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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ラマン分光法の方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20230323BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N21/65
A61B10/00 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547028
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 US2021015485
(87)【国際公開番号】W WO2021154991
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/967,203
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】500545366
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【住所又は居所原語表記】Strand, London WC2R 2LS United Kingdom
(71)【出願人】
【識別番号】510077440
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー、ブライアン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン、マグナス
(72)【発明者】
【氏名】バーグホルト、マッズ エス.
(72)【発明者】
【氏名】アルブロ、マイケル ビー.
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA03
2G043FA06
2G043HA05
2G043HA07
2G043HA09
2G043JA01
2G043KA07
2G043KA09
2G043MA01
2G043NA01
(57)【要約】
ラマン分光法を用いて組織に関する生化学的情報及び/又は構造的情報を取得するための方法及びシステム。プローブを用いて偏光を組織に向ける。光は組織から反射され、ラマン散乱を生成する。ラマン散乱は、システムによって収集され、2つの偏光成分に分割される。2つの偏光成分が、分光計を用いて同時に撮像されることにより、2つのラマンスペクトルを生成する。次いで、コンピュータプログラムを用いてラマンスペクトルを処理及び分析して、組織に関する生化学的情報及び/又は構造的情報を得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織に関する構造的情報を取得するためのシステムであって:
偏向した光を組織に向けると共にラマン散乱を集めるように構成されたプローブと;
前記プローブの遠位先端に取り付けられたレンズであって、前記偏向した光が前記組織から反射され、前記プローブによって収集されるラマン散乱を生成するように、前記偏向した光を前記組織の上に集束させるように構成されたレンズと;
前記ラマン散乱を2つの偏光成分に分割するように構成されたビームスプリッタと;
前記2つの偏光成分を同時にかつ別々に撮像して2つのラマンスペクトルを生成するように構成された分光計と;を備える、
システム。
【請求項2】
プロセッサと;
コンピュータプログラムコードを含むメモリと;をさらに備え、
前記メモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記プロセッサを用いて、前記プロセッサに、前記生成された2つのラマンスペクトルを処理及び分析させて、前記組織に関する構造的情報を得るように構成されている、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に取得する、
請求項1又は請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
請求項2に従属するときに、前記2つの生成されたラマンスペクトルを処理及び分析することは、前記組織に関する生化学的情報及び構造的情報を取得する、
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記2つの偏光成分のうちの第1の偏光成分は前記偏向した光の偏光と平行であり、前記2つの偏光成分のうちの第2の偏光成分は前記偏向した光の偏光と垂直である、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記構造的情報は、前記第1の偏光成分と前記第2の偏光成分との間の差、及び/又は、前記第1の偏光成分と前記第2の偏光成分との間の比、及び/又は、前記第1の偏光成分と前記第2の偏光成分との間の異方性、を計算することによって得られる、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記構造的情報は、前記組織における構造的配列の基準を含む、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記生化学的情報が、前記生成されたラマンスペクトルの細胞外マトリックス成分の相対的寄与を定量化することによって得られる、
請求項4及び請求項4を引用する請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
組織に関する生化学的情報を取得するためのシステムであって:
光を組織に向けると共にラマン散乱を集めるように構成されたプローブと;
前記プローブの遠位先端に取り付けられたレンズであって、前記光が前記組織から反射され、前記プローブによって収集されるラマン散乱を生成するように、前記光を前記組織の上に集束させるように構成されたレンズと;
前記ラマン散乱を撮像してラマンスペクトルを生成するように構成された分光計と;
プロセッサと;
コンピュータプログラムコードを含むメモリと;を備え、
前記メモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記プロセッサを用いて、前記プロセッサに、前記生成されたラマンスペクトルを処理及び分析させて、前記組織に関する生化学的情報を取得するように構成され、前記生化学的情報は、前記生成されたラマンスペクトルの細胞外マトリックス成分の相対的寄与を定量化することによって得られる、
システム。
【請求項10】
前記生化学的情報は、前記第1の偏光成分と前記第2の偏光成分との合計を計算することによって得られる、
請求項4、請求項4を引用する請求項5乃至請求項7、及び請求項9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記生成されたラマンスペクトルの細胞外マトリックス成分の前記相対的寄与の定量化が、多変量最小二乗回帰分析から導出された回帰係数を使用することを含む、
請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記最小二乗回帰分析が、前記生成されたラマンスペクトルを、前記細胞外マトリックス成分の参照ラマンスペクトルと比較することを含む、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記細胞外マトリックス成分が、グリコサミノグリカン、コラーゲン、及び/又は水のうちの1つ以上を含む、
請求項8乃至請求項12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記生化学的情報及び/又は前記構造的情報が、リアルタイムで得られる、
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記組織が筋骨格結合組織である、
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記生化学的情報及び/又は前記構造的情報が、組織異常を同定するために使用される、
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記組織異常が癌性である、
請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記生化学的情報及び/又は前記構造的情報が、変形性関節症及び/又は椎間板変性疾患を含む結合組織変性障害を診断及び/又は監視するために使用される、
請求項1乃至請求項17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
前記組織が、人工組織であり、前記生化学的情報及び/又は前記構造的情報が、前記人工組織の成長及び/又は再生を測定するために使用される、
請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
前記光又は前記偏向した光の光源がレーザーである、
請求項1乃至請求項19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記プローブは針を備え、前記レンズは、前記針の先端に取り付けられ、前記組織と接触するように構成されている、
請求項1乃至請求項20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記レンズが、ボールレンズであり、好ましくはサファイアボールレンズである、
請求項1乃至請求項21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記プローブが、長距離焦点ラマンプローブを含む、
請求項1乃至請求項20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記方法が、前記組織を含む組織プレート内のラマン透明窓を通して前記偏向した光を前記組織に導くことをさらに含む、
請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
組織に関する構造的情報を取得するための方法であって:
プローブを用いて偏光を組織に向けるステップと;
レンズを用いて前記偏光を前記組織の上に集束させるステップであって、前記レンズは前記プローブの遠位先端に取り付けられていると共に、前記レンズは、前記偏光が前記組織から反射され、ラマン散乱を生成するように、前記偏光を前記組織の上に集束させる、ステップと;
前記プローブを用いて前記ラマン散乱を収集するステップと;
ビームスプリッタを用いて前記ラマン散乱を2つの偏光成分に分割するステップと;
分光計を用いて前記2つの偏光成分を同時にかつ別々に撮像して2つのラマンスペクトルを生成するステップと;
コンピュータプログラムを用いて、前記生成された2つのラマンスペクトルを処理及び分析して、前記組織に関する構造的情報を得るステップと;を備える、
方法。
【請求項26】
前記組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に取得する、
請求項25に記載の方法。
【請求項27】
組織に関する生化学的情報を取得するための方法であって:
プローブを用いて光を組織に向けるステップと;
レンズを用いて前記光を前記組織の上に集束させるステップであって、前記レンズは前記プローブの遠位先端に取り付けられていると共に、前記レンズは、前記光が前記組織から反射され、ラマン散乱を生成するように、前記光を前記組織の上に集束させる、ステップと;
前記プローブを用いて前記ラマン散乱を収集するステップと;
分光計を用いて前記ラマン散乱を撮像してラマンスペクトルを生成するステップと;
コンピュータプログラムを用いて、前記生成されたラマンスペクトルを処理及び分析して、前記組織に関する生化学的情報を得るステップであって、前記生化学的情報は、前記生成されたラマンスペクトルの細胞外マトリックス成分の相対的寄与を定量化することによって得られる、ステップと;を備える、
方法。
【請求項28】
組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に取得するためのシステムであって:
偏光を組織に向けると共にラマン散乱を集めるように構成されたプローブと;
前記プローブの遠位先端に取り付けられたレンズであって、前記偏光が前記組織から反射され、前記プローブによって収集されるラマン散乱を生成するように、前記偏光を前記組織の上に集束させるように構成されたレンズと;
前記ラマン散乱を2つの偏光成分に分割するように構成されたビームスプリッタと;
前記2つの偏光成分を同時にかつ別々に撮像して2つのラマンスペクトルを生成するように構成された分光計と;を備える、
システム。
【請求項29】
プロセッサと;
コンピュータプログラムコードを含むメモリと;をさらに備え、
前記メモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記プロセッサを用いて、前記プロセッサに、前記生成された2つのラマンスペクトルを処理及び分析させて、前記組織に関する生化学的情報及び構造的情報を得るように構成されている、
請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に取得するための方法であって:
プローブを用いて偏光を組織に向けるステップと;
レンズを用いて前記偏光を前記組織の上に集束させるステップであって、前記レンズは前記プローブの遠位先端に取り付けられていると共に、前記レンズは、前記偏光が前記組織から反射され、ラマン散乱を生成するように、前記偏光を前記組織の上に集束させる、ステップと;
前記プローブを用いて前記ラマン散乱を収集するステップと;
ビームスプリッタを用いて前記ラマン散乱を2つの偏光成分に分割するステップと;
分光計を用いて前記2つの偏光成分を同時にかつ別々に撮像して2つのラマンスペクトルを生成するステップと;
コンピュータプログラムを用いて、前記生成された2つのラマンスペクトルを処理及び分析して、前記組織に関する生化学的情報及び構造的情報を得るステップと;を備える、
方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年1月29日に出願された米国仮出願第62/967,203号の優先権を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本明細書に記載される本発明の実施形態は、ラマン分光法を使用することによって組織の構造的及び生化学的情報を取得するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
[背景技術及び従来技術]
変形性関節症(OA)は、関節軟骨の構造的変性、すなわち長骨の端部を満たす荷重支持結合組織を特徴とする、慢性の衰弱性疼痛状態である。これは、成人における障害の最も広範な原因であり、米国の成人人口の20%超、又は5000万人超がこの疾患に罹患しており、その発生率は、今後数十年にわたって急激に上昇すると予測される。現在、疾患の進行を停止させるための臨床療法は存在しない。
【0004】
変形性関節症(OA)中の関節軟骨変性は段階的に起こる。初期段階の変性は、検出困難な組織変化、すなわち、最も上の軟骨層からのグリコサミノグリカン(GAG)の最初の喪失及び関節表面でのコラーゲンの崩壊(整列喪失)によって特徴付けられる(図1.1)。これに続いて、骨と骨との接触に達するまで、コラーゲンマトリックスのはるかに実質的な物理的侵食が起こる。興味深いことに、実質的な組織侵食が起こる前の疾患の初期段階は、介入戦略(例えば、薬物療法、理学療法、生活様式の変更)が軟骨変性の発症を逆転させるのに最も有効であり得る場合、重要な臨床的ウィンドウを表す。しかしながら、初期段階のOAを診断する能力は、依然としてかなりの臨床的課題であり、従来の撮像プラットフォーム(例えば、X線撮影、CT、MRI)は、解像度及び分子特異性の欠如のために、疾患の後期段階の診断に主に適している。このため、OAのインビボ(生体内)での早期診断のための新規な生体分子感応型光学技術を導入する必要性が高い。
【0005】
