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▶ バイオサイトジェン ファーマシューティカルズ (ベイジン) カンパニー リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(54)【発明の名称】抗PD-1抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230213BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230213BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230213BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230213BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230213BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230213BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230213BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230213BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230213BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
A61K47/68
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021527819
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(85)【翻訳文提出日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 CN2019119798
(87)【国際公開番号】W WO2020103885
(87)【国際公開日】2020-05-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521213200
【氏名又は名称】バイオサイトジェン ファーマシューティカルズ (ベイジン) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、イー
(72)【発明者】
【氏名】ドン、チュンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ファン
(72)【発明者】
【氏名】ルー、チェンユエン
(72)【発明者】
【氏名】シェン、ユエレイ
(72)【発明者】
【氏名】ニー、ジエン
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ヤンアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、インイン
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ジンシュー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA91X
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA51
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)抗体、その抗原結合断片およびその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VH CDR1領域が選択されるVH CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VH CDR2領域が選択されるVH CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VH CDR3領域が選択されるVH CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)1、2および3を有する重鎖可変領域(VH)と、
VL CDR1領域が選択されるVL CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VL CDR2領域が選択されるVL CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VL CDR3領域が選択されるVL CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有するCDR1、2および3を有する軽鎖可変領域(VL)と
を含み、
ここで、前記選択されるVH CDR1、2および3アミノ酸配列と前記選択されるVL CDR1、2および3アミノ酸配列は、
(1)前記選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:1、2、3で表され、前記選択されるVL CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:4、5、6で表され、
(2)前記選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:7、8、9で表され、前記選択されるVL CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:10、11、12で表され、
(3)前記選択されるVH CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:13、14、15で表され、前記選択されるVL CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:16、17、18で表されるうちの1つである、
PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記VHは、それぞれSEQ ID NO:1、2および3で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含み、かつ、前記VLは、それぞれSEQ ID NO:4、5および6で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記VHは、それぞれSEQ ID NO:7、8および9で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2、3を含み、かつ、前記VLは、それぞれSEQ ID NO:10、11および12で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記VHは、それぞれSEQ ID NO:13、14、15で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含み、かつ、前記VLは、それぞれSEQ ID NO:16、17、18で表されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体または抗原結合断片は、イヌPD-1に特異的に結合する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体または抗原結合断片は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)またはFelis catus(イエネコ)のPD-1に結合する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体または抗原結合断片は、イヌ化抗体またはその抗原結合断片である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
ポリペプチドは、
(1)相補性決定領域(CDR)1、2および3がそれぞれSEQ ID NO:1、2および3で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VHがSEQ ID NO:52、53、54または60で表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とペアリングする場合にPD-1に結合するものである、前記相補性決定領域(CDR) 1、2および3を有する前記重鎖可変領域(VH)を含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片と、
(2)CDR1、2および3がそれぞれSEQ ID NO:4、5および6で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VLがSEQ ID NO:49、50、51または59で表されるアミノ酸配列を有するVHとペアリングする場合にPD-1に結合するものである、前記CDR1、2および3を有する前記VLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片と、
(3)CDR1、2および3がそれぞれSEQ ID NO:7、8および9で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VHがSEQ ID NO:56で表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とペアリングする場合にPD-1に結合するものである、前記CDR1、2および3を有する前記重鎖可変領域(VH)を含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片と、
(4)CDR1、2および3がそれぞれSEQ ID NO:10、11および12で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VLがSEQ ID NO:55で表されるアミノ酸配列を有するVHとペアリングする場合にPD-1に結合するものである、前記CDR 1、2および3を有する前記VLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片と、
(5)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO:13、14、15で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VHがSEQ ID NO:45、46、47、48または58で表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とペアリングする場合にPD-1に結合するものである、前記CDR 1、2および3を有する前記重鎖可変領域(VH)を含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片と、
(6)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO:16、17、18で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VLがSEQ ID NO:42、43、44または57で表されるアミノ酸配列を有するVHとペアリングする場合にPD-1に結合するものである、前記CDR1、2および3を有する前記VLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片と、
を含むものである、
前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸。
【請求項9】
それぞれSEQ ID NO:1、2および3で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有するVHを含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
それぞれSEQ ID NO:4、5および6で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有するVLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項8に記載の核酸。
【請求項11】
それぞれSEQ ID NO:7、8および9で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有するVHを含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項8に記載の核酸。
【請求項12】
それぞれSEQ ID NO:10、11および12で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有するVLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項8に記載の核酸。
【請求項13】
それぞれSEQ ID NO:13、14および15で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有するVHを含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項8に記載の核酸。
【請求項14】
それぞれSEQ ID NO:16、17および18で表されるアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有するVLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、
請求項8に記載の核酸。
【請求項15】
前記VHは、VLとペアリングする場合にイヌPD-1に特異的に結合して、または、前記VLは、VHとペアリングする場合にイヌPD-1に特異的に結合する、
請求項8~14のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項16】
前記免疫グロブリンの重鎖またはその断片は、イヌ化免疫グロブリンの重鎖またはその断片であって、かつ、前記免疫グロブリンの軽鎖またはその断片は、イヌ化免疫グロブリンの軽鎖またはその断片である、
請求項8~15のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項17】
前記抗体または抗原結合断片は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)またはFelis catus(イエネコ)のPD-1に結合する、
請求項8~16のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項18】
前記核酸は、cDNAである、
請求項8~17のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項19】
請求項8~18のいずれか1項に記載の1種類または複数種類の核酸を含む、
ベクター。
【請求項20】
請求項8~18のいずれか1項に記載の2種類の核酸を含むベクターにおいて、PD-1に一緒に結合したVL領域およびVH領域をコードする、
ベクター。
【請求項21】
各ベクターは、請求項8~18のいずれか1項に記載の核酸を含み、ここで、前記ベクター対は、PD-1に一緒に結合したVL領域およびVH領域を共通にコードする、
1対のベクター。
【請求項22】
請求項19または20に記載のベクターまたは請求項21に記載のベクター対を含む、
細胞。
【請求項23】
前記細胞は、CHO細胞である、
請求項22に記載の細胞。
【請求項24】
請求項8~18のいずれか1項に記載の1種類または複数種類の核酸を含む、
細胞。
【請求項25】
請求項8~18のいずれか1項に記載の2種類の核酸を含む、
細胞。
【請求項26】
前記2種類の核酸は、PD-1に一緒に結合したVL領域およびVH領域を共通にコードする、
請求項25に記載の細胞。
【請求項27】
(a)請求項22~26のいずれか1項に記載の細胞に抗体または抗原結合断片を産生させるのに十分な条件下で前記細胞を培養し、そして
(b)前記細胞により産生された抗体または抗原結合断片を採取することを含む、
抗体またはその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項28】
選択されるVH配列に対して少なくとも90%の同一性を持つアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、選択されるVL配列に対して少なくとも90%の同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とを含み、ここで、前記選択されるVH配列と前記選択されるVL配列は、
(1)前記選択されるVH配列がSEQ ID NO:49、50、51または59であって、かつ、前記選択されるVL配列がSEQ ID NO:52、53、54または60であり、
(2)前記選択されるVH配列がSEQ ID NO:42、43、44または57であって、かつ、前記選択されるVL配列がSEQ ID NO:45、46、47、48または58であり、
(3)前記選択されるVH配列がSEQ ID NO:55であって、かつ、前記選択されるVL配列がSEQ ID NO: 56であるうちの1つである、
PD-1に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項29】
前記VHは、SEQ ID NO:49の配列を有し、かつ、前記VLは、SEQ ID NO:53の配列を有する、
請求項28に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項30】
前記VHは、SEQ ID NO:43の配列を有し、かつ、前記VLは、SEQ ID NO:45の配列を有する、
請求項28に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項31】
前記抗体または抗原結合断片は、イヌPD-1に特異的に結合する、
請求項28~31のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項32】
前記抗体または抗原結合断片は、イヌ化抗体またはその抗原結合断片である、
請求項28~31のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項33】
前記抗体または抗原結合断片は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)またはFelis catus(イエネコ)のPD-1に結合する、
請求項28~30のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項34】
治療薬に共有結合する請求項1~7および請求項28~33のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、
抗体薬物複合体。
【請求項35】
前記治療薬は、細胞毒性薬または細胞増殖抑制剤である、
請求項34に記載の抗体薬物複合体。
【請求項36】
がんの被験者に、治療有効量の請求項1~7および請求項28~33のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項34または35に記載の抗体-薬物複合体を含む組成物を投与することを含む、
前記がんの被験者を治療する方法。
【請求項37】
前記被験者は、固形腫瘍に罹患している、
請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記がんは、切除不能な悪性黒色腫または転移性悪性黒色腫である、
請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記がんは、非小細胞肺がん(NSCLC)、頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)、頭頸部がん、腎細胞がん(RCC)、悪性黒色腫、膀胱がん、胃がん、尿路上皮癌、メルケル細胞癌(Merkel-cell carcinoma)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)または結腸・直腸がんである、
請求項36に記載の方法。
【請求項40】
腫瘍細胞に、有効量の請求項1~7および請求項28~33のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項34または35に記載の抗体-薬物複合体を含む組成物を接触させることを含む、
腫瘍増殖速度を低下させる方法。
【請求項41】
腫瘍細胞に、有効量の請求項1~7および請求項28~33のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項34または35に記載の抗体-薬物複合体を含む組成物を接触させることを含む、
腫瘍細胞を死滅させる方法。
【請求項42】
請求項1~7および請求項28~33のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および薬学的に許容可能な担体を含む、
医薬組成物。
【請求項43】
請求項34または35に記載の抗体薬物複合体、および薬学的に許容可能な担体を含む、
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗PD-1 (プログラム細胞死タンパク質1)抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗癌抗体は、臨床や商業上の成功で人々から抗体による治療方法への興味を引き起こしている。標的PD-1は、ヒトがん臨床試験において、優れた効果を収めて、そして、新世代のがん治療法として、人々から注目を浴びている。
【0003】
最近、家畜は、ペットライフの増加や、動物病院の診断の改善のため、がん症例の数も早く増えている。家畜やヒトに対するがん治療法が進歩を遂げ、そして、これらの家畜に対して手術療法、放射線療法や化学療法をだんだん実施している。しかし、抗体による治療方法では、獣医使用のための発展が遅くなっている。獣医学的ケアには、新世代のがん治療法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、抗PD-1抗体、その抗原結合断片およびその使用に関する。
一方、本発明は、VH CDR1領域が選択されるVH CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VH CDR2領域が選択されるVH CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VH CDR3領域が選択されるVH CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR) 1、2および3を有する重鎖可変領域(VH)と、
VL CDR1領域が選択されるVL CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VL CDR2領域が選択されるVL CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VL CDR3領域が選択されるVL CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有するCDR 1、2および3を有する軽鎖可変領域(VL)と
を含み、
ここで、上記の選択されるVH CDR 1、2および3アミノ酸配列と上記の選択されるVL CDR 1、2および3アミノ酸配列は、
(1)上記の選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO: 1、2、3で表され、上記の選択されるVL CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO: 4、5、6で表され、
