(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ポリ(アリーレンスルフィド)及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20220622BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20220622BHJP
C08G 75/029 20160101ALI20220622BHJP
C08G 75/20 20160101ALI20220622BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/04
C08G75/029
C08G75/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562785
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2020059939
(87)【国際公開番号】W WO2020216614
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェオル, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ホン
(72)【発明者】
【氏名】ギルケンソン, ブリタニー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, デーヴィッド ビー.
(72)【発明者】
【氏名】マリオン, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】コルベット, マチュー
(72)【発明者】
【氏名】ガレアンドロ-ディアマン, トーマス
【テーマコード(参考)】
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
4J002CN011
4J002DA016
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD040
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD170
4J002FD200
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
4J030BA04
4J030BA08
4J030BA09
4J030BA49
4J030BC34
4J030BD02
4J030BF01
4J030BF07
4J030BF09
4J030BF10
4J030BF19
4J030BG10
4J030BG27
4J030BG34
(57)【要約】
本発明は、式(I):
(式中、n
p、n
q及びn
rは、それぞれ、各繰り返し単位p、q及びrのモル%であり;繰り返し単位p、q及びrは、ブロックで、交互に、又はランダムに配置されており;2%≦(n
q+n
r)/(n
p+n
q+n
r)≦9%であり;n
q≧0%であり、且つ、n
r≧0%であり;jは、ゼロ又は1~4の間で変化する整数であり;R
1は、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から選択される)に従って繰り返し単位p、q及びrを含む、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)に関する。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
n
p、n
q及びn
rは、それぞれ、各繰り返し単位p、q及びrのモル%であり;
繰り返し単位p、q、及びrは、ブロックで、交互に、又はランダムに配置されており;
2%≦(n
q+n
r)/(n
p+n
q+n
r)≦9%であり;n
q≧0%であり、且つ、n
r≧0%であり;
jは、ゼロ又は1~4の間で変化する整数であり;
R
1は、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から選択される)
に従って繰り返し単位p、q及びrを含む、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)であって、
前記PASが、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱スキャンで決定される、20J/g超の融解熱を有する、PAS。
【請求項2】
n
p+n
q+n
r≧50%である、請求項1に記載のPAS。
【請求項3】
繰り返し単位pと、繰り返し単位q及び/又はrとからなるか又はこれらから本質的になる、請求項1又は2に記載のPAS。
【請求項4】
jは、式(I)においてゼロである、請求項1~3のいずれか一項に記載のPAS。
【請求項5】
最大でも700g/10分の、好ましくは最大でも500g/10分の、より好ましくは最大でも200g/10分の、更にいっそう好ましくは最大でも50g/10分の、更により好ましくは最大でも35g/10分の、及び/又は少なくとも1g/10分の、好ましくは少なくとも5g/10分の、より好ましくは少なくとも10g/10分の、更にいっそう好ましくは少なくとも15g/10分のメルトフローレートMFR(ASTM D1238、手順Bに準拠した1.27kgの荷重下に315.6℃において)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のPAS。
【請求項6】
ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱スキャンで決定されるときに、最大でも280℃の、好ましくは最大でも278℃の、より好ましくは最大でも275℃の、及び/又は少なくとも252℃の、好ましくは少なくとも255℃の、より好ましくは少なくとも260℃の融点を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のPAS。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)の製造方法であって、式(VII):
【化2】
(式中:
jはゼロ又は1~4の間で変化する整数であり;
R
