IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒルティ アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

特表2022-521602スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置
<>
  • 特表-スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置 図1
  • 特表-スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置 図2
  • 特表-スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置 図3
  • 特表-スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置 図4
  • 特表-スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置 図5
  • 特表-スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-11
(54)【発明の名称】スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20220404BHJP
   B23K 9/20 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B23K9/073 550
B23K9/20 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549559
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(85)【翻訳文提出日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2020054938
(87)【国際公開番号】W WO2020173957
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】19159636.0
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シュタルツェングルーバー, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】デルナー, フィリップ
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA13
4E082EB11
4E082EC13
(57)【要約】
本発明は、スタッド(6)をワークピース(2)と溶接するためのスタッド溶接方法及びスタッド溶接装置(1)であって、パルス状の溶接電流(I)によって、前記スタッド(6)のうち前記ワークピース(2)に面する面(7)と前記ワークピース(2)との間にアーク(LB)が生成され、前記アーク(LB)が、電流(I)が貫流するコイル(3)により生成される磁界によって偏向されるものに関する。本発明によれば、前記溶接電流(I)が最小である場合には前記コイル(3)に常に電流(I)が印加され、前記溶接電流(I)が最大である場合には前記コイル(3)がスイッチオフされるか又は前記コイル(3)を通過する前記電流(I)が最小値に低減されることによって、前記アーク(LB)を偏向させるべく前記磁界を発生させるための前記コイル(3)を通過する前記電流(I)が、前記溶接電流(I)に対して同期し且つ逆位相となるよう制御される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド(6)をワークピース(2)と溶接するためのスタッド溶接方法であって、パルス状の溶接電流(I)によって、前記スタッド(6)のうち前記ワークピース(2)に面する面(7)と前記ワークピース(2)との間にアーク(LB)が生成され、前記アーク(LB)は、電流(I)が貫流するコイル(3)により生成される磁界によって偏向され、前記溶接電流(I)が最小である場合には前記コイル(3)に常に電流(I)が印加され、前記溶接電流(I)が最大である場合には前記コイル(3)がスイッチオフされるか又は前記コイル(3)を通過する前記電流(I)が最小値に低減されることによって、前記アーク(LB)を偏向させるべく前記磁界を発生させるための前記コイル(3)を通過する前記電流(I)は、前記溶接電流(I)に対して同期し且つ逆位相となるよう制御されることを特徴とするスタッド溶接方法。
【請求項2】
前記溶接電流(I)は、10Hz~1000Hz、特に50Hz~150Hzのパルス周波数でパルス化されることを特徴とする、請求項1に記載のスタッド溶接方法。
【請求項3】
前記溶接電流(I)が上方閾値(IS,o)と下方閾値(IS,u)との間で変えられ、又は、溶接電力(P)が上方値(PS,o)と下方値(PS,u)との間で変えられることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスタッド溶接方法。
