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特表2023-507460植物毛状根からの組換えウイルスベクターの生産
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  • 特表-植物毛状根からの組換えウイルスベクターの生産 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】植物毛状根からの組換えウイルスベクターの生産
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20230215BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20230215BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20230215BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230215BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20230215BHJP
   C12P 19/34 20060101ALN20230215BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/82 Z ZNA
A01H5/00 A
C12N5/10
C12N15/35
C12P19/34 A
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537712
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086966
(87)【国際公開番号】W WO2021123122
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】19306687.5
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン・カドン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・ディクス
(72)【発明者】
【氏名】マリナ・ギエ
(72)【発明者】
【氏名】サミア・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】マリー・ランドー
【テーマコード(参考)】
2B030
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD08
2B030AD20
2B030CA17
2B030CA19
2B030CB03
2B030CD05
2B030CD09
2B030CD14
4B064AF27
4B064AG32
4B064CA02
4B064CA11
4B064CA12
4B064CA19
4B064CC03
4B064CC15
4B064CC24
4B064CD04
4B064CD09
4B064CE08
4B064DA01
4B065AA11X
4B065AA88X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB04
4B065BB16
4B065BB35
4B065BB37
4B065BD16
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA45
(57)【要約】
本発明は、植物の毛状根から、詳細には、アブラナ科に属する植物の毛状根から組換えウイルスベクターを生産する方法に関する。本発明はまた、本発明の方法によって取得可能なトランスジェニック植物、毛状根培養物、及び組換えウイルスベクターに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の毛状根から組換え哺乳動物ウイルスベクターを生産する方法であって、
a)前記植物からの毛状根の生成を誘導する工程と、
b)前記植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程と
を含み、
前記植物は、アブラナ科に属する、
方法。
【請求項2】
アブラナ科に属する前記植物が、ラファヌス・サティバス(Raphanus sativus)、ラファヌス・サティバス変種ニガー(Raphanus sativus var. niger)、ブラッシカ・オレラセアL.変種群(Brassica oleracea L. convar)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis Thaliana)、及びブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)からなる群から選択され、前記植物が、特に、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)が、rol遺伝子群を含む細菌株で植物を形質転換することによって実施され、前記細菌株は、植物に感染することができる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
細菌株が、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)又はアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium Tumefaciens)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
組換えウイルスベクターが、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1つ又は複数の発現カセットが、AAV rep及びcap遺伝子を含み、詳細には、AAV rep及びcap遺伝子はそれぞれ、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーター等の、アブラナ科植物に感染するウイルス由来のプロモーターの制御下にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1つ又は複数の発現カセットが、VP1、VP2、VP3、AAP (アセンブリ活性化タンパク質)、Rep52、及びRep78タンパク質をコードする遺伝子を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする各遺伝子が、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーターやノパリンシンターゼ(nos)プロモーター等の構成的プロモーターの制御下にあるか、又はアルコールデヒドロゲナーゼ(AlcA)プロモーター等の誘導性プロモーターの制御下にある、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
VP1をコードする遺伝子が、nosプロモーターの制御下にあり、VP2をコードする遺伝子が、nosプロモーターの制御下にあり、VP3をコードする遺伝子が、CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアントの制御下にあり、AAPをコードする遺伝子が、CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアントの制御下にある、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
VP3をコードする遺伝子が、配列番号13のヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の同一性を有するCaMV35Sプロモーターの機能的バリアントの制御下にあり、AAPをコードする遺伝子が、配列番号13のヌクレオチド配列に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の同一性を有するCaMV35Sプロモーターの機能的バリアントの制御下にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
VP1、VP2、VP3、及びAAPをコードする各遺伝子が、AlcAプロモーターの制御下にある、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
VP3をコードする遺伝子が、更に、エンハンサー、詳細には、タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサーの制御下にある、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Rep52及びRep78をコードする各遺伝子が、AlcAプロモーターの制御下にある、請求項7から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Rep52をコードする遺伝子が、更に、エンハンサー、詳細には、タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサーの制御下にある、請求項7から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、及び/又はRep78タンパク質をコードする遺伝子がコドン最適化されている、請求項7から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
植物が、ウイルスの効率的な複製に必要であるウイルスヘルパー機能をコードするベクター、詳細には、アデノウイルスヘルパー機能をコードするベクターで更に形質転換される、請求項5から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
植物が、目的の産物をコードする遺伝子を含むウイルスゲノムを含むベクター、詳細には、2つのAAV-ITR配列と隣接した、目的の産物をコードする遺伝子を含むベクターで更に形質転換される、請求項5から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
a)アブラナ科に属する植物からの毛状根の生成を誘導する工程、及び
b)前記植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換え哺乳動物ウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程
によって取得可能な毛状根培養物。
【請求項19】
アブラナ科に属する前記植物が、ラファヌス・サティバス(Raphanus sativus)、ラファヌス・サティバス変種ニガー(Raphanus sativus var. niger)、ブラッシカ・オレラセアL.変種群(Brassica oleracea L. convar)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis Thaliana)、及びブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)からなる群から選択され、植物が、特に、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)である、請求項18に記載の毛状根培養物。
【請求項20】
組換え哺乳動物ウイルスベクターが、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである、請求項18又は19に記載の毛状根培養物。
【請求項21】
1つ又は複数の発現カセットが、請求項6から15のいずれか一項に規定したとおりである、請求項18から20のいずれか一項に記載の毛状根培養物。
【請求項22】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法によって取得可能な組換え哺乳動物ウイルスベクター。
【請求項23】
組換え哺乳動物ウイルスベクターが、アブラナ科に属する植物の毛状根から生産され、前記植物は、ラファヌス・サティバス(Raphanus sativus)、ラファヌス・サティバス変種ニガー(Raphanus sativus var. niger)、ブラッシカ・オレラセアL.変種群(Brassica oleracea L. convar)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis Thaliana)、及びブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)からなる群から選択され、植物は、特に、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)である、請求項22に記載の組換え哺乳動物ウイルスベクター。
【請求項24】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである、請求項22又は23に記載の組換え哺乳動物ウイルスベクター。
【請求項25】
組換え哺乳動物ウイルスベクターが、アブラナ科に属する植物の毛状根から生産され、植物は、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換され、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含み、1つ又は複数の発現カセットは、請求項6から15のいずれか一項に規定したとおりである、請求項22から24のいずれか一項に記載の組換え哺乳動物ウイルスベクター。
【請求項26】
1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換されたトランスジェニック植物であって、1つ又は複数の発現カセットは、組換え哺乳動物ウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含み、前記植物は、アブラナ科に属する、トランスジェニック植物。
【請求項27】
