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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-09
(54)【発明の名称】冗長ブレーキ装置システムの制御
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/20 20060101AFI20230202BHJP
   B60T 8/96 20060101ALI20230202BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20230202BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B60T7/20
B60T8/96
B60T8/172 B
B60T8/1755 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533528
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(85)【翻訳文提出日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2019084369
(87)【国際公開番号】W WO2021115565
(87)【国際公開日】2021-06-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
(72)【発明者】
【氏名】オスカション,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA12
3D246AA13
3D246BA03
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB18
3D246HA13A
3D246HA64A
3D246HA72B
3D246HA79A
3D246HB02B
3D246HB12A
3D246HB25A
3D246JA12
3D246KA15
3D246MA18
3D246MA19
(57)【要約】
大型車両用の制動システムであって、第1の車輪の制動を制御する第1のブレーキ制御装置及び第2の車輪の制動を制御する第2のブレーキ制御装置を備え、第1のブレーキ制御装置及び第2のブレーキ制御装置は、第1の車輪及び第2の車輪を、それぞれの設定された車輪スリップ限界値及びそれぞれのブレーキトルク要求に基づいて制御するように構成され、第1及び第2のブレ―キ制御装置は、ブレーキ制御装置の故障時に第1及び第2のブレーキ制御装置の一方が第1及び第2のブレーキ制御装置の他方の車輪の制動制御を担うことが可能となるように構成されたバックアップ接続部を介して互いに接続され、制動システムは、ブレーキ制御装置の故障に応じて、故障したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値(λCON,710)を低車輪スリップ限界値(λLOW,730)に低減させる(601)ように構成された制御ユニットを備える、制動システム。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)用の制動システム(200,250,400,500,700)であって、第1の車輪(120,150,170)の制動を制御する第1のブレーキ制御装置(WEMi,570)及び第2の車輪(120,150,170)の制動を制御する第2のブレーキ制御装置(WEMi,570)を備え、前記第1のブレーキ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置は、前記第1の車輪及び前記第2の車輪を、それぞれの車輪スリップ限界値(λLIMi,710)及びそれぞれのブレーキトルク要求(TREQi)に基づいて制御するように構成され、前記第1のブレーキ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置は、ブレーキ制御装置の故障時に前記第1のブレーキ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置の一方が前記第1のブレーキ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置の他方の前記車輪の制動制御を担うことが可能となるように構成されたバックアップ接続部(220)を介して互いに接続され、前記制動システムは、ブレーキ制御装置の故障に応じて、故障したブレーキ制御装置に関連する前記車輪スリップ限界値(λLIMi,710)を低車輪スリップ限界値(λLIMi,730)に低減させる(701)ように構成された制御ユニット(VMM,110)を備える、制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項2】
前記第1のブレーキ制御装置(WEM1,570)は、前車軸(101)の左車輪(120l)の制動を制御するように構成され、前記第2のブレーキ制御装置(WEM2,570)は、前記前車軸(101)の右車輪(120r)の制動を制御するように構成され、これによって、前記第1のブレーキ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置は、フェイルーオペレーショナルブレーキ制御装置として構成される、請求項1に記載の制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項3】
前記制御ユニット(110)は、機能するブレーキ制御装置から路面摩擦に関するデータを取得し、前記路面摩擦に関するデータに依存して前記故障したブレーキ制御装置に関連する前記車輪スリップ限界値(λLINi,730,750,770)を設定するように構成される、請求項1又は2に記載の制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項4】
前記路面摩擦に関するデータは、前記機能するブレーキ制御装置によって検出されたピーク車輪スリップ値(λPEAK)及び/又は評価された路面摩擦係数(μEST)を含む、請求項3に記載の制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項5】
前記低車輪スリップ限界値(λLINi,730)は、低スリップ限界値(λLOW,730)の表に基いて決定され、前記低スリップ限界値の表は、前記車両の前記故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪に対して決定された車輪スリップ値によってインデックス付けられるように構成される、請求項1~4のいずれかに記載の制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項6】
前記低車輪スリップ限界値(λLOW,730)は、前記車両の前記故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪の機能するブレーキ制御装置によって検出された最小ピーク車輪スリップとして決定され、所定の安全係数の分だけ差し引かれた値である、請求項1~4のいずれかに記載の制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項7】
