(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-18
(54)【発明の名称】不妊症診断のための方法およびキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20221011BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20221011BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20221011BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20221011BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6874 Z
C12Q1/6883 Z
G01N33/50 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507433
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 US2020046455
(87)【国際公開番号】W WO2021030725
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510239406
【氏名又は名称】ワシントン ステイト ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】スキナー マイケル ケイ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA27
2G045CB14
2G045DA13
2G045FB02
2G045FB03
2G045JA01
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】
本発明は、対象における生殖能力の可能性を提示するための方法およびキットを提供する。さらに、本発明は、対象が生殖能力の治療に応答するかどうかを決定するための方法およびキットを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と、
表2に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と、
前記エピジェネティックプロファイルと、表2に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程であって、前記DMRがDMRMT:1である場合に、表2に任意に列挙された第2のDMRに含まれる核酸配列の少なくとも一部を検出し、分析する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記分析工程に少なくとも部分的に基づいて、前記対象における生殖能力の可能性を決定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が不妊症であるか、または、正常な対象に対して減少した生殖能力を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象に治療を施す工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記治療が体外受精(in vitro fertilization: IVF)の実施を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記治療が、顕微授精(intracytoplasmic sperm injection: ICSI)の実施を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記治療が、治療有効量の卵胞刺激ホルモン(FSH)またはその類似体を前記対象に投与する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記治療が、治療有効量のヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)またはその類似体を前記対象に投与する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記参照エピジェネティックプロファイルは、生殖能力を有する対象の塩基配列のメチル化レベルを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記検出工程が、表2に列挙された、6個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上のDMRにおけるエピジェネティックな変化の測定を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記検出工程が、表2に列挙した1~217のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記検出工程が、表2に列挙した1~50のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記検出工程が、表2に列挙した100~217のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記検出工程が、表2に列挙した50~150のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と、
表3に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と、
前記エピジェネティックプロファイルと、表3に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程と
を含む、方法。
【請求項16】
治療を施す場合に、前記対象が治療に応答するかどうかを決定する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記治療が、治療有効量の卵胞刺激ホルモン(FSH)またはその類似体を前記対象に投与することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記治療が、治療有効量のヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)またはその類似体を前記対象に投与することを含む、請求項16に記載の方法
【請求項19】
前記対象が前記治療に応答しないときに、IVFを実施する工程をさらに含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が前記治療に応答しないときに、ICSIを実施する工程をさらに含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項21】
前記参照エピジェネティックプロファイルが、前記治療に応答する対象由来のヌクレオチド配列のメチル化レベルを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、前記治療を受けた後に増加した精子数または向上した精子の運動性を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記検出工程が、表3に列挙した6個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上のDMRのエピジェネティックな変化の測定を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記検出工程が、表3に列挙した1~56のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記検出工程が、表3に列挙した1~20のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記検出工程が、表3に列挙した30~56のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記検出工程が、表3に列挙した1~35のDMRのメチル化の変化の測定を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記測定工程が、配列分析、パイロシークエンシング分析、マイクロアレイ分析、またはそれらの任意の組み合わせを実施することを含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記配列分析が、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)によるシークエンシングを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記MeDIPが、メチル化塩基(mB)に結合する抗体の使用を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記hmBが5-メチル化塩基(5-mB)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記5-hmbが5-メチル化シトシン(5-mC)である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記エピジェネティックプロファイルが、増加したメチル化レベルを含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記エピジェネティックプロファイルが、減少したメチル化レベルを含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記ヌクレオチド配列が、シトシン-リン酸-グアニン(CpG)領域を含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
表2または表3のいずれに列挙した前記DMRが、100bpヌクレオチドあたり10CpG領域未満のCpG密度を含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
表2または表3のいずれに列挙した前記DMRが、ゲノムの約95%から生成される、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
表2に列挙された前記DMRが、約1000bpから約50,000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
表2に列挙された前記DMRが、約1000bpから約4000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
表3に列挙された前記DMRが、約1000bpから約5000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
表3に列挙された前記DMRが、約1000bpから約2000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
表2が表3と重複していない、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記対象から前記精子サンプルを得る工程をさらに含む、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記核酸配列を5-mc特異的抗体と接触させる工程をさらに含む、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記核酸配列を亜硫酸水素塩と接触させる工程をさらに含む、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記対象がヒトである、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
通信媒体を介して結果を送信する工程をさらに含む、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記結果が、エピジェネティックプロファイル、参照エピジェネティックプロファイル、または、その両方を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
亜硫酸水素塩と、
表2または表3に列挙したDNAメチル化可変領域(DMR)を検出するように構成された複数のプライマーと、
マイクロアレイチップまたはDNAシークエンシングキット
とを含む、キット。
【請求項50】
コンピュータプロセッサにより実行されると、対象における生殖能力の可能性を決定するための方法を実施する機械実行可能コードを含むコンピュータ可読媒体であって、前記方法が以下の工程を含む、コンピュータ可読媒体:
対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と、
表2に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と、
前記エピジェネティックプロファイルと、表2に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程であって、前記DMRがDMRMT:1である場合に、表2に任意に列挙された第2のDMRに含まれる核酸配列の少なくとも一部を検出し、分析する工程。
【請求項51】
コンピュータプロセッサによって実行されると、対象が治療に応答するかどうかを決定するための方法を実施する機械実行可能コードを含むコンピュータ可読媒体であって、前記方法が以下の工程を含む、コンピュータ可読媒体:
対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と、
