(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-07
(54)【発明の名称】WNTシグナル伝達及びMACC1の阻害剤の医薬配合剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/167 20060101AFI20220331BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/423 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/4375 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/145 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220331BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220331BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220331BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61K31/167 ZNA
A61K31/4184
A61K31/423
A61K31/4375
A61K31/5415
A61K31/40
A61K31/366
A61K31/47
A61K31/505
A61K31/22
A61K31/145
A61K31/192
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549323
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2020054641
(87)【国際公開番号】W WO2020169812
(87)【国際公開日】2020-08-27
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504439274
【氏名又は名称】マックス-デルブリュック-ツェントルム フューア モレキュラーレ メディツィン イン デア ヘルムホルツ-ゲマインシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】シュタイン,ウルリケ
(72)【発明者】
【氏名】コベルト,デニス
(72)【発明者】
【氏名】コーツム,ベネディクト
(72)【発明者】
【氏名】ラーダークリシュナン,ハリクリシュナン
(72)【発明者】
【氏名】ワルサー,ウルフギャング
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA24
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086BC05
4C086BC28
4C086BC39
4C086BC42
4C086BC70
4C086DA26
4C086MA03
4C086MA04
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA10
4C206DB02
4C206DB06
4C206JA19
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤と、MACC1の阻害剤とを含む医薬配合剤に関する。好ましい実施形態において、本発明は、Wntシグナル伝達阻害剤としてのS100A4の阻害剤、好ましくはニクロサミドと、MACC1の阻害剤としてのスタチン又はMEK1阻害剤との組合せに関する。本発明は更に、上記組合せを含む医薬組成物、並びに固形腫瘍等の腫瘍性疾患の治療における、及び/又は腫瘍転移の治療及び/又は予防のための組合せ又は組成物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤と、
b.MACC1の阻害剤と、
を含む、医薬配合剤。
【請求項2】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤がS100A4の阻害剤である、請求項1に記載の医薬配合剤。
【請求項3】
S100A4の阻害剤が、ニクロサミド又はその誘導体、スリンダク、カルシマイシン、ICG001、FH535、LF3、トリフルオペラジン(TFP)等のフェノチアジンである、請求項2に記載の医薬配合剤。
【請求項4】
MACC1の阻害剤がスタチンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項5】
MACC1の阻害剤がMEK1阻害剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項6】
a.ニクロサミドと、
b.スタチン及び/又はMEK1阻害剤と、
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項7】
MACC1の阻害剤が、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチン、好ましくはアトルバスタチン、ロバスタチン及び/又はフルバスタチンから選択されるスタチンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項8】
MACC1の阻害剤が、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチン、好ましくはアトルバスタチン、ロバスタチン及び/又はフルバスタチンから選択されるスタチンであり、該Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤がニクロサミド又はその誘導体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項9】
MACC1の阻害剤が、AZD6244(セルメチニブ)、GSK1120212(トラメチニブ)及び/又はコビメチニブから選択されるMEK1阻害剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項10】
組合せが、ニクロサミド及びアトルバスタチン、ニクロサミド及びロバスタチン、ニクロサミド及びフルバスタチン、ニクロサミド及びAZD6244(セルメチニブ)、又はニクロサミド及びGSK1120212(トラメチニブ)からなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項11】
(a.)Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及び(b.)MACC1の阻害剤が重量基準で10000:1~1:10000、好ましくは重量基準で5000:1~1:1の相対量を有し、
好ましくは、(a.)該Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤がニクロサミドであり、(b.)該MACC1の阻害剤がスタチン、好ましくは請求項7のものであり、(a.)及び(b.)が1000:1~1:1、好ましくは500:1~1:1、より好ましくは50:1~10:1、より好ましくは約25:1の相対量を有し、
好ましくは、(a.)該Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤がニクロサミドであり、(b.)該MACC1の阻害剤がMEK1阻害剤であり、(a.)及び(b.)が5000:1~1:1、より好ましくは2000:1~500:1の相対量を有し、
好ましくは、(a.)該Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤がニクロサミドであり、(b.)該MEK1阻害剤がGSK1120212(トラメチニブ)であり、(a.)及び(b.)が2000:1~500:1、好ましくは約1000:1の相対量を有し、
好ましくは、(a.)該Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤がニクロサミドであり、(b.)該MEK1阻害剤がAZD6244(セルメチニブ)又はコビメチニブであり、(a.)及び(b.)が1000:1~1:1、好ましくは500:1~1:1、より好ましくは50:1~10:1、より好ましくは約35:1~25:1の相対量を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項12】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤が、薬学的に許容可能な担体と混合された医薬組成物中にあり、MACC1の阻害剤が、薬学的に許容可能な担体と混合された別々の医薬組成物中にある、又は、
請求項1~11のいずれか一項に記載のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及びMACC1の阻害剤が、キット内で空間的に近接しているが、別々の容器内及び/又は組成物中に存在する、又は、
請求項1~11のいずれか一項に記載のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及びMACC1の阻害剤が、薬学的に許容可能な担体と混合された単一の医薬組成物に組み合わされる、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項13】
腫瘍性疾患の治療に使用される、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項14】
腫瘍性疾患が固形腫瘍である、又は胃腸癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、肝細胞癌、胆管癌、肺癌、鼻咽頭癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、脳癌、骨癌、頭頸部癌、前立腺癌、黒色腫又は乳癌からなる群から選択される、請求項13に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項15】
好ましくは癌性細胞の細胞運動性を低下させることによる、腫瘍転移の治療及び/又は予防に使用される、請求項13又は14に記載の医薬配合剤。
【請求項16】
腫瘍細胞が、健康な対照等の対照と比較して、MACC1及びS100A4の発現及び/又は活性の増加を示す、請求項13~15のいずれか一項に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項17】
治療の被験体がステージ0、I、II、III又はIVの結腸直腸癌を示す、及び/又は治療の被験体が固形腫瘍を除去する手術を受ける及び/又は手術を受けたことがある、請求項13~16のいずれか一項に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項18】
腫瘍性疾患の治療における薬剤として使用される、好ましくは腫瘍転移、固形腫瘍又は請求項13~17のいずれか一項に記載の腫瘍性疾患の治療のための、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくは請求項2又は3に記載のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、より好ましくはニクロサミドであって、前記治療が、MACC1の阻害剤、好ましくはスタチン又はMEK1阻害剤、より好ましくは請求項7に記載のMACC1の阻害剤の併用投与を含む、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤。
【請求項19】
腫瘍性疾患の治療における薬剤として使用される、好ましくは腫瘍転移、固形腫瘍又は請求項13~17のいずれか一項に記載の腫瘍性疾患の治療のための、MACC1の阻害剤、好ましくはスタチン又はMEK1阻害剤、より好ましくは請求項7に記載のMACC1の阻害剤であって、前記治療が、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくは請求項2又は3に記載のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、より好ましくはニクロサミドの併用投与を含む、MACC1の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤と、MACC1の阻害剤とを含む医薬配合剤に関する。好ましい実施の形態において、本発明は、Wntシグナル伝達阻害剤としてのS100A4の阻害剤、好ましくはニクロサミドと、MACC1の阻害剤としてのスタチン又はMEK1阻害剤との組合せに関する。本発明は更に、上記組合せを含む医薬組成物、並びに固形腫瘍等の腫瘍性疾患の治療における、及び/又は腫瘍転移の治療及び/又は予防のための組合せ又は組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
原発腫瘍の転移性播種は患者の生存に直接関連し、癌の最も致命的な属性となる。転移性播種は、多くの腫瘍実体で治療法の成功を決定的に制限する。転移のリスクが高い癌患者を特定し、同時に転移の主要な進行要因として作用するバイオマーカーが非常に望まれている。これらの分子を標的とする臨床的介入が最も重要である。
【0003】
今日まで、結腸直腸癌(CRC)の全患者の約25%~30%が、初診察時には既に遠隔転移している(ステージIV)。遠隔転移のないCRCと新たに診断された全患者の40%~50%(ステージI~ステージIII)は、最初の手術後、後期(異時性)に遠隔転移を発症し、これは、生存期間の短縮に大きく関連する。患者の5年生存率は初期ステージでは約80%であるが、遠隔転移が発生した場合は10%未満である。したがって、新規な治療選択肢が必要とされている。重要な治療目標の1つは、新規なコンビナトリアル分子標的療法による固形癌転移の制限である。
【0004】
本発明者らは、以前に、ヒト結腸直腸癌(CRC)において新規遺伝子MACC1(Metastasis-Associated in Colon Cancer)を同定した(非特許文献1)。MACC1は、異種移植マウス及びトランスジェニックマウスにおいて、増殖、遊走、浸潤、及び転移のような基本的なプロセスを誘発する。MACC1は現在、様々な固形癌(CRC、胃癌、食道癌、膵臓癌、肝細胞癌/胆道癌、肺癌、鼻咽頭癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、乳癌、膠芽腫、骨肉腫)における腫瘍の進行及び転移の重要な因子、並びに予後及び予測のバイオマーカーとして確立されている。原発腫瘍又は患者の血液中の高いMACC1レベルは、患者の生存期間の短縮に関連する転移形成を予測する。
【0005】
本発明者らは、最初のMACC1転写阻害剤を以前に特定した(非特許文献2)。ヒトMACC1プロモーターベースのハイスループットスクリーン(HTS)を実施することにより、ロバスタチン等のFDAに承認された小分子薬をMACC1の転写阻害剤として特定した(
図1)。これらの化合物は、細胞培養物において細胞運動性を阻害し、更に重要なことに、異種移植マウスにおける転移の発症を制限した。この所見に続いて、更なるスタチンを調査し、MACC1転写の阻害剤として特定した。
【0006】
本発明者らは、以前に、MACC1のインタラクトーム及びホスホインタラクトームを特定した。MEK1は、MACC1をリン酸化することができる必須のキナーゼとして特定された。MEK阻害剤はin vitroで細胞運動性を大幅に低下させた。マウスにおけるMACC1誘発性転移制限のためのPoCは、MACC1 pY部位を欠失させるか、又はAZD6244(セルメチニブ)及びGSK 1120212(トラメチニブ)等のFDAに承認されたMEK1阻害剤でpY-MACC1を阻害することで実証された。
【0007】
同質遺伝子細胞株モデルを使用することにより、本発明者らは、現在確立されている転移誘発物質S100A4をWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の転写標的として最初に特定した(非特許文献3)。このようにして、Wnt経路を標的とする介入により、S100A4の発現が減少し、マウスにおける転移形成が大幅に低下した。
【0008】
本発明者らは、ヒトS100A4プロモーターベースのHTSを使用して、転移遺伝子S100A4の最初の転写阻害剤を以前に特定した(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。最良の候補の中で、FDAに承認された非ステロイド性抗炎症薬スリンダク、抗生物質カルシマイシン、及び駆虫薬ニクロサミド(特許文献1)が特定された。興味深いことに、これらの薬剤はいずれもWnt/β-カテニンシグナル伝達経路に介入し、in vitroで細胞運動性を低下させ、更に重要なことに、マウスの転移形成を大幅に制限する。
【0009】
小分子薬のリポジショニング(repositioning)による転移阻害に関するこれらの前臨床所見の変換は、現在、臨床第II相試験でFDAに承認された駆虫薬ニクロサミドを用いて進行中である:腫瘍の進行及び転移を制限するためにニクロサミドを使用したステージIVの結腸直腸癌患者の治療(EudraCT 2014-005151-20、NCT02519582)。
【0010】
従来技術は、アテローム性動脈硬化症の治療におけるペプチド活性物質のバイオアベイラビリティを増強するためのニクロサミドの使用を記載しており、プラバスタチンの投与にも言及している(特許文献2及び非特許文献7)。しかしながら、癌治療又は細胞運動性/転移を減少させることについては言及されていない。
【0011】
予後バイオマーカー及び腫瘍転移の進行要因としてのMACC1及びWnt/β-カテニンシグナル伝達経路、特にS100A4の実質的な役割にもかかわらず、腫瘍及び転移の進行を阻害するための治療標的としてのそれらを組み合わせた標的化は、癌患者においてこれまで調査されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2012143377号
【特許文献2】国際公開第2008/021088号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Stein et al., Nat Med. 2009 Jan;15(1):59-67
【非特許文献2】Juneja, Kobelt et al. PLoS Biol. 2017 Jun 1;15(6)
【非特許文献3】Stein et al., Gastroenterology, 2006 Nov;131(5):1486-500
【非特許文献4】Stein et al., Neoplasia. 2011 Feb;13(2):131-44
【非特許文献5】Sack et al. Mol Biol Cell. 2011 Sep;22(18):3344-54
【非特許文献6】Sack et al., J Natl Cancer Inst. 2011 Jul 6;103(13):1018-36
【非特許文献7】Navab et al, J. Lipid Research, vol. 50, 8, 1538-154, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術に照らして、本発明の根底にある技術的課題は、癌の治療のための代替の又は改善された手段を提供することである。技術的課題はまた、初期ステージの癌患者における治療及び/又は癌進行のリスクの低減のための手段の提供と見なされ得る。技術的課題はまた、固形腫瘍を有する患者、より詳しくは、MACC1及び/又はS100A4レベルが上昇している患者における治療及び/又は転移のリスクを低減するための手段の提供と見なされ得る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、独立形式請求項の特徴により解決される。本発明の好ましい実施の形態は、従属形式請求項により提供される。
【0016】
したがって、本発明は、
a.Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤と、
b.MACC1の阻害剤と、
を含む、医薬配合剤に関する。
【0017】
本発明はまた、固形腫瘍等の腫瘍性疾患の治療に使用される、及び/又は腫瘍転移の治療及び/又は予防のための組合せ、並びに対応する治療方法に関する。本発明はまた、かかる治療におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤とMACC1の阻害剤との併用投与に関する。
【0018】
したがって、本発明は、癌の進行及び転移の制限のための個別的介入を表し、最近発見された主要な進行要因及び予後/予測バイオマーカーMACC1と、既知の転移誘発物質であるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路とを組み合わせて標的とする。
【0019】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路とMACC1との両方を阻害する複合効果は、細胞運動性及び腫瘍転移の減少に予想外の相乗効果をもたらす。
【0020】
腫瘍細胞の増殖を減少させるという追加の有益な効果も、MACC1阻害剤によって達成される。細胞運動性及び転移の減少に関して、この併用治療で明らかな相乗作用は、定量的に再現可能である。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤とMACC1の阻害剤との両方の組合せで腫瘍細胞を処理することにより、細胞運動性は、単独で投与された場合に各阻害剤によって誘発される効果の合計よりも大きく減少する。
【0021】
