(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パック、及び電気機器
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230609BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230609BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230609BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230609BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548006
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 CN2021096742
(87)【国際公開番号】W WO2022246798
(87)【国際公開日】2022-12-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】彭 ▲暢▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 培培
(72)【発明者】
【氏名】▲鄒▼ ▲海▼林
(72)【発明者】
【氏名】梁 成都
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H050AA07
5H050AA09
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050EA08
(57)【要約】
本願発明は、リチウムイオン二次電池であって、その電解液には、高熱安定性塩である(My+)x/yR1(SO2N-)xSO2R2(ただし、前記My+は金属イオンであり、R1、R2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のフルオロアルキル基、又は炭素原子数1~20のフルオロアルコキシ基であり、前記xは1、2又は3であり、前記yは1、2又は3である)が含まれ、該塩の前記電解液における質量百分率をk2%とし、
前記正極シートの温度上昇係数k1は、2.5≦k1≦32(ただし、k1=Cw/Mcであり、Cwは、正極集電体の正極材料層が担持されたいずれか一方の表面における単位面積あたりの正極材料の担持量(mg/cm2)であり、Mcは、正極材料層の炭素含有量(%)である)を満たし、
前記リチウムイオン二次電池は、0.34≦k2/k1≦8を満たす、リチウムイオン二次電池に関する。
本願発明のリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度と長寿命の両方を兼ね備えている。本願発明は、さらに、前記リチウムイオン二次電池を含む電池モジュール、電池パック、及び電気機器に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート、負極シート、セパレータ、及び電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極シートは、正極集電体、及び正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、前記正極材料層は、正極活物質、及び炭素を含み、
前記電解液には、高熱安定性塩である(M
y+)
x/yR
1(SO
2N
-)
xSO
2R
2(ただし、前記M
y+は金属イオンであり、R
1、R
2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のフルオロアルキル基、又は炭素原子数1~20のフルオロアルコキシ基であり、前記xは1、2又は3であり、前記yは1、2又は3である)が含まれ、前記塩の前記電解液における質量百分率をk2%とし、
前記正極シートの温度上昇係数k1は、2.5≦k1≦32(ただし、k1=Cw/Mcであり、Cwは、正極集電体の正極材料層が担持されたいずれか一方の表面における単位面積あたりの正極材料の担持量(mg/cm
2)であり、Mcは、前記正極材料層の炭素含有量(%)である)を満たし、
前記リチウムイオン二次電池は、0.34≦k2/k1≦8を満たす、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
以下の条件1)から3)の少なくとも1つを満たす、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
1)3.3≦k1≦14.5、
2)0.48≦k2/k1≦7、
3)1≦Mc≦7
【請求項3】
前記M
y+は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+、Mg
2+、Ca
2+、Ba
2+、Al
3+、Fe
2+、Fe
3+、Ni
2+、及びNi
3+から選択される少なくとも1つであり、任意選択で、前記M
y+は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+及びCs
+から選択される少なくとも1つである、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記R
1、R
2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のフルオロアルキル基、又は炭素原子数1~10のフルオロアルコキシ基であり、任意選択で、前記R
1、R
2はそれぞれ独立して、CH
3、CF
3、又はFである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記電解液には、さらに低インピーダンス添加剤が含まれ、任意選択で、前記低インピーダンス添加剤は、フルオロスルホン酸塩(NSO
3F)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩(NDFOB)、ジフルオロリン酸塩(NPO
2F
2)、ジフルオロジシュウ酸塩(NDFOP)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリス(トリメチルシリル)ホスファイトの少なくとも1つであり(ただし、Nは、塩の金属イオンであり、例えば、任意選択で、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+である)、任意選択で、前記低インピーダンス添加剤は、フルオロスルホン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、及びジフルオロリン酸リチウムの少なくとも1つである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記低インピーダンス添加剤の前記電解液における質量百分率は、0.1%~10%であり、任意選択で、0.2%~5%である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記電解液には、さらにアルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩が含まれ、任意選択で、前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩は、LiPF
