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特表2023-529559コーティングを付着させる方法及び装置及び被覆体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-11
(54)【発明の名称】コーティングを付着させる方法及び装置及び被覆体
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
C23C14/34 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567531
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(85)【翻訳文提出日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2021066499
(87)【国際公開番号】W WO2021255201
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】102020116157.3
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509338824
【氏名又は名称】セメコン アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】ケルカー ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ボルツ ステファン
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA03
4K029BA07
4K029BA17
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA44
4K029BA55
4K029BA58
4K029BA60
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC05
4K029DC35
4K029DC39
4K029JA03
(57)【要約】
本発明は、層(64)をボディ(60,62)に適用するための方法及び装置(10)及び被覆体(60)に関する。ボディ(60,62)は真空チャンバー(12)内に配置され、プロセスガスが供給される。プラズマは、カソードパルスでカソード電圧(V)を印加することによってカソード(30)を作動させ、ターゲット(32)をスパッタリングすることにより、真空チャンバー(12)内で生成される。バイアス電圧(VB)がボディ(60,62)に印加されて、プラズマの電荷キャリアがボディ(60,62)の方向に加速され、その表面に付着する。コーティング(64)の好ましい特性を制御された方法で達成するべく、バイアス電圧(V)のタイムコースが、コーティング継続期間(D)において変化する。ボディ(60,62)の層(64)において、層(64)の材料は、希ガスの割合を含み、層(64)内の希ガスの濃度は層厚さに亘って変化する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層(64)をボディ(60)に適用する方法であって、
前記ボディ(60)を真空チャンバー(12)内に配置し、
前記真空チャンバー(12)内にプロセスガスを供給し、
カソードパルス(50)でカソード電圧(V)を印加して、少なくとも一つのカソード(30)を作動させて前記真空チャンバー(12)内にプラズマを生成し、及びターゲット(32)をスパッタリングし、
前記プラズマの電荷キャリアが前記ボディ(60)の方向に加速されて、コーティング継続期間(D)中にその表面に付着するように、前記ボディ(60)にバイアス電圧(V)を印加し、
前記バイアス電圧(V)のタイムコースが、前記コーティング継続期間(D)中に変化する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記バイアス電圧(V)の前記タイムコースは、少なくとも前記コーティング継続期間(D)の一部の間においてバイアスパルス(52)を含み、前記バイアスパルス(52)は、前記カソードパルス(50)と同期され、
前記コーティング継続期間(D)中の前記バイアス電圧(V)の前記タイムコースの変化は、少なくとも
