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特表2022-534004末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼの変異体及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼの変異体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20220720BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20220720BHJP
   C12P 19/34 20060101ALI20220720BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20220720BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220720BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220720BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220720BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20220720BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12P19/34 A
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569118
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2020064524
(87)【国際公開番号】W WO2020239737
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】19177018.9
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16/423,972
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516304610
【氏名又は名称】ディーエヌエー スクリプト
(71)【出願人】
【識別番号】593218462
【氏名又は名称】インスティチュート・パスツール
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
(71)【出願人】
【識別番号】508242056
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シャンピオン, エリーズ
(72)【発明者】
【氏名】ソスキヌ, ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】イベール, トマス
(72)【発明者】
【氏名】ドュラリュ, マルク
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050KK07
4B050KK13
4B050LL05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR06
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS24
4B064AF27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA29
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体であって、その各々が、(i)少なくとも残基C302(配列番号1を基準にして)又はそれぞれ配列番号10~35の機能的に等価な残基に対応する位置にアミノ酸置換を有して、配列番号10~35から選択されるアミノ酸配列又は機能的に等価な配列を有し、(ii)鋳型を用いずに核酸断片を合成可能であり、且つ(iii)3’-O-修飾ヌクレオチドを核酸断片に取込み可能である、TdT変異体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35から選択されるアミノ酸配列に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体であって、前記アミノ酸配列が、配列番号11、13、17、19、21、29、若しくは31を基準にして位置173のシステイン残基の、又は配列番号15を基準にして位置172のシステイン、若しくは配列番号23を基準にして位置178のシステイン、若しくは配列番号25を基準にして位置174のシステイン、若しくは配列番号27を基準にして位置171のシステイン、若しくは配列番号33を基準にして位置182のシステイン、若しくは配列番号35を基準にして位置176のシステインから選択される機能的に等価なシステイン残基の、少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、前記TdT変異体が、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成でき、且つ(ii)修飾ヌクレオチドを核酸断片に取込みできる、TdT変異体。
【請求項2】
配列番号11、13、15、17、19、29、若しくは33を基準にして位置63のメチオニン残基の、又は配列番号23を基準にして位置73のメチオニン、若しくは配列番号23を基準にして位置73のメチオニン、若しくは配列番号25を基準にして位置64のメチオニン、若しくは配列番号27を基準にして位置61のメチオニン、若しくは配列番号35を基準にして位置66のメチオニンから選択される機能的に等価なメチオニン残基の、さらなる置換を有する、請求項1に記載のTdT変異体。
【請求項3】
配列番号11、13、17、19、23、29、又は31を基準にして位置207のアルギニン残基の、或いは配列番号15を基準にして位置206のアルギニン、又は配列番号21若しくは25を基準にして位置208のアルギニン、又は配列番号27を基準にして位置205のアルギニン、又は配列番号33を基準にして位置216のアルギニン、又は配列番号35を基準にして位置210のアルギニンから選択される機能的に等価なアルギニン残基の、さらなる置換を有する、請求項1又は2に記載のTdT変異体。
【請求項4】
配列番号11又は13を基準にして位置324のアルギニン残基の、或いは配列番号15を基準にして位置320のアルギニン、又は配列番号17を基準にして位置331のアルギニン、又は配列番号19、23、若しくは31を基準にして位置325のアルギニン、又は配列番号25を基準にして位置326のアルギニン、又は配列番号27を基準にして位置323のアルギニン、又は配列番号29を基準にして位置328のアルギニン、又は配列番号33を基準にして位置338のアルギニン、又は配列番号35を基準にして位置328のアルギニンから選択される機能的に等価なアルギニン残基の、さらなる置換を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項5】
配列番号11又は13を基準にして位置327のグルタミン酸残基の、或いは配列番号17若しくは21を基準にして位置334のグルタミン酸、又は配列番号29若しくは35を基準にして位置331のグルタミン酸、又は配列番号19、23、若しくは31を基準にして位置328のグルタミン酸、又は配列番号25を基準にして位置329のグルタミン酸、又は配列番号27を基準にして位置326のグルタミン酸、又は配列番号33を基準にして位置341のグルタミン酸から選択される機能的に等価なグルタミン酸残基の、さらなる置換を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項6】
前記システインの前記置換が、G、R、P、A、V、S、N、Q、又はD、好ましくはG又はRである、請求項1~5のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項7】
前記メチオニンの前記置換が、R、Q、G、A、V、D、N、H、又はE、好ましくはR又はQである、請求項2~6のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項8】
前記アルギニンの前記置換が、N、L、K、H、G、D、A、又はP、好ましくはN又はLである、請求項3~7のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項9】
前記グルタミン酸の前記置換が、N、L、T、又はSである、請求項5~8のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項10】
前記TdT変異体が、3’-O-修飾ヌクレオチドを、好ましくは3’-O-NH-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アジドメチル-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アリル-ヌクレオシド三リン酸、3’O-(2-ニトロベンジル)-ヌクレオシド三リン酸、又は3’-O-プロパルギル-ヌクレオシド三リン酸から選択されるものを、より好ましくは3’-O-NH-ヌクレオシド三リン酸を、核酸断片に、好ましくは核酸断片の遊離3’-ヒドロキシルに取込みできる、請求項1~9のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項11】
前記TdT変異体が、野生型TdTよりも大きい速度で前記3’-O-修飾ヌクレオチドを取り込む、請求項1~10のいずれか一項に記載のTdT変異体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に定義されたTdT変異体をコードする核酸。
【請求項13】
TdT変異体を生成する方法であって、
(a)前記TdT変異体をコードする核酸を発現するのに好適な条件下で請求項12に記載の核酸を含む宿主細胞を培養することと、任意に
(b)前記細胞培養物から前記TdT変異体を回収することと、
を含む方法。
【請求項13】
あらかじめ決められた配列を有するポリヌクレオチドを合成する方法であって、
a)遊離3’-ヒドロキシルを有する3’末端ヌクレオチドを有する開始剤を提供することと、
b)前記ポリヌクレオチドが形成されるまで、(i)前記開始剤又は伸長断片が3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸の取込みにより伸長されて3’-O-ブロック伸長断片を形成するように、遊離3’-O-ヒドロキシルを有する前記開始剤又は伸長断片と、3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸及び請求項1~11のいずれか一項に記載のTdT変異体と、を伸長条件下で接触させることと、(ii)前記伸長断片をデブロックして遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長断片を形成することと、のサイクルを繰り返すことと、
を含む方法。
【請求項14】
前記3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸が、3’-O-NH-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アジドメチル-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アリル-ヌクレオシド三リン酸、又は3’-O-(2-ニトロベンジル)-ヌクレオシド三リン酸である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ヌクレオチド取込み反応を実施するためのキットであって、