1は、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から選択される)
に従った繰り返し単位pを含むポリ(アリーレンスルフィド)(PAS-p)の固体粒子を酸化する工程を含み、
ここで、前記酸化の工程は、酸化剤を含有する液体中で行われる方法。
【請求項8】
前記液体は酢酸を含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化剤は過酸化水素である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記PAS-pの前記酸化工程は、100℃未満、好ましくは90℃未満、より好ましくは80℃未満、及び/又は10℃超、好ましくは30℃超、より好ましくは50℃超の温度で実施される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ポリマー組成物(C)であって、
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)、
- 前記ポリマー組成物の総重量を基準として、65重量%以下の、充填剤、補強剤、エラストマー、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、核剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融剤、電磁吸収剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分
を含む組成物(C)。
【請求項12】
10~60重量%のガラス繊維及び/又は炭素繊維を含む、請求項11に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の組成物(C)の製造方法であって、式(I)の前記ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)と前記少なくとも1種の追加の成分とを混合する工程を含む方法。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載の式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)又は請求項11又は12に記載のポリマー組成物(C)を含む物品、部品又は複合材料。
【請求項15】
石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙及び消費財における請求項14に記載の物品、部品、又は複合材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月26日出願の、米国仮特許出願第62/838,993号及び2019年6月6日出願の、欧州特許出願第19178736.5号に対する優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマー及びその製造方法、このポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)を含むポリマー組成物及びその製造方法、並びにこのポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)又はポリマー組成物を含む物品、部品又は複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーは、高い引張弾性率及び高い引張強度などの、注目に値する機械的特性と、熱分解及び化学反応性に対する並外れた安定性とを有する半結晶性熱可塑性ポリマーである。それらはまた、射出成形などの、優れた溶融加工を特徴とする。
【0004】
この幅広い特性は、PASポリマーを、例えば自動車、電気、電子、航空宇宙及び電化製品市場における、多数の用途向けに好適なものにする。
【0005】
上記の利点にもかかわらず、PASポリマーは、低い耐衝撃性及び低い破断点伸び、言い換えると不十分な延性及び不十分な靭性を示すことが知られている。
【0006】
エチレン及びグリシジルエステルを含むオレフィンポリマーと、酸性化PPSと、エチレン及び少なくとも1種の(メタ)アクリル酸のコポリマーを含むエラストマーとを含む組成物を開示している、米国特許出願公開第2005/0089688号明細書に例えば記載されているような、オレフィン及び/又はアクリレート系エラストマーとPASポリマーを配合することによってとりわけ、この問題を解決しようとする試みが行われている。しかしながら、得られた化合物は、PASポリマーそれら自体よりも低い熱安定性及び著しく低い弾性率を示す。
【0007】
他の試みは、PASポリマーの結晶化度を下げることを伴った。欧州特許第0 189 927号明細書によれば、コモノマーがポリマー鎖中に導入された。しかしながら、このアプローチは、新たな分子がプロセスに導入されることを暗示し、それ故、全体工業プロセスが合成からPASの回収並びに溶媒及び未反応モノマー流れのリサイクリングへと変更される結果になる。例えば米国特許第6,020,442号明細書に記載される、別のアプローチによれば、PASポリマーは、ポリ(アリーレンスルホキシド)及び/又はポリ(アリーレンスルホン)ポリマーへと酸化された。しかしながら、そのようなポリ(アリーレンスルホキシド)及びポリ(アリーレンスルホン)ポリマーは、主に、不十分な耐化学薬品性と共に非晶質である。それらは、高いガラス転移温度を示すが、溶融加工性を欠いている。それ故、それらは、通常、PTFEのような他のポリマー用の添加物として使用されるにすぎない。
【0008】
それ故、高い引張強度、良好な耐化学薬品性及び耐温度性並びに易加工性を維持しながら、改善された延性及び靱性を有するPASポリマーを提供する必要性が感じられる。
【発明の概要】
【0009】
第1態様では、本発明は、式(I):
【化1】
(式中、
n
p、n
q及びn
rは、それぞれ、各繰り返し単位p、q及びrのモル%であり;
繰り返し単位p、q及びrは、ブロックで、交互に、又はランダムに配置されており;
2%≦(n
q+n
r)/(n
p+n
q+n
r)≦9%であり;
n
q≧0%であり、且つ、n
r≧0%であり;
jは、ゼロ又は1~4の間で変化する整数であり;
R
1は、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から選択される)
