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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(54)【発明の名称】体液解析用流体装置および関連方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230419BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230419BHJP
   G01N 9/12 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12Q1/02
G01N9/12 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555898
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2021057119
(87)【国際公開番号】W WO2021186050
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】102020000006031
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517209880
【氏名又は名称】セルダイナミクス アイ エス アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボネッティ,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】クリスタルディ,ドミニコ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ダルパオス,リッカルド
(72)【発明者】
【氏名】ガッゾーラ,ダニエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ムスメキ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】サルゲンティ,アズーラ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB02
4B029BB04
4B029BB06
4B029BB11
4B029BB12
4B029FA04
4B029FA11
4B029HA05
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QS13
(57)【要約】
本発明は、小体の質量密度および重量のうち少なくとも一方を測定するための流体装置を提供する。流体装置は、液体中に浸漬されるように構成された入口流路に流体的に接続された沈降チャンバを備えている。流体装置は、沈降チャンバに接続されたポンプシステムをさらに備えている。ポンプシステムは、沈降チャンバにおける液体の流れを制御するように構成されている。流体装置のプロセッサは、沈降チャンバの少なくとも1つの領域における小体に関連する小体データを取得し、かつ、受け取ったデータに基づいて小体の質量密度および重量の少なくとも1つを計算するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを測定するための流体装置であって、
液体に浸漬されるように構成された入口流路に連通して接続されている沈降チャンバと、
前記沈降チャンバに接続され、前記沈降チャンバにおける液体の流れを制御するように適合されているポンプシステムと、
前記沈降チャンバの少なくとも一の領域における小体に関連する小体データを取得し、かつ、受け取った前記小体データに基づいて、前記小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを計算するように構成されているプロセッサと、を備えている
流体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体装置において、
前記小体データを取得し、前記小体データを取得し、前記プロセッサを前記プロセッサに提供するように構成されている少なくとも1つの検出装置をさらに備えている
流体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体装置において、
前記プロセッサが、受け取った前記小体データの少なくとも一部に基づいて前記ポンプシステムを制御するように構成されている
流体装置。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記小体データは、沈降速度、形状、位置およびサイズのうち少なくとも1つを含んでいる
流体装置。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記沈降チャンバにおける液体の温度測定値を前記プロセッサに提供するように構成されている温度制御装置をさらに備え、
前記プロセッサが、前記温度測定値に基づいて、前記小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを計算するように構成されている
流体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の流体装置において、
前記温度制御装置が、前記プロセッサにより提供される情報および所定温度値のうち少なくとも1つに基づき、前記沈降チャンバにおける液体の温度を制御するように構成されている
流体装置。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記少なくとも1つの検出装置の少なくとも一部を収容するように適合されている可動支持体をさらに備え、
前記プロセッサが、受け取った前記小体データの少なくとも一部に基づいて前記可動支持体を案内するように構成されている
流体装置。
【請求項8】
請求項1~7のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記ポンプシステムが前記沈降チャンバにおけるゼロでない水平成分を有する流れを誘導することを可能にするように、前記沈降チャンバが可変の内側断面積を有する流路を有している
流体装置。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記沈降チャンバが、相互に並列に接続され、かつ、前記入口流路に接続されている複数の流路であって、各流体流路が流量調節機構に対して接続されている複数の流路を有し、
前記プロセッサが、前記入口流路における小体に関連する入力データを受け取り、かつ、前記入力データに基づいて前記流量調節機構を制御するように構成されている
流体装置。
【請求項10】
請求項1~9のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記ポンプシステムが、前記沈降チャンバに並列に接続されている再循環流路を有し、
前記再循環流路が再循環装置を備え、
前記プロセッサが、前記沈降チャンバにおける液体の再循環のために前記再循環装置を制御するように構成されている
流体装置。
【請求項11】
請求項1~10のうちいずれか1項に記載の流体装置において、
前記ポンプシステムが、前記沈降チャンバに連通するように接続されている2次流路をさらに有し、
前記プロセッサが、前記2次流路における流れを選択的に制御し、前記2次流路を通じて、前記沈降チャンバに液体を導入し、付加的または代替的に、前記沈降チャンバから液体を導出するように構成されている
流体装置。
【請求項12】
小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを測定する方法であって、
液体に浸された入口流路を通じて分析対象となる小体を流体装置の沈降チャンバに導入する工程と、
前記沈降チャンバの少なくとも一の領域において、静止状態の液体中を移動している小体に関連する小体データを取得する工程と、
受け取ったデータに基づき、小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを計算する工程と、を含んでいる
方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
質量密度、重量、サイズおよび形状のうちの1つに基づいて小体を選択する工程と、
質量密度、重量、サイズおよび形状のうち少なくとも1つに基づき、選択された小体を所定の容器に回収する工程と、を含んでいる
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載された発明は、微小球、細胞、スフェロイドおよびオルガノイドなどの小体の質量密度、重量、サイズおよび形状を測定する装置および関連する方法を提供する。特に、この装置の構造は、1~5000μmのサイズを有する小体の測定に適合している。
【0002】
薬学、細胞生物学、農産業、食品・環境分野などの産業・研究分野において、これらのパラメータに関する詳細な情報を収集することは、重要な意味を持つ可能性がある。このようなニーズが高まっている背景には、様々な生物医学的応用において、単一細胞および細胞凝集体が大量に使用されていることがある。
【0003】
