(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(54)【発明の名称】シラン系プライマーを使用した、高フッ素化プラスチックのエラストマーへの結合
(51)【国際特許分類】
B29C 65/48 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
B29C65/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525963
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 IB2020060279
(87)【国際公開番号】W WO2021090147
(87)【国際公開日】2021-05-14
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】グエン,トー キュー.
(72)【発明者】
【氏名】ホフ,クレイグ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ナイヨン
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AA44
4F211AA45
4F211AA47
4F211AB11
4F211AB12
4F211AD12
4F211AD20
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4F211AG03
4F211AG08
4F211AR02
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4F211TC11
4F211TD11
4F211TH22
4F211TH24
4F211TN45
4F211TQ09
(57)【要約】
高フッ素化熱可塑性樹脂をエラストマーに結合する方法が記載されている。本方法は、少なくとも1つの芳香族シランと少なくとも1つのアミノシランとを含むプライマーを未硬化エラストマーに適用することと、高フッ素化熱可塑性樹脂を適用する前又は後に、プライマーに化学線を照射することと、を含む。次いで、エラストマーを硬化させて、高フッ素化熱可塑性樹脂と硬化エラストマーとの間に良好な接着性を有する物品を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)芳香族シランと(ii)アミノシランとを含むプライマーを、未硬化エラストマーを含む組成物上に適用することと、
(b)高フッ素化熱可塑性樹脂を前記プライマー上に適用することと、
(c)前記プライマーに化学線を照射することと、
(d)前記高フッ素化熱可塑性樹脂と前記組成物との間に結合を形成することと、
を含む、多層物品の形成方法。
【請求項2】
前記プライマーに化学線を照射した後、(e)前記未硬化エラストマーを硬化させて硬化エラストマーを形成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未硬化エラストマーを硬化させることが、前記未硬化エラストマーを熱硬化させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プライマーが、前記高フッ素化熱可塑性樹脂が前記プライマー上に適用された後に照射される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プライマーが、前記高フッ素化熱可塑性樹脂が前記プライマー上に適用される前に照射される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高フッ素化熱可塑性樹脂を前記プライマー上に適用することが、前記高フッ素化熱可塑性樹脂を押出し成形することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プライマーを適用する前に、前記未硬化エラストマーを含む組成物を押出し成形することを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記高フッ素化熱可塑性樹脂が、全フッ素化熱可塑性樹脂である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ペルフルオロプラスチックが、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)及びペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