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特表2022-547231眼疾患の予防および処置のための方法およびPnPP-19の使用
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  • 特表-眼疾患の予防および処置のための方法およびPnPP-19の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】眼疾患の予防および処置のための方法およびPnPP-19の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20221102BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 9/08 20060101ALI20221102BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20221102BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P27/06
A61P9/08
C07K14/435
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539453
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 BR2020050349
(87)【国際公開番号】W WO2021042193
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】62/895,252
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/008,794
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521001478
【氏名又は名称】ビオゼウス・デゼンヴォルヴィメント・ジ・プロドゥトス・ビオファルマセウティコス
【氏名又は名称原語表記】BIOZEUS DESENVOLVIMENTO DE PRODUTOS BIOFARMACEUTICOS
(71)【出願人】
【識別番号】522082311
【氏名又は名称】ウニヴェルシダージ・フェデラル・ジ・ミナス・ジェライス
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE FEDERAL DE MINAS GERAIS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】ダ シウヴァ クーニャ ジュニオール,アルマンド
(72)【発明者】
【氏名】ジ リマ ペレス ガルシア,マリア エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ヌネス ダ シウヴァ,カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンダ ヌネス ドウラド,ライス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラニ ボルジェス ダ シウヴァ,ペルラ
(72)【発明者】
【氏名】グスタヴォ サンパイオ ラカチヴァ,パウロ
(72)【発明者】
【氏名】マックス グロス,ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ ジ パウラ ジュニオール,アイロン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084DA35
4C084MA17
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA392
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA17
4H045CA50
4H045DA83
4H045EA20
4H045FA33
(57)【要約】
本開示は、一酸化窒素合成酵素誘導ペプチドのPnPP-19を含む、処置方法および医薬組成物に関する。他の目的にも使用可能であるが、PnPP-19を含む組成物は、緑内障などの高眼圧症および/または視神経変性に関連する眼疾患の処置および/または予防に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の配列番号1で示すPnPP-19を眼に局所投与することを含む、眼圧を低下させる方法。
【請求項2】
有効量のPnPP-19を眼に局所投与することを含む、虚血性眼神経障害を処置または予防する方法。
【請求項3】
投与が、医薬的に許容される液体媒体中に、PnPP-19を、有効量で、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドで含む組成物の、1日当たり1または2滴である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
虚血性眼神経障害が、緑内障である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
緑内障が、正常眼圧緑内障である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
虚血性眼神経障害が、加齢黄斑変性症、糖尿病性神経障害または非動脈炎症性虚血性眼神経障害(NAION)である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
PnPP-19の投与が、眼の視力喪失の前に開始される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
PnPP-19の投与が、眼圧または虚血性眼神経障害による眼の部分的視力喪失の前に開始される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
PnPP-19の投与が、眼圧または虚血性眼神経障害による眼の部分的視力喪失の後も継続される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
PnPP-19の投与が、眼の虚血性眼神経障害による部分的視力喪失の後に開始される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
医薬的に有効な媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチド、および1つ以上の医薬的に許容される添加剤を含む、眼投与のための医薬組成物。
【請求項12】
医薬的に許容される媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドを含む、眼投与のために製剤化された組成物を、処置を必要とする患者の眼に局所投与することを含む、患者において緑内障を処置する方法。
【請求項13】
患者が、正常眼圧を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
医薬的に許容される媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドを含む、眼投与のために製剤化された組成物を、処置を必要とする患者の眼に局所投与することを含む、高眼圧の患者を処置する方法。
【請求項15】
医薬的に許容される媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドを含む、眼投与のために製剤化された組成物を、処置を必要とする患者の眼に局所投与することを含む、患者において眼圧を低下させるための方法。
【請求項16】
患者が、高眼圧を有する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
患者が、緑内障を有する、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
緑内障は、慢性進行性眼神経障害の異種群である。緑内障は、世界中で不可逆的な失明の主な原因であり、世界で約6400万人が罹患している。この数字は、2020年には8,000万人、2040年には1億1,200万人に増加すると予測されている(THAM, Y.C., LI, X., WONG, T.Y., QUIGLEY, H.A., AUNG, T., CHENG, C.Y. Global prevalence of glaucoma and projections of glaucoma burden through 2040: a systematic review and meta-analysis. Ophthalmology, 121(11): 2081-2090, 2014; ALIANCY, J., STAMER, W.D., WIROSTKO, B. A Review of Nitric Oxide for the Treatment of Glaucomatous Disease. Ophthalmol Ther, 6(2): 221-232, 2017)。
【0002】
緑内障は、一般的に、網膜神経節細胞(RGC)のゆっくりとした変性と、それに続く軸索喪失として説明される。機能的に視野喪失の特徴的なパターンをもたらす事象である、網膜神経線維層の進行性の薄化、および視神経乳頭のカッピングとして現れる。視神経乳頭のカッピングは、視神経乳頭の中央部分の拡大であり、それは「カップ」と呼ばれ、視神経乳頭全体と比較して通常は極めて小さい、神経線維のない白っぽい部分である。視神経乳頭の全体直径に対するカップの直径は、緑内障の進行を評価するために用いられる測定値である陥凹乳頭径比(cup-to-disc ratio)と呼ばれる。正常な陥凹乳頭径比は0.3であり、値が高いほど病的状態を示す。しかしながら、病的状態を示すのは、緑内障がない場合でも遺伝的要因が原因で発生し得る高いが安定した陥凹乳頭径比ではなく、患者の加齢に伴うカッピングの増加である(WEINREB, R.N., AUNG, T., MEDEIROS, F.A. The pathophysiology and treatment of glaucoma: a review. JAMA, (18):1901-11, 2014)。
【0003】
緑内障患者では、眼圧の上昇および/または視神経への血流の喪失により、神経線維が死に始める。RGC死の割合は、眼圧(IOP)のレベルと相関関係があり、これは、前眼部の房水(AH)の生成と排出の微妙なバランスから生じる。AHは、後眼房の毛様体上皮によって生成および分泌される。生理学的条件下で、AHは瞳孔を通って後房から前房へと通過し、主(または線維柱帯)流出(conventional outflow)路、または副(またはブドウ膜強膜)流出(unconventional outflow)路を通って眼から排出される(BRAUNGER, B.M., FUCHSHOFER, R., TAMM, E.R. The aqueous humor outflow pathways in glaucoma: A unifying concept of disease mechanisms and causative treatment. Eur J Pharm Biopharm, 95(Pt B):173-81, 2015)。
【0004】
主流出(conventional outflow)システムは、ヒト、非ヒト霊長類およびラットにおいて小柱網(TM)、小管近傍組織(JCT)およびシュレム管(SC)を含む(MORRISON, J.C., FRAUNFELDER, F.W., MILNE, S.T., MOORE, C.G. Limbal microvasculature of the rat eye. Invest Ophthalmol Vis Sci, 36: 751-756, 1995; MORRISON, J.C., CEPURNA, W.O., JOHNSON, E.C. Modeling glaucoma in rats by sclerosing aqueous outflow pathways to elevate intraocular pressure, Exp Eye Res, 141: 23-32, 2015)。生理学的条件下では、主流出は、ヒトおよび非ヒト霊長類においてAH排液の約60%~90%を仲介し、一方副経路が果たす役割は小さく、高齢者の眼ではさらに小さくなる傾向がある(NATHANSON, J.A., MCKEE, M. Identification of an extensive system of nitric oxide-producing cells in the ciliary muscle and outflow pathway of the human eye. Invest Ophthalmol Vis Sci, 36: 1765-1773, 1995)。マウスでは、副流出(unconventional outflow)がはるかに大きな役割を果たし、AH排液の約80%を占めている(AIHARA, M., LINDSEY, J.D., WEINREB, R.N. Aqueous humor Dynamics in Mice. Invest Ophthalmol Vis Sci, 44(12): 5168-73, 2003)。線維柱帯流出経路におけるAHの通過は、圧力勾配によってのみ駆動される。したがって、主システムを通過するAHに対する抵抗の増加は、正常閾値である20mmHgを超えるIOPの上昇の主な原因である(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014; BRAUNGER, B.M., FUCHSHOFER, R., TAMM, E.R. The aqueous humor outflow pathways in glaucoma: A unifying concept of disease mechanisms and causative treatment. Eur J Pharm Biopharm, 95(Pt B):173-81, 2015)。
【0005】
主流出システムによるAH排液率の低下は、特定の眼の構造における異常な組織学的または解剖学的変化の結果であり、2つの主要なグループの緑内障を引き起こす。原発性閉塞隅角緑内障(PACG)では、虹彩の様々な変形が虹彩をTMに向かって押し出すため、AH排液を遮断し、IOPの上昇につながる。PACGの症例が、緑内障の総有病率の約25%を占めている(WRIGHT, C., TAWFIK, M.A., WAISBOURD, M., KATZ, L.J. Primary angle-closure glaucoma: an update. Acta Ophthalmol. 94(3): 217-25, 2016)。
【0006】
当該疾患の別のグループである原発性開放隅角緑内障(POAG)は、緑内障性失明の主な原因であり、緑内障患者の80~90%に影響を及ぼす。POAGでは、主流出路を構成する組織の組織学的変化により、TMおよびSCを通過するAH排液に対する抵抗が増加する。POAGにおけるTM流出抵抗の増加は、JCMの結合組織およびSCの内皮の収縮表現型の増加に起因するという説得力のある証拠がある(BRAUNGER, B.M., FUCHSHOFER, R., TAMM, E.R. The aqueous humor outflow pathways in glaucoma: A unifying concept of disease mechanisms and causative treatment. Eur J Pharm Biopharm, 95(Pt B): 173-81, 2015)。
【0007】
特定の個人のグループでは、IOPが上昇しているが、緑内障の症状はない。それにもかかわらず、IOPの低下は、緑内障のない高IOPの個人における発病を予防/遅延させることが示されている(HEIJL, A. Glaucoma treatment: by the highest level of evidence. Lancet, 385(9975): 1264-1266, 2015; ALIANCY, J., STAMER, W.D., WIROSTKO, B. A Review of Nitric Oxide for the Treatment of Glaucomatous Disease. Ophthalmol Ther, 6(2): 221-232, 2017)。
【0008】
抗緑内障療法の究極の目標は、患者の視覚機能とクオリティ・オブ・ライフを維持することである。POAGの患者のサブセットでは、IOPは上昇せず、それ故に正常眼圧緑内障(NTG)の症例の特徴を示し、患者は依然として進行性の視力喪失を発症する。また、POAGの患者でIOPが管理されているときでも、視力低下がなお進行し得る。これらの事実は、神経線維死における視神経への血流の喪失の役割を裏付けている。これまで、この生理病態に作用する薬剤はなく、したがって、IOPは疾患の発症と進行の唯一の修正可能な危険因子であるため、すべての治療選択肢がIOPの低下に集中している(ALIANCY, J., STAMER, W.D., WIROSTKO, B. A Review of Nitric Oxide for the Treatment of Glaucomatous Disease. Ophthalmol Ther, 6(2): 221-232, 2017)。しかしながら、疾患の進行を管理することは病因に依存する。PACGの症例は、主にレーザー末梢虹彩切開術で処置される。それでもIOPが異常に高いならば、薬理学的アプローチが用いられ得る(WEINREB, R.N., AUNG, T., MEDEIROS, F.A. The pathophysiology and treatment of glaucoma: a review. JAMA, (18):1901-11, 2014))。
【0009】
一方、POAGの処置は、緑内障と診断されたらすぐに薬物療法を必要とする。IOP低下薬の効果の大きさは、IOP上昇の重症度と相関しており、眼内圧が高いほど大きく低下する。いずれにせよ、mmHgを1単位下げるごとに、疾患の進行リスクを10~19%減少させる(HEIJL, A. Glaucoma treatment: by the highest level of evidence. Lancet, 385(9975): 1264-1266, 2015; ALIANCY, J., STAMER, W.D., WIROSTKO, B. A Review of Nitric Oxide for the Treatment of Glaucomatous Disease. Ophthalmol Ther, 6(2): 221-232, 2017)。
【0010】
一般的に、最初の目標は、例えば、IOPの20%~50%の低下を目指しており、有害事象を回避するために、可能な限り少ない薬剤で達成する必要がある。この最初の目標は、ヒトと他の動物の両方に有効である。
【0011】
現在利用可能な薬理学的ツールは、AH産生を減少させる、および/またはその流出を改善することにより、IOPを低下させる。局所(topic)プロスタグランジン類似体、例えばラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ウノプロストン、ビマトプロストが第1治療選択である。これらの薬は、主に、ブドウ膜強膜の副経路を介したAH排液を改善することによって作用する。効果は低いが、プロスタグランジン類似体に不耐性または禁忌があるとき、一般的に第2選択薬が用いられる。局所代替薬物クラスは、βアドレナリン作動性およびαアドレナリン作動性遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、およびコリン作動性アゴニストを含む。しかしながら、所望のIOPレベルが単剤療法により達成されないとき、医師は治療スケジュールに更なる薬物を含める(WEINREB, R.N., AUNG, T., MEDEIROS, F.A. The pathophysiology and treatment of glaucoma: a review. JAMA, (18):1901-11, 2014)。
