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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(54)【発明の名称】手術用ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 50/13 20160101AFI20230601BHJP
   A61B 17/17 20060101ALI20230601BHJP
   A61B 34/30 20160101ALI20230601BHJP
【FI】
A61B50/13
A61B17/17
A61B34/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567313
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2021061908
(87)【国際公開番号】W WO2021224351
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20305445.7
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516131980
【氏名又は名称】エセンシャル ロボティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラヴァレー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】レオン,エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ベリー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フルニエ,エリー
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL24
4C160LL62
(57)【要約】
本発明は、対象空間内の複数の手術対象に到達する手術用ロボットシステム(1)であって、少なくとも6つの自由度を有するロボットアーム(4)であって、基端に位置する基部(40)と、前記基部(40)から先端まで延びる複数のジョイントによって相互接続された複数の連続するセグメントとを含み、前記基部(40)と第1のセグメント(41)との間に第1のジョイント中心(O)を有する、ロボットアームと、手術器具または手術器具ガイドなどの医療機器を保持するためのエンドエフェクタ(5)であって、前記ロボットアームの先端に機械的に結合されたエンドエフェクタと、手術台(6)の側面(60)に対して配置されるように構成された少なくとも1つの前面を含む前面部(20)を有する可動カート(2)であって、前記可動カート側に位置する全ての点が軸(Ax)上に負の座標を有し、前記手術台側に位置する全ての点が軸(Ax)上に正の座標を有するように、前記前面に垂直な方向(x)を有する水平軸(Ax)および前記前面上に位置する原点Aを定める可動カートと、前記可動カートに機械的に結合された基端と、前記ロボットアームの前記基部(40)に機械的に結合された先端とを有する堅固な細長い首部(3)と、前記ロボットアームを制御可能に動かすように構成された制御ユニット(7)と、を備え、前記首部(3)は、前記第1のジョイント中心(O)の前記軸(Ax)上の座標(K)が厳密に正であるように構成されることを特徴とする手術用ロボットシステムに関する。

【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間内の複数の手術対象に到達する手術用ロボットシステム(1)であって、
少なくとも6つの自由度を有するロボットアーム(4)であって、基端に位置する基部(40)と、前記基部(40)から先端まで延びる複数のジョイントによって相互接続された複数の連続するセグメントとを含み、前記基部(40)と第1のセグメント(41)との間に第1のジョイント中心(O)を有する、ロボットアームと、
手術器具または手術器具ガイドなどの医療機器を保持するためのエンドエフェクタ(5)であって、前記ロボットアームの先端に機械的に結合されたエンドエフェクタと、
手術台(6)の側面(60)に対して配置されるように構成された少なくとも1つの前面を含む前面部(20)を有する可動カート(2)であって、前記可動カート側に位置する全ての点が軸(Ax)上に負の座標を有し、前記手術台側に位置する全ての点が軸(Ax)上に正の座標を有するように、前記前面に垂直な方向(x)を有する水平軸(Ax)および前記前面上に位置する原点Aを定める可動カートと、
前記可動カートに機械的に結合された基端と、前記ロボットアームの前記基部(40)に機械的に結合された先端とを有する堅固な細長い首部(3)と、
前記ロボットアームを制御可能に動かすように構成された制御ユニット(7)と、を備え、
前記首部(3)は、前記第1のジョイント中心(O)の前記軸(Ax)上の座標(K)が厳密に正であるように構成されることを特徴とする手術用ロボットシステム。
【請求項2】
前記首部(3)は、前記第1のジョイント中心(O)の前記軸(Ax)上の座標(K)が+100mmより大きくなるように構成される請求項1に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項3】
前記首部(3)は、前記ロボットアームの第1の軸と第2の軸との交点として定義される肩点(S)の前記軸(Ax)に沿った座標が、前記対象空間の前記軸(Ax)上の最小座標と最大座標との間にあるように構成される請求項1または2に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項4】
