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特表2022-533366プライマー認識が改良されたPhi29 DNAポリメラーゼ変異体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-22
(54)【発明の名称】プライマー認識が改良されたPhi29 DNAポリメラーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20220714BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20220714BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220714BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220714BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220714BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220714BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220714BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220714BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220714BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N9/10
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/6844 Z
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568525
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(85)【翻訳文提出日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2020063740
(87)【国際公開番号】W WO2020234200
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】62/849,252
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520176463
【氏名又は名称】4ベースバイオ ソシエダー リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ ダビラ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ピチャー セランテス アンヘル ホアキン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA29
4B065CA60
(57)【要約】
本明細書では、野生型酵素と比較して、プライマー認識が改良されたバクテリオファージPhi29 DNAポリメラーゼの変異体が開示される。特定の変異体は、変異K64RまたはM97Kの一方または両方を含む。提供される変異体は、野生型Phi29 DNAポリメラーゼと比較して、より短いおよびより長いランダム合成DNAプライマーをより効率的に使用することができ、多重置換増幅(Multiple Displacement Amplification:MDA)反応においてより多くの増幅産物を生成する。本発明の変異体は、野生型Phi29 DNAポリメラーゼを用いて実施した反応と比較して、より少ないバイアスおよびより良好なカバレッジでヒトゲノムDNAを増幅する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異K64RまたはM97Kの一方または両方を含む、Phi29型DNAポリメラーゼ。
【請求項2】
SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、Phi29型DNAポリメラーゼ。
【請求項3】
テンプレートDNAを複製、増幅、または配列決定するための方法であって、該DNAを、少なくとも
(a)請求項1または2に記載のDNAポリメラーゼ、
(b)緩衝液、
(c)塩化マグネシウム、
(d)プライマー、および
(e)ヌクレオシド三リン酸
を含む反応混合物と接触させる段階を含む、前記方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法を実施するためのキットであって、(a)請求項1または2に記載のDNAポリメラーゼ、(b)緩衝液、および(c)塩化マグネシウムを含む、前記キット。
【請求項5】
請求項3に記載の方法を実施するためのキットであって、請求項1または2に記載のDNAポリメラーゼと、
(a)PrimPol酵素(例えば、TthPrimPol)、
(b)ランダムトリマー、
(c)ランダムテトラマー、
(d)ランダムペンタマー、
(e)ランダムヘプタマー、
(f)ランダムオクタマー、
(g)dNTP、
(h)反応緩衝液、
(i)上記要素のいずれかと一緒に使用するための緩衝液
のうちの1個または複数とを含む、前記キット。
【請求項6】
SEQ ID NO: 1と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%または99.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつアミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方を含む、Phi29型DNAポリメラーゼ。
【請求項7】
SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4の配列を有する、請求項6に記載のPhi29型DNAポリメラーゼ。
【請求項8】
アミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方に加えて、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個以下のアミノ酸置換、付加または欠失を有する、請求項6に記載のPhi29型DNAポリメラーゼ。
【請求項9】
Phi29型DNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子であって、該Phi29型DNAポリメラーゼが、SEQ ID NO: 1と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、または99.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ該Phi29型DNAポリメラーゼが、アミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方を含む、前記単離された核酸分子。
【請求項10】
前記Phi29型DNAポリメラーゼが、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4の配列を有する、請求項9に記載の単離された核酸分子。
【請求項11】
前記Phi29型DNAポリメラーゼが、アミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方に加えて、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個以下のアミノ酸置換、付加または欠失を有する、請求項9に記載の単離された核酸分子。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載のPhi29型DNAポリメラーゼと機能的に連結された転写調節配列を含む、組換え核酸。
【請求項13】
前記転写調節配列が、細菌または哺乳類のプロモーターを含む、請求項12に記載の組換え核酸。
【請求項14】
プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミド、およびトランスポゾンから選択されるベクターに含まれる、請求項12に記載の組換え核酸。
【請求項15】
クローニング部位に挿入された転写調節配列が、Phi29型DNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列と機能的に連結されるように、Phi29型DNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列に対して配置されたクローニング部位を含む、請求項14に記載の組換え核酸。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載の組換え核酸を含む、組換え細胞。
【請求項17】
(a)核酸テンプレート分子を、請求項1、2および6~8のいずれか一項に記載のPhi29型DNAポリメラーゼならびにプライマー伸長に十分な試薬と接触させる段階;および
(b)該核酸テンプレートを用いて該ポリメラーゼでプライマー伸長を行う段階
を含む、方法。
【請求項18】
前記プライマー伸長に十分な試薬が、オリゴヌクレオチドプライマーを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記オリゴヌクレオチドプライマーが、トリマー、テトラマー、ペンタマー、ヘキサマー、オクタマー、ノナマー、または10マーのうちの1個または複数を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記プライマーがランダムプライマーである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記オリゴヌクレオチドプライマーが、5~25ヌクレオチドのリンクを有する、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記プライマー伸長に十分な試薬が、プライマーゼ/ポリメラーゼ(例えば、TthPrimPol)を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記プライマー伸長が、約31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃もしくは42℃のいずれかの温度、または31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃もしくは42℃を上回る温度で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記テンプレート核酸分子が、1ng、100pg、10pg、または1pg以下の量で存在する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記プライマー伸長が、(1)多重置換増幅(「MDA」)または(2)ローリングサークル増幅を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記プライマー伸長が、多重アニーリング・ルーピングベースの増幅サイクル(multiple annealing and looping-based amplification cycle:MALBAC)を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記Phi29型DNAポリメラーゼが、置換K64RおよびM97Kの両方を含む、請求項17~26のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