【0012】
多くの抗緑内障薬が利用可能であるにもかかわらず、この分野では依然として高いメディカルニーズがある。IOP低下薬の長期使用は、例えば、結膜充血、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、ドライアイ疾患、眼刺激、またはこれらの事象の組合せを引き起こし得る(WEINREB, R.N., AUNG, T., MEDEIROS, F.A. The pathophysiology and treatment of glaucoma: a review. JAMA, (18):1901-11, 2014)。さらに、患者は、主流出に作用する(すなわち、TM、SCおよび遠位強膜血管を通る流出を改善する)薬物によって極めて恩恵を受けるであろう。主流出が主な流出であるため、この経路によって作用する薬物は、副流出を介して作用する薬物よりも強力である傾向があり、または少なくとも補完的な作用を有し得る。さらに、視神経への血流の増加を引き起こすように作用し得る薬物は、視神経の損傷を直接予防するかまたは遅延させる可能性がある(すなわち神経保護)。好ましくは処置頻度が低い、便利な局所投与は、価値のある、あると良い特徴である。この方向でかなりの努力がなされているが、成功は極めて限られている。(WEINREB, R.N., AUNG, T., MEDEIROS, F.A. The pathophysiology and treatment of glaucoma: a review. JAMA, (18):1901-11, 2014; BRAUNGER, B.M., FUCHSHOFER, R., TAMM, E.R. The aqueous humor outflow pathways in glaucoma: A unifying concept of disease mechanisms and causative treatment. Eur J Pharm Biopharm, 95(Pt B):173-81, 2015)。
【0013】
(緑内障におけるNOの役割)
一酸化窒素(NO)は、緑内障の処置のための潜在的な新しい標的として最近多くの注目を集めている。NOの生物学的効果は、主流出を介したAH排液の増加の仲介および視神経の更なる傷害からの保護を同時にし得る(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014; ALIANCY, J., STAMER, W.D., WIROSTKO, B. A Review of Nitric Oxide for the Treatment of Glaucomatous Disease. Ophthalmol Ther, 6(2): 221-232, 2017; WAREHAM, L.K., BUYS, E.S., SAPPINGTON, R.M. The nitric oxide-guanylate cyclase pathway and glaucoma. Nitric Oxide, 77: 75-87, 2018)。
【0014】
最近の証拠は、NOシグナル伝達経路が眼の恒常性に役割を果たし、AH排液、それ故にIOPを調節していることを示している。健常なヒトの眼において、NOを形成する能力は前眼部組織に見られる。厳密には、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)アイソフォームは、毛様体の無色素上皮、視神経乳頭の星状細胞、および篩板で発現する;内皮型NOS(eNOS)は、毛様体筋、TM、SC、および網膜血管系に見られる;誘導型NOS(iNOS)は、生理学的条件で眼に構成的に発現するのではなく、刺激後にのみ角膜実質および毛様体突起にあるマクロファージならびに星状細胞でのみ発現する(WAREHAM, L.K., BUYS, E.S., SAPPINGTON, R.M. The nitric oxide-guanylate cyclase pathway and glaucoma. Nitric Oxide, 77: 75-87, 2018)。
【0015】
AH排液を調節する眼の解剖学的構造は、収縮性組織によって形成される。例えば、TM細胞は、血管平滑筋細胞(VSMC)と同様に、本質的に収縮性が高いことが知られており、内皮依存性弛緩におけるNO-cGMPシグナル伝達の役割がよく理解されている(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。インビトロでのTMの単離されたセグメントを用いた研究は、非特異的NOSアンタゴニストであるL-NAMEが流速を低下させ、したがって、TMにおいてiNOSによって生成されるNOの役割を支持することを示した(SCHNEEMANN, A., DIJKSTRA, B.G., VAN DEN BERG, T.J., KAMPHUIS, W., HOYNG, P.F. Nitric oxide/guanylate cyclase pathways and flow in anterior segment perfusion. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 240(11): 936-41, 2000; ALIANCY, J., STAMER, W.D., WIROSTKO, B. A Review of Nitric Oxide for the Treatment of Glaucomatous Disease. Ophthalmol Ther, 6(2): 221-232, 2017)。
【0016】
SCは、内皮細胞および結合組織からなり、構造は静脈に似ている。これらの細胞の収縮性は、水性流出の調節に役割を果たすため、これらの細胞は、NOの潜在的な作用部位である(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。
【0017】
ヒトSC細胞でのインビトロ研究は、L-NAMEによる内因性NOSの阻害が細胞体積の増加をもたらすことを示し、NOレベルのインビボ減少が流出抵抗を増加させ、それによってIOPを上昇させる可能性があることを示唆している。これらの発見は、SCを含む血管内皮でeNOSを過剰発現するトランスジェニックマウスが野生型マウスと比較してIOPを低下させ、流出能力を増加させたことを示すインビボデータと一致している(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。
【0018】
POAGの患者では、eNOSの存在量がTM、SCおよび毛様体筋で減少し、NO産生の減少がIOPの上昇に寄与し得ることを示唆している。また、POAG患者のAHではNOレベルが低下していた(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。
【0019】
視神経乳頭(緑内障性軸索傷害の部位)は、後毛様体動脈循環および網膜循環によって供給される。眼動脈から分岐する主な血液供給源である後毛様体動脈は、視神経の周りの眼球に入り、前視神経乳頭の灌流に寄与するいくつかの短い後毛様体動脈に後に分かれる。網膜の表面神経線維層は、網膜中心動脈からの細動脈枝によって供給される。網膜および視神経乳頭では、内因性NOは、基底血流を維持するために不可欠である(SAMPLES, J.R., KNEPPER, P.A. Glaucoma Research and Clinical advances: 2018 to 2020. Amsterdam, The Netherlands: Kugler Publications, New concepts in glaucoma, v.2, 2018)。POAGとNTGは両方とも、末梢血管内皮機能障害に関連しており、NOバイオアベイラビリティの低下およびNOシグナル伝達系の局所的変化を示している(GIACONI, J.A., LAW, S.K., COLEMAN, A.L., CAPRIOLI, J. Pearls of Glaucoma management, Springer, 2010)。動物実験により、NO誘発性のIOP低下は、主流出機能の増加を介して主に媒介されることが確認され、NOの治療可能性がPOAG患者で最近検証された。ニトロ血管拡張薬は、NOが多数の多様な眼への影響およびIOPの維持を媒介することを考えると、新しいクラスの眼圧降下薬と見なすことができる。NOドナーは、前臨床モデルと臨床試験の両方で主に主流出組織における細胞体積と収縮性の変化を介してIOP低下効果を媒介することが示された。NO供与を伴うプロスタグランジンF受容体アゴニストであるラタノプロストンブノドは、IOPの低下において、参照化合物であるラタノプロストよりも効果的であった。プロスタグランジンF受容体の活性化とNOの供与を組み合わせた二重の作用機序は、副経路と主経路の両方を通過するAH流出を同時に増加させる(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。
【0020】
NOの血管拡張効果および視神経乳頭血流調節におけるその可能性のある役割のため、視神経および網膜血管のNOシグナル伝達を強化するNOベースの治療は、損傷したRGCに有益な効果を発揮する可能性がある(TSAI, J.C., GRAY, M.J., CAVALLERANO, T. Nitric oxide in glaucoma: what clinicians needs to know. Candeo Clinical/Science Communications, LLC, 2017)。しかしながら、現在の治療法では、視神経乳頭に供給する動脈の血管拡張を誘発するのに、それ故に、緑内障に続発する虚血性損傷および非動脈炎症性虚血性眼神経障害(NAION)などの他の虚血性視神経症から網膜を保護するのに十分な濃度で網膜にNOを送達できなかった。
【0021】
(眼疾患を標的とするペプチド)
治療用ペプチドは、眼疾患の処置における新規治療薬として極めて有望である。これらの分子は、高い効力、低い非特異的結合、少ない毒性および薬物間相互作用の最小化などのいくつかの利点を提供する。しかしながら、物理的および化学的分解、短いインビボ半減期、網状内皮系(RES)の単核食細胞(MPS)によるクリアランス、免疫原性のリスク、細胞膜に浸透しないなどの要因が、ペプチドの局所眼内投与に対する高い課題となっている。これらの障壁は、眼疾患の処置における治療用ペプチドの効果的な使用を可能にするための多大な努力を必要なこととした(MANDAL, A., PAL, D., AGRAHARI, V., TRINH, H.M., JOSEPH, M., MITRA, A.K. Ocular delivery of proteins and peptides: Challenges and novel formulation approaches. Adv Drug Deliv Rev, 126: 67-95, 2018)。
【0022】
現在、眼疾患の治療に承認されている生物学的医薬品は5つ(3つのモノクローナル抗体、1つのアプタマー、1つの治療用タンパク質)ある。しかしながら、それらのどれも緑内障を対象とはしていない。さらに、これらの薬物は、皮下または眼内に投与される。眼への注射を繰り返すことは、眼内炎、白内障、網膜裂孔、網膜剥離などの合併症の傾向の増加と相関しており、それ故に、患者にとって重大な不便を表している。
【0023】
米国特許第9,279,004号は、毒素PnTx2-6から構築される19アミノ酸(PnTx(19))および分子量2,485.85Daのペプチドを開示している。天然毒素は、クロドクシボグモ(Phoneutria nigriventer)に噛まれた男性患者に持続勃起症を引き起こす。次に、PnPP-19とも呼ばれるペプチドPnTx(19)は、天然毒素の非隣接ドメインから操作された、天然に存在しない分子である。開示は、エクスビボでのネズミ陰茎海綿体の単離されたストリップの弛緩の改善により示されるように、PnPP-19が勃起機能を増強できることを明らかにしている。
【0024】
更なる研究により、PnPP-19によって誘発される弛緩は、NOS酵素の活性化、NOの生成、sGCの下流の活性化およびcGMPシグナル伝達によって媒介されることが実証された(SILVA, C.N., NUNES, K.P., TORRES, F.S., CASSOLI, J.S., SANTOS, D.M., ALMEIDA, Fde.M., MATAVEL, A., CRUZ, J.S., SANTOS-MIRANDA, A., NUNES, A.D., CASTRO, C.H., MACHADO DE AVILA, R.A., CHAVEZ-OLORTEGUI, C., LAUAR, S.S., FELICORI, L., RESENDE, J.M., CAMARGOS, E.R., BORGES, M.H., CORDEIRO, M.N., PEIGNEUR, S., TYTGAT, J., DE LIMA, M.E. PnPP19, a synthetic and nontoxic peptide designed from a Phoneutria nigriventer Toxin, potentiates erectile function via NO/cGMP. J Urol; 194(5): 1481-90. 2015)。したがって、PnPP-19は、ホスホジエステラーゼ5阻害剤(PDE5i)に基づく治療に抵抗性である患者に適用できる可能性がある、勃起不全の治療の潜在的な候補として主張された。
【0025】
新規で未発表の結果は、PnPP-19が眼に浸透し、健常な眼を有する動物のIOPを低下させることができることを示している。眼に浸透して網膜に到達するその性質のために、更なる調査は、PnPP-19が神経保護特性も有し、視神経損傷の動物モデルにおける網膜虚血によって引き起こされる損傷から網膜および視神経を保護することを示した。したがって、本アプローチは、この発見から出発して、高眼圧症および/または視神経変性症、例えばPACG、POAG、NTG、加齢黄斑変性症および糖尿病網膜症に関連する眼疾患を処置および/または予防する医薬組成物および方法を導き出す。
【発明の概要】
【0026】
本明細書は、AHの主流出の改善および視神経変性の進行の直接防止を同時にできるNOSエンハンサーペプチドを含む処置方法および医薬組成物を記載する。したがって、本明細書に記載の方法および組成物は、高眼圧症および/または視神経変性、例えばPCAG、POAG、NTGおよびIOPの上昇に関連する眼疾患を処置および/または予防するのに有用である。
【0027】
本発明は、予想外に、点眼薬として局所投与されたとき、合成ペプチドPnPP-19が眼に浸透し、健常な眼および緑内障の未処置の眼を有する動物のIOPを低下させ、網膜および視神経を虚血性損傷から保護することができることを示す。したがって、この明細書の実施形態には、以下が含まれる:
1 有効量のPnPP-19を眼に局所投与することを含む、眼圧を低下させる方法。
2 有効量のPnPP-19を眼に局所投与することを含む、虚血性眼神経障害を処置または予防する方法。
3 投与が、医薬的に許容される液体媒体中に、PnPP-19を、有効量で、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドで含む組成物を1日当たり1または2滴である、項1または2に記載の方法。
4 虚血性眼神経障害が、緑内障である、項2に記載の方法。
5 緑内障が、正常眼圧緑内障である、項4に記載の方法。
6 虚血性眼神経障害が、加齢黄斑変性症、糖尿病性神経障害または非動脈炎症性虚血性眼神経障害(NAION)である、項2に記載の方法。
7 PnPP-19の投与が、眼の視力喪失の前に開始される、項1または2に記載の方法。
8 PnPP-19の投与が、眼圧または虚血性眼神経障害による眼の部分的視力喪失の前に開始される、項1または2に記載の方法。
9 PnPP-19の投与が、眼圧または虚血性眼神経障害による眼の部分的視力喪失の後も継続される、項8に記載の方法。
10 PnPP-19の投与が、眼の虚血性眼神経障害による部分的視力喪失の後に開始される、項1または2に記載の方法。
11 医薬的に有効な媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチド、および1つ以上の医薬的に許容される添加剤を含む、眼投与のための医薬組成物。
12 医薬的に許容される媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドを含む、眼投与のために製剤化された組成物を、処置を必要とする患者の眼に局所投与することを含む、患者において緑内障を処置する方法。
13 患者が、正常眼圧を有する、項12に記載の方法。
14 医薬的に許容される媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドを含む、眼投与のために製剤化された組成物を、処置を必要とする患者の眼に局所投与することを含む、高眼圧の患者を処置する方法。
15 医薬的に許容される媒体中に、有効量のPnPP-19、具体的には体積当たり0.08~0.72%のペプチドを含む、眼投与のために製剤化された組成物を、処置を必要とする患者の眼に局所投与することを含む、患者において眼圧を低下させるための方法。
16 患者が、高眼圧を有する、項14または15に記載の方法。
17 患者が、緑内障を有する、項16に記載の方法。
【0028】
いくつかの実施態様において、項1~17を実施することにより、以下の1つ以上を達成することが可能になる:
- 局所適用したPnPP-19(20μLの生理食塩水に80μgのペプチド(0.4%)を含む1滴点眼)が、角膜から硝子体を通って網膜上皮へ浸透する。
- 局所適用したPnPP-19(20μLの生理食塩水に80μgのペプチド(0.4%)を含む1滴点眼)が、プラセボと比較して、動物モデルにおける亜硝酸塩定量で確認された、眼内のNOレベルを増加させる。
- 局所適用したPnPP-19(20μLの生理食塩水に80μgのペプチド(0.4%)を含む1滴点眼)が、眼の刺激または角膜もしくは網膜の損傷を引き起こすことなく、正常眼圧および緑内障モデルラット両方で、24時間までIOPを著しく低下させる。
- PnPP-19はまた、網膜虚血の動物モデルで確認された、処置の予防または治療的様式において、視力の維持、組織学的損傷の軽減、虚血性損傷に対する網膜細胞の保護として神経保護効果もある。
- 局所適用したPnPP-19(50μLの生理食塩水に250μgのペプチド(0.5%)を含む1滴点眼)は、健常なヒト対象体で安全で忍容性があり、IOPを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】(A)0.1M NaOH(陽性対照);(B)NaCl 0.9%(陰性対照);(C)~(F)20μL中の40μgのペプチド(0.2%)から20μL中の320μgのペプチド(1.6%)まで変化させる濃度のPnPP-19に5分間曝露した後のHET-CAMの写真を示す。
【0030】
図2】PnPP-19は、網膜血管に影響を与えない。20μLの生理食塩水中の40~160μgのペプチド(0.2~0.8%)による処置の前および1、7および15日後のラット網膜の検眼鏡検査を表す間接眼底の写真。
【0031】
図3】PnPP-19は、網膜の形態を変化させない。PnPP-19 40μg(0.2%);PnPP-19 80μg(0.4%);PnPP-19 160μg(0.8%);および対照(n=4)を示す、PnPP-19滴下の15日後の網膜の組織学的層の一連の例示的写真。RPE-網膜色素上皮、ONL-外顆粒層、INL-内顆粒層、GCL-神経節細胞層。20倍の対物レンズを備える顕微鏡(Apotome.2、ZEISS、Germany)を用いて、デジタル画像を得た。
【0032】