硝子軟骨の構造及び組成は、その機械的性能のために最適化される。それは、圧縮特性を提供すると共に間質水を保持する、負に荷電した硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)マトリックスによって補完された、構造及び引張強度を提供するII型コラーゲン(COL)原線維ネットワークからなる。加えられた関節荷重の90%以上は、閉じ込められた水の加圧(間質液荷重支持)によって支持され、組織の特徴的な低摩擦特性をもたらす。さらに、軟骨は、不均質で構造的に異方性であり、ここで、コラーゲン構成は、深さ(複数のゾーンに分離される)によって変化し、以下の各ゾーンの機械的負荷に対して最適化される。表面ゾーン(SZ)は、関節表面に平行に配置されたコラーゲンからなり、表面せん断に抵抗し、滑りを改善する。移行(中間)ゾーン(MZ)は、間質液負荷支持を生成する原因となる混合整列コラーゲン及びGAGからなる。深部放射ゾーン(DZ)は、軟骨下板に垂直なコラーゲン繊維で、軟骨を軟骨下骨に固定する。OAの間、軟骨の劣化(分解)は段階的に起こる。早期には、GAGは、SZから枯渇し、それに伴って、表在性コラーゲン繊維組織及び配列が失われる。GAG及びCOL配列の喪失は、流体荷重支持を減少させ、コラーゲンマトリックスに荷重を伝達し、MZ及びDZを介して軟骨侵食をもたらし、骨と骨との接触に達するまで、著しい軟骨容積の喪失をもたらす。
【0006】
主要な臨床的課題として、OAの病的状態及び障害を構成する関節構造及び機能の変化は、疾患プロセスの比較的後期に現れる。現在、OAは、臨床症状(疼痛、腫脹、機能障害)及び画像ベースの評価(X線写真及び磁気共鳴画像法(MRI))から診断され、これらは、後期のOA病理解剖学(軟骨体積減少、骨髄浮腫、軟骨下骨増粘、のう胞、及び骨棘)に偏っている10。軟骨の不可逆的破壊は、臨床症状及びX線徴候が明らかになる前に起こる。したがって、組織構造の変化が生じた後の、後期段階で診断されたOAは、治療の選択肢を制限する。治療方針が最も効果的であるときの、軽度又は早期の軟骨損傷を同定することができないことは、依然として重大な臨床的障害である。
【0007】
ラマン分光法は、分子レベルで組織のインビボ光学生検を提供する非弾性光散乱技術である。光ファイバープローブを使用して、ラマンスペクトルを、インビボの組織から得ることができる(例えば、内視鏡の使用によって)。ラマンスペクトルは、濃度に比例して変化し、したがって、豊富な定量的情報を含み、組織中の重要な細胞外マトリックス(ECM)成分の内容物の潜在的な抽出を可能にする。本発明者らは、軟骨のラマン分光法並びにラマン技術の臨床解釈における豊富な経験を有する。例えば、シンガポール国立大学(NUS)において、バーグホルト(Bergholt)博士は、胃腸(GI)管における非侵襲的インビボ「光学生検」のためのリアルタイム「ラマン内視鏡検査」を先駆けて開発した(Gastroenterology 2014:IF 20.877)。この技術は、5年間にわたって800人を超える患者に適用され、内視鏡検査用の医療デバイス(IMDX(商標)、Endofotonics Pte Ltd)の形態で最近商業化された3つの特許出願をもたらした。次に、この研究は、ヒトにおける口腔、鼻咽頭、喉頭、食道、胃及び結腸を含む複数の器官へのプラットフォーム技術としてのこのシステムの拡張を可能にした(J Raman spectroscopy,2012; J Biomed Opt,2012; J Biophotonics,2016a)。対照的に、OAの診断のための臨床ラマン法は存在しない。
【0008】
より詳細には、ラマン分光法は、光子の非弾性散乱に基づく。単色レーザー光が振動中に分子分極率の変化を誘起すると、入射光子のわずかな割合(~10中1個)が波長の変化とともに散乱する。ラマン散乱光は、構成分子の振動モードを示し、吸収されたエネルギーは、分子の「フィンガープリント」を画定する特定のラマン活性振動モードに対応する。したがって、軟骨のラマンスペクトルは、硝子軟骨(GAG、COL、H2O)の構成要素の特定の生化学的構成単位(アミド、硫酸塩、カルボン酸、ヒドロキシル)に対応する個々の分子振動結合についての情報を保有する。先行研究は、軟骨のラマンスペクトルが、機械的損傷及びOAに応答して統計的変化を示すことを実証する。しかしながら、軟骨健康のための診断ツールとしてのラマン分光法の実施は、1)臨床的に適合するインビボ診断法のための関節内光ファイバーラマン針プローブの欠如、及び2)初期段階のOAの特異的かつ定量的な生化学的及び構造的測定基準診断を抽出できないこと、によって妨げられている。結果として、今日まで、早期OAのインビボラマン診断を達成することができるプラットフォームは実証されていない。
【0009】
US 2019/0343394 A1は、関節軟骨(GAG及びコラーゲン)及び軟骨厚さ(軟骨下骨シグナル測定による)における主要なECM成分を測定するために単変量分析(単一ピーク)を使用する軟骨組織分析装置を記載している。しかしながら、この技術は、分子特異性の欠如及び組織の構造評価の欠如という点で限界に直面する。この分子特異性の欠如は、複雑な組織中の特定の分子として容易に解読することができないスペクトル内の振動バンドの重複に起因して生じる。実際、同定(分子特異性)を達成することは、診断的ラマン分光法における大きな挑戦である。本発明者らの回帰分析は、特異性及び正確さに関してはるかに高い性能を提供し、軟骨ECMの無数の追加の重要な成分(例えば、GAGサブタイプ[ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、ヘパリン]及びコラーゲンサブタイプ[I型コラーゲン、II型コラーゲン、X型コラーゲン])の定量の可能性を提供する。さらに、本発明者らの偏光ラマン分光法は、コラーゲンECMのアラインメントの測定によって関節軟骨の構造の評価を可能にする。
【発明の概要】
【0010】
本発明の実施形態は、異常組織を監視及び診断するための新しい方法を提供することによって、上記の問題に対処する。ラマンシステムは、関節鏡ポータル又は皮下注射針と適合し得る偏光プローブを備える。これらの針を関節に挿入することができ、ラマンプローブを関節軟骨表面に接触させて配置することができる。本発明は、同時に生化学的(コラーゲン、GAG及び水、並びに分子サブタイプ)及び構造分析(コラーゲンなどの構造成分の)を提供するラマンシステムを含む。本明細書に記載される方法及びシステムは、生化学的情報単独又は構造的情報単独を得るために使用され得る。生化学的情報及び構造的情報の両方が同時に得られることは必須ではないが、これは有利な実施形態である。光の拡散は、組織内の光偏光をスクランブルする(攪乱する)ことが広く受け入れられている。この理由のために(そして初期の表在性OAを標的とするために)、我々は、ラマンプローブの先端にマイクロレンズを組み込む。多重取得原理を用いて、2つの光偏光からラマン散乱光を並列に読み出し、分光計を通してそれらを2D CCDカメラ上に画像化することができる。これにより、診断のための生化学的情報と構造的情報の両方を得るために、1つのスナップショットを作成することができる。読み出されたデータ(2つの偏光ラマンスペクトル)は、コラーゲン、GAG及び水分含有量並びにコラーゲン構造因子の定量的評価を提供するために、多変量分析を使用してリアルタイム(<20ms)で分析される。プローブは、プローブ先端にレンズをさらに含み、軟骨表面の異なる深さの診断的標的化を可能にする。例えば、初期段階のOAが最も顕著である軟骨表面又は後期段階の変性が現れるより深い組織領域を標的化する。
【0011】
軟骨ECMにおけるGAG、コラーゲン、及び水の生化学的定量化、並びにコラーゲンマトリックスのアラインメントの構造的特徴付けの両方を評価することは、変形性関節症の早期診断のために必須である。このシステムは、1)新規OA治療薬の有効性を調べるための貴重な臨床及び前臨床研究ツール、及び、2)将来的には、早期OA治療コースを導くための外来ベースのリアルタイム診断プラットフォームとしての役割を果たすことができる。本発明はさらに、癌及び線維症の診断などの多くの生物医学的用途において広範な使用を達成することができる。
【0012】
薄い光ファイバーラマン分光プローブは、皮下注射針カニューレを介して、関節内に、画像誘導下の特定の解剖学的部位で「光学的生検」軟骨に向けられる。我々は、最初に、一連のエクスビボ(生体外)モデル系のパラメトリック分析を通して、初期段階のOAにおける軟骨変性の病的特徴を診断するためのラマン関節鏡検査の可能性を確立する。エクスビボモデル系は、1)酵素的に枯渇したウシ軟骨及び老化しているヒト軟骨外植片におけるGAG含量のラマン定量化、2)機械的に摩耗したウシ軟骨外植片における帯状コラーゲンネットワーク組織のラマン定量化、3)軟骨厚のラマン測定、である。最後に、ヒツジ大腿顆の組成のインビボラマン関節鏡検査評価を行い、ラマンOA診断の臨床的実現可能性を実証した。
【0013】
上記を考慮して、第1の態様から、本開示は、組織に関する構造的情報を取得するためのシステムに関する。システムは、(i)偏向した光(偏光)を組織に向け、ラマン散乱を収集するように構成されたプローブと、(ii)プローブの遠位先端に取り付けられたレンズであって、偏光が組織から反射されるように偏光を組織上に集束させ、プローブによって収集されたラマン散乱を生成するように構成されたレンズと、(iii)ラマン散乱を2つの偏光成分に分割するように構成されたビームスプリッタと、(iv)2つの偏光成分を同時に別々に撮像して2つのラマンスペクトルを生成するように構成された分光計とを備える。
【0014】
上述の態様による実施形態から、いくつかの利点が得られる。例えば、プローブ及び分光計入力結合の設計は、2つの偏光を同時に測定することを可能にする。これは、迅速な構造的情報(例えば、コラーゲン配列(アラインメント))の測定を可能にする。ビームスプリッタは、プローブ自体の内部に配置されてもよい。分光計は、2つのラマンスペクトルを生成するために、2つの偏光成分をカメラ上に同時にかつ別々に画像化するように構成され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、システムは、プロセッサと、コンピュータプログラムコードを含むメモリとをさらに備える。メモリ及びコンピュータプログラムコードは、プロセッサを用いて、プロセッサに、生成された2つのラマンスペクトルを処理及び分析させて、組織に関する構造的情報を取得させるように構成されている。本明細書に記載される分析は、機械学習プログラムによって実行されてもよい。
【0016】
コンピュータプログラムは、各偏光ラマンスペクトルをほぼ瞬時に分析することができる。これは、本明細書に記載される方法及びシステムのリアルタイム性を与える。リアルタイム性については、以下でより詳細に説明する。コンピュータプログラムは、2つのスペクトルを別々に、しかし同時に読み出す。
【0017】
いくつかの実施形態では、システムは、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に取得する。
【0018】
多重取得原理を使用して、2つの光偏光からのラマン散乱光は、並列に読み出され、分光計を通して2D CCDカメラ上に画像化され得る。これは、1つのスナップショットにおいて、状態の診断及び/又は監視のための生化学的情報及び構造的情報の両方を得ることを可能にする。
【0019】
いくつかの実施形態では、生成された2つのラマンスペクトルの処理及び分析は、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を取得する。
【0020】
いくつかの実施形態では、2つの偏光成分のうちの第1の偏光成分は、偏向した光の偏光に平行であり、2つの偏光成分のうちの第2の偏光成分は、偏向した光の偏光に垂直である。
【0021】
いくつかの実施形態では、構造的情報は、第1の偏光成分と第2の偏光成分との間の差、及び/又は、第1の偏光成分と第2の偏光成分との間の比、及び/又は、第1の成分と第2の成分との間の異方性、を計算することによって得られる。
【0022】
第1の偏光成分と第2の偏光成分との間の差、及び/又は、第1の成分と第2の成分との間の比、及び/又は、第1の成分と第2の成分との間の異方性は、コラーゲン組織スペクトルを生じる。例えば、当該比は、表面ゾーン(SZ)コラーゲンの整合性(インテグリティ)に起因するラマンスペクトルの差異を明らかにすることができる。
【0023】
第1の成分と第2の成分との間の異方性は、以下のように定義され得る。
【数1】
【0024】
いくつかの実施形態では、構造的情報は、組織における構造的配列の基準を含む。
【0025】
これは、低次構造的配列が異なる条件を示すことができるので有利である。例えば、解体組織構造は癌性組織の症状であり、OAでは、平行配列が消失する。構造的情報は、機械学習を使用して分類され、組織構造が整列されているか否かを決定することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、生化学的情報は、生成されたラマンスペクトルの細胞外マトリックス(ECM)成分の相対的寄与を定量化することによって得られる。
【0027】
いくつかの実施形態では、生化学的情報は、第1の偏光成分及び第2の偏光成分の合計を計算することによって得られる。
【0028】
ECM成分の相対的寄与を定量化することは、特定の成分の枯渇を同定することを可能にする。これは、状態の診断及び/又は監視を助けることができる。
【0029】
第2の態様から、本開示は、組織に関する生化学的情報を取得するためのシステムに関する。システムは、(i)光を組織に向け、ラマン散乱を収集するように構成されたプローブと、(ii)プローブの遠位先端に取り付けられたレンズであって、光が組織から反射されるように光を組織上に集束させ、プローブによって収集されたラマン散乱を生成するように構成されたレンズと、(iii)ラマン散乱を撮像してラマンスペクトルを生成するように構成された分光計と、(iv)プロセッサと、(v)コンピュータプログラムコードを含むメモリとを備える。メモリ及びコンピュータプログラムコードは、プロセッサによって、生成されたラマンスペクトルを処理及び分析して、組織に関する生化学的情報を取得するように構成され、生化学的情報は、生成されたラマンスペクトルのECM構成要素の相対的寄与を定量化することによって取得される。
【0030】
上述のように、ECM成分の相対的寄与を定量化することは、組織中の特定の成分に対する変化を監視することを可能にする。これは、状態の診断及び/又は監視を助けることができる。これは、偏光された光なしで行うことができ、第1の態様における生化学的情報を得るために使用されるラマンスペクトルは、2つの偏光成分(すなわち、非偏光)の合計である。したがって、生化学的情報のみが必要とされる状況では、偏光は必要とされない。したがって、構造的情報を取得しないシステム及び方法を有することが有利であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、生成されたラマンスペクトルのECM成分の相対的寄与の定量化は、多変量最小二乗回帰分析から導出された回帰係数を使用することを含む。この解析は、機械学習プログラムによって実行されてもよい。
【0032】
GAG及び水のラマンスペクトル寄与は、はるかに強いCOL信号の下で特徴的に「埋設」され、それによって、組織GAG及び水含量の評価を不明瞭にする。多変量最小二乗回帰分析から導出された回帰係数を用いて、主要軟骨ECM成分(GAG、COL、及びHO)のラマン軟骨スペクトルへの相対的寄与を分解及び分離することにより、成分の含有量に関する生化学的情報を得ることができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、最小二乗回帰分析は、生成されたラマンスペクトルをECM成分の参照ラマンスペクトルと比較することを含む。
【数2】

式中、GAGREF、COLREF、及びH2OREFは、それぞれのECM成分の精製された参照化学物質の成分スペクトル(すなわち、「ECM成分の参照ラマンスペクトル」)である。GAGscore、COLscore、及びHscore「スコア」は、それぞれの構成要素のスペクトルの累積ラマン軟骨スペクトルへの寄与を反映する回帰係数、すなわち、状態の診断及び/又は状態の監視を補助するために使用することができる生化学的情報の出力である。各成分のスコアは、組織中の各成分の量に比例する。
【0034】
いくつかの実施形態では、ECM成分は、グリコサミノグリカン、コラーゲン、及び/又は水のうちの1つ以上を含む。
【0035】
