(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(54)【発明の名称】動作信頼性の高いブラシレスDC電気モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/28 20060101AFI20230316BHJP
【FI】
H02K3/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542405
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021050937
(87)【国際公開番号】W WO2021151708
(87)【国際公開日】2021-08-05
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520300482
【氏名又は名称】マクソン インターナショナル アーゲー
【氏名又は名称原語表記】MAXON INTERNATIONAL AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アレンド, ピーター ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ボレティス, アレクシス
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603BB01
5H603BB10
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB01
5H603CC19
5H603CD21
(57)【要約】
動作信頼性の高いブラシレスDC電気モータ。本発明は、特にインプラントのアクチュエータユニットのための、好ましくは心臓補助システムのためのブラシレスDC電気モータに関し、このモータは、中空円筒状の鉄フリー巻線を有するステータと、ステータに対して回転可能であり且つ数pの永久磁極対を有するシャフトを備えたロータとを有し、このシャフトは、互いに分離されたn個の三相システムを有する。永久磁極対の数p=1に対しては、互いに分離された三相システムの数は2であり、永久磁極対の数p>1に対しては、pの整数除数(整数除数は1に等しくない)、または数p、または永久磁極対の数pの2倍と一致し、ここで、中空円筒状の鉄フリー巻線において互いに分離された三相システムの数nは、空間的に互いから360°/nの角度だけオフセットされて配置される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスDC電気モータ(1)、特にインプラントのアクチュエータユニット用、好ましくは心臓補助システム用であって、
中空円筒状の鉄フリー巻線(6)を有するステータ(5)と、
前記ステータ(5)に対して回転可能であり、数pの永久磁極対(14)を有するシャフト(4)を備えたロータ(2)であって、前記巻線(6)が互いに分離された数nの三相システムを有する、ロータ(2)と、
を備え、
互いに分離した三相システム(15)の数nは、数p=1の永久磁極対(14)に対して2であり、数p>1の永久磁極対(14)に対して、pの整数除数(整数除数は1に等しくない)、または数p、または、永久磁極対(14)の数pの2倍と一致し、
前記中空円筒状の鉄フリー巻線(6)において互いに分離された数nの三相システム(15)は、互いに360°/nの角度だけ空間的にオフセットされて配置されることを特徴とする、ブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項2】
少なくともp=2の永久磁極対(14)が設けられ、互いに分離された三相システム(15)の数nは、pの整数除数(ただし、整数除数は1に等しくない)または永久磁極対(14)の数pに一致することを特徴とする、請求項1に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項3】
少なくとも数p=2の永久磁極対(14)が設けられ、互いに分離された三相システム(15)の数nは、永久磁極対(14)の数pと正確に一致することを特徴とする、請求項2に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項4】