- 請求項1~11のいずれか一項に記載のTdT変異体と、
- 1種以上のヌクレオチド、好ましくは1種以上の3’O-修飾ヌクレオチドと、
- 任意に少なくとも1種の核酸プライマーと、
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型を用いない核酸配列の酵素合成のための、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)の変異体及びその使用に関する。より特定的には、本発明は、決定又は制御された配列を有する核酸分子の合成のための、修飾ヌクレオチドの取込みに好適なかかる変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
過去40年間にわたり、固相ホスホルアミダイト化学に基づく核酸のde novo化学合成法が主に使用及びリファインされてきた。この技術は、固形担体マトリックスに装着された成長オリゴヌクレオチド鎖に1サイクル毎に1塩基を付加する4工程の鎖伸長サイクルからなる。それは過去何十年にもわたり核酸を合成するのに最適な方法であったが、この技術はいくつかの注目すべき限界を有する。すなわち、それは複数の溶媒及び試薬の使用を必要とするとともに、化学反応の効率に限界があるため、合成オリゴヌクレオチドの長さは、典型的には150~200塩基を超えない。そのうえ、所望のDNA配列を提供するためには、これらの短い断片をさらにアセンブルする必要がある。
【0003】
化学合成の一代替手段は、核酸の成長一本鎖に可逆ターミネーター修飾ヌクレオチドを付加する鋳型非依存DNAポリメラーゼの使用に依拠する。これにより1サイクル毎に1タイプのヌクレオチドの付加が制御方式で可能になる。
【0004】
いくつかの天然酵素は、鋳型の不在下で天然ヌクレオチドに作用可能であるので、核酸の合成を無制御方式で触媒可能である。しかしながら、それらは修飾ヌクレオチドより特定的には可逆ターミネーター修飾ヌクレオチドの取込みがとくに非効率的である。修飾ヌクレオチドに作用可能な新しいDNAポリメラーゼを開発する努力がなされてきたが、得られた酵素は、いずれのタイプの核酸の合成性能に関しても十分に満足とはいえない。
【0005】
これまで、(鋳型を用いることなく)一本鎖DNAに効率的に作用可能なDNAポリメラーゼは、ごくわずかしか同定されていない。かかる鋳型非依存活性を有する最も特徴付けられたポリメラーゼは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)である。TdT酵素は、バイオ技術、バイオメディカル研究、及び合成生物学をはじめとする各種タイプの用途で一本鎖DNAを修飾するために広範に使用されてきた。しかしながら、天然TdTは、修飾ヌクレオチドを十分に使用できない。
【0006】
修飾ヌクレオチドの許容可能な取込み性能を有する修飾TdTのいくつかの開発の試みは引き継がれてきた。しかしながら、かかる修飾ヌクレオチドの取込み性能は依然として制約因子である。取込み効率は、全体の純度及び合成の収率を主導する主要パラメーターである。これらの2つの合成プロセス特性は、核酸産物の品質、ターンアラウンド時間、及びコストに有意な影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、効率的且つ費用効果的な核酸合成方法の開発のために、鋳型の不在下で修飾ヌクレオチドを使用できる改善されたTdTを開発する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋳型を用いることなく制御配列を有するポリヌクレオチドのde novo合成を行うためのTdTに取り組むことにより、本発明者らは、ポリヌクレオチドを合成するためのかかる修飾TdTの能力を改善すべくTdTの触媒ドメインのいくつかの標的アミノ酸残基を特異的に修飾しうることを発見した。より特定的には、本発明者らは、ポリヌクレオチドの酵素合成の改善及びポリヌクレオチド合成の全体コストの低減をもたらす標的アミノ酸置換を有する修飾TdTを開発した。本発明者らは、ネズミTdT変異体(配列番号1又は配列番号2)を以前開発した。TdTにさらに取り組むことにより、本発明者らは、新しいTdT変異体をこのたび開発した。
【0009】
いくつかの実施形態では、修飾TdTの各々は、野生型TdT(たとえば、配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、又は34)及びTdT触媒ドメインを含むそのN末端トランケート体(たとえば、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35)と比較して1つ以上の標的アミノ酸置換を提示する。いくつかの実施形態では、本発明の修飾TdTの各々は、TdT(たとえば、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35)の触媒ドメインに対して特定パーセント配列同一性を有し且つ1つ以上の特定アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を有する。本発明の鋳型非依存ポリメラーゼは、より速い速度、より少ない費用、及びより高い品質でポリヌクレオチドの酵素合成を可能にする。
【0010】
したがって、本発明の目的は、残基C173(配列番号11のアミノ酸番号付けを基準にして)又は機能的に等価な残基に対応する位置に少なくともアミノ酸置換を有して、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35に示されるように、TdT触媒ドメインのアミノ酸配列又はTdT触媒ドメインに対してあるパーセント配列同一性のアミノ酸配列を含み、鋳型を用いずに核酸断片を合成でき、且つ3’-O-修飾ヌクレオチドなどの修飾ヌクレオチドを核酸断片に取込みできる、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)の変異体を提供することである。特定的には、修飾ヌクレオチドは、核断片の遊離3’-ヒドロキシルに取り込まれる。
【0011】
より特定的には、本発明の目的は、配列番号11、13、17、19、21、29、若しくは31を基準にして残基C173に対応する位置に、又は配列番号15を基準にして残基C172に対応する位置に、又は配列番号23を基準にして残基C178に対応する位置に、又は配列番号25を基準にして残基C174に対応する位置に、又は配列番号27を基準にして残基C171に対応する位置に、又は配列番号33を基準にして残基C182に対応する位置に、又は配列番号35を基準にして残基C176に対応する位置に置換を有する、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体であって、TdT変異体が(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成でき、且つ(ii)3’-O-修飾ヌクレオチドなどの修飾ヌクレオチドを核酸断片に取込みできる、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体を提供することである。いくつかの実施形態では、以上のパーセント同一性値は、指示配列番号に対して少なくとも95%の同一性であり、いくつかの実施形態では、以上のパーセント同一性値は少なくとも97%の同一性であり、いくつかの実施形態では、以上のパーセント同一性値は少なくとも98%の同一性であり、いくつかの実施形態では、以上のパーセント同一性値は少なくとも99%の同一性である。
【0012】
有利には、(ii)に関して、かかる修飾ヌクレオチドは、核酸断片の遊離3’-ヒドロキシルに取り込まれうる3’-O-修飾ヌクレオチドである。3’-O-修飾ヌクレオチドは、3’-O-NH2-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アジドメチル-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アリル-ヌクレオシド三リン酸、3’O-(2-ニトロベンジル)-ヌクレオシド三リン酸、又は3’-O-プロパルギル-ヌクレオシド三リン酸を含みうる。
【0013】
特定実施形態では、置換は、配列番号10を基準にしてC313G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号11を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号12を基準にしてC302G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号13を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号14を基準にしてC302G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号15を基準にしてC172G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号16を基準にしてC304G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号17を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号18を基準にしてC304G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号19を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号20を基準にしてC293G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号21を基準にしてC174G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号22を基準にしてC282G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号23を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号24を基準にしてC304G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号25を基準にしてC174G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号26を基準にしてC300G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号27を基準にしてC171G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号28を基準にしてC305G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号29を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号30を基準にしてC302G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号31を基準にしてC173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号32を基準にしてC313G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号33を基準にしてC182G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号34を基準にしてC271G/R/P/A/V/S/N/Q/D、又は配列番号35を基準にしてC176G/R/P/A/V/S/N/Q/Dから選択される。
【0014】