図4】PnPP-19は、角膜の形態を変化させない。PnPP-19 40μg(0.2%);PnPP-19 80μg(0.4%);PnPP-19 160μg(0.8%);および対照(n=4)を示す、PnPP-19滴下の15日後の角膜の組織学的層の一連の例示的写真。上皮層、間質層、内皮層。20倍の対物レンズを備える顕微鏡(Apotome.2、ZEISS、Germany)を用いて、デジタル画像を得た。
【0033】
図5】PnPP-19は、正常眼圧ラットのIOPを低下させる。PnPP-19(80μg/眼、0.4%)と対照の結果間の比較。バーは、対象の影響を差し引いた後のPnPP-19の%ΔIOP低下を表す。n=8。
【0034】
図6】PnPP-19は、緑内障のラットのIOPを低下させる。健常なラットと、PnPP-19(80μg/眼、0.4%)で処置したおよび未処置の動物との間の比較。結果をmmHgで表す。n≧6。アスタリスクは、未処置との統計的差を表す:*p<0.5;**p<0.01;***p<0.001、ボンフェローニ事後検定を用いた二元配置分散分析。
【0035】
図7】PnPP-19は、RGC数を維持する。健常なラットと比較して、緑内障の動物の網膜においてRGC数が少なかった。PnPP-19(80μg/眼、0.4%)で処置した緑内障の動物は、未処置の緑内障ラットよりRGC数が多く、健常なラットと比較して統計的差はなかった:**p<0.01、一元配置分散分析。
【0036】
図8】PnPP-19は、角膜に浸透し、網膜に到達する。対照(生理食塩水)とPnPP-19(80μg/眼、0.4%)を用いた処置群との比較。画像は、角膜(A)、硝子体(B)および網膜(C)からの蛍光強度(緑色)を表す。右のグラフは、角膜および網膜からの蛍光強度を表す。1滴(20μl)の適用の3時間後に、眼を取り除いた。APOTOME.2 ZEISS、10倍対物レンズを用いて蛍光顕微鏡観察を実施し、バーの長さは100μmである。FITCを490nmで励起し、発光を526nmで検出した。アスタリスクは、対照と比較して統計的差を表す:***p<0.001、スチューデントのt検定。
【0037】
図9】PnPP-19は、網膜虚血によって引き起こされる組織損傷を軽減する。虚血誘発後のPnPP-19(80μg/眼、0.4%)の点眼の影響。網膜切片をヘマトキシリン-エオシンで染色した。バー=50μm。黒色矢印は、空胞化および濃縮核の領域を示す。赤色矢印は、OS層およびRPE層の増加を示す。(A)虚血/未処置;(B)虚血/PnPP-19後処置;(C)健常。RPE-網膜色素上皮、OS-外節、ONL-外顆粒層、INL-内顆粒層、GCL-神経節細胞層。
【0038】
図10】PnPP-19は、視力喪失を軽減する。ERG曲線に対するPnPP-19(80μg/眼、0.4%)の滴下の影響。虚血性網膜におけるb-amp/a-amp比についての虚血/未処置と虚血/PnPP-19後処置の比較。n=6。
【0039】
図11】PnPP-19は、網膜虚血によって引き起こされる組織損傷を回避する。虚血誘発前のPnPP-19(80μg/眼、0.4%)の滴下の影響。網膜切片をヘマトキシリン-エオシンで染色した。バー=50μm。黒色矢印は、空胞化および濃縮核の領域を示す。(A)虚血/未処置;(B)虚血/PnPP-19前処置;(C)健常。RPE-網膜色素上皮、OS-外節、ONL-外顆粒層、INL-内顆粒層、GCL-神経節細胞層。
【0040】
図12】PnPP-19は、視力喪失を防ぐ。ERG曲線に対する虚血誘発前のPnPP-19(80μg/眼、0.4%)の滴下の影響。虚血性網膜におけるb-amp/a-amp比についての虚血/未処置および虚血/PnPP-19前処置の比較。n=6。
【0041】
図13】PnPP-19は、眼の亜硝酸塩レベルを増加させる。正常眼圧の眼の組織を、ビヒクル(生理食塩水)またはPnPP-19(80μg/眼、0.4%)の局所滴下の2時間後に採集した。各列は平均±SEMを表す。n=6。***p<0.0001、対応のないデータのスチューデントt検定。
【0042】
図14】PnPP-19は、ヒトのIOPを低下させる。IOPを、滴下前(基礎)および滴下の6時間後に非接触眼圧計により測定した。n=12。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の処置方法は、それを必要とする患者へのPnPP-19の投与を含む。以下で用いる名称PnPP-19は、配列番号1の配列(Gly Glu Arg Gln Tyr Phe Trp Ile Ala Trp Tyr Lys Leu Ala Asn Ser Lys)を有するポリペプチドであって、所望によりN末端がアセチル化され、および/またはC末端がアミド化されているポリペプチドに関する。
【0044】
(定義)
他に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。単数形の用語「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」には、文脈で他のことが明確に示されていない限り、複数の指示対象が含まれる。
【0045】
さらに、ポリペプチドについて与えられたすべての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、およびすべての分子量または分子量の値は概算であり、説明のために提供されていることを理解されたい。本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および材料を本開示の実施または試験に使用できるが、適切な方法および材料を以下に説明する。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、出典明示によりその全体として組み込まれる。
【0046】
ペプチドまたはポリペプチドは、モノマーがアミド結合を介して一緒に結合しているアミノ酸残基であるポリマーである。アミノ酸がαアミノ酸であるとき、L-光学異性体またはD-光学異性体のいずれかを使用でき、L-異性体が好ましい。本明細書で用いる用語「ポリペプチド」、「ペプチド」または「タンパク質」は、任意のアミノ酸配列を包含し、糖タンパク質などの修飾配列を含むことを意図する。用語「ポリペプチド」および「ペプチド」は、特に、天然に存在するタンパク質、ならびに組換えまたは合成的に産生されるタンパク質を対象とすることを意図している。アミノ酸残基の略語は、一般的な20個のLアミノ酸の1つを参照するために当技術分野で用いられる3文字および/または1文字の標準コードである。
【0047】
本明細書で用いる用語「治療活性」は、その効果がヒトにおける所望の治療結果、または非ヒト哺乳動物または他の種または生物体における所望の効果と一致する実証されたまたは潜在的な生物学的活性を指す。所与の治療用ペプチドは、1つ以上の治療活性を有し得るが、本明細書で用いる用語「治療活性」は、単一の治療活性または複数の治療活性を指し得る。「治療活性」は、所望の応答を誘導する能力を含み、インビボまたはインビトロで測定し得る。例えば、所望の効果は、細胞培養、単離された組織、動物モデル、臨床評価、EC50アッセイ、IC50アッセイ、または用量反応曲線でアッセイし得る。治療活性という用語は、疾患、障害または状態の予防的または治癒的処置を含む。疾患、障害または状態の処置は、疾患、障害または状態の排除を含む、任意の程度までの疾患、障害または状態の改善を含み得る。
【0048】
本明細書で用いる用語「治療的に有効な」は、対象体の状態および投与される特定の化合物に依存する。当該用語は、所望の臨床効果を達成するのに有効な量を指す。治療上有効量は、処置される状態の性質、活性が望まれる時間の長さならびに対象体の年齢および状態によって変化し、最終的には医療提供者によって決定される。一態様において、治療有効量のペプチドまたは組成物は、それを必要とする個体のIOPを臨床的に有意なレベルで低下させるのに十分有効な量であり、したがって、緑内障などの網膜神経節細胞死、網膜神経線維層の薄化および視神経乳頭のカッピングに関連する視神経障害を抑制、低減または予防する。
【0049】
本明細書で用いる用語「無影響量」(NOEL)は、動物種で試験された検出される影響がない最高用量を意味する。用語「無毒性量」(NOAEL)は、対照群と比較して有害作用の有意な増加を生じない最高用量レベルを意味する。用語「最大耐量」(MTD)は、毒性試験で許容できない毒性を生じない最高用量を意味する。用語「ヒト等価用量」(HED)は、所与の用量で動物において観察されるのと同じ程度の効果を提供すると予想されるヒトでの用量を意味する。
【0050】
本明細書で用いる「保存的アミノ酸置換」は、所与のポリペプチドまたはタンパク質のIOP低下活性または三次構造の有意な修飾をもたらさない置換である。そのような置換は、典型的には、同様の物理化学的特性を有する異なる残基によって選択されるアミノ酸残基の置換を含む。例えば、GluのAspによる置換は、両方が同じサイズの負に帯電したアミノ酸であるため、保存的な置換と見なされる。それらの物理化学的特性によるアミノ酸のグループ化は、当業者に知られている。
【0051】
2つの配列間の「類似性」は、重ね合わせを最大化し、配列のギャップを最小化するために整列したときのポリペプチドのアミノ酸配列を比較し、続いて配列間の同一の残基を勘定することによって決定される。アミノ酸または核酸の2つの配列の同一性のパーセンテージは、目視検査および/またはコンピュータープログラムを用いて配列の情報を比較してより長い配列に対して一般的に行われる数学的計算によって決定できる。ペプチドおよび核酸の配列を比較するために当業者が使用できるプログラムの例は、National Library of Medicineのウェブサイト(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)において自由に利用可能なBLAST(BLASTP)およびBLASTNである。好ましい様式において、目視検査または適切なコンピュータープログラムから決定するとき、アミノ酸配列が少なくとも50%同一である場合、より好ましくは配列が70%または75%同一である場合、さらにより好ましくは配列が80%または85である場合、さらにより好ましくは配列が90%または95%同一である場合、配列は互いに相同または同一であると見なされる。
【0052】
元のペプチドまたはポリペプチドのアミノ酸配列と同一または相同であるアミノ酸配列が存在する場合、ペプチド断片は元のペプチドに「由来する」。該断片は、合成方法(例えば、固相ペプチド合成、改変細胞における組換えDNA発現、およびインビトロでの酵素分解)または元のペプチドの自然分解によって生成され得る。後者の場合、該断片は、生物体(すなわち、インビトロでの単離された細胞または組織、またはインビボでの動物、例えば限定されないがヒト)で起こるプロセスにより生じ、したがって、該生物体の代謝の生成物である。該生成物または元のペプチド(または一般に薬物)の代謝分解からの生成物は、代謝物と呼ばれる。このような代謝物は、生物学的効果がある場合とない場合がある。そのような代謝物が、元のペプチドに類似した生物学的活性をまだ有するとき、活性代謝物と見なされる。したがって、当業者は、合成または天然のいずれかで生成された治療用ペプチドの断片が、元のペプチドより低い、等しいまたは高いIOP低下活性を示し得ることを速やかに捉えることができる。
【0053】
本明細書で言及する「眼神経障害」または「神経障害性疾患」は、眼の神経組織(例えば、網膜および視神経)の急性または進行性の変性として定義される。このような眼神経障害は、高眼圧症に関連する場合と関連しない場合があり、POAG、PACG、NTG、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症およびNAIONを含むが、これらに限定されない。
【0054】
「高圧」または「高眼圧」は、平均IOP(16mmHg)を2標準偏差上回ったIOPとして定義される(BOEY, P.Y., MANSBERGER, S.L. Ocular hypertension: an approach to assessment and management. Can. J. Ophthalmol. 49(6):489-96, 2014)。したがって、測定されたIOPが21mmHgより高い場合、圧上昇が考慮され得る。IOPは、通常、圧平眼圧測定法によって測定され、これは、角膜の小さな領域の平坦化に対する抵抗に基づいて、眼内の圧力を推定する。日内IOPの変動は正常であり、朝に高い値が見られる。
【0055】
(処置方法)
組成物は、医薬的に許容される媒体中に、所望によりN末端がアセチル化され、および/またはC末端がアミド化されている、配列番号1の配列を有する有効量のポリペプチドを含む。当該ポリペプチドは、本明細書ではPnPP-19と称される。いくつかの実施態様において、ポリペプチドは、医薬的に許容される塩の形態である。いくつかの実施態様において、ポリペプチドは、例えばいくつかの実施態様において、アセチル基をN末端に用いてアセチル化されている(ペプチドグリシン(G))。いくつかの実施態様において、ポリペプチドは、例えばいくつかの実施態様において、アミド基をC末端に用いてアミド化されている(ペプチドリシン(K))。いくつかの実施態様において、ポリペプチドは、アセチル化およびアミド化されている。
【0056】
方法は、有効量の本明細書に記載のPnPP-19医薬組成物を投与することを含む。いくつかの実施態様において、方法は、IOPを低減するためのものである。いくつかの実施態様において、方法は、虚血性眼神経障害、例えば緑内障(正常眼圧緑内障を含む);加齢黄斑変性症;または糖尿病性神経障害を処置または予防するためのものである。
【0057】
いくつかの実施態様において、患者はヒトである。いくつかの実施態様において、患者自身が投与する。他の実施態様において、医療専門家が患者に投与する。
【0058】
いくつかの実施態様において、投与は、患者の影響を受ける眼に行われる。他の実施態様において、投与は、患者の影響を受けなない眼に行われる。いくつかの実施態様において、投与は、患者の両眼(影響を受けるまたは影響を受けていない、またはそれらの組合せ)に行われる。
【0059】
いくつかの実施態様において、投与は、眼の視力喪失前に開始する。いくつかの実施態様において、投与は、高眼圧または虚血性眼神経障害による眼の部分的視力喪失前に開始する。
【0060】
いくつかの実施態様において、PnPP-19の投与は、眼の部分的視力喪失の前に開始する。いくつかの実施態様において、PnPP-19の投与は、眼の部分的視力喪失の後に開始する。いくつかの実施態様において、PnPP-19の投与は、眼の部分的視力喪失の前に開始し、部分的喪失後も継続する。
【0061】
いくつかの実施態様において、投与は、患者の眼に局所的である。いくつかの実施態様において、投与は、液滴の形態である。他の実施態様において、投与は、スプレーの形態である。
【0062】
この記載の好ましい実施態様は、それを必要とする人へのNOSエンハンサーペプチドの投与に基づいて、緑内障などの高眼圧および/または視神経変性に関連する眼疾患を処置および/または予防する方法に関する。
【0063】
(IOP/緑内障の診断)
IOPの増加および緑内障は通常、疾患経過の初期には無症候性であり、患者は通常、スクリーニングによりまたは眼の検査での異常な所見に基づいて特定される。初期の症状または兆候がないため、緑内障の症例の50%以上が診断されていない(TOPOUZIS, F., COLEMAN, A.L., HARRIS, A. Factors associated with undiagnosed open-angle glaucoma: the Thessaloniki Eye Study. Am J Ophthalmol, 145: 327-335, 2008)。
【0064】
無症候性の患者のスクリーニングは、高齢者、緑内障の家族歴のある人、アフリカ系アメリカ人およびヒスパニック系の集団など、緑内障のリスクが高い集団を対象としたならば、より有用で費用効果が高くなる。
【0065】
すべてのPOAG患者の半数は、当該疾患の家族歴があり(AWADALLA, M.S., FINGERT, J.H., ROOS, B.E. Copy number variations of TBK1 in Australian patients with primary open-angle glaucoma. Am J Ophthamol, 159: 124-130, 2015)、少なくとも1つの研究では、緑内障患者の60%は他の人が当該疾患に罹患している家族に属していることがわかった(GREEN, M.G., KEARNS, L.S., WU, J. How significant is a family history of glaucoma. Experience from the Glaucoma Inheritance Study in Tasmania. Clin Exp Ophthalmol, 35: 793-799, 2007)。近視は、特にアジア系において、緑内障の重大な危険因子である(MCMONNIES, C.W. Glaucoma history and risk factors. J Optom, 10(2): 71-78, 2017)。進行したPOAGにおけるミオシリン変異およびNTGにおけるTBK1のコピー数変化の証拠があり、緑内障リスク予測に遺伝学が寄与していることを示している(SOUZEAU, E., BURDON, K.P., DUBOWSKY, A. Higher prevalence of myocilin mutations in advanced glaucoma in comparison with less advanced disease in an Australian Disease Registry. Ophthalmology, 120(6): 1135-1143, 2013; AWADALLA, M.S., FINGERT, J.H., ROOS, B.E. Copy number variations of TBK1 in Australian patients with primary open-angle glaucoma. Am J Ophthamol, 159:124-130, 2015)。女性はPACGのリスクが高く、POAGについては好発の性別はない(VAJARANANT, T.S., NAYAK, S., WILENSKY, J.T., JOSLIN, C.E. Gender and glaucoma: what we know and what we don't know. Curr Opin Ophthalmol, 21: 91-99, 2010)。
【0066】
明確な緑内障に進行した患者は、夜間の運転、近見視力、読む速度または屋外での可動性の障害を訴えるのに十分な視野喪失がある可能性がある。
【0067】
高リスクのサブ集団または症候性集団では、次のいずれかの状態が存在する場合、眼の検査で緑内障が診断される:(i)IOPの一貫した上昇、(ii)視神経が疑わしい(光干渉断層撮影(OCT)上での異常な神経線維層または乳頭出血など)、または(iii)視野の異常(STANLEY, J., HUISINGH, C.E., SWAIN, T.A., MCGWIN, G. JR., OWSLEY, C., GIRKIN, C.A., RHODES, L.A. Compliance With Primary Open-angle Glaucoma and Primary Open-angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Patterns in a Retail-based Eye Clinic. J Glaucoma, 27(12):1068-1072, 2018)。
【0068】
(緑内障の治療のためのPnPP-19)
1987年に重要な内因性メディエーターとしてのNOの役割が発見されて以来、この分子の研究は急速に盛んになり、多方面に、特にNOの産生/シグナル伝達の撹乱を特徴とする疾患に拡大した。
【0069】