に従って繰り返し単位p、q及びrを含む、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)であって、
PASが、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱スキャンで決定される、20J/g超の融解熱を有する、PASに関する。
【0010】
第2態様では、本発明は、上で定義されたような式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)の製造方法であって、繰り返し単位pを含むポリ(アリーレンスルフィド)(PAS-p)の固体粒子を、酸化剤を含む液体中で酸化する工程を含む方法に関する。
【0011】
第3態様では、本発明は、ポリマー組成物(C)であって、
- 上で定義されたような式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)、
- ポリマー組成物の総重量を基準として、65重量%以下の、充填剤、補強剤、エラストマー、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、核剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融剤、電磁吸収剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択される追加の成分
を含む、組成物(C)に関する。
【0012】
第4態様では、本発明は、上で定義されたようなポリマー組成物(C)の製造方法であって、前記式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)と、前記少なくとも1種の追加の成分とを混合する工程を含む方法に関する。
【0013】
第5態様では、本発明は、上で定義されたような式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)又はポリマー組成物(C)を含む物品、部品又は複合材料に関する。
【0014】
第6態様では、本発明は、石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙及び消費財における前記物品、部品又は複合材料の使用に関する。
【0015】
本発明のPASは、高い引張強度、良好な耐化学薬品性及び耐温度性並びに良好な加工性を維持しながら、増加した延性及び破断点伸びを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書では、別段の指示がない限り、以下の用語は、以下の意味を有するものとする。
【0017】
表現「スルフィド部分」は、式(I)中の繰り返し単位pの-S-架橋を意味することを意図する。
【0018】
表現「スルホキシド部分」は、式(I)中の繰り返し単位qの-SO-架橋を意味することを意図する。
【0019】
表現「スルホン部分」は、式(I)中の繰り返し単位rの-SO2-架橋を意味することを意図する。
【0020】
表現「酸化された部分」は、より一般的であり、スルホキシド部分及びスルホン部分の両方を意味することを意図する。
【0021】
ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)
本発明のPASは、式(I):
【化2】
(式中、繰り返し単位p、q及びrは、ブロックで、交互に、又はランダムに配置されている)
に従って繰り返し単位p、q及びrを含む。
【0022】
誤解を避けるために、繰り返し単位p、q及びrは、それぞれ、上の式(I)において左から右に示されている。
【0023】
式(I)において、jは、ゼロ又は1~4の間で変化する整数である。
【0024】
好ましくは、jは、式(I)においてゼロであり、これは、芳香環が無置換であることを意味する。したがって、繰り返し単位p、q及びrは、それぞれ、以下の式(II)、(III)及び(IV):
【化3】
に従う。
【0025】
jが1から4の間で変化する場合、R1は、ハロゲン原子、C1~C12アルキル基、C7~C24アルキルアリール基、C7~C24アラルキル基、C6~C24アリーレン基、C1~C12アルコキシ基、及びC6~C18アリールオキシ基からなる群から選択することができる。
【0026】
それぞれnp、nq及びnrで表される、式(I)における繰り返し単位p、q及びrのモル百分率は、2%≦(nq+nr)/(np+nq+nr)≦9%であるようなものであり、これは、式(I)のPASポリマーが、ポリマー中の繰り返し単位p、q及びrの総数を基準として、2~9モル%の酸化された繰り返し単位q及びrを含むことを意味する。
【0027】
本発明のPASポリマーは繰り返し単位pを含み、且つ、それは繰り返し単位q及び/又はrを含む。PASポリマーが繰り返し単位p、q及びrを含む場合、上記の方程式中のnq及びnrは両方とも0%超である。或いは、本発明のPASポリマーは、繰り返し単位p及びqを含み得るが、繰り返し単位rを含み得ない。この場合、nqは2%以上であるが、nrは0%である。第3の可能性によれば、本発明のPASポリマーは、繰り返し単位p及びrを含み得るが、繰り返し単位qを含み得ない。この場合、nrは2%以上であるが、nqは0%である。
【0028】
いくつかの実施形態では、式(I)における繰り返し単位p、q及びrのモル百分率は:
2.2%≦(nq+nr)/(np+nq+nr)≦8.8%又は
2.5%≦(nq+nr)/(np+nq+nr)≦8.5%又は
2.8%≦(nq+nr)/(np+nq+nr)≦8.2%又は
3.0%≦(nq+nr)/(np+nq+nr)≦7.0%
であるようなものである。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、合計np+nq+nrは、少なくとも50%であり、これは、PASが、PASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、少なくとも50モル%の繰り返し単位p、q及びrを含むことを意味する。例えば、合計np+nq+nrは、PASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%でさえあることができる。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、PASは、繰り返し単位p、並びに繰り返し単位q及び/又はrからなるか、又はこれらから本質的になる。表現「から本質的になる」は、PASが、繰り返し単位p、並びに繰り返し単位q及び/又はr、並びにPASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満の、繰り返し単位p、q及びrとは異なる他の繰り返し単位を含むことを意味する。
