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特表2023-523410上気道感染症を治療するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-05
(54)【発明の名称】上気道感染症を治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20230529BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230529BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P31/14
A61K9/08
A61K9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022563859
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2021000268
(87)【国際公開番号】W WO2021214547
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/014,117
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/160,627
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521541505
【氏名又は名称】サノタイズ リサーチ アンド ディベロップメント コープ.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】レゲーブ、ギリー
(72)【発明者】
【氏名】ミラー、クリストファー シー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB21
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC35
4C076DD22
4C076DD41
4C076FF11
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA07
4C086HA21
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA56
4C086MA59
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】本開示は、感染症を治療し、感染性を最小化するための方法および組成物を描く。本方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含む、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)感染患者を治療することを含むことができる。NORSは、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして投与することができる。病原体に対する患者間の感染性を最小化する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。NORSは、少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物および酸性化剤を含むことができ、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有する治療有効量のスプレーを放出することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者を治療する方法であって、
治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、さらに、前記患者が無症状である時に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、さらに、特定された第一人者の曝露から選択された日数以内に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、さらに、特定された第一人者の曝露なしに、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、さらに、SARS-CoV-2感染の軽症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、さらに、SARS-CoV-2感染の中等症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、さらに、SARS-CoV-2感染の重症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、さらに、SARS-CoV-2感染の重篤症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、さらに、約1日~約2週間の期間、1日当たり1~6回の投与レジメンにしたがって、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、さらに、一回量で約300μl~約700μlの前記NORSを前記患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、さらに、一回量で約400μl~約600μlの前記NORSを前記患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、さらに、一日量で約1500μl~約4200μlの前記NORSを前記患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法において、さらに、一日量で約2000μl~約3600μlの前記NORSを前記患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法において、前記治療有効量のNORSは、1日、2日、3日、4日、5日、または6日のうちの1つ以上の治療期間後に、ウイルスRNA量をベースラインレベルと比較して、80%、90%、95%、または99%のうちの1つ以上まで減少させる、方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、前記治療有効量のNORSは、SARS-CoV-2ウイルス量を減少させるための低pH、または患者宿主細胞へのSARS-CoV-2のアクセスを防止するための上皮細胞上物理的障壁、またはアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体遮断剤を提供する、方法。
【請求項16】
請求項1記載の方法において、前記NORSは患部に投与される、方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、前記患部は前記患者の上気道である、方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法において、前記患部は粘膜である、方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、前記粘膜は患者の鼻腔または副鼻腔であり、前記NORSは噴霧液または洗浄液として投与される、方法。
【請求項20】
請求項18記載の方法において、前記粘膜は患者の口または喉であり、前記NORSはうがい液として投与される、方法。
【請求項21】
請求項1記載の方法において、ウイルスはSARS-CoV-2ウイルスまたはその変異株である、方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法において、前記SARS-Co-V-2ウイルスまたはその前記変異株は、A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せのうちの1つ以上である、方法。
【請求項23】
請求項1記載の方法において、前記治療有効量のNORSは、A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せのうちの1つ以上を治療するために実質的に等しく有効である、方法。
【請求項24】
病原体に対する患者間の感染性を最小化する方法であって、
治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程、
を含む、方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、さらに、前記病原体に前記患者が曝露される前または後に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項26】
請求項24記載の方法において、さらに、前記病原体の症状を示す人に前記患者が曝露される前または後に、前記患者に前記NORSを投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
請求項24記載の方法において、前記病原体は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)またはその変異株である、方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)は、A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せのうちの1つ以上を含むSARS-CoV-2ウイルスである、方法。
【請求項29】
請求項24記載の方法において、前記治療有効量のNORSは、A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せのうちの1つ以上を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)またはその変異株に対する患者間の感染性を最小化するために実質的に等しく有効である、方法。
【請求項30】
請求項24記載の方法において、前記治療有効量のNORSは、1日、2日、3日、4日、5日、または6日のうちの1つ以上の治療期間後に、ウイルスRNA量をベースラインレベルと比較して、80%、90%、95%、または99%のうちの1つ以上まで減少させる、方法。
【請求項31】
請求項24記載の方法において、前記治療有効量のNORSは、SARS-CoV-2ウイルス量を減少させるための低pH、または患者宿主細胞へのSARS-CoV-2のアクセスを防止するための上皮細胞上物理的障壁、またはアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体遮断剤を提供する、方法。
【請求項32】
請求項24記載の方法において、前記NORSは粘膜に投与される、方法。
【請求項33】
請求項32記載の方法において、前記粘膜は患者の鼻腔または副鼻腔であり、前記NORSは噴霧液または洗浄液として投与される、方法。
【請求項34】
請求項32記載の方法において、前記粘膜は患者の口または喉であり、前記NORSはうがい液として投与される、方法。
【請求項35】
上気道における病原体の感染患者を治療する方法であって、
治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を、前記上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして患者に投与する工程、
を含む、方法。
【請求項36】
請求項35記載の方法において、さらに、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、または600μmのうちの1つ以上よりも大きいメジアン液滴径(Dv50)提供する工程を含む、方法。
【請求項37】
請求項35記載の方法において、さらに、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が10μm未満のスプレーの割合(%<10μm)を提供する工程を含む、方法。
【請求項38】
請求項35記載の方法において、さらに、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が5μm未満のスプレーの割合(%<5μm)を提供する工程を含む、方法。
【請求項39】
請求項35記載の方法において、さらに、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、または400μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の10パーセンタイル(Dv(10))を提供する工程を含む、方法。
【請求項40】
請求項35記載の方法において、さらに、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離を測定した場合、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または1000μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の90パーセンタイル(Dv(90))を提供する工程を含む、方法。
【請求項41】
請求項35記載の方法において、さらに、約0.5~約2.0の液滴径分布を提供する工程を含み、前記液滴径分布は、(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)である、方法。
【請求項42】
一酸化窒素放出溶液(NORS)であって、
少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物と少なくとも1つの酸性化剤とを含み、
前記NORSは、上気道内の治療を含む平均液滴体積を有するスプレーとして治療有効量を放出する、溶液。
【請求項43】
請求項42記載の溶液において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、または600μmのうちの1つ以上よりも大きいメジアン液滴径(Dv50)を提供する、溶液。
【請求項44】
請求項42記載の溶液において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が10μm未満のスプレーの割合(%<10μm)を提供する、溶液。
【請求項45】
請求項42記載の溶液において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が5μm未満のスプレーの割合(%<5μm)を提供する、溶液。
【請求項46】
請求項42記載の溶液において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、または400μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の10パーセンタイル(Dv(10))を提供する、溶液。
【請求項47】
請求項42記載の溶液において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離を測定した場合、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または1000μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の90パーセンタイル(Dv(90))を提供する、溶液。
【請求項48】
請求項42記載の溶液において、前記NORSは、約0.5~約2.0の液滴径分布を提供し、前記液滴径分布は、(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)である、溶液。
【請求項49】
請求項42記載の溶液において、前記少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物は、亜硝酸塩、その塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、溶液。
【請求項50】
請求項42記載の溶液において、前記少なくとも1つの酸性化剤は酸である、溶液。
【請求項51】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者の治療のために使用される組成物であって、
前記使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程、
を含む、組成物。
【請求項52】
病原体に対する患者間の感染性を最小化するために使用される組成物であって、
前記使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程を含む、組成物。
【請求項53】
上気道における病原体の感染患者の治療のために使用される組成物であって、
前記使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を、前記上気道内の治療を含む平均液滴体積を有するスプレーとして前記患者に投与する工程、
を含む、組成物。
【請求項54】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)感染患者を治療するための医薬の製造のための医薬組成物の使用であって、
前記使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程、
を含む、医薬組成物の使用。
【請求項55】
病原体に対する患者間の感染性を最小化するための医薬の製造のための医薬組成物の使用であって、
前記使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程、
を含む、医薬組成物の使用。
【請求項56】
上気道における病原体の感染患者を治療するための医薬の製造のための医薬組成物の使用であって、
前記使用は、前記上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与する工程、
を含む、医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年4月22日出願の米国仮出願第63/014、117および2021年3月12日出願の米国仮出願第63/160、627に対する優先権を主張するものであり、上記仮出願の開示を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本開示は、感染症を有する患者を治療する方法に関する。したがって、本発明は、化学、薬学、医学、および他の健康科学の分野に関与する。
【背景技術】
【0003】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の一種である。SARS-CoV-2は、コロナウイルス病2019(COVID-19)を引き起こす一本鎖RNAウイルスである。このウイルスはヒトへの感染力が非常に強く、特に呼吸器系の疾患を引き起こし、最終的には死に至ることもある。このウイルスは主に、密接な接触や、咳やくしゃみから発生する呼吸器飛沫を介して、人々の間に広がる。また、汚染表面に触れた後、目、鼻、口を触ることによっても感染する可能性がある。ウイルスは主にアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という受容体に結合することでヒト細胞に侵入する。COVID-19および他の呼吸器系疾患の予防と治療のための新たな機序が模索されている。
【0004】
化学物質の中には、様々な用途や使い方が期待できるにもかかわらず、不安定であったり、輸送や投与が困難であったり、その他の理由で使用できないものが多くある。そのような化合物の一例が一酸化窒素(NO)である。NOはフリーラジカルであるため、反応性が高く、治療目的で保存および投与することは非常に困難である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本開示の特徴および利点は、本開示の特徴を例示により示している添付図面を参照して、以下の詳細な説明より明らかとなるであろう。
図1図1は、一実施例に従う、活性一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)群とプラセボ(生理食塩水)群との間の、1日目から6日目までにおけるSARS-CoV-2のRNAのベースラインからの変化量の差を示したものである。
図2図2は、一実施例に従う、治験にランダムに割り振られ、治験薬を受け取った合計80人の被験者(NONS40人、プラセボ40人)を示したものである。
図3図3は、一実施例に従う、ベースラインから2日目、4日目、および6日目の対数ウイルス量の変化をグラフで表したものである。
図4図4は、一実施例に従う、2日目、4日目、および6日目におけるSARS-CoV-2の対数ウイルス量が減少し閾値3に到達するまでの時間をカプランマイヤー曲線で表したものである(ITT集団)。
図5図5aは、一実施例に従う、サンプル1~3の液滴径分布を表したものである。 図5bは、一実施例に従う、サンプル4~6の液滴径分布を表したものである。 図5cは、一実施例に従う、サンプル1および4の液滴径分布を表したものである。 図5dは、一実施例に従う、サンプル1の液滴径分布を表したものである。 図5eは、一実施例に従う、サンプル4の液滴径分布を表したものである。
図6図6aは、一実施例に従う、治験薬投与法を示したものである。 図6bは、一実施例に従う、投与前後の修正ルンドケネディ(MLK)内視鏡スコアの合計の変化を表したものである。 図6cは、一実施例に従う、一酸化窒素副鼻腔洗浄(NOSi)を投与する前と後の疾患特異的QOL副鼻腔アウトカム試験(SNOT-22)の変化を表したものである。
【0006】
次に、例示的な実施形態について言及するが、ここでは、同じ物を記述するのに特定の用語を用いる。それにもかかわらず、それによって本発明の範囲を限定するようには意図されていないことが理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の詳細な説明には、説明のために多くの特定事項が含まれるが、当業者であれば、以下の詳細に対する多くのバリエーションおよび改変が可能であり、かつ本明細書に含まれると考えられることを認識するであろう。そのため、以下の実施形態は、記されるいずれの請求項に対してもいかなる普遍性も損なうことなく、かつ制限を課すことなく、記述される。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のためのみであって、限定することを意図したものではないことを理解されたい。別に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術的および科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0008】
定義
本記述において、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に示さない限り、複数の指示被験者を明示的にサポートするものである。したがって、例えば、「粒子(a particle)」への言及は、複数の粒子(particles)を含む。
【0009】
本願において、「comprise(含む)」、「comprising(含む)」、「containing(包含する)」および「having(有する)」等は、米国特許法においてそれらに帰属する意味をもつことが可能であり、また「include(含む)」、「including(含む)」等を意味することが可能であり、一般的にオープンエンド用語であると解釈される。「consisting of(からなる)」または「consists of(からなる)」という用語は、クローズド用語であり、かかる用語と関連して具体的に列挙された構成要素、構造、ステップ等のみを含むとともに、米国特許法に従ったものである。「Consisting essentially of(から実質的になる)」または「consists essentially of(から実質的になる)」は、一般的に米国特許法に帰属する意味を有する。特に、このような用語は一般的にクローズド用語であり、それに関連して使用される項目の基本的かつ新規な特性または機能に重大な影響を与えない追加の項目、材料、構成要素、ステップ、または要素を含めることを許可するという例外がある。例えば、組成物中に存在するが、組成物の性質または特性に影響を与えない微量元素は、そのような用語に続く項目のリストに明示的に記載されていなくても、「から実質的になる」という用語の下で存在すれば許容されるであろう。本記述において「comprising(含む)」または「including(含む)」のようなオープンエンド用語を使用する場合、「consisting of(からなる)」という用語と同様に「consisting essentially of(から実質的になる)」という用語にも、明示的に記載されているかのように直接的なサポートが与えられるべきであり、その逆もまた然りであることが理解されよう。
【0010】
本明細書および特許請求の範囲における「first(第1の)」、「second(第2の)」、「third(第3の)」、および「fourth(第4の)」などの用語は、同様の要素間を区別するために使用され、必ずしもある特定の連続的または時系列的順序を説明するために使用されるわけではない。このように使用される任意の用語は、例えば本明細書において説明されるが、本明細書において示されるかまたは別様に説明される順序以外の順序で動作可能であるような適切な状況下においては、互換的である点に理解されたい。同様に、ある方法が一連のステップを含むものとして記載されている場合、提示されたそのようなステップの順序は、そのようなステップが実行される唯一の順序であるとは限らず、記載されたステップのうちのあるものはおそらく省略される、および/または本明細書に記載されていない他のあるステップはその方法におそらく追加される可能性がある。
【0011】
本明細書における「一実施形態において」または「一態様において」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態または態様を指すとは限らない。
【0012】
本明細書で使用される場合、「subject(被験者)」は、一酸化窒素放出溶液(NORS)の投与から利益を得る可能性がある哺乳類を指す。いくつかの実施形態において、NORSは一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)として投与され得る。一態様において、哺乳類はヒトである。
【0013】
本明細書で使用される場合、「treat(治療する)」、「treatment(治療)」、または「treating(処置する)」という用語は、NORSの投与と関連して使用される場合、NONSとして投与される場合を含み、その組成物および剤形を含み、無症状または症状を有する被験者への投与を意味する。言い換えれば、「treat(治療する)」、「treatment(治療)」、または「treating(処置する)」は、患者に存在する状態に関連する症状を軽減、改善または除去すること、または予防的(すなわち、患者の症状の発生を予防または低減すること)なことであることができる。このような予防的な治療は、状態の予防とも呼ぶことができる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「formulation(製剤)」および「composition(組成物)」という用語は互換的に使用され、2つ以上の化合物、要素、または分子の混合物を指す。いくつかの態様において、「formulation(製剤)」および「composition(組成物)」という用語は、1つ以上の活性剤と担体または他の賦形剤との混合物を指すために使用される。組成物は、固体、液体(すなわち溶液)、または気体を含む、ほぼあらゆる物理的状態をとることができる。さらに、用語「dosage form(剤形)」は、被験者への投与のための様式で提供される1つ以上の製剤(複数可)または組成物(複数可)を含むことができる。一例において、組成物は、一酸化窒素を放出する溶液とすることができる。
【0015】
「kit(キット)」とは、組成物または剤形と、1つ以上の特定の適応症を治療するために所定のレジメンにしたがって、または所定の時間および量のパラメータ内で組成物または剤形を適用または投与することに関する説明書を含むパッケージまたは容器を意味することができる。例えば、キットは、所定の状態(例えば、適応症)を治療するために、特定の容積または量のNORS組成物を、被験者にNORSを適切に投与するための一連の説明書とともに含むことができる。説明書は投与または適応症の単一型もしくは複数型に対する指示を含む。さらに、キット中のNORS組成物の量および形態は、単一の適応症の治療のための単一投与、1つの適応症のためのレジメンを作成する複数投与、もしくは複数の適応症のための単一または複数投与に適することができる。例えば、ウイルスまたは細菌による感染症、もしくはそれに伴う感染症、あるいはそれに伴う症状に対する副鼻腔や喉の免疫力向上など、複数の適応症の治療に適した量や容量の剤型を適用するための説明書とともに、NORS組成物の組成物または剤型をキット内のNONSとして提供することができる。
