(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】HUDシステムの画像品質の改善方法、偏光要素、及びかかる偏光要素を備えたHUDシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20230117BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G02B27/01
B60R11/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529110
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(85)【翻訳文提出日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 HU2020050046
(87)【国際公開番号】W WO2021099813
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504111451
【氏名又は名称】ブダペスティ ミーサキ エーシュ ガズダサーグトウドマーニ エジェテム
(74)【代理人】
【識別番号】100081352
【氏名又は名称】広瀬 章一
(72)【発明者】
【氏名】シュヨク,アーベル
(72)【発明者】
【氏名】コッパ,パール
【テーマコード(参考)】
2H199
3D020
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA15
2H199DA20
2H199DA23
2H199DA30
2H199DA42
3D020BA04
3D020BC02
3D020BE03
(57)【要約】
本発明はHUDシステムの画像品質改善方法に関し、前記HUDシステムは、画像表示デバイス(1)と、半透過性の第1反射面(3a)とそれに実質的に平行な少なくとも一つの半透過性の第2反射面(3b)と、偏光依存性の反射層(13)及び/若しくは反射防止層(14)及び/若しくは光複屈折層(15)とを有する反射要素(3)とを含み、ここで第2反射面(3b)は第1反射面(3a)の画像表示デバイス(1)とは反対側に位置し、前記反射要素(3)は、画像表示デバイス(1)が発生させた画像の種々の地点から発して反射面(3a,3b)上に到達する入射光ビーム(11)から反射光ビーム(12a,12b)を生じて、反射光ビーム(12a,12b)の一部を或る設計検出点(23a)に向けて反射させるようになっており、下記を特徴とする:-反射要素(3)によって設計検出点(23a)の方向に反射された個々の各入射光ビーム(11)について、その入射光ビーム(11)の反射時に、最初に第1の反射面(3a)により反射された反射光ビーム(12a)と最初に第2の反射面(3b)により反射された反射光ビーム(12b)との強度比が最小となる最適偏光状態を決定し、-この予め決定した最適偏光状態に従って、反射要素(3)により設計検出点(23a)の方向に反射された入射光ビーム(11)の偏光状態を、入射光ビーム(11)の光路内に配置された偏光要素(20)を用いてセットする。本発明はまた、偏光要素及びHUDシステムにも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にHUDシステムのゴースト像を低減させることによりHUDシステムの画像品質を改善する方法であって、前記HUDシステムは、画像表示デバイス(1)、並びに半透過性の第1の反射面(3a)と、それに実質的に平行な少なくとも一つの半透過性の第2の反射面(3b)と、偏光依存性の反射層(13)、反射防止層(14)及び光複屈折層(15)よりなる群から選ばれた層とを有する反射要素(3)、を含み、ここで、第2の反射面(3b)は、第1の反射面(3a)の画像表示デバイス(1)とは反対側に位置し、前記反射要素(3)は、画像表示デバイス(1)が発生させた画像の種々の異なる地点から発して反射面(3a、3b)上に入射している各入射光ビーム(11)から反射光ビーム(12a、12b)を生じさせ、反射光ビーム(12a、12b)の少なくとも一部を或る設計検出点(23a)に向けて反射させるように構成されており、下記を特徴とする方法:
-反射要素(3)によって設計検出点(23a)の方向に反射された入射光ビーム(11)について、その所定の入射光ビーム(11)の反射時に、最初に第1の反射面(3a)により反射された反射光ビーム(12a)の強度と最初に第2の反射面(3b)により反射された反射光ビーム(12b)の強度の最小値をこれら2つの強度の最大値で除算することにより算出される反射光ビーム(12a、12b)の強度比が最小となる最適偏光状態を決定し、そして
-この予め決定した前記最適偏光状態に従って、反射要素(3)により設計検出点(23a)の方向に反射された入射光ビーム(11)の偏光状態を、入射光ビーム(11)の光路内に配置された偏光要素(20)によりセットする。
【請求項2】
前記第1及び第2の反射面(3a、3b)の少なくとも一方の反射係数を、偏光依存性の反射層(13)及び反射防止層(14)から選ばれた前記の層によって変化させ、そして入射光ビーム(11)の最適偏光状態の創出を、変化した反射係数を有する反射面(3a、3b)に到達する入射光ビーム(11)のそれぞれが、前記の層の種類に応じてS偏光又はP偏光されるように、設計検出点(23a)の方向に反射された入射光ビーム(11)のそれぞれを偏光要素(20)によって直線偏光させることにより行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光軸(150)を有する少なくとも一つの光複屈折層(15)を反射要素(3)に設け、この光複屈折層(15)は第2の反射面(3b)の前方にこれと平行に配置されており、そして入射光ビーム(11)の最適偏光状態の創出を、前記少なくとも一つの複屈折層(15)を通過して第2の反射面(3b)に到達する入射光ビーム(11)のそれぞれがS偏光されるか又はそれぞれがP偏光されるように、設計検出点(23a)の方向に反射された入射光ビーム(11)を偏光要素(20)によって楕円偏光させることにより行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
偏光要素(20)として、制御可能なピクセルを持つLCDパネル(34)を用意し、入射光ビーム(11)をLCDパネル(34)のピクセルを通過させ、透過した入射光ビーム(11)の偏光状態を、ピクセルを制御することによって、予め決定した最適偏光状態に従ってセットすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも一つのデジタルカメラを用意し、このカメラを用いて、HUDシステムのユーザーの現在の観察位置を検出し、検出されたユーザーの現在の観察位置に従って設計検出点(23a)を選択し、そして選択した設計検出点(23a)を用いて最適偏光状態を決定することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成されていることを特徴とする、偏光要素(20)。
【請求項7】
偏光要素(20)が複数の偏光軸を有する直線偏光フィルターであって、偏光フィルターの異なる地点で偏光軸の方向が異なることを特徴とする、請求項6に記載の偏光要素(20)。
【請求項8】
偏光要素(20)が複数の光軸(150’)を有する光複屈折要素であって、複数の光軸(150’)及び/又はその位相ずれが、その複屈折要素の異なる地点で異なることを特徴とする、請求項6に記載の偏光要素(20)。
【請求項9】
偏光要素(20)が平面又は湾曲面を有することを特徴とする、請求項6~8のいずれか1項に記載の偏光要素(20)。
【請求項10】
偏光要素(20)が、個別に制御可能なピクセルを有するLCDパネル(34)であることを特徴とする、請求項6に記載の偏光要素(20)。
【請求項11】
画像表示デバイス(1)、並びに半透過性の第1の反射面(3a)と、それに実質的に平行な少なくとも一つの半透過性の第2の反射面(3b)と、偏光依存性の反射層(13)、反射防止層(14)及び光複屈折層(15)よりなる群から選ばれた一つの層とを有する反射要素(3)、を備えたHUDシステムであって、ここで、第2の反射面(3b)は、第1の反射面(3a)の画像表示デバイス(1)とは反対側に位置し、反射要素(3)は、画像表示デバイス(1)が発生させた画像の種々の異なる地点から発して反射面(3a、3b)上に入射している入射光ビーム(11)から反射光ビーム(12a、12b)を生じさせ、反射光ビーム(12a、12b)の少なくとも一部を設計検出点(23a)に向けて反射させるように構成されており、前記反射要素(3)の画像表示デバイス(1)に対する配置は、設計検出点(23a)に向かって反射された入射光ビーム(11)の一部がブリュースター角で前記第1の反射面(3a)に到達するような配置であり、以下を特徴とするHUDシステム:
