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特表2023-526172マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するin vitro法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するin vitro法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20230614BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230614BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230614BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G01N33/569 F
G01N33/68
C12Q1/04
C12M1/34 B
C12M1/34 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022562351
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2021059316
(87)【国際公開番号】W WO2021209339
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】20382291.1
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522397765
【氏名又は名称】ネイカー, インスティテュート バスコ デ インベスティガシオン イ デサロージョ アグラーリオ, エス.アー.
(71)【出願人】
【識別番号】522397776
【氏名又は名称】セリダ, セルビシオ リージョナル デ インベスティガシオン イ デサロージョ アグロアリメンタリオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アロンソ フェルナンデス-パチェコ マルタ
(72)【発明者】
【氏名】カセイス ゴヨス ロサ
(72)【発明者】
【氏名】ジュステ ジョルダン ラモン
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ バスケス クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】カニヴェ ルイス マリア
(72)【発明者】
【氏名】イグレシアス ベステイロ ナタリア
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
4B029AA07
4B029BB01
4B029BB17
4B029FA03
4B029FA12
4B063QA19
4B063QQ05
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR74
4B063QS33
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するin vitro法。本発明は、マイコバクテリウム種に感染した対象、特にマイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシス(MAP)に感染した対象を診断するin vitro法に関する。MAPは、パラ結核症(PTB)の病原微生物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がマイコバクテリウム種に感染していることを示す、
in vitro法。
【請求項2】
マイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシスに感染した対象を診断する、請求項1に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がマイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシスに感染していることを示す、
in vitro法。
【請求項3】
対象においてパラ結核症を診断する、請求項1又は2に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた生体試料中のタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた生体試料中のタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた生体試料中の、請求項1~5のいずれか1項に記載のタンパク質の濃度を測定すること、
を含み、
b)前記先行して言及されたタンパク質のいずれかについて得られた濃度が、確立されたカットオフ値を超える場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項7】
潜在性又は開存性パラ結核症、好ましくは潜在性パラ結核症を診断する、請求項1~6のいずれか1項に記載のin vitro法。
【請求項8】
前記生体試料は、血清、血漿、又は血液を含む体液である、請求項1~7のいずれか1項に記載のin vitro法。
【請求項9】
前記対象は、畜牛、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、シカ、ウサギ、イノシシ、バイソン、リャマ、アルパカ、オポッサム、アナグマ、ゾウ、又はヒトからなる群より選択される哺乳類であり、好ましくは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、シカ、リャマ、又はアルパカからなる群より選択される牧畜動物である、請求項1~8のいずれか1項に記載のin vitro法。
【請求項10】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、タンパク質ABCA13、タンパク質[ABCA13及びSPARC]、又はタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]のin vitroでの使用。
【請求項11】
マイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシスに感染した対象を診断するための、請求項10に記載のin vitroでの使用。
【請求項12】
パラ結核症を診断するための、請求項10又は11に記載のin vitroでの使用。
【請求項13】
潜在性又は開存性パラ結核症、好ましくは潜在性パラ結核症を診断するための、請求項10~12のいずれか1項に記載のin vitroでの使用。
【請求項14】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、タンパク質ABCA13の濃度を特定する道具又は試薬を備える、キットの使用。
【請求項15】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、タンパク質[ABCA13及びSPARC]又はタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を特定する道具又は試薬を備える、請求項14に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療又は獣医学の分野に関する。特に、本発明は、マイコバクテリウム(Mycobacterium)種に感染した対象、特にマイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシス(Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis)(MAP)に感染した対象を診断するin vitro法に関する。MAPは、パラ結核症(PTB)の病原微生物である。
【背景技術】
【0002】
MAPは、マイコバクテリウム属に属する病原性細菌である。MAPは、ヨーネ病すなわちPTBを引き起こし、これは主に畜牛等の反芻動物が罹患するとともに、一部のヒト疾患、例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は結腸直腸癌等にも関連するとされてきた[非特許文献1][非特許文献2]。そのうえ、MAPは、炎症性/自己免疫疾患:類肉腫症、ブラウ症候群、橋本甲状腺炎、自己免疫性糖尿病(T1D)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ、狼瘡、及びパーキンソン病にも関連するとされてきており、その一覧は長く増えるばかりである[非特許文献3]。