a)バイアスパルス(52)を伴うパルスバイアス電圧(V)からDC電圧へ、又は、DC電圧からバイアスパルス(52)を伴うパルスバイアス電圧(V)への前記バイアス電圧(V)の変化、
及び/又は
b)前記カソードパルス(50)に対する前記バイアスパルス(52)の継続時間及び/又は同期の変更、
を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層(64)中のプロセスガスの割合は、前記バイアス電圧(V)の前記タイムコースに依存し、
前記コーティング継続期間(D)中の前記タイムコースの変化によって、前記層(64)中のプロセスガスの割合が変化する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイアス電圧(V)の前記タイムコースは、少なくとも第1の時間間隔においてバイアスパルス(52)を含み、
前記バイアス電圧(V)は、少なくとも別の時間間隔においてDC電圧である、
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記バイアス電圧(V)の前記タイムコースは、少なくとも第1の時間間隔(170a,270a,370a)においてバイアスパルス(52)を含み、
前記バイアスパルス(52)は、前記カソードパルス(50)と同期され、
前記バイアスパルス(52)は、前記カソードパルス(50)に対して遅延時間(T)だけ遅れて発生する、
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記第1の時間間隔(170a、270a、370a)において、前記バイアスパルス(52)は、前記カソードパルス(50)に対して第1の遅延時間(T)だけ遅れて発生し、
前記バイアス電圧(V)の前記タイムコースは、少なくとも第2の時間間隔(170b,270b,370b)において、前記カソードパルス(50)と同期し、前記カソードパルス(50)に対して第2の遅延時間(T)だけ遅れて発生するバイアスパルス(52)を含み、
前記第1及び前記第2の遅延時間(T)は異なる、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の時間間隔(17oa,270a,370a)及び/又は前記第2の時間間隔(170b,270b,370b)の継続時間は、その間に、前記層が0.1μm-3μmだけ成長するように選択される、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の時間間隔(170a,270a,370a)は、前記コーティング継続期間(D)内において、前記第2の時間間隔(170b,270b,370b)の前であり、
前記第1の時間間隔(170a,270a,370a)における前記遅延時間(T)は、前記第2の時間間隔(170b,270b,370b)におけるよりも短い、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の時間間隔(170a,270a,370a)は、前記コーティング継続期間(D)の開始時である、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記遅延時間(T)は、移行時間間隔において、第1の値から第2の値へ、段階的又は連続的に変化する、
ことを特徴とする請求項5ないし9いずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記移行時間間隔の継続時間は、その間に、前記層が0.5μm-20μmだけ成長するように選択される、
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1のスイッチングサブインターバル(670a)において、前記遅延時間(T)は、第1の値を有し、第2のスイッチングサブインターバル(670b)において、前記遅延時間(T)は、第2の値を有し、
スイッチング時間間隔において、第1及び第2のスイッチングサブインターバル(670a,670b)が交互に続く、
ことを特徴とする請求項5ないし11いずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記第1及び/又は前記第2のスイッチングサブインターバルの継続時間は、この時間内に、前記層が5-500μmだけ成長するようにそれぞれ選択される、
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記カソード(30)は、HIPIMS法に従って前記カソードパルス(50)を印加することによって操作され、前記プロセスガスはアルゴンである、
