(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ホログラフィック結像光学系を有するライダーシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20220511BHJP
G01S 17/42 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S17/42
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556426
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 EP2020054980
(87)【国際公開番号】W WO2020187537
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】102019203640.6
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【氏名又は名称】鳥居 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】ラムシュタイナー,インゴ
(72)【発明者】
【氏名】フィース,ラインホルト
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AA10
5J084AD01
5J084BA05
5J084BA08
5J084BA21
5J084BA38
5J084BA49
5J084BB02
5J084BB40
5J084DA01
5J084EA31
(57)【要約】
観測領域(210)内の物体(201)を検出するライダーシステム(100)であって、それぞれが複数の異なる波長(λk)を有する複数の光線(310k)を観測領域(210)に照射するために、観測領域(210)のうちライダーシステム(100)の検出領域(212m)で現在検出されている別個の複数の空間領域(211j)に対してそれぞれ複数の光線(310k)のうちの異なる光線を時間的に連続して照射する照射装置(130)と、それぞれの検出領域(212m)に個別に対応付けられた少なくとも1つの検出器構成(141m)を含み、前記観測領域(210)内の物体(201)から反射して戻ってきた光線(310k)を検出する検出装置(140)とを備え、検出器構成(141m)は、検出領域(212m)で現在検出されている空間領域(211j)からの光線(310k)を検出する検出器(142m)と、それぞれの光線(310k)を検出器(142m)に集光させるホログラフィック結像光学系(145)とから構成されたライダーシステム(100)が記載されている。ここで、検出器(142m)に集光する光線(310k)のそれぞれに対して、ホログラフィック結像光学系(145)は、それぞれの光線(310k)に個別に対応付けられ、検出領域(212m)で現在検出されている空間領域(211j)のみからのそれぞれの光線(310k)を検出器(142m)に集光させるように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域(210)内の物体(201)を検出するライダーシステム(100)であって、
それぞれが複数の異なる波長(λ
k)を有し、複数の光ビーム(311
j)の形で出射される複数の光線(310
k)を前記観測領域(210)に照射する照射装置(130)であって、前記観測領域(210)のうち、前記ライダーシステム(100)の検出領域(212
m)で現在検出されている別個の複数の空間領域(211
j)に対してそれぞれ前記複数の光線(310
k)のうちの異なる光線を時間的に連続して照射する、照射装置(130)と、
それぞれの前記検出領域(212
m)に個別に対応付けられた少なくとも1つの検出器構成(141
m)を含み、前記観測領域(210)内の物体(201)から反射して戻ってきた光線(310
k)を検出する検出装置(140)と
を備え、
前記少なくとも1つの検出器構成(141
m)は、前記検出領域(212
m)で現在検出されている前記空間領域(211
j)からの前記複数の光線(310
k)を検出する検出器(142
m)と、それぞれの前記光線(310
k)を前記検出器(142
m)に集光させるホログラフィック結像光学系(145)とから構成されており、
前記検出器(142
m)に集光する前記光線(310
k)のそれぞれについて、前記ホログラフィック結像光学系(145)は、それぞれの前記光線(310
