(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(54)【発明の名称】ジカ・デングワクチン及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/40 20060101AFI20221223BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221223BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20221223BHJP
C07K 14/08 20060101ALI20221223BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20221223BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20221223BHJP
A61K 39/235 20060101ALI20221223BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20221223BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221223BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221223BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221223BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221223BHJP
【FI】
C12N15/40 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/11 Z
C07K14/08
A61K39/12
A61K39/00 H
A61K39/235
A61P31/14
C12N1/19
C12N1/21
C12N1/15
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526316
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 CN2020127614
(87)【国際公開番号】W WO2021089055
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】201911082867.5
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517121939
【氏名又は名称】中国科学院微生物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MICROBIOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高福
(72)【発明者】
【氏名】戴連攀
(72)【発明者】
【氏名】厳景華
(72)【発明者】
【氏名】徐坤
(72)【発明者】
【氏名】韓雨旋
(72)【発明者】
【氏名】王奇慧
(72)【発明者】
【氏名】黄慶瑞
(72)【発明者】
【氏名】李金和
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA51
4C085BA77
4C085BA99
4C085CC08
4C085DD01
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明はジカ・デングワクチン及びその使用を提供する。本発明は、ジカウイルス又はデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域に突然変異を導入し、この突然変異を有する抗原は、ADEを引き起こす抗体に結合できない。本発明により提供される前記抗原から得られたワクチンは、免疫を獲得した後、FLエピトープによって誘導される抗体の生成を回避することができ、ADE現象の低減又は除去を実現することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカウイルス又はデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する抗原であって、
前記Eタンパク質のFL融合領域は、
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、
(3)W101の単一部位の突然変異、
のうちの一種の突然変異を有する、抗原。
【請求項2】
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、D98、N103、G106、L107、及びF108の5つの部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106、L107、及びF108の3つの部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106及びL107の2つの部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106及びF108の2つの部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、L107及びF108の2つの部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106の単一部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、L107の単一部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、F108の単一部位の突然変異から選択され、又は、
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、W101の単一部位の突然変異から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の抗原。
【請求項3】
Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、以下の突然変異或いは突然変異の組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗原。
【表1】
【表2】
【請求項4】
前記抗原がジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はジカウイルスのMタンパク質の配列の全長又は一部をさらに含み、任意で、前記抗原はジカウイルスのMタンパク質の配列の全長をさらに含み、又は
前記抗原がデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はデングウイルスのMタンパク質の配列の全長又は一部をさらに含み、任意で、前記抗原はデングウイルスのMタンパク質の配列の全長をさらに含む、ことを特徴とする、請求項1に記
載の抗原。
【請求項5】
前記抗原がジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はジカウイルスのprMタンパク質の配列の全長又は一部をさらに含み、任意で、前記抗原はジカウイルスのprMタンパク質の配列の全長をさらに含み、又は
前記抗原がデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はデングウイルスのprMタンパク質の配列の全長又は一部をさらに含み、任意で、前記抗原はデングウイルスのprMタンパク質の配列の全長をさらに含む、ことを特徴とする、請求項1に記載の抗原。
【請求項6】
前記抗原がジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はジカウイルスのEタンパク質の配列の全長又は一部を有し、任意で、前記抗原はジカウイルスのEタンパク質の配列の全長を含み、又は
前記抗原がデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はデングウイルスのEタンパク質の配列の全長又は一部を有し、任意で、前記抗原はデングウイルスのEタンパク質の配列の全長を含む、ことを特徴とする、請求項1に記載の抗原。
【請求項7】
ジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域の抗原結合エピトープであって、
前記ジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域は、アミノ酸配列D98-R99-G100-W101-G102-N103-G104-C105-G106-L107-F108-G109を含み、
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、
(3)W101の単一部位の突然変異、
のうちの一種の突然変異を有する、ことを特徴とするジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域の抗原結合エピトープ。
【請求項8】
請求項7に記載の抗原結合エピトープを含有するジカウイルス抗原。
【請求項9】
デングウイルスのEタンパク質のFL融合領域の抗原結合エピトープであって、
前記デングウイルスのEタンパク質のFL融合領域は、アミノ酸配列D98-R99-G100-W101-G102-N103-G104-C105-G106-L107-F108-G109を含み、
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、
(3)W101の単一部位の突然変異、
のうちの一種の突然変異を有する、ことを特徴とするデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域の抗原結合エピトープ。
【請求項10】
請求項9に記載の抗原結合エピトープを含むデングウイルス抗原。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の抗原、請求項8に記載のジカウイルス抗原或いは請求項10に記載のデングウイルス抗原に結合する抗体。
【請求項12】
請求項1~6のいずれかに記載の抗原、請求項7に記載の抗原結合エピトープ、請求項8に記載のジカウイルス抗原、請求項9に記載の抗原結合エピトープ、又は請求項10に
記載のデングウイルス抗原をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12に記載のポリヌクレオチドを含む発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス或いはウイルス粒子。
【請求項14】
請求項1~6のいずれかに記載の抗原、請求項7に記載の抗原結合エピトープ、請求項8に記載のジカウイルス抗原、請求項9に記載の抗原結合エピトープ、又は請求項10に記載のデングウイルス抗原をコードする、mRNA。
【請求項15】
活性成分として、請求項1~6のいずれかに記載の抗原、請求項8に記載のジカウイルス抗原、請求項10に記載のデングウイルス抗原、請求項12に記載のポリヌクレオチド、請求項13に記載の発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス或いはウイルス粒子、又は請求項14に記載のmRNAを含む、ワクチン。
【請求項16】
前記ワクチンは、不活化ワクチン、弱毒化ワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチン、アデノウイルスワクチン、他のウイルスベクターワクチン、サブユニットワクチン及びウイルス粒子のうちの一種以上を含み、任意で、前記ワクチンはアデノウイルスワクチンであり、及び/又は、
前記ワクチンは薬学的又は獣医学的に許容されるビヒクル、希釈剤、補助剤又は賦形剤をさらに含むことを特徴とする、請求項15に記載のワクチン。
【請求項17】
組換えベクターがパッケージングされたチンパンジーアデノウイルス7型を含み、
前記組換えベクターは、バックボーン及びバックボーンに挿入される標的遺伝子を含む核酸配列を含み、
前記バックボーンは、複製欠損型チンパンジーアデノウイルス7型ベクターであり、
前記標的遺伝子は、請求項12に記載のポリヌクレオチド又は請求項14に記載のmRNAであることを特徴とする、組換えアデノウイルスワクチン。
【請求項18】
ジカウイルス又はデングウイルス感染を予防及び/又は治療するためのワクチンの調製、又は、ジカウイルス又はデングウイルス感染を検出するための検出試薬又はキットの調製における、請求項1~6のいずれかに記載の抗原、請求項7に記載の抗原結合エピトープ、請求項8に記載のジカウイルス抗原、請求項9に記載の抗原結合エピトープ、請求項10に記載のデングウイルス抗原、請求項11に記載の抗体、請求項12に記載のポリヌクレオチド、請求項13に記載の発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス或いはウイルス粒子、又は請求項14に記載のmRNAの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、具体的にジカ・デングワクチン及びその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジカウイルス(Zika virus、ZIKV)は蚊媒介性ウイルスであり、フラビウイルス科フラビウイルス属に属する。2015~2016年にアメリカで発生したZIKVの流行は、中国を含む世界84カ国に広がった。しかし、これまでのところ、利用可能なワクチンおよび薬物は存在しない。ZIKV感染の世界的な発生率は現在減少しているが、ZIKVは、依然として流行地域に住む人々にとって脅威であるので、ZIKVのためのワクチンの開発は一刻の猶予も許さない課題となっている。
【0003】
DENVウイルス(dengue virus,DENV)は、フラビウイルス科フラビウイルス属の蚊媒介性ウイルスであり、4種の血清型が存在する。
【0004】
ZIKVウイルス及びDENVウイルスの構造は類似しており、いずれも二十面体の球状構造を呈し、エンベロープを有し、エンベロープ表面にエンベロープ(Envelope,E)タンパク質を含む。内部のウイルスゲノムは長さ約11kbの一本鎖陽方向鎖RNAであり、1つのオープンリーディングフレームのみを含む。当該ゲノムはポリタンパク質として翻訳され、その後、このポリタンパク質は3つの構造タンパク質(C、prM、E)及び7つの非構造タンパク質(NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B、NS5)に切断されることができる。
【0005】
ZIKV及びDENVの表面の主要なタンパク質である約53kDのEタンパク質は、ウイルスの細胞への侵入および膜融合を媒介するため、中和抗体を活性化するための重要なターゲットである。一方、Eタンパク質もワクチンを設計する際に重要な標的タンパク質である。Eタンパク質は504個のアミノ酸を有し、二量体として存在しており、各単量体は、それぞれ、DI、DII及びDIIIという3つのドメインを有する。DII頭部(98~109位のアミノ酸)は、高度に保存された融合領域(fusion loop,FL)を含む。ここで、ZIKVウイルス及びDENVウイルスのFL領域の配列は、完全に同一であり、いずれもD98-R99-G100-W101-G102-N103-G104-C105-G106-L107-F108-G109である。FL領域はウイルス侵入の膜融合過程において重要な作用を果たし、ウイルス感染過程において、免疫細胞がFLに対する抗体を大量に産生する。
【0006】
約26kDのprMタンパク質は、Eタンパク質の正確な折り畳みを補助し、prM/Eの3’末端の膜貫通領域は、小胞体保持シグナルとして、prMとEとの異種二量体の形成を補助する。prMタンパク質の主な機能の1つは、Eタンパク質の安定性を維持することであり、未成熟なウイルス粒子では、prポリペプチドがEタンパク質の先端に位置してpr-Eスパイクを形成し、Eタンパク質の融合ペプチドを覆い隠し、この場合、prMが立体障害の原因でフーリンと接触して切断されることが困難である。次いで、ゴルジ体内腔の酸性環境で転位反応が誘導され、フーリン切断部位を露出させ、prMタンパク質がフーリンによってMタンパク質に切断される。この時、切断されたprポリペプチドは、直ちにウイルス粒子から解離するのではなく、中性pHの細胞環境中に曝露された後に、prポリペプチドが放出され、成熟なウイルス粒子が形成する。
【0007】
ZIKVの遺伝子構成及び抗原特性は、4種の血清型のデングウイルス(dengue
virus、DENV)に非常に類似しており、約56%のアミノ酸類似性を有する。そのため、ZIKV感染によって誘導される抗体は、DENVに対してより強い交差反応を発生し、これもワクチン安全の問題において考慮されるべきものである。多くの研究には、ZIKV感染後の既存の抗体が、DENVと交差反応して、その後のDENV感染を増強し得ることを示している(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。この現象は、抗体依存性感染増強現象(antibody-dependent enhancement、ADE)と呼ばれ、ADEとは、抗体がウイルスを中和するのに不十分であるか、亜中和濃度である場合、逆にウイルスの感染を増強することを指す(非特許文献7;非特許文献8)。疫学的調査の不足にもかかわらず、ヒト、サル及びマウス由来の既存のZIKV抗体はすべて、細胞実験においてDENVの感染を増強することが示されている(非特許文献2;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。また、サル及びマウスモデルにおいて、ZIKV感染、ワクチン免疫或いは胎児が母親由来の抗体も、DENV感染症状を悪化させることが示されている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献4;非特許文献5)。従って、ZIKVワクチンで免疫を獲得した後、将来のDENVの感染に対するADE現象が存在する可能性がある。このことは、ZIKVワクチン設計において考慮すべきものである。
【0008】
ADE反応を引き起こす抗体は、主にウイルスのFL融合領域によって誘発されるものである(非特許文献7;非特許文献8)。フラビウイルス感染では、このような抗体が全誘導抗体の大部分を占める。このような抗体は、エピトープが十分に保存されているので、一般に異なる血清型の間に交差反応を示す。それらの多くは中和活性が低く、ADE反応を引き起こしやすいが、高い中和活性を有する抗体の大部分はいずれもEタンパク質の他のエピトープに結合する。Eタンパク質の第Iのドメイン(Domain I、DI)、第IIのドメイン(Domain II、DII)及び第IIIのドメイン(Domain III、DIII)、或いは四次構造エピトープを標的とする一連のZIKV中和モノクローナル抗体が同定されている(非特許文献9;非特許文献5;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。従って、理想的なZIKVワクチン設計戦略は、免疫反応のホットスポットエピトープをFL領域から他の中和エピトープに移動させることである。
【0009】
抗体は、ウイルス粒子に結合して髓細胞の表面のFcγ受容体タンパク質に結合することによって細胞に取り込まれ、続いてウイルスの感染を促進する。DENVには4種の血清型が存在するので、初感染と異なる血清型のDENVに再感染した場合、ADEが生じる可能性が高い。そのため、ヒトがDENV感染後、より重篤な病態を示す(非特許文献13)。現在唯一市販されているDENVワクチンDengvaxia(登録商標)は、ACE現象のために使用に制限がある。Dengvaxia(登録商標)は、DENV血清陽性の人にのみ使用でき、血清陰性の人では、ワクチンの接種が逆にデング熱感染を悪化させる(非特許文献14;非特許文献15)。従って、ADEを回避する方法も、DENVワクチン開発における課題である。
【0010】
この背景技術部分に開示された情報は、本発明の一般的な背景の理解を高めることのみを意図しており、当業者に既に知られている従来技術を構成するという承認又は任意の形態の示唆として解釈されるべきではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Fowler et al.,2018
【非特許文献2】George et al.,2017
【非特許文献3】Li et al.,2017
【非特許文献4】Richner et al.,2017
【非特許文献5】Stettler et al.,2016
【非特許文献6】Valiant et al.,2018
【非特許文献7】Beltramello et al.,2010
【非特許文献8】Dejnirattisai et al.,2010
【非特許文献9】Barba-Spaeth et al.,2016
【非特許文献10】Wang et al.,2017
【非特許文献11】Wang et al.,2016
【非特許文献12】Zhao et al.,2016
【非特許文献13】Katzelnick et al.,2017
【非特許文献14】Rey et al.,2018
【非特許文献15】Slon-Campos et al.,2019
【非特許文献16】Xu et al.(2018)Journal of virology.vol.92,6e01722-17.26Feb.