前記首部(3)と前記可動カート(2)との間の機械的結合部は、前記首部が少なくとも1つの自由度に従って前記可動カートに対して移動可能であるように構成され、前記第1のジョイント中心(O)の前記軸(Ax)上の座標(K)は、前記可動カートに対する前記首部の少なくとも1つの位置に関して厳密に正である請求項1~3のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項5】
前記首部(3)と前記可動カート(2)との間の機械的結合部は、前記可動カート(2)に対して、前記首部が鉛直軸(z)に沿って並進可能であり、かつ、前記首部(3)が前記鉛直軸(z)周りに回転可能であるように構成される請求項4に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項6】
前記首部(3)と前記可動カート(2)との間の機械的結合部は、前記少なくとも1つの自由度に従った前記可動カートに対する前記首部の移動を駆動するように構成された少なくとも1つのモータを含む請求項4または5に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項7】
前記首部(3)と前記可動カート(2)との間の機械的結合部は、前記首部(3)が鉛直方向に電動で並進可能であり、かつ、前記首部(3)が鉛直軸(z)周りに手動で回転可能であるように構成される請求項4~6のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項8】
前記制御ユニットは、カート-首部間の機械的結合部の電動動作を制御可能に動かすようにも構成される請求項6または7に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項9】
前記首部と前記可動カートとの間の機械的結合部(30)は、少なくとも1つのアバットメントと、前記首部を前記可動カートに対して決められた構成で停止し係止するように前記アバットメントと協働する少なくとも1つの係止手段(31)とを含む請求項4~8のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項10】
前記制御ユニットは、前記可動カートおよび/またはロボットシステムの少なくとも1つの安全構成を検出するように更に構成され、前記少なくとも1つの安全構成は、前記可動カートのフットプリント内における前記首部(3)および前記ロボットアーム(4)の位置を含む請求項4~9のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項11】
前記手術用ロボットシステムは、安全柵が前記ロボットアームを囲む保護展開位置と前記ロボットアームが動作可能な折り畳み位置との間で可動な安全柵(23)を更に備え、前記制御ユニットは、少なくとも1つの第2の安全構成を検出するように更に構成され、前記少なくとも1つの第2の安全構成は、前記安全柵の展開位置を含む請求項1~10のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの安全構成が作動していることを前記制御ユニットが検出した場合のみ、前記可動カートの2mを超える距離の変位が可能となる請求項10または11に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項13】
前記首部は、その基端と先端との間に湾曲部分を含む請求項1~12のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【請求項14】
前記首部の先端は、前記ロボットアーム(4)の第1の軸(A1)と同一線上の軸(N)を有する請求項1~13のいずれか一項に記載の手術用ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット手術の分野に関する。特に、本発明は、外科手術中に使用されるロボットアームのための可動カートを備えたシステムの分野に関する。
【0002】
ロボット手術を用いた代表的な外科手術としては、脊椎における椎弓根スクリューなどの整形外科インプラントの埋め込み、骨における種々の整形外科インプラントの埋め込み、外傷処置時の骨折の縮小および固定、ガイドまたはカニューレの、予め定められた目標に対する望ましい位置への単なる配置等が挙げられる。
【0003】
より具体的には、本発明は、術前または術中の画像ベースの計画ステップで決められた椎弓根スクリューの配置のために目標を維持するのに使用することができる。
【背景技術】
【0004】
手術用ロボットアームは、外科的処置時にユーザ(外科医等)を支援するために使用されてきた。
【0005】
例えば、脊椎手術では、ユーザは、1つまたは複数のスクリューをいくつかの椎骨に埋め込む必要がある場合がある。ロボットアームは、ドリルガイドを保持し、予定された軸に従ってドリルガイドを維持することでユーザを支援することができる。これにより、ユーザは、ロボットアームによって保持されたドリルガイドに通した手持ちドリルを使用して、予定された軸に沿って椎骨にスクリューを挿入するための穴を開けることができる。
【0006】
通常、先行技術によるロボットシステムは、基部から延びる基端を有するロボットアームを備え、この基部は通常、可動カート(ジンマー・バイオメット社のROSATM、グローバス・メディカル社のEXCELCIUS GPSTM)である。可動カートは、手術台の近くに運ばれ、ロボットアームは、外科医の必要性に応じて展開される。
【0007】