グリコサミノグリカン(GAG)含有量を測定することが有利である。その理由は、GAG損失は初期段階のOAの特徴だからである。これは、OAの早期診断を可能にし、したがって、早期のより成功した治療を可能にする。しかしながら、ECM成分は、生成されたラマンスペクトル内で同定されるのに十分に強いスペクトルを有する限り、任意の成分であり得る。これは、癌診断から線維症診断まで、及びエナメル質分析から脳手術まで、本明細書に記載される方法及びシステムの広範な使用に道を開く。例えば、本明細書に記載の方法及びシステムを使用して、異なるコラーゲンサブタイプ(例えば、I型、II型、及びX型コラーゲン)又はグリコサミノグリカンサブタイプ(例えば、ヒアルロン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ケタリン硫酸)を区別することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、生化学的情報及び/又は構造的情報は、リアルタイムで得られる。
【0037】
本明細書に記載の方法及びシステムは、リアルタイム(20ミリ秒未満)でのデータの読み出し及び解析を可能にする。これにより、プローブの現在位置に関するほぼ瞬間的な情報を得られる。これは、臨床医が、プローブを保持している組織に関する生化学的及び/又は構造的情報を即座に見ることができるので、非常に有用である。
【0038】
いくつかの実施形態では、組織は筋骨格結合組織である。
【0039】
いくつかの実施形態では、生化学的情報及び/又は構造的情報は、組織異常を同定するために使用される。
【0040】
組織における特定の生化学の枯渇(すなわち、生化学的情報)を使用して、組織異常を同定することができる。組織における組織的でない構造(すなわち、構造的情報)を使用して、組織異常を識別することができる。これらの組織異常を識別することを使用して、状態の診断及び/又は監視を補助することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、組織異常は癌性である。
【0042】
いくつかの実施形態では、生化学的情報及び/又は構造的情報は、変形性関節症及び/又は椎間板変性疾患などの結合組織変性障害を診断するために使用される。生化学的情報及び/又は構造的情報は、また、治療反応を監視するために使用され得る。例えば、薬物、療法、外科的介入、移植片移植(例えば、骨軟骨同種移植片、人工組織構築物、及び/又は細胞移植(例えば、自己細胞移植)に対する組織応答。
【0043】
いくつかの実施形態では、組織は人工組織であり、生化学的情報及び/又は構造的情報は、人工組織の成長及び/又は再生を測定するために使用される。プローブは、骨軟骨同種移植片の移植、人工組織構築物、又は細胞移植(例えば、自己細胞移植)などの外科的移植処置からの組織の成長/再生/安定性を監視するために使用され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、光又は偏光の光源はレーザーである。
【0045】
いくつかの実施形態では、プローブは針を備え、レンズは針の先端に取り付けられて、組織と接触するように構成されている。
【0046】
針の実施形態は、関節に挿入され、関節軟骨表面と接触して配置され得るので、インビボでの使用に有利である。
【0047】
いくつかの実施形態では、レンズは、ボールレンズ、好ましくはサファイアボールレンズである。
【0048】
本明細書に記載されるように、光の拡散が組織内の偏光をスクランブルすることは、当技術分野において広く受け入れられている。緊密な焦点を有するレンズ、例えばボールレンズを使用することは、組織の偏光情報を保存するという問題を克服する。仮に緊密な焦点のレンズでなければ、偏光情報は取り出すことができないだろう。ボールレンズは、また、初期段階のOAが最も顕著である軟骨表面を標的とすることを可能にする。緊密な焦点は、約200~300μmの光学深度を有することができる。
【0049】
異なる組織深さからの情報を確認するために、異なるレンズを使用することができる。例えば、深部組織領域に関する生化学的情報に関心がある場合、より長い焦点距離を有するレンズを使用することができる。表在組織領域に関心がある場合、より短い焦点距離を有するレンズを使用することができる。しかしながら、偏光情報を使用する目的のために、焦点距離は、この情報を保持するために短くなければならない。したがって、組織が偏光をスクランブルするので、深部組織については、偏光スペクトルに依存する構造的情報を得ることができない。深部組織については、生化学的情報のみを得ることができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、プローブは、長距離焦点ラマンプローブを含む。
【0051】
長距離焦点ラマンプローブの実施形態では、方法は、ラマン透明窓を通して偏光を組織に導くことをさらに含み、組織は、適切な環境(例えば、組織培養プレート)に維持される。
【0052】
このエクスビボの実施形態は、試料が培養中に維持されている間に、試料上のインサイチュ(その場所で)ラマン測定を達成する。ラマンプレートリーダーは、ハイスループット非破壊プラットフォームとして機能し、筋骨格結合組織外植片(例えば、軟骨、半月板、腱、靭帯、椎間板)又は人工組織の組成を経時的に監視することができる。このプラットフォームは、機械化学的刺激に応答する組織挙動、病的組織変性のメカニズム、及び変性を阻害又は逆転させるための治療薬の有効性、並びに人工組織の発達を研究するための優れた有用性を有する。
【0053】
第3の態様から、本開示は、組織に関する構造的情報を取得するための方法に関する。この方法は、第1の態様のシステムに対応する。したがって、第1の態様に関連して上述された任意の実施形態及び利点は、この対応する方法に等しく適用可能である。本方法は、(i)プローブを用いて偏光を組織に向ける工程と、(ii)レンズを用いて偏光を組織上に集束させる工程であって、レンズがプローブの遠位先端に取り付けられ、偏光が組織から反射されるように偏光を組織上に集束させて、ラマン散乱を生成する工程と、(iii)プローブを用いてラマン散乱を収集する工程と、(iv)ビームスプリッタを用いてラマン散乱を2つの偏光成分に分割する工程と、(v)分光計を用いて2つの偏光成分を同時に別個に撮像して2つのラマンスペクトルを生成する工程と、(vi)生成された2つのラマンスペクトルをコンピュータプログラムを用いて処理及び分析して、組織に関する構造的情報を得る工程とを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、本方法は、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に得る。
【0055】
第4の態様から、本開示は、組織に関する生化学的情報を取得するための方法に関する。この方法は、第2の態様のシステムに対応する。したがって、第2の態様に関連して上述された任意の実施形態及び利点は、この対応する方法に等しく適用可能である。本方法は、(i)プローブを用いて光を組織に向ける工程と、(ii)レンズを用いて光を組織上に集束させる工程であって、レンズがプローブの遠位先端に取り付けられ、光が組織から反射されるように光を組織上に集束させ、ラマン散乱を生成する工程と、(iii)プローブを用いてラマン散乱を収集する工程と、(iv)分光計を用いてラマン散乱を撮像してラマンスペクトルを生成する工程と、(v)生成されたラマンスペクトルをコンピュータプログラムを用いて処理及び分析して、組織に関する生化学的情報を取得する工程であって、生化学的情報は、生成されたラマンスペクトルの主要軟骨ECM成分の相対的寄与を定量化することによって得られる、工程とを含む。
【0056】
第5の態様から、本開示は、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に取得するためのシステムに関する。システムは、(i)偏光を組織に向けてラマン散乱を収集するように構成されたプローブと、(ii)プローブの遠位先端に取り付けられたレンズであって、偏光が組織から反射されるように偏光を組織上に集束させ、プローブによって収集されるラマン散乱を生成するように構成されたレンズと、(iii)ラマン散乱を2つの偏光成分に分割するように構成されたビームスプリッタと、(iv)2つの偏光成分を同時に別々に撮像して2つのラマンスペクトルを生成するように構成された分光計とを備える。
【0057】
この態様は、従来のラマン(生化学的分析のためのスペクトルを合計することによる)と偏光ラマン(例えば分割による、構造分析のため)の両方を同時に行う能力を提供するので有利である。(a)偏光プローブ、(b)2つの異なるラマンスペクトルを同時に生成する2つの偏光を多重送する能力、(c)表面からの偏光を保存する鍵となる遠方レンズ(200~300μm程度の非常に緊密な焦点を持つ)、の組み合わせは非常に有利である。さらに、このシステムは、リアルタイムでこれを行う能力を有するので、生化学的情報及び構造的情報を一度に提供することができる。
【0058】
本態様は、生化学的情報及び構造的情報の同時捕捉に関する。したがって、第1の態様(構造的情報のために使用されるシステムを説明する)及び第2の態様(生化学的情報のために使用されるシステムを説明する)に関して上述した任意の実施形態及び利点は、このシステムに等しく適用可能である。
【0059】
第5の態様の実施形態は、プロセッサと、コンピュータプログラムコードを含むメモリとをさらに備えていてもよい。メモリ及びコンピュータプログラムコードは、プロセッサを用いて、プロセッサに、生成された2つのラマンスペクトルを処理及び分析させて、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を取得させるように構成されている。
【0060】
第6の態様から、本開示は、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を同時に得るための方法に関する。この方法は、第5の態様のシステムに対応する。したがって、第1、第2、及び第5の態様に関して上述した任意の実施形態及び利点は、この対応する方法に等しく適用可能である。本方法は、(i)プローブを用いて偏光を組織に向ける工程と、(ii)レンズを用いて偏光を組織上に集束させる工程であって、レンズがプローブの遠位先端に取り付けられ、偏光が組織から反射されるように偏光を組織上に集束させて、ラマン散乱を生成する工程と、(iii)プローブを用いてラマン散乱を収集する工程と、(iv)ビームスプリッタを用いてラマン散乱を2つの偏光成分に分割する工程と、(v)分光計を用いて2つの偏光成分を同時に別個に撮像して2つのラマンスペクトルを生成する工程と、(vi)生成された2つのラマンスペクトルをコンピュータプログラムを用いて処理及び分析して、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を得る工程とを含む。
【0061】
上述の実施形態は、安全で低侵襲性のプラットフォームを用いて早期OA(GAG喪失及びコラーゲン組織破壊)を診断することによって、既存の方法論に勝るかなりの進歩を提供する。本明細書に記載されるシステム及び方法は、また、生化学的情報及び構造的情報が状態の同定を可能にする他の状態を診断するために使用され得る。例えば、癌性組織は、癌組織が構造的に組織化されていないので、構造的情報から同定することができる。加えて、このシステムは、(従来の放射線装置と比較して)低コストであり、非電離であり、したがって、臨床医のオフィス環境において実行され得る最初の生化学に基づく診断プラットフォームとしての役割を果たす。
【0062】
CT及びMRIなどの従来の診断技術は、疾患修飾療法がもはや実行不可能である、かなりの軟骨侵食が生じた後に、後期OAを評価することしかできない。造影MRI(dGEMRIC)などの新しい診断技術は、初期段階のOA GAG損失を診断することが示されているが、潜在的に有害な造影剤の使用、高度に拡張された患者の準備/撮像期間、及び大型で高価な機器インフラストラクチャの必要性を含む、多くの制限に直面する。我々の提案した偏光共焦点針プローブは、安全で低侵襲性のプラットフォームを用いて初期段階OA(GAG喪失及びコラーゲン組織破壊)を診断することにより、既存の方法論に勝るかなりの進歩を提供する。
【0063】
OAを診断するための針ベースのラマン法は存在しない。本発明は、一般に、他のラマン技術に勝る以下の具体的な利点を提供する。
1) 本発明は、インビボ組織のリアルタイム生化学的情報(GAG/コラーゲン含有量)及び構造的情報(コラーゲン配列)を提供する。
2) プローブ及び分光器入力カップリングの設計は、2つの偏光を同時に測定することを可能にする。これは、迅速なコラーゲン配列測定を可能にする。
3) 統合レンズを有する針プローブは、組織の偏光情報が維持され得るように、光を強く集束させる。
4) レンズ界面は、さらに、初期段階のOAの特徴である軟骨表面からのGAG損失の測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0064】
ここで、本発明の実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して、さらに説明する。
図1.1】TKAからのサフラニンO/ファストグリーンで染色された顆軟骨のOARSIグレードを示す(1)。初期段階のOA(グレード1~2)は軟骨表面でのGAGの喪失及びCOL崩壊の増加を特徴とする。後期段階のOA(グレード3~5)は進行性COL侵食を特徴とする。
図1.2】組織の生化学的分析及び構造的分析のために開発された多重偏光針プローブの概略図を示す。PBは偏光ビームスプリッタ、LPはロングパスフィルタ、DBは二色性ビームスプリッタ、BPはバンドパスフィルタ、Pは直線偏光子である。
図1.3】(a)は入射レーザー偏光の完全回転下でのシリコンのラマンスペクトル、(b)は完全偏光回転下での520cm-1ピーク強度の極線図を示す。
図1.4】多重偏光ラマン取得(垂直+平行)及び解析を実装する、開発されたソフトウェアのスクリーンショットを示す。
図1.5(1)】ラマンプローブGAG測定結果を示す図であり、(A)は軟骨外植片のGuHCl/HAdaseにより誘発されたGAG枯渇(saf-0組織学及びDMMB測定)、(B)はGuHCl/HAdaseにより誘発されたラマン強度の1000~1100cm-1及び1300~1450cm-1波数域での低下(平均±SD)、(C)は軟骨ラマンスペクトルの成分スペクトルへの線形回帰分解、及びGAG、COL、HOの濃度で、ラマンスペクトルへのGAG寄与を24時間GuHCl処理後に弱めることを示す。
図1.5(2)】ラマンプローブGAG測定結果を示す図であり、(D)は各々の処理についてのGAG、COL、HOの抽出されたスコア、(E)はラマンGAGスコアと(F)アッセイ測定されたGAG含有量へのラマンGAG:H2Oスコア比との間の相関、(F)は外植片Eに対するGAGスコア相関を示す。
図1.6】軟骨表面を示し、(A)軟骨外植片からのトリプシンに誘発された表面GAG枯渇を標的とし、(B)表面標的化光ファイバーボールレンズは、表面GAG損失の測定の感度を改善する。
図1.7】(a)はラマン針プローブを用いる、関節軟骨の表面ゾーン(n=45スペクトル)、中間ゾーン(n=45スペクトル)、及び深部ゾーン(n=45スペクトル)の偏光ラマンスペクトル±1標準偏差(SO)、(b)は3つの組織タイプの差スペクトル±1 SD、を示す。
図1.8】(a)はコラーゲンに関連する明確なピークを示す偏光解消比ラマンスペクトルのPLS-DA潜在変数(LV)負荷、(b)は表面及び深部ゾーン軟骨の分離を示すPLS-DA潜在変数(LV)スコアプロット、を示す。
図1.9】本発明の実施形態による針プローブを示す。
図2.1】インビボのラマン関節鏡検査診断を示す。
図2.2(1)】ラマン関節鏡検査GAG測定結果を示す。
図2.2(2)】ラマン関節鏡検査GAG測定結果を示す。
図2.3】ラマン関節鏡検査深度選択測定結果を示す。
図2.4(1)】ヒト軟骨におけるエクスビボでのラマン関節鏡検査GAG測定結果を示す。
図2.4(2)】ヒト軟骨におけるエクスビボでのラマン関節鏡検査GAG測定結果を示す。
図2.5】偏光ラマン関節鏡検査コラーゲン配列測定結果を示す。
図2.6】ラマン関節鏡検査軟骨厚さ測定結果を示す。
図3.1】培養中の生軟骨外植片の組成を監視するためのラマンプレートリーダーを示す。
図3.2】(a)は15日目のIL-1α処理の有り又は無しの軟骨ラマンスペクトルに対するGAG、COL、H2Oのスペクトル寄与の代表的な2D積み重ね面積プロット、(b)はラマンGAGスコア、(c)はIL-1αの様々な用量/期間レジメンで処理された外植片のアッセイ測定GAG含量、(d)はラマンGAGスコアとIL-1αで処理された外植片のGAG含量との間の線形相関、を示す。
図3.3】6日間にわたってIL-1αを用いて又は用いずに処理した生外植片のラマンプレートリーダーで反復測定したGAGスコアを示す。