本出願は、2019年5月17日に出願された米国仮出願第62/849,252号の優先日の恩典を主張するものであり、その内容は全体として本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願には、コンピュータ可読形式の配列表が含まれており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
Phi29 DNAポリメラーゼ(Phi29 DNApol)は、線状dsDNA分子の両端でのタンパク質プライミングの開始(protein-primed initiation)と、各DNA鎖の完全伸長との両方を触媒することによってバクテリオファージゲノム(19285bp)の複製を担当する、単量体酵素(66kDa)である(Blanco and Salas, 1984; 1985)。Phi29 DNApolは、DNAポリメラーゼのファミリーBに属し(Bernad et al, 1987)、パーム(palm)、サム(thumb)、フィンガー(finger)のサブドメインを含むだけでなく、さらにTPR1とTPR2と呼ばれる2個の追加ドメインをも含む、一般的な右手フォールド(right-hand fold)を示す(Rodriguez et al, 2005; Kamtekar et al, 2006; Berman et al, 2007)。Phi29 DNApolは、数多くのDNA増幅・DNA配列決定の技術およびプラットフォームでのその応用を可能にするユニークな特性を示す:プロセシビティ因子(processivity factor)の非存在下で、該酵素がDNA結合イベントごとに70000超のヌクレオチドを組み込むことを可能にする、高度なプロセッシブDNA合成(Blanco et al, 1989);ヘリカーゼ型酵素の非存在下で、二本鎖DNAの巻き戻しに連動した重合を可能にする、極めて優れた鎖置換(strand-displacement)(Blanco et al, 1989);非常に低いエラー挿入率(10-4~10-6)と、挿入されたエラーの効率的な校正により、合わせて、組み込まれた106~108ヌクレオチドで最大1個のエラーにまで忠実度が向上する、高い合成の忠実度(Esteban et al, 1993 and 1994)。
【0004】
これらの特性により,Phi29 DNApolは、等温の多重置換増幅(multiple displacement amplification:MDA)(Dean et al, 2002)およびローリングサークル増幅(rolling circle amplification:RCA)(Lizardi et al, 1998)にとって最適な選択肢となる。これらのDNA増幅技術は、Phi29 DNApolと、主にヘキサヌクレオチドつまりヘキサマーであるランダム合成プライマー(RP)、または増幅反応中にその場でDNAプライマーを合成できるDNAプライマーゼのいずれかと、の組み合わせに基づいている(Picher et al, 2016)。
【0005】
現在の配列決定技術では、特定のサンプル(例えば、単一細胞)から得られるDNAの量が配列決定プロセスに十分ではないため、DNAの増幅が頻繁に必要となる。残念ながら、DNAの増幅には、エラーを導入したり、非対称(バイアス)を発生したり、さらには微量レベルの汚染DNAの同時増幅を促進したりするリスクがある。それゆえに、増幅の品質を決める重要なパラメータは、反応産物中の汚染物とアーティファクトの非存在、カバレッジ(coverage)の広がりと均一性、低いヌクレオチドエラー率、ならびに一塩基バリアント(SNV)、コピー数バリアント(CNV)および構造バリアントを正常な状態に戻す能力である。
【0006】
ランダムヘキサマーに基づく現在のMDA法における潜在的な増幅バイアスの原因は、該オリゴヌクレオチドの配列依存的ハイブリダイゼーションの速度が異なることから生じるプライミングの不均等である。さらに重要なのは、自己ペアリング(self-pairing)するヘキサマーの指数関数的増幅によって引き起こされる、プライマー由来のインプット非依存性のDNA増幅アーティファクトを生成する傾向があることである。
【0007】
ヘキサマーの代わりにより長いプライマーを使用して、反応温度を40℃にすると、DNA増幅のアーティファクトが大幅に減少することが示されている(Alsmadi et al, 2009)。この挙動の背後にある最も可能性の高い理由は、温度がより高いと、プライマーの安定した自己ペアリングの可能性が減り、そのためにそれらの後続の増幅が減少することである。しかしながら、40℃という高い温度(Phi29 DNApolの最適温度より10℃高い)で増幅反応を行うためには、熱安定性または熱抵抗性のPhi29 DNApolバリアントが必要である。これに関連して、いくつかの変異型Phi29 DNApolは、改良された熱安定性を示すことが記載されている(Povilaitis et al, 2016)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本明細書に組み入れられ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、例示的な態様を示すものであり、説明と一緒に、関連分野の当業者がこれらの態様および当業者に明らかな他の態様を実施しかつ使用できるようになるのにさらに役立つ。以下の図面と併せて、本発明をより具体的に説明することにする。
図1】DNAおよびdNTPと複合体を形成したPhi29 DNApolの3D構造(PDB id:2PYL)。サム(ダークグリーン)、TPR2(シアン)およびTPR1(イエロー)のサブドメインを除いて、このタンパク質の大部分は白で示される。N末端の3'-5'エキソヌクレアーゼドメインは完全には描かれていない(2個のセグメントのみが示され(イエロー)、1つはArg96を含み、もう1つはLys64を含む)。プライマー鎖(シアン)については、各ヌクレオチド位置に対応する番号が示されている。テンプレート鎖(ライトグリーン)と、入ってくるヌクレオチド(マゼンタ)と、2個の活性化金属イオン(ベージュ)も示されている。
図2】A)結晶構造(PDB id: 2PYL)から誘導された、プライマー鎖の最初の10ヌクレオチドとの相互作用に関与する野生型(WT)Phi29 DNApolアミノ酸残基の模式図。1の番号をつけたヌクレオチドは最も3'末端にあり、しばしば「プライマー末端」と呼ばれており、酵素活性部位に最も近いものである。B)この図は、(マゼンタで)示される様々な変異によって生じた、プライマー鎖との新しい相互作用の獲得を示している。色のついた矢印は、ホスホジエステル(レッド)、糖(オレンジ)、または塩基(グリーン)のいずれが相互作用に関わるかを示している。変異体T499KおよびT499Rは、相補鎖/テンプレート鎖の同じ位置(破線の矢印で示される)と相互作用することが予測される。
図3-1】増幅反応へのインプットとして1ngのヒトゲノムDNAを使用する場合の、TthPrimPolまたは長さの異なるランダムプライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))と組み合わせた、WT Phi29 DNApolまたは設計された変異体の増幅効率。
図3-2】図3-1の続きの図である。
図3-3】図3-2の続きの図である。
図4】提供されたデオキシヌクレオチド(dNTP)濃度の関数としての、WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、および二重変異体K64R/M97Kのエキソヌクレアーゼ活性とポリメラーゼ活性のバランス。
図5】増幅反応へのインプットとして1ngのヒトゲノムDNAを使用する場合の、長さの異なるランダムプライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))と組み合わせた、WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97Kおよび二重変異体K64R/M97Kの増幅効率。各プライマーの長さNごとに、縦棒は、左から右に次の順序で示される:WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、二重変異体K64R/M97K。
図6】低イオン強度条件下で、サイズの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))と組み合わせた、WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97Kまたは二重変異体K64R/M97Kのいずれかを用いて、インプットDNAの非存在下で観察された増幅収量。各プライマーの長さNごとに、縦棒は、左から右に次の順序で示される:WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、二重変異体K64R/M97K。
図7】高イオン強度条件下で、サイズの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))と組み合わせた、WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97Kまたは二重変異体K64R/M97Kのいずれかを用いて、インプットDNAの非存在下で観察された増幅収量。各プライマーの長さNごとに、縦棒は、左から右に次の順序で示される:WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、二重変異体K64R/M97K。
図8】高イオン強度条件下で、増幅反応へのインプットとして1ngのヒトゲノムDNAを使用する場合の、長さの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))と組み合わせた、WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97Kおよび二重変異体K64R/M97Kの増幅効率。各プライマーの長さNごとに、縦棒は、左から右に次の順序で示される:WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、二重変異体K64R/M97K。
