(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(54)【発明の名称】ヒト幹細胞適用のためのプラズモニクスセンシングナノプラットフォーム及びその方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230315BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230315BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230315BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/68
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546370
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 US2021015676
(87)【国際公開番号】W WO2021155122
(87)【国際公開日】2021-08-05
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォー - ディン、トゥアン
(72)【発明者】
【氏名】へブロック、マシアス
(72)【発明者】
【氏名】クローフォード、ブリジェット
(72)【発明者】
【氏名】デ クレルク、エレオノーラ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、シン - ネン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR66
4B063QS03
4B063QS05
4B063QS34
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4B063QS39
4B063QX02
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA03
4B065BA30
4B065CA46
(57)【要約】
幹細胞療法に使用される幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングする方法であって、1つ以上の幹細胞由来細胞を細胞培養培地に導入することと、1つ以上のナノプローブを細胞培養培地に導入することであって、それにより、1つ以上の幹細胞由来細胞が1つ以上のナノプローブでトランスフェクトされる、上記導入することと、トランスフェクション後に1つ以上のナノプローブからの光学シグナルを検出することとを含む、上記方法。本方法は、1つ以上のトランスフェクトされた幹細胞由来細胞を対象に投与することと、1つ以上のナノプローブからの光学シグナルをインビボで検出することとをさらに含んでもよい。1つ以上の幹細胞由来細胞は、幹細胞を含んでもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞療法に使用される幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングするインビボの方法であって、
1つ以上のナノプローブを有する1つ以上の幹細胞由来細胞を対象に導入することであって、該1つ以上のナノプローブが、1つ以上の幹細胞由来細胞に関する健康状態情報を提供するように構成される、上記導入することと、
1つ以上の幹細胞由来細胞を対象に導入した後に、1つ以上のナノプローブからの光学シグナルを検出することと
を含む、上記インビボの方法。
【請求項2】
1つ以上のナノプローブを有する1つ以上の幹細胞由来細胞の健康状態情報が、1つ以上の幹細胞由来細胞の生存率、機能的能力及び/又は健康状態に関する情報を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上のナノプローブが、
少なくとも1つのプラズモン活性ナノ粒子と、
一端がナノ粒子に結合したステムループ核酸プローブであって、核酸が第1の配列(ステムループプローブ)を含み、光学レポーターで標識された、上記ステムループ核酸プローブと、
第2の配列(プレースホルダ)を含む非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖と
を含む逆分子センチネル(iMS)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖が、目的の核酸標的にハイブリダイズして捕捉するように設計されたヌクレオチド配列を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
目的の核酸標的が、マイクロRNA、低分子ノンコーディングRNA、mRNA又はDNA配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1つ以上のナノプローブが、目的の分子種を捕捉するためのヌクレオチド配列、アプタマー、抗体、酵素又は細胞ベースの受容体を含む生体受容体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1つ以上のナノプローブが、標的認識及びセンシングのための化学受容体又はリガンドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
光学シグナルが、ラマンシグナル又は表面増強ラマン散乱(SERS)シグナルである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1つ以上のナノプローブを有する1つ以上の幹細胞由来細胞が、合成足場有り又は無しでの皮下移植、静脈内注射、動脈内注入又は髄腔内注入によって対象に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1つ以上の幹細胞由来細胞が幹細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
検出することが、光ファイバベースの読出しシステムを使用して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
読出しシステムが、対象及び/又は医療提供者によってモニタリングされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
読出しシステムが携帯型である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
読出しシステムが手持ち式である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングする方法であって、
1つ以上の幹細胞由来細胞を細胞培養培地に導入することと、
1つ以上のナノプローブを細胞培養培地に導入することであって、それにより、該1つ以上の幹細胞由来細胞が該1つ以上のナノプローブでトランスフェクトされる、上記導入することと、
トランスフェクション後に1つ以上のナノプローブからの光学シグナルを検出することと
を含む、上記方法。
【請求項16】
前記幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングする方法が、幹細胞及び前駆細胞、再プログラム化分化細胞由来の幹細胞、並びにインスリン産生膵島のうちの1つ以上における使用のための幹細胞由来細胞の操作、傷害及び/又は貯蔵寿命をモニタリングすることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
幹細胞及び前駆細胞が、胚、妊娠細胞及び成体組織などの供給源に由来する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1つ以上の幹細胞由来細胞が、細胞培養培地への1つ以上のナノプローブの導入前、導入後又は導入と同時に細胞培養培地に導入される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
1つ以上のナノプローブが、
少なくとも1つのプラズモン活性ナノ粒子と、
一端がナノ粒子に結合したステムループ核酸プローブであって、核酸が第1の配列(ステムループプローブ)を含み、光学レポーターで標識された、上記ステムループ核酸プローブと、
第2の配列(プレースホルダ)を含む非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖と
を含む逆分子センチネル(iMS)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖が、目的の核酸標的にハイブリダイズして捕捉するように設計されたヌクレオチド配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
目的の核酸標的が、マイクロRNA、低分子ノンコーディングRNA、mRNA又はDNA配列を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
第1の配列(ステムループプローブ)が、ヌクレオチド配列AAAAACTAAGAAAAAAAAATGGCAGTGTCTTAG(miR-34aステムループプローブ、配列番号1)を含み、かつ第2の配列(プレースホルダ)が、miR-34a miRNAセンシングのためのヌクレオチド配列ACAACCAGCTAAGACACTGCCATTTT(miR-34aプレースホルダ、配列番号2)を含む、請求項3又は19に記載の方法。
【請求項23】
第1の配列(ステムループプローブ)が、ヌクレオチド配列AAAAATACCCTTTATATAAAAATAATACTGCCGGGTA(miR-200b-3pステムループプローブ、配列番号3)を含み、かつ第2の配列(プレースホルダ)が、miR200b-3p miRNAセンシングのためのヌクレオチド配列TCCATCATTACCCGGCAGTATTATTTT(miR200b-3pプレースホルダ、配列番号4)を含む、請求項3又は19に記載の方法。
【請求項24】
第1の配列(ステムループプローブ)が、ヌクレオチド配列AAAAAACCCAAATAAAAAATAATACTGCCGGGT(miR200c-3bステムループプローブ、配列番号5)を含み、かつ第2の配列(プレースホルダ)が、miR200c-3p miRNAセンシングのためのヌクレオチド配列TCCATCATTACCCGGCAGTATTA(miR200c-3p、配列番号6)を含む、請求項3又は19に記載の方法。
【請求項25】
第1の配列(ステムループプローブ)が、配列SH-AAAAA+CT+AA+GA+AA+AA+AA+AA+TG+GC+GC+AG+TG+TC+TT+AG+(miR-34a、配列番号7)を含み、かつラマンレポーターにより標識された、上記第1の配列(ステムループプローブ)、(2)プラズモン活性ナノ粒子、及び(3)第2の配列を含む非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖であって、該配列が、miR-34a miRNAセンシングのためのAC+AA+CC+AG+CT+AA+GA+CA+CT+GC+CA+TT+TT(MIR-34a、配列番号8)を含む、上記非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖である、請求項3又は19に記載の方法。
【請求項26】
プラズモン活性ナノ粒子が、銀ナノスフェア、金ナノスフェア、銀ナノシェル、金ナノシェル、銀ナノスター及び金ナノスターからなる群から選択される、請求項3又は19に記載の方法。
【請求項27】