このような手段の限界は、この手術用ロボットアームの使用と有用性に起因する。実際、その範囲とジョイントの自由度の限界により、目標のポイントに常に到達できるわけではない。別の欠点は、既知のロボットアームは、全ての目標位置に到達するためにサイズが大きくなることがあり、これにより各軸のモータが大きくなり、ロボットセグメントの重量が大きくなるため、このようなロボット装置の慣性が高くなり、この慣性がロボットアームの高速サーボ制御の制限因子となって、ロボットアームの使用や表現を制限することである。
【0008】
ロボットの長さ(セグメントの累積長さ)、能力(例えば、各ジョイントの可動域)、手術条件(手術台の幅、患者の位置、患者のサイズと体重、手術の種類と目的)など、多くの条件に応じて、計画時に目標が決定されている場合は自動で、外科医や専任のオペレータが手動でガイドする場合は手動で、ロボットアームが目標に適切に到達できない状況が起こり得る。
【0009】
単純な解決策としては、より大きな寸法、すなわち、より大きなセグメント、より大きなジョイント可動域、および/またはより大きな自由度を有するロボットアームを使用することが考えられる。しかしながら、このような解決策は、リアルタイムサーボ制御時のロボットアーム全体の精度に負の影響を与えるという重大な欠点を伴う。このような精度は、明白な安全上の理由から、手術用ロボットシステムを用いた外科手術において最も重要である。さらに、外科手術におけるロボットアームの使用に関する重要なパラメータであるロボットアームの剛性、すなわち加えられた力に応じた運動学的変形に抵抗するロボットアームの能力も、このような解決策によって負の影響を受ける。
【0010】
別の解決策は、MAZORXTMロボット装置(メドトロニック社)のように、ロボット基部を手術台に取り付けることである。しかしながら、ロボットシステムを手術台に取り付けると、手術台のレールが十分な剛性を有さないため新たな安全性の問題が生じ、また、ロボットを自由に取り外したり使用したりするための柔軟性にも欠けることになる。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、外科手術のニーズに合わせてより小型かつ軽量なロボットアームを使用しながら、より広い範囲の手術対象に到達することができるロボットアームシステムを提供することである。
【0012】
この目的のため、本発明は、対象空間内の複数の手術対象に到達する手術用ロボットシステムであって、
少なくとも6つの自由度を有するロボットアームであって、基端に位置する基部と、基部から先端まで延びる複数のジョイントによって相互接続された複数の連続するセグメントとを含み、基部と第1のセグメントとの間に第1のジョイント中心を有する、ロボットアームと、
手術器具または手術器具ガイドなどの医療機器を保持するためのエンドエフェクタであって、ロボットアームの先端に機械的に結合されたエンドエフェクタと、
手術台の側面に対して配置されるように構成された少なくとも1つの前面を含む前面部を有する可動カートであって、可動カート側に位置する全ての点がAx軸上に負の座標を有し、手術台側に位置する全ての点がAx軸上に正の座標を有するように、前面に垂直な方向xを有する水平軸Axおよび前面上に位置する原点Aを定める可動カートと、
可動カートに機械的に結合された基端と、ロボットアームの基部に機械的に結合された先端とを有する堅固な細長い首部と、
ロボットアームを制御可能に動かすように構成された制御ユニットと、を備え、
首部は、第1のジョイント中心の軸上の座標Kが厳密に正であるように構成されることを特徴とする手術用ロボットシステムを提供する。
【0013】
幾つかの好ましい実施形態において、首部は、第1のジョイント中心のAx軸上の座標が+100mmより大きくなるように構成される。
【0014】
幾つかの好ましい実施形態において、首部は、ロボットアームの第1の軸と第2の軸との交点として定義される肩点の軸に沿った座標が、対象空間の軸上の最小座標と最大座標との間にあるように構成される。
【0015】
幾つかの実施形態において、首部と可動カートとの間の機械的結合部は、首部が少なくとも1つの自由度に従って可動カートに対して移動可能であるように構成され、第1のジョイント中心の軸上の座標は、可動カートに対する首部の少なくとも1つの位置に関して厳密に正である。
【0016】
上記首部と可動カートとの間の機械的結合部は、可動カートに対して、首部が鉛直軸に沿って並進可能であり、かつ、首部が鉛直軸周りに回転可能であるように構成されてもよい。
【0017】
幾つかの実施形態において、首部と可動カートとの間の機械的結合部は、少なくとも1つの自由度に従った可動カートに対する首部の移動を駆動するように構成された少なくとも1つのモータを含む。
【0018】
幾つかの実施形態において、首部と可動カートとの間の機械的結合部は、首部が鉛直方向に電動で並進可能であり、かつ、首部が鉛直軸周りに手動で回転可能であるように構成される。
【0019】
有利には、首部とロボットアームが可動カートのフットプリント内に入るように、首部の縦軸周りに首部とロボットアームを180度回転させる。
【0020】
幾つかの実施形態において、制御ユニットは、カート-首部間の機械的結合部の電動動作を制御可能に動かすようにも構成される。
【0021】
幾つかの実施形態において、首部と可動カートとの間の機械的結合部は、少なくとも1つのアバットメントと、首部を可動カートに対して決められた構成で停止し係止するようにアバットメントと協働する少なくとも1つの係止手段とを含む。
【0022】
幾つかの実施形態において、制御ユニットは、可動カートおよび/またはロボットシステムの少なくとも1つの安全構成を検出するように更に構成される。
【0023】
上記少なくとも1つの安全構成は、可動カートのフットプリント内における首部およびロボットアームの位置を含み得る。
【0024】