表3に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と、
前記エピジェネティックプロファイルと、表3に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年8月15日に出願された米国仮特許出願第62/887000号の開示を参照により本明細書に全体として組み込み、その利益を享受する。
【背景技術】
【0002】
過去50年のデータに関する近年の分析で、過去一世紀にわたる男性の生殖能力が劇的に低下したことが観察され、男性の精子数の50%が減少していると指摘されている。示唆されている主要な原因因子は、精巣生物学および精子生産に影響を及ぼす環境暴露である。げっ歯類モデルにおいて、多数の定義された毒物および他の暴露は、精子数の減少に関連する精巣への効果を促進する。現在、推定される不妊症の範囲は、人間の男性の人口の約15-20%である。男性要因の不妊症が同定されたときの生殖補助医療の一般的な戦略は、侵襲的で高価な手順である体外受精および顕微授精(ICSI)を含む。不妊症に関連する精子数の減少に加えて、特発性不妊症も増加しており、これは通常の精子のコホート及び運動性を有している。精液パラメータは男性不妊症をスクリーニングするために一般に使用されているが、精子数、運動性および形状は不妊症を完全に説明することができない。精子の分子変化に基づく臨床診断分析の開発は、この臨床的問題の解決に役立つであろう。
【発明の概要】
【0003】
一態様において、本開示は、対象における生殖能力の可能性を示す方法であって、当該方法は、対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と;表2に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と;前記エピジェネティックプロファイルと、表2に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程であって、前記DMRがDMRMT:1である場合に、表2に任意に列挙された第2のDMRに含まれる核酸配列の少なくとも一部を検出し、分析する工程を含む。
【0004】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記分析に少なくとも部分的に基づいて、前記対象における生殖能力の可能性を決定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記対象は不妊症であるか、または、正常な対象に対して減少した生殖能力を有している。
【0005】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象に治療を施す工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記治療はインビトロ受精(IVF)の実施を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記治療は顕微注入(ICSI)の実施を含む。いくつかの実施形態において、前記治療は、治療有効量の卵胞刺激ホルモン(FSH)またはその類似体を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記治療は、治療有効量のヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)またはその類似体を前記対象に投与することを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、参照エピジェネティックプロファイルは、生殖能力を有する対象の塩基配列のメチル化レベルを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記検出工程が、表2に列挙された、6個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上のDMRにおけるエピジェネティックな変化の測定を含む。いくつかの実施の形態では、前記検出工程が、表2に列挙した1~217のDMRのメチル化の変化の測定を含む。いくつかの実施の形態では、前記検出工程が、表2に列挙した1~50のDMRのメチル化の変化の測定を含む。いくつかの実施の形態では、前記検出工程が、表2に列挙した100~217のDMRのメチル化の変化の測定を含む。いくつかの実施の形態では、前記検出工程が、表2に列挙した50~150のDMRのメチル化の変化の測定を含む。
【0009】
別の態様において、本開示は、対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と;表3に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と;前記エピジェネティックプロファイルと、表3に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程とを含む、方法を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記方法は、治療を施す場合に、前記対象が治療に応答するかどうかを決定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記治療が、治療有効量の卵胞刺激ホルモン(FSH)またはその類似体を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、治療有効量のヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)またはその類似体を前記対象に投与することを含む。
【0011】
いくつの実施形態において、前記方法は、前記対象が前記治療に応答しないときに、IVFを実施する工程をさらに含む。いくつの実施形態において、前記方法は、前記対象が前記治療に応答しないときに、ICSIを実施する工程をさらに含む。
【0012】
いくつの実施形態において、前記参照エピジェネティックプロファイルが、前記治療に応答する対象由来のヌクレオチド配列のメチル化レベルを含む。いくつの実施形態において、前記対象が、前記治療を受けた後に増加した精子数または向上した精子の運動性を有する。
【0013】
いくつの実施形態において、前記検出工程は、表3に列挙した6個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上のDMRのエピジェネティックな変化の測定を含む。
【0014】
請求項15~22のいずれかに記載の方法は、前記検出工程が、表3に列挙した1~56のDMRのメチル化の変化の測定を含む。いくつかの実施形態において、前記検出工程が、表3に列挙した1~20のDMRのメチル化の変化の測定を含む。いくつかの実施形態において、前記検出工程が、表3に列挙した30~56のDMRのメチル化の変化の測定を含む。いくつかの実施形態において、前記検出工程が、表3に列挙した1~35のDMRのメチル化の変化の測定を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記測定工程は、配列分析、パイロシークエンシング分析、マイクロアレイ分析、またはそれらの任意の組み合わせを実施することを含む。いくつかの実施形態において、前記配列分析は、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)によるシークエンシングを含む。いくつかの実施形態において、前記MeDIPが、メチル化塩基(mB)に結合する抗体の使用を含む。いくつかの実施形態において、前記hmBが5-メチル化塩基(5-mB)である。いくつかの実施形態において、前記5-hmbが5-メチル化シトシン(5-mC)である。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記エピジェネティックプロファイルは増加したメチル化レベルを含む。いくつかの実施形態において、前記エピジェネティックプロファイルは減少したメチル化レベルを含む。いくつかの実施形態において、前記ヌクレオチド配列はシトシン-リン酸-グアニン(CpG)領域を含む。いくつかの実施形態において、表2または表3のいずれに列挙した前記DMRが、100bpヌクレオチドあたり10CpG領域未満のCpG密度を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、表2または表3のいずれに列挙した前記DMRは、ゲノムの約95%から生成される。いくつかの実施形態において、表2に列挙された前記DMRは、約1000bpから約50,000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する。いくつかの実施形態において、表2に列挙された前記DMRは、約1000bpから約4000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する。いくつかの実施形態において、表3に列挙された前記DMRは、約1000bpから約5000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する。いくつかの実施形態において、表3に列挙された前記DMRが、約1000bpから約2000bpの範囲のヌクレオチド配列を有する。
【0018】
いくつかの実施形態において、表2は表3と重複していない。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象から前記精子サンプルを得る工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記核酸配列を5-mc特異的抗体と接触させる工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記核酸配列を亜硫酸水素塩と接触させる工程をさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記方法は、通信媒体を介して結果を送信する工程をさらに含む。
いくつかの実施形態において、前記結果が、エピジェネティックプロファイル、参照エピジェネティックプロファイル、または、その両方を含む。
【0022】
別の態様において、本開示は、亜硫酸水素塩と;表2または表3に列挙したDNAメチル化可変領域(DMR)を検出するように構成された複数のプライマーと;マイクロアレイチップまたはDNAシークエンシングキット;とを含む、キットを提供する。
【0023】
別の態様において、本開示は、コンピュータプロセッサにより実行されると、対象における生殖能力の可能性を決定するための方法を実施する機械実行可能コードを含むコンピュータ可読媒体であって、前記方法が以下の工程を含む、コンピュータ可読媒体を提供する:対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と;表2に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と;前記エピジェネティックプロファイルと、表2に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程であって、前記DMRがDMRMT:1である場合に、表2に任意に列挙された第2のDMRに含まれる核酸配列の少なくとも一部を検出し、分析する工程。
【0024】
別の態様において、本開示は、コンピュータプロセッサによって実行されると、対象が治療に応答するかどうかを決定するための方法を実施する機械実行可能コードを含むコンピュータ可読媒体であって、前記方法が以下の工程を含む、コンピュータ可読媒体を提供する:対象からの精子サンプルの少なくとも一部に由来する核酸配列を測定する工程と;表3に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルを生成する検出工程と;前記エピジェネティックプロファイルと、表3に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して前記エピジェネティックプロファイルを分析する工程。
【0025】
本開示のさらなる態様および優位性は、以下の詳細な説明から当業者に容易に明らかであり、また本開示は例示的な実施形態のみを記載するものである。本開示は、他の異なる実施形態とすることも可能であり、そのいくつかの詳細については、本開示から逸脱することなく、様々な自明な側面で修正が可能であることが理解される。したがって、図面及び詳細な説明は、本質的に例示的なものとみなされるべきであり、限定的なものとしてみなされるべきではない。
【0026】
参照による組み込み
本明細書に記載されている全ての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み込まれるよう具体的にかつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照によって組み込まれた刊行物または特許または特許出願が本明細書に含まれる開示と矛盾する範囲においては、本明細書はそのような矛盾するいずれの材料に対しても置き換えられ、および/または、優先することが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のいくつかの態様をさらに実証するために含まれる。本開示は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0028】
【
図1】
図1A-Fは、リストされた個々の不妊症患者について、採用時(Pre-Conc 0)、FSH治療処置前(Pre-Conc 1)、および、3カ月の治療後(Post-Conc 2)の精液および精子パラメータを示す。全患者についてのサンプル分析は、(A)精液濃度、(B)運動性精子の割合(%)、および、(C)全運動性カウント(TMC)(精液量×濃度×運動性)を示す。また、治療後に2倍以上の変化で応答する不妊症患者の(D)精液濃度、(E)運動性精子の割合(%)、および、(F)TMCを示す。y軸は、集合間で変化の大きさを示す。