【0003】
MAPの感染は、主に、MAPで汚染された糞便、初乳、又は母乳の摂取を通じた糞口経路により生じる。感染症は通常、動物の生涯の最初の数ヶ月以内に生じるが、平均で2年~5年間は無症候のままである。摂取された後、MAPは、腸粘膜で上皮下マクロファージにより貪食されながら、腸粘膜を横断して慢性感染症を確立する。MAPは、アポトーシス及びファゴソーム酸性化を阻害することにより、並びに免疫系に対する抗原提示を妨げることにより、ファゴソーム内で生存及び増殖することができる。感染症が進行するにつれて、腸管及び腸間膜リンパ節の病変はより重篤になっていく。肉芽腫性浸潤物は、限局性ではなく、びまん性になり、粘膜の構造及び機能を破壊するとともに、空腸及び回腸を冒す。肉芽腫性浸潤物の位置及び伸展性に従って、感染動物の腸管組織に存在する組織病変は、限局性、多巣性、及びびまん性のカテゴリーに分類される[非特許文献4]。限局性病変は、小型肉芽腫からなり、それらは主に、空腸リンパ節及び回腸リンパ節に位置する。多巣性病変は、腸管リンパ組織及び同じく腸管粘膜固有層の十分に境界明瞭な肉芽腫からなる。びまん性病変は、重篤な肉芽腫性腸炎及びリンパ節炎から特徴付けられた。浸潤物に存在する炎症細胞の型及び抗酸性桿菌(AFB)の量に従って、びまん性病変は、びまん性リンパ形質細胞性又は少菌型(paucibacillary)病変、中間型病変、及びびまん性組織球性又は多菌型(multibacillary)病変に細分化された[非特許文献5]。びまん性リンパ形質細胞性病変型では、細胞性浸潤物は、広範囲にわたり広がるリンパ球で主に構成され、希少AFBを含有し、肉眼でも明白に視認される。びまん性組織球性病変型は、腸管の広い範囲を冒している多数の類上皮細胞、リンパ球、マクロファージ、及びAFBを大量に持つ多数のラングハンス巨細胞からなり、腸壁の肥厚化という様相を呈して、腸管の開腸に際して容易に視認される。びまん性中間型はまた、腸管の広範囲を冒していることが肉眼で観察でき、リンパ球、マクロファージ、及び少数のAFBを持つわずかなラングハンス巨細胞で構成される粘膜の肥厚化を顕微鏡により認めることができる。
【0004】
PTBは、乳生産量の低下、管理費用の増大、及び臨床疾患による早期淘汰のため、世界規模で、泌乳家畜群における相当な経済損失の一因となっている。複数の研究から、米国及び欧州において泌乳牛群の50%超がMAP抗体について陽性であり、したがって、これらの地域では、ウシPTBを風土病と見なすことが可能であることが実証されている。市販のウシPTB不活化ワクチンは、感染した農場において、ワクチン接種していない農場と比べた場合、糞便及び組織に存在するMAPの減少、並びに乳生産量及び畜牛の生産寿命両方の増大において大きな成果をおさめている。しかしながら、加熱死不活化ワクチンを用いたPTBワクチン接種は、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)検出検査に干渉することを理由に、欧州の大部分の国で許可されていない。したがって、PTB防疫は、現在のところ、検査及び選抜除去に加えて、適切な衛生防疫戦略を用いた感受性動物へのMAP感染の予防に基づいている。しかしながら、「検査及び選抜除去」方針に基づく防疫プログラムの効率は、初期感染症を同定するのに使用される検査の感度に強く条件づけられる。現在、糞便培養が、MAP感染症の死前診断の「絶対的標準」検査と見なされている。しかしながら、個別の糞便培養は、費用がかさみ、時間がかかり、しかもMAP感染症の自然経過中に糞便排菌が発生するのは比較的遅いため進行した感染症しか検出しない。実際、糞便培養の感度は、PTB関連の臨床兆候を持つ動物では70%だが、無症候感染症の動物では23%~29%しかなく、こうした動物は、MAPを糞便及び乳汁中に断続的及び少数で排菌して、環境を汚染し、他の動物を感染させる可能性がある。
【0005】
初期段階診断法、例えば、IFN-γ放出アッセイ(IGRA)等は、マイコバクテリウム抗原に反応してT細胞性免疫応答が誘発されているかどうかを検出する。IGRA法は、サンドイッチELISAを使用して、特異的抗原(MAP抽出物)及び非特異的抗原(M.phlei抽出物)により活性化された全血試料のIFN-γシグナルの差を測定することにより、MAPに対する細胞反応を検出する(ID Vet)。IGRAは、MAP曝露を反映するだけであり、したがって、限定感染症(controlled infection)である個体と無症候性疾患である個体を識別することができない。
【0006】
IDEXX ELISAは、MAPに対して産生された特異的抗体を検出するものであり、これは、PTBの診断に今日広く使用されている。しかしながら、IDEXX ELISAには、高率の偽陰性結果(低感度)が伴う[非特許文献6]。このことは、潜伏感染している対象のうち高パーセンテージが、なおも検査陰性になることを意味する。偽陰性結果は、防疫又は除菌対策の実施を妨害するため、懸念事項である。
【0007】
したがって、MAP感染症、主に無症候性感染症を、細菌が排菌されて群の仲間及び可能性としてヒトに感染する前に、検出することは、依然として満たされていない要求である。言い換えると、MAP感染症を、主に感染症の初期段階で及び長い慢性期の間に、疾患の臨床病期に先行して検出する、高い感度及び特異度を持つ新規道具が必要とされている。
【0008】
本発明は、上記した問題の解決に焦点を合わせており、本明細書中、MAPに感染した対象を診断する新規戦略を提供する。これは、高い感度及び特異度を提供するものであり、MAP感染症の初期段階又は長い慢性期中での診断を提供するものでもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Pierce ES et al., 2018. Could Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis cause Crohn's disease, ulcerative colitis…and colorectal cancer? Infect Agent Cancer. 2018 Jan 4;13:1. doi: 10.1186/s13027-017-0172-3. eCollection 2018
【非特許文献2】Garvey M et al., 2018. Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis: A possible causative agent in human morbidity and risk to public health safety. Open Vet J. 2018;8(2):172-181. doi: 10.4314/ovj.v8i2.10. Epub 2018 May 19
【非特許文献3】Dow CT et al., 2020. Proposing BCG Vaccination for Mycobacterium avium ss. paratuberculosis (MAP) Associated Autoimmune Diseases. Microorganisms. 2020 Feb 5;8(2). PMID: 32033287 PMCID: PMC7074941
【非特許文献4】Gonzalez J et al., 2005. Histopathological classification of lesions associated with natural paratuberculosis infection in cattle. J Comp Pathol. 2005 Aug-Oct;133(2-3):184-96. PMID: 16045917 DOI: 10.1016/j.jcpa.2005.04.007
【非特許文献5】Balseiro et al., 2018. Chronic regional intestinal inflammatory disease: A trans-species slow infection? Comp. Immunol., Microbiol., Infect. Dis. 2018. 62:88-100. DOI: https://doi.org/j.cimid.2018.12.001
【非特許文献6】Vazquez et al., 2014. Latent infections are the most frequent form of paratuberculosis in slaughtered Friesian cattle. Spanish Journal of Agricultural Research 2014 12(4): 1049-1060. http://dx.doi.org/10.5424/sjar/2014124-5978
【発明の概要】
【0010】