さらなる実施形態では、置換は、配列番号4を基準にしてC302G/R、又は配列番号9を基準にしてC302G/R、又は配列番号10を基準にしてC313G/R、又は配列番号11を基準にしてC173G/R、又は配列番号12を基準にしてC302G/R、又は配列番号13を基準にしてC173G/R、又は配列番号14を基準にしてC302G/R、又は配列番号15を基準にしてC172G/R、又は配列番号16を基準にしてC304G/R、又は配列番号17を基準にしてC173G/R、又は配列番号18を基準にしてC304G/R、又は配列番号19を基準にしてC173G/R、又は配列番号20を基準にしてC293G/R、又は配列番号21を基準にしてC173G/R、又は配列番号22を基準にしてC282G/R、又は配列番号23を基準にしてC173G/R、又は配列番号24を基準にしてC304G/R、又は配列番号25を基準にしてC174G/R、又は配列番号26を基準にしてC300G/R、又は配列番号27を基準にしてC171G/R、又は配列番号28を基準にしてC305G/R、又は配列番号29を基準にしてC173G/R、又は配列番号30を基準にしてC302G/R、又は配列番号31を基準にしてC173G/R、又は配列番号32を基準にしてC313G/R、又は配列番号33を基準にしてC182G/R、又は配列番号34を基準にしてC271G/R、又は配列番号35を基準にしてC176G/Rから選択される。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35からなる群から選択される参照又は野生型TdT配列に対して少なくとも90パーセントの同一性、又はいくつかの実施形態では少なくとも95パーセントの同一性、少なくとも97パーセントの同一性、又はいくつかの実施形態では少なくとも98パーセントの同一性、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むTdT変異体を含む組成物であって、かかるTdT変異体が、C173G/R/P/A/V/S/N/Q/D、好ましくはC173G/R(ただし、アミノ酸残基番号は、配列番号11を基準にするか、又は配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、若しくは35の等価残基番号を基準にする)から選択される突然変異を有し、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成でき、且つ(ii)かかるTdT変異体が参照又は野生型TdTよりも大きい効率又は高い速度で3’-O-修飾ヌクレオシド三リン酸を取り込む、組成物に関する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明の目的はまた、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)のトランケート変異体であって、その各々が、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35のいずれかに対して少なくとも90パーセントの同一性を有するとともに、M63R/Q、L131P、C173G/R、R207L/N、D250V、R325P/N、及びE328N/L/T/Sから選択される少なくとも2つのアミノ酸置換、好ましくは少なくとも3つのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み(ただし、残基番号は、配列番号11を基準にするか、又は配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35中のそれらの機能的に等価な残基番号を基準にする)、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成可能であり、且つ(ii)修飾ヌクレオチドを核酸断片に、たとえば、3’-O-可逆ブロックデオキシヌクレオシド三リン酸を核酸断片の遊離3’-ヒドロキシルに取込み可能である、トランケート変異体を提供することである。
【0017】
さらなる実施形態では、以上のパーセント配列同一性値は、特定配列に対して少なくとも95、96、97、98、又は99パーセントの同一性である。
【0018】
本発明の他の目的は、以上に定義されるTdT変異体をコードする核酸分子、及び/又はかかる核酸分子を含む発現ベクター、及び/又はかかる核酸分子若しくは発現ベクターを含む宿主細胞を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、本発明に係るTdT変異体の生成プロセスであって、以上に定義される宿主細胞が、前記変異体をコードする核酸の発現を可能にする培養条件下で培養され、且つ変異体が任意に回収される、生成プロセスを提供することである。
【0020】
本発明はさらに、核酸断片への1種以上の3’O-修飾ヌクレオチドの逐次付加により鋳型を用いずに核酸分子を合成するためのTdT変異体の使用に関する。いくつかの実施形態では、かかる方法は、(a)遊離3’-ヒドロキシルを有するオリゴヌクレオチドを含む開始剤を提供する工程と、(b)3’-O-可逆ブロックヌクレオシドの存在下で本発明のTdT変異体と開始剤又は伸長開始剤とを酵素伸長条件下で反応させる工程と、を含む。いくつかの実施形態では、かかる方法は、(c)伸長開始剤をデブロックして遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長開始剤を形成する工程と、(d)あらかじめ決められた配列の核酸分子が合成されるまで工程(b)及び(c)を繰り返す工程と、をさらに含む。
【0021】
本発明の目的はまた、鋳型を用いない核酸分子の合成プロセスであって、核酸プライマーと、少なくとも1種のヌクレオチド、好ましくは少なくとも1種の3’O-修飾ヌクレオチド及び本発明に係るTdT変異体の両方と、を接触させる工程を含む合成プロセスを提供することである。
【0022】
本発明はさらに、ヌクレオチド取込み反応を実施するためのキットであって、本発明に係るTdT変異体と、1種以上のヌクレオチド、好ましくは1種以上の3’O-修飾ヌクレオチドと、任意に少なくとも1種の核酸プライマーと、を含むキットを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
DNAポリメラーゼファミリーは、それらの配列相同性及び結晶構造に基づいて7つのファミリーに分けられる。それらのうち、PolXファミリーのポリメラーゼには、複製ポリメラーゼから末端トランスフェラーゼ酵素まで、多種多様なポリメラーゼが存在する。PolXファミリーのポリメラーゼは、非常に広範にわたる真核生物に存在する。PolXファミリーのポリメラーゼは、きわめて多様な生物学的プロセスとくにDNA損傷修復機序又はエラー訂正機序に関係する。PolXファミリーは、ポリメラーゼβ(Pol β)、μ(Pol μ)、λ(Pol λ)、酵母由来IV(Pol IV)、及び末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)に再分類される。TdTは、DNA修復及び維持機序に天然で関係する。とくに、TdTは、鋳型鎖の不在下でさえもヌクレオチド重合活性を保存するユニークな能力を有する。特定条件で天然ヌクレオチドを用いて、TdTは、いかなる相補鎖も存在させずに、数百ヌクレオチドを有するDNA断片を伸長可能である。しかしながら、野生型TdTは、糖修飾ヌクレオチドの効率的取込みが完全に不能である。
【0024】
そのため、本発明の目的は、前記ヌクレオチド断片の合成時に核断片への修飾ヌクレオチドの取込みを可能にする標的突然変異を有するTdT変異体を提供することである。より特定的には、本発明者らは、修飾ヌクレオチドを用いることによるものを含めて、あらかじめ決められた配列を有する各種長さの核酸断片を合成する酵素の能力を改善するように、単独又は組合せで有利に置換されうる特異的アミノ酸残基を同定した。
【0025】
定義
そこで用いられる場合、「突然変異体」及び「変異体」という用語は、配列番号11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26 27、28、29、30、31、32、33、34、又は35に関連するか又はそれらに由来し、且つ修飾又は改変、すなわち、置換、挿入、及び/又は欠失を1つ以上(たとえば複数)の位置に含み、且つ鋳型を用いないポリメラーゼ活性及び核酸鎖への3’-O-修飾ヌクレオシド三リン酸の取込み能力の両方を有するポリペプチドを意味するものとして同義的に用いられうる。変異体は、当技術分野で周知の各種技術により得られうる。特定的には、野生型タンパク質をコードするDNA配列の改変技術の例としては、限定されるものではないが、部位指向突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、及び合成オリゴヌクレオチド構築が挙げられる。突然変異誘発活性は、タンパク質配列中の1つ若しくは複数のアミノ酸の欠失、挿入、若しくは置換又はポリメラーゼの本発明の場合に依拠する。標的アミノ酸は、ポリメラーゼの配列全体に沿って共存又は分布しうる。たとえば、特異的なモチーフ又は構造上の特徴が標的となりうる。
【0026】
位置又はアミノ酸との関連で本明細書で用いられる「修飾」又は「改変」という用語は、特定位置のアミノ酸が野生型タンパク質のアミノ酸と比較して修飾されていることを意味する。
【0027】
「置換」とは、アミノ酸残基が他のアミノ酸残基により置き換えられることを意味する。好ましくは、「置換」という用語は、天然に存在する標準的な20種のアミノ酸残基、稀に天然に存在するアミノ酸残基(たとえば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、アロヒドロキシリシン、6-N-メチルリシン、N-エチルグリシン、N-メチルグリシン、N-エチルアスパラギン、allo-イソロイシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、ピログルタミン、アミノ酪酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン)、及び天然に存在しないアミノ酸残基、多くの場合、合成的に作製されるもの(たとえば、シクロヘキシル-アラニン)から選択される他のものによりアミノ酸残基を置き換えることを意味する。好ましくは、「置換」という用語は、天然に存在する標準的な20種のアミノ酸残基から選択される他のものによりアミノ酸残基を置き換えることを意味する。記号「+」は、置換の組合せを表す。
【0028】
アミノ酸は、本明細書では、次の命名法:A:アラニン(Ala)、C:システイン(Cys)、D:アスパラギン酸(Asp)、E:グルタミン酸(Glu)、F:フェニルアラニン(Phe)、G:グリシン(Gly)、H:ヒスチジン(His)、I:イソロイシン(Ile)、K:リシン(Lys)、L:ロイシン(Leu)、M:メチオニン(Met)、N:アスパラギン(Asn)、P:プロリン(Pro)、Q:グルタミン(Gln)、R:アルギニン(Arg)、S:セリン(Ser)、T:トレオニン(Thr)、V:バリン(Val)、W:トリプトファン(Trp)、及びY:チロシン(Tyr)に従ってその1文字コード又は3文字コードにより表される。
【0029】
本文書では、置換を表すために次の用語が用いられる。すなわち、L238Aとは、親配列の位置238のアミノ酸残基(ロイシン、L)がアラニン(A)に変更されることを意味する。A132V/I/Mとは、親配列の位置132のアミノ酸残基(アラニン、A)が次のアミノ酸:バリン(V)、イソロイシン(I)V、又はメチオニン(M)により置き換えられることを意味する。置換は、保存的置換又は非保存的置換でありうる。保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン、アスパラギン、及びトレオニン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、システイン、及びバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシン)、並びに小アミノ酸(グリシン、アラニン、及びセリン)の群内にある。
