(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-31
(54)【発明の名称】リグノセルロース材料の難燃性処理、結果として得られる難燃性リグノセルロース材料およびその使用
(51)【国際特許分類】
C08H 8/00 20100101AFI20230524BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20230524BHJP
【FI】
C08H8/00
D04H1/425
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561117
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 FR2021050628
(87)【国際公開番号】W WO2021205128
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509296214
【氏名又は名称】ユニベルシテ ド ロレーヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LORRAINE
(71)【出願人】
【識別番号】521266217
【氏名又は名称】アンスティチュ ミンヌ テレコム
(71)【出願人】
【識別番号】516107871
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ リバネーゼ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ブロッス,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】カペル,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ソニエ,ロドルフ
(72)【発明者】
【氏名】エル ハジュ,ロラン
(72)【発明者】
【氏名】スゴヴィア,セザール
(72)【発明者】
【氏名】アントゥン,カリナ
(72)【発明者】
【氏名】ムッサ,マリア
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA08
4L047AB02
4L047CB05
4L047CC10
(57)【要約】
本発明は、リグノセルロース材料の難燃性化処理に関する。当該処理は以下の工程を含むことを特徴とする:任意での、上記リグノセルロース材料の水蒸気爆砕工程;0.5%~10%のフィチン酸および1%~30%の尿素(好ましくは、3%~7%のフィチン酸および15%~22%の尿素)を含む水溶液中での、または当該水溶液を使用した、任意で水蒸気爆砕させたリグノセルロース材料の含浸工程であって、上記割合は当該水溶液の総質量に対する質量として表される、含浸工程;任意での、5%~20%の範囲の含水量になるまでの含浸させたリグノセルロース材料の乾燥工程であって、上記割合は上記含浸させたリグノセルロース材料の総質量に対する質量として表される、乾燥工程;含浸させ、任意で乾燥させたリグノセルロース材料の加熱工程;を含み、得られた難燃性リグノセルロース材料は、0.1%~10%、好ましくは0.3%~3%の、フィチン酸に由来するリンの含有量を含み、上記割合は、上記難燃性リグノセルロース材料の総質量に対する質量として表される。本発明は、上記得られた難燃性リグノセルロース材料、ならびに、植物繊維をベースとする難燃性複合材料、植物繊維、特に織物材料、をベースとする、可撓性である難燃性織布または不織布材料、木質繊維および/または木質粒子、特に難燃性ウッドパネル、をベースとする難燃性材料を製造するための、上記得られた難燃性リグノセルロース材料の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース材料の難燃性化方法であって、
任意での、上記リグノセルロース材料の水蒸気爆砕工程;
0.5%~7%のフィチン酸および1%~22%の尿素を含む水溶液中での、または当該水溶液を使用した、任意で水蒸気爆砕させたリグノセルロース材料の含浸工程であって、上記割合は当該水溶液の総質量に対する質量として表される、含浸工程;
任意での、5%~20%の範囲の含水量になるまでの含浸させたリグノセルロース材料の乾燥工程であって、上記割合は上記含浸させたリグノセルロース材料の総質量に対する質量として表される、乾燥工程;
含浸させ、任意で乾燥させたリグノセルロース材料の加熱工程;を含み、
得られた難燃性リグノセルロース材料は、0.1%~10%、好ましくは0.3%~3%の、フィチン酸に由来するリンの含有量を含み、上記割合は、上記難燃性リグノセルロース材料の総質量に対する質量として表される、方法。
【請求項2】
上記リグノセルロース材料が、木質繊維および/もしくは植物繊維、特に靭皮繊維、などの植物繊維の形態、または、木質粒子の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記植物繊維が、麻、亜麻、ラミーおよびジュート繊維を含む群から選択される靭皮繊維であり、
上記木質繊維ならびに/または粒子が、トウヒ、トネリコ、カバノキ、ポプラ、ブナノキおよびオーク繊維ならびに/または粒子を含む群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記リグノセルロース材料が、水蒸気爆砕された植物繊維、特に水蒸気爆砕された靭皮繊維、水蒸気爆砕された木質繊維および水蒸気爆砕された木質粒子を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記水蒸気爆砕された植物繊維、特に水蒸気爆砕された靭皮繊維が、100μm未満、好ましくは50μm未満の直径を有し、1cm~10cm、好ましくは3cm~5cmの範囲の長さを有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記リグノセルロース材料が漂白されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
使用するフィチン酸が菜種油粕から得られることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
フィチン酸および尿素の水溶液に浸すことによって、または、フィチン酸および尿素の水溶液を噴霧することによって、リグノセルロース材料の上記含浸工程を室温で実施することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
含浸させたリグノセルロース材料の上記乾燥工程を、20℃~60℃、好ましくは40℃~60℃の温度において、5分間~18時間、好ましくは15分間~30分間の範囲の時間、実施することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
含浸および乾燥させたリグノセルロース材料の上記加熱工程を、140℃~200℃、好ましくは140℃~160℃の範囲の温度において、15分間~5時間、好ましくは30分間~2時間の範囲の時間、実施することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記難燃性リグノセルロース材料において、フィチン酸に由来する上記リンが、上記難燃性リグノセルロース材料の表面および中心部に共有結合によってグラフトされていることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
植物繊維をベースとする難燃性複合材料、
植物繊維、特に織物材料、をベースとする、可撓性である難燃性織布または不織布材料、
木質繊維および/または木質粒子、特に難燃性ウッドパネル、をベースとする難燃性材料、
を製造するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法により得られる難燃性リグノセルロース材料の使用。
【請求項13】
上記難燃性リグノセルロース材料が、水蒸気爆砕された木質繊維および/または水蒸気爆砕された木質粒子から得られ、得られた上記難燃性ウッドパネルが接着剤および樹脂を含まないことを特徴とする、難燃性ウッドパネルの製造のための、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は化学の分野に関し、より詳細には、難燃性化の分野に関する。本発明は特に、新規の、バイオベースおよび無溶媒である難燃性化方法に関する。本発明は、より詳細には、フィチン酸をリグノセルロース材料にグラフトすることによる上記リグノセルロース材料の難燃性化のための方法に関する。本発明はまた、このようにして得られた新規の難燃性リグノセルロース材料、および、硬質難燃性材料(パネルなど)または可撓性難燃性材料(織布または不織布)の製造におけるその使用に関する。
