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特表2023-523007アクティブノイズリダクションの管理特性
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(54)【発明の名称】アクティブノイズリダクションの管理特性
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20230525BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
G10K11/178 120
H04R1/10 101Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564448
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 US2021026332
(87)【国際公開番号】W WO2021216290
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】16/857,382
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.Mathworks
(71)【出願人】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ルール
【テーマコード(参考)】
5D005
5D061
【Fターム(参考)】
5D005BA00
5D061FF02
(57)【要約】
ANRヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号が受信される。第1の入力信号の周波数領域表現は、ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのためにパラメータのセットが生成されることに基づいて、離散周波数のセットについて計算され、パラメータのセットは、ANR信号伝達経路のループゲインが目標ループゲインと実質的に一致するようなものである。パラメータのセットを生成することは、周波数(例えば、200Hz~5kHzにわたる)でデジタルフィルタの応答を調整することを含む。デジタルフィルタの少なくとも3つの二次セクションの応答が調整される。生成されたパラメータのセットを使用して、ANR信号伝達経路内の第2の入力信号を処理して、ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
アクティブノイズリダクション(ANR)ヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号を受信することと、
1つ以上の処理デバイスによって、離散周波数のセットについての前記第1の入力信号の周波数領域表現を計算することと、
前記1つ以上の処理デバイスによって、前記入力信号の前記周波数領域表現に基づいて、前記ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのパラメータのセットを生成することであって、前記パラメータのセットが、前記ANR信号伝達経路のループゲインが目標ループゲインと実質的に一致するようなものであり、前記パラメータのセットを生成することが、
少なくとも約200Hz~約5kHzの周波数にわたる周波数に前記デジタルフィルタの応答を調整すること、及び
前記デジタルフィルタの少なくとも3つの二次セクションの応答を調整することを含む、生成することと、
生成された前記パラメータのセットを使用して、前記ANR信号伝達経路内の第2の入力信号を処理して、前記ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の入力信号が、ユーザごとに異なる特性を含み、前記第2の入力信号が、前記第1の入力信号と比較して、ユーザごとの違いが低減された特性を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のセンサが、前記ANRヘッドホンのフィードバックマイクロホンを含み、前記ANR信号伝達経路が、前記フィードバックマイクロホンと前記電気音響変換器との間に配設されたフィードバック経路を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フィードバック経路が正のループゲインを有する周波数範囲の大部分について、複数のユーザにわたって測定されるフィードバック挿入ゲインのばらつきが、前記複数のユーザについて前記電気音響変換器と前記フィードバックマイクロホンとの間の応答によって測定される、前記ANRヘッドホンの物理的音響の応答のばらつきよりも小さい、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フィードバック挿入ゲインの前記ばらつきが、前記フィードバック経路が正のループゲインを有する前記周波数範囲の大部分の前記ANRヘッドホンの前記物理的音響の前記応答の前記ばらつきより少なくとも10%小さい、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
複数のユーザにわたって測定される平均フィードバック挿入ゲインが、約1.5kHz以上の高周波数クロスオーバーを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記パラメータのセットを生成することが、
前記デジタルフィルタのパラメータの公称セットにアクセスすることと、
前記第1の入力信号の前記周波数領域表現に基づいて、補正パラメータのセットを決定することと、
前記パラメータの公称セットと、前記補正パラメータのセットにおける対応するパラメータとの組み合わせとして前記パラメータのセットを生成することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記パラメータの公称セットが、複数の耳応答を含む訓練データに基づいて計算される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記パラメータの公称セットが、対応する耳応答について前記パラメータを生成するように構成された最適化プロセスを実行することによって生成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記補正パラメータのセットを決定することが、
前記デジタルフィルタの前記パラメータの公称セットのループゲインを計算することと、
対応する目標ループゲインからの異なる周波数での前記ループゲインの偏差を含むエラーベクトルを生成することと、
前記訓練データの統計に基づいて、前記最適化プロセスの前記出力として前記補正パラメータのセットを生成することと、を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ANRがアクティブである場合の前記ANRヘッドホンの総挿入ゲインが、約1~2kHzの周波数範囲で-30dB未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複数のユーザにわたって測定される平均アクティブ挿入ゲインが、約2.2kHz以上の高周波数クロスオーバーを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記パラメータのセットが、前記第1の入力信号を受信する1秒以内に生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ユーザを識別又は認証するために、生成された前記パラメータのセットを記憶することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の入力信号が、前記ANRヘッドホンの電気音響変換器を介してオーディオ信号を送達することに応答して捕捉され、前記オーディオ信号が、前記離散周波数のセットにおける複数の周波数のエネルギーを含む広帯域信号を含み、
前記第1の入力信号の前記周波数領域表現が、前記オーディオ信号に対する耳の応答を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記オーディオ信号が、約45Hz~16kHzの所定の周波数を中心とする10以上のトーンを含むスペクトルを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記所定の周波数が、1/4オクターブ以下の間隔を有する、1kHzを超える複数の周波数を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記オーディオ信号が、前記ANRヘッドホンがユーザの耳内、耳上、又は耳の周囲に位置付けられたことを検出することに応答して、自動的に送達される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記オーディオ信号が、前記ANR信号伝達経路内の振動を検出することに応答して、自動的に送達される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上のセンサが、前記ANRヘッドホンのフィードフォワードマイクロホンと、前記ANRヘッドホンのフィードバックマイクロホンと、を備え、
前記第1の入力信号が、フィードバックマイクロホン信号とフィードフォワードマイクロホン信号との比を含み、
前記ANR信号伝達経路が、前記フィードフォワードマイクロホンと前記電気音響変換器との間に配設されたフィードフォワード経路を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記フィードフォワードマイクロホン信号が、前記ANRヘッドホンの近傍の周囲ノイズが閾値を超えると決定することに応答して捕捉される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記フィードバックマイクロホン信号が、前記ANRヘッドホンの電気音響変換器を介してオーディオ信号を送達することに応答して捕捉され、前記オーディオ信号が、前記離散周波数のセットにおける複数の周波数のエネルギーを含む広帯域信号を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記フィードフォワードマイクロホン信号が、前記ANRヘッドホンの近傍の周囲ノイズが閾値を超えていると決定し、かつ(i)前記電気音響変換器を介して再生されているオーディオ信号の欠如、及び(ii)ユーザ会話の欠如を検出することに応答して捕捉される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記フィードフォワードマイクロホン信号及び前記フィードバックマイクロホン信号の一方又は両方が、複数の時間間隔の各々で繰り返し捕捉される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
着用者の耳に対する前記ANRヘッドホンの密閉の質を測定し、前記密閉の質が所定の閾値未満であるときに前記目標ループゲインを低減することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
方法であって、
アクティブノイズリダクション(ANR)ヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号を受信することと、
1つ以上の処理デバイスによって、前記第1の入力信号の周波数領域表現を計算することと、
前記1つ以上の処理デバイスによって、前記入力信号の前記周波数領域表現に基づいて、前記ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのパラメータのセットを生成することであって、前記パラメータのセットが、前記ANR信号伝達経路のループゲインが目標ループゲインと実質的に一致するようなものであり、生成された前記パラメータのセットが、
離散周波数のセットの第1の周波数に関連付けられた第1のパラメータであって、前記第1の周波数が、前記ANR信号伝達経路に関連付けられたループゲインの大きさが1に等しい高エンドゲインクロスオーバー周波数よりも小さい、第1のパラメータ、及び
