(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-22
(54)【発明の名称】印刷された3D物体を洗浄するための装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/35 20170101AFI20230615BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20230615BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230615BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230615BHJP
【FI】
B29C64/35
B29C64/124
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501126
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2022053792
(87)【国際公開番号】W WO2022175311
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】102021104076.0
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514200420
【氏名又は名称】ミュールバウアー・テクノロジー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MUEHLBAUER TECHNOLOGY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】トレーガー,イェンス
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL55
4F213WL67
4F213WL87
4F213WW38
(57)【要約】
本発明は、光硬化性樹脂配合物で印刷され、表面に付着し且つ非透過性及び不溶性の粒子を有する前記樹脂配合物の未硬化残渣を含む3D物体(90)の後洗浄のための装置(1)に関する。本装置(1)は、液体洗浄剤(20)で満たすことができ、洗浄すべき3D物体(90)を受け入れるための撹拌器(5)を有する洗浄室(2)を備え、制御部(11)に接続され、洗浄剤(20)の光学密度を判定する汚染検出器(8)が、洗浄剤(20)の残りの洗浄能力をチェックするために設けられ、汚染検出器(8)は、洗浄剤(20)中の予め決められたサイズを超える非透過性及び不溶性の粒子がない状態に保たれた領域内に配置される。判定された光学密度は、洗浄剤(20)の洗浄能力を判定するために使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂配合物で印刷され、表面に付着し且つ非透過性及び不溶性の粒子を有する前記樹脂配合物の未硬化残渣を含む3D物体(90)の後洗浄のための装置(1)であって、
液体洗浄剤(20)で満たすことができ、洗浄すべき前記3D物体(90)を受け入れるための撹拌器(5)を有する洗浄室(2)を備え、
制御部(11)に接続され、320nmから400nmの範囲の少なくとも1つの波長で前記洗浄剤(20)の光学密度を判定する汚染検出器(8)が、前記洗浄剤(20)の残りの洗浄能力をチェックするために設けられ、
前記汚染検出器(8)は、前記洗浄剤(20)中の予め決められたサイズを超える非透過性及び不溶性の粒子がない状態に保たれた領域内に配置され、
前記制御部(11)は、判定された前記光学密度から前記洗浄剤(20)の洗浄能力を判定し、予め決められた最小洗浄能力を下回る場合に、対応する表示を出力するように構成されている、装置。
【請求項2】
前記洗浄剤(20)のための交換可能な収納容器(6)と、
前記収納容器(6)から前記洗浄室(2)内へ、及び前記洗浄室(2)から前記収納容器(6)内へ、前記洗浄剤(20)を送り出すためのポンプ(7)と、
を備え、
前記汚染検出器(8)は、好ましくは前記収納容器(6)と前記洗浄室(2)との間のラインに配置され、前記汚染検出器(8)と前記洗浄室(2)との間にフィルタ部材(3)が配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記収納容器(6)は、前記制御部(11)によって読み出し可能であり、前記収納容器(6)内に保持された前記洗浄剤(20)の現在の洗浄能力が記録された記憶素子、好ましくはRFID素子(6')を有している、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御部(11)は、洗浄工程の前後にそれぞれ前記洗浄剤(20)の光学密度を判定するように構成されている、請求項1~3のいずれか1つに記載の装置。
