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特表2023-522208ウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/16 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/10 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230522BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 31/14 20060101ALN20230522BHJP
   A61P 31/16 20060101ALN20230522BHJP
   C07K 7/00 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/04
A61P11/16
A61P29/02
A61P11/14
A61P3/02
A61P11/10
A61P9/00
A61P43/00 105
A61P13/12
A61P1/12
A61K45/06
A61K39/395 U
A61K39/395 N
G01N33/53 R
A61P31/14
A61P31/16
C07K7/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562984
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 US2021027636
(87)【国際公開番号】W WO2021211940
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】63/019,050
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/014,999
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/020,195
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/020,286
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/010,905
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/063,538
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/033,140
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500257447
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ド パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE-HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】503102674
【氏名又は名称】アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522403929
【氏名又は名称】アナーヌ, ジラリ
(71)【出願人】
【識別番号】522403930
【氏名又は名称】フルモー-バッキ, ヴェロニク
(71)【出願人】
【識別番号】522403941
【氏名又は名称】ペフォール ドゥ ラトゥール, レジス
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アナーヌ, ジラリ
(72)【発明者】
【氏名】フルモー-バッキ, ヴェロニク
(72)【発明者】
【氏名】ペフォール ドゥ ラトゥール, レジス
(72)【発明者】
【氏名】バー, シャロン
(72)【発明者】
【氏名】ダン, デレク
(72)【発明者】
【氏名】ガオ, シャン
(72)【発明者】
【氏名】カザニ, シャムサー ディー.
(72)【発明者】
【氏名】マークリ, ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】モンテレオーネ, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】オルティス, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ロッティングハウス, スコット ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ズィメルマン, マルティーヌ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA071
4C084ZA081
4C084ZA341
4C084ZA361
4C084ZA591
4C084ZA601
4C084ZA621
4C084ZA631
4C084ZA811
4C084ZB211
4C084ZB331
4C084ZC211
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA22
(57)【要約】
本開示は、とりわけ、有効量の補体調節因子、例えばエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体などのC5阻害剤又はオレンダリズマブ(ALXN1007)若しくはその変異体などのC5a阻害剤などを対象に投与することにより、ウイルス、例えばコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu)によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法に関する。加えて、本開示は、とりわけ、エクリズマブによる処置を受けている、重症コロナウイルス疾患2019(重症COVID-19)に罹患したヒト患者を処置する方法に関する。方法は、患者の血液サンプル中の循環成分C5b-9(膜侵襲複合体)のレベルを測定して、COVID-19の処置に有効なエクリズマブ用量を設定することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象において、ウイルス、例えばSARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu)によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体経路の調節因子、例えばヒト補体C5タンパク質のポリペプチド阻害剤を前記ヒト対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、COVID-19コロナウイルス(2019-nCoV)又はそれらに関連するコロナウイルスからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コロナウイルスは、前記対象において肺又は肺損傷を引き起こす能力を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有効量の、補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤を前記対象に投与する前に、前記対象が前記コロナウイルスに感染していると判断することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト対象は、(A)(1)太い気道及び実質における細胞の炎症;(2)血管周囲への細胞浸潤;(3)間質膜の肥厚;(4)肺胞内浮腫;(5)鼻漏;(6)くしゃみ;(7)喉の痛み;(8)肺炎;(9)スリガラス状陰影;(10)RNAaemia;(11)急性呼吸窮迫症候群(ARDS)から選択される呼吸器症状;及び/又は(B)(1)発熱;(2)咳;(3)疲労;(4)頭痛;(5)痰の産生;(6)喀血;(7)急性心臓損傷;(8)低酸素血症;(9)呼吸困難;(10)リンパ球減少症;(11)腎障害;(12)下痢から選択される全身性障害から選択される少なくとも1つの症状又は徴候を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
有効量の、補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤を前記対象に投与する前に、前記対象のC5aレベルが上昇していると判断するか、又は前記対象の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の血清レベルが上昇していると判断するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コロナウイルスは、COVID-19コロナウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリペプチド阻害剤は、モノクローナル抗体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリペプチド阻害剤は、抗体の可変領域を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリペプチド阻害剤は、エクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記エクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体又はいずれかの抗原結合フラグメントは、静脈内輸注を通して投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第2の治療剤を前記対象に投与することをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象は、補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤を投与された後、生存率の改善、溶血の減少、播種性血管内凝固の減少、補体レベルの低減、前記阻害剤の前記投与前に過剰産生されるサイトカインのレベルの減少、肺水腫の阻害、肺機能の維持若しくは改善又は前記疾患の他の症状の低減の1つ以上を経験する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤の前記対象への投与レベルは、1回の処置あたり対象1人あたり約1mg/kg~約100mg/kgである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤の前記対象への投与レベルは、1回の処置あたり対象1人あたり約5mg/kg~約50mg/kgである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象は、300mgの、補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤の単一単位剤形を受ける、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象は、(i)最初の3週間にわたって7±2日ごとに約900mgの前記ポリペプチド阻害剤、(ii)4、6及び8週目に、4、5及び6回目の投与で約1200mgの前記ポリペプチド阻害剤、及び(iii)任意選択により、さらに8週間にわたって隔週で約1200mgの前記ポリペプチド阻害剤の処置スケジュール下で補体C5タンパク質の前記ポリペプチド阻害剤を受ける、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記対象は、前記C5阻害剤を投与された後、生存の確率の改善、C5aレベルの低減、血清LDHレベルの低減、臓器不全がほとんど乃至全くないこと、1つ以上の炎症性サイトカインのレベルの減少、肺水腫の1つ以上の他の症状の改善又はそれらの組み合わせの1つ以上を経験する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ヒト対象において、コロナウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントを前記対象に投与することを含み、前記補体媒介性障害は、SARS、MERS又はCOVID-19であり、前記方法は、導入期、それに続く維持期を含む投与サイクルを含み、
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、5週目に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、3週目に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、3週目に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、毎週600mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、2週目及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与される、方法。
【請求項20】
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、5週目に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、3週目に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、3週目に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、毎週600mgの用量で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、2週目及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記処置は、前記導入期及び/又は前記維持期中、100μg/mL以上の、前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントの血清トラフ濃度を維持する、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記投与サイクルは、約8週間である、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記投与サイクルは、約16週間である、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記処置は、終末補体阻害をもたらす、請求項19~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
ヒト対象におけるコロナウイルス疾患を処置するためのキットであって、
(a)ある用量の抗C5抗体又はその抗原結合フラグメント;及び
(b)請求項19に記載の方法で前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントを使用するための説明書
を含むキット。
【請求項30】
導入期、それに続く維持期を含むサイクルでの投与のための、エクリズマブ又はその変異体の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3ドメイン並びにエクリズマブ又はその変異体の軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3ドメインを含む、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物であって、請求項19に記載の方法で使用され、
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、5週目に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、3週目に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、3週目に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、毎週600mgの用量で投与されるか;又は
前記抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、前記導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ前記維持期中、2週目及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与される、医薬組成物。
【請求項31】
ヒト対象において、ウイルス、例えばSARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu)によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、1日目、4日目及び8日目に1200mgの用量において、エクリズマブを含む医薬組成物を静脈内投与すること;任意選択により、治療用量モニタリング(TDM)に基づいて、12日目(D12)に900mg又は1200mgのエクリズマブを投与すること;15日目(D15)に900mgの用量を静脈内投与すること;任意選択により、TDMに基づいて、18日目(D18)に900mg又は1200mgの静脈内エクリズマブを投与すること;及び22日目(D22)に900mgの用量を静脈内投与することを含む方法。
【請求項32】
前記TDMは、エクリズマブ血漿レベル並びに遊離C5、遊離C-5及び/又はCH50抑制から選択されるパラメーターのモニタリングを含み、前記任意選択の用量は、前記パラメーターが標準試料と比較して調節される(例えば、減弱される)場合に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記補体媒介性障害は、コロナウイルス、好ましくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)によって引き起こされる、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
ヒト対象において、ウイルス、例えばSARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu)によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、静脈内使用のためのULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ-cwvz)注射剤についての米国製品添付文書(USPI)ラベルに従った体重ベースの負荷用量に基づいて、1日目に、ラブリズマブを含む医薬組成物を静脈内投与すること;5日目(D5)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)を投与すること;10日目(D10)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)のラブリズマブを投与すること;及び15日目(D15)に全ての患者について900mgのラブリズマブを投与することを含む方法。
【請求項35】
前記補体媒介性障害は、コロナウイルス、好ましくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)によって引き起こされる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
SARS-CoV-2(2019-nCoV)に感染したヒト患者における重症コロナウイルス疾患-2019(COVID-19)を処置する方法であって、有効量の、エクリズマブを含む医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項37】
重症COVID-19は、入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置の必要性を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記医薬組成物は、SOLIRIS(登録商標)を含む、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
エクリズマブを用いて、ヒト患者における重症コロナウイルス疾患-2019(重症COVID-19)を有効に処置する方法であって、
a.エクリズマブによる処置前及び後、前記患者の血液サンプル中における、C5b-9(膜侵襲複合体;MAC)であるマーカーのレベルを測定すること;
b.前記マーカーレベルを標準試料と比較すること;
c.前記ヒト患者の前記マーカーレベルが前記標準試料に収束するまでエクリズマブの処置用量を漸増させること;及び
d.エクリズマブの前記漸増用量を前記ヒト患者に投与すること
を含む方法。
【請求項40】
前記マーカーは、循環sC5b9レベルであり、及び前記標準試料は、約340ng/mlのレベルを含み、前記有効な処置は、入院期間及び/又は集中治療室(ICU)滞在期間の減少を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
重症コロナウイルス疾患-2019(重症COVID-19)に罹患したヒト患者の入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置の期間である転帰を予測する方法であって、前記患者の血液サンプル中における、C5b-9(膜侵襲複合体;MAC)であるマーカーのレベルを測定することを含み、標準試料と比較したマーカーレベルの増加は、前記転帰の予後を示す、方法。
【請求項42】
前記マーカーは、循環sC5b9レベルを含み、及び前記標準試料は、約340ng/mlのレベルを含み、正の差(例えば、前記患者のサンプル中のsC5b9レベル>約340ng/ml)は、より長い入院及び/又はICU滞在を示す、請求項41に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月16日に出願された米国仮特許出願第63/010,905号明細書、2020年4月24日に出願された米国仮特許出願第63/014,999号明細書、2020年5月1日に出願された米国仮特許出願第63/019,050号明細書、2020年5月5日に出願された米国仮特許出願第63/020,195号明細書、2020年5月5日に出願された米国仮特許出願第63/020,286号明細書、2020年6月1日に出願された米国仮特許出願第63/033,140号明細書及び2020年8月10日に出願された米国仮特許出願第63/063,538号明細書の利益を主張するものであり、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
補体系は、体の他の免疫系と連携して作用し、細胞及びウイルス病原体の侵入を防御する。少なくとも25の補体タンパク質が存在し、これらは、血漿タンパク質及び膜補因子の複合的な集合として見られる。血漿タンパク質は、脊椎動物血清中のグロブリンの約10%を占める。補体成分は、一連の複雑であるが、正確な酵素的切断及び膜結合事象において相互作用することにより、免疫防御機能を達成する。結果として生じる補体カスケードは、オプソニン、免疫調節及び溶解機能を備えた産物の産生につながる。補体活性化に関連する生物学的活性の簡潔な要約は、例えば、The Merck Manual,16th Editionに記載されている。
【0003】
適切に機能する補体系は、感染微生物に対する強力な防御を提供するが、補体経路の不適切な調節又は活性化は、感染因子によって引き起こされる障害を含む様々な障害の病因に関与する。
【0004】
非臨床データは、感染因子によって引き起こされる肺損傷の媒介において補体3(C3)の役割をサポートする。例えば、コロナウイルス(CoV)のマウスモデルでは、C57BL/6Jマウスにマウス適応の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)を感染させると、肺内での高力価ウイルス複製、炎症性サイトカイン及びケモカインの誘導並びに肺内の免疫細胞浸潤が生じる。Gralinski et al.(mBio,2018 Oct 9;9(5);PMID:30301856)を参照されたい。C3沈着は、SARS-CoVの感染後2日目及び4日目に明らかであったため、著者らは、補体沈着がインビボマウスモデルにおける肺疾患及び炎症細胞動員に寄与する可能性が高いと仮定している。
【0005】
トランスジェニック及び/又はノックアウト動物モデルを用いた研究は、呼吸器系を標的とするウイルス感染後の肺機能障害の病因における補体系の役割をさらに指摘している。マウス感染性コロナウイルスで処置されたマウスでは、(a)SARS-CoVによる体重減少に対する保護);(b)病理学的特徴の減弱(例えば、(1)太い気道及び実質における炎症細胞の存在;(2)血管周囲への細胞浸潤;(3)間質膜の肥厚、及び(4)肺胞内浮腫);(c)呼吸機能の改善;及び/又は(d)肺及びその周辺における炎症性サイトカイン/ケモカインの減少によって実証されるように、C3ノックアウトマウスで感染が減弱する。Gralinskiらを参照されたい(上記)。Gralinskiは、C3欠損マウスが肺の好中球増加症を減少させ、全身性炎症を減少させ、それにより感染が減弱することをさらに発見した。Gralinskiらは、C3補体の阻害がコロナウイルス媒介性疾患に対して治療的に有効であり得ることを提案している。
【0006】
マウスモデルでC3阻害を使用したGralinskiの研究は、C3拮抗作用がSARS-CoV感染から保護することを示唆しているが、補体代替経路の阻害のみでは不十分である。例えば、因子B(fB)ノックアウト(-/-)及び補体4(C4)ノックアウト(-/-)マウスは、補体3(C3)ノックアウト(-/-)マウスと比較して、CoVによる体重減少からの同じ保護を有しない。
【0007】
過剰な補体活性化は、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染後の急性肺損傷に寄与する重要な因子に貢献すると仮定されている。これは、MERS-CoVのトランスジェニックマウスモデルを使用してインビボで実証されている。Jiang et al.(Emerg Microbes Infect.2018 Apr 24;7(1):77;PMID:29691378)を参照されたい。このマウスモデルでは、MERS-CoVは、サイトカイン及びケモカインの分泌の上昇を伴う重度の急性呼吸不全及び高い死亡率を引き起こす。組織病理学的分析により、補体が過剰に活性化され、同時にC5a及びC5b-9補体活性化産物の濃度の増加がそれぞれ血清及び肺組織で観察されたことが明らかになった。抗体を使用してC5aRを遮断すると、肺及び脾臓の組織損傷が緩和され、炎症反応が減少した。さらに、抗C5aR抗体処置は、肺組織におけるウイルス複製を減弱した。これらの結果は、C5a-C5aRの遮断が、MERS-CoVに感染したトランスジェニックマウスモデルの肺損傷を緩和することを示した。
【0008】
インフルエンザウイルス株H5N1(一般に「鳥インフルエンザ」と呼ばれる)を介した感染症に関連して、同様の所見が報告されている。Sun et al.(Am J Respir Cell Mol Biol.2013 Aug;49(2):221-30;PMID:23526211)を参照されたい。Sunは、H5N1感染マウスにおける急性肺損傷(ALI)が、C3、C5b-9及びマンノース結合レクチンC(MBL)-Cの肺組織への沈着によって示される過剰な補体活性化と、MBL関連セリンプロテアーゼ-2並びに補体受容体C3aR及びC5aRのアップレギュレーションとによって引き起こされたことを示した。H5N1感染マウスをC3aR拮抗剤で処置すると、肺の炎症が大幅に減少し、ALIが緩和された。さらに、H5N1負荷マウスを抗C5a抗体で処置するか、又はコブラ毒因子で補体を枯渇させると、C3aRアンタゴニストで処置したマウスと同様の保護が得られた。これらの結果は、H5N1誘発性ALIにおける補体の役割並びにC3aR及び/又はC5a拮抗作用が治療の直接的又は補助的な選択肢を提供し得ることを示す。
【0009】
最近の報告は、マンナン結合レクチン(MBL)経路を介した補体活性化におけるヌクレオカプシドタンパク質SARS-CoV、SARS-CoV-2及びMERS-CoVの役割を指摘している(Gao et al.,MedXriv,Posted March 30,2020;DOI:10.1101/2020.03.29.20041962)。マウスモデルにおいて、SARS-CoV、MERS-CoV及びSARS-CoV-2のNタンパク質がMLBに結合し、それによりMBL関連セリンプロテアーゼ-2(MASP-2)依存性の補体活性化を増強し、MASP-2が関与する補体活性化によってLPS誘発性肺炎を悪化させることが示された。ヒトCOVID19患者の肺組織のさらなる免疫組織化学的染色により、I型及びII型肺胞上皮細胞並びに炎症細胞、一部の過形成性肺細胞及び壊死細胞破片を伴う肺胞腔の滲出液におけるMBL、MASP-2、C4アルファ、C3及びC5b-9の沈着が示された。さらに、COVID-19患者、特に重症例では、血清C5aレベルの有意な増加も観察された。組換え抗C5aモノクローナル抗体(BDB-001)による処置は、COVID-19を有する2人の患者に臨床的利益をもたらした。
上記の参考文献は、ウイルス感染後の肺損傷が、C3aR及びC5aRなどの受容体を含むC3、C5a、C5b-9などの補体系のメンバーによって部分的に媒介されることを示しているが、コロナウイルス誘発性肺損傷の病因における補体5(C5)の役割について言及していない。さらに、エクリズマブ、ラブリズマブ、オレンダリズマブ(olendalizumab)(ALXN1007)などのC5/C5aアンタゴニスト又は抗原結合フラグメント(例えば、ALXN1720)を含む二重特異性ミニボディなどの抗体誘導体を含むその抗原結合フラグメントが、コロナウイルスに感染した対象の肺損傷の軽減においてどのような治療的役割を果たしているのかについての情報は、仮にあったとしてもほとんど存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】Gralinski et al.(mBio,2018 Oct 9;9(5);PMID:30301856)
【特許文献2】Jiang et al.(Emerg Microbes Infect.2018 Apr 24;7(1):77;PMID:29691378)
【特許文献3】Sun et al.(Am J Respir Cell Mol Biol.2013 Aug;49(2):221-30;PMID:23526211)
【特許文献4】Gao et al.,MedXriv,Posted March 30,2020;DOI:10.1101/2020.03.29.20041962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コロナウイルスに感染したヒト患者及び家畜動物などの対象の予防、処置及び/又は管理のための有効な戦略を開発するという喫緊且つ満たされていない必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、対象において、ウイルス、例えばSARS-CoV、MERS-CoV又は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、COVID-19コロナウイルス(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu)によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体経路、例えば古典経路(CP)代替経路(AP)及び/又は例えば特定の糖に結合するマンノース結合レクチン(MBL)若しくはフィコリンを含むレクチン経路の調節因子を投与することを含む方法を提供する。
【0013】
本開示は、補体が、ウイルス感染に迅速に応答する免疫監視系として機能し、前述のウイルス、例えばSARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu)の1つ以上による感染に応答して引き起こされる炎症反応において極めて重要な役割を果たし、補体系の調節、例えば補体経路の阻害剤を使用することが治療上の利益を提供するという理解に部分的に基づく。
【0014】
別の態様において、本開示は、循環補体sC5b9(膜侵襲複合体)レベルが、COVID-19に罹患したヒト患者、特に入院及び/又は集中治療室(ICU)滞在を必要とする重症COVID-19患者において上昇しているという発見に部分的に基づいている。これらの患者における循環終末補体成分C5b-9、C4d、C3及びC4の増加は、COVID-19における全身性C5切断を強調する。高用量のエクリズマブによる処置は、重症COVID-19を有する患者における終末成分のレベルを抑制した。
【0015】
さらに、サンプリング時の循環sC5b-9レベルと、患者の転帰(例えば、退院までの時間)との間に有意な相関関係が観察された。これらのデータは、循環sC5b9レベルの上昇によって示されるように、COVID-19疾患の重症度におけるC5活性化の寄与的役割を示す。本開示は、終末補体sC5b9レベルを、例えば約340ng/ml以下のベースラインレベルまで減弱させる用量でエクリズマブを投与することにより、ヒト患者における重症COVID-19を処置し、それにより重症COVID-19患者の入院期間を減少させる方法をさらに提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象において、ウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu))によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体経路、例えば古典経路(CP)の調節因子を投与することを含む方法を提供する。好ましくは、本開示は、対象において、コロナウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、CPの1つ以上のメンバーの阻害剤、例えばCINRYZE;BERINERT;若しくはRUCONESTなどのC1r/s若しくはMASP阻害剤、又はスチムリマブ若しくはBIVV020などのC1s阻害剤、又はRaPharmaのC1s阻害剤ペプチドを投与することを含む方法を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象において、ウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu))によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体経路、例えば代替経路(AP)の調節因子を投与することを含む方法を提供する。好ましくは、APの調節因子は、末端AP経路の阻害剤、例えばC5/C5a軸又はC3/C3a軸の阻害剤である。
【0018】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象において、ウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu))によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体経路、例えばレクチン経路(LP)の調節因子を投与することを含む方法を提供する。好ましくは、本開示は、対象において、コロナウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、LPの1つ以上のメンバーの阻害剤、例えばナルソプリマブ(MASP2)又はOMS906(MASP3)などのMASP2又はMASP3阻害剤を投与することを含む方法を提供する。
【0019】
本開示は、対象において、ウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス)によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体C5又はC5aタンパク質の阻害剤を対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、ウイルス性補体媒介性疾患を有するヒト対象は、(A)(1)太い気道及び実質における細胞の炎症;(2)血管周囲への細胞浸潤;(3)間質膜の肥厚;(4)肺胞内浮腫;(5)鼻漏;(6)くしゃみ;(7)喉の痛み;(8)肺炎;(9)スリガラス状陰影;(10)RNAaemia;及び(11)急性呼吸窮迫症候群(ARDS)から選択される呼吸器症状;並びに/又は(B)(1)発熱;(2)咳;(3)疲労;(4)頭痛;(5)痰の産生;(6)喀血;(7)急性心臓損傷;(8)低酸素血症;(9)呼吸困難;(10)リンパ球減少症;(11)腎障害;及び(12)下痢から選択される全身性障害を示す。
【0020】
本開示は、C5/C5aの阻害剤、例えばエクリズマブなどの抗C5抗体又はオレンダリズマブ(ALXN1007)などの抗C5a抗体が、ウイルス感染、例えばSARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoVによって引き起こされるコロナウイルス感染及び/又はインフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザによってインビボで誘発される肺損傷の予防、改善及び/又は治療に有用であるという理解に部分的に基づく。
【0021】
特定の態様において、対象において、肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷(すなわち太い気道及び実質における細胞の炎症;(2)血管周囲への細胞浸潤;(3)間質膜の肥厚、及び/又は(4)肺胞内浮腫)を引き起こし得るウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体C5タンパク質の阻害剤(「C5阻害剤」)を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷を引き起こすウイルスには、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス又はインフルエンザウイルスが含まれる。
【0022】
いくつかの態様において、ヒト対象は、息切れを含む重度のウイルス性疾患に罹患している(例えば、安静時呼吸数>30回/分;安静時酸素飽和度<93%又は動脈血酸素分圧(PaO2)/吸気酸素分画(FiO2)<300mmHg(1mmHg=0.133kPa))。いくつかの態様において、ヒト対象は、人工呼吸を要する呼吸不全;呼吸ショック;重度の肺炎;急性肺損傷(ALI);酸素補給を要するARDS;及び/又はICUモニタリングを要する非呼吸器官(例えば、心臓、腎臓)の複合不全を含む、重度のウイルス性疾患に罹患している。いくつかの態様において、ヒト対象は、(a)末梢血リンパ球の漸減;(b)IL-6及びC反応性タンパク質などの末梢炎症性サイトカインの漸増;(c)乳酸の漸増;及び(d)短期間での肺病変の急速な進行から選択される少なくとも1つの症状を呈する重度のウイルス性疾患に罹患している。
【0023】
特定の態様において、対象における肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷を処置する方法であって、対象においてC5aレベルが上昇していると判断すること、及び有効量の、例えばエクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体(本明細書ではエクリズマブ変異体又は変異体エクリズマブとも呼ばれる)、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、対象における肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷の処置は、有効量の、例えばオレンダリズマブ(ALXN1007)、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はオレンダリズマブ(ALXN1007)若しくはその変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5a阻害剤を対象に投与することを含む。
【0024】
特定の態様において、対象における結合組織又は骨格組織損傷を処置する方法であって、対象においてC5aレベルが上昇していると判断すること、及び有効量の、例えばエクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体(本明細書ではエクリズマブ変異体又は変異体エクリズマブとも呼ばれる)、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷を引き起こすウイルスには、ロスリバーウイルス(RRV)が含まれる。いくつかの実施形態において、対象における結合組織又は骨格組織損傷の処置は、有効量の、例えばオレンダリズマブ(ALXN1007)、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はオレンダリズマブ(ALXN1007)若しくはその変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5a阻害剤を対象に投与することを含む。
【0025】
特定の態様において、対象における内皮又は血管損傷を処置する方法であって、対象においてC5aレベルが上昇していると判断すること、及び有効量の、例えばエクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体(本明細書ではエクリズマブ変異体又は変異体エクリズマブとも呼ばれる)、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、内皮又は血管損傷を引き起こすウイルスには、デングウイルス(DENV)が含まれる。いくつかの実施形態において、対象における内皮又は血管損傷の処置は、有効量の、例えばオレンダリズマブ(ALXN1007)、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はオレンダリズマブ(ALXN1007)若しくはその変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5a阻害剤を対象に投与することを含む。
【0026】
特定の態様において、コロナウイルス疾患、例えば2019-nCoV急性呼吸器疾患(COVID-19)を有する対象を処置する方法が提供され、方法は、有効量の抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントを対象に投与することを含み、方法は、導入期、それに続く維持期を含む投与サイクルを含み、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ維持期中、5週目に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、毎週600mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、2週目及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与される。
【0027】
特定の態様において、ヒト対象において、ウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu))によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、エクリズマブを1、8、15及び22日目に900mgの用量で静脈内投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、方法は、4日目、12日目及び18日目に900mgの用量でエクリズマブを投与することをさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、方法は、補体(例えば、CH50、C3、C4、C4d、sC5b9、C5)及び残留エクリズマブ血漿レベルを処置期間前、処置期間中及び処置期間後にモニターすることを含む。一実施形態において、方法は、補体(例えば、CH50、C3、C4、C4d、sC5b9、C5)及び残留エクリズマブ血漿レベルをエクリズマブの各投与前並びに1日目、2日目、3日目及び6日目にモニタリングして、十分な薬物曝露を確保することを含む。いくつかの実施形態において、処置により、挿管の必要がなくなる(例えば、14日目)。他の実施形態において、処置により、ベースラインと比較してOMS進行スケールの改善を生じる。他の実施形態において、処置により、ベースラインと比較して4、7及び/又は14日目にOMS進行スケールの改善を生じる。他の実施形態において、処置により、退院までの時間が減少される。他の実施形態において、処置により、酸素供給自立までの時間が減少される。他の実施形態において、処置により、ウイルス排出が陰性になるまでの時間が減少される。他の実施形態において、処置により、1つ以上の生物学的パラメーター(例えば、C5b9、推定GFR、CRP、ミオグロビン、CPK、心筋トロポニン、フェリチン、乳酸、細胞血球数、肝酵素、LDH、Dダイマー、アルブミン、フィブリノーゲン、トリグリセリド、凝固検査、尿電解質、クレアチン尿、タンパク尿、尿酸血、IL6、プロカルシトニン、免疫表現型及び/又は探索的検査)が改善される。
【0029】
他の実施形態において、患者は、入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置を要する。いくつかの実施形態において、処置により、ICU患者の3日目の臓器不全が減少する(例えば、3日目の逐次臓器不全評価(SOFA)スコアの相対的変動によって定義される)。他の実施形態において、処置により、ICU患者の二次感染(例えば、肺炎感染)が低減又は排除される。他の実施形態において、処置により、ICU患者の昇圧剤なしの生存(例えば、肺炎感染)が生じる。他の実施形態において、処置により、ICU患者の人工呼吸器なしの生存が生じる。他の実施形態において、処置により、ICU患者の透析の発生率が低下する。他の実施形態において、処置により、ベースラインと比較してICU患者のOMS進行スケールが改善される。他の実施形態において、処置は、4、7及び14日目のベースラインと比較したICU患者のOMS進行スケールの改善、14、28及び90日での全生存、28日間の無人工呼吸器日、PaO2/FiO2比の発展の改善、4日目の呼吸性アシドーシスの減少(動脈血のpHが7.25未満で、動脈血二酸化炭素分圧[Paco2]が6時間を超えて60mmHg以上)、酸素供給自立までの時間の減少、入院期間の減少、ウイルス排出陰性までの時間の減少及び/又はICU退院及び退院までの時間の減少をもたらす。他の実施形態において、処置により、ICU患者の以下の生物学的パラメーターの1つ以上が改善される:sC5b9、推定GFR、CRP、心筋トロポニン、尿電解質及びクレアチニン、タンパク尿、尿酸血、IL6、ミオグロビン、KIM-1、NGAL、CPK、フェリチン、乳酸、細胞血球数、肝酵素、LDH、Dダイマー、アルブミン、フィブリノーゲン、トリグリセリド、凝固検査(活性化部分トロンボプラスチン時間を含む)、プロカルシトニン、免疫表現型、探索的検査、腎代替療法の速度及び/又は換気パラメーター。
【0030】
特定の態様において、コロナウイルス疾患(例えば、COVID-19)を有する対象を処置する方法であって、エクリズマブを1、4及び8日目に1200mgの用量で静脈内投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、方法は、エクリズマブを1、4及び8日目に1200mgの用量で、且つ15及び22日目に900mgの用量で静脈内投与することを含む。他の実施形態において、方法は、エクリズマブを、(a)1、4及び8日目に1200mgの用量で、(b)15及び22日目に900mgの用量で、且つ(c)12及び18日目に900mg又は1200mgの用量で静脈内投与することを含む。いくつかの実施形態において、エクリズマブは、治療用量モニタリング(TDM)に基づいて投与される。いくつかの実施形態において、TDMは、エクリズマブ血漿レベル並びに遊離C5、遊離C-5及び/又はCH50抑制から選択されるパラメーターのモニタリングを含み、任意選択の用量は、パラメーターが標準試料と比較して調節される(例えば、減弱される)場合に投与される。いくつかの実施形態において、処置は、人工呼吸状態の改善、酸素飽和レベル(SpO2及び/又はPaO2)の改善、酸素補給状態の改善、集中治療室での時間の減少及び/又は入院期間の減少をもたらす。
