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特表2023-520996電気特性を決定するための測定装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】電気特性を決定するための測定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/389 20190101AFI20230516BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R27/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558275
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(85)【翻訳文提出日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2021057458
(87)【国際公開番号】W WO2021191216
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】2050319-9
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522376818
【氏名又は名称】リーン コンサルティング アー・べー
【氏名又は名称原語表記】LEEn Consulting AB
【住所又は居所原語表記】Orngatan 32, 582 39 Linkoping, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラース エリクソン
【テーマコード(参考)】
2G028
2G216
【Fターム(参考)】
2G028BE04
2G028CG08
2G028DH04
2G028DH11
2G216AB01
2G216BA51
2G216BA56
(57)【要約】
本発明は、電気装置、例えばバッテリセル(10,C)の第1の端子(11)および第2の端子(12)に接続されており、電気装置(10,C)の少なくとも1つの電気特性を決定するように構成された測定装置(5,6)に関する。測定装置(5,6)は、電気装置が第1の端子(11)および第2の端子(12)に接続されたときに、電気装置(10,C)を測定回路(30,31)に接続するように構成されたインピーダンス測定装置(20,21)を備え、インピーダンス測定装置(20,21)は、測定回路(30,31)を介して時変試験電流(Itest)を提供し、時変試験電流(Itest)が提供されている間に、電気装置(10,C)上の電圧(Ucell)を測定し、測定回路(30,31)において、測定された電圧(Ucell)と時変試験電流(Itest)との間の位相シフトおよび振幅比を決定するようにさらに構成されており、時変試験電流(Itest)は、複数の重畳された離散周波数を含み、前記離散周波数は、周波数範囲にわたって分布され、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気装置、例えばバッテリセル(10,C)の第1の端子(11)および第2の端子(12)に接続されており、前記電気装置(10,C)の少なくとも1つの電気特性を決定するように構成された測定装置(5,6)において、
前記測定装置(5,6)は、前記電気装置が前記第1の端子(11)および前記第2の端子(12)に接続されたときに、前記電気装置(10,C)を測定回路(30,31)に接続するように構成されたインピーダンス測定装置(20,21)を備え、
前記インピーダンス測定装置(20,21)は、
前記測定回路(30,31)を介して時変試験電流(Itest)を提供し、
前記時変試験電流(Itest)が提供されている間に、前記電気装置(10,C)上の電圧(Ucell)を測定し、
前記測定回路(30,31)において、前記測定された電圧(Ucell)と前記時変試験電流(Itest)との間の位相シフトおよび振幅比を決定する
ようにさらに構成されており、
前記時変試験電流(Itest)は複数の重畳された離散周波数を含み、前記離散周波数は、周波数範囲にわたって分布し、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離されている
ことを特徴とする、測定装置(5,6)。
【請求項2】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記決定された位相シフトおよび振幅比に基づいて、前記電気装置(10,C)の内部インピーダンスを計算するように構成されている、請求項1記載の測定装置(5,6)。
【請求項3】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記測定回路(30,31)における前記試験電流(Itest)を測定するように構成されている、請求項1または2記載の測定装置(5,6)。
【請求項4】
前記測定回路(30,31)を通して提供される前記時変試験電流(Itest)が、少なくとも、前記測定回路(30,31)を通る電流が特定の電流振幅で集中した直流成分を形成する第1の成分と、時変試験刺激信号(Iin)であって、前記第1の成分と組み合わされたときに前記時変試験電流(Itest)の時変を発生させる第2の成分とを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項5】
前記時変試験電流(Itest)の前記第1の成分が、前記電気装置(10,C)から引き出される、請求項4記載の測定装置(5,6)。
【請求項6】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記時変試験刺激信号(Iin)を生成するように構成された電流刺激回路(OA1,T)を備える、請求項4または5記載の測定装置(5,6)。
【請求項7】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記時変試験電流(Itest)を実現するために前記時変試験刺激信号(Iin)を有効化するように構成されたトランジスタ(T)を備える、請求項4から6までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項8】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記測定回路(30,31)における前記試験電流(Itest)を表す信号(Iout)を生成するように構成された電流センシング回路(RL+I,R,OA2)を備える、請求項1から7までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項9】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記第1の端子(11)と前記第2の端子(12)との間の電圧(Ucell)を測定するように構成された電圧センシング回路(D)を備える、請求項1から8までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項10】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記電流刺激回路(OA1,T)、前記電流センシング回路(RL+I,R,OA2)および前記電圧センシング回路に接続されたデータ取得装置(D)を備え、
前記データ取得装置(D)が、前記試験電流(Itest)および前記電圧(Ucell)に基づいて、前記電気装置(10,C)の内部インピーダンスを計算するように構成された計算回路を備える、
請求項6、8および9のいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項11】
前記インピーダンス測定装置(20,21)が、前記測定回路(30,31)における前記試験電流(Itest)を表す前記信号(Iout)を測定し、該信号(Iout)を前記時変試験刺激信号(Iin)と比較し、前記測定回路(30,31)における前記2つの信号(Iout,Iin)間の一致を改善すべく、前記トランジスタ(T)への入力電圧を調整するように構成されたフィードバックループを備える、請求項7および8記載の測定装置(5,6)。
【請求項12】
前記時変試験電流(Itest)が、10mHz~100kHzの区間内の少なくとも1つの離散周波数を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項13】
前記時変試験電流(Itest)が、10mHz~100kHzの区間内の複数の重畳された離散周波数を含む、請求項12記載の測定装置(5,6)。
【請求項14】
隣接する周波数が最小周波数間隔fd,minにより分離されており、ここで、fd,min≧4=4/T、好ましくはfd,min≧8=8/T、より好ましくはfd,min≧10=10/Tであり、f=1/Tであり、Tは、前記時変試験電流(Itest)が提供されている総時間である、請求項1から13までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項15】
前記複数の重畳された離散周波数が、最も低い周波数f1と、少なくとも1つのより高い周波数f2,f3...fとを含む周波数系列を形成し、
前記周波数系列における前記より高い周波数f2~fのうちのいずれか1つを周波数f1で除算しても整数を生じない、
請求項1から14までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項16】