アブラナ科に属する植物が、ラファヌス・サティバス(Raphanus sativus)、ラファヌス・サティバス変種ニガー(Raphanus sativus var. niger)、ブラッシカ・オレラセアL.変種群(Brassica oleracea L. convar)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis Thaliana)、及びブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)からなる群から選択され、植物が、特に、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)である、請求項26に記載のトランスジェニック植物。
【請求項28】
組換え哺乳動物ウイルスベクターが、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである、請求項26又は27に記載のトランスジェニック植物。
【請求項29】
1つ又は複数の発現カセットが、請求項6から15のいずれか一項に規定したとおりである、請求項26から28のいずれか一項に記載のトランスジェニック植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛状根、詳細には、アブラナ科(Brassicaceae family)に属する植物の毛状根から組換えウイルスベクターを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療及びDNAワクチン接種用途のための組換えウイルスベクターの使用が進んでいるため、効率的な生産システムが求められるようになっている。治療を目的とする組換えウイルスベクターの例としては、レンチウイルス系ベクター及びアデノ随伴ウイルス系ベクターが挙げられる。
【0003】
開発中の遺伝子治療製品の中でも、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)系ベクターは、現在最も広く使用され、in vivo送達への潜在的可能性が最も大きい。rAAVベクターシステムの使用が好まれるのは、一部には、野生型ウイルスと関連する疾患がないため、AAVが非分裂細胞だけでなく分裂細胞への形質導入もなしうるため、及び、結果として、いくつかのフェーズI/II/III治験において長期の活発な導入遺伝子発現が観察されたためである。更に、異なるrAAVベクター血清型を活用して、異なる組織、臓器、及び細胞を特異的にターゲットとすることができる。欧州及び米国における組換えアデノ随伴ウイルス遺伝子治療薬の最近の市販認可(たとえば、Luxturna(登録商標)やZolgensma(登録商標))は、遺伝子治療分野における画期的な功績を表している。
【0004】
AAVは、一本鎖DNAゲノムを収容する、エンベロープのない正二十面体粒子である。AAVは、増殖性感染のために、必須遺伝子をトランスに提供するヘルパーウイルスに依存する属である、ディペンドウイルス属(dependoparvovirus)に属する(Weitzman及びLinden、2011)。4.7kbのゲノムは、ウイルス複製、カプシド構造、及びウイルスゲノムの詰め込みに必要となるいくつものタンパク質をコードする、2つの主なオープンリーディングフレーム、すなわち、調節(Rep)及び構造カプシド(Cap)遺伝子を含んでいる。cap遺伝子からは、VP1、VP2、及びVP3の3種のタンパク質が、p40プロモーターからの転写物に対する選択的スプライシングとリーキースキャニングが組み合わさることによって自然に産生される。これらはすべて、同じC末端配列を共通に有する。AAVカプシドは、およそ1:1:10の比の、60単位のVP1、VP2、及びVP3から構成される。cap遺伝子における異なるオープンリーディングフレームから、アセンブリ活性化タンパク質(AAP)と呼ばれるタンパク質が翻訳され、カプシドアセンブリに必要となる(Sonntagら、2010)。rep遺伝子からは、4種のタンパク質が産生され、最大の2種のタンパク質であるRep78及びRep68は、p5プロモーターを使用して開始された転写から生じ、他の2種のタンパク質であるRep 52及びRep 40は、p19プロモーターを使用する転写から得られる。AAV DNAの複製及び封入には、Repタンパク質に加えて、逆位末端配列(ITR)も必要となる(Balakrishnan及びJayandharan、2014; Robertら、2017)。
【0005】
rAAVの場合では、ウイルスベクターを生成するためのいくつかの生産戦略が存在する。
【0006】
AAVウイルスベクターを産生させるための哺乳動物細胞へのプラスミドDNAの一過性形質移入は、こうしたウイルスベクターの臨床グレード製造において最も一般的に使用される戦略である。rAAVベクターは、ヒト胎児由来腎臓293細胞(HEK293)において、Rep及びCap遺伝子、rAAV導入遺伝子、並びにヘルパーアデノウイルス機能を提供する特異的遺伝子を運搬する、通常は3つのDNAプラスミドが形質移入された後に産生されるのが普通である。
【0007】
Rep及びCap両方の遺伝子及び/又はrAAVゲノムの導入によって、操作された安定した細胞株を生成することにより、パッケージング又は産生細胞株が生まれる。
【0008】
昆虫細胞/バキュロウイルスシステムは、AAVの生産用に、Urabeら(2006)によって開発されている。第1世代は、ポリヘドリン遺伝子座に挿入された3つの異なるバキュロウイルス(BV)をベースとした。3種の組換えBVベクターは、それぞれ、Rep、Cap、及びrAAVゲノムの導入遺伝子をコードするものであった。BVの数が2つに減らされた、第2世代のBVが開発されている(Smithら、2009)。この方法では、rep及びcap配列が、単一のバキュロウイルスに、ヘッドトゥーヘッドの配置で挿入された。
【0009】
加えて、同時発現を使用するAAV生産のためのシステムが、Barajasら、2017によって、酵母において確立されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2015013313
【特許文献2】WO2019/193119
【特許文献3】PCT/EP2019/076958
【特許文献4】WO16185122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここ数年内のこうしたシステムの改善にもかかわらず、遺伝子治療の常用を可能にするために、ベクターの生産性及び/又は品質を向上させる必要がある。
【0012】
したがって、rAAVベクター等の組換えウイルスベクターを生産するための代替システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、植物の毛状根から組換え哺乳動物ウイルスベクターを生産する方法であって、
a)前記植物からの毛状根の生成を誘導する工程と、
b)前記植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程と
を含み、
前記植物は、アブラナ科に属する、
方法に関する。
【0014】
詳細には、アブラナ科に属する前記植物は、ラファヌス・サティバス(Raphanus sativus)、ラファヌス・サティバス変種ニガー(Raphanus sativus var. niger)、ブラッシカ・オレラセアL.変種群(Brassica oleracea L. convar)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis Thaliana)、及びブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)からなる群から選択されるものでよく、植物は、特に、ブラッシカ・ラパである。
【0015】
特定の一実施形態では、工程a)は、rol遺伝子群を含む細菌株で植物を形質転換することによって実施され、細菌株は、植物に感染することができる。
【0016】
特定の一実施形態では、細菌株は、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)又はアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium Tumefaciens)である。
【0017】
特定の一実施形態では、組換えウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである。
【0018】
特定の一実施形態では、1つ又は複数の発現カセットは、AAV rep及びcap遺伝子を含む。特定の一実施形態では、AAV rep及びcap遺伝子はそれぞれ、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーター等の、アブラナ科植物に感染するウイルス由来のプロモーターの制御下にある。
【0019】
別の特定の一実施形態では、1つ又は複数の発現カセットはVP1、VP2、VP3、AAP (アセンブリ活性化タンパク質)、Rep52、及びRep78タンパク質をコードする遺伝子を含む。特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする各遺伝子は、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーター若しくはノパリンシンターゼ(nos)プロモーター等の構成的プロモーターの制御下にあるか、又はアルコールデヒドロゲナーゼ(AlcA)プロモーター等の誘導性プロモーターの制御下にある。
【0020】
特定の一実施形態では、VP1をコードする遺伝子は、nosプロモーターの制御下にあり、VP2をコードする遺伝子は、nosプロモーターの制御下にあり、VP3をコードする遺伝子は、CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアントの制御下にあり、AAPをコードする遺伝子は、CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアントの制御下にある。
【0021】
特定の一実施形態では、VP3をコードする遺伝子は、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%であるCaMV35Sプロモーターの機能的バリアントの制御下にあり、AAPをコードする遺伝子は、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%であるCaMV35Sプロモーターの機能的バリアントの制御下にある。
【0022】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、及びAAPをコードする各遺伝子が、AlcAプロモーターの制御下にある。
【0023】
特定の一実施形態では、VP3をコードする遺伝子は、更に、エンハンサー、詳細には、タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサーの制御下にある。
【0024】
特定の一実施形態では、Rep52及びRep78をコードする各遺伝子は、AlcAプロモーターの制御下にある。
【0025】
特定の一実施形態では、Rep52をコードする遺伝子は、更に、エンハンサー、詳細には、タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサーの制御下にある。
【0026】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、及び/又はRep78タンパク質をコードする遺伝子は、コドン最適化されている。
【0027】
特定の一実施形態では、植物は、ウイルスの効率的な複製に必要であるウイルスヘルパー機能をコードするベクター、詳細には、アデノウイルスヘルパー機能をコードするベクターで更に形質転換される。
【0028】
特定の一実施形態では、植物は、目的の産物をコードする遺伝子を含むウイルスゲノムを含むベクター、詳細には、2つのAAV-ITR配列と隣接した、目的の産物をコードする遺伝子を含むベクターで更に形質転換される。
【0029】
本発明の別の一態様は、
a)アブラナ科に属する植物からの毛状根の生成を誘導する工程、及び
b)前記植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程
によって取得可能な毛状根培養物に関する。
【0030】
特定の一実施形態では、毛状根培養物は、アブラナ科に属する植物を形質転換することによって取得可能であり、植物は、ラファヌス・サティバス、ラファヌス・サティバス変種ニガー、ブラッシカ・オレラセアL.変種群、セイヨウアブラナ、シロイヌナズナ、及びブラッシカ・ラパからなる群から選択され、植物は、特に、ブラッシカ・ラパである。
【0031】
特定の一実施形態では、組換え哺乳動物ウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである。別の特定の一実施形態では、1つ又は複数の発現カセットは、上で規定したとおりである。
【0032】
本発明のさらなる一態様は、上述のとおりの方法によって取得可能な組換え哺乳動物ウイルスベクターに関する。特定の一実施形態では、前記組換え哺乳動物ウイルスベクターは、アブラナ科に属する植物の毛状根から生産され、前記植物は、ラファヌス・サティバス、ラファヌス・サティバス変種ニガー、ブラッシカ・オレラセアL.変種群、セイヨウアブラナ、シロイヌナズナ、及びブラッシカ・ラパからなる群から選択され、植物は、特に、ブラッシカ・ラパである。特定の一実施形態では、組換え哺乳動物ウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである。別の特定の一実施形態では、組換え哺乳動物ウイルスベクターは、アブラナ科に属する植物の毛状根から生産され、植物は、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換され、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含み、1つ又は複数の発現カセットは、上で規定したとおりである。
【0033】
本発明の別の一態様は、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換されたトランスジェニック植物に関するものであり、1つ又は複数の発現カセットは、組換え哺乳動物ウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含み、前記植物は、アブラナ科に属する。
【0034】
特定の一実施形態では、アブラナ科に属するトランスジェニック植物は、ラファヌス・サティバス、ラファヌス・サティバス変種ニガー、ブラッシカ・オレラセアL.変種群、セイヨウアブラナ、シロイヌナズナ、及びブラッシカ・ラパからなる群から選択され、植物は、特に、ブラッシカ・ラパである。
