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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-02
(54)【発明の名称】腐食抑制
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/12 20060101AFI20221125BHJP
   C10M 129/95 20060101ALI20221125BHJP
   C10M 129/78 20060101ALI20221125BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20221125BHJP
   C10M 133/42 20060101ALI20221125BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20221125BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
C23F11/12
C10M129/95
C10M129/78
C10M169/04
C10M133/42
C10N30:12
C10N20:04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519821
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 US2020053439
(87)【国際公開番号】W WO2021071709
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/911,590
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508276992
【氏名又は名称】クローダ,インコーポレイティド
(71)【出願人】
【識別番号】506352278
【氏名又は名称】クローダ インターナショナル パブリック リミティド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン レイチェル サーギンソン
(72)【発明者】
【氏名】マカイ タビビ
【テーマコード(参考)】
4H104
4K062
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB36C
4H104BC09C
4H104DA02A
4H104EA03C
4H104LA06
4K062AA01
4K062AA03
4K062BC01
4K062BC13
4K062BC19
4K062BC22
4K062FA11
4K062GA10
(57)【要約】
本発明は、ポリエステル腐食抑制剤の添加により、基油または潤滑油の使用中に経験する腐食を抑制する方法に関する。より詳細には、当該ポリエステル腐食抑制剤は、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換無水コハク酸と少なくとも1種のポリオールとの反応生成物である。かかるポリエステル腐食抑制剤を含む組成物、および腐食抑制剤としてのかかる組成物の使用、ならびにかかるポリエステル腐食抑制剤を含む基油または潤滑油も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られるポリエステル腐食抑制剤の有効量を基油または潤滑油に添加することによる腐食を抑制する方法。
【請求項2】
前記ポリエステル腐食抑制剤の前記有効量が、前記基油または潤滑油の総質量に基づいて0.01質量%~1.0質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の前記平均数が2.5未満である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の前記平均数が2.0未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルキル(アルケニル)基がポリオレフィンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキル(アルケニル)基がポリイソブチレンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アルキル(アルケニル)基が100~15,000の平均分子量を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の前記平均数が2.5~30である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の前記平均数が3~15である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリエステルが、1,500~500,000の平均分子量Mnおよび/または3,000~1,000