6、LiAsF
6、及びLiBF
4から選択される少なくとも1つである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩の前記電解液における質量百分率は、0.1%~10%であり、任意選択で、0.2%~5%、任意選択で、1%~3%である、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記電解液における全リチウム塩の含有量は、電解液の総重量に対して、5wt%~50wt%の範囲であり、任意選択で、5wt%~37wt%の範囲であり、任意選択で、5wt%~23wt%の範囲である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、及びそれらのそれぞれの改質化合物から選択される1つ又は複数であり、任意選択で、前記リチウム遷移金属酸化物は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、a+b+c=1且つa<0.8を満たすリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi
aCo
bMn
cO
2)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及びそれらの改質化合物から選択される1つ又は複数である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を含む、電池モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の電池モジュールを含む、電池パック。
【請求項13】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、請求項11に記載の電池モジュール、又は請求項12に記載の電池パックから選択される1つ以上を含む、電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、リチウムイオン二次電池の分野に関し、特に、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パック、及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、低コスト、長寿命、高安全性などの特徴から、最も人気のエネルギー貯蔵システムとなり、現在では、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、スマートグリッドなどの分野に広く利用されている。しかしながら、現在のリチウムイオン二次電池では、航続力に対するさらなる要求に応えることが困難であり、電気自動車の「レンジ不安」問題を解消するために、より高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池の開発が急務となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の単位体積あたりの活性材料の放電比容量を増やすことにより、エネルギー密度を効果的に高めることができる。例えば、電極シートにおける導電剤としての炭素含有量又は正極材料粒子の表面における炭素被覆量を減らすことにより、単位体積あたりの活性材料の重量を増やし、単位体積あたりの活性材料の放電比容量を増やすことができる。また、活性材料の塗布重量を増やし、不活性基材の使用割合を減らすことにより、単位体積あたりの活性材料の放電比容量をさらに増やすことができる。上記の手段では、高エネルギー密度が達成されたが、セル内部抵抗の大幅な増加につながり、ハイレートで充電すると、セルはひどく発熱するため、高温状態になってしまう。このとき、LiPF6などの電解液におけるリチウム塩の分解を促進し、HF、PF5などのガスが生成され、これらの反応活性の高い成分により、SEI膜の破壊を促進し、活物質が電解液に曝されることで、活性材料の損失を招く。SEI膜の修復の過程において、活性リチウム及び電解液が消費され続けるため、セルのサイクル性能や保管寿命がさらに悪化してしまう。
【0004】
このため、リチウムイオン二次電池に、エネルギー密度を向上させながらセルのサイクル性能や保管寿命を確保することが求められる。
【発明の概要】
【0005】
本願発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エネルギー密度の高いセルが充電中に大量の熱を発生することにより電解液が分解し、セルのサイクル性能や保管寿命が悪くなるという課題を解決するためのリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明の第1態様では、正極シート、負極シート、セパレータ、及び電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極シートは、正極集電体、及び正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、前記正極材料層は、正極活物質、及び炭素を含み、
前記電解液には、リチウム塩(My+)x/yR1(SO2N-)xSO2R2(ただし、前記My+は金属イオンであり、R1、R2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のフルオロアルキル基、又は炭素原子数1~20のフルオロアルコキシ基であり、前記xは1、2又は3であり、前記yは1、2又は3である)が含まれ、該リチウム塩の前記電解液における質量百分率をk2%とし、
前記正極シートの温度上昇係数k1は、2.5≦k1≦32(ただし、k1=Cw/Mcであり、Cwは、正極集電体の正極材料層が担持されたいずれか一方の表面における単位面積あたりの正極材料の担持量(mg/cm2)であり、Mcは、前記正極材料層の炭素含有量(%)である)を満たし、
前記リチウムイオン二次電池は、0.34≦k2/k1≦8を満たす、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0007】
高熱安定性塩である(My+)x/yR1(SO2N-)xSO2R2を含む電解液を使用し、高熱安定性塩である(My+)x/y(R1SO2N)xSO2R2の含有量、正極シートにおける正極材料の担持量及び炭素含有量が特定の関係を満たすことによって、セルの体積エネルギー密度を高めながら、高温による電解液への影響を低減することができ、より優れたセル性能が得られ、高エネルギー密度と長寿命の両立が困難である課題を解決できる。