【0016】
本明細書で使用される「NORS」は、一酸化窒素(NO)を放出する溶液、組成物、または物質を指す。一態様において、NORSから放出されるNOは気体である。さらに、「NONS」は鼻腔スプレーの形態であるNORSを指す(例えば、一酸化窒素鼻腔スプレー)。
【0017】
本明細書で使用される「therapeutic agent(治療薬)」とは、適切または有効な量で被験者に投与された場合に、被験者に有益なまたは肯定的な効果をもたらすことができる薬剤をいう。一態様において、NOは治療薬であり得る。他の態様において、治療薬は、抗生物質、抗ヒスタミン剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、生物学的分子、例えばsiRNA、cDNA、ステロイド、血管拡張剤、血管収縮剤、鎮痛剤、抗炎症剤などのような、生理的活性を有する非NORS薬剤を含むことができる。いくつかの態様において、治療薬は、「active agent(活性薬剤)」または「drug(薬剤)」と互換的に使用することができる。
【0018】
本明細書で使用する場合、薬剤の「effective amount(有効量)」は、薬剤に望まれる特定の任務または機能を達成するのに十分な量である。組成物、薬剤、または薬品の「therapeutically effective amount(治療有効量)」とは、組成物、薬剤、または薬品が有効であることが知られている状態を治療または予防する際に治療結果を得るための、無毒であるが十分な量の組成物、薬剤、または薬品のことを指す。様々な生物学的要因が、物質がその意図する任務を遂行する能力に影響を及ぼす可能性があることが理解されよう。したがって、「effective amount(有効量)」または「therapeutically effective amount(治療有効量)」は、場合によっては、そのような生物学的要因に依存することがある。さらに、治療効果の達成度は、医師、獣医師、またはその他の資格を有する医療関係者が、当該技術分野で知られる評価を用いて測定することができるが、個体差や治療に対する反応によって、治療効果の達成度はやや主観的に決定される可能性があると認識されている。有効量または治療有効量の決定は、薬学および医学の技術分野における通常の技能の範囲内である。例えば、Meiner and Tonascia、"Clinical Trials:Design、Conduct、and Analysis、"Monographs in Epidemiology and Biostatistics、Vol.8(1986).を参照されたい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「dosing regimen(投与レジメン)」または「regimen(レジメン)」、例えば「treatment dosing regimen(治療投与レジメン)」、または「prophylactic dosing regimen(予防投与レジメン)」は、意図する治療または効果を達成するために、組成物の用量を被験者にどのように、いつ、どのくらいの量を、どのくらいの期間投与することができるか、または投与すべきかを意味する。
【0020】
本明細書で使用する場合、「daily dose(1日量)」は、24時間の間にわたって被験者に投与される実薬の量を指す。1日量は、24時間の間に1回以上投与され得る。一実施形態においては、1日量は、24時間の間に2~6回投与する。
【0021】
本明細書において、「acute(急性)」状態とは、急速に進行し、緊急または準緊急の治療を必要とする明確な症状を有する状態を指す。対照的に、「chronic(慢性)」状態とは、典型的には、進行が遅く、長引くか、さもなければ時間とともに進行する状態を指す。急性状態のいくつかの例は、限定されないが、喘息発作、気管支炎、心臓発作、肺炎などを含むことができる。慢性状態のいくつかの例は、限定されないが、関節炎、糖尿病、高血圧、高コレステロールなどを含むことができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「release(放出)」および「release rate(放出速度)」という用語は、物質を含む剤形または組成物からの、限定されないが例えばNOなどの治療薬を含む物質の排出または遊離、またはその速度を指すため互換的に使用される。一例において、治療薬は生体外で放出される。他の態様において、治療薬は、生体内で放出される。
【0023】
本明細書で使用する場合、「immediate release(即時放出)」または「instant release(即時放出)」は互換的に使用でき、組成物または製剤からのNOなどの治療薬を含む、薬剤または物質の即時またはほぼ即時(すなわち、抑制されないまたは制限されない)放出を意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「controlled release(制御放出)」は、組成物または製剤からの、NOなどの治療薬を含む薬剤または物質の非即時放出を指す。制御放出の特定のタイプの例には、限定されないが、持続放出(徐放)および遅延放出が含まれる。製剤成分または構成要素、pHなどの製剤特性または状態、製剤が置かれる環境、もしくは製剤成分と製剤が置かれる環境との組み合わせなど、任意の数の制御機序または構成要素を使用して、制御放出効果を作り出すことができる。一例において、徐放は、治療効果を提供するのに十分なレベルでの治療薬の放出、または非即時に指定または意図された期間中の治療を含むことができる。
【0025】
本明細書において、「modulate(調節する)」という用語は、生物学的状態のあらゆる変化、すなわち、増加、減少などを意味する。
【0026】
所与の物質の生理的レベルに関して本明細書で使用する場合、「baseline(ベースライン)」という用語は、活性薬剤の投与前の被験者の物質のレベルまたは濃度を意味する。例えば、被験者のウイルスRNA量のベースラインレベルは、NORSの投与または治療開始前(例えば直前)の被験者のウイルスRNA量となる。
【0027】
本明細書で使用する場合、「substantially(実質的に)」という用語は、作用、特性、性質、状態、構造、項目、または結果の、完全なまたはほぼ完全な範囲もしくは程度を意味する。例えば、「substantially(実質的に)」囲まれているオブジェクトは、そのオブジェクトが完全に囲まれているか、またはほぼ完全に囲まれていることを意味することになる。絶対的な完全性からの正確な逸脱がどの程度許容されるかは、場合によっては特定の文脈に依存することがある。しかし、一般的には、絶対的な完全性が得られる場合と同じ全体的な結果が得られるように、ほぼ完全であることを意味する。「substantially(実質的に)」の使用は、作用、特性、性質、状態、構造、項目、または結果を、完全にまたはほぼ完全に欠いていることを意味する否定的な意味合いで使用する場合にも同様に適用される。例えば、粒子を「substantially free of(実質的に含まない)」組成物は、粒子を完全に欠くか、または粒子を完全に欠くのと同じ効果が得られるほど粒子をほぼ完全に欠くかのいずれかである。言い換えれば、成分または要素を「substantially free of(実質的に含まない)」組成物は、測定可能な影響がない限り、実際にそのような項目を含んでいても良い。
【0028】
本明細書で使用されるように、「about(約)」という用語は、所定の値が終点より「少し上」または「少し下」であっても良いことを規定することによって、数値範囲の終点に柔軟性を与えるために使用される。特に断らない限り、特定の数値または数値範囲にしたがって「about(約)」という用語を使用することは、「about(約)」という用語なしの数値用語または範囲をサポートするとも理解されるべきである。例えば、便宜上および簡潔さのために、「約50ml~約80ml」の数値範囲も、「50ml~80ml」の範囲をサポートすると理解されるべきである。さらに、本明細書では、「about(約)」という用語がそれとともに使用される場合であっても、実際の数値をサポートすることが理解されよう。例えば、「about(約)」30の記載は、30より少し上と少し下の値をサポートするだけでなく、同様に30の実際の数値をサポートすると解釈すべきである。
【0029】
本明細書で使用されるように、複数の事項、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで提示されることがある。しかしながら、これらのリストは、あたかもリストの各要素が別個のかつ独自の要素と個々に認定されると解釈すべきである。したがって、そのようなリストの個々の要素は、反対への表示のない共通の群でのそれらの提示にだけ基づいて、同じリストの任意の他の要素の事実上の等価物と解釈すべきでない。
【0030】
濃度、量、および他の数値データは、本明細書では範囲形式で表現または提示される。このような範囲形式は、単に便宜上および簡潔さのために使用され、したがって、範囲の限界として明示的に言及された数値だけでなく、各数値および小範囲が明示的に言及されるかのようにその範囲内に包含される全ての個々の数値または小範囲も含むように柔軟に解釈されるべきであることが理解されよう。例として、「約1~約5」という数値範囲は、明示的に言及された約1~約5の値だけでなく、示された範囲内の個々の値および部分範囲も含むと解釈されるべきである。したがって、この数値範囲に含まれるのは、1、2、3、4、および5と同様に、2、3、および4などの個々の値、かつ1~3、2~4、および3~5などの部分範囲であり、さらに1.8、2.3、3.7、および4.2などの小数値または分数を含むものである。
【0031】
この原則は、最小値または最大値として1つの数値のみが記載されている範囲にも適用される。さらに、このような解釈は、範囲の広さや記述されている特性に関係なく適用されるべきである。
【0032】
本明細書を通じての「an example(一例)」の言及は、例に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の様々な場所での「in an example(一例において)」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではない。
【0033】
本明細書では、「improved(改善された)」性能を提供する装置、構造、システム、または方法について言及されることがある。特に断らない限り、そのような「improvement(改善)」は、先行技術との比較に基づいて得られる利益の尺度であることが理解されよう。さらに、改善された性能の程度は、開示された実施形態間で異なる可能性があり、改善された性能の量、程度、または実現における平等性または一貫性は、普遍的に適用可能であると想定されないことが理解されよう。
【0034】
本明細書で使用される場合、「increased(増加した)」、「decreased(減少した)」、「better(より良い)」、「worse(より悪い)」、「higher(より高い)」、「lower(より低い)」、「enhanced(強化された)」、「improved(改善された)」、「maximized(最大化された)」、「minimized(最小化された)」などの比較用語は、他の装置、構成要素、組成、生物学的反応、生物学的状態、または活性とある程度まで異なる、装置、構成要素、組成、生物学的反応、生物学的状態、または活性の性質を意味する。それらは、周辺または隣接領域にあるもの、同様に位置するもの、単一の装置または組成物もしくは複数の比較可能な装置または組成物中のもの、1つの群またはクラスにあるもの、複数の群またはクラスにあるもの、もしくは元の(例えば、未処置)またはベースライン状態、または既知の技術状態と比較したものである。例えば、ウイルス量が「decreased(減少した)」組成物は、ベースラインレベル(例えば、治療前)のような以前の時点におけるウイルス量と比較して、または異なる用量(例えば、より低い用量)での以前の治療と比較して、より低いウイルス量を患者に与える。
【0035】
実施形態例
以下に、本発明の実施形態の最初の概要を提供し、その後、特定の実施形態をさらに詳細に説明する。最初の概要は、読者が技術的概念をより迅速に理解するのを助けることを意図しているが、その重要なまたは必須の特徴を特定することを意図しておらず、また請求項の主題の範囲を制限することを意図していない。
【0036】
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)による感染症の臨床スペクトルは、無症状、上気道感染の軽い症状から重症肺炎、死亡に至るまで幅広いものである。COVID-19は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)ウイルスが原因である。一本鎖プラス鎖RNAウイルスで、SARS-CoVやMERS-CoVと同様の受容体結合ドメイン構造を有する。このウイルスは、空気中の飛沫を経由して鼻粘膜に感染する。ウイルスは細胞内で急速に増殖し、鼻汁や喀痰にウイルスが排出されると、下気道が侵され、致命的なウイルス性肺炎を引き起こす可能性がある。
【0037】
喀痰には回復後2週間近くウイルスが含まれ続けることもあり、発症前、有症期間中、回復後でさえも感染が拡大することがある。SARS-CoV-2ウイルスによる上皮細胞への感染は、細胞侵入のための受容体として、鼻に高発現しているアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)を利用する。スパイクタンパク質とその同系受容体ACE-2との結合親和性は、SARS-CoVの複製速度および疾患の重症度を決定する主要な要因である。
【0038】
一酸化窒素(NO)は、自然免疫、感染に対する哺乳類の宿主防御、創傷治癒の調節、血管拡張、神経伝達および血管新生に主要な役割を果たすフリーラジカル気体分子である。NOは、生体外および生体内の動物実験において、細菌、酵母、真菌およびウイルスに対して抗菌活性を有することが報告されている。また、NOはスパイクタンパク質とACE-2との融合を防ぐ。NOの抗ウイルス作用とACE-2阻害作用を合わせると、COVID-19感染症の予防および/または重症化を抑える分子として期待されている。
【0039】
NORSは160ppmのNOガスに数時間暴露されたのと同等の抗菌化学特性を(溶液中で)発揮する。NORS剤形は宿主細胞に対して安全な投与量を可能にするために開発および評価されており、細菌、真菌、ウイルス性の病原体に対して急速な殺菌効果(数秒以内)を発揮することができる。
【0040】
本開示は、液体一酸化窒素放出溶液(NORS)が、SARS-CoV-2および上気道感染症の死滅またはその他の不活性化に有効であるという発見に関するものである。したがって、NORSは個人の治療、予防、またはその感染の低減の目的で使用できると考えられる。
【0041】
一実施形態において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者を治療する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。他の実施形態において、病原体に対する患者間の伝達性を最小化する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。
【0042】
さらに他の実施形態において、上気道内の病原体の感染患者を治療する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして患者に投与することを含むことができる。さらに1つの実施形態において、一酸化窒素放出溶液(NORS)は、少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物と少なくとも1つの酸性化剤とを含むことができる。一態様において、NORSは、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして治療有効量を放出することができる。
【0043】
NORS組成物
一実施形態において、一酸化窒素放出溶液(NORS)は、少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物および少なくとも1つの酸性化剤を含むことができる。一態様において、NORSは、上気道または気道内の治療を含む平均液滴体積を有するスプレーとして放出することができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、NORSは、部位に投与された時にガス状一酸化窒素(gNO)を放出(例えば、徐放)することができる。「徐放」とは、治療上有益なレベルの(しかし毒性レベル以下の)gNOが持続期間(例えば約5秒~約24時間の範囲)にわたって維持されるように、制御された速度で有効量のNOガスが製剤から放出されることを意味する。したがって、例えば30~60分、または数時間の投与形態をもたらすことを意味する。一実施形態において、NOガスは、少なくとも30分の期間にわたって放出される。さらなる実施形態において、NOガスは、少なくとも1時間、または約1.5時間~約3時間の期間にわたって放出される。他の実施形態において、NOガスは、少なくとも8時間の期間にわたって放出される。他の実施形態において、NOガスは、少なくとも12時間の期間にわたって放出される。他の実施形態において、NOガスは、少なくとも24時間の期間にわたって放出される。徐放性NORSは、溶液からのNOの放出が投与後に継続する一方で、短期間にわたって溶液を部位に注入できるという点で有益である。
【0045】
本発明の溶液は、生理食塩水または水中で亜硝酸塩と酸が混合して溶液のpHが約4.0以下になると活性化し、長期間にわたって一酸化窒素ガスの生成レベルが増加または向上する。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液の活性状態のpHは、約1.0のpHと約4.0のpHの間である。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液の活性状態のpHは、約3.0のpHと約4.0のpHの間である。一実施形態において、pHは約3.2である。他の実施形態において、pHは約3.4である。他の実施形態において、pHは約3.5である。他の実施形態において、pHは約3.6である。他の実施形態において、pHは約3.7である。一実施形態において、pHは約4.0である。他の実施形態において、pHは約4.0以下である。
【0046】
本発明の一酸化窒素放出溶液は、酸が液体中の亜硝酸塩と相互作用するまで活性化しないので、亜硝酸塩溶液は、明らかな量の一酸化窒素ガスを生成することなく、または有効量の一酸化窒素ガスを生成する能力を失うことなく、その休止状態(pHが4.0より大きい状態)中に、投与のために予め製造、輸送および準備することができる。次に、使用者がヒト患者の治療のために溶液を送達または投与する準備ができた時、溶液は、ヒト患者に投与する直前に酸の添加によって活性化され(pHが4.0未満に動かされ)、それによって、投与された溶液の量によって生じる一酸化窒素ガスの量を最大化することができる。
【0047】
一実施形態において、溶液のpHは、溶液中への少なくとも1つの酸性化剤の添加を介して低下させることができる。酸性化剤の導入は、溶液反応を反応物の方へ動かし、結果としてpHを下げ(より多くの酸を生成し)、より多くの一酸化窒素ガスを生成する。
【0048】
例えば、亜硝酸ナトリウム(または他の亜硝酸塩)を生理食塩水に入れると、非常にゆっくりと一酸化窒素ガスが生成されるが、検出不可能な量である(化学発光分析方法(ppb感度)によって測定)。pHが低下するにつれて、特にpH4.0を下回るにつれて、溶液からのNO生成速度は増加する。NOは、以下の平衡式に基づいて生成される。
【0049】
したがって、酸性化剤、例えば酸は、Hを亜硝酸塩(NO )に供与することができる。Hが多く存在するほど、反応はHNOへと速く進み、より多くのNOが生成されることになる。
【0050】
一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、水または生理食塩水をベースとする溶液と、亜硝酸塩またはその塩などの少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物とを使用することを含む。一実施形態において、溶液は、生理食塩水をベースとする溶液である。一実施形態において、一酸化窒素放出化合物は、亜硝酸塩、その塩、およびそれらの任意の組み合わせである。亜硝酸塩の非限定的な例としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸バリウム、および亜硝酸カルシウムなどの亜硝酸塩の塩、亜硝酸オロテートなどの亜硝酸塩の混合塩、並びに亜硝酸アミルなどの亜硝酸エステルが挙げられる。一実施形態において、一酸化窒素放出化合物は、亜硝酸ナトリウムおよび亜硝酸カリウム、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。他の実施形態において、一酸化窒素放出化合物は亜硝酸ナトリウムである。一実施形態において、溶液は、生理食塩水中に亜硝酸ナトリウムを含む。他の実施形態において、溶液は、生理食塩水中に亜硝酸カリウムを含む。
【0051】
一実施形態において、溶液中の亜硝酸塩の濃度は、0.07%w/vと約0.5%w/vとの間である。一実施形態において、溶液中の亜硝酸塩の濃度は、約0.5%w/v以下である。他の実施形態において、溶液中の亜硝酸塩の濃度は、約0.41%w/vである。他の実施形態において、溶液中の亜硝酸塩の濃度は、約0.07~0.5%w/vの間である。本明細書で使用される場合、「w/v」という用語は、(weight of solute(溶質の重量)/volume of solution(溶液の体積))×100%を指す。
【0052】
酸性化剤は、任意の適切な酸性化剤であることができる。ここで他の箇所に記載されているように、本発明の溶液への少なくとも1つの酸性化剤の添加は、NO生成の増加に寄与する。NO生成の増加をもたらす任意の酸性化剤が本発明によって企図される。一実施形態において、酸性化剤は、無機酸または有機酸のような酸である。酸の非限定的な例としては、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、サリチル酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸、ギ酸、安息香酸、酒石酸、塩酸、硫酸、およびリン酸、酢酸等が挙げられる。一実施形態において、酸は、アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、塩酸、および硫酸、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。一実施形態において、酸はクエン酸である。
【0053】
上述したように、溶液中に存在する酸性化剤の量は、NOを生成する反応速度に影響を及ぼし得る。一実施形態において、酸性化剤の量は、約0.5%w/v以下である。他の実施形態において、酸性化剤の量は、約0.5%w/vである。他の実施形態において、酸性化剤の量は、約0.2%w/vである。一実施形態において、酸性化剤の量は約0.07%w/vである。他の実施形態において、酸性化剤の量は、約0.07~0.5%w/vの間である。
【0054】
NOの生成反応速度に影響を与えることに加えて、酸性化剤は、ウイルス量(例えば、SARS-CoV-2ウイルスのウイルス量)を減少させる低いpHレベルをもたらすことができる。治療前のベースラインレベルと比較したNOの増加は、物理的障壁で上皮細胞を包むことによって、宿主細胞へのウイルスのアクセス(例えば、SARS-CoV-2ウイルスのアクセス)をブロックすることもできる。NOは、ACE-2受容体を介して宿主細胞へのウイルスのアクセス(例えば、SARS-CoV-2ウイルスのアクセス)をさらにブロックすることもできる。
【0055】
NORSは、有効な濃度または治療上有効な濃度のNOを放出する。一実施形態において、NOの濃度は、約100ppbと約1000ppmの間である。他の実施形態において、NOの濃度は、約120ppbと約400ppbの間である。他の実施形態において、NOの治療上有効な濃度は、約160ppbとすることができる。他の例において、NOの濃度は、約100ppbと1000ppbの間である。他の例において、NOの濃度は、約100ppbと500ppbの間である。他の例において、NOの濃度は、約100ppbと300ppbの間である。
【0056】
他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、ポリアクリル酸(例えば、カーボポールなど)、ゼラチン、ペクチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、HPMC、CMC、アルギン酸、スターチ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのコポリマー、ポリエチレングリコールなど、またはそれらの組み合わせのような増粘剤を含むことができる。一例において、増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含むことができる。
【0057】
他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、防腐剤を含むことができる。防腐剤の非限定的な例としては、アスコルビン酸、アセチルシステイン、重亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、モノチオグリセロール、フェノール、メタクレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ブチルヒドロキシトルエン、塩化ミリスチルγ-ピコリミウム、2-フェノキシエタノール、硝酸フェニル水銀、クロロブタノール、チメロサール、トコフェロールなど、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0058】
他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、等張化剤を含むことができる。等張化剤の非限定的な例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、マンニトール、ソルビトール、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、エタノール、トレハロース、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Dulbecco’s PBS、オルシーバー液、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、水、例えばHank’s BSS、Earle’s BSS、Grey’s BSS、Puck’s BSS、Simm’s BSS、Tyrode’s BSS、およびBSS Plusのような平衡塩溶液(BSS)、またはそれらの組合せを含む。一実施形態において、等張化剤は、等張生理食塩水(例えば、0.9%NaCl)を作成するのに十分なNaClを有することができる。一態様において、組成物の等張化剤は、約250~約350ミリオスモル/リットル(mOsm/L)とすることができる。他の態様において、組成物の張度は、約277~約310mOsm/Lとすることができる。
【0059】
剤形およびレジメン
NORSは、様々な形態で投与される。NORSは、液体、スプレー、蒸気、微小液滴、ミスト、うがい薬、洗浄液、エアロゾル、または溶液からの一酸化窒素を放出する任意の形態として投与される。一実施形態において、NORSはスプレーとして投与される。投与される一酸化窒素放出溶液の量または容量は、一酸化窒素の生成および送達時間を最大化するために変化させることが可能である。一実施形態において、投与される一酸化窒素放出溶液の量は、約0.1mLと5000mLの間である。他の実施形態において、投与される一酸化窒素放出溶液の量は、約10mLと1000mLの間である。一酸化窒素放出溶液は、部位を効果的に治療するために使用されるように、1回または複数回再投与される。
【0060】