図4.1】(a)は変性診断のためのラマン針関節鏡の概略図、(b)はインビボでのヒツジの膝関節のラマン評価、(c)は関節鏡カメラによって可視化された大腿骨顆と直接接触するラマンプローブ、(d)はヒツジ大腿顆のインビボで得られたラマンスペクトル、(e)は多変量線形回帰後の複合ヒツジ軟骨ラマンスペクトルに対するGAG、COL、H2O、及び軟骨下骨の寄与を示す2D積み重ね面積のグラフ、を示す。
図4.2】変性前後のIVDの髄核(NP)及び線維輪(AF)におけるIVDラマンスペクトルに対するGAG、COL、H2Oの寄与の2D積み重ね面積のグラフを示す。
図4.3】変性前後のNP及びAFのラマンGAG及びH2Oスコアを示す。
図5(1)】人工軟骨成長のラマン針プローブ監視を示す。
図5(2)】人工軟骨成長のラマン針プローブ監視を示す。
図5(3)】人工軟骨成長のラマン針プローブ監視を示す。
図6】本発明の一実施形態に係るシステムのブロック図である。
図7.1】本明細書に記載される方法及びシステムが、癌性組織を同定するためにどのように適用され得るかを示す。(a)正常組織ゾーン(n=20スペクトル)、(b)癌組織(n=20)、(c)正常組織と癌組織との偏光解消比、についての偏光差(平行-垂直)スペクトル±1 SDで、ヒト組織に関連する明確なピークを示す。
図7.2】(a)は正常組織と癌組織との分離を示すPLS-DAスコアプロット、(b)はヒト組織に関連する明確なピークを示す偏光解消比ラマンスペクトルのPLS-DA潜在変数(LV)負荷を示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
[概要]
【0066】
要約すると、本発明の実施形態は、組織に関する生化学的情報及び/又は構造的情報を得るための方法及びシステムに関する。いくつかの実施形態では、偏光子を通してレーザビームを送り、偏光を生成する。次に、偏光は、プローブを下り、レンズに到達する。レンズは、光を組織に集束させる。光は、組織から反射され、ラマン散乱を生成する。ラマン散乱は、プローブによって収集され、ビームスプリッタに向けられる。これは、プローブ自体の内部であってもよい。ビームスプリッタは、ラマン散乱を、偏向した光の偏光に対して平行なものと垂直なものとの2つの偏光成分に分割する。2つの偏光成分は、二股光ファイバーを介して分光計に向けられる。分岐したファイバーは、分光計のためのスリットとして機能し、ファイバーが分離していることは、CCDカメラ上で2つの明確に分離されたラマンスペクトルを生成する。次いで、プロセッサによって実行されるコンピュータプログラムを使用して、2つのラマンスペクトルが処理及び分析され、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を得る。
【0067】
本発明は、インビボ及びエクスビボ両方の用途を有する。いくつかのインビボの実施形態では、プローブは針を含み、レンズは針の遠位先端に取り付けられ、レンズは組織と接触している。偏光を組織上に強く集束させるために、レンズは、ボールレンズ、例えば、サファイアボールレンズであってもよい。いくつかのエクスビボの実施形態では、プローブは、ラマン適合性組織培養チャンバと併せて使用される長距離焦点平凸レンズを含んでいてもよい。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態は、皮下注射針と適合する偏光プローブを対象とする。本発明の実施形態は、組織に関する生化学的情報及び構造的情報を取得するためのシステムに関し、システムは、針の先端に配置された統合レンズを有する皮下中空針を備える。レンズは、軟骨表面でラマン光子(すなわち、ラマン散乱光)を収集することができる。このシステムは、(コラーゲン、GAG及び水の)生化学分析及び(コラーゲンの)構造分析を同時に提供するラマンシステムを含む。針及びレンズは、コラーゲン原線維からの偏光ラマン光子を保存することを可能にする。2つの(垂直及び平行)偏光の同時多重測定は、(a)検出されたラマン散乱光を偏光ビームスプリッタを使用して分割すること、及び(b)分割された光を2つの別個のファイバーで分光計入力スリットに結合し、多重化のためにCCDをセグメント化すること、によって行われる。システムはさらに、2つのラマンスペクトルを同時に読み出し、ラマンスペクトル(垂直及び平行)の前処理及び多変量解析、並びにコラーゲン分析のための垂直及び平行偏光ラマンスペクトルの分析、を実行するコンピュータプログラムを含む。
【0069】
共焦点レンズベースのニードルプローブを使用して組織表面上に極めて強く励起光を集束させることによって、偏光ラマンスペクトルを取得することができる。光を集束することは、初期段階のOAが最も一般的である領域である最上部の軟骨領域からラマンスペクトル取得を収集する追加の利点を達成する。この目的のために、本発明の実施形態は、2つの方向性偏光(垂直及び平行)を同時に測定し、コラーゲンマトリックスの配列の構造的情報を抽出する、新しいラマン技術を含む。さらに、本発明の実施形態は、初期段階のOAが最も一般的である関節軟骨の最上部ゾーンにおける、GAG、コラーゲン、及び水分含有量を測定することができる共焦点レンズベースの針プローブを含む。本発明による生化学的情報(GAG/コラーゲン含有量)及び構造的情報(コラーゲン配列)の両方を同時に取得することは、疾患の診断及び検出を潜在的に改善することができる。
【0070】
様々な態様及び詳細を、図面を参照して以下に説明する。
【0071】
より詳細には、本明細書では、初期段階のOAにおいて生じる顕著な変性変化(表面GAG枯渇及び表面コラーゲン分解(アラインメント損失))の初めての包括的評価のための新規な関節内光ファイバーラマン診断プラットフォームの開発について記載する。そのプラットフォームは、1)日常的な皮膚穿刺による関節軟骨の迅速な関節内ラマンスペクトル取得を可能にする皮下針適合性光ファイバープローブ、2)関節軟骨におけるコラーゲンの配列を測定するための偏光ラマンスペクトルの取得、3)初期のOA変性が最も顕著である軟骨表面層におけるGAG喪失及びコラーゲン配列喪失を評価するためのレンズインターフェース、からなる(図1.1)。関節内ラマン分光法は、革新的なプラットフォームとしての役割を果たすことができ、初期段階のOAの初めての完全に定量的な生化学的診断を提供する。ラマンプラットフォームは、無標識、低侵襲、及び費用効率がよい。このシステムの開発の成功は、斬新な臨床ツールとしての役割を果たすことができ、1)OA治療法の開発の有効性の新規評価、及び2)将来の治療コースを導くための日常的な臨床診断プラットフォームを可能にする。皮下注射針-プローブインターフェースの実装は、臨床医のオフィス環境において実行され得る、初めての生化学に基づく診断プラットフォームを可能にする。
【0072】
このプラットフォームの実施のための基本的な課題は、必要なラマンスペクトル取得及び分析を達成することができる新規な光学ベースのハードウェアの開発である。以前に開発された皮下注射針適合性光ファイバーラマンプローブは、組織ラマン信号を不明瞭にするシリカの強いバックグラウンド信号によって制限されるシリカファイバーに左右されることに留意することが重要である。代替として、中空針ラマンプローブが開発されてきた。しかしながら、これらのシステムは、プローブの開口数(NA)を増加させるために遠位光学系を省略し、臨床的に実行可能ではない、延長された取得時間(>60s)を必要とする。ヒトにおける我々の以前のインビボ作業に基づいて、0.5秒未満の積分時間は、臨床的に実行可能であることが必要である。
【0073】
軟骨ECMにおけるGAG、コラーゲン、及び水の生化学的定量化、並びにコラーゲンマトリックスの配列の構造的特徴付けの両方を評価することは、変形性関節症の早期診断のために必須である。ラマン分光法の興味深い側面は、散乱ラマン光が垂直又は平行に偏光され、分子構造に関する特定の情報を明らかにすることができることである。組織に対する偏光ラマン分光法の例はほとんど示されておらず、これらは顕微鏡セットアップでのみ実施されている。しかしながら、生物医学分野では、組織の偏光ラマン分光法は、弾道(拡散)光散乱により偏光をスクランブルすることが広く受け入れられている。このため、組織の評価にラマン光の偏光特性を利用することはできないと考えられてきた。我々の研究の仮説は、共焦点レンズベースの針プローブを用いて、組織表面上に極めて緊密に励起光を集束させることによって、偏光ラマンスペクトルを得ることができるということであった。光の集束は、初期段階のOAが最も一般的である領域である最上部の軟骨領域からラマンスペクトル取得を収集する追加の利点を達成する。この目的のために、2つの方向性偏光(垂直及び平行)を同時に測定して、コラーゲンマトリックスの配列の構造的情報を抽出する、新しいラマン技術を開発することを目的とした。さらに、我々は、共焦点レンズベースの針プローブが、初期段階のOAが最も一般的である関節軟骨の最上部領域におけるGAG、コラーゲン、及び水分含量を測定できることを提案する。我々の新規プラットフォームによる生化学的情報(GAG/コラーゲン含有量)及び構造的情報(コラーゲン配列)の両方の同時取得は、疾患の診断及び検出を改善する可能性がある。
【0074】
ラマン分光法が、化学的情報及び構造的情報の両方を提供して(すなわち、関節におけるGAG/コラーゲン含有量及びコラーゲン配列の両方を検出して)、OAの診断に実行可能であるために、解決されなければならないいくつかの重要な課題がある。
(i)軟骨の可変組織領域中の組織成分(コラーゲン、GAG、及び水)の濃度を測定しなければならない(例えば、表面ゾーン対深部ゾーン)。
(ii)コラーゲンから構造情報を抽出するためには、組織からのラマン信号の偏光を保存しなければならない。従来のラマンプローブは、拡散光散乱が原因で偏光を保持しない。光ファイバーを用いたラマン散乱光の直接収集は、さらに偏光をスクランブルする。
(iii)偏光ラマンスペクトルは、垂直及び平行の両方の偏光方向において、組織からリアルタイム(<0.5s)で同時に測定されなければならない。これは、現在可能であるが、臨床的に実行可能ではない方法での連続的な取得を必要とする。
【0075】
[多重偏光針ラマンプローブ]
【0076】
図1.2は、多重偏光ラマン針プローブシステムの概要を示す。ラマン分光システムは、785nmレーザー(B&W Tek社 BRM-7850.55-100-0.22-FC、600mW)、高スループット近赤外(NIR)レンズ分光計(Princeton Instruments社 Acton LS 785、750-1100nm)からなる。ラマンプローブについては、レーザーは、グラン-レーザーカールサイト偏光子(Thorlabs社 GL10-B、消光比=10:1)及び785nmのMaxLine(登録商標)レーザークリーンアップフィルター(Semrock LL01-785-25)を介して結合され、レーザー線を偏光させ、鋭利にし、その後、未被覆のアルミニウム針(φ(直径)=2mm、1=50mm)を通して導き、サファイアボールレンズ(AWI 2mm AR被覆サファイアレンズ)を使用して組織上に強く集束させる。組織から反射されたラマン散乱光は、801nm縁部のBrightLine(登録商標)単一端二色性ビームスプリッタ(Semrock社 FF801-Di02-25x36)、785nm EdgeBasic(商標)ロングパスエッジフィルタ(Semrock社 BLP01-785R-25)、及び偏光ビームスプリッタ(Thorlabs社 CM1-PBS252、 620-1000nm、Extinm Ratio=10:1)を通してニードルを経由して戻される。ラマン信号は、レーザー偏向に対して平行と垂直の2つの偏光成分に分割され、二股光ファイバー(105 um Thorlabs社 BFY105LS02)を通る。スリットとして機能する二股ファイバーは、分光計に直接結合され、ファイバーコアの分離は、CCDカメラ(Princeton Instruments社 Pixis 400、120~1100nm)上で2つの明確に分離されたラマンスペクトルを生成する(図1.2(b)参照)。
【0077】
偏光実験を行って、システムがシステム全体にわたってレーザー及びラマン偏光を維持することを確実にした。偏光ラマン測定をシリコンウェーハ上で行った。シリコンの高い結晶構造のために、対応するラマンピーク強度は、入射レーザーの偏光に大きく依存する。レーザー偏光子は、0度の回転が平行なレーザー偏光に対応するように調整された。各測定は、1秒の取得時間を用いて行った。図1.3(a)は、全360度回転にわたる偏光ラマンスペクトルを示す。図1.3(b)は、520cm-1での主要なシリコンピークの全方位にわたる強さ変化の極座標を示す。図1.3(a)~(b)から、振動ピーク強度は、レーザー偏光がシステム全体にわたって維持されていることを示している。
【0078】
空気中のシステムの被写界深度を決定するために、同じシリコン試料に対して浸透深度試験を行った。針を試料の表面に置き、シリコン信号が失われるまで25μm間隔で持ち上げた。図1.3(c)は、空気媒体を通る浸透深さを示し、初期のOAに関連する表層軟骨層を正確に標的とすることができる325μmの有効焦点距離を示している。
【0079】
[リアルタイムデータ処理のためのソフトウェアパッケージ]
【0080】
多重偏光ラマン針システムを制御するために、我々は、2つのスペクトルを読み出し、それらを個々に前処理する、包括的なリアルタイムソフトウェアパッケージを開発した。このソフトウェアは、カメラ制御のためのCインターフェースを備えたMatlabスクリプト環境で開発された。データの前処理は、多変量統計分析の前にラマンスペクトルを標準化するために、ダーク信号減算、自己蛍光除去及び正規化を含む。前処理に続いて、ラマンスペクトルを2つの方法で分析する。1)垂直及び平行ラマンスペクトルを合計することは、従来の生化学的分析に使用することができる非偏光ラマンスペクトルに等しい。精製コラーゲン、GAG及び水からのスペクトルの非負線形最小二乗回帰は、インサイチュで組織中のそれらの濃度を推定するためのものである。2)偏光(垂直-平行)における差分ラマンスペクトル並びに比スペクトル(垂直/平行)又は異方性によって与えられるコラーゲン組織スペクトルを計算すること。
【0081】
本プラットフォームは、診断法のための生化学的分析及び構造的分析の両方を通して、改善された診断を促進するための重要なステップを実施する。
1)先端に一体化レンズを有する針、OAの早期発症がある軟骨表面でラマン光子を収集する。レンズを有する中空針によって、我々は、コラーゲン原線維からの偏光ラマン光子を保存することができる。本分野では、このことは、組織が偏光をスクランブルすることが十分に受け入れられて以来、予想外の発見である。
2)偏光ビームスプリッタを使用してラマン散乱光を分割し、これを2つの別個のファイバーと分光計入力スリットに結合し、多重化のためにCCDをセグメント化することによって、2つの(垂直及び平行)偏光の多重化測定が同時に行われる。このようにして初めて、この技術は、迅速な取得を通して臨床的に実行可能になる。
3)2つのラマンスペクトルを同時に読み取って前処理を行うソフトウェアパッケージ、並びにラマンスペクトル(垂直+平行)の多変量解析及びコラーゲン分析のための垂直及び平行偏光ラマンスペクトルの解析。
【0082】
ここで開発されたシステムの機能性を実証するために、我々は、初期段階のOAにおいて生じる重要な変性変化を評価するための新規な多重光ファイバー偏光ラマンプローブの能力を評価する。それは、i)軟骨表面からのGAG枯渇、並びにii)コラーゲン構造配列への変化の検出、である。
【0083】
[多重偏光プローブを用いた関節軟骨におけるGAG枯渇の定量化]
【0084】
GAGの定量のための多重偏光ラマンプローブの能力を評価するために、我々は、本技術からの手段を従来の生化学的アッセイと比較した。ここでは、2つの独特のモデル系、すなわち、1)様々なレベルのGAG枯渇が組織全体にわたって均一に誘導される薄い軟骨外植片、及び、2)初期段階のOAで遭遇するような、GAGが関節表面から枯渇する完全な厚さの外植片、を使用する。
【0085】
(均一GAG枯渇モデル)
【0086】