【0031】
一実施形態によれば、本発明のPASポリマーは、それぞれ、式(V)及び/又は(VI):
【化4】
(式中:
iは、ゼロ又は1~4の間で変化する整数であり;
R
2は、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から選択される)
の繰り返し単位s及び/又はtを更に含む。
【0032】
式(V)及び(VI)において、iは、好ましくはゼロであり、これは、芳香環が無置換であることを意味する。
【0033】
合計ns+ntは、PASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル%未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満である。
【0034】
一実施形態によれば、合計np+nq+nrは100%であり、nq及びnrのうちの少なくとも1つは0モル%超である。
【0035】
一実施形態によれば、合計np+nq+nrは100%未満である。この実施形態では、PASポリマーは、p、r及びqとは異なる少なくとも1種の繰り返し単位、例えば、式(V)及び/又は(VI)による繰り返し単位を含む。
【0036】
別の実施形態によれば、合計np+nq+nr+ns+ntは100%であり、nq及びnrのうちの少なくとも1つは0モル%超であり、ns及びntのうちの少なくとも1つは0モル%超である。
【0037】
好ましくは、PASは、最大でも700g/10分の、より好ましくは最大でも500g/10分の、更にいっそう好ましくは最大でも200g/10分の、更により好ましくは最大でも50g/10分の、その上より好ましくは最大でも35g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bに準拠した1.27kgの荷重下に315.6℃において)を有する。
【0038】
好ましくは、PASは、少なくとも1g/10分の、より好ましくは少なくとも5g/10分の、更にいっそう好ましくは少なくとも10g/10分の、更により好ましくは少なくとも15g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bに準拠した1.27kgの荷重下に315.6℃において)を有する。
【0039】
好ましくは、PASは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱スキャンで決定されるときに、少なくとも252℃の、より好ましくは少なくとも255℃の、更にいっそう好ましくは少なくとも260℃の融点を有する。
【0040】
好ましくは、PASは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱スキャンで決定されるときに、最大でも280℃の、より好ましくは最大でも278℃の、更にいっそう好ましくは最大でも275℃の融点を有する。
【0041】
PASの製造方法
本発明の別の目的は、式(I)のPASの製造方法であって、例えば(ポリマー中の繰り返し単位の総数を基準として)50モル%~100モル%の繰り返し単位pを含む、繰り返し単位pを含むポリマー(PAS-p)から出発する方法である。
【0042】
本方法は、式(VII):
【化5】
(式中:
jは、ゼロ又は1~4の間で変化する整数であり;
R
1は、ハロゲン原子、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、C
1~C
12アルコキシ基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から選択される)
による繰り返し単位pを含むポリ(アリーレンスルフィド)(PAS-p)の固体粒子を酸化する工程を含み、
ここで、前記酸化の工程は、酸化剤を含有する液体中で行われる。
【0043】
本発明の方法は、有利には、PAS-pの固体粒子が液体に添加されるときにそれらを可溶化する工程を含まない。
【0044】
一実施形態によれば、jは、式(VII)においてゼロである。
【0045】
別の実施形態によれば、PAS-pは、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、少なくとも50モル%の式(VII)による繰り返し単位pを含む。例えば、PAS-pは、ポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%の式(VII)による繰り返し単位pを含む。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、PAS-pは、繰り返し単位pからなるか、又はこれから本質的になる。表現「から本質的になる」は、PAS-pが、繰り返し単位pと、PAS-pポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満の、繰り返し単位pとは異なる他の繰り返し単位とを含むことを意味する。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、PAS-pは、PAS-pポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル%未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満の、繰り返し単位pとは異なる繰り返し単位を含む。繰り返し単位pとは異なる繰り返し単位は、PASポリマーに関して上記のものと同じもの、すなわち、繰り返し単位s及び/又はtであることができる。
【0048】
一実施形態によれば、PAS-pポリマーは、専ら繰り返し単位pでできている。
【0049】
別の実施形態によれば、PAS-pポリマーは、5モル%未満である量でpとは異なる少なくとも1種の繰り返し単位、例えば、繰り返し単位s及び/又はtを含む。