図9-1】低イオン強度および高イオン強度の条件下で、増幅反応において異なるヒトゲノムDNAインプット量(1、10、100pgおよび1ng)を使用する場合の、長さの異なるランダム合成プライマー(テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N))と組み合わせた、WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97Kおよび二重変異体K64R/M97Kの増幅効率。各プライマーの長さNごとに、縦棒は、左から右に次の順序で示される:WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、二重変異体K64R/M97K。
図9-2】図9-1の続きの図である。
図9-3】図9-2の続きの図である。
図10】Phi29 DNApolバリアントとTthPrimPolを組み合わせた多重置換増幅(MDA)による1、10、100pgおよび1ngのヒトゲノムDNAの増幅。各DNA量ごとに、縦棒は、左から右に次の順序で示される:WT Phi29 DNApol、変異体K64R、変異体M97K、二重変異体K64R/M97K。
図11-1】カバレッジの違いが観察され得る条件に達するために、各場合にPhi29 DNApolバリアントおよび異なるヒトゲノムDNAインプット量と組み合わせて、ヘキサマー(6N)、ペンタマー(5N)およびテトラマー(4N)を用いた増幅反応のCovCheck解析から得られた推定カバレッジ値。
図11-2】図11-1の続きの図である。
図12】TthPrimPolとPhi29 DNApolバリアントとを組み合わせて実施した増幅反応のCovCheck解析から得られた推定カバレッジ値。
【発明の概要】
【0009】
概要
改変型DNAポリメラーゼは、DNA配列決定、DNA増幅、ライブラリー調製、DNAジェノタイピングなど、様々な用途に有用であり得る。本発明は、これらの用途または他の用途に特に望ましい、改良された特性を与える変異を含む組換え型のPhi29 DNAポリメラーゼを提供する。こうしたアミノ酸配列の変化は、より短いランダム合成プライマーを使用することによって多重置換DNA増幅(MDA)の性能を向上させることができ、その結果、増幅アーティファクトが減少し、配列依存性ハイブリダイゼーションの速度が向上し、それゆえに、改良されたカバレッジの広がりと均一性が得られる。「Phi29」は「φ29」と書かれることもある。
【0010】
組換えPhi29 DNAポリメラーゼは、K64RおよびM97Kからなる群より選択される1個または2個の変異を含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
I. 定義
「単離された」とは、ある分子が組成物中に存在する主たる種であること、すなわち、モルベースで、組成物中の他の個々の高分子種よりも豊富であることを意味する。一般的に、単離された分子は、組成物中に存在する高分子種の80%超、90%超、95%超、98%超、または99%超を占めることができ、関心対象の精製された種である。溶媒種、小分子(<500ダルトン)、安定剤(例:BSA)、および元素イオン種は、この定義の目的上、高分子種とは見なされない。
【0012】
本明細書で使用する用語「組換え核酸」とは、自然界では通常互いに結合していない2個以上の結合したヌクレオチド配列を含む核酸分子を指す。
【0013】
本明細書で使用する用語「組換え細胞」とは、組換え核酸を含む細胞、例えば、動物、植物、真菌または微生物(例:細菌)の細胞を指す。
【0014】
2個以上のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の配列関係を表すために使用される用語には、「参照配列」、「から選択される」、「比較ウィンドウ」、「同一」、「配列同一性のパーセンテージ」、「実質的に同一」、「相補的」および「実質的に相補的」が含まれる。
【0015】
「参照配列」とは、配列比較の基準として使用される定義された配列であり、より大きな配列、例えば、完全なcDNA、タンパク質、または遺伝子配列、のサブセットであり得る。
【0016】
2個の核酸またはポリペプチドはそれぞれ、(1)2個の核酸間で類似している配列(すなわち、完全な核酸またはポリペプチド配列の一部のみ)、または(2)2個の核酸間で分岐している配列を含み得るため、2個(またはそれ以上)の核酸またはポリペプチド間の配列比較は、通常、配列類似性の局所領域を特定して比較する「比較ウィンドウ」にわたって2個の核酸の配列を比較することにより行われる。
【0017】
「比較ウィンドウ」とは、参照配列と比較される、典型的には少なくとも12個連続したヌクレオチドまたは4個連続したアミノ酸残基の概念的セグメントを指す。比較ウィンドウは、多くの場合、少なくとも15もしくは少なくとも25ヌクレオチド、または少なくとも5もしくは少なくとも8アミノ酸の長さを有する。比較ウィンドウは、2個の配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、約20%以下の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。比較ウィンドウをアラインするための最適な配列アラインメントは、アルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI))のコンピュータ化実装によって、または精査(inspection)によって実施することができ、様々な方法のいずれかにより得られる最良のアラインメント(すなわち、比較ウィンドウにわたって最高の相同性パーセンテージをもたらすもの)が選択される。
【0018】
対象のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列が参照配列と「同一」であるとは、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の長さにわたって最大の対応(一致)関係になるようにアラインしたときに、これらの2個の配列が同じになる場合である。
【0019】
2個の配列間の「配列同一性のパーセンテージ」を算出するには、比較ウィンドウにわたって最適にアラインした2個の配列を比較し、両配列で同一のヌクレオチドまたはアミノ酸が出現する位置を数えて一致した位置の数とし、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で除算し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得る。
【0020】
特に指定のない限り、2個の配列を比較するために使用される比較ウィンドウは、短い方の配列の長さである。
【0021】
これらの方法については、Natl. Acad. Sci. USA 85:2444; Higgins & Sharp (1988) Gene 73:237-244; Higgins & Sharp, CABIOS 5:151-153 (1989); Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Research 16:10881-90; Huang et al. (1992) Computer Applications in the Biosciences 8:155-65; およびPearson et al. (1994) Methods in Molecular Biology 24:307-31にさらに記載されている。アラインメントは、精査および手動アラインメントによって行われることも多い。
【0022】
対象のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列が参照配列と「実質的に同一」であるとは、対象のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列が比較ウィンドウにわてって少なくとも80%の配列同一性を有する場合である。したがって、参照配列と少なくとも85%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも98%の配列同一性、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列も「実質的に同一」である。当然、互いに同一の2個の配列も「実質的に同一」である。
【0023】
本明細書で使用する用語「転写調節配列」とは、それが機能的に連結されている第2のヌクレオチド配列の転写を調節する第1のヌクレオチド配列を指す。
【0024】
本明細書で使用する、あるヌクレオチド配列が転写調節配列と「機能的に連結」されるとは、その転写調節配列が該ヌクレオチド配列の転写を調節するように細胞内で機能する場合である。これには、ポリメラーゼとプロモーターの間の相互作用を介して該ヌクレオチド配列の転写を促進することが含まれる。
【0025】
「プロモーター」とは、DNAのヌクレオチド配列からRNA転写物への転写を促進するのに少なくとも十分な転写調節配列のことである。プロモーターから転写される転写物には、通常、転写開始部位の下流のプロモーターからの配列、ならびにmRNAの場合にはアミノ酸配列をコードする下流の配列が含まれる。プロモーターは、転写開始部位のすぐ上流にある予測可能な位置のため、最もよく特徴付けられた転写調節配列である。プロモーターには、RNAポリメラーゼの認識、結合および転写開始活性を調節する配列が含まれる。これらの配列は、シス作用性であったり、トランス作用因子に応答性であったりする。プロモーターは、調節の性質に応じて、構成的であっても、制御されるものであってもよい。それらは、しばしば、コアプロモーター領域と拡張プロモーター領域という2個の別個のセグメントを有すると記載されている。
【0026】
コアプロモーターには、RNAポリメラーゼの認識、結合および転写開始に十分である配列が含まれる。コアプロモーターには、転写開始部位、RNAポリメラーゼ結合部位、およびその他の一般的な転写結合部位が含まれ、ここで開始前複合体(pre-initiation complex)が形成され、かつ一般的な転写機構が組み立てられる。開始前複合体は、一般に、転写開始部位(TSS)から50ヌクレオチド(nt)以内にある。
【0027】
また、コアプロモーターには、mRNAからポリペプチドへの翻訳に必要なリボソーム結合部位の配列も含まれる。
【0028】
拡張プロモーター領域には、いわゆる近位プロモーターが含まれ、これは転写開始部位の上流約250ヌクレオチド(すなわち、-250nt)まで延びている。これには、特定の転写因子の結合部位などの一次調節エレメントが含まれる。多くの遺伝子は、さらに上流に位置する転写調節エレメントを有することがわかっている。特に、ある遺伝子の転写調節エレメントの大部分を含む断片は、転写開始部位から上流に700nt以上も延在し得る。ある種の遺伝子では、転写調節配列が転写開始部位の数千ヌクレオチド上流で見つかっている。