ことを特徴とする請求項1ないし13いずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
ボディに層を適用するための装置であって、
前記ボディ(60)のためのキャリア(22),プロセスガス供給源(16),及びターゲット(32)を有する少なくとも一つのカソード(30)を備えた真空チャンバー(12)と、
前記カソード(30)に、カソードパルス(50)でカソード電圧(V)を供給するためのパルスカソード電源(40)と、
前記ボディ(60)にバイアス電圧(V)を印加するための制御可能なバイアス電源(42)と、
コーティング継続期間(D)において、前記バイアスパルス(52)のタイムコースが変化するように、前記バイアス電源(60)を制御するコントローラ(48)と、
を備えた、装置。
【請求項16】
基材(62)と、
カソードスパッタリングによって前記基材(62)の表面に適用され、層厚さ(d)を有する層(64)と、を備えた被覆体であって、
前記層(64)は、Al,Si,Y,及びIUPAC(1988)による周期表の4-6族の元素を含む群からの少なくとも一つの元素、及びN,O,C,Bの群からの少なくとも一つの元素を含む材料からなり、
前記層(64)の材料は、希ガスの割合を含み、
前記層(64)中の前記希ガスの濃度は、前記層厚さ(d)に亘って変化する、
ことを特徴とする被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディ(物体)に層を付着させるための方法及び装置、並びに被覆体(コーティングされたボディ)に関する。特に、本発明は、カソードスパッタリングによって生成されるコーティング(被覆)に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的又は化学的特性を改善するために、ボディ又はボディの一部に表面コーティングを施すことが知られている。特に、摩耗しやすい工具や部品の場合、機能面にコーティング(被覆)を施すことが知られている。特に、硬質物質層がコーティングとして知られている。
【0003】
薄いコーティングを形成するために、CVD法に加えて、特にPVDコーティング法、特にカソードスパッタリング法が知られている。
【0004】
WO2014/063676A1には、クロム、窒素、及び炭素からなるコーティングを備えた部品が記載されており、これはカソードアーク蒸着によるPVD法で適用される。真空チャンバー内に希ガスが導入され、最初に-800~-1200Vのバイアス電圧を使用してイオンエッチングが行われる。その後、バイアス電圧が低い値に設定され、層が適用(付着)される。アルゴンが希ガスとして使用されることができ、又、ネオンは、埋め込まれたアルゴンよりも内部応力が低くなる。
【0005】
WO2013/045454A2には、基材をコーティングするための方法及び装置が記載されている。スパッタリングターゲットを備えたマグネトロンカソードが、真空チャンバー内に配置されている。カソードのいくつかは、HIPIMSカソードであり、すなわち、HIPIMS電源による電圧パルスの形態の電力で作動させられる。コーティングされる基材にバイアス電圧が印加され、この電圧は、好ましい実施形態では、カソードでHIPIMSパルスによって生成される多数の金属イオンによって特徴付けられる期間の少なくとも一部の間において印加されるように、カソードにおける電圧パルスと同期したパルスを有する。したがって、より長い又は連続的なDCバイアスのために適用されるパルスと比較して、より少量のプロセスガス、例えばアルゴンが、層に埋め込まれる。
【0006】
US2008/0135401A1には、基材上にコーティングを生成するために、マグネトロンカソード上で0.1から10A/cmの間の電流密度でターゲットをスパッタリングする装置が記載されている。この装置は、マグネトロンに接続された電源と、電源に接続されたコンデンサとを備える。第1パルスと協調してマグネトロンを充電するために、第1スイッチが電源をマグネトロンに接続する。バイアス装置が、基材バイアスを設定するために基材に接続される。バイアスは、例えば、パルスモードのRF電力として適用され、HIPIMSパルスと同期される。同期装置は、第1パルスの周波数と時間的な遅延を同期させる。
【0007】