【0035】
特定の一実施形態では、組換え哺乳動物ウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターである。別の特定の一実施形態では、1つ又は複数の発現カセットは、上で規定したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】毛状根においてAAVタンパク質が生産されるように設計された構築物の概略図である。
【0037】
この図は、ブラッシカ・ラパ毛状根のAAVタンパク質産生能を試験するために構想された8例の構築物を示す。
【0038】
構築物1は、(i)CaMV35Sプロモーター(「p35S」)、Cap遺伝子(「CAP」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第1の発現カセットと、(ii)CaMV35Sプロモーター(「p35S」)、Rep遺伝子(「Rep」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第2の発現カセットとを含む。
【0039】
構築物2は、(i)nosプロモーター(「pNOS」)、VP1遺伝子(「VP1」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第1の発現カセットと、(ii)nosプロモーター(「pNOS」)、VP2遺伝子(「VP2」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第2の発現カセットと、(iii)CaMV35Sプロモーターのバリアント(「p2*35S」と呼ぶ)、VP3遺伝子(「VP3」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第3の発現カセットと、(iv)CaMV35Sプロモーターのバリアント(「p2*35S」と呼ぶ)、AAP遺伝子(「AAP」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第4の発現カセットとを含む。「p2*35S」プロモーターは、Kayら、1987に記載されているとおり、-343~-90bp断片の重複を含む、CaMV35Sプロモーターのバリアントである。
【0040】
構築物3は、(i)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、Rep52遺伝子(「Rep52」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第1の発現カセットと、(ii)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、Rep78遺伝子(「Rep78」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第2の発現カセットと、(iii)CaMV35Sプロモーター(「p35S」)、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターの活性化に必要なALCRタンパク質をコードする遺伝子(「AlcR」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第3の発現カセットとを含む。
【0041】
構築物4は、(i)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、タバコモザイクウイルスオメガエンハンサー(「TMVΩ」)、Rep52遺伝子(「Rep52」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第1の発現カセットと、(ii)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、Rep78遺伝子(「Rep78」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第2の発現カセットと、(iii)CaMV35Sプロモーター(「p35S」)、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターの活性化に必要なALCRタンパク質をコードする遺伝子(「AlcR」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第3の発現カセットとを含む。
【0042】
構築物5は、(i)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、VP1遺伝子(「VP1」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第1の発現カセットと、(ii)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、VP2遺伝子(「VP2」)、及びnosターミネーター(「tNOS」)を含む第2の発現カセットと、(iii)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、タバコモザイクウイルスオメガエンハンサー(「TMVΩ」)、VP3遺伝子(「VP3」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第3の発現カセットと、(iv)アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーター(「pAlcA」)、AAP遺伝子(「AAP」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第4の発現カセットと、(v)CaMV35Sプロモーター(「p35S」)、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターの活性化に必要なALCRタンパク質をコードする遺伝子(「AlcR」)、及びCaMV35Sターミネーター(「t35S」)を含む第5の発現カセットとを含む。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の第1の態様は、植物の毛状根から組換え哺乳動物ウイルスベクターを生産する方法であって、
a)前記植物からの毛状根の生成を誘導する工程と、
b)前記植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程と
を含み、
前記植物は、アブラナ科に属する、
方法に関する。
【0044】
組換え哺乳動物ウイルスベクター
用語「ウイルスベクター」は、本発明によれば、ウイルス由来の担体、すなわち「ベクター」に関連する。この用語は、ウイルスゲノムを有する又は欠いている、いかなるウイルス粒子も包含する。
【0045】
本発明の脈絡では、ウイルスゲノムを欠いているウイルスベクターは、ウイルス様粒子(VLP)とも呼ばれる。VLPは、ウイルス由来の構造タンパク質から自己集合する、高度に組織化された構造である。こうした、安定性があり、用途の広いナノ粒子は、先天及び獲得免疫応答を誘導しうる優れたアジュバント特性を有する。過去数年の間、VLPは、操作に対するその構造安定性及び耐性を活かして、バイオテクノロジーの他の部門において応用されて、異種分子を運搬及び表示し、又は新規ナノ材料の構成単位として役立っている。VLPは、パルボウイルス科(Parvoviridae) (たとえば、アデノ随伴ウイルス)、レトロウイルス科(Retroviridae) (たとえば、HIV)、フラビウイルス科(Flaviviridae) (たとえば、C型肝炎ウイルス)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae) (たとえば、ニパ)、及びバクテリオファージを始めとする広範なウイルス科の構成要素から生産することができる。
【0046】
用語「ウイルスゲノムを有するウイルスベクター」とは、特に、感染性ウイルス粒子を指す。組換えウイルスベクターのゲノムは、野生型(wt)ウイルスゲノムに比べて、wtゲノムの一部が目的の導入遺伝子で置き換えられることによって改変されている。用語「目的の導入遺伝子」とは、その核酸配列がウイルスゲノム中には自然に存在しない遺伝子を指す。目的の導入遺伝子は、コード配列又は非コード配列である場合がある。特に、組換えウイルスベクターは、遺伝子治療において使用される。本明細書で使用するとき、用語「遺伝子治療」とは、遺伝性又は後天性疾患又は状態を治療又は予防するための、目的の遺伝物質(たとえば、DNA又はRNA)の宿主への移動を指す。目的の遺伝物質は、in vivoでのその産生が望まれる産物(たとえば、ポリペプチド又は機能RNA)をコードする。たとえば、目的の遺伝物質は、治療的価値のあるホルモン、受容体、酵素、又はポリペプチドをコードするものでよい。別法として、目的の遺伝物質は、治療的価値のあるアンチセンスRNA (たとえば、エクソンスキッピングに適するアンチセンスRNA)やshRNA等の、治療的価値のある機能RNAをコードするものでもよい。
【0047】
本発明の脈絡では、ウイルスベクターは、哺乳動物ウイルスベクターであり、すなわち、ウイルスベクターは、哺乳動物、特にヒトに感染することのできるウイルス由来である。したがって、本発明の文脈では、ウイルスベクターは、植物に感染することのできるウイルス由来ではない。
【0048】
組換えウイルスベクターは、詳細には、アデノウイルス、パルボウイルス(特に、アデノ随伴ウイルス)、レトロウイルス(特に、レンチウイルス又はスプーマウイルス)、単純ヘルペスウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ラブドウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ピコルナウイルス、又はポックスウイルス由来である場合がある。
【0049】
特定の一実施形態では、組換えウイルスベクターは、組換えAAV (rAAV)ベクターである。
【0050】
本発明では、AAVベクターのカプシドは、自然に存在する又は自然に存在しない血清型から得ることができる。特定の一実施形態では、AAVベクターのカプシドの血清型は、AAV自然血清型から選択される。AAV自然血清型を使用する代わりとして、限定はせず、自然に存在しないカプシドタンパク質を有するAAVを始めとする人工AAVカプシドを、本発明の状況において使用してもよい。このような人工カプシドは、選択されたAAV配列(たとえば、vp1カプシドタンパク質の断片)を、選択された異なるAAV血清型、同じAAV血清型の非近接部分、非AAVウイルス供給源、又は非ウイルス供給源から得られるものでよい異種配列と組み合わせて使用する、適切ないずれかの技術によって生成することができる。人工AAV血清型由来のカプシドは、限定はせず、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドである場合がある。
【0051】
特定の一実施形態によれば、AAVベクターのカプシドは、AAV-1、-2、AAV-2バリアント(たとえば、Lingら、2016で開示されている、Y44+500+730F+T491V変更を有する操作されたカプシドを含む、四重変異体カプシドで最適化されたAAV-2)、-3及びAAV-3バリアント(たとえば、Vercauterenら、2016で開示されている、2つのアミノ酸変更S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含むAAV3-STバリアント)、-3B及びAAV-3Bバリアント、-4、-5、-6、及びAAV-6バリアント(たとえば、Rosarioら、2016で開示されている、三重突然変異AAV6カプシドY731F/Y705F/T492V型を含むAAV6バリアント)、-7、-8、-9、及びAAV-9バリアント(たとえば、AAVhu68)、-2G9、-cy10や-rh10等の-10、-rh39、-rh43、-rh74、-dj、Anc80、LK03、AAV.PHP、AAV2i8、AAVpo4やAAVpo6等のブタAAV、並びにAAV血清型のチロシン、リジン、及びセリンカプシド変異体のものである。加えて、切り混ぜ(shuffling)、合理設計(rationale design)、エラープローンPCR、及び機械学習技術によって得られる、他の操作された非自然バリアント(たとえば、AAV-spark100)、キメラAAV、又はAAV血清型のカプシドも有用となりうる。
【0052】
特定の一実施形態では、AAVベクターは、キメラベクターであり、すなわち、そのカプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型由来のVPカプシドタンパク質を含み、又は少なくとも2つのAAV血清型由来のVPタンパク質領域又はドメインを併せ持つ少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。たとえば、AAV8カプシド配列を、上で詳細に言及したもののいずれか等の、AAV8血清型とは異なるAAV血清型の配列と組み合わせたものから、キメラAAVベクターを得ることができる。別の実施形態では、AAVベクターのカプシドは、WO2015013313に記載されているもの、詳細には、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6カプシドバリアント等の、1種又は複数のバリアントVPカプシドタンパク質を含む。特定の一実施形態では、AAVベクターのカプシドは、AAV血清型9 (AAV9)とAAV血清型74 (AAVrh74)カプシドタンパク質のハイブリッドである。たとえば、AAV血清型は、WO2019/193119で開示されているような-rh74-9血清型(たとえば、WO2019/193119のexamplesに記載されているHybrid Cap rh74-9血清型;本明細書では「-rh74-9」、「AAVrh74-9」、又は「AAV-rh74-9」とも呼ぶrh74-9血清型)、又はWO2019/193119で開示されているような-9-rh74血清型(たとえば、WO2019/193119のexamplesに記載されているHybrid Cap 9-rh74血清型;本明細書では「-9-rh74」、「AAV9-rh74」、「AAV-9-rh74」、又は「rh74-AAV9」とも呼ぶ-9-rh74血清型)になる場合がある。特定の一実施形態では、AAVベクターのカプシドは、P1ペプチドで修飾されたAAV9-rh74ハイブリッドカプシドやAAVrh74-9ハイブリッドカプシド等の、PCT/EP2019/076958に記載されているような、AAV血清型9 (AAV9)とAAV血清型74 (AAVrh74)カプシドタンパク質のペプチド修飾ハイブリッドである。