上記で説明してきたとおり、本発明は、マイコバクテリウム種に感染した対象、特にMAPに感染した対象を診断するin vitro法に関する。MAPは、PTBの病原微生物である。
【0011】
RNA-Seqにより同定される多数のバイオマーカーのうち5種は、病変を持たない対照動物を基準として限局性又はびまん性組織病変を持つ動物において発現レベルが高いことに従い、それら5種を、診断を目的とする新規ELISAの開発用に選択した。
【0012】
表1は、検出される病変のない対照動物と対比させた、限局性及びびまん性組織病変を持つホルスタイン畜牛の末梢血のRNA-Seq分析後に選択された宿主バイオマーカー遺伝子の差示的発現を示す。平均Log2変化倍率は、比較される2つの群間の遺伝子発現の差の指標である。
【0013】
【表1】
【0014】
ウシタンパク質MMP8(マトリックスメタロペプチダーゼ8)及びABCA13(ATP結合カセットサブファミリーAメンバー13)をコードする遺伝子は、限局性病変を持つ動物において発現の顕著な上昇を示したが、ウシタンパク質FAM84A(配列類似性を持つファミリー84-メンバーA)、SPARC(酸性及びシステイン豊富な分泌タンパク質)及びDES(デスミン)をコードする遺伝子は、びまん性病変を示す動物で上方制御された。バイオマーカーの選択は、発現レベルの高さ、細胞での位置(血清に存在する細胞外タンパク質は、ELISAによる検出に好適な選択であった)、及びその特異的検出に市販のELISAキットが利用可能であることに基づいていた。
【0015】
MMP8、ABCA13、FAM84A、SPARC、及びDESを検出するように設計された5種のELISAの診断可能性を、腸組織に明確な組織病変を持ち、疾患の様々なステージを呈している感染ウシ由来の血清試料を用いて研究した。本研究に含まれる動物を分類するのに用いた絶対的標準すなわち参照技法は、動物の腸管組織に存在する組織病変の種類であった。意味深いことに、以下で提示する結果から分かるとおり、PTBの診断に関してバイオマーカーを利用した5種のELISAの正当性を立証することは不可能であった。実際、対照群と、限局性病変を持つ動物を識別することができたのはバイオマーカーを利用した5種のELISAのうち3種、多巣性病変を持つ動物を識別することができたのはバイオマーカーを利用した5種のELISAのうち2種、びまん性病変を持つ動物を識別することができたのはバイオマーカーを利用した5種のELISAのうち2種、及び全ての感染動物を識別することができたのはバイオマーカーを利用した5種のELISAのうち3種に限られた。実際、FAM84A及びDESを検出するELISAは、感染動物のどの群も識別しなかった(それらのAUCは、常に0.7未満であった)。
【0016】
注目すべきは、タンパク質ABCA13及び/又はSPARC及び/又はMMP8を検出するELISAが、特に、限局性病変を持つ動物の群及び全ての病変の群(この群は、限局性病変、多巣性病変、及びびまん性組織病変を持つ全ての動物を含む)の識別について、優れた成績を示したことであった。以下で提示する結果から分かるとおり、ABCA13を検出するELISAは、限局性病変を持つ動物の検出(AUC値0.866、p<0.001)及びいずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出(AUC値0.825、p<0.001)両方に最も正確な診断性能を示した。すなわち、ABCA13を検出するELISAは、限局性病変を持つ動物を検出し、いずれかの種類の組織病変を持つ動物を総合検出する正確な方法である。
【0017】
それゆえに、ABCA13は、本明細書中、PTBの診断に現在使用されている方法の信頼できる代替法として提示される。実際、IDEXX ELISAは、PTBの診断に今日広く使用されているものの、この方法は、高率の偽陰性結果(低い感度)を伴う。このことは、感染している対象のうち高パーセンテージが、IDEXX ELISAの低感度ゆえに、なおも検査陰性になることを意味する。この問題が、本発明により解決される。なぜなら、例えば本明細書中で説明されるとおり、ABCA13は、高い感度及び特異度を示したからである。
【0018】
したがって、本発明の第1の実施の形態は、マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するin vitro法であって、該方法は、a)対象から得られた生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定することを含み、b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、対象がマイコバクテリウム種に感染していることを示す、in vitro法に関する。
【0019】
好適な実施の形態において、本発明は、MAPに感染した対象を診断するin vitro法であって、該方法は、a)対象から得られた生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定することを含み、b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、対象がMAPに感染していることを示す、in vitro法に関する。
【0020】
好適な実施の形態において、本発明は、対象においてPTBを診断するin vitro法であって、該方法は、a)対象から得られた生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定することを含み、b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、対象がPTBに罹患していることを示す、in vitro法に関する。
【0021】
好適な実施の形態において、上記のin vitro法は、a)対象から得られた生体試料中のタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度を測定することを含み、b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度の上昇が同定される場合、これは、対象がPTBに罹患していることを示す。
【0022】
好適な実施の形態において、上記のin vitro法は、a)対象から得られた生体試料中のタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を測定することを含み、b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度の上昇が同定される場合、これは、対象がPTBに罹患していることを示す。
【0023】
好適な実施の形態において、上記のin vitro法は、a)対象から得られた生体試料中のタンパク質濃度を測定することを含み、先行して言及されたタンパク質のいずれかについて得られた濃度が、確立されたカットオフ値を超える(≧)場合、これは、対象がPTBに罹患していることを示す。
【0024】
好適な実施の形態において、上記のin vitro法は、潜在性又は開存性PTB、好ましくは潜在性PTBを診断することを含む。
【0025】
好適な実施の形態において、生体試料は、好ましくは、血清、血漿、又は血液を含む体液である。
【0026】
好適な実施の形態において、対象は、畜牛、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、シカ、ウサギ、イノシシ、バイソン、リャマ、アルパカ、オポッサム、アナグマ、ゾウ、又はヒトからなる群より選択される哺乳類であり、好ましくは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、シカ、リャマ、又はアルパカからなる群より選択される牧畜動物である。
【0027】
好適な実施の形態において、上記の方法は、免疫アッセイ、好ましくは酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)である。
【0028】
本発明の第2の実施の形態は、マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、タンパク質ABCA13、タンパク質[ABCA13及びSPARC]、又はタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]のin vitroでの使用に関する。
【0029】
好適な実施の形態において、タンパク質は、MAPに感染した対象を診断するために使用される。
【0030】
好適な実施の形態において、タンパク質は、PTBを診断するために使用される。
【0031】
好適な実施の形態において、タンパク質は、潜在性又は開存性PTB、好ましくは潜在性PTBを診断するために使用される。