EP3457428A1には、半導体基板を処理するための方法及び装置が記載されている。パルス同期コントローラは、パルスRFバイアス発生器とHIPIMS発生器の間に接続される。第1のタイミング信号は、パルス同期コントローラからパルスRFバイアス発生器及びHIPIMS発生器に送られる。基板キャリア上のスパッタリングターゲット及びRF電極は、第1のタイミング信号に基づいて通電され、そのタイミング信号の終わりで通電が切られる。第2のタイミング信号は、パルス同期コントローラからパルスRFバイアス発生器に送られ、電極が、第2のタイミング信号に基づいてターゲットが通電されることなく、通電及び非通電とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2014/063676A1
【特許文献2】国際公開WO2013/045454A2
【特許文献3】米国特許出願公開US2008/0135401A1
【特許文献4】欧州特許出願公開EP3457428A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当該目的としては、特に、好ましい層特性が制御された方法で達成され得る、ボディ(物体)に層を適用する(付着させる)ための方法及び装置、及び被覆体(コーティングされたボディ)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の方法、請求項15に記載の装置、及び請求項16に記載の被覆体によって解決される。従属請求項は、本発明の有利な実施形態に言及する。
【0011】
本発明者等は、カソード(陰極)にパルス電圧を印加しながらカソードスパッタリングによって層を生成する場合、バイアス電圧の時間的な曲線によって層組成を異なるように決定できるという考察から出発した。バイアス電圧がDC電圧として印加されるかパルス電圧として印加されるかに応じて、又、パルス電圧の場合はカソードでのパルスとの時間的同期の関数として、異なる時点でプラズマ内に存在する成分が、制御された方法で選択され、又、層の形成に使用され得る。特に、HIPIMS法におけるように、プラズマ中に存在するガスイオンの時間的曲線が金属イオンの時間的曲線と異なる場合、金属イオンに対するガスイオンの割合は、バイアス電圧のタイムコース(経時的に変化する経路、経時的軌跡)によって制御された方法で設定され得る。
【0012】
コーティング継続期間に亘って同じままであるバイアス電圧の適切なタイムコースによって層の所望される組成を達成するという既知の教示とは対照的に、当該発明者等は、コーティング継続期間中のバイアス電圧のタイムコースの変化を通して制御された方法で層の厚さに亘って層の異なる組成を達成することを提案する。これは、層内のガスイオンは一般に望ましくなく、常に最小限に抑える必要があるという以前の理解に反して、当該発明者等は、ボディの望ましい用途、層構造、一般的な層特性、基材のタイプ等に応じて、層の特定の領域、例えば、層表面の本事例に応じて、界面領域、又は、層の中間領域におけるガスイオンの割合は、その割合が層の厚さによって変化し、制御された方法で設定できる限り、実際には有利である可能性がある、ということを認識したからである。
【0013】
検討中のガスイオンは、主に、真空チャンバー内でプロセスガスとして使用される希ガス、特にアルゴンのイオンである。
【0014】
したがって、アルゴンの割合が比較的高い場合、非常に高い硬度と高い内部応力を備えた層、つまり硬くて脆い層を実現できるが、アルゴンを含まない又はその割合が低い層は、比較的延性がある、とうことが示された。驚くべきことに、ハードマシニング(硬質材加工)等のいくつかの用途では、少なくとも層表面に高い内部応力を持つ層が、例えば高い切削性能など、特に良好な結果を達成することが示された。一方、アルゴンの割合が低いためにむしろ延性のある層の割合は、例えば界面領域で、例えば、基材への良好な付着を達成するため、又はボディの使用目的に応じて、例えば工具として、層表面の領域において、例えばトライボロジー特性や慣らし挙動に関して、非常に好ましい特性を有する。
【0015】
所望の層形成及びこれから得られる特性の制御された設定を可能にするために、ボディに層を適用する(付着させる)ための本発明による方法は、ボディが真空チャンバー内に配置され、プロセスガス、例えば希ガス、好ましくはアルゴンを供給することによって、一つ又はそれ以上のカソードを作動させることによってプラズマが生成され、少なくとも一つのターゲットがスパッタされる。カソードは、好ましくはマグネトロンカソード、特に不平衡マグネトロンであり、ターゲット材料、好ましくは一つ又はそれ以上の金属で形成されたターゲットを備え、その材料は、プラズマがガスイオンと金属イオンを含むようにスパッタリングされる(マグネトロンスパッタリング)。