前記離散周波数のセットの第2の周波数に関連付けられた第2のパラメータであって、前記第2の周波数が、前記高エンドゲインクロスオーバー周波数よりも大きい、第2のパラメータを含む、生成することと、
生成された前記パラメータのセットを使用して、前記ANR信号伝達経路内の第2の入力信号を処理して、前記ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成することと、を含む、方法。
【請求項27】
前記高エンドゲインクロスオーバー周波数が、1kHz超である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許第10,937,410号として発行された、2020年4月24日に出願された「MANAGING CHARACTERISTICS OF ACTIVE NOISE REDUCTION」という名称の米国特許出願第16/857,382号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、アクティブノイズリダクションの特性を管理することに関する。
【背景技術】
【0003】
別個の(例えば、左側及び右側の)無線又は有線のイヤバッド若しくはヘッドホン又は他のウェアラブルデバイスのイヤピースなどの、ユーザによって着用されるように構成されたイヤホン又は他のオーディオ又はマルチメディアデバイスのイヤピースは、耳の中、上、又は周囲に着用されたときにイヤピースがどれだけ良くフィットするか、並びにイヤホンによって結合される着用者の耳の音響特性の両方に依存する仮定音響状況に基づいて構成された回路を含み得る。例えば、アクティブノイズリダクション(active noise reduction、ANR)を使用するイヤホンの場合、特定のフィット及び個々の耳に関連する実際の音響状況は、ANRを提供するために使用されるフィードバックループの一部である。任意の特定のユーザが任意の所与の時間に経験し得る任意のフィットに対して、フィードバックループが安定していることを確実にするために、ひいてはフィードバック不安定性関連アーチファクトを回避するために、その頑強な安定性を達成するためにノイズリダクション性能を犠牲にするトレードオフが行われ得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの態様では、概して、方法は、アクティブノイズリダクション(ANR)ヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号を受信することと、1つ以上の処理デバイスによって、離散周波数のセットについての第1の入力信号の周波数領域表現を計算することと、1つ以上の処理デバイスによって、入力信号の周波数領域表現に基づいて、ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのパラメータのセットを生成することであって、パラメータのセットが、ANR信号伝達経路のループゲインが目標ループゲインと実質的に一致するようなものであり、パラメータのセットを生成することが、少なくとも約200Hz~約5kHzの周波数にわたる周波数にデジタルフィルタの応答を調整すること、及びデジタルフィルタの少なくとも3つの二次セクションの応答を調整することを含む、生成することと、生成されたパラメータのセットを使用して、ANR信号伝達経路内の第2の入力信号を処理して、ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成することと、を含む。
【0005】
態様は、下記の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。
【0006】
第1の入力信号は、ユーザごとに異なる特性を含み、第2の入力信号が、第1の入力信号と比較して、ユーザごとの違いが低減された特性を含む。
【0007】
1つ以上のセンサは、ANRヘッドホンのフィードバックマイクロホンを含み、ANR信号伝達経路が、フィードバックマイクロホンと電気音響変換器との間に配設されたフィードバック経路を含む。
【0008】
フィードバック経路が正のループゲインを有する周波数範囲の大部分について、複数のユーザにわたって測定されるフィードバック挿入ゲインのばらつきが、複数のユーザについて電気音響変換器とフィードバックマイクロホンとの間の応答によって測定される、ANRヘッドホンの物理的音響の応答のばらつきよりも小さい。
【0009】
フィードバック挿入ゲインのばらつきが、フィードバック経路が正のループゲインを有する周波数範囲の大部分のANRヘッドホンの物理的音響の応答のばらつきより少なくとも10%小さい。
【0010】
複数のユーザにわたって測定される平均フィードバック挿入ゲインが、約1.5kHz以上の高周波数クロスオーバーを有する。
【0011】
パラメータのセットを生成することは、デジタルフィルタのパラメータの公称セットにアクセスし、第1の入力信号の周波数領域表現に基づいて、補正パラメータのセットを決定し、補正パラメータのセットにおけるパラメータの公称セットと対応するパラメータとの組み合わせとしてパラメータのセットを生成することを含む。
【0012】
パラメータの公称セットが、複数の耳応答を含む訓練データに基づいて計算される。
【0013】
パラメータの公称セットが、対応する耳応答についてパラメータを生成するように構成された最適化プロセスを実行することによって生成される。
【0014】
補正パラメータのセットを決定することは、デジタルフィルタのパラメータの公称セットのループゲインを計算することと、対応する目標ループゲインからの異なる周波数でのループゲインの偏差を含むエラーベクトルを生成することと、訓練データの統計に基づいて、最適化プロセスの出力として補正パラメータのセットを生成することと、を含む。
【0015】
ANRがアクティブである場合のANRヘッドホンの総挿入ゲインは約1~2kHzの周波数範囲で-30dB未満である。
【0016】
複数のユーザにわたって測定される平均アクティブフィードバック挿入ゲインが、約2.2kHz以上の高周波数クロスオーバーを有する。
【0017】
パラメータのセットが、第1の入力信号を受信する1秒以内に生成される。
【0018】
この方法は、ユーザを識別又は認証するために、生成されたパラメータのセットを記憶することを更に含む。
【0019】
第1の入力信号が、ANRヘッドホンの電気音響変換器を介してオーディオ信号を送達することに応答して捕捉され、オーディオ信号が、離散周波数のセットにおける複数の周波数のエネルギーを含む広帯域信号を含み、第1の入力信号の周波数領域表現が、オーディオ信号に対する耳の応答を示す。
【0020】
オーディオ信号が、約45Hz~16kHzの所定の周波数を中心とする10以上のトーンを含むスペクトルを有する。
【0021】
所定の周波数が、1/4オクターブ以下の間隔を有する、1kHzを超える複数の周波数を含む。
【0022】
オーディオ信号が、ANRヘッドホンがユーザの耳内、耳上、又は耳の周囲に位置付けられたことを検出することに応答して、自動的に送達される。
【0023】
オーディオ信号が、ANR信号伝達経路内の振動を検出することに応答して、自動的に送達される。
【0024】
1つ以上のセンサは、ANRヘッドホンのフィードフォワードマイクロホン及びANRヘッドホンのフィードバックマイクロホンを含み、第1の入力信号は、フィードバックマイクロホン信号とフィードフォワードマイクロホン信号との比を含み、ANR信号伝達経路は、フィードフォワードマイクロホンと電気音響変換器との間に配設されたフィードフォワード経路を含む。
【0025】
フィードフォワードマイクロホン信号が、ANRヘッドホンの近傍の周囲ノイズが閾値を超えると決定することに応答して捕捉される。
【0026】
フィードバックマイクロホン信号は、ANRヘッドホンの電気音響変換器を介してオーディオ信号を送達することに応答して捕捉され、オーディオ信号が、離散周波数のセットにおける複数の周波数のエネルギーを含む広帯域信号を含む。
【0027】
フィードフォワードマイクロホン信号が、ANRヘッドホンの近傍の周囲ノイズが閾値を超えていると決定し、かつ(i)電気音響変換器を介して再生されているオーディオ信号の欠如、及び(ii)ユーザ会話の欠如を検出することに応答して捕捉される。
【0028】
フィードフォワードマイクロホン信号及びフィードバックマイクロホン信号の一方又は両方が、複数の時間間隔の各々で繰り返し捕捉される。
【0029】
方法が、更に、着用者の耳に対するANRヘッドホンの密閉の質を測定し、密閉の質が所定の閾値未満であるときに目標ループゲインを低減することと、を含み得る。
【0030】
別の態様では、概して、方法は、アクティブノイズリダクション(ANR)ヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号を受信することと、1つ以上の処理デバイスによって、第1の入力信号の周波数領域表現を計算することと、1つ以上の処理デバイスによって、入力信号の周波数領域表現に基づいて、ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのパラメータのセットを生成することであって、パラメータのセットが、ANR信号伝達経路のループゲインが目標ループゲインと実質的に一致するようなものであり、生成されたパラメータのセットが、離散周波数のセットの第1の周波数に関連付けられた第1のパラメータであって、第1の周波数が、ANR信号伝達経路に関連付けられたループゲインの大きさが1に等しい高エンドゲインクロスオーバー周波数より小さい、第1のパラメータ、及び離散周波数のセットの第2の周波数に関連付けられた第2のパラメータであって、第2の周波数が、高エンドゲインクロスオーバー周波数よりも大きい、第2のパラメータを含み、生成されたパラメータのセットを使用して、ANR信号伝達経路内の第2の入力信号を処理して、ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成することと、を含む。
【0031】
いくつかの実装態様における高エンドゲインクロスオーバー周波数は、1kHz超である。
【0032】
別の態様では、一般に、方法は、アクティブノイズリダクション(ANR)ヘッドホンのイヤピースが、耳の中、上、又はその周りに位置付けられたことを感知することに応答して、(i)ANRヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号を受信することと、(ii)1つ以上の処理デバイスによって、離散周波数のセットについての第1の入力信号の周波数領域表現を計算することと、(iii)1つ以上の処理デバイスによって、入力信号の周波数領域表現に基づいて、ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのパラメータのセットを生成することと、(iv)生成されたパラメータのセットを使用してANR信号伝達経路における第2の入力信号を処理して、ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成することと、を含む。
【0033】
態様は、下記の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。
【0034】
第1の入力信号が、ANRヘッドホンの電気音響変換器を介してオーディオ信号を送達することに応答して捕捉され、オーディオ信号が、離散周波数のセットにおける複数の周波数のエネルギーを含む広帯域信号を含み、第1の入力信号の周波数領域表現が、オーディオ信号に対する耳の応答を示す。
【0035】
オーディオ信号が、約45Hz~16kHzの所定の周波数を中心とする10以上のトーンを含むスペクトルを有する。
【0036】
所定の周波数は、50Hz未満の少なくとも1つの周波数及び15kHzを超える少なくとも1つの周波数を含む。
【0037】
所定の周波数が、1/4オクターブ以下の間隔を有する、1kHzを超える複数の周波数を含む。
【0038】
オーディオ信号が、ANRヘッドホンがユーザの耳内、耳上、又は耳の周囲に位置付けられたことを感知することに応答して、自動的に送達される。