【0002】
〔従来技術〕
用語「難燃性化」は、材料の耐火性を改善するために実施する一連の処理を指す。したがって、難燃性化は、天然の可燃性材料を難燃性物質に含浸させることによって、当該材料を不燃性(moins combustible)にするか、またはより不燃性(imflammable)にすることを可能にする。
【0003】
フィチン酸を使用する難燃性化方法は、従来技術において既に記載されている。
【0004】
例えば、Yang Zhou et al.(1)による刊行物は、フィチン酸が、紙ベース複合材料の耐火性を改善するための優れたドーパントであることを記載している。フィチン酸は、合成ポリマー(ポリアニリン)中の混合物(グラフトされていない)として使用される。後者は、紙の表面処理として使用され、電気伝導性および難燃性を付与する。
【0005】
Lucie Costes et al.(2)による刊行物は、ポリラクチド(PLA)の難燃性に対する異なるセルロース/リンの組合せの効果を調査している。ポリラクチドは、原料がバイオベースである合成ポリマーである。その試験は、リン酸化微結晶セルロース(MCC-P)/フィチン酸アルミニウム、または、ナノ結晶セルロース(NCC)/フィチン酸アルミニウムの組合せが良好な結果を与えることを示した。上記刊行物において、セルロースは、140℃で溶融した尿素中でリン酸によって化学修飾され、水酸化ナトリウム溶液によって洗浄され、次いでメタノールから沈殿される。PLA、改質セルロース、およびフィチン酸のアルミニウム塩(グラフトされていない)をベースとする複合材料は、押出によって製造された。
【0006】
Yu-Yang Gao et al.(3)による刊行物は、フィチン酸とピペラジンとの反応によって得られるフィチン酸の塩をポリプロピレンと使用して、ピペラジンの耐火性を改善することを記載している。フィチン酸は、合成アミンと共に使用され、石油系ポリマーに添加剤(グラフトなし)として添加される。
【0007】
Xiao-hui Liu et al.(4)による刊行物は、「リヨセル」繊維(再生セルロース繊維である)の耐火性を改善するためのフィチン酸アンモニウム(PAA)塩の使用を記載している。上記刊行物において、フィチン酸は、最初に尿素と混合され、次いでN,N-ジメチルホルムアミドから沈殿される。得られた塩を、水中のジシアンジアミドの存在下で、再生セルロースと加熱下で反応させる。
【0008】
しかしながら、難燃性材料の調製中に溶媒および/もしくは化合物を使用するため、または、難燃性化される出発材料が化学的に合成された化合物であることが多いため、これらの刊行物に記載されている方法はバイオベースではない。さらに、フィチン酸は一般に、難燃性材料上に共有結合的にグラフトされず、難燃性材料の表面上にのみ存在する。
【0009】
〔発明の要約〕
したがって、新規のバイオベースである難燃性化の方法を開発する必要性(特に、耐火性である非毒性バイオベース材料に対する産業界からのますます差し迫った需要を満たす必要性)が依然として存在する。
【0010】
したがって、本発明の目的の1つは、バイオベースおよび無溶媒である方法を開発することである。用語「バイオベースである方法」は出発材料としてバイオベース材料を使用する方法を意味するが、難燃剤としても使用できる。
【0011】
バイオベース材料は、植物または動物バイオマスに由来する材料である。用語「バイオマス」は、地質学的物質または化石物質を除いた、すべての生体(すなわち、生物起源の物質)を指す。バイオマスは、炭素(約50%)、酸素(約40%)、水素(約6%)、少量の窒素(0.4%~1.2%)およびミネラル(カルシウム、ケイ素、カリウム)から本質的に構成される。
【0012】
本発明によれば、難燃性化される出発材料(すなわち、リグノセルロース材料)は、バイオベースである。
【0013】
用語「リグノセルロース材料」は、3つの主要な成分(セルロース、ヘミセルロースおよびリグニン)からなる材料を意味する。リグノセルロース材料は、バイオマスの大部分を占める。平均して、リグノセルロース材料は、40~60%のセルロース、20~40%のヘミセルロースおよび10~25%のリグニンを含む。したがって、本発明の方法による難燃性リグノセルロース材料は、上記割合のセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含む。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、難燃剤(すなわち、フィチン酸)はバイオベースである。
【0015】
本発明の主題は、より具体的には、リグノセルロース材料の難燃性化方法であって、
任意での、上記リグノセルロース材料の水蒸気爆砕工程;
0.5%~10%のフィチン酸および1%~30%の尿素(好ましくは、3%~7%のフィチン酸および15%~22%の尿素)を含む水溶液中での、または当該水溶液を使用した、任意で水蒸気爆砕させたリグノセルロース材料の含浸工程であって、上記割合は当該水溶液の総質量に対する質量として表される、含浸工程;
任意での、5%~20%の範囲の含水量になるまでの含浸させたリグノセルロース材料の乾燥工程であって、上記割合は上記含浸させたリグノセルロース材料の総質量に対する質量として表される、乾燥工程;
含浸させ、任意で乾燥させたリグノセルロース材料の加熱(cuisson)工程;を含み、
得られた難燃性リグノセルロース材料は、0.1%~10%、好ましくは0.3%~3%の、フィチン酸に由来するリンの含有量を含み、上記割合は、上記難燃性リグノセルロース材料の総質量に対する質量として表される、方法である。
【0016】
上記で規定した水溶液中のフィチン酸および尿素の割合に関しては、0.5%~7%のフィチン酸および1%~22%の尿素についても言及してもよく、上記割合は水溶液の総質量に対する質量として表される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、難燃性化方法で使用されるリグノセルロース材料は、繊維および/または粒子の形態である。本発明において、用語「繊維」はより具体的には天然植物繊維を指し、用語「粒子」は木質粒子を指す。天然植物繊維は、植物起源(木または植物)および植物におけるそれらの位置に応じて、異なるカテゴリーの繊維を含む。栽培植物については、靭皮の茎の外側部分から抽出される靭皮繊維、幹または茎から抽出される繊維、葉から抽出される繊維、種子または果実から抽出される繊維、およびストローとの間で区別される。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、本発明の方法において特に使用されるリグノセルロース材料は、木質繊維および/もしくは植物繊維、特に靭皮繊維、などの植物繊維の形態、または、木質粒子の形態である。
【0019】
木質繊維および/または植物繊維は、500μm以下の直径および1mm~50cmの範囲の長さを有する。目安として、靭皮繊維は非常に長い(50cmまで)ことがある一方、木質繊維ははるかに短く、一般に数ミリメートルの長さに過ぎない。
【0020】
本発明の目的のために、木質「粒子」という用語は、木材のかけらおよび/またはおがくずを指す。木質粒子は種々の形状を有していてもよく、球形である場合、当該粒子の直径は5mm未満である。
【0021】
本発明の一実施形態によれば:
植物繊維は、より具体的には麻、亜麻、ラミーおよびジュート繊維を含む群から選択される靭皮繊維であり、
木質繊維ならびに/または粒子は、より具体的にはトウヒ、トネリコ、カバノキ、ポプラ、ブナノキおよびオーク繊維ならびに/または粒子を含む群から選択される。
【0022】
本発明の有利な実施形態によれば、難燃性化されるリグノセルロース材料は、予め水蒸気爆砕に供する。したがって、難燃性化方法の開始時に使用されるリグノセルロース材料は、水蒸気爆砕された植物繊維、特に水蒸気爆砕された靭皮繊維、水蒸気爆砕された木質繊維および水蒸気爆砕された木質粒子を含む群から選択される。
【0023】
水蒸気爆砕は、飽和蒸気を高圧(10~50bar)下で短時間(数秒~数分)注入することによって高温(160~270℃)にリグノセルロース材料を加熱すること、次いで、大気圧まで急激に膨張させることから成る熱機械化学処理である。これは、リグノセルロース材料の著しい破壊をもたらす。
【0024】