さらに、この定量的な相乗作用は、in vitro及びin vivoの実験システムの両方で明らかである。したがって、観察された相乗作用は、臨床現場に変換され、哺乳動物、好ましくはヒトの被験体の腫瘍治療において有効な手段を提供するようである。
【0022】
定量的な相乗作用は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の複数の阻害剤とMACC1の複数の阻害剤とでも明らかである。これは、試験された特定の作用物質に限定されることなく、本明細書に記載される活性物質のクラスに対する本発明の相乗作用を裏付ける。本発明者らは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路を妨げることにより、癌細胞の運動性の低下における有益な効果を達成できることを確立した。これらの効果をMACC1の阻害と組み合わせることにより、用いられる特定の医薬品に関係なく、個々の効果の合計よりも大きい相乗的な治療効果が達成される。組合せによって達成される定量的な相乗効果の更に詳細な説明は、実施例、特に
図8~
図10で明らかである。
【0023】
さらに、この定量的相乗作用は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤とMACC1の阻害剤との様々な組合せの複数の濃度で明らかである。2つの作用物質の相対濃度を変えることにより、定量的相乗作用の大幅な損失は発生しないようである。
【0024】
いくつかの実施の形態において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤(好ましくはニクロサミド又はその誘導体)及びMACC1の阻害剤(好ましくはスタチン)のそれぞれの用量を、通常投与される用量と比較して減らすことができる。以下の実施例に示されるように、活性物質の組合せの相乗効果は、より低い用量を投与することを可能にし、例えば、単独で投与された場合に有効性がないと思われる用量は、本発明の組合せで投与された場合に有効性を示す。当業者は、本発明の組合せが、活性物質のより効果的でより少ない投薬を可能にし、それにより、潜在的に副作用を低減しながら、有効性を維持又は増強する可能性があることを一般常識又は従来技術から導き出すことができなかった。本明細書で提供される実験的裏付けから明らかなように、低用量(例えば、いくつかの活性物質についてヒトにおいて確立された最大用量の10%~50%の間)の活性物質であっても採用することができる。かかる減少させた用量で投与された場合であっても、癌転移の阻害の所望の効果は、個別に投薬された成分の効果の合計よりも大きいままであり、それによって相乗効果は裏付けられる。
【0025】
さらに、MACC1はS100A4の発現及び分泌を誘発する(
図2~
図4)。したがって、本発明者らは、これらの2つの分子標的間の新規の関連を特定した。したがって、本発明の組合せによって得られる観察された相乗作用は、予想外の相乗作用を表す。MACC1とS100A4との間の機能的相互作用は、癌の増殖又は転移に関してこれまでに説明されていない。
【0026】
さらに、当業者は、これらの2つの分子標的が累積効果を超えて相互作用することを期待していなかったであろう。MACC1とWnt/β-カテニンシグナル伝達経路との間の関係が当該技術分野から導き出すことができたとしても(発明者らの知る限りではこのようなことは明らかではない)、これらの因子を標的とすることによる相乗効果は、当業者の予想に基づいて予測することができなかった。典型的には、関連する経路で2つの因子を標的とすることは、相乗効果にはつながらないのが通例であるが、追加の又は無視できる相加効果にはつながらない。MACC1及びS100A4が機構的に関連していることを考慮すると、当業者は、本発明で観察されたのとは反対のことを予想するであろう。理論に拘束されるものではないが、同じ経路又は関連する経路にある2つの位置を標的とすることは、典型的には、この経路が既に第1の作用物質によって阻害されているため、更なる定量的効果をもたらすものではないことから、第2の(組み合わされた)因子は、典型的には、追加の効果をもたらさないか、又はせいぜい小さな累積効果につながるにすぎず、そのため、同じ経路又は関連する経路の別の位置を第2の作用物質が標的とすることで、追加の効果が得られるのではなく、第1の作用物質によって既に達成されている効果が強化されるだけである。予想に反して、MACC1とWnt/β-カテニンシグナル伝達経路との両方を阻害することにより、驚くべき定量的な相乗作用が達成された。
【0027】
一実施の形態において、本発明は、a.Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤と、b.MACC1の阻害剤とを含む医薬配合剤に関し、阻害剤a.及びb.は、細胞運動性及び/又は腫瘍転移の減少において相乗効果を達成する。
【0028】
一実施の形態において、阻害剤a.及びb.は、好ましくは以下の実施例に記載されるように、in vitro創傷治癒アッセイにおいて細胞運動性を低下させる相乗効果を達成する。
【0029】
一実施の形態において、阻害剤a.及びb.は、HCT116細胞を使用するin vitro創傷治癒アッセイで細胞運動性を低下させる相乗効果を達成する。
【0030】
一実施の形態において、相乗作用は、Loewe又はHSAのモデルを使用して決定される。他の実施の形態において、相乗作用は、Blissモデル及び/又はZIPモデルを使用して決定される。
【0031】
一実施の形態において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、S100A4の阻害剤である。
【0032】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的遺伝子S100A4は、胆嚢癌、膀胱癌、乳癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝細胞癌、非小細胞肺癌、特に結腸直腸癌等の多くの様々な種類の癌で過剰発現される。S100A4の発現の増加は、腫瘍の攻撃性、転移する能力、及び患者の生存率の低下と強く関連している。S100A4の阻害は、S100A4誘発性の細胞の遊走及び浸潤、並びにin vitroでの細胞増殖及びコロニー形成の阻害につながることも示されている。
【0033】
一実施の形態において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、ニクロサミド又はその誘導体、スリンダク、カルシマイシン、ICG001、FH535、LF3、トリフルオペラジン(TFP)等のフェノチアジン、又はそれらの機能的に類似する誘導体である。
【0034】
とりわけYomesanの商品名で販売されているニクロサミドは、もともと条虫の寄生を治療するために使用される薬剤である。ニクロサミドは、5-クロロ-N-(2-クロロ-4-ニトロフェニル)-2-ヒドロキシベンズアミドとしても知られている。
【化1】
【0035】
ニクロサミドは、S100A4を発現する癌性細胞の運動性及び転移を抑制する強力な阻害効果を示すことも示されている。ニクロサミドはS100A4の発現を効果的に阻害し、TCF/ベータ-カテニンタンパク質複合体を調節する。S100A4遺伝子はWnt経路の標的であり、その発現は転写複合体TCF/ベータ-カテニンによって活性化される。ニクロサミド処理を介した転写複合体TCF/ベータ-カテニンの調節は、S400A4遺伝子の転写の停止又は阻害をもたらす。S100A4を阻害するニクロサミドの効果は、潜在的な臨床的抗転移活性を有するS100A4プロモーター駆動型レポーター遺伝子発現の阻害剤を特定するための小分子のハイスループットスクリーニングによって発見された。
【0036】
ニクロサミドの様々な誘導体は、S100A4駆動型の細胞の遊走、浸潤、及び転移に有効であることが示されており、本出願に包含される。当業者は、化学物質を与えて誘導体を生成するための様々な化学的方法及び手法を知っており、それは依然として、基又は官能基の付加、欠失又は置換等の化学的基礎を含む。誘導体としては、例えば特許文献1に記載されているものが挙げられる。
【0037】
ニクロサミド誘導体の例は、これらに限定されるものではないが、以下のとおりである:
【化2】
【0038】
ニクロサミド誘導体の更なる例は、これらに限定されるものではないが、以下のとおりである:
【0039】
Wang et al (Bioorg Med Chem. 2018 Nov 1;26(20):5435-5442)に開示されるDK419:
【化3】
【0040】
Wu et al (Cancer Med. 2018 Aug;7(8):3945-3954)に開示されるA17又はB17:
【化4】
【0041】
Arend et al (Oncotarget. 2016 Dec 27;7(52):86803-86815)に開示されるアナログ11又アナログ32:
【化5】
【0042】
スリンダクは、アリールアルカン酸クラスの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であり、英国及び米国でMerckからクリノリル(Clinoril)として販売されている。スリンダクは他のNSAIDと同様に、急性又は慢性の炎症状態の治療に有用である。スリンダクは、ヒトS100A4プロモーターベースのハイスループットスクリーニングを使用して、転移遺伝子S100A4の転写阻害剤として特定された。
【化6】
【0043】
カルシマイシンは、ストレプトマイセス・チャートリュウセンシス(Streptomyces chartreusensis)由来のイオノフォア性ポリエーテル抗生物質である。カルシウム及びその他の二価陽イオンを結合して膜を越えて輸送し、酸化的リン酸化を切り離し、ラット肝臓ミトコンドリアのATPaseを阻害する。カルシマイシンは、A23187、カルシウムイオノフォア、抗生物質A23187、及びカルシウムイオノフォアA23187としても知られている。カルシマイシンは、ストレプトマイセス・チャートリュウセンシスの発酵時に産生される。本発明者らは、カルシマイシンもS100A4を阻害することを実証した。
【化7】
【0044】
S100A4の更なる阻害剤が当該技術分野において知られている。例えば、6-B12は、転移性癌及び肺への転移を伴う乳腺腫瘍の治療について調査中である。6-B12は、S100A4に対して作用するモノクローナル抗体である(Cancer Research UK)。6-B12は、S100A4を中和し、自然発生的な腫瘍の進行及び転移前のニッチ形成を抑制し、T細胞の分極バランスを変化させることが示されている。腫瘍の成長及び転移のダイナミクスに対する自然発生乳癌の影響が、マウスモデルで評定された。転移性ニッチ形成のモデルでは、転移性ニッチマーカーの発現が決定された。S100A4ブロッキング抗体6-B12は、自然発生乳癌のモデルにおける腫瘍の成長及び転移を減少させる。6B12抗体は、原発性及び転移前の腫瘍部位でのT細胞の蓄積を阻害する。6B12抗体は更に免疫調節剤として作用する(Grum-Schwensen et al, BMC Cancer.2015; 15:44)。
【0045】
LK-1は固形腫瘍及び膵臓癌の治療用に開発中である。LK-1は、S100A4を標的とすることにより作用するヒト化モノクローナル抗体である(Lykera Biomed)。
【0046】
ICG001はWnt/β-カテニン/TCF媒介転写に拮抗し、CREB結合タンパク質(CBP)に特異的に結合する。CBPに結合してβ-カテニンとの相互作用を遮断することにより、形質転換された結腸細胞ではアポトーシスを選択的に誘発するが、正常細胞では誘発せず、結腸癌性細胞の増殖を防ぐ。
【化8】
【0047】
FH535は、Wnt/β-カテニンの可逆的二重阻害剤であり、Wnt/ベータ-カテニンとペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)シグナル伝達との両方を抑制する化合物である。FH535は、Wnt/β-カテニン経路を阻害する能力が特有である。この化合物は、Wnt/β-カテニン経路を発現するいくつかの癌腫に対して選択的に毒性がある。
【化9】
【0048】
LF3は、β-カテニンとTCF4との間の相互作用を妨げることによる標準的なWntシグナル伝達の特異的阻害剤である。LF3は、細胞死を引き起こすことはなく、カドヘリンが媒介する細胞間接着も妨害しない。癌幹細胞の自己複製能力は、濃度依存的にLF3によって遮断される。LF3は、Wnt依存性結腸癌細胞における一連のWnt標的遺伝子の発現を遮断する。LF3は、細胞周期停止の誘発を通じてWnt依存性結腸癌細胞の増殖を阻害し、CSCの自己複製能力も阻害する。
【化10】
【0049】
フェノチアジンは、タンパク質のオリゴマー化を誘発することにより、S100A4の機能を阻害する。トリフルオペラジン(TFP)等のフェノチアジンは、S100A4を阻害することが示されている(Malashkevich et al, PNAS, 2010, vol. 107, no. 19, 8605-8610)。トリフルオペラジン(TFP)は、S100A4/ミオシン-IIA相互作用を妨害する阻害剤として特定された。
【化11】
【0050】
一実施の形態において、MACC1の阻害剤はスタチンである。
【0051】
HMG-CoAレダクターゼ阻害剤としても知られるスタチンは、脂質低下薬の一種である。スタチンは、心血管疾患のリスクが高い人の心血管疾患及び死亡率を低減する。スタチンは、LDLコレステロールの低下に有効であるため、心血管疾患のリスクが高い人の一次予防と並んで、心血管疾患を発症した人の二次予防に広く使用されている。本発明者らは本明細書にて、スタチンがMACC1の阻害をもたらすことを示した。以下の実施例でより詳細に示されているように、試験された全てのスタチンは、MACC1 mRNA発現及びMACC1タンパク質を減少させることができた。本発明者らは、試験した全てのスタチンが、創傷治癒アッセイにおいて単剤療法として適用された場合に細胞運動性を低下させることができることを確認している。経時的に創傷閉鎖の用量依存的な減少が観察された(
図7)。
【0052】
一実施の形態において、MACC1の阻害剤は、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチン、好ましくはアトルバスタチン、ロバスタチン及び/又はフルバスタチンから選択されるスタチンである。
【0053】
スタチンが本明細書に記載される効果を示すこと、すなわち、スタチンがMACC1 mRNA発現及びMACC1タンパク質を減少させること、更に、スタチンが創傷治癒アッセイにおいて単剤療法として適用された場合に細胞運動性を低下させ得ることは全く驚くべきことであった。Wntシグナル伝達阻害剤(ニクロサミド等)との組合せの相乗作用もまた、予想外の知見を表し、組み合わされた有益な効果は、当該技術分野におけるいかなる示唆からも導き出すことができなかった。
【0054】
とりわけリピトール(Lipitor)の商品名で販売されているアトルバスタチンは、リスクの高い人の心血管疾患を予防し、異常な脂質レベルを治療するために使用されるスタチン薬である。アトルバスタチンは、MACC1 mRNAの発現及びMACC1タンパク質のレベルを低下させることが示されている。
【化12】
【0055】
ロバスタチン(メバコール(Mevacor))は、高コレステロール血症の人のコレステロールを下げて心血管疾患のリスクを減らすために使用されるスタチン薬である。ロバスタチンは、MACC1 mRNAの発現及びMACC1タンパク質のレベルを低下させることが示されている。
【化13】
【0056】
フルバスタチン(レスコール(Lescol)、カネフ(Canef)、バスチン(Vastin))は、高コレステロール血症の治療及び心血管疾患の予防に使用されるスタチン薬クラスのメンバーである。フルバスタチンは、MACC1 mRNAの発現及びMACC1タンパク質のレベルを低下させることが示されている。
【化14】
【0057】
ピタバスタチンは、スタチンの血中コレステロール低下薬クラスのメンバーであり、リバロ(Livalo)の商品名で米国において販売されている。他のスタチンと同様に、ピタバスタチンは、コレステロール合成の最初の段階を触媒する酵素であるHMG-CoAレダクターゼの阻害剤である。ピタバスタチンは、MACC1 mRNAの発現及びMACC1タンパク質のレベルを低下させることが示されている。
【化15】
【0058】
プラバスタチン(プラバコール(Pravachol))はスタチン薬であり、リスクの高い人の心血管疾患を予防し、異常な脂質を治療するために使用される。プラバスタチンは、MACC1 mRNA発現及び/又はMACC1タンパク質のレベルを低下させることができる。
【化16】
【0059】
ロスバスタチン(クレストール(Crestor))は、リスクの高い人の心血管疾患を予防し、異常な脂質を治療するために使用されるスタチン薬である。ロスバスタチンは、MACC1 mRNA発現及び/又はMACC1タンパク質のレベルを低下させることができる。
【化17】
【0060】
シンバスタチン(ゾコール(Zocor))は脂質低下薬である。シンバスタチンは、運動、食事療法、減量と共に使用され、脂質(脂肪)レベルの上昇を抑える。シンバスタチンは、MACC1 mRNA発現及び/又はMACC1タンパク質のレベルを低下させることができる。
【化18】
【0061】
上記のスタチンは、スタチンクラスの化合物の非限定的な好ましい実施の形態として提供される。これまで、本発明者らによって試験された複数のスタチンは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくはニクロサミドと組み合わせて使用した場合、細胞運動性の低下における所望の相乗作用に加えて、所望のMACC1阻害を達成した。
【0062】
一実施の形態において、MACC1の阻害剤は、MEK1阻害剤である。
【0063】
以下に示すように、本明細書で試験されるMEK阻害剤、好ましくはMEK1阻害剤AZD6244(セルメチニブ)、GSK1120212(トラメチニブ)又はコビメチニブは、所望のMACC1阻害及びWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくはニクロサミドとの相乗作用をもたらす。MACC1はMEK1によってリン酸化され、MACC1が媒介する効果の誘発につながる。したがって、GSK1120212(トラメチニブ、黒色腫治療用に承認済み)及びAZD6244(セルメチニブ)等のMEK1阻害剤は、MACC1活性を低下させるように作用し、またWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくはニクロサミドと組み合わせると、細胞運動性に相乗的に作用する。
【0064】
MEK阻害剤は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素MEK1及び/又はMEK2を阻害する化学物質又は薬物である。MEK1及びMEK2の阻害剤は、本発明に含まれる。それらの阻害剤は、一部の癌で過剰に活性化しているMAPK/ERK経路に影響を与えるために使用され得る。
【0065】
MEK阻害剤の非限定的な例として、セルメチニブ(AZD6244)は、非小細胞肺癌(NSCLC)及び甲状腺癌等の様々な種類の癌の治療のために調査されている薬物である。MACC1はMEK1によってリン酸化され、セルメチニブはMEK1を阻害し、MACC1が媒介する効果を低下させ、細胞増殖及び/又は運動性を低下させる。
【化19】
【0066】
トラメチニブ(GSK1120212)は、BRAF変異黒色腫の治療薬としてFDAに承認されている。トラメチニブ(メキニスト(Mekinist))は、抗癌活性のあるMEK阻害薬であり、MEK1及びMEK2を阻害する。MACC1はMEK1によってリン酸化され、トラメチニブはMEK1を阻害し、MACC1が媒介する効果を低下させ、細胞増殖及び/又は運動性を低下させる。
【化20】
【0067】
コビメチニブ又はXL518は、BRAF V600E又はV600K変異を伴う進行性黒色腫の治療に対して、ベムラフェニブ(Zelboraf(商標))と組み合わせて使用することが米国FDAによって承認されている。MACC1はMEK1によってリン酸化され、コビメチニブはMEK1を阻害し、MACC1が媒介する効果を低下させ、細胞増殖及び/又は運動性を低下させる。
【化21】
【0068】
ビニメチニブ(MEK162)は、切除不能又は転移性のBRAF V600E又はV600K変異陽性黒色腫を有する患者の治療に対して、エンコラフェニブと組み合わせて2018年にFDAによって承認された。
【化22】
【0069】
いくつかの実施の形態において、本明細書に記載の組合せは、2つ以上(又は少なくとも2つ)の別々の化合物を含む。いくつかの実施の形態において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はまた、MACC1の阻害剤でもあり得る(いくつかの実施の形態において、いくらかの遺残程度)。いくつかの実施の形態において、MACC1の阻害剤はまた、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤でもあり得る(いくつかの実施の形態において、いくらかの遺残程度)。
【0070】
好ましいMACC1阻害剤は、好ましくはMACC1リン酸化を阻害することにより(いくつかの実施の形態においてマイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素(MEK)を阻害することにより)、MACC1タンパク質機能に対して阻害効果(翻訳後阻害剤)を有する。好ましいWntシグナル伝達阻害剤は、好ましくは転写複合体TCF/ベータ-カテニンを破壊することにより(例えば、ニクロサミド又はその誘導体を介して)、S100A4転写に対して阻害効果を有する。いくつかの実施の形態において、MACC1の阻害剤は、ニクロサミドよりもS100A4転写に対してより小さな阻害効果を有し、すなわち、MACC1阻害剤は、本明細書に記載される好ましいWntシグナル伝達阻害剤よりもS100A4転写に対してより小さな効果で主にMACC1タンパク質機能に作用する。