特に、細胞はサイズよりも質量密度の変化が顕著であり、その値に関する信頼性の高いデータを取得することが課題となっている。したがって、このような値を決定することは、薬物や環境変化などの外部刺激に対する細胞の反応をモニタリングするための有効な解析手段となりうる。さらに、細胞の体積および質量密度の情報を同時に得ることで、生物学的活性との関連付けが可能となり、重要な情報を得ることができる。当該情報には、細胞集合体内の細胞集合の組織化レベルおよび生存率などが含まれる。
【背景技術】
【0004】
細胞、小体または分子の質量および密度を測定する方法は、ナノ電気機械システム(NEMS)の出現により、特にナノ機械共振器の開発により実現された。
【0005】
当該システムは、その質量、構造、剛性に依存する特定の周波数を受けると共振する。試料の質量は、試料と共振器の相互作用による共振周波数の変化で測定される。この技術の生物学的応用は、当初、真空条件下で動作させる必要があるため、限界があった。懸垂型のマイクロ流路共振器(SMR)はこの障害を克服し、溶液中の単一細胞の密度を測定し、密度分布の統計量を得ることができるようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、マイクロメートルサイズの流体流路を使用するため、前述のシステムでは数十μm以下のサイズの細胞しか分析できない。これは、スフェロイドおよびオルガノイドなどの直径が数mmに達する細胞集合体への応用または研究にとって重要な技術的限界である。
【0007】
植物プランクトンおよびポリスチレン球の密度を、沈降速度を用いて計算する方法が知られている。この方法では、スフェロイドおよびオルガノイドの平均的なサイズに到達することはできない。さらに重要なことに、データが単一の工程で収集されるため、より正確な出力を得るために測定を繰り返すことができない。
【0008】
他の技術では、光誘導電気運動システム(OEK)を使用して、マイクロ流体流路にあらかじめ導入された小体(corpuscle)を持ち上げている。
【0009】
このような解決方法は、構築するのが高価であり、20μmより大きいサイズを有する小体を測定するのに適応していない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様は、小体の質量密度および重量のうち少なくとも一方を測定するための流体装置を提供する。流体装置は、液体に浸漬されるように構成されている入口流路に連通する沈降チャンバを備えている。流体装置は、沈降チャンバに接続されたポンプシステムをさらに備えている。ポンプシステムは、沈降チャンバにおける液体の流れを制御するように構成されている。流体装置のプロセッサは、沈降チャンバの少なくとも一の領域における小体に関連する小体データを取得し、かつ、受け取ったデータに基づいて小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを計算するように構成されている。
【0011】
液体は、沈降チャンバに導入される一または複数の小体または集合体を貯蔵かつ保存するように構成されている、生理食塩水などの培養液または溶液であってもよい。
【0012】
沈降チャンバに直接的に接続された入口流路が存在することにより、小体の集合に対して個々の質量密度および重量の測定が実行可能である。当該構成により、このような測定が連続的かつ自動的に実行されうる。当該測定値は、小体のサイズおよび形状などの小体データとともに、細胞ダイナミクスの研究またはヒトの臓器の生物学的モデルの開発などにとって重要なものである。
【0013】
第1態様の実施形態において、流体装置が、小体データを取得し、小体データをプロセッサに提供するように構成されている少なくとも1つの検出装置をさらに備えている。
【0014】
流体装置のさらなる実施形態において、プロセッサが、受信した小体データのうち少なくとも一部に基づき、ポンプシステムを制御するように構成されている。
【0015】
さらなる実施形態において、小体データは、小体の速度、形状、位置およびサイズのうち少なくとも1つを含んでいる。
【0016】
さらなる実施形態において、流体装置は、沈降チャンバにおける液体の温度測定値をプロセッサに提供するように構成されている温度制御装置をさらに備えている。プロセッサは、当該温度測定値に基づき、小体の質量密度および重量のうち少なくとも1つを計算するように構成されている。
【0017】
液体温度の測定により、流体装置が制御された温度環境にない条件下でも、正確な測定値を得ることが可能になる。実際、沈降チャンバにおける小体の運動は、当該小体が運動する液体の粘度にも依存し、これは、使用される特定の液体の性質およびその温度に依存する。
【0018】
さらなる実施形態において、温度制御装置は、プロセッサによって提供される情報および所定温度のうち少なくとも1つに基づき、沈降チャンバにおける液体の温度を調節するように構成されている。
【0019】
液体温度の制御により、測定の精度に加えて、小体の保存のための理想的条件が維持される。例えば、小体が生物学的材料または生体材料からなる場合、37℃に維持することが理想的条件であり、使用プロトコルによっては、特定の生体現象の観察のために温度を変更することが必要とされる場合がある。
【0020】
さらなる実施形態において、流体装置は、少なくとも1つの検出装置を少なくとも部分的に収容するように構成されている可動支持体をさらに備えている。プロセッサは、受け取った小体データの少なくとも一部に基づき、可動支持体を誘導するように構成されている。
【0021】
可動支持体が存在することにより、運動している小体に追従することが可能であるため、質量密度および重量の測定の精度の向上が図られ、特に長い沈降チャンバにおいて高速で運動する小体の測定を実行することが可能である。さらに、試料が異なる角度から、あるいは異なる焦点面で観察されることにより、小体の3次元情報を得ることが可能である。物体の3次元形状に関して得られたデータは、粘性係数の適当な再構築を可能にし、ひいては重量および質量密度の測定のより高い解像度が実現可能になる。
【0022】
さらなる実施形態において、沈降チャンバは、入口流路に連通し、一部において内側断面が小さくなる流路をさらに備えている。
【0023】
特に、沈降チャンバは、少なくとも2つの部分を有し、第1部分の内側断面積が第2部分の内側断面積より大きい流路を備えている。
【0024】
第2部分は、沈降チャンバにおける小体が、小体が浸漬されている液体の流れがない場合に、当該第2部分から第1部分に変位するように適当に配置されている。
【0025】
沈降チャンバの断面積の変化により、収束した流線が得られる。沈降チャンバに流れが生成される過程において、小体はそのような流線に沿って沈降チャンバの中心に近づくように変位する。この現象により、小体と沈降チャンバの側面との相互作用に依存する測定ノイズが回避され、より正確な測定が可能になる。さらに、長時間にわたる測定であっても小体のセンタリングが保証されるため、生物学的実験において試料を沈降チャンバに保存することが可能になる。さらに、センタリングは、例えば流路の表面への付着による流体システムにおける試料損失の可能性を低下させるので、試料の導出に有用な側面である。
【0026】
さらなる実施形態において、沈降チャンバは、相互に並列に接続され、かつ、入口流路に接続されている複数の流路を備えている。各流路は、流量調節機構に接続されている。当該実施形態において、プロセッサは、入口流路における小体に関連する入力データを受け取り、当該入力データに基づいて流量調節機構を制御するように構成されている。
【0027】
複数の沈降チャンバが存在することにより、小体は、そのサイズに基づいて適当な沈降チャンバに導入されうる。したがって、例えば、1μmから5mmまでの著しく異なるサイズの小体の測定が単一の装置で実行可能である。あるいは、複数の沈降チャンバが存在することにより、小体の集合の測定においてより大きな流速が実現されうる。
【0028】
さらなる実施形態において、流体装置は、沈降チャンバに並列に接続された再循環流路をさらに備えている。再循環流路は再循環装置を備え、プロセッサは沈降チャンバにおける液体を再循環させるために再循環装置を制御するように構成されている。
【0029】
再循環システムの存在により、流体システムに複数の小体が存在することが回避され、ひいては単一の小体の非破壊的な分析およびその回収が繰り返して実行されうる。さらに、長期間にわたる測定に際して分析液の使用量が低減される。
【0030】
さらなる実施形態において、流体装置は、沈降チャンバに連通する2次流路をさらに備えている。プロセッサは、2次流路における流れを選択的に制御して、2次流路を通じて沈降チャンバに液体を導入し、かつ/または、沈降チャンバから液体を導出するように構成されている。
【0031】
2次流路は、沈降チャンバに対して直接的に、または入口流路もしくは2次流体回路を介して接続されうる。
【0032】
少なくとも1つの2次流路の存在により、測定中に新たな液体が沈降チャンバに導入されうる。したがって、例えば、生物学的実験プロトコルの実行が可能である。さらに、特定の小体の精密測定に適合した新たな液体の導入も可能である。例えば、測定液のパネルの中から、小体の質量密度に最も質量密度が近い液体が選択されることにより、測定の精度および確度の向上が図られる。さらに、同じ2次流路が利用されて、試料の導出および特定の容器への仕分けも可能である。例えば、特殊な流体の導出により、実施された測定の結果に基づき、異なる小体が異なる容器に回収される。