)のうちの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記高フッ素化熱可塑性樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフッ化ビニリデンを含むコポリマーを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記エラストマーが、フルオロエラストマーを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記エラストマーが、ニトリルブタジエンゴムを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記芳香族シランが、芳香族第二級アミノシラン又は芳香族第三級アミノシランである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記芳香族シランが、N-フェニルアミノアルキルトリアルコキシシランを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アミノシランが、(アミノアルキル)トリアルコキシシランである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項2~15のいずれか一項に記載の方法によって製造された、多層物品。
【請求項17】
前記高フッ素化熱可塑性樹脂と前記硬化エラストマーとの間の接着力が、層間接着力試験に従って測定したとき、少なくとも5N/cmである、請求項16に記載の多層物品。
【請求項18】
前記接着力が、少なくとも15N/cmである、請求項16に記載の多層物品。
【請求項19】
前記多層物品が、前記高フッ素化熱可塑性樹脂に囲まれ、かつ前記高フッ素化熱可塑性樹脂に結合された前記硬化エラストマーを含むチューブを備えたホースである、請求項16~18のいずれか一項に記載の多層物品。
【請求項20】
前記物品が、前記硬化エラストマーに囲まれ、かつ前記硬化エラストマーに結合された前記高フッ素化熱可塑性樹脂を含むチューブを備えたホースである、請求項16~18のいずれか一項に記載の多層物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高フッ素化プラスチック、例えば、ペルフルオロプラスチックを、フルオロエラストマー等のエラストマーに結合するための、シラン系プライマーシステムの使用方法に関する。そのような方法を使用して調製された結合物品も記載される。
【発明の概要】
【0002】
簡潔に述べると、一態様において、本開示は、(a)(i)芳香族シランと(ii)アミノシランとを含むプライマーを、未硬化エラストマーを含む組成物上に適用することと、(b)高フッ素化熱可塑性樹脂を上記プライマー上に適用することと、(c)上記プライマーに化学線を照射することと、(d)高フッ素化熱可塑性樹脂と上記組成物との間に結合を形成することと、を含む、多層物品の形成方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、プライマーに化学線を照射した後、(e)未硬化エラストマーを硬化させて硬化エラストマーを形成することを更に含む。
【0003】
別の態様では、本開示は、本開示の方法に従って製造された物品(例えば、ホース)を提供する。いくつかの実施形態では、高フッ素化熱可塑性樹脂と硬化エラストマーとの間の接着力は、層間接着力試験に従って測定したとき、少なくとも5N/cmである。
【0004】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の記述においても示される。本発明の他の特色、目的、及び利点については、本明細書及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態による方法を示す図である。
【0006】
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による代替法を示す図である。
【0007】
【
図3】本開示による方法によって調製された例示的な物品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
