(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞における非天然アミノ酸の組み込みのための強化されたプラットフォーム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220824BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220824BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220824BHJP
C40B 40/02 20060101ALI20220824BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220824BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220824BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N5/10
C40B40/02
C12P21/02 C
C12N15/31
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574260
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 US2020038766
(87)【国際公開番号】W WO2020257668
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503054225
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】チャッタージー アブヒシェク
(72)【発明者】
【氏名】ケレメン レイチェル イー.
(72)【発明者】
【氏名】ジェウェル デリラ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064AG01
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC12
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4B064CD09
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4B064CE02
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4B065AA01Y
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4B065BA21
4B065BB15
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC07
4B065BD01
4B065BD09
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、1)ウイルス支援指向性進化プラットフォームを使用して、哺乳動物細胞における操作されたナンセンスサプレッサーtRNAの活性を有意に改善する能力、2)哺乳動物細胞において著しく改善されたUaa組み込み効率を示す古細菌ピロリジル及び大腸菌ロイシルtRNAの変異体を提供する能力、並びに3)これらのtRNAを使用して、哺乳動物細胞において著しく向上した収率でUaaを組み込む組み換えタンパク質を発現する能力に関与する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリアント古細菌サプレッサーtRNA又はバリアント細菌サプレッサーtRNAを含む組成物であって、前記バリアントtRNAは、その野生型対応tRNAと比較して、非天然アミノ酸を哺乳類タンパク質に組み込むための活性が増大している組成物。
【請求項2】
前記バリアントtRNAの活性が、前記野生型tRNAに対して約2.5~80倍増大している請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記バリアント古細菌tRNAがメタノサルシナ又はデスルフィトバクテリウムのファミリーに由来する請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記バリアント古細菌tRNAが、メタノサルシナ・バーケリ(Mb)、メタノサルシナ・アルバス(Ma)、メタノサルシナ・マゼイ(Mm)又はデスルフィトバクテリウム・ハフニエンス(Dh)からなる群から選択される請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記バリアントtRNAが、配列番号1に由来するピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記バリアントtRNA
Pylが、配列番号2~27からなる群から選択される配列、又は配列番号2~27のいずれかの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記バリアント細菌tRNAが大腸菌tRNAに由来する請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記バリアントtRNAが配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記バリアントtRNA
Leuが、配列番号29~45からなる群から選択される配列番号、又は配列番号29~45のいずれかの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記非天然アミノ酸が構造1~6のいずれかに従うものである請求項5又は請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
前記非天然アミノ酸が構造7~12のいずれかに従うものである請求項8又は請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
バリアント古細菌サプレッサーtRNA又はバリアント細菌サプレッサーtRNAを含むウイルスベクターであって、前記バリアントtRNAは、その野生型対応tRNAと比較して、非天然アミノ酸を哺乳類タンパク質に組み込むための活性が増大しているウイルスベクター。
【請求項13】
前記バリアントtRNAの活性が、前記野生型tRNAに対して約2.5~80倍増大している請求項12に記載のウイルスベクター。
【請求項14】
前記バリアント古細菌tRNAがメタノサルシナ又はデスルフィトバクテリウムのファミリーに由来する請求項13に記載のウイルスベクター。
【請求項15】
前記バリアント古細菌tRNAが、メタノサルシナ・バーケリ(Mb)、メタノサルシナ・アルバス(Ma)、メタノサルシナ・マゼイ(Mm)又はデスルフィトバクテリウム・ハフニエンス(Dh)からなる群から選択される請求項14に記載のウイルスベクター。
【請求項16】
前記バリアントtRNAが、配列番号1に由来するピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)である請求項15に記載のウイルスベクター。
【請求項17】
前記バリアントtRNA
Pylが、配列番号2~27からなる群から選択される配列、又は配列番号2~27の全長配列のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項16に記載のウイルスベクター。
【請求項18】
前記バリアント細菌tRNAが大腸菌tRNAに由来する請求項12に記載のウイルスベクター。
【請求項19】
前記バリアントtRNAが配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)である請求項18に記載のウイルスベクター。
【請求項20】
前記バリアントtRNA
Leuが、配列番号29~45からなる群から選択される配列、又は配列番号29~45の全長配列のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項19に記載のウイルスベクター。
【請求項21】
前記非天然アミノ酸が構造1~6のいずれかに従うものである請求項16又は請求項17に記載のウイルスベクター。
【請求項22】
前記非天然アミノ酸が構造7~12のいずれかに従うものである請求項19又は請求項20に記載のウイルスベクター。
【請求項23】
前記ウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)である請求項12から請求項22のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
【請求項24】
請求項12から請求項23のいずれか1項に記載のウイルスベクターを含む細胞。
【請求項25】
細胞が哺乳動物細胞である請求項24に記載の細胞。
【請求項26】
前記細胞が、
a)ウイルス複製に必須のタンパク質であって、ナンセンスコドンが前記タンパク質の配列に挿入されており、ウイルス複製が前記バリアントサプレッサーtRNAの活性に依存するようにされたタンパク質、
b)同族のUaa RNA合成酵素(UaaRS)、及び
c)ウイルス複製に必要な遺伝子成分
をコードするプラスミドをさらに含む請求項24又は請求項25に記載の哺乳動物細胞。
【請求項27】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスであり、前記必須ウイルスタンパク質がCap(配列番号46)のTAG変異体である請求項26に記載の哺乳動物細胞。
【請求項28】
前記同族のaaRSがMb
PylRSであり、前記Uaaが構造1~6のいずれか1つである請求項27に記載の哺乳動物細胞。
【請求項29】
前記同族のaaRSが大腸菌
LeuRSであり、前記Uaaが構造7~12のいずれか1つである請求項26に記載の哺乳動物細胞。
【請求項30】
野生型サプレッサーtRNAと比較して増大した生物学的活性を有する目的の直交性サプレッサーtRNAバリアントのウイルス支援指向性進化方法であって、
a)目的のサプレッサーtRNAバリアントのライブラリをウイルスゲノムにコードする工程と、
b)哺乳動物宿主細胞の集団を低い感染多重度(MOI)でウイルスベクターに感染させて、前記細胞集団を前記細胞におけるウイルス複製に適した条件下に維持する工程であって、哺乳動物細胞におけるウイルス複製は、目的のtRNAバリアントの活性に依存する必須タンパク質の発現を必要とする工程と、
c)活性なtRNAバリアントをコードするウイルス子孫を採取し、選択的に増幅して、交差反応性があるtRNA分子を除去する工程であって、これにより、増大した生物学的活性を有する直交性のサプレッサーtRNAバリアントが回収される工程と
を含む方法。
【請求項31】
野生型サプレッサーtRNAと比較して増大した生物学的活性を有する目的の直交性サプレッサーtRNAバリアントのウイルス支援指向性進化方法であって、哺乳動物細胞における前記ウイルスの複製は、目的のtRNAバリアントの活性に依存する必須タンパク質の発現を必要とし、前記方法は、
a)サプレッサーtRNAバリアントのライブラリをウイルスゲノムにコードする工程と、
b)哺乳動物宿主細胞の集団を低い感染多重度(MOI)でウイルスベクターに感染させる工程と、
c)その後に、哺乳動物宿主細胞の集団をプラスミドでトランスフェクトする工程であって、前記プラスミドは、
i)ウイルス複製に必須のタンパク質であって、ナンセンスコドンが前記タンパク質の配列に挿入されており、ウイルス複製が前記バリアントサプレッサーtRNAの活性に依存するようにされたタンパク質、
ii)同族のUaa RNA合成酵素(UaaRS)、及び
iii)ウイルス複製に必要な遺伝子成分
を含む工程と、
d)実質的に同時に、適切な非天然アミノ酸を培養培地に添加する工程と、
e)感染した/トランスフェクトされた細胞を、前記ウイルスの複製に適した条件下で培地中に維持する工程と、
f)前記細胞を採取し、ウイルス子孫を単離する工程と、
g)工程f)で単離されたウイルスを、光切断可能なリンカーを介して結合した精製ハンドルで標識する工程と、
h)標識されたウイルスを濃縮により回収し、次いで適切な波長での照射を使用して放出する工程と、
i)回収された前記ウイルスを溶解し、溶解液に含まれるtRNAバリアントを増幅する工程であって、それによって、増大した生物学的活性を有する直交性のサプレッサーtRNAバリアントが回収される工程と
を含む方法。
【請求項32】
前記ライブラリの前記サプレッサーtRNAバリアントが、ウイルスにコード化する前に配列決定される請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項33】