【0033】
本発明の第2態様は、小体の質量密度および重量のうち少なくとも一方を測定する方法を提供する。この方法によれば、分析対象である小体は、液体に浸漬された入口流路を介して流体装置の沈降チャンバに導入される。沈降チャンバの少なくとも一の領域における小体に関する小体データが取得される。小体は、沈降チャンバにおける静止状態の液体中を運動する。受け取ったデータに基づき、質量密度および重量のうち少なくとも1つが計算される。
【0034】
測定は、静止している液体中を小体が運動している状態で実行されうる。静止状態の液体とは、沈降流路に流れがないことを意味する。一実施例において、小体は、力の場において加速運動する。例えば、沈降チャンバは、静止状態の液体中を重力加速度にしたがって小体が運動するように配置されていてもよい。
【0035】
本発明の第2態様の実施形態において、小体データを取得する工程は、少なくとも1つの検出装置によって、小体データを取得する工程と、取得された小体データをプロセッサに提供する工程と、を含んでいる。
【0036】
さらなる実施形態において、本方法は、受信した小体クルデータの少なくとも一部に基づいて沈降チャンバ内の流れを制御することをさらに備える。
【0037】
さらなる実施形態において、本方法は、沈降チャンバにおける液体の温度を測定する工程と、当該温度測定結果に基づき、小体の質量密度および重量のうちの少なくとも1つを計算する工程と、をさらに含んでいる。
【0038】
さらなる実施形態において、本方法は、プロセッサによって提供される情報および所定温度の少なくとも1つに基づいて、沈降チャンバにおける液体の温度を調節する工程をさらに含んでいる。
【0039】
さらなる実施形態において、本方法は、受け取った小体データの少なくとも一部に基づき、少なくとも1つの検出装置を少なくとも部分的に案内する工程をさらに含んでいる。
【0040】
さらなる実施形態において、本方法は、沈降チャンバと並列に接続された再循環流路において、分析される小体が浸漬された液体を再循環させる工程をさらに含んでいる。
【0041】
さらなる実施形態において、本方法は、質量密度および重量のうち少なくとも1つの測定の前および/または後に、分析対象である小体が浸漬されている液体を、当該液体とは異なる第2液体と置換する工程をさらに含んでいる。
【0042】
さらなる実施形態において、本方法は、質量密度、重量、サイズおよび形状のうちの1つに基づき小体を選択する工程と、小体の質量密度、重量、サイズおよび形状のうちの少なくとも1つに基づき、当該選択された小体を所定の容器に回収する工程と、をさらに含んでいる。
【0043】
流体装置に関連して上述した利点は、本発明の第2態様に関連して説明した方法およびその実施形態にも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】分析媒体および小体を含む、関与する力および終端速度が示されている沈降チャンバの正面図。
図2】本発明の説明図。
図3】温度制御装置に関する実施形態を示す図。
図4】小体の垂直方向の変位を時間の関数として求めた線形回帰データを示す図。
図5】分析された各バッチ(20、50、90μm)について測定された7種類のPSマイクロスフェアにおいて得られた平均密度、および、各測定について7回の繰り返しで得られたそれぞれの標準偏差の実験結果を示す図。
図6】(A)PSミクロスフェアの3つのバッチので得られた平均密度の実験結果を製造者による公表値と比較し、それぞれの値の標準偏差とともに示す図。(B)3種類の微小球について実験的に求められた終端速度を理論速度と比較して示す図。
図7】センタリング装置を示す図(A)。パルス流(B)および変量流(C)による小体のセンタリングの部分100c(A、B)の拡大図。
図8】小体の多様性を満たすように、独立した流量調節機構に接続された、異なる量を有する複数の流路を有する沈降チャンバを示す図。
図9】調節可能な既知の距離にある異なる目標位置からの小体の通過を認識することによる、大きな小体の変位の測定に関連する技術的解決方法を示す図。
図10】左右両側の形態学的な小体の特徴抽出のためのデュアルカメラシステムを示す図。
図11】複数の角度から反射された画像の取得に基づく小体の3次元情報の取得に関連する実施形態を示す図
図12】円筒状の沈降チャンバに対して周回する検出装置に基づく3次元画像の取得に関連する実施形態を示す図。
図13】再循環流路および関連する2次ポンプシステムを含む実施形態を示す図。
図14】追加分析媒体の導入および交換のための2次流路を含む実施形態を示す図。
図15】薬剤処理前に成熟度を評価するための、スフェロイドの直径および密度の時間観察のグラフを示す図。
図16】小体の選別に特化した実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
単一の医学または生物学研究所において、細胞、マイクロスフェア、スフェロイド、オルガノイドおよび/または他の形態の小体凝集体など、異なる性質の小体を研究することは、いまや一般的になっている。
【0046】
試料の膨大な種類と、重量、密度、サイズおよび形状の測定に対する関心とを考慮すると、以下に説明する実施形態および実施例は、単一の装置およびそれに関連する異なる使用方法を採用することにより、そのようなパラメータの測定を可能にする技術的な解決方法を提供する。本発明の実施形態は、そのような測定を可能にする第1の解決策を示す。一の実施形態において、重量、密度、サイズおよび形状の測定は、1~5000μmの範囲のサイズを有する試料に対して、付随的に、同時的にまたは複合的に実行可能である。試料の広いサイズ分布に対して単一の装置で取り扱うことができるという利点があることに加え、これにより、個々の小体について得られたデータの間に高確度の相関関係を持たせることができる。
【0047】
本開示に係る流体装置および方法の実施形態は、経済的で正確かつ非侵襲的な方法による前述の分析を可能にする。当該流体装置および方法は、有機試料および生物学的試料だけでなく、無機試料を対象にした測定を実行するために用いられる。
【0048】
以下の段落では、本発明のいくつかの例示的な実施形態について説明する。一例として、理解を容易にするため、実施形態は、以下で「小体」と総称される細胞または細胞凝集体などの生物学的試料の分析に関して説明される。しかしながら、本明細書に示される本発明に係る法および装置は、非生物学的な小体の質量密度、重量、サイズおよび形状の測定に適用可能であることが理解される。特に、以下に説明する例示的な実施形態を参照した実施例は、細胞または細胞凝集体以外の小体を分析することに適用可能である。したがって、本発明の実施形態の文脈において、細胞、細胞凝集体または生物学的物質の全般的に示すために使用される用語「小体」は、微小小体、工業生産プロセスの残留小体、浮遊大気塵、花粉、ベシクル、水性懸濁液中の油滴、液体中の気泡を示すために使用することも可能である。
【0049】
同様に、本発明の実施形態において、細胞培養に適合する媒体を示すために、「分析媒体」またはより一般的な用語「液体」が使用されている。しかしながら、用語「分析媒体」および用語「液体」は、最も普遍的な意味で解釈されなければならないことは、当業者にとって明らかである。特に、設計要件および分析される小体の性質に基づき、液体は、細胞培養媒体または水性ベースの溶液または油のような別の性質の液体であってもよいことは当業者にとって明らかである。
【0050】
本発明は、単一の技術的装置および関連する使用方法を、異なるサイズの小体の質量密度、重量、サイズおよび/または形状の付随的なまたは同時的な測定に適用する可能性に関して、先行技術におけるギャップを埋めるという目的を有している。実際、今日存在する装置は、狭いサイズ分布において部分的に機能することができる。さらに、これらの装置では、そのようなパラメータの同時的または複合的な測定が不可能である。このため、相互に関連付けることが困難な断片的な情報が得られることになる。
【0051】
対象が添付図面を参照して説明されたとしても、発明の詳細な説明および特許請求の範囲で使用される参照数字は、本発明の理解のために用いられているだけであり、請求の保護範囲を制限することはない。
【0052】
本発明は、1~5000μmの間のサイズを有するマイクロスフェア、細胞、スフェロイド、オルガノイドなどの生物学的小体および非生物学的小体の質量密度、重量、サイズおよび/または形状の同時測定を実行可能な新規な装置および関連する使用方法について開示する。
【0053】
このような測定を得るために適応された様々な実施例の詳細な説明の後、本発明の複数の使用方法が開示される。後者は、特に生物医学分野におけるその有用性に言及された、基本システムへの適応に資する。本発明は、静止状態での液体において重力によって運動している小体(420)を分析するために適合される(図1参照)。小体の運動は、主にその質量密度、体積、形状、配向および周囲の液体の質量密度および粘性によって影響される。
【0054】
図2には、本発明の一実施形態の斜視図が示されている。
【0055】
図3図16を参照して説明される実施形態は、図1の流体装置の改良および展開を提供する。したがって、一の図面を参照しながら以下に説明される各特徴は、他の図面を参照しながら説明される特徴と複合されてもよい。