水蒸気爆砕設備は、急激な減圧を受ける反応器に供給する蒸気発生器から成る。減圧中、材料は、反応器から放出され、スプリッタ内で回収される。
【0025】
リグノセルロース材料を構成する種々のポリマー画分の価値を高めるために、水蒸気爆砕処理はリグノセルロース材料を分別することを可能にする。より具体的には、水蒸気爆砕がリグノセルロース材料のヘミセルロース含有量を減少させる。
【0026】
この処理により、植物繊維および/または木質粒子のサイズを減少させて、マイクロファイバーおよびナノファイバーならびに/または微粒子およびナノ粒子を生成することも可能になる。
【0027】
本発明の方法によれば、水蒸気爆砕された植物繊維、特に水蒸気爆砕された靭皮繊維は、100μm未満、好ましくは50μm未満の直径を有し、1cm~10cm、好ましくは3cm~5cmの範囲の長さを有する。
【0028】
水蒸気爆砕された木質粒子は、球形である場合、その直径は3mm未満である。
【0029】
本発明の別の実施形態によれば、難燃性化されるリグノセルロース材料(好ましくは予め水蒸気爆砕されている)は、漂白されている。
【0030】
漂白の目的はリグノセルロース材料を脱リグニンすること、すなわち、リグノセルロース材料から全部または一部のリグニンを除去することであり、これは、繊維の大幅な改質およびホワイトリグノセルロース材料の生成をもたらす。
【0031】
セルロース材料の漂白は、亜塩素酸イオンまたは過酸化水素を使用して実施する。
【0032】
したがって、本発明の難燃性化方法の開始時に使用されるリグノセルロース材料は以下であってもよい:
「加工されていない」(すなわち、水蒸気爆砕および/または漂白いずれもされていない)、
「水蒸気爆砕されている」(水蒸気爆砕されているが、漂白されていない)、
「漂白されている」(漂白されているが、水蒸気爆砕されていない)、
「漂白および水蒸気爆砕されている」(水蒸気爆砕および漂白されている)。
【0033】
リグノセルロース材料が漂白および水蒸気爆砕されるとき、最初に水蒸気爆砕に供され、次に漂白に供される。
【0034】
任意の水蒸気爆砕または漂白とは別に、本発明の難燃性化方法の開始時に使用されるリグノセルロース材料は、他のいかなる化学処理もされていない。
【0035】
本発明の別の実施形態によれば、フィチン酸は、菜種油粕から得られる。
【0036】
用語「油粕」は、油を産出する植物の種子または果実から油が抽出された後に得られる固体残渣を意味する。油粕は、比較的高い割合のフィチン酸(3%~6%)を含有し、これは、植物種子のためのリンの天然貯蔵物である。
【0037】
菜種はフランスで最も広く栽培されている油糧作物である。菜種油粕はその植物タンパク質の含有量およびその魅力的な価格のために、興味深い工業原料である。したがって、それは動物飼料に使用される。しかしながら、フィチン酸は、動物飼料用途の油粕の品質に悪影響を及ぼす栄養分吸収阻止剤である。
【0038】
したがって、菜種油粕(5~6%のフィチン酸を含む)からフィチン酸を抽出することは、供給の連続における菜種油粕の品質を高めることおよびフィチン酸を提供することの両方の優れた方法である。
【0039】
本発明によれば、菜種油粕からフィチン酸を抽出する方法は、以下の工程を含む:
撹拌しながら、菜種油粕を酸性水溶液に接触させる工程;
遠心分離して、水相を回収する工程;
水相を限外濾過する工程;
限外濾過から得られた水相を回収する工程;
限外濾過から得られた水相を凍結乾燥させ、フィチン酸を含む凍結乾燥生成物を得る工程。
【0040】
このようにして得られたフィチン酸凍結乾燥物は次いで、0.5%~10%のフィチン酸および1%~30%の尿素(好ましくは3%~7%のフィチン酸および15%~22%の尿素)を含む水溶液を調製するために、尿素と併用される。上記割合は水溶液の総質量に対する質量として表され、上記水溶液は本発明の方法の含浸工程において使用される。0.5%~7%のフィチン酸および1%~22%の尿素の濃度(上記割合は、水溶液の総質量に対する質量として表される)もまた、本発明の範囲において好適である。
【0041】
本発明の方法の難燃剤はフィチン酸である。しかしながら、フィチン酸は尿素と併用され、このことは、膨潤によるセルロース(リグノセルロース材料に由来する)の接近性を増加させ、加熱工程中の劣化からリグノセルロース材料を保護する役割を特に有する。
【0042】
本発明の方法の有利な実施形態によれば、フィチン酸および尿素の水溶液に浸すことによって、または、フィチン酸および尿素の水溶液を噴霧することによって、リグノセルロース材料の含浸工程を室温で実施する。上記フィチン酸および尿素の水溶液は、上述で規定したとおりである。
【0043】
本発明によれば、浸漬により含浸を実施するとき、含浸時間は5分~1時間、好ましくは15分~1時間である。
【0044】
浸漬による含浸の場合、本発明の方法はまた、含浸工程の終わりに、および、乾燥工程の前に、好ましくは濾過による、含浸されたリグノセルロース材料の回収工程を含む。
【0045】
本発明の有利な実施形態によれば、含浸工程を噴霧によって実施するとき、加熱工程の前に乾燥工程を実施する必要はない。具体的には、噴霧含浸工程後に得られるリグノセルロース材料は、5%~20%の範囲の含水率を有する。
【0046】
浸漬によって含浸工程を実施するとき、加熱工程の前に乾燥工程を実施する必要がある。
【0047】
含浸させたリグノセルロース材料の乾燥工程は、20℃~60℃、好ましくは40℃~60℃の温度において、5分~18時間、好ましくは15分間~30分間の範囲の時間、実施する。
【0048】
指標として、乾燥は、オーブン中において、または強制空気によって実施する。
【0049】
含浸させ、任意で乾燥させたリグノセルロース材料の加熱工程は、140℃~200℃、好ましくは140℃~160℃の範囲の温度において、15分間~5時間、好ましくは30分~2時間の範囲の時間、実施する。
【0050】
加熱工程は、連続するトンネルオーブン中において実施してもよい。
【0051】
連続するトンネルオーブンはコンベヤオーブンまたは連続加熱を可能にする貫通オーブンであり、リグノセルロース材料は、ベルト上でオーブンを通して搬送される。
【0052】
したがって、本発明の方法の別の有利な実施形態によれば、乾燥工程および加熱工程を連続して実施する。
【0053】
さらに別の実施形態によれば、本発明の方法は、加熱工程の終了時に、洗浄および/または濾過工程を含む。洗浄および/または濾過工程は、リグノセルロース材料上の強い結合(すなわち、共有結合)によって付着していない分子を除去することを可能にする。
【0054】
本発明の方法は、有利には、リグノセルロース材料の表面および中心部の両方への、フィチン酸に由来するリンの共有結合グラフトを可能にする。したがって、本発明の方法は、難燃性リグノセルロース材料において、フィチン酸に由来するリンが、上記難燃性リグノセルロース材料の表面および中心部に共有結合によってグラフトされていることも特徴とする。
【0055】
本発明の有利な実施形態によれば、本発明の難燃性化方法は、難燃性リグノセルロース材料を着色しない。
【0056】
別の有利な実施形態によれば、本発明の方法はまた、無溶媒であることを特徴とする。当該方法は水の使用も必要としない。
【0057】
有利には、本発明の方法は、含浸、乾燥および加熱工程のみを含む。溶解工程はない。連続処理の可能性もあり、工業化も容易である。本発明の難燃性化方法は、バイオベースであり、さらに不活性および非毒性である材料を使用することによって、環境に優しい。また、実施が容易であり、経済的である。当該方法はまた、現在あまり利用されていない農業副産物(すなわち、菜種油粕から得られるフィチン酸)の価値を高めることを可能にする。
【0058】
本発明の難燃性化方法に従って得られるリグノセルロース材料は、もはや点火せず、燃焼を拡散させず、燃焼すると炭化する。
【0059】
本発明の別の態様によれば、上記の方法によって得られてもよい難燃性リグノセルロース材料が提案される。
【0060】
本発明の主題はまた、0.1%~10%の範囲、好ましくは0.3%~3%の範囲のリン含有量を含み、上記割合は難燃性リグノセルロース材料の総質量に対する質量として表され、上記難燃性リグノセルロース材料の表面および中心部に共有結合によってリンがグラフトされていることを特徴とする、難燃性リグノセルロース材料である。
【0061】
上記で規定された本発明の難燃性リグノセルロース材料は、標準ASTM D7309に従って燃焼マイクロ熱量計で測定された総熱発生量(「THR」)が0.5~11KJ/gの範囲であり、上記標準は、1K/sにおける750℃までの嫌気性環境での熱分解を指す、ことをさらに特徴とする。