【請求項5】
前記制御部(11)は、洗浄工程の前後における前記洗浄剤(20)の光学密度の差から前記洗浄能力の低下を判定し、判定された前記洗浄能力の低下に応じて前記洗浄能力の出力値を適合させるように構成されている、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記制御部(11)は、前記光学密度から前記洗浄剤(20)の洗浄能力を判定するため、及び/又は、洗浄工程の前後における前記光学密度の差を用いて前記洗浄能力の低下を判定するため、前記洗浄剤(20)と前記3D物体(90)とが製造される前記光硬化性樹脂配合物の組合せに対して予め定められた特性曲線を考慮するように構成されている、請求項1~5のいずれか1つに記載の装置。
【請求項7】
前記制御部(11)は、前記3D物体(90)が製造される前記光硬化性樹脂配合物に関連する情報項目の入力部を有する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの波長は、350nmから400nmの範囲、好ましくは365nmから385nmの範囲で選択される波長である、請求項1~7のいずれか1つに記載の装置。
【請求項9】
前記汚染検出器(8)の周囲の領域に、前記洗浄剤(20)中の予め決められたサイズを超える非透過性及び不溶性の粒子がない状態に保つために、フィルタ部材(3)を備える、請求項1~8のいずれか1つに記載の装置。
【請求項10】
前記フィルタ部材(3)は、1mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.01mm以上又は0.001mm以上のサイズの固体粒子に対して不透過性である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記汚染検出器又は更なる汚染検出器(8)は、前記洗浄剤(20)の屈折率を判定するための屈折計として構成され、
前記制御部は、前記光学密度に加えて前記洗浄能力の判定において前記屈折率を考慮するように、又は、前記屈折率から前記洗浄剤(20)の光学密度を導出するように構成されている、請求項1~10のいずれか1つに記載の装置。
【請求項12】
前記洗浄剤(20)の質量密度を判定するための装置、好ましくは比重計(10)を備え、
前記制御部(11)は、前記洗浄剤(20)の洗浄能力の判定において、前記装置(10)によって判定された質量密度を考慮するように構成されている、請求項1~11のいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
前記洗浄室(2)に充填される液体洗浄剤(20)を用いて、前記光硬化性樹脂配合物で印刷された3D物体(90)を後洗浄し、前記3D物体の表面に付着し且つ非透過性及び不溶性の粒子を有する前記樹脂配合物の未硬化残渣を除去する、請求項1~12のいずれか1つに記載の装置(1)の使用方法。
【請求項14】
前記洗浄剤として、イソプロパノール、エタノール、アジピン酸ジメチル、ブチルジグリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPM)、又はそれらの水性混合物が、好ましくは少なくとも1つの表面活性物質と共に、使用される、請求項13に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶性充填粒子を含む光硬化性樹脂配合物で印刷され且つ表面に付着する樹脂配合物の未硬化残渣を有する、3D物体を後洗浄するための装置及び対応する装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なデザインで且つ異なる印刷法のための3Dプリンタが従来技術として知られている。既知の印刷法の1つは、所望の三次元物体を層ごとに生成するために、適切な液体樹脂又はモノマー配合物が制御された露光によって点状に硬化される、立体リソグラフィ法である。
【0003】
従来の立体リソグラフィ法において、集光されたレーザビームは、層状に硬化されるポイントで樹脂に照射するために、相互に直交する2軸を中心として回転可能なミラーによって偏向される。特に、比較的大きな領域を硬化させる場合、この方法では、硬化させる領域を点状に指定し、その領域をレーザでスキャンする必要があるため、時間がかかる。また、比較的大きな物体の場合、硬化させる樹脂にレーザが浅い角度でしか照射されないと、端部領域で歪みが生じる可能性がある。