【0008】
いずれかの実施形態では、前記リチウムイオン二次電池は、以下の条件1)から3)の少なくとも1つを満たす。
1)3.3≦k1≦14.5、
2)0.48≦k2/k1≦7、
3)1≦Mc≦7
【0009】
上記条件1)から3)の少なくとも1つを満たすことで、電池のエネルギー密度及び/又は充放電性能及び/又はサイクル寿命をさらに向上させることができる。
【0010】
いずれかの実施形態では、前記My+は、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+、及びNi3+から選択される少なくとも1つであり、任意選択で、前記My+は、Li+、Na+、K+、Rb+及びCs+から選択される少なくとも1つである。上記のカチオンを選択することにより、セルの出力性能をさらに向上させることができる。
【0011】
いずれかの実施形態では、前記R1、R2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のフルオロアルキル基又は炭素原子数1~10のフルオロアルコキシ基であり、任意選択で、前記R1、R2はそれぞれ独立して、CH3、CF3、又はFである。R1、R2の構造を選択することにより、電池のサイクル性能をさらに向上させることができる。
【0012】
いずれかの実施形態では、前記リチウムイオン二次電池の電解液には、さらに低インピーダンス添加剤が含まれ、任意選択で、前記低インピーダンス添加剤は、フルオロスルホン酸塩(NSO3F)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩(NDFOB)、ジフルオロリン酸塩(NPO2F2)、ジフルオロジシュウ酸塩(NDFOP)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリス(トリメチルシリル)ホスファイトの少なくとも1つであり(ただし、Nは、塩の金属イオンであり、例えば、任意選択で、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+である)、任意選択で、前記低インピーダンス添加剤は、フルオロスルホン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、及びジフルオロリン酸リチウムの少なくとも1つである。これらの低インピーダンス添加剤により、正負極シートの表面における保護膜(SEI膜)のインピーダンスが低下し、温度上昇による電池性能の悪化が軽減できる。
【0013】
いずれかの実施形態では、前記低インピーダンス添加剤の前記電解液における質量百分率は、0.1%~10%であり、任意選択で、0.2%~5%である。低インピーダンス添加剤の質量百分率を選択することにより、電池のサイクル性能をさらに向上させることができる。
【0014】
いずれかの実施形態では、前記リチウムイオン二次電池の電解液には、さらに、アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩が含まれ、任意選択で、前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩は、LiPF6、LiAsF6、及びLiBF4から選択される少なくとも1つである。アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩を加えることにより、アルミ箔の腐食を抑制し、セルの内部温度上昇を低減することができる。
【0015】
いずれかの実施形態では、前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩の前記電解液における質量百分率は、0.1%~10%であり、任意選択で、0.2%~5%であり、任意選択で、1%~3%である。アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩の含有量を選択することにより、電池のサイクル性能をさらに向上させることができる。
【0016】
いずれかの実施形態では、前記リチウムイオン二次電池の電解液における全リチウム塩の含有量は、電解液の総重量に対して、5wt%~50wt%の範囲であり、任意選択で、5wt%~37wt%の範囲であり、任意選択で、5wt%~23wt%の範囲である。電解液における全リチウム塩の含有量を選択することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命及び出力性能を向上させることができる。
【0017】
いずれかの実施形態では、前記リチウムイオン二次電池における正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、及びそれらのそれぞれの改質化合物から選択される1つ又は複数であり、任意選択で、前記リチウム遷移金属酸化物は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、a+b+c=1且つa<0.8を満たすリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNiaCobMncO2)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及びそれらの改質化合物から選択される1つ又は複数である。
【0018】
本願発明の第2態様では、本願発明の第1態様に係るリチウムイオン二次電池を含む電池モジュールが提供される。
【0019】
本願発明の第3態様では、本願発明の第2態様に係る電池モジュールを含む電池パックが提供される。
【0020】
本願発明の第4態様では、本願発明の第1態様に係るリチウムイオン二次電池、本願発明の第2態様に係る電池モジュール、又は本願発明の第3態様に係る電池パックから選択される1つ以上を含む電気機器が提供される。
【0021】
本願発明の技術方案をより明確に説明するために、以下は、本願発明の実施例の説明に使用される添付の図面を簡単に紹介する。以下に説明される図面は、本願発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者であれば、創造的な労働をすることなく、これらの図面に従って他の図面を取得することができることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本願発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図。
【
図2】
図1に示す本願発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の分解図である。
【
図3】本願発明の一実施形態に係る電池モジュールの模式図である。