当該HUDシステムが、画像表示デバイス(1)と反射要素(3)との間の光路に配置された偏光要素(20)を備え、この偏光要素(20)が、設計検出点(23a)に向かって反射要素(3)により反射された入射光ビーム(11)の偏光状態を、ちょうど偏光要素(20)を通過している最中のその入射光ビーム(11)の反射時に、最初に第1反射面により反射された反射光ビームの強度と最初に第2の反射面により反射された反射光ビームの強度の最小値をこれらの2つの強度の最大値で除算することにより算出される強度比が最小となるように調整するためのものである。
【請求項12】
第1の光軸(150)を持つ光複屈折層(15)を有する反射要素(3)を備え、偏光要素(20)は第2の光軸(150’)を持つ複屈折要素であり、ここで前記第1及び第2の光軸(150、150’)は互いに実質的に90度の角度にあることを特徴とする、請求項11に記載のHUDシステム。
【請求項13】
偏光要素(20)がLCDパネル(34)であり、当該HUDシステムはHUDシステムのユーザーの現在の観察位置を決定するために1又は2以上のデジタルカメラ(40)と、さらに当該カメラに接続された中央ITユニット(50)とを備え、ここで中央ITユニット(50)はLCDパネル(34)を制御するように構成されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載のHUDシステム。
【請求項14】
画像表示デバイス(1)がデジタルプロジェクター又はデジタルディスプレイであることを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載のHUDシステム。
【請求項15】
反射要素(3)が車両のフロントガラスであり、第1の反射面(3a)がこのフロントガラスの内面であり、そして第2の反射面(3b)がこのフロントガラスの外面であることを特徴とする、請求項11~14のいずれか1項に記載のHUDシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドアップディスプレイ(HUD、Head-up display)システムの画像品質を改善する方法に関する。このHUDシステムは画像表示デバイスと反射要素とを備え、反射要素は半透過性(不完全透過性、partially transmissive)の第1の反射面と、これに平行な少なくとも1つの半透過性の第2の反射面とを有し、ここで第2の反射面は第1の反射面の画像表示デバイスとは反対側に配置され、反射要素は、画像表示デバイスが発生させたイメージ(画像)の複数点から出発して反射面に到達する入射光ビームから反射光ビームを生じさせ、反射光ビームの一部をある設計検出点(design detection point)の方向に反射させる。
【0002】
本発明はまた、本発明に係る方法を実施するように構成された偏光要素にも関する。
本発明はさらに、本発明に係る偏光要素を備えたHUDシステムにも関する。
【背景技術】
【0003】
HUDは、もともとはパイロットがルートを見続けるだけでよく、他の方向を見ないですむ目的で軍事用に開発された。一方、従来のヘッドダウンディスプレイ(HDD、head-down display)では、パイロットは計器盤をときどき見る必要があり、遠くを見た直後に突然近くに焦点を合わせなければならず、疲れを生じうる。ヘッドアップディスプレイはまた、遠方のイメージ面を作ることにより、近くに焦点を合わせなければならないという問題点を解決する。軍事技術から出発したが、HUDは今では自動車産業にも使われようになり、民間ユーザーにも利用可能になった。画像を反射要素、換言するとコンバイナー(この目的のために特別に装備した特殊なウインドスクリーン<フロントガラス>又は特殊なプレート)上に投影することにより、ドライバーは運転しながら、速度、ナビゲーション、ラジオの設定、エラーメッセージ及びその他の運転情報についての情報(このような情報は普通にはダッシュボード(計器盤)を見ることで見つけなければならなかった)を得ることができる。また、危険な状況(例、路上障害物、見えづらい状態での道路の曲がり、歩道から降りている歩行者等)を眼でみて予測することもできる。現在、HUDは主に高級車に搭載されているが、適用範囲は急速に拡大しつつある。
【0004】
車両に搭載されている最も一般的なHUD解決策(
図1参照)は、画像表示デバイス1と非球面鏡2とから本質的に構成され、ここで反射要素3はウインドシールド(フロントガラス)である。この実施態様では、非球面鏡2は、ウインドスクリーンの設計のために湾曲している反射要素3の歪みを補正し、かつ画像表示デバイス1の分散する光ビームを集束させるためのものであり、画像表示デバイス1はデジタルプロジェクターであって、これは遠方イメージ面を形成し、ドライバーが車両の前方に「浮いている」ように快適な距離感で見える投影画像4を作り出すようになっている。
図2及び
図3は、画像表示デバイス1からくる入射光ビーム11の拡大図を示す。この光ビームは反射要素3の第1の反射面3aと第2の反射面3bの両方から反射され、それにより第1及び第2の反射光ビーム12a、12bを生起させる。反射光ビーム12aは第1の画像8を生じる一方、反射光ビーム12bも第2の画像9を生じる。2つの画像8、9が同時に出現することで、結果は不快で、混乱すら生じることとなる。
図2は2つの画像8、9の出現を示し、
図3は非偏光の光についての反射光ビーム12a、12bの強度を示す。多重反射のため、図に示すよりさらに一層多い散乱光が出現することがあることは、当業者が知る通りである。形成される2つの画像8、9の一方を消去して、2つの光ビーム12a、12bの一方の強度を他方の強度に対して低下させる(即ち、コントラスト比を向上させる)ための解決策はいくつか知られている。
【0005】
各表面で反射される強度は、いわゆるフレネルの式により決まる。反射面では、入射光ビーム11と反射光ビーム12とが一つの面、いわゆる入射面10を画成する。当業者には知られているように、反射光ビーム12と入射光ビーム11の強度の比、即ち、反射係数R=I
R/I
B(I
Bは入射ビームの強度、I
Rは反射ビームの強度)は、入射角θ、表面の両側の材料の屈折率n(空気ではn=1、或るガラスではn=1.518)、及び入射面10と光ビームの偏光との関係に依存する。これらの関係を
図4に示す。直線偏光は、入射面10に対して垂直に偏光する場合にはS偏光し、入射面10に平行に偏光する場合にはP偏光する。いわゆるブリュースター角θ
Bも知られている。これは、S偏光の反射係数R
SはゼロにならずにP偏光の反射係数R
Pがゼロに低下する材料界面を特徴づける入射角である。(とりわけ、純粋にS又はP偏光ではない時、偏光係数はR
SとR
Pとから構成される)。偏光の原理で動作するHUDは、この効果を利用し、ブリュースター角で設計されている。しかし、
図5及び
図6は、S偏光及びP偏光でブリュースター角だけでウインドスクリーンを照射しても、まだヘッドアップディスプレイとして好適なシステムにはならないことを示している。なぜなら、S偏光の場合、投影された画像はゴースト像(二重像)が残ったままであるか(
図5)、又は反射の不存在下ではP偏光の場合、反射光が観察者の眼に入ってこず(
図6)、従って投影画像は見ることができないものとなるからである。
【0006】
図5及び
図6に示した問題を解決するため、公知のHUDシステムは、反射要素3の表面3a、3bの少なくとも一方の面での反射特性を、偏光に応じて変化させるという解決策を採用している。一つの公知の解決策では、反射要素3の1面又はさらに多くの面3a、3bに特殊な薄膜系を形成する。形成され高反射を付与する高反射の反射層13、又は低反射を付与する低反射の反射防止層(抗反射層)14の機能は、ある特定のタイプの偏光に対してその所定の表面3a、3bでの光反射を増大又は減少させることである(
図7、
図8を参照)。ブリュースター角及びそれに近い領域では、その所定タイプの偏光の光で照射された反射要素3の場合、反射の高いコントラスト比を達成し、こうして反射画像を享受する(心地よく受け取る)ことが可能であるが、有用な範囲は限られている。一つの可能な実施態様では、ウインドスクリーンを、例えば12nmのAgと63nmのSiO