【0031】
特定の態様において、コロナウイルス疾患、例えばCOVID-19を有する対象を処置する方法であって、ラベルに従った体重ベースの負荷用量に基づいて、1日目にラブリズマブを静脈内投与すること(例えば、静脈内使用のためのULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ-cwvz)注射剤についての米国製品添付文書(United States Product Insert、USPI)ラベル;最初の米国承認:2018年;改訂:2019年10月);5日目(D5)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)を静脈内投与すること;10日目(D10)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)のラブリズマブを静脈内投与すること;及び15日目(D15)に全ての患者について900mgのラブリズマブを静脈内投与することを含む方法が提供される。例えば、一実施形態において、ラブリズマブは、5日目及び10日目に600mg又は900mg(体重カテゴリーに基づく)の用量で患者に投与され、次いで15日目に900mgの用量で投与される。具体的には、体重ベースの用量が以下の通り1日目に投与される:1日目、患者体重40kg以上60kg未満:2400mg/kg;60kg以上100kg未満:2700mg/kg;又は100kg以上:3000mg/kg。5日目及び10日目に、ラブリズマブ600mg又は900mgの用量が投与され(体重カテゴリーに従って)、15日目に、患者は、ラブリズマブ900mgを投与される。最終評価は、29日目又は退院日のいずれか早い方で実施される。患者が全ての包含基準を満たし、除外基準を満たさない場合、スクリーニング及び1日目の来院は、同日に行うことができる。いくつかの実施形態において、処置は、ベストサポーティブケア(BSC)単独と比較して、BSCに加えてラブリズマブを受けているSARS CoV 2感染を有する患者の生存率を改善する。他の実施形態において、処置は、支持療法を受けている間、SARS CoV 2感染を有する患者の肺損傷を減少させる。他の実施形態において、処置は、支持療法を受けている間、SARS CoV 2感染を有する患者の臨床転帰を改善する。いくつかの実施形態において、処置は、以下の1つ以上をもたらす:(1)29日目の人工呼吸なし日数の減少、(2)29日目の集中治療室滞在期間の減少、(3)29日目の逐次臓器不全評価のベースラインからの変化の改善、(4)29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化の改善、(5)29日目の入院期間の減少、及び/又は(5)60日目及び90日目の生存(全死因死亡に基づく)。
【0032】
特定の態様において、コロナウイルス疾患(例えば、COVID-19)を有する対象を処置する方法であって、酸素補助からの自立までエクリズマブの均一なスケジュール(例えば、3日ごとに1200mgを4回投与、その後、3日ごとに900mgを3回投与)に従って患者にエクリズマブを投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、患者は、挿管された患者(例えば、重度、非ICU)である。
【0033】
特定の態様において、SARS-CoV-2(2019-nCoV)に感染したヒト患者における重症コロナウイルス疾患-2019(COVID-19)を処置する方法であって、有効量の、エクリズマブ(SOLIRIS(登録商標))を含む医薬組成物を投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、重症COVID-19は、入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置の必要性を含む。
【0034】
特定の態様において、エクリズマブを用いて、ヒト患者における重症コロナウイルス疾患-2019(重症COVID-19)を有効に処置する方法であって、(a)エクリズマブによる処置前及び後、患者の血液サンプル中における、C5b-9(膜侵襲複合体;MAC)であるマーカーのレベルを測定すること;(b)マーカーレベルを標準試料と比較すること;(c)ヒト患者のマーカーレベルが標準試料に収束するまでエクリズマブの処置用量を漸増させること;及び(d)エクリズマブの漸増用量をヒト患者に投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、マーカーは、循環sC5b9レベルであり、及び標準試料は、約340ng/mlのレベルを含み、有効な処置は、入院期間及び/又は集中治療室(ICU)滞在期間の減少を含む。別の実施形態において、マーカーは、循環sC5b9レベルを含み、及び標準試料は、約340ng/mlのレベルを含み、正の差(例えば、患者のサンプル中のsC5b9レベル>約340ng/ml)は、より長い入院及び/又はICU滞在を示す。
【0035】
特定の態様において、重症コロナウイルス疾患-2019(重症COVID-19)に罹患したヒト患者の入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置の期間である転帰を予測する方法であって、患者の血液サンプル中における、C5b-9(膜侵襲複合体;MAC)であるマーカーのレベルを測定することを含み、標準試料と比較したマーカーレベルの増加は、転帰の予後を示す、方法が提供される。
【0036】
本発明のこれら及び他の態様に従って多数の他の態様が提供される。本発明の他の特徴及び態様は、以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲からより詳細に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】個々の無血漿エクリズマブ濃度-時間プロファイルを示す(N=6)。赤色の領域は、治療量以下のエクリズマブ曝露を有すると考えられる。矢印は、計画されたSOLIRIS 900mgの投与量を示す。上部中央のプロファイルは、SOLIRISによる処置の開始から6日後に死亡した患者のデータである。X軸:時間(日);Y軸:無血漿エクリズマブ濃度(μg/mL)。
図2】個々の血漿可溶性C5b9濃度-時間プロファイルを示す(N=6)。矢印は、エクリズマブ900mgによる処置開始の7日後に投与された2回目のエクリズマブ900mg投与を示す。上部中央のプロファイルは、SOLIRISによる処置の開始から6日後に死亡した患者のデータである。X軸:時間(日);Y軸:可溶性C5b9(ng/mL)。
図3】個々のプロファイル:CH50及び時間一致可溶性C5b9プロファイル(N=1)を示す。矢印は、エクリズマブ900mg投与を示す。略語及び用語:jour=日;sC5b9=可溶性C5b9。
図4】研究プロトコルの概略図を示す。
図5】造血幹細胞移植後の血栓性微小血管症を有する小児患者における経時的なエクリズマブクリアランスの変化を示す。
図6】造血幹細胞移植後の血栓性微小血管症を有する成人患者における、より速いラブリズマブクリアランスの仮定「あり」及び「なし」で比較したシミュレーションを示す。
図7】カプラン・マイヤー推定生存確率を示す。
図8】(a)エクリズマブで処置された患者及びエクリズマブなしで処置された患者におけるCH50活性、及び(b)エクリズマブで処置された患者における遊離残留エクリズマブの、1日目及び7日目のベースラインからの変化を示す。各ひし形は、1人の患者サンプルを表す。
図9A-9B】COVID-19を有する患者における補体評価に関するデータを示す。具体的には、図9Aは、健常対照者(左)及びCOVID-19患者(右)におけるsC5b-9の循環レベルを示す。COVID-19を有する患者は、入院中にサンプリングされた。sC5b-9の正常値は、340ng/ml未満である。図9Bは、サンプリング時のsC5b-9の循環レベルによる退院までの時間のカプラン・マイヤー表現を示す。入院後の採血の遅延の中央値は、2日であった(四分位範囲、1;3)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書で使用される場合、名詞の前の「1つの」又は「複数」という語は、1つ以上の特定の名詞を表す。例えば、「哺乳動物細胞」という句は、「1つ以上の哺乳動物細胞」を表す。
【0039】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈に別段の明示がない限り、複数の指示対象を含む。
【0040】
「約」という用語は、特に所与の量又は数に関して、プラス又はマイナス10%(±10%)以内(例えば、±5%)の偏差を包含することを意味する。
【0041】
「医薬製剤」という用語は、活性成分の生物学的活性が明白に有効であるような形態であり、製剤が投与される対象に対して有意に有毒である追加の成分を含まない製剤を指す。
【0042】
「組換えタンパク質」という用語は、当技術分野で公知である。簡潔には、「組換えタンパク質」という用語は、細胞培養システムを使用して製造することができるタンパク質を指し得る。細胞培養系の細胞は、例えば、ヒト細胞、昆虫細胞、酵母細胞又は細菌細胞を含む哺乳動物細胞に由来し得る。一般に、細胞培養物中の細胞は、目的の組換えタンパク質をコードする導入された核酸を含む(この核酸は、プラスミドベクターなどのベクター上に保有され得る)。組換えタンパク質をコードする核酸は、タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された異種プロモーターを含むこともできる。
【0043】
「哺乳動物細胞」という用語は、当技術分野で知られており、例えばヒト、ハムスター、マウス、ミドリザル、ラット、ブタ、ウシ、ハムスター又はウサギを含む任意の哺乳動物からの又はそれに由来する任意の細胞を指すことができる。いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞は、不死化細胞、分化細胞又は未分化細胞であり得る。
【0044】
「免疫グロブリン」という用語は、当技術分野で知られている。簡潔には、「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンタンパク質(例えば、可変ドメイン配列、フレームワーク配列又は定常ドメイン配列)の少なくとも15アミノ酸(例えば、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90若しくは100アミノ酸又は100アミノ酸超)を含有するポリペプチドを指すことができる。免疫グロブリンは、例えば、軽鎖免疫グロブリンの少なくとも15アミノ酸、例えばCDRH3などの重鎖免疫グロブリンの少なくとも15アミノ酸を含み得る。免疫グロブリンは、単離された抗体(例えば、IgG、IgE、IgD、IgA又はIgM)であり得る。免疫グロブリンは、IgGのサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)であり得る。免疫グロブリンは、抗体フラグメント、例えばFabフラグメント、F(ab’)フラグメント又はscFvであり得る。
【0045】
免疫グロブリンは、少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含有する改変タンパク質(例えば、融合タンパク質)でもあり得る。改変タンパク質又は免疫グロブリン様タンパク質は、二重特異性抗体若しくは三重特異性抗体又は二量体、三量体若しくは多量体抗体又はダイアボディ、DVD-Ig、CODV-Ig、AFFIBODY(登録商標)若しくはNANOBODY(登録商標)でもあり得る。免疫グロブリンの非限定的な例は、本明細書に記載されており、免疫グロブリンのさらなる例は、当技術分野で公知である。
【0046】
「改変タンパク質」という用語は、当技術分野で公知である。簡潔には、「改変タンパク質」という用語は、生物(例えば、哺乳動物)内に存在する内因性核酸によって天然ではコードされていないポリペプチドを指し得る。改変タンパク質の例には、改変酵素の安定性及び/又は触媒活性の増加をもたらす1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を伴う修飾酵素、融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、二価抗体、三価抗体、4結合ドメイン抗体、ダイアボディ及び少なくとも1つの組換え足場配列を含む抗原結合タンパク質が含まれる。
【0047】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は互換的に使用され、当技術分野で公知であり、長さ又は翻訳後修飾にかかわらず、アミノ酸の任意のペプチド結合鎖を意味することができる。
【0048】
「抗体」という用語は、当技術分野で公知である。「抗体」という用語は、「免疫グロブリン」という用語と互換的に使用される場合がある。これは簡潔には、2つの軽鎖ポリペプチド及び2つの重鎖ポリペプチドを含む全抗体を指し得る。全抗体には、IgM、IgG、IgA、IgD及びIgE抗体を含む異なる抗体アイソタイプが含まれる。「抗体」という用語には、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ化又はキメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、脱免疫化抗体及び完全ヒト抗体が含まれる。抗体は、様々な種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、オランウータン、ヒヒ、チンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット及びマウスなどの哺乳動物のいずれかにおいて作製するか又はそれから誘導することができる。抗体は、精製又は組換え抗体であり得る。
【0049】
抗体は、少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含有する改変タンパク質又は抗体様タンパク質(例えば、融合タンパク質)でもあり得る。改変タンパク質又は抗体様タンパク質は、二重特異性抗体若しくは三重特異性抗体又は二量体、三量体若しくは多量体抗体或いはダイアボディ、DVD-Ig、CODV-Ig、AFFIBODY(登録商標)又はNANOBODY(登録商標)でもあり得る。
【0050】
「抗原結合フラグメント」という用語又は同様の用語は、当技術分野で公知であり、例えば、標的抗原(例えば、ヒトC5)に結合し、標的抗原の活性を阻害する能力を保持する抗体のフラグメントを指すことができる。そのようなフラグメントには、例えば、単鎖抗体、単鎖Fvフラグメント(scFv)、Fdフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメント又はF(ab’)2フラグメントが含まれる。scFvフラグメントは、scFvが由来する抗体の重鎖王帯軽鎖可変領域の両方を含む単一のポリペプチド鎖である。さらに、イントラボディ、ミニボディ、トリアボディ及びダイアボディも抗体の定義に含まれ、本明細書に記載の方法での使用に適合する。例えば、Todorovska et al.(2001)J Immunol Methods 248(1):47-66;Hudson及びKortt(1999)J Immunol Methods 231(1):177-189;Poljak(1994)Structure 2(12):1121-1123;Rondon及びMarasco(1997)Annual Review of Microbiology 51:257-283を参照されたい。抗原結合フラグメントは、重鎖ポリペプチドの可変領域及び軽鎖ポリペプチドの可変領域も含み得る。したがって、抗原結合フラグメントは、抗体の軽鎖及び重鎖ポリペプチドのCDRを含み得る。
【0051】
「抗体フラグメント」という用語は、例えば、ラクダ化単一ドメイン抗体などの単一ドメイン抗体も含み得る。例えば、Muyldermans et al.(2001)Trends Biochem Sci 26:230-235;Nuttall et al.(2000)Curr Pharm Biotech 1:253-263;Reichmann et al.(1999)J Immunol Meth 231:25-38;PCT出願公開国際公開第94/04678号パンフレット及び国際公開第94/25591号パンフレット;並びに米国特許第6,005,079号明細書を参照されたい。「抗体フラグメント」という用語は、単一ドメイン抗体が形成されるように改変された2つのVドメインを含む単一ドメイン抗体も含み得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」及び「特異的に結合する」という用語は、所定の抗原上のエピトープに結合するが、他の抗原には結合しない抗体を指す。典型的には、抗体は、(i)例えば、所定の抗原、例えば、C5を分析物として使用し、抗体をリガンドとして使用する、BIACORE(登録商標)2000表面プラズモン共鳴装置の表面プラズモン共鳴(SPR)技術又は抗原陽性細胞への抗体の結合のスキャチャード分析によって決定される場合、およそ10-8M、10-9M若しくは10-10M未満など、又はそれよりさらに低いおよそ10-7M未満の平衡解離定数(K)で結合し、(ii)所定の抗原又は密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対する親和性よりも少なくとも2倍高い親和性で所定の抗原に結合する。したがって、別段の指示がない限り、「ヒトC5に特異的に結合する」抗体は、可溶性又は細胞結合ヒトC5に10-7M以下、例えば、およそ10-8M、10-9M又は10-10M未満のKで結合する抗体を指す。
【0053】
「k」という用語は、当技術分野で周知であり、抗原への抗体の会合の速度定数を指すことができる。「k」という用語も当技術分野で周知であり、抗体/抗原複合体からの抗体の解離の速度定数を指す。また、「K」という用語は当技術分野で公知であり、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことができる。平衡解離定数は、運動速度定数の比、K=k/kから推定される。そのような決定は、典型的には、例えば、25℃又は37℃で測定される。例えば、ヒトC5への抗体結合の動態は、抗体を固定化する抗Fc捕捉法を使用して、BIAcore3000装置での表面プラズモン共鳴(「SPR」)により、pH8.0、7.4、7.0、6.5及び6.0で決定することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「予防する」という用語は技術的に認識されており、局所再発、コロナウイルス媒介性肺障害などの疾患又はそれに関連する症状(例えば、ARDS)などの状態に関連して使用される場合、当技術分野において十分に理解されており、組成物を投与されない個人と比較して、個人の医学的状態の症状の頻度を減少させるか又は発症を遅らせる組成物の投与を含む。
【0055】
本明細書で使用される場合、「処置する」という用語は、予防的及び/又は治療的処置を含む。「予防的又は治療的」処置という用語は、当技術分野で認識されており、対象組成物の1つ以上の宿主への投与を含む。望ましくない状態(例えば、宿主動物の疾患又は他の望ましくない状態)の臨床症状が現れる前に投与される場合、その処置は予防的である(すなわち望ましくない状態の発生から宿主を保護する)一方、望ましくない状態が現れた後に投与される場合、処置は治療的である(すなわち既存の望ましくない状態又はその副作用を軽減、改善又は安定化することが意図される)。好ましくは、対象の状態(例えば、肺機能不全)の重症度が軽減されるか、又は少なくとも部分的に改善若しくは修正され、少なくとも1つの臨床症状(例えば、正常な対象と比較した対象の体重減少)のいくらかの緩和、軽減、回復又は減少が達成されることが意図される。
【0056】
本明細書で使用される場合、「導入」及び「導入期」という用語は互換的に使用され、臨床試験における処置の第1相を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「維持」及び「維持期」という用語は互換的に使用され、臨床試験における処置の第2相を指す。特定の実施形態において、処置は、臨床的利益が観察される限り又は管理不能な毒性又は疾患の進行が発生するまで継続される。
【0058】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒト対象及び非ヒト対象(例えば、家畜動物又は野生動物)の両方を含む。好ましくは、「対象」にはヒト患者が含まれる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「有効な処置」とは、有益な効果、例えば、対象における疾患又は障害の少なくとも1つの症状の改善を生じる処置を指す。有益な効果は、ベースラインを超える改善、すなわち本方法による治療の開始前に行われた測定又は観察を超える改善の形をとることができる。
【0060】
特定の実施形態において、インフルエンザ、デング熱、ロスリバー熱、コロナウイルス感染などのウイルス性疾患を有する対象、例えば、COVID-19、MERS、SARS又はそれらに関連する疾患に罹患した患者を処置することに関し、有効な処置は、疾患の少なくとも1つの症状の緩和を指し得る。
【0061】
特定の実施形態において、有効な処置は、対象の生存の可能性を改善することを指し得る。特定の実施形態において、開示された方法は、少なくとも1日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも18ヶ月、少なくとも2年、少なくとも30ヶ月若しくは少なくとも3年又は処置期間を含む任意の期間、対象の平均余命を改善する。
【0062】
「有効量」又は「治療有効量」という用語は、所望の生物学的、治療的及び/又は予防的結果を提供する薬剤の量を指す。この結果は、対象における疾患の徴候、症状若しくは原因の1つ以上の減少、改善、緩和、軽減、遅延及び/若しくは寛解又は生体系の任意の他の所望の変化であり得る。1回以上の投与で有効量を投与することができる。いくつかの実施形態において、「有効量」は、病理学的転帰、例えば、肺損傷及び/又は炎症を改善する、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントなどのC5阻害剤の量である。いくつかの実施形態において、「有効量」は、臨床転帰、例えば、対象の生存期間を、少なくとも1日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも18ヶ月、少なくとも2年、少なくとも30ヶ月若しくは少なくとも3年又は処置期間を含む、任意の期間だけ改善する、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントなどのC5阻害剤の量である。
【0063】
「例えば」及び「など」という用語及びそれらの文法上の均等物について、別段の明示的な記載がない限り、「限定されることなく」という語句が続くと理解される。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、実験誤差による変動を説明することを意味する。本明細書で報告される全ての測定値は、明示的に使用されているかどうかにかかわらず、特に明記されていない限り、「約」という用語によって修飾されるものと理解される。本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈に別段の明示がない限り、複数の指示対象を含む。
【0064】
1.補体系
周知であるように、補体系は、体の他の免疫系と連携して作用し、細胞及びウイルス病原体の侵入を防御する。少なくとも25の補体タンパク質が存在する。補体成分は、一連の複雑であるが正確な酵素的切断及び膜結合事象において相互作用することにより、免疫防御機能を達成する。結果として生じる補体カスケードは、オプソニン、免疫調節及び溶解機能を備えた産物の産生につながる。
【0065】
補体カスケードは、古典経路(「CP」)、レクチン経路又は代替経路(「AP」)を介して進行することができる。レクチン経路は、典型的には、マンノース結合レクチン(「MBL」)の高マンノース基質への結合によって開始される。APは抗体非依存性であり得、病原体表面の特定の分子によって開始され得る。CPは、典型的には、標的細胞上の抗原部位に対する抗体認識及び結合によって開始される。これらの経路は、補体成分C3が活性プロテアーゼによって切断されてC3aとC3bを生成する点で、C3転換酵素に収束する。
【0066】
本開示は、コロナウイルス疾患及び/又はそれに関連する症状の治療における補体タンパク質の調節因子の使用に関する。当技術分野で知られているように、哺乳動物の補体タンパク質は主に肝臓組織で生成され、血漿タンパク質の約5%を構成する。カスケード全体は、C1活性化から膜侵襲複合体(MAC)形成まで進行し、新規結合部位によって決定される相互作用は、循環天然タンパク質(C3、C4、C2、FB、C5)のタンパク質分解切断に起因するタンパク質の立体構造変化に続くか又はアンフォールディング(C9)若しくはタンパク質/タンパク質相互作用(C6-C9)の結果であることが明らかになった。
【0067】
いくつかの実施形態において、本開示は、コロナウイルス疾患の治療における古典経路(CP)の調節因子の使用に関する。一般に、抗原抗体複合体が認識部分C1qに結合すると、CPが開始され、関連するプロテアーゼC1r及びC1sの活性化が誘発される。活性化されたC1sは、C4をC4bに切断し、C4bは、そのチオエステルを介して標的に共有結合し、そこでC2を捕捉する。C2もC1sによって切断されてCP C3転換酵素C4b2aを形成する。
【0068】
いくつかの実施形態において、本開示は、レクチン経路(LP)の調節因子を使用したコロナウイルス疾患の治療に関する。一般に、LPは、細菌由来の糖、マンノース結合レクチン(MBL)などのレクチン、フィコリン又はコレクチンに結合する認識/開始ユニットにおいてのみCPと異なる。全てが炭水化物エピトープに結合し、関連するプロテアーゼMASP1及びMASP2の活性化を誘発し、後者はC4及びC2を切断してC4b2aを形成する。C4b2aはC3をC3bに切断し、C3bに共有結合する内部チオエステルを表面に露出させ、活性化表面のC3bでの密なコーティングを生じ(オプソニン化)、感染に対する重要な防御である標的の食細胞取り込みのためのリガンドを提供する。C3bは、C3転換酵素と結合してC5転換酵素C4b2a3bも生成する。
【0069】
いくつかの実施形態において、本開示は、代替経路(AP)の調節因子を使用したコロナウイルス疾患の治療に関する。一般に、APはC3b(活性化経路又は非特異的供給源から生成される)結合因子B(FB)によって開始され、次に因子D(FD)によって切断されて、C3転換酵素、C3bBbを形成する。C3bBbはC3をC3bに切断し、隣接する表面をコーティングし、C5転換酵素C3bBbC3bを生成する。液相でのC3の活性化は、「自己」細胞の活性化を抑制する調節タンパク質の不存在によって典型的に表される、活性化表面での急速な増幅のためにシステムを刺激する。FBは、古典経路及びレクチン経路の活性化に起因するものを含む、活性化表面に沈着した任意のC3bに結合できる。したがって、代替経路は補体カスケードの増幅ループとして知られており、小さいトリガーを増幅して大きい下流の応答とすることにおいて重要な役割を果たす。
【0070】
好ましくは、本開示は、終末経路(TAP)の調節因子を使用したコロナウイルス疾患の治療に関する。一般に、TAPは、いずれかのC5転換酵素によるC5の捕捉及び切断から始まり、炎症性ペプチドC5aを放出する。C5bは転換酵素に付着したままであり、C6及びC7に順次結合し、転換酵素からのC5b67の放出及び膜との結合の後、C8及びC9が結合して溶解性MACを形成する。最近の研究は、MAC孔の構造の複雑さを示している。特に、MACは老化した(又は保護されていない)赤血球及び感受性細菌を効率的に溶解するが、有核自己細胞で形成されると、過剰の活性化事象を引き起こし、その多くは炎症促進性が高い。
【0071】
いくつかの実施形態において、本開示は、補体調節タンパク質を使用したコロナウイルス疾患の治療に関する。これらには、例えば、血漿タンパク質因子H(FH)及びC4b結合タンパク質(C4bp)並びにC3/C5転換酵素を阻害する膜タンパク質、CD35、CD46及びCD55が含まれる。酵素の制御は、FH又はCD55などの制御タンパク質の多分子転換酵素への結合及び酵素サブユニットBb又はC2aの急速な解離によって特徴付けられる減衰促進活性によってもたらされる。残存するC3b又はC4bは、調節タンパク質が残りのサブユニットに結合する補因子活性の影響を受け、補体セリンプロテアーゼ、因子I(FI)がiC3b/C3dg又はC4d/C4cを形成する基質を切断及び不活性化できるようにする。MAC阻害剤CD59は、C8が複合体に結合すると直ちに溶解孔の形成を遮断し、C9の重合を防ぐ。これらの制御タンパク質が一緒になって、自己組織の補体活性化を制御する。
【0072】
いくつかの実施形態において、本開示は、コロナウイルス疾患の治療における補体受容体(CR)の調節因子にさらに関する。CRはC3及びC4の分解フラグメントに結合し、免疫防御のための追加の経路を提供する。活性化フラグメントC3a及びC5aは、多数の細胞型の受容体(C3aR/C5aR1/C5aR2)に結合して、好中球の動員及び活性化から接着を強化する内皮細胞のプライミングに至るまで、多様な応答を誘発する。C5a/C5aR相互作用は、NLRP3インフラマソームを活性化し、適応免疫におけるT細胞応答に影響を与え、他の多くの役割を果たす。食細胞上の受容体CR3及びCR4はiC3bに結合して、オプソニン化された標的の取り込み及びクリアランスを促進する一方、C3dgは、B細胞及び濾胞樹状細胞(FDC)上のCR2と結合して、オプソニン化された抗原に対する免疫応答を増幅する。
【0073】
特定の理論に拘束されるものではないが、様々な構成要素の役割を含む代替経路の詳細を以下に提供する。
【0074】
AP C3転換酵素は、血液中の血漿に豊富に存在する補体成分C3の自発的な加水分解によって開始される。「遊転(tickover)」としても知られるこのプロセスは、C3のチオエステル結合が自発的に切断してC3i又はC3(HO)を形成することによって発生する。遊転は、活性化C3の結合をサポートし、且つ/又は中性又は正の電荷特性を有する、表面(例えば、細菌細胞表面)の存在によって促進される。このC3(HO)の形成により、血漿タンパク質の因子Bが結合し、因子Dが因子BをBaとBbに切断できるようになる。BbフラグメントはC3に結合したままで、C3(HO)Bbを含有する複合体を形成する(「液相」又は「開始」C3転換酵素)。少量のみ産生されるが、液相のC3転換酵素は、複数のC3タンパク質をC3a及びC3bに切断することができ、C3bの生成、それに続く表面(例えば、細菌表面)への共有結合を生じる。表面結合C3bに結合したB因子は、D因子によって切断されて、C3b、Bbを含有する表面結合AP C3転換酵素複合体を形成する。例えば、Mueller-Eberhard(1988)Ann Rev Biochem 57:321-347を参照されたい。
【0075】
AP C5転換酵素((C3b)、Bb)は、C3bモノマーがAP C3転換酵素に付加されると形成される。例えば、Medicus et al.(1976)J Exp Med 144:1076-1093及びFearon et al.(1975)J Exp Med 142:856-863を参照されたい。第2のC3b分子の役割は、C5に結合し、Bbによる切断のためにそれを提示することである。例えば、Isenman et al.(1980)J Immunol 124:326-331を参照されたい。APC3及びC5転換酵素は、例えば、Medicus et al.(1976)(上記)に記載されるように、三量体タンパク質プロパージンの添加によって安定化される。しかし、機能する代替経路のC3又はC5転換酵素を形成するために、プロパージン結合は必要でない。例えば、Schreiber et al.(1978)Proc Natl Acad Sci USA 75:3948-3952及びSissons et al.(1980)Proc Natl Acad Sci USA 77:559-562を参照されたい。
【0076】
CP C3転換酵素は、C1q、C1r及びC1sの複合体である補体成分C1と、標的抗原(例えば、微生物抗原)に結合した抗体との相互作用により形成される。C1のC1q部分が抗体-抗原複合体に結合すると、C1の立体構造が変化し、Clrが活性化される。次いで、活性C1rがC1関連C1sを切断し、それにより、活性セリンプロテアーゼを生成する。活性C1sは、補体成分C4をC4bとC4aに切断する。C3bと同様に、新しく生成されたC4bフラグメントには、標的表面(例えば、微生物細胞表面)上の適切な分子とアミド結合又はエステル結合を容易に形成する反応性の高いチオールが含まれる。C1sは、補体成分C2をC2b及びC2aにも切断する。C4b及びC2aによって形成される複合体は、CP C3転換酵素であり、C3をC3a及びC3bに処理することができる。CP C5転換酵素(C4b、C2a、C3b)は、C3bモノマーがCP C3転換酵素に付加されると形成される。例えば、Mueller-Eberhard(1988)(上記)及びCooper et al.(1970)J Exp Med 132:775-793を参照されたい。
【0077】
C3及びC5転換酵素における役割に加えて、C3bは、マクロファージ及び樹状細胞などの抗原提示細胞の表面に存在する補体受容体との相互作用を通じて、オプソニンとしても機能する。C3bのオプソニン機能は、補体系の最も重要な抗感染機能の1つと一般に考えられている。C3b機能を遮断する遺伝子病変を有する患者は、多種多様な病原性生物による感染を起こしやすいのに対して、補体カスケード配列の後方に病変を有する患者、すなわちC5機能を遮断する病変を有する患者は、ナイセリア(Neisseria)にのみ感染しやすく、わずかに感染しやすいのみであることが見出されている。
【0078】
AP及びCP C5転換酵素は、C5を切断する。C5は、正常なヒト血清におよそ75μg/ml(0.4μM)で見られる190kDaのベータグロブリンである。C5はグリコシル化されており、その質量の約1.5~3%が炭水化物に起因する。成熟C5は、655アミノ酸75kDaベータ鎖にジスルフィド結合した999アミノ酸115kDaアルファ鎖のヘテロ二量体である。C5は、単一コピー遺伝子の一本鎖前駆体タンパク質産物として合成される(Haviland et al.(1991)J Immunol.146:362-368)。このヒト遺伝子の転写物のcDNA配列は、18アミノ酸のリーダー配列とともに1658アミノ酸の分泌プロC5前駆体を予測する。例えば、米国特許第6,355,245号明細書を参照されたい。
【0079】
プロC5前駆体は、アミノ酸655及び659の後で切断されて、アミノ末端フラグメント(上記配列のアミノ酸残基+1から655)としてのベータ鎖及びカルボキシル末端フラグメント(上記配列のアミノ酸残基660から1658まで)としてのアルファ鎖(2つの間で4つのアミノ酸(上記配列のアミノ酸残基656~659)が欠失)を生成する。
【0080】
C5aは、アルファ鎖の最初の74個のアミノ酸(すなわち上記配列のアミノ酸残基660~733)を含むアミノ末端フラグメントとして、代替的又は古典的なC5転換酵素によってC5のアルファ鎖から切断される。C5aの質量11kDaのおよそ20%は炭水化物に起因する。転換酵素作用の切断部位は、アミノ酸残基733であるか又はそれに直接隣接する。この切断部位で又はそれに隣接して結合する化合物は、切断部位へのC5転換酵素のアクセスを遮断する可能性があり、それにより補体阻害剤として作用する。切断部位から離れた部位でC5に結合する化合物は、例えば、C5とC5転換酵素との間の相互作用の立体障害媒介性阻害により、C5切断を遮断する可能性も有する。ダニ唾液補体阻害剤であるオルニソドロス・ムバタ(Ornithodoros moubata)C阻害剤(「OmCI」)(本発明の方法で使用できるC5阻害剤であり得る)の作用機序と一致する作用機序の化合物は、C5のアルファ鎖のC345Cドメインの柔軟性を低下させ、C5転換酵素のC5の切断部位へのアクセスを減少させることにより、C5切断を防止する可能性も有する。例えば、Fredslund et al.(2008)Nat Immunol 9(7):753-760を参照されたい。
【0081】
C5は、C5転換酵素活性以外の手段によっても活性化できる。トリプシン限定消化(例えば、Minta and Man(1997)J Immunol 119:1597-1602及びWetsel and Kolb(1982)J Immunol 128:2209-2216)及び酸処置(Yamamoto and Gewurz(1978)J Immunol 120:2008及びDamerau et al.(1989)Molec Immunol 26:1133-1142)も、C5を切断して活性C5bを産生することができる。
【0082】
C5の切断により、強力なアナフィラトキシン及び走化性因子であるC5aが放出され、溶解終末補体複合体C5b-9が形成される。C5a及びC5b-9は、加水分解酵素、活性酸素種、アラキドン酸代謝産物及び様々なサイトカインなどの下流の炎症性因子の放出を増幅することにより、多面的な細胞活性化特性も有する。
【0083】
終末補体複合体の形成における最初のステップは、標的細胞の表面でC5b-8複合体を形成するためのC5bのC6、C7及びC8との組み合わせを伴う。C5b-8複合体がいくつかのC9分子と結合すると、膜侵襲複合体(「MAC」、C5b-9、終末補体複合体-「TCC」)が形成される。十分な数のMACが標的細胞膜に挿入されると、それらが生成する開口部(MAC細孔)が、赤血球などの標的細胞の急速な浸透圧溶解を媒介する。MACの非溶解性濃度が低いと、他の影響が生じ得る。特に、少数のC5b-9複合体の内皮細胞及び血小板への膜挿入は、有害な細胞活性化を引き起こし得る。いくつかの場合において、活性化が細胞溶解に先行し得る。
【0084】
C3a及びC5aはアナフィラトキシンである。これらの活性化された補体成分は、マスト細胞の脱顆粒を誘発し、これは、好塩基球及びマスト細胞及び他の炎症メディエーターからヒスタミンを放出し、その結果、平滑筋の収縮、血管透過性の増加、白血球の活性化、細胞増殖を含む他の炎症現象が起こり、細胞過形成が生じる。C5aは、炎症性顆粒球を補体活性化部位に誘引する役割を果たす走化性ペプチドとしても機能する。
【0085】
C5a受容体は、気管支及び肺胞上皮細胞並びに気管支平滑筋細胞の表面に見られる。C5a受容体は、好酸球、マスト細胞、単球、好中球及び活性化リンパ球にも見られる。
【0086】
適切に機能する補体系は、感染微生物に対する強力な防御を提供するが、補体の不適切な調節又は活性化は、例えば、関節リウマチ;ループス腎炎;喘息;虚血再灌流損傷;非定型溶血性尿毒症症候群(「aHUS」);デンスデポジット病;発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH);黄斑変性症(例えば、加齢性黄斑変性症);溶血、肝酵素上昇及び低血小板(HELLP)症候群;血栓性血小板減少性紫斑病(TTP);自然胎児喪失;微量免疫型血管炎;表皮水疱症;反復流産;多発性硬化症(MS);外傷性脳損傷;及び心筋梗塞、心肺バイパス及び血液透析に起因する損傷を含む様々な障害の病因に関与する。例えば、Holers et al.(2008)Immunological Reviews 223:300-316を参照されたい。
【0087】
2.ウイルス性疾患の処置
いくつかの実施形態において、例えば表1の分子などの補体経路の調節因子を含有する組成物は、宿主対象の補体活性化を刺激するウイルスによって誘発される疾患、例えばインフルエンザ、デング熱、ロスリバー熱、SARS、MERS、COVID-19又はそれに関連する疾患の処置に有用である。より具体的には、終末補体タンパク質は、ウイルス感染によって誘発される補体媒介性組織損傷に関与することがわかっているため、表1に提供されるC5/C5aの阻害剤、例えば抗C5抗体(エクリズマブ又はラブリズマブ又はその抗原結合フラグメントなど)又は抗C5a抗体(オレンダリズマブ(ALXN1007)又はその抗原結合フラグメントなど)は、ウイルス性疾患又はそれに関連する症状の治療に特に有用である。
【0088】
いくつかの実施形態において、例えば表1の分子などの補体経路の調節因子を含有する組成物は、ウイルス感染の症状又は影響の改善に有用である。COVID-19に関連して、患者の臨床症状は、肺、心臓及び腎臓などの重要な臓器への損傷を示す。COVID-19患者では、異常な補体活性化とそれに伴う炎症性肺損傷の悪化が観察されている(Gao et al.、上記)。サイトカイン放出の上昇は、COVID-19患者でも観察されており、臓器不全に関与すると見なされている。特に、COVID-19の臨床及び実験モデルは、腎臓の尿細管内腔における補体成分の異常な存在が、尿細管上皮細胞(TEC)の頂端刷子縁での補体C5b-9の集合につながること及びこれが尿細管間質損傷の病因における重要な要因であることを示唆している(Diao et al.,medRxiv,DOI:10.1101/2020.03.04.20031120,2020年4月10日)。さらに、重度又は致命的なCOVD-19を有する患者では、急性心損傷及び主に軽度のトロポニン上昇を伴う、末端臓器損傷のエビデンスも存在する。心機能不全は、D-ダイマーの上昇、乳酸デヒドロゲナーゼの上昇、総ビリルビンの上昇及び血小板の減少によって媒介されると考えられている(Campbell et al.,Circulation,2020 Jun 2;141(22):1739-1741)。COVID-19患者の死亡は、トロポニンレベルの上昇(0.19μg/Lの平均トロポニンI)によって示されるように、心臓損傷と有意に相関していた(それぞれ51.2%対4.5%)。
【0089】
本開示の実施形態は、ウイルス感染によって誘発される臓器損傷の予防における補体経路の調節因子の使用に関する。具体的には、抗C5抗体(例えば、エクリズマブ又はラビリズマブ)などの終末補体阻害剤は、C5a生成及びC5b9沈着の両方を減弱させるため(Volokhina et al.,Blood.2015 Jul 9;126(2):278-279)、本開示は、患者における炎症反応及び重度の臓器損傷を軽減する際の、表Aの分子などの補体調節因子の使用を提供する。特に、表1の分子は、C5aアナフィラトキシン及びC5b9のレベルの上昇を介して媒介される可能性のある、COVID-19患者の肺、心臓及び腎臓への損傷を防ぐのに有用である。
【0090】
3.コロナウイルス疾患
本開示は、有効量の、補体経路の調節因子、例えば表1の少なくとも1つの調節因子を投与することを含む、対象におけるコロナウイルス疾患の処置に関する。好ましくは、C5阻害剤、例えばエクリズマブなどの抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントを含む組成物は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)、COVID-19コロナウイルス(2019-nCoV)又はそれらに関連するコロナウイルスなどのコロナウイルスによって誘発される疾患の処置に有用である。
【0091】
コロナウイルスは、らせん対称性を有するカプシドを持つエンベロープウイルスである。それらはプラスセンス一本鎖RNAゲノムを有し、鳥類及び哺乳動物の細胞に感染することができる。この非常に大きいファミリーに属するウイルスは、風邪(例えば、hCoV及びOC43ウイルス)、細気管支炎(例えば、NL63ウイルス)又はSARSの流行時に観察されるような重度の肺炎の特定の形態(SARS-CoVなど)の原因物質であることが知られている。
【0092】
同じウイルス科に属しているにもかかわらず、異なるコロナウイルス間には、遺伝的レベル及び構造的レベルの両方で重要な違いが存在するが、生物学及び抗ウイルス分子に対する感受性の点でも存在する。例えば、Dijkman et al.(J Formos Med Assoc.2009 Apr;108(4):270-9;PMID:19369173);de Wit et al.(Nat Rev Microbiol.2016 Aug;14(8):523-34;PMID:27344959)を参照されたい。
【0093】
a.SARS-CoV
SARS-CoVは、ヒトなどの特定の哺乳類に感染することが知られているコロナウイルスの一種である。このウイルスの2つの株:2002年~2004年に重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を引き起こしたSARS-CoV及び2019年後半からコロナウイルス疾患2019(COVID-19)の流行を引き起こしたSARS-CoV-2は、ヒト重症呼吸器疾患の流行を引き起こしている。いずれの株も単一の祖先に由来するが、別個にヒトへの異種間感染を生じた。SARS-CoV-2はSARS-CoVの直系子孫ではないと考えられている(Gorbalenya et al.,2020年2月11日;ウェブサイトbiorxiv(dot)org/content/10.1101/2020.02.07.937862v1)。SARS-CoVには他に何百もの株があり、そのほとんどはヒト以外の種に感染することが知られている。コウモリは、SARS様コロナウイルスの多くの株の主要保有宿主であり、ハクビシンでは、SARS-CoVの祖先である可能性が高いいくつかの株が同定されている。
【0094】
SARSの流行は26ヶ国に影響を及ぼし、2003年には8000を超える症例が生じた(WHOレポート、2020年)。それ以来、研究室での事故の結果としての又はおそらく動物からヒトへの感染による少数の症例が発生している。SARSの症状は、インフルエンザ様であり、発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、下痢、震え(悪寒)を含む。個々の症状又は一群の症状で、SARSの診断に特異的であると証明されたものはない。発熱は最も頻繁に報告される症状であるが、特に高齢者及び免疫抑制患者では、最初の測定では発熱が見られないことがある。咳(初期は乾性)、息切れ及び下痢が、疾病の1週間目及び/又は2週間目に現れる。重症例は急速に進行することが多く、呼吸困難に進行し、集中治療が要する。
【0095】
SARSは、呼吸器分泌物のエアロゾル、糞口経路及び機械的感染によって感染する。大半のウイルス成長は上皮細胞で発生する。ときに、肝臓、腎臓、心臓又は目及びマクロファージなどの他の細胞型も感染し得る。SARS-CoVの伝染は、主に人から人へである。これは主に、呼吸器分泌物及び便中のウイルス排出のピークに対応する疾病の第2週中並びに重度の疾患を有する例が臨床的に悪化し始めるときに発生したようである。ヒト同士の感染の大半の例は、適切な感染予防対策が存在しない医療環境で発生した。適切な感染管理慣行の実施により、世界的な大流行は終息した。
【0096】
風邪型の呼吸器感染症では、成長は上気道の上皮に限局しているようである。臨床的には、大半の感染症は軽度の自然治癒疾患(古典的な「風邪」又は胃のむかつき)を引き起こすが、まれに神経学的合併症が発生し得る。この疾患は、症例の約3~10%で死に至る。
【0097】
SARSの臨床診断は、ELISA、補体結合試験又は赤血球凝集検査を使用して行うことができる。通常、培養物中の成長は、コロナウイルスの単離に効果を有しない。SARS-CoVの完全ゲノム(及びその一般的な変異体)が同定されているため、遺伝子検査が診断に使用され得る。SARS-CoVのゲノムは29,727ヌクレオチドのポリアデニル化RNAであり、11のオープンリーディングフレームを有し、残基の41%がG又はCである。ゲノム構成はコロナウイルスに典型的であり、特徴的な遺伝子順序(5’-レプリカーゼ(rep)、スパイク(S)、エンベロープ(E)、メンブレン(M)、ヌクレオカプシド(N)-3’)及び両端に短い非翻訳領域を有する。ゲノムの約3分の2を占めるSARS-CoV rep遺伝子は、翻訳時タンパク質分解処理を受ける2つのポリタンパク質をコードすると予測される。repの下流には、既知の全てのコロナウイルスに共通する構造タンパク質S、E、M及びNをコードすると予測される4つのオープンリーディングフレーム(ORF)がある。グループ2及び一部のグループ3のコロナウイルスのORF1bとSとの間に存在するヘマグルチニンエステラーゼ遺伝子は見られなかった。系統解析及び配列比較により、SARS-CoVは以前に特徴付けられたコロナウイルスのいずれとも密接に関連していないことが示された。生物因子の検出のための他の技術には、高分解能質量分析(MS)、低分解能MS、蛍光、放射性ヨウ素標識、DNAチップ及び抗体技術が含まれる。