【0029】
本明細書で使用する、第1のヌクレオチド配列が第2のヌクレオチド配列に対して「異種」であるとは、第1のヌクレオチド配列が、自然界で第2のヌクレオチド配列と結合していない、例えば、機能的に連結していない場合である。ひいては、あるポリペプチドが転写調節配列に対して「異種」であるとは、そのポリペプチドが該転写調節配列に対して異種のヌクレオチド配列によってコードされている場合である。
【0030】
本明細書で使用する用語「アレルバリアント」とは、ある遺伝子の自然界に存在するバリエーションを指す。
【0031】
本明細書で使用する用語「人工バリアント」とは、自然界に存在する遺伝子またはタンパク質に1個または複数の遺伝的改変を加えた遺伝子またはタンパク質を指す。
【0032】
本明細書で使用する用語「変異」とは、一般に、野生型に比べてヌクレオチド配列の改変、バリアントまたは多型を指す。そのような改変、バリアントまたは多型は、例えばゲノムデータベースにおける、参照ゲノムに対するものであり得る。変異には、一塩基バリエーション(SNV)、置換、挿入または欠失(まとめて「インデル」(indel)とも呼ばれる)、およびリピートが含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
II. はじめに
増幅アーティファクトと、配列依存性のハイブリダイゼーションの速度から生じる増幅バイアスとを減らすための新規戦略では、現在のゴールドスタンダードであるヘキサマーよりも短いDNAプライマーの使用をうまく利用できる可能性がある。この戦略は、より短いDNAプライマーを認識し、それと安定的に結合し、かつそれを効率的に使用できるPhi29 DNApolバリアントを取得することを必要とする戦略であって、現在のDNA増幅技術を大幅に改良することができるであろう。
【0034】
DNAおよび入ってくるヌクレオチドと複合体を形成したPhi29 DNApolの3D構造が入手可能になったことで(Berman et al, 2007)、プライマー鎖との相互作用に直接関与するアミノ酸残基の詳細な精査を行うことができた(図1)。プライマー鎖のこれらのリガンド(図2Aのスキームを参照)は以下の通りである:
・ R96(プライマーのヌクレオチド7と8の間のホスホジエステルと相互作用する)。
・ R306(プライマーのヌクレオチド8と9の間のホスホジエステルと相互作用する)。
・ R308(プライマーのヌクレオチド9と10の間のホスホジエステルと相互作用する)。
・ K498(プライマーの最初の3'ヌクレオチドの糖と相互作用する)。
・ Y500(プライマーのヌクレオチド1と2の間のホスホジエステルと相互作用する)。
・ K529(プライマーのヌクレオチド1と2の間のホスホジエステルと相互作用する)。
【0035】
これらの数少ない接触に基づいて、Phi29 DNApolは、プライマー鎖の最初の10塩基に広がる直接的な相互作用を確立しており、そのようなサイズはプライマーに最大の結合安定性を与えていることが示唆される。ヌクレオチド3と6の間に接触がないということは非常に驚くべきことである。驚いたことに、Phi29 DNApolを用いる現在のMDA手法はランダムヘキサマーの提供に基づいており、ランダムヘキサマーは、最初の2個のヌクレオチド間のホスホジエステル結合との接触および3'末端ヌクレオチドの塩基との接触だけでわずかに安定化されているにすぎない。そのために、ヘキサマーは、Phi29 DNApolが結合して伸長するための初期プライマーとして使用するのに最適なサイズではない。これらの準最適なプライマーは、プライマーダイマーとして知られる自己ハイブリダイゼーションアーティファクトを最小限に抑えながら、効率的かつ均一な増幅を可能にするために、十分に短い間隔で任意のDNAサンプル中に相補体を有するように選択された可能性が非常に高い。
【0036】
一方、代替のTruePrime DNA増幅技術(Picher et al, 2016)は、DNAプライマーをオンデマンドで合成するためにDNAプライマーゼ(TthPrimPol)を利用するが、TthPrimPolによってPhi29 DNApolに供給される最適なプライマーサイズがどのサイズであるのか、また、Phi29 DNApolによる最適な伸長に必要な最小サイズよりも短いままであるこれらのプライマーの運命がどのようなものであるのかは、これまで確立されていない。
【0037】
この情報および警告に基づいて、本発明者らは、理想的には4~6ヌクレオチドの範囲内で、短いプライマーに対する親和性が向上したPhi29 DNApol変異体(本発明のバリアント)を生成する可能性を探った。この目的のために、本発明者らは2個の異なるアプローチに従った:1)いくつかの既存の相互作用を強化する、2)プライマー領域に新しい(既存のものではない)酵素:DNAリガンドを作成する。
【0038】
このような改良型のバリアントは、RPベースのMDA法において価値があると期待され、プライマーダイマーのアーティファクトおよび増幅キメラの形成を減らす可能性が高い。さらに、TruePrime DNA増幅技術との関連では、TthPrimPolによって生成され得る短いプライマーを使用することで、増幅の効率が向上し、かつ/またはカバレッジの改良につながる可能性がある。
【0039】
今回も、Phi29 DNApolの3D構造の詳細な解析により(Berman et al, 2007)、「機能獲得」(gain of function)変異の候補として5個のアミノ酸残基を選択することができた。これらの残基は以下の通りである:Lys64(ExoIIモチーフにある)、Met97(WT Phi29 DNApolのプライマーリガンドであるArg96に隣接)、Thr499(WT Phi29 DNApolの2個のプライマーリガンドであるLys498およびTyr500に隣接)、Thr534およびLys538(WT Phi29 DNApolのプライマーリガンドであるLys529に近接)。これらの残基で選択された変異(図2Bにまとめてある)は以下の通りであった:
・ K64R、プライマー鎖の残基4と5の間のホスホジエステルとの相互作用の獲得をもたらす。
・ K64KG; K64KK; L63LG; L63LH、Lys64を挟む+1挿入変異であり、BファミリーDNAポリメラーゼの異なるExoIIモチーフで観察される不均一性と一致するように設計された。これらの変化も、プライマー鎖の残基4および5との相互作用を獲得すると予測される。
・ R96K、プライマーの残基7と8の間のホスホジエステル結合との相互作用を弱めると予測される。
・ M97K、プライマー鎖のヌクレオチド5の窒素塩基との相互作用の獲得をもたらす。
・ M97R、プライマー鎖のアミノ酸残基4および5の塩基との相互作用の獲得をもたらす。
・ T499K、テンプレート鎖のアミノ酸残基5の糖との相互作用の獲得をもたらす。
・ T499R、テンプレート鎖のアミノ酸残基4および5の糖との相互作用の獲得をもたらす。
・ K529R、プライマー鎖の残基1と3の間のホスホジエステル結合との二重相互作用の獲得をもたらす。
・ T534K、プライマー鎖のアミノ酸残基4の糖との相互作用の獲得をもたらす。
・ T534R、プライマー鎖の残基3と4の間のホスホジエステルとの相互作用の獲得をもたらす。
・ K538R、プライマー鎖の残基2と3の間のホスホジエステルとの相互作用の獲得をもたらす。
【0040】
短いプライマーに対するPhi29 DNApolの親和性を高めるように設計された上記の変異体は、WT Phi29 DNApolを得るための標準的なプロトコルに従って発現させ、精製された。導入された変異によって生じるプライマー鎖との相互作用の特定の獲得が、転座、プロセシビティなどのPhi29 DNApol機能、または適切な(TthPrimPol)およびランダムプライマーによるDNA増幅技術に悪影響を与えるかどうかは予測することができない。
【0041】
III. 核酸、発現構築物、組換え細胞、および変異型ポリメラーゼポリペプチド
A. 核酸
本明細書では、プライマー認識が改良された変異型Phi29ポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を有する核酸が提供される。野生型Phi29ポリメラーゼのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 1に示される。変異型Phi29ポリメラーゼの配列をコードする核酸は、変異K64RおよびM97Kの一方または両方を有する。いくつかの態様では、これらの変異の一方または両方をコードするヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 1の配列と実質的に同一である。
【0042】
B. 発現構築物
また、本明細書では、本明細書に記載の変異型Phi29ポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列と機能的に連結された転写調節配列を含む発現構築物が提供される。この発現構築物は、プラスミドの形態、または対象となる細胞での発現に適した任意の他の形態をとることができる。
【0043】
C. 組換え細胞
また、本明細書では、本明細書に記載の発現構築物を含む組換え細胞が提供される。特定の態様では、該細胞は細菌の細胞である。このような組換え細胞は、本開示の核酸分子を複製するため、および本開示の変異型Phi29ポリメラーゼを生産するために有用である。変異型Phi29ポリメラーゼは、発現構築物を含む組換え細胞を培養することによって生産され得る。使用する転写調節配列は、構成的プロモーターを含むことができる。
【0044】
D. 変異型Phi29ポリメラーゼ
また、本明細書では、プライマー認識が改良された変異型Phi29ポリメラーゼも提供される。本開示の変異型Phi29ポリメラーゼは、SEQ ID NO: 1(UniProtKB - P03680としても寄託)のアミノ酸配列と実質的に同一であり、かつアミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方を含むアミノ酸配列を有する。
【0045】
実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリメラーゼは、それらがアミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方を含むという条件で、アレルバリアントなどの自然界に存在する配列に基づくことができる。そのようなバリアントは、野生型配列SEQ ID NO: 1と比較して、多くても30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1個、または30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1個以下の、アミノ酸置換、付加または欠失のいずれかを有することができ、この場合もアミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方が存在することを条件とする。