NORSがスプレーとして投与される場合、投与される一酸化窒素放出溶液の量は、約100μl~約1000μlとすることができる。一態様において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約100μl~約5000μlの投与あたりの総量を供給するために、各投与について1~6回作用させることができる。
【0061】
一例において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約100μl~約200μlとすることができる。この例において、100μl~約200μlのNORSは、約100μl~約800μlの投与あたりの総量を供給するために、各投与について1~4回作用させることができる。
【0062】
他の例において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約120μl~約140μlとすることができる。この例において、120μl~約140μlのNORSは、約240μl~約560μlの投与あたりの総量を供給するために、各投与について2~4回作用させることができる。
【0063】
NORSが洗浄液として投与される場合、投与される一酸化窒素放出溶液の量は、約50mL~約500mLとすることができる。一態様において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約100mL~約400mLとすることができる。他の態様において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約150mL~約350mLとすることができる。
【0064】
NORSをうがい薬として投与する場合、投与される一酸化窒素放出溶液の量は、約5mL~約50mLとすることができる。一態様において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約10mL~約40mLとすることができる。他の態様において、投与された一酸化窒素放出溶液の量は、約10mL~約30mLとすることができる。
【0065】
NORSは様々な投与レジメンにしたがって投与することができる。一態様において、NORSは、1日あたり1~6回、約1日~約2週間の期間、投与レジメンにしたがって患者に投与することができる。他の態様において、本治療薬は、1日4~6回、約1日~約2週間の期間、投与レジメンにしたがって患者に投与することができる。さらに他の態様において、NORSは、1日5~6回、約1日~約2週間の期間、投与レジメンにしたがって患者に投与することができる。さらに他の態様において、NORSは、1日5~6回、約1日~約9日の期間、投与レジメンにしたがって患者に投与することができる。
【0066】
NORSは様々な投与量で患者に投与することができる。一例において、NORSは、約300μl~約700μlを一回量で患者に投与することができる。他の例において、NORSは、約400μl~約600μlのNORSを一回量で患者に投与することができる。
【0067】
NORSはまた、1日量で患者に投与することができる。一例において、NORSは、約1500μl~約4200μlを一日量で患者に投与することができる。他の例において、NORSは、約2000μl~約3600μlを一日量で患者に投与することができる。
【0068】
特定の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、不活化溶液への酸性化剤の投与を通じて、部位への投与直前に調製される。例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように、不活化溶液への酸性化剤の投与は、不活化溶液のpHの低下をもたらし、それによって、治療部位に投与される一酸化窒素放出溶液を活性化する。
【0069】
一酸化窒素放出溶液は、一酸化窒素を長時間生成する。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、1分~24時間の期間、一酸化窒素を生成する。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、10分~45分の期間、一酸化窒素を生成する。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも15分間、一酸化窒素を生成する。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも30分間、一酸化窒素を生成する。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも1時間、一酸化窒素を生成する。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも4時間、一酸化窒素を生成する。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも8時間、一酸化窒素を生成する。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも12時間、一酸化窒素を生成する。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、少なくとも24時間、一酸化窒素を生成する。したがって、投与された一酸化窒素放出溶液は、患者の治療部位、またはそこから遠方の部位へ一酸化窒素を連続的に送達する。
【0070】
NORSは、患部に投与することができる。一態様において、患部は、患者のupper respiratory tract(上気道)またはupper airway(上気道)とすることができる。他の態様において、患部は、粘膜であることができる。患部が粘膜である場合、患者の鼻腔または副鼻腔に投与することができ、スプレーまたは洗浄液として投与することができる。他の実施例において、粘膜が患者の結膜粘膜である場合、NORSは眼科用液剤として投与することができる。また、患部が粘膜であり、その粘膜が患者の口または喉である場合、NORSはうがい液として患部に投与することができる。
【0071】
いくつかの態様において、NORSを患部とは異なる部位(患部から遠位を含む)に投与することができるが、その場合でも意図する治療部位または患部にNOが到達し、治療効果を発揮することができる。一例において、スプレー、洗浄液、またはうがい薬として投与される場合、NORSは患者の上気道には投与されないこともあるが、上気道に到達して治療効果を発揮する。
【0072】
特定の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、患者の上気道内に直接投与される。例えば、ある実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、患者の上気道内に噴霧される。溶液は、患者を治療するために、1時間に1回、1日に1回、週に1回、2週間に1回、月に1回、2ヶ月に1回、年に1回、およびその間の任意のおよび全ての範囲で患者の上気道に投与される。一実施形態において、溶液は、1週間に1回噴霧される。他の実施形態において、溶液は、1週間に1回、4週間連続して噴霧される。一酸化窒素放出溶液は、長期にわたる一酸化窒素の生成をもたらし、それによって、患者の上気道感染への治療用一酸化窒素の連続的な送達をもたらす。
【0073】
一実施形態において、一酸化窒素放出溶液(NORS)は、少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物および少なくとも1つの酸性化剤を含むことができる。一態様において、NORSは、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして治療有効量を放出することができる。
【0074】
一態様において、スプレーは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した時、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、または600μmのうちの1つ以上よりも大きいメジアン液滴径(Dv50)を有することができる。
【0075】
他の態様において、スプレーは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が10μm未満のスプレーの割合(%<10μm)を有することができる。他の態様において、スプレーは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が5μm未満のスプレーの割合(%<5μm)を有することができる。
【0076】
他の態様において、スプレーは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、または400μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の10パーセンタイル(Dv(10))を有することができる。別の態様において、スプレーは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離を測定した場合、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または1000μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の90パーセンタイル(Dv(90))を有することができる。他の態様において、スプレーは、約0.5~約2.0の液滴径分布を有することができる(液滴径分布は、(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)と定義することができる)。
【0077】
一酸化窒素放出溶液を患者に投与する時間は、送達を最大化するために変化させることができる。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、5秒未満の期間にわたって投与される。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、約5秒の期間にわたって投与される。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、約30秒の期間にわたって投与される。他の実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、約1分~約20分の期間にわたって投与される。
【0078】
方法
一実施形態において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者を治療する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。一態様において、NORSは、患者が無症状である場合に、患者に投与することができる。他の態様において、NORSは、SARS-CoV-2感染の軽症状を示している場合に、患者に投与することができる。他の態様において、NORSは、SARS-CoV-2感染の中等症状を示している場合に、患者に投与することができる。他の態様において、NORSは、SARS-CoV-2感染の重症状を示している場合に、患者に投与することができる。他の態様において、NORSは、SARS-CoV-2感染の重篤症状を示す場合に、患者に投与することができる。
【0079】
無症状とは、軽症状、中等症状、重症状、重篤症状を示さない場合をいう。肺炎は「片肺または両肺の炎症」と定義され、非肺炎または胸痛や息切れのない軽度の肺炎の場合、患者は軽症状を示す。軽症状には、発熱(>37.2℃)、乾いた咳、疲労感、喉の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛、味覚または嗅覚障害、胃腸症状などが含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
患者は、下気道疾患の臨床的またはX線的証拠があり、酸素飽和度が94%以上である場合、中等症状を示す。酸素飽和度が94%未満、呼吸数が30回/分以上、および肺への浸潤が50%以上である場合、重症状を示す。呼吸不全、ショック、多臓器不全、または障害がある場合、重篤症状を示す。
【0081】
いくつかの態様において、治療有効量のNORSを患者に投与することは、NORSを患者に投与しない場合の症状の持続期間と比較して、症状の持続期間および重症度を減少させることができる。例えば、治療有効量のNORSを投与することは、患者のウイルス量を減少させることにより、これらの利点をもたらすことができる。
【0082】
他の態様において、NORSは、特定された第一人者の曝露から選択された日数以内に患者に投与することができる。他の態様において、NORSは、特定された第一人者の曝露なしに、患者に投与することができる。
【0083】
他の態様において、NORSは、SARS-CoV-2感染の急性症状を示す患者に投与することができる。他の態様において、NORSは、SARS-CoV-2感染の慢性症状を示す患者に投与することができる。
【0084】
本発明の方法による呼吸器疾患の治療は、治療される患者の上気道への一酸化窒素放出溶液の送達を含むことができる。例えば、特定の実施形態において、一酸化窒素放出溶液を、患者の呼吸器管に注射、噴霧、吸入、または点滴する。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)を用いて、患者の鼻腔または口腔を介して患者の呼吸器に投与される。そのようなNONSの1つの具体例は、2020年9月16日に出願された出願人の同時係属中の米国仮特許出願シリアル番号63/079、277に示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。一実施形態において、一酸化窒素放出溶液は、患者の上気道に噴霧される。一実施形態において、溶液は、患者の鼻腔内に投与される。一実施形態において、溶液は、副鼻腔に投与される。一酸化窒素放出溶液は、長期にわたる一酸化窒素の生成をもたらし、それによって、患者の上気道感染への治療用一酸化窒素の連続的な送達をもたらす。
【0085】
一例において、本方法は、ウイルスによって誘発された状態の治療、予防、または発生率の低減を含むことができる。ウイルスによって誘発された状態は、アデノウイルス、インフルエンザ、エンテロウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アストロウイルス、ライノウイルス、呼吸器多核体ウイルス、パラインフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、コロナウイルス、H1N1、H2N2、H3N2、H1N1pdm09、またはそれらの組合せの1つ以上により、またはそれらに関連して、引き起こされるおそれがある。一例において、ウイルスによって誘発された状態は、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスNL63、MERS-コロナウイルス、ヒトレスピロウイルス1、ヒトルブラウイルス2、ヒトレスピロウイルス3、ヒトルブラウイルス4、ヒトエンテロウイルス、ヒト呼吸器ウイルス、ライノウイルスA、ライノウイルスB、ライノウイルスC、またはそれらの組み合わせの1以上により、またはそれらと関連して、引き起こされるおそれがある。一態様において、インフルエンザは、インフルエンザA、インフルエンザB、インフルエンザC、またはインフルエンザDのいずれであっても良い。
【0086】
他の例において、本方法は、細菌性状態の治療、予防、または発生率の低減を含むことができる。細菌性状態は、Bacillus、Bartonella、Bordetella、Borrelia、Brucella、Campylobacter、Chlamydia、Chlamydophila、Clostridium、Corynebacterium、Enterococcus、Escherichia、Francisella、Haemophilus、Helicobacter、Legionella、Leptospira、Listeria、Mycobacterium、Mycoplasma、Neisseria、Pseudomonas、Rickettsia、Salmonella、Shigella、Staphylococcus、Streptococcus、Treponema、Ureaplasma、Vibrio、Yersinia、またはそれらの組み合わせの1以上であっても良い。
【0087】
他の例において、本方法は、真菌性状態の治療、予防、または発生率の低減を含むことができる。真菌性状態は、Aspergillus、Histoplasma、Pneumocystis、Stachybotrysを含む属から選ばれた真菌によって引き起こされるおそれがある。
【0088】
一実施形態において、本方法は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の治療、予防、または発生率の低減を含んでいる。一実施形態において、NORSの投与は、SARS-CoV-2またはその変異株の発生率を治療、予防、または低減させることができる。一態様において、SARS-CoV-2ウイルスは、A系統(別名:配列WIV04/2019)、クラスター5(別名:配列WIV04/2019)、クラスター5(デンマーク国立血清研究所により別名:ΔFVI-spike)、B.1.1.7系統(別名:英国変異株、調査下変異株(VUI)202012/01、または20I/501Y.V1)、E484K変異を伴うB.1.1.1.7系統(別名:懸念される変異株202102/02(VOC202102/02))、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統(別名:VUI-202102/04)、B.1.351系統(別名:501.V2変異株、20H/501Y.V2、または懸念される変異株(VOC-202012/02))、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統(別名:VUI-202102/03、以前の別名:UK1188)、P.1系統(別名:VOC202101/02)、B.1.427系統(別名:20C/S:452R)、B.1.526系統、P.2系統、またはそれらの組合せのうちの1つ以上であっても良い。
【0089】
他の実施形態において、NORSの投与は、SARS-CoV-2またはその変異株の治療、予防、または発生率の低減をもたらすことができ、以下の1つ以上の治療に対して実質的に等しく有効であり得る:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を伴うB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統、またはそれらの組合せのうちの1つ以上。一例において、SARS-CoV-2またはその変異株の治療開始前のSARS-CoV-2またはその変異株のベースラインウイルス量と比較して、治療後24時間以内、48時間以内、72時間以内、96時間以内、120時間以内、または148時間以内に患者においてSARS-CoV-2またはその変異株のウイルス量が80%、90%、95%、または99%以上低減していれば、NORSの投与は、SARS-CoV-2またはその変異株の治療に対して実質的に等しく有効であり得る。
【0090】
NORSは、ベースラインレベルと比較して、ウイルス量を減少させることができる。一態様において、治療有効量のNORSは、1日、2日、3日、4日、5日、または6日のうちの1つ以上の治療期間後に、ウイルスRNA量をベースラインレベルと比較して、80%、90%、95%、または99%のうちの1つ以上まで減少させることができる。
【0091】
NORSは、様々な機序によりウイルス量を減少させることができる。一つの機序では、NORSは低いpH(例えばpH約3.5)を提供することによって、ウイルス量(例えばSARS-CoV-2のウイルス量)を減少させることができる。別の機序では、NORSは、患者の上皮細胞上に物理的バリアを提供し、患者の宿主細胞へのウイルスのアクセスを防止することができる。一例において、ウイルスがSARS-CoV-2である場合、NORSはSARS-CoV-2ウイルスが患者の宿主細胞にアクセスするのを阻止する物理的バリアを提供することができる。別の機序では、NORSはアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体遮断剤を提供することができる。
【0092】
また、NORSは病原体の患者間の感染性を最小化する方法にも使用できる。一例において、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与できる。NORSは、患者が病原体に曝露される前または後に、患者に投与できる。また、NORSは、患者が病原体の症状を示す人に曝露される前または後に、患者に投与できる。
【0093】
病原体は、本明細書に開示される任意の病原体を含むことができる。例えば、病原体は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)またはその変異株とすることができる。SARSr-CoVは、以下のうちの1つ以上を含むSARS-CoV-2ウイルスであり得る:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せ。一例において、治療有効量のNORSは、以下のうちの1つ以上を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)またはその変異株に対する患者間の感染性を最小化するために実質的に等しく有効であり得る:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せ。
【0094】
NORSは、病原体のウイルス量を減少させることにより、患者間の感染性を最小化することができる。一例において、治療有効量のNORSは、、1日、2日、3日、4日、5日、または6日のうちの1つ以上の治療期間後に、ウイルスRNA量をベースラインレベルと比較して、80%、90%、95%、または99%のうちの1つ以上まで減少させることができる。NORSは、低pH、患者宿主細胞へのウイルスのアクセスを防止するための上皮細胞上物理的障壁、またはACE-2受容体遮断剤を含む、本明細書で論じられる様々な機序によってウイルス量を減少させることができる。
【0095】
いくつかの例において、治療方法は、患者の上気道に限定できるNORSを含むことができる。一実施形態において、上気道における病原体の感染患者を治療する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレー(例えば、NONSから)として患者に投与することを含むことができる。液滴径は、NONSに特定の構造を採用することにより制御することができる。この例において、NORSは、患者の肺に実質的に分散することなく、鼻腔および上気道に留まることができる。このような場合、NORSが患者に投与された時、NO代謝産物(例えば、メトヘモグロビン)の全身的な増加が検出されないこともある。
【0096】
患者の上気道を越えてNORSおよびNOが分散するのを低減するために、本方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、または600μmのうちの1つ以上よりも大きいメジアン液滴径(Dv50)を含むことができる。
【0097】
他の例において、液滴径の分布は、ある値以下では最小とすることができる。例えば、本方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が10μm未満のスプレーの割合(%<10μm)を有することができる。他の例において、本方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が5μm未満のスプレーの割合(%<5μm)を有することができる。
【0098】
液滴径の分布は、10パーセンタイルおよび90パーセンタイルで境界を設定することができる。一例において、本方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、または400μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の10パーセンタイル(Dv(10))を有することができる。他の例において、本方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離を測定した場合、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または1000μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の90パーセンタイル(Dv(90))を有することができる。
【0099】
液滴径分布範囲は、90パーセンタイルの液滴径、10パーセンタイルの液滴径、およびメジアンの液滴径から算出することができる。本方法は、約0.5~約2.0の液滴径分布を有することができ、液滴径分布は、(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)である。
【0100】
一実施形態において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者の治療のために使用される組成物は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。他の実施形態において、病原体の患者間の感染性を最小化するために使用される組成物は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。さらに他の実施形態において、上気道における病原体の感染患者の治療のために使用される組成物は、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。
【0101】
他の実施形態において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)感染患者を治療するための医薬の製造のための医薬組成物の使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。他の実施形態において、病原体に対する患者間の感染性を最小化するための医薬の製造のための医薬組成物の使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。他の実施形態においては、上気道における病原体の感染患者を治療するための医薬の製造のための医薬組成物の使用は、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を患者に投与することを含むことができる。
【0102】
実施形態例
一例において、SARS-CoV-2ウイルスを治療する方法は、SARS-CoV-2ウイルスが存在する場所に有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を投与することを含むことができる。
【0103】
一例において、前記SARS-CoV-2ウイルスは、物体の露出した表面に存在することができる。
【0104】
一例において、前記SARS-CoV-2ウイルスは、患者の外表面に存在することができる。
【0105】
一例において、前記SARS-CoV-2ウイルスは、患者の組織内に存在することができる。
【0106】
一例において、前記組織は、粘膜組織であることができる。
【0107】
一例において、前記SARS-CoV-2ウイルスは、A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を伴うB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統、またはそれらの組合せのうちの1つ以上であることができる。
【0108】
一例において、前記NORSの前記有効量は、A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を伴うB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統、またはそれらの組合せのうちの1つ以上を治療するために、実質的に等しく有効であることができる。
【0109】
一例において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者を治療する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0110】
一例において、前記方法は、前記患者が無症状である時に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0111】