k)に個別に対応付けられ、前記検出領域(212
m)で現在検出されている空間領域(211
j)のみからの前記それぞれの光線(310
k)を前記検出器(142
m)に集光させるように構成されている、ライダーシステム(100)。
【請求項2】
前記ホログラフィック結像光学系(145)は、少なくとも1つのホログラフィック光学素子(143
k)を含む、請求項1に記載のライダーシステム(100)。
【請求項3】
前記ホログラフィック光学素子(143
m)は、複数のホログラム(144
n)を含み、前記複数のホログラム(144
n)は、それぞれの前記検出領域(212
m)で現在検出されている前記空間領域(211
j)のうちのそれぞれ異なる空間領域からの前記光線(310
k)をそれぞれ前記検出器(142
m)に集光させるように構成されている、請求項2に記載のライダーシステム(100)。
【請求項4】
前記複数のホログラム(144
n)のうちの少なくとも1つは、透過ジオメトリの体積型ホログラムの形態で構成されている、請求項3に記載のライダーシステム(100)。
【請求項5】
前記照射装置(200)は、光エミッタ構成(131)を含み、前記光エミッタ構成(131)は、前記光線(310
k)をそれぞれ出射する複数の光エミッタ(132
i)を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のライダーシステム(100)。
【請求項6】
前記複数の光エミッタ(132
i)には、少なくとも1つの回折光学素子および/またはホログラフィック光学素子からなるパッシブ光学系(134
i)がそれぞれ対応付けられており、
前記パッシブ光学系(134
i)は、前記複数の光エミッタ(132
i)それぞれによって光ビームの形で出射された前記光線(310
k)を、前記観測領域(210)のそれぞれ異なる空間領域(211
j)に照射される少なくとも2つの部分ビーム(311
i,1、311
i,2)に分割するように構成されている、請求項4に記載のライダーシステム(100)。
【請求項7】
前記検出装置(140)は、空間的に互いにずれて配置された複数の検出器構成(141
m)を含み、前記検出器構成の各々は、検出器(142
m)と、当該検出器に個別に対応付けられたホログラフィック光学素子(143
m)とを有し、前記検出器構成(141
m)の前記検出領域(212
m)は、それぞれ、前記観測領域(210)の異なる空間領域(211
j)を検出する、請求項1から6のいずれか一項に記載のライダーシステム(100)。
【請求項8】
前記検出装置(140)の前記検出器構成(141
m)は、共通の結像光学系(146)の焦点面(147)に配置されている、請求項7に記載のライダーシステム(100)。
【請求項9】
前記検出装置(140)の前記検出器(142
m)によって現在検出されている前記観測領域(210)の全ての空間領域(211
j)が、前記ライダーシステム(100)の現在の視野(213)を定め、前記ライダーシステム(100)は、前記現在の視野(213)を所定の走査方向に走査移動(101)させることで、前記観測領域(210)全体を走査するように構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のライダーシステム(100)。
【請求項10】
少なくとも1つの検出器構成(141
m)に、特定の波長(λ
k)の光線(310
k)のみを透過させる光学バンドパスフィルタが対応付けられている、請求項1から9のいずれか一項に記載のライダーシステム(100)。
【請求項11】
複数のホログラム(144
1)を有する少なくとも1つのホログラフィック光学素子(134i)を備えた請求項1から10のいずれか一項に記載のライダーシステム(100)用のホログラフィック結像光学系(145)であって、
前記ホログラム(144
1)は、前記ホログラム(144
1)に個別にそれぞれ対応付けられた光線(310
k)を、前記光線(310
k)に個別にそれぞれ対応付けられた空間領域(411
j)から、前記ホログラフィック光学素子(134i)に個別に対応付けられた検出器(142
m)に集光するようにそれぞれ構成されている、ホログラフィック結像光学系(145)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィック結像光学系を有するライダー(Lidar)システムに関する。また本発明は、そのようなライダーシステム用のホログラフィック結像光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