増幅されたtRNAを配列決定して、目的の前記サプレッサーtRNAの核酸配列を得る工程をさらに含む請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ウイルスがアデノ随伴ウイルスである請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記ウイルス必須タンパク質が、アデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質(CAP)(配列番号46)であり、前記タンパク質の454位に終止コドンを含むよう変異している請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記宿主哺乳動物細胞に単一のビリオンしか感染しない請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記tRNAライブラリがピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)ライブラリであり、前記UaaRSがMb
PylRSであり、前記Uaaが構造1~6のいずれか1つである請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記バリアントtRNAがロイシルtRNA(tRNA
Leu)であり、前記aaRSが大腸菌
LeuRSであり、前記Uaaが構造7~12のいずれか1つである請求項30又は請求項31に記載の方法。
【請求項39】
哺乳動物細胞におけるタンパク質の製造方法であって、前記タンパク質は、前記タンパク質中の特定の位置に1つ以上のアミノ酸アナログを有し、前記方法は、
a.前記哺乳動物細胞を増殖に適した条件下で、培養培地中で培養する工程であって、前記細胞は、1つ以上のセレクターコドンを有するタンパク質をコードする核酸を含み、前記細胞は、前記セレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント古細菌由来ピロリジルtRNA、及びその同族のアミノアシル-RNA合成酵素をさらに含む工程と、
b.前記セレクターコドンに応答して1つ以上のリジンアナログが前記タンパク質に組み込まれるのに適した条件下で、前記細胞培養培地を1つ以上のリジンアナログと接触させる工程であって、これにより、1つ以上のリジンアナログを有するタンパク質を製造する工程と
を含む方法。
【請求項40】
前記バリアントtRNAが、配列番号1に由来するピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記バリアントtRNA
Pylが、配列番号2~27からなる群から選択される配列、又は配列番号2~27のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項39又は請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記リジンアナログが、構造1~6のいずれかである請求項41に記載の方法。
【請求項43】
哺乳動物細胞におけるタンパク質の製造方法であって、前記タンパク質は、前記タンパク質中の特定の位置に1つ以上のアミノ酸アナログを有し、前記方法は、
a.前記哺乳動物細胞を増殖に適した条件下で、培養培地中で培養する工程であって、前記細胞は、1つ以上のセレクターコドンを有するタンパク質をコードする核酸を含み、前記細胞は、前記セレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント大腸菌由来のロイシルtRNA、及びその同族アミノアシル-RNA合成酵素をさらに含む工程と、
b.前記セレクターコドンに応答して1つ以上のロイシンアナログが前記タンパク質に組み込まれるのに適した条件下で、前記細胞培養培地を1つ以上のロイシンアナログと接触させる工程であって、これにより、1つ以上のロイシンアナログを有するタンパク質を製造する工程と
を含む方法。
【請求項44】
前記バリアントtRNAが、配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記バリアントtRNA
Leuが、配列番号29~45のいずれか1つ、又は配列番号29~45のいずれかの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項43又は請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ロイシンアナログが、構造7~12のいずれかである請求項45に記載の方法。
【請求項47】
1つ以上のピロリジル残基を細胞中のタンパク質又はペプチドに部位特異的に組み込む方法であって、
a.前記細胞を増殖に適した条件下で培養培地中で培養する工程であって、前記細胞は、目的のタンパク質又はペプチド中の特定の部位に1つ以上のアンバー、オーカー又はオパールのセレクターコドンを有する目的のタンパク質又はペプチドをコードする核酸を含み、前記細胞は、前記セレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント古細菌由来ピロリジル-tRNAPylをさらに含み、かつ古細菌PylRNA合成酵素をさらに含む工程と、
b.前記細胞培養培地を、前記セレクターコドンの部位で1つ以上のピロリジル残基を前記タンパク質又はペプチドに組み込むのに適した条件下で、1つ以上のピロリジル残基と接触させる工程であって、これにより、1つ以上の部位特異的に組み込まれたピロリジル残基を有する目的のタンパク質又はペプチドを製造する工程と
を含む方法。
【請求項48】
前記バリアントピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)が配列番号1に由来する請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記バリアントtRNA
Pylが、配列番号2~27からなる群から選択される配列、又は配列番号2~27のいずれかの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項47又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記ピロリジル残基が構造1~6のいずれかである請求項49に記載の方法。
【請求項51】
1つ以上のロイシンアナログ残基を細胞中のタンパク質又はペプチドに部位特異的に組み込む方法であって、
a.前記細胞を増殖に適した条件下で培養培地中で培養する工程であって、前記細胞は、目的のタンパク質又はペプチド中の特定の部位に1つ以上のアンバー、オーカー又はオパールのセレクターコドンを有する目的のタンパク質又はペプチドをコードする核酸を含み、前記細胞は、前記セレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント大腸菌由来tRNA
Leuをさらに含み、かつ大腸菌LeuRNA合成酵素をさらに含む工程と、
b.前記細胞培養培地を、前記セレクターコドンの部位で1つ以上のロイシンアナログ残基を前記タンパク質又はペプチドに組み込むのに適した条件下で、1つ以上のロイシンアナログ残基と接触させる工程であって、これにより、1つ以上の部位特異的に組み込まれたロイシン残基を有する目的のタンパク質又はペプチドを製造する工程と
を含む方法。
【請求項52】
前記バリアントtRNAが、配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)である請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記バリアントtRNA
Leuが、配列番号29~45からなる群から選択される配列、又は配列番号29~45のいずれかの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む請求項51又は請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記ロイシンアナログが構造7~12のいずれかである請求項53に記載の方法。
【請求項55】
細胞において目的のタンパク質又はペプチドを製造するためのキットであって、前記タンパク質又はペプチドは1つ以上のリジンアナログを含み、前記キットは、
a.細胞中の目的の核酸の中のセレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント古細菌由来tRNA
Pylをコードするポリヌクレオチド配列を含む容器であって、前記バリアントtRNA
Pylは、配列番号2~27からなる群から選択される配列、又は配列番号2~27のいずれかの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む容器と、
b.古細菌Pyl-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチド配列を含む容器と
を含むキット。
【請求項56】
1つ以上のリジンアナログをさらに含む請求項55に記載のキット。
【請求項57】
前記リジンアナログが構造1~7のいずれかによるアナログである請求項56に記載のキット。
【請求項58】
前記目的のタンパク質又はペプチドを製造するための説明書をさらに含む請求項57に記載のキット。
【請求項59】
細胞において目的のタンパク質又はペプチドを製造するためのキットであって、前記タンパク質又はペプチドは1つ以上のロイシンアナログを含み、前記キットは、
a.細胞中の目的の核酸の中のセレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント大腸菌由来tRNA
Leuをコードするポリヌクレオチド配列を含む容器であって、前記バリアントtRNA
Leuは、配列番号29~45のいずれか1つ、又は配列番号29~45のいずれか1つの全長配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸配列を含む容器と、
b.大腸菌Leu-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチド配列を含む容器と
を含むキット。
【請求項60】
構造7~12のいずれかによる1つ以上のロイシンアナログをさらに含む請求項59に記載のキット。
【請求項61】
前記目的のタンパク質又はペプチドを製造するための説明書をさらに含む請求項60に記載のキット。
【請求項62】
Uaa組み込みのためのバリアントtRNA-Pyl又はバリアントtRNA-Leuを安定に組み込んだ哺乳動物細胞。
【請求項63】
前記バリアントtRNA-Pyl-Leuが配列番号2~27からなる群から選択され、前記Uaaがピロリジル残基である請求項62に記載の細胞。
【請求項64】
前記ピロリジル残基が構造1~7のいずれかである請求項63に記載の細胞。
【請求項65】
前記バリアントtRNA-Leuが配列番号29~45からなる群から選択され、前記Uaaがロイシンアナログである請求項62に記載の細胞。
【請求項66】
前記ロイシンアナログが構造7~12のいずれかである請求項65に記載の細胞。
【請求項67】
非天然アミノ酸を目的のタンパク質に組み込むことができるバリアントサプレッサーtRNAをコードする遺伝子の250未満、200未満、150未満、100未満、75未満、50未満のコピーを含む操作された哺乳動物細胞。
【請求項68】
前記細胞が、前記サプレッサーtRNAをコードする前記遺伝子の25~250コピー、25~200コピー、25~150コピー、25~100コピー、25~75コピー、25~50コピー、50~250コピー、50~200コピー、50~150コピー、50~100コピー、50~75コピー、75~250コピー、75~200コピー、75~150コピー、75~100コピー、100~250コピー、100~200コピー、100~150コピーを含む請求項67に記載の細胞。
【請求項69】
前記バリアントtRNA-Pyl-Leuが配列番号2~27からなる群から選択され、前記Uaaがピロリジル残基である請求項67又は請求項68に記載の細胞。
【請求項70】
前記ピロリジル残基が構造1~7のいずれかである請求項69に記載の細胞。
【請求項71】
前記バリアントtRNA-Leuが配列番号29~45からなる群から選択され、前記Uaaがロイシンアナログである請求項67又は請求項68に記載の細胞。
【請求項72】
前記ロイシンアナログが構造7~12のいずれかである請求項71に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2019年6月21日出願の米国仮出願第62/864,570号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張し、米国仮出願第62/864,570号の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府支援