【0016】
本発明によれば、少なくとも一つのカソード(陰極)は、定電圧ではなく、時間的に間隔を置いたカソードパルスを有するパルスカソード電圧によって作動される。好ましくは、一つ又はそれ以上のカソードがHIPIMS法(高出力インパルスマグネトロンスパッタリング)に従って操作され、そこでは、高電圧の短いカソードパルスが印加され、非常に高いピーク電力が達成される。ここで、HIPIMS法は、特に、可能な例示的実施形態の一部として以下に述べるパラメータ領域内での操作を意味すると理解される。
【0017】
コーティング継続期間の少なくとも一部の間中において、プラズマの電荷キャリアがボディの方向に加速されて層としてその表面に付着するように、コーティングされるボディにバイアス電圧が印加される。本発明による方法は、コーティング継続期間中にバイアス電圧のタイムコースが変化することを特徴とする。
【0018】
バイアス電圧のタイムコースは、DC電圧の場合、少なくとも部分的(セクション)に一定のタイムコース又は可変のタイムコース、特にパルス状のタイムコースであり得る。コーティング継続期間中のタイムコースの変動は、任意の変化として、つまり、例えば、DC電圧から、時間的に変化するタイムコースを伴う電圧、特にパルス電圧への切り替え、又は、連続的に時間的に変化する定期的なタイムコースの場合において、周波数又は位相位置の変化として、理解することができる。特に、タイムコースの可能な変化は、コーティング継続期間中の時間又は間隔の様々な時点で異なるカソードパルスとの時間的な同期を含む。説明したように、層の組成は、バイアス電圧のタイムコースによって影響を受け得る。一方、例えば、一定のバイアス電圧で、プラズマの全てのイオンは、ボディに向かう方向に一様に加速され、パルスバイアス電圧によって、そのバイアスパルスは、カソードパルスと時間的に同期され、つまり、同じ周波数と固定された位相関係で印加され、選択された時点でプラズマ内に存在するイオン種が、それぞれ選択されて、パルスの継続時間と時間的な位置によってアイテム(物体)の方向に加速され得る。
【0019】
したがって、コーティング継続期間中に変化するタイムコースを有するバイアス電圧は、セクション(区切られた部分)又は全体を通してパルス曲線を有することができ、カソードパルスとの同期は、コーティング継続期間に亘って変化することができる。同様に、バイアス電圧のタイムコースは、一つ又はそれ以上の時間的なセクションにおいてDC電圧曲線であり、一方、他のセクションにおいて、パルス化されたタイムコースが適用され得る。
【0020】
好ましくは、バイアス電圧のタイムコースは、少なくともコーティング継続期間の一部の間中パルス化され、すなわち、バイアス電圧は、カソードパルスと同期する、すなわち、同じ(又はそれぞれ、あるいは、倍数の)周波数及び固定位相関係で印加されるバイアスパルスを含む。そのパルスは、好ましくはDC電圧パルスであり、すなわち、少なくとも基本的に一定のバイアス電圧が、好ましくはパルス継続時間中に印加される。したがって、バイアスパルスが有効であるカソードパルスに対する時間は、それぞれのパルス継続時間及びカソードパルスに対する時間的位置(すなわち、カソードパルスの開始前又は開始後のパルスのそれぞれの開始の時間差、時間差はゼロになる可能性もある)によって特徴付けることができる。コーティング継続期間中のバイアス電圧のタイムコースの本発明による変化は、以下の変化の一方または両方を含むことができる。
a)バイアスパルスを伴うパルスバイアス電圧からDC電圧への、又は、DC電圧からバイアスパルスを伴うパルスバイアス電圧への、バイアス電圧の変化、
及び/又は
b)カソードパルスに対するバイアスパルスの継続時間及び/又は同期(すなわち、例えば時間差)の変化、ここでは、継続時間及び/又は同期の変化は、例えばランプカーブ(傾斜曲線)の形で、突然又は連続的であり得る。
【0021】
いずれの場合も、バイアス電圧のタイムコースの変化により、層の成長が進行するにつれて層が得られるように、コーティング継続期間中の時間又は間隔の異なる時点で層成長の異なる条件が生じ、構造及び/又は組成が層の厚さに亘って異なる層が得られる。したがって、層の様々な領域において、特に適切な特性、例えば、基材への良好な付着、硬く又は滑らかな表面等を達成することが可能である。