【0062】
上記で規定された本発明の難燃性リグノセルロース材料は、好ましくは、植物繊維(麻、亜麻、ラミーおよびジュート繊維などの靭皮繊維)、木質繊維、木質粒子(トウヒ、トネリコ、カバノキ、ポプラ、ブナ、オーク)およびそれらの混合物を含む群から選択されるリグノセルロース材料から得られる。
【0063】
本発明によれば、本発明の難燃性リグノセルロース材料は、好ましくは、水蒸気爆砕リグノセルロース材料から得られる。
【0064】
本発明の別の態様によれば、上記の難燃性リグノセルロース材料、または上記の方法によって得られる難燃性リグノセルロース材料を使用することが提案される。
【0065】
したがって、本発明の主題は、
植物繊維をベースとする難燃性複合材料、
植物繊維、特に織物材料、をベースとする、可撓性である難燃性織布または不織布材料、
木質繊維および/または木質粒子、特に難燃性ウッドパネル、をベースとする難燃性材料、
を製造するための、上記の難燃性リグノセルロース材料、または上記の方法によって得られる難燃性リグノセルロース材料の使用でもある。
【0066】
植物繊維をベースとする難燃性複合材料の例として、植物繊維(特に木質繊維)および熱可塑性樹脂をベースとする難燃性複合材料に言及してもよい。このような複合材料は、建築および輸送部門における用途を有する。
【0067】
植物繊維をベースとする可撓性織布難燃性材料の例として、家具織物材料、家庭用テクニカルテキスタイル、テクニカルテキスタイル(プロ用(消防士など)のスポーツウエア)に言及してもよい。
【0068】
植物繊維をベースとする可撓性不織布難燃性材料の例として、ジオテキスタイル、および建築または輸送のための可撓性膜に言及してもよい。
【0069】
本発明の有利な実施形態によれば、難燃性リグノセルロース材料が水蒸気爆砕された木質繊維および/または水蒸気爆砕された木質粒子から得られるとき、上記難燃性リグノセルロース材料は、有利には、リグノセルロース材料を単にプレスすることによって、接着剤および樹脂を含まない難燃性ウッドパネルを製造するために使用してもよい。したがって、本発明はまた、難燃性リグノセルロース材料が水蒸気爆砕された木質繊維および/または水蒸気爆砕された木質粒子から得られ、得られた難燃性ウッドパネルが接着剤および樹脂を含まないことを特徴とする、ウッドパネルの製造のための上記で規定された使用に関する。
【0070】
本発明の主題はまた、水蒸気爆砕された木質繊維および/または水蒸気爆砕された木質粒子から得られる難燃性リグノセルロース材料から作製される、接着剤および樹脂を含まない難燃性ウッドパネルでもある。
【0071】
したがって、上記パネルは、完全に環境に優しい。
【0072】
〔図面の簡単な説明〕
他の特徴、詳細、および利点は以下の詳細な説明を読み、添付の図面を分析することによって明らかになるのであろう。
【0073】
<
図1>
図1は、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【0074】
曲線1は、難燃性化されていない(したがって、リン含有量が0%である)、対照麻繊維に関する。
【0075】
曲線2は、0.31%のリン含有量を含む、本発明の方法による難燃性麻繊維に関する。
【0076】
曲線3は、0.49%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0077】
曲線4は、0.62%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0078】
曲線5は、2.14%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0079】
<
図2>
図2は、本発明の方法に従って難燃性化された、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維のリンマッピングである。
【0080】
<
図3>
図3は、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【0081】
曲線1は、難燃性化されていない(したがって、リン含有量が0%である)、対照麻繊維に関する。
【0082】
曲線2は、0.12%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0083】
曲線3は、0.33%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0084】
曲線4は、0.66%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0085】
曲線5は、1.53%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0086】
曲線6は、1.97%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0087】
曲線7は、2.40%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0088】
<
図4>
図4は、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、水蒸気爆砕させ、かつ未漂白である麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【0089】
曲線1は、難燃性化されていない対照麻繊維に関する。これらの対照繊維は、0.07%のリン含有量を含む。
【0090】
曲線2は、0.15%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0091】
曲線3は、0.24%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0092】
曲線4は、0.53%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0093】
曲線5は、0.93%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0094】
曲線6は、1.48%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0095】
曲線7は、1.83%のリン含有量を含む、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0096】
<
図5>
図5は、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、加工されていない(すなわち、未水蒸気爆砕および未漂白)麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【0097】
曲線1は、難燃性化されていない(0%のリン含有量を含む)、加工されていない対照麻繊維に関する。
【0098】
曲線2は、1.57%のフィチン酸および5%の尿素を使用した、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0099】
曲線3は、3.13%のフィチン酸および10%の尿素を使用した、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0100】
曲線4は、6.26%のフィチン酸および20%の尿素を使用した、本発明の難燃性麻繊維に関する。
【0101】
<
図6>
図6は、加工されていない(すなわち、未水蒸気爆砕および未漂白)麻繊維、水蒸気爆砕された未漂白の難燃性麻繊維、ならびに、水蒸気爆砕および漂白された難燃性麻繊維について、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた温度の関数としての熱発生率(HRR)の異なる曲線を示す。これらの繊維はすべて、同じフィチン酸含有量(3.13%)で難燃性化されている。
【0102】
曲線1は、3.13%のフィチン酸および10%の尿素を使用した、本発明によって難燃性化された、加工されていない麻繊維に関する。
【0103】
曲線2は、3.13%のフィチン酸および10%の尿素を使用した、本発明によって難燃性化された、水蒸気爆砕された未漂白麻繊維に関する。
【0104】
曲線3は、3.13%のフィチン酸および10%の尿素を使用した、本発明によって難燃性化された、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維に関する。