【0032】
本発明の第3の実施の形態は、上記の方法のいずれかを行うのに適合したキットに関し、本キットは、タンパク質ABCA13の濃度を特定する道具又は試薬を備える。
【0033】
好適な実施の形態において、キットは、タンパク質[ABCA13及びSPARC]又はタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を特定する道具又は試薬を備える。
【0034】
好適な実施の形態において、本発明は、マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための上記キットの使用に関する。
【0035】
本発明の第4の実施の形態は、治療上有効な用量又は量の組成物を適用することにより、マイコバクテリウム種、特にMAPに感染した対象を治療する方法に関し、組成物は、細菌に感染した対象に陽性の治療反応をもたらす。意味深いことは、本方法は、上記の方法のいずれかを用いることにより、対象を診断する第一工程を含むことである。
【0036】
第5の実施の形態は、或るバッチの乳汁が、MAPに感染していないメスに由来するものであること、したがって、その製品が、上述のヒト疾患のいずれを引き起こす顕著なリスクをどのようなものも伴わずにヒトが消費することにふさわしいことを保証する方法に関する。
【0037】
本発明の目的に関して、以下の用語を以下のとおり定義する:
「非感染対照である対象において測定されたタンパク質の濃度」という語句は、そのタンパク質の濃度の「基準値」を示す。この「基準値」を基準にして、タンパク質の濃度の「上昇」が特定される(すなわち、濃度が基準値より有意に高い)場合、これは、対象が細菌に感染していることを示す。
「基準値」は、閾値又はカットオフ値とすることができる。典型的には、「閾値」又は「カットオフ値」は、実験的、経験的、又は理論的に決定することができる。当業者によって認識されるように、「カットオフ値」はまた、既存の実験条件及び/又は臨床条件に基づいて任意に選択され得る。検査の機能及びベネフィット/リスクバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床結果)に応じて最適な感度及び特異度を得るには、「カットオフ値」を決定しなければならない。典型的には、最適な感度及び特異度(したがって閾値)は、実験データに基づく受信者操作特性(ROC)曲線を使用して決定され得る。例えば、基準群においてバイオマーカーのレベルを決定した後、検査対象の生体試料中のバイオマーカーの測定濃度の統計的処理にアルゴリズム分析を使用して、試料分類に有意性を有する分類基準を取得することができる。ROC曲線は、主に臨床生化学的診断検査に使用される。ROC曲線は、真陽性率(感度)及び偽陽性率(1-特異度)の連続変数を反映する包括的な指標である。ROC曲線は、画像合成法によって感度と特異度との関係を明らかにする。一連の異なるカットオフ値(閾値又は臨界値、診断検査の陽性結果と陰性結果との間の境界値)は、一連の感度及び特異度の値を計算するための連続変数として設定される。次いで、感度を垂直座標として使用し、特異度を水平座標として使用して曲線を描く。曲線下面積(AUC)が大きいほど、診断/予後の正確度が高くなる。ROC曲線では、座標図の左上端に最も近い点が、高感度及び高特異度の両方の値を持つ臨界点である。ROC曲線のAUC値は1.0~0.5である。AUCが0.5超である場合、AUCが1に近づくにつれて、診断結果はますます良くなる。AUCが0.5~0.7の場合、正確度は低くなる。AUCが0.7~0.9の場合、正確度は良好である。AUCが0.9より大きい場合、正確度は非常に高くなる。このアルゴリズム的方法は、好ましくはコンピュータを用いて行われる。当該技術分野における既存のソフトウェア又はシステムをROC曲線の描画に使用することができる。
「含む」とは、「含む」という言葉を伴うものを包含するがこれに限定されないことを意味する。したがって、「含む」という用語の使用は、列挙された要素が要求される又は必須であるが、他の要素は任意であり、存在してもしなくてもよいことを示す。
「のみからなる」とは、「のみからなる」という句を伴うものを「包含し、限定する」という意味である。したがって、「のみからなる」という句は、列挙された要素が要求される又は必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。
PTBの治療用組成物の「治療上有効な用量又は量」は、投与された場合、PTBに罹患している対象に陽性の治療反応をもたらす量であることを意図する。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、及び全体的な状態、治療される症状の重篤度、投与様式等に応じて、対象ごとに変化することになる。個別の症例のいずれであっても、適切な「有効」量は、本明細書中において提供される情報に基づき、常用実験を用いて、当業者が決定することができる。
「潜在性」及び「開存性」は、MAPを原因とする感染症で起こり得る2種類を示す。「潜在性」PTBは、感染症の微生物学的又は免疫学的証拠の頻度が低度又は中度である限局性病変の存在を示す。「潜在性」感染症は、疾患の慢性又は無症候性所見を生じさせる可能性があり、この場合、臨床兆候は、依然として知覚できない。対照的に、「開存性」PTBは、感染症の微生物学的又は免疫学的証拠の頻度が高い、多巣性又はびまん性の炎症性病変の存在を示す。「開存性」感染症は、概して、疾患の臨床所見を生じさせる可能性があり、この場合、臨床兆候は知覚できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】腸管組織に異なる種類の組織病変を示すホルスタイン・フリーシアン(Holstein Friesian)畜牛の血清中のバイオマーカー濃度を示す図であり、限局性(n=55)、多巣性(n=17)、及びびまん性(n=15)である。対照動物(n=61)は、PTB非感染農場の動物であった。ABCA13について分析した、限局性病変、多巣性病変、びまん性病変、又はいずれかの種類の病変を持つ動物の個体数は、それぞれ、53、16、14、及び83であった。MyBioSource(サンディエゴ、CA、米国)が供給する特異的ELISAにより、ウシ血清中のバイオマーカーを検出及び定量した。a)FAM84A、配列類似性を持つウシファミリー84-メンバーA;b)DES、ウシデスミン;c)ABCA13、ウシATP結合カセットサブファミリーAメンバー13;d)MMP8、ウシマトリックスメタロペプチダーゼ8;e)SPARC、酸性及びシステイン豊富なウシ分泌タンパク質;f)IDEXX ELISA。データは、散布図として表し、各点は、1頭の動物を表す。各組織学的群の平均を、黒色粗点で表し、標準偏差を垂線で表す。アスタリスクは、各組織学的群と対照との間の差が有意であるか否かを示す(、p<0.05;**、p>0.01;***、p<0.001)。
図2】PTB非感染農場の対照動物(n=61)と対比させた、腸管組織に限局性(n=55)、多巣性(n=17)、又はびまん性(n=15)組織病変を持つホルスタイン・フリーシアンウシの選択されたバイオマーカーの受信者操作特性曲線(ROC曲線)を示す図である。ABCA13について分析した、限局性病変、多巣性病変、びまん性病変、又はいずれかの種類の病変を持つ動物の個体数は、それぞれ、53、16、14、及び83であった。a)FAM84A、配列類似性を持つウシファミリー84-メンバーA;b)DES、ウシデスミン、c)ABCA13、ウシATP結合カセットサブファミリーAメンバー13;d)MMP8、ウシマトリックスメタロペプチダーゼ8;e)SPARC、酸性及びシステイン豊富なウシ分泌タンパク質;f)IDEXX血清ELISA。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下の実施例は、本発明を実行する好適なやり方を開示するが、本発明の保護範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0040】
実施例1.方法論
実施例1.1 動物及び倫理規定