(2)上記の選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO: 7、8、9で表され、上記の選択されるVL CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO: 10、11、12で表され、
(3)上記の選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO: 13、14、15で表され、上記の選択されるVL CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO: 16、17、18で表されるうちの1つである、
PD-1 (プログラム細胞死タンパク質1)に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0005】
いくつかの実施形態において、CDRは、Kabat番号付けに従っている。いくつかの実施形態において、CDRは、Chothia番号付けに従っている。
【0006】
いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、イヌPD-1に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)またはFelis catus(イエネコ)のPD-1に結合する。
【0007】
いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、イヌ化抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、ネコ化抗体またはその抗原結合断片である。
【0008】
一方、本発明は、ポリペプチドは、
(1)相補性決定領域(CDR) 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO: 1、2および3で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VHがSEQ ID NO: 52、53、54または60で表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とペアリングする場合にPD-1に結合するものである、上記の相補性決定領域(CDR) 1、2および3を有する上記の重鎖可変領域(VH)を含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片と、
(2)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO: 4、5および6で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VLがSEQ ID NO: 49、50、51または59で表されるアミノ酸配列を有するVHとペアリングする場合にPD-1に結合するものである、上記のCDR 1、2および3を有する上記のVLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片と、
(3)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO: 7、8および9で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VHがSEQ ID NO: 56で表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とペアリングする場合にPD-1に結合するものである、上記のCDR 1、2および3を有する上記の重鎖可変領域(VH)を含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片と、
(4)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO: 10、11および12で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VLがSEQ ID NO: 55で表されるアミノ酸配列を有するVHとペアリングする場合にPD-1に結合するものである、上記のCDR 1、2および3を有する上記のVLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片と、
(5)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO: 13、14、15で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VHがSEQ ID NO: 45、46、47、48または58で表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とペアリングする場合にPD-1に結合するものである、上記のCDR 1、2および3を有する上記の重鎖可変領域(VH)を含む免疫グロブリンの重鎖またはその断片と、
(6)CDR 1、2および3がそれぞれSEQ ID NO: 16、17、18で表されるアミノ酸配列を有するものであり、VLがSEQ ID NO: 42、43、44または57で表されるアミノ酸配列を有するVHとペアリングする場合にPD-1に結合するものである、上記のCDR 1、2および3を有する上記のVLを含む免疫グロブリンの軽鎖またはその断片と、
を含むものである、
上記のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、CDRは、Kabat番号付けに従っている。いくつかの実施形態において、CDRは、Chothia番号付けに従っている。
【0010】
いくつかの実施形態において、上記のVHは、VLとペアリングする場合にイヌPD-1に特異的に結合し、または、上記のVLは、VHとペアリングする場合にイヌPD-1に特異的に結合する。
【0011】
いくつかの実施形態において、上記の免疫グロブリンは、重鎖またはその断片が、イヌ化免疫グロブリンの重鎖またはその断片であって、軽鎖またはその断片が、イヌ化免疫グロブリンの軽鎖またはその断片である。いくつかの実施形態において、上記の免疫グロブリンは、重鎖またはその断片が、ネコ化免疫グロブリンの重鎖またはその断片であって、軽鎖またはその断片が、ネコ化免疫グロブリンの軽鎖またはその断片である。
【0012】
いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)またはFelis catus(イエネコ)のPD-1に結合する。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記の核酸は、cDNAである。
【0014】
一方、本発明は、さらに、本明細書に記載の1種類または複数種類の核酸を含むベクターおよび/または本明細書に記載の2種類の核酸を含むベクターを提供する。いくつかの実施形態において、上記のベクターは、PD-1に一緒に結合したVL領域およびVH領域をコードする。
【0015】
他方、本発明は、各ベクターは、本明細書に記載の核酸を含み、ここで、上記のベクター対は、PD-1に一緒に結合したVL領域およびVH領域を共通にコードする1対のベクターを提供する。
【0016】
本発明は、さらに、本明細書に記載のベクターまたは本明細書に記載のベクター対を含む細胞を提供する。いくつかの実施形態において、上記の細胞は、CHO細胞である。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記の細胞は、本明細書に記載の1種類または複数種類の核酸または本明細書に記載の2種類の核酸を含む。いくつかの実施形態において、上記の2種類の核酸は、PD-1に一緒に結合したVL領域およびVH領域を共通にコードする。
【0018】
一方、本発明は、さらに、抗体またはその抗原結合断片を産生する方法を提供する。上記の方法は、
(a)本明細書に記載の細胞に抗体または抗原結合断片を産生させるのに十分な条件下で上記の細胞を培養し、そして
(b)上記の細胞により産生された抗体または抗原結合断片を採取することを含む。
一方、本発明は、選択されるVH配列に対して少なくとも90%の同一性を持つアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)と、選択されるVL配列に対して少なくとも90%の同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)とを含み、ここで、上記の選択されるVH配列と上記の選択されるVL配列は、
(1)上記の選択されるVH配列がSEQ ID NO: 49、50、51または59であって、かつ、上記の選択されるVL配列がSEQ ID NO: 52、53、54または60であり、
(2)上記の選択されるVH配列がSEQ ID NO: 42、43、44または57であって、かつ、上記の選択されるVL配列がSEQ ID NO: 45、46、47、48または58であり、
(3)上記の選択されるVH配列がSEQ ID NO: 55であって、かつ、上記の選択されるVL配列がSEQ ID NO: 56であるうちの1つである、
PD-1に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。
いくつかの実施形態において、上記のVHは、SEQ ID NO: 49の配列を有し、かつ、上記のVLは、SEQ ID NO: 53の配列を有する。いくつかの実施形態において、上記のVHは、SEQ ID NO: 43の配列を有し、かつ、上記のVLは、SEQ ID NO: 45の配列を有する。
いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、イヌPD-1に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)またはFelis catus(イエネコ)のPD-1に結合する。
いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、イヌ化抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、ネコ化抗体またはその抗原結合断片である。
【0019】
一方、本発明は、治療薬に共有結合する本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む抗体-薬物複合体を提供する。いくつかの実施形態において、上記の治療薬は、細胞毒性薬または細胞増殖抑制剤である。
【0020】
一方、本発明は、がんの被験者に、治療有効量の本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは本明細書に記載の抗体-薬物複合体を含む組成物を投与することを含む上記のがんの被験者を治療する方法を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態において、上記の被験者は、固形腫瘍に罹患している。いくつかの実施形態において、上記のがんは、切除不能な悪性黒色腫または転移性悪性黒色腫である。いくつかの実施形態において、上記のがんは、非小細胞肺がん(NSCLC)、頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)、頭頸部がん、腎細胞がん(RCC)、悪性黒色腫、膀胱がん、胃がん、尿路上皮癌、メルケル細胞癌(Merkel-cell carcinoma)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)または結腸・直腸がんである。
【0022】
一方、本発明は、腫瘍細胞に、有効量の本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは本明細書に記載の抗体-薬物複合体を含む組成物を接触させることを含む腫瘍増殖速度を低下させる方法を提供する。
【0023】
一方、本発明は、腫瘍細胞に、有効量の本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは本明細書に記載の抗体-薬物複合体を含む組成物を接触させることを含む腫瘍細胞を死滅させる方法を提供する。
【0024】
一方、本発明は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片、および薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0025】
他方、本発明は、本明細書に記載の抗体-薬物複合体および薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0026】
少なくともいくつかの局面あるいは実施形態において、上記の抗体はイヌIgG抗体(例えば、イヌIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4抗体)である。少なくともいくつかの局面あるいは実施形態において、上記の抗体は、ネコIgG抗体である。
【0027】
少なくともいくつかの局面あるいは実施形態において、上記の抗体または抗原結合断片は、一本鎖可変断片(scFV)である。
【0028】
本明細書中で使用されるように、「がん」という用語は、自律的増殖能を有する細胞を指す。上記の細胞の例は、増殖性細胞快速成長を特徴とする異常状態や状況を有する細胞を含む。この用語は、がん成長、例えば腫瘍、癌化過程、転移性組織や悪性形質転換を有する細胞、組織または器官を意味するが、浸潤の組織病理学的タイプやステージに関連していない。さらに、各種の器官系、例えば呼吸器系、心臓血管系、腎臓系、生殖器系、血液系、神経系、肝臓系、胃腸系や内分泌系の悪性腫瘍、および悪性腫瘍、例えばほとんどの結腸癌、腎細胞がん、前立腺がんおよび/または精巣腫、非小細胞肺がんや小腸がんを含む腺がんを含む。「天然的に発生した」がんは、実験によってがん細胞を被験者の体内に移植するわけではなく誘発されるあらゆるがんだけではなく、例えば自然発生するがん、患者が発がん物質にばく露することによるがん、がん遺伝子トランスジェニックの挿入または腫瘍抑制遺伝子のノックアウトによるがん、および感染(例えばウイルス感染)によるがんを含む。「がん腫(carcinoma)」という用語は、当該技術分野における周知かつ上皮組織あるいは内分泌組織の悪性腫瘍を指す。この用語は、さらに、がん組織および肉腫組織より構成される悪性腫瘍を含むがん肉腫を含む。「腺癌(adenocarcinoma)」は、腺組織由来のがん腫またはその中で腫瘍細胞により形成される認識可能な腺構造を指す。「肉腫」という用語は、当該技術分野における周知かつ間葉由来の悪性腫瘍を指す。「造血性新生物疾患」という用語は、造血系由来の増生性/新生物性細胞を有する疾患を含む。造血性新生物疾患は、骨髄系、リンパ球系あるいは赤血球系、またはその前駆細胞により引き起こされる。
【0029】
本明細書中で使用されるように、「抗体」という用語は、少なくとも1個(例えば、1個、2個、3個、4個、5個または6個)の相補性決定領域(CDR)(例えば、免疫グロブリン軽鎖由来の3個のCDR中のいずれか1個または免疫グロブリン重鎖由来の3個のCDR中のいずれか1個)を含有し、かつ、エピトープに特異的に結合することができるあらゆる抗原結合分子を指す。抗体は、非限定的な例として、例えばモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)、一本鎖抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、マウス抗体、イヌ抗体、ネコ抗体、イヌ化抗体およびネコ化抗体などを含む。いくつかの実施形態において、抗体は、イヌ抗体、ネコ抗体、マウス抗体またはヒト抗体のFc領域を含みうる。抗体という用語は、さらに、誘導体、例えば二重特異的抗体、一本鎖抗体、2機能性抗体、線状抗体、および抗体断片による多重特異的抗体を含む。
【0030】
本明細書中で使用されるように、「抗原結合断片」という用語は、抗原に特異的に結合することができる完全長抗体の一部を指す。いくつかの実施形態において、上記の抗原結合断片は、少なくとも1つの可変ドメイン(例えば、重鎖可変ドメインや軽鎖可変ドメイン)を持つ。抗体断片は、非限定的な例として、例えばFab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片を含有する。
【0031】
本明細書のモノクローナル抗体は、「キメラ」抗体を明確に含む。本明細書中で使用されるように、「キメラ抗体」という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種由来の抗体中で対応する配列と一致するかまたは相同である一方で、その鎖の残りの部分が他の種由来の抗体中で対応する配列と一致するかまたは相同である抗体(免疫グロブリン)、および上記の抗体の断片を指し、必要な生物学的活性を表せればよい。キメラ抗体は、通常、例えば遺伝子工学技術で異なる種に属する抗体可変領域および定常領域遺伝子により作成される軽鎖および重鎖遺伝子の抗体である。例えば、マウスモノクローナル抗体遺伝子の可変セグメントは、イヌの定常セグメントへの付加が可能である。図2は、マウス:イヌIgGの一実施形態の共通構造模式図を示す。この実施形態において、上記の抗原結合部位は、マウス由来であり、Fc部分は、イヌ由来である。
【0032】
本明細書中で使用されるように、「ヒト抗体」という用語は、インビボに存在する内在性核酸(例えば、再構成されたヒト免疫グロブリンの重鎖または軽鎖遺伝子座)でコードされる抗体を指す。
【0033】
本明細書中で使用されるように、「イヌ抗体」という用語は、イヌ科哺乳動物(例えば、飼いイヌ)に存在する内在性核酸(例えば、再構成されたイヌ免疫グロブリンの重鎖または軽鎖遺伝子座)でコードされる抗体を指す。上記の抗体は、天然存在するかまたは組換えを介して産生される各品種由来のイヌ科動物で分離される自然抗体を代表とするアミノ酸配列で構成される免疫グロブリンであってよい。イヌ抗体は、イヌの生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を含む抗体である。いくつかの場合において、上記のイヌ抗体は、イヌの生殖系列免疫グロブリン配列でコードされる訳ではないアミノ酸残基(例えば、ランダムや部位特異的変異導入のインビトロでの導入または体細胞突然変異のインビボでの導入による突然変異)を含みうる。しかし、「イヌ抗体」という用語は、他の哺乳動物種(例えばマウス)の生殖系列由来のCDR配列がイヌフレームワーク配列に移植される抗体を含むことを意図していない。
【0034】
本明細書中で使用されるように、「ネコ抗体」という用語は、ネコ科哺乳動物(例えば、イエネコ)に存在する内在性核酸(例えば、再構成されたネコ免疫グロブリンの重鎖または軽鎖遺伝子座)でコードされる抗体を指す。上記の抗体は、天然存在するかまたは組換えを介して産生される各品種由来のネコ科動物で分離される自然抗体を代表とするアミノ酸配列で構成される免疫グロブリンであってよい。ネコ抗体は、ネコの生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を含む抗体である。本発明のネコ抗体は、ネコの生殖系列免疫グロブリン配列でコードされる訳ではないアミノ酸残基を含みうる。しかし、「ネコ抗体」という用語は、他の哺乳動物種(例えばマウス)の生殖系列由来のCDR配列がネコフレームワーク配列に移植される抗体を含むことを意図していない。
【0035】
本明細書中で使用されるように、「イヌ化抗体」という用語は、非イヌ(例えば、マウス、ヒト)免疫グロブリン由来の最小限の配列を有すると共に、イヌ免疫グロブリン由来の配列を有する抗体を指す。非限定的な例において、イヌ化抗体は、そのうちの受容体の超可変領域残基が所望の特異性、親和性および能力を持つ非イヌ種(ドナー抗体)(例えばマウス)由来の超可変領域残基に置換されたイヌ免疫グロブリン配列(受容体抗体)を指す。いくつかの場合において、イヌ免疫グロブリン配列は、フレームワーク領域(FR)残基が対応する非イヌ残基に置換される。なお、いくつかの実施形態において、イヌ化抗体は、受容体抗体やドナー抗体中で存在しない残基を含みうる。抗体の特性をもっと向上させることを目的としてこれらの改変を行う。いくつかの実施形態において、イヌ化抗体は、基本的に全部、少なくとも1つ、通常2つの可変ドメインを含有し、ここで、全部または基本的に全部の超可変領域が非イヌ免疫グロブリン配列の超可変領域に対応し、かつ、全部または基本的に全部のFRがイヌ免疫グロブリン配列のFRである。イヌ化抗体は、さらに、完全免疫グロブリン定常領域(Fc)またはその少なくとも一部、通常イヌ免疫グロブリン配列の定常領域を任意選択に含む。図2は、マウスIgG種分化あるいはイヌ化の一実施形態を示す。いくつかの実施形態において、マウスCDRがイヌフレームワークに移植される。当該技術分野における周知の分子生物学的手法を用いて、イヌ化抗体を産生する。抗体イヌ化対策は、内容全体が引用により本明細書に取り込まれるUS20160264656およびUS7261890B2に公開の対策を含む(これに限定されない)。
【0036】
本明細書中で使用されるように、「ネコ化抗体」という用語は、非ネコ(例えば、マウス、ヒト)免疫グロブリン由来の最小限の配列を有すると共に、ネコ免疫グロブリン由来の配列を有する抗体を指す。非限定的な例において、ネコ化抗体は、そのうちの受容体の超可変領域残基が所望の特異性、親和性および能力を持つ非ネコ種(ドナー抗体)(例えばマウス)由来の超可変領域残基に置換されたネコ免疫グロブリン配列(受容体抗体)を指す。いくつかの場合において、ネコ免疫グロブリン配列は、フレームワーク領域(FR)残基が対応する非ネコ残基に置換される。なお、いくつかの実施形態において、ネコ化抗体は、受容体抗体やドナー抗体中で存在しない残基を含みうる。抗体の特性をもっと向上させることを目的としてこれらの改変を行う。いくつかの実施形態において、ネコ化抗体は、基本的に全部、少なくとも1つ、通常2つの可変ドメインを含有し、ここで、全部または基本的に全部の超可変領域が非ネコ免疫グロブリン配列の超可変領域に対応し、かつ、全部または基本的に全部のFRがネコ免疫グロブリン配列のFRである。ネコ化抗体は、さらに、完全免疫グロブリン定常領域(Fc)またはその少なくとも一部、通常ネコ免疫グロブリン配列の定常領域を任意選択に含む。当該技術分野における周知の分子生物学的手法を用いて、ネコ化抗体を産生する。
【0037】
本明細書における「親」抗体は、変異体抗体(例えば、キメラ抗体、イヌ化抗体またはネコ化抗体)を調製するためのアミノ酸配列でコードされる抗体である。いくつかの実施形態において、親抗体は、イヌフレームワーク領域を含み、それが存在する場合、イヌ抗体定常領域を含む。例えば、親抗体はイヌ化抗体またはイヌ抗体であってよい。他の例として、親抗体は、ネコ化抗体またはネコ抗体であってよい。ある他の例において、親抗体は、マウスモノクローナル抗体またはジャイアントパンダ抗体である。
【0038】
「イヌ化」という用語は、非イヌ抗原結合アミノ酸を、ドナー抗体からイヌ抗体受容体フレームワークに転移することによってイヌ科哺乳動物に適用するタンパク質の治療的処置を施す方法として定義される。
【0039】
「ネコ化」という用語は、非ネコ抗原結合アミノ酸を、ドナー抗体からネコ抗体受容体フレームワークに転移することによってネコ科哺乳動物に適用するタンパク質の治療的処置を施す方法として定義される。
【0040】