互いに電気的に分離された前記三相システムの各相に対して、少なくともk=2の数の単一コイル(16)が直列に接続され、k個の単一コイル(16)と前記n個の別個の位相システム(15)との積k・nは、永久磁極対(14)の2倍の数に一致し、互いに別個の前記三相システム(15)のそれぞれの位相における直列に接続された前記単一コイル(16)の空間角が360°/n/kであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項5】
相の、直列に接続された2つの単一のコイル(16)が、前記中空円筒状の鉄フリー巻線(6)において、逆の巻線方向に電気的に接続されていることを特徴とする、請求項4に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項6】
前記少なくとも2つの三相システム(15)の互いに離れた軸方向位置は、少なくとも特定の領域において前記シャフト(4)に対して重なり合うことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項7】
互いに分離された前記三相システム(15)の前記単一コイル(16)は、互いにスター接続されており、互いに分離された前記少なくとも2つの三相システムの中性点(18)は、互いに接続されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項8】
互いに分離された前記個々の三相システム(15)の前記単一のコイル(16)が互いに直列に接続されて、デルタ接続と呼ばれる前記個々の三相システム(15)の電気的結合が作られることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項9】
本発明に係るブラシレス直流電動機(1)の、互いに分離した前記三相システム(15)の前記単一のコイルが単一の多角形接続で互いに接続されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項10】
互いに分離された前記三相システム(15)の各々に対して、別個の電子整流子、好ましくは電子ブロック整流子が設けられることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項11】
前記ステータ(5)は、磁気ヨーク(7)を備え、好ましくは、前記中空円筒状の鉄フリー巻線(6)の周囲に積層された鉄パックを備えることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1)。
【請求項12】
前記ロータ(2)と前記ステータ(5)との間の空隙(17)は、前記空隙(17)を通る流体の流れを可能にし、特に、ヒトの血液が流れることを可能にし、前記周方向空隙(17)は、前記ロータ(2)の径の15%より大きく、特に25%より大きいことが好ましいことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のブラシレスDC電気モータ(1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にインプラントのアクチュエータユニットのための、好ましくは心臓補助システムのためのブラシレスDC電気モータに関し、このモータは、中空円筒状の鉄フリー(鉄無し)巻線を有するステータと、ステータに対して回転可能であり且つ数pの永久磁極対を有するシャフトを備えたロータとを有し、このシャフトは、互いに分離された数nの三相システムを有する。
【0002】
ブラシレス直流電気モータは、中空円筒状の鉄フリー巻線を有しており、ここには、三相システムで電流が供給され、回転巻線に電流を伝達できるブラシシステムがないのでステータに配置されている。従って、一対の永久磁極は、ステータに対して巻線と共に回転する。一対の永久磁石の材料は、十分に高い出力密度を達成するために、典型的にはネオジミウム-鉄-ホウ素合金からなる。一対の永久磁極を備えたシャフトは、一般に、長寿命を得るために予圧されたボールベアリングを用いて装着される。より高い出力密度を達成するために、ロータは、数個の永久磁極対を備えることができる。ブラシレスDC電気モータは、動作するために電子整流を必要とし、これは原理的に従来のDC電気モータのブラシシステムを模倣する。従って、従来の高始動トルク、高ダイナミックスの直流モータと同様の回転速度-トルク特性が得られる。ブラシレスDC電気モータの主な利点は、機械的整流システムによって制限されない、より長い寿命とより高い回転速度である。特に、中空円筒状の鉄フリー巻線は、鉄損失が低減され、摩擦が低く、熱損失が低いブラシレスDC電気モータを可能にし、その結果、非常に効率的な電気モータが得られるが、それは、その低い慣性に起因して、高い加速および短い応答時間を可能にするので、インプラント用のアクチュエータユニットと共に使用するのに特に適しており、心臓補助ポンプに特に有利である。