この現地調査には2群の動物が含まれていた:屠殺群)ホルスタイン・フリーシアンウシ93頭(年齢範囲0.81歳~12.66歳)は、アストゥリアス州(スペイン北西部)に位置する26ヶ所の農場出身であった。アストゥリアスでは、2017年に、牛群の25%及び動物の1.9%が、血清ELISAで陽性であった(データは地域政府の記録から得た)。具体的には、動物55頭は1ヶ所の酪農場出身で、この酪農場は、牛群の平均頭数が105頭(2016年~2019年)であり、サンプリング期間中、血清ELISA検査(IDEXX laboratories、ホーフトドルプ、オランダ)に基づき、PTBの平均感染率が6.30%であった。別の34頭の動物は、地域の畜殺場で屠殺されたウシから無作為に選択されたものであり(24ヶ所の異なる農場出身)、残りの4頭のウシは、SERIDAのフリーシアンウシ飼育場(2018年~2019年の期間中の平均PTB感染率3%)出身であった。屠殺時のこれら93頭の動物のPTB感染状況は、組織病理検査、血清ELISA検査、並びに組織及び糞便の、微生物培養及び特異的リアルタイムPCRにより特定した。PTB関連臨床兆候、例えば、緩徐体重減少、下痢、及び乳生産量の低下等の存在に関する情報は、可能な場合には農場従事者から得た;並びにPTB非感染群)アストゥリアスのPTB非感染農場出身の動物61頭(年齢範囲0.50歳~10.08歳)を、本研究の対照群として使用した。この対照農場のPTB非感染状況は、毎年のIDEXX血清ELISA、2016年~2020年の期間中に臨床例が存在しないこと、並びに2019年に糞便微生物培養及びPCRで陽性結果が出ていないことにより、実証した。
【0041】
実験手順は、SERIDA動物倫理委員会により承認され、Regional Consejeria de Agroganaderia y Recursos Autoctonos del Principado de Asturias(スペイン)により承認された(承認番号PROAE29/2015及びPROAE66/2019)。全ての手順は、欧州議会指令2012/63/EUに準拠して行われた。
【0042】
実施例1.2.組織及び糞便のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
組織及び糞便からのゲノムDNA単離は、MagMax全核酸単離キットを用いて、製造元説明書に従って行った(TermoFisher Scientifc、リシュー、フランス)。MAP DNAの検出には、LSI VetMax TriplexリアルタイムPCRを、製造元説明書に従って使用した(TermoFisher Scientifc、リシュー、フランス)。このキットは、糞便、液体培養物、及び組織又はコロニーから抽出されたDNA中のMap IS900遺伝子及びF57遺伝子のリアルタイムPCR検出を可能にする。リアルタイムPCR増幅を、MX3000PリアルタイムPCR検出システム(Stratagene、サンディエゴ、米国)を用いて行い、システムには以下の条件を用いた:50℃で2分間のサイクルを1回、95℃で10分間のサイクルを1回、95℃で15秒間の変性サイクルを45回、及び60℃で60秒間のアニーリング/伸長。
【0043】
実施例1.3.組織及び糞便の微生物培養
微生物培養のため、回盲リンパ節、遠位空腸リンパ節、回盲弁(ICV)、及び遠位空腸のプール(2gr)に対して、最終濃度0.75%のヘキサ-デシルピリジニウムクロリド38mL(Sigma、セントルイス、MO)で除染し、stomacherブレンダーでホモジナイズした。室温で30分間インキュベートした後、懸濁液15mLを新たな試験管に移し、除染及び沈降のため一晩インキュベートした。懸濁液約200μlを、沈降物近くの層から採取し、ハロルド卵黄培地(HEYM;Becton Dickinson、スパークス、MD)の2つの傾斜面及びレーベンシュタイン・イェンセン培地(LJ;Difco、デトロイト、MI)の2つの傾斜面に播種した。培地は両方とも、2mg/LのMycobactin J(ID.vet Innovative Diagnostics、グラベル、フランス)が補充されていた。屠殺の時点で、各動物の直腸から糞便を採取し、4℃に維持し、検査所に到着してから48時間以内に処理した。組織培養について上記したとおりに、糞便試料(各2g)を除染し、stomacherでブレンドし、HEYM及びLJで培養した。
【0044】
実施例1.4.動物の組織学的分類
上述したとおり、本研究に含まれた動物を、動物の腸管組織に存在する組織病変の種類に従って分類した。遠位空腸、ICV、及び空腸、並びにICVリンパ節の組織切片を、屠殺されたウシ93頭から収集し、10%中性緩衝化ホルマリンで固定し、標準手順を用いて、パラフィンワックスに包埋及び切片化した。その後、4μm切片を、特異的抗酸菌検出用に、ヘマトキシリン・イオシン(HE)及びチール・ネールゼン(ZN)染色により評価した。切片は、Olympus BH-2光学顕微鏡を用いて観察し、Olympus DP-12デジタルカメラを用いて撮影した。染色した切片を、病理学的病変の検出及び分類のため並びに抗酸菌(AFB)の存在について光学顕微鏡法で検査した。
【0045】
実施例1.5 選択したバイオマーカーを検出する酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
BD Vacutainer Z血清凝固アクチベータプラスチック管(serum clot activator Plastic tube)(Vacuette、クレムスミュンスター、オーストリア)を用いて、本研究に含まれているウシ全頭の尾静脈から末梢血を採取した。凝固後、室温で2500gにて20分間遠心することにより血清を分離させ、使用するまで-20℃で貯蔵した。各動物の血清中の選択したバイオマーカー濃度を、市販されているELISAを用いて、製造元説明書に従って測定した。定量的サンドイッチELISAキットウシマトリックスメタロプロテイナーゼ8(MMP8)(検出範囲3.12ng/mL~100ng/mL);ウシタンパク質FAM84A ELISAキット(検出範囲62.5pg/mL~2000pg/mL)、ウシSPARC ELISAキット(検出範囲0.78ng/mL~50ng/mL)、及び競合ウシATP結合カセットサブファミリーAメンバー13(ABCA13)ELISAキット(検出範囲0pg/mL~5000pg/mL)及びウシデスミン(DES)ELISAキット(検出範囲0ng/mL~25ng/mL)を、それぞれ、MMP8、FAM84A、ABCA13、SPARC、及びDESの特異的検出用に用いた(MyBioSource、サンディエゴ、CA、米国)。
【0046】
バイオマーカーABCA13の特異的検出のアッセイ手順をより詳細に記載すると、以下のとおりである:
1.適切なウェルに、血清試料及び標準物質を100μL加える。ブランク対照ウェルにPBS、100μL(pH7.0~7.2)を加える。
2.各ウェルに複合体50μLを加える(ブランク対照ウェルには加えない)。十分に混合する。プレートを被覆し、37℃で1時間インキュベートする。
3.自動ワッシャーを用いて、プレートを、希釈した1倍洗浄液で5回洗う(350μL/ウェル/洗浄~400μL/ウェル/洗浄)。ワッシャーは、各洗浄の間の浸漬時間を10秒及び震盪時間を5秒に設定することが推奨される。
4.ブランク対照ウェルも含めて各ウェルに、基質A、50μL及び基質B、50μLを加える。引き続き、被覆し37℃で15分間インキュベートする(日光を遮光し、15分後に呈色が濃くなっていなければ、インキュベーション時間を延長すること、ただし最長でも30分である)。
5.ブランク対照ウェルも含めて各ウェルに、停止液50μLを加える。ウェルを混合する。
6.直ちに、マイクロプレートリーダーを用いて450nmでの吸光度(O.D.)を特定する。
【0047】
標準曲線を使用して、血清試料中のバイオマーカーの濃度を特定した(各標準物質の平均ODを、横軸の濃度に対して縦軸にプロットし、最適当てはめから回帰曲線を作成する)。標準物質及び試料は、2つ組で試験した。生OD値の平均値からブランク対照の平均値を差し引いた後、結果を解釈した。最適化のため、血清の希釈度を変えて試験し(例えば、希釈せず、1:2、1:4、及び1:8)、標準曲線範囲内に含まれる測定値を持つ試料の数をより多く示した希釈物を、最適であると判断した。ほとんどの場合、最適希釈は1:2であったが、特定のバイオマーカーを高濃度で含む試料は、より高い希釈度でアッセイしなければならなかった。
【0048】
実施例1.6 統計分析
各ELISAのAUC(曲線下面積)及び最適カットオフ値を、受信者操作特性(ROC)曲線分析により特定した。感度及び特異度に関する最適カットオフ値は、最大ユーデン指数(J=Se+Sp-1)に基づくものであった。
【0049】