本発明は、National Institutes of Health(米国国立衛生研究所)が授与するR01 GM132471及びNational Science Foundation(米国国立科学財団)が授与するCHE1900375の政府支援を受けて行われた。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0003】
参照によるASCIIテキストファイルの資料の組み込み
本願は、以下のASCIIテキストファイルに含まれる配列表を参照することにより、これを組み込む。
【0004】
ファイル名:0342_0008WO1_SL.txt;2020年6月19日作成、サイズ:17,574バイト。
【0005】
発明の分野
本発明は、バイオテクノロジーの分野に向けられており、非天然アミノ酸を部位特異的に組み込んだタンパク質を哺乳動物細胞で発現させるための効率的なプラットフォームの開発に焦点を当てたものである。
【背景技術】
【0006】
非天然アミノ酸(Uaa)の部位特異的組み込みは、哺乳動物細胞の生物学を探索し、操作するための多くの可能性を持っている。この技術の中心は、ナンセンス抑制アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)/tRNAペアであり、これは、その宿主対応物のいずれとも交差反応することなく目的のUaaを導入するように操作されたものである。このような「直交」aaRS/tRNAペアは、通常、異なる生命ドメインから宿主細胞に持ち込まれる。異種のサプレッサーtRNAは、非天然の翻訳システムと直接相互作用しなければならないため、異種のサプレッサーtRNAの性能は新しい宿主では最適でないことがよくある。実際、いくつかの研究により、哺乳動物細胞におけるUaaの組み込み効率は、異種サプレッサーtRNAの性能の低さによって制限され、許容できるUaaの組み込み効率のためには、異種サプレッサーtRNAを大量に過剰発現させる必要があることが確認されている。このような高レベルのtRNA発現は、高いトランスフェクション効率を示す特定の哺乳動物細胞株における一過性のトランスフェクションによって達成することができるが、トランスフェクションが困難な細胞(例えば、初代細胞、ニューロン、幹細胞等)においてそれを行うことは困難である。さらに、それは、安定したサプレッサー細胞株(ゲノムから操作されたaaRS/tRNAを発現する)の作製を非常に困難にする。というのも、十分なナンセンス抑制/Uaa組み込み効率に達するためには、tRNA遺伝子の数百コピーをゲノムに挿入する必要があるからである。サプレッサーtRNAの最適でない性能を克服することができれば、Uaa変異導入技術の頑健性が大幅に向上し、Uaa組み込みが可能な安定したサプレッサー細胞株の簡便な作製や、同一タンパク質中の複数部位へのUaaの同時組み込み等の高度な応用が容易になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
tRNAの性能低下の起源は不明であることが多く、合理的な設計によって性能低下に対処することは困難である。しかしながら、大腸菌(E.coli)におけるUaa組み込みのための指向性進化によって、改良された直交性サプレッサーtRNAが頻繁に生成されている。大規模な合成ライブラリから、活性でありながら直交性のサプレッサーtRNA変異体を容易に濃縮できる、巧妙な選択システムが開発されてきている。哺乳動物細胞で同様のtRNA進化を行うことができれば、改良された抑制系を作り出すことができる大きな可能性があるが、現在のところ利用できる適切なプラットフォームはない。哺乳動物細胞でこのような指向性進化実験を行うことは、哺乳類特有の翻訳システムとの改善された相互作用に基づいてtRNA変異体が選択されることを保証するために重要である。
【0008】
哺乳動物細胞における既存の指向性進化戦略は、ほぼ独占的に、標的遺伝子を細胞株に安定的に組み込み、その後、非標的又は標的ランダム変異誘発によって配列多様性を創出することに依存している。関連する低い変異誘発頻度は、tRNAの小さいサイズ(100bp未満)のため、tRNA進化には適していない。さらには、tRNAのステム領域は遺伝子操作のための最も頻出する標的であるが、このtRNAのステム領域をうまく進化させるためには、塩基対形成を維持するために、どのような変異も他方の側(相手側)でそれに見合った変異を伴わなければならない。低分子tRNA遺伝子内のこのような豊富な配列多様性を捉えることは、合成の部位飽和変異体ライブラリを使用することによってのみ実現可能である。このようなライブラリから、哺乳動物細胞内で直交し、活性を持つサプレッサーtRNA変異体を濃縮するためには、以下のものを手にする必要がある:i)各細胞が単一のバリアントを受け取るように、ライブラリの送達を制御すること、ii)活性tRNA変異体を濃縮し、交差反応性のものを除去する選択スキーム、iii)生き残った変異体を識別する能力。これらの基準を満たす選択システムは現在のところ存在しない。
【0009】
本明細書に記載されるのは、非天然アミノ酸(Uaa又はUAA)を哺乳類タンパク質に組み込むための、対応する野生型サプレッサーtRNA分子と比較して増大した生物学的活性を有するバリアント/変異体ナンセンス抑制tRNA分子(本明細書ではサプレッサーtRNAとも呼ばれる)を含む組成物;これらのバリアントtRNAをコードする発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)であって、哺乳動物細胞に感染するのに適している発現ベクター;本明細書に記載されるウイルス支援型指向性進化方法を用いて、増大した生物学的活性を有するサプレッサーtRNAを製造する方法;増大した活性を有するこれらのtRNAを用いて非天然アミノ酸が部位特異的に組み込まれたタンパク質を製造する方法;及び上記バリアントtRNAを含む試薬と、そのようなタンパク質の製造に必要な他の試薬とを含むキットである。
【0010】
特に、本発明の組成物は、例えば、バリアント古細菌ナンセンス抑制tRNA分子又はバリアント細菌ナンセンス抑制tRNA分子を含み、この直交性の活性なバリアントtRNAは、その「野生型」の対応サプレッサーtRNAと比較して、哺乳類タンパク質に種々の非天然アミノ酸(例えば、アミノ酸アナログ(類似体))を組み込む活性が増大している。本明細書で使用する用語「野生型」の対応tRNAは、部位特異的に目的のタンパク質にUaaを組み込むための増大した生物活性を有するサプレッサーtRNA分子の集団を生成(選択及び濃縮)するための本明細書に記載するウイルス支援指向性進化方法に供されていないサプレッサーtRNA分子を意味する。
【0011】
本発明に包含されるバリアントtRNAの活性は、野生型tRNAよりも、例えば、約2.5~約200倍、約2.5~約150倍、約2.5~約100倍、約2.5~約80倍、約2.5~約60倍、約2.5~約40倍、約2.5~約20倍、約2.5~約10倍、約2.5~約5倍、約5~約200倍、約5~約150倍、約5~約100倍、約5~約80倍、約5~約60倍、約5~約40倍、約5~約20倍、約5~約10倍、約10~約200倍、約10~約150倍、約10~約100倍、約10~約80倍、約10~約60倍、約10~約40倍、約10~約20倍、約20~約200倍、約20~約150倍、約20~約100倍、約20~約80倍、約20~約60倍、約20~約40倍、約40~約200倍、約40~約150倍、約40~約100倍、約40~約80倍、約40~約60倍、約60~約200倍、約60~約150倍、約60~約100倍、約60~約80倍、約80~約200倍、約80~約150倍、約80~約100倍、約100~約200倍、約100~約150倍、又は約150~約200倍増大している。
【0012】
バリアント古細菌tRNA分子は、例えば、メタノサルシナ(Methanosarcinacaea)又はデスルフィトバクテリウム(Desulfitobacterium)ファミリー、特に、メタノサルシナ・バーケリ(M.barkeri、Mb)、メタノサルシナ・アルバス(M.alvus、Ma)、メタノサルシナ・マゼイ(M.mazei、Mm)又はデスルフィトバクテリウム・ハフニエンス(D.hafnisense、Dh)のファミリーのいずれかに由来する。具体的には請求項に係る発明は、配列番号1、又は表1に示されるバリアントtRNA分子の全長配列番号2~27のいずれかと少なくとも約80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列に由来するピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)であるバリアントtRNAを包含する。より具体的には、特定の実施形態では、バリアントtRNA
Pylは、配列番号2~27、又は全長配列番号2~27と少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列からなる群から選択される配列を含む。特定の実施形態では、tRNA
Pylは、配列番号1~27のいずれか1つと比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は10を超える変異(例えば、置換)を含む。本明細書に記載されるバリアント古細菌由来tRNAによる組み込みに適した非天然アミノ酸は、アジドリジン(AzK)(
図18の構造1)又はNε-アセチルリジン(AcK)(
図18の構造2)、又は
図18に示す構造3~6等の任意の他のリジルアナログであることができる。加えて、本明細書に記載されるように(例えば、実施例9、(
図19)参照)、操作されたピロリジルtRNA合成酵素を使用する任意の他のUaaの組み込み効率も、これらの操作されたtRNA
Pyl変異体の使用により向上させることが可能である。
【0013】
本発明のバリアント細菌tRNA分子は、例えば、大腸菌tRNAに由来する。具体的には請求項に係る発明は、配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)であるバリアントtRNAを包含する。具体的には、特定の実施形態では、バリアントtRNA
Leuは、配列番号29~45のいずれか1つ、又は全長配列番号29~45のいずれか1つと少なくとも約80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む。特定の実施形態では、tRNA
Leuは、配列番号28~45のいずれか1つと比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は10を超える変異(例えば、置換)を含む。任意の適切な非天然アミノ酸/アナログは、目的のタンパク質に組み込むための本明細書に記載される方法と共に使用することができる。特に、本明細書に記載されるバリアント細菌由来tRNAによる組み込みに適した非天然アミノ酸は、
図18に示す構造7~12、又は構造7~12と構造的及び機能的に類似するUaaであることができる。加えて、本明細書に記載されるように(例えば
図19参照)、操作された大腸菌ロイシルtRNA合成酵素を使用する、任意の他のUaaの組み込み効率も、これらの操作されたtRNA
Leu変異体の使用により向上させることが可能である。
【0014】
バリアント古細菌サプレッサーtRNA又はバリアント細菌サプレッサーtRNAを含む発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)であって、このバリアントtRNAは、本明細書に記載されるように、その野生型対応tRNAと比較して、非天然アミノ酸を哺乳類タンパク質に組み込むための活性が増大している発現ベクターも本発明に包含される。本発明に適したウイルスとしては、哺乳動物細胞ゲノムと統合される、又は統合されない、任意のウイルスが挙げられる。そのようなウイルスとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス、レンチウイルス、及びレトロウイルスが挙げられる。より具体的には、本明細書に記載されているように、アデノ随伴ウイルスの血清型のいずれも本発明に使用することができ、特にアデノ随伴ウイルス血清型2が挙げられる。本発明の発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)は、mCherry、GFP若しくはEGFP等のレポーター遺伝子、又は他の適切な検出体分子(detector molecule)もコードすることができる。
【0015】
本明細書に記載される発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)を含む細胞(1種又は複数種)、及びこれらの細胞の安定細胞株も本発明に包含される。特定の実施形態では、当該細胞は哺乳動物細胞であり、安定な哺乳動物細胞はゲノム的に統合された(又はエピソーム的に維持された)操作されたtRNAを含む。