【0071】
一実施の形態において、本発明は、
a.ニクロサミド又はその誘導体、好ましくは本明細書に開示されるものと、
b.スタチン及び/又はMEK1阻害剤と、
を含む、本明細書に記載の医薬配合剤に関する。
【0072】
ニクロサミドとスタチン及び/又はMEK1阻害剤のいずれかとの組合せは、好ましい実施の形態となり、その相乗効果が以下の実施例で実証されている。癌性細胞の運動性及び転移を減少させることにおける定量的な相乗作用がこれらの組合せによって達成できたことは全く驚くべきことであった。
【0073】
好ましい実施の形態において、組合せは、ニクロサミド及びアトルバスタチン、ニクロサミド及びロバスタチン、ニクロサミド及びフルバスタチン、ニクロサミド及びAZD6244(セルメチニブ)、又はニクロサミド及びGSK1120212(トラメチニブ)からなる群から選択される。
【0074】
いくつかの実施の形態において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤(a.)及びMACC1の阻害剤(b.)は、重量基準で10000:1~1:10000、好ましくは重量基準で5000:1~1:1の相対量を有する。
【0075】
以下の実施例で実証されているように、試験された併用剤の相対濃度は、様々な相対濃度で作用物質を試験したときに相乗作用の損失が発生しないことを示している。そのため、本発明は、任意の相対濃度及び/又は量の本明細書に開示される2つのクラスの作用物質を包含する。
【0076】
一実施の形態において、(a.)Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はニクロサミドであり、(b.)MACC1の阻害剤はスタチン、好ましくはアトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチンであり、(a.)及び(b.)は、1000:1~1:1、好ましくは500:1~1:1、より好ましくは50:1~10:1、より好ましくは約25:1の相対量を有する。
【0077】
いくつかの実施の形態において、(a.)Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はニクロサミドであり、(b.)MACC1の阻害剤はMEK1阻害剤であり、(a.)及び(b.)は、5000:1~1:1、より好ましくは2000:1~500:1の相対量を有する。
【0078】
いくつかの実施の形態において、(a.)Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はニクロサミドであり、(b.)MEK1阻害剤はGSK1120212(トラメチニブ)であり、(a.)及び(b.)は、2000:1~500:1、好ましくは約1000:1の相対量を有する。
【0079】
いくつかの実施の形態において、(a.)Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はニクロサミドであり、(b.)MEK1阻害剤はAZD6244(セルメチニブ)又はコビメチニブであり、(a.)及び(b.)は、1000:1~1:1、好ましくは500:1~1:1、より好ましくは50:1~10:1、より好ましくは約35:1~25:1の相対量を有する。
【0080】
特定の相対量に関する上記の実施の形態は、本明細書に記載の様々な化合物の臨床的に許容されるか、又は現在試験されている用量に基づいており、本明細書に記載の医薬配合剤に組み合わされる。
【0081】
好ましい実施の形態において、作用物質a.及びb.(Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤(a.)及びMACC1の阻害剤(b.))は、治療効果を提供するのに十分な濃度又は量で投与される。当業者は、過度の努力をすることなくかかる効果を決定することができる。この量は、作用物質を単独で使用する場合の治療有効量、又は作用物質を第2の作用物質と組み合わせて使用する場合の治療有効量に関する。好ましい実施の形態において、作用物質は、規制当局の承認が発行されたもの(例えば、FDA又はEMAによって)等、当該技術分野で既に確立されている濃度若しくは量にて若しくは投与計画に従って、又は第2相若しくは第3相の臨床試験中に現在評定されている用量にて、及び/又は第I相試験による最大許容用量に従って投与される。
【0082】
かかる治療において、作用物質(a.)及び作用物質(b.)の組合せは、上記患者に同時に又は連続して投与することができ、作用物質(a.)は、作用物質(b.)の前又は後に無差別(indifferently)に投与される。作用物質(a.)及び作用物質(b.)はまた、同じ又は異なる投与経路によって投与され得る。
【0083】
一実施の形態において、ニクロサミドは、1日当たり100 mg~5000 mg、好ましくは500 mg~3000 mg、より好ましくは500 mg~2000 mg、又は1000 mg~2000 mg、又は1500 mg~2500 mg、好ましくは約1000 mg、1500 mg若しくは2000 mgの量でヒト被験体に投与される。好ましい実施の形態において、ニクロサミドの用量は、1000 mg~3000 mg、好ましくは1500 mg~2500 mg、より好ましくは2000 mgの経口1日用量である。
【0084】
一実施の形態において、1つ以上のスタチンが、1日当たり5 mg~500 mg、好ましくは20 mg~200 mg、より好ましくは50 mg~150 mg、より好ましくは約80 mgの量でヒト被験体に投与される。これらの実施の形態は、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチンのうちの1つ以上に個別に関連する。
【0085】
一実施の形態において、1つ以上のスタチン、好ましくはアトルバスタチン、ロバスタチン及び/又はフルバスタチンは、経口1日用量1 mg~500 mg、又は5 mg~500 mg、好ましくは20 mg~200 mg、より好ましくは50 mg~150 mg、より好ましくは約80 mgの量で、経口1日用量500 mg~3000 mg、好ましくは800 mg~2500 mg、より好ましくは1000 mg~2000 mgのニクロサミドと組み合わせて、ヒト被験体に投与される。
【0086】
一実施の形態において、1つ以上のMEK阻害剤(MEK1又はMEK2の阻害剤)は、1日当たり0.1 mg~500 mg、好ましくは1 mg~200 mg、より好ましくは20 mg~150 mg、より好ましくは約2 mg、50 mg、55 mg、60 mg、65 mg、70 mg、75 mg、80 mg、85 mg、又は90 mgの量でヒト被験体に投与される。
【0087】
好ましい実施の形態において、トラメチニブは、1日当たり0.1 mg~20 mg、好ましくは1 mg~10 mg、より好ましくは1 mg~5 mg、より好ましくは約2 mgの量でヒト被験体に投与される。
【0088】
好ましい実施の形態において、セルメチニブは、1日当たり1 mg~500 mg、好ましくは10 mg~200 mg、より好ましくは20 mg~150 mg、より好ましくは約75 mgの量でヒト被験体に投与される。
【0089】
好ましい実施の形態において、コビメチニブは、1日当たり1 mg~500 mg、好ましくは10 mg~200 mg、より好ましくは20 mg~150 mg、より好ましくは約60 mgの量でヒト被験体に投与される。
【0090】
本発明の更なる態様は、腫瘍性疾患の治療に使用される、本明細書に記載の医薬配合剤に関する。
【0091】
したがって、本発明は、それを必要とする被験体、又は腫瘍性疾患に罹患するリスクのある患者において腫瘍性疾患を治療する方法に関する。治療方法は、好ましくは治療効果を得るために、治療有効量の医薬配合剤、又は2つの作用物質の組合せを上記被験体に投与することを含む。
【0092】
したがって、本発明の更なる態様は、腫瘍性疾患の治療において薬剤として使用される、好ましくは腫瘍転移、固形腫瘍又は本明細書に開示される特定の腫瘍性疾患の治療のためのWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくはニクロサミド、スリンダク、カルシマイシン、ICG001、FH535、LF3及び/又はトリフルオペラジン(TFP)等のフェノチアジン、より好ましくはニクロサミドに関し、上記治療は、MACC1の阻害剤、好ましくはスタチン又はMEK1阻害剤、より好ましくは、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチンの併用投与を含む。
【0093】
したがって、本発明の更なる態様は、腫瘍性疾患の治療において薬剤として使用される、好ましくは腫瘍転移、固形腫瘍又は本明細書に記載される特定の腫瘍性疾患の治療に使用するためのMACC1の阻害剤、好ましくはスタチン又はMEK1阻害剤、より好ましくはアトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及び/又はシンバスタチン、又はより好ましくはAZD6244(セルメチニブ)、GSK1120212(トラメチニブ)又はコビメチニブに関し、上記治療は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、好ましくはニクロサミド、スリンダク、カルシマイシン、ICG001、FH535、LF3、又はトリフルオペラジン(TFP)等のフェノチアジン、より好ましくはニクロサミドの併用投与を含む。
【0094】
一実施の形態において、本発明は、好ましくは癌性細胞の細胞運動性を低下させることによる、腫瘍転移の治療及び/又は予防に使用される医薬配合剤、又は2つの作用物質の組合せに関する。
【0095】
以下の実施例に示されているように、相乗効果は、in vitroモデルとin vivoモデルとの両方で証明されている。採用されたin vitroアプローチは、HCT116ヒト結腸癌細胞株を用いた創傷治癒アッセイを使用する。HCT116細胞は、mRNA及びタンパク質レベルでMACC1及びS100A4の発現に対して内因的に陽性である。相乗効果は、創傷治癒アッセイで観察されたHCT116細胞の細胞運動性の低下に対する直接的な効果に基づいて定量される。細胞運動性は、転移の病理に直接寄与する基本的で以前から知られている(ancient)細胞の挙動である。創傷治癒アッセイによって証明されるように、細胞運動性に対する効果を示すことにより、転移を治療及び/又は予防する治療設定が支持される。相乗効果はまた、癌細胞の遊走及び/又は浸潤を減少させることについても観察され得る。
【0096】
一実施の形態において、腫瘍は固形腫瘍であり、好ましくは胃腸癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、肝細胞癌、胆管癌、肺癌、鼻咽頭癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、脳癌、骨癌又は乳癌である。
【0097】
固形腫瘍は、本発明者らによって以前に分析されており、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及び/又はMACC1の阻害剤に対するそれらの応答性について特性評価されている。上に列挙される固形腫瘍は、例えばニクロサミドに反応することが知られている。上に列挙される固形腫瘍は、MACC1の発現を示す、及び/又は活性なWnt/β-カテニンシグナル伝達を示すことが知られており、好ましくはS100A4の発現を介して明らかである。
【0098】
一実施の形態において、腫瘍細胞は、健康な対照等の対照と比較して、MACC1及びS100A4の発現及び/又は活性の増加を示す。
【0099】
本発明者らは、本明細書において、腫瘍と同様に、患者の血液において、CRC患者(Stein et al. 2012, PLoS One. 2012;7(11))及び胃癌患者(Burock et al. World J Gastroenterol 2015 January 7; 21(1):333-341)の予後を改善するために両方のバイオマーカーを組み合わせることの有益な役割を実証している。MACC1及びS100A4の発現及び/又は活性の増加を示す患者にとっての重要な利点は、本明細書に記載の医薬配合剤、すなわち両方の分子に作用する薬物の組合せで治療した場合に明らかである(
図4は、MACC1及びS100A4の発現レベルに基づく患者の追加の生存率を示す)。
【0100】
いくつかの実施の形態において、薬物誘発性S100A4及び/又はMACC1調節及び治療効果はまた、患者の血液中のニクロサミドのHPLC測定と組み合わせて、血液ベースのS100A4及び/又はMACC1アッセイを使用して治療応答についてモニターされ得る。
【0101】
好ましい実施の形態において、本明細書に記載の薬剤として使用される医薬配合剤は、癌の治療が、健康な対照等の対照と比較して高レベルのMACC1及びS100A4を有する被験体の治療を含むことを特徴とする。
【0102】
当業者は、標準的な手法を使用して、MACC1及びS100A4のレベルの上昇を決定することができる。例として、PCR、qPCR、RT-PCR、qRT-PCR又は等温増幅等の核酸増幅法、質量分析(MS)、発光免疫測定法(LIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光及び蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(EIA)、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、発光ベースのビーズアレイ、磁気ビーズベースのアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、迅速試験フォーマット(例えば、免疫クロマトグラフィーストリップ試験)、レアクリプテートアッセイ(rare cryptate assay)、及び自動システム/アナライザーからなる群から選択される方法を使用することができる。
【0103】
MACC1及びS100A4のレベルの上昇は、適切な対照と比較して決定することができる。対照試料又は患者は、検出可能な癌又は癌の病歴を有さない被験体等の健康な対照被験体又は対照被験体に由来する試料に関連し得る。転移のリスクを考慮する場合、対照はまた、癌(例えば、本明細書に記載されるそれらの特定の癌)を有するが転移を伴わない患者からの試料の使用を含み得る。陽性対照として、MACC1及びS100A4の発現が上昇している患者及び/又は広範な転移を有する患者からの試料を使用することができる。
【0104】
MACC1及び/又はS100A4のレベルの上昇は、核酸及び/又はタンパク質のレベルを介して決定することができる。増加した量のMACC1及び/又はS100A4タンパク質及び/又はmRNA転写産物を使用して、患者又は対照被験体におけるMACC1及び/又はS100A4のレベルを検出することができる。MACC1及びS100A4は腫瘍組織で発現される。生検試料又は除去された腫瘍は、本明細書に記載されるように、MACC1及び/又はS100A4レベルを測定するために使用され得る。さらに、MACC1及び/又はS100A4タンパク質、及び/又はMACC1及び/又はS100A4をコードする核酸は、患者の尿若しくは血液等の患者の体液、又は血漿若しくは血清等の血液に由来する試料で検出可能である。本発明において有用であるが本発明に限定されない、高レベルのMACC1及び/又はS100A4を特定するための具体的な方法が、以下により詳細に記載される。
【0105】
MACC1及び/又はS100A4のレベルが上昇した患者の治療は、いくつかの実施の形態において、MACC1及び/又はS100A4レベルの上昇、例えばMACC1及び/又はS100A4転写産物レベルの上昇に基づく癌の診断、並びに本明細書に記載の組合せによるその後の治療を組み込む併用法を含み得る。
【0106】
MACC1及び/又はS100A4のレベルが上昇した患者の治療は、本明細書に記載のMACC1及びWntシグナル伝達の阻害から生じる新規の臨床状況を表す。MACC1及びS100A4は癌転移の予後マーカーであることが知られていたが、MACC1及びWntシグナル伝達(S100A4)阻害剤の提供に基づく治療はこれまで提案されていなかった。
【0107】
MACC1及び/又はS100A4のレベルに基づいて癌と診断された、又は癌若しくは転移を発症するリスクが高いと診断された患者は、本明細書にて、MACC1及びS100A4の機能を中断することによって直接治療できるようになった。したがって、本発明は、MACC1及び/又はS100A4のレベルが上昇している患者のための効率的な治療アプローチを可能にする。本発明の阻害剤は、新規の患者層別化戦略による有効な治療を可能にする。MACC1及び/又はS100A4のレベルが上昇していないそれらの患者は、典型的には、本明細書に開示される化合物による治療に選択されず、それにより、本明細書に記載の組合せの投与を、治療に応答する可能性が高いMACC1及び/又はS100A4レベルが上昇している患者の集団に対して標的化することによって、MACC1及び/又はS100A4レベルが上昇していない非応答者を治療する時間及び経済的コストを節約できる。
【0108】
適切な対照群と比較して上昇したMACC1及び/又はS100A4のレベルによって定義される患者群は、疾患の発生及び進行に直接関連する明確な病理学的及び生理学的基準によって定義される患者群を表す。さらに、この患者群が、特に疾患の原因となる分子及び疾患を示す分子であるMACC1及びS100A4自体に向けられた阻害剤の組合せによって治療できるということは当該技術分野では示唆されていない。MACC1とS100A4とを組み合わせた標的化の相乗効果に基づいて、この患者群にとって有効な治療法を開発できることは全く予想外であった。
【0109】
好ましい実施の形態において、本明細書に記載のMACC1阻害剤は、翻訳後MACC1阻害剤である。例えば、MEK阻害剤はMACC1リン酸化の阻害を引き起こし、それによって活性の低下をもたらす。活性の低下は、MACC1活性が上昇している他の被験体及び/又は上記治療を受けていない被験体等の適切な対照と比較することによって決定され得る。他の実施の形態において、ロットレリン(Rottlerin)等のMACC1の転写抑制因子を用いることができる。
【0110】
好ましい実施の形態において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、S100A4の転写抑制因子であり、好ましくは、S100A4をコードする核酸の転写の阻害又は抑制を引き起こす。転写の減少は、S100A4レベルが上昇している他の被験体及び/又は上記治療を受けていない被験体等の適切な対照と比較することによって決定され得る。
【0111】
MACC1阻害剤及びWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤を、抗転移剤として特徴付けることができる。抗転移効果は、本発明の癌治療が、治療を受けている被験体における癌細胞転移及び/又は細胞の遊走又は運動性を予防及び/又は低減することを含むことを特徴とすることができる。
【0112】
特に、転移のリスクを低減することに対する予防効果は、本発明に特有の特徴である。任意の適切な「予防的」治療を受けずに、以前にMACC1及び/又はS100A4のレベルが上昇していると診断された患者は、高い転移のリスクと関連していた。本明細書にて、本明細書に記載の組合せによるMACC1及びS100A4阻害の特定は、これらの患者を癌転移の前に効果的に直接治療することを可能にする。
【0113】
いくつかの実施の形態において、本明細書に記載される薬剤として使用されるMACC1阻害剤を、抗増殖剤として特徴付けることができる。抗増殖効果は、本発明の癌治療が、治療を受けている被験体における癌細胞増殖を予防及び/又は低減することを含むことを特徴とすることができる。
【0114】
好ましい実施の形態において、治療される癌は、結腸直腸癌又は結腸直腸癌の転移である。一実施の形態において、治療される癌は、膵臓癌又は膵臓癌の転移である。
【0115】
本発明の更なる実施の形態は、神経膠腫、肺癌、肝細胞癌、胃癌、卵巣癌、食道癌、胆嚢癌、腎臓癌、鼻咽頭癌及び/又は乳癌、又は骨肉腫のリスクがある及び/又はそれを有する被験体の治療のための、本明細書に記載の組合せの使用に関する。
【0116】
ニクロサミドの抗癌作用は、様々なヒトの癌で実証されている。更なる実施の形態において、ニクロサミドが有効であることが示されている次の癌を治療することができる:ヒトの乳癌、前立腺癌、結腸癌、卵巣癌、多発性骨髄腫、黒色腫、急性骨髄性白血病、神経膠芽細胞腫、頭頸部癌及び肺癌(Li et al, Cancer Lett. 2014 Jul 10; 349(1):8-14に概説される)。本明細書に要約されるように、ニクロサミドは、癌の開始、進行及び転移を支配するWntシグナル伝達経路を遮断することができ、したがって、ニクロサミドは、癌細胞周期停止、成長阻害、運動性低下、及び/又は複数の癌タイプにわたるアポトーシス死を誘発する強力な活性を有する。
【0117】
好ましい実施の形態において、本明細書に記載の薬剤として使用される組合せは、癌治療が、固形腫瘍を有し、1個以上のリンパ節に検出可能な転移を有さない被験体の治療を含むことを特徴とする。
【0118】
リンパ節転移のない患者の治療は、依然として上記患者に転移リスクがある、癌の比較的初期のステージにある被験体の治療に関連している。
【0119】