いくつかの実施形態において、抗体は、1つの種(例えば、マウス、ヒト、イヌまたはネコ)の免疫グロブリン由来の最小限の配列を有すると共に、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)免疫グロブリン由来の配列を有してよい。非限定的な例において、受容体抗体の超可変(例えば、CDR)領域残基は、所望の特異性、親和性および特性を持つ非ジャイアントパンダ抗体(例えば、ドナー抗体)、例えばマウス、ラットまたはウサギ抗体由来である。いくつかの実施形態において、免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、Ailuropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)免疫グロブリン由来のアミノ酸残基を有する。いくつかの実施形態において、上記の抗体は、基本的に全部、少なくとも1つ、通常2つの可変ドメインを含有し、ここで、全部または基本的に全部の超可変ループ(CDR)が非ジャイアントパンダ(例えば、マウス)免疫グロブリンの超可変ループに対応し、かつ、全部または基本的に全部のフレームワーク領域がジャイアントパンダの免疫グロブリンのフレームワーク領域である。抗体は、さらに、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、通常ジャイアントパンダの免疫グロブリンの定常領域(Fc)を含みうる。
【0041】
いくつかの実施形態において、抗体は、哺乳動物から採取されるか、または、細胞培養物(例えば、ハイブリドーマ細胞)で産生される。いくつかの実施形態において、抗体は、非ヒト細胞(例えば、マウスまたはハムスター細胞株)で産生される。いくつかの実施形態において、抗体は、細菌または酵母細胞で産生される。いくつかの実施形態において、抗体は、再構成されたかまたは再構成されていない免疫グロブリン遺伝子座(例えば、重鎖または軽鎖免疫グロブリン遺伝子座)を含むトランスジェニック非ヒト動物(例えば、ウシ、ラットまたはマウス)で産生される。
【0042】
本明細書中で使用されるように、「一本鎖抗体」という用語は、抗原に特異的に結合することができ、少なくとも2つの免疫グロブリン可変ドメイン(例えば、哺乳動物免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の可変ドメイン)を含む単一ポリペプチドを指す。本明細書では、一本鎖抗体の非限定的な例を記述した。
【0043】
本明細書中で使用されるように、「多量体抗体」という用語は、4つまたはそれ以上(例えば、6つ、8つまたは10つ)の免疫グロブリン可変ドメインを含む抗体を指す。いくつかの実施形態において、上記の多量体抗体は、哺乳動物細胞(例えば、イヌT細胞、ネコT細胞)表面上での1つの標的分子(例えば、PD-1)を、少なくとも1つの第2標的分子(例えば、CTLA-4)に架橋することができる。
【0044】
本明細書中で使用されるように、「被験者」および「患者」という用語は、明細書の全体に交換可能に使用され、かつ、本発明の方法によって治療されるヒトまたは非ヒト動物を記述する。本発明は、獣医および非獣医の適用をカバーする。いくつかの実施形態において、被験者は哺乳動物(例えば、非ヒト哺乳動物)である。被験者は、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、フェレット、ネコ、イヌ、ジャイアントパンダおよび霊長類動物を含む(これに限定されない)。例えば、非ヒト霊長類動物(例えば、サル、チンパンジー、ゴリラなど)、齧歯動物(例えば、ラット、マウス、アレチネズミ、ハムスター、フェレット、ウサギ)、ウサギ類動物、イノシシ(例えば、ブタ、ミニブタ)、ウマ、イヌ、ネコ、ウシおよび他の家畜、農場動物および動物園動物を含む。
【0045】
本明細書中で使用されるように、抗体に言及する場合に、「…に特異的に結合する」という語句は、抗体がその標的分子(例えばPD-1)、好ましくは、他の分子と相互に作用することを意味し、それは、相互作用が標的分子に所定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)があるかどうかによるためであって、言い換えれば、試薬は、通常、すべての分子ではなく、所定の構造を持つ分子を認識して結合するものである。標的分子に特異的に結合する抗体は、標的特異的抗体と呼ばれる。例えば、PD-1分子に特異的に結合する抗体は、PD-1特異的抗体または抗PD-1抗体と呼ばれる。
【0046】
本明細書中で使用されるように、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、交換可能に使用され、任意の長さの少なくとも2個のアミノ酸のアミノ酸ポリマーを指す。
【0047】
本明細書中で使用されるように、「ポリヌクレオチド」、「核酸分子」および「核酸配列」という用語は、本明細書中で交換可能に使用され、任意の長さの少なくとも2個のヌクレオチドのヌクレオチドポリマーを指し、かつ、DNA、RNA、DNA/RNA混合物およびその改変を含む(これに限定されない)。
【0048】
特に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同様の意味を有している。本明細書では、本発明に用いられる方法および材料を記載しているが、当該技術分野における周知の他の適当な方法および材料を使用してもよい。材料、方法および実施例は、単に説明的に過ぎなく、制限的なものではない。本明細書に記載のすべての出版物、特許出願、特許、配列、データベースエントリおよび他の参照文献は、いずれも内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。抵触する場合に、本発明の明細書(定義を含む)を基準とする。
本発明の他の特徴や利点は、以下の具体的な実施形態、図面および請求項によって明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1A図1Aは、抗dPD-1抗体を産生する例示的プロトコールの第1部を示すフローチャートである。
図1B図1Bは、抗dPD-1抗体を産生する例示的プロトコールの第2部を示すフローチャートである。
図2図2は、マウス可変領域およびイヌ定常領域を含むマウス/イヌキメラIgG、またはイヌ化可変領域およびイヌ定常領域を含むイヌ化IgGの一般構造模式図である。
図3図3は、抗dPD-1抗体がイヌPD-1 (dPD-1)とイヌPD-L1 (dPD-L1)の結合を遮断することを示す一連のフローサイトメトリーグラフである。
図4図4は、抗dPD-1抗体とヒトPD-1 (hPD-1)、マウスPD-1 (mPD-1)およびマウス-イヌキメラPD-1 (chidPD-1)との交差反応性を分析したフローサイトメトリー結果を示す一連の図である。NCが陰性対照を表わす。
図5図5は、抗dPD-1抗体とジャイアントパンダPD-1 (pPD-1)との交差反応性を分析したフローサイトメトリー結果を示す一連の図。NCが陰性対照を表わす。
図6図6は、抗dPD-1抗体とネコPD-1 (cPD-1)との交差反応性を分析したフローサイトメトリー結果を示す一連の図。NCが陰性対照を表わす。
図7図7は、濃度の異なる4A7-mHvKv-dlgG4および1B9-mHvKv-dlgG4でジャイアントパンダPD-1との結合活性の平均蛍光強度を示す。
図8図8は、濃度の異なる4A7-mHvKv-dlgG4および1B9-mHvKv-dlgG4でイヌPD-1との結合活性の平均蛍光強度を示す。
図9図9は、濃度の異なる4A7-mHvKv-dlgG4および1D8-mHvKv-dlgG4でネコPD-1との結合活性の平均蛍光強度を示す。
図10図10は、キメラ抗dPD-1抗体1D8-mHvKv-dlgG4およびイヌPD-1が用いられる表面プラズモン共鳴(SPR)結果を示す図である。
図11図11は、キメラおよびイヌ化抗dPD-1抗体の治療を介したMC-38腫瘍細胞を含むイヌ化PD-1マウス(B-dPD-1)の体重の経時的変化を示す図である。PSは生理食塩水を表わす。
図12図12は、キメラおよびイヌ化抗dPD-1抗体の治療を介したMC-38腫瘍細胞を含むイヌ化PD-1マウス(B-dPD-1)の体重の経時的変化率を示す図である。PSは生理食塩水を表わす。
図13図13は、いくつかの種類のイヌ化抗dPD-1抗体の治療を介したMC-38腫瘍細胞を含むイヌ化PD-1マウス(B-dPD-1)の腫瘍体積の経時的変化を示す図である。PSは生理食塩水を表わす。
図14図14は、いくつかの種類のイヌ化抗dPD-1抗体の治療を介したMC-38腫瘍細胞を含むイヌ化PD-1マウス(B-dPD-1)の腫瘍体積の経時的変化を示す図。PSは生理食塩水を表わす。
図15図15は、いくつかの種類のキメラ抗dPD-1抗体の治療を介したMC-38腫瘍細胞を含むイヌ化PD-1マウス(B-dPD-1)の腫瘍体積の経時的変化を示す図である。PSは生理食塩水を表わす。
図16図16は、Kabat番号付けに従って定義されたマウス抗dPD-1抗体(13-1B9、12-4A7、12-1D8)のCDR配列およびその関連抗dPD-1抗体のCDR配列を挙げる。
図17図17は、Chothia番号付けに従って定義されたマウス抗dPD-1抗体(13-1B9、12-4A7、12-1D8)のCDR配列およびその関連抗dPD-1抗体のCDR配列を挙げる。
図18図18は、ヒトPD-1 (hPD-1)、イヌPD-1 (dPD-1)、マウスPD-1 (mPD-1)、サルPD-1 (rmPD-1)、キメラPD-1 (chidPD-1)、ジャイアントパンダPD-1 (pPD-1)およびネコPD-1 (cPD-1)のアミノ酸配列を挙げる。
図19図19は、1D8に基づくイヌ化抗dPD-1抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を挙げる。
図20図20は、1B9に基づくイヌ化抗dPD-1抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を挙げる。
図21図21は、マウス抗dPD-1抗体13-1B9、12-4A7および12-1D8の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を挙げる。
図22図22は、イヌ抗体およびネコ抗体の定常領域のアミノ酸配列を挙げる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1、CD279とも呼ばれる)に結合する抗体およびその抗原結合断片の例を提供する。
PD-1およびがん
免疫系は、体内の正常細胞と、免疫系が外来細胞を攻撃しながら正常細胞を守ることを許容する「異物」と見られるそれらの細胞とを識別することができる。このようなメカニズムは、免疫チェックポイントと呼ばれるタンパク質に関わることがある。免疫チェックポイントは、免疫系におけるシグナル(共刺激分子)を上げるまたはシグナルを下げる分子である。
【0051】
チェックポイント阻害因子は、正常組織に対する免疫系による攻撃を防止することができ、これにより、自己免疫疾患を予防することができる。多くの腫瘍細胞は、チェックポイント阻害因子をも発現する。これらの腫瘍細胞は、特に、腫瘍抗原に特異的なT細胞に特定の免疫チェックポイント経路を支配することによって免疫監視から逃避する(Creelan、Benjamin C.”Update on immune checkpoint inhibitors in lung cancer.”Cancer Control 21.1 (2014): 80-89)。免疫チェックポイントは、配位子-受容体の相互作用により起こされるため、配位子および/またはその受容体に対する抗体により遮断されやすい可能性がある。
【0052】
PD-1 (プログラム細胞死-1)は、免疫チェックポイントであって、リンパ節における抗原特異的T細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を促進すると共に、制御性T細胞(抗炎症性、抑制性T細胞)でのアポトーシスを減少する二重のメカニズムを通して、自己免疫から守る。
【0053】
PD-1は、主に、T細胞および初代B細胞の表面上で発現し、PD-1における2種類の配位子(PD-L1およびPD-L2)は、抗原提示細胞(APC)上で広く発現する。PD-1は、その配位子との相互作用が免疫反応における負の制御に重要な役割を持つ。PD-1とその配位子間の結合を抑制することによって、腫瘍細胞を免疫系の殺傷効果に曝し、そのため、腫瘍組織の殺傷およびがん治療の役割を果たすことができる。
【0054】
PD-L1は、様々な異なるがんの腫瘍細胞上で発現する。T細胞上でPD-1と結合することによってその抑制作用をもたらし、PD-L1の発現が腫瘍細胞が免疫攻撃を逃避する主なメカニズムになる。PD-L1の過剰発現は、概念的に、内因的メカニズムと適応的メカニズムといった2種類のメカニズム由来でありうる。PD-L1は、がん細胞での内因的発現がこれらの腫瘍細胞における細胞/遺伝子異常に関連する。PD-L1発現は、AKTおよびSTAT経路を含んでいる細胞シグナル伝達の活性化により増加する。原発性縦隔B-細胞リンパ腫において、MHC II型トランス活性化因子(CIITA)とPD-L1またはPD-L2の遺伝子の融合を起こすことによって、これらのタンパク質が過剰発現する。PD-L1およびPD-L2が位置する染色体9p23-24を増幅させることによって、古典的ホジキンリンパ腫(classical Hodgkin lymphoma)における2種類のタンパク質の発現が増加する。適応的メカニズムは、腫瘍微小環境におけるPD-L1の発現誘発に関連する。PD-L1は、腫瘍細胞でインターフェロンγを応答して誘導される。マイクロサテライト不安定性結腸癌において、PD-L1は、主に、腫瘍の骨髄細胞で発現し、そして、細胞傷害性T細胞機能を抑制する。
【0055】
PD-1遮断による抗腫瘍免疫力の向上は、慢性感染モデルの観察が起源であり、ここで、PD-1相互作用の防止によってT細胞の疲弊化を逆転させる。同様に、PD-1の遮断は、T細胞PD-1/腫瘍細胞PD-L1またはT細胞PD-1/腫瘍細胞PD-L2の相互作用を防止することによって、T細胞媒介抗腫瘍免疫力を回復させる。
【0056】
がん治療のためのPD-1および抗PD-1抗体の使用の詳細については、例えば、Topalian et al.”Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer.” New England Journal of Medicine 366.26 (2012): 2443-2454;Hirano,Fumiya et al.”Blockade of B7-H1 and PD-1 by monoclonal antibodies potentiates cancer therapeutic immunity.” Cancer research 65.3 (2005): 1089-1096;Raedler、Lisa A,「Keytruda (pembrolizumab): first PD-1 inhibitor approved for previously treated unresectable or metastatic melanoma.」 American health & drug benefits 8、Spec Feature (2015): 96;Kwok、Gerry et al.「Pembrolizumab (Keytruda)」(2016): 2777-2789;US 20170247454;US 9,834,606 B;およびUS 8,728,474などの文献に記載され、かつ、上記の文献はそれぞれ内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0057】
本発明は、いくつかの種類の抗PD-1抗体(例えば、イヌ化抗dPD-1抗体)、その抗原結合断片、ならびにこれらの抗PD-1抗体、および抗原結合断片を用いて腫瘍成長抑制および各種の哺乳動物(イヌ科動物(例えば、イヌ)、ネコ科動物(例えば、ネコ)および/またはクマ科動物(例えば、ジャイアントパンダ)を含む)のがんを治療する方法を提供する。
【0058】
抗体および抗原結合断片
本発明は、抗PD-1抗体およびその抗原結合断片を提供する。抗体(免疫グロブリンとも呼ばれる)は、通常、軽鎖および重鎖の2種のポリペプチド鎖より構成される。本発明の非限定的な抗体は、2つの重鎖と2つの軽鎖を含有する4つの完全免疫グロブリン鎖の抗体でありうる。抗体の重鎖は、IgM、IgG、IgE、IgAまたはIgDを有するあらゆるアイソタイプであってよく、またはIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE1、IgE2などを有するサブアイソタイプであってよい。軽鎖は、κ軽鎖またはλ軽鎖であってよい。
【0059】
抗体は、2つの同一軽鎖複製物および2つの同一重鎖複製物を含みうる。重鎖(それぞれ1つの可変ドメイン(または可変領域、VH)および複数の定常ドメイン(または定常領域)を持つ)は、その定常ドメイン内のジスルフィド結合同士の結合により抗体の「ステム」が形成される。軽鎖(それぞれ1つの可変ドメイン(または可変領域、VL)および1つの定常ドメイン(または定常領域)を持つ)は、それぞれジスルフィド結合により1つの重鎖に結合する。各軽鎖は、可変領域がその結合した重鎖の可変領域とペアリングする。軽鎖および重鎖の可変領域は、いずれもより多くの保存的フレームワーク領域(FR)間に挟まれている3つの超可変領域を含む。
【0060】
これらの超可変領域(相補性決定領域、CDRと呼ばれる)は、抗体の基本的な抗原結合表面を含むループを形成する。4つのフレームワーク領域には、主に、β-シート構造が採用され、かつCDRは、β-シート構造を結びつけ、場合によって、β-シート構造の一部を形成しているループを形成する。各鎖において、CDRは、フレームワーク領域により密接して保持され、もう1つの鎖のCDRと抗原結合領域を形成する。
【0061】
抗体のアミノ酸配列を分析して抗体のCDR領域を認識する方法は、公知であり、通常、様々なCDRで定義される。Kabat定義は、配列変異性に基づき、Chothia定義は、構造ループ領域の位置に基づく。これらの方法および定義は、例えばMartin,”Protein sequence and structure analysis of antibody variable domains,”Antibody engineering,Springer Berlin Heidelberg,2001. 422-439;Abhinandan et al.「Analysis and improvements to Kabat and structurally correct numbering of antibody variable domains」,Molecular immunology 45.14 (2008): 3832-3839;Wu、T.T.およびKabat, E.A. (1970) J. Exp. Med. 132: 211-250;Martin et al., Methods Enzymol.203:121-53 (1991);Morea et al., Biophys Chem. 68(1-3):9-16 (1997年10月);Morea et al., J Mol Biol. 275(2):269-94 (1998年1月);Chothia et al., Nature 342(6252):877-83 (1989年12月);PonomarenkoおよびBourne,BMC Structural Biology 7:64 (2007)などの文献に記載され、上記の文献は、それぞれ内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0062】
CDRは、抗原エピトープの認識について重要である。本明細書中で使用されるように、「エピトープ」とは、抗体の抗原結合ドメインにより特異的に結合される標的分子の最小部分である。エピトープは、サイズの一番小さいものが約3個、4個、5個、6個または7個のアミノ酸であってよいが、抗原二次および三次構造に基づく抗原3次元立体配座によるために、これらのアミノ酸が抗原一次構造の直鎖状配列を表わす必要がない。
【0063】
いくつかの実施形態において、抗体は、完全免疫グロブリン分子(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgD、IgE、IgA)である。IgGサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)は、高度に保存されるが、その定常領域、特に、そのヒンジおよび上側のCH2ドメインで異なる。IgGサブクラスは、当該技術分野において配列や区別が周知であって、そして、例えば、Vidarsson et al.「IgG subclasses and allotypes: from structure to effector functions.」,Frontiers in immunology 5 (2014);Irani et al.「Molecular properties of human IgG subclasses and their implications for designing therapeutic monoclonal antibodies against infectious diseases.」 Molecular immunology 67.2 (2015): 171-182;Shakib,Farouk, ed. The human IgG subclasses: molecular analysis of structure, function and regulation. Elsevier, 2016などの文献に記載され、上記の文献は、それぞれ内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0064】
抗体は、あらゆる種(例えば、ヒト、齧歯動物、マウス、ラクダ科動物、イヌ、ネコまたはジャイアントパンダ)由来の免疫グロブリン分子であってもよい。本明細書に開示の抗体は、さらに、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多重特異性の抗体およびもう1つのポリペプチドに融合する免疫グロブリン結合ドメインを持つキメラ抗体を含む(これに限定されない)。「抗原結合ドメイン」または「抗原結合断片」という用語は、インタクトな抗体の特異的結合活性を保持する一部の抗体、すなわち、インタクトな抗体の標的分子上のエピトープに特異的に結合することができる抗体のあらゆる部分である。例えばFab、Fab'、F(ab')2およびこれらの断片の変異体を含む。そのため、いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、例えば、scFv、Fv、Fd、dAb、二重特異的抗体、二重特異的scFv、2機能性抗体、線状抗体、一本鎖抗体分子、抗体断片による多重特異的抗体、および抗体結合ドメインであるかまたは抗体結合ドメインと相同の結合ドメインを含むあらゆるポリペプチドであってよい。抗原結合ドメインは、非限定的な例として、例えばインタクトな抗体の重鎖および/または軽鎖CDR、インタクトな抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域、インタクトな抗体の完全長重鎖または軽鎖あるいはインタクトな抗体由来の重鎖または軽鎖の単一CDRを含む。
【0065】
いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、キメラ抗原受容体(CAR)の一部を構成することができる。いくつかの実施形態において、キメラ抗原受容体は、本明細書に記載の一本鎖可変断片(scFv)がCD3-ζ膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに融合した融合体である。いくつかの実施形態において、キメラ抗原受容体は、様々な共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)由来の細胞内シグナル伝達ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態において、キメラ抗原受容体は、効力を高めるために複数のシグナル伝達ドメイン(例えばCD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40)を含む。そのため、一方、本発明は、本明細書に記載のキメラ抗原受容体を発現する細胞(例えば、T細胞)をさらに提供する。
【0066】