【0105】
<
図7>
図7は、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られたトウヒ粒子の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【0106】
曲線1は、リン含有量が0%である、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(水蒸気爆砕以外のいかなる処理にも供していない)に関する。
【0107】
曲線2は、本発明の方法に記載されている、乾燥および加熱工程それぞれにその後供し、フィチン酸を含む溶液に含浸させる工程に供していない、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子に関する。上記トウヒ粒子のリン含有量は0%である。
【0108】
曲線3は、2.14%のリン含有量を含む、本発明の方法によって難燃性化された、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子に関する。
【0109】
<
図8>
図8は、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られたトウヒ粒子の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【0110】
曲線1は、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(対照:難燃性化されていない粒子)に関する。
【0111】
曲線2は、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子に関する。難燃性化方法の含浸工程を、10%フィチン酸および10%尿素を含む水溶液160mLを噴霧することによって実施し、含浸させたトウヒ粒子の加熱時間は30分である。
【0112】
曲線3は水蒸気爆砕されたトウヒ粒子に関する。難燃性化方法の含浸工程を、6.26%フィチン酸および20%尿素を含む400mLの水溶液で浸漬することによって実施し、含浸および乾燥されたトウヒ粒子の加熱時間は120分である。
【0113】
<
図9>
図9は、共有結合によってリンにグラフトされた麻繊維の
31P NMRスペクトルである。
【0114】
〔実施形態の説明〕
以下の図面および説明は本質的に明確な特徴である。したがって、それらは本開示の理解をさらに深めるのに役立ってもよいし、適切な場合にはその定義にも寄与してもよい。
【0115】
〔実施例〕
〔実施例1〕
(フィチン酸をベースとする含浸溶液の調製)
<菜種油粕からのフィチン酸の抽出>
原料として使用される菜種油粕ミールを、塩化ナトリウムおよび塩化水素の代替添加によって安定化させたpH2(±0.05)の水溶液中に懸濁させる。
【0116】
抽出は、室温において、300rpmの速度で1時間、機械的撹拌を適用することによって実施する。次いで、水相を、室温において、15000rpmの速度で30分間遠心分離し、続く濾過工程によって、固相から分離する。
【0117】
得られた濾液を、3kDaのカットオフ閾値および4800cm2の表面積を有する中空繊維を使用して、半自動限外濾過システム(Akta Flux 6, GE Healthcare, Chicago, IL, USA)を使用して精製する。より具体的には、濾液を保持液タンクに添加し、膜間圧を1.5bar、供給速度を2L・分-1、撹拌速度を50rpmに保ちながら10分間循環させ、次いで凍結乾燥する。このようにして、フィチン酸を含む凍結乾燥物が得られ、次の工程の含浸溶液の調製で使用される。
【0118】
(フィチン酸および尿素の水溶液の調製)
前の工程で得られたフィチン酸凍結乾燥物および尿素から、フィチン酸および尿素の水溶液を調製する。
【0119】
使用する尿素は、純度≧99.5%の尿素顆粒の形態でSigma-France社から販売されている(ReagentPlus(登録商標))。
【0120】
種々の質量パーセントのフィチン酸および尿素を含む、以下の4種類の含浸水溶液を調製する:
(1)0.63%フィチン酸および2%尿素を含む溶液;
(2)1.57%フィチン酸および5%尿素を含む溶液;
(3)3.13%フィチン酸および10%尿素を含む溶液;
(4)6.26%フィチン酸および20%尿素を含む溶液。
【0121】
既に示したように、割合は、含浸水溶液の総質量に対する質量として表される。
【0122】
(1)に記載の溶液は、2gの尿素および7.3gのフィチン酸凍結乾燥物を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0123】
(2)に記載の溶液は、5gの尿素および18.2gのフィチン酸凍結乾燥物を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0124】
(3)に記載の溶液は、10gの尿素および36.4gのフィチン酸凍結乾燥物を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0125】
(4)に記載の溶液は、20gの尿素および72gのフィチン酸凍結乾燥物を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0126】
フィチン酸および尿素の他の水溶液は、市販のフィチン酸および尿素から調製する。
【0127】
使用するフィチン酸は、「フィチン酸溶液」という名称でSigma-Aldrich社から販売されている製品である。より具体的には、その製品は、密度が1.432g/mLであり、フィチン酸の質量濃度が50%である溶液である。
【0128】
使用する尿素は、前の段落に記載された製品である。
【0129】
種々の質量パーセントのフィチン酸および尿素を含む、以下の7種類の含浸水溶液を調製する:
(1)0.00%フィチン酸および0%尿素を含む溶液;
(2)0.32%フィチン酸および1%尿素を含む溶液;
(3)0.63%フィチン酸および2%尿素を含む溶液;
(4)1.57%フィチン酸および5%尿素を含む溶液;
(5)3.13%フィチン酸および10%尿素を含む溶液;
(6)4.70%フィチン酸および15%尿素を含む溶液;
(7)6.26%フィチン酸および20%尿素を含む溶液。
【0130】
既に示したように、割合は、含浸水溶液の総質量に対する質量として表される。
【0131】
(1)に記載の溶液は、100mLの水溶液である。
【0132】
(2)に記載の溶液は、1gの尿素および0.44mLのフィチン酸を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0133】
(3)に記載の溶液は、2gの尿素および0.88mLのフィチン酸を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0134】
(4)に記載の溶液は、5gの尿素および2.19mLのフィチン酸を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0135】
(5)に記載の溶液は、10gの尿素および4.37mLのフィチン酸を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0136】
(6)に記載の溶液は、15gの尿素および6.56mLのフィチン酸を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0137】
(7)に記載の溶液は、20gの尿素および8.74mLのフィチン酸を100mLの水に溶解することによって調製する。
【0138】
〔実施例2〕
(水蒸気爆砕および漂白処理をした麻繊維の難燃性化方法)
<材料>
本実験で使用した工業用麻(Cannabis sativa L.)繊維は、フランスのBar-sur-AubeにあるChanvriereで栽培した。茎は地面から数センチメートルで切り出し、2016年秋に浸水せずに収穫した。繊維を単離し、乾燥させた。実験の間中、乾燥し、十分に換気された領域に保存した。
【0139】
水蒸気爆砕処理に使用される水酸化ナトリウムNaOHは、Sigma-France社から購入した。
【0140】
使用したフィチン酸および尿素の水溶液は実施例1に記載されている。
【0141】
<麻繊維の水蒸気爆砕処理>
水蒸気爆砕による麻繊維の精製は、8%水酸化ナトリウムを含む水溶液を使用して、室温において15時間、撹拌することなく、加工されていない麻繊維を含浸させることから成る。
【0142】