【非特許文献17】Hassan,Ahmed O et al.(2019)Cell reports,vol.28,10:2634-2646.e4.
【非特許文献18】Stettler,K.,et al.(2016)Science:science.aaf8505.
【非特許文献19】Wang,Qihui,et al.Science translational medicine8.369(2016):369ra179.
【非特許文献20】Dai,Lianpan,et al.Cell Host&Microbe(2016):S1931312816301494.
【非特許文献21】Cherrier,Mickael V.,et al.The EMBO Journal 28.20(2009):3269-3276.
【非特許文献22】Abbink,Peter,et al.Science Translational Medicine 9.420(2017).
【非特許文献23】Dowd et al,Science,2016,Vol 354,Issue 6309
【非特許文献24】Crill et al,(2004)Journal of Virology,78.24:13975-13986.
【非特許文献25】Bennett et al.(2015),BMC Biotechnology,15.1:71-71.
【非特許文献26】Deng,Yongqiang,et al.(2011),PLOS ONE 6.1
【非特許文献27】Oliphant et al.(2006),Journal of Virology 80.24:12149-12159.
【非特許文献28】Dejnirattisai,W.et al.(2015).Nat Immunol 16,170-177.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ADE反応を回避するジカ・デングワクチン及びその使用を提供することである。本発明は、結晶構造解析並びに他の構造及び機能の分析に基づいて、ADE現象を引き起こす主要な抗体のエピトープ情報を得る。本発明の実施例で提供される抗原は、ジカウイルス又はデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域に突然変異を導入した抗原であり、この突然変異を有する抗原は、いずれもADEを引き起こす抗体(FLE抗体)に結合できない。本発明で提供される前記抗原から得られたワクチンにより、免疫を獲得した後、FLエピトープによって誘導される抗体の生成を回避することができ、ADE現象の低減又は除去を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的を実現するために、本発明の実施例は、ジカウイルス又はデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域(fusion loop of envelope protein)を有する抗原であって、
前記Eタンパク質のFL融合領域は、
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、
(3)W101の単一部位の突然変異、
のうちの一種の突然変異を有する、抗原を提供する。
【0014】
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせは、
D98、N103、G106、L107、F108の5つの部位の突然変異、
D98、G106、L107、F108の4つの部位の突然変異、
N103、G106、L107、F108の4つの部位の突然変異、のうちのいずれか一種である。
【0015】
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせは、
G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異から選択される単一部位の突然変異、
G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異から選択される2つの部位の突然変異、
G106、L107、F108の3つの部位の突然変異、のうちのいずれか一種である。
【0016】
前記D98位の突然変異はEタンパク質の98位のアスパラギン酸(D)がアスパラギン酸以外の任意のアミノ酸で置換されることを指す。前記N103位の突然変異はEタンパク質の103位のアスパラギン(N)がアスパラギン以外の任意のアミノ酸で置換されることを指す。前記G106位の突然変異はEタンパク質の106位のグリシン(G)がグリシン以外の任意のアミノ酸で置換されることを指す。前記L107位の突然変異はEタンパク質の107位のロイシン(L)がロイシン以外の任意のアミノ酸で置換されることを指す。前記F108位突然変異はEタンパク質の108位のフェニルアラニン(F)がフェニルアラニン以外の任意のアミノ酸で置換されることを指す。前記W101位の突然変異はEタンパク質の101位のトリプトファン(W)がトリプトファン以外の任意のアミノ酸で置換されることを指す。
【0017】
D98部位、W101部位、N103部位、G106部位、L107部位或いはF108部位は、Eタンパク質のFL融合領域に位置する。FL(融合領域)配列はフラビウイルス属ウイルス間で高度に保存されており、ここで、ZIKVウイルス及びDENVウイルスのFL配列は完全に同一であり、両方ともD98-R99-G100-W101-G102-N103-G104-C105-G106-L107-F108-G109である。本発明において、D98、W101、N103、G106、L107、F108部位の番号付けに関しては、ジカウイルス及びデングウイルスのEタンパク質配列中の位置を参照して行い、具体的にはジカウイルス(ZIKV FSS13025株を例として、GenBank:JN860885.1)Eタンパク質のSEQ ID NO.1に示す98、101、103、106、107及び108部位を参照し得る。
【0018】
一つの可能な実施形態において、前記抗原の、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、D98、N103、G106、L107、及びF108の5つの部位の突然変異から
選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106、L107、及びF108の3つの部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106及びL107の2つの部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106及びF108の2つの部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、L107及びF108の2つの部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、G106の単一部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、L107の単一部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、F108の単一部位の突然変異から選択され、
又は、Eタンパク質のFL融合領域の突然変異は、W101の単一部位の突然変異から選択される。
【0019】
一つの可能な実施形態において、前記抗原のEタンパク質のFL融合領域の突然変異は、以下の突然変異或いは突然変異の組み合わせから選択される。
【0020】
【0021】
【0022】
前記表中、D98N突然変異は、Eタンパク質の98位のアスパラギン酸(D)がアスパラギン(N)で置換されることを指す。
【0023】
N103T突然変異は、Eタンパク質の103位のアスパラギン(N)がスレオニン(T)で置換されることを指す。
【0024】
G106F突然変異は、Eタンパク質の106位のグリシン(G)がフェニルアラニン(F)で置換されることを指し、G106L突然変異は、Eタンパク質の106位のグリシン(G)がロイシン(L)で置換されることを指す。
【0025】
L107E突然変異は、Eタンパク質の107位のロイシン(L)がグルタミン酸(E)で置換されることを指し、L107K突然変異は、Eタンパク質の107位のロイシン(L)がリジン(K)で置換されることを指す。
【0026】
F108W突然変異は、Eタンパク質の108位のフェニルアラニン(F)がトリプトファン(W)で置換されることを指す。
【0027】
アミノ酸の突然変異はこのように類推されることができ、一つの英文字で表されるアミノ酸の種類が当業者に一般的に理解されているものである。
【0028】
一つの可能な実施形態において、前記抗原がジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はさらにジカウイルスのMタンパク質の配列の全長又は一部を含み、任意で、前記抗原はさらにジカウイルスのMタンパク質の配列の全長を含む。
【0029】
前記抗原がデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はさらにデングウイルスのMタンパク質の配列の全長又は一部を含み、任意で、前記抗原はさらにデングウイルスのMタンパク質の配列の全長を含む。
【0030】
Mタンパク質は、prM構造タンパク質がフーリンによって切断された後に形成されるものである。Mタンパク質の配列の全長又は一部とは、Mタンパク質配列における0.5%~100%、50~100%、60~100%、70~100%、80~100%、90~100%を指し、前記配列はMタンパク質から連続的に選択された配列であってもよく、Mタンパク質配列から個別に選択されたフラグメントの組み合わせであってもよい。
【0031】
一つの可能な実施形態において、前記抗原がジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はさらにジカウイルスのprMタンパク質の配列の全長又は一部を含み、任意で、前記抗原は更にジカウイルスのprMタンパク質の配列の全長を含む。
【0032】
前記抗原がデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原は更にデングウイルスのprMタンパク質の配列の全長又は一部を含み、任意で、前記抗原は更にデングウイルスのprMタンパク質の配列の全長を含む。
【0033】
前記prMタンパク質は、約26kDのジカウイルス又はデングウイルスの構造タンパク質であり、Eタンパク質の正確な折り畳みを補助するために使用される。prMタンパク質の配列の全長又は一部とは、prMタンパク質の配列における0.5%~100%、50~100%、60~100%、70~100%、80~100%、90~100%の配列を指し、前記配列は、prMタンパク質から連続的に選択された配列であってもよく、prMタンパク質配列から個別に選択されたフラグメントの組み合わせであってもよい。
【0034】
一つの可能な実施形態において、前記抗原がジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はジカウイルスのEタンパク質の配列の全長又は一部を有し、任意で、前記抗原はジカウイルスのEタンパク質の配列の全長を含む。
【0035】
前記抗原がデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域を有する場合、前記抗原はデ
ングウイルスのEタンパク質の配列の全長又は一部を有し、任意で、前記抗原はデングウイルスのEタンパク質の配列の全長を含む。
【0036】
Eタンパク質の配列の全長又は一部とは、Eタンパク質の0.5%~100%、50~100%、60~100%、70~100%、80~100%、90~100%の配列を指し、前記配列はEタンパク質から連続的に選択された配列であってもよく、Eタンパク質配列から個別に選択されたフラグメントの組み合わせであってもよい。
【0037】
前記ジカウイルスのEタンパク質、prMタンパク質、Mタンパク質の配列はNCBIに開示されたジカウイルスの各ウイルス株の全配列及び従来技術の報告から取得することができ、前記デングウイルスのEタンパク質、prMタンパク質、Mタンパク質配列はNCBIに開示された4種の血清型のデングウイルスの各ウイルス株の全配列及び従来技術から取得することができる。
【0038】
一つの可能な実施形態において、前記ジカウイルスは、全てのジカウイルス株、例えば、ZIKV FSS13025株(GenBank:JN860885.1)、ZIKK
SMGC-1株を含む。
【0039】
一つの可能な実施形態において、前記デングウイルスは、4種の血清型のデングウイルスの各デングウイルス株、例えば、DENV1(Hawaii株,GenBank:KM204119)、DENV2(New Guinea C株,GenBank:KM204118.1)、DENV3(YN02株,GenBank:KF824903)及びDENV4(中国広州B5株,GenBank:AF289029)を含む。
【0040】
本発明の実施例はまた、ジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域の抗原結合エピトープ(antigen binding epitope)を提供し、前記ジカウイルスのEタンパク質のFL融合領域は、アミノ酸配列D98-R99-G100-W101-G102-N103-G104-C105-G106-L107-F108-G109を含み、
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、
(3)W101の単一部位の突然変異、
のうちの一種の突然変異を有する。
【0041】
本発明の実施例は、また、前記抗原結合エピトープを含有するジカウイルス抗原を提供する。
【0042】
一つの可能な実施形態において、前記ジカウイルス抗原は、更に、
ジカウイルスのEタンパク質の配列の全長又は一部、
ジカウイルスのMタンパク質配列の全長又は一部、
ジカウイルスのprMタンパク質の全長又は一部、
のうちの一種以上の配列を含む。
【0043】
本発明の実施例はまた、デングウイルスのEタンパク質のFL融合領域の抗原結合エピトープを提供し、前記デングウイルスのEタンパク質のFL融合領域は、アミノ酸配列D98-R99-G100-W101-G102-N103-G104-C105-G106-L107-F108-G109を含み、
(1)D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、
L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、
(2)G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、
(3)W101の単一部位の突然変異、
のうちの一種の突然変異を有する。
【0044】
本発明の実施例はまた、前記抗原結合エピトープを含むデングウイルス抗原を提供する。
【0045】
一つの可能な実施形態において、前記デングウイルス抗原は、更に、
デングウイルスのEタンパク質の配列の全長又は一部、
デングウイルスのMタンパク質の配列の全長又は一部、
デングウイルスのprMタンパク質の配列の全長又は一部、
のうちの一種以上の配列を含む。
【0046】
本発明の実施例はまた、前記抗原、ジカウイルス抗原、デングウイルス抗原に結合する抗体を提供する。
【0047】
本発明の実施例はまた、前記抗原、抗原結合エピトープ、ジカウイルス抗原、デングウイルス抗原をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0048】
本発明の実施例はまた、前記ポリヌクレオチドを含む発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス又はウイルス粒子を提供する。