f1が、f1=N1/T(式中、N>2)となるように、前記時変試験電流を提供する総時間Tに関連付けられる、請求項15記載の測定装置(5,6)。
【請求項17】
Nは素数である、請求項16記載の測定装置(5,6)。
【請求項18】
前記複数の重畳された離散周波数が、少なくとも10、好ましくは少なくとも100の離散周波数を含む、請求項1から17までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項19】
前記時変試験電流を提供するための総時間Tが100秒以下である、請求項1から18までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項20】
離散周波数と上側または下側の隣接する離散周波数との間の信号エネルギが、前記2つの隣接する離散周波数のうちの1つの信号エネルギの<10%、好ましくは<1%、またはより好ましくは<0.1%である、請求項1から19までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項21】
離散周波数と上側または下側の隣接する離散周波数との間の信号エネルギがゼロであるかまたはゼロに近い、請求項1から20までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項22】
前記測定装置(5,6)が、製造ラインまたは組み立てラインの機械/ロボット(7,8)に組み込まれている、請求項1から21までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項23】
前記第1の端子(11)および第2の端子(12)がそれぞれ、バッテリセル(10,C)の正極および負極を形成している、請求項1から22までのいずれか1項記載の測定装置(5,6)。
【請求項24】
電気装置、例えばバッテリセル(10,C)の少なくとも1つの電気特性を、測定装置(5,6)を前記電気装置(10,C)の第1の端子(11)および第2の端子(12)に接続することにより決定するための方法において、
前記電気装置(10,C)を、前記測定装置(5,6)に配置されたインピーダンス測定装置(20,21)の測定回路(30,31)に接続するステップと、
前記測定回路(30,31)を介して時変試験電流(Itest)を提供するステップと、
前記時変試験電流が提供されている間に、前記バッテリセル(10,C)上の電圧(Ucell)を測定するステップと、
前記測定回路(30,31)において、前記測定された電圧(Ucell)と前記時変試験電流(Itest)との間の位相シフトおよび振幅比を決定するステップと
を含み、
前記時変試験電流(Itest)は複数の重畳された離散周波数を含み、前記離散周波数は、周波数範囲にわたって分布し、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離されている
ことを特徴とする、方法。
【請求項25】
前記方法が、
-前記決定された位相シフトおよび振幅比に基づいて、前記電気装置(10,C)の内部インピーダンスを計算するステップ
を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記方法が、
前記測定回路(30,31)における前記試験電流(Itest)を測定するステップ
を含む、請求項24または25記載の方法。
【請求項27】
前記方法が、
少なくとも、前記測定回路(30,31)を通る電流が特定の電流振幅で集中した直流成分を形成する第1の成分を提供し、時変試験刺激信号(Iin)であって、前記時変試験電流(Itest)の時変を発生させる第2の成分を提供し、前記第1の成分および前記第2の成分を組み合わせることにより、前記測定回路(30,31)を介して、前記時変試験電流(Itest)を提供するステップ
を含む、請求項24から26までのいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、
前記時変試験電流(Itest)の前記第1の成分を、前記電気装置(10,C)から引き出すステップ
を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記方法が、
前記時変試験刺激信号(Iin)を、電流刺激回路(OA1,T)により生成するステップ
を含む、請求項27または28記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、
前記インピーダンス測定装置(20,21)に配置されたトランジスタ(T)において、前記時変試験刺激信号(Iin)を受信するステップと、
前記時変試験電流(Itest)の前記第1の成分を、前記トランジスタ(T)により制御するステップと
を含む、請求項27から29までのいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、
前記測定回路(30,31)における前記試験電流(Itest)を表す信号(Iout)を、前記インピーダンス測定装置(20,21)に配置された電流センシング回路(RL+I,R,OA2)により生成するステップ
を含む、請求項24から30までのいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、
前記電気装置(10,C)上の前記電圧(Ucell)を測定しながら、前記測定装置(5,6)が組み込まれた製造ラインまたは組み立てラインの機械/ロボット(7,8)により、前記電気装置(10,C)を把持しかつ/または持ち上げるステップ
を含む、請求項24から31までのいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記提供される時変試験電流(Itest)における隣接する周波数が、最小周波数間隔fd,minにより分離されており、ここで、fd,min≧4=4/T、好ましくはfd,min≧8=8/T、より好ましくはfd,min≧10=10/Tであり、f=1/Tであり、Tは、前記時変試験電流(Itest)が提供されている総時間である、請求項24から32までのいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記複数の重畳された離散周波数が、最も低い周波数f1と、少なくとも1つのより高い周波数f2,f3...fとを含む周波数系列を形成し、
前記周波数系列における前記より高い周波数f2~fのうちのいずれか1つを周波数f1で除算しても、整数を生じない、
請求項24から33までのいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
f1が、f1=N1/T(式中、N>2)となるように、前記時変試験電流を提供する総時間Tに関連付けられる、請求項34記載の方法。
【請求項36】
Nが素数である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記複数の重畳された離散周波数が、少なくとも10、好ましくは少なくとも100の離散周波数を含む、請求項24から36までのいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記時変試験電流(Itest)が、100秒以下の期間Tの間に提供される、請求項24から37までのいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
離散周波数と上側または下側の隣接する離散周波数との間の信号エネルギが、前記2つの隣接する離散周波数のうちの1つの信号エネルギの<10%、好ましくは<1%、またはより好ましくは<0.1%である、請求項24から38までのいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
離散周波数と上側または下側の隣接する離散周波数との間の信号エネルギがゼロであるかまたはゼロに近い、請求項24から39までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気装置、例えば、バッテリセルの第1の端子および第2の端子に接続され、電気装置の少なくとも1つの電気特性を決定するように構成された測定装置に関する。特に、本発明は、電気装置の複素インピーダンスの測定に関する。また、本発明は、電気装置の少なくとも1つの電気特性を決定するための方法に関する。
【0002】
発明の背景
さまざまな用途において、例えば、電気自動車もしくはハイブリッド車の電力供給のためまたは定置用電源として使用するために、複数のバッテリセルから構成されるバッテリパックを使用することについての関心が高まっている。現在、Liイオン型のセルに特に焦点が当てられている。
【0003】
典型的には、バッテリパック中の個々のセルが、例えば、生産のばらつきに起因して、幾らか異なる容量を有し、異なるレベルの充電状態(SOC)である、などの場合がある。ほとんどのバッテリパックは、例えば、個々のセルの過充電を防止し、電力出力を向上させ、バッテリパックの寿命を延ばすために、バッテリ管理システム(BMS)または少なくとも何らかの形での平衡化回路を備える。一般的には、個々のセル同士の特性の相違が可能な限り小さいことが有利である。電池を管理し、平衡化がより容易となり、バッテリパックの機能が改善されるためである。加えて、バッテリパックの充電容量は、通常、最も弱い/最も悪いセルの容量に制限される。
【0004】