【0004】
そこで、DLP(Digital Light Processing)印刷と呼ばれる方法が開発されている。この方法では、光源の光をデジタルマイクロミラーユニットによって硬化させる樹脂に導光する。このマイクロミラーユニットは、個別に駆動可能な傾斜型マイクロミラーを矩形に配列した構成を有する。一般的なマイクロミラーユニットは、1920×1080個の制御可能なミラーで構成されており、このミラーに入射した光が樹脂内のそれぞれ予め決められた点に照射される位置と、そうならない第2の位置との間で回転させることができる。樹脂の1つの層における個々の硬化可能な点の数は、マイクロミラーユニットのミラーの数によって決定される。樹脂中の個々の点の最終的な大きさは、マイクロミラーユニットと露光される層との間の距離に影響され得る。
【0005】
更に、従来技術において、光源によって照明されるマイクロミラーユニットに代えて、二次元光源によって背後から照明されるLCDディスプレイを用いて、所望のポイントで樹脂を硬化させる実施形態が知られている。この場合、背後の照明光を個々のポイントで選択的に透過可能なLCDディスプレイを、液体樹脂を硬化させたいポイントを有する層上に直接配置する必要がある。
【0006】
また、対応する3Dプリンタで生成された物体の場合、3Dプリンタから取り出した後も、除去すべき樹脂配合物の未硬化残渣が付着しているのが一般的である。このため、3D物体を液体洗浄剤で処理し、実際の3D物体やその硬化物を侵すことなく、樹脂配合物の未硬化残渣を化学的に除去することが知られている。
【0007】
樹脂配合物の残渣を剥離するために洗浄中に行われる工程によって、洗浄剤が徐々に消耗されるため、洗浄剤の洗浄能力が洗浄工程ごとに低下し、十分な洗浄効果を発揮できなくなる。
【0008】
そこで、従来技術では、洗浄剤を用いて行う洗浄サイクルの回数を制限し、予め決められた回数に達した後に洗浄剤を交換することが提案されている。この場合、前記回数は、一般的に、洗浄される各3D物体の樹脂付着量が原理的に大きい状態で、全ての洗浄サイクルにおいて十分な洗浄効果が得られるように、小さく選択される。このことは、少なくともいくつかの洗浄サイクルにおいて、樹脂配合物の小さな残渣しか除去されず、洗浄剤がほとんど使用されない場合、洗浄剤は、原理的には未だ更なる洗浄工程に適しているにもかかわらず、予め決められた洗浄サイクルの回数に達したので交換されるという不利な点を有している。
【0009】
国際特許出願公開第2019/111208号は、3D物体を洗浄するための装置に関するものであり、洗浄室内に汚染センサとしてフォークライトバリアが配置されている。光センサによって登録された光の量が減少した場合、これは、洗浄剤中の非透過性の粒子の割合が増加したことを示し、汚染に関連する結論を得ることが可能となる。適切な洗浄剤によって3D物体から剥離される非透過性の粒子は、一般的に、樹脂配合物のフィラーや顔料である。
【0010】
国際特許出願公開第2019/111208号に開示された光ベースの汚染センサによって判定される洗浄剤の汚染の程度は非常に不正確であり、洗浄剤の実際の洗浄能力に関連する結論をおおよそ可能にするだけであることが分かっている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、従来技術の欠点が生じないか或いは低減された程度にしか生じない、印刷された3D物体の洗浄のための装置及びその使用方法を提供することにある。
【0012】
この目的は、主請求項に記載された装置、及び、請求項13に記載されたその使用方法によって達成される。従属請求項は、有利な改良に関するものである。
【0013】
従って、本発明は、光硬化性樹脂配合物で印刷され、表面に付着し且つ非透過性及び不溶性の粒子を有する樹脂配合物の未硬化残渣を含む3D物体の後洗浄のための装置であって、液体洗浄剤で満たすことができ、洗浄すべき3D物体を受け入れるための撹拌器を有する洗浄室を備え、制御部に接続され、320nmから400nmの範囲の少なくとも1つの波長で洗浄剤の光学密度を判定する汚染検出器が、洗浄剤の残りの洗浄能力をチェックするために設けられ、汚染検出器は、洗浄剤中の予め決められたサイズを超える非透過性且つ不溶性の粒子がない状態に保たれた領域に配置され、制御部は、判定された光学密度から洗浄剤の洗浄能力を決定し、予め決められた最小洗浄能力が下回る場合に、対応する表示を出力するように構成されている、装置に関する。
【0014】