【0053】
別の実施形態では、修飾されたカプシドは、(たとえば、Bartelら、2011に記載されているとおり)エラープローンPCR及び/又はペプチド挿入によって挿入されるカプシド修飾から得ることもできる。加えて、カプシドバリアントは、(たとえば、Zhongら、2008に記載されているような)チロシン変異体等の単一アミノ酸変更を含みうる。
【0054】
特定の一実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-cy10、AAVrh10カプシド等の、自然に存在するカプシドを有する。特定の一実施形態では、組換えAAVベクターは、AAV8カプシドを有する。
【0055】
AAVベクターのゲノムは、場合により目的の遺伝物質に隣接する、5'-及び3'-AAV逆位末端配列(ITR)を含む。ITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-cy10、又はAAVrh10ゲノム等、いずれのAAVゲノム由来でもよい。特定の一実施形態では、AAVベクターのゲノムは、5'-及び3'-AAV2 ITRを含む。
【0056】
加えて、AAVベクターのゲノムは、一本鎖又は自己相補的二本鎖ゲノムのいずれでもよい(McCartyら、Gene Therapy、2003)。自己相補的二本鎖AAVベクターは、AAV末端反復の1つから末端分離部位(terminal resolution site) (trs)を欠失させることによって生成される。複製ゲノムが野生型AAVゲノムの長さの半分である、こうした改変ベクターは、DNA二量体を詰め込む傾向がある。
【0057】
AAVベクターは、同じAAV血清型由来のカプシドとITRを含んでもよいし、又は第1の血清型由来のカプシドと、第1の血清型とは異なる血清型由来のITRとを含んでもよいという意味で、AAV血清型カプシドとITRのいずれの組合せも、本発明の状況において実現することができる。異なる血清型由来であるカプシドITRを有するこうしたベクターは、「シュードタイプ化ベクター」とも呼ばれる。
【0058】
アブラナ科に属する植物
本明細書で使用するとき、「アブラナ科に属する植物」という表現は、当分野におけるその一般的な意味を有する。この表現は、十字花科、カラシナ科、又はキャベツ科としても知られる、アブラナ科のいずれの植物も包含する。
【0059】
キュー王立植物園(Royal Botanic Gardens, Kew)によれば、アブラナ科は、330を超える属及び約3,700の種を含む。最も大きい諸属は、イヌナズナ属(Draba) (365種)、タネツケバナ属(Cardamine) (200種)、エリシマム属(Erysimum) (225種)、レピジウム属(Lepidium) (230種)、及びミヤマナズナ属(Alyssum) (195種)である。
【0060】
よく知られている種としては、限定はせず、ブラッシカ・オレラセア(キャベツ、カリフラワー等)、ブラッシカ・ラパ(カブ、ハクサイ等)、セイヨウアブラナ(ナタネ等)、ラファヌス・サティバス(一般的なダイコン)、アルモラシア・ルスチカナ(Armoracia rusticana) (セイヨウワサビ)、アラセイトウ属(Matthiola) (ストック)、シロイヌナズナ(モデル生物)、及びその他多種が挙げられる。こうした種の中で、いくつかの種は、食用根(カブ、ダイコン...)を生じる。
【0061】
好ましい一実施形態では、前記のアブラナ科に属する植物は、ブラッシカ・ラパ、ラファヌス・サティバス、ラファヌス・サティバス変種ニガー、ブラッシカ・オレラセアL.変種群、セイヨウアブラナ、及びシロイヌナズナからなる群から選択される。
【0062】
より好ましくは、前記のアブラナ科に属する植物は、ブラッシカ・ラパ又はセイヨウアブラナである。
【0063】
更により好ましくは、前記のアブラナ科に属する植物は、ブラッシカ・ラパである。
【0064】
前記植物からの毛状根の生成を誘導する工程a)
植物において毛状根の生成を誘導することのできるいずれの技術も、本発明において使用することができる。
【0065】
毛状根は、グラム陰性土壌細菌であるアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)によって引き起こされる感染後に、植物の損傷部位において出現するタイプの増殖性の根である。毛状根表現型は、急速なホルモン非依存的成長、側方分枝、遺伝的安定性、及び屈地性の欠如を特徴とする。
【0066】
アグロバクテリウム・リゾゲネスは、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)という属及びリゾビウム科(Rhizobiaceae)という科に対する分類学上の変更に従って、リゾビウム・リゾゲネスと命名されていることに留意すべきである。リゾビウム・リゾゲネスも、アグロバクテリウム・リゾゲネスという名称と同一視することができる。
【0067】
毛状根は、土壌から単離することのできるリゾビウム・リゾゲネスによって引き起こされた、抜粋植物における疾患として最初に特定された。このグラム陰性細菌は、その発根(Ri)プラスミドからのDNAを、感染した植物細胞のゲノムに転移させ、これが、根の生成につながる。詳細には、rolA、rolB、及びrolC遺伝子という遺伝子を含んでいるrol遺伝子群(F. F. Whiteら、1983)が、リゾビウム・リゾゲネスRiプラスミドのT-DNAに存在し、これらの遺伝子の発現によって、毛状根の生成が誘導される。
【0068】
特定の一実施形態では、rol遺伝子群を含む細菌株で植物を形質転換することによって毛状根の生成が誘導され、細菌株は、植物に感染することができる。
【0069】
本明細書で使用する表現「rol遺伝子群」は、当業界におけるその一般的な意味を有する。この表現は、毛状根の生成を誘導することのできる細菌遺伝子の群を指す(Schmullingら、1988; Bulgakovら、2008)。通常、rol遺伝子群は、pRiプラスミド等のプラスミドによって収容される。
【0070】
特定の一実施形態では、細菌株は、rol遺伝子群をそのゲノムの中に自然に含む、又は異種rol遺伝子群の導入によって改変されている。
【0071】
特定の一実施形態では、細菌株は、リゾビウム属(Rhizobium)の属に属する。
【0072】
好ましい一実施形態では、リゾビウム・リゾゲネスの菌株が使用される。
【0073】
リゾビウム・リゾゲネスのいくつかの菌株を本発明の実践に使用することができる。適切な菌株として、限定はしないが、ATCC 25818としても知られるリゾビウム・リゾゲネスTR7株、並びにLBA 9402、A4T、A4、LBA1334、ATCC 11325、ATCC 15834、LMG 155、HRI、TR105、ATCC 39207、R1000、LBA 9422、strain 1072、BL311、R1600、R1601、C58C1、A4RS、MSU440、ARqua1、8194、TR101、2659、LBA8490、NIAES1724、C8 (MAFF03-10268)、及びDC-AR2株が挙げられる。
【0074】
好ましい一実施形態では、リゾビウム・リゾゲネスの前記菌株は、ATCC 15834又はATCC 25818株である。
【0075】
リゾビウム・リゾゲネスの菌株は、ATCC 15834株であることが更により好ましい。
【0076】
別の一実施形態では、アグロバクテリウム・ツメファシエンスの菌株が使用される。特定の一実施形態では、使用されるアグロバクテリウム・ツメファシエンスの菌株は、そのゲノムにrol遺伝子群が導入されるように改変されている。特定の一実施形態では、アグロバクテリウム・ツメファシエンスは、rol遺伝子群を含むpRiプラスミドを用いた形質転換によって改変されている。
【0077】
別の実施形態では、使用されるアグロバクテリウム・ツメファシエンスの菌株は、rol遺伝子群を含まない。この実施形態では、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いた植物の形質転換によって、カルス組織の形成が誘導される。前記カルス組織は、次いで、1種又は複数のホルモン物質が加えられた後、毛状根へと分化する。好ましい一実施形態では、前記ホルモン性物質は、1-ナフタレン酢酸(NAA)、インドール-3-酢酸(IAA)、インドール-3-酪酸(IBA)等のオーキシンファミリーのホルモンである。
【0078】
アグロバクテリウム・ツメファシエンスのいくつかの菌株を本発明の実践に使用することができる。適切な菌株として、限定はしないが、A.ツメファシエンスC58、C58C1、LBA4404、GV2260、GV3100、A136、GV3101、GV3850、EHA101、EHA105、AGL-1が挙げられる。
【0079】
リゾビウム・リゾゲネス及び/又はアグロバクテリウム・ツメファシエンス等の細菌株による形質転換は、当業界で知られている技術である。当業者は、前記形質転換工程を実施するのに一般的に用いられる異なる技術を熟知している。形質転換される植物種に応じて、植物の異なる部分を感染に使用することができる。そのような植物部分には、たとえば、限定はせず、種子、茎、葉、柄、子葉節、胚軸、又は他の植物部分若しくは細胞が含まれうる。
【0080】
通常、リゾビウム・リゾゲネス及び/又はアグロバクテリウム・ツメファシエンスによる感染は、リゾビウム・リゾゲネス及び/又はアグロバクテリウム・ツメファシエンス接種源を、予め傷つけられている植物に適用することによって行われる。
【0081】
毛状根の維持用に最適化された半固体培地又は液体栄養素溶液を用いて、毛状根の成長速度及び生産性が非感染植物細胞に比べて増大する結果になることが好ましい。多くのタイプの材料並びに溶液及び培地が知られ、本発明において使用することができるが、好ましいいくつかの例として、Murashige and Skoog培地(MS)及びGamborg B5培地が挙げられる。持続可能な毛状根培養物の製造において使用される宿主植物の栄養素要求量に合致するように最適化された、いくつかの培地改良品を用いることができる。
【0082】
特定の一実施形態では、毛状根の生成を誘導する工程a)が、植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程b)の前に実施される。
【0083】
別の特定の一実施形態では、毛状根の生成を誘導する工程a)が、植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程b)の後に実施される。この実施形態では、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を発現するトランスジェニック植物を、rol遺伝子群を含み、上で規定したとおりの植物に感染することのできる細菌株で形質転換することにより、毛状根を得ることができる。
【0084】
好ましい一実施形態では、工程a)とb)が、同時に実施される。
【0085】
特定の一実施形態では、rol遺伝子群を含み、上で規定したとおりの植物に感染することのできる細菌株は、そのゲノムの中に、1つ又は複数の発現カセットを更に含み、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む。
【0086】
したがって、この実施形態において、植物の毛状根から組換え哺乳動物ウイルスベクターを生産する方法は、前記植物を、リゾビウム・リゾゲネスやアグロバクテリウム・ツメファシエンス等の細菌株で形質転換する工程を含み、
細菌株は、そのゲノムの中に、rol遺伝子群及び1つ又は複数の発現カセットを含み、
1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含み、
前記植物は、アブラナ科に属する。
【0087】
別の特定の一実施形態では、2つの細菌株が同時に使用され、一方の細菌株がrol遺伝子群を含み、他方の細菌株が、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質をコードする1つ又は複数の発現カセットを含む。
【0088】
別の特定の一実施形態では、2つ以上の細菌株が同時に使用され、2つ以上の細菌株は、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする、異なる発現カセットを含み、少なくとも1つの細菌株がrol遺伝子群を含む。
【0089】
特定の一実施形態では、3つ以上の細菌株が同時に使用され、1つの細菌株がrol遺伝子群を含み、少なくとも2つ以上の細菌株が、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする、異なる発現カセットを含む。
【0090】
1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで植物を形質転換する工程b)
上述のとおり、本発明の方法は、植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程b)を含む。
【0091】
特定の一実施形態では、植物は、ウイルスの効率的な複製に必要であるウイルスヘルパー機能をコードするベクター、たとえば、組換えウイルスベクターがrAAVベクターであるとき、アデノウイルスヘルパー機能をコードするベクターで、更に形質転換される。
【0092】
特定の一実施形態では、植物は、目的の産物をコードする遺伝子を含むウイルスゲノムを含むベクターで更に形質転換される。さらなる特定の一実施形態では、ベクターは、2つのAAV-ITR配列と隣接した、目的の産物をコードする遺伝子を含む。
【0093】
植物、詳細には、アブラナ科に属する植物の形質転換を可能にするいずれの技術を使用してもよい。詳細には、遺伝子銃法又は微粒子銃システム、電気穿孔法、顕微注射又は超音波を介した形質転換等の、いずれかの物理的方法を使用することができる。リポソームを介した形質転換、炭化ケイ素繊維を介した形質転換、PEGを介した形質転換、リン酸カルシウム共沈、ポリカチオンDMSO技術、DEAEデキストラン沈殿等の、化学的方法も使用することができる。PEIを介した形質転換を使用してもよい。
【0094】