前記制御ユニット(110)は、前車軸ブレーキ制御装置の故障に応じて1つ又は複数のトレーラー車輪(180)へのブレーキトルク及び/又は車輪スリップ限界値を増大させるように構成される、請求項1~6のいずれかに記載の制動システム(200,250,400,500,700)。
【請求項8】
前記制御ユニット(110)は、前記故障したブレーキ制御装置に関連する前記設定された車輪スリップ限界値(λLIMi、750)を前記低車輪スリップ限界値(λLOWi,730)からバックアップモード車輪スリップ限界値(λBU,770)まで増大させるように構成される、請求項1~7のいずれかに記載の制動システム(700)。
【請求項9】
前記バックアップモード車輪スリップ限界値(λBU,770)は、前記最初に設定された車輪スリップ限界値(λCONi,710)よりも小さいか又は等しい、請求項8に記載の制動システム(700)。
【請求項10】
前記低車輪スリップ限界(λLOWi,730)から前記バックアップモード車輪スリップ限界値(λBU,770)までの増大(750)は、線形関数(750)である、請求項8又は9に記載の制動システム(700)。
【請求項11】
前記前車軸(101)の車輪(120l,120r)に関連する車輪速度センサ(WS1,WS2)は、前記前車軸の他の側の車輪(120l,120r)に関連するブレーキ制御装置(WEM1,WEM2)に交差接続される(440,450)ように配置されている、請求項1~10のいずれかに記載の制動システム(400)。
【請求項12】
前記車両は、第1の後輪軸(106)及び第2の後輪軸(107)を備え、前記第1の後輪軸(106)の車輪(140l,1040r)に関連する車輪速度センサ(WES3,WES4)は、前記第2の後輪軸(107)の前記第1の後輪軸(106)の車輪と同じ側の車輪(160l,160r)に関連するブレーキ制御装置(WEM5,WEM6)に接続される(460l,470r,460l,470r)ように配置される、請求項1~11のいずれかに記載の制動システム(400)。
【請求項13】
後軸車輪ブレーキ制御装置は、前記第1の後車軸(106)の車輪速度センサ及び前記第2の後車軸(107)の車輪速度センサのそれぞれから出力された車輪速度を比較することによって、車輪の浮き上がりを検出するように構成され、前記制御ユニット(110)は、車輪の浮き上がりを検出した前記ブレーキ制御装置に関連する前記設定された車輪スリップ限界値(λLIMi)を低下させるように構成される、請求項12に記載の制動システム(400)。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の制動システム(200,250,400,500,700)を備える車両(100)。
【請求項15】
大型車両(100)を制動するための方法であって、
制動システムを設定すること(S1)であって、前記制動システムは、第1の車輪(120,150,170)の制動を制御する第1のブレーキ制御装置(570,WEMi)及び第2の車輪(120,150,170)の制動を制御する第2のブレーキ制御装置(570,WEMi)を備え、前記第1のブレーキ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置は、前記第1の車輪及び前記第2の車輪を、それぞれの設定された車輪スリップ限界値(λLIMi)及びそれぞれのブレーキトルク要求(TREQi)に基づいて制御するように構成され、前記第1のブレ―キ制御装置及び前記第2のブレ―キ制御装置は、ブレーキ制御装置の故障時に前記第1のブレ―キ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置の一方が前記第1のブレ―キ制御装置及び前記第2のブレーキ制御装置の他方の前記車輪の制動制御を担うように構成されたバックアップ接続部(220)を介して互いに接続されること(S1)と、
ブレーキ制御装置の故障に応じて、前記故障したブレーキ制御装置に関連する前記設定された車輪スリップ限界値(λLIMi,710)を低車輪スリップ限界値(λLIMi,730)に低下させること(S2,701)と
を含む、方法。
【請求項16】
機能するブレーキ制御装置から路面摩擦に関するデータを取得すること(S3)と、
前記路面摩擦に関するデータに依存して前記故障したブレーキ制御装置に関連する前記車輪スリップ限界値(λLIMi)を設定すること(S4)と
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記故障したブレーキ制御装置に関連する前記設定された車輪スリップ限界値(λLIMi)を前記低車輪スリップ限界値(λLOW,730)からバックアップモード車輪スリップ限界値(λBU,770)に増大させること(S5,750)を含む、請求項15~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記プログラムがコンピュータ上又は制御ユニット(110)の処理回路(910)上で実行される時、請求項15~17のいずれかに記載のステップを行うためのプログラムコード手段を備える、コンピュータプログラム(1020)。
【請求項19】
プログラムプロダクトがコンピュータ上又は制御ユニット(110)の処理回路(910)上で実行されるときに請求項15~17のいずれかに記載のステップを行うためのプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム(1020)が記憶されたコンピュータ可読媒体(1010)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両用の制動システムの冗長性に関する。本開示は、特に自律運転用に構成された車両に関する。本発明は、大型車両、例えば、トラック及び建設機械に適用可能である。本発明は、主に貨物輸送車両、例えば、セミトレーラー及びトラックに関して説明するが、この特定の形式の車両に制限されず、乗用車のような他の形式の車両に用いられてもよい。
【背景技術】
【0002】
大型車両の制動システムは、安全な車両運転にとって重要である。制動システムは、必要なときに車両速度を制限するのみならず、車両安定性を維持する上でも重要な役割を果たす。従って、正常に動作しない制動システムを有する大型車両は、重大なリスクを伴う。このリスクを最小限に抑えることが望まれる。
【0003】
車両が制動能力を失わないこと又は正常に動作しない制動システムによって不安定にならないことを確実にするために、冗長性が制動システムに追加され得る。冗長性は、制御システム及びアクチュエータ、例えば、ディスクブレーキ又はドラムブレーキの両方に追加され得る。
【0004】
車両制動システムの冗長性を達成するために、並列又は直列に配置された2つ以上の独立して制御される完全なブレーキシステムを備えるブレーキシステムレイアウトが一般的に用いられている。従って、もし1つのシステムが故障したなら、車両ブレーキの制御及び作動を引き継ぐために、バックアップシステムを利用することができる。しかしながら、この種の冗長性は、車両全体のコストを高騰させ、ブレーキシステムの点検も複雑にする。
【0005】
特許文献1は、冗長性を備える大型車両のためのブレーキ制御装置のレイアウトを開示している。
【0006】
冗長ブレーキシステムに切り替えるときに、車両の安定性及び全体的な制御に悪影響を及ぼさないことが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0210361A1号明細書
