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特表2023-506706トラクションバッテリの状態値を決定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(54)【発明の名称】トラクションバッテリの状態値を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20230213BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20230213BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20230213BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
H01M10/48 P
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022529777
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2020080761
(87)【国際公開番号】W WO2021099102
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】102019131283.3
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522200074
【氏名又は名称】デクラ エスエー
【氏名又は名称原語表記】DEKRA SE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】リヒター,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ホイスラー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】フォン グラーベ,キム
(72)【発明者】
【氏名】モイラー,ハンス-ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ティルグナー,ジーモン
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA23
2G216BA51
2G216CB11
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
本発明は、電気自動車のトラクションバッテリの経年状態、好ましくはSoH値を特徴付ける、トラクションバッテリの状態値を決定する方法に関し、トラクションバッテリは、試験負荷によって負荷されて少なくとも1つの時点でトラクションバッテリの各出力電圧と負荷電流の値のペアが取得され、トラクションバッテリのオーム内部抵抗は、取得した出力電圧と負荷電流の値のペアに基づいて確立され、状態値は該オーム内部抵抗に基づいて確立される。トラクションバッテリを特徴付ける少なくとも1つの正規化変数が確立され、正規化変数の基準値に基づく正規化された内部抵抗が確立され、状態値は正規化された内部抵抗に基づいて確立される。本発明はさらに、電気自動車のトラクションバッテリの状態値を決定するための診断装置に関する。診断装置は、トラクションバッテリに直接又は間接的に結合可能で方法を実行するように設定された評価ユニットを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車(20)のトラクションバッテリの経年状態、好ましくは該トラクションバッテリのSoH値を特徴付ける、該トラクションバッテリの状態値を決定する方法であって、
前記トラクションバッテリは、試験負荷によって負荷され且つ少なくとも1つの時点において、該トラクションバッテリの各出力電圧と負荷電流の値のペアが取得され、
前記トラクションバッテリのオーム内部抵抗は、前記取得した出力電圧と負荷電流の値のペアに基づいて確立され、
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記確立されたオーム内部抵抗に基づいて確立され、
前記トラクションバッテリを特徴付ける少なくとも1つの正規化変数が確立され、前記確立されたオーム内部抵抗及び前記少なくとも1つの正規化変数に基づいて、前記正規化変数の基準値に基づく正規化された内部抵抗が確立され、
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記正規化された内部抵抗に基づいて確立されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記負荷電流は、前記電気自動車(20)の評価走行中に生成され、
前記試験負荷は、前記電気自動車(20)のユニットによって、好ましくは前記電気自動車(20)の駆動モーターによって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1正規化変数は、前記出力電圧値と負荷電流の値の取得中の前記トラクションバッテリの温度であり、
前記第1正規化変数の基準値は、基準温度であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2正規化変数は、前記トラクションバッテリの種類を特徴付け、
前記第2正規化変数の基準値は、異なる種類のトラクションバッテリを互いに関連付ける正規化係数であり、
前記正規化係数は、少なくとも1つのバッテリタイプパラメータに基づいて指定されていることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記状態値は、数学的モデル又は表、好ましくはルックアップテーブル又は性能マップを用いて前記正規化された内部抵抗に基づいて確立され、
前記数学的モデル又は前記表を記述するパラメータ又は値は、好ましくはデータベースから取得されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1正規化変数は、前記出力電圧と負荷電流の値の取得中の前記トラクションバッテリの温度であり、
第1正規化変数の基準値は、基準温度であり、
前記トラクションバッテリの温度は、第1測定ステップにおいて、第1周囲温度及び前記トラクションバッテリの第1オーム内部抵抗が第1時点で確立され、所定期間経過後の第2測定ステップにおいて、第2周囲温度及び前記トラクションバッテリの第2オーム内部抵抗が第2時点で確立され、
前記第1及び第2オーム内部抵抗と前記所定期間との差に基づいて、内部抵抗の変化率が確立され、
前記内部抵抗の変化率に基づいて、前記周囲温度と前記トラクションバッテリの温度との間の温度差が確立され、
前記トラクションバッテリの温度は、前記第1及び/又は第2周囲温度から確立された基準周囲温度及び前記確立された温度差を加えることによって確立されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記所定期間は、5分~15分であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記第2オーム内部抵抗に基づいて確立されていることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記負荷電流は、前記試験負荷の接続時に、前記負荷電流が電流のステップ変化を有するように前記試験負荷によって進行することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスは、前記試験負荷の接続から開始されて取得され、
前記測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの出力電圧と負荷電流の基準値のペアは、前記試験負荷が接続される前に追加で取得され、それに基づいて開回路電圧及び閉回路電流が確立されており、
前記測定シーケンスの各値のペアの前記オーム内部抵抗は、前記取得した出力電圧と前記開回路電圧の差、及び前記取得した負荷電流と前記閉回路電流の差の商として確立され、
前記測定シーケンスのプロファイルをモデル化する対数関数のパラメータは、数学的調整微積分によって前記測定シーケンスに対して確立され、
前記対数関数に基づいて、前記オーム内部抵抗は、所望の時点、好ましくは電流の前記ステップ変化の時点、又は対応する周波数で確立されていることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対数関数は、次の式で決定されており、
【数1】
ここで、tは前記負荷が接続されてからの経過時間であり、R(t)は時間tにおける補間内部抵抗であり、toffsetは実際の起動時間と推定起動時間との間の時間であり、a及びbはパラメータであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
予想される負荷電流は、前記試験負荷、好ましくは前記試験負荷のオーム抵抗、及び前記トラクションバッテリの前記出力電圧によって予め決定され、
前記予想される負荷電流と前記取得した負荷電流との差が所定の許容値を超える値のペアは、前記トラクションバッテリの前記オーム内部抵抗を確立するために考慮されないことを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記トラクションバッテリの少なくとも1つの前記出力電圧と負荷電流の値のペアは、複数のパスで取得され、
各パスにおいて、前記試験負荷は接続され、前記パスの終了時に再び取り外され、パスの少なくとも1つの時点で各値のペアは取得され、前記トラクションバッテリの各オーム内部抵抗は、前記取得した値のペアに基づいて確立され、
前記オーミック内部抵抗の平均値は、前記複数のパスで確立された各オーミック内部抵抗から確立され、
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記オーム内部抵抗の前記平均値に基づいて確立されていることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記トラクションバッテリの前記オーム内部抵抗を確立することは、
値のペアの少なくとも1つの値について、各有効な測定範囲が定義されるステップであって、一方又は両方の値が前記各測定範囲の外にある場合、前記値のペアは考慮されず、前記測定範囲は、好ましくは、関連する値の絶対値又は変化率に基づき定義されているステップと、
出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得されるステップであって、前記試験負荷は、前記測定シーケンスの期間中に接続され、前記測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、前記ペアの一方又は両方の値が前の時点で取得された少なくとも1つの値のペアの対応する値と等しい場合、値のペアは考慮されないステップと、