【0098】
b.MERS-CoV
MERS-CoVは、2012年にサウジアラビアで同定された、SARS及び腎不全の原因となる新型ウイルスである。このウイルスは、それが同定されて以来、主に中東の26か国で1,806件を超える感染例の原因となっている。世界保健機関によると、これは、643人の死亡又は約35.6%の死亡率の原因となっている(出典:WHO、2016年9月28日)。
【0099】
MERS-CoVは、ニドウイルス目(Nidovirales)、コロナウイルス科(Coronaviridae)及びベータコロナウイルス(Betacoronavirus)属に属する。ヒトにおけるMERS-CoVの大半の例はヒトからヒトへの感染に起因しているが、ラクダはMERS-CoVの永続的な中間感染動物宿主のようであり、したがって、ヒトの主要な動物感染源を構成する。
【0100】
現在、パンデミックの可能性があるこの流行性呼吸器ウイルス病原体を有効に処置するための予防的又は治療的解決策は存在しない。近年、いくつかの治療手段:リバビリン、インターフェロン又はミコフェノール酸の使用が検討されている。残念ながら、これらの化合物の大半は、感染患者に使用した場合(Al-Tawfiq et al.,Int J Infect Dis.2014 Mar;20:42-6;PMID:24406736)又は予防的処置の一部として使用した場合(de Wit et al.,2016、上記)、十分な有効性を示さなかった。
【0101】
MERS-CoVに対する治療の最初の戦略は、多くの既知の抗ウイルス分子の中で、SARS-CoVと戦うために使用されるものを試験することであった。したがって、プロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤及びウイルスの標的細胞への侵入の阻害剤などのウイルス複製の阻害剤をインビトロで試験した。Dyall et al.(Antimicrob Agents Chemother.2014 Aug;58(8):4885-93;PMID:24841273)は、SARS及び/又はMERS-COVコロナウイルスに対して活性な抗ウイルス剤を同定する目的で、異なるカテゴリーの薬物を試験した。試験された異なるクラスの薬剤の中で、特定の抗炎症剤がSARS-CoVの増殖を阻害することが示されたが、MERS-CoVはむしろイオン輸送の特定の阻害剤、チューブリンの阻害剤又はアポトーシス阻害剤によって阻害された。試験した290の化合物のうち、MERS-CoVに対する抗ウイルス活性を有する33の化合物のみが細胞培養で同定された。
【0102】
しかし、タンパク質組成及び宿主細胞との機能的相互作用の両方の点での違いに一部起因して、SARS-CoVに有効な多くの抗ウイルス化合物はMERS-CoVに対して体系的に活性ではなく、逆も同様である。また、現在のところ、MERS-CoVウイルスによる感染症と闘うために保健当局によって認識及び/又は承認された治療用分子は、全くないか又はごくわずかにのみある。さらに、MERS-CoVウイルスに対するワクチンは市販されていない。一部の候補は、第I相臨床試験で評価されており、有効性評価が進行中である(National Clinical Trials #NCT02670187)。Modjarrad et al.(Lancet Infect Dis.2019 Sep;19(9):1013-1022;PMID:31351922)を参照されたい。
【0103】
c.呼吸器系におけるコロナウイルスの影響
ヒトのSARS-CoV感染は、軽度の熱性疾患からALI、場合によってはARDS及び死亡に至るまで、様々な急性呼吸器疾患を引き起こす。Channappanavar et al.(Semin Immunopathol.(Review)2017 Jul;39(5):529-539;PMID:28466096)を参照されたい。SARSの臨床経過は、3つの異なる段階、(a)発熱、咳、他の症状を伴う強力なウイルス複製を特徴とし、これらが全て数日で治まる、初期段階;(b)高熱、低酸素血症及び肺炎様症状への進行に関連し、この段階の終わりに向かってウイルス力価が低下する、第2の臨床段階;並びに(c)患者がARDSに進行し、多くの場合に死に至る第3段階で示される。第3段階は、過増殖宿主炎症反応から生じたと考えられる。
【0104】
MERSの最も一般的な臨床症状には、発熱、喉の痛み、乾性咳嗽、筋肉痛、息切れ及び呼吸困難などのインフルエンザ様の症状が含まれ、急速に肺炎に進行する。Channappanavarら(上記)を参照されたい。他の非典型的な症状には、発熱、悪寒、喘鳴及び動悸を伴わない軽度の呼吸器疾患が含まれる。ヒトにおけるMERS-CoVは、腹痛、嘔吐及び下痢などの胃腸症状も引き起こす。呼吸困難を伴う大半のMERS患者は、進行して重度の肺炎を発症し、集中治療室(ICU)への入室が必要になる。大半の健常な個人は軽度から中程度の呼吸器疾患を呈するが、免疫不全及び併発状態を有する個人は重度の呼吸器疾患を経験し、多くの場合にARDに進行する。全体として、MERS-CoVは、プライマリインデックスケース、免疫不全固体及び併発状態を有する患者で重度の疾患を引き起こしたが、家庭内接触者又は医療従事者のセカンダリケースは、大半が無症候性であるか又は軽度の呼吸器疾患を示した。
【0105】
典型的には、SARSで死亡した患者の肺の分析では、胸水、局所出血及び気管気管支樹の粘液膿性物質を伴う肺硬化及び浮腫が示された。びまん性肺胞損傷(DAD)は、SARS肺の顕著な組織学的特徴であった。他の変化には、ヒアリン膜形成、肺胞出血、肺胞腔におけるフィブリン浸出が含まれ、後期ステージで中隔及び肺胞線維化が観察された。ウイルス抗原の染色により、気道及び肺胞上皮細胞、血管内皮細胞及びマクロファージの感染が明らかになった。さらに、SARS-CoVウイルス粒子及びウイルスゲノムも、単球及びリンパ球で検出された。Gu et al.(J Exp Med.2005 Aug 1;202(3):415-24);Nicholls et al.(Lancet.2003 May 24;361(9371):1773-8)を参照されたい。これらの変化に加えて、SARSで死亡した患者の肺の組織学的検査では、間質及び肺胞における広範な細胞浸潤が明らかになった。これらの細胞浸潤は好中球及びマクロファージを含み、マクロファージが優勢な細胞型であった。これらの結果は、致命的なSARSを有する患者の末梢血サンプル中の好中球及び単球の数の増加並びにCD4及びCD8T細胞数の減少と相関していた。
【0106】
MERSに関しては、ヒト患者の肺組織の分析により、肺の全体うっ血、浮腫及び硬化に関連する胸水、心膜液及び腹水が示された(Ng et al.,Am J Pathol.2016 Mar;186(3):652-8)。SARS-CoV感染と同様に、DADは肺の顕著な特徴であった。さらに、上皮細胞壊死、細気管支上皮の脱落、肺胞浮腫及び肺胞中隔の肥厚も認められた。免疫組織化学検査では、MERS-CoVが主に気道及び肺胞上皮細胞並びに内皮細胞及びマクロファージに感染していることが示された。肺病変の重症度は、肺における好中球及びマクロファージの広範な浸潤並びにMERS患者の末梢血中のこれらの細胞の数の増加と相関していた。
【0107】
SARS及びMERSなどの病原性コロナウイルスを患っている患者の肺損傷に寄与する病原体に関して、サイトカイン及びケモカインは、ウイルス感染時の免疫及び免疫病理において重要な役割を果たすと長い間考えられてきた。迅速且つよく協調した先天性免疫応答は、ウイルス感染に対する防御の第一選択であるが、調節不全及び過剰な免疫応答は免疫病理を引き起こし得る(Channappanavar et al.(上記))。SARS及びMERS中の肺の病理における炎症性サイトカイン及びケモカインの関与について、直接的なエビデンスはないが、重度の疾患を有する患者からの相関的なエビデンスは、hCoV発病における過炎症反応の役割を示唆している。
【0108】
新型コロナウイルス感染による肺系の損傷のリスクは深刻である。特に、メタゲノミクス及び合成ウイルス回収戦略は、初代ヒト気道上皮細胞で複製する流行前のSARS様コウモリコロナウイルスの大規模なプールの存在を明らかにしてきた。これらのウイルスは、ヒトACE2侵入受容体を効率的に使用し、既存のワクチン及び免疫療法に抵抗するため、出現が見込まれる(Menachery et al.,Nat Med.2015 Dec;21(12):1508-1;PMID:26552008)。動物保有宿主からの新しい高病原性コロナウイルスが将来出現する可能性がある。SARS-CoV及びMERS-CoVの多くの新しいメンバーは、無症候性の例から重度の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び呼吸不全に至るまで、肺組織に様々な影響を与え続けている(Hui et al.,Curr Opin Pulm Med.2014 May;20(3):233-41;PMID:24626235)。
【0109】
4.他のウイルス
a.デングウイルス(DENV)
本開示は、有効量の、補体経路の調節因子、例えば表1の少なくとも1つの調節因子を投与することを含む、対象におけるデングウイルス(DENV)疾患の処置にさらに関する。100ヶ国以上で約5,000万人、年間3億9,000万人と推定されるデングウイルス感染は、最も重要である。DENV感染によって引き起こされる疾患は、無症候性の未分化熱及び古典的なデング熱から、デング出血熱(DHF)及びデングショック症候群(DSS)を含む重症型に及ぶ。DENV感染の生命を脅かす転帰の例は、血管透過性の増加及び血漿漏出であり、最終的に致命的な血液量減少性ショックにつながり得る。研究は、毛細血管漏出及びバリア完全性の喪失の病態生理学における、マクロファージのDENV感染と内皮細胞(EC)との関連を示す。特定の態様では、マクロファージはインビボでのDENV複製の主要な標的であるため、内皮に集中して血管透過性に寄与するサイトカイン、ケモカイン及び血管作用性因子の重要な供給源として機能する。内皮は、依然としてDENV媒介性病因の主要な部位である。
【0110】
補体系は、DENV疾患、特に血管漏出の開始に関与することが示唆されている。特に、H因子(FH)の活性が低いことによるAPの過剰活性は、DENVの病因に関与すると考えられる。いくつかの報告では、補体APの過剰活性とDENV疾患の重症度との関連性がサポートされており、補体タンパク質の消費、低いFHの血清レベル、高いD因子(FD)のレベルが重度のDENV患者の循環で報告されている(Cabeza et al.,J Virol.2018年7月15日;92(14):e00633-18)。特に、マクロファージ及びEC内での局所的なFH産生の調節不全、DENV複製及び病因の主要なインビボ部位は、それぞれ、FB及びC3b沈着などの他の補体成分の上昇と組み合わせて、デング熱患者における補体AP活性の増加に関連すると仮定される。さらに、C3、C4、因子B及びC5の過剰摂取がDHF/DSSに寄与し、DENV感染症においてヒスタミン放出、血管透過性の増強及び血管拡張の増強に寄与する補体活性化産物(C3a、C5a)のレベルが増加することが、臨床研究及びインビボ研究で示された。実際、重症患者の血液中のアナフィラトキシン濃度は、血管漏出の症状と相関していた。
【0111】
b.ロスリバーウイルス(RRV)
本開示は、有効量の、補体経路の調節因子、例えば表1の少なくとも1つの調節因子を投与することを含む、対象におけるロスリバーウイルス(RRV)熱の処置にさらに関する。RRV疾患の症状は、多くの場合、筋肉痛及び関節痛をもたらす衰弱性多発性関節炎及び筋炎によって特徴付けられる。ヒト及びマウスの両方での研究により、感染後の疾患の発症及び免疫病理学における宿主の炎症反応の重要な役割が特定されており、マクロファージは、筋骨格系の損傷に不可欠な役割を果たしている。特に、Gunn et al.(Virology,2018 Feb;515:250-260)は、MBL補体経路を介した宿主の補体系が、感染後に筋肉及び関節に浸潤する炎症細胞の活性化を通じて、疾患の発症及び組織損傷の媒介に重要な役割を果たしていることを示している。特に、RRVエンベロープN結合型グリカンは、MBL沈着及び補体活性化に寄与し、筋骨格系への重度のウイルス誘発性損傷の発生につながる。患者。RRV誘発性補体欠損マウスモデルでは、RRV感染後の組織損傷及び疾患症状がより軽度であることも、RRV誘発性病因における補体の重要な役割を示している。
【0112】
c.インフルエンザウイルス(Flu)
本開示は、有効量の、補体経路の調節因子、例えば表1の少なくとも1つの調節因子を投与することを含む、対象におけるインフルエンザウイルス媒介性疾患の処置にさらに関する。高病原性H5N1インフルエンザウイルス感染症に関する研究は、重度の肺損傷の病因における調節不全の補体活性化の関与を示している(Schindler et al.,Blood,76,1631-1638(1990);Sun et al.,Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.49,221-230(2013))。
【0113】
5.処置方法
補体経路の不適切な調節又は活性化も対象におけるウイルス性疾患の病因に関与する可能性がある。
【0114】
いくつかの実施形態において、本開示は、対象(ヒト患者など)において、ウイルス、例えばSARS、MERS、SARS-nCoV-2などのコロナウイルス;DENV、RRV又はインフルエンザウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体系の調節因子、好ましくは表1に提供されるような補体経路標的の阻害剤を投与することを含む方法を提供する。Thurman et al.(Arthritis Rheumatol.2017 Nov;69(11):2102-2113);Zelek et al.(Mol Immunol.2019 Oct;114:341-352)も参照されたい。これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
本開示は、特に、ウイルス性疾患又はそれに関連する症状の治療における以下のC5/C5a系の阻害剤の使用に関する。
【0118】
特定の態様において、対象において、肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷(すなわち太い気道及び実質における細胞の炎症;(2)血管周囲への細胞浸潤;(3)間質膜の肥厚、及び/又は(4)肺胞内浮腫)を引き起こし得るウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体C5タンパク質の阻害剤(「C5阻害剤」)を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷を引き起こすウイルスには、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス又はインフルエンザウイルスが含まれる。
【0119】
いくつかの態様において、ヒト対象は、息切れを含む重度のウイルス性疾患に罹患している(例えば、安静時呼吸数>30回/分;安静時酸素飽和度<93%又は動脈血酸素分圧(PaO2)/吸気酸素分画(FiO2)<300mmHg(1mmHg=0.133kPa))。いくつかの態様において、ヒト対象は、人工呼吸を要する呼吸不全;呼吸ショック;重度の肺炎;急性肺損傷(ALI);酸素補給を要するARDS;及び/又はICUモニタリングを要する非呼吸器官(例えば、心臓、腎臓)の複合不全を含む、重度のウイルス性疾患に罹患している。いくつかの態様において、ヒト対象は、(a)末梢血リンパ球の漸減;(b)IL-6及びC反応性タンパク質などの末梢炎症性サイトカインの漸増;(c)乳酸の漸増;及び(d)短期間での肺病変の急速な進行から選択される少なくとも1つの症状を呈する重度のウイルス性疾患に罹患している。
【0120】
特定の態様において、対象における肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷を処置する方法であって、対象においてC5aレベルが上昇していると判断すること、及び有効量の、例えばエクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体(本明細書ではエクリズマブ変異体又は変異体エクリズマブとも呼ばれる)、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、対象における肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷の処置は、有効量の、例えばオレンダリズマブ(ALXN1007)、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はオレンダリズマブ(ALXN1007)若しくはその変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5a阻害剤を対象に投与することを含む。
【0121】
特定の態様において、対象における結合組織又は骨格組織損傷を処置する方法であって、対象においてC5aレベルが上昇していると判断すること、及び有効量の、例えばエクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体(本明細書ではエクリズマブ変異体又は変異体エクリズマブとも呼ばれる)、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、肺(lung)又は肺(pulmonary)損傷を引き起こすウイルスには、ロスリバーウイルス(RRV)が含まれる。いくつかの実施形態において、対象における結合組織又は骨格組織損傷の処置は、有効量の、例えばオレンダリズマブ(ALXN1007)、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はオレンダリズマブ(ALXN1007)又はその変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5a阻害剤を対象に投与することを含む。
【0122】
特定の態様において、対象における内皮又は血管損傷を処置する方法であって、対象においてC5aレベルが上昇していると判断すること、及び有効量の、例えばエクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体(本明細書ではエクリズマブ変異体又は変異体エクリズマブとも呼ばれる)、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、内皮又は血管損傷を引き起こすウイルスには、デングウイルス(DENV)が含まれる。いくつかの実施形態において、対象における内皮又は血管損傷の処置は、有効量の、例えばオレンダリズマブ(ALXN1007)、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、オレンダリズマブ(ALXN1007)の抗原結合フラグメント若しくは変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はオレンダリズマブ(ALXN1007)若しくはその変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5a阻害剤を対象に投与することを含む。
【0123】
特定の態様において、コロナウイルス疾患、例えば、2019-nCoV急性呼吸器疾患(COVID-19)を有する対象を処置する方法が提供され、方法は、有効量の抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントを対象に投与することを含み、方法は、導入期、それに続く維持期を含む投与サイクルを含み、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ維持期中、5週目に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、毎週600mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、2週目及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与される。
【0124】
特定の態様において、ヒト対象において、ウイルス(例えば、SARS-CoV、MERS-CoV若しくはSARS-CoV-2(2019-nCoV)などのコロナウイルス;デングウイルス(DENV);ロスリバーウイルス(RRV)及び/又はインフルエンザウイルス(flu))によって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、エクリズマブを1、8、15及び22日目に900mgの用量で静脈内投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、方法は、4日目、12日目及び18日目に900mgの用量でエクリズマブを投与することをさらに含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、方法は、補体(例えば、CH50、C3、C4、C4d、sC5b9、C5)及び残留エクリズマブ血漿レベルを処置期間前、処置期間中及び処置期間後にモニターすることを含む。一実施形態において、方法は、補体(例えば、CH50、C3、C4、C4d、sC5b9、C5)及び残留エクリズマブ血漿レベルをエクリズマブの各投与前並びに1日目、2日目、3日目及び6日目にモニタリングして、十分な薬物曝露を確保することを含む。いくつかの実施形態において、処置により、挿管の必要がなくなる(例えば、14日目)。他の実施形態において、処置により、ベースラインと比較してOMS進行スケールの改善を生じる。他の実施形態において、処置により、ベースラインと比較して4、7及び/又は14日目にOMS進行スケールの改善を生じる。他の実施形態において、処置により、退院までの時間が減少される。他の実施形態において、処置により、酸素供給自立までの時間が減少される。他の実施形態において、処置により、ウイルス排出が陰性になるまでの時間が減少される。他の実施形態において、処置により、1つ以上の生物学的パラメーター(例えば、C5b9、推定GFR、CRP、ミオグロビン、CPK、心筋トロポニン、フェリチン、乳酸、細胞血球数、肝酵素、LDH、Dダイマー、アルブミン、フィブリノーゲン、トリグリセリド、凝固検査、尿電解質、クレアチン尿、タンパク尿、尿酸血、IL6、プロカルシトニン、免疫表現型及び/又は探索的検査)が改善される。
【0126】
他の実施形態において、患者は、入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置を要する。いくつかの実施形態において、処置により、ICU患者の3日目の臓器不全が減少する(例えば、3日目の逐次臓器不全評価(SOFA)スコアの相対的変動によって定義される)。他の実施形態において、処置により、ICU患者の二次感染(例えば、肺炎感染)が低減又は排除される。他の実施形態において、処置により、ICU患者の昇圧剤なしの生存(例えば、肺炎感染)が生じる。他の実施形態において、処置により、ICU患者の人工呼吸器なしの生存が生じる。他の実施形態において、処置により、ICU患者の透析の発生率が低下する。他の実施形態において、処置により、ベースラインと比較してICU患者のOMS進行スケールが改善される。他の実施形態において、処置は、4、7及び14日目のベースラインと比較したICU患者のOMS進行スケールの改善、14、28及び90日での全生存、28日間の無人工呼吸器日、PaO2/FiO2比の発展の改善、4日目の呼吸性アシドーシスの減少(動脈血のpHが7.25未満で、動脈血二酸化炭素分圧[Paco2]が6時間を超えて60mmHg以上)、酸素供給自立までの時間の減少、入院期間の減少、ウイルス排出陰性までの時間の減少及び/又はICU退院及び退院までの時間の減少をもたらす。他の実施形態において、処置により、ICU患者の以下の生物学的パラメーターの1つ以上が改善される:sC5b9、推定GFR、CRP、心筋トロポニン、尿電解質及びクレアチニン、タンパク尿、尿酸血、IL6、ミオグロビン、KIM-1、NGAL、CPK、フェリチン、乳酸、細胞血球数、肝酵素、LDH、Dダイマー、アルブミン、フィブリノーゲン、トリグリセリド、凝固検査(活性化部分トロンボプラスチン時間を含む)、プロカルシトニン、免疫表現型、探索的検査、腎代替療法の速度及び/又は換気パラメーター。
【0127】
特定の態様において、コロナウイルス疾患(例えば、COVID-19)を有する対象を処置する方法であって、エクリズマブを1、4及び8日目に1200mgの用量で静脈内投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、方法は、エクリズマブを1、4及び8日目に1200mgの用量で、且つ15及び22日目に900mgの用量で静脈内投与することを含む。他の実施形態において、方法は、エクリズマブを、(a)1、4及び8日目に1200mgの用量で、(b)15及び22日目に900mgの用量で、且つ(c)12及び18日目に900mg又は1200mgの用量で静脈内投与することを含む。いくつかの実施形態において、エクリズマブは、治療用量モニタリング(TDM)に基づいて投与される。いくつかの実施形態において、TDMは、エクリズマブ血漿レベル並びに遊離C5、遊離C-5及び/又はCH50抑制から選択されるパラメーターのモニタリングを含み、任意選択の用量は、パラメーターが標準試料と比較して調節される(例えば、減弱される)場合に投与される。いくつかの実施形態において、処置は、人工呼吸状態の改善、酸素飽和レベル(SpO2及び/又はPaO2)の改善、酸素補給状態の改善、集中治療室での時間の減少及び/又は入院期間の減少をもたらす。
【0128】
特定の態様において、コロナウイルス疾患、例えばCOVID-19を有する対象を処置する方法であって、ラベルに従った体重ベースの負荷用量に基づいて、1日目にラブリズマブを静脈内投与すること(例えば、静脈内使用のためのULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ-cwvz)注射剤についての米国製品添付文書(United States Product Insert、USPI)ラベル;最初の米国承認:2018年;改訂:2019年10月);5日目(D5)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)を静脈内投与すること;10日目(D10)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)のラブリズマブを静脈内投与すること;及び15日目(D15)に全ての患者について900mgのラブリズマブを静脈内投与することを含む方法が提供される。例えば、一実施形態において、ラブリズマブは、5日目及び10日目に600mg又は900mg(体重カテゴリーに基づく)の用量で患者に投与され、次いで15日目に900mgの用量で投与される。具体的には、体重ベースの用量が以下の通り1日目に投与される:1日目、患者体重40kg以上60kg未満:2400mg/kg;60kg以上100kg未満:2700mg/kg;又は100kg以上:3000mg/kg。5日目及び10日目に、ラブリズマブ600mg又は900mgの用量が投与され(体重カテゴリーに従って)、15日目に、患者は、ラブリズマブ900mgを投与される。最終評価は、29日目又は退院日のいずれか早い方で実施される。患者が全ての包含基準を満たし、除外基準を満たさない場合、スクリーニング及び1日目の来院は、同日に行うことができる。いくつかの実施形態において、処置は、ベストサポーティブケア(BSC)単独と比較して、BSCに加えてラブリズマブを受けているSARS CoV 2感染を有する患者の生存率を改善する。他の実施形態において、処置は、支持療法を受けている間、SARS CoV 2感染を有する患者の肺損傷を減少させる。他の実施形態において、処置は、支持療法を受けている間、SARS CoV 2感染を有する患者の臨床転帰を改善する。いくつかの実施形態において、処置は、以下の1つ以上をもたらす:(1)29日目の人工呼吸なし日数の減少、(2)29日目の集中治療室滞在期間の減少、(3)29日目の逐次臓器不全評価のベースラインからの変化の改善、(4)29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化の改善、(5)29日目の入院期間の減少、及び/又は(5)60日目及び90日目の生存(全死因死亡に基づく)。
【0129】
特定の態様において、コロナウイルス疾患(例えば、COVID-19)を有する対象を処置する方法であって、酸素補助からの自立までエクリズマブの均一なスケジュール(例えば、3日ごとに1200mgを4回投与、その後、3日ごとに900mgを3回投与)に従って患者にエクリズマブを投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、患者は、挿管された患者(例えば、重度、非ICU)である。
【0130】
特定の態様において、SARS-CoV-2(2019-nCoV)に感染したヒト患者における重症コロナウイルス疾患-2019(COVID-19)を処置する方法であって、有効量の、エクリズマブ(SOLIRIS(登録商標))を含む医薬組成物を投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、重症COVID-19は、入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置の必要性を含む。
【0131】
特定の態様において、エクリズマブを用いて、ヒト患者における重症コロナウイルス疾患-2019(重症COVID-19)を有効に処置する方法であって、(a)エクリズマブによる処置前及び後、患者の血液サンプル中における、C5b-9(膜侵襲複合体;MAC)であるマーカーのレベルを測定すること;(b)マーカーレベルを標準試料と比較すること;(c)ヒト患者のマーカーレベルが標準試料に収束するまでエクリズマブの処置用量を漸増させること;及び(d)エクリズマブの漸増用量をヒト患者に投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、マーカーは、循環sC5b9レベルであり、及び標準試料は、約340ng/mlのレベルを含み、有効な処置は、入院期間及び/又は集中治療室(ICU)滞在期間の減少を含む。別の実施形態において、マーカーは、循環sC5b9レベルを含み、及び標準試料は、約340ng/mlのレベルを含み、正の差(例えば、患者のサンプル中のsC5b9レベル>約340ng/ml)は、より長い入院及び/又はICU滞在を示す。
【0132】
特定の態様において、重症コロナウイルス疾患-2019(重症COVID-19)に罹患したヒト患者の入院及び/又は集中治療室(ICU)での処置の期間である転帰を予測する方法であって、患者の血液サンプル中における、C5b-9(膜侵襲複合体;MAC)であるマーカーのレベルを測定することを含み、標準試料と比較したマーカーレベルの増加は、転帰の予後を示す、方法が提供される。
【0133】
6.C5阻害剤
本明細書に開示される方法又はキットにおける使用のためのC5阻害剤(補体C5タンパク質の阻害剤)は、任意のC5阻害剤であり得る。特定の実施形態において、本明細書に開示される方法及びキットで使用されるC5阻害剤は、ポリペプチド阻害剤である。特定の実施形態において、C5阻害剤は、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、エクリズマブの抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質、又はエクリズマブの単鎖抗体バージョン、又は低分子C5阻害剤である。特定の実施形態において、C5阻害剤は、ラブリズマブ、その抗原結合フラグメント、ラブリズマブの抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、ラブリズマブの抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質、又はラブリズマブの単鎖抗体バージョン、又は低分子C5阻害剤である。
【0134】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤は、補体C5タンパク質に結合し、C5aの生成を阻害することもできる分子である。C5結合阻害剤は、例えば、C5a及びC5bフラグメントへのC5の切断を阻害することもでき、したがって終末補体複合体の形成を防止することができる。例えば、抗C5抗体は、C5タンパク質(例えば、ヒトC5タンパク質)のC5a活性フラグメントの生成又は活性を遮断する。この遮断効果により、抗体は、例えば、C5aの炎症誘発効果を阻害する。抗C5抗体は、C5bの生成又は活性を遮断する活性をさらに有し得る。この遮断効果により、抗体は、例えば、細胞表面でのC5b-9膜侵襲複合体の生成をさらに阻害することができる。
【0135】
いくつかの実施形態において、C5阻害剤は、エクリズマブ又はその変異体であるポリペプチド阻害剤である。エクリズマブは、ヒトIgG2/IgG4ハイブリッド定常領域を有するヒト化抗ヒトC5モノクローナル抗体(Alexion Pharmaceuticals,Inc.)であり、炎症誘発性反応を誘発する可能性を低減する。エクリズマブはSOLIRIS(登録商標)という商品名を有する。エクリズマブは、終末補体複合体の形成をさらに遮断する。例えば、Hillmen et al.,N Engl J Med 2004;350:552-9;Rother et al.,Nature Biotechnology 2007;25(11):1256-1264;Hillmen et al.,N Engl J Med 2006,355;12,1233-1243;Zuber et al.,Nature Reviews Nephrology 8,643-657(2012);米国特許第6,355,245号明細書;第9,718,880号明細書;第9,725,504号明細書を参照されたい。
【0136】
さらに他の実施形態において、C5阻害剤はエクリズマブの単鎖バージョンである。例えば、Whiss(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(6):870-7;Patel et al.(2005)Drugs Today(Barc)41(3):165-70;Thomas et al.(1996)Mol Immunol 33(17-18):1389-401;及び米国特許第6,355,245号明細書を参照されたい。
【0137】
特定の実施形態において、抗C5抗体は、エクリズマブと比較して1つ以上の改善された特性(例えば、改善された薬物動態特性)を有する、エクリズマブに由来する変異体である。変異体エクリズマブ抗体(本明細書においてエクリズマブ変異体、変異体エクリズマブなどとも呼ばれる)又はそのC5結合フラグメントは、(a)補体成分C5に結合し;(b)C5aの生成を阻害し;C5のフラグメントC5a及びC5bへの切断を阻害することができるものである。例えば、米国特許第9,079,949号明細書及び国際公開第2015134894号パンフレットを参照されたい。
【0138】
いくつかの実施形態において、本開示の方法での使用のためのC5結合ポリペプチドは、全抗体ではない。いくつかの実施形態において、C5結合ポリペプチドは単鎖抗体である。いくつかの実施形態において、本開示の方法での使用のためのC5結合ポリペプチドは、二重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、本開示の方法での使用のためのC5結合ポリペプチドは、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体若しくはヒトモノクローナル抗体又はそれらのいずれかの抗原結合フラグメントである。
【0139】
さらに他の実施形態において、C5阻害剤は、LFG316(Novartis,Basel,Switzerland,and MorphoSys,Planegg,Germany)又は米国特許第8,241,628号明細書及び米国特許第8,883,158号明細書の表1の配列によって定義される別の抗体、抗C5ペグ化RNAアプタマー(例えば、Keefe et al.,Nature Reviews Drug Discovery 9,537-550(2010年7月)doi:10.1038/nrd3141を参照されたい)、であるARC1905(Ophthotech,Princeton,NJ及びNew York,NY)、Mubodina(登録商標)(Adienne Pharma&Biotech,Bergamo,Italy)(例えば、米国特許第7,999,081号明細書を参照されたい)、rEV576(コバージン)(Volution Immuno-pharmaceuticals,Geneva,Switzerland)(例えば、Penabad et al.,Lupus,2014 Oct;23(12):1324-6を参照されたい)、ARC1005(Novo Nordisk,Bagsvaerd,Denmark)、SOMAmers(SomaLogic,Boulder,CO)、SOB1002(Swedish Orphan Biovitrum,Stockholm,Sweden)、RA101348(Ra Pharmaceuticals,Cambridge,MA)、アウリントリカルボン酸(「ATA」)、及び抗C5-siRNA(Alnylam Pharmaceuticals,Cambridge,MA)、及びオルニソドロス・ムバタ(Ornithodoros moubata)C阻害剤(「OmCI」)である。
【0140】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドC5阻害剤は、抗体(本明細書では「抗C5抗体」、C-5結合抗体などと呼ばれる)又はその抗原結合フラグメントである。抗体は、モノクローナル抗体であり得る。他の実施形態において、ポリペプチドC5阻害剤は、モノクローナル抗体などの抗体の可変領域又はそのフラグメントを含む。他の実施形態において、ポリペプチドC5阻害剤は、C5補体タンパク質に特異的に結合する免疫グロブリンである。他の実施形態において、ポリペプチド阻害剤は、本明細書に上記で定義したように、改変タンパク質又は組換えタンパク質である。いくつかの実施形態において、C5結合ポリペプチドは全抗体ではなく、抗体の一部を含む。いくつかの実施形態において、C5結合ポリペプチドは単鎖抗体である。いくつかの実施形態において、C5結合ポリペプチドは二重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、C5結合ポリペプチドは、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体若しくはヒトモノクローナル抗体又はそれらのいずれかの抗原結合フラグメントである。抗体を含むポリペプチドC5阻害剤を作製する方法は、当技術分野で公知である。
【0141】
上述のように、C5結合ポリペプチドを含むC5阻害剤は、補体成分C5を阻害することができる。特に、ポリペプチドを含む阻害剤は、C5aアナフィラトキシンの生成又は補体成分C5タンパク質(例えば、ヒトC5タンパク質)のc5a及びC5b活性フラグメントの生成を阻害する。したがって、C5阻害剤は、例えば、C5aの炎症促進効果を阻害し、細胞表面でのC5b-9膜侵襲複合体(「MAC」)の生成及びその後の細胞溶解を阻害することができる。例えば、Moongkarndi et al.(1982)Immunobiol 162:397及びMoongkarndi et al.(1983)Immunobiol 165:323を参照されたい。
【0142】
C5切断の阻害を測定するための適切な方法は、当技術分野で公知である。例えば、体液中のC5a及び/又はC5bの濃度及び/又は生理活性は、当技術分野で周知の方法によって測定することができる。C5a濃度又は活性を測定する方法には、例えば、走化性アッセイ、RIA又はELISAが含まれる(例えば、Ward and Zvaifler(1971)J Clin Invest 50(3):606-16及びWurzner et al.(1991)Complement Inflamm 8:328-340を参照されたい)。C5bについては、当技術分野で公知の溶血アッセイ又は可溶性C5b-9のアッセイを使用することができる。当技術分野で公知の他のアッセイも使用することができる。
【0143】
本明細書に記載され、本明細書に開示される方法及びキットに使用される抗C5抗体は、補体成分C5(例えば、ヒトC5)に結合し、C5のフラグメントC5a及びC5bへの切断を阻害する。
【0144】
特定の態様において、抗C5抗体又はその変異体又はその抗原結合フラグメントは、導入期、それに続く維持期を含む投与サイクルで対象に投与され、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ維持期中、5週目に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、毎週600mgの用量で投与されるか;又は抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、2週目及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与される。
【0145】
特定の態様において、エクリズマブを1、4及び8日目に1200mgの用量で静脈内投与すること;任意選択により、治療用量モニタリング(TDM)に基づいて、12日目(D12)に900mg又は1200mgのエクリズマブを投与すること;15日目(D15)に900mgの用量を静脈内投与すること;任意選択により、TDMに基づいて、18日目(D18)に900mg又は1200mgの静脈内エクリズマブを投与すること;及び22日目(D22)に900mgの用量を静脈内投与すること;を含む、コロナウイルス疾患、例えば、COVID-19を有する対象を処置する方法が提供される。好ましくは、TDMは、エクリズマブ血漿レベル並びに遊離C5、遊離C-5及び/又はCH50抑制から選択されるパラメーターのモニタリングを含み、任意選択の用量は、パラメーターが標準試料と比較して調節される(例えば、減弱される)場合に投与される。
【0146】
特定の態様において、コロナウイルス疾患、例えばCOVID-19を有する対象を処置する方法であって、ラベルに従った体重ベースの負荷用量に基づいて、1日目にラブリズマブを静脈内投与すること(例えば、静脈内使用のためのULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ-cwvz)注射剤についての米国製品添付文書(United States Product Insert、USPI)ラベル;最初の米国承認:2018年;改訂:2019年10月);5日目(D5)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)を静脈内投与すること;10日目(D10)に900mg(又は60kg未満の患者について600mg)のラブリズマブを静脈内投与すること;及び15日目(D15)に全ての患者について900mgのラブリズマブを静脈内投与することを含む方法が提供される。
【0147】
a.抗C5抗体
本発明における使用に適した抗C5抗体(又はそれに由来するVH/VLドメイン又はその抗原結合ドメインを含むCDR)は、当技術分野で周知の方法を使用して生成することができる。代わりに、当技術分野で認識されている抗C5抗体を使用することができる。C5への結合についてこれらの当技術分野で認識される抗体のいずれかと競合する抗体も使用することができ、これには当技術分野で公知の抗体のバイオシミラーが含まれる。
【0148】
本開示は、とりわけ、C5に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント及びCOVID-19、SARS、MERS、デング熱、ロスリバー熱及びインフルエンザなどであるが、これらに限定されない補体関連ウイルス障害を処置又は予防する方法におけるそのような抗体又は抗原結合フラグメントの使用に関する。好ましくは、上記のウイルス障害の処置に使用される抗C5抗体及びその抗原結合フラグメントは、国際公開第1995029697号パンフレット及び対応する米国特許第6,074,642号明細書;米国特許第6,355,245号明細書;及び対応する欧州特許第0758904B1号明細書に開示されているものであり、抗体配列(例えば、抗体のVHCDR1~3及びVLCDR1~3並びにその完全なVH/VL鎖)を含む文書中の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0149】
いくつかの実施形態において、上記のウイルス障害の処置に使用される抗C5a抗体及びその抗原結合フラグメントを含有する組成物は、国際公開第2007106585号パンフレット及び対応する米国特許第9,732,149号明細書;及び対応する欧州特許第2359834B1号明細書及び欧州特許第EP3124029A1号明細書に開示されているものであり、抗体配列(例えば、抗体のVHCDR1~3及びVLCDR1~3並びにその完全なVH/VL鎖)を含む文書中の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、上記のウイルス障害の処置に使用される抗C5a抗体及びその抗原結合フラグメントを含有する組成物は、国際公開第2008069889号パンフレット及び対応する米国特許出願公開第2007/0116710A1号明細書及び対応する欧州特許第2089058A2号明細書に開示されているものであり、抗体配列(例えば、抗体のVHCDR1~3及びVLCDR1~3並びにその完全なVH/VL鎖)を含む文書中の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0150】
いくつかの実施形態において、本開示は、エクリズマブ、エクリズマブの可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)又は重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の相補性決定領域(CDR)(例えば、エクリズマブのVHCDR1~3及びVLCDR1~3)を含むその抗原結合フラグメントに関する。エクリズマブ(SOLIRIS(登録商標)としても知られる)は、それぞれ配列番号1、2及び3に示される配列を有する重鎖CDR1、CDR2及びCDR3ドメインと、それぞれ配列番号4、5及び6に示される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3ドメインとを含む抗C5抗体である。エクリズマブは、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む。エクリズマブは、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖とを含む。
【0151】
別の例示的な抗C5抗体は、それぞれ配列番号14及び11に示される配列を有する重鎖及び軽鎖又はその抗原結合フラグメント及び変異体を含む、ULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ)である。ラブリズマブ(BNJ441及びALXN1210としても知られる)は、PCT/米国特許出願公開第2015/019225号明細書及び米国特許第9,079,949号明細書に記載されており、これらの教示は参照により本明細書に組み込まれる。ULTOMIRIS(登録商標)、ラブリズマブ、BNJ441及びALXN1210という用語は、本書全体で互換的に使用され得る。ラブリズマブは、ヒト補体タンパク質C5に選択的に結合し、補体活性化中のC5a及びC5bへの切断を阻害する。この阻害は、微生物のオプソニン作用及び免疫複合体のクリアランスに不可欠な補体活性化の近位又は初期成分(例えば、C3及びC3b)を保持しつつ、炎症誘発性メディエーターC5aの放出及び細胞溶解性孔形成膜侵襲複合体(MAC)C5b-9の形成を防ぐ。
【0152】