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、ブレーキ装置の故障中及び故障後に安全な車両操作及び制御性が維持されるという意味において堅牢な冗長ブレーキシステムを提供することにある。この目的は、大型車両用の制動システムによって少なくとも部分的に達成される。この制動システムは、第1の車輪の制動を制御する第1のブレーキ制御装置及び第2の車輪の制動を制御する第2のブレーキ制御装置を備え、第1のブレーキ制御装置及び第2のブレーキ制御装置は、第1の車輪及び第2の車輪を、それぞれの車輪スリップ限界値及びそれぞれのブレーキトルク要求に基づいて制御するように構成され、第1のブレーキ制御装置及び第2のブレーキ制御装置は、ブレーキ制御装置の故障時に第1のブレーキ制御装置及び第2のブレーキ制御装置の一方が第1のブレーキ制御装置及び第2のブレーキ制御装置の他方の車輪の制動制御を担うことが可能となるように構成されたバックアップ接続部を介して互いに接続される。また、制動システムは、ブレーキ制御装置の故障に応じて、故障したブレーキ制御装置に関連する車輪スリップ限界値を低車輪スリップ限界値に低減させるように構成された制御ユニットを備える。
【0009】
設定された車輪スリップ限界値にさらなる安全マージンを追加することによって、すなわち、低車輪スリップ限界値を設定することによって、故障したブレーキ制御装置によって運転しているにも関わらず、車輪スリップが起こりにくくなる。このようにして、制御入力に対する車両応答の予測が容易になるので、有利である。
【0010】
一態様によれば、第1のブレーキ制御装置は、前車軸の左車輪の制動を制御するように構成され、第2のブレーキ制御装置は、前車軸の右車輪の制動を制御するように構成され、これによって、第1のブレーキ制御装置及び第2のブレーキ制御装置は、フェイルオペレーショナル(fail-operational)制御装置として構成される。本明細書に開示される技術は、前車軸ブレーキ制御装置に与えられたスリップ限界値を制御するのに特に適している。何故なら、これらのスリップ限界値は、特に急制動操作中の車両制御に重要な役割を果たすからである。開示される技術によって、安全車両運転及びタイヤ横力を生成する能力は、前車軸ブレーキ装置のブレーキ制御装置の故障に関わらず維持されることとなる。
【0011】
一態様によれば、制御ユニットは、機能するブレーキ制御装置から路面摩擦に関するデータを取得し、路面摩擦に関するデータに依存して故障したブレーキ制御装置に関連する車輪スリップ限界値を設定するように構成される。このように、安全マージンは、運転状況に応じて調整可能であり、これによって、全体的な制御効率を高めることができる。路面摩擦状態が良好な場合、すなわち、道路牽引が良好なとき、与えられた車輪スリップ限界値に対してより小さい安全マージンが追加される。その一方、より好ましくない運転状態では、バックアップ接続部を介して作動することになる故障したブレーキ制御装置に与えられた車輪スリップ限界値に対してより大きい安全マージンが追加される。
【0012】
一態様によれば、路面摩擦に関するデータは、機能するブレーキ制御装置によって検出されたピーク車輪スリップ値及び/又は評価された路面摩擦係数を含む。ピーク車輪スリップ値及び/又は評価された路面摩擦を知ることによって、故障したブレーキ制御装置の車輪スリップ限界値を確実かつ効率的に設定することが可能になる。
【0013】
一態様によれば、低車輪スリップ限界値は、低スリップ限界値の表に基いて決定され、低スリップ限界値の表は、車両の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪に対して決定された車輪スリップ値によってインデックス付けられるように構成される。従って、先の実験及び/又は解析から、種々の運転状態に対する一組の車輪スリップ限界値が表に記憶される。従って、現在の運転状況に基いて、適切な車輪スリップ限界値を選択することができる。例えば、もしも左前ブレーキ制御装置が故障し、その一方、同じ側の後車軸ブレーキ制御装置が好ましい牽引状態を呈していたなら、同じ側の後車軸ブレーキ制御装置が低摩擦状態を検出した場合と比較して、故障したブレーキ制御装置に与えられたスリップ限界値に対する減少は小さくなる。
【0014】
一態様によれば、低車輪スリップ限界値は、車両の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪の機能するブレーキ制御装置によって検出された最小ピーク車輪スリップとして決定され、所定の安全係数の分だけ差し引かれた値である。
【0015】
これは、低車輪スリップ限界値を設定する確実かつ簡単な方法である。低車輪スリップ限界値は、居所的な道路領域の運転状態に依存して変化するが、安全マージンの追加によって堅牢である。安全マージンは、例えば、最初に与えられた車輪スリップ限界値の約20%のレベルにあってもよい。
【0016】
一態様によれば、制御ユニットは、前車軸ブレーキ制御の故障に応じて1つ又は複数のトレーラー車輪へのブレーキトルク及び/又は車輪スリップ限界値を増大させるように構成される。これは、事実上、前車軸ブレーキ制御装置に故障を生じた連結車両を減速させるためにトレーラーがアンカーとして用いられることを意味する。トラクターは、例えば、曲がり角にある距離だけ入り込むと、曲がり角を首尾よく通り抜けるために大きな横力が必要である。その一方、トレーラーは、曲がり角に深く入り込んでいないので、それほど大きな横力を必要としない。前軸車輪がスリップした場合、トラクターは、必要とされる横力を生じることができないことがある。トレーラーを用いて連結車両を減速させることによって、トラクターユニットは、道路へのグリップ力を取り戻し、これによって、必要な横力を生じることが可能になる。
【0017】
一態様によれば、制御ユニットは、故障したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値を低車輪スリップ限界値からバックアップモード車輪スリップ限界値まで増大させるように構成される。故障が生じた後、制御アルゴリズム及び動作が安定し、スリップ状況が評価される。車両制御性へのブレーキ制御装置の故障の影響は、もし運転状況が故障したブレーキ制御装置の与えられた車輪スリップ限界値の増大を必要とするなら、車輪スリップのレベルをそのブレーキ制御装置の故障前の最初に設定された車輪スリップ限界値に向かって増大させることによって、低減させることができる。
【0018】
一態様によれば、前車軸の車輪に関連する車輪速度センサは、前車軸の他の側の車輪に関連するブレーキ制御装置に交差接続される。この交差接続によって、WEMは、制御される車輪の車輪速度をバックアップ接続部を介して監視することが可能になる。これによって、故障したブレーキ制御装置に関連する車両の制御性及び監視性が増大するので、有利である。
【0019】
一態様によれば、車両は、第1の後輪軸及び第2の後輪軸を備え、第1の後輪軸の車輪に関連する車輪速度センサは、第2の後輪軸の第1の後輪軸の車輪と同じ側の車輪に関連するブレーキ制御装置に接続されるように配置される。このようにして、後車軸のブレーキ制御装置は、車両のそれ自体の車輪と同じ側の車輪から車輪速度データを取得することができるので、有利である。例えば、2つ以上の互いに異なる車両速度の測定値を比較することによって、車両の浮き上がりを検出することができる。車両の浮き上がりの検出に応じて、与えられた車輪スリップ限界値が低減され得る。