【0029】
【
図2】
図2A-Dは、DMR識別を示す。(a)生殖能力あり対生殖能力なしの精子DMR分析。異なるp値カットオフ閾値を使用して発見されたDMRの数。全ウインドウ列は全てのDMRを示している。多重ウインドウ列は、少なくとも2つの隣接する有意なウインドウを含むDMRの数と、le-05のp値閾値における各特定の数の有意ウインドウを有するDMRの数とを示している。(B)不妊症患者応答者対非応答者精子DMR。異なるp値カットオフ閾値を使用して発見されたDMRの数。全ウインドウ列は全てのDMRを示している。多重ウインドウ列は、少なくとも2つの有意ウインドウを含むDMRの数を示す。le-05のp値閾値での各特定数の有意ウインドウを有するDMRの数。(C)不妊症対生殖能力有りにおけるp< le-05のDMR特性、ならびに、応答者対非応答者におけるp< le-05およびp<0.001のDMR特性を示すベン図。(D)DMR関連遺伝子カテゴリー。
【0030】
【
図3】
図3A-Fは、DMRゲノム特性を示す。(A)生殖能力有り対生殖能力なし(不妊症)DMR分析の染色体位置。個々の染色体上のDMRの位置。p< le-05のp値閾値にある全てのDMRは矢頭で示し、DMRクラスタをボックスで示す。(B)応答者DMR特性の染色体位置。個々の染色体上におけるDMR位置(矢頭)およびDMR(ボックス)。p< le-05のp値閾値にある全てのDMRを示す。(C)生殖能力有り対不妊症DMRにおけるDMR CpG密度。CpG密度が異なるDMRの数。p< le-05のp値閾値にある全てのDMRを示す。(D)応答者のDMR CpG密度特性(100bp当たりの数)。CpG密度が異なるDMRの数を示す。p< le-05のp値閾値にある全てのDMRを示す。(E)生殖能力有り対不妊症DMRのキロベースにおける長さ。p< le-05のp値閾値にある全てのDMRを示す。(F) 生殖能力有り対不妊症DMRのキロベースにおけるサイズ。p< le-05のp値閾値にある全てのDMRを示す。
【0031】
【
図4】
図4A-Dは主成分分析を示す。(A)個体の生殖能力有り対不妊症DMR主成分分析。サンプルは、第1の3つの主成分によってプロットされている。基礎データは、DMRのRPKM読み取り深度である。(B)個体の生殖能力有り対不妊症DMR主成分分析。サンプルは、第1の3つの主成分によってプロットされている。基礎データは、DMRのRPKM読み取り深度である。生殖能力有りおよび不妊症患者におけるセレクション失敗の相関はエピジェネティック特性を生成するために使用されていない。(C) p< le-05のDMRに対する応答者および非応答者PCA分析。使用した第1の3つの主成分を示す。基礎データは、DMRのRPKM読み取り深度である。(D)全ての並べ替え解析における生殖能力有り対不妊症比較のDMR数。垂直線は当初の分析に見出されたDMRの数を示す。全てのDMRはp< le-05のedgeR p値閾値を用いて定義する。
【0032】
【
図5】
図5は、いくつかの実施形態による、核酸配列をアッセイし、メチル化の変化を検出し、サンプル中のエピジェネティックプロファイルを分析するなど、本開示の方法を実施するようにプログラムされ、または実施するように構成されるコンピュータシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
雄性要因の不妊症の増加および精子パラメータの低下の主な源は、環境暴露であると思われる。これは、種々の毒物、内分泌障害、異常な栄養素、喫煙及びアルコール、およびストレスを含む。動物モデルでは、多数の環境毒物が精子数を減少させ、精巣疾患および雄性不妊症を促進する直接的な作用を示した。また、様々なヒト男性に対する暴露も低い精子パラメータおよび男性不妊症に関連することが示されている。考慮される原始的な分子の作用は、環境エピジェネティクスを含む。
【0034】
エピジェネティクスは、DNA配列に依存しない生殖系列の活性を調節するDNA周辺の分子因子またはプロセスとして定義され、有糸分裂的に安定である。精子異常に関与する主要なエピジェネティックプロセスの一つは、DNAメチル化である。CpG部位でのシトシンのメチル化は、遺伝子発現を変化させ、精子におけるこれらの部位は、減少した生殖能力および子孫における疾患の亢進に関連する。変化した精子のメチル化は、後年の種々の病理に関連する環境暴露に対するバイオマーカーであることが示されている。精子および非コードRNAにおけるプロタミン置換に続く変化したヒストン保持もまた、雄性不妊症と関連することが示されているが、本研究において調査した一次エピジェネティックバイオマーカーは、DNAメチル化を含む。
【0035】
動物モデルは、最初に精子のDNAメチル化と雄性不妊症との相関を示した。ヒトにおける研究はまた、精子のDNAメチル化の変化に関連する減少した生殖能力を示した。精子のDNAメチル化バイオマーカーアッセイが開発され、実証化されており、ゲノム内のCpGアイランドを評価するためのマイクロアレイアプローチが用いられている。この分析はゲノムの約1%を調査するだけであるが、臨床的設定における精子のDNAメチル化の分析に有用であることが示されている。続いて、インビトロ受精(IVF)への適用に関する研究において、生殖補助の前に男性不妊症を評価するためにこのバイオマーカー分析によるDNAメチル化の測定が用いられていた。これまでの分析は限られた量のゲノム(すなわち、<1%)のみを調査していたが、本研究では、精子のDNAメチル化の変化を調べるために、低密度CpG領域(すなわち、95%ゲノム)を用いて、よりゲノムワイドなアプローチを調査するように設計された。
【0036】
雄性不妊症の臨床治療のための有望なアプローチは、女性で使用されるものと同様の内分泌治療薬の使用である。例えば、複数の所見が特発性雄性要因の不妊症を有する男性において、自然妊娠および出生率に対するFSH治療の有益な効果を示唆する。外因性卵胞刺激ホルモン(FSH)による治療は、尿性または組換えFSH調製物またはヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)調製物の投与によって達成され、後者は、FSH活性および黄体化ホルモン(LH)活性の両方を提供する。女性では、FSH療法を用いて卵形成を刺激することに成功しており、類似のアプローチが精子形成を誘導することが期待される。不妊集団内で変化する応答のために、応答者と非応答者の個体を評価するための診断試験が、FSH治療薬の有用性を有意に高めることが期待される。
【0037】
全ての臨床治療研究は、応答者および非応答性亜集団を同定している。人口の大部分に有効なものでも、一般に、非応答集団に関与するものではない。関節炎の免疫療法のように疾患集団の大部分が応答しない場合、応答性集団と非応答性集団との間の分子診断の進展は、疾患の管理において非常に有用である。多くの疾患バイオマーカーまたは診断薬が疾患について同定されているが、特定の応答者対非応答性亜集団については、ほとんど観察されていなかった。
【0038】
定義
【0039】
以下は、本明細書で使用する用語の定義を記載する。本明細書中で提供される当初の定義は、特に断らない限り、本明細書の全体にわたってその群または用語にそれぞれ適用されるか、または、または別の群の一部として適用される。
【0040】
さらに、このような候補または代替物の任意のリストは単なる例示であり、暗示的に又は明示的に理解され、または、記述されない限り、限定するものではないことが理解されるであろう。
【0041】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるように、単数形は、内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0042】
特許請求の範囲および/または明細書に記載された“含む”の用語に関連して使用される単語“1つ”の使用は、“1つ”の意味であってもよいが、“1以上”、“少なくとも1つ”、“1または2以上”の意味とも一致する。
【0043】
この出願全体を通して、“約”の用語は、ある値が、その値を決定するために使用される装置または方法のための誤差の標準偏差を含むことを示すために使用される。
【0044】
特許請求の範囲における"または"の用語の使用は、代替物のみに言及するために明示的に示されていない限り、または、代替物が互いに排他的でない限り、“および/または”の意味で使用されるが、本開示は代替物のみ、ならびに、“および/または”についての定義を有する。
【0045】
この明細書および請求項に使用されるように、“含む”の用語、(および“含む”の任意の形態)、“有する”(および“有する”の任意の形態)、“含める”((および“含める”の任意の形態)、“含む”の用語、(および“含む”の任意の形態)は包括的であり、非限定的であり、追加の、列挙されていない要素または方法ステップを排除しない。
【0046】
この出願で使用される科学技術用語及び技術用語は、特に明記しない限り、当技術分野で一般に使用されている意味を有する。この出願に使用されるように、以下の語または句は特定された意味を有する。
【0047】
本明細書で使用される"対象"という用語は、任意の動物または生物であってもよい。動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウスやラットのようなげっ歯類、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウサギまたはその他の哺乳動物であってもよい。動物は、魚類、虫類、その他であってもよい。動物は、新生児、乳児、青年期、または成体動物であることができる。人間は、約1、2、5、10、20、30、40、50、60、65、70、75歳、または、約80歳を超えていてもよい。対象は、不妊症または特発性不妊症のような状態または疾患を有していてもよいし、有する疑いがあるものであってもよい。対象は患者であってもよく、不妊症患者のような、ある状態または疾患のために治療される患者であってもよい。対象は、不妊症のような状態または疾患を発症するリスクの可能性があるものであってもよい。対象は、不妊症患者のような状態または疾患からの寛解状態にあるものであってもよい。対象は、不妊症の問題がなく、健常または正常であってもよい。
【0048】
“感度”または“真の陽性率”の用語は、正確に状態を識別するための試験の能力に帰することができる。例えば、診断試験では、試験の感度は、それを陽性に試験する疾患または状態を有することが知られている患者の割合である。いくつかの場合において、これは、その状態を有する集団における個体の総数(すなわち、検査が陽性であり、疾患を有する患者、および、検査が陰性であり、疾患を有する患者の合計)に対するに真の陽性(すなわち、疾患を有する陽性の患者)の割合を、決定することによって計算される。
【0049】
不妊症は、一般に、性生活があり避妊していないカップルが少なくとも1年以内に妊娠を達成することができないことを意味する。本開示の方法は、雄の対象に起因する不妊症に関する。本明細書中で使用される不妊症は、いずれの期間においても生殖能力の問題がない正常な対象と比較して、低減した生殖能力に関連する低受胎を含んでいてもよい。雄の対象における不妊症または減少した生殖能力の原因は、例えば、異常な精子の産生または機能、精子の送達に伴う問題、殺虫剤、放射線、薬物、タバコ煙などの特定の環境因子への過剰露出、ならびに癌およびその治療に関連した損傷を含む。
【0050】
本明細書で使用される“エピ変異”“エピジェネティック修飾”は、一般に、DNA配列を改変することなく、遺伝子発現に影響を及ぼす細胞DNAの修飾を指す。エピジェネティック修飾は、有糸分裂的かつ減数分裂的に安定であり、すなわち、生物の細胞(または細胞群)中のDNAがエピジェネティックに修飾された後、修飾のパターンは、細胞の寿命を通じて持続し、有糸分裂と減数分裂の両方を介して子孫細胞に引き継がれる。従って、生物の生存期間中、DNA修飾のパターンおよびその結果は、最初に改変された親細胞に由来する全ての細胞において一貫して存続する。さらに、エピジェネティックに修飾された細胞が、配偶子(例えば、精子)を生成するために減数分裂を行うと、エピジェネティック修飾のパターンが配偶子に保持され、子孫に遺伝する。換言すれば、DNA塩基配列自体が改変または変異していないにもかかわらず、エピジェネティックDNA修飾のパターンは、複数世代間に伝達可能である、または、遺伝可能である。理論に拘束されることなく、メチルトランスフェラーゼとして知られる酵素は、有糸分裂または減数分裂の種々のステージにおいてDNAをせん断または誘導し、DNAが複製される時に新しいDNA鎖上にエピジェネティック修飾パターンを再現すると考えられる。例示的なエピジェネティック修飾には、DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン構造改変、および非コーディングRNA修飾などが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