他の実施形態において、抗体は、ラブリズマブの重鎖及び軽鎖のCDR又は可変領域を含む。したがって、一実施形態において、抗体は、配列番号12に示される配列を有するラブリズマブのVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3ドメインと、配列番号8に示される配列を有するラブリズマブのVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3ドメインとを含む。別の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号19、18及び3に示される配列を有する重鎖CDR1、CDR2及びCDR3ドメインと、それぞれ配列番号4、5及び6に示される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3ドメインとを含む。別の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号12及び配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するVH及びVL領域を含む。
【0153】
別の例示的な抗C5抗体は、それぞれ配列番号20及び11に示される配列を有する重鎖及び軽鎖又はその抗原結合フラグメント及び変異体を含む、抗体BNJ421である。BNJ421(ALXN1211としても知られる)は、PCT/米国特許出願公開第2015/019225号明細書及び米国特許第9,079,949号明細書に記載されており、これらの教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0154】
他の実施形態において、抗体は、BNJ421の重鎖及び軽鎖のCDR又は可変領域を含む。したがって、一実施形態において、抗体は、配列番号12に示される配列を有するBNJ421のVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3ドメインと、配列番号8に示される配列を有するBNJ421のVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3ドメインとを含む。別の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号19、18及び3に示される配列を有する重鎖CDR1、CDR2及びCDR3ドメインと、それぞれ配列番号4、5及び6に示される配列を有する軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3ドメインとを含む。別の実施形態において、抗体は、それぞれ配列番号12及び配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するVH及びVL領域を含む。
【0155】
CDRの正確な境界は、異なる方法に従って異なって定義されている。いくつかの実施形態において、軽鎖又は重鎖可変ドメイン内のCDR又はフレームワーク領域の位置は、Kabat et al.[(1991)「Sequences of Proteins of Immunological Interest.」NIH Publication No.91-3242,U.S.Department of Health and Human Services,Bethesda,MD]によって定義された通りであり得る。このような場合、CDRは「Kabat CDR」(例えば、「Kabat LCDR2」又は「Kabat HCDR1」)と呼ぶことができる。いくつかの実施形態において、軽鎖又は重鎖可変領域のCDRの位置は、Chothia et al.(1989)Nature 342:877-883で定義される通りであり得る。したがって、これらの領域は、「Chothia CDR」(例えば、「Chothia LCDR2」又は「Chothia HCDR3」)と呼ぶことができる。いくつかの実施形態において、軽鎖及び重鎖可変領域のCDRの位置は、Kabat-Chothia組み合わせ定義によって定義される通りであり得る。そのような実施形態において、これらの領域は、「Kabat-Chothia組み合わせCDR」と呼ぶことができる。Thomas et al.[(1996)Mol Immunol 33(17/18):1389-1401]は、Kabat及びChothiaの定義によるCDR境界の同定を例示している。
【0156】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖CDR1を含む。
【化1】

いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖CDR2を含む。
【化2】

いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【化3】
【0157】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCGASENIYGALNWYQQKPGKAPKLLIYGATNLADGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQNVLNTPLTFGQGTKVEIK(配列番号8)。
【0158】
本明細書に記載の抗C5抗体は、いくつかの実施形態において、変異体ヒトFc定常領域が由来する天然ヒトFc定常領域よりも高い親和性で、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)に結合する変異体ヒトFc定常領域を含み得る。例えば、Fc定常領域は、変異体ヒトFc定常領域が由来する天然ヒトFc定常領域と比較して、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7又は8つ以上)のアミノ酸置換を含み得る。置換は、相互作用のpH依存性を維持しながら、変異体Fc定常領域を含むIgG抗体のFcRnへの結合親和性をpH6.0で増加させることができる。抗体のFc定常領域における1つ以上の置換が、pH6.0で(相互作用のpH依存性を維持しながら)FcRnに対するFc定常領域の親和性を増加させるかどうかを試験する方法は、当技術分野で公知であり、実施例で例示されている。例えば、PCT/米国特許出願公開第2015/019225号明細書及び米国特許第9,079,949号明細書(それぞれの開示は、参照により全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0159】
FcRnに対する抗体Fc定常領域の結合親和性を増強する置換は、当技術分野で公知であり、例えば、(1)Dall’Acqua et al.(2006)J Biol Chem 281:23514-23524に記載されるM252Y/S254T/T256E三重置換;(2)Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213-6216及びHinton et al.(2006)J Immunol 176:346-356に記載されるM428L又はT250Q/M428L置換;並びに(3)Petkova et al.(2006)Int Immunol 18(12):1759-69に記載されるN434A又はT307/E380A/N434A置換を含む。さらなる置換対:P257I/Q311I、P257I/N434H及びD376V/N434Hは、例えば、Datta-Mannan et al.(2007)J Biol Chem 282(3):1709-1717に記載され、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0160】
いくつかの実施形態において、変異体定常領域は、EUアミノ酸残基255でバリンの置換を有する。いくつかの実施形態において、変異体定常領域は、EUアミノ酸残基309でアスパラギンの置換を有する。いくつかの実施形態において、変異体定常領域は、EUアミノ酸残基312でイソロイシンの置換を有する。いくつかの実施形態において、変異体定常領域は、EUアミノ酸残基386で置換を有する。
【0161】
いくつかの実施形態において、変異体Fc定常領域は、それが由来する天然の定常領域と比較して、30以下(例えば、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3又は2つ以下)のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む。いくつかの実施形態において、変異体Fc定常領域は、M252Y、S254T、T256E、N434S、M428L、V259I、T250I及びV308Fからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、変異体ヒトFc定常領域は、それぞれEUナンバリングで428位にメチオニン及び434位にアスパラギンを含む。いくつかの実施形態において、変異体Fc定常領域は、例えば、米国特許第8,088,376号明細書に記載されているように、428L/434S二重置換を含む。
【0162】
いくつかの実施形態において、これらの変異の正確な位置は、抗体改変により、天然ヒトFc定常領域位置からシフトされ得る。例えば、IgG2/4キメラFcで使用される場合の428L/434S二重置換は、ラブリズマブ(BNJ441)に見出され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第9,079,949号明細書に記載される、M429L及びN435S変異体のように、429L及び435Sに対応し得る。
【0163】
いくつかの実施形態において、変異体定常領域は、天然ヒトFc定常領域と比較して、アミノ酸位置237、238、239、248、250、252、254、255、256、257、258、265、270、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、325、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434又は436(EUナンバリング)に置換を含む。いくつかの実施形態において、置換は、全てEUナンバリングで、237位のグリシンからメチオニン;238位のプロリンからアラニン;239位のセリンからリジン;248位のリジンからイソロイシン;250位のスレオニンからアラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、メチオニン、グルタミン、セリン、バリン、トリプトファン又はチロシン;252位のメチオニンからフェニルアラニン、トリプトファン又はチロシン;254位のセリンからスレオニン;255位のアルギニンからグルタミン酸;256位のスレオニンからアスパラギン酸、グルタミン酸又はグルタミン;257位のプロリンからアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン、トレオニン又はバリン;258位のグルタミン酸からヒスチジン;265位のアスパラギン酸からアラニン;270位のアスパラギン酸からフェニルアラニン;286位のアスパラギンからアラニン又はグルタミン酸;289位のスレオニンからヒスチジン;297位のアスパラギンからアラニン;298位のセリンからグリシン;303位のバリンからアラニン;305位のバリンからアラニン;307位のスレオニンからアラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン又はチロシン;308位のバリンからアラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン又はスレオニン;309位のロイシン又はバリンからアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン又はアルギニン;311位のグルタミンからアラニン、ヒスチジン又はイソロイシン;312位のアスパラギン酸からアラニン又はヒスチジン;314位のロイシンからリジン又はアルギニン;315位のアスパラギンからアラニン又はヒスチジン;317位のリジンからアラニン;325位のアスパラギンからグリシン;332位のイソロイシンからバリン;334位のリジンからロイシン;360位のリジンからヒスチジン;376位のアスパラギン酸からアラニン;380位のグルタミン酸からアラニン;382位のグルタミン酸からアラニン;384位のアスパラギン又はセリンからアラニン;385位のグリシンからアスパラギン酸又はヒスチジン;386位のグルタミンからプロリン;387位のプロリンからグルタミン酸;389位のアスパラギンからアラニン又はセリン;424位のセリンからアラニン;428位のメチオニンからアラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン又はチロシン;433位のヒスチジンからリジン;434位のアスパラギンからアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリン、トリプトファン又はチロシン;436位のチロシン又はフェニルアラニンからヒスチジンからなる群から選択される。
【0164】
本明細書に記載の方法での使用のための適切な抗C5抗体は、いくつかの実施形態において、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド及び/又は配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含む。代わりに、本明細書に記載の方法での使用のための抗C5抗体は、いくつかの実施形態において、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド及び/又は配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドを含む。
【0165】
一実施形態において、抗体は、pH7.4及び25℃(及びそうでなければ生理学的条件下)において、少なくとも0.1(例えば、少なくとも0.15、0.175、0.2、0.25、0.275、0.3、0.325、0.35、0.375、0.4、0.425、0.45、0.475、0.5、0.525、0.55、0.575、0.6、0.625、0.65、0.675、0.7、0.725、0.75、0.775、0.8、0.825、0.85、0.875、0.9、0.925、0.95又は0.975)nMである親和性解離定数(K)でC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントのKは、1nM以下(例えば、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3又は0.2nM以下)である。
【0166】
他の実施形態において、[(C、pH6.0でのC5に対する抗体のK)/(25℃、pH7.4でのC5に対する抗体のK)]は、21より大きい(例えば、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500又は8000より大きい)。
【0167】
抗体がタンパク質抗原に結合するかどうか及び/又はタンパク質抗原に対する抗体の親和性を決定する方法は、当技術分野で公知である。例えば、タンパク質抗原への抗体の結合は、限定されないが、ウエスタンブロット、ドットブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)法(例えば、BIAcoreシステム;Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden及びPiscataway,N.J.)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの様々な技術を使用して検出及び/又は定量化することができる。例えば、Benny K.C.Lo(2004)「Antibody Engineering:Methods and Protocols」,Humana Press(ISBN:1588290921);Johne et al.(1993)J Immunol Meth 160:191-198;Jonsson et al.(1993)Ann Biol Clin 51:19-26;及びJonsson et al.(1991)Biotechniques 11:620-627を参照されたい。さらに、親和性(例えば、解離定数及び会合定数)を測定する方法は、実施例に記載されている。
【0168】
本明細書で使用される場合、「k」という用語は、抗体の抗原への会合の速度定数を指す。「k」という用語は、抗体/抗原複合体からの抗体の解離の速度定数を指す。また、「K」という用語は、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指す。平衡解離定数は、運動速度定数の比、K=k/kから推定される。そのような決定は、好ましくは25℃又は37℃で測定される(実施例を参照されたい)。例えば、ヒトC5への抗体結合の動態は、抗体を固定化する抗Fc捕捉法を使用して、BIAcore3000装置での表面プラズモン共鳴(SPR)により、pH8.0、7.4、7.0、6.5及び6.0で決定することができる。
【0169】
一実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、C5タンパク質(例えば、ヒトC5タンパク質)のC5a及び/又はC5b活性フラグメントの生成又は活性を遮断する。この遮断効果により、抗体は、例えば、C5aの炎症促進効果及び細胞表面でのC5b-9膜侵襲複合体(MAC)の生成を阻害する。
【0170】
本明細書に記載される特定の抗体がC5切断を阻害するかどうかを決定する方法は、当技術分野で公知である。ヒト補体成分C5の阻害は、対象の体液中の補体の細胞溶解能力を低下させ得る。体液中に存在する補体の細胞溶解能力のそのような低下は、例えば、Kabat and Mayer(eds.),「Experimental Immunochemistry,2nd Edition」135-240,Springfield,IL,CC Thomas(1961),pages 135-139に記載される溶血アッセイなどの従来の溶血アッセイ又は例えばHillmen et al.(2004)N Engl J Med 350(6):552に記載されるニワトリ赤血球溶血法などのそのアッセイの従来のバリエーションなどによる、当技術分野で周知の方法によって測定することができる。候補化合物がヒトC5のC5a及びC5b形態への切断を阻害するかどうかを決定する方法は、当技術分野で公知であり、Evans et al.(1995)Mol Immunol 32(16):1183-95に記載されている。例えば、体液中のC5a及びC5bの濃度及び/又は生理活性は、当技術分野で周知の方法によって測定することができる。C5bについては、本明細書で考察される溶血アッセイ又は可溶性C5b-9のアッセイを使用することができる。当技術分野で公知の他のアッセイも使用することができる。これら又は他の適切なタイプのアッセイを使用して、ヒト補体成分C5を阻害できる候補薬剤をスクリーニングすることができる。
【0171】
C5及び/又はその分割産物のタンパク質濃度を測定して、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントがC5から生物活性産物への変換を阻害する能力を決定するために、限定されないが、ELISAなどの免疫学的手法を使用することができる。いくつかの実施形態において、C5a生成が測定される。いくつかの実施形態において、C5b-9ネオエピトープ特異的抗体は、終末補体の形成を検出するために使用される。
【0172】
b.抗C5二重特異性ミニボディ
本開示は、とりわけ、C5に結合する二重特異性抗体又はそのミニボディ及びCOVID-19、SARS、MERS、デング熱、ロスリバー熱及びインフルエンザなどであるが、これらに限定されない補体関連ウイルス障害を処置又は予防する方法におけるそのような二重特異性抗体又はミニボディの使用に関する。好ましくは、上記ウイルス障害の処置に使用される抗C5二重特異性抗体又はミニボディは、ヒト補体成分C5及び/又は血清アルブミンに特異的に結合する改変ポリペプチドを含む。代表的な例には、PCT/米国特許出願公開第2018/041661号明細書(国際公開第2019014360号明細書として公開)及び対応する米国特許出願第16/629,687号明細書;及び対応する欧州特許出願公開第18746529.9号明細書に開示されるものが含まれ、二重特異性ミニボディの配列を含む文書中の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。好ましくは、本開示は、その変異体を含む抗C5二重特異性ALXN1720に関する。
【0173】
c.抗C5a抗体
本開示は、とりわけ、C5aに結合する抗体又はその抗原結合フラグメント及びCOVID-19、SARS、MERS、デング熱、ロスリバー熱及びインフルエンザなどであるが、これらに限定されない補体関連ウイルス障害を処置又は予防する方法におけるそのような抗体又は抗原結合フラグメントの使用に関する。好ましくは、上記のウイルス障害の処置に使用される抗C5a抗体及びその抗原結合フラグメントは、国際公開第2011137395号パンフレット及び対応する米国特許第9,011,852号明細書;米国特許第9,371,378号明細書;米国特許第10,450,370号明細書;及び対応する欧州特許第2563813B1号明細書及び欧州特許第2824111B1号明細書に開示されているものであり、抗体配列(例えば、抗体のVHCDR1~3及びVLCDR1~3並びにその完全なVH/VL鎖)を含む文書中の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。好ましくは、本開示は、オレンダリズマブ(ALXN1007)、オレンダリズマブの可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)又は重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の相補性決定領域(CDR)(例えば、オレンダリズマブのVHCDR1~3及びVLCDR1~3)を含むその抗原結合フラグメントに関する。
【0174】
特定の態様において、対象(ヒト患者など)において、コロナウイルスによって引き起こされる補体媒介性障害を処置する方法であって、有効量の、補体C5タンパク質(ヒト補体C5タンパク質など)のポリペプチド阻害剤を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0175】
特定の実施形態において、コロナウイルス障害は、対象において、肺損傷を引き起こし得るコロナウイルスによって引き起こされる。特定の実施形態において、コロナウイルス障害は、軽度から重度又は致命的でさえある呼吸器疾病を引き起こす。特定の実施形態において、コロナウイルス障害は、発熱、咳又は息切れから選択される少なくとも1つの症状を引き起こす。
【0176】
特定の実施形態において、C5阻害剤(エクリズマブなど)の治療有効量は、対象の生存の確率を改善する量(又は複数回投与の場合には様々な量)を含み得る。特定の実施形態において、開示された方法は、少なくとも1日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも18ヶ月、少なくとも2年、少なくとも30ヶ月若しくは少なくとも3年又は処置期間を含む任意の期間、対象の平均余命を改善する。
【0177】
特定の実施形態において、C5阻害剤(エクリズマブ又はラブリズマブなど)の治療有効量は、溶血を減少させるか、播種性血管内凝固を減少させるか、血小板レベルを増加させるか、補体レベルを低下させるか、過剰産生されるサイトカインのレベルを低下させるか、血栓溶解性微小血管症を阻害するか、腎機能を維持若しくは改善するか若しくは疾患の他の症状(発熱など)を軽減するか又はそれらの任意の組み合わせの量(又は複数回投与の場合には様々な量)を含み得る。これらのパラメーターは、当技術分野で公知の任意の方法によって確認又は測定することができる。
【0178】
例えば、抗C5抗体などの特定のC5阻害剤がC5切断を阻害するかどうかを決定する方法は、当技術分野で公知である。ヒト補体成分C5の阻害は、対象の体液中の補体の細胞溶解能力を低下させ得る。体液中に存在する補体の細胞溶解能力のそのような低下は、例えば、Kabat and Mayer(eds.),「Experimental Immunochemistry,2nd Edition」135-240,Springfield,IL,CC Thomas(1961),pages 135-139に記載される溶血アッセイなどの従来の溶血アッセイ又は例えばHillmen et al.(2004)N Engl J Med 350(6):552に記載されるニワトリ赤血球溶血法などのそのアッセイの従来のバリエーションなどによる、当技術分野で周知の方法によって測定することができる。化合物がヒトC5のC5a及びC5b形態への切断を阻害するかどうかを決定する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Moongkarndi et al.(1982)Immunobiol 162:397;Moongkarndi et al.(1983)Immunobiol 165:323;Isenman et al.(1980)J Immunol 124(1):326-31;Thomas et al.(1996)Mol Immunol 33(17-18):1389-401;及びEvans et al.(1995)Mol Immunol 32(16):1183-95に記載されている。例えば、体液中のC5a及びC5bの濃度及び/又は生理活性は、当技術分野で周知の方法によって測定することができる。C5a濃度又は活性を測定する方法には、例えば、走化性アッセイ、RIA又はELISAが含まれる(例えば、Ward and Zvaifler(1971)J Clin Invest 50(3):606-16及びWurzner et al.(1991)Complement Inflamm 8:328-340を参照されたい)。C5bについては、当技術分野で公知の溶血アッセイ又は可溶性C5b-9のアッセイを使用することができる。当技術分野で公知の他のアッセイも使用することができる。
【0179】
C5及び/又はその分割産物のタンパク質濃度を測定して、抗C5抗体などのC5阻害剤がC5から生物活性産物への変換を阻害する能力を決定するために、限定されないが、ELISAなどの免疫学的手法を使用することができる。例えば、C5aの生成を測定することができる。また、別の例として、C5b-9ネオエピトープ特異的抗体は、終末補体の形成を検出するために使用することができる。
【0180】
溶血アッセイは、補体活性化に対する抗C5抗体などのC5阻害剤の阻害活性を決定するために使用することができる。抗C5抗体などのC5阻害剤が、インビトロで血清試験溶液中の古典補体経路媒介性溶血に及ぼす影響を決定するために、例えば、溶血素でコーティングされたヒツジ赤血球又は抗ニワトリ溶血素抗体で感作されたニワトリ赤血球は、標的細胞として使用することができる。溶解のパーセンテージは、阻害剤の非存在下で発生する溶解に等しい100%の溶解を考慮することによって正規化される。また、古典補体経路は、例えば、Wieslab(登録商標)古典経路補体キット(Wieslab(登録商標)COMPL CP310,Euro-Diagnostica,Sweden)で利用されるように、ヒトIgM抗体で活性化することができる。簡潔には、試験血清を、例えば、ヒトIgM抗体の存在下で抗C5抗体などのC5阻害剤とともにインキュベートする。生成されるC5b-9の量は、混合物を酵素結合抗C5b-9抗体及び蛍光発生基質と接触させ、適切な波長で吸光度を測定することによって測定される。対照として、抗C5抗体などのC5阻害剤の非存在下で試験血清をインキュベートする。いくつかの実施形態において、試験血清は、C5ポリペプチドで再構成されたC5欠損血清である。
【0181】
代替経路媒介溶血に対する抗C5抗体などのC5阻害剤の効果を決定するために、感作していないウサギ又はモルモットの赤血球を標的細胞として使用することができる。血清検査溶液は、抗C5ポリペプチドなどのC5阻害剤で再構成されたC5欠損血清である。溶解のパーセンテージは、阻害剤の非存在下で発生する溶解に等しい100%の溶解を考慮することによって正規化される。代替補体経路は、例えば、Wieslab(登録商標)代替経路補体キット(Wieslab(登録商標)COMPL AP330,Euro-Diagnostica,Sweden)で利用されるように、リポ多糖分子で活性化することができる。簡潔には、リポ多糖の存在下で、試験血清を抗C5抗体などのC5阻害剤とともにインキュベートする。生成されるC5b-9の量は、混合物を酵素結合抗C5b-9抗体及び蛍光発生基質と接触させ、適切な波長で蛍光を測定することによって測定される。対照として、抗C5抗体などのC5阻害剤の非存在下で試験血清をインキュベートする。
【0182】
C5活性又はその阻害は、CH50eqアッセイを使用して定量化できる。CH50eqアッセイは、血清中の総古典的補体活性を測定する方法である。この試験は溶解アッセイであり、古典補体経路の活性化因子として抗体感作赤血球を使用し、試験血清の様々な希釈を使用して、50%溶解(CH50)を与えるのに必要な量を決定する。溶血率は、例えば、分光光度計を使用して決定することができる。TCC自体が、測定される溶血の直接原因であるため、CH50eqアッセイは、終末補体複合体(「TCC」)形成の間接的な測定を提供する。このアッセイは、当業者に周知であり、一般に実施されている。
【0183】
簡潔には、例えば、古典補体経路を活性化するために、未希釈の血清サンプル(例えば、再構成されたヒト血清サンプル)が、抗体感作赤血球を含有するマイクロアッセイウェルに添加され、それによりTCCが生成される。次に、活性化された血清は、捕捉試薬(例えば、TCCの1つ以上の成分に結合する抗体)でコーティングされたマイクロアッセイウェルで希釈される。活性化サンプルに存在するTCCは、マイクロアッセイウェルの表面をコーティングするモノクローナル抗体に結合する。ウェルを洗浄し、検出可能に標識され、結合したTCCを認識する検出試薬を各ウェルに添加する。検出可能な標識は、例えば、蛍光標識又は酵素標識であり得る。アッセイ結果は、1ミリリットルあたりのCH50単位当量(CH50U Eq/mL)で表される。阻害、例えば、終末補体活性に関するものは、例えば、同様の条件下、等モル濃度で、対照抗体(又はその抗原結合フラグメント)の効果と比較した、溶血アッセイ又はCH50eqアッセイにおける終末補体の活性の少なくとも約5(例えば、少なくとも約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60又は60)%の減少を含む。本明細書で使用される場合、実質的な阻害とは、少なくとも約40%(例えば、少なくとも約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95又は最大約100%)の所与の活性(例えば、終末補体活性)の阻害を指す。
【0184】
特定の実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週900mgの用量で4週間にわたって投与され、且つ維持期中、5週目(28日目)に1200mg及びその後2週間ごとに1200mgの用量で投与され、ヒト対象は、40kg以上である。
【0185】
特定の実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目(14日目)に900mg及びその後2週間ごとに900mgの用量で投与され、ヒト対象は、30kg~40kgである。
【0186】
特定の実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で2週間にわたって投与され、且つ維持期中、3週目(14日目)に600mg及びその後2週間ごとに600mgの用量で投与され、ヒト対象は、20kg~30kgである。
【0187】
特定の実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週600mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、毎週600mgの用量(7日目から開始)で投与され、ヒト対象は、10kg~20kgである。
【0188】
特定の実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、導入期中、0日目から開始して毎週300mgの用量で1週間にわたって投与され、且つ維持期中、2週目(7日目)及びその後3週間ごとに300mgの用量で投与され、ヒト対象は、5kg~10kgである。
【0189】
いくつかの実施形態において、処置方法は、導入期及び/又は維持期中、約35μg/mL~約700μg/mLの抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントの血清トラフ濃度を維持する。
【0190】
抗C5抗体又はその抗原結合フラグメントは、IV輸注としての投与を含む静脈内投与のために処方され得る。いくつかの実施形態において、対象は、以前に補体阻害剤で処置されたことがない。投与サイクルは、8週間又は16週間であり得る。
【0191】
7.医薬組成物及び製剤
本開示は、補体系の調節因子(例えば、表1の1つ以上の化合物)及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の使用にも関する。例えば、C5結合ポリペプチドなどのC5阻害剤を含有する組成物は、対象に投与するための医薬組成物として製剤化することができる。任意の適切な医薬組成物及び製剤並びに適切な製剤化方法及び適切な投与経路及び適切な投与部位は、本発明の範囲内であり、当技術分野で公知である。また、別段の記載がない限り、任意の適切な投与量及び投与頻度が企図される。
【0192】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体(すなわち賦形剤)を含み得る。「薬学的に許容される担体」とは、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤、希釈剤、流動促進剤などを指し、それらを含む。組成物は、薬学的に許容される塩、例えば、酸付加塩又は塩基付加塩を含み得る(例えば、Berge et al.(1977)J Pharm Sci 66:1-19を参照されたい)。適切な場合、組成物をコーティングすることができる。
【0193】
特定の実施形態において、タンパク質組成物は、安定化され、溶液、マイクロエマルジョン、分散液、リポソーム、凍結乾燥(フリーズドライ)粉末又は高濃度での安定した保存に適した他の秩序構造として製剤化することができる。滅菌注射溶液は、本発明の方法での使用のためのC5結合ポリペプチドを、必要な量で、必要に応じて上記に列挙した成分の1つ又は組み合わせとともに適切な溶媒に組み込んだ後、ろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散剤は、C5結合ポリペプチドを、基本的な分散媒及び上記に列挙したものから必要な他の成分を含む、滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法には、C5阻害ポリペプチドに加えて、以前に滅菌ろ過された溶液から任意のさらなる所望の成分の粉末が得られる、真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。溶液の適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散剤の場合に必要な粒子サイズの維持により、且つ界面活性剤の使用することにより維持することができる。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる試薬、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらすことができる。非プロテインC5阻害剤は、同じ又は類似の方法で製剤化することができる。
【0194】
エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5結合ポリペプチドを含むC5阻害剤は、水溶液製剤中に、比較的高濃度を含む任意の所望の濃度で、製剤化することができる。例えば、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5結合ポリペプチドは、溶液中に、約10mg/mL~約100mg/mL(例えば、約9mg/mL~約90mg/mL;約9mg/mL~約50mg/mL;約10mg/mL~約50mg/mL;約15mg/mL~約50mg/mL;約15mg/mL~約110mg/mL;約15mg/mL~約100mg/mL;約20mg/mL~約100mg/mL;約20mg/mL~約80mg/mL;約25mg/mL~約100mg/mL;約25mg/mL~約85mg/mL;約20mg/mL~約50mg/mL;約25mg/mL~約50mg/mL;約30mg/mL~約100mg/mL;約30mg/mL~約50mg/mL;約40mg/mL~約100mg/mL;約50mg/mL~約100mg/mL;又は約20mg/mL~約50mg/mL)の濃度;又は任意の適切な濃度で製剤化することができる。本発明の方法で使用されるC5結合ポリペプチドは、約5mg/mL超(又は少なくとも等しい)(例えば、以下のいずれかを超えるか、少なくとも等しい:約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、120、130、140又は150mg/mL)で溶液中に存在することができる。エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5結合ポリペプチドは、溶液中に、約2mg/mL超(例えば、以下のいずれかを超える:約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44mg/mL又は45mg/mL以上)であるが、約101mg/mL未満(例えば、以下のいずれかより小さい:約101、100、99、98、97、96、95、94、93、92、91、90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6mg/mL又は約5mg/mL未満)の濃度で製剤化することができる。したがって、いくつかの実施形態において、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなど、本発明の方法で使用されるC5結合ポリペプチドは、約5mg/mL超、約100mg/mL未満の濃度で水溶液に製剤化することができる。エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなど、本発明の方法で使用されるC5結合ポリペプチドは、約10mg/mL又は50mg/mL又は100mg/mLの濃度で水溶液に製剤化することができる。任意の適切な濃度が企図される。水溶液中でタンパク質を製剤化する方法は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第7,390,786号明細書;McNally and Hastedt(2007),「Protein Formulation and Delivery」,Second Edition,Drugs and the Pharmaceutical Sciences,Volume 175,CRC Press;及びBanga(1995),「Therapeutic peptides and proteins:formulation,processing,and delivery systems」,CRC Pressに記載される。
【0195】
別段の記載がない限り、C5阻害剤の投与量レベルは、任意の適切なレベルであり得る。特定の実施形態において、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5結合ポリペプチドの投与量レベルは、ヒト対象に対して、一般に、1回の処置あたり対象1人あたり約1mg/kg~約100mg/kgであり得、1回の処置あたり対象1人あたり約5mg/kg~約50mg/kgであり得る。
【0196】
達成された最高レベル又は維持されたレベルにかかわらず、C5阻害剤の対象における血漿濃度は、任意の望ましい又は適切な濃度であり得る。そのような血漿濃度は、当技術分野で公知の方法によって測定することができる。対象における抗C5抗体のそのような血漿濃度は、抗C5抗体の投与後に達成される最高値であり得るか、又は治療を通して維持される対象における抗C5抗体の濃度であり得る。ただし、極端な例では、より多くの量(濃度)を要する場合があり、より軽度の例ではより少ない量で十分な場合がある。量は、治療中の異なる時点で変更することができる。いくつかの実施形態において、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5結合ポリペプチドの血漿濃度は、処置中、約200nM以上又は約280nM~285nM以上に維持することができる。
【0197】
特定の実施形態において、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5結合ポリペプチドの血漿濃度は、処置中、約200nM以上~430nM以上又は約570nM以上~約580nM以上に維持することができる。
【0198】
特定の実施形態において、医薬組成物は、単一単位剤形である。特定の実施形態において、単一単位剤形は、約300mg~約1200mgの単位剤形(約300mg、約900mg及び約1200mgなど)の、エクリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合フラグメント若しくはエクリズマブ変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ若しくはエクリズマブ変異体の単鎖抗体バージョンなどのC5阻害剤である。特定の実施形態において、医薬組成物は、凍結乾燥されている。特定の実施形態において、医薬組成物は、無菌溶液である。特定の実施形態において、医薬組成物は、防腐剤を含まない製剤である。特定の実施形態において、医薬組成物は、30mlの10mg/mlの無菌で防腐剤を含まない溶液300mgの単回使用製剤を含む。
【0199】
特定の実施形態において、抗C5全長抗体(エクリズマブ又はその変異体など)は、以下のプロトコルに従って投与される:最初の4週間にわたって7±2日ごとに25~45分のIV輸注を介して600mg、その後、7±2日後に5回目の投与で900mg、その後、14±2日ごとに900mg。抗C5抗体又はポリペプチドは、25~45分かけてIV輸注を介して投与され得る。別の実施形態において、抗C5ポリペプチド全長抗体は、以下のプロトコルに従って投与される:最初の4週間にわたって7±2日ごとに25~45分のIV輸注を介して900mg、その後、7±2日後に5回目の投与で1200mg、その後、14±2日ごとに1200mg。抗C5抗体は、25~45分かけてIV輸注を介して投与され得る。例えば、抗C5全長抗体(エクリズマブ又はその変異体など)の例示的な小児投与を、体重に関連付けて、表2に示す。
【0200】
【表3】
【0201】
特定の他の実施形態において、全長抗体ではなく、全長抗体より小さい抗C5ポリペプチドは、全長抗体の投与量と同じモル濃度に対応する投与量で投与できることに留意されたい。
【0202】
水溶液は、中性pH、例えば、約6.5~約8(例えば、7~8、端点含む)のpHを有し得る。水溶液は、およそ以下のいずれかのpHを有し得る:6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9又は8.0。いくつかの実施形態において、水溶液は、約6より大きい(又は等しい)(例えば、以下のいずれかより大きい又は等しい:6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8又は7.9)が、約pH8未満のpHを有する。
【0203】
いくつかの実施形態において、ポリペプチド阻害剤を含むC5阻害剤は、対象に静脈内投与(静脈内注射又は静脈内輸注を含む)される。いくつかの実施形態において、抗C5抗体は、対象に静脈内投与(静脈内輸注によるものを含む)される。いくつかの実施形態において、ポリペプチド阻害剤を含むC5阻害剤は、対象の肺に投与される。いくつかの実施形態において、ポリペプチド阻害剤を含むC5阻害剤は、皮下注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態において、ポリペプチド阻害剤を含む阻害剤は、関節内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態において、ポリペプチド阻害剤を含むC5阻害剤は、硝子体内又は眼内注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態において、ポリペプチド阻害剤を含む阻害剤は、肺内注射(特に肺敗血症の場合)などの肺送達によって対象に投与される。さらなる適切な投与経路も企図される。
【0204】
C5結合ポリペプチドなどのC5阻害剤は、単剤療法として対象に投与することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、1つ又は以上の追加の治療剤など、1つ以上の追加の処置剤を対象に投与することを含み得る。
【0205】
追加の処置は、実験的処置又は発熱などの感染症の症状の処置を含む任意の追加の処置であり得る。他の処置は、対象の健康を改善又は安定させる任意の処置、任意の治療剤であり得る。追加の治療剤には、水及び/又は生理食塩水、アセトアミノフェン、ヘパリン、1つ以上の凝固因子、抗生物質などのIV液が含まれる。1つ以上の追加の治療剤は、別個の治療用組成物としてC5阻害剤と一緒に投与することができるか、又は1つの治療用組成物は、(i)C5結合ポリペプチドなどの1つ以上のC5阻害剤、及び(ii)1つ以上の追加の治療剤の両方を含むように製剤化することができる。C5結合ポリペプチドの投与前、投与と同時又は投与後に追加の治療剤を投与することができる。追加の薬剤及びC5結合ポリペプチドなどのC5阻害剤は、同じ送達方法若しくは経路又は異なる送達方法若しくは経路を使用して投与することができる。追加の治療剤は、別のC5阻害剤を含む別の補体阻害剤であり得る。
【0206】
いくつかの実施形態において、C5結合ポリペプチドなどの阻害剤は、対象における感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害を処置するために有用な1つ以上の追加の活性剤とともに製剤化することができる。
【0207】
C5阻害剤が第2の活性剤と組み合わせて使用される場合、薬剤は別々に又は一緒に製剤化することができる。例えば、それぞれの医薬組成物は、例えば、投与の直前に混合することができ、一緒に投与することができるか、又は別々に、例えば同時に若しくは異なる時間に同じ経路若しくは異なる経路で投与することができる。
【0208】
いくつかの実施形態において、組成物は、成分が全体として感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害を処置するために治療上有効であるように、治療量以下の量のC5阻害剤及び治療量以下の量の1つ以上の追加の活性剤を含むように製剤化することができる。治療用抗体などの薬剤の治療有効用量を決定する方法は、当技術分野で公知である。
【0209】
組成物は、投与経路に部分的に依存する様々な方法を用いて、対象、例えばヒト対象に投与することができる。経路は、例えば、静脈内(「IV」)注射又は輸注、皮下(「SC」)注射、腹腔内(「IP」)注射、肺内注射(特に肺敗血症の場合)などによる肺送達、眼内注射、関節内注射、筋肉内(「IM」)注射又は任意の他の適切な経路であり得る。
【0210】
C5結合ポリペプチドを含むC5阻害剤の適切な用量は、対象において感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害を処置又は予防することができる用量であり、例えば、処置を受ける対象の年齢、性別及び体重並びに使用される特定の阻害化合物を含む様々な要因に依存し得る。対象に投与される用量に影響を与える他の要因には、例えば、感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害のタイプ又は重症度が含まれる。他の要因には、例えば、対象に同時又は以前に影響を与えた他の医学的障害、対象の一般的な健康状態、対象の遺伝的素因、食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ及び対象に施される他の任意の追加の治療法が含まれ得る。任意の特定の対象に対する特定の投与量及び処置レジメンは、処置する実務者(例えば、医師又は看護師)の判断に依存することも理解されたい。
【0211】