特に初期ステージ(ステージ0、I又はII等)の癌、好ましくは結腸直腸又は膵臓癌を有する患者において、将来の転移に対する効果的な予防(又はリスク低減)治療に加えて、本発明により、有効な抗腫瘍治療が提供される。
【0120】
本明細書に記載の組合せによるMACC1及びS100A4機能の破壊を用いた初期ステージの癌を有する患者の治療は、新規の臨床状況となる。多くの初期ステージの癌患者は、最初は化学療法で治療されていない。腫瘍の除去は一般に、化学療法が始まる前の初期ステージで行われる。本明細書に記載の治療アプローチ、特に、MACC1及び/又はS100A4レベルが上昇し、初期ステージの癌を有する患者の治療アプローチは、これまで不可能と考えられていた治療アプローチを表す。例えば、多くの治療ガイドラインでは、抗増殖薬による治療法の開始は、例えばステージIIIの結腸直腸癌のように、後期癌ステージでのみ開始することが推奨される。これまで、当該技術分野には、まだ転移していない腫瘍が検出された患者を(潜在的に予防的に)治療するための手段の必要性が存在していた。手術を除いて、癌転移のリスクを積極的に予防又は低減できる製品はほとんど利用することができない。
【0121】
本明細書に記載される患者群及び癌のステージの選択により、本明細書にて、転移のリスクが増加した患者における腫瘍転移のリスクを回避又は最小化するための有効な予防的又はリスク低減治療アプローチが可能になる。伝統的なプロトコルによれば、臨床医は、腫瘍が外科的に除去された後に腫瘍転移が発生したかどうかを待って観察してから、更なる治療を開始する必要がある。本発明は本明細書にて、以前の治療レジメンに固有の課題を軽減し、初期ステージの癌、好ましくは固形腫瘍と診断された患者における転移のリスクを低減するための手段を提供する。
【0122】
現在まで、転移のリスク増加の早期診断(例えば、MACC1及び/又はS100A4レベルの上昇の検出による)は、MACC1及び/又はS100A4のレベルが上昇した初期ステージの癌に適切に対処することができる作用物質が特定されていなかったため、適切な治療で効果的にフォローアップすることができなかった。臨床診療は典型的には、腫瘍を可能な限り迅速に除去し、後期ステージまで追加の治療法を開始しない。MACC1及び/又はS100A4のレベルの上昇が検出された場合であっても、例えば、手術による腫瘍の除去後に起こる転移の発生リスクを予防又は低減するために、初期ステージの癌患者の治療に直接的で有効な治療選択肢は利用可能ではなかった。本発明は、本明細書に記載のMACC1阻害剤を提供することにより、従来技術のこの課題を解決する。
【0123】
好ましい実施の形態において、本発明は、本発明による癌治療が、ステージ0、I又はIIの結腸直腸癌を有する被験体の治療を含むことを特徴とする。他の実施の形態において、本発明は、ステージ0、I、IIA、IIB又はIICの結腸直腸癌を有する患者の治療を包含する。本明細書で提供される情報及び既知のガイドラインに基づいて、当業者は、どの患者がこれらの特定のステージに該当するかを明確に決定することができる。
【0124】
以下でより詳細に説明するように、結腸直腸癌の病期分類は、患者における癌の進行を評定し、適切な治療アプローチを決定するための受け入れられた方法である。ステージ0、I、及びIIの結腸直腸癌患者は、典型的には、被験体のリンパ節への転移を示さないが、それでもMACC1及び/又はS100A4レベルによっては、将来、生命を脅かす転移を発症しやすい可能性がある。これらの患者の治療は、本明細書に記載のMACC1及びS100A4の阻害によって可能になる新規の患者の集合(patient collective)となる。
【0125】
好ましい実施の形態において、本発明は、本発明による癌治療が、ステージ0、I又はIIの膵臓癌を有する被験体の治療を含むことを特徴とする。特に、本発明は、リンパ節に転移がないことを特徴とするステージ0、IA、IB、及びIIAの膵臓癌の治療を想定する。
【0126】
ステージIII及びIVの結腸直腸癌及び膵臓癌の治療もまた、本明細書に記載の組合せの抗転移及び抗増殖の併用効果により、本発明によって想定される。
【0127】
一実施の形態において、治療の被験体は、固形腫瘍を除去する手術を受ける、及び/又は手術を受けたことがある。
【0128】
一実施の形態において、本明細書に記載の治療及び組合せは、病状をネオアジュバントとして治療する方法で使用される。ネオアジュバント療法は、別の治療の前に治療薬を投与することを表す。ネオアジュバント療法は、手術等の根治的治療介入を使用する前に癌のサイズ又は範囲を縮小することを目的としているため、手順が簡単になり、かつ成功する可能性が高くなって、腫瘍のサイズ又は範囲が縮小されていない場合に必要となるより広範な治療手法の重要性が低減される。一実施の形態において、それらの組合せ若しくは使用、又は本明細書に記載の治療は、腫瘍を除去する手術の前にネオアジュバントとして採用される。別の実施の形態において、それらの組合せ若しくは使用、又は本明細書に記載の治療は、腫瘍を除去する手術の前及び/又は手術中に転移性疾患を治療及び/又は予防するために採用される。
【0129】
以下でより詳細に説明するように、膵臓癌の病期分類は、患者における癌の進行を評定し、適切な治療アプローチを決定するための受け入れられた方法である。本明細書で提供される情報及び既知のガイドラインに基づいて、当業者は、どの患者がこれらの特定のステージに該当するかを明確に決定することができる。
【0130】
本発明の一実施の形態において、本明細書に記載の組合せは、(転移性)癌を治療する、又はそれを発症するリスクを低減するために使用することができ、この治療は、癌を発症するリスクのある被験体の治療を含み、上記被験体は、
a.癌を患った後に以前に治療されており、好ましくはこの以前の治療の前と比較した癌性細胞の数の減少及び/又は癌症状の低減を含み、
b.適切な対照、例えば健康な対照被験体、好ましくは癌の病歴のない被験体と比較したMACC1及びS100A4のレベルの上昇を含む。
【0131】
本発明の一実施の形態において、本明細書に記載の組合せは、(転移性)癌を治療する、又はそれを発症するリスクを低減するために使用することができ、この治療は、転移を発症するリスクのある被験体における癌細胞転移及び/又は細胞遊走の予防的治療を含み、上記被験体は、
a.結腸直腸癌を患った後に以前に治療されており、好ましくはこの以前の治療の前と比較した癌性細胞の数の減少及び/又は癌症状の低減を含み、
b.適切な対照、例えば健康な対照被験体、好ましくは癌の病歴のない被験体と比較したMACC1及びS100A4のレベルの上昇を含む。
【0132】
本発明のいくつかの実施の形態において、腫瘍を有すると特定された患者は、典型的には、腫瘍が手術により除去される。除去された腫瘍、又は患者の血液若しくはその適切な試料を、MACC1及び/又はS100A4のレベルについて試験することができる。患者が、関連する対照と比較してMACC1及び/又はS100A4レベルが上昇していると特定された場合、被験体は、本明細書に記載の化合物による治療の対象となる被験体である。手術後、医師は全ての症例において全ての癌性細胞が除去されたことを保証することはできない。除去された腫瘍又は被験体の血液中のMACC1及び/又はS100A4のレベルの上昇は、腫瘍を外科的に除去した後であっても、転移のリスクが高いことを示している。本明細書に記載の組合せの投与は、転移のリスク及びその後の癌再発の発症のリスクを低減するために行われ得る。
【0133】
本発明は更に、本明細書に記載の化合物と更なる細胞増殖抑制剤との併用投与に関する。かかる作用物質は、当該技術分野で知られている任意の抗増殖化合物に関連し得る。
【0134】
好ましい実施の形態において、本明細書に記載のMACC1阻害剤は、5-FUと組み合わせて初期ステージの癌患者に投与される。フルオロウラシル又は5-FU(アドルシル(Adrucil)(i.v.)、カラック(Carac)又はエフデックス(Efudex)として商標登録されている)は、癌の治療に使用されるピリミジンアナログである薬物である。この薬物は自殺阻害剤であり、チミジル酸シンターゼの不可逆的阻害を介して機能する。本明細書に記載の組合せとの併用投与は、改善された抗増殖効果及び抗転移効果と関連する。
【0135】
併用治療レジメンの更なる候補は、癌化学療法で使用されるSanofiによってエロキサチン(Eloxatin)として販売されているオキサリプラチン等のプラチナベースの抗腫瘍剤に関連する。オキサリプラチンは、典型的にはフォリン酸及び5-フルオロウラシルと共に、場合によっては併用薬にて、結腸直腸癌の治療に使用される。シスプラチン及びカルボプラチン等の進行癌に使用される他の白金化合物も検討され得る。
【0136】
したがって、本発明は、上記の癌及び患者群の治療方法に関する。本発明はまた、それぞれ、MACC1発現の検出及びその後の阻害に基づく診断、予後判定及び治療の併用法に関する。
【0137】
本発明は更に、本明細書に記載の初期ステージの癌を有する被験体等のヒト被験体における、本明細書に記載の癌、又は特定の癌若しくは患者群を治療する方法であって、
i.被験体から得られた生体液等の試料を有することと、
ii.試料に対して、例えば、上記の診断アッセイについて記載されるように、試料中のMACC1及び/又はS100A4発現のレベルを決定し、MACC1及び/又はS100A4発現のレベルを対照試料と比較することを含むアッセイを実施することと、
iii.上昇したレベルのMACC1及び/又はS100A4が検出された場合、MACC1及び/又はS100A4の発現及び/又は活性を低下させるために、被験体に、本明細書に記載の医薬配合剤の投与を含む治療を行うことと、
を含む、方法に関する。
【0138】
治療及び診断の方法に関する本発明の特徴、並びに様々な病状の治療に使用される医薬配合剤の説明は、医薬配合剤自体に適用され、逆もまた同様である。
【0139】
図面
本発明を図面によって更に説明する。これらは、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【
図1-1】スタチンはMACC1発現を阻害することを示す図である。DMSOに溶解した、漸増量(1 μM~10 μM)の臨床的に関連のある種々のスタチンでHCT116細胞を処理した。24時間の処理後、RNA及びタンパク質の単離のため細胞を採取した。MACC1 mRNAの発現をqRT-PCRによって分析し、DMSOで処理した対照試料と比較して表す。タンパク質量をウエスタンブロットにより分析した。試験した全てのスタチンは、用量依存的にMACC1 mRNA発現及びMACC1タンパク質を有意に減少させることができた。
【
図2-1】MACC1過剰発現細胞の上清により誘発される遊走を示す図である。SW480/ベクター(低MACC1発現)、SW480/MACC1(異なるクローン、異所的にMACC1過剰発現)及びSW620(内因的に高MACC1発現)からの細胞培養上清を収集して、in vitroで種々の腫瘍細胞株を処理した。SW480細胞(低MACC1発現)は、MACC1低SW480細胞の上清で処理した対照と比較して、MACC1陽性細胞の細胞培養上清で処理した場合、ボイデンチャンバーアッセイで遊走の増加を示す。SW620細胞(高い内因性MACC1発現)は、これらの条件下で遊走の増加を示さない。MACC1がこれらの細胞でshRNAによって枯渇すると、運動性が低下し、MACC1陽性細胞の細胞培養上清によって救済することができる。これらの結果は、別の実体(MiaPaCa、膵臓癌)の別のヒト腫瘍細胞株で確認された。したがって、MACC1過剰発現細胞から収集された上清は、異所性MACC1過剰発現を伴わずに種々の野生型細胞に対して遊走を誘発する。
【
図3】SILAC-質量分析を示す図である。SW480/ベクター(低MACC1発現)及びSW480/MACC1(異所的に高MACC1発現)の細胞培養物を軽(light)培地及び重(heavy)培地で処理して、細胞培養上清に分泌された新たに合成されたタンパク質を標識した。タンパク質の単離及びLC-MS/MS分析の後、MACC1によって誘発されるセクレトームを特定した。MACC1特異的上清は、新たに分泌されたS100A4を含む。SW480/ベクター対SW480/MACC1:MACC1の過剰発現は、S100タンパク質、特にS100A4分泌を誘発する。
【
図4】MACC1及びS100A4のバイオマーカーの組合せは、リスクの高い最良の結腸直腸癌患者を特定することを示す図である。腫瘍(A)及び血漿(B)の試料を結腸直腸癌患者から収集し、qRT-PCRによってMACC1及びS100A4遺伝子発現について分析した。両方のバイオマーカーの遺伝子発現が低い患者は、最も良好な無転移全生存期間を示す。1つのバイオマーカーの遺伝子発現が高い患者は、無転移全生存期間の短縮を示す。両方のバイオマーカーの遺伝子発現が高い患者では、無転移全生存期間が最も悪いことが明らかであった。したがって、MACC1及びS100A4は、低発現の患者と比較して転移形成のリスクが増加した患者を特定することができる。両方のバイオマーカーが(A)原発性CRC腫瘍内、(B)CRC患者の血漿中にて高度に発現している場合、この予後は更に改善される。
【
図5】MACC1はWntシグナル伝達を増強することを示す図である。SW480(A)細胞及びHCT116(B)細胞でのMACC1の過剰発現は増加するが、SW620(C)細胞でのMACC1の枯渇は減少し、TCFシグナル伝達活性は、MACC1によるWntシグナル伝達の正の調節を示す。SW480でのMACC1過剰発現及びSW620でのノックダウンのイムノブロット(D)。β-カテニンノックダウンは、MACC1誘発性TCFプロモーター活性(E)及びMACC1によって誘発される遊走(F)を減少させ、MACC1が結腸直腸癌細胞においてβ-カテニンを介してWntシグナル伝達を誘発することを示す。
【
図6-1】MACC1はWntシグナル伝達を介してS100A4の発現を誘発することを示す図である。HCT116細胞におけるMACC1の異所性過剰発現(A)は、TCFプロモーター活性を増加させ(B)、その後、mRNA(D)及びタンパク質(E)レベルでS100A4プロモーター活性(C)及びS100A4遺伝子発現をアップレギュレートする。SW620細胞におけるMACC1のノックアウト(F)は、TCFプロモーター活性を減少させ(G)、その後、mRNA(I)及びタンパク質(J)レベルでS100A4プロモーター活性(H)及びS100A4遺伝子発現をダウンレギュレートする。54名の患者の結腸直腸癌コホートにおいて、MACC1及びS100A4のmRNA発現レベルには正の相関があった(K)。
【
図7】スタチン及びニクロサミドを単剤として適用したin vitroでの細胞運動性及び増殖に対する効果を示す図である。HCT116細胞を、3つの濃度のアトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、及びニクロサミドで48時間処理した。創傷閉鎖を、IncuCyteリアルタイムシステムを使用して2時間ごとにモニターした。創傷閉鎖を最初の創傷と比較して測定し、DMSO処理試料と比較した倍率変化として表した。HCT116の事前に確立された画像コレクションを使用して、細胞及び創傷のソフトウェア検出を教示した。実験は、試験された全ての薬物について、創傷閉鎖能力の用量依存的な減少があることを示す。未処理及びDMSO処理の細胞を対照として使用した。データは、少なくとも3回の独立した三連の実験の平均±SEMを表す。
【
図8-1】スタチン及びニクロサミドを併用剤として適用したin vitroでの細胞運動性及び増殖に対する効果を示す図である。HCT116細胞を、3つの濃度のアトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチンと3つの濃度のニクロサミドとの組合せで48時間処理した。代表的な例として、50%低減した用量の組合せを示す。各薬剤の組合せについて、全ての濃度の相乗作用マトリックスを示す。正の値は、2つの作用物質間の相乗作用の存在を実証する。負の値は、2つの作用物質間の拮抗作用を示し得る。0の値は、2つの作用物質の相加効果を示す。創傷閉鎖を、IncuCyteリアルタイムシステムを使用して2時間ごとにモニターした。創傷閉鎖を最初の創傷と比較して測定し、DMSO処理試料と比較した倍率変化として表した。HCT116の事前に確立された画像コレクションを使用して、細胞及び創傷のソフトウェア検出を教示した。実験は、スタチンをニクロサミドと組み合わせると、創傷閉鎖の相乗的な減少があることを示す。未処理及びDMSO処理の細胞を対照として使用した。データは、少なくとも3回の独立した三連の実験の平均±SEMを表す。
【
図9-1】MEK1阻害剤であるAZD6244及びGSK1120212、並びにニクロサミドを併用剤として適用したin vitroでの細胞運動性及び増殖に対する効果を示す図である。HCT116細胞を、3つの濃度のGSK1120212と3つの濃度のニクロサミドとの組合せで処理した。各薬物の組合せについて、全ての濃度の相乗作用マトリックスを示す。正の値は、2つの作用物質間の相乗作用の存在を実証する。負の値は、2つの作用物質間の拮抗作用を示し得る。0の値は、2つの作用物質の相加効果を示す。0.1 μM GSK1120212及び0.25 μMニクロサミドの組合せの相乗的な例を示す。治療について、全ての濃度について相乗作用マトリックスを示す。創傷閉鎖を、IncuCyteリアルタイムシステムを使用して2時間ごとにモニターした。創傷閉鎖を最初の創傷と比較して測定し、DMSO処理試料と比較した倍率変化として表した。HCT116の事前に確立された画像コレクションを使用して、細胞及び創傷のソフトウェア検出を教示した。実験は、MEK1阻害剤GSK1120212(トラメチニブ)をニクロサミドと組み合わせると、創傷閉鎖の相乗的な減少があることを示す。未処理及びDMSO処理の細胞を対照として使用した。
【
図10】ヒトの最大用量に相当するin vivoマウスモデルにおけるアトルバスタチン、フルバスタチン、及びニクロサミドの効果を示す図である。重症複合免疫不全症(SCID)-ベージュマウス(1群当たりn=10)にHCT116-CMVp-Luc細胞を脾臓内移植し、溶媒、13 mg/kgのアトルバスタチン若しくはフルバスタチン(p.o.)、328 mg/kgニクロサミド(p.o.)、又は指定された用量のニクロサミドとスタチンのうち1種との組合せで毎日処理した。これらの用量は、スタチン及びニクロサミドに対して確立された最大ヒト用量に相当する。肝臓への転移は、実験エンドポイントで150 mg/kg D-ルシフェリンを腹腔内適用した後、生物発光イメージングにより分析した。動物全体のイメージングに続いて、肝臓を取り出し、単離された臓器として分析した。アトルバスタチン、フルバスタチン及びニクロサミドを単剤として適用した場合、転移形成は有意に減少した。この転移阻害は、併用治療においても明らかであった。
【
図11】用量を低減させたアトルバスタチン、フルバスタチン、及びニクロサミドのin vivoマウスモデルにおける効果を示す図である。重症複合免疫不全症(SCID)-ベージュマウス(1群当たりn=10)にHCT116-CMVp-Luc細胞を脾臓内移植し、溶媒、1.5 mg/kgのアトルバスタチン若しくはフルバスタチン(p.o.)、164 mg/kgニクロサミド(p.o.)、又は指定された用量のニクロサミドとスタチンのうち1種との組合せで毎日処理した。したがって、これらの用量は、スタチンの最大ヒト用量の12.5%及びニクロサミドの最大ヒト用量の50%に相当する。肝臓への転移は、実験エンドポイントで150 mg/kg D-ルシフェリンを腹腔内適用した後、生物発光イメージングにより分析した。動物全体のイメージングに続いて、肝臓を取り出し、単離された臓器として分析した。アトルバスタチン、フルバスタチン及びニクロサミドを単剤として適用した場合、転移形成の減少は観察されなかった。しかしながら、併用治療で転移の減少が観察され、活性物質の組合せが相乗効果をもたらすことを更に裏付けた。
【発明を実施するための形態】
【0141】
医薬配合剤:
本発明によれば、「医薬配合剤」は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤と、MACC1の阻害剤との併存、すなわち互いに近接している存在である。一実施形態において、組合せは、併用投与に適している。
【0142】
一実施形態において、本明細書に記載の医薬配合剤は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤が、薬学的に許容可能な担体と混合された医薬組成物中にあり、MACC1の阻害剤が、薬学的に許容可能な担体と混合された別々の医薬組成物中にあることを特徴とする。したがって、本発明の医薬配合剤は、いくつかの実施形態において、互いに近接する2つの別々の組成物又は剤形の存在に関する場合がある。組み合わせた作用物質は、単一の組成物中に存在する必要はない。
【0143】
一実施形態において、本明細書に記載の医薬配合剤は、添付の請求項のいずれか一項に記載のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及びMACC1の阻害剤が、キット内に、空間的に近接しているが別々の容器及び/又は組成物中に存在することを特徴とする。キットの製造は、当業者の能力の範囲内である。一実施形態において、2つの別々の作用物質を含む別々の組成物を、組合せとして共に包装及び販売することができる。他の実施形態において、単一のカタログ等であるが別々のパッケージにて2つの作用物質を組み合わせて提供することは、配合剤として理解される。
【0144】
一実施形態において、本明細書に記載の医薬配合剤は、添付の請求項のいずれか一項に記載のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及びMACC1の阻害剤が、薬学的に許容可能な担体と混合された単一の医薬組成物に組み合わされることを特徴とする。組合せの調製物又は組成物は当業者に知られており、当業者は、組合せにおける両方の作用物質に適合性のある担体材料及びそれらに適した製剤形態を評定することができる。