各バイオマーカーに基づくELISAが異なる組織学的群と対照群を識別する識別力を、[Muller, M.P., Tomlinson, G., Marrie, T.J., Tang, P.., McGeer, A., Low, D.E., Detsky, A.S., Gold, W.L. (2005). Can routine laboratory tests discriminate between severe acute respiratory syndrome and other causes of community-acquired pneumonia? Clin Infect Dis. 40(8):1079-86. https://doi.org/10.1086/428577][Park HE., Park, H-T., Jung YH., Yoo, HS. (2017). Establishment a real-time reverse transcription PCR based on host biomarkers for the detection of the sub-clinical cases of Mycobacterium avium subsp. Paratuberculosis. PLoS One. 25;12(5):e0178336. doi: 10.1371/journal.pone.0178336]に従って、以下のとおり特定した:AUCスコア≧0.9を、卓越した識別力;0.8≦AUC<0.9を、良好な識別力;0.7≦AUC<0.8を一応の識別力;及びAUC<0.7を、不十分な識別力を有すると見なした(Muller et al., 2005)。AUCスコアが高いほど、良好な識別力を示すと見なした。
【0050】
多変量二項ロジスティック回帰モデル(RのCaretパッケージ)を用いて、複数のバイオマーカーを同時使用することの診断能力、AUCの提供、並びに異なるバイオマーカー組み合わせについての感度及び特異度のような値について評価した。ROCの曲線下面積(同じ症例から由来)間の差の統計的有意性を検定するROC曲線比較を、不十分、良好、及び卓越AUC値(AUC≧0.7)を持つバイオマーカーについて、DeLong et al. (1998)の方法を用いて行った[DeLong ER, DeLong DM, Clarke-Pearson DL (1988): Comparing the areas under two or more correlated receiver operating characteristic curves: a nonparametric approach. Biometrics 44:837-845]。2つの組織学的群間の定量的変数(例えば、年齢)の統計的有意差は、ステューデントのt検定(正規性を満たす)又はウィルコクソンの検定(正規性を満たさない)を用いて検定した。
【0051】
全データを、pROC、OptimalCutpoints、及びCaret[Max Kuhn(2020). caret: Classification and Regression Training. R package version 6.0-85. https://CRAN.R-project.org/package=caret]package of R Statistical environment version 3.6.0[R Core Team (2018). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing. Vienna. Austria. URL https://www.R-project.org/]を用いて分析した。信頼区間は95%とした。
【0052】
実施例2.結果
実施例2.1 MAP感染状況の組織学的、免疫学的、及び微生物学的評価
本研究に含まれた全動物(屠殺された動物n=93及びPTB非感染農場由来の対照動物n=61)の組織学的、免疫学的、及び微生物学的特性を、表2にまとめる。
【0053】
すなわち、表2は、本研究に含まれた154頭のホルスタイン・フリーシアンウシのMAP感染状況の評価を示す。腸管組織切片の病理検査から、動物を4つの群に分類することができた:限局性(n=55、59.14%)、多巣性(n=17、18.28%)、びまん性(n=15、16.12%)、及び病変なし(n=6、6.45%)。
【0054】
【表2】
【0055】
限局性病変を持つ動物群中、76.36%が、1種以上の診断法(チール・ネールゼン法、糞便及び組織のリアルタイムPCR、糞便及び組織の微生物培養、並びに血清ELISA)によって陽性であり、残部の23.64%は、アッセイした試験全てで陰性であった(n=13)。具体的には、チール・ネールゼン法で49.09%、糞便リアルタイムPCRで9.09%、組織リアルタイムPCR及び組織微生物培養で27.27%、並びに糞便微生物培養及び血清ELISAで5.45%が陽性であった。限局性群の動物に、PTBに関する臨床兆候を示すものは1頭もおらず、そのため、限局性病変を持つ動物は、無症候性感染症であると見なされた。
【0056】
多巣性病変を持つ動物群では、試料の100%が、以下の6種の技法のうち少なくとも1種で陽性であった:チール・ネールゼン法、糞便及び組織のリアルタイムPCR、糞便及び組織の微生物培養、並びに血清ELISA。詳細には、動物のうち94.11%はチール・ネールゼン法で、23.52%は血清ELISAで、29.41%は糞便リアルタイムPCRで、41.17%は組織リアルタイムPCRで、17.64%は糞便培養で、及び41.17%は組織培養で陽性であった。この群では、より高いパーセンテージの動物(15.38%)が臨床兆候を示し、その中には、臨床兆候を持つ最も若い動物が含まれた(2.72年齢)。びまん性群では、動物のうち100%がチール・ネールゼン法で陽性であり、73.33%が血清ELISAで並びに糞便及び組織リアルタイムPCRで陽性であり、20%が糞便培養で、及び66.66%が組織培養で陽性であった。この群では、動物の64.28%が、PTB関連臨床兆候を有した。
【0057】
組織病理学検査により分析した動物94頭のうち6頭だけが、その腸管組織に組織病変を示さなかった。これらの動物は、糞便及び組織のMAP特異的PCR並びに微生物培養で、並びに血清ELISAで陰性であった。病変を持たない動物を見つけ出す難しさを考慮して、試料規模を拡大し、結果の統計的有意性を上昇させる目的で、アストゥリアスのPTB非感染農場出身の動物61頭を、対照群として使用することを決定した。この対照農場のPTB非感染状況は、毎年4回のIDEXX血清ELISA、2016年~2019年の期間中に臨床例が存在しないこと、並びに2019年に糞便の微生物培養及び特異的リアルタイムPCRにより、実証した。しかしながら、これら動物は1頭も組織学的に検査しなかった、なぜなら組織学的検査は死後検査であり、これらの動物は依然として生存しているからである。
【0058】
限局性群(5.72±2.16歳)とPTB非感染対照群(3.62±2.41歳)間の年齢(p<0.001);及び多巣性群(5.50±1.85歳)とPTB非感染対照群(3.62±2.41歳)間の年齢(p=0.009)に有意差が見られた。しかしながら、びまん性群(4.98±1.58歳)と対照群(3.62±2.41歳)(p=0.141)、限局性群とびまん性群(p=0.65)、多巣性群とびまん性群(p=0.905)、及び多巣性群と限局性群(0.982)の年齢の間に有意差は見られなかった。
【0059】
実施例2.2 選択したバイオマーカーに基づくELISAのROC分析
各バイオマーカーに基づくELISAが各種組織群と対照群を識別する診断正確度を、ROC分析により計算した(図1及び図2)。限局性病変を持つ動物55頭、多巣性病変を持つ動物17頭、及びびまん性病変を持つ動物15頭由来の血清試料87本を用いて、FAM84A、DES、MMP8、及びSPACRを検出するバイオマーカーに基づく4種のELISAから得られたデータのROC分析を行った。限局性病変を持つ動物53頭、多巣性病変を持つ動物16頭、及びびまん性病変を持つ動物14頭由来の血清試料83本を用いて、ABCA13に基づくELISAのROC分析を行った。上述したとおり、この分析に使用した対照群は、アストゥリアスのPTB非感染農場出身の動物61頭からなるものであった。バイオマーカーに基づくELISAの診断性能を、従来型PTB診断法、例えば、特異的抗MAP抗体ELISA(IDEXX ELISA)のものとも比較した。図1は、特定の組織学的群に分類されたホルスタイン・フリーシアン畜牛の1頭ごとの血清中の各バイオマーカー濃度を示し、図2は、各組織群についてバイオマーカーに基づくELISAそれぞれで得られたデータのROC曲線を示す。
【0060】
実施例2.2.1.限局性組織病変を持つ動物の検出(表3)
バイオマーカーABCA13、MMP8、及びSPARCを検出する3種のELISAは、限局性群と対照群の間で良好な識別力を有した(0.8≦AUC<0.9)。しかしながら、ABCA13に基づくELISAが最も正確な診断性能を示し(AUC値0.866、p<0.001)、感度79.25%及び93.44%という高い特異度であった。ABCA13に基づくELISA及びSPARCに基づくELISAの組み合わせは、0.951というわずかに高くなったAUC値を与え、感度93.44%及び特異度(80.77%)であった。限局性病変を持つ動物を検出するABCA13に基づくELISAの診断性能は、IDEXX ELISA(AUC値0.536)よりも良好であり、IDEXX ELISAは、感度14.50%及び特異度100.00%を有した。ABCA13、MMP8、及びSPARCに基づくELISAのROC曲線間で有意差は観察されなかった(ABCA13対MMP8、p=0.386;ABCA13対SPARC、p=0.372、及びMMP8対SPARC、p=0.781)。