2でコーティングし、S偏光光ビーム11を照射する。
【0007】
必要な薄膜系は通常はフォイル(例、3M社製のWCF=Windshield Combiner Film、ウインドシールドコンバイナーフィルム)上に形成され、これが製造中に被覆すべき適切な表面に積層(ラミネート)される。より安価な解決策として、製造後にユーザーによっても作業できる、ウインドスクリーンに貼付可能な反射フィルムが挙げられる。反射層13を設計する際に看過できない重要な観点はウインドシールド(フロントガラス)の透過率であり、この透過率は国によって規制されている(欧州では最低75%、米国では最低70%)。仮に薄膜系で被覆されたウインドスクリーンの光の反射が多すぎて、透過光が少なくなると、透過率が法定値を下回り、市場性を失うことがある。
【0008】
別の公知の解決策(
図9及び
図10)では、第1の反射面3aを通過する光ビームの偏光面を回転させることにより偏光依存性の反射を生じさせる。例えば、好ましくはフィルム形態の、光軸150を持つ光複屈折層15(λ/2波長板)を、反射要素3の第1の反射面3aに積層し、この反射要素3にブリュースター角に近い角度で偏光を照射する。適切な厚みの複屈折層15(図の平面と同一面の入射面に対して45°の角度の光軸をもつ)は、照射光の偏光面を90°回転させる。即ち、S偏光からP偏光にし、その逆も同じである。それにより、ブリュースター角に近い角度で進んでくる入射光ビーム11は、その偏光に応じて、一方の表面3a又は3bからの反射が、他方の表面からの反射より低い強度で反射することになる。S偏光を用いた場合(
図9)、第1の反射面3aからの反射の方が大きくなり、P偏光を用いた場合(
図10)、第2の反射面3bからの反射の方が大きくなる。ブリュースター角からのずれが次第に大きくなるほど、この効果もより大きく衰退し、ゴースト像が現れるので、有用な角度範囲は限られる。
【0009】
この複屈折層15を含む解決策の別の問題点は、設計方向からのずれがあると、入射面10と複屈折層15の光軸150との間の角度が方向ごとに異なる(
図18a及び
図18b)ことである。その結果、複屈折層の設計対象である正確な90°偏光回転が各方向において満たされなくなる。
図18aは、知覚された画像における異なる地点からユーザーの眼に達する3つの光ビーム11a、11b、及び11cを示している。表示した3本の光ビームのうち、第1の光ビーム11aは設計方向21の方向に進み、この光ビームについては、光軸150と入射面10との間の角度は、このHUDシステムに最適なΦ
0=45度の角度に一致する。この角度は、ユーザーが見ている画像の水平方向端部の一方により近い反射要素3上に入射する複数の光ビーム11に対して垂直方向に沿っては変化しない。他方、水平方向で画像の垂直中心線からずれている入射光ビーム11が見られていると、光ビーム11bのように、画像の垂直中心線から右側にずれている光ビーム11の場合、入射面10bと光軸150とがなす角度は小さくなり、従って、光ビーム11bに付随する角度Φ
1は角度Φ
0より小さい、即ち、Φ
1<45度である。同様に、光ビーム11cのように、画像の垂直中心線より左側にずれた角度については、この角度が大きくなり、入射面10cと光軸150との間の角度Φ
2は角度Φ
0より大きい、即ち、Φ
2>45度である。複屈折フィルムは、Φ
0=45度の条件が満たされる場合のみに偏光を90度回転させる。しかし、角度Φが異なると、偏光の回転はもはや正確に90度とはならず、2つの反射面3a、3bから反射される光ビーム12a、12bの強度比は理想の比から離れ、従って、ゴースト像比率が増大する。
図18bでは、右側の曲線は投影された画像エリアにおける同一の角度値を示している。画像の垂直中心線では、この角度は画像の下端と上端との間で等しく45度である。画像の垂直中心線から右側にずれている光ビーム11の場合、種々の曲線が示しているのは光軸が入射面10に対して45度より小さい角度となる光ビーム11である。本図では、複屈折層15の光軸150が入射面10との間で形成する角度は、中心から右に第1の曲線に沿って40度、第2の曲線に沿って35度、第3の曲線に沿って30度、そして第4の曲線に沿って25度である。画像の垂直中心線から左側にずれている光ビーム11の場合、種々の曲線が示しているのは、光軸が入射面10に対して45度より大きい角度となる光ビーム11である。本図では、複屈折層15の光軸150が入射面10との間で形成する角度は、中心から左に第1の曲線に沿って50度、第2の曲線に沿って55度、第3の曲線に沿って60度、そして第4の曲線に沿って65度である。各光ビーム11について、理想の角度である45度からの光軸150の角度のずれは、ずれの大きさに比例した画像品質の低下、即ち、ゴースト像比率の増大、につながる。
【0010】
図21aは、S偏光により照射された
図9に係るシステムに対する垂直及び水平角度におけるずれの際のゴースト像比率を示す。個人にもよるが、3~5%を上回るゴースト像比率は不快となりうる。この図において、同一のゴースト像比率をもつ領域の境界を実線で示し、ゴースト像比率の値を各境界線に表示している。この図は、ゴースト像比率が3%、5%、10%、20%、30%、40%又は50%である領域に属する線を示し、ここで、各線の内側では表示のゴースト像比率の値は内側に向かうにつれてより小さく又は減少し、各線の外側では、この値は外側に向かうにつれて大きく又は増大する。この図から明らかに見られるのは、3%のゴースト像比率が達成されるのは小さな領域内、即ち、垂直方向にほぼ+9°から-9°までの範囲内で水平方向にほぼ-7°から+7°までの範囲内、だけであることである。この図に示した角度は、観察者(ユーザー)の眼に入って、実質的に「ゴースト像なし」と考えることができる視野を画定する光ビームで囲まれる角度である。
【0011】
現在広く使用されているウインドシールド(フロントガラス)は、2層のガラスとその間に封入されたポリビニルブチラール(PVB)の層とからなる。(PVB層は安全性の機能を遂行する。その目的は、万一の事故の際、乗車している人にガラス破片が落ちてくるのを防ぐことである。)複屈折層15もまた、典型的には、それを保護するために2層のガラス層の間に挟まれる(
図11及び
図12)。これはコントラストを著しく劣化させることはないが、複屈折層15を機械的影響からよりよく保護することになる。このような解決策は、例えば、特許文献US10416447B2及びEP0424950A2から公知である。
【0012】
別の公知の解決策では、ウインドスクリーン(フロントガラス)の2層のガラス層の間に2つのλ/2波長板(フィルム)を配置し、これらのフィルムの間に空気層(
図13)(US7839574B2)又は反射性の薄膜系(
図14)(US7123418B2、US6952312B2)を介在させる。
図13は、PVB層16中に封入された、空気層が介在する2層のλ/2複屈折層15、15’ を備えた平らなウインドシールドを示し、このウインドシールドはP偏光した光で照射される。入射面に対するフィルム光軸の角度は、一方のフィルムでは45°、他方のフィルムでは135°である。
図14は、PVB層16中に封入された、反射層13が介在する2層のλ/2複屈折層15、15’ を備えた平らなウインドスクリーンを示し、このウインドスクリーンはP偏光した光で照射される。入射面に対して一方の複屈折層15の光軸150は45°の角度を形成し、他方の複屈折層の光軸150は135°の角度を形成する。これら2種類の解決策の利点は、P偏光で動作する、即ち、偏光させるサングラスが画像の視認性をブロックしないことである。最初の方に述べたP偏光の原理に基づくシステムは普及することがなかった。その理由は、雨天時の天候では、あらゆる種類の外面汚れのために光が外面で散乱して、画像が劣化してしまうためである。これに対し、すぐ上に述べた2つの方策では、PVB層16内で最高強度の反射が起こるため、雨天の天候が障害にはならない。2層のガラス層の間に配置された1枚又は複数枚のフィルムの機械的保護は外層のガラス層によりもたらされる。
【0013】
米国特許第5,999,314号は、コントラスト比をさらに向上させるために、複屈折層15を包囲する複数のガラス板の外面に反射性又は抗反射(反射防止)性の層13、14を設けることを開示している。この外面に設けた薄膜は、ブリュースター角を変化させ、又は調節する能力も付与する。