高エネルギバッテリの製造中の品質変動を低減するという要望は、製造プロセス中に異なる対策がとられる改善された品質管理概念を提案するSchnellおよびReinhartにより取り上げられている(Quality Management for Battery Production: A Quality Gate Concept, Precedia CIRP 57 (2016) 568-573)。ただし、どの測定を行うべきかまたはどのばらつきを検出すべきかは、正確には明記されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2014/0212730号明細書に、バッテリパックを製造する方法が開示されている。この方法では、セルは、圧力印加後の内部抵抗の測定、特に、内部抵抗の変化に基づいて分類され、これにより、類似の特性を有するセルが選択され、種々の品質のバッテリパックを形成するように、対応するバッテリパックにグループ化される。これは、パックを構成するセルのより均一な性能を有するバッテリパックを形成するための興味深い概念である。しかしながら、圧力試験をどのように行うべきかについては記載されておらず、その概念は、圧力が内部抵抗に特定のまたは一貫した影響を何ら及ぼさないセルにはあまり有用ではなく、また、バッテリセルの「品質」が圧力印加後の内部抵抗より広いまたは同内部抵抗とは別の意味を有する場合にもあまり有用ではない。
【0006】
米国特許出願公開第2013/0317639号明細書は、「バッテリ対象物」(セル、カートリッジ、モジュールまたはパック)の自動確認、検証および後処理に関し、同文献では、例えばバッテリ対象物に種々の試験を行うことが可能な試験ツールを保有するロボット(単体または製造ライン)の使用が提案されている。これらの試験は、開放端子電圧、負荷端子電圧、端子電流、内部抵抗(またはインピーダンス)、極性、絶縁、連続性、短絡の測定および充電/放電測定を含む。この場合、バッテリ対象物は、測定に基づいて等級付けおよび分類などがなされ、全てのデータがそれぞれ異なる方式で報告され、記憶されうる。
【0007】
米国特許出願公開第2013/0317639号明細書では、「インピーダンス」という用語に言及されているが、この用語が、抵抗についての一般的な用語として使用されているのか、または印加される時変電流の周波数により変化する場合がある振幅と位相の両方を有する複素インピーダンスを示すために使用されているのかは、明確ではない。いずれにしても、米国特許出願公開第2013/0317639号明細書には、バッテリ対象物のインピーダンス測定を行う方法についての情報は提供されていない。特に、有用で信頼できるデータを生成することができ、同時に、例えば測定を行うための時間が限られている製造ラインにおいて適切とするのに十分に迅速なインピーダンス測定を行う方法についての情報は提供されていない。
【0008】
バッテリセルの内部インピーダンスの徹底的な測定は有用である場合があることは公知である。バッテリセルの内部についての情報を提供するためである。ただし、このような徹底的な測定は、大きな周波数帯域にわたって正弦波電流をスキャンすることを伴い、これは、(信頼できる結果が望まれる場合)完了に長い時間を要するため、このタイプの方法は、主に研究目的で研究所において使用される。例えば、擬似ランダム2進シーケンス(PRBS)などの信号に基づいて、幾つかのより迅速なオンラインインピーダンス試験方法が提案されているが、これらの方法は一般的にはより大きな測定誤差に関連している。
【0009】
このため、バッテリセルまたは他の類似する電気装置の内部の品質についての信頼できる情報を迅速に提供可能な、特にバッテリセル(パック)製造ラインなどで使用するための、また例えば使用済みバッテリセルの幾つかの用途または分類において既に設置されたバッテリセルを試験するための測定システムおよび方法が、依然として望まれている。
【0010】
発明の概要
本発明は、電気装置、例えばバッテリセルの第1の端子および第2の端子に接続され、電気装置の少なくとも1つの電気特性を決定するように構成された測定装置に関する。
【0011】
この測定装置は、電気装置が第1の端子および第2の端子に接続されたときに、電気装置を測定回路に接続するように構成されたインピーダンス測定装置を備え、インピーダンス測定装置は、測定回路を介して時変試験電流(Itest)を提供し、時変試験電流(Itest)が提供されている間に、電気装置上の電圧を測定し、測定回路(30,31)において、測定された電圧(Ucell)と時変試験電流(Itest)との間の位相シフトおよび振幅比を決定するようにさらに構成されており、時変試験電流(Itest)は、複数の重畳された離散周波数を含み、前記離散周波数は周波数範囲にわたって分布し、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離されている。
【0012】
電圧と電流との間の位相シフトおよび振幅比は、バッテリセルの内部インピーダンスを計算するための基礎を形成する。インピーダンスの最終的な計算は、多くの用途において有用であるが、この最終的な計算を行う必要はない。「生データ」、すなわち、電圧-電流位相シフトおよび振幅比は、既にセルの内部インピーダンスを反映しているためである。
【0013】
セルの内部インピーダンスについての情報は、セルの内部の品質を反映することにとって有用である。例えば、かすかなまたはわずかな電極欠陥を、決定された内部インピーダンス(または決定された「生データ」)を同じタイプのセルについての基準値と比較することにより特定することができる。それ以外の手法ではこのような情報を得ることは困難であり、例えば、セルの電圧または抵抗のみを測定することによっては得ることができない。十分に逸脱したインピーダンスを示すセルを、例えば、製造ラインからソートすることができまたは使用済みセルの中から選択する際に、さらなる使用から除外することができる。これの特定の利点は、セルの最初の使用中に直ちに気付かない場合があるが、例えば、セルの劣化速度を向上させる場合がありまたは組み立て現場への輸送中に明らかになる場合がある欠陥などのわずかな欠陥を有するセルも、早い段階で特定し、製造ラインから取り除くことができることである。セル製造現場では、このようなセルを、製造時に予め取り除くことができ、バッテリパックを組み立てるための現場では、逸脱したまたは不十分なセルをパックに含ませることを回避することができる。インピーダンス特性に基づいて、セルを、後の段階で、同じクラスに属するセルを使用してパックを組み立てることができ、パック内のセルのばらつきを低減し、このため、パックの品質を向上させることができるように、種々のクラスに分類し、ソートすることもできる。
【0014】
時変試験電流は、分析されるバッテリセル(または別の電気装置)のタイプに関心のある周波数に応じて、種々の離散周波数を含む場合がある。セル化学の種々の特性および材料特性は、特定の周波数に応答し、ある特定の特性に関心がある場合、試験電流のエネルギを、対応する周波数に集中させることが可能である。「時変」という用語は、試験電流がある1つ以上の周波数で振動することを意味する。これは、常時DCとは明らかに対照的である。
【0015】
例えば、電気回路の内部インピーダンスを決定するための幾つかの周波数または広い周波数範囲の使用は、インピーダンス分光法と呼ばれる場合があり、それ自体公知である。従来のインピーダンス分光法は、典型的には、回路または構成要素の機能を理解するためまたは劣化の影響などを調査するための研究において使用される。通常、ある単一周波数を有する信号が、毎回印加され、多くの周波数をカバーする場合、分析には、比較的時間がかかる。一般的なインピーダンス分光法において関心のある周波数範囲は、典型的には10mHz~100kHzの範囲であるが、より広い範囲が研究において試験され、一方、より小さい範囲または部分的範囲でも、セル品質についての多くの情報を与えることができる。
【0016】
本発明では、時変試験電流(Itest)は複数の重畳された離散周波数を含み、前記離散周波数は周波数範囲にわたって分布し、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離されている。このため、時変試験電流は、互いに重畳のために分離され、同時に存在する複数の周波数、おそらく数百または数千の周波数を含む。分離は、好ましくは、特定の用途に可能な限り多くの有用な情報を提供するように選択される離散周波数からの応答を、関心のある周波数に近すぎる他の周波数からのスペクトル拡散効果と干渉することなく分析することができるという効果を有する。
【0017】
重畳は、全ての周波数を(種々の周波数による一連のテストを行う代わりに)1回の試験で試験することができるという効果を有する。このため、組み合わされた効果は、インピーダンス分析を迅速に行うことができるが、依然として信頼できる結果をもたらすことである。
【0018】
このため、従来のインピーダンス分光法と比較して、非常に短い測定期間の間に、同等の信頼性を有する結果を得ることができる。
【0019】
他のより短い励振信号、例えば帯域制限ホワイトノイズ、PRBSおよび矩形パルスは、分離された離散周波数の選択を含まないが、代わりに、周波数の連続体または特別な信号に重畳された少なくとも非常に多くの分離されていない周波数から構成される。このような信号では、洗練されかつより高度な復号化方法によっても、各個々の周波数における振幅および位相効果を抽出することがより困難である。
【0020】