いくつかの実施形態において、scFVは、1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインを持つ。
【0067】
抗PD-1抗体および抗原結合断片
本発明は、PD-1 (例えば、イヌPD-1)に特異的に結合する抗体およびその抗原結合断片を提供する。本明細書に記載の抗体および抗原結合断片は、PD-1に結合可能であり、PD-1シグナル伝達経路を促進するによって、免疫反応を高める。本発明は、例えばマウス抗PD-1抗体13-1B9 (「1B9」)、12-4A7 (「4A7」)および12-1D8 (「1D8」)、そのキメラ抗体およびそのイヌ化抗体(例えば、表1中で表される抗体)を提供する。
【0068】
Kabat番号付けに従って定義されるように、1B9および1B9由来の抗体(例えば、イヌ化抗体およびネコ化抗体)のCDR配列は、重鎖可変ドメインのCDR(SEQ ID NO: 1-3)および軽鎖可変ドメインのCDR(SEQ ID NO: 4-6)を含む。CDRは、Chothiaシステムに従って定義されてもよい。Chothia番号付けにおいて、重鎖可変ドメインのCDR配列がSEQ ID NO: 19-21で表され、軽鎖可変ドメインのCDR配列がSEQ ID NO: 22-24で表される。
【0069】
同様に、Kabat番号付けに従って定義されるように、4A7および4A7由来の抗体のCDR配列は、重鎖可変ドメインのCDR(SEQ ID NO: 7-9)および軽鎖可変ドメインのCDR(SEQ ID NO: 10-12)を含む。Chothia番号付けにおいて、重鎖可変ドメインのCDR配列がSEQ ID NO: 25-27で表され、軽鎖可変ドメインのCDRがSEQ ID NO: 28-30で表される。
Kabat番号付けに従って定義されるように、1D8および1D8由来の抗体のCDR配列は、重鎖可変ドメインのCDR(SEQ ID NO: 13-15)および軽鎖可変ドメインのCDR(SEQ ID NO: 16-18)を含む。Chothia番号付けにおいて、重鎖可変ドメインのCDR配列がSEQ ID NO: 31-33で表され、軽鎖可変ドメインのCDRがSEQ ID NO: 34-36で表される。
【0070】
イヌ化抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列をさらに提供する。異なる態様でマウス抗体をイヌ化する(例えば、異なるアミノ酸置換により配列を改変することができる)ために、抗体の重鎖および軽鎖は、1種類以上の形態のイヌ化配列を有してよい。イヌ化1B9抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 49-51で表される。イヌ化1B9抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 52-54で表される。任意のこれらの重鎖可変領域配列(SEQ ID NO: 49-51)は、任意のこれらの軽鎖可変領域配列(SEQ ID NO: 52-54)とペアリングすることができる。
【0071】
同様に、イヌ化1D8抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 42-44で表される。イヌ化1D8抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 45-48で表される。任意のこれらの重鎖可変領域配列(SEQ ID NO: 42-44)は、任意のこれらの軽鎖可変領域配列(SEQ ID NO: 45-48)とペアリングすることができる。
【0072】
イヌ化率とは、重鎖または軽鎖可変領域配列が国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)データベースにおけるイヌ抗体配列と比較した同一性の百分率である。トップヒット(top hit)とは、重鎖または軽鎖可変領域配列が他の種よりも特定の種に近いことを意味する。いくつかの実施形態において、イヌ化率は、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%または95%よりも大きい。高イヌ化率は、例えばイヌ体内でより安全でより有効で、かつ耐性をより有して、および/または副作用がよりありえないような様々な利点を有する。
【0073】
なお、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、SEQ ID NO: 1-3、SEQ ID NO: 7-9、SEQ ID NO: 13-15、SEQ ID NO: 19-21、SEQ ID NO: 25-27およびSEQ ID NO: 31-33から選ばれる1つ、2つまたは3つの重鎖可変領域CDR、および/またはSEQ ID NO: 4-6、SEQ ID NO: 10-12、SEQ ID NO: 16-18、SEQ ID NO: 22-24、SEQ ID NO: 28-30およびSEQ ID NO: 34-36から選ばれる1つ、2つまたは3つの軽鎖可変領域CDRをも含んでよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、抗体は、CDR1領域は、選択されたVH CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなり、CDR2領域は、選択されたVH CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなり、CDR3領域は、選択されたVH CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなる相補性決定領域(CDR) 1、2、3を含む重鎖可変領域(VH)と、CDR1領域は、選択されたVL CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなり、CDR2領域は、選択されたVL CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなり、CDR3領域は、選択されたVL CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなるCDR 1、2、3を含む軽鎖可変領域(VL)と、を含む。選択されたVH CDR 1、2、3のアミノ酸配列および選択されたVL CDR1、2、3のアミノ酸配列は、図16 (Kabat CDR)および図17(Chothia CDR)に示される。
【0075】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 1、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 2、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 3というCDRの1つ、2つまたは3つを含む重鎖可変ドメインを含みうる。
【0076】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 7、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 8、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 9というCDRの1つ、2つまたは3つを含む重鎖可変ドメインを含みうる。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 13、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 14、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 15というCDRの1つ、2つまたは3つを含む重鎖可変ドメインを含みうる。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 19、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 20、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 21というCDRの1つ、2つまたは3つを含む重鎖可変ドメインを含みうる。
【0079】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 25、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 26、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 27というCDRの1つ、2つまたは3つを含む重鎖可変ドメインを含みうる。
【0080】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 31、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 32、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 33というCDRの1つ、2つまたは3つを含む重鎖可変ドメインを含みうる。
【0081】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 4、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 5、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 6というCDRの1つ、2つまたは3つを含む軽鎖可変ドメインを含みうる。
【0082】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 10、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 11、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 12というCDRの1つ、2つまたは3つを含む軽鎖可変ドメインを含みうる。
【0083】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 16、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 17、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 18というCDRの1つ、2つまたは3つを含む軽鎖可変ドメインを含みうる。
【0084】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 22、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 23、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 24というCDRの1つ、2つまたは3つを含む軽鎖可変ドメインを含みうる。
【0085】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 28、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 29、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 30というCDRの1つ、2つまたは3つを含む軽鎖可変ドメインを含みうる。
【0086】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 34、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 35、0、1または2個のアミノ酸の挿入、欠失または置換を有するSEQ ID NO: 36というCDRの1つ、2つまたは3つを含む軽鎖可変ドメインを含みうる。
【0087】
挿入、欠失および置換は、CDR配列内、またはCDR配列の片方や両方の末端で行うことができる。
【0088】
本発明は、さらに、PD-1 (例えば、イヌPD-1)に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。上記の抗体またはその抗原結合断片は、選択されたVH配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなる重鎖可変領域(VH)と、選択されたVL配列に対して少なくとも80%、85%、90%または95%の同一性を持つアミノ酸配列を有するか、またはそれからなる軽鎖可変領域(VL)とを含む。いくつかの実施形態において、選択されたVH配列は、SEQ ID NO: 49、50、51または59であり、かつ、選択されたVL配列は、SEQ ID NO: 52、53、54または60である。いくつかの実施形態において、選択されたVH配列は、SEQ ID NO: 42、43、44または57であり、かつ、選択されたVL配列は、SEQ ID NO: 45、46、47、48または58である。いくつかの実施形態において、選択されたVH配列は、SEQ ID NO: 55であり、かつ、選択されたVL配列は、SEQ ID NO: 56である。
【0089】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するために、最適比較目的のために整列される(例えば、最適整列のために第1および第2のアミノ酸または核酸配列の1つまたは2つにギャップを導入し、比較目的のために、非相同性配列が無視されることができる)。比較目的のために、整列されている参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも80%であり、いくつかの実施形態において、少なくとも90%、95%または100%である。その後、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置でのアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1配列中の位置は、第2配列中の対応する位置と、同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められると、分子がその位置で同一である。2つの配列の間でのパーセント同一性は、2つの配列の最適整列のために導入されるギャップ数および各ギャップの長さを考慮する場合には、配列が共有する同一位置の数の関数である。本発明の目的のために、配列の比較及び2つの配列の間でのパーセント同一性の決定は、Blossum 62スコアリングマトリックスにより達成し、ここで、ギャップペナルティを12とし、ギャップ伸長ペナルティを4とし、フレームシフト・ギャップ・ペナルティを5とする。
【0090】
本発明は、さらに、免疫グロブリンの重鎖または免疫グロブリンの軽鎖を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を提供する。免疫グロブリンの重鎖または免疫グロブリンの軽鎖は、図16または図17に示されるCDRを含むか、または図19-21に示される配列を有する。ポリペプチドが対応するポリペプチド(例えば、対応する重鎖可変領域または対応する軽鎖可変領域)とペアリングする場合に、上記のペアリングしたポリペプチドは、PD-1 (例えば、イヌPD-1)に結合する。
【0091】
抗PD-1抗体および抗原結合断片は、抗体または抗体断片の抗体変異体(誘導体および複合体を含む)、および多重特異的(例えば、二重特異的)抗体または抗体断片であってもよい。本明細書で提供される他の抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異的(多量体、例えば二重特異的)ヒト抗体、イヌ抗体、ネコ抗体、ジャイアントパンダ抗体、キメラ抗体(例えば、ヒト-マウスキメラ体、イヌ-マウスキメラ体)、一本鎖抗体、細胞内で産生される抗体(すなわち、細胞内抗体)およびその抗原結合断片である。抗体またはその抗原結合断片は、あらゆるタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスである。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、IgG抗体またはその抗原結合断片(例えば、イヌ、ネコまたはジャイアントパンダ抗体)である。
【0092】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体は、イヌまたはイヌ化IgG抗体(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)である。例えば、抗体は、CL、CH1、CH2および/またはCH3を有するイヌIgG定常領域を含んでよい。いくつかの実施形態において、抗体は、ネコまたはネコ化IgG抗体である。例えば、抗体は、CL、CH1、CH2および/またはCH3を有するネコIgG定常領域を含んでよい。いくつかの実施形態において、抗体は、ジャイアントパンダIgG抗体である。いくつかの場合において、ジャイアントパンダIgG抗体の定常領域(例えば、CL、CH1、CH2および/またはCH3)を含んでよい。
【0093】
抗体断片は、提供される方法に適合し、完全長抗体の所望の親和性および特異性を保持すればよい。そのため、PD-1に結合する抗体の断片は、PD-1に結合する能力を保持する。Fv断片は、完全な抗原認識および結合部位を持つ抗体断片である。この領域は、強く繋がっている1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなり、例えばscFvにおいて共有特性を持つ。この立体配座において、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用することによってVH-VL二量体の表面上での抗原結合部位を特定する。つまり、6つのCDRまたはそのサブセットは、抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(または3つの抗原に対して特異的なCDRしか含まないFvの半分)でも、その親和性が通常、結合部位の全体よりも低いにも関わらず抗原を認識および結合することができる能力を持つ。
【0094】
一本鎖Fvまたは(scFv)抗体断片は、抗体のVHおよびVLドメイン(または領域)を含み、ここで、これらのドメインは、単一ポリペプチド鎖に存在する。scFvポリペプチドは、通常、VHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含むため、scFvは、抗原結合に必要な構造を形成することができる。
【0095】
Fab断片は、軽鎖の可変および定常ドメインと、重鎖の可変ドメインおよび第1定常ドメイン(CH1)とを含む。F(ab')2抗体断片は、通常、そのカルボキシ末端付近にその間のヒンジシステインを介して共有結合される1対のFab断片を含む。抗体断片の他の化学的カップリングも当該技術分野で知られている。
2機能性抗体は、2つの抗原結合部位を持つ小さな抗体断片である。上記の断片は、同一ポリペプチド鎖でのVLに連結されるVH (VHおよびVL)を含む。短すぎるリンカーを用いることで同一の鎖での2つのドメイン間にペアリングを行うことができないため、これらのドメインに、他の鎖の相補ドメインにペアリングし、2つの抗原結合部位を発生することをやむなくさせる。
【0096】
線状抗体は、相補性の軽鎖ポリペプチドと一緒に1対の抗原結合領域を形成する1対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は、二重特異性であってもよく、または単一特異性であってもよい。
本発明の抗体および抗体断片は、Fc領域で改変されることによって、所望のエフェクター機能または血清半減期を提供する。
【0097】
抗体の多量体化は、抗体の自然凝集または当該技術分野における周知の化学的や組換え連結技術により達成されることができる。例えば、一定の割合の精製された抗体製剤(例えば、精製されたIgG1分子)は、抗体ホモ二量体および他のより高次の抗体多量体を含むタンパク質凝集体を自発的に形成する。
【0098】
または、抗体ホモ二量体は、当該技術分野における周知の化学的結合技術により形成することができる。例えば、SMCC (スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)およびSATA (N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート)を含む(これに限定されない)ヘテロ二官能性架橋剤を用いて、抗体多量体を形成することができる。抗体ホモ二量体を形成するための例示的プロトコールは、Ghetie et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94: 7509-7514, 1997)に記載されている。抗体ホモ二量体は、ペプシン消化によりFab’2ホモ二量体に形質転換される。抗体ホモ二量体の他の形成形態は、Zhao et al.(J. Immunol. 25:396-404, 2002)に記載のautophilic T15ペプチドによって形成される。
【0099】
いくつかの実施形態において、多重特異的抗体は、二重特異的抗体である。二重特異的抗体は、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の割合を最大化するために、1対の抗体分子間の境界をエンジニアリングによって操作することで形成される。例えば、境界は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含みうる。この方法では、第1抗体分子の境界からの1つまたは複数の小さいアミノ酸側鎖が、それより大きい側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置換される。大きい側鎖に対する同一または同様のサイズの代償性「キャビティ」が、第2抗体分子の境界上で、大きいアミノ酸側鎖を小さいもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)に置換することによって作成される。これによって、他の望ましくない最終生成物(例えば、ホモ二量体)を超えてヘテロ二量体の収率を増大するためのメカニズムを提供する。このような方法は、例えばWO 96/27011に記載され、その内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0100】
二重特異的抗体は、架橋または「ヘテロ複合体」抗体を含む。例えば、ヘテロ複合体における抗体の1つは、アビジンにカップリングし、また、もう1つは、ビオチンにカップリングすることができる。ヘテロ複合抗体は、あらゆる便利な架橋法で産生されることができる。適切な架橋剤および架橋技術は、当該技術分野で公知であって、米国特許第4,676,980号に公開されており、かつ内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。
抗体断片から二重特異的抗体を産生するための方法も、当該技術分野で周知である。例えば、二重特異的抗体は、化学結合を用いて調製され得る。Brennan et al.(Science 229:81、1985)によると、インタクトな抗体をタンパク分解で酵素切断し、F(ab’)2断片を産生する手順が記載されている。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。産生されたFab’断片は、次いで、チオニトロ安息香酸(thionitrobenzoate、TNB)誘導体に変換されている。Fab'-TNB誘導体のうちの1つは、次いで、メルカプトエタノールアミンを用いた還元によりFab'-チオールに再変換され、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合されて、二重特異的抗体を形成する。
【0101】