最初に、我々は、均一な枯渇組織における関節軟骨のGAG含有量を定量化するために、多変量スペクトル分析を用いて光ファイバーラマンプローブの能力を調べた。深層ウシ軟骨外植片(φ5×0.8mm)は、ECMの不均一性が低いため、簡易モデル系として用いられた(4)。移植片を4Mグアニジン-HCl(GuHCl)で0時間、4時間、24時間、若しくは48時間処理して様々な程度の均一なGAG枯渇を誘導するか、又はヒアルロニダーゼ(HAdase;5mg/mLで24時間)で完全なGAG枯渇を誘導した(図1.5A)。COL含量は処理によって統計的に変化せず、含水量の変化はわずかであった。ラマンスペクトルを取得し、前処理した(バックグラウンド減算、5次多項式ベースライン減算、曲線下面積正規化)。GAG枯渇は1000~1100cm-1及び1200~1300cm-1の波数範囲で顕著なラマン信号強度の低下を誘発した(図1.5B)。軟骨ECM成分(GAG[コンドロイチン硫酸]、COL[ニワトリ胸骨COL-II]、HO[PBS];シグマ)の精製参照化学物質の正規化ラマンスペクトルを用いてスペクトルを多変量回帰に供し、軟骨ラマンスペクトルに対する各成分の「スコア」又は相対的寄与を得た。図1.5Cは、回帰スコアに基づく各構成要素の累積寄与を示す。GAGスコアは、枯渇処理により減少した(図1.5D)。また、COLスコア及びHOスコアは比較的変化していなかった(図1.5D)。結果が明示したのは、ラマンGAGスコアは、GAG含量を測定した生化学的アッセイと非常によく一致し、R値は0.95ということであった(図1.5E-F)。GAGスコアは組織の機械的性質とさらに強く相関した(図1.5G)。本研究の結果は、多重偏光ラマン針プローブが、関節軟骨のGAG含有量を実際に正確に測定できることを初めて実証し、したがって、早期OA診断ツールとしてのその使用を支持する。
【0087】
(表面GAG空乏モデル)
【0088】
我々のラマンプローブの表面標的化能力を実証するために、全層ウシ軟骨外植片をトリプシン(1000μg/mL、4℃で0、0.5、2、4、又は8時間)で処理し、初期OAと同様に、進行性表面GAG枯渇を誘導した。ラマンスペクトルを、シャローフォーカス(浅い被写界深度の)光ファイバーボールレンズ(170μmの浸透深度[DOP])及びディープフォーカス(深い被写界深度の)レンズ(510μmのDOP)を用いて関節表面を通して取得した。多変量回帰を適用し、各レンズについてラマンGAGスコアを得た。GAGスコアを、直接GAG測定値と比較し、サフラニンO組織学的部からの深度依存性比色GAGプロファイルの積分から計算した(レンズ仕様DOPプロファイル(図1.5)によって重み付けし、ラマン獲得ウィンドウにおけるGAGを得た)。低DOP焦点レンズは、ラマン測定の相関及び感度を実質的に改善した(図1.6)。この実験は、ラマン分光法の診断精度に対するレンズDOPの重大な依存性を実証する。
【0089】
[関節軟骨におけるコラーゲン構造の多重偏光ラマン分光法]
【0090】
次いで、我々は、偏光ラマン信号を使用して、初期OAのためのエクスビボ組織モデルにおけるわずかな変化を検出できるかどうかを調べることを目的とした。初期のOAでは、平行に整列した表面層が破壊され、組織の中間ゾーン(等方性構造)が露出する。後期のOAでは、表面層及び中間軟骨層が存在せず、深部ゾーン軟骨が露出する。コラーゲン配列に対する変化を評価するための我々の多重偏光ラマンプローブの能力を評価するために、異なるゾーンを除去した軟骨組織に対して測定を実施した。ここでは、最初は無傷の関節表面を有する関節軟骨外植片(φ5×3mm)を、2ヶ月齢のウシの大腿顆から入手した。組織のゾーンは、特注の切断装置によって組織から選択的に切り取られた。外植片のグループを、1)関節表面無傷(0μm切除)、2)表面ゾーン切除(最上部300μm切除)、3)表面/中間ゾーン切除(600μm切除)として作製した。切り取り後、外植片をヒアルロニダーゼ(5mg/mL、24時間)で処理して干渉GAGラマン信号を除去し、3.7%パラホルムアルデヒド中で固定し、ラマン分析前にPBS中で洗浄した。これは、GAGの濃度が、偏光ラマン信号を不明瞭にし得る関節軟骨の深さを通して変化することが周知であるからである。ラマン針プローブを組織と穏やかに接触させて配置し、一連の偏光ラマンスペクトルを測定した。図1.7(a)は、ウシ軟骨外植片の偏光ラマンスペクトル±1標準偏差(SD)を示す。10秒の収集時間を用いて、合計30の外植片(表面ゾーン(n=10)、中間ゾーン(n=10)及び深部ゾーン(n=10))を測定し(試料当たりn=5スペクトル)、非常に高い信号対雑音比(SNR)を得た。試料上の出力は140mWであった。
【0091】
強いラマンピークを、両方の偏光で、861、930、1257、1448、及び1654cm-1にて観察した。複数のピークは、それぞれ、ヒドロキシプロリン、C-Cストレッチ、アミドHI、CH2ベンディング、及びアミドIに、暫定的に対応する。これらのピークは、軟骨に豊富に存在するコラーゲンによるものである。特に861、930、1251、及び1448cm-1において、3つの組織型すべてにおいて、平行偏光と垂直偏光との間に非常に一貫した差異があることが分かった。これは、偏光差スペクトル±1SD図1.7(b)で観察することができる。最も重要なことは、3つのゾーンスペクトル間にわずかであるが非常に一貫した差異が存在することも見出したことである。
【0092】
偏光変調ラマンピークの充填範囲を利用するために、偏光解消スペクトル(平行/垂直)の相互検証を伴う部分最小二乗判別分析(PLS-DA)を用いた。わずか1つの潜在変数(LV)の複雑さを持つロバストモデルを開発し、過剰適合のリスクを著しく低減した。図1.8(a)は、PLS-DAからの第1のLV1のローディングを示す。LV1は、Xブロックにおける分散の48.85%及びYブロックにおける22.58%の合計を占めた。C‐C伸縮、アミドin、CH2ベンディング、及びアミドIに関連する4つのピークがLV1で顕著であり、LV1がコラーゲン配向に関連することを強く示唆した。図1.8(b)は、3つの組織のそれぞれについての最初のPLS-DAスコアのヒストグラムを正規分布で示す。表面軟骨と中間ゾーン軟骨/深部ゾーン軟骨との間に明確な識別が認められた。PLS-DAは、組織を感度/特異度(表面ゾーン:73.3%/81.1%、中間ゾーン:95.6%/57.8%、深部ゾーン:55.6%/47.8%)で分類することができた。驚くべきことではないが、このモデルは、表面ゾーンとより深いゾーンとを区別するのに最適であることが分かった。これは軟骨の構造とよく相関し、このシステムが早期OA検出能力の大きな可能性を有することを示唆している。
【0093】
我々の以前の研究は、ラマン分光法が、OAの特徴であるGAGを検出できることを示してきた。ここでは、皮下注射針を用いて、OAの第2の主要な特徴である表在性コラーゲン配列の破壊を検出できることを実証する。今後は、この技術を応用し、GAGとコラーゲン分析を組み合わせて、ヒトのOA診断のための補完情報を提供することを目指している。さらに、この技術は、治療化合物の有効性をモニタリングするために潜在的に使用することができる。例えば、非常に最近、Spriferminのような研究中の有望な治療的介入がある。MRI及び造影CTの比較的低い解像度により、針プローブは、最も初期の段階における軟骨表面の変性及び修復を感知するための重要な技術となり得る。
【0094】
要約すると、我々は、新規の多重化ラマン針プローブシステムを構築した。関節軟骨組織におけるOAのモデルでラマン針プローブを試験した。我々は、OA組織モデルの表面ゾーンにおけるわずかな構造変化を検出するための良好な感度及び選択性を報告する。我々は、多重偏光針プローブと診断モデルとの組み合わせにより、コラーゲン配列を識別することができることを示し、これは、将来の早期OA診断の大きな可能性を示す。
【0095】
[利点]
【0096】
CT及びMRIなどの従来の診断技術は、疾患修飾療法がもはや実行不可能であるときの、かなりの軟骨侵食が生じた後に、後期OAを評価することしかできない。造影剤増強MRI(dGEMRIC)などの新しい診断技術は、初期段階のOA GAG損失を診断することが示されているが、潜在的に有害な造影剤の使用、高度に拡張された患者準備/撮像期間、及び大型で高価な機器インフラストラクチャの必要性を含む、多くの制限に直面する。我々の提案した偏光共焦点針プローブは、安全で低侵襲性のプラットフォームを用いて初期段階OA(GAG喪失及びコラーゲン組織破壊)を診断することにより、既存の方法論に勝るかなりの進歩を提供する。当該プラットフォームは、(従来の放射線装置と比較して)低コストであり、したがって、臨床医のオフィス環境において実行され得る最初の生化学的診断プラットフォームとして機能するだろう。
【0097】
[OAを診断するための針ベースのラマン法は存在しない。本発明は、一般に、他のラマン技術に勝る以下の具体的な利点を提供する。]
【0098】
1) 本発明は、インビボ組織のリアルタイム生化学的情報(GAG/コラーゲン含有量)及び構造的情報(コラーゲン配列)を提供する。
2) プローブ及び分光器入力カップリングの設計は、2つの偏光を同時に測定することを可能にする。これは、迅速なコラーゲン配列測定を可能にする。
3) 統合レンズを有する針プローブは、組織の偏光情報が維持され得るように、光を強く集束させる。
4) レンズ界面はさらに、初期段階のOAの特徴である軟骨表面からのGAG損失の測定を可能にする。
【0099】
[使用]
【0100】
本発明の実施形態は、臨床整形外科分野内で以下の用途に使用することができる。
- 臨床的変形性関節症診断
- 獣医学的変形性関節症診断
- 変形性関節症の変性を理解し、新規の薬物/治療候補を同定するための臨床及び前臨床研究モデル
- 他の滑膜関節/結合組織(腱、靭帯、半月板、椎間板)の変性の生化学的/構造的評価
- 組織バンク組織の品質評価(例えば、軟骨同種移植片)。臨床移植に最適な組織の選択。
- 再生医療用途:1)インビボでの軟骨修復の進行の評価、2)移植前の培養組織のインビトロ(体外)での品質評価。
【0101】
本発明の実施形態は、以下を含む、インビボ診断及び手術ガイダンスにわたる他の臨床分野における以下の用途において使用され得る。
- 癌診断(乳癌、リンパ節腫瘍、口腔癌及び粘膜癌、頭頸部癌、及び皮膚癌)
- 線維症診断
- エナメル分析
- 脳手術
【0102】
多重偏光ラマン技術は、実験室研究ベースの偏光ラマンイメージングのための顕微鏡における研究ツールとして実装することができる。重要なことに、従来のラマンプローブとは対照的に、このプローブは撮像(イメージング)に適している。本発明の実施形態は、光コヒーレンストモグラフィ(光干渉断層計)、共焦点反射率/蛍光イメージング、又は多光子イメージングなどのマルチモーダルイメージング(多モード撮像)に使用することができる。
【0103】
本発明の実施形態は、例えば、プロセス分析技術(PAT)など、分野外で使用され得る。
【0104】
[さらなる応用とテスト]
【0105】
[1.早期変形性関節症のインビボ分子診断のためのラマン針関節鏡検査]
【0106】
(概要)
【0107】
ここに記載される本発明の実施形態は、早期変形性関節症のインビボ分子診断に関する。多変量回帰を用いたラマンスペクトルの処理及び分析を実施し、累積のラマン軟骨スペクトルに対するECM成分GAG、COL、及びHOに対応する個々のスペクトルの寄与の解明を、より詳細に述べる。
【0108】
上述の本発明の処理及び分析ステップは、ラマンスペクトルに対する主要な軟骨ECM成分の相対的寄与を分解及び分離することをさらに含むことができる。ラマンスペクトルに対する主要な軟骨ECM成分の相対的寄与の分解及び分離は、多変量最小二乗回帰分析から導出された回帰係数を使用し得る。この分析は、機械学習プログラムによって実行されてもよい。
【0109】
(方法)
【0110】
ラマン針関節鏡検査器具
【0111】
図2.1a-cに示すように、特注の偏光ラマン針関節鏡検査システムは、皮下注射針を介した関節内侵入によるインビボOA診断のために開発された。
【0112】
図2.1は、インビボラマン関節鏡検査診断を示す。図2.1(a)は、OA診断のための光ファイバーラマン針関節鏡検査プローブの概略図を示す。ラマン分光システムは、近赤外線(NIR)レーザー、NIR深部枯渇CCDを有する分光計、並びに平行及び垂直の両方の偏光ラマン信号の同時取得を可能にする新規ニードルラマンプローブからなる。図2.1(b)は、ヒツジの膝関節のインビボラマン分光法による評価を示している。図2.1(c)は、関節鏡カメラによって可視化された、大腿顆と直接接触するラマンプローブを示す。図2.1(d)はヒツジ大腿顆関節軟骨のインビボで得られたラマンスペクトルである。図2.1(e)は、多変量線形後の複合ヒツジ軟骨ラマンスペクトルに対するGAG、COL、H2O、及び軟骨下骨の寄与を示す2D積層面積グラフである。
【0113】
(多変量統計解析)
【0114】
GAG及び水のラマンスペクトル寄与は、はるかに強いCOL信号の下に特徴的に「埋もれている」(図2.1(E))ため、組織のGAGと水分量の評価が不明瞭になる。ここでは、多変量最小二乗回帰分析から導かれた回帰係数を用いて、主要な軟骨ECM成分(GAG、COL、及びHO)のラマン軟骨スペクトルへの相対的寄与を分解及び分離することによって、上述のことを追加している。
【数3】

式中、GAGREF、COLREF、及びH2OREFは、それぞれのECM成分(図2.1(e))の精製された参照化学物質の成分スペクトルである。GAGscore、COLscore、及びHscore「スコア」は、それぞれの構成要素のスペクトルの累積ラマン軟骨スペクトルへの寄与を反映する回帰係数である。さらに、我々は、深層学習における最近の発展に基づく非線形回帰法が、組織の光学特性をモデル化することができるので、非常に有利であることを期待する。
【0115】
(エクスビボでのラマン関節鏡検査GAG測定)
【0116】
軟骨GAG含有量を描出するラマン関節鏡検査及び多変量分析の能力を評価した。低ECM組成不均一性を利用して、2ヶ月齢の子牛(Green Village Packing Co、NJ;n=5匹)の大腿顆硝子軟骨の外植片(φ5mm±0.8mm)から深部帯軟骨を抽出した。初期段階のOAで観察されたGAGの進行性喪失をシミュレートするために、外植片を、4M塩酸グアニジン(GuHCL)の時限曝露(0、4、24、又は48時間;1群当たりn=10の外植片)を用いて段階的なGAG枯渇を行った。3mg/mLのヒアルロニダーゼ(HA-dase;37℃、pH 6.0)への一晩の曝露により、GAGが完全に枯渇した。ラマンスペクトルを、凸レンズを用いてそれぞれの外植片の中央部で取得し、GAG、COL、及びHO含有量、並びにφ3mmの中心核の平衡圧縮弾性率(E)と比較した。
【0117】
(エクスビボでのラマン関節鏡検査深さ選択的測定)
【0118】
軟骨変性が深度依存的に起こり、主に組織の最上部領域で開始するので、次に、シャローフォーカス(針及び2mmボールレンズ)及びディープフォーカスレンズ(凸レンズ)を使用して、深度選択性がGAGの定量化にどのように影響するかを調査した。進行的深度依存GAG減少を誘発するために、模擬初期OAである全層ウシ軟骨外植片(φ6mm)を、500μg/mLトリプシン(4℃でpH 7.2)で、0、0.5、2、4、又は8時間(1群あたりn=4個の外植片)処理した。表面標的化ボールレンズ及びディープフォーカス凸レンズを用いて、ラマンスペクトルを関節表面で取得した。続いて、外植片を固定し、パラフィン包埋し、切片化し、サフラニンO/ファストグリーンで染色した。サフラニンOの比色プロファイルを、赤色チャネル強度を用いて深さ方向にマッピングし、深さ1.5mmの位置での平均強度に正規化した。各レンズについて、プロファイルにDOP減衰曲線(結果参照)を乗じ、組織深さで積分することで、レンズ固有のラマンイメージングウインドウにおける比色ベースのGAG含有量を得た。各レンズについて、比色GAGをラマンGAGスコアと比較した。
【0119】
(エクスビボでのヒト外植片におけるラマン関節鏡検査GAG測定)
【0120】
導かれたラマンGAGスコアの臨床的意義を確立するために、3つの死体のヒトの膝(NDRI;年齢/性:70/女、75/男、65/女;ドナーあたり4-5の外植片)の遠位大腿骨顆から切除したφ4.0mm軟骨外植片(n=13)について、ラマン針関節鏡測定を行った。試料は、表面損傷又はフィブリル化の視覚的徴候を示さなかった(アウターブリッジスコア0~1)。ラマンスペクトルを、ボールレンズ及び凸レンズの両方で取得した。続いて、外植片を直径方向に半分に切断した。半分は、GAG含有量分析のために、軟骨の最上部500μmを切除した。記載されているように、残りの半分からの組織学的切片を、非石灰化関節軟骨の総面積当たりの枯渇パーセンテージに基づいて、改変マンキンベースのサフラニンOファストグリーン(SOFG)染色摂取スコアについて分析した。ボールレンズラマンGAGスコアを、表面軟骨GAG含有量測定値と比較した。凸レンズラマンGAGスコアを、SOFG染色摂取スコアと比較した。ラマン関節鏡検査の連続する関節表面に沿った組織組成の空間的変化を特徴付ける能力を説明するために、ラマンGAGスコアを、全股関節形成処置から、切除されたヒト大腿骨頭標本の関節表面に沿った別個の解剖学的部位で取得した(50/女;Kellgren-Lawrenceグレード1)。ラマンGAGスコアを、関節表面に沿った3つの別個の解剖学的部位で取得し、対応するサフラニンO強度と比較した。