少なくとも理論的には、測定回路において生成される時変試験電流は、必ずしも測定される必要はなく、測定回路に印可される信号についての情報から決定することができる。例えば、試験電流の生成に関与する全ての電子構成要素が理論的に完全に機能するかまたは完全に予測可能な形式でのみ信号を変化させる場合、測定回路における電流は、所望の(かつ既知の)制御信号、例えば時変試験刺激信号と同一であるかまたはこの信号の既知の関数を形成する。しかしながら、トランジスタ、増幅器および他の構成要素は、未知の形式で信号を少なくともわずかに変化させる可能性があるため、位相シフトおよび振幅比の信頼できる決定を得るために、測定回路における実際の試験電流を完全に測定することに適している。試験電流の測定により、より安価なハードウェアの使用を提供する試験機器の精度および性能に対する要求も低減される。
【0021】
電圧および電流は、位相と振幅との間の比較を可能にするために、同期されて決定され/測定される。
【0022】
セルの高スループットでの最新のセル製造またはバッテリパック組み立てラインでは、個々のセルについて測定を行うための時間はあまりない。このような製造ラインにおけるインピーダンス測定を依然として可能にするために、本開示では、提供される試験電流において互いに重畳される複数の周波数を含む信号を使用することが提案される。
【0023】
また、例示的な実施形態として、このような信号を、組み立てラインの機械/ロボット、例えば、製造ラインにあるバッテリセルを把持し、持ち上げ、(例えば、セル製造ラインから出荷コンテナへまたはバッテリパックを組み立てるためのラインにおいて、出荷コンテナからバッテリパックへ)移動させるために使用される組み立てラインロボットに測定装置を組み込むことと組み合わせることも提案される。このようにして、インピーダンス測定を、セルまたはパックの製造を妨げないセルの持ち上げ中および移動中に行うことができる。ついで、おそらく20秒の期間が利用可能であるが、この時間ウィンドウを、用途に固有の必要性に応じて、より長くまたはより短く選択することができる。また、試験電流の周波数を、有意義な測定を与えるには低すぎる周波数(すなわち、周波数は、有意義な測定を与えるには長すぎる期間を有しうる)を除外することにより、所与の最大時間ウィンドウに適合させることができる。
【0024】
本開示では、製造ラインステーションという用語は、製造ラインまたは組み立てラインの機械/ロボットを指すだけでなく、例えば、製造ラインに幾らか組み込むことができ、セルの取扱いおよび測定を幾らか自動化することができるインピーダンス測定ステーションを指すためにも使用される。幾つかの変形例では、セルを、手動でまたはある種の把持ロボットにより、製造ラインのやや脇に位置するインピーダンス計測ステーションに輸送することができる。さらに、製造ラインステーションを、例えば複数の測定装置を有することによりまたは対応するセル端子接続を有する複数のインピーダンス測定装置を備えた測定装置を提供することにより、複数のセルを同時に測定するように配置することができる。
【0025】
ただし、測定装置は、必ずしも製造ラインステーションに組み込まれる必要はなく、種々の用途において手動で操作することができる別個の測定ツールとして使用することができる。
【0026】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、決定された位相シフトおよび振幅比に基づいて、電気装置の内部インピーダンスを計算するように構成されている。
【0027】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、測定回路における試験電流を測定するように構成されている。
【0028】
実施形態において、測定回路を通して提供される時変試験電流は、少なくとも、測定回路を通る電流が特定の電流振幅で集中した直流成分を形成する第1の成分と、時変試験刺激信号であって、第1の成分と組み合わされたときに時変試験電流の時変を発生させる第2の成分とを含む。
【0029】
実施形態において、時変試験電流の第1の成分が電気装置から引き出される。このため、外部電源は必要ない。電気装置に電流を駆動させる必要がないためである。これは、典型的には、電気装置が(充電された)バッテリセルである場合に適用される。
【0030】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、時変試験刺激信号を生成するように構成された電流刺激回路を備える。
【0031】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、時変試験刺激信号を受信し、時変試験電流の第1の成分を制御するように構成されたトランジスタを備える。
【0032】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、測定回路における試験電流を表す信号を生成するように構成された電流センシング回路を備える。
【0033】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、第1の端子と第2の端子との間の電圧を測定するように構成された電圧センシング回路を備える。
【0034】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、電流刺激回路、電流センシング回路および電圧センシング回路に接続されたデータ取得装置を備え、データ取得装置は、試験電流および電圧に基づいて、電気装置の内部インピーダンスを計算するように構成された計算回路を備える。
【0035】
実施形態において、インピーダンス測定装置は、測定回路における試験電流を表す信号を測定し、この信号を時変試験刺激信号と比較し、測定回路における2つの信号間の一致を改善すべく、トランジスタへの入力電圧を調整するように構成されたフィードバックループを備える。このフィードバック装置により、トランジスタに固有の非線形特性が補償され、試験電流が試験刺激に追従することが確実となる。
【0036】
実施形態において、時変試験電流は、10mHz~100kHzの区間内の少なくとも1つの離散周波数を含む。好ましくは、時変試験電流は、10mHz~100kHzの区間内の複数の重畳された離散周波数を含む。
【0037】
時変試験電流(Itest)または時変試験刺激信号を設計する場合、考慮すべき2つの制限変数すなわちi)サンプリング周波数fおよびii)時変試験電流(Itest)を提供するための総時間T(すなわち刺激の総持続時間)がある。これらの値は、fがナイキスト周波数f/2である最高到達可能周波数を設定し、一方、Tが最低周波数f=1/T(以下、基本周波数とも呼ばれる)の限界を設定する点で、測定可能な周波数範囲の限界を設定する。これらの限界内で、測定に使用される最低周波数fおよび最高周波数fを、この区間内で選択される複数の周波数と共に選択することができ、これらは、インピーダンスを決定するための測定に使用される周波数である。このため、周波数区間は、f<f/2かつf>fにより制限される。
【0038】
サンプリング周波数fは、関心のある最高周波数の2倍を超えるように選択され、典型的には、50kHz~1MHzの範囲内で選択することができる。これは、より高いサンプリング周波数を有する装置が一般的により低いサンプリング周波数を有する装置より高価であるため、コストの問題となる。
【0039】
測定時間Tは用途により決まるが、典型的には1~100秒の範囲でありうる。ただし、試験の実行に利用可能な時間、測定の目的および関心のある周波数に応じて、より短いまたはより長い時間も可能である。製造ラインにおいて利用可能な典型的な時間は、数秒、おそらく3~20秒である場合がある。
【0040】
利用可能な更なる信号設計は、スペクトル拡散による(著しい)干渉(すなわち、周波数重複)を回避するために、隣接する離散周波数間の間隔fについての最小値を設定することである。このため、周波数は、隣接する周波数間の差異がfd,min以上になるように分離されるべきであり、すなわち、より高い周波数は、離散周波数の隣接するペアにおける先行するより低い周波数より少なくともfd,minHz高くなるべきである。
【0041】
周波数間隔fについての最小値fd,minは、f=1/Tにより仮定される最低周波数に関連しうる。推奨される間隔は、8より大きいfを有することである。間隔fについての最小値を4に設定することができる。ほとんどの場合、10以上のfで十分である。したがって、fd,min≧4=4/T、好ましくは、fd,min≧8=8/T、より好ましくは、fd,min≧10=10/Tである。
【0042】
隣接する周波数が著しく干渉すると、電流と電圧とから計算されるインピーダンスの誤差がより大きくなる。何らかの理由で何らかの干渉している周波数が時変試験電流(Itest)に存在する場合、これらの周波数は、計算において除外することができる。
【0043】
好ましくは、離散的な試験周波数間の、すなわち周波数間隔範囲fにわたる周波数の信号エネルギは、ゼロであるかまたはゼロに近い。これにより、高い信号対ノイズ比および信号のより信頼できる復号化がもたらされる。離散周波数間の幾つかの信号エネルギは、用途に応じて許容可能である場合がある。離散試験周波数と上側または下側の隣接する離散試験周波数との間の振幅/信号エネルギは、前記2つの隣接する離散周波数のうちの1つの振幅/信号エネルギの<10%、好ましくは<1%、またはより好ましくは<0.1%であるべきである。
【0044】
更なる信号設計手段である微調整ステップは、異なる周波数領域を平衡化することである。特定の周波数領域が、分析される特定の電気装置またはバッテリセルにとってより重要である場合、この領域における離散周波数に対してより高い振幅/信号エネルギを割り当てて、信号対ノイズ比を改善することが可能である。
【0045】