フッ素含有ポリマー(「フルオロポリマー」としても知られる)としては、例えば、フルオロエラストマー及びフルオロ熱可塑性樹脂(「フルオロプラスチック」としても知られる)が挙げられる。フルオロポリマーは、概して高い熱安定性を有し、高温で有用である。フルオロポリマーはまた、非常に低い温度で極度の靭性及び可撓性を示し得る。これらのフルオロポリマーの多く、特に高フッ素化物(例えば、全フッ素化ポリマー)は、概して耐薬品性があり、多種多様な溶媒にほぼ完全に不溶性であり得る。
【0009】
フルオロポリマーは、多種多様な工業用途に使用される。これらの用途のいくつかは、優れた耐薬品性、高温安定性、及び低温可撓性などのフルオロポリマーの有益な特性の組み合わせを必要とする。そのような用途は、多層構造体を使用し得る。例えば、いくつかの用途では、高フッ素化ポリマーは、エラストマーと組み合わされ得る。そのような構造体は、例えば、燃料ラインホース、ターボチャージャーホース、並びに化学処理用の容器、ホース、ガスケット、及びシールに有用である。
【0010】
多層物品の層間の接着性は、完成物品の使用に応じて、様々な性能標準を満たすことが必要となり得る。しかしながら、層の1つがフルオロポリマーである場合、高い結合強度を確立することが困難となることが多く、その原因の一部は、フルオロポリマーの非接着性にある。フルオロポリマーが高フッ素化又は全フッ素化されている場合、結合は特に困難となり得る。
【0011】
この問題に対処するために、様々な方法が提案されてきた。1つのアプローチは、フルオロポリマー層と第2の層との間に接着剤層又は結合層(tie layer)を使用することである。強力な還元剤又はコロナ放電の使用などの、フルオロポリマー層の表面処理も、接着を増進するために使用されている。
【0012】
上記及びその他のアプローチにもかかわらず、高フッ素化熱可塑性樹脂(例えば、ペルフルオロプラスチック)とエラストマーとの間に良好な接着を得ることは、依然として困難である。驚くべきことに、本発明者らは、そのような材料を結合するために使用される方法が、良好な接着を達成するためにきわめて重要となり得ることを発見した。
【0013】
概して、本開示は、結合組成物(プライマーとも称される)を用いてエラストマーに結合された少なくとも1つの高フッ素化熱可塑性樹脂を含む多層物品に関する。そのような物品の形態は特に限定されず、シート及び成形物品などが挙げられ得るが、そのような構造体は、ホース、例えば、燃料ラインホース及びターボチャージャーホースでの使用に特に有益となり得る。
【0014】
本明細書で使用される場合、「高フッ素化」は、ポリマー中のハロゲン及び水素原子の総数の少なくとも90%がフッ素原子であることを意味する。いくつかの実施形態では、ポリマー中のハロゲン及び水素原子の総数の少なくとも95%、又は更には少なくとも99%がフッ素原子である。例えば、いくつかの実施形態では、ポリマーは「全フッ素化」されており、これは、高フッ素化熱可塑性樹脂の繰り返しモノマー単位が、いかなる炭素-水素結合も含まないことを意味する。しかしながら、フルオロポリマーは、重合に使用される方法及び材料(用いられる場合、例えば、乳化剤、開始剤系、及び/又は連鎖移動剤)に由来するいくつかの炭素-水素結合を含み得る。いくつかの実施形態では、高フッ素化熱可塑性樹脂は、ペルフルオロプラスチックであり得る。
【0015】
概して、高フッ素化熱可塑性樹脂の選択は限定されない。例示的な高フッ素化熱可塑性樹脂としては、一般にFEPと称される、テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマー;一般にPFAと称される、TFE及びフッ化ビニルエーテルのコポリマー、例えば、TFE及びペルフルオロプロピルビニルエーテルのコポリマー;TFE、HFP、少量のフッ化ビニリデン(VF2、VDFとも称される)、並びに任意に、全フッ素化ビニル及びアリルエーテル(例えば、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)及びペルフルオロ(プロピルビニルエーテル(PPVE)のコポリマー、例えば、3M CompanyからTHVの商品名で入手可能なポリマーが挙げられる。高フッ素化熱可塑性樹脂の調製における使用に好適な他のモノマーとしては、クロロトリフルオロエチレン、3-クロロペンタフルオロプロペン、全フッ素化ビニル及びアリルエーテル、並びにペルフルオロアルコキシビニル及びアリルエーテルが挙げられる。いくつかの実施形態では、ポリマー中のハロゲン及び水素原子の総数の少なくとも90%(例えば、少なくとも95%又は更には少なくとも99%)がフッ素原子であるという条件で、エチレン及びプロピレンなどの炭化水素ジエンも少量存在し得る。
【0016】