幾つかの実施形態において、システムは、安全柵がロボットアームを囲む保護展開位置と安全柵がロボットアームの動作を可能とする折り畳み位置との間で可動な安全柵を更に備え、少なくとも1つの安全パラメータは、安全柵の展開位置を含む。
【0025】
好ましくは、少なくとも1つの安全構成が作動したことを制御ユニットが検出した場合のみ、制御ユニットは、可動カートの2mを超える距離の変位を可能とする。
【0026】
幾つかの実施形態において、首部は、その基端と先端との間に湾曲部分を含む。
【0027】
他の実施形態では、首部は、その基端と先端との間で、鉛直方向に対して45度傾斜する直線形状を呈していてもよい。
【0028】
幾つかの実施形態において、首部の先端は、ロボットアームの第1の軸と一直線上(同一線上)の軸を有する。
【0029】
(定義)
本発明において、以下の用語は、以下の意味を有する。
本発明の文脈における「複数」とは、少なくとも2つであることを意味する。
本発明の文脈における「基端」は、可動カートを基準として用いられる。基端は、可動カートに最も近い端部である。
本発明の文脈における「先端」は、可動カートを基準として用いられる。先端は、可動カートから最も遠い端部である。
本発明における「約」とは、測定値を得るために使用した道具や測定方法に依存する誤差を考慮して行われる測定を指す。
本発明における「水平面」とは、手術室の地面と厳密に平行な面を指す。
本発明における「鉛直方向」とは、水平面に直交する方向を指す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の更なる特徴および利点は、以下の添付の図面に基づいて、以下の説明から明らかになる。
【0031】
図1】本発明の一実施形態によるロボットシステムを含む手術シーンを表す図である。
図2図1の手術シーンの側面図である。
図3図1の手術シーンの上面図である。
図4】保護構成で枢動する首部を有する手術システムの斜視図である。
図5A】第1の実施形態による安全柵の拡張構成を示す図である。
図5B】第1の実施形態による安全柵の格納構成を示す図である。
図6A】第2の実施形態による安全柵の拡張構成を示す図である。
図6B】第2の実施形態による安全柵の格納構成を示す図である。
図7A】首部の実施形態を示す図である。
図7B】首部の実施形態を示す図である。
図7C】首部の実施形態を示す図である。
図7D】首部の実施形態を示す図である。
図7E】首部の実施形態を示す図である。
【0032】
各図において同一の参照符号は、同一の要素または同一の機能を有する要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、図1の手術シーンに図示されるようなロボット手術で使用される。
【0034】
(手術用ロボットシステム)
手術用ロボットシステム1は、可動カート2と、可動カートに搭載されたロボットアーム4とを備える。
【0035】
外科手術時、カートは、患者Pが横たわる手術台に対して固定され、ロボットアームは、手術対象に到達するために動かされることが意図される。特に、可動カートの前面部20は、手術台に可能な限り近づくように、または手術台の側面60に接するように配置される。前面部20は、実質的に鉛直方向に延びる。前面部は、平らな面を有していてもよいし、少なくとも1つの曲面から構成されていてもよい。
【0036】
可動カートは、車輪21で移動可能であってよく、オペレータが手術用ロボットシステム1を容易に操縦・運搬できるように、少なくとも1つのハンドル22を含んでいてもよい。有利には、ハンドル22は、前面部20と反対側に位置し、これにより、ユーザは、手術台の側面に接するように、可能な限り手術台に近づくまで、ハンドルを介して可動カートを簡単に押すことができる。
【0037】
可動カート2は、手動で動かしてもよいし、少なくとも1つの自由度を有するモータで駆動させてもよい。可動カートが手術台に対して所望の位置に移動された後、車輪の少なくとも1つがブロックされてもよい。
【0038】
ロボットアームは、並進および/または回転における複数の自由度を有する。通常、ロボットアームは、少なくとも6つの電動自由度を有する。そのため、ロボットアームは、エンコーダ付きモータによって駆動される複数の関節式セグメントを有する。慣例的に、セグメントは、ロボットアームの基端(可動カートに最も近い端)から先端に向かって番号が付けられる。連続するロボットアームのジョイントは、回転ジョイントであっても並進ジョイントであってもよい。連続する回転ジョイントは、垂直であっても平行であってもよい。ロボットアームのいくつかの部分は、六脚構造のような平行機構を使用することもできる。
【0039】
好ましい実施形態では、ロボットアームは、例えばKUKA IiwaTM、LBR MedTM、STAUBLI Puma200TM、またはKINOVA Gen3TMなどの擬人化構造に配置された6または7つの回転軸からなる。このような擬人化構造では、第1の軸と第2の軸は互いに実質的に垂直である。
【0040】
図1図2および図3において、ロボットアームは、基部40と、第1のセグメント41と、第2のセグメント42とを含む。第1のセグメント41は、基部40に対して第1の軸A1を中心として枢動可能であり、第2のセグメント42は、第1のセグメントに対して第2の軸A2を中心として枢動可能である。図2において、第1の軸A1は図の平面内にあり、第2の軸A2は図の平面に対して垂直である。
【0041】
ロボットアームの2つの特徴点は、以下のように定義される。
・点Oとして表されるロボットアームの第1のジョイント中心は、基部40と第1のセグメント41との間のジョイントである第1のジョイントの中心に位置する第1の軸の点である。