【0016】
本発明の細胞は、細胞におけるウイルスベクターのウイルス複製に必要な遺伝子をコードする1種又は複数種の追加の発現ベクター(例えば、プラスミド)をさらに含むことができる。より詳細には、本発明の細胞は、ウイルス複製に必須のすべての遺伝子成分をコードする発現ベクター(例えば、プラスミド)を含んでもよく、その発現ベクターにおいて、ナンセンスコドンがタンパク質配列に挿入されており、ウイルス複製をバリアントサプレッサーtRNAの活性に依存するようにされる。
【0017】
1つの実施形態では、必須ウイルスタンパク質は、アデノ随伴ウイルスAAV2配列番号46等の非エンベロープ化ウイルスのVP1カプシドタンパク質(Cap)、又は配列番号46と約80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を含むアミノ酸配列であることができる。サプレッサーコドンは、カプシドタンパク質に(例えば、TAG-アンバー(amber);TAA-オーカー(ochre)又はTGA-オパール(opal))選択した部位に挿入することができる(Agnew.Chem.Int.Ed. 2016、55、10645;Agnew.Chem.Int.Ed. 2017、56、4234)。本明細書に記載されるように、アデノ随伴ウイルス用の必須ウイルスタンパク質は、454位にTAGコドンを有するCapとすることができる。細胞は、同族の(コグネート)Uaa RNA合成酵素(UaaRS)及びUaaの存在下で培養することができる。1つの実施形態では、UaaRSは、例えば、Mb
PylRSであり、Uaaは、例えば、AzK又はAcKである。別の実施形態では、バリアントtRNAは大腸菌ロイシルtRNA(tRNA
Leu)であり、aaRSは大腸菌LeuRSであり、Uaaは
図18に示すようなロイシンアナログである。
【0018】
野生型サプレッサーtRNAと比較して増大した生物学的活性を有するサプレッサーtRNAバリアントのウイルス支援指向性進化方法も本発明に包含される。哺乳動物細胞におけるウイルスの複製は、目的のtRNAバリアントの活性に依存する必須タンパク質の発現を必要とする。
【0019】
当該方法は、目的のサプレッサーtRNAバリアントのライブラリをウイルスゲノムにコードする工程と、哺乳動物宿主細胞の集団を低い感染多重度(MOI)でウイルスベクターに感染させて、この細胞集団をその細胞におけるウイルス複製に適した条件下に維持する工程であって、哺乳動物細胞におけるウイルス複製が、目的のtRNAバリアントの活性に依存する必須タンパク質の発現を必要とする工程と、活性なtRNAバリアントをコードするウイルス子孫を採取し、選択的に増幅して、交差反応性があるtRNA分子を除去する工程であって、これにより、増大した生物学的活性を有する直交性のサプレッサーtRNAバリアントが回収される工程とを含む。増幅されたtRNAバリアントは、その後、核酸配列を決定するために配列決定され、さらなる評価に付されることが可能である。選択前後のウイルスコード化tRNAライブラリの次世代配列決定を行い、ライブラリ中の各可能な変異体の濃縮度を確認することができる。この濃縮係数は、tRNA活性の指標として使用することができ、最も濃縮されたtRNA変異体を構築し、その活性を確認するために試験することができる。特定の実施形態では、開示された方法企図される方法は、不活性tRNAを保有するウイルスに対して活性tRNAをコードするウイルスの10,000~30,000倍又は20,000~30,000倍の濃縮をもたらす。
【0020】
より特定の実施形態では、本明細書に記載されるように、目的のナンセンス抑制tRNAの配列は、ライブラリを作成するために無作為化され、適切な発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)中にコードされる。tRNAバリアントライブラリは、不活性なtRNA分子、活性で直交性のtRNA分子、及び活性だが交差反応性があるtRNA分子を含むことになる。
【0021】
特定の企図された方法は、形質転換受容性のある(コンピテントな)宿主細胞の集団の使用を含む。このような細胞は、典型的には、哺乳動物細胞、より具体的には不死化されたヒト細胞である。この適切な宿主細胞は、非常に低い~低い感染多重度(MOI)でウイルスベクターに感染することができる。特定の実施形態では、MOIは、約0.1~約15、約0.1~約10、約0.1~約5、約0.1~約3、約0.1~1、約1~約15、約1~約10、約1~約5、約1~約3、約3~約15、約3~約10、約3~約5、約5~約15、約5~約10、又は約10~約15である。特定の実施形態では、MOIは0.1~5である。特定の実施形態では、MOIは、15未満、10未満、5未満、3未満、1未満、又は0.1未満である。特定の実施形態では、バリアントtRNAをコードする単一のウイルスベクターが、必須ウイルスタンパク質の発現及び細胞内のウイルス子孫の産生に必要なすべてである。より具体的には、各細胞は、単一のウイルスコード化tRNAバリアントを受け取る。
【0022】
細胞は、その後(典型的にはウイルス感染から数時間以内)1種以上の発現ベクター(例えばプラスミド)でトランスフェクトされ、その際、発現ベクター(例えばプラスミド)はウイルス複製に必須のすべての遺伝子成分を含み、ナンセンスコドンがタンパク質配列に挿入されて、ウイルス複製がバリアントサプレッサーtRNAの活性に依存するようにされる。1つの実施形態では、必須ウイルスタンパク質は、454位にTAGコドンを有するCap(配列番号46)である。特定の実施形態では、発現ベクター(例えば、プラスミド)は、同族のUaa RNA合成酵素(UaaRS)もコードする。例えば、tRNAライブラリがピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)ライブラリである場合、UaaRSは、Mb
PylRSである。トランスフェクションの際に、Uaaを適切な濃度で培養培地に添加してもよい。特定の実施形態では、UaaはAzKである。あるいは、バリアントtRNAはロイシルtRNA(tRNA
Leu)であり、aaRSは大腸菌
LeuRSであり、UaaはAzKであるか、又は
図18の構造7~12のいずれか1つである。ウイルス複製に必要な遺伝子成分をコードする追加の発現ベクター(例えば、プラスミド)も、本明細書に記載されるように宿主細胞にトランスフェクトされてもよい。
【0023】
企図された方法において、感染/トランスフェクトされた細胞は、バリアントtRNAの発現、必須ウイルスタンパク質の発現及びウイルスの複製に適した条件下で、Uaaを含む培地で維持(すなわち、培養)される。特定の実施形態では、細胞は収穫され、ウイルスの子孫が単離され、交差反応性があるが活性なtRNA分子を除去するためにさらなる濃縮にかけられ、増大した生物学的活性を有する直交性のサプレッサーtRNAバリアントが回収される。濃縮されたtRNAバリアントは、その核酸配列を得るために配列決定することができる。選択前後のウイルスコード化tRNAライブラリの次世代DNA配列決定(シークエンシング)を行い、各tRNA変異体の存在量及び選択による変化の様子を測定することができる。選択時に最も強い濃縮を受けるtRNA変異体は、最も高い活性を有する可能性の高いものである。
【0024】
本発明の方法において、活性で直交性のtRNAバリアントのみが、必須ウイルス遺伝子タンパク質へのUaaの組み込み及び細胞内でのウイルス複製を可能にする。しかしながら、特定の実施形態では、活性で交差反応性のtRNAを含むウイルスも複製することができるので、交差反応性のtRNAをコードするウイルス集団を除去し、所望のtRNAをコードするウイルス集団を濃縮するための追加の工程が必要である。単離されたウイルス子孫は、増大した生物学的活性を有するtRNAバリアントについて濃縮することができる。例えば、単離されたウイルス子孫は、光切断可能なリンカー等の光切断可能な部分を通して取り付けられた精製ハンドル/タグで化学選択的に標識することができる。1つの実施形態では、この部分は、光切断可能なDBCO-スルホ-ビオチン結合体である。反応混合物は、Uaaタンパク質を組み込んだウイルス、Uaaタンパク質を含まないウイルス、光切断可能なビオチン標識、及びクエンチャーとしての過剰のUaaを含む。ビオチン結合体で標識されたウイルスは、ストレプトアビジンコーティングビーズを用いて回収され、ウイルスは適切な波長(例えば、365nm)を用いてビーズから溶出される。回収されたウイルス粒子(ビリオン)は、野生型サプレッサーtRNAと比較して増大した生物学的活性を有する目的のサプレッサーtRNAを含む。
【0025】
回収されたウイルスを溶解し、tRNAを増幅した後、配列決定してその核酸配列を得ることができる。あるいは、回収したウイルスを溶解し、tRNAを増幅し、適切なベクターを用いて上記のようにクローニングすることができる。その後、コロニーを選択して配列決定し、目的のサプレッサーtRNAの核酸配列を得てもよい。加えて、選択前後のウイルスコード化tRNAライブラリの次世代DNA配列決定(例えば、Illumina(イルミナ))を行い、各tRNA変異体の存在量及び選択による変化の様子を測定することができる。選択時に最も強い濃縮を受けるtRNA変異体は、最も高い活性を有する可能性の高いものである。次に、特定された変異体を構築し、試験することができる。
【0026】
哺乳動物細胞における目的のタンパク質の製造方法(産生方法)であって、この目的のタンパク質はその目的のタンパク質中の特定の位置に1つ以上のアミノ酸アナログを有する方法が、さらに本発明に包含される。1つの実施形態では、この方法の工程は、上記哺乳動物細胞を増殖に適した条件下で、培養培地中で培養することを含み、この細胞は1つ以上のセレクターコドンを有するタンパク質をコードする核酸を含み、この細胞は、セレクターコドンを認識する、増大した生物活性を有するバリアント古細菌由来ピロリジルtRNA、及びその同族のアミノアシルRNA合成酵素も含む。細胞培養培地は、セレクターコドンに応答して1つ以上のリジンアナログがタンパク質に組み込まれるのに適した条件下で、1つ以上のリジンアナログと接触(適切な濃度で添加)され、これにより1つ以上のリジンアナログを有する目的のタンパク質(所望のタンパク質)が製造(産生)されてもよい。
【0027】
1つの実施形態では、バリアントtRNAは、配列番号1、又は全長配列番号2~27のいずれかと少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸塩基配列に由来するピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)である。特定の実施形態では、バリアントtRNA
Pylは、配列番号2~27、又は全長配列番号2~27と少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列からなる群から選択される配列を含む。リジンアナログは、任意のリジンアナログであることができ、特に、アジドリジン(AzK)又はアセチルリジン(AcK)又は
図18の構造3~6のいずれかである。加えて、実施例9(
図19)に記載されているように、操作されたピロリジルtRNA合成酵素を使用する任意の他のUaaの組み込み効率も、これらの操作されたtRNA
Pyl変異体の使用により向上させることが可能である。
【0028】
当該方法の別の実施形態では、バリアントサプレッサーtRNAは、上記セレクターコドンを認識する、増大した生物活性を有する大腸菌由来ロイシルtRNAであり、その同族アミノアシル-RNA合成酵素は、そのセレクターコドンに応答して目的のタンパク質に1つ以上のロイシンアナログを組み込み、これにより1つ以上のロイシンアナログを有するタンパク質が産生される。1つの実施形態では、バリアントtRNAは、配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)である。特定の実施形態では、バリアントtRNA
Leuは、配列番号29~45のいずれか1つ、又は全長配列番号29~45のいずれか1つと少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む。本明細書に記載されるバリアント細菌由来tRNAによる組み込みに適した非天然アミノ酸は、
図18に示される構造7~12であることができる。加えて、実施例9(
図19)に記載されているように、操作された大腸菌ロイシルtRNA合成酵素を使用する任意の他のUaaの組み込み効率も、これらの操作されたtRNA
Leu変異体の使用により向上させることが可能である。
【0029】