,000の平均分子量Mwを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリエステルが、少なくとも2つのアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物基の反応残基を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリエステルが、2~30個のポリオール基の反応残基を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリオールがソルビトールである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のポリエステル腐食抑制剤を含む組成物。
【請求項15】
さらに、希釈剤を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記基油または潤滑油の総質量に基づいて0.01質量%~1.0質量%の請求項1~13のいずれか一項に記載のポリエステル腐食抑制剤を含む、基油または潤滑油組成物。
【請求項17】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られるポリエステルの、基油または潤滑油における腐食抑制剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2019年10月7日に出願された米国仮出願第62/911,590号の優先権を主張し、その内容は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に援用される。
(発明の属する技術分野)
本発明は、ポリエステル腐食抑制剤の添加による基油または潤滑油における腐食を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、工業、海洋および金属加工用途で使用される潤滑油は、典型的には、グループI~Vの基油(一般に「基油」と呼ばれる)と、潤滑油の特定の特性(例えば、摩擦および摩耗の低減、粘度の増加、粘度指数の改善、ならびに腐食、酸化、エージングまたは汚染に対する耐性)を付与または強化する1種または2種以上の添加剤とを含む。グループI~IIIの基油は、パラフィン系であり、石油原油から精製されたものであり、グループIVの基油は完全に合成(ポリアルファオレフィン)油であり、グループVの基油は、エステル、ナフテン系、シリコーン、リン酸エステル、ポリアルキレングリコール(PAG)などの、先のカテゴリーに属さないその他の基油として区分されている。
【0003】
腐食抑制剤は、潤滑油と接触する材料(典型的には金属)が、潤滑油とその材料との間のその環境による化学反応のために腐食する速度を減少させるため、望ましい添加剤として多くのタイプの潤滑油(例えば、任意のグループI~Vの基油とともに、油圧流体及びグリース中で)において一般的に使用されている。
【0004】
これらの潤滑油用途に使用される典型的な腐食抑制剤は、スルホネート誘導体、アゾール誘導体(例えば、イミダゾリン、チアジアゾール、ベンザトリアゾール)、アミン類、サルコシン類および二塩基酸塩(例えば、ドデカン二酸アミン塩)である。
【0005】
腐食抑制剤の使用は先行技術文献に記載されている。
【0006】
米国特許出願公開第2014/0274847号明細書は、アルケニルコハク酸無水物とポリアルキレングリコール油との反応生成物を使用して基油における腐食抑制を達成することに関する。
【0007】
米国特許第5,292,480号明細書は、C18不飽和脂肪酸と無水マレイン酸とから生成された酸無水物エステルであって、多価アルコールと後反応したもの、から形成された腐食抑制剤に関する。
【0008】
PCT特許公開WO2017/117346には、金属加工流体で使用するための腐食抑制剤としての、多座配位性の酸とポリアルキレングリコールと酸無水物(例えば、アルキルおよび/またはアルケニルコハク酸無水物)との反応生成物の使用が記載されている。
【0009】
米国特許出願公開第2011/0160405号明細書には、未精製原油、原料または炭化水素ストリームにおけるナフテン酸腐食抑制剤としての、ポリイソブチレンコハク酸エステルの高分子リン酸エステルの使用が記載されている。
【0010】
米国特許第3,382,056号明細書には、精製燃料組成物防錆剤としての、無水マレイン酸と脂肪族オレフィンとの低分子量コポリマーの使用が記載されている。
【発明の概要】
【0011】
従って、本発明は、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られるポリエステル腐食抑制剤の有効量を基油または潤滑油に添加することによって腐食を抑制する方法を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物と少なくとも1種のポリオールとの反応生成物であるポリエステル腐食抑制剤を含む組成物を提供する。好適には、かかる組成物は、腐食抑制剤組成物であると理解することができる。