本明細書に記載のあらゆる抗体または抗原結合断片は、安定化分子(例えば、被験者あるいは溶液における抗体またはその抗原結合断片の半減期を増加させる分子)に複合されてよい。安定化分子は、非限定的な例として、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)またはタンパク質(例えば、イヌ血清アルブミンのような血清アルブミン)を含む。安定化分子の複合化は、インビトロ(例えば、組織培養物に存在するかまたは医薬組成物として保管される場合)またはインビボで抗体または抗原結合断片の半減期を延ばすかまたはその生物学的活性を強化することができる。
【0102】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、治療薬に複合可能である。抗体またはその抗原結合断片を含む抗体-薬物複合体は、治療薬に共有または非共有的に結合可能である。いくつかの実施形態において、治療薬は、細胞毒性薬または細胞増殖抑制剤(例えば、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシン、メイタンシノイド(例えばDM-1およびDM-4)、ジケトン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-ジヒドロテストステロン、糖質コルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシン、エピルビシンおよびシクロホスファミドならびにその類似体)である。
【0103】
抗体の特徴
本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、PD-1とPD-L1間の結合および/またはPD-1とPD-L2間の結合を遮断することができる。
【0104】
いくつかの実施形態において、抗体は、PD-1に結合することによって、PD-1シグナル伝達経路を阻害すると共に、免疫応答をアップレギュレートする。そのため、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、PD-1拮抗薬である。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、PD-1作動薬である。いくつかの実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、イヌPD-1とイヌPD-L1間、ネコPD-1とネコPD-L1間および/またはジャイアントパンダPD-1とジャイアントパンダPD-L1間の結合を遮断することができる。
【0105】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、T細胞(例えば、CD8+および/またはCD4+細胞)の免疫反応、活性または数を、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、3倍、5倍、10倍または20倍増加させることができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、T細胞の活性または数を、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、3倍、5倍、10倍または20倍減少させることができる。
【0106】
いくつかの実施形態において、抗体(またはその抗原結合断片)は、0.1 s-1未満、0.01 s-1未満、0.001 s-1未満、0.0001 s-1未満または0.00001 s-1未満の解離速度(koff)でPD-1 (例えば、イヌPD-1、ネコPD-1、ジャイアントパンダPD-1、サルPD-1、マウスPD-1および/またはキメラPD-1)に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、解離速度(koff)は、0.01 s-1より大きく、0.001 s-1より大きく、0.0001 s-1より大きく、0.00001 s-1より大きくまたは0.000001 s-1より大きい。
【0107】
いくつかの実施形態において、動力学的会合速度(kon)は、1×102/Msより大きく、1×103/Msより大きく、1×104/Msより大きく、1×105/Msより大きくまたは1×106/Msより大きい。いくつかの実施形態において、動力学的会合速度(kon)は、1×105/Ms未満、1×106/Ms未満または1×107/Ms未満である。
【0108】
親和性は、動力学的会合速度定数の商(KD=koff/kon)によって推定される。いくつかの実施形態において、KDは、1×10-6 M未満、1×10-7 M未満、1×10-8 M未満、1×10-9 M未満または1×10-10 M未満である。いくつかの実施形態において、KDは、50nM、30 nM、20 nM、15 nM、10 nM、9 nM、8 nM、7 nM、6 nM、5 nM、4 nM、3 nM、2 nMまたは1 nMより小さい。いくつかの実施形態において、KDは、1×10-7 Mより大きく、1×10-8 Mより大きく、1×10-9 Mより大きく、1×10-10 Mより大きく、1×10-11 Mより大きくまたは1×10-12 Mより大きい。いくつかの実施形態において、抗体は、約6 nM、5 nM、4 nM、3 nM、2 nM、1 nM、0.9 nM、0.8 nM、0.7 nM、0.6 nM、0.5 nM、0.4 nM、0.3 nM、0.2 nMまたは0.1 nM以下のKDでイヌPD-1に結合する。
【0109】
抗原に対する抗体の親和性を測定するための一般的な技術は、例えばELISA、RIAおよび表面プラズモン共鳴(SPR)を含む。いくつかの実施形態において、抗体は、イヌPD-1 (SEQ ID NO: 41)、ネコPD-1 (SEQ ID NO: 62)、ジャイアントパンダPD-1 (SEQ ID NO: 31)、ヒトPD-1 (SEQ ID NO: 37)、サルPD-1 (例えば、アカゲザルPD-1、SEQ ID NO: 39)、キメラPD-1 (SEQ ID NO: 40)および/またはマウスPD-1 (SEQ ID NO: 38)に結合する。いくつかの実施形態において、抗体は、イヌPD-1 (SEQ ID NO: 41)、ネコPD-1 (SEQ ID NO: 62)、ジャイアントパンダPD-1 (SEQ ID NO: 31)、ヒトPD-1 (SEQ ID NO: 37)、サルPD-1 (例えば、アカゲザルPD-1、SEQ ID NO: 39)、キメラPD-1 (SEQ ID NO: 40)および/またはマウスPD-1 (SEQ ID NO: 38)に結合しない。
【0110】
いくつかの実施形態において、イヌPD-1、ネコPD-1またはジャイアントパンダPD-1との結合活性のEC50は、500 nM、400 nM、300 nM、200 nM、100 nM、90 nM、80 nM、70 nM、60 nM、50 nM、40 nM、30 nM、20 nM、10 nM、9 nM、8 nM、7 nM、6 nM、5 nM、4 nM、3 nM、2 nMまたは1 nM未満である。いくつかの実施形態において、イヌPD-1、ネコPD-1またはジャイアントパンダPD-1との結合活性のEC50は、100 nM、90 nM、80 nM、70 nM、60 nM、50 nM、40 nM、30 nM、20 nM、10 nM、9 nM、8 nM、7 nM、6 nM、5 nM、4 nM、3 nM、2 nMまたは1 nMより大きい。本明細書中で使用されるように、「EC50」という用語は、半数最大効果反応を誘発する濃度を指す。薬剤(例えば、医薬品、抗体または毒物)は、EC50濃度下で一定時間ばく露後、ベースラインと最大値の間の半数の反応を誘発する。結合活性の「EC50」は、ベースラインと最大結合活性の間の半数の結合活性を付与する薬剤(例えば、医薬品、抗体または毒物)濃度を指す。
【0111】
いくつかの実施形態において、熱安定性は、決定されている。本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94または95℃より大きいTmを含みうる。
【0112】
IgGは、マルチドメインタンパク質として記載されてよく、そのため、融解曲線には、第1変性温度Tm D1および第2変性温度Tm D2の2回転移が起きることがある。この2つのピークの存在は、それぞれFcドメイン(Tm D1)およびFabドメイン(Tm D2)の変性をよく表す。2つのピークがある場合には、Tmは、通常Tm D2を指す。そのため、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94または95℃より大きいTm D1を有する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94または95℃より大きいTm D2を有する。
いくつかの実施形態において、Tm、Tm D1、Tm D2は、ともに60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94または95℃未満である。
【0113】
いくつかの実施形態において、抗体は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%または200%より大きい腫瘍増殖抑制率(TGI%)を持つ。いくつかの実施形態において、抗体は、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%または200%未満の腫瘍増殖抑制率を持つ。例えば、TGI%は、治療開始から3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30日まで、または、治療開始から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12ヶ月まで決定されてよい。本明細書中で使用されるように、腫瘍増殖抑制率(TGI%)は、次の式により算出される。
TGI(%) = [1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100
Tiは、i日目の治療群の平均腫瘍体積である。T0は、0日目の治療群の平均腫瘍体積である。Viは、i日目の対照群の平均腫瘍体積である。V0は、0日目の対照群の平均腫瘍体積である。
【0114】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片はPD-1拮抗薬である。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、PD-1を発現する標的細胞のPD-1シグナル伝達を減少させる。
【0115】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えばCD4+エフェクターT細胞増殖および/またはCD4+エフェクターT細胞で産生されるγインターフェロン(例えば、抗体または抗原結合断片によって治療される前の増殖および/またはサイトカイン収率に比べる)を増加することによって、CD4+エフェクターT細胞機能を増強する。いくつかの実施形態において、サイトカインはγインターフェロンである。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えば抗体または抗原結合断片によって治療される前の腫瘍内(浸潤性)CD4+ T細胞の数に比べて、腫瘍内(浸潤性)CD4+エフェクターT細胞の数(例えば、CD4+エフェクターT細胞の総数、または、例えばCD45+細胞におけるCD4+細胞の百分率)を増加させる。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えば治療される前にγインターフェロンを発現する腫瘍内(浸潤性)CD4+ T細胞の数に比べて、γインターフェロンを発現する腫瘍内(浸潤性) CD4+エフェクターT細胞の数(例えば、合計のγインターフェロンを発現するCD4+細胞、または、例えば合計のCD4+細胞におけるγインターフェロンを発現するCD4+細胞の百分率)を増加させる。
【0116】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えば治療される前の腫瘍内(浸潤性)CD8+ Tエフェクター細胞の数に比べて、腫瘍内(浸潤性)CD8+エフェクターT細胞の数(例えば、CD8+エフェクターT細胞の総数、または、例えばCD45+細胞におけるCD8+の百分率)を増加させる。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えば抗PD-1抗体(例えば、抗-イヌPD-1抗体)によって治療される前のγインターフェロンを発現する腫瘍内(浸潤性)CD8+ T細胞の数に比べて、γインターフェロンを発現する腫瘍内(浸潤性) CD8+エフェクターT細胞の数(例えば、合計のCD8+細胞におけるγインターフェロンを発現するCD8+細胞の百分率)を増加させる。
【0117】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えばメモリーT細胞増殖および/またはメモリー細胞により産生されるサイトカイン(例えば、γインターフェロン)を増加することによって、メモリーT細胞の機能を向上させる。
【0118】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、例えばTregによるエフェクターT細胞の抑制機能(例えば、エフェクターT細胞増殖および/またはエフェクターT細胞のサイトカイン分泌)を減少させることによってTreg機能を抑制する。いくつかの実施形態において、エフェクターT細胞はCD4+エフェクターT細胞である。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、腫瘍内(浸潤性)Tregの数(例えばTregの総数、または、例えばCD4+細胞におけるFox3p+細胞の百分率)を減少させる。
【0119】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、枯渇抗PD-1抗体(例えば、イヌPD-1を発現する細胞を枯渇化させる)である。いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、インビトロでPD-1 (例えば、イヌPD-1)を発現する細胞を枯渇化させる。いくつかの実施形態において、PD-1発現細胞は、CD4+エフェクターT細胞またはTreg細胞である。いくつかの実施形態において、枯渇化は、ADCCおよび/または食作用によるものである。
【0120】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は機能的なFc領域を含有する。いくつかの実施形態において、機能的なFc領域のエフェクター機能は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害作用(ADCC)である。いくつかの実施形態において、機能的なFc領域のエフェクター機能は、食作用である。いくつかの実施形態において、機能的なFc領域のエフェクター機能は、ADCCおよび食作用である。いくつかの実施形態において、Fc領域はイヌIgG (例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFc領域である。
【0121】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、PD-1を発現する細胞(例えば、Treg)中でアポトーシスを誘発しない。
【0122】
いくつかの実施形態において、抗体または抗原結合断片は、機能的なFc領域を含有しない。例えば、抗体または抗原結合断片はFab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片である。
【0123】
抗PD-1抗体の作製方法
PD-1 (例えば、イヌPD-1、ネコPD-1またはジャイアントパンダPD-1)の単離した断片は、免疫原として、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を用いて調製する標準的技術で抗体を産生するために用いられる。ポリクローナル抗体は、抗原ペプチドまたはタンパク質の複数回の注射(例えば、皮下または腹腔内注射)により動物内で産生されることができる。いくつかの実施形態において、抗原ペプチドまたはタンパク質は、少なくとも1つのアジュバントと一緒に注射される。いくつかの実施形態において、抗原ペプチドまたはタンパク質は、予防接種を受ける種に免疫原性を有する試薬に複合化されることができる。動物に対して、抗原ペプチドまたはタンパク質を、1回を超えて(例えば、2回、3回または4回)注射することができる。
【0124】
完全長ポリペプチドあるいはタンパク質またはその抗原ペプチド断片を免疫原として用いることができる。タンパク質の抗原ペプチドは、上記のペプチドに対して産生された抗体とタンパク質が特異的免疫複合体を形成するように、PD-1のアミノ酸配列の少なくとも8つ(例えば、少なくとも10つ、15つ、20つまたは30つ)のアミノ酸残基を含み、かつ、タンパク質のエピトープを含む。上記のように、イヌPD-1の完全長配列は、当該技術分野で知られている(SEQ ID NO: 41)。
【0125】
免疫原は、通常、適切な被験者(例えば、マウスまたはトランスジェニック動物)を免疫することによって抗体を調製するために用いられる。適当な免疫原性製剤は、例えば組換え的に発現されるかまたは化学合成されるポリペプチド(例えば、イヌPD-1の断片)を含みうる。該製剤は、例えば完全/不完全フロイントアジュバント(Freund’s complete or incomplete adjuvant)または同様の免疫刺激薬などのアジュバントをさらに含みうる。
【0126】
ポリクローナル抗体は、上記のように、PD-1ポリペプチドまたはその抗原ペプチド(例えば、PD-1の一部)を免疫原とし、適切な被験者を免疫することによって調製される。例えば、固定化したPD-1ポリペプチドまたはペプチドが使用される酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)のような標準的手段により、免疫された被験者の抗体力価を経時的に監視することができる。必要に応じて、抗体分子を哺乳動物(例えば、血液)から単離し、例えばタンパク質A/Gクロマトグラフィーで精製することによってIgG画分を得るような周知の技術でさらに精製することができる。例えば特異的抗体力価が最も高い場合などの免疫後の適切な時間に、被験者から抗体を産生する細胞が得られ、例えばKohler et al.(Nature 256:495-497、1975)初回記載されているハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., Immunol. Today 4:72、1983)、EBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc. , pp. 77-96頁, 1985)またはトリオーマ法である標準的技術でモノクローナル抗体を調製するために用いられる。ハイブリドーマを産生するための技術は、よく知られている(一般的に、Current Protocols in Immunology)、1994、Coligan et al.(Eds.)、John Wiley & Sons, Inc.、New York、NYを参照)。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば、標準化ELISAアッセイを利用して、目的のポリペプチドまたはエピトープに結合する抗体についてハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすることによって検出される。
【0127】
本明細書に記載のイヌ、ネコ、イヌ化、ネコ化またはキメラ抗体またはその抗原結合断片をコードするDNAに、適当なヌクレオチド変化を導入するかまたはペプチド合成によって本明細書に記載の抗体または抗原結合断片の変異体を調製する。上記の変異体は、例えば抗体または抗原結合ドメインを構成する抗原結合部位のアミノ酸配列中の残基の欠失、挿入または置換を含む。上記の変異体の集団では、一部の抗体または抗原結合断片が標的タンパク質(例えばPD-1)に対する親和性を増加させる。欠失、挿入および/または組み合わせを任意に組み合わせることで標的に対する結合親和性が増加した抗体またはその抗原結合断片を取得することができる。抗体または抗原結合断片に導入されたアミノ酸の変化は、抗体または抗原結合断片を変化させ、あるいは、それらに新たな翻訳後修飾を導入し、例えばグリコシル化部位の数を変更し(例えば、増加または減少)、グリコシル化部位のタイプを変更し(例えば、細胞中で存在する酵素で異なる糖が連結するようにアミノ酸配列を変更する)、または新たなグリコシル化部位を導入することもできる。
【0128】
本明細書に開示の抗体は、哺乳動物を含むあらゆる動物種に由来し得る。自然抗体は、非限定的な例として、ヒト、イヌ、ネコ、ジャイアントパンダ、霊長類(例えばサルおよび猿)、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ラクダ科(例えば、ラクダおよびラマ)、ニワトリ、ヤギおよび齧歯動物(例えば、ラット、マウス、ハムスターおよびウサギ)に由来するものを含み、ヒト、イヌまたはネコの抗体を産生するように遺伝子工学的に改変されたトランスジェニック齧歯動物を含む。
【0129】
本発明は、さらに、本明細書に記載の抗体を発現する細胞および細胞株を提供する。代表的な宿主細胞は、例えば細菌、酵母、哺乳動物およびヒトの細胞、例えばCHO細胞、HEK-293細胞、HeLa細胞、CV-1細胞およびCOS細胞を含む。異種構築物を宿主細胞に形質転換することで安定細胞株を産生する方法は、当該技術分野で知られている。代表的な非哺乳動物宿主細胞は、昆虫細胞(Potter et al.(1993)Int. Rev. Immunol. 10(2-3):103-112)を含む。抗体は、トランスジェニック動物(Houdebine (2002) Curr. Opin.Biotechnol. 13(6):625-629)およびトランスジェニック植物(Schillberg et al.(2003)、Cell Mol. Life Sci.)60(3):433-45)内で産生されてもよい。
【0130】
イヌ、イヌ化、ネコ、ネコ化またはキメラ抗PD-1抗体のアミノ酸配列変異体は、通常、元の抗体の軽鎖または重鎖に存在する配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を持つアミノ酸配列を有する。
元の配列について、同一性または相同性が、通常、候補配列で存在するアミノ酸残基とイヌ、イヌ化、ネコ、ネコ化またはキメラ抗PD-1抗体または断片で存在する配列の同一性の百分率であり、必要に応じて配列を整列させてギャップを導入し、配列同一性の最大百分率を達成する同時に、配列同一性の一部として任意の保存的置換を考慮しない。
【0131】
抗PD-1抗体または抗原結合断片に対して、他の改変を行ってよい。例えば、Fc領域にシステイン残基を導入することによって、この領域中で鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。これにより産生されるホモ二量体抗体は、任意に延長されるインビトロおよび/またはインビボでの半減期を有する。インビトロおよび/またはインビボでの半減期が延長されたホモ二量体抗体は、例えばWolff et al.(Cancer Res. 53:2560-2565, 1993)に記載のヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製されることもできる。または、2つのFc領域を持つ抗体を改変することができる(例えば、Stevenson et al., Anti-Cancer Drug Design 3:219-230, 1989を参照)。
【0132】
いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片に対して共有結合修飾を行うことができる。これらの共有結合修飾は、化学的や酵素的合成、または酵素的や化学的切断により行うことができる。抗体または抗体断片の他のタイプの共有結合修飾は、抗体または断片の標的とするアミノ酸残基を、選択された側鎖またはN-やC-末端残基と反応可能な有機誘導体化剤と反応させることにより、分子に導入される。
【0133】
いくつかの実施形態において、Fc領域に(直接または間接的に)連結するフコースを欠く炭水化物構造を有する抗体変異体を提供する。例えば、上記の抗体は、フコース量が1%~80%、1%~65%、5%~65%または20%~40%でありうる。例えば、WO 2008/077546に記載されるように、MALDI-TOF質量スペクトロスコピー法により測定されてAsn297に連結する全部の糖鎖構造(例えば、複合、混合および高マンノース構造)の合計に対して、Asn297における糖鎖内フコースの平均量を算出することによってフコース量を特定する。Asn297とは、Fc領域における297位(Fc領域残基のEu番号付けであり、または、Kabat番号付けに従って314位である)にたいてい位置するアスパラギン残基を指し、但し、抗体での微小配列変化のため、Asn297は、297位の上流または下流から約±3つのアミノ酸の箇所、すなわち294位と300位の間に位置してもよい。上記のフコース化変異体は、改善されるADCC機能を持つことができる。いくつかの実施形態において、糖鎖不均一性を減少させるために、さらに、297位のアスパラギンをアラニン(N297A)に置換するように、抗体のFc領域を改変してよい。
【0134】
いくつかの実施形態において、Fabアーム交換を回避することによって生産効率を促進するために、抗体のFc領域に対して、IgG4における228位(EU番号付け)のセリンをプロリン(S228P)に置換するように、改変をさらに行う。S228突然変異については、例えばSilva et al.”The S228P mutation prevents in vivo and in vitro IgG4 Fab-arm exchange as demonstrated using a combination of novel quantitative immunoassays and physiological matrix preparation.”Journal of Biological Chemistry 290.9 (2015): 5462-5469に詳しく記載しており、かつ、その内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0135】
抗体の種分化
抗薬物抗体(ADA)の産生は、モノクローナル抗体を含めて生物療法タンパク質の有効性の減弱に関連する。文献の包括的評価から、モノクローナル抗体の種分化は、mAbが免疫原性を持つ傾向を減少することができることを示した。ADAを形成して本発明で提供されるマウス抗PD-1モノクローナル抗体に用いる関連リスクの減少に寄与するために、1つの種分化対策(例えば、イヌ化またはネコ化)が採用される。このような対策は、CDR移植に最適なイヌまたはネコの生殖系列抗体配列の認識に基づくことが可能である。重鎖と軽鎖に利用可能なイヌ生殖系列配列の全部への広い分析によると、マウスmAbとの相同性に基づき、生殖系列候補を選択し、マウス始原mAb由来CDRでネイティブイヌまたはネコCDRを置換することができる。これは、インビボでの免疫原性の潜在能力を最小化するために、完全なイヌまたはネコフレームワークを使用して、高い親和性および細胞ベースの活性を保持するためである。イヌ化またはネコ化mAbは、Western ブロッティングで発現され、イヌまたはネコPD-1に結合する能力を特徴づける。
【0136】
イヌ化またはネコ化抗体は、イヌまたはネコ生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する(または、イヌまたはネコ生殖系列免疫グロブリン配列由来のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する)抗体を含む。いくつかの場合において、イヌ化またはネコ化抗体は、例えばCDRにおいて、イヌまたはネコ生殖系列免疫グロブリン配列でコードされるわけではないアミノ酸残基(例えば、ランダムや部位特異的変異導入のインビトロでの導入または体細胞突然変異のインビボでの導入による突然変異)を含みうる。
【0137】
イヌ化またはネコ化抗体は、通常、他の種(例えば、マウス)に由来する抗体のCDRが移植されたイヌまたはネコフレームワーク(FR)を有する。そのため、イヌ化またはネコ化抗体は、非イヌ科またはネコ科哺乳動物に由来して導入される1つまたは複数のアミノ酸配列を有する。これらのアミノ酸残基は、しばしば「インポート」残基と呼ばれ、一般的に、「インポート」可変ドメインから採られている。イヌ化またはネコ化は、基本的に、例えばイヌまたはネコ抗体の対応する配列を齧歯動物CDRまたはCDR配列に置換することによって実施される。これらの方法は、例えばSinger et al.(Generation of a canine anti-EGFR (ErbB-1) antibody for passive immunotherapy in dog cancer patients.),Molecular cancer therapeutics (2014);Maekawa et al.(A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma.),Scientific reports 7.1 (2017): 8951;US20170158756A1などの文献に記載され、かつ、それぞれ内容全体が引用により本明細書に取り込まれる。そのため、「イヌ化」抗体は、そのうちの実質的に1つ未満の完全イヌVドメインが非イヌ種由来の対応する配列に置換されるキメラ抗体であり、かつ、「ネコ化」抗体は、そのうちの実質的に1つ未満の完全ネコVドメインが非ネコ種由来の対応する配列に置換されるキメラ抗体である。実際的に、これらの抗体は、通常、そのうちのいくつかのCDR残基およびいくつかのFR残基が、イヌまたはネコ抗体における同様の部位由来の残基に置換されるマウス抗体である。
【0138】
フレームワーク残基は、超可変領域またはCDR残基ではなく、抗体可変領域のそれらの残基である。フレームワーク残基は、天然存在するイヌまたはネコ抗体、例えば本明細書に記載の抗体のフレームワーク領域と基本的に同様であるイヌまたはネコフレームワークに由来可能である。また、個別配列間の同一性を代表する人工フレームワーク配列を使用することもできる。イヌ化またはネコ化のためのフレームワーク領域を選ぶ場合に、イヌまたはネコ中で広く発現する配列は、あまり見られない配列よりも好ましい。フレームワーク受容体配列に対して、抗原の接触中に含まれるとみられているネズミ科残基および/または抗原結合部位の構造的完全性に含まれるとみられている残基を回復させるか、または抗体発現を改善するように、他の突然変異を行ってよい。VHおよびVLにおけるフレームワーク領域の残基の少なくとも一部がイヌまたはネコ抗体配列に由来する場合に、可変領域は、イヌ化またはネコ化(例えば、イヌ化またはネコ化軽鎖または重鎖可変領域)とも記載される。
【0139】
CDRの移植は、受容体抗体(例えば、イヌ化抗体または所望のフレームワーク残基を含む他の抗体)の1つまたは複数のCDRをドナー抗体(例えば、非イヌ抗体)のCDRに置換することによって実施される。受容体抗体は、候補受容体抗体とドナー抗体間のフレームワーク残基の類似性に基づき選ばれる。同一の方法により、CDRをAiluropoda melanoleuca(ジャイアントパンダ)の抗体に移植することができる。
【0140】
イヌおよびネコIgGの定常領域配列は、当該技術分野で周知である。SEQ ID NO: 63は、イヌ免疫グロブリンγ重鎖A (IgG1)定常領域のアミノ酸配列(GenBank 登録番号:AAL35301.1)を表す。SEQ ID NO: 64は、イヌ免疫グロブリンγ重鎖B (IgG2)定常領域のアミノ酸配列(GenBank 登録番号:AAL35302.1)を表す。SEQ ID NO: 68は、イヌ免疫グロブリンγ重鎖C (IgG3)定常領域のアミノ酸配列(GenBank 登録番号:AAL35303.1)を表す。SEQ ID NO: 69は、イヌ免疫グロブリンγ重鎖D (IgG4)定常領域のアミノ酸配列(GenBank 登録番号:AAL35304.1)を表す。
【0141】
SEQ ID NO: 65は、イヌκ鎖のアミノ酸配列(GenBank 登録番号:XP_532962.3)を表す。SEQ ID NO: 70および71は、イヌIgG軽鎖定常領域のアミノ酸配列を表す。
【0142】
SEQ ID NO: 66は、ネコ重鎖定常領域のアミノ酸配列(GenBank:BAA32229.1)である。SEQ ID NO: 67は、ネコκ鎖定常領域のアミノ酸配列(GenBank:AAF09245.1)である。
【0143】
イヌ化またはネコ化された抗体が抗原に対して高い特異性、親和性および他の有用な生物学的特性を保持することは、より重要である。この目的を達成するために、親配列およびイヌ化やネコ化配列の3次元モデルで親配列および各種の概念的イヌ化またはネコ化産物を分析する方法を用いて、イヌ化またはネコ化抗体を調製してよい。3次元免疫グロブリンモデルは、一般的に取得可能であり、かつ、当該技術分野における当業者で知られている。選択される候補免疫グロブリン配列の有望な3次元立体配座構造を説明および表示するコンピュータープログラムが利用可能である。これらの表示の検討によって、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能性のある役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響する残基の分析が可能になる。この方法では、FR残基は、受容体およびインポート配列から選択されかつ組み合わされて、その結果所望の抗体特徴、例えば標的抗原についての親和性の増大が達成される。
【0144】
いくつかの場合において、可変領域における選択される残基の復帰突然変異でCDRの提示を増強させる。効果を維持するように、被験者の免疫原性反応を抗体中の非天然配列に最小化する抗体を設計すると同時に、抗体の抗原結合領域を十分に保持することは、チャレンジ性に富むことであることが証明された。本明細書中で使用されるように、「復帰突然変異」という用語は、イヌまたはネコ抗体の体細胞変異したアミノ酸のいくつかまたはすべてが相同生殖系列抗体配列からの対応する生殖系列残基で置換されるプロセスをいう。イヌまたはネコ抗体の重鎖および軽鎖の配列は、最高の相同性を有する配列を同定するために、それぞれ生殖系列配列と整列される。イヌまたはネコ抗体の差異は、このような異なるアミノ酸をコードする規定されたヌクレオチド位置を変異させることによって、生殖系列配列に戻される。復帰突然変異のための候補物としてこのように同定された各アミノ酸の役割は、抗原結合における直接的または間接的な役割について調べられるべきであり、そして、抗体の任意の望ましい特徴に影響を与えることが変異後に見出された任意のアミノ酸は、最終的な抗体の中に含められるべきではなく、一例として、選択的変異誘発アプローチによって同定された、活性を増強させるアミノ酸は、復帰突然変異には供せられない。最も近い生殖系列配列と異なるが、第2の生殖系列配列における対応するアミノ酸と同一であることが見い出されたこれらのアミノ酸の位置は、第2の生殖系列配列が上記の抗体配列と同一でありかつ共線的であるならば、復帰突然変異に供せられるアミノ酸の数を最小化するために、そのままの状態であり得る。対応するドナー残基への選択された標的フレームワーク残基の復帰突然変異は、親和性を回復および/または改善するために必要とされるかもしれない。
【0145】
組換えベクター
本発明は、さらに、本明細書に開示の単離されるポリヌクレオチド(例えば、本明細書に開示のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)を含む組換えベクター(例えば、発現ベクター)、上記の組換えベクターが導入される宿主細胞(すなわち、宿主細胞にポリヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチド含有ベクターを含ませる)、および組換え技術による組換え抗体ポリペプチドまたはその断片の調製を提供する。
【0146】
本明細書中で使用されるように、「ベクター」は、ベクターが宿主細胞に導入される場合に、1つまたは複数の目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に送達することができる任意の構築物である。「発現ベクター」は、発現ベクターが導入された宿主細胞に1つまたは複数の目的のポリヌクレオチドを送達しながら、コードされるポリペプチドとして発現することができる。そのため、発現ベクターにおいて、ベクターまたは宿主細胞ゲノムにおける調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサーおよび/またはポリA鎖と作動可能に連結することにより、目的ポリヌクレオチドをベクターに発現し、上記の調節エレメントは、目的ポリヌクレオチドが発現ベクターが導入された宿主細胞で翻訳されるように、目的ポリヌクレオチドの統合部位またはその付近またはその脇側にある。
【0147】
ベクターは、当該技術分野における周知の方法、例えばエレクトロポレーション、化学的トランスフェクション(例えば、DEAE-デキストラン)、形質転換、トランスフェクション、感染および/または形質導入(例えば、組換えウイルスへ)によって宿主細胞に導入される。そのため、ベクターは、非限定的な例として、ウイルスベクター(組換えウイルスを産生するために用いられる)、裸のDNAまたはRNA、プラスミド、コスミド、ファージベクター、および陽イオン性縮合剤に結びつけるDNAまたはRNA発現ベクターを含む。
いくつかの実施形態において、本明細書に開示のポリヌクレオチド(例えば、本明細書に開示のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)は、ウイルス発現系(例えば、ワクシニアまたはその他のポックスウイルス、レトロウイルスまたはアデノウイルス)を使用して導入され、また、非病原性(欠陥)複製コンピテントのウイルスや、複製欠陥ウイルスを使用することを含む。後者の場合には、ウイルス伝播は、一般的に、ウイルスパッケージング細胞を補完する場合にのみ発生する。適切な系統は、例えば、Fisher-Hoch et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:317-321;Flexner et al., 1989,Ann. N.Y. Acad Sci. 569:86-103;Flexner et al., 1990,Vaccine,8:17-21;米国特許第4,603,112号、第4,769,330号および第5,017,487号;WO 89/01973;米国特許第4,777,127号;GB 2,200,651;EP 0,345,242;WO 91/02805;Berkner-Biotechniques,6:616-627, 1988;Rosenfeld et al., 1991, Science,252:431-434;Kolls et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:215-219; Kass-Eisler et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:11498-11502;Guzman et al., 1993,Circulation, 88:2838-2848; and Guzman et al., 1993, Cir. Res., 73:1202-1207に開示されている。上記の発現系にDNAを組み込むための技術は、当該技術分野における当業者に周知である。例えば、Ulmer et al., 1993, Science, 259:1745-1749, and Cohen, 1993, Science, 259:1691-1692に記載されるように、DNAは「裸」であってもよい。DNAを、細胞内に効果的に搬送される生分解性ビーズに被覆して裸のDNAの取り込みを向上させることができる。
【0148】
発現のために、本明細書に開示される抗体またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むDNAインサートは、適当なプロモーター(例えば、異種プロモーター)、例えばファージλPLプロモーター、大腸菌lac、trpおよびtacプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、およびレトロウイルスLTRのプロモーターに操作可能に連結される。他の適切なプロモーターは、当業者で周知である。発現構築物は、さらに、転写開始/終結の部位、および転写領域で翻訳のためのリボソーム結合部位を含みうる。上記の構築物により発現される成熟転写物のコーディング領域は、開始位置にある翻訳開始点、および翻訳されるポリペプチド末端に適切に位置する終止コドン(UAA、UGAまたはUAG)を含みうる。
【0149】
上記のように、発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含みうる。上記のマーカーは、真核細胞培養に耐性があるジヒドロ葉酸還元酵素またはネオマイシン、および大腸菌および他の細菌での培養用のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性遺伝子を含む。適切な宿主の代表例は、例えば大腸菌、ストレプトミセスおよびサルモネラ菌の細胞などの細菌細胞;例えば酵母細胞などの真菌細胞;例えばショウジョウバエS2およびスポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞;例えばCHO、COS、Bowes悪性黒色腫およびHK 293細胞などの動物細胞;および植物細胞を含む(これに限定されない)。本明細書に記載の宿主細胞に適切な培地および条件は、当該技術分野で周知である。
【0150】
細菌のための非限定的なベクターは、Qiagenから入手可能なpQE70、pQE60およびpQE-9;Stratageneから入手可能なpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;、およびPharmaciaから入手可能なptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5を含む。非限定的な真核ベクターは、Stratageneから入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1およびpSG;、およびPharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVLを含む。他の適切なベクターは、本当業者にとって容易に明らかである。
【0151】
適当に使用される非限定的な細菌プロモーターは、大腸菌lacIおよびlacZプロモーター、T3およびT7プロモーター、gptプロモーター、λ PRおよびPLプロモーター、およびtrpプロモーターを含む。適切な真核プロモーターは、CMV最初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーター(例えばラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)およびメタロチオネインプロモーター(例えばマウスメタロチオネイン-Iプロモーター)を含む。
【0152】
醸造用酵母では、構成的または誘導的プロモーター、例えばα因子、アルコールオキシダーゼおよびPGHを多く含むベクターを使用することができる。レビューについては、Ausubel et al.(1989) Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,N.Y,and Grant et al., Methods Enzymol., 153: 516-544 (1997)を参照する。
宿主細胞へのベクターの導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染または他の方法で実現されることができる。上記の方法は、例えばDavis et al., Basic Methods In Molecular Biology)(1986)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載されており、その全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0153】
エンハンサー配列をベクターに挿入することにより高等真核生物による本発明に係る抗体をコードするDNAの転写を増加することができる。エンハンサーは、DNAのシスエレメントであり、通常、約10~300 bpであり、特定の宿主細胞タイプのプロモーターの転写活性を高める働きを奏する。エンハンサーは、例として、塩基対100~270における複製出発点の後に位置するSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製出発点の後に位置するポリオーマウィルスエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーを含む。
【0154】
翻訳されたタンパク質を小胞体の内腔、細胞周辺腔または細胞外環境に分泌するために、適合な分泌シグナルを発現したポリペプチドに組み込むことができる。シグナルは、ポリペプチドに対して内在性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0155】
ポリペプチド(例えば、抗体)は、改変された態様、例えば融合タンパク質(例えば、GST-融合)またはヒスチジンタグを備える態様として発現され、そして、分泌シグナルだけでなく、さらに、付加的な異種機能領域も含む場合がある。例えば、ポリペプチドのN-末端に付加的なアミノ酸領域(特に、帯電したアミノ酸)を添加して、宿主細胞において、精製中または以降の取り扱い及び保管期間の安定性及び持続性を改善することができる。また、精製しやすいために、ペプチド部分をポリペプチドに加えることができる。そのような領域は、ポリペプチドの最終調製の前に除去されることができる。ポリペプチドへのペプチド部分の添加により分泌または排泄を引き起こすことで、安定性を改善し、精製しやすくすることは、当該技術分野でよく知られた従来技術である。
【0156】
治療方法
本発明の抗体またはその抗原結合断片は、様々な治療目的に用いられる。一方、本発明は、被験者の癌を治療するための方法、被験者における腫瘍体積の経時的増大のレートを低減させる方法、転移発生のリスクを低下させる方法、または被験者に別の転移が発生するリスクを低下させる方法を提供する。幾つかの実施態様において、治療は、癌の進行を停止、退縮、遅延、または阻害する可能性がある。幾つかの実施態様において、治療は、被験者における癌の1種または複数種の症状の数、重症度及び/または持続期間の減少をもたらす。
【0157】