【0049】
本発明の実施例はまた、前記抗原、抗原結合エピトープ、ジカウイルス抗原、デングウイルス抗原をコードするmRNAを提供する。
【0050】
本発明の実施例はまた、活性成分として、前記ワクチンは、活性成分として、前記抗原、前記ジカウイルス抗原、前記デングウイルス抗原、前記ポリヌクレオチド、前記発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス又はウイルス粒子、或いは前記mRNAを含むワクチンを提供する。
【0051】
一つの可能な実施形態において、前記ワクチンは、不活化ワクチン、弱毒化ワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチン、アデノウイルスワクチン(adenovirus vaccine)、他のウイルスベクターワクチン、サブユニットワクチン、及びウイルス粒子のうちの一種以上を含む。
【0052】
一つの可能な実施形態において、前記ワクチンは、アデノウイルスワクチンである。
【0053】
一つの可能な実施形態において、前記ワクチンは、さらに、薬学的又は獣医学的に許容されるビヒクル(vehicle)、希釈剤、補助剤又は賦形剤を含む。
【0054】
本発明の実施例は、また、フラビウイルス属に属するウイルスによる感染を予防及び/又は治療するためのワクチンの調製における、前記抗原、前記抗原結合エピトープ、前記抗体、前記ポリヌクレオチド、前記発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス又はウイルス粒子、或いは前記mRNAの使用を提供する。
【0055】
本発明の実施例は、また、フラビウイルス属に属するウイルスによる感染を検出するた
めの検出試薬又はキットの調製における、前記抗原、前記抗原結合エピトープ、前記抗体、前記ポリヌクレオチド、前記発現カセット、組換えベクター、トランスジェニック細胞株、組換え菌、アデノウイルス、レンチウイルス又はウイルス粒子、或いは前記mRNAの使用を提供する。
【発明の効果】
【0056】
本発明は、結晶構造解析並びに他の構造及び機能の分析に基づいて、ADE現象を引き起こす主要な抗体のエピトープ情報を得る。本発明の実施例で提供される抗原は、ジカウイルス又はデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域に、i.D98位の突然変異、N103位の突然変異のうちの1種又は2種と、G106、L107、F108の3つの部位の突然変異との組み合わせ、ii.G106位の突然変異、L107位の突然変異、F108位の突然変異のうちの1種又はそれらの組み合わせ、iii.W101の単一部位の突然変異、のうちの一種の突然変異を導入する。この突然変異を有する抗原は、いずれもADEを引き起こす抗体(FLE抗体)に結合できない。本発明により提供される前記抗原から得られたワクチンにより、免疫を獲得した後、FLエピトープによって誘導される抗体の生成を回避することができ、ADE現象の低減又は除去を実現することができる。
【0057】
(2)本発明の実施例で提供される抗原は、ADEを引き起こす抗体(FLE抗体)には結合しないが、他のエピトープの抗体に対する結合力には影響を与えない。本発明は、前記抗原から獲得した数種のジカウイルスのアデノウイルスワクチンを例とし、得られた組換えアデノウイルスワクチンが抗原の免疫原性を低下させず、依然として中和抗体の生成をよく活性化できることと、前記ワクチンがマウスチャレンジ試験(challenge test)に完全な保護効果を果たすことと、前記ワクチンがマウスをウイルス血症と組織臓器の感染からよく保護することができることと、免疫を獲得した後、4種の血清型のDENVウイルスに対するADE現象を低下させ、さらに除去することができることを証明する。
【0058】
本発明は、さらに、突然変異後のEタンパク質は二量体の形態を維持しており、FL突然変異したアミノ酸側鎖のみに変化が生じ、胚中心(GC)B細胞の単一細胞配列決定により組換えアデノウイルスワクチンで誘導したマウスの抗体反応を分析し、FL領域突然変異した組換えアデノウイルスワクチンはFL領域が野生型のワクチンに比べて、FLエピトープによって誘導される抗体を顕著に低下させ、抗原の優性エピトープが転移することが証明される。これから、本発明により提供される前記抗原から得られたワクチンはADE現象を除去し得る作用機序が分かる。
【0059】
(3)本発明は、さらに、前記抗原から獲得した数種のデングウイルスのアデノウイルスの発現プラスミドを例とし、得られた抗原がいずれもADEを引き起こす抗体(FLE抗体)に結合できないことを証明する。そのため、本発明の前記抗原により、デングウイルスワクチンの免疫を獲得した後、FLエピトープによって誘導される抗体の生成を回避することができ、免疫後のDENVウイルス感染によるADE現象を低減又は除去することができる。
【0060】
(4)本発明により提供される前記抗原から得られたワクチンは、例えば核酸ワクチン、mRNAワクチン、アデノウイルスベクターワクチン、他のウイルスベクターワクチン、ウイルス様粒子、前記抗原配列に基づく弱毒化ワクチン又は不活化ワクチン、他の骨格のキメラワクチン等の様々な形態を含むことができ、ADE現象を除去するジカワクチン及び四価デングワクチンを製造することに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
一つ又は複数の実施例は、添付の図面の対応する図によって例示的に説明されており、これらの例示的な説明が実施例を限定するものとして解釈されるべきではない。ここで、「例示的」という用語は「例、実施例又は説明的なものとして用いられる」ことを意味する。ここで、「例示的」として説明したいかなる実施例は、他の実施例よりも好ましい又は良好であるものと解釈されるべきではない。
【
図1】
図1は、野生型組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの中和試験(neutralization assay)の結果を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、野生型組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清がDENV1に感染した細胞を増強する実験結果を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、野生型組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清がDENV2に感染した細胞を増強する実験結果を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、野生型組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清がDENV3に感染した細胞を増強する実験結果を示す図である。
【
図2D】
図2Dは、野生型組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清がDENV4に感染した細胞を増強する実験結果を示す図である。
【
図3】
図3は、Z6抗体が4種の血清型のDENVに感染した細胞に対していずれもある程度のADEを有することを示す図である。
【
図4】
図4は、Z6抗体のFabフラグメントとZIKV Eタンパク質との複合体の構造を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、Z6抗体とZIKV Eタンパク質との複合体の構造を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、2A10G6抗体とZIKV Eタンパク質との複合体の構造を示す図である。
【
図5C】
図5Cは、E53抗体とWNV Eタンパク質との複合体の構造を示す図である。
【
図6】
図6は、ZIKV Eタンパク質とZ6抗体との結合、ZIKV Eタンパク質と2A10G6抗体との結合、及びWNV Eタンパク質とE53抗体との結合のアミノ酸部位分析を示す図である。
【
図7】
図7は、フラビウイルス属ウイルスの系統樹を示す図である。
【
図8】
図8は、ZIKV M/E MutA/B/C突然変異体の突然変異部位及び配列を示す図である。
【
図9】
図9は、フローサイトメータによるM/E-MutA/B/C抗原活性の検出結果を示す図である。
【
図10】
図10は、pAdC7-M/E-MutB/MutC組換えプラスミドの構築フローを示す図である。
【
図11】
図11は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清の中和抗体価を示す図である。
【
図12】
図12は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたIfnar1
-/-マウスの血清の中和抗体価を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたIfnar1
-/-マウスのチャレンジ試験後の死亡率の結果を示す図である。
【
図13B】
図13Bは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたIfnar1
-/-マウスのチャレンジ試験後の体重変化の結果を示す図である。
【
図14】
図14は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンのZIKV感染によるウイルス血症からIfnar1
-/-マウスの保護の実験結果を示す図である。
【
図15】
図15は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンのZIKVチャレンジ後の組織臓器の感染からIfnar1
-/-マウスの保護の実験結果を示す図である。
【
図16】
図16は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたIfnar1
-/-マウスのZIKVチャレンジ前後の血清中の中和抗体価変化の結果を示す図である。
【
図17A】
図17Aは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がZIKVに対する交差反応実験の結果を示す図である。
【
図17B】
図17Bは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV1に対する交差反応実験の結果を示す図である。
【
図17C】
図17Cは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV2に対する交差反応実験の結果を示す図である。
【
図17D】
図17Dは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV3に対する交差反応実験の結果を示す図である。
【
図17E】
図17Eは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV4に対する交差反応実験の結果を示す図である。
【
図18A】
図18Aは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がZIKV感染細胞に対するADE実験の結果を示す図である。
【
図18B】
図18Bは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV1感染細胞に対するADE実験の結果を示す図である。
【
図18C】
図18Cは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV2感染細胞に対するADE実験の結果を示す図である。
【
図18D】
図18Dは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV3感染細胞に対するADE実験の結果を示す図である。
【
図18E】
図18Eは、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清がDENV4感染細胞に対するADE実験の結果を示す図である。
【
図19A】
図19Aは、インビボ実験によるZIKV組換えアデノウイルスワクチンがIfnα/βr
-/-Ifnγr
-/-マウスのDENV2型の感染の増強に与える影響の検出結果を示す図である。
【
図19B】
図19Bは、インビボ実験によるZIKV組換えアデノウイルスワクチンがIfnα/βr
-/-Ifnγr
-/-マウスのDENV2型の感染の増強に与える影響の検出結果を示す図である。
【
図20】
図20は、フローサイトメトリーによるZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスリンパ節細胞からZIKV Eタンパク質に結合するGC B細胞を選別する条件を示す図である。
【
図21】
図21は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスのZIKV Eタンパク質に結合するGC B細胞の抗体レパートリーの解析結果を示す図である。
【
図22】
図22は、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたBALB/cマウスによって誘発される抗体レパートリーにおける対になるHV及びLVの結果を示す図である。
【
図23】
図23は、AdC7-M/E-MutBワクチンで免疫されたBALB/cマウスによって誘発される抗体レパートリーにおける対になるHV及びLVの結果を示す図である。
【
図24-1】
図24-1は、AdC7-M/E-MutCワクチンで免疫されたBALB/cマウスによって誘発される抗体レパートリーにおける対になるHV及びLVの結果を示す図である。
【
図24-2】
図24-2は、AdC7-M/E-MutCワクチンで免疫されたBALB/cマウスによって誘発される抗体レパートリーにおける対になるHV及びLVの結果を示す図である。
【
図25】
図25は、ZIKV組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスによって誘導される抗体が異なるZIKV Eタンパク質及びDENV Eタンパク質への結合能力の同定を示す図である。
【
図26A】
図26Aは、代表的なAdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導される抗体がDENV1感染細胞のADE促進効果を検出する実験結果を示す図である。
【
図26B】
図26Bは、代表的なAdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導される抗体がDENV2感染細胞のADE促進効果を検出する実験結果を示す図である。
【
図26C】
図26Cは、代表的なAdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導される抗体がDENV3感染細胞のADE促進効果を検出する実験結果を示す図である。
【
図26D】
図26Dは、代表的なAdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導される抗体がDENV4感染細胞のADE促進効果を検出する実験結果を示す図である。
【
図27】
図27は、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導されるモノクローナル抗体で使用されるV遺伝子座と、報告されたFLEモノクローナル抗体とのアラインメントを示す図である。
【
図28A】