【0013】
本発明はまた、基油または潤滑油の総質量に基づいて0.01質量%~1.0質量%のポリエステル腐食抑制剤を含む基油または潤滑油組成物を提供する。
【0014】
本発明はまた、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られるポリエステルの腐食抑制剤としての使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、グループIの基油中での腐食抑制剤についての試験データを示す。
図2図2は、グループIIの基油中での腐食抑制剤についての試験データを示す。
図3図3は、グループIIIの基油中での腐食抑制剤についての試験データを示す。
図4図4は、グループIVの基油中での腐食抑制剤についての試験データを示す。
図5図5は、グループVの環境的に許容可能な基油中での腐食抑制剤についての試験データを示す。
図6図6は、グループVの環境的に許容可能な基油中での腐食抑制剤についての独立したテストハウスでのテストデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ポリエステル腐食抑制剤に関する組成物、方法および使用に関する。当該ポリエステル腐食抑制剤は、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られる(アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物と少なくとも1種のポリオールとの反応生成物である)。
【0017】
より詳細には、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られるポリエステル腐食抑制剤の有効量を基油または潤滑油に添加することによって腐食を抑制する方法において、上記有効量は、基油または潤滑剤の総質量を基準にしてポリエステル腐食抑制剤が0.01質量%~1.0質量%である量であることができる。好ましくは、この方法は、0.02質量%~0.7質量%、より好ましくは0.03質量%~0.5質量%、最も好ましくは0.05質量%~0.3質量%、さらに0.05質量%~0.1質量%のポリエステル腐食抑制剤を基油または潤滑油に添加することを含む。
【0018】
次に、本発明のポリエステル腐食抑制剤の特徴について、より詳細に説明する。
【0019】
上述のとおり、好適には、前記アルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物は、アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が、3.0未満であり、好ましくは2.5未満、より好ましくは2.0未満である。
【0020】
本開示で使用されるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物のアルキル(アルケニル)基は、好ましくは、アルケニル基である。アルキル(アルケニル)、好ましくはアルケニル基は、好適には、モノオレフィン、好ましくは2~6個、より好ましくは3~4個の範囲内の炭素原子を含むモノオレフィンを重合することによって得られるポリオレフィンである。好適なモノオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンおよびこれらの混合物が挙げられる。イソブチレンが特に好ましい。好適には、本発明で使用されるイソブチレンは、当業者に知られているように、石油化学ルートまたは発酵ルートのいずれかによって得ることができ、したがって、ポリイソブチレン(PIB)は、特に好ましいアルキル(アルケニル)基であり、ポリイソブチレンコハク酸無水物(PIBSA)は、特に好ましいアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物である。
【0021】
一実施形態において、アルキル(アルケニル)基は、C6~C20、好ましくはC8~C18のアルケンである。具体例としては、オクテン、ドデセンおよびオクタデセンが挙げられ、これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。好適なアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物は、オクテンコハク酸無水物(OSA)、分岐ドデセンコハク酸無水物(DDSA)、およびオクタデセンコハク酸無水物(OSA)である。
【0022】
アルキル(アルケニル)基を、好適には、無水マレイン酸、マレイン酸、またはマレイン酸モノ-もしくはジ-C1~C6アルキルもしくはアルケニル、例えばマレイン酸ジブチル、好ましくは無水マレイン酸と反応させて、当該技術分野で周知の方法を使用してアルキル(アルケニル)置換スクシネートを形成することができる。
【0023】