・点Sとして表されるロボットアームの肩点は、第1の軸41と第2の軸42との交点である。交点は、軸間の最も近い点として定義される。
【0042】
ロボットアームとしては、例えば、KUKA(ドイツ)製のLBRMedTMロボットなどが用いられる。ロボットアームは、所望の目標や軌道に従って自律モードで制御されてもよく、協働モード(コボット)を用いて操作されてもよく、マスター制御装置を用いて遠隔操作されてもよい。これらの異なるモードを2つ以上組み合わせて、同一のロボットシステムで使用してもよい。
【0043】
有利には、ロボットアームは、ロボットアームの固有の機械的剛性を高め、その慣性を低減するため、可能な限りコンパクトに設計される。慣性を低減することにより、高速サーボ制御で使用する際のロボットアームの挙動が改善される。
【0044】
ロボットアーム4は、堅固な細長い首部3によって可動カートに結合される。
【0045】
「堅固(rigid)」とは、首部が複数の部品から構成されていても、部品同士が強固に固定されていることを意味する。
【0046】
「細長い」とは、本文では、首部が、首部の直径の少なくとも2倍の長さ(首部の基端と先端との間で首部の中立軸に沿って測定される)を有することを意味する。首部は円形の断面を有していてもよく、この場合、首部の直径は断面の直径となる。首部が円形の断面を有さない場合、および/または、首部がその長さに沿って一定の断面を有さない場合、「直径」は、本文では、首部の平均断面と同じ面積を有する円盤の直径を意味する。
【0047】
首部3は、機械的結合部30によって可動カート2に結合された基端と、ロボットアーム4の基端(すなわち基部40)に機械的に結合された先端とを有する。
【0048】
ロボットシステムは、手術器具または手術器具ガイドなどの医療機器を保持するためのエンドエフェクタ5を備え、該エンドエフェクタは、ロボットアーム4の先端に機械的に結合される。
【0049】
手術用ロボットシステム1は、ロボットアーム4を制御可能に動かすように構成された制御ユニット7を備える。幾つかの実施形態では、制御ユニットは、可動カートの少なくとも一部(例えば、少なくとも1つの車輪)を制御可能に動かすように構成される。有利には、制御ユニットは、モータによってそのような動きが可能で駆動される場合に、可動カートに対して首部を制御可能に動かすようにも構成される。
【0050】
制御ユニット7は、プロセッサ、データ記憶装置、および通信装置を含む。制御ユニットは、有利には、可動カート2に埋め込まれ得る。可動カートは、電源スイッチ、緊急ボタンなどのスイッチを有していてもよい。他の実施形態では、制御ユニットは、可動カートとは別に設けられていてもよく、ロボットアームと無線または有線で通信するように構成されていてもよい。
【0051】
図示されていないが、手術シーンは、術前および/または術中に患者のX線画像を取得するように構成された、例えばCアームなどのX線撮像システムを含んでいてもよい。
【0052】
また、手術シーンは、患者、ロボットアーム、エンドエフェクタ、および/または手術器具若しくはガイドに取り付けられたトラッカーの位置を特定するように構成された位置特定システム(不図示)を含んでいてもよい。位置特定システムは、光学位置特定や電磁位置特定などの様々な技術の中から選択することができる。
【0053】
(首部)
首部の外形およびサイズは、首部がロボットアームの重量を支えることを考慮して、剛性および/または嵩高性の要件に適合するように選択され得る。しかしながら、上述したように、ロボットアームは、可能な限りコンパクトになるように選択されるため、比較的軽量である。
【0054】
好ましい実施形態では、首部は、湾曲形状を有するか、または少なくとも1つの湾曲部分と少なくとも1つの直線部分とを含む。これらの場合、首部の中立軸は、少なくとも部分的に湾曲している。首部の先端は、基端よりも鉛直方向に対して大きな傾きを有していてもよい。
【0055】
これに代わって、首部は、その基端と先端との間で直線的な形状を呈していてもよい。首部の軸は、鉛直方向に対して45±5度の傾斜を有していてもよい。
【0056】
他の実施形態では、首部は、互いに傾斜した少なくとも2つの直線部分を含んでいてもよい。
【0057】
図7A図7Eは、首部の幾つかの実施形態を示すが、これらは限定的なものではない。各実施形態は、設計、外観の点で特定の利点を有し、多かれ少なかれ複雑なものである。
【0058】
図7Aおよび図7Bの実施形態では、首部3は、首部の基端および先端が実質的に直交する軸に沿って延びる(基端は鉛直軸に沿って延び、先端は水平軸に沿って延びる)ように、直線状の基端部分と先端部分との間に曲線部分を含む。湾曲部分の曲率半径は、図7Aの首部の方が図7Bの首部より大きい。
【0059】
図7Cの実施形態では、首部3は直線的な形状を呈している。
【0060】
図7Dの実施形態では、首部3は、互いに傾斜した2つの直線部分を含み、このうち基端部分は、鉛直軸に沿って実質的に延び、先端部分は、鉛直方向に対して約45°傾斜した軸に沿って実質的に延びる。
【0061】
図7Eの実施形態では、首部3は、図7Aおよび図7Bよりも曲率半径が大きい湾曲形状を有し、先端は、水平軸に沿ってではなく、鉛直方向に対して約45°傾斜した軸に沿って延在する。
【0062】
上述した全ての実施形態において、首部は、軸Nに従って直線的に延びる先端部分または先端を含む。
【0063】