【0050】
好ましくは、前記液体は、有機酸、有機酸無水物及び鉱酸からなる群から選択される化合物の少なくとも1種を含有する。前記有機酸の例は、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、乳酸、マレイン酸等である。前記有機酸無水物の例は、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水乳酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸、無水クロロ安息香酸等である。前記鉱酸の例は、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等である。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、前記酸化剤は過酸化水素である。好ましくは、前記酸化剤は水性過酸化水素溶液である。
【0052】
本発明の別の実施形態によれば、前記酸化剤は、水性過酸化水素溶液と有機酸又は有機酸無水物との混合物から形成される過酸である。好ましくは、前記過酸は、過ギ酸、過酢酸、過トリフルオロ酢酸、過プロピオン酸、過乳酸、過安息香酸又は過m-クロロ安息香酸である。
【0053】
本発明の更なる実施形態によれば、前記酸化剤は無機塩過酸化物である。無機塩過酸化物として、過硫酸塩、過ホウ酸塩及び過炭酸塩が好ましい。本明細書に述べられる塩として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が好ましい。ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩が特に好ましい。無機塩過酸化物の例は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム及び過ホウ酸アンモニウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムである。
【0054】
前記液体は、有利には、PAS-pのスルフィド部分の2~9モル%がスルホキシド部分及び/又はスルホン部分へと酸化されるような量で酸化剤を含有し、こうして本発明によるPASを提供する。この実施形態では、前記液体は、有利には、PAS-pポリマー中のスルフィド部分の2~9モル%の量で酸化剤を含有する。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記液体は酢酸を含有する。好ましい実施形態によれば、前記酸化剤は過酸化水素である。より好ましい実施形態によれば、前記液体は、酢酸と過酸化水素との反応によって形成される過酸を含有する。
【0056】
PAS-pポリマーの固体粒子は、反応混合物の総重量を基準として、例えば5重量%又は10重量%から30重量%又はそれ以上までの、広範囲の濃度で液体に添加され得る。有利には、PAS-pポリマーの固体粒子は、反応混合物の総重量を基準として、20重量%超の濃度で液体に添加される。
【0057】
好ましい実施形態によれば、PAS-pの固体粒子は、0.001mm~10mm、好ましくは0.01mm~5mmに含まれるあらゆる寸法を有する。好ましくは、PAS-pの固体粒子は、公知の工業プロセスによるPAS-pの重合及び回収後に形成された粉末である。
【0058】
好ましくは、使用されるPAS-pの固体粒子は、PAS-pの調製プロセスから直接得られる。
【0059】
好ましくは、PAS-pを酸化する前記工程は、0.5~10バール、より好ましくは0.8~5バールの圧力で、更にいっそう好ましくは大気圧で実施される。
【0060】
好ましくは、前記PAS-pの酸化工程は、酸化剤を含む液体の沸点下で実施される。
【0061】
好ましくは、前記PAS-pの酸化工程は、100℃未満、より好ましくは90℃未満、更にいっそう好ましくは80℃未満の温度で実施される。好ましくは、前記PAS-pの酸化工程は、10℃超、より好ましくは30℃超、更にいっそう好ましくは50℃超の温度で実施される。例えば、前記液体が酢酸を含有する実施形態では、前記PAS-pの酸化工程は、約70℃の温度で実施される。
【0062】
好ましくは、前記酸化の工程の反応時間は、0.5~16時間、より好ましくは2~8時間、更にいっそう好ましくは3~4時間の範囲である。反応時間の選択は、反応温度及び酸化剤を含有する液体に強く依存する。例えば、前記液体が酢酸及び酸化剤としての過酸化水素を含有する実施形態では、反応時間は、約70℃の温度下で約3時間である。
【0063】
ポリマー組成物(C)及びその製造方法
前記のように、本発明はまた、式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)を含むポリマー組成物(C)に関する。
【0064】
好ましくは、PASは、ポリマー組成物(C)の総重量を基準として、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、更にいっそう好ましくは少なくとも20重量%、最も好ましくは少なくとも25重量%の量でポリマー組成物(C)中に存在する。
【0065】
好ましくは、PASは、ポリマー組成物(C)の総重量を基準として、最大でも99重量%、より好ましくは最大でも95重量%、更にいっそう好ましくは最大でも80重量%、最も好ましくは最大でも60重量%の量でポリマー組成物(C)中に存在する。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、PASは、ポリマー組成物(C)の総重量を基準として、10~70重量%、好ましくは20~60重量%の範囲の量でポリマー組成物(C)中に存在する。
【0067】
前記のように、ポリマー組成物(C)は、ポリマー組成物の総重量を基準として、65重量%以下の、充填剤、補強剤、エラストマー、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、核剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融剤、電磁吸収剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分を含む。
【0068】