【0039】
1つ以上のセンサは、ANRヘッドホンのフィードバックマイクロホンを含み、ANR信号伝達経路が、フィードバックマイクロホンと電気音響変換器との間に配設されたフィードバック経路を含む。
【0040】
パラメータのセットを生成することは、デジタルフィルタのパラメータの公称セットにアクセスし、第1の入力信号の周波数領域表現に基づいて、補正パラメータのセットを決定し、補正パラメータのセットにおけるパラメータの公称セットと対応するパラメータとの組み合わせとしてパラメータのセットを生成することを含む。
【0041】
パラメータの公称セットが、複数の耳応答を含む訓練データに基づいて計算される。
【0042】
パラメータの公称セットが、対応する耳応答についてパラメータを生成するように構成された最適化プロセスを実行することによって生成される。
【0043】
補正パラメータのセットを決定することは、デジタルフィルタのパラメータの公称セットのループゲインを計算することと、対応する目標ループゲインからの異なる周波数でのループゲインの偏差を含むエラーベクトルを生成することと、訓練データの統計に基づいて、最適化プロセスの出力として補正パラメータのセットを生成することと、を含む。
【0044】
この方法は、ユーザを識別又は認証するために、生成されたパラメータのセットを記憶することを更に含む。
【0045】
パラメータセットを生成することは、約200Hz~約5kHzの間の少なくとも周波数にわたる周波数でデジタルフィルタの応答を調整することと、デジタルフィルタの少なくとも3つの二次セクションの応答を調整することと、を含む。
【0046】
別の態様では、一般に、方法は、所定の閾値を超えるアクティブノイズリダクション(ANR)ヘッドホンの近傍の周囲ノイズレベルを感知することに応答して、(i)ANRヘッドホンに関連付けられた1つ以上のセンサによって捕捉された第1の入力信号を受信することと、(ii)1つ以上の処理デバイスによって、離散周波数のセットについての第1の入力信号の周波数領域表現を計算することと、(iii)1つ以上の処理デバイスによって、入力信号の周波数領域表現に基づいて、ANRヘッドホンのANR信号伝達経路に配設されたデジタルフィルタのパラメータのセットを生成することと、(iv)生成されたパラメータのセットを使用してANR信号伝達経路における第2の入力信号を処理して、ANRヘッドホンの電気音響変換器を駆動するための出力信号を生成することと、を含む。
【0047】
態様は、下記の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。
【0048】
1つ以上のセンサは、ANRヘッドホンのフィードフォワードマイクロホンを含み、ANR信号伝達経路が、フィードフォワードマイクロホンと電気音響変換器との間に配設されたフィードフォワード経路を含む。
【0049】
1つ以上のセンサは、ANRヘッドホンのフィードバックマイクロホンを更に含み、第1の入力信号は、フィードバックマイクロホン信号とフィードフォワードマイクロホン信号との比を含む。
【0050】
フィードバックマイクロホン信号は、ANRヘッドホンの電気音響変換器を介してオーディオ信号を送達することに応答して捕捉され、オーディオ信号が、離散周波数のセットにおける複数の周波数のエネルギーを含む広帯域信号を含む。
【0051】
フィードフォワードマイクロホン信号及びフィードバックマイクロホン信号の一方又は両方が、複数の時間間隔の各々で繰り返し捕捉される。
【0052】
パラメータのセットを生成することは、デジタルフィルタのパラメータの公称セットにアクセスし、第1の入力信号の周波数領域表現に基づいて、補正パラメータのセットを決定し、補正パラメータのセットにおけるパラメータの公称セットと対応するパラメータとの組み合わせとしてパラメータのセットを生成することを含む。
【0053】
パラメータの公称セットが、複数の耳応答を含む訓練データに基づいて計算される。
【0054】
パラメータの公称セットが、対応する耳応答についてパラメータを生成するように構成された最適化プロセスを実行することによって生成される。
【0055】
補正パラメータのセットを決定することは、デジタルフィルタのパラメータの公称セットのループゲインを計算することと、対応する目標ループゲインからの異なる周波数でのループゲインの偏差を含むエラーベクトルを生成することと、訓練データの統計に基づいて、最適化プロセスの出力として補正パラメータのセットを生成することと、を含む。
【0056】
この方法は、ユーザを識別又は認証するために、生成されたパラメータのセットを記憶することを更に含む。
【0057】
パラメータセットを生成することは、少なくとも約200Hz~約5kHzの間の周波数にわたる周波数でデジタルフィルタの応答を調整することと、デジタルフィルタの少なくとも3つの二次セクションの応答を調整することと、を含む。
【0058】
態様は、下記の利点のうちの1つ以上を有することができる。
【0059】
ANR回路用のコンペンセータをカスタマイズするためのシステム及び手順は、ユーザの特定の音響状況を特徴付ける耳周波数応答を使用し得る(例えば、イヤピースがユーザの耳の中、上、又は周囲に配置されるとき)。ユーザ間の違い(例えば、ユーザの耳道の形状及びイヤホンによって結合された着用者の耳の音響特性)によるばらつき、及び/又はイヤピースの適合は、ANR回路内の1つ以上のフィルタに対して行われる対応するばらつきによって補償することができる。いくつかの実装態様では、カスタマイズ手順は、摂動技術を使用して、計算をより効率的にし得る。摂動技術は、実質的に線形の調整を使用する線形摂動技術を含み得る。他の実装態様では、カスタマイズ手順は、ANR回路のための補償器をカスタマイズするための機械学習又はディープニューラルネットワークなどの他の技術を使用し得る。
【0060】
カスタマイズされたANRの性能の増加に起因して、様々な性能要因が改善され得る。例えば、ANRは、多種多様な耳/フィットのための特定の制約(例えば、制御ループ安定性)を満たす必要がないため、制御ループは、カスタマイズ後に所定の最適化された特徴を有するように設計することができる。以下でより詳細に説明するように、各耳に対して正確に決定することができる特性の一例は、管共鳴である。また、十分な安定性を維持しながら個々の耳にカスタマイズすることによって可能にされるフィードバックループゲイン及び帯域幅の増加により、着用者の声の音の残留閉塞などの聴覚効果が低減され得る。
【0061】
計算の効率及び必要とされ得る最小限の計算リソースのために、カスタマイズ手順を実行するために使用されるカスタマイズモジュールは、比較的コンパクトであり得る。いくつかの実装態様では、カスタマイズモジュールは、イヤピース又は他のウェアラブルオーディオデバイスに組み込まれ得る。カスタマイズモジュールは、別のデバイスへの(例えば、電話又はクラウドインフラストラクチャへの)オンライン接続を必要とせずに、カスタマイズ手順を実行するために必要なコード及びデータを含み得る。例えば、ファームウェア更新を提供するために接続が使用され得るが、接続は、カスタマイズ手順中にアクティブである必要はない場合がある。
【0062】
フィードバック補償器及びフィードフォワード補償器性能を別々にカスタマイズする能力はまた、いくつかの実装態様において有用であり得る。例えば、フィードバック補償器は、ウェアラブルオーディオデバイスがパワーオンにされた直後にカスタマイズされ得る(例えば、イヤピースが着用されたことを検出することに応答して)。フィードフォワード補償器は、環境ノイズを感知するマイクロホンからの信号を使用してフィードフォワードカスタマイズを実行するために適切な環境ノイズレベルがあるかどうかに応じて、同様の時間又は後でカスタマイズされ得る。
【0063】
本開示は、添付の図面と併せて読むと、以下の詳細な説明から最もよく理解される。一般的な慣行によれば、図面の様々な特徴は縮尺通りではないことが強調される。反対に、様々な特徴の寸法は、明確にするために任意に拡大又は縮小される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1A】耳内ヘッドホンのイヤピースの例の図である。
図1B】それぞれ、耳内、耳上、及び耳の周囲ヘッドホンに着用されるイヤピースの図である。
図1C】それぞれ、耳内、耳上、及び耳の周囲ヘッドホンに着用されるイヤピースの図である。
図1D】それぞれ、耳内、耳上、及び耳の周囲ヘッドホンに着用されるイヤピースの図である。
図2】ANR回路を含むシステムの部分のブロック図である。
図3A】例示的な周波数応答の大きさのプロットである。
図3B】例示的な周波数応答の大きさのプロットである。
図3C】それぞれ例示的な周波数応答の大きさ及び位相の標準偏差のプロットである。
図3D】それぞれ例示的な周波数応答の大きさ及び位相の標準偏差のプロットである。
図4A】それぞれフィルタの大きさ及び位相特性のプロットである。
図4B】それぞれフィルタの大きさ及び位相特性のプロットである。
図4C】それぞれ、相対的なフィルタの大きさ及び位相特性のプロットである。
図4D】それぞれ、相対的なフィルタの大きさ及び位相特性のプロットである。
図5A】例示的なフィードバックループ応答の大きさ及び位相のプロットである。
図5B】例示的なフィードバックループ応答の大きさ及び位相のプロットである。
図5C】例示的なフィードバックループ応答の大きさ及び位相のプロットである。
図5D】例示的なフィードバックループ感度のプロットである。
図5E】例示的なフィードバックループ感度のプロットである。
図5F】例示的なフィードバックループ感度のプロットである。
図5G】例示的なフィードバックループ感度のプロットである。
図5H】例示的な挿入ゲイン比較のプロットである。
図5I】例示的な挿入ゲイン比較のプロットである。
図6】例示的な制御手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
音楽又は他の音響信号などの所望の信号を再生するために使用されるイヤピース内の回路のいくつかは、イヤホンが耳にどれだけ良く密閉するか、並びにユーザの外耳道の詳細な形状及び耳及び鼓膜の組織の特性から生じる特定のユーザの耳の音響特性のためにカスタマイズすることができる。例えば、ANR性能は、ユーザに特有の特定のフィルタパラメータを使用するために、ANR回路を構成することによってカスタマイズすることができる。場合によっては、フィルタパラメータは、イヤピース内の又はイヤピースに結合されたメモリに記憶することができる。イヤピース内の構成要素のいくつかは、以下でより詳細に説明するように、カスタマイズ手順において使用される。図1Aを参照すると、カスタマイズされたANR性能を提供するように構成することができる左/右イヤピース100L/100Rの例には、音響ドライバ102L(イヤピース100L内)及び102R(イヤピース100R内)が含まれる。イヤピースはまた、フィードバックマイクロホン104L(イヤピース100L内)及び104R(イヤピース100R内)、及びフィードフォワードマイクロホン106L(イヤピース100L内)及び106R(イヤピース100R内)を含む。音響ドライバ102L/102R及びフィードバックマイクロホン104L/104Rは、それぞれのイヤピース100L/100Rの内側に(破線で示されるように)位置付けられ、これらのトランスデューサの特性、それらの位置、イヤバッド構造の体積及びイヤバッドにおけるポートは、着用者の耳の幾何学的形状及び特性と組み合わさって、イヤピースが着用されたときに形成された内部音響環境を規定する。フィードフォワードマイクロホン106L/106Rは、イヤピースが着用されたときに外部の音響環境に露出されるように、それぞれのイヤピース100L/100Rの外面上に位置付けられる。以下に記載される実施例では、カスタマイズ手順は、単一のイヤピースに関して説明される。いくつかの実装態様では、カスタマイズ手順は、左右のイヤピースの各々に対して独立して実行される。あるいは、他の実装態様では、1つのイヤホンにおいて実行されるカスタマイズ手順の一部又は全部を使用して、ユーザの耳の形状及び/又はユーザの耳の中、上、又は周囲のイヤピースのフィットについて特定の仮定が行われる場合、完全なカスタマイズ手順が他のイヤピースに対して繰り返されることなく他のイヤピースをカスタマイズすることができる。例えば、1つのイヤピースのカスタマイズされたフィルタパラメータのセットは、イヤピース間の有線又は無線通信接続にわたってイヤピース間でフィルタパラメータを伝送することによって、他のイヤホンのデフォルトフィルタパラメータのセットとして使用することができる。