NOは酵素ファミリー(NOS)によって内因的に生成され、眼では、分泌(流入)と排液(流出)の速度の間の動的バランスを調節する、したがってIOP調節のために重要である。健常な眼では、eNOS活性により、AH流出経路および毛様体筋へのNO供給が保証され、流入と流出の適切なバランスが維持される。しかしながら、緑内障の眼では、内皮機能障害により、TM、SCおよび毛様体筋のeNOS活性が低下し、これらの領域のNOレベルが低くなり、AHの流入と流出のバランスが崩れ、IOPが上昇する(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。
【0070】
NOドナー(例えば、ニトログリセリン、ニトロプルシドナトリウム)の投与は、いくつかの動物モデルおよびヒトにおいてIOPの低下をもたらす。NO誘導は、主流出と呼ばれるTMとSCの内壁の弛緩により流出能力を増加させるが、毛様体筋の弛緩にもつながり、ブドウ膜強膜流出経路(副流出路とも呼ばれる)を変化させる(CAVET, M.E., VITTITOW, J.L., IMPAGNATIELLO, F., ONGINI, E., BASTIA, E. Nitric oxide (NO): an emerging target for the treatment of glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci, 55(8): 5005-5015, 2014)。しかしながら、NOドナーは、ペイロードを効果的に送達することが困難であり、標的化されず、標的組織でのNO提供が低くなるか、NO送達が高くなり、全身性の副作用および角膜、虹彩およびTMのニトロシル化が引き起こされる。
【0071】
PnPP-19は、iNOSおよびnNOSの生成を増強する。nNOSは毛様体の無色素上皮で発現し、iNOSは毛様体(ブドウ膜強膜、副経路(non-conventional pathway))、TMおよびSC(主流出)を含むほぼすべての細胞で発現する。したがって、内皮機能障害および低いeNOS活性の生理病理学的状態においてさえ、PnPP-19は、iNOSおよびnNOSの活性の増加により、NOレベルを増加させることができる。
【0072】
PnPP-19は、動物モデルで顕著なIOP低下能力を示した。iNOSは、大量のNO(eNOSと比較して100~1000倍)を長期間(細胞半減期は3時間)生成し得る。iNOSエンハンサーとしてのPnPP-19は、1日1回の投与で最大24時間IOPを低下させることができ、この期間中IOPの低下は、IOPの大幅な変動なしで持続し、視力喪失を回避するための所望の効果である。さらに、PnPP-19の作用機序により、NOは標的細胞内で局所的に生成され、それ故に、NOレベルが低いことによる効果の欠如、または標的外でのNO作用による副作用を回避する。PnPP-19は、非臨床試験において、非刺激性であり、角膜または網膜の損傷を引き起こさないことを示している。
【0073】
POAGやNTGのような緑内障の眼では、末梢血管内皮機能障害、低いeNOS活性、およびNOレベルの低下があり、視神経乳頭の虚血性損傷を引き起こす。nNOSとiNOSは、視神経乳頭の星状細胞でも発現する。PnPP-19は、角膜に浸透して網膜に到達できるため、視神経乳頭、この領域に供給する動脈、ならびに星状細胞および神経においてnNOSとiNOSを増強するように作用する。活性の増加によって生じるNOの血管拡張効果は、視神経乳頭の虚血を回復させ、損傷および細胞死を回避することができる。PnPP-19の神経保護効果は、虚血性誘導前(予防)および虚血性誘導後(処置)に投与したときの両方で確認された。PnPP-19は、組織学的損傷の軽減、RGCの保存および視力喪失の回避または軽減により、網膜を虚血性損傷から保護できる。
【0074】
(加齢黄斑変性症(AMD)の処置におけるPnPP-19)
加齢黄斑変性症は、先進国の60歳以上の人の視力喪失および失明の主な原因である(FRIEDMAN, D.S., O'COLMAIN, B.J., MUNOZ, B., TOMANY, S.C., MCCARTY, C., DE JONG, P.T., NEMESURE, B., MITCHELL, P., KEMPEN, J.; EYE DISEASES PREVALENCE RESEARCH GROUP. The Eye Diseases Prevalence Research Group. Prevalence of age-related macular degeneration in the United States. Arch Ophthalmol. 2004;122:564-572)。
【0075】
AMDの患者は、視覚機能が影響を受ける初期段階;症状が漸進的に悪化する中間段階;中心視力が著しく損なわれるか、または完全に失われる後期段階に分類される。初期のAMDの病因は、脂質およびタンパク質の蓄積によるブルッフ膜の肥厚を特徴とし、AMDの特徴的な病変であるドルーゼンと呼ばれる不連続の蓄積として発生する網膜下色素上皮細胞(RPE)沈着物の形成につながる。後期AMDは、2つの形態で現れ得る:地理的萎縮と呼ばれるRPEおよび光受容体の黄斑脱落を特徴とする「乾燥」した萎縮型AMDと、この症状は脈絡膜血管新生を伴うため、異常な血管によるRPEおよび/または網膜の浸潤、したがって血管新生または滲出性AMDを特徴とする「湿潤」な新生血管型AMD(RICKMAN, C.B., FARSIU, S., TOTH, C.A., KLINGEBORN, M. Dry Age-Related Macular Degeneration: Mechanisms, Therapeutic Targets, and Imaging. Invest Ophthalmol Vis Sci, 54(14): ORSF68-ORSF80, 2013)。
【0076】
AMDを発症する主な危険因子は、年齢、白内障手術、高血圧の病歴であり、後期AMDについては喫煙である(ANASTASOPOULOS, E., HAIDICH, A.B., COLEMAN, A.L., WILSON, M.R., HARRIS, A., YU, F., KOSKOSAS, A., PAPPAS, T., KESKINI, C., KALOUDA, P., KARKAMANIS, G., TOPOUZIS, F. Risk factors for Age-related Macular Degeneration in a Greek population: The Thessaloniki Eye Study. Ophthalmic Epidemiol, 25(5-6): 457-469, 2018)。
【0077】
脈絡膜血流は、内皮細胞に存在するeNOSと血管周囲の一酸化窒素ニューロンに存在するnNOSの両方によって生成されるNOによって調節されることが知られており、nNOSは細動脈におけるNOの主な供給源である(GRIFFITH, O.W., STUEHR, D.J. Nitric oxide synthases: properties and catalytic mechanism. Annu Rev Physiol, 57: 707-36, 1995; KASHIWAGI, S., KAJIMURA, M., YOSHIMURA, Y., SUEMATSU, M. Nonendothelial source of nitric oxide in arterioles but not in venules: alternative source revealed in vivo by diaminofluorescein micro fluorography. Circ Res, 91(12): e55-64, 2002)。AMDの眼は、高齢者の対照眼と比較したとき、eNOSおよびnNOSのレベルが低く、AMDの眼のNOレベルが低くなることを示している(BHUTTO, I.A., BABA, T., MERGES, C., MCLEOD, D.S., LUTTY, G.A. Low nitric oxide synthases (NOSs) in eyes with age-related macular degeneration (AMD). Exp Eye Res, 90(1): 155-67, 2010)。したがって、PnPP-19は、視神経におけるnNOS発現レベルを増加させ、NOの生理学的レベルを回復させ、血管拡張、血流およびドルーゼン除去を改善することにより、初期、中期および後期の「乾燥」AMDで積極的に作用し得る。また、酸化ストレスがAMDの病因に重要な役割を果たしていることが知られており、このストレスを軽減するためにNOドナーを採用した文献における報告がある(PITTALA, V., FIDILIO, A., LAZZARA, F., PLATANIA, C.B.M., SALERNO, L., FORESTI, R., DRAGO, F., BUCOLO, C. Effects of Novel Nitric Oxide-Releasing Molecules against Oxidative Stress on Retinal Pigmented Epithelial Cells. Oxid Med Cell Longev. 2017:1420892, 2017)。PnPP-19誘導性nNOSの発現によって生成されるNOは、熱ショックタンパク質32(HSP32)としても知られ、酸化ストレスを介した損傷に対する細胞防御の構成要素の1つであるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の活性化につながるため、PnPP-19は還元反応にも作用し得る(FORESTI, R., CLARK, J.E., GREEN, C.J., MOTTERLINI, R. Thiol compounds interact with nitric oxide in regulating heme oxygenase-1 induction in endothelial cells. Involvement of superoxide and peroxynitrite anions, The Journal of Biological Chemistry, 272(29): 18411-18417, 1997)。
【0078】
(糖尿病性網膜症(DR)の治療におけるPnPP-19)
糖尿病性網膜症(DR)は、2型糖尿病の主要な合併症であり、生産年齢人口における視力喪失の主な原因である。臨床的には、DRは、非増殖性DRおよび増殖性DRの2つの段階に分けられる。非増殖性DRは疾患の初期段階であり、血管透過性の増加と毛細血管閉塞が網膜血管系における2つの主要な臨床的観察である。この段階では、患者が無症候性であっても、微小動脈瘤、出血および硬性白斑などの網膜病変を眼底写真によって検出できる。疾患は最終的に、血管新生を特徴とする増殖性の症状に進行し、異常な新しい血管が硝子体に出血(硝子体出血)すると重度の視力障害を起こす。患者の視力喪失の最も一般的な原因は、糖尿病性黄斑浮腫(DME)であり、これはDRのどの段階でも発生し得て、視覚画像の歪みおよび視力の低下を引き起こす。DMEは、血液網膜関門の破壊による黄斑内の体液の網膜下および網膜内蓄積による黄斑の腫脹または肥厚である。しかしながら、この疾患には、神経節、アマクリンおよびミュラー細胞の神経アポトーシス、炎症性グリア細胞の活性化、ならびにグルタミン酸代謝の変化を含む重要な神経変性要素もある(WANG, W. and LO, A.C.Y. Diabetic Retinopathy: Pathophysiology and treatments. Int J Mol Sci, 19(6): 1816, 2018; BARBER, A.J. A new view of diabetic retinopathy: A neurodegenerative disease of the eye. Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry, 27(2): 283-290, 2003; LYNCH, S. K., ABRAMOFF, M.D. Diabetic Retinopathy is a neurodegenerative disorder. Vision Research, 139: 101-107, 2017)。
【0079】
HO-1の誘導型は、糖尿病ラットの網膜で高発現しており、HO-1のレベルの上昇は糖尿病に対する反応の可能性が高く、長期の糖尿病はRPEでのHO-1のレベルの低下につながることが文献において理解されている(CUKIERNIK, M., MUKHERJEE, S., DOWNEY, D., CHAKABARTI, S., Heme oxygenase in the retina in diabetes. Current Eye Research, 27(5): 301-308, 2003; STOCKER, R. Induction of haem oxygenase as a defense against oxidative stress. Free Radical Research Communications, 9(2): 101-112, 1990; COSSO, L., MAINERI, E.P., TRAVERSO, N., ROSATTO, N., PRONZATO, M.A., COTTALASSO, D., MARINARI, U.M., ODETTI, P. Induction of heme oxygenase 1 in liver of spontaneously diabetic rats. Free Radical Research, 34(2): 189-191, 2001; DA SILVA, J.L., STOLTZ, R.A., DUNN, M.W., ABRAHAM, N.G., SHIBAHARA, S. Diminished heme oxygenase-1 mRNA expression in RPE cells from diabetic donors as quantitated by competitive RT/PCR. Current Eye Research, 16(4): 380-386, 1997)。したがって、非増殖性DRの処置にPnPP-19を使用すると、NOの生理学的レベルが回復し、HO-1レベルの正常化およびより強力な抗酸化反応によって視神経への神経損傷が軽減または排除され得て、これは、保存された細胞およびより生理学的な酸化還元環境、ならびに血流の改善および糖化剤の除去につながる。
【0080】
(NAIONの治療におけるPnPP-19)
虚血性視神経障害は、高齢患者で最も一般的な急性視神経障害であり、50歳以上の10万人当たりの年間発生率は2.3~10.2人と推定されている。小血管炎によって引き起こされる動脈性、または血管炎によって引き起こされない非動脈性(NAION)として分類できる(BIOUSSE, V. and NEWMAN, N.J. Ischemic Optic Neuropathies. N Engl J Med, 372:2428-2436, 2015)。
【0081】
NAIONは、視神経の前部の虚血、特に緑内障と同じ部位である篩板によって引き起こされる。視神経の頭部(head)の虚血は、「危険にさらされている乳頭(disc)」、解剖学的異常、視神経ドルーゼンおよび鬱血乳頭などの神経損傷の危険性を高めるいくつかの異常と関連している必要がある。高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、脳卒中、虚血性心疾患、喫煙、全身性アテローム性動脈硬化症および凝固亢進は、NAIONに関連するいくつかの疾患である(BIOUSSE, V. and NEWMAN, N.J. Ischemic Optic Neuropathies. N Engl J Med, 372:2428-2436, 2015)。
【0082】
現在までに、NAIONに対して承認されている治療法はない。試験「Ischemic Optic Neuropahty Descompression Trial(IONDT)」は、NAIONが発症したとき、永続的な視覚障害が持続するが、患者の43%が6か月以内に視力喪失を悪化させることを示した。さらに、反対側の眼の関与の危険性は12~15%である(BIOUSSE, V. and NEWMAN, N.J. Ischemic Optic Neuropathies. N Engl J Med, 372:2428-2436, 2015)。
【0083】
NOには、NAIONを保護および処置するためのいくつかの有益な効果がある。NOは、血管拡張剤であるため、虚血に対して作用し;NOは、NMDA受容体(グルタミン酸結合受容体)を下方制御できるため、興奮毒性を軽減でき;NOは、スカベンジャーとして機能し、フリーラジカルを消費できるため、酸化ストレスを軽減できる。PnPP-19は、視神経の頭部の虚血の局所である網膜を収縮させ、NOの局所レベルを上昇させることができる。したがって、PnPP-19は、NAION患者に有用な最初の薬物になる可能性がある。
【0084】
(ペプチド合成)
本明細書のペプチドは、組換え法および非組換え法を含む、当業者に知られている任意の方法により製造できる。合成経路(非組換え)は、固相でのペプチドの化学合成、液相でのペプチドの化学合成、および生体触媒合成を含むが、これらに限定されない。好ましい実施態様において、ペプチドは、手動、自動または半自動システムを用いて、液相または固相での化学合成によって得られる。
【0085】
例えば、固相ペプチド合成(SPPS)は、Merrifieldによる説明以来、知られており、広く用いられている(MERRIFIELD, R. B. Solid Phase Peptide Synthesis. I. The Synthesis of a Tetrapeptide. J. Am. Chem. Soc., 85(14): 2149-2154, 1963)。当業者にはSPPSの様々なバリエーションが利用可能である(GUTTE, B. Peptide Synthesis, Structures, and Applications. Academic Press, San Diego, CA, Chapter 3, 1995; and CHAN, W.C. Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach. Oxford University Press, Oxford, 2004; MACHADO, A., LIRIA, C.W., PROTI, P.B., REMUZGO, C., MIRANDA, T.M. Sinteses quimica e enzimatica de peptideos: principios basicos e aplicacoes. Quim. Nova, 5:781-789 2004参照)。簡潔には、SPPSによるペプチドの構築は、センスC→N末端で起こる。そのために、目的のC末端アミノ酸を固体支持体に結合させる。続いて結合されるアミノ酸は、Boc基、Fmoc基または他の適切な保護ラジカル基で保護されたN末端部分を有し、一方、C末端部分は、標準的なカップリング試薬で活性化される。続いて、支持体に結合したアミノ酸の自由な末端アミンを、それに続くアミノ酸の末端カルボキシ部分と反応させる。その後、ジペプチドの末端アミンを脱保護し、ポリペプチドが完成するまでこのプロセスが繰り返される。適切な場合はいつでも、開始アミノ酸は、側鎖の保護も有し得る。
【0086】
あるいは、本明細書のペプチドは、組換え法によって得ることができる。可能な方法の改変を制限するものではないが、例示的な手順は以下を含む:目的のペプチドをコードする核酸の構築;発現ベクターにおける該核酸のクローニング;該ベクターを用いた宿主細胞(細胞、植物、細菌、例えばエシェリヒア・コリ、酵母、例えばサッカロミケス・セレビシエ、または哺乳類細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞)の形質転換;目的のペプチドを生成するための核酸の発現。インビトロおよび原核生物および真核生物の宿主細胞における組換えポリペプチドの生成および発現のための方法は、当業者に知られている(特許第4,868,122号、およびSAMBROOK, J., FRITSCH, E.F., MANIATIS, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Ed. 2. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989参照)。