【0014】
上に提示したいくつかの公知解決策に採用されている偏光法の難点は、理想的角度からの逸脱(ずれ)が小さな角度範囲でしか許容されず、理想的角度からの逸脱が大きくなると(画像のはじの方に動くと)、画像はすぐに劣化し、ゴースト像が現れるようになることである。適正な動作が達成されるのは、典型的には±3~9°の範囲内、即ち、ウインドシールドの表面の手のひらの大きさほどでしかない(正確な値は、
図21aに関して既に述べた通り、採用する方法と「適正な動作」の定義に応じて変動する)。
【0015】
上述し、
図15に略図で示した、画像表示デバイス1及び反射要素3を備えたHUDシステムからは、欠陥なく作動する、即ち、ゴースト像が生じない、いわゆる設計方向21が1方向だけであると、一般に言うことができる。従来のHUDシステムは、設計方向から見た時に表示された画像がゴーストフリー(無ゴースト)になるように設計されている。即ち、設計方向21とはHUDシステムが最適化されている方向である。この方向から垂直方向及び水平方向に逸脱すればするほど、より強さが増したゴースト像が現れる。
図15に示した有用な領域22とは、ゴースト像がまだ迷惑を生じない空間角度範囲である。個人により異なるが、ゴースト像比率が約3~5%を上回ると不都合(不快)になる。
【0016】
図17aに示した解決策では、画像表示デバイス1を出た光は単純な直線偏光子19を通過する。即ち、この偏光子19は均質な偏光を生ずる。偏光された光ビームは、第1のミラー17及び第2のミラー18から反射して反射要素3に向かった後、この反射要素から反射してユーザーの眼に届く。第2のミラー18は好ましくは、投影された発散性の光ビームから集束性の光ビームを生ずる非球面ミラーである。公知の解決策では、直線偏光子19の光軸はすべての地点で同一であって、通過する直線偏光した光ビームの偏光軸も同一方向を向くことになる。従って、ユーザーが知覚した画像の端に向かって動くと、即ち、設計方向21から逸脱すると、入射光ビーム11の偏光面も入射面10に対する回転が増していく(
図16a及び
図16b参照)。
図16aは、同じ偏光を有し、画像表示デバイス1により発生させた画像の異なる地点からユーザーの眼に届く3つの入射光ビーム11a、11b、11cを示している。図示の3つの光ビームのうち、光ビーム11aは理想方向で、即ち設計方向21で進み、この光ビームの偏光方向は本HUDシステムの理想の偏光方向と一致する。即ち、光ビーム11aの偏光軸が光ビーム11aの入射面10aとなす角度β
0=90度である。この角度は、ユーザーが見ている画像の水平方向端部の一方により近い反射要素3上に入射する、多くの光ビーム11について垂直方向に沿っては変化しない。他方、水平方向において画像の垂直中心線から逸脱している光ビームを見ている時は、光ビーム11bの場合のように、水平方向において右側に画像の垂直中心線からずれている光ビーム11の場合、この角度は減少し、従って、光ビーム11bについての角度β
1は角度β
0より小さい、即ち、β
1<90度である。また、光ビーム11cのように、画像の垂直中心線の左側にある角度の場合、この角度は増大し、従って、光ビーム11cの角度β
2は角度β
0より小さい、即ち、β
2>90度である。ある入射面10において入射光ビーム11はβ
0=90度の時しか純粋にS偏光していないと考えることができるので、種々の異なる角度では純粋にS偏光した光ビームについては何も論ずることはできない。
図16bでは、右側の曲線は投影された画像領域において同一の角度値βを示している。画像の垂直中心線では、画像の下端と上端との間でこの角度は90度に等しい。水平方向に画像の垂直中心線から右側にずれている光ビーム11について、偏光軸が入射面10と90度より小さい角度をなす視角が、異なる曲線に沿って示されている。光ビーム11の偏光軸がその光ビーム11に属する入射面10となす角度は、(垂直中心線から右に向かって)第1の曲線に沿って85度、第2の曲線に沿って80度、第3の曲線に沿って75度、第4の曲線に沿って70度である。同様に、水平方向に画像の垂直中心線から左側にずれている光ビーム11の場合、偏光軸が入射面10となす角度が90度より大きい光ビーム11が異なる曲線に沿って示されている。光ビーム11の偏光軸が入射面10となす角度は、(垂直中心線から左に向かって)第1の曲線に沿って95度、第2の曲線に沿って100度、第3の曲線に沿って105度、第4の曲線に沿って110度である。それぞれの偏光した光ビーム11について、理想の90度の角度からの偏光軸の角度のずれは、逸脱の大きさに比例して画像品質の劣化につながり、即ち、ゴースト像比率が増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第10416447号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0424950号
【特許文献3】米国特許第7839574号
【特許文献4】米国特許第7123418号
【特許文献5】米国特許第6952312号
【特許文献6】米国特許第5999314号
【発明の概要】
【0018】
本発明者らは、従来技術のHUDシステムの場合、反射要素3に照射されるのが均質な光、即ち、各光ビーム11について同じように偏光された光であり、従って、偏光は設計方向21に反射された光ビームについてのみ適切なものとなることを見いだした。即ち、画像の端に向かって移動すると、入射面10の回転のせいで、そこに到達する光ビーム11の偏光は、設計方向に比べて最適状態から外れ、ゴースト像が現れるようになる。換言すると、現在のHUDシステムでは、ゴースト像を生じないのは画像の中心だけであるので、許容できる品質の画像を表示することができる領域が制限される。
【0019】
本発明者らは、既存のHUDシステムでは、見られている画像の端部からくる反射光ビーム12に属する入射光ビーム11の偏光軸と入射面10とは、互いに設計角度には対応していない角度関係にあることも認めた。
【0020】
本発明はさらに、入射光ビームの光路内に配置した適切に設計された偏光要素を利用することにより、光ビーム11の伝播方向に対応する予め決められた最適偏光状態に従って光ビーム11の偏光状態をセット(設定)することができるという知見に基づいている。この最適偏光状態では、画像の端部であっても実質的にゴーストのない画像を達成することができる。
【0021】
本発明の目的は、前述した従来の解決策の難点が解消された方法及び装置を提供することである。本発明の別の目的は、現状のHUDシステムの画像品質を改善すること、特にゴースト像比率を低減させ、実質的にゴースト像がないと考えることができる領域を増大させることである。
【0022】
従って、本発明の目標は、反射要素3上に単に均質に偏光した光を当てるのではなく、反射要素3の各点ごとにゴースト像比率を最小にするのに必要な偏光度を持つ偏光が到達するようにHUDシステムを転換させることである。このためには、HUDがどのように動作するかに応じて、直線偏光又は楕円(円を含む)偏光を持つ光が適当となりうる。
【0023】
本発明によれば、上記目的は、画像表示デバイスと、半透過性の第1の反射面とそれに実質的に平行な少なくとも一つの半透過性の第2の反射面と偏光依存性の反射層、反射防止層及び光複屈折層よりなる群から選ばれた1つの層とを有する反射要素と、を含むHUDシステムにより達成される。ここで、第2の反射面は、第1の反射面の画像表示デバイスとは反対側に位置し、反射要素は、画像表示デバイスが発生させた画像の各地点から発して反射面上に入射している入射光ビームから反射光ビームを生じて、反射光ビームの少なくとも一部を或る設計検出点に向けて反射させるようになっており、この反射要素の画像表示デバイスに対する配置は、前記設計検出点の方向に反射された入射光ビームの一部がブリュースター角で前記第1の反射面に到達するような配置である。画像表示デバイスと反射要素との間の光路内に、本システムは、最初に第1の反射面により反射された反射光ビームの強度と最初に第2の反射面により反射された反射光ビームの強度との最小値をこれらの2種類の強度の最大値で除算することにより算出される強度比が最小値をとる偏光状態となるように、反射要素により設計方向点に向けて反射された入射光ビームの偏光状態をセット(設定)する偏光要素をさらに備える。
【0024】