一例において、前記方法は、特定された第一人者の曝露から選択された日数以内に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0112】
一例において、前記方法は、特定された第一人者の曝露なしに、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0113】
一例において、前記方法は、SARS-CoV-2感染の軽症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0114】
一例において、前記方法は、SARS-CoV-2感染の中等症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0115】
一例において、前記方法は、SARS-CoV-2感染の重症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0116】
一例において、前記方法は、SARS-CoV-2感染の重篤症状を示している時に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0117】
一例において、前記方法は、約1日~約2週間の期間、1日当たり1~6回の投与レジメンにしたがって、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0118】
一例において、前記方法は、一回量で約300μl~約700μlの前記NORSを前記患者に投与することを含むことができる。
【0119】
一例において、前記方法は、一回量で約400μl~約600μlの前記NORSを前記患者に投与することを含むことができる。
【0120】
一例において、前記方法は、一日量で約1500μl~約4200μlの前記NORSを前記患者に投与することを含むことができる。
【0121】
一例において、前記方法は、一日量で約2000μl~約3600μlの前記NORSを前記患者に投与することを含むことができる。
【0122】
一例において、前記治療有効量のNORSは、1日、2日、3日、4日、5日、または6日のうちの1つ以上の治療期間後に、ウイルスRNA量をベースラインレベルと比較して、80%、90%、95%、または99%のうちの1つ以上まで減少させることができる。
【0123】
一例において、前記治療有効量のNORSは、SARS-CoV-2ウイルス量を減少させるための低pH、または患者宿主細胞へのSARS-CoV-2のアクセスを防止するための上皮細胞上物理的障壁、またはアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体遮断剤を提供することができる。
【0124】
一例において、前記NORSは患部に投与することができる。
【0125】
一例において、前記患部は、前記患者の上気道とすることができる。
【0126】
一例において、前記患部は粘膜とすることができる。
【0127】
一例において、前記粘膜は患者の鼻腔または副鼻腔とすることができ、前記NORSは噴霧液または洗浄液として投与される。
【0128】
一例において、前記粘膜は患者の口または喉とすることができ、前記NORSはうがい液として投与される。
【0129】
一例において、ウイルスはSARS-CoV-2ウイルスまたはその変異株とすることができる。
【0130】
一例において、前記SARS-Co-V-2ウイルスまたはその前記変異株は、以下のうちの1つ以上とすることができる:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せ。
【0131】
一例において、前記治療有効量のNORSは、以下の1つ以上を治療するために実質的に等しく有効であることができる:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せ。
【0132】
一例において、病原体に対する患者間の感染性を最小化する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0133】
一例において、前記方法は、前記病原体に前記患者が曝露される前または後に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0134】
一例において、前記方法は、前記病原体の症状を示す人に前記患者が曝露される前または後に、前記患者に前記NORSを投与することを含むことができる。
【0135】
一例において、前記病原体は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)またはその変異株とすることができる。
【0136】
一例において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)は、以下のうちの1つ以上を含むSARS-CoV-2ウイルスとすることができる:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せ。
【0137】
一例において、前記治療有効量のNORSは、以下のうちの1つ以上を含む重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)またはその変異株に対する患者間の感染性を最小化するために実質的に等しく有効であることができる:A系統、クラスター5、B.1.1.7系統、E484K変異を有するB.1.1.7系統、B.1.1.207系統、B.1.1.317系統、B.1.1.318系統、B.1.351系統、B.1.429/CAL.20C系統、B.1.525系統、P.1系統、B.1.427系統、B.1.526系統、P.2系統など、またはそれらの組合せ。
【0138】
一例において、前記治療有効量のNORSは、1日、2日、3日、4日、5日、または6日のうちの1つ以上の治療期間後に、ウイルスRNA量をベースラインレベルと比較して、80%、90%、95%、または99%のうちの1つ以上まで減少させることができる。
【0139】
一例において、前記治療有効量のNORSは、SARS-CoV-2ウイルス量を減少させるための低pH、または患者宿主細胞へのSARS-CoV-2のアクセスを防止するための上皮細胞上物理的障壁、またはアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体遮断剤を提供することができる。
【0140】
一例において、前記NORSは粘膜に投与することができる。
【0141】
一例において、前記粘膜は患者の鼻腔または副鼻腔とすることができ、前記NORSは噴霧液または洗浄液として投与される。
【0142】
一例において、前記粘膜は患者の口または喉とすることができ、前記NORSはうがい液として投与される。
【0143】
一例において、上気道における病原体の感染患者を治療する方法は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を、前記上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして患者に投与することを含むことができる。
【0144】
一例において、前記方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、または600μmのうちの1つ以上よりも大きいメジアン液滴径(Dv50)を含むことができる。
【0145】
一例において、前記方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が10μm未満のスプレーの割合(%<10μm)を含むことができる。
【0146】
一例において、前記方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が5μm未満のスプレーの割合(%<5μm)を含むことができる。
【0147】
一例において、前記方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、または400μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の10パーセンタイル(Dv(10))を含むことができる。
【0148】
一例において、前記方法は、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離を測定した場合、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または1000μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の90パーセンタイル(Dv(90))を含むことができる。
【0149】
一例において、前記方法は、約0.5~約2.0の液滴径分布を含むことができ、液滴径分布は、(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)である。
【0150】
一例において、一酸化窒素放出溶液(NORS)は、少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物と少なくとも1つの酸性化剤とを含むことができ、前記NORSは、上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして治療有効量を放出する。
【0151】
一例において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、または600μmのうちの1つ以上よりも大きいメジアン液滴径(Dv50)を提供することができる。
【0152】
一例において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が10μm未満のスプレーの割合(%<10μm)を提供することができる。
【0153】
一例において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%のうちの1つ以上よりも小さい、体積基準の液滴径が5μm未満のスプレーの割合(%<5μm)を提供することができる。
【0154】
一例において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離で測定した場合、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、または400μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の10パーセンタイル(Dv(10))を提供することができる。
【0155】
一例において、前記NORSは、アクチュエーターから30mmまたは60mmの距離を測定した場合、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または1000μmのうちの1つ以上よりも大きい、スプレーの体積基準の90パーセンタイル(Dv(90))を提供することができる。
【0156】
一例において、前記NORSは、約0.5~約2.0の液滴径分布を提供することができ、液滴径分布は、(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)である。
【0157】
一例において、前記少なくとも1つの一酸化窒素放出化合物は、亜硝酸塩、その塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択することができる。
【0158】
一例において、前記少なくとも1つの酸性化剤は酸とすることができる。
【0159】
一例において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)の感染患者の治療のために使用される組成物は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0160】
一例において、病原体に対する患者間の感染性を最小化するために使用される組成物は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0161】
一例において、上気道における病原体の感染患者の治療のために使用される組成物は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を、前記上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして前記患者に投与することを含むことができる。
【0162】
一例において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSr-CoV)感染患者を治療するための医薬の製造のための医薬組成物の使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0163】
一例において、病原体に対する患者間の感染性を最小化するための医薬の製造のための医薬組成物の使用は、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0164】
一例において、上気道における病原体の感染患者を治療するための医薬の製造のための医薬組成物の使用は、前記上気道内投与を含む、平均液滴体積を有するスプレーとして、治療有効量の一酸化窒素放出溶液(NORS)を前記患者に投与することを含むことができる。
【0165】
実験例
以下の実施例は、本発明における特定の実施形態のより明確な理解を促すために提供されるものであり、決してそれを制限するものではない。
【0166】
実施例1 殺ウイルスアッセイ
液体試料を2分間または8分間接触させた時に、ウイルスが不活性化されるかどうかを調べる試験を実施した。ウイルス溶液を試料と混合し液体接触させた後、生存する感染性ウイルスを標準的な終点希釈アッセイにより定量し、未処理の対照と比較した。
【0167】
手順:
ウイルス、培地、細胞
SARS-CoV-2株は、Vero76細胞を2%FBSと50μg/mLのゲンタマイシンを添加したMEM(試験培地)中で培養し、試験前に調製した。
【0168】
殺ウイルスアッセイ
製品G(亜硝酸塩)と製品H(酸性化剤)を試験前に1:1の割合で混合した(G+H)。製品G+Hは、2分後の曲線下面積(AUC)が0.7ppm~約2.0ppm*minで、約0.7ppm~約4ppmの濃度でNOを発生させた。製品J(亜硝酸塩)と製品K(酸性化剤)を同様に混合した(J+K)。製品J+Kは、約2分後の曲線下面積が約1.4ppm~約4.0ppm*minで、約1.4ppm~約8ppm濃度のNOを発生させた。試験試料を組み合わせた直後に、混合試料にウイルス溶液を1:9の割合で添加した(混合前の試験試料90μLにウイルス10μL)。混合物は、室温で2分間または8分間共にインキュベートした。水の未処理ウイルス対照とEtOH(63%)の陽性対照を並行して試験した。毒性対照のため、各試料に培地(ウイルスなし)を加えた。試験は3本ずつの管で実施した。接触期間後、試料は試験用培地で1/10に希釈し、ウイルス定量時まで-80℃で保存した。
【0169】
ウイルスの定量化
各試料からの生存ウイルスは、標準的なCCID50終点希釈アッセイによって定量した。試料は解凍し、試験培地で1/10に段階希釈した。次に、80~90%コンフルエントのVero76細胞を含む96ウェルプレートに対し、各希釈液100μLを4ウェルずつ加えた。プレートを37±2℃、5%CO2で6日間インキュベートした。その後、ウイルスの存在または非存在について各ウェルをスコアリングした。CCID50値は、リードミュンヒ(1948)の式を用いて算出した。各試料について3つの独立した反復実験を行い、平均と標準偏差を算出した。結果は、グラフパッドプリズム(バージョン8)ソフトウェアを用いて、ダネットの多重比較検定を伴う一元配置分散分析により未処理の対照と比較した。
【0170】
対照:
ウイルス対照は水で試験し、ウイルス対照と比較した試験ウェル中のウイルスの減少量を対数減少値(LRV)として計算した。毒性対照は、試料が細胞に対して毒性があるかどうかを確認するために、ウイルスを含まない培地で試験した。中和対照は、指定された接触時間後にウイルスの不活性化が続かないこと、および力価測定プレート内の残留試料が生存ウイルスの増殖と検出を阻害しないことを確認するために試験した。これは、力価試験プレートに毒性試料を加え、観測可能量のCPEを生成する低量のウイルスをインキュベーション時間中に各ウェルにスパイクすることによって行った。
【0171】
結果:
表1にG+HおよびJ+Kの液体試料を接触させた際の、SARS-CoV-2の力価およびLRVの結果を示す。接触時間2分後に、G+Hは3.9~1.8logCCID50/0.1mLまでウイルスを減少させた(99%以上)。10分後に、G+Hは検出限界以下である<0.7CCID50/0.1mLまでウイルスを減少させた(>99.9%)。J+Kは、接触時間2分後および10分後に、検出限界以下である0.7CCID50/0.1mLまでウイルスを減少させた(>99.9%)。また、残留した試験試料は、評価項目力価測定法において、ウイルスの増殖および検出を阻害しなかった。エタノールは培地で10倍希釈した後の培養で細胞毒性を示したため、ウイルスの検出下限は1.7CCID50/wellとなった。ウイルス対照と陽性対照は予想通りの結果を示した。
【表1】
【0172】
実施例2 NONSはハムスターのSARS-CoV-2ウイルス力価を減少させる
コロラド州立大学で最近行われたハムスターの研究(N=12)では、動物にSARS-CoV-2を接種した。半数の動物にNONSを投与し、半数には何も介入しなかった。介入群には、1日2回の鼻腔スプレーを感染後3日間投与した。NONSの介入は、提案されたヒトの投与量案と同じ量(0.11ppm)をハムスターに鼻腔スプレーとして投与した。その結果、1日目に対照と比較して約2対数のウイルス力価の減少がみられた。さらに、グラフには反映されていないが、投与した6匹のハムスターのうち3匹の力価は検出できないレベルであり、投与期間中も低い数値を維持した。コロラド州立大学の研究チームは、対照群が健全であったことを確認し、さらに、彼らの研究室で評価したSARS-CoV-2に対する他の介入では、1日目にこれほど顕著な減少が見られなかったとコメントしている。鼻腔スプレーの長期使用(1日5回まで)についてのさらなる研究が行われている。
【0173】
実施例3-A 臨床試験の概観
要約:
COVID-19の確定症例80例を評価した、ランダム抽出、二重盲検、プラセボ対照の第IIb相臨床試験において、治療有効量のNORSは、高ウイルス量の被験者を含めてSARS-CoV-2のレベルを著しく低下させることに成功した。これらの被験者の大半は、懸念される変異株であるUK変異株(例:B.1.1.7系統または調査中の変異株202012/01)に感染していたものである。英国の臨床試験、およびそれ以前にカナダの臨床試験で行われた7、000人以上の自己投与による投与において、有害健康事象は記録されていない。
【0174】
本治験は、軽度のCOVID-19感染に対するNORSの臨床的有効性を決定するために実施された。評価基準は、NORS群と対照群との、ベースラインから6日目までのSARS-CoV-2のRNA量の差とした。
【0175】
本治験では、NORSはプラセボに比べSARS-CoV-2の除去を16倍も促進したと結論付け、最近または確立したSARS-CoV-2のRNA感染患者の予防または投与にNORSを緊急使用するための裏付けとなる証拠を示している。また、本治験では、NORSの自己投与用鼻腔スプレーを使用した被験者は、投与後24時間以内に95%以上、72時間以内に99%以上、SARS-CoV-2の対数ウイルス量を減少させることが確認されたと結論づけている。
【0176】
方法:
研究デザイン
本治験は、軽度のCOVID-19感染者における、NONSのCOVID-19治療への使用を評価する二重盲検、プラセボ対照の第IIb相臨床試験であった。本治験はAshford and St. Peter’s Hospitals NHS Foundation Trust(ASPHFT)で実施された。倫理的承認はNHS Health Research Authorityから得た。本治験は、医薬品の臨床試験実施基準(GCP)およびヘルシンキ宣言の原則、国際医学会評議会の倫理指針に準拠して実施された。
【0177】
被験者
被験者となるのは、軽度のCOVID-19に感染し、症状発現から5日以内であり、ランダム化前48時間以内の鼻および喉のスワブでSARS-CoV-2逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により研究所において確認された18歳~70歳の男女である。70歳以上の被験者については、さらなるサブ解析で治験を行う予定である。COVID-19の「軽度」感染は、非肺炎または胸痛や息切れを伴わない軽度の肺炎と定義した(肺炎は「片肺または両肺の炎症」と定義する)。軽度の症状には、発熱(>37.2 C)、乾いた咳、疲労感、喉の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛、味覚・嗅覚の欠如、および胃腸症状などが含まれるが、これらに限定されるものではない。被験者は、インフォームドコンセントを提供できること、および鼻腔スプレーを自己投与できることが条件とされた。除外基準には、COVID-19の無症候性感染、現行の気管切開または喉頭摘出、妊娠または現行の授乳、活性物質または任意の賦形剤に対する過敏症、呼吸器併用療法(例えば、酸素または人工呼吸器のサポート)、およびFDAのCOVID-19に関連するガイダンス文書に定義された中等度、重度または重篤のCOVID-19症状を示す臨床徴候を含めた。すべての被験者から書面による同意を得た。
【0178】
ランダム化およびマスキング
80人の被験者は、1対1の割合で、NONSまたは同じパッケージであるプラセボの生理食塩水の鼻腔スプレーを受け取るようにランダムに割り振られた。当初は50人の被験者を予定していたが、症状データを記入しない被験者がいることを考慮し、被験者数を拡大した。本治験は、被験者、医療従事者、および投与成績評価者に対し盲検化された。盲検化、ランダム化されたリストが作成され、各ランダム化された番号にコード化された投与が割り当てられた。このリストは、ブロック識別子、ブロックサイズ、ブロック内の配列、処理を用いてコンピューターで作成された。シード処理が行われた。使用する場合は、緊急に盲検化を解除するためのプロトコルが確立された。1人の被験者はプロトコルに正しくしたがっていなかったため、解析に含まれなかった。
【0179】
手順
被験者は、NONSまたはプラセボの鼻腔スプレーを受け取り、1噴霧あたり約120~140μLの液体を、4噴霧、1日5~6回、合計9日間、自己投与するよう指示された。被験者は、使用前に鼻をかみ、スプレーノズルの先端を鼻孔に挿入し、吸入しながらそれぞれの鼻孔に交互にスプレーを投与するよう指示された。9日間の投与は、症状が現れてから少なくとも13日目に相当し、軽症の場合はすでにウイルス量が減少していることが予想されるため、このように決定された。
【0180】
ベースラインとして、来院時に鼻と喉のスワブを採取し、1日目から投与を開始した。被験者はすでに隔離されており、スプレーの使用およびスワブの採取は他の人から隔離された状態で行うよう助言された。被験者は2日目、4日目、および6日目の投与前の朝にスワブを自己採取することで、スワブ結果との干渉を避けた。SARS-CoV-2のRNAレベルを決定するため、定量的RT-PCRがASPHFTのBerkshire Surrey Pathology Services Virology laboratoryで行われた。SARS-CoV-2変異株のシークエンシングは、Public Health England Colindaleで行われた。被験者は、症状、コンプライアンス、および投与への耐性に関する自己報告式アンケートに毎日回答した。フォローアップは合計18日間行われた。
【0181】
結果
結果は、ベースラインから6日目までのNONS群と対照群におけるSARS-CoV-2ウイルス量の差であり、定量的RT-PCRで測定されたものである。当初はサイクル閾値(ct)とウイルス量を検討する予定であったが、ウイルス量はct値から導かれ、より信頼できる量の指標であるため、ウイルス量のみを解析した。
【0182】
副次的評価項目は、2日目、4日目、および6日目におけるNONS群と対照群の参加者の割合およびウイルス量が測定不能レベルに達するまでの時間差、18日までにCOVID-19関連の症状で入院またはA&E受診を必要とした被験者の割合、NONS群と対照群のベースラインから6日までの症状スコア差、および有害事象と投与中止の割合とした。
【0183】
統計解析
解析には、log(10)SARS-CoV-2のRNAの線形混合効果モデルを使用した。複数のオブザベーションを考慮するために、被験者に対するランダム(ガウス)切片を含めた。パラメータ推定は最尤法(無制限/REML)を用いて行われ、推論はフルモデルの尤度比検定と、群に関わる主効果および交互作用を除いたヌルモデルに基づいて行われた。投与効果の全体的な検定に加えて、各時点のSARS-CoV-2の最小二乗平均対数RNA推定値が、95%の信頼度を伴ってフルモデルから作成された。シナリオ分析として、投与群に変量効果を用いた第2モデルが構築された。解析にはR(2020年版)を使用し、単純な探索的解析はMedCalcバージョン19.7を使用した。
【0184】
結果:
2021年1月11日から2月21日までの間、合計80人の被験者がNONS(40人)またはプラセボ(40人)のいずれかを投与されるようにランダム化された。ランダム化された被験者のうち、解析の被験者となる基準を満たしたのは79人(NONS群39人、プラセボ群40人)であった。NONSまたはプラセボの鼻腔スプレーは、これらの被験者に1日5-6回自己投与された。79人の被験者が、スプレーを正しく使用し、すべてのスワブを提供したと記録した。1人の被験者は、スプレーの使い方の指示に正しく従わなかったと記録したため、除外された。
【0185】
2つの治験群は、リスク因子に関して十分にバランスがとれていた(表3A-1)。被験者は症状発現から少なくとも4日後にNONSまたはプラセボを開始した。すべての被験者がランダム化時点において軽度の症状であった。全被験者のベースライン平均SARS-CoV-2量は~2.4×10RNAコピー/mLであり、SARS-CoV-2のRNA量が高いという予想と一致した。
【表3A-1】
【0186】
6日目の平均対数ウイルス量のベースラインからの減少におけるNONS投与被験者とプラセボ投与被験者の平均差は-0.98(95%信頼区間(CI)、-2.04~-0.08;P=0.07)であった。また、曲線下面積分析によるベースラインから6日目までの減少におけるNONSとプラセボの差は-5.22(95%CI、-9.14~-1.30;P=0.01)であった(表3A-2)。
【表3A-2】
【0187】
2日目の平均対数ウイルス量のベースラインからの減少におけるNONS投与被験者とプラセボ投与被験者の平均差は-1.21(95%CI、-2.07~-0.35;P=0.01)であった(表3A-2)。4日目の平均対数ウイルス量のベースラインからの減少におけるNONS投与被験者とプラセボ投与被験者の平均差は-1.21(95%CI、-2.19~-0.24;P=0.02)であった。その結果、図1に示されるように、SARS-CoV-2の平均RNA濃度は、2日目と4日目において、NONSでは16.2倍低かった。
【0188】
1日目のPer-Protocol集団では48/79人の結果が得られ、9日目では32/79人にまで減少した。9日目のスコアと0日目のスコアの差を評価したところ、スコアの平均減少はNONSが-5.50、対照が-4.38であった(p=0.495)。持続症状スコアがゼロになるまでの時間は、NONSが7.74、プラセボが8.35であった(p=0.48)。持続症状スコアが3未満になるまでの時間は、NONSが5.15、プラセボが6.22であった(p=0.65)。
【0189】
NONS群およびプラセボ群それぞれ1人ずつがCOVID-19のため治療を希望した。NONS群において治療を希望した被験者は、37歳で、喘息の治療歴があり、24時間以上の入院はなかった。プラセボ群の被験者は、65歳で、緊急入院をした。統計解析のためには症状スコアを記入した被験者数が不十分であった。
【0190】
NONS群またはプラセボ群内の被験者に、重篤な有害事象は認められなかった。すべてのウイルスサンプルは、懸念される既知のSARS-CoV-2変異株の存在について配列決定された。NONS群の34人(87.2%)がB.1.1.7系統(VOC202012/01)であると判定され、残りは懸念される変異株であるとは判定されなかった。プラセボ群の34人(85%)がB.1.1.7系統であると判定され、残りは懸念される既知の変異株とは判定されなかった。英国公衆衛生庁(PHE)のマッチドコホート分析では、懸念される変異株(VOC)感染者の死亡リスク比は非VOCと比較して1.65(95%CI、1.21~2.25)であることが報告されている。したがって、非VOCウイルスへの感染と比較して、VOC(B.1.1.7)への感染は死亡リスクの上昇と関連している可能性がある。