【請求項4】
前記溶接電流(I)のデューティサイクルは10%~90%、特に50%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項5】
前記溶接電流(I)は、好ましくは2kW~10kWの一定の溶接電力(P)を目標として調整されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項6】
前記コイル(3)を通過する前記電流(I)は、前記溶接電流(I)に対して時間オフセット(Δt)を有するように印加されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項7】
前記コイル(3)を通過する前記電流(I)は、前記溶接電流(I)の開始から予め設定された時間(t)だけ後にスイッチオンされ、前記溶接電流(I)の終了より予め設定された時間(t)だけ前にスイッチオフされることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項8】
前記コイル(3)を通過する前記電流(I)は、DCオフセット(IA,DC)を有するようにパルス化されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項9】
前記コイル(3)を通過する前記電流(I)の増加速度は変更されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項10】
溶接プロセスの開始前に、好ましくは1ms~100msの予備電流フェーズ(t)が挿入されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項11】
前記コイル(3)を通過する前記電流(I)の経時推移から、前記溶接電流(I)の最大パルス周波数(fP,max)が決定されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法。
【請求項12】
スタッド(6)をワークピース(2)と溶接するためのスタッド溶接装置(1)であって、前記スタッド(6)のうち前記ワークピース(2)に面する面(7)と前記ワークピース(2)との間にアーク(LB)を発生させるべくパルス状の溶接電流(I)を供給するための溶接電源(5)と、前記アーク(LB)を偏向させるべく磁界を発生させるためのコイル(3)と、を備え、前記溶接電流(I)が最小である場合には前記コイル(3)に常に電流(I)が印加され、前記溶接電流(I)が最大である場合には前記コイル(3)がスイッチオフされるか又は前記コイル(3)を通過する前記電流(I)が最小値に低減されるよう、前記コイル(3)を通過する前記電流(I)を前記パルス状の溶接電流(I)に対して同期し且つ逆位相となるよう制御するための制御装置(4)が設けられていることを特徴とするスタッド溶接装置(1)。
【請求項13】
前記溶接電源(5)は、好ましくは2kW~10kWの一定の溶接電力(P)を目標として前記溶接電流(I)を調整するよう設計されていることを特徴とする、請求項12に記載のスタッド溶接装置(1)。
【請求項14】
前記ワークピース(2)と接合されるべき前記スタッド(6)を受容するためのスタッドホルダ(8)と、スプリング(10)の力に抗して前記ワークピース(2)から前記スタッド(6)を持ち上げるための持ち上げ装置(9)と、が設けられていることを特徴とする、請求項12又は13に記載のスタッド溶接装置(1)。
【請求項15】
前記制御装置(4)は、前記コイル(3)を通過する前記電流(I)の経時推移から前記溶接電流(I)の最大パルス周波数(fP,max)を決定するように設計されていることを特徴とする、請求項14に記載のスタッド溶接装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接方法であって、パルス状の溶接電流によって、前記スタッドのうち前記ワークピースに面する面と前記ワークピースとの間にアークが生成され、前記アークは、電流が貫流するコイルにより生成される磁界によって偏向されるものに関する。
【0002】
更に、本発明は、スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接装置であって、前記スタッドのうち前記ワークピースに面する面と前記ワークピースとの間にアークを発生させるべくパルス状の溶接電流を供給するための溶接電源と、前記アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルと、を備えるものに関する。
【0003】
本発明は、スタッドがワークピースと溶接される、スタッド溶接方法及びスタッド溶接装置に関する。その際、スタッドのうちワークピースに面する端面とワークピースとの間にアークが点火され、それにより、スタッド及びワークピースの両方が局所的に溶融される。続いて、スタッドは、小さな接触圧の下でワークピースと接合される。このようにして、例えば、ネジ山、スタッド、ブッシュ、フック又は金属環(Oese)が、より大きなワークピースと接合され得る。
【背景技術】
【0004】