【0066】
図1B図1Dは、それぞれ耳の中、上、又は周囲に位置付けられたイヤピースの例を示す(耳内、耳上、耳の周囲のフィットを提供する)。図1Bを参照すると、イヤピース110は、耳130内に配置されており、可撓性先端112が耳130の耳道113の外側部分内に位置付けられ、耳道113内に実質的に閉じた音響環境を形成している。図1Cを参照すると、イヤピース114が耳130上に配置されており、イヤピース114は、クッション状部分が耳130の耳介に対して保持されるように形成されており、耳道113に通じる実質的に封止された音響環境を形成する。図1Dを参照すると、イヤピース120が耳130の周りに配置され、クッション122が、耳130を取り囲む頭の部分140に対して位置付けられて、耳道113につながる実質的に封止された音響環境を形成する。
【0067】
図2は、耳の中、上、又は周囲に位置付けられたイヤピースに関連するシステムのブロック図表現200を示す。システムは、制御されているシステム(プラントとも呼ばれる)と、カスタマイズされた制御を提供するシステムの一部分とを含み、この部分は、この例では、フィードバックマイクロホン及びフィードフォワードマイクロホンを含むANR回路(プラントセンサとも呼ばれる)を含む。システムはまた、システムへのノイズ入力を提供する外部音響環境にある。この例では、プラントは、「耳」変数eによって表される、耳に伝播する音に対応する。システムは、そこから音が更に外耳道内へ伝播するイヤピースによって形成された、封じ込められた/内部の音響環境に配置されたフィードバックマイクロホンを使用して、この変数に対する近似値を取得することができる。カスタマイズされたフィードバックを使用して制御される耳変数のこのシステム近似は、「システム」変数sによって表される。システムは、イヤピースの外側のどこかに配置されたフィードフォワードマイクロホンを使用して、イヤホンのすぐ外側にある、変数nによって表される、外部音響環境におけるノイズのサンプルを取得することができる。イヤピースの外側の外部環境のこのサンプルは、「外部」変数oによって表される。これらの変数は、圧力などの音波に関連付けられた物理的量を示す定量値を有し得、経時的な異なる値を有する時間依存信号として、又は周波数に対する異なる値を有する周波数依存信号として表され得る。最後に、システムは2つの補償フィルタKfb及びKffを含み、これらの補償フィルタは、変数dによって表される、イヤピース内のホン音響ドライバへの電気信号入力を決定するためにそれぞれフィードバック及びフィードフォワードマイクロから信号を取得する。以下の式のセットは、このシステムにおける様々な変数間の関係のセットを表す。
d=Kfbs+Kff
s=Gsdd+Gsn
e=Gedd+Gen
o=Gon
【0068】
様々な下付き文字を有するGとして表される値は、第2の下付き文字としての入力(n又はd)のいずれかからの、第1の下付き文字としてのマイクロホン(o又はs)又は耳(e)のいずれかに対する伝達関数に対応する。よって、プラント伝達関数は、値Gsdに対応する。いくつかの表現では、伝達関数は、様々な変換(例えば、フーリエ変換、ラプラス変換、離散フーリエ変換、又はZ変換)のいずれかを使用して、時間依存信号(例えば、連続時間信号又は離散時間信号)を表すための様々な定式化のうちのいずれかを使用する周波数依存的複素数値表現として表すことができる。Kとして表される値は補償器に対応し、フィードバック補償器Kfb及びフィードフォワード補償器Kffを含むデジタルフィルタとして実装され得る。フィードバックシステムにとって重要な低遅延様式でデジタル的に実装される場合、そのようなフィルタは一般に、一般的に「双二次」と呼ばれる二次再帰フィルタの組み合わせとして設計される。なぜならば、それらは、Zドメインで表され、単位遅延オペレータであるz-1における2つの二次関数の比であるからである。各双二次は、双二次の周波数応答を特徴づける2つの極及び2つのゼロプラスゲインを決定する5つのパラメータによって指定される。いくつかの実装態様では、追加の補償器を、オーディオイコライザー補償器などの、システム内の様々な場所に含めることができる。これらの補償器のいずれも、本明細書に記載のカスタマイズ技術の一部としてカスタマイズすることができる。
【0069】
これらの式におけるドライバd及びノイズnは、ノイズに対する、フィードバックマイクロホンにおいて測定された、それぞれ耳に提供された音響信号それぞれの比率を表す一対の関係を生成するために排除することができる:
【数1】
【数2】
【0070】
参照として、騒音に対する開耳応答は、以下のように定義することができる:
【数3】
【0071】
システムの総性能は、挿入ゲイン(Insertion Gain、IG)として定義することができ、これは、この実施例では、イヤピースが耳の中、上、又は周囲にありかつANR回路がアクティブ(「アクティブシステム」と呼ばれる)であるときの、ノイズに対する耳における音の比として表され得、これは、
【数4】

【数5】
で割った、開耳応答で割ったもので表される:
【数6】
ここで、受動的な挿入ゲインPIGが、アクティブシステムに対する純粋な受動的応答として定義される:
【数7】
【0072】
これらの例示的な表現は、ノイズがシステムへの入力であると見なすことができるため、ノイズに関する伝達関数として書き込まれている。一般に、拡散フィールドセンスにおける「ノイズ」の尺度は存在しない場合があるが、(例えば、オムニレファレンスマイクロホンで測定されるような)点におけるノイズの尺度が存在し得る。この理由から、IG及びPIGの表現は、システムがそれぞれアクティブモード又は受動モードのいずれかであるとき、イヤピースが耳の中、上、又は周囲に配置される前後に、変数eに対応する、システム内のポイントに位置するマイクロホンにおいて取得されたエネルギー比(位相なし)として評価され得る。例えば、小さなマイクロホンは、eを測定するために外耳道の長さの中間に吊り下げられ得る。
【0073】
これを更に拡張して、様々なノイズ項は、利用可能なマイクロホン間の正規化されたクロススペクトルとして、以下のように表現することができる:
【数8】
これらの定義を使用して、IGについて式に代入して、挿入ゲインの別のよりコンパクトな定義は、次のように表すことができる:
【数9】
ここで、システムの測定された音響及び2つの補償器Kfb及びKffに活性系の総挿入ゲインを関連付ける方程式を有する。この方程式を使用して、1つ以上の耳によって定義されるGsd条件のセットによって定義される所与の条件セットについて最適なフィードバック補償器Kfbを計算することができる。
【0074】
fbの解を与えられると、これらの他のパラメータ及び目標挿入ゲインの観点から、最適なフィードフォワード補償器Kffを解くことも可能である。いくつかの実装態様では、挿入ゲインIGは完全なANRの場合(例えば、最大ノイズキャンセルの場合)0に設定され、挿入ゲインIGは最小ANRの場合1に設定される(例えば、PIG及びFBIGをバイパスすることを含む外側音響環境の最大認識の場合、システムのみのフィードバック部分から挿入ゲインは変化する)。目標IGはまた、周波数とともに変化する、いくつかの所望の応答に設定され得る。異なる補償フィルタは、「ノイズキャンセル」(noise cancellation、nc)状態、又は「認識」(aware、aw)状態、又は0と1との間の挿入ゲイン目標の範囲内の中間状態を達成するように構成することができる。複数のKffフィルタは、イヤホンに格納するか、又はオンザフライで計算することができ、それらの間を切り替えるために、又は並列で動作するいくつかのフィルタを組み合わせるために使用される制御は、結果として得られるIGにおいて望ましい効果を達成する。例は更に、全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第10,096,313号及び同第10,354,640号に記載されている。
【0075】
これらの定義、他の制約、並びにドライバ及びノイズ入力の両方に対する測定された音響応答を考慮して、フィードフォワード及びフィードバック補償器を実現するデジタルフィルタの各々のフィルタパラメータのセットを構成するために、様々な最適化技術を使用することができる。例えば、異なる耳特性を有するユーザの大きなサンプルに対して測定を行い、全てのユーザ、及びユーザの耳の中、上、又は周囲のイヤピースの全てのフィットに使用することができる各補償器のフィルタパラメータの単一セットを決定することができる。そのような固定フィルタ構成のいくつかの実装態様では、フィルタは、平均測定Gsdの周りに設計することができ、全てのユーザにわたって取得されたいくつかの平均レベルの性能を配信することを目的とし、一部のユーザは平均ノイズリダクションよりも良好になり、一部のユーザは平均ノイズリダクションよりも悪い。好ましくは、固定フィルタ構成のいくつかの実装態様では、安定したフィードバック挙動などの追加の条件が、全てのユーザに対して課せられ得、これは、平均のみを設計するときに達成され得る性能よりも低い性能をもたらすワーストケースGsd応答に適応するフィルタをもたらし得る。
【0076】
加えて、イヤホンは、イヤホンの音響設計と着用者の耳の特性との相互作用によって決定されるように、高周波数での変動Gsdを低減するように設計され得る。この減少した変動は、任意のユーザの耳に適した固定されたKfbの設計を簡素化するが、より少ないキャンセルバンド幅ももたらす。全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,792,893号は、耳道とのその閉鎖結合により、(外耳道で測定した場合、数学的モデルではシステム変数e)高キャンセルバンド幅の可能性を音響的に達成するイヤホン設計を記載している。そのようなイヤホンによって完全な性能を可能にするために、個々のユーザの耳に一致するカスタマイズされた補償器フィルタが使用され得る。図示するために、図3Aは、変動を低減するように設計されたノズルを有するより緩く結合されたシステムのための耳のセットにおいて測定されたGsd大きさを示す(このような例示的なシステムは、米国特許第9,792,893号に記載されている)。図3Bは、より密接に結合されたシステムの場合の同等の耳のセットで測定されたGsd大きさを示し、その例は、米国特許第9,792,893号により詳細に記載されており、これは、高電位キャンセルをもたらす。両方の場合において、Gsd応答は、密閉及び耳道体積の耳ごとのばらつきによって引き起こされるより低い周波数でのばらつきをほぼ調整するためにゲイン正規化されている。密接に結合されたイヤホン(図3B)における高周波におけるより大きなばらつきを見ることができる。下の図は、大きさ(図3C)及び位相(図3D)の標準偏差に関してこのばらつきを示す。他のばらつきの尺度も使用され得る。約1.5kHzで始まって、どのように2つのばらつき曲線が実質的に分散するかに留意されたい。この例では、約1kHzのフィードバック電位キャンセルバンド幅を有する緩く結合されたイヤホンは、任意の耳のための固定フィルタでうまく補償することができる。この実施例では、2.5kHzを超えるフィードバック電位キャンセルバンド幅を有する、密接に結合されたイヤホンは、フィードバックループゲインクロスオーバー周波数における及びその近くでの多量のGsdばらつきのため、潜在的なキャンセルバンド幅に近づくフィードバックループバンド幅を有する固定フィルタで補償することができない。このイヤホンの音響電位キャンセルに近づく実際のフィードバックノイズキャンセル性能を実現するために、耳に個別に一致するフィードバック補償フィルタが使用され得る。本開示は、そのようなフィルタカスタマイズを達成するための実用的な技術を説明する。しかしながら、記載された技術もまた、緩く結合されたシステムに適用され得ることに留意されたい。