【0191】
考察:
このNONS治験の解析では、NONSの投与は、軽症状のCOVID-19感染者におけるウイルス量の減少に有効であることが明らかとなった。本治験は、発症間もない被験者を登録し、鼻および喉スワブのSARS-CoV-2のRNA量に対するNONSの早期介入の効果を評価するために設計された。NONSを受け取った被験者では、2日目と4日目のウイルス量がプラセボ群に比べ16.2倍低くなっていた。ウイルス学的反応の有無を判断するためにウイルス量を臨床的に解釈する場合、10倍の差に相当する1.0対数変化があるかどうかを検討することが多いが、本治験ではそれを超えていた。6日目ではその差はあまり顕著ではなかったが、これはプラセボ群を含む大部分の被験者において、ウイルス量がベースラインから大幅に減少した時点に相当する。この時点では症状発現から少なくとも10日目に相当するので、ウイルス量の減少は感染の自然経過と一致する。また、統計的な有意性を得るためには、より多くの症状データが必要であるが、本治験ではNONSの方がプラセボよりも症状の解消が早かった。
【0192】
SARS-CoV-2に対する抗ウイルス性および殺ウイルス性を有する薬剤は、疾患の経過を短縮または予防し、免疫介在性の病理学的損傷を軽減し、重症化するのを抑えることが予想される。重症のSARS-CoV患者において、NOの吸入投与が動脈酸素化を改善することが観測されており、疾患に対する直接的な効果が示唆されている。また、ウイルスの気道への輸送を抑えることが、肺炎予防につながることも確認されている。さらに、例えば、重症の患者ではウイルスの除去が遅れることも観測されている。しかし、鼻咽頭のウイルス量はCOVID-19の臨床的な疾患経過の予測因子として検証されていない。したがって、その排出期間や臨床経過および重症度との関連性を含むSARS-CoV-2の動態を完全に理解するためには、さらなる研究が必要である。
【0193】
本治験との比較ではあるが、ウイルス量の減少は抗ウイルス療法に関連する。SARS-CoV-2の中和抗体であるLY-CoV555は、3日目および7日目にそれぞれ-0.64および-0.45log10コピー/mlのSARS-CoV-2のRNAをプラセボに対して相対的に減少させることを示している。さらに、オセルタミビルはインフルエンザウイルス感染症に使用可能であり、1日目および2~3日目において、それぞれ-1.19[0.43]および-0.68[0.33]log10コピー/mLのウイルスRNA濃度の急速な減少と独立して関連することが示された(P<.05)。また本研究では、症状発現後5日以内にウイルスRNAレベルが検出されないことは、退院と独立して関連することが観測された(調整したハザード比は1.98;95%CI、1.34~2.93;P=.001)。本研究で観測された2日目と4日目のNONSによる減少は、LY-CoV555とオセルタミビルによる差を上回るものであった。RSVのRNA量が1-対数高いと、入院期間の0.8日延長、呼吸不全、集中投与室利用に独立して関連する可能性がある。インフルエンザおよびRSVの量に関するこれらの観測は、すべての研究において一貫しているわけではないが、これは呼吸器系ウイルスの定量方法が標準化されていないなどの研究の限界に起因する。
【0194】
NONSを使用した被験者のSARS-CoV-2のRNA量が低いことは、SARS-CoV-2の感染予防において有益である。SARS-CoV-2感染者のウイルス量がSARS-CoVより多いことが、感染拡大の抑制を難しくした可能性があるとされている。さらに、COVID-19の発症リスクは接触者のSARS-CoV-2のRNAレベルと関連し、用量依存的に潜伏期間が短縮されることが観測されている。したがって、NONSは接触者の感染期間を短縮することにより、感染拡大を抑制する可能性があるだろう。また、NONSを予防的に使用することで、暴露された者のSARS-CoV-2のRNA量を減らすことができる可能性がある。予想ではあるが、できるだけ早く、可能であれば症状が出る前に投与することで、最大の投与効果が得られるだろう。
【0195】
それにもかかわらず、NONS投与群では有害事象は記録されず、使用上の問題も報告されていない。珍しいことに、NONSは携帯可能であり、自宅で自己投与できるため、医療関連感染のリスクを軽減することができる。また、特殊なガスボンベや吸入技術を必要とする高用量のNOの全身投与に比べ、NONSの局所投与は有害事象のリスクを大幅に低減することができる。NONSは、ウイルス、細菌、および真菌の病原体に対して前述のように迅速かつ広範囲に作用するため、SARS-CoV-2およびその他の感染症に対しても安全かつ耐性の高い投与法となる可能性がある。NONSによるSARS-CoV-2の除去の促進は、SARS-CoV-2の感染拡大の防止に利用できる可能性がある。
【0196】
NONSは、2日目および4日目にSARS-CoV-2の減少をプラセボに対して平均16.2倍促進させた。SARS-CoV-2の除去を促進することは、症状の持続期間を短縮し、重症化への進行を抑制することにつながる可能性がある。SARS-CoV-2の減少により、感染期間を短縮し、感染を予防できる可能性がある。SARS-CoV-2の重症化には、レムデシビルやデキサメタゾンなどの介入が推奨されている。しかしながら、軽症のCOVID-19感染に対しては現在使用可能な薬剤がないため、NONSは緊急時の投与薬として有用であると考えられる。
【0197】
実施例3-B 臨床試験の概要
目的:
本目的は、ランダム化された投与開始日から6日目(1日目から6日目)までの、NONSのCOVID-19ウイルス感染期間を短縮する効果を、プラセボと比較して評価することであった。
【0198】
副次的目的は、2日目、4日目、6日目の鼻腔内におけるNONSの殺ウイルス効果を、プラセボと比較して評価することであった。その他の副次的目的には、COVID-19の進行予防におけるNONSの有効性の評価、被験者におけるCOVID-19臨床症状スコア減少の評価、COVID-19患者におけるNONSの耐性の評価、およびCOVID-19患者におけるNONSの安全性の評価が含まれている。
【0199】
方法論:
本治験は、単一施設、ランダム抽出、二重盲検、プラセボ対照の第IIb相臨床試験であって、COVID-19感染患者におけるSARS-CoV-2ウイルス量を減少するための一酸化窒素鼻腔スプレーの有効性および安全性を評価する治験である。
【0200】
COVID-19の症状が軽度の参加希望者に声をかけ、説明を行い、治験に関する情報シートを渡した。被験者が参加に同意した場合、インフォームドコンセントが取られた。被験者は直ちにSARS-CoV-2の鼻腔スワブrt-PCRと抗原検査を受けるよう計画された。被験者の抗原検査が陽性であった場合、または被験者が過去にCOVID-19が陽性であった場合(過去48時間以内のSARS-CoV-2の鼻腔スワブrT-PCR)、資格を有する医療スタッフが、インフルエンザ様症状の評価を含む適切な病歴および身体検査を行い、被験者を治験に登録した。
【0201】
登録後、被験者はNONS投与とプラセボ(対照)の比率が1:1となるようにランダム化され、9日分の治験薬、鼻腔スプレーポンプ、家庭用鼻腔スワブテストキット、輸送用封筒、および外来被験者ベースで毎日どのように薬を自己投与するかの使用説明書(オンラインビデオによる指示を含む)が含まれたパッケージが配布された。被験者は、本治験の投与期間中(1日目から9日目まで)隔離されることに同意した。隔離の合計期間は、地方自治体のCOVID-19ガイドラインと方針によって規定された。
【0202】
9日間の投与期間中、各被験者は起床中に定量鼻腔スプレーポンプを用いて、1鼻孔あたり2噴霧を1日に5~6回繰り返し、毎朝、最初の投与の前に洗浄を行った。被験者は、治験終了(18日目)まで、症状緩和療法を含む毎日の症状結果スコアを、オンラインポータルを通じて収集および入力した(治験スタッフが状態の悪化を監視した)。被験者は、2日目、4日目、および6日目に、COVID-19検査センターまたは自宅での自己検査で鼻腔スワブを採取し、ウイルス量を解析するよう事前にスケジュールされた。2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目に電話によるフォローアップが行われた。有害事象、不快感、痛み、投与中止、応急手当、救急処置室、および入院が記録された。
【0203】
被験者の数:
当初、各投与群(NONSとプラセボ)25人、計50人の被験者を完了させる予定であった。最初の50人を被験者とした非公式の中間解析では、NONS投与がプラセボより優れており(投与差p=0.088)、安全性に懸念がないことが示されたため、治験は継続された。改定後の試料数は1群あたり45~50人に増やした。その後、1群あたり約40人の被験者を登録した後に治験を終了した。
【0204】
女性53人、男性30人の計83人の被験者が登録された。40人の被験者がNONSに、40人の被験者がプラセボにランダムに割り振られた。79人の被験者が治験を完了し、有害事象に関係なく早期に治験を終了した被験者はいなかった。NONSの被験者1人は、投与を受ける前に同意を取り下げた。有効性および安全性の解析は、ベースライン後のデータが得られた79人の被験者(NONS39人、プラセボ40人)に対して行われた。
【0205】
診断および主要な選択基準:すべての被験者は、以下の選択基準を満たすものとする。
・インフォームドコンセントを理解し署名できること、プロトコルを遵守できること。
・18歳~70歳の男女であること。
・インターネットにアクセスでき、医療専門家との音声または音声/ビデオ通話に参加し、研究スタッフからテキスト、電子メール、および電話を受け取ることができ、研究期間中にスマートフォン、タブレット、ラップトップ、またはデスクトップコンピュータを使って毎日の研究情報を提出するために、妥当な携帯データまたはその他のインターネットアクセスができるデバイスを持っていること、さらにそれを使う意思があること。
・COVID-19に感染しており、それが研究室におけるSARS-CoV-2の鼻腔スワブRT-PCRで確認されたこと。
・過去48時間以内に採取された検体(鼻腔)であること。
・発熱、咳、咽頭痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛、胃腸症状、味覚・嗅覚障害、息切れ、呼吸困難、または無症状などの軽度のCOVID/FLU症状であること。
【0206】
参加するために、被験者は以下の除外基準を満たさないものとする。
・同意することができず、プロトコルに従うことができないこと。
・70歳以上の男女であること。
・現在、気管切開または喉頭摘出術を受けていること。
・酸素吸入または人工呼吸器などの呼吸器併用療法を受けていること(ただし、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する気道陽圧療法は、登録の少なくとも3ヶ月前に良好なコンプライアンスで投与が確立されていれば許可した)。
・何らかの理由で入院が必要なこと。
・鼻腔スプレーを安全に自己投与することができないこと。
・臨床的に禁忌であると資格のある医師が判断したこと。
・中等度、重度、または重篤なCOVID症状を示す臨床症状であること(FDAのCOVID-19ガイダンス文書に定義されている)。
・精神または神経に障害を持つ被験者で、研究への参加に同意することができないと判断されたこと。
・授乳中、妊娠中、または治験期間中に妊娠を予定していること。
・COVID-19の先行感染があると診断されたこと(例:スクリーニング前に検査報告を受けてから48時間以上経過している)。
【0207】
治験薬、投与量、および投与形態:
鼻腔洗浄用の治験薬(IMP)、すなわちNONSは、5mLのチューブ2本で提供され、鼻腔スプレーボトル(10mL)溶液に加え、3日ごとに新しい溶液に交換された。IMPには、等張生理食塩水(0.9%NaCl)を作るのに十分なNaClが含まれていた。
【0208】
一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)は、被験者が毎日自己投与し、9日間連続して投与を行った。毎朝、最初の投与の前に洗浄を行った(2噴霧し、30秒後に鼻をかんで上皮細胞表面の粘液やゴミを除去した)。投与1~9日目において各被験者は、NORS製剤またはプラセボ(等張生理食塩水)を含む提供された定量鼻腔スプレーポンプを用いて、1回の投与につき鼻孔あたり2噴霧(2×140μL=240μL/鼻孔、両鼻孔で480μL)投与した。各投与は起床中に、1日5~6回繰り返された。
【0209】
各被験者には、投与の前に鼻をかんで粘液の残骸を取り除くよう促した。スプレーノズルの先端は、鼻孔のぎりぎりのところに置かれた。スプレーは鼻孔に投与され、側鼻孔へのスプレーと、吸入しながら直接的に鼻腔へのスプレーとを交互に行った。1日あたりの最大総曝露量は3.36mLであり、最大54回の投与(9日間)にわたり30.2mLであった。
【0210】
参考製品、投与量、および投与形態:
プラセボは2本の5mLチューブ(塩化ナトリウム[NaCl]で作成した等張生理食塩水)で提供され、これを鼻腔スプレーボトル(10mL)に加え、3日ごとに新しい溶液に交換した。プラセボ鼻腔スプレーは、実薬と同じ量および方法で投与された。
【0211】
投与期間:
各被験者は、最大2日間のスクリーニング期間(-2日目~0日目)、9日間の連続投与期間(1日目~9日目)、および8日間のフォローアップ期間(10日目~18日目)を含む最大20日間研究に参加した。治験期間中、NONS投与の41.7%、プラセボ投与の46.3%が投与したと記録され、NONS投与の4.3%、プラセボ投与の4.8%が投与漏れしたと記録された。
【0212】
評価基準:
本治験の有効性変数および評価項目は、ベースラインから6日目までのSARS-CoV-2ウイルス量(サイクル閾値[Ct])のNONS群と対照群の差である。Ct値はウイルス量と逆相関しており、Ct値が3.3増加するごとに、COVID-19の出発物質が10倍減少することを反映している。
【0213】
副次有効性変数の評価には、複数の評価が含まれた。2日目、4日目、および6日目の鼻腔内におけるNONSの殺ウイルス効果の評価をプラセボと比較した。18日目までにCOVID-19によるインフルエンザ様症状で入院または救急外来を受診した被験者の割合を評価した。2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目におけるNONSとプラセボ対照間の、COVID-19患者の臨床症状(修正ジャクソン)スコアの減少における有効性を評価した。
【0214】
安全性
安全性については、COVID-19患者における、プラセボに対するNONSの耐性および一般的な安全性の両方を評価した。
【0215】
統計的手法
連続モニタリングデータの記述統計には、要約されるデータを持つ被験者の数(n)、平均、標準偏差、および中央値などが含まれる。すべてのカテゴリーデータおよび定性的データは、カウントとパーセンテージを使用して提示される。要約統計は、特に断りのない限り、投与群別および全体別として提示された。ベースラインは、治験薬投与前の欠損のない最終値と定義した。
【0216】
有効性解析には、intent-to-treat(ITT)集団を用い、Ctの線形混合効果モデルを用い、ランダム化投与群(NONS、対照)、年齢(連続)、ランダム化時の併存疾患の有無(無/有)、治験日(0、2、4、6)の固定効果に、投与群と治験日の相互作用をモデル中に組み込んだ。被験者に対するランダム(ガウス)切片は、多発性観測を考慮するために含まれた。パラメータ推定は最尤法(無制限/REML)を用いて行われ、推測はフルモデル(上記)と群に関わる主効果および交互作用を除いたモデルの尤度比検定に基づいて行われた。
【0217】
この投与効果の全体的な検定に加えて、各時点の最小二乗平均Ct推定値がフルモデルから作成され、サンドイッチ分散推定法を用いた95%信頼推定値を伴った。フルモデルで収束誤差があった場合、併存疾患変数は省略された。この解析は、PP集団についても繰り返された。施設および時点別の平均Ct推定値も計算された。
【0218】
副次有効性評価項目のすべての解析は、特に断りのない限り、ITTおよびPP解析集団に対して以下のように行われた。
【0219】
1.平均SARS-CoV-2対数ウイルス量の2日目、4日目、および6日目におけるベースラインからの変化(ITT集団)-投与開始後連続6日間の対数ウイルス量の平均差は、反復測定t検定を用いて投与群間で比較された。NONS群とプラセボ群の2日目、4日目、および6日目のウイルス量のベースラインからの対数変化(log10)については、別途解析を実施した。
【0220】
2.2日目、4日目、および6日目にSARS-CoV-2の対数ウイルス量が閾値以下に減少した被験者の割合-Ct閾値に達した、すなわち測定不能な対数ウイルス量の被験者の割合を、ランダム化群、年齢、ベースラインにおける併存疾患(あり/なし)の固定効果を用いたロジスティック回帰モデルにより投与群間で比較した。2日目、4日目、および6日目については、別のモデルを当てはめた。本解析では、評価項目の解析と同様に代入を行った。割合および95%CIは最小二乗法を用いて算出した。
【0221】
3.SARS-CoV-2の対数ウイルス量が、2日目、4日目、および6日目に閾値の範囲(1、2、および3)以下に減少するまでの時間-Ct閾値(測定不能なウイルス量)までの時間は、投与群、年齢、ベースラインにおける併存疾患の固定効果を含むCox比例ハザードモデルを用いてモデル化した。閾値に達しなかった個体は、最後に得られたCt測定時間で打ち切られたとみなした。時間の中央値と95%信頼区間を算出した。
【0222】
4.18日目までに入院またはED/ER受診を必要とした被験者の割合-被験者は、この評価に関する解析(群、年齢、併存疾患)と同様に固定効果を持つロジスティック回帰を使用してモデル化された。点推定値および95%信頼区間が提供された。18日目の入院またはER/ED受診が不明瞭であった被験者については、受診があったものとして代入した。
【0223】
5.評価項目解析(ITT)に基づく修正ジャクソンスコアのモデル化-修正ジャクソンスコアは評価項目解析と同様にモデル化され、ランダム化から6日目までのすべての日が使用され、それぞれに投与中または投与前の指標が付けられた。投与開始日の症状スコアは、NONS投与とアンケート記入の時間が逆でない限り、投与前とみなした。入院や死亡により欠損したスコアは、可能な限り最大スコアをもって代入した。また、18日目以前に死亡または入院した被験者のスコアも、最大スコアをもって代入した。その他の欠損はすべてランダム欠損として処理し、被験者の利用可能なすべてのデータをモデルに含めた。
【0224】
6.2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目における修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上変化、またはゼロに減少した被験者の割合-2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目において、修正ジャクソンスコア(またはCOVID-19のPROスコア)がベースラインから5以上変化またはゼロに減少した被験者の割合は、他の副次評価項目で述べたようにロジック回帰を使用してモデル化した。入院または死亡により欠損したスコアは、最大可能スコアで代入した。入院や死亡により欠損したスコアも、最大スコアで代入した。その他の欠損はすべてランダム欠損として取り扱った。
【0225】
すべての安全性解析を、安全性集団に対して行った。投与期間(1日目~9日目)にNONSまたは対照薬の投与を中止した被験者の割合を推定し、可能な場合はフィッシャーの正確検定を用いて比較した。有害事象の重症度および頻度、オキシメトリーおよび症状における臨床的に有意な変化を可能な場合はまとめ、群および期間(投与中[1日目~9日目]、投与後[10日目~18日目])別に提示した。
【0226】
結果と結論
目的の1つは、軽症のCOVID-19患者において、NONSのCOVID-19感染期間短縮効果を実証することであった。54回の鼻腔スプレーを1日6回、9日間連続投与した。
【0227】
各投与は4噴霧(合計560μL)、鼻孔あたり2噴霧、合計約30mLの投与レジメンで検討した。ベースラインのSARS-CoV-2ウイルス量の平均は、すべての被験者間で2.415×1013RNAコピー/cm(mL)であった。
有効性に関する成績:
【0228】
軽症のCOVID-19患者において、NONSのCOVID-19感染期間短縮効果を検証することを目的とした。54回の鼻腔スプレーを1日6回、9日間連続投与した。
【0229】
各投与は4噴霧(合計560μL)、鼻孔あたり2噴霧、合計約30mLの投与レジメンで検討した。ベースラインのSARS-CoV-2ウイルス量の平均は、すべての被験者間で2.415×1013RNAコピー/cm(mL)であった。
【0230】
有効性変数は、「サイクル閾値」すなわちSARS-CoV-2ウイルス量の、ベースラインから投与6日目までの減少変化とした。
【0231】
本治験の有効性評価項目は、ベースラインからの平均対数ウイルス量減少の投与群間比較であった。解析には、投与群(NONS、対照)、年齢(連続)、ランダム化時の併存疾患の有無、治験日(0、2、4、6)、投与群と各治験日の相互作用の固定効果を用いた一般化線形混合効果モデルを使用した。
【0232】
SARS-CoV-2の対数ウイルス量は、プラセボと比較してNONS投与の最初の6日間で有意に減少した。NONSとプラセボ間の投与の違いは、3日間すべてで統計的に有意だった(NONS投与はプラセボと比較して2日目、4日目、および6日目にp<0.05)。プラセボに割り振られた被験者におけるウイルス量は、NONS実薬に割り振られた被験者と比較して、最初の6日間で有意に高かった。
【0233】
主共変量(投与群)の経時的なウイルス量への影響は、主共変量を除いたヌルモデルと主共変量と治験日の相互作用効果で評価した。フルモデルとヌルモデルを尤度比検定で比較した。フルモデルに対する尤度比検定では、ヌルモデルと統計的に有意な差を示した(p=0.01)。評価日と実薬の使用の組み合わせは、ウイルス量レベルを有意に予測した。したがって、帰無仮説は棄却される。
【0234】
ベースラインから2日目、4日目、および6日目までの曲線下面積(AUC)評価による対数ウイルス量の変化の平均投与差は、NONSがプラセボに対して統計的に有意であった(-5.220;95%CI=-9.136~-1.305;p=0.01)。
【0235】
NONS投与により、高濃度のSARS-CoV-2ウイルス量が、24時間以内に95%、72時間以内に99%と急速に減少した。PP集団の有効性に関する成績は、ITT集団の結果と同等であった。
【0236】
また、一般化線形混合効果モデルに投与群の変量効果を加えた感度解析を繰り返し行い、解析結果を確認した。
【0237】
副次有効性に関する成績:
副次有効性評価項目は、軽症のCOVID-19患者におけるNONS投与の有効性を概ね支持するものであった。
【0238】
1.SARS-CoV-2の対数ウイルス量の2日目、4日目、および6日目のベースラインからの平均変化量(ITT集団)-SARS-CoV-2の対数ウイルス量のベースラインからの変化量は、NONS投与ではプラセボと比較して2日目(p=0.008)および4日目(p=0.021)に統計的に有意であった。SARS-CoV-2の対数ウイルス量のベースラインからの曲線(curve from baseline:CFB)の減少は、NONS投与群ではプラセボ投与群と比較して大きかったが、6日目には統計的に有意でなかった(p=0.094)。全体として、これらの結果は治療効果と一致している。同様の結果がPP集団でも観測された。すべてのウイルスサンプルは、既知のSARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC)の存在を確認するために配列決定された。NONS群の34人(87.2%)はB.1.1.7系統(VOC202012/01)であり、残りはVOCでないと判定された。プラセボ群では34人(85.0%)がB.1.1.7系統と判定され、残りはVOCでないと判定された。
【0239】
2.2日目、4日目、および6日目におけるSARS-CoV-2の対数ウイルス量が閾値以下に減少した被験者の割合-4日目の解析では対数ウイルス量が閾値3(p=0.012)だったことを除き、3つの閾値のいずれにおいてもNONS投与とプラセボとの間に統計的有意差が認められなかった。対数ウイルス量が1の場合の2日目の解析を除いて、すべての解析でNONS投与の数値的な有益性が観測されたが、この副次評価項目で一貫して統計的に有意な影響を実証するには、おそらく本治験では力不足であった。PP集団についても同様の結果が得られた。
【0240】
3.2日目、4日目、および6日目にSARS-CoV-2の対数ウイルス量が閾値の範囲(1、2、3)以下まで減少した時間-各閾値におけるNONS投与とプラセボ間の差異はいずれも統計的に有意でなかった。閾値3の中央値はNONS投与とプラセボで同じ時間(6時間)であり、平均時間はNONS投与で4時間、プラセボで6時間であった。PP集団については、追加解析を行わなかった。
【0241】
4.18日目までに入院またはED/ERを受診した被験者の割合-2人(各群1人ずつ)が入院したが、治験責任医師により投与とは無関係であり、有害事象ではないと判断された。また、回復後の被験者による追加のED/ER受診はなかった。ITT集団またはPP集団において、本結果に関する統計解析は実施されなかった。
【0242】
5.評価項目解析に基づく修正ジャクソンスコア(ITT)-修正ジャクソン症状スコアの完全なデータは、PP集団において79例中48例を1日目に入手でき、9日目には79例中32例まで減少した。9日間の各日における修正ジャクソン症状スコアの合計を統計的に解析した結果、いずれの日においても投与間の統計的有意差は認められなかった。
【0243】
6.2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目における修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上変化またはゼロに減少した被験者の割合-ITT集団またはPP集団において、ベースラインからの修正ジャクソン症状スコアの変化が5以上である被験者の解析は行わなかった。
【0244】
持続的症状スコア0を達成するまでの時間解析には限界があり、この評価項目を達成した被験者は全体で11人であった。サンプルが小さかったため、3未満の持続的症状スコアの達成に基づく2回目の解析が行われ、32人の被験者が得られた。どちらの場合も、カプランマイヤー曲線は、統計的に有意ではなかったが、NONSの明らかな有益性は示した。
【0245】
安全性結果:
以下の点において、NONSの投与は、耐性が高く安全であると治験責任医師により判断された。
・治験中、死亡および生命を脅かすような有害事象(TEAE)は発生しなかった。また、有害事象(AE)により治験を中止した被験者はいなかった。
・治験責任医師が投与によるTEAEを経験したという報告をした被験者はいなかった。また、各投与群で1人の被験者が投与とは無関係の入院を報告した。
・NONSの自己投与に伴う併存疾患、誤用、乱用、または過量投与はなかった。
【0246】
全体として、鼻腔あたり2噴霧で各投与4噴霧(計560μL)、1日6回、9日間連続投与で、合計約30mLの投与レジメンとなる合計54回の一酸化窒素鼻腔スプレー投与は、この第IIb相有効性および安全性臨床試験において良好な耐性が確認された。この新規なNO療法(NONS)および軽症のCOVID-19患者への治療に関して、新たな安全性の懸念は確認されなかった。
【0247】
結論:
鼻腔はCOVID-19ウイルスの宿主侵入および感染の主要な経路である。この疾患の経過を短縮または予防し、免疫介在性の病理学的損傷を軽減し、病気の重症度を下げることができる有効な抗ウイルス療法は、現在見つかっていない。一酸化窒素は、生体外および生体内の動物実験の両方で、細菌、酵母、真菌、およびウイルスに対して抗菌活性を有する。また、NOはSARS-CoV-2スパイクタンパク質とその同族受容体であるACE-2との融合を阻害する。
【0248】
本研究は、軽度のCOVID-19感染症を治療するための一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)の臨床効果を明らかにするために考案された。本目的は、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によって鼻腔内ウイルス濃度を決定し、鼻腔からウイルスを除去する投与効果を確立することであった。評価項目は、ベースラインから6日目までのSARS-CoV-2ウイルス濃度におけるNONS投与とプラセボ投与の差とした。この二重盲検、プラセボ対照、第IIb相臨床試験には、コミュニティで軽度のCOVID-19と診断された成人80人がランダムに割り振られた。