【0061】
表3は、腸管組織に限局性組織病変を持つ畜牛を診断する選択したバイオマーカーに基づくELISAの診断性能を示す。診断性能が最良であったELISAを、太字で示す。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例2.2.2.多巣性組織病変を持つ動物の検出(表4)
多巣性群において、SPARCに基づくELISAは、最も正確な診断性能を示した。SPARCに基づくELISAは、多巣性群と対照群の間で良好な識別力を有し(AUC値0.865、p<0.001)、感度66.70%及び特異度95.10%であった。ABCA13に基づくELISA及びSPARCに基づくELISAを用いた結果を組み合わせると、AUCは0.900となり、感度98.36%及び特異度64.71%であった。SPARCの検出に基づくELISAの診断性能を、IDEXX ELISAのものとも比較した。多巣性病変を持つ動物を検出するSPARCに基づくELISAの診断性能は、IDEXX ELISA(AUC値0.594)のものより良好であり、IDEXX ELISAは、感度27.80%及び特異度100.00%であった。MMP8に基づくELISA及びSPARCに基づくELISAのROC曲線間に有意差は存在しなかった(MMP8対SPARC、p=0.771)。
【0064】
表4は、腸管組織に多巣性組織病変を持つ畜牛を診断する選択したバイオマーカーに基づくELISAの診断性能を示す。診断性能が最良であったELISAを、太字で示す。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例2.2.3.びまん性組織病変を持つ動物の検出(表5)
ABCA13及びMMP8を検出する2種のELISAは、びまん性群と対照群の間で良好な識別力を有した(0.8≦AUC<0.9)。しかしながら、MMP8に基づくELISAが最も正確な診断性能を示し(AUC値0.866、<0.001)、感度100.00%及び特異度77.10%であった。この場合、バイオマーカーに基づくELISAの組み合わせは、MMP8に基づくELISAにより個別に得られる結果を改善しない。MMP8の検出に基づくELISAの診断性能を、IDEXX ELISAのものとも比較した。IDEXX ELISAのびまん性群と対照群の間の識別力は、卓越しており、AUC値0.917(p<0.001)であった。びまん性組織病変を持つ動物を検出するIDEXX ELISAの診断性能は、バイオマーカーに基づくELISAのものよりも良好であり、感度86.70%及び特異度96.70%であった。ABCA13、MMP8、及びIDEXX ELISAのROC曲線の比較から、3種のROC曲線間に有意差は存在しないことが示された(ABCA13対MMP8、p=0.843;ABCA13対IDEXX ELISA、p=0.482、及びMMP8対IDEXX ELISA、p=0.444)。
【0067】
表5は、腸管組織にびまん性組織病変を持つ畜牛を診断する選択したバイオマーカーに基づくELISAの診断性能を示す。診断性能が最良であったELISAを、太字で示す。
【0068】
【表5】
【0069】
実施例.2.2.4.いずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出(表6)
本発明者らは、バイオマーカーに基づくELISAがいずれかの種類の組織病変(限局性、多巣性、又はびまん性)を持つ感染ウシと対照群を識別する能力を比較した。3種の異なる組織学的群が等しく代表されてはいない(限局性n=55、多巣性n=17、及びびまん性n=15)ことは考慮しなければならないが、これは、農場の現実の状況を反映している。ABCA13に基づくELISA及びMMP8に基づくELISAは、病変を持つ動物と対照群の間で良好な識別力を有した(0.8≦AUC<0.9)。しかしながら、ABCA13に基づくELISAが最も正確な診断性能を示し(AUC値0.825、p<0.001)、感度70.60%及び特異度91.80%であった。ABCA13の検出に基づくELISA及びSPARCに基づくELISAで得られた結果を組み合わせると、AUC値はわずかに高くなり(0.933)、感度88.52%及び特異度79.76%であった。ABCA13に基づくELISAの診断性能を、IDEXX ELISAのものとも比較した。感染した動物を検出するABCA13に基づくELISAの診断性能は、IDEXX ELISA(AUC値0.613)のものよりも良好であり、IDEXX ELISAは、感度28.40%及び特異度100.00%であった。
【0070】
表6は、腸管組織に組織病変を持つ畜牛を診断する選択したバイオマーカーに基づくELISAの診断性能を示す。診断性能が最良であったELISAを、太字で示す。
【0071】
【表6】
【0072】
各組織学的群について最良の診断性能を持つELISAの要約を、以下に提示する。ABCA13に基づくELISAは、限局性病変を持つ動物の検出に最も正確な診断性能を示した(AUC値0.866、p<0.001)。SPARCに基づくELISAは、多巣性病変を持つ動物の検出に最も正確な診断性能を示した(AUC値0.865、p<0.001)。MMP8に基づくELISAは、びまん性病変を持つ動物の検出に最も正確な診断性能を示した(AUC値0.866、p<0.001)が、IDEXX ELISAの診断性能(AUC値0.917、p<0.001)の方がバイオマーカーに基づくELISAのものより良好であり、感度86.70%及び特異度96.70%であった。最後に、いずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出について、ABCA13に基づくELISAは、最も正確な診断性能を示し(AUC値0.825、p<0.001)、感度70.60%及び特異度91.80%であった。そのうえさらに、限局性、多巣性、又はいずれかの種類の病変を持つ動物を検出するバオイオマーカーの組み合わせは、診断の感度を改善する可能性がある。まとめると、本発明者らの結果は、ABCA13に基づくELISAは、限局性病変を持つ動物の識別及びいずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出に極めて正確な方法であることを示す。
【0073】
表7は、各種組織学的動物群を検出する最良のバイオマーカーに基づくELISA及びIDEXX ELISAの診断性能を示す。限局性病変を持つ動物55頭、多巣性病変を持つ動物17頭、及びびまん性病変を持つ動物15頭由来の血清試料87本を用いて、MMP8に基づくELISA及びSPARCに基づくELISA並びにIDEXX ELISAのROC分析を行った。限局性病変を持つ動物53頭、多巣性病変を持つ動物16頭、及びびまん性病変を持つ動物14頭由来の血清試料83本を用いて、ABCA13に基づくELISAのROC分析を行った:
【0074】
【表7】
【0075】
実施例2.2.5.限局性病変を持つ動物の診断に関する、ABCA13に基づくELISAの診断性能と他の従来法の診断性能の比較
ABCA13の検出に基づくELISAの診断性能を、従来型PTB診断法、例えば、特異的抗MAP抗体ELISA(IDEXX ELISA)、並びに特異的糞便及び組織のリアルタイムPCR、並びに微生物培養等の診断性能とも比較した。
【0076】
表8は、腸管組織に限局性病変を持つ動物を検出する従来型及び新規のバイオマーカーに基づく診断アッセイの診断性能を示す。ABCA13に基づくELISAは、限局性病変を持つ動物の検出及び識別について、試験したその他の診断法よりも良好な診断価値を示した。限局性病変を持つ動物55頭のうち44頭を陽性として(80%感度)、及び対照61頭のうち57頭を陰性として(93%特異度)検出することができた。その他の従来法の診断価値又は感度は、それより低かった。具体的には、IDEXX ELISAは特異度が100%だったものの、陽性として検出できたのは、使用したカットオフ(55%)が供給元により確立されたものであった場合に動物55頭のうち3頭のみ(5.45%感度)、又はROC分析により計算したカットオフ点(28.39%)を用いた場合に55頭のうち8頭のみ(14.54%)であった。
【0077】
【表8】
【0078】
実施例2.2.6.バイオマーカーに基づくELISAの組み合わせを試験して、ロジスティック回帰分析を用いてABCA13に基づくELISAの診断価値を特定した
5種の選択されたバイオマーカーのうち一部の組み合わせに基づく診断モデルは、単一バイオマーカーに基づくELISAの診断価値をわずかに改善した(表9参照)。