C5阻害剤は、固定用量として又は1キログラムあたりのミリグラム(mg/kg)の用量で投与することができる。いくつかの実施形態において、組成物中の活性抗体の1つ以上に対する抗体の産生又は他の宿主免疫応答を低減又は回避するように用量を選択することもできる。
【0212】
医薬組成物は、治療有効量のC5阻害剤を含み得る。そのような有効量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0213】
特定の実施形態において、エクリズマブ又はその変異体などのC5阻害剤の投薬は、以下の通りであり得る:(1)最初の3週間にわたり、毎週約900ミリグラム(mg)のエクリズマブを、感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害を有する対象に投与するか、又は(2)最初の3週間にわたり、毎週1200ミリグラム(mg)のエクリズマブ、及び(3)その後、4、6及び8週目に約1200mg用量。最初の8週間のエクリズマブ処置期間の後、処置する実務者(医師など)は、さらに8週間にわたって隔週で約1200mgのエクリズマブによる処置を任意選択によりリクエスト(及び投与)することができる。次に、エクリズマブ処置後、対象は28週間観察される。
【0214】
決して限定することを意図するものではないが、一本鎖抗C5抗体(C5の切断を阻害する)などの一本鎖抗体の例示的な投与方法は、例えば、Granger et al.(2003)Circulation 108:1184;Haverich et al.(2006)Ann Thorac Surg 82:486-492;及びTesta et al.(2008)J Thorac Cardiovasc Surg 136(4):884-893に記載されている。
【0215】
「治療有効量」若しくは「治療有効用量」という用語又は本明細書で使用される同様の用語は、エクリズマブ若しくはラブリズマブ、その抗原結合フラグメント、その抗原結合変異体、エクリズマブ若しくはラブリズマブの抗原結合フラグメントを含むポリペプチド、エクリズマブ、ラブリズマブ若しくはその変異体の抗原結合フラグメントを含む融合タンパク質又はエクリズマブ、ラブリズマブ若しくはその変異体の単鎖抗体バージョン(所望の生物学的又は医学的反応を誘発する)など、C5阻害剤の量を意味することを意図している。
【0216】
特定の実施形態において、敗血症を有する対象について、C5阻害剤の治療有効量は、対象の生存の確率を改善する(例えば、1日以上などの任意の時間)か、C5aレベルを低下させるか、血清LDHレベルを低下させるか、対象が臓器不全をほとんど乃至全く有しなくなるか、乳酸、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(「SGOT」)、クレアチンキナーゼ及びクレアチンの1つ以上のレベルを低下させるか、C反応性タンパク質レベルを低下させるか、プロカルシトニンレベルを低下させるか、血清アミロイドAレベルを低下させるか、マンナン及び/若しくは抗マンナン抗体レベルを低下させるか、インターフェロンγ誘導性タンパク質10(「IP-10」)レベルを低下させるか、血小板及び血漿重炭酸塩レベルの1つ以上のレベルを増加させるか、過剰産生される炎症性サイトカインの1つ以上のレベルを低下させるか若しくは疾患の他の症状を軽減するか又はそれらの任意の組み合わせの量(又は複数回投与の場合には様々な量)を含み得る。これらのパラメーターは、全て当業者に公知の方法によって確認又は測定することができる。
【0217】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、治療有効量の、C5結合ポリペプチドなどのC5阻害剤を含有する。いくつかの実施形態において、組成物は、組成物が全体として治療上有効であるように、C5結合ポリペプチドなどの任意のC5阻害剤及び1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11以上)の、感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害を処置又は予防するための追加の治療剤を含有する。例えば、組成物は、本明細書に記載のC5結合ポリペプチド及び免疫抑制剤を含むことができ、ポリペプチド及び薬剤は、組み合わせた場合、対象において感染因子によって引き起こされる補体媒介性障害を処置又は予防するのに治療上有効な濃度である。
【0218】
本明細書を通して与えられる全ての最大数値制限は、全てのより低い数値制限を、あたかもそのようなより低い数値制限が本明細書に明示的に記載されているかのように含むことを理解されたい。本明細書を通して与えられる全ての最小数値制限は、全てのより高い数値制限を、あたかもそのようなより高い数値制限が本明細書に明示的に記載されているかのように含む。本明細書を通して与えられる全ての数値範囲は、そのような広い数値範囲内に入る全ての狭い数値範囲を、あたかもそのような狭い数値範囲が全て本明細書に明示的に記載されているかのように含む。
【0219】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。方法及び材料は、本発明における使用のために本明細書に記載される。当技術分野で公知の他の適切な方法及び材料も使用することができる。材料、方法及び例は、説明のためのみのものであり、限定することを意図したものではない。全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ(例えば、PUBMED、NCBI又はUNIPROTアクセッション番号)及び本明細書で言及される他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾する場合、定義を含めて本明細書が優先される。
【0220】
本発明の特定の実施形態を示し、説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の様々な変更形態及び修正形態がなされ得ることが当業者に明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲において、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更形態及び修正形態を包含することが意図される。
【0221】
以下の実施例は、単なる例示であり、本開示を読むことで多くの変形形態及び均等物が当業者に明らかになるため、決して本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0222】
実施例1:第2のネステッド試験:COVID-19を有する患者に対するエクリズマブの有効性-「ECU-COVID試験」
COVID-19を有する患者におけるエクリズマブ(SOLIRIS(登録商標))の有効性を試験するために、ネステッド臨床試験が実施される。COVID-19重症肺炎、急性肺損傷又はARDS COVID-19と一致する臨床症状を伴うSARS-CoV-2感染症を有する参加者の処置のためのエクリズマブ投与量レジメンは、非定型溶血性尿毒症症候群、全身性重症筋無力症及び視神経脊髄炎スペクトラム障害を有する成人患者について承認された導入投与量レジメンに基づく。
【0223】
SOLIRIS(登録商標)は、1、8、15、22日目に900mgの用量で静脈内投与される。エクリズマブ血漿レベル並びに遊離C5、遊離C-5、CH50抑制のモニタリングに基づき、4日目、12日目及び18日目に900mgの追加投与を行うことができる。処置期間中及び処置期間後の補体モニタリング(週ごとの事前登録)には、以下が含まれる:CH50、C3、C4、C4d、sC5b9、C5並びに各SOLIRIS(登録商標)投与前及び1日目、2日目、3日目及び6日目の、十分な薬物曝露を確保するための残留エクリズマブ血漿レベル。
【0224】
過去5年以内に髄膜炎菌ワクチン接種を受けていない参加者は、本研究でSOLIRIS(登録商標)による処置を開始する前に髄膜炎菌ワクチン接種を受けることができない場合がある。ワクチン接種が確認できない場合、参加者はSOLIRIS(登録商標)処置を開始する前及びSOLIRIS(登録商標)の最後の輸注から少なくとも3ヶ月間、髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与される。
【0225】
参加者がワクチン接種を受けることができる場合、一般的な病原性髄膜炎菌血清型を予防するために、利用可能な場合には髄膜炎菌血清型A、C、Y、W135及びBに対するワクチンが推奨される。参加者は、補体阻害剤(例えば、SOLIRIS(登録商標))による予防接種の使用に関する現在の国の予防接種ガイドライン又は施設のプラクティスに従って予防接種又は再接種を受けなければならない。ワクチン接種は、髄膜炎菌感染を予防するのに十分でない可能性がある。抗菌剤の適切な使用については、公式のガイダンス及び施設のプラクティスに従って考慮すべきである。
【0226】
1.包含及び除外基準
試験に参加するためには、患者は、以下の基準を満たさなければならない:
1.CORIMUNO-19コホートに含まれる患者である;
2.以下の2つのグループのいずれかに属する:
グループ1:以下の3つの基準:18~70歳、PCR SARS-CoV-2陽性及びSpO2レベル(例えば、97%超)を維持するために5L/分以上の酸素を必要とする重度の肺炎、を全て満たす、COVID肺炎の重症度のWHO基準に従って中程度及び重度の肺炎を有する入院時にICUを要しない60人の患者;又は
グループ2:COVID肺炎の重症度の基準:人工呼吸を要する呼吸不全、AKI>2によって定義されるか又は透析、昇圧補助及び/又は蘇生拒否指示(DNR指示)を要する腎損傷に基づいてICUを要する60人の患者;
3.髄膜炎菌(N meningitidis)感染のリスクを軽減するためのSOLIRISの投与を開始する前3年以内又は開始時、髄膜炎菌感染の予防接種を受けている[(Bexsero(登録商標)(最低1ヶ月間隔で2回の注射)+Menveo(登録商標)又はNiminrex(登録商標))及び毎日の抗生物質(Oracilline(登録商標))]。参加者は、SOLIRISによる処置を開始する前に髄膜炎菌ワクチンの接種を受けることができない可能性があると予想される。ワクチン接種が確認できない場合又は患者が接種を受けられない場合、参加者はSOLIRIS処置を開始する前及びSOLIRISの最後の輸注から少なくとも3ヶ月間、髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与される。研究中に患者がワクチン接種を受けた場合、患者はワクチン接種後少なくとも2週間は予防的抗生物質を受けなければならない;
4.妊娠の可能性のある女性患者及び妊娠の可能性のある女性パートナーを有する男性患者は、処置中及びSOLIRIS(登録商標)の最終投与後8ヶ月間、妊娠を避けるためのプロトコルで指定されたガイダンスに従わなければならない;
5.体重40kg以上100kg未満。CH50及び薬物レベルを定期的にチェックできる場合、100kgを超える患者を登録できる;及び
6.患者及び/又は患者の法定後見人は、緊急及び集中治療の状況を含む適用される規制に従い、書面によるインフォームドコンセントを提供する意思及び能力がなければならない。
【0227】
以下の基準のいずれかを満たす場合、患者は治験から除外される:
1.CORIMUNO-19コホートの除外基準を有する患者;
2.妊娠又は授乳;
3.髄膜炎菌(N meningitidis)感染症の病歴;
4.進行中の敗血症、研究スクリーニング前の抗生物質で処置されていない活動性及び未処置の全身性細菌感染の存在又はその疑い;又は
5.マウスタンパク質に対する過敏症を含む、SOLIRISに含有される任意の成分に対する過敏症。
【0228】
1.試験薬
SOLIRIS(登録商標)は、10mg/mLの濃度の溶液として30mLバイアル1本で供給される。各バイアルには、静脈内(IV)投与のための300mgのSOLIRIS(登録商標)が含まれる。SOLIRIS(登録商標)はキットに個別に包装されている。
【0229】
SOLIRIS(登録商標)バイアルは、使用時まで光から保護するために、元のカートンで2℃~8℃の冷蔵庫に保管される。SOLIRIS(登録商標)バイアルは、元のカートン中、制御された室温(25℃以下)で、3日間までの1期間のみ保管することもできる。SOLIRIS(登録商標)は、カートンに刻印された有効期限を超えて使用されるべきでない。
【0230】
2.エンドポイント
最初の2週間は毎日、その後、毎週、主要な一連の臨床測定値が記録される。コア測定値には、OMS進行スケール、酸素化、人工呼吸の測定値が含まれる。介入試験(介入群及び対照群の両方)に適格な患者の場合、この日の測定には、目的の試験転帰に関する試験固有の測定値が含まれる。
【0231】
ICUを要しないグループ1の患者の主要エンドポイントは、14日目に挿管を要しない生存率である。したがって、考慮される事象は挿管又は死亡である。副次的エンドポイントは、以下の通りである:
1)表3に記載のように定義される、4日目のOMS進行スケール5以下;
2)4、7及び14日でのOMS進行スケール;
3)14、28及び90日での全生存;
4)退院までの時間;
5)酸素供給自立までの時間;
6)ウイルス排出陰性までの時間;及び
7)生物学的パラメーターの改善(C5b9、推定GFR、CRP、ミオグロビン、CPK、心筋トロポニン、フェリチン、乳酸、細胞血球数、肝酵素、LDH、Dダイマー、アルブミン、フィブリノーゲン、トリグリセリド、凝固検査、尿電解質、クレアチン尿、タンパク尿、尿酸血、IL6、プロカルシトニン、免疫表現型及び探索的検査)。
【0232】
【表4】
【0233】
ICUを要するグループ2の患者について、主要エンドポイントは、3日目の逐次臓器不全評価(SOFA)スコアの相対的変動によって定義される3日目の臓器不全の減少である。副次的エンドポイントには以下が含まれる:
1.二次感染(肺炎感染);
2.昇圧剤なしの生存;
3.人工呼吸器なしの生存;
4.ICU及び病院での全生存;
5.透析の発生率;
6.4、7及び14日でのOMS進行スケール、14、28及び90日での全生存、28日間の無人工呼吸器日、PaO2/FiO2比の発展、4日目の呼吸性アシドーシス(動脈血のpHが7.25未満で、動脈血二酸化炭素分圧[Paco2]が6時間を超えて60mmHg以上)、酸素供給自立までの時間、入院期間、ウイルス排出陰性までの時間、ICU退院及び退院までの時間;及び
7.生物学的パラメーターの改善:sC5b9、推定GFR、CRP、心筋トロポニン、尿電解質及びクレアチニン、タンパク尿、尿酸血、IL6、ミオグロビン、KIM-1、NGAL、CPK、フェリチン、乳酸、細胞血球数、肝酵素、LDH、Dダイマー、アルブミン、フィブリノーゲン、トリグリセリド、凝固検査(活性化部分トロンボプラスチン時間を含む)、プロカルシトニン、免疫表現型、探索的検査、腎代替療法の速度及び換気パラメーター。
【0234】
COVID-19 NCP及び短期免疫調節療法の設定では、以下の主要安全性エンドポイントが頻繁に、3日ごとに、体系的にモニタリングされる:血球及び血小板数並びに肝トランスアミナーゼ。
【0235】
臨床的利益は、全体的に全ての患者群の死亡を防ぐことである。他の利点は、(1)肺炎による損傷だけでなく、急性腎障害(AKI)、心筋炎、二次細菌感染など、COVID-19に関連する他の損傷も鈍化させること、(2)長期入院に関連する身体的(病院で獲得された褥瘡、院内感染に関連する罹患率及び死亡率の増加)、精神的及び経済的問題を最小限に抑えて入院期間を減少させること、(3)入院期間の減少により、個人の臨床的利益だけでなく、介護者への集団的アクセスの促進を通じて集団的臨床的利益も助長すること、及び(4)長期的な続発症、特に、急性腎障害に続発する肺線維症及び慢性腎疾患(ARDSを有する個人の約20%に顕著に見られる)を制限することである。
【0236】
3.統計的方法
非ICU群では、主要エンドポイントは14日目の挿管を必要としない生存率である。予備データを考慮すると、対照群の期待率は50%である。全体のサンプルサイズが60人の対象(対照群30人、処置群30人)の両側ログランク検定は、0.05の有意水準で80.4%の検出力を達成し、対照群の生存比率が0.50の場合、75%のIOTのない生存率(つまり、0.415のハザード比)を検出する。研究は60期間続き、最初の40期間で対象の増加(エントリ)が発生する。期間全体にわたる増加パターンは均一である(全ての期間で等しい)。対象の離脱又は変更はない。
【0237】
ICU群では、主要エンドポイントは、3日目のSOFAスコアの相対的変動によって定義される3日目の臓器不全の減少である。集団平均差がμ1-μ2=0対1.5で、両群の標準偏差が2.0であり、両側2サンプル等分散t検定を使用して、0.050の有意水準(アルファ)である場合、サンプルサイズが29対29の群では、平均が等しいという帰無仮説を拒絶する80.141%の検出力を達成する。
【0238】
分析は、治療企図の原則に基づいている。打ち切られたデータの分析では、カプラン・マイヤー推定値を使用し、次いでログランク検定で比較する。SOFAスコアの変動の分析は、14日目の最大のSOFAスコア値として死亡を想定したウィルコクソンの順位和検定に基づく。中間分析では、タイプIエラーの膨張を回避するために、ベイズモニタリングを使用する。全ての統計分析は、Rソフトウェア(R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria。http://www.r-project.org/)v.3.6以降又はSASソフトウェアv9.1を使用して実施される。
【0239】
実施例2:修正レジメン
実施例1のプロトコルは、以下の点での軽微な変更を除き、参照により組み込まれている-拡大アクセスプログラム(EAP)のためのSOLIRIS(静脈内)投薬:1日目:1200mg、4日目:1200mg、8日目:1200mg、12日目:治療用量モニタリング(TDM)に基づき指示される場合、900mg又は1200mgの任意選択の用量、15日目:900mg、18日目:TDMに基づき指示される場合、900mg又は1200mgの任意選択の用量、22日目:900mg。
【0240】
本明細書で提供される場合、SOLIRIS(登録商標)は、1、4及び8日目に1200mgの用量で静脈内投与される。TDM、例えばエクリズマブ血漿レベル並びに遊離C5、遊離C-5、CH50抑制のモニタリングに基づき、任意選択の900mg又は1200mgの用量がD12に投与され得る。次に、900mgの用量がD15に静脈内投与され、TDMに基づき、例えば上記で提供されるように、900mg又は1200mgの任意選択の用量がD18に投与され得る。最後に、D22に900mgの用量を静脈内投与する。
【0241】
処置期間中及び処置期間後の補体モニタリング(週ごとの事前登録)には、以下が含まれる:CH50、C3、C4、C4d、sC5b9、C5並びに各SOLIRIS投与前及び様々な時点(例えば、D4、D8、D12、D15、D18及びD22)での、十分な薬物曝露を確保するための残留エクリズマブ血漿レベル。
【0242】
実施例3:COVID-19を有する参加者のSOLIRIS(登録商標)処置-病院ベースの緊急処置のための拡大アクセスプログラム。
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)を有する参加者の処置におけるSOLIRIS(登録商標)(エクリズマブ)の有効性を評価するために、臨床試験が実施される(NCT04355494;2020年4月21日)。
【0243】
1.目的
主要目的は、SOLIRIS(登録商標)処置を受けているCOVID-19を有する参加者の生存率(例えば、15日目の生存率(全死因死亡率に基づく)によって評価される)を評価することである。
【0244】
副次的目的は、COVID-19を有する参加者におけるSOLIRIS(登録商標)の有効性のエビデンス(例えば、(1)15日目及び29日目の生存且つ人工呼吸なしの日数、(2)1日目~15日目及び29日目の酸素化の改善、(3)15日目及び29日目の生存且つ酸素補給なしの日数、(4)集中治療室滞在期間、及び(5)入院期間によって評価される)を評価することである。
【0245】
安全性目的は、COVID-19の処置におけるSOLIRIS(登録商標)の全体的な安全性を特徴付けることである(例えば、処置下発現の重篤な有害事象の発生率によって評価される)。
【0246】
探索的目的は、生存率に対するSOLIRIS(登録商標)処置の長期効果(例えば、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)によって評価される)を評価することである。
【0247】
薬物動態的/薬力学的/免疫原性的目的は、(1)COVID-19を有する参加者におけるエクリズマブのPK/PDの評価(例えば、(a)経時的な血清エクリズマブ濃度の変化、(b)経時的な薬力学的マーカーの変化(CH50、C5b9、他の補体タンパク質を含むが、これらに限定されない)、及び(c)エクリズマブに対する抗薬物抗体の存在によって評価される)、並びに(2)補体の全身活性化及び炎症に対するC5阻害の効果の決定(例えば、補体活性化及び炎症プロセスに関連する可溶性バイオマーカーの絶対レベルの変化によって評価される)を含む。
【0248】
2.全体設計
これは、SARS-CoV-2感染の診断が確定し、COVID-19の重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSと一致する臨床症状を示す参加者に、SOLIRIS(登録商標)へのアクセスを与えることを目的とした、非盲検、多施設の拡大アクセスプログラム(EAP)である。指定された病院施設に入院し、緊急処置を受ける資格のある参加者には、最大4回のSOLIRIS(登録商標)輸注による処置を受ける機会が提供される。
【0249】
EAPは、最大7日間のスクリーニング期間、2週間~最大5週間の処置期間、退院日又は29日目のいずれか早い方での最終院内評価及び3回の毎月の安全性フォローアップの電話からなる。参加者が全ての包含基準を満たし、除外基準をいずれも満たさない場合、スクリーニング及び1日目の来院は、同日に行うことができる。
【0250】
SOLIRIS(登録商標)を受けるために100人の参加者が登録される。各参加者について、プログラムの合計期間は、最大4.5ヶ月と予想され、(a)参加者が入院しているおよそ5週間(スクリーニングに最大1週間、処置に最大4週間、29日目又は退院日のいずれか早い方で最終評価)及び(b)月に1回実施される、追加の3回の安全性フォローアップの電話からなる。
【0251】
3.SOLIRIS(登録商標)用量及び投与量レジメン:
COVID-19重症肺炎、急性肺損傷又はARDS COVID-19と一致する臨床症状を伴うSARS-CoV-2感染症を有する参加者の処置のための提案されたSOLIRIS(登録商標)投与量レジメンは、COVID-19を有する患者の予備的な無血清エクリズマブ濃度、CH50及び血清C5b9レベルの検査に基づく(未発表データ)。これらのデータは、補体系がaHUSを有する患者で観察されたものを超えて増幅されていることを示唆しており、完全且つ持続的な補体阻害を達成するには、aHUSを有する患者の処置で現在承認されている量よりも多く、より頻繁にSOLIRISを投与する必要がある。
【0252】
SARs-CoV2関連の補体増幅を考慮して、SOLIRIS(登録商標)は1、4及び8日目に1200mg、15及び22日目に900mgの用量で静脈内投与される。900又は1200mgの追加用量が、12日目及び18日目に、メディカルモニターと相談した治験責任医師の決定に従って投与され得る。さらなる変更は、抗薬物抗体の存在の任意選択の追加のエンドポイントで投薬が固定されているため、スクリーニング時及び投薬1日目にのみ体重を要することである。
【0253】
4.活動スケジュール
活動のスケジュールは、表4に記載される。
【0254】
【表5】
【0255】
【表6】
【0256】
【表7】
【0257】
【表8】
【0258】
5.包含及び除外基準
参加者は、以下の全ての基準が該当する場合にのみ、EAPに参加する資格がある:
1.インフォームドコンセントを提供する時点で、18歳以上で40kg以上の男性又は女性;
2.入院を要する重症COVID-19として示されるSARS-CoV-2感染の確定診断;
3.スクリーニング時又はスクリーニング前7日以内にCT又はX線によって確認された症候性の両側肺浸潤;
4.重度の肺炎、急性肺損傷又は酸素補給を要するARDS(WHO2020);及び
6.インフォームドコンセントが得られる。現地の規制で許可されている場合、参加者が同意を提供できないときは、参加者の法定に認められる代理人(LAR)が同意を提供できる。適用可能且つ現地の規制で許可されている場合、IRB/ECの承認後、インフォームドコンセントを提供できず、LARを利用できない参加者は、主任治験責任医師又は被指名人の決定に従って登録できる。患者又は必要に応じて法的に認められる代理人に通知し、可能な限り早く研究に参加することへの同意を求める必要がある。
【0259】
以下の基準のいずれかが該当する場合、参加者はEAPから除外される:
○参加者が入院している場合でも、軽度から中程度のCOVID-19として呈されるSARS-CoV-2感染の確定診断;
7.参加者は24時間を超えて生存することが期待されていない;
8.参加者は未解決の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)感染症を有する;又は
9.マウスタンパク質又はSOLIRIS(登録商標)の賦形剤の1つに対する過敏症。
【0260】
6.SOLIRIS(登録商標)
SOLIRIS(登録商標)は、マウス抗ヒトC5抗体m5G1.1に由来するヒト化モノクローナル抗体である。エクリズマブはC5に特異的に結合し、それにより、補体活性化中のC5a及びC5bに対する切断を阻害する。このC5での補体カスケードの戦略的遮断は、微生物のオプソニン作用及び免疫複合体のクリアランスに不可欠である補体活性化の初期成分を保持しつつ、炎症誘発性メディエーターの放出及び細胞溶解孔の形成を防ぐ。
【0261】
EAP参加者の処置のためのSOLIRIS(登録商標)投与量レジメンでは、1、4及び8日目にIV輸注により1200mg、15及び22日目に900mg投与される。治験責任医師又は被指名人の裁量により、12日目及び18日目に900mg又は1200mgの追加用量を投与できる。
【0262】
SOLIRIS(登録商標)は、重力供給、シリンジ型ポンプ又は輸注ポンプを介したIV輸注によってのみ投与され、投与前に5mg/mLの最終濃度に希釈しなければならない。希釈したSOLIRISは、およそ35分かけてIV投与される。希釈したSOLIRISは、2℃~8℃(36°F~46°F)及び室温で24時間安定である。参加者は、輸注関連反応の徴候又は症状について、輸注終了後少なくとも1時間モニタリングされる。SOLIRIS(登録商標)の投与中に輸注関連反応が発生した場合、事象の性質及び重症度に応じて、治験責任医師又は被指名人の裁量で輸注を遅らせるか中止することができる。
【0263】
SOLIRIS(登録商標)は、10mg/mLの濃度の溶液として30mLバイアル1本で製造及び供給される(表5)。各バイアルには、IV投与のための300mgのSOLIRIS(登録商標)が含まれる。SOLIRIS(登録商標)はキットに個別に包装されている。SOLIRIS(登録商標)のオーダーは、適用される規制に基づく全ての必要な書類の受領次第、各施設にリリースされる。
【0264】
【表9】
【0265】
SOLIRIS(登録商標)バイアルは、使用時まで光から保護するために、元のカートンで2℃~8℃(36°F~46°F)で冷蔵保管される。SOLIRIS(登録商標)バイアルは、元のカートン中、制御された室温(25℃又は77°F以下)で、3日間までの1期間のみ保管することもできる。SOLIRIS(登録商標)は、カートンに刻印された有効期限を超えて使用されない。SOLIRIS(登録商標)は冷凍又は振盪しない。SOLIRIS(登録商標)の添付文書には、SOLIRIS(登録商標)の希釈溶液の安定性及び保存に関する情報が含まれている。
【0266】
7.併用療法
参加者が登録時に受けているか又はEAP中に受ける、COVID-19又はSOLIRIS(登録商標)処置に関連すると考えられる併用薬(例えば、抗菌薬、抗ウイルス薬、ステロイド、IVIg、治験薬)は、(1)使用の理由、(2)開始日及び終了日を含む投与日、及び(3)用量及び頻度を含む投与量情報とともに記録しなければならない。
【0267】
8.有効性評価
主要有効性評価は、15日目の生存率である。以下の副次的有効性関連パラメーターもEAP全体を通して測定される:人工呼吸状態、酸素飽和レベル(SpO2及び/又はPaO2)、酸素補給状態、集中治療室での時間及び入院期間。
【0268】
探索的評価には、(1)29日目の生存率、(2)経時的な血清エクリズマブ濃度の変化、(3)経時的な遊離血清C5濃度の変化、及び(4)経時的な補体活性化及び炎症プロセスに関連する可溶性バイオマーカーの絶対レベルの変化が含まれる。
【0269】
全ての安全性評価について計画されたタイムポイントを表4に示す。
【0270】
身体検査には、少なくとも、心血管系、呼吸器系、胃腸系及び神経系の評価が含まれる。身長及び体重(スクリーニング時のみ)も測定され、記録される。測定されるバイタルサインには、体温、収縮期及び拡張期の血圧、心拍数及び呼吸数が含まれる。
【0271】
表6に臨床検査のリストを提供する。表4は評価のタイミング及び頻度を示す。
【0272】
【表10】
【0273】
9.ワクチン接種及び予防的抗生物質
過去5年以内に髄膜炎菌ワクチン接種を受けていない参加者は、このEAPでSOLIRIS(登録商標)による処置を開始する前に髄膜炎菌ワクチン接種を受けることができない場合がある。ワクチン接種が確認できない場合、参加者はSOLIRIS(登録商標)処置を開始する前及びSOLIRIS(登録商標)の最後の輸注から少なくとも3ヶ月間、髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与される。
【0274】
参加者がワクチン接種を受けることができる場合、一般的な病原性髄膜炎菌血清型を予防するために、利用可能な場合には髄膜炎菌血清型A、C、Y、W135及びBに対するワクチンが推奨される。参加者は、補体阻害剤(例えば、SOLIRIS)による予防接種の使用に関する現在の国の予防接種ガイドライン又は施設のプラクティスに従って予防接種又は再接種を受けなければならない。ワクチン接種は、髄膜炎菌感染を予防するのに十分でない可能性がある。抗菌剤の適切な使用については、公式のガイダンス及び施設のプラクティスに従って考慮すべきである。
【0275】
10.重篤な有害事象
重篤な有害事象(SAE)は、表7に定義される。全てのSAEは、参加者(又は適切な場合、介護者、代理人若しくは参加者の法的に権限を与えられた代理人)により、治験責任医師又は資格のある被指名人に報告される。
【0276】
【表11】
【0277】
11.薬物動態
サンプルを収集して、SOLIRIS(登録商標)の血清濃度を決定できる。各サンプルの実際の日時(24時間制)が記録される。
【0278】
12.薬力学
サンプルを収集して、PDマーカー(CH50、C5b9又は他の補体タンパク質を含むが、これらに限定されない)に対するSOLIRIS(登録商標)の効果を評価することができる。各サンプルの実際の日時(24時間制)が記録される。
【0279】
13.免疫原性
血清サンプルを収集して、エクリズマブに対する抗薬物抗体の存在又は発生を評価することができる。サンプルは、評価スケジュールに記載の通りに収集される。
【0280】
14.バイオマーカー
補体経路タンパク質(例えば、sC5b-9、C5a、C3a、総C3、因子B及び因子Ba)及び炎症性サイトカイン(例えば、IL-1、IL-6、IL-8、IL-21、腫瘍壊死因子[TNF]-b及び単球走化性タンパク質[MCP]-1)及び観察されたSOLIRISへの臨床反応との関連性の評価のためにサンプルを収集することができる。
【0281】
15.統計的考慮事項
このEAPの目的は、重症肺炎、急性肺損傷又はSARS-CoV-2感染に関連するARDSを有する参加者の処置のための緊急治療としてSOLIRIS(登録商標)を提供することである。したがって、サンプルサイズに関する統計的考慮事項はない。
【0282】
分析に使用される対象集団を表8に定義する。
【0283】
【表12】
【0284】
要約統計量は、該当する場合、全体で及び来院ごとに示される。連続変数の記述統計には、参加者数、平均、標準偏差、中央値、25パーセンタイル、75パーセンタイル、最小値及び最大値が含まれる。カテゴリー変数については、頻度及びパーセンテージが示される。必要に応じてグラフ表示が提供される。全ての統計分析は、5%の両側タイプIエラーに基づいて実施される。分析は、SAS(登録商標)ソフトウェアバージョン9.4以降を使用して実施される。
【0285】
主要有効性エンドポイントは、15日目の生存率(全死因死亡率に基づく)であり、カプラン・マイヤー(KM)の方法を使用して集約される。リスク時間は、SOLIRIS(登録商標)の初回投与時(1日目)から始まる。打ち切り指標は、参加者がこの時間を超えて生存した場合には1、参加者が生存しなかった場合には0である。補完的両対数変換に基づくカプラン・マイヤー生存推定値及び信頼区間(95%)は、15日目及び29日目に示される。カプラン・マイヤー曲線が生成される。
【0286】
15日目の生存且つ人工呼吸なしの日数が、全ての参加者について集約される。参加者が15日目より前に退院した場合、患者は生存しており、人工呼吸なしと見なされる。29日目の生存且つ人工呼吸なしの日数も集約される。
【0287】
酸素化の改善は、1日目~15日目及び29日目のSpO2及びPaO2の変化を使用して集約される。これらは、全ての患者及び死亡のない患者について集約される。
【0288】
15日目の生存且つ酸素補給なしの日数が、全ての参加者について集約される。参加者が15日目より前に退院した場合、患者は生存しており、酸素補給なしと見なされる。29日目の生存且つ酸素補給なしの日数も集約される。
【0289】
集中治療室の滞在期間及び入院期間は、全ての参加者及び死亡のない参加者について集約される。
【0290】
全ての安全性分析は、安全性解析対象集団で行われる。
【0291】
SAEの分析及び報告は、SOLIRIS(登録商標)の初回投与時又は初回投与後に発症するSAEとして定義されるTESAEに基づく。TESAEの発生率は、器官別大分類(SOC)及び基本語別に集約されており、SOLIRIS(登録商標)又はSOLIRIS(登録商標)の中止につながるTESAE及び死亡に至るTESAEとの関係を示す追加の集約を伴う。
【0292】
該当する場合、検査室測定値並びに各来院時のベースラインからの変化及びベースラインからのシフトが集約される。バイタルサインの測定値及び身体検査の所見も、経時的に集約される。
【0293】
16.薬物動態/薬力学/バイオマーカー分析
探索的分析のための血液サンプルの収集は、任意選択による。血液サンプルは、評価スケジュールに示されている時点で収集し、PK及びPD分析のために保存することができる。血清サンプルは、補体活性化及び関連経路を評価するための探索的バイオマーカー分析の評価スケジュールに示される時点で、スクリーニング時及び処置後に収集できる。これらのバイオマーカーには、限定されないが、補体経路タンパク質sC5b-9、C5a、C3a、総C3、因子B及びBa並びに炎症及び疾患に関連するサイトカイン;例えば、IL-1、IL-6、IL-8、IL-21、TNF-b及びMCP-1が含まれ得る。
【0294】
SOLIRISを少なくとも1回投与され、評価可能なPK/PDデータを有する全ての参加者の個々の血清濃度データを使用して、SOLIRISのPK/PDパラメーターが集約される。各サンプリング時に全てのSOLIRIS(登録商標)PK/PDエンドポイントの記述統計が示される。SOLIRIS(登録商標)のPD効果は、必要に応じて、経時的な血清薬力学マーカー(CH50、C5b9、他の補体タンパク質を含むが、これらに限定されない)の絶対値並びにベースラインからの変化及びパーセンテージ変化を使用して集約される。診査血清及び血漿バイオマーカーの実測値及びベースラインからの変化は、必要に応じて経時的に集約される。
【0295】
17.免疫原性
確認された陽性ADAの存在が集約される。さらに、陽性ADAの確認後、サンプルはADA力価及び中和抗体の存在について評価される。
【0296】
実施例4:COVID-19患者からのデータ
SOLIRIS(登録商標)はCOVID-19を有する対象に投与され、様々な施設で処置を受けた10人の患者のデータが分析された。センター#1で処置を受けた10人の患者のうちの2人は、最初の900mgのSOLIRIS(登録商標)投与後4日目までに、その血清残存遊離エクリズマブレベルが完全に枯渇していた。それらの患者は、補体活性化の回復と一致して、その日までにC5b9も上昇していた。センター#1の3人目の患者も補体レベルの上昇を示したが、懸念は他の2人ほど顕著でも早期でもなかった。センター#2の患者も同様に、6日目までにC5b9が上昇していた。
【0297】
データは、11人の患者のうちの少なくとも3人が、8日目の2回目の投与前に終末補体活性が回復したことを示している。これは、COVID-19を有するこれらの患者の少なくとも一部は、その補体の大幅な活性化を有することを示唆している。これらのデータは、例えば、補体活性を遮断するために早い段階で追加の薬物を提供することにより、補体阻害がこれらの患者に真の治療上の利益をもたらし得るというさらなるエビデンスを提供する。
【0298】
実施例5:COVID-19の処置のためのエクリズマブ
SOLIRIS(登録商標)(エクリズマブ)は、十分に確立された安全性プロファイルを有する、有効で広範に研究されている終末補体阻害剤である。SOLIRISは多くの補体媒介性疾患で研究されており、現在、4つの補体媒介性疾患について欧州連合で承認されている(EU番号:EU/1/07/393)。
【0299】
SOLIRIS(登録商標)は、COVID-19重症肺炎、急性肺損傷又は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と一致する臨床症状を伴うSARS-CoV-2感染が確認された患者の処置のための緊急治療として提案されている。これらの患者で完全な終末補体阻害を維持することで、COVID-19誘発性肺損傷を改善し、COVID-19肺炎を有する参加者の転帰を改善し、免疫媒介性肺損傷又はARDSの破局的結果を回避できるという仮説が立てられている。
【0300】
この数週間、フランス、イタリア及び米国の医師から、COVID-19重度感染を有する患者の処置のためにSOLIRIS(登録商標)へのアクセスを求める複数のリクエストが寄せられている。2020年4月5日の時点で、重症のCOVID-19感染を有する患者51人がこれらの国で人道的使用に基づいてSOLIRISを投与されたことが治験責任医師に通知された(フランス:15人、イタリア:28人、米国:8人)。現時点では、研究者がアクセスできるデータの量は限られている。
【0301】
aHUS、gMG及びNMOSDを有する患者の処置のために承認されたSOLIRIS(登録商標)導入投与量レジメン(週に1回900mgを4回)は、元のECU-COV-401プロトコルで提案された。しかし、予備的な個々の薬物動態(PK)及び薬力学(PD)データの検査後、この投与量レジメンを投与されたCOVID-19を有する患者の一部は、薬物クリアランスの増加及び/又はPD制御の喪失を示した。治験責任医師は、COVID-19を有する患者の終末補体阻害を即時且つ完全に達成するため、また補体媒介性損傷の生命を脅かす結果からの潜在的な保護として、SOLIRIS投薬レジメンを修正した。
【0302】
1.COVID-19を有する患者における予備的なエクリズマブの薬物動態/薬力学結果
指定患者ベースで、SOLIRISで処置された重症COVID-19感染を有する患者7人の予備的なPK及びPDデータが、フランスの処置担当医師から治験責任医師に通知された(2020年4月5日まで)。6人の患者における遊離エクリズマブ濃度と時間一致可溶性C5b9レベル及び1人の患者におけるCH50(機能的溶血アッセイ)及び時間一致可溶性C5b9。
【0303】
2.結果
個々の無血漿エクリズマブ濃度を図1に示す。COVID-19を有する患者における承認されたSOLIRIS(登録商標)投与後の予備的なPKプロファイルは、対応する治療量以下のエクリズマブ濃度で、6人中3人の患者において予想よりも速いエクリズマブクリアランスを示す。SOLIRIS(登録商標)クリアランスの増加は、COVID-19を有する患者の一部に見られる補体活性化の増加によると考えられる。より高い濃度の循環補体複合体は、より多くのSOLIRIS(登録商標)に結合すると予想され、それにより、他の適応症と比較してより速い薬物クリアランスにつながる。
【0304】
個々の血漿可溶性C5b9濃度を図2に示す。予備的な個々の時間一致可溶性C5b9プロファイルは、承認されたSOLIRIS(登録商標)投与で処置された場合、一部の患者で補体阻害が失われることを裏付けている。
【0305】
個々のCH50及び時間一致可溶性C5b9プロファイルを、1人の患者について図3に示す。2つの異なるPDアッセイ(CH50及びsC5b9)の個別の結果は、900mgの初期用量では、この患者の終末補体阻害を処置の最初の1週間維持するには不十分であることを示唆している。
【0306】
予備的な個々のPK/PDデータの検査からは、COVID-19の設定で補体活性化の増加、エクリズマブクリアランスの上昇及び対応する治療量以下のエクリズマブ濃度が示される。COVID-19を有する患者における、エクリズマブ及び血清C5b9の個別の濃度とCH50機能性溶血アッセイの結果は、aHUS、gMG及びNMOSDを有する患者に対する承認済みのSOLIRIS(登録商標)導入投与(週1回900mgを4回投与)は、全ての患者で完全な終末補体阻害を維持するには不十分であることを示す。
【0307】
3.結論
SOLIRIS(登録商標)の承認された投与量レジメンは、承認された異なる適応症にわたって終末補体の即時、完全、且つ持続的な阻害を達成するように設計された。PNH、aHUS、gMG及びNMOSDを有する患者における現在の研究者のSOLIRIS(登録商標)での累積的な経験は、完全な終末補体阻害が有効性と相関することをサポートする。上記のデータは、少なくとも3人の患者が、投与間隔を通して完全な終末補体阻害を達成しなかったことを示している。3人の患者のうちの1人が死亡した。完全な終末補体阻害の明らかな必要性は、重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSを呈するCOVID-19を有する参加者におけるSOLIRIS(登録商標)による処置をサポートする治療戦略の基礎である。
【0308】
これらの予備的知見と、COVID-19誘発性肺損傷を改善するための完全な終末補体阻害の重要性に基づいて、エクリズマブをより多く、より頻繁に投与することで、特に補体が最も増幅されると予想される処置の最初の2週間で、補体増幅に起因する薬物クリアランスの増加に対処することが期待される。補体増幅は、他の臨床設定でも注目されており(Jodele et al.(Biol Blood Marrow Transplant.2016;22(2):307-315);Peffault de Latour et al.(Blood.2015;125(5):775-783))、エクリズマブクリアランスの増加に対抗し、終末補体阻害を維持するために、より頻繁な早期のSOLIRIS投与を要する。
【0309】
この文書で提案されているものと同様のSOLIRIS(登録商標)の投与レベルは、フランスの多施設での実施を含む、移植集団における安全性及び有効性を調査する世界的な研究である研究C10-001及びC10-002で以前に研究されている。両方の研究で以下の投与レジメンが使用された:同種移植片移植前のエクリズマブ1200mg(0日目、同種移植腎再灌流のおよそ1時間前に開始)、エクリズマブ900mg(1、7、14、21及び28日目)及びエクリズマブ1200mg(5、7及び9週目)。移植後の設定での補体増幅に対処するためのより頻繁な早期投与による投薬レジメンは、十分に忍容性であり、SOLIRISの予想される安全性プロファイルと一致しており、新たな安全性に関する懸念はなかった(Marks et al.(Am J Transplant.2019;19(10):2876-2888))。
【0310】
観察されたSARS-CoV-2関連の補体増幅を考慮して、提案されたSOLIRIS(登録商標)投薬レジメンは、1日目、4日目、8日目に1200mg、15日目と22日目に900mgの用量で静脈内投与される。900又は1200mgの追加用量が、12日目及び18日目に、メディカルモニターと相談した治験責任医師の裁量によって投与され得る。
【0311】
COVID-19を有する患者を処置するために提案されたエクリズマブ投与レジメンの修正は、予備的なPK/PD結果の経験的評価に基づいており、即時、完全且つ持続的な終末補体阻害を達成するためのSOLIRIS(登録商標)PK及びPD投薬目標の理解を利用している。
【0312】
SOLIRIS(登録商標)の投与に関連して特定された潜在的なリスクは、COVID-19重症肺炎、急性肺損傷又はARDSを有する参加者に提供され得る、即時且つ完全な終末補体阻害を達成する試みにおいて予想される利益によって正当化される。
【0313】
実施例6:COVID-19重度肺炎を有する患者におけるIV ULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ)の安全性及び有効性研究
COVID-19重度肺炎、急性肺損傷又は急性呼吸窮迫症候群を有する患者における、ベストサポーティブケアと比較した、ラブリズマブの静脈内投与の安全性及び有効性を評価するために、第3相非盲検無作為対照試験(「ALXN1210-COV-305」;バージョン1とも呼ばれる)が実施される。
【0314】
1.目的及び研究エンドポイント
主要目的は、COVID19を有する患者における生存率に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+最善の標準治療(BSC)の効果(例えば、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)によって評価される)を評価することである。副次的目的は、COVID19を有する患者の転帰に対するラブリズマブ及びベストサポーティブケアの有効性(例えば、29日目の人工呼吸なしの日数、29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化、29日目の集中治療室滞在期間、29日目の逐次臓器不全評価(SOFA)スコアのベースラインからの変化及び29日目の入院期間によって評価される)を、ベストサポーティブケア単独と比較して評価することである。
【0315】
安全性目的は、COVID19を有する患者におけるラブリズマブ+BSCの全体的な安全性を、BSC単独と比較して特徴付けることである(例えば、TEAE及びTESAEによって評価される)。
【0316】
追加の目的には、薬物動態(PK)/薬力学(PD)及びCOVID19を有する患者におけるラブリズマブの免疫原性の特徴付け(例えば、経時的な血清ラブリズマブ濃度の変化、経時的な血清遊離C5濃度の変化並びに抗ALXN1210抗体及び中和抗体の発生率及び力価によって評価される)が含まれる。
【0317】
バイオマーカーに関する目的は、COVID19を有する患者における補体の全身活性化及び炎症に対するC5阻害の効果(例えば、経時的な補体活性化及び炎症プロセスに関連する血中及び尿中の可溶性バイオマーカーの絶対レベルの変化によって評価される)を評価することである。
【0318】
探索的目的は、(1)COVID19を有する患者における60日及び90日生存率に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果(例えば、60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)によって評価される)並びに(2)COVID19を有する患者における透析を要する腎不全の進行に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果(例えば、29日目に透析を要する腎不全の進行の発生率によって評価される)、を評価することである。
【0319】
ベースラインは、1日目に試験薬の第1の輸注が投与される時又はその前に(ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者の場合)及び1日目の評価/処置の開始時又はその前に(BSCに無作為に割り付けられた患者の場合)実施される評価/処置を表す。
