IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シエラ ジェームス,エルエルシーの特許一覧

<>
  • 特表-安定なピッカリング型エマルション 図1
  • 特表-安定なピッカリング型エマルション 図2
  • 特表-安定なピッカリング型エマルション 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-28
(54)【発明の名称】安定なピッカリング型エマルション
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/36 20060101AFI20230320BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230320BHJP
   A61K 8/00 20060101ALI20230320BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230320BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230320BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230320BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20230320BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K8/06
A61K8/00
A61K8/34
A61Q1/00
A61Q19/00
A61K8/92
A61K8/39
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546530
(86)(22)【出願日】2020-12-31
(85)【翻訳文提出日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 US2020067691
(87)【国際公開番号】W WO2021178036
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】16/807,272
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522302622
【氏名又は名称】シエラ ジェームス,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CIELLA JAMES,LLC
【住所又は居所原語表記】28 Table Rock Rd Tuxedo Park,NY 10987 UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キルバーグ,デニス
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC012
4C083AC111
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC131
4C083AC132
4C083AC241
4C083AC242
4C083AC441
4C083AC442
4C083AD041
4C083AD042
4C083BB11
4C083BB21
4C083BB26
4C083CC01
4C083DD28
4C083DD31
4C083EE03
(57)【要約】
本開示は、グリセリンおよび油を含む安定なピッカリング型エマルション、ならびにその製造方法を提供する。一部の態様では、そのようなエマルションは、共乳化剤としてステアリン酸マグネシウムおよび非イオン性界面活性剤をさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッカリング型エマルションであって、
前記エマルション全体の約15重量%~約30重量%の量のポリオールを含む、不連続な内相と、
前記エマルション全体の約55重量%~約85重量%の量の連続的な油である外相と、
ステアリン酸マグネシウムを含む乳化剤と、
を含むピッカリング型エマルション。
【請求項2】
前記ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、およびジエチレングリコールからなる群から選択される、請求項1に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項3】
前記ポリオールがグリセリンである、請求項1に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項4】
共乳化剤としてオリーブ油脂肪酸ソルビタンをさらに含む、請求項1に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項5】
前記不連続な内相が、10~40μmの直径を有する球状液滴を含む、請求項1に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項6】
前記ステアリン酸マグネシウムが前記エマルション全体の1~3重量%の量で存在する、請求項1に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項7】
前記エマルション全体の1~3重量%の量のオリーブ油脂肪酸ソルビタンを共乳化剤としてさらに含む、請求項6に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項8】
前記エマルションが60℃で少なくとも48時間安定であり、目視可能な相分離を示さない、請求項7に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項9】
前記エマルションが室温で少なくとも6ヶ月間安定であり、目視可能な相分離を示さない、請求項7に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項10】
前記ステアリン酸マグネシウムが、前記不連続な内相と前記連続的な油である外相との間の界面に局在する、請求項1に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項11】
ピッカリング型エマルションであって、
前記エマルション全体の約5重量%~約65重量%の量の油を含む、不連続な内相と、
前記エマルション全体の約35重量%~約95重量%の量の連続したポリオールである外相と、
ステアリン酸マグネシウムを含む乳化剤と、
を含むピッカリング型エマルション。
【請求項12】
前記ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、およびジエチレングリコールからなる群から選択される、請求項11に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項13】
前記ポリオールがグリセリンである、請求項11に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項14】