次に、繊維を190℃において4分間水蒸気爆砕する。水蒸気爆砕後、蒸留水を使用して繊維を洗浄して微量の水酸化ナトリウムをすべて除去し、次いでドラフトチャンバ中で24時間乾燥させる。
【0143】
<水蒸気爆砕された繊維の漂白処理>
漂白された麻繊維は、酢酸および亜塩素酸ナトリウムをベースとする脱リグニン処理を使用して得られる。
【0144】
前の工程で得られた水蒸気爆砕された繊維を、脱イオン水(83.3mL/g繊維)、氷酢酸(1.998mL/g繊維)および亜塩素酸ナトリウム(1.998mg/g繊維)を含む還流フラスコに入れる。混合物を70℃において6時間加熱する。亜塩素酸ナトリウムおよび氷酢酸の添加を2回繰り返す。次いで、本質的にホロセルロースから成る白っぽい固体残渣が得られる。冷却後、漂白された繊維を真空下で濾過し、濾液のpHが中性になるまで脱イオン水で過度に洗浄する。繊維を室温において一晩乾燥させる。
【0145】
<本発明の方法によるフィチン酸のグラフト>
このように水蒸気爆砕および漂白された10gの麻繊維を、実施例1に規定されるフィチン酸および尿素の4種類の水溶液のそれぞれ100mL中に含浸させ、フィチン酸は室温で1時間撹拌することなく菜種油粕から抽出する。
【0146】
次に、含浸させた繊維を、60℃の温度において15時間、通気オーブン中で、繊維の含水率が30%になるまで乾燥させる。
【0147】
グラフト工程は、乾燥させた繊維を150℃の温度において2時間、連続するトンネルオーブン中で加熱することによって完了する。
【0148】
処理の最後に、リン酸化繊維を蒸留水で完全に洗浄後、真空下で濾過し、次いでドラフトチャンバ中で48時間乾燥させる。
【0149】
<元素分析>
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を、試料中のリン元素の含有量の測定に使用する。
【0150】
本発明の難燃性化方法によって得られたグラフト繊維0.15gを、ガラスチューブ中で5mLの硝酸溶液と混合する。このようにして、数個のチューブを調製し、次いで、鉱化ユニット(Ultrawave system)に入れ、230℃および110barにおいて30分間反応させる。次いで、鉱化が完了するまで、試料をこの温度および圧力で10分間放置する。鉱化後、試料を50mLの脱塩水で希釈し、濾過し、続いて分析する。
【0151】
ICP分析のために、50、100、500、1000、5000、10,000および20,000ppb(10億分の1)の標準範囲を、濃度1000ppmの市販の単元素リン溶液を用いて調製する。調製した種々の標準物質の通過前に、ブランク(水+10%硝酸)を注入する。試料中に見出される他の元素との干渉の可能性が最も低い、リンの分析のためにいくつかの波長が選択される。したがって、検量線は、種々の標準物質を分析することによってプロットする。次いで、分析される試料を注入し、それらが標準物質の正しい範囲内に存在しない場合、それらは再希釈され得る。ICPによって得られた値を使用して、鉱化の間にそれぞれのチューブ内で秤量されたものからリン質量を調べる。
【0152】
「Thermo Finnigan Flash EA 112 Series」を、窒素、炭素、酸素および水素の元素分析に使用する。分析される試料(1.5mg)の燃焼は、酸化性雰囲気下、15秒間、無水タングステン酸の存在下、高温(1000℃)で実施する。この分解により、CO2、H2O、SO2およびNOxが得られ、NOxは銅の存在下でN2に還元される。次いで、これらのガス状生成物をガスクロマトグラフィーによって分析する。結果は、化合物中に存在する各元素の割合を直接算出する、「Eager 300」ソフトウェアによって記録および分析する。
【0153】
<燃焼マイクロ熱量測定(PCFC:「熱分解燃焼フロー熱量測定」)>
燃焼マイクロ熱量計(Fire Testing Technology)を使用して、マイクロメートルスケール(2~4mg)にて本発明の試料の火の挙動を研究する。試料を、90~750℃の窒素ストリーム、1℃/秒の温度勾配によって熱分解する(嫌気性熱分解-標準ASTM D7309による方法A)。熱分解ガスは、N2/O2(80/20)ストリームの存在下において燃焼チャンバに輸送される。このような状態下、すべてのガスが完全に酸化される。熱発生率(HRR)をHuggettの式に従って算出する。この式によれば、消費される1kgの酸素は、13.1MJの熱放出に相当する。各試験は、測定の再現性を確実にするために2回実施する。ピーク熱発生率(pHRR)、pHRRにおける温度(TpHRR)、総熱発生量(THR)、燃焼熱(Δh)、および最終残留物含有量(%)を決定する。
【0154】
<難燃性麻繊維の燃焼試験>
非標準化引火試験を実施して、繊維の可燃性を迅速および容易に評価する。アルミニウム支持体上に予め垂直に接着された、加工されていないおよび処理された繊維を、ライターで点火する。
【0155】
したがって、3つの挙動が識別される:残留物を伴わない燃焼伝播(点火);残留物形成を伴う燃焼伝播;および燃焼伝播がない(自己消火能力)。残留物も、完全燃焼後に秤量する。各繊維の初期質量を残留物の質量から差し引いて、質量損失の割合(%残留物)を算出する。
【0156】
<結果>
得られた結果を以下の表1ならびに
図1および
図2に示す。
【0157】
「フィチン酸m/m」は、繊維含浸のための水溶液中で使用したフィチン酸の質量割合を指す。
【0158】
「加熱時間」は、本発明の難燃性化方法のグラフト工程において実施する加熱の持続時間を指す。
【0159】
「%P」は、難燃性リグノセルロース材料(本実施例では麻繊維)に共有結合グラフトされたリンの割合を指す。
【0160】
「%N」は、尿素に由来する窒素の割合を指す。
【0161】
「HRR」は、熱発生率(W/g)を指す。
【0162】
「pHRR」は、ピークHRRの最大値(W/g)である。
【0163】
「TpHRR」は、ピーク温度(℃)である。
【0164】
「THR」は、総熱発生量(kJ/g)を指す。
【0165】
「%残留物」は、難燃性リグノセルロース材料(本実施例では麻繊維)を燃焼させた後の炭化残留物の割合を指す。
【0166】
【0167】
<見解および結論>
表1は、
図1によって示される。麻繊維にグラフトされたリンの割合(2.14%)が高いほど、ピーク熱発生率(pHRR)の最大値(34.5W/g)が低くなることが観察され得る(対して、非難燃性である対照麻繊維は248W/gである)。
【0168】
同じことが、2.14%のリングラフトを有する麻繊維については1.3kJ/gである総熱発生量(「THR」)についても当てはまり、これに対して非難燃性である対照麻繊維については13.8kJ/gである。
【0169】
逆に、麻繊維上にグラフトされたリンの割合が高いほど、難燃性リグノセルロース材料を燃焼させた後の炭化残留物の割合が高くなる。
【0170】
図2は、水蒸気爆砕された難燃性麻繊維の表面上および中心部内にリンが均一に分布していることを示している。
【0171】
したがって、本発明の方法によって難燃性化された麻繊維を点火すると、非難燃性麻繊維よりもはるかに少ない熱を放出し、はるかに多く炭化する。
【0172】
上記の試験を上記の条件下で、一方、今回は市販のフィチン酸を含む7種類の含浸水溶液を使用して、2回繰り返す。
【0173】
上記で規定した条件下で水蒸気爆砕および漂白させた麻繊維10gを、室温において1時間、撹拌せずに、実施例1で規定したフィチン酸(Sigma-Aldrich)および尿素の7種類の水溶液のそれぞれ100mL中に含浸させる。
【0174】
結果を表2に示す。
【0175】
【0176】
<見解および結論>
表2は、
図3によって示される。麻繊維にグラフトされたリンの割合(2.40%)が高いほど、ピーク熱発生率(pHRR)の最大値(39.2W/g)が低くなることが観察され得る(対して、非難燃性である対照麻繊維は312W/gである)。
【0177】
同じことが、2.40%のリングラフトを有する麻繊維については1.7kJ/gである総熱発生量(「THR」)についても当てはまり、これに対して非難燃性である対照麻繊維については12.7kJ/gである。
【0178】
逆に、麻繊維上にグラフトされたリンの割合が高いほど、難燃性リグノセルロース材料を燃焼させた後の炭化残留物の割合が高くなる。
【0179】
したがって、本発明の方法によって難燃性化された麻繊維を点火すると、非難燃性麻繊維よりもはるかに少ない熱を放出し、はるかに多く炭化する。
【0180】
<留意点>