好ましい一実施形態では、腫瘍誘導(Ti)プラスミド上に位置するDNA (T-DNA)を、植物細胞の核に自然に転移させ、植物ゲノムにDNAを安定して組み込む、リゾビウム・リゾゲネスやアグロバクテリウム・ツメファシエンス等の細菌株を用いて、形質転換が行われる。特定の一実施形態では、リゾビウム・リゾゲネス又はアグロバクテリウム・ツメファシエンスは、そのT-DNA領域に、以下で規定するとおりの1つ又は複数の発現カセットを含む二成分ベクターを含む。前記リゾビウム・リゾゲネス又はアグロバクテリウム・ツメファシエンスは、アグロバクテリウム属のTiプラスミドを起源とするvir遺伝子を含んでいるヘルパープラスミドを更に含む。こうした遺伝子は、二成分プラスミドを左及び右境界配列において切断し、T-DNAの宿主植物細胞への形質導入を促進する、一連のタンパク質をコードする。
【0095】
好ましい一実施形態では、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする1つ又は複数の発現カセットを含むリゾビウム・リゾゲネスやアグロバクテリウム・ツメファシエンス等の細菌株は、毛状根の生成に必要となるrol遺伝子群を更に含む。
【0096】
特定の一実施形態では、2種以上の細菌株が使用され、2種以上の細菌株は、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする、異なる発現カセットを含む。
【0097】
本明細書で使用するとき、用語「発現カセット」は、当業界におけるその一般的な意味を有する。この用語は、1つ又は複数の遺伝子の発現に必要となる要素の組合せを指す。
【0098】
一態様では、本発明はまた、このような発現カセットに関する。
【0099】
発現カセットは、適切ないずれかの発現ベクターに納めることができる。通常、発現ベクターは、本発明の1つ又は複数の発現カセットを含むように改変されている、pRD400、pBIN19、pBINPlus、又はpCAMBIA二成分ベクター等の、植物細胞における発現に適する二成分ベクターでよい。二成分ベクターの他の例は、Bahramnejadら、2019のTable 2に記載されている。特定の一実施形態では、二成分ベクターは、pRD400である。
【0100】
一実施形態では、前記発現カセットは、プロモーター、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする1つ又は複数の遺伝子、及びポリアデニル化配列を含む。特定の一実施形態では、発現カセットは、エンハンサーを更に含む。
【0101】
植物細胞における発現に適するいずれのプロモーターを使用してもよい。特定の一実施形態では、プロモーターは、昆虫又は哺乳動物細胞等の真核細胞における発現に適し、植物細胞における発現にも適するプロモーターである。当業者は、自身の分子生物学における一般知識に基づき、真核細胞プロモーターが、植物細胞における遺伝子の発現の動因となりうるかどうかを見極めることができる。たとえば、レポーター遺伝子を使用して、植物細胞に、前記レポーター遺伝子及びプロモーターを含む構築物を形質移入することにより、構築物においてレポーター遺伝子が動作可能に連結されているプロモーターの能力を試験することができる。特定の一実施形態では、プロモーターは、p19 AAVレポーターでよい。
【0102】
特定の一実施形態では、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子は、植物細胞における発現に適する構成的プロモーターの制御下にある。植物細胞における発現に適する構成的プロモーターを非網羅的に列挙すると、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S) (Odellら、1985)、キャッサバ葉脈モザイクウイルス(CVMV) (Verdaguerら、1996)、ワタ葉巻Multanウイルス(cotton leaf curl Multan virus) (CLCuMV)のC1 (Xieら、2003)、レンゲ萎縮ウイルスのコンポーネント8 (Shirasawa-Seoら、2005)、オーストラリアバナナストリークウイルス(BSV) (Schenkら、2001)、オシロイバナモザイクウイルス(MMV) (Dey及びMaiti、1999)、ゴマノハグサモザイクウイルス(FMV) (Sangerら、1990)、メイズポリユビキチン-1 (Christensenら、1992)、コメアクチン(McElroyら、1990)、アラビドプシス・タラニア(Arabidopsis thalania)由来のアクチン(Anら、1996)、アグロバクテリウム属由来のノパリンシンターゼ(nos)(Anら、1988)、アグロバクテリウム属由来のrolD (Feiら、2003)のプロモーター、又はこれらのいずれかの機能的バリアントが挙げられる。
【0103】
別の特定の一実施形態では、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子は、植物細胞における発現に適する誘導性プロモーターの制御下にある。植物細胞における発現に適するプロモーターを非網羅的に列挙すると、プリスチナマイシン応答性(Freyら、2001)、メイズ由来のIn2-2 (De Veylderら、1997)、バレイショ由来のwun1 (Siebertzら、1989)、アグロバクテリア由来のマンノピンシンターゼ(Langridgeら、1989)、ダイズ由来の熱ショックプロモーターGmshp17.3 (Schofflら、1989)、アルコールデヒドロゲナーゼ(Felenbokら、1988)、又はこれらのいずれかの機能的バリアントが挙げられる。
【0104】
特定の一実施形態では、誘導性プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター(Felenbokら、1988)又はこれらのいずれかの機能的バリアントである。
【0105】
特定の一実施形態では、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子は、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーター又はその機能的バリアント等の、アブラナ科植物に感染するウイルス由来のプロモーターの制御下にある。
【0106】
特定の一実施形態では、プロモーターは、転写活性が野生型CaMV35Sプロモーターに比べて向上している、CaMV35Sプロモーターの機能的バリアントである。詳細には、CaMV35Sの機能的バリアントは、Kayら、1987に記載されているとおり、-343~-90bp断片の重複を含む。特定の一実施形態では、CaMV35S機能的バリアントは、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%である。
【0107】
「その機能的バリアント」とは、由来元のプロモーターの機能を保持する、すなわち、特定の遺伝子の転写を開始することができる、いずれかのバリアントを意味する。詳細には、機能的バリアントは、野生型プロモーターと比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも100%の転写誘導活性を有する場合がある。機能的バリアントの転写誘導活性は、野生型プロモーターの活性の100%を超える、たとえば、110%、120%、130%、140%を超える、又はそれどころか150%を超える場合さえある。
【0108】
特定の一実施形態では、プロモーターは、CaMV35Sプロモーター、たとえば、配列番号9の配列のCaMV35S又はその機能的バリアントである。CAMV35S機能的バリアントは、配列番号9の野生型CAMV25Sプロモーターと比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも100%の転写誘導活性を有する場合がある。機能的バリアントの転写誘導活性は、配列番号9の野生型CAMV25Sプロモーターの活性の100%を超える、たとえば、110%、120%、130%、140%を超える、又はそれどころか150%を超える場合さえある。
【0109】
特定の一実施形態では、プロモーターは、ノパリンシンターゼ(nos)プロモーター、たとえば、配列番号11の配列のnosプロモーター又はその機能的バリアントである。nos機能的バリアントは、配列番号11の野生型nosプロモーターと比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも100%の転写誘導活性を有する場合がある。機能的バリアントの転写誘導活性は、配列番号11の野生型nosプロモーターの活性の100%を超える、たとえば、110%、120%、130%、140%を超える、又はそれどころか150%を超える場合さえある。
【0110】
特定の一実施形態では、プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、たとえば、配列番号14の配列のアルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアントである。アルコールデヒドロゲナーゼ機能的バリアントは、配列番号14の野生型アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターと比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも100%の転写誘導活性を有する場合がある。機能的バリアントの転写誘導活性は、配列番号14の野生型アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターの活性の100%を超える、たとえば、110%、120%、130%、140%を超える、又はそれどころか150%を超える場合さえある。
【0111】
特定の一実施形態では、発現カセットは、組換えウイルスベクターの産生に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子の下流にターミネーター配列を含む。「ターミネーター配列」とは、転写を終結させるための3'UTR配列及びポリアデニル化シグナルを含む配列を意味する。植物細胞において転写終結をもたらしうるいずれのターミネーター配列を使用してもよい。
【0112】
特定の一実施形態では、ターミネーター配列は、ノパリンシンターゼ(nos)ターミネーター又はCAMV35Sターミネーターである。
【0113】
組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子は、当業者によく知られている。当業者は、実験の部の記述において使用されている発現カセットを、生産したい特定のウイルスベクターに適合させることができる。
【0114】
組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子は、植物細胞におけるその発現を改善するためにコドン最適化することができる。
【0115】
組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子は、開始コドンを含む。たとえば、開始コドンは、ATGトリヌクレオチド、又はこれに代わる開始コドン、たとえば、ACG、CTG、GTG、及びTTG開始コドンでよい。
【0116】
特定の一実施形態では、上述のとおりの1つ又は複数の発現カセットは、組換えAAVウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む。
【0117】
特定の一実施形態では、本発明の1つ又は複数の発現カセットは、AAV Cap及びRep遺伝子を含む。
【0118】
特定の一実施形態では、本発明の1つ又は複数の発現カセットは、rAAVベクターのカプシド(Cap)構造タンパク質に相当する、AAV VP1タンパク質、VP2タンパク質、及び/又はVP3タンパク質をコードする遺伝子を含む。特定の一実施形態では、本発明の1つ又は複数の発現カセットは、カプシドアセンブリに必要となるAAPタンパク質をコードする遺伝子を更に含む。
【0119】
特定の一実施形態では、本発明の1つ又は複数の発現カセットは、ウイルス複製に必要となるタンパク質に相当するRep52タンパク質及び/又はRep78をコードする遺伝子を含む。
【0120】
特定の一実施形態では、AAV Cap及びRep遺伝子は、同じ発現カセットに含まれる。特定の一実施形態では、第1の発現カセットがAAV Cap遺伝子を含み、第2の発現カセットがAAV Rep遺伝子を含む。前記の、AAV Cap遺伝子を含む第1の発現カセット及びAAV Rep遺伝子を含む第2の発現カセットは、上述のとおりの、植物細胞における発現に適するいずれかのプロモーター配列を含む場合がある。特定の一実施形態では、AAV Cap遺伝子及び/又はAAV Rep遺伝子は、植物細胞における発現に適する構成的プロモーターの制御下にある。別の特定の一実施形態では、AAV Cap遺伝子及び/又はAAV Rep遺伝子は、植物細胞における発現に適する誘導性プロモーターの制御下にある。
【0121】
特定の一実施形態では、AAV Cap及びRep遺伝子はそれぞれ、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーター等の、アブラナ科植物に感染するウイルス由来のプロモーターの制御下にある。この実施形態では、第1の発現カセットが、CaMV35Sプロモーターの制御下にあるAAV Cap遺伝子を含み、第2の発現カセットが、CaMV35Sプロモーターの制御下にあるAAV Rep遺伝子を含む。
【0122】
特定の一実施形態では、それぞれAAV Cap遺伝子及びAAV Rep遺伝子を含む、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、上述のとおりのターミネーター配列を更に含む。植物細胞において転写終結をもたらしうるいずれのターミネーター配列を使用してもよい。特定の一実施形態では、AAV Cap遺伝子を含む第1の発現カセットは、CaMV35Sターミネーター配列を含む。特定の一実施形態では、AAV Rep遺伝子を含む第2の発現カセットは、ノパリンシンターゼ(nos)ターミネーター配列を含む。
【0123】
特定の一実施形態では、第1の発現カセットは、CaMV35Sプロモーター、AAV Cap遺伝子、及びCaMV35Sターミネーター配列を含む。
【0124】
特定の一実施形態では、第2の発現カセットは、CaMV35Sプロモーター、AAV Rep遺伝子、及びnosターミネーター配列を含む。
【0125】