ライダーシステムは、観測領域の3Dデータを取得するために使用される。そのようなシステムは、通常はレーザの形態で構成されている、特定の波長の光線を生成するための少なくとも1つの光エミッタと、それぞれの波長の光線を検出するための少なくとも1つの検出器とを含む。システムの動作中、そのエミッタから出射され、観測領域内の物体で反射または散乱された光線は、検出器によって検出される。走査した物体で反射した光の伝搬時間を測定することで、当該物体との距離を算出することができる。典型的なライダーシステムでは、観測領域内で多数の個々の測定を実行するが、それぞれの測定では小さな空間領域や立体角でしか検出がなされない。個々の測定を統合して3D(3次元)点群を生成し、これにより、それぞれの観測領域における物体の空間的な分布を推定することができる。例えば、WO11146523A2(国際公開第11146523号)には、複数の光エミッタを同数の検出器とともに共通の回転台に配置したライダーシステムが開示されている。ここで、それぞれの光エミッタにはそれぞれ検出器が対応付けられており、レンズとミラーとからなる光学装置によって、それぞれの検出器は、対応付けられた光エミッタが光出射する立体角を確実に観測することができる。この構造では、エミッタ/検出器の各対が個別のレーザ測距装置を構成し、エミッタ/検出器のそれぞれの対は、装置全体の回転軸に対して異なる方向を向いている。そして、装置を回転運動させることで、3D点群の走査が可能となり、エミッタ/検出器のそれぞれの対は、観測領域の異なる面を走査する。
【0003】
可能な限り長い検出距離を得るために、ライダーシステムの結像光学系は、典型的に、周辺光をできる限り透過させないように構成されている。そうでなければ、物体から反射されたレーザ光は、特に直射日光の下では、背景光と区別されることが難しくなる。背景光と区別するために、例えばバンドパスフィルタを用いて入射光をフィルタリングするスペクトル選択、狭い時間窓で検出を行う時間選択、出射光周辺の狭い視野のみを観測する幾何学的選択、などの方法がある。
【0004】
しかし、特に幾何学的選択では、従来の光学系のデザインでは走査面ごとに個別の検出器を用意する必要がある。これによってのみ、各検出器が非常に狭い角度領域を視ることが達成される。しかし、このためには多数の検出器が必要となるため、システムの複雑さとコストが大幅に増加するという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、3D点群の検出に必要な検出器の数を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、請求項1に記載のライダーシステムによって解決される。本発明のさらに有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0007】
本発明によれば、それぞれが異なる波長を有する複数の光線を観測領域に照射する照射装置を備えた、観測領域内の物体を検出するライダーシステムが提供されることが企図され、観測領域のうちライダーシステムの検出領域で現在検出されている別個の複数の空間領域は、それぞれ当該複数の光線のうちの異なる光線の照射を時間的に連続して受ける。また、ライダーシステムは、観測領域内の物体から反射して戻ってきた光線を検出する検出装置を備えており、この検出装置は、それぞれの検出領域に個別に対応付けられた少なくとも1つの検出器構成を含み、当該検出器構成は、それぞれの検出領域で現在検出されている空間領域からの光線を検出する検出器と、それぞれの光線を検出器に集光させるホログラフィック結像光学系とから構成される。ここで、検出器に集光する光線のそれぞれについて、ホログラフィック光学素子は、それぞれの光線に個別に対応付けられ、検出領域で現在検出されている空間領域のみからのそれぞれの光線を検出器に集光するように構成されている。ホログラフィック結像光学系により、1つの検出器だけで2つ以上の走査面にそれぞれ対応し、かつ、各測定プロセスでは、このように組み合わせた視線のうち1つの方向のみに視野を狭めることができる。よって、ここで提案された構成を用いて、従来の走査型ライダーシステムと比較すれば、より少ない数の検出器で同じ数の走査面を走査することができる。検出器の数が少ないため、複雑な構造を大幅に減少させることができる。また、検出器の数が少ないことは、ライダーシステムの製造コストの削減にもつながる。これは、使用される波長のために、シリコンベースの検出器素子が使用できず、例えば、かなり高価なInGaAs検出器が必要な場合に、特に有利である。より少ない数の検出器を使用する代わりに、同じ数の検出器でより多くの数の走査面を走査することができる。これにより、ライダーシステムの垂直方向の解像度を高めることができる。