図28Aは、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導されるモノクローナル抗体と、報告されたFLEモノクローナル抗体との配列アラインメントを示す図である。
【
図28B】
図28Bは、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導されるモノクローナル抗体と、報告されたFLEモノクローナル抗体との配列アラインメントを示す図である。
【
図28C】
図28Cは、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導されるモノクローナル抗体と、報告されたFLEモノクローナル抗体との配列アラインメントを示す図である。
【
図28D】
図28Dは、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導されるモノクローナル抗体と、報告されたFLEモノクローナル抗体との配列アラインメントを示す図である。
【
図28E】
図28Eは、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスによって誘導されるモノクローナル抗体と、報告されたFLEモノクローナル抗体との配列アラインメントを示す図である。
【
図29A】
図29Aは、BIAcoreによるFLE抗体に対するZIKV sE-WTタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図29B】
図29Bは、BIAcoreによるFLE抗体に対するZIKV sE-MutCタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図29C】
図29Cは、BIAcoreによるFLE抗体に対するZIKV sE-WTタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図29D】
図29Dは、BIAcoreによるFLE抗体に対するZIKV sE-MutCタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図30A】
図30Aは、BIAcoreによる非FLE中和抗体に対するZIKV sE-WTタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図30B】
図30Bは、BIAcoreによる非FLE中和抗体に対するZIKV sE-MutCタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図30C】
図30Cは、BIAcoreによる非FLE中和抗体に対するZIKV sE-WTタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図30D】
図30Dは、BIAcoreによる非FLE中和抗体に対するZIKV sE-MutCタンパク質の親和性の検出結果を示す図である。
【
図31】
図31は、ZIKV sE-MutCとZ3L1単鎖可変領域フラグメント(scFv)との複合体のタンパク質構造を示す図である。
【
図32】
図32は、ZIKV sE-MutCタンパク質の二量体構造を示す図である。
【
図33】
図33は、Z3L1/ZIKV sE MutC複合体構造とZ3L1/ZIKV sE WT(PDB:5GZN)複合体構造とを重畳した後の比較分析を示す図である。
【
図34】
図34は、ZIKV sE-MutCのFL領域とZIKV sE-WTのFL領域(PDB:5JHM)を重畳した後の比較分析を示す図である。
【
図35A】
図35Aは、ZIKV sE MutCのFLをフラビウイルス属ウイルスFLE抗体とEタンパク質との複合体に重ね合わせる構造の比較分析を示す図である。Z6抗体とZIKV sEタンパク質を使用した。
【
図35B】
図35Bは、ZIKV sE MutCのFLをフラビウイルス属ウイルスFLE抗体とEタンパク質との複合体に重ね合わせる構造の比較分析を示す図である。2A10G6抗体とZIKV sEタンパク質(PDB:5JHL)を使用した。
【
図35C】
図35Cは、ZIKV sE MutCのFLをフラビウイルス属ウイルスFLE抗体とEタンパク質との複合体に重ね合わせる構造の比較分析を示す図である。E53抗体とWNV sEタンパク質(PDB:3I50)を使用した。
【
図36】
図36は、フローサイトメトリーによるDENV2野生型及び突然変異体Eタンパク質の抗原活性を測定した結果を示す図である。
【
図37】
図37は、フローサイトメトリーによるZIKV Eタンパク質101位のトリプトファンから他の19種のアミノ酸へ突然変異させる時の抗原活性の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の実施例的目的、技術案及び利点をより明確にするために、以下では本発明の実施例における技術案を明確に、完全に説明する。説明された実施例は本発明の一部の実施例であり、全ての実施例ではないことは明らかである。本発明における実施例に基づき、当業者が創造的な労働なしに得られた全ての他の実施例も、本発明の保護請求の範囲内にある。本明細書および請求の範囲中に、特に明記しない限り、「含む」という用語、又は「含有」もしくは「備える」などの変形は、記載された要素又は構成要素を含むが、他の要素又は構成要素を除外しないと理解されるべきである。
【0063】
なお、以下の発明を実施するための形態では、本発明をよりよく説明するために、多数の具体的な詳細が記載される。当業者は、本発明が何らかの詳細が無くとも同様に実施できることを理解すべきである。いくつかの実施例では、当業者に周知の原料、要素、方法、手段などは、本発明の主旨を強調するために、詳細に説明されない。
【0064】
実施例1 ZIKV野生型M/E及びprM/E抗原で構成された組換えチンパンジーアデノウイルスワクチンにより誘導されたマウスの体液性免疫反応の検出
【0065】
ZIKV FSS13025ウイルス株(GenBank:JN860885.1)のM/E抗原は、ベクターであるチンパンジーアデノウイルス7型に構築され、アデノウイルスをパッケージングし、培養し、精製した後、組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT(組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WTの構築については、非特許文献16を参照)が得られた。実験により、このワクチンがマウスに対して良好な保護効果を有することが証明された。ZIKV prM/E抗原で構築されたアデノウイルスワクチンも保護効果を有することが報告されている。従って、ZIKV-SMGC-1ウイルス株のprM/E抗原がベクターであるチンパンジーアデノウイルス7型に構築され、パッケージングして、組換えアデノウイルスAdC7-prM/E-WT(組
換えアデノウイルスAdC7-prM/E-WTの構築については、非特許文献17を参照)が得られ、その後の実験の対照とした。
【0066】
組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTにより誘導されたマウスの体液性免疫反応を評価した。
【0067】
15匹のBALB/cマウスをランダムに3群に分け、それぞれ1.6x1011vp(virus particles)のAdC7-M/E-WTアデノウイルスワクチン、AdC7-prM/E-WTアデノウイルスワクチン、及びPBSで免疫し、4週間後に採血して、遠心分離して血清を分取し、血清を56℃で30分間加熱して不活性化し、マイクロ中和試験を使用して血清中の中和抗体価を測定した。
【0068】
マイクロ中和試験の過程は、以下の通りである。一日前に、VERO細胞を96ウェルプレートに播種した。翌日に、96ウェルプレートを用いて、1%FBS(Gibco,10270-106)を含有するDMEM培地(Invitrogen,C11995500BT)で血清を段階希釈し、ウイルスも1%FBSのDMEM培地で希釈し、血清とウイルス液とを均一に混合して、各ウェルに100FFU ZIKV-SMGC-1を加え、37℃で2時間インキュベートした。VERO細胞プレートから培養上清液を除去し、血清とウイルスとの混合物を加え、2時間培養した後に10%FBSを含有するDMEMを追加した。細胞を37℃のインキュベーター中で4日間培養した。4日後に細胞培養プレートを取り出し、上清液を全て捨て、PBSで1回洗浄して、メタノール150μlを加えて固定し、-20℃の冷蔵庫に15~20分間放置した後に、PBSで2回洗浄した。PBSで調製された2%脱脂乳(ブロッキング溶液)を用いてブロッキングして、室温で30分間放置した後、一次抗体を添加した。一次抗体は、ZIKV Eタンパク質に結合できるZ6抗体であり、この一次抗体をブロッキング溶液で5μg/mL作業濃度まで希釈して、室温で2時間インキュベートした。その後、PBSTで3回洗浄し、さらに二次抗体を加えた。二次抗体はHRPコンジュゲート型ヤギ―抗ヒト抗体(Proteintech,SA00001-17)であり、この二次抗体をブロッキング溶液で1500倍に希釈し、室温で2時間インキュベートした後、PBSTで4回洗浄した。TMB発色液(Beyotime、P0209)50μlを加え、室温でインキュベートし、約20分間反応して、色の変化を観察し、2M塩酸50μlを加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーでOD450吸光値を読み取った。GraphPad Prismソフトウェアを用いて、データに対して非線形フィッティングの計算を行い、50%の細胞感染を中和する時の血清希釈倍数を計算して中和力価の値(MN50)を得た。最低希釈倍数の血清が50%の細胞感染を中和することができない場合に、当該サンプルのMN50を最低希釈倍数の半分として定義した。
【0069】
中和試験結果は
図1に示す。PBSで免疫した群が陰性対照群Sham群(図においてShamで示す)であり、当該群の血清中に中和抗体が検出できない。AdC7-M/E-WT群(図においてM/Eで示す)及びAdC7-prM/E-WT群(図においてprM/Eで示す)のマウスはいずれも中和抗体のLog MN
50の平均値が2~2.5の間であることを検出でき、統計学的に分析して、この2群の間に有意差がない。これから、組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTは、いずれもマウスでより高レベルの中和抗体を生成するように誘導することが分かる。
【0070】
実施例2 インビトロ実験による野生型組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清のDENVに対するADEの検出
【0071】
フラビウイルス属ウイルスenvelop(E)タンパク質のfusion loop(FL)配列が高度に保存されているため、ZIKVの感染、或いはZIKV Eタンパク質免疫表現型ワクチンは、DENVと交差反応し得る抗体を誘発し、結果として、DENVに対する抗体依存性増強反応(antibody-dependent enhancement,ADE)(非特許文献18)になる。従って、上記のように構築された組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清がDENVに対してADEを産生できるかどうかを検出した。
【0072】
1%FBSを含有するRPMI-1640培地(Invitrogen,C11875500BT)で血清(実施例1の組換えアデノウイルスワクチンで免疫されたマウスから採取したもの)を段階希釈し、希釈したサンプルを96ウェルプレートに10μl/ウェルで加え、続いて対応するDENV(DENV2,GenBank:KM204118.1;DENV3,GenBank:KF824903;DENV4,GenBank:AF289029;DENV1は深セン市第三人民病院の感染患者サンプルから分離したウイルス株である)を加え、37℃のセルインキュベーターに1時間置いた。
【0073】
培養された細胞表面にFcγRIIA受容体が発現されたK562細胞800gを5分間遠心分離し、1%FBSを含有するRPMI-1640培地で再懸濁して細胞を計数し、さらに細胞密度を3x106個/mlに調整した。得られたものをウイルスと血清との混合物に10μl/ウェルで添加し、37℃のセルインキュベーター中で2時間インキュベートした。2%FBSを含有するRPMI-1640培地を100μl/ウェルで補充し、37℃のセルインキュベーター中で4日間培養を継続した。4日後、細胞を96ウェルプレートに移し、800gで5分間遠心分離し、上清を除去した後、PBSで1回洗浄し、遠心分離して細胞を回収し。96ウェルプレートにFixation and Permeabilization solution(BD,554722)100μl/ウェルを加え、4℃の冷蔵庫に20分間置いた。次いで、800gで5分間遠心分離によって細胞を回収し、1×Perm/Wash buffer(BD,554723)で2回洗浄した。FITC標識されたZ6抗体(Z6-FITC)を50μl/ウェルで添加し、4℃の冷蔵庫に1時間置いた。細胞を遠心分離により回収し、そして1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。PBSで細胞を再懸濁(200μl/ウェル)し、フローサイトメータを用いてウイルス感染された陽性細胞の割合を検出した。
【0074】
結果は
図2A~Dに示す。実験には細胞表面にFcγRIIA受容体が発現されたK562細胞を細胞感染モデルとして用いた。組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT群(図においてM/Eで示す)及びAdC7-prM/E-WT群(図においてprM/Eで示す)で免疫されたマウスの血清が4種の血清型のDENVで感染したK562細胞に対していずれも増強作用を有し、対照群Sham群(図においてShamで示す)の血清ではADEは発生しない。組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTで免疫されたマウスの血清は、ZIKV及びDENVに対して交差反応性があり、血清中の抗体の一部はDENVに結合し、ADE反応を誘導すると推測された。
【0075】
実施例3 インビトロ実験によるモノクローナル抗体のDENV1-4に対するADEの検出
【0076】
Z6抗体は、ZIKVに感染した一患者の血液から単離されたB細胞を配列決定して抗体配列を得た後に、組換え、発現、精製を経て得られたZIKV Eタンパク質に結合できるモノクローナル抗体である。前の試験から、当該抗体は主にZIKV Eタンパク質のFLエピトープに結合することを証明する(非特許文献19)。ZIKV及びDENVのFL配列が高度に保存されており、かつZ6抗体はより低い中和活性を有する(非特許
文献19)ため、Z6抗体はDENVに対してADEを引き起こす可能性が高いが、ZIKV野生型M/E及びprM/E抗原で構築された組換えチンパンジーアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT及びAdC7-prM/E-WTは、FLエピトープを標的とする抗体の産生を活性化し、ADEをもたらす可能性が高いと推測された。
【0077】
Z6抗体がADE現象を生じるか否かを検出して、結果を
図3に示す。
図3の結果は、Z6抗体が4種の血清型のDENVに対していずれもある程度のADEを有することを示す。より低い中和活性を有するZ6抗体は、DENVと交差反応した。Z6抗体は、DENV Eタンパク質のFLエピトープに結合することによりADEを引き起こす可能性が高いと推測し、これについてさらに検討した。
【0078】
実施例4 ZIKV Eタンパク質とZ6抗体との複合体の構造解析
【0079】