【
図4】本願発明の一実施形態に係る電池パックの模式図である。
【
図5】
図4に示す本願発明の一実施形態に係る電池パックの分解図である。
【
図6】本願発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を電源として使用した装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明では、説明を簡潔にするために、いくつかの数値範囲が具体的に開示されている。ただし、任意の下限と任意の上限とを組み合わせて明記のない範囲を形成してもよく、並びに、任意の下限と別の下限とを組み合わせて、明記のない範囲を形成してもよく、それと同様に、任意の上限と任意の別の上限と組み合わせて、明記のない範囲を形成してもよい。なお、個別に開示された点又は単一の数値はそれぞれ、それ自体が下限又は上限として、任意の別の点又は単一の数値、又は別の下限又は上限と組み合わせて、明記のない範囲を形成してもよい。
【0024】
リチウムイオン二次電池
一般的に、リチウムイオン二次電池は、正極シート、負極シート、セパレータ、及び電解質を含む。電池の充放電の過程において、活性イオンは、正極シートと負極シートとの間で往復して挿入・脱離する。正極シートと負極シートとの間に、隔離するために、セパレータが設けられる。電解質は、正極シートと負極シートとの間でイオンを伝導する役割を果たす。
【0025】
本願発明の第1態様に係るリチウムイオン二次電池は、正極シート、負極シート、セパレータ、及び電解液を有し、前記正極シートは、正極集電体、及び正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、前記正極材料層は、正極活物質、及び炭素を含み、
前記電解液には、リチウム塩(M
y+)
x/yR
1(SO
2N
-)
xSO
2R
2が含まれ、その構造式は、
【化1】
(ただし、前記M
y+は金属イオンであり、R
1、R
2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のフルオロアルキル基、又は炭素原子数1~20のフルオロアルコキシ基であり、前記xは1、2又は3であり、前記yは1、2又は3である)で表され、該リチウム塩の前記電解液における質量百分率をk2%とし、
前記正極シートの温度上昇係数k1は、2.5≦k1≦32(ただし、k1=Cw/Mcであり、Cwは、正極集電体の正極材料層が担持されたいずれか一方の表面における単位面積あたりの正極材料の担持量(mg/cm
2)であり、Mcは、正極材料層の炭素含有量(%)である)を満たし、
前記リチウムイオン二次電池は、0.34≦k2/k1≦8を満たす。
【0026】
正極材料層に含まれる炭素は、正極活物質表面を被覆する炭素と、正極材料層の作製に使用される正極スラリーに任意選択で含まれる導電剤としての炭素とを含む。
【0027】
充電中、セル内部の温度上昇は、主に、正極シートの温度上昇に由来し、正極シートの温度上昇は、主に、正極シートの厚さと導電性に関係する。正極シートの厚さは、正極集電体の正極材料層が担持されたいずれか一方の表面における単位面積あたりの正極材料の担持量Cwに関係し、導電性は、正極材料層の炭素含有量Mcに関係する。したがって、正極シートの温度上昇係数をk1=Cw/Mcとして定義する。充電電流が一定の場合、セル内部の発熱量は、基本的に、温度上昇係数k1と正の相関がある。k1が小さすぎると、正極材料の担持量が低くなりすぎ、また、正極材料層の炭素含有量が高くなりすぎ、不活性基材の割合が大きくなり、電池エネルギー密度の低下を招くが、k1が大きすぎると、セルの発熱量が高くなりすぎ、また、正極材料の担持量が高くなりすぎ、正極材料層の炭素含有量が低くなりすぎ、リチウムイオンの固相輸送速度の低下、電池充放電性能の悪化を引き起こす。
【0028】
また、電解液に、熱安定性の高い(My+)x/yR1(SO2N)xSO2R2を加えることで、電解液の耐熱係数が著しく向上し、高温での電解液の分解が低減されることができるので、電池のサイクル寿命が長くなる。しかしながら、本発明者が鋭意研究した結果、高熱安定性塩の濃度が高すぎると、電解液の粘度が高くなり、電導率が悪くなり、さらに、セル内部抵抗が高くなるが、塩の濃度が低すぎると、電解液の熱安定性が不十分になり、高温で分解してセルの寿命を縮める可能性があることを見出した。さらに、本発明者は、熱安定性塩である(My+)x/yR1(SO2N)xSO2R2の電解液中における質量百分率k2と正極シート温度上昇係数k1との関係が、電池のサイクル寿命に大きな影響を与えることも見出した。k2とk1が上記の関係式を満たすと、電池が高いエネルギー密度を有することを確保するとともに、電解液の十分な熱安定性を有することも確保することができ、電解液の分解が抑制され、電池が長いサイクル寿命を有することが確保される。
【0029】
ある実施形態において、前記リチウムイオン二次電池は、3.3≦k1≦14.5を満たす。k1の値をさらに選択することで、電池のエネルギー密度及び/又は充放電性能をさらに向上させることができる。
【0030】
ある実施形態において、前記リチウムイオン二次電池は、0.48≦k2/k1≦7を満たす。k2/k1の値をさらに選択することで、電池のサイクル寿命をさらに向上させることができる。
【0031】
ある実施形態において、前記リチウムイオン二次電池は、1%≦Mc%≦7%を満たし、任意選択で、前記リチウムイオン二次電池は、1%<Mc%≦5%を満たす。炭素の含有量が高すぎると、単位体積あたりの正極活物質の割合が低く、電池のエネルギー密度が低下し、また、正極材料の表面積が大きくなりすぎ、水を吸収して凝集しやすく、電極シートの加工が困難になる可能性があるが、炭素の含有量が低すぎると、電極シートの導電性が低下して、充電中にリチウムが析出し、電池のサイクル寿命に影響を与え、安全上のリスクが生じる可能性がある。
【0032】
ある実施形態において、前記リチウムイオン二次電池は、18≦Cw≦32を満たす。正極材料の担持量Cwが低すぎると、不活性基材(例えば、集電体)の割合が高くなり、エネルギー密度が低下する可能性があるが、Cwが大きすぎると、塗布が困難になり、また、シートに垂直な方向でのリチウムイオンの輸送経路が大幅に増加することで、リチウムイオンが素早く活性材料に挿入・脱離し難くなり、セルの出力性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0033】
ある実施形態において、前記My+は、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+、及びNi3+から選択される少なくとも1つであり、任意選択で、前記My+は、Li+、Na+、K+、Rb+及びCs+から選択される少なくとも1つである。上記カチオンは、移動度がより大きく、セルの出力性能をさらに向上させる。
【0034】