【0008】
一実施形態では、ホログラフィック結像光学系は、少なくとも1つのホログラフィック光学素子を含むことが企図される。ここで、本発明によれば、通常の結像光学系が、1つまたは複数のホログラフィック光学素子からなるホログラフィック結像光学系に置き換えられ、または補完される。古典的な屈折光学系と異なり、ホログラフィック結像光学系は特定の波長と空間方向にのみ良好に機能し、この特性に関しては非常に限定的な公差しか有さない。よって、ライダーシステムにホログラフィック結像光学系を使用すると、他の空間方向からの光も、対象としたものとは異なる波長の光も検出器に導光されないという利点がある。ホログラフィック結像光学系は、その波長選択性により本質的にバンドパスフィルタとなるため、従来のライダーシステムで必要とされていた別個のバンドパスフィルタを理想的には不要とすることができる。
【0009】
さらなる実施形態では、ホログラフィック光学素子は、複数のホログラムを含み、当該ホログラムは、それぞれの検出領域で現在検出されている空間領域のうちのそれぞれ異なる空間領域からの光線を検出器に集光させるように構成されていることが企図される。複数のホログラムを使用することで、ホログラフィック光学素子を特に容易にかつ低コストで製造することができる。また、複数のホログラムを使用することにより、ホログラフィック光学素子の波長選択性も向上させることができる。
【0010】
さらなる実施形態では、ホログラムのうちの少なくとも1つが、透過ジオメトリの体積型ホログラムの形態で構成されていることが企図される。この形態により、特に容易に低コストの構造が可能となる。
【0011】
さらなる実施形態では、照射装置は、光線をそれぞれ出射する複数の光エミッタを有する光エミッタ構成を含むことが企図される。
【0012】
この構成により、異なる光線を互いに独立して発生させることができる。
【0013】
さらなる実施形態では、複数の光エミッタには、少なくとも1つの回折光学素子および/またはホログラフィック光学素子からなるパッシブ光学系がそれぞれ対応付けられていることが企図される。ここで、パッシブ光学系は、それぞれの光エミッタによって出射された光線を、観測領域内のそれぞれ異なる空間領域に照射される少なくとも2つの部分ビームに分割するように構成されている。そのようなパッシブ光学系では、個々の光エミッタを用いて、それぞれ異なる検出領域に対応付けられた複数の空間領域に同時に照射することが可能である。これにより、使用する光エミッタの数を低減することができ、ひいてはそのような照射装置を製造するための労力とコストを削減することができる。
【0014】
また、本実施形態では、検出装置は、空間的に互いにずれて配置された複数の検出器構成を含み、検出器構成の各々は、検出器と、これに個別に対応付けられたホログラフィック光学素子とを有することが企図される。ここで、検出器構成の検出領域は、観測領域のそれぞれ異なる空間領域を検出する。このようにして、比較的大きな視野が形成され、この視野によってライダーシステムは観測領域全体を迅速に検出することが可能となる。
【0015】
さらなる実施形態では、検出装置の検出器構成は、共通の結像光学系の焦点面に配置されていることが企図される。このような結像光学系は、光学結像システムの構成を大きくする。これにより、特定の空間方向から結像光学系に入射する光線のより大きな部分を、それぞれの光線またはそれぞれの空間方向に対応付けられた検出器構成に結像させることが可能になる。また、それによって検出される光ビームの光度が全体的に向上することにより、S/N比が改善され、ひいては検出器の測定精度が向上する。
【0016】
さらなる実施形態では、検出装置の検出器によって現在検出されている観測領域内の全ての空間領域が、ライダーシステムの現在の視野を定めることが企図される。ここで、ライダーシステムは、現在の視野を所定の走査方向に走査移動させることで、観測領域全体を走査するように構成されている。この走査移動により、比較的少ない数の検出器で比較的大きな観測領域を走査することが可能になる。これにより、ライダーシステムをより少ない労力と大幅に低いコストで製造することができる。
【0017】