ポリマー組成物は、また、少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含み得る。用語「熱可塑性樹脂」は、加熱すると軟化し、室温で冷却すると硬化するポリマーであって、室温で、完全に非晶質の場合にはそのガラス転移温度よりも下で、又は半結晶の場合にはその融点よりも下で存在するポリマーを意味することを意図する。それにもかかわらず一般に、前記ポリマーが半結晶性である、つまり、明確な融点を有することが好ましく;好ましいポリマーは、ASTM D3418に準拠して測定されるときに、少なくとも10J/gの、好ましくは少なくとも25J/gの、より好ましくは少なくとも30J/gの融解熱(ΔHf)を有するものである。融解熱についての上限は決定的に重要であるわけではないが、それにもかかわらず、前記ポリマーは、一般に最大でも80J/gの、好ましくは最大でも60J/gの、より好ましくは最大でも40J/gの融解熱を有するであろうことが理解される。例えば、前記少なくとも1種の熱可塑性ポリマーは、本発明によるPASとは異なるポリ(アリーレンスルフィド)、脂肪族、脂環式及び半芳香族ポリアミド、脂肪族、半芳香族及び芳香族ポリエステル、ポリスルホン、脂肪族及び芳香族ポリケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、フッ素化熱可塑性ポリマーから選択される。
【0069】
一実施形態によれば、ポリマー組成物(C)は、式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)と、少なくとも1種のポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマーとを含む。例えば、ポリマー組成物(C)は、広い重量比、例えば10:90~90:10又は20:80~80:20で変わる、本発明のPASと、本発明でのPASとは異なる、PPSポリマーとのブレンドからなるポリマー成分を含み得る。特定の実施形態によれば、ポリマー組成物は、a)50重量%の本発明のPAS及び50重量%の、本発明でのPASとは異なる、PPSポリマーからなるポリマー成分と、b)ポリマー組成物(C)の総重量を基準として50重量%未満である量での補強剤、例えばガラス繊維とを含む。
【0070】
好ましい実施形態によれば、前記ポリマー組成物(C)は、補強充填剤又は繊維とも言われる、少なくとも1種の補強剤を含む。
【0071】
前記少なくとも1種の補強剤は、繊維状補強充填剤、粒子状補強充填剤及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。繊維状補強充填剤は、本明細書では、平均長さが幅及び厚さの両方よりも著しく大きい、長さ、幅及び厚さを有する材料であると考えられる。一般に、繊維状補強充填剤は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20又は少なくとも50の、長さと、最大の幅及び厚さとの間の平均比と定義される、アスペクト比を有する。
【0072】
繊維状補強充填剤には、ガラス繊維、炭素又はグラファイト繊維、及び炭化ケイ素、アルミナ、チタニア、ホウ素等から形成される繊維が含まれ、2種類以上のそのような繊維を含む混合物が含まれ得る。非繊維状補強充填剤には、とりわけタルク、マイカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、シリカ、カオリン、チョーク、アルミナ、鉱物充填剤等が含まれる。
【0073】
前記少なくとも1種の補強剤は、好ましくは、ポリマー組成物(C)の総重量を基準として、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、更にいっそう好ましくは少なくとも20重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%の量でポリマー組成物(C)中に存在する。
【0074】
前記少なくとも1種の補強剤は、ポリマー組成物(C)の総重量を基準として、好ましくは最大でも65重量%、より好ましくは最大でも60重量%、更にいっそう好ましくは最大でも55重量%、最も好ましくは最大でも50重量%の量でポリマー組成物(C)中に存在する。
【0075】
好ましくは、前記少なくとも1種の補強充填剤は、繊維状補強充填剤である。繊維状補強充填剤の中で、ガラス繊維及び炭素繊維が好ましい。本発明の好ましい実施形態によれば、前記ポリマー組成物(C)は、10~60重量%のガラス繊維及び/又は炭素繊維を含む。
【0076】
本発明の別の態様は、上に記載されたようなポリマー組成物(C)の製造方法であって、前記方法が、式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)と前記少なくとも1種の追加の成分とを混合する工程を含む方法に関する。
【0077】
前記方法は、有利には、ドライブレンディング及び/又は溶融配合によってPASと前記少なくとも1種の追加の成分とを混合する工程を含む。前記方法は、好ましくは、とりわけ特に連続又はバッチ装置で、溶融配合することによってPASと前記少なくとも1種の追加の成分とを混合する工程を含む。そのような装置は、当業者に周知である。
【0078】
ポリマー組成物(C)を溶融配合するための好適な連続装置の例は、スクリュー押出機である。好ましくは、溶融配合は、二軸押出機で実施される。
【0079】
ポリマー組成物(C)が、長い物理的形状を有する補強剤(例えば、長いガラス繊維)を含む場合、延伸押出成形が補強組成物を調製するために用いられ得る。
【0080】
物品及び用途
本発明は、また、上記の式(I)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)又はポリマー組成物(C)を含む物品、部品又は複合材料に、並びに石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙及び消費財における前記物品、部品又は複合材料の使用に関する。
【0081】