光学レポーターが、ラマン色素、3,3’-ジエチルチアジカルボシアニンヨージド(DTDC)、3,3’-ジエチルチアトリカルボシアニンヨージド(DTTC)、1,1’,3,3,3’,3’-ヘキサメチルインドトリカルボシアニンヨージド(HITC)、CY3色素、CY3.5色素、CY5.5色素、CY7色素、CY7.5色素、正に荷電した疎水性近赤外(NIR)色素、IR-780、IR-792、IR-797、IR-813、メチレンブルー水和物(MB)、4-メルカプト安息香酸(4-MBA)、5,5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸(DTNB)、4-アミノチオフェノール(4ATP)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、チオニン色素、ローダミン系色素、クリスタルバイオレット、蛍光標識又は吸光標識からなる群から選択される、請求項3又は19に記載の方法。
【請求項28】
トランスフェクションが、1つ以上の幹細胞由来細胞と、1つ以上のナノプローブとを含有する細胞培養培地をエレクトロポレーションすることを含み、該1つ以上の幹細胞由来細胞の少なくとも一部が、エレクトロポレーション後に生存可能なままである、請求項15に記載の方法。
【請求項29】
1つ以上の幹細胞由来細胞の少なくとも35%が、エレクトロポレーション後に生存可能なままである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
1つ以上の幹細胞由来細胞の30%~80%が、エレクトロポレーション後に生存可能なままである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
エレクトロポレーションが、250V又は300Vなどの200V~500Vで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
エレクトロポレーションが、0.5~10ミリ秒(ms)又は3~5ミリ秒(ms)又は3~4ミリ秒(ms)のパルス長で行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
エレクトロポレーションが、2~4ミリ秒(ms)のパルス長で250Vで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
エレクトロポレーションが、2~4ミリ秒(ms)のパルス長で300Vで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
エレクトロポレーションが、1~5パルス又は1~3パルス又は1パルスで行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
1つ以上のトランスフェクトされた幹細胞由来細胞を対象に投与することと、1つ以上のナノプローブからの光学シグナルをインビボで検出することとをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項37】
1つ以上の幹細胞由来細胞の生存率をインビボでモニタリングすることがリアルタイムで行われる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
1つ以上の幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングすることが、幹細胞分化をインビトロでモニタリングするためにリアルタイムで行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項39】
1つ以上の幹細胞由来細胞が幹細胞を含む、請求項1又は15に記載の方法。
【請求項40】
1つ以上の幹細胞由来細胞が、ベータ細胞、心筋細胞、神経細胞、肝細胞、腎細胞、上皮細胞、内皮細胞及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1又は15に記載の方法。
【請求項41】
ナノプローブの少なくとも一部の構成を維持しながら、エレクトロポレーションを使用して、ナノプローブで幹細胞由来細胞をトランスフェクトする方法であって、
1つ以上の幹細胞由来細胞と、初期構成を有する1つ以上のナノプローブとを含む細胞培養培地を提供することと、
1つ以上の幹細胞由来細胞と、1つ以上のナノプローブとを含有する細胞培養培地をエレクトロポレーションすることであって、1つ以上のナノプローブの少なくとも一部が、エレクトロポレーション後にそれらの初期構成を維持する、上記エレクトロポレーションすることと
を含む、上記方法。
【請求項42】
1つ以上のナノプローブが逆分子センチネル(iMS)ナノプローブを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
iMSナノプローブの初期構成がオフである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
iMSナノプローブの初期構成がオンである、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
幹細胞由来細胞の生存率を維持しながら、幹細胞由来細胞へのナノプローブの取込みを増加させる方法であって、
1つ以上の幹細胞由来細胞と、1つ以上のナノプローブとを含む細胞培養培地を提供することと、
1つ以上の幹細胞由来細胞と、1つ以上のナノプローブとを含有する細胞培養培地をエレクトロポレーションすることであって、それにより、1つ以上の幹細胞由来細胞にトランスフェクトされた1つ以上のナノプローブの量が、トランスフェクションが受動的取込みのみからなる場合に1つ以上の幹細胞由来細胞にトランスフェクトされたであろう量よりも多い、上記エレクトロポレーションすることと
を含む、方法。
【請求項46】
1つ以上の幹細胞由来細胞の少なくとも35%が、エレクトロポレーション後に生存可能なままである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
1つ以上の幹細胞由来細胞の30%~80%が、エレクトロポレーション後に生存可能なままである、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
1つ以上の幹細胞由来細胞が幹細胞を含む、請求項41又は45に記載の方法。
【請求項49】
1つ以上のナノプローブが逆分子センチネル(iMS)ナノプローブを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
iMSナノプローブが、
プラズモン活性ナノ粒子と、
一端がナノ粒子に結合したステムループ核酸プローブであって、該核酸が第1の配列(ステムループプローブ)を含み、光学レポーターで標識された、上記ステムループ核酸プローブと、
第2の配列(プレースホルダ)を含む非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖と
を含む、請求項42又は49に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月29日に出願された米国仮特許出願第62/967,143号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
幹細胞技術は、多種多様な疾患に対する再生医療のための再生可能な種類の治療薬を提供するという見込みがある。幹細胞由来の細胞、組織及びオルガノイドのインビトロ分化において大きな進歩があったが、細胞の大部分が移植直後に死滅するので、インビボでのこれらの細胞の生存はしばしば重大な障壁をもたらす。現在、非侵襲的な読出しを用いて移植細胞の健康状態をモニタリングする能力は、依然として非常に困難である。この目的を達成するために、移植された幹細胞系の生存率、健康状態及び機能的能力をモニタリングするためのリアルタイムの実用的かつ効率的なセンシングナノプラットフォーム、システム及び方法を開発する強い必要性がある。さらに、センシングナノプラットフォームは、必要なときに非機能性幹細胞の適時の修復手順及び/又は置換を引き起こす細胞の非機能性の警告シグナルを提供することができるので、このようなセンシング能力は、最終的に幹細胞ベースの療法の重要な進歩及び改善につながるであろう。
【発明の概要】
【0003】
概要は、発明を実施するための形態において以下でさらに説明される概念の選択を紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の重要な又は本質的な特徴を特定することを意図しておらず、特許請求される主題の範囲を限定する助けとして使用されることも意図していない。
【0004】
本発明の第1の態様において、幹細胞療法に使用される幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングするインビボの方法は、1つ以上のナノプローブを有する1つ以上の幹細胞由来細胞を対象に導入することであって、当該1つ以上のナノプローブが、1つ以上の幹細胞由来細胞に関する健康状態情報を提供するように構成される、上記導入することと、1つ以上の幹細胞由来細胞を対象に導入した後に、1つ以上のナノプローブからの光学シグナルを検出することとを含む。
【0005】
この態様の特徴において、1つ以上の幹細胞由来細胞の健康状態情報は、1つ以上の幹細胞由来細胞の生存率、機能的能力及び/又は健康状態に関する情報を含む。
【0006】
本発明の第2の態様において、幹細胞由来細胞の生存率をモニタリングする方法は、1つ以上の幹細胞由来細胞を細胞培養培地に導入することと、1つ以上のナノプローブを細胞培養培地に導入することであって、それにより、1つ以上の幹細胞由来細胞が1つ以上のナノプローブでトランスフェクトされる、上記導入することと、トランスフェクション後に1つ以上のナノプローブからの光学シグナルを検出することとを含む。この態様の特徴において、1つ以上のナノプローブは、プラズモン活性ナノ粒子と、一端がナノ粒子に結合したステムループ核酸プローブであって、核酸が第1の配列(ステムループプローブ)を含み、光学レポーターで標識された、上記ステムループ核酸プローブと、第2の配列(プレースホルダ)を含む非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖とを含む逆分子センチネル(iMS)を含む。この態様の別の特徴において、トランスフェクションは、1つ以上の幹細胞由来細胞と、1つ以上のナノプローブとを含有する細胞培養培地をエレクトロポレーションすることを含み、1つ以上の幹細胞由来細胞の少なくとも一部は、エレクトロポレーション後に生存可能なままである。
【0007】
本発明の第3の態様において、ナノプローブの少なくとも一部の構成を維持しながら、エレクトロポレーションを使用して幹細胞由来細胞にナノプローブをトランスフェクトする方法は、1つ以上の幹細胞由来細胞と、初期構成を有する1つ以上のナノプローブとを含む細胞培養培地を提供することと、1つ以上の幹細胞由来細胞と、1つ以上のナノプローブとを含有する細胞培養培地をエレクトロポレーションすることであって、1つ以上のナノプローブの少なくとも一部が、エレクトロポレーション後にそれらの初期構成を維持する、上記エレクトロポレーションすることとを含む。
【0008】
本発明の第4の態様において、幹細胞由来細胞の生存率を維持しながら、幹細胞由来細胞へのナノプローブの取込みを増加させる方法は、1つ以上の幹細胞由来細胞と、複数のナノプローブとを含む細胞培養培地を提供することと、1つ以上の幹細胞由来細胞と、複数のナノプローブとを含有する細胞培養培地をエレクトロポレーションすることであって、それにより、1つ以上の幹細胞由来細胞にトランスフェクトされた複数のナノプローブの量が、トランスフェクションが受動的取込みのみからなる場合に1つ以上の幹細胞由来細胞にトランスフェクトされたであろう量よりも多い、上記エレクトロポレーションすることとを含む。
【0009】