【0030】
本明細書で用いられる場合、「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列間のマッチ(同等アミノ酸残基)の数(又はパーセント%として表される分率)を意味する。配列同一性は、配列ギャップを最小限に抑えつつオーバーラップ及び同一性を最大化するようにアライメントしたときの配列を比較することにより決定される。特定的には、配列同一性は、2つの配列の長さに依存して、いくつかの数学的グローバル又はローカルアライメントアルゴリズムのいずれかを用いて決定されうる。類似の長さの配列は、好ましくは、全長にわたり最適に配列をアライメントするグローバルアライメントアルゴリズム(たとえば、ニードルマン・ブンシュアルゴリズム、Needleman and Wunsch,1970)を用いてアライメントされ、一方、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、ローカルアライメントアルゴリズム(たとえば、スミス・ウォーターマンアルゴリズム(Smith and Waterman,1981)又はアルトシュルアルゴリズム(Altschul et al.,1997;Altschul et al.,2005))を用いてアライメントされる。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のアライメントは、当該技術の範囲内の各種方法で、たとえば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/などのインターネットウェブサイトで入手可能な公表されたコンピューターソフトウェアを用いて達成可能である。当業者であれば、比較される配列の全長にわたる最大アライメントの達成に必要とされるいずれのアルゴリズムも含めて、アライメントの測定に適したパラメーターを決定可能である。本明細書の目的では、%アミノ酸配列同一性値とは、すべての検索パラメーターをデフォルト値に設定して、すなわち、スコアリング行列=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップ伸長=0.5、エンドギャップペナルティー=フォールス、エンドギャップオープン=10、及びエンドギャップ伸長=0.5として、ニードルマン・ブンシュアルゴリズムを用いて2つの配列の最適グローバルアライメントを生成するペアワイズ配列アライメントプログラムEMBOSS Needleを用いて発生される値を意味する。
【0031】
本明細書では、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「酵素」という用語は、鎖を形成するアミノ酸の数にかかわらず、ペプチド結合により連結されたアミノ酸の鎖を意味する。
【0032】
とくに明記されていない限り、本願に開示される位置は、特定配列番号に示されるアミノ酸配列を参照して番号付けされる。
【0033】
TdT変異体
本発明は、鋳型鎖を用いることなくDNAやRNAなどのあらかじめ決められた配列のポリヌクレオチドの合成に使用可能なTdT酵素変異体を提供する。本発明のTdT変異体は、Hiattらの米国特許第5763594号明細書に記載されるように、酵素媒介ポリヌクレオチド合成法で修飾ヌクレオチド、より特定的には3’O-修飾ヌクレオチドの使用を可能にする。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、「修飾末端デスオキシリボヌクレオチジルトランスフェラーゼ」、「修飾TdT」、「末端デスオキシリボヌクレオチジルトランスフェラーゼ変異体」、及び「TdT変異体」とは、少なくとも1つのアミノ酸残基置換を除いて、配列番号2、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35に示されるアミノ酸配列の1つのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を共有するアミノ酸セグメントを含む酵素を意味する。いくつかの実施形態では、TdT変異体は、少なくとも1つのアミノ酸残基置換を除いて、配列番号2、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35に対して少なくとも90%の同一性を共有するアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、TdT変異体は、少なくとも1つのアミノ酸残基置換を除いて、配列番号2、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35に対して少なくとも95%の同一性を共有するアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、TdT変異体は、少なくとも1つのアミノ酸残基置換を除いて、配列番号2、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35に対して少なくとも97%、98%、又は99%の同一性を共有するアミノ酸配列を含む。
【0035】
いくつかの場合には、本発明の変異体は、特異的残基の突然変異に従って記述されうるとともに、その位置は、配列番号とのアライメント又はそれへの参照により決定される。
【0036】
「機能的に等価な残基」とは、機能的に等価な配列中の対応する残基と比較して同等の機能的役割を有する所与のTdT配列中の残基を意味する。本発明との関連では、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35から選択されるTdTの各配列は、他の配列のいずれか1つの「機能的に等価な配列」とみなされうる。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号11を基準にして残基C173の機能的に等価な残基に対応する位置に少なくともアミノ酸置換を有して、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成可能であり、且つ(ii)3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸などの3’-O-修飾ヌクレオシド三リン酸を核断片に取込み可能である、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体を含む。
【0038】
実際には、本発明者らは、かかる置換が酵素の表面性及びヌクレオチドとの相互作用性の両方に大きな影響を及ぼして、核酸配列への3’O-修飾ヌクレオチドの取込みを可能にしうることを発見した。
【0039】
本発明のTdT変異体のさらなる実施形態は、表1A~1C(単一置換)、表2A~2C(2つの置換)、表3A~3C(3つの置換)、及び表4A~4F(4つの置換)のエントリーとして列挙されており、かかる各変異体TdTは、右側の列の指示配列番号により定義され、配列番号と同一の行の左側の列に列挙される置換により修飾される。「非野生型」置換とは、置換が野生型配列又は等価的に指示配列番号の配列の指示位置のアミノ酸以外のいずれかのアミノ酸でありうることを意味する。
【0040】
【表1A】
【0041】
【表1B】
【0042】
【表1C】
【0043】
【表2A】
【0044】
【表2B】
【0045】
【表2C】
【0046】
【表3A】
【0047】
【表3B】
【0048】
【表3C】
【0049】
【表4A】
【0050】
【表4B】
【0051】
【表4C】
【0052】
【表4D】
【0053】
【表4E】
【0054】
【表4F】
【0055】
有利には、置換は、CzzzG/R/P/A/V/S/N/Q/D(ただし、Czzzは、それぞれ、配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35における、配列番号11のC173に機能的に等価なアミノ酸残基番号を表す)、好ましくはCzzzG/R(ただし、Czzzは、それぞれ、配列番号13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35における、配列番号11のC173に機能的に等価なアミノ酸残基番号を表す)から選択される。
【0056】
特定実施形態では、変異体は、配列番号11のM63、R207、R324、及びE327から選択される残基の機能的に等価な残基に対応する位置に少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む。
【0057】
本発明によれば、以上に開示されるTdT変異体はすべて、鋳型を用いない核酸断片の合成及び核酸断片への修飾ヌクレオチドの取込みの両方が可能である。有利には、前記変異体は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35のTdTと比較して、核酸断片への修飾ヌクレオチド、好ましくは3’O-修飾ヌクレオチドの増加した取込み能力を有する。
【0058】
以上に記載の実施形態のいくつかでは、3’O-修飾ヌクレオシド三リン酸を取り込む変異体TdTの効率は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35の配列の野生型TdTの少なくとも110パーセントであり、他の実施形態では、3’O-修飾ヌクレオシド三リン酸を取り込む変異体TdTの効率は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35の配列の野生型TdTの少なくとも150パーセントであり、他の実施形態では、3’O-修飾ヌクレオシド三リン酸を取り込む変異体TdTの効率は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35の配列の野生型TdTの少なくとも200パーセントである。
【0059】
特定実施形態では、本発明の変異体は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35のアミノ酸配列と、任意にそのC末端又はN末端に追加のアミノ酸断片と、を含む。他の実施形態では、本発明の変異体は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35のアミノ酸配列のみに依拠する。
【0060】
本発明の他の態様によれば、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体は、M63R/Q、L131P、C173G/R、R207L/N、D250V、R324P/N、及びE327N/L/T/Sから選択される少なくとも3つのアミノ酸置換又は機能的に等価な残基を有して、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、若しくは35に示されるアミノ酸配列、又は上記の配列のいずれかに対して90%の配列同一性、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み(ただし、位置は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を参照して番号付けされるか、又はそれらの個別配列番号に対して本明細書の他の箇所に直接示される通りである)、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成可能であり、且つ(ii)3’-O-修飾ヌクレオチドを核断片に取込み可能である。
【0061】