首部3の先端は、ロボットアームの基部40に強固に固定されている。有利には、首部の先端の軸Nは、ロボットアームの基部40の軸と一直線上(同一線上)である。この軸は、通常、基部40に対する第1のセグメント41の回転軸A1と同一線上である。このような配置により、首部3とロボットアームの基部40との滑らかな連続性が得られる。この連続性は、対象空間に向かった延伸部を形成する非ロボット部分と、手術器具の位置を調整するための軽量サーボ制御システムを形成するロボット部分とからなる包括的かつ単一のシステムであることを示すため、ユーザの認識に重要である。首部が湾曲形状を有する場合、先端の軸Nは、首部の先端とロボットアームの基部との間の機械的結合部の軸であると考えることができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、首部3の基端は、可動カート2に強固に固定されている。
【0065】
首部と可動カートとの間の機械的結合部は、可動カートの上面または前面のいずれかに配置されてもよい。これに代わって、機械的結合部は、可動カートの上面と前面との間の縁部に配置されてもよい。
【0066】
他の実施形態では、首部の基端と可動カートとの間の機械的結合部は、可動カートに対する首部の少なくとも1つの並進および/または少なくとも1つの回転が可能であるように構成される。この可動カートに対する首部の移動により、特に、ロボットアームおよび首部が実質的に可動カートのフットプリント内に、特に可動カートの前面部20を越えて位置するように引っ込められるロボットアームの運搬位置と、ロボットアームの点Oが前面部20より外側に(すなわち軸Axに沿って負の座標で)位置するロボットアームの動作位置と、を提供することが可能になる。上記運搬位置は、可動カートを廊下で長距離移動させる際やドアを通過する際に、ロボットアームが障害物に衝突するリスクを回避するか、少なくとも減少させるという点で特に有利であり、このような変位は通常2メートルを超える。しかしながら、首部の少なくとも1つの位置において、特にロボットアームが展開される際には、ロボットアームの点Oは、軸Ax上で厳密に正の座標を有する。
【0067】
幾つかの実施形態では、首部は、ユーザによって手動で、可動カートに対して移動可能であってもよい。首部と可動カートとの間の機械的結合部により、決められた可動域内で首部を自由に動かせるようにしてもよい。結合部を所定の非常に堅固な位置に固定するために、ボタンが用いられる。鉛直方向の並進および/または回転を止めるために、機械的、電気的、油圧的、圧電的または空気圧的なブレーキを使用することができる。これに代わって、機械的結合部は、予め決められた可動カートに対する首部の個々の安全位置のみを許可してもよい。
【0068】
首部の基端の鉛直軸を中心とした回転は、手術台に沿ったロボットアームの基部40の位置を、患者の頭や足に向かって調整するために利用することができる。例えば、30度の回転により、可動カートの基部を動かさずに、対象空間の全ての所望の対象に到達するように、ロボットアームの作業空間を移動させることができる。
【0069】
他の実施形態では、首部と可動カートとの間の機械的結合部は、可動カートに対する首部の並進および/または回転を駆動するように構成された少なくとも1つのモータを含む。このモータは、例えば可動カートに設けられた作動ボタンによってユーザによって直接作動されてもよく、例えば制御ユニットが特定の状況で首部を動かすように構成されている場合には、制御ユニットによって作動されてもよい。
【0070】
一実施形態によると、首部と可動カートとの間の機械的結合部30は、少なくとも1つのアバットメントと、首部を可動カートに対して所望の構成で停止し、係止するようにアバットメントと協働する少なくとも1つの係止手段31(図4参照)とを含む。
【0071】
好ましい実施形態によると、首部は、鉛直軸に沿った並進と、鉛直軸z(図2参照)を中心とした回転の両方で移動可能であり得る。鉛直軸に沿った並進は、ユーザによって作動されるボタン24および/または制御ユニットによって操作可能なモータ(不図示)により駆動されてもよい。鉛直軸を中心とした回転は、手動で行われてもよい。可動カートは、首部の鉛直軸を中心とした回転をロックまたはロック解除するためにユーザによって作動される少なくとも1つのボタン(不図示)を含んでいてもよい。有利には、この構成により、首部と可動カートとの間の比較的単純な機械的結合を維持しながら、手術用ロボットシステムの使用における最大限の柔軟性を得ることができる。
【0072】
図1図2図3および図7A図7Eに示すように、首部3は、ロボットアームの第1のジョイント中心Oおよび肩点Sが可動カートの前面から非null距離に位置するように、可動カートの前面20より横方向外側に延在する。
【0073】
(対象空間)
通常、外科的処置中、単一の手術対象ではなく、複数の手術対象に、意図された治療(ミリング、穿孔、鋸引き、インプラントの配置など)を実行するためにエンドエフェクタによって保持された医療機器が到達する必要がある。上述の手術対象は、特に、医療機器がガイドされる軸または平面で構成され得る。
【0074】
複数の手術対象は、対象空間を規定する。したがって、対象空間は、患者の解剖学的構造に対して定められた容積と考えることができ、この容積の寸法は、意図された治療に依存する。
【0075】
例えば、脊椎手術では、手術対象は、複数の椎骨に対して定められ得る。脊椎の側弯症のような複雑な手術では、10個以上の椎骨を手術する必要がある場合があり、患者の身体に沿って非常に長い対象空間が生じる。そのため、対象空間は、患者の脊柱に沿って延び、したがって、実質的に患者の正中矢状面に沿って延び得る。外科的処置中、患者の正中矢状面は、手術台の長手軸に実質的に沿って延在する。図2には、正中矢状面MSを中心として、椎骨Vの周りに対象空間TSが模式的に示されている。
【0076】
ロボットアームの作業空間は、ロボットアームの先端に取り付けられたエンドエフェクタによって到達可能な全ての位置に対応する容積である。作業空間は、ロボットアームのセグメントの寸法と、ロボットアームの各ジョイントの可動域に依存する。
【0077】