一方、本発明は、治療有効量の本明細書に開示されている抗体またはその抗原結合断片を、必要な被験者(例えば、がんに罹患しているか、またはがんに罹患していることが同定または診断された被験者)に投与することを含む方法を特徴とし、上記のがんは、例えば、乳がん(例えば、トリプルネガティブ乳がん)、カルチノイドがん、子宮頸がん、子宮内膜がん、神経膠腫、頭頸部がん、肝臓がん、肺がん、小細胞肺がん、リンパ腫、黒色腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、腎がん、結腸直腸がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、膀胱がん、尿道がん、または血液悪性腫瘍が挙げられる。いくつかの実施形態において、がんは、切除不能な悪性黒色腫または転移性悪性黒色腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、膀胱がんまたは転移性ホルモン不応性前立腺がんである。いくつかの実施形態において、被験者は、固形腫瘍に罹患している。いくつかの実施形態において、がんは、頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)、腎細胞がん(RCC)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)または結腸直腸がんである。いくつかの実施形態において、被験者は、ホジキンリンパ腫に罹患している。いくつかの実施形態において、被験者は、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、胃がん、尿路上皮癌、メルケル細胞癌または頭頸部がんに罹患している。
【0158】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示の組成物および方法は、がんのリスクがある患者の治療に用いられることができる。がん患者は、当該技術分野における周知の様々な方法で特定することができる。
本明細書中で使用されるように、「有効量」とは、疾患(例えば癌)の進行を停止、退縮、遅延、または阻害することを含む有益または望ましい結果をもたらすのに十分な量または用量を意味する。有効量は、例えば、抗体、抗原結合断片、抗体をコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含むベクターおよび/またはそれらの組成物が投与される被験者の年齢および体重、重症度、投与経路によって異なり、したがって、各々個体に応じて投与する。
【0159】
有効量は、1回または複数回で投与できる。例としては、抗体または抗原結合断片の有効量は、患者の癌の進行を改善、停止、安定化、逆転、阻害、退縮および/または遅延させるのに十分な量、あるいはインビトロでの細胞(例えば、生検細胞、本明細書に記載の癌細胞のいずれか、または細胞株(例えば、がん細胞株))の増殖を改善、停止、安定化、逆転、退縮および/または遅延させるのに十分な量である。当該技術分野で理解されているように、抗体または抗原結合断片の有効量は、特に、患者の病歴及び他の要因、例えば、用いられる抗体のタイプ(及び/または用量)によるものである。
【0160】
本明細書に開示の抗体、抗体をコードするポリヌクレオチドおよび/または組成物の有効量およびスケジュールは、経験的に決定することができ、かつ、このような決定が、当該技術分野における当業者の範囲内に属する。当該技術分野における当業者にとって、投与が必要な用量が、例えば本明細書に開示の抗体、抗体をコードするポリヌクレオチドおよび/または組成物が投与される哺乳動物、投与経路、用いられる本明細書に開示の抗体、抗体をコードするポリヌクレオチド、抗原結合断片および/または組成物の具体的なタイプ、および、哺乳動物に投与される他の医薬品によるものであることを理解されたい。抗体または抗原結合断片の適切な用量の選択のガイダンスは、例えばHandbook of Monoclonal Antibodies,Ferrone et al., eds., Noges Publications,Park Ridge,N.J., 1985,ch.22 and 303-357などの抗体および抗原結合断片に関連する治療使用の文献に見出される。
【0161】
抗体の有効量について、典型的な1日投与量が0.01 mg/kg~100 mg/kgである。いくつかの実施形態において、用量は、100 mg/kg、10 mg/kg、9 mg/kg、8 mg/kg、7 mg/kg、6 mg/kg、5 mg/kg、4 mg/kg、3 mg/kg、2 mg/kg、1 mg/kg、0.5 mg/kgまたは0.1 mg/kg未満であってよい。いくつかの実施形態において、用量は、10 mg/kg、9 mg/kg、8 mg/kg、7 mg/kg、6 mg/kg、5 mg/kg、4 mg/kg、3 mg/kg、2 mg/kg、1 mg/kg、0.5 mg/kg、0.1 mg/kg、0.05 mg/kgまたは0.01 mg/kgより大きくてよい。いくつかの実施形態において、用量は、約10 mg/kg、9 mg/kg、8 mg/kg、7 mg/kg、6 mg/kg、5 mg/kg、4 mg/kg、3 mg/kg、2 mg/kg、1 mg/kg、0.9 mg/kg、0.8 mg/kg、0.7 mg/kg、0.6 mg/kg、0.5 mg/kg、0.4 mg/kg、0.3 mg/kg、0.2 mg/kgまたは0.1 mg/kgである。
【0162】
本明細書に記載の方法のいずれか1つにおいて、少なくとも1種類の抗体、その抗原結合断片または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の抗体、抗原結合断片または医薬組成物のいずれか1つ)、および任意選択の少なくとも1種類の付加的な治療薬は、被験者に少なくとも週に1回(例えば、週に1回、週に2回、週に3回、週に4回、1日に1回、1日に2回または1日に3回)投与される。いくつかの実施形態において、同じ組成物(例えば、液体組成物)に、少なくとも2種類の異なる抗体および/または抗原結合断片が投与される。いくつかの実施形態において、同じ組成物(例えば、液体組成物)に、少なくとも1種類の抗体または抗原結合断片および少なくとも1種類の付加的な治療薬が投与される。いくつかの実施形態において、上記の少なくとも1種類の抗体または抗原結合断片および上記の少なくとも1種類の付加的な治療薬は、2種類の異なる組成物(例えば、少なくとも1種類の抗体または抗原結合断片を含む液体組成物、および少なくとも1種類の付加的な治療薬を含む経口固形組成物)中で投与される。いくつかの実施形態において、上記の少なくとも1種類の付加的な治療薬は、丸剤、錠剤またはカプセルの形態で投与される。いくつかの実施形態において、上記の少なくとも1種類の付加的な治療薬は、徐放性経口製剤の形態で投与される。
【0163】
いくつかの実施形態において、上記の1種類または複数種類の付加的な治療薬は、上記の少なくとも1種類の抗体、抗原結合抗体断片または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の抗体、抗原結合抗体断片または医薬組成物のいずれか1つ)を投与前または後で、被験者に投与される。いくつかの実施形態において、被験者に、上記の1種類または複数種類の付加的な治療薬および上記の少なくとも1種類の抗体、抗原結合抗体断片または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の抗体、抗原結合抗体断片または医薬組成物のいずれか1つ)を投与することによって、被験者に上記の1種類または複数種類の付加的な治療薬および上記の少なくとも1種類の抗体または抗原結合断片(例えば、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片のいずれか1つ)の生物活性期間が重なってしまう。
【0164】
いくつかの実施形態において、被験者に、上記の少なくとも1種類の抗体、抗原結合抗体断片または医薬組成物(例えば、本明細書に記載の抗体、抗原結合抗体断片または医薬組成物のいずれか1つ)を長期間(例えば、少なくとも1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、1年、2年、3年、4年または5年の期間)にわたり投与することができる。熟練医療専門家は、本明細書に記載の治療有効性を診断または追跡する(例えば、がんの少なくとも1つの症状の観察)ためのあらゆる方法で、治療期間の長さを決定することができる。本明細書に記載のように、熟練医療専門家は、治療有効性の評価に基づき(例えば、本明細書に記載の当該技術分野における周知のあらゆる方法)、被験者に投与される抗体または抗原結合抗体断片(および/または1種類または複数種類の付加的な治療薬)の種類および数を変更(例えば、増加または減少)してもよく、さらに、被験者に投与される少なくとも1種の抗体または抗原結合抗体断片(および/または1種類または複数種類の付加的な治療薬)の用量または頻度を調整(例えば、増加または減少)してもよい。
【0165】
いくつかの実施形態において、被験者に、1種類または複数種類の付加的な治療薬を投与してよい。上記の付加的な治療薬は、B-Raf阻害剤、EGFR阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、K-Ras阻害剤、c-Met阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害剤、ホスファチジルイノシトール- 3キナーゼ(PI3K)阻害剤、Akt阻害剤、mTOR阻害剤、二重PI3K/mTOR阻害剤、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1 (IDH1)および/またはイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2 (IDH2)阻害剤から選ばれる1種類または複数種類の阻害剤を含んでよい。いくつかの実施形態において、上記の付加的な治療薬は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)阻害剤(例えば、エパカドスタット)である。
【0166】
いくつかの実施形態において、上記の付加的な治療薬は、HER3阻害剤、LSD1阻害剤、MDM2阻害剤、BCL2阻害剤、CHK1阻害剤、活性化ヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤およびエストロゲン受容体を選択的に分解可能な薬剤から選ばれる1種類または複数種類の阻害剤を含んでよい。
【0167】
いくつかの実施形態において、上記の付加的な治療薬は、ナブ-パクリタキセルトラベクテジン(Trabectedin)、ナブ-パクリタキセル(nab-paclitaxel)、トレバナニブ(Trebananib)、パゾパニブ(Pazopanib)、セジラニブ(Cediranib)、パルボシクリブ(Palbociclib)、エベロリムス(everolimus)、フルオロピリミジン、IFL、レゴラフェニブ(regorafenib)、レオリシン(Reolysin)、アリムタ(Alimta)、ジカディア(Zykadia)、スーテント(Sutent)、テムシロリムス(temsirolimus)、アキシチニブ(axitinib)、エベロリムス、ソラフェニブ(sorafenib)、ヴォトリエント(Votrient)、パゾパニブ、IMA-901、AGS-003、カボザンチニブ(cabozantinib)、ビンフルニン(Vinflunine)、Hsp90阻害薬、Ad-GM-CSF、テマゾロミド(Temazolomide)、IL-2、IFNa、ビンブラスチン(vinblastine)、サロミド(Thalomid)、ダカルバジン(dacarbazine)、シクロホスファミド、レナリドマイド(lenalidomide)、アザシチジン(azacytidine)、レナリドマイド、ボルテゾミド(bortezomid)、アムルビシン(amrubicine)、カルフィルゾミブ(carfilzomib)、プララトレキサート(pralatrexate)およびエンザスタウリン(enzastaurin)から選ばれる1種類または複数種類の治療薬を含んでよい。
いくつかの実施形態において、上記の付加的な治療薬は、アジュバント、TLR作動薬、腫瘍壊死因子(TNF)α、IL-1、HMGB1、IL-10拮抗薬、IL-4拮抗薬、IL-13拮抗薬、IL-17拮抗薬、HVEM拮抗薬、ICOS作動薬、治療ターゲットCX3CL1、治療ターゲットCXCL9、治療ターゲットCXCL10、治療ターゲットCCL5、LFA-1作動薬、ICAM1作動薬およびセレクチン作動薬から選ばれる1種類または複数種類の治療薬を含んでよい。
【0168】
いくつかの実施形態において、被験者に、カルボプラチン、ナブパクリタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、ペメトレキセド、ゲムシタビン、FOLFOXまたはFOLFIRIを投与する。
【0169】
いくつかの実施形態において、上記の付加的な治療薬は、抗-OX40抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗-LAG-3抗体、抗-TIGIT抗体、抗-BTLA抗体、抗-CTLA-4抗体または抗-GITR抗体である。
【0170】
抗PD-1抗体の改変および使用のための方法は、例えばUS20170247454、US 20170081409 A1、US 20170044259 A1およびUS 20160159905 A1に記載され、かつ、それぞれがその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0171】
医薬組成物および投与経路
本明細書は、さらに、本明細書に記載の少なくとも1種(例えば、1種、2種、3種または4種)の抗体または抗原結合断片を含む医薬組成物を提供する。2種またはそれ以上(例えば、2種、3種または4種)の本明細書に記載のいずれかの抗体または抗原結合断片は、任意に組み合わせて医薬組成物に存在することができる。医薬組成物は、当該技術分野で知られている任意の方法で製剤化されることができる。
【0172】
医薬組成物は、意図された投与経路(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下または腹腔内)に相当するように調製される。組成物は、滅菌希釈剤(例えば、滅菌水または生理食塩水)、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの抗菌剤または抗真菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝液;及び糖(例えば、デキストロース)、多価アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール)または塩(例えば、塩化ナトリウム)などの等張化剤;またはそれらの任意の組み合わせを含んでよい。リポソーム懸濁液は、薬学的に許容可能な担体としても用いられる(例えば、米国特許第4,522,811号を参照)。組成物の製剤を調製してアンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアルに封入することができる。必要とする場合には(例えば、注射用製剤など)、例えば、コーティング(例えば、レシチン)または界面活性剤を使用することにより適切な流動性を維持することができる。吸収を遅延させる試薬(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を含むことにより抗体またはその抗原結合断片の吸収を延長させることができる。また、制御による放出は、生分解性の生体適合性ポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸;Alza CorporationおよびNova Pharmaceutical, Inc.)を含むインプラント及びマイクロカプセル化デリバリーシステムによって実現できる。
【0173】
本明細書に記載の抗体または抗原結合断片のいずれか1種類または複数種類を含む組成物は、投与単位形態(即ち、投与を容易にし、投与量を均一にするための、予定量の活性化合物を含む物理的分散ユニット)で非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下または腹腔内)投与する。
【0174】
組成物の毒性および治療効果は、細胞培養または実験動物(例えば、サル)において標準的な薬学的操作によって決定できる。例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を特定できる。治療指数は、LD50: ED50の比率である。高い治療指数を示す薬剤が好ましい。薬剤が不良な副作用を表すと、潜在的なリスクを最小限に抑える(即ち、不良な副作用を減らす)ように注意する必要がある。毒性及び治療効果は、他の標準的な薬学的操作によって決定できる。
【0175】
細胞培養物アッセイおよび動物検討から得られたデータは、適当な用量で任意の所与の薬剤を調製して被験者(例えば、イヌ、ネコまたはジャイアントパンダ)に投与するのに使用できる。上記の1種または複数種(例えば、1種、2種、3種または4種)の抗体またはその抗原結合断片(例えば、本明細書に記載の任意の抗体または抗体断片)の治療有効量は、被験者(例えば、癌に罹患したと判定された被験者)、または疾患に罹患するリスクがあると判定された被験者(例えば、以前癌に罹患したが現在治癒された被験者)において被験者の疾患を治療し(例えば、癌細胞を殺す)、被験者(例えば、イヌ、ネコまたはジャイアントパンダ)の疾患の1種または複数種の症状の重症度、頻度及び/または持続期間を低減させる量である。本明細書に記載の任意の抗体または抗原結合断片は、有効性及び用量が、医療専門家または獣医専門家が当該技術分野で公知の方法を使用し、被験者(例えば、イヌ、ネコまたはジャイアントパンダ)における疾患の1種または複数種の症状を観察することにより決定することができる。いくつかの要因は、被験者を効果的に治療するために必要な用量及びタイミングに影響を与える可能性がある(例えば、疾患または障害の重症度、以前の治療、被験者の一般的な健康および/または年齢、および他の疾患の存在)。
【0176】
例示的用量は、被験者の体重の1キログラム当たり、ミリグラムまたはマイクログラム量の本明細書に記載のあらゆる抗体または抗原結合断片を含む(例えば、約1 μg/kg~約500 mg/kg、約100 μg/kg~約500 mg/kg、約100 μg/kg~約50 mg/kg、約10 μg/kg~約5 mg/kg、約10 μg/kg~約0.5 mg/kg、または約1 μg/kg~約50 μg/kg)。これらの用量は広い範囲をカバーするが、当該技術分野における当業者は、抗体およびその抗原結合断片を含む治療剤の効力が異なり、かつ、有効量は当該技術分野で既知の方法により決定できることを理解すべきである。通常、最初は比較的低用量を投与し、担当の医療専門家または獣医専門家(治療的応用の場合)または研究者(また開発段階にある場合)は、適切な応答が得られるまで徐々に用量を増やすことができる。さらに、特定の被験者の具体的用量レベルは、使用する特定の化合物の活性、被験者の年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄率、および抗体または抗体断片のインビボでの半減期などのさまざまな要因に依存することが理解される。
【0177】
医薬組成物は、投与のための説明書と一緒に容器、パック、またはディスペンサーに含めることができる。本発明は、さらに、本明細書に記載の様々な使用における抗体または抗原結合断片を製造するための方法を提供する。
【実施例
【0178】
本発明は、以下の実施例をさらに説明するが、これらの実施例は本発明の特許請求範囲を限定するものではない。
【0179】
実施例1マウス抗dPD-1抗体の産生
イヌPD-1 (dPD-1;SEQ ID NO: 41)に対するマウス抗体を産生するために、イヌPD-1で6~8週齢の雌性BALB/cマウスを免疫した。抗dPD-1抗体は、以下のように、図1Aおよび図1Bで表される方法で採取された。
【0180】
マウスの免疫
6~8週齢の雌性BALB/cマウスを、100 μg/mlの濃度のHis標識イヌPD-1タンパク質で、マウス1匹あたり20 μg分で免疫した。His標識イヌPD-1タンパク質を、アジュバントで乳化させて、マウスの背中の4箇所に注射した。1回目の皮下(s.c.)注射では、希釈された抗原を、完全フロイントアジュバント(CFA)を利用して等体積で乳化させた。次の皮下注射では、タンパク質を、不完全フロイントアジュバント(IFA)を利用して等体積で乳化させた。3回目の注射または追加免疫後3日目に、血液(血清)を採取して、ELISAにより抗体力価を分析した。
【0181】
別の実験では、マウスに、イヌPD-1をコードする発現プラスミドを注射することによって、6~8週齢の雌性BALB/cマウスを免疫した。遺伝子銃でマウス1匹あたり60 μgの量で濃度の1000 μg/ulの抗原をコードするプラスミドをマウスの前脛骨筋(筋肉内注射)に注射した。2回注射期間の間隔が少なくとも14日になるように少なくとも4回注射した。最後の免疫後7日目に血液(血清)を採取してELISAにより血清の抗体力価をテストした。
【0182】
前回の免疫から少なくとも14日後に、さらに、免疫を強化する手順(プラスミドまたはタンパク質の注射)を行った。表面でPD-1抗原を発現するCHO細胞を、尾静脈を経由してマウスに注射した。その後、注射して4日後に脾臓を採取した。
【0183】
SP2/0細胞と脾臓細胞の融合
脾臓組織を粉砕した。まず、CD3εマイクロビーズおよび抗マウスIgMマイクロビーズにより、脾臓細胞を選んで、その後、SP2/0細胞と融合させた。そして、細胞をヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地含有96ウェルプレートに播種した。
【0184】
ハイブリドーマの1次スクリーニング
標準的プロトコルに従って、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を利用して96ウェルプレート内のハイブリドーマ上清に対して1次スクリーニングを行った。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、96ウェルプレート(ウェルあたり2×104個細胞)に添加して、スクリーニングを行った。50 μl上清およびヒトFc標識イヌPD-L1タンパク質が用いられた。実験中、用いられる抗体は、
1)フルオレセイン(PE)複合化AffiniPure F(ab)2断片ヤギ抗-マウスIgG、Fcγ断片特異的、および
2)フルオレセイン(FITC)複合化AffiniPure F(ab)2断片ヤギ抗-ヒトIgG、Fcγ断片特異的である。
【0185】
サブクローン
ClonePix2でサブクローン化を行った。簡単的に、1次スクリーニング中で認識された陽性ウェルを半固形培地に移して、FITC抗-マウスIgG Fc抗体を用いてIgG陽性クローンを認識してテストした。
【0186】
腹水抗体
1×106個の陽性ハイブリドーマ細胞を、B-NDG(登録商標)マウス(北京バイオサイトジェン社(Beijing Biocytogen)、中国北京)に腹腔内注射した。ハイブリドーマ細胞をマウス腹腔内で増殖させることによってモノクローナル抗体を産生した。ハイブリドーマ細胞は、マウスの腹部に多く増殖して腹水を産生した。腹水に高濃度の抗体があり、以降の使用に採取された。
【0187】
抗体精製
腹水中の抗体は、GE AKTAタンパク質クロマトグラフィー(GE Healthcare, Chicago, Illinois, United States)によって精製された。13-1B9 (「1B9」)、12-4A7 (「4A7」)および12-1D8 (「1D8」)は、上記の方法で産生されたマウス抗体であった。
抗体のVH、VLおよびCDR領域を測定した。1B9の重鎖CDR1、CDR2、CDR3および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列は、SEQ ID NO: 1-6 (Kabat番号付け)、またはSEQ ID NO: 19-24 (Chothia番号付け)で表される。
【0188】
4A7の重鎖CDR1、CDR2、CDR3および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7-12 (Kabat番号付け)、またはSEQ ID NO: 25-30 (Chothia番号付け)で表される。
【0189】
1D8の重鎖CDR1、CDR2、CDR3および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列は、SEQ ID NO: 13-18 (Kabat番号付け)、またはSEQ ID NO: 31-36 (Chothia番号付け)で表される。