【0320】
2.研究設計
研究ALXN1210-COV-305は、SARS-CoV-2感染の診断が確定し、COVID-19の重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSと一致する臨床症状を示す患者における、ベストサポーティブケア(BSC)と比較した、静脈内(IV)ラブリズマブの安全性及び有効性を評価するために設計された多施設第3相非盲検無作為化対照試験である。少なくとも18歳、体重40kg以上で、処置のために指定の病院施設に入院している患者は、この研究の適格性についてスクリーニングされる。10%の評価不能率を考慮して、およそ270人の患者を2:1の割合で無作為に割り付ける(180人の患者がラブリズマブ+BSCを投与され、90人の患者がBSCのみを投与される)。
【0321】
ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者は、表9に示されるように、1日目に体重に基づく用量のラブリズマブを投与される。依然として人工呼吸を要する患者又は治験責任医師の判断で進行中の末端臓器損傷のエビデンスを示す患者について、900mgのラブリズマブが15日目に投与され得る。投与する用量は、以下の通りである:1日目、患者40kg以上60kg未満:2400mg/kg;60kg以上100kg未満:2700mg/kg;及び100kg以上:3000mg/kg。全ての患者は、研究期間中、標準的な病院の処置プロトコルに従って投薬、治療及び介入を受け続ける。
【0322】
この研究は、最大3日間のスクリーニング期間、4週間の一次評価期間、29日目又は退院時の最終評価並びに60日目及び90日目の2回のフォローアップ来院からなる。フォローアップ来院は、患者が退院した場合には電話で、患者が依然として入院している場合には対面で実施される。各患者の参加の合計期間は、およそ4ヶ月と予想される(スキーム1)。
【0323】
患者が全ての包含基準を満たし、除外基準を満たさない場合、スクリーニング及び1日目の来院は、同日に行うことができる。
【0324】
3.試験薬の説明
2つの448アミノ酸重鎖及び2つの214アミノ酸軽鎖から構成される組換えヒト化抗C5mAbであるラブリズマブは、ヒト定常領域と、ヒトフレームワーク軽鎖及び重鎖可変領域に移植されたマウス相補性決定領域とからなるIgG2/4カッパ免疫グロブリンである。ラブリズマブはチャイニーズハムスター卵巣細胞株で産生され、抗体の半減期を延長するためにその重鎖に4つの固有のアミノ酸置換を導入することにより、エクリズマブの最小限の標的操作によって設計された。
【0325】
ラブリズマブ製剤は、単回使用バイアル中に、無菌で防腐剤を含まない10mg/mLの溶液として臨床試験のために供給され、IV輸注を介した投与のために、市販の生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射剤;国固有の薬局方)中に希釈して輸注するように設計される。
【0326】
18歳以上、40kg以上で、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられたCOVID-19を有する患者の処置のために提案された投与量レジメンを表9に示す。
【0327】
【表13】
【0328】
ラブリズマブ製剤は、pH7.0で製剤化され、各30mLバイアルは、300mgのラブリズマブ、0.02%ポリソルベート80、150mM塩化ナトリウム、6.63mM二塩基性リン酸ナトリウム、3.34mM一塩基性リン酸ナトリウム及び注射用水(米国薬局方)を含有する。
【0329】
ラブリズマブ混合物は、IV管セットを使用して輸注ポンプを介して患者に投与され、続いてIVフラッシュが行われる。輸注中は0.2ミクロンのフィルターを使用する必要がある。IVフラッシュは輸注と同じ速度で輸注し、フラッシュの終了は輸注の終了と見なされる。IVフラッシュ量は、投与された試験薬の総量に含まれない。
【0330】
0.9%塩化ナトリウム注射剤中のラブリズマブ(10mg/mL)の希釈混合物の安定性研究は、23℃~27℃(73°F~80°F)の室温で6時間の使用中の安定性及び2℃~8℃(36°F~46°F)で冷蔵した場合の24時間の安定性をサポートする。
【0331】
ラブリズマブのバイアルは凍結又は振盪しない。
【0332】
4.処置期間及び研究終了の定義
各患者について、研究の合計期間は、最大およそ3ヶ月と予想され、以下の内容で構成される:
1.患者が入院しているおよそ4週間:スクリーニングに最大3日、一次評価期間に4週間、29日目又は退院日のいずれか早い方で最終評価。
2.60日目及び90日目におよそ4週間間隔で実施される2回のフォローアップ来院(患者が退院した場合には電話で、又は患者が依然として入院している場合には対面で、4週間間隔で実施され得る)。
【0333】
一次評価期間の終了は、最後の生存患者が29日目/早期終了(ET)来院を完了する日として定義される。研究の終了は、最後の患者の最後の来院として定義される。これは、最終的な安全性フォローアップの電話又は直接の来院であり得る。
【0334】
5.研究対象集団
以下の基準のいずれかを満たす場合、患者は研究に含まれる:
1.インフォームドコンセントを提供する時点で少なくとも18歳且つ少なくとも40kgの男性又は女性;
2.入院を要する重症COVID-19として示されるSARS-CoV-2感染の確定診断;
3.スクリーニング時又はスクリーニング前3日以内にコンピューター断層撮影法(CT)又はX線によって確認された、重度の肺炎、急性肺損傷又はARDS;
4.重度の肺炎、急性肺損傷又は侵襲的又は非侵襲的な人工呼吸による酸素補給を必要とするARDS(WHO,2020);
5.妊娠の可能性のある女性患者及び妊娠の可能性のある女性パートナーを有する男性患者は、処置中及び試験薬の単回投与による処置後8ヶ月間、妊娠を避けるためのプロトコルで指定されたガイダンスに従わなければならない;及び
6.全ての患者についてインフォームドコンセントが提供されなければならない。現地の規制で許可されている場合、患者がインフォームドコンセントを提供できない例で例外が認められ得る。
【0335】
以下の基準のいずれかを満たす場合、患者は研究から除外される:
1.患者は24時間を超えて生存することが期待されていない;
7.患者はスクリーニング前に48時間を超えて侵襲的換気を受けている;
8.以下の薬物療法及び治療の使用:(a)補体阻害剤による現在の処置、(b)スクリーニングから3ヶ月以内のリツキシマブ、(c)スクリーニングから3ヶ月以内のミトキサントロン、又は(d)スクリーニング前3週間以内の静脈内免疫グロブリン(IVIg);
9.患者は未解決の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)感染症を有する;
10.マウスタンパク質に対する過敏症を含む、試験薬に含有される任意の成分に対する過敏症の病歴;
11.スクリーニング時又は1日目に妊娠検査結果が陽性の女性患者;
12.重度の既存の心疾患(すなわちニューヨーク心臓病学会クラス3又はクラス4、急性冠症候群又は持続性心室頻拍);又は
13.この研究の1日目のラブリズマブの開始前30日以内又はその治験薬の5半減期以内のいずれか長い方の別の介入処置研究への参加。
【0336】
6.統計的考慮事項
少なくとも90%の検出力を確保し、29日目にBSC群の60%からラブリズマブ+BSC群の80%への生存率の改善を検出するには、243人の患者(ラブリズマブ+BSC162人;BSC単独81人)のサンプルサイズが必要である。
【0337】
このサンプルサイズの計算は、(a)2つの比率の差の片側Z検定、(b)タイプIエラー=0.025、(c)合併分散、(d)2つの処置群で2:1の無作為化、及び(e)およそ122人の患者に関する主要有効性データを収集した後の50%の情報での1回の中間分析を想定している。有効性と無益性の早期停止境界は、α消費関数をO’Brien-Flemingフレーバーを有するLan-DeMets消費関数として、β消費関数をガンマ(-4)として使用して構築される。10%の評価不能な割合を考慮すると、この研究はおよそ270人の患者(ラブリズマブ+BSC 180人、BSCのみ90人)を無作為化する計画である。
【0338】
これは非盲検研究である。全ての包含基準を満たし、除外基準を満たさない適格な患者は、2:1の比で無作為に割り付けられ、ラブリズマブ+BSC又はBSCのみのいずれかを投与される。無作為化は、1日目に侵襲的又は非侵襲的な人工呼吸によって層別化される。無作為化スケジュールは、中央のサードパーティーによって開発される。
【0339】
最大の解析対象集団(FAS)は、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者又はBSCのみに無作為に割り付けられた患者に対して、ラブリズマブを少なくとも1回投与された全ての無作為化された患者からなる。FASは有効性データの分析に使用され、主要分析対象集団と見なされる。
【0340】
治験実施計画書に適合した対象集団(PPS)は、有効性分析に影響を与える可能性のある重要なプロトコルの逸脱がないFASのサブセットである。この目的のための該当する重要なプロトコル逸脱の決定は、データベースのロックの前に行われる。PPSは、主要及び副次的有効性エンドポイントの感度分析に使用される。
【0341】
安全性解析対象集団はFASと同一であり、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者又はBSCのみに無作為に割り付けられた患者に対して、ラブリズマブを少なくとも1回投与された全ての無作為化された患者からなる。安全性解析対象集団は、安全性データの分析に使用される。
【0342】
一次分析は、全ての患者が一次評価期間を完了したときに行われる。この分析には、規制当局への提出を目的とした全ての有効性、安全性及びPK/PD/免疫原性の研究データが含まれており、一次評価期間の最終分析である。
【0343】
要約統計量は、該当する場合、処置群ごと及び来院ごとに示される。連続変数の記述統計には、最小限で、患者数、平均、標準偏差、中央値、最小値及び最大値が含まれる。カテゴリー変数については、頻度及びパーセンテージが示される。必要に応じてグラフ表示が提供される。別段の記載がない限り、全ての統計分析は、5%の両側タイプIエラーに基づいて実施される。
【0344】
ベースラインは、1日目に試験薬の第1の唯一の輸注が投与される時又はその前に(ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者の場合)及び1日目の評価/処置の開始前に(BSCのみに無作為に割り付けられた患者の場合)実施される評価/処置を表す。
【0345】
分析は、SAS(登録商標)ソフトウェアバージョン9.4以降を使用して実施される。
【0346】
主要有効性エンドポイントは、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)であり、合併分散及び0.025のタイプIエラーを使用した2つの比率の差の片側Z検定を使用して、2つの処置群間で比較される。推定リスク差は、95%信頼区間とともに集約される。患者が29日目より前に退院した場合、その患者は29日目に生存していると見なされる。
【0347】
生存率もカプラン・マイヤー(KM)の方法を使用して分析し、感度分析としてログランク検定を使用して比較する。ハザード比及びリスク低減は、Cox比例ハザードモデルから集約される。信頼区間(95%)は、補完的両対数変換に基づいて29日目の生存推定値として示される。両方の処置群についてカプラン・マイヤー曲線が生成される。
【0348】
主要エンドポイントの感度分析も、3)生存且つICU退室;2)生存、ICU滞在、且つ人工呼吸なし;又は1)死亡の3レベルカテゴリーの転帰を使用して実施される。カイ二乗検定を使用して、2つの処置群を比較する。
【0349】
さらなる感度分析には、年齢、無作為化層別化因子及び他の重要な共変数を調整する統計モデルが含まれる。統計分析計画(SAP)では、感度分析がより詳細に説明される。
【0350】
主要エンドポイントの中間分析も実施される。29日目の人工呼吸器なしの日数は、生存者間で年齢及び無作為化層別化係数を調整し、共分散分析(ANCOVA)を使用して処置群間で比較される。患者が29日目より前に退院した場合、患者は生存しており、29日目までの残りの日は人工呼吸なしと見なされる。
【0351】
29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化が、ベースラインSpO2/FiO2、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日及び処置群相互作用による研究日を固定共変数として、反復測定の混合モデル(MMRM)を使用して分析される。ベースライン後のスコアを有しない患者を除き、29日目まで生存した全ての患者がモデルに含まれる。感度分析には、欠損データの補完が含まれる。29日目のPaO2/FiO2のベースラインからの変化も、ベースラインPaO2/FiO2、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日及び処置群相互作用による研究日を固定共変数として、MMRMを使用して分析される。ベースライン後のスコアを有しない患者を除き、29日目まで生存したPaO2/FiO2データを有する全ての患者がモデルに含まれる。感度分析には、欠損データの補完が含まれる。SpO2/FiO2及びPaO2/FiO2のベースラインからの変化も、非生存者について集約される。
【0352】
29日目の集中治療室(ICU)滞在期間は、生存者間で年齢及び無作為化層別化係数を調整し、ANCOVAを使用して処置群間で比較される。29日目のICU滞在期間は、非生存者についても集約される。
【0353】
29日目のSOFAスコアのベースラインからの変化は、SpO2/FiO2のベースラインからの変化と同様に、MMRMを使用し、ベースラインSOFAスコアを含めて分析される。29日目の入院期間は、ICU滞在期間と同様の方法で分析される。
【0354】
主要及び副次的エンドポイントの分析のタイプIエラーを制御するために、クローズド試験処置が適用される。主要エンドポイントが統計的に有意にラブリズマブに有利な場合、副次的エンドポイントは、以下の順位に従って評価される:
1.29日目の人工呼吸なしの日数
2.29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化
3.29日目のICU滞在期間
4.29日目のSOFAスコアのベースラインからの変化
5.29日目の入院期間。
【0355】
仮説検定は、最高ランク(#1)の29日目の人工呼吸なしの日数から最低ランク(#5)の29日目の入院期間へ進み、エンドポイントで統計的有意性が達成されない場合(p≧0.05)、より低いランクのエンドポイントは統計的に有意であるとは見なされない。信頼区間及びp値は、クローズド試験処置の結果にかかわらず、便宜的に全ての副次的有効性エンドポイントについて示される。
【0356】
全ての安全性分析は、Safety Populationで行われる。安全性の結果は処置群ごとに報告される。
【0357】
AE及びSAEの分析及び報告は、ラブリズマブの単回投与による処置中又は処置後に発症したAE及びSAEとして定義される、処置下発現AE(TEAE)及びSAE(TESAE)に基づく。TEAE及びTESAEの発生率は、器官別大分類(SOC)及び基本語別に集約されており、ラブリズマブ、重症度、TEAE又はラブリズマブの中止につながるTESAE及び死亡に至るTESAEとの関係を示す追加の集約を伴う。
【0358】
該当する場合、検査室測定値並びに各来院時のベースラインからの変化及びベースラインからのシフトが集約される。バイタルサインの測定値及び身体検査の所見も、経時的に集約される。
【0359】
血液サンプルは、薬物動態(PK)及び遊離C5分析のために収集される。
【0360】
ラブリズマブを少なくとも1回投与され、評価可能なPK/薬力学(PD)データを有する全ての患者の個々の血清濃度データを使用して、ラブリズマブのPK/PDパラメーターが集約される。各サンプリング時に全てのラブリズマブPK/PDエンドポイントの記述統計が示される。ラブリズマブのPD効果は、必要に応じて、経時的な遊離C5血清濃度の絶対値並びにベースラインからの変化及びパーセンテージ変化を使用して集約される。
【0361】
血清サンプルは、補体活性化及び関連経路を評価するためのバイオマーカー分析の活動スケジュールに従ってスクリーニング時及び処置後に収集される。これらのバイオマーカーには、限定されないが、補体経路タンパク質sC5b-9、C5a、C3a、総C3、因子B及びBa並びに炎症及び疾患に関連するサイトカイン、例えば、インターロイキン(IL)-1、IL-6、IL-8、IL-21、腫瘍壊死因子(TNF)-b及び単球走化性タンパク質(MCP)-1;並びに心血管疾患に関連するマーカー、プロカルシトニン、ミオグロビン、高感度トロポニンI及びN末端プロb型ナトリウム利尿ペプチドが含まれ得る。
【0362】
血清、尿及び血漿バイオマーカーの実測値及びベースラインからの変化は、必要に応じて経時的に集約される。
【0363】
ALXN1210に対する抗薬物抗体(ADA)の発生率及び力価は、処置群ごとに表形式で集約される。常に陽性である患者の割合と、常に陰性である患者の割合が調査され得る。確認されたADA陽性サンプルは、中和抗体の存在について評価される。
【0364】
60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)は、カプラン・マイヤー法を使用して推定され、ログランク検定を使用して比較される。ハザード比及びリスク低減は、Cox比例ハザードモデルから集約される。信頼区間(95%)は、補完的両対数変換に基づいて60日目及び90日目の生存推定値として示される。両方の処置群についてカプラン・マイヤー曲線が生成される。
【0365】
29日目の透析を要する腎不全への進行の発生率は、主要エンドポイントと同様の方法で分析される。
【0366】
有効性及び無益性の中間分析は、およそ122人の患者が29日目を完了(又は早期終了[ET])したときに実施された。停止基準が満たされている場合、どの停止境界を越えたかに応じて、有効性又は無益性について、研究は早期に終了され得る。有効性と無益性の早期停止境界は、α消費関数をLan-DeMets(O’Brien-Fleming)消費関数として、β消費関数をガンマ(-4)として使用して構築される。2つの比率の差の片側Z検定は、合併分散及び0.025のタイプIエラーで使用される。
【0367】
最終一次分析は、全ての患者が一次評価期間を完了したときに行われる。この分析には、規制当局への提出を目的とした全ての有効性、安全性及びPK/PD/免疫原性の研究データが含まれている。この分析は中間分析とは見なされない。
【0368】
7.活動スケジュール
活動のスケジュールを表10に示す。
【0369】
【表14】
【0370】
【表15】
【0371】
【表16】
【0372】
【表17】
【0373】
【表18】
【0374】
8.ワクチン接種及び予防的抗生物質
過去5年以内に髄膜炎菌ワクチン接種を受けていない患者は、本研究中にラブリズマブによる処置を開始する前に髄膜炎菌ワクチン接種を受けることができない場合があると予想される。ワクチン接種が確認できない場合、患者はラブリズマブ処置を開始する前及びラブリズマブの最後の輸注から少なくとも8ヶ月間、髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与される。
【0375】
患者がワクチン接種を受けることができる場合、一般的な病原性髄膜炎菌血清型を予防するために、利用可能な場合には髄膜炎菌血清型A、C、Y、W135及びBに対するワクチンが推奨される。患者は、補体阻害剤(例えば、ラブリズマブ)による予防接種の使用に関する現在の国の予防接種ガイドライン又は施設のプラクティスに従って予防接種又は再接種を受けなければならない。ワクチン接種は、髄膜炎菌感染を予防するのに十分でない可能性がある。抗菌剤の適切な使用については、公式のガイダンス及び施設のプラクティスに従って考慮すべきである。
【0376】
患者がラブリズマブによる処置後にワクチン接種を受けた場合、髄膜炎菌ワクチン接種後少なくとも2週間は予防的抗生物質を継続すべきである。
【0377】
9.プロトコルで必要な臨床検査
プロトコルで必要な臨床検査を表11に記載する。
【0378】
【表19】
【0379】
実施例7:
実施例6のプロトコルは、参照により組み込まれ、投与は、以下のように行われる:
ULTOMIRIS(登録商標)(静脈内)投与:
1日目:静脈内使用(例えば、PNH)のためのULTOMIRIS(登録商標)(ラブリズマブ-cwvz)注射剤についての米国製品添付文書(USPI)ラベルに従い、表示された重量ベースの負荷用量
5日目:900mg(又は60kg未満の患者について600mg)
10日目:900mg(又は60kg未満の患者について600mg)
15日目:全ての患者について900mg。
【0380】
このレジメンは、COVID-19を有する患者で観察される高い補体活性化に対処し、患者が十分に包含されていることを保証し、臨床研究で有効性を確認する最大の機会を提供すると考えられる。
【0381】
例示的な負荷用量は、以下の表12及び13に示される。
【0382】
【表20】
【0383】
【表21】
【0384】
実施例8:COVID 19重度肺炎を有する患者におけるIVラブリズマブの有効性及び安全性研究
COVID-19重度肺炎、急性肺損傷又は急性呼吸窮迫症候群を有する患者における、ベストサポーティブケアと比較した、ラブリズマブの静脈内投与の有効性及び安全性を評価するための第3相非盲検無作為対照試験(NCT04369469;最初の投稿;2020年4月30日;Smith et al.,Trials.2020;21:639)。
【0385】
治験の主要目的は、COVID19を有する患者における生存率に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果(例えば、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)によって評価される)を評価することである。
【0386】
副次的目的は、COVID19を有する患者の転帰に対するラブリズマブ+BSCの有効性(例えば、(1)29日目の人工呼吸なしの日数、(2)29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化、(3)29日目の集中治療室滞在期間、(4)29日目のSOFAスコアのベースラインからの変化、及び(5)29日目の入院期間によって評価される)を、BSC単独と比較して評価することである。
【0387】
安全性目的は、COVID19を有する患者におけるラブリズマブ+BSCの全体的な安全性を、BSC単独と比較して特徴付けることである(例えば、TEAE及びTESAEの発生率によって評価される)。
【0388】
薬物動態/薬力学/免疫原性に関して、目的は、COVID19を有する患者におけるラブリズマブのPK/PD及び免疫原性を特徴付けることである(例えば、(1)経時的な血清ラブリズマブ濃度の変化、(2)経時的な血清遊離C5濃度の変化、及び(3)抗ALXN1210抗体の発生率及び力価によって評価される)。
【0389】
バイオマーカーに関して、目的は、COVID19を有する患者における補体の全身活性化及び炎症に対するC5阻害の効果(例えば、経時的な補体活性化及び炎症プロセスに関連する血中及び尿中の可溶性バイオマーカーの絶対レベルの変化によって評価される)を評価することである。
【0390】
探索的目的は、(1)COVID19を有する患者における60日及び90日生存率に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果の評価(例えば、60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)によって評価される)並びに(2)COVID19を有する患者における透析を要する腎不全の進行に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果(例えば、29日目に透析を要する腎不全の進行の発生率によって評価される)の評価を含む。
【0391】
ベースラインは、1日目のラブリズマブの輸注時又はその前に(ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者の場合)及び1日目の評価/処置の開始時又はその前に(BSCのみに無作為に割り付けられた患者の場合)実施される評価/処置を表す。
【0392】
1.全体設計
研究ALXN1210-COV-305は、SARS-CoV-2感染の診断が確定し、COVID-19の重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSと一致する臨床症状を示す患者における、ベストサポーティブケア(BSC)単独と比較した、BSCに加えた静脈内(IV)ラブリズマブの安全性及び有効性を評価するために設計された多施設第3相非盲検無作為化対照試験である。試験の概略図を図4に示す。少なくとも18歳、体重40kg以上で、処置のために指定の病院施設に入院している患者は、この研究の適格性についてスクリーニングされる。10%の評価不能率を考慮して、およそ270人の患者を2:1の割合で無作為に割り付ける(180人の患者がBSCに加えてラブリズマブを投与され、90人の患者がBSCのみを投与される)。
【0393】
ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者は、日目に、体重に基づく用量のラブリズマブを投与される。5日目及び10日目に、ラブリズマブ600mg又は900mgの用量が投与され(体重カテゴリーに従って)、15日目に、患者は、ラブリズマブ900mgを投与される。具体的には、体重ベースの用量が以下の通り1日目に投与される:1日目、患者体重40kg以上60kg未満:2400mg/kg;60kg以上100kg未満:2700mg/kg;又は100kg以上:3000mg/kg。5日目及び10日目に、ラブリズマブ600mg又は900mgの用量が投与され(体重カテゴリーに従って)、15日目に、患者は、ラブリズマブ900mgを投与される。最終評価は、29日目又は退院日のいずれか早い方で実施される。患者が全ての包含基準を満たし、除外基準を満たさない場合、スクリーニング及び1日目の来院は、同日に行うことができる。
【0394】
両方の処置群の患者は、研究期間中、標準的な病院の処置プロトコルに従って投薬、治療及び介入を受け続ける。
【0395】
およそ270人の患者(ラブリズマブ+BSC 180人、BSCのみ90人)が2つの処置群の1つに無作為に割り付けられる。
【0396】
この研究は、最大3日間のスクリーニング期間、4週間の一次評価期間、29日目又は退院時の最終評価及び8週間のフォローアップ期間からなる。2回のフォローアップ来院は、患者が退院した場合には電話で、患者が依然として入院している場合には対面で、4週間間隔で実施される。各患者の参加の合計期間は、およそ3ヶ月と予想される。
【0397】
この研究中に投与される投与量レジメンは、表14に提供される。一次評価期間中(すなわち1日目~29日目まで)の追加投与は許可されていない。
【0398】
【表22】
【0399】
2.活動スケジュール
活動のスケジュールは、表15に記載される。
【0400】
【表23】
【0401】
【表24】
【0402】
【表25】
【0403】
【表26】
【0404】
【表27】
【0405】
3.利点評価
研究参加の潜在的な利点には、(1)ベストサポーティブケア(BSC)単独と比較した、BSCに加えてラブリズマブを受けているSARS CoV 2感染を有する患者の生存率の改善、(2)支持療法を受けている間のSARS CoV 2感染を有する患者の肺損傷の減少、及び(3)支持療法を受けている間のSARS CoV 2感染を有する患者の臨床転帰の改善が含まれる。
【0406】
4.研究対象集団
患者は、以下の全ての基準が該当する場合にのみ、研究に参加する資格がある:
1.患者は、インフォームドコンセントを提供する時点で18歳以上でなければならない;
2.入院を要する重症COVID-19として示されるSARS-CoV-2感染の確定診断;
3.患者の通常の臨床ケアの一環として、スクリーニング時又はスクリーニング前3日以内にコンピューター断層撮影法(CT)又はX線によって確認された、重度の肺炎、急性肺損傷又はARDS;
4.重度の肺炎、急性肺損傷又は侵襲的又は非侵襲的な人工呼吸による酸素補給を必要とするARDS(WHO,2020);
5.インフォームドコンセント提供時の体重40kg以上;
6.男性又は女性;
7.妊娠の可能性のある女性患者及び妊娠の可能性のある女性パートナーを有する男性患者は、試験薬による処置後8ヶ月間、妊娠を避けるための避妊プロトコルで指定されたガイダンスに従わなければならない;及び
8.書面によるインフォームドコンセントを提供する意思及び能力があるか、又はインフォームドコンセントを提供できる法的に認められた代理人を有するか、又は治験責任医師により必要とみなされた場合の医薬品規制調和国際会議(ICHE6[R2])4.8.15緊急使用規定に基づく登録。
【0407】
以下の基準のいずれかが該当する場合、患者は研究から除外される。
1.患者は24時間を超えて生存することが期待されていない;
5.患者はスクリーニング前に48時間を超えて挿管を伴う侵襲的人工呼吸を受けている;
6.重度の既存の心疾患(すなわちニューヨーク心臓病学会クラス3又はクラス4、急性冠症候群又は持続性心室頻拍);又は
7.患者は未解決の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)感染症を有する。
【0408】
5.試験薬
2つの448アミノ酸重鎖及び2つの214アミノ酸軽鎖から構成される組換えヒト化抗C5mAbであるラブリズマブは、ヒト定常領域と、ヒトフレームワーク軽鎖及び重鎖可変領域に移植されたマウス相補性決定領域とからなるIgG2/4カッパ免疫グロブリンである。ラブリズマブはチャイニーズハムスター卵巣細胞株で産生され、抗体の半減期を延長するためにその重鎖に4つの固有のアミノ酸置換を導入することにより、エクリズマブの最小限の標的操作によって設計された。
【0409】
ラブリズマブ製剤は、単回使用バイアル中に、無菌で防腐剤を含まない10mg/mLの溶液として臨床試験のために供給され、IV輸注を介した投与のために、市販の生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射剤;国固有の薬局方)中に希釈して輸注するように設計される。
【0410】
18歳以上、40kg以上で、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられたCOVID-19を有する患者の処置のための投与量レジメンを表16に示す。
【0411】
【表28】
【0412】
ラブリズマブ製剤はpH7.0で製剤化され、各30mLバイアルは、300mgのラブリズマブ、0.02%ポリソルベート80、150mM塩化ナトリウム、6.63mM二塩基性リン酸ナトリウム、3.34mM一塩基性リン酸ナトリウム及び注射用水(米国薬局方)が含有する。
【0413】
ラブリズマブ混合物は、IV管セットを使用して輸注ポンプを介して患者に投与され、続いてIVフラッシュが行われる。輸注中は0.2ミクロンのフィルターを使用する必要がある。IVフラッシュは輸液と同じ速度で輸注し、フラッシュの終了は輸液の終了と見なされる。IVフラッシュ量は、投与された試験薬の総量に含まれない。さらなる詳細は、Pharmacy Manualに提供される。
【0414】
ラブリズマブは、10mg/mLの濃度の溶液として30mLバイアル1本で製造及び供給される(表17)。各バイアルには、IV投与のための300mgのラブリズマブが含まれる。
【0415】
【表29】
【0416】
0.9%塩化ナトリウム注射剤中のラブリズマブ(10mg/mL)の希釈混合物の安定性研究は、23℃~27℃(73°F~80°F)の室温で6時間の使用中の安定性及び2℃~8℃(36°F~46°F)で冷蔵した場合の24時間の安定性をサポートする。ラブリズマブのバイアルは凍結又は振盪しない。
【0417】
6.併用療法
患者が登録時に受けているか又は研究中に受ける、COVID-19又はラブリズマブ処置に関連すると考えられる併用薬(例えば、抗菌薬、抗マラリア薬、抗ウイルス薬、ステロイド及び昇圧剤)は、使用の理由、開始日及び終了日を含む投与日及び用量及び頻度を含む投与量情報とともに記録しなければならない。
【0418】
スクリーニング前の指定された期間及び研究期間中、以下の薬物療法及び治療の使用は禁止されている:補体阻害剤による現在の処置、スクリーニングから3ヶ月以内のリツキシマブ、スクリーニングから3ヶ月以内のミトキサントロン及びスクリーニング前3週間以内の静脈内免疫グロブリン(IVIg)。
【0419】
7.スクリーニング評価
SARS-CoV-2感染は、指定の病院で標準的な診断プロトコルに従って評価される。無作為化の前に、陽性結果の確認を要する。
【0420】
スクリーニング期間中に胸部CT又はX線スキャンを実施して、COVID-19を有する患者の重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSと一致する所見を確認する。患者の臨床ケアの過程で実施されるスキャンは認められ、研究のためのこの診断包含基準を満たすことが期待される。
【0421】
尿又は血清妊娠検査(ベータヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、全ての女性患者で実施される。ラブリズマブの投与前に、陰性の妊娠検査結果を要する。
【0422】
8.有効性評価
主要有効性評価は、29日目の生存率である。
【0423】
以下の副次的有効性パラメーターも29日目まで測定される:(1)人工呼吸状態、(2)酸素飽和レベル(末梢毛細血管酸素飽和[SpO2]、酸素分圧[PaO2])、(3)酸素補給状態(吸気酸素分画[FiO2])、(4)集中治療室(ICU)での時間、(5)入院期間、及び(6)逐次臓器不全評価(SOFA)スコア。
【0424】
多臓器不全は、ICUに入院した患者の死亡率の重要な指標である。この研究では、呼吸器、腎臓、肝臓、心臓、凝固、中枢神経系の6つの器官系のレビューを含む評価ツールであるSOFAスコアを使用して患者を評価する(Vincent,1998)。表18に記載されるように、過去24時間以内に観察された最悪の値を使用して、各器官系に0~4ポイントのスコアが付けられる。
【0425】
【表30】
【0426】
9.安全性評価
以下の安全関連パラメーターは、29日目まで測定される:(1)体重、及び(2)治験責任医師又は被指名人によって評価される完全又は簡易な身体検査。完全な身体検査には、少なくとも、皮膚、頭、耳、目、鼻、喉、首、リンパ節、胸部、心臓、腹部、四肢及び筋骨格の評価が含まれる。簡易身体検査には、少なくとも呼吸器系及び心血管系の評価が含まれる。
【0427】
バイタルサインの測定値には、収縮期及び拡張期の血圧(ミリメートル水銀[mmHg])、心拍数(HR、心拍数/分)、呼吸数(RR、呼吸数/分)及び温度(摂氏[℃]又は華氏[°F])が含まれる。バイタルサインの測定は、投与日の投与前に行われる。
【0428】
1回の12誘導心電図(ECG)を実施して、HR、脈拍数(PR)、Q波、R波及びS波のQRSの組み合わせ、Q波の開始とT波の終了との間の間隔(QT)及び修正されたQT(QTc)間隔を取得する。
【0429】
グラスゴー昏睡スケール(GCS)は、意識不明(昏睡状態の患者など)の臨床的評価に使用される有効な予後ツールである(Sternbach,2000)。GCSは、眼球反応、言語反応、運動反応の3つのドメインで構成され、各ドメインには、表19に示すようにスコアが個別に割り当てられた反応のサブセットが含まれている。GCSは、呼吸サポートの管理の補助として、救命治療の場面でも使用されている。合計GCSスコアが8未満の場合、患者は気管内挿管が必要であることを示す。GCSは、副次的有効性エンドポイント、SOFAスコアの計算を可能にするために測定される。
【0430】
【表31】
【0431】
10.ワクチン及び抗生物質の予防的投与
過去5年以内に髄膜炎菌ワクチン接種を受けていない患者は、本研究中にラブリズマブによる処置を開始する前に髄膜炎菌ワクチン接種を受けることができない場合がある。ワクチン接種が確認できない場合、患者はラブリズマブ処置を開始する前及びラブリズマブの最後の輸注から少なくとも8ヶ月間、髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与される。
【0432】
患者がワクチン接種を受けることができる場合、一般的な病原性髄膜炎菌血清型を予防するために、利用可能な場合には髄膜炎菌血清型A、C、Y、W135及びBに対するワクチンが推奨される。患者は、補体阻害剤(例えば、ラブリズマブ)による予防接種の使用に関する現在の国の予防接種ガイドライン又は施設のプラクティスに従って予防接種又は再接種を受けなければならない。ワクチン接種は、髄膜炎菌感染を予防するのに十分でない可能性がある。抗菌剤の適切な使用については、公式のガイダンス及び施設のプラクティスに従って考慮すべきである。
【0433】
患者がラブリズマブの開始後にワクチン接種を受けた場合、髄膜炎菌ワクチン接種後少なくとも2週間は予防的抗生物質を継続すべきである。
【0434】
11.有害事象及び重篤な有害事象
有害事象(AE)及び重篤な有害事象(SAE)の定義は、それぞれ表20及び21に記載されている。
【0435】
【表32】
【0436】
【表33】
【0437】
【表34】
【0438】
全てのAEは、患者(又は適切な場合、介護者、代理人若しくは患者の法的に認められる代理人)により、治験責任医師又は資格のある被指名人に報告される。全てのAE及びSAEは、インフォームドコンセントの時点から、評価スケジュールで指定された時点まで収集される。
【0439】
12.薬物動態、薬力学及びバイオマーカー
ラブリズマブの血清濃度を決定するために、評価スケジュールに特定される通りにサンプルを収集する。各サンプルの実際の日時(24時間制)が記録される。
【0440】
総C5及び遊離C5に対するラブリズマブの効果を評価するために、評価スケジュールに指定される通りにサンプルを収集する。各サンプルの実際の日時(24時間制)が記録される。
【0441】
血清、血漿又は尿サンプルは、バイオマーカー分析のために収集され、補体活性化及び関連する経路並びに心血管の健康及びラブリズマブに対する臨床反応を評価する。これらのバイオマーカーには、補体経路タンパク質(例えば、総C5及び遊離C5、可溶性C5b-9[sC5b-9]、C5a、C3a、総C3、因子B及びBa)、炎症及び疾患に関連するサイトカイン(例えば、IL-1、IL-6、IL-8、IL-21、腫瘍壊死因子[TNF]-b及び単球走化性タンパク質[MCP]-1)並びに心血管疾患に関連するマーカー(プロカルシトニン、ミオグロビン、高感度トロポニンI[hs-TnI]及びN末端プロb型ナトリウム利尿ペプチド[NT-プロBNP])が含まれる。
【0442】
ALXN1210に対する抗体(すなわち抗薬物抗体[ADA])は、評価スケジュールに従い、全ての患者から収集された血清サンプルで評価される。さらに、血清サンプルは、ラブリズマブを中止したか又は研究から離脱した患者から、最終来院時に収集される。ラブリズマブに結合する抗体について血清サンプルをスクリーニングし、確認された陽性サンプルの力価を報告する。ラブリズマブの免疫原性をさらに特徴付けるために、他の分析を行うことができる。
【0443】
ラブリズマブに対する抗体の検出及び特徴付けは、検証済みのアッセイ法を使用して実施される。ラブリズマブに対する抗体の検出のために収集されたサンプルは、抗体データの解釈を可能にするために、研究介入の血清濃度についても評価される。確認された抗体陽性サンプルは、抗体力価及び中和抗体の存在についてさらに評価される。
【0444】
血液サンプルは、バイオマーカー分析のために収集され、そのデータは、補体活性化及び炎症プロセスに関する将来の探索的研究に使用され得る。サンプルは、C5阻害剤及び重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSの臨床症状を有するCOVID19に関連する診断検査を含む検査/アッセイの開発にも使用することができる。
【0445】
サンプルは、COVID19又は関連する状態を理解するために、ラブリズマブへの応答におけるバイオマーカーの複数研究評価の一部として分析できる。
【0446】
13.統計的考慮事項
主要な帰無仮説は、ラブリズマブ+BSCとBSC単独との間において、2処置群間の29日目の生存率の差によって測定される生存率に差がないというものである。対立仮説は、ラブリズマブ+BSCがBSC単独と比較して29日目の生存率を改善するというものである。
【0447】
副次的な目的に関連する帰無仮説は、ラブリズマブ+BSCが、それぞれのエンドポイントについてBSC単独と変わらないというものである。対立仮説を以下に記載する。
1.人工呼吸なしの日数:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目の人工呼吸なしの日数を延長するというものである。
2.SpO2/FiO2の変化:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目のSpO2/FiO2の変化を改善するというものである。
3.ICU滞在期間:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目のICU滞在日数を減少させるというものである。
4.SOFAスコアの変化:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目のSOFAスコアの変化を改善するというものである。
5.入院期間:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目の入院日数を減少させるというものである。
【0448】
少なくとも90%の検出力を確保し、29日目にBSCのみ群の60%からラブリズマブ+BSC群の80%への生存率の改善を検出するには、243人の患者(ラブリズマブ+BSC162人;BSC単独81人)のサンプルサイズが必要である。このサンプルサイズの計算は、(1)2つの比率の差の片側Z検定、(2)タイプIエラー=0.025、(3)合併分散、(4)2つの処置群で2:1の無作為化、及び(5)およそ122人の患者に関する主要有効性データを収集した後の50%の情報での1回の中間分析を想定している。有効性と無益性の早期停止境界は、α消費関数をLan-DeMets(O’Brien-Fleming)消費関数として、β消費関数をガンマ(4)として使用して構築される(Lan,1983;Hwang,1990)。
【0449】
10%の評価不能な割合を考慮すると、この研究はおよそ270人の患者(ラブリズマブ+BSC180人、BSCのみ90人)を無作為化する計画である。解析対象集団に使用される対象集団を表22に定義する。
【0450】
【表35】
【0451】
一次分析は、全ての患者が一次評価期間を完了したときに行われる。この分析には、規制当局への提出を目的とした全ての有効性、安全性及びPK/PD/免疫原性の研究データが含まれており、一次評価期間の最終分析である。
【0452】
要約統計量は、該当する場合、処置群ごと及び来院ごとに示される。連続変数の記述統計には、最小限で、患者数、平均、標準偏差、中央値、最小値及び最大値が含まれる。カテゴリー変数については、頻度及びパーセンテージが示される。必要に応じてグラフ表示が提供される。別段の記載がない限り、全ての統計分析は、5%の両側タイプIエラーに基づいて実施される。
【0453】
ベースラインは、1日目のラブリズマブの輸注時又はその前に(ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者の場合)及び1日目の評価/処置の開始時又はその前に(BSCのみに無作為に割り付けられた患者の場合)実施される評価/処置を表す。
【0454】
分析は、SAS(登録商標)ソフトウェアバージョン9.4以降を使用して実施される。
【0455】
主要有効性エンドポイントは、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)であり、合併分散及び0.025のタイプIエラーを使用した2つの比率の差の片側Z検定を使用して、2つの処置群間で比較される。推定リスク差は、95%信頼区間とともに集約される。患者が29日目より前に退院した場合、その患者は29日目に生存していると見なされる。
【0456】
生存率もカプランとマイヤー(KM)の方法を使用して分析し、感度分析としてログランク検定を使用して比較する。ハザード比及びリスク低減は、Cox比例ハザードモデルから集約される。信頼区間(95%)は、補完的両対数変換に基づいて29日目の生存推定値として示される。両方の処置群についてカプラン・マイヤー曲線が生成される。
【0457】
主要エンドポイントの感度分析も、3)生存且つICU退室;2)生存且つICU滞在;又は1)死亡の3レベルカテゴリーの転帰を使用して実施される。カイ二乗検定を使用して、2つの処置群を比較する。
【0458】
さらなる感度分析には、年齢、無作為化層別化因子及び他の重要な共変数を調整する統計モデルが含まれる。統計分析計画(SAP)では、感度分析がより詳細に説明される。
【0459】
主要エンドポイントの中間分析も実施される。
【0460】
29日目の人工呼吸器なしの日数は、生存者間で年齢及び無作為化層別化係数を調整し、共分散分析(ANCOVA)を使用して処置群間で比較される。患者が29日目より前に退院した場合、患者は生存しており、29日目までの残りの日は人工呼吸なしと見なされる。
【0461】
29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化が、ベースラインSpO2/FiO2、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日及び処置群相互作用による研究日を共変数として、反復測定の混合モデル(MMRM)を使用して分析される。ベースライン後のスコアを有しない患者を除き、29日目まで生存した全ての患者がモデルに含まれる。感度分析には、欠損データのインピュテーションが含まれる。29日目のPaO2/FiO2のベースラインからの変化も、ベースラインPaO2/FiO2、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日及び処置群相互作用による研究日を固定共変数として、MMRMを使用して分析される。ベースライン後のスコアを有しない患者を除き、29日目まで生存したPaO2/FiO2データを有する全ての患者がモデルに含まれる。感度分析には、欠損データの補完が含まれる。SpO2/FiO2及びPaO2/FiO2のベースラインからの変化も、非生存者について集約される。
【0462】
29日目のICU滞在期間は、生存者間で年齢及び無作為化層別化係数を調整し、ANCOVAを使用して処置群間で比較される。29日目のICU滞在期間は、非生存者についても集約される。
【0463】
29日目のSOFAスコアのベースラインからの変化は、SpO2/FiO2のベースラインからの変化と同様に、MMRMを使用し、ベースラインSOFAスコアを含めて分析される。
【0464】
29日目の入院期間は、ICU滞在期間と同様の方法で分析される。
【0465】
主要及び副次的エンドポイントの分析のタイプIエラーを制御するために、クローズド試験処置が適用される。主要エンドポイントが統計的に有意にラブリズマブに有利な場合、副次的エンドポイントは、以下の順位に従って評価される:
1.29日目の人工呼吸なしの日数、
2.29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化、
3.29日目のICU滞在期間、
4.29日目のSOFAスコアのベースラインからの変化、及び
5.29日目の入院期間。
【0466】
仮説検定は、最高ランク(#1)の29日目の人工呼吸なしの日数から最低ランク(#5)の29日目の入院期間へ進み、エンドポイントで統計的有意性が達成されない場合(p≧0.05)、より低いランクのエンドポイントは統計的に有意であるとは見なされない。信頼区間及びp値は、クローズド試験処置の結果にかかわらず、便宜的に全ての副次的有効性エンドポイントについて示される。
【0467】
全ての安全性分析は、安全性解析対象集団(SS)で行われる。安全性の結果は処置群ごとに報告される。
【0468】