自動車用途に関しては、前記物品は、受け皿(例えば油受け)、パネル(例えば、クォーターパネル、トランク、フードを含むがそれらに限定されない、外装体パネル;並びに、ドアパネル及びダッシュパネルを含むがそれらに限定されない、内装体パネル)、サイドパネル、ミラー、バンパー、バー(例えば、トーションバー及びスウェイバー)、ロッド、サスペンション構成部品(例えば、サスペンションロッド、板ばね、サスペンションアーム)、並びにターボチャージャー構成部品(例えばハウジング、ボリュート、圧縮機ホイール及びインペラー)、パイプ(例えば燃料、冷却剤、空気、ブレーキ液を運ぶための)であることができる。石油及びガスの用途に関しては、前記物品は、ダウンホール掘削管、化学薬品注入管、海底アンビリカル及び油圧制御ラインなどの、採掘構成部品であることができる。前記物品は、携帯用電子装置構成部品であることもできる。
【0082】
一実施形態によれば、本発明の複合材料は、連続繊維補強熱可塑性樹脂複合材である。繊維は、炭素、ガラス、又はアラミド繊維などの有機繊維から構成され得る。
【0083】
一実施形態によれば、本発明の物品は、熱可塑性樹脂に適合した任意のプロセス、例えば押出、射出成形、ブロー成形、回転成形又は圧縮成形によって、本発明の式(I)のPAS又はポリアミド組成物(C)から成形される。
【0084】
別の実施形態によれば、本発明の物品は、例えばフィラメントの形態にある、材料の押出の工程を含む方法によってか、又はこの場合に粉末の形態にある、材料のレーザー焼結の工程を含む方法によって、本発明の式(I)のPAS又はポリマー組成物(C)から3D印刷される。
【0085】
式(I)のPAS又はポリマー組成物(C)は、それ故、3D印刷のプロセス、例えば、熱溶解積層法(FDM)としても知られる、溶融フィラメント製造法に使用されるスレッド若しくはフィラメントの形態に、又は3D印刷のプロセス、例えば粉末焼結積層造形法(SLS)に使用される粉末の形態にあることができる。
【0086】
したがって、本発明の式(I)のPAS又はポリマー組成物(C)は、有利に、3D印刷用途向けに使用することができる。
【0087】
本発明はこれから以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0088】
原材料
Ryton(登録商標)QA281Nは、Solvay Specialty Polymers USAから市販されているポリ(フェニレンスルフィド)である。
【0089】
過酸化水素30%w/w水溶液は、Fischerから購入した。
【0090】
99%の純度の酢酸は、VWRから購入した。
【0091】
方法
DSC/融解熱
DSC分析は、ASTM D3418に準拠してDSC Q200-5293 TA Instrumentで実施し、データは、2回の加熱、1回冷却方法によって収集した。用いたプロトコルは以下の通りである:20.00℃/分で30.00℃~350.00℃の1回目の加熱サイクル;5分間等温;20.00℃/分で350.00℃~100.00℃の1回目の冷却サイクル;20.00℃/分で100.00℃~350.00℃の2回目の加熱サイクル。溶融温度(Tm)は、2回目の加熱サイクル中に記録され、溶融結晶化温度(Tmc)は、冷却サイクル中に記録される。
【0092】
GPC
Mn及びMwは、1-クロロナフタレン移動相を使ってPL 220高温GPCを用いる210℃でのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。
【0093】
メルトフローインデックス
メルトフローインデックスは、1.27kg荷重で315.6℃においてASTM D1238に準拠して測定した。
【0094】
機械的試験
130℃に調節された金型においてTm+30℃にセットされたバレル温度を用いて、試験検体を、ASTM D3641に準拠したタイプV引張試験片へ射出成形した。機械的試験は、Instron 5569機を用いて及び54.7%湿度の23.2℃でASTM D638に準拠して0.3インチのゲージ長で射出成形試験検体に関して行った。
【0095】
合成実施例
実施例1(Ex.1)
4枚傾斜型撹拌機、凝縮器、加熱用の二重ジャケット及びシリンジポンプを備えた1L反応器内で、窒素雰囲気下にRyton(登録商標)QA281N(200g、1.0当量)を酢酸(400mL)中に懸濁させた。
【0096】
得られた懸濁液を室温で撹拌し、過酸化水素30%w/w(6.0g、0.03当量)をシリンジポンプによって15分間にわたって添加した。
【0097】
温度を70℃まで上げ(二重ジャケットを75℃に設定)、反応混合物をこの温度で3時間撹拌した。撹拌速度は、300rpmに設定した。次いで、Quantofix過酸化物試験スティックを使った上清みの分析により、過酸化物が存在しないことを確認した。
【0098】
その後、反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。回収した固形分を室温にて酢酸で2回洗浄した(2×100mL)。その後、固形分を、回転エバポレーター中で20mbarの圧力下に及び50℃の温度で2時間乾燥させた。その後、回収した固形分を真空(約20mbar)下に120℃で7時間乾燥させた。
【0099】
得られた生成物は、式(I)(式中、jは0であり、npは97%であり、nq+nrは3%である)のポリ(フェニレンスルフィド)である。したがって、これらの条件下で、Ryton(登録商標)QA281Nのスルフィド部分の3モル%がスルホキシド及びスルホン部分へと酸化された。
【0100】
実施例2(Ex.2)
4枚傾斜型撹拌機、凝縮器、加熱用の二重ジャケット及びシリンジポンプを備えた1L反応器内で、窒素雰囲気下にRyton(登録商標)QA281N(200g、1.0当量)を酢酸(400mL)中に懸濁させた。
【0101】
得られた懸濁液を室温で撹拌し、過酸化水素30%w/w(10.0g、0.05当量)をシリンジポンプによって15分間にわたって添加した。
温度を70℃まで上げ(二重ジャケットを75℃に設定)、反応混合物をこの温度で3時間撹拌した。撹拌速度は、300rpmに設定した。次いで、Quantofix過酸化物試験スティックを使った上清みの分析により、過酸化物が存在しないことを確認した。
【0102】
その後、反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。回収した固形分を室温にて酢酸で2回洗浄した(2×100mL)。その後、固形分を、回転エバポレーター中で20mbarの圧力下に及び50℃の温度で2時間乾燥させた。その後、回収した固形分を真空(約20mbar)下に120℃で7時間乾燥させた。
【0103】