ある実施形態において、前記R1、R2はそれぞれ独立して、フッ素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のフルオロアルキル基、又は炭素原子数1~10のフルオロアルコキシ基であり、任意選択で、前記R1、R2はそれぞれ独立して、CH3、CF3、又はFである。R1、R2の構造を選択することにより、リチウムイオンの移動度を向上させ、リチウムイオンをより容易に解離することができ、また、電解液の粘度が低いので、電解液の電導率が高く、電池のサイクル性能の向上に寄与することができる。
【0035】
ある実施形態において、前記電解液には、さらに、低インピーダンス添加剤が含まれ、任意選択で、前記低インピーダンス添加剤は、NSO3F(フルオロスルホン酸塩)、NDFOB(ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩)、NPO2F2(ジフルオロリン酸塩)、NDFOP(ジフルオロジシュウ酸塩)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリス(トリメチルシリル)ホスファイトの少なくとも1つであり、ただし、Nは、塩の金属イオンであり、例えば、任意選択で、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+である。任意選択で、前記低インピーダンス添加剤は、LiSO3F(フルオロスルホン酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、及びLiPO2F2(ジフルオロリン酸リチウム)の少なくとも1つである。任意選択で、前記低インピーダンス添加剤の前記電解液における質量百分率は、0.1%~10%であり、任意選択で、0.2%~5%である。正極シートの温度上昇に加えて、正負極シートの表面における保護膜(SEI膜)のインピーダンスもセル内部の温度上昇に大きな影響を与え、SEI膜のインピーダンスの値が大きくなると、充電中のセルの温度上昇をさらに引き起こす。理論によって制限されることは意図しないが、低インピーダンス添加剤は、化成プロセスにおいて、電解液の溶媒に優先して負極の表面で還元され、負極の表面にインピーダンスが極めて低い緻密な保護膜を形成することができ、さらに、電解液中の溶媒及び他の高インピーダンス添加剤の負極の表面での還元分解が抑制され、SEI膜のインピーダンスが低減される。さらに、低インピーダンス添加剤の含有量が上記範囲であれば、電解液の粘度が上がらず、電解液の電導率を維持することができる。
【0036】
ある実施形態において、前記電解液には、アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩が含まれ、任意選択で、前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩は、LiPF6、LiAsF6、及びLiBF4から選択される少なくとも1つである。任意選択で、前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩の前記電解液における質量百分率は、0.1%~10%であり、任意選択で、0.2%~5%であり、任意選択で、1%~3%である。前記アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩は、アルミ箔の腐食を抑制して、アルミ集電体のインピーダンスの増加を抑制し、セル内部の温度上昇を低減し、セルの安全性能を向上させることができる。アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩の含有量が上記範囲であれば、電解液の耐高温性能に悪影響を及ぼすことなく、アルミ箔の腐食を抑制できる。
【0037】
ある実施形態において、前記電解液における全リチウム塩の含有量は、電解液の総重量に対して、5wt%~50wt%の範囲であり、任意選択で、5wt%~37wt%の範囲であり、任意選択で、5wt%~23wt%の範囲である。電解液における全リチウム塩の含有量を選択することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命及び出力性能を向上させることができる。
【0038】
ある実施形態において、前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、及びそれらのそれぞれの改質化合物から選択される1つ又は複数である。リチウム遷移金属酸化物としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNiaCobMncO2(a+b+c=1、a<0.8))、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及びそれらの改質化合物の1つ又は複数が例示されるが、これらに限定されない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩としては、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄リチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウムと炭素の複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素の複合材料、及びそれらの改質化合物の1つ又は複数が例示されるが、これらに限定されない。これらの材料はいずれも市販品でもよい。正極活物質の表面が炭素により被覆されてもよい。
【0039】
本願発明では、正極材料層の炭素含有量Mcは、当該分野における公知の機器及び方法によって測定することができる。例えば、正極集電体における正極材料層を削り取って、その後、赤外吸収法によって、例えば、GB/T20123-2006鋼鉄総炭素硫黄含有量の測定-高周波誘導炉にて燃焼後の赤外線吸収法を参照して測定することができる。
【0040】
[電解液]
電解液は、正極シートと負極シートとの間でイオンを伝導する役割を果たす。電解液には、電解質塩、及び溶媒が含まれる。
【0041】
本願発明において、電解質塩は、リチウムイオン二次電池に一般的に用いられる電解質塩であってもよく、例えば、上記した高熱安定性塩としてのリチウム塩、低インピーダンス添加剤としてのリチウム塩、又はアルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩を包含するリチウム塩であってもよい。例としては、電解質塩は、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF4(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiAsF6(ヘキサフルオロヒ酸リチウム)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム)、LiPO2F2(ジフルオロリン酸リチウム)、LiDFOP(ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム)、LiSO3F(フルオロスルホン酸リチウム)、NDFOP(ジフルオロジシュウ酸塩)、Li2F(SO2N)2SO2F、KFSI、CsFSI、Ba(FSI)2、及びLiFSO2NSO2CH2CH2CF3から選択される1つ以上である。