たとえば、TdT変異体は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、及び35に対して特定パーセント配列同一性内のアミノ酸配列と、M63R+L131P+R207L、M63R+L131P+R207N、M63R+L131P+D250V、M63R+L131P+R324P、M63R+L131P+R324A、M63R+L131P+E327L、M63R+L131P+E327N、M63R+R207L+D250V、M63R+R207L+R324P、M63R+R207L+R324A、M63R+R207L+E327L、M63R+R207L+E327N、M63R+R207N+D250V、M63R+R207N+R324P、M63R+R207N+R324A、M63R+R207N+E327L、M63R+R207N+E327N、M63R+D250V+R324P、M63R+D250V+R324A、M63R+R324P+E327L、M63R+R324P+E327N、M63R+R324A+E327L、M63R+R324A+E327N、M63Q+L131P+R207L、M63Q+L131P+R207N、M63Q+L131P+D250V、M63Q+L131P+R324P、M63Q+L131P+R324A、M63Q+L131P+E327L、M63Q+L131P+E327N、M63Q+R207L+D250V、M63Q+R207L+R324P、M63Q+R207L+R324A、M63Q+R207L+E327L、M63Q+R207L+E327N、M63Q+D250V+R324P、M63Q+D250V+R324A、M63Q+D250V+E327L、M63Q+D250V+E327N、M63Q+R324P+E327L、M63Q+R324P+E327N、M63Q+R324A+E327L、M63Q+R324A+E327N、L131P+R207L+D250V、L131P+R207L+R324A、L131P+R207L+E327L、L131P+R207L+E327N、L131P+R207N+D250V、L131P+R207N+R324P、L131P+R207N+R324A、L131P+R207N+E327L、L131P+R207N+E327N、L131P+D250V+R324P、L131P+D250V+R324A、L131P+D250V+E327L、L131P+D250V+E327N、L131P+R324P+E327L、L131P+R324P+E327N、L131P+R324A+E327L、L131P+R324A+E327N、R207L+D250V+R324P、R207L+D250V+R324A、R207L+D250V+E327L、R207L+D250V+E327N、R207L+R324P+E327L、R207L+R324P+E327N、R207L+R324A+E327L、R207L+R324A+E327N、R207N+D250V+R324P、R207N+D250V+R324A、R207N+D250V+E327L、R207N+D250V+E327N、R207N+R324P+E327L、R207N+R324P+E327N、R207N+R324A+E327L、R207N+R324A+E327N、D250V+R324P+E327L、D250V+R324P+E327N、D250V+R324A+E327L、D250V+R324A+E327N、及びR207L+D250V+R324Pから選択される置換の組合せ又は機能的に等価な残基と、を含む(ただし、以上の位置番号は配列番号11を基準にする)。
【0062】
特定実施形態では、TdT変異体は、配列番号11に対して特定パーセント配列同一性内のアミノ酸配列又は機能的に等価な配列と、置換R207L+R324P+E327Lの組合せ又は機能的に等価な残基と、を含む。
【0063】
特定実施形態では、TdT変異体は、配列番号11に対して特定パーセント配列同一性内のアミノ酸配列又は機能的に等価な配列と、置換R207N+R324A+E327Nの組合せ又は機能的に等価な残基と、を含む。
【0064】
かかる変異体は、配列番号11を基準にしてL52、A108、L131、T340、G284、H287、E289、W450、R354、及びA510から選択される残基、又は機能的に等価な配列中の機能的に等価な残基に対応する位置に、少なくとも1つの置換をさらに含みうる。
【0065】
以上に開示されるように、前記変異体はまた、配列番号11を基準にして一定の突然変異L52F+A108V+R354K及び/若しくはG284L/S+H287D+E289Aの組合せ又は機能的に等価な配列中の機能的に等価な残基を含みうる。
【0066】
さらなる態様によれば、本発明は、M63R、M63Q、L131P、R207L、R207N、D250V、R324P、R324A、E327L、E327N、又は機能的に等価な残基から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有して、配列番号11に対して特定パーセント配列同一性内のアミノ酸配列又は機能的に等価な配列を含み、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成可能であり、且つ(ii)3’-O-修飾ヌクレオチドを核断片に取込み可能である、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体を提供する。
【0067】
他の態様では、本発明は、少なくともM63R+L131P、M63R+R207L、M63R+R207N、M63R+D250V、M63R+R324P、M63R+R324A、M63R+E327L、M63R+E327N、M63Q+L131P、M63Q+R207L、M63Q+R207N、M63Q+D250V、M63Q+R324P、M63Q+R324A、M63Q+E327L、M63Q+E327N、L131P+R207L、L131P+R207N、L131P+D250V、L131P+R324P、L131P+R324A、L131P+E327L、L131P+E327N、R207L+D250V、R207L+R324P、R207L+R324A、R207L+E327L、R207L+E327N、R207N+D250V、R207N+R324P、R207N+R324A、R207N+E327L、R207N+E327N、D250V+R324P、D250V+R324A、D250V+E327L、D250V+E327N、R324P+E327L、R324P+E327N、R324A+E327L、及びR324A+E327Nから選択される置換の組合せ又は機能的に等価な残基を有して(ただし、位置は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を参照して番号付けされる)、配列番号11に対して特定パーセント配列同一性内のアミノ酸配列又は機能的に等価な配列を含み、(i)鋳型を用いずに核酸断片を合成可能であり、且つ(ii)3’-O-修飾ヌクレオチドを核断片に取込み可能である、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)変異体を提供する。
【0068】
いくつかの実施形態によれば、TdT変異体は、以上に記載の置換又は置換の組合せと、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35に対して少なくとも80%の同一性内のアミノ酸配列と、を有し、いくつかの実施形態では、かかるアミノ酸配列は、配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35に対して少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性内にある。
【0069】
追加の修飾
ある実施形態では、TdT変異体は、そのN末端、C末端、又は両末端にHisタグ配列などのいずれかのタイプのタグ付けペプチドをさらに含む。前記タグ付けペプチドは、精製、同定、発現増加、分泌性、又は触媒活性増加のために使用可能である。かかるさまざまタグは、文献に広範に記載されているので、当業者に公知のタグはすべて、本発明によりカバーされることが、理解されよう。
【0070】
本発明の変異体はまた、組換えポリメラーゼの精製などに使用するために、タンパク質のN及び/又はC末端領域に1つ以上の外因性又は異種の特徴を含みうる。
【0071】
本発明の変異体は、位置C378~L406の残基(ただし、位置は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を参照して番号付けされる)又は機能的に等価な残基の置換、配列番号3の配列のPolμポリメラーゼの残基H363~C390(ただし、位置は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を参照して番号付けされる)又は機能的に等価な残基による置換をさらに含みうる。
【0072】
有利には、TdT変異体は、本開示の置換及びパーセント配列同一性値を有して、少なくとも配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、又は35のアミノ酸配列を含む。
【0073】
核酸、発現カセット、ベクター
また、本発明の変異体をコードする核酸分子を提供することも、本発明の目的である。本明細書で用いられる場合、「核酸」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、及び「ヌクレオチド配列」という用語は、同義的に用いられて、デオキシリボヌクレオチド及び/又はリボヌクレオチドの配列を意味する。一実施形態では、核酸はDNAである。代替実施形態では、核酸はRNAである。代替実施形態では、核酸はXNAである。
【0074】
核酸は、一本鎖形又は二本鎖形又は両者の混合形でありうる。それは組換え起源、人工起源、及び/又は合成起源でありうるとともに、それは修飾ヌクレオチドを含みうる。かかる修飾は、エピジェネティック修飾などの天然修飾、又は標識、修飾結合、修飾プリン若しくはピリミジン塩基、修飾糖などの非天然修飾でありうる。一実施形態では、核酸分子は、メチル化、ヒドロキシメチル化、ホルミル化、又は5-カルボキシル化などの天然に存在するエピジェネティック修飾を有するDNA、RNA、又はXNAである。一実施形態では、核酸分子は、蛍光タグ、蛍光標識、相互作用基などの天然に存在しない修飾を有するDNA、RNA、又はXNAである。
【0075】
本発明の核酸は、単離形又は精製形でありうるとともに、当技術分野でそれ自体公知の技術により、たとえば、cDNAライブラリーのクローニング及び発現、増幅、酵素合成、又は組換え技術により、作製、単離、及び/又は操作が可能である。核酸はまた、たとえば、Belousov(1997)Nucleic Acids Res.25:3440-3444に記載のように、周知の化学合成技術によりin vitroで合成可能である。
【0076】
本発明はまた、以上に定義されるTdT変異体をコードする核酸にストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸を包含する。好ましくは、かかるストリンジェント条件は、2×SSC/0.1%SDS中における約2.5時間にわたる約42℃でのハイブリダイゼーションフィルターのインキュベーション、続いて、1×SSC/0.1%SDS中における15分間にわたる65℃でのフィルターの4回の洗浄を含む。使用されるプロトコルは、Sambrook et al.(Molecular Cloning:a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor N.Y.(1988))及びAusubel(Current Protocols in Molecular Biology(1989))などの参照文献に記載されている。
【0077】
本発明はまた、本発明のTdT変異体をコードする核酸を包含するとともに、前記核酸の配列又は少なくとも前記配列の一部は、最適化コドン使用頻度を用いて工学操作されている。
【0078】
代替的に、本発明に係る核酸は、本発明に係るTdT変異体の配列から推測されうるとともに、コドン使用頻度は、核酸が転写される宿主細胞に応じて適合化されうる。これらの工程は、当業者に周知の方法に従って行われうるとともに、そのいくつかは、Sambrook et al.(Sambrook et al.,2001)の参照マニュアルに記載されている。