スタッドの端面とワークピースとの間のアークが、スタッド及びその下に配置されたワークピースの部分の全断面に亘って均一に分配されないことによって、スタッドの端面及びワークピースの溶融が不均一となり、それにより、溶接接合の品質が損なわれる可能性がある。
【0005】
一般的なスタッド溶接方法は、例えば特許文献1から公知となった。スタッドの端面の溶融を改善すべく、アークを偏向させるために磁界を使用することは、そこでは言及されていない。
【0006】
この弊害を除去するために、アークが磁界によって偏向される方法及び装置が存在する。例えば、特許文献2には、中実材から成り僅かに傾斜した円錐形の端面を有するスタッドを溶接するための方法及びシステムであって、横方向磁界を印加することにより、アークによるスタッドの端面全体に亘る螺旋状の掃引、及び、その結果、端面全体の均一な溶融が達成され得るものが記載されている。スタッドの端面の全体に亘るアークの螺旋状の掃引は、端面の特別な構成によって達成される。ここでの欠点は、ワークピースに接合されるべきスタッドが特定の形状を有していなければならず、溶接プロセスのために任意のスタッドが使用され得ないことである。
【0007】
特許文献3には、他のスタッド溶接方法が記載されており、当該方法では、アークを偏向させる磁界を発生させるためのコイルが非対称に配置されていることによって、改善を達成することができ、特に溶接部位がより良好に視認可能である。
【0008】
上述したスタッド溶接方法とは別に、一般的な溶接方法においても同様の問題が生じる。なぜなら、アークは、常にワークピースの接地接続の方向に向く傾向があるか、又は、大きな質量によって偏向されるからである。ワークピースの複数の接地接続を対称的に配置することにより、この問題は確かに防止され得るが、ワークピースに対して溶接トーチが移動する際、アークの位置がずれ、それにより溶接ワイヤ及びワークピースの溶融が不均一になる可能性がある。
【0009】
例えば、特許文献4には、消耗溶接ワイヤを備えるアーク溶接システムが記載されており、当該システムでは、溶融池を延長するために、磁界によって溶融液滴が溶接ワイヤ端部から放出又は移動され、必要に応じてアークが前方又は後方へ移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007039308号明細書
【特許文献2】欧州特許第1649962号明細書
【特許文献3】独国特許発明第10221387号明細書
【特許文献4】独国実用新案第202013011903号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、スタッドをワークピースと溶接するための上述したスタッド溶接方法及び上述したスタッド溶接装置を創作することにあり、これらにより、スタッドの端面とその下にあるワークピースとの間のアークの可能な限り均一な分布が得られ、それにより、スタッド及びワークピースを均一に溶融させることができ、その結果、最適な溶接接合が得られる。スタッドに対する特別な要件が必要とされるべきではない。具体的なスタッド溶接方法及び具体的なスタッド溶接装置は、可能な限り簡易かつ安価に実現可能であるべきである。従来技術の欠点は、回避されるか又は少なくとも低減されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は、方法の観点においては、溶接電流が最小であるか又は小さい場合にはアークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルに常に電流が印加され、溶接電流が最大であるか又は比較的大きい場合には偏向コイルがスイッチオフされるか又はコイルを通過する電流が最小値に低減されることによって、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流が、溶接電流に対して同期し且つ逆位相となるよう(gegengleich)制御されることにより解決される。アークは、比較的小さな電力又は比較的小さな電流で駆動される場合は横方向磁場によって比較的容易に影響され得るが、アークへの影響は、比較的高いエネルギー又は比較的大きな溶接電流では、それほど容易には可生じ得ないことが示されている。したがって、コイル電流の同期し且つ逆位相となるような本発明による制御によって、アークの最適な位置が、同時に低い方法上の労力で達成され得る。その結果、均一な材料溶融により、溶接接合のより高い品質が得られる。アークがワークピースに向かって点火されるスタッドの特別な構成は、上述した従来技術とは対照的に、必要とされない。また、その位置が特に考慮される必要のないワークピースの接地接続のみで十分である。
【0013】
溶接電流は、好ましくは、10Hz~1000Hz、特に50Hz~150Hzのパルス周波数でパルス化される。このような値は、従来技術による溶接方法において一般的である。
【0014】