【0020】
本明細書には、前述の利点に関連する方法、制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラムプロダクト、及び車両も開示される。
【0021】
一般的に、請求項に用いられる全ての用語は、明示的に別段の定めがない限り、技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、構成部品、手段、ステップ、等」への全ての言及は、明示的に別段の定めがない限り、要素、装置、構成部品、手段、ステップ、等の少なくとも一例への言及として公然と解釈されるべきである。本明細書に開示されるどのような方法のステップも、明示的に定めがない限り、必ずしも開示される正確な順序に従って行われる必要がない。本発明の更なる特徴及び利点は、添付の請求項及び以下の説明を検討すれば明らかになるだろう。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の互いに異なる特徴を組み合わせて以下に記載される実施形態以外の実施形態を考案し得ることを理解するだろう。
【0022】
以下、添付の図面を参照して、本発明の例示的な実施形態を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A-C】例示的な車両を概略的に示す図である。
図2A-B】互いに接続されたブレーキ制御装置の例を示す図である。
図3A-B】例示的な運転状況を示す図である。
図4】例示的なブレーキ装置のレイアウトを示す図である。
図5】制御ユニット及び車輪端モジュールアセンブリを概略的に示す図である。
図6】タイヤ力と車輪スリップとの間の関係を示すグラフである。
図7】設定されたスリップ限界値の経時的な変化の例を示すグラフである。
図8】方法を例示するフローチャートである。
図9】制御ユニットを概略的に示す図である。
図10】例示的なコンピュータプログラムプロダクトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のいくつかの態様が示される添付の図面を参照して、本発明を更に十分に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載される実施形態及び態様に制限されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が十分かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に知らしめるために例を挙げて提示されるものである。本明細書の全体を通して、同様の番号は、同様の要素を指すものとする。
【0025】
本発明は、本明細書に記載されかつ図面に示される実施形態に制限されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば、添付の請求項の範囲内において多くの変更及び修正がなされ得ることを認識するだろう。
【0026】
図1A-Cは、貨物輸送用のいくつかの例示的な車両100を示す。図1Aは、車輪120,140,160によって支持されたトラックを示す。車輪120,140,160のいくつかは、被駆動車輪である。
【0027】
図1Bは、トラクターユニット101がトレーラーユニット102を牽引するセミトレーラー連結車両を示す。トレーラーユニット102の前部は、第5の車輪接続部103によって支持され、トレーラーユニット102の後部は、一組のトレーラー車輪180によって支持される。
【0028】
図1Cは、トレーラーユニット102を牽引するように構成されたドーリーユニット104を有するトラックを示す。トレーラーユニットの前部は、一組のドーリー車輪190によって支持され、トレーラーの後部は、一組のトレーラー車輪180によって支持される。
【0029】
各車両100は、制御ユニット110、例えば、車両運動管理(VMM)制御モジュールを備える。この制御ユニットは、可能であれば、車両100に分配されたいくつかのサブユニットを備えてもよいし、又は単一の物理的ユニットであってもよい。制御ユニットは、車両動作を制御する。制御ユニット110は、例えば、車両安定性を維持するためにブレーキ力を車輪間に割り当て得る。車輪ブレーキ制御装置の各々は、制御ユニット110に通信可能に接続され、制御ユニットがブレーキ制御装置と通信し、これによって、車両制動を制御することを可能にする。
【0030】
前述したような連結車両は、一般的に知られているので、ここでは更に詳細に検討しないこととする。本明細書に開示される技術は、図1A-1Cに示される連結車両に限らず、広範囲にわたる種々の連結車両及び種々の形式の車両に適用可能である。更に、本明細書に開示される技術は、例えば、電気自動車又はハイブリッド電気自動車にも適用可能であることを理解されたい。
【0031】
各車輪には、車輪ブレーキ130,150,160が付設される(トレーラーユニットの車輪ブレーキは、図1A-1Cに示されない)。この車輪ブレーキは、例えば、空圧作動式ディスクブレーキ又はドラムブレーキであってもよく、本開示のいくつかの態様は、車両の減速中に電力を生成する回生ブレーキにも適用可能である。
【0032】
車輪ブレーキは、ブレーキ制御装置によって制御される。本明細書では、「ブレーキ制御装置」、「ブレーキモジュレータ」、及び「車輪端(wheel end)モジュール」という用語は、同様の意味に用いられる。これらの用語は、いずれも、車両100のような車両の少なくとも1つの車輪に加えられる制動力を制御する装置として理解されたい。サービスブレーキシステムは、駐車したときに車両を固定位置に維持するように構成されたパーキングブレーキシステムとは対照的に、運転中に車両を制動するシステムである。
【0033】
ブレーキ力は、本明細書においてブレーキトルクとして定量化される。ブレーキトルクとブレーキ力との間の変換は容易である。
【0034】
ブレーキシステムにとって、単一の電気的故障が生じた場合に制動性能(最大減速能力)のどのような損失又は限られた損失も生じないこと、及び車両安定性のどのような損失又は限られた損失も生じないことが望ましい。殆どの周知のサービスブレーキシステムは、2つのサービスブレーキシステムを並列に設置することでしかこの要件を満たすことができず、その結果、2倍の部品、配管、及び空気継手が必要になる。
【0035】
しかしながら、最近になって、その代わりとして車両の各車輪に個別のブレーキ制御装置を有する機構を備えるサービスブレーキシステムが開発されている。通常操作では、各ブレーキ制御装置は、ブレーキ力を制御すること、車輪ロックを防ぐこと、及び制御装置のそれぞれの車輪の診断を行うことを担う。しかしながら、これに加えて、各制御装置の制御出力部が他のブレーキ制御装置の1つの「バックアップ(back-up)」ポートに接続可能になっている。このようにして、制御装置は、故障した制御装置のバックアップポートへのその接続部を操作することによって、故障した制御装置の機能を担うことができる。バックアップポートへの接続部は、空圧接続部であり得る。従って、故障した制御装置は、外部の制御装置がその故障した制御装置のアクチュエータによって車輪制動を制御することを可能にするために、バックアップポートとブレーキアクチュエータとの間のアクセスを開放することしか必要とされない。
【0036】