【0077】
システムは、各ユーザの耳のカスタムフィルタ構成及び/又は各ユーザによる各々の着用(例えば、イヤホンが、ユーザの耳の中、上、又は周囲に配置される)を決定するように設計することができ、各ユーザに対する改善された性能を可能にする。性能及び安定性の制約の全てが満たされることを確実にするために必要とされ得る計算コストでは、実用的な電力制約されたウェアラブルシステムのためのそのようなカスタムフィルタ構成を達成するために、各着用のスクラッチから完全な最適化手順を実行することが困難であり得る。しかし、本文書に記載の技術を使用して、計算は、イヤピースを含むウェアラブルデバイスに組み込むことができるコンピューティングリソースを使用して、各ユーザ及び各着用事象のオンライン手順で実行することができる。
【0078】
オンライン手順では、訓練データの統計に基づいて決定された公称データセットに基づいて、カスタムフィルタパラメータのセットを生成することができる。例えば、フィルタパラメータの公称セットを含む公称データセットは、複数の耳周波数応答(各対象耳についてGsd、Ged、Nso及びNeo)及び対応するフィルタ周波数応答(Kfb及びKff)を含む訓練データに基づいて計算され得る。様々な技術のいずれかを使用して、フィルタパラメータの公称セットを計算することができる。ここで、公称データセットを生成するために実行され得る分析の例を説明する。オフライン手順を使用して、個々の耳のためのカスタム補償器を生成し、いくつかの最適化方法のいずれかを使用してその耳にフィットすることができる。オフライン手順は、オンライン手順ほど迅速である必要はない場合がある。オフライン手順は、入力として単一の着用に対応する応答をとり、その着用のみで使用するための補償器のフィルタパラメータの単一セットを生成し得、イヤホンの音響特性(潜在的なキャンセル、容積変位など)、並びにIG又はFBIGのシステム性能目標及び安定性の考慮事項に関連する特定の所定の設計制約を満たす。このようにして、多数の着用事象を入力として取得し、使用して、利用することができるいくつかの基礎をなす構造を明らかにし得る、訓練データとして多数の適合補償器を生成することができる。使用される最適化方法は重要ではなく、システム設計者が所与の着用(個々の耳の音響状態)の補償フィルタの最良の選択を与えることを選択しただけである。
【0079】
訓練データは、測定伝達関数及び正規化されたクロススペクトルの形態の実耳応答データを含み得る。例えば、実耳応答データは、マイクロホンによって記録された時間領域信号の入力フーリエ変換と出力フーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform、FFT))との比として定義され得る。実耳応答データの結果は、複雑な数のベクトルの形態で記憶され得る。この表現では、プラントの特性に関連する基礎となる物理的モデル-この例では、ユーザの耳の特徴(ユーザの耳道のサイズ及び形状の影響を受ける)及びイヤピースの組み合わせ-がなく、周波数応答の特定の輪郭を有する。しかし、ドライバ設計、マイクロホン応答、ポート設計、耳道の幾何学形状、及びフィットの質などの、考慮され、これらの応答に影響を与えることができるデータのいくつかの特性が存在し得る。これらの特性のいずれも、ドライバ対システムマイクロホン応答Gsdに影響を与える場合があり、これらの特性は、周波数応答において識別可能な特徴を生成し得る。
【0080】
様々なプラントパラメータは、極などの実耳応答データ内で、応答データに適合するゼロで識別することができ、これらのパラメータは、周波数にわたってプロットされたときにクラスタ化し得る。同様に、個々の着用ごとの補償器双二次に対応する極及びゼロはばらつきかつクラスタ化し、特により高い周波数では、プラントパラメータ及び補償器パラメータは、ほぼ逆の関係を示し得る。例えば、プラントゼロ及び補償器極を整列させ得、プラント極及び補償器ゼロを整列させ得る。これは、フィードバック制御設計の高レベルの目標が、所望のループ応答に成形するプロセスにおいてプラント動態を反転させることであるため、制御設計の観点から理解することができる。したがって、訓練データは、測定されたプラント応答に基づいて補償器パラメータを処方する機会を提供する。
【0081】
本明細書に記載の実装態様のいくつかは、プラント力学に対するフィードバック補償器応答のこの一致を達成するために、摂動分析を使用する。摂動分析は、非線形の調整方程式のセットを取る線形化技術であり、既知の解決策から小さな線形ステップ又は摂動を行うことによって、既知の非線形解近くの解を見出すことができると仮定する。この例では、プラントモデル及び整合補償器が存在し、これらの両方は、非線形の合理的機能の積としてモデル化され得、それは、フィードバックシステムのループゲインを定義するこれらの2つの関数の積である。
【0082】
理論に拘束されることを意図するものではないが、摂動分析の以下の実施例は、関心のある関数が公称解と小さな付加偏差(0に近い項について、Δによって示される)として書き込まれ得ると仮定することによって開始する。この場合、Gsd及びKfbについて以下の仮定を行う:
【数10】
【数11】
式中、上線の項(例えば、
【数12】
)は公称解を表し、及びデルタ項(例えば、ΔGsd及びΔKfb)は、その公称解からの小さな偏差を表す。これから、ループゲイン(複合ループ応答)LGを以下のように定義することができる:
【数13】
【0083】

【数14】
は公称ループゲインに対応し、ここで、
【数15】
である。項
【数16】
は異なる耳/着用の間のばらつきによるループゲインの偏差への寄与に対応する。項
【数17】
はフィードバック補償器のカスタマイズによるループゲインの偏差への寄与に対応する。項ΔGsdΔKfbは2つの小さな項の積であるため、無視することができる。このように拡張された項では、任意の特定のフィットのループゲインが、個々のドライバのマイクロホン応答における小さな変動に起因して公称から逸脱することを示唆している。ΔGsdまた、補償器に小さな変化を伴うループゲインを変更することも可能である。ΔKfbしたがって、いくつかの実装態様では、以下の条件を課すことができる:
【数18】
これは、公称パラメータと摂動パラメータとの間の以下の関係を残す。
【数19】
【0084】
以下は、フィードバック補償器のカスタマイズのために、上記の方程式を満たす例を含む、小さな線形変化の仮定と一致するシステムパラメータ化の例である。
【0085】
線形摂動に関して表される上記の例は、小さい線形偏差を有する2つの公称関数の積に基づく。摂動分析の代替表現は、多重化偏差を使用して、摂動に関して表すことができる。例えば、マイクロホン応答に対する測定されたドライバGsdは、乗法偏差(1に近い項について、δによって示される)を使用して、適合特異的デルタ係数とカスケード接続された公称応答として表され得る。
【数20】
【0086】
ループゲインが公称補償器を使用して測定される場合、測定されたループゲインは:
【数21】
【0087】
測定されたループゲインと公称ループゲインとの間の偏差は、LG|measを以下の公称ループゲインによって割ることによって表され得る:
【数22】
この時点で、測定されたループゲインは目標からのみ逸脱する。なぜならば、この特定のイヤホン着用についてのGsdが公称から逸脱するGsdから実質的に同じ量だけ逸脱するからである。次いで、目標は、最終ループゲインデルタが単一であるように補償器を調整することによって、ループゲインを公称目標に駆動することであり得る。これは、以下のように、補償器を乗法的な伝達関数調整δKfbで調整することによって達成することができる:
【数23】
これにより、
【数24】
又は、対数空間にある量で動作する場合
【数25】
及び乗法偏差は
【数26】
に従って追加的な偏差として表すことができ、この関係は、次のように表すことができる:
【数27】
【0088】
したがって、カスタマイズされた補償器の偏差(又は補正)は、実耳応答変動によって導入される偏差を実質的に反転する(又は差し引く)ことができる。公称補償器は、例えば、比較的低い順位のフィルタ(例えば、約4~7の双二次ステージを使用する)として実装され得る。カスタマイズされた補償器Kfbは、公称補償器
【数28】
から調整することができ、その伝達関数の変化が、プラント応答Gsdの変化を反転させるようになっている。以下の実施例は、これらの調整を計算するために使用され得る線形摂動技術を示す。
【0089】
この実施例は、フル補償器フィルタを形成するために一緒にカスケード接続される(例えば、直列に乗算される)N個の双二次ステージの極及びゼロを特徴づけるパラメータを定義することによって、補償器をパラメータ化する。N双二次フィルタ(標識BQ1~BQN)の各々は、極周波数に関連付けられた2つの極(例えば、複雑な対の極)、及びゼロ周波数Zfに関連付けられた2つのゼロによって特徴付けられる。フィルタは、これらの周波数間の比、
【数29】
及び中心周波数fによって特徴付けることができる。また、フィルタ形状を特徴付けるQ因子:極因子QP及びゼロQ-因子Zもある。そのため、各双二次フィルタは、異なるパラメータセットBQi(i=1~Nの場合)によって特徴付けることができ、ここで、
【数30】
以下の発現は、N双二次フィルタのそれぞれのためのパラメータの一連のセットから形成されたパラメータベクトルを表す:
【数31】
【0090】
他の実装態様では、所与の双二次フィルタを特徴付けるパラメータは、異なり得る。例えば、上記の4つのパラメータの代わりに、選択されたパラメータは、それらの関連付けられたQ係数とともに極及びゼロ周波数自体であり得るか、又はそれらは、双二次をデジタル的に実施する際に直接使用される二次係数、並びに他の可能性であり得る。それぞれ独自の周波数応答特定パラメータを有する、双二次以外の他のフィルタ表現も使用され得る。
【0091】
公称パラメータベクトル
【数32】
を考慮すると、公称補償器
【数33】
を生成し、量ΔΓによってそれぞれのパラメータを数値的に摂動を与えることができ、補償器応答の結果として生じる変化を計算する:
【数34】
【0092】
カスタム補償器及び公称補償器は、それぞれ、摂動パラメータベクトル及び公称補償器の関数を計算することができる。
【数35】
【数36】
【0093】
ここで、2つの補償器を有し、その各々は、基礎となるパラメータ化において、ΔΓによって定義される僅かな差のみを有する実現可能なフィルタを表す。これらのわずかな違いは重要である。なぜならば、Gsdにおける耳ごとの変化を修正するために必要とされるからである。図4A図4Dは、単一のパラメータを変化させることによって単一の双二次フィルタ段階を有する補償器に作製され得る変化を示し、この実施例では、中心周波数fcである。図4Aを参照すると、公称補償器の絶対的な大きさ(対数空間)の形状400が示されており、中心周波数が低減又は増加するにつれて、いずれかの側に示されるフィルタ形状への変化が示されている。図4Bを参照すると、公称補償器の位相(対数空間)の形状402が示されており、中心周波数が低減又は増加するにつれて、いずれかの側に示されるフィルタ形状への変化が示されている。図4C及び図4Dは、それぞれ公称の大きさ及び位相によってこれらの曲線の各々を大きさ及び位相について分割した結果である相対的な大きさ及び位相特性を示す。したがって、平坦な相対的な大きさ応答形状404は、大きさ応答形状400をそれ自体で割ったものに対応し、平坦な相対位相応答406は、位相応答形状402をそれ自体で割ったものに対応する。公称補償器に対する中心周波数を変化させるための相対的な大きさ及び位相応答は、これらの平坦な応答とともに示されている。特定のパラメータ変化の非線形関数である、摂動フィルタのうちのいずれかと公称フィルタとの間の差は、次のように計算することができる。
【数37】
【0094】