好適なエラストマーとしては、フッ素化エラストマー(「フルオロエラストマー」)及び非フッ素化エラストマーの両方が挙げられる。フッ素化エラストマーとしては、部分フッ素化エラストマー(「FKM」ASTM D 1418-17、ISO/DIN 1629規格で「FPM」とも称される)、全フッ素化エラストマー(「FFKM」)、及びフッ素化エチレン/プロピレンゴム(TFE/P、「FEPM」と称される)が挙げられる。概して、FKMエラストマーは、フッ化ビニリデン繰り返し単位を含むコポリマーであり、例えば、HFP及びVF2のコポリマー;TFE/HFP/VF2;TFE/VF2/プロピレン;及びTFE/VF2/PMVEなどのターポリマーである。概して、FFKMエラストマーは、TFE及び全フッ素化エーテル(ペルフルオロアルキルビニルエーテル、ペルフルオロアルコキシビニルエーテル、ペルフルオロアルキルアリルエーテル、及びペルフルオロアルコキシアリルエーテルなど)のコポリマーである。
【0017】
例示的な非フッ素化エラストマーとしては、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム、塩素化及びクロロスルホン化ポリエチレン、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンモノマー(EPM)ゴム、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴム、エピクロロヒドリン(ECO)ゴム、ポリイソブチレンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリスルフィドゴム、ポリウレタン、シリコーンゴム、ポリ塩化ビニルとNBRとのブレンド、スチレンブタジエン(SBR)ゴム、エチレン-アクリレートコポリマーゴム、エチレン酢酸ビニルゴムが挙げられる。
【0018】
光吸収化合物及び電子供与体を含む結合組成物が、フルオロポリマーを様々な基材に結合するために使用されている。例えば、米国特許第6,630,047号は、光吸収化合物及び電子供与体を含む結合組成物を使用して、フルオロポリマーを様々な基材に接着することを記載している。芳香族部分などの、化学線による励起が可能な部分を有するものを含む、多種多様な好適な光吸収化合物が記載されている。一級アミンなどのアミン及びアミノ置換オルガノシランを含む、多種多様な電子供与体も記載されている。同様に、米国特許第6,685,793号は、フルオロポリマーを基材に接着するための、光吸収電子供与体を含む結合組成物の使用を記載している。好適な光吸収電子供与体としては、フッ素化アミン及びフッ素化アニリンが挙げられる。結合組成物はまた、アミノ置換オルガノシランなどの脂肪族又は芳香族アミンを含み得る。
【0019】
本開示の結合組成物は、(i)芳香族シランと、(ii)アミノシランとを含む。
【0020】
本開示での使用に好適な芳香族シランとしては、式(I)
Ar-L-Si-Y3 (I)、
[式中、Arは芳香族基であり、Lは共有結合又は二価連結基である]によるものが挙げられる。いくつかの実施形態では、各Yは、独立して、-OH及び-OR1[式中、R1は、アルキル基、例えば、C1~C6の直鎖又は分枝鎖アルキル基である]から選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのYが-OH又は-OR1であることを条件として、Y基のうちの1つ又は2つがC1~C4アルキル基であり得る。いくつかの実施形態では、Arは、ベンジル基であり、任意にフェニル基などの置換ベンジル基である。いくつかの実施形態では、Lは、例えば1~12個の炭素原子を有する、直鎖アルケン、又は例えば3~8個の炭素原子を有する、シクロアルケンである。いくつかの実施形態では、連結基は、ヘテロ原子(例えば、酸素、リン、硫黄又は窒素)を含む。いくつかの実施形態では、連結基は窒素原子を含み、芳香族シランは芳香族アミノシランである。いくつかの実施形態では、芳香族アミノシランは、式(II)
Ar-N(X)-Si-Y3 (II)、