共乳化剤としてオリーブ油脂肪酸ソルビタンをさらに含む、請求項11に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項15】
前記不連続な内相が、10~40μmの直径を有する球状液滴を含む、請求項11に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項16】
前記ステアリン酸マグネシウムが、前記エマルション全体の1~3重量%の量で存在する、請求項11に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項17】
前記エマルション全体の1~3重量%の量のオリーブ油脂肪酸ソルビタンを共乳化剤としてさらに含む、請求項16に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項18】
前記エマルションが60℃で少なくとも48時間安定であり、目視可能な相分離を示さない、請求項17に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項19】
前記エマルションが室温で少なくとも6ヶ月間安定であり、目視可能な相分離を示さない、請求項18に記載のピッカリング型エマルション。
【請求項20】
前記ステアリン酸マグネシウムが、前記不連続な内相と前記連続したポリオールである外相との間の界面に位置する、請求項11に記載のピッカリング型エマルション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月3日に出願された米国特許出願第16/807,272号の優先権の利益を主張し、その全内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は概して、グリセリンおよび油を含む安定なピッカリング型エマルション、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エマルションは、化粧品、医薬品、食品産業などを含む多くの異なる分野に普及している。エマルションは、従来のエマルションの場合のように界面活性剤(カチオン性、アニオン性、両性もしくは非イオン性)によって、またはピッカリング型エマルションの場合のように固体粒子(例えば、シリカ、粘土、ヒドロキシアパタイト(Hap)、および一部の有機粒子)によって、一緒に保持された2種の非混和性液体を含む系である。界面活性剤は、親油性(非極性)尾部および親水性(極性)頭部からなる両親媒性分子である。極性物質と非極性物質を混合すると、界面活性剤は2種の液体間の界面に吸収され、表面張力および界面張力を低下させる役割を果たす、こうして、内相液滴の合一を阻害することによってエマルションを安定化する。ただし、界面活性剤を用いると、界面における収着/脱着を伴う界面での動的平衡が存在し、経時的な熱不安定性をもたらす。
【0004】
グリセリンと油とのエマルションは、油と水とのエマルションよりも著しく不安定であり、このため、あまり普及していない。しかしながら、特に化粧品および医薬品産業において、グリセリンと油の安定なエマルションを製造することに新たな関心が寄せられている。例えば、気候変動が世界的な水不足を引き起こすと予測されているため、企業がより持続可能になることがますます必要とされている。一つの方法は、製品製造プロセスにおける水を削減するとともに、製品自体の含水量を低減することである。スキンケア調合物の多くは、かなりの量(例えば、70%)の水を含有する水中油滴型エマルションである。水を含有する民生品は通常、保存剤を含有しなければならないため、このような調合物が水を含むことには問題である。多くの消費者は、保存剤、特にパラベンおよびフェノキシエタノールの明らかな毒性を懸念している。したがって、完全に無水のグリセリンと油とのエマルションの需要が高い。しかるに、公知の方法の使用は、添加物として増粘剤および/またはワックスをかなりの割合使用しないと、グリセリンと油の安定なエマルションを得ることができないため、口紅およびバルムなどの固体様製品にのみ適している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリセリンと油とのエマルションの既存の調合物が他の望ましくない態様を招くことなく安定性を維持することができないという欠点を考慮すると、当技術分野では、顔および身体の皮膚への化粧品用途のためのならびに他の用途のための、液体および液体様(例えば、ソフトな)エマルション用の、多量の増粘剤を使用せずに製造された、グリセリンと油との安定なエマルションが必要とされている。本開示は、一部の態様では、ピッカリング型エマルションの調合物であって、グリセリンおよび油(ならびに他のポリオールおよび油を含むエマルション)と、乳化剤としてのステアリン酸マグネシウム単独またはオリーブ油脂肪酸ソルビタンと併用したステアリン酸マグネシウムと含む、向上した安定性を呈する、ピッカリング型エマルションの調合物を提供する。一部の態様では、そのような調合物は、有利には、保存剤、例えばパラベンまたはフェノキシエタノールを用いずに調製され得る。
【0006】
ピッカリング型エマルションの場合、界面活性剤は、エマルションを安定化する界面で2つの液体の間に物理的障壁を形成する固体粒子、通常はコロイドで置き換わる。これらの粒子は界面に強く固定されているため、界面活性剤の難点である熱力学的不安定性の影響をそれ程受けず、はるかに安定したエマルションをもたらす。一部の態様では、本開示は、油中グリセリン(g/o)型およびグリセリン中油(o/g)型エマルションの安定化のために脂肪酸の塩を使用するピッカリング型エマルションを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的な態様では、本開示は、ピッカリング型エマルションであって、(a)不連続な内相であり、ポリオールをエマルション全体の最小で、最大で、もしくは約5、15、25、35、45、55、65、75、または85重量%(例えば、エマルション全体の15~35重量%)の量含む内相と、(b)エマルション全体の重量の最小で、最大で、もしくは約15、25、35、45、55、65、75、85、または95重量%(例えば、エマルション全体の55~85重量%)の量の連続的な油である外相と、(c)少なくとも1種の乳化剤と、を含むピッカリング型エマルションを提供する。一部の態様では、乳化剤はステアリン酸マグネシウムを含むか、またはステアリン酸マグネシウムからなる。
【0008】
一部の態様では、ポリオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、およびジエチレングリコールからなる群から選択される。一部の態様では、ポリオールはグリセリンである。
【0009】