出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得されるステップであって、前記試験負荷は前記測定シーケンスの期間中に接続され、前記測定シーケンスは急速に連続した時点で取得された複数の前記出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、前記測定シーケンスはローパスフィルタリングが適用されているステップと、
前記出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得されるステップであって、前記試験負荷は前記測定シーケンスの期間中に接続され、前記測定シーケンスは急速に連続した時点で取得された複数の前記出力電圧と負荷電流の値のペアを含むステップとを含み、
前記オーム内部抵抗の移動平均値は、前記測定シーケンスの前記出力電圧と負荷電流との値のペアから確立され、直後に取得された2つの各値のペアに対する前記各オーム内部抵抗は、好ましくは、前記2つの出力電圧の差を前記2つの負荷電流の差で割ったものから確立され、前記オーム内部抵抗の前記移動平均は、前記確立された各オーム抵抗の前記平均によって形成されている、
又は、
前記オーム内部抵抗は、数学的調整微積分に基づいて、好ましくは最小二乗適合法に従って、前記各出力電圧と負荷電流の値のペアから確立されているステップとのうちの少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
電気自動車(20)のトラクションバッテリの状態値を決定するための診断装置(10、110)であって、
前記トラクションバッテリに直接又は間接的に結合可能であり且つ請求項1~15のいずれか1項に記載の方法を実行するように設定された評価ユニットを有する、診断装置(10、110)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車のトラクションバッテリの状態値を決定する方法であって、トラクションバッテリの経年変化状態、好ましくはトラクションバッテリのSoH値を特徴付ける方法に関し、トラクションバッテリが試験負荷によって充電又は放電され、少なくとも1つの時点において、トラクションバッテリのそれぞれの出力電圧と充電又は放電電流値の組が取得され、取得した出力電圧と充電又は放電電流値の組に基づいてトラクションバッテリのオーム内部抵抗が確立され、確立されたオーム内部抵抗に基づいてトラクションバッテリの状態値が確立される。
【背景技術】
【0002】
運輸部門では、気候変動に影響を与えるガス、特にCOの排出を削減するために、電気自動車の利用が拡大している。これは、乗用車だけでなく、トラックにも適用されている。電気自動車の運転に必要な電力の少なくとも一部は、トラクションバッテリに一時的に蓄えられ、要求に応じて利用できるようにされている。このように、記載されているトラクションバッテリは、充電式バッテリ又は蓄電池である。
【0003】
記載されている電気自動車は、必ずしも、動作電力がトラクションバッテリのみによって供給される電気自動車だけである必要はない。その代わりに、「電気自動車」の用語は、電気駆動装置が他の駆動装置、例えば内燃機関と組み合わされる車両、すなわちハイブリッド車両として知られているものも包含する。
【0004】
「電気自動車」の用語は、さらに、トラクションバッテリが外部電源によって充電される車両だけでなく、例えば燃料電池システム及び/又は太陽電池によって、少なくとも一部の電気的動作電力が車内で生成され得る車両も包含する。
【0005】
「電気自動車」の用語は、駆動力の少なくとも一部がトラクションバッテリによって提供される他のあらゆる車両、例えば、電動自転車、電動アシスト自転車及びカーゴバイクなどの電気駆動アシスト付き自転車、電動キックボード、又は電気駆動式小型モータースクーター、さらには電気駆動式車椅子も包含する。
【0006】
リチウムイオン技術に基づくセルを備えた電池は、比貯蔵容量、すなわち電池重量に対する貯蔵容量が比較的大きいため、現在、トラクションバッテリとして広く使用されている。しかし、電池セルが古くからある鉛技術に基づいているトラクションバッテリも使用されている。本明細書に記載された方法及びその有利な発展は、いずれにしても、ある特定の種類の電池セルに限定されるものではなく、代わりに、様々な種類のトラクションバッテリ又は電池セルに適用され得る。
【0007】
電気自動車のトラクションバッテリは、例えば携帯電話又は他の電気若しくは電子機器に使用されているような他の種類の充電式バッテリと同様に、経年劣化と使用による劣化、すなわち充電や放電サイクルの数によって決定される経年劣化を受ける。トラクションバッテリの経年劣化は、とりわけ、トラクションバッテリの貯蔵容量が時間とともに減少する結果となる。
【0008】
一般的なリチウムイオン電池では、元の貯蔵容量の約80%が、通常、3~4年の耐用年数後も使用可能である。6年後は、元の貯蔵容量の約60~70%しか残っていない。この点で、容量の大幅な減少は、通常、ライフサイクル全体で発生する。ただし、トラクションバッテリの実際の使用状況に応じて、貯蔵容量が大幅に異なる場合がある。高温、高い充電及び/又は放電電流、深い放電又は高い連続負荷は、特に深刻な経年劣化とそれに伴う貯蔵容量の低下を引き起こす。
【0009】
図1にトラクションバッテリの経年変化曲線の例を示す。通常の貯蔵容量Qが70Ahのトラクションバッテリの場合、この曲線は、経年サイクル数の関数としての実際の貯蔵容量Qをアンペア時(Ah)で示している。曲線の基礎となる試験は、トラクションバッテリの周囲温度40℃で実施された。充電電流は1℃であり、放電電流は経年サイクルNを決定するために3℃であった。1℃と3℃の表示では、量Cはアンペア(A)での充電又は放電電流をトラクションバッテリの公称貯蔵容量Qの数値で表す。
【0010】
トラクションバッテリ、特にリチウムイオンバッテリにおけるすべての経年劣化メカニズムはまだ完全に理解されていないが、少なくとも経年劣化プロセスがトラクションバッテリ又は電池セルのオーム内部抵抗及びある程度インピーダンス、すなわちAC抵抗にも大きな影響を与えることが知られている。
【0011】
したがって、トラクションバッテリの実際の貯蔵容量Qは、完全に充電されたトラクションバッテリを完全に放電させ、放電電流及び放電時間を連続的に測定するだけでなく、トラクションバッテリの出力電圧と充電又は放電電流の少なくとも1つの時点で確定した各値対に基づいて、試験負荷をかけることによってトラクションバッテリのオーム内部抵抗を確定する別の方法によって測定し得る。実際の容量Qとトラクションバッテリのオーム内部抵抗Rの相関関係を図2に例示する。試験負荷は、放電電流をもたらす負荷抵抗、すなわちエネルギーシンク若しくは電流消費装置、又は充電電流をもたらす充電装置、すなわちエネルギー源又若しくは電流発生装置の形態をとり得る。したがって、負荷電流は放電電流又は充電電流であってもよい。
【0012】
この相関関係を用いて、トラクションバッテリの経年劣化状態を特徴付けるトラクションバッテリ状態値を確立することが可能である。トラクションバッテリの実際の貯蔵容量は、例えば、状態値として確立され得る。ただし、状態値を健康値の形式で示すのがより一般的であり、ここで、「健康値」は、より一般的な用語である「SoH値」(SoH=「State of Health」)と同義として使用される。SoH値は、経年劣化により低下したトラクションバッテリの現在の貯蔵容量と、本来の、理想的な又は公称の貯蔵容量の比を表し、一般的にはパーセントで表示される。
【0013】
既知の試験負荷の適用時に取得した出力電圧と充電又は放電電流値の組に基づいて、上記のようなトラクションバッテリのオーム内部抵抗を確立することは、バッテリ又は電池セルの電気モデル又は等価回路図に基づくものである。図3は、そのような例示的な等価回路図を示し、電圧源、各種抵抗R~R及び各種コンデンサC~Cからなる電池セルの構造を特徴付けるものである。また、他の等価回路図、例えば1つの直列オーム内部抵抗Rと1つのR-C素子R、Cのみを使用することも可能である。バッテリの挙動をシミュレーションするためのこのような電池モデル又は等価回路図の有用性は、先行技術において何度も実証されており、例えば、刊行物「Beitrag zur Bewertung des Gesundheitszustands von Traktionsbatterien in Elektrofahrzeugen」(電気自動車におけるトラクションバッテリの健康状態の評価への貢献)、Phan-Lam Huynh,Wissenschaftliche Reihe Fahrzeugtechnik Universitat Stuttgart,ISBN 978-3-658-16561-1,2016において実証されている。パラメータ、すなわち特に等価モデルの抵抗値及び容量値を確立するために、負荷誘発電流パルス及び充電又は放電電流の結果としての電圧降下又はその時間プロファイルを確立するためのテスト装置が使用され得る。
【0014】
調査の結果、上記のパラメータは、特にバッテリの充電状態(SoC)、健康状態(SoH)及び温度に依存することが判明した。特に、オーム抵抗(R)は、電池の温度と充電状態(SoC)に依存する。SoCは、蓄電池の現在の充電状態を表し、通常パーセント値で表記され、100%は蓄電池が完全に充電されている状態を表す。100%から充電状態を引いた値が放電深度(DoD又はDOD)である。
【0015】
さらに、充電/放電回数とそれに伴うSoHの減少により経年劣化が進むと、特にオーム抵抗Rが増加することが分かっている。抵抗R~R及び容量C~Cについては、比較的小さな変化が見られる。
【0016】
抵抗R~R及び容量C~Cは、バッテリの温度上昇に対して比較的変化が少ない。一方、オーム抵抗Rは温度上昇に伴い大きく減少する。
【0017】
さらに、オーム抵抗Rは、一般に10~90%、特に30~90%の広いSoC範囲にわたって実質的に一定であることが分かっている。また、バッテリが90%以上放電するまでは、オーム抵抗Rの大きな上昇も見られない。
【0018】
要約すると、個々のセルで実行された調査では、実質的に温度と経年変化のみが等価モデルの抵抗値と静電容量値に大きく影響するのに対し、セルの充電状態はオーム抵抗にほとんど影響しないことが明らかになった。
【0019】
さらに、バッテリの経年変化について結論を出すには、オーム抵抗Rの値が最も適していることが分かっている。トラクションバッテリの貯蔵容量は経年変化により減少するのに対し、内部抵抗は増加することが知られている。さらに、例えば高速自動車道路の走行など、長時間の連続負荷がかかると内部抵抗が増大し、連続負荷の増大とともに電力供給能力が損なわれることが知られている。例えば、図10は、トラクションバッテリの放電が続くと内部抵抗Rが増加する傾向を示しており、時間の経過とともに、図3のバッテリ等価回路図を参照して、さらなるR-C素子の影響により、長時間にわたって、すなわち長期間の負荷の下で明らかに非線形内部抵抗挙動となり、アイドル状態での内部抵抗Rの倍数となり得る。従来の方法では、通常、連続的な電力能力を評価するためにこの総抵抗値を考慮し、図3の等価回路図の直列内部抵抗Rの大きさを把握するのには適さない。