添付の図面及び例は、限定ではなく例示として提供される。本開示の前述の態様及び他の特徴は、1つ以上の実施形態に関する添付の例示的な図(「図」とも)に関連して、以下の説明で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態による、「逆分子センチネル」(iMS)検出アプローチ(「Off-to-On」スキーム)の動作原理を示す概略図である。
【
図2】本開示の一実施形態による、細胞アポトーシスに対するmiRNAバイオマーカー(miR-34a、miR-200-3p及びmiR200c-3p)に関するiMSナノプローブの設計を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態による、ロックド核酸を使用したmiRNAバイオマーカーmiR-34aに関するiMSナノプローブの設計を示す図である。
【
図4】組織における「治療窓」及び生体成分の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図5】本開示の一実施形態による、(上)異なるAg+濃度下で形成されたナノスターのTEM画像、及び(下)単位振幅のz偏光平面波入射E場に応答したナノスター付近の電界|E|のシミュレーションを示す画像である。
【
図6A】本開示の一実施形態による、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の送達を示す概略図である。
【
図6B】本開示の一実施形態による、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の送達を示す概略図である。
【
図7A】本開示の一実施形態による、携帯型光ファイバベースのラマン診断システムを使用した、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の健康状態及び機能的生存率のモニタリングを示す概略図である。
【
図7B】手持ち式ラマンリーダを使用した、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の健康状態及び機能的生存率のモニタリングを示す概略図である。
【
図8A】本開示の一実施形態による、クエン酸緩衝液中のクエン酸塩中の金ナノスター溶液の吸光度スペクトルを示すグラフである。
【
図8B】本開示の一実施形態による、対応する有限要素法(FEM)生成吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図8C】本開示の一実施形態による、ベース幅、コア及び先端径並びに分岐数を一定に保ちながら分岐高さを変えることによって調整されたアスペクト比(AR)に対する偏光平均吸収の散布図を示すグラフである。
【
図9】本開示の一実施形態による、幹細胞内の細胞内センシングのための金ナノプローブの概略図である。
【
図10】本開示の一実施形態による、AuNS-PEGでのINS1細胞のエレクトロポレーションを示すグラフである。
【
図11A】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション後の細胞の画像を示す画像である。
【
図11B】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション後のiMSシグナルは「オフ」のままであることを示す画像である。
【
図12A】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション後の細胞の画像を示す画像である。
【
図12B】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーションプロトコル後のiMSシグナルは「オン」のままであることを示す画像である。
【
図13】本開示の一実施形態による、iMS「オン」(上の曲線)及びiMSプローブ「オフ」(下の曲線)でのSERSスペクトルを示すグラフである。
【
図14A】本開示の一実施形態による、溶液中のCEL-miR39(Cy5)ナノプローブのSERSスペクトルを示すグラフである。
【
図14B】本開示の一実施形態による、INS1細胞におけるCEL-miR39(Cy5)のSERSスペクトルを示すグラフである。
【
図15A】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション(0.15nMのAuNS、OPTIMEM)の48時間後のhESCにおけるAuNSの誘導結合プラズマ/質量分析(ICP/MS)定量を示すグラフである。
【
図15B】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション(0.15nMのAuNS、OPTIMEM)の48時間後のhESCにおけるAuNSの誘導結合プラズマ/質量分析(ICP/MS)定量を示すグラフである。
【
図16A】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション(0.15nMのAuNS、PBS)直後のhESCにおけるAuNSのICP/MS定量を示すグラフである。
【
図16B】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーション(0.15nMのAuNS、PBS)直後のhESCにおけるAuNSのICP/MS定量を示すグラフである。
【
図17】本開示の一実施形態による、0.15nMのAuNSでのエレクトロポレーションの24時間後のhESC細胞の多光子zスタック画像を示す一連の画像である。
【
図18】本開示の一実施形態による、エレクトロポレーションの30分後にDAPIで染色したhESCを示す一連のフローサイトメトリー画像である。
【
図19】本開示の一実施形態による、それぞれD1、D5及びD20のクラスタ(すべてのクラスタはAuNSを含有する)の明視野画像及び蛍光画像を示す一連の画像である。
【
図20A】本開示の一実施形態による、ベータ細胞分化の異なる段階におけるAuNSのICP/MS定量を示すグラフである。
【
図20B】本開示の一実施形態による、ベータ細胞分化の異なる段階におけるAuNSのICP/MS定量を示すグラフである。
【
図21A】本開示の一実施形態による、0.15nMのAuNSをエレクトロポレーションしたD2の球のフローサイトメトリー分析である。
【
図21B】本開示の一実施形態による、1.5nMのAuNSをエレクトロポレーションしたD2の球のフローサイトメトリー分析である。
【
図22A】本開示の一実施形態による、0.15nMのAuNSをエレクトロポレーションしたD20の球のフローサイトメトリー分析である。
【
図22B】本開示の一実施形態による、1.5nMのAuNSをエレクトロポレーションしたD20の球のフローサイトメトリー分析である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の原理の理解を促進する目的で、ここで好ましい実施形態を参照し、それを説明するために特定の文言が使用される。しかしながら、本開示の範囲の限定はそれによって意図されず、本明細書に示されるような本開示のそのような変更及びさらなる修正は、本開示が関連する当業者に通常想起されるように企図されることが理解されよう。
【0012】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、冠詞の文法的対象の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「要素」は、少なくとも1つの要素を意味し、2つ以上の要素を含むことができる。
【0013】
「約」は、所与の値が所望の結果に影響を与えることなく終点の「わずかに上」又は「わずかに下」にある場合があることを提供することによって、数値範囲の終点に柔軟性を提供するために使用される。
【0014】
本明細書における用語「を含む(including)」、「を含む(comprising)」又は「を有する」及びその変形の使用は、その後に列挙される要素及びその均等物並びに追加の要素を包含することを意味する。本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる可能な組合せ、並びに代替(「又は」)で解釈される場合の組合せの欠如を指し、包含する。
【0015】
本明細書で使用される場合、移行句「から本質的になる」(及び文法的変形)は、特許請求される発明の列挙された材料又は工程「及び基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないもの」を包含すると解釈されるべきである。したがって、本明細書で使用される「から本質的になる」という用語は、「を含む(comprising)」と同等であると解釈されるべきではない。
【0016】
さらに、本開示はまた、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の任意の特徴又は特徴の組合せを除外又は省略することができることを企図している。例示のために、本明細書が複合体が成分A、B及びCを含むと述べている場合、A、B若しくはCのいずれか又はそれらの組合せは、単独で又は任意の組合せで省略及び放棄され得ることが特に意図される。
【0017】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、範囲内に含まれる各別個の値を個別に参照する簡略方法として役立つことを意図しているにすぎず、各別個の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。例えば、濃度範囲が1%~50%と記載されている場合、2%~40%、10%~30%又は1%~3%などの値が本明細書に明示的に列挙されていることを意図している。これらは、具体的に意図されたものの例にすぎず、列挙された最低値と最高値との間に含まれる数値のすべての可能な組合せは、本開示において明示的に述べられていると見なされるべきである。
【0018】
本明細書で使用される場合、「治療」、「療法」及び/又は「療法レジメン」は、患者によって示されるか、又は患者が感受性である可能性がある疾患、障害又は生理学的状態に応答して行われる臨床的介入を指す。治療の目的には、症状の緩和又は予防、疾患、障害若しくは状態の進行若しくは悪化の遅延若しくは停止、及び/又は疾患、障害若しくは状態の寛解が含まれる。
【0019】
「有効量」又は「治療有効量」という用語は、有益又は望ましい生物学的及び/又は臨床的結果をもたらすのに十分な量を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用され、ヒト及び非ヒト動物の両方を指す。本開示の「非ヒト動物」という用語は、すべての脊椎動物、例えば哺乳動物及び非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。本明細書に開示される方法及び組成物は、インビトロ(例えば、単離された細胞又は組織上で)又は対象におけるインビボ(すなわち、患者などの生体)のいずれかでサンプルに使用することができる。いくつかの実施形態において、対象は、本明細書に記載の組成物、システム及び方法による処置を受けているヒトを含む。
【0021】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、核酸、小タンパク質及び他の粒子(例えば、本明細書に記載のナノプローブ)を真核細胞に受動的又は能動的に送達するプロセスを指す。送達は、受動的取込み、化学トランスフェクション試薬、エレクトロポレーション(遺伝子エレクトロトランスファー)、ウイルス形質導入などを含むがこれらに限定されない任意の数の既知の手段を使用することによって達成することができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「投与する」又は「投与」という用語は、本開示によるナノプローブ、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞などを対象に導入する位置及び/又は経路(route)及び/又は経路(path)を指す。適切な投与形態には、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、腔内注射(例えば、既存の生理学的又は病理学的な体腔への注射)、経口、肛門、吸入、鼻腔スプレー及び皮膚パッチが含まれるが、これらに限定されない。当業者は、特定の剤に対する治療上有効なモダリティである可能性が最も高い経路を容易に選択することができる。いくつかの実施形態において、投与経路は皮下注射を含む。