本発明は、更に、洗浄室に充填される液体洗浄剤を用いて、光硬化性樹脂配合物で印刷される3D物体を後洗浄し、3D物体の表面に付着し且つ非透過性及び不溶性の粒子を有する樹脂配合物の未硬化残渣を除去する、本発明に係る装置の使用方法に関するものである。
【0015】
本発明に係る装置によれば、非透過性の粒子による光の吸収に基づかない洗浄剤の洗浄能力の監視が、より正確で且つより確実であることが見出された。更に、本発明に係る装置によれば、洗浄すべき3D物体の表面が最適化される不溶性の研磨剤が分散された洗浄室内で洗浄剤を使用することも可能である(例えば、独国特許出願公開第10 2020 131 307.1号明細書参照)。
【0016】
このために、本装置は、汚染検出器を備える。当該汚染検出器は、測定結果の価値を低下させ得る、フィルタ部材によって予め定められたサイズを超える固体粒子が汚染検出器に到達しないように、フィルタ部材によって洗浄室から分離された領域に配置されている。
【0017】
汚染検出器は、320nmから400nmの範囲の1以上の波長、すなわち可視領域外の紫外線UV(A)領域で洗浄剤の光学密度を判定する検出器である。本発明は、適切な洗浄剤による印刷されたプリント3D物体の洗浄中に、洗浄剤に入る既知の樹脂配合物の構成要素が、少なくともかなりの程度、前述の波長範囲の電磁放射を吸収することを見出した。洗浄剤がこの波長範囲において吸収を有しないか又は基本的な吸収のみを有する場合、光学密度の増加により、洗浄剤の残りの洗浄能力に関する結論を得ることができる。非可視域の光学密度に基づいて洗浄剤の洗浄能力を判定することは、洗浄剤中の非透過性の固体粒子に関する測定よりもはるかに正確で信頼できる予測を可能にすることが分かっている。また、本発明に係る装置は、例えば、国際特許出願公開第2019/111208号に係る装置では不可能である、洗浄室内での不溶性の研磨剤の使用を可能にする。
【0018】
汚染検出器に接続された制御部は、判定された光学密度から、例えば指標値の形で、洗浄能力を導出するように構成されている。判定された洗浄能力が予め決められた最小洗浄能力を下回る場合、制御部は、ユーザが洗浄剤を交換できるように表示を出力する。
【0019】
基本的な洗浄能力、又はその低下だけでなく、予め決められた最小洗浄能力の値も、洗浄剤、又はその組成に依存し得る。制御部は、異なる洗浄剤に適したパラメータを提供してもよく、そこから、実際に使用される洗浄剤に適したパラメータが選択されてもよい。
【0020】
表示は、任意の所望の方法、例えば、洗浄装置自体の適切な光学的及び/又は音響的表示によって実施されてもよい。しかしながら、制御部は、別の装置、例えば上位装置に適切な表示信号を送信することも可能であり、その場合、上位装置は、適切に表示を自動的に処理し、及び/又はユーザにそれを出力する。
【0021】
本発明に係る装置の最大限の可変使用を可能にし、ユーザが洗浄剤に接触するリスクを最小にするために、洗浄剤のための交換可能な収納容器と、収納容器から洗浄室内へ、洗浄室から収納容器内へ、洗浄剤を送り出すためのポンプとを備え、汚染検出器は、収納容器と洗浄室との間のラインに配置され、汚染検出器と洗浄室との間にフィルタ部材が配置されることが好ましい。
【0022】
対応する収納容器及びポンプを設けることによって、実際の洗浄の間だけ洗浄剤を洗浄室に収容し、それ以外の時間は、洗浄剤を収納容器内にポンプで送り込むという効果を得ることが可能である。例えば、印刷された3D物体を洗浄室内に導入するとき、及び、そこから取り出すとき、洗浄室が洗浄剤で満たされないので、ユーザが洗浄剤に接触することを効果的に避けることができる。
【0023】
交換可能な収納容器を設けることによって、洗浄剤の交換を容易に行うことができる。なぜなら、洗浄剤が実際の洗浄の外側で収納容器に位置することによって、収納容器を交換するだけで、洗浄剤を交換することができるからである。また、本装置は、異なる洗浄剤を用いて容易に操作されることができる。
【0024】
収納容器と洗浄室との間のライン内での汚染検出器の好適な配置は、洗浄剤全体にわたって洗浄室への送液中又は洗浄室からの送液中に、洗浄剤の洗浄能力を、例えば平均値として判定可能であるという利点がある。汚染検出器が洗浄室自体に配置されている場合に局所的に発生する可能性のある、測定結果を狂わせるような影響は、このようにして回避することができる。更に、汚染検出器をライン内に配置することによって、当該ライン又はその少なくとも一部を交換又は適合させる必要があるだけで、本発明に係る装置を形成するように既存の洗浄装置を簡単に後付けすることができる。
【0025】