【0020】
トラクションバッテリの状態を測定するための従来の方法は、エネルギーを大量に消費する完全放電プロセスによって特徴付けられる。この場合、放電速度、初期放電電圧、最終放電電圧及び考慮すべき温度などのパラメータが誤差になるため、判定が不確かになる。診断決定の従来の時間は、少なくとも3時間であった。電流や電圧などのバッテリ値を取得するためには、物理的な測定ポイントにガルバニック接続するために車両のアタッチメントを分解する必要がある。また、例えば、ローリングロードテスト装置、ロードテスト又はバッテリテストシステムのような連続放電負荷が必要であり、これは時間と労力がかかり、診断の完了後にトラクションバッテリの再充電を伴う高いエネルギー投入を意味する。
【0021】
インピーダンス分光法は、別の診断方法である。これは、交流電圧又は電流の周波数の関数として、トラクションバッテリのインピーダンス、すなわちAC抵抗を測定することを含む。インピーダンス分光法は、通常、交流電圧を印加することによって行われる、すなわち作動電極の電位が正弦波変調され、電流とその位相が測定される。しかし、この場合、バッテリに直接ガルバニック接続する必要があり、結果の解釈も複雑になる。
【0022】
電気自動車の技術調査及び/又は評価、特に中古車の商業評価においては、環境の影響又は特定の測定条件に左右されずにトラクションバッテリの状態を把握することも望まれる。
【発明の概要】
【0023】
本発明によって対処される課題は、トラクションバッテリの状態値、好ましくはSoH値を迅速かつ簡単に確立することができるように、最初に述べた種類の方法をさらに発展させることである。
【0024】
この課題は、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。本方法の有利な発展は、従属請求項に記載されている。
【0025】
本発明は、トラクションバッテリを特徴付ける少なくとも1つの正規化変数が確立され、確立されたオーム内部抵抗と少なくとも1つの正規化変数に基づいて、正規化変数の基準値に基づく正規化された内部抵抗が確立され、正規化された内部抵抗に基づいてトラクションバッテリの状態値が確立されることを提供するものである。したがって、トラクションバッテリのオーム内部抵抗は、1つ以上の正規化変数に対して正規化され得る。これらの正規化変数は、特に、各場合においてトラクションバッテリの特性又は状態を特徴付けるパラメータであり、確立された内部抵抗値に影響を及ぼし得る。正規化変数の一例は、以下でより詳細に説明するように、トラクションバッテリの温度である。
【0026】
複数の正規化変数が考慮される場合、正規化された内部抵抗は、複数の反復で確立され得、各場合で、後続の正規化ステップにおいて、それぞれの正規化された内部抵抗は、先行する正規化ステップで確立された正規化された内部抵抗、及び後続の正規化ステップの少なくとも1つの正規化変数に基づいて確立され、この正規化変数の基準値に関連するさらなる正規化された内部抵抗が確立されている。
【0027】
このように、測定されたオーム内部抵抗は、1つ以上の正規化変数に対して正規化された内部抵抗に変換され、正規化による内部抵抗決定の境界条件を排除することによって、異なるトラクションバッテリで異なる条件下で実施された内部抵抗測定の比較可能性を可能にする。正規化された内部抵抗は、その後、最終的にトラクションバッテリの状態値、例えばSoH値を確定するために使用され得、ここで、数学的関数又は表、例えばルックアップテーブルを基礎として使用され得る。電流I1、I2及び電圧U1、U2の少なくとも2つの値の組は、抵抗を確立するための少なくとも1つの差動電流dI=I2-I1及び少なくとも1つの差動電圧dU=U2-U1を決定するために、この目的のために好ましく確立され、ここで内部抵抗はR=dU/dIから生じる。
【0028】
一般に、内部抵抗を確立するために、試験負荷による充電又は放電は、充電電流又は放電電流がステップ変化関数に従って変化するように設計される。出力電圧及び/又は負荷電流の変化の時間的挙動を確立するためにも、負荷のステップ変化の前後に時間的に複数の値の組を取得するように規定されてもよく、ここで時間間隔は等距離又は変形であり得る。測定値密度は、負荷電流範囲で直接的に増加させることが好ましい。
【0029】
状態値を確定するための正規化された内部抵抗は、簡単に確立することができる。この値は、例えば、特性関数を使用して、わずかな信号処理の労力で確立され得る。考えられる1つの代替的な解決策は、複数の関連するパラメータを考慮しなければならない基準性能マップに基づくものであるが、本発明による解決策よりもかなり複雑である。特に、本発明による正規化方法は、前記状態値とオーム内部抵抗との間の相関を確立するために、特定の種類の電池セルの初期特性評価に関わる労力を大幅に削減することを可能にする。これにより、状態、特にSoHに関して異なる経年変化状態を有し得る異なる種類のトラクションバッテリを迅速かつ経済的に評価することが可能になる。
【0030】
したがって、トラクションバッテリの状態は、数分で非常に迅速に、安価に、低い誤差許容度でかつ分解することなく確立され得る。本発明による方法は、トラクションバッテリへのエネルギー負荷が低いことが特徴である。さらに、診断装置として、コンパクトで安価な試験装置のみが必要とされる。正規化手法により、比較的わずかな誤差しか生じず、製造者が提供するエネルギーバッファからの独立が実現される。トラクションバッテリ又は電流-電圧測定用の測定ポイントに直接ガルバニック接続する必要はない。
【0031】
測定値は、車両の診断インターフェース、すなわちOBD(オンボード診断)インターフェースを介して間接的に取得され得る。測定値は、K-Lineなどの標準プロトコルのシリアルインターフェース又はCANバスを介して標準的なコネクタから取得され得る。これは通常、プラグインドングルを使用し、必要に応じてスマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどのモバイルデータ端末の形式で診断装置にワイヤレス接続することで実現され得る。
【0032】
この方法の好ましい発展によれば、放電は、電気自動車の評価走行中に進行し、試験負荷は、電気自動車のユニット、好ましくは電気自動車の駆動モーターによって形成される。試験負荷は、例えば、短時間強く加速し、その後ブレーキをかけることによって、充電又は放電プロセスを開始するように接続され得る。内部抵抗を確定するためのブレーキも省略され得、主に試験走行特有の理由で行われる。この結果、トラクションバッテリに大きな負荷がかかる。例えば、このような評価走行は、100m未満、好ましくは50mまでの距離で十分である場合がある。評価走行は、任意に、1回又は複数回繰り返されてもよい。ここでは、負荷電流に影響を与えるのに適したこの評価走行の境界条件(例えば電気自動車の種類、一般的な気象条件、状況、道路の状態、道路の傾斜、電気自動車の負荷又は駆動モータコントローラの影響)を、例えば、境界条件のためのそれぞれの範囲が過小又は超過しないように規定する方法で考慮するように努力されてもよい。代替的又は追加的に、境界条件は、1つ以上のさらなる特性化正規化変数の形で方法に含まれることによっても考慮されてもよい。試験負荷の暴露時間は、10~100msから10秒までの範囲で非常に短くされ得る。しかし、試験負荷は、1秒~30秒、さらには2分まで、特に5分~15分続いてもよい。負荷電流は、通常、放電電流であってもよいが、課せられた充電電流であってもよい。
【0033】
この方法のさらに好ましい発展によれば、第1正規化変数は、出力電圧値及び負荷電流値の取得中でのトラクションバッテリの温度であり、第1正規化変数の基準値は、基準温度である。したがって、特定のバッテリ温度で確立された内部抵抗は、基準温度に基づいて正規化された内部抵抗に変換され得る。
【0034】
第2正規化変数は、好ましくは、トラクションバッテリの種類を特徴付け、第2正規化変数の基準値は、異なる種類のトラクションバッテリを互いに関連付ける正規化係数であり、正規化係数は、少なくとも1つのバッテリタイプパラメータに基づいて規定される。バッテリタイプパラメータは、例えば、リチウムイオン又は鉛技術などのトラクションバッテリのセルタイプを特徴付けてもよく、及び/又は、例えば、直列及び/又は並列に接続された特定数の電池セルなどのトラクションバッテリのセルの配置の種類を表してもよい。正規化係数は、好ましくは経験的に、例えば新品同様の状態にある所定の種類の電池の基準測定値によって得られる。原則として、数学的又は統計的方法も、正規化係数を確立するときに追加で使用され得、すなわち、並列接続された特定の行数と行ごとの特定の数のバッテリを備えたバッテリに対して確立されたバッテリタイプパラメータ又は関連する第2正規化係数は、指定されたセル数がこれとは異なるバッテリに変換され得る。正規化係数は、一般に無次元である。
【0035】
さらに、トラクションバッテリの充電状態(SoC)など、さらなる正規化変数も考慮され得る。
【0036】
本方法のさらに好ましい発展によれば、状態値は、数学的モデル又は表、好ましくはルックアップテーブル又は性能マップを用いて正規化された内部抵抗に基づいて確立され、数学的モデル又は表を説明するパラメータ又は値は、好ましくはデータベースから取得される。データベースは、好ましくは、サーバに格納され、パラメータ又は値は、例えばモバイルデータリンク又はインターネット接続などの無線及び/又は有線データリンクを介して取得される。このようにして、状態値が正規化され得る、すなわち、基準値を用いて比較可能な変数に変換され得る。
【0037】
本方法のさらなる有利な発展として、第1正規化変数が、出力電圧値及び負荷電流値の取得中でのトラクションバッテリの温度であり、第1正規化変数の基準値が基準温度であることが提供される。この目的のために、トラクションバッテリの温度は、第1測定ステップにおいて、第1周囲温度及びトラクションバッテリの第1オーム内部抵抗が第1時点で確立され、所定期間経過後の第2測定ステップにおいて、第2周囲温度及びトラクションバッテリの第2オーム内部抵抗が第2時点で確立されるように確立されている。第1と第2オーム内部抵抗との差及び所定期間に基づいて、内部抵抗の変化率が確立される。内部抵抗の変化率に基づいて、周囲温度とトラクションバッテリの温度との温度差が確立される。トラクションバッテリの温度は、第1及び/又は第2周囲温度から確立された基準周囲温度及び確立された温度差を加えることで確立される。
【0038】