本発明の更なる特徴によれば、溶接電流が上方閾値と下方閾値との間で変えられるか、又は、溶接電力が上方値と下方値との間で変えられることが意図されている。溶接電流の上方閾値は、可能な限り迅速な溶融を達成することができるよう、それぞれの所与の状態及び対応する溶接タスクに適合される。溶接電流の下方閾値は、好ましくは、アークが溶接プロセス中に維持され得るように選択される。それにより、一定の溶接電流への調整が行われる。一定の溶接電力への調整においては、溶接電力に対して対応する上方及び下方閾値が予め設定される。次に、調整された溶接電力に基づいて溶接電流が設定される。
【0015】
溶接電流のデューティサイクルは、10%~90%、特に50%である。デューティサイクルの選択は、一方では、アークへの可能な限り高いエネルギー導入の観点に従って、他方では、比較的小さな溶接電流のフェーズではアークの位置が比較的容易に影響を受け得るという事実に従って、行われる。50%のデューティサイクルは、ここでは最適なトレードオフであるが、変更されたデューティサイクルが、特別な用途に対しては有利であり得る。
【0016】
有利には、溶接電流は、好ましくは2kW~10kWの一定の溶接電力を目標として調整される。アークへの、したがって溶融されるべき部分への熱導入は、アークの電力に大きく依存するので、このような一定の電力への調整は有利である。したがって、アーク電圧の変化は、結果として一定の溶接電力が得られるよう、溶接電流の偏向によって補償される。
【0017】
コイルを通過する電流は、溶接電流に対して時間オフセットを有するように印加され得る。例えば周期の数パーセントのような小さな規模での、溶接電流に対するコイル電流のこのような位相シフトにより、アークに対するより良好な影響が達成され得る。溶接電流に対するコイル電流の負の位相シフトにおいては、コイル電流の最大値がより早く達成され得る。
【0018】
更なる利点は、コイルを通過する電流が、溶接電流の開始から予め設定された時間の後にスイッチオンされ、及び/又は、溶接電流の終了より予め設定された時間だけ前にスイッチオフされることにより、結果として生じ得る。溶接プロセスの開始後及び溶接プロセスの終了前にこのような時間を設けることによって、横方向磁界がアークに及ぼす影響の改善を達成することができる。溶接プロセスの開始後にある時間を挿入することによって、アークの安定性が改善され、アークの位置が固定される。横方向磁界が、既に溶接プロセスの終了前にスイッチオフされる場合、溶接プロセスのより良好でより安定した終了を達成することができる。
【0019】
アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流は、DCオフセットを有する状態でパルス化され得る。アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流が、高い溶接電流のフェーズにおいて完全にスイッチオフされず、小さなオフセットを有する状態で動作される場合、コイルの特定の初期磁化を達成することができる。
【0020】
コイルを通過する電流の増加速度は、例えば、コイルに印加される電圧の振幅及びコイルのインダクタンスを通じて変更され得る。比較的低い増加速度によれば、溶接電流のパルス化は、比較的高いパルス周波数で可能である。
【0021】
溶接プロセスの開始前に、好ましくは1ms~100msの予備電流フェーズ(Vorstromphase)が挿入される場合、予熱によるプロセスの改善が達成され得る。同様に、それによってアークは安定し、パルス化の際に直ちに途切れることはない。
【0022】
コイルを通過する電流の経時推移から、溶接電流の最大パルス周波数を決定することができる。例えば、最初の電流パルスの後の又は幾つかの電流パルスの後のコイル電流の推移から時定数を導出することにより、溶接電流の最大可能パルス周波数を逆算し、溶接プロセスをこの決定された最大パルス周波数に制限することができる。
【0023】
本発明の課題は、溶接電流が最小であるか又は小さい場合にはコイルに常に電流が印加され、溶接電流が最大であるか又は比較的大きい場合にはコイルがスイッチオフされるか又はコイルを通過する電流が最小値に低減されるよう、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流を、パルス状の溶接電流に対して同期し且つ逆位相となるよう制御するための制御装置が設けられた、上述したスタッド溶接装置によっても解決される。具体的なスタッド溶接装置は、特に簡易かつ安価に実現可能である。なぜなら、コイル電流を発生させるための装置は溶接電源と同期されさえすれば良く、これは、いずれにせよ従来の溶接装置に含まれる制御装置又はマイクロコントローラによって、容易に実現され得るからである。スタッド溶接装置によって達成可能な更なる利点については、スタッド溶接方法の上記説明を参照されたい。
【0024】
溶接電源は、有利には、好ましくは2kW~10kWの一定の溶接電力を目標として溶接電流を調整するよう設計されている。溶接電力、したがってアークに導入されるエネルギーを一定に保つことによって、スタッド及びワークピースの均一な溶融、したがって溶接接合の一定の品質が達成される。
【0025】
特に有利なスタッド溶接装置では、ワークピースと接合されるべきスタッドを受容するためのスタッドホルダと、スプリングの力に抗してワークピースからスタッドを持ち上げるための持ち上げ装置と、が設けられている。既に上述したように、具体的なスタッド溶接装置により、アークの位置に影響を及ぼすことを通じて、スタッド又はアイボルトのうちワークピースに面する側の均一な溶融が達成され得る。