画像表示デバイス(投影ユニットとも呼ばれる)は、典型的に、は第1の方向に規定された幅と、この第1の方向に対して実質的に垂直な第2の方向に規定された高さとを持つ画像(イメージ)を作り出す。ここから発出された光ビームは、光透過性かつ反射性の反射要素(即ち、ウインドスクリーン)に到達する前に追加の偏向性の光学要素を通過してもよく、反射要素からは、反射又は透過した光がユーザーの眼に入る。1好適実施態様において、画像表示デバイスは実質的に直線偏向した光を反射要素上に投影する。例えば、画像表示デバイスは直線偏光子を含んでいてもよい。全てのウインドスクリーンと同様に、反射要素は、ある一定の偏光特性でかなりの程度まで光を反射し、別の異なる偏光特性でかなりの程度まで光を透過させる。投影された直線偏光された光ビームの光路内に配置された前記光学要素が、上述したように、設計検出点の方向に反射された入射光ビーム(即ち、投影された画像を画成する光ビーム)の偏光状態をセットする。これは、設計点の方向を向いている設計方向で包囲された垂直及び/又は水平角(αV、αH)に応じてこれらの光ビームの偏光特性を変更することとして理解されうる。
【0025】
本発明の別の目的は、HUDシステムの画像品質を向上させるための請求項1に記載れた方法である。
本発明はさらに、請求項6に記載された偏光要素にも関し、この偏光要素は本発明に係る方法を実施するように構成されている。
【0026】
本発明によれば、反射要素3に入射する光ビーム11の偏光特性が、適切に設計された偏光要素によって、反射要素3からの反射後にゴースト像が最小となるように、それぞれの入射方向ごとに別々に(異なるように)セットされる。このような解決策により、ゴースト像のコントラスト比は、各ピクセルごとに著しく低減させることができる。即ち、ユーザーがゴースト像なしと認識する画像面積を著しく増大させることができる。
【0027】
本発明のいくつかの好適態様が従属請求項に記載されている。
本発明のさらなる詳細は、以下に添付図面を参照して説明されよう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】従来のHUDシステムのゴースト像を示す概要図である。
【
図4】空気-ガラス媒質境界での純P偏光ビーム及び純S偏光ビームの反射係数の入射角に対する変化を示す曲線である。
【
図5】純S偏光した光と単純なウインドスクリーンの使用結果を示す図である。
【
図6】純P偏光した光と単純なウインドスクリーンの使用結果を示す図である。
【
図7】反射要素の第1の反射面に高反射反射層を、第2の反射面に低反射反射防止層を備えた反射要素を適用した結果を示す図である。
【
図8】反射要素の第2の反射面に高反射反射層を、第1の反射面に低反射反射防止層を備えた反射要素を適用した結果を示す図である。
【
図9】反射要素の第1の反射面に光複屈折層とS偏光した光を使用した結果を示す図である。
【
図10】反射要素の第1の反射面に複屈折層とP偏光した光を使用した結果を示す図である。
【
図11】反射要素を複層ウインドスクリーンとして形成し、PVBフィルムと複屈折中間層とS偏光した光とを使用した結果を示す図である。
【
図12】反射要素を複層ウインドスクリーンとして形成し、PVBフィルムと複屈折中間層とP偏光した光とを使用した結果を示す図である。
【
図13】反射要素を2層ウインドスクリーンとして形成し、2層間の2つの複屈折層とそれらの間の空気層とを使用した結果を示す図である。
【
図14】反射要素を2層ウインドスクリーンとして形成し、2層間の2つの複屈折層とそれらの間の反射層とを使用した結果を示す図である。
【
図15】従来のHUDシステムでのゴースト像のないエリアを示す概要図である。
【
図16a】従来のHUDシステムにおいて、入射面と入射光ビームの偏光軸との間の角度が反射光ビームの方向に応じて変化することを示す図である。
【
図16b】
図16aにおいてハイライトで示した入射光ビームの偏光軸の入射面に対する傾きを示す図である。
【
図17a】従来のHUDシステムにおいて、入射面と入射光ビームの偏光軸との間の角度が反射光ビームの方向に応じて変化することを示す図である。
【
図17b】本発明に係るHUDシステムにおいて、入射面と入射光ビームの偏光軸との間の角度が、反射光ビームの方向の変化に対していかに一定のままであるかを示す図である。
【
図18a】従来のHUDシステムにおいて、入射面と反射要素上の複屈折層の光軸との間の角度が反射光ビームの方向に応じて変化することを示す図である。
【
図18b】
図18aにおいてハイライトで示した光ビームの入射面の、反射要素の複屈折層の光軸に対する傾きを示す図である。
【
図19a】画像表示デバイスの後に直線偏光子だけが配置された従来のHUDシステムを示す図であって、反射要素上の複屈折層の光軸を示す。
【
図19b】画像表示デバイスの後に配置された直線偏光子に続いて本発明に係る偏光要素を備えた本発明に係るHUDシステムを示す図であって、それぞれ反射要素上と偏光要素上とに配置された複屈折層の光軸を示す。
【
図19c】本発明に係る湾曲した偏光要素を示す概要図である。
【
図20a】従来のHUDシステムの画像表示デバイスと偏光子により形成された光ビームの概要図である。
【
図20b】本発明に係るHUDシステムの画像表示デバイスと第1の例示的偏光要素とにより生じた光ビームの概要図である。
【
図20c】本発明に係るHUDシステムの画像表示デバイスと第2の例示的偏光要素とにより生じた光ビームの概要図である。
【
図20d】本発明に係るHUDシステムの画像表示デバイスと第3の例示的偏光要素とにより生じた光ビームの概要図である。
【
図20e】本発明に係るHUDシステムの画像表示デバイスと第4の例示的偏光要素とにより生じた光ビームの概要図である。
【
図21a】
図20aに示したHUDシステムの場合における投影画像ゴースト像比率の値を示す図である。
【
図21b】
図20bに示したHUDシステムの場合における投影画像ゴースト像比率の値を示す図である。
【
図21c】
図20c、20d及び20eに示したHUDシステムの場合における投影画像ゴースト像比率の値を示す図である。
【
図22】本発明に係るHUDシステムの1好適実施態様の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1~17a及び21aは、明細書の背景技術の表題下に既に詳述した、従来技術のHUDシステムとそれらの問題点を示す。説明を簡明にするために、既に説明した図については以下では必要な程度だけの言及にとどめる。
【0030】
本発明に係る方法は、例えば、
図17bに示すように、画像表示デバイス1と反射要素3とを備え、反射要素3は半透過性の第1の反射面3aと、これに実質的に平行な少なくとも1つの半透過性の第2の反射面3bと、偏光依存性の反射層13及び/若しくは反射防止層14及び/若しくは光複屈折層15とを有する。第2の反射面3bは、第1の反射面3aの画像表示デバイス1とは反対側に位置し、即ち、画像表示デバイス1により発生した光ビームはまず第1の反射面3aに到達し、それを透過して第2の反射面3bに達する。本発明に関して、偏光依存性の反射層13及び反射防止層14とは、それぞれ、光のある偏光(例、S偏光)に対してその反射が最大又は最小である層(例、薄膜<フィルム>、被膜<コーティング>等)を意味する。即ち、これらの層は、所定タイプの偏光した光を高い効率で反射させる(反射層13)か、又は透過させる(反射防止層14)。反射層13及び反射防止層14は、既に説明したように、表面3a、3b上にも、又はそれらの間にも配置することができる。
【0031】