麻繊維にグラフトされたリンの含有量のいくつかの変動は表1と表2との間で注目されるが、含浸水溶液中のフィチン酸の濃度は同じである。これらの変動は、使用したフィチン酸の異なる由来(市販由来とは対照的な菜種油粕)によって説明してもよい。さらに、麻繊維は、その形態において可変性を有する天然繊維である。
【0181】
しかしながら、これらの違いにもかかわらず、麻繊維上へのリンの十分なグラフトがすべての場合において観察され、これは含浸溶液中に存在するフィチン酸の割合が増加することにつれて増加し、これは本発明の難燃性化方法の効率を示す。
【0182】
〔実施例3〕
(水蒸気爆砕されたが漂白されていない麻繊維の難燃性化方法)
本実施例は実施例2の比較例である。本実施例において、麻繊維は水蒸気爆砕によってのみ処理されており、漂白されていない。水蒸気爆砕された未漂白麻繊維を、実施例1に規定されたフィチン酸(市販、Sigma-Aldrich)および尿素の7種類の水溶液をそれぞれ使用して、本発明の方法によって難燃性化する。
【0183】
得られた結果を以下の表3に示す。
【0184】
【0185】
<見解および結論>
表3は、
図4によって示される。水蒸気爆砕されたが未漂白である(難燃性化された)麻繊維について、水蒸気爆砕および漂白された(難燃性化された)麻繊維と同じ観察がなされ得る。すなわち、麻繊維上にグラフトされたリンの割合が高いほど(1.83%)、ピーク熱発生率(pHRR)の最大値(42.90W/g)は低くなる(対して、対照の水蒸気爆砕された(難燃性化されていない)麻繊維については300.8W/gである)。
【0186】
同じことが、総熱発生量(「THR」)についても当てはまり、対照の水蒸気爆砕された麻繊維(難燃性化されていない)については12.4kJ/gであるのに対し、1.83%のリングラフトを有する水蒸気爆砕された麻繊維については2.30kJ/gである。
【0187】
逆に、麻繊維上にグラフトされたリンの割合が高いほど、難燃性リグノセルロース材料を燃焼させた後の炭化残留物の割合が高くなる。
【0188】
同量の使用したフィチン酸(3.13%)について、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維のピークHRRに、より大きな減少がある(50.00W/g、対して、水蒸気爆砕された未漂白麻繊維については57.80W/gである)。この低下は、ピーク温度および総熱発生量のシフトを伴う。同じことが、異なるフィチン酸量についても当てはまり、したがって、水蒸気爆砕および漂白された(難燃性化された)麻繊維については、水蒸気爆砕されたが未漂白である(難燃性化された)麻繊維についてよりも、ピークHRR、pHRR温度および総熱発生量により大きな減少を示す。
【0189】
しかしながら、実施例2によって得られた結果は、実施例3の結果よりもさらに良好であることに留意されたい(それぞれ表2および3のデータを参照されたい)。したがって、麻繊維について、先の水蒸気爆砕工程、続く漂白工程が、本発明の難燃性化方法の効率を改善すると結論付けてもよい。
【0190】
〔実施例4〕
(水蒸気爆砕または漂白されていない麻繊維の難燃性化方法)
本実施例において、麻繊維は、事前の水蒸気爆砕または漂白処理のいずれも受けていない。加工されていない(すなわち水蒸気爆砕および漂白されていない)麻繊維は、実施例1で規定されるフィチン酸(市販、Sigma-Aldrich)および尿素の4つの水溶液(それぞれ、0.00%、1.57%、3.13%および6.26%のフィチン酸を含む)を使用して、本発明の方法に従って難燃性化される。
【0191】
熱特性に関して得られた結果を以下の表4に示す。
【0192】
【0193】
<見解および結論>
表4は、
図5によって示される。加工されていない(未水蒸気爆砕、未漂白)難燃性麻繊維(実施例4)について、難燃性である、水蒸気爆砕された未漂白麻繊維(実施例3)および、難燃性である、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維(実施例2)についてと同じ観察がなされ得る。これらの観察は、以下のとおりである:麻繊維に使用されるフィチン酸の割合が高いほど(6.26%)(したがって、繊維にグラフトされたリン量が高いほど)、ピーク熱発生率(pHRR)の最大値(45.60W/g)は低い(対して、対照の水蒸気爆砕された麻繊維(0%フィチン酸)については148.0W/gである)。
【0194】
同じことが、総熱発生量(「THR」)についても当てはまる。6.26%のフィチン酸によって難燃性化された、水蒸気爆砕された麻繊維については2.5kJ/gであるのに対して、対照の水蒸気爆砕された麻繊維(0%フィチン酸)については11.6kJ/gである。
【0195】
逆に、麻繊維に使用されるフィチン酸の割合が高いほど、難燃性リグノセルロース材料を燃焼させた後の炭化残留物の割合が高くなる。
【0196】
結論として、実施例2、3および4(表2~4および
図3~5を参照されたい)において、本発明の難燃性化方法は、加工されていない(すなわち水蒸気爆砕および漂白されていない)植物繊維(実施例4)、ならびに水蒸気爆砕された未漂白植物繊維(実施例3)のみならず、水蒸気爆砕および漂白された植物繊維(実施例2)に対しても効果的であることが示されている。
【0197】
〔実施例5〕
(難燃性化される麻繊維に対する水蒸気爆砕処理および漂白の利点の実証)
本実施例は、実施例2、3および4の比較である。本実施例において、加工されていない麻繊維(未水蒸気爆砕および未漂白)、水蒸気爆砕された未漂白麻繊維(実施例3)、ならびに水蒸気爆砕および漂白された麻繊維(実施例2)を、実施例1で規定された3.13%フィチン酸および10%尿素の同じ水溶液を使用して、本発明の方法に従って難燃性化させる。
【0198】
熱特性に関して得られた結果の比較を以下の表5に示す。
【0199】
【0200】
<見解および結論>
表5の結果は、
図6によって示される。使用した同量のフィチン酸(3.13%)について、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維のピークHRRのより大きな減少が認められる(50W/g。対して、水蒸気爆砕された麻繊維では57.8W/gであり、加工されていない麻繊維では78W/gである)。この低下は、ピーク温度および総熱発生量のシフトを伴う。同じ観察が、異なるフィチン酸量についても当てはまる。したがって、水蒸気爆砕および漂白された(難燃性化された)麻繊維については、水蒸気爆砕されたが未漂白である(難燃性化された)麻繊維、ならびに、加工されていない(水蒸気爆砕および漂白されていない)麻繊維についてよりも、ピークHRR、pHRR温度および総熱発生量により大きな減少を示す。
【0201】
結論として、本発明の難燃性化方法は、加工されていない(すなわち水蒸気爆砕および漂白されていない)植物繊維、ならびに水蒸気爆砕された未漂白植物繊維のみならず、水蒸気爆砕および漂白された植物繊維に対しても効果的である。
【0202】
したがって、水蒸気爆砕工程とそれに続く漂白工程は、本発明の難燃性化方法の効率を改善する。
【0203】
〔実施例6〕
(浸漬によるトウヒ粒子の難燃性化方法)
<材料>
本実施例で使用するフィチン酸は、実施例1で規定される「フィチン酸溶液」の名称でSigma-Aldrich社によって販売されている製品である(溶液は、1.432g/mLの密度および50%のフィチン酸の質量濃度を有する)。
【0204】
使用する、純粋である尿素顆粒は、実施例1と同じである。
【0205】
水蒸気爆砕プロセスで使用する濃硫酸は、Sigma-Aldrich社によって販売され、脱塩水と混合して2質量%の濃度に調製する。
【0206】
<フィチン酸および尿素の水溶液の調製>
含浸水溶液を、尿素30g、市販のフィチン酸水溶液13mLおよび蒸留水100mLを混合することによって調製する。
【0207】
このようにして得られた含浸水溶液は、水溶液の総質量に対して、6.26質量%のフィチン酸および20質量%の尿素を含む。
【0208】
<トウヒ繊維の水蒸気爆砕処理>
トウヒ心材の粒子(直径2~5mm)を、2%硫酸溶液(水中、2質量%)中に、1/5の固体/液体比で、室温で4時間、撹拌せずに入れる。水蒸気爆砕は、200℃の温度で5分間の滞留時間、実施する。水蒸気爆砕後、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子を水によって洗浄する。
【0209】
<本発明の方法によるフィチン酸のグラフト>
水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(80g)を、予め調製したフィチン酸および尿素の水溶液(6.26%フィチン酸および20%尿素を含む)400mL中に浸漬することによって、1時間含浸させる。トウヒ粒子を室温において18時間空気乾燥させ、次いで150℃のオーブンに2時間置く。