前の方程式は、公称からの個々の耳応答の偏差を補償するために使用される補償器の増分変化を決定するための構築物を提供する。しかしながら、構築物を実装するために、周波数応答の所望の変化を関連付けることができ、一般に、フィルタパラメータΔΓへの補正への、大きさ及び位相などの項におけるフーリエ変換の比率として記述され、これは、いくつかのパラメータ化によって、双二次フィルタの極及びゼロ又は係数を指定する。フィルタ応答Kfbに対するフィルタパラメータΓの正確な関係は非線形である。しかしながら、正確な非線形計算の代わりに、イヤピースのANR回路は、この非線形関係に近似するために小さなパラメータ変化について線形化される摂動計算を実行するように構成することができる。例えば、特定のパラメータΔΓの変化に起因して、特定の周波数での補償応答fの変化を計算するために、大きさ及び位相の部分的な導関数のベクトルを使用し得る:
【数38】
カスタマイズプロセスは、フィルタパラメータに対する変化が所与の公称フィルタ応答の大きさ及び位相応答をどのように変化させるかを説明するために、この関係の右側の複雑な応答を評価することを含むことができる。これらの部分的な誘導体は、はるかに精度を犠牲にすることなく分析的に評価することができるが、部分導関数計算の様々な近似値を実装することができる。この例では、単一の補償パラメータに対する補償器応答の部分的な導関数は、一次有限差を介して推定される。
【0095】
全て少量だけ変化するパラメータの数が存在し得る。この線形化を使用して、所与の周波数における大きさの総変化は、パラメータにおける全ての個々の変化の寄与の合計として表すことができ、補償応答の大きさは、対数空間で表現されると想定され、付加偏差間の関係をもたらす。
【数39】
【0096】
相には同様の関係がある。したがって、Nの小さなパラメータ変化のベクトルによる、M周波数点、
【数40】
のベクトルにおける大きさ及び位相の変化を次のように評価することができる:
【数41】
【0097】
これは、マトリックス(「影響マトリックス」と呼ばれる)を使用して大きさ(上部行)及び位相(下部行)を計算するための線形システムの公式化であり、各列は、補償パラメータの全ての小さな変化の、単一周波数での応答への影響を表し、各列は、選択された周波数セットの全てにおける単一のパラメータ変化の影響を表す。この方程式は、以下のようによりコンパクトに表すことができる:
【数42】
【0098】
カスタマイズモジュールをプログラムして、小さな調整を計算する解法を、特定のフィットのための変化をキャンセルする補償器に適用することができ、これは、イヤピースドライバに提供されかつ以下でより詳細に記載されるように耳周波数応答を計算するためのイヤピースマイクロホンによって測定されるカスタマイズオーディオ信号を使用して評価することができる。δKfbのための上記の式(及び対数空間のための
【数43】
)は、理想的な補償器調整がプラント応答変動の逆数として得ることができることを示す。上記の方程式は、以下のように(対数空間配合物を使用して)別個の周波数セットで補償器パラメータと補償応答との間の関係を導出するために使用することができる。
【数44】
【0099】
カスタマイズモジュールは、影響マトリックスを構築するために使用される同じ周波数点
【数45】
のセットでの任意の所与の適合についてΔGsdを評価することができ、これらの全ての周波数点でこの方程式のセットを満たす補償パラメータの変化を解決することができる。これは、影響マトリックスを反転させることによって達成することができ、これは、
【数46】
場合において、ΔGsdにおけるパラメータの数及びΔΓにおける数が異なる場合、反転は、フィルタパラメータの増分変化のための最小二乗最適解決法を提供する擬似逆になる。
【0100】
影響マトリックスを決定することは、その反転と同様に、有意な計算を含む。しかしながら、これは、所与の公称フィードバック補償フィルタに対して1回行われるだけでよく、反転影響マトリックスは、カスタマイズモジュールに記憶される。次いで、カスタマイズモジュールは、耳応答の偏差を測定して、この特定のフィットを単一の行列乗算で目標ループゲイン応答に駆動するために、公称補償器に対する必要な補償器調整を計算することができる。測定された信号のFFTを行うプロセスは、公称からGsdにおける変化を決定し、次いで、そのベクトルに所定の記憶された逆影響マトリックスを乗算することは、効率的である。例えば、ウェアラブル製品における使用に適切なARMコアなどのプロセッサにおいて、1秒未満で達成することができる。
【0101】
図5A図5Gは、約2kHzまでのかなり高い音響電位キャンセルを有するシステムのフィードバックシステムのカスタマイズにおけるこの摂動解決策の結果を示す。図5Aは、イヤホン音響の完全なポテンシャルへのキャンセルを達成するという目標とともに、約2kHzのフィードバックループ高周波数ゲインクロスオーバーを達成するように設計された固定フィードバック補償器Kfbを備えた耳/着用の訓練セットのためのループ応答(ループゲイン及び位相)を示す。しかしながら、ループ応答の位相は、ゲインクロスオーバーで0度に近く、不十分なフィードバック安定性マージンを有するシステムを示すことに留意されたい。図5Bは、各着用についてKfbをカスタマイズするためにシステムを訓練する結果を示す。図5Bの上側の大きさプロットの周波数軸上の円形マークは、影響マトリックスの行を定義する周波数のセットである。ほぼ2kHzループの大きさのクロスオーバーが達成され、各周波数における大きさの変動の範囲が低減され、大きさのクロスオーバーにおける平均位相が約45度であることに留意されたい。これは、大きさ及び位相プロット(ボードプロットとしても知られる)に基づいて、良好な相マージン(良好な安定性)を有するシステムである。図5Cは、良好な安定性マージンを達成するために変更された、すなわちデチューンされた、固定されたKfbを有する同じシステムを示す。しかしながら、Kfbのこのデチューンは性能を犠牲にし、平均振幅クロスオーバーが約900Hzである。したがって、これらの高電位キャンセルイヤホン音響について、固定フィードバック補償器は、特により高い周波数における、耳ごとのGsdばらつきの影響により、達成され得るキャンセルを制限する。
【0102】
図5D図5Fは、この同じシステムの性能を示し、その閉ループ性能の観点から、フィードバックループ感度が、
【数47】
である。
感度は、フィードバックマイクロホンで測定されるフィードバックノイズキャンセル(フィードバック挿入ゲイン)である。十分に高い電位キャンセルを有するシステムでは、耳道で測定されるフィードバック挿入ゲイン(feedback insertion gain、FBIG)を近似する。感度プロットでは、負のデシベル値はキャンセルに対応し、正のデシベル値はノイズの増幅に対応する。10~15dBを超える値は、システムが発振に近づくことを示し得る。図5Dは、図5Aの不良な安定性が固定されたKfbシステムのための感度を示す。これに注目すべきことに、平均感度(点線)は多くの着用(灰色/斑点行)について安定であるが、感度ピークは10~20dB範囲にある。図5Eは、図5Cの良好な安定性が固定されたKfbシステムのための感度を示す。全ての着用について、感度は、5dBを超えてピークしないが、平均感度(破線)は、平均アグレッシブのまだ不十分な安定性のシステム(点線)と比較してキャンセル性能を実質的に放棄し、いくつかの周波数において10dBの違いに近づいていることに留意されたい。最後に、図5Fは、図5BのカスタマイズされたKfbシステムのための感度を示す。安定性が良好であり(グレーの個々の着用曲線はほとんど5dBを超えない)及び平均感度(黒い実線)は、2kHzに近づく感度クロスオーバー周波数を有し、このシステムの潜在的なキャンセルを有し、良好な安定性の固定Kfbシステム(破線)よりも実質的に良い。
【0103】
カスタマイズから生じる高い電位キャンセルイヤホンで可能なフィードバックループバンド幅の増加の1つの利点は、閉塞効果の改善であり、身体に起因する着用者の声の増幅が、遮断された耳道に結合された振動を伝導する。耳道開口部又はその近くで耳道に浅く密閉するイヤホンの場合、閉塞は、約1.5kHz未満の周波数で観察される。フィードバックノイズキャンセルシステムに、身体に発生する閉塞増幅音は、キャンセルされるノイズである。図5C及び図5Eの安定した固定された補償器を有する高電位キャンセルシステムの場合、フィードバックループバンド幅は、900Hzにのみ延在する。これにより、イヤホンを着用している間に発話すると、1人の声の奇数のサウンディング増幅がもたらされる。図5B及び図5Fに示されるカスタマイズにより、フィードバック帯域幅は、1.5kHzを超えて拡張され、着用者の声の音を実質的に改善し、したがって、「認識」状態にあるとき、透明度の感覚を実質的に改善する。
【0104】
固定フィードバック補償器システムの場合、キャンセルバンド内の各周波数での感度の変動(ループゲインが0dBを超える周波数)は、本質的に、Gsd、プラント応答における変化である。これは、Kfbが固定されているとすると、感度のための等式から明らかである。感度は、耳でのフィードバック挿入ゲインに近似するため、本明細書に記載の技術を実装するイヤホンの観察可能な特徴は、プラント音響の変動と比較して、キャンセルバンドにおける感度及びフィードバック挿入ゲインの両方の変動を低減させる。図5Gは、図5A図5Fにおいて、異なるKfb応答を有する、図示されているシステムについてこれを示す。図5Gでは、一点鎖線は、プラント音響についての各周波数における着用に対する標準偏差である。破線は、良好安定性固定Kfbシステムを有する感度の標準偏差である。30~500Hzで、感度の変動が、どのようにプラント応答の変動と実質的に同じであるかに注目すべきである。実線は、カスタマイズされたKfbシステムの標準偏差である。どのようにキャンセルバンドの大部分にわたって、ばらつきが、下にあるプラント音響のものよりも半分又はより良好であるかに注目すべきである。
【0105】
上記の実施例は、フィードバック補償器Kfbのカスタマイズを説明しているが、同様のアプローチを使用して、キャンセルモード又は認識モードのいずれかについて、摂動ベースのカスタマイズされたフィードフォワード補償器Kffを決定することができる。Kfbの関数及びイヤホンのマイクロホン及び主体の外耳道におけるマイクロホンにおいて測定可能な様々な音響応答に関数としてそれを達成するKffについて、上記に与えられたIGのための等式を解くことができ、0(キャンセル)又は1(認識)などの目標IGが与えられる。後者は、訓練データセットを取得する一部として実験室で可能である。結果として生じるKffのための解は、
【数48】
に、システムマイクロホン及びイヤマイクロホン信号に関連するフィードバックシステム及び応答に属する要因を含む項を掛けた積である。後者の項は、訓練データにわたって平均化することができる。したがって、摂動方法が修飾するときにのみ、Kfbの公称応答から、Gsdより一貫した(より低い変動)幅の帯域幅を達成し、フィードバックループ応答をより良好に実行することにより、同じ方法(計算的に強力で厳密なオフラインプロセスを使用して決定された影響マトリックスの擬似逆方向)を使用して、公称応答からKffを修正することができ、
【数49】
におけるばらつきのためにカスタマイズし、より広い帯域幅をもたらし、全挿入利得をより良好に実行する(受動的、フィードバック、及びフィードフォワード組み合わせ)。
【0106】
本明細書に記載の技術を使用してフィードバック補償器をカスタマイズすることは、アクティブ挿入ゲインを生じることができ、図5Hに示すように、フィードバックシステム及びフィードフォワードシステムの両方の効果を組み合わせ、2kHzを十分に超える帯域幅にすることができる。これがカスタマイズフィードフォワード補償器に起因する追加のバンド幅と組み合わされると、図5Hにも示されるように、組み合わされたアクティブ挿入ゲインバンド幅は2kHzを超え得る。アクティブな挿入ゲインのクロスオーバー(キャンセルが0dBである周波数)が、受動的な挿入ゲインがプラトーになる周波数よりも低いアクティブなノイズキャンセルヘッドホンの欠点が、中間周波数での全挿入ゲインに「正孔」をもたらすことがある。カスタマイズに起因する追加のバンド幅により、これはもはや当てはまらない。結果として、図5Iに示されるように、広帯域ノイズ及び伸延ボイスの低減に重要なこれらの中間周波数では、30dBを超える総挿入ゲインが可能である。
【0107】