アルキル(アルケニル)基、好ましくはPIBは、好適には、100~15,000、好ましくは500~3,000、より好ましくは750~1,500、特に850~1,100、とりわけ900~1,000の範囲内の平均分子量、好ましくはMn(本開示に記載したように測定される)を有する。
【0024】
アルキル(アルケニル)基は、好適には、5~180個、好ましくは10~55個、より好ましくは13~30個、特に15~20個、特に16~18個の範囲内のモノマー単位、好ましくはモノオレフィン単位、特にイソブチレン単位を含む。
【0025】
市販のPIBには、従来のPIBと高反応性PIBの少なくとも2つの異なるグレードが存在する。高反応性PIBは、末端二重結合の濃度が高いことにより特徴づけられる高いビニリデン含有量を有し、好適には70%を超え、好ましくは80%を超え、最大で100質量%までのビニリデン含有量を有する。高反応性PIBは、本開示に記載のポリエステル腐食抑制剤に好ましく使用される。
【0026】
本開示で使用されるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物において、アルキル(アルケニル)基、好ましくはPIB1個当たりのコハク酸基の平均数は、3.0未満である。アルキル(アルケニル)基、好ましくはPIB1個当たりのコハク酸基の平均数は、好適には0.3~2.5の範囲内であり、好ましくは1.0~1.6の範囲内である。
【0027】
アルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物は、無水マレイン酸、マレイン酸、またはマレイン酸モノ-もしくはジ-C1~C6アルキルもしくはアルケニル、例えばマレイン酸ジブチル、好ましくは無水マレイン酸を、モノオレフィン、好ましくはPIBと、好適には0.3~2.5:1、好ましくは1.0~1.6:1のモル比で反応させることによって得ることができる。
【0028】
ポリエステル腐食抑制剤を形成するために本開示で使用されるポリオール出発材料は、好ましくは、2~20、好ましくは3~10、より好ましくは4~8の範囲内、特に6個のヒドロキシル基を含む。好適なポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールおよびポリグリセロール(例えば、最大で6個まで、好ましくは最大で3個までのグリセロール単位を含む)、例えばトレイトールおよびエリスリトールなどのC4ポリオール、例えばイノシトール、アラビトール、リビトール、キシリトールおよびペンタエリトリトールなどのC5ポリオール、例えばガラクチトール、フシトール、イジトール、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトールや、ソルビタンなどの誘導された物質や、例えばスクロースなどのC12ポリオールが挙げられる。C4~C6ポリオールは、対応するテトロース糖、ペントース糖およびヘキソース糖の還元または水素化された形態のものであることができる。
【0029】
好ましくは、ポリオールは、グリセロール、ポリグリセロール、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ソルビタン、スクロースおよびそれらの混合物からなる群から選択され、より好ましくは、ペンタエリトリトール、マンニトール、ソルビトール、ソルビタンおよびそれらの混合物からなる群から選択され、特に、マンニトール、ソルビトール、ソルビタンおよびそれらの混合物からなる群から選択され、特に、ソルビトール、ソルビタンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましい一実施形態において、ポリオールは、ソルビトールを含むか、実質的にソルビトールからなるか、または、ソルビトールからなる。
【0030】
ポリオール、好ましくはソルビトールと反応してポリエステル腐食抑制剤を形成するアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物、好ましくはPIBSAと、ポリオール、好ましくはソルビトールとのモル比は、好適には、0.5~10:1、好ましくは0.8~6:1、より好ましくは1.1~4:1、特に1~3:1の範囲内である。
【0031】
ポリエステル腐食抑制剤は、好適には、1,500~500,000、好ましくは2,000~50,000、より好ましくは2,500~15,000、特に3,000~10,000、とりわけ3,500~5,000の範囲内の数平均分子量(Mn)(本開示に記載したように測定される)を有する。
【0032】
ポリエステル腐食抑制剤は、好適には、3,000~1,000,000、好ましくは5,000~100,000、より好ましくは7,000~40,000、特に8,000~20,000、特に9,000~12,000の範囲内の質量平均分子量(Mw)(本開示に記載したように測定される)を有する。
【0033】
ポリエステル腐食抑制剤は、好適には、平均で、少なくとも3個のエステル基を含み、好ましくは4~100、好ましくは5~50、より好ましくは6~30、最も好ましくは6.5~15個の範囲内のエステル基を含む。