[式中、Arは芳香族基(例えば、フェニル基)である]のものである。いくつかの実施形態では、Xは水素であり、化合物は第二級アミンを含む。いくつかの実施形態では、Xは有機基であり、任意にヘテロ原子(例えば、酸素)を含有し、化合物は第三級アミンを含む。いくつかの実施形態では、Xは、例えば1~8個の炭素原子、例えば1~4個の炭素原子を有する、直鎖又は分枝鎖アルキル基である。いくつかの実施形態では、各Yは、独立して、-OH及び-OR1[式中、R1は、アルキル基、例えば、C1~C6の直鎖又は分枝鎖アルキル基である]から選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのYが-OH又は-OR1であることを条件として、Y基のうちの1つ又は2つがC1~C4アルキル基であり得る。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態における使用に好適な例示的な芳香族シランとしては、N-フェニルアミノアルキルトリアルキルシラン及びN-フェニルアミノアルキルトリアルコキシシラン、例えば、N-フェニルアミノメチルトリエトキシシランが挙げられる。
【0022】
本開示の結合組成物における使用に好適なアミノシランとしては、式(III)
R2R3N-Q-SiZ3 (III)、
[式中、R2及びR3のそれぞれは、独立して、H、C1~C12のアルケニル、アルケニル、若しくはアルキニル基、又は芳香族基であり、Qは二価連結基である]のものが挙げられる。いくつかの実施形態では、Qは、二価直鎖C1~12アルキレン、C3~8シクロアルキレン、3~8員環ヘテロシクロアルキレン、C1~12アルケニレン、C3~8シクロアルケニレン、3~8員環ヘテロシクロアルケニレン、アリーレン、又はヘテロアリーレンである。いくつかの実施形態では、Qは、C1~4アルキル、C2~4アルケニル、C2~4アルキニル、C1~4アルコキシ、ヒドロキシル、ハロ、カルボキシル、アミノ、ニトロ、シアノ、C3~6シクロアルキル、3~6員ヘテロシクロアルキル、単環式アリール、5~6員環ヘテロアリール、C1~4アルキルカルボニルオキシ、C1~4アルキルオキシカルボニル、C1~4アルキルカルボニル、ホルミル、C1~4アルキルカルボニルアミノ、又はC1~4アミノカルボニルで任意に置換されている。
【0023】
式(III)において、各Zは、ハロゲン、アルキル基(例えば、C1~C8アルキル基)、アルコキシ基(例えば、C1~C8アルコキシ基)、アルキルカルボニルオキシ(例えば、C1~C8アルキルカルボニルオキシ基)、又はアミノ基から独立して選択される。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態における使用に好適な例示的なアミノシランとしては、(アミノアルキル)トリアルキルシラン、(アミノアルキル)トリアルコキシシラン、(アミノアルキル)ジアルキルアルコキシシラン、及び(アミノアルキル)ジアルコキシアルキルシランが挙げられる。いくつかの実施形態では、(3-アミノプロピル)トリメトキシシランが使用され得る。いくつかの実施形態では、連結基Qは、1つ以上のアミノ基を含む。例えば、いくつかの実施形態では、好適なアミノシランとしては、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
概して、結合組成物を含有するコーティングは、少なくとも1つの芳香族シラン、例えば、芳香族アミノシランを、芳香族シランとは異なる少なくとも1つのアミノシランと溶媒中で組み合わせることによって調製される。いくつかの実施形態では、コーティングは、溶媒を含むコーティング組成物の総重量に基づいて、1~10重量%、例えば、2~10重量%、又は更には3~6重量%の芳香族シランを含む。いくつかの実施形態では、コーティングは、溶媒を含むコーティング組成物の総重量に基づいて、0.05~5重量%、例えば、0.1~5重量%、0.1~3重量%、又は更には0.1~1重量%のアミノシランを含む。コーティング組成物は、染料、乾燥助剤、コーティング助剤などの他の材料を含み得る。
【0026】
これらの成分は、任意の好適な溶媒と組み合わせることができる。好適な溶媒は、当該技術分野で既知であり、選択される特定のシラン、並びにプライマーが適用される基材に応じて異なり得る。好適な溶媒としては、1つ以上のアルコール(例えば、メタノール、エタノール及びプロパノール)、及び/又はフッ素化溶媒などの少なくとも1つの有機溶媒を含むものが挙げられる。いくつかの実施形態では、溶媒は水を含み得る。特に限定されないが、コーティング組成物は、最大98重量%、例えば最大96重量%又は最大94重量%の溶媒を含み得る。いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%、又は更には少なくとも95重量%の溶媒を含む。
【0027】
本発明者らは、高フッ素化熱可塑性樹脂をエラストマーに結合しようとする場合、結合組成物に使用される成分の選択に加えて、結合を形成するために使用される方法が、所望の結合強度を達成する際に重要な役割を果たすことを発見した。この効果を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0028】