【0087】
(相関ペプチド)
いくつかの静的、動的および代謝の障壁が存在するため、眼の薬物送達は困難である。前眼室に送達されなければならない局所適用された薬物は、最も表面の細胞を接続する密着結合を有する外上皮、高組織化されたコラーゲンでできている中央結合組織および角膜の正確な水分補給の維持に主に関与する内皮により構成される三層組織である角膜を通過しなければならない。その構造の結果として、角膜の透過性は低く、薬物、特に親水性で高分子量の薬物、例えばペプチドの拡散は、極めて困難である(PESCINA, S., OSTACOLO, C., GOMEZ-MONTERREY, I.M., SALA, M., BERTAMINO, A., SONVICO, F., PADULA, C., SANTI, P., BIANCHERA, A., NICOLI, S. Cell penetrating peptides in ocular drug delivery: State of the art. J Control Release. 2018 Aug 28;284:84-102)。
【0088】
当業者は、本明細書に記載されているものなどのペプチドに特定の修飾をして、該ペプチドの特性にわずかなまたは全く変化を引き起こさない可能性があることを認識している。したがって、本明細書に示されるものに関連するペプチドは、元のペプチドの治療活性の一部またはすべてを保持する類似体および/または誘導体を含む。本明細書において、用語「類似体」は、本明細書に記載のペプチドへのアミノ酸の置換、欠失または付加によって得られる変異体を示し;一方、「誘導体」は、本明細書に記載のペプチドおよび/またはそれらの類似体の一次配列に化学修飾を含む変異体を示す。特定の態様において、このような変異体は、ペプチドの治療活性の少なくとも1つの改善を証明し得る。また、本明細書のペプチドは、L-アミノ酸、D-アミノ酸、または任意の比率の両方の組合せから構成され得る。
【0089】
別の実施態様は、それを必要とする患者への投与の前、後または最中に、化学的または酵素的に活性ペプチドのいずれかに変換されるプロドラッグまたは薬物前駆体を含む。このような化合物には、とりわけ、エステル、N-アルキル、リン酸またはアミノ酸のコンジュゲート(ARNAB, D.E., Application of Peptide-Based Prodrug Chemistry in Drug Development; Springer, New York Heidelberg Dordrecht London, 2013)、より親油性のペプチド(CACCETTA, R., BLANCHFIELD, J.T., HARRISON, J., TOTH, I., BENSON, H.A.E. Epidermal Penetration of a Therapeutic Peptide by Lipid Conjugation; Stereo-Selective Peptide Availability of a Topical Diastereomeric Lipopeptide. International Journal of Peptide Research and Therapeutics, 12 (3), 327-333. 2006)、および場合によっては、極性リンカーを添加することによる(例えば、C末端ドメインのエステル化による)より親水性のペプチドが含まれ得る。
【0090】
別の実施態様はまた、直鎖活性ペプチドに変換できる任意の環状ペプチドを含む。また、グリコシル化またはペグ化などのバイオコンジュゲートまたは高分子による化学修飾を含む(HUTTUNEN, K.M., RAUNIO, H., RAUTIO, J. Prodrugs-from Serendipity to Rational Design. Pharmacol Rev, 63:750-771, 2011)。
【0091】
別の実施態様は、アミノ酸基のバイオエステルに基づいて活性構造を推定するための支持体として活性ペプチドのいずれかを用いるペプチド模倣アプローチを含む(VAGNER, J., QU, H. and HRUBY, V.J. Peptidomimetics, a synthetic tool of Drug Discovery. Curr Opin Chem Biol, 12(3): 292-296. 2008)。
【0092】
所望のアミノ酸保存的置換は、当業者により日常的な方法を用いて決定され得る。天然アミノ酸は、以下の側鎖特性の観点から分類し得る:非極性(グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、メチオニン(Met));非荷電極性(システイン(Cys)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、プロリン(Pro)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln);酸性(アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu));塩基性(ヒスチジン(His)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg));および芳香族性(トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe))。同じクラスの別のものとアミノ酸を交換すると、元のペプチドと同様の機能的および化学的特性を有する変異体が生成される。このタイプの修飾はまた、ペプチドの合成中に通常使用し得るペプチド模倣物および他の非定型のアミノ酸を含む、人工および/または非必須アミノ酸残基による置換を包含する。
【0093】
アミノ酸の置換を定義するための戦略は、側鎖のハイドロパシーによって導かれ得る。ポリペプチドの機能におけるハイドロパシーアミノ酸の重要性は、当業者によって理解されている(KYTE, J. and DOOLITTLE. R.F. A simple method for displaying the hydropathic character of a protein. J. Mol. Biol. 157:105-31. 1982)。各アミノ酸は、疎水性および電荷の特性に基づいて決定されるハイドロパシー指数がある。これらは、Ile(+4.5);Val(+4.2);Leu(+3.8);Phe(+2.8);Cys(+2.5);Met(+1.9);Ala(+1.8);Gly(-0.4);Thr(-0.7);Ser(-0.8);Trp(-0.9);Tyr(-1.3);Pro(-1.6);His(-3.2);Glu(-3.5);Gln(-3.5);Asp(-3.5);Asn(-3.5);Lys(-3.9);およびArg(-4.5)である。当業者は、同様のハイドロパシー指数を有するアミノ酸が、生物学的活性を著しく失うことなく交換され得ることを理解している。
【0094】
保存的置換はまた、親水性に基づき得ることが知られている。隣接するアミノ酸の親水性により決定されるポリペプチドの平均親水性は、化合物の生物学的特性と相関している。米国特許第4,554,101号によれば、天然アミノ酸は以下の親水性値を有する:Arg(+3.0);Lys(+3.0);Asp(+3.0±1);Glu(+3.0±1);Ser(+0.3);Asn(+0.2);Gln(+0.2);Gly(0);Thr(-0.4);Pro(-0.5±1);Ala(-0.5);His(-0.5);Cys(-1.0);Met(-1.3);Val(-1.5);Leu(-1.8);Ile(-1.8);Tyr(-2.3);Phe(-2.5);およびTrp(-3.4)。
【0095】
本明細書の別の一態様において、NOS誘導ペプチドは、連結基によって連結され、唯一の活性ペプチドに変換されるか、または分子全体として医薬活性を示す活性ペプチドの多量体を含む(HUTTUNEN, K. and RAUTIO, J. Prodrugs - An Efficient Way to Breach Delivery and Targeting Barriers. Current Topics in Medicinal Chemistry, 11: 2265-2287, 2011)。アミノ酸の挿入はまた、アミノ酸のリンカー、融合ペプチド、および本明細書に記載のペプチドのN末端またはC末端領域に付加され得る透過増強配列を含む。細胞透過および/または経皮吸収を増強できるペプチド配列は、当業者に知られており、例えば、Kumarら(KUMAR, S., NARISHETTY, S.T., TUMMALA, H. Peptides as Skin Penetration Enhancers for Low Molecular Weight Drugs and Macromolecules. In: Dragicevic N., Maibach H. (eds) Percutaneous Penetration Enhancers Chemical Methods in Penetration Enhancement. Springer, Berlin, Heidelberg. 2015)および米国特許第14,911,019号および国際公開第2012064429号で見られる。
【0096】
治療用ペプチドの眼への送達を改善するための特に対象となる細胞透過性ペプチドは、当業者に知られている(PESCINA, S., OSTACOLO, C., GOMEZ-MONTERREY, I.M., SALA, M., BERTAMINO, A., SONVICO, F., PADULA, C., SANTI, P., BIANCHERA, A., NICOLI, S. Cell penetrating peptides in ocular drug delivery: State of the art. J Control Release. 2018 Aug 28;284:84-102)。タンパク質転座ドメイン(PTD)、膜転座配列、またはトロイの木馬ペプチドとしても知られているこれらの配列は、通常5~40アミノ酸(aa)の範囲である。細胞透過性ペプチド(CPP)は、特定の受容体との相互作用なしに、エネルギー依存性またはエネルギー非依存性のメカニズムを介して、原核細胞および真核細胞の組織および膜を通過し得る。一般に、CPPはカチオン性、両親媒性および疎水性に分類される。
【0097】
カチオン性CPPは、主にアルギニン(Arg)およびリシン(Lys)残基から、生理学的pHにて極めて正の正味電荷を有する。このクラスに属するCPPは、TAT由来ペプチド、浸透性、ポリアルギニン、およびDiatosペプチドベクター1047(DPV1047、Vectocel)を含むが、これらに限定されない。両親媒性CPPは、アミノ酸の極性(親水性)領域と非極性(疎水性)領域の両方を含む。配列全体に分布するLysおよびArgに加えて、Val、Leu、IleおよびAla、Aなどの疎水性残基が豊富である。両親媒性CPPクラスは、とりわけ、プロリンリッチCPP、pVEC、ARF(1-22)、BPrPr(1-28)、MPGおよびPEP-1を含む。疎水性CPPは、主に非極性アミノ酸を含み、それ故に正味電荷が低くなる。このペプチドファミリーは、エネルギー非依存性の方法で脂質膜を横切って転座し得る。疎水性CPPのクラスは、gH 625、CPP-C、PFVYLI、Pep-7およびSG3を含むが、これらに限定されない(PESCINA, S., OSTACOLO, C., GOMEZ-MONTERREY, I.M., SALA, M., BERTAMINO, A., SONVICO, F., PADULA, C., SANTI, P., BIANCHERA, A., NICOLI, S. Cell penetrating peptides in ocular drug delivery: State of the art. J Control Release. 2018 Aug 28;284:84-102)。
【0098】
特定の態様において、上記のアミノ酸のリンカー、融合ペプチドおよび透過促進配列は、5~40個の更なるアミノ酸を有し得て、連結部分によってNO誘導ペプチドに結合し得る。そのような部分は、治療用ペプチドを別の治療用ペプチドに連結するために所望により用いられる原子または原子の集合体であり得る。あるいは、連結分子は、適切な環境で生物学的に活性な部分の放出を可能にするために、タンパク質分解切断のために設計されたアミノ酸配列からなり得る。また、本明細書に記載の平滑筋緊張調節ペプチドは、薬理学的特性(薬物動態学的および/または薬力学的)および/または物理化学的特性を改善するように設計されたペプチドに融合され得る。
【0099】
本明細書の別の一態様において、NOS誘導ペプチドは、ペプチド鎖の1つ以上の位置に1つ以上のメチルまたは別の小さなアルキル基を有する化学修飾を含み得る。このような基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチルなどを含む。あるいは、NOS誘導ペプチド修飾は、ペプチド配列への1つ以上のグリコシド部分の結合により生じる。例えば、前記誘導体は、1つ以上の単糖、二糖または三糖を任意の位置でペプチド配列に結合させることにより得ることができる。グリコシル化は、ペプチドの天然アミノ酸に向けられ得て、あるいは、1つのアミノ酸は、置換または付加されて、修飾を受け得る。
【0100】
当該グリコシル化ペプチドは、通常のSPPS技術によって得ることができ、この技術では、目的のグリコールアミノ酸が、ペプチドの合成前に調製され、続いて、所望の位置で配列に付加される。したがって、平滑筋緊張調節ペプチドは、インビトロでグリコシル化され得る。この場合、グリコシル化は、先に生じてもよい。US5,767,254、WO2005/097158、およびDooresら(DOORES, K., GAMBLIN, D.P. AND DAVIS, B.G. Exploring and exploiting the therapeutic potential of glycoconjugates. Chem. Commun., 12(3): 656:665, 2006)の文書(参照のために本明細書に組み込まれる)は、アミノ酸のグリコシル化を記載している。一例として、セリンおよびスレオニンの残基のαまたはβ選択的グリコシル化は、ケーニッヒ・クノール反応および中間シッフ塩基を使用するレミューのインサイチュでのアノマー化の方法を用いて達成され得る。その後、グリコシル化されたシッフ塩基の脱保護は、わずかに酸性の条件で、または水素化分解によって行われる。
【0101】
本明細書に記載のペプチドのアミノ酸の1つ以上の残基に導入できる単糖の中には、グルコース(デキストロース)、フルクトース、ガラクトースおよびリボースがある。使用に適する可能性のある他の単糖は、グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン、エリトロース、スレオース、エリスロース、アラビノース、リキソース、キシロース、リブロース、キシルロース、アロース、アルトロース、マンノース、N-アセチルノイラミン酸、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミンなどである。PnPP-19の修飾に使用するための単糖、二糖および三糖などのグリコシドは、合成または天然由来のものであり得る。本明細書に記載のアミノ酸の1つ以上の残基に導入できる二糖は、スクロース、ラクトース、トレハロース、アロース、メリビオース、セロビオースなどを含む。三糖は、アカルボース、ラフィノースおよびメレジトースであり得る。
【0102】
いくつかの実施態様の更なる態様において、本明細書のNOS誘導ペプチドは、該ペプチドの生物学的活性および特性の部分的な低下のみが生じるか、または低下が生じないように修飾できる。場合によっては、そのような修飾を実現して、意図された治療活性の改善をもたらし得る。したがって、本発明のいくつかの実施態様の範囲は、未修飾ペプチドと比較して、治療活性の少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%、およびそこから導き出される任意の範囲、例えば少なくとも70%から少なくとも80%、好ましくは少なくとも81%から90%、またはさらにより好ましくは91%~99%を保持するバリアントを含む。本発明のいくつかの実施態様の範囲はまた、未修飾ペプチドと比較して、100%、110%、125%、150%、200%または300%超より高い、または100倍以上の活性を証明する、およびそこから導き出される任意の範囲の治療活性を有するバリアントを含む。
【0103】
本発明のいくつかの実施態様に記載されているNOSエンハンサーペプチドはまた、直接またはスペーサー基によって、水溶性ポリマーに共有結合され得る。本発明のいくつかの実施態様の範囲に挿入されるペプチド-ポリマーコンジュゲートの例は、以下を含む:分離可能または安定な方法でペプチドに結合した水溶性ポリマーを含むコンジュゲート、特にN末端部分に結合したコンジュゲート;分離可能または安定な方法でペプチドに結合した水溶性ポリマーを含むコンジュゲート、特にC末端部分に結合したコンジュゲート;分離可能または安定な方法でペプチドに結合した水溶性ポリマーを含むコンジュゲート、特にペプチド鎖の内部に位置するアミノ酸に結合したコンジュゲート;分離可能または安定な方法でペプチドに結合した複数の水溶性ポリマーを含むコンジュゲート、別個の領域でペプチドに結合した、例えばN末端部分および内部に位置するアミノ酸配列(特にリシン)の側鎖においてペプチド結合したコンジュゲート。あるいは、水溶性物質が結合するアミノ酸を、N末端またはC末端部分、あるいはペプチドの一次構造の中央に挿入し得る。
【0104】
典型的には、上記で企図されるポリマーは、親水性、非ペプチド性、生体適合性および非免疫原性である。この点で、物質は、単独で、または別の物質(例えば、治療用ペプチドなどの生物学的活性成分)と組み合わせた、生物体への投与に関連する有益な効果が、臨床的に観察可能である有害な効果を克服する場合、生体適合性であるとみなされる。インビボでの物質の意図された使用が望ましくない免疫学的応答(例えば、抗体の形成)をもたらさない場合、または免疫学的応答が引き起こされる場合、そのような事象が臨床的に有意または重要であるとみなされない場合、物質は非免疫原性であるとみなされる。このような水溶性ポリマーの例は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、ポリオレフィンアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、非硫酸化多糖類の硫酸化物、ポリオキサゾリン、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、およびこれらのポリマーの組み合わせ(それらのコポリマーおよびターポリマーを含む)を含むがこれらに限定されない。
【0105】
