド基は、近くのヒドロキシル基と反応しやすく、水中で、ヘミアセタール又はヘミアルダールを形成する。そのため、蒸気滅菌は、乾燥デキストラン粉末については不可能である。
【0213】
アルデヒド基の存在により、UV照射は、固体状態のアルデヒド誘導体化デキストランポリマー中にフリーラジカルを生成し、不可逆的に架橋されたアルデヒド誘導体化デキストランポリマー生成物をもたらし得ると、本発明者らは考えている。したがって、蒸気もUV照射も、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの滅菌には適していない。
【0214】
ガンマ照射は、用量依存的にフリーラジカルを生成することが知られている。フリーラジカルは、グリコシド結合を切断でき、多糖の脱重合をもたらす。本発明者らは、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーの場合、ガンマ照射誘導フリーラジカルのみが、ポリマーが溶液中にある時に、グリコシド結合を切断することを発見した。さらに驚くべきことに、ガンマ照射は、固相でのアルデヒド誘導体化デキストランポリマーにおける異なる結合の相対頻度に影響を及ぼさないことが判明した。すなわち、驚くべきことに、ガンマ照射はアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを実質的に分解しないことが明らかになった。そのため、本発明者らは、ガンマ照射が、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーに適切な滅菌方法であることを見出した。
【0215】
ガンマ滅菌は、高い貫通能力、比較的低い化学反応性、及び温度、圧力、真空又は湿度の制御を必要とせず瞬時の効果の追加の利点を有する。
【0216】
アルデヒド誘導体化デキストランポリマーを、コバルト60放射線源からのガンマ線に曝露した。アルデヒド誘導体化デキストランポリマーへの少なくとも25kGyの線量が、滅菌プロセスの検証中に10-6の滅菌保証レベル(SAL)を達成すると判明した。
【0217】
ガンマ照射への曝露の後で、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーは、溶解時間又はゲル化特性に大きな変化を示さなかった。
【0218】
緩衝液の滅菌
キットの緩衝液は、リン酸ナトリウムの水溶液を含む。緩衝液は、医薬活性若しくは生物活性のある成分、又は熱、蒸気若しくはガンマ照射を含む滅菌法によって分解されやすい成分を含まない。そのため、緩衝液は、ガンマ照射、蒸気滅菌又は熱滅菌によって滅菌できることが判明した。
【0219】
N-スクシニルキトサンポリマーの滅菌
本発明者らは、ガンマ又はベータ電離放射線へのN-スクシニルキトサンポリマーの曝露が、鎖の切断を通じてポリマーの分解を誘導することを発見した。さらに、本発明者らは、UV照射が、フリーラジカルの形成及びN-スクシニルキトサンポリマー中のポリマーアミノ基の破壊をもたらし得ると考えている。
【0220】
理論に縛られることなく、本発明者らは、高度に脱アセチル化されたキトサン(約85%の脱アセチル化キトサン)の分解率が、アセチル化されたキトサン又はより低く脱アセチル化されたキトサンと比較して、照射滅菌法の下でより高く、それがひいては、N-スクシニルキトサンポリマー溶液の粘度に影響を与え、アルデヒド誘導体化デキストランポリマーと組み合わされるとハイドロゲル形成に悪影響を及ぼすと考えている。
【0221】
エチレンオキシド滅菌法へのN-スクシニルキトサンポリマーの曝露は、ポリマーの分解を生じないと見出されたが、この滅菌技術は、乾燥状態のキトサン系材料に対し使用が限られている。これは、N-スクシニルキトサンが吸湿性であり、したがってエチレンオキシド滅菌プロセス中に水分を吸収する傾向があるためである。