【0029】
プライマーA。プライマーAは、2.01重量%のAPMSと0.67重量%のフェニルシランをメタノール中で混合することによって、コーティング組成物として調製した。
【0030】
フッ素化エラストマー(FE-1)。FE-1は、表2Aに列挙した材料を配合することによって調製した。
【表2】
【0031】
非フッ素化エラストマー(NFE-1)。NFE-1は、表2Bに列挙した材料を配合することによって調製した。
【表3】
【0032】
2枚の剥離ライナーの間に置いた所望のエラストマー組成物(例えば、FE-1又はNFE-1)を、2mm(0.08インチ)の厚さで、93℃(200°F)で5分間プレスすることによって、未硬化エラストマーのシートを調製した。
【0033】
実施例1~3は、
図1に示すように、本発明の1つの例示的な方法に従って調製した。概して、プライマー(103)を、コーティング組成物として未硬化エラストマー(101)に適用し、乾燥して溶媒を除去する(工程120)。次に、高フッ素化熱可塑性樹脂(104)をプライマーコーティングされた未硬化エラストマーに適用する(工程130)。プライマーを、高フッ素化熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーを通して化学線に曝露して(工程140)、未硬化エラストマー(101)と高フッ素化熱可塑性樹脂(104)との間の界面に、照射されたプライマー(113)を有する中間物品(105)を形成する。いくつかの実施形態では、この積層構造中の未硬化エラストマーを、次に硬化して(工程150)、照射されたプライマー(113)によって高フッ素化熱可塑性樹脂(104)に結合された硬化エラストマー(111)を含む物品(106)を形成する。任意に、構造体は、エラストマーを硬化させる前又は後に、所望の形状に成形(例えば、型成形)することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、プライマーは、エラストマーを通して、又はエラストマー及びフルオロプラスチックの両方を通して、化学線に曝露され得る。いくつかの実施形態では、高フッ素化熱可塑性樹脂が適用される前に、直接的に及び/又はエラストマーを通してのいずれかで、プライマーが化学線に曝露されてもよい。
【0035】
化学線は、結合組成物(プライマー)の存在下で、高フッ素化熱可塑性樹脂とエラストマーとの間の結合に影響を与えることができる波長を有する電磁放射線である。化学線の波長及び強度は、部分的には、芳香族シランを含む選択された材料に依存する。いくつかの実施形態では、化学線は、190nm~700nm、例えば、200~400nm、205~320、210~290nm、又は更には240nm~260nmの波長を有し得る。化学線を送達するための好適な機器及び手順は、当該技術分野で既知である。
【0036】
エラストマーは、使用される特定のエラストマーに対して選択された既知の手段を使用して硬化させることができる。いくつかの実施形態では、エラストマーは、例えばオーブン又はオートクレーブ内で、熱硬化される。
【0037】
実施例1(EX-1)。FE-1の未硬化シートをプライマーAでコーティングし、乾燥した。FTP-1のシート(約7.6cm×7.6cm×0.25mm厚)を、2枚の剥離ライナーの間に置いたプライマーコーティングされたFE-1シートの上に積層し、93℃で5分間プレスし、プレスから取り出して放冷した。積層構造体に、FUSION 500ワットHバルブを用いて、35%の強度で60秒間、UV照射した。照射後、積層体を、蒸気オートクレーブに入れ、163℃及び496kPaで35分間処理してエラストマーを硬化した。室温まで冷却した後、積層体を、層間接着力について試験した。
【0038】
実施例EX-2は、高フッ素化熱可塑性樹脂FTP-2を使用したことを除いて、EX-1と同じ方法で調製した。同様に、EX-3は、エラストマーが非フッ素化エラストマーNFE-1であったことを除いて、EX-1と同じ方法で調製した。
【0039】
比較例CE-1~CE-4は、プライマーを未硬化エラストマーではなく高フッ素化熱可塑性樹脂のシートに適用したこと、及びプライマーへの照射が積層前であったことを除いて、同様の方法で調製した。
【0040】