一部の態様では、エマルションは、共乳化剤としてオリーブ油脂肪酸ソルビタンをさらに含む。一部の態様では、組成物中の唯一の乳化剤はステアリン酸マグネシウムである。一部の態様では、組成物中の唯一の乳化剤は、ステアリン酸マグネシウムおよびオリーブ油脂肪酸ソルビタンである。一部の態様において、ステアリン酸マグネシウムは、エマルション全体の最小で0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50、または2.00重量%の量でエマルション中に存在する唯一の乳化剤である。一部の態様では、エマルションは、エマルション全体の最小で、最大で、もしくは約0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50、1.75、2.00、2.25、2.50、2.75、3.00、3.25、3.50、3.75、4.00、4.25、4.50、4.75、または5.00重量%の量(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の濃度)のステアリン酸マグネシウムを含み得る。なおさらなる態様では、エマルションは、エマルションの最小で、最大で、もしくは約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25重量%の量(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の濃度)のステアリン酸マグネシウムを含み得る。なおさらなる態様では、エマルションは、エマルションの最小で、最大で、もしくは約25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95重量%の量(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の濃度)のステアリン酸マグネシウムを含み得る。
【0010】
一部の態様では、エマルションは、エマルション全体の重量の最小で、最大で、もしくは約0.25、0.50、0.75、1.00、1.25、1.50、1.75、2.00、2.25、2.50、2.75、3.00、3.25、3.50、3.75、4.00、4.25、4.50、4.75、5.00重量%の量(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の濃度)のオリーブ油脂肪酸ソルビタンをさらに含み得る。なおさらなる態様では、エマルションは、エマルションの最小で、最大で、もしくは約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25重量%の量(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の濃度)のオリーブ油脂肪酸ソルビタンを含み得る。なおさらなる態様では、エマルションは、エマルションの最小で、最大で、もしくは約25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95重量%の量のオリーブ油脂肪酸ソルビタン(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の濃度)を含み得る。一部の態様では、本明細書に記載のエマルションは、完全に無水であってもよく、および/または保存剤なしで調合されてもよい。
【0011】
一部の態様では、ステアリン酸マグネシウムおよび/またはオリーブ油脂肪酸ソルビタンは、エマルションの不連続な内相と連続した外相との間の界面に局在し得る。一部の態様では、エマルション中に存在するステアリン酸マグネシウムおよび/またはオリーブ油脂肪酸ソルビタンの略全量が、この界面に局在し得る(例えば、ステアリン酸マグネシウムは、この液体-液体界面で固体粒子の層を形成し、ピッカリングエマルションを形成し得る)。一部の態様では、エマルション中に存在するステアリン酸マグネシウムおよび/またはオリーブ油脂肪酸ソルビタンの少なくとも50wt%、60wt%、70wt%、80wt%、90wt%、または95wt%が、この界面に局在し得る。一部の態様では、ステアリン酸マグネシウムおよび/もしくはオリーブ油脂肪酸ソルビタンは、合一ならびに/または凝集を低減または防止することによってエマルションを安定化する層を液体-液体界面に形成し得る。
【0012】
一部の態様では、不連続な内相は、10~40μmの平均直径を有する液滴を含む。一部の態様では、液滴は球状または略球状である。一部の態様では、乳化剤としてステアリン酸マグネシウムを使用し、本開示にしたがってエマルションを調製する場合、液滴は、1μm以下、例えば、約、最小で、またはおおよそ100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nmの平均直径(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内のサイズ)を有し得る。一部の態様では、(1)乳化剤としてのオリーブ油脂肪酸ソルビタン、または(2)共乳化剤としてのステアリン酸マグネシウムおよびオリーブ油脂肪酸ソルビタンを使用し、本開示にしたがってエマルションを調製する場合、液滴は、10~30μm、例えば約、最小で、もしくはおおよそ10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、16μm、17μm、18μm、19μm、20μm、21μm、22μm、23μm、24μm、25μm、26μm、27μm、28μm、29μm、または30μmの平均直径(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内のサイズ)を有し得る。
【0013】
一部の態様では、エマルションは、60℃で少なくとも24時間、36時間、48時間、60時間、または72時間安定である。一部の態様では、エマルションは、室温で少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月間安定である。一部の態様では、安定性は相分離の程度に基づいて評価され、安定なエマルションは、上述の時点までに目視可能な相分離を示さない。
【0014】
一部の態様では、本開示は、本明細書に記載のピッカリング型エマルションを含む化粧品組成物を提供する。そのような化粧品組成物は、例えば、液体または半液体であってもよく、化粧品調合物に有用であることが公知の追加の成分(香料、顔料、保湿剤等)を含んでもよい。
【0015】
前述の例は非限定的である。さらなる態様は、本開示全体に照らして当業者には容易に明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、唯一の乳化剤として3.0(w/w)%オリーブ油脂肪酸ソルビタンを含む調合物Aの1000倍の倍率で見た顕微鏡像である。視野の直径はおおよそ180μmである。
【0017】
図2図2は、共乳化剤として2.0(w/w)%のステアリン酸マグネシウムおよび1.0(w/w)%のオリーブ油脂肪酸ソルビタン(実施例11に記載)を使用した調合物Aの倍率1000倍で見た顕微鏡像である。視野の直径はおおよそ180μmである。
【0018】
図3図3は、唯一の乳化剤として3.0(w/w)%のステアリン酸マグネシウムを使用した調合物A(実施例12に記載)の1000倍の倍率で見た顕微鏡像である。視野の直径はおおよそ180μmである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