本発明の方法は、1つ以上のアジドリジン(AzK)又はアセチルリジン(AcK)残基を細胞中のタンパク質又はペプチドに部位特異的に組み込む方法であって、この細胞を増殖に適した条件下で培養培地中で培養する工程を含み、上記細胞は、目的のタンパク質又はペプチド中の特定の部位に1つ以上の、アンバー、オーカー若しくはオパールのセレクターコドンを有する目的のタンパク質又はペプチドをコードする核酸を含み、上記細胞は、上記セレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント古細菌由来ピロリジル-tRNAPylをさらに含み、古細菌Pyl-tRNA合成酵素をさらに含む方法をさらに包含する。次に、細胞培養培地は、セレクターコドン(複数可)の1つ以上の部位で1つ以上のAzK又はAcK残基をタンパク質又はペプチドに組み込むのに適した条件下で、1つ以上のAzK又はAcK残基と接触させられてもよく、これにより1つ以上の部位特異的に組み込まれたAzK又はAcK残基を有する目的のタンパク質又はペプチドが製造されてもよい。
【0030】
1つの実施形態では、バリアントピロリジルtRNA(tRNA
Pyl)は、配列番号1に由来する。例えば、バリアントtRNA
Pylは、配列番号2~27、又は全長配列番号2~27のいずれかと少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列からなる群から選択される配列を含む。例えば、
図18、構造1~6も参照されたい。
【0031】
別の実施形態では、当該方法は、細胞中のタンパク質又はペプチドに1つ以上のロイシンアナログ残基を部位特異的に組み込み、この際、細胞は、セレクターコドンを認識する、増大した生物活性を有するバリアント大腸菌由来tRNALeuを含み、大腸菌Leu-tRNA合成酵素をさらに含む。細胞培養培地は、1つ以上のロイシンアナログ残基をセレクターコドン(複数可)の部位でタンパク質又はペプチドに組み込むのに適した条件下で、1つ以上のロイシンアナログ残基と接触させられてもよく、これにより1つ以上の部位特異的に組み込まれたロイシンアナログ残基を有する目的のタンパク質又はペプチドが製造されてもよい。
【0032】
具体的には、特定の実施形態では、バリアントtRNAは、配列番号28に由来するロイシルtRNA(tRNA
Leu)である。例えば、バリアントtRNA
Leuは、配列番号29~45のいずれか1つ、又は全長配列番号29~45のいずれか1つと少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む。本明細書に記載されるバリアント細菌由来tRNAによる組み込みに適した非天然アミノ酸は、
図18に示される構造7~12であることができる。加えて、実施例9(
図19)に記載されているように、操作された大腸菌ロイシルtRNA合成酵素を使用する任意の他のUaaの組み込み効率も、これらの操作されたtRNA
Leu変異体の使用により向上させることが可能である。
【0033】
細胞において目的のタンパク質又はペプチドを製造するためのキットであって、このタンパク質又はペプチドは1つ以上のリジンアナログを含み、当該キットは、細胞中の目的の核酸の中のセレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント古細菌由来tRNA
Pylをコードするポリヌクレオチド配列を含む容器を含むキットも本発明に包含される。具体的には、特定の実施形態では、バリアントtRNA
Pylは、配列番号2~27(例えば、
図18、構造1~6参照)、又は全長配列番号2~27のいずれかと少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列からなる群から選択される配列を含む。当該キットは、古細菌Pyl-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む容器をさらに含むことができる。当該キットは、アジドリジン(AzK)又はアセチルリジン(AcK)等の1つ以上のリジンアナログをさらに含むことができる。当該キットは、目的のタンパク質又はペプチドを製造するための説明書も含むことができる。
【0034】
別の実施形態では、当該キットは、細胞において目的のタンパク質又はペプチドを製造することに向けられ、このタンパク質又はペプチドは、1つ以上のロイシンアナログを含み、当該キットは、細胞中の目的の核酸の中のセレクターコドンを認識する、増大した生物学的活性を有するバリアント大腸菌由来tRNALeuをコードするポリヌクレオチド配列を含む容器を含み、このバリアントtRNA
Leuは、配列番号29~45のいずれか1つ、又は全長配列番号29~45のいずれか1つと少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む。当該キットは、大腸菌Leu-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチド配列と、
図18の構造7~12等の1つ以上のロイシンアナログとを含む容器も含むことができる。当該キットは、目的のタンパク質又はペプチドを製造するための説明書を含むことができる。
【0035】
Uaa組み込みのためのバリアントtRNA-Pyl又はバリアントtRNA-Leuを安定的に組み込んだ哺乳動物細胞も本発明に包含される。1つの実施形態では、この哺乳動物細胞は、バリアントtRNA-Pyl-Leuを含み、バリアントtRNA-Pyl-Leuの配列は配列番号2~27からなる群から選択され、Uaaは構造1~7のいずれかからなる群から選択されるピロリジル残基である。別の実施形態では、当該細胞は、配列番号29~45からなる群から選択されるバリアントtRNA-Leuを含み、Uaaは構造7~12のいずれかからなる群から選択されるロイシンアナログである。
【0036】
より具体的には、細胞内で発現する予め選択されたタンパク質(例えば、未成熟終止コドンを含む遺伝子から発現するタンパク質)に非天然アミノ酸を組み込むことができるバリアントサプレッサーtRNAをコードする遺伝子の250未満、200未満、150未満、100未満、75未満、50未満のコピーを含む操作された哺乳動物細胞が本発明に包含される。当該細胞は、サプレッサーtRNAをコードする遺伝子の25~250コピー、25~200コピー、25~150コピー、25~100コピー、25~75コピー、25~50コピー、50~250コピー、50~200コピー、50~150コピー、50~100コピー、50~75コピー、75~250コピー、75~200コピー、75~150コピー、75~100コピー、100~250コピー、100~200コピー、100~150コピーを含んでもよいことが企図される。VADERアプローチを用いて開発されたバリアントtRNAを用いると、標的タンパク質へのアミノ酸の組み込み効率が向上するため、野生型tRNAよりも少ないtRNAを細胞に導入するだけで所望のタンパク質発現レベルが得られる。細胞内に導入される外来性tRNAの数が少ないほど、宿主細胞の構造、機能、又は生存率に対する破壊的な影響が少ないと予想される。
【0037】
本発明は、添付の詳細な説明を読めば当業者に明らかとなる特徴及び利点を実証する。
【0038】
構成の様々な新規な詳細及び部分の組み合わせを含む本発明の上記及び他の特徴、並びに他の利点は、次に、添付の図面を参照してより詳細に説明され、特許請求の範囲に指摘される。本発明を具体化する特定の方法及び装置は、説明のために示されており、本発明を限定するものではないことが理解されよう。本発明の原理及び特徴は、本発明の範囲から逸脱しない範囲で、様々な多数の実施形態で採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
添付の図面において、参照文字は異なる図にわたって同じ部分を指す。図面は必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではなく、代わりに、本発明の原理を説明することに重点が置かれている。特許ファイル又は出願ファイルは、カラーで実行された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含むこの特許又は特許出願公開の写しは、請求と必要な手数料の納付によって、該当官庁から提供される。
【0040】
【
図1】
図1a~bは、VADER選択スキームを示す。a、哺乳動物細胞は、低いMOIでtRNAライブラリをコードするAAV2に感染する。CapのTAG変異体、AAV複製に必要な他の遺伝子成分、及び同族aaRSをコードするプラスミドが、適切なアジド-Uaaの存在下でトランスフェクションすることにより、トランスで提供される。活性で直交性のtRNA変異体は、Uaaをそのカプシドに組み込んだパッケージ化された子孫AAV2の生成を促進し、これは化学選択的ビオチン結合とその後のストレプトアビジンプルダウンによって単離される。b、i)大腸菌tRNA
Tyr及びEGFP(Tyr-EGFP)、並びにii)tRNA
Pyl及びmCherry(Pyl-mCherry)をコードする2種のAAV2ベクターを10
4:1の比で混合し、MbPylRS及びその基質AzKを用いてVADER選択スキームにかけた。生存集団のFACS解析は、PylmCherryの累積濃縮度が30,000倍超であることを示す。データは、平均±s.d.として示す(n=3つの独立した実験)。
【
図2】
図2a~bは、tRNACUA
Pylの指向性進化を示す。a、tRNACUA
Pylの4つの異なるライブラリ(A1、A2、T1、T2)を作成するために無作為化した配列は、4つの色で強調表示されている(
図2aは配列番号1を開示する)。b、各ライブラリの選択から出現したtRNA配列の分析。c、EGFP-39TAGレポーターを使用して測定した、固有の完全塩基対tRNA
Pylセレクタント(selectant)のそれぞれに対するTAG抑制の効率。pAAVプラスミド(野生型mCherryレポーターも保有)にコードされたtRNAを、1mM AzKの存在下又は不存在下で、Mb
PylRS及びEGFP-39TAGとともにHEK293T細胞に共トランスフェクトした。各tRNA
Pyl変異体によって促進されたEGFP-39TAGの発現を無細胞抽出物中で測定し、野生型mCherry発現に対して正規化し、野生型tRNA
Pylによって促進されたレポーター発現に対する百分率としてプロットした。データは平均値±s.d.として示した(n=3つの独立した実験)。
【
図3】
図3a~cは、A2.1 tRNACUA
Pylの効率の改善を示す。a、野生型(WT)及びA2.1の配列。b、WT又はAcK選択的MbPylRSを用い、適切なUaaの存在(+)と不存在(-)下でWT又はA2.1のtRNAを用いたEGFP-39TAGの発現。c、AzKの存在下又は不存在下で(WT及びA2.1変異体の両方について)それぞれtRNAUCA
Pyl及びtRNAUUA
Pylと、Mb
PylRSとを使用したEGFP-39TGA及びEGFP-39TAAの発現。EGFP-39TAGの発現は、HEK293T細胞を含まない抽出物中で測定し、その野生型対応物に対する相対値で報告する。データは平均±s.d.として示す(n=3つの独立した実験)。
【
図4】
図4a~bは、単一のAAV2コード化tRNA遺伝子が、TAG不活性化カプシド遺伝子(Cap)の発現及び子孫ウイルスの生成を促進できることを示す。a、実験のスキーム。HEK293T細胞は、tRNACUA
Pyl及び野生型EGFP遺伝子をコードするAAV2に非常に低いMOIで感染し、次に、i)AAV2 Rep及びCap-454-TAG遺伝子、ii)MbPylRS、及びiii)AdHelperをコードするプラスミドで、1mM AzKの存在下又は不存在下においてさらにトランスフェクトされる。Capの454位にAzKを組み込んだAAV2のパッケージングが可能であること、そしてそれがウイルスに影響を与えないことは、以前に実証されている。1 Capの454位のTAGコドンを抑制すると、AzKが3つの重複するカプシドタンパク質、VP1、VP2及びVP3(合計60コピー)すべてに、表面露出部位で組み込まれる。Cap-454-TAGを野生型Capに置き換えた同一の実験も行った。48時間後、これらの細胞から子孫ウイルスを採取し、新たに播種したHEK293T細胞に感染させ、その後、それらのFACS分析を行うことによりタイター化し(力価を決定し)た。b、Cap-454-TAGを用いた場合、AzK依存性の子孫ウイルス産生が観察される(挿入図で拡大)。その効率は、代わりに野生型のCapを用いた同一の実験よりも有意に低い。データは平均±s.d.として示す(n=3つの独立した実験)。
【
図5】