既に上述したように、トラクションバッテリのオーム内部抵抗は、トラクションバッテリの温度に相当程度依存する。多くの電気自動車では、バッテリ電圧及び充電又は放電電流を確立するためにトラクションバッテリに直接アクセスすることができない。これらのパラメータは、車両診断システム(OBD、オンボード診断)のインターフェースで、電流値及び電圧値と同様に、例えば一定の固定又は可変サンプリングレートで生成される値の組の形で、定期的に提供される。しかし、多くの場合、任意で1つ以上の場所で車両診断システムによって確立される可能性があるバッテリ温度は、提供されないか、又は暗号化された形式でのみ提供される。特定の状況下では、バッテリ温度は、かなりの時間又は処理労力のみで読み出され得、製造者固有の要件がしばしば考慮されなければならない。
【0039】
上述した方法の発展は、バッテリ温度を間接的に確定する1つの可能な方法を提供する。この方法は、周囲温度から逸脱したバッテリ温度が、少なくともバッテリ温度が長時間の充電及び/又は放電処理によって影響されない場合、時間とともに周囲温度に適応するという事実を利用するものである。バッテリ温度の周囲温度への適応は「順応勾配」に従って行われ、これは使用する電池の種類に特徴的であり、特にトラクションバッテリの設計、特にトラクションバッテリに存在する電池セルの数及び配置に依存する。トラクションバッテリは、その内部抵抗の変化率、すなわち単位時間当たりの抵抗値の差を有し、これはバッテリ温度と周囲温度との差、すなわち温度差に依存する。この内部抵抗の変化率の温度差に対する依存性は非線形関数で記述される。内部抵抗の変化率の測定に基づいて、測定時の温度差を確定することができる。トラクションバッテリの温度は、基準周囲温度と確立された温度差から計算され、基準周囲温度は、例えば、第1及び第2周囲温度を平均化することによって確立されてもよい。周囲温度が2つの指定された時点の間で変化していないか、又は大きく変化していないと仮定すると、基準周囲温度は第1又は第2周囲温度と同等にされ得る。
【0040】
2つの測定ステップ間の上記所定期間は、好ましくは5分~15分である。この期間内に、トラクションバッテリの温度の十分に大きな変化は、トラクションバッテリのオーム内部抵抗の対応する変化をもたらすことが期待され得る。
【0041】
原則として、第1オーム内部抵抗は、トラクションバッテリの状態値を決定するために使用され得る。本方法の好ましい発展によれば、トラクションバッテリの状態値は、第2オーム内部抵抗に基づいて確立される。この目的のために、第2オーム内部抵抗を確立する時点では、バッテリ温度は、最初の時点の場合よりも周囲温度に近似していることが仮定される。そのため、温度差が小さくなり、内部抵抗の変化率も小さくなるため、測定精度が向上する。また、温度を確定するために第2時点で測定した実際のオーム内部抵抗が状態値を確定するために使用され得るため、改めてオーム内部抵抗を測定する必要がない。
【0042】
負荷電流の電流プロファイルは、試験負荷の印加に伴って変化する。これは、例えば、電流ランプ、すなわち、充電又は放電電流の直線的な上昇又は下降の形態を取ってもよい。本方法のさらなる有利な発展によれば、試験負荷が接続されたときに負荷電流のステップ変化を有するように、試験負荷によって充電又は放電が進行する。したがって、負荷電流は、ステップ変化応答の形で測定され得る。
【0043】
好ましくは、出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが試験負荷の接続から開始されて取得され、測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含む。このようにして、出力電圧及び負荷電流の時間プロファイルが確立され得るので、内部抵抗の非オーム成分、すなわちインピーダンスが最終的に確立され得る。インピーダンスは、虚数部、すなわちリアクタンスと実数部、すなわちオーム抵抗から構成される。リアクタンスは一般に無視できるほど小さいので、インピーダンスはオーム抵抗をかなり正確に推定する。
【0044】
したがって、測定シーケンスは、試験負荷が接続されたときに発生する負荷又は電流のステップ変化に対するステップ変化応答を表している。各値の組が取得される時間間隔は、一定であってもよく(すなわち、固定サンプリング周波数又は速度が提供される)又は変動してもよく、ここで、時間密度は、負荷のステップ変化の時点であることが好ましい。時間間隔は、任意に、OBDによって指定されてもよく、影響を受けないようにしてもよい。
【0045】
電流又は負荷のステップ変化を最適にサンプリングし得るようにするために、測定シーケンスは、遅くとも試験負荷の接続時に直ちに最初の値の組を取得するように取得され得、ただし、測定シーケンスは、好ましくは電流のステップ変化の数ミリ秒前に記録されてもよい。したがって、「試験負荷の接続から開始する」という表現は、この場合も含む。
【0046】
好ましくは、試験負荷が接続される前に、少なくとも1つの出力電圧と負荷電流の値のペアが追加で取得され、それに基づいて開回路電圧Uと閉回路電流Iが確立されることが提供される。これに基づき、測定シーケンスのさらなる各値の組に対するオーム内部抵抗は、取得した出力電圧と開回路電圧Uとの差、及び取得した負荷電流と閉回路電流Iとの差の商として確立され得る。測定シーケンスのプロファイルをモデル化する対数関数のパラメータは、次に、数学的調整微積分によって測定シーケンスに対して確立され得、対数関数に基づいて、オーム内部抵抗は、所望の時点、好ましくは電流のステップ変化の時点、又は対応する周波数で少なくとも近似的に確立され得る。
【0047】
開回路電圧U又は閉回路電流Iは、トラクションバッテリにベース負荷が負荷されたときに優勢となる出力電圧又は負荷電流それぞれを意味し、ベースロードは試験負荷よりも実質的に高いオーム抵抗を有する。
【0048】
調査の結果、内部抵抗の時間プロファイルは、試験負荷の接続直後から対数関数のプロファイルをもつことが判明している。ここで説明するように、実際に測定された内部抵抗を所望の時点、特に電流のステップ変化の時間に関して確立し得るため、対数関数のパラメータを測定シーケンスの値の組に当てはめることによって、オーム内部抵抗は特に正確に確立され得る。対数関数による補間は、内部抵抗Rが、負荷起動時間tに非常に近い時点、又は別の時点tで、この時点について利用可能なデータがないか不正確なデータしかない場合でも、比較的高い精度で行われ得ることを意味する。
【0049】
また、各値の組を取得する時点と、課された電流のステップ変化(試験負荷の接続)の時点との間の時間基準を正確に記録し得ない場合、補償関数を使用することが特に有利である。対数関数のプロファイルから、例えば時間的なシフト定数toffsetを導入して時間的な相関が確立され得、関数曲線と測定値との間のシフト定数toffsetの変動に対する決定係数Rを最大にすることによって、ステップ変化時間ができるだけ正確に推定され得る。決定係数Rは、この関連で、測定値が内部抵抗の想定モデルにどの程度適合するかを評価するために、回帰、特に内部抵抗挙動の回帰関数の適合度を説明するものである。
【0050】
補償関数の評価では、冒頭で説明したように、トラクションバッテリの内部抵抗が複素数値、すなわち周波数に依存しない実数部と周波数に依存する虚数部とを含むことも考慮する。複素内部抵抗の実数部は、オーム内部抵抗に相当し、試験条件によっては、後者は通常、直接測定できない。内部抵抗の虚数部は実数部よりかなり、つまり約1桁小さいが、内部抵抗を確定するときに虚数部を考慮することで精度を向上させ得る。なお、虚数部が全インピーダンスに与える影響は、原則として無視できる程度である。
【0051】
原則として、内部抵抗はステップ変化応答だけでなく、周期的に負荷を変化させ、その負荷変化の周期又は周波数を変化させることによっても確立され得る。この方法はインピーダンス分光法として知られている。このようなインピーダンス分光法の結果は、図13に例示的なトラクションバッテリについて示されており、実数部Re(Z)及び虚数部Im(Z)を確立することは、比較的大きな技術的努力を伴う。図13は、ナイキストプロットとして知られているものを示し、すなわち、複素内部抵抗Zの虚数部Im(Z)及び実数部Re(Z)の各点は、特定の周波数で表されている。
【0052】
トラクションバッテリの内部抵抗の時間プロファイルが、種類、年数、充電状態、温度及びその他のパラメータで既知の場合、負荷起動時間の位置は、適合した対数関数を使用して比較的正確に決定され得る。又は、この起動時間は、この時点の想定位置を変化させて決定係数Rを最大にすることで推定され得る。
【0053】
この目的のために、Rは、説明した最小二乗法を用いて、バッテリの測定プロファイルによって確立する。結果として得られる内部抵抗Rは時間に依存し、原則として以下の式に従って決定され得る。
【数1】
ここで、tは負荷が接続されてからの経過時間、R(t)は時間tにおける内部抵抗の補間値、a及びbはパラメータである。この場合、bは1Hzの調査周波数での内部抵抗R、又はステップ変化機能適用時の1秒後の内部抵抗に相当する。係数aは、前述の等価モデル(図3)におけるRC素子の時間応答への影響に近似する。
【0054】
上記の依存関係は、洗練された形式で次のようにも表現され得る。
【数2】
ここで、toffsetは、実際の起動時間と疑わしい起動時間との間の時間である。この目的のために、最適化を使用して、toffsetの良好な推定は、決定係数Rの最大値によって行われ得、決定係数Rは、回帰の適合度、すなわち、測定値が基礎となるバッテリモデルにどれだけ適合しているかを評価するのに役立つ。これにより、推定されたスイッチング時間と実際のスイッチング時間との差を決定し、実際のスイッチング時間を確定する。したがって、toffsetは最初はゼロに設定されてもよい。決定係数Rは、曲線の品質を決定するために使用され得る。toffsetを変化させることにより、Rが最大となるように最適化することができ、その結果、起動時間を比較的正確に推定することができる。起動時間は、t1Sek-toffset-1Sekになる。これは、ステップ変化励起にのみ適用され、傾斜励起には限られた用途にしか使えない。
【0055】
また、上記に類似した式は、代わりに、内部抵抗Rの調査周波数fへの依存性を表し得、その場合、以下のようになる。
【数3】
【0056】
さらに、より高い信号処理精度を実現するための最適化手法を以下に提案する。
【0057】
さらなる好ましい発展によれば、予想される負荷電流は、試験負荷によって、好ましくは試験負荷のオーム抵抗によって、及びトラクションバッテリの出力電圧(例えば、公称出力電圧又は開回路出力電圧)によって予め決められ、予想される負荷電流と取得した負荷電流との差が所定の許容値を超えているそれらの値の組は、トラクションバッテリのオーム抵抗の確立のために考慮されない。これにより、状態値を確立する際に、ありえない値の組を除外することができる。記載された許容値は、例えば、予想される負荷電流の20%、好ましくは10%、特に好ましくは5%であってもよい。