使用される周波数および試験時間Tは、好ましくは測定前に選択され、予め設定される。選択される値は、例えば電気装置/バッテリセルの特性および利用可能な時間により決まり、このため特定の用途の要求に適応化されるべきである。
【0046】
例として、測定が1Hz~100kHzの範囲をカバーすることが望まれる場合、f=1Hz(=基本周波数)およびf=100kHzとなる。ついで、f=1MHzのサンプリング周波数を選択し、測定時間T=3秒を、上記の与えられた条件を満たすように選択することができる(f<f/2およびf>f、式中、f=1/T=1/3=0.333...Hz)。f=1HzおよびT=3秒の場合、まさにこれは系列の3番目の高調波に対応する。これは、最初の周波数成分(基本周波数)がf=3となることを意味する。ここで、スペクトル拡散の影響を回避するために、例えば、基本周波数の10倍の最小周波数間隔fd,min(すなわち、1/3Hzの10倍=3.333Hzの周波数間隔が、基本周波数から始まる離散周波数の間に追加される)を選択することができる。これは、f=f1=3、f2=13、f3=23、f4=33などを与え、合計で、f=100kHzまでの30000の同時離散試験周波数がもたらされる。
【0047】
上記のパラメータの選択により、幾つかの試験周波数は、他のより低い周波数に対するオーバートーン、例えばf4=11f1となる。これは、測定に悪影響を及ぼす場合がある。このような干渉オーバートーンを、周波数間隔fを設定する際に、一連の素数を使用することにより回避することができる。例えば、上記例と同様に、最低周波数(基準周波数)としてf1=3を使用すると、「3」が最初の素数である。上記のように、10の最小周波数間隔係数を使用すると、先行する周波数より少なくとも10高い数である周波数を与えるように選択される次の素数は13、その次の素数は23などである。ここで与えられた例では、下記系列は、離散周波数を決定するために素数を使用するときに、f1=3(1Hz)、f2=13(13/3Hz)、f3=23(23/3Hz)、f4=37(37/3Hz)、f5=47(47/3Hz)などのように得られる。このような周波数間隔および周波数系列について、干渉スペクトル拡散効果は現れず、重複かつ干渉のオーバートーンは生成されない。この例では、これにより16078(f-f16078)の離散試験周波数を有する試験信号が与えられる。他の全ての周波数の信号エネルギは、好ましくはゼロに設定される。
【0048】
上記の例では、全ての利用可能な周波数が使用された場合、f/23=1500000の試験周波数を含ませることができた。ただし、これにより、スペクトル拡散干渉かつ重複オーバートーンがもたらされ、次の段階でインピーダンスの復号化に悪影響を及ぼす。
【0049】
上記のタイプの系列は、理論的には、わずか2つの周波数のみを含むことができるが、実際には、典型的に、数百または数千の周波数を含む。
【0050】
時変試験電流は、上記のタイプの系列における全ての周波数を含む必要はない。例えば、信号エネルギを、何らかの理由で最低周波数がf1、f3、f4などになるように、上記の系列においてf2についてゼロに設定することができる。
【0051】
原則として、周波数系列における最低周波数f1(基本周波数)は、最高周波数に非常に近いことを除いて、最低周波数fと可能性がある最高周波数f/2それぞれとの間の区間内のどこかにでもあることができる。この場合、追加の周波数のための余地がないためである。ただし、実際には、周波数系列における最低周波数f1(基本周波数)は、可能性がある最低周波数fに比較的近くなるように設定される。
【0052】
時変試験電流(Itest)の実施形態、すなわち、前記離散周波数は、複数の重畳された離散周波数を含むことに加えて、周波数範囲にわたって分布し、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離される実施形態は、
-前記隣接周波数が、最小周波数間隔fd,minにより分離されること(fd,min≧4=4/T、好ましくはfd,min≧8=8/T、より好ましくはfd,min≧10=10/Tであり、式中、f=1/Tであり、Tは、時変試験電流を供給するための総時間である);
-前記複数の周波数が、最低周波数f1と、少なくとも1つのより高い周波数f2、f3...fとを含む周波数系列を形成すること(周波数f2~fのうちのいずれか1つを周波数f1で除算しても、整数を生じない);
-周波数f1~fのいずれか1つを基本周波数fで除算したものが素数を生じること;
f1が、-f1=N1/T(式中、N>2)となるように、時変試験電流を提供する総時間Tに関連付けられること;
-Nが素数であること;
-前記複数の重畳された離散周波数は、少なくとも10の離散周波数、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも1000の離散周波数を含むこと;
-時変試験電流を提供するための総時間Tが、100秒以下であること;
-離散周波数と上側または下側の隣接する離散周波数との間の信号エネルギが、前記2つの隣接する離散周波数のうちの1つの信号エネルギの<10%、好ましくは<1%、またはより好ましくは<0.1%であること;
-離散周波数と上側または下側の隣接する離散周波数との間の信号エネルギがゼロであるかまたはゼロに近いこと
を含む。
【0053】
測定に使用される周波数および周波数間隔などが決定されると、試験信号の生成における次のステップの時間となる。信号の振幅が、ハードウェア装置による信号の生成を可能にするように制限されることを保証することが利点である。これを、乱数系列に従って、0°と180°との間の選択された試験周波数の位相を反転させることにより行うことができる。その周波数および位相を有する信号は、周波数領域における信号の定義された記述である。
【0054】
この場合、逆離散時間フーリエ変換を使用して周波数成分を変換することが可能であり、逆離散時間フーリエ変換は、時間領域(Itim)における試験信号の形状を定義する。1つの手段として、バッテリセル(または別の電気装置)を試験するときに使用される電流の振幅を決定することも挙げられる。より小さいバッテリセルは、一般的にはより小さい電流で試験されるべきである。例えば、特定の振幅Iampl=1Aが望ましい場合、試験電流は、Itest=Iampl tim/max(Itim)から得られる。式中、max(Itim)は、Itimにおける最高値を意味する。所望の振幅および所望の周波数を有する信号をここで生成することができる。
【0055】
実施形態において、測定装置は、製造ラインまたは組み立てラインの機械/ロボットに組み込まれている。好ましくは、製造ラインまたは組み立てラインの機械/ロボットは、電気装置/バッテリセルを把持しかつ/または持ち上げるように構成されている。
【0056】
実施形態において、第1の端子および第2の端子がそれぞれ、Liイオン型であってよいバッテリセルの正極および負極を形成している。
【0057】
また、本発明は、電気装置、例えばバッテリセルの少なくとも1つの電気特性を、測定装置を電気装置の第1の端子および第2の端子に接続することにより決定するための方法に関する。
【0058】
この方法は、
-電気装置を、測定装置に配置されたインピーダンス測定装置の測定回路に接続するステップと、
-測定回路を介して時変試験電流を提供するステップと、
-時変試験電流が提供されている間に、バッテリセル上の電圧を測定するステップと、
-測定回路において、測定された電圧と時変試験電流との間の位相シフトおよび振幅比を決定するステップと
を含み、
時変試験電流(Itest)は複数の重畳された離散周波数を含み、前記離散周波数は、周波数範囲にわたって分布し、隣接する周波数間のスペクトル拡散による周波数重複を回避するように互いに分離されている
ことを特徴とする。
【0059】
この方法の実施形態は、
-決定された位相シフトおよび振幅比に基づいて、電気装置の内部インピーダンスを計算するステップ;
-測定回路における試験電流を測定するステップ;
-少なくとも、測定回路を通る電流が特定の電流振幅で集中した直流成分を形成する第1の成分を提供し、時変試験刺激信号であって、時変試験電流の時変を発生させる第2の成分を提供し、第1の成分および第2の成分を組み合わせることにより、測定回路を介して、時変試験電流を提供するステップ;
-時変試験電流の第1の成分を、電気装置から引き出すステップ;
-時変試験刺激信号を、電流刺激回路により生成するステップ;
-インピーダンス測定装置に配置されたトランジスタにおいて、時変試験刺激信号を受信するステップ;
-時変試験電流の第1の成分を、トランジスタにより制御するステップ;
-測定回路における試験電流を表す信号を、インピーダンス測定装置に配置された電流センシング回路により生成するステップ、および/または
-試験電流を印加し、電気装置上の電圧応答を測定しながら、測定装置が組み込まれた製造ラインもしくは組み立てライン機械/ロボットにより、電気装置を把持しかつ/もしくは持ち上げるステップ
のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0060】
この方法の実施形態では、時変試験電流は、既に上記にて言及した特性を有することができる。
【0061】
以下に、次の各図を参照して、本発明の説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】バッテリセルを製造するための製造ラインの例と、複数のバッテリセルを備えるバッテリパックを組み立てるための製造ラインの例とを示す概略的な図である。
図2】例えば、図1に示した製造ラインにおいて使用するための測定装置に適したインピーダンス測定装置の第1の実施形態を示す概略的な図である。