【0023】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0024】
本開示は、幹細胞適用のためのインビボプラズモニクスセンシング(IPS)ナノプラットフォームの概念を使用する様々な組成物、システム、方法及び機器を記載する。センシング原理は、電磁場効果の増強機構に基づいている。本開示は、インサイチュ及びインビボセンシング(例えば、埋込みセンサ)、再生医療(例えば、幹細胞)、並びに他の生物医学的用途のために幹細胞技術と共に使用するためのIPSプローブ技術を可能にする特定の新規かつ独特の概念を提示する。新規な態様には、新規なナノバイオセンサ、IPSナノプラットフォームと幹細胞との組合せ、IPS+幹細胞センシングシステムの組合せ、携帯型光ファイバベースの読出しシステム(例えば、ポイント・オブ・ケアで)、及びIPS+幹細胞センシングシステムと手持ち式読出しシステム(例えば、家庭又は必要な場所で)との組合せが含まれる。
【0025】
1.組成物
本明細書に開示されるインビボプラズモニクスセンシングプローブは、「逆分子センチネル」すなわちiMS(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第14/861,353号参照)と呼ばれ得る核酸検出スキームを使用する。例示的なアプローチが
図1に概略的に示されており、これは金ナノスタープラットフォームを使用するiMSの概略設計を示している。
【0026】
一般に、
図1に示すように、本開示によるiMSナノプローブは、(1)少なくとも1つのプラズモン活性ナノ粒子と、(2)一端がナノ粒子に結合し、ラマン活性レポーターで標識されたステムループ核酸プローブと、(3)標的配列に相補的な非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖とを含む。
【0027】
再び
図1を参照すると、このような実施形態において、ステムの一端にラマン標識を有するiMSの「ステムループ」プローブは、金属-チオール結合を介して金属ナノ粒子又はナノスター上に固定化される。iMSナノプローブに結合した「プレースホルダ」鎖として機能する部分的に相補的なDNAプローブは、ラマン色素をナノスター表面から遠ざける。標的が存在しない場合、金属表面からの距離が増加するにつれてプラズモン場増強が有意に減少するため、プローブは非常に低いSERSシグナル(すなわち、「オフ」状態)で「開いている」。標的配列に曝露されると、プレースホルダ捕捉鎖は、非酵素的鎖置換プロセス後に相補的標的鎖とのプレースホルダ塩基対合に基づいて「開いた」ステムループプローブを離れる。標的は最初にトーホールド領域に結合し(中間体I)、分岐点移動を介して核酸プローブをプレースホルダから移動させ始め(中間体II)、最後にナノ粒子系からプレースホルダを遊離させる。これにより、ステムループが「閉じる」ことが可能になり、ラマン標識がプラズモニクス活性金属表面上に移動する。これは、強いSERSシグナルをもたらし、したがって「オン」状態であると示される。iMSプローブは、様々な標的(DNA、mRNA、RNA、miRNA)を検出するように設計することができる。いくつかの例示的なmiRNA設計が、
図2において下記に提供される。
【0028】
図2を参照すると、一実施形態において、第1の配列(ステムループプローブ)は、ヌクレオチド配列AAAAACTAAGAAAAAAAAATGGCAGTGTCTTAG(miR-34aステムループプローブ、配列番号1)を含み、第2の配列(プレースホルダ)は、miR-34a miRNAセンシングのためのヌクレオチド配列ACAACCAGCTAAGACACTGCCATTTT(miR-34aプレースホルダ、配列番号2)を含む。
【0029】
別の実施形態において、第1の配列(ステムループプローブ)は、ヌクレオチド配列AAAAATACCCTTTATATAAAAATAATACTGCCGGGTA(miR-200b-3pステムループプローブ、配列番号3)を含み、第2の配列(プレースホルダ)は、miR200b-3p miRNAセンシングのためのヌクレオチド配列TCCATCATTACCCGGCAGTATTATTTT(miR200b-3pプレースホルダ、配列番号4)を含む。
【0030】
別の実施形態において、第1の配列(ステムループプローブ)は、ヌクレオチド配列AAAAAACCCAAATAAAAAATAATACTGCCGGGT(miR200c-3bステムループプローブ、配列番号5)を含み、第2の配列(プレースホルダ)は、miR200c-3p miRNAセンシングのためのヌクレオチド配列TCCATCATTACCCGGCAGTATTA(miR200c-3p、配列番号6)を含む。
【0031】
このような実施形態において、iMSは、非酵素的鎖置換プロセスとそれに続くヘアピンオリゴヌクレオチドプローブのコンフォメーション変化に基づいて、標的の存在下でラマンシグナルを生成する。標的に曝露されると、標的は最初にプローブ-プレースホルダ二重鎖のオーバーハング領域に結合し、次いで分岐点移動プロセスを介してステムループプローブをプレースホルダから移動させ始め、最後にナノバイオセンサからプレースホルダを遊離させる。次いで、ステムループ構造が閉じ、ラマン標識をプラズモニクス活性金ナノ粒子表面上に移動させ、強いSERSシグナルを生成する。異なる標識をステムループプローブに結合させることができるので、特異性及び感度を維持しながら複数の標的を同時に検出することができる。
【0032】
特に、別の実施形態の範囲内で、ナノバイオセンサは、標的miRNAトラップとして機能する二重の役割を有することができる。プレースホルダが標的miRNAを捕捉すると、miRNAはもはや機能的でなくなり、遺伝子発現に対するその影響が遮断される。
【0033】
別の実施形態において、ナノプローブは、標的の非存在下で低バックグラウンドを生成する高感度検出、すなわち光学検出下限、すなわちLODを達成するようにさらに修飾される。例示的な実施形態において、ラマン標識ステムループプローブの物理的長さは、そのオフ状態の低バックグラウンドSERSシグナルに対して約10nmになるように設計されている。この距離は、ラマン標識を金ナノスターから遠ざけるように(すなわち、「避雷針」効果が弱いか、又はないように)設計されている。miRNAの短い配列長は、所望の長さを有するステムループプローブを設計することを困難にすることから、約10ヌクレオチドのスペーサー配列がループと5’末端ステムとの間に付加される。このスペーサーは、プレースホルダ鎖にハイブリダイズしながらラマン標識をナノスター表面から適切な距離に保つためにプローブの物理的長さを増加させるために使用される。重要なことに、この「内部」スペーサーは、プローブが閉じたステムループ構成にあるときに強いSERSシグナルの生成に影響を及ぼさない。
【0034】
別の実施形態において、短いポリ(T)テール(4個のチミン塩基)が、センサ機能性に影響を与えることなくバックグラウンドシグナルを最小限に抑えるために、プレースホルダ鎖(すなわち、プローブ中の内部スペーサーの一部にハイブリダイズする)の3’末端に付加される。ポリ(T)テールの付加は、プレースホルダとステムループプローブとの間のハイブリダイゼーション効率を高めることによって強いSERSバックグラウンドシグナルを減少させる。
【0035】
別の態様において、本開示は、それぞれ二重鎖安定性を高め、分解を防止することができるロックド核酸及びヌクレアーゼ抵抗性修飾を含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になる細胞内iMSナノプローブを提供する。LNAは、単純な2’-O,4’-Cメチレン架橋によってリボース環が剛直なC3’-エンド(又はN型)コンフォメーションにロックされている、コンフォメーションが制限された核酸類似体である。LNAは、高い結合親和性、優れた塩基ミスマッチ識別能力、及びおそらくヌクレアーゼ消化に対する感受性の低下などの多くの魅力的な特性を有する。(DNA又はRNAのいずれかにハイブリダイズした)LNAを含む二重鎖は、対応する未修飾参照二重鎖と比較して、LNA修飾あたり+3.0℃~+9.6℃の範囲の融解温度の大きな増加を示す。さらに、LNAオリゴヌクレオチドは、従来のホスホラミダイト化学を使用して合成することができ、完全に修飾されたLNAオリゴヌクレオチドと、DNA/LNA及びLNA/RNAなどのキメラオリゴヌクレオチドの両方の自動合成を可能にする。LNAの他の利点には、天然の核酸とのその密接な構造的類似性が含まれ、これは生理学的条件における特に良好な溶解性及び容易な取扱いをもたらす。さらに、その荷電リン酸骨格のために、LNAは非毒性である。これらの特性はすべて、診断用途のための分子ツールに非常に有利である。
【0036】
オリゴヌクレオチドが、細胞培養又はインビボ実験において、例えばアンチセンス及びRNAi用途において、及びリボザイム技術において使用される場合、ヌクレアーゼによる分解が懸念される。細胞内分析に使用される場合、核酸プローブは、ヌクレアーゼ分解、タンパク質結合及び熱力学的変動のために劇的な偽陽性シグナルを生成する傾向がある。オリゴヌクレオチド安定性は、典型的にはこれらの種類の研究にとって重要であるが、未修飾のDNA及びRNAオリゴヌクレオチドは、内因性ヌクレアーゼによってインビトロ及びインビボで迅速に消化される。複数のエンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼがインビボで存在する。例えば、未修飾ホスホジエステルオリゴヌクレオチドは、生細胞において15~20分という短い半減期を有する可能性があることが報告されている。血清中では、生物学的に有意な核酸分解活性の大部分は3’エキソヌクレアーゼ活性として生じるが、細胞内では、核酸分解活性は5’エキソヌクレアーゼと3’エキソヌクレアーゼの両方によって影響を受ける。ヌクレアーゼ感受性を制限するために、異なる修飾を置換する。
【0037】
まず、ホスホロチオエート(PS)結合が、オリゴヌクレオチドのリン酸骨格中の非架橋酸素を硫黄原子で置換する。(形成され得る2つの得られた立体異性体のために)約50%の時間、PS修飾はヌクレオチド間結合をヌクレアーゼ分解に対してより抵抗性にする。したがって、本開示の一実施形態によれば、エキソヌクレアーゼ分解を阻害するために、5’及び3’オリゴヌクレオチド末端の少なくとも3つのPS結合が含まれる。
【0038】
RNA2’OMeの天然に存在する転写後修飾は、tRNA及び他の低分子RNAに見られる。オリゴヌクレオチドは、2’OMeを含有するように直接合成することができる。この修飾は、一本鎖エンドヌクレアーゼによる攻撃を防止するが、エキソヌクレアーゼ消化を防止しない。したがって、これらのオリゴを末端ブロックすることも重要である。この修飾を含むDNAオリゴヌクレオチドは、典型的には、未修飾DNAよりもDNaseに対する感受性が5倍~10倍低い。2’OMe修飾は、安定性及び標的転写物に対する結合親和性を増加させる。
【0039】
一実施形態において、本開示は、
図3に示されるようなmiR-34a iMS DNA/LNAナノプローブ(LNAを「+」で示す)を提供する。
【0040】