上記の水溶性ポリマーは、特定の構造に限定されず、線形または非線形構造、例えば分岐(branched)、二分岐(bifurcated)、多分岐(例えば、ポリオールコアに結合したPEG)、または樹状(いくつかの末端基を有する密に分岐した構造)構造を有し得る。ポリマーをペプチドにコンジュゲートするための方法は、アルキル化剤またはアシル化剤の中から選択され得る適切な試薬と同様に、先行技術に記載されている(HARRIS, J. M. and ZALIPSKY, S., Poly(ethylene glycol), Chemistry and Biological Applications. ACS, Washington, 1997; VERONESE, F., and HARRIS, J.M. Peptide and Protein PEGylation. Advanced Drug Delivery Reviews, 54(4); 453-609. 2002; ZALIPSKY, S., LEE, C. Use of Functionalized Poly(Ethylene Glycols) for Modification of Polypeptides. in Polyethylene Glycol Chemistry: Biotechnical and Biomedical Applications, J. M. Harris, ed., Plenus Press, New York, 1992; ZALIPSKY, S. Functionalized poly(ethylene glycol) for preparation of biologically relevant conjugates. Advanced Drug Reviews, 16:157-182, 1995; and in ROBERTS, M.J., BENTLEY, M.D., HARRIS, J.M., Chemistry for peptide and protein PEGylation. Adv. Drug Delivery Reviews, 54, 459-476, 2002参照)。典型的には、水溶性ポリマーの平均分子量は、100ダルトン(Da)~150,000Da(150kDa)の間で変動し得る。例えば、250Da~80kDa、500Da~65kDa、750Da~40kDaまたは1kDa~30kDaの平均分子量を有する水溶性ポリマーを用い得る。
【0106】
本発明のいくつかの実施態様の更なる態様において、NOS誘導ペプチドは、物理化学的、薬物動態学的および/または薬力学的特性を改善するために、ペプチド鎖の1つ以上の位置でアシル化され得る。例えば、親油性アシル基の導入は、それに結合した基を酸化の影響を受けにくくするので、治療用ペプチドの血漿半減期を延長するために広く用いられている。ペプチドのアシル化のための方法および試薬は、当業者に知られている。WO98/08871、US2003/0082671、WO2015/162195の文書(出典明示により本明細書の一部とする)は、ペプチドのアシル化のための試薬および条件を例示する。アシル基による遊離アミンの修飾は、ペプチドおよびタンパク質のアシル化を促進するのに特に有用である(ABELLO, N., KERSTJENS, H.A., POSTMA, D.S., BISCHOFF, R. Selective acylation of primary amines in peptides and proteins. Journal of proteome research, 6(12): 4770-4776. 2007)。この特定の場合、NOS誘導ペプチドは、N末端アミンで、または配列に元々存在するか、もしくは対象とするアシル化を受ける目的で挿入される1つ以上のアミノ酸の側鎖でアシル化され得る。
【0107】
本発明のいくつかの実施態様の一態様において、本発明のいくつかの実施態様のペプチドを含む医薬組成物を提供する。特定の様式において、本発明のペプチドは、別の有効医薬成分(API)と組み合わされる。更なる態様において、本発明のペプチドの実施態様は、単独で、または別のAPIと組み合わせて、医薬的に許容されるビヒクルおよび/または添加剤および/または添加物とさらに組み合わされる。
【0108】
(製剤)
本発明の医薬組成物は、従来の方法、例えば、英国、欧州および米国の薬局方(British pharmacopoeia. Vol. 1. London: Medicines and Healthcare products Regulatory Agency; 2018; European pharmacopoeia. 9th ed, Strassbourg: Council of Europe: 2018; United States Pharmacopoeia, 42, National Formulary 37, 2018)、Remington's Pharmaceutical Sciences(REMINGTON, J.P., AND GENNARO, A.R. Remington's Pharmaceutical Sciences. Mack Publishing Co., 18th ed. 1990)、Martindale:The Extra Pharmacopoeia(MARTINDALE, W. AND REYNOLDS, J.E.F. Martindale: The Extra Pharmacopoeia. London, The Pharmaceutical Press 31st ed, 1996)、Harry's Cosmeticology(HARRY, R., and ROSEN, M.R. Harry's cosmeticology. Leonard Hill Books, 9th ed. 2015)、およびPrista's Pharmaceutical technology(PRISTA, L. V. N., ALVES, A.C., MORGADO, R.M.R. Tecnica Farmaceutica e Farmacia Galenica. 4th ed. Fundacao Calouste Gulbenkian. Servico de Educacao e Bolsas, 1996)に従って製造および製剤化し得る。
【0109】
医薬組成物は、例えば局所、経口、経鼻、直腸または非経口投与を含む、任意の投与経路のために製剤化し得る。本明細書で用いる非経腸という用語は、皮下、皮内、血管内(例えば静脈内)、筋肉内、脊髄、頭蓋内、髄腔内および腹腔内注射、ならびに任意の同様の注射または注入技術を含む。しかしながら、いくつかの実施態様において、眼での投与は、本発明の好ましい実施態様である。ペプチドの眼投与は、例えば点眼剤を用いて局所的に、または前房内、間質内、結膜下、硝子体内または脈絡膜下注射によって実施できる。いくつかの実施態様において、局所投与は、本発明の好ましい実施態様である。点眼剤による局所投与は、さらに好ましい実施態様である。
【0110】
局所眼用形態(例えば点眼剤)は無菌であり、液体、半固形または固形の製剤であり得て、結膜、結膜嚢または瞼への適用を意図した1つ以上の有効医薬成分を含み得る。眼用製剤の異なるカテゴリーは、エマルション、溶液または懸濁液からなる液滴、および軟膏を含む。水性眼用剤形の大部分は溶液である。治療薬が化学的安定性に関して問題を示すとき、または親油性薬物の効力を高めるために(水溶性塩の場合と比較して大きい)、懸濁液が必要になり得る。
【0111】
特定の薬物塩の局所的な眼への適用は、溶解性(溶液中の物理化学的特性)を改善し、痛み/刺激または刺痛を軽減する結果となるため、薬物塩の選択は重要である。通常、点眼剤中の薬物の濃度は、乏しい保持力を補うために高い。PnPP-19について、塩の主な選択肢は、酢酸塩、塩化物、臭化物、炭酸塩、リン酸塩、パルミチン酸、カプロン酸またはヒスチジンである。
【0112】
眼用製剤の製造は、浸透の局所性など、眼の主な特徴に関連するいくつかの重要な側面を考慮する必要がある。結膜は表面積が大きく(約18cm)、涙液膜の生成および維持に役立ち、角膜と比較して治療薬の拡散に対して大きな透過性を有する。角膜は、涙液による眼の内房への薬物の拡散を制御し、非血管性で負に帯電している。したがって、角膜に浸透するために、治療薬は、脂質相と水相の両方で中程度の溶解度を示さなければならず、低分子量でなければならない。薬物動態を妨げ、それ故に眼用製剤の有効性を妨げる他の重要な側面は、(i)ビヒクルおよび濃度;(ii)pHと緩衝;(iii)浸透圧;(iv)粘度;(v)透明性;(vi)添加剤;(vii)防腐剤;(viii)無菌性;(ix)無菌充填;(x)最終製品の包装を含むがこれらに限定されない。
【0113】
ビヒクルおよび濃度:水性眼用剤形の製剤に主に用いられるビヒクルは、精製水USPである。注射用水は、特定の製剤要件ではない。時折、治療薬が水性ビヒクル内で極めて不安定である場合、油を使用し得る。眼用の油の選択は、非経口用の油と同様である。治療薬の濃度は、製造に従わなければならず、公称濃度の95~105%以内でなければならない。製剤の保存期間にわたって、薬物の濃度は、公称量の90%を下回ってはならない。薬物の濃度は、角膜を横切る吸収を考慮しなければならず、眼用製剤を用いた緑内障の処置を成功させるには、角膜を横切る十分な薬物吸収があることが必要である。効果的に吸収されるためには、薬物は差動溶解性を示さなければならず、すなわち、イオン化形態と非イオン化形態が共存し;角膜の脂質が豊富な外層(上皮)に分配されて拡散するには、非イオン化形態の十分な濃度が必要とされる。角膜の内層(間質)は主に水であるため、この相への分配を可能にするために薬物のイオン化が生じなければならない。間質と内皮(脂質に富む)層との間の界面への拡散に続いて、非イオン化(ただしイオン化されていない)形態の吸収が生じる。その後、非イオン化薬物は、内皮/房水界面に拡散し、そこでイオン化および房水への溶解が起こる。治療薬のpKaは、所定のpH値における治療薬のイオン化を決定する。この問題を解消するために、酸性塩の適切な形態は、溶液のpHが酸性であり、安定性が最適化されているものである。緩衝液の添加により、製剤を眼に注入でき、涙液はpHを生理学的条件に調整し、それにより吸収を促進する。
【0114】
pH:理想的には、眼用溶液のpHは7.4に制御する必要があり、これは涙液のpHである。しかしながら、製剤のpHの選択は、そのpHでの治療薬の安定性によっても決定され、これは、製剤の保存期間;そして角膜を横切る活性物質の吸収が必要かどうか(または必要とされないか)を定義するのに役立つ。PnPP-19製剤のpHは、4.5~7.4、好ましくは5.6~7.4、より好ましくは6.6~7.4の範囲である。
【0115】
緩衝液:溶液のpH/緩衝液の含有。眼用製剤のpHおよびpHの制御は、治療薬の安定性、製剤の眼への許容性および角膜を横切る薬物の吸収の重要な決定因子である。理想的には、製剤のpHは、治療薬の化学的安定性(および必要に応じて吸収)を最大化するものでなければならない。この問題は、ペプチドの安定性に対するpHの影響のために特に重要である。前のセクションで強調したように、pHおよび緩衝能は、その後の製剤の不快感に直接影響する。
【0116】
浸透圧:ヒトの眼のpHを考慮すると、製剤は等張性であるか、より好ましくは低張性である。涙液の浸透圧pHは7.4であり、血液と等張である。この液体は、(炭酸、弱有機酸およびタンパク質の存在により)良好な緩衝能を備えており、広範囲のpH値(3.5~10.0)にわたって緩衝されていない製剤を効果的に中和できる。眼用形態で用いる主な浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムである。典型的には、眼用水性剤形は、等張(0.9%w/w NaCl当量)であるように特に製剤化されておらず、0.7%~1.5%w/w NaClと同等の浸透圧値の範囲内で製剤化され得る。
【0117】
粘度:涙液のターンオーバー速度は約1μl/分であり、ヒトのまばたき頻度は1分当たり約15~20回である。これらの生理学的機能は、眼の表面から治療薬/製剤を除去するように作用する。増粘剤は、化合物と角膜表面との接触時間を改善し、涙液による除去を低減する。増粘剤は、0.05%~0.5%w/w、より好ましくは0.3~0.4%w/wの濃度で存在し得る。粘度調節(増強)剤は、2つの主な理由で眼用溶液に添加される親水性ポリマーである:(i)液滴が容器から流出する速度を制御する(したがって、適用の容易さを高める);そして、より重要なことに、(ii)角膜前環境内における溶液の滞留時間を制御する。例えば、角膜前領域内の水溶液の保持は短い(多くの場合1分未満)ことが示されており;ただし、粘度を上げると保持力が向上し得る。さらに、臨界製剤粘度閾値(約55mPa/s)があり、それを超えると剤形と眼との間の接触時間がそれ以上増加しないことが報告されている。涙管の閉塞につながり得るため、点眼剤の粘度は維持されなければならない上限があることを覚えておく必要がある。市販の製品の粘度は、多くの場合30mPa/s未満である。眼用懸濁液の粘度の向上は、眼用懸濁液の物理的安定性を高めるのに役立つ。理想的には、粘度調節剤は次の特性を示す必要がある:(i)容易なろ過:すべての点眼用溶液は製造プロセス中にろ過される;(ii)容易な滅菌:点眼用溶液の滅菌は通常、ろ過または熱によって行われる(粘度調節剤はこれらの条件下で化学的および物理的に安定している必要がある);(iii)他の成分および治療薬との適合性:親水性ポリマーと特定の防腐剤との相互作用はよく知られている。増粘剤は、典型的には、ポリマー化合物、例えば、カーボポールまたはセルロースベースのポリマーである。好ましくは、ポリマーは、カルボマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、例えばヒプロメロースUSP)である。水性眼用製剤中のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、0.45~1.0%w/wの濃度で用いられる。
a)ポリ(ビニルアルコール)。これは水溶性ビニルポリマーで、次の3つのグレードが利用可能である:(i)高粘度(平均分子量200000g/mol);(ii)中粘度(平均分子量130000g/mol);(iii)低粘度(平均分子量20000g/mol)。これは、0.25%~3.00%w/wの範囲の濃度で眼用製剤の粘度を高めるために用いられる(実際の濃度は、用いるポリマーの分子量に依存する)。
b)ポリ(アクリル酸)。これは、水溶性アクリレートポリマーであり、アリルスクロースまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルのいずれかで架橋されている。これは主に、ドライアイ症候群の処置のための眼用水性製剤に用いられる。しかしながら、これは、治療薬を含む眼用製剤の粘度を高めるために用いられ得る。
【0118】
透明性:これは、単に粒子を除去するため(例えば、0.8μmフィルターを用いた清澄化)、またはろ過と滅菌を組み合わせた清澄化であり得る。
【0119】
添加剤:PnPP-19は、抗酸化剤、界面活性剤および/またはポリマーを配合できる。酸化によって分解する治療薬の安定性を最適化するために、抗酸化剤を眼用溶液/懸濁液に加え得る。メタ重亜硫酸ナトリウム(約0.3%)は、この目的で一般的に用いられる抗酸化剤の一例である。界面活性剤(アニオン性、カチオン性)は、分散粒子の物理的安定性を高め、治療薬を眼球水溶液に可溶化するために、主に水性懸濁液で用いられる。眼用剤形での界面活性剤の使用に関する主な懸念の1つは、潜在的な毒性/刺激性である。したがって、非イオン性界面活性剤が優先的に(そして主に)用いられるが、眼用溶液/懸濁液の剤形におけるアニオン性界面活性剤は回避される。ポリマーは、天然または合成であり得る。
【0120】
防腐剤:防腐剤は抗菌剤であり、有効成分自体に抗菌活性がない限り、通常は製剤に含まれている。複数回投与製剤として供給される眼用製剤は、適切な抗菌剤を含み得る。眼用製剤は無菌でなければならず、抗菌活性は使用期間全体を通して有効であり続けなければならない。理想的な防腐剤は、急速に効果があり、局所的な刺激がない。それは、単一の抗菌剤またはそのような薬剤の混合物であり得る。点眼剤で用いられる一般的な防腐剤は以下を含む:
a)塩化ベンザルコニウム(BAK、0.002~0.02%w/v(典型的には0.01%w/v)および塩化ベンゼトニウム(0.01~0.02%w/v)。塩化ベンザルコニウムの抗菌性は、製剤のpHが5.0を下回ると低下し;それらは、アニオン性治療薬、および粘度のために用いられる非イオン性親水性ポリマーに適合しない。眼用溶液に一般的に用いられる0.1%w/vエデト酸二ナトリウム(EDTA二ナトリウム)としてのカチオン性防腐剤は、塩化ベンザルコニウムが細菌細胞の外膜において二価カチオンをキレート化することにより抗菌活性を高めるために用いられる眼用製剤に含めることができる。
b)パラベン。パラヒドロキシ安息香酸のメチルエステルとプロピルエステルの混合物が、眼用製剤に用いられる(典型的には、0.2%w/wの合計濃度)。パラベンの眼の刺激性に関する懸念があり、これが眼用製剤での使用を制限している。この問題は、親水性ポリマーを含む眼用製剤中のパラベンの濃度を、これら2つの種の間の相互作用のために上げる必要性によって増大する。
c)有機水銀化合物。これらは水銀を含む抗菌剤であり、環境および毒性の懸念から、今日では眼用製剤に通常用いられていない。主な例は、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀(水酸化フェニル水銀との混合物として供給されることもある)およびチメロサールである。眼用製剤に用いられる抗菌剤の濃度範囲は、酢酸フェニル水銀で0.001~0.002%w/v、硝酸フェニル水銀で0.002%w/v、チメロサール0.001~0.15%w/vおよび0.001~0.004%w/v(それぞれ眼用溶液および懸濁液で用いるとき)である。フェニル水銀塩は、例えば緑内障の処置のために、慢性的に使用するように設計された製剤で製剤化されたとき、眼の水晶体に沈着すること(水晶体水銀症と呼ばれる)が報告されている。チメロサールはこの問題とは関係ないが、眼の感作と関連している。結果として、これらの防腐剤は、適切な選択肢がない場合にのみ、眼用製剤に用いられる。
d)有機アルコール。クロロブタノールおよびフェニルエチルアルコールが、有機アルコールの例である。クロロブタノールは、0.5%w/vの濃度で用いられ得る。クロロブタノールの加水分解はアルカリ性条件下で生じ、HClは副産物として遊離する(反応速度は、例えばオートクレーブ中の、温度の上昇とともに増加する)。クロロブタノールの使用は、酸性眼用製剤のために取っておかれており、クロロブタノールは、揮発性であり、ポリオレフィン容器中に保管すると、分配のために溶液から失われ得る。したがって、この防腐剤を使用する製剤は、ガラス容器中に保管しなければならない。クロロブタノールの使用に関連する1つの最後の問題は、溶解度が限られていることである。フェネチルアルコールは、溶解度の低さ、揮発性、プラスチック容器への分配など、同様の問題を共有している。眼用製剤で用いられる典型的な濃度は、0.25~0.50%v/vである。
e)その他。ソルビン酸カリウム、酢酸クロルヘキシジン、クロロクレゾールおよびグルコン酸ポリヘキサミンもまた、防腐剤として用い得る。
【0121】
無菌性:製剤は、無菌でなければならない。
【0122】
最終製品の包装:本発明のいくつかの実施態様による製剤は、好ましくは、適切な材料の最終用途容器に包装され、最も好ましくは、容易な投与のための無菌の単回投与単位容器または複数回投与容器から構成される。材料は、製剤と適合性がある必要があり、製剤が分解するまたは成分が材料を透過することがないようにする必要がある。所望により、容器は、例えば有着または不透明な材料を用いて、内容物を光から保護するように構築され、この目的のために更なる包装に封入することもできる。適切な材料は、プラスチック、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、または好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE)を、好ましくは主に高密度ポリエチレン(HDPE)で作られたアンプルに、最も好ましくは巻締可能なHDPE容器に、2~100mlの範囲の単位用量で、好ましくは5~50mlの単位用量で、最も好ましくは5、10および50mlの単位用量で単回用量を提供するために、含む。したがって、約2~7ml、例えば5ml、または約7~12ml、例えば10ml、または約25~35ml、例えば30ml、または約45~55ml、例えば50mlの製剤を含む容器が好ましい。容器は、それ自体が、充填および密封される予め形成された滅菌アンプルであってもよく、または1つのプロセスで形成、充填および密封されてもよい(ブローフィルシール技術)。容器は、エアロゾルスプレーヘッドを取り付けられ得て、そして本発明のいくつかの実施態様による製剤を含み、これにより、製剤は、エアロゾルスプレーとして送達され得る。本発明のいくつかの実施態様の更なる態様は、単位用量容器が、こぼれまたは汚染を防ぐために、開封後に分配口のシールを再び取り付けることができるように構築されることである。製剤およびそれらが包装される容器はまた、好ましくは、それらが眼で直接用い得るようなものである。