比較例1(CE-1)。FTP-1のシート(約7.6cm×7.6cm×0.25mm厚)を、プライマーAでコーティングし、乾燥した。このプライマーに、FUSION 500ワットHバルブを用いて、35%の強度で60秒間、UV照射した。このプライマーコーティングされた高フッ素化熱可塑性シートを、照射プライマーが未硬化エラストマーに隣接する状態で、フルオロエラストマーFE-1の未硬化シートの上に積層し、2枚の剥離ライナーの間に置いて、93℃で5分間プレスし、プレスから取り出して放冷した。次いで、積層体を蒸気オートクレーブに入れ、163℃及び496kPaで35分間処理してエラストマーを硬化した。室温まで冷却した後、積層体を、層間接着力について試験した。
【0041】
比較例CE-2は、高フッ素化熱可塑性樹脂FTP-2を使用したことを除いて、CE-1と同じ方法で調製した。
【0042】
比較例CE-3は、プライマーコーティングされたFTP-1シートを、照射プライマーが硬化エラストマーに隣接する状態で、FE-1の硬化シート上に積層し、2枚の剥離ライナーの間に置いて、93℃で3分間プレスし、プレスから取り出して放冷したことを除き、CE-1と同じ方法で調製した。エラストマーが既に硬化していることから、その後のオートクレーブ処理は行わなかった。
【0043】
比較例CE-4は、高フッ素化熱可塑性樹脂FTP-2を使用したことを除いて、CE-3と同じ方法で調製した。
【0044】
比較例CE-5は、プライマーを、未硬化エラストマーではなく硬化エラストマーに適用したことを除いて、EX-1と同様の方法で調製した。具体的には、フルオロエラストマーFE-1の硬化シートをプライマーAでコーティングし、乾燥した。FTP-1のシート(約7.6cm×7.6cm×0.25mm厚)を、2枚の剥離ライナーの間に置いたプライマーコーティングされた硬化FE-1シートの上に積層し、93℃で3分間プレスし、プレスから取り出して放冷した。積層構造体に、FUSION 500ワットHバルブを用いて、35%の強度で60秒間、UV照射した。エラストマーが既に硬化していることから、その後のオートクレーブ処理は行わなかった。
【0045】
比較例CE-6は、プライマーを、未硬化エラストマーではなく高フッ素化熱可塑性樹脂シートに適用したことを除いて、EX-1と同様の方法で調製した。実施例EX-1と同様に、プライマーへの照射は、積層後まで実施しなかった。具体的には、FTP-1のシート(約7.6cm×7.6cm×0.25mm厚)を、プライマーAでコーティングし、乾燥した。このプライマーコーティングされた高フッ素化熱可塑性シートを、硬化プライマーが未硬化エラストマーに隣接する状態で、フルオロエラストマーFE-1の未硬化シートの上に積層し、2枚の剥離ライナーの間に置いて、93℃で5分間プレスし、プレスから取り出して放冷した。積層構造体に、FUSION 500ワットHバルブを用いて、35%の強度で60秒間、UV照射した。照射後、積層体を、蒸気オートクレーブに入れ、163℃及び496kPaで35分間処理してエラストマーを硬化した。室温まで冷却した後、積層体を、層間接着力について試験した。
【0046】
層間接着力試験ASTM D413-76 type A試験手順に従って、MTS Systems Corporation(Eden Prairie,Minn.)社の張力計で、180度剥離試験を30.5cm/分(12.0インチ/分)で実施することによって、試料の結合を評価した。
【0047】
試料を、層間接着力試験に従って試験した。結果を、表3にまとめる。表3において、「AF」は、2つの層が分離した「接着破壊」を示す。「CF」は、層の1つが割れた「凝集破壊」を示し、これは、同一又は類似の材料を使用した場合に、AFと比較して優れた性能であることを示す。
【0048】
いくつかの実施形態では、高フッ素化熱可塑性樹脂と硬化エラストマーとの間の望ましい接着力は、層間接着力試験に従って測定したとき、少なくとも5N/cm、いくつかの実施形態では、少なくとも10N/cm、少なくとも15N/cm、又は更には少なくとも20N/cmである。破壊モードがCFである場合、測定された力は、その値より低いと層が分離しなかったが、その力を超えると層の1つが割れることから、層間の最小接着力を示す。したがって、破壊モードがCFである場合、層間の接着力は、表3に報告した力よりも高くなり得る。
【表4】
【表5】
【0049】
本開示のいくつかの実施形態の別の例示的な方法を