【0056】
流体装置は、沈降チャンバ100と、ポンプシステム200と、検出装置300と、プロセッサ500と、を備えている。小体420の運動は、本明細書において沈降チャンバ100と呼ばれる、透過性の壁を有する流路の内部で起こる。ポンプシステム200は、一例として、蠕動ポンプまたは圧力制御システムなどにより構成可能な流れ生成システム230を備えている。入口流路210および出口流路220は、ローディングタンクまたはアンローディングタンクに接続されていてもよく、代替的に、それらはベントまたは孔として用いられてもよい。プロセッサ500に接続された検出装置300を有するシステムは、小体420の運動をモニタリングし、かつ、その形状およびサイズを測定するという2つの役割を遂行する。沈降チャンバ100および検出装置300の両方は、後述するように、小体420の運動、形状およびサイズを正確に測定できるようなサイズに設計されている。
【0057】
図2の装置は検出装置300を有しているが、検出装置300は省略されてもよい。代替的な実施態様では、流体装置は、検出装置300がなくても構成可能である。
【0058】
特に、本発明の実施形態の文脈において、小体の「形状およびサイズを測定する」とは、小体の3次元形状を表現または近似するために使用することができる当該小体の任意の特徴を測定することを意味する。これは、小体が球状である場合は当該小体の半径の測定と一致し、小体が略球状および非球状である場合は当該小体の他の幾何学的特徴の測定と一致する。
【0059】
装置の的確な動作のために、分析媒体450の内部に含まれる小体420は、タンク400から導出され、入口流路210を介して沈降チャンバ100の内部に導入かつ輸送される。ポンプシステム200の内部での小体420の輸送は、流れ生成システム230の作動によって実現される。小体420の導入後、流れは遮断され、小体420は重力にしたがって分析媒体450の内部で運動する。他の流れがなく、かつ、加速過程による過渡的時間の経過後、小体420は終端速度、ドリフト速度または沈降速度と定義される一定速度に到達する。
【0060】
測定が実施されると、入口流路210および出口流路220は、小体420の回収のために無関係に使用されうる。
【0061】
本装置は、異なる小体420の間の差異を評価する相対測定に用いられてもよく、絶対測定に用いられてもよい。後者の場合、分析媒体450の質量密度および粘度を定めるために温度を知ることが有用である。本発明の実施形態では、装置は、例えばインキュベータのような制御された温度環境での使用に適合される。代替的に、温度は、実験中に測定されてもよい。本発明の実施形態(図3参照)において、分析媒体450の平均温度は、沈降チャンバ100の近くに配置された、少なくとも1つのセンサ610からなる温度制御装置600によって測定される。次に、プロセッサ500は、測定された温度の関数として計算された粘度を適用する。
【0062】
他の実施形態では、動作条件が特定温度(例えば、生きた生物学的試料に対して37℃)を必要とする場合、温度制御装置600は、現在温度、小体420の種類、液体の粘度、液体の粘度の現在値など、プロセッサ500により提供される情報に基づき、沈降チャンバ100における液体の温度を調節するように構成されている。具体的な実施形態では、温度制御装置600が温度調節ユニット620を制御することにより、分析中に特定温度が維持されうる。例えば、温度制御装置600は、流体装置、ポンプシステム200および特に沈降チャンバ100の近くなどの様々な位置に配置された、複数のヒータ(620aおよび620b)およびセンサ(610aおよび610b)を備えていてもよい。
【0063】
物理的な観点から、得られたデータの精度を向上させるため、小体420の運動は、その終端速度に達した際に考慮され、過渡期間においては考慮されない。分析媒体450に対する小体420の相対速度v(t)は,運動方程式(01)および(02)における力学方程式が解かれることにより求められる。
【0064】
F=mpa=(ρp-ρl)Vpg-kv ‥(01)。
【0065】
v(t)=vd+(v0-vd)e(-t/τ) ‥(02)。
【0066】
ここで、τは小体420の運動の過渡期間であり、関係式(03)により表わされる。
【0067】
τ=mp/k=(ρpp)/(6πηr)=(2/9η)ρp2 ‥(03)。
【0068】
ここで、「mp」は小体質量、「ρp」は小体質量密度、「a」は小体加速度、「ρl」は分析媒体質量密度、「Vp」は小体体積、「vd」は小体ドリフト速度、「v0」は小体初速度、「r」は小体半径、「k」は摩擦係数、「η」は分析媒体粘性、「g」は重力加速度である。
【0069】
このような過渡期間の程度を知るため、サイズおよび種類が異なる生物学的小体420(生体組織)の水溶液において測定された場合の計算結果を以下に示す。水溶液の粘度は約1mPa・sであり、生物学的小体420の質量密度は平均1020fg/μm3である。径が1~2000μmの生物学的小体420の場合,τは60ns(直径1μmの場合)から250ms(直径2000μmの場合)のオーダーで変化する.当該時間間隔において、小体420は短時間で終端速度に到達する。当該時間間隔は極めて短いため、小体420の加速度は測定に影響を与えず、小体420の運動は均一な直線運動とみなすことができる。
【0070】
本発明の実施形態の他の実施例では、より大きな小体、特に直径2~5mmの小体420が測定可能である。当該実施例において直径5mmの試料の場合、過渡期間が1.5秒に達することがあるので、考慮される必要がある。
【0071】
例えば、本発明の実施態様では、過渡期間が測定から除外されるように、検出装置300の作動領域の上方の所定距離まで小体420が輸送される。
【0072】
本発明の他の実施例では、加速度および終端速度を含む小体420の完全な運動の検出を可能にする程度に、検出装置300の作動領域が十分に大きく、かつ、沈降チャンバ100は十分に長い。終端速度の計算に際して、過渡期間において収集された小体420の運動のデータは考慮されなくてもよい。
【0073】
本発明の一実施形態では、測定用理論は、ストークスの法則の精緻化に基づくものであり、以下のようになる。
【0074】
d=(ρp-ρl)Vpg/(6πηr)=(2/9η)g(ρp-ρl)r2 ‥(1)。
【0075】
ρp=(9/2g)η(vd/r2)+ρl ‥(2)。
【0076】
p=ρpp ‥(3)。
【0077】
ここで、Wpは小体420の重量である。
【0078】
発明の信頼性を実証するために、その具体的な実施例(図2参照)が用いられて20~90μmのポリスチレン微小球の質量密度およびサイズが測定された。
【0079】
当該実施例において、検出システム300は、4倍の倍率を有する光学顕微鏡システムにより構成されている。沈降チャンバ100は、スライドに共有結合された透明なポリジメチルシロキサン(PDMS)チップの内部に形成されている。沈降チャンバ100は、6cmの長さおよび1×1mmの断面を有する構造である。小体420は、当該実施例では蠕動ポンプにより構成されている流れ生成システム230により、沈降チャンバ100の上部に配置される。沈降チャンバ100に試料が到着する前に、試料は、当該実施例ではポリテトラフルオロエチレン(PTFE)チューブにより構成されているポンプシステム200を介して輸送される。プロセッサ500は、コンピュータおよび関連するソフトウェアにより構成され、顕微鏡ユニットにより収集された画像を処理することが可能である。これらの画像から、小体420の形状の2次元投影およびその終端速度が推定される。後者は、時間の関数としての小体420の重心位置の変位から得られる線形回帰によって計算される(図4参照)。プロセッサ500は、前述の数学モデルを採用することによって、小体420の質量密度および直径を計算する。この手順は、統計的に有意な結果を得るために、それぞれの小体420について複数回にわたり繰り返される。
【0080】
本発明を検証するために、当該実施例が既知の密度および直径を持つ小体の測定に使用された。特に、20、50および90μmの直径を有するポリスチレン(PS)(Polybead(登録商標)、Polysciences Inc.米国)のマイクロスフェアの3つのバッチが選択された。販売元から提供された製品シートによると,PS球の平均質量密度は1.050±10fg/μm3である。統計的な有意性を高めるため、各マイクロスフェアのバッチについて7種類のユニットが分析され、各ユニットについて測定が7回にわたり繰り返された。図5には、分析された7つの異なるマイクロスフェアの平均密度と、各バッチの7回の繰り返しから推定されたそれぞれの標準偏差が示されている。実験の予想通り、すべてのマイクロスフェアで行われた測定の標準偏差は同等であり、当該実施例の精度および信頼性が実証されている。
【0081】
さらに、PSミクロスフェアについて求められた密度は、製造元が開示している平均値よりもかなり正確であることが判明した(図3a参照)。特に、平均標準偏差が市販値よりも低いオーダーであることがわかる(図6a参照)。さらに、終端速度の理論値(前記式(1)参照)および実験値(図6b参照)の比較により、結果の精度が高いことが確認されうる。
【0082】
具体的には、PSマイクロスフェアで実施された検証分析に使用した図2に示されている構成は、スフェロイドまたはオルガノイドなどの大きな生物学的試料の分析に適用されてもよい。