【0058】
さらなる好ましい発展として、トラクションバッテリの少なくとも1つの出力電圧と負荷電流の値のペアが複数のパスで取得されることが提供され、各パスにおいて試験負荷が接続され、パスの終了時に再び取り外され、パスの少なくとも1つの時点で各値の組が取得され、トラクションバッテリの各オーム抵抗が、取得した値の組を基にして確立される。そして、オーム内部抵抗の平均値は、複数のパスにおいて確立された各オーム内部抵抗から確立され、そのトラクションバッテリの状態値は、オーム内部抵抗の平均値に基づいて確立される。このように試験負荷を繰り返し接続することで、平均化による状態値の確立の精度を向上させることができる。
【0059】
さらなる好ましい発展として、トラクションバッテリのオーム内部抵抗を確立することは、さらに、以下のステップのうちの少なくとも1つを含むことが提供される。
【0060】
a)値の組の少なくとも1つの値について、それぞれの有効な測定範囲が定義され、値の組は、一方又は両方の値がそれぞれの測定範囲外にある場合、考慮されず、測定範囲は、好ましくは、関連する値の絶対値又は変化率に基づいて定義される。
【0061】
技術的な欠点は、期待値からの著しい逸脱によって目立つ、個々の誤った測定値が収集されることを意味してもよい。このような異常値は、状態値を確定する際に重大なエラーを引き起こす。これらの誤った測定値は、固定された基準に従って評価され、選別されてもよく、選別のために様々な基準が定義されてもよい。値の組の電圧及び/又は電流が期待される測定範囲から著しく外れている場合、その値の組は破棄され得る。測定値は、絶対的にも時間的にも隣接する測定値に対しても評価され得る。
【0062】
b)出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得され、試験負荷は測定シーケンスの期間中に接続され、測定シーケンスは、ある時点で急速に連続して取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、この組の一方又は両方の値が、前の時点で取得された少なくとも1つの値の組の対応する値と等しい場合、値の組は考慮されない。
【0063】
これにより、例えば、測定値のペアの一方又は両方が、エラーによって連続した1回以上の測定で変化しない「動かない」測定値を選別することができるようになる。
【0064】
c)出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得され、試験負荷は測定シーケンスの期間中に接続され、測定シーケンスはある時点で急速に連続して取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、測定シーケンスはローパスフィルタリングにかけられる。
【0065】
ローパスフィルタリングは、特に複数のパスで測定を繰り返すことが不可能な場合、測定値に誤りがあった場合の状態値を確立する精度を向上させ得る。
【0066】
d)出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得され、試験負荷は測定シーケンスの期間中に接続されており、測定シーケンスは、ある時点で急速に連続して取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、ここで、d1)オーム内部抵抗の移動平均値は、前記測定シーケンスの出力電圧と負荷電流の値のペアから確立され、直前に連続して取得された2つの各値のペアに対する各オーム内部抵抗は、好ましくは2つの出力電圧の差を2つの負荷電流の差で割った値から確立され、この方法で確立された各オーミック抵抗の平均によってオーミック内部抵抗の移動平均が形成されるか、d2)オーム内部抵抗は、各出力電圧と負荷電流の値のペアから、数学的な調整微積分に基づいて、好ましくは最小二乗適合法に従って確立される。
【0067】
変形例d1によれば、評価、すなわちオーム抵抗の確立は、同じ測定シーケンスに対して連続して繰り返し実行され、その結果、平均値が形成される。
【0068】
移動平均を確立することの代替として、変形例d2によれば、オーム内部抵抗は、数学的な調整微積分に基づいて、好ましくは最小二乗適合法に従って、複数の値ペアから確立され得る。グラフの用語では、電圧は、各値のペアについて電流(又はその逆)に対してプロットされ、最小二乗適合原理に従って最良適合線が確立される。上記の代替移動平均法と比較して、調整微積分を使用すると、値のペアの数が非常に少ない場合でも信頼できる結果が得られる。
【0069】
インデントd)の両方の方法は、範囲、四分位範囲、分散、散布図又は標準偏差を確立するようなさらなる統計的手順を用いることでさらに改善し得、必要であれば、データ品質が低すぎる場合に破棄されてもよい。これらの統計的手法は、測定結果と生の測定データ、すなわち元の電流値及び電圧値の両方に適用され得る。
【0070】
また、これらの上記方法の2つ以上を互いに組み合わせて、データ品質をさらに向上させ得る。
【0071】
電流、特に閉回路電流Iと電圧、特に開回路電圧Uとの直接的な測定値のペアがない場合、電圧-電流線図でトラクションバッテリの電圧、特に開回路電圧は、近似的に決定され得る。この目的のために、電流と電圧の少なくとも2つ、特に複数の測定値のペアは比較され、最小二乗法によって測定値のペアを通る最良適合線が確立される必要がある。例えば、この最良適合線と電流軸Iとの交点、すなわち閉回路電流Iにおける交点を決定すれば、現在の充電状態における電池の開回路電圧Iを推定することが可能になる。
【0072】
負荷電流によるトラクションバッテリの励起は、充電電流又は放電電流の形態で進行されてもよい。励起は、傾斜励起又はステップ変化タイプの励起であってもよい。ステップ変化タイプの励起がある場合、先に確立された開回路電圧U及び閉回路電流Iは、内部抵抗Rを決定するための基準として使用されてもよい。ステップ変化時間の同定は、曲線フィットの決定係数Rを最適化することで改善され得る。さらに、時間依存の内部抵抗R(t)の同定が改善され得る。
【0073】
本発明はさらに、電気自動車のトラクションバッテリの状態値を決定するための診断装置に関し、診断装置は、トラクションバッテリに直接又は間接的に結合可能な評価ユニットを備え、本発明による上述の好ましい実施形態の1つによる方法を実行するように設定されている。診断装置のトラクションバッテリへの直接結合は、特に、診断装置がトラクションバッテリの電圧又は電流測定点に結合され得る結合を意味するものとする。特に間接結合は、診断装置、特に電気自動車のオンボード診断システム(OBD)に結合されている診断装置で構成されており、電気自動車のこの診断装置は、少なくとも出力電圧及び負荷電流値、好ましくはトラクションバッテリの温度も評価ユニットに伝送する。
【0074】
診断装置は、好ましくは、車種、バッテリの種類、過去の測定値又はフリート全体の比較値などのバッテリデータに関して、中央データリポジトリにアクセスし得る。データリポジトリは、特に、インターネット上の中央クラウドストレージとして実装されてもよい。
【0075】
有利なことに、診断装置には定期的で独立的に新しいソフトウェアアップデートが提供され得るだけでなく、中央データレポジトリには、時間的及び空間的に分散した様々な診断プロセスの測定値及び診断結果が定期的に追加され得る。これに基づく分析により、個々の車両に関連するトラクションバッテリのSoH挙動に関して、種類別の又はフリート関連の評価が行われ得る。
【0076】
本診断装置は、有利には、診断プロセスを制御し、診断データを表示するために、車両内外の試験検査の文脈で使用され得る、携帯可能で独立してワイヤレス結合可能なディスプレイ及び/又は入力デバイスから構成される。特に、診断装置は、スマートフォン、タブレット又はノートブックなどの従来のモバイル端末の形態をとり得る。
【0077】
さらなる利点は、本図面の説明によって明らかにされる。図面は、本発明の発展を示すものである。図面、説明及び特許請求の範囲には、多数の特徴が組み合わせて含まれる。当業者であれば、好都合にも、特徴を個別に検討し、それらを有意義なさらなる組み合わせにする。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】トラクションバッテリの貯蔵容量Qを経年サイクル数Nで示す図である。
図2】トラクションバッテリの容量Qと内部抵抗Rを経年サイクル数Nで示す図である。
図3】電池セル又はトラクションバッテリの等価回路図である。
図4】本発明による方法の1つの発展によるトラクションバッテリの状態値の確立を示すブロック図である。
図5】トラクションバッテリの温度Tを周囲温度に近似させることを時間tの関数として示した図である。
図6】特定の電池の種類を例として、バッテリ温度と周囲温度との温度差によるトラクションバッテリの内部抵抗の変化率を示す図である。
図7】本発明による方法のさらなる発展によるトラクションバッテリの状態値の確立を示すブロック図である。
図8】トラクションバッテリの出力電圧及び負荷電流を、試験負荷のステップ変更タイプ接続の場合の時間の関数として示す図である。
図9】トラクションバッテリの出力電圧及び負荷電流を、試験負荷の傾斜接続の場合の時間の関数として示す図である。
図10-11】トラクションバッテリの内部抵抗を、部分的に処理された様々な測定値の時間関数として示す様々な図である。
図12】最小二乗回帰直線によって確立された内部抵抗Rを備えたトラクションバッテリの電流-電圧プロファイルI/Uの図である。
図13】様々な周波数でのトラクションバッテリの複素内部抵抗Zの実数部Re(Z)及び虚数部Im(Z)を示す図である。
図14】トラクションバッテリの確立された内部抵抗の決定係数Rを、試験負荷の接続時点toffsetの変動関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
図4は、本発明の一発展による方法を実行するように設定された診断装置10による、電気自動車20のトラクションバッテリの状態値の決定を示すブロック図である。診断装置10は、少なくとも確立モジュール12と正規化モジュール14とを含む評価ユニットを有する。
【0080】
診断装置10は、電気自動車20のトラクションバッテリ(図示せず)に間接結合され、トラクションバッテリの出力電圧U、負荷電流I及び温度Tの値を評価ユニットに伝送し得る。トラクションバッテリへの結合は、対応する測定ポイント又はセンサに直接行ってもよく、電気自動車20のオンボード診断装置(OBD)へのインターフェースを介して間接的に行ってもよい。
【0081】
電気自動車20のトラクションバッテリは、トラクションバッテリを放電させるために、試験負荷、例えば電気自動車20の駆動モーターに結合され得る。
【0082】