【0046】
好ましくは、本発明のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4と少なくとも80%の同一性を有する。より好ましくは、本発明のポリメラーゼのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4と少なくとも90%の同一性を有する。さらにより好ましくは、本発明のポリメラーゼのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4である。
【0047】
IV. 使用方法
本明細書では、本明細書に記載の変異型Phi29ポリメラーゼを用いて、プライマー伸長および/または核酸重合を行う方法が提供される。プライマー伸長の方法は、核酸の複製、増幅および配列決定に有用である。
【0048】
プライマー伸長には、プライマーの核酸分子テンプレートへのハイブリダイゼーションと、それに続いてプライマーの3'末端にヌクレオチドを付加するポリメラーゼにより触媒される重合反応が含まれる。プライマーは、外因的に反応混合物に加えられるか、またはプライマーゼ/ポリメラーゼによって生成され得る。プライマーゼは、核酸テンプレートに相補的な、プライマーと呼ばれるオリゴヌクレオチドの合成を触媒する酵素である。そのようなプライマーゼの1つが、例えばTthPrimPolである。
【0049】
核酸の増幅には、一般的に合成プライマーが使用される。そのようなプライマーは、典型的には、約6~約25ヌクレオチドの長さである。特定の配列を増幅しようとする場合、プライマーはターゲット配列に相補的な配列を持つことができる。全ゲノム増幅または他の無指向型増幅(nondirected amplification)の方法論のためには、ランダムプライマーが使用され得る。ランダムプライマーは、典型的には、オリゴヌクレオチドのコレクションまたはセットからなり、該セット内の1個または複数のプライマーのオリゴヌクレオチドの各位置には各塩基が存在する。特定の状況では、1個または複数の位置(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個)を、所定の塩基または2個もしくは3個の塩基の組み合わせで埋めることができる。
【0050】
A. 増幅
Mullis(US 5,656,493)によって紹介されたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによる、核酸の増幅は、医学的および生物学的研究で使用される不可欠の技術である。それは、核酸のクローニング、操作または配列決定、遺伝子のDNAベースの機能・系統発生解析、疾患の検出と診断、さらには科学捜査(法医学)および親子鑑定など、様々な用途に使用されて成功を収めている。
【0051】
B. ローリングサークル増幅
ローリングサークル増幅とは、一本鎖の共有結合閉環DNA分子など、共有結合で閉環したDNA分子を増幅する方法である。テンプレートDNA分子は、プライマー、例えばプライマーゼ/ポリメラーゼによって提供されるプライマーでプライミングされる。DNAポリメラーゼは、閉環DNA分子に沿ってプライマーに対してプライマー伸長を行う。そのポリメラーゼは、ハイブリダイズしたコピーを置き換え、テンプレートに沿ってポリヌクレオチドの伸長を継続して、連鎖状(concatenated)の増幅産物を生成する。
【0052】
C. 多重置換増幅(MDA)
多重置換増幅(MDA)は、PCRをベースとしない等温DNA増幅法である;この方法では、テンプレートからのプライミングと伸長によりssDNA鎖が生成され、これが鎖置換合成によって連続的に再プライミングされてコピーされることで、多分岐DNA構造が生成される。二本鎖DNAサンプルを最初に変性させた後、さらなる変性ラウンドを必要とせずに、DNA合成が増幅された分子の多くの位置から連続的にプライミングされて伸長され得るため、多重鎖置換増幅(MDA)は多分岐した構造をもたらす。新しいプライマーが1個のDNA分子テンプレートから分岐した領域へ伸長されるにつれて、分岐鎖が互いに置き換えられる。MDAは、例えば、2011年4月21日に公開されたWO2011/047307A1(「Multiple Displacement Amplification」)にも記載されている。MDAについては、次のように簡単に説明することができる:「自己生成されたssDNAテンプレート上の多数のプライミング部位でプライマーを伸長させる等温重合」。
【0053】
特定の態様では、MDAは、最初のテンプレートとその増幅されたコピー上の多数の部位での増幅を促すためのプライマーとして、ランダムなトリマー、テトラマー、ペンタマー、ヘキサマー、ヘプタマーまたはオクタマーを利用する。開示された方法の特定の態様では、プライミングは、TthPrimPolなどのDNAプライマーゼ/ポリメラーゼを用いて達成される。
【0054】
特定の態様では、二本鎖の線状ポリヌクレオチドの増幅は、以下を使用することを含む:1)ランダム合成プライマーおよび/またはDNA依存性プライマーゼ/ポリメラーゼ、例えばTthPrimPol;2)鎖置換活性を有する改変型のDNAポリメラーゼ、例えばPhi29 DNApol;3)dNTP。特定の態様では、dNTP基質は修飾されていない。他の態様では、dNTPは、例えば蛍光分子などの、標識基の結合によって修飾され得る。本明細書で使用する用語「標識」は、核酸分子などの分子に結合された化学部分を指す。検出可能な標識には、例えば、蛍光標識、発光標識、酵素標識、コロイド金または着色ガラスまたはプラスチックビーズなどの比色標識、および放射性標識が含まれる。これらの3種類の試薬は、組み合わさって、ランダム合成プライマーまたはプライマーゼ/ポリメラーゼのいずれかによって多重にプライミングされかつDNAポリメラーゼによって伸長される、所定のDNAの多重置換増幅(MDA)を促進する。さらに、ランダム合成プライマーおよび/またはプライマーゼ/ポリメラーゼとDNAポリメラーゼとの組み合わせは、増幅された分子のプライマーゼ/ポリメラーゼおよび/またはランダムオリゴヌクレオチドプライマーによるプライミングと、DNAポリメラーゼによるプライマー伸長を介して、多重鎖置換増幅を行うことができる。
【0055】
1. 鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ
MDAのような増幅法は、鎖置換活性を備えたDNAポリメラーゼ、例えば、二本鎖DNAよりも優先して、一本鎖DNAに強い結合を示すポリメラーゼを使用することができる。鎖置換活性は、プライマー位置を伸長しながら、DNA分子のハイブリダイズした鎖を置き換えるのに有用であり得る。
【0056】
本明細書に開示した方法において有用な鎖置換活性を備えたDNAポリメラーゼとして、例えば、Phi29 DNApolが挙げられる。Phi29 DNApolは、例えば、New England Biolabs社(Ipswich, MA, USA)、ThermoFisher Scientific社(Waltham, MA, USA)、およびExpedeon社(Cambridge, UK)から商業的に入手することができる。Phi29 DNApolは、DNA重合と結び付いた本質的に高いプロセシビティと鎖置換能力とを併せ持ち、単一の酵素:DNA結合イベントから70kbより長いDNA断片を生成することができる(Blanco et al., 1989)。このような潜在力により、Phi29 DNApolは、ヘアピンループなどの二次構造を含むDNAテンプレートを複製することができる。この酵素はまた、3'→5'エキソヌクレアーゼ校正活性を有し(Blanco and Salas, 1985; Garmendia et al., 1992)、Taq DNAポリメラーゼに基づく方法と比べて最大1000倍高い忠実度をもたらす。
【0057】
2. デオキシリボヌクレオシド三リン酸
プライマーの作成とプライマーの伸長は、DNAプライマーを合成できるTthPrimPolのような特殊なDNAプライマーゼ/ポリメラーゼ(Picher et al, 2016)と、Phi29 DNApolのような伸長性DNAポリメラーゼとの組み合わせによって、デオキシリボヌクレオチド基質、例えばdNTP、を提供するだけで、達成することができる。一般的に、これらにはA、T、G、Cの4個の標準的な塩基が含まれる。しかし、特定の態様では、イノシンなどの非天然ヌクレオチドが含まれてもよい。特定の態様では、ヌクレオチドは、それらが組み込まれるポリヌクレオチドを検出または捕捉するための標識を持つことができる。
【0058】
D. DNA配列決定
今日現在で、多くの異なる配列決定技術が存在しており、それらは一般に、「第1世代シーケンシング」、「第2世代シーケンシング」(「次世代シーケンシング」またはNGSと呼ばれることが多い)、および「第3世代シーケンシング」(1分子シーケンシング(SMS)としても知られる)に分類される。第1世代シーケンシングは、主にマクサムとギルバート(Maxam and Gilbert, 1977)またはサンガー(Sanger et al, 1977; Sanger and Coulson, 1978)の方法を指すが、今日では後者のみが使用されている。
【0059】
第2世代、または次世代シーケンシングは、塩基位置の高度な技術的(光学的)検出方法を用いて、同時に多くの配列が得られる技術を指す。既存の方法に関する概要は、(Metzker, 2010)に記載されている。
【0060】
第3世代または1分子シーケンシング(SMS)技術は、事前の増幅を必要とせず、テンプレートがDNAのクローンまたはアンサンブルではなく、単一の分子であり、その配列は、ポリメラーゼの活性の結果として、しばしば「リアルタイム」でコピー/リードされて、オンラインで記録される(Sam et al, 2011; Thompson and Milos, 2011)。
【0061】
本明細書で使用する用語「ハイスループットシーケンシング」とは、数千もの核酸分子を同時に、またはほぼ同時に配列決定することを指す。ハイスループットシーケンシングのプラットフォームとしては、限定するものではないが、MPSS(massively parallel signature sequencing)、Polonyシーケンシング、454パイロシーケンシング、Illumina (Solexa)シーケンシング、SOLiDシーケンシング、Ion Torrent半導体シーケンシング、DNAナノボールシーケンシング(Complete Genomics社/BGI Shenzhen社)、Heliscope 1分子シーケンシング、1分子リアルタイム(SMRT)シーケンシング(PacBio社)、およびナノポアDNAシーケンシング(例えば、Oxford Nanopore社)が挙げられる。
【0062】