交換可能な収納容器が提供される場合、制御部によって読み出し可能であり、収納容器内に保持された洗浄剤の現在の洗浄能力が記録された記憶素子、好ましくはRFID素子を有することが好ましい。記憶素子には、収納容器内に収納された洗浄剤に関する情報項目、例えば、その名称及び/又は組成が記録されてもよい。また、記憶素子には、判定された光学密度から洗浄能力を導出するために制御部に要求されるパラメータが記録され、使用時に制御部によって読み出されてもよい。関連する情報項目が収納容器の記憶素子に記録されることによって、収納容器は、個々の装置で利用できない或いは緻密に集中管理される、洗浄能力の観点から関連する情報項目なしで、本発明に係る異なる装置で使用されることができる。
【0026】
制御部は、洗浄工程の前後にそれぞれ洗浄剤の光学密度を判定するように構成されることが好ましい。収納容器を備える場合、及び、収納容器と洗浄室との間のラインに汚染検出器が配置されている場合、洗浄室に洗浄剤を送液しながら又は洗浄室から洗浄剤を送液しながら、それぞれの測定が行われてもよい。
【0027】
洗浄工程の前後で対応する測定を行うことによって、洗浄による洗浄剤の劣化を確定することができる。制御部が、洗浄工程の前後における洗浄剤の光学密度の差から洗浄能力の低下を判定し、判定された洗浄能力の低下に応じて洗浄能力の出力値を適合させるように構成されることが好ましい。この出力値は、特に前回の洗浄工程の後に判定された洗浄能力を反映し、例えば収納容器の記憶素子に記録されてもよい。
【0028】
制御部は、光学密度から洗浄剤の洗浄能力を決定するため、及び/又は、洗浄工程の前後における光学密度の差を用いて洗浄能力の低下を判定するため、洗浄剤と3D物体とが製造される光硬化性樹脂配合物の組合せに対して予め決められた特性曲線を考慮するように構成されることが好ましい。これにより、異なる樹脂組成で構成される3D物体の洗浄に洗浄剤を使用することができる。特に、異なる樹脂組成で構成される3D物体の洗浄に洗浄剤を用いる場合、洗浄工程ごとに洗浄剤の洗浄能力のばらつきを正確に把握することができる。これにより、洗浄能力の推定が適切でないために、洗浄が不十分となったり、まだ使用可能な洗浄剤が廃棄されたりするリスクを低減することができる。
【0029】
洗浄工程後に残りの洗浄能力をできる限り正確に判定できるようにするために、制御部は、洗浄される3D物体の樹脂配合に関する情報項目を有することが有利である。これらの情報項目を供給するために、制御部は、3D物体が製造される光硬化性樹脂配合物に関連する情報項目の入力部を有することが好ましい。当該情報項目は、この入力部を介して、例えば、本発明に係る装置の上流にある3Dプリンタから利用可能にしてもよい。しかしながら、ユーザが当該情報項目を入力可能な入力端末、或いは、ユーザが適切なデータベースから当該情報項目を選択可能な入力端末が、入力部に接続されてもよい。
【0030】
洗浄剤としては、例えば、イソプロパノール、エタノール、アジピン酸ジメチル、ブチルジグリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPM)などを想定することができる。これらの物質が水と混和性を有する限り、それらは、好ましくは水性混合物としても用いられ、より好ましくは1以上の適切な表面活性物質(界面活性剤)と共に用いられてもよい。前述の洗浄剤は、ここで関連する波長範囲に吸収を持たないか、又は吸収がわずかであるという利点を提供する。
【0031】
原理的には、光学密度は1つの波長のみについて判定すれば十分であることが分かっている。この場合、特に、少なくとも1つの波長は、365nmから385nmの範囲で選択される波長であることが好ましい。
【0032】
汚染検出器の周囲の領域は、様々な方法で、洗浄剤中の予め決められたサイズを超える非透過性及び不溶性の粒子がない状態で保たれてもよい。例えば、汚染検出器による測定の前に、当該粒子が重力のために十分に沈降し、汚染検出器の領域にもはや存在しないように、洗浄剤を静止させてもよい。しかしながら、汚染検出器の周囲の領域を、洗浄剤中の予め決められたサイズを超える非透過性及び不溶性の粒子のない状態に保つために、フィルタ部材を設けることが好ましい。このようなフィルタ部材を使用すれば、洗浄剤中の非透過性及び不溶性の粒子の影響を受けることなく、汚染検出器による測定を任意の瞬間に行うことが可能になる。
【0033】
フィルタ部材は、好ましくは1mm以上、より好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.01mm以上又は0.001mm以上のサイズの固体粒子に対して不透過性である。フィルタ部材によって、3D物体から分離された研磨剤及び固体粒子は、その後、汚染検出器から確実に遠ざけられる。