【0190】
キメラ抗体
1B9-mHvKv-dIgG4、4A7-mHvKv-IgG4および1D8-mHvKv-IgG4を含むキメラ抗dPD-1抗体は、1B9、4A7および1D8の重鎖および軽鎖可変領域配列に基づいて産生される。これらのキメラ抗体は、定常ドメインがイヌIgG4抗体(例えばCL、CH1、CH2およびCH3ドメインを含有する)に由来する、対応するマウス抗dPD-1抗体由来の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含有する。イヌIgG4重鎖の定常ドメインの配列は、SEQ ID NO: 69で表される。イヌIgG軽鎖の定常ドメインの配列は、SEQ ID NO: 70で表される。
【0191】
実施例2.マウス抗体のイヌ化
イヌ化の出発点は、マウス抗体(例えば、1B9および1D8)である。これらのマウス抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を特定した。
【0192】
異なる改変または置換を有する1B9の3つのイヌ化重鎖可変領域変異体(SEQ ID NO: 49-51)および3つのイヌ化軽鎖可変領域変異体(SEQ ID NO: 52-54)を構築した。
【0193】
異なる改変または置換を有する1D8の3つのイヌ化重鎖可変領域変異体(SEQ ID NO: 42-44)および4つのイヌ化軽鎖可変領域変異体(SEQ ID NO: 45-48)を構築した。
【0194】
これらのイヌ化重鎖可変領域変異体は、同一マウス抗体に基づく軽鎖可変領域変異体のいずれかと組み合わせてよい。例えば、1B9-H1 (SEQ ID NO: 49)は、対応して標識された(例えば、1B9-H1K3)同一マウス抗体1B9に基づくイヌ化軽鎖可変領域変異体のいずれか(例えば、1B9-K3 (SEQ ID NO: 54))と組み合わせてよい。
【0195】
イヌ化抗体は、イヌIgG抗体定常ドメイン(例えばCL、CH1、CH2およびCH3ドメインを含有する)を含有する。例えば、1B9-H1K1-IgG4は、マウス抗体1B9に基づくものであり、かつイヌ化重鎖可変ドメインH1 (SEQ ID NO: 49)およびイヌ化軽鎖可変ドメインK1 (SEQ ID NO: 52)を含有する。
【0196】
キメラ抗PD-1抗体およびイヌ化抗PD-1抗体の名称および配列は、下表にまとめられている。
【表1】
【0197】
実施例3.マウス抗dPD-1抗体のインビトロ試験:イヌPD-1 (dPD-1)とイヌPD-L1 (dPD-L1)結合の遮断
【0198】
遮断アッセイによって、抗dPD-1抗体が、dPD-1とその配位子dPD-L1の結合を遮断することができるかどうかを特定した。
【0199】
200μL イヌPD-L1タンパク質(Fc Tag)(250μg/mL)(北京義翹神州生物技術有限会社(Sino Biological, Beijing);カタログ番号70110-D02H)を、1.94 μL ビオチン標識EZ-Link(登録商標) Sulfo-NHS-LC(10 mM)と混合した。そして、混合物を、PD MiniTrap G-10カラムで脱塩して、以降の使用のために-20℃下で保管した。
【0200】
マウス腹水から、抗dPD-1キメラ抗体を採取してクロマトグラフィーにより精製した。培養プレートの各ウェルに、25 μlのイヌPD-1により一過性にトランスフェクトされたCHO細胞を加えた。精製された抗体を、所望の最終濃度になるまで滴下しながら、各ウェルに4℃下25 μl添加して30分間インキュベートした。
【0201】
各ウェルにビオチン標識dPD-L1 (各ウェル中での最終濃度が5 μg/mlである)を加えた。細胞、ビオチン標識dPD-L1および抗体を、4℃下30分間インキュベートした。
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回(1200 rpm、5分間)洗浄後、1:100の希釈倍率で各ウェルに50 μl PE標識ストレプトアビジン(ストレプトアビジン-PE)を加えて、4℃下で30分間インキュベートし、そして、PBSで洗浄した(1200 rpm、5分間)。20 μl PBSを加えた。PEのシグナルは、フローサイトメトリー(Intellicyt)により検出された。
【0202】
図3に示すように、キメラ抗dPD-1抗体4A7-mHvKv-dlgG4、1D8-mHvKv-dlgG4および1B9-mHvKv-dlgG4の濃度は、減少した場合に、PEシグナルが増加し(x軸)、イヌPD-1とイヌPD-L1間の結合がこの3つの抗dPD-1抗体によって遮断されたことを示した。
【0203】
実施例4.ヒト、マウスおよびイヌ-マウスキメラPD-1、ジャイアントパンダPD-1およびネコPD-1に対する抗dPD-1抗体の交差反応性
【0204】
各実験において、CHO細胞を、ヒトPD-1 (hPD-1、SEQ ID NO: 37)、マウスPD-1 (mPD-1、SEQ ID NO: 38)、キメラ(マウスおよびイヌ) PD-1 (chidPD-1、SEQ ID NO: 40)またはジャイアントパンダPD-1 (pPD-1、SEQ ID NO: 61)でトランスフェクトした。
各ウェルに25 μl CHO細胞を加えた。各ウェルに、25 μl精製された抗dPD-1キメラ抗体(10 μg/ml)(4A7-mHvKv-dlgG4、1D8-mHvKv-dlgG4または1B9-mHvKv-dlgG4)を加えて、4℃下で30分間インキュベートした。
【0205】
PBSで2回洗浄(1200 rmp、5 min)後、各ウェルに1:100の希釈倍率でFITC標識抗イヌIgG Fc抗体(anti-dIgG Fc-FITC)を加えて、次に、4℃下30分間インキュベートし、そして、PBSで洗浄した(1200 rmp、5 min)。FITCのシグナルは、フローサイトメトリーで特定された。
【0206】
図4に示すように、4A7-mHvKv-dlgG4、1D8-mHvKv-dlgG4および1B9-mHvKv-dlgG4は、ヒトPD-1またはマウスPD-1と交差反応しなかったが、chidPD-1と強い結合活性を持つ。ジャイアントパンダPD-1に関しては、4A7- mHvKv-dlgG4および1D8- mHvKv-dlgG4は、pPD-1と一定の交差反応性を持ち、1B9-mHvKv-dlgG4は、pPD-1と強い結合活性を持つ(図5)。図4および図5において、NCが陰性対照を表わす。
【0207】
CHO細胞を、ネコPD-1 (cPD-1、SEQ ID NO: 62)およびEGFPを発現する発現ベクターでトランスフェクトした。各ウェルに、25 μl精製された抗dPD-1キメラ抗体(10 μg/ml)を加えて、4℃下30分間インキュベートした。PBSで2回洗浄(1200 rmp、5 min)後、各ウェルにAlexa Fluor 647標識抗イヌIgG Fc抗体(抗-dIgG Fc-647)を1:500の希釈倍率で加えて、そして、4℃下30分間インキュベート後、PBSで洗浄した(1200 rmp、5 min)。GFPおよびFITCのシグナルは、フローサイトメトリーによって特定された。その結果から、1B9-mHvKv-dlgG4は、ネコPD-1に結合しなかったことを示した。しかし、4A7-mHvKv-dlgG4および1D8-mHvKv-dlgG4は、ネコPD-1と一定の結合活性を持つ(図6)。
実施例5. ジャイアントパンダPD-1、イヌPD-1およびネコPD-1に対しての結合活性EC50
各実験において、CHO細胞をジャイアントパンダPD-1、イヌPD-1またはネコPD-1でトランスフェクトした。
【0208】
各ウェルに25 μl CHO細胞を加えた。各ウェルに、25 μlの異なる濃度を有する精製された抗dPD-1キメラ抗体を加えて、4℃下で30分間インキュベートした。
【0209】
PBSで2回洗浄(1200 rmp、5 min)後、各ウェルに50 μl Alexa Fluor 647標識抗イヌIgG Fc抗体(抗-dIgG Fc-647)を1:1000の希釈倍率で加えて、そして、4℃下で30分間インキュベート後、PBSで洗浄した(1200 rmp、5 min)。そして、30 μl PBSを加えた。Alexa Fluor 647のシグナルは、フローサイトメトリーによって特定された。EC50は、平均蛍光強度(MFI)曲線によって特定された。
【0210】
図7において、CHO細胞をジャイアントパンダPD-1でトランスフェクトした。図7は、4A7- mHvKv-dlgG4と1B9-mHvKv-dlgG4の濃度が異なる場合のMFIを示す。EC50を特定した。その結果から、1B9-mHvKv-dlgG4とジャイアントパンダPD-1は、強い結合活性を持つことを示した。
【表2】
【0211】
図8において、CHO細胞を、イヌPD-1でトランスフェクトした。図8は、4A7-mHvKv-dlgG4と1B9-mHvKv-dlgG4の濃度が異なる場合のMFIを示す。EC50を特定した。その結果から、2種類の抗体はいずれもイヌPD-1と強い結合活性を持つことを示した。
【表3】
【0212】
図9において、CHO細胞を、ネコPD-1およびEGFPを発現する発現ベクターでトランスフェクトした。各ウェルに25 μlの異なる濃度を有する精製された抗dPD-1キメラ抗体を加えた。PBSで2回洗浄(1200 rmp、5 min)後、各ウェルに50 μl Alexa Fluor 647標識抗イヌIgG Fc抗体(抗-dIgG Fc-647)を1:500の希釈倍率で加えて、そして、4℃下で30分間インキュベート後、PBSで洗浄した(1200 rmp、5 min)。そして、30 μl PBSを加えた。図9は、4A7-mHvKv-dlgG4と1D8-mHvKv-dlgG4の濃度が異なる場合のMFIを示す。EC50は、上記のデータからも特定された。その結果から、2種類の抗体は、いずれもネコPD-1と強い結合活性を持ち、かつ、4A7-mHvKv-dIgG4は、EC50が1D8-mHvKv-dlgG4よりも好ましい。
【表4】
【0213】
実施例6. 抗dPD-1抗体の結合親和性
Biacore(Biacore、INC、Piscataway N.J.)を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)技術に基づき、抗dPD-1抗体の結合親和性を測定した。
【0214】
ヒスチジン標識PD-1タンパク質(dPD-1-His)を3.34 μg/mlの最終濃度になるまで希釈して、所望のタンパク質密度(約90つの応答単位(RU))になるように、アミンカップリングキット(GE HEALTHCARE;カタログ番号BR100050)によりCM5チップに固定させた。
【0215】
40、20、10、5、2.5、1.25または0.625nMの濃度の抗dPD-1抗体を、30 μL/minで120~240秒間注射した。解離を600秒間監視した。グリシンを(pH 1.5、30 μL/min、16秒間)滴下する度の最後1回注射後、チップを再生成させた。1D8-mHvKv-dlgG4の結果は、例として、図10に挙げられた。
【0216】
Biacore T200評価ソフトウェア3.0を用いて、データを1:1ラングミュア結合モデル(Langmuir binding model)に大域的にフィッティングすることによって、同時に動力学的会合速度(kon)および解離速度を取得した(koff)(Karlsson, R.、Roos, H.、Fagerstam, L.、Petersson, B.,1994. 6. 99-110. Methods Enzymology 6. 99-110)。親和性は、動力学的会合速度定数の商(KD=koff/kon)により推定された。
【0217】
当該技術分野における当業者の周知のように、各テスト抗体に対して、同一方法を用いて、パラメータ(例えば、抗体濃度)に対して、適切な調整を行った。テスト抗体の結果は、下表にまとめられている。
【表5】
【0218】
実施例7. キメラとイヌ化抗dPD-1抗体のインビボテスト
抗dPD-1抗体をインビボでテストして、イヌにおけるこれらの抗体の作用を予測するために、イヌ化PD-1マウスモデルを形成した。イヌ化PD-1マウスモデルを、マウスPD-1タンパク質の一部の細胞外領域が対応するイヌPD-1細胞外領域に置換されたキメラPD-1タンパク質(SEQ ID NO: 40)を発現させるように設計した。イヌ化マウスモデルは、イヌとマウスPD-1を発現する一般的なマウスの臨床結果の差を有意に減らすことによって、臨床環境において新しい治療プロトコールをテストするための新たなツールを提供できる。
【0219】
結腸癌生体モデルにおいて、抗dPD-1抗体による腫瘍成長の作用をテストした。マウスに、MC-38腫瘍細胞(結腸腺がん細胞)を皮下注射した。マウスの腫瘍が150 ± 50 mm3になると、腫瘍体積に基づいてマウスを異なる群にランダム分けた(1群に5匹のマウス)。
下表に示すように、その後、マウスに生理食塩水(PS)および抗dPD-1抗体を腹腔内投与によって注射した。毎週の2日目および5日目に、抗体を投与した。群は、ほとんどが合計6回投与した。G12のみ合計2回投与した。
【表6】
【0220】
注射量は、3 mg/kgの用量でマウスの体重に基づいて算出された。腫瘍長軸および短軸の長さを測って、腫瘍体積を0.5 ×(長軸)× (短軸)2として算出した。マウスの体重は、注射の前に、マウスを異なる群に分ける際に(1回目の抗体注射の前)、治療期間に週に2回、および安楽死の前に測定された。
【0221】
腫瘍増殖抑制率(TGI%)は、次の式:TGI (%) = [1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100を用いて算出された。Tiは、i日目の治療群の平均腫瘍体積であった。T0は、0日目の治療群の平均腫瘍体積であった。Viは、i日目の対照群の平均腫瘍体積であった。V0は、0日目の対照群の平均腫瘍体積であった。
【0222】
統計学的分析のために、T検定を実施した。TGI%が60%を超えると、腫瘍増殖阻害作用が強いことを示した。P < 0.05は、有意差を示す閾値であった。
マウスの体重は、治療期間全体にわたり監視された。異なる群のマウスの体重は、すべて増加した(図11および図12)。各群において体重に有意差がなかったことを観察した。結果として、テスト抗体に対するマウスの耐性がよく、マウスに対して抗体に毒性がなかったことを示した。
【0223】
抗dPD-1抗体治療群は、対照群よりも、ほとんどの腫瘍体積が小さく増加した(図13-15)。24日目に(群分けして24日後)TGI%は、下表のように示された。
【表7】
【0224】
以上の結果から、抗dPD-1抗体のすべては、いずれも腫瘍増殖をある程度に阻害した。ただし、G3(1B9-H1K2-dIgG4)およびG10(1D8-mHvKv-dIgG4)は、最も高い腫瘍増殖阻害率(TGI%)を持つ。なお、G12の動物は、4A7-mHvKv-dIgG4がただ2回投与されたとしても、腫瘍阻害効果が顕著であった。
【0225】
その他の実施形態
本発明を、本発明に係る具体的な実施形態と組み合わせて説明したが、上記の説明は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するのではなく例示することを意図していることを理解すべきである。他の側面、利点及び修正案も添付の特許請求の範囲内にある。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22-1】
図22-2】
図22-3】
【配列表】
2023506667000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-11-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VH CDR1領域が選択されるVH CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VH CDR2領域が選択されるVH CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VH CDR3領域が選択されるVH CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)1、2および3を有する重鎖可変領域(VH)と、
VL CDR1領域が選択されるVL CDR1アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VL CDR2領域が選択されるVL CDR2アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有し、VL CDR3領域が選択されるVL CDR3アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を持つアミノ酸配列を有するCDR1、2および3を有する軽鎖可変領域(VL)と
を含み、
ここで、前記選択されるVH CDR1、2および3アミノ酸配列と前記選択されるVL CDR1、2および3アミノ酸配列は、
(1)前記選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:1、2、3で表され、前記選択されるVL CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:4、5、6で表され、
(2)前記選択されるVH CDR 1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:7、8、9で表され、前記選択されるVL CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:10、11、12で表され、
(3)前記選択されるVH CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:13、14、15で表され、前記選択されるVL CDR1、2、3アミノ酸配列がそれぞれSEQ ID NO:16、17、18で表される
うちの1つである、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖可変領域(VH)と、軽鎖可変領域(VL)とを含む、PD-1に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)が、以下の(1)~(3)のいすれかのVH配列およびVL配列の組み合わせを含む、抗体またはその抗原結合断片:
(1)VH配列がSEQ ID NO:49、50、51または59で表されるアミノ酸配列を含み、VL配列がSEQ ID NO:52、53、54または60で表されるアミノ酸配列を含み、あるいは
(2)VH配列がSEQ ID NO:42、43、44または57で表されるアミノ酸配列を含み、VL配列がSEQ ID NO:45、46、47、48または58で表されるアミノ酸配列を含み、あるいは
(3)VH配列がSEQ ID NO:55で表されるアミノ酸配列を含み、VL配列が
SEQ ID NO:56で表されるアミノ酸配列を含む。
【請求項3】
前記抗体または抗原結合断片は、イヌ化抗体またはその抗原結合断片である、
請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸であって、前記ポリペプチドは、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、核酸。
【請求項5】
請求項に記載の1種類または複数種類の核酸を含む、ベクター。
【請求項6】
請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項7】
(a)請求項に記載の細胞に抗体または抗原結合断片を産生させるのに十分な条件下で前記細胞を培養し
(b)前記細胞により産生された抗体または抗原結合断片を採取することを含む、
抗体またはその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項8】
治療薬に共有結合する請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、抗体-薬物複合体。
【請求項9】
求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項に記載の抗体-薬物複合体を含む、がんを治療するための医薬組成物
【請求項10】
前記がんは、固形腫瘍を含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記がんは、切除不能な悪性黒色腫、転移性悪性黒色腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)、頭頸部がん、腎細胞がん(RCC)、悪性黒色腫、膀胱がん、胃がん、尿路上皮癌、メルケル細胞癌(Merkel-cell carcinoma)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)または結腸・直腸がんである、
請求項に記載の医薬組成物
【請求項12】
付加的な治療薬をさらに含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記付加的な治療薬は、
i) B-Raf阻害剤、EGFR阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、K-Ras阻害剤、c-Met阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害剤、ホスファチジルイノシトール- 3キナーゼ(PI3K)阻害剤、Akt阻害剤、mTOR阻害剤、二重PI3K/mTOR阻害剤、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)阻害剤、およびインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)阻害剤、
ii) HER3阻害剤、LSD1阻害剤、MDM2阻害剤、BCL2阻害剤、CHK1阻害剤、活性化ヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤およびエストロゲン受容体を選択的に分解可能な薬剤、
iii) トラベクテジン、ナブ-パクリタキセル、トレバナニブ、パゾパニブ、セジラニブ、パルボシクリブ、エベロリムス、フルオロピリミジン、IFL、レゴラフェニブ、レオリシン、アリムタ、ジカディア、スーテント、テムシロリムス、アキシチニブ、エベロリムス、ソラフェニブ、ヴォトリエント、パゾパニブ、IMA-901、AGS-003、カボザンチニブ、ビンフルニン、Hsp90阻害薬、Ad-GM-CSF、テマゾロミド、IL-2、IFNa、ビンブラスチン、サロミド、ダカルバジン、シクロホスファミド、レナリドマイド、アザシチジン、レナリドマイド、ボルテゾミド、アムルビシン、カルフィルゾミブ、プララトレキサートおよびエンザスタウリン、
iv) アジュバント、TLR作動薬、腫瘍壊死因子(TNF)α、IL-1、HMGB1、IL-10拮抗薬、IL-4拮抗薬、IL-13拮抗薬、IL-17拮抗薬、HVEM拮抗薬、ICOS作動薬、治療ターゲットCX3CL1、治療ターゲットCXCL9、治療ターゲットCXCL10、治療ターゲットCCL5、LFA-1作動薬、ICAM1作動薬およびセレクチン作動薬
v) カルボプラチン、ナブパクリタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、ペメトレキセド、ゲムシタビン、FOLFOXおよびFOLFIRI、ならびに
vi抗-OX40抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗-LAG-3抗体、抗-TIGIT抗体、抗-BTLA抗体、抗-CTLA-4抗体および抗-GITR抗体
からなる群から選択される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項8に記載の抗体-薬物複合体と、薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
【国際調査報告】