【0042】
前記溶媒の種類は、特に制限はないが、実際の必要に応じて選択することができる。ある実施形態において、前記溶媒は非水性溶媒である。前記溶媒は、鎖状カーボネート、環状カーボネート、カルボン酸エステルの1つ又は複数を含んでもよい。ある実施形態において、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、ブタン酸メチル(MB)、ブタン酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)、及びジエチルスルホン(ESE)から選択される1つ以上であってもよい。
【0043】
ある実施形態において、前記電解液には、さらに、任意選択で他の添加剤が含まれてもよい。例えば、添加剤には、負極成膜添加剤が含まれてもよく、正極成膜添加剤が含まれてもよく、電池のある性能を向上させる添加剤、例えば、電池の過充電性能を向上させる添加剤、電池の高温性能を向上させる添加剤、及び電池の低温性能を向上させる添加剤などが含まれてもよい。例として、前記添加剤は、不飽和結合含有環状カーボネート化合物、ハロゲン置換環状カーボネート化合物、硫酸エステル化合物、亜硫酸エステル化合物、スルホン酸ラクトン化合物、ジスルホン酸化合物、ニトリル化合物、芳香族化合物、イソシアネート化合物、ホスファゼン化合物、環状酸無水物化合物、ホスファイト化合物、ホスフェート化合物、ボレート化合物、カルボキシレート化合物から選択される少なくとも1つである。
【0044】
[正極シート]
正極シートは、正極集電体、及び正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料層を含み、前記正極材料層は、正極活物質、及び炭素を含む。
【0045】
例として、正極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの表面を有し、正極材料層は、正極集電体の対向する2つの表面のいずれか一方又は両方に設けられる。
【0046】
本願発明のリチウムイオン二次電池において、前記正極集電体に、金属箔シート又は複合集電体が用いられる。例えば、金属箔シートとして、アルミ箔が用いられる。複合集電体は、高分子材料である下層と、高分子材料である下層の少なくとも一方の表面に形成された金属層とを含むことができる。複合集電体は、金属材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することで形成することができる。
【0047】
正極材料層は、さらに、任意選択で導電剤を含む。しかし、導電剤の種類について特に制限はなく、当業者は、実際の必要に応じて選択することができる。例として、正極材料に用いられる導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーから選択される1つ以上であってもよい。
【0048】
正極材料層は、さらに、任意選択でバインダーを含む。例として、バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂(water-based acrylic resin)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びポリビニルブチラール(PVB)のうち1つ又は複数であってもよい。
【0049】
本願発明において、当該分野における公知の方法で正極シートを作製できる。例として、炭素被覆正極活物質、導電剤、及びバインダーを溶媒(例えば、N-メチルピロリドン(NMP))に分散させて、均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体に塗布して、オーブン乾燥、コールドプレスなどのプロセスを経て、正極シートを得ることができる。
【0050】
[負極シート]
負極シートは、負極集電体、及び負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた負極材料層を含み、前記負極材料層は、負極活物質を含む。
【0051】
例として、負極集電体は、それ自体の厚さ方向に対向する2つの表面を有し、負極材料層は、正極集電体の対向する2つの表面のいずれか一方又は両方に設けられる。
【0052】
本願発明のリチウムイオン二次電池において、前記負極集電体に、金属箔シート又は複合集電体が用いられる。例えば、金属箔シートとして、銅箔が用いられる。複合集電体は、高分子材料である下層と、高分子材料である基材の少なくとも一方の表面に形成された金属層とを含むことができる。複合集電体は、金属材料(例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することで形成することができる。
【0053】
本願発明のリチウムイオン二次電池において、前記負極材料層は、通常、負極活物質の他に、任意選択でバインダー、任意選択で導電剤、及び任意選択でその他の補助剤を含み、通常、負極スラリーを塗布し乾燥してなる。負極スラリーは、通常、負極活物質及び任意選択で導電剤並びにバインダーなどを溶媒に分散させて、均一に攪拌することにより形成される。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよい。
【0054】
前記負極活物質の具体的な種類について制限はなく、当該分野における公知のリチウムイオン二次電池負極に用いられる活物質を使用することができ、当業者は、実際の必要に応じて選択することができる。負極活物質は、例として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソカーボンミクロスフェア、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、シリコン単体、シリコン酸化物、ケイ素-炭素複合体、チタン酸リチウムから選択される1つ又は複数であってもよい。
【0055】
導電剤は、例として、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーから選択される1つ以上であってもよい。
【0056】
バインダーは、例として、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)から選択される1つ以上であってもよい。
【0057】
その他の任意選択な補助剤は、例えば、増ちょう剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などである。