そのようにして得られた生成物は、式(I)(式中、jは0であり、npは95%であり、nq+nrは5%である)のポリ(フェニレンスルフィド)である。したがって、これらの条件下で、Ryton(登録商標)QA281Nのスルフィド部分の5モル%がスルホキシド及びスルホン部分へと酸化された。
【0104】
比較例(Ex.3C)
4枚傾斜型撹拌機、凝縮器、加熱用の二重ジャケット及びシリンジポンプを備えた1L反応器内で、窒素雰囲気下にRyton(登録商標)QA281N(200g、1.0当量)を酢酸(400mL)中に懸濁させた。
【0105】
得られた懸濁液を室温で撹拌し、過酸化水素30%w/w(20.0g、0.1当量)をシリンジポンプによって15分間にわたって添加した。
【0106】
温度を70℃まで上げ(二重ジャケットを75℃に設定)、反応混合物をこの温度で3時間撹拌した。撹拌速度は、300rpmに設定した。次いで、Quantofix過酸化物試験スティックを使った上清みの分析により、過酸化物が存在しないことを確認した。
【0107】
その後、反応混合物を室温まで冷却し、濾過した。回収した固形分を室温にて酢酸で2回洗浄した(2×100mL)。その後、固形分を、回転エバポレーター中で20mbarの圧力下に及び50℃の温度で2時間乾燥させた。その後、回収した固形分を真空(約20mbar)下に120℃で7時間乾燥させた。
【0108】
そのようにして得られた生成物は、式I(式中、jは0であり、npは90%であり、nq+nrは10%である)のポリ(フェニレンスルフィド)である。したがって、これらの条件下で、Ryton(登録商標)QA281Nのスルフィド部分の10モル%がスルホキシド及びスルホン部分へと酸化された。
【0109】
結果
表1は、Ex.1及びEx.2により合成されたポリ(フェニレンスルフィド)について得られたDSC値を示す。前記値を、Ryton(登録商標)QA281N及びEx.3Cにより合成されたポリ(フェニレンスルフィド)のそれらと比較する。
【0110】
【0111】
表1から明らかなように、ガラス転移温度(Tg)値は、酸化部分のモル%増加と共に上昇する。言い換えれば、Tg値は、ポリ(フェニレンスルフィド)の酸化状態と一緒に上昇する。これに反して、溶融温度(Tm)及び溶融結晶化温度(Tmc)は、酸化部分のモル%増加と共に低下する。冷却時の溶融結晶化温度は、Ex.3Cによるポリ(フェニレンスルフィド)について全く検出されなかった。
【0112】
表1から明らかなように、Ex.1、Ex.2及びEx.3Cにより合成されたポリ(フェニレンスルフィド)の融解熱(ΔH)及び、それ故、結晶化度は、Ryton(登録商標)QA281Nのものよりも低い。
【0113】
表2は、Ryton(登録商標)QA281Nの並びにEx.1、Ex.2及びEx.3Cにより合成されたポリ(フェニレンスルフィド)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を示す。
【0114】
【0115】
表2から明らかなように、Mwは、Ryton(登録商標)QA281Nと比較して酸化部分のモル%増加と共に増加するが、Ex.1、Ex.2及びEx.3Cのポリ(フェニレンスルフィド)については一致したままである。
【0116】
表3は、Ryton(登録商標)QA281N及びEx.3Cにより合成されたポリ(フェニレンスルフィド)のそれらと比べてEx.1及びEx.2により合成されたポリ(フェニレンスルフィド)のメルトフローインデックスを示す。
【0117】
【0118】
興味深いことに及び意外にも、表3から明らかなように、酸化部分のモル%増加と共にメルトフローインデックスの着実な低下、したがって、酸化部分のモル%と一緒に粘度の着実な増加がある。結果として、Ex.1及びEx.2のポリ(フェニレンスルフィド)は、有利に、押出成形用途向けに使用することができる。これに反して、Ryton(登録商標)QA281Nの粘度はそのような用途向けに十分に高くないが、Ex.3のポリ(フェニレンスルフィド)の粘度は高過ぎて、ポリマーが実験中に分解したように思われる。
【0119】
表4は、Ex.1及びEx.2のポリ(フェニレンスルフィド)の機械的特性を、Ryton(登録商標)QA281N及びEx.3Cのポリ(フェニレンスルフィド)のそれらと比較して報告する。Ex.1及びEx.2のポリ(フェニレンスルフィド)は、対照ポリマーRyton(登録商標)QA281Nと類似の成形能力を有した。Ex.3Cのポリ(フェニレンスルフィド)は、成形がより困難であった。
【0120】
【0121】
表4に報告されるデータは、Ex.1及びEx.2による試験片の破断点引張応力及び弾性率が、Ryton(登録商標)QA281Nと比較したときに有意に低下しないことを示す。これは、Ex.1及びEx.2によるポリ(フェニレンスルフィド)が、Ryton(登録商標)QA281Nのそれらに類似の引張強度特性を有することを意味する。これに反して、Ex.3Cによる試験片は、Ryton(登録商標)QA281N並びに本発明によるEx.1及びEx.2のポリ(フェニレンスルフィド)よりも低い破断点引張応力、それ故、低い引張強度を有する。
【0122】
表4はまた、Ex.1及びEx.2による試験片がRyton(登録商標)QA281Nよりも高い引張伸びを有することを示し、これは、Ex.1及びEx.2のポリ(フェニレンスルフィド)がより高い破断点伸び及びより高い耐衝撃性を有すること、すなわち、それらがRyton(登録商標)QA281Nよりも延性があり、且つ、強靱であることを意味する。意外にも、Ex. 3Cによる試験片は、Ryton(登録商標)QA281N並びに本発明によるEx.1及びEx.2の試験片の両方よりも低い破断点伸びを有する。
【0123】
それ故、表4から明らかなように、2~9モル%の酸化を有する、Ex.1及びEx.2によるポリ(フェニレンスルフィド)は、破断点引張応力、弾性率及び引張伸びの間の改善されたバランス、すなわち、延性、靱性及び引張強度の間の改善されたバランスを示す。前記特性は、本発明によるポリ(フェニレンスルフィド)を、射出成形品、押出成形品、3D印刷品及び熱可塑性複合材などの異なる用途向けに好適なものにする。これに反して、Ryton(登録商標)QA281Nは、非常に低い引張伸びを示し、Ex.3Cによるポリ(フェニレンスルフィド)は、非常に低い破断点引張応力及び非常に低い破断点伸びの両方を示す。
【国際調査報告】