図5a~cは、AAV2-454-AzKが、光切断可能なDBCO-ビオチン結合体の生体直交型結合と、それに続くストレプトアビジン結合及び光放出によって単離できることを示す。a、光切断可能なDBCO-ビオチン結合体の構造。b、AAV2-454-AzKは異なる濃度のDBCO-ビオチンで1時間処理され、この反応は過剰のAzKを用いてクエンチされ、この低分子は透析によって除去された。ビオチン標識されたウイルスはストレプトアビジン-アガロースを用いて捕捉され、365nmの照射により放出された。ウイルスの感染価は、処理前、ビオチン修飾後、及び光放出後に測定され(HEK293T細胞に感染させ、その後FACSにより)、次いで体積変化について正規化された。未処理ウイルスに対する相対感染性(感染力)がプロットされた。低度のビオチン化(5μM試薬、各ウイルス粒子(ビリオン)は60個のAzK残基を保有する)はAAV2感染性に影響しないが、(より高いDBCO-ビオチン濃度における)カプシドの修飾の増加には影響することがわかった。また、5μMのDBCO-ビオチンを用いると、改変ウイルスはストレプトアビジン樹脂から効率よく(~30%)回収されるが、高い試薬濃度を用いると収率が悪くなる。c、この最適化した標識/捕捉戦略を用いて、mCherryレポーターをコードするAAV2-454-AzKは野生型カプシド(アジドなし)のEGFPコードAAV2との混合から濃縮することが可能である。選択前後の混合ウイルス集団に感染したHEK293T細胞の蛍光顕微鏡像が示されている。
【
図6】
図6は、本研究で使用した様々なtRNA及び蛍光タンパク質を含むAAV2カーゴの模式的マップを示す。
【
図7】
図7は、選択前、工程1後、及び工程2後の混合ウイルス集団(Tyr-EGFP:Pyl-mCherry)に感染した細胞の代表的な顕微鏡像を示す。EGFPチャンネル及びmCherryチャンネルからの統合された画像が、それぞれについて示されている。これらの実験について、FACSで測定した2種のウイルスの比率(Pyl-mCherry:Tyr-EGFP)が下に示されている。
【
図8】
図8a~cは、野生型tRNA
Pyl又はその最も効率的に進化した変異体、A2.1を用いて抑制した、ナンセンス不活性化EGFPレポーターを発現するHEK293T細胞の代表的な蛍光顕微鏡像を示す。a、野生型、又は(野生型mCherryレポーターもコードする)pAAVプラスミドにコードされたA2.1 tRNA
PylとMbPylRS及びEGFP-39-TAGレポーターとによる1mM AzKの存在下又は不存在下での共トランスフェクション。mCherryの発現は、各実験における対照として示されている。b、(野生型及びA2.1変異体について)それぞれtRNAUCAPyl及びtRNAUUA
Pylを用いたEGFP-39TGA及びEGFP-39TAAの発現。pIDTsmartベクターにコードされたtRNAは、適切なEGFP変異体及びMbPylRSと1mM AzKの存在下又は不存在下で共トランスフェクトされた。c、野生型及びA2.1 tRNACUA
Pylを用いたEGFP-39TAGへのAcKの組み込み。pIDTsmartベクターにコードされたtRNAは、5mM AcKの存在下又は不存在下で、EGFP-39TAG変異体及びMbPylRS-AcKRS3変異体と共トランスフェクトされた。
【
図9】
図9は、4つのライブラリのそれぞれから完全に塩基対になっている(G:Uゆらぎ対合を含む)選択されたtRNAの配列を示す。その活性の特徴付けについては、
図2cを参照されたい。tRNAの番号付けスキームが下に示されている。
【
図10】
図10a~cは、VADER選択スキームによって得られた変異体ロイシルtRNAの改善された活性を示す。aは、野生型TAG-サプレッサー大腸菌ロイシルtRNA(EcLtR)の配列(配列番号47。これは配列番号28と同一であるが、UではなくTを有する)を示す。bは、本明細書に記載される方法によって特定されたEcLtRの改良された変異体の1つ(EcLtRh1)の配列(配列番号48。これは配列番号30と同一であるが、UではなくTを有する)を示す。cは、Uaaを選択的に導入する操作されたEcLeuRS変異体と共トランスフェクトした場合のHEK293T細胞におけるEcLtR及びEcLtR-h1の活性を示す。全長のEGFP-39-TAGレポーターの発現を使用して、tRNAの活性を測定した。EcLtR-h1は顕著に高い効率を示す。
【
図11】
図11は、野生型ピロリジルtRNA(配列番号1)の配列及び二次構造を示し、さらに、アクセプターステムの中の各位置に狙いを定めて生成するカスタムランダム化を示す。
【
図12】
図12は、VADER選択スキームにかけた場合の、次世代Illumina DNA配列決定(NGS)を使用して、tRNAライブラリにおける各変異体についての濃縮の程度を特徴付けた結果を示す。得られた濃縮係数は、対応するtRNAの効率を推定するために使用することができる。
【
図13】
図13は、HEK293T細胞におけるEGFP-39TAGレポーターの発現(上述の通り)を用いて実証され、野生型mCherry発現に対して正規化され、野生型tRNA-Pylによって促進されたレポーター発現の割合(%)としてプロットされた、選択されたtRNA-Pyl変異体の改善された活性についての評価アッセイの結果を示す。
【
図14】上パネル(14a)は、120種の異なる細菌ロイシルtRNAのアクセプターステム領域のコンパイルされた配列をWeblogoフォーマット(https://weblogo.berkeley.edu/)で示す。このフォーマットでは、このtRNA配列のセット内の特定の位置に見られる特定のヌクレオチドの相対的な存在量は、対応する文字コードの相対的な高さによって表される。下のパネル(14b)は、野生型大腸菌ロイシルtRNA(配列番号49/配列番号28)の配列及び二次構造を示し、さらに配列アライメントによって導かれるアクセプターステムの各位置に狙いを定めたカスタムランダム化を示す。
【
図15】
図15は、HEK293T細胞におけるEGFP-39TAGレポーターの発現(上述の通り)を用いて実証され、野生型mCherry発現に対して正規化され、野生型tRNA-Leuによって促進されるレポーター発現の割合(%)としてプロットされた、選択されたtRNA-Leu変異体の改善された活性についての評価アッセイの結果を示す。
【
図16A】
図16a~bは、バキュロウイルス送達による制御されたtRNA発現の下で、WT tRNA-Pyl及びtRNA-Pyl-2(配列番号2)の活性を比較した結果を示す。HEK293T細胞は、固定MOI 1のMbPylRS及びEGFP-39-TAGをコードするバキュロウイルスとともに、増加するMOI(0.3~3)のmCherryレポーター及びWT又は操作された(配列番号2)tRNA-Pylのいずれかをコードする第2のバキュロウイルスで形質導入された。AzKなし対照を除くすべての発現は、MbPylRSのUaa基質である1mM AzKの存在下で行われる。aのパネルは、同じMOIで、野生型EGFPをコードする同一のウイルスに対するEGFP-39-TAGの発現を示す。操作されたtRNA-Pylは、WT tRNA-Pylと比較して、はるかに低い発現レベル(より低いMOI)でEGF-39-TAGの発現を促進する。
【
図16B】
図16a~bは、バキュロウイルス送達による制御されたtRNA発現の下で、WT tRNA-Pyl及びtRNA-Pyl-2(配列番号2)の活性を比較した結果を示す。HEK293T細胞は、固定MOI 1のMbPylRS及びEGFP-39-TAGをコードするバキュロウイルスとともに、増加するMOI(0.3~3)のmCherryレポーター及びWT又は操作された(配列番号2)tRNA-Pylのいずれかをコードする第2のバキュロウイルスで形質導入された。AzKなし対照を除くすべての発現は、MbPylRSのUaa基質である1mM AzKの存在下で行われる。mCherryの発現はbのパネルに示されており、tRNA-mCherryウイルスのMOIが増加すると直線的に増加し、同じMOIでWT及び操作されたtRNA-Pylウイルスについて同等である。
【
図17A】
図17a~bは、バキュロウイルス送達による制御されたtRNA発現の下で、WT tRNA-Leu及びtRNA-Leu-30(配列番号30)の活性を比較した結果を示す。HEK293T細胞は、固定MOI 1のEcLeuRS及びEGFP-39-TAGをコードするバキュロウイルスとともに、増加するMOI(3~15)のmCherryレポーター及びWT又は操作された(配列番号30)tRNA-Leuをコードする第2のバキュロウイルスで形質導入された。Uaaなし対照を除くすべての発現は、EcLeuRSのUaa基質である1mM Capの存在下で行われる。aのパネルは、同じMOIで、野生型EGFPをコードする同一のウイルスに対するEGFP-39-TAGの発現を示す。操作されたtRNA-Leuは、WT tRNA-Leuと比較して、はるかに低い発現レベル(より低いMOI)でEGF-39-TAGの発現を促進する。
【
図17B】
図17a~bは、バキュロウイルス送達による制御されたtRNA発現の下で、WT tRNA-Leu及びtRNA-Leu-30(配列番号30)の活性を比較した結果を示す。HEK293T細胞は、固定MOI 1のEcLeuRS及びEGFP-39-TAGをコードするバキュロウイルスとともに、増加するMOI(3~15)のmCherryレポーター及びWT又は操作された(配列番号30)tRNA-Leuをコードする第2のバキュロウイルスで形質導入された。Uaaなし対照を除くすべての発現は、EcLeuRSのUaa基質である1mM Capの存在下で行われる。mCherryレポーターの発現はbのパネルに示されており、tRNA-mCherryウイルスのMOIが増加すると直線的に増加し、同じMOIでWT及び操作されたtRNA-Leuウイルスについて同等である。
【
図18】
図18は、本明細書に記載される方法において使用されるUaaの構造を示す。
【
図19A】
図19a~bは、改良されたtRNA-Pyl(配列番号2;aのパネル)及びtRNA-Leu(配列番号30;bのパネル)が、
図18に示される様々なUaaのより効率的な組み込みを促進すると評価したアッセイの結果を示す。
【
図19B】
図19a~bは、改良されたtRNA-Pyl(配列番号2;aのパネル)及びtRNA-Leu(配列番号30;bのパネル)が、
図18に示される様々なUaaのより効率的な組み込みを促進すると評価したアッセイの結果を示す。
【
図20】
図20は、AAV2 VPIカプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号46)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、高効率の活性な直交性のtRNAバリアント分子を得るための、哺乳動物細胞におけるtRNAのウイルス支援指向性進化(VADER)という新規な戦略を説明する。本明細書に記載される方法によって製造される本明細書に記載されるtRNAバリアントは、ナンセンスコドン抑制の生物学的活性の増大(強化)及び目的のタンパク質における部位特異的方法での非天然アミノ酸の組み込みによって特徴づけられる。これらの高効率tRNAバリアントを選択する方法は、サプレッサーtRNAの活性をヒトウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス、又はAAV)の複製に結合させるものである。特定の実施形態では、当該方法は、i)哺乳動物細胞への制御された送達を可能にするために、tRNAバリアントのライブラリをウイルスゲノムにコードすることと、ii)ウイルス複製をサプレッサーtRNAの活性に依存させるために必須ウイルスタンパク質にナンセンスコドンを挿入し、活性tRNAバリアントをコードするウイルス粒子(ビリオン)の選択的増幅を促進することと、iii)新たに増幅したウイルスのゲノムを単離し配列決定することにより、濃縮されたtRNA配列を容易に回収(retrieve)できることを含む。
【0042】
本発明の方法は、不活性tRNAをコードするAAV集団と比較して活性サプレッサーtRNAをコードするAAV集団を、約10,000~50,000倍の範囲で、典型的には約30,000倍超濃縮する能力を特に示し、従ってナイーブtRNAライブラリから活性変異体を濃縮するための強力な選択スキームを提供する。特に、本明細書に記載される方法によって特定及び単離されたバリアントtRNAでは、活性が2.5倍~80倍増大する。
【0043】
本明細書に記載されるVADER選択法の前後におけるウイルスコード化tRNAライブラリの次世代配列決定(そのような技術は当業者に公知である。例えば、Illuminaから市販されているキット/試薬を参照)を実施して、ライブラリ中の各可能な変異体/バリアントの濃縮を評価及び確認することができる。
【0044】
本発明の技術は、例えば、古細菌由来のピロリジルtRNA、及び大腸菌由来のロイシルtRNAを含む、哺乳動物細胞におけるUaa組み込みに一般的に用いられる異なるサプレッサーtRNAを進化させるためにさらに適用することができる。両tRNAの合成変異体ライブラリにかけることで、哺乳動物細胞におけるUaa組み込みの活性が著しく向上したバリアントの特定がもたらされる。この変異体は、低レベルで発現させた場合、その野生型対応物と比較して特に効率が向上しており、その本質的な効率の向上がさらに確認される。