【0058】
[セパレータ]
電解液を使用したリチウムイオン二次電池には、さらに、セパレータが含まれる。セパレータは、正極シートと負極シートとの間に設けられ、隔離する役割を果たす。本願発明では、セパレータの種類について特に制限はなく、良好な化学的安定性及び機械的安定性を有するいずれの公知の多孔構造のセパレータを選択して用いてもよい。ある実施形態において、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリフッ化ビニリデンから選択される1つ以上であってもよい。セパレータは、単層フィルムであっても、多層複合フィルムであってもよく、特に制限はない。セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料はそれぞれ同じであっても異なってもよく、特に制限はない。
【0059】
ある実施形態において、正極シート、負極シート及びセパレータは、巻取プロセス又は積層プロセスによって電極ユニットを作製することができる。
【0060】
ある実施形態において、リチウムイオン二次電池は、外装を含むことができる。該外装は、上記電極ユニット及び電解質をパッケージングするために用いられる。
【0061】
ある実施形態において、リチウムイオン二次電池の外装は、硬質ハウジング、例えば、硬質プラスチックハウジング、アルミニウムハウジング、鋼ハウジングなどであってもよい。リチウムイオン二次電池の外装は、軟包装、例えば、パウチ型軟包装であってもよい。軟包装の材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとしては、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリブチレンサクシネート(PBS)などが挙げられる。
【0062】
本願発明では、リチウムイオン二次電池の形状について特に制限はなく、円筒形、角形又はその他の任意の形状であってもよい。例えば、
図1は一例としての方形構造のリチウムイオン二次電池5である。
【0063】
図2を参照すると、ある実施形態において、外装は、ハウジング51とカバー53とを含み得る。ただし、ハウジング51は、底板と、底板に接続される側板とを含み、収容チャンバーは、底板と側板によって囲まれて形成される。ハウジング51は、収容チャンバーに繋がる開口を有し、カバー53は、前記収容チャンバーを閉じるために前記開口に覆設される。正極シート、負極シート、及びセパレータは、巻取プロセス又は積層プロセスによって、電極ユニット52を形成する。電極ユニット52は、前記収容チャンバーにパッケージングされる。電解液は、電極ユニット52に含浸される。リチウムイオン二次電池5に含まれる電極ユニット52の数は、1つであっても複数であってもよく、当業者により実際の必要に応じて選択することができる。
【0064】
ある実施形態において、リチウムイオン二次電池は、電池モジュールとして組み立てられてもよく、電池モジュールに含まれるリチウムイオン二次電池の数は、1つであっても複数であってもよく、当業者により実際の必要に応じて選択することができる。
【0065】
図3は、一例としての電池モジュール4である。
図3を参照すると、電池モジュール4では、複数のリチウムイオン二次電池5が電池モジュール4の長手方向に沿って順次に並んで設けられてもよい。もちろん、その他の任意の方式に従って配列されてもよい。さらに、留め具によって、これら複数のリチウムイオン二次電池5を固定することができる。
【0066】
任意選択で、電池モジュール4は、さらに、収容空間を有する筐体を含んでもよく、複数のリチウムイオン二次電池5は、該収容空間に収容される。
【0067】
ある実施形態において、上記電池モジュールは、電池パックとして組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、当業者により、電池パックの適用及び容量に応じて選択することができる。
【0068】
図4及び
図5は、一例としての電池パック1である。
図4及び
図5を参照すると、電池パック1は、電池ケース、及び電池ケースに配置された複数の電池モジュール4を含むことができる。電池ケースは、上ケース2及び下ケース3を含み、上ケース2は、下ケース3に覆設され、電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、任意の方式で電池ケースに配列される。
【0069】
また、本願発明は、本願発明によって提供されるリチウムイオン二次電池、電池モジュール、又は電池パックの1つ以上を含む装置をさらに提供する。前記リチウムイオン二次電池、電池モジュール、又は電池パックは、前記装置の電源としても、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとしても使用できる。前記装置は、モバイルデバイス(例えば、携帯電話、ノートパソコンなど)、電気車両(例えば、純電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自転車、電気スクーター、電気ゴルフカート、電気トラックなど)、電車、船舶、及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0070】
前記装置は、その使用の要求に応じてリチウムイオン二次電池、電池モジュール、又は電池パックを選択することができる。
【0071】
図6は、一例としての装置である。この装置は、純電気自動車、ハイブリッド自動車、又はプラグインハイブリッド自動車などである。この装置のリチウムイオン二次電池に対する高出力及び高エネルギー密度の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを用いることができる。
【0072】
別の一例としての装置は、携帯電話、タブレット、ノートパソコンなどであってもよい。この装置に、一般的に軽量化・薄型化が要求され、リチウムイオン二次電池を電源として用いることができる。
実施例
【0073】
以下、本願発明の実施例について説明する。以下に説明する実施例は例示的なもおのであり、本願発明を説明するためだけに用いられ、本願発明を限定するものと解されるべきではない。実施例において、具体的に技術又は条件が示されていない場合、当該分野における文献に記載された技術又は条件、あるいは製品の説明書に従って行われる。使用される試薬又は機器についてメーカーが記載されていないものは、いずれも市販で購入できる製品である。
【0074】
1.リチウムイオン二次電池の作製
(1)正極シートの作製