グリセリンは、化粧品および医薬製剤において、主に保湿剤として広く使用されている。グリセリンは、(1)非変性アルコールであるという事実のために植物抽出物に、(2)その非アレルゲン性のためにアレルギー検査におけるアレルゲン用ビヒクルとして、および(3)その吸湿性および静菌性のために創傷治癒医薬品としても広く使用されている多価アルコールである。化粧品中の油中グリセリン型エマルションのほとんどは、口紅および唇系製品に適用されるが、そのような調合物は、典型的には、蜜蝋、キャンデリラ蝋などの粘稠化剤が大部分を占めるワックスベースの固体である。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,090,386号明細書および米国特許第6,325,995号明細書は、固体稠度を有するワックスベースのそのような油中グリセリン型エマルションを記載している。
【0020】
より流動性の稠度を有する油中グリセリン型エマルションおよびグリセリン中油型エマルションは、熱不安定であるという難点を有する。これは、部分的には、内相のグリセリン(1.26g/cm3)と外相の油(0.93g/cm3)との間の密度差が大きいことに起因し、逆の場合もまた同様である。例えば、米国特許第4,254,104号明細書は、油中グリセリン型エマルションを製造しようと試みた以前の失敗を記載している。米国特許第8,302,774号明細書では、油中グリセリン型エマルションを増粘および安定化するためにトリヒドロキシステアリンと12-ヒドロキシステアリン酸との組合せの使用を必須とすることでようやくそのようなエマルションを得ている。これらの各特許の全内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ストークスの法則に従って、安定性は、3つの変数、すなわち、(1)内相の液滴サイズ、(2)2つの相の密度の差、および(3)外相の粘度によって制御される。ストークスの法則に基づいて油中グリセリン型エマルションを安定化する従来の試みはこれまで、この課題を効率的に解決することができなかった。上記のように、例えば、安定化剤として増粘剤を含めると、固体様製品が得られ、これは通常、液体または半液体の稠度を必要とする用途には使用できない。
【0021】
多くの市場で販売されるためには、油中グリセリン型エマルションおよびグリセリン中油型エマルションは化粧品安定性試験に合格しなければならない。典型的な化粧品安定性試験は通常、温度、UV光、および湿度の領域における極限的な負荷を含む。温度の場合、設定された基準はないが、試験は通常、製品を45℃の温度に2週間、4週間、および8週間曝露することを含む。製品が好ましからざる変化を何ら有さないようであれば、安定性は、それぞれ3ヶ月、6ヶ月および12ヶ月であると評価される。試験は、異なる温度、例えば、45℃、50℃および60℃で行うこともでき、またはより長い期間行うこともできる。
【0022】
一部の態様では、本開示は、油中グリセリン型エマルションまたはグリセリン中油型エマルションを含む組成物であって、劣化(例えば、相分離)が発生するまでの時間および(通常は分解を促進する)高温への曝露に関して著しく改善された安定性を有する組成物を提供する。
【0023】
一態様では、本開示はまた、唯一の乳化剤としてステアリン酸マグネシウムを含む、安定なピッカリング型の油中グリセリン型エマルションおよびグリセリン中油型エマルションを含む組成物、ならびにその製造方法を提供する。本明細書で説明されるように、本開示のこの態様による安定なエマルションは、従来のグリセリンと油とのエマルションと比較して改善された安定性を有する。一部の態様では、本明細書に提示される組成物の粘度は、約1,000~約25万センチポアズ(「cP」)の範囲である。例えば、本開示に従って調製された組成物は、約、最小で、もしくは最大で、1,000cP、2,000cP、3,000cP、4,000cP、5,000cP、6,000cP、7,000cP、8,000cP、9,000cP、1万cP、11,000cP、12,000cP、13,000cP、14,000cP、15,000cP、16,000cP、17,000cP、18,000cP、19,000cP、2万cP、25,000cP、3万cP、35,000cP、4万cP、45,000cP、5万cP、6万cP、7万cP、8万cP、9万cP、10万cP、11万cP、12万cP、13万cP、14万cP、15万cP、16万cP、17万cP、18万cP、19万cP、20万cP、21万cP、22万cP、23万cP、24万cP、または25万cP(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の粘度)の粘度を有し得る。
【0024】
一部の態様では、本発明による組成物は、49~60℃の高温に曝露されると粘度が低下し、室温に冷却すると粘度が元のレベルに上昇し得る。本開示に従って調製された組成物は、増粘剤を含まないとき、60℃で数日間貯蔵後に何らかの形態の凝集を示し得る。ただし、内相の液滴は合一の兆候を示さず、それらの元のサイズおよび完全性を維持する。発生する凝集は、撹拌によって容易に元に戻すことができ、劣化を呈することはない。
【0025】
一部の態様では、本開示に従って調製されたエマルションは、公知の方法および材料を用いて製造された他のグリセリンと油とのエマルションと比較して改善された安定性を有する。安定性は一般的に、化粧品分野では、粘度、pH、色、視覚的質感などの変化を観察する様々な方法によって測定される。通常の安定性試験は、全てのエマルションが熱力学的に不安定であるため、小売目的の有効期間を決定するために様々な熱的極限値で調合物を試験することを含む。これは長期安定性を推定する方法である。例えば、典型的な試験は、組成物を一晩、1週間、2週間、4週間、8週間などの期間45℃に加熱することを含む。別法として、組成物を49℃および60℃を含むより極端な温度に加熱すること、ならびに組成物がその寿命の間に遭遇し得る何らかの遷移状態を模倣するために組成物を凍結融解サイクルに数回供することを含む。一部の態様では、安定性は、組成物を約60℃に12時間、24時間および168時間にわたって供すること、約49℃で24時間、1週間、2週間、4週間および8週間にわたって供すること、ならびに約-2℃および25℃の温度を用いて4回の凍結解凍サイクルに12時間にわたって供することによって試験してもよい。複数のそのような保存条件後の安定性の評価を、肉眼による目視検査および/または光学顕微鏡の助けを用いて定性的に行った。一部の態様では、目視可能な相分離はなく、光学顕微鏡を使用して1000倍の倍率でようやく軽度の凝集が観察された。
【0026】
本明細書において重量パーセントに関して提示される全ての量は、特に明記しない限り、内相および外相の両方を含むエマルション全体に対するものである。所与の組成物中の全重量パーセントの合計は100%を超えないことが理解されよう。さらに、本明細書で使用される「無水」という用語は、水が添加されていないが、グリセリンの重量の1%を超えない、雰囲気から吸着または吸収された微量の水分を含み得る組成物を指す。米国薬局方グリセリンであっても、典型的な分析によればグリセリンがおおよそ99.52%を占め、わずかだが0.23%の含水量を有し、微量の水分は検出され得る。