【0003】
ブラシレスDC電気モータの使用は、動作に必要とされる電子機器がより安価でより小型になるにつれて、過去20年間に着実に増加してきたが、これはまた、冗長性または高い信頼性を有する動作上の信頼性のある電気モータが不可欠である分野の使用および拡大の増加に起因する。
【0004】
冗長電気モータは、EP 754 365 B1から知られており、軸方向に互いに後方に配置された2つの磁極を有するロータと、互いに分離され軸方向に互いに後方に配置された2つの巻線から構成されるステータとを備える。巻線は互いに独立して制御することができ、それぞれ一対の永久磁極に関連付けられる。DE 31 40 034 A1は、冗長ブラシレスDC電気モータを記述するが、この電気モータにおいて、スロット付きステータ巻線は、4つの部分ストランドから構成され、整流のためのセンサシステムは、4つのセンサグループから構成され、ロータは、4対の極を有する。従って、この冗長電気モータは、4つの別個に制御可能なモータユニットを備えるが、これらは、高レベルの冗長性を可能にするが、大きな設置サイズおよび多数の個々の構成要素を必要とする。ステータの巻線が互いに独立して動作することができる幾つかの巻線ストランドと、ロータの回転位置を検出するためおよび電子整流のための幾つかの独立したセンサグループとを有する更なる冗長なブラシレスDC電気モータがEP 2 922 180 A1から知られている。そこのコイルは、単一のワイヤで作られた少なくとも2つの別個に制御可能な巻線ストランドを含むバイファイラー巻線として設計される。バイファイラ巻きコイルは、並列に導かれた2本の巻線ワイヤからなり、これらは異なる電圧源によって供給することができるが、故障の場合には、直接隣接する冗長巻線システムが同様に、動作温度の上昇または製造技術による局所的な弱化の影響を受ける可能性が高い。短絡が発生した場合、影響を受けた巻線ワイヤ(電気用のものを除く。)は更にバイファイラ隣接ワイヤ(電気用のものを除く。)に対して磁気効果を有し、その結果、後者は、影響を受けた巻線ワイヤ(電気用のものを除く。)と同様に、対向する短絡電流によって低減された磁束の影響を受けるので、限られた範囲でしか電気機械エネルギ変換に関与することができない。これに対応して、バイファイラ巻きコイルは、低い冗長性を有し、残りの巻線に対してスイッチを切ることができない短絡電流の高い負の遡及的な影響を有する。
【0005】
航空宇宙産業における冗長電気モータの長年の使用に加えて、近年、たとえば、心臓補助ポンプのように、フェールセーフ方式で電気的に動作させなければならない多くの移植可能な医療装置が開発されてきた。このタイプの心室補助装置では、中断または性能の著しい低下が生命を脅かす結果をもたらす可能性があるので、信頼性があり中断されない動作が特に必要である。しかしながら、インプラントにおける使用を可能にするためには、インプラントの駆動ユニットの冗長性に加えて、現在、駆動ユニットの小さい設置サイズおよび低い重量もまた必要な態様である。従って、本発明は、動作上信頼性のあるブラシレスDC電気モータを提供することを目的とし、このモータは、軽量かつコンパクトな設計でありながら、局所的な故障の場合に少なくとも限定された範囲まで動作を維持するのに十分な冗長性を有する。
【0006】
【概要】
【0007】