出力電圧U及び負荷電流Iは、各値のペアの形で診断装置10に伝送され、個々の値のペア及び特定の時間間隔で確立された複数の値の組ペアの測定シーケンスの両方は、診断装置10によって取得され得る。
【0083】
確立モジュール12は、トラクションバッテリのオーム内部抵抗を決定するように設計されている。出力電圧U及び負荷電流Iからのオーム内部抵抗の実際の計算に加えて、確立モジュール12は、本発明による方法又は本発明による診断装置のさらなる発展を参照して特に以下でより詳細に説明されるように、さらなるデータ処理ステップが実施され得る。
【0084】
確立されたオーム内部抵抗は、正規化モジュール14に伝送される。さらに、トラクションバッテリの温度Tも、正規化モジュール14に伝送される。トラクションバッテリの温度Tは、以下、略称でバッテリ温度とも表記されるが、図4による例示的な実施形態では、トラクションバッテリの内部に配置され得るセンサシステムによって確立され、正規化モジュール14に伝送される。バッテリ温度Tを確立する代替的な方法は、以下でより詳細に説明される例示的な実施形態における変形例として説明される。
【0085】
上記で詳細に説明したように、トラクションバッテリのオーム内部抵抗はかなりの程度でバッテリ温度に依存するので、正規化された内部抵抗は、現在のバッテリ温度で測定されたオーム内部抵抗を正規化された内部抵抗に変換する正規化モジュールにおいて確立されている。バッテリ温度はこのように正規化変数を構成し、正規化された内部抵抗の確立において、現在確立されているオーム内部抵抗は、正規化関数又は正規化テーブルによって基準内部抵抗に関連付けられ、この基準内部抵抗は、同一又は異なる構造のトラクションバッテリに対して以前に行われた試験手順の範囲内の基準温度で確立されたものである。
【0086】
様々な種類のバッテリを考慮できるようにするために、正規化係数は、さらなる正規化変数として考慮され得る。正規化係数は、少なくとも1つのバッテリタイプパラメータに基づいて提供され得、バッテリタイプパラメータは、例えば、セルタイプ(リチウムイオン、鉛など)、直列及び/又は並列に接続された多数の電池セル又はそのようなものであってもよい。正規化係数は、例えば、新品同様の状態のバッテリ測定によって経験的に求められ得、一般に無次元である。トラクションバッテリの充電状態(SoC)は、さらなる正規化変数として考慮され得る。
【0087】
試験負荷は、例えば、電気自動車20による評価走行を、例えば最大100m、好ましくは最大50mの比較的短い距離で実施することによって接続され得、ここでは、可能な限り高い加速が有利に設定される。短い評価走行は、例えば短時間の強力な加速で構成される。原則として、負荷は一般的に様々な試験境界条件(試験者の運転スタイル、車両、気象条件、舗装面又は傾斜などの道路条件、車両負荷、車両始動制御システムの機能など)に依存する。必要な場合、関連する試験境界条件は、さらなる正規化変数の形で考慮され得る。
【0088】
正規化は、例えば、ルックアップテーブル若しくは性能マップなどの表に基づいて、又は数学的モデルに基づいて実施されてもよい。複数の正規化変数が考慮される場合、正規化、すなわち正規化された内部抵抗の確立は、複数のサブステップで実施され得る。
【0089】
正規化に必要なパラメータ、すなわち性能マップテーブル、性能マップ値、数学的モデル又は数学的正規化関数のパラメータは、診断装置10に格納され得、及び/又は診断装置10によって外部データベースから取得され得る。診断装置10は、オプションとして、これらのパラメータに対する補正値をデータベースにフィードバックしてもよい。
【0090】
正規化モジュール14は、さらに、正規化された内部抵抗に基づいて、トラクションバッテリの状態値を確立するように設計されている。本例示的実施形態では、トラクションバッテリの健康状態(SoH)が状態値として出力される。SoHは、例えば、事前の試験で経験的に確立されたSoH配分関数又は表に基づいて算出され得る。SoHは、一例として、ログ出力16の形で出力される。また、他の出力オプション、例えばディスプレイによる出力や、適切なディスプレイ、取得装置又はデータ処理装置への無線又は有線伝送による出力があることは言うまでもない。例えば、SoH値は、入力パラメータU、I、T及び任意に車両識別データなどの他の取得されたパラメータとともに、中央サーバに伝送され得、そこから、例えば電気自動車のユーザ又はワークショップに紙又は電子形式で伝送が行われる。
【0091】
このような中央データストレージの利点の1つは、様々なトラクションバッテリ又は電気自動車、たとえ最初にテストされていないものであっても、分析され得ることである。例えば、複数のバッテリ又は電気自動車からの経験値からなる一種の標準は、複数の類似したトラクションバッテリ又は電気自動車に対して定義され得る。単一の基準バッテリを参照する場合と比較して、製造公差の影響は低減され得、適切に大規模なデータベースがあれば、トラクションバッテリの経年変化も考慮され得る。
【0092】
図5図7を参照して、方法又は診断装置のさらなる有利な発展が説明される。バッテリの内部抵抗を確定するために必要な出力電圧U及び負荷電流Iの測定値は、一般に電気自動車のOBD又は別のインターフェースによって提供されるが、これはバッテリ内部の高電圧下にある部品へのアクセスが安全上の理由で通常不可能であるためである。しかし、特定の製造業者によっては、バッテリ温度Tは全く提供されないか、又は暗号化された形式でのみ提供される場合がある。診断装置又は方法をできるだけ製造業者に依存せずに使用し得るようにするために、この有利な発展は、バッテリ温度を確立するための代替方法を提供する。
【0093】
これは、状態値を決定する際に、バッテリ温度がトラクションバッテリ試験が実施される環境の温度と異なるという事実を利用するものである。図5の根拠となる例示的な状況では、電気自動車が屋外に駐車され、トラクションバッテリの温度Tが試験開始時に約4℃しかないことが想定されている。一方、試験は室温又は周囲温度が約24℃の建物内で行われる。したがって、時間tの経過とともに、バッテリ温度は4℃から周囲温度24℃まで上昇する。この過程は非線形であり、図5では実線で表されている。
【0094】
この適応曲線の2つの部分には、図5において、さらに2つの各円のペアが付されている。図5から明らかなように、曲線の勾配で表される温度変化率ΔT/tは、適応過程の開始時(左側の円のペアΔT/t1で囲まれた部分)、すなわち温度差大きい場合では比較的高く、適応が進むにつれ、すなわち環境とバッテリとの温度差(右側の円のペアΔT/t2で囲まれた部分)が減少するにつれ減少する。トラクションバッテリのオーム内部抵抗がバッテリ温度の関数として変化するという既知の事実に基づいて、バッテリ温度の変化率は、単位時間当たりの内部抵抗の変化、すなわち内部抵抗の変化率ΔT/tから確立され得る。
【0095】
ここで、図5のY軸の温度スケールを、曲線が時間とともに近づく値を0℃とする温度差とみなすように正規化すると、曲線は直接、周囲温度とバッテリ温度との温度差を示すことになる。内部抵抗の変化率に基づいて、温度変化率を求めることが可能で、上述したように図5の曲線の勾配T/tに対応する温度変化率を確立することが可能であり、関連する温度差は適切な計算ステップによって導き出され得る。周囲温度が既知であるか、又は容易に測定され得るため、バッテリ温度は、周囲温度と温度差に基づいて直接推測され得る。
【0096】
時間の経過に伴う内部抵抗の変化率ΔR/tと、周囲及びバッテリ間の温度差ΔTとの相関関係は、バッテリ固有の温度挙動に関して、図6を参照して、ΔTに対してプロットされた対応する曲線ΔR/tによって簡略的に直接表され得る。数学的モデル又は表で表され得るこの曲線に基づいて、温度差は、内部抵抗の所定の変化率に対して直接読み取られ得る。
【0097】
内部抵抗の変化率は、例えば5分~15分の間隔で、トラクションバッテリの第1オーム内部抵抗と第2オーム内部抵抗を測定することによって確立される。第1と第2内部抵抗との差を2つの測定間の時間間隔で割ると、内部抵抗の変化率ΔR/tが得られる。内部抵抗の測定と並行して、周囲温度Tも記録され得、そこからバッテリ温度は、温度差を加えることで算出され得る。周囲温度Tが測定中にわずかに変化した場合、2つの周囲温度のうちの1つ、又は異なる時間に確立された周囲温度Tの平均は、基準周囲温度として使用され得る。有利なことに、抵抗変化率を決定するためのより高い精度を達成するために、2つ以上の内部抵抗Rが確立され得る。
【0098】
図7は、本発明による方法のこの変形を実施するために設計された診断装置110を示す。診断装置110は、図4に示す診断装置10の変形例であるため、以下では、有意な相違点のみを説明する。したがって、同一又は類似の要素には、同一の参照符号を付している。
【0099】
診断装置110は、さらに、確立モジュール12によって確立された内部抵抗値Rが一時的に格納され得るバッファモジュール18を有する。電気自動車20から診断装置110にバッテリ温度Tを伝送するための規定はない。その代わりに、正規化モジュール14は、追加の入力を有し、それを介して、測定時に配置された電気自動車20の周囲の周囲温度Tを取得し得る。
【0100】
第1時点で、内部抵抗Rは出力電圧U及び負荷電流Iに基づいて確立され、バッファモジュール18に伝送されて内部抵抗値Ri1としてそこに一時的に格納される。例えば5分~15分の間の所定期間が経過すると、第2時点で出力電圧U及び負荷電流Iが測定され、確立モジュール12においてさらなる内部抵抗値Ri2に変換される。この第2内部抵抗値は、正規化モジュール14に伝送される。一時的に格納された第1内部抵抗値Ri1は、同時にバッファモジュール18から正規化モジュール14に伝送される。ここで、正規化モジュールは、2つの内部抵抗値Ri1、Ri2の差を確定し、この差を2つの測定時間の間の期間で割る。
【0101】
このようにして確立された内部抵抗の変化率に基づいて、例えば表又は数学的関数の形で診断装置110に格納され得る図6のバッテリ固有の曲線が、関連する温度差を確立するための基礎として使用される。この温度差と周囲温度Tとに基づいて、正規化モジュール14はバッテリ温度を確立し、これは図4を参照して説明された正規化の基礎として使用され得る。
【0102】
次に、本発明による方法又は本発明による診断装置10、110のさらなる発展及び変形を、図8図12を参照して説明する。
【0103】
図8は、例示的なトラクションバッテリの、充電電流のステップ変化を反映した出力電圧Uと負荷電流Iのプロファイルを示す。図8は、各時点tにおけるU及びIの測定値を示す。時間スケールの原点は、任意に選択されている。約t=6.5秒のステップ変化時間tで、充電電流の形態の試験負荷が接続され、出力電圧U及び負荷電流Iとしての充電電流がステップ変化Sとして急激に変化する。この期間は、約t=6.5sからt=7.5sの間にわたっている。その後、UとIは、非常にゆっくりとしか変化しない。UとIの記述関数は、回帰関数、例えば指数関数を用いて特定され得る。この回帰関数に時間オフセットtoffsetが設けられている場合、決定係数Rは、toffsetの種々の値について、例えば図14で示されるように、toffset及びこのように確立されたステップ変化Sの起動時間tを修正してタイムベースをシフトすることによって最大化され得る。