さらに、本明細書で使用される"エピジェネティック修飾"という用語は、核酸塩基の任意の共有結合修飾であってもよい。一部の例として、共有結合修飾は、(i)メチル基、ヒドロキシメチル基、炭素原子、酸素原子、またはそれらの任意の組み合わせを、1つまたは複数の塩基に付加すること、(ii)酸素原子などの核酸配列に関連する分子の酸化状態を変化させること、または、(iii)それらの組み合わせを含む。共有結合修飾は、シトシン、チミン、ウラシル、アデニン、グアニン、またはそれらの任意の組み合わせのような任意の塩基で起こり得る。一部の例として、エピジェネティック修飾は、酸化または還元を含むことができる。核酸配列は、1つ以上のエピジェネティック修飾塩基を含むことができる。エピジェネティックに修飾された塩基は、シトシン、ウラシル、チミン、アデニン、またはグアニンのような任意の塩基を含むことができる。エピジェネティックに修飾された塩基は、メチル化塩基、ヒドロキシメチル化塩基、ホルミル化塩基、もしくは、カルボン酸含有塩基、または、それらの塩を含むことができる。エピジェネティックに修飾された塩基は、5-メチル化シトシン(5-mC)のような5-メチル化塩基を含んでいてもよい。エピジェネティックに修飾された塩基は、5-ヒドロキシメチル化シトシン(5-hmC)のような5-ヒドロキシメチル化塩基を含んでいてもよい。エピジェネティックに修飾された塩基は、5-ホルミル化シトシン(5-fC)のような5-ホルミル化塩基を含むことができる。エピジェネティックに修飾された塩基は、5-カルボキシル化シトシン(5-cadc)のような5-カルボキシル化塩基またはその塩を含んでいてもよい。一部の例において、エピジェネティックに修飾された塩基は、活性化基のメチルトランスフェラーゼ指向性転移(methyltransferase-directed transfer of activated group: mTAG)を含むことができる。
【0052】
エピジェネティック修飾は、種々の因子のいずれかに曝露することによって引き起こされ得るが、それらの例には、化学化合物、例えば、ビンクロリンなどの内分泌撹乱物質;例えば、ビスフェノールA(BPA)などのプラスチックの製造に使用される化学物質;ビス(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP);ジブチルフタレート(DBP);N,N-ジエチル-メタ-トルアミド(DEET)等の昆虫忌避剤;ペルメトリンなどのピレスロイド;例えば2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)として知られている種々のポリ塩素化ジベンゾダイオキシン類;異常栄養素状態、飢餓、例えば、イフォスファミドやシクロホスファミドなどのアルキル化剤、ダウノルビシンおよびドキソルビシンなどのアントラサイクリン類、パクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサン類、エポチロン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ゲフィチニブ等のキナーゼ阻害剤、シスプラチン、レチノイド、ビンカアルカロイド等の白金系薬剤等を含む化学療法剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
メチル化レベルは、一般に、メチル化されたヌクレオチド配列のヌクレオチドの割合を指す。DNAメチル化は、シトシンのC5位置にメチル基が付加された場合に発生するエピジェネティック機構であり、遺伝子機能を改変し、遺伝子発現に影響を与える。ほとんどのDNAメチル化は、CpGジヌクレオチドと呼ばれるグアニン残基に先行するシトシン残基で起こり、CpGアイランドとして知られるDNAドメインにクラスタ化する傾向がある。メチル化レベルは、任意のCpG含有領域に基づいてゲノム上で測定することができる。メチル化の変化は、一般に、メチル化されたヌクレオチド配列のヌクレオチドの割合の増加または減少を意味する。
【0054】
本明細書で使用される"核酸配列"という用語は、DNAまたはRNAを含む。一部の例において、核酸配列は、複数のヌクレオチドを含み得る。一部の例において、核酸配列は、人工核酸アナログを含むことができる。一部の例において、DNAを含む核酸配列は、無細胞DNA、cDNA、胎児DNA、または母性DNAを含むことができる。一部の例において、核酸配列は、miRNA、shRNA、またはsiRNAを含み得る。
【0055】
本明細書で使用される"断片"という用語は、全長配列よりも短くてもよい配列またはサブセットの一部分であってもよい。断片は、遺伝子の一部であってもよい。フラグメントは、ペプチドまたはタンパク質の一部であってもよい。断片は、アミノ酸配列の一部であってもよい。断片は、オリゴヌクレオチド配列の一部であってもよい。フラグメントは、約20、30、40、50アミノ酸長未満であってもよい。フラグメントは、長さが約20、30、40、50オリゴヌクレオチド未満であってもよい。
【0056】
"生物学的サンプル"という用語は、一般に、生きている生物から得られた任意の体液もしくは細胞サンプルまたはそれらの混合物を指す。生物学的サンプルは、卵子または精子のような生殖サンプルであってもよい。例示的な生物学的サンプルは、組織生検、血清、血漿、および口腔細胞を含むことができる。
【0057】
本明細書で使用される"シークエンシング"という用語は、重亜硫酸塩を含まないシークエンシング、重亜硫酸シークエンシング、TET-補助重亜硫酸塩(TAB) シークエンシング、ACE-シークエンシング、高スループットシークエンシング、Maxam-ギルバートシークエンシング、超並列署名シークエンシング、ポロニーシークエンシング、454パイロシークエンシング、サンガーシークエンシング、イルミナシークエンシング、SOLiDシークエンシング、イオントレント半導体シークエンシング、DNAナノボールシークエンシング、ヘリスコープ単一分子シークエンシング、単一分子リアルタイム(SMRT)シークエンシング、ナノポアDNAシークエンシング、ショットガンシークエンシング 、RNAシーケンシング、エニグマシーケンシング、を含むことができるナノポアDNA配列決定法、ショットガン配列決定法、RNA配列決定法、Enigma配列決定法、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0058】
本明細書で使用される“複数”は典型的に2以上のDMRを指し、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、および、最大までのすべての整数のDMR、ならびに、表2または表3に列挙された全てのDMRを指す。また“複数”は表2または表3に列挙された2以上のDMR、ならびに、表2または表3に列挙された最大までのすべての整数のDMRおよび表2または表3に列挙された全てのDMRおよびを指す。
【0059】
本明細書で使用される"応答者"という用語は、典型的に、治療/生物学的薬剤に対する予測された応答が陽性である、すなわち、精子数(精子濃度)、精子運動性、またはその両方が増加する患者に関する。精子数または精子濃度は、任意の適切な既知の方法によって測定することができる。さらに、精子の運動性は、任意の適切な既知の方法を測定することができる同様に、本明細書で使用される"非応答性"という用語は、一般に、治療/生物学的薬剤に対する予測された応答が陰性である患者に関する。
【0060】
本明細書で使用される用語"予測される応答"または類似の用語は、患者が所与の治療/生物学的薬剤に対して良好に又は不良に応答する可能性を決定することを意味する。特に、本明細書で使用される"予測"という用語は、患者の進化を決定する際に有用であり得る任意のパラメータの個々の評価に関する。当業者であれば理解されるように、生物学的薬剤による治療に対する臨床応答の予測は、診断または評価される対象の100%に対して正確である必要はない。しかし、この用語は、対象の統計的に有意な部分が、陽性応答を有する高い可能性を有するものとして同定され得ることを必要とする。対象が統計的に有意か否かは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントt-検定、マンホイットニー検定などの公知の統計評価ツールを用いて当業者は過度な試行錯誤を必要とすることなく決定することができる。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、0.2、0.1、または0.05であることが好ましい。
【0061】
完全なまたは部分的な応答を得る患者は応答者であると考えられ、他の全ての患者は非応答者であると考えられる。
【0062】
本明細書に提供するDNAメチル化可変領域(DMRs)は雄性対象の不妊症の同定に有用である(表2)。また、FSH療法に対する応答性である不妊雄性対象の同定に有用なDMRを提供する(表3)。表はDMR名(DMR name)、染色体位置(chromosome location)、開始および停止塩基対の位置(start and stp vase pair location)、塩基対の長さ(bp; length in vase pair)、有意ウインドウ(100bp)の数、p値(p-value)、CpG部位の数(number of CpG sites)、100bpあたりのCpG部位(CpG sites per 100bp)、およびDMR関連遺伝子シンボル(annotation)を提供する。各開始部位は、当該技術分野でよく知られているGRCH38参照ゲノム(December 2013に初めて公表されている)に対応する。続いて公表されたGRCH38ゲノムへの任意の修飾パッチは、参照ゲノムの染色体座標を変化させないことも、当該技術分野で知られている。本開示の文脈において、DMRが位置する特定の配列は、メチル化が下流の配列に影響を与えないので重要ではない。本明細書中で開示されるのは、不妊症またはFSH治療に対する応答性を示す、DNAメチル化可変領域(下流のゲノム配列に関係なく)を含むゲノム内の特定の位置である。従って、DMRは、表2または表3に列挙された配列のいずれかと約50%同一であり、例えば、少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。
【0063】
いくつかの実施形態では、DMRにおけるメチル化のレベルは、不妊症を伴わない正常な対象から収集された参照サンプルと比較して、少なくとも約10%増加または減少している。いくつかの実施形態では、メチル化レベルはシトシンにより決定される。いくつかの実施形態では、DMRは、個体における特定の遺伝子と関連している。いくつかの実施形態では、DMRは、特定のCpG座に関連付けられる。CpG座は、遺伝子のプロモーター領域、遺伝子のイントロンまたはエクソン中、または、患者のゲノムDNA中の遺伝子の近傍に位置することができる。別の実施形態では、CpGは、既知の遺伝子と関連していなくてもよく、または、染色体の遺伝子間領域に位置していてもよい。いくつかの実施形態では、CpG座は、1以上の遺伝子と関連していてもよい。
【0064】
いくつかの例では、本明細書に記載されるDMRは、ゲノムのCpG砂漠領域、例えば、約10%以下のCpG密度、または、100塩基対あたり平均約2つのCpGを有する領域に見出される。CpG砂漠におけるCpGクラスタの進化的保存に起因して、これらはエピジェネティックに制御される部位であると考えられる。ECRの特性に関するさらなるゲノム特徴は、本明細書に参考として援用される米国特許公開第2013/0226468号に記載されている。当業者は、対象の配列(例えば、CpG)についての“%”は分析された100塩基対あたりの指示された回数を意味し、例えば15%以下のCpGは、Gが連続するジヌクレオチド配列Cが分析したDNAセグメント内において100塩基対あたり最大で15回存在することを意味する。分析は、通常、染色体や染色体の一部など、対象の大きなDNA分子内の連続的に重複する配列の反復解析によって行われる。
【0065】
ここで提供されるDMRは、雄性対象が不妊症であるか否かを判定することを可能にするものであり、表2に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる当該核酸配列の一部のメチル化の変化を検出し、それによってエピジェネティックプロファイルを生成することと;当該記エピジェネティックプロファイルと、表2に列挙された当該DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して当該エピジェネティックプロファイルを分析し、当該DMRがDMRMT:1である場合に、第2のDMRを検出し、分析することを含む。例えば、表2由来のDMRが2000bpヌクレオチドを含む場合、いくつかの実施形態では、少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%の2000bpヌクレオチドを測定してメチル化レベルを決定することができる。表2に列挙したDMRMT:1と命名されたDMRは、表2に列挙したRNR1のような遺伝子と関連している。いくつかの実施形態では、第2のDMRは、表2から選択される。いくつかの実施形態では、第2のDMRは、表2から選択されない。
【0066】
いくつかの実施形態では、対象のエピジェネティックプロファイルに含まれる各DMRのメチル化レベルは、本明細書に開示される方法、例えばメチル化DNA免疫沈降(MeDIP)シークエンシングによって測定される。いくつかの実施形態では、健康かつ正常な対象からの参照エピジェネティックプロファイルに含まれる対応するDMRのメチル化レベルが、本明細書に開示される方法、または公開情報から得られる方法によって測定される。次に、適切なコンピュータプログラムを含む任意の適切な方法を用いて、対象のエピジェネティックプロファイルと参照エピジェネティックプロファイルとの間で、DMRのメチル化レベルを比較する。
【0067】
いくつかの実施形態では、エピジェネティックプロファイルは、表2に列挙されたグループから選択される複数のDMRを含む。他の実施形態では、エピジェネティック修飾は、表2に列挙された全てのDMRを含む。いくつかの実施形態では、エピジェネティックプロファイルは、表2に列挙された少なくとも2つのDMRを含む。いくつかの実施形態では、エピジェネティックプロファイルは、表2に列挙された、6以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上のDMRを含む。
【0068】
表2. 種々のゲノムの特徴を有する生殖能力有り対生殖能力無し(不妊症)に関するDMR