【0210】
次に、トウヒ粒子を、先に記載した技術によって、特に燃焼マイクロ熱量測定(PCFC:「熱分解燃焼フロー熱量測定」)によって、および燃焼試験によって特徴付ける。
【0211】
得られた結果を以下の表6に記載する。
【0212】
【0213】
<見解および結論>
表6は、
図7によって示される。熱発生率は、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(曲線1)と、水蒸気爆砕、乾燥および加熱されたが含浸されていないトウヒ粒子(曲線2)とでほぼ同じである。
【0214】
先に水蒸気爆砕させたトウヒ粒子に対する本発明の難燃性処理は、ピーク熱発生率(pHRR)の最大値(55W/g)を劇的に減少させる(対して、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(曲線1)が167W/gであり、水蒸気爆砕、乾燥および加熱したが含浸していないトウヒ粒子(曲線2)は164W/gである)。
【0215】
同じことが、総熱発生量(「THR」)についても当てはまる。2.14%のリングラフトを有する水蒸気爆砕された難燃性トウヒ粒子については4.05kJ/gであるのに対して、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(曲線1)は11.95kJ/gであり、水蒸気爆砕、乾燥および加熱されたが含浸されていないトウヒ粒子(曲線2)は12.50kJ/gである。
【0216】
逆に、難燃性リグノセルロース材料を燃焼した後の炭化残留物の割合は、水蒸気爆砕された難燃性トウヒ粒子については34.3%まで増加するのに対し、水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(曲線1)は15.2%まで増加し、水蒸気爆砕、乾燥および加熱されたが含浸されていないトウヒ粒子(曲線2)は15.4%まで増加する。
【0217】
したがって、本発明の方法に従って難燃性化されたトウヒ粒子は、点火されると、難燃性ではトウヒ粒子よりも熱がはるかに少なく、炭化物がはるかに多い。
【0218】
〔実施例7〕
(噴霧によるトウヒ粒子の難燃性化方法)
本実施例は実施例6の比較例である。本実施例の条件は、実施例6に記載されている条件である。相違点は水蒸気爆砕されたトウヒ粒子(80g)の含浸工程にあり、10%フィチン酸および10%尿素を含む160mLの水溶液を噴霧することによって(浸漬によってではなく)実施する点である。
【0219】
このようにして含浸させたトウヒ粒子を、直接的に(乾燥させずに)、150℃のオーブンに、(実施例6の2時間の代わりに)30分間入れる。
【0220】
既に述べたように、含浸を噴霧によって実施するとき、噴霧前に乾燥は必要ない。
【0221】
<留意点>
実施例6においては、6.26%フィチン酸および20%尿素を含む含浸水溶液400mLを使用する。これは、25.04gのフィチン酸(6.26×400/100)および80gの尿素(20×400/100)を浸漬含浸工程に使用することを意味する。
【0222】
本実施例(噴霧含浸)においては、10%フィチン酸および10%尿素を含む含浸水溶液160mLを使用する。これは、16gのフィチン酸(10×160/100)および16gの尿素(10×160/100)を噴霧含浸工程に使用することを意味する。
【0223】
したがって、噴霧含浸工程におけるフィチン酸および尿素の量は、浸漬含浸工程よりも少ない。
【0224】
熱特性に関して得られた結果を以下の表7に示す。
【0225】
【0226】
<見解および結論>
表7は、
図8によって示される。噴霧によって使用されるフィチン酸の量は浸漬よりも著しく少ないが(-36%)、
図8のPCFCにおけるHRR曲線はpHRR値が167W/g(対照)から83.5W/gに有意に低下することが示される有効性を示し、低温へのシフト(292.2℃、対して対照は381℃)を伴う。
【0227】
同じことが、総熱発生量(THR)についても当てはまる。未処理のトウヒ粒子については11.95kJ/gであるのに対し、噴霧によって難燃性化された粒子については7.3kJ/gである。
【0228】
逆に、噴霧処理された粒子については、難燃性化後の炭化残留物の割合が未処理の粒子の割合の2倍である。
【0229】
結論として、
図8のPCFCにおけるHRR曲線は、噴霧によってリンの量が少ないが、トウヒ粒子の難燃性化における難燃性溶液の噴霧の有効性を示す。
【0230】
本発明の難燃性化方法の噴霧含浸工程は良好な熱特性を維持しつつ、使用される試薬の量を著しく減少させる。
【0231】
〔実施例8〕
(難燃性リグノセルロース材料へのフィチン酸の共有結合グラフト)
前述のように、リグノセルロース材料へのフィチン酸のグラフトは、本質的に共有結合(強力で耐久性のある結合)である。麻繊維への共有結合グラフトは、有利には水による連続的な洗浄に耐える。このグラフトはグラフトリン酸基に起因する被覆のシグナルの検出により、固体NMR(
図9参照)によって確認することができた(比1/6)。リン原子の緩和時間(P1=6.8秒、P2=10.9秒)を測定することにより確認することができた。グラフトP2のより高い緩和時間は、より低い移動度によって説明される。
【0232】
本発明は、純粋に例示のために上述した実施例に限定されるものではなく、求められる保護の状況において当業者が想定し得るすべての変形例を含む。
【0233】
〔引用文献リスト〕
(非特許文献)
すべての意図および目的のために、以下の非特許項目が引用される:
(1)Yang Zhou et al., Carbohydrate Polymers, 115 (2015) 670-676;
(2)Lucie Costes et al., European Polymer Journal, 74 (2016) 218-228;
(3)Yu-Yang Gao et al., Polymer Degradation and Stability, 161 (2019) 298-308;および、
(4)Xiao-hui Liu et al., Cellulose, 25, 799-811 (2018)。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【
図1】熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【
図2】本発明の方法に従って難燃性化された、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維のリンマッピングである。
【
図3】熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、水蒸気爆砕および漂白された麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【
図4】熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、水蒸気爆砕させ、および未漂白である麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【
図5】熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた、加工されていない(すなわち、未水蒸気爆砕および未漂白)麻繊維の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【
図6】加工されていない(すなわち、未水蒸気爆砕および未漂白)麻繊維、水蒸気爆砕された未漂白の難燃性麻繊維、ならびに、水蒸気爆砕および漂白された難燃性麻繊維について、熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られた温度の関数としての熱発生率(HRR)の異なる曲線を示す。
【
図7】熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られたトウヒ粒子の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【
図8】熱分解燃焼フロー熱量計(PCFC)を使用して得られたトウヒ粒子の温度の関数としての熱発生率(「HRR」)の異なる曲線を示す。
【
図9】共有結合によってリンにグラフトされた麻繊維の
31P NMRスペクトルである。
【国際調査報告】