このiMSは、細胞内のセンサのより長い寿命を可能にする。DNA/LNA交互塩基又はすべてのLNA塩基を有する配列は、非特異的タンパク質結合に抵抗し、DNase I消化を損なうことができたことが示されている。さらに、LNA塩基間の3塩基未満のDNAストレッチからなる配列は、RNase H機能を遮断することができた。再び
図3を参照すると、6塩基対ステム及び交互のDNA/LNA塩基は、妥当なハイブリダイゼーション速度を確保し、タンパク質結合を低下させ、標的及びプローブの両方に対するヌクレアーゼ分解に抵抗するので、細胞内適用に有用である。
【0041】
様々なプラズモン活性ナノ粒子を本明細書で提供されるiMSナノプローブと共に使用して、異なるプラズモン共鳴波長で標識の強いSERSシグナルを得ることができる。したがって、いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、銀ナノスフェア、金ナノスフェア、ナノシェル、ナノスターなどを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0042】
さらに、本明細書で提供されるiMSナノプローブと共に様々な光学レポーターを使用することができる。いくつかの実施形態において、光学レポーターは、ラマン色素、3,3’-ジエチルチアジカルボシアニンヨージド(DTDC)、3,3’-ジエチルチアトリカルボシアニンヨージド(DTTC)、1,1’,3,3,3’,3’-ヘキサメチルインドトリカルボシアニンヨージド(HITC)、CY3色素、CY3.5色素、CY5色素、CY5.5色素、CY7色素、CY7.5色素、正に荷電した疎水性近赤外(NIR)色素、IR-780、IR-792、IR-797、IR-813、メチレンブルー水和物(MB)、4-メルカプト安息香酸(4-MBA)、5,5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸(DTNB)、4-アミノチオフェノール(4ATP)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、チオニン色素、ローダミン系色素、クリスタルバイオレット、蛍光標識又は吸光標識からなる群から選択される。
【0043】
実際には、チオール化されたSERSレポーター鎖は、レポーターとして一端にラマン色素を有し、ナノ粒子に結合するために他端にチオール基を有する。レポーター鎖は、4つのセグメント、ステム-L、ステム-R、スペーサー及びプレースホルダを有する。ステム-L及びステム-Rセグメントは、プレースホルダ鎖が標的分子に結合してナノ構築物を離れた後にステムループ構造を形成することを可能にする。スペーサーセグメントは、プローブが開いているときにバックグラウンドSERSシグナルを減少させるためにラマン色素とナノ粒子表面との間に十分な距離(例えば、10nm超)を提供するように設計される。プレースホルダセグメント(例えば、8~15ヌクレオチド)は、ステムループ構造の形成を防ぐためにプレースホルダ鎖に結合する。プレースホルダ鎖は、2つのセグメント、プレースホルダC及び標的化領域を有する。プレースホルダCセグメントは、レポーター鎖のプレースホルダセグメント及び標的配列に相補的である。標的化領域(20~30ヌクレオチド)は、標的配列に相補的である。
【0044】
いわゆる「治療窓」内の波長を有する光を使用して、移植された幹細胞の生存率、健康状態及び機能的能力を感知及びモニタリングすることができる。光が組織を透過する能力は、吸収に依存する。治療窓(又は「診断窓」)内では、ほとんどの組織は、光の有意な透過を可能にするのに十分に弱い吸収体である。この窓は、可視スペクトルのオレンジ/赤色領域から近赤外(NIR)まで、約600nmから1300nmまで延在する。短波長端では、窓は、ヘモグロビンの吸収によって、その酸素化形態及び脱酸素化形態の両方で結合される。酸化ヘモグロビンの吸収は、600nm付近の領域で波長が短くなるにつれて約二桁増加する。より短い波長では、DNA並びにアミノ酸であるトリプトファン及びチロシンを含む、より多くの吸収性生体分子が重要になる。窓の赤外(IR)端では、透過は水の吸収特性によって制限される。治療窓内では、散乱が吸収よりも支配的であるため、伝播する光は拡散するが、必ずしも拡散限界に入るわけではない。
図4は、組織の光学窓又は組織における治療窓の図を示す。
【0045】
いくつかの実施形態において、プラズモン活性ナノ粒子は、金ナノスターを含む。金ナノスター(GNS)は、それらの幾何学的形状に微妙な変化を加えることによって広範囲の光同調性を提供するので、特に興味深い。GNS上の複数の鋭い分岐は、局所的な電磁(EM)場を劇的に増強する「避雷針」効果を作り出す。この固有の先端増強プラズモン特性は、光子が組織内をさらに移動する近赤外(NIR)診断治療光学窓で調整することができる。いくつかの実施形態において、プラズモン同調性は、Ag+濃度を調整することによって達成される。具体的には、より高い濃度のAg+は、より長く、より鋭く、より多数の分岐を形成することによって、プラズモンバンドを徐々にレッドシフトさせる。これは、例えば、
図5の上に示されている。ナノスターS5は、いくつかの突起からなり、一方、S30は、さらに分岐するように見える複数の長く鋭い分岐を含む。y方向に伝播し、800nmの波長を有する、単位振幅のz偏光平面波入射E場に応答したナノスター付近の|E|のシミュレーションは、ナノサットの先端でのプラズモン増強、すなわち「避雷針」効果を示す(例えば、
図5の下を参照)。
【0046】
図5において、上の画像は、異なるAg+濃度(S5:5μM、S10:10μM、S20:20μM、S30:30μM)下で形成されたナノスターのTEM画像である。下の画像は、y方向に伝播し、800nmの波長を有する、単位振幅のz偏光平面波入射E場に応答したナノスター付近の|E|のシミュレーションである。挿入図は、スターの3D幾何学的形状を示す。図は縮尺通りではない。
【0047】
複数の実施形態において、GNSは、制御された様式で合成し、幹細胞適用のための診断窓における深部組織NIR励起及び吸収のために使用することができる。ナノスターのプラズモンピークは、例えば、600nmから1000nmまで調整可能である。
【0048】
プラズモン金ナノスター(AuNS)は、インビボ使用のために合成することができる。様々なサイズのAuNSは、合成中にAgNO3(他の成分と共に)を添加することを含む公知の方法によって合成することができる。合成は迅速で再現性があり、界面活性剤としてポリマーを必要としない。ナノスターのサイズは、合成中に使用される成分の濃度に基づいて調整することができる。銀イオンは、スター幾何学的形状の形成を制御する役割を果たす。Ag+が無い場合、得られる粒子はサイズ及び形状の両方において多分散である。少量のAg+の添加は、単分散星形粒子の合成を助けることができる。ナノ粒子直径は、約50~70nmの範囲内であり得る。理論に束縛されるものではないが、Ag+はAg分岐を形成せず、むしろ多重双晶クエン酸塩シード上の特定の結晶ファセット上のAu分岐の異方性成長を支援すると考えられる。
【0049】
2.幹細胞のモニタリング及び療法への適用
幹細胞は、無期限に分裂する能力を有し、その後組織及び器官を構築するために使用される多くの異なる特殊化された細胞型に発達する可能性を有する細胞として定義される。幹細胞が2つの娘細胞に分裂すると、各娘細胞は、幹細胞のままである可能性を有し、これは、自己複製することができるか、又はニューロン、筋細胞、血液細胞、内分泌細胞などの人体を構成する特殊化された細胞のいずれかになることができる非特殊化細胞を意味する。
【0050】
幹細胞は、胚の発生中及び成体組織の両方において重要な役割を有する。受精後、哺乳動物胚は一連の細胞分裂を受けて、桑実胚と呼ばれる細胞の凝集体を形成する。さらなる細胞分裂は、桑実胚を、内腔を有する嚢胞様構造である胚盤胞に変換する。この内腔に局在する細胞は、内部細胞塊(ICM)の細胞としても知られ、すべての組織及び器官を形成するすべての種類の細胞に分化することによって生物全体を生じさせる。ICM細胞の単離及び体外での培養は、ヒト胚性幹細胞(hESC)の確立をもたらした。
【0051】
いくつかの幹細胞は、成体年齢になるまで未分化のままである。成体幹細胞は、骨髄、間葉、血液、骨格筋、皮膚、心臓、腸、肝臓及び脳を含むがこれらに限定されない多くの器官及び組織で同定されている。成体幹細胞は、典型的には、それらが存在する組織の細胞型を生成し、傷害中又は疾患のために失われる細胞の代替物を表す。したがって、胚性幹細胞とは対照的に、成体幹細胞は分化能が限られている。
【0052】
「幹細胞」という用語は、(1868年のErnst Haeckelによる研究に示されているように)一世紀以上も前に作出されたものであるが、幹細胞における多分化能の最初の徴候は、Ernest McCulloch及びJames Tillによって行われた造血幹細胞における先駆的研究のおかげで、1960年代初期に初めてもたらされた。彼らの実験は、異なる血液細胞が1種類の細胞に由来することを示した。これらの細胞は「コロニー」を生じさせることができ、各コロニーは1つの単一細胞に由来していた。さらに、これらのコロニー形成細胞は、「自己複製」することができただけでなく、3つの異なる血液細胞型に特殊化することもできた。20年後、1980年代初期に、Martin Evans、Matthew Kaufmann及びGail Martinが、ICM由来のマウス細胞が、それらの多能性及び自己複製能力を失うことなく体外で単離及び培養され得ることを示した。培養されたマウス細胞は、ICM細胞の分化能力を模倣する能力のために、人工胚性幹細胞(ESC)であった。ESCを宿主胚盤胞に再導入して、注入されたESC及び宿主ICM細胞の両方に由来する細胞を有するキメラ動物を生じさせることができることが実証されたとき、マウスESCの膨大な可能性がその後の研究で示された。さらに、キメラ動物の繁殖は、培養されたESCの遺伝物質のみを有する子孫をもたらし、したがって、ESCが宿主動物の生殖系列に寄与し得ることを示している。最後に、1998年に、Thomsonらは、初期ヒト胚から胚性幹細胞(hESC)を単離することができ、それにより、患者における細胞置換療法のための別個の細胞型を作製するためのその後の努力の段階が設定された。hESCに加えて、成体体細胞を人工多能性幹細胞(iPSC)になるように再プログラム化することが現在可能である。ヒトiPSCは、2007年に最初に報告された。iPSCは、胚性幹細胞様状態に遺伝的に再プログラム化されている成体細胞である。患者由来の細胞は、培養で増殖させ、分化させ、患者に再導入することができる。したがって、ドナーに特異的な幹細胞の供給源を作製することができ、適合性の可能性が高まる。これは、免疫抑制薬の連続投与を必要とし、適合しない幹細胞誘導体が使用される場合に起こり得る免疫拒絶が回避される可能性があるので、大きな利点を表す。最後に、UCSFの研究者らは、胚盤胞からヒト多能性幹細胞株を作製し、したがって、3つの胚葉への分化能力を有する細胞をICM段階よりも早い段階から単離することができることを実証した(Human stem cells from single blastomeres reveal pathways of Embryonic or trophoblast fate specification.(2015);Development誌、2015、142(23):4010-25.doi:10.1242/dev.122846.Epub 2015年10月19日)。
【0053】