さらなる実施形態では、少なくとも1つの検出器構成に、それぞれの検出器構成に個別に対応付けられた光線のみを透過させる光学バンドパスフィルタが対応付けられていることが企図される。バンドパスフィルタを用いることで、ホログラフィック結像光学系の波長選択性を向上させることができ、これにより、特にS/N比を大幅に改善することができる。
【0018】
また、複数のホログラムを有するホログラフィック光学素子を含むライダーシステム用のホログラフィック結像光学系が設けられている。ここで、ホログラムは、それぞれのホログラムに個別にそれぞれ対応付けられた光線を、当該それぞれの光線に個別にそれぞれ対応付けられた空間領域から、それぞれのホログラフィック光学素子に個別に対応付けられた検出器に集光するようにそれぞれ構成されている。
【0019】
本発明を以下に、図面を参照しながら詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】観測領域を走査する際の走査型ライダーシステムを示す図である。
【
図2】従来のライダーシステムの検出装置の概略図である。
【
図3】ホログラフィック光学素子で構成されるホログラフィック結像光学系を備えたライダーシステムの検出装置の概略図である。
【
図4】
図3の複数のホログラムを含むホログラフィック光学素子の詳細図である。
【
図5】
図3に係る複数の検出器構成と、共通の結像光学系を含む、拡張された検出装置の概略図である。
【
図6】複数の回折光学素子から構成される回折光学系を備えたライダーシステムの照射装置を示す図である。
【
図7】検出器構成の数を減らしたライダーシステムの構成の概略図である。
【
図8】複数の回折光学素子を用いてライダーシステムの光エミッタの数を減らした、
図7の構成の変形例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、光ビーム311
jを用いて、その直接的な周辺200の定められた観測領域210を走査する走査型ライダーシステム100の原理を概略的に示す。ここで、ライダーシステム100は、回転ハウジング110内に配置され、異なる空間方向にそれぞれ光または光ビーム311
jの形で放射される1つまたは複数の光線を生成するための複数の光エミッタを有する照射装置130を備える。ここで、光ビーム311
jのそれぞれは、光ビーム311
jにそれぞれ個別に対応付けられた空間領域211
jに照射され、本実施例では、ある時点で照射装置130で同時に検出される空間領域211
jは、ライダーシステム100の現在の視野213が多かれ少なかれ連続したストリップを形成するように、垂直方向に順々に配置されている。走査移動101によって、ハウジング110およびその中に配置された照射装置130は、所定の走査方向に旋回し、それによって視野213が、この際、全走査期間に亘ってライダーシステム100の現在の観測領域210の全ての空間領域211
jを検出する。
【0022】
測定プロセスの間、ライダーシステム100が放射した光ビーム311jは、周辺200内の物体201に照射され、それらで反射されてライダーシステム100に戻り、検出装置140で検出される。受信光ビーム312jの伝搬時間に基づいて、ライダーシステム100の制御装置120は、これらの光ビーム311j、312jのそれぞれについて、それぞれ照射された物体201までの距離を算出する。完全な走査期間の後、ライダーシステム100は、ライダーシステム100の観測領域210内の物体201の相対的な配置を表す点群を測定結果として供給する。
【0023】
ここで、現在の視野213の異なる空間領域211
jから反射して戻ってきたビーム312
jの検出は、個別に行われる。よって、従来のライダーシステム100では、検出器142
jが各視野角に個別にそれぞれ対応付けられている。これについて、
図2は、従来のライダーシステム100の典型的な検出装置140の対応する詳細図を示す。ここで、検出装置140は、結像光学系146と、結像光学系146の焦点面147に、列状に順々に配置された検出器142
1~142
mの群141とを含む。ここで、結像光学系146は、異なる空間方向からの光をその焦点面147の異なる点に集光させ、現在の視野213の空間領域211
1~211
jのうちの1つから反射されて戻ってきたビーム312
jのそれぞれが、それぞれの空間領域211
1~211
jに個別に対応付けられた検出器142
1~142
j上で結像する。このように、ライダーシステム100は、合計でj個の視線方向214
jを有する。
【0024】