この目的は、本発明によって満たされるが、本発明において、永久磁極対の数p=1に対して、互いに分離された三相システムの数nは2であり、永久磁極対の数p>1に対して、pの整数除数(整数除数は1に等しくない)または数pまたは永久磁極対(14)の数pの2倍のいずれかに対応し、中空円筒状の鉄フリー巻線において互いに分離された三相システムの数nが360°/nの角度だけ空間的にオフセットされて配置される。pの整数除数は、別の自然数を乗算してpとなる自然数である。たとえば、p=6の場合、数1、2、3、6は、pの整数除数である。従って、本発明による除数は1に等しくないので、他のものから分離された2、3または6の数の三相システムを提供することができる。分離した、即ち、互いに電気的に絶縁された巻線ストランド内で互いに電気的に分離した複数の三相システムの空間的にオフセットされた配置は、ロータの周りに配置された中空円筒状の鉄フリー(鉄の無い)巻線のセグメント化を導くので、ブラシレスDC電気モータの耐故障性のある巻線接続を可能にする。永久磁極対の数p>1に対して、少なくとも1つの別個の三相システムを、北極および南極からなる一つ又は複数の対の磁極と関連付けることができ、それによって、磁気回路の結合解除が達成され、これにより、別個の三相システムのうちの1つにおいて短絡が発生した場合に、他の三相システムに対して磁気的影響がないかまたは低減される。
【0008】
2つの三相システムを一対の磁極に対向して配置することもできるので、一対の磁極を有する直流電気モータの実施形態も可能であるが、好ましくは、少なくとも数p=2の永久磁極対がシャフト上に設けられ、ここで、互いに分離された三相システムの数nは、pの整数除数に対応するが、ここで、整数除数は1に等しくないか、または永久磁極対の数pに一致する。これに対応して、互いから360°/nの角度だけ空間的にオフセットして配置された三相システムは、それぞれ、一つ又は複数の対の極と正確に対向して配置され配列される。1対のみの永久磁極対p=1またはp>2と、三相システムn=2×pの数の2倍を有するロータの場合、互いに空間的に離れた三相システムは、それぞれ、極に正確に対向して配置され配列される。
【0009】
少なくとも数p=2の永久磁極対をシャフト上に設けることが特に有利であり、互いに分離された三相システムの数nは、360°/nの角度だけ中空円筒状の鉄フリー巻線内で互いから空間的にオフセットされた数pの永久磁極対に正確に一致する。この場合、互いから360°/nの角度だけ空間的にオフセットされて配置された三相システムは、それぞれ、一つ又は複数の対の極と正確に対向して配置され配列される。ブラシレス直流電気モータの、この構造的構成は、電気モータの動作中の予期しない故障に対して高いレベルの頑丈さを可能にし、また、存在する故障または切断された巻線部分にかかわらず、緊急動作中に良好な程度の巻線を可能にする。この構成によって得られるブラシレスDC電気モータの高レベルの冗長性および故障安全にもかかわらず、電気モータの製造、試験および品質管理のための従来のプロセスを使用することができ、パワーエレクトロニクスおよび整流論理のための従来の構成要素も同様である。従来技術で知られている、従来の三相巻線の単一コイルにバイファイラ巻線を有する、または五相もしくは七相巻線を有する冗長電気モータとは対照的に、本発明に係るブラシレスDC電気モータの構成は、巻線の特別な、したがってコスト集約的な特別なパワーエレクトロニクスおよび整流論理の使用を省くことができる。
【0010】
本発明に係るブラシレス直流電動機の中空円筒状の鉄フリー巻線において、空間的に互いに分離された少なくとも2つの三相システムを使用することにより、設置長が短く、小径であるとともに高い公称電力を有する小型でコンパクトなモータ構成が可能となるだけでなく、たとえば、動作温度の上昇や製造技術による巻線の局所的な弱化等による巻線システムの故障に対して高い冗長性を有することが可能となり、たとえば、人間の心臓の血液循環の長期補助のための移植可能な心臓補助システムにおけるインプラントの駆動ユニットに理想的に適している。そのような移植可能な心臓補助システムでは、巻線のコイルに起こり得る故障だけでなく、供給ラインまたは供給ラインへの接続の故障も、心臓補助システムの故障につながり、したがって患者の死亡につながる可能性がある。
【0011】