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
【表1E】
【表1F】
【表1G】
【表1H】
【表1I】
【表1J】
【0069】
いくつかの実施形態において、対象は不妊症である。いくつかの実施形態では、対象は、生殖能力に関する問題を有しない正常な対象と比較して、減少した生殖能力を有する。いくつかの実施形態では、本開示は、不妊症であるか又は不妊症である可能性がある対象に治療を施すことを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、正常な対象と比較して減少した生殖能力を有する可能性がある対象に治療を施すことを提供する。いくつかの実施形態では、治療は、精子数および運動性を増加させることができる任意のホルモン療法であり得る。ホルモン療法は、治療上有効な量の卵胞刺激ホルモン(FSH)またはその類似体を対象に投与することである。いくつかの実施形態では、ホルモン療法は、治療的に有効な量のヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)またはその類似体を対象に投与することである。いくつかの実施形態では、治療が体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)、または妊娠が成功し得る他の適切な処置を実施することを含む。
【0070】
また、本開示は、表3に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる当該核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出し、エピジェネティックプロファイルを生成すること;当該エピジェネティックプロファイルと、表3に列挙された当該DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用して当該エピジェネティックプロファイルを分析すること、を含む方法を提供する。例えば、表3に由来するDMRが1000bpヌクレオチドを含む場合、いくつかの実施形態では、少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%の1000bpヌクレオチドを測定してメチル化レベルを決定することができる。
【0071】
表3.種々のゲノムの特徴を有する応答者対非応答者に関するDMR
【表2A】
【表2B】
【0072】
いくつかの実施形態では、当該方法は対象が治療に応答するかどうかを決定することをさらに含む。これは、ある治療に応答する可能性のある対象を迅速に識別するために設定される臨床試験に使用され得る。いくつかの実施形態では、治療は、精子数および運動性を増加させるができる任意のホルモン療法であり得る。ホルモン療法は、治療上有効な量の卵胞刺激ホルモン(FSH)またはその類似体の対象への投与である。いくつかの実施形態では、ホルモン療法は、治療的に有効な量のヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)またはその類似体の対象への投与である。いくつかの実施形態では、治療は、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)、または妊娠に成功し得る任意の他の適切な方法の実施を含む。
【0073】
ゲノムDNA中のDMRのメチル化レベルを測定する方法は、当業者によく知られている。例えば、DMRメチル化プロファイルを解析するために、マイクロアレイをベースとしたメチロームプロファイリングおよびバイオインフォマティクスデータ解析を使用することができる。いくつかの実施形態では、マイクロアレイチップはタイル状のアレイチップである。いくつかの実施形態では、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)に続いて次世代シークエンシング(NGS)が使用される。いくつかの実施形態では、MeDIPチップが使用される。メチル化レベルを検出するためのさらなる方法は、亜硫酸水素塩によるDNAの処理の前後のゲノムシークエンシングを含むことができる。重亜硫酸ナトリウムをDNAに接触させると、非メチル化シトシンはウラシルに変換され、メチル化シトシンは修飾されない。また、重亜硫酸法は、パイロシークエンス法およびPCR法と併せて使用することもできる。これを実現するためのコンピュータ実行可能なアルゴリズムおよびソフトウェアプログラムもまた、本開示に包含される。このようなソフトウェアプログラムは、一般的に、本明細書に開示された方法の工程をコンピュータに実行させるための指示を含む。コンピュータプログラムは、ハードドライブ、DVD、CD、サムドライブなどの非一時的な媒体に埋め込まれる。
【0074】
分析対象の選択および同定は、任意の数の因子によって予測および/または影響を受ける。例えば、当該対象または対象群は、不妊症に関連する疾患もしくは状態に罹患していることが知られているか、または、疑われているものでもよく;あるいは、不妊症の原因であるか、もしくは、原因であると推測されている薬剤に暴露されていたか、または、暴露されていたと疑われていたものでもよく;あるいは、DNA配列の変異が確認されていない親から不可解に病気や病状を受け継いでいるもの、などであってもよい。DNAを解析する対象は、当該対象から対象DNA配列を含む細胞を得ることができる限りにおいて、いずれの年齢であってもよく、いずれの成長段階であってもよい。例えば、対象は成人、青年、実験動物等であってもよい。DNAが得られる細胞は、以下に限定されないが、配偶子、口腔スワブ(swab)のようなスワブ由来の細胞、羊水中に脱落した細胞などを含む任意の適当な細胞であればよい。
バイオマーカー
【0075】
本明細書に開示される異なるDMRは、生殖能力の評価における少なくとも2つの関連する用途のためのバイオマーカーとして使用され得る。本明細書に開示されるDMRのパネルは、対象が不妊症であるかを診断し、本明細書に開示されるいずれかの不妊治療またはホルモン治療に応答する対象をスクリーニングするための、高感度かつ非侵襲的な試験として用いることができる。いくつかの実施形態では、不妊症リスクを示すためのDMRのパネルは、表2に列挙された少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、または200DMRを含む。不妊症を有する対象の予測値は、表2に列挙されたより多くのDMRがパネルに含まれるにつれて増加し得る。対象における不妊症の可能性を示すための本明細書に記載の診断方法は、75%を超える、80%を超える、85%を超える、90%を超える、95%を超える、96%を超える、97%を超える、98%を超える、99%を超える、または約100%の感度を有する。いくつかの実施形態では、感度は、少なくとも約97%、98%、99%、または99.5%である。
【0076】
いくつかの実施形態では、不妊症リスクを示すためのDMRのパネルは、表3に列挙された少なくとも10、20、30、40、または50DMRを含む。ホルモン治療または不妊治療に応答する対象の予測値は、表3に列挙されたより多くのDMRがパネルに含まれるにつれて増加し得る。対象におけるホルモン治療または不妊治療に対する応答性を決定するための本明細書に記載の診断方法は、75%を超える、80%を超える、85%を超える、90%を超える、95%を超える、96%を超える、97%を超える、98%を超える、99%を超える、または約100%の感度を有する。いくつかの実施形態では、感度は、少なくとも約97%、98%、99%、または99.5%である。
【0077】
本明細書に記載されるゲノムの特徴は、様々な用途に使用することができる。例えば、本開示のDMRは、不妊症もしくは妊娠合併症を併発し得る状態、および/または、乳児への遺伝性変異の継代に関する有無の示唆、有無の可能性の示唆、または、それらの状態への進展の可能性の示唆となり得る。このように、本開示の方法は、例えば、精子のエピ変異や子孫へのエピジェネティックな情報の継代の可能性を調査するために行われる体外受精を行う診療所において利用することができる。
本開示の方法はまた、ドナーセンターにおける精子ドナー候補をスクリーニングするのにも有用である。さらなる適用方法として、健康保険適用のための応募者のスクリーニングを含む。
【0078】
本明細書に記載された領域におけるエピジェネティック修飾の検出(すなわち、陽性診断結果)は対象が不妊症であることを示唆または確認し、不妊症に適した治療を実施することができる。例えば、精子の外科的抽出またはFSH療法のような適切な不妊症治療を実施することができる。他の例では、雄の対象は、対象の不妊症に起因して精子ドナーの利用を決定してもよいし、または、妊娠合併症の可能性および/または雄の対象に起因する乳児への遺伝性変異の継代の可能性を防ぐことを決定してもよい。
【0079】
対象におけるエピジェネティック修飾の種類および程度に関する情報は、試験される対象によって行われる種々の意思決定プロセスにおいて使用され得る。例えば、同定されたエピジェネティック修飾によって引き起こされる症状の重症度に依存して、対象は、子孫への就職の伝達を防止するために、子供を有するか、または妊娠を終了するかを決定することができる。本開示に基づく診断試験は、出生前試験に含めることができる。
【0080】
本開示の一態様は、不妊症である雄性対象を治療する方法であって、当該雄性対象由来の生物学的サンプルから得られる少なくとも1つのゲノムDNA配列または部位に関する1つ以上の領域におけるエピジェネティック修飾の有無を検出する工程であって、当該エピジェネティック修飾が、表2に列挙される少なくとも1つのDNAメチル化可変領域(DMR)を含む工程と;当該エピジェネティック修飾が当該少なくとも1つのゲノムDNA配列または部位に存在すると同定された場合に、当該対象が不妊症であると判定する工程と;不妊症であると決定された当該対象に適切な治療プロトコルを実施する工程と、を含む方法を提供する。
【0081】
対照的に、陰性結果(特定部位での有意なメチル化レベルの変化なし)は、対象が不妊症ではなく、不妊症治療を必要としないことを示唆している。ある部位のエピジェネティック修飾およびメチル化レベルの進行中のモニタリングは、エピ変異によって引き起こされる状態、すなわち、患者の治療応答性を治療または予防することを意図した薬剤(ドラッグまたは他の治療)の投与結果に関する貴重な情報を提供することができる。当業者であれば、このような分析は、一般に、未知のまたは実験的な試料を用いて得られた結果と、適切なネガティブまたはポジティブコントロールを使用して得られた結果とを比較することによって、またはその両方を使用して行われることを理解するであろう。
【0082】
DNAが解析された対象は、以下に限定されないが、低精子生産、不妊症、性器官の異常、腎臓異常、前立腺疾患、免疫異常、行動的影響等の種々の既知の後期または成人発症状態を含む種々の障害(疾患、状態等)のいずれかを患っていてもよい。他の実施形態では、症状は発症してないが診断法を使用してスクリーニングすることは、将来の疾患の症状を引き起こす可能性、または子孫に遺伝し有害な影響を引き起こす可能性のある"サイレントな"エピジェネティック変異の存在を証明するために使用される。
【0083】
本明細書に記載されるDMRはまた、エピジェネティック変異の治療のための治療モダリティを同定するために使用され得る。このようなスクリーニング方法は、典型的には、例えば、血管内に固定化されたDNA配列、または細胞内に存在するDNA配列を使用して、インビトロで行われることを認識するであろう。しかし、このような試験は、モデル実験動物においても実施することができる。一実施形態では、領域を分析することにより、エピジェネティック修飾を反転させる薬剤についてスクリーニングする。別の実施形態では、領域を分析することにより、エピジェネティック修飾を防止する候補薬剤をスクリーニングする。このようにして、本明細書に記載されるエピジェネティックバイオマーカーは、例えば、ドラッグ開発および臨床試験患者の階層化(すなわち、薬物エピゲノミクス)を容易にするために使用され得る。
【0084】
第2に、本明細書に記載されるDMRはまた、FSH治療に対する応答者および非応答者を識別するために使用されてもよい。男性において、FSHは、精巣のセルトリ細胞に作用し、精子の産生(精子形成)を刺激する。
【0085】
本開示の一実施形態は、雄性対象がFSH治療に対する応答者であるか否かを判定する方法であって、前記雄性対象からの生物学的サンプルから得られる少なくとも1つのゲノムDNA配列の1つまたは複数の領域におけるエピジェネティック修飾の有無を検出する工程であって、前記エピジェネティック修飾は、表3に列挙された少なくとも1つのDNAメチル化可変領域(DMR)である工程と;前記エピジェネティック修飾が前記少なくとも1つのゲノムDNA配列または部位に存在すると同定された場合に、前記対象がFSH処置に対する応答者であると判定する工程;または、前記エピジェネティック修飾が前記少なくとも1つのゲノムDNA配列または部位に存在すると識別されない場合、前記対象が非応答性であると判定する工程と、を含む方法を提供する。
【0086】
いくつかの実施形態では、FSH治療は、FSH治療に対する応答者であると決定された対象に投与される。いくつかの実施形態では、FSH治療以外の不妊治療、例えば、精子の外科的抽出が、非応答性であると決定された対象に施される。
キット
【0087】