フラビウイルス属におけるFLエピトープの抗体と抗原との複合体の構造として、2A10G6抗体とZIKV可溶性Eタンパク質(soluble E,sE)との複合体の構造(非特許文献20)、E53抗体とWNV Eタンパク質との複合体の構造(非特許文献21)が報告されている。2A10G6は、フラビウイルスに対する広範囲の中和抗体であり、DENV1-4、WNV、YFV及びZIKVを中和することができ、ZIKV Eタンパク質のFL及びbc loopに結合する(非特許文献20)。
【0080】
ZIKV FLエピトープの抗体結合機構をさらに解析するために、タンパク質結晶化、X線回折法、及びデータ解析を組み合わせて、分解能3ÅのZ6抗体のFabフラグメントとZIKV Eタンパク質との複合体の構造を得た。結果は
図4に示し、複合体の構造のデータ収集及び最適化パラメータを表1に示す。
【0081】
図4から分かるように、Z6抗体は、2A10G6抗体と同様に、Eタンパク質のDIIの先端にほぼ垂直な角度で結合し、Eタンパク質のFL及びbc loopと相互作用した。しかし、
図5A~Dに示すように、Z6抗体と2A10G6抗体との違いは、Z6の重鎖と軽鎖の両方がZIKV Eタンパク質と相互作用するのに対して、2A10G6は主にその重鎖をZIKV Eタンパク質に結合することである。
図6に示すように、結合したアミノ酸部位を分析することにより、Z6抗体はZIKV Eタンパク質のW101、G106、L107、及びF108とより多くの相互作用を持っていることが分かる。前記の4つのアミノ酸部位は、2A10G6抗体がZIKVEタンパク質に結合するときにも重要な役割を果たす。E53とEタンパク質との相互作用はW101に依存しないが、G106及びL107とより多くの接触があった。
【0082】
従って、これらの4つのアミノ酸部位での免疫原の修飾は、FLエピトープによって誘導される抗体の生成を回避し、それによって、DENVに対するADEの低減又は除去をもたらすことができると予測される。
【0083】
M/E抗原に基づくZIKVワクチンが優れた保護効果を有することが文献に報告されている(非特許文献22)。従って、M/E抗原を選択して後続の突然変異設計を行う。
【0084】
また、prM/E抗原に基づくZIKVワクチンも優れた保護効果を有することが文献に報告されており(非特許文献23)、且つ前のデータもM/E抗原に基づく突然変異設計がprM/E抗原に類似な効果を有することを証明するため、本発明の実施例には、prM/E抗原に基づく突然変異設計の実験結果については説明を省略した。本発明の実施例におけるM/E抗原に対する突然変異設計は、prM/E抗原に対しても同様に適用できる。
【0085】
【0086】
実施例5 進化距離が遠いフラビウイルス属ウイルスのFLを利用したキメラウイルス抗原タンパク質の構築
【0087】
フラビウイルス属ウイルスのEタンパク質のFLエピトープのアミノ酸配列を比較することにより、ほとんどのウイルスのFL配列が保存されているが、進化距離が遠い一部のウイルスのFL配列はZIKVのFL配列とは異なることを見出した。ZIKV FLエピトープを破壊すると同時に正常なタンパク質の折り畳みや他の中和エピトープの表示に影響を与えないために、ZIKVとの進化距離が遠いフラビウイルス属ウイルスのFLのアミノ酸配列(フラビウイルス属の系統樹は
図7に示す)を用いて、キメラウイルス抗原タンパク質を構築した。これにより、抗原の全体的なコンフォメーションを良好に維持し、突然変異部位以外のエピトープへの影響を減少させることができると推測した。
【0088】
これらのウイルスのEタンパク質のFL配列を参照として使用して、ZIKV M/E抗原の突然変異体を設計し、ここで、M及びEは全長であり、FL融合領域の突然変異部位と配列を
図8に示す。ここで、MutAは、AEFV(Aedes flavivirus,GenBank:KC181923.1)に由来し、突然変異部位はD98N、N103T、G106F、L107E及びF108Wであり、
MutBは、CFAV(Cell fusing agent virus,GenBank:NC_001564.2)に由来し、突然変異部位は、D98N、N103T、G106F、L107K及びF108Wであり、
MutCは、NAKV(Nakiwogo virus,GenBank:NC_030400.1)に由来し、突然変異部位は、D98N、N103T、G106L、L107E及びF108Wである。
【0089】
pCAGGS-M/E-MutA/B/Cプラスミドを構築する際に使用したプライマーを表2に示す。MutAの構築を例とすると、プラスミドpCAGGS-M/E-WTをテンプレートとして使用し、WT-F及びmutA-Rをプライマーとして使用して、PCRによって生成物mutA-1を得た。プラスミドpCAGGS-M/E-WTをテンプレートとして使用し、WT-R及びmutA-Fをプライマーとして使用して、PCRによって生成物mutA-2を得た。さらに、モル比1:1のmutA-1とmutA-2との混合物をテンプレートとして使用し、WT-F及びWT-Rをプライマーとして使用し、PCRによって、PCR生成物mutAを得た。pCAGGSプラスミドをXhoI及びEcoRIで制限酵素切断し、両付着末端を有する線状化プラスミドを得た。酵素切断された線状化プラスミドとPCR生成物mutAとをモル比1:5で混合し、In-Fusionキットを用いて組換えを行い、組換え生成物をDH5αコンピテント細胞に形質転換し、アンピシリン耐性のプレートに塗布して37℃で培養した後、細胞を選択し、クローン化し、PCR同定及び配列決定を行い、次いで、プラスミド(pCAGGS-M/E-MutA)を抽出して後続の実験に使用した。
【0090】
【0091】
実施例6 M/E-MutA/B/C抗原の活性の検出
【0092】
野生型プラスミドpCAGGS-M/E-WT及び突然変異体プラスミドpCAGGS-M/E-MutA、pCAGGS-M/E-MutB及びpCAGGS-M/E-Mu
tCをそれぞれ293T細胞にトランスフェクションした。48時間後に、細胞を収集し、消化し単一細胞化し、固定化・透過処理して、ZIKVE結合抗体とインキュベートし、ヤギ抗ヒト(Goat Anti-Human)FITC二次抗体とインキュベートし、最後にフローサイトメータを用いてサンプルの陽性率を検出した。結果は
図9に示す。
【0093】
Z3L1、Z20及びZ23はすべて、中和活性の高いZIKV特異的抗体であり、ZIKV Eタンパク質のDI、DII及びDIIIにそれぞれ結合した(非特許文献19)。
【0094】
図9から分かるように、ZIKV Eタンパク質のFLエピトープに結合する抗体(Z6及び2A10G6)は、野生型M/E-WT抗原を発現する細胞に結合することができたが、3つの突然変異抗原を発現する細胞には結合しなかった。これに対し、非FLエピトープに結合する高い中和活性を有するZ3L1、Z23及びZ20抗体は、野生型M/E-WT抗原的を発現する細胞、及び3つの突然変異抗原を発現する細胞の両方に結合した。これから分かるように、M/E-MutA、M/E-MutB及びM/E-MutC抗原のFLエピトープが破壊され、対応する抗体が結合できなくなったが、他のZIKVの強力な中和抗体が結合するエピトープは変化しなく、対応する抗体が依然として結合できる。
【0095】
即ち、M/E-MutA、M/E-MutB及びM/E-MutC抗原は、DENV FLに結合する抗体の産生をほとんど又は全く誘導せず、それによってDENVに対するADEを減少させることができ、同時に、M/E-MutA、M/E-MutB及びM/E-MutC抗原が他の抗体エピトープに影響を及ぼさなかった。
【0096】
実施例7 ZIKVのM/E-MutB及びM/E-MutC抗原を用いた組換えチンパンジーアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCの構築
【0097】
図9から分かるように、MutB及びMutCの細胞陽性の強度はMutAよりわずかに高いため、後続の実験は主にMutB及びMutCを用いて行った。
【0098】
まず、M/E-MutB及びM/E-MutC抗原をpshuttleベクターにクローニングした。プラスミドpCAGGS-M/E-MutB又はpCAGGS-M/E-MutCをテンプレートとして使用し、to_pshuttle-F及びto_pshuttle-Rをプライマーとして使用し、PCR反応によって、PCR生成物to_pshuttle-mutB及びPCR生成物to_pshuttle-mutCを得た。pshuttleプラスミドを、XbaI(Thermo,FD0684)及びKpnI(Thermo,FD0524)で制限酵素切断し、両付着末端を有する線状化プラスミドを得た。酵素切断された線状化プラスミドをそれぞれPCR生成物to_pshuttle-mutB或いはto_pshuttle-mutCとモル比1:5で混合し、In-Fusionキットを用いて組換えを行い、組換え生成物をDH5αコンピテント細胞に形質転換し、カンナ耐性のプレートに塗布して37℃で培養した。その後、細胞を選択してクローン化し、PCR同定及び配列決定を行い、次いで、プラスミドを抽出した。次いで、pshuttleプラスミド上でM/E-MutB及びM/E-MutCを発現するカセットを、AdC7ベクターに構築した。前記構築手順については、非特許文献16を参照した。
【0099】
プラスミドpshuttle-M/E-MutB或いはMutCをテンプレートとして使用し、to_AdC7-F及びto_AdC7-Rをプライマーとして使用し、PCR反応によってPCR生成物to_AdC7-MutB及びto_AdC7-MutCを得
た。AdC7プラスミドを、PI-SceI(NEB,R0696S)及びI-CeuI(NEB,R0699S)で制限酵素切断し、両付着末端を有する線状化プラスミドを得た。酵素切断された線状化プラスミドとPCR生成物to_AdC7-MutB或いはto_AdC7-MutCとをモル比1:5で混合し、In-Fusionキットを用いて組換えを行い、組換え生成物をstbl2コンピテント細胞に形質転換し、アンピシリン耐性のプレートに塗布して30℃で培養した後、細胞を選択してクローン化し、PCR同定及び配列決定を行い、次いで、プラスミドを抽出した。組換えプラスミドの構築フローを
図10に示す。使用したプライマー配列を表3に示す。
【0100】
【0101】
pAdC7-M/E-MutB及びpAdC7-M/E-MutCプラスミドを制限酵素PacI(NEB,R0547S)で線状に消化した後、次いで、65℃、恒温浴で20分間加熱して、酵素を不活性化した。Fugene-6トランスフェクション試薬(Promega,E2691)を用いてプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションし、37℃のインキュベーター中で少なくとも7日間培養した後、顕微鏡下でプラークの出現について毎日調べた。プラーク細胞が脱落する時にすべての細胞及び上清を収集して第一世代の組換えアデノウイルスになった。1:10の割合で、40プレートの細胞に達するまで順次拡大培養することができた。その後、すべての細胞を収集し、細胞を3回凍結融解して溶解して、ウイルスを放出した後、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって精製し、ポリアクリルアミドゲル(Bio-Gel P-6 DG Media,BIO-RAD,1500738)で脱塩し、精製し、NANODROPによってサンプルのOD260を検出した。サンプルの濃度がOD260値に1.1x1012を掛けたものであり、単位はvp(viral particle)/mlであり、分注して-80℃で保存した。
【0102】
実施例8 組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCにより誘導されたBALB/cマウスの体液性免疫反応の評価
【0103】
24匹のBALB/cマウスをランダムに4群に分け、筋肉内注射により3種の組換えアデノウイルスワクチン、それぞれAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCで免疫し、アデノウイルスワクチン免疫の用量は1.6x1011vpであり、1群のマウスがPBSで免疫して陰性対照とした。4週間後に、採血して血清を分離し、マイクロ中和試験を用いて血清中の中和抗体価を検出した。
【0104】
結果は
図11に示す。野生型AdC7-M/E-WT及び突然変異体アデノウイルスワクチンAdC7-M/E-MutB、AdC7-M/E-MutCはいずれもマウスを誘導して中和抗体を生成することができ、Log(MN
50)値の平均値が2.0~2.5の間にあり、且つAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCの二群とAdC7-M/E-WT群との中和抗体価は有意差がなく、これは突然変異が抗原の免疫原性を有意に低下させず、依然として中和抗体の生成を良好に活性化することができるこ
とを示す。ここで、図中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0105】
実施例9 AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンにより誘導されたIfnar1-/-マウスの体液性免疫反応の評価
【0106】
ZIKVをBALB/cマウスに感染させた後マウスの死亡及び明らかな病徴が発生しないため、ワクチンの効果をより良好に検証するために、免疫不全症マウスIfnar1-/-マウスをZIKVの感染モデル(Lazear,Helen M et al.(2016),vol.19,5:720-30.)として選択し、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンにより誘導されたIfnar1-/-マウスの体液性免疫レベルを評価した。
【0107】
Ifnar1
-/-マウスをランダムに4群に分け、筋肉内注射によりそれぞれAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンを注射し、アデノウイルスワクチン免疫の用量は1.6x 10
11vpであり、1群のマウスがPBSで免疫して陰性対照とした。28日後に採血して血清を分離し、マイクロ中和試験を用いてIfnar1
-/-マウス血清中の中和ZIKV抗体の力価レベルを検出し、結果を
図12に示す。
【0108】
図12から分かるように、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンはいずれもマウスに高いレベルの中和抗体を誘導することができる。ここで、図中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0109】
実施例10 Ifnar1-/-マウス免疫後のチャレンジ保護試験
【0110】
実施例9で免疫化されたIfnar1
-/-マウスに免疫後30日目にZIKVをチャレンジし、腹腔内に5x10
6PFU ZIKV(SMGC-1株)を注射した後、毎日マウスの状態を観察し、体重変化をモニタリングし、実験結果は
図13A及び
図13Bに示す。
【0111】
図13A及び
図13Bから分かるように、sham群がチャレンジ後の4日目から徐々に体重が減少し(
図13B)、sham群のマウスが6日目又は7日目に全部死亡(
図13A)した。これに対しAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCで免疫した三群のマウスが、チャレンジ後に体重が減少せず(
図13B)、この三群のマウスはいずれも死亡しなかった(
図13A)。これはAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンが野生型のAdC7-M/E-WTワクチンと同様に、マウスへのチャレンジにおいて完全な保護作用を果たすことを示す。ここで、図中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0112】
AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンがマウスをウイルス感染後に引き起こされるウイルス血症から保護することができるか否かを検出するた
めに、当該実験にはチャレンジ後の3日目及び6日目のマウス血液を収集し、血清を分離し、次いで、MagaBio PlusウイルスRNAキット(Bioer Technology、BSC58S1B)を用いてRNAを抽出し、次いで、FastKing一段法逆転写-蛍光定量キット(TIANGEN BIOTECH、FP314)を用いてウイルスRNAを定量的に測定し、定量時に使用したプローブ及びプライマー配列は表4に示し、定量結果は
図14に示す。
【0113】
【0114】
図14から分かるように、Sham群のマウスは感染後の3日目及び6日目にいずれも高いウイルス量を検出することができ、AdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンで免疫されたマウスが感染後の3日目及び6日目の血清にウイルスが検出されず、これはAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンが野生型のAdC7-M/E-WTワクチンと同様に、マウスをウイルス血症から良好に保護することができることを示す。ここで、図中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0115】
実施例11 ZIKVワクチンの殺菌免疫(sterilizing immunity)効果の検出
【0116】
前記実験は、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫されたマウスが、ZIKV感染によるウイルス血症および死亡から保護できることを実証した。さらに実験を設計してAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンが殺菌免疫を提供できるか否かを検出し、具体的なステップは以下のとおりであった。
【0117】
Ifnar1
-/-マウスをランダムに4群に分け、筋肉内注射により3種の組換えアデノウイルスワクチンAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCで免疫し、アデノウイルスワクチン免疫の用量が1.6x10
11vpであり、1群のマウスがPBSで免疫して陰性対照とした。免疫後の28日目に採血して血清を分離し、免疫後の30日目に腹腔内経路によりZIKV(SMGC-1株)5x10
4FFUを注射し、ZIKVでチャレンジした6日目に再び採血した後、その日に肝臓、脾臓、睾丸、脳及び脊髓の一部を解剖して取り出した。解剖して取り出した組織臓器をPBS溶液に加え、次いで、粉砕器(TIANGEN BIOTECH、OSE-Y30)で粉砕し、遠心分離して上清を取り出してMagaBio PlusウイルスRNAキットを用いてRNAを抽出し、次にZIKV RNAに対してRT-PCR検出を行い、結果は
図15に示す。
【0118】
図15から分かるように、Sham群のマウスでは5つの臓器全てにおいて一定量のウイルスが検出されたが、AdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAd
C7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンで免疫したこの3群のマウスでは全ての組織臓器においてウイルスが検出されなかった。ここで、図中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0119】
マイクロ中和試験を用いて免疫後の28日目及びチャレンジ後の7日目の血清中の中和抗体価を検出し、結果は
図16に示す。
【0120】
図16から分かるように、チャレンジ前にSham群では中和抗体が検出されず、チャレンジ後の7日目にSham群の各マウスはいずれも高力価の中和抗体を検出することができた。AdC7-M/E-WT及びAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫したこの2群はチャレンジ前後の血清中和抗体価に顕著な差異がなく、ほぼ同じレベルに維持された。これは、AdC7-M/E-WTワクチン及びAdC7-M/E-MutB、AdC7-M/E-MutCワクチンはいずれもチャレンジ完全免疫を提供することができ、AdC7-M/E-MutBワクチンはAdC7-M/E-MutCワクチンに比べて効果がやや高く、完全な殺菌免疫を提供することができることを示す。ここで、図中のShamはPBSで免疫した群であり、M/E-WTは免疫AdC7-M/E-WTワクチン群であり、M/E-MutBは免疫AdC7-M/E-MutBワクチン群であり、M/E-MutCは免疫AdC7-M/E-MutCワクチン群であり、
図16において左から右へ順にSham群、M/E-WT群、M/E-MutB群、M/E-MutC群の結果であった。
【0121】
実施例12 ZIKVワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清のDENVに対する交差反応の検出
【0122】
ZIKV感染がDENVに対するADEをもたらす主な理由の1つは、ZIKV及びDENVのEタンパク質のFLエピトープがより保存されており、ZIKVによって誘発されるいくつかの抗体がDENVと交差反応した(非特許文献18)。従って、さらにELISA実験によって、AdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清の4種の血清型のDENVに対する交差反応が検出された。結果は
図17A~Eに示す。
【0123】
図17A~Eから分かるように、AdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫しされたBALB/cマウスの血清はいずれもZIKV Eタンパク質への結合能力が強い。しかし、それらの4種の血清型のDENV Eタンパク質への結合能力は異なる。M/E-MutB群及びM/E-MutC群のマウス血清が4種の血清型のDENV Eタンパク質への結合力が低いが、M/E-WT群のマウス血清が4種の血清型のDENV Eタンパク質への結合力が高いレベルで維持した。これから分かるように、突然変異体がEタンパク質のFLエピトープを破壊し、当該エピトープによって誘導される抗体の量を減少させ、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンで免疫されたマウス血清がDENV Eタンパク質に結合する能力が低下した。
【0124】
ここで、
図17A~EにおいてShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
図17Aはマウス血清がジカウイルス(ZIKV)Eタンパク質への結合力の結果を示す図であり、
図17Bはマウス血清がデングウイルス1型(DENV1)のEタンパク質への結合力の結果を示す図であり、
図17Cはマウス
血清がデングウイルス2型(DENV2)のEタンパク質への結合力の結果を示す図であり、
図17Dはマウス血清がデングウイルス3型(DENV3)のEタンパク質への結合力の結果を示す図であり、
図17Eはマウス血清がデングウイルス4型(DENV4)のEタンパク質への結合力の結果を示す図であった。
【0125】
実施例13 インビトロ実験によるZIKVワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清のDENVに対するADEの検出
【0126】
実施例12の実験結果は、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンがDENVに対する交差抗体の誘導を減少させることを実証した。さらに実験を設計して、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンがDENVに対するADEを減少させることができるか否かを検出し、具体的なステップは以下のとおりであった。
【0127】
実施例8で免疫したBALB/cマウスの血清を段階希釈し、それぞれDENV1、DENV2、DENV3、及びDENV4と混合してインキュベートし、さらにK562細胞を加え、4日間培養した後にFITC標識されたZ6抗体で染色し、続いてフローサイトメータを用いて陽性細胞の割合を検出した。結果は
図18A~Eに示す。
【0128】
抗体の媒介なしでは、DENVウイルスがK562細胞に感染することができなかった。
図18A~Eから分かるように、Sham群の血清はDENVに結合できる抗体を含まないため、検出されたサンプルの感染率はバックグラウンドレベルである。M/E-WT群のマウスの血清は一定の濃度で4種の血清型のDENVウイルスがK562細胞に感染することを媒介することができた。それに対し、M/E-MutB及びM/E-MutCとの2群のサンプルの感染率はいずれもM/E-WT群より著しく低く、DENVに対するADEの減少又は除去を示す。これは、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンがADEを低下させる良好な効果に達することを示す。
【0129】
ここで、図中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0130】
図18A~Eでは、
図18Aは、マウス血清がZIKVによるK562細胞の感染の増強に対する検出であり、
図18Bは、マウス血清がDENV1によるK562細胞の感染の増強に対する検出であり、
図18Cは、マウス血清がDENV2によるK562細胞の感染の増強に対する検出であり、
図18Dは、マウス血清がDENV3によるK562細胞の感染の増強に対する検出であり、
図18Eは、マウス血清がDENV4によるK562細胞の感染の増強に対する検出であった。
【0131】
前記一連のインビトロ実験はいずれもAdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンがDENVに対するADEを低下させ又は除去することができることを証明した。
【0132】
実施例14 インビボ実験によるZIKVワクチンで免疫されたBALB/cマウスの血清のDENVに対するADEの検出
【0133】
生理学的条件下で、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンがDENVに対するADEを減少させることができるか否かをさらに実証するために、Ifnα/βr-/-Ifnγr-/-マウスに基づくモデルを使用して、DENVに
対するADE現象を検証した。
【0134】
まず、80匹のBALB/cマウスをランダムに4群に分け、各群20匹であり、それぞれAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチン及びPBSで免疫し、アデノウイルスワクチン免疫の用量はマウス1匹あたり1.6x10
11vpであり、4週間後に採血して血清を分離し、56℃で30分間加熱し、各群の20匹のマウスの血清を混合して、後続の受動免疫Ifnα/βr
-/-Ifnγr
-/-マウスに用いた。Ifnα/βr
-/-Ifnγr
-/-マウスをランダムに4群に分け、腹腔内経路によりそれぞれAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチン或いはPBSで免疫されたBALB/cマウスの血清(血清をPBSで1:10の割合で希釈し、各マウスに希釈後の血清200μlを注射する)を注射した。24時間後に、皮下経路によりDENV2型ウイルスを、1匹ずつに、5000FFUを注射し、注射する前に各マウスの体重を記録した。その後、毎日マウスの状態及び生存状況を観察し、体重を測定した。結果は
図19A及び
図19Bに示す。
【0135】
図19A及び
図19Bから分かるように、Sham群のマウスと比較して、M/E-WT群のマウス全体的な死亡時間はより早い。これは、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスの血清がDENVの発病を増強することを示す。それに対し、M/E-MutB及びM/E-MutC群のマウス死亡時間及び傾向はSham群と一致する(
図19A)。これは、ZIKV Eタンパク質の突然変異は、DENVに対してADE現象を発生させる抗体の生成を減少し、M/E-MutB及びM/E-MutC群のマウスの表現をSham群と類似させることを示す。また、体重変化の傾向について、M/E-WT群のマウスの方がより早く体重が減少したのに対して、M/E-MutB及びM/E-MutC群のマウスの体重変化の傾向はSham群と一致する(
図19B)。これらのインビボ実験の結果は、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンが野生型ワクチンで免疫した後のDENVに対するADEを有意に減少させることができることを十分に実証している。
【0136】
ここで、
図19A及び
図19B中のShamはPBSで免疫した群を指し、M/E-WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutBはAdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、M/E-MutCはAdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0137】
実施例15 ZIKVワクチンにより誘導されたBALB/cマウスによって産生された抗体レパートリーの解析
【0138】
FL変異ZIKVワクチンは、DENVに対するADE反応を減少させながら防御免疫を誘導したので、マウスの体内のZIKV EのB細胞系列をさらに解析して、突然変異ワクチンが抗体反応にどのように影響するかを説明した。
【0139】
BALB/cマウスをランダムに3群に分け、筋肉内注射によりAdC7-M/E-WTアデノウイルスワクチン(WT群)、AdC7-M/E-MutBアデノウイルスワクチン(MutB群)及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチン(MutC群)で免疫し、各マウスを1.6x10
11vpで免疫した。免疫後の20日目に、解剖してリンパ節を取り出して1%FBSを含有する1640培地に入れ、各ワクチン群の全てのマウスのリンパ節を混合し、スライドの粗面で粉砕した後、0.45μmフィルターでろ過した。リンパ球を400g、4℃で15分間遠心分離し、上清を捨て、FACS buffer1mlで再懸濁した。FACS bufferは0.5%FBSを添加したPBS溶液であった。再懸濁した後に1.5mlのEPチューブに移し、400g、4℃
で10分間遠心分離し、上清を捨てた。細胞をFACS buffer200μlで再懸濁し、生物素標識されたZIKV E単量体タンパク質及び二量体タンパク質の混合物4μgを添加し、4℃、暗所で30分間インキュベートした。その後FACS buffer1mlを加え、均一に混合し、遠心分離して細胞をペレット化した。さらにFACS buffer1mlで1回洗浄し、次いで、抗体を加えて染色し、抗体をFACS bufferで希釈し、各200μlの抗体液はFITC-GL7,2μl(BD,553666)、PE-CD138,4μl(BD,553714)、PE/CY7-CD38,4μl(BioLegend,102718)、APC-CD93,4μl(BioLegend,136510)、BV421-B220,16μl(BioLegend,103240)、BV510―IgD,2μl(BD,563110)、BV711,4μl(BD,563262)を含む。各サンプルに抗体液200μlを加え、4℃、暗所で30分間インキュベートした後、FACS bufferで2回洗浄した。FCAS buffer2mlを添加し、細胞を懸濁し、0.45μmフィルターでろ過し、フローチューブに移し、GL-7