【0079】
表9は、腸管組織に各種組織病変を持つ畜牛の診断について、様々なバイオマーカーの併用に基づくモデルの診断性能を、単一バイオマーカーに基づくELISAで得られる性能と比較して示す。この分析は、限局性動物55頭、多巣性動物18頭、びまん性動物15頭、及び対照動物67頭を用いて行った。
【0080】
【表9】
【0081】
実施例2.2.7.ABCA13に基づくELISAの大規模検証
本発明者らは、ABCA13を検出するELISAが、限局性病変を持つ動物の検出及びいずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出に正確な方法であることを示した。
【0082】
これらの結果を更に裏付けるため、限局性病変を持つ感染動物445頭、多巣性病変を持つ感染動物55頭、及びびまん性病変病変を持つ感染動物58頭由来の血清試料556本を用いて、ABC13に基づくELISAの大規模検証(n=661)を行った。非感染対照群は、アストゥリアスのPTB非感染農場2ヶ所を出身とする動物105頭からなるものであった。
【0083】
表10は、腸管組織に各種の組織病変を持つ畜牛を診断するABCA13に基づくELISAの診断性能を示す。ABCA13に基づくELISAの診断正確度は、ROC曲線分析により計算した。
【0084】
【表10】
【0085】
ABCA13を検出するELISAは、限局性群と対照群(AUC値0.843、p<0.0001)及び全病変群と対照群(AUC値0.883、p<0.0001)の間で良好な識別力を有する。これらの結果は、ABCA13を検出するELISAが、限局性病変を持つ動物の検出及びいずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出の正確な診断法であることを更に裏付ける。
【0086】
実施例2.2.8.ABCA13に基づくELISAで得られた結果とIDEXX ELISAで得られた結果の比較(N=661)
本発明者らが上述したとおり、IDEXX ELISAは、PTBの診断に今日広く使用されているが、この方法は、高率の偽陰性結果(低感度)が伴う。このことを理由に、本発明者らは、大規模検証試験で使用した試料661本について、ABCA13に基づくELISAで得られた結果とIDEXX ELISAで得られた結果を比較した。
【0087】
表11は、各種組織学的群の検出について、新規ABCA13に基づくELISA及び従来型IDEXX ELISAの、感度、特異度、及び診断価値を示す。ABCA13に基づくELISA及びIDEXX ELISAの感度及び特異度を概算するのに用いたカットオフ値は、それぞれ、3.66ng/mL及び55%(OD試料/OD陽性対照の相対%)であった。感度の概算は、限局性病変を持つ動物445頭、多巣性病変を持つ動物55頭、及びびまん性病変を持つ動物58頭の分析に基づくものであった。特異度を計算するのに用いた対照群は、PTB非感染農場2ヶ所出身の動物105頭からなるものであった。
【0088】
【表11】
【0089】
これらの知見は、本発明者らの先の結果を支持するものであり、ABCA13に基づくELISAが、限局性病変を持つ動物の識別及びいずれかの種類の組織病変を持つ動物の総合検出の非常に正確な方法であることを示す。具体的には、ABC13に基づくELISAは、従来型診断法で検出することが困難である無症候性感染症を表している限局性病変を持つ動物の検出により高い感度を有する。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
【手続補正書】
【提出日】2022-02-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた血清又は血漿のみからなる生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がマイコバクテリウム種に感染していることを示す、
in vitro法。
【請求項2】
マイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシスに感染した対象を診断する、請求項1に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた血清又は血漿のみからなる生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がマイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシスに感染していることを示す、
in vitro法。
【請求項3】
対象においてパラ結核症を診断する、請求項1又は2に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた血清又は血漿のみからなる生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質ABCA13の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質ABCA13の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた血清又は血漿のみからなる生体試料中のタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質[ABCA13及びSPARC]の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた血清又は血漿のみからなる生体試料中のタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を測定すること、
を含み、
b)非感染対照である対象において測定されたタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を基準にして、工程(a)でタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度の上昇が同定される場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のin vitro法であって、該方法は、
a)前記対象から得られた血清又は血漿のみからなる生体試料中の、請求項1~5のいずれか1項に記載のタンパク質の濃度を測定すること、
を含み、
b)前記先行して言及されたタンパク質のいずれかについて得られた濃度が、確立されたカットオフ値を超える場合、これは、前記対象がパラ結核症に罹患していることを示す、
in vitro法。
【請求項7】
潜在性又は開存性パラ結核症、好ましくは潜在性パラ結核症を診断する、請求項1~6のいずれか1項に記載のin vitro法。
【請求項8】
前記対象は、畜牛、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、シカ、ウサギ、イノシシ、バイソン、リャマ、アルパカ、オポッサム、アナグマ、ゾウ、又はヒトからなる群より選択される哺乳類であり、好ましくは、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、シカ、リャマ、又はアルパカからなる群より選択される牧畜動物である、請求項1~7のいずれか1項に記載のin vitro法。
【請求項9】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、血清又は血漿からなる生体試料中のタンパク質ABCA13、タンパク質[ABCA13及びSPARC]、又はタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]のin vitroでの使用。
【請求項10】
マイコバクテリウム・アビウム亜種パラツベルクローシスに感染した対象を診断するための、請求項9に記載のin vitroでの使用。
【請求項11】
パラ結核症を診断するための、請求項9又は10に記載のin vitroでの使用。
【請求項12】
潜在性又は開存性パラ結核症、好ましくは潜在性パラ結核症を診断するための、請求項9~11のいずれか1項に記載のin vitroでの使用。
【請求項13】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、血清又は血漿からなる生体試料中のタンパク質ABCA13の濃度を特定する道具又は試薬を備える、キットの使用。
【請求項14】
マイコバクテリウム種に感染した対象を診断するための、タンパク質[ABCA13及びSPARC]又はタンパク質[ABCA13及びSPARC及びMMP8]の濃度を特定する道具又は試薬を備える、請求項13に記載のキットの使用。
【国際調査報告】