【0145】
阻害剤:
本発明によれば、「Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤」又は「MACC1の阻害剤」の文脈における「阻害剤」は、任意の作用物質、物質、化合物、分子又は他の手段と見なされ、指定された標的によって引き起こされる活性、機能、発現、又はシグナル伝達に対する減速、抑制、遮断若しくはその他の干渉、又は否定的な作用をもたらす。
【0146】
例えば、MACC1の阻害剤は、MACC1タンパク質の機能、MACC1の発現(転写又は翻訳)、及び/又はMACC1が媒介するシグナル伝達に直接的又は間接的に影響を与える可能性がある。例えば、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達、又はWnt/β-カテニンシグナル伝達に直接又は間接的に関与する任意の因子に影響を与える可能性がある。本明細書に記載の阻害剤は、「作用物質」と呼ばれることもある。本明細書に記載の組合せ及び方法の文脈における「作用物質」への言及は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤及びMACC1の阻害剤として理解されるものである。好ましい阻害剤は、本明細書に記載されるものである。
【0147】
相乗作用:
任意の所与の組合せによって得られる相乗作用又は拮抗作用の程度を決定又は定量するために、いくつかのモデルを用いることができる。典型的には、相乗作用は、2つの既知の効果の合計を超える大きさの効果と見なされる。いくつかの実施形態において、基準モデルを使用して計算された非相互作用の仮定の下で、組合せ応答は予想される組合せ応答と比較される(Tang J. et al. (2015) What is synergy? The saariselkae agreement revisited. Front. Pharmacol., 6, 181を参照されたい)。
【0148】
一般的に使用される基準モデルとして、最高単剤(HSA:Highest single agent)モデル(Berenbaum M.C.(1989) What is synergy. Pharmacol. Rev., 41, 93-141)、Loewe加法性(Loewe additivity)モデル(Loewe S.(1953) The problem of synergism and antagonism of combined drugs. Arzneimiettel Forschung, 3, 286-290)、Bliss独立性モデル(Bliss C.I.(1939) The toxicity of poisons applied jointly. Ann. Appl. Biol., 26, 585-615.)、またより最近ではゼロ相互作用効力(ZIP:Zero interaction potency)モデル(Yadav B. et al.(2015) Searching for drug synergy in complex dose-response landscapes using an interaction potency model. Comput. Struct. Biotechnol. J., 13, 504-505)が挙げられる。これらの基準モデルで行われている仮定は互いに異なり、相乗作用の程度について幾分一貫性のない結論を生み出す場合がある。それにもかかわらず、本発明によれば、これらのモデルのいずれかが、本明細書に記載の組合せにおける作用物質間の相乗作用を示す場合、相乗作用が達成されたと見なすことができる。好ましくは、これらのモデルの2つ、3つ又は4つ全てが、本明細書に記載の組合せの任意の2つの作用物質間の相乗作用を明らかにするであろう。
【0149】
制限なしに、信頼できる結果を生み出すことができる4つの基準モデルが好ましい:(i)相乗作用スコアが最高単一薬物応答に対する超過を定量する、HSAモデル;(ii)2つの薬物が同じ化合物である場合、相乗作用スコアが期待される応答に対する超過を定量する、Loeweモデル;(iii)期待される応答が、2つの薬物が独立して作用するかのような乗法型効果(multiplicative effect)である、Blissモデル;及び(iv)期待される応答が2つの薬物が互いの効力に影響を与えないかのように、相加効果に対応する、ZIPモデル。
【0150】
最も広く使用されている組合せ基準、及び相乗作用を決定するための好ましいモデルは、「Loewe加法性」又は「Loeweモデル」(Loewe (1928), Ergebn. Physiol. 27:47-187; Loewe and Muischnek. "Effect of combinations: mathematical basis of the problem" Arch. Exp. Pathol. Pharmakol. 114:313-326, 1926; Loewe S.(1953) The problem of synergism and antagonism of combined drugs. Arzneimittel Forschung, 3, 286-290)、又は「用量加法性(dose additivity)」であり、これは、用量マトリックスの両側に同じ化合物が含まれている場合の2つの作用物質間の効力のトレードオフを説明する。例えば、1 μMの薬物A又は1 μMの薬物Bによって50%の阻害が別々に達成される場合、0.5 μMのAと0.5 μMのBとの組合せも50%阻害するはずである。このレベルを超える相乗作用は、単に組合せがいずれかの作用物質の用量を増やすよりも追加の利益を提供することができるポイントを定義するため、提案された併用療法の臨床使用を正当化する場合に特に重要である。
【0151】
Loewe加法性(又は用量加法性)を決定する更なる例として、d1及びd2を化合物1及び化合物2の用量とし、組み合わされて効果eをもたらす。本発明者らは、効果eを単独で生じさせるために必要な化合物1及び化合物2の用量をDe1及びDe2で示す(これらの条件がそれらの化合物の用量を一意に定義すると仮定する。すなわち、個々の用量反応関数は全単射である)。de1/De2は、化合物2の効力と比較した化合物1の効力を定量する。d2De1/De2は、効力の違いを考慮した後、化合物2の用量を化合物1の対応する用量に変換したものとして解釈することができる。Loewe加法性は、d1+d2De1/De2=De1又はd1/De1+d2/De2=1の状況として定義される。幾何学的に、Loewe加法性は、アイソボールが定義域(domain)(d1、d2)の点(De1、0)と(0、De2)とを結ぶ線分である状況である。f1(d1)、f2(d2)、並びに化合物1、化合物2、及び混合物の用量反応関数でそれぞれ表すと、d1/f1
-1(f12(d1,d2))+d2/f2
-1(f12(d1,d2))=1のときに用量加法性が成り立つ。
【0152】
併用投与:
本発明によれば、「併用投与」(そうでなければ同時投与又は合併治療(joint treatment)としても知られる)という用語は、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の化合物の別々の製剤の投与を包含し、それにより、治療は、互いに数分以内に、互いに同じ時間、同じ日、同じ週、又は同じ月に生じ得る。2つの作用物質の交互投与は、併用投与の一実施形態と見なされる。時差投与は、併用投与という用語に包含され、それにより、1つの作用物質が投与され得て、その後の第2の作用物質の投与が続き、任意に第1の作用物質の再度の投与が続き、以下同様である。複数の作用物質の同時投与は、併用投与の一実施形態と見なされる。同時投与は、いくつかの実施形態において、例えば、複数の作用物質を同時に含む複数の組成物の摂取、例えば、別々の錠剤を同時に摂取することによる経口摂取を包含する。本明細書に開示される複数の作用物質を含む単一の製剤等の併用薬、及び任意に追加の抗癌薬もまた、単回の投与又は投薬量で様々な成分を同時投与するために使用され得る。
【0153】
1つの作用物質の併用療法又は併用投与は、数分から数週間の範囲の間隔で、併用される他の作用物質による治療の前又は後であってもよい。第2の作用物質及び第1の作用物質が別々に投与される実施形態において、一般に、第1の作用物質及び第2の作用物質が依然として有利に組み合わされて治療部位に相乗効果を発揮することができるように、各送達の時間の間に有意な期間が満了しないことを確実にする。かかる場合、互いに約12時間~24時間以内に、より好ましくは、互いに約6時間~12時間以内に、最も好ましくはわずか約12時間の遅延時間で、両方のモダリティで被験体に接触することが企図される。いくつかの状況では、治療期間を大幅に延長することが望ましい場合があるが、それぞれの投与の間に数日(2日、3日、4日、5日、6日、又は7日)から数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間又は8週間)が経過する。
【0154】
本発明の意味では、有益な追加の治療効果、好ましくは相乗効果が2つの作用物質の併用投与によって達成されるため、本明細書に記載の複数の作用物質の任意の形態の投与は併用投与に包含される。
【0155】
MACC1:
転移は、結腸直腸癌(CRC)管理における主要な課題であり続けている。CRC転移の分子病因を理解する上での最近の重要な知見の1つは、遺伝子MACC1の同定である。MACC1は、CRCにおける転移及び無転移生存の予後バイオマーカーとして発見された。一方、MACC1は、様々な他の固形癌における腫瘍形成及び転移の決定的な進行要因として確認されている。
【0156】
本明細書で使用される「MACC1」は、NCBIデータベースの遺伝子ID:346389に従ってホモサピエンスにおける結腸癌に関連する転移(metastasis associated in colon cancer)1遺伝子を指す。この遺伝子は、GenBank ID:AAI37091で記録された852アミノ酸のタンパク質をコードする。核酸又はタンパク質をコードするMACC1を検出するための適切な手段が、以下の実施例に提供される。
【0157】
MACC1の阻害剤は、確立された日常的な手法を使用して決定され得る。例えば、本明細書に記載の市販の技術(例えば、Aviva Systems Biology OKCD09378又はBiomatik EKU05926から入手可能なELISAキット)又は引用された従来技術の技術(例えば、非特許文献2)を使用して、MACC1阻害剤であると疑われる物質を評定し、適切な対照と比較する任意の所与のアッセイを採用することができる。任意の所与の物質(候補阻害剤)の治療によって誘発されるMACC1の活性又は量の減少を決定するために、細胞アッセイ又は生物学的試料から、MACC1タンパク質若しくは活性を評定してもよく、又はMACC1転写産物のレベルを決定してもよい。
【0158】
MEK阻害剤:
いくつかの実施形態において、MACC1阻害剤は、MEK阻害剤、好ましくはMEK1阻害剤である。MEK阻害剤は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素、好ましくはMEK1及び/又はMEK2を阻害する任意の物質である。これらの阻害剤はMAPK/ERK経路に影響を及ぼすが、これはいくつかの癌では過剰に作用する。
【0159】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路には、細胞の増殖、生存、分化、運動性、及び血管新生を含む多様な細胞活動の調節に重要な役割を果たすプロテインキナーゼのファミリーが関与する。MAPK経路は、様々な細胞外刺激(成長因子、ホルモン、サイトカイン、及び環境ストレス)からのシグナルを伝達し、一連のリン酸化イベント及びタンパク質間の相互作用を介して明確な細胞内応答をもたらす。MEKタンパク質は、4つのMAPキナーゼシグナル伝達経路のそれぞれで特定のMAPK標的の上流にある酵素ファミリーに属する。複数のMEK酵素が特定されている。これらのMEK酵素は、特定のMAPキナーゼ基質の活性化ループ内のセリン/スレオニン及びチロシン残基を選択的にリン酸化する。MEK1とMEK2は密接に関連する。それらはRas/Raf/MEK/ERKシグナル伝達カスケードに関わる。MEK1は、MAPKK-1とも呼ばれ、MEKファミリータンパク質のプロトタイプメンバーである。MEK1は染色体15q22.31に位置する遺伝子MAP2K1によってコードされる。MEK2タンパク質をコードする遺伝子MAP2K2は、染色体19p13.3に存在する。MEK 1/2タンパク質は、N末端配列、プロテインキナーゼドメイン、及びC末端配列からなる(Akinleye et al, J Hematol Oncol.2013; 6:27に概説される)。
【0160】
多くのMEK阻害剤が当該技術分野で知られている。当業者は、標準的な方法又は文献リソースを使用して、この確立されたクラスの物質を識別することができる。現在臨床開発中のMEK阻害剤としては、例えば、CI-1040(PD184352)、PD0325901、セルメチニブ(AZD6244)、MEK162、AZD8330、TAK-733、GDC-0623、レファメチニブ(RDEA119;BAY 869766)、ピマセルチブ(AS703026)、RO4987655(CH4987655)、RO5126766、WX-554、RO4987655(CH4987655)、GDC-0973(XL518)、AZD8330及びHL-085(Cheng and Tian, Molecules 2017, 22, 1551, and in Akinleye et al, J Hematol Oncol.2013; 6:27に概説される)が挙げられる。
【0161】
MEK阻害剤は市販されており、必要に応じて調達することができ、限定されるものではないが、セルメチニブ(AZD6244)、トラメチニブ(GSK1120212)、PD0325901、U0126、PD184352(CI-1040)、PD98059、BIX 02189、ピマセルチブ(AS-703026)、BIX 02188、TAK-733、AZD8330、ビニメチニブ(MEK162、ARRY-162、ARRY-438162)、PD318088、ホノキオール、SL-327、レファメチニブ(RDEA119、Bay 86-9766)、ミリセチン、BI-847325、コビメチニブ(GDC-0973、RG7420)、GDC-0623及びAPS-2-79HClからなる群から選択される。開発中の更なるMEK阻害剤は、LNP-3794、SHR-7390、CKI-27、CS-3006、及びE-6201に関連する。一実施形態において、MEK阻害剤はU0126ではない。
【0162】
スタチン:
HMG-CoAレダクターゼ阻害剤としても知られるスタチンは、脂質低下薬の一種である。スタチンは、心血管疾患のリスクが高い人の心血管疾患及び死亡率を減らす。スタチンは、LDLコレステロールの低下に効果的であるため、スタチンは心血管疾患のリスクが高い人の一次予防と並んで、心血管疾患を発症した人の二次予防に広く使用されている。スタチンは市販されており、限定されるものではないが、アトルバスタチン(リピトール)、フルバスタチン(レスコール、レスコールXL)、ロバスタチン(メバコール、アルトプレフ(altoprev))、プラバスタチン(プラバコール)、ロスバスタチン(クレストール)、シンバスタチン(ゾコール)、及びピタバスタチン(リバロ)が挙げられる。
【0163】
患者のMACC1レベルの決定:
患者試料における上昇したMACC1レベルの決定は、当該技術分野で説明されている。これらの方法を、本発明に適用することができる。
【0164】
血漿からMACC1レベルを検出する例は、Burock S, Herrmann P, Wendler I, Niederstrasser M, Wernecke KD, Stein U. "Circulating MACC1 transcripts in gastric cancer patient plasma as diagnostic and prognostic biomarker", World J Gastroenterol(2014年7月22日付で受理)に開示されている。簡潔には、著者らは、ノンパラメトリック(正確)ウィルコクソン-マン-ホイットニー検定(正規分布及び少量の試料からの分布の偏差のため)を使用することにより、血漿中のMACC1転写レベルに関して群間の差異を検定した。腫瘍のないボランティアから得られた試料を、同時性臓器転移のない又はそれがある原発腫瘍を有する患者、異時性転移のある患者、及びフォローアップ患者からの試料と比較した。さらに、腫瘍を有する患者から得られた試料と、腫瘍及び転移のある患者から得られた試料とを比較した。結果は中央値(範囲)又は頻度(%)として表される。p<0.05を有意であると見なした。癌患者の血漿中の循環MACC1転写産物の診断的価値を評価するために、著者らは、腫瘍を有していないボランティアの血液試料と比較して、同時転移の有無にかかわらず原発腫瘍を有すると新たに診断された癌患者の感度及び特異度を四分表で計算した。著者らは、新たに診断された全ての胃患者の生存分析のため、カプランマイヤー曲線をログランク検定と組み合わせて使用した。バイオマーカーのそれぞれのカットオフ値は、調査した群(一次診断又は全ての患者)の中央値であった。
【0165】
上昇したMACC1レベルを検出する方法の更なる例は、Stein U, Burock S, Herrmann P, Wendler I, Niederstrasser M, Wernecke KW, Schlag PM, "Circulating MACC1 transcripts in colorectal cancer patient plasma predict metastasis and prognosis", PLoS ONE, 7:e49249, 2012に記載されている。血漿中のMACC1転写レベルに関する群間の差を、ノンパラメトリックウィルコクソン-マン-ホイットニー検定(正規分布に依存):腫瘍のないボランティア対同時転移の有無にかかわらず原発腫瘍を有する患者、異時性転移のある患者、及びフォローアップ患者;腫瘍を有する患者対腫瘍及び転移のある患者を使用して検定した。小さい試料、試料サイズの大きな違い、大きいが不均衡な群、同点を含むデータセット、又はまばらなデータの場合、検定を正確なバージョンで行った。P<0.05を有意であると見なした。血漿中の循環MACC1転写産物の診断値を定義するために、感度及び特異度を、腫瘍のないボランティアの血液試料と比較して、同時転移の有無にかかわらず原発腫瘍を有すると新たに診断された、結腸直腸癌(試験セット及び検証セット)、結腸癌及び直腸癌の患者の四分表で計算した。経時的な検査及び最初の採血に従って、患者を試験セット及び検証セットにグループ化した。新たに診断されたCRC患者の試験セットを採用し、MACC1の最適なカットオフ値を決定し(感度75%、特異度76%)、このカットオフ値をCRC患者の検証セットに適用する。新たに診断された全ての癌患者の生存について、ログランク検定と組み合わせたカプランマイヤー曲線を使用した。MACC1のカットオフ値は、調査した群(一次診断又は全ての患者)の中央値であった。
【0166】
腫瘍組織のレベル上昇の試験及び決定の例は、Stein U, Walther W, Arlt F, Schwabe H, Smith J, Fichtner I, Birchmeier W, Schlag PM, "MACC1, a newly identified key regulator of HGF/Met signaling, predicts colon cancer metastasis", Nature Med 15:59-67, 2009に開示されている。著者らは、ノンパラメトリック両側マンホイットニー順位和検定を用いて統計学的有意性を評価した。著者らは、非転移症例と転移症例との比較にROC分析及びマンホイットニー検定を使用した。著者らは、ノンパラメトリックスピアマン-Rho検定を使用して、被験体におけるMACC1とMETとの間の相関を評価した。著者らは、ログランク検定を使用してカプランマイヤー曲線を評価した。著者らは、独立した転移マーカーとしてMACC1を評価するために、ロジスティック回帰及びCox回帰を使用した。データは平均±s.d.を表す。
【0167】
腫瘍組織におけるMACC1レベルの上昇を試験及び決定する更なる例は、Nitsche U, Rosenberg R, Balmert A, Schuster T, Slotta-Huspenina J, Herrmann P, Bader FG, Friess H, Schlag PM, Stein U, Janssen KP, "Integrative marker analysis allows risk assessment for metastasis in stage II colon cancer", Ann Surgery, 256:763-771, 2012に開示されている。無転移生存率(すなわち、遠隔転移のない生存率)を主要評価項目と見なした。統計学的評価を、IBM(商標)SPSS(商標)Statistics Version 19(SPSS Inc.、米国ニューヨーク州サマーズのIBM Corporation)を使用して実施した。遺伝子発現レベルの最適なカットオフ値を導出するため、R Softwareバージョン2.13.0(オーストリア国ウィーンのR Foundation for Statistical Computing)によって実施された最大限に選択されたログランク統計を使用した。これらの分析内で複数の試験の課題を検討するため、R関数maxstat.検定(R-function maxstat.test)を採用した。時間依存性の生存確率をカプランマイヤー法で推定し、ログランク検定を使用して独立したサブグループを比較した。共変量間の多変数関係の生存への影響を調査するために、コックス比例ハザードモデルを使用した。バイナリアウトカムデータの多変数分析を、ロジスティック回帰によって評定した。曲線下面積(AUC)値を、打ち切られた生存データに対する時間依存受信者動作特性(ROC)分析によって計算した。無再発生存時間並びに推定ハザード比(HR)を計算し、95%信頼区間(95%CI)で報告した。患者の異なる群へのクラスタリングを、SPSS(商標)Two Step Cluster分析機能によって実施した。N-Queryソフトウェアを使用する事後検出力分析では、遠隔再発症例の総数で、ログランク検定を使用した場合、5%の有意性の両側レベルでタイプ2エラー≦20%(検出力80%)で3.2以上のハザード比が検出可能であることが明らかになった。全ての統計学的検定を両側で実施し、0.05未満のp値を統計学的に有意であると見なした。複数の試験の問題を調整するため、p値の修正は適用しなかった。