【0104】
図9は、トラクションバッテリの出力電圧Uと負荷電流を、試験負荷、この場合は放電電流の傾斜接続Rによる時間の関数として示したプロファイルである。t=3秒~t=6秒の間に放電電流Iは徐々に減少し、負荷終了後に電流I及び電圧Uは、閉回路電流I及び開回路電圧Uに振れて戻っている。内部抵抗の確立は、好ましくは、回帰直線によって近似され得る傾斜接続Rの負荷期間の時間間隔t~t内の測定値を考慮に入れることによって改善され、内部抵抗Rは回帰直線から正確に決定され得る。この期間を正確に決定するために、試験負荷関数に対応する負荷電流Iの回帰関数が仮定され得、期間t~tは、決定係数Rの最大化プロファイルを考慮することで正確に決定され得る。
【0105】
対応する内部抵抗値は、ある時点で確立された測定値のペアから確立され得る。これらの内部抵抗値Rの一部は、図10で時間tに対してプロットされており、ステップ変化中に確立された内部抵抗値Ri1~Ri3が適宜記されている。図10に示す点線は、測定された内部抵抗値Rの最良適合線である。
【0106】
図10図11aから明らかなように、特に測定値Ri1とRi2は最良適合線から大きく外れており、頻繁に妥当性をチェックする必要性が強調されている。このことは、決定係数Rの最小値によっても示されている。トラクションバッテリの内部抵抗を決定するために、システム励起に対するトラクションバッテリのシステム応答が一般的な用語で評価される。システム励起として電流が流され、システム応答はバッテリ端子間の電圧変化である。
【0107】
現実の条件下では、加速過程での電流と電圧との差は、内部抵抗Rを算出するために使用される。システムの静止状態、すなわち開回路電圧Uと閉回路電流Iの値、ある時点tでの値U、Iで、内部抵抗Rは次式によって算出される。
【数4】
【0108】
駆動モーターで車両を加速する代わりに、別のエネルギー集約型消費装置を作動させ得る。バッテリの充電は、原則としてシステム励起として提供され得る。
【0109】
システム励起、すなわち試験負荷の接続又は充電電流の時間スケールと、システム応答、すなわち測定値の取得の時間スケールを同期させることは、しばしば不可能である。しかし、内部抵抗の実数部、すなわち図3の等価回路図における抵抗Rを確実に決定するためには、試験負荷の起動後に直接又は近未来の所定の時点で内部抵抗を決定する必要がある。電流及び電圧の変化率が大きいため、この時点での対応する測定値のペアは大きなエラーが発生するか、又は離散サンプリングのために正しい時間に確立されないことが多い。したがって、Rが正しく確立されるようにするために、測定データは、好ましくは内挿又は外挿される。そのため、測定データの適切な解釈が不可欠である。
【0110】
測定データを評価する1つの方法を図11を参照して説明すると、図11a~図11dの各々において、内部抵抗Rが時間tに対してプロットされている。ドットは各測定値を表し、対応する補償関数は、関連する決定係数Rとともに図中に示されている。
【0111】
図11aは、実質的に図10に対応し、比較的低い決定係数R、すなわち内部抵抗プロファイルの比較的不正確な決定を示している。
【0112】
図11aとは対照的に、図11bでは、測定値R1は、最良適合線又は特定の期待値から大きく外れているため、破棄されている。図11aと比較すると、図11bの補償関数の勾配がやや大きくなり、決定係数Rの値が0.9249(図11a)から0.9665(図11b)へと向上していることが分かる。
【0113】
図11cは、図11bと同じ測定値を使用するが、図11a及び101で使用した線形補償関数に代えて対数補償関数を使用している。ここでも、Rの値が0.9967と明確に向上している。
【0114】
図11dは、図11cに対応し、時間軸(x軸)を対数スケール化したものである。
【0115】
図12は、傾斜負荷Rを備えたトラクションバッテリの線形電流及び電圧プロファイルI/Uの図を示しており、内部抵抗Rは、最小二乗法、すなわち最小二乗適合法によって回帰直線を決定するために調整微積分ツールを用いて確立される。確立され得る決定係数Rは、考慮された補償関数、この場合曲線が確立された測定値に適合しているかどうかを示す。この方法は、変動電流で開回路電圧Uを確立する場合にも、極めて適している。
【0116】
これにより、測定シーケンスのプロファイルが、対数関数を用いた数学的な調整微積分によって測定シーケンスを調整することで正確にモデル化され得ることを実証した。このようにして確立された対数関数は、所望の時点、特にステップ変化応答の開始に近い時点におけるオーム内部抵抗の外挿又は内挿に使用され得る。
【0117】
データ評価のさらなる大幅な向上は、オーム内部抵抗を確立する際、本実施例で内部抵抗R1の基となった値のペアのように、予想される負荷電流と取得した負荷電流との差が所定の許容値を超えている値のペアを考慮しないことで達成され得る。
【0118】
内部抵抗の決定の精度、したがって状態値の決定の精度を向上させるためのさらなる方法を以下に簡単に説明する。
【0119】
方法1.内部抵抗は、複数のパスで測定され得、各パスにおいて試験負荷が接続され、パスの終了時に再び取り外される。少なくとも1つの値のペア、好ましくは測定シーケンスが、各パスで取得される。そして、各パスにおいて、トラクションバッテリの各オーム内部抵抗が確立される。最後に、複数のパスで確立されたオーム内部抵抗から、オーム内部抵抗の平均が確立される。この平均を使用してトラクションバッテリの状態値を確立する。
【0120】
方法2.値のペアの少なくとも1つの値について、それぞれの有効な測定範囲が定義され、一方又は両方の値がそれぞれの測定範囲外にある場合、値のペアは考慮されず、測定範囲は、好ましくは、関連する値の絶対値又は変化率に基づいて定義される。
【0121】
これは、誤った測定値を特定するために、対応する有効な測定範囲を定義することによって行われ得る。測定範囲は、例えば電圧の絶対限界値によって絶対的に定義されてもよく、例えば電圧の変化率の境界線によって相対的に定義されてもよい。その後、すべての測定値のペアは、それらの値が先に定義された測定範囲内にあるかどうか検証され、定義された測定範囲内にない場合は選別される。これは、例えば、測定値を省略して生じるRの変化を確立することによって、ステップ変化範囲の値の決定係数Rを分析することによって行われ得る。
【0122】
方法3.出力電圧と負荷電流との値のペアの測定シーケンスが取得され、試験負荷は測定シーケンスの期間中に接続され、測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含む。このペアの一方又は両方の値が、前の時点で取得された少なくとも1つの値のペアの対応する値と等しい場合、値のペアは考慮されない。
【0123】
この方法により、特に伝送エラー、及びトラクションバッテリ又はOBDからのデータ伝送時の遅延に起因する「動かない」測定値を排除することが可能になる。これらのデータは、評価結果にエラーを生じさせ得、後から確認してこれを特定するのは困難又は不可能である。しかし、このような「動かない測定値」は、これらの誤ったデータが、特に測定値が一定期間変化しないことを特徴とするため、確固たる基準に基づいて選別され得る。突然のシステム励起に対するシステム応答が識別されるべきという本発明による方法の特徴に起因して、以前の測定値と異ならない任意の測定値が選別され得る。例えば、少なくとも1つの値、すなわち電圧又は電流が、1つの測定値のペアから次の測定値のペアまで測定シーケンス内で変化しない場合、後の時点で取得された各値のペアは、評価されるべきデータセットから削除され得る。ただし、動かない測定値の誤差が値のペアの1つの値のみに関連している場合、その値は、他の対応する値からの補間によって置き換えられ得る。
【0124】
方法4.出力電圧と負荷電流との値のペアの測定シーケンスが取得され、試験負荷は測定シーケンスの期間中に接続されている。測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含む。測定シーケンスは、ローパスフィルタリングが適用される。このような簡単なフィルタリングで、内部抵抗の測定精度が驚くほど向上され得る。
【0125】
ローパスフィルタリングは、複数の測定パスを繰り返し実行できない場合に特に有効である(方法1.を参照)。ローパスフィルタは、同じ時点で複数の繰り返し測定が行われたかのように使用され得るが、測定分解能が不十分であるため、仮想平均が形成され得る。この方法は、好ましくは、ステップ変化を含まず、代わりに連続的な試験配置に使用され得る。
【0126】
方法5.ここでも、出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得され、測定シーケンスの期間中、試験負荷は接続される。ここでも、測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流との値のペアを含む。
【0127】
a)オーム内部抵抗の移動平均値は、測定シーケンスの出力電圧と負荷電流との値のペアから確立される。この方法は、傾斜励起、すなわち連続的な負荷の増加又は減少に特に適している。これは、好ましくは、直後に取得された2つの各値のペアに対する各オーム内部抵抗が、2つの出力電圧の差を2つの負荷電流の差で割ったものから確立され、オーム内部抵抗の移動平均がこのようにして確立した各オーム抵抗の平均によって形成されるように進行する。したがって、関連する内部抵抗値は、測定シーケンスの隣接する2つの値のペアからそれぞれの場合で確立され、これらの内部抵抗値の平均値は次式によって算出される。
【数5】
ここで、nは値のペアの数であり、各オーム抵抗Rimは、式に従って、直後に取得された2つの値のペアから確立される。
【数6】
ここで、U、Um+1は、各出力電圧であり、I、Im+1は、測定シーケンスの直後に取得された2つの値のペアのm、m+1の各負荷電流である。UとIの代わりに開回路電圧Uと閉回路電流Iを選択すれば、この方法はステップチェンジ型の励起にも使用され得る。
【0128】
数nは、必ずしも測定シーケンスのすべての測定値のペアの数を表す必要はないが、例えば、1つ以上の測定値のペアが測定シーケンスから削除された場合又は考慮されない場合、考慮される測定値のペアの数とされ得る。
【0129】
b)方法5a)の代わりに、オーム内部抵抗は、数学的調整微積分に基づいて、好ましくは最小二乗適合法に従って、各出力電圧及び負荷電流の値のペアから確立され得る。このアプローチは、図8図14を参照して既に上述している。