図2A-2Bは、このような構成200,250を概略的に示す。左前軸車輪120lの制動を制御接続部213lを介して制御するために、左車輪端モジュール(WEM)210lが配置される。制御接続部は、例えば、ディスクブレーキ等を作動させるための空圧接続部であり得る。右前軸車輪120rの制動を同様の制御接続部213rを介して制御するために、右WEM210rが配置される。
【0037】
2つのWEMは、バックアップ接続部220によって互いに接続され、これによって、各WEMは、他の車輪の制動制御を担うことが可能である。従って、もしもWEMの一方が故障したなら、他方のWEMが車両の制動能力を維持するために引き継ぎ、これによって、ブレーキ制御の冗長性を効果的にもたらすことができる。
【0038】
各WEM210l,210rは、その該当する車輪に制動力を生成させるための手段211l,211rを備える。(図2Aに示される)初期設定モード、すなわち、両方のWEM210l,210rが意図したように十分に機能しかつ動作するモードでは、バックアップポート214l,214rは、スイッチ212,212rによってそれぞれの車輪ブレーキから切り離されている。これらの「スイッチ(switch)」は、例えば、バックアップ接続部220が空圧接続部である場合、空圧弁であり得る。もしもWEM210l,210rの一方が故障したなら、そのWEMは、その該当するスイッチ212l,212rを切り換え、これによって、他のWEMが制御接続部220を介して制御を引き継ぐことができる。制御装置がブレーキを制御することが可能なアクティブモードから制御装置がその制御を他の制御装置に委ねるスレーブモードへのモード変更は、例えば、電力損失等によって自動的に発動され得る。
【0039】
従って、前車軸WEM210l,210rの一方が故障したとき、(依然として機能する)他方のWEMをブレーキ制御のために用いることができる。スイッチ212l,212rは、WEMの故障時に自動的に作動されてもよいし、又は制御ユニット110から遠隔作動されてもよい。スイッチが空圧弁の場合、その弁は、例えば、初期設定で開いているとよく、及び/又は制御ユニット110によって遠隔制御可能になっていてもよい。すなわち、もしもブレーキ制御装置が停止したなら、その装置の弁は、他のブレーキ制御装置による制御を可能にするために、(自発的に又は外部制御信号によって)自動的に開き得る。
【0040】
図2Bは、左前車軸制御装置210lが故障した状況250を概略的に示す。例えば、もしも左車輪120lのブレーキ制御装置210lが電気的故障を被ったなら、このブレーキ制御装置210lは、そのバックアップポート214lに印加される空圧を通す状態に自動的に故障し、バックアップ接続部220が制御接続部213lに接続される。それ故、図3に示されるように、故障した制御装置210lがスレーブ制御装置として作用し、両方の車輪120l,120rが右側のブレーキ制御装置210rによって制御され、これによって、システム200の全体がフェイルオペレーショナル(fail-operational)モードを取ることとなる。
【0041】
しかしながら、(ブレーキ制御装置が故障し、機能する制御装置がそれ自体のブレーキと故障した制御装置のブレーキとの両方を制御する)状況250において動作する車両は、困難な運転状況を切り抜けるときに課題に直面することがある。これは、少なくとも部分的にバックアップ接続部を介する制御装置とアクチュエータとの間の制御接続部が長いことによって、制御ループの帯域幅を制限し得ることによる。
【0042】
図3Aは、トラクターユニット101が閉曲線特性を有する道路部分310に入る状況300を示す。このカーブを通り抜けるために、連結車両101,102は、縦力320に加えて、かなりの横力330,340を生じる必要がある。これは、図6に示されるように、車輪スリップが限界値を下回る場合にのみ可能である。図において、Fは、タイヤ(又は車輪)の縦力であり、Fは、タイヤ(又は車輪)の横力である。図6から、縦車輪スリップが増大すると、横力Fを生じる能力が著しく低下することが分かる。運転がバックアップ接続部220に基づく場合、車輪スリップ制御能力は、制限される。何故なら、制御ループ時定数等が通常の運転と比べて長くなるからである。連結車両は、WEMが故障したときでも、車輪スリップが制御される運転を維持することができることが重要である。
【0043】
図3Bは、連結車両101,102が、低摩擦領域、例えば、局所的に凍った領域を有する区域370を含む道路部分360に入る他の状況350を示す。この低摩擦領域370は、連結車両101、102の片側にかなりの車輪スリップを引き起こし、カーブを通り抜けるための十分な横力を生じる車両の能力を制限することとなる。ここでも、仮にWEMが故障しても、連結車両が車輪スリップが制御される運転を維持することができることが重要である。
【0044】
本明細書に開示される技術のいくつかは、VMMとブレーキとの間で用いられるインターフェースを利用する。PCT/EP2016/063782に記載されるように、VMMドメインは、車輪トルク要求及び車輪スリップ限界値を各ローカルブレーキ制御装置に送信することができる。この限界値は、通常、最大の制動性能を与えるように選択される。しかしながら、1つの車輪ユニットが故障した場合、このスリップ限界値は、本明細書では、通常の値よりも低い値に調整される。この値は、予測可能な全ての道路状況に対して、タイヤ力対スリップ曲線の線形領域内に依然として収まる値に対応してもよい(図6参照)。これによって、両方の車輪の車輪ロックを防ぎ、タイヤ横力の望ましくない逸失を阻止することができる。
【0045】
状況300,350の両方において、VMM又は車両制御ユニット110は、車両を減速させることによって著しい車輪スリップを回避するために、トレーラー102を「アンカー(anchor)」として用いてもよいことに留意されたい。換言すれば、態様によると、車両制御ユニット110は、前車軸ブレーキ制御装置の故障に応じて、1つ又は複数のトレーラー車輪のブレーキトルク及び/又は車輪スリップ限界値を増大させるように構成される。これは、事実上、前車軸ブレーキ制御装置が故障している連結車両を減速させるために、トレーラーがアンカーとして用いられることを意味する。トラクターは、例えば、曲がり角にある距離だけ入り込むと、曲がり角を首尾よく通り抜けるために大きな横力が必要である。その一方、トレーラーは、曲がり角に深く入り込んでいないので、それほど大きな横力を必要としない。前軸車輪がスリップした場合、トラクターは、必要とされる横力を生じることができないことがある。トレーラーを用いて連結車両を減速させることによって、トラクターユニットは、道路へのグリップ力を取り戻し、これによって、必要な横力を生じることが可能になる。
【0046】
図4は、本発明の示唆によるブレーキ装置システム400の例示的なレイアウトを示す。2つの前軸車輪120l,120r及び4つの後軸車輪140l,160l,140r,160rが配置されている。各車輪は、図4において1から6までの番号が付された対応するWEMを有する。各車輪は、図4において1から6までの番号が付された少なくとも1つの関連する車輪速度センサ(WS)も有する。車両制御に対する車両速度センサ及びそれらの使用は、周知であり、ここでは、更に詳細に説明しないこととする。
【0047】
車両運動管理モジュール(VMM)は、車両制動機能の少なくとも一部を制御するように構成された制御ユニット110である。このユニットについては、図5に関連して以下に更に詳細に説明する。前述したように、VMMは、車両100の減速のために制動システムを用いるだけでなく、例えば、図3A及び3Bに関連して前述したようにトレーラー102をアンカーとして用いて操縦するときの車両安定性を制御するためにも制動システムを用いることができる。