【0249】
COVID-19の症状発現から5日目以前に開始したNONS投与は、プラセボと比較して、2日目と4日目にSARS-CoV-2のRNA濃度が-1.21および-1.21log10コピー/mLと急速に減少することと独立して関連していた。SARS-CoV-2の平均RNA濃度は、2日目および4日目の両方で、NONS投与により16.2倍低くなった。6日目は症状発現から少なくとも10日目に相当し、投与の有無にかかわらずSARS-CoV-2のウイルス量の減少が予想された。それにもかかわらず、SARS-CoV-2のRNA濃度は、6日目においてNONS投与でより低かった。曲線下面積解析では、投与開始後6日間で、NONS投与によるプラセボとの平均差は-5.22log10コピー/mLであった。SARS-CoV-2の高濃度ウイルス量は、NONSの投与により24時間以内に95%、72時間以内に99%の急速な減少がみられた。
【0250】
本治験では、大多数の被験者がSARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC202012_01)陽性であった。一方、SARS-CoV-2の中和抗体LY-CoV555の治験では、プラセボに対するSARS-CoV-2のRNA濃度の相対的減少は、3日目と7日目にそれぞれ-0.64および-0.45log10コピー/mLであった。オセルタミビルは、2日目および4日目にそれぞれ-1.19および-0.68log10コピー/mLのインフルエンザRNA濃度の減少と独立して関連することが示されている。
【0251】
COVID-19感染者におけるSARS-CoV-2ウイルス量の減少は、ウイルス量の動態とウイルス排出期間が疾患伝播のいくつかの決定要因であることから、より良い臨床成果と強い相関があることが分かっている。今回の治験と同様の鼻腔内ウイルス量測定技術を用いたモノクローナル抗体治験やワクチン治験で実証されたように、症状発現から最初の5日以内にウイルス量の減少が始まり、8~9日後に生存ウイルスがいなくなれば、最高の成果が得られる。
【0252】
ウイルス感染の治療に研究中または現在使用されている全身療法と同様に、NONSの鼻腔投与はCOVID-19のウイルス量を減らすのに有効である。一酸化窒素療法は、潜在的に有益な治療法や病原性の新しい洞察を検討する際に、COVID-19の治療法として見落とされがちである。
【0253】
全体として、NONSはプラセボと比較して、有効性および複数の副次的有効性評価項目にわたって差が認められた。NONS投与により、SARS-CoV-2ウイルス濃度は即座にかつ一貫して16.2倍まで低下し、軽症のCOVID-19患者におけるCOVID-19感染期間の短縮が示唆された。
【0254】
NONSは、新しい変異株が現在のワクチンの有効性を低下させた場合、予防や早期投与のためにすべての人々に使用できる。また、NONSは、まだワクチンを十分に受けていない感染者、ワクチンを受けることができない感染者、またはワクチンを受けても感染している感染者に、抗ウイルス治療を提供することができる。
【0255】
有効性:
本目的は、軽症のCOVID-19患者(ITT集団)において、NONSのCOVID-19感染期間の短縮効果を実証することであった。有効性変数は、投与6日目までの「サイクル閾値」、すなわちSARS-CoV-2ウイルス量のベースラインからの減少差とした。解析には、ランダム化投与群の固定効果を伴う対数ウイルス量の線形混合効果モデルを使用した。ベースラインのSARS-CoV-2ウイルス量の平均は、すべての被験者間で2.415×1013RNAコピー/cm(mL)であった。
【0256】
SARS-CoV-2対数ウイルス量の減少:プラセボに対し、NO鼻腔スプレーは、投与開始後6日間でウイルス量を有意に減少させた。投与の差は、2日目(p=0.006)、4日目(p=0.007)、および6日目(p=0.035)で、それぞれ統計的に有意であった。PP集団の結果は、ITT集団の結果と同等であった。
【0257】
尤度比検定:主共変量(投与群)の経時的なウイルス量への影響を、主共変量および主共変量と治験日の相互作用を除き、ヌルモデルとフルモデルを比較して評価した。尤度比検定の結果、フルモデルはヌルモデルと有意に異なることが示唆された(p=0.01)。評価日と実薬の使用の組み合わせは、ウイルス量レベルを有意に予測する。したがって、帰無仮説は棄却される。PP集団の結果は、ITT集団の結果と同等であった。
【0258】
ベースラインからの曲線下面積対数ウイルス量の変化:NONS投与開始後6日間のベースラインからの曲線下面積(CFB)を用いた平均投与差は-5.220であり、95%CI、-9.136~-1.305(p=0.01)であった。高いSARS-CoV-2ウイルス量の急速な減少(95%)は、NONS投与後24時間以内に、そして99%の減少が72時間以内に観測された。PP集団の結果は、ITT集団の結果と同等であった。
【0259】
SARS-CoV-2の対数ウイルス量の減少および投与群の変量効果を伴う感度解析を用いた尤度比検定は、固定効果の評価と同等であった。
【0260】
副次有効性解析では、軽症のCOVID-19患者における一酸化窒素鼻腔スプレー投与の有効性を概ね支持している。
【0261】
2日目、4日目、および6日目における平均SARS-CoV-2対数ウイルス量のCFB:ベースラインからのSARS-CoV-2対数ウイルス量の減少変化は、プラセボと比較してNONS投与では2日目(p=0.008)および4日目(p=0.021)に統計的に有意であった。SARS-CoV-2対数ウイルス量のCFBの減少は、ITT集団では、6日目においてNONSの方が大きかったが統計的に有意ではなかった(p=0.094)。PP集団においても同様の結果が得られた。
【0262】
SARS-CoV-2対数ウイルス量の減少が閾値範囲以下に達した被験者の割合:3つの閾値のいずれにおいても、NONS投与とプラセボの間に統計的な有意差は認められなかったが、ITT集団の対数ウイルス量の閾値が3(p=0.012)であった4日目は例外であった。PP集団についても同様の結果が得られた。
【0263】
SARS-CoV-2対数ウイルス量が閾値範囲以下に減少するまでの時間:ITT集団では、各閾値におけるNONS投与とプラセボの差はいずれも統計学的に有意ではなかった。PP集団について解析は行われなかった。
【0264】
評価項目解析においてモデル化された修正ジャクソンスコア:9日間の総スコアについては、いずれの投与においても統計学的な有意差は認められなかった。
【0265】
2日目、4日目、6日目、および9日目に修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上変化、またはゼロに減少した被験者の割合:2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目にCFB≧5またはゼロに減少した被験者の割合に関する統計解析は行われなかった。9日目までの症状スコアがゼロを維持する時間を解析したところ、統計的有意差はないものの、NONSの有効性が明らかになった。
【0266】
入院またはED/ER受診を必要とした被験者の割合については、ITT集団およびPP集団で統計解析を行わなかった。
【0267】
全体として、NONSとプラセボの間で、有効性および複数の副次的有効性評価項目にわたる投与差が認められた。SARS-CoV-2ウイルス量はNONS投与で即時に一貫して低下し、軽症のCOVID-19患者におけるCOVID-19感染期間の短縮が示唆された。すべてのウイルスサンプルは、既知のSARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC)の存在について配列決定された。NONS群の34人(87.2%)はB.1.1.7系統(VOC202012/01)であり、残りはVOCではないと判定された。プラセボ群では34人(85.0%)がB.1.1.7系統と判定され、残りは懸念される既知の変異株ではないと判定された。
【0268】
安全性:
各投与期間中、継続的に安全性監視を実施し、フォローアップを行ったNO被験者について、ベースラインからの臨床的に関連のある変化は認められなかった。
【0269】
全体として、鼻腔あたり2噴霧で各投与4噴霧(計560μL)、1日6回、9日間連続投与で、合計約30mLの投与レジメンとなる合計54回の一酸化窒素鼻腔スプレー投与は、この第IIb相有効性および安全性臨床試験において有効性および耐性が確認された。この新規なNO療法(NONS)および軽症のCOVID-19患者への経鼻投与に関して、新たな安全性の懸念は確認されなかった。
【0270】
実施例3-C-臨床試験の導入とその目的
序論
本研究で提案されたNORSの投与レジメンは、H1N1およびH3N2に対して生体外で試験されている。非常に高いウイルス力価(>10PFU/mL)を用いて、NORSは曝露後30~60秒以内にH1N1およびH3N2を根絶した。10PFU/mL以上の力価の最近の臨床分離株を用いた実験室での試験において、NORSは2分以内に99.9%以上のSARS-CoV-2を不活化(検出限界以下まで)することが確認されている。
【0271】
NORSはこれまでに、カナダ保健省が承認した足白癬治療のための治験において、本研究で提案する一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)と同じ濃度で21人に局所投与されたことがある。この治療法は耐性があり、重篤な有害事象(SAE)はなく、少数の軽度な有害事象(AE)が報告された。また、環境安全性、使用者安全性が評価され、NORSは安全であると判断された。
【0272】
一実施形態において、NORSは難治性慢性副鼻腔炎(CRS)を含む副鼻腔炎を治療するために、副鼻腔洗浄として使用することができる。当初、CRSを有する被験者の1日1回の投与における最大耐容量を特定するために、用量漸増治験が実施された。その結果、最大耐容量は本研究で提案した量の4倍であることが確認された。また、重篤な有害事象は記録されず、5人の被験者全員にQOL(SNOT-22により測定)および副鼻腔炎の重症度(内視鏡評価により測定)の有意な改善が見られたことが確認された。副鼻腔炎を治療するための投与量範囲は、本明細書に記載されるNORS組成物に基づく投与量範囲を含め、様々であることができる。一実施形態において、投与量範囲は50mL~500mLの副鼻腔洗浄とすることができる。いくつかの実施形態において、投与量範囲は、240mLの副鼻腔洗浄とすることができる。いくつかの実施形態において、投与量範囲は100mL~240mLとすることができ、使用されるNORSは、本明細書に記載される任意の特定のNORSとすることができる。
【0273】
目的
本目的は、ランダム化してから6日目までのCOVID-19ウイルス感染期間(1~6日目)の短縮に対するNONSの有効性をプラセボと比較して評価することであった。二次目的は、2日目、4日目、および6日目の鼻腔内におけるNONSの殺ウイルス効果をプラセボと比較して評価することだった。その他の二次目的には、COVID-19の進行予防におけるNONSの有効性の評価、被験者のCOVID-19臨床症状スコアの減少の評価、COVID-19感染患者におけるNONSの耐性の評価、およびCOVID-19感染患者におけるNONSの安全性の評価が含まれている。
【0274】
実施例3-D-研究設計および計画
説明:
本治験は、多施設、ランダム抽出、二重盲検、プラセボ対照の第IIb相臨床試験であって、COVID-19感染患者におけるSARS-CoV-2ウイルス量を減少するための一酸化窒素鼻腔スプレーの有効性および安全性を評価する治験である。
【0275】
COVID-19の症状が軽度の参加希望者に声をかけ、説明を行い、治験に関する情報シートを渡した。被験者が参加に同意した場合、インフォームドコンセントが取られた。被験者は直ちにSARS-CoV-2の鼻腔スワブrt-PCRと抗原検査を受けるよう計画された。被験者の抗原検査が陽性であった場合、または被験者が過去にCOVID-19が陽性であった場合(過去48時間以内のSARS-CoV-2の鼻腔スワブrT-PCR)、資格を有する医療スタッフが、インフルエンザ様症状の評価を含む適切な病歴および身体検査を行い、被験者を治験に登録した。
【0276】
登録後、被験者はNONS投与とプラセボ(対照)の比率が1:1となるようにランダム化され、9日分の治験薬、鼻腔スプレーポンプ、家庭用鼻腔スワブテストキット、輸送用封筒、および外来被験者ベースで毎日どのように薬を自己投与するかの使用説明書(オンラインビデオによる指示を含む)が含まれたパッケージが配布された。被験者は、本治験の投与期間中(1日目から9日目まで)隔離されることに同意した。隔離の合計期間は、地方自治体のCOVID-19ガイドラインと方針によって規定された。
【0277】
9日間の投与期間中、各被験者は起床中に定量鼻腔スプレーポンプを用いて、1鼻孔あたり2噴霧を1日に5~6回繰り返し、毎朝、最初の投与の前に洗浄を行った。被験者は、治験終了(18日目)まで、症状緩和療法を含む毎日の症状結果スコアを、オンラインポータルを通じて収集および入力した(治験スタッフが状態の悪化を監視した)。被験者は、2日目、4日目、および6日目に、COVID-19検査センターまたは自宅での自己検査で鼻腔スワブを採取し、ウイルス量を解析するよう事前にスケジュールされた。2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目に電話によるフォローアップが行われた。有害事象、不快感、痛み、投与中止、応急手当、救急処置室、および入院が記録された。
【0278】
考察:
潜在的な対照被験者には、標的となる研究集団の中からランダムにプラセボを割り当てた。前投与期間中、すべての被験者のベースラインデータには、人口統計、病歴、および身体検査を含めた。併用薬は各受診時に記録した。すべての被験者は、ACE阻害剤を含む通常の日常的な薬物を継続することができた。経鼻ステロイド、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、および片頭痛治療は継続できたが、投与の前後1時間以内に服薬することはできなかった。
【0279】
毎日の投与アンケートでは、投与のコンプライアンス、耐性、使いやすさ、有害事象を記録した。不快感/痛みのスケールが含まれ、使用された。COVID-19に関連する症状を把握するため、有害事象共通用語基準(Common Terminology Criteria for Adverse Event:CTCAE)の症状項目と急性上気道感染症の修正ジャクソンコールドスコアを組み合わせた患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome:PRO)COVID症状アンケート(e-form)が用いられた。12の関連する症状を0~3のスケール、すなわち0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度でスコア化し、最もひどい症状で最大36スコアとした。
【0280】
健康状態を5つの側面(流動性、セルフケア、日常生活、痛み/不快感、および不安/抑うつ)から定義したPRO EuroQol 5次元アンケート(EQ5D5L)を用いた。各次元は、問題なし、軽度に問題あり、中程度に問題あり、重度に問題あり、極度に問題ありに対応する5段階の回答カテゴリーを有する。このアンケートは、自己記入式にデザインされている。被験者は、アンケートの最後に、0-100の垂直(ハッシュマーク)、視覚的アナログスケールで自分の全体的な健康状態を評価した。
【0281】
治験スタッフによるフォローアップ電話では、発熱、咳、呼吸困難、くしゃみ、味覚消失、嗅覚消失、頭痛、重度の疲れ、食欲不振、全身筋肉痛、下痢、喉の痛み、および嗅覚/味覚障害などのCOVID-19症状の有無を含む現在の健康状態を被験者に確認するよう求めた。被験者には、毎日の投与レジメンについて注意喚起し、投与に際しての課題や経験したことのある有害事象について質問した。9日目と18日目にフォローアップのアンケートがEメールで送信され、2~5分で完了した。総参加日数は最大19日間(スクリーニングに1日[0日目]、投与に9日[1~9日目]、フォローアップに9日[10~19日目])であった。
【0282】
被験者集団の選択:
すべての被験者は、以下の選択基準を満たすものとする。
・インフォームドコンセントを理解し署名できること、プロトコルを遵守できること。
・18歳~70歳の男女であること。
・インターネットにアクセスでき、医療専門家との音声または音声/ビデオ通話に参加し、研究スタッフからテキスト、電子メール、および電話を受け取ることができ、研究期間中にスマートフォン、タブレット、ラップトップ、またはデスクトップコンピュータを使って毎日の研究情報を提出するために、妥当な携帯データまたはその他のインターネットアクセスができるデバイスを持っていること、さらにそれを使う意思があること。
・COVID-19に感染しており、それが研究室におけるSARS-CoV-2の鼻腔スワブRT-PCRで確認されたこと。
・過去48時間以内に採取された検体(鼻腔)であること。
・発熱、咳、咽頭痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛、胃腸症状、味覚・嗅覚障害、息切れ、呼吸困難、または無症状などの軽度のCOVID/FLU症状であること。
【0283】
参加するために、被験者は以下の除外基準を満たさないものとする。
・同意することができず、プロトコルに従うことができないこと。
・70歳以上の男女であること。
・現在、気管切開または喉頭摘出術を受けていること。
・酸素吸入または人工呼吸器などの呼吸器併用療法を受けていること(ただし、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する気道陽圧療法は、登録の少なくとも3ヶ月前に良好なコンプライアンスで投与が確立されていれば許可した)。
・何らかの理由で入院が必要なこと。
・鼻腔スプレーを安全に自己投与することができないこと。
・臨床的に禁忌であると資格のある医師が判断したこと。
・中等度、重度、または重篤なCOVID症状を示す臨床症状であること(FDAのCOVID-19ガイダンス文書に定義されている)。
・精神または神経に障害を持つ被験者で、研究への参加に同意することができないと判断されたこと。
・授乳中、妊娠中、または治験期間中に妊娠を予定していること。
・COVID-19の先行感染があると診断されたこと(例:スクリーニング前に検査報告を受けてから48時間以上経過している)。
【0284】
退薬
退薬基準には、被験者はいつでも理由を告げずに退薬できることが含まれていた。
【0285】
実施例3-E 投与
一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)とプラセボ溶液は、9日間の投与期間中、3日おきに各個人に送付された。
【0286】
鼻腔洗浄用の治験薬(IMP)であるNONSは、2本の5mLチューブで提供され、鼻腔スプレーボトル(10mL)の溶液に加え、3日ごとに新しい溶液に交換された。プラセボは、2本の5mLチューブ(塩化ナトリウム[NaCl]で作成された等張生理食塩水)で提供され、これを鼻腔スプレーボトル(10mL)に加え、3日ごとに新しい溶液に交換した。表3E-1に示すように、IMPには等張(0.9%NaCl)生理食塩水を作るために十分なNaClが含まれていた。
【表3E-1】
【0287】
NONSのパッケージキットには、Aというラベルのついたチューブ3本、Bというラベルのついたチューブ3本、空の鼻腔スプレーボトル1本、およびラベルのついた二次包装が含まれていた。プラセボパッケージキットには、Cというラベルのついたチューブ3本、Dというラベルのついたチューブ3本、空の鼻腔スプレーボトル1本、およびラベルのついた二次包装が含まれていた。治験薬とプラセボは、同一の包装で届けられ、それぞれの包装に固有の識別コードが付けられていた。
【0288】
登録された被験者は、NONS投与群またはプラセボ群にランダムに割り振られた。ランダム化は投与前に行われ、治験のeCRFデータベースを通じてコンピューターで作成されたリストに基づいて行われた。
【0289】
本目的は、ガスボンベや高圧を必要としない一酸化窒素放出溶液(NORS)を用いたNOガス製剤相当のものを提供することであった。NORSの利点は、呼吸器上皮への酸化的障害を最小限に抑え、全身のメトヘモグロビン濃度を最小にしながら、標的部位(鼻粘膜/肺)に即効性のある殺ウイルス量のNOを持続的に(少なくとも5分間)放出できることである。
【0290】
一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)は、被験者が毎日終日自己投与し、9日間連続して投与を行った。毎朝、最初の投与の前に洗浄を行った(2回噴霧し、30秒後に鼻をかんで上皮細胞表面の粘液やゴミを除去した)。スプレーポンプの準備と使用方法については、被験者のためにビデオ説明がオンラインで提供された。
【0291】
投与1日目から9日目まで、各被験者は備え付けの定量噴霧式鼻腔スプレーポンプを用いて、1投与につき鼻孔あたり2噴霧(2x140μL=240μL/鼻孔;両鼻孔で480μL)、NORS製剤または等張生理食塩水のいずれかの溶液を投与した。各投与は起床中に1日5-6回繰り返された。
【0292】
各被験者には、投与の前に鼻をかんで粘液の残骸を取り除くよう促した。スプレーノズルの先端は、鼻孔のぎりぎりのところに置かれた。スプレーは鼻孔に投与され、側鼻孔へのスプレーと、吸入しながら直接的に鼻腔へのスプレーとを交互に行った。1日あたりの最大総曝露量は3.36mLであり、最大54回の投与(9日間)にわたり30.2mLであった。
【0293】
前治療および併用治療:
併用薬は各診察時に記録した。すべての被験者がACE阻害剤を含む通常の日常的な薬物を継続することができた。経鼻ステロイド、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬は継続可能であった。片頭痛などのために処方された鼻腔内救急薬は使用することができた。処方された鼻腔スプレーは、各治療の前後1時間以内に使用することはできない。喘息の吸入薬は、事前に処方されたとおりに、必要に応じて服用することができる。
【0294】
アセトアミノフェン、ナプロキセンナトリウム、およびイブプロフェンは、パッケージの表示にしたがって痛みや発熱に使用することができるが、症状との関連性を確認し、毎日の投与アンケートに記録する必要がある。グアイフェネシンおよびデキストロメトルファンは、パッケージの表示にしたがって、咳のために経口使用することができる。プソイドエフェドリンは、鼻づまりのために経口使用することができる。
【0295】
表3E-1に記載された薬剤は、治験実施前または実施中に示された時間内に除外または禁止された。禁止された薬剤の使用は、プロトコル違反とみなされた。
【表3E-1】
【0296】
新しい薬剤の投与、またはCOVID-19症状の治療を必要とする被験者は、いかなる時点でもセンター施設の研究コーディネーターに連絡した。COVID-19症状のために使用された薬剤は、特定の症状に対する使用ごとに記録され、毎日の投与アンケートにて報告された。
【0297】
投与コンプライアンス:
治験担当者は、薬局の薬剤管理記録で調剤された治験薬を確認することで、コンプライアンスを監視した。被験者は、使用済み、一部使用済み、未使用の投与パックを治験センターに返却するよう求められた。18日後のフォローアップコールでは、被験者が治験薬をどれだけ使用したかについて、正直な評価を求められ、その後記録された。
【0298】
実施例3-F 有効性および安全性評価
本治験で実施した全ての有効性および安全性評価を表3F-1に示す。本治験の目的は、NONSを1日目から6日目まで投与することでCOVID-19感染期間を短縮することであった。NONSが軽症のCOVID-19感染症を治療できるかどうかを判断するために、NONS投与を受けている被験者のウイルス量が対照群よりも短期間で減少することを評価項目として証明する必要があった。
【0299】
しかし、生存COVID-19ウイルスは多くの場合、SARS-CoV-2逆転写酵素定量PCR(RT-qPCR)検査が陽性でも、症状の最初の週に分離可能である。反復したSARS-CoV-2のウイルス培養サポート、ましてや実際の生存ウイルス量を用いた研究を支える能力と帯域幅を持つ研究室を見つけることは難しい。現在、診断および調査はRT-qPCR検査に依存しているが、これらの結果は陽性または陰性という二つで報告され、ウイルス量の指標にはならない。
【0300】
本治験におけるウイルス量は、ウイルス培養を行わずに鼻スワブからのウイルス量の変化を定量化するために、整数値で報告される「サイクル閾値」として測定された。サイクル閾値(Ct)は、生存ウイルスおよびウイルス量と逆相関し、本治験ではNONSの抗ウイルス効果を判定する評価項目指標として使用した。
【0301】
副次的目的は、NONSの殺ウイルス効果の程度、COVID-19の進行抑制、COVID-19症状の軽減、およびCOVID-19感染患者におけるNONSの耐性と安全性を評価することであった。
【表3F-1】
【0302】
本治験の有効性変数および評価項目は、ベースラインから6日目までのSARS-CoV-2ウイルス量(サイクル閾値[Ct])のNONS群と対照群の差である。
【0303】
SARS-CoV-2のRT-qPCR検査は、SARS-CoV-2のRNAをDNAに逆転写し(RT動作)、増幅された核酸の量に比例して蛍光シグナルが増加するqPCRを行うことにより、試料中のRNAを正確に定量することができるリアルタイム定量法である。一定のPCRサイクル数(Ct値)以内に蛍光が所定の閾値に達すれば陽性と判定される。Ct値はウイルス量に反比例し、Ct値が3.3増加するごとに、COVID-19の出発物質が10倍減少することを反映している。副次有効性変数の評価には、複数の評価項目が含まれる。
【0304】
2日目、4日目、および6日目に鼻腔内におけるNONSの殺ウイルス効果をプラセボと比較検討した。副次評価項目として、SARS-CoV-2の対数ウイルス量の平均値の差、測定不能なウイルス量であるCt閾値に達した被験者の割合、測定不能なウイルス量に至るまでの時間の差の3つを、解析に合わせて2日目、4日目、および6日目にNONSとプラセボで比較評価した。
【0305】
また、NONSのCOVID-19の進行抑制効果についても評価した。副次評価項目は、投与18日目までにCOVID-19のインフルエンザ様症状により入院または救急外来を受診した被験者の割合とした。
【0306】
COVID-19患者の臨床症状スコアの減少に関する有効性の評価が行われた。副次評価項目として、ベースラインから6日目までの修正ジャクソンスコアのNONSとプラセボ対照との差と、2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目の修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上減少、あるいはゼロに減少した被験者の割合のNONSとプラセボ対照との差の2つを検討した。
【0307】
安全性については、COVID-19患者における、NONSの耐性および一般的な安全性の評価を含んだ。安全性の評価項目は以下を含んだ:
・耐性の評価項目として、投与期間1~9日目における、COVID-19感染患者の各投与に対するAEおよびNONSの投与中止を評価した。
・安全性の評価項目として、本治験の全臨床期間(1日目~18日目)におけるAEを評価した。
【0308】
実施例3-G 有効性および安全性の解析
有効性解析には、intent-to-treat(ITT)集団を用い、Ctの線形混合効果モデルを用い、ランダム化投与群(NONS、対照)、年齢(連続)、ランダム化時の併存疾患の有無(無/有)、治験日(0、2、4、6)の固定効果に、投与群と治験日の相互作用をモデル中に組み込んだ。被験者に対するランダム(ガウス)切片は、多発性観測を考慮するために含まれた。パラメータ推定は最尤法(無制限/REML)を用いて行われ、推論はフルモデル(上記)と投与群に関わる主効果および交互作用を除いたモデルの尤度比検定に基づいて行われた。投与効果に関するこの全体的な検定に加えて、各時点の最小二乗平均Ct推定値が、サンドイッチ分散推定量を用いた95%信頼度とともに、フルモデルから作成された。フルモデルで収束誤差があった場合、併存疾患変数は省略された。
【0309】
線形モデルの知見を裏付けるため、またCtの天井効果の可能性を考慮し、クラスター化Coxモデルをデータに当てはめた。Ctが40の閾値を超えている個人は、40でちょうど打ち切られたとみなされた。Coxモデルは、線形混合モデルと同じ固定効果と変量効果を利用し、投与効果のp値は、尤度比検定、すなわち、完全モデル対縮小モデルの部分尤度比検定から得られた。