+B220
hiCD38
loIgD
-CD93
-CD138
-+(
図20に示す)の選別条件で選別し、ZIKV Eと反応するGC B細胞を選択し、次いで配列決定する前に、データベースを構築した。
【0140】
単一細胞のB細胞受容体(B cell receptor,BCR)の対配列を得るために、単一細胞配列決定技術を使用した。Chromium Single Cell
V(D)J Enrichment Kit,Mouse B Cell,96 rxns(10xgenomics,PN-1000072)キットを用いて配列決定前のデータベース構築をした後、高スループット配列決定して、各細胞の重鎖及び軽鎖のV(D)Jフラグメントの全長配列を解析した。結果は
図21及び表5に示す。
【0141】
図21及び表5から分かるように、WT群サンプルでは451個の重鎖可変領域配列及び661個の軽鎖可変領域配列が得られ、ペアリング可能なのは334対であり、MutB群サンプルでは310個の重鎖可変領域配列及び379個の軽鎖可変領域配列が得られ、ペアリング可能なのは234対であり、MutC群サンプルでは664個の重鎖可変領域配列及び776個の軽鎖可変領域配列が得られ、ペアリング可能なのは515対であった。ここで、
図21及び表5において、WTはAdC7-M/E-WTワクチンで免疫した群を指し、MutB指免疫AdC7-M/E-MutBワクチンで免疫した群を指し、MutCは免疫AdC7-M/E-MutCワクチンで免疫した群を指す。
【0142】
【0143】
WT、MutB及びMutCにより誘導されたマウスから生成されるレパートリーを解析した結果から、AdC7-M/E-WTワクチンで活性化されたマウスの可変領域(variable,V)遺伝子は選好性があり、約60%の重鎖はIGHV9-2-1、IGHV1-22及びIGHV7-3を使用し、約60%の軽鎖はIGKV10-96、IGKV14-111及びIGKV6-23(
図21)を使用することが分かる。それに対し、FL変異AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンでは
、BCRのプロファイルは、重鎖可変領域(HV)及び軽鎖可変領域(LV)の両方でより多様かつ分散した(
図21)。WT群において最も有意に活性化されたいくつかの可変領域遺伝子は、FL変異ワクチン群MutB及びMutC群の抗体レパートリーに減少したか、又は全く出現しなかった(
図21)。
【0144】
次いで、抗体レパートリーにおける対になるHV及びLV結果を分析し、その結果をそれぞれ
図22、
図23及び
図24-1及び
図24-2に示す。
【0145】
図22から分かるように、AdC7-M/E-WTワクチンで活性化されたマウスのGC B細胞クローンのHV:LVは顕著な選好性があり、ここで、IGHV9-2-1:IGKV10-96(29.9%)、IGHV1-22:IGKV14-111(14.4%)及びIGKV1-22:IGKV6-23(7.5%)の頻度が高く、これらの合計は約50%であった。
【0146】
図23及び
図24-1、24-2から分かるように、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンで活性化されたマウスのGC B細胞クローンのHV:LVの使用種がより多く、頻度分布もより分散した。WT群で最も高いIGHV9-2-1:IGKV10-96が検出されたが、MutBもMutC群も検出されなかった。
【0147】
抗体レパートリー解析の結果は、AdC7-M/E-WTワクチンのFL領域を置換した後、B細胞反応の免疫優性エピトープが転移したことを示す。
【0148】
実施例16 DENV感染に対するADE反応を有する主要なFLE抗体タイプの同定
【0149】
DENVに対するADE反応を引き起こす抗体の大部分は、Eタンパク質のFLEを標的としたが、ZIKV感染によって誘導される抗体もDENVに対するADE反応をもたらしたので、前記単離されたモノクローナル抗体の結合特性を同定し、どれがFLEに結合するか、およびDENVに対するADE反応を誘導するか否かを検出した。
【0150】
GC B細胞クローンの類似性分類に基づいて、それぞれAdC7-M/E-WT、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCの3つの群の総数の63.38%、46.57%及び43.88%をカバーするいくつかの代表的なモノクローナル抗体遺伝子を合成した(金唯智、蘇州)(表6)。次いで、HV及びLV遺伝子を、それぞれマウスIgG2A及びIgκ発現ベクターにクローニングした。AdC7-M/E-WTワクチン群(表6中、M/E-WTで示す)由来のモノクローナル抗体をそれぞれZWT.1-10と命名し、AdC7-M/E-MutBワクチン群(表6中、M/E-MutBで示す)及びAdC7-M/E-MutCワクチン群(表6中、M/E-MutCで示す)由来のモノクローナル抗体をそれぞれZMutB.1-8及びZMutC.1-13と命名した(表6)。
【0151】
【0152】
【0153】
モノクローナル抗体を発現する重鎖及び軽鎖プラスミドを293T細胞にトランスフェクションし、3日後に上清を回収し、ELISA実験により上清中の抗体がZIKV-E
タンパク質への結合能力を検出した。
【0154】
ELISAの実験方法は以下の通りである。タンパク質をELISAコーティング液(炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液、pH 9.6)で3μg/mlに希釈し、96ウェルELISAプレートの各ウェルに100μlを加え、4℃で一晩放置した。翌
日、コーティング液を捨て、PBSで調製された5%脱脂乳でELISAプレートをブロックし、室温で1時間放置した。ブロッキング溶液を捨て、ELISAプレートの各ウェルにモノクローナル抗体を発現する培養上清100μlを加え、室温で2時間インキュベートし、PBSTで3回洗浄した。その後、ブロッキング溶液で1:2000で希釈したGoat Anti-Mouse HRP(ab6789)二次抗体を加え、室温で1.5時間インキュベートし、PBSTで4回洗浄した。50μlのTMB発色液を加えて発色させ、30分間後に2M塩酸50μlを加えて反応を停止し、マイクロプレートリーダーを使用してOD450値を検出した。
【0155】
ELISA検出結果は
図25に示す。大部分のモノクローナル抗体はZIKV sEタンパク質の単量体或いは二量体形態に結合することができる。表6から分かるように、結合した陽性率はそれぞれME-WT群90%(9/10)、ME-MutB群87.5%(7/8)、ME-MutC群76.9%(10/13)に達成した。
【0156】
ZIKV sEタンパク質に結合する26個の陽性モノクローナル抗体をさらに評価した。
図25から、ME-WT群由来のモノクローナル抗体の全てがZIKV sE-MutCタンパク質と反応しなかったが、血清型1~4型のDENVのsEタンパク質と交差反応したことを見出した。これは、ME-WT群由来のモノクローナル抗体がFLEに結合するモノクローナル抗体であり、ME-MutB及びME-MutC群由来のモノクローナル抗体が主にZIKV特異的抗体で、ほとんどがDENV sEに結合しないことを示す。
【0157】
ME-WT群由来の代表的なFLEモノクローナル抗体を精製し、これらの抗体がK562細胞上のDENVに対するADE現象をさらに評価し、結果は
図26A~Dに示す。
図26A~Dから分かるように、検出した全てのME-WT群由来の抗体は、4種の血清型のDENVに対していずれもある程度の感染効果を増強した。ここで、
図26A~DにおいてZWT.1、4、6、8、9、10はそれぞれM/E-WT群由来のモノクローナル抗体であり、DENV1、DENV 2、DENV 3、DENV 4はそれぞれ血清型1-4型のDENVウイルスであり、
図26A~Dは順に、ZWT.1、4、6、8、9、10抗体が4種の血清型のDENVがK562細胞を感染増強を促進した結果であった。
【0158】
ME-WT群由来のFLEモノクローナル抗体は主に4種類のHV:LV遺伝子パネルであり、文献及びデータベースにおいて従来報告されたフラビウイルスFLEマウス由来モノクローナル抗体を検索しようと試み、さらに分離した抗体遺伝子座及び配列と比較し、以下の4つのモノクローナル抗体を発見した。
【0159】
6B6C-1は、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick-borne encephalitis virus,TBEV)感染後に単離されたものであり(非特許文献24)、4G2及び2A10G6は、いずれもDENV感染後に単離されたものであり(非特許文献25;非特許文献26)、
E53は、WNV感染後に単離されたものである(非特許文献27)。
【0160】
図27、及び
図28A~Eに示すように、解析により、ME-WT群から分離したFLEモノクローナル抗体はこの4つの報告されたモノクローナル抗体の遺伝子座及び配列と多くの類似を有することが分かった。
図27から分かるように、6B6C-1及び4G2は、それぞれZWT.1-3及びZWT.4-5と同じHV:LV遺伝子対を使用しており、配列類似度が高く、2A10G6及びE53は、それぞれZWT.6及びZWT.8と同じHV遺伝子を使用した。
【0161】
2A10G6及びZWT.6は異なるLV遺伝子を使用したが、2つの抗体のLV配列はいくらか類似しており、
図28Eから分かるように、2A10G6及びZWT.6のCDRL3及びFR4は完全に同一であった。
【0162】
以上の分析から分かるように、AdC7-M/E-WTワクチンで免疫されたマウスのリンパ節GC B細胞からクローニングされたFLEモノクローナル抗体は報告されたマウスのFLEモノクローナル抗体とほぼ同じ遺伝子座を使用し、配列が類似している。これから分かるように、誘導マウスが生成するFLエピトープに結合する抗体に使用される遺伝子座は選好性があり、生成されたFLE抗体の特性も類似していた。
【0163】
図28Aは、ZWT.1、ZWT.2、ZWT.3、6B6C-1の抗体重鎖とマウス遺伝子座の配列とのアラインメント解析であり、
図28Bは、ZWT.1、ZWT.2、ZWT.3、6B6C-1の抗体軽鎖とマウス遺伝子座との配列アラインメントであり、
図28Cは、ZWT.4、ZWT.5、ZWT.6、4G2、2A10G6の抗体重鎖とマウス遺伝子座との配列アラインメントであり、
図28Dは、ZWT.4、ZWT.5、4G2抗体軽鎖とマウス遺伝子座との配列アラインメントであり、
図28Eは、ZWT.6、2A10G6の抗体軽鎖とマウス遺伝子座との配列アラインメントである。
【0164】
実施例17 SPR実験によるZIKV抗体に対する野生型及び突然変異体ZIKVのEタンパク質の親和性の検出
【0165】
AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCワクチンは、DENVに対するADEを回避しながらマウスに完全な防御を提供することができたので、潜在的な分子メカニズムを説明するために、代表的な可溶性sE-MutCタンパク質を発現して精製して、sE-WTと比較した。
【0166】
BIOCORE8000は表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance,SPR)の原理に基づき、分子間の相互作用を検出することができ、分子結合過程における動的な変化をリアルタイムに反映し、相互作用の動力学パラメータを得た。
【0167】
BIOCORE8000を使用して、ZIKV sE-WTタンパク質及びZIKV sE-MutCタンパク質と、FLE抗体及び非FLE中和抗体との親和性を検出した。ZIKV sE-WTタンパク質及びZIKV sE-MutCタンパク質は、それぞれ、アミノカップリング法で、CM5チップに固定された。次いで、4種の抗体を段階希釈して移動相とした。試験抗体は固定されたZIKV sEタンパク質を順に流れ、異なる結合対応信号を得て、収集されたデータはフィッティングの計算を経て、得られた結果は
図29A~D及び
図30A~Dに示す。
【0168】
図29A~Dにおいて、
図29A~Dは順に、ZIKV sE-WTタンパク質と2A10G6抗体との結合結果(sE-WT-2A10G6)、ZIKV sE-MutCタンパク質と2A10G6抗体との結合結果(sE-MutC-2A10G6)、ZIKV
sE-WTタンパク質とZ6抗体との結合結果(sE-WT-Z6)、ZIKV sE-MutCタンパク質とZ6抗体との結合結果(sE-MutC-Z6)である。ここで、
図29Aから分かるように、2A10G6抗体がZIKV sE-WTタンパク質に結合する親和性が9.13nMであり、
図29Cから分かるように、Z6抗体がZIKV sE-WTタンパク質に結合する親和性が7.14nMであり、
図29Bから分かるように、ZIKV sE-MutCタンパク質が2A10G6抗体に全く結合しなく、
図29Dから分かるように、ZIKV sE-MutCタンパク質がZ6抗体に全く結合しなく、この結果も理論分析と一致した。
【0169】
図30A~Dにおいて、
図30A~Dは順に、ZIKV sE-WTタンパク質とZ3L1抗体との結合結果(sE-WT-Z3L1)、ZIKV sE-MutCタンパク質とZ3L1抗体との結合結果(sE-MutC-Z3L1)、ZIKV sE-WTタンパク質とZ23抗体との結合結果(sE-WT-Z23)、ZIKV sE-MutCタンパク質とZ23抗体との結合結果(sE-MutC-Z23)である。ここで、
図30A及び
図30Cから分かるように、Z3L1及びZ23抗体がZIKV E-WTタンパク質に結合する親和性はそれぞれ9.48μM及び0.625μMであり、
図30B及び
図30Dから分かるように、Z3L1及びZ23抗体がZIKV sE-MutCタンパク質に結合する親和性はそれぞれ8.01μM及び0.701μMである。突然変異タンパク質ZIKV sE-MutCがZ23及びZ3L1に結合する親和性は、野生型ZIKV sE-WTタンパク質と比較してほとんど変化せず、これは、設計された突然変異体が、タンパク質の全体的なコンフォメーションを維持することができ、突然変異部位以外の他のエピトープの変化が存在しないことを示す。
【0170】
実施例18 突然変異体ZIKV sE-MutCタンパク質とZ3L1抗体との複合体の構造解析
【0171】
突然変異体ワクチンの作用機序をさらに説明するために、ZIKV sE-MutCとZ3L1単鎖可変領域フラグメント(single-chain variable fragment,scFv)との複合体タンパク質を精製し、次いで、結晶スクリーニングした後、X線回折及び構造解析を経て、分解能が3Åの複合体の原子構造を得た。前記構造は
図31に示し、複合体のデータ収集及び最適化パラメータは表7に示す。
【0172】
【0173】
図31から分かるように、ZIKV Eタンパク質のFL配列に5つの点突然変異が導入したにもかかわらず、sE-MutCは、融合前状態である二量体形態でZ3L1のscFVに結合した。表8に示すように、二量体の接触界面を詳細に分析した結果、突然変異したFLアミノ酸残基は隣接する2つのEタンパク質のプロトマーの相互作用を再構築し、N98及びW108の2つの位置にそれぞれ4個及び1個の水素結合を生成し、Eタンパク質二量体の安定化に有利である。
【0174】
図32から分かるように、sE-MutCの折畳形態は、野生型タンパク質と非常に類似しており、正常な二次、三次および四次エピトープ構造を呈した。
【0175】
中和エピトープのコンフォメーションを解析するために、ZIKV sE-MutCとZ3L1のscFvとの複合体構造(Z3L1/ZIKV sE MutC)を、Z3L1とZIKV sE-WTタンパク質との複合体構造(Z3L1/ZIKV sE WT