いくつかの実施形態では、キットが記載される。キットは、表2または表3で同定されたDMR座(または表2または表3で同定されたDMR座に対して少なくとも90%同一の核酸配列)の1つにハイブリダイズする、または、表2または表3で同定されたDMR座の1つに隣接するDNA領域にハイブリダイズする、少なくとも1つのポリヌクレオチドと、少なくとも1つの遺伝子のメチル化検出用試薬とを含む。メチル化を検出するための試薬としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム、その配列がメチル化されていない場合には、本開示のDMR座またはその近傍の配列にハイブリダイズするようにデザインされたポリヌクレオチド、および/または、メチル化感受性またはメチル化依存性制限酵素が挙げられる。キットは、重亜硫酸塩を含むことができる。キットは、アッセイにおいて使用するように適合されたアッセイ装置の形態における固体支持体を提供することができる。キットは、任意のDMRを配列決定するためのマイクロアレイチップまたはDNAシークエンシングキットを含むことができる。キットは、そのキット中に、例えばプローブのような、任意にポリヌクレオチドに連結されてもよい、検出可能な標識をさらに含むことができる。アッセイの性能に有用な試験管、移送ピペット等の他の物質もまたキットに含めることができる。キットはまた、本明細書に記載のアッセイのいずれかにおいて、これらの試薬の1つまたは複数を使用するための指示書を含むことができる。
コンピュータシステム
【0088】
本開示は、本開示の方法を実施するようにプログラムされたコンピュータシステムを提供する。
図5は、メチル化の変化を検出および測定し、対象におけるエピジェネティックプロファイルを分析するようにプログラムされ、または、構成されたコンピュータシステム(201)を示す。コンピュータシステム(201)は、例えば、サンプル中のDNAの抽出、検出、および/または配列決定など、本開示の方法の様々な態様を制御することができる。コンピュータシステム(201)は、ユーザの電子機器であってもよいし、電子機器に対して遠隔地に配置されたコンピュータシステムであってもよい。電子機器は、携帯型電子機器とすることができる。
【0089】
コンピュータシステム(201)は、単一のコアまたはマルチコアプロセッサ、または並列処理のための複数のプロセッサであってもよい、中央処理ユニット(CPU、または、本明細書中、“プロセッサ”、および、“コンピュータプロセッサ”ともいう)(205)を含む。コンピュータシステム(201)はまた、メモリまたは記憶部位(210)(例えば、ランダムアクセスメモリ、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリ)、電子記憶ユニット(215)(例えば、ハードディスク)、1つまたは複数の他のシステムと通信するための通信インターフェース(220)(例えば、ネットワークアダプタ)、および、キャッシュ、他のメモリ、データストレージ、および/または、電子ディスプレイアダプタなどの周辺装置(225)を含む。メモリ(210)、記憶ユニット(215)、インターフェース(220)、および、周辺装置(225)は、マザーボード等の通信バス(実線)を介してCPU(205)と通信する。記憶ユニット(215)は、データを記憶するデータストレージユニット(または、データリポジトリ)とすることができる。コンピュータシステム(201)は、通信インターフェース(220)を介してコンピュータネットワーク(ネットワーク)(230)に動作可能に結合することができる。ネットワーク(230)は、インターネット、インターネットまたはエクストラネット、またはインターネットと通信するイントラネットおよび/またはエクストラネットとすることができる。いくつかの例においてネットワーク(230)は、電気通信および/またはデータネットワークである。ネットワーク(230)は、1つまたは複数のコンピュータサーバを含むことができ、例えばクラウドコンピューティングのような分散コンピューティングを含むことができる。ネットワーク(230)は、いくつかの例において、コンピュータシステム(201)の助けを借りてピアツーピアネットワークを実装することができ、例えばコンピュータシステム(201)に結合されたデバイスがクライアントまたはサーバとして振る舞うことを可能にする。
【0090】
CPU205は、機械可読な命令のシーケンスを実行することができ、例えばプログラムまたはソフトウェアで実施可能である。命令は、メモリ(210)のようなメモリ部位に記憶されてもよい。命令は、CPU205に向けられてもよく、CPU205は本開示の方法を実行するために、続いてCPU205をプログラムするか、または設定することができる。CPU 205によって実行される動作の例は、フェッチ、デコード、実行、およびライトバックを含むことができる。
【0091】
CPU 205は、集積回路等の回路の一部とすることができる。システム(201)の1つ以上の他の構成要素を回路に含めることができる。いくつかの例において、この回路は、特定用途向け集積回路(ASIC)である。
【0092】
記憶ユニット(215)は、ドライバ、ライブラリ、セーブされたプログラム等のファイルを格納することができる。記憶ユニット(215)は、ユーザの嗜好やユーザプログラム等のユーザデータを記憶可能である。いくつかの例において、コンピュータシステム(201)は、例えば、イントラネットまたはインターネットを介してコンピュータシステム(201)と通信する遠隔サーバ上に配置される、コンピュータシステム(201)の外部にある1つまたは複数の追加データ記憶ユニットを含むことができる。
【0093】
コンピュータシステム(201)は、ネットワーク(230)を介して1つ以上の遠隔コンピュータシステムと通信することができる。例えば、コンピュータシステム(201)は、ユーザの遠隔コンピュータシステムと通信することができる。遠隔コンピュータシステムの例には、パーソナルコンピュータ(例えば、ポータブルPC)、スレートまたはタブレットPC(例えば、Apple (登録商標)iPad、Samsung (登録商標)Galaxy Tab)、電話、スマートフォン(例えば、Apple (登録商標)iPhone、Androidデバイス、ブラックベリー(登録商標))、またはパーソナルデジタルアシスタントが含まれる。ユーザは、ネットワーク(230)を介してコンピュータシステム(201)にアクセスすることができる。
【0094】
本明細書に記載される方法は、例えば、コンピュータシステム(201)の電子ストレージ部位に記憶された機械(例えば、コンピュータプロセッサ)実行可能コード、例えば、メモリ(210)または電子記憶ユニット(215)によって実施され得る。機械実行可能コードまたは機械可読コードは、ソフトウェアの形態で提供され得る。使用時には、プロセッサ(205)によってコードを実行することができる。いくつかの例において、コードは、記憶ユニット(215)から検索され、プロセッサ(205)による利用が可能なようにメモリ(210)に記憶することができる。ある状況においては、電子記憶ユニット(215)を排除することができ、機械実行可能命令がメモリ(210)に記憶される。
【0095】
コードは事前に蓄積され、コードを実行するように適合された処理装置を有する機械と共に使用するよう設定することがき、または、実行時に蓄積されてもよい。コードは、コードが予め蓄積された様式または蓄積時の様式で実行されることを可能にするように選択され得るプログラミング言語で供給されてもよい。
【0096】
コンピュータシステム(201)のような、本明細書に提供されるシステムおよび方法の態様は、プログラミングにおいて具体化することができる。本技術の様々な態様は、典型的には、機械可読媒体のある様式で実行または格納される機械(またはプロセッサ)実行可能コードおよび/または関連データの形で製造された製品または製造品と考えることができる。機械実行可能コードは、メモリ(例えば、読み出し専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリ)またはハードディスクのような電子記憶ユニットに記憶され得る。“記憶”タイプの媒体は、コンピュータ、プロセッサ等の有形メモリ、または、様々な半導体メモリ、テープドライブ、ディスクドライブなどの関連するモジュールのいずれかまたは全てを含むことができ、ソフトウェアプログラミングのための任意の時点で非一時的な記憶をすることができる。ソフトウェアの全部または一部は、インターネットまたは様々な他の電気通信ネットワークを介して通信することができる。このような通信は、例えば、1つのコンピュータまたはプロセッサから別の、例えば、管理サーバまたはホストコンピュータからアプリケーションサーバのコンピュータプラットフォームへ、ソフトウェアのロードを可能にし得る。このように、ソフトウェア要素を担う別のタイプの媒体は、ローカル装置間の物理的インターフェイスにわたって使用されるような、有線及び光地上回線網、様々なエアリンクを介して使用される光、電気、および電磁波を含む。有線または無線リンク、光リンク等のような任意のそのような波を運ぶ物理的要素は、ソフトウェアを担う媒体とみなすことができる。本明細書で使用されるように、非一時的な有形の記憶媒体に限定されない限り、コンピュータまたは機械可読媒体のような用語は、実行のためにプロセッサに命令を提供するのに関与する任意の媒体を意味する。
【0097】
したがって、コンピュータ実行可能コードのような機械可読媒体は、限定されるものではないが、有形の記憶媒体、搬送波媒体または物理的伝送媒体を含む多くの形態をとることができる。不揮発性記憶媒体には、例えば、図面に示すデータベース等を実現するために使用されるような、任意のコンピュータ内のいずれかの記憶装置のような光学的または磁気ディスクが含まれる。揮発性記憶媒体は、そのようなコンピュータプラットフォームの主メモリのような動的メモリを含む。有形の伝送媒体は、同軸ケーブル;銅ワイヤおよびファイバオプティクスを含み、コンピュータシステム内のバスを含むワイヤを含む。搬送波伝送媒体は、電気もしくは電磁信号、または音響、または無線周波数(RF)および赤外線(IR)データ通信の間に生成されるような光波の形態をとることができる。したがって、コンピュータ可読媒体の一般的な形態には、例えば:フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、他の任意の磁気媒体、CD-ROM、DVD、DVD-ROM、他の任意の光学媒体、パンチカード、穿孔テープ、RAM、ROM、PROM、EPROM、FLASH-EPROM、他のメモリチップまたはカートリッジ、キャリア波搬送データまたは命令、ケーブル、またはそのようなキャリア波を搬送するリンク、またはコンピュータが読み取ることのできるプログラミングコードおよび/またはデータからの任意の他の媒体を含む。コンピュータ可読媒体のこれらの形態の多くは、1つ以上の命令に関する1つ以上のシーケンスを実行のためのプロセッサに運ぶことに関与し得る。
【0098】
コンピュータシステム(201)は、例えば、生殖ホルモン(例えば、DHEA、DHEA-S、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、および/またはAMH)の測定を提供するためのユーザインターフェース(UI)(240)を含む電子ディスプレイ(235)を含むか、または、通信することができる。UIの例には、限定されることなく、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)およびウェブベースのユーザインターフェースが含まれる。
【0099】
本開示の方法およびシステムは、1つ以上のアルゴリズムによって実施することができる。アルゴリズムは、中央処理ユニット(205)による実行時にソフトウェアによって実施することができる。アルゴリズムは、例えば、生物学的サンプル中のDHEA、DHEA-S、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、および/またはAMHのレベルを決定することができる。
【0100】
コンピュータプロセッサは、対象からの精子サンプルの少なくとも一部から核酸配列の測定を指示するようにさらにプログラムされてもよい。コンピュータプロセッサは、さらに、表2に列挙されたDNAメチル化可変領域 (DMR)に含まれる前記核酸配列の一部のメチル化の変化を検出し、それによってエピジェネティックプロファイルを生成するようにプログラムされてもよい。コンピュータプロセッサは、前記エピジェネティックプロファイルと、表2に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用した前記エピジェネティックプロファイルの分析であって、前記DMRがDMRMT:1である場合に、表2に任意に列挙された第2のDMRに含まれる核酸配列の少なくとも一部の検出、分析を指示するようにプログラムされてもよい。
【0101】
コンピュータプロセッサは、通信媒体を介して結果を送信するようにさらにプログラムされてもよい。いくつかの実施形態では、結果は、エピジェネティックプロファイル、参照エピジェネティックプロファイル、またはその両方を含むことができる。いくつかの実施形態では、結果は、試験された対象が不妊症の問題を有するかどうか、対象が本明細書に開示された治療に応答するかどうか、またはその両方を有するかどうかの可能性を含むことができる。いくつかの実施形態では、結果は不妊症を治療するための提案を含むことができる。
【0102】
さらに、コンピュータプロセッサは、対象からの精子サンプルの少なくとも一部分からの核酸配列の測定を指示するようにさらにプログラムされてもよい。コンピュータプロセッサは、表3に列挙されたDNAメチル化可変領域(DMR)に含まれる前記核酸配列の少なくとも一部のメチル化の変化を検出することにより、エピジェネティックプロファイルの生成を指示するようにプログラムされてもよい。コンピュータプロセッサは、前記エピジェネティックプロファイルと、表3に列挙された前記DMRに含まれる対応する核酸配列の少なくとも一部のメチル化レベルに関する参照エピジェネティックプロファイルとを比較するためにコンピュータプロセッサを使用した前記エピジェネティックプロファイルの分析を指示するようにプログラムされてもよい。
【0103】