図3】例えば、図1に示した製造ラインにおいて使用するための測定装置に適したインピーダンス測定装置の第2の実施形態を示す概略的な図である。
図4】時変試験電流の生成に使用可能な時変試験刺激信号の例を示す図である。上側のプロットに、信号の周波数含量を示し、種々の量のエネルギを、種々の周波数範囲で使用することができることを強調し、下側のプロットに、上側のプロットからの周波数スペクトルを含む得られた信号を示す。
図5】第1のバッテリセルおよび第2のバッテリセルのインピーダンス測定のためのナイキストプロットインピーダンススペクトルの例を示す図である。各スペクトルは、複素インピーダンスの位相および振幅を同時に示し、各ドットは、単一の周波数についての複素数値化インピーダンスを表し、複素平面におけるその位置による振幅および位相を伴う。
図6】時変試験電流に生成に使用可能な時変試験刺激信号の別の例のエネルギ含量を示す図である。
図7図6に対応する信号を示す図である。
図8図6の一部の拡大図であり、10Hzまでの周波数範囲を示し、例示している信号においてどの離散周波数が実際に使用されているかを示す。
図9図7に示した信号の1ミリ秒目を示す拡大図である。
図10】例えば、図1に示した製造ラインで使用するための測定装置に適したインピーダンス測定装置の第3の実施形態を示す概略的な図である。
【0063】
発明を実施するための形態
図1に、本開示に係る測定装置が製造ラインにおける製造ラインロボットに組み込まれており、測定装置がバッテリセルの測定を行うように配置された、例示的な実施形態を示す。
【0064】
図1に、バッテリセル10(図2および図3では「C」と示す)を製造するための第1の製造ライン1と、複数のバッテリセル10を含むバッテリパック100を組み立てるための第2の製造ライン2とを示す。この例では、各製造ライン1,2は、対応する製造ライン1,2におけるバッテリセル10の第1の端子11および第2の端子12に接続され、インピーダンス測定装置20,21(図2図3を参照のこと)によりバッテリセル10のインピーダンスを決定するように構成された測定装置5,6を備える。測定装置5,6には、第1のセル端子11および第2のセル端子12それぞれに接続されるように適応化された第1の接続部材および第2の接続部材(図示せず)が設けられている。
【0065】
図1に示されているように、第1の製造ライン1から第2の製造ライン2へのセル10の輸送は、幾つかの車両/容器3により示される。このため、図1には、2つの製造ライン1,2が異なる現場に位置することが示されている。ただし、セル製造およびバッテリパックの組み立ては互いに、2つの分離された製造ライン1,2の間の特定の輸送が必要とされない場合がある同じ現場で、幾らか統合されている場合がある。図1は、バッテリセルに関連する製造ラインに適用される場合、本発明がセルの製造とバッテリパックの組み立てとの両方のための製造ラインに適用可能であり、これらのラインが互いにかなりの距離を空けて位置してもよいしまたは位置しなくてもよいことを示すことを意図している。
【0066】
図1に、各製造ライン1,2がバッテリセルを把持し/保持し、持ち上げ、移動させるための、特にバッテリセル10(この場合では1つずつ)をセル製造ライン1の出荷コンテナ9aに入れるため、および個々のバッテリセル10を出荷コンテナ9bから持ち上げ、これらをバッテリパック組み立てライン2のバッテリパック100に入れるための、第1の製造ラインロボット7および第2の製造ラインロボット8の形態にある製造ラインステーションを備えることをさらに示す。2つの製造ライン1,2が一体化されている場合、バッテリセル10を出荷コンテナ9a,9bに入れる必要はなく(ただし、おそらくある種の貯蔵コンテナに入れる必要はある)、一方の製造ラインロボット7,8のみを使用すれば十分である場合がある。図1に示したロボット7,8などの任意の特定の製造ライン把持装置は、この実施形態には必須ではないが、測定装置5,6が製造ライン装置7,8に組み込まれた適切な実施形態に提供される。
【0067】
図1に、測定装置5,6が、バッテリセル10を把持するために使用されるロボット7,8の把持ツールに関連して、各ロボット7,8上に配置されまたはこれに組み込まれていることをさらに示す。これは、測定装置5,6がセル10を把持し、持ち上げ、移動させる間に、セル10の近くに配置されることを意味する。これにより、ロボット7,8がセル10を把持するときに、測定装置5,6を端子11,12に接続することが可能となり、セル10が出荷コンテナ9a内またはバッテリパック100内に放されるまで、セル10を持ち上げ、移動させる間に接続を維持することが可能となる。ここで関心のある典型的な製造ラインにおいて、セル10の持ち上げ、移動に費やされる期間、おそらく約10~20秒の間に、測定装置5,6はセル10に対して測定を行うことができ、このため、製造プロセスを遅延させることなくかつ製造プロセスに全く影響を及ぼすことなくこれらの測定を行うことができる。測定装置5,6を対応するロボット/製造ライン装置7,8に適切に位置決めし、固定し、把持ツールが持ち上げおよび移動中にセル10を安定して保持することを確実にすることにより、測定装置5,6は、持ち上げ/移動中にセル10に対して動かない。これにより、セル端子11,12と測定装置5,6との間の電気的接続の確保が簡素化される。接続部材は、ロボット7,8の把持ツールに組み込まれていてよい。
【0068】
図2および図3に関連してさらに記載するように、インピーダンス測定装置20,21は、第1の端子11および第2の端子12に接続されると、バッテリセル10,Cを測定回路30,31に接続するように構成されている。インピーダンス測定装置20,21は、測定回路30,31を介して時変試験電流を印加するようにさらに構成されている。図示の例では、これは、測定対象であるセル10,CからDC電流を引き出し(すなわち、これらの例では外部電源は必要ない)、測定回路30,31に引き出された電流に、時変刺激信号Iinを印加することにより行われる。このため、時変試験電流は2つの成分から構成されており、セル10,Cから引き出された電流が第1の成分を形成し、時変刺激信号Iinが第2の成分を形成する。
【0069】
インピーダンス測定装置20,21は、時変試験電流が印加されている間に(このため、刺激信号Iinも印加されている間に)、バッテリセル10,C上の電圧Ucellおよび測定回路30,31における試験電流Itestを測定するようにさらに構成されている。試験電流Itestは、刺激信号Iinの(この場合、既知の)振動パターンとは少なくともわずかに異なる可能性がある。種々の電子回路構成要素の非線形性または温度効果などのためである。したがって、測定回路30,31における試験電流Itestが測定される。
【0070】
インピーダンス測定装置20,21は、測定された電圧Ucellと試験電流Itestとの間の位相シフトおよび振幅比を決定するようにさらに構成されている。これらのデータを、バッテリセル10,Cの内部インピーダンスの計算に使用することができる。インピーダンスを計算する方法は当業者に周知である。
【0071】
インピーダンス測定装置20,21について述べたことは、測定装置5,6が図1に例示したものとは別の実施形態で使用される場合にも一般的に好ましいことに留意されたい。
【0072】
決定されたインピーダンス(または決定された位相シフトおよび振幅比)を基準データと比較し、セル10,C内部の潜在的な欠陥、例えば電極もしくは電解質における欠陥または電極と電解質との間の界面における欠陥を特定するために使用することができる。時変試験電流Itestの異なる周波数は、特定のタイプのセル10,Cについての異なる種類の情報を提供し、特定の周波数は、異なるタイプのセルに対する他のものより有用である場合がある。時変試験電流Itest(またはむしろこの例では刺激信号Iin)を、分析されるセル10,Cのタイプに適合させることができる、すなわち、試験電流は、明らかに高い振幅を有する1つまたは複数の選択された周波数範囲を含むことができる。非常に多数の離散周波数を試験電流に含ませることも可能であり、必ずしも全ての周波数を分析する必要はないが、代わりに、次のステップにおいて(すなわち、電圧および電流の測定、および/またはインピーダンスの決定/計算において)周波数の選択を行う。
【0073】
図2に、第1の実施形態に係るインピーダンス測定装置20を示す。(図1のセル10に対応する)セルCの電極Po+11およびPo-12は、第1の測定回路30に接続され、第1の測定回路30は、電流制御トランジスタTならびに複合負荷および電流測定抵抗RL+Iも備える。第2の接続点Po-は、共通グラウンドGNDに接続されている。トランジスタTは、ここではMOSFETトランジスタであるが、別のタイプのトランジスタ、例えばバイポーラトランジスタであってもよい。
【0074】
測定回路30は、負荷のみとしての機能、すなわちインピーダンス測定対象のセルCから電流を引き出しうる機能を有する。これは、セルCを充電する電源が不要であるという利点を有し、これにより、測定装置5,6が単純となり、例えばセルおよび/またはパック製造ラインでの実行に適したものとなる。トランジスタTおよび負荷抵抗RL+Iによる装置により、動作を制限するため、電流は示した方向にしか流れることができない。この受動設計により、回路は、セルCからエネルギ/電流を引き出すことのみを可能することができる。
【0075】