いくつかの実装態様では、所与の耳/着用のためのフィードフォワードカスタマイズは、その耳/着用のためのフィードバックカスタマイズ後に実行され、その耳/着用に対するフィードバックカスタマイズの結果を使用する。これは、フィードバックカスタマイズがフィードフォワードシステムの基礎としてより一貫したシステムを提供するため、望ましい。あるいは、同じユーザに対する以前の耳/着用に対する以前のフィードバックカスタマイズの結果を、所与の耳/着用に対するフィードフォワードカスタマイズに使用し得る。
【0108】
公称関数及びパラメータ値を含む適切な公称データセットがオフライン設計プロセスを通じて計算された後、公称データセットはイヤピースのメモリ又はイヤピースにアクセス可能なウェアラブルデバイスの別の部分にロードされる。比較的少量のメモリを使用して、公称データセットを記憶することができ、これは、比較的少数の離散周波数で評価された関数及びパラメータ、及び既に反転された影響マトリックスを含み得る。任意選択的に、任意のカスタマイズが発生する前に動作を可能にするために、又はターンオフをカスタマイズする能力を備えて、メモリは、フィードバック及び/又はフィードフォワードフィルタのデフォルトフィルタパラメータを記憶することもでき、これは、公称パラメータとは異なり得る。例えば、公称パラメータは、所与のフィットのための様々な制約(例えば、安定性制約)を満たすことを確実にするように調整されるが、デフォルトパラメータは、ほとんどの場合、性能を犠牲にして、所与のユーザに対して発生し得る様々な潜在的なフィットのうちのいずれかに対するそれらの制約を満たすことを確実にするように選択され得る。
【0109】
図6は、フィードバック補償器、フィードフォワード補償器、又はその両方のカスタマイズのためにカスタマイズ手順が実行される状況を決定するためにカスタマイズモジュールが使用する例示的な制御手順600のフローチャートを示す。イヤピースが電源投入された後(例えば、ウェアラブルデバイスがオンにされるときに)、制御手順600は、イヤピースが耳の中、上、又は周囲にイヤピースが配置されていることを感知することによってイヤピースが着用されていることをカスタマイズモジュールが感知することができる着用感知状態602にあり、それによってフィットが測定される準備が整う。この感知は、例えば、1つ以上のセンサ(例えば、スキンタッチセンサ、近接センサ、光学センサ、モーションセンサ、音響センサ、及び/又は圧力センサ)を使用して実行され得る。制御手順600は、カスタマイズモジュールが、イヤピースドライバを介してカスタマイズオーディオ信号を再生し、ANR回路のフィードバックマイクロホンで感知された応答信号を記録することによって、個々の耳中に配置された個々の耳のイヤホンの音響特性を測定する604ことを可能にし、次いで、フィードバック補償器のカスタマイズをトリガするために使用される。カスタマイズトーンは、各イヤピース(例えば、右及び左イヤピース)で独立して出力され得、トーンの再生は、それが実質的に同時に再生されるように同期され得る。場合によっては、カスタマイズトーンを使用して、カスタマイズを進めるためにユーザがイヤピースと自分の耳との間に十分なフィット又は密閉の質を有することを確認し得る。
【0110】
カスタマイズオーディオ信号は、ウェアラブルデバイスの各イヤピースのオーディオドライバを通して再生される比較的短い確認音として設計することができる。この確認音は、ウェアラブルデバイスのイヤピースが意図されるように着用されていることのユーザに対するインジケータとして機能することができる。イヤピースが着用されたときに形成された音響状況の適切な測定を提供するために、カスタマイズオーディオ信号のスペクトルは、フィードバックカスタマイズ手順によって使用される周波数の所定のセットにおいて十分な量のエネルギーを含むように成形することができ、周波数は、典型的な耳におけるイヤホンの音響特性に基づいて選択された(例えば、共振の周波数及びそれらの最大値及び最小値を特徴付けるために)。ユーザは必ずしも測定が実行されることを認識していないが、ウェアラブルデバイスを着用する経験の通常の部分として、単に確認音を聴き得る。例えば、確認音は、最初の着用及びウェアラブルデバイスへの電力供給時にユーザが聴く「起動」トーンであり得る。
【0111】
カスタマイズオーディオ信号の例では、信号の持続時間は、比較的短い(例えば、2秒未満、又は約10分の1秒~約0.5秒)、信号のスペクトルは、基本周波数を中心とする基本的な低周波数トーンの高調波に対応する周波数を中心とするピークを含むことができる。したがって、この基本周波数は、カスタマイズ手順によって使用される周波数セットの最低周波数に対応するように選択することができる(例えば、46.875Hz)。スペクトルの次のトーンは、高調波(すなわち、基本周波数の整数倍)である周波数を中心とすることができ、それらの間隔は、最初の数の高調波に対してほぼ直線的に増加し、その後、間隔は、より大きなステップによって次第に増加するが、必ずしも単調に増加しない(例えば、周波数93.75Hz、187.5Hz、281.25Hz、375Hz、562.5Hz、750Hz、843.75Hzに対応する2、4、6、8、12、16、18の倍数)。周波数が増加するにつれて、各トーンのエネルギーレベルを低減することができる(例えば、対数の大きさの尺度に対して徐々に減少させる)が、必ずしも単調に減少させない。スペクトルのより高い周波数トーン(例えば、1kHzを超える周波数のトーン)は、基本周波数の近似倍数近くに発生する可能性があるが、より低い周波数ほど正確ではない場合がある。例えば、より高い周波数での緩和された制約により、基本周波数の高周波高調波の正確な値と比較して、トーンの中心周波数の正確な値に対するいくらかの柔軟性があり得る。より高い周波数間のステップはまた、非直線的に(例えば、指数関数的に、又は周波数の対数の関数として)増加することができるが、必ずしも一定の関数ではない(例えば、高周波トーンは、周波数1031.3Hz、1218.8Hz、1500Hz、1781.3Hz、2156.3Hz、2531.3Hz、3000Hz、3562.5Hz、4218.8Hz、5062.5Hz、6000Hz、7125Hz、8531.3Hz、10125Hz、12000Hz、14250Hz、16969Hzを中心とし得る)。いくつかの実装態様では、より高い周波数間に好ましい間隔があり得る(例えば、4分の1オクターブ間隔が使用され得る)。あるいは、より高い周波数では、バンド制限ピンクノイズの低い振幅正弦掃引又はバーストがある。例えば、約1kHzを超える周波数に帯域制限される高周波スペクトル、及び1kHzを超える比較的広帯域(選択された周波数でピークを有する個々のトーンの代わりに)が使用され得る。
【0112】
カスタマイズオーディオ信号は、各イヤピースのドライバを通して再生されているが、各イヤピースのフィードバックマイクロホンは、イヤピースと個々の耳道のサイズ、形状、及び組織特性との組み合わせによって作成された音響特性によって影響を受けたそのカスタマイズオーディオ信号の感知されたバージョンである応答信号を受信するために使用される。各イヤピースについて、その受信された時間ドメイン応答信号のサンプルは、特性の尺度としてメモリに記憶することができる。次に、カスタマイズモジュールは、以下でより詳細に説明するように、測定された実耳応答データを使用して、フィードバックカスタマイズ手順606を実行する。フィードバック補償器がカスタマイズされた後、制御手順600はノイズ感知状態608に入る。カスタマイズモジュールは、フィードフォワードマイクロホンによって感知されたノイズの音レベルを監視して、フィードフォワード補償器のカスタマイズを開始するかどうかを決定する。音レベルが低い(すなわち、所定の閾値よりも低い)場合、制御手順600は、ノイズ感知状態608に留まる。外部音レベルが十分に高くない場合、記録された信号に適切な情報が存在しない場合がある。また、外部音レベルが高くない場合、カスタマイズされたフィードフォワード性能がはるかに必要とされない場合がある。音レベルが高い(すなわち、所定の閾値よりも高い)場合、制御手順600は、カスタマイズモジュールが、ANR回路のフィードフォワードマイクロホンを介して外部音響環境に存在するときに、及びANR回路のフィードバックマイクロホンを介して内部音響環境に存在するときに、ノイズを記録すること610を可能にする。いくつかの例では、外部音レベルが十分に高くなるまで待機することに加えて、フィードフォワード補償器のカスタマイズは、システムがイヤピース内の電気音響変換器を通して再生されるオーディオ信号がないこと、及び/又はユーザが発話していないことをシステムが検出するまで生じない場合がある。カスタマイズモジュールは、そのイヤピースのメモリ内の所与のイヤピースに対して2つの信号の記録されたサンプルを記憶し得る。記録された信号の持続時間は、比較的短く(例えば、1秒未満、又は約0.5秒)、又は測定の質を改善するためにより長い間隔にわたる様々な時間又は周波数ドメイン手段によって平均化され得る。マイクロホンで感知された信号が記録されている間、開ループ測定のために、イヤピースのドライバを通して信号が再生されないか、又は閉ループ測定のために所定の信号がドライバを通して再生される。ノイズ感知を行うときの決定の一部として周囲音レベルを検出することに加えて、ノイズ感知状態608は、追加的に、フィードバックマイクロホン及びフィードフォワードマイクロホンの両方において、場合によってはイヤホンの加速度計においても、信号のレベルをチェックし、イヤホンの着用者が発話しているかどうかを決定し得る。記録610は、着用者が発話しているとき最善に行われない。なぜならば、オクルージョン効果がフィードバックマイクロホンで高レベルの信号を引き起こし、望ましい精度でイヤホンを通じて耳の中へ音Nsoの送信を特徴づけない記録を生じるからである。着用者の発話状態の考慮が必要であるかどうかは、加えて、ノイズレベル、イヤホンの音響設計、及び記録時のフィードバック動作の状態に依存し得る。
【0113】
外部音レベルがフィードフォワード補償器のカスタマイズをトリガするのに十分ではない例では、ユーザは、そうすることができる環境においてノイズを生成するように指示され得る。例えば、ユーザは、電話、ホームスピーカ、携帯型スピーカ、又はホームシアターシステムなどの外部デバイスからオーディオを生成するように指示され得る。オーディオは、フィードフォワード補償器をカスタマイズするのに十分なスペクトルコンテントを有するバックグラウンドノイズを含むことができる。
【0114】
ノイズ信号が記録された後、カスタマイズモジュールは、記録されたノイズ信号を使用してフィードフォワードカスタマイズ計算612を実行する。これはまた、以前に測定及び計算されたフィードバックカスタマイズにおける因数分解を含むこともできる(Gsd及びKfb)。しかしながら、フィードフォワード補償器をカスタマイズするステップは、特定の状況では実行されない場合がある。この例示的な実装態様では、制御手順600は、結果として生じるカスタマイズされたフィードフォワード補償器パラメータと現在ロードされたフィードフォワード補償器パラメータとの間の相対的な変化の尺度が、その尺度を所定の閾値と比較614することによって十分に大きいかどうかを決定するようにチェックする。測定値が閾値を超える場合、制御手順600は、フィードフォワードカスタマイズ計算612の結果を使用して、カスタマイズモジュールがフィードフォワードカスタマイズ手順616を実行することを可能にする。測定値が閾値を超えない場合、制御手順600は、現在使用中のフィードフォワード補償器パラメータを変更しない。これにより、ユーザがANR性能の変化を不必要に経験しないことを確実にする。あるいは、カスタマイズモジュールは、例えば、経時的な及びイヤピースの複数の着用にわたる
【数50】
の別個の測定の形式で、ノイズ記録の結果及び関連するデータを蓄積することができる。次いで、イヤピースは、次に、平均化を含む様々な方法でこれらの統計を分析して、着用者に最良であるKffのデータの日々進歩する推定値を決定することができる。
【0115】