有利な実施形態において、互いに電気的に分離された三相システムの各相に対して、少なくとも数k=2の単一コイルが直列に接続されることを提供し、ここで、k個の単一コイルとn個の別個の相システムとの積k・nは、永久磁極対の数の2倍と一致し、ここで、互いに分離された三相システムのそれぞれの相の直列に接続された単一コイルの空間角は、360°/n/kである。従って、本実施形態において、ステータの単一コイルの総数は、永久磁石の磁極対の総数又はロータ磁極の総数の2倍に相当し、2つの単一コイル間の空間角度は、2つのロータ磁極の間の空間角度に相当する。空間的に互いに分離された単一コイルの配置は、巻線相故障の場合における電気モータの耐故障性を増大させ、それによって、故障に対して高いレベルの信頼性が要求されるインプラントの駆動ユニットとしての電気モータの使用可能性を改善する。DC電気モータは、好ましくは、互いに電気的に分離された2つの三相システムを有する4極の永久励起同期モータとして構成され、三相システムの各相は、直列に接続されて90°の空間角で配置された2つの単一コイルを含む。このような4極同期モータでは、小さな設置サイズと低い製造複雑性に対して、高いレベルの冗長性が既に得られる。中空円筒状の鉄フリー巻線の可能な限り最大の巻き線密度を達成するために、三相システムの単一コイルは(ダイヤモンド巻線とも呼ばれる)菱形巻線を備える。
【0012】
耐故障性を高めるために、互いに分離された少なくとも2つの三相システムの相の直列に接続された2つの単一コイルを、中空円筒状の鉄フリー巻線内で反対の巻線方向に電気的に接続することができる。2つの単一のコイルを逆の巻線方向に接続することにより、磁気コイルがN極とS極に結合され、緊急動作時の巻線電流が低減される。
【0013】
便宜的な構成は、少なくとも2つの三相システムの軸方向位置が、少なくとも特定の領域において、シャフトに対して互いに重なり合うことを提供する。シャフトの軸方向延在方向に互いに電気的に分離された少なくとも2つの三相システムの軸方向位置の重なり合う配置は、短い全長を有しながらブラシレスDC電気モータのコンパクトな設計を可能にする。三相システムの磁場は、シャフトの共通セクション上のある軸方向長さにわたって作用することで十分である。シャフトの軸方向に垂直に延在する三相システムの磁場は、高レベルの冗長性にも拘わらず非常に短いモータ長を可能にするために、好ましくはシャフトの共通の部分にのみ作用する。
【0014】
有用な実施形態は、互いに分離している三相システムの単一コイルが互いに星形接続で接続され、ここで互いに分離している少なくとも2つの三相システムの中性点が好ましくは互いに接続されることを提供する。それぞれの三相システムの単一コイルの電気的結合にスター接続を使用することは、より高いトルク定数を可能にするだけでなく、巻線内の望ましくない循環電流を回避することも可能にする。中性点は、中空円筒状の鉄フリー巻線から個々にまたは共通の中性点として簡単な方法で引き出され、パワーエレクトロニクスに接続できる。
【0015】
あるいは、互いに分離された個々の三相システムの単一コイルが互いに直列に接続されて、デルタ接続と呼ばれる個々の三相システムの電気的結合が形成される。次いで、デルタ接続は、それぞれ、パワーエレクトロニクスに接続できる。あるいは、本発明に係るブラシレス直流電気モータの互いに分離された三相システムの単一コイルは、単一の多角形接続で互いに接続されている。幾つかの三相システムの単一コイルのデルタ接続または単一コイルの多角形接続は、電気モータのより高い回転数定数を可能にし、従って必要な供給電圧の低下を可能にする。
【0016】
好ましくは電子ブロック整流子である別個の電子整流子が、互いに分離された三相システムのに対して有利に設けることができる。その結果、電気的および空間的に互いに分離された2つの三相システムの使用にも拘わらず、標準モータにも使用される従来の整流子を使用することができる。従って、冗長なブラシレス直流モータの開発及び製造コストを低減することができる。さらに、別個の三相システムのそれぞれに対して別個の電子整流子を使用する場合、整流子が独自の電圧回路を備えていれば、1つの整流子が故障しても、三相システム間の干渉は最小限に抑えられる。これにより、本発明に係る直流モータの耐故障性を向上させることができ、冗長性を高めることができる。
【0017】
さらに、ステータは、磁気ヨーク、好ましくは中空円筒状の鉄フリー巻線の周囲に配置された積層鉄コアを含むことができる。磁気ヨークは渦電流損失を低減し、それに応じて直流モータの出力密度を改善する。積層鉄パックまたは鉄-ニッケル金属の薄板パックを中空円筒状鉄フリー巻線の周囲に配置して、できるだけ高品質のヨークを得ることができる。
【0018】