【0048】
前車軸WEM210l,210rは、フェイルオペレーショナルモードを取るように構成される。本明細書において、「フェイルオペレーショナル(fail operational)」という用語は、1つの制御装置が故障しても、他の制御装置がバックアップ接続部220を介して引き継ぐので、車両が著しい制動能力を失うことがないことを意味する。また、前軸車輪の制動能力が実質的に維持されるので、車両安定性も決定的な悪影響を受けない。前車軸の故障したWEMは、(図4に示されない)スイッチ212l,212rを開き、これによって、前車軸の依然として機能しているWEMが他の車輪の制御を引き継ぐこととなる。
【0049】
前車軸105の各車輪120l,120rは、関連する車輪速度センサWS1,WS2を有する。車輪速度センサからのデータは、周知の方法によって制動の制御に用いられ得る。車両の一方の側の(1つ又は複数の車輪速度センサ間に位置する)交差接続部440、450が、車両の他の側のブレーキ制御装置に接続されてもよい。
【0050】
図4の後車軸WEM、すなわち、WEM3,WEM4,WEM5,WEM6は、いくつかの態様によれば、故障時にフェイルサイレントモードを取るように構成される。本明細書において、「フェイルサイレント(fail silent)」という用語は、1つの制御装置が故障しても、対応する車輪の制動機能を維持するためにどのようなバックアップ制御装置も介入しないことを意味する。従って、故障した制御装置の車輪は、実質的に制動されない自在に回転する車輪になる。後車輪の場合、一方の側のWEMは、図4に示されるように、冗長性をもたらすために、接続部460l,460r,470l,470rによって車輪速度センサを共有する。このようにして、後車軸の車輪速度センサが故障した場合でも、少なくとも急ブレーキを掛けることができる。
【0051】
第1の後車軸106のブレーキ制御装置WEM3,WEM4は、いくつかの態様によれば、図4に示されるようなフェイルサイレントモードに代わって図2A,2Bに示されるようなフェイルオペレーショナルモードに構成されてもよいことを理解されたい。
【0052】
更に、第2の後車軸107のブレーキ制御装置WEM5,WEM6は、いくつかの態様によれば、図4に示されるようなフェイルサイレントモードに代わって図2A,2Bに示されるようなフェイルオペレーショナルモードに構成されてもよいことを理解されたい。
【0053】
互いに異なる後車輪の車輪速度センサをブレーキ制御装置に接続することによる利点は、そのブレーキ制御装置がそれらの互いに異なる車輪速度を比較し、これによって、例えば、車輪の浮き上がり等を検出することができることにある。この検出結果は、制御ユニット110に送信されてもよい。
【0054】
図5は、車両制御用システムを概略的に示す。交通状況管理(TSM)モジュール510は、車両軌道を計画し、計画された軌道に基づいて、VMM110から加速度及び曲率プロファイル520を要求する。VMM110は、現在の車両能力及び状態530を返信し、これによって、TSMモジュールは、計画された軌道を更新及び維持し、例えば、車両動作を最適化しながら車両安全性を確保することができる。
【0055】
VMMモジュール110は、車両状態を推測するための種々の形態のセンサデータ550にアクセスする。センサデータの例として、例えば、1つ又は複数の全地球測位システム(GPS)受信機、1つ又は複数の無線検出及び測距(レーダ)送受信機、1つ又は複数の光検出及び測距(ライダ)送受信機、及びカメラ等の1つ又は複数のビジョンセンサの任意の組合せから得られる外部データが挙げられる。また、センサデータの例として、例えば、車輪速度センサ、操舵角センサ、制動トルク及び駆動トルク評価装置、慣性測定ユニット(IMU)センサ等から得られる内部センサデータも挙げられる。
【0056】
外部及び内部センサデータは、運動及び状態評価モジュール540に入力され、この運動及び状態評価モジュール540が、データをフィルタ処理し、車両状態を評価する。このような運動及び状態評価モジュールは、周知であり、ここでは更に詳細に説明しないことにする。車両状態は、例えば、全地球参照システムにおけるシャーシの位置に関する変数、全地球参照システムにおけるロール、ピッチ、及びヨーに関する変数、並びに居所的車輪参照フレームにおける各車輪の縦速度vxiを含み得る。各車輪のその座標系における縦速度vxiを知ることが重要である。何故なら、これによってシステムが車輪スリップλを正確に決定することができるからである。
【0057】
VMM又は制御ユニット110は、TSMモジュール510からの要求を満たすために力配分560を決定する。この力配分は、特定の車輪ブレーキにトルク要求TREQiを設定すること、及び推進源及び操舵角を制御することを含み得る。
【0058】
また、VMMモジュールは、各WEMによって順守されるべき各WEM用車輪スリップ限界値λLIMiを特定する。従って、図5を参照すると、WEM、例えば、i番目のWEM570は、車輪速度vxi、車輪スリップ限界値λLIMi、及びトルク要求TREQiを受信する。受信したパラメータに基づいて、WEMは、その該当するブレーキ装置590を制御し(580)、場合によっては、故障したWEMもバックアップ接続220を介して制御する(580)。
【0059】
WEMは、現車輪スリップを決定(及び報告)し得る。
【0060】
【数1】
【0061】
上式において、ωは、車輪回転速度であり、Rは、車輪半径である。この定義によると、スリップは、推進スリップでは正であり、制動スリップでは負である。しかしながら、以下、車輪スリップの限界値について説明するとき、限界値は、車輪スリップの絶対値を指すものとする。従って、上記の定義によれば、車輪スリップ限界値の増大は、許容される正の車輪スリップ限界値が大きくなるか又は許容される負の車輪スリップ限界値が小さくなるかのいずれかを指す。
【0062】
時間枠内に検出された最大車輪スリップλPEAKi及び評価された路面摩擦係数μESTiがVMMに報告され得る。評価された路面摩擦係数は、値μに対応し、これによって、生じ得るタイヤ横力Fは、以下の式によって制限される。
【0063】
【数2】
【0064】
上式において、Fは、タイヤに作用する垂直抗力である。WEMは、現トルク能力TCAPiも決定し、かつ報告してもよい。
【0065】
もしWEMが故障し、スレーブモードに入ったなら、故障した制御装置に関連する車輪の車輪制動を制御するためにバックアップ接続部220が用いられ、このとき、前述したように、車輪スリップ限界値λLIMiが調整される。故障したWEMの時間に対する例示的な車輪スリップが図7に示される。図7に示されるスリップ限界値λLIMiは、(1つのブレーキ制御装置が故障し、フェイルオペレーショナルモードを取るように構成された)車軸の両車輪に対して効果的に適用されるスリップ限界値である。
【0066】
WEMに対して、ある車輪スリップ限界値λCON710が初期設定される。次いで、このWEMは、時刻t1720において何らかの理由によって故障し、車輪ブレーキ制御がバックアップ接続部220を介して行われるスレーブモードに入る。スレーブモードに入ると、車輪スリップ限界値は、自動的に低車輪スリップ限界値λLOW730に低減される(601)。この低車輪スリップ限界値は、車両制御が車輪スリップを生じさせないためのより大きい安全マージンを見込んで行われることを意味する。低車輪スリップ限界値は、例えば、線形に得られるタイヤ横力に対応し得る。