【0083】
当該適用範囲の関連性は、例えば、スフェロイドの成長段階をモニターするために本明細書に示された方法を適用する可能性に関するものである。これは実際に、スフェロイドの集合が、生物学的実験を継続するためにオペレータが要求または希望する成熟度に到達する瞬間を把握することを可能にするために重要な側面である。実際に、スフェロイドの形成過程では、崩壊した細胞の凝集から始まり、コンパクトな凝集体の段階に至るまで、時間の経過とともに圧縮が起こる。このことは、分析に用いられる生物学的材料(生体材料)が標準化されておらず、結果の信頼性が低い生物医学分野では特に重要である。試料のバルク密度に加えて、重量、形状およびサイズが同時に測定されることで、標準的なスフェロイドの増殖に最適な条件が把握されうる。スフェロイドは異なる種類の細胞またはそれらの組み合わせから生成されるため、成熟に要する時間および成熟期に特徴的な質量密度はスフェロイドの種類によって異なる。スフェロイド形成過程における質量密度の決定が重要な応用分野として、工業的な薬物スクリーニング過程がある。薬物治療の有効性は、スフェロイド自身への薬物の吸収が調べられることで評価されうる。実際、薬物の浸透性は、凝集体のコンパクト性、ひいては質量密度と高い相関があることが知られている。したがって、スフェロイドの正しい構造を質量密度の観点から評価することで、結果の再現性を大幅に向上させることができる。本発明の実施例は、創薬および薬剤開発を目的とした3次元生体モデルの応用の大きな制約となっているこの点を改善することを目的としている。
【0084】
しかし、生物医学分野で用いられる小体420はスフェロイドだけではない。単一細胞からオルガノイドに至るまで、小体420の多様な性質は、小体420がカバーする幅広いサイズに反映されている。このように、研究者の関心が集まっている小体420について、その質量密度、重量、サイズおよび形状を単一の装置で同時に測定することができれば、科学界に大きなインパクトを与えることができるだろう。
【0085】
この点に関して、以下の段落では、分析可能な小体420のサイズ範囲を拡大するために採用された方法論的および/または技術的な実施形態について説明する。
【0086】
例えば、本発明の適用例では、マイクロメートル単位の小体420を分析するために、そのサイズおよび形状を検出するのに十分な解像度を有する高倍率の光学系が必要とされる。他の適用例は、一般に、ミリオーダーの小体420は、マイクロメートルオーダーの小体420よりも高い落下速度を有する傾向があるという事実に関するものである。したがって、沈降チャンバ100は、小体420の終端速度の測定を可能にするのに十分な長さでなければならない。したがって、特定の検出装置300および沈降チャンバ100の正しい選択は、本発明の動作分野を広げることに関連する。
【0087】
前述した実施例では、検出装置300は、画像取得システムにより構成され、当該システムは、沈降チャンバ100の内部における小体420の変位中に、当該小体420の一連のフレームを取得する。当該画像は、小体420のサイズ、形状および時間に対する重心の位置を得るために処理される。終端速度は、図4に示されているように線形回帰アルゴリズムが用いられて計算される。この具体的な実施例では、回帰アルゴリズムで使用される的確な数のポイントを得るため、十分な数の移動している小体420の画像が取得される必要がある。例えば、小体420が球状である場合、許容可能なポイントの数は5であるが、小体420が非球状である場合、小体420の重心の認識における不確実性が増すため、許容できるポイントの数はより多くなる可能性がある。具体的には、測定に際して装置が取得可能なポイントの数は、様々な実験的・技術的な因子に依存する。これらは、小体420の終端速度、認識システムによって観察可能な沈降チャンバ100の部分の長さ、フレームレートおよび光学解像度が含まれている。当該因子は、特定の技術的・実験的条件下で検出された分析ポイントの数を含む式にまとめられる。ここでは次の関係式(04)のように表わされる。
【0088】
フレーム数=Min((カメラfps)/vT,1/(光学解像度))・観察落下長 ‥(04)。
【0089】
本発明の実施形態の特定の実施例において、許容可能な分析ポイントの数は、「10」等の特定値に固定される。これとは逆に、本発明の他の実施形態では、そのような許容可能な分析ポイントの数は可変であり、最適化アルゴリズムによって調節される。例えば、当該アルゴリズムは、時間の関数としての小体420の位置データのフィッティングの程度に基づき、理想的な解析ポイントの数が調節されうる。
【0090】
さらに、測定の精度を向上させるために、本装置は、分析実行前に、小体420が沈降チャンバ100の中心に位置させることを可能にする。例えば、本発明の実施形態では、装置は、沈降チャンバ100の構造変化および/または狭小化による小体420のセンタリングシステムを使用する。動作原理は、ゼロでない水平成分を有する層流をそこで得ることを可能にする沈降チャンバ100の特定形状の採用に基づいている。そのような条件下で、ポンプシステム200の適当な制御によって、流れがゼロの水平成分を有する沈降流路の領域へ小体420が搬送されうる。以下、本発明の文脈においてより一般的には、「鉛直」は重力ベクトルに平行な方向を意味し、「水平」は鉛直方向に垂直な任意のベクトルを意味する。
【0091】
例えば、沈降チャンバ100が鉛直に延在して配置され、かつ、当該沈降チャンバ100の内部で流速がゼロでない水平成分を有する位置に小体420がある場合、当該小体420は、流速水平成分による水平方向の推力の影響を受ける。本発明の特定の実施形態では、図7Aに示されているように、沈降チャンバ100が鉛直に延在して配置され、サイズが異なる水平断面を有する2つの部分からなり、比較的大きい断面積の第1部分(100a)が比較的小さい断面積の第2部分(100b)の下方に配置されている。さらに、当該実施形態では、沈降チャンバ(100)の当該2つの部分(100a)および(100b)は、傾斜部分(100c)を有する中間部分によって同軸に接続されている。小体420のセンタリングに要する時間は、傾斜部分100cの壁の傾斜角、第1部分(100a)に対する第2部分(100b)の断面積比率または当該2つの部分の断面積の関係に応じて変更されてもよい(図7A参照)。いずれにせよ、当該パラメータの特定値は、センタリングシステムの動作にとって必須な事項ではない。本発明のさらに他の実施形態では、傾斜部分(100c)を有する中間部分は、断面積の不連続的な変化または鉛直に対して90°の壁に置換される。
【0092】
図7Aには、センタリングシステムの実施例が、その動作の説明のために示されている。当該実施例では、沈降チャンバ100の最も広い第1部分(100a)は一辺が2mmの正方形の断面を有し、沈降チャンバ100の最も狭い第2部分(100b)は一辺が1mmの正方形の断面を有している。当該2つの部分は、この場合、沈降チャンバ100の長手方向に対して45°の角度を有する、緩やかに狭小化された中間部分(100c)によって接続されている。当該実施例における沈降チャンバ100の正方形断面に関連する測定値は例示的なものである。したがって、沈降チャンバ100の当該2つの部分の断面および中間部分の傾斜の関係は当該測定値から導かれるものに限定されない。この実施例におけるサイズは例示的なものであり、当該特定値は任意に変更されてもよい。
【0093】
センタリング装置の特定の使用方法において、流体システムはパルス的に制御される。一実施形態において、小体420は、時刻t1において図7Bに示されている位置(420t1)に存在している。ポンプシステム200が起動されると、小体420は、時刻t2において図7Bに示されている位置(420t2)に配置されるまで、形状に応じて流体の流れから受ける力にしたがって搬送される。その後、流れが中断されると、重力および静水圧の均衡した作用により、小体420が落下を開始することができる。そして、小体420は、時刻t3において沈降チャンバ100に対して中心寄りの位置(420t3)に至る。ポンプシステム200のさらなる作動により、小体420がセンタリングされて中心位置に至るまで、このプロセスが繰り返されてもよい。
【0094】
センタリングシステムの更なる使用方法では、図7Cに示されているように、小体420は、沈降チャンバ100において重力とのバランスをとるように特別に調節された流れによって狭窄部100cに保持される。これにより、流路形状の変動によって生成された流れの横方向成分が横方向の推力として作用し、時刻taにおける横方向の位置(420ta)から時刻tbにおける中央寄りの位置(420tb)に小体420を変位させる。
【0095】
例示された解決策の両方について、ポンプシステム200は、手動または自動で操作されうる。
【0096】
本発明の一実施形態では、検出装置300が、可動支持体に取り付けられた顕微鏡システムを有する光学装置により構成されている。光学装置の解像度は、対象となるすべての小体420の画像を取得するように設計され、そのサイズおよび形状を処理するのに十分な詳細レベルに達している。可動支持体は、プロセッサ500により沈降チャンバ100における小体420の運動に追従するように誘導されるので、観察される落下長さは、小体420の終端速度の信頼できる処理を得るために十分な数のポイントを測定するのに十分な長さとすることができる。同様に、他の実施形態では、可動支持体が、小体420が検出装置300の作動範囲に留まるように、沈降チャンバ100を移動させるように構成されている。