特定の実施形態は、ロータとステータとの間の空隙が、空隙を通る流体の流れを可能にし、特に、円周空隙が好ましくはロータの半径の15%よりも大きく、特に25%よりも大きい場合に、人間の血液が流れることを可能にする。ロータとステータとの間の、このような大きな空隙は、移植可能な心臓補助システムの駆動ユニットとしての容易な使用および患者の血流へのその統合を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下、例示的な図面を用いて、本発明の非限定的な実施形態をより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、本発明に係るブラシレス直流電動機の概略分解図である。
【
図2】
図2は、2対の永久磁極と2つの三相システムを有する
図1からのDC電気モータのコイル接続の概略図を示す。
【
図3】
図3は、各相に対して2つの単一コイルを有する
図2からの回路に対する独立磁束の概略図を示す。
【
図4】
図4は、巻線間の内部短絡を有する、
図3による独立磁束の概略図を示す。
【
図5】
図5は、各相に対して2つの単一コイルを有する
図2からの回路に対する巻線構成の概略図を示す。
【詳細な説明】
【0020】
以下の実施形態において、同様の構成要素には同様の参照符号を付している。図が、関連する図の説明においてより詳細に説明されていない参照符号を含む場合は、先行または後続の図の説明を参照する。
【0021】
まず、
図1を参照して、本発明に係るブラシレス直流電動機1の概略構成を説明する。このブラシレス直流電動機1の主要構成部品は、シャフト4に直接接続された永久磁石3を有する回転可能なロータ2と、回転できるようにロータ2が装着されたステータ5と、巻線6の周囲に配置されハウジング8に接続された中空円筒状の鉄フリー巻線6及びヨーク7とである。ヨーク7は、ロータ2の、回転する永久磁石3によって生じる鉄損失を低減するために積層鉄パックからなる。プリント基板10は、ワイヤ9を接続することによって、巻線6の関連するパワーエレクトロニクスへの電気接続を提供する。センサ、たとえば、ホールセンサは、プリント基板10上に配置され、シャフト4と共に回転する永久磁石3の位置を走査することもできる。
【0022】
永久磁石3が装着されたシャフト4は、2つの予圧されたボールベアリング11で回転可能に装着される。ボールベアリング11と永久磁石3との間に配置された2つのバランスリング12は、材料が2つのバランスリング12から選択的に除去できるという点で、ロータの動的な釣合いを可能にする。バランスリング12によるロータの釣合いは、振動およびノイズを低減し、それによって、特にブラシレスDC電気モータ1で達成可能な高回転速度において、ボールベアリング11および電気モータ1全体の寿命をそれぞれ延ばす。ハウジング8に装着されたロータ2は、面側のベアリングフランジ13で固定することができる。
【0023】
図1からの直流電気モータ1の中空円筒状の鉄フリー巻線6を、互いに電気的に絶縁された2対の永久磁極14と巻線6の2つの三相システム15から構成される永久磁石3に、それぞれ単相P
1、P
3およびP
5またはP
2、P
4およびP
6に接続することを
図2に示す。4つの磁極を有する永久磁石3に加えて、単相P
1、P
3およびP
5、およびP
2、P
4およびP
6は、それぞれ2つの単一コイル16を有し、これらは、直列に接続され、互いから90°の空間角度だけオフセットされた巻線6に配置される。ここで、より大きな空隙17が、巻線6を有するステータ5と、永久磁石3を有するロータ2との間に設けられ、流体の流れ、特にヒトの血液が流れることを可能にする。さらに、それぞれの三相システム15の単相P
1、P
3およびP
5、ならびにP
2、P
4およびP
6は、互いに星形接続で電気的に接続され、ここで、2つの三相システム15の個々の中性点18は互いに併合され、共通の中性点19として巻線6から導出される。
図2に示される星形接続の代替として、2つの三相システム15は、個々の中性点18または共通の中性点19を含まない6相多角形回路として、それに応じて接続することもできる。
【0024】
図3は、
図2に示されるスター接続における本発明による直流電気モータ1の独立磁束の概略図を示す。4極の永久磁石3および2つの三相システム15を有するDC電気モータ1の好ましい実施形態は、ここでも基本とされ、各々は、直列に接続され、互いに対して90°の空間的角度で巻線6に配置された各相に対して2つの単一コイル16を有する。