【0123】
眼用途のための徐放性は、眼への投与後の有効成分の放出を減少および/または遅延させるカプセル剤、ピル剤またはコーティング錠剤などの製剤である。制御放出製剤は、例えば、標的位置のインプラントを介して投与され得る。一般に、制御放出製剤は、それ自体が放出速度を変化させるマトリックス材料との有効成分の組合せによって、および/または制御放出を有するコーティングの使用によって得ることができ、これは、インプラントの位置での崩壊および吸収を遅らせ、それによってより長い期間の遅延または持続作用を提供する。制御放出製剤の1つのタイプは、徐放性製剤であり、少なくとも1つの有効成分が一定の期間にわたって一定の速度で連続的に放出される。好ましくは、治療薬は、血液(例えば血漿)中の濃度が治療範囲内であれるが、毒性レベル未満で維持されるような速度で、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも8時間、より好ましくは少なくとも12時間放出される。好ましくは、製剤は、モジュレーターの一定レベルの放出を提供する。徐放性製剤に含まれるモジュレーターの量は、例えば、インプラントの位置、予想される放出の速度と持続時間、および処置または予防するべき状態の性質に依存する。このような製剤は、一般に、周知の技術を用いて製造し得る。製剤は、生体適合性および/または生分解性であり得るビヒクルを有し得る。
【0124】
放出速度は、(i)コーティング組成物の厚さの変化、(ii)コーティングの際の可塑剤の添加方法の量の変更、(iii)放出を改変する物質などの更なる成分の含有、(iv)マトリックスの粒子の組成、粒子径または様式の変更、および(v)コーティングを通る1つ以上の通路の提供を含む、当技術分野で周知の方法を用いて変化させ得る。徐放性製剤に含まれるモジュレーターの量は、例えば、投与方法(例えばインプラントの位置)、予想される放出の速度と持続時間、および処置または予防するべき状態の性質に依存する。
【0125】
徐放性機能を有しても有しなくてもよいマトリックス材料は、一般に、有効成分を支持する任意の材料である。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジエステリン酸グリセリルなどの材料を用い得る。有効成分は、剤形(例えば点眼剤)の形成前にマトリックス材料と組み合わせ得る。これとは別にまたはこれに加えて、有効成分は、マトリックス材料を含む粒子、顆粒、球、ミクロスフェア、小球またはペレットの表面にコーティングし得る。このようなコーティングは、有効成分を別の適切な溶媒に溶解させ、噴霧するなどの従来の手段により得ることができる。所望により、コーティングの前に追加の成分を加える(例えば、有効成分のマトリックス材料への結合を助けるため)。
【0126】
(併用療法)
本発明のいくつかの実施態様において、組成物は、本発明のNOS誘導ペプチドに加えて、1つ以上の追加のAPIを含み得る。非固定の組合せと比較して、固定の組合せ緑内障療法は、様々な実証された利点、防腐剤への曝露の減少、および防腐剤関連の眼表面疾患症状のリスクの低下、および総投与回数の減少を提供する。さらに、投与レジメンの単純化により、固定の組合せは、処置のアドヒアランスおよび持続性を改善し、これにより、経時的なIOP制御の安定性を改善し得る(HOLLO, G., VUORINEN, J., TUOMINEN, J., HUTTUNEN, T., ROPO, A., PFEIFFER, N. Fixed-dose combination of tafluprost and timolol in the treatment of open-angle glaucoma and ocular hypertension: comparison with other fixed-combination products. Adv Ther, 31(9):932-44. 2014)。
【0127】
本発明のいくつかの実施態様の特定の固定の組合せは、本発明のNOS誘導ペプチドと、ププロスタグランジン類似体、βアドレナリン作動性アンタゴニスト、αアドレナリン作動性アゴニスト、アセチルコリン受容体アゴニスト、炭酸脱水酵素阻害薬およびRhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を含む。あまり好ましくないが、有用な組合せは、本発明のNO誘導ペプチドと、PDE5阻害薬、ステロイド性および非ステロイド性抗炎症薬ならびに抗ヒスタミン薬を含む。
【0128】
(動物モデルとヒトの間の相関関係)
モデルの系統とその結果を伝えることが重要である。血統は、モデルが十分に確立された理論的枠組みに基づいている程度などの要因を考慮する(SCANNELL, J.W., and BOSLEY, J. When Quality Beats Quantity: Decision Theory, Drug Discovery, and the Reproducibility Crisis. PLoS One. 11(2): e0147215, 2016)。ここでは、緑内障の前臨床モデルでのPnPP-19の活性を示す。そして、ヒト患者を処置する方法は、動物で得られた結果から導き出される。
【0129】
前臨床データの臨床設定への翻訳可能性は、動物モデルがどれほど予測可能であるかに大きく依存する。同様に、予測可能性は、構成概念妥当性の関数であり、実験の特徴のセットが意図されたエンティティの特徴を表す程度として正式に定義される。前臨床研究では、動物モデルにおける機能的特徴(例えば、疾患の病因、発症と進行、症状、治療スケジュールと投与経路、および転帰)とヒトにおける処置を意図した疾患との関係を説明するために、構成概念妥当性がしばしば用いられてきた(HENDERSON, V.C., KIMMELMAN, J., FERGUSSON, D., GRIMSHAW, J.M., HACKAM, D.G. Threats to validity in the design and conduct of preclinical efficacy studies: a systematic review of guidelines for in vivo animal experiments. PLoS Med, 10(7): e1001489, 2013)。
【0130】
Hendersonら(2013)は、前臨床試験ガイドラインに関する文献をレビューし、前臨床試験の構成概念妥当性を改善するための推奨事項、すなわち以下を概説している:(i)疾患のヒト症状をモデルに一致させる;(ii)ベースラインでの動物の特性の特徴付け;(iii)治療送達の時間を予想される臨床設定に一致させる;(iv)投与経路を所望の臨床応用に適合させる;(v)薬物動態を決定する;(vi)結果測定を臨床設定に一致させる;(vii)機構的経路に従って治療反応を検証する;(viii)疾患の表現型の複数の症状を評価する;(ix)検証済みのアッセイを用いて分子経路を評価する;(x)実験設定に関連する混乱に対処する。これらの推奨事項は、さらに説明する実施例の設計を導いた。
【0131】
成功した高血圧性緑内障モデルは、IOPの上昇に伴う網膜神経線維、網膜神経節細胞、視神経乳頭カッピングの喪失など、構造的な緑内障の変化を誘発するはずである。IOP上昇のレベルおよび持続時間は、標的とする緑内障損傷に応じて漸増可能(titratable)である必要がある。
【0132】
特に緑内障を処置するための新薬の開発において、緑内障の処置に現在用いられている薬物のIOP低下能力を実証するために動物モデルを用いた文献に関連情報がある。解剖学的な違いはいくつかあるが(表1)、少なくともIOPを低下させることを目的とした医薬に関して、緑内障の高眼圧動物モデルは、市販に移る薬物をより適切に特定できる(CHAN, C. Animal Models of Ophtalmic Diseases. Springer, Cham. 2016)。ヒト疾患に関して予想力が最高であるモデルは、IOPの実験的上昇によってRGC変性を達成するモデルである。
【表1】
【0133】
ウサギは、プロスタグランジン類似体を除いて、ほとんどのIOP低下薬に感度が良い(WOODWARD, D.F., BURKE, J.A., WILLIAMS, L.S., PALMER, B.P., WHEELER, L.A., WOLDEMUSSIE, E., RUIZ, G., CHEN, J. Prostaglandin F2 alpha effects on intraocular pressure negatively correlate with FP-receptor stimulation. Invest Ophthalmol Vis Sci, 30(8): 1838-42, 1989; ORIHASHI, M., SHIMA, Y., TSUNEKI, H., KIMURA, I. Potent reduction of intraocular pressure by nipradilol plus latanoprost in ocular hypertensive rabbits. Biol Pharm Bull, 28(1): 65-8, 2005)。緑内障モデルの1つは、硝子体へ高張食塩水を注射することにより実現し得て、これにより動物のIOPが急速に上昇する。この高眼圧は、ラタノプロスト(プロスタグランジン類似体単独)ではなく、ラタノプロステンブノド(NOドナーに結合するプロスタグランジン類似体)を用いた処置によって著しく鈍化し得る(KRAUSS, A.H., IMPAGNATIELLO, F., TORIS, C.B., GALE, D.C., PRASANNA, G., BORGHI, V., CHIROLI, V., CHONG, W.K., CARREIRO, S.T., ONGINI, E. Ocular hypotensive activity of BOL-303259-X, a nitric oxide donating prostaglandin F2α agonist, in preclinical models. Exp Eye Res, 93(3):250-5, 2011)。イヌでは、より具体的には遺伝性POAGのビーグル犬が1981年に記述され、以前として極めて用いられている緑内障モデルである(GELATT, K.N., GUM, G.G., GWIN, R.M. Animal model of human disease. Primary open angle glaucoma. Inherited primary open-angle glaucoma in the beagle. American Journal of Pathology, 102(2): 292-295, 1981; BOUHENNI, R.A., DUNMIRE, J., SEWELL, A., EDWARD, D.P. Animal models of glaucoma. J Biomed Biotechnol, 2012:692609, 2012)。ラタノプロステンで処置された緑内障のイヌは27%のIOPの低下を示し、ラタノプロステンのブノドで処置された緑内障のイヌは44%のIOPの低下を示した(KRAUSS, A.H., IMPAGNATIELLO, F., TORIS, C.B., GALE, D.C., PRASANNA, G., BORGHI, V., CHIROLI, V., CHONG, W.K., CARREIRO, S.T., ONGINI, E. Ocular hypotensive activity of BOL-303259-X, a nitric oxide donating prostaglandin F2α agonist, in preclinical models. Exp Eye Res, 93(3):250-5, 2011)。ラタノプロスト(プロスタグランジン単独)よりもラタノプロスト(NOドナーとプロスタグランジンの結合)の方が効果的であるため、これらのモデルは、NO経路に作用する新薬を試験するのに十分である。
【0134】
マイクロビーズの前房内注射、レーザー光凝固、強膜上静脈焼灼、高張食塩水およびヒアルロン酸(HA)の注射を含む、いくつかの誘発性げっ歯類高血圧性緑内障モデルがある(BISWAS, S., WAN, K.H. Review of rodent hypertensive glaucoma models Acta Ophthalmol, 97(3), 2019)。
【0135】
HAの注射はラットに緑内障を誘発する。HAモデルには再介入が必要であるが、62日まで一貫して高いIOPを維持する。げっ歯類では、このモデルは、ラットの前房が浅いため、HAの単回注射の効果が長く続くので、HAの実際の前房内濃度は他の種よりも高くなり、加えてラットでのHAのウォッシュアウトが不完全になる。HAの過剰な沈着は、角膜強膜小柱間スペースの直径を減少させること、および/または小管近傍基底膜を通る水流を調節することにより、房水(AH)の通常の流出を回避し得る。HA注射を繰り返すと、高血圧状態が10週間に延長され、40%のRGC損失となり得る(BENOZZI, J., NAHUM, L.P., CAMPANELLI, J.L., ROSENSTEIN, R.E. Effect of hyaluronic acid on intraocular pressure in rats. Invest Ophthalmol Vis Sci, (7):2196-200, 2002)。
【0136】
一般に、これらのタイプの高血圧性緑内障モデルにおいて、昼間IOPを19%低下させ、ピーク減少を26%以上にした薬物候補が最終的に市場に登場したが、非市販薬の平均ピーク減少は15%であった(STEWART, W.C., MAGRATH, G.N., DEMOS, C.M., NELSON, L.A., STEWART, J.A. Predictive value of the efficacy of glaucoma medications in animal models: preclinical to regulatory studies. Br J Ophthalmol, 95(10):1355-60, 2011)。動物とヒトの間の解剖学的な違いは、例えば動物モデルで圧力が低下する時間の長さがヒトよりしばしば短いため、ほとんど矛盾がないことを説明し得る(STEWART, W.C., MAGRATH, G.N., DEMOS, C.M., NELSON, L.A., STEWART, J.A. Predictive value of the efficacy of glaucoma medications in animal models: preclinical to regulatory studies. Br J Ophthalmol, 95(10):1355-60, 2011)(表2)。
【表2】
【0137】
本発明のいくつかの実施態様の高眼圧症および/または視神経変性に関連する眼疾患を予防および処置する方法は、上記説明に照らして、以下の実施例から導き出し得る。
【実施例
【0138】
(PnPP-19の合成)
本発明のNO誘導ペプチドを、GenOen社(Rio de Janeiro、Brazil)によって製造された樹脂リンクアミド(0.68mmol/g)中で、固体支持体におけるFmoc/t-ブチル合成により化学的に合成した。最終的な切断および脱保護を、水-TFA-1.2-エタンジチオール-トリイソプロピルシラン、92.5-2.5-2.5-2.5(v/v)、25℃、180分で実施した。ペプチドを50%(v/v)のアセトニトリル水溶液で抽出し、そして、水TFA0.1%で平衡にしたSephasil C8ペプチドのカラム(5μST4.6/100-HPLC)で逆相クロマトグラフィー(RPC)により精製した。試料を、0.1%TFAを含むアセトニトリルのグラジエントを用いて、流速2ml/分、280nmにて溶出した。さらに、ペプチドは、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化されていた。
【0139】
(HET-CAMシステム、眼刺激モデル)
鶏の卵-漿尿膜(HET-CAM)を用いて、様々な濃度のPnPP-19の抗刺激特性を評価した。PnPP-19を300μLの生理食塩水に溶解させて、20μL(1滴点眼の量)中40μg、80μg、160μg、320μgの濃度を得た。陰性対照として塩化ナトリウム0.9%(NaCl)を使用し、陽性対照として水酸化ナトリウム0.1M(NaOH)を使用した。
【0140】
反応の出現および強度を、0秒、30秒、2分、5分にて観察した。反応を、半定量的分析に従って、0(反応なし)から3(強い反応)までのスケールで分類した。その後、眼刺激指数(OII)を次の式によって計算した:
【数1】
式中、hは出血の開始時からの時間(秒単位)、lは溶解、cは凝固である。次の分類を用いた:OII≦0.9:わずかに刺激性;0.9<OII≦4.9:中程度の刺激性;4.9<OII≦8.9:刺激性;8.9<OII≦21:重度の刺激性。
【0141】
結果は、陽性対照である0.1M NaOHが、出血およびロゼット様凝固などの最初の30秒で初期病変を引き起こすことを示した(図1A)。陽性対照(0.1M NaOH)の平均累積スコアは21.11±0.32であり、重度の刺激性があるため、この対照が適切であることを示している(表3)。
【0142】
試験したすべての濃度の陰性対照およびPnPP-19は、血管反応の兆候を示さず(図1B~F)、試験で計算した平均累積スコアは、0.9以下であり、PnPP-19を非刺激性としてランク付けした(表3)。
【表3】
【0143】
(インビボでの単回投与急性毒性)
PnPP-19の単回投与局所適用を、40、80および160μgの用量で300の生理食塩水に溶解させ、点眼剤の形態で20μLの生理食塩水において、正常眼圧のWistarラット(150~200g)で評価し、用量群あたりn=4匹のラットであった。眼底検査および網膜電図検査を、PnPP-19投与後0、1、7および15日目に実施した。15日目に、組織病理学的分析のために眼組織を採集した。0日目は、観察した差を評価するためにいずれの用量の対照時点と見なした。
【0144】
0日目とその後の日の間で眼底検査に関して差は観察されなかった(図2)。蒼白または陥凹はなく、出血およびドルーゼンはどの処置群でも15日目までは検出されなかった。
【0145】
角膜および網膜の組織学的分析は、PnPP-19処置群が、いずれの用量においても0日目(対照)と比較して同じ形態を維持することを示した(図3および4)。
【0146】
網膜電図検査は、0日目(対照)と比較して、すべての処置群でaおよびb波の曲線形状の維持を示し(データは示していない)、いずれのPnPP-19の試験用量においても網膜神経損傷がないことを示している。
【0147】
(健常なラットにおけるIOPの調節)
PnPP-19の有効性を、雄性正常眼圧Wistarラット(150~200g)(n=8)において、0.9%生理食塩水20μL中のペプチド80μgの局所投与後にインビボで評価した。ベースラインにおいて、および動物の左眼の下部結膜嚢にPnPP-19の投与後に、IOP測定を、TonoPen(Tono-PenVet、Reichert)を用いて実施した。右眼を対照(生理食塩水投与)として用いた。測定を行うために、鎮静されていない動物に、0.5%の塩酸プロキシメタカインを点眼することによって局所麻酔をかけた。各眼について3回のIOP読取値(SEが5%未満)を取得した。これらの3回の読取値の平均を、IOPの対応する値と見なした。IOP測定を、PnPP-19の単回投与後1、2、3、4、5、6時間の時点で実施した。IOP低下の%を、次の式で示されるとおり計算した:
【数2】
【0148】