【0027】
本開示のエマルションは一般に、不連続なグリセリンの内相と、連続的な油である外相と、を含む油中グリセリン型エマルションである。内相は、例えば、エマルション全体の約5重量%~約75重量%を占め得る。一部の態様では、内相は、エマルション全体の約15重量%~約30重量%を占める。一部の態様では、内相は、エマルション全体の少なくとも、多くとも、もしくは約5、15、25、35、45、55、65、または75重量%を占め得る。一部の態様では、内相は、前述の値のいずれかから選択される端点を有する範囲(例えば、エマルション全体の15~35重量%または55~65重量%)の量を占め得る。
【0028】
外相は、典型的には、エマルション全体の約70重量%~約85重量%を占める。一部の態様では、外相は、エマルション全体の約55重量%~約85重量%を占める。一部の態様では、油である外相は、エマルション全体の25~95重量%(例えば、エマルション全体の少なくとも、多くとも、もしくは約25、35、45、55、65、75、85、または95重量%)を占め得る。一部の態様では、油である外相は、前述の値のいずれかから選択される端点を有する範囲(例えば、エマルション全体の25~35重量%または45~65重量%)の量を占め得る。
【0029】
代替的な実施形態では、本開示によるエマルションは、不連続な油である内相と、連続的なグリセリンである外層と、を含むグリセリン中油型エマルションを含み得る。内相は、例えば、エマルション全体の約5重量%~約65重量%(例えば、エマルション全体の少なくとも、多くとも、もしくは正確に5、15、25、35、45、55または65重量%)を占めることができる。あるいは、内相は、これらの値のいずれかを境界値とする範囲内の量を占め得る。一部の態様では、内相は、エマルション全体の約15重量%~約30重量%を占める。外相は、例えば、エマルション全体の約35%~約95%(例えば、エマルション全体の少なくとも、多くとも、もしくは約35、45、55、65、75、85または95重量%)を占め得る。あるいは、外相は、これらの値のいずれかを境界値とする範囲内の量を含んでもよい。一部の例示的態様では、外相は、エマルション全体の約55重量%~約85重量%を占める。
【0030】
一部の例示的態様では、グリセリンが極性相の主成分として使用される。しかるに、グリセリンの代用として、またはグリセリンに加えて、他のポリオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、そしてジエチレングリコールを用いてもよい。内相に含めるのに適したポリオールとしては、C2-6ポリオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、ジエチレングリコールがさらに挙げられるが、これらに限定されない。本開示によるエマルションは、本明細書に記載された任意の態様に従って、グリセリンの代わりに含まれるこれらの代替ポリオールのいずれかをグリセリンに関して記載された量および/または範囲内で用いて調合され得ることを理解されたい。
【0031】
本明細書で使用される場合、「油」という用語は、任意の油を意味するために使用され、これには植物油、草木油、堅果油、果実油、種子油、任意の炭化水素油、および鉱物油または合成油が含まれる。本明細書に記載の組成物の油相は、エマルションのための任意の適切な油を含んでもよく、これには植物油、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、イソパラフィン類(例えば、イソドデカン、イソエイコサン)、炭化水素油(例えば鉱油、ワセリン、ポリイソブテン)、ポリオレフィンおよび水素添加類似体、天然または合成ワックス、シリコーンオイル(例えばジメチコン、環状シリコーン、ポリシロキサン)などが非限定的に含まれる。
【0032】
上述のように、油は1種以上の脂肪酸エステルを含み得る。化粧品調合物中の皮膚軟化剤として一般的に使用されるこれらのエステルを特に挙げることができる。このようなエステルは、典型的には、R(COOH)1-2の形態の酸とR(OH)1-3の形態のアルコールとのエーテル化生成物であり、式中、RおよびRは、それぞれ独立して、不飽和結合(例えば、1~6個もしくは1~3個もしくは1個)を含み、かつ1~30個(例えば、6~30個もしくは8~30個、もしくは12~30個、もしくは16~30個)の炭素原子を含んでいてもよく、ヒドロキシル、オキサ、オキソなどを含む1個以上の官能基で置換されていてもよい、直鎖状、分岐状または環状炭化水素基である。好ましくは、RおよびRの少なくとも一方は、エステルが少なくとも1個の脂肪鎖を含むように、少なくとも8個、または少なくとも10個、または少なくとも12個、または少なくとも16個、または少なくとも18個の炭素原子を含む。上記で定義されたエステルには、モノ酸とモノアルコールとのエステル、モノ酸とジオールおよびトリオールとのエステル、ジ酸とモノアルコールとのエステル、およびトリ酸とモノアルコールとのエステルが含まれるが、これらに限定されない。適切な脂肪酸エステルとしては、限定されないが、酢酸ブチル、イソステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、オクチルオレイン酸ブチル、パルミチン酸セチル、オクタン酸セイル、ラウリン酸セチル、乳酸セチル、イソノナン酸セチル、ステアリン酸セチル、フマル酸ジイソステアリル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、セバシン酸ジブチル、リンゴ酸ジアルキル(C12,13)、ダイマージリノール酸ジセテアリル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジイソセチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソプロピル、ダイマー酸ジイソプロピル、トリリノール酸トリイソステアリル、ステアリン酸ステアリルオクトデシル、ラウリン酸ヘキシル、イソステアリン酸ヘキサデシル、ラウリン酸ヘキシデシル、オクタン酸ヘキシルデシル、オレイン酸ヘキシルデシル、パルミチン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソステアリル、ネオペンタン酸イソヘキシル、ステアリン酸イソヘキサデシル、イソステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸n-プロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸n-プロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキサコサニル、乳酸ラウリル、パルミチン酸オクタコサニル、モノラウリン酸プロピレングリコール、パルミチン酸トリアコンタニル、パルミチン酸ドトリアコンタニル、パルミチン酸テトラトリアコンタニル、ステアリン酸ヘキサコサニル、ステアリン酸オクタコサニル、ステアリン酸トリアコンタニル、ステアリン酸ドトリアコンタニル、乳酸ステアリル、オクタン酸ステアリル、ヘプタン酸ステアリル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸テトラトリアコンタニル、トリアラキジン、クエン酸トリブチル、クエン酸トリイソステアリル、クエン酸トリアルキル(C12,13)、トリカプリリン、クエン酸トリカプリリル、ベヘン酸トリデシル、クエン酸トリオクチルドデシル、ココ酸トリデシル、イソノナン酸トリデシル、モノリシノレイン酸グリセリル、パルミチン酸2-オクチルデシル、ミリスチン酸2-オクチルドデシルまたは乳酸2-オクチルドデシル、コハク酸ジ(2-エチルヘキシル)、酢酸トコフェリルなどが挙げられる。他の適切なエステルとしては、RがH-(O-CHR*-CHR*)n-の形態のポリグリコールを含むものが挙げられ、式中R*は、メチルおよびエチルを含む直鎖C1-12アルキル、または水素から独立して選択され、モノラウリン酸ポリエチレングリコールが例示される。