値の範囲が提供される場合には、その範囲の上限および下限の間に介在するそれぞれの値、文脈が明確に指示しない限り下限の単位の10分の1まで、および、その記載された範囲内の他の記載された値または介在する値は本開示に含まれることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、この範囲内の任意の具体的に除外された境界を条件として、独立して、より小さい範囲に含まれてもよく、また、本開示の範囲内にも包含される。記載された範囲が境界の1つまたは両方を含む場合には、これらの含まれる境界のいずれかまたは両方を除く範囲も開示に含まれる。
【0104】
また、特段の断りがない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される材料、成分、反応条件等の量を表す数字は、"約"という用語によって修正されるものとして理解されるべきである。従って、反することが示されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本明細書に提示される主題によって得られるべき所望の特性に依存して変化し得る近似である。少なくとも、特許請求の範囲に相当する均等論の適用を制限しようとするものではないが、各数値パラメータは、少なくとも報告された有意な桁数の観点から解釈されるべきであり、通常の四捨五入を適用することによって解釈されるべきである。ここで提示される主題の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは近似であるにもかかわらず、特定の実施例に記載された数値は可能な限り正確に報告してる。しかしながら、任意の数値は、本質的に、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差に起因するある種の誤差を本質的に含む。
実施例
【0105】
本実施例は、雄性不妊症のための分子バイオマーカーまたは診断方法を同定し、エピジェネティック解析が有用であるという概念を証明する。従来より、不妊症患者からの精子における変化されたメチル化を同定するために、ヒトゲノムの数%を構成するCpGアイランドおよびメチル化部位のマイクロアレイを用いたDNAメチル化のための分析が行われていた。本研究では、ヒトゲノムの95%を構成するゲノムワイド分析と高度な分子分析によりその観察対象を拡大している。
【0106】
本明細書に開示されるように、DNAメチル化のゲノムワイド分析は、雄性不妊症患者に存在するDMRについての男性不妊症の特徴を同定する。最小の重複を有する生殖能力ありと生殖能力なし(不妊症)の患者集団との間の効率的な分離をした。不妊症DMRの最初の確立には使用されていない、不妊症および生殖能力を有する患者のテストセットを用いた妥当性確認はまた、不妊症と生殖能力を有する患者とを効率的に分離する。DMRにおける不妊症の特徴は、バイオマーカー分子の効果を示す全ての不妊症患者の精子サンプルにおいて見出された。DNAメチル化の大部分は、DNAメチル化の増加(すなわち、高メチル化)に関与しており、これは、精子に関する早期の配偶子形成および/または精子形成段階の間における高メチル化が、雄性不妊症の分子的病因の一側面であり得る。雄性不妊症患者の臨床管理には、雄性不妊症診断の開発が有用である。過去50年以上のヒトの集団における雄性不妊症の増加により、IVF等を備える生殖補助医療クリニックにおけるそのような解析の需要が大きくなることが予想される。
【0107】
またエピジェネティックDNAメチル化バイオマーカーが、男性不妊症患者の間のFSH治療に対する薬学的応答者と非応答者とを同定することができることが観察により示されている。不妊症における応答者対非応答DMRの特徴は、2つの集団を効率的に区別し、不妊症診断とは対照的に、応答者DMRの特徴は、高メチル化(増加)および低メチル化(減少)の均等な分布を含む。不妊症DMRと応答者DMRとの間には重複が観察されず、エピジェネティックな変化について区別されるセットが示唆された。この応答者診断と組み合わせた現在のFSH治療用製剤は、不妊症のためのより効果的な患者管理を可能にする。
【0108】
最初の精子サンプルは、採用の際に採取し、治療の開始時に2回目を、3ヶ月の治療後に3回目のサンプルを採取した。21人の患者は、生殖能力を有するコントロールグループに9人の患者が含まれ、不妊症治療グループには12人が含まれていた。両グループの精液サンプルとホルモンパラメータとの差(平均±SD)を表1に示す。生殖能力を有するコントロール群由来のベースライン変数からの結果と不妊症との対応する結果から、生殖能力を有する群と不妊症群との間の精子数(すなわち、濃度)に統計的に有意差があることが示され、後者は最低値(95%Cl-83、2.87)、p<0.001を有していた。不妊症患者サンプルはまた、精子運動性の低いパーセンテージ、95%Cl[-2.62、1.58]およびp<(0.001)を示した。コントロール群(生殖能力あり)は、不妊症グループよりも低いFSHレベル、95%Cl[0.20、0.95]、p=0.005を示した。統計的に有意ではないが、基礎エストラジオールレベルが不妊症の対象群よりも高く、95%Cl[-0.03、0.89]、P=0.06であった。FSH治療(週3回の150IU用量のFSH治療)3ヶ月後の不妊症グループの結果については、統計的に有意ではないが、治療後のFSHレベルの増加が認められた。推定信頼区間の95%差は過小評価されるべきではなく、95%Cl[-0.02、0.73]である。治療前後で解析された他の変数のグループ平均±SDについて統計的に有意差はなかった。妊娠率に関しては、3つの妊娠(3/10、30%)があった。ICSI処置の後に2つあり、1つは自然妊娠であり、7つは非妊娠性(7/10、70%)であった。2人の患者については凍結したサンプルを用いたICSI処置を保留している。
【0109】
表1.ホルモン、精液および精子のパラメータ。年齢(年)、精液量(mL)、精子濃度(million/mL)、運動性(%)、不運動性(%)、FSH(IU/mL)、LH (IU/mL)、エストラジオール(pg/mL)、及びテストステロン(ng/mL)の平均±SD値
【0110】
表1. ベースラインおよび3ヶ月後の平均ホルモンおよび精液パラメータ
【表3】
【0111】
ベースラインおよび3ヶ月後における生殖能力を有するコントロールグループおよび不妊症治療グループは、個々の患者情報を示すn値とともに提示し、FSH治療に対する不妊症患者の応答性または非応答性を識別するために使用した。
図1D、1E、1Fには、3ヶ月治療後の精子数(精液濃度)および/または運動性の2~3倍の増加を示す不妊症患者が示されており、応答者として指定された。採用時に採取した最初の精子サンプルおよびFSH治療の開始時に採取した第2のサンプルからいくらかの変化が生じたが、治療後の最終値は、一般に、応答者の患者のすべてのパラメータにおいてより高い値が示され、その結果を
図1A-1Fに示す。
図1C、1D、1Eに示すFSH治療に応答した患者は、エピジェネティック解析により、
図1A、1B、1Cに示される非応答性患者と比較した。
【0112】
個々の患者サンプルについて、採用時に採取した初期精子サンプル、FSH治療処理の開始時に採取したサンプル、3ヶ月後のサンプルをエピジェネティック解析用に調製した。次いでDNAを精子から抽出し、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)分析のために断片化して、DNAメチル化可変領域 (DMR)を同定した。MeDIPは、高密度領域かつCpGアイランドに関する5%未満のゲノムと比較して、低密度CpG領域を含む95%のゲノムを調査するゲノムワイドな分析手法である。次に、材料および方法セクションに記載されているように、次世代DNAシークエンシングおよび生体情報分析のために、MeDIP DNAを調製する。
図2Aに示すように、生殖能力を有する者と不妊症患者の精子から誘導された配列との比較により不妊症評価のためのDMRを同定した。217 DMRがp<le-05のp値であり、これらのほとんどが1つの1000bpウインドウ内にあり、複数の1000bpウインドウが含まれることはほとんどなかった。多くの異なるp値におけるDMRが示されたが、p<le
-05が後続のデータ分析に使用され、これらのDMRのリストが種々のゲノムの特徴とともに提示される(表2)。このように、雄性不妊症DMRの特徴は、生殖能力を有する者と不妊症患者の精子DNAとを比較した際に同定された。
【0113】
全ての不妊症患者は、分析のために別の精子サンプルを採取した後、かつ、3ヶ月のFSH治療処置期間の前に精子採取を行った。
図2Bは、FSH治療に応答した不妊症患者からの精子と、応答患者に関連するDMRを同定した非応答者の患者由来の精子の比較を示す。様々なp値DMRデータが示され、p<le
-05の56 DMRが後続のデータ分析のために選択された。全ての56 DMRは、統計的に有意な(p<le
-05;FDR-調整 p<0.1)単一の1000bpウインドウを有していた。応答者DMRおよびゲノムの特徴のリストを表3に示す。応答者DMRと不妊症DMRとの重複分析は、
図2Cに示すようにp<le
-05にて重複を示さなかった。応答者DMRに対するp<0.001を用いた重複分析は、不妊DMRと重複を示さず、別個のエピジェネティックバイオマーカーを示唆した。DMRの約50%は、ある遺伝子の10kb内に関連する遺伝子を有する。これらのDMR関連遺伝子の遺伝子カテゴリーを
図2Dに要約する。驚くべきことに、転写、シグナル伝達、代謝、輸送および細胞骨格の主要なカテゴリーは、不妊症DMRと応答者DMRとの間で共通である。そのため、不妊症患者の応答者と非応答者との精子を比較し、FSH治療応答者エピジェネティックバイオマーカー(すなわち、DMR特性)が同定された。
【0114】
不妊症DMRおよびFSH治療応答者DMRのゲノム特徴を調査した。ヒトゲノム内のDMRの染色体位置を
図3Aおよび3Bに提示する。矢印は個々のDMRを示し、ボックスはDMRのクラスタを表す。不妊症DMRは、全ての染色体およびミトコンドリアDNA上に存在する。治療応答性DMRもまた、ほとんどの染色体上にある。
図3C及び3Dに見られるように、DNAメチル化が起こるCpG密度は、不妊症および治療応答DMRに対して主に1-4CpGで、一般に100bpに対して10CpG未満である。
図3Eおよび
図3Fに示すように、DMRの大きさは、不妊症DMRについては主に1-4kbであり、治療応答DMRについては1-2kbであった。さらなるゲノム特徴は、不妊症DMRの約90%およいび応答者DMRの50%はDNAメチル化が増加しており、残りはDNAメチル化の減少を有する。従って、不妊症におけるDMRの大部分はDMRメチル化の増加を含み、一方、応答者DMRにおいて半分のみがメチル化の増加を含む。
【0115】
各比較のためのDMRの統計的有意性および関連性を調査した。生殖能力なし(不妊症)対生殖能力有りのDMR主要構成の主成分分析(PCA)を
図4Aに示す。生殖能力有りのDMRと不妊症DMRの一般的なクラスタ化が存在しており、クラスタ外の各グループからのDMRは1つだけであった。従って、PCA分析におけるDMRの良好な分離が、生殖能力なし対生殖能力有りのグループに観察された。
図4Aに示すように、様々な理由によりセレクションがうまくいかず、DMR識別のための不妊症DMR分析には使用されない、収集されたサンプルを検証セットとした。しかし、収集された精子サンプルは、生殖能力有りおよび生殖能力なし(不妊症)のパラメータの決定に用いた。これらのセレクションが上手くいかなかったサンプルを、検証テストセットのサンプルとして使用し、MeDIP-SEQの方法にて分析した。これらを別々のPCA分析に含めた。
図4Bに示すように、不妊症テストサンプルは、不妊症グループへクラスタ化され、生殖能力を有するテストサンプルのほとんどが生殖能力有りのグループへクラスタ化された。生殖能力有りのテストサンプルの2つが不妊症グループにクラスタリングされた。この検証セットを用いたPCA分析では、緑色DMR生殖能力有りテストセット(破線の左のドット)は主に生殖能力を有する患者と関連し、一方全ての青色DMR不妊症テストセットサンプル(矢印で識別される破線の右のドット)は、不妊症グループに関連した。このテストセットは、本研究で同定された不妊症DMRの特徴を検証するのに役立つ。FSH治療応答性DMRについて同様のPCA分析を行った。非応答性DMRのクラスタリングが観察され、
図4Cに示すように、全てが応答性クラスタとは区別された。応答性DMR特性についての検証テストセットは存在しなかった。最終的な並び替え解析を、生殖能力有り対生殖能力なし(不妊症)データについて行い、DMRがバックグラウンド変動によるものではなく、ランダムに生成されたことを実証した。並べ替え解析は、
図4Dに示すように、比較から生成された不妊症DMRの数が、解析内のランダムサブセットから生成されたDMRよりも有意に大きいことを示す。右への垂直線は、比較のランダムサブセット由来の低い数に対する比較のDMRを示す。
【0116】
ディスカッション
【0117】
本研究は、分子バイオマーカーまたは雄性不妊症の診断を同定し、エピジェネティック解析が有用であることを示すように設計された。以前に、研究者は、不妊症患者からの精子における変化したメチル化を同定するために、ヒトゲノムの数パーセントを構成するCpGアイランドおよびメチル化部位のマイクロアレイを使用して、DNAメチル化のための分析を活用した。本研究では、ヒトゲノムの95%を構成するゲノムワイドな分析と高度な分子解析を用いて観察を拡大させた。
【0118】
本研究からの観察は、DNAメチル化のゲノムワイド分析が、雄性不妊症患者に存在するDMRの雄性不妊症の特徴を同定することを示す。最小限の重複を有するように生殖能力有りと生殖能力なし(不妊症)との患者集団間の効率的な分離をした。不妊症DMRの当初の同定に使用されていないテストセットであって、生殖能力がない(不妊症)患者と生殖能力を有する患者のテストセットを用いた検証は、不妊症患者および生殖能力を有する患者とを区別して効率的に分離した。DMRの不妊症の特徴は全ての不妊症患者の精子サンプルにおいて見出され、これは分子バイオマーカーの性能を示す。DNAメチル化の増加(すなわち高メチル化)に関与するDNAメチル化の変化の大部分は、精子の早期配偶子形成および/または精子形成段階における雄性不妊症の分子的病因の一側面であり得る。