本明細書に記載の方法は、全ゲノムシーケンシング、エクソームシーケンシング、およびアンプリコンシーケンシングに使用できるが、これらに限らない。しかし、増幅された分子自体は、特定のアンプリコンの増幅を受ける可能性がある。ゲノム中の遺伝子配列に対するベイト(bait)を用いた配列捕捉を使用して、エクソームに相当する増幅された分子を単離することができる。mRNAを二本鎖cDNAに逆転写することによって、増幅されたトランスクリプトームを配列決定のために作成することができる。
【0063】
V. キット
また、本明細書では、本明細書に記載の方法を実施する際に使用するためのキットも提供される。本明細書で使用する用語「キット」とは、一緒に使用することを意図した品目の集合体を指す。
【0064】
本明細書に開示される特定のキットには、以下から選択される2、3、4、5、6、7個の要素が含まれる:(1)PrimPol酵素(例:TthPrimPol);(2)DNAポリメラーゼ(例:Phi29 DNApol);(3)ランダムトリマー;(4)ランダムテトラマー;(5)ランダムペンタマー;(6)ランダムヘプタマー;(7)ランダムオクタマー;(8)ランダムプライマー;(9)dNTP;(10)反応緩衝液;(11)前記要素のいずれかと共に使用する緩衝液。キットは、試薬を保持する容器を含むことができる。容器は、それ自体を輸送用コンテナに入れることができる。そのコンテナは、手渡しで、または全国郵便システムもしくはFedExのような配送サービスなどの一般運送業者によって伝達され得る。キットには、採取血液を中央の施設に輸送するための容器、例えばボックスまたはバッグ、を含めることもできる。また、キットは、通常、使用説明書ならびにデータ分析・解釈のためのソフトウェアを含むこともできる。
【0065】
例示的な態様
1. 変異K64RまたはM97Kの一方または両方を含む、Phi29型DNAポリメラーゼ。
2. SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、Phi29型DNAポリメラーゼ。
3. テンプレートDNAを複製、増幅、または配列決定するための方法であって、該DNAを、少なくとも
(a)態様1または2に記載のDNAポリメラーゼ、
(b)緩衝液、
(c)塩化マグネシウム、
(d)プライマー、および
(e)ヌクレオシド三リン酸
を含む反応混合物と接触させる段階を含む、前記方法。
4. 態様3に記載の方法を実施するためのキットであって、(a)態様1または2に記載のDNAポリメラーゼ、(b)緩衝液、および(c)塩化マグネシウムを含む、前記キット。
5. 態様3に記載の方法を実施するためのキットであって、態様1または2に記載のDNAポリメラーゼと、
(a)PrimPol酵素(例えば、TthPrimPol)、
(b)ランダムトリマー、
(c)ランダムテトラマー、
(d)ランダムペンタマー、
(e)ランダムヘプタマー、
(f)ランダムオクタマー、
(g)dNTP、
(h)反応緩衝液、
(i)上記要素のいずれかと一緒に使用するための緩衝液
のうちの1個または複数とを含む、前記キット。
6. SEQ ID NO: 1と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%または99.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつアミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方を含む、Phi29型DNAポリメラーゼ。
7. SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4の配列を有する、態様6に記載のPhi29型DNAポリメラーゼ。
8. アミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方に加えて、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個以下のアミノ酸置換、付加または欠失を有する、態様6に記載のPhi29型DNAポリメラーゼ。
9. Phi29型DNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子であって、該Phi29型DNAポリメラーゼが、SEQ ID NO: 1と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、または99.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ該Phi29型DNAポリメラーゼが、アミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方を含む、前記単離された核酸分子。
10. 前記Phi29型DNAポリメラーゼが、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、またはSEQ ID NO: 4の配列を有する、態様9に記載の単離された核酸分子。
11.前記Phi29型DNAポリメラーゼが、アミノ酸置換K64RおよびM97Kの一方または両方に加えて、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個以下のアミノ酸置換、付加または欠失を有する、態様9に記載の単離された核酸分子。
12. 態様9~11のいずれかに記載のPhi29型DNAポリメラーゼと機能的に連結された転写調節配列を含む、組換え核酸。
13. 前記転写調節配列が、細菌または哺乳類のプロモーターを含む、態様12に記載の組換え核酸。
14. プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミド、およびトランスポゾンから選択されるベクターに含まれる、態様12に記載の組換え核酸。
15. クローニング部位に挿入された転写調節配列が、Phi29型DNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列と機能的に連結されるように、Phi29型DNAポリメラーゼをコードするヌクレオチド配列に対して配置されたクローニング部位を含む、態様14に記載の組換え核酸。
16. 態様12~15のいずれかに記載の組換え核酸を含む、組換え細胞。
17.(a)核酸テンプレート分子を、態様1、2および6~8のいずれかに記載のPhi29型DNAポリメラーゼならびにプライマー伸長に十分な試薬と接触させる段階;および
(b)該核酸テンプレートを用いて該ポリメラーゼでプライマー伸長を行う段階
を含む、方法。
18. 前記プライマー伸長に十分な試薬が、オリゴヌクレオチドプライマーを含む、態様17に記載の方法。
19. 前記オリゴヌクレオチドプライマーが、トリマー、テトラマー、ペンタマー、ヘキサマー、オクタマー、ノナマー、または10マーのうちの1個または複数を含む、態様18に記載の方法。
20. 前記プライマーがランダムプライマーである、態様19に記載の方法。
21. 前記オリゴヌクレオチドプライマーが、5~25ヌクレオチドのリンクを有する、態様18に記載の方法。
22. 前記プライマー伸長に十分な試薬が、プライマーゼ/ポリメラーゼ(例えば、TthPrimPol)を含む、態様17に記載の方法。
23. 前記プライマー伸長が、約31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃もしくは42℃のいずれかの温度、または31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃もしくは42℃を上回る温度で行われる、態様17に記載の方法。
24. 前記テンプレート核酸分子が、1ng、100pg、10pg、または1pg以下の量で存在する、態様17に記載の方法。
25. 前記プライマー伸長が、(1)多重置換増幅(「MDA」)または(2)ローリングサークル増幅を含む、態様17に記載の方法。
26. 前記プライマー伸長が、多重アニーリング・ルーピングベースの増幅サイクル(multiple annealing and looping-based amplification cycle:MALBAC)を含む、態様17に記載の方法。
27. 前記Phi29型DNAポリメラーゼが、置換K64RおよびM97Kの両方を含む、態様17~26のいずれかに記載の方法。
【実施例
【0066】
実施例1: 多重置換増幅反応でどの変異体がWT Phi29 DNApolと比べてより短いランダム合成プライマーを使用できるかを検出するためのスクリーニング
図3には、Phi29 DNApolバリアントと、TthPrimPolまたはサイズの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))とを組み合わせた多重置換増幅(MDA)による1ngのヒトゲノムDNAの増幅が示される。
【0067】
図3に見られるように、WT Phi29 DNApolは、ヒトゲノムDNAを増幅するために、ペンタマー、ヘキサマー、ヘプタマーおよびオクタマー、ならびにTthPrimPolを効率的に使用した。トリマーとテトラマーは、増幅を行うのに適していなかった。
【0068】
作成されたPhi29 DNApolバリアントのグループのうち、6個のバリアント(K538R、T534K、T534R、L63LH、K64KG、およびK64KK)は、プライマーのサイズまたはTthPrimPolの代替使用に関わりなく、MDAにおいて完全に不活性であった。別のセットの変異体(K529R、M97R、R96K、L63LG、およびT499K)は、WT Phi29 DNApolよりも劣った増幅性能が明らかになり、より低い増幅収量および/または特定のプライマーサイズを使用することの限界を示した。例えば、変異体M97Rはペンタマーとヘキサマーを効率的に使用することができたが、ヘプタマーとオクタマーは増幅を誘導しなかった。同様に、変異体R96Kは、ランダム合成プライマーのセットからヘキサマーを使用できたにすぎなかった。驚いたことに、挿入変異体L63LGは、ペンタマー、ヘキサマー、ヘプタマー、およびオクタマーでDNAを増幅することができたが、TthPrimPolとの組み合わせは、増幅産物をもたらさなかった。これとは反対に、変異体T499Kは、TthPrimPolの存在下でDNAをわずかに増幅することができたのに、ランダム合成プライマーはいずれもMDAを促進しなかった。
【0069】
変異体T499Rは、WT Phi29 DNApolとほぼ同様の挙動を示した。
【0070】
最後に、変異体K64RとM97Kは、WT Phi29 DNApolと比べて顕著な改良を示した。両変異体ともテトラマーを使用できた唯一のものであったが、WT Phi29 DNApolと残りの変異体は増幅収量を示さなかった。
【0071】
上記2個の「機能獲得」変異を同じポリペプチドに導入して、二重変異体K64R/M97Kを作成した;これは、WT Phi29 DNApolならびに単一変異体K64RおよびM97Kと対比させて、徹底的に特徴付けられたが、それについては以下の実施例に示される。
【0072】
実施例2: Phi29 DNApol変異体M97Kおよび二重変異体K64R/M97Kではポリメラーゼ活性がエキソヌクレアーゼ活性に対して優勢である