【0033】
本開示によるエマルションは、炭化水素油をも含み得る。例示的な炭化水素油は、5~80個の炭素原子、典型的には8~40個の炭素原子、より典型的には10~16個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖パラフィン系炭化水素であり、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、トリデカンなどを含むがこれらに限定されない。一部の有用な炭化水素油は、高度に分枝した脂肪族炭化水素であり、C8-9イソパラフィン、C9-11イソパラフィン、C12イソパラフィン、C20-40イソパラフィンなどを含む。イソヘキサデカン、イソエイコサン、およびイソドデカン(IDD)というINCI名を有するイソパラフィンについて特に言及することができる。炭化水素油としては、典型的には20個を超える炭素原子を有するポリアルファオレフィン、例えば(場合により水素添加された)C24-28オレフィン、C30-45オレフィン、ポリイソブテン、水素添加ポリイソブテン、水素添加ポリデセン、ポリブテン、水素添加ポリシクロペンタン、鉱油、ペンタヒドロスクアレン、スクアレン、スクアランなども好適である。炭化水素油はまた、オレイルアルコール、オクチルドデカノールなどの高級脂肪アルコールを含んでもよい。
【0034】
他の適切な油としては、限定されないが、ヒマシ油、C10-18トリグリセリド、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、アルガン油、シアバター、マンゴーバター、ココアバター、ヤシ油、コーン油、綿実油、アマニ油、ミンク油、オリーブ油、パーム油、イリペバター、ナタネ油、麻種子油、ローズヒップ油、大豆油、ヒマワリ種子油、クルミ油、アボガド油、ツバキ油、マカダミアナッツ油、タートル油、ミンク油、大豆油、ブドウ種子油、ゴマ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ザクロ種子油、クランベリー種子油、ヒマワリ油、綿実油、ホホバ油、ピーナッツ油、オリーブ油、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0035】
エマルションの安定性を高めるために、ストークスの法則(式1に示す)に従って、(1)外相の粘度を増加させ、(2)内相の液滴サイズを縮小させ、(3)2つの相の密度の差を低減させてもよい。
【数1】
式中、aは液滴サイズ、ρは内相の密度、ρは外相の密度、gは重力加速度、ηは外相の粘度である。
(式1、ストークスの法則)
【0036】
グリセリンおよび油は、水および油(1.00-0.93g/mL)よりもはるかに懸離れた密度(1.26-0.93g/mL)を有するという事実のために、グリセリンと油とのエマルションは本質的に、油と水とのエマルションよりも不安定である。標準的な乳化剤を使用する典型的な油中グリセリン型エマルションは、約100μmの範囲の平均内相液滴サイズを有する不安定なエマルションを生成する。理論に束縛されるものではないが、本開示の一部の態様によるピッカリングエマルションは、より小さい平均内相液滴(例えば、約0.9μmの範囲内)を有するエマルションを含み、これにより安定性の増加がもたらされると考えられる。例示的な液滴サイズは、例えば、約、少なくとも、もしくはおおよそ100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、または950nm(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内のサイズ)を含む。一部の態様では、本開示にしたがって、(1)乳化剤としてのオリーブ油脂肪酸ソルビタン、または(2)共乳化剤としてのステアリン酸マグネシウムおよびオリーブ油脂肪酸ソルビタンを使用してエマルションが調製される場合、液滴は、10~30μmというより大きい平均直径、例えば約、少なくとも、もしくはおおよそ10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、16μm、17μm、18μm、19μm、20μm、21μm、22μm、23μm、24μm、25μm、26μm、27μm、28μm、29μm、または30μm(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内のサイズ)を有し得る。いくつかの例示的な態様では、ワックスを添加して、外相の粘度を増加させて、エマルションの粘稠度を増加させ、潜在的に安定性を増加させてもよい。一部の態様では、本開示によるエマルションはワックスを含まない。
【0037】
化粧品分野での慣例として、様々な機能的目的のために、内相中に、外相中に、または粒子相として追加の成分を混入してもよい。ただし、上記化粧品組成物を処方する上で適合する追加成分が含まれ得るが、追加の成分を含めることは、油中グリセリン型エマルションの形成または安定性を妨げない量の成分に限定される。
【0038】
本開示によるエマルションは、局所適用のための化粧品および医薬組成物によく適合している。このように調合される場合、エマルションは、典型的には、連続相または不連続相のいずれかに含まれても含まれなくてもよい追加の成分を含む。当該成分は、植物、皮膚軟化剤、酸化防止剤、ビタミン、ワックス、石鹸、およびそれらの任意の組合せからなり得る。これらの追加の成分は、不透明度、色、真珠光沢、質感および感触などの審美的特性のために追加され得る。一部の態様において、トコフェロールがないと、天然植物油が酸敗する傾向があるため、連続相にトコフェロールを含有し得る。さらなる態様は、さらなる機能性を付与するために他の酸化防止剤を含有し得る。さらに、本開示によるエマルションは、水の存在下で酸化されるL-アスコルビン酸およびレスベラトロールなどの不安定であることが周知の活性物質の送達系として使用してもよい。
【0039】
フェイスクリームとして調合される場合、本発明によるエマルションは様々な容器に包装され得るが、再び封ができるガラス瓶のみが、本発明者らの環境に優しい持続可能な慣行に従って使用される。唇用製品として調合される場合、本発明によるエマルションは、リップグロス用に想定されるガラス瓶、またはより固体であるワックス状唇用製品用に想定される金属製口紅容器に包装され得る。