【0079】
一実施形態では、核酸分子は、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、15000、20000、30000、40000、50000、又は100000ヌクレオチド超の長さを有する高分子である。
【0080】
本発明の核酸は、追加のヌクレオチド配列、たとえば、レギュラトリー領域、すなわち、選択された宿主細胞又は系でポリペプチドの発現を誘発又はレギュレートするために使用可能なプロモーター、エンハンサー、サイレンサー、ターミネーター、シグナルペプチドなどをさらに含みうる。
【0081】
本発明はさらに、好適な宿主細胞内で前記核酸の発現を誘導する1つ以上の制御配列に作動可能に連結された本発明に係る核酸を含む発現カセットに関する。典型的には、発現カセットは、制御配列たとえば転写プロモーター及び/又は転写ターミネーターに作動可能に連結された本発明に係る核酸を含むか又はそれからなる。制御配列は、本発明のTdT変異体をコードする核酸の発現のために宿主細胞又はin vitro発現系により認識されるプロモーターを含みうる。プロモーターは、酵素の発現を媒介する転写制御配列を含有する。プロモーターは、突然変異型、トランケート型、及びハイブリッド型プロモーターを含めて、宿主細胞内で転写活性を示すいずれかのポリヌクレオチドでありうるとともに、宿主細胞に対して同種又は異種のどちらかの細胞外又は細胞内のポリペプチドをコードする遺伝子から得られうる。制御配列はまた、転写を終了するように宿主細胞により認識される転写ターミネーターでありうる。ターミネーターは、エステラーゼをコードする核酸の3’末端に作動可能に連結される。宿主細胞内で機能するターミネーターはいずれも、本発明で使用されうる。典型的には、発現カセットは、転写プロモーター及び転写ターミネーターに作動可能に連結された本発明に係る核酸を含むか又はそれからなる。
【0082】
本発明はまた、以上に定義される核酸又は発現カセットを含むベクターに関する。
【0083】
「ベクター」という用語は、宿主細胞内に組換え遺伝物質を移入するために媒体として使用されるDNA分子を意味する。メジャータイプのベクターは、プラスミド、バクテリオファージ、ウイルス、コスミド、及び人工染色体である。ベクター自体は、一般に、インサート(異種核酸配列、トランスジーン)と、ベクターの「骨格」として機能するより大きな配列と、からなるDNA配列である。宿主に遺伝情報を移入するベクターの目的は、典型的には、標的細胞内でインサートを単離、増殖、又は発現することである。発現ベクター(発現構築物)と呼ばれるベクターは、標的細胞内で異種配列を発現するように特異的に適合化されるとともに、一般に、ポリペプチドをコードする異種配列の発現を駆動するプロモーター配列を有する。一般に、発現ベクター中に存在するレギュラトリーエレメントは、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、及び任意に存在するオペレーターを含む。好ましくは、発現ベクターはまた、宿主細胞内での自律複製のための複製起点、選択可能マーカー、限られた数の有用な制限酵素部位、及び高コピー数の潜在能力を含有する。発現ベクターの例は、クローニングベクター、修飾クローニングベクター、特異的設計プラスミド及びウイルスである。さまざまな宿主内で好適なポリペプチド発現レベルを提供する発現ベクターは、当技術分野で周知である。ベクターの選択は、典型的には、ベクターとベクターが導入されるべき宿主細胞との適合性に依存するであろう。
【0084】
本発明の他の目的は、以上に記載の核酸、発現カセット、又はベクターを含む宿主細胞を提供することである。そのため、本発明は、宿主細胞をトランスフォーム、トランスフェクト、又はトランスデュースするための、本発明に係る核酸、発現カセット、又はベクターの使用に関する。ベクターの選択は、典型的には、ベクターとそれが導入されなければならない宿主細胞との適合性に依存するであろう。
【0085】
本発明によれば、宿主細胞は、一過的又は安定的にトランスフォーム、トランスフェクト、又はトランスデュースされうる。本発明の発現カセット又はベクターは、カセット又はベクターが染色体インテグラント又は自己複製染色体外ベクターとして維持されるように宿主細胞内に導入される。「宿主細胞」という用語はまた、複製時に発生する突然変異に起因して親宿主細胞と同等でない親宿主細胞のいずれの後代も包含する。宿主細胞は、本発明の変異体の生成に有用ないずれかの細胞たとえば原核細胞又は真核細胞でありうる。原核宿主細胞は、いずれかのグラム陽性細菌又はグラム陰性細菌でありうる。宿主細胞はまた、酵母、真菌、哺乳動物、虫、植物の細胞などの真核細胞でありうる。
【0086】
本発明に係る核酸、発現カセット、又は発現ベクターは、エレクトロポレーション、コンジュゲーション、トランスダクション、コンピテント細胞トランスフォーメーション、プロトプラストトランスフォーメーション、プロトプラスト融合、バイオリスティック「遺伝子銃」トランスフォーメーション、PEG媒介トランスフォーメーション、脂質支援トランスフォーメーション又はトランスフェクション、化学的媒介トランスフェクション、リチウムアセテート媒介トランスフォーメーション、リポソーム媒介トランスフォーメーションなどの当業者に公知のいずれかの方法により宿主細胞に導入されうる。
【0087】
任意に、変異体の生成を増加させるために、本発明の核酸、カセット又はベクターの2つ以上のコピーを宿主細胞内に挿入しうる。
【0088】
修飾ヌクレオチド
本発明によれば、TdT変異体は、修飾ヌクレオチド、好ましくは修飾3’O-ヌクレオチド、より好ましくは3’O-ブロックヌクレオチドを取込み可能である。
【0089】
本発明との関連では、「修飾ヌクレオチド」という表現は、3つのリン酸基に結合されたヌクレオシド(すなわち、デオキシリボース又はリボース糖分子に装着された塩基)を含有する分子であって、その末端:2’、3’、5’、又は塩基の1つに少なくとも1つの追加の基を有する分子を意味する。前記追加の基は、いずれかのホスホジエステル結合の形成を防止することにより(3’O-修飾、2’若しくは2’O修飾)、又は3’末端にかかる修飾ヌクレオチドを含むいずれかの核酸断片へのポリメラーゼの装着を立体的に防止することにより(5’又は塩基修飾)、ヌクレオチドのさらなる付加をブロックする。さらに、前記追加の基は、有利には、特異的切断反応を介してその基の除去を可能にする可逆性を有する。
【0090】
ヌクレオシド又はヌクレオチド三リン酸は、デオキシリボースを含有するヌクレオチドの例として、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、又はデオキシチミジン三リン酸(dTTP)を含む。アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン三リン酸(CTP)、又はウリジン三リン酸(UTP)は、リボースを含有するヌクレオチド三リン酸のさらなる例である。他のタイプのヌクレオシド、たとえば、天然に存在する修飾ヌクレオシド及び人工ヌクレオシドは、ヌクレオチド三リン酸を形成するように3つのリン酸に結合されうる。
【0091】
特定実施形態では、修飾ヌクレオチドは、さらなるヌクレオチド付加を防止するためにヌクレオチド三リン酸の3’末端に可逆的に装着された基を含む3’O-ブロックヌクレオチドである。前記基は、アジドメチル、アミノオキシ、アリルなど、さまざまな化学性を有しうる。
【0092】
有利には、修飾ヌクレオチドは、3’-O-NH-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アジドメチル-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アリル-ヌクレオシド三リン酸、3’O-(2-ニトロベンジル)-ヌクレオシド三リン酸、又は3’-O-プロパルギルヌクレオシド三リン酸から選択される。
【0093】
[0022]いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオチドは、プリン又はピリミジン塩基と、3’炭素原子が構造:
-O-Z
の基を装着するように共有結合で装着された除去可能な3’-OHブロッキング基を有するリボース又はデオキシリボース糖部分と、を含む修飾ヌクレオチド又はヌクレオシド分子を含む。上記式中、-Zは、-C(R’)2-0-R’’、-C(R’)2-N(R’’)2、-C(R’)2-N(H)R’’、-C(R’)2-S-R’’、及び-C(R’)2-Fのいずれかであり、各R’’は、除去可能な保護基であるか又はその一部であり、各R’は、独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリールアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環式基、アシル基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、若しくはアミド基、又は連結基を介して装着された検出可能な標識であり、ただし、いくつかの実施形態では、かかる置換基は、10個までの炭素原子及び/又は5個までの酸素若しくは窒素ヘテロ原子を有し、或いは(R’)2は、式=C(R’’’)2のアルキリデン基を表し、各R’’’は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子及びハロゲン原子及びアルキル基を含む群から選択され、ただし、いくつかの実施形態では、各R’’’のアルキルは、1~3個の炭素原子を有し、且つ分子は、各R’’がHと交換された中間体を生じるように反応しうるか、又はZが-(R’)2-Fであるとき、FがOH、SH、又はNH2、好ましくはOHと交換されて、中間体が、水性条件下で解離して遊離3’-OHを有する分子を与え、ただし、Zが-C(R’)2-S-R’’であるとき、R’基は両方ともHではない。ある特定の実施形態では、修飾ヌクレオチド又はヌクレオシドのR’は、アルキル又は置換アルキルであり、ただし、かかるアルキル又は置換アルキルは、1~10個の炭素原子及び0~4個の酸素又は窒素ヘテロ原子を有する。ある特定の実施形態では、修飾ヌクレオチド又はヌクレオシドの-Zは、式-C(R’)-N3である。ある特定の実施形態では、Zはアジドメチル基である。
【0094】
[0023]いくつかの実施形態では、Zは、200以下の分子量を有するヘテロ原子を含む又は含まない切断可能な有機部分である。他の実施形態では、Zは、100以下の分子量を有するヘテロ原子を含む又は含まない切断可能な有機部分である。他の実施形態では、Zは、50以下の分子量を有するヘテロ原子を含む又は含まない切断可能な有機部分である。
【0095】
さらなる特定実施形態では、「3’O修飾ヌクレオチド」とは、3’-O-メチル基、3’-アジド基、3’-O-アジドメチル基、3’-O-アミノ基、3’-アミノオキシ基、又は3’-O-アリル基のどれかを3’末端に有するヌクレオチド三リン酸を意味する。さらなる実施形態では、3’-ブロックヌクレオチド三リン酸は、3’-O-アジドメチル基、3’-アミノオキシ基、又は3’-O-アリル基のどれかによりブロックされる。他の実施形態では、「3’O修飾ヌクレオチド」とは、エステル、エーテル、カルボニトリル、ホスフェート、カーボネート、カルバメート、ヒドロキシルアミン、ボレート、ナイトレート、糖、ホスホルアミド、ホスホルアミデート、フェニルスルフェネート、サルフェート、スルホン、又はアミノ酸のどれかを3’末端に有するヌクレオチド三リン酸を意味する。いくつかの実施形態では、上記の3’-O-ブロッキング基は、100以下の分子量を有する。
【0096】
他の実施形態では、本発明の3’-O-ブロッキング基は、メチル、3’-O-(2-ニトロベンジル)、アリル、アミン、アジドメチル、tert-ブトキシエトキシ、又はプロパルギルを含む。
【0097】
さらなる特定実施形態では、「3’O修飾ヌクレオチド」とは、国際公開第2016034807号パンフレットに記載されるようなターミネーターエフェクター修飾基を有するヌクレオチド三リン酸を意味する。