図4には、WT Phi29 DNApolに対して本発明の最適な変異体(K64R、M97Kおよび二重変異体K64R/M97K)の3'-5'エキソヌクレアーゼ活性と5'-3'重合活性との動的平衡の分析が示される。5'標識プライマー
がテンプレート
にハイブリダイズすることによって形成されたDNA二重鎖を用いて、DNA合成とDNA分解の組み合わせ(coupling)をdNTP濃度(0、10、25、50、100および500nM)の関数として分析した。dNTPが存在しない場合は、プライマー末端のエキソヌクレアーゼ分解が観察される。この分解パターンは、WT Phi29 DNApolに対して本発明のバリアントのエキソヌクレアーゼ活性のレベルを反映している。dNTPの濃度が増加するにつれて、5'-3'重合がエキソヌクレアーゼ活性を次第に上回る;正味のdNMP取り込みは、標識プライマーのサイズの増加として観察され、各変異体ごとにプライマーの効率的伸長を得るために必要なdNTPの濃度を規定する。図4に見られるように、変異体K64Rは、WT酵素によって示されたものとほぼ同様のPol/Exo平衡を示し、25nMのdNTPで28merの位置に達した。一方、変異体M97Kと二重変異体K64R/M97Kは、試験した最低dNTP濃度(10nM)で同じ位置(28mer)に達し、これらの変異体のポリメラーゼ活性がエキソヌクレアーゼに対して優勢であることを示している。
【0073】
実施例3: 本発明の変異体(K64R、M97KおよびK64R/M97K)は多重置換増幅反応でWT Phi29 DNApolと比べてより短いランダム合成プライマーを使用できる
図5には、選択されたPhi29 DNApolバリアント(K64R、M97Kおよび二重変異体K64R/M97K)と、サイズの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))とを組み合わせた多重置換増幅(MDA)による1ngのヒトゲノムDNAの増幅が示される。示された増幅収量は、条件ごとに3回の繰り返し(replicate)を含む2つの独立した実験の平均値である。2つの実験からの標準偏差が示される。
【0074】
図5に見られるように、試験したどの酵素もランダム合成トリマーを用いてゲノムDNAを効率的に増幅することができなかった。二重変異体K64R/M97Kのみが1μgに近い収量を示した。
【0075】
本発明の3個のバリアントは、テトラマーを用いて増幅を誘導することができたが、WT Phi29 DNApolでは増幅が見られなかった。バリアントK64Rは最も低い増幅収量(2.7μg)を示し、変異体M97Kはわずかに高い収量(3.8μg)を示し、二重変異体K64R/M97Kははるかに高い収量(12.9μg)を示した。二重変異体で観察された最高の収量は、同じポリペプチドに存在する両方の変異の相乗効果を表している。
【0076】
WT Phi29 DNApolと本発明の3個のバリアントは、増幅を開始させるためにランダムペンタマーを効率的に使用することができた。この場合も、二重変異体K64R/M97Kが最高の収量(20μg超の増幅DNA)をもたらし、単一バリアントおよびWT酵素の性能を明らかに上回った。
【0077】
ランダムヘキサマーの場合も、同様の比較パターンが見られたが、いずれの場合も増幅収量がより高くなる。
【0078】
ランダムヘプタマーを用いると、WT Phi29 DNApolはヘキサマーで得られた結果と同じ収量を維持したが、本発明の3個のバリアントは増幅効率を低下させる傾向があり、ランダムペンタマーで得られたものと同様のDNAレベルをもたらした。
【0079】
オクタマーの場合には、K64RとM97Kの両方の単一変異体が、WT Phi29 DNApolよりも低い増幅収量を示した。一方、二重変異体K64R/M97Kは、試験した全ての条件で生じたように、WT Phi29 DNApolを明らかに上回り、増幅を開始させるために使用したランダム合成プライマーの長さに関係なく、堅牢で効率的な増幅値が確認された。
【0080】
実施例4: テンプレートなしの対照(non-template control:NTC)においてインプットDNAの非存在下で観察されたバックグラウンド増幅へのイオン強度の影響
図6には、WT Phi29 DNApolまたは選択された本発明のバリアント(K64R、M97KおよびK64R/M97K)と、サイズの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))とを組み合わせた場合に、インプットDNAの非存在下で観察された増幅収量が示される。
【0081】
試験した低イオン強度条件(20mM KCl;57mM NaCl)下では、M97K単一変異体とK64R/M97K二重変異体の両方は、ペンタマーとヘキサマーを用いた場合にインプットDNAの非存在下で顕著な増幅収量を示しただけでなく、二重変異体の場合はテトラマーを用いた場合にも顕著な増幅収量を示した(図6参照)。しかし、その増幅収量は、同じ条件でインプットとしてDNA(1ng)を使用した場合に得られたものよりも著しく低く(図5参照)、異なる増幅メカニズムが関与していると示唆される。この分野では、インプットDNAの非存在下でのPhi29 DNApolのプライマーダイマー増幅能力がよく知られており(Alsmadi et al, 2009)、M97K単一変異体とK64R/M97K二重変異体では、プライマーダイマーの安定性が試験した条件下で高まる可能性がある。
【0082】
図7には、インプットDNAの非存在下であるが、硫酸アンモニウム[(NH4)2SO4]の添加によりイオン強度条件を上げた場合に観察された増幅収量が示される。硫酸アンモニウム(45mM)の存在下では、インプットDNAの非存在下で観測された増幅レベルが、全てのバリアントおよび全てのプライマーサイズで完全に見られなくなる。
【0083】
実施例5: 高イオン強度条件は長さの異なるランダムプライマーを用いたDNAの増幅に対する二重変異体K64R/M97Kの堅牢性と効率性を強化する。
図8には、高イオン強度条件(20mM KCl;57mM NaCl;45mM (NH4)2SO4)下で、WT Phi29 DNApolまたは選択された本発明のバリアント(K64R、M97KおよびK64R/M97K)と、サイズの異なるランダム合成プライマー(トリマー(3N)、テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、ヘキサマー(6N)、ヘプタマー(7N)またはオクタマー(8N))とを組み合わせた多重置換増幅(MDA)による1ngのヒトゲノムDNAの増幅が示される。示された増幅収量は、条件ごとに3回の繰り返しを含む2つの独立した実験の平均値である。2つの実験からの標準偏差が示される。
【0084】
図8に見られるように、試験したどの酵素も、ランダム合成トリマーを用いてゲノムDNAを効率的に増幅することができなかった。二重変異体K64R/M97Kのみが600ngに近い収量を示した。
【0085】
以前の条件で観察されたもの(図5参照)とは対照的に、テトラマーはM97K単一変異体とK64R/M97K二重変異体によってのみ効率的に用いら、単一変異体K64Rは1μgに近いわずかな収量しかもたらさなかった。注目すべきことに、M97K単一変異体とK64R/M97K二重変異体で観察された増幅収量は、硫酸アンモニウムの非存在下で得られたものと比較して増加した(それぞれ4μgから12μgに、および13μgから16μgに増加)。
【0086】
ペンタマーおよびヘキサマーの場合には、M97K単一変異体とK64R/M97K二重変異体は同様の結果を示し、WT酵素またはK64Rバリアントで得られた増幅収量を明らかに上回った。硫酸アンモニウムの非存在下で示されたように、WT Phi29 DNApolはK64Rバリアントよりも高い収量を示した。
【0087】
ヘプタマーの場合には、二重変異体K64R/M97Kのみが、より短いランダム合成プライマーで得られた、および/または硫酸アンモニウムの非存在下で得られた増幅収量を維持した。WT Phi29 DNApolとK64Rバリアントはどちらも収量を大幅に減少させ、これらの条件では同じ値を示した。M97K変異体で得られた収量も、以前の条件と比較して減少した。
【0088】
最後に、オクタマーは二重変異体K64R/M97Kによってのみ効率的に展開され、他の3つの酵素は非常に低い増幅収量を示した。
【0089】
Phi29 DNApolの二重変異体K64R/M97Kは、低イオン強度と高イオン強度の両方の条件下で増幅性能を保全しており、これは、該酵素と、プライマーのヌクレオチド5からの窒素塩基およびヌクレオチド4と5の間のホスホジエステル結合との追加の接触から得られた機能獲得の結果である可能性がある(図2参照)。これらの追加の接触によって、この酵素は、異なるイオン強度条件下でサイズの異なるプライマーをうまく安定化することができるようになる。
【0090】
実施例6: 二重変異K64R/M97Kは試験したプライマーサイズに関係なく微量のDNAの高感度増幅をもたらす。
図9には、低イオン強度(20mM KCl;57mM NaCl)または高イオン強度(20mM KCl;57mM NaCl;45mM (NH4)2SO4)の条件下で、WT Phi29 DNApolまたは選択された本発明のバリアント(K64R、M97KおよびK64R/M97K)と、サイズの異なるランダム合成プライマー(テトラマー(4N)、ペンタマー(5N)、またはヘキサマー(6N))とを組み合わせた多重置換増幅(MDA)による異なる量のヒトゲノムDNA(1、10、100pgおよび1ng)の増幅が示される。
【0091】
低イオン強度の条件下では(図9、上のパネル)、二重変異体K64R/M97Kは、試験した全ての条件において、最も一貫した最高の増幅収量をもたらす。
【0092】
ランダム合成テトラマーの場合には、先に示したように(図5参照)、WT Phi29 DNApolは試験したDNAインプットのいずれも増幅することができなかった。バリアントK64Rは、1ngのDNAインプットでのみ検出可能な収量をもたらし、より少ないDNA量を増幅する感度に欠けていた。他方、M97K変異体とM97K/K64R変異体は両方とも、試験したDNAインプットを効率的に増幅し、二重変異体は全ての場合でより高い収量をもたらした。
【0093】
ランダム合成ペンタマーの場合には、全ての酵素がそれらを利用して増幅を開始することができたが、異なるレベルの感度および効率性を示した。WT Phi29 DNApolは、DNAインプット量が少なくなると、増幅収量の大幅な減少を示したが、本発明の3個のバリアントは、試験した全ての条件で適度な効率性を維持した。二重変異体M97K/K64Rは、DNAインプット量に関係なく、本発明の3個のバリアントの中で最高の増幅効率を示し、それゆえに最も優れた感度を示した。
【0094】
ランダム合成ヘキサマーの場合には、全ての酵素がそれらを効率的に利用して、試験した各DNAインプットの増幅を開始することができ、どの場合にも顕著な増幅収量を示した。本発明の3個のバリアントはWT Phi29 DNApolを上回って、少ないDNAインプットを分析したときにより高い増幅収量を示した。ペンタマーの場合と同様に、二重変異体M97K/K64Rは、DNAインプット量に関係なく、本発明の3個のバリアントの中で最高の増幅効率を示した。