1好適実施態様において、反射要素3は車両のウインドスクリーン(フロントガラス)として設けられ、その内面が第1の(反射)面3aであり、その外面が第2の(反射)面3bである。反射面3a、3bは、画像表示デバイス1により発生させた画像の種々の点から発して反射面3a、3bに到達する入射光ビーム11から反射光ビーム12を生じさせて、反射光ビーム12a、12bの一部を、設計検出領域23内に位置する或る1つの設計検出点23aに向けて反射させるようになっている。画像表示デバイスにより発生させた画像は、画像表示デバイスのスクリーン又は他の面上で認知可能な画像であることに留意されたい。HUDシステムのユーザーが見る画像を投影画像と称する。反射要素3は、入射光ビーム11の少なくとも一部がブリュースター角で表面3a、3bに到達するように配置することが好ましい。本明細書に関して、設計検出領域23とは、HUDシステムにより発生させた画像がそこから見えるだろうとユーザーが予期する空間位置を含む領域を意味し、従ってこれは設計パラメータであることに留意されたい。従って、設計検出領域23はHUDシステムの環境に依存する。例えば、ある所定タイプの車両に搭載するように設計されたHUDシステムの場合、それはウインドスクリーンに対する運転席のシート位置に依存する。実際には、例えば、所定タイプの車両の運転席に運転位置で座った時(即ち、運転席のシートを正しい高さ及び快適に運転できる間隔にセットした時)に、種々の高さ(座高)のユーザー(ドライバー)の眼の位置を決定するのでよい。決定された眼の位置を包含する領域を設計検出領域23と考えてよく、例えば、その設計検出領域23の中心点を設計検出点23aと考えることができる。また、設計検出点23aだけを決めることも考えられる。例えば、設計検出点23aを、運転位置で運転席に座った平均的座高のユーザーの両眼の間の中間点に位置する点に対応するようにしてもよい。別の可能性は、或るユーザーについての設計検出点23aを決めることである。デフォルトでは、そのHUDシステムを意図した通りに使用した時に、先に述べた設計方向21が設計検出点23aの方を向いている。また、反射要素3は、画像表示デバイス1により発生させた画像の種々の点から発する光ビームの一部だけしか設計検出点23aの方向に反射させず、光の残りのビームは他の方向に反射されることにも留意されたい。しかし、これらの光ビームだけしか設計検出点23aから見ている仮説的ユーザーに到達しない(それにより、これらの光ビームが投影画像を形成する)ので、本発明に係る方法は、これらの光ビームを創出する入射光ビーム11を扱うだけであり、本方法のそれ以降の工程では、これらの光ビームを、設計検出点23aの方向に反射された入射光ビーム11と称する。
【0032】
本発明によれば、反射面3a、3bにより設計検出点23aの方向に反射された入射光ビーム11に対して最適偏光状態が決定される。この最適偏光状態とは、所定の入射光ビーム11の反射時に最初に第1の反射面3aにより反射された反射光ビームと最初に第2の反射面3bにより反射された反射光ビームという2つの反射光ビーム12a、12bの強度比が最小となる偏光状態である。
図12に示した場合において、反射面3a、3bにより反射された光ビーム12a及び12bについて、この強度比はゼロである(なぜなら、ブリュースター角で入射したP偏光した光ビーム11は反射面3aを完全に通過し、従って反射がないからである)。即ち、反射した光ビーム12a、12bの最小強度比もゼロである。HUDシステムの観点からは、これは理想的な場合である。なぜなら、ゴースト像が全く現れないからである。ここで使用した通り、最初に第2の反射面3bにより反射された反射光ビーム12bとは、第1の面3aを通過して第2の面3bで初めて反射された光ビームを意味するのは当然である。単純化のために、第1の面と第2の面3a、3bの間で反射され、さらに第2の面3bにより設計検出点23aの方向に反射された、
図5に示したような高次反射した光ビームは考慮に入れない。最適偏光状態は、2つの反射面3a、3bにより設計検出点23aの方向に反射された各入射光ビーム11について決定してもよく、或いは、一部の代表的な入射光ビーム11についてのみ決定してもよい。例えば、画像表示デバイス1により発生させた画像のある特定エリアについて一つの入射光ビーム11だけを考慮に入れるのでもよい。例えば、10×10ピクセルの画像エリアから発するすべての光ビーム11を、単一の光ビーム、例えば、その所定画像エリアの或る中心ピクセルから発する単一の光ビーム11で代表させてもよい。
【0033】
当業者には知られているように、光ビーム11の偏光状態は、いわゆるジョーンズベクトル(Jones vectors)、即ち、光ビーム成分の振動の振幅及びそれらの位相角により表すことができる(ジョーンズベクトルX及びYの位相差が0°又は180°である場合を直線偏光といい、これが90°である場合を円偏光という。他の全ての場合は楕円偏光と呼ばれる。)。
【0034】
一つの例示的実施態様において、
図7及び
図8に関して既に示したように、第1及び第2の反射面3a、3bの一方又は両方に特定の種類の直線偏光(S又はP)用に設計された反射層13及び/又は反射防止層14を設ける。反射層13を設けた反射要素3の表面3a、3bの反射及び透過は次の通りである。各材料境界について、各方向ごとに、反射係数及び透過係数、即ち、いわゆるフレネル係数を求めることができる。即ち、反射要素3(例、ガラス)について、次の係数を決定することができる:第1の表面3aについて:r
12,t
12,r
21,t
21,そして第2の表面3bについて:r
23,t
23,r
32,t
32。これらの係数は、入射角及びその表面の両側での材料の複素屈折率、並びにその表面に適用した薄膜の構造に依存した複素数である。さらに、これらの係数は偏光にも依存し、S偏光(r
12S,t
12S,r
21S,t
21S,r
23S,t
23S,r
32S,t
32S)及びP偏光(r
12P,t
12P,r
21P,t
21P,r
23P,t
23P,r
32P,t
32P)について別々に決定することができる。
【0035】
入射ビームのジョーンズベクトルが次式で示され、
【0036】
【0037】
そして、その強度が次式で示される場合、
【0038】
【0039】
第1(E1)及び第2(E2)の反射光ビームについて、下記のジョーンズベクトルが得られる。
【0040】
【0041】
ここで
【0042】
【0043】
は反射要素3における伝播の行列である。
反射光ビーム12a、12bの強度はそれぞれ次式の通りである。
【0044】
【0045】
ここで、dは反射要素3の厚みであり、κは2つの反射面の間の空間を埋めている材料(例、ガラス)の消衰係数であり、そしてλ0は照射している光ビームの波長である。
ゴースト像比率は、次式で示される最低強度と最高強度の比に等しい。
【0046】
【0047】
ブリュースター角付近では、X=0である時、又はY=0である時にCRghostが最小となろう。それぞれP偏光又はS偏光に対してどちらかがまさにその状態である。従って、この実施態様では、光ビーム11について決定された最適偏光状態は、反射層13(又は反射防止層14)のタイプに応じてそれぞれP偏光又はS偏光である。このように、反射された光ビーム12a、12bの強度比を最小に保つため、即ち、ゴースト像比率を最小にするために、反射要素3は各点でP偏光又はS偏光の光ビーム11で照射されなければならない。つまり、直線偏光させた光ビーム11の偏光軸は、その所定の光ビーム11の入射面10の方位に相関させてセットしなければならない。これは、当業者には自明であるように、HUDシステムのパラメータ(例、反射要素3の幾何学形状、配置など)を考慮に入れて個々に決定することができる。
【0048】
別の可能な実施態様では、反射要素3に、光軸150を有する少なくとも一つの光複屈折層15を設ける。この光複屈折層15は、
図9、10、及び18a、18bに関して既に説明したように、第2の反射面3bの前方にこれと平行に配置される。複屈折層15を使用した実施態様は、最小のゴースト像比率を達成するために楕円偏光の光ビーム11を必要とし、その偏光は、反射要素3に斜めに近づいて複屈折層15を通過する時に、ビーム11がS偏光又はP偏光の状態で第2の反射面3bに到達するように位相ずれ(フェーズシフト)を受ける。ゴースト像の比率はこうして最小となろう。
【0049】
反射要素3がその第1面3a上に複屈折層15でコーティングされている場合、前述した例における式は次のようになる。
【0050】
【0051】
Δは複屈折層15の位相ずれであり、これは光ビーム11の入射角及び方向に依存する。φは入射面10と光軸150との間の角度であり、これも光ビームの方向に依存する。この場合についても同様に強度を次のように算出することができる。
【0052】
【0053】
設計方向21においては、Δ=π及びφ=45°であるので、次式のようになる。
【0054】
【0055】
そうなると、R2は次の通りである。
【0056】
【0057】
S偏光及びP偏光の反射の項は、先の場合と比べて逆転することがわかる。ゴースト像比率は次の通りである。
【0058】
【0059】
P偏光の反射係数は常にS偏光の反射係数より小さく(rP<rS)、透過については反対となる(tP>tS)。さらに、ブリュースター角ではrP=0且つtP=1であり、ブリュースター角付近ではrP≒0且つtP≒1である。従って、X=0である時又はY=0である時に、ゴースト像比率CRghostが最小となろう。P偏光(その場合R1<R2)又は単にS偏光(その場合R1>R2)に対してどちらかがまさにその状態である。即ち、設計方向21では、反射要素3はゴースト像比率を最小にするためにこれらの偏光の一方で照射されなければならない。設計方向21以外では、他の入射角10では、Δ=π且つφ=45°の条件は満たされず、CRghostの表現式においては、S偏光及びP偏光の反射の項は単純には相互交換されず、それらの組み合わせが得られる。そうなると、最適偏光状態は、次の表現式を最小にすることにより決定することができる。