【0097】
他の実施形態では、検出装置300は、様々な倍率をサポートすることができる光学系を構成する。例えば、これは、機械的に駆動される光軸により実現される。プロセッサ500は、検査中の特定の小体420に対して適当な倍率を選択し、かつ、小体420の幾何学的特性を測定するための分解能と視野のサイズとの間の適切なバランスを選択することが可能である。後者は、小体420の終端速度を推定処理するのに十分なサイズである必要がある。
【0098】
他の実施形態では、可動部品の助けを借りることなく、特定の小体420を測定するための適当な倍率を選択することが可能である。当該実施形態では、沈降チャンバ100は複数の流路からなり、検出装置300は異なる流路のそれぞれを異なる倍率でモニタリングする。測定に先立ち、検出装置300は小体420を認識し、プロセッサ500が適当な流路に導入するように制御する。流路の構造は、小体420の多様性に応じた異なる構成で実現することができる。実際には、サイズ、断面積および形状が変更可能であり、特に流路の長さが変更される。これにより、比較的大きな小体420は比較的長い流路に導入され、比較的大きな視野の確保のために比較的低い解像度で観察される。これとは逆に、比較的小さな小体420は比較的短い流路に導入され、比較的小さな視野の確保のために比較的高い解像度で観察される。
【0099】
当該実施形態の変形例では、沈降チャンバ100に小体420を導入するための機構は、流体マルチプレクサである。当該実施形態のさらなる変形例では、沈降チャンバ100は、独立した流量調節機構(例えば開閉バルブ271a、271b、271c)に接続されている複数の流路(例えば110a、110b、110c)を備えている(図8参照)。すべての流路は、流体装置において並列に接続されている。この場合、検出装置300は、分岐に到達する前に、光学的にアクセス可能な流路150において小体420を認識し、バルブの動作制御により小体420が導入される流路を選択する。当該実施形態の別の変形例では、オペレータにより、入口流路210に配置された流路切替バルブが操作されることにより、測定に使用される流路が手動で選択される。
【0100】
特に大きな小体420の運動を測定するための他の方法は、検出装置300が沈降チャンバ100における異なる目標位置における小体420の通過を認識することができる、他の測位方法からなる。目標位置の間隔および測位システムによりカバーされる全体的な距離は、小体420の終端速度を正確に推定するために調節されうる。小体420の終端速度は、移動した距離を経過時間で割ることによって決定される。
【0101】
流体装置および関連する方法の技術的な実施例において、検出装置300は、沈降チャンバ100の目標位置ごとに専用の複数の画像認識システムを備えている。後者は、終端速度の測定に寄与することに加えて、小体420の形状およびサイズに関する情報を収集する。他の技術的な実施例において、検出装置300は、沈降チャンバ100の目標位置(例えば、図9の115a、115bおよび115c)に配置されている一連のセンサ(例えば、図9の315a、315bおよび315c)と、小体420の形状およびサイズ情報を収集するための独立した画像認識システム320と、を備えている。
【0102】
特に大きな小体420の運動を測定できるようにするためのさらなる方法は、分析媒体の質量密度および粘度に作用させることからなる。例えば、本発明の一実施形態では、システムは、分析される小体420のタイプに応じた特定質量密度、特に、小体420の集合の平均質量密度(例えば、SW620スフェロイドの場合、1035fg/μm3)に対応する、分析媒体450を収容するように構成されている。したがって、小体420に作用する全ての力、すなわち重力および静水圧力の合力は、当該小体420の質量密度に応じて下向きまたは上向きになる。したがって、流れのない状態での測定過程において、分析媒体450における高密度の小体420は下方に移動する傾向があり、低密度の小体420についてはその逆である。
【0103】
当該実施形態において、プロセッサ500および関連する処理アルゴリズムは、下降または上昇終端速度を計算するように適合されている。さらに、流れ生成システム230は、重力ベクトルに対する流れおよび重力ベクトルに逆らう流れの両方を沈降チャンバ100の内部に生成することができる。これにより、試料をその終端速度に関して反対方向に移動させることができ、ひいては繰り返し測定が可能になる。同様に、本発明の他の実施形態では、システムは、高粘性の分析媒体450を収容するように適合され、これにより、小体420の終端速度を低下させる。
【0104】
本発明の他の実施形態において、流体装置は、異なる質量密度を有する一または複数の分析媒体450を変更するように構成されている。当該実施形態における流体装置の構成は、図2に示されている構成と同じであり、ポンプシステム200は、システムに導入される新しい分析媒体450を選択するように構成されている。この場合、検出装置300は、小体420の終端速度を測定し、小体420の終端速度が減少するように分析媒体450を調節するためにポンプシステム200を作動させる。このプロトコルは、小体420の終端速度が容易に検出および測定可能な程度に低下するまで繰り返し可能である。
【0105】
本発明の実施形態およびその一部の実施例に関して、多数の球状の小体420の集合の質量密度、重量、サイズおよび/または形状の複合測定を実行するための方法および関連ツールが説明された。しかし、前述の試料を含む生物医学分野で使用される生物学的試料の多くは、真球度が真球から多少ずれていることがある。特に、スフェロイドおよびオルガノイドの場合、真球度は主に、凝集体自体の形成・成熟過程における組成の局所的変動および/または細胞活性の変動に依存する。個々の細胞は、例えば細胞骨格の内部構造、細胞外マトリックスの不均一な外圧、あるいは、硬質の細胞構造の存在などにより、球形からわずかに変化することがある。そこで、以下では、小体420の3次元形状が球形から外れる場合を考慮した、本発明の変形例を開示する。
【0106】
小体420が球状である場合、その半径に対する摩擦係数を計算するための多くの検出方法およびアルゴリズムが利用可能であるのとは異なり、小体420が非球状である場合、より複雑であって前述の理論の一般化が必要である。
【0107】
具体的には、関係式(1)および(2)は以下の関係式(1b)および(2b)のように一般化される。
【0108】
T=(ρp-ρl)Vpg/k ‥(1b)。
【0109】
ρp=(vTk/Vpg)+ρl ‥(2b)。
【0110】
この形式では、摩擦係数kおよび体積Vpの両方が、小体420の形状および配向に依存する。摩擦係数kを近似的に求めるために、物体の幾何学的特徴を精緻化した理論に関する多数の文献がある。幾何学的特徴としては、楕円度または検査対象の小体420と同じ体積を有する球の表面積と小体420の実表面積との比率が挙げられる。また、摩擦係数kは、小体420の完全な3次元形状がわかっていれば、理論的には数値流体力学シミュレーションによって算出可能である。
【0111】
したがって、本発明の実施形態の文脈で使用される「半径」という用語は、小体420が球状である場合の幾何学的半径を意味する。しかし、半径という用語は、「有効半径」として理解されるべきであり、略球状または非球状の小体420を表わす1次元の幾何学的特徴を意味するために使用されてもよい。例えば、半径という用語は、重心から表面における点までの平均距離として、あるいは周長に対する2次元面積の比率の2倍として、あるいはフェレット半径(周長が2πで除算されたもの)として理解されてもよい。
【0112】
したがって、前述のように、本発明の実施形態の文脈で使用される「形状」および「サイズ」という用語は、その2次元または3次元の幾何学的形状を表すかまたは近似するために用いられる、小体420の任意の幾何学的記述として意図されている。例えば、小体420が球状である場合には半径の指標値として、小体420が略球状または非球状の場合には他の幾何学的特徴の指標値として理解される。
【0113】
さらに、それに応じて、本発明の実施形態の文脈で使用される用語「質量密度」または単に「密度」は、小体420が球状である場合には、体積に対する質量の比として理解される。しかし、当該用語は、「有効質量密度」を意味するために用いられてもよく、前述した密度の定義に加えて、小体420が略球状または非球状である場合の楕円度および表面粗さなどの形状因子に依存する変数を含む概念である。
【0114】
同様に、本発明の実施形態の文脈で使用される用語「重量」は、小体420が球状である場合、重力質量として理解される。代わりに、小体420が非球状または略球状である場合、「有効重量」として意図されている。「質量密度」の用語について与えられた説明と同様に、「有効重量」の用語は、楕円度および表面粗さなどの形状因子に依存する変数を含む概念である。
【0115】