【0034】
汚染検出器は、放射線源、例えば発光ダイオードからの放射線が、放射線センサで検出される前に、チェックされる洗浄剤を通してガイドされる透過型検出器として構成されてもよい。この場合、放射線源と放射線センサとは、調査する波長に適合していることが好ましい。その代替として、汚染検出器は、ATR検出器として構成されてもよい。この場合、洗浄剤の比較的高い光学密度が、1以上の特定の波長に対して判定されてもよい。
【0035】
汚染検出器又は更なる汚染検出器は、洗浄剤の屈折率を判定するための屈折計として構成され、制御部は、光学密度に加えて洗浄能力の判定において屈折率を考慮するように、又は、屈折率から洗浄剤の光学密度を導出するように構成されることが好ましい。屈折率の判定は、非常に小さな固体粒子(特にフィルタ部材の透過サイズ以下)の存在によって影響を受けない又はほとんど影響を受けないという利点を提供する。同時に、屈折率を洗浄剤の光学密度に近似的に変換するだけでも、屈折率は、洗浄剤の洗浄能力に関する一定の情報を提供することができる。経験的に決定された特性曲線又は変換係数に基づく対応する変換は、従来技術から知られている。
【0036】
本装置は、更に、洗浄剤の質量密度を判定するための装置、好ましくは比重計を備え、制御部は、洗浄剤の洗浄能力の判定において、装置によって判定された質量密度を考慮するように構成されてもよい。光学密度及び任意に屈折率に加えて、洗浄剤の質量密度を考慮することによって、洗浄剤の洗浄能力を更に正確に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下、添付図面を参照して有利な実施形態を用いて本発明を例示的に説明する。
【0038】
【
図1】本発明に係る装置の例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明に係る方法によって3D物体90としての歯科補綴物を後洗浄するために構成された洗浄装置1を示している。歯科補綴物90は、不溶性充填粒子を含む光硬化性樹脂配合物から従来技術に係る3D印刷法で製造されたものである。
【0040】
洗浄装置1は、液体洗浄剤20を受け入れるための洗浄室2を備えている。洗浄室2の底部は、グリルによって形成されている。このグリルは、0.1mmを超えるサイズの固体粒子用のフィルタ部材3として機能する。洗浄剤20に不溶性で、3D物体90から分離された対応するサイズの充填粒子のように、フィルタ部材3によって洗浄室2内に保持され、特にフィルタ部材3の下方の下部空間4に入ることができない0.1mmより大きい研磨剤21は、洗浄室2内で洗浄剤20に添加されている。
【0041】
下部空間4には、洗浄剤20をフィルタ部材3上にも移動させる撹拌器5が配置されており、撹拌器5が作動すると、研磨剤21が3D物体90に沿って運ばれる流れが歯科補綴物90の周囲に生じる。
【0042】
下部空間4には、RFID素子6'を備える交換可能な収納容器6につながるラインが接続されている。交換可能な収納容器6から洗浄室2へ、又は洗浄室2から交換可能な収納容器6へ、選択的に洗浄剤20を送出することができるポンプ7の他に、汚染検出器8が設けられている。汚染検出器8は、発光ダイオードを放射線源8'と放射線検出器8''として、ラインを挟んで対向する位置に配置して構成されている。放射線源8'及び放射線検出器8''は、それぞれ波長385nmの放射線に対応しており、それにより、ラインを流れる流体の光学密度を波長385nmの透過判定という形式で判定可能に構成されている。
【0043】
同様に下部空間4から出発して、洗浄室2、すなわち下部空間4と連通する容器9が設けられ、その中に、洗浄剤20の質量密度を判定することができるデジタル的に読み取り可能な比重計(areometer)10が配置されている。
【0044】
ポンプ7、汚染検出器8、及び比重計10は、汚染検出器8の測定データ及び比重計10の測定データを評価し、ポンプ7を駆動することができる制御部11に接続されている。制御部11は、更なる制御線(図示せず)を介して撹拌器5を制御してもよい。更に、制御部11は、交換可能な収納容器6のRFID素子6'からデータを読み取り、必要に応じて更新するように構成されている。制御部11には、制御部11から指示を送信し、制御部11によって情報項目が受信されるようにデータインタフェース12が取り付けられている。例えば、制御部11は、制御部11のためのユーザインタフェースを提供するコンピュータ端末13に接続されている。
【0045】
