(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/34 20060101AFI20230703BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230703BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230703BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230703BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230703BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230703BHJP
A61P 25/24 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
A61K31/34
A61K9/20
A61K47/02
A61K47/44
A61K47/38
A61K47/32
A61P25/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577091
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 KR2021007518
(87)【国際公開番号】W WO2021256844
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0072656
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522179714
【氏名又は名称】ホワン イン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ヨン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ユ-フン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、チャン-ミ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ホ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ソ-ヒョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD29C
4C076EE16B
4C076EE31
4C076EE52C
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF36
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZA12
(57)【要約】
本発明は、エスシタロプラムまたはその薬剤学的に許容される塩を含有し、滑沢剤として軽質無水ケイ酸または硬化油のうち少なくとも1種を含む薬剤学的組成物に関し、PTP包装時にも、活性成分の含量の低下または類縁物質の発生を最小化させることができる、安定性が向上した錠剤を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスシタロプラムまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する薬剤学的組成物であって、
滑沢剤として軽質無水ケイ酸または硬化油のうち少なくとも1種を含む薬剤学的組成物。
【請求項2】
滑沢剤として軽質無水ケイ酸及び硬化油を含む請求項1に記載の薬剤学的組成物。
【請求項3】
錠剤剤形である請求項1または請求項2に記載の薬剤学的組成物。
【請求項4】
希釈剤及び崩壊剤をさらに含む請求項3に記載の薬剤学的組成物。
【請求項5】
希釈剤としてケイ化微結晶セルロースを含む請求項4に記載の薬剤学的組成物。
【請求項6】
崩壊剤としてクロスポビドンを含む請求項4に記載の薬剤学的組成物。
【請求項7】
前記錠剤剤形は、コーティング層でコートされている請求項3に記載の薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスシタロプラムを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エスシタロプラム(escitalopram)は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitor)系抗うつ薬物であって、その構造は、下記の化学式1の通りである。
【0003】
【0004】
エスシタロプラムは、他のSSRI系抗うつ薬とは異なり、適応症が広範囲であり、効果の発現が速く、治療の効果及び耐薬性に優れ、うつ病の治療及び再発防止のための1次薬剤として用いられており、現在、錠剤に製剤化されて市販されている。
【0005】
米国薬局方(USP 42:エスシタロプラム錠項目)では、エスシタロプラム錠剤の類縁物質の含量について、下記のような規格を定めている:
【0006】
【0007】
また、前記USPでは、全体の類縁物質の総合が2.0%以下でなければならないと規定している。
【0008】
一方、前記シタロプラム関連化合物A、B、C及びEは、それぞれ、下記のように定義されている:
【0009】
シタロプラム関連化合物A:
1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-(4-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキサミド);
【0010】
シタロプラム関連化合物B:
1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-(4-フルオロフェニル)-3-ヒドロキシ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル;3-ヒドロキシシタロプラム;