ライダーシステム100は、検出器142j~142jとして、例えば、アバランシェダイオード(APD)やシングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD)などを用いる。ここで、これらダイオードは分離されていてもよいし、モノリシックアレイの一部であってもよい。また、SPADのアレイのうちの一部またはアレイ全体を相互に接続して、1つの検出器(「固体光電子増倍管」)を構成することも有利となり得る。ここでは象徴的に単一レンズとして表される結像光学系146は、用途に応じて、例えばレンズや凹面鏡などの単一の光学部品や、例えばレンズトリプレットや反転鏡などの複数の部品を組み立てたもので構成されていてもよい。
【0025】
このような走査型ライダーシステムにおいて、同じ解像度を維持しながら検出器の数を削減するために、本発明によれば、レンズおよび/またはミラーに基づく従来の結像光学系は、m個の検出器142
1~142
mに対してそれぞれ複数の視線方向を生成するホログラフィック素子を含むホログラフィック結像光学系145によって置き換えられ、または補完される。このために、
図3は、検出器142と、当該検出器142に対応付けられたホログラフィック光学素子143を含むホログラフィック結像光学系145とを備えたライダーシステム100の適宜変更後の検出装置140の検出器構成141を概略的に示す図である。ここで、ホログラムで構成されたホログラフィック光学素子143は、それぞれが異なる波長を有する複数の光線310
1~310
3を、異なる方向から検出器142に集束させるように構成されている。本実施例では、ここで合計3つの異なる光線310
1~310
3が示されており、これらの光線は、それぞれ異なる空間方向から反射して戻ってきたビーム312
1~312
3の形で入射し、ホログラフィック光学素子143によって検出器142に結像させられる。ホログラムの基本的な特性は、古典的な屈折光学系とは異なり、特定の波長と空間方向に対してのみ良好に機能し、これらの特性に関して限定的な公差を有することである。したがって、ライダーシステムにホログラムを使用することで、対象とする空間方向以外からの、あるいは対象とする波長以外の光が検出器142に導光されないという利点がある。この波長選択性のため、例えばバンドパスフィルタを追加することは、理想的には必要ないが、用途によっては有利となる場合もある。
【0026】
ホログラム光学系145は、n個のホログラム144
1~144
nを含む少なくとも1つのホログラフィック光学素子143で構成されており、n≧2である。これらのn個のホログラム144
1~144
nはそれぞれ対応するn個の波長λ
1~λ
nについて特定の光束を検出器142にそれぞれ集束させることを特徴とする。波のイメージで表すと、ホログラムにおいて、特定の空間方向からの理想的には平面波が、検出器位置を中心とした球状の波面に変換される。ここで、本実施例では、異なる空間領域から3本のビーム312
1、312
2、312
3の形で検出器構成141に反射して戻ってくる、それぞれ異なる波長を有する合計3本の光線310
1、310
2、310
3が、ホログラフィック光学素子143によって共通の検出器142に結像させられる。
図4は、
図3のホログラフィック光学素子143の詳細図を示す。ここで、ホログラフィック光学素子143は、順々に配置された合計3つのホログラム144
1、144
2、144
3で構成されており、これらの各々が、光線310
1、310
2、310
3それぞれに個別に対応付けられた空間方向からの、当該ホログラムそれぞれに個別に対応付けられた光線310
1、310
2、310
3を検出器142にそれぞれ結像させることがわかる。このように、3つのホログラム144
1、144
2、144
3を有するホログラフィック光学素子143は、本実施例では、対応付けられた検出器142に対して合計3つの視線方向を生成する。ここで、このようにして生成された視線方向の数は、これらに対応する数のホログラムを設けることによって、それぞれの要求に適合させられうる。特に、ホログラフィック光学素子143にさらにホログラムを追加することで、追加の視野方向を比較的容易に実現することができる。
【0027】
しかしながら、ホログラムを追加するごとに、基本的にホログラフィック光学素子143の光学特性の劣化を伴うため、ホログラフィック光学素子143と組み合わせるホログラムの数を制限することが有用である。例えば、複数のホログラムを多重化すると、個々のホログラムがこれに対応する波長の光を所期のとおりに集光させる効率が低下する。同時に、拡散散乱が増加するため、望ましくない波長λの光線がますます検出器に到達する。これに伴い信号/表面の比率が劣化することが、とりわけライダーの用途では特に致命的になり得る。