【0098】
興味深いことに、本発明の変異体は、野生型TdTと比較して修飾ヌクレオチドへの親和性の増加、ひいては核酸合成時に核酸配列へのかかる修飾ヌクレオチドの取込み能力の増加を呈する。より特定的には、本発明の変異体は、修飾3’O-ヌクレオチド(より特定的には3’O-ブロックヌクレオチド)の使用及び核酸配列への取込みが可能であり、これは野生型TdTでは可能でない(Knapp et al.Chem.Eur.J.,2011,17:2903を参照されたい)。
【0099】
特定態様によれば、本発明は、核酸酵素合成プロセスで修飾ヌクレオチドを用いて、とくに3’O-修飾ヌクレオチド(たとえば3’O-ブロックヌクレオチド)を用いて作業可能であり、且つ長さの長い核酸分子又は核酸分子の誘導体を生成する能力を有する、TdT変異体に関する。
【0100】
核酸の酵素合成
本発明の目的は、Ybertらの国際公開第2015/159023号パンフレット、Jensen et al,Biochemistry,57:1821-1832(2018)、Hiattらの米国特許第5808045号明細書に記載されるように、核酸の合成に使用しうるTdT変異体を提供することである。より特定的には、本発明の目的は、開始核酸鎖への修飾ヌクレオチドの付加に好適なTdT変異体を提供することである。その際、ブロッキング基は、修飾ヌクレオチドの新たな付加を可能にするために除去されうる。
【0101】
本発明によれば、本発明の変異体の使用により、付加及び脱保護を含む逐次サイクルを実現可能である。したがって、本プロセスは、可逆修飾ヌクレオチドの付加及びさらなるブロッキング基の除去の複数サイクルにより、開始核酸鎖を定義配列に制御伸長させることを可能にするであろう。
【0102】
本発明は、いずれかの酵素核酸合成プロセスにおける本発明に係る修飾TdTの使用を企図する。
【0103】
そのため、本発明の目的は、あらかじめ決められた配列を有するポリヌクレオチドの合成方法であって、
a)遊離3’-ヒドロキシルを有する3’末端ヌクレオチドを有する開始剤を提供することと、
b)ポリヌクレオチドが形成されるまで、(i)開始剤又は伸長断片が3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸の取込みにより伸長されて3’-O-ブロック伸長断片を形成するように、遊離3’-O-ヒドロキシルを有する開始剤又は伸長断片と、3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸及び本発明のTdT変異体と、を伸長条件下で接触させることと、(ii)伸長断片をデブロックして遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長断片を形成することと、のサイクルを繰り返すことと、
を含む合成方法を提供することである。
【0104】
また、本発明の目的は、鋳型を用いない核酸分子の合成プロセスであって、核酸プライマーと、少なくとも1種のヌクレオチド、好ましくは少なくとも1種の3’O-修飾ヌクレオチド及び本発明の変異体の両方と、を接触させる工程を含む合成プロセスを提供することである。
【0105】
本発明は、酵素核酸合成プロセスの概念を企図する。かかるプロセスでは、核酸分子は、いかなる鋳型鎖も存在させずにde novo合成される。それゆえ、順序付けられたヌクレオチド配列は、本発明の変異体の助けを借りて開始剤核酸断片に結合される。成長核酸鎖への各ヌクレオチドの定量的結合、より一般的には高い結合効率がきわめて重要であることは、理解されよう。天然ヌクレオチドや永久標識ヌクレオチドなどの非ターミネーターヌクレオチドは、合成配列に対するいかなる制御も許容しないであろうこと、たとえば、無制御の望ましくないポリ付加をもたらすであろうこともまた、理解されよう。
【0106】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドの合成方法は、(a)遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤を提供する工程と、(b)3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸の存在下で遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤又は伸長中間体と本発明の変異体TdTとを伸長条件下で反応させて3’-O-ブロック伸長中間体を生成する工程と、(c)伸長中間体をデブロックして遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長中間体を生成する工程と、(d)ポリヌクレオチドが合成されるまで工程(b)及び(c)を繰り返す工程と、を含む。
【0107】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドの合成方法は、(a)固形担体に装着された開始剤を提供する工程であって、開始剤が、遊離3’-ヒドロキシルを有するオリゴヌクレオチドである、工程と、(b)3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸の存在下で遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤又は伸長中間体と本発明の変異体TdTとを伸長条件下で反応させて3’-O-ブロック伸長中間体を生成する工程と、(c)固形担体を洗浄して取り込まれていない3’-O-ブロックヌクレオシド三リン酸を除去する工程と、(d)固形担体をデブロッキング剤に暴露することにより伸長中間体をデブロックして遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長中間体を生成する工程と、(e)ポリヌクレオチドが合成されるまで工程(b)及び(d)を反復する工程と、を含む。本方法は、固形担体から完成ポリヌクレオチドを切断するさらなる工程を含みうる。
【0108】
いくつかの実施形態では、TdT触媒付加反応に対して、酵素条件は、3’-ヒドロキシルを保護する除去可能なブロッキング部分を有する約0.20~約200μMのヌクレオチドと、開始基質に由来する約0.20~200μMの遊離非修飾3’-ヒドロキシルと、を含有しうる。いくつかの実施形態では、反応緩衝液は、約10~約500mMカコジル酸カリウム緩衝液(pH6.5~7.5)及び約0.01~約10mM2価カチオン(たとえばCoCl又はMnCl)を含有する。他の緩衝液組成及び成分は、本発明の望ましい特定実施形態に好適でありうる。
【0109】
本発明との関連では、「切断反応」という表現は、可逆修飾ヌクレオチドに関して以上に記載された追加の基を切断可能な物質又は物理的条件のいずれかの作用を意味する。当業者であれば、先に列挙されたいずれの基に対しても切断反応を決定可能である。
【0110】
一実施形態では、切断剤は化学切断剤である。代替実施形態では、切断剤は酵素切断剤である。
【0111】
切断剤の選択は、使用される3’-ヌクレオチドブロッキング基のタイプに依存することが、当業者であれば理解されよう。たとえば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)は、3’O-アジドメチル基を切断するために使用可能であり、パラジウム錯体、3’O-アリル基を切断するために使用可能であり、又は亜硝酸ナトリウムは、3’O-アミノ基を切断するために使用可能である。特定実施形態では、切断反応は、TCEP、パラジウム錯体、又は亜硝酸ナトリウムが関与する。
【0112】
特定実施形態では、切断反応は、変性剤(たとえば、ウレア、グアニジニウムクロライド、ホルムアミド、又はベタイン)などの追加成分の存在下で実施される。さらなる実施形態では、切断反応は、1種以上の緩衝液を用いて実施される。当業者であれば、緩衝液の選択は、反応の厳密な機序に依存することが理解されよう。
【0113】
本発明は、定量的方法で修飾ヌクレオチドを取り込む能力を有するTdT変異体に関する。「定量的方法」又は「定量的反応」とは、完了に至る反応、すなわち、反応体が完全に産物に変換される反応を意味する。定量的方法で可逆修飾ヌクレオチドを取り込むポリメラーゼは、核酸のあらゆる断片を伸長可能なポリメラーゼであり、すべての利用可能なヌクレオチドが長さnのすべての開始断片から長さn+1の断片への変換をもたらす。
【0114】
本明細書で用いられる場合、「開始断片」とは、さらに伸長可能な遊離3’末端を有する短いオリゴヌクレオチド配列を意味する。一実施形態では、開始断片はDNA開始断片である。代替実施形態では、開始断片はRNA開始断片である。
【0115】
一実施形態では、開始断片は、3~100ヌクレオチド、とくに3~20ヌクレオチドを有する。
【0116】
一実施形態では、開始断片は一本鎖である。代替実施形態では、開始断片は二本鎖である。
【0117】
一実施形態では、開始断片は固形担体に固定される。開始断片は、各種方法で固形担体に装着されて、断片が受ける各種酵素反応条件下又は合成反応条件下で安定状態をもたらしうる。
【0118】
一実施形態では、開始断片は、化学切断可能なリンカー、抗体/免疫原性エピトープ、ビオチン/ビオチン結合タンパク質、又はグルタチオン-GSTタグなどの可逆相互作用部分を介して固形担体に固定される。さらなる実施形態では、開始断片は、ジスルフィド、アリル、アジドマスクヘミアミナールエーテルリンカーなどの化学切断可能なリンカーを介して固形担体に固定される。
【0119】
開始断片中、固定部は、少なくとも1つの制限部位を含有する。特異的部位で核酸鎖を選択的に加水分解する制限酵素及び制限部位の使用は、文献に記載されている。当業者であれば、開始断片切断部位配列にマッチする適切な制限酵素を選ぶことができるであろう。
【0120】
代替実施形態では、開始断片は、少なくとも1つのウリジンを含有する。ウラシル-DNAグリコシラーゼ(UDG)による処理は、脱塩基部位を発生する。脱プリン/脱ピリミジン(AP)部位エンドヌクレアーゼによる適切な基質の処理は、核酸鎖を抽出するであろう。
【0121】
用途
本明細書には、核酸合成、オリゴヌクレオチド合成、プローブ合成、タグ付け、核酸増幅、アプタマー、治療用核酸分子、薬剤標的発見及び検証、疾患診断、代謝工学操作、データ記憶、作物改良、ライブラリー設計、シーケンシングプール、核酸標識若しくは装着又は核酸分子が関与するいずれかの他の用途に使用されるTdT変異体の使用が記載されている。
【0122】
変異体TdTの生成
本発明の変異体は、既知の参照又は野生型TdTコードポリヌクレオチドを突然変異させてから従来の分子生物学技術を用いてそれを発現させることにより生成されうる。たとえば、マウスTdT遺伝子(配列番号1)は、従来の分子生物学技術を用いて、たとえば、Stemmer et al,Gene,164:49-53(1995)、Kodumal et al,Proc.Natl.Acad.Sci.,101:15573-15578(2004)などに記載のプロトコルを用いて、合成断片からアセンブルされうるか、又はBoule et al,Mol.Biotechnology,10:199-208(1998)、Bentolila et al,EMBO J.,14:4221-4229(1995)などに記載のプロトコルを用いて、マウス細胞から直接クローニングされうる。
【0123】
たとえば、単離されたTdT遺伝子は、pET32(Novagen)などの発現ベクターに挿入してベクターpCTdTを与えるとともに、これは、次いで、従来のプロトコルを用いて変異体TdTタンパク質を作製及び発現するために使用されうる。適正配列を有するベクターは、E.コリ(E.coli)プロデューサー株にトランスフォームされうる。
【0124】