【0026】
制御装置は、コイルを通過する電流の経時推移から溶接電流の最大パルス周波数を決定するように設計され得る。既に上述したように、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流のカーブの形状を分析することによって、又は、時定数若しくは増加速度を決定することによって、最大パルス周波数を逆算することができる。
【0027】
本発明が、添付の図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを備える、スタッドをワークピースと溶接するためのスタッド溶接装置のブロック図を示す。
図2】第1の実施例による、パルス状の溶接電流と、アークを偏向させるべく磁界を発生させるための、本発明に従って制御されるコイルを通過する電流と、の経時推移を示す。
図3】電力調整を伴う別の実施例による、溶接電流と、溶接電圧と、パルス状の溶接電力と、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流と、の経時推移を示す。
図4】コイル電流の時間遅延を伴う別の実施例による、溶接電流と、溶接電圧と、溶接電力と、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流と、の経時推移を示す。
図5】3つの異なる増加速度を有する、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通過する電流の、経時推移の3つの変形例を示す。
図6】溶接電流の最大パルス周波数の決定を説明するために、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通る電流の経時推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、アークLBを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイル3を備える、スタッド6をワークピース2と溶接するための、スタッド溶接装置1のブロック図を示している。スタッド溶接装置1は、スタッド6を受容するためのスタッドホルダ8を含んでおり、当該スタッドホルダ8は、対応する持ち上げ装置9と接続されている。持ち上げ装置9は、スプリング10の力に抗してスタッドホルダ8をスタッド6と共にワークピース2から持ち上げる、持ち上げ磁石によって形成され得る。スプリング10の代わりに、持ち上げ装置9は、スタッド6をワークピース2から持ち上げると共に、それをワークピース2に押し付けもする(図示せず)、複動持ち上げ磁石によっても形成され得る。スタッド6には、溶接電源5によって溶接電流Iが印加され、それにより、スタッド6のうちワークピース2に面する面7とワークピース2との間に、アークLBが点火される。アークLBの位置は、溶接プロセス中、非常に不確かな態様で変化し、それにより、スタッド6の面7及びワークピース2の異なる溶融がもたらされ、スタッド6がワークピース2に押し付けられた後、溶接接合の異なる品質がもたらされる。アークLBの位置に影響を及ぼすべく、アークLBに対して横方向に配向され、当該アークLBを局所的に偏向させる磁界を発生させるために、コイル3が溶接部位の周りに配置されている。コイル電流Iが無秩序に制御される場合、アークLBの位置に、狙い通りに影響を及ぼすことはできない。それとは逆に、具体的な発明においては、コイル3に、制御装置4(コイル電源)によって電流Iが印加され、当該電流Iは、溶接電流Iに対して、同期し且つ逆位相となるよう制御される。それにより、アークLBの位置へのより強い影響、並びに、スタッド6の面7及びワークピース2のより均一な溶融が得られる。
【0030】
溶接装置1は、比較的簡易かつ安価な具現化において際立っている。場合によっては、対応する保護ガスGを溶接部位に供給するガスタンク11を設けることができる。溶接電流I及びコイル3を通過する電流Iは、一般に、本発明に従って設定され、制御され、調整されるなどする溶接パラメータでもある。もちろん、本発明は、溶接電力P及び/又は時間パラメータのような他の溶接パラメータが変更される場合にも実施され得る。
【0031】
図2は、第1の実施例による、パルス状の溶接電流Iと、アークLBを偏向させるべく磁界を発生させるための、本発明に従って制御されるコイル3を通過する電流Iと、の経時推移を示している。溶接電流Iは、溶接電流の上方閾値IS,oと溶接電流の下方閾値IS,uとの間で切り替えられる。図示された実施例では、溶接電流の上方閾値IS,oは時間tonの間、溶接電流の下方閾値IS,uは周期Tの残りの時間、それぞれ維持される。図示された例では、スイッチオン時間tonは周期Tの半分であり、50%のデューティサイクルと同等である。この実施例では、アークLBの両端間の溶接電圧Uに依存して溶接電力Pが確立されるよう、一定の溶接電流Iに調整される。
【0032】