【0045】
本発明の結果、哺乳動物細胞におけるUaa組み込みのための任意の操作されたサプレッサーtRNAの効率を進化させる一般的な戦略が現在利用可能である。tRNAライブラリをウイルスゲノムにコードし、得られたライブラリをVADER選択スキームにかけると、活性tRNA変異体をコードするものを選択的に濃縮することが可能になる。
【0046】
本発明の結果、他の生物学的部分の活性をAAVカプシドタンパク質の発現に結合させることができれば、哺乳動物細胞における当該他の生物学的部分の効率を進化させるために使用することができる方法も現在利用可能である。そのような生物学的部分としては、プロモーター配列(プロモーターエレメント)、配列内リボソーム進入部位(IRES)、新規転写因子、受容体タンパク質(例えば、GPCR)、遺伝子又はmRNA編集タンパク質(例えば、Cas/CRISPR)、哺乳類ツーハイブリッドシステム(two-hybrid system)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0047】
本明細書に記載されるVADER選択スキームを通じて生成された変異体サプレッサーtRNA(例えば、ピロリジル及びロイシル)は、哺乳動物細胞における高効率のUaa組み込みを可能にする。これらのtRNA変異体は、哺乳動物細胞におけるUaa組み込みタンパク質(例えば、抗体及び他の治療関連タンパク質)の収率を向上させるために使用することができる。
【0048】
VADER選択スキームを通じて生成された改良されたサプレッサーtRNA(例えば、ピロリジル及びロイシル)は、哺乳動物の細胞及び組織へのUaa組み込みのための遺伝子機構を送達する改良された発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)を作成するために使用することができる。重要なことは、これらのtRNAがより効率的であるため、ゲノムあたりコード化するtRNAバリアントのコピー数が少なくて済むことである。現在、(tRNAの十分な高発現を達成するために)複数のtRNAコピーを含むことは、発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)のゲノムの不安定性につながることが多い。
【0049】
VADER選択スキームを通じて生成された改良されたサプレッサーtRNA(例えば、ピロリジル及びロイシル)は、Uaaを組み込んだタンパク質発現のための安定な細胞株を作成するために使用することができる。現在、ゲノムあたり多数のtRNAコピーをコードすることが要求されているため、哺乳類ゲノムにUaa組み込み機構を安定的にコードすることは困難である。新しいtRNAの効率が上がれば、はるかに少ないコピー数の使用で済むようになる。
【0050】
本発明は、バイオテクノロジー応用のためにtRNA及び他の生物学的部分の活性を向上させることができる哺乳動物細胞におけるユニークなウイルス支援指向性進化プラットフォームを確立する。哺乳動物細胞内で有意に改善された活性を示すサプレッサーtRNAバリアントも記載される。
【0051】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して特に示し説明したが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱しない範囲で、上記の好ましい実施形態に対して形態及び詳細における種々の変更が行われてもよいことは、当業者には理解されよう。
【0052】
これ以上詳しく説明しなくても、当業者は、上記の説明に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。それゆえ、以下の特定の実施形態及び例は、単に例示として解釈され、本開示の残りの部分をいかなる形でも限定するものではないと解釈される。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、本発明の実施形態を説明するために提供されるが、決してその範囲を限定することを意図するものではない。
【0054】
本明細書に記載された実施例は、当業者には例示的なプロトコルとして理解されるであろう。当業者であれば、以下の手順を適切かつ必要に応じて修正することができるであろう。
【0055】
材料及び方法
細胞培養。HEK293T細胞(ATCC)を、ペニシリン/ストレプトマイシン(HyClone(ハイクローン)、最終濃度100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン)並びに10%ウシ胎仔血清(Corning(コーニング))を補充したDMEM-高グルコース(HyClone)中、37℃及び5%CO2で維持した。以下のDMEMへのすべての言及は、ここに記載された完全な培地を指す。
【0056】
一般的なクローニング。すべてのクローニングについて、大腸菌TOP10株を形質転換及びプラスミド増殖に使用し、細菌は固体及び液体培養のためにLBを使用して増殖させた。すべてのPCR反応は、Phusion Hot Start II DNA Polymerase(Thermo Scientific(サーモ・サイエンティフィック))を用いて、製造者のプロトコルに従って実施した。制限酵素及びT4 DNAリガーゼはNew England Biolabs(NEB、ニュー・イングランド・バイオラボ)製であった。すべてのDNAオリゴはIntegrated DNA Technologies(IDT、インテグレーテッド・ディーエヌエー・テクノロジーズ)から購入した。サンガー配列決定は、Eton Bioscience(イートン・バイオサイエンス)によって行われた。
【0057】
非天然アミノ酸アジドリジン(AzK)は、Iris Biotech GMBH(アイリス・バイオテック)(ドイツ)から購入した。)Nε-アセチルリジン(AcK)は、Bachem(バッケム)から購入した。
【0058】
AAV(野生型カプシド)へのモック及びライブラリtRNAのパッケージング及び滴定。AAV-2に様々なカーゴをパッケージングするために、800万個のHEK293T細胞を10cm組織培養皿に播種した。翌日、ポリエチレンイミン(PEI)(Sigma(シグマ))を用いて、適切なカーゴプラスミド(pAAV-ITR-tRNA-蛍光タンパク質)、pHelper、及びpAAV-RC2の各8μgで上記細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に新鮮なDMEMに培地を交換した。トランスフェクションの72時間後に、細胞を再懸濁し、ペレット化し、以前に記載したように凍結/解凍により溶解した。1ウイルスを濃縮し、PEG沈殿により半精製し、1FBSを含む1mL DMEMに再懸濁し、瞬間凍結した。
【0059】
実施例に記載した配列
実施例及び本願を通じて記載された野生型及び派生配列を表に示す。
【表1(1)】
【表1(2)】
【表1(3)】
【0060】
実施例1:ポジティブ選択
800万個のHEK293T細胞それぞれを、3つの10cm組織培養皿に播種した。翌日、この細胞を見かけのMOI 5(実際のMOIはトランスフェクション試薬であるPEIの存在下で大幅に減少する)でtRNAPylライブラリを含むウイルスに感染させた。感染から4時間後、PEIを用いて、1皿あたり22μgのpHelper及び10μgのpIDTSmart-RC2(T454TAG)-PylRSで細胞をトランスフェクトした。この時点で、1mMのAzKも添加した。トランスフェクションの1日後に、培養培地を1mM AzKを含む新鮮なDMEMと交換した。トランスフェクションの3日後に細胞を採取し、ウイルス単離と同様に溶解した。培養培地を保存し、清澄化したライセートと再合成し、この混合物を500U universal nuclease(Thermo Scientific)で30分間処理した。ウイルスは、先に述べたように1、11%ポリエチレングリコール(Fisher(フィッシャー))を用いたPEG沈殿により回収し、3mLのPBSに再懸濁した。小規模のモックポジティブ選択を12ウェルプレートで実施した。ウェルあたり0.7百万個の細胞を播種し、翌日、tRNAPyl-mCherryカーゴを有するAAVに感染させた。4時間後、細胞を上記の選択について記載したようにトランスフェクトしたが、トランスフェクションミックスとAzKは15分の1にスケールダウンした。PEIのみのウェルでは、細胞は同等の量のトランスフェクション試薬を受け取ったが、プラスミドは受け取らなかった。トランスフェクションの翌日、培地を、1mM AzKを含む新鮮なDMEMに交換した。トランスフェクション後3日目にウイルスを採取し、上記の選択と同様にPEG沈殿を行った。12ウェルプレート中のコンフルエントな細胞を、1つのモック選択のウェルの全出力に感染させ、フローサイトメトリーによって分析した。
【0061】
実施例2:ネガティブ選択
ポジティブ選択からのウイルス(3mL)を、光切断可能なDBCO-スルホ-ビオチン(Jena Biosciences(イエナ・バイオサイエンス))で、5μMの濃度で暗所で1時間、混合しながら標識した。標識後すぐに、過剰のDBCO-ビオチンをAzK(最終濃度1mM)でクエンチし、反応物を4℃の1L PBSに対してSlide-A-Lyzer 100kDa MWCO装置(Thermo Scientific)を用いて一晩透析した。透析したウイルス混合物を3本の2mLチューブに分け、それぞれ400μLのストレプトアビジンアガロース樹脂(Thermo Scientific)を用いて4℃で一晩回転させた。翌日、ビーズの各チューブを、NaCl(最終濃度300mM)を追加した1mL PBSで、洗浄の合間に混合しながら8回洗浄した。最後に、洗浄したビーズを8mLのPBS(300mM NaCl)に再懸濁し、365nmのUVダイオードアレイ(Larson Electronics(ラーソン・エレクトロニクス))を用いて30秒間の照射を4回行い、照射の間に混合しながら、樹脂からウイルスを溶出させた。
【0062】
実施例3:ウイルスDNAの回収、増幅、及びクローニング
溶出したウイルスを、Amicon Ultra-4 100kDa MWCO遠心濃縮器(Millipore(ミリポア))を用いて3mLから300μLに濃縮した。この混合物を100℃で10分間加熱して、ウイルスカプシドタンパク質を変性させ、DNAを露出させた。次に、ウイルスDNAを、酵母tRNA(Ambion(アンビオン))を用いたエタノール沈殿により洗浄及び濃縮し、最終体積50μLに再懸濁した。この混合物20μLを200μLのPCR反応物に加え、tRNAAmp- F及びRプライマーを用いて増幅した。得られたDNAをKpnIとNcoIで消化し、オリジナルライブラリ作製と同じプロトコルでライブラリクローニングベクターにクローニングした。
【0063】
実施例4:Pyl-mCherry及びTyr-GFPを用いたモック選択
図1に示すモック選択は、出発ライブラリウイルスがpAAV-ITR-PytR-mCherryから作ったウイルスとpAAV-ITR-EcYtR-GFPから作ったウイルスの1:10,000混合物であることを除いて、上記と同じプロトコルに従った。モック選択の結果は、ウイルス滴定について記載したようにフローサイトメトリーで解析したが、ここでは12ウェルプレートの細胞を、ポジティブ選択又はネガティブ選択のいずれかの後に上記ウイルスプールの200μLに感染させた。赤色及び緑色の蛍光細胞をカウントして、ウイルス比率を決定した。
【0064】
実施例5:ヒット配列決定及び特性解析
各ライブラリについて、上記で生成した形質転換プレートから30~50コロニーを選び、Sanger(サンガー)配列決定(Eton Bioscience)に回した。無作為化塩基がすべて対になっている配列はすべてヒット候補として扱い、これらのtRNAを、解析のためにpAAV-ITR-PytR-mCherryにサブクローニングした。最初のヒット解析は、24ウェルプレートのHEK293T細胞に、1mM AzKの存在下及び不存在下で、潜在的ヒットpAAV-ITR-PytR-mCherryプラスミド、pIDTSmart- MbPylRS及びpAcBac1-GFP(39TAG)をそれぞれ0.5μg用いてトランスフェクトすることにより実施した。トランスフェクションの2日後、細胞をCelLytic M バッファ(Sigma)で溶解し、EGFP及びmCherryの蛍光をaMolecular Devices SpectraMax M5マイクロプレートリーダーで測定した。トランスフェクトしていないウェルの値を差し引き、各ウェルについてEGFP-蛍光をmCherry蛍光に正規化した。最良のヒットであるAc2.1(GGG/CCU)を、他の終止コドン及び異なる合成酵素、並びにUaa、AcKRS3及びAcKを用いたさらなる分析のために選択した。12ウェルプレート内のHEK293T細胞を、野生型又は進化したtRNAを含む0.375μgのpIDTSmart-PytR、適切な合成酵素を含む0.375μgのpIDTSmartaaRS、及び0.75μgの適切な終止コドンの1つ又は2つを含むpAcBac1-EGFPでトランスフェクションした。野生型EGFP対照ウェルは、pIDTSmart-PytR(TAG、野生型)、pIDTSmart-MbPylRS、及びpAcBac1-EGFP(野生型)を同じ比率で使用した。トランスフェクションから2日後に細胞を溶解し、マイクロプレートリーダーでEGFP蛍光を測定した。トランスフェクトしていないウェルからの値を差し引いた。