【0222】
驚くべきことに、本発明者らは、飽和水蒸気滅菌が、キトサン溶液及びN-スクシニルキトサンポリマー溶液の滅菌に適切な方法であることを発見した。本発明者らは、6~8のpH範囲を有するN-スクシニルキトサンポリマー溶液が、飽和蒸気滅菌処理中に感知できる劣化を受けないことを発見した。
【0223】
蒸気滅菌処理は、N-スクシニルキトサンポリマーの化学構造を変化させないことが判明した。さらに、蒸気滅菌処理は、N-スクシニルキトサンポリマーとアルデヒド誘導体化デキストランポリマーとで形成されるハイドロゲルのゲル化時間に影響しないことがさらに判明した。
【0224】
キット、装置及びバリアシステムの滅菌
滅菌されたN-スクシニルキトサンポリマー溶液、滅菌された緩衝液及び滅菌されたアルデヒド誘導体化デキストランポリマーを、別々のガラスバイアルにそれぞれ移し、樹脂キャップで密閉した。
【0225】
キットは、2つの20mlシリンジ、N-スクシニルキトサン、アルデヒド誘導体化デキストラン及び緩衝液を含む3つのガラスバイアル、2つの混合カニューレ、柔軟なカニューレ、シリンジ対シリンジコネクタ、並びに前駆体及び装置を収容するためのバリアシステムを含む。製品ラベリングを有する段ボールパッケージも提供され、それは、バリアシステムを受け入れるように適合される。
【0226】
代替実施形態では、キットはさらに、フォームインナー、硬いプラスチックシェル及び/又は製品ラベリングを含む。フォームインナーは、各成分を受け取るためのくぼみを含む。
【0227】
ハイドロゲル前駆体成分を含む各バイアルを、キットバリアシステムに配置した。バリアシステムは、密閉されるように、かつ閉じている間は滅菌密閉を維持できるように適合される。バリアシステムに、キャップされ密閉された各ハイドロゲル前駆体成分のガラスバイアルを搭載した。バリアシステムにさらに、流体分配コネクター、2つの混合カニューレ、柔軟なカニューレ、2つの滅菌20mlルアーロックシリンジを搭載した。バリアシステムを次いで、開放構成で、エチレンオキシド滅菌法に供した。
【0228】
キットはエチレンオキシドにより滅菌されるので、バイアル、蓋、装置、バリアシステム及びラベルは、エチレンオキシド又は必要なプロセスパラメータ(例えば、エチレンオキシド滅菌プロセスの温度、湿度及び圧力など)のいずれかによる劣化の影響を受けやすくない必要がある。
【0229】
キットの調製のための滅菌法の開発は、いくつかの重要な課題を克服した。本発明者らは、アルデヒド誘導体化デキストラン/N-スクシニルキトサンハイドロゲルが、数日又は数週間にわたり一貫して、不安定であることを発見した。したがって、本発明者らは、使用の時点でハイドロゲルを調製するための、医療従事者が使用できるハイドロゲル前駆体を含むキットを用意することに着手した。滅菌キットの開発における重要な課題は、滅菌処理中にいかなる成分も損傷又は劣化しないような方法で、各前駆体、前駆体包装及びキット全体を滅菌する方法であった。例えば、本発明者らは、固体アルデヒド誘導体化デキストランと固体N-スクシニルキトサンの組み合わせ(例えば、単一の容器中で組み合わされた)が、蒸気滅菌(N-スクシニルキトサンが吸湿性であるので)、ガンマ照射(N-スクシニルキトサンがガンマ照射により分解されるので)又はエチレンオキシド(N-スクシニルキトサンが吸湿性であるので)のいずれの方法によっても滅菌できないことを発見した。加えて、本発明者らは、アルデヒド誘導体化デキストランが、溶液中のガンマ照射下で劣化する(しかし固体としては劣化しない)ため、水溶液として提供できないことを発見した。
【0230】
ハイドロゲルステント又はパッキング材の調製
密閉されたバイアルA(リン酸ナトリウム緩衝液)の内容物11mlを、第1の滅菌20mlルアーロックシリンジにより引き上げ、開けたバイアルBに移した。バイアルBにキャップをし、20秒間攪拌した。AB混合物を、第1のシリンジ中に引き上げ、15分間放置して、アルデヒド誘導体化デキストランポリマー粉末の溶解を確実にした。