【0168】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路:
本明細書において使用される場合、「Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路」及び「Wntシグナル伝達」又は「Wntシグナル伝達経路」という用語は、同じ意味で使用され得る。
【0169】
結腸直腸癌は、しばしば、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の活性化及び転移誘発遺伝子S100A4の高発現に関連する。細胞間接着におけるその機能に加えて、β-カテニンはまた、標準的なWntシグナル伝達経路の重要なメディエーターでもある。Wntシグナル伝達が起こらない場合、2つの足場タンパク質である腫瘍抑制因子APC及びAXINが、β-カテニンと共にいわゆる破壊複合体を形成し、これはアミノ末端でCKI及びGSK3-βによるβ-カテニンの連続リン酸化を促進する。リン酸化は、Fボックス/WDリピートタンパク質β-TrCPを含むE3ユビキチンリガーゼを動員し、これは、β-カテニンのプロテアソーム分解を示す。Wntシグナル伝達経路は、Wntリガンドがアミノ末端システインリッチドメインを持つセルペンチン受容体であるFrizzled膜貫通受容体に結合することによって活性化される。次いで、この複合体は、LDL受容体ファミリーのシングルパス膜貫通タンパク質(LRP5/6)と相互作用する。FRZ/LRP複合体が破壊複合体のキナーゼ活性をどのように調節するかは明らかではない。しかしながら、アキシン/GSK3-βの活性は、アキシンとLRP5/6との相互作用、又はアキシン結合分子Dishevelled(DSH)の作用を伴うメカニズムによって阻害されることが示唆されている。リン酸化されていないβ-カテニンは核に移行し、そこでDNA結合タンパク質のTcf/Lef(T細胞因子/リンパ系エンハンサー因子)ファミリーのアミノ末端に結合し、標的遺伝子の転写を活性化する。Tcf/Lefタンパク質は、β-カテニンの不在下で標的遺伝子を抑制するが、β-カテニンに結合すると転写活性化因子に変換する。
【0170】
癌細胞に対するWnt経路の関連性は、Wnt経路の遺伝子で発生する変異の割合が高いことによって示される。例えば、結腸直腸癌の90%超が、Wnt経路の活性化をもたらす変異を持つ。これらの変異は一般にβ-カテニンのリン酸化及び安定性に影響を及ぼし、ユビキチン経路を介した分解を妨げる。非リン酸化β-カテニンは細胞質に蓄積し、核に輸送され、TCFファミリー転写因子と相互作用して標的遺伝子を制御する。核のβ-カテニンの蓄積は、腫瘍の進行及び転移の発症の後期ステージに関連しており、変異したβ-カテニンの存在は、積極的な腫瘍の成長及び予後不良に関連している。
【0171】
一例として、S100A4はWnt/β-カテニンシグナル伝達のマーカー分子又は読み出しと見なされる。それらのレベルがWnt/β-カテニンシグナル伝達阻害を示す他の読み出し分子は、これらに限定されるものではないが、c-myc、MMP-7、MMP-9又はMMP-13である。
【0172】
Wnt/ベータ-カテニンシグナル伝達及び小分子阻害剤は、Voronkov et al(Current Pharmaceutical Design, 2013, 19, 634-664)に詳細に記載されている。
【0173】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の追加の阻害剤は、XAV939、IWR1、IWP-1、IWP-2、JW74、JW55、オカダ酸、トートマイシン、SB239063、SB203580、ADP-HPD、2-[4-(4-フルオロフェニル)ピペラジン-1-イル]-6-メチルピリミジン4(3H)-オン、PJ34、カンビノール、スリンダク、3289-8625、J01-017a、NSC668036、フィリピン、IC261、PF670462、ボスチニブ、PHA665752、イマチニブ、ICG-001、エタクリン酸、PKF115-584、PNU-74654、PKF118-744、CGP049090、PKF118-310、ZTM000990、BC21、GDC-0941、Rp-8-Br-cAMPに関する。
【0174】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、確立された日常的な技法を使用して決定することができる。例えば、QIAGENは、遺伝子の発現及び調節、エピジェネティック修飾、ジェノタイピング、並びにシグナル伝達経路の活性化の分析を可能にするWNTシグナル伝達研究を評定するための幅広いアッセイ技術を提供する。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路阻害剤であると疑われる物質を、本明細書に記載の市販の技術又は引用された従来技術の技術(例えば、Sack et al.Mol Biol Cell.2011 Sep;22(18):3344-54; Sack et al., J Natl Cancer Inst.2011 Jul 6;103(13):1018-36)を使用して評定し、適切な対照と比較する任意の所与のアッセイを採用することができる。
【0175】
S100A4:
転移形成に関連する1つの主要な標的は、元々はメタスタシン(metastasin)1(MTS1)として同定された11 kDaのタンパク質である、S100カルシウム結合タンパク質A4(S100A4)である。S100A4は、18A2、42A、CAPL、FSP1、MTS1、P9KA、PEL98としても知られている。本明細書において使用される場合、「S100A4」は、NCBIデータベースのタンパク質ID:NP_002952による、ホモサピエンスにおけるS100カルシウム結合タンパク質A4を指す。S100A4遺伝子は、遺伝子ID:6275で記録された101個のアミノ酸のタンパク質をコードする。S100A4をコードする核酸又はS100A4タンパク質を検出するための適切な手段が本明細書に提供される。
【0176】
S100A4は、胆嚢癌、膀胱癌、乳癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝細胞癌、非小細胞肺癌、及び特に結腸直腸癌等の様々な種類の癌で過剰発現される。S100A4の発現の増加は、腫瘍の攻撃性、転移する能力、及び患者の生存率が低いことと強く関連している。しかしながら、S100A4を過剰発現するトランスジェニックマウスはそれ自体が腫瘍を発症しないことから、S100A4自体は腫瘍形成性ではない。しかしながら、S100A4トランスジェニックマウスを自発的な腫瘍形成を示すマウスと交配させると、積極的な腫瘍の成長及び転移を引き起こす。さらに、転移性の高いマウス乳癌細胞を注射したS100A4ヌルマウスは転移を示さない。これらの観察は、S100A4が転移形成のプロセスに不可欠であることを示唆する。
【0177】
S100A4は、転移形成の基礎を形成する、遊走、浸潤、接着、及び血管新生等の細胞プロセスにおいて主要な役割を果たす。例えば、S100A4は、非筋肉ミオシンII(MYH9)の重鎖等、細胞骨格由来のタンパク質と相互作用することにより、細胞運動性を高める。さらに、S100A4は、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体タイプF(PTPRF)相互作用タンパク質、結合タンパク質1(PPFIBP1;リプリンβ-1としても知られる)との相互作用によって細胞接着に関与し、メタロマトリックスペプチダーゼ(MMP)のアップレギュレーションを介して細胞浸潤及び血管新生を促進する。
【0178】
S100A4の阻害剤は、確立された日常的な技法を使用して決定され得る。例えば、本明細書に記載の市販の技術(例えば、Aviva Systems Biology OKCA02438又はLifeSpan Biolsciences LS-F9180-1から入手可能なELISAキット)、又は引用される従来技術の技術(例えば、Sack et al., J Natl Cancer Inst.2011 Jul 6;103(13):1018-36; Garrett et al, Biochemistry.2008 Jan 22; 47(3):986-996.)を使用して、S100A4阻害剤であると疑われる物質を評定し、適切な対照と比較する任意の所与のアッセイを採用することができる。任意の所与の物質(候補阻害剤)の処理によって誘発されるS100A4の活性又は量の減少を決定するために、細胞アッセイ又は生物学的試料から、S100A4のタンパク質若しくは活性を評定してもよく、又はS100A4転写産物のレベルを決定してもよい。
【0179】
患者におけるS100A4レベルの決定:
患者試料におけるS100A4レベルの上昇の決定は、当該技術分野で説明されている。これらの方法を、本発明に適用することができる。
【0180】
好ましい実施形態において、本発明は、S100A4の発現の増加によって特定される患者群の治療に関し、好ましくは、癌性細胞は、S100A4の発現の増加を示す。S100A4発現は、S100A4転写産物の発現増加を分析するためのRT-PCR、又はS100A4タンパク質の発現増加を検出するためのウエスタンブロット若しくはELISA等の免疫学に基づく方法、又は「正常」若しくは「健康」若しくは「低リスク」の細胞と比較したS100A4発現の相対測定を提供することができる任意の他の診断ツール等の当該技術分野で一般に知られている任意の方法を使用して決定され得る。
【0181】
米国特許出願公開第20140294957号に開示されているように、細胞をTrizol Reagent(Invitrogen)で溶解する24時間前に、6ウェルプレートに播種した4×105個の細胞から全RNAを単離することができる。或いは、RNAを血液試料又は腫瘍組織試料から単離し、それに応じて処理することができる。例えば、RNAを、製造業者の指示に従ってTrizol RNA抽出試薬(Invitrogen)を使用して抽出する。RNA濃度の定量はNanodrop(Peqlab)を使用して実施され、50 ngの全RNAは10 mM MgCl2、1×RTバッファー、250 μMプールdNTP、1 U/μL RNアーゼ阻害剤、及び2.5 U/μL MuLV逆転写酵素(全てApplied Biosystems)中のランダムヘキサマーで逆転写される。反応は42℃で15分間、99℃で5分間、その後5℃で5分間の冷却で生じる。以下の条件を使用して、LightCycler 480(Roche)において96ウェルプレートで総量10 μLでcDNA産物を増幅する:引用することにより全体が本明細書の一部をなす、米国特許出願公開第20140294957号に開示されているもの等の適切なプライマーを用いて、95℃で10分、続いて95℃で10秒間、61℃で30秒間及び72℃で4秒間の45サイクル。ハウスキーピング遺伝子であるグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)のcDNA定量には、hG6PDH Roche Kit(ドイツ国マンハイムのRoche Diagnostics)を標準的な指示に従って使用する。データ分析を、例えば、LightCycler(商標)480ソフトウェアリリース1.5.0 SP3を用いて実施する。各qRT-PCR反応について、重複の平均を計算する。発現された遺伝子の各平均値を、G6PD cDNAのそれぞれの平均量に正規化する。
【0182】
S100A4及び/又はMACC1レベルを決定する際の追加の診断アプローチ:
本発明は更に、キット、該キットの使用、並びにS100A4及び/又はMACC1レベルを決定する方法に関する。かかる手段は、阻害剤の機能試験中にS100A4及び/又はMACC1のレベルを決定するためにも使用することができる。本明細書において提供される(例えば、方法に関連して提供される)定義は、本発明のキットにも適用される。特に、本発明は、S100A4及び/又はMACC1レベルを決定するためのキットの使用に関し、このキットは、
S100A4及び/又はMACC1のレベルを決定するための検出試薬と、
S100A4及び/又はMACC1の上昇レベルを決定するための基準データ、特に閾値又はカットオフ値(複数の場合もある)に関する基準データと、
を備え、上記基準データは、好ましくは、コンピュータ可読媒体に格納され、及び/又はS100A4及び/又はMACC1の決定されたレベルを閾値又はカットオフ値(複数の場合もある)と比較するように構成されたコンピュータ実行可能コードの形態で用いられる。
【0183】
本明細書において使用される場合、「基準データ」は、好ましくは健康な患者からのS100A4及び/又はMACC1の基準レベル(複数の場合もある)を含む。被験体の試料中のS100A4及び/又はMACC1のレベルを、キットの基準データに含まれる基準レベルと比較することができる。基準データは、S100A4及び/又はMACC1のレベルが比較される基準試料を含むこともできる。基準データはまた、本発明のキットを使用する方法の取扱説明書を備えることができる。
【0184】
キットは、血液試料等の試料を取得するのに有用なアイテムを更に備えてもよく、例えば、キットは、容器を備えてもよく、この容器は、該容器をカニューレ又は注射器に取り付けるためのデバイスを備え、血液の単離に適した注射器であって、所定の量の試料を上記容器に引き込むのに適しているような、大気圧よりも低い内圧を示し、及び/又は追加の洗浄剤、カオトロピック塩、リボヌクレアーゼ阻害剤、キレート剤、RNアーゼ阻害剤タンパク質、及びそれらの混合物を備える。
【0185】
本明細書において使用される場合、「検出試薬」等は、本明細書に記載のマーカー(複数の場合もある)、例えば、S100A4及び/又はMACC1を決定するのに適した試薬である。かかる例示的な検出試薬は、例えば、核酸配列をコードするS100A4及び/又はMACC1を増幅するための核酸プライマーである。かかるプライマーは、核酸増幅反応、例えば、PCR法において使用され得る。かかる例示的な検出試薬は、例えば、本明細書に記載のマーカー(複数の場合もある)のS100A4及び/又はMACC1ペプチド又はエピトープに特異的に結合するリガンド、例えば抗体又はそのフラグメントである。かかるリガンドは、イムノアッセイで使用される可能性がある。
【0186】
「核酸増幅反応」という用語は、核酸の増幅を可能にする酵素反応を含む任意の方法を指す。本発明の好ましい一実施形態は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に関する。別の好ましい実施形態は、増幅された標的のリアルタイムでの定量を可能にすることから、リアルタイムPCR(RT-PCR)又は定量的RT-PCR(qRT-PCR)に関する。「リアルタイムPCR」という用語は、生じている増幅反応の進行を(すなわち、リアルタイムで)モニターすることを可能にする任意の増幅技法を意味することを意図している。したがって、データは、従来のPCRのようにエンドポイントではなく、PCR反応の指数関数的増幅フェーズ中に収集される。PCRの初期段階で反応速度を測定することは、伝統的なPCR検出に比べて明確な利点を提供する。リアルタイムPCRでは、反応は、一定のサイクル数の後に蓄積された標的の量ではなく、標的の増幅が最初に検出されたサイクリング中の時点によって特徴付けられる。核酸標的の開始コピー数が高いほど、蛍光の有意な増加がより早く観察される。伝統的なPCR法も適用することができ、PCR反応の最終段階又はエンドポイントでのPCR増幅の検出には、アガロースゲル等の分離法を使用する。qRT-PCRの場合、反応中にリアルタイムで定量が起こるため、未知のDNA試料のPCR後処理は必要ない。さらに、レポーター蛍光シグナルの増加は、生成されたアンプリコンの数に正比例する。当業者は、かかる検出を行うために必要な試薬及び方法を知っている。
【0187】
癌:
本発明は、癌、又は細胞増殖性障害若しくは癌転移等の癌様障害の治療のための、MACC1阻害及びWnt/β-カテニンシグナル伝達阻害のための医薬配合剤に関する。「癌」、「増殖性障害」又は「細胞増殖性障害」という用語は、同じ意味と理解することができ、影響を受けた細胞の増殖能力が影響を受けていない細胞の正常な増殖能力とは異なる任意の障害を指す。細胞増殖性障害の例は新生物である。悪性細胞は、多段階のプロセスの結果として発生する。「癌」、「腫瘍性疾患」又は「悪性腫瘍」という用語は、もはや正常な細胞増殖制御下にない腫瘍又は造血疾患を指す場合がある。「癌性細胞」という用語は、本明細書において提供される癌性状態のいずれか1つに罹患している細胞を含む。「癌腫」という用語は、周囲の組織に浸潤し、転移を引き起こす傾向がある上皮細胞で構成される悪性の新たな成長を指す。
【0188】
本明細書に記載の細胞増殖性障害は、一般に腫瘍又は腫瘍と称される新生物であり得る。かかる新生物は良性又は悪性のいずれかである。「新生物」、「腫瘍」又は「腫瘍」という用語は、細胞の新しい異常な成長、又は正常よりも速く再生する異常な細胞の成長を指す。新生物は、良性又は悪性のいずれかとなり得る非構造化腫瘤(腫瘍)を作り出す。「良性」という用語は、非癌性の腫瘍を指し、例えば、その細胞は増殖しないか、又は周囲の組織に浸潤しない。
【0189】
別の態様において、本発明は、患者の固形腫瘍を予防、治療、及び/又は管理する方法であって、該方法がそれを必要とする患者に、予防的に効果的な計画又は治療的に効果的な計画を行うことを含み、計画が患者に本発明の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を投与することを含み、患者が固形腫瘍と診断されている、方法を提供する。この態様の特定の実施形態において、 固形腫瘍は、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、膵臓癌、骨癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、口腔癌、鼻腔癌、咽頭癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、小細胞肺癌、膀胱癌、肺癌、上皮癌、神経膠腫、多形膠芽腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、皮膚癌、黒色腫、神経芽腫、又は網膜芽腫である。
【0190】
転移:
一実施形態において、本発明は、好ましくは癌性細胞の細胞運動性を低下させることによる、腫瘍転移の治療及び/又は予防に使用される医薬配合剤、又は2つの作用物質の組合せに関する。本明細書において使用される場合、「転移」という用語は、癌細胞が最初に形成された場所から体の別の部分への癌細胞の拡がりを指す。
【0191】
転移は、腫瘍細胞が原発腫瘍から播種し、遠隔臓器にコロニーを形成する多段階プロセスと見なすことができる。この工程は、限定されるものではないが、基底膜及び周囲組織への腫瘍細胞の浸潤、血管への血管内侵入、そこでの生存、血管外漏出及び/又は異なる臓器部位での成長を含む。これらの工程を達成するには、細胞の動き及びマトリックスのリモデリングの正確な調整が必要であり、抗転移剤によって中断することができる。したがって、癌転移に対する効果を決定することは、細胞浸潤、すなわち基底膜及び周囲組織への浸潤、細胞運動性又は細胞移動、血管又はリンパ管への浸潤(血管内侵入)、及び/又は血管若しくはリンパ管からの癌細胞の漏出(血管外漏出)の1つ以上に対する阻害効果を決定することを採用し得る。本発明によれば、好ましくは細胞運動性の低下が評定される。
【0192】
転移に対する効果を評定するためのモデルが本明細書に開示され、当業者に知られている。採用されたin vitroアプローチは、好ましくは、HCT116ヒト結腸癌細胞株を用いた創傷治癒アッセイを使用する。転移への影響は、創傷治癒アッセイで観察されたHCT116細胞の細胞運動性の低下に対する直接的な効果に基づいて定量される。
【0193】
癌細胞の運動性、遊走及び/又は浸潤を減少させる効果も観察することができる。いくつかの実施形態において、癌転移は、癌増殖と区別することができ、それにより、別々の医学的用途を表す。いくつかの実施形態において、細胞増殖及び細胞転移の両方が減少される。
【0194】
本明細書において使用される場合、「細胞遊走」又は「運動性」は、化学的又は物理的シグナル等の標的に向かう細胞の動きを意味することを意図している。細胞は、しばしば、化学的シグナル及び機械的シグナルを含む外部シグナルに応答して遊走する。癌細胞は遊走することができ、転移性癌の特徴である細胞運動性を示すため、転移を治療及び/又は低減するため、又は転移のリスクを低減するために標的とすることができる。走化性は、刺激への応答に関する細胞の遊走又は運動性の1つの例である。ボイデンチャンバーアッセイ等のin vitroでの走化性アッセイを使用して、細胞遊走が任意の所与の細胞において生じるかどうかを決定することができる。