【0121】
(エクスビボでの帯状コラーゲン配列の偏光ラマン関節鏡評価)
【0122】
我々は、偏光ラマン関節鏡検査が軟骨変性中の軟骨SZの損失を評価できるかどうかを評価した。全層ウシ外植片を、40kPaの法線応力下で、直線往復サンダー(600グリット)を用いて、機械的表面摩耗に供した。摩耗を用いて、連続帯状層(群あたりn=5個の外植片)を除去した。例えば、摩耗なし(SZ無傷)、軽度の摩耗(120±26μm組織除去、MZを露出)、及び重度の摩耗(437±60μm組織除去、DZを露出)。全ての外植片は、初期段階のOA GAG枯渇を模倣するために、HA-daseを介してGAG枯渇させた。140mWのレーザー出力での単色レーザー光励起を用いて、平行及び垂直偏光ラマンスペクトル(n=5)を、5秒間の取得時間にわたって各試料から収集した。各群について合計25個の個々の組の偏光ラマンスペクトルを測定し、75組の偏光ラマンスペクトルを得た。各スペクトル群の偏光解消度(垂直/(平行+x))を、任意のDC成分を用いて計算し、無限に近い値を避けた。偏光解消度を、部分最小二乗判別分析(PLS-DA)への入力に用い、一つ抜き交差検証により、表面摩耗群の間で識別した偏りのないモデルを構築した。PLS-DAは、配列又は化学に関連する変化などの関心のあるスペクトル変化を効率的に抽出することができる強力な多変量回帰技術である。直交潜在変数は、スペクトル変化と摩耗群親和性との間の共分散を最大化する偏光感受性コラーゲンバンドと非常に関連するラマン強度ピーク位置から導かれた。すべての統計分析は、PLSツールボックスを用いてMatlabで行った。
【0123】
(エクスビボでのラマン関節鏡検査軟骨厚測定)
【0124】
ラマン分光法を用いて軟骨の厚さを評価するために、ウシ骨軟骨外植片の軟骨層を可変的に切除して、0.3mm~2.1mmの範囲の軟骨層を得た。ラマンスペクトルは、拡散光散乱を通して軟骨下骨からのラマンスペクトルをより良好に検出するために、凸レンズを介して取得した。軟骨ECM(GAG、COL、HO)及びウシ軟骨下骨(BoneREF図2.1(e))の既知の参照スペクトル並びにその回帰係数(Bonescore)を用いて、多変量線形回帰を総ラマンスペクトルに適用した。
【0125】
(インサイチュ及びインビボ診断のためのラマン関節鏡検査)
【0126】
インサイチュでの関節内ラマン診断測定に関連する交絡要因を、以下を含んでさらに評価した。1)滑液からの干渉、2)取得したラマンスペクトルのプローブ対軟骨表面入射角に対する感度、3)信頼性の高いラマン信号を得るための十分な取得時間。さらに、軟骨ECM組成物のインサイチュでの測定を、10ゲージの皮下針トロカールを通して関節内に挿入されたラマン関節鏡検査プローブを用いた関節内酵素GAG枯渇処置の前後の無傷なエクスビボウシ前腕(手首)関節に対して行った。
【0127】
インビボラマン関節鏡検査は、ペンシルベニア大学獣医学部IACUC(動物実験委員会)によって承認された。生きた骨格成熟ヒツジの遠位大腿顆関節軟骨から、後膝関節のミニ関節切開を介して、ラマンスペクトルを収集した。
【0128】
(結果)
【0129】
(ラマン関節鏡検査GAG定量化)
【0130】
図2.2は、ラマン関節鏡検査GAG測定結果を示す。図2.2(a)は、塩酸グアニジン(GuHCL)及びヒアルロニダーゼ(HA-dase)が軟骨外植片のGAG枯渇(サフラニンO組織学及びDMMB測定GAGレベル)を引き起こしたことを示す。スケールバー=1mm。図2.2(b)は、GuHCL/HA-daseにより、1000~1100cm-1波数及び1300~1450cm-1波数で測定したラマン関節鏡検査スペクトル強度の低下を示す(平均値±標準偏差)。図2.2(c)は、GuHCL/HA-dase時限曝露群のラマンスペクトルの多変量線形回帰分解から得られたGAG、COL、HOの回帰係数(スコア)を示す。図2.2(d)は、多変量線形回帰後の合成ラマン軟骨スペクトルに対するGAG、COL、HOスペクトルの累積寄与を示す2D積層面積グラフである。GAGスペクトル寄与はGuHClによるGAG枯渇後に減弱し、一方COL及びHO寄与は比較的影響を受けなかった。ラマンGAGスコア間の二変量回帰、それは、図2.2(e)アッセイ測定されたGAG含量、及び図2.2(f)外植片の圧縮弾性率(E)。
【0131】
化学処理は、軟骨外植片からのGAGの段階的枯渇を誘導した(図2.2a)。COL含量(平均4.4±0.9%(湿重量当たり)[%ww])及びHO含量(平均86.7±2.6%ww)は、これらの処理によって最小限に変化した。化学的に誘導されたGAG枯渇に伴い、1000~1100cm-1波数及び1200~1300cm-1波数でラマン信号強度が顕著に低下した(図2.2b)。多変量回帰分析(式1)に続いて、ラマンGAGスコアは、外植片からのGAGの減少に比例して減少した。COL及びHOのラマンスコアの影響は少なかった(図2.2c)。個々のECM構成成分の累積スペクトル寄与は、合成軟骨スペクトルの変動の94%を占めた(図2.2d;R=0.94±0.01;p<0.001)。GAGスコアは、測定された組織GAG含有量の変動の95%を予測し(図2.2e;R=0.95;p<0.001;表S1)、すべての外植片について測定された圧縮率(E)の変動の75%を予測し(図2.2f;R=0.75;p<0.001)、初期段階のOAで観察された硝子軟骨材料特性における進行性GAG及び機械的変化を非侵襲的に予測するラマン分光法の能力を実証している。
【0132】
(深さ選択的定量化のためのラマン関節鏡検査)
【0133】
図2.3は、ラマン関節鏡検査深さ選択測定結果を示す。図2.3(a)は、ポリスチレン基材ラマンピーク(988cm-1)強度の減衰を可変軟骨厚層で測定したときのレンズ固有の浸透深度(DOP)を示している。正規化されたピークが初期値の37%まで減衰する軟骨厚さから決定されたDOP(ランベルト・ベールの法則)。図2.3(b)は、軟骨外植片の関節表面からのトリプシン誘導性GAG枯渇を示す代表的なサフラニンO部を示す。スケールバー=250μm。図2.3(c)は、ディープフォーカス凸レンズ及び表面標的化ボールレンズについて、ラマン関節鏡検査で測定されたGAGスコアと、比色サフラニンOで測定されたGAG含有量との間の二変量線形回帰を示す。
【0134】
ボールレンズ及び凸レンズは、様々な厚さの軟骨層の下で、ポリスチレン基材のラマン信号減衰に基づいて異なるDOP値を示した(図2.3a)。軟骨外植片は、トリプシン処理時間の増加に伴って進行性の表面GAG枯渇を示した(図2.3b)。表面標的化ボールレンズを通して得られたラマンスペクトルから推定されたラマンGAGスコアは、GAG組織含有量の86%を予測した(図2.3c;R=0.86;p<0.001;表S2)。しかしながら、ディープフォーカス凸レンズを通して得られたスペクトルから推定されたラマンGAGスコアは、GAG含有量の40%のみを予測した(R=0.4;p<0.001;表S2)。そして、GAGスコアは、GAG枯渇酵素の制限された拡散に起因して、深部ゾーンに残存する残留GAGによって影響を受けた。これらの結果は、緊密な焦点のレンズを有するラマン関節鏡検査が、初期段階のGAG枯渇の定量化に有利であることを示している。
【0135】
(ヒト外植片におけるラマン関節鏡検査GAG定量化)
【0136】
図2.4は、エクスビボでのヒト軟骨におけるラマン関節鏡検査GAG測定結果を示す。図2.4(a)は、ヒト剖検ドナー由来のGAGが豊富な軟骨外植片及びGAG枯渇軟骨外植片の代表的なサフラニンO組織学的切片を、ラマンGAGスコア、GAG含量、及びSOFG染色摂取スコアとともに示す。スケールバー=1mm。図2.4(b)は、エクスビボでのn=13ヒト外植片のラマン針プローブGAGスコア(ボールレンズ測定)とDMMB測定GAG含量との間の二変量線形回帰を示す。図2.4(c)は、ラマン針プローブGAGスコア(凸レンズ測定)とSOFG染色摂取スコアの二変量線形回帰を示す。図2.4(d)は、関節炎の股関節の代表的なX線画像とMRI矢状面画像を示し、立位時の股関節の耐荷重域に対応する上大腿骨頭の関節腔狭小化を示している。図2.4(e)は、エクスビボのヒト大腿骨頭関節面の矢状断面に沿った別個の解剖学的領域において得られた多変量ラマンスペクトル分解から得られたGAGスコアを示す。GAGスコアは、MRI及び組織学的切片で観察されたGAGの枯渇及び軟骨の薄化を反映する。
【0137】
ヒト軟骨外植片は、様々なサフラニンO染色強度及びGAG含量を示した(図2.4a)。ボールレンズが獲得したGAGスコアは、最上位500μmの組織層におけるGAG含有量の変動の66%を予測した(図2.4b;R=0.66;p<0.001;表S3)。凸レンズが獲得したGAGスコアは、サフラニンOファストグリーン(SOFG)染色摂取スコアの変動の53%を予測した(図2.4c;R=0.53;p<0.01;表S3)。ラマンGAGスコアは、切除されたヒト大腿骨頭の関節表面に沿った別個の解剖学的部位で取得した(図2.4d-e)。低いラマンGAGスコアは、股関節の負荷領域を含むGAG枯渇硝子軟骨において観察され、一方で、高いGAGスコアは、股関節の非負荷領域を含むGAGが豊富な硝子軟骨において観察された。
【0138】
(ゾーンコラーゲン配列の評価のための偏光ラマン関節鏡検査)
【0139】
図2.5は、偏光ラマン関節鏡検査コラーゲン配列の測定結果を示す。図2.5(a)は、軟骨の平均偏光ラマンスペクトル(垂直[色線]と平行[黒線])を示しており、表面層の、無傷SZ、軽度の摩耗、及び重度の摩耗を示している。図2.5(b)は、偏光比(平行/垂直)の差スペクトルを示し、SZコラーゲンの完全性によるラマンスペクトルの差分を示す。図2.5(c)は、異なる侵食群の良好な分離を示す部分最小二乗判別分析(PLS-DA)スコアを示す。図2.5(d)は、PLS-DA潜在変数(LV)負荷量LV1、LV2を示す。図2.5(e)は、LV2に対応するSZ摩耗の程度を検出するためのラマンコラーゲン整列因子(RCAF)を示す。
【0140】
偏光に敏感なコラーゲンバンド861、930、1257、1448、及び1654cm-1と関連性の高いラマン強度ピーク位置において、グループ間(無摩耗、軽度摩耗、重度摩耗)で垂直偏光スペクトルと平行偏光スペクトルとの間に一貫した差異が確認された(図2.5a)。偏光解消度(すなわち、ラマン散乱光の垂直成分と平行成分との間の強度比の差)は、偏光ラマンスペクトルの差が、コラーゲン線維網の多様な帯状組織を表すことを明らかにした(図2.5b)。PLS-DAから、潜在変数(LV)負荷量LV1、LV2は、摩耗グループ間で良好な識別分離を示し(図2.5c)、かつ、SZコラーゲン網の完全性を反映する診断的に関連するスペクトル変動を組み込んだ(LV1:10.36%、LV2:6.48%;図2.5d)。LV1と比較して、LV2は、SZが無傷である(p<0.001)サンプルをよりよく識別し、したがって、LV2を、ラマンコラーゲン配列因子(RCAF)として使用してSZコラーゲンを保持する程度を表した(図2.5e)。これらの結果は、コラーゲン配列及びSZ変性が、軟骨の偏光応答を利用することによって定量化され得ることを示している。
【0141】
(ラマン関節鏡検査軟骨厚の定量化)
【0142】
図2.6にラマン関節鏡検査軟骨厚測定結果を示す。図2.6(a)は、0.3mm、0.9mm、1.5mm、2.1mmの厚さの軟骨層を有する骨軟骨外植片の多変量線形回帰後の、コンポジットラマン軟骨スペクトルに対するGAG、COL、HO、及び軟骨下骨の寄与を示す2D積層面積グラフである。図2.6(b)は、ラマン関節鏡検査で測定した軟骨下骨スコアと軟骨層厚との間の二変量回帰を示す。
【0143】
厚さの異なるウシ骨軟骨外植片のラマンスペクトルの多変量回帰分析に続いて、総スペクトルに対する骨シグナルの寄与は、軟骨厚さの増加に伴って減少した(図2.6a)。累積ラマンスペクトルに対する軟骨下骨の寄与(骨スコア)の回帰係数は、軟骨層の厚さに反比例して変化し、指数関数的減衰関数に従った(図2.6b)。骨スコアは、軟骨厚の変動の90%を予測した。したがって、ラマン分光法は、OAに関連する組織侵食中に生じる軟骨厚さ変化を定量化するための効率的な方法を提供する。
【0144】
(ラマン関節鏡検査インサイチュ及びインビボ診断)
【0145】
インサイチュでのラマン関節鏡検査測定結果に関連する潜在的交絡要因の評価は、1)得られたラマンGAGスコアは滑液の存在に対して影響を受けず、2)軟骨面に対する正常(90°)プローブ入射角からの20°の変動は、測定されたラマンGAG及びHOスコアに対して有意な影響を有さず(p<0.05)、3)積分時間は、多変量解析の強力な特徴のためにラマンGAG、COL、及びHOスコアに有意に影響を及ぼさず、わずか0.5秒で得られたラマン関節鏡検査測定結果は診断能力を損なわないことを示した。さらに、無傷の手関節に対する関節内ラマン関節鏡検査評価のために、ラマンGAGスコアは、トリプシン処理後に75%減少し、軟骨GAG含有量の86%減少に対応し(4.3±0.6%wwコントロール対0.6±0.1%wwトリプシン処理組織)、したがって、インサイチュでのGAGを測定するラマン関節鏡検査の能力を実証している。
【0146】
生きた骨格成熟ヒツジの遠位大腿顆関節軟骨に、後膝関節のミニ関節切開を介してアクセスした(図2.1)。ラマン針プローブを、画像誘導下で、大腿骨顆の関節面と穏やかに接触させて配置した。ラマンスペクトルを10秒の積分時間にわたって取得して、このインビボ実証のための最高のSNRを得た。エクスビボ測定結果と同様に、インビボで高品質のラマンスペクトルを取得した(図2.1d)。多変量回帰分析によって得られた個々のECM構成成分と軟骨下骨との累積スペクトル寄与は、複合スペクトルにおける変動の86%を占めた(図2.1e;ラマンスコア:GAG=0.16、COL=0.58、HO=0.11、軟骨下骨=0.10、R=0.86;p<0.001)。この実証は、インビボでの首尾よい組成定量化を実証することによって、インビボでのラマン関節鏡検査の実現可能性と、手術環境での針プローブを操作する能力を強調する。
【0147】
(考察)
【0148】
初期段階のOAは、治療方針が軟骨変性を緩和するのに最も効果的である場合に、重要な臨床ウィンドウを表す。しかしながら、組織組成及び構造の回復不能な変化が起こる前の早期にOAを診断する能力は、依然として重大な臨床的課題であり、治療法の有効な開発を妨げる。我々は、早期OAに関連する軟骨ECMの変化のリアルタイムでの偏光ラマン分光定量化を達成するための針ベースの関節鏡プラットフォームを提示する。OAのエクスビボウシモデル及び高齢者の軟骨外植片の両方を使用して、我々は、ラマン針関節鏡検査が、硝子軟骨材料挙動における劣化の原因となるSZ軟骨GAG枯渇及びコラーゲン分解を正確に定量化することができることを実証する。ここで述べる重要な革新は、累積ラマン軟骨スペクトルに対するECM構成成分GAG、COL、及びHOに対応する個々のスペクトルの寄与を解明するための多変量回帰の実施である。得られた回帰係数(GAGスコア)は、酵素的に枯渇したウシ外植片のGAG含量の変動の95%、並びにヒト軟骨外植片の、GAG含量の変動の66%及びSOFG染色スコアの変動の53%を占める。さらに、得られたラマンHO及びCOLスコアは、初期段階のOAにおいて軟骨腫脹を引き起こす引張りコラーゲンマトリクスの完全性に対する損傷を表す。
【0149】
コラーゲンマトリックスのゾーン依存異方性微細構造をさらに評価するために、偏光ラマンスペクトルを我々のプラットフォームに組み込み、垂直偏光スペクトルと平行偏光スペクトルの間の差を利用した。この新規な機能性は、バルク組織偏光スクランブルを回避するために遠位ボールレンズを強く集束させることによって達成され、SZコラーゲンマトリックスの配列及び組織の評価を可能にする。SZコラーゲンの完全性を反映する診断的に関連するスペクトル変動を最大化するために、PLS-DAをスペクトルデータに適用し、偏光に敏感なコラーゲンバンドと関連性が高いラマン強度ピーク位置を組み込んだ潜在変数(LV1、LV2)を生じさせた。LV2は、無傷のSZを効率的に識別し、したがって、SZコラーゲンが保持された程度を示すための配列因子として使用することができる。