【0119】
観察はまた、エピジェネティックDNAメチル化バイオマーカーを使用して、雄性不妊症患者におけるFSH治療に対する薬学的応答者対非応答者を同定することができることを示している。同定された不妊症応答者対非応答DMAの特徴は、2つの集団を効率的に区別し、不妊症診断とは対照的に、応答者DMRの特徴は、高メチル化(増加)および低メチル化(減少)の均等な分布を含んでいた。不妊症DMRと応答者DMRとの間には重複が観察されず、異なるセットのエピジェネティック変化が示唆された。
【0120】
結論として、本研究は、診断に使用するための雄性不妊症エピジェネティックDMR特性と、この患者集団内のFSH治療応答診断とを同定した。このような技術の進歩は、雄性不妊症患者の診断および管理、ならびに一般的な治療オプションおよび治療開発を改善することが予想される。
【0121】
材料および方法
【0122】
臨床用試料の採取および分析
【0123】
一つのセンター(ラフェ工科大学病院における泌尿器科)、有望かつ開放的な臨床研究所。IRB承認コードプロトコル2015-002521-19。我々は、2つのグループ(生殖能力なし(不妊症(vs生殖能力有り)を含んでいた。不妊症の男性(性的活動の1年後に妊婦できないカップル)は23-45歳の白人であり、2~4日の禁欲後かつテスト中の7日間の分離期間に得られた少なくとも2つの精子の記録(spermiograms)では、100~1000万個の全精子濃度(mL単位の容量×100万個/mLの濃度)(精子欠乏症)を含んでいた。ホルモンプロフィールは、FSH 2-12IU/mL、総テストステロン>300ng/mlおよび生物学的活性テストステロン(性ホルモン結合グロブリンまたはSHBGアルブミンにより算出)>145ng/dlの試験対象基準を使用した。生殖能力を有するグループは精管切除術を受けておらず、かつ、2~4日の禁欲後かつテスト中の7日間の分離期間に得られた少なくとも2つの精子の記録(spermiograms)において世界保健機関(WHO)ガイドライン第5版に記載されたパラメータに基づいて、精子濃度および中央値以上の運動性を有し、直近5年に子供を有していた白人を含む。ホルモンプロファイルは、エストラジオール<50pg/mL、FSH<4.5 IU/L、総テストステロン>300ng/dL、および、生物学的活性テストステロン>145ng/dlの試験対象基準を使用した。
【0124】
適格性基準を評価するための初期精液分析および基礎ホルモンの決定を行った。精子サンプルを処理し、その後のエピジェネティック解析のために保存した。不妊症グループは、150 IUの尿性または組換えFSHを週当たり3回、12週間受け、生殖能力を有するコントロール群は当該治療を受けなかった。治療の3ヶ月後、精液分析およびホルモンプロフィールを両群で再試験した。不妊症の治療を伴う3ヶ月の精子サンプルとコントロール群の3ヶ月後の精子サンプルを処理して、エピジェネティックテストのために保存した。
【0125】
DNA調製
【0126】
凍結したヒト精子サンプルを-20℃で保存し、分析のために解凍した。精子からのゲノムDNAを以下のように調製した:最低100μlの精子懸濁液を使用し、次いで820μlのDNA抽出緩衝液(50mM Tris pH 8、10mM EDTA pH 8、0.5%SDS)および80μlの0.1mジチオスレートール(DTT)を添加し、サンプルを65℃で15分間インキュベートした。80μlのプロテイナーゼK (20mg/ml)を添加し、サンプルを55℃のローテーター上で少なくとも2時間インキュベートした。インキュベーション後、300μlのタンパク質沈殿溶液(Promega、A795A、Madison、WI)を添加し、試料を混合し、氷上で15分間インキュベートし、次いで4℃、13,000rpmで30分間遠心分離した。上清を新鮮なチューブに移し、同量の100%イソプロパノール及び2μlのグリコブルーで-20℃で一晩沈殿させた。次いで、サンプルを遠心分離し、ペレットを75%エタノールで洗浄した後、空気乾燥し、100μlの水に再懸濁した。ナノドロップ(Thermo Fisher、Waltham、MA)を用いてDNA濃度を測定した。凍結-解凍は、精子採取内の任意の不純な体細胞を破壊する。
【0127】
メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)
【0128】
ゲノムDNAを用いたメチル化DNA免疫沈降(MeDIP)を以下のようにして行った:個々の精子DNAサンプルを、1mM Tris-EDTA (TE、10mM Tris、1mM EDTA)で130μlに希釈し、300bp設定を用いてCOVARIS (登録商標)M220超音波処理機で超音波処理した。フラグメントサイズを2%E-ゲルアガロースゲル上で確認した。超音波処理したDNAをチューブから1.7mlのマイクロフュージチューブに移し、体積を測定した。次いで、超音波処理したDNAをTE緩衝液(l0mM Tris HCl、pH 7.5;ImM EDTA)で希釈し400μlとし、次いで、95℃で10分間熱変性させた後、直ちに氷上で10分間冷却した。次いで、5X IP緩衝液100μlおよび抗体(モノクローナルマウス抗5-メチルシチジン;Diagenode #C05200006)5mgを変性した超音波処理DNAに添加した。DNA-抗体混合物を4℃のローテーター上で一晩インキュベートした。次の日の磁気ビーズ(DYABEADS(登録商標)M-280ヒツジ抗マウスIgG;11201D)を次のように予備洗浄した:ビーズをバイアルに再懸濁した後、適切な容量(サンプル当たり50μl)をマイクロフュージチューブに移した。同じ容量の洗浄緩衝液(0.1%BSAおよび2mM EDTAを含む少なくとも1mL 1XPBS)を添加し、ビーズサンプルを再懸濁した。次いで、チューブを磁気ラックに1-2分間入れ、上清を廃棄した。磁気ラックからチューブを取り外し、ビーズを1回洗浄した。洗浄したビーズを、ビーズの初期容量と同じ容量のlxIP緩衝液(50mMリン酸ナトリウムpH 7.0、700mM NaCl、0.25%TritonX-100)に再懸濁した。一晩インキュベートしてから500μlのDNA-抗体混合物にビーズ50μ1を添加し、4℃のローテーター上で2時間インキュベートした。その後、ビーズ-抗体-DNA複合体をインキュベートした後、1X IX緩衝液で以下のように3回洗浄した:チューブを磁気ラックに1-2分間入れ、上清を廃棄した後、lxIP緩衝液で3回洗浄した。次いで、洗浄したビーズ-DNA溶液を3.5μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)含有250μlの消化緩衝液に再懸濁した。次いで、サンプルを55℃のローテーター上で2-3時間インキュベートし、次いで250μlの緩衝フェノール-クロロホルム-イソアミルアルコール溶液をサンプルに添加し、チューブを30秒間ボルテックスし、次いで室温14,000rpmで5分間遠心分離した。水性の上清を除去し、新鮮なマイクロフュージチューブに移した。上清に2μlのグリコブルー(20mg/ml)、20μlの5M NaCl、および、500μlエタノールを添加し、良く混合し、1時間から一晩-20℃沈殿させた。沈殿物を4℃で14,000rpmで20分間遠心分離し、上清を除去した。その際ペレットを乱すことはなかった。このペレットを-20℃のフリーザー中で500mlの低温70%エタノールで15分間洗浄し、その後4℃、14,000rpm、5分間、再度遠心分離し、上清を廃棄した。チューブを簡単に回転させて残留エタノールをチューブの底部に集め、可能な限り多くの液体をゲル装填チップで除去した。ペレットを室温で乾燥した後(約5分間)、20ml 水またはTEに再懸濁した。DNA濃度は、ssDNAキット(Molecular Probes Q10212)を用いたQUBIT (登録商標)蛍光光度計(Life Technologies)で測定した。
【0129】
MeDIP-seq解析
【0130】
MeDIP DNAサンプルを用い、二本鎖DNAを生成するためにILLUMINA(登録商標) (San Diego、CA)用NEB NEXT (登録商標)ULTRAATM RNAライブラリPrep Kitの製造業者プロトコルのステップ1.4で開始して、次世代シークエンシング(NGS)のためのライブラリを作製した。この工程の後、製造業者のプロトコルに従った。各サンプルは、別々のインデックスプライマーを用いた。NGSは、約50bpの読み取りサイズおよびサンプルごとに約20-25百万の読み取りを有する、PE50アプリケーションを有するILUMINA HISEQ (登録商標)2500ハイスループットシークエンシングシステムを使用して、ワシントン州立大学スポーケンゲノミクスコアで実施し、9~10のサンプルライブラリーをそれぞれ1レーンで実行した。
【0131】
バイオインフォマティクスおよび統計
【0132】
FastQCプログラムによって生成した要約を用いて基本的な読み取り品質を検証した。読み取りをフィルタリングおよびトリミングして、trimmomaticを使用して低品質の塩基対を除去した。上昇した読み取り深さを有するサンプルをランダムにサブサンプリングして、すべてのサンプルにわたってより一貫した読み取り深度を得た。各サンプルについての読み取りは、デフォルトパラメータオプションにてBowtie 2を使用してGRCh38ヒトゲノムにマッピングした。マッピングした読み取りファイルは、次に、SAMtoolを使用して、ソートされたBAMファイルに変換した。DMRを同定するために、参照ゲノムを1000bpウインドウに分けた。MEDIPS Rパッケージを用いて、コントロールと治療サンプル群との間の差分読み取り深度を計算した。edgeR p値を用いて、各ゲノムウィンドウについて2つのグループ間の相対的な差を決定した。10-5より小さいedgeR p値を有するウインドウは、DMRと考えられた。DMRの境界は、DMRの1000bp内に0.1未満のedgeR p値を有するゲノムウィンドウが存在しないところまで拡張された。次いで、参照ゲノムに基づいて、CpG密度および他の情報をDMRについて計算した。biomaRt Rパッケージ 31を用いてDMRをアノテーションし、Ensemblデータベースにアクセスした。次に、DMRと重複する遺伝子をKEGG経路探索に入力して、関連する経路を識別した。次いで、DMR関連遺伝子を、DAVIDデータベースおよび内部キュレートデータベースに組み込まれたPantherデータベースより提供される情報を用いて、機能グループに分類した。本研究で得られた全てのMeIP-SeqゲノムデータはNCBI公開GEOデータベースに寄託されている。
【0133】
比較毎に同定されたDMRの数の有意性を判定するための並べ替え解析を行った。この分析のために、2つの治療グループからのサンプルは、ランダムに割り当てられたグループメンバーシップであった。各治療グループのサンプル数を一定に保持した。各分析の20個のランダム置換を行って、予想されるDMR数の帰無分布を得た。
【0134】
統計解析
【0135】
両グループ(コントロール及び治療グループ)の臨床パラメータを特徴付けるために、標準偏差(SD)と中央値(第1、第3の四分位数)とを用いて数値記述解析を行った。次に、治療グループとコントロールグループとのベースライン差を比較し、収集された全ての変数について、治療後のグループにおける治療前後間のFSHの影響を比較した。このため、本発明者らは、患者毎にいくつかの尺度(精液量および精子濃度)を有した場合には混合線形回帰モデルを使用し、運動性の場合にはその百分率の文字を与えてβロジスティック回帰モデルを行った。混合モデルは、患者毎にいくつかの治療があるとするデータの非依存性を検査する。
【0136】
生殖能力を有するグループでは、差が予想されなかったため、ベースラインと3ヶ月の両方の測定値を考慮した。一方、不妊症治療グループでは、これら3つの変数(容量、濃度、運動性)から2つのサンプルを抽出した。このように変数が増せば、差を検出する可能性がより高くなる。他の全ての場合には、線形回帰モデルを用いて変数間の関連性が研究されている。統計的解析は、統計的ソフトウェアR (バージョン(3.4.1)およびパッケージnlme (バージョン(3.1-131)、lme 4((1.1-13)、glmmADMB ((0.8.3.3)、および、betareg (バージョン(3.1-0)を用いて行った。0.05未満のp値は統計的に有意であるとした。
【0137】
本開示の好ましい実施形態が図示され説明されたが、このような実施形態は、例としてのみ提供されることが当業者には明らかであろう。本開示は、本明細書中に提供される特定の実施例によって制限されることを意図するものではない。上述した明細書を参照して本開示を説明したが、本明細書の実施形態の説明及び説明は、限定的な意味で解釈されることを意味するものではない。当業者には、本開示から逸脱することなく、多くの変形、変更、および置換が行われる。さらに、本開示の全ての態様は、種々の条件および変数に依存する、本明細書に記載される特定の描写、構成または相対的な割合に限定されないことを理解されたい。本明細書に記載された開示の実施形態の様々な代替物が、本開示を実施する際に使用され得ることが理解されるべきである。従って、本開示は、そのような代替、修正、変形、または同等物をも包含することが意図される。特許請求の範囲は、本開示の範囲を規定するものであり、これらの特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内の方法および構成は、それによってカバーされることを意図している。
【国際調査報告】