【0011】
シタロプラム関連化合物C:
(3-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-(4-フルオロフェニル)-6-シアノ-1(3H)-イソベンゾフラノン;
【0012】
シタロプラム関連化合物E:
1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1-(4-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル-N-オキシド
【0013】
前記USPでは、エスシタロプラム錠剤を密閉容器(well-closed container)に保管するように規定しているが、実際では、殆どのエスシタロプラム錠剤医薬品は、プラスチック容器型の気密容器(tight container)に30錠乃至200錠を入れて保管及び流通させている。
【0014】
このように、プラスチック容器に錠剤を入れて保管及び流通する場合、プラスチック容器を開封しないうちは、錠剤への水分及び酸素等の侵入が十分に遮断される程度に気密状態が維持される。しかしながら、薬物の服用のために開封した瞬間から、水分及び酸素等の侵入を十分に遮断することができないので、医薬品の分解及び類縁物質の生成等が生じ得る。したがって、プラスチック容器によって保管及び流通されるエスシタロプラム医薬品の安定性を担保することができない。
【0015】
このような安定性の問題は、患者が家で医薬品をプラスチック容器に保管して服用する場合に限らず、薬局でプラスチック容器に保管された錠剤を小分けにする場合において同様に生じ得る。
【0016】
したがって、このようにプラスチック容器の開封後における安定性の問題を解消するために、PTP(press through package)包装等でそれぞれの錠剤を個別包装することが好ましい。
【0017】
しかしながら、PTP包装時、それぞれの錠剤が包装されている空間毎に、除湿剤及び/または抗酸化剤を一緒に入れて包装することができないので、PTPの開封前、既に安定性が低下している恐れがある。すなわち、医薬品の開封前は、医薬品の安定性の側面において、PTP包装がプラスチック容器による保管よりも不利であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ここに、本発明者は、エスシタロプラム錠剤として、PTP包装時にも、安定性が十分に担保される錠剤を開発しようと研究した結果、特定成分の滑沢剤を用いる場合、PTP包装が可能であるとともに、活性成分の含量の低下または類縁物質の発生を最小化させる錠剤を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
したがって、本発明は、安定性が向上したエスシタロプラム錠剤を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、エスシタロプラムまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する薬剤学的組成物に関し、具体的に、滑沢剤として、軽質無水ケイ酸または硬化油のうち少なくとも1種を含むエスシタロプラム含有薬剤学的組成物に関する。
【0021】
本発明の薬剤学的組成物は、錠剤剤形であってもよく、好ましくは、コーティング層でコートされてもよい。
【0022】
本発明において、滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸または硬化油のうち少なくとも1種を含んでもよく、好ましくは、滑沢剤として、軽質無水ケイ酸及び硬化油を全て含む。
【0023】
本発明による薬剤学的組成物において、軽質無水ケイ酸及び硬化油は、それぞれ薬剤学的組成物の総重量に対して、1~10%の含量、好ましくは、1~5%の含量で含まれてもよい。
【0024】
本発明による薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される希釈剤及び崩壊剤をさらに含んでもよい
【0025】
例えば、本発明において、希釈剤としては、ケイ化微結晶セルロース、乳糖、澱粉、白糖、糖アルコール、リン酸カルシウムのような無機塩、結晶性セルロース等が用いられてもよく、好ましくは、ケイ化微結晶セルロースを用いる。
【0026】
本発明において、崩壊剤としては、クロスポビドン、澱粉、カルボキシメチルセルロース、結晶性セルロース等が用いられてもよく、好ましくは、クロスポビドンを用いる。
【0027】
本発明による薬剤学的組成物は、PTP包装時にも、類縁物質の生成を抑制して安定性を向上させる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、PTP包装時にも、活性成分の含量の低下または類縁物質の発生を最小化させることができる、安定性が向上した錠剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかしながら、下記の実施例は、本発明の内容を例示するものであるだけで、本発明の範囲が、下記の実施例によって限定されるものではない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に、本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。
【0030】
実験例1:滑沢剤を変えたそれぞれの錠剤の製造
下記の表2の造成に従い、滑沢剤を変えて、それぞれの錠剤を製造した。
【0031】
具体的に、それぞれの造成の含量に合わせて成分を秤量して混合した後、この混合物から直接打錠法で核錠を製造し、製造された核錠をコーティング層でコートして錠剤を製造した。
【0032】
【0033】
実験例2:加速実験による類縁物質の分析