手術中にカートを移動させることは、手術時間を大幅に増加させ、無菌状態を損なうリスクがあるため、望ましくない。ロボットアームとカートは、通常、術野の無菌状態を保つために覆われている。可動カートを動かさずに全ての対象に到達するためには、ロボットアームの作業空間が対象空間を内包する必要がある。
【0078】
したがって、可動カートは、対象空間に対する作業空間の好ましい位置決めを促進するため、(ユーザによって少なくともおおよそ把握される)対象空間に対して適切な位置に配置され得る。
【0079】
ロボットアームの寸法が大きいほど、作業空間が広くなり、対象空間全体に到達するためのロボットアームの位置決めが容易になる。
【0080】
しかしながら、ロボットアームのセグメントの寸法を大きくすると、ロボットアームの剛性が低下し、手術対象の位置決め精度が低下すると共に、慣性が増大するため、移動する手術対象をトラッキングする高精度かつ高速なサーボ制御が妨げられたり、動的トラッキングおよび50ヘルツ以上でのサーボ制御のためにトラッカーを取り付けた骨を削るロボットエンドエフェクタの高速アクティブモーションを実行することができなくなる。
【0081】
一方、剛性が大きい小型のロボットアームでは、作業空間が小さくなる。特に、ロボットアームの第1のジョイント中心Oが対象空間から離れすぎていると、対象空間全体に到達できない可能性がある。
【0082】
そのため、小型のロボットアームで作業空間が小さい場合は、作業空間と対象空間との位置関係を近づける必要がある。
【0083】
より正確には、ロボットアームの肩部を対象空間の中心に近づけることで、近接した位置関係を得ることができる。
【0084】
手術中は可動カートを手術台の側面に当接させるため、可動カート自体を対象空間に近づけることはできない。
【0085】
しかしながら、本発明によれば、細長い首部によって、ロボットアームの肩部を対象空間、すなわち患者の関心領域の上方に近づけることができる。
【0086】
細長い首部により、肩部と移動カートの前面部との距離を非nullにすることができる。
【0087】
(肩部の位置決め)
可動カートの前面部20を手術台の側面(治療すべき解剖学的部位に応じて、縦方向側面または横方向側面であってもよい)に当接させると、可動カートと手術台との間に前面が画定される。この前面は、主に鉛直方向に延びる。前面部の形状や手術台に対する位置と向きに応じて、前面は、線、特に鉛直線、または面、特に鉛直面であってもよい。
【0088】
いずれの場合も、図2および図3に示すように、前面に直交する水平方向xに延びる軸Ax、すなわち前面上の原点Aを有する、前面の接線に直交する軸を定めることができる。Ax軸は移動カートに属しており、ロボットシステムが手術台に対して配置される場合、通常は手術台の側面に直交する。尚、ユーザの好みや手術室の制約により、手術台の側面に角度をつけて移動カートを配置することもできる。前面が円形の場合は、このような角度は何の影響も及ぼさない。前面が平らな場合、ロボットアームの第1のジョイント中心Oと手術台の正中線との間にさらなる間隙が生じ、ロボットが非常に小型で作業空間が限られているような要求の高い用途では、ロボットの作業空間と対象空間との一致性が悪くなる可能性がある。
【0089】
Ax軸上の点の座標は、点をAx軸に直交するように投影することで決められる。
【0090】
Ax軸は、可動カート側に位置する全ての点がAx軸上に負の座標を有し、手術台側に位置する全ての点がAx軸上に正の座標を有するように定められる。
【0091】
細長い首部3により、第1のジョイント中心Oは、Ax軸に沿った厳密な正の座標を有することができる。これは、ロボットアームの全ての連続するジョイントが手術台の上方に位置し、したがって、ロボットアームの作業空間が対象空間に近くなり、大型で重いロボットアームの要件が減少するという利点を有する。
【0092】
好ましくは、Ax軸に沿った第1のジョイント中心Oの座標Kは、+100mmより大きい。このような値であれば、最悪のケースである対象空間が手術台の中心にある場合でも、対象空間に対するロボットアームの運動特性を大きくオフセットすることができる。
【0093】
別の実施形態では、肩点Sは、対象空間のAx軸上の最小座標と最大座標との間に座標を有する。このような肩点の位置により、移動カートを動かさずに、小型のロボットアームで対象空間の全ての対象に容易に到達することができる。これは、ロボットアームの機能的基部である肩点Sが対象空間上方中心に位置する最適な構成である。これにより、作業空間と対象空間が最適に一致するため、ロボットアームの小型化が可能となり、精度、剛性、リアルタイム制御の点で有利となる。
【0094】
好ましい実施形態によると、肩点が患者の正中矢状面と水平面との間の交点に実質的に位置するようなKとする。この構成では、手術対象が、実質的に患者の正中矢状面に沿って延びる患者の脊椎に対して定められるため、脊椎手術にとって特に有利である。ロボットアームの肩部がこの領域の上方に位置することは、より小型のロボットアームを使用しながら、患者の脊柱近傍の全ての手術対象に最適に到達するために特に有利である。
【0095】
別の実施形態によると、肩点は依然として患者の正中矢状面と水平面との間の交点に実質的に配置されるが、肩点を患者の頭の上に置くことで、高い配向角度の手術器具で、頸椎および上部胸椎上に定められた手術対象に容易に到達することができる。
【0096】
別の実施形態によると、肩点は依然として患者の正中矢状面と水平面との間の交点に実質的に配置されるが、肩部を患者の仙骨部上に置くことで、腰椎および下部胸椎に定められた手術対象に容易に到達することができる。
【0097】