【0231】
密閉されたバイアルCの11mlを、第2の滅菌20mlルアーロックシリンジ中に引き上げた。第1及び第2のシリンジを、シリンジ対シリンジコネクタを介して連結し、AB混合物とC混合物を、組み合わせ、少なくとも6回、第1と第2のシリンジ間で溶液を移動させることにより混合した。ABC溶液を、少なくとも15分間放置して、溶液がハイドロゲルにセットされるようにした。
【0232】
医療従事者にとって容易かつ便利な調製手順を可能にするために、本発明者らは、各成分の濃度及び相対的な比を決定した。例えば、AB混合物とC混合物の濃度が高すぎる場合、又はアルデヒド誘導体化デキストランポリマーの相対的な比がN-スクシニルキトサンに対し高すぎる場合には、ハイドロゲルの形成が速すぎる(十分に均質ではないハイドロゲル混合物をもたらす)可能性があるか、又はハイドロゲルの稠度が非常に硬くなる。逆に、濃度が低すぎると、ハイドロゲルが適切な粘性の一貫性を形成するのに時間がかかりすぎる。
【0233】
外科創傷の治療
上述の方法に従って調製されたハイドロゲルは、ステント又はパッキング材として有用である。特に、ハイドロゲルはパッキング材である。ハイドロゲルは、外科創傷、特に、ESSに関連する外科創傷への適用のためのステント又はパッキング材として使用するためのスペース占有パッキング材として作用する。
【0234】
ハイドロゲルは、成分A、B及びCの組み合わせ後に、2つの20mlシリンジ中でその場で形成される。ゲルを形成したら、それを、外科創傷の部位に適用してよい。ESSに関連する外科創傷の場合、柔軟なカニューレは、創傷に安全かつ効果的にハイドロゲルを送達するのに特に有利である。
【0235】
チューブに埋め込まれた柔軟なワイヤーは、柔軟なカニューレが手動で曲げられ特定の構成へと成形されるようにし、鼻(例えば)又は他の身体開口部を介して外科創傷の部位にカニューレを挿入するのを可能にする。カニューレの柔軟性はそのため、患者にさらなる外傷を引き起こすことなく、外科創傷部位へのハイドロゲルの正確な適用を可能にする。
【0236】
ESSに関連する外科創傷にハイドロゲルを適用するために、柔軟なカニューレを、ハイドロゲルを含むシリンジの端部に接着させる。カニューレは、医療従事者により手動で成形されて、カニューレの第2の開口部が創傷部位に向くように、カニューレが鼻孔を通って外科創傷の部位に挿入されるのを可能にする。ハイドロゲルの層が次いで、創傷に適用される。
【0237】
プラスチックチューブ自体は、カニューレの挿入中又はハイドロゲルの適用中に患者に外傷を起こさないほど十分に柔らかい、軟質プラスチック材である。
【0238】
本発明は、
-外科的外傷により損なわれた組織又は構造を分離するため;
-鼻腔内の粘膜表面間の癒着を分離及び予防し、内視鏡下副鼻腔手術後の口狭窄症を最小限に抑えるため;
-タンポナーデ効果、血液吸収、及び血小板凝集による手術又は外傷後の最小限の出血を制御するため;並びに
-自然治癒過程を助けるために補助として作用するため
にハイドロゲルを提供する。
【0239】
本発明のハイドロゲルは、調製され、ESSに関連する外科創傷に適用される。ESSに関連する外科創傷へのハイドロゲルの適用は、非ハイドロゲルパッキング材又は非パッキング材と比較して、関連する癒着、肉芽形成及び浮腫の発生率を低下させることが判明した。
【0240】
手術後12ヶ月の時点でパッキング材を使用しなかった場合と比較して、本発明のハイドロゲルを適用された患者は、平均して、以下のこと:
-前頭口領域の73%の改善
-蝶形骨口領域の35%の改善
-上顎口領域の34%の改善
-癒着率の47%の低下
-浮腫の発生の50%の低下
-肉芽形成の発生の50%の低下
を経験した。
【国際調査報告】