【0034】
ポリエステル腐食抑制剤中のアルキル(アルケニル)基、好ましくはPIB基の平均数は、好適には2~30、好ましくは2.5~20、より好ましくは3~15、最も好ましくは3.5~10の範囲内である。
【0035】
ポリエステル腐食抑制剤中のコハク酸基の平均数は、好適には、少なくとも2であり、好ましくは2.5~30、より好ましくは3~15、最も好ましくは3.5~10の範囲内である。
【0036】
ポリエステル腐食抑制剤中のアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物基、好ましくはPIBSAの反応残基の平均数は、好適には、2~30、好ましくは2.5~20、より好ましくは3~15、最も好ましくは3.5~10の範囲内である。
【0037】
ポリエステル腐食抑制剤中のポリオール基、好ましくはソルビトールの反応残基の平均数は、好適には、1~30、好ましくは1.5~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2.5~6の範囲内である。
【0038】
好適なポリエステルの製造方法は公知であり、PCT特許公開番号WO2016/053634に記載されており、この特許公報は参照により本明細書に援用される。しかしながら、製造の際、縮合重合のより良好な制御のために、希釈媒体を加えて、反応混合物の粘度を低下させることができる。希釈剤は、しばしば、縮合重合反応の開始前に加えられる。希釈剤は、パラフィン系、例えば鉱油、または芳香族系であることができる。
【0039】
本発明に従って、上記の実施形態に従うポリエステル腐食抑制剤を含む組成物が提供される。
【0040】
好適には、組成物は希釈剤を含んでいてもよい。この場合、希釈剤媒体中のポリエステル腐食抑制剤の濃度は、好適には、組成物全体を提供し得る希釈剤とポリエステル腐食抑制剤の総合計質量に基づいて、10~90%、好ましくは20~80%、より好ましくは30~70%、特に40~60%、特に45~55%の範囲内であり、あるいは、組成物は、後述するように追加の添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
任意選択的に、ポリエステル腐食抑制剤を含む組成物は、さらなる添加剤を含んでいてもよい。さらなる添加剤の例としては、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、乳化剤、解乳化剤、清浄剤、粘度指数向上剤、消泡剤、流動点降下剤、摩擦低減添加剤、および極圧剤が挙げられ、かかるさらなる添加剤の選択は、組成物の意図する最終用途に依存する。このようにして、ポリエステル腐食抑制剤を含む組成物は、基油または潤滑油に容易に添加して基油または潤滑油をその意図する用途に適したものにすることができる「添加剤パッケージ」として使用することができる。
【0042】
そのため、好適には、上記のようなポリエステル腐食抑制剤を含む組成物は、腐食抑制を提供するために有効な量で基油または潤滑油に組み込むことができる。上記のように、有効量は、基油または潤滑油の総質量に基づいて、ポリエステル腐食抑制剤が0.01質量%~1.0質量%であるという量であることができる。そのため、本発明によって、基油または潤滑油の総質量に基づいて0.01質量%~1.0質量%のポリエステル腐食抑制剤を含む基油または潤滑油組成物も提供される。好ましくは、基油または潤滑油組成物は、0.02質量%~0.7質量%のポリエステル腐食抑制剤、より好ましくは0.03質量%~0.5質量%、最も好ましくは0.05質量%~0.3質量%、さらに0.05質量%~0.1質量%のポリエステル腐食抑制剤を含む。いくつかの特に好ましい実施形態において、基油または潤滑剤は、グループVの環境的に許容可能な基油を含む。基油または潤滑油は、さらなる添加剤、特にポリエステル腐食抑制剤を含む組成物中に任意選択的に存在していてもよい上記のような添加剤を含んでいてもよいことが理解されるべきである。
【0043】
アルキル(アルケニル)基1個当たりのコハク酸基の平均数が3.0未満であるアルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物を少なくとも1種のポリオールと反応させることにより得られるポリエステルの腐食抑制剤としての使用も企図される。かかる使用のための腐食抑制剤の好ましい実施形態は、ポリエステル腐食抑制剤に関連して上に記載したとおりである。
【実施例
【0044】
次に、本発明を、以下に提供される実施例および図を参照してさらに説明する。図面において、
図1 - グループIの基油中での腐食抑制剤についての試験データ、
図2 - グループIIの基油中での腐食抑制剤についての試験データ、
図3 - グループIIIの基油中での腐食抑制剤についての試験データ、
図4 - グループIVの基油中での腐食抑制剤についての試験データ、
図5 - グループVの環境的に許容可能な基油中での腐食抑制剤についての試験データ、