今日、hESC、iPSC、胚盤胞由来幹細胞及び成体幹細胞を含むがこれらに限定されないヒト多能性幹細胞の最も重要な潜在的用途の1つは、細胞ベースの療法に使用され得る細胞及び組織の生成である。実験室で増殖させた幹細胞は、長期の自己複製が可能であり、幹細胞の出発集団は何年も増殖し、数十億の非特殊化細胞をもたらすことができる。さらに、これらの幹細胞は、インビトロで分化させることができ、患者の疾患組織又は損傷組織を再生及び修復するために使用することができる任意の特殊化された細胞になるように導くことができる。このアプローチは、再生医療の基礎を形成する。hESC、iPSC又は胚盤胞由来及び器官幹細胞から作製される細胞を移植することによって治療される可能性がある疾患の例としては、糖尿病、心疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、外傷性脊髄損傷、並びに視力喪失及び難聴が挙げられる。実際、成体幹細胞、骨髄由来のこのような成体造血幹細胞は、既に40年以上にわたって移植に使用されてきた。
【0054】
本発明者らは、ヒト幹細胞集団からの機能性ベータ細胞の作製に関して著しい進歩を遂げた。基礎となる戦略は、多能性幹細胞が胚形成中に、胚体内胚葉の形成から、膵臓内胚葉、内分泌前駆細胞、そして最後に膵島細胞に至る経路を密接に再現することである。ヒト幹細胞の膵島細胞への分化におけるこれらの最近の進歩は、現在、世界中で4億人超が罹患している糖尿病の2つの主要な形態である1型及び2型糖尿病のより従来的な治療選択肢に対する有形の代替法を示唆している。
【0055】
1型糖尿病では、膵臓のインスリン産生ベータ細胞(ベータ細胞)が身体の免疫系によって破壊される。より一般的な形態である2型糖尿病では、末梢組織におけるインスリン抵抗性からしばしば生じる高いインスリン要求のためにベータ細胞が枯渇する。この高い需要は、膵島がもはやインスリン抵抗性を克服するのに十分なインスリンを産生することができない点にまで、ベータ細胞の機能及び質量の漸進的な低下をもたらす。
【0056】
膵島移植は、グルコースレベルを回復させるための効果的な介入であるが、必要とされる死体膵島の数は供給量よりも多く、膵島移植を受ける患者は、生涯にわたって免疫抑制薬を必要とする。これが、細胞置換療法が糖尿病を治療するための実行可能な代替法として浮上した理由である。Charles A.Goldthwaite,Jr.,Are Stem Cells the Next Frontier for diabetes treatment?Regenerative Medicine誌https://stemcells.nih.gov/info/Regenerative_Medicine/2006Chapter7.htm参照。
【0057】
ほとんどの細胞が移植後すぐに死滅するので、移植自体は困難な手技である。
【0058】
移植目的に有用であるためには、幹細胞は、培養中に広範囲に増殖し、所望の細胞型に分化するだけでなく、移植後にレシピエントにおいて生存し、患者の寿命の間機能しなければならない。現在、移植後及び経時的に、非侵襲的な読出しで移植細胞の健康状態をモニタリングする技術はない。
【0059】
幹細胞療法を使用するための効果的な戦略を達成するためには、移植された幹細胞の生存率、健康状態及び機能的能力をモニタリングするためのリアルタイムの実用的かつ効率的な検出及びモニタリングシステム及び方法を開発することが重要である。
【0060】
3.方法
本開示による組成物及びシステムは、幹細胞療法中の幹細胞のインビトロ、インサイチュ及び/又はインビボセンシング及びリアルタイムモニタリングに特に有用である。本明細書で提供されるナノプローブは、転写後レベルで遺伝子発現を調節し、したがって初期バイオマーカーとして機能するmiRNA、又は低分子ノンコーディングRNA、又はmRNAを検出するように設計される。標的miRNA、低分子ノンコーディングRNA、又はmRNAの存在下で、iMSナノプローブは、本明細書に記載されるように、非酵素的鎖置換プロセスとそれに続くヘアピンオリゴヌクレオチドプローブのコンフォメーション変化に基づいて、ラマンシグナルを生成する。
【0061】
したがって、本開示の別の態様は、インビトロで幹細胞分化をリアルタイムで検出及びモニタリングする方法であって、(1)1つ以上の幹細胞由来細胞を得ること、(2)幹細胞由来細胞をiMSナノプローブでトランスフェクトすること、及び(3)ナノプローブからの光学シグナルを検出することを含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になる、上記方法を提供する。
【0062】
物理的アプローチを使用して、薬物又は遺伝子プローブを所望の細胞内位置(例えば、細胞質ゾル又は核)に直接送達又はトランスフェクトすることができる。これらの物理的方法の中でも、エレクトロポレーションは、その単純さ、取込み効率、プローブ又は細胞型に対する制限が少ないこと、及び操作の簡便さのために広く使用されている。エレクトロポレーションでは、細胞膜キャパシタンスを超えるように短い高電圧電気パルスが印加され、それによって、供された細胞を一時的に透過性にする。いくつかの実施形態において、幹細胞由来細胞は、エレクトロポレーションを使用してトランスフェクトされる。
【0063】
本開示の別の態様は、対象におけるインビボでの幹細胞移植をリアルタイムでモニタリングする方法であって、(1)1つ以上の幹細胞由来細胞を得ること、(2)幹細胞由来細胞をiMSナノプローブでトランスフェクトすること、(3)トランスフェクトされた幹細胞由来細胞を対象に投与すること、及び(4)ナノプローブからの光学シグナルを検出することを含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になる、上記方法を提供する。
【0064】
図6は、リアルタイムの、永続的かつ連続的な「ヘルスモニタ」として機能することができる本開示による組成物及びシステムを使用するインビボ診断モダリティの方法の一例を示す。トランスフェクトされた幹細胞由来細胞は、対象又は患者に投与又は導入(例えば、移植)される(
図6A)。特定の治療に応じて、幹細胞由来細胞送達方法は、合成足場有り又は無しでの皮下移植、静脈内注射、動脈内注入及び髄腔内注入を含み得るが、これらに限定されない。トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の健康状態は、励起光源及び光学検出器を有する携帯型ラマン診断システムを使用して、対象及び/又は医療提供者によってモニタリングされ得る(
図6B)。トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の健康状態は、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞の生存率、機能的能力及び/又は健康状態に関する情報を含み得る。1つ以上の幹細胞由来細胞は、1つ以上のナノプローブでトランスフェクトされ得る。1つ以上のナノプローブは、逆分子センチネル(iMS)を含んでもよい。iMSは、プラズモン活性ナノ粒子と、一端がナノ粒子に結合したステムループ核酸プローブであって、核酸が第1の配列(ステムループプローブ)を含み、光学レポーターで標識された、上記ステムループ核酸プローブと、第2の配列(プレースホルダ)を含む非標識捕捉プレースホルダ核酸鎖とを含んでもよい。
【0065】
別の実施形態において、
図7に示されるように、トランスフェクトされた幹細胞由来細胞をモニタリングするために、光ファイバ励起及び検出を伴う携帯型ポケットサイズのラマン診断システムが使用され得る(
図7A)。あるいは、手持ち式の電池式ラマンリーダシステムを、iPhone(登録商標)又は類似のデバイスによって遠隔操作することができる(
図7B)。
【0066】
本明細書に記載の具体的な実施形態に加えて、本明細書に開示される組成物、システム及び方法はまた、幹細胞における多くの他の種類の標的をモニタリングするために使用され得ることに留意されたい。代替の実施形態は、アプタマー、抗体、酵素、細胞ベースの受容体などを含む(しかし、これらに限定されない)他の生体受容体を含む。他の代替の実施形態は、標的認識及びセンシングのための化学受容体、リガンドを使用する。他の代替の実施形態は、標的種又は生化学的条件が生じたときにラマン/SERSシグナルの変化を示す化学センシング種を使用する。いくつかの非限定的な例としては、pH、O2、代謝産物、化学リガンドなどが挙げられる。本開示の様々な態様はまた、多種多様な供給源(例えば、胚、妊娠組織及び成体組織)からの幹細胞及び前駆細胞、再プログラム化分化細胞由来の幹細胞、並びにインスリン産生膵島などの多種多様な医学的用途で使用するための生存率、操作、傷害、貯蔵寿命をモニタリングするために使用することができる。
【0067】
本明細書に記載のSERS検出方法は、従来のラマン、蛍光、リン光、吸収センシング及びイメージング技術などの他の分光学的モダリティと組み合わせて、モニタリングされている細胞の健康状態のより完全な状態を得ることができる。いくつかの非限定的な例としては、本明細書に開示されるセンシングプラットフォームを使用するmiRNA標的のSERS検出と、従来のラマン検出又はイメージングとの組合せが挙げられる。本明細書に開示されるセンシングプラットフォームは、移植された幹細胞系の生存率、健康状態、機能的能力をモニタリングすることができるが、ラマン技術は、それらの振動スペクトルに従って、細胞の化学構造又は細胞中の化学種(タンパク質、脂質及びDNA)に関する情報を提供することができる。
【0068】
本明細書に記載のSERS検出方法は、組織及び器官の産生を含む他の幹細胞療法用途に使用することができる。いくつかの例としては、組織工学による心筋、機能的な組織及び器官、患者自身の細胞に由来する組織工学による皮膚、患者自身の細胞に由来する組織工学による膀胱、並びに治癒困難な創傷を身体が閉じるのを助けるために使用される小腸粘膜下組織(SIS)が挙げられる。さらなる例としては、骨及び結合組織の成長を誘導するための組織工学製品、心臓バイパス手術及び心血管疾患治療のための組織工学血管グラフト、並びに3D分子/有機3D印刷からの「オーダーメイド」器官が挙げられる。
【0069】
さらに、開示される組成物、システム及び方法は、生物医学的用途、ポイント・オブ・ケア診断、品質管理用途、世界的な健康、癌研究、心疾患診断、及び国土防衛など、DNA/RNA/タンパク質検出に基づく多種多様な用途の可能性を有する。
【0070】
さらに、開示される組成物、システム及び方法は、改善された幹細胞ベースの治療的使用をもたらし得る。幹細胞療法における主要な課題は、インビボでのこれらの細胞の生存である。現在、ほとんどの幹細胞は、移植後のいくつかの期間後に死滅するか、又は適切に機能しない。現在、非侵襲的な読出しを用いて移植細胞の健康状態をモニタリングする能力は、依然として特に困難である。本明細書に開示される提案されたセンシングプラットフォームは、移植された幹細胞系の生存率、健康状態、機能的能力をモニタリングすることができる重要なリアルタイムの実用的かつ効率的なナノシステムを提供する。センシングナノプラットフォームは、必要なときに非機能性幹細胞の適時の修復手順及び/又は置換を引き起こす細胞の非機能性の警告シグナルを提供することができるので、このセンシング能力は、幹細胞ベースの療法の有効性を大幅に改善するであろう。
【0071】
開示される方法を使用する他の可能な新規及び追加の特徴は、当業者には明らかであろう。いくつかの例としては、細胞療法のための幹細胞誘導体の機能的特性のインビトロ及びインビボモニタリングのための組成物、システム及び方法の使用、金属からなる幹細胞インビボプラズモニクスセンシング(SC-IPS)プローブ、多重検出のためのSC-IPSプローブ、多重検出のためにマルチスペクトルラマンイメージングを使用するSC-IPSシステム及び方法、パルスレーザ励起及び時間分解ラマン検出を使用するSC-IPSシステム及び方法、並びに周期的励起及び位相分解ラマン検出を使用するSC-IPSシステム及び方法が挙げられる。
【0072】
さらに、開示されるシステム及び方法は、いくつかの異なるフォーマットで展開することができる。いくつかの例としては、SC-IPSプローブを使用する携帯型インビボ診断システム、SC-IPSプローブを使用するポケットサイズ又は手のひらサイズのインビボ診断システム、及びSC-IPSプローブを使用する腕時計サイズのインビボ診断システムが挙げられる。