【0040】
化粧品分野でよくあるように、追加の構成要素を他の様々な機能目的および審美性のために混入してもよい。
【0041】
以下の非限定的な例は、本開示の態様を例示する。
【0042】
実施例1:一般的方法
以下の実施例2~6に記載される組成物は、グリセリンおよび油を含む安定なエマルションを製造するための公知の方法には見られない急速冷却および任意選択の温度衝撃工程を利用する以下の方法を使用して製造された。
【0043】
工程1:油相、任意のワックスおよび乳化剤を約85℃にまで加熱する。これらの成分は、油相に添加した後に一緒に加熱してもよく、または別々に加熱してから油相に添加してもよい。ステアリン酸マグネシウムを乳化剤として使用する場合、ステアリン酸マグネシウムを高剪断下(場合により、加熱せずに)で油相に添加する。
【0044】
工程2:別途、グリセリン相を85℃に加熱する。
【0045】
工程3:高剪断下で油相を混合しながら、グリセリン相を油相に添加してエマルションを形成する。
【0046】
工程4:約30秒間混合した後、エマルションを含む混合容器を冷水浴または他の(例えば、0℃の)冷蔵源に移す。一部の態様では、代替の温度を使用して、エマルションを急速に(例えば、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、もしくは5℃、あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の温度に)冷却してもよい。一部の態様では、混合は、短くとも、約、もしくは長くとも10秒間、15秒間、20秒間、25秒間、30秒間、35秒間、40秒間、45秒間、50秒間、55秒間、または60秒間、(あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする時間範囲内で)続行し得る。
【0047】
工程5:オリーブ油脂肪酸ソルビタンを唯一の乳化剤または共乳化剤として使用する場合、油相の一部(例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%)を、冷却したエマルションに工程4において(例えば、0℃で)またはその後に添加してもよい。この工程は任意選択であり、内相液滴のサイズをわずかに縮小させることができる。
【0048】
工程6:エマルションを高剪断下で約3分間、もしくは温度が35~45℃に達するまで、または場合により組成物が所望の注入粘稠度になるまで混合する。一部の態様では、混合は、短くとも、約、もしくは長くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10分間、あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の期間にわたって続行され得る。同様に、一部の態様では、混合は、温度が低くても、約、または高くても35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、もしくは45℃に達するまで、あるいはこれらの値のいずれかを境界値とする範囲内の期間にわたって続行され得る。
【0049】
別法として、本明細書に記載のエマルションは、当技術分野で公知の方法を使用して、例えば、自然冷却が達成されるまで高剪断下で30分間混合することによって調製することもできる。さらに、ピッカリング型エマルションには乳化剤が使用されるため、使用される任意選択の成分を特定の相に溶融する必要がない限り、エマルションを低温で調製してもよい。
【0050】
実施例2:従来の乳化剤と比較したステアリン酸マグネシウムの安定性。
比較目的のために、本明細書中に記載されるほとんどの調合物は、表1に示される一般的処方に従って製造された(すなわち、「調合物A」を使用する)。表2は、従来の乳化剤を含む調合物Aによる油中グリセリン型エマルションの安定性を示す。上記のように、公知の方法に従って製造された油中グリセリン型エマルションは不安定であると考えられる。複数の乳化剤および4.7~15.5の範囲の親水性-親油性バランス(HLB)値を使用して試験した調合物は全て不安定であった。実施例1~7に具体化された調合物はいずれも化粧品用途に不向きであろう。
【0051】
この実験に記載された全てのHLB値は、以下に示す式2を使用して計算された。
【数2】
式中、moilは油の質量であり、HLBoilは所与の油のHLB値である。
【表1】
【0052】
表1.試験調合物Aに使用した成分。調合物AのHLB値は約9.1である。
【表2】
【0053】
表2.HLB値の範囲を試験するために標準的な乳化剤を組み合わせて使用した油中グリセリン型エマルションの安定性。全ての実施例は、様々な量の乳化剤を合計で3.0重量%となるように用いて、基本調合物Aとして調製された。安定性評価は0~5の範囲である。全ての実施例について25℃の温度を維持した。
【0054】
ステアリン酸マグネシウムを併用した乳化剤の組合せも安定性について試験した。試験した実施例、例えば表3に示す実施例8~10では、従来の乳化剤の添加は調合物の安定性を増加させなかった。それどころか、調合物は、唯一の乳化剤としてステアリン酸マグネシウムを使用するよりも安定性が低かった。オリーブ油脂肪酸ソルビタン(Olivem(登録商標)900として市販されている)を共乳化剤として使用した調合物である実施例11が唯一の例外である。理論に束縛されるものではないが、ステアリン酸マグネシウムおよびオリーブ油脂肪酸ソルビタンは、例えば本明細書に記載の範囲内の量で存在する場合、相乗的に相互作用してピッカリングエマルションを安定化し得ると考えられる。
【表3】
【0055】
表3.ステアリン酸マグネシウムおよび/または従来の乳化剤の組合せを使用したピッカリング型の油中グリセリン型エマルションの調合物の安定性。全ての実施例を、様々な量の乳化剤を合計で3.0(w/w)%となるように用いて、基本調合物Aとして調製した。実施例は、60℃で1時間、2時間、12時間、24時間、36時間、および48時間後に試験した。
【0056】
オリーブ油脂肪酸ソルビタンは、他の界面活性剤と比較して液晶および高次ミセル構造を通常形成するという点で他の界面活性剤とは異なるが、顕微鏡検査下では、内相の液滴は本質的に球状であり、図1に示すように10~40ミクロン程度であった。一方、ステアリン酸マグネシウムのみを使用する調合物は、図2に示すように、数百ナノメートル程度の幾何学的内相液滴を有する。したがって、実施例11の安定性は、連続相の粘度を増加させるオリーブ油脂肪酸ソルビタンの性能および/または異なる幾何学的形状が内相液滴の少なくとも一部に形成される際に観察される相乗効果に起因すると考えられる。オリーブ油脂肪酸ソルビタンを用いて製造された調合物は、増粘剤または粘度調整剤を添加していない他の調合物よりも著しく粘稠である。しかるに、ステアリン酸マグネシウムを含む調合物へのオリーブ油脂肪酸ソルビタンの添加により、共乳化剤を使用する他の調合物と比較して安定性が増加したが、ワックスのような増粘剤を添加することによって安定性のさらなる増加を達成することができる。ただし、上述したように、増粘剤を含めることは、特定の用途、例えば、より液体または液体様の稠度を必要とする用途には望ましくない。