AE及びSAEの分析及び報告は、ラブリズマブによる処置中又は処置後に発症したAE及びSAEとして定義されるTEAE及びTESAEに基づく。TEAE及びTESAEの発生率は、器官別大分類及び基本語別に集約されており、ラブリズマブ、重症度、TEAE又はラブリズマブの中止につながるTESAE及び死亡に至るTESAEとの関係を示す追加の集約を伴う。
【0469】
該当する場合、検査室測定値並びに各来院時のベースラインからの変化及びベースラインからのシフトが集約される。プロトコルで必要な臨床評価を表23に記載する。
【0470】
【表36】
【0471】
バイタルサインの測定値及び身体検査の所見も経時的に集約される。
【0472】
ラブリズマブを少なくとも1回投与され、評価可能なPK/PDデータを有する全ての患者の個々の血清濃度データを使用して、ラブリズマブのPK/PDパラメーターが集約される。各サンプリング時に全てのラブリズマブPK/PDエンドポイントの記述統計が示される。ラブリズマブのPD効果は、必要に応じて、経時的な遊離C5血清濃度の絶対値並びにベースラインからの変化及びパーセンテージ変化を使用して集約される。
【0473】
血清、尿及び血漿バイオマーカーの実測値、ベースラインからの変化及び観察されたラブリズマブへの臨床反応との関連性は、必要に応じて経時的に集約される。
【0474】
ラブリズマブに対するADAの発生率及び力価は、処置群ごとに表形式で集約される。常に陽性である患者の割合と、常に陰性である患者の割合が調査され得る。確認されたADA陽性サンプルは、中和抗体の存在について評価される。
【0475】
60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)は、KM法を使用して推定され、ログランク検定を使用して比較される。ハザード比及びリスク低減は、Cox比例ハザードモデルから集約される。信頼区間(95%)は、補完的両対数変換に基づいて60日目及び90日目の生存推定値として示される。両方の処置群についてKM曲線が生成される。
【0476】
29日目の透析を要する腎不全への進行の発生率は、主要エンドポイントと同様の方法で分析される。
【0477】
有効性及び無益性の中間分析は、およそ122人の患者が29日目を完了したとき(又はET)に実施される。停止基準が満たされている場合、どの停止境界を越えたかに応じて、有効性又は無益性について、研究は早期に終了され得る。有効性と無益性の早期停止境界は、α消費関数をLan-DeMets(O’Brien-Flemingフレーバー)消費関数として、β消費関数をガンマ(-4)として使用して構築される。2つの比率の差の片側Z検定は、合併分散及び0.025のタイプIエラーで使用される。
【0478】
SAPは、計画された中間分析をより詳細に説明する。
【0479】
研究が有効性又は無益性のために早期に中止されなかった場合、最終一次分析は、全ての患者が一次評価期間を完了したときに実施される。この分析には、規制当局への提出を目的とした全ての有効性、安全性及びPK/PD/免疫原性の研究データが含まれている。
【0480】
実施例9:COVID19重度肺炎、急性肺損傷又は急性呼吸窮迫症候群を有する患者における、ラブリズマブをベストサポーティブケア(BSC)と比較する第3相臨床試験
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)重度肺炎、急性肺損傷又は急性呼吸窮迫症候群を有する患者における、ベストサポーティブケアと比較した、ラブリズマブの静脈内投与の有効性、安全性、薬物動態及び薬力学を評価するために、第3相非盲検無作為対照試験(「ALXN1210-COV-305」)が実施される。患者は、ベストサポーティブケア(BSC)に加えてラブリズマブを投与される群(患者の2/3)又はBSCのみを投与される群(患者の1/3)に無作為に割り付けられる。ベストサポーティブケアは、通常の病院のプラクティスに従った処置及び/又は医療介入からなる。
【0481】
この試験のベストサポーティブケアに加えたラブリズマブの研究群では、ラブリズマブ(ULTOMIRIS及びALXN1210としても知られる)の体重ベースの用量が、1、5、10及び15日目に静脈内投与される。研究のこの処置群の患者は、標準的な病院の処置プロトコルに従って投薬、治療及び介入も受ける。研究のベストサポーティブケア処置群において、患者は、標準的な病院の処置プロトコルに従って投薬、治療及び介入を受ける。
【0482】
1.目的
研究の主要目的は、COVID19を有する患者における生存率に対する、ベストサポーティブケア単独と比較したラブリズマブ及びベストサポーティブケアの効果(例えば、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)に)を評価することである。主要評価項目は、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)である。
【0483】
本研究の副次的目的は、COVID19を有する患者の転帰に対するベストサポーティブケアに加えたラブリズマブの有効性を、ベストサポーティブケア単独と比較して評価することである。副次的評価項目は、(1)29日目の人工呼吸なし日数、(2)29日目の集中治療室滞在期間、(3)29日目の逐次臓器不全評価のベースラインからの変化、(4)29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化、(5)29日目の入院期間、及び(5)60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)を含む。
【0484】
安全性目的は、COVID19を有する患者におけるラブリズマブ+ベストサポーティブケアの全体的な安全性を、ベストサポーティブケア単独と比較して特徴付けることである(例えば、処置下発現の有害事象(TEAE)及び処置下発現の重篤な有害事象(TESAE)の発生率によって評価される)。
【0485】
さらなる目的は、COVID19を有する患者におけるラブリズマブの薬物動態/薬力学及び免疫原性を特徴付けることである(例えば、経時的な血清ラブリズマブ濃度の変化、経時的な血清遊離及び総C5濃度の変化並びに抗ALXN1210抗体の発生率及び力価によって評価される)。
【0486】
バイオマーカーに関して、目的は、COVID19を有する患者における補体の全身活性化、炎症及び血栓形成促進活性に対するC5阻害の効果(例えば、経時的な補体活性化、炎症プロセス及び凝固亢進状態に関連する血中の可溶性バイオマーカーの絶対レベルの変化によって評価される)を評価することである。
【0487】
探索的目的には、(1)COVID19を有する患者における透析を要する腎不全の進行に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ及びBSCの効果の評価(例えば、29日目に透析を要する腎不全の進行の発生率によって評価される)、(2)COVID19を有する患者における臨床的改善に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果の評価(例えば、29日間にわたる臨床的改善までの時間(修正された6カテゴリー順位尺度に基づく)によって評価される)及び(3)COVID19を有する患者の健康に関連した生活の質に対する、BSC単独と比較したラブリズマブ+BSCの効果の評価(例えば、(a)29日目(又は退院時)、60日目及び90日目のSF 12 PCS及びMCSスコア、及び(b)29日目(又は退院時)、60日目及び90日目のEuroQol 5元5レベル(EQ-5D-5L)スコアによって評価される)が含まれる。
【0488】
ベースラインは、全ての患者の1日目又はそれ以前に入手可能な最後の評価として定義される。1日目は、無作為に割り付けられラブリズマブを投与された患者についてはラブリズマブの最初の輸注の日として定義され、無作為化に割り付けられたがラブリズマブを投与されなかった患者については無作為化の日として定義される。
【0489】
2.全体設計
研究ALXN1210-COV-305は、SARS-CoV-2感染の診断が確定し、COVID-19の重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSと一致する臨床症状を示す患者における、ベストサポーティブケア(BSC)単独と比較した、BSCに加えた静脈内(IV)ラブリズマブの安全性及び有効性を評価するために設計された多施設第3相非盲検無作為化対照試験である。少なくとも18歳、体重40kg以上で、処置のために指定の病院施設に入院している患者は、この研究の適格性についてスクリーニングされる。10%の評価不能率を考慮して、およそ270人の患者を2:1の割合で無作為に割り付ける(180人の患者がBSCに加えてラブリズマブを投与され、90人の患者がBSCのみを投与される)。
【0490】
ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者は、1日目に体重に基づく用量のラブリズマブを投与される。5日目及び10日目に、ラブリズマブ600mg又は900mgの用量が投与され(体重カテゴリーに従って)、15日目に、患者は、ラブリズマブ900mgを投与される。両方の処置群の患者は、研究期間中、標準的な病院の処置プロトコルに従って投薬、治療及び介入を受け続ける。
【0491】
患者が全ての包含基準を満たし、除外基準を満たさない場合、スクリーニング及び1日目の来院は、同日に行うことができる。
【0492】
およそ270人の患者(ラブリズマブ+BSC180人、BSCのみ90人)が2つの処置群の1つに無作為に割り付けられる。
【0493】
この研究は、最大3日間のスクリーニング期間、4週間の一次評価期間、29日目の最終評価及び8週間のフォローアップ期間からなる。2回のフォローアップ来院は、患者が退院した場合には電話で、患者が依然として入院している場合には対面で、4週間間隔で実施される。各患者の参加の合計期間は、およそ3ヶ月と予想される。
【0494】
この研究中に投与される投与量レジメンは、表24に提供される。具体的には、体重ベースの用量のラブリズマブが以下の通り1日目に投与される:患者体重40kg以上60kg未満:2400mg;60kg以上100kg未満:2700mg;又は100kg以上:3000mg。体重ベースの用量のラブリズマブが以下の通り5日目及び10日目に投与される:患者体重40kg以上60kg未満:600mg;60kg以上100kg未満:900mg;又は100kg以上:900mg。15日目に、患者は900mgのラブリズマブを投与される。一次評価期間中(すなわち1日目~29日目まで)の追加投与は許可されていない。
【0495】
【表37】
【0496】
3.活動スケジュール
活動のスケジュールは、表25に記載される。
【0497】
【表38】
【0498】
【表39】
【0499】
【表40】
【0500】
【表41】
【0501】
【表42】
【0502】
4.利点評価
研究参加の潜在的な利点には、(1)ベストサポーティブケア(BSC)単独と比較した、ラブリズマブ+BSCを受けているSARS CoV 2感染を有する患者の生存率の改善、(2)支持療法を受けている間のSARS CoV 2感染を有する患者の肺損傷の減少、及び(3)支持療法を受けている間のSARS CoV 2感染を有する患者の臨床転帰の改善が含まれる。
【0503】
5.包含及び除外基準
患者は、以下の全ての基準が該当する場合にのみ、研究に参加する資格がある:
1.患者は、インフォームドコンセントを提供する時点で18歳以上でなければならない;
2.入院を要する重症COVID-19として示されるSARS-CoV-2感染の確定診断(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応[PCR]及び/又は抗体検査による);
3.患者の通常の臨床ケアの一環として、スクリーニング時又はスクリーニング前3日以内にコンピューター断層撮影法(CT)又はX線によって確認された、重度の肺炎、急性肺損傷又はARDS;
4.侵襲的(気管内挿管を要する)又は非侵襲的(持続的気道陽圧[CPAP]又はバイレベル気道陽圧[BiPAP]による)のいずれかであり得る人工呼吸を要する呼吸困難;
5.インフォームドコンセント提供時の体重40kg以上;
6.男性又は女性;及び
7.妊娠の可能性のある女性患者及び妊娠の可能性のある女性パートナーを有する男性患者は、試験薬による処置後8ヶ月間、妊娠を避けるための避妊プロトコルで指定されたガイダンスに従わなければならない。
【0504】
以下の基準のいずれかが該当する場合、患者は研究から除外される。
1.患者は24時間を超えて生存することが期待されていない。
1.患者はスクリーニング前に48時間を超えて挿管を伴う侵襲的人工呼吸を受けている;
2.重度の既存の心疾患(すなわちニューヨーク心臓病学会クラス3又はクラス4、急性冠症候群又は持続性心室頻拍);
3.患者は未解決の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)感染症を有する;
4.以下の薬物療法及び治療の使用:(a)補体阻害剤による現在の処置、又は(b)1日目の無作為化前4週間以内の静脈内免疫グロブリン(IVIg);
5.無作為化前の30日以内又は調査的治療の5半減期以内のいずれか長い方の臨床試験での調査的治療による処置。例外:(a)COVID19の処置のための拡大アクセスプロトコル又は緊急承認を通じて、ベストサポーティブケアの一部として受けた場合、調査的治療は許可され、(b)調査的抗ウイルス治療(レムデシビルなど)は、臨床研究の一部として受けた場合でも許可される。
6.授乳中又はスクリーニングで妊娠検査結果が陽性の女性患者;
7.マウスタンパク質に対する過敏症を含む、試験薬に含有される任意の成分に対する過敏症の病歴;又は
8.現在、髄膜炎菌(N.meningitidis)に対するワクチン接種を受けていない患者(ただし、治験薬の最後の輸注後少なくとも8ヶ月間又は患者が髄膜炎菌(N.meningitidis)に対するワクチン接種を受けた後少なくとも2週間まで、適切な抗生物質による予防的処置を受けることに患者が同意した場合を除く)。
【0505】
6.試験薬
2つの448アミノ酸重鎖及び2つの214アミノ酸軽鎖から構成される組換えヒト化抗C5mAbであるラブリズマブは、ヒト定常領域と、ヒトフレームワーク軽鎖及び重鎖可変領域に移植されたマウス相補性決定領域とからなるIgG2/4カッパ免疫グロブリンである。ラブリズマブはチャイニーズハムスター卵巣細胞株で産生され、抗体の半減期を延長するためにその重鎖に4つの固有のアミノ酸置換を導入することにより、エクリズマブの最小限の標的操作によって設計された。
【0506】
ラブリズマブ製剤は、単回使用バイアル中に、無菌で防腐剤を含まない10mg/mLの溶液として臨床試験のために供給され、IV輸注を介した投与のために、市販の生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム注射剤;国固有の薬局方)中に希釈して輸注するように設計される。
【0507】
18歳以上、40kg以上で、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられたCOVID-19を有する患者の処置のために提案された投与量レジメンを表26に示す。
【0508】
【表43】
【0509】
ラブリズマブ製剤はpH7.0で製剤化され、各30mLバイアルは、300mgのラブリズマブ、0.02%ポリソルベート80、150mM塩化ナトリウム、6.63mM二塩基性リン酸ナトリウム、3.34mM一塩基性リン酸ナトリウム及び注射用水(米国薬局方)が含有する。
【0510】
ラブリズマブ混合物は、IV管セットを使用して輸注ポンプを介して患者に投与され、続いてIVフラッシュが行われる。輸注中は0.2ミクロンのフィルターを使用する必要がある。IVフラッシュは輸液と同じ速度で輸注し、フラッシュの終了は輸液の終了と見なされる。IVフラッシュ量は、投与された試験薬の総量に含まれない。さらなる詳細は、Pharmacy Manualに提供される。
【0511】
ラブリズマブは、10mg/mLの濃度の溶液として30mLバイアル1本で製造及び供給される(表17)。各バイアルには、IV投与のための300mgのラブリズマブが含まれる。
【0512】
0.9%塩化ナトリウム注射剤中のラブリズマブ(10mg/mL)の希釈混合物の安定性研究は、23℃~27℃(73°F~80°F)の室温で6時間の使用中の安定性及び2℃~8℃(36°F~46°F)で冷蔵した場合の24時間の安定性をサポートする。
【0513】
ラブリズマブのバイアルは凍結又は振盪しない。
【0514】
7.併用療法
患者は、除外基準で禁止されていない限り、この臨床研究中にBSCの一部として、抗ウイルス薬を含む適切な併用薬が投与され得る。
【0515】
患者が登録時に受けているか又は研究中に受ける、COVID-19又はラブリズマブ処置に関連すると考えられる併用薬(例えば、ワクチン、抗菌薬、抗マラリア薬、抗ウイルス薬、ステロイド及び昇圧剤)は、(a)使用の理由、(b)開始日及び終了日を含む投与速度、及び(c)用量及び頻度を含む投与量情報とともに、CRF/eCRFに記録しなければならない。
【0516】
スクリーニング前の指定された期間及び研究期間中、以下の薬物療法及び治療の使用は禁止されている:(a)補体阻害剤による現在の処置、及び(b)1日目の無作為化前4週間以内の静脈内免疫グロブリン(IVIg)。
【0517】
8.ワクチン接種又は抗生物質の予防的投与
ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者に対する投与前の過去5年間の髄膜炎菌ワクチン接種の確認。ワクチン接種が確認できない場合、患者はラブリズマブ処置を開始する前及びラブリズマブの最後の輸注から少なくとも8ヶ月間、予防的抗生物質を投与されなければならない。患者がラブリズマブによる処置前2週間以内又はラブリズマブの開始後にワクチン接種を受けた場合、髄膜炎菌ワクチン接種後少なくとも2週間は予防的抗生物質を継続しなければならない。
【0518】
9.スクリーニング評価
SARS-CoV-2感染は、指定の病院で評価される。無作為化の前に、陽性結果(例えば、PCR及び/又は抗体検査による)の確認を要する。
【0519】
スクリーニング期間中に胸部CT又はX線スキャンを実施して、COVID-19を有する患者の重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSと一致する所見を確認する。患者の臨床ケアの過程で実施されるスキャンは認められ、研究ALXN1210-COV-305のためのこの診断包含基準を満たすことが期待される。
【0520】
尿又は血清妊娠検査(ベータヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、全ての女性患者で実施される。ラブリズマブの投与前に、陰性の妊娠検査結果を要する。
【0521】
10.有効性評価
29日目の生存が決定される。
【0522】
以下の副次的有効性パラメーターも29日目まで測定される:(a)人工呼吸状態、(b)集中治療室(ICU)での時間、(c)逐次臓器不全評価(SOFA)スコア、(d)酸素飽和レベル(末梢毛細血管酸素飽和[SpO2])、(e)酸素補給状態(吸気酸素分画[FiO2])、及び(f)入院期間。
【0523】
以下の副次的有効性パラメーターは、60日目及び90日目に測定される:生存率(全死因死亡率に基づく)。
【0524】
11.逐次臓器不全評価スコア
多臓器不全は、ICUに入院した患者の死亡率の重要な指標である。この研究では、呼吸器、腎臓、肝臓、心臓、凝固、中枢神経系の6つの器官系のレビューを含む評価ツールであるSOFAスコアを使用して患者を評価する(Vincent,1998;表18を参照されたい)。過去24時間以内に観察された最悪の値を使用して、各器官系に0~4ポイントのスコアが付けられる(表18)。
【0525】
動脈血ガスは、プロトコルで指定された来院日に採取されない可能性があり、したがって、酸素分圧(PaO2)の評価は任意選択であり、相関性の高いSpO2が呼吸器系評価の代用となる。
【0526】
12.身体検査
以下の安全関連パラメーターは、29日目まで測定される。完全又は簡易な身体検査は、治験責任医師又は被指名人によって評価される。完全な身体検査には、少なくとも、皮膚、頭、耳、目、鼻、喉、首、リンパ節、胸部、心臓、腹部、四肢及び筋骨格の評価が含まれる。簡易身体検査には、少なくとも呼吸器系及び心血管系の評価が含まれる。体重が測定されるが、施設に患者の体重を測定する能力がない場合、最善の判断を使用して推定すべきである。
【0527】
バイタルサインの測定値には、収縮期及び拡張期の血圧(ミリメートル水銀[mmHg])、心拍数(HR、心拍数/分)、呼吸数(RR、呼吸数/分)及び温度(摂氏[℃]又は華氏[°F])が含まれる。バイタルサインの測定は、投与日の投与前に行われる。
【0528】
1回の12誘導心電図(ECG)を実施して、HR、脈拍数(PR)間隔、Q波、R波及びS波(QRS)間隔の組み合わせ、Q波の開始とT波の終了との間の間隔(QT)及び修正されたQT(QTc)間隔を取得する。
【0529】
13.グラスゴー昏睡スケール
グラスゴー昏睡スケール(GCS)は、意識不明(昏睡状態の患者など)の臨床的評価に使用される有効な予後ツールである(Sternbach,2000)。GCSは、眼球反応、言語反応、運動反応の3つのドメインで構成され、各ドメインには、スコアが個別に割り当てられた反応のサブセットが含まれている(表19を参照されたい)。GCSは、呼吸サポートの管理の補助として、救命治療の場面でも使用されている。合計GCSスコアが8未満の場合、患者は気管内挿管が必要であることを示す。GCSは、副次的有効性エンドポイント、SOFAスコアの計算を可能にするために測定される。
【0530】
14.ワクチン及び抗生物質の予防的投与
過去5年以内に髄膜炎菌ワクチン接種を受けていないラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者は、本研究中にラブリズマブによる処置を開始する前に髄膜炎菌ワクチン接種を受けることができない場合があると予想される。ワクチン接種が確認できない場合、患者はラブリズマブ処置を開始する前及びラブリズマブの最後の輸注から少なくとも8ヶ月間、髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与される。
【0531】
患者がワクチン接種を受けることができる場合、一般的な病原性髄膜炎菌血清型を予防するために、利用可能な場合には髄膜炎菌血清型A、C、Y、W135及びBに対するワクチンが推奨される。患者は、補体阻害剤(例えば、ラブリズマブ)による予防接種の使用に関する現在の国の予防接種ガイドライン又は施設のプラクティスに従って予防接種又は再接種を受けなければならない。ワクチン接種は、髄膜炎菌感染を予防するのに十分でない可能性がある。抗菌剤の適切な使用については、公式のガイダンス及び施設のプラクティスに従って考慮すべきである。患者がラブリズマブの開始後にワクチン接種を受けた場合、髄膜炎菌ワクチン接種後少なくとも2週間は予防的抗生物質を継続する。
【0532】
15.29日目の臨床的改善
抗ウイルス薬とプラセボを比較した研究では、特に患者が症状の発症から短期間で処置を受けた場合、臨床的改善までの時間が減少されることが報告されている(Wang,2020)。臨床的改善までの時間は、この研究中に評価され、ライブ退院、ベースラインからの少なくとも2ポイント(すなわち#5から#3)の減少又はその両方として定義される。臨床的改善を評価するために、修正された6カテゴリー順位尺度(表27に記載)が使用される。
【0533】
【表44】
【0534】
16.29日目、60日目、90日目の12項目の短縮版設問
短縮版設問(Short-Form)(SF)-12は、幅広い疾患の適応症で広く使用される、健康に関連した生活の質(HR-QoL)の有効な測定手段である。身体的及び精神的健康状態を評価するために設計された36項目のSF調査から編集されたSF-12調査には、12の質問のみが含まれるが、同じ8つのドメインを包含している。以下の表27に示すように、さらに2つの集約尺度(身体的側面の要約[PCS-12]及び精神的側面の要約[MCS-12])への層別化がある。
【0535】
【表45】
【0536】
PCS-12及びMCS-12の集約尺度は、標準に基づいた方法を使用して採点される(すなわち平均=50、SD=10)(Jenkinson,1997)。50のPCS-12又はMCS-12スコアは、健常集団に関する平均スコアを示す。50未満のスコアは平均的な健康状態よりも低いことを反映し、50を超えるスコアは平均的な健康状態よりも良いことを反映する(Ware,1995)。
【0537】
SF-12は、質問に回答する前に1週間の想起を想定している。調査は数分で完了すると予想され、患者又は面接者(対面又は電話)によって完了することができる。
【0538】
17.29、60及び90日目のEuroQol-5元-5レベル
EuroQol 5元、5重症度レベル(EQ-5D-5L)質問票は、投与時の患者の健康状態を評価することを目的とした、簡易で有効なHR-QoL測定手段である。質問票は5つの観点(移動性、セルフケア、普段の活動、痛み/不快感、不安/抑うつ)を含み、それぞれが5つの回答変数(問題なし、軽度の問題、中程度の問題、重度の問題、極度の問題)を含む(EQ-5D,2019)。完了時に集約スコアは生成されないが、各観点に基づいて5つの数のプロファイル(「健康状態」と呼ばれる)が生成され、それをさらに1つの数値スコア(インデックス値)に変換できる。値のセット(インデックス値の集合)は、複数の国/地域に対して導出されている。
【0539】
患者が自分の健康状態を自己評価して提示できるように、垂直視覚アナログスケール(VAS)が含まれている。VASの範囲は100(想像できる最高の健康状態)~0(想像できる最悪の健康状態)までである。
【0540】
EQ-5D-5L質問票及びVASは数分で完了すると予想され、患者、面接者(対面又は電話)又は代理人によって完了することができる。
【0541】
18.有害事象及び重篤な有害事象
AE及びSAEの定義を表20及び21に記載する。
【0542】
全てのAEは、患者(又は適切な場合、介護者、代理人若しくは患者の法的に認められる代理人)により、治験責任医師又は資格のある被指名人に報告される。
【0543】
治験責任医師及び資格を有する被指名人は、AE又はSAEの定義を満たす事象を検出、文書化及び記録する責任を有し、重篤で研究介入又は研究処置に関連すると考えられるAE又は患者が研究介入を中止する原因となったAEをフォローアップする責任を有する。
【0544】
全てのAE及びSAEは、インフォームドコンセントの時点から、評価スケジュールで指定された時点まで収集される。
【0545】
19.薬物動態、薬力学及びバイオマーカー
サンプルは、ラブリズマブの血清濃度を決定するために、活動スケジュールで特定される通りに、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者から収集される。各サンプルの実際の日時(24時間制)が記録される。
【0546】
活動スケジュールに指定されているように、全ての患者からサンプルを収集して、総C5及び遊離C5に対するラブリズマブの効果を評価し(ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者について)、BSCのみに無作為に割り付けられた患者の補体活性化を決定する。各サンプルの実際の日時(24時間制)が記録される。
【0547】
血清及び血漿サンプルは、全ての患者からバイオマーカー分析のために収集され、補体活性化及び関連する経路並びに心血管の健康及びラブリズマブに対する臨床反応を評価する。これらのバイオマーカーには、補体経路タンパク質(例えば、総C5及び遊離C5、可溶性C5b-9[sC5b-9])、炎症及び疾患に関連するサイトカイン(例えば、IL-1、IL-2R、IL-6、IL-8、IL-21、腫瘍壊死因子[TNF]-b、ペントラキシン-3、シトルリン化ヒストンH3及び単球走化性タンパク質[MCP]-1)、第II因子並びに心血管疾患に関連するマーカー(プロカルシトニン、ミオグロビン、高感度トロポニンI[hs-TnI]及びN末端pro-b型ナトリウム利尿ペプチド[NT-プロBNP])が含まれる。
【0548】
20.免疫原性
ALXN1210に対する抗体(すなわち抗薬物抗体[ADA])は、活動スケジュールに従い、ラブリズマブ+BSCに無作為に割り付けられた患者から収集された血清サンプルで評価される。さらに、血清サンプルは、ラブリズマブを中止したか又は研究から離脱した患者から、最終来院時にも収集される。
【0549】
ラブリズマブに結合する抗体について血清サンプルをスクリーニングし、確認された陽性サンプルの力価を報告する。ラブリズマブの免疫原性をさらに特徴付けるために、他の分析を行うことができる。
【0550】
ラブリズマブに対する抗体の検出及び特徴付けは、検証済みのアッセイ法を使用して実施される。ラブリズマブに対する抗体の検出のために収集されたサンプルは、抗体データの解釈を可能にするために、研究介入の血清濃度についても評価される。確認された抗体陽性サンプルは、抗体力価及び中和抗体の存在についてさらに評価される。
【0551】
21.統計的考慮事項
主要な帰無仮説は、ラブリズマブ+BSCとBSC単独との間において、2処置群間の29日目の生存率の差によって測定される生存率に差がないというものである。対立仮説は、ラブリズマブ+BSCがBSC単独と比較して29日目の生存率を改善するというものである。
【0552】
副次的な目的に関連する帰無仮説は、ラブリズマブ+BSCが、それぞれのエンドポイントについてBSC単独と変わらないというものである。対立仮説を以下に記載する。
1.人工呼吸なしの日数:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目の人工呼吸なしの日数を延長するというものである。
2.ICU滞在期間:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目のICU滞在日数を減少させるというものである。
3.SOFAスコアの変化:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目のSOFAスコアの変化を改善するというものである。
4.SpO2/FiO2の変化:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目のSpO2/FiO2の変化を改善するというものである。
5.入院期間:対立仮説は、ラブリズマブ+BSCによる処置が、BSC単独と比較して、29日目の入院日数を減少させるというものである。
6.60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく):対立仮説は、ラブリズマブ+BSCがBSC単独と比較して60日目及び90日目の生存率を改善するというものである。
【0553】
少なくとも90%の検出力を確保し、29日目にBSCのみ群の60%からラブリズマブ+BSC群の80%への生存率の改善を検出するには、243人の患者(ラブリズマブ+BSC162人;BSC単独81人)のサンプルサイズが必要である。このサンプルサイズの計算は、(a)2つの比率の差の片側Z検定、(b)タイプIエラー=0.025、(c)合併分散、(d)2つの処置群で2:1の無作為化、及び(e)およそ122人の患者に関する主要有効性データを収集した後の50%の情報での1回の中間分析を想定している。有効性と無益性(拘束力なし)の早期停止境界は、α消費関数をLan-DeMets(O’Brien-Flemingフレーバー)消費関数として、β消費関数をガンマ(4)として使用して構築される(Lan,1983;Hwang,1990)。
【0554】
10%の評価不能な割合を考慮すると、この研究はおよそ270人の患者(ラブリズマブ+BSC180人、BSCのみ90人)を無作為化する計画である。
【0555】
解析対象集団に使用される対象集団を表28に記載する。
【0556】
一次分析は、全ての患者が一次評価期間を完了したときに行われる。この分析には、規制当局への提出を目的とした全ての有効性、安全性及び入手可能なPK/PD/免疫原性の研究データが含まれており、一次評価期間の最終分析である。
【0557】
要約統計量は、該当する場合、処置群ごと及び来院ごとに示される。連続変数の記述統計には、最小限で、患者数、平均、標準偏差、中央値、最小値及び最大値が含まれる。カテゴリー変数については、頻度及びパーセンテージが示される。必要に応じてグラフ表示が提供される。別段の記載がない限り、全ての統計分析は、5%の両側タイプIエラーに基づいて実施される。
【0558】
ベースラインは、全ての患者の1日目又はそれ以前に入手可能な最後の評価として定義される。1日目は、無作為に割り付けられラブリズマブを投与された患者についてはラブリズマブの最初の輸注の日として定義され、無作為化に割り付けられたがラブリズマブを投与されなかった患者については無作為化の日として定義される。
【0559】
分析は、SAS(登録商標)ソフトウェアバージョン9.4以降を使用して実施される。
【0560】
主要有効性エンドポイントは、29日目の生存率(全死因死亡率に基づく)であり、1日目に挿管されたか否かによって層別化された2つの比率の差の片側Mantel-Haenszel(MH)検定及び0.025のタイプIエラーを使用して、2つの処置群間で比較される。推定MHリスク差は、Mantel-Haenszel推定量(stratum weights)(Mantel,1959)及びSato分散推定量(Sato,1989)を使用して、95%信頼区間とともに集約される。一次分析の欠失生存データは、データが処置群の共変数、無作為化層別化係数、年齢、性別及びベースラインでの既存状態の存在によるロジスティック回帰モデルを使用したランダムな欠測(MAR)であると仮定して、多重補完アプローチを使用して補完される。感度分析には、最悪の事態、得られる全ての事態及び最良の事態が含まれる。
【0561】
生存率もカプランとマイヤー(KM)の方法を使用して分析し、感度分析として1日目に挿管されているか否かによって層別化されたログランク検定を使用して比較する。ハザード比及びリスク低減は、1日目に挿管されているか挿管されていないかで層別化されたCox比例ハザードモデルから集約される。信頼区間(95%)は、補完的両対数変換に基づいて29日目の生存推定値として示される。両方の処置群についてカプラン・マイヤー曲線が生成される。
【0562】
主要エンドポイントの感度分析も、3)生存且つICU退室;2)生存且つICU滞在;又は1)死亡の3レベルカテゴリーの転帰を使用して実施される。2つの処置群は、処置群の共変数及び無作為化層別化係数を使用した順序ロジスティック回帰を使用して比較される。
【0563】
さらなる感度分析には、年齢、無作為化層別化因子及び他の重要なベースライン共変数を調整する統計モデルが含まれる。下位群分析は、年齢群、無作為化層別化因子及び他の重要なベースライン共変数によっても実施される。統計分析計画(SAP)では、感度及び下位群分析がより詳細に説明される。
【0564】
29日目の人工呼吸器なしの日数は、生存者間で年齢及び無作為化層別化係数を調整し、共分散分析(ANCOVA)を使用して処置群間で比較される。欠失データは、データがMARであると仮定して、多重補完アプローチを使用して補完される。感度分析には、最悪の事態、得られる全ての事態及び最良の事態が含まれる。
【0565】
29日目のICU滞在期間は、生存者間で年齢及び無作為化層別化係数を調整し、ANCOVAを使用して処置群間で比較される。欠失データは、データがMARであると仮定して、多重補完アプローチを使用して補完される。感度分析には、最悪の事態、得られる全ての事態及び最良の事態が含まれる。
【0566】
1日目~29日目までのSOFAスコアの変化は、全ての患者について処置群及び研究来院ごとに集約され、ベースラインSOFAスコア、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日(5、10、15、22及び29日目)及び処置群相互作用による研究日を共変数として、反復測定の混合モデル(MMRM)を使用して分析される。感度分析には、欠損データの補完が含まれる。
【0567】
29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化は、ベースラインSpO2/FiO2、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日(5、10、15、22及び29日目)及び処置群相互作用による研究日を固定共変数として、MMRMを使用して分析される。全ての患者がモデルに含まれる。感度分析には、欠損データの補完が含まれる。29日目のPaO2/FiO2のベースラインからの変化も、ベースラインPaO2/FiO2、年齢、無作為化層別化係数、処置群指標、研究日及び処置群相互作用による研究日を固定共変数として、MMRMを使用して分析される。全ての患者がモデルに含まれる。感度分析には、欠損データの補完が含まれる。
【0568】
29日目の入院期間は、ICU滞在期間と同様の方法で分析される。
【0569】
60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)は、KM法を使用して推定され、1日目に挿管されているか挿管されていないかで層別化されたログランク検定を使用して比較される。ハザード比及びリスク低減は、1日目に挿管されているか挿管されていないかで層別化されたCox比例ハザードモデルから集約される。信頼区間(95%)は、補完的両対数変換に基づいて60日目及び90日目の生存推定値として示される。両方の処置群についてカプラン・マイヤー曲線が生成される。
【0570】
主要及び副次的エンドポイントの分析のタイプIエラーを制御するために、クローズド試験処置が適用される。主要エンドポイントが統計的に有意にラブリズマブに有利な場合、副次的エンドポイントは、以下の順位に従って評価される:
1.29日目の人工呼吸なしの日数、
2.29日目のICU滞在期間、
3.29日目のSOFAスコアのベースラインからの変化、
4.29日目のSpO2/FiO2のベースラインからの変化、
5.29日目の入院期間。
【0571】
仮説検定は、最高ランク(#1)の29日目の人工呼吸なしの日数から最低ランク(#5)の29日目の入院期間へ進み、エンドポイントで統計的有意性が達成されない場合(p≧0.05)、より低いランクのエンドポイントは統計的に有意であるとは見なされない。信頼区間及びp値は、クローズド試験処置の結果にかかわらず、便宜的に全ての副次的有効性エンドポイントについて示される。
【0572】
さらなる副次的エンドポイントは、クローズド試験処置の結果にかかわらず、29日目以降に評価される:60日目及び90日目の生存率(全死因死亡率に基づく)。
【0573】
全ての安全性分析は、安全性解析対象集団(SS)で行われる。安全性の結果は処置群ごとに報告される。
【0574】
AE及びSAEの分析及び報告は、ラブリズマブによる処置中又は処置後に発症したAE及びSAEとして定義されるTEAE及びTESAEに基づく。TEAE及びTESAEの発生率は、器官別大分類及び基本語別に集約されており、ラブリズマブ、重症度、TEAE又はラブリズマブの中止につながるTESAE及び死亡に至るTESAEとの関係を示す追加の集約を伴う。
【0575】
該当する場合、検査室測定値並びに各来院時のベースラインからの変化及びベースラインからのシフトが集約される。バイタルサインの測定値及び身体検査の所見及びECGデータも、経時的に集約される。
【0576】
評価可能なPK/PDデータを有する全ての患者を使用して、ラブリズマブのPK/PDパラメーターが集約される。ラブリズマブ濃度データの記述統計は、無作為化され、スケジュールされたサンプリング時点ごとにラブリズマブで処置された患者について示される。
【0577】
必要に応じて、ベースラインからの絶対値及び変化及びパーセンテージ変化を評価することにより、総C5及び遊離C5濃度が評価される。記述統計は、処置群ごと及びスケジュールされたサンプリング時点ごとに示される。
【0578】
血清及び血漿バイオマーカーの実測値、ベースラインからの変化及び観察されたラブリズマブへの臨床反応との関連性は、必要に応じて経時的に集約される。バイオマーカーデータは、研究の最後の最終分析でのみ集約される。
【0579】
血液サンプルは、バイオマーカー分析のために収集され、そのデータは、補体活性化及び炎症プロセスに関する将来の探索的研究に使用され得る。サンプルは、C5阻害剤及び重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSの臨床症状を有するCOVID19に関連する診断検査を含む検査/アッセイの開発にも使用され得る。
【0580】
ラブリズマブに対するADAの発生率及び力価は、処置群ごとに表形式で集約される。常に陽性である患者の割合と、常に陰性である患者の割合が調査され得る。確認されたADA陽性サンプルは、中和抗体の存在について評価される。
【0581】
29日目の透析を要する腎不全への進行の発生率及び進行までの時間は、主要エンドポイントと同様の方法で分析される。
【0582】
臨床的改善までの時間は、KM法を使用して分析され、1日目に挿管されているかどうかによって層別化されたログランク検定を使用して比較される。
【0583】
SF-12PCS及びMCSスコア並びにEQ-5D-5Lインデックス及びVASスコアは、年齢及び無作為化層別化係数を調整し、ANCOVAを使用して分析される。
【0584】
有効性及び無益性の中間分析は、およそ122人の患者が29日目を完了したときに実施される。停止基準が満たされている場合、どの停止境界を越えたかに応じて、有効性又は無益性について、研究は早期に終了され得る。有効性と無益性(拘束力なし)の早期停止境界は、α消費関数をLan-DeMets(O’Brien-Fleming)消費関数として、β消費関数をガンマ(-4)として使用して構築される。全体的な推論のために全ての補完データセットを組み合わせた結果に基づく片側t検定が、0.025の全体的なタイプIエラーで使用される。
【0585】
研究が有効性又は無益性のために早期に中止されなかった場合、最終一次分析は、全ての患者が一次評価期間を完了したときに実施される。この分析には、規制当局への提出を目的とした全ての有効性、安全性及び入手可能なPK/PD/免疫原性の研究データが含まれている。この分析は中間分析とは見なされない。
【0586】
プロトコルで必要な臨床評価を表28に記載する。
【0587】
【表46】
【0588】
実施例10:集中治療室における重症COVID-19を有する成人患者に対する緊急処置としてのエクリズマブ
2019年12月以降、新型重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)が中国の武漢から広がり、2020年5月26日の時点で、188ヶ国でおよそ5,559,000人が感染し、349,000人を超える死者が出ている(例えば、Johns Hopkins University(2020)COVID-19 Dashboard by the Center for Systems Science and Engineering(CSSE)at Johns Hopkins University.(ウェブサイトcoronavirus.jhu.edu/map.htmlで入手可能。2020年5月21日アクセス);及びGuan et al.(2020),N Engl J Med 382:1708-1720を参照されたい)。
【0589】
SARS-CoV-2によって引き起こされる疾病であるCOVID-19を有する患者の粗入院率は、米国では100,000人あたりおよそ67.9人、フランスでは100,000人あたり150人である(例えば、US Centers for Disease Control and Prevention COVIDView:A weekly surveillance summary of U.S.COVID-19 Activity,key updates for week 16,ending April 18,2020。ウェブサイトcdc.gov/coronavirus/2019-ncov/covid-data/covidview/index.htmlで入手可能。2020年5月21日アクセス;及びSante Publique France Infection au nouveau Coronavirus(SARS-CoV-2),COVID-19,France et Monde。ウェブサイトsantepubliquefrance.fr/maladies-et-traumatismes/maladies-et-infections-respiratoires/infection-a-coronavirus/articles/infection-au-nouveau-coronavirus-sars-cov-2-covid-19-france-et-mondeで入手可能。5月21日アクセス)を参照されたい)。公開された報告によると、確認された入院患者の5~32%が集中治療室(ICU)への入院を要する(例えば、Guan et al.(2020);及びHuang et al.(2020),Lancet 395:497-506を参照されたい)。これらの重症COVID-19症例では、臨床症状は、肺炎;呼吸補助が必要な急性呼吸窮迫症候群(ARDS);急性の腎臓、心臓及び肝臓損傷;敗血症;並びに播種性血管内凝固障害を含み得る(例えば、Guan et al.(2020);及びHuang et al.を参照されたい)。
【0590】
急性肺損傷の根底にある生物学的メカニズムを理解するための努力により、自然免疫及び適応免疫の重要な構成要素である補体系の重要な役割が明らかになった(例えば、Pandya et al.(2014),Am J Respir Cell Mol Biol 51:467-473を参照されたい)。補体シグナル伝達は、重要な免疫保護機能及び抗炎症機能を調整し、病原体及びアポトーシス細胞のクリアランスを可能にする(例えば、Pandya et al.(2014)を参照されたい)。しかし、補体の活性化、その後の炎症誘発性アナフィラトキシンC5aの産生、終末補体タンパク質C5の切断産物及び終末補体複合体C5b-9の形成は、内皮細胞及び食細胞の活性化、活性酸素種の生成及び炎症性サイトカインストームの開始を含む、検査されていない場合に有害な可能性のある生物学的続発症を誘発する(例えば、Wang et al.(2015),Emerg Microbes Infect 4:e28を参照されたい)。C5aを介した効果は、高病原性ウイルスによって誘発される急性肺損傷の発症に重要な役割を果たすことが示されている(例えば、Wang et al.(2015),Emerg Microbes Infect 4:e28を参照されたい)。マウスでは、C5a又は上流タンパク質(すなわちC3、C3a)に対する補体阻害により、SARS-CoV(例えば、Gralinski et al.(2018)mBio 9:e01753-01718を参照されたい)及びインフルエンザH5N1ウイルス感染(例えば、Sun et al.(2013),Am J Respir Cell Mol Biol 49:221-230を参照されたい)後の肺損傷が低減される。SARS-CoV感染マウスでは、これはウイルス力価の変化なしに発生し(例えば、Gralinski et al.(2018)を参照されたい)、これは、補体阻害がウイルス量とは独立して肺損傷からの保護を提供し得ることを示唆している。C5a阻害後の同様の保護は、中東呼吸器症候群コロナウイルス(例えば、Jiang et al.(2018),Emerg Microbes Infect 7:77を参照されたい)、鳥インフルエンザH5N1ウイルス(例えば、Sun et al.(2013)を参照されたい)及びH7N9ウイルス感染(例えば、Sun et al.(2015),Clin Infect Dis 60:586-595を参照されたい)の動物モデルで観察されている。
【0591】
臨床研究は、SARS(例えば、Pang et al.(2006),Clin Chem 52:421-429を参照されたい)及びH1N1インフルエンザ(例えば、Ohta et al.(2011),Microbiol Immunol 55:191-198;及びBerdal et al.(2011),J Infect 63:308-316を参照されたい)を有する患者における、疾患の重症度とある程度相関する過剰な補体活性化のエビデンスを提供している(例えば、Pang et al.(2006);及びBerdal et al.(2011),J Infect 63:308-316を参照されたい)。他の研究では、SARS疾病の進行には、さらなる肺損傷につながり得る補体依存性細胞毒性の形態を媒介する自己抗体の発生が伴うことが示されている。まとめると、これらの観察結果は、C5阻害剤を使用して補体活性化を遮断することが、SARS-CoV媒介性疾患の有効な処置の選択肢であり得ることを示唆している.