本発明の異なる実施形態で既に説明したように、同じ小体420の異なる測定の実行は、結果の信頼性を高めることを可能にする。小体420が球状である場合、得られる統計的分布は、専ら測定の不確かさに関連するものである。逆に、小体420が略球状または非球状である場合、当該小体420のサイズおよび形状を記述するために終端速度の測定の実験分布が用いられる。当該実施形態の変形例では、終端速度の標準偏差は、小体420の楕円率を決定するためのパラメータとして用いられる。この情報は、例えば、薬剤開発のためのモデルとして使用される、均一なスフェロイドの生成および選択に関連するものである。当該実施形態の異なる変形例において、測定から得られたデータの分布の非対称性は幾何学的対称性に関連付けられ、尖度指数は形状の不均質性に関連付けられ、マルチモードは小体420の2次元投影分布に関連付けられる。
【0116】
本発明の実施形態の更なる実施例では、例えば断層撮影アルゴリズムの使用によって、その3次元再構築結果を得るために小体420の画像が処理される。当該再構築結果は、摩擦係数の計算のための計算ツールによって処理される。この方法により、略球状または非球状の小体420の質量密度の絶対値の測定が改善される。
【0117】
特に、小体420の3次元形状の再構築結果を得るため、または、その形態学的な特徴付けを改善するために、異なる技術的な実施形態が採用可能である。
【0118】
本発明の実施形態の特定の実施例において、検出装置300は、デュアルカメラシステムを有している(図10参照)。沈降チャンバ100に対して相互に垂直なカメラの向きにより、2つの異なる角度から小体420の画像が確実に取得される。3次元モデルの取得のために当該画像はプロセッサ500により処理される。
【0119】
逆に、単一の画像取得システムが使用される場合、異なる光学的、流体的または機械的方法が採用されうる。例えば、本発明の実施形態の別の実施例において、流体装置は、沈降チャンバ100の後壁の近くに配置され、検出装置300に対して所定角度で傾斜している2つの光学ミラー113および114を有している(図11参照)。フロントカメラは、ミラー113および114からそれぞれ得られる小体430および440の反射像が含まれように焦点面を維持する。当該実施例により、小体420の異なる空間的視点からの画像が同時に収集され、その3次元再構築のためにそれらが使用されうる。
【0120】
本発明の実施形態の他の実施例では、流体装置は、小体420の複数の画像を取得するように構成されている。この実施例では、検出装置300は、複数の画像の取得によって小体420を走査できるように焦点面が調節される少なくとも1つのカメラにより構成されている。当該収集された複数の画像は、プロセッサ500により、デコンボリューションなどの画像フィルタの適用を通じて処理され、小体の3次元再構築が実行される。他の画像積層技術、ホログラフィック顕微鏡法またはライトシート顕微鏡法などの小体420の3次元再構築のさらなる実施形態が実装されていてもよい。
【0121】
本発明のさらなる実施形態では、図12に示されているように、検出装置300は、沈降チャンバ100の周囲を周回する画像取得システムにより構成されている。本実施形態の具体的な実施例において、沈降チャンバ100は円筒形である。これは、3次元再構築のために、断層再構築を通じて処理される、小体420の異なる角度からの画像を取得することを可能にする。当該実施例において、検出装置300の回転によって求められる小体420の位置の測定における不確実性を減少させるため、沈降チャンバ100の近くで基準マークが使用される。同じ方法を用いて、検出装置300の可動部分を含む他の任意の実施例において導入される不確実性の最小化が図られる。当該実施形態の変形例において、回転する検出装置300は鉛直方向に運動し、その終端速度と相関して試料の運動に追従するように構成されている。前記実施形態および方法では、小体420の3次元再構築結果を得るために再配置された、既知の技術が採用されている。それにもかかわらず、本明細書に開示されていない他の既存の解決方法が本発明の実施形態と組み合わせられてもよい。
【0122】
ここまでは、本発明の方法、技術および主な使用モードが説明された。しかし、そのさらなる利点を示すために、本発明の異なる使用例が本明細書で介意される。
【0123】
例えば、いくつかの代替案は、ハイスループット分析(生成されるデータの量の増加)のために導入される小体420の集合の複合測定、薬剤試験などの用途に関連する小体420の培養および長期間にわたる分析、ならびに、医療用途または生物モデルの標準化に関連する小体420の分類に関するものである。
【0124】
生物分野においては、多数の単一細胞または集合の研究から得られるハイスループット解析が非常に重要である。例えば、検査対象である集合の不均一性などの情報により、生物学的試料に存在する亜集合の特異的な挙動が理解されうる。実際、このような挙動は、集合全体の平均値から顕著なばらつきを持つ傾向があることが多く、重要な識別解析因子となる。現在では、母集合に含まれる各個体の質量密度、重量、サイズおよび形状を測定するための機器は市販されていない。
【0125】
本発明は、先行技術におけるこの欠点の解決方法を提供し、流体装置の実施を通して、小体420の集合の統計分析に必要なデータの(外挿法による)推定を一般的に可能にする。ここで、プロセッサ500が検出システム300から受け取る小体データが、多数の小体420に関連し、かつ、複数の小体420の速度、形状、位置およびサイズのうち少なくとも1つを含んでいる。具体的な実施形態において、図2において説明されたのと同じ方式が採用され、検出システム300が顕微鏡システムにより構成され、プロセッサ500に接続されている。この実施形態では、集合を構成する各小体420の質量密度、重量、サイズおよび形状が同時に測定されうる。前述の主な使用方法と同様に、分析媒体450に含まれる小体420は、タンク400により集められ、ポンプシステム200の入口流路210を通して導入される。そして、流れ生成装置230が作動されることにより沈降チャンバ100に小体420が誘導され、その後で流れが停止され、重力による小体420の落下の間に分析が実行される。この特定の使用モードでは、検出装置300は、測定中に沈降チャンバ100の内部に存在する各小体420を同時にモニタリングするように構成されている。集合の各構成要素の終端速度およびサイズは、沈降チャンバ100の内部でモニタリングされた各小体420が指標化されることにより計算される。これにより、各小体420の情報が維持されたまま、複数回にわたり測定が繰り返された後に、集合の質量密度、重量、サイズおよび形状などの分布が推定されうる。
【0126】
他の実施態様では、より大量のデータが、沈降チャンバ100の特定の幾何学的形状により得られる。図示された装置では、沈降チャンバ100またはこれを構成する流路110は直線状であって曲線的ではないが、これに代えて沈降チャンバ100は曲線的な幾何学的形状を有していてもよい。当該実施形態において、沈降チャンバ100は、例えば、分析が実行されるいくつかの鉛直部分が検出装置300によってモニタリングされうるように、蛇行構造を有する単一の流路を有していてもよい。本発明の実施形態に適用される高いスループットは、分析対象である小体420の集合の統計的分布のような重要なデータを外挿することを可能にする。例えば、正規(またはガウス)分布は、集合の均質性についての情報を提供する。したがって、このような分布の標準偏差の分析は、試料の品質の定義に関連付けられる。これは、例えば、細胞データベースの場合に重要であり、利用可能な試料の品質が保証されうる。逆に、二峰性または多峰性の分布(複数のピークを有する分布)により、異なる亜集合または分類の存在が特定されうる。例えば、不均質な集合に存在する様々な細胞株に関する情報が提供され、あるいは、均質な集合の場合にはライフサイクルの異なる段階にある細胞が区別されうる。さらに、やはり薬学的治療を受ける均質な集合の場合、統計的分布の正規分布から二峰性または多峰性への差分によって、例えば、薬物の浸透および/またはその効力が識別されうる。
【0127】
本発明の他の態様は、閉ループ式の流体システムを通じて、沈降チャンバ100において小体420を浮遊させ続けることができる装置によって、分析媒体450の廃棄を回避することを目的としている。これは、長期間にわたる市販前の医薬品の特性評価段階など、高価な分析媒体450が使用される用途において特に重要である。
【0128】
本発明のさらなる実施例として、単一細胞または細胞凝集体の培養および時系列的な同時分析に関連している。当該実施例によれば、生物医学分野および臨床医学分野において大きな関心を集めている。例えば、薬物治療中の試料の物理的特性の変化をモニタリングすることは、薬学分野において、個別化医療、腫瘍学および人工授精などに応用される。
【0129】
本実施例は、数週間までの所望の期間、小体420の質量密度、重量、サイズおよび/または形状を測定するための装置およびそれぞれの方法からなる。さらに、この方法は非破壊的であり、分析のために選択された特定の小体420は、さらなる調査のために分析後に適切に回収される。
【0130】