【0057】
実施例3:同様の塩とは対照的なステアリン酸マグネシウムの安定性。
表4に示すように、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウムおよびパルミチン酸マグネシウムを含む、異なる石鹸を使用する複数の調合物もステアリン酸マグネシウムに対する安定性について試験した。試験した調合物、すなわち実施例13~16は全て、様々な塩が乳化剤として作用しなかったため不安定であった。実施例12で使用したステアリン酸マグネシウムは、安定なピッカリング型の油中グリセリン型エマルションおよびグリセリン中油型エマルションを製造することができる唯一の塩であることが分かった。安定性は、60℃で48時間後および室温で約6ヶ月後に測定した。いずれの場合も分離は観察されなかった。
【表4】
【0058】
表4.同様の群内の様々な可能なピッカリング乳化剤の比較。全ての試験は25℃で行った。全ての乳化剤が基本調合物Aの3.0(w/w)%を占めた。安定性のランク(1が最も安定、5が最も不安定)を割り当てて、様々な化合物を相互に比較した(すなわち、全体的な安定性の判断としてではない)。
【0059】
実施例4:増粘剤と併用したステアリン酸マグネシウムの安定性
表5に示すように、唯一の乳化剤としてステアリン酸マグネシウムおよび追加の増粘剤を使用する調合物も安定性について調査した。全ての例において、連続相に増粘剤を添加した結果、調合物は60℃で試験した安定性が増加した。
【表5】
【0060】
表5.基本調合物Aの唯一の乳化剤として2(w/w)%のステアリン酸マグネシウムを使用したピッカリング型エマルションの相対安定度に対する増粘剤の添加の結果。全ての量は、エマルション全体に基づいて(w/w)%で示す。カスターワックスまたはカルナウバを含む実施例では、マカダミアナッツ油の量を低減し、クズウコンまたは寒天を含む実施例では、グリセリンの量を低減した。試験したエマルションは全て60℃に供した。
【0061】
内相のグリセリンに増粘剤を添加した結果、表5に示すような混合物が得られた。内相にクズウコン粉末を混入した実施例22では、この成分を含まない調合物、すなわち60℃で実施例22よりも4日間長く安定な調合物が得られた。逆に、内相のグリセリンに寒天を添加した実施例23は、調合物全体の安定性が低下した。したがって、内相に増粘剤を添加することは、当該増粘剤の特性に応じて調合物の安定性を増加させることもさせないこともあることは明らかである。
【0062】
実施例5:調合物の安定性に及ぼす内相のグリセリンへの水の添加。
内相のグリセリンに水を添加することも、この変数が安定性に影響を及ぼすか否かを評価するために調査した。表5の実施例18では、グリセリンの5%を蒸留水に置き換え通常通り調製した。水の添加の結果、エマルションの粘稠度がわずかに増加し、かつ安定性がわずかに増大し、60℃で測定したとき、水を添加しない調合物よりも数時間目視可能な分離がなかった。水の添加はグリセリン相の密度を減少させ、式1で強調されるようにストークス沈降の量を減少させるので、これは驚くべき結果ではない。
【0063】
実施例6:グリセリン中油型エマルション。
グリセリンが72%、マカダミアナッツ油が25%、およびステアリン酸マグネシウムが3%を占める基本調合物を使用して、グリセリン中油型調合物も調製した。この基本調合物を、実施例1に記載される方法を使用して調製したが、違いは、ステアリン酸マグネシウムを一定の剪断下でグリセリン相に添加し、続いてグリセリン相に油を添加したことである。他の工程の手順は全て同じであった。調合物は、油中グリセリン型調合物よりもはるかに安定であった。得られたエマルションは、非常に粘稠なゲルであり、60℃に1週間供した後もいかなる目視可能な相分離も示さなかった。この結果は、グリセリンの粘性に起因する可能性が高い。この実施形態では、グリセリンが連続相であるため、ストークスの式に従って、粘度が増加してエマルションの安定性を高める。
【0064】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」、「によって特徴付けられる(characterized by)」という用語およびそれらの文法的等価物は、包括的または非限定的な用語であり、列挙されていない要素もしくは方法作用の追加を排除しないが、「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」というより限定的な用語ならびにそれらの文法的等価物をも含む。本明細書で使用される場合、材料、構造、特徴または方法作用に関する「してもよい(may)」という用語は、それが本開示の一実施形態の実施における使用が想定されることを示し、それと組み合わせて使用可能な他の適合性のある材料、構造、特徴および方法が除外されるべきであるとか、または除外されなければならないという何らかの示唆を回避するように、このような用語は、より限定的な「である(is)」という用語よりも優先して使用される。
【0065】
本明細書で使用される場合、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」および「その(the)」は、文脈上特に明記されていない限り、複数形も含むことが意図される。
【0066】
本明細書で使用される場合、「および/または(and/or)という用語は、関連する列挙された項目のうちの一つまたは複数のありとあらゆる組合せを含む。
【0067】
本発明の原理、態様、および実施形態、ならびにその特定の実施例を列挙する本明細書の全ての記述は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することが意図される。さらに、そのような等価物は、現在公知の等価物および将来開発される等価物の両方、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を実行する開発された任意の要素を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され説明される例示的な実施形態に限定されることを意図しない。むしろ、本発明の範囲および趣旨は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。
【0068】
本明細書で引用される全ての刊行物および特許は、あたかも各個々の刊行物または特許が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように参照により本明細書に組み込まれ、それに関して刊行物が引用される方法および/または材料を開示ならびに記載するために参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、本出願日前のその開示に対してであり、本発明が先行発明によってそのような刊行物に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。さらに、提示された公開日は、第三者機関により確認する必要があり得る実際の公開日とは異なる場合がある。
図1
図2
図3
【国際調査報告】