【0067】
低車輪スリップ限界値λLOW730は、時刻tに至るまで維持される。時刻tにおいて、車両制御の安全マージンが、例えば、他のWEMによる低ピーク車輪スリップ値λPEAK及び/又は高評価路面摩擦条件μESTの報告に起因して、縮小してもよいと決定される。
【0068】
時刻t740において、、故障したWEMに関連する車輪スリップ限界値は、バックアップ車輪スリップ限界値λBU770に向かって徐々に増大され(750)、時刻t760においてバックアップ車輪スリップ限界値λBU770に達する。このバックアップ車輪スリップ限界値λBU770は、初期設定された車輪スリップ限界値λCON710と等しくてもよいし、又は他の値であってもよい。しかしながら、多くの場合、バックアップ車輪スリップ限界値は、ブレーキ制御装置が完全に機能しているときに用いられる車輪スリップ値よりも低い値である。
【0069】
システムが車輪速度センサの交差接続部440,450を備えるかどうかによって所望の制御手法にいくらかの差が生じ得ることを理解されたい。車輪速度センサの交差接続部が存在しない場合、機能するWEMは、一方の車輪において測定された車輪速度に従って、(両方の車輪に送られる)印加ブレーキ圧を制御することとなる。この場合、フィードバックを行わない故障した制御装置の車輪に車輪ロックが生じないように、十分な安全マージンを見込んでスリップ限界値を選択することが重要である。車輪速度センサの交差接続部440,450の出力が存在する場合、機能するブレーキ制御装置は、「低値選択(select low)」手法によってスリップ限界値に従うことができる。すなわち、ブレーキ圧は、どの車輪も設定されたスリップ限界値を越えることができないというレベルに制御される。要約すると、図7は、大型車両100の制動システムの動作の一例を示している。制動システムは、第1の車輪120,150,170の制動及び第2の車輪120,150,170の制動をそれぞれの車輪スリップ限界値λLIMi及びそれぞれのブレーキトルク要求TREQiに基いて制御するように構成された第1のブレーキ制御装置WEMi570及び第2のブレーキ制御装置WEMi570を備える。第1及び第2のブレーキ制御装置は、ブレーキ制御装置が故障した場合に第1及び第2のブレーキ制御装置の一方が第1及び第2のブレーキ制御装置の他方の車輪の制動制御を担うことを可能にするように構成されたバックアップ接続部220を介して互いに接続される。ブレーキシステムは、ブレーキ制御装置の故障に応じて、故障したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値λCON,710を低車輪スリップ限界値λLOW,730に低減させる(701)ように構成された制御ユニット110を備える。
【0070】
これは、車両制御のマージンがブレーキ制御装置の故障に応じて増大されることを意味する。この増大したマージンは、例えば、バックアップ接続部220を操作するマスターブレーキ制御装置とスレーブモードで操作する故障した制御装置との間の制御接続部の追加された長さに起因する制動システムのいくらかの付加的な遅れが存在するので、必要である。
【0071】
通常、必ずしも必要ではないが、第1のブレーキ制御装置570,WEM1は、前車軸101の左車輪1201の制動を制御するように配置され、第2のブレーキ制御装置570,WEM2は、前車軸101の右車輪120rの制動を制御するように配置され、これによって、第1及び第2のブレーキ制御装置は、フェイルオペレーショナルブレーキ制御装置として構成される。この構成は、図2A,2Bに関連して例示されかつ検討されている。
【0072】
いくつかの態様によれば、制御ユニット110は、機能するブレーキ制御装置から路面摩擦に関するデータを取得し、路面摩擦に関するデータに依存して故障したブレーキ制御装置に関連する車輪スリップ限界値λLIM iを設定するように構成される。従って、路面摩擦状態が良好な場合、故障したブレーキ制御装置に関連する車輪スリップ限界値λLIM iは、ある量だけ増大されてもよい。何故なら、大きな安全マージンが必要とされないからである。一方、もし機能するブレーキ制御装置によって報告された路面摩擦状態が、例えば、濡れた又は凍った道路状態に起因して好ましくない場合、安全マージンは、最初に設定された値を超えて増大される必要がある。
【0073】
このようないくつかの態様によれば、路面摩擦に関するデータは、機能するブレーキ制御装置によって検出されるピーク車輪スリップ値λPEAKを含む。ピーク車輪スリップ値は、路面摩擦状態を示すものである。例えば、ある制御装置が高い車輪スリップ値を検出した場合、かなりの安全マージンが必要とされ、その逆も成立する。路面摩擦状態を決定するために用いられる機能するブレーキ制御装置は、好ましくは、車両100の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪に関連するブレーキ制御装置である。何故なら、車両100の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪に関連するブレーキ制御装置によって検出される路面摩擦状態は、車両100の他の側のブレーキ制御装置によって検出される路面摩擦状態と比較して、故障したブレーキ制御装置に対してより大きい相関関係を示す可能性が高いからである。
【0074】
いくつかの態様によれば、低車輪スリップ限界値730は、低スリップ限界値の表に基づいて決定される。低スリップ限界値のこの表は、車両の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪に対して測定された車輪スリップ値によってインデックス付けられるように構成されてもよい。この表は、予め決められ、制御ユニット110に記憶されてもよい。
【0075】
他のいくつかの態様によれば、低車輪スリップ限界値は、車両の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪の機能するブレーキ制御装置によって検出された最小ピーク車輪スリップとして決定され、そこから所定の安全係数の分だけ差し引かれた値である。
【0076】
また、図7を参照すると、制御ユニット110は、故障したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値λLIMiを低車輪スリップ限界値λLOWiからバックアップモード車輪スリップ限界値λBU,770まで増大させるように構成されてもよい。これは、例えば、全体的な道路状況が良好であることが判明した場合に行われてもよい。例えば、路面が乾燥し、凍っていない場合、良好な制動条件をもたらすこととなる。この増大は、好ましくは、徐々にかつ滑らかに行われる。例えば、低車輪スリップ限界値λLOWi,730からバックアップモード車輪スリップ限界値λBU,770までの増大は、線形関数750又は少なくとも略線形関数、例えば、連続的な一連の小さい段に沿った増大であり得る。バックアップモード車輪スリップ限界値λBU,770と最初に設定された車輪スリップ限界値との間の差分は、運転状況に応じて設定され得る。しかしながら、バックアップモード車輪スリップ限界値770は、最初に設定された車輪スリップ限界値710よりも低いことが好ましい。
【0077】