【0150】
初期のOA GAG及びコラーゲン喪失の診断は、最上部の軟骨領域から主にラマン信号を収集する緊密な焦点を有するボールレンズの利用を必要とするが、ラマン軟骨厚さ測定は、軟骨下骨から十分なラマン信号を収集するためのディープフォーカスレンズを必要とする。したがって、選択されるレンズ構成は、定量化されるべき診断測定基準に左右される。本研究では、ラマンベースの軟骨厚さを解明するために、大きな非針ベースのレンズを用いて、軟骨下骨を標的とした。将来の反復的な我々の装置において、交換可能な深部組織レンズ(半球形レンズ又は特注の高DOPマイクロレンズ)が針プローブに組み込まれるだろう。
【0151】
新しい治療用プラットフォームとしてラマン針関節鏡検査を臨床に変換する実現可能性を実証するために、エクスビボ評価と同様のインビボでのヒツジ大腿顆を含む関節軟骨の高品質ラマンスペクトルを得た。臨床解釈は、以下を確立することによってさらに支持される。1)ラマンスペクトルをわずか0.5秒程度で得ることができ、2)得られたラマンGAGスコアは滑液の存在に対して影響を受けず、3)プローブ入射角は、診断精度を損なうことなく、軟骨表面に対して垂直から最大20°まで変化することができる。さらに、酵素誘導性分解の前後の無傷のウシの可動関節で得られたインサイチュ関節内ラマンスペクトルは、測定されたGAG含有量とラマンGAGスコアが一致することを検証した。
【0152】
潜在的なOA診断技術として、ラマン分光法への関心が高まっている。従来のエクスビボ研究は、外植された後期段階OA軟骨組織又は機械的損傷を受けた軟骨におけるラマンスペクトル変化を調べてきた。高波数ラマンピーク比を用いて軟骨含水量を測定したがGAG及びコラーゲンは測定していないUnal他を例外として、以前のラマン評価は、単変量ピーク分析又は主成分分析(PCA)からなっており、これは組織の機能的性能に関連する生化学的又は構造的組織変化の定量化を提供しない。さらに、軟骨侵食を測定するためにプローブを使用したEsmonde-White他を除いて、以前のラマン研究は、インサイチュ関節内ラマン評価と適合しない卓上顕微鏡検査システムで実施されている。我々の研究は、初期段階のOAの特徴的な変化(表面領域GAG枯渇及びSZコラーゲン喪失)を測定するために、臨床的に適合する針関節鏡検査プローブを利用する最初のインビボでのラマン診断研究を示す。
【0153】
我々のラマン針関節鏡検査プラットフォームは、軟骨組成、構造、及び材料特性の変化を描写する際に、他の最先端のOA診断プラットフォーム(MRI(T1ρ、dEGEMRIC)、超音波、造影CT、OCT)を補完し、それを上回る。これらのイメージングモダリティは非侵襲的であり、関節全体を撮像することができるが、軟骨表面の空間分解能、潜在的に毒性の造影剤の全身投与、長い撮像時間、費用、携帯性の欠如、及びインフラストラクチャ要件によって制限される。その可搬性のために、ラマン針関節鏡検査は、放射線又は毒性造影剤への患者の曝露なしに、その機能的性能に関与する硝子軟骨の重要な組成的及び構造的特徴の、迅速で実施が容易なリアルタイム評価を達成する変換プラットフォームとしての役割を果たすことができる。
【0154】
臨床的には、ラマン針関節鏡検査が、骨液吸引又は薬剤注入などの他の関節内処置と組み合わせて治療用オフィス処置として実施されることが想定される。プラットフォームは、関節鏡検査画像ガイダンス(例えば、Arthrex NanoScope)とのインターフェースを介して、標的化された解剖学的部位特異的評価を達成することができる。治療用プラットフォームとして、ラマン関節鏡検査は、急性又は慢性の外傷性関節損傷、内部障害、肥満、関節アライメント不良、及び遺伝的素因の結果としてOAを発症するリスクが高いことが知られている患者集団における初期段階の軟骨変性を同定するための費用効果の高い方法を提供する。一般的に罹患している関節(膝、股関節、肩、肘、足首)の定期的なモニタリングは、生物製剤(例えば、増殖因子、多血小板血漿)、関節内補充薬(ヒアルロナン、合成ルブリシン)、生活様式の変化(体重減少、活動停止)、理学療法、又は再建手術(関節再編成)、並びに微小骨折、自己細胞注入、又は移植片移植などの軟骨保護療法を適時に処方して、修復不能な硝子軟骨を再構築することを可能にし得る。熟成中のGAG堆積物及びコラーゲンマトリックス組織の評価を通して、ラマン関節鏡検査は、治療転帰の目的のモニタリングを可能にする。臨床診断に加えて、ラマン関節鏡検査は、研究ツールとしての役割を果たすことができ、前臨床動物モデルにおける新興治療の有効性を評価することができる。結論として、ラマン関節鏡検査は、軟骨の生化学的及び生物物理学的特性における回復不能な変化がX線写真で明らかになる前に、OAを診断することができる実用的で低侵襲性の治療用の臨床ツールであり、OA治療の効果的な実施のための必要条件である。
【0155】
[2.生軟骨移植片の定量的分子モニタリングのためのラマンプレートリーダー]
【0156】
(概要)
【0157】
以下のこの部に記載される本発明の実施形態は、経時的に生軟骨標本の組成変化を非侵襲的にモニタリングするためのハイスループットラマンプレートリーダーを対象とする。以下に記載されるのは、長距離焦点ラマンプローブ及びラマン適合性組織培養チャンバであり、それらは培養中に維持されている間、外植片標本上でインサイチュラマン測定を達成する。より詳細には、生組織の組成の評価のためのエクスビボラマンプレートリーダーを以下に記載する。ラマンプレートリーダーは、ハイスループット非破壊プラットフォームとして機能することができ、筋骨格結合組織外植片(例えば、軟骨、半月板、腱、靭帯、椎間板)及び培養人工組織の組成を経時的に監視することができる。このプラットフォームは、機械化学的刺激に応答する組織挙動、病的組織変性のメカニズム、及び変性を抑制又は逆転させるための治療学の有効性の研究、並びに人工組織の開発に優れた有用性を有する。
【0158】
(導入)
【0159】
エクスビボで生きて移植された軟骨組織の培養は、機械化学的刺激に応答する組織挙動を研究するための重要なプラットフォームとして役割を長く果たしており、軟骨調節機構、変形性関節症の進行、及び新興治療の有効性についての洞察を提供している。軟骨評価は、荷重を支え、組織の摩擦の少ない力学的機能をもたらす軟骨の主要なECM成分である、コラーゲン(COL)、グリコサミノグリカン(GAG)、及び水、の組成変化を主に測定する。従来、ECM組成は、生化学的アッセイ、特にGAGについてはDMMBアッセイ、COLについてはOHPアッセイ、及び含水量については重力重量測定によって評価されている。しかしながら、生化学的アッセイは、かなりの研究制限を引き起こす。それらは、1)非常に時間がかかる-手間のかかる試料処理、及び、2)試料破壊性-したがって、経時的な軟骨組成変化の反復測定評価を防げる。ラマン分光法は、特定の分子構成単位(アミド、硫酸塩、カルボン酸、ヒドロキシル)を反射する組織標本の光学フィンガープリントを提供する非弾性光散乱技術である。上記では、我々は、新規のラマン関節鏡プローブ及び多変量統計回帰モデルを用いて、ラマン計量とGAG含有量との間のほぼ単一な相関係数(R=0.95)によって証明される、失活した軟骨外植片の化学成分(GAG、COL、HO)を非常に正確に予測できることを実証した。本研究では、生軟骨標本の組成変化を経時的に非侵襲的にモニタリングするための新規なハイスループットラマンプレートリーダーを開発する(図3.1)。ここでは、我々は、長距離焦点ラマンプローブ及びラマン適合性組織培養チャンバを導入して、それらが培養中に維持されている間に外植片標本上でインサイチュラマン測定を達成する。我々のラマンプレートリーダーは、軟骨組成物のハイスループットな反復測定を実現することができ、機械化学的刺激に応答した軟骨外植片ECM変化の長期的なモニタリングを可能にする。ここでは、変形性関節症に関連した異化サイトカインのインターロイキン-1α(IL-1α)に曝露された外植片の直接的な生化学的アッセイ測定をエンドポイントラマン評価と比較することにより、我々のラマンプレートリーダーの感度を調べる。続いて、我々は、高い時間分解能(12時間ごと)で、IL-1αに曝露された生きた外植片に対して、ラマン組成モニタリングの反復測定を実施する。
【0160】
(方法)
【0161】
(組織源)
【0162】
生軟骨円板(φ5×1mm)を、未成熟ウシ大腿顆から採取し、L-グルタミン、L-プロリン、抗生物質/抗真菌薬、及び10nMデキサメタゾンを補充した低ラマン干渉フェノールレッドフリーDMEM中で維持した。
【0163】
(ラマンモニタリングプラットフォーム)
【0164】
我々のカスタムラマンプレートリーダーは、NIRダイオードレーザー(λex=785nm、500mW、B&W Tek)及びファイバー結合分光器(QEPro、Ocean Optics)からなる。プローブの遠位部は、軟骨への浸透深度が~540μmを達成する長距離平凸レンズ(N-BK7、φ9mm、焦点距離10mm)からなる。外植片を、改変された96ウェルポリスチレンプレートチャンバー中で維持して、軟骨外植片が培養物中に残存する間、プラスチック干渉なしにラマン獲得を可能にした。ここでは、ラマン透明MgFウィンドウを板蓋の切り欠きに挿入し、それぞれの外植片の下に薄いアルミニウム円板を挿入した(図3.1)。軟骨外植片のラマンスペクトルを、MgFウィンドウを通して取得し(取得時間10秒)、前処理に供した。ラマンスペクトル(フィンガープリントレンジ)を、以下のモデルを用いて、多変量線形回帰に供した。
【数4】

式中、GAGREF、COLREF、及びH2OREFは、それぞれの構成要素のスペクトルの寄与を反映する回帰係数又は「スコア」を抽出するために使用される、精製された参照化学物質の成分スペクトルである。
【0165】
(ラマン-生化学的相関)
【0166】
移植片を、IL-1αに、0、0.1、1、又は10ng/mLで、5、10、又は15日間培養した。培養完了時に、各外植片のφ3mmのセントラルサブコアを、ラマンプレートリーディング及びGAG含有量測定(DMMBアッセイ)に供した。
【0167】
(反復測定生軟骨ラマンモニタリング)
【0168】
生きた外植片を、培養全体を通してラマンモニタリングプレート中に維持し、10ng/mLのIL-1αを用いて又は用いずに処理した。6日間にわたって12時間隔で、プレートをインキュベーターから手短に取り出し、各外植片標本をラマンプレートリーディングに供した。
【0169】
(結果)
【0170】
(ラマン-生化学的相関)
【0171】
多変量回帰モデルは、測定された軟骨ラマンスペクトル(複合軟骨スペクトルの変動の87%を占める個々のECM構成成分の累積寄与)を記述することができた。ラマンGAGスコアは、IL-1α曝露とともに減少し、用量及び培養時間とともに減少した(図3.2a-b)。ラマンCOLスコアは、IL-1α処置でわずかな上昇を示し、HOスコアは、比較的不変であった(不図示)。同様に、アッセイで測定されたGAG含量は、IL-1α用量及び培養時間とともに減少した(図3.2c)。ラマンGAGスコアは、アッセイで測定されたGAG含量の変動の86%を予測した(図3.2d;R=0.86;p<0.001)。
【0172】
(反復測定生軟骨ラマンモニタリング)
【0173】
IL-1αの非存在下では、軟骨外植片は、6日間にわたってほぼ一定のラマンGAGスコアを維持した。IL-1αに反応して、ラマンGAGスコアは6日間で61%減少した(図3.3)。生存率の低下(生死イメージング)は、6日後にいずれの群においても観察されなかった。
【0174】
(考察)
【0175】
本研究は、生きた外植された軟骨標本のECM組成の正確で非破壊的な反復測定モニタリングを実施する我々のラマンプレートリーダープラットフォームの能力を実証する。新規な長距離ラマンプローブ及び適合性試験チャンバの開発により、生軟骨外植片を培養プレートに維持しながら、生軟骨外植片の高品質ラマンスペクトルを得ることができ、したがって、組織汚染又は生存率の損失のリスクなしに、迅速で入手しやすい組成評価を可能にする。将来は、我々のラマンプレートリーダーを自動2D翻訳ステージ及びGUIと連携させることを目指し、吸光度/蛍光マイクロプレートリーダーと同様に、ハイスループットなモニタリング(~2分で96の外植片)を可能にする。さらに重要なイノベーションは、多変量回帰分析を実施して、ECM構成成分であるGAG、COL、及びHOに対応する個々のスペクトルの累積ラマンスペクトルへの寄与を確認することである。したがって、我々のラマンプレートリーダーは、軟骨変性に関連する重要な組成変化、特に、GAG枯渇及び組織腫脹からの水和の増加を監視することができる。ここでは、変形性関節症に関連した異化サイトカインIL-1αに応答してGAG喪失を監視する我々のラマンプレートリーダーの能力を実証する。ラマンGAGスコアは、IL-1α変性軟骨におけるGAG含有量の変動の86%を占め、したがって、組織変性を確実に監視するプラットフォームの能力を確立する。
【0176】
(意義)
【0177】
我々の新規なラマンプレートリーダーは、ハイスループットで非破壊的なプラットフォームとして機能し、経時的に筋骨格結合組織外植片(軟骨、半月板、腱、靭帯、椎間板)の組成を監視することができる。このプラットフォームは、メカノケミカル刺激に応答する組織挙動、病的組織変性のメカニズム、及び新規な治療学の有効性を研究するための優れた有用性を有する。
【0178】
図3.1は、培養中の生軟骨外植片の組成を監視するためのラマンプレートリーダーを示す。
【0179】
図3.2が示すのは、(a)15日目のIL-1α処理の有り又は無しの軟骨ラマンスペクトルに対するGAG、COL、HOのスペクトル寄与の代表的な2D積み重ね面積プロット、(b)ラマンGAGスコア、及び(c)IL-1αの様々な用量/期間レジメンで処理された外植片のアッセイ測定GAG含量、である。(d)ラマンGAGスコアとIL-1αで処理された外植片のGAG含量との間の線形相関。
【0180】
図3.3は、6日間にわたってIL-1αを用いて又は用いずに処理した生外植片のラマンプレートリーダーで反復測定したGAGスコアを示す。
【0181】
[3.筋骨格結合組織のインビボ診断のためのラマン針関節鏡検査]
【0182】
(概要)
【0183】
以下のこの部に記載される本発明の実施形態は、椎間板における(椎間板変性診断のための)GAG/水含有量の測定を含む、筋骨格結合組織のインビボ診断を対象とする。
【0184】
(導入)
【0185】
変形性関節症([OA]-関節軟骨の分解を特徴とする)及び変性椎間板疾患(椎間板[IVD]の分解)などの結合組織変性障害は、成人集団の大部分及び増加する割合に影響を及ぼす、痛みを伴う、非常に衰弱性の状態である。実質的な組織破壊が起こる前の、疾患進行の初期段階は、治療薬が最も有効であり得る場合、重要な臨床ウィンドウを表すという見解が高まっている。しかしながら、初期段階の組織変性を診断する能力は、依然として重大な臨床的課題があり、最先端のイメージングモダリティ(例えば、CT、MRI)は、組織組成の不可逆的変化が生じた後の、後期段階の変性を診断するために主に感度があり、予後を悪化させ、治療選択肢を制限する。ラマン分光法は、組織標本中の特定の分子構成単位(アミド、硫酸塩、カルボン酸、ヒドロキシル)を反映する高度に定量的な光学フィンガープリントを提供することによって、組織組成変化を診断するための非常に優れた可能性を有する非弾性光散乱技術である。最近、早期結合組織変性に関連する組成変化を診断するための新しいラマン関節鏡検査プラットフォームを開発した。当該プラットフォームは、1)皮下針カニューレを通して関節内組織評価を得ることができるラマンプローブ、及び2)多変量回帰統計モデルの実施により組織の生化学的組成(GAG、コラーゲン、水)の測定結果を抽出する、を含み、早期変性GAG枯渇及び組織腫脹の評価を可能にする。エクスビボモデルにおいて、我々は、酵素的に枯渇した軟骨外植片におけるGAG含有量の変動の95%を予測することによって特徴付けられる、優れた精度で関節軟骨における早期OAに関連するGAG枯渇を予測する、ラマン関節鏡検査の能力を実証してきた。本研究では、1)インビボでラマン診断測定を実施する可能性、及び、2)追加の結合組織系でラマン診断を実施する可能性を検討することにより、このプラットフォームを大幅に前進させることを目指している。ここで、インビボ評価は、ヒツジにおける遠位大腿骨の関節軟骨に対して行われる。拡張された組織評価は、異なる解剖学的領域で、かつ変性治療に応答して、ヒツジのIVDに対してエクスビボで実施される。
【0186】
(方法)
【0187】
(ラマン関節鏡)
【0188】