【0310】
被験者が入院した、または6日目以前に死亡したためにCt測定値が欠損した場合は、いずれかの群で観測された最も低いCt値(最も高いウイルス量)で代入された。Ct測定値が欠損し、その後入院した場合、または18日目以前に死亡した場合は、いずれかの群で観測された最も低いCt値で代入された。同意の撤回、追跡調査不能、治験責任医師の脱退、またはCOVID-19の進行に関連しないその他の欠損は、ランダムに欠損したものとし、その残りの有効なスコアを解析に使用した。4回のCt測定(ベースライン、2日目、4日目、および6日目)すべてを欠席した被験者には、いずれかの群で観測された最も低いCtスコアを解析に使用した。被験者の5%以上(3人以上)が4つのCt測定値すべてを欠損した場合、2つの感度分析が行われた。
【0311】
PP集団についても本解析を繰り返した。施設および時点ごとの平均Ctの推定値も算出された。副次的評価項目は、ITT集団とPP集団で解析された。
【0312】
1.平均SARS-CoV-2対数ウイルス量の2日目、4日目、および6日目におけるベースラインからの変化(ITT集団)-投与開始後連続6日間の対数ウイルス量の平均差は、反復測定t検定を用いて投与群間で比較された。NONS群とプラセボ群の2日目、4日目、および6日目のウイルス量のベースラインからの対数変化(log10)については、別途解析を実施した。
【0313】
2.2日目、4日目、および6日目にSARS-CoV-2の対数ウイルス量が閾値以下に減少した被験者の割合-Ct閾値に達した、すなわち測定不能な対数ウイルス量の被験者の割合を、ランダム化群、年齢、ベースラインにおける併存疾患(あり/なし)の固定効果を用いたロジスティック回帰モデルにより投与群間で比較した。2日目、4日目、および6日目については、別のモデルを当てはめた。本解析では、評価項目の解析と同様に代入を行った。割合および95%CIは最小二乗法を用いて算出した。
【0314】
3.SARS-CoV-2の対数ウイルス量が、2日目、4日目、および6日目に閾値の範囲(1、2、および3)以下に減少するまでの時間-Ct閾値(測定不能なウイルス量)までの時間は、投与群、年齢、ベースラインにおける併存疾患の固定効果を含むCox比例ハザードモデルを用いてモデル化した。閾値に達しなかった個体は、最後に得られたCt測定時間で打ち切られたとみなした。時間の中央値と95%信頼区間を算出した。
【0315】
4.18日目までに入院またはED/ER受診を必要とした被験者の割合-被験者は、この評価に関する解析(群、年齢、併存疾患)と同様に固定効果を持つロジスティック回帰を使用してモデル化された。点推定値および95%信頼区間が提供された。18日目の入院またはER/ED受診が不明瞭であった被験者については、受診があったものとして代入した。これには、回復したと判断され、および18日目以前に同意を取下げまたはフォローアップから外れた被験者に対する治験依頼者による盲検データレビューが含まれる。
【0316】
5.2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目における修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上変化、またはゼロに減少した被験者の割合-2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目において、修正ジャクソンスコア(またはCOVID-19のPROスコア)がベースラインから5以上変化またはゼロに減少した被験者の割合は、評価項目解析と同様にモデル化されたが、ランダム化から6日目までのすべての日が使用され、それぞれに投与中または投与前の指標が付けられた。投与開始日の症状スコアは、NONS投与とアンケート記入の時間が逆でない限り、投与前とみなした。入院や死亡により欠損したスコアは、可能な限り最大スコアをもって代入した。また、18日目以前に死亡または入院した被験者のスコアも、最大スコアをもって代入した。その他の欠損はすべてランダム欠損として処理し、被験者の利用可能なすべてのデータをモデルに含めた。
【0317】
6.2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目における修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上変化、またはゼロに減少した被験者の割合-2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目において、修正ジャクソンスコア(またはCOVID-19のPROスコア)がベースラインから5以上変化またはゼロに減少した被験者の割合は、他の副次評価項目で述べたようにロジック回帰を使用してモデル化した。入院または死亡により欠損したスコアは、最大可能スコアで代入した。入院や死亡により欠損したスコアも、最大スコアで代入した。その他の欠損はすべてランダム欠損として取り扱った。
【0318】
投与期間(1日目~9日目)前にNONSまたは対照薬の投与を中止した被験者の割合を、フィッシャーの正確検定を用いて推定し比較した。有害事象の重症度および頻度、オキシメトリーおよび症状における臨床的に有意な変化を可能な場合はまとめ、群および期間(投与中[1日目~9日目]、投与後[10日目~18日目])別に表形式で提示した。
【0319】
実施例3-H-サンプルサイズと母集団
本治験のサンプルサイズは評価項目に基づくものであったが、被験者内におけるCt結果の経時的相関に関する情報が不十分であり、根拠のない仮定を含むサンプルサイズの計算は排除した。その代わりに、サンプルサイズは1つの時点を用いて正当化され、解析に追加の時点を含めることを考慮し、検出力の下限と仮定された。
両側0.05水準のウィルコクソンの符号順位検定を用いて、両群に共通の標準偏差を5と仮定した場合、50人のサンプルサイズ(各群25人)は、真の基礎的平均Ctがそれぞれ31対26であれば、投与対対照の優越性を示す91%の検出力があると判断された。
【0320】
これらの仮定は、複製能を持つウイルスが回収された検体の平均Ctが26(N1、N2、N3ターゲット)であるのに対し、回収されなかった場合は35(N2、N3ターゲット)であり、これらの群の推定標準偏差はそれぞれ3.8と5であるというCDCの未発表オンラインデータに基づいたものである。
【0321】
投与群の平均Ctが低いのは、投与効果のばらつきによる多少の減衰があり、平均Ctが低くなったと想定される。標準偏差を5と想定したのは保守的であり、生存ウイルスが存在すると分散が小さくなる傾向にあるため、投与効果のばらつきを十分に考慮したものであると考えられる。
【0322】
安全性集団:安全性集団には、少なくとも1回分の治験投与を受けたすべての被験者が含まれる。被験者は、実際に受けた介入にしたがって解析された。安全性の結果は、投与中(1~9日目)と投与外(10~18日目)の事象に分けられる。
【0323】
Intent-to-treat(ITT)集団:ITT集団には、治験プロトコルの遵守または受け取った治験薬に関係なく、登録されランダム化されたすべての被験者が含まれる。すべての被験者のデータは、割り振られたランダム化群にしたがって解析された。
【0324】
Per-Protocol(PP)集団は、治験に登録され、ランダム化され、割り当てられた治験薬を少なくとも1回受け取り、主要なプロトコル逸脱がなく、投与と無関係な理由で追跡不能にならず、本治験登録中に治験日の80%以上で治験物管理を記録していたすべての被験者で構成されている。すべての被験者のデータは、受けた投与にしたがって解析された。
【0325】
安全性集団については人口統計およびその他のベースライン特性を投与群別および全体別でまとめ、数値変数についてはn、平均、標準偏差を、カテゴリー変数については頻度と割合を含む記述統計学で示した。人口統計には、年齢、性別、人種が含まれる。病歴には、併存疾患(心臓、肝臓、肺のいずれかの、または慢性的な疾患、糖尿病、および高血圧)および症状(乾いた咳、発熱、嗅覚障害、または無症状)を示すことが含まれた。内訳は、NONS投与、プラセボ投与、および全体の効果別にまとめられた。安全性集団の被験者について、投与中止となった被験者の人数と割合を、投与中止の理由と共にまとめた。有効性評価項目の解析は、観測されたデータ、すなわち完全症例解析で実施された。人口統計、副次的評価項目、および安全性データに関するすべての解析は、観測されたデータに基づいて行われた。
【0326】
実施例3-I 被験者
合計183人の潜在的被験者が治験に参加するためのスクリーニングを受けた。被験者は、非肺炎または胸痛や息切れを伴わない軽度の肺炎(肺炎は「片肺または両肺の炎症」と定義)と定義された軽度のCOVID-19感染者であった。軽度の症状には、発熱(>37.2℃)、乾いた咳、疲労感、喉の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛、味覚・嗅覚障害、胃腸症状などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0327】
100人の被験者が適格基準を満たさず、83人の被験者が治験に登録され、ランダム化された。1人の被験者が、ランダム化された投与を受ける前に同意を取り下げた。2人のランダム化された被験者は、投与パックが破損していたため投与を開始できず、以降の参加から除外された。
【0328】
全体として、合計80人の被験者(NONS40人、プラセボ40人)が治験にランダムに割り振られ、図2に描かれたような治験薬を受け取った。NO鼻腔スプレー投与群の被験者1人は、有害事象とは無関係に、プロトコルの指示と手順に従うことができなかったため、治験責任医師により中止された。この被験者のデータは、ITT集団の有効性解析データセットには含まれたが、PP集団の有効性解析データセットからは除外された。
【0329】
投与群ごとの、ランダム化された、治験完了した被験者数および中止された被験者数は表3I-1に示している。有害事象(AE)、死亡、追跡不能、または治験依頼者による治験終了のために中止された被験者はいなかった。本治験期間中、NONS投与の41.7%およびプラセボ投与の46.3%が投与したと記録され、NONS投与の4.3%およびプラセボ投与の4.8%が投与漏れしたと記録された。
【表3I-1】
【0330】
治験実施中にプロトコルの逸脱が発生したとの記録はなかった。しかし、NONS投与の54.0%およびプラセボ投与の49.0%において、投与済みまたは投与漏れのデータが記録されていない。全体として、治験中に不正は発生しなかった。治験結果に影響を及ぼすような重大なコンプライアンス違反の問題は発生しなかった。本治験では、医薬品に関して不正を報告した地域はなかった。
【0331】
実施例3-J 有効性評価
ITT集団は、治験プロトコルの遵守または受け取った治験薬に関係なく、登録されランダム化されたすべての被験者から構成された。この集団は有効性解析に使用された。ITT集団のデータから除外された被験者はいなかった。
【0332】
per protocol(PP)集団には、登録され、ランダム化され、治験薬の80%以上を受け取ったすべての被験者が含まれる。さらに、被験者の追跡不能、同意の撤回、および本治験参加中に重大なプロトコルの逸脱がないことも確認された。安全性集団は、本治験に登録され、少なくとも1回分の治験薬を受け取ったすべての被験者から構成された。安全性の結果は、投与中(1~9日目)と投与外(10~18日目)に発生した事象に分けられている。
【0333】
安全集団の人口統計を表3J-1に示す。全体として、被験者の36.3%は男性、63.7%は女性であった。被験者の平均年齢は44.0歳、被験者の大多数は白人(85.0%)、および被験者の23.8%は極度の肥満(BMI≧30)であった。
【0334】
人口統計学的特性は、プラセボ群では白人が多く、NONS群では極度肥満が多いという例外を除き、概ね投与群間で類似していた(p=0.034、ただしNONS22.5%およびプラセボ7.5%でデータ欠損あり)。
【表3J-1】
【0335】
安全性集団のその他のベースライン特性を表3J-2に示す。全体として、被験者の12.5%が併存疾患を示し、NONS群では慢性肺疾患が5.0%、高血圧が6.25%、および糖尿病が6.25%報告された。
【0336】
全体では、乾いた咳が61.3%、発熱が28.8%、嗅覚障害が17.5%、無症状が16.3%の被験者に認められた。COVID-19が示す症状は投与群間で概ね類似していたが、プラセボ群では発熱を伴う被験者が多かった(p=0.081)。また、プラセボ群の無症状者数(15.0%)は、NONS群(17.5%)と同程度であった(p=0.743)。
【表3J-2】
【0337】
投与コンプライアンスは、毎日の投与アンケートを通じて、1日あたりの鼻腔スプレーの投与または投与漏れについて、被験者により記録された。被験者ごとに、すなわち、完全使用、一部使用、および未使用の治験薬が返却され、治験施設により集計された。治験終了時のフォローアップ電話で被験者の投与コンプライアンスを確認し、治験施設がまとめた。
【0338】
本目的は、軽症のCOVID-19患者において、NONSのCOVID-19感染期間短縮効果を実証することであった。54回の鼻腔スプレーを1日6回、9日間連続投与した。各投与は4噴霧(合計560μL)、鼻孔あたり2噴霧、合計約30mLであった。有効性変数は、「サイクル閾値」すなわちSARS-CoV-2ウイルス量の、ベースラインから投与6日目までの減少変化とした。
【0339】
本治験の有効性評価項目は、ベースラインからの平均対数ウイルス量減少の投与群間比較であった。解析には、投与群(NONS、対照)、年齢(連続)、ランダム化時の併存疾患の有無、試験日(0、2、4、6)、投与群と各試験日の相互作用の固定効果を用いた一般化線形混合効果モデルを使用した。4回のウイルス量測定(ベースライン、2日目、4日目、および6日目)すべてを欠損した被験者には、いずれかの群で観測された最も高いウイルス量を代入し、解析に使用した。複数回の観測(フルモデル)を考慮し、被験者のランダム(ガウス)切片が含まれた。
【0340】
パラメータの推定は最尤法(制限最尤法/REMLではない)を用いて行い、フルモデルとヌルモデルの尤度比検定に基づいて推論を行い、群に関わる主効果と交互作用を除外した。投与効果の全体的な検定に加えて、各時点の最小二乗平均対数ウイルス量推定値が、95%の信頼度を伴ってフルモデルから作成された。
【0341】
パラメータ推定は最尤法(無制限最尤法/REML)を用いて行った。Intent-to-treat(ITT)集団における有効性に関する成績を表3J-3に示す。
【0342】
ベースラインのSARS-CoV-2ウイルス量の平均は、すべての被験者間で2.415×1013RNAコピー/cm(mL)であった。SARS-CoV-2のウイルス量は、投与開始後6日間で有意に減少した。さらに、プラセボ群に割り振られた被験者のウイルス量は、NONS実薬群に割り振られた被験者と比較して、最初の6日間で有意に高くなった。NONSとプラセボの投与差は、3日間すべてにおいて統計的に有意であった(プラセボと比較したNONS投与では、2日目、4日目、および6日目にp<0.05)。
【表3J-3】
【0343】
主共変量(投与群)の経時的なウイルス量への影響を評価するため、主共変量および主共変量と治験日の相互作用効果を除外したヌルモデルを実施した。フルモデルとヌルモデルの比較は、尤度比検定を用いて行った。
【0344】
尤度比検定では、フルモデルがヌルモデルと有意に異なることが示唆された。評価日と実薬の使用の組み合わせは、ウイルス量レベルを有意に予測する。したがって、帰無仮説は棄却される。
【0345】
ベースラインから2日目、4日目、および6日目までの対数ウイルス量の変化をグラフ化したものを図3に示す。ベースラインから6日目までの曲線下面積を用いた平均投与差は-5.220であり、95%CI、-9.136~-1.305(p=0.01)であった。高いSARS-CoV-2ウイルス量の急速な減少(95%)は、NONS投与により24時間以内に観測され、72時間以内に99%の減少が観測された。
【0346】
シナリオ分析として、投与群に変量効果を用いた第2モデルを構築する。さらなるシナリオでは、per protocol母集団を用い、欠損データを持つ被験者を除外して分析を繰り返す予定である。
【0347】
解析は、ランダム化投与群(NONS、対照)、年齢(連続)、ランダム化時の併存疾患の有無、治験日(0、2、4、6)、投与群と各治験日の相互作用の変量効果を伴う対数ウイルス量の線形混合効果モデルで繰り返し行われた。被験者に対するランダム(ガウス)切片は、複数の観測結果を考慮するために含まれた(フルモデル)。パラメータ推定は最尤法(無制限最尤法/REML)を用い、フルモデルとヌルモデルの尤度比検定に基づく推論を行い、群に関わる主効果と交互作用を除外した。投与効果に関する全体的な検定に加えて、各時点の最小二乗平均対数ウイルス量推定値が、95%の信頼度を伴ってフルモデルから作成された。
【0348】
パラメータ推定は最尤法(無制限/REML)を用いて行われた。Intent-to-treat(ITT)集団の有効性に関する成績は、有効性に関する成績(固定効果)と同等であった。また、尤度比検定では、フルモデルがヌルモデルと有意に異なることが示唆された。副次的有効性評価項目の解析結果は、軽症のCOVID-19患者における一酸化窒素鼻腔スプレー投与の有効性を広く支持するものである。
【0349】
投与開始後6日間の対数ウイルス量の平均値を、ITT集団について反復測定t検定により投与群間で比較した。表3J-4に示すとおり、投与2日目、4日目および6日目における対数ウイルス量のベースラインからの変化について、NONS群およびプラセボ群で特定の個別解析を行った。
【0350】
SARS-CoV-2対数ウイルス量のベースラインからの変化は、プラセボと比較して、NONS投与2日目(p=0.008)および4日目(p=0.021)で統計的に有意であった。SARS-CoV-2の対数ウイルス量のCFBの減少は、プラセボと比較して大きかったが、NONS投与6日目において統計的に有意な差は認められなかった(p=0.094)。全体として、これらの結果は、治療効果と一致している。
【表3J-4】
【0351】
すべてのウイルスサンプルは、懸念される既知のSARS-CoV-2変異株の存在について配列決定された。NONS群の34人(87.2%)がB.1.1.7系統(VOC202012/01)であると判定され、残りは懸念される変異株であるとは判定されなかった。プラセボ群の34人(85%)がB.1.1.7系統であると判定され、残りは懸念される既知の変異株とは判定されなかった。
【0352】
ランダム化群、年齢、およびベースラインの併存疾患の固定効果を用いたロジスティック回帰モデルを用いて、2日目、4日目、および6日目におけるSARS-CoV-2対数ウイルス量の閾値の範囲、すなわち対数ウイルス量1、2、3(ウイルス量が測定不能なCt値)に達した被験者の割合を投与群間で比較検討した。表3J-5に示すように、2日目、4日目、および6日目については、別々のモデルを当てはめた。この解析では、評価項目解析で行ったのと同様の代入が行われた。割合と95%CIは最小二乗法を用いて算出した。
【0353】
2日目、4日目、および6日目におけるSARS-CoV-2の対数ウイルス量が閾値以下に減少した被験者の割合-4日目の解析では対数ウイルス量が閾値3(p=0.012)だったことを除き、3つの閾値のいずれにおいてもNONS投与とプラセボとの間に統計的有意差が認められなかった。対数ウイルス量が1の場合の2日目の解析を除いて、すべての解析でNONS投与の数値的な有益性が観測されたが、この副次評価項目で一貫して統計的に有意な影響を実証するには、おそらく本治験では力不足であった。PP集団については、追加解析を行わなかった。
【表3J-5】
【0354】
SARS-CoV-2対数ウイルス量が、ベースラインから投与2日目、4日目、および6日目にかけて、ある閾値範囲以下(1、2、3)に減少するまでの時間差をモデル化し、NONS投与がプラセボよりも早く鼻腔ウイルス量を減少させるかどうかを評価する代替方法を提供した。
【0355】
3つそれぞれの閾値評価のためのモデルは、投与群、年齢、ベースラインにおける併存疾患の固定効果を含むCox比例ハザード比を用いた。閾値に達しなかった個体は、最後に得られたウイルス量測定時間で打ち切られたとみなした。各閾値について時間の中央値および95%信頼区間を算出し、6日間の投与結果をカプランマイヤー曲線で表示した。
【0356】
投与群を比較するため、3つの対数ウイルス量の閾値ごとのハザード比結果を表3J-6にまとめた。各閾値におけるNONS投与とプラセボの差はいずれも統計学的に有意ではなかった。PP集団については、追加解析を行わなかった。
【表3J-6】
【0357】
図4に示すように、2日目、4日目および6日目におけるSARS-CoV-2の対数ウイルス量が減少するまでの時間に対する生存確率は、各閾値についてカプランマイヤー曲線として表示している。0.5に達したものがほぼないため、すべてのまたはほとんどの閾値の中位時間および平均時間(95%CI)を報告することができなかった。図4には、対数ウイルス量が閾値3到達時のカプランマイヤー曲線が示されている。閾値3の中位時間はNONS投与とプラセボで同じ時間(6時間)であり、平均時間はNONS投与で4時間、プラセボで6時間であった。PP集団については、追加の解析は行わなかった。
【0358】
被験者のモデル化は、本評価の解析と同様に固定効果(群、年齢、併存疾患)を用いたロジスティック回帰で行うこととされた。点推定値および95%信頼区間が提供された。18日目の入院またはER/ED受診が確定できない被験者については、受診があったものとして代入することとした。これには、回復したと判断され、および18日目以前に同意を取下げまたはフォローアップから外れた被験者に対する治験依頼者による盲検データレビューが含まれる。
【0359】
2人の被験者(各群1人ずつ)が入院したが、治験責任医師により投与とは無関係であり、有害事象ではないと判断された。また、回復後の被験者による追加のED/ER受診はなかった。ITT集団またはPP集団において、本結果に関する統計解析は実施されなかった。
【0360】
修正ジャクソンスコア、すなわちCOVID-19患者報告アウトカム(PRO)スコアは、鼻づまり/鼻水、嗅覚/味覚の新しい喪失、筋肉または体の痛み、喉の痛み/擦り切れ、咳、くしゃみ、頭痛、倦怠感、発熱/悪寒、息切れ、吐き気/嘔吐、および下痢に関する12症状の質問を毎日(1日目~9日目)行い、収集したデータに基づいて算出されたものである。それぞれの症状について、なし(0)、軽度(1)、中等度(2)、重度(3)のいずれかを回答してもらった。症状の合計スコアは0~36の範囲となる。
【0361】
スコアは、評価項目解析と同様に、ランダム化から9日目までのすべての日数について、GLMを用いてモデル化した。入院または死亡により欠損したスコアは、可能な限り最大スコアで代入した。スコアが欠損し、その後被験者が9日目以前に死亡または入院した場合、可能な限り最大スコアで代入した。その他の欠損はすべてランダムに欠損したものとして扱い、その被験者について利用可能なすべてのデータをモデルに含めた。
【0362】
PP群において、1日目には79人中48人の結果が得られたが、9日目には32人に減少した。9日間の合計の修正ジャクソン症状スコアに関する記述的統計解析結果を表3J-7に示す。9日間の合計スコアについては、いずれの投与においても統計学的有意差は認められなかった。
【表3J-7】
【0363】
9日間を通して症状スコアが記録された32人の被験者に対して、連続測定の繰り返し分析が行われた。ベースラインから9日目までのスコアの平均減少は、NONS群では-5.50(±4.033)、プラセボ群では-4.38(±5.110)であり、投与差が1.125(p=0.495)であった。
【0364】
また、ベースラインから9日目までの連続測定評価についてAUC解析を行い、すべての中間データポイントの影響を評価した。開始時の症状スコアの違いを考慮し、各曲線のベースライン値は0に設定した。ベースラインから9日目までのAUCの平均は、NONS群で46.19(±50.349)、プラセボ群で32.56(±18.975)であり、投与差が13.63(p=0.319)であった。
【0365】
2日目、4日目、および6日目、9日目に、修正Jacksonスコア、すなわちCOVID-19のPROスコアのベースラインからの変化が5以上、またはゼロに減少した被験者の割合を、他の副次評価項目で述べたようにロジスティック回帰を用いてモデル化した。入院または死亡により欠損となったスコアは、可能な限り最大のスコアで代入した。欠損した後に被験者が入院または死亡となったスコアも、可能な限り最大のスコアで代入した。その他の欠損はすべてランダムに欠損したものとして扱った。ITT集団とPP集団のいずれにおいても、ベースラインからの変化が5以上となった修正ジャクソン症状スコアについて解析を行わなかった。
【0366】
持続的症状スコア0を達成するまでの時間解析には限界があり、この評価項目を達成した被験者は全体で11人であった。サンプルが小さかったため、3未満の持続的症状スコアの達成に基づく2回目の解析が行われ、32人の被験者が得られた。
【0367】
どちらの場合も、カプランマイヤー曲線は、統計的に有意ではなかったが、NONSの明らかな有益性は示した(それぞれ、p=0.498、p=0.653)。しかし、プラセボを投与された被験者はベースラインの症状スコアが高く、その結果、投与差がなければ、一定の閾値に達するまでの時間は必然的にプラセボの方が長くなる。
【0368】
治験中、中間解析は独立データモニタリング委員会(DMC)に極秘に提供された。DMCは、今回の治験やその他のNO治験から得られるデータに関連した頻度で、このような分析を行うよう要請した。
【0369】
最初の52人から得られたウイルス量データの統計的結果は、NONSを投与された被験者のウイルス量除去時間がプラセボと比較して改善したことを示唆した(1~6日目のAUC=-10.803vs-6.702;p=0.088)。また、安全性に関する有害事象は認められなかった。
【0370】
当初の検出力の計算には、治験計画時であるCOVID-19初期段階の臨床挙動に対する明らかな理解不足を含む仮定が多く用いられていたため、DMCは治験を延長した。実際に観測された治験成績に基づくサンプルサイズの再計算では、各群あたり合計45~50人の被験者(合計90~100人)が必要と推定された。被験者募集は、減少に対するバッファーとして、各群合計55人(合計110人)まで延長することが可能であった。
【0371】
英国内の1ヶ所(St.Peter’s Hospital/Clinics、Guildford St.Lyne、Chertsey)で被験者をランダム化した。被験者は鼻腔用スプレー液を自己投与した。1つの大きな仮想サイトを作るためのサイトのプーリングは発生しなかった。
【0372】
プロトコルには、評価項目の母集団および解析について記載されている。評価項目については、若干の調整が行われた。プロトコルに記載されている解析は、当初計画では、ウイルス量(Ct)の半定量的な指標を持つことを前提としていた。今回の解析では、完全に定量的なウイルス量の推定値を使用している。
【0373】
副次的評価項目はプロトコルに記載されている。副次的有効性評価項目については、検証したすべての仮説が探索的と考えられるため、複数の評価項目を考慮した第一種過誤の調整は行わなかった。
【0374】
評価可能な有効性集団は、完全解析のITT集団で構成された。PP集団は、追跡不能にならず、同意を撤回せず、有効性に影響を及ぼす可能性のある重大なプロトコル違反のない被験者集団で構成された。結果は、この2つの集団で概ね一致していた。
【0375】
目的は、軽症のCOVID-19患者(ITT集団)における、NONSのCOVID-19感染期間の短縮効果を実証することであった。有効性変数は、「サイクル閾値」、すなわちSARS-CoV-2ウイルス量差のベースラインから投与6日目までの減少変化とした。解析には、投与群の固定効果を考慮した対数ウイルス量の線形混合効果モデルを使用した。ベースラインのSARS-CoV-2ウイルス量の平均は、すべての被験者間で2.415×1013RNAコピー/cm(mL)であった。
【0376】
SARS-CoV-2対数ウイルス量の減少:プラセボに対し、NO鼻腔スプレーは、投与開始後6日間でウイルス量を有意に減少させた。投与の差は、2日目(p=0.006)、4日目(p=0.007)、および6日目(p=0.035)で、それぞれ統計的に有意であった。PP集団の結果は、ITT集団の結果と同等であった。
【0377】
尤度比検定:主共変量(投与群)の経時的なウイルス量への影響を、主共変量および主共変量と治験日の相互作用を除き、ヌルモデルとフルモデルを比較して評価した。尤度比検定の結果、フルモデルはヌルモデルと有意に異なることが示唆された(p=0.01)。評価日と実薬の使用の組み合わせは、ウイルス量レベルを有意に予測する。したがって、帰無仮説は棄却される。PP集団の結果は、ITT集団の結果と同等であった。