トリガされたフィードフォワードカスタマイズが適用されるかどうかを決定した後、制御手順600は、カスタマイズモジュールが、イヤピースが耳の中、上、又は周囲にもはや配置されていないことを感知することによってイヤピースが除去されたことを感知することができる取り外し感知状態618に入る。この感知は、例えば、1つ以上のセンサ(例えば、スキンタッチセンサ、近接センサ、モーションセンサ、音響センサ、及び/又は圧力センサ)を使用して実行され得る。イヤピースが除去されない場合、制御手順600は、取り外し感知状態618に留まる。イヤピースが取り外されると、制御手順600は、着用感知状態602に戻り、新しいユーザ及び/又は新しいフィットに対して新しいカスタマイズを実行する。場合によっては、ユーザがイヤピースを閾値時間未満だけ、例えば数秒だけ除去する場合、新しいカスタマイズはトリガされない場合がある。フィードフォワードカスタマイズの場合、イヤピースは、イヤピースのユーザが、カスタマイズを自動的にトリガするか、又はユーザにそうするように促すことによってフィードフォワードカスタマイズを改善することができる環境にあるときに、任意選択的に新しいカスタマイズをトリガし得る。
【0116】
この例示的な制御手順600は、フィードバック補償器及び/又はフィードフォワード補償器のカスタマイズを開始するための技術の一例である。1つの代替例では、600に示される手順に従うことができるが、604から生じるGsdを、前の測定において決定された記憶された値と比較するステップが追加され、それが、前に記憶された値(音響「イヤプリント」)と十分に適合する場合、前に決定された補償器フィルタが代わりに使用され得、追加の測定及びフィルタカスタマイズを行う必要性を排除する。第2の代替例では、イヤピースの所有者は、購入後に製品を箱から取り出した後、カスタマイズモジュールによって発行された関連付けられたアプリ又は音声プロンプトによって、そのユーザのための補償器フィルタを取得するために一連の測定を行うように指示され得る。次いで、これらのフィルタは、その後の全ての使用セッションのために保存される。この第2の代替例では、測定の開始は手動でトリガされ得、加えて、「イヤプリント」も使用されて、保存された補償器フィルタの使用をトリガし得る。これらの実施例のいずれにおいても、製品が使用中であり、フィードバックシステムの振動がいくつかの手段によって検出される場合、システムは、非常に迅速にオープンループ動作モードに切り替えられ、測定がトリガされ得る。システムをカスタマイズするための他の代替のシーケンス、並びに上記の代替物の様々な組み合わせが可能である。
【0117】
カスタマイズ手順の異なる実装態様は、フィードバック補償器がカスタマイズされているか、又はフィードフォワード補償器がカスタマイズされているかに応じて、異なるステップ及び/又は異なる計算を実行し得る。
【0118】
いくつかの実装態様では、他の形態の入力を使用して、カスタマイズ手順又は、ANR回路のループゲイン又は他の特性に対する他の調整をトリガすることができる。例えば、フィードバックループの不安定性の開始を検出することに応答して、又は有意な圧力変化を検出することに応答して調整を行うことができ、これはイヤピースのフィットの有意な変化の指標であり得る。別の例として、典型的な又は予想される密閉よりも悪いものが検出された場合、目標ループゲインを低減することができる。
【0119】
カスタマイズ手順の異なる実装態様は、ウェアラブルオーディオデバイスが、耳の中、耳の上、又は耳の周囲に着用されるように構成されたイヤピースを有するかどうかに応じて、異なるステップ及び/又は異なる計算を実行し得る。例えば、耳の上又は耳の周囲のフィットのためのカスタマイズ手順の場合、耳の上又は周囲の不十分なフィットに関連する漏れに起因して、より低い周波数で修飾補償器に配置された比較的多くの焦点があり得、これは主に比較的低い周波数に影響を与え得る。あるいは、耳内フィットのためのカスタマイズ手順の場合、異なる耳道サイズ及び/又は形状への近接結合からの適合変動により、より高い周波数で修飾補償器上に配置された追加の焦点があり得、これは主に比較的高い周波数に影響を与え得る。いくつかの実装態様では、耳内、耳上、又は耳の周囲のフィットのいずれかについて、補償器のカスタマイズは、フィードバックループのゲインクロスオーバー周波数の上下の両方に延在し得る比較的広帯域の周波数範囲(例えば、20Hz~10kHz)にわたって行われ得る。例えば、補償器のカスタマイズは、高エンドゲインクロスオーバー周波数未満の1つ以上の周波数に関連した1つ以上のパラメータを修正し得、ここで、ANR信号経路(すなわち、フィードバック又はフィードフォワード経路)に関連したループゲインの大きさは、ほぼ1に等しく、かつ高エンドゲインクロスオーバー周波数を超える1つ以上の周波数に関連した1つ以上のパラメータを修正し得る。カスタマイズはまた、ゲインクロスオーバー周波数が比較的高くなることを可能にし得、広範囲の周波数にわたって安定したフィードバックループを生じる。例えば、カスタマイズを用いると、低エンドゲインクロスオーバー周波数は、約20Hzであり得、高エンドゲインクロスオーバー周波数は、1kHz超(例えば、約2kHz又は約3kHz)であり得る。カスタマイズすることなく、高エンドゲインクロスオーバー周波数は、多種多様なユーザ及び/又はフィットの安定性を確保するために、約800Hz又は700Hz未満に意図的に限定され得る。
【0120】
いくつかの実装態様では、カスタマイズされている補償器のパラメータの数は比較的大きい。例えば、カスケード結合された双二次フィルタを使用して実装されるフィードバック補償器の場合、3つ、又は4つ、又はそれ以上の双二次フィルタが存在し得、パラメータベクトルにおける12、又は16以上のパラメータにつながり(各双二次フィルタが少なくとも4つのパラメータによって特徴づけられると仮定する)、カスタマイズされたANRのためのカスタマイズの有意なレベルを可能にする。
【0121】
ウェアラブルデバイスはまた、様々な目的のためにカスタマイズ手順から取得されたフィルタパラメータなどのカスタマイズ情報を使用するように構成され得る。例えば、フィードバックフィルタパラメータは、異なるユーザに対して異なると予測され、そのユーザが、特定の形式でイヤピースフィットを有するデバイスを着用する場合特定のユーザに対して比較的一貫しているので、フィードバックフィルタカスタマイズ情報は、ユーザを認識又は認証するために使用することができる。フィードバックフィルタパラメータ、又はプラントの公称からの偏差Gsdは、識別コードとして使用することができるか、又は識別コードを計算又は探索するために使用することができる。単一のイヤピースからの測定値を使用することができるが、同一ではない左右の耳からのパラメータの組み合わせは、この「イヤプリント」の一意性のレベルを増加させる。イヤプリント左/右組み合わせGsd又はフィルタパラメータは、追加的に、例えば、発話するとき又は名前を言うときの着用者の声のフォーマント構造などの他の情報と組み合わせて、ユーザ識別の一意性を更に増加させ得る。特定の識別コードに応答して、ウェアラブルデバイスのオーディオ特性は、(例えば、特定の等化設定のために、又は特定のフィルタを事前にロードするか、又は他のいくつかのモードのヘッドホン動作を変更するために)調整することができる。この識別コードはまた、ユーザがユーザのコンピュータ、サーバなどの他のシステムをロック解除し、ドア及び車両をロック解除するために一意に識別するために、Bluetoothリンクを介してなど、いくつかの手段によって使用することができる。
【0122】
記載されたカスタマイズ手順は、応答測定に加えて、反転(又は擬似反転)された影響マトリックスを保存するのに十分であるため、実施するのに計算的に効率的である。公称フィルタ及び反転された影響マトリックスを決定するための計算はオフラインで行われ、時間がかかる、計算的に強い方法を含むことができる。この方法の代替例が可能である。一代替例では、線形摂動方法によって実行される測定は、製品を箱から取り出すときに行うことができ、ユーザによって手動でトリガされ、アプリ又は音声プロンプトによって誘導される。これらの測定は、サーバにアップロードすることができ、そこで、Mathworksによって提供されるシグナル処理ツールボックスで利用可能なものなどの標準的なフィッティング及び最適化ツールが、測定された音響を調整して目標性能を達成する補償器を決定する。次いで、これらのフィルタをサーバからダウンロードし、その後の使用のために製品に保存することができる。イヤホンを共有する複数の人々は、このプロセスを通過することができ、サーバベースの計算によって決定されるそれらのフィルタの各々は記憶され、ヘッドホンが着用されたときに測定されたイヤプリントに基づいて選択される。第2の代替案は、フィルタパラメータ間の関係の線形化と、摂動方法で使用される大きさ及び位相の変化とを強化する。代わりに、システム設計者がイヤホンに最適であるとみなす公称補償フィルタKfb及びKffを決定すると、これらのフィルタを規定するパラメータを変化させることができ、大きさ及び位相における対応するばらつきが、それを超えると線形近似が正確である範囲にわたって決定される。次いで、公称(独立変数として)からフィルタパラメータ(依存変数として)の変化までの大きさ及び位相変化を関連付ける多次元非線形表面がフィットされ得る。次いで、この表面を説明する方程式は、各着用においてフィルタをカスタマイズする際に使用するためのカスタマイズモジュールに記憶することができる。イヤホンに最適な公称補償フィルタと、様々なフィルタパラメータ及び対応するフィルタ応答(大きさ及び位相)変化からなる大きな訓練データセットとが与えられた第3の代替例は、ディープニューラルネットワーク(deep neural network、DNN)を訓練して、応答変化からフィルタパラメータの変化を予測することである。訓練されると、DNNをカスタマイズモジュールに実装して、所与の着用について測定された応答からカスタマイズされたフィルタを決定することができる。近年、DNNは、決定論的な数学的解決策には以前は解決困難であったモデリングシステムにおいて大きな有用性を示した。この問題にDNNを適用するという利点は、DNNを訓練するために必要なデータセット(フィルタの変更及び対応する応答の変化)が任意に大きくなることができ、線形化された摂動方法よりもフィルタパラメータのより大きな偏差にわたるものがハンドリングできることである。
【0123】
本明細書に記載の実施例は、各イヤピースの単一のフィードバックマイクロホン及び単一のフィードフォワードマイクロホンを含み、他の例では、追加のフィードバックマイクロホン及び/又はフィードフォワードマイクロホンを使用することができる。ANR回路は、イヤピースに(例えば、無線イヤバッド用)、及び/又は有線制御モジュール(例えば、有線イヤバッドの場合)、又はイヤピースの一方若しくは両方と通信するリモートモジュール(例えば、有線又は無線リンクを介して)に含めることができる。ANR回路のいずれか又は全ては、ANR回路の計算のいずれかを実行するための非一時的なコンピュータ可読媒体に記憶されているソフトウェアを実行するように構成された特殊なハードウェアモジュール及び/又はプロセッサを使用して実装することができ、回路は、例えば、各々が参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2013/0315412号及び同第2016/0267899号に記載されるように構成することができる。
【0124】
本開示は、特定の実施例に関連して説明されてきたが、本開示は、開示された実施例に限定されるものではないが、反対に、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる様々な修正及び同等の配置を網羅することが意図されており、この範囲は、法の下で許容されるように全てのそのような修正及び同等の構造を包含するように最も広い解釈に従うことを理解されたい。
【符号の説明】
【0125】
100L/100R イヤピース
102L/102R 音響ドライバ
104L/104R フィードバックマイクロホン
106L/106R フィードフォワードマイクロホン
110 イヤピース
112 可撓性先端
113 耳道
114 イヤピース
120 イヤピース
122 クッション
130 耳
140 頭の部分
400 大きさ応答形状
402 位相応答形状
404 平坦な相対的な大きさ応答形状
406 平坦な相対位相応答
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図6
【国際調査報告】