皮下注射針を介した関節内侵入用の我々のカスタムラマン針関節鏡(図4.1a)は、NIRダイオードレーザー(λex=785nm、500mW、B&W Tek)及びファイバー結合分光器(QEPro、Ocean Optics)からなる。レーザー光は、針プローブ(直径2mm、l=50mm)を通ってプローブの遠位部分を経由して方向付けられ、2.0mmのサファイアボールレンズを使用して組織上に強く集束される。
【0189】
(スペクトル処理)
【0190】
前処理後、以下のモデルを使って、ラマンスペクトルを多変量線形回帰に供した。
【数5】

式中、GAGREF、COLREF、HREF、BoneREFは、それぞれの構成要素のスペクトルの寄与を反映する回帰係数又は「スコア」を抽出するために使用される、精製された参照化学物質又は軟骨下骨(ウシ源)の成分スペクトルである。
【0191】
(インビボ軟骨関節鏡検査)
【0192】
生きた骨格成熟ヒツジの遠位大腿顆関節軟骨に、後膝関節のミニ関節切開を介してアクセスした(図4.1b-c)。ラマン針プローブを、画像誘導下で大腿骨顆の関節面と穏やかに接触させて配置した。ラマンスペクトルを10sの積分時間にわたって取得して、このインビボ実証のための最高のSNRを得た。
【0193】
(エクスビボIVD診断)
【0194】
骨格成熟ヒツジから腰椎IVDを分離した。ラマン測定は、1つの新たに切除されたIVDの及び変性を受けたIVDの髄核(NP)及び線維輪(AF)内の5つの離散点で行った。変性は、トリプシン2mg/mLを補充したPBS中での18時間の培養でなされ、これは、IVD変性病理中の組成変化と同様に、腫脹及びGAG枯渇の組み合わせを誘導した。ラマン取得後、IVD検体の離散的なφ2mm円筒形コアを、GAG及び含水量について評価した。
【0195】
(結果)
【0196】
(インビボ軟骨関節鏡検査)
【0197】
ミニ関節切開により、我々は、高品質のインビボでのラマンスペクトル(図4.1d)を、エクスビボでの我々の以前の研究からのものと同様に、得ることができた。多変量回帰解析によって得られた個々のECM構成要素及び軟骨下骨の累積スペクトル寄与は、合成スペクトルにおける変動の86%を占め(図4.1e)、次のラマンスコアをもたらしGAG=0.16、COL=0.58、HO=0.11、軟骨下骨=0.10;R=0.86;p<0.001)、健康な関節軟骨試料についての以前のエクスビボでの測定結果と一致する。
【0198】
(エクスビボでのIVD診断)
【0199】
AFと比較して、NPは、より高いGAG(NP:7.3±0.9%wwに対しAF:4.0±0.4%ww)及び水分(NP:84.3±7.7%wwに対しAF:70.9±2.5%ww)の含有量を示した。変性処理は、NP(0.9±0.1%ww)及びAF(1.2±0.6%ww)におけるGAG含量を減少させ、NP(95.3±1.0%ww)及びAF(80.5±2.4%ww)における水含量を増加させた。多変量回帰によるECM成分の累積スペクトル寄与は、IVD複合スペクトルにおける変動の77%を占めた(図4.2)(p<0.01)。ラマンスコアはIVDの生化学的成分を反映しており、以下を特徴としている。1)AFと比較してNPについてのより高いラマンGAG及びHOスコア、及び、2)変性を伴うNP及びAFの両方においてGAGスコアを減少させ、HOスコアを増加させたこと(図4.3)。
【0200】
(考察)
【0201】
我々は、筋骨格結合組織変性に関連する組成変化のリアルタイムでのラマンベースの診断を達成するための新規な針ベースの関節鏡プラットフォームを提示する。我々の最近のエクスビボでの特徴付けに基づいて、我々は、インビボでのヒツジ大腿顆関節軟骨の高品質ラマンスペクトルを取得することにより、ラマン針関節鏡検査を臨床に変換する実現可能性を実証した。さらに、IVDラマン測定の性能は、ラマン診断を、関節軟骨を越えて結合組織に向けて拡張することの実現可能性を実証する。ここでは、ラマン関節鏡検査が、IVDのNPとAFとの間、及び健康と変性との間で、GAG及び水の組成を容易に区別できることを示す。臨床的には、ラマン針関節鏡検査は、組織変性及び処置に対する応答の評価のための現在の関節の関節鏡検査の定量的補助としての役割を果たし得る。関節軟骨について、ラマン関節鏡検査は、生物製剤、粘液補充剤、生活様式の変化(体重減少、活動停止)、理学療法、又は再建手術などの軟骨保護療法の適時の処方を導くことができる。IVDについて、ラマン関節鏡は、GAG枯渇NPを増強及び再構成するために、高分子量アグリカンを注入する処置の前後に、椎間板造影を拡張して組成物を評価する方法を提供する。
【0202】
(意義)
【0203】
ラマン関節鏡検査は、組織変性の初期段階における重要な組成組織変化の定量的評価を提供する、革新的な診断プラットフォームとしての役割を果たすことができる。ラマン関節鏡検査は、以下のものとして機能する。1)新規な治療学の開発を進めるための有益な臨床/前臨床研究ツール、及び、2)治療コースを導くための臨床診断プラットフォーム。
【0204】
図4.1は次のものを示す。(a)変性診断のためのラマン針関節鏡の概略図。(b)インビボでのヒツジの膝関節のラマン評価。(c)関節鏡カメラによって可視化された大腿骨顆と直接接触するラマンプローブ。(d)ヒツジ大腿顆のインビボで得られたラマンスペクトル。(e)多変量線形回帰後の複合ヒツジ軟骨ラマンスペクトルに対するGAG、COL、HO、及び軟骨下骨の寄与を示す2D積み重ね面積のグラフ。
【0205】
図4.2は、変性前後のIVDの髄核(NP)及び線維輪(AF)におけるIVDラマンスペクトルに対するGAG、COL、HOの寄与の2D積み重ね面積のグラフである。
【0206】
図4.3は、変性前後のNP及びAFのラマンGAG及びHOスコアを示す。
【0207】
[4.人工軟骨成長のラマン針プローブ監視]
【0208】
(概要)
【0209】
この部では、ラマンプローブシステムを、人工軟骨組織の成長(すなわち、生体分子合成)の測定に適用することを、図5を参照して説明する。ここでは、未成熟ウシ軟骨細胞をアガロースヒドロゲルスキャフォールドに播種し、10ng/mLのTGF-beta3(最初の2週間投与)の非存在下又は存在下で、軟骨形成培地中で培養した。0、14、28、42、56日の培養後、外植片を、ラマンプローブ測定及びDMMB生化学的アッセイGAG測定に供した。スペクトルは、アガロース、コンドロイチン硫酸、II型コラーゲン、及び水の参照化学物質を使用して、前述した多変量線形回帰を介して進行させた。
【0210】
図5は、人工軟骨成長のラマン針プローブ監視を示す。図5(A)は、多変量回帰解析後の人工軟骨構築物のラマンスペクトルに対するアガローススキャフォールド、グリコサミノグリカン(GAG)、コラーゲン(COL)、及び水分(HO)の代表的な寄与を示す2D積み重ね面積のプロット図を示す。図5(B)は、ラマンGAGスコアと、人工軟骨構築物においてGAG含量が測定された生化学的アッセイと、の間の二変量相関を示す。ラマンプローブは、経時的に、及び同化成長因子TGF-βの補充によって、人工軟骨GAG含量の特徴的な上昇を予測することができる。
【0211】
[5.口腔癌診断のための多重偏光ラマン分光法]
【0212】
(概要)
【0213】
この部では、上述の方法及びシステムを癌性組織の同定に適用することについて説明する。
【0214】
(背景)
【0215】
口腔癌は、特に後期に発見された場合、重篤な生命を制限する疾患である。前癌状態又は早期癌状態(すなわち、インサイチュ癌腫)における早期検出は、口腔癌患者における罹患率及び死亡率を低下させるための最も重要な手段の一つである。従来の診断は、口腔の肉眼的検査及び生検に依拠し、早期腫瘍の5年生存率は最大90%であった。しかしながら、この生存率は進行癌では50%に低下し、患者の転帰を決定する際の主要な因子として早期診断の必要性が強調される。目視検査に基づく従来の診断は、観察者間の依存性、及び組織に関する生体分子又は微視的情報を明らかにすることができないことに悩まされている。腫瘍の深さ、局所/遠隔転移の評価(病期分類)及び悪性度(攻撃性)、並びに癌病巣のマージン評価もまた、適切な治療又はサーベイランス戦略を選択するための主要な課題である。これらの既存の臨床的課題を考慮して、我々の口腔癌患者の早期診断、サーベイランス、マージン評価、及び管理、を改善するための低侵襲診断技術を開発することが非常に望ましい。
【0216】
ラマン分光法は、無数の細胞間及び細胞内構成単位(すなわち、タンパク質、脂質及びDNA)の包括的な光学フィンガープリントを提供する、点ごとの無標識光学技術である。細胞成分は、疾患の発症及び進行とともに生体分子の変化を受けるので、ラマン技術は、高い生化学的特異性を有するリアルタイムの「光学的生検」を容易にすることができる。我々の以前の研究は、この技術を、口腔、頭頸部、食道、胃及び結腸のインビボに70~85%の範囲の精度で適用できることを示してきた。しかしながら、従来のラマン分光法は、組織の組成に関する情報を提供することに限られ、結合組織の組織化のような組織構造に関する洞察を提供するものではない。組織構造(すなわち、結合組織)が発癌中に破壊されることは周知である。我々は、偏光ラマン分光法を用いてこの相補的情報を利用することにより、癌の新たなコントラスト機構を提供することができ、潜在的には長期的に、より正確な診断をもたらすことができると仮定する。
【0217】
ここでは、ヒト口腔組織の正常と癌性との間で起こる変化の生体構造解析のための新規な偏光ラマンアプローチを実証する。組織表面にレーザー光を強く集束させることにより、バルク癌組織からの偏光ラマン信号を保存することができ、ヒト組織から生化学的情報及び構造的情報の両方を抽出することができる。
【0218】
(材料及び方法)
【0219】
我々は、バルク口腔癌組織の生体構造変化を検出するための偏光ラマンアプローチの能力を検討した。バルクヒト口腔組織(n=2)は、倫理許諾後、Guy’s and St Thomas Thrust Biobankから入手した。組織をパラホルムアルデヒド(PFA)中で固定し、ラマン分析の前に生理食塩水中で洗浄した。偏光ラマン針システムは、他の箇所で詳細に説明されている。遠位レンズを、表面に対して垂直に配向された組織の上方に配置し、偏光ラマンスペクトルの複数組(垂直及び平行)を測定した。
【0220】
(結果)
【0221】
図7.1a~bは、正常及び癌性組織領域の偏光ラマンスペクトル(平均±1標準偏差(SD))を示す。合計40スペクトルを、10秒の取得時間を使用して測定し、非常に高い信号対雑音比(SNR)、すなわち、癌(n=20スペクトル)及び正常マージン(n=20スペクトル)を得た。強いラマンピークは、両方の偏光とも、1335、1446、及び1660cm-1で観察された(図7.1)。これらのピークは、DNA、脂質、タンパク質にそれぞれ暫定的に対応し、生化学的情報を得ることができる。この研究にとってより重要なことに、我々は、正常組織と癌組織の両方において、平行偏光と垂直偏光の間に、特に1446、1660、1154、及び1520cm-1で、一貫した差異があることを見出した。したがって、我々は、偏光解消ラマンスペクトル(DPR)(平行/(垂直+n))を計算した;ここで、nは、スペクトルにおける無限に近い値を避けるために使用される任意の数である。nの大きさは任意であり、ゾーンの比較及び分析には影響しない(図7.1c参照)。DPRの差は、癌性組織では正常組織と比較して組織(組織構造)が大きく変化することを示唆している。(組織生化学単独ではなく)組織構造に関連する偏光ラマンピークの全範囲を利用するために、我々は、DPRスペクトルに対して部分最小二乗判別分析(PLS-DA)を採用した。我々は、交差検証(1つの測定結果を除外する)を利用して、2つの潜在変数(LV)のモデルの複雑性を決定した。図7.2aは、癌組織ゾーンのPLSスコアの散布図を示す。我々は、正常組織と癌組織との間の明確な区別を見出した(線形識別器を用いて100%の精度)。図7.2bは、PLS-DAからの2つのLVのローディングを示す。LV1は、X-Blockでは合計13.41%、Y-Blockでは83.75%の分散を占めた。LV2は、X-Blockでは合計5.17%、Y-Blockでは13.27%の分散を占めた。2つのLVにわたっていくつかのピークが顕著であることにより、偏光ラマン分光法が、組織構造(すなわち、結合組織)への新規な洞察を提供し、組織構造の喪失だけで非常に正確な診断に使用できることを示唆している。
【0222】
(概要)
【0223】
我々は、口腔癌及び正常組織の偏光ラマンスペクトル(平行及び垂直)を測定した。我々の結果が示したのは、組織構造(すなわち、DPR)の特徴(組織組成のみではなく)に基づいて、新規なコントラスト機構を提供する癌の診断を行うことができることである。
【0224】
[コンピュータシステム]
【0225】
図6に、本発明の実施形態を実行するために使用されるコンピュータシステムの一例を示す。
【0226】
図6は、本発明の一実施形態に係るシステムの構成を示すブロック図である。本発明のいくつかの実施形態は、汎用デスクトップ又はラップトップコンピュータ上で動作するように設計されている。したがって、一実施形態によれば、コンピュータ装置800は、中央処理装置(CPU)806と、データ、プログラム命令などを記憶し、CPUによってアクセスすることができるランダムアクセスメモリ(RAM)804とを有する。装置800は、表示画面820と、キーボード822及びマウス824の形態の入力周辺機器とを備える。キーボード822及びマウス824は、周辺入力インターフェース808を介して装置800と通信する。同様に、ディスプレイコントローラ802は、ディスプレイ820を制御するために設けられ、CPU806の制御下で画像を表示させる。データ入力810を介して、ラマンスペクトルデータ102を、装置に入力し、記憶させることができる。この点に関して、装置800は、ハードディスクドライブ、書き込み可能なCD又はDVDドライブ、ジップドライブ、ソリッドステートドライブ、USBドライブなどのコンピュータ可読記憶媒体812を備え、その上にラマンスペクトルデータ102を記憶することができる。あるいは、ラマンスペクトルデータ102は、ウェブベースのプラットフォーム、例えばデータベースに記憶され、適切なネットワークを介してアクセスされ得る。コンピュータ可読記憶媒体812は、また、CPU806によって実行されると、装置800が本発明のいくつかの実施形態に従って動作する、様々なプログラムを記憶する。
【0227】
特に、制御インターフェースプログラム816が提供されることにより、CPU806によって実行されると、コンピュータ装置の全体的な制御を提供し、特に、ディスプレイ820上にグラフィカルインターフェースを提供し、周辺インターフェース808がキーボード822及びマウス824を使用してユーザ入力を受け入れる。制御インターフェースプログラム816は、また、必要に応じて、他のプログラムを呼び出して、必要に応じて特定の処理動作を実行する。例えば、制御インターフェースプログラム816が示すラマンスペクトルデータ102に対して動作することができるソフトウェアパッケージプログラム104が提供されてもよい。プログラム104の動作は、上でより詳細に説明されている。ソフトウェアパッケージプログラム104は、上述されている。プログラム104は、1つ又は複数の、例えば、2つの、ラマンスペクトルを同時に読み出し、前処理、並びにラマンスペクトル(垂直+平行)の多変量解析及びコラーゲン解析のための垂直及び平行偏光ラマンスペクトルの解析を、実行することができる。
【0228】
次に、コンピュータ装置800の詳細な動作について説明する。まず、ユーザは、制御インターフェースプログラム816を起動する。制御インターフェースプログラム816は、RAM804へロードされ、CPU806によって実行される。次に、ユーザは、プログラム104を起動する。プログラム104は、上述のように、入力データ102に対して作用する。
【0229】
特徴の追加、削除、又は置換のいずれかによる様々な修正が、さらなる実施形態を提供するために上述の実施形態に対してなされてもよく、そのいずれか及びすべては、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
図1.1】
図1.2】
図1.3】
図1.4】
図1.5(1)】
図1.5(2)】
図1.6】
図1.7】
図1.8】
図1.9】
図2.1】
図2.2(1)】
図2.2(2)】
図2.3】
図2.4(1)】
図2.4(2)】
図2.5】
図2.6】
図3.1】
図3.2】
図3.3】
図4.1】
図4.2】
図4.3】
図5(1)】
図5(2)】
図5(3)】
図6
図7.1】
図7.2】
【国際調査報告】