制御部11は、汚染検出器8によって判定された光学密度から洗浄剤20の洗浄能力を判定し、予め決められた最小洗浄能力を下回ると、データインタフェース12を介して、対応する表示を出力し、それが例えばコンピュータ端末13に表示されるように構成されている。
【0046】
次に、制御部による洗浄剤20の洗浄能力のチェックについて、本発明に係る洗浄装置1の使用方法に対応する例示的な洗浄工程を参照して説明する。洗浄能力は、指標値として規定され、指標値が高いほど、高い洗浄能力を反映している。洗浄剤20による更なる洗浄工程を可能にする最小許容指標値は、予め設定されている。
【0047】
初期状態において、洗浄室2には、洗浄剤が存在しない。研磨剤21は、単にフィルタ部材3上に緩く横たわっているだけである。
【0048】
洗浄される3D物体90は、ユーザによって洗浄室2に入れられる。更に、ユーザは、3D物体90が印刷された樹脂配合物を、コンピュータ端末13上でデータベースから選択する。これらの樹脂配合物に関する情報項目は、制御部11に提供される。
【0049】
更に、ユーザは、3D物体90の樹脂配合物に原理的に適した洗浄剤20を備える交換可能な収納容器6を装置1に設置する。この場合、制御部11は、交換可能な収納容器6のRFID素子6'からのデータを読み出すことにより、洗浄剤20の組成に関する情報項目の他に、交換可能な収納容器6に収容された洗浄剤20の洗浄能力に関する指標値も取得することができる。
【0050】
RFID素子6'から読み出される洗浄能力に関する指標値が予め決められた最小指標値を下回る場合、データインタフェース12及びコンピュータ端末13を介して、十分な洗浄能力を有する洗浄剤20を備える交換可能な収納容器6の挿入を要求することに対応する表示がユーザに出力される。
【0051】
RFID素子6'から読み出される指標値が、予め決められた最小指標値を上回る場合、実際の洗浄工程が開始される。このために、ポンプ7を用いて、洗浄剤20が交換可能な収納容器6から洗浄室2内に送り出される。この場合、洗浄剤20の光学密度は、汚染検出器8によってチェックされ、制御部の構成に応じて、RFID素子6'から読み出される洗浄能力の指標値をチェックするか、汚染検出器8をこの同じ値に較正するために使用される。
【0052】
全ての洗浄剤20が洗浄室2内に導入されると、洗浄剤20の質量密度が、比重計10によって判定され、汚染検出器8によって判定された光学密度の平均値とともに制御部11に一時的に記憶される。
【0053】
その後、撹拌器5が運転状態に設定される。それにより、洗浄剤20は、3D物体90の周囲を流れる。同時に、洗浄剤20に含まれる研磨剤21が洗浄室2内に分散されるため、3D物体90の表面処理に寄与する。
【0054】
予め決められた時間経過後、再び、撹拌器5が休止され、洗浄剤20の質量密度が比重計10で測定され、制御部11に送信される。その後、洗浄剤20は、ポンプ7によって洗浄室2から収納容器6に送り出され、汚染検出器8によって再び光学密度の平均値が判定され、制御部11に送信される。この場合、研磨剤21は、フィルタ部材3によって洗浄室2内に保持されるので、交換可能な収納容器6に入ることはない。
【0055】
フィルタ部材3によって保持されない粒子も交換可能な収納容器6から離れるように、例えば、ライン又は交換可能な収納容器6の領域、或いはそのために設けられた区画に、付加的なフィルタが設けられてもよい。
【0056】
洗浄剤20の全てが洗浄室2から送り出されると、ユーザは、洗浄された3D物体90を取り出すことができる。
【0057】
制御部11は、3D物体90の樹脂配合物の組成及び洗浄剤20の組成に関する情報項目と、洗浄工程の前後(それぞれの温度)における光学密度及び質量密度の測定値とから、それぞれ存在する樹脂配合物と洗浄剤20との組合せに対して制御部11に記録されている特性曲線を用いて洗浄能力の低下を判定してもよい。この低下は、指標値の差の形式で表され、RFID素子6'から読み出された指標値から直接差し引かれてもよい。洗浄剤20の「新しい」洗浄能力についてこのようにして決定された指標値は、RFID素子6'に記録されるので、交換可能な収納容器6に収容された洗浄剤20のそれぞれ現在の洗浄能力は、将来の洗浄工程のためにそこに保存される。
【0058】
洗浄剤20の洗浄能力に関する更新された指標値が、洗浄剤20による更なる洗浄工程を可能にする最小許容指標値を下回る場合、交換可能な収納容器6内の洗浄剤20は、更なる洗浄を可能にせず、廃棄されなければならないことに対応する表示が、インターフェース12及びコンピュータ端末13を介して出力される。
【国際調査報告】