図2および図3に示されている流体装置では、ポンプシステム200は直線状であるが、ポンプシステム200は、ポンプシステム200および沈降チャンバ100における液体の循環のための、一または複数の液体再循環システムおよび一または複数の流れ生成システムを備えていてもよい。図13に示されている実施例では、ポンプシステム200は、さらなる再循環流路250と、本明細書では再循環装置240と呼ばれる2次ポンプシステムと、を備えている(図13参照)。小体420を流体装置に導入するためのプロトコルは、先に説明したものと同様である。分析媒体450に含まれている小体420は、タンク400から導出され、入口流路210を介してポンプ装置200に導入される。流れ生成システム230は、検出装置300によってモニタリングされる沈降チャンバ100に小体420を導入するために作動される。ポンプシステム200は、沈降チャンバ100と環状に接続された再循環流路250と、再循環装置240と、を備えている(図13参照)。再循環装置240は、検出システム300から得られた小体データに基づいて制御される環状の流れの生成を通じて、小体420を沈降チャンバ100に保持するようにプロセッサ500によって起動される。再循環流路250は、分析媒体450の再利用を可能にし、その支出を最小限に抑えるという利点を有する。
【0131】
本発明の実施形態の実施例では、主分析媒体450が一または複数の異なる分析媒体451に置換される前後において、小体420の質量密度、重量、サイズおよび形状の測定が可能である。当該実施例において、ポンプシステム200は、一または複数の付加的なタンクに対する液体および/または小体420の導入または導出のために沈降チャンバ100に連通している一または複数の2次流路をさらに備えている。2次流路は、沈降チャンバ100に直接的に接続されていてもよく、または、入口流路210または2次流体回路を介して接続されていてもよい。本実施形態の具体的な実施例において、図2に開示されている流体装置の変形例が採用される。小体420は、ポンプ装置200を介して、沈降チャンバ100における第1分析媒体450に導入され、その内部に浮遊した状態に維持される。当該実施例において、ポンプシステム200は、新たな第2分析媒体451を含む第2タンク401に接続されているバッファ交換用の2次流路260を備えている(図14参照)。当該システムによれば、2次流路260を介して、新たな分析媒体451が沈降チャンバ100に導入されうる。主分析液450の交換の間、小体420は沈降チャンバ100の内部に保持される。数回繰り返されることにより、この手順は、沈降チャンバ100および再循環流路250の両方において分析媒体450、451が完全に交換される。この実施形態の特定の変形例では、バッファ交換用の2次流路260と入口流路210との間の接合部に切替バルブ270が設けられている。当該実施形態の他の変形例では、システムは、新たな第2分析媒体451を含む第2タンク401から第1タンク400への手動または自動の切り替えにより、小体420が導入されるのと同じ入口流路210を通じて第2分析媒体451が導入されるように構成されている。当該実施例のさらなる変形例では、ポンプシステム200は、バッファ交換用の2次流路260(図14参照)、再循環流路250および再循環システム240(図13参照)を備えている。当該変形例においては、数日または数週間の期間であっても、小体420の質量密度、重量、サイズおよび/または形状の測定が実行可能であり、その間に小体420が保持され分析される液体の交換が可能である。当該実施例の組み合わせは、実際、異なる用途に有利である。例えば、分析媒体450が頻繁に交換されながら、長期間にわたり小体420の取り扱いが可能である。そうすることで、各回の交換に際して、例えば薬物の毒性分析のための薬物の濃度など、第1液体とは異なる特徴を有する第2液体の導入が可能である。逆に、治療をより激しくし、第1分析媒体とは著しく異なる特徴を有する第2分析媒体が導入され、そのような変化に対する小体420の反応がモニタリングされてもよい。本発明の一実施形態において、イオン強度が異なる複数の分析媒体450のそれぞれを経験した同一の小体420が分析される。当該実施形態によって、イオン強度が小体420に及ぼす影響の測定が可能である。いくつかの使用方法において、的確な分析媒体450の使用は、この実施形態の実施にとって重要な側面である。小体420が半透膜を有する場合(例えば、それが単一細胞またはスフェロイドである場合)、等浸透圧分析媒体(例えば、0.9%w/vの細胞用PBS)により天然の小体420の質量密度の測定が可能である。本発明の異なる実施形態では、分析媒体450は、小体420と等浸透圧でなく、小体420に対するイオン強度の影響が測定されうる。
【0132】
本発明の異なる実施形態では、小体420を処理するために使用される一連の分析媒体450は、そのサイズ、体積、質量密度および/または重量に影響を与える可能性がある薬剤または他の生物学的な活性化合物を含んでいてもよい。この場合、システムは、細胞、スフェロイドまたはオルガノイドに対する化合物の効果を測定する。バルク密度および生体試料サイズがモニタリングされた潜在的な結果が図15のグラフに示されている。ここで、小体420は球状であるとみなされ、そのサイズが直径としてプロットされている。この実施例では、スフェロイドの成熟段階、および、薬物との相互作用に要する時間を認識することを目的としている。このグラフでは、時刻T1に達するまで、小体420の直径および質量密度の両方が増加している。その後、密度は増加し続けるが、直径は安定化することが確認された。これは、密度が平坦状態または安定状態に達する時刻T2までの圧縮段階を示し、このときスフェロイドは分析媒体450を変更するための理想的な成熟状態にある。時刻T3は、薬物の導入時刻であり、その後の傾向は当該薬物の効果を示している。このように、密度および直径の経時変化を観察・比較することで、薬物との相互作用に関する貴重な情報を収集することが可能である。
【0133】
当該実施形態の変形例は、培養と長期的な小体420の分析との組み合わせに関するもので、分析媒体450を変更するための解決方法を提供する。実際、科学研究のさらなる重要な側面は、pH、イオン強度、培養液中の成長因子の変化または薬理学的薬剤および/または化学物質による特定の処理の間など、その周囲環境の変化中に試料をモニタリングする可能性に関係する。
【0134】
本発明の実施形態のさらなる使用態様によれば、小体420の選別、すなわち、小体420の亜集合の編成および選別が可能になる。当該使用態様は、特定の特性または幾何学的特徴に基づく小体420の部分集合の収集が可能になるため、生物医学分野において重要である。細胞の選別は、医学、薬学および科学研究分野の全般において一般的に実施されている。例えば、再生医療および個別化医療のほか、抗がん剤治療およびウイルス学などの分野である。現在の細胞選別法によれば、タンパク質マーカの有無または特定の生化学的相互作用などの要因に基づいて試料が選別されている。しかし、質量密度、重量、サイズおよび形状に基づき、広範囲の試料の選別が可能な技術は現在のところ存在しない。したがって、本発明の他の実施例は、これらの特性の同時測定に基づく小体420の選択的選別のための方法および関連する装置に関する。
【0135】
当該実施例の特定の実施形態において、沈降チャンバ100は、本明細書では選別のための2次流路280と呼ばれるポンプシステム200の特定箇所に順に連通している回収流路120に対して接続される分岐路を有している(図16参照)。入口流路210および2次流路280の両方は、バルブ270および290のような流量調節機構によって制御される。本実施形態では、バルブ290が閉じられ、バルブ270が開かれたまま、入口流路210を通じて小体420が沈降チャンバ100に導入される。前記実施形態において説明されたように、小体420の測定の終了後、質量密度、重量、サイズおよび形状に基づき、試料を選別するための結果が評価される。そして、バルブ270が閉じられ、バルブ290が開かれたまま、ポンプシステム200が作動されて、選別された小体420が回収流路120および2次流路280を通過させて、最終的にタンク700に到達するように回収される(図16参照)。
【0136】
本実施形態の変形例では、小体420は、専ら質量密度に基づいて選択かつ区分される。これは、科学的試験の不均一性を減少させることに関連し、例えば、同様の圧縮度を有するスフェロイドの亜集合の選択および収集が可能となる。本実施形態の他の変形例では、収集された小体420の選択のために、いくつかの測定パラメータが組み合わせられてもよい。例えば、測定された直径の標準偏差および終端速度のような特徴は、その真球度の程度にしたがって小体420を選別するために使用されうる。この特定の応用例は、スフェロイドの異なる均質なバッチにおける薬物の拡散試験に関連し、薬物が核に到達するまでの時間に関する情報が提供されうる。同じ応用例により、多数の細胞層を効率的に横断するために必要な薬物の濃度に関する情報が提供され、その毒性に関する研究の実行が可能になる。
【0137】
本実施形態のさらなる変形例では、選別に使用されるパラメータおよび限界値は、例えば、ユーザによって定義され、データベースから抽出され、または、集合における小体420の類似ファミリーを選別する教師なしアルゴリズムによって自動的に定義されうる。
【0138】
本発明のさらなる側面は、特に研究室における使用から大規模な医療および産業用途に移行する際の、手動から自動への遷移の重要性に関する。本発明によれば、ハードウェア部品の数が少ないため、既存の装置を利用して容易に自動化が可能である。当該部品は、既存の技術で容易に小型化可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】