【0028】
このような欠点を解消してライダーシステムの視野方向の数を増加できるようにするために、複数の異なる視野方向を、それぞれ個々のホログラフィック光学素子を搭載した複数の検出器に分散させる構成が選択されている。さらに、
図5は、合計m個の検出器構成141
1~141
mの群を備えた対応する検出装置140を示しており、検出器構成は、それぞれ、検出器142
1~142
mと、これらにそれぞれ対応付けられたホログラフィック光学素子143
1~143
mとから構成されている。列方向に順々に配置された検出器構成141
1~141
mは、それぞれ異なる視線方向を有する。ここで、検出器構成141
1~141
mは、それぞれホログラフィック光学素子143
1~143
mを含み、それらホログラフィック光学素子143
j~143
mは、また、波長λ
1~λ
nに対して合計n個のホログラム144
1~144
nを含み、ひいてはn個の異なる視線方向を有する。このように、検出器構成141
1~141
nの群全体では、j=m*nとなる合計j個のホログラム、ひいては視線方向を有する。このように、
図5に示す群は、検出器構成141
1~141
nごとにm=3のホログラムまたは視野方向をそれぞれ有しており、合計でm*3の視野方向を有する。
図5に示された構成は、
図4の、n個のホログラムまたは視野方向を持つ個々のホログラフィック光学素子よりも検出器の数が多いが、ホログラフィック光学素子あたりのホログラムの数が少ないため、光学的品質が向上するという利点がある。また、ここで、それぞれの波長λ
1~λ
nについて、m個の検出器構成141
1~141
nそれぞれに単一の視線方向のみが対応付けられており、ひいては最大m個の個別の測定を同時に行うことができるため、ここではそれぞれの波長λ
1~λ
nを合計m個の経路または視線方向に使用することができる。
【0029】
光収量を増加させるために、本実施例では、検出装置140の全ての光路は、従来の結像光学系146によって集約させられて、その後にようやく共通の結像光学系146の焦点面147における個々の検出器構成141
1~141
nにのみ分配される。しかし、基本的には、共通の古典的な結像光学系146を用いずに、検出器構成141
1~141
nを隣り合わせて配置することも可能である。しかし、これにより装置のサイズが小さくなってしまい、これによって、ライダーシステムではむしろ不利になる。これに対し、
図5に示した古典的な結像光学系146を用いると、可能な限り多くの光を集光させ、そうされた後にのみそれを個々のホログラフィック光学素子に分配することができる。
【0030】
合計j個の視線方向を実現するためには、それに応じた数の個別の光路または光線が必要である。これらは、例えば、対応する数(j)の光エミッタによって実現することができる。
図5に示す実施形態の変形例における個々の検出器構成141
1~141
nは、互いに独立して測定を実行するため、全ての検出器構成141
1~141
nに対してそれぞれ同じ光線または波長を使用することが有意義である。この場合、合計n個の視線方向または空間領域が、同じ光線または波長で同時に励起または照射されるため、n個の光エミッタのみが使用でき、その放射された光線はパッシブ光学系によって分割される。このために、
図6は、ライダーシステム100における、それに対応して構成された照射装置130を示す図である。照射装置130は、合計i個の個々の光エミッタ132
1~132
iを備えた光エミッタ構成131を含み、それぞれ光ビーム311
1~311
iの形で異なる波長λ
1~λ
iの光線310
1~310
iを出射するものであり、本実施例では3つの個別の光エミッタ132
1、132
2、132
3のみが示されている。光エミッタ132
1~132
iのそれぞれには、回折光学素子(DOE)の形態のそれぞれのパッシブ光学系14
1~134
iがそれぞれ対応付けられており、これらは、光エミッタ132
1~132
iそれぞれの光ビーム311
1~311
iを、それぞれ異なる空間方向に出射される2つ以上の個別の部分光ビーム311
i,1~311
i,2に分割する。パッシブ光学系134
1~134
iとして合計n個のDOEを使用する代わりに、基本的には1つまたは複数のホログラフィック光学素子をこのために使用することもできる(ここでは図示せず)。
【0031】