【0060】
【0061】
上記式中、a及びbは複素数である。
ゴースト像比率CRghostを最小にする最適偏光状態は必ずしも直線偏光ではないことに留意されたい。従って、X及びYの位相は必ずしも同一とはならないであろう。X及びYの位相が同じではない場合、楕円偏光のことを言う。即ち、本発明に係る方法では、光ビーム11の偏光状態、即ち、相対的位相X及びYが、反射要素3に到達する前に、CRghostを最小に保持するように形成される。
【0062】
本発明に係る方法の次の工程では、反射面3a、3bにより設計検出点23aの方向に反射された入射光ビーム11の偏光状態が、入射光ビーム11の光路内に配置された偏光要素20によって、既に決定された最適偏光状態に従って設定(セット)される。ある所定の画像エリアから発する複数の光ビーム11の代わりに単一の代表的光ビーム11について最適偏光状態を決定した場合には、次にその所定画像エリアから発するすべての光ビームの偏光状態が、代表的光ビーム11について決定した最適偏光状態に対応するように設定される。
【0063】
反射層13を備えた実施態様では、設計検出点23aの方向に反射された入射光ビーム11のそれぞれを、第1の反射面3aに到達する入射光ビーム11のそれぞれがS偏光されるように、偏光要素20によって直線偏光させることにより、入射光ビーム11の最適偏光状態が創出される。
【0064】
複屈折層15を設けた実施態様では、入射光ビーム11の最適偏光状態の創出は、少なくとも一つの光複屈折層15を通過して第2の反射面3bに到達する入射光ビーム11のそれぞれがS偏光されるか、又はそれぞれがP偏光されるように、設計検出点23aの方向に反射された入射光ビーム11を偏光要素20によって楕円偏光させることによって達成される。
【0065】
特に好ましい1実施態様では、制御可能なピクセルを備えたLCDパネル34が偏光要素20として設けられ、この方法では、設計検出点23aの方向に反射された入射光ビーム11はLCDパネル34のピクセルを通過する。透過した入射光ビーム11の偏光状態は、ピクセルを制御することにより、予め決定された最適偏光状態に従ってセットされる。当業者なら知っているように、LCDパネル34の各ピクセルは基本偏光子(elementary polarizer)として機能し、ここで光軸及び/又は位相ずれは、各ピクセルに印加された電圧を制御することにより、即ち、LCDパネル34を制御することにより、所望の偏光特性に従ってピクセルごとに変化させることができる。
【0066】
本発明者らは、HUDシステムにより創出された画像をユーザーは常に同じ位置から見ているのではない(例えば、運転中に横方向にもたれる等)か、又はユーザーの眼の位置が他の何らかの理由で設計検出点23aとは実質的に異なる(例えば、設計検出点23aを予め平均的ユーザーについて決めており、実際のユーザーの体格がそれとは実質的に異なる)ことがあることを認めた。この場合、或る固定された設計検出点23aに対して最適化されているHUDシステムは適正に動作しないかもしれない。なぜなら、ユーザーの眼に入ってくる光ビームの入射面10が、それらの事前の位置から回転を受けるので、予め決定した光ビーム11の最適偏光状態が最小のゴースト像比率を与えないことになるからである。LCDパネル34の利点は、偏光特性を動的に変化させることができるため、ある一つのピクセルを通過する光ビーム11の偏光状態を所望に応じてセットすることができることである。従って、特に好ましい1実施態様では、そのHUDシステムを使用しているユーザーの現在の観察位置に従って設計検出点23aが選択される。換言すると、ユーザーの現在の観察位置に、好ましくはユーザーの両眼の中間点に位置する点に、設計検出点23aはリアルタイムで調整され、その時点で決定された設計検出点23aに向かって反射された光ビーム11の最適偏光状態がそれに応じて決定される。LCDパネル34を制御することにより、それを通過する光ビーム11の偏光特性が、こうして決定された最適偏光状態に従ってセットされる。ユーザーの現在の観察位置の決定は、当業者には自明であるように、例えば、顔認識と動き追跡アルゴリズムを用いて1又は2以上のカメラでユーザーを観察することにより達成することができる。
【0067】
本発明はさらに、本発明に係る方法を実施するために設計された偏光要素20に関する。本発明に係る偏光要素20は、反射要素3に到達して投影画像を画成する光ビーム11の偏光特性を、その光ビーム11と光軸である設計方向21との間の垂直方向及び水平方向の角度αV、αHに応じて変化させるようになっている。
【0068】
反射要素3が好ましくは反射層13及び/又は反射防止層14を備えている一つの例示的実施態様において、偏光要素20は、複数の偏光軸を有する直線偏光フィルターであり、ここでこの偏光フィルターの異なる地点での偏光軸の方向はそれぞれ異なっている。好ましくは、偏光要素20は実質的に平らな表面を有する。そのような構成は、例えば、
図17b及び
図20cに見ることができる。ここでは、画像表示デバイス1から出発して、直線偏光子19を通過した光ビーム11の光路内に配置された偏光要素20は、その偏光軸が地点ごとに変動し、従って、透過した光ビーム11の偏光軸も光ビーム11の出口位置に応じて変動するように構成されている。こうして、この例では、偏光要素20を通過した光ビーム11は、異なる種々の偏光軸を持った直線偏光した光ビームとなろう。これらの光ビームは、反射要素3の設計に応じて(下記を参照)、純S偏光又は純P偏光したビームとして反射要素3の表面3a、3bの種々の地点に到達する。偏光要素20により創出されるべき最適偏光状態は、反射要素3の設計に依存する。例えば、反射要素3の第1の表面3aにはP偏光よりS偏光に対してより高い反射を有する反射層13が設けられ、第2の表面3bにはどちらの偏光に対しても低反射の反射防止層14が設けられている場合、反射要素3に到達する光ビーム11は、実質的に純粋にS偏光したビームとなるに違いない。また、反射要素3の第2の表面3bにはP偏光よりS偏光に対してより高い反射を有する反射層13がコーティングされ、第1の表面3aにはどちらの偏光に対しても低反射の反射防止層14がコーティングされている場合、反射要素3にくる光ビーム11は、やはり純粋にS偏光したビームとなる。一方、反射要素3の第1の表面3aがS偏光よりP偏光に対してより高い反射を有する反射層13でコーティングされ、第2の表面3bはどちらの偏光に対しても低反射の反射防止層14でコーティングされている場合、反射要素3に到達する光ビーム11は、実質的に純粋にP偏光したビームとなる。最後に、反射要素3の第2の表面3bにはS偏光よりP偏光に対してより高い反射を有する反射層13がコーティングされ、第1の表面3aにはどちらの偏光に対しても低反射の反射防止層14がコーティングされている場合、反射要素3に到達する光ビーム11は、やはり純粋にP偏光したビームとなるに違いない。
【0069】
反射要素3に少なくとも一つの複屈折層15を設けた別の例示の実施態様では、偏光要素20は、複数の光軸を有する光複屈折要素であり、その位相ずれは複屈折要素の異なる地点では異なり、それは入射位置に応じて異なるように表面を通過する光ビームの偏光特性を、透過した光ビーム11が所定の偏光方向を有する楕円偏光したビームとなるのを確保するように調整(変調)する。即ち、画像表示デバイス1からの、好ましくは直線偏光している光は、達成すべき最適偏光状態に従って、異なる位置で異なる角度の位相ずれを持つ偏光要素20により変調される。生じた楕円偏光した光ビームの楕円率は、ジョーンズベクトルの公式に関して先に述べたように、直線偏光と円偏光との間で必要に応じて変動させることができる。
【0070】
反射要素3に使用する複屈折層15及び反射要素3に入ってくる光の偏光方向(S又はP)に応じて、異なる形状の偏光要素20を、本発明に係るHUDシステムにおける偏光モジュレータとして、画像表示デバイス1又はその直線偏光子19と反射要素3との間で使用することができる。即ち、
図20b及び