図4,5に示される制御ユニット110は、少なくとも第1のデータバス420及び第1のデータバスとは別の第2のデータバス430を介して制動システム400を制御するように更に構成されてもよい。第1のデータバス420は、少なくとも第1のブレーキ制御装置WEM1及び第4のブレーキ制御装置WEM4を制御するように構成され、第2のデータバス430は、少なくとも第2のブレーキ制御装置WEM2及び第3のブレーキ制御装置WEM3を制御するように構成される。このようにして、データバスの1つが故障しても、車両がブレーキ能力を完全に損なうことがない。
【0078】
図4は、それぞれの車輪に関連して配置されたいくつかの車輪速度センサも示す。車輪速度センサは、交差接続されてもよい。すなわち、任意選択的に、前車軸101上の車輪1201,120rに関連する車輪速度センサWS1,WS2は、前車軸の他の側の車輪120l,120rに関連するブレーキ制御装置WEM1,WEM2に接続(440,450)されるように配置される。
【0079】
いくつかの態様によれば、一方の側の後車軸WEMは、図4に示されるように、冗長性をもたらすために、接続部460l,460r,470l,470rによって車輪速度センサを共有する。このようにして、後軸車輪の車輪速度センサが故障しても、少なくとも急ブレーキを掛けることができる。従って、任意選択的に、車両は、第1及び第2の後車軸106,107を備え、第1の後車軸102の車輪140l,140rに関連する車輪速度センサWES3,WES4は、第2の後輪車軸107の(第1の後車軸102と同じ側の)車輪160l,160rに関連するブレーキ制御装置WES5,WES6に接続される(460l、460r,470l,470r)ように配置される。
【0080】
互いに異なる後車軸の車輪速度センサをブレーキ制御装置に接続することの利点は、ブレーキ制御装置が互いに異なる車輪速度を比較し、これによって、例えば、車輪の浮き上がり状態等を検出できることにある。この検出結果は、制御ユニット110に送信されてもよい。これによって、制御ユニット110は、車輪の浮き上がりを検出したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値λLIM iを低減させることができる。
【0081】
図8は、大型車両100を制動するための方法を示すフローチャートである。この方法の態様は、図6に関連して前述した通りである。この方法は、制動システムを設定すること(S1)であって、制動システムは、第1の車輪120,150,170の制動及び第2の車輪120,150,170の制動をそれぞれの設定された車輪スリップ限界値λLIM i, 570, 600及びそれぞれのブレーキトルク要求TREQ i, 570に基づいて制御するように構成された第1のブレーキ制御装置570,WEMi及び第2のブレーキ制御装置570,WEMiを備え、第1及び第2のブレーキ制御装置は、ブレーキ制御装置が故障した場合に第1及び第2のブレーキ制御装置の一方が第1及び第2のブレーキ制御装置の他方の車輪の制動制御を担うように構成されたバックアップ接続部220を介して、互いに接続されること(S1)と、ブレーキ制御装置の故障に応じて、故障したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値λCON,710を低車輪スリップ限界値λLOW,730に低減させる(601)こと(S2)とを含む。従って、本方法は、前述した制動システムの動作のいくつかの重要な態様を要約したものである。
【0082】
いくつかの態様によれば、本方法は、機能するブレーキ制御装置から路面摩擦に関するデータを取得すること(S3)と、路面摩擦に関するデータに依存して故障したブレーキ制御装置に関連する車輪スリップ限界値λLIMiを設定すること(S4)とを含む。
【0083】
いくつかのこのような態様によれば、路面摩擦に関するデータは、機能するブレーキ制御装置によって検出されるピーク車輪スリップ値λPEAKを含む(S31)。
【0084】
他のこのような態様によれば、機能するブレーキ制御装置は、車両100の故障したブレーキ制御装置と同じ側の車輪に関連するブレーキ制御装置である(S32)。
【0085】
この方法は、任意選択的に故障したブレーキ制御装置に関連する設定された車輪スリップ限界値λLIMiを低車輪スリップ限界値λLOW,730からバックアップモード車輪スリップ限界値λBU,770まで増大させること(S5)も含む。
【0086】
図9は、いくつかの機能ユニット、すなわち、本明細書において検討される実施形態による制御ユニット110の構成要素を概略的に示す。この制御ユニット110は、車両100内に含まれ得る。例えば、記憶媒体930の形態にあるコンピュータプログラムプロダクトに記憶されたソフトウエア指令を実行することができる適切な中央処理ユニットCPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSP、等の1つ又は複数の任意の組合せを用いる処理回路910が設けられる。更に、処理回路910は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC又はフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして設けられてもよい。
【0087】
特に、処理回路910は、制御ユニット110が一組の操作又はステップ、例えば、図8に関連して検討した方法を実行するように構成される。例えば、記憶媒体930は、一組の操作を記憶するとよく、処理回路910は、制御ユニット110が一組の操作を実行するために記憶媒体930から一組の操作を取得するように構成され得る。一組の操作は、一組の実行可能な指令として提供されるとよい。これによって、処理回路910は、本明細書に開示された方法を実行するように構成されることとなる。
【0088】
記憶媒体930は、持続記憶装置を備えてもよい。持続記憶装置は、例えば、磁気メモリ、光学メモリ、固体メモリ、又はリモートメモリのどのような1つ又は組合せであってもよい。
【0089】
制御ユニット110は、少なくとも1つの外部装置、例えば、サスペンションシステムセンサ又はIMUと通信するためのインターフェイス920を更に備えてもよい。このようなインターフェイス920は、アナログ要素及びデジタル要素並びに有線又は無線通信のための適切な数のポートを備える1つ又は複数の送信機及び受信機を備えてもよい。
【0090】
処理回路910は、例えば、データ及び制御信号をインターフェイス920及び記憶媒体930に送信することによって、データ及びレポートをインターフェイス920から受信することによって、及びデータ及び指令を記憶媒体930から取得することによって、制御ユニット110の一般動作を制御する。制御ノードの他の構成要素及び関連する機能性は、本明細書の概念を妨げないために省略する。
【0091】
図10は、コンピュータ可読媒体1010であって、プログラムプロダクトがコンピュータ上で実行されるときに図10に示される方法を実施するためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム1020を保有する、コンピュータ可読媒体1010を示す。コンピュータ可読媒体及びコード手段は、一緒にコンピュータプログラムプロダクト1000を形成し得る。
図1A-C】
図2A-B】
図3A-B】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】