【0022】
本発明による装置は、本発明による方法を実行するのに適している。これは、ボディのキャリアを備えた真空チャンバー、プロセスガス供給源、及びターゲットを備えたカソードを含む。カソードは、カソード電源に接続され、ボディ又はそのキャリアは、それぞれ制御可能なバイアス電源に接続される。カソードパルスを有するカソード電圧は、カソード電源、好ましくはHIPIMS電源によって生成され、バイアス電圧は、バイアス電源によって生成される。ここでは、コントローラが設けられており、それにより、バイアス電圧のタイムコースがコーティング継続期間中に変化するように、バイアス電源を制御することができる。
【0023】
コントローラは、特にプログラマブルコントローラであることができ、それにより、好ましくはバイアス電源に加えて、コーティング装置の他の機能、特に、様々なカソードと、プロセス及び/又は反応性ガスの供給を、コーティングプログラムに従って時間依存的に制御することができる。
【0024】
本発明によるコーティングされたボディ(被覆体)は、例えば、本発明による方法及び/又は本発明による装置によって製造することができる。ボディは、例えば、鋼、特にHSS又はCrMo鋼、カーバイド、セラミック材料、又はcBN(立方晶窒化ホウ素)で作られた、例えばベースボディであり得る基材を含む。基材は、例えば、特に機械加工用の工具、例えばドリル、ミリングカッター(フライスカッター、フライス)、スローアウェイチップ(交換可能なインサート)、パンチング(打ち抜き)又はスタンピング(打刻)工具等であり得る。
【0025】
カソードスパッタリングによって適用された層材料からなる層が、基材の表面上に配置される。本発明による層材料は、アルミニウム(Al),シリコン(ケイ素)(Si),イットリウム(Y),及びIUPAC(1988)による周期表の第4-6族の元素を含む第1群からの少なくとも一つの元素と、窒素(N),酸素(O),炭素(C),及びホウ素(B)を含む第2群からの少なくとも一つの元素を含む。第1群及び第2群の元素の選択は、材料系として言及され得る。好ましい材料系は、主に窒素と、第1群の一つ以上の元素、特にチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、及び/又はクロム(Cr)を含む。ここでは、材料系は、化学結合を示さずに、それぞれの元素にハイフンを付けて示される。特に好ましい層系は、窒化アルミニウムチタン(Al-Ti-N)、窒化チタン(Ti-N)、窒化チタンアルミニウムシリコン(Ti-Al-Si-N)、窒化チタンアルミニウムクロムシリコン(Ti-Al-Cr-Si-N)、ホウ化チタン(TiB)、炭窒化チタン(Ti-C-N)、炭窒化チタンアルミニウム(Al-Ti-C-N)、窒化クロム(Cr-N)、窒化ジルコニウム(Zr-N)、及び炭化チタン(Ti-C)である。各材料系の示された元素は、それらの相対原子量の順に列挙されることが好ましい。
【0026】
また、層材料は、希ガス、好ましくはアルゴンの割合(部分)も含む。ここで、本発明によるボディでは、層内の希ガスの濃度は、層の厚さにわたって変化する。すなわち、層内の希ガスの異なる濃度は、層表面又はそれぞれの基材から層の考えられる各位置の距離に応じて、層の異なる位置に生じる。
【0027】
希ガスは、カソードスパッタリングによって層を適用するときに使用されるプロセスガスであり、好ましくはアルゴンである。上述のように、層内のプロセスガスの割合を制御することは、特にバイアス電圧のタイムコースを適切に選択することによって可能であり、その結果、所望される濃度プロファイルが、層厚さに亘って制御された方法で設定されることができる。
【0028】
本発明による方法の有利な展開は、特に、バイアス電圧のタイムコースの変化のタイプに関する。有利なことに、説明したように、層内のプロセスガスの割合がバイアス電圧のタイムコースに依存することは、適切な用途によって達成され得る。コーティング継続期間中のタイムコースの変化により、層の厚さにわたって変化する層中のプロセスガスの所望の割合をこのようにして達成することができる。
【0029】