【0195】
例えば、癌細胞は、精製し、分析することができる。走化性アッセイ(例えば、Falk et al., 1980 J. Immuno. Methods 33:239-247による)は、特定の化学的シグナルが配置されているプレートを使用して対象となる細胞に対して実施することができ、その際に遊出された細胞が回収され、分析される。例えば、ボイデンチャンバーアッセイは、フィルターにより隔離されたチャンバーの使用を要し、走化性挙動の正確な判定のためのツールとして使用される。草分け的なこれらのチャンバーの型式は、Boyden(Boyden (1962) "The chemotactic effect of mixtures of antibody and antigen on polymorphonuclear leucocytes". J Exp Med 115 (3): 453)により作製された。運動性細胞を、上側のチャンバー中に入れて、その一方で、試験物質を含む流体を、下側のチャンバー中に満たす。調査される運動性細胞のサイズによって、そのフィルターの孔径が決まる。積極的な遊出が可能な直径を選ぶことが必須である。in vivo条件を模するために、いくつかのプロトコルでは、細胞外マトリックスの分子(コラーゲン、エラスチン等)によりフィルターを被覆することが好ましい。測定の効率は、24個、96個、384個の試料が並行して評価されるマルチウェルチャンバー(例えば、NeuroProbe)の開発により高めることができる。この別形の利点は、いくつかの対応物が同じ条件でアッセイされることである。このような方法を、任意の所与の癌細胞タイプが細胞の運動性又は遊走を示すかどうか、すなわち腫瘍試料を取得することができ、細胞をかかる方法で培養及びアッセイできるかどうかを評定するために使用することができる。さらに、任意の所与の阻害剤は、このようなアッセイを使用して、細胞運動性に対するその効果について評定することができる。本明細書に記載の任意の所与の組合せの効果を評定して、転移の治療における有効性の読み出しである、影響を受けた遊走における相乗効果を決定することができる。
【0196】
癌の病期分類:
病期分類システムは、臨床医が癌の範囲を記述する標準化された方法である。結腸直腸癌に最も一般的に使用される病期分類システムは、時としてTNMシステムとしても知られる米国癌合同委員会(AJCC)の病期分類システムである(詳細については、米国癌協会を参照されたい)。
【0197】
TNMシステムは、次の3つの重要な情報を記述する:Tは、主な(原発性)腫瘍が腸壁にどれだけ成長したか、及びそれが近くの領域に成長したかどうかを記述する;Nは、近くの(局所の)リンパ節への拡がりの程度を記述する。リンパ節は、感染症と戦うのに重要な免疫系細胞の小さな豆の形をした集合である;Mは、癌が体の他の臓器に拡がっている(転移している)かどうかを示す。
【0198】
結腸直腸癌の病期分類:
結腸直腸癌は、体のほぼどこにでも拡がる可能性があるが、最も一般的な拡がりの部位は肝臓及び肺である。T、N、及びMの後に数字又は文字が表示され、これらの各要因について更なる詳細が提供される。0から4までの数字は、重症度が増していることを示す。文字Xは、「情報が入手できないため、評定することができない」という意味である。
【0199】
結腸直腸癌のTカテゴリは、結腸及び直腸の壁を形成する層を介する拡がりの程度を記述する。Tx:情報が不完全なため、腫瘍の範囲を説明することができない;Tis:癌は最も初期のステージ(上皮内)にある。癌は粘膜のみを含む。癌は粘膜筋板(内筋層)を越えて成長していない;T1:癌は粘膜筋板を介して成長し、粘膜下層にまで拡大する;T2:癌は粘膜下層を介して成長し、固有筋層(厚い外筋層)にまで拡大する;T3:癌は、固有筋層を介して結腸又は直腸の最外層にまで成長したが、それらを介しては成長していない。癌は近くの臓器又は組織には到達していない;T4a:癌は、腸の最外層である漿膜(内臓腹膜としても知られている)を介して成長した;T4b:癌は結腸又は直腸の壁を介して成長し、近くの組織又は臓器に付着又は浸潤する。
【0200】
Nカテゴリは、癌が近くのリンパ節に拡がっているかどうか、もしそうであれば、いくつのリンパ節が関与しているかを示す。リンパ節の関与について正確な考えを得るには、ほとんどの医師が、手術中に少なくとも12個のリンパ節を切除し、顕微鏡で観察することを推奨している。Nx:情報が不完全なため、リンパ節関与の説明は不可能である;N0:近くのリンパ節に癌はない;N1:近くの1個~3個のリンパ節内又はその近くに癌細胞が見られる;N1a:近くの1個のリンパ節に癌細胞が見られる;N1b:近くの2~3個のリンパ節に癌細胞が見られる;N1c:癌細胞の小さな沈着物がリンパ節近くの脂肪の領域に見られるが、リンパ節自体には見られない;N2:近くの4個以上のリンパ節に癌細胞が見られる;N2a:近くの4個~6個のリンパ節に癌細胞が見られる;N2b:近くの7個以上のリンパ節に癌細胞が見られる。
【0201】
Mカテゴリは、癌が肝臓、肺、又は遠隔リンパ節等の遠隔臓器に拡がっている(転移している)かどうかを示す。M0:遠隔臓器への拡がりは見られない;M1a:癌は1つの遠隔臓器又は一連の遠隔リンパ節に拡がっている;M1b:癌は、2つ以上の遠隔臓器若しくは一連の遠隔リンパ節に拡がっているか、又は腹膜の遠隔部分(腹腔の内層)に拡がっている。
【0202】
或る人のT、N、及びMのカテゴリが決定されると、通常は手術後に、この情報をステージグルーピングと呼ばれるプロセスにおいて組み合わせる。ステージは、ステージI(最も進行していない)からステージIV(最も進行している)までローマ数字で表される。いくつかのステージは文字で細分化されている。
【0203】
ステージ0:Tis、N0、M0:癌は最も初期のステージにある。結腸又は直腸の内層(粘膜)を越えて成長していない。このステージは、上皮内癌又は粘膜内癌としても知られている。
【0204】
ステージI:T1~T2、N0、M0:癌は粘膜筋板を通って粘膜下層に成長した(T1)か、又は固有筋層にも成長している可能性がある(T2)。癌は近くのリンパ節又は遠隔部位には拡がっていない。
【0205】
ステージIIA:T3、N0、M0:癌は結腸又は直腸の最外層に成長したが、それらを通過していない(T3)。癌は近くの臓器には到達していない。癌は近くのリンパ節又は遠隔部位にはまだ拡がっていない。
【0206】
ステージIIB:T4a、N0、M0:癌は結腸又は直腸の壁を介して成長したが、他の近くの組織又は臓器には成長していない(T4a)。癌は近くのリンパ節又は遠隔部位にはまだ拡がっていない。
【0207】
ステージIIC:T4b、N0、M0:癌は結腸又は直腸の壁を介して成長し、他の近くの組織又は臓器に付着しているか、又はそれらの内部へと成長した(T4b)。癌は近くのリンパ節又は遠隔部位にはまだ拡がっていない。
【0208】
ステージIIIA:次のうち1つが適用される:T1~T2、N1、M0:癌は粘膜を介して粘膜下層に成長し(T1)、固有筋層にも成長した可能性がある(T2)。癌は1個~3個の近くのリンパ節(N1a/N1b)又はリンパ節の近くの脂肪の領域に拡がっているが、リンパ節自体には拡がっていない(N1c)。癌は遠隔部位には拡がっていない;又はT1、N2a、M0:癌は粘膜を介して粘膜下層に成長した(T1)。癌は近くの4個~6個のリンパ節に拡がった(N2a)。癌は遠隔部位には拡がっていない。
【0209】
ステージIIIB:次のうち1つが適用される:T3~T4a、N1、M0:癌は結腸若しくは直腸の最外層(T3)又は内臓腹膜(T4a)を介して成長したが、近くの臓器には到達していない。癌は近くの1個~3個のリンパ節(N1a/N1b)又はリンパ節の近くの脂肪の領域に拡がっているが、リンパ節自体には拡がっていない(N1c)。癌は遠隔部位には拡がっていない;T2~T3、N2a、M0:癌は、固有筋層(T2)又は結腸若しくは直腸の最外層(T3)に成長している。癌は近くの4個~6個のリンパ節に拡がっている(N2a)。癌は遠隔部位には拡がっていない;又はT1~T2、N2b、M0:癌は粘膜を介して粘膜下層に成長した(T1)か、又は固有筋層にも成長した可能性がある(T2)。癌は近くの7個以上のリンパ節に拡がっている(N2b)。癌は遠隔部位には拡がっていない。
【0210】
ステージIIIC:次のうち1つが適用される:T4a、N2a、M0:癌は結腸又は直腸の壁(内臓腹膜を含む)を介して成長したが、近くの臓器には到達していない(T4a)。癌は近くの4個~6個のリンパ節に拡がっている(N2a)。癌は遠隔部位には拡がっていない;T3~T4a、N2b、M0:癌は結腸若しくは直腸の最外層(T3)、又は内臓腹膜(T4a)を介して成長したが、近くの臓器には到達していない。癌は、近くの7個以上のリンパ節に拡がっている(N2b)。癌は遠隔部位には拡がっていない;又はT4b、N1~N2、M0:癌は結腸又は直腸の壁を介して成長し、他の近くの組織又は臓器に付着しているか、又はそれらの内部へと成長した(T4b)。癌は近くの少なくとも1個のリンパ節又はリンパ節近くの脂肪の領域に拡がっている(N1又はN2)。癌は遠隔部位には拡がっていない。
【0211】
ステージIVA:任意のT、任意のN、M1a:癌は結腸又は直腸の壁を介して成長した場合及びそうでなかった場合があり、近くのリンパ節に拡がった場合又はそうでない場合がある。癌は1個の遠隔臓器(肝臓又は肺等)又はリンパ節群に拡がっている(M1a)。
【0212】
ステージIVB:任意のT、任意のN、M1b:癌は結腸又は直腸の壁を介して成長した場合及びそうでなかった場合があり、近くのリンパ節に拡がった場合又はそうでない場合がある。癌は2つ以上の遠隔臓器(肝臓又は肺等)若しくはリンパ節群に拡がっているか、又は腹膜の遠隔部分(腹腔の内層)に拡がっている(M1b)。
【0213】
膵臓癌の病期分類:
Tカテゴリ:TX:主な腫瘍を評定することができない;T0:原発腫瘍の痕跡はない;Tis:上皮内癌(腫瘍は膵管細胞の最上層に限局している)。このステージでは、膵臓腫瘍はほとんど見らない;T1:癌はまだ膵臓内にあり、直径は2センチメートル(cm)(約3/4インチ)以下である;T2:癌はまだ膵臓内にあるが、直径が2 cmを超えている;T3:癌は膵臓の外側の近くの周囲の組織にまで成長したが、主要な血管又は神経内までは成長していない;T4:癌は膵臓を越えて近くの大きな血管又は神経にまで成長している。
【0214】
Nカテゴリ:NX:近くの(局所の)リンパ節を評定することができない;N0:癌は近くのリンパ節に拡がっていない;N1:癌は近くのリンパ節に拡がっている。
【0215】
Mカテゴリ:M0:癌は、遠隔リンパ節(膵臓近くのものを除く)、又は肝臓、肺、脳等の遠隔臓器には拡がっていない;M1:癌は遠隔リンパ節又は遠隔臓器に拡がっている。
【0216】
膵臓癌のステージグルーピング:T、N、及びMのカテゴリが決定されると、この情報を組み合わせて、0、I、II、III、又はIVの全体的なステージを割り当てる(文字が続く場合もある)。このプロセスをステージグルーピングと呼ぶ。
【0217】
ステージ0(Tis、N0、M0):腫瘍は膵管細胞の最上層に限局しており、より深い組織に浸潤していない。腫瘍は膵臓の外には拡がっていない。これらの腫瘍は、膵上皮内癌又は膵上皮内腫瘍性病変III(PanIn III)と称されることがある。
【0218】
ステージIA(T1、N0、M0):腫瘍は膵臓に限局しており、直径2 cm以下である(T1)。腫瘍は、近くのリンパ節(N0)又は遠隔部位(M0)には拡がっていない。
【0219】
ステージIB(T2、N0、M0):腫瘍は膵臓に限局しており、直径2 cmを超えている(T2)。腫瘍は、近くのリンパ節(N0)又は遠隔部位(M0)には拡がっていない。
【0220】
ステージIIA(T3、N0、M0):腫瘍は膵臓の外側まで成長しているが、主要な血管又は神経内までは成長していない(T3)。腫瘍は、近くのリンパ節(N0)又は遠隔部位(M0)には拡がっていない。
【0221】
ステージIIB(T1~T3、N1、M0):腫瘍は膵臓に限定されているか、又は膵臓の外側まで成長しているが、主要な血管又は神経内までは成長していない(T1~T3)。腫瘍は、近くのリンパ節には拡がっている(N1)が、遠隔部位には拡がっていない(M0)。
【0222】
ステージIII(T4、任意のN、M0):腫瘍は膵臓の外側の近くの主要な血管又は神経に成長している(T4)。腫瘍は、近くのリンパ節に拡がった場合又はそうでない場合がある(任意のN)。腫瘍は、遠隔部位には拡がっていない(M0)。
【0223】
ステージIV(任意のT、任意のN、M1):癌は遠隔部位に拡がっている(M1)。
【0224】
治療:
本発明では、「治療」又は「治療法」は、一般に、所望の薬理学的効果及び/又は生理学的効果を得ることを意味する。効果は、例えば、特定の疾患又は症状を有する被験体のリスクを低減することによって、疾患及び/又は症状を完全に又は部分的に予防することを考慮して予防的であり得るか、又は疾患及び/又は疾患の有害作用を部分的又は完全に治癒することを考慮して治療的であり得る。
【0225】
本発明では、「治療法」は哺乳動物、特にヒトにおける疾患又は病態の任意の治療、例えば以下の治療(a)~(c)を含む:(a)患者における疾患、病態又は症状の発現の予防;(b)病態の症状の阻害、すなわち症状の進行の予防;(c)病態の症状の改善、すなわち疾患又は症状の軽減の誘導。
【0226】
特に、本明細書に記載の治療は、癌性細胞の増殖を減少又は阻害することによって腫瘍増殖を減少若しくは阻害するか、又は癌性細胞の転移特性を減少させることに関する。本明細書に記載の予防療法は、本明細書に記載の化合物による治療後に癌性細胞が転移する可能性が低下するため、転移性癌の予防又は転移性癌を発症するリスクの低減を包含することを意図している。
【0227】
医薬組成物及び投与方法:
本発明はまた、本明細書に記載の化合物を含む医薬組成物に関する。
【0228】
本発明はまた、記載された化合物の鏡像異性体及び/又は互変異性体に加えて、本明細書に記載された化合物の薬学的に許容可能な塩に関する。
【0229】
「医薬組成物」という用語は、本明細書に記載の作用物質と薬学的に許容可能な担体との組合せを指す。「薬学的に許容可能な」という語句は、ヒトに投与した場合に激しいアレルギー反応又は同様の有害反応を生じない分子的実体及び組成物を指す。本明細書において使用される場合、「担体」又は「担体物質」は任意及び全ての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイド等を含む。医薬活性物質へのかかる媒体及び作用物質の使用は当該技術分野で既知である。補助的な活性成分を組成物に組み込んでもよい。
【0230】
活性成分を含有する医薬組成物は、例えば錠剤、トローチ、舐剤、水性若しくは油性懸濁液、分散性粉末若しくは顆粒、エマルション、硬カプセル若しくは軟カプセル、又はシロップ若しくはエリキシル剤のような経口使用に好適な形態であり得る。経口使用を意図した組成物は、医薬組成物及びかかる組成物の製造について当該技術分野で既知の任意の方法に従って調製することができる。錠剤は錠剤の製造に好適な非毒性の薬学的に許容可能な賦形剤と混合して活性成分を含有する。錠剤はコーティングされていなくても、又は胃腸管内での崩壊及び吸収を遅らせることにより、持続的作用をより長期にわたってもたらす既知の技法によってコーティングされていてもよい。
【0231】
1日に体重1キログラム当たり約0.01 mg~約500 mg程度の投与量レベルが指定の病態の治療に有用である。例えば、癌は1日に体重1キログラム当たり約0.01 mg~50 mg(患者1人当たり1日に約0.5 mg~約5 g)の本発明の分子の投与によって効果的に治療することができる。担体材料と組み合わせて単回投与形態を作製することができる活性成分の量は、治療される宿主及び特定の投与方法に応じて異なる。例えば、ヒトの経口投与を意図した配合は組成物全体の約5%~約95%と様々である。投与単位形態は概して約1 mg~約5000 mgの活性成分を含有する。しかしながら、任意の特定の患者の特定の用量レベルは、用いられる特定の化合物の活性、年齢、体重、全身健康状態、性別、食生活、投与時間、投与経路、排泄率、薬物の組合せ及び治療法を受ける特定の疾患の重症度を含む様々な因子によって決まることを理解されたい。本発明による化合物の投与有効量は特定の化合物、毒性及び阻害活性、治療される病態、並びに化合物を単独で投与するか又は他の治療薬と共に投与するかを含む因子に応じて異なる。
【0232】
本発明は、言及される病的状態を治療するプロセス又は方法にも関する。本発明の化合物は、好ましくは言及される障害に対して効果的な量で、かかる治療を必要とする温血動物、例えばヒトに予防的又は治療的に投与することができ、化合物は好ましくは医薬組成物の形態で使用される。
【0233】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物又はその薬学的に許容可能な塩の治療的に効果的な計画を行う前、その間又はその後に、患者は癌の治療及び/又は管理のための治療法を受けることができる。そのような治療法の非制限的な例としては、化学療法、放射免疫療法、毒素療法、プロドラッグ活性化酵素療法、抗体療法、外科的療法、免疫療法、放射線療法、標的療法(すなわち、特定の標的又は経路、例えば、チロシンキナーゼ等を対象とした治療法)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、患者は以前に癌の治療及び/又は管理のための治療法を受けていない。
【実施例】
【0234】
本発明を、以下の実施例によって更に説明する。これらは、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0235】
材料及び方法
細胞株及び薬物処理
HCT116、SW620及びSW480結腸直腸癌細胞をATCCから購入した。HCT116細胞にGFP/MACC1-GFPプラスミドを安定的に形質導入してMACC1過剰発現細胞株を作製し、SW620細胞にsh-control/sh-MACC1プラスミドを安定的に形質導入してMACC1ノックダウン細胞株を作製した。SW480安定MACC1過剰発現細胞株をpCDNA3.1 MACC1プラスミドを使用して生成し、pCDNA3.1空プラスミドを使用して対照細胞を作製し、続いてゲンタマイシン(Gibco)を使用してクローン選択した。SW620細胞におけるMACC1のノックアウトを、CRISPR-Cas9ベースの遺伝子編集と、それに続くピューロマイシン(Gibco)に基づく選択とによって達成し、その後、単一細胞ソーティングを使用してクローンを選択した。細胞を5%CO2加湿雰囲気において10%FCSを添加したRPMIで培養し、培養物をサブコンフルエントに維持するために週に2回~3回継代した。薬物をDMSOに可溶化し、ストック濃度はニクロサミド(米国ミズーリ州セントルイスのSigma-Aldrich)では2 mM、GSK1120212(トラメチニブ、ドイツ国ミュンヘンのSelleck Chemicals)及びセルメチニブ(AZD6244、ドイツ国ミュンヘンのSelleck Chemicals)では2 mM、並びにスタチン(アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ドイツ国エシュボルンのTCI Deutschland GmbH)では10 mMであった。全ての薬物を、DMSOで最終濃度の1000倍に事前に希釈した。対照細胞を等量のDMSOで処理した。
【0236】
レポーターアッセイ
ルシフェラーゼレポーターアッセイを使用して、Wntシグナル伝達及びS100A4プロモーター活性を評定した。Wntシグナル伝達活性は、pGL4.23レポータープラスミド(Promega)においてホタルルシフェラーゼの前にクローニングされた6×TCFプロモーターコンセンサス配列を含むTOP-flashレポーターコンストラクトを使用して測定した(Giridhar Mudduluru博士から快く提供された)。S100A4プロモーター活性を、pGL1.4レポータープラスミド(Invitrogen)においてホタルルシフェラーゼレポーターの前にクローニングされたコアS100A4プロモーター配列を持つS100A4プロモータールシフェラーゼ系を使用して測定した。簡潔には、2×105個の細胞を24ウェルプレートに播種した。インキュベーションの24時間後、トランスフェクション効率を正規化するために、25 ngのウミシイタケルシフェラーゼと共に500 ngのレポータールシフェラーゼコンストラクトを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションを、Lipofectamine 2000(Life Technologies)トランスフェクション試薬を製造業者の指示に従って使用して行った。トランスフェクションの48時間後、ルシフェラーゼ活性をDual Luciferase Assay Kit(Promega)を使用して測定した。ホタルルシフェラーゼ活性値を、ウミシイタケルシフェラーゼ値を使用して正規化し、データを、3回の独立した実験の平均±S.E.Mとして表す。
【0237】
RNA干渉
β-カテニン(#16704)及び陰性対照(#4390844)に対する事前に設計されたSilencer Select siRNAをAmbionから購入した。細胞のトランスフェクションを、Lipofectamine RNAiMAX(Life Technologies)トランスフェクション試薬を製造業者の指示に従って使用して行った。48時間後、更なる処理及び/又は分析のため細胞を再播種した。
【0238】
ボイデンチャンバー遊走アッセイ
細胞をFCS不含培地で一晩飢餓状態にした。Transwellボイデンチャンバーインサート(Corning)を、細胞を播種する前に、10%FCSを含む培地において37℃で4時間平衡化した。1×105の血清飢餓細胞を、2%FCSを含む培地中で各インサートに播種した。10%FCSを含む培地を走化性物質と同様に底部ウェルに添加し、チャンバーを5%CO2の加湿インキュベーターにおいて37℃でインキュベートした。16時間後、transwellメンブレンの下端にある細胞をトリプシン処理によって採取した。遊走細胞を、Cell-Titer-Glo試薬(Promega)を製造業者の指示に従って使用して定量した。