【0065】
実施例6:カスタムランダム化変異体ライブラリを用いたピロリジルtRNAのさらなる進化
第一世代のVADER実験では、tRNAの短いセグメント(一度に3塩基対)だけを一度にランダム化して小さな変異体ライブラリを作成し、これを選択にかけた。それは改良された変異体の特定につながったが、本発明者らは、より広い配列空間をランダム化して選択することができれば、さらにより効率的な変異体の特定につながるのではないかと推測した。しかしながら、tRNAの大きなセグメントをランダム化すると、ライブラリのサイズが指数関数的に大きくなる。例えば、ステム領域で1つの追加的な塩基対をランダム化すると、ライブラリのメンバーの数は16倍に増大する。技術的な制約から、現在、本発明者らのVADERプラットフォームで105を超えるライブラリサイズを処理し、可能な限りの変異体を確実に完全に網羅することは困難である。このサイズ制限により、tRNAの活性を操作するために、tRNAのステム領域で4塩基対以下の完全なランダム化を行うことに制限されている。しかしながら、tRNA-ステム領域の塩基対を完全にランダム化した場合、得られる16個の変異体のうち、ステム領域の安定性に不可欠な塩基対形成相互作用(A:T、G:C又はG:Uのいずれか)を維持できるのは、わずか6個にとどまる。塩基対形成ができない変異体の大部分は、tRNAステムの中央部に塩基対形成のない「バブル」を生じ、これは、一般にtRNAの性能を低下させる。各塩基対を望ましい塩基対配列にのみランダム化する、tRNAライブラリを合成する別の方法を考案した。このアプローチでは、近年のDNA合成技術の進歩を利用し、かなりの長さ(最大300ヌクレオチド)の異なるDNAオリゴヌクレオチドを大量に合成することが可能である。これにより、tRNA遺伝子全体をコードするDNAライブラリを合成し、そこで各ライブラリメンバーの各位置を特定することができることで、塩基対を形成する変異体のみを含み、そうでない変異体を回避することが可能になる。
【0066】
DNA合成サービスプロバイダーのTWIST bioscience(ツイストバイオサイエンス)を使用して、アクセプターステムの6つの塩基対を塩基対配列の所望の組み合わせにランダム化した、
図11に描かれているようなピロリジル-tRNAライブラリを作成した。得られたライブラリをAAV2にパッケージングし、上記のように二重にVADER選択スキームに供した。AAV2にパッケージされたライブラリは、VADER選択にかける前と後に、次世代配列決定のためのIlluminaプラットフォームを使用して配列決定した(
図12)。各変異体の濃縮度は、選択工程の前後での存在量を用いて計算し、変異体を濃縮の程度に基づいてランク付けした。選択時に最も高い濃縮の程度を示した変異体を再合成し、上述したようにEGFP-39-TAG発現アッセイを用いてその活性をベンチマークした(
図13)。
図13に示すように、26個のtRNA-Pyl変異体は、野生型tRNA-Pylに対して少なくとも250%高い活性を示し、最も活性の高い変異体は、WT-tRNA-Pylに対して540%の活性を示した。
【0067】
実施例7:哺乳動物細胞におけるナンセンス抑制活性を強化するための大腸菌ロイシルtRNAの進化
哺乳動物細胞におけるtRNA活性を操作するためのVADER選択スキームの適用は、ピロリシルtRNAのみに限定されるものではない。それは、哺乳動物細胞におけるUaaの組み込みに適した他のtRNAの活性を向上させるためにも使用することができる。本明細書に記載されるVADER方法の使用は、同族の大腸菌ロイシルtRNA合成酵素(EcLeuRS)とともに、哺乳動物細胞におけるUaa組み込みに以前に使用された(J.Am.Chem.Soc. 2004、126、14306;Biochemistry 2018、57、441)大腸菌ロイシルtRNA(tRNA-Leu)の活性を向上させるためにも使用した。tRNA-Pylに関する本明細書に記載される作業で示されるように、アクセプターステムは翻訳システムの多くの構成要素と関わっているため、この領域を操作することはしばしば非常に魅力的である。「スマート」ライブラリを設計するために、120の公知の細菌tRNA配列の配列のアラインメントを行い、アクセプターステムのコンセンサス配列を作成した(
図14)。このコンセンサス配列は、アクセプターステムのどの部分がtRNA-aaRS相互作用に重要であるか(アイデンティティエレメント)、及びどの領域が改変の余地があるかを予測するためのガイドとして使用することができる。このアプローチに基づき、tRNA-Leuアクセプターステムのカスタムランダム化ライブラリ(
図14)を設計した。このライブラリをAAV2にパッケージングし、上記のようにVADER選択スキームにかけた。アジド含有(アジド修飾)Uaa AzKを導入できる、以前に開発された多重特異的EcLeuRS変異体(Biochemistry 2018、57、441)を、tRNA変異体を導入するためのVADERスキームで使用した。次世代イルミナDNA配列決定を用いて、上記のように選択前後の各ライブラリメンバーの濃縮度を測定し、最大の濃縮度を示すものを再合成し、先に述べたEGFP-39-TAGレポーター発現アッセイを用いて特性評価を行った。
図15に示すように、17個のtRNA-Leu変異体は、野生型tRNA-Leuと比較して少なくとも1,000%高い活性を実証し、最も活性の高い変異体は、WT-tRNA-Leuと比較して約13,000%向上した活性を実証した。WT-tRNA-Leuを含むこれらのtRNA配列は、アンチコドンループの最初のヌクレオチドである33位にUを含んでいる。このUをCに変異させると、通常、ナンセンスサプレッサーのアンチコドンの文脈がよくなるため、ナンセンス抑制活性が増強される可能性がある。このことが当てはまるか否かを調べるために、変異体29(配列番号29)の33-UをCに変異させて、変異体30(配列番号30)を作成した。実際、この変異体は、29と比較して有意に改善された抑制活性を示す(
図15)。この変異を他の特定されたtRNA-Leu変異体(配列番号31~45)に導入することによっても、その活性のさらなる向上がもたらされるはずである。
【0068】
実施例8:操作されたtRNA変異体は、その発現レベルが制限的に制御される場合、それらの野生型対応物と比較してさらなる改善を示す
これまで、すべてのtRNA活性のすべての評価は、tRNA、aaRS、及びレポーターをコードするプラスミドを哺乳動物細胞に一過性にトランスフェクトすることによって行った。哺乳動物細胞培養物の一過性トランスフェクションでは、ある細胞は非常に高いレベルで関連プラスミドを取り込み過剰発現するが、他の細胞はそうでないというように、DNA送達の非制御かつ不均一なレベルが生じることが十分に確立されている。その結果、コード化tRNA及びaaRSの過剰発現が、それらの貧弱な固有活性を補償し、それらの固有効率の推定値を膨らませる可能性があることが以前に示された(ACS Synth.Biol. 2017、6、13)。本明細書に記載されているように、結果として、一過性トランスフェクションによる2つの異なるUaa組み込みシステムを比較すると、より弱いシステムの効率が過大評価される、不正確な推定値が得られる場合があることがさらに実証されている。一過性トランスフェクションアッセイを用いて観察された効率の差は、野生型対応物に対する異なるtRNA変異体の固有の効率の実際の改善度を過小評価している可能性があると推測された。
【0069】
この課題を克服するために、哺乳動物細胞への導入遺伝子の制御されたより均質な送達を容易にする、以前に開発されたバキュロウイルスベクター(ACS Synth.Biol. 2017、6、13)を使用した。ウイルスと細胞の比率を系統的に変化させることで、導入遺伝子の発現レベルを簡易に制御することができる。この送達システムを用いることで、Uaa組み込みのための2つの異なる遺伝子システムを、発現レベルの異なる大きなスペクトルで比較することが可能となり、これにより、より正確にその本質的な性能の違いが明らかになる。このアプローチを用いて、野生型と比較した操作されたtRNA-Pyl変異体及びtRNA-Leu変異体の活性を比較するために、野生型のmCherryレポーターと、4つのtRNA、WT tRNA-Pyl、WT-tRNA-Leu、tRNA-Pyl-2(配列番号2)、又はtRNA-Leu-30(配列番号30)のうちの1つとをコードするバキュロウイルスベクターを構築した。第2のバキュロウイルスは、EGFP-39-TAGレポーターと、必要なaaRS(tRNA-PylについてはMbPylRS、又はtRNA-LeuについてはEcLeuRS)を送達するように開発した。HEK293T細胞に、aaRS/EGFP-39-TAGバキュロウイルスを1の一定のMOI(感染多重度、又は細胞あたりに加えられた感染性ウイルス粒子の数)で、さらにWT又は操作したtRNAウイルスのいずれかのMOI(0.3~15)を増加させながら形質導入した。mCherry(所望のレベルのtRNA-バキュロウイルスの送達を確認する)及びEGFP-39-TAG(TAGに応答したUaa組み込み効率を表す)の発現は、無細胞抽出物中のそれらの特徴的蛍光を用いてトランスフェクション後48時間目に記録した。
図16に示すように、操作したtRNA-Pylは、WT tRNA-Pylと比較して、はるかに低い発現レベル(低いMOI)でEGF-39-TAGの発現を促進させる。例えば、WT tRNA-PylウイルスがMOI 1で使用される場合、EGFP-39-TAGの発現は、野生型EGFP対照に関してわずか0.5%であるが、操作したtRNA-Pyl(配列番号2)をコードするウイルスは、同じMOIで9.3%のEGFP-39-TAG発現をもたらし、これは、この発現レベルで後者が18倍超も効率的であることを示す。より高いMOI 3では、操作したtRNAは野生型と比較して約14倍高い活性を示し、これは、より高い発現が固有活性の真の差をいかに過小評価しうるかを明らかにする。野生型tRNA-Leuとその操作した対応物の1つ(配列番号30)の活性も同じように比較した。
図17に示すように、操作したtRNAは、試験した最も高いMOI(15)でほぼ29倍改善されたEGFP-39-TAG発現を提供する。tRNAがより低いレベルで発現されたとき、その差はさらに顕著であった。例えば、MOI 5において、WT tRNA-Leuは検出可能なEGFP-39-TAG発現を全く与えないが、tRNA-Leu-30は野生型レポーターに対して16%のレベルでその発現を可能にする。操作したtRNAが低い発現レベルで有意に高い効率を提供することは非常に重要である。というのも、このことは、ゲノム的に統合されたaaRS/tRNAを持ち、高いUaa組み込み効率を提供する安定した哺乳動物細胞株の生成を著しく容易にするからである。
【0070】
実施例9:多数のUaaのより効率的な組み込みのための操作したtRNA変異体
理論に束縛されることなく、操作したtRNAの向上した活性は完全には理解されていないが、これらは生命の異なるドメインから借用する野生型の対応物よりも、哺乳類の翻訳システムとはるかによく関わっている可能性が高い。その結果、これらのtRNAの活性が向上すれば、同族aaRSの操作された変異体が取り込むことができるすべてのUaaをより効率的に取り込むことができるはずである。この仮説を実証するために、操作したMbPylRS(構造1~6;
図18)又はEcLeuRS(構造7~12;
図18)を用いて組み込むことができるいくつかのUaaを、上述のEGFP-39-TAG発現アッセイを用いてそれらの組み込み効率について評価した。実際、これらのUaaの各々は、操作されたtRNAによって、2つの操作されたtRNAによって、それらの野生型対応物と比較して有意に高い効率でレポーターへ組み込まれた(
図19)。
【0071】
本発明は、その好ましい実施形態を参照して特に示し説明したが、添付の請求項によって包含される本発明の範囲から逸脱しない範囲で、上記の実施形態において、その形態及び詳細における種々の変更がなされてもよいことが当業者には理解されよう。
【配列表】
【国際調査報告】