【0592】
エクリズマブは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、全身性重症筋無力症(gMG)及び視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)を有する患者の処置に承認されているヒト化モノクローナル抗体である(例えば、Hillmen et al.(2006),N Engl J Med 355:1233-1243;Legendre et al.(2013),N Engl J Med 368:2169-2181;Pittock et al.(2019),N Engl J Med 381:614-625;Howard et al.(2017),Lancet Neurol 16:976-986;及びSOLIRIS(登録商標)(エクリズマブ).Summary of Product Characteristics,Alexion Europe SAS,Levallois-Perret,France,2019)。エクリズマブは終末補体C5に高い親和性で結合し、C5a及びC5bへの切断を阻害し、C5b-9の形成を防ぎ、C5b-9は、溶解性、炎症誘発性及び血栓形成促進特性を含む様々な効果を有する(例えば、Pandya et al.(2014),Am J Respir Cell Mol Biol 51:467-473 ;Merle et al.(2015),Front Immunol 6:257;及びMorgan et al.(2016),Immunol Rev 274:141-15を参照されたい)。選択的C5遮断は、微生物のオプソニン作用及び免疫複合体障害の予防に不可欠な上流の補体成分活性を保持する(例えば、Merle et al.(2015),Front Immunol 6:257;及びMatis et al.(1995)Complement-specific antibodies:designing novel anti-inflammatories.Nat Med 1:839-842)。エクリズマブが上流の免疫保護及び免疫調節機能を維持しながら、組織損傷並びにC5a及びC5b-9の炎症誘発及び血栓形成促進効果を防ぐ能力は、それが重症COVID-19を含む重度の呼吸器疾患の有効な治療法であり得ることを示している。最近の症例報告及び小規模な症例シリーズは、これが有望な治療アプローチであり得ることをさらに示唆している(例えば、Diurno et al.(2020),Eur Rev Med Pharmacol Sci 24:4040-4047;及びPitts TC(2020)A preliminary update to the Soliris to Stop Immune Mediated Death in Covid-19(SOLID-C19)compassionate use study.Hudson Medical。ウェブサイトhudsonmedical.com/articles/soliris-stop-death-covid-19/で入手可能。5月21日アクセスを参照されたい)。ICUに入院した重症COVID-19を有する患者に対する実験的緊急処置としてのエクリズマブの最初の概念実証研究の結果が本明細書に開示される。
【0593】
1.方法
この対照前後研究には、2020年3月10日~5月5日にICUに入院した、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応によって確認された重症COVID-19;スクリーニング前7日以内のコンピューター断層撮影又は胸部X線によって確認された症候性の両側肺浸潤;重度の肺炎、急性肺損傷又は酸素補給を要するARDSを有する、18歳以上の患者の連続コホートが含まれる。患者は、重症COVID-19に関する施設及び政府のガイドラインに従って処置を受けた。これには、呼吸管理、抗凝固剤、抗ウイルス剤及び必要に応じて抗生物質が含まれる。2020年3月19日、エクリズマブ(静脈内輸注のための300mg/30mLバイアル)は、拡大アクセスプログラム(EAP)下において、医師のリクエスト後、関連する国の規制当局に従い、COVID-19及び重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSを有する成人に対する実験的緊急処置として提供された。患者が40kg未満;動脈血酸素飽和度を90%超に維持するために必要な酸素量が6L/分未満;又は平均余命が24時間以下、未解決の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)感染症又はマウスタンパク質若しくはエクリズマブの賦形剤に対する過敏症である場合、この処置を受ける資格を有しなかった。患者は、処置について選択されず、むしろ無作為化せずに、ICU入院時のエクリズマブの利用可能性に基づいて処置が連続的に割り当てられた。「前」の期間には、エクリズマブ処置が利用できなかった(エクリズマブなし)時間が含まれ、「後」の期間には、エクリズマブが提供された時間が含まれていた。
【0594】
エクリズマブの最初の投与時、10人の連続した患者が、その後、承認されたEAPプロトコル内の投与手順に従って緊急処置を受けた。その後、25人の患者が、承認されたEAPプロトコルに正式に登録された。1日目(肺炎又はARDSが確認されてから7日以内)、8日目、15日目及び22日目に、エクリズマブ900mgの単回輸注が45分かけて静脈内投与で行われた。このレジメンは、即時、完全、且つ持続的な終末補体阻害を標的とするように設計されており、aHUS、gMG及びNMOSDの承認された導入投与量レジメンに基づいていた(例えば、Jiang et al.(2018),Emerg Microbes Infect 7:77を参照されたい)。患者は、エクリズマブを開始する前及び最後の輸注後60日以上にわたって、髄膜炎菌感染に対するワクチン接種及び予防的抗生物質(例えば、セフォタキシム)を受けた。ICUから解放された患者は、2日以上無症状となるまで隔離下で入院したままとする必要があった。
【0595】
2.研究の評価及び結果
ベースラインの患者の人口統計、臨床的特徴及び併用薬の使用は、ICU入院時に病院の電子カルテに記録され;身体検査、バイタルサイン及び臨床検査は、ICU入院時及び処置中に記録された。抗ウイルス処置、呼吸補助、昇圧剤治療及び腎代替療法も記録された。補体活性化のバイオマーカーの分析のための血清サンプルは、各輸注の前に収集された(以下を参照されたい)。
【0596】
検査パラメーターは、病院のISO 15189認定検査室で分析された。サイトカインの定量化は、Bio-Rad Bioplex 200(Bio-Rad Laboratories,Inc.,Marnes-la-Coquette,France)で、Bio-Plex Pro Human Cytokine Screening Panel(Bio-Rad)を使用して、盲検方式で、全ての連続したバイオバンクサンプルで、製造元の指示に従って二重に実行された。機器の検出範囲を下回る値及び上回る値は、試験される分析物の検出範囲内の最も近い値に丸められた。
【0597】
臨床及び生物学的データに付随して、CH50活性;C3、C4及び可溶性C5b-9の循環レベル;遊離エクリズマブレベルは、エクリズマブ輸注後1日目及び7日目に測定された。エクリズマブなしで処置された患者について、1日目は最初の補体評価の日と定義された。CH50アッセイは、以前に詳細に説明されている。この手法を使用して、遮断されたCH50は20%以下と定義された。これは機能的C5の5%未満の存在を反映する。遮断されていないCH50は20%超と定義された。可溶性C5b-9レベルは、MicroVue SC5b-9 Plus EIAキット(Quidel,San Diego,CA)を製造元の指示に従って使用して決定した。正常値は、68人の健常ドナーからの血漿で決定された(<340ng/mL)。C3及びC4の循環レベルも、製造元(Siemens,Malvern,PA)の指示に従って比濁法によって研究された。血漿中の遊離エクリズマブ濃度の決定は、de Latour et al.(Blood 125:775-83,2015)によって以前に報告されたように、手製の酵素結合免疫吸着アッセイを使用して実施された。
【0598】
事前に指定された主要転帰は、15日目の生存率(全死因死亡率に基づく)であり、これは以前の報告における死亡までの時間のおよその中央値を表す。目的の追加の転帰は、28日目の生存率、ベースラインで人工呼吸ありの患者の15日目の生存且つ人工呼吸なしの日数非ICU滞在日数及び15日目の酸素化状態の変化であった。他の転帰には、呼吸機能、組織低酸素症のマーカー、血液学及び臨床化学パラメーター、炎症性メディエーター、血清エクリズマブ及び補体活性化に関連する可溶性バイオマーカーの経時変化が含まれていた。安全性は、特に重要な処置下発現の重篤な有害事象(TESAE)(感染症、血液疾患、救命治療に関連する)の発生率に基づいて特徴付けられた。
【0599】
EAPプロトコルは、現地の規制委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言、医薬品規制調和国際会議の医薬品の臨床試験の実施の基準のガイドライン並びに現地の法律及び規制に従って実施された。「健康上の緊急事態」のため、延期されたインフォームドコンセントが記録された。スポンサーはEAPを設計し、エクリズマブを提供した。臨床変数及び検査変数は、病院の電子カルテから個別に抽出された。評価は研究スタッフによって記録され、独自に分析された。全ての著者は、全てのデータに完全且つ独立してアクセスでき、データ及び分析の全体性、正確性、完全性及びEAPプロトコルの順守を保証する。
【0600】
3.統計分析
これは概念実証研究であるため、正式なサンプルサイズの計算はない。分析には、2020年3月10日~5月5日にICUに入院した重症COVID-19を有する全ての患者が含まれていた。インデックス日(ベースライン;0日目)は、ICU入院日であった。データは2020年5月22日に打ち切られた。ベースラインの人口統計、臨床的特徴、検査値は、フィッシャーの直接確率検定(カテゴリー変数)又はウィルコクソン検定(連続変数)を使用して比較された。生存率は、カプラン・マイヤー法を使用して推定された。ログランク検定を使用してカプラン・マイヤー生存曲線を比較した。ハザード比(HR)及び関連95%CIは、性別に合わせて調整されたCox比例ハザードモデル及び曝露を時間依存変数とした簡易急性生理学スコア(SAPS II)を使用して推定された。生存の実際の割合とTESAEの発生率は、フィッシャーの直接確率検定を使用して比較された。経時的な検査値の変化は、グループ効果による時間での縦断データの線形混合モデルを使用して評価された。ウィルコクソン検定を使用して、C5b-9レベルの変化及び生存且つ人工呼吸なしの日数を分析した。P値は両側であった。分析は、Rバージョン3.5.1(R Foundation for Statistical Computing)で実施された。
【0601】
4.結果
2020年3月10日~5月5日にエクリズマブによる処置を受けた35人及び処置を受けなかった45人を含む、80人の患者がICUに入室した。ICUフォローアップの中央値(範囲)は、エクリズマブありで20日(13~34日)、エクリズマブなしで10日(8~13日)であり;病院フォローアップの中央値(範囲)は、それぞれ39日(33日~未達)及び17日(14~21日)であった。ICU入室からエクリズマブの初回投与までの平均(SD)時間は3.5(2.7)日であった。データカットオフの時点で、27人の患者(77%)が予定された4回のエクリズマブ投与全てを受け、1人(3%)が3回の投与を受け、5人(14%)が2回の投与を受け、2人(6%)が1回の投与を受けた。1人の患者はICUから退院した後4回目の投与を拒否し、2人の患者は3回目の輸注の前に退院し、3人は3回目の輸注を受ける前に死亡し、2人は2回目の輸注を受ける前に死亡した。重度の肺炎及びARDSの診断並びに補体活性化及び感染のマーカーを含む患者のベースライン特性は、群間で有意差はなかった(表29及び30)。エクリズマブによる処置を受けた患者と受けなかった患者の年齢の中央値は、それぞれ64歳と55歳であり;63%と76%が男性であり;46%と52%が重度のARDS(PaO2/FiO2≦100mmHg)であった。最初の症状から入院までの期間の中央値は6日(両群)であった。機関及びフランスの国家ガイドラインに従った処置の使用は、エクリズマブを投与された群と投与されていない群間で一般的に類似しており;レムデシビルを投与された患者の割合は、それぞれ3%と16%であり、ロピナビル-リトナビルを投与された患者の割合は、それぞれ11%と27%であった(表29)。
【0602】
【表47】
【0603】
【表48】
【0604】
【表49】
【0605】
15日目に生存している患者の推定割合は、エクリズマブで処置された患者で82.9%(95%CI、70.4%~95.3%)、エクリズマブなしで処置された患者で62.1%(95%CI、47.3%~76.9%)であり;28日目に生存している患者の推定割合は、それぞれ79.8%(95%CI、66.4%~93.2%)及び46.0%(95%CI、29.4%~62.5%)であった。事前に指定された統計分析において、ログランク検定は、群間の生存曲線に有意差を示した(P=0.007;図7)。主要転帰の2つの二次分析では、15日目の死亡率の粗ハザード比並びに性別及びSAPSII調整ハザード比(95%CI)は、それぞれ0.38(0.15~0.97)及び0.19(0.02~1.59)であり(表31)、15日目の死亡率の実際の割合は、エクリズマブありで17.1%、エクリズマブなしで35.6%であった(P=0.08)。
【0606】
【表50】
【0607】
ベースラインで人工呼吸を受けていた患者では、15日目の生存且つ人工呼吸なしの平均(SD)日数は、エクリズマブありで5.3(4.9)、エクリズマブなしで2.3(5.2)であった(P=0.1)。28日目のICUなしの日数の平均(SD)は、エクリズマブありで13.2(11.4)、エクリズマブなしで10.7(10.9)であった。
【0608】
15日目に、PaO2/FiO2の100mmHg以下から100mmHg超へのシフトによって測定される酸素化の改善を示した、エクリズマブで処置された患者とエクリズマブなしで処置された患者の割合は、それぞれ18.2%と14.3%であった(表32)。エクリズマブで処置された患者は、経時的に、乳酸のより急速なクリアランス及び血小板数のより急速な増加を経験し;他の血液学的、化学的及び呼吸器パラメーターは、群間で有意差を有しなかった(表33)。エクリズマブを投与された患者では、炎症性サイトカインIL-6、IL-17及びIFN-α2が経時的に急速に減少し;他の炎症誘発性メディエーター又は抗炎症性メディエーターIL-4、IL-10及びIL-1RAの発展において群間で有意差を有しなかった(表33)。
【0609】
【表51】
【0610】
【表52】
【0611】
エクリズマブを投与された患者では、遊離残留エクリズマブレベルは1日目に可変的であり(54~320μg/mL)、7日目に27人の患者のうちの15人で検出不能であり(図8B);CH50活性は1日目に減少し、7日目には16人の患者のうちの11人で検出可能なレベルであった(図8A)。血清可溶性C5b-9レベルは経時的に減少したが(表35)、C3及びC4レベルは安定したままであった(データは示さず)。
【0612】
【表53】
【0613】
特に重要な処置下発現SAEを表36に示す。感染性合併症のTESAEを経験している患者の割合は、使用した場合、エクリズマブを使用しなかった場合に対して有意に高かった(それぞれ57%対27%;P=0.01)。人工呼吸器関連肺炎は、エクリズマブで処置された患者とエクリズマブなしで処置された患者のそれぞれ51%対22%で報告され、菌血症は11%対2%、胃十二指腸出血は14%対16%、溶血は3%対18%で報告された。
【0614】
【表54】
【0615】
5.考察
本研究で報告された分析は、重症COVID-19を有する患者における緊急処置としての補体C5阻害剤エクリズマブの有効性の、最大の観察結果且つ最初の観察結果の1つを代表する。エクリズマブを投与されていないが、それ以外には同じ機関、国内及び国際ガイドライン下で処置を受けた患者と比較して、エクリズマブで処置された患者は、有意に改善された生存率を示した(例えば、Alhazzani et al.(2020),Intensive Care Med 46:854-887を参照されたい)。主要なバイオマーカーの改善は、終末補体活性化の減少に続く、酸素化及び炎症の改善を含む潜在的な作用機序を示唆している。
【0616】
重篤な呼吸器症状は、重症COVID-19を有する患者において高い死亡率に寄与する(例えば、Gattinoni et al.(2020),Intensive Care Med:1-4を参照されたい)。パンデミックの初期(例えば、Zhou et al.(2020),Lancet 395:1054-1062を参照されたい)に人工呼吸を要する患者の割合は、ニューヨーク市地域の病院からの最近の報告の25%から、中国の武漢からの報告の97%まで幅がある(例えば、Richardson et al.(2020)JAMA 2020 May 26;323(20):2052-2059を参照されたい)。ロピナビル-リトナビルの無作為化試験では、28日目の死亡率が標準治療の25%からロピナビル-リトナビルの19%に大幅ではないが減少したことが示され(例えば、Cao B et al.(2020)N Engl J Med May 7;382(19):1787-1799を参照されたい)、レムデシビルの小規模な人道的使用の研究では、13%の死亡率(フォローアップ中央値、18日間)が示され(例えば、Grein et al.(2020)N Engl J Med Jun 11;382(24):2327-2336を参照されたい);いずれの研究にも、重症COVID-19を有する入院患者が含まれており、その一部は、人工呼吸を受けていた。スクリーニング時に人工呼吸を受けている患者を除外したレムデシビルの第3相非盲検試験では、5日間及び10日間の処置過程でそれぞれ8%及び11%の14日目の死亡率が示された。5日目に侵襲的人工呼吸を受けている患者では、死亡率は、それぞれ40%及び17%であった(例えば、Goldman et al.(2020)N Engl J Med Nov 5;383(19):1827-1837を参照されたい)。研究病院では、ICU入院後15及び28日目に観察された死亡率はそれぞれ36%及び47%であり、これらはエクリズマブの添加により17%及び20%に減少した。
【0617】
本研究は、重症COVID-19に対して補体阻害剤で処置された患者の数に関して、これまでで最大のものである。前臨床研究では、補体タンパク質C3、C5又はそれらの下流産物の阻害により、高病原性ウイルス感染後の肺損傷が減少した(例えば、Gralinski et al.(2018),mBio 9:e01753-01718;Sun et al.(2013),Am J Respir Cell Mol Biol 49:221-230;Jiang et al.(2018),Emerg Microbes Infect 7:77;及びSun et al.(2015),Clin.Infect Dis 60:586-595を参照されたい)。興味深いことに、補体経路のC3及びC5の上流にある補体成分C4及び因子Bの阻害は、同じ保護を提供しないようであり、代替経路の阻害よりも終末補体遮断が重要であることを示している(例えば、Gralinski et al.(2018)Complement activation contributes to severe acute respiratory syndrome coronavirus pathogenesis.mBio 9:e01753-01718を参照されたい)。補体系の過剰活性化を示す臨床報告(例えば、Pang et al.(2006),Clin Chem 52:421-429;Ohta et al.(2011),Microbiol Immunol 55:191-198;及びBerdal et al.(2011),J Infect 63:308-316)と合わせると、これらの発見は、補体経路の他の成分によって提供される免疫保護及び免疫調節機能を損なうことなく、重度の呼吸器疾患における生存率を改善するために、C5での補体活性化を遮断する理論的根拠を提供する。
【0618】
本研究では、ベースラインC5b-9レベルが上昇し、7日目に、一部の患者で検出可能な残留遊離エクリズマブがなく、補体経路の過剰活性化の可能性が示された。エクリズマブの予想外の急速なクリアランスは、投与が最適以下であった可能性があり、重症COVID-19を有する患者ではより高用量又はより頻度の高い投与が適切であり得ることを示唆している。しかし、エクリズマブを投与された患者におけるCH50活性の一時的な低下は、不完全なC5阻害が臨床的改善の実現に十分であるという概念を支持する。C5活性化の減少は、炎症、サイトカイン産生及び組織損傷を減少させる重要なメカニズムを表し、バイオマーカー分析は、エクリズマブを投与された患者の臨床的改善が、炎症の減少及び酸素化の改善に媒介された可能性があることを示唆する(例えば、Wang et al.(2015),Emerg Microbes Infect 4:e28;及びKeshari et al.(2017),Proceedings of the National Academy of Sciences 114:E6390-E6399を参照されたい)。C5b-9の減少と同時にエクリズマブ処置を受けた患者は、炎症性サイトカインIL-6、IL-17及びIFN-α2の減少並びに血小板数及び組織低酸素症の強力なバイオマーカーである乳酸のクリアランスの改善の加速を経験した(例えば、Bakker et al.(2013),Annals of Intensive Care 3:12を参照されたい)。血小板数の改善は、aHUSにおけるエクリズマブの既知の効果である補体媒介性血栓性微小血管障害の阻害に関連している可能性がある(例えば、Legendre et al.(2013),N Engl J Med 368:2169-2181を参照されたい)。一連のケースから得られた予備的なエビデンスに基づいて、C5b-9の過剰活性化、その後の補体媒介性微小血管損傷は、重症COVID-19において重要な役割を果たす可能性がある(例えば、Magro et al.(2020)Transl Res Jun;220:1-13を参照されたい)。まとめると、これらの知見は、エクリズマブによるC5阻害が、SARS-Cov-2によって誘発される全身性及び肺の炎症の軽減を促進し、その結果、組織の酸素化が改善され、生存率が改善され、重度の疾病がより迅速に解決され得ることを示している。
【0619】
ICUで処置される患者では、重篤なAEが頻繁に発生する。この研究の患者は、重度の肺炎、急性肺損傷又はARDSを呈した。報告されたTESAEは、ICUで処置を受けた重篤な患者に典型的に見られるSAE(人工呼吸器関連肺炎など)と概ね一致していた。感染性合併症は、エクリズマブで処置された患者でより一般的に報告された。これは生存期間の延長に関連している可能性があり、エクリズマブ処置を受けた患者を二次感染のさらなるリスクにさらした可能性がある。全体として、安全性は補体媒介性疾患におけるエクリズマブのおよそ10年間の既知の安全性データと一致していた(例えば、Socie et al.(2019),Br J Haematol 185:297-310を参照されたい)。TESAEの違いは、小さいサンプルサイズに関連する誤った知見を表している可能性があり、重症COVID-19を有する患者における安全性を特徴付けるには、大規模な無作為化対照研究が必要である。
【0620】
この概念実証研究は患者が少数であることを含むいくつかの制限を有するが、制御された前後設計を組み込み、事前に指定された主要な転帰/分析を使用し、電子カルテに記録された全ての測定値を分析してバイアスを減らすことにより、分析をより堅牢にするための試みがなされた。処置の無作為化又は盲検化はなかったが、患者は、処置について選択されず、むしろICU入院時のエクリズマブの利用可能性に基づいて処置が割り当てられた。検出力分析は、行われておらず、二次分析で有意差を検出するには研究の検出力が不十分であった可能性がある。しかし、事前に指定された分析では有意差が見られ、これらの調査結果がフォローアップに値することが示唆される。一部の患者は、全ての評価を受けていないため、値が欠失している。この研究に関与するのは、一施設であり、一般化が制限される可能性があるが、これは、全ての患者の治療の一貫性を確保するのに役立ち、施設及び国のガイドラインを定義することの重要性を強調している。それにもかかわらず、ワクチン及び抗生物質の摂取に関連する非特異的な免疫効果を含む、未確認の交絡変数が存在する可能性がある。処置の割り当てが完全に連続的であったとしても、そのような偏りの可能性は存在するであろう。
【0621】
結論として、この一施設概念実証研究では、重症COVID-19を有する患者に対するエクリズマブ処置により、生存率が向上し、組織の低酸素症及び炎症のバイオマーカーの改善が加速した。これらの予備的知見は、重症COVID-19を有する患者の処置における抗C5抗体エクリズマブ又はそのバイオシミラー抗体の有効性及び安全性を強調する。
【0622】
実施例11:COVID-19を有する患者の予後指標としての循環sC5b9レベル
2019年12月に最初の症例が報告されて以来、一般にCOVID-19と呼ばれる重症急性呼吸器コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染は、世界的なパンデミックとなっている(例えば、Cucinotta D,Vanelli M.,Acta Biomed 2020;91:157-160を参照されたい)。COVID-19感染を有する患者において、呼吸の悪化は、肺のウイルス量の増加だけでなく、不適切且つ過剰な免疫応答とも関連している(例えば、Risitano et al.Complement as a target in COVID-19?Nat Rev Immunol.2020 Jun;20(6):343-344を参照されたい)
【0623】
前臨床データは、CoV媒介性疾患における補体活性化の役割を実証している。Gralinski et alは、CoV-2のマウスモデルにおける補体系の活性化を発見した(例えば、Gralinski et al.mBio.2018;9(5)を参照されたい)。一部のCOVID-19患者では、終末補体成分C5b-9(膜侵襲複合体)、C4d及びマンノース結合レクチン(MBL)関連セリンプロテアーゼ(MASP)2の有意な沈着が、異なる臓器の微小血管系で発見されており、これは、レクチン-補体経路の持続的な全身活性化と一致する(例えば、Magro et al.,Transl Res.2020;S1931-5244(20)を参照されたい)。MASP-2媒介性の補体の過剰活性化も、中国のグループによって一部の患者で報告されている(例えば、Gao et al.,Medrxiv.2020を参照されたい)。
【0624】
しかし、重症COVID-19を患っているヒト患者における終末補体成分C5b-9(膜侵襲複合体)、補体C4d、補体C3及び補体C4のアップレギュレーションに関するデータはほとんどない。さらに重要なことに、補体C5b9が重症COVID-19を有する患者の転帰、すなわち退院までの時間をモニタリング又は予測するためのバイオマーカーとして役立ち得るという科学的エビデンスは、あるとしてもほとんどない。
【0625】
補体活性は、それぞれ比濁法(Siemens)及びELISA(Quidel,San Diego,CA)により、製造元の指示に従い、抗体でコーティングされたヒツジ赤血球を溶解する患者血漿の能力、C3、C4及びsC5b-9循環レベルを試験することにより、検証済みの通常の補体溶血活性(CH50として報告される)を使用して、COVID-19を有する患者113人で評価され、続いてSaint-Louis病院(呼吸器科、感染症科又はICU)で評価された。C3及びC4のレベルは、それぞれ患者の63.7%(72/113)及び35.5%(37/104)で増加したことがわかった。さらに、循環sC5b-9のレベルは、COVID患者の54.8%(62/113)で増加し、COVID-19における全身性C5切断を強調した(図9A)。さらに、図9Bに示すように、COVID患者のコホートでは、サンプリング時の循環sC5b-9レベル(高値及び正常値)と、退院までの時間との間に有意な相関が見られた(p=0.0009)。全体として、これらのデータは、C5活性化が疾患の重症度に寄与することを示唆している。
【0626】
合わせると、これらの知見は、補体がCOVID-19患者への特定の介入の実行可能な標的として機能することを示唆している。中国では、抗C5aモノクローナル抗体を使用して2人の悪化している患者がレスキューされた(例えば、Gao et al.,Medrxiv.2020を参照されたい)。イタリアでは、重度の肺炎を有する患者4人がエクリズマブによる処置後、回復に成功した(SOLIRIS;例えば、Diurno et al.,European Review for Medical and Pharmacological Sciences.2020;4030-4037(24)を参照されたい)。証明された有効な治療法が存在しない中、重度の肺炎を有するCOVID-19患者を人道的使用に基づいてエクリズマブで処置することが決定された。97%超のSpO2を維持するために5L/分以上の酸素を要する重度の肺炎を有する集中治療室(ICU)を要しない5人の患者並びに人工呼吸を要する呼吸不全及び2以上のAKIで定義されるか又は透析及び昇圧薬の補助を要する腎障害を有する3人の患者が処置された。全ての患者は、特定のRT-PCR(鼻スワブでPCR陽性)を使用して確認された重症COVID-19を有していた。患者の特徴を表37に詳述する。この報告は、2020年3月17日~2020年4月30日までの期間にエクリズマブを投与された患者のデータに基づく。
【0627】
【表55】
【0628】
【表56】
【0629】
最初のICU患者は、SOLIRIS(登録商標)SmPC-非定型溶血性及び尿毒症症候群の投薬レジメン(aHUS、毎週900mgの導入期間)に従って処置された。この患者は、フォローアップ中、標準的なプラクティスに従って補体活性に関して緊密にモニタリングされている(例えば、Peffault de Latour et al.,Blood.2015;775-83;125(5)を参照されたい)。遊離エクリズマブの血漿を、以前に記載されたように標準的なELISAを使用して評価した(例えば、Peffault de Latour et al.,Blood.2015;775-83;125(5)を参照されたい)。正常なCH50活性及び検出不能な遊離エクリズマブ循環レベルを伴うC5の完全な阻害の欠如を示す7日目の観察結果は、おそらくそれらの患者における大幅な補体活性化に関連して、単回注射後に通常見られるよりもはるかに高いエクリズマブのクリアランスを示す(図9A)。したがって、患者#2、3及び4は、4日ごとに900mgを投与され、最適ではないが、より良い延長された補体遮断を可能にした。4日目に低いエクリズマブレベルが観察されたが(3人の患者のうちの2人で50μg/ml未満)、1日目から効率的な補体遮断が観察された。これらのデータは、aHUS及び発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)などの補体疾患を患っている患者と比較して、COVID患者におけるエクリズマブの薬物動態が異なることを示す。したがって、最後の4人の患者は、1日目、4日目及び8日目に1200mgの3回の導入投与を受け、これはPK/PDの観点から満足するようである。補体遮断のため、患者はSOLIRIS処置を開始する前に髄膜炎菌感染に対する予防的抗生物質を投与され、可能であればワクチン接種が行われた(例えば、Diurno et al.,European Review for Medical and Pharmacological Sciences.2020;4030-4037(24)を参照されたい)。
【0630】
エクリズマブの開始時、3人の患者が挿管され、1人が高流量酸素を受け、4人が標準的な酸素補助のみで処置された。それらは、全てsC5b-9循環レベルが上昇していた(図9A)。エクリズマブの最初の投与後18日間(5~29日間)のフォローアップ期間中央値にわたり、抜管された人工呼吸を受けている1人の患者を含む6人の患者が酸素補助のカテゴリーで改善を示した。最新のフォローアップ日までに、3人の患者が退院し(最初のエクリズマブ注射後、それぞれ+5、+13、+13日目)、3人の患者は、最初のエクリズマブ注射後、それぞれ+23、+28日目及び+28日目に依然として非ICUユニットに入院している。侵襲的換気を受けた2人の患者が死亡した(最初のエクリズマブ注射後、それぞれ+4日目及び+10日目)。患者#5は敗血症性ショック及び多臓器不全を呈し、患者#6は広範囲の肺塞栓症及び心停止と診断された。さらに、患者#1は、発展中に重度の血栓性合併症(深部静脈血栓症及び肺塞栓症)も示した。
【0631】
最近の知見は、重症COVID-19感染を有する患者の最大30%が生命を脅かす血栓性合併症を発症することを示唆している(例えば、Klok et al.,Thromb Res.2020;S0049-3848(20)30120-1を参照されたい)。本研究では、補体遮断にもかかわらず、重症患者だけでなくICU外でも肺塞栓症が発生し、これにより、C5治療中の患者を含むこれらの患者の血栓リスクがより高いことが確認された。過剰な炎症、血小板活性化、内皮機能不全、うっ血は、患者が静脈循環及び動脈循環の両方で血栓性疾患になる素因となり得る(例えば、Bikdeli et al.J Am Coll Cardiol.2020 Jun 16;75(23):2950-2973を参照されたい)。これらの考慮事項により、補体阻害に関連しても、COVID-19患者において血栓症予防を厳密に適用することへの推奨が強化される(例えば、Connors JM and Levy JH.COVID-19 and Its Implications for Thrombosis and Anticoagulation.Blood.2020 Jun 4;135(23):2033-2040を参照されたい)。
【0632】
全体として、本研究のデータは、補体の終末経路がCOVID-19患者の半数で過剰活性化されており、疾患の重症度を反映していることを示している。補体抑制は、この設定における一般的な治療アプローチを表す。しかし、COVID患者におけるエクリズマブの薬物動態は、他の補体媒介性疾患における報告とは大幅に異なるという観察に基づき、本開示は、COVID-19の処置のための新規治療アプローチを提供する。特に、C5活性の効率的且つ持続的な遮断を確実にするために、より高いエクリズマブ用量及び/又はより短い間隔が適用される。本研究に登録された患者では、補体遮断は血栓の発生を予防しなかった。これは、サンプルサイズ及び患者特性の不均一性に起因し得る。重症の非ICU患者及び挿管された患者における無作為化多施設前向き第III相臨床試験で、さらなる転帰の測定が計画されている(NCT ClinicalTrials.gov Identifier:NCT04346797)。患者は、酸素補助からの自立までエクリズマブの均一なスケジュール(3日ごとに1200mgを4回投与、その後、3日ごとに900mgを3回投与)を受ける。この試験から、重症COVID-19患者で転帰を改善するエクリズマブ(SOLIRIS)の使用をサポートするより多くの科学的エビデンスが期待される。
【0633】
【表57】
【0634】
【表58】
【0635】
【表59】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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【国際調査報告】