【0239】
RNA単離及びqRT-PCR
Gene Matrix Universal RNA Purification Kit(EURx、ポーランド国)を製造業者の指示に従って使用して、RNAを単離した。RNAを定量し、MuLV逆転写酵素、10 mM MgCl2、1×PCR-バッファー、250 μMのプールdNTP、1U RNアーゼ阻害剤、及びランダムヘキサマー(全てApplied Biosystems製)を含む反応ミックスを使用して、50 ngのRNAを逆転写した。反応を42℃で15分間、99℃で5分間行い、その後4℃で5分間冷却した。以下のPCR条件でLightCycler 480 IIシステム(Roche Diagnostics)を使用しSYBR Green chemistry(Promega)を使用してcDNAを増幅した:95℃で2分間、続いて95℃で7秒間、60℃で10秒間、及び72℃で20秒間を45サイクル。定量に使用されるプライマーは次のとおりである:MACC1 Fwd 5'-TTCTTTTGATTCCTCCGGTGA-3'及びRev 5'-ACTCTGATGGGCATGTGCTG-3';S100A4 Fwd 5'-TGTGATGGTGTCCACCTTCC-3'及びRev 5'-CCTGTTGCTGTCCAAGTTGC-3'。データ分析を、LightCycler 480ソフトウェアリリース1.5.0 SP3(Roche Diagnostics)を用いて実施した。平均値を、2回反復して行った(duplicates)RT-qPCRから計算した。発現された遺伝子の各平均値を、それぞれのRP-II cDNAに対して正規化した。データを、3回の独立した実験の平均±S.E.Mとして表す。
【0240】
タンパク質抽出及びイムノブロッティング
全細胞タンパク質抽出を、5×105のHCT116細胞及びSW620細胞で実施した。cOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche)を加えたRIPAバッファー(50 mM Tris-HCT pH 7.5、150 mM NaCl、1%Nonidet P-40)を使用して、細胞を4℃で30分間溶解した。溶解物を清澄化し、BCAキット(Pierce)を使用してタンパク質含有量を測定した。20 μgのタンパク質溶解物をLDS含有NuPageローディングバッファー(invitrogen)及びDTTで10分間変性させた。次いで、タンパク質を10%SDS-PAGEで分離した後、PVDFメンブレン(BioRAD)にタンパク質を転写した。メンブレンを、TBST(10 mM Tris-HCL pH 8、150 mM NaCl及び0.1%Tween 20)中の5%重量/体積スキムミルク粉末及び1%重量/体積BSAで60分間ブロックした。メンブレンをそれぞれの一次抗体(抗MACC1、#HPA020081、Sigma Aldrich;S100A4、#5114、Dako及びβ-アクチン、#31430、Invitrogen;ラミンB1、#12586s、Cell Signalling)と共に一晩インキュベートした。メンブレンを洗浄し、対応する西洋ワサビペルオキシダーゼタグ付き二次抗体(抗マウスIgG HRPコンジュゲート化、#31430、Invitrogen及び抗ウサギIgG HRPコンジュゲート化、#W4018、Promega)と共に60分間更にインキュベートした。メンブレンを更に洗浄し、化学発光試薬WesternBright ECLキット(Advansta)を使用して現像し、その後Fuji医療用X線フィルムSuperRX(Fujifilm)に露光した。
【0241】
創傷治癒アッセイ及び相乗作用の計算
創傷治癒アッセイには、HCT116ヒト結腸癌細胞株を使用した。HCT116細胞は、mRNA及びタンパク質レベルでMACC1及びS100A4の発現に対して内因的に陽性である。さらに、いずれかのマーカーが阻害されると、それらの細胞の運動性は低下する。
【0242】
創傷治癒(スクラッチ)実験のために、細胞を1 ml当たり6×105の密度まで継代し、48時間培養した。次いで、細胞を採取して数えた。創傷治癒アッセイのため、1.2×105個の細胞を96ウェルのImage Lockプレート(英国ハートフォードシャーのEssen Bioscience)に10%FCSを添加した100 μl RPMIに播種した。細胞を6時間付着させた。IncuCyte WoundMaker(Essen Bioscience)を使用して、単層の創傷を適用した。創傷を適用した後、100 μlの2倍濃縮薬液を加えた。DMSOで処理した試料及び未処理の試料を対照として使用した。各薬物について、3つの異なる濃度(ニクロサミド1 μM、0.5 μM、及び0.25 μM、各スタチン5 μM、2.5 μM、及び1.25 μM、MEK1阻害剤1 μM、0.1 μM、及び0.01 μM)及びそれらの組合せを、それぞれ三連で適用した。全てのスタチンのうち、本発明者らは、ロバスタチン、フルバスタチン、及びアトルバスタチンを試験した。IncuCyteシステム(Essen Bioscience)で2時間ごとに創傷閉鎖をモニターした。HCT116の事前に確立された画像コレクションを使用して、細胞及び創傷のソフトウェア検出を教示した。創傷コンフルエンシーを、DMSOで処理した対照と比較して表した。
【0243】
相乗作用を、combenefit 2.021を使用して分析した。DMSOで処理した試料を100%に設定した。相乗作用を計算するため、本発明者らは、Loeweのアイソボール(isobole)等式モデルを使用した。計算には、3つの単一濃度及びそれらの9つの組合せの用量反応曲線を使用した。Loeweモデルが適用されたのは、或る程度の標的相互作用が既に示されているためであり、すなわち、第一に活性なWntシグナル伝達は、MACC1が腫瘍の進行及び侵襲性を促進するために重要であり(Lemos C, Clin Cancer Res, 2016)、第二に、S100A4はWntシグナル伝達標的遺伝子であり、MACC1誘発性セクレトームに見られる。3つの単一濃度及びそれらの9つの組合せを、対照と比較して表した。
【0244】
動物及びin vivoでの薬物治療
全ての実験は、英国癌研究調整委員会(UKCCCR:United Kingdom Coordinated Committee on Cancer Research)ガイドラインに従って実施され、責任のある地方自治体(ドイツ国ベルリンの州保健社会局)によって承認された。in vivo薬物試験のため、異種移植マウスモデルを以前に記載されたとおりに使用した(Stein 2009 Nat Med, Sack 2011 J Natl Cancer Inst, Juneja & Kobelt 2017 Plos Biol)。簡潔には、HCT116-CMVp-LUC細胞(マウス1匹当たり5×105細胞、50 μLのPBSに再懸濁)を6週齢の雌性SCIDベージュ(SCID bg/bg)マウスに脾臓内移植した。動物を無作為に治療群に割り当てた。
【0245】
薬物を、強制経口投与チューブを使用して懸濁液として投与した。ニクロサミド(328 mg/kg又は164 mg/kg)及びスタチン(アトルバスタチン又はフルバスタチン、13 mg/kg又は1.5 mg/kg)の両方を毎日経口投与した。対照マウスを、適切な量の溶媒液で処理した。in vivo実験及び発光イメージングを以下に記載されるように実施した。
【0246】
対照群の動物が、腫瘍/転移の負荷及び腹部膨満(腹水形成)等の肝臓損傷、活動の低下、並びに食物摂取の減少(倫理的/人道的エンドポイント)による苦痛の増加の兆候を示したときに、in vivo実験を終了した。
【0247】
発光イメージングのため、マウスを5%イソフルランで麻酔し、滅菌PBSに溶解した150 mg/kgのD-ルシフェリン(スイス国シュタートのBiosynth)を腹腔内投与した。麻酔を2%イソフルランで維持した。イメージングを、NightOWL LB 981システム(ドイツ国バート・ヴィルトバートのBerthold Technologies)を用いて実施した。ImageJバージョン1.48v(メリーランド州ベセスダのNIH)を、シグナル強度のカラーコーディング(256グレースケールを表示)及びオーバーレイ写真に使用した。
【0248】
結果
MACC1は、WNTシグナル伝達及びその標的遺伝子発現を増強し、in vitroでの癌細胞の遊走及び浸潤の増加、並びにin vivoでの腫瘍形成及び転移をもたらすことが報告されている(Stein et al. 2009 Nat Med. Jan; 15(1):59-67; Zhen et al. 2014, Oncotarget. Jun 15; 5(11):3756-69; Lemos et al. 2016, Clin Cancer Res. Jun 1; 22(11):2812-24)。MACC1の異所性過剰発現は、β-カテニン核局在化を増加させ、それによってWNT標的遺伝子を増加させた。逆に、MACC1ノックダウンはβ-カテニン核局在化を減少させ、それらの発現を減少させた。MACC1遺伝子発現を阻害するために、臨床的に関連のある様々なスタチンを、MACC1 mRNA及びタンパク質の発現を低下させるそれらの能力について試験した。試験した全てのスタチンは、MACC1遺伝子の発現を有意に減少させた(
図1)。
【0249】
さらに、MACC1の異所性過剰発現は、in vitroで培地への因子の放出を誘発し、異なる起源の細胞における細胞運動性及び浸潤の増加を媒介する(
図2)。
【0250】
これらのMACC1特異的上清は、SILAC分析によって決定されるように、新たに分泌されたS100A4を含む(
図3)。
【0251】
これは、NCBI GEOデータベースから公開されているCRC患者のマイクロアレイデータセットでのMACC1及びS100A4の発現相関分析によって更に実証された(Tsuji et al. 2012)。MACC1及びS100A4の遺伝子発現は、CRC患者コホートにおける無転移及び全生存に関して正に有意に相関した(ρ=0.4115、p=0.002、n=54)(
図4)。
【0252】
本発明者らは、MACC1の過剰発現がWNTシグナル伝達(TCFプロモーター)活性を増加させ、その後、結腸直腸癌細胞でS100A4プロモーター活性を誘発することを特定した(
図5)。S100A4プロモーター活性のこの増加は、これらの細胞におけるS100A4遺伝子及びタンパク質の発現において更に明白であった。
【0253】
本発明者らはまた、MACC1異所性過剰発現細胞におけるS100A4発現の増加は、これらの細胞におけるWNTシグナル伝達活性の増加に起因することも特定した。逆に、MACC1ノックダウンはS100A4プロモーター活性及び遺伝子発現を減少させた(
図6)。
【0254】
MACC1及びS100A4はいずれも、独立して遊走及び転移を誘発することが示されている。本発明者らの最近の研究は、MACC1がWnt/S100A4軸を介して遊走及び転移を誘発する新規な機構を解明した。したがって、MACC1阻害と共にWnt/β-カテニンシグナル伝達を直接阻害することは、実行可能な治療戦略となる。
【0255】
これと一致して、本発明者らは、ニクロサミドと組み合わせて3種類の異なるスタチンを試験した。これは、2つの別々の経路を標的としている。試験した全てのスタチンは、MACC1 mRNAの発現及びMACC1タンパク質を減少させることができた(
図1)。MACC1の発現はスタチンによって阻害されるため、MACC1誘発性の効果が低下し、ニクロサミドがWnt/β-カテニンシグナル伝達に干渉して、S100A4の発現が低下する。まず、創傷治癒アッセイで単剤療法として適用した場合、本発明者らは、全ての化合物が細胞運動性を低下させることができることを確認した。本発明者らは、経時的な創傷閉鎖の用量依存的な減少を見出した。未処理又はDMSO処理のいずれかの細胞は、48時間以内に単層の創傷を閉鎖した。これと比較して、単剤療法で治療された細胞の創傷閉鎖は、全ての薬物で遅延した(
図7)。
【0256】
次に、本発明者らは、スタチンをニクロサミドと共に適用した場合に相乗的に作用して細胞運動性を低下させることができるかどうかを試験した(
図8A~
図8C)。ここでは、本発明者らは、運動性を阻害するために必要な薬物量を減らすことを目標とする。単一の治療と比較して、2つの薬物、ニクロサミドと1種類のスタチンとを組み合わせた場合、創傷閉鎖の阻害が増加した。本発明者らのHCT116の最初の記載(スタチンの場合は5 μM、ニクロサミドの場合は1 μM)と比較して濃度が低い(スタチンの場合は2.5 μM、ニクロサミドの場合は0.5 μM)例では、本発明者らは、HCT116単層に適用された創傷を閉じる能力が相乗的に減少していることを見出した。
【0257】
本発明者らは、MACC1がMEK1によってリン酸化され、MACC1が媒介する効果の誘発につながることを示した。したがって、本発明者らは、MEK1阻害剤GSK1120212(トラメチニブ、黒色腫治療用に承認済み)及びAZD6244(セルメチニブ)をニクロサミドと組み合わせた場合に細胞運動性に相乗的に作用するかどうかを試験した。同様に、本発明者らは、3つの異なる濃度のトラメチニブ、セルメチニブ、及びニクロサミドをHCT116細胞に適用し、創傷閉鎖を経時的にモニターした。この場合、相乗的な活性は検出可能であるが、スタチンとニクロサミドとの組合せと比較してより低レベルである(
図9A~
図9B)。
【0258】
本発明者らの結果を臨床応用に変換するため、ニクロサミドとスタチンとで構成される薬物の組合せをin vivoで試験した。ニクロサミドとフルバスタチンとの組合せ、及びニクロサミドとアトルバスタチンとの組合せは、上記の方法の欄及び
図10~
図11に記載されるように、経口投与を使用してin vivoモデル(HCT116-CMVp-Luc細胞を脾臓内移植したマウス)で評定した。
【0259】
最初の一連の実験では、ニクロサミド、アトルバスタチン、及びフルバスタチンを個別に及び組み合わせて投与した。スタチンを13 mg/kgで投与し、ニクロサミドを328 mg/kgで投与し、これは、これらの作用物質で確立された最大ヒト用量に相当する用量である(スタチンでは1日80 mg、ニクロサミドでは1日2 g)。
【0260】
図10からわかるように、アトルバスタチン、フルバスタチン、及びニクロサミドをこれらの高用量で単剤として適用した場合、転移形成(発光測定によって決定)が減少した。この転移阻害は、併用治療においても明らかであった。
【0261】
この実験を、ニクロサミド、アトルバスタチン、及びフルバスタチンの減少させた用量を使用して繰り返した。スタチンを1.5 mg/kgで投与し、ニクロサミドを164 mg/kgで投与した。これらの用量は、スタチンの最大ヒト用量の12.5%及びニクロサミドの最大ヒト用量の50%に相当する(スタチンの場合は1日9.2 mg、ニクロサミドの場合は1日1 g)。
【0262】
図11からわかるように、アトルバスタチン、フルバスタチン、及びニクロサミドを単剤として適用した場合、発光測定によって決定される転移形成の減少は観察されなかった。しかしながら、転移の減少が組合せ治療で観察され、活性物質の組合せが転移の減少において予想外の相乗効果をもたらすことを更に裏付けた。
【0263】
ロバスタチンとニクロサミドとの組合せを使用した実験も行い、同様の結果を示す。
【0264】
要約すると、スタチンとニクロサミドとの組合せ、及びMEK1阻害剤GSK1120212(トラメチニブ)とニクロサミドとの組合せは、in vitro創傷治癒アッセイにおいて相乗的に細胞運動性を低下させることができる。さらに、ロバスタチン、フルバスタチン、又はアトルバスタチンとニクロサミドとの組合せは、異種移植マウスモデルにおける転移形成の減少において、単剤療法よりも優れており、相乗的である。
【0265】
実施例の結論
本発明者らは、S100A4とMACC1との密接な関連及びそれらの過剰発現が、罹患したCRC患者の予後不良と関連していることを示す。本発明者らはまた、これらの未踏のバイオマーカーとWntシグナル伝達との関連を示す。これらの知見は、本発明者らに、ニクロサミド、スタチン、及びMEK1チロシンキナーゼ阻害剤等の再配置された小分子阻害剤を使用する、腫瘍進行及び転移形成の複合介入によってこれらの標的を利用することを促した。薬物の組合せを使用するこの介入戦略は、転移阻害に対して予想外の相乗的有効性を示した。これは、癌転移に因果関係があるこれらの重要な経路及び分子を標的とすることが、特にS100A4及びMACC1の過剰発現により転移のリスクが高い患者に対して効率的な介入につながる可能性があることを強く示している。したがって、S100A4及びMACC1の過剰発現について層別化されたこれらの患者の治療は、それらの患者にとって有益となり、臨床使用に大きな期待が見込める。
【符号の説明】
【0266】
図面訳
図1
Lovastatin ロバスタチン
Relative mRNA Concentration 相対mRNA濃度
β-Actin β-アクチン
Concentration [μM] 濃度[μM]
Fluvastatin フルバスタチン
Pitarvastatin ピタルバスタチン
Simbastatin シンバスタチン
Atorvastatin アトルバスタチン
図2
SW480+ supernatants SW480+上清
migrated cells (fold vector) 遊走細胞(ベクター倍)
24h 24時間
48h 48時間
SW460/vector SW460/ベクター
SW620+ supernatants SW620+上清
SW480/vector SW480/ベクター
MACC1 specific supernatants MACC1特異的上清
vector ベクター
図3
Vector ベクター
SILAC Light SILAC軽
SILAC Heavy SILAC重
Mix supernatant 1:1 上清を1:1で混合する
Protein precipitation and concentration タンパク質の沈殿及び濃縮
Protein digestion タンパク質消化
LC-MS/MS analysis LC-MS/MS分析
Bioinformatics analysis バイオインフォマティクス分析
MACC1 Secretome MACC1セクレトーム
図4
Metastasis-free survival 無転移生存
MACC1 and S100A4 low MACC1及びS100A4低
S100A4 high S100A4高
MACC1 high MACC1高
MACC1 and S100A4 high MACC1及びS100A4高
Months 月
Survival 生存
図5
TCF promotor activity (TOP-flash luciferase, RLU) TCFプロモーター活性(TOP-flashルシフェラーゼ、RLU)
vector ベクター
Lamin B1 ラミンB1
si-β-catenin si-β-カテニン
Migration CellTiter Glo 遊走CellTiter Glo
migrated cells (fold vector) 遊走細胞(ベクター倍)
図6
endogenously low 内因的に低い
Rel. mRNA expression 相対mRNA発現
TCF promoter activity (TOP-flash luciferase, RLU) TCFプロモーター活性(TOP-flashルシフェラーゼ、RLU)
S100A4 promoter S100A4プロモーター
S100A4 promoter activity Rel. Luciferase activity, RLU) S100A4プロモーター活性(相対ルシフェラーゼ活性、RLU)
β-actin β-アクチン
endogenously high 内因的に高い
図7
wound confluence [%] 創傷コンフルエンス[%]
time [h] 時間[時]
Medium 培地
Atorvastatin アトルバスタチン
Lovastatin ロバスタチン
Fluvastatin フルバスタチン
図8
Medium 培地
Atorvastatin アトルバスタチン
Niclosamide ニクロサミド
Combination 組合せ
wound confluence [%] 創傷コンフルエンス[%]
time [h] 時間[時]
Fluvastatin フルバスタチン
Lovastatin ロバスタチン
図9
wound confluence [%] 創傷コンフルエンス[%]
time [h] 時間[時]
Medium 培地
Niclosamide ニクロサミド
combination 組合せ
図10
luminescence 発光
Solvent 溶媒
Atorvastatin アトルバスタチン
Fluvastatin フルバスタチン
Niclosamide ニクロサミド
combination Niclosamide/Atorvastatin ニクロサミド/アトルバスタチンの組合せ
combination Niclosamide/Fluvastatin ニクロサミド/フルバスタチンの組合せ
図11
luminescence 発光
Solvent 溶媒
Atorvastatin アトルバスタチン
Fluvastatin フルバスタチン
Niclosamide ニクロサミド
combination Niclosamide/Atorvastatin ニクロサミド/アトルバスタチンの組合せ
combination Niclosamide/Fluvastatin ニクロサミド/フルバスタチンの組合せ
【配列表】
【国際調査報告】