本発明に従って、コイル3を通過する電流Iは、パルス状の溶接電流Iに対して、同期し且つ逆位相となるよう制御される。溶接電流の上方閾値IS,oの時間tonの間、コイル電流Iはゼロ又は最小であり、それに反して、溶接電流Iが下方閾値IS,uにあるとき、コイル電流Iは最大である。それにより、アークLBの位置への最適な影響が達成される。
【0033】
溶接電流Iに対してコイル電流Iを時間オフセットΔtだけ僅かに位相シフトさせることにより、コイル電流Iの最大値により早く到達することができる。
【0034】
図3は、電力調整を伴う別の実施例による、溶接電流Iと、溶接電圧Uと、パルス状の溶接電力Pと、アークLBを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイル3を通過する電流Iと、の経時推移を示している。この実施例では、溶接電流Iが溶接電圧Uに依存して相応して変えられることにより、一定の溶接電力Pへの調整が行われる。アーク又は溶接電圧Uが低下すると溶接電流Iは増大し、それに反して、溶接電圧Uが上昇すると溶接電流Iは減少し、その結果、一定の中間的な溶接電力Pが得られる。コイル3を通過する電流Iは、相応して、溶接電流Iに対して、同期し且つ逆位相となるよう制御される。コイル電流I=0(図2参照)と同等である、コイル3のスイッチオフの代わりに、特定の定常成分又はDCオフセットIA,DCを、コイル3に印加することもできる。溶接プロセスの開始前に、持続時間tの予備電流フェーズを割り込ませることができる。
【0035】
図4は、別の実施例による、溶接電流Iと、溶接電圧Uと、溶接電力Pと、アークLBを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイル3を通過する電流Iと、の経時推移を示している。ここでは、図3のような持続時間tの予備電流フェーズは存在せず、その結果、溶接プロセス、及び、電流Iの本発明による同期し且つ逆位相となるような制御が、直ちに開始される。しかしながら、図示されているように、アークLBを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイル3を通過する電流Iの制御は、時間遅延を伴って開始され、予め設定された時間だけ早く終了され得る。コイル電流Iは、溶接プロセスの開始後、予め設定された時間tだけ遅れてスイッチオンされ、溶接プロセスの終了より予め設定された時間tだけ前に、スイッチオフされ得る。時間t及びtの間、コイル3を通過する電流Iは、例えば最大電流Iの10%~20%であり得る、特定の定常成分又はDCオフセットIA,DCに対応し得る。コイル3を通過する電流Iは、時間t及びtの間、ゼロであり得る。電流Iの値にかかわらず、溶接プロセスの開始後に時間tを挿入することによって、アークLBのより良好な安定性が達成される。したがって、アークLBの偏向は遅れて開始される。溶接プロセスのより安定した終了は、アークLBの偏向が早期に終了されるという方法で、溶接プロセスの終了前に予め設定された時間tを挿入することにより達成され得る。
【0036】
したがって、一定の溶接電流I又は一定の溶接電力Pに調整されるかどうかは、本発明にとって本質的ではないことが、図3及び4から明らかである。というのは、溶接電流Iの関連するパルスは、溶接電力Pにも同様に存在するからである。重要なのは、コイル3を通過する電流Iのパルスが、溶接電流Iのパルス及び溶接電力Pのパルスの両方に対して、同期し且つ逆位相であることである。
【0037】
図5は、3つの異なる増加速度tを有する、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイル3を通過する電流Iの、経時推移の3つの変形例を示している。図5の最も上の時系列図では、コイル電流Iは非常に遅い増加速度で増大し、結果としてコイル電流のほぼ三角形の推移が得られる。より高い電圧を印加することにより、又は、コイル3のインダクタンスを変更することにより、第2の時系列図による、より高い増加速度が達成され得る。最後の経時推移では、特に小さい増加速度を有するコイル電流Iのほぼ矩形の推移が達成される。
【0038】
図6は、溶接電流の最大パルス周波数の決定を説明するために、アークを偏向させるべく磁界を発生させるためのコイルを通る電流の経時推移を示している。コイル電流Iの時定数又は増加速度を決定することによって、達成可能な最大パルス周波数fが逆算され得る。コイル電流Iの振幅に応じて、結果として異なる最大周期T又は異なる最大パルス周波数f=1/Tが得られる。より低い振幅IA1を有する例では、結果として、より短い周期TP1、又は、より高い最大パルス周波数fP1=1/TP1が得られる。コイル3を通過する電流IA2の振幅がより大きい場合、結果として、より長い周期TP2が生じ、これは、より低い最大パルス周波数fと同等である。電流IA2の振幅がより大きい第3の例では、電流Iは、最大値IA2に達した直後に再びスイッチオフされるのではなく、所定の時間、最大値IA2が維持される。それにより、周期TP3又はパルス周波数fP3=1/TP3が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】