特定の一実施形態では、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、タバコモザイクウイルス由来のエンハンサー、たとえば、タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサー等のエンハンサーを更に含む。
【0126】
特定の一実施形態では、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、1つ又は2つの発現ベクターにクローン化される。好ましい一実施形態では、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、単一の発現ベクターにクローン化される。特定の一実施形態では、第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、二成分ベクター、たとえば、pRD400二成分ベクターにクローン化される。
【0127】
いずれのAAV血清型のCap及びRep遺伝子を使用してもよい。Cap及びRep遺伝子は、自然又は人工配列でよい。
【0128】
本発明では、Cap遺伝子、又はAAVベクターのVP1、VP2、若しくはVP3カプシドタンパク質をコードする遺伝子は、自然に存在する、又は自然に存在しない血清型由来である場合がある。特定の一実施形態では、AAVベクターのカプシドの血清型は、AAV自然血清型から選択される。AAV自然血清型を使用する代わりとして、限定はせず、自然に存在しないカプシドタンパク質を有するAAVを始めとする人工AAV血清型を、本発明の状況において使用してもよい。このような人工カプシドは、選択されたAAV配列(たとえば、vp1カプシドタンパク質の断片)を、選択された異なるAAV血清型、同じAAV血清型の非近接部分、非AAVウイルス供給源、又は非ウイルス供給源から得られるものでよい異種配列と組み合わせて使用する、適切ないずれかの技術によって生成することができる。人工AAV血清型由来のカプシドは、限定はせず、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドである場合がある。
【0129】
特定の一実施形態によれば、Cap遺伝子、又はVP1、VP2、若しくはVP3をコードする遺伝子は、AAV-1、-2、AAV-2バリアント(たとえば、Lingら、2016で開示されている、Y44+500+730F+T491V変更を有する操作されたカプシドを含む、四重変異体カプシドで最適化されたAAV-2)、-3及びAAV-3バリアント(たとえば、Vercauterenら、2016で開示されている、2つのアミノ酸変更S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含むAAV3-STバリアント)、-3B及びAAV-3Bバリアント、-4、-5、-6、及びAAV-6バリアント(たとえば、Rosarioら、2016で開示されている、三重突然変異AAV6カプシドY731F/Y705F/T492V型を含むAAV6バリアント)、-7、-8、-9、及びAAV-9バリアント(たとえば、AAVhu68)、-2G9、-cy10や-rh10等の-10、-rh39、-rh43、-rh74、-dj、Anc80、LK03、AAV.PHP、AAV2i8、AAVpo4やAAVpo6等のブタAAV、並びにAAV血清型のチロシン、リジン、及びセリンカプシドバリアントのカプシドをコードする。加えて、Cap遺伝子は、切り混ぜ、合理設計、エラープローンPCR、及び機械学習技術によって得られる、他の操作された非自然バリアント(たとえば、AAV-spark100)、キメラAAV、又はAAV血清型のカプシドをコードする場合もある。特定の一実施形態では、Cap遺伝子は、少なくとも2つの異なるAAV血清型由来のVPカプシドタンパク質をコードし、又は少なくとも2つのAAV血清型由来のVPタンパク質領域若しくはドメインを併せ持つ少なくとも1つのキメラVPタンパク質をコードする。たとえば、AAV8カプシド配列を、上で詳細に言及したもののいずれか等の、AAV8血清型とは異なるAAV血清型の配列と組み合わせたものから、キメラAAVカプシドを得ることができる。別の実施形態では、AAVベクターのカプシドは、WO2015013313に記載されているもの、詳細には、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6カプシドバリアント等の、1種又は複数のバリアントVPカプシドタンパク質を含む。特定の一実施形態では、AAVベクターのカプシドは、AAV血清型9 (AAV9)とAAV血清型74 (AAVrh74)カプシドタンパク質のハイブリッドである。たとえば、AAV血清型は、WO2019/193119で開示されているような-rh74-9血清型(たとえば、WO2019/193119のexamplesに記載されているHybrid Cap rh74-9血清型;本明細書では「-rh74-9」、「AAVrh74-9」、又は「AAV-rh74-9」とも呼ぶrh74-9血清型)、又はWO2019/193119で開示されているような-9-rh74血清型(たとえば、WO2019/193119のexamplesに記載されているHybrid Cap 9-rh74血清型;本明細書では「-9-rh74」、「AAV9-rh74」、「AAV-9-rh74」、又は「rh74-AAV9」とも呼ぶ-9-rh74血清型)になる場合がある。特定の一実施形態では、AAVベクターのカプシドは、P1ペプチドで修飾されたAAV9-rh74ハイブリッドカプシドやAAVrh74-9ハイブリッドカプシド等の、PCT/EP2019/076958に記載されているような、AAV血清型9 (AAV9)とAAV血清型74 (AAVrh74)カプシドタンパク質のペプチド修飾ハイブリッドである。
【0130】
特定の一実施形態では、Cap遺伝子、又はVP1、VP2、若しくはVP3をコードする遺伝子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-cy10、AAVrh10カプシド等の、自然に存在するカプシドをコードする。特定の一実施形態では、本発明において使用されるCap遺伝子、又はVP1、VP2、若しくはVP3をコードする遺伝子は、AAV8カプシドをコードする。
【0131】
特定の一実施形態では、いずれかの自然AAVベクターのRep遺伝子が使用される場合がある。詳細には、AAV2ベクターのRep遺伝子が使用される。特定の一実施形態では、AAV2のRep52及びRep78をコードする遺伝子が使用される。
【0132】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれるCap遺伝子は、機能カプシドタンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0133】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれるRep遺伝子は、機能Repタンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号2のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0134】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、VP1タンパク質をコードする遺伝子は、機能VP1タンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号3のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0135】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、VP1タンパク質をコードする遺伝子は、配列番号17のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能VP1タンパク質をコードする。
【0136】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、VP2タンパク質をコードする遺伝子は、機能VP2タンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号4のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0137】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、VP2タンパク質をコードする遺伝子は、配列番号18のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能VP2タンパク質をコードする。
【0138】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、VP3タンパク質をコードする遺伝子は、機能VP3タンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号5のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0139】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、VP3タンパク質をコードする遺伝子は、配列番号19のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能VP3タンパク質をコードする。
【0140】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、AAPタンパク質をコードする遺伝子は、機能AAPタンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号6のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0141】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、AAPタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号20のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能AAPタンパク質をコードする。
【0142】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、Rep52タンパク質をコードする遺伝子は、機能Rep52タンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号7のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0143】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、Rep52タンパク質をコードする遺伝子は、配列番号21のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能Rep52タンパク質をコードする。
【0144】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、Rep78タンパク質をコードする遺伝子は、機能Rep78タンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号8のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である。
【0145】
特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、Rep78タンパク質をコードする遺伝子は、配列番号22のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能Rep78タンパク質をコードする。
【0146】
特定の一実施形態では、本発明の1つ又は複数の発現カセットは、VP1タンパク質、VP2タンパク質、VP3タンパク質、AAP (アセンブリ活性化タンパク質)、Rep52タンパク質、及び/又はRep78タンパク質をコードする遺伝子を含む。
【0147】
VP1タンパク質、VP2タンパク質、VP3タンパク質、AAP (アセンブリ活性化タンパク質)、Rep52タンパク質、及び/又はRep78タンパク質をコードする遺伝子は、植物細胞におけるその発現を改善するためにコドン最適化することができる。
【0148】
VP1タンパク質、VP2タンパク質、VP3タンパク質、AAP (アセンブリ活性化タンパク質)、Rep52タンパク質、及び/又はRep78タンパク質をコードする遺伝子は、植物細胞におけるその発現を可能にするいずれのプロモーターの制御下にあってもよい。
【0149】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、及びRep78をコードする遺伝子の少なくとも2つが、同じプロモーターの制御下にある。
【0150】
更に別の一実施形態では、VP1をコードする遺伝子は、前記VP1をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットに含まれ、VP2をコードする遺伝子は、前記VP2をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーター含む発現カセットに含まれ、VP3をコードする遺伝子は、前記VP3をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットに含まれ、AAPをコードする遺伝子は、前記AAPをコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットに含まれ、Rep52をコードする遺伝子は、前記Rep52をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットに含まれ、Rep78をコードする遺伝子は、前記Rep78をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットに含まれる。
【0151】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする遺伝子から選択される1つの遺伝子を含む各カセットが、1つ又は複数のベクターにクローン化される。VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする遺伝子から選択される1つずつの遺伝子を含むすべてのカセットが、同じベクターにクローン化されることが好ましい。特定の一実施形態では、すべてのカセットが、pRD400二成分ベクター等の二成分ベクターにクローン化される。