負荷抵抗RL+Iの機能は2つある。すなわち、1)セルCから取り出された電力を消散させる負荷抵抗を形成すること、2)電流測定抵抗を形成すること、である。この場合、抵抗に対する電圧から、オームの法則により測定回路30における試験電流Itestについての情報が与えられ、測定回路30における実際の試験電流Itestを表す信号Ioutが生成される。抵抗RL+Iの大きさは、例えば1.0Ωであることができる。これにより、4Vのセル電圧について、セルCからの最大電流Imax=4Aが与えられ、抵抗において16Wの最大電力消費が与えられる。抵抗の精度は、試験電流Itestの測定の精度を決定する。(試験電流Itestを表す信号は、実際には電圧信号であるが、信号が電流の尺度であることを示すために、例えばUoutではなくIoutで示される。)
【0076】
トランジスタTは、オペアンプOA1および抵抗RL+Iと共に、電圧制御電流刺激源を構成する。この刺激源は、データ取得装置Dにおけるデジタルアナログコンバータにより出力電圧として提供される時変刺激信号Iinに基づいて、測定回路30における電流の時変を制御する。(時変試験刺激信号Iinは実際には電圧信号であるが、この信号が試験電流を制御することを示すために、例えばUinではなくIinで表される。)
【0077】
電圧制御電源およびその制御刺激信号Iinがない場合、測定回路30は、単純なDC回路を形成する。試験刺激信号Iinは時変信号である、すなわち、特定の周波数などにより変化し、この刺激信号がトランジスタTを介して、セルCから引き出される電流に印加されると、測定回路30における電流に対応する時変または振動を生成する。(測定回路30における対応する時変は、電子構成要素からの影響による刺激信号Iinの時変を必ずしも正確に反映する必要はなく、したがって、記載された実施形態では、実際の試験電流Itestが測定される。)このため、時間変動試験電流は、測定回路30を通して印加されている。ただし、試験電流は他の手法で適用されてもよい。
【0078】
時変試験電流Itestを、選択された抵抗に応じた、平均Imax/2A付近の印加周波数に従って変化するように選択することができる。セルC(または測定される他の電気装置)のインピーダンスのために、少なくとも特定の周波数または周波数範囲が存在し、測定回路30における試験電流ItestとセルC上の電圧Ucellとの間の位相の幾らかの差が存在する。信号Ioutおよび電圧Ucellを介して試験電流Itestを測定することにより、インピーダンスならびにその振幅および位相を同時に計算することができる。
【0079】
電圧フォロワとして接続されたトランジスタTとオペアンプOA1とは、トランジスタTのゲートでの電圧を調整することにより、抵抗RL+Iにおける電流を制御するフィードバックループである。フィードバックループは、トランジスタTおよび他の構成要素における非線形性の影響を低減するために設けられる。フィードバックループは、試験電流Itestを所望の試験刺激Iinに追従させ、試験電流Itestの所望のスペクトルが達成され、特定の周波数でのセル挙動を所望のように試験できるようにするトランジスタゲート信号を生成する。フィードバックにより、試験信号は、所望のスペクトルを得るように制御される。フィードバックがないと、トランジスタの非線形性が信号に影響を及ぼし、これにより所望の試験刺激とは異なる試験信号が生成され、このため、所望の周波数以外の周波数でセルを試験してしまうリスクが生じる。
【0080】
フィードバックループのおかげで、Iin=3VによりRL+Iにおいて3Vの電圧が与えられ、このためIout=3Vとなる。ここで、RL+I=1Ωの抵抗はItest=3Aの電流に対応する。この例で例示のために使用している抵抗RL+I=1Ωについては、電圧と電流との間に1対1の対応関係が得られ、抵抗RL+Iの他の値については、オームの法則Itest=Iout/RL+Iに従って、他の電流と電圧との関係が与えられる。
【0081】
測定回路30は、4つの接続部、すなわちUcell、Iin、Iout och GNDを有するデータ取得装置Dに接続されている。
【0082】
GNDは、共通グラウンドであり、基準レベルを形成する。GNDは、セルCの負極12および負荷抵抗RL+Iに接続されている。
【0083】
測定回路30における電流に対する刺激として使用される試験信号Iinは、デジタルアナログコンバータ(図示せず)により生成され、電流制御増幅器OA1に送られる。
【0084】
試験電流Itestは、負荷抵抗RL+Iと、試験電流Itestを表す信号Ioutについての入力と接続されるように構成されたデータ取得装置D中の第1のアナログデジタル(AD)コンバータ(図示せず)とを用いて測定される。信号Ioutの測定された電圧は、オームの法則Itest=Iout/RL+Iを用いた試験電流Itestの計算に使用される。
【0085】
第4の接続Ucellは、セル電圧を測定し、試験電流Itestにどのように応答するか、すなわち、セルCから引き出される電流に時変刺激信号Iinを印加することにより形成される電流にどのように応答するかを記録する第2のADコンバータ(図示せず)に接続されている。第1のADコンバータおよび第2のADコンバータは、試験電流Itestの表現Ioutと電圧Ucellとの間の振幅比および位相シフトを異なる周波数で検出し/測定することができるように同期される。
【0086】
電圧および電流信号を提供するために第1のアナログデジタルコンバータおよび第2のアナログデジタルコンバータを使用する代わりに、同時にトリガされる追加のサンプルおよびホールド回路を備えた単一のアナログデジタルコンバータを使用し、入力をシフトさせ、これにより、同期して測定される電圧および電流信号を提供するためにマルチプレクサを使用することが可能である。
【0087】
図3に、インピーダンス測定装置21の第2の実施形態を示す。第2の実施形態は、電流がセルCから引き出され、トランジスタTにより時変的に制御される第1の実施形態(図2)と同じ基本原則に従って動作する。主な違いは、第1の実施形態(図2)の抵抗RL+Iが2つの抵抗、すなわち1つの負荷抵抗Rと1つの電流測定シャント抵抗Rとに分割されることである。負荷抵抗Rは、セルCから取り出された電力を吸収し/消散し、特に加熱されて電力を熱として消散することが可能なように大きさが決められる。この第2の実施形態では、シャント抵抗Rは、少量の電力のみを消散し、わずかな程度しか加熱されないように、小さく選択される。これにより、電流制御および測定に対する温度の潜在的な影響が低減される。シャント抵抗Rの抵抗が温度に依存しうるためである。この構成では、Rの変化を引き起こす温度変化は、フィードバックループのおかげで、試験電流Itestを表す信号Ioutの精度に影響を及ぼさない。
【0088】
シャント抵抗Rは小さいため、これに対する電圧は低くなり、実際の試験電流Itestを表す電圧信号Ioutは小さくなる。データ取得装置Dでの電流の測定/計算の精度およびOA1での電流制御の精度を向上させるために、第2のアンプOA2が、シャント抵抗Rで生成された元のIout信号を増幅するために実装される。第2の増幅器OA2の利得は、抵抗RおよびRにより選択される。増幅された信号Ioutは、第1のADコンバータで測定され、トランジスタTを制御する電流フィードバックコントローラにも供給される。データ取得装置Dは、図2における第1の実施形態に関連して記載したものと同じ方式でIoutおよびUcellを測定する。
【0089】
負荷抵抗RLの抵抗は、好ましくは測定されるバッテリセルCの容量および電圧に適合され、バッテリセルCからのどれだけの電流の引き出しが望まれるかに合わせて適応化されるように選択される。例として、60Aに達する高電流で試験を行うことに関心がある場合、負荷抵抗Rは、0.06Ωの抵抗を有することができる。ただし、あらゆる抵抗を使用することができる。
【0090】
シャント抵抗Rの抵抗は、基本的には(弱すぎる信号を生成しない条件で)可能な限り小さくすべきであり、また、適切な測定を確実にするために、較正され、熱的に安定であるべきでもある。例として、シャント抵抗Rは、0.1mΩの抵抗を有することができる。ただし、他のあらゆる抵抗を使用することができる。
【0091】
第3の抵抗Rは10Ωの抵抗を有することができ、一方、第4の抵抗Rは10kΩの抵抗を有することができる。ただし、これらの構成要素について他の値を選択することができる。第2のオペアンプOA2に関して所望の増幅を達成し、高い利得を与えるために、第4の抵抗Rは、第3の抵抗Rより顕著に大きい抵抗を有することができる。第3の抵抗Rは、例えば1~100Ωの抵抗を有することができ、一方、第4の抵抗Rは1~100kΩの抵抗を有することができる。
【0092】
電流制御および測定の精度を向上させるために、構成要素(例えば、A/D、D/AおよびOP)の選択において、最新技術を適用することが有益である。さらに、A/Dコンバータを、共通のグラウンド基準に対する測定を行う代わりに、各構成要素に対する電圧が測定されるように、相対測定のために連結させることができる。これにより、信号は、共通のグラウンド上のノイズに対する感度が低くなる。更なる改善は、4線式測定を有するシステムを利用することにより、すなわち、回路20および21それぞれにおけるように、RL+IまたはRを使用して電流を測定し、Ioutを生成するために2本のワイヤを使用しかつセル電圧を測定するためにセル電極11および12に直接接続された2本のワイヤを使用することにより達成することができる。この場合、両方のワイヤペアが相対A/D入力チャネルに結合される相対測定も好ましい。他の方式で測定回路を設計することが可能である。例として、電流センシング抵抗Rを、別の電流センサ技術、例えば、ホール効果に基づくトランスデューサに置き換えることができる。精度を向上させるための別の手段は、見掛けのセル電圧の周りの変動を高精度で測定するように、セル電圧測定を構成することである。