トランスフォーム株は、従来の技術を用いてペレットに培養され、これからTdTタンパク質が抽出される。たとえば、事前に調製されたペレットは、30~37℃の水浴中で解凍される。十分に解凍した後、ペレットは、50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、150mM NaCl(Sigma)、0.5mMメルカプトエタノール(Sigma)、5%グリセロール(Sigma)、20mMイミダゾール(Sigma)、及び100mLプロテアーゼカクテル阻害剤用錠剤1錠(Thermofisher)で構成されるライシス緩衝液中に再懸濁される。早期ライシス及びアグリゲート残留を回避するために、注意深い再懸濁を行う。再懸濁細胞は、フレンチプレスに何サイクルか通して十分な色均一性が得られるまでライシスされる。使用される通常の圧力は14,000psiである。次いで、ライセートは、1h~1h30にわたり10,000rpmで遠心分離される。遠心分離物は、0.2μmフィルターに通してデブリを除去してからカラム精製にかけられる。
【0125】
TdTタンパク質は、1工程アフィニティー手順で遠心分離物から精製されうる。たとえば、ポリメラーゼを結合するためにNi-NTAアフィニティーカラム(GE Healthcare)が使用される。最初に、カラムを洗浄して、15カラム体積の50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、150mM NaCl(Sigma)、及び20mMイミダゾール(Sigma)で平衡化させた。平衡化後、ポリメラーゼをカラムに結合させる。次いで、50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、500mM NaCl(Sigma)、及び20mMイミダゾール(Sigma)で構成される洗浄緩衝液を15カラム体積でカラムに適用する。洗浄後、50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、500mM NaCl(Sigma)、及び0.5Mイミダゾール(Sigma)を用いてポリメラーゼを溶出させる。最高濃度の対象ポリメラーゼに対応する画分を捕集して、単一サンプルにプールする。透析緩衝液(20mM Tris-HCl,pH6.8、200mM NaCl、50mM MgOAc、100mM[NH4]2SO4)に対してプール画分を透析する。続いて、濃縮フィルター(Amicon Ultra-30、Merk Millipore)の助けを借りて透析液を濃縮する。濃縮酵素を少量のアリコートに分配し、最終50%グリセロールを添加し、次いでそれらのアリコートを-20℃でフリーズして長期にわたり貯蔵する。精製酵素の各種画分5μLをSDSPAGEゲルで分析する。
【0126】
キット、酵素、及びヌクレオチド組成物
本発明の特定態様は、本発明に係るTdTの変異体と、本発明のいずれかの特定態様では任意に開始断片、1種以上の可逆ターミネーターヌクレオチド、切断反応に使用される追加の酵素及び試薬から選択される1種以上の成分のいずれかの組合せと、を含む組成物及びキットの使用に関する。前記キットは、酵素核酸合成法に使用可能である。
【0127】
本発明は、本発明に係る、又は本発明のいずれかの特定態様に係るTdT変異体と、適切な緩衝液及び比濃度を有する混合物中の可逆修飾ヌクレオチドと、を含む物質組成物をカバーする。
【実施例
【0128】
実施例1-本発明に係るTdT変異体の生成、発現、及び精製
発現株の生成
TdTマウス遺伝子は、[Boule et al.,1998,Mol.Biotechnol.10,199-208]に記載のpET28プラスミドから生成された。配列番号4の配列(タグTdT)は、下記のプライマー:
・T7-pro:TAATACGACTCACTATAGGG(配列番号5)
・T7-ter:GCTAGTTATTGCTCAGCGG(配列番号6)
を用いて標準的分子生物学技術により増幅された。次いで、配列をプラスミドpET32骨格中にクローニングして新たなpCTdTプラスミドを与える。
【0129】
シーケンシング後、pCTdTを市販のE.コリ(E.coli)細胞BL21(Novagen製のDE3)にトランスフォームする。カナマイシンを用いてプレート上の成長コロニーを単離してEc-CTdTと命名する。
【0130】
ポリメラーゼ変異体の生成
出発ベクターとしてpCTdTベクターを使用する。1つ又は複数の点突然変異を含む特異的プライマーは、Agilentオンラインソフトウェア(http://www.genomics.agilent.com:80/primerDesignProgram.jsp)から生成された。標的突然変異を含む所望の修飾ポリメラーゼを生成するために、市販のキットQuickChange II(Agilent)を使用した。実験手順は供給元のプロトコルに従った。さまざまなベクターの生成後、それらの各々をシーケンスした。以上に記載したように、適正配列を有するベクターをE.コリ(E.coli)プロデューサー株にトランスフォームした。カナマイシンLB寒天プレート上で成長可能なクローンを単離する。
【0131】
発現
適切量のカナマイシンが補足された50mLのLB培地が入った250mLエルレンに接種すべくEc-CTdT株及びEcクローン株を使用する。37℃で一晩成長させた後、カナマイシンを有する2L LB培地が入った5Lエルレンに接種すべく適切量のこれらのプレ培養物を使用する。5L培養物の初期ODは、0.01になるように選ばれる。強いアジテーション下でエルレンを37℃に設定してさまざまな培養物のODを定期的にチェックする。0.6~0.9のODに達した後、1mLの1M IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド、Sigma)の添加により各エルレンを補足する。37℃の制御温度下でエルレンをアジテーション状態に戻す。一晩発現後、いくつかのペレットで細胞を採取する。同一の変異体を発現するペレットをプールして最終的には数ヶ月間にわたり-20℃で貯蔵する。
【0132】
抽出
事前に調製されたペレットは、30~37℃の水浴中で解凍される。十分に解凍した後、ペレットは、50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、150mM NaCl(Sigma)、0.5mMメルカプトエタノール(Sigma)、5%グリセロール(Sigma)、20mMイミダゾール(Sigma)、及び100mLプロテアーゼカクテル阻害剤用錠剤1錠(Thermofisher)で構成されるライシス緩衝液中に再懸濁される。早期ライシス及びアグリゲート残留を回避するために、注意深い再懸濁を行う。再懸濁細胞は、フレンチプレスに何サイクルか通して十分な色均一性が得られるまでライシスされる。使用される通常の圧力は14,000psiである。次いで、ライセートは、1h~1h30にわたり10,000rpmで遠心分離される。遠心分離物は、0.2μmフィルターに通してデブリを除去してからカラム精製にかけられる。
【0133】
精製
生成及び抽出されたポリメラーゼ酵素を精製するために、1工程アフィニティー手順を使用する。ポリメラーゼを結合するためにNi-NTAアフィニティーカラム(GE Healthcare)が使用される。最初に、カラムを洗浄して、15カラム体積の50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、150mM NaCl(Sigma)、及び20mMイミダゾール(Sigma)で平衡化させた。平衡化後、ポリメラーゼをカラムに結合させる。次いで、50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、500mM NaCl(Sigma)、及び20mMイミダゾール(Sigma)で構成される洗浄緩衝液を15カラム体積でカラムに適用する。洗浄後、50mM tris-HCL(Sigma)pH7.5、500mM NaCl(Sigma)、及び0.5Mイミダゾール(Sigma)を用いてポリメラーゼを溶出させる。最高濃度の対象ポリメラーゼに対応する画分を捕集して、単一サンプルにプールする。透析緩衝液(20mM Tris-HCl,pH6.8、200mM NaCl、50mM MgOAc、100mM[NHSO)に対してプール画分を透析する。続いて、濃縮フィルター(Amicon Ultra-30、Merk Millipore)の助けを借りて透析液を濃縮する。濃縮酵素を少量のアリコートに分配し、最終50%グリセロールを添加し、次いでそれらのアリコートを-20℃でフリーズして長期にわたり貯蔵する。精製酵素の各種画分5μLをSDS-PAGEゲルで分析する。
【0134】
実施例2-蛍光プライマーを用いたTdT変異体の活性の評価
活性試験
実施例1に従って生成、発現、及び精製されたTdT変異体の伸長性能は、下記のアッセイにより評価される。結果はすべて、互いに及び野生型TdT酵素と及びいずれのポリメラーゼ酵素も欠如している対照チューブと比較される。
【0135】
【表5】
【0136】
活性緩衝液は、たとえば、CoClが補足されたTdT反応緩衝液(New England Biolabsから入手可能)を含む。使用されるプライマーは下記の通りである:
5’-AAAAAAAAAAAAAAGGGG-3’(配列番号7)。
【0137】
プライマーは、5’末端にATTO蛍光色素も有する。
【0138】
使用されたヌクレオチド(表5にdNTPと記される)は、3’-O-アミノ-2’,3’-ジデオキシヌクレオチド-5’-三リン酸(ONH、Firebird Biosciences)、たとえば、3’-O-アミノ-2’,3’-ジデオキシアデノシン-5’-三リン酸などである。
【0139】
試験されたさまざまな各変異体に対して、1つのチューブをその反応に使用する。水から始めて次いで表5の順に、試薬をチューブに添加する。37℃で30分後、ホルムアミド(Sigma)の添加により反応を停止させる。
【0140】
分析
分析は、ポリアクリルアミドゲル分析が関与する。活性試験のサンプルは、ポリアクリルアミド16%(biorad)変性ゲルに通して分析される。ゲルは、分析直前にガラスプレート内にポリアクリルアミドを注加して重合させることにより作製される。ガラスプレート内のゲルは、電気泳動工程のためにTBE緩衝液(Sigma)で満たされた適合タンクに実装される。分析サンプルはゲルのトップにロードされる。ゲルのトップとボトムとの間に3~6hにわたり室温で500~2,000Vの電圧が印加される。サンプル標的サイズに従って泳動させた後、システムを取り出してTyphoon機器(GE Life Sciences)を用いてゲル蛍光をスキャンする。画像取得後、ImageJソフトウェア(imagej.nih.gov/ij/)を用いて修飾ヌクレオチドの取込みパーセントを分析する。
【0141】
実施例3-非標識プライマーを用いたTdT変異体の活性の評価
活性試験
実施例1に従って生成、発現、及び精製された変異体5の伸長性能は、下記のアッセイにより評価される。結果はすべて、前の研究から得られた参照変異体(配列番号9)及びいずれのポリメラーゼ酵素も欠如している対照チューブと比較される。
【0142】
【表6】
【0143】
使用されるプライマーは下記の通りである:
5’-TTTTTTTTTTTTAAATAAGG-3’(配列番号8)。
【0144】
使用されたヌクレオチド(表6にdNTPと記される)は、3’-O-アミノ-2’,3’-ジデオキシヌクレオチド-5’-三リン酸(ONH2、Firebird Biosciences)、たとえば、3’-O-アミノ-2’,3’-ジデオキシアデノシン-5’-三リン酸などである。
【0145】
試験された各変異体に対して、1つのチューブをその反応に使用した。水から始めて次いで表6の順に、試薬をチューブに添加する。37℃で30分後、ホルムアミド(Sigma)の添加により反応を停止させた。
【0146】
分析
分析では、液体クロマトグラフィー及び質量分析計の検出及び定量(LC/MS)が使用された。活性試験のサンプルはLC/MSにより分析される。サンプルはLC/MS機器にロードされ、標準的オリゴヌクレオチド分離法が実施される。データ獲得に続いて、デコンボリューション及びスペクトル計算が行われた。
【配列表】
2022534004000001.app
【国際調査報告】