【0152】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする遺伝子は、植物細胞における発現に適する構成的プロモーターの制御下にある。植物細胞における発現に適する構成的プロモーターを非網羅的に列挙すると、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S) (Odellら、1985)、キャッサバ葉脈モザイクウイルス(CVMV) (Verdaguerら、1996)、ワタ葉巻Multanウイルス(cotton leaf curl Multan virus) (CLCuMV)のC1 (Xieら、2003)、レンゲ萎縮ウイルスのコンポーネント8 (Shirasawa-Seoら、2005)、オーストラリアバナナストリークウイルス(BSV) (Schenkら、2001)、オシロイバナモザイクウイルス(MMV) (Dey及びMaiti、1999)、ゴマノハグサモザイクウイルス(FMV) (Sangerら、1990)、メイズポリユビキチン-1 (Christensenら、1992)、コメアクチン(McElroyら、1990)、アラビドプシス・タラニア(Arabidopsis thalania)由来のアクチン(Anら、1996)、アグロバクテリウム属由来のノパリンシンターゼ(nos)(Anら、1988)、アグロバクテリウム属由来のrolD (Feiら、2003)のプロモーター、又はこれらのいずれかの機能的バリアントが挙げられる。
【0153】
別の特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする遺伝子は、植物細胞における発現に適する誘導性プロモーターの制御下にある。植物細胞における発現に適するプロモーターを非網羅的に列挙すると、プリスチナマイシン応答性(Freyら、2001)、メイズ由来のIn2-2 (De Veylderら、1997)、バレイショ由来のwun1 (Siebertzら、1989)、アグロバクテリア由来のマンノピンシンターゼ(Langridgeら、1989)、ダイズ由来の熱ショックプロモーターGmshp17.3 (Schofflら、1989)、アルコールデヒドロゲナーゼ(Felenbokら、1988)、又はこれらのいずれかの機能的バリアントが挙げられる。
【0154】
「その機能的バリアント」とは、由来元のプロモーターの機能を保持する、すなわち、特定の遺伝子の転写を開始することができる、いずれかのバリアントを意味する。
【0155】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、AAP、Rep52、又はRep78タンパク質をコードする遺伝子は、カリフラワーモザイクウイルス35S (CaMV35S)プロモーター又はその機能的バリアント等の、アブラナ科植物に感染するウイルス由来のプロモーターの制御下にある。特定の一実施形態では、プロモーターは、転写活性が野生型CaMV35Sプロモーターに比べて向上している、CaMV35Sプロモーターの機能的バリアントである。詳細には、CaMV35Sの機能的バリアントは、Kayら、1987に記載されているとおり、-343~-90bp断片の重複を含む。特定の一実施形態では、CaMV35S機能的バリアントは、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%である。
【0156】
特定の一実施形態では、
- VP1をコードする遺伝子は、ノパリンシンターゼ(nos)プロモーター又はその機能的バリアント等の弱いプロモーターの制御下にある、
- VP2をコードする遺伝子は、ノパリンシンターゼ(nos)プロモーター又はその機能的バリアント等の弱いプロモーターの制御下にある、
- VP3をコードする遺伝子は、CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアント、好ましくは、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、若しくは100%である機能的バリアント等の、強いプロモーターの制御下にある、かつ/又は
- AAPをコードする遺伝子は、CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアント、好ましくは、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、若しくは100%である機能的バリアント等の、強いプロモーターの制御下にある。
【0157】
特定の一実施形態では、本発明による少なくとも1つのベクターは、
- nosプロモーター又はその機能的バリアントと、VP1をコードする遺伝子と、nosターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット、
- nosプロモーター又はその機能的バリアントと、VP2をコードする遺伝子と、nosターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット、
- CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアント、好ましくは、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、若しくは100%である機能的バリアントと、VP3をコードする遺伝子と、CamV35Sターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット、及び/又は
- CaMV35Sプロモーター又はその機能的バリアント、好ましくは、配列番号13のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、若しくは100%である機能的バリアントと、AAPをコードする遺伝子と、CamV35Sターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット
を含む。
【0158】
別の特定の一実施形態では、
- VP1をコードする遺伝子は、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアント等の誘導性プロモーターの制御下にある、
- VP2をコードする遺伝子は、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアント等の誘導性プロモーターの制御下にある、
- VP3をコードする遺伝子は、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアント等の誘導性プロモーターの制御下にある、かつ/又は
- AAPをコードする遺伝子は、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアント等の誘導性プロモーターの制御下にある。
【0159】
特定の一実施形態では、本発明による少なくとも1つのベクターは、
- アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアントと、VP1をコードする遺伝子と、nosターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット、
- アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアントと、VP2をコードする遺伝子と、nosターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット、
- アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターと、VP3をコードする遺伝子と、CamV35Sターミネーター配列等のターミネーター配列と、場合により、TMVΩエンハンサー等のエンハンサーとを含む発現カセット、及び/又は
- アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターと、AAPをコードする遺伝子と、CamV35Sターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット
を含む。
【0160】
特定の一実施形態では、TMVΩエンハンサーは、配列番号16のヌクレオチド配列に対する同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、99%、又は100%である配列を有する。
【0161】
特定の一実施形態では、VP1、VP2、VP3、及び/又はAAPをコードする遺伝子は、植物細胞におけるその発現を改善するために更にコドン最適化される。
【0162】
アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーターが使用されるとき、本発明による少なくとも1つのベクターは、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターの活性化に必要なALCRタンパク質をコードする発現カセットを更に含む。特定の一実施形態では、ALCRタンパク質をコードする遺伝子は、機能ALCRタンパク質をコードし、前記遺伝子は、配列番号15のヌクレオチド配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%である。特定の一実施形態では、発現カセットに含まれる、ALCRタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号23のアミノ酸配列に対する同一性が、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.8%、又は100%である機能ALCRタンパク質をコードする。
【0163】
特定の一実施形態では、
- Rep52をコードする遺伝子は、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアント等の誘導性プロモーターの制御下にある、かつ/又は
- Rep78をコードする遺伝子は、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアント等の誘導性プロモーターの制御下にある。
【0164】
特定の一実施形態では、本発明による少なくとも1つのベクターは、
- アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアントと、Rep52をコードする遺伝子と、CamV35Sターミネーター配列等のターミネーター配列と、場合により、TMVΩエンハンサー等のエンハンサーとを含む発現カセット、及び/又は
- アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター又はその機能的バリアントと、Rep78をコードする遺伝子と、nosターミネーター配列等のターミネーター配列とを含む発現カセット
を含む。
【0165】
特定の一実施形態では、Rep52及び/又はRep78をコードする遺伝子は、植物細胞におけるその発現を改善するために更にコドン最適化される。
【0166】
アルコールデヒドロゲナーゼの誘導性プロモーターが使用されるとき、本発明による少なくとも1つのベクターは、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーターの活性化に必要なALCRタンパク質をコードする発現カセットを更に含む。
【0167】
組換えウイルスベクターの回収
一実施形態では、組換えウイルスベクターは、毛状根が培養されている培地を収穫することによって回収される。
【0168】
特定の一実施形態では、前記組換え体を含有する培養培地は、収集され、後々の適用にそのまま使用される。
【0169】
有利なことに、この実施形態による、組換えウイルスベクターを含有する培養培地は、精製工程なしで、ヒト及び/又は動物における経口的使用に適する。
【0170】
したがって、本発明の別の一態様は、上述の方法によって取得可能な組換えウイルスベクターを含有する培養培地に関する。
【0171】
一代替実施形態では、組換えウイルスベクターは、1又は数回の精製工程の後に得られる。各組換えウイルスベクターに適合した適切なプロトコールは、当業界における標準技術であり、所望の適用に相応しい精製工程があれば、当業者によって容易に選択される。
【0172】
第2の一実施形態では、組換えウイルスベクターは、毛状根から抽出される。詳細には、ウイルスベクターの回収は、化学抽出によって、又は毛状根を粉砕することによって行われる場合がある。
【0173】
さらなる特定の一実施形態では、組換え哺乳動物ウイルスベクターを生産する方法は、WO16185122に記載されているような、形質転換植物の毛状根において側根の出現を誘導する工程を更に含む。
【0174】
詳細には、形質転換植物の毛状根において側根の出現を誘導する工程は、形質転換された毛状根を、少なくとも1種のオーキシンの存在下で培養することによって実施される場合がある。
【0175】
特定の一実施形態では、毛状根は、少なくとも1種のオーキシンを含む液体培地において培養される。
【0176】
オーキシンは、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、3-インドール酢酸(IAA)、インドール-3-酪酸(IBA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)、2,3,5-トリヨード酢酸、4-クロロフェノキシ酢酸、2-ナフトキシ酢酸、1-ナフチル酢酸、4-アミノ-3,5,6-トリクロロピコリン酸、3,6-ジクロロ-2-メトキシ安息香酸(Dicamba)、及びこれらの誘導体から選択することができる。
【0177】
本発明の別の一態様は、
a)上述のいずれかの実施形態に従って、アブラナ科に属する植物からの毛状根の生成を誘導する工程、及び
b)上述のいずれかの実施形態に従って、前記植物を、1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換し、1つ又は複数の発現カセットは、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む、工程