【0073】
本開示の別の実施形態は、開示されるシステム及び方法を使用してインビボモニタリングを行う方法を提供する。
【0074】
以下の例は、限定ではなく例示として提供される。
【実施例】
【0075】
例1:金ナノスター溶液の吸光度スペクトル
幹細胞適用のための診断窓における深部組織NIR励起及び吸収のための金ナノスターの使用を評価するために、例示的な金ナノスター溶液(S5、S10、S20、S30)の吸光度スペクトルを測定した。ナノスターのサイズはS5からS30まで増加し、S5が最小であり、S30が最大であった。
図8(a)は、クエン酸緩衝液中の例示的なナノスター溶液(クエン酸緩衝液中約0.1nM)の吸光度スペクトルを示すチャートである。
図8(b)は、水中に埋め込まれた例示的なナノスターの対応する有限要素法(FEM)生成吸収スペクトルを示すチャートである。
図8(b)において、解かれたデータ点(±1SD)をスプラインフィットで補間した。
【0076】
図8(c)は、ベース幅、コア及び先端径並びに分岐数を一定に保ちながら分岐高さを変えることによって調整されたアスペクト比(AR)に対する偏光平均吸収の散布図のチャートである。
図8(c)の挿入図において、プラズモンピーク位置とARとの間の線形関係を、分岐高さ(円、R
2=0.997)及びベース幅(正方形、R
2=0.987)を変化させ、他のすべてのパラメータを一定に保つことによって調整した。
【0077】
ナノスターのプラズモンピークは、Ag+濃度を調整することによって600nmから1000nmまで調整可能である。これは、プラズモンがレッドシフトして広がるにつれて、合成中の溶液の色が暗青色から暗灰色へと目に見える変化をすることを伴う。プラズモンピーク位置及びスペクトル幅の両方が、Ag+濃度の増加に伴う線形傾向に従った。30μMのAg+濃度付近でプラトーに達した。これらの結果は、ナノスターが、制御された様式で合成し、幹細胞適用のための診断窓における深部組織NIR励起及び吸収の潜在的な候補として利用することができることを示している。
【0078】
例2:例示的なプラズモン金ナノスターの合成
AuNSは、公知の方法を用いて合成した。1mM HAuCl4の沸騰溶液100mLに1%クエン酸三ナトリウム15mLを添加して12nmの金シード溶液を調製した。溶液をさらに15分間沸騰させ続け、氷浴中で室温まで冷却し、0.22μmニトロセルロース膜に通して濾過し、使用するまで4℃で保存した。より大きなAuNS(S30と呼ばれる)を生成するために、100μLの金シードを、10μLの1N HClを含有する0.25mM HAuCl4の10mL溶液に添加し、直ちに、50μLの0.1M AA及び100μLの3mM AgNO3を中程度の撹拌下で同時に添加した。3mM AgNO3の代わりに0.5mM AgNO3を使用する以外は上記と同じ方法で、より小さなAuNS(S5と呼ばれる)を生成した。
【0079】
次いで、弱い還元剤であるアスコルビン酸(AA)を使用して、酸性環境でテトラクロロ金酸を12nmクエン酸塩安定化金シード上に還元し、クエン酸ナトリウムで安定化することによって、ナノスターを生成した。シード上のナノスターの成長は、30秒未満で完了した。これは、簡単で迅速な方法であった。粒子は、遠心洗浄後少なくとも1週間4℃で安定であった。
【0080】
例示的なナノスターは、より低いpH、より高いボルテックス速度、及び約1.5~2のAA/HAuCl4比の下で最もレッドシフトのプラズモンを生成した。HAuCl4及びシードの濃度は、ナノスターのサイズが約60nmになるように選択した。銀イオンは、ナノスター幾何学的形状の形成を制御する役割を果たすことが観察された。Ag+が無い場合、得られた粒子はサイズ及び形状の両方において多分散であった。少量のAg+の添加は、単分散星形粒子の高収率をもたらした。合成されたナノ粒子の粒径は、約50~70nm以内であった。Ag+は、多重双晶クエン酸塩シード上の特定の結晶ファセット上のAu分岐の異方性成長を支援すると考えられる。
【0081】
細胞内分子ナノプローブの例示的な実施形態の概略図を
図9に示し、
図9は、幹細胞内の細胞内センシングのためのiMSナノセンサを示す。
【0082】
例3:エレクトロポレーションによるINS1ベータ細胞へのAuNS-PEGのトランスフェクション
例示的な方法において、エレクトロポレーションを使用して、AuNS-PEGをINS1細胞株(すなわち、ラットインスリノーマ細胞株)の細胞にトランスフェクトした。エレクトロポレーションによるAuNS-PEGの取込みは、0.5nM粒子、100万個の細胞、及び4msのパルス長で250Vでのエレクトロポレーションを使用した場合、受動的取込みと比較して6倍濃縮をもたらした。
【0083】
エレクトロポレーションを実施するために、100万個のINS1細胞を、0.5nMのAuNS-PEGを含有する800uLのOptiMEM培地に再懸濁した。エレクトロポレーションは、4cmキュベットを使用して実施し、4ミリ秒(ms)のパルス長での250V又は3msのパルス長での300Vのいずれかを使用して室温で実施した。エレクトロポレーション後、キュベットを直ちにインキュベータ(37℃、5%CO2)に15分間入れた。細胞をPBS中で遠心分離によって3回洗浄して溶液中の遊離ナノ粒子を除去した後(300g、3分)、細胞培養培地に再懸濁し、次いで6ウェルプレート中の単一ウェルに添加した。細胞をインキュベータに12時間入れ、その後、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理してICP-MS用に回収した。
【0084】
受動的取込みのために、100万個のINS1細胞を6ウェルプレートの単一ウェルに播種し、0.5nMのAuNS-PEGを細胞と共に12時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで3回洗浄して培地中のすべての粒子を除去し、トリプシン処理してICP-MS用に回収した。
図10は、4msのパルス長での250V及び3msのパルス長での300Vでのエレクトロポレーションを使用した受動的取込み及び取込みに関するトランスフェクション結果を比較する棒グラフである。図から分かるように、4msのパルス長での250Vでのエレクトロポレーションを使用したトランスフェクションが、最も高い取込みをもたらした。
【0085】
逆分子センチネル(iMS)の構成に対するエレクトロポレーションの効果を検討するために試験を行った。
【0086】
100万個のINS1細胞を、オフ位置(オフ)において0.15nMのAuNS-iMSを含有する800μLのOptiMEM培地に懸濁した。800μLの溶液を4cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。エレクトロポレーションは、4msのパルス長での250V又は3msのパルス長での300Vのいずれかを使用して室温で行った。エレクトロポレーション後、キュベットに直ちにエタノールを噴霧し、インキュベータ(37℃、5%CO2)に15分間入れた。細胞をPBS中で遠心分離によって3回洗浄して溶液中の遊離ナノ粒子を除去した後(300g、3分)、細胞培養培地に再懸濁し、ガラス皿に添加した。細胞をインキュベータに12時間入れ、その後、633nmレーザ励起を使用してラマンイメージング測定を行った。
【0087】
オフ位置(+プレースホルダ)における非標的化AuNS-iMSでのINS1のエレクトロポレーションは、細胞内にオンシグナルを生成せず、エレクトロポレーションプロセスがiMSプローブを変化させないことが見出された。
図11Aは、エレクトロポレーションを使用したAuNS-iMSでのトランスフェクション後のINS1細胞の画像である。
図11Bは、557cm
-1のラマンバンドで測定されたラマンスペクトルイメージングマップ(偽色)を示す画像である。結果は、エレクトロポレーション後にiMSシグナルが「オフ」のままであったことを示している。
【0088】
AuNS-iMSオンを使用して同様の分析を行った。エレクトロポレーションを使用してAuNS-iMSオン(すなわち、プレースホルダ無し。エレクトロポレーションの前に標的を添加することによってiMSをオンにした)でトランスフェクトしたINS1を評価して、iMSオンに対する効果があるかどうかを決定した。
【0089】
1E6 INS1細胞を、0.15nMのAuNS-iMSオンを含有する800μLのOptiMEM培地に懸濁した。800μLを4cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。エレクトロポレーションは、4msのパルス長での250V又は3msのパルス長での300Vのいずれかを使用して室温で行った。エレクトロポレーション後、キュベットに直ちにエタノールを噴霧し、インキュベータ(37℃、5%CO2)に15分間入れた。細胞をPBS中で遠心分離によって3回洗浄して溶液中の遊離ナノ粒子を除去した後(300g、3分)、細胞培養培地に再懸濁し、ガラス皿に添加した。細胞をインキュベータに12時間入れ、その後、633nmレーザ励起を使用してラマンイメージング測定を行った。
【0090】
図12Aは、エレクトロポレーション後の細胞の画像である。
図12Bは、557cm
-1のラマンバンドで測定されたラマンスペクトルイメージングマップ(偽色)を示す。
図12Bの結果は、エレクトロポレーション後にiMSシグナルが「オン」のままであったことを示している。
【0091】
ラマン測定を、INS1細胞へのエレクトロポレーション後のmiR200bに関するiMSナノプローブを用いて行った。100万個のINS1細胞を788μLのOptiMEM培地に懸濁した。12μLの10nM iMSオフ(+プレースホルダ)又はオン(事前にオンにした)を細胞溶液に添加した。800μLの溶液を4cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。エレクトロポレーションは、10msのパルス長での250Vを使用して室温で行った。エレクトロポレーション後、キュベットに直ちにエタノールを噴霧し、インキュベータ(37℃、5%CO2)に15分間入れた。細胞をPBS中で遠心分離によって3回洗浄して溶液中の遊離ナノ粒子を除去した後(300g、3分)、ラマン測定のために100μLのPBSに再懸濁した(633nmレーザ励起、1%出力、10秒データ蓄積時間)。
【0092】
各実験について、サンプルあたり3回のSERS測定を実施し、単一のスペクトルに平均した。SERSスペクトルは、Savitsky-Golayフィルタ(5点窓及び1次多項式)を使用してバックグラウンドを差し引いて平滑化した。測定後、細胞を6ウェルプレートに播種し、インキュベータに戻した。
図13は、iMS「オン」でのiMSプローブに関連する558cm
-1のラマンピークの存在(上の曲線)及びiMSオフでのピーク無し(下の曲線)を示す。
【0093】
例4:CEL-miR39(Cy5)ナノプローブのモニタリング
幹細胞分化プロセスを通した細胞内のiMSのモニタリングに向けて進めるために、擬似センサを開発した。センサは、一本鎖結合タンパク質(SSB)及びヌクレアーゼ分解に抵抗性である修飾塩基(2’-O-メトキシ-エチル塩基及びホスホロチオエート(PS)結合)を有するCEL-miR-39(RT-qPCRのためのスパイクイン対照として一般的に使用される配列)用に設計されている。このプローブは、未修飾プローブよりも融解温度が高いステムを有する。これらの理由から、プローブは分化全体を通して「オン」位置に留まることが予想された。
図14Aは、溶液中の純粋なCEL-miR39(Cy5)ナノプローブのSERSスペクトルを示す。
図14Bは、INS1細胞にトランスフェクトした後のCEL-miR39(Cy5)ナノプローブのSERSスペクトルを示す。
【0094】