図6 - グループVの環境的に許容可能な基油中での腐食抑制剤についての独立したテストハウスでのテストデータ、
である。
【0045】
以下の実施例では、合成海水の存在下での鉱油の腐食抑制に関する標準試験方法ASTM D665Bを使用した。
【0046】
実施例1
以下の表1に示すように、試験のために4種類の基油(グループI~IVの各1種類)を選択した。
【0047】
【表1】
【0048】
表2に詳述する腐食抑制剤は、本発明に従う様々なポリエステルと、産業上関連する参照として使用したイミダゾリン系の製品とを含む、表1に詳述する基油の各々において、評価した。ここで、ポリエステルは、アルキル(アルケニル)置換コハク酸無水物PIBSAと、示したとおりの様々な炭素長のポリオール(C3、C5またはC6)との反応生成物である。
【0049】
【表2】
【0050】
実施した各評価/試験では、腐食抑制剤有りまたは無しの300mLの対象の基油の混合物を、30mLの合成海水と60℃で4時間撹拌した(ASTM D665Bに準拠)。円柱状のスチール棒を評価対象の溶液に全試験時間中浸漬し、次いで、錆(腐食)と錆の発生の程度を分析した。
【0051】
ASTM D665Bの手順の実施後、スチール棒を、腐食抑制剤が存在しない対象の基油中に浸した棒と比較して、腐食を評価した。結果を1から5までで順位付けし、1が最も腐食が少ないもの(最良)であり、5が最も腐食されたもの(最悪)である。
【0052】
グループIの基油(Core 100)では、イミダゾリン系の製品が最良の腐食抑制効果を示し、本発明に従うC5ポリオールポリエステル腐食抑制剤がそれに続いた。得られた結果を図1に示す。
【0053】
グループIIの基油(EHC45)では、イミダゾリン系の製品が最も優れた腐食抑制効果を示し、本発明に従うC5ポリオールポリエステル腐食抑制剤がそれに続いた。得られた結果を図2に示す。
【0054】
グループIIIの基油(YuBase 4)では、イミダゾリン系の製品が最も優れた腐食抑制効果を示し、本発明に従うC6ポリオールポリエステル腐食抑制剤がそれに続いた。得られた結果を図3に示す。
【0055】
グループIVの基油(PAO 4)では、イミダゾリン系の製品が最も優れた腐食抑制効果を示し、本発明に従うC6ポリオールポリエステル腐食抑制剤がそれに続いた。得られた結果を図4に示す。
【0056】
この実施例における全ての試験について、イミダゾリン系の腐食抑制剤は、最も良好な性能を示した。しかしながら、この性能は、腐食抑制剤が添加されていない基油と比較して、腐食抑制に著しい改善を与えた本発明に従うポリエステル化学物質(特にポリオールC5およびポリオールC6含有ポリエステル腐食抑制剤)が僅差で続いた。本発明に従うポリエステル腐食抑制剤は、一般的に使用されているイミダゾリン系の腐食抑制剤に比べて、危険性がより低いという利点を提供する。
【0057】
実施例2
上記のC5ポリオールおよびC6ポリオールとして示したポリエステル腐食抑制剤を、ASTM D665Bの手順を用いて、グループVの環境的に許容可能な基油中で腐食抑制剤として評価/試験した。この場合、ブレンド比1:1のPriolube(商標) 1973とPriolube(商標) 3987(周知の業界で認定された環境的に許容可能な基油)とのブレンドを基油として使用した。ポリエステル腐食抑制剤を基油中で0.05質量%および0.10質量%のレベルで加え、オイル中で0.05質量%のレベルで提供されたイミダゾリン系の産業上関連する参照と比較した。結果を1から5までで順位付けし、1が最も腐食が少ないもの(最良)であり、5が最も腐食されたもの(最悪)である。
【0058】
このグループ5の基油では、C6ポリオールを含むポリエステル腐食抑制剤が、油中の0.05質量%及び0.10質量%の含有量の両方で最良の腐食抑制効果を示し、イミダゾリン系の参照よりも優れた性能を提供した。得られた結果を図5に示す。このように、本発明のポリエステル腐食抑制剤は、グループVの環境的に許容可能な基油での使用に特に好適であることができる。
【0059】
実施例3
上記の試験に加えて、独立したテストハウス(SGS)を採用し、グループ5の環境的に許容可能な基油としてPriolube(商標) 1973を使用し、同じASTM D665B試験方法を用いて効果を検証した。C6ポリオールを含むポリエステル腐食抑制剤は、選択した基油中で、0.1質量%のレベルで腐食抑制剤として試験した。オレイルサルコシン系の業界のベンチマークである比較例(Crodasinic(商標) O)も、基油中に0.1質量%含まれるレベルで試験した。
【0060】
本発明のポリエステル腐食抑制剤は、腐食抑制剤としてオレイルサルコシン系の業界のベンチマークと同等に機能し、試験終了時にスチール棒に腐食が認められなかった。本発明のポリエステル腐食抑制剤は、しかしながら、オレイルサルコシンよりも危険性が低く、毒性も低いので、その使用にさらなる利点をもたらす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】