によって取得可能である、又は取得された毛状根培養物に関する。
【0178】
本発明の別の態様は、組換えウイルスベクターの生産に必要となるタンパク質成分をコードする遺伝子を含む1つ又は複数の発現カセットを含んでいる少なくとも1つのベクターで形質転換されたトランスジェニック植物に関するものであり、前記植物は、アブラナ科に属する。
【0179】
本発明の別の態様は、上述のとおりの方法によって取得可能である、又は取得された組換えウイルスベクターに関する。
【実施例
【0180】
材料及び方法
A. AAVタンパク質発現のための組換え二成分プラスミド
使用した配列は、プラスミドp5e18_VD2_8_kanR (RepCap_cellules_293、GENETHON社より提供)から抽出した。コード配列は、ヒト(発端生物)及びブラッシカ・ラパ(発現宿主生物)種におけるコドン使用頻度に基づいて手作業で最適化した。
【0181】
異なる発現カセットを含む5種の構築物を設計した。5種の構築物の概略図を図1に示す。
【0182】
構築物1では、CAP (AAV8由来)及びREP (AAV2由来)遺伝子の発現が、CaMV35Sプロモーターを動因としている。
【0183】
構築物2では、VP1及びVP2遺伝子が、それぞれ、Nosプロモーターの制御下にある。VP3及びAAP遺伝子は、それぞれ、「2*CaMV35S」プロモーターの制御下にある。「2*CaMV35S」プロモーターは、Kayら、1987に記載されているとおり、-343~-90bp断片の重複を含む、CaMV35Sのバリアントである。特異的抗AAP抗体がないため、AAPタンパク質にはHAタグを付加して、その検出を可能にした。
【0184】
構築物3では、Rep52及びRep78が、エタノール誘導性系の制御下にある。
【0185】
構築物4は、構築物3と同様であるが、タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサーを加えて、Rep52の発現を強化した。
【0186】
構築物5では、エタノール誘導性系を使用して、VP1、VP2、VP3、及びAAPの発現の動因とした。タバコモザイクウイルスオメガ(TMVΩ)エンハンサーを加えて、VP3の発現を増大させた。特異的抗AAP抗体がないため、AAPタンパク質にはHAタグを付加して、その検出を可能にした。
【0187】
次いで、これら5つの構築物それぞれを、pRD400植物発現ベクター(Datlaら、1992)に別々にクローン化した。
【0188】
得られるプラスミドpRD400-AAVを、まずエレクトロコンピテント大腸菌(Escherichia coli)JM101株に、次いで、リゾビウム・リゾゲネス株ATCC 15834にクローン化した。
【0189】
R.リゾゲネス株ATCC 15834を、pRD400プラスミドをコードするAAV (pRD400-AAV)で、電気穿孔法によって形質転換した。
【0190】
B.トランスジェニック毛状根の生成、選択、及び培養
1.植物種及びin vitro培養
ブラッシカ・ラパcv 'Navet des vertus Marteau'からの種子を、数滴のTriton X100で補充した5%の漂白剤で10分間表面滅菌し、滅菌水で少なくとも5回洗浄した後、B5寒天を含んだペトリ皿に載せた。光周期を16h明/8h暗とし、20℃で、発芽及び実生成長が生じた。
【0191】
2.リゾビウム・リゾゲネスによる植物の感染
本発明者らは、パスツール研究所より提供されたリゾビウム・リゾゲネス15834株(ATCC 15834)を使用した。リゾビウム・リゾゲネスは、二成分プラスミドを選択するために最後に50mg/lのカナマイシンで補充したMGLプレート(2.5g/lの酵母抽出物、5g/lのトリプトン、5g/lのマンニトール、5g/lのNaCl、1.16g/lのグルタミン酸Na、0.25g/lのKH2PO4、0.1g/lのMgSO4、1.0mg/lのビオチン、8g/lの寒天、pH7.0)において増殖させた。MGL培地において25℃で終夜増殖させた20mlの液体細菌培養物から、接種源を調製した。懸濁液を15,000rpmで5分間遠心分離し、収集した細胞を新鮮なMGL培地に再懸濁し、希釈して、600nmで1±0.1の光学濃度を得た。
【0192】
3~10日齢の実生の胚軸を針で突き、損傷域に滅菌綿棒でリゾビウム接種源を適用することにより、植物を感染させた。通常は、感染から約2週間後に、創傷部位から毛状根が出現した。
【0193】
3. AAVタンパク質を発現する毛状根クローンの選択及び培養
毛状根を発生させる感染した胚軸を実生から切り取り、3%のサッカロース及びセフォタキシム(300mg/L)、8g/Lの寒天で補充したB5 (Duchefa社) pH5.8に載せた。7日後、独立した毛状根先端を、新鮮なB5-3%のサッカロース+セフォタキシム(300mg/L)、8g/Lの寒天上に移し、そこで4~10日間成長させた。
【0194】
液体培地での培養を開始するために、次いで、各毛状根クローンを、3%のサッカロースを含んだ6mlのB5に10日間移した。この後、培養培地が改められ、培養培地は、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)を更に含んだ。毛状根クローンをもう10日間培養した。20日間培養した後、すべてのサンプルを収集した。100mgの新鮮なバイオマスをタンパク質抽出及びRNA抽出に使用した。
【0195】
C. SDS-PAGE及びウエスタンブロット
市販のキット(Macherey-Nagel社、ref 740933)を使用し、供給元のプロトコールに従って、毛状根からのタンパク質抽出を行った。一定分量の毛状根抽出物をサンプル採取し、1/3体積の3X Laemmli緩衝液と混合し、5分間煮沸した。各サンプル40μlを、AnykD mini protean TGXポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad社)にかけた。ウエスタンブロット分析のために、Bio-Rad Turbo Trans-Blotシステムを使用して、タンパク質をニトロセルロース膜に移した(Bio-Rad社、カリフォルニア州Hercules)。膜を、TBS緩衝液中5%の無脂肪乳(Blotting grade blocker、Bio-Rad社)中でブロックし、抗AAV VP1/VP2/VP3マウスモノクローナルB1(Progen社の61058)の1:250希釈物、又は1:100の抗AAV2レプリカーゼマウスモノクローナル259,5 (Progen社の61071)、又は1:1000の抗HAタグ抗体マウスモノクローナル(Abcam社のab18181)と共にインキュベートした後、m-IgGκBP-HRP抗体(Santa Cruz Biotechnology社のsc-516102)の1:5000希釈物と共にインキュベートした。Western Clarity ECL顕色キット(170-5060、Bio-Rad社)を使用して、染色の顕色後処理を行った(staining was developed)。
【0196】
D.ブラッシカ・ラパ由来の毛状根中のAAV粒子の定量化
1.ブラッシカ・ラパ由来の毛状根において生産されたrAAV2/8ベクター
ブラッシカ・ラパの毛状根クローンを、以前に記載したとおりに発生させた。(上述のとおりの構築物番号1を含む)クローンC1-38由来並びに(上述のとおりの構築物番号2を含む)クローンC2-8及びC2-53由来のタンパク質抽出物において、集合AAV粒子の検出を行った。野生型クローン(すなわち、導入遺伝子なし)を陰性対照として含めた。
【0197】
クローンを20日間維持した。簡潔に述べると、1gの新鮮な毛状根を、30g/Lのスクロースを含んだ100mLのGamborg B5培地に播種し、23℃、100rpmで10日間インキュベートした。10日間成長させた後、毛状根を、30g/Lのスクロースを含んだ100mLの新鮮なGamborg B5培地を1mg/Lの2,4Dで補充したものに移し、23℃、100rpmでもう10日間インキュベートした。培養終了時に、100mgの新鮮なバイオマスを収集し、液体窒素中で凍結させ、その後のタンパク質抽出のために-80℃で保管した。
【0198】
生成された各サンプルについて、3つの異なる抽出方法(以下の方法B、C、及びD)を試し、table 1 (表1)に記載するとおりに適用した。
【0199】
【表1】
【0200】
次いで、以下に記載するProgen AAV8 Capsid ELISA Kitを使用して、集合ウイルス粒子の濃度(カプシド/mL)を求めた。
【0201】
2. rAAV8-eGFP対照ベクター調製物
哺乳動物細胞から生産されたrAAV8-eGFPベクターを、各実験において陽性対照として使用した。
【0202】
対照ベクターは、次のとおりに製造した。簡潔に述べると、懸濁培養で増殖するように適合させたHEK293T細胞を、振とうフラスコ(1L)において、400mLのF17既知組成培養培地に播種した。PTG1+形質移入剤を用い、細胞に3つのプラスミドを形質移入した。形質移入から72時間後に細胞を収集し、音波処理によって溶解させた。培養上清中のAAV8粒子をポリエチレングリコール(PEG)によって沈殿させ、次いで、二重CsCl密度勾配超遠心分離によって精製し、最後に、Slide-A-Lyzer(商標) 10K MWCOカセット(Thermo Scientific社、フランス国Illkirch)に入れて透析することで、Ca2+及びMg2+を含有する1×DPBS中に製剤化した。
【0203】
ウイルスゲノムの濃度/mL(VG/mL)は、デオキシリボヌクレアーゼ抵抗性粒子から、TaqManリアルタイムPCRアッセイによって求めた。ウイルス粒子の濃度(カプシド/mL)は、以下に記載するProgen AAV8 Capsid ELISA Kitを使用して求めた。
(5~107個のカプシドに相当する)5μLの対照ベクターを、100μLの抽出緩衝液(B、C、若しくはD)、又は野生型クローン(すなわち、導入遺伝子なし)から上述の抽出方法(B、C、若しくはD)に従って取得した100μLの毛状根タンパク質抽出物のいずれかに添加した。
【0204】
3. rAAV8-eGFP変性ベクター調製物
対照ベクターを、陰性対照とするために、90℃で15分間熱変成させた。これによって、ELISAにおいて、集合カプシドだけがシグナルをもたらすことが確実になる。
【0205】
(5×107個のカプシドに相当する)5μLの変性ベクターを、100μLの抽出緩衝液(B、C、若しくはD)に添加、又は野生型クローン(すなわち、導入遺伝子なし)からの100μLの毛状根タンパク質抽出物に添加した。
【0206】
4. ELISAによるAAV8カプシド滴定
Progen AAV8 Capsid ELISA Kit (PROGEN Biotechnik社、ドイツ国ハイデルベルク)を製造者の指示に従いながら使用することによって、AAV8集合カプシドのELISAによる滴定を行った。
【0207】
結果
目的は、ブラッシカ・ラパからの毛状根が、AAVの生成に必要となるすべてのタンパク質(REP、CAP、及びAAPタンパク質)を産生しうるかどうかを明らかにすることであった。
【0208】
この目的を達成するために、上述のとおりの分子構築物を設計し、クローン化し、リゾビウム・リゾゲネスを使用してブラッシカ・ラパに導入した。ブラッシカ・ラパのトランスジェニック毛状根を発生させ、分析した。結果は、以下で、構築物1及び構築物2について示す。
【0209】
1- 構築物1を含んでいる毛状根からのAAVタンパク質の産生の分析
上で詳述したとおりの構築物1を含んでいる毛状根クローンからのタンパク質抽出物について、ウエスタンブロット分析を行った。
【0210】
ウエスタンブロット分析によって、毛状根のVP1、VP2、及びVP3タンパク質産生能が実証された。
【0211】
ウエスタンブロット分析によって、毛状根のRepタンパク質産生能も実証された。
【0212】
2- 構築物2を含んでいる毛状根からのAAVタンパク質の産生の分析
上で詳述したとおりの構築物2を含んでいる毛状根クローンからのタンパク質抽出物について、ウエスタンブロット分析を行った。構築物2は、異なるプロモーター、すなわち「2*35S」プロモーター又はNOSプロモーターを使用する、ブラッシカ・ラパのVP1、VP2、VP3、及びAAP (AAV8由来)発現能が試されるように設計された。
【0213】
ウエスタンブロット分析によって、毛状根のVP1、VP2、及びVP3タンパク質産生能が実証された。
【0214】
ウエスタンブロット分析によって、毛状根のAAP-HAタンパク質産生能も実証された。
【0215】
3.ブラッシカ・ラパからの毛状根におけるAAV粒子の定量化
本発明者らは、こうして、毛状根のAAV Rep、VP1、VP2、VP3、及びAAPタンパク質産生能を証明した。次いで、目的は、ブラッシカ・ラパからの毛状根が集合カプシドを産生しうるかどうかを明らかにすることとなった。
【0216】
(材料及び方法において記載した)3つの抽出方法によって調製した毛状根タンパク質抽出物中に存在するAAV粒子の定量化は、VP及び/又はAAPタンパク質を産生することがウエスタンブロットによって示されたクローン(C1-38 /C2-8 /C2-53)から、ELISAによって明らかにした。
【0217】
野生型クローン(すなわち、導入遺伝子なし)を陰性対照として含めた。
【0218】
以下でtable 2 (表2)に詳述する結果から、ブラッシカ・ラパからの毛状根が集合カプシドを産生しうることが照明される。
【0219】
【表2】
【0220】
(1)抽出緩衝液、又は(2)野生型毛状根クローン由来のタンパク質抽出物に添加された対照rAAV8-eGFPベクターで得られた力価は、ほとんど同一であり、したがって、滴定方法が検証されると指摘することができる。
【0221】
クローンC1-38 (構築物番号1を指す)由来並びにクローンC2-8及びC2-53 (構築物番号2を指す)由来のタンパク質抽出物において得られた力価(カプシド/mL)は、高度であり、対照rAAV8-eGFPベクターで得られた力価と互角である。
【0222】
毛状根クローンのタンパク質抽出物において得られた力価は、濃縮工程が実施されなかったこと、並びに抽出及び定量化に非常に少量の出発材料が使用されたことを考慮して、思いがけなく高度である。
【0223】
加えて、前記結果からは、異なる3つの抽出方法(B、C、D)に従ってAAV集合カプシドの検出が示され、したがって、方法の再現性も実証された。
【0224】
[参考文献]
図1
【配列表】
2023507460000001.app
【国際調査報告】