【0095】
先に示したように(図6参照)、M97KバリアントとM97K/K64Rバリアントはどちらも、ペンタマーおよびヘキサマーを使用した場合に、インプットDNAの非存在(テンプレートなしの対照:NTC)下で有意な増幅収量を示した。このために、同じ感度分析を高イオン強度条件(20mM KCl;57mM NaCl;45mM (NH4)2SO4)下で実施して、プライマーダイマー増幅に起因するこのアーティファクトの影響を防止した。
【0096】
高イオン強度の条件下では(図9、下のパネル参照)、ランダム合成テトラマーは、低イオン強度条件と比較して、試験したバリアント間で同様の使用パターンを示したが、ほとんどの場合に増幅収量が増加した。このルールの例外は、1pgおよび10pgのDNAインプットでより低い収量を示したバリアントM97Kであった。
【0097】
高イオン強度条件下でのランダム合成ペンタマーの場合には、M97KバリアントとM97K/K64Rバリアントが感度と効率性の点で最も優れた性能を示し、同じDNAインプット量で低イオン強度条件下と比較して高い増幅収量を示した。反応のイオン強度を高めると、限定量(1pgと10pg)のDNAを試験した場合にバリアントK64Rの増幅効率が低下したが、他の2つのインプット量ではその効率が同程度であった(100pg)か、またはより高かった(1ng)。意外にも、これらの条件下では、全ての場合にWT Phi29 DNApolがK64Rバリアントを上回った。
【0098】
高イオン強度条件下でのランダム合成ヘキサマーの場合には、二重変異体K64R/M97Kが、低イオン強度条件下で得られた結果と比較して、全てのDNAインプットで観察される収量を増加させた唯一のバリアントであった。単一変異体M97Kは、最も少ないインプット(1pgと10pg)ではより低い収量を示したのに、100pgおよび1ngのDNAインプットでは収量が増加した;このことは感度の低下を示している。バリアントK64RおよびWT Phi29 DNApolは同様の挙動を示した。ペンタマーの場合と同様に、これらの条件下では、全ての場合にWT Phi29 DNApolがK64Rバリアントよりも高い増幅収量をもたらした。
【0099】
まとめると、二重変異体K64R/M97Kは、試験した全てのDNAプライマーを用いた増幅反応において、低イオン強度と高イオン強度の両方の条件下で、増幅効率および感度の点で最高の性能を示した。
【0100】
実施例7: 増幅効率および感度は、プライマーがTthPrimPolにより生成される場合に本発明のバリアントを用いることで変更されない
図10には、WT Phi29 DNApolまたは選択された本発明のバリアント(K64R、M97KおよびK64R/M97K)と、反応の過程でPhi29 DNApol用のプライマーを合成できるDNAプライマーゼTthPrimPol(Picher et al, 2016)とを組み合わせた多重置換増幅(MDA)による1、10、100pgおよび1ngのヒトゲノムDNAの増幅が示される。
【0101】
図10に見られるように、WT Phi29 DNA polと、試験した本発明のバリアントの間には収量の有意差は認められず、このセットアップの下では同様の感度および効率レベルという結果になった。
【0102】
実施例8: 選択された本発明のバリアント(K64R、M97KおよびK64R/M97K)はCovCheck技術で測定された増幅カバレッジを改良する
CovCheck技術では、各ヒト染色体から小部分を増幅する24の異なるプライマーペアを含むPCRパネルを用いて、全ゲノム増幅のカバレッジ解析が可能である。CovCheck技術は、CovCheckカバレッジ値を、ローパス(low-pass)全ゲノムシーケンシングで得られた実際のカバレッジと比較することで検証されており、優れた相関値が得られている
(https://www.expedeon.com/products/genomics/dna-rna-products/covcheck-pcr-kits/)。
【0103】
各バリアントで得られた増幅カバレッジを解析するために、限られた量のインプット材料が選択された:30pgのヒトゲノムDNA。このDNA量は、ヒト2倍体ゲノムの5倍量に相当し、各染色体の十分なコピーが増幅に利用されることを保証する最低量であり得る。このレベルより少ないと、精製されたDNAサンプル内の分子のランダムな分布のため、特定の領域または完全な染色体が増幅用のインプット中に存在しない可能性があり、その結果、増幅の失敗のためではなく、テンプレートの不在のために増幅産物においてカバーされない領域が生じることになる。
【0104】
図11には、WT Phi29 DNApolまたは選択された本発明のバリアントおよび30pgのヒトゲノムDNAインプットと組み合わせて、ヘキサマー、ペンタマーおよびテトラマーを用いた増幅反応のCovCheck解析から得られた推定カバレッジ値が示される。カバレッジ値は、条件あたり6個の独立した反応の平均値である。
【0105】
ランダム合成ヘキサマーの場合には、WT Phi29 DNApolで得られたカバレッジ値と比較して、本発明の3個のバリアントを使用したときに増幅カバレッジが改良される。
【0106】
ランダム合成ペンタマーの場合には、全ての酵素がこれらの条件で90%超のカバレッジ値を示した。そのため、有意差は認められなかった。しかしながら、M97Kバリアントは、試験した6回の繰り返しで完璧なカバレッジを示し、際立っていた。
【0107】
ランダム合成テトラマーの場合には、M97KバリアントとM97K/K64Rバリアントのみが増幅DNAをもたらした;これは、テトラマーと組み合わせたときにWT Phi29 DNApolおよびK64Rバリアントが示した増幅の感度と一致する(図9)。CovCheck解析は、両方の場合に優れた増幅カバレッジ(99%)を明らかにした;増幅カバレッジと均一性を最大にして、増幅バイアスと配列の欠落を防ぐためには、本発明のバリアントを可能な限り短いプライマーと組み合わせて使用することの利点が示唆される。
【0108】
Phi29 DNApol用のDNAプライマーを作成するために酵素(TthPrimPol)を用いる場合には、30pg(5ゲノム相当)のヒトゲノムDNAを増幅反応へのインプットとして使用し、TthPrimPolをWT Phi29 DNApolまたは本発明のバリアントと組み合わせて実施した増幅反応のCovCheck解析から得られた推定カバレッジ値が、図12に示される。カバレッジ値は、条件あたり12の独立した反応の平均値である。CovCheck解析はまた、本発明のバリアントを用いた場合の増幅カバレッジの改良を明らかにし、元のDNAインプットに対して増幅産物の均一性を高めるそれらの利点が支持される。
【0109】
参考文献(参照により本明細書に組み入れられる)
【0110】
本明細書で使用する場合、特に明記しない限り、以下の意味が適用される。「may」という用語は、強制的な意味(つまり、しなければならない(must)という意味)ではなく、許容的な意味(つまり、可能性がある(having the potential to)という意味)で使用される。用語「含む」(include)、「含む」(including)、および「含む」(includes)などは、「含むが、これらに限定されない」(including, but not limited to)を意味する。単数形「a」、「an」、および「the」は、複数形の指示対象を含む。したがって、例えば、「要素」(an element)への言及は、「1個または複数」などの、1個以上の要素についての他の用語および語句の使用にもかかわらず、2個以上の要素の組み合わせを含む。「または」という用語は、特に明記しない限り、非排他的であり、すなわち、「および」と「または」の両方を包含する。修飾子と一連のもの(sequence)との間の「いずれか」(any of)という用語は、修飾子が一連のものの各メンバーを修飾することを意味する。こうして、例えば、「少なくとも1、2または3個のいずれか」(at least any of 1, 2 or 3)という語句は、「少なくとも1個、少なくとも2個、または少なくとも3個」を意味する。特定の態様では、様々な要素を「含む」(comprise)発明はまた、「本質的に」これらの要素「からなる」(consisting essentially of)可能性がある。用語「本質的に~からなる」とは、列挙された要素と、請求項に係る組み合わせの基本的かつ新規な特性に実質的な影響を与えない他の要素とを含むことを指す。
【0111】
本明細書の説明および図面は、開示された特定の形態に本発明を限定することを意図したものではなく、それどころか、本発明は、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の精神および範囲内にある全ての修飾、均等物、および代替物をカバーすべきであることを理解されたい。本発明の様々な局面のさらなる修飾および代替的態様は、この説明を考慮すれば、当業者には明らかであろう。したがって、この説明および図面は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実施する一般的な方法を当業者に教示するためのものである。本明細書に示されかつ説明された本発明の形態は、様々な態様の例とみなされるべきであることを理解されたい。本明細書に例示されかつ説明された要素および材料の代替品を使用したり、部品およびプロセスを逆にしたり省略したり、本発明のある特徴を独立して利用したりすることができ、全て、本発明の説明の恩恵を受けた後では当業者に明らかであろう。添付の特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された要素に変更を加えることができる。本明細書で使用された見出しは、組織的目的のみのためであり、その説明の範囲を限定するために使用されるものではない。
【0112】
本明細書に記載された全ての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み入れられることを具体的かつ個別に示された場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0113】
配列表
イタリック体のアミノ酸は、いくつかの態様では発現されない。
SEQ ID NO 1: 野生型Phi29 DNAポリメラーゼ(UniProtKB - P03680)
SEQ ID NO 2: K64R Phi29 DNApol変異体
SEQ ID NO 3: M97K Phi29 DNApol変異体
SEQ ID NO 4: K64R/M97K Phi29 DNApol二重変異体
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10
図11-1】
図11-2】
図12
【配列表】
2022533366000001.app
【国際調査報告】