,PDB:5GZN)に重ね合わせ、結果を
図33に示す。
図33から分かるように、ZIKV野生型タンパク質sE-WT及び突然変異体タンパク質sE-MutCはZ3L1抗体との結合プロフィールが同じであり、結合箇所は主にDI中のD0、E0及びF0鎖、ならびに150loopであり、また、DII中のklヘアピンである(非特許文献19)。
【0176】
sE-MutCのFL領域をsE-WTと重ね合わせて比較分析して、結果は
図34に示される。
図34から分かるように、両者のFLエピトープのコンフォメーションは非常に類似し、突然変異部位の側鎖のみにおいて差異を示す。
【0177】
突然変異体抗原sE-MutCがFLE抗体を誘導する可能性を分析するために、既知の構造のFLE抗体(Z6抗体、2A10G6抗体及びE53抗体)がフラビウイルスEタンパク質に結合する構造を、sE-MutCのDII構造と重ね合わせて分析し、結果は
図35A~Cに示す。
【0178】
図35A~Cにおいて、
図35A~Cは、それぞれ、Z6抗体とZIKV sEタンパク質との複合体構造、2A10G6抗体とZIKV sEタンパク質(PDB:5JHL)との複合体構造、及びE53抗体とWNV sEタンパク質(PDB:3I50)との複合体構造を用いた。
図35A~Cから分かるように、モノクローナル抗体がsE-MutCに結合した場合、G106、L107、及びF108の突然変異は抗原と抗体との結合を明らかに阻害する。G106Lの突出している長側鎖は、これらのFLE抗体の結合を阻害することができる。L107Eの突然変異後、荷電側鎖が形成され、相互作用における局所的な疎水性相互作用を破壊する可能性がある。さらに、F108W突然変異が立体障害を形成し、sE-MutCのFLエピトープと2A10G6抗体との相互作用に影響した。したがって、ZIKV Eタンパク質のFLエピトープにおけるG106、L107、及びF108の3つの重要なアミノ酸の突然変異は相乗的に作用し、FLE抗体の誘発を解消した。
【0179】
【0180】
実施例19 MutA、MutB及びMutC突然変異DENVワクチンの構築
【0181】
DENVワクチンの設計においてADEを回避する方法は、依然として未解決の問題(REF)であり、ZIKVのFL及びDENVのFL配列が高度に保存されている。前記の体系的な試験から、AdC7-M/E-MutB及びAdC7-M/E-MutCアデノウイルスワクチンは、マウスに対して完全な防御を提供しながらDENVに対するADEを回避することができることを実証した。従って、MutA、MutB及びMutC突
然変異したDENVワクチンを構築することにより、当該ワクチンが同様の効果を有するかどうかを検証した。
【0182】
まず、JEV(日本脳炎ウイルス(japanese encephalitis virus))由来のシグナルペプチド遺伝子(SEQ ID NO.17)と、DENV2 New Guinea Cウイルス株(GenBank:KM204118.1)を発現するM/E遺伝子(SEQ ID NO.18)とをpshuttleベクターに構築し、野生型DENV2 M/Eを発現するプラスミドpshuttle-DV2-M/E-WTを得た。JEV由来のシグナルペプチド遺伝子(SEQ ID NO.17)と、DENV2 New Guinea Cウイルス株のprM/Eタンパク質を発現する遺伝子(SEQ ID NO.19)とをpshuttleベクターに構築し、野生型DENV2 prM/Eを発現するプラスミドpshuttle-DV2-prM/E-WTを得た。
【0183】
全ての突然変異体は、M/E-WT抗原に基づいて構築された。pshuttle-DV2-M/E-WTプラスミドをテンプレートとして使用して、突然変異体MutA(D98N、N103T、G106F、L107E及びF108W)、MutB(D98N、N103T、G106F、L107K及びF108W)及びMutC(D98N、N103T、G106L、L107E及びF108W)プラスミドを構築した。構築中に使用されたプライマー配列を表9に示す。
【0184】
【0185】
野生型タンパク質を発現するプラスミドpshuttle-DV2-M/E-WT及びpshuttle-DV2-prM/E-WT、ならびに3種の突然変異体プラスミドを、293T細胞にトランスフェクションした。48時間後に上清を除去し、細胞をPBSで1回洗浄し、続いてトリプシンで細胞を単一細胞に消化し、遠心分離後にDMEM培地で再懸濁し、さらにDMEM培地で1回洗浄した。次にBD社のFixation an
d Permeabilization solutionを加え、氷上に20分間置いた。次いで、800gで10分間の遠心分離によって細胞を回収し、BD社の1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。各サンプルを5つに分け、FLエピトープに結合できるZ6、2A10G6及びmAb11抗体、ならびに非FLエピトープに結合できるmAb513及びD448抗体をそれぞれ添加し、4℃の冷蔵庫に1時間置いた。細胞を遠心分離により回収し、そして1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。次にGoat Anti-Human FITC(Proteintech,00003-12)抗体を加え、4℃の冷蔵庫に1時間置いた。細胞を遠心分離により回収し、そして1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。PBSで細胞を再懸濁(200μl/ウェル)し、フローサイトメータを用いてサンプルの陽性率を検出し、実験結果を
図36に示す。
【0186】
図36から分かるように、FLエピトープに結合する抗体Z6及び2A10G6は、DENV2のM/E-WT及びprM/E-WTタンパク質を認識することができるが、DENV2のEタンパク質FLエピトープに3種の突然変異の組み合わせを導入した場合、Z6及び2A10G6抗体がDENV2のM/E-MutA或いはM/E-MutB或いはM/E-MutCタンパク質への結合能力が大幅に減少し又は結合しなくなった。より高い中和活性を有する非FLエピトープに結合するmAb513及びD448抗体については、MutA、MutB及びMutC突然変異を導入したDENV2のM/E-MutA或いはM/E-MutB或いはM/E-MutCタンパク質に依然として結合することができる。これは、DENV2 Eタンパク質のFLエピトープの突然変異は、他のエピトープに対して有意な影響を示さなかった。前記結果から分かるように、この3種の突然変異の組み合わせが、DENVワクチンに使用されることができる。G106、L107、及びF108位の突然変異の組み合わせを有するDENV2 Eタンパク質抗原から得られたワクチンが、ワクチンで免疫した後、その後のDENVウイルス感染によって引き起こされるADE現象を減少させることができる。
【0187】
実施例20 ZIKV E W101位を他の19種のアミノ酸に突然変異させた後の抗原活性に対する影響の検出
【0188】
Z6/ZIKV sE及び2A10G6/ZIKV sEの構造において、Eタンパク質と抗体との作用が最も多いアミノ酸はW101である。同時に、ほとんどのFLE抗体のEタンパク質への結合はいずれもW101に依存することが文献に報告されている(非特許文献28)。従って、W101を他の19種のアミノ酸に突然変異させ、次にフローサイトメトリーによって細胞が抗原を発現するエピトープが変化するか否かを検出し、より最適な突然変異をスクリーニングした。
【0189】
JEV由来のシグナルペプチド遺伝子(SEQ ID NO.17)及び野生型ZIKVのM/E遺伝子(SEQ ID NO.31)をpCAGGSベクター(Addgene)に構築して、野生型ZIKVのM/Eタンパク質を発現するプラスミドpCAGGS-M/E-WTを得た。当該プラスミドをテンプレートとして使用して、Eタンパク質101位のトリプトファンを他の19種のアミノ酸に突然変異させた。トリプトファンからアラニンへの突然変異を例とすると、プラスミドpCAGGS-M/E-WTをテンプレートとして使用し、W101-WT-F及びW101-1A-Rをプライマーとして使用し、PCRによって生成物W101-1A-1を得て、プライマー配列は表10に示す。プラスミドpCAGGS-M/E-WTをテンプレートとして使用し、W101-WT-R及びW101-1A-Fをプライマーとして使用し、PCRによって生成物W101-1A-2を得た。さらに、W101-1A-1とW101-1A-2とをモル比1:1で混合した混合物をテンプレートとして使用し、W101-WT-F及びW101-WT-Rをプライマーとして使用し、PCRによって、PCR生成物W101-1Aを得た。p
CAGGSベクターを、XhoI(Thermo,FD0694)及びEcoRI(Thermo,FD0274)で制限酵素切断し、両付着末端を有する線状化プラスミドを得た。酵素切断した後の線状化プラスミドとW101-1Aとをモル比1:5の割合で混合し、In-Fusionキット(Takara,639648)を用いて組換えを行い、組換え生成物をDH5αコンピテント細胞に形質転換し、アンピシリン耐性のプレートに塗布して37℃で培養した後、細胞を選択して、クローン化して、PCR同定及び配列決定を行った。
【0190】
【0191】
【0192】
W101の19種の突然変異体プラスミドを抽出した後、野生型プラスミド及び19種の突然変異体プラスミドをそれぞれ293T細胞にトランスフェクションした。48時間後に上清を除去し、細胞をPBSで1回洗浄し、続いてトリプシンで細胞を単一細胞に消化し、遠心分離後にDMEM培地で再懸濁し、さらにDMEM培地で1回洗浄した。次にBD社のFixation and Permeabilization solutionを加え、氷上に20分間置いた。次いで、800gで10分間の遠心分離によって細胞を回収し、BD社の1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。各のサンプルを5つに分け、Z6及び2A10G6抗体をそれぞれ添加し、4℃の冷蔵庫に1時間置いた。細胞を遠心分離により回収し、そして1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。次にGoat Anti-Human FITC(Proteintech,00003-12)抗体を加え、4℃の冷蔵庫に1時間置いた。細胞を遠心分離により回収し、そして1×Perm/Wash bufferで2回洗浄した。PBSで細胞を再懸濁(200μl/ウェル)し、フローサイトメータを用いてサンプルの陽性率を検出し、実験結果を
図37に示す。
【0193】
図37から分かるように、ZIKV野生型M/E抗原はZ6及び2A10G6抗体に結合することができるが、19種の突然変異体はいずれもZ6及び2A10G6抗体にほとんど結合することができない。これから分かるように、ZIKV Eタンパク質の101位のトリプトファンがFLを標的とする抗体の活性化に重要であり、W101部位の突然変異によって調製されたワクチンはFLエピトープによって誘導される抗体の産生を低減
又は回避し、ワクチンで免疫した後にDENVに対するADE現象を引き起こすことを回避することができる。
【0194】
実施例21 ZIKV Eタンパク質G106、L107、及びF108部位の突然変異がFLE抗体に対する結合能の検出
【0195】
前記のpCAGGS-ZIKV-M/E発現プラスミドに基づいて、以下の単一部位及び二重部位の点突然変異を行い、突然変異体プラスミドの構築方法は実施例20を参照し、突然変異プラスミドを構築する過程で使用されるプライマーは表11に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
野生型プラスミドpCAGGS-ZIKV-M/E-WT及び構築された突然変異体プラスミドを、それぞれ293T細胞にトランスフェクションした。48時間後に細胞を収集し、単一細胞に消化し、固定化・透過処理して、FLエピトープに結合するADE抗体Z6及び2A10G6とインキュベートした。Goat Anti-Human(mouse)FITC二次抗体とインキュベートし、最後にフローサイトメータを用いてサンプルの陽性率を検出した。陽性率が野生型陽性率の10%未満であれば非結合とみなし、10%~50%であれば弱結合とみなし、結果を表12に示す。
【0200】
表12から明らかなように、前記突然変異は基本的にFLエピトープの代表的なADE抗体(Z6抗体及び2A10G6 抗体)の結合を阻害することができる。これから分かるように、これらの突然変異により代表されるG106、L107、及びF108部位の単一又は相乗的な突然変異で製造されたワクチンはFLエピトープによって誘導されるADE抗体を低減又は回避することができ、そして、ワクチンで免疫した後、DENVに対するADE現象を引き起こすことを回避した。
【0201】
【0202】
実施例22 DENV Eタンパク質G106、L107、及びF108部位の突然変異がFLE抗体に対する結合能の検出
【0203】
前記のpCAGGS-DENV2-M/E発現プラスミドに基づいて、以下の単一部位及び二重部位の点突然変異を行い、突然変異体プラスミドの構築方法は実施例19を参照し、突然変異プラスミドを構築する過程で使用されるプライマーは表13に示す。
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
野生型プラスミドpCAGGS-ZIKV-M/E-WT、pCAGGS-DENV2-M/E-WT及び上記表の突然変異体構築物を、それぞれ293T細胞にトランスフェクションした。48時間後に細胞を収集し、単一細胞に消化し、固定化・透過処理して、FLエピトープに結合するADE抗体Z6及び2A10G6とインキュベートした。Goat Anti-Human(mouse)FITC二次抗体とインキュベートし、最後にフローサイトメータを用いてサンプルの陽性率を検出した。陽性率が野生型陽性率の10%未満であれば非結合とみなし、10%~50%であれば弱結合とみなし、結果を表14に示す。
【0208】
表14から明らかなように、前記突然変異は基本的にFLエピトープの代表的なADE抗体の結合を阻害することができる。これから分かるように、これらの突然変異により代表されるG106、L107、及びF108の単一又は相乗的突然変異で製造されたワクチンはFLエピトープによって誘導されるADE抗体を低減又は回避することができ、そして、ワクチンで免疫した後、DENVに対するADE現象を引き起こすことを回避した。
【0209】
【0210】
最後に説明するべきなのは、以上の実施例が本発明の技術案を説明するために用いられるものであり、制限したものではない。前記実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者であれば、依然として前記各実施例に記載の技術案を変更し、又はその一部の技術的特徴に等価置換を行うことができ、これらの変更や置換によって、対応する技術案の本質が本発明の各実施例の技術案の精神と範囲から逸脱することはないことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明の実施例はジカ・デングワクチン及びその使用に関する。
【0212】
本発明は、結晶構造解析並びに他の構造及び機能の分析に基づいて、ADE現象を引き起こす主要な抗体のエピトープ情報を得る。本発明の実施例で提供される抗原は、ジカウ
イルス又はデングウイルスのEタンパク質のFL融合領域に突然変異を導入し、この突然変異を有する抗原は、いずれもADEを引き起こす抗体(FLE抗体)に結合できない。本発明により提供される前記抗原から得られたワクチンは、免疫を獲得した後、FLエピトープによって誘導される抗体の生成を回避することができ、ADE現象の低減又は除去を実現することができる。
【配列表】
【国際調査報告】