図3は、互いに分離した2つの三相システム15の2つの関連する単相、すなわち180°だけオフセットされた、4つの単一コイル16の独立磁束Φ
1-Φ
4の図を示す。それぞれの単相の2つの単一コイル16は、反対の巻線方向に電気的に接続され、その結果、磁気コイルが北極および南極と結合する。
【0025】
図4の概略図は、故障動作状態に対する、4つの単一コイル16の独立した磁束Φ
1~Φ
4の図を示すが、故障動作状態では、巻線6の単一コイル16が内部巻線故障によって短絡され、理想的にはいかなる磁束も許容しない。
図3のDC電気モータ1の乱されていない動作状態とは対照的に、単相P
1の単一コイル16は、巻線間の内部故障によって予期せぬ方法で短絡され、その結果、ロータ磁界に対抗する短絡電流が形成される。磁束Φ
1およびΦ
2は、単相P
1の短絡された単一コイル16から強制的に出力され、したがって、ロータ2の表面と巻線6の内径との間の空隙17内で、接線的に(即ち、円周方向に)接近する。それゆえに、磁束Φ
1およびΦ
2は、巻線システムによって最早検出されず、したがって最早電気機械的電力変換に寄与することができない磁気漏れ磁束成分のみを形成する。
【0026】
単相P
1の磁束Φ
1およびΦ
2からなる磁気コイル磁束は、巻線間の短絡により3/4から1/4に減少する。しかしながら、巻線6の反対に配列された単相P
2における磁気コイル磁束は、
図3の無故障状態で優勢な磁束の1/4から3/4だけ低下することを示す。短絡された単相P
1をオフに切り替えた後も、単相P
2は、25%減少された磁束で動作を継続することができる。この比較的小さな損傷は、極の直接隣接する対が単一相と関連しているという事実による。故障した単相のスイッチをオフにした後、10/12、即ち、巻線システムの約83%は、依然として電力に寄与することができる。したがって、緊急動作時には、巻線電流および電流の二乗に対応する銅損も低減することができる。緊急動作時の効率が高いことから、本発明による直流電気モータ1は、単純な三相巻線6を有する従来の電気モータよりも遙かに耐故障性が高いものとして分類することができる。本発明に係る直流電気モータ1では、緊急動作時にも静止状態からの始動が可能である。
【0027】
隣接する単一コイル16の間の電圧差がより小さい本発明による直流電気モータ1の多相の性質は、巻線間の内部短絡を伴う緊急動作中に隣接する単一相P1~P6の間の電流を低減する。したがって、巻線間に内部短絡が存在する緊急動作は、より低い追加損失を生じさせ、それゆえに、本発明に係る直流電気モータ1は、緊急動作中により良好な程度の効率を提供する。二本巻の巻線6とは対照的に、本発明による直流電気モータ1の巻線間の内部短絡が巻線6の円周の半分より上にある場合にも磁束が形成される可能性があり、これにより、影響を受けていない残りの単一コイル16における電圧誘導を僅かに低減することができる。
【0028】
図2に示される本発明による直流電気モータ1のための巻線構成は、
図5の各単相P
1~P
6に対して2つの単一コイル16を有する巻線6の概略図に示される。互いに分離された2つの三相システム15の単一相P
1~P
6は、互いに星形接続で接続され、ここで、互いに分離された少なくとも2つの三相システム15の中性点18は、互いに接続され、共通の中性点19として巻線6から引き出され、パワーエレクトロニクスに接続できる。2つの三相システム15の単一コイル16は、中空円筒状の鉄フリー巻線6の可能な最大の巻数を達成するために、菱形の巻線形状に構成される。この巻線形状は、ダイヤモンド巻線としても知られている。各単相P
1~P
6の2つの単一コイル16は、中空円筒状の鉄フリー巻線に逆方向に電気的に接続され、その結果、磁気コイルがN極およびS極と結合して、本発明に係る直流電気モータ1の耐故障性を向上させる。
【0029】
【符合の説明】
【0030】
1…DC電気モータ、
2…ロータ、
3…永久磁石、
4…シャフト、
5…ステータ、
6…巻線、
7…ヨーク、
8…ハウジング、
9…接続ワイヤ、
10…プリント基板、
11…ボールベアリング、
12…バランスリング、
13…ベアリングフランジ、
14…磁極対、
15…三相システム、
16…単一コイル、
17…空隙、
18…中性点、
19…共通中性点、
P1-P6…単相、
Φ1-Φ4…磁束。
【国際調査報告】