もちろん、可動カートの前面部を手術台に接触させず、可動カートの前面と手術台の側面との間にわずかな間隙(例えば数cm)を確保してもよい。この場合、間隙が、首部による肩点の最適位置と対象空間に対する実際の位置との間にズレを生じさせるため、可動カートと手術台とが接触している場合よりも肩点の位置が不利になる可能性がある。しかし間隙が距離Kよりも小さければ、本発明による首部は、肩点を対象空間に近づけるという点で依然として有利である。
【0098】
上記の方法で設計された小型ロボットは、到達しにくい形状、特に手術台の中心部に最適化されている。しかしながら、より単純なケースでは、移動カートは、手術台の側面に位置する対象空間に到達するために、手術台から数十cm離れた任意の位置に配置されてもよい。
【0099】
(ロボットアームの安全位置)
可動カートから横方向外側に延びる首部の潜在的な問題は、ある実施形態において、可動カートのフットプリントの外側に置かれたロボットアームが、運搬中に障害物と衝突し、その機械的完全性が脅かされる可能性があるということである。フットプリントとは、本文では、可動カートの断面の水平面上への鉛直投影を意味する。
【0100】
一実施形態によると、首部と可動カートとの間の機械的結合部は、外科的処置を実施する観点から、ロボットアームの肩部がAx軸に沿った所望の位置にある動作位置と、手術用ロボットシステムの運搬および/または保管の観点から、ロボットアームが可動カートのフットプリント内にある後退位置との間で、ロボットシステムの首部が移動可能であるように構成される。好ましい実施形態では、格納位置は、首部の基部を180度回転させることによって得られる。
【0101】
この条件は、図4に図示されるような、鉛直軸周りの可動カートに対する首部の回転を可能にする首部と可動カートとの間の機械的結合部などの、上述した実施形態によって既に達成される。
【0102】
好ましくは、運搬モードでは、首部は、同様に可動カートのフットプリント内に位置する。図4の状況では、前面部は、フットプリントを部分的に画定する鉛直面PPを規定しており、首部とロボットアームは、フットプリントの内側に位置している。
【0103】
(安全柵)
本発明の他の実施形態では、手術用ロボットシステムを手術に使用しない間、特に、手術用ロボットシステムの運搬時も、ロボットアームが可動カートのフットプリントの外側に配置され得る。これにより、ロボットアームが障害物と衝突し、その機械的完全性が潜在的に脅かされる可能性がある。
【0104】
そこで、本発明の一実施形態によると、手術用ロボットシステムは、安全柵がロボットアームを囲む保護拡張位置と、ロボットアームが動作可能な格納位置との間で可動な安全柵を更に備える。
【0105】
これにより、ロボットシステムによる運搬中に障害物があった場合、ロボットアームではなく、安全柵に衝突することになる。
【0106】
図5Aおよび図5Bは、それぞれ、手術用ロボットシステムの運搬に適した拡張構成と、手術用ロボットシステムの動作に適した格納構成における、安全柵23の第1の実施形態を示している。安全柵23は、実質的に水平面において可動カートの横側面に対して摺動可能である。図5Aに示すように、拡張構成では、安全柵は、前面部20より外側に延び、可動カートのフットプリントを部分的に画定する鉛直面PPを規定する。ロボットアームおよび首部は、フットプリントの内側に位置するので、安全柵23に当たった障害物によって傷つくことはない。格納構成では、安全柵は、前面側20を手術台(不図示)の側面に沿って配置できるように配置される。
【0107】
図6Aおよび図6Bは、それぞれ、手術用ロボットシステムの運搬に適した拡張構成と、手術用ロボットシステムの動作に適した格納構成における、安全柵23の第2の実施形態を示している。安全柵23は、可動カートの底部に向かって、可動カートの横側面に対して水平軸周りに枢動可能である。図6Aに示すように、拡張構成では、安全柵は、前面部20より外側に延び、可動カートのフットプリントを部分的に画定する鉛直面PPを規定する。ロボットアームおよび首部は、フットプリントの内側に位置するので、安全柵23に当たった障害物によって傷つくことはない。格納構成では、安全柵は、前面側20を手術台(不図示)の側面に沿って配置できるように配置される。
【0108】
もちろん、他の設計の安全柵を使用してロボットアームを保護することも可能である。
【0109】
(安全パラメータ)
本発明の実施形態によると、制御ユニットは、手術用ロボットシステムに対する少なくとも1つの安全パラメータを検出するように更に構成される。
【0110】
安全パラメータとは、手術用ロボットシステムの運搬および/または保管中に、手術用ロボットシステムの完全性を維持する能力を示すもの、より詳細には、ロボットアームの完全性を維持する能力を示すものである。
【0111】
一実施形態によると、少なくとも1つの安全パラメータは、安全柵の拡張位置を含む。
【0112】
別の実施形態によると、少なくとも1つの安全パラメータは、可動カートのフットプリント内における首部およびロボットアームの位置を含む。
【0113】
好ましい実施形態によると、手術用ロボットシステムの変位は、少なくとも1つの安全パラメータが作動していることを制御ユニットが検出した場合にのみ可能であってよい。
【0114】
好ましい実施形態では、ユーザが病院内の別の場所にロボットシステムを運搬するための安全機構を作動するのを忘れた場合、移動カートによって一定の距離、例えば2mを移動したことをシステムが検出したときにアラームが作動する。これは、移動カートの車輪にセンサを設置することで実現することができる。また、アラームが作動して、ユーザがデフォルト状態を修正していない場合、移動カートの動きをブロックすることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
【国際調査報告】