上記した比較例1乃至6に従って製造された錠剤を、それぞれPTPで包装し、それぞれの錠剤がPTP包装されたまま、韓国食品医薬品安全処告示「医薬品等の安定性試験基準」による加速試験条件(すなわち、温度40±2℃、相対湿度75±5%)で生成される類縁物質を分析した(それぞれの試験における試験錠剤数n=3)。
【0034】
分析の結果は、下記の表3乃至表8の通りである:
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
*)上記した表3乃至表8において、RRT=0.43、RRT=1.34、及びRRT=0.67は、それぞれエスシタロプラム化合物に対する相対的停留時間が0.43、1.34、及び0.67である時点で、クロマトグラフィによって溶離される化合物を意味する。
【0042】
前記分析の結果、滑沢剤として軽質無水ケイ酸または硬化油を用いた場合、類縁物質、特に化合物Cの生成量が最も少ないことが明らかになった。これに対して、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを用いた場合は、4週間の加速試験後、化合物Cの含量が0.41%と示され、許容基準値に殆ど近接する結果を示した。
【0043】
したがって、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを選択することは、エスシタロプラム錠剤をPTP包装する場合、安定性の側面において好ましくないことが分かる。
【0044】
実験例3:錠剤の製造
下記の表9の造成に従って、本発明で製造される錠剤(実施例)と、対照群として用いられる錠剤(比較例)とをそれぞれ製造した。
【0045】
具体的に、それぞれの造成の含量に合わせて成分を秤量して混合した後、この混合物から直接打錠法で核錠を製造し、製造された核錠をコーティング層でコートして錠剤を製造した。
【0046】
【0047】
【0048】
実験例4:打錠性の問題
核錠の製造過程において、滑沢剤としてベヘン酸グリセリル及びステアリン酸を用いた比較例8は、滑沢力が不足であり、打錠時、下ポンチに粉末がつくスティッキング現象が発生した。したがって、打錠性の側面において、上記した比較例8の造成は適合していないことが確認された。
【0049】
実験例5:苛酷試験による類縁物質の分析
上記した実施例1と2及び比較例7乃至9に従って製造された錠剤を、それぞれPTPで包装し、それぞれの錠剤がPTP包装されたまま、韓国食品医薬品安全処告示「医薬品等の安定性試験基準」及びICHガイドラインによる苛酷試験条件(すなわち、温度60±2℃、相対湿度80±5%)で生成される類縁物質を分析した(それぞれの試験における試験錠剤数n=3)。
【0050】
分析の結果は、下記の表11乃至表15の通りである。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
**)上記した表11乃至表15において、RRT=0.43は、エスシタロプラム化合物に対する相対的停留時間が0.43である時点で、クロマトグラフィによって溶離される化合物を意味する。
【0057】
前記分析の結果、滑沢剤として軽質無水ケイ酸及び硬化油を用いた実施例1及び2の錠剤において、類縁物質、特に化合物Cの生成量が最も少ないことが明らかになった。
【0058】
これに対して、滑沢剤としてタルク及びステアリン酸マグネシウムを用いた比較例7の錠剤は、不純物Cが0.48%も生成されて、許容基準値に近接した。したがって、前記苛酷試験によれば、比較例7は、安定性試験において、不純物Cの許容基準値を超過する可能性が極めて高い。
【0059】
また、滑沢剤としてベヘン酸グリセリル及びステアリン酸を用いた比較例8は、実施例1または2よりも、不純物Cがさらに多く生成され、上述したように、打錠性が不良であった。また、比較例9の錠剤も、不純物Cが0.45%も生成され、殆ど許容基準値に近接し、また、安定性試験中に錠剤が柔らかくなり、性状安定性の問題が発生した。
【0060】
したがって、本発明によって、滑沢剤として軽質無水ケイ酸及びステアリン酸マグネシウムを用いた実施例1及び2のエスシタロプラム錠剤が、安定性に最も優れ、PTP包装時にも、類縁物質の発生を最小化することが確認された。また、打錠工程でも、粉末の流れ性及び打錠性の側面において問題が発生せず、製造工程の側面でも優れた。
【0061】
実験例6:苛酷試験による類縁物質中の不純物Cの分析
プラスチック瓶に包装されている既存のエスシタロプラム10mgの市販製品のうち4種の製品(下記の表16の対照薬A乃至D)を選択し、プラスチック瓶を開封するやいなや、一部の錠剤を得て、直ちにPTP包装した後、PTP包装されたまま、それぞれの錠剤に対して苛酷試験を行い(温度60±2℃、相対湿度80±5%)、生成される不純物Cの量を分析し、その結果を上記した実施例1の試験結果と比較した(それぞれの試験における試験錠剤数n=3)。
【0062】
分析の結果は、下記の表16の通りである。
【0063】
【0064】
***)それぞれの対照薬において用いられた滑沢剤は、下記の通りである:
対照薬A:軽質無水ケイ酸及びステアリン酸マグネシウム;
対照薬B:タルク及びステアリン酸マグネシウム
対照薬C:ステアリン酸マグネシウム
対照薬D:ステアリン酸マグネシウム
【0065】
前記分析の結果、滑沢剤として軽質無水ケイ酸及び硬化油を用いた実施例1の錠剤において、化合物Cの生成量が最も少ないことが明らかになった。
【0066】
これに対して、市販中の製品の大部分において、PTP包装時、化合物Cの生成量が許容基準値を超過しており、超過していない製品でも、化合物Cの生成量が実施例1よりも遥かに多かった。
【0067】
したがって、本発明による実施例1のエスシタロプラム錠剤が、既存の市販中の製品に比べても、安定性にさらに優れ、PTP包装時にも、類縁物質の発生を最小化することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、安定性が向上したエスシタロプラム錠剤を提供する。
【国際調査報告】