図14Aの曲線は、PBS中の0.15nMの濃度でのCEL-miR-39MSプローブ(Cy5標識を有する)のSERSスペクトルを示す(633nmレーザ励起、1%出力、10秒蓄積)。
図14Bの曲線は、CEL-miR-39MSプローブ(Cy5標識を有する)をINS1細胞にエレクトロポレーションした後に得られたSERSスペクトルを表す。
【0095】
100万個のINS1細胞を788μLのOptiMEM培地に懸濁した。12μLの10nM CEL-miR-39MSオンを細胞溶液に添加した。800μLの溶液を4cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。エレクトロポレーションは、10msのパルス長での250Vを使用して室温で行った。エレクトロポレーション後、キュベットに直ちにエタノールを噴霧し、インキュベータ(37℃、5%CO2)に15分間入れた。細胞をPBS中で遠心分離を使用して3回洗浄して溶液中の遊離ナノ粒子(300g、3分)を除去した後、ラマン測定のために100μLのPBSに再懸濁した(633nm励起、1%出力、10秒蓄積)。
【0096】
各実験について、サンプルあたり3回のSERS測定を実施し、単一のスペクトルに平均した。本明細書で報告されるすべてのSERSスペクトルは、Savitsky-Golayフィルタ(5点窓及び1次多項式)を使用してバックグラウンドを差し引いて平滑化した。測定後、細胞を6ウェルプレートに播種し、インキュベータに戻した。
【0097】
表1は、エレクトロポレーションされたINS1細胞の生存率試験の結果を示す。100万個のINS1細胞を800μLのOptiMEM培地に懸濁した。
【表1】
【表2】
【0098】
細胞溶液を4cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。エレクトロポレーションは、0.5、3又は10msのパルス長での250Vを使用して室温で行った。複製パルスを行った場合、細胞を37℃で2分間回復させた。エレクトロポレーションが完了した後、キュベットに直ちにエタノールを噴霧し、インキュベータ(37℃、5%CO2)に15分間入れた。細胞をPBS中で遠心分離によって3回洗浄した後(300g、3分)、培養培地に再懸濁し、6ウェルプレートに播種した。細胞をインキュベータに12時間入れた後、生存率を評価した。細胞をトリプシン処理し、遠心分離してペレットを回収した。ペレットを1mLの細胞培養培地に分散させた。トリパンブルー色素を使用して、計数中の生存率を評価した。
【0099】
例5.hESCにおけるAuNS-PEGの保持
hESCにおけるAuNS-PEGの取込み及び保持を測定した。表2及び
図15~
図18は、この試験の結果を示す。種々の電圧、パルス長及びパルス数で行ったエレクトロポレーションの24時間後のhESCの生存率を測定した。結果を表2に示す。表2の結果が示すように、エレクトロポレーション後のhESCの生存率は、300Vを超える電圧、10msを超えるパルス長、及びその後に行われるパルスの数によって悪影響を受けた。
【表3】
【0100】
エレクトロポレーション効率(細胞あたりに取り込まれた金ナノ粒子の数として測定)は、電圧ではなくパルスの長さを増加させることによって改善されることが分かった(例えば、
図16A及び
図16Bを参照)。最適条件は、1つの単一パルスを使用して、10msで250Vであると決定された(例えば、
図17を参照)。
図16A及び
図16Bは、エレクトロポレーション(0.15nMのAuNS、PBS)直後のhESCにおけるAuNSのICP/MS定量を示すチャートである。
図16A及び
図16Bは、同じデータを異なるフォーマットで示している。
図16Aは、細胞あたりの粒子の絶対数を示し、一方、
図16Bは、計算された倍率変化を示す。
【0101】
図17は、0.15nMのAuNSでのエレクトロポレーションの24時間後のhESC細胞の多光子zスタック画像を提供する。
【0102】
細胞生存率とエレクトロポレーション効率との間のバランスが、エレクトロポレーション培地を最適化することによって見出された。PBS中でのエレクトロポレーションは、細胞あたりの粒子数を最大10倍増加させた(受動的取込みと比較して。
図16を参照)が、血清が減少したOPTIMEM中で実施したエレクトロポレーションと比較した場合、エレクトロポレーション直後のhESCの生存率は低下した。この結果を、エレクトロポレーションの30分後にDAPIで染色したhESCのフローサイトメトリー分析の画像を含む
図18に示す。
【0103】
血清が減少したOPTIMEMにおけるエレクトロポレーションは、エレクトロポレーションの48時間後に、受動的取込みと比較してAuNSの最大4倍の増加、及び細胞あたり最大60KのAuNSを示した(
図16参照)。過剰な粒子(取り込まれなかった)を除去するためにPBS中で細胞を洗浄する前に、hESCを37℃で15分間休止させた場合、高いエレクトロポレーション効率が達成された。エレクトロポレーションの直後に行われた洗浄は、おそらく非効率的な細孔閉鎖に起因して、取込み濃縮の完全な喪失を引き起こした(
図15参照)。
図15A及び
図15Bは、エレクトロポレーション(0.15nMのAuNS、OPTIMEM)の48時間後のhESCにおけるAuNSのICP/MS定量を示すチャートである。
図15A及び
図15Bは、同じデータを異なるフォーマットで示している。
図15Aは、細胞あたりの粒子の絶対数を示し、一方、
図15Bは、計算された倍率変化を示す。
【0104】
完全血清培地は最も高い細胞生存率を示したが、より高い細胞生存率は細孔形成及びAuNS取込みの減少を反映する。
【0105】
AuNSの保持を、hESCの膵臓ベータ細胞への20日間の分化の期間中に試験した。分化プロトコルは、分化の1日目に開始し、2D培養から出発する3D細胞クラスタ(球)の形成に基づいた。
【0106】
hESCの膵臓ベータ細胞への分化プロトコルは、以下のプロトコルを使用した。ヒト胚性幹細胞(hESC)を、hESC培地(1×Glutamax、1×MEME-NEAA、1×ベータメルカプトエタノール、KSR及びFGF-2を補充したDMEM F-12)中でマウス胚性線維芽細胞(MEF)上で維持し、増殖させた。コンフルエントなhESC培養物を単一細胞懸濁液に解離させ、アクチビンA(10ng/ml、R&D Systems)及びヘレグリンB(10ng/ml、Peprotech)を補充したhPSC培地中の懸濁プレートに播種した。プレートをオービタルシェーカー上でインキュベートして、3D球の形成を誘導した。以下の培地を使用して球を20日間培養した。
・1日目:0.2% FBS、1:5,000 ITS(Gibco)、100ng/mlアクチビンA、50ng/ml WNT3a(R&D Systems)を含有するRPMI(Gibco)、
・2日目:0.2% FBS、1:2,000 ITS、100ng/mlアクチビンAを含有するRPMI
・3日目:0.2% FBS、1:1,000 ITS、2.5μM TGFbi IV(CalBioChem)、25ng/ml KGF(R&D Systems)を含有するRPMI
・4~5日目:0.4% FBS、1:1,000 ITS、25ng/ml KGFを含有するRPMI
・6~7日目:1:100 B27(Gibco)、3nM TTNBP(Sigma)を含有する25mMグルコースを含むDMEM(Gibco)
・8日目:1:100 B27、3nM TTNBP、50ng/ml EGFを含有する25mMグルコースを含むDMEM(R&D Systems)
・9~11日目:1:100 B27、50ng/ml EGF、50ng/ml KGFを含有する25mMグルコースを含むDMEM
・12~20日目:1:100 B27、1:100 Glutamax(Gibco)、1:100 NEAA(Gibco)、10μm ALKi II(Axxora)、500nM LDN-193189(Stemgent)、1μm Xxi(Millipore)、1μM T3(Sigma-Aldrich)、0.5mMビタミンC、1mM N-アセチルシステイン(Sigma-Aldrich)、10μM硫酸亜鉛(Sigma-Aldrich)及び10μg/mlのヘパリン硫酸を含有する25mMグルコースを含むDMEM。
【0107】
図19は、分化の1日目、5日目及び20日目におけるクラスタの明視野画像及び蛍光画像を提供し、AuNSをエレクトロポレーションしたhESCが球を形成し得ることを示す。すべてのクラスタはAuNSを含有していた。
図20A及び
図20Bは、AuNSをエレクトロポレーションしたhESCが分化プロトコルの終了までAuNSを保持したことを示すチャートを提供する。
【0108】
分化の異なる段階で生じる高レベルの細胞増殖のために、細胞あたりの粒子数は娘細胞に迅速に希釈された。この喪失を打ち消すために、0.15nM及び1.5nMの2つの異なる濃度のAuNSを試験した。最高濃度のAuNSは毒性を示さず、細胞あたり最大800個の粒子を含有するD20の球の形成をもたらした(例えば、
図20を参照)。各球は、5000個から8000個の間の膵臓前駆細胞を含有していた。したがって、各球は、400万個~660万個のAuNSを含有していてもよい。
【0109】
ベータ細胞へのhESCの分化能へのAuNSの干渉を、内胚葉の形成中及び最終膵臓ベータ細胞段階で発現されるマーカーの細胞内染色によってモニタリングした。具体的には、2日目に、細胞内染色を行って、内胚葉マーカーFOXA2及びSOX17に対して二重陽性であり、幹細胞マーカーTRA160に対して陰性である細胞の割合を定量した。20日目に、細胞内染色を行って、膵臓前駆細胞のマーカーであるPDX1を発現する細胞の割合を定量し、ベータ細胞のマーカーであるNKX6.1及びINSに対して二重陽性である細胞の割合を定量した。FOXA2及びSOX17に対して二重陽性である細胞の>90%の存在、並びにTRA160の喪失によって観察されるように、データは、内胚葉の形成に対するAuNSの阻害効果を示さなかった。
図21は、0.15nMのAuNS(A)又は1.5nMのAuNS(B)をエレクトロポレーションした2日目の球のフローサイトメトリー分析の画像を提供する。
【0110】
図22は、0.15nMのAuNS(A)又は1.5nMのAuNS(B)をエレクトロポレーションした20日目の球のフローサイトメトリー分析の画像を提供する。
図22において分かるように、PDX1を発現する集団の>90%並びにCペプチド及びNKX6-1を共発現する集団の>40%の存在によって観察されるように、膵臓ベータ細胞の形成に対する効果は何ら認められなかった。より高レベルのAuNS(1.5nM対0.15nM)の存在も、分化能に効果を示さなかった。
【0111】
当業者は、本開示が目的を実行し、言及された目的及び利点、並びにそれらに固有の目的及び利点を得るように適合されていることを容易に理解するであろう。本明細書に記載の本開示は、好ましい実施形態を現在代表するものであり、例示的なものであり、本開示の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨の範囲内に包含されるその中の変更及び他の使用が当業者には思い浮かぶであろう。
【0112】
本明細書で引用される非特許文献又は特許文献を含む任意の参考文献が先行技術を構成することは認められない。特に明記しない限り、本明細書における任意の文書への言及は、これらの文書のいずれかが米国又は任意の他の国における当技術分野の共通の一般知識の一部を形成することの承認を構成しないことが理解されよう。参考文献のいずれの考察も、その著者が主張することを述べており、本出願人は、本明細書に引用される文献のいずれかの正確性及び適切性に異議を申し立てる権利を留保する。本明細書で引用されるすべての参考文献は、特に明記しない限り、参照により完全に組み込まれる。本開示は、引用される参考文献に見られるいずれかの定義及び/又は説明の間に何らかの矛盾がある場合に管理するものとする。
【国際調査報告】