図2に示す。概して、未硬化エラストマー(201)を、押出し成形又は別の方法(工程210)で、シート、ホース、又は他の所望の構造(202)に成形する。プライマー(203)を未硬化エラストマーに適用し、乾燥して溶媒を除去する(工程220)。次に、高フッ素化熱可塑性樹脂(204)を、プライマーコーティングされた未硬化エラストマーに適用(例えば、その周囲に押出し成形)する(工程230)。プライマーを、高フッ素化熱可塑性樹脂を通して化学線(例えば、UV線)に曝露して(工程240)、未硬化エラストマー(201)と高フッ素化熱可塑性樹脂(204)との間の界面に、照射プライマー(213)を有する中間物品(205)を形成する。いくつかの実施形態では、この多層構造中の未硬化エラストマーを、次に硬化して(工程250)、化学線処理されたプライマー(213)によって高フッ素化熱可塑性樹脂(204)に結合された硬化エラストマー(211)を含む硬化物品(206)を形成する。
【0050】
いくつかの実施形態では、プライマーは、エラストマーを通して、又はエラストマー及びフルオロプラスチックの両方を通して化学線に曝露され得る。いくつかの実施形態では、高フッ素化熱可塑性樹脂が適用される前に、直接的に及び/又はエラストマーを通してのいずれかで、プライマーが化学線に曝露されてもよい。
【0051】
図3は、
図2の3-3で切った硬化物品(206)の断面を示し、照射プライマー(213)によって硬化エラストマー(211)に結合された高フッ素化熱可塑性樹脂(204)を示す。円形の断面として示されているが、物品の形態は特に限定されない。中空管として示されているが、これは必須ではない。いくつかの実施形態では、追加の層が含まれてもよく、例えば、材料が高フッ素化熱可塑性樹脂(204)又は硬化エラストマー(211)のコーティングされていない表面の一方又は両方に結合されていてもよい。
【0052】
実施例5(EX-5)を、この一般的プロセスに従って調製した。表4に要約された条件に従って、未硬化フルオロエラストマーFE-1の6.4mmのコードを押出し成形し、プライマーAでコーティングし、次いで高フッ素化熱可塑性樹脂FTP-2で押出しコーティングした。この多層構造体を約30cmの長さに切断し、次いで、FUSION 500ワットHバルブを用いて、35%の強度で60秒間、UV光を照射した。次いで、この構造体を蒸気オートクレーブに入れ、163℃及び496kPaで35分間処理した。
【0053】
層間接着力を試験した結果、凝集破壊を生じ、エラストマーと高フッ素化熱可塑性樹脂との間の強い結合を示した。
【0054】
本開示の方法では、結合組成物は、任意の既知の手段を使用して未硬化エラストマーに適用され得る。例示的な方法としては、スプレーコーティング及びローラーコーティングが挙げられる。
【0055】
実施例は2層構造体を示しているが、より多くの層を含む物品も製造され得る。いくつかの実施形態では、高フッ素化熱可塑性樹脂の追加の層が、追加のプライマー層あり又はなしで、含まれ得る。いくつかの実施形態では、エラストマー、例えば、フルオロエラストマーの追加の層が、これも追加のプライマー層あり又はなしで、含まれ得る。いくつかの実施形態では、本開示の構造体は、他の基材と組み合わせることができ、例えば他の基材に結合することができる。好適な追加の基材としては、金属、ポリマー(例えば、プラスチック及びエラストマー)、ガラス、及びセラミックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態では、高フッ素化層及びエラストマー層の一方又は両方は、色、熱若しくは電気伝導性、熱若しくは電気抵抗、UV安定性又は光安定性などの所望の追加の特性を達成するために、当該技術分野で公知の様々な添加剤のうちのいずれかを含み得る。例示的な添加剤としては、例えば、染料、顔料、充填剤、UV又は光安定剤、及び加工添加剤が挙げられる。
【0057】
本開示の方法は、別個の工程として実施され得る。いくつかの実施形態では、工程のうちの1つ以上は、単一の連続プロセスの一部であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、本開示の方法は、単一ラインを含むことができ、当該ラインにおいて、(b)プライマーを未硬化エラストマーに適用(例えば、スプレーコーティング)してもよく、必要に応じて、乾燥してもよく;(c)高フッ素化熱可塑性樹脂をプライマー上に適用(例えば、押出し成形)することができ;及び(d)プライマーを、高フッ素化熱可塑性樹脂及び未硬化フルオロエラストマーの一方又は両方を通して化学線に曝露することができる。いくつかの実施形態では、この単一プロセスはまた、プライマーを適用する前に、(a)未硬化フルオロエラストマーを成形(例えば、押出し成形)することも含み得る。いくつかの実施形態では、この単一プロセスはまた、(e)未硬化フルオロエラストマーを硬化(例えば、熱硬化)することも含み得る。
【国際調査報告】