【0130】
内部抵抗の決定及び状態値の決定の精度を向上させるための上記の方法がない場合、結果データのばらつきが明らかに大きくなることが観察された。一連の様々なテストパスで内部抵抗のばらつきが最大で20%程度確認された。上記方法を適用すると、3%以下にまで減らすことが可能であった。
【0131】
バッテリの時間応答がバッテリの種類、年数、充電状態、温度及び任意で他のパラメータの関数として知られている場合、電流機能が開始するスイッチング時間tは、基準バッテリ用に確立された比較曲線を使用して比較的正確に決定され得る。
【0132】
これが不可能な場合、補償関数を確立する際に時間tを変化させ得る。そして、補償関数の決定係数Rを最大化することによって、スイッチング時間tを推定し得る。図14は、決定係数Rをスイッチング時間tの変動又は変化、暗に時間オフセットtoffsetに対してプロットした図である。
【符号の説明】
【0133】
10、110 診断装置
12 確立モジュール
14 正規化モジュール
16 ログ出力
18 バッファモジュール
20 電気自動車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図11d
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2021-08-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車(20)のトラクションバッテリの経年状態、好ましくは該トラクションバッテリのSoH値を特徴付ける、該トラクションバッテリの状態値を決定する方法であって、
前記トラクションバッテリは、試験負荷によって負荷され且つ少なくとも1つの時点において、該トラクションバッテリの各出力電圧と負荷電流の値のペアが取得され、
前記トラクションバッテリのオーム内部抵抗は、前記取得した出力電圧と負荷電流の値のペアに基づいて確立され、
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記確立されたオーム内部抵抗に基づいて確立され、
前記トラクションバッテリを特徴付ける少なくとも1つの正規化変数が確立され、前記確立されたオーム内部抵抗及び前記少なくとも1つの正規化変数に基づいて、前記正規化変数の基準値に基づく正規化された内部抵抗が確立され、
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記正規化された内部抵抗に基づいて確立され、
前記試験負荷は、該試験負荷の接続時に、前記負荷電流が電流のステップ変化又は傾斜プロファイルを有するように進行し、
前記試験負荷の接続から開始して、出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得され、
前記測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、
前記測定シーケンスのプロファイルをモデル化する補償関数のパラメータは、数学的調整微積分によって内部抵抗を決定するために確立され、
前記補償関数の最適化計算は、調整微積分の適合度を表す決定係数R が最大化されるように実行されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記負荷電流は、前記電気自動車(20)の評価走行中に生成され、
前記試験負荷は、前記電気自動車(20)のユニットによって、好ましくは前記電気自動車(20)の駆動モーターによって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1正規化変数は、前記出力電圧値と負荷電流の値の取得中の前記トラクションバッテリの温度であり、
前記第1正規化変数の基準値は、基準温度であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2正規化変数は、前記トラクションバッテリの種類を特徴付け、
前記第2正規化変数の基準値は、異なる種類のトラクションバッテリを互いに関連付ける正規化係数であり、
前記正規化係数は、少なくとも1つのバッテリタイプパラメータに基づいて指定されていることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記状態値は、数学的モデル又は表、好ましくはルックアップテーブル又は性能マップを用いて前記正規化された内部抵抗に基づいて確立され、
前記数学的モデル又は前記表を記述するパラメータ又は値は、好ましくはデータベースから取得されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1正規化変数は、前記出力電圧と負荷電流の値の取得中の前記トラクションバッテリの温度であり、
第1正規化変数の基準値は、基準温度であり、
前記トラクションバッテリの温度は、第1測定ステップにおいて、第1周囲温度及び前記トラクションバッテリの第1オーム内部抵抗が第1時点で確立され、所定期間経過後の第2測定ステップにおいて、第2周囲温度及び前記トラクションバッテリの第2オーム内部抵抗が第2時点で確立され、
前記第1及び第2オーム内部抵抗と前記所定期間との差に基づいて、内部抵抗の変化率が確立され、
前記内部抵抗の変化率に基づいて、前記周囲温度と前記トラクションバッテリの温度との間の温度差が確立され、
前記トラクションバッテリの温度は、前記第1及び/又は第2周囲温度から確立された基準周囲温度及び前記確立された温度差を加えることによって確立されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記所定期間は、5分~15分であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記第2オーム内部抵抗に基づいて確立されていることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの出力電圧と負荷電流の基準値のペアは、前記試験負荷が接続される前に追加で取得され、それに基づいて開回路電圧及び閉回路電流が確立されており、
前記測定シーケンスの各値のペアの前記オーム内部抵抗は、前記取得した出力電圧と前記開回路電圧の差、及び前記取得した負荷電流と前記閉回路電流の差の商として確立され、
前記測定シーケンスのプロファイルをモデル化する対数関数のパラメータは、数学的調整微積分によって前記測定シーケンスに対して確立され、
前記対数関数に基づいて、前記オーム内部抵抗は、所望の時点、好ましくは電流の前記ステップ変化の時点、又は対応する周波数で確立されていることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記対数関数は、次の式で決定されており、
【数1】
ここで、tは前記負荷が接続されてからの経過時間であり、R(t)は時間tにおける補間内部抵抗であり、toffsetは実際の起動時間と推定起動時間との間の時間であり、a及びbはパラメータであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項11】
予想される負荷電流は、前記試験負荷、好ましくは前記試験負荷のオーム抵抗、及び前記トラクションバッテリの前記出力電圧によって予め決定され、
前記予想される負荷電流と前記取得した負荷電流との差が所定の許容値を超える値のペアは、前記トラクションバッテリの前記オーム内部抵抗を確立するために考慮されないことを特徴とする、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記トラクションバッテリの少なくとも1つの前記出力電圧と負荷電流の値のペアは、複数のパスで取得され、
各パスにおいて、前記試験負荷は接続され、前記パスの終了時に再び取り外され、パスの少なくとも1つの時点で各値のペアは取得され、前記トラクションバッテリの各オーム内部抵抗は、前記取得した値のペアに基づいて確立され、
前記オーミック内部抵抗の平均値は、前記複数のパスで確立された各オーミック内部抵抗から確立され、
前記トラクションバッテリの前記状態値は、前記オーム内部抵抗の前記平均値に基づいて確立されていることを特徴とする、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記トラクションバッテリの前記オーム内部抵抗を確立することは、
値のペアの少なくとも1つの値について、各有効な測定範囲が定義されるステップであって、一方又は両方の値が前記各測定範囲の外にある場合、前記値のペアは考慮されず、前記測定範囲は、好ましくは、関連する値の絶対値又は変化率に基づき定義されているステップと、
出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得されるステップであって、前記試験負荷は、前記測定シーケンスの期間中に接続され、前記測定シーケンスは、急速に連続した時点で取得された複数の出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、前記ペアの一方又は両方の値が前の時点で取得された少なくとも1つの値のペアの対応する値と等しい場合、値のペアは考慮されないステップと、
出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得されるステップであって、前記試験負荷は前記測定シーケンスの期間中に接続され、前記測定シーケンスは急速に連続した時点で取得された複数の前記出力電圧と負荷電流の値のペアを含み、前記測定シーケンスはローパスフィルタリングが適用されているステップと、
前記出力電圧と負荷電流の値のペアの測定シーケンスが取得されるステップであって、前記試験負荷は前記測定シーケンスの期間中に接続され、前記測定シーケンスは急速に連続した時点で取得された複数の前記出力電圧と負荷電流の値のペアを含むステップとを含み、
前記オーム内部抵抗の移動平均値は、前記測定シーケンスの前記出力電圧と負荷電流との値のペアから確立され、直後に取得された2つの各値のペアに対する前記各オーム内部抵抗は、好ましくは、前記2つの出力電圧の差を前記2つの負荷電流の差で割ったものから確立され、前記オーム内部抵抗の前記移動平均は、前記確立された各オーム抵抗の前記平均によって形成されている、
又は、
前記オーム内部抵抗は、数学的調整微積分に基づいて、好ましくは最小二乗適合法に従って、前記各出力電圧と負荷電流の値のペアから確立されているステップとのうちの少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
電気自動車(20)のトラクションバッテリの状態値を決定するための診断装置(10、110)であって、
前記トラクションバッテリに直接又は間接的に結合可能であり且つ請求項1~1のいずれか1項に記載の方法を実行するように設定された評価ユニットを有する、診断装置(10、110)。
【国際調査報告】