図20dに示すように、偏光要素20を平面状又は任意に湾曲した面として形成することができる。複屈折層として形成される偏光要素20の厳密な形状は主に観察者と偏光要素20との間の距離及び反射要素3の形状に依存する。例えば、反射要素3に入ってくる光がP偏光した光であるなら、偏光モジュレータとして使用される偏光要素20は、実質的に平面状の面を形成することが好ましい。他方、反射要素3に到達する光がS偏光した光である場合には、偏光要素20は非平面の湾曲面を形成することが好ましく(
図19b及び20bを参照)、その厳密な湾曲(円弧形状)は、例えば、数値シミュレーションにより決定することができる。湾曲面に到達した直線偏光ビームは、傾斜した入射角と傾斜した光軸と傾斜した偏光面とのために、種々の異なる楕円偏光した光ビーム11として進む。このような1実施態様では、
図19cに示すように、円弧の曲率半径Rは、好ましくは偏光要素20と設計検出点23aとの間の距離A+Bの半分であり、曲率半径Rの交点は、偏光要素20の反射要素3の方を向いた側にある。
【0071】
図19bに示した1好適実施態様において、偏光要素20は複屈折要素であり、その光軸150’ は、反射要素3の複屈折層の光軸150と実質的に90度の角度をなす。これら2つの光軸150、150’ を互いに対して垂直に調整する(対称の垂直軸から一方を+45°だけ、他方を-45°だけ回転させる)ことにより、波長依存性を軽減することができるので、色収差のない(無彩色)挙動を達成することができる。これは、2つの複屈折層がある同じ一定波長に対して設計されているからである。波長が異なると、光ビームは異なる位相ずれを受けて、システムが色で縁取られることになる。光軸150、150’ が互いに垂直であると、複屈折層として構成された偏光要素20を通過した後の光ビームによってもたらされる誤差の量が、反射要素3に配置された複屈折層15により補償される。
【0072】
図20eに示した特に好ましい1実施態様では、偏光要素20は、任意の光軸の直線偏光ビームと楕円偏光ビームの両方を作り出すための、個別に制御可能なピクセルを持ったLCDパネル34であり、その偏光特性は、各ピクセルに印加される電圧を制御することにより動的に変化させることができる。
図20eに示した実施態様では、画像表示デバイス1により作り出された好ましくは事前直線偏光された光の光路内に配置された光学要素は、位相ずれを所望の偏光特性に従って地点ごとに変動させることができるように設計及び制御された制御可能なLCDパネル34である。偏光の変調(モジュレーション)にLCDパネル34の液晶ピクセルを使用するため、この設備では偏光フィルターを必要としない。各ピクセルを制御することにより、従来のLCDディスプレイのように輝度を変化させるのではなく、点ごとに透過光の偏光を変化させる。直線偏光子19から来る直線偏光した光は、こうしてピクセルを制御することにより各方向において変調させることができる。LCDパネル34の複屈折性液晶の光軸は所望の程度に回転可能であるので、LCDパネル34は本質的に
図20dの偏光要素20の制御可能バージョンである。LCDのピクセルを制御するのに必要なパラメータは、測定又はモデル化により決定することができる。
【0073】
本発明はさらに、本発明に係る偏光要素20を含むHUDシステムに関する。このHUDシステムは、画像表示デバイス1と、不完全半透明性(partially translucent)の第1の反射面3aとそれに実質的に平行な少なくとも一つの不完全半透明性の第2の反射面3bとさらには偏光依存性の反射層13及び/若しくは反射防止層14及び/若しくは光複屈折層15とを有する反射要素3と、を備える。特に好ましい1実施態様において、反射要素3は車両のウインドスクリーン(フロントガラス)であり、ここで第1の反射面3aはウインドスクリーンの内面であって、第2の反射面3bはウインドスクリーンの外面である。画像表示デバイス1は、それ自体公知のデジタルプロジェクター又はデジタルスクリーンである。場合により、当業者には自明なように、
図17bに示されている第1のミラー17及び/又は第2のミラー18のような、追加の光偏向器が、画像表示デバイス1と反射要素3との間に配置される。
【0074】
1好適実施態様において、本HUDシステムは、光軸150を持つ第1の光複屈折層15を有する反射要素と、光軸150’ を持つ第2の複屈折要素として形成された偏光要素20とを備え、これら第1及び第2の光軸150、150’ は互いに対して実質的に90度の角度をなす。
図22に示した特に好ましい1実施態様では、偏光要素20はLCDパネル34であって、本HUDシステムは、ユーザーの現在の観察位置を決定するための1又は2以上のデジタルカメラ40と、これに連動した中央ITユニット50とを備え、ここで前記中央ITユニット50はLCDパネル34を制御するように構成されている。中央ITユニット50なる用語は、ここではデジタルデータを受信し、処理し、そして好ましくは格納することができる任意のハードウェアデバイスを包含する意味で使用していると広義に解釈されたい。一つの可能な例では、中央ITユニット50は、コンピュータプログラムとデジタルカメラ40から受信したデータとを格納するための記憶媒体と、受信したデータを処理し、コンピュータプログラムを動作させるための中央処理ユニット(プロセッサ)とを備えたコンピュータである。自体公知の顔認識及び動き追跡アルゴリズムを中央ITユニット50で動作させてもよく、これは1又は2以上のカメラ40により提供された画像情報に基づいたユーザーの顔の現在の空間位置を同定して、それにより現在の検出点23aを決定する。検出点23aの位置がわかれば、反射要素3から反射された光ビーム12a、12bが通過してユーザーの眼に到達する入射面10を決定することができる。即ち、ゴースト像比率が最小となる光ビーム11の最適偏光状態も、中央ITユニット50によって決定することができる。光ビーム11の光路内に配置されたLCDパネルを適正に制御することにより、最適偏光状態をセットすることができる。
【0075】
図21a~cは、従来のHUDシステム及び本発明のHUDシステムにより生じたゴースト像比率を示す。既に述べたように、
図19a又は
図20aのHUDシステムについては、ゴースト像がないと考えうる(CR
ghost<3%の)範囲は、
図21aに明らかに見られる通り、非常に限られている(縦<垂直>方向に±9°、横<水平>方向に±7°)。これに対して、
図20bに示した本発明に係るHUDシステムの場合、ゴースト像がないと考えうる(CR
ghost<3%の)範囲は、
図21bに明らかに見られる通り、実質的に拡大している(縦方向に±9°、横方向に±25°)。
図20c、
図20d及び
図20eの実施態様が生じたHUDシステムのゴースト像比率は
図21cに示されている。これらのHUDシステムの設計では、ゴースト像のない範囲は、
図21cに明らかに見られうる通り、さらに改善されている(縦方向に±9°で横方向に±30°以上)。
【0076】
上の説明から明らかなように、本発明は、偏光原理で機能するHUDシステムにおけるゴースト像比率を著しく低下させ、或いはゴースト像がないと考えうる範囲を著しく増大させる。提案された解決策は既存のシステムと適合性があり、その上、著しく大きな画像サイズを持つ新しいHUDデバイスでも実施することができる。場合によっては、ドライバーが見ている地平線を完全にカバーすることができるので、いわゆるAR(拡張現実)経験も創出することができる。この新規な解決策は、P偏光HUDシステム(偏光サングラスにおいても動作する)とも組み合わせることができるという大きな利点もある。無論、この解決策は自動車(モータービークル)にのみ適用できるものではなく、例えば、航空機や船舶等のウインドスクリーンにも適用できる。
【0077】
添付の特許請求の範囲で規定する本発明の保護範囲から逸脱せずに、上に述べた実施態様の各種の変更が当業者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0078】
1:画像表示デバイス
2:非球面鏡
3:反射要素、3a:第1の反射面、3b:第2の反射面
4:投影画像
8:第1の画像、9:第2の画像
10:入射面
11、11a、11b、11c:入射光ビーム
12、12a、12b:反射光ビーム
13:反射層
14:反射防止層
15、15’ :光複屈折層
16:PVB層
17、18:ミラー
19:直線偏光子
20:偏光要素
21:設計方向
22:有用な領域
23:設計検出領域
23a:設計検出点
34:LCDパネル
40:デジタルカメラ
50:中央ITユニット
150、150’ :複屈折層の光軸
【国際調査報告】