【0093】
短い時間間隔、例えば図1に関連して記載されたようなバッテリセル10/Cを取り付け/把持し、持ち上げ、輸送し、配置し、取り外す短い時間ウィンドウの間にインピーダンス測定を行うために、時間効率の良い測定を行う必要がある。これは、バッテリセル10,Cから引き出される電流を制御するために、データ取得装置DのデジタルアナログコンバータからトランジスタTの制御ゲートに送られる多周波数信号Iinにより達成され、これは、類似の多周波数試験電流Itestを生成する。多周波数信号は、例えば、測定される離散周波数の所定のセットに対応する正弦信号を含む多正弦信号であることができる。また、測定される離散周波数を含む別のタイプの信号であることもできる。
【0094】
図4に、試験刺激信号をどのように設計することができるかの例を示す。図4に、周波数領域(上側)と時間領域(下側)における信号を示す。上側図に、周波数領域における信号のエネルギ含量を示す。エネルギを有する領域が黒色の領域により示されており、信号エネルギは低周波数に集中しており、最低範囲0~5kHzが最も高いエネルギ含量を有し、5~10kHzの範囲がより低いエネルギを有するが、10~50kHzの範囲は何らのエネルギも有さず、このためゼロである。実際の信号についてのスペクトルは、サンプリングレート(100kHz)の半分付近で対称であり、これにより0~10kHzの低周波数領域が100~90kHzにミラーリングされている理由が説明される。さらに、個々の周波数の位相は0°から180°の間でランダムに変化し、これは、時間領域信号が限定されかつ平衡化された振幅を有するように行われる。
【0095】
図4における下側の図に、結果として生じる時変試験信号、すなわち試験刺激信号Iinを示す。時間領域信号は、逆離散フーリエ変換を使用してスペクトルから生成され、したがって、選択された周波数含量を含む。スペクトルの対称性およびランダム位相シフトは、0の振幅で始まり、大きすぎる振幅まで増大することなく、これにより、中心において最も高い振幅を達成する時間領域信号が与えられる。同じスペクトル特性を有する多くの信号が存在するが、好ましくは、図4の下側の図のように、平衡化されかつ制限された振幅を有する試験信号が選択され、その結果、D/Aコンバータおよび電流コントローラにおいてそれを実現することが可能でありかつ実現することが容易となる。このような信号生成は当業者に周知である。
【0096】
セル10,C上で測定された電圧Ucellおよび測定回路30,31における信号Ioutを介した試験電流Itestの分析を、例えば高速フーリエ変換(FFT)または周波数分析のための任意の他の適切な信号処理法を使用して行うことができる。
【0097】
測定装置5,6、特にインピーダンス測定装置20,21は、好ましくは、測定回路30,31に印加される試験電流に対して、関係するセルまたは他の電気装置のタイプにとって興味深いと考えられるものが何であれ、所望の離散周波数を生成可能なように設計される。(なお当然ながら、これらの周波数における電圧および電流を測定可能なようにかつ測定されたデータを分析可能なようにも設計されるべきである。)
【0098】
図5に、インピーダンス分光分析から得られるスペクトログラムの例を示す。プロットにおいて、周波数応答の振幅および位相は、ナイキスト線図と呼ばれる複素値プロットで可視化される。この場合、x軸は実数値に対応し、y軸は負の符号を有する虚数値に対応する(この表現は、歴史的事情からこの表現を使用する分光分野のそれに一致するように選択される)。
【0099】
図5に、潜在的な欠陥またはばらつきを有するセルを特定するためにインピーダンス測定をどのように使用することができるかを示しており、また、図5は、潜在的な欠陥またはばらつきを有するセルを特定するために比較することができる基準値(のセット)の例を形成している。第1(上/左)の系列のドット51は、新しいLiイオンバッテリセルのインピーダンススペクトルを示し、第2(下/右)の系列のドット52は、劣化後の同じバッテリセルのインピーダンススペクトルを示す。すなわち、第1の系列51は基準値のセット(系列)を表し、第2の系列52は欠陥を有する類似のセルを表す。種々の方法を、スペクトルを自動的に(数学的に)比較し、特定のインピーダンススペクトルを示す特定のセルが欠陥として分類されるべきか否かを決定するために適用することができる。
【0100】
個々のセルまたは他の電気装置の内部インピーダンスが、特定のマージンを超えて基準値から(または一連の基準値から)逸脱している場合、この個々のセルを、製造ライン1,2からソートしまたは何らかの他の選択プロセスからソートしもしくは種々の手法でクラス分類するなどをすることができる。代替的または補足的に、バッテリセルの内部インピーダンスに関連するデータを、データベースに記憶させることができる。このようなデータは、例えば、離散周波数における決定された内部インピーダンスであることができ、または離散周波数における内部インピーダンスにより構成されるスペクトルのパラメータ表示であることができる。ついで、このデータは、例えば、使用中の故障したバッテリパックを取り扱うときに、不一致を追跡するために後で使用することができる。
【0101】
図6図9に、時変試験電流の生成に使用することができる時間試験刺激信号Iinの別の例を示す。ここで、図6に、異なる周波数範囲における相対信号エネルギ含量を示し、図7に、時間の関数としての信号振幅を示し、図8に、図6の一部、すなわち10Hzまでの周波数範囲の拡大図を示し、これにより、例示される信号においてどの離散周波数がこの範囲において実際に使用されるかを示し、図9に、図7に示した信号の1ミリ秒目の拡大図を示す。
【0102】
この例では、サンプリング周波数fは、1MHzであり、測定の総時間は10秒(すなわち、時変試験電流Itestが測定回路30,31を介して提供される総時間)である。これにより、基本周波数0.1Hz(=f=1/T)とナイキスト周波数500kHz(f/2)との間にある理論周波数範囲が設定される。ただし、ここでは、刺激信号について(このため試験電流についても)、0.3Hz~100kHzの周波数範囲が選択される。
【0103】
図6に、異なる振幅/信号エネルギが異なる周波数サブ範囲について選択されたことを示す。最高振幅は25kHzまでの周波数について使用され、最低振幅は75~100kHzについて使用される。
【0104】
図7に、10秒の測定時間T中の時間の関数としての信号振幅を示す。この例では、信号は、互いに重畳された50611の離散周波数を含み、このため、信号の詳細を見ることは困難である。図7の信号の1ミリ秒目を示す図9と共に、信号は、複素連続非パルス信号であり、正弦曲線の規則的な変形のようには見えず、信号を見ただけでは予測することが困難な自明でない形状を有することがわかる。
【0105】
図8に、10Hzまでの周波数範囲で実際に使用される9つの第1の離散周波数f1~f9を示す。すなわち、f1=0.3Hz、f2=1.3Hz、f3=2.3Hz、f4=3.7Hz、f5=4.7Hz、f6=5.9Hz、f7=7.1Hz、f8=8.3Hz、f9=9.7Hzである。合計で、0.3Hz~100kHzの全範囲において、50611の離散周波数が存在する。最低周波数f1、0.3Hzは、f1=N1/T(式中、N=3)となるように、総時間T(および基本周波数f)に関連付けられる。図8からわかるように、幾らかのスペクトル拡散効果があり、周波数は、ベースで幅2を有する。この例では、周波数は、10の最低周波数間隔fd,minを使用して分離される。より低い周波数のオーバートーンからの干渉を回避するために、f1=kで始まる周波数系列は、kが10単位以上分離された素数(k=3、13、23、37、47など)であるように選択される。図8に、周波数f1、f2などの間、すなわち周波数間隔範囲fにわたって、信号エネルギが0であることも示す。
【0106】
図10に、第3の実施形態に係るインピーダンス測定装置を示す。図10における回路の基本的な構造および機能は、図3におけるものと同じであり、構成要素は、同じ特性を有することができる。PNP-NPN MOSFETペアにより、T2を使用して電気装置Cに電流を流すことが可能となり、T1を使用して電気装置Cから電流を取り出すことが可能となる。PNP-NPN構造により、これらは相互に排他的になるため、T1およびT2は同時に導通せず、短絡を引き起こす。図2および図3における回路では、電気装置から電流を取り出すことのみが可能となるが、図10における回路では、電気装置に電流を押し込む対称電流をも使用する試験信号が可能となる。これは、電流の高精度追従を達成するように電流を制御するために、OA1と同じタイプのフィードバック機構に依存する。図3と比較すると、図3におけるNPNトランジスタがロジックを反転させたPNPトランジスタに置き換えられておりかつOA1も逆にする必要がある点で、わずかに異なる。
【0107】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の方式で修正することができる。例えば、測定装置5,6は、必ずしも組み立てロボットまたは他の製造ライン装置に組み込まれる必要はなく、必ずしも製造ラインで使用される必要もない。さらに、試験電流またはその少なくとも第1の成分を測定対象のバッテリセルから引き出す代わりに、外部電源から供給することができる。さらに、主な用途は、バッテリセル、例えばLiイオンセルでの測定を行うことであるが、測定装置を例えばフューエルセルまたは他の関連する電気装置の分析に使用することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】