図7は、合計6つの光エミッタ132
1~132
6の光エミッタ構成131を含む照射装置130と、合計2つの検出器構成141
1、141
2を含む検出装置140とを備えた、
図5の変形例によるライダーシステム100の概略図を示すものである。見易くするために、ライダーシステム100の照射装置130と検出装置140とは、観測領域110の対向する側に示されている。典型的なライダーシステム100では、これらの装置は、送受信光ビーム311
1~311
6、312
1~312
6の光路が実質的に隣接して延在するように、共通のハウジング内に配置されている。ここでは単に示されているだけの観測領域210は、基本的に多数の個別の空間領域を含むが、見易くするために6つの空間領域211
1~211
6のみが示されており、これらは、2つの検出器構成141
1、141
2の検出領域212
1、212
2によって現在検出されるものである。光エミッタ構成131の最初の3つの光エミッタ132
1~132
3は、それぞれ個別に生成された送信光ビーム311
1~311
3を、空間領域211
1~211
3の最初の3つの領域に連続して照射する。これと並行して、光エミッタ構成131の残りの3つの光エミッタ132
4~132
6は、それぞれ個別に生成された送信光ビーム311
4~311
6を残りの3つの空間領域211
4~211
6に連続して照射する。すなわち、ライダーシステム100の通常動作時には、任意の測定時点において、検出領域212
1、212
2のそれぞれから1つの空間領域211
1~211
6に対して、それぞれの空間領域211
1~211
6に個別に対応付けられた光線310
1~310
kが照射される。受信側では、現在照射されている空間領域211
1~211
6から反射または散乱された光線が、受光装置140に戻る受信光ビーム312
1~312
6の形で、2つの検出器構成141
1、141
2に受光される。ここで、検出器142
1、142
2の前にそれぞれ配置されたホログラフィック光学素子143
1、143
2は、それぞれの検出器142
1、142
2が、当該検出器142
1、142
2に個別に対応付けられた光線310
1~310
kを、当該検出器142
1、142
2に個別に対応付けられた1つの空間領域211
1~211
6からのみ受光するようにする。
【0032】
測定は、検出領域212
1、212
2のそれぞれに対して独立して行われるため、全ての検出領域211
1、211
2に対して、同じ波長λ
1~λ
kの光線310
1~310
kを使用することができる。
図7において異なる破線で示すように、2つの検出領域211
1、211
2の合計6つの空間領域211
1~211
6は、このように3つの異なる光線310
1、310
2、310
3のみの照射を受ける。したがって、
図8に示すように、照射装置130の光エミッタ132
1~132
iの数は、合計3つに低減することができる。さらに、ライダーシステム100は、
図6に示す照射装置130を有し、そこで、それぞれの光エミッタ132
1、132
2、132
3の後には、ビームスプリッタとしてのパッシブ光学系134
1、134
2、134
3が設けられている。ここで、例えば回折光学素子(DOE)の形態であるパッシブ光学系134
1、134
2、134
3それぞれは、光エミッタ132
1、132
2、132
3それぞれによって生成された光ビーム311
1、311
2、311
3を、それぞれ2つの部分光ビーム311
1,1、311
1,2、311
2,1、311
2,2、311
3,1、311
3,2に分割し、これらで異なる検出領域211
1、211
2それぞれの空間領域211
1~211
6を走査する。
【0033】
上述した実施例で用いられるホログラム1441、1442、1443は、透過ジオメトリの体積型ホログラムであることが好ましい。これにより、より高い効率が可能となるため、本構成は有利である。しかしながら、対応するホログラフィック光学系は、他の種類のホログラム、例えば反射型ホログラムを用いて実現することもできる。
【0034】
上述の説明において、「反射して戻ってくる光線」という表現は、検出装置の方向への反射、拡散反射または散乱によって、ライダーシステムの周辺の物体から反射された光線であると理解される。
【0035】
本発明を好ましい実施例によって詳細に図示し説明したが、本発明は開示された実施例によって限定されるものではない。むしろ、当業者であれば、本発明の保護範囲を逸脱することなく、そこから他の変形例を導き出すことができる。
【国際調査報告】