【0378】
ベースラインからの曲線下面積対数ウイルス量の変化:NONS投与開始後6日間のベースラインからの曲線下面積(CFB)を用いた平均投与差は-5.220であり、95%CI、-9.136~-1.305(p=0.01)であった。高いSARS-CoV-2ウイルス量の急速な減少(95%)は、NONS投与後24時間以内に、そして99%の減少が72時間以内に観測された。PP集団の結果は、ITT集団の結果と同等であった。
【0379】
SARS-CoV-2の対数ウイルス量の減少および投与群の変量効果を伴う感度解析を用いた尤度比検定は、固定効果の評価と同等であった。
【0380】
副次有効性解析では、軽症のCOVID-19患者における一酸化窒素鼻腔スプレー投与の有効性を概ね支持している。
【0381】
2日目、4日目、および6日目における平均SARS-CoV-2対数ウイルス量のCFB:ベースラインからのSARS-CoV-2対数ウイルス量の減少変化は、プラセボと比較してNONS投与では2日目(p=0.008)および4日目(p=0.021)に統計的に有意であった。SARS-CoV-2対数ウイルス量のCFBの減少は、ITT集団では、6日目においてNONSの方が大きかったが統計的に有意ではなかった(p=0.094)。PP集団においても同様の結果が得られた。
【0382】
SARS-CoV-2対数ウイルス量の減少が閾値範囲以下に達した被験者の割合:3つの閾値のいずれにおいても、NONS投与とプラセボの間に統計的な有意差は認められなかったが、ITT集団の対数ウイルス量の閾値が3(p=0.012)であった4日目は例外であった。PP集団についても同様の結果が得られた。
【0383】
SARS-CoV-2対数ウイルス量が閾値範囲以下に減少するまでの時間:ITT集団では、各閾値におけるNONS投与とプラセボの差はいずれも統計学的に有意ではなかった。PP集団について解析は行われなかった。
【0384】
評価項目解析においてモデル化された修正ジャクソンスコア:9日間の総スコアについては、いずれの投与においても統計学的な有意差は認められなかった。
【0385】
2日目、4日目、6日目、および9日目に修正ジャクソンスコアがベースラインから5以上変化、またはゼロに減少した被験者の割合:2日目、4日目、6日目、9日目、および18日目にCFB≧5またはゼロに減少した被験者の割合に関する統計解析は行われなかった。9日目までの症状スコアがゼロを維持する時間を解析したところ、統計的有意差はないものの、NONSの有効性が明らかになった。入院またはED/ER受診を必要とした被験者の割合については、ITT集団およびPP集団で統計解析を行わなかった。
【0386】
全体として、NONSとプラセボの間で、有効性および複数の副次的有効性評価項目にわたる投与差が認められた。SARS-CoV-2ウイルス量はNONS投与で即時に一貫して低下し、軽症のCOVID-19患者におけるCOVID-19感染期間の短縮が示唆された。すべてのウイルスサンプルは、既知のSARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC)の存在について配列決定された。NONS群の34人(87.2%)はB.1.1.7系統(VOC202012/01)であり、残りはVOCではないと判定された。プラセボ群では34人(85.0%)がB.1.1.7系統と判定され、残りは懸念される既知の変異株ではないと判定された。英国公衆衛生庁(PHE)のマッチドコホート分析では、懸念される変異株(VOC)感染者の死亡リスク比は非VOCと比較して1.65(95%CI、1.21~2.25)であることが報告されている。したがって、非VOCウイルスへの感染と比較して、VOC(B.1.1.7)への感染は死亡リスクの上昇と関連している可能性がある。
【0387】
実施例3-K 安全性評価
以下の点において、NONSの投与は、耐性が高く安全であると治験責任医師により判断された。
・治験中、死亡および生命を脅かすような有害事象(TEAE)は発生しなかった。また、有害事象(AE)により治験を中止した被験者はいなかった。
・治験責任医師が投与によるTEAEを経験したという報告をした被験者はいなかった。また、各投与群で1人の被験者が投与とは無関係の入院を報告した。
・NONSの自己投与に伴う併存疾患、誤用、乱用、または過量投与はなかった。
【0388】
全体として、鼻腔あたり2噴霧で各投与4噴霧(計560μL)、1日6回、9日間連続投与で、合計約30mLの投与レジメンとなる合計54回の一酸化窒素鼻腔スプレー投与は、この第IIb相有効性および安全性臨床試験において良好な耐性が確認された。この新規なNO療法(NONS)および軽症のCOVID-19患者への治療に関して、新たな安全性の懸念は確認されなかった。
【0389】
実施例3-L 結論
鼻腔はCOVID-19ウイルスの宿主侵入および感染の主要な経路である。この疾患の経過を短縮または予防し、免疫介在性の病理学的損傷を軽減し、病気の重症度を下げることができる有効な抗ウイルス療法は、現在見つかっていない。一酸化窒素は、生体外および生体内の動物実験の両方で、細菌、酵母、真菌、およびウイルスに対して抗菌活性を有する。また、NOはSARS-CoV-2スパイクタンパク質とその同族受容体であるACE-2との融合を阻害する。
【0390】
本研究は、軽度のCOVID-19感染症を治療するための一酸化窒素鼻腔スプレー(NONS)の臨床効果を明らかにするために考案された。本目的は、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によって鼻腔内ウイルス濃度を決定し、鼻腔からウイルスを除去する投与効果を確立することであった。評価項目は、ベースラインから6日目までのSARS-CoV-2ウイルス濃度におけるNONS投与とプラセボ投与の差とした。この二重盲検、プラセボ対照、第IIb相臨床試験には、コミュニティで軽度のCOVID-19と診断された成人80人がランダムに割り振られた。
【0391】
COVID-19の症状発現から5日目以前に開始したNONS投与は、プラセボと比較して、2日目と4日目にSARS-CoV-2のRNA濃度が-1.21および-1.21log10コピー/mLと急速に減少することと独立して関連していた。SARS-CoV-2の平均RNA濃度は、2日目および4日目の両方で、NONS投与により16.2倍低くなった。6日目は症状発現から少なくとも10日目に相当し、投与の有無にかかわらずSARS-CoV-2のウイルス量の減少が予想された。それにもかかわらず、SARS-CoV-2のRNA濃度は、6日目においてNONS投与でより低かった。曲線下面積解析では、投与開始後6日間で、NONS投与によるプラセボとの平均差は-5.22log10コピー/mLであった。SARS-CoV-2の高濃度ウイルス量は、NONSの投与により24時間以内に95%、72時間以内に99%の急速な減少がみられた。
【0392】
本治験では、大多数の被験者がSARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC202012_01)陽性であった。一方、SARS-CoV-2の中和抗体LY-CoV555の治験では、プラセボに対するSARS-CoV-2のRNA濃度の相対的減少は、3日目と7日目にそれぞれ-0.64および-0.45log10コピー/mLであった。オセルタミビルは、2日目および4日目にそれぞれ-1.19および-0.68log10コピー/mLのインフルエンザRNA濃度の減少と独立して関連することが示されている。
【0393】
COVID-19感染者におけるSARS-CoV-2ウイルス量の減少は、ウイルス量の動態とウイルス排出期間が疾患伝播のいくつかの決定要因であることから、より良い臨床成果と強い相関があることが分かっている。今回の治験と同様の鼻腔内ウイルス量測定技術を用いたモノクローナル抗体治験やワクチン治験で実証されたように、症状発現から最初の5日以内にウイルス量の減少が始まり、8~9日後に生存ウイルスがいなくなれば、最高の成果が得られる。
【0394】
ウイルス感染の治療に研究中または現在使用されている全身療法と同様に、NONSの鼻腔投与はCOVID-19のウイルス量を減らすのに有効である。一酸化窒素療法は、潜在的に有益な治療法や病原性の新しい洞察を検討する際に、COVID-19の治療法として見落とされがちである。
【0395】
全体として、NONSはプラセボと比較して、有効性および複数の副次的有効性評価項目にわたって差が認められた。NONS投与により、SARS-CoV-2ウイルス濃度は即座にかつ一貫して16.2倍まで低下し、軽症のCOVID-19患者におけるCOVID-19感染期間の短縮が示唆された。
【0396】
NONSは、新しい変異株が現在のワクチンの有効性を低下させた場合、予防や早期投与のためにすべての人々に使用できる。また、NONSは、まだワクチンを十分に受けていない感染者、ワクチンを受けることができない感染者、またはワクチンを受けても感染している感染者に、抗ウイルス治療を提供することができる。
【0397】
鼻腔あたり2噴霧で各投与4噴霧(計560μL)、1日6回、9日間連続投与で、合計約30mLの投与レジメンとなる合計54回の一酸化窒素鼻腔スプレー投与は、この第IIb相有効性および安全性臨床試験において良好な耐性が確認された。この新規なNO療法(NONS)および軽症のCOVID-19患者への治療に関して、新たな安全性の懸念は確認されなかった。
【0398】
実施例4 スプレーテスト
概要:
テストは3回に分けて行われ、以下のように実施された:
・テストセット1:合計6個のサンプルをテストした。サンプルは測定ゾーンから30mmの距離において手で作動させた。
・テストセット2:合計6個のサンプルをテストした。サンプルは測定ゾーンから60mmの距離において手で作動させた。
・テストセット3:2つのサンプルをテストした(サンプル1とサンプル4を選択した)。サンプルは測定ゾーンから30mmの距離において手で作動させ、合計6人の異なる個人によってサンプルをテストした。
【0399】
すべてのテストには、以下のものを含んだ:
・データ取得レートは500Hz、スプレー持続時間は1秒。
・完全なスプレーデータを得るため、0~250ミリ秒のデータを平均化。
・屈折率値は1.33および0を使用。
・テスト中、すべてのサンプルを手作業で注入および噴霧した。
【0400】
方法および略語:
分析にはマルバーン製スプレーテックを使用し、各スプレーは500Hzで1秒間のスプレー持続時間でテストされた。最初の250ミリ秒を平均して、完全になったスプレー液滴のサイズを特定した。
【0401】
ビームステアリング-ビームステアリングとは、エアロゾルの液滴径測定において、推進剤によって非常に大きな液滴の誤ったピークが見かけ上測定される現象である。測定の観点からは、これは測定ゾーンにおける屈折率の変化により発生する。これは測定器の内部検出器によって観測される。これらの検出器は、提出されたサンプルと同様のエアロゾルをテストする場合、分析では無視することができる。
【0402】
%<10umレポーティング-体積基準で液滴径が10um以下(吸入可能であると考えられ、消費者商品の健康および安全性の研究においてしばしば要求される)のスプレーの割合。
【0403】
以下のデータには、いくつかの径分布の値が含まれている。この値は以下のように定義される:
・Dv(10)-スプレーの体積基準での10パーセンタイルを示す。
・Dv(50)-スプレーの体積基準での50パーセンタイルを示す。メジアン液滴径。
・Dv(90)-スプレーの体積基準での90パーセンタイルを示す。
・スパン-(Dv(90)-Dv(10))/Dv(50)で示される分布の広さを計算したもの。
・%Volume<(um)-特定の液滴径以下のサンプルを測定したもの。
・D[4,3]-スプレーの体積加重平均。
・D[3,2]-スプレーの表面積加重平均。
結果:
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【0404】
考察:
3回反復分析および3つのサンプルセットの30mmデータ。図6aおよび図6bに示されているのは、全サンプルを代表する各サンプルの3回反復分析のオーバーレイプロットである。これらのプロットの目的は、サンプルボトル内だけでなく、サンプル間でも一貫性を評価することである。この場合、同一人物が各サンプルを噴霧し、一貫した方法で行った。テストを通し、スプレーが安定し完全な段階になるとして最初の250ミリ秒が決定された。これは、スプレーが最も適切に特性化されるように、すべてのデータの平均化に使用された。
【0405】
図5aには、サンプル1~3の結果が示されている。いくつかはずれたプロットトレースを有するが、かなり一貫したプロットトレースが中央に存在するように見える。サンプル2は、液滴径に関して、他のプロット群よりも大きいことが分かった。このプロットは、複数の異なるオペレーターで実施するハンドスタディで使用するサンプル1を決定するために使用された。全体として、このプロットに含まれる差は有意であり、出力に関するボトル間の差を示している可能性がある。従来の鼻腔送達システムと比較して、出力される液滴径分布が大きいことがわかった。
【0406】
図5bには、サンプル4~6の結果が示されている。サンプル5は、特に、噴霧化を示さず、代わりに、物質が流出するだけであった。サンプル5の報告結果は、実際のスプレーと対比して、デバイスの最大径範囲に左右された。他の2つのサンプルも同様に、いくつかの差を示している。サンプル4は、同テストにおけるサンプル1の結果と類似していたため、ハンドスタディのために選択された。
【0407】
60mmの結果も上記結果と同様であり、前ページの表でデータを確認することができる。
【0408】
30mmおよび60mmにおけるサンプル1およびサンプル4
図5cに示すように、合計4つのテストがプロットされている。図5cには、それぞれが30mmの距離のサンプル1とサンプル4を示す。図5cには、それぞれが60mmのサンプル1とサンプル4を示す。
【0409】
図5cに示すように、同一人物がテストした2つのサンプルの間には類似性がある。2つの距離での出力は、ほぼ同じである。これは、デバイスの出力サイズがかなり大きいことから予想されたことである。このことから、小さな液滴では遠くまで移動する勢いがないのに対し、スプレー全体では遠近両方の距離を移動できることがわかる。
【0410】
図5cに示すように、2つのサンプルは非常に似ているため、異なるユーザー間における出力を比較するためのハンドスタディとして合理的な選択である。
【0411】
ハンドスタディの結果および情報
デバイスを使用するさまざまなユーザーを想定し、合計6人のユーザーによるハンドスタディを実施した。ユーザーは以下のように分類することができる。
・ユーザー1 男性 35~49歳
・ユーザー2 男性 60歳以上
・ユーザー3 男性 35~49歳
・ユーザー4 男性 11~19歳
・ユーザー5 女性 11~19歳
・ユーザー6 女性 35~49歳
【0412】
上記のユーザーは、事前のテスト計画で行ったのと同じように、サンプル1と4を30mmの距離で3回スプレーした。
【0413】
図6dと図6eに示すように、ハンドスタディ中に2つのサンプルの変動がある。これは、通常の使用下では、スプレーする人に関係なく、ボトルがかなり類似した性能を発揮することを示している。これは、パッケージングが、より広いユーザー層にわたって同様の液滴径を出力することができ、その結果は、自動アクチュエーターシステムで再現され得ることを示す。出力される液滴径範囲は、ユーザー間よりもボトル間の方で広くなると思われる。
【0414】
スプレー重量:
1回あたりのスプレー重量は、すべてのボトルで一貫して0.13~0.15gであった。サンプル5は一貫してこの下限値であったが、他のサンプルはテストを通してすべてこの同じ範囲であった。
【0415】
結論:
本デバイスの出力する液滴径全般は、かなり大きな液滴径である。5um、10um以下の物質はほとんどなかった。物質の噴霧化は大きな液滴を残して最小限であった。サンプル5の1本では、噴霧化が全く行われておらず、代わりにスプレーチップから物質が流出するだけであった。
【0416】
再現性(特定のボトル内での一貫性)に関しては、かなり高いことがわかった。一度注入したサンプルは、そのボトルの3回反復分析でほぼ一貫した結果が得られた。これは、サンプルテスト中に、ボトルがおそらく再注入され同様の液滴径分布を出力することを示している。
【0417】
再現性(ボトル間の一貫性)という点では、どちらのサンプルセットも若干の不整合が見られた。これは、遠近両方の距離において明らかであり、提供されたオーバーレイプロットにおいても明らかであった。これは、液滴のサイズ分布がボトル間で異なることを示唆している。自動アクチュエーターを使用することで、この差異を小さくすることができるかもしれないが、このような差異が発生することは、どのような治験方法においても予想される。
【0418】
ハンドスタディでは、同じサンプルを複数の異なる人と力のプロファイルでスプレーした場合、液滴径にわずかなばらつきが生じることが示された。このことは、液滴径の出力に関して、デバイスのユーザーはそれほど決定的に重要ではないことを示唆している。むしろ、現時点では、物理的なデバイス自体のばらつきが大きいようである。つまり、液滴径の違いは、デバイスのユーザーよりも、ボトルやポンプ自体に大きく関係しているようである。
【0419】
各ボトルのスプレー出力は、他のボトルと非常によく似ていた。ただ、5番のボトルだけ異なり、噴霧化されず流出した。これらのスプレーは、他のボトルよりもスプレー重量が低く、1回あたりの噴霧量は0.13~0.15g程度であった。
【0420】
実施例5 局所一酸化窒素副鼻腔洗浄剤
概要:
難治性慢性鼻副鼻腔炎(RCRS)は、手術や積極的な医学療法にもかかわらず、持続的な炎症状態である。一酸化窒素(NO)は、抗菌および抗炎症特性を示す内因性生成分子である。この研究は、RCRS成人患者におけるNO副鼻腔洗浄(NOSi)の漸増投与治療の耐性と安全性を明らかにすることを目的とした。
【0421】
5人のRCRS成人患者に、NOSiを1日2回、12日間投与し、2日ごとに投与量を増やしながら副鼻腔を灌流した。3、5、7、9、11日目の安全性モニタリングでは、視覚アナログスケール(VAS)、有害事象(AE)、メトヘモグロビン(MetHb)、酸素飽和度(SaO)、および周囲の二酸化窒素によって報告される耐性を含んだ。修正ルンドケネディ(MLK)内視鏡スコア、副鼻腔粘膜培養、嗅覚、粘膜繊毛機能、および副鼻腔アウトカム試験(SNOT-22)で測定したQOLの変化がベースラインと13日目に記録された。
【0422】
5人中4人の被験者は最大用量のNOSiを1日2回投与することに耐性を示した。AEや周囲の二酸化窒素、MetHb、またはSaOの正常範囲外での変化は報告されなかった。5人中3人の被験者において、MLK総スコアの改善がみられた(ベースラインの中央値13、平均値9.25;13日目の中央値10、平均値9.2)。5人中3人の被験者において、細菌および真菌の増殖の抑制が報告された。SNOT-22スコアは、すべての被験者で改善した(ベースラインの中央値49、平均値49.4;13日目の中央値26、平均値26.6)。粘膜繊毛クリアランス時間は5人中3人の被験者で正常範囲内の増加が認められた。嗅覚や粘膜組織への有意な変化は報告されていない。予備的な結果では、NOSiは耐性が高く安全な副鼻腔洗浄法であり、RCRSの有効な治療法となる可能性が示唆された。
【0423】
方法:
バイオフィルムを伴う難治性CRSと診断された19歳以上の成人患者5人(n=5)を対象とした。副腎皮質ステロイドの局所洗浄やよく考察された内視鏡下副鼻腔手術などの適切な医学療法にもかかわらず、色のついた鼻汁、後鼻漏、鼻づまり、嗅覚の低下、および鼻内視鏡で指摘された粘膜浮腫の症状が少なくとも3ヶ月以上継続した場合を「難治性CRS」と定義した。副鼻腔腫瘍、鼻ポリープ、副鼻腔症状を呈する自己免疫疾患、妊娠、心血管疾患の病歴または存在、脳卒中歴、メトヘモグロビン血症を誘発しうる薬剤の使用、または過去30日以内に任意の治験薬を使用したことがある人は、本治験から除外した。副鼻腔の症状を改善する可能性のある薬剤(ベタジン洗浄、局所抗生物質投与、全身性ステロイドなど)を同時に使用する場合は、すべての被験者に30日間の洗浄期間を設けるよう求めた。
【0424】
被験者全員から人口統計学的情報および併存疾患歴を収集した。被験者は、生理食塩水中にNOSiを調製し、鼻咽頭および副鼻腔への副鼻腔洗浄として1日2回(少なくとも6時間間隔)、12日間自己投与する方法を指導された。一服には、生理食塩水、酸性生理食塩水、NOSiの「低用量」、「中用量」、「高用量」、「最大用量」が含まれた。NOSiの用量増加は、図6aに示すように、研究スタッフがクリニックにいる状態で、3、5、7、9および11日目に2日おきに行った。被験者は、洗浄の投与量について盲検化された。しかし、12日間の期間を通してNOSiの投与量が増加されることを認識させられた。安全性および耐性のモニタリングは治験期間を通して行ったが、有効性の評価はベースラインと13日目に行った。
【0425】
耐性は、各投与後の痛みと不快感について被験者が報告した視覚アナログスコア(VAS)を用いて評価された。VASは10cmの平行な横線5本で構成され、被験者は洗浄後のちくちくした痛み(prickling)、じんじんした痛み(stinging)、ずきずきした痛み(throbbing)、けいれん(cramping)、刺すような痛み(stabbing)を評価するように指示された。被験者が報告した耐性を評価するために、すべての痛みの記述子を含む50点満点のVAS総スコアが使用された。さらに、最大2回、または最小1回のNOSi投与を最長6日間連続で行うことに被験者が耐えられるかどうかで、耐性が判断された。
【0426】
安全性については、メトヘモグロビン、酸素飽和度、および周囲の一酸化窒素レベルについて厳密に監視した。なぜならば、NO/NOが血管表面に露出した場合、これらのパラメータに影響を与える可能性があることが知られているからである。有害事象も記録して評価した。血圧、呼吸数、心拍数などのバイタルサインは、臨床で各用量増加の前後に測定された。毛様体機能は、サッカリン時間試験と病理組織学的試験で測定した。嗅覚はペンシルバニア大学嗅覚同定試験(UPSIT)により測定した。これらの安全性値と有害事象の変化は、安全性の慣用的な指標となる。
【0427】
有効性は、内視鏡検査を日常的に実施し、慢性鼻副鼻腔炎の修正ルンドケネディ(MLK)スコアで評価した。副鼻腔内の細菌量は、半定量的な培養と感度のためにラボに送られたスワブサンプルで得られた。被験者報告によるQOLは、有効な疾患特異的副鼻腔アウトカム試験(SNOT-22)を用いて評価された。この臨床評価は、この被験者集団におけるNOSiの耐性を確認することを目的とした。平均値と標準偏差が報告された。
【0428】
結果:
概念実証研究には5人の被験者が登録された。被験者の人口統計と特徴を表5-1にまとめた。
【表5-1】
【0429】
5人中4人(80%)の被験者が、1日2回のNOSiの「最大」用量に耐えた。プロトコルの修正により、1人の被験者は「低」用量を試用しなかった。この被験者は「高」用量に耐えられなかったため、研究の残りの期間、「中」用量のNOSiで1日1回洗浄した。表5-2に示すように、被験者は疼痛と不快感の合計として、「低」、「中」、「高」、「最大」用量間で生理食塩水と比較してそれぞれ平均2.53、3.98、2.53、3.32ポイントの増加を報告している。一般に、被験者は鼻孔の刺すような痛みとチクチクする痛みを報告したが、それはNOSiですすぐとすぐに起こり、洗浄中に解消された。
【表2】
【0430】
嗅覚については、4人(80%)で有意な変化は認められなかったが、1人(20%)で13日目のNOSi投与前後で5ポイントの臨床的に有意な減少が認められた。粘膜組織には、血管炎、壊死、異形成を含む顕著な変化は観測されなかった。粘膜繊毛クリアランス時間は、5人中3人(60%)で正常範囲内の増加が認められた。また、有害事象の報告はなかった。また、周囲の二酸化窒素が5ppm以上増加した事象は報告されていない。NOSi投与前後のメトヘモグロビン値の増加率はまちまちであったが、いずれも1.5%未満であった。さらに、酸素飽和度の正常範囲外の変化は、NOSiによる投与中に測定されなかった。投与後のバイタルサイン(血圧、呼吸数、心拍数)は、すべての被験者で正常範囲内を維持した。
【0431】
3人の被験者(60%)が、3.33ポイントの修正ルンドケネディスコアの合計の平均的な改善を示した(ベースラインの中央値13、平均9.25;13日目の中央値10、平均9.2)。図6bに示すように、1人の被験者(20%)は、MLKにおいて変化せず、1人の被験者は、3ポイント減少した。細菌および真菌の増殖の減少は、5人中3人(60%)の被験者で報告された。2人の被験者(40%)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の軽度または中程度の増殖の完全な減少を示した。1人の被験者(20%)は、真菌であるExophiala dermatitidisの完全な減少を示した。2人の被験者(40%)は、13日間の治験期間後、細菌の増殖に変化がないか、Aspergillus niger複合体の新たな真菌の増殖が見られた。全ての(100%の)被験者は、図6cに示すように、平均23.6点の改善(投与前の中央値49、平均49.4;投与後の中央値26、平均26.6)で、彼らのSNOT-22スコアにおいて少なくとも1つの臨床的に検出可能な最小変化(1MCID=8.9ポイント)の改善を実証した。
【0432】
考察:
難治性CRS治療における包括的な目標は、粘膜浮腫の軽減、バイオフィルム形成の根絶、そして最終的には治療結果を改善することである。現在、安全で効果的かつ長期的な抗菌療法がないため、本研究では、難治性慢性鼻副鼻腔炎の投与における一酸化窒素副鼻腔洗浄の安全性と耐性を評価することを目的としている。
【0433】
このパイロット研究の目的は、一酸化窒素副鼻腔洗浄の耐性と安全性を判断することであった。私たちの知る限り、局所一酸化窒素副鼻腔洗浄の安全性と有効性を調べた研究はこれまでない。私たちの予備的な結果は、より大規模な二重盲検、ランダム化、対照の治験で安全性と有効性をさらに評価するためのNOSiの耐容量を特定したものである。
【0434】
我々の結果では、80%の被験者がNOSiの「最大」用量に耐えることができた。1人の被験者は、「最大」用量の投与時に5(10段階中)を超えるチクチクとした痛みを報告したが、洗浄終了後すぐに治まった。この研究では、周囲の二酸化窒素レベルが5ppm以上、メテオグロビンの変化が5%以上などの有害事象は認められなかった。興味深いことに、1人の被験者がベースラインと比較して臨床的に有意な嗅覚の低下を示したが、これは、ニューロン性一酸化窒素合成酵素が哺乳類の嗅球に高発現し、嗅覚処理に関与しているとする現在の文献と矛盾するものである。この矛盾する予備的知見は、ランダム化対照治験において、さらなる嗅覚の測定値を含める根拠となる。
【0435】
1人の被験者は、治験期間中に新たな真菌の増殖を示した。しかし、この被験者は、「中程度」の用量に耐えられず、治験の大部分において「低」用量で洗浄を行った被験者であった。2人の被験者は細菌性鼻腔内培養物の増殖が部分的に減少し、1人の被験者は真菌の増殖が完全に減少したことを示した。これらの予備的結果は、NOSiが細菌および真菌のバイオフィルムに対して有効であることを示唆しており、したがって、長期的な難治性CRS治療として有効である可能性を示している。さらに、内視鏡検査では、3人がMLKスコアの全体的な改善を示したが、1人が変化なし、1人が悪化していた。興味深いことに、MLKスコアが悪化した被験者は、SNOT-22のアンケートで35ポイントの改善を報告した。
【0436】
結論:
この予期的なパイロット治験により、NOSiの用量耐性と短期安全性に関する予備的データが得られた。本治験は、NOSiの有効性と長期安全性を評価する第II相ランダム化対照治験を開始するための具体的な基盤となるものである。
【0437】
上述した様々な種類の組成物、剤形および/または適用態様は、本発明の実施形態の例示に過ぎないことが理解されるであろう。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多数の変更および代替的な配置が当業者によって考案されることができ、添付の請求項は、そのような変更および配置をカバーすることが意図される。したがって、本発明は、現在最も実用的であると考えられるものおよび本発明の実施形態に関連して、特定および詳細に上述されてきたが、サイズ、物質、形状、形態、機能および操作、組立および使用における変形を含むが、これらに限定されない変形が、本明細書に規定する原理および概念から逸脱せずになされ得ることが当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6a
図6b
図6c
【国際調査報告】