PnPP-19(80μg/20μL)の単回投与後のIOP低下は、次のとおりであった:対照23.25±2.06mmHgと比較して、処置の2時間後、19.08±2.29mmHg;対照22.95±4.35mmHgと比較して、処置の4時間後、18.20±2mmHg;対照22.5±2.13mmHgと比較して、処置の5時間後の17.16±2.13mmHg。その後、このデータを、IOP低下の%(Δ)として表した。PnPP-19は、投与の2、4、5時間後に、IOPをそれぞれ40、36、45%低下させた。この低下は、6時間まで維持された(図5)。
【0149】
(緑内障の高血圧モデルにおけるIOPの調節)
PnPP-19の有効性を最初に、緑内障の雄性Wistarラット(180~220g、7~10週齢、n=6)のIOPの変化を測定することにより評価した。緑内障を、30μLのヒアルロン酸(HA)(10mg/mL)を、同じ暦日かつ同時間に3週間、週に1回、透明な角膜を通って前房に注入することにより、右眼に誘発させた。IOPの評価を、TonoPen(Tono-PenVet、Reichert)を用いて実施した。測定を行うために、鎮静されていない動物に、0.5%の塩酸プロキシメタカインを点眼することによって局所麻酔をかけた。各眼について3回のIOP読取値(SEが5%未満)を取得した。これらの3回の読取値の平均を、IOPの対応する値と見なした。緑内障誘発の前後に網膜電図(ERG)を記録した。眼を摘出し、角膜および網膜を組織学のために準備した。処置群を、HAが適用しなかった左眼を、健常または非緑内障;HAが適用し、対象(ビヒクル、生理食塩水)で処置した右眼を、緑内障で未処置;HAを適用し、眼において80μg/20μL(1滴点眼)PnPP-19で処置した右目を、緑内障でPnPP-19により処置と定義した。
【0150】
従来の点眼剤によるIOP低下は、処置後24時間維持された。高眼圧の確立後、PnPP-19処置群は、健常群と同様に、処置滴下の24時間にて緑内障で非処置群よりIOPが低いことがわかった(それぞれ22.9±3.6対29.4±3.5mmHg、p<0.001)(図6)。
【0151】
HA緑内障モデルの終了時のラットの視力に対するPnPP-19の影響をERGにより分析し、ペプチドが視力に影響を与えるかを評価した。暗順応ERG記録を、処置前およびPnPP-19処置滴下の72時間後に実施した。健常な眼と緑内障の眼を比較すると、ERG曲線のパターンに違いが見られた。緑内障で非処置群とPnPP-19処置群の間に差はなかった(データは示していない)。
【0152】
組織学的分析は、緑内障ラットでは、RGCの神経線維の深刻な損失および視神経の神経線維の大幅な減少のために、視神経の陥凹が増加したことを示した。PnPP-19での処置は、未処置の緑内障群と比較したとき、この組織学的損傷を軽減させた。
【0153】
対照の健常な網膜と比較して、緑内障の未処置の網膜は、細胞数の減少、ならびに神経節細胞層(GCL)における細胞質空胞化および濃縮核の数の増加を示した。内顆粒層(INL)は、より多くの浮腫、核濃縮性核、および細胞の崩壊を示す。外顆粒層(ONL)は、対照網膜と比較して、細胞数の減少、ならびにより多くの浮腫および細胞の崩壊を示す。
【0154】
虚血に影響を受けやすい細胞であるRGCの喪失を、健常な動物と比較して、緑内障の未処置の動物において検出した。PnPP-19は、RGC数を維持する:PnPP-19で処置した緑内障の動物は、未処置の緑内障ラットよりRGC数が多く、健常なラットと比較して統計的差はなかった(それぞれ66.6±12.5個の細胞対93.3±34.6個の細胞、p<0.01)(図7)。
【0155】
(インビボ薬物動態-PnPP-19の眼への浸透および拡散)
蛍光標識PnPP-19(FITC)を、点眼剤(生理食塩水に溶解したペプチド)の形態で、正常眼圧の雄性Wistarラットの眼に80μg/20μlの用量で局所適用した。対照として使用するために、ビヒクル(生理食塩水)を反対側の眼に適用した。3時間後に眼を摘出し、蛍光顕微鏡APOTOME.2 ZEISSを用いた組織学的分析のために準備した。
【0156】
FITC PnPP-19を適用した眼では、ビヒクルと比較して、角膜、硝子体、網膜で蛍光がより多く検出された。このデータは、単純な生理食塩水中の標識PnPP-19が、適用後3時間以内に角膜から網膜上皮に浸透することを示した。
【0157】
(虚血性網膜モデルにおけるPnPP-19の神経保護効果)
網膜虚血は、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、網膜血管閉塞または緑内障などの多くの眼障害において極めて一般的である。網膜虚血は、失明を引き起こし得る不可逆的な形態的および機能的変化を誘発する。以前の報告は、げっ歯類モデルの視神経における虚血/再灌流(I/R)が、様々な網膜細胞タイプの形態的および機能的変化、具体的にはRGCおよびアマクリン細胞の喪失を引き起こすことを示した。その他の変化には、視神経の損傷、神経の変性、組織の溶解、構造の歪み、ミクログリアの活性化の増加が含まれる(RENNER, M., STUTE, G., ALZUREIQI, M., REINHARD, J., WIEMANN, S., SCHMID, H., FAISSNER, A., DICK, H.B., JOACHIM, S.C. Optic Nerve Degeneration after Retinal Ischemia/Reperfusion in a Rodent Model. Front Cell Neurosci, 11:254, 2017)。
【0158】
網膜におけるPnPP-19の潜在的な神経保護効果を、虚血性損傷の動物モデルで調べた。この目的のために、雄性Wistarラットを、虚血の誘発の前または後にPnPP-19で処置した(20μl中80μg(1滴点眼)を1日1回、7日間投与)。
【0159】
雄性Wistarラット(180~200g)をケタミン塩酸塩90mg/kgおよびキシラジン塩酸塩10.0mg/kgで腹腔内麻酔し、Hughes(HUGHES, W.F. Quantitation of ischemic damage in the rat retina. Exp Eye Res, 53(5): 573-82, 1991)、およびLouzada-Juniorら(Louzada-Junior, P., Dias, J.J., Santos, W.F., Lachat, J.J., Bradford, H.F., Coutinho-Netto, J. Glutamate Release in Experimental Ischaemia of the Retina: An Approach Using Microdialysis. J Neurochem, 59(1):358-63, 1992)の手順に従って網膜を虚血した。IOPを、前眼房にカニューレを挿入することによって上昇させ、空気だめに接続したマノメーター/ポンプに取り付けた滅菌27ゲージの針(HUGHES, W.F. Quantitation of ischemic damage in the rat retina. Exp Eye Res, 53(5): 573-82, 1991)が、IOPを155mmHgに40分間上昇させ、虚血を引き起こした(血流が遮断されると眼底が白くなることで示される)。
【0160】
虚血期間の後、IOPは45分間正常レベルに戻すことができた(再灌流期間、その間に眼底の色は正常に戻る)。各動物の左網膜は、実験条件、虚血および/または再灌流に供され、一方、右網膜は、非虚血性対照として機能した。
【0161】
PnPP-19が網膜虚血によって引き起こされる損傷から網膜と視神経に神経保護効果をもたらすことができるかを評価するために、2つの試験を行った:
【0162】
試験1(後処置)-生理食塩水20μl(1滴)中のPnPP-19 80μgを、動物に網膜虚血を誘発した後に、同時に7日間点眼した。試料数は、1群当たり6匹の動物/眼に等しかった。
【0163】
試験2(前処置または予防)-生理食塩水20μl(1滴)中のBZ371 80μgを、動物に網膜虚血を誘発する前に、同時に7日間点眼した。試料数は、1群当たり6匹の動物/眼に等しかった。
【0164】
すべての群で網膜眼虚血を誘発した後に、虚血誘発の1日後および7日後に網膜電図(ERG)により網膜機能を評価した。ERGを、International Society for Clinical Electrophysiology(ISCEV)ガイドラインに準拠して実施した。ERGを、PnPP-19投与(80μg/眼)の0時間後および72時間後に実施した。ERGを、Espion e2電気生理学システムおよびガンツフェルトLED刺激装置(ColorDomeTMデスクトップガンツフェルト、Diagnosys LLC、Littleton、MA)を用いて記録した。すべてのERGを、12時間の暗順応後に記録した。0.5%トロピカミド(Mydriacyl;Alcon、Sao Paulo、Brazil)を1滴用いて瞳孔を拡張させ、ERGを記録する前に、筋肉内注射(ケタミン塩酸塩90mg/kgおよびキシラジン塩酸塩10.0mg/kg)で動物を麻酔した。眼を、ERG記録の直前に、0.5%のプロキシメタカイン塩酸塩(Anestalcon;Alcon、Sao Paulo、Brazil)で局所麻酔した。双極コンタクトレンズ電極を両方の角膜に配置し、針電極を後ろに挿入した。インピーダンスを、各電極で25Hzにて5kΩ未満に設定した。暗順応(暗所視)ERGプロトコルを、修正ISCEVプロトコルに従って記録し、次の順序で提示した:ロッド(0.01cd.s/m2)および複合反応(3cd.s/m2)、刺激間隔(ISI)は30秒、持続時間は4ミリ秒。
【0165】
7日後、動物を安楽死させ、組織学的分析のために眼を採集した。屠殺直後に、眼を摘出し、Davidson溶液(10%中性リン酸緩衝ホルマリン2部、95%エタノール3部、氷酢酸1部、超純水3部)中で固定した。試料をパラフィン中に含ませ、角膜と網膜の背側から腹側へ観察できるように矢状面のパラフィンと厚さ4μmの切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、顕微鏡(Zeiss(登録商標)、Model Axio Imager M2)を用いて光学顕微鏡下で無髄領域において分析した。
【0166】
Hughesの報告およびLiの報告によると、以前の研究は、網膜層の厚さの変化が細胞数の変化を正確に反映することを示した(HUGHES, W.F. Quantitation of ischemic damage in the rat retina. Exp Eye Res, 53(5): 573-82, 1991; LI, L., WANG, Y., QIN, X., ZHANG, J., ZHANG, Z. Echinacoside protects retinal ganglion cells from ischemia/reperfusion-induced injury in the rat retina. Molecular Vision; 24:746-758, 2018)。様々な層の厚さを測定して、細胞喪失の程度を定量し、ラット網膜における虚血性損傷を測定した。網膜全体(内境界膜と色素上皮の間)、内顆粒層(INL)および外顆粒層(ONL)の厚さを測定した。測定(400X)を、視神経乳頭から0.5mm背側および腹側で行った。神経節細胞層(GCL)の細胞数を、直線細胞密度(200μmあたりの細胞数)を用いて計算した。各眼について、各半球における隣接する位置で3回の測定を行った。各群の代表値として、3つ以上の眼の平均を記録した。
【0167】
虚血誘発後のPnPP-19の滴下の影響を、虚血/未処置(図9A)、虚血/PnPP-19後処置(図9B)、および健常網膜(図9C)を比較したときに観察された組織学的変化によって分析した。PnPP-19後処置は、すべての層で空胞化および濃縮核の数の減少を示すことを除いて、健常網膜と比較して同様の組織を示す(図9B~C)。一方、虚血/未処置の網膜では、GCLは細胞密度が低く、空胞化、濃縮核の数(黒色矢印)および細胞の崩壊が増加した。INLはまた、細胞が少なく、濃縮核および細胞質の液胞が多かった。また、健常および虚血/PnPP-19後処置の網膜と比較して、ONLの細胞は少なかった(図9A~C)。
【0168】
虚血/PnPP-19後処置群の網膜の全体的な厚さは、健常群と同様であり(174.66±19.66μm対175.31±14.22μm);一方、虚血/未処置群において、健常群および虚血/PnPP-19処置群と比較して約30%(121.08±21.38μm)減少した(両方の比較でp:<0.001)。虚血/PnPP-19処置群のINLおよびONLの厚さは、健常群と同様であり(INL-31.82±3.14μm対31.16±3.80μm)、(ONL-47.39±1.93μm対44.98±9.47μm);一方、虚血/未処置群において、INLおよびONLの厚さは、健常群と比較してそれぞれ20%と28%減少し(それぞれp<0.05とp:<0.001)、虚血/PnPP-19処置群と比較して24%と30%減少した(それぞれp:<0.05およびp:<0.001)。GCL数は、虚血/PnPP-19処置群と健常群の間で同様であった(200μmあたり31.75±3.5対30.0±5.5細胞)(表4)。GCL密度は、虚血/PnPP-19処置群および健常群と比較して、虚血/未処置群でそれぞれ35%および31%減少した(p:両方で<0.001)(図9)。この結果は、PnPP-19が、網膜虚血によって引き起こされる組織損傷を軽減し、RGC損失を回避することを示した。
【表4】
【0169】
試験1(PnPP-19後処置)のERG分析は、虚血/未処置および虚血/PnPP-19後処置の眼のERG曲線のパターンの違いを示した。健常な眼と比較した場合、暗順応状態でのa波とb波の振幅および陰的時間の変化が観察されるが、曲線の形状はどの群でも影響を受けなかった。処置を受けている虚血性眼と受けていない虚血性眼の間に有意差はなかった。ERGによって網膜の機能的活動を評価する別の方法は、健常な眼(対照群の平均値は100%)と比較して、暗所視条件下での刺激発光3cd.sm-2に応答したa波とb波の振幅間の比率(%)を計算することである。未処置とPnPP-19後処置の虚血性眼の間に有意差がないことを観察できた(図10)。
【0170】
虚血誘発前のPnPP-19の滴下の影響を、虚血/未処置(図11A)、虚血/PnPP-19後処置(図11B)および健常網膜(図11C)を比較したときに観察された組織学的変化により分析した。虚血/未処置の網膜群(図11A)は、健常網膜群と比較して、神経節細胞層(GCL)における細胞数の減少、細胞質空胞化および濃縮核の数の増加を示し;それに加えて、INLは、濃縮核と細胞の崩壊を示し;ONLは、細胞数の減少を示す(表5)。PnPP-19前処置の網膜群(図11B)において、細胞の変性、濃縮核または崩壊は観察されなかった。
【0171】
虚血/未処置群の網膜の全体的な厚さは、健常群と比較して約21%減少し(140.68±13.37対179.47±12.42μm、p<0.001);虚血/PnPP-19前処置群は、虚血/未処置群と比較して11%厚い厚さを示し(157.12±8.43μm対140.68±13.37μm、p<0.05)、健常群と比較して約17%減少したが、統計的に有意ではなかった(157.12±8.43μm対179.47±12.42μm)(表5)。
【0172】
虚血/未処置群のINLの厚さは、健常群と比較して22%減少した(24.83±4.08対31.91±3.94μm、p<0.05)。ONLの厚さは、10%減少したが、健常群と統計的差はなかった(39.77±7.09対44.40±3.70μm)。虚血/PnPP-19前処置群のINLおよびONLの厚さは、健常群および虚血/未処置群のどちらとも統計的差はなかった(表3)。
【0173】
GCL密度は、虚血/PnPP-19前処置群および健常群と比較して、虚血/未処置群でそれぞれ36%および40%減少した(両方ともp<0.05)(表5、図11)。
【表5】
【0174】
試験2のERG分析は、虚血/未処置の眼と比較して健常な眼で0.01および3.0cd.ms-2への曝露中のb波の陰的時間の統計的差を示したが、虚血/PnPP-19前処置の眼ではそうではなかった。暗所視条件下での刺激発光3cd.sm-2に応答したa波とb波の振幅の比率(%)は、健常な眼と比較して、虚血/未処置と虚血/PnPP-19前処置の眼の間に有意差がなかったことを示し;しかし、虚血/PnPP-19前処置の網膜では、b/a比の増加傾向が観察された(図12)。
【0175】
全体として、試験1と試験2の両方で、PnPP-19は、虚血性損傷に対してRGCを処置し、保護し、これは、虚血性損傷後の組織損傷の減少およびラットの視力の改善によって示され、健常な眼の値に近づいた。
【0176】
(PnPP-19のインビボ薬理試験)
Griess法を用いて亜硝酸塩の濃度を測定することにより、NOレベルを間接的に決定した。PnPP-19またはビヒクルを健常なラットに局所投与した。2時間後、動物を安楽死させ、眼を採集した(N=6)。水晶体および網膜を摘出した。各動物からの残りの組織を100μLの生理食塩水でホモジナイズした。
【0177】
その後、試料を4℃(5000g、10分)で遠心分離し、30μLのホモジネートをマイクロリットルプレートウェルに2回ずつ適用し、続いて30μLのGriess試薬(5%[v/v]リン酸中の0.2%[w/v]ナフチレンエチレンジアミンおよび2%[w/v]スルファニルアミド)を適用した。室温にて10分後、マイクロプレートリーダー(Tecan Infinite00 PRO、Meilen、Switzerland)を用いて540nmの波長にて吸光度を測定した。NO2-標準参照曲線を、20、15、12.5、10、5および1.5μMの生理食塩水中NO2-ナトリウムを用いて作成した。アッセイの検出限界は、蒸留水中約1.5μMであった。眼組織中で見られたタンパク質の総量を、NanoDrop 2000分光光度計(Thermo Scientific Madison、WI)により推定し、亜硝酸塩の放出をタンパク質1μgあたりで正規化した。
【0178】
PnPP-19は、ビヒクルと比較して、健常なラットの眼組織における亜硝酸塩の生成の増加を刺激する(48.70±1.19対31.01±0.38の亜硝酸塩nmol/mgタンパク質)(図13)。
【0179】
(第1相臨床試験(ヒト))
PnPP-19の安全性および忍容性を評価するために、12人の健常な対象体(男性6人と女性6人)を選んだ。PnPP-19を1日1滴(生理食塩水50μL中ペプチド250μg(0.5%)を含む)として片方の眼に7日間適用し、一方、ビヒクル(ペプチドを含まない製剤)を反対側の眼に適用した。眼を、各介入に対して二重盲検で無作為化した。
【0180】
安全性を、スリットランプを生体顕微鏡と組み合わせることにより眼科医が分析して、眼の前部と後部を検査した。この手順を、処置の1、2、3、4および7日目に、各被験者の両眼で実施した。安全性の所見はなかった。さらに、試験中、血圧、心拍数、体重、身体検査および心電図の結果に差はなかった。
【0181】
忍容性を、毎日の忍容性アンケートにより分析した。4つの事象が報告された:1名の患者は、PnPP-19を点眼した直後に、たった1日で軽度で極めて短期間の眼におけるそう痒を起こし;2名の患者は、PnPP-19(1名の患者)およびビヒクル(もう1名の患者)を点眼した直後に、たった1日で軽度で極めて短期間の眼の灼熱感を起こした。1名の患者は、数分間続く軽度の頭痛を報告した。調査者は、これらの有害事象はいずれもPnPP-19に関連していないと判断した。
【0182】
IOPを、PnPP-19またはビヒクルの滴下の前と1、2、4、6および24時間後に非接触眼圧計で測定した。処置3日目のIOPは、1日目のIOPより統計的に低かった(図14)。
図1
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【配列表】
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【国際調査報告】