正極活物質としての表1に示す炭素含有量を有する炭素被覆リン酸鉄リチウム(LFP)、導電剤としてのアセチレンブラック、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、表1に示す重量比で、溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、十分に攪拌して均一に混合することにより、正極スラリーを得た。次に、所望のCw値になるように正極スラリーをアルミニウム正極集電体に均一に塗布し、その後、オーブン乾燥し、コールドプレスし、切断して、正極シートを得た。
【0075】
(2)負極シートの作製
負極活物質としての人造黒鉛、導電剤としてのアセチレンブラック、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)、増ちょう剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を重量比95:2:2:1で溶媒としての脱イオン水に溶解させ、均一に混合することにより、負極スラリーを調製した。次に、対応する正極のCw値から負極の担持量を特定し、表1に示す負極の担持量になるように、負極スラリーを負極集電体としての銅箔に均一に塗布し、オーブン乾燥し、コールドプレスし、切断して、負極シートを得た。
【0076】
【0077】
(3)電解液の調製
アルゴン雰囲気のグローブボックス(H2O<0.1ppm、O2<0.1ppm)において、有機溶媒としてのEC/EMCを体積比3/7にて均一に混合し、3wt%のビニレンカーボネート、及び表2に示すような重量%の高熱安定性塩、並びに任意選択で添加剤を均一に攪拌することにより、対応する電解液を得た。前記ビニレンカーボネートの重量%及び表2に示す重量%はいずれも、得られる電解液の総重量に対するものである。
【0078】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
上記(1)で作製した正極シート及び上記(2)で作製した負極シートを使用し、ポリプロピレン膜をセパレータとして、セパレータが正、負極シートの間に隔離する役割を果たすように、正極シート、セパレータ、負極シートをこの順に重ね合わせ、巻き取ることで、電極ユニットを得た。電極ユニットを電池ハウジングにセットし、乾燥してから電解液を注入し、さらに化成、放置することにより、リチウムイオン二次電池を得た。
【0079】
2.リチウムイオン二次電池の試験
(1)正極シートの炭素含有量試験
試験機器:高周波赤外線炭素硫黄分析装置、型番HCS-140、上海徳凱儀器有限会社から購入。
【0080】
GB/T20123-2006鋼鉄総炭素硫黄含有量の測定-高周波誘導炉にて燃焼後の赤外線吸収法(一般方法)を参照する。試験の経過:正極集電体における正極材料層を削り取って、それを酸素リッチ条件下で上記周波炉にて加熱燃焼し、材料に含まれた炭素を二酸化炭素に酸化させた。発生したガスは、処理後、対応する吸収セルに導入され、対応する赤外線放射を吸収し、検出器によって対応するデジタル信号に変換された。得られたデジタル信号は、コンピュータでサンプリングされ、線形補正され、二酸化炭素の濃度に正比例する値に変換され、累積して累積値を得た。得られた積算値をサンプルの重量で除し、補正係数を掛け、ブランクを差し引くことにより、サンプルにおける炭素のパーセント含有量Mc(%)が得られた。
【0081】
(2)リチウムイオン二次電池の45℃サイクル性能試験
45℃において、リチウムイオン二次電池を1Cの定電流で3.65Vになるまで充電し、次に、3.65Vの定電圧で電流が0.05C未満になるまで充電し、その後、リチウムイオン電池を1Cの定電流で2.5Vになるまで放電し、これを1つの充放電サイクルとする。このように繰り返して充電及び放電して、リチウムイオン電池の容量維持率が80%になったときのサイクル数を算出した。各実施例及び比較例の45℃サイクル数は表1に示す。
【0082】
(3)体積エネルギー密度試験
25℃において、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で3.65Vになるまで充電し、次に、3.65Vの定電圧で電流が0.05C未満になるまで充電し、その後、0.33Cで2.5Vになるまで放電し、放電エネルギーQを得た。ノギスでセルの縦、横、高を測定し、体積Vを算出した。体積エネルギー密度=Q/Vである。
【0083】
各実施例及び比較例のリチウムイオン電池のMc、Cw、k1、k2、並びに体積エネルギー密度及び45℃サイクル性能を表2に示す。
【0084】
【0085】
表1から分かるように、比較例1において、k1が低すぎたため、それに対応して電池のエネルギー密度が低くなった。比較例2~3において、正極材料層の担持量を増やし、炭素含有量を減らすことにより、k1が高くなって、それに対応して電池の体積エネルギー密度が著しく向上したが、k1が高すぎたと、セルのサイクル寿命が著しく劣った。比較例3において、高熱安定性塩を用い、且つk2/k1の値が本願発明の範囲にあったにも関わらず、サイクル寿命が低かった。一方、比較例4~5において、k1の値が本願発明の範囲にあったが、k2/k1が高すぎた又は低すぎたため、サイクル寿命が低かった。
【0086】
それに対して、実施例1~25において、高安定性リチウム塩が含まれた電解液と、正極材料層の担持量が大きく炭素含有量が低い正極シートの両方を使用したことで、セルが高エネルギー密度と長サイクル寿命を兼ね備えた。
【0087】
実施例1と実施例2との比較から分かるように、実施例1のk2/k1値が0.48~7の範囲にあったので、実施例2よりも優れたサイクル性能を得た。実施例1と実施例4との比較から分かるように、実施例1のk1値が3.3~14.5の範囲内にあったので、実施例4よりも優れたサイクル性能を得た。
【0088】
実施例8~24から分かるように、電解液に低インピーダンス添加剤を加えることで、電池が高エネルギー密度を有することを確保しながら、電池のサイクル寿命をさらに向上させることができる。
【0089】
実施例16~21から分かるように、電解液にアルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩を加えることで、アルミ箔の腐食を抑制し、アルミ箔のインピーダンス値の増加を低減し、電池のサイクル寿命をさらに向上させることができる。また、アルミ箔の腐食を抑制するリチウム塩の質量百分率が0.2%~5%の範囲にあると(実施例16、19~20)、電池のサイクル寿命をさらに向上させることができる。
【0090】
実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされてもよく、その構成要素を均等物と置き換えることもできる。特に、構造上の矛盾がない限り、各実施例で言及された各技術的特徴は、いずれも任意の方式で組み合わせることができる。本願発明は、本明細書に開示された特定の実施例に限定されず、特許請求の範囲に含まれる全ての技術方案を含む。
【符号の説明】
【0091】
1 電池パック
2 上ケース
3 下ケース
4 電池モジュール
5 リチウムイオン二次電池
51 ハウジング
52 電極ユニット
53 カバー
【国際調査報告】