本発明による方法、本発明による装置、及び本発明によるコーティングされたボディ(被覆体)の一部として、様々な実施形態が可能である。したがって、バイアス電圧は、好ましくは、コーティング継続期間内の少なくとも第1の時間間隔(インターバル)中にパルス形状のタイムコースを有する、すなわち、ここでは“バイアスパルス”と呼ばれる電圧パルスを含む。バイアスパルスは、好ましくはカソードパルスと同期される、すなわち、同じ周波数(又は、周波数の一つは、同期を表す他の周波数の倍数である周波数)を有する。一方、バイアスパルスとカソードパルスが常に同時に開始する同期も可能であり、バイアスパルスの導入時間も可能であるが、バイアスパルスは、カソードパルスに対してある遅延時間だけ遅れて発生することが好ましく、すなわち、それらの始まりは時間的にカソードパルスの始まりの後になる。遅延時間は、例えば、5-150μsの範囲であり、それぞれの場合に好ましいイオンに応じて選択される。バイアスパルスの継続時間は、例えば、30-150μs、好ましくは50-100μsの範囲である。
【0030】
コーティング継続期間中の第1の時間間隔の時間的に前又は後である可能性があるさらなる時間間隔中に、場合によってはそれらの間に時間的な隔たりがあり、その場合、バイアス電圧は、好ましくは、第1の時間間隔から逸脱するタイムコースを有する。これは、例えば、第1の時間間隔と同様のパルス曲線であるが、ずれている位相関係、特にずれている遅延時間であり得る。同様に、別の時間間隔における逸脱するタイムコースも、一定のDC電圧(DCバイアス)であり得る。DCバイアス電圧によって、プラズマの全てのイオンが例外なく基材に向かう方向に加速され、カソードとの適切な同期によってパルス化されたバイアス電圧と比較して、プロセスガスの割合が比較的高いコーティングが形成される。パルスの場合、イオンの精選された選択が可能であり、それにより、例えばより高い割合の金属イオンを制御された方法で選択することができる。
【0031】
有利な実施形態によれば、第1の時間間隔中のバイアス電圧のタイムコースは、カソードパルスと同期し、カソードパルスに対して第1の遅延時間だけ遅れて発生するバイアスパルスを含み、又、第2の時間間隔中において、カソードパルスと同期するバイアスパルスが、この場合は、第1の遅延時間からずれた第2の遅延時間だけカソードパルスに対して遅れて発生する。ここで、第2の時間間隔は、好ましくは時間的に第1の時間間隔の後であり、時間的に直接それに続くか、又は、時間間隔の間に時間的な隔たりが存在することができる。第1の時間間隔は、コーティング継続期間の開始時であり得る。
【0032】
時間間隔(タイムインターバル)は、例えば数分などの短い場合もあれば、数時間まで長くなる場合もある。例えば、第1及び/又は第2の時間間隔の継続時間は、その間に層が例えば0.1μmの少量だけ成長するように選択することができるが、第1及び/又は第2の時間間隔の間に層が3μmまで成長する実施形態も可能である。層において、層厚がナノ範囲、すなわち、例えば5-100nm、好ましくは5-50nmの個々の層を実現するには、時間間隔を非常に短く、例えば、20-360秒、好ましくは20-180秒に選択することができる。ミクロ範囲、すなわち、例えば0.5-10μm、好ましくは0.5-2μmの個々の層を達成するために、時間間隔は、例えば50-1200分、好ましくは50-360分の範囲で選択することができる。
【0033】
例えば、遅延時間の一つは、金属イオンの割合が比較的高く、それに比べて、低い割合のガスイオンがプラズマ中において存在する、例えば、30-80μsの範囲内であることができ、一方、他の遅延時間は、プラズマ中に比較的高い割合のガスイオンが存在するように、例えば、0-20μs又は90μs以上に選択することができる。例えば、コーティング継続期間内で時間的に早い第1の時間間隔における遅延時間は、より多くの割合の金属イオンが層を形成するために使用されるようにより短くすることができ、一方、コーティング継続期間内で時間的に遅い第2の時間間隔における遅延時間は、より多くの割合のガスイオンが層内に組み込まれるようにより長くすることができる。
【0034】
したがって、好ましくは、カソードパルスに対して遅延時間を有する同期されたバイアスパルスは、少なくとも一つの時間セクション中又は全体のコーティング継続期間中に生成され、そこで、遅延時間は変化する。遅延時間の変化は、段階的に突然に(急激に)発生し、又、(ある程度)連続的に生じることもある。
【0035】
層特性が徐々に変化する遷移層を形成するために、遷移(移行)時間間隔中の遅延時間の変化は、セクション又は全体のコーティング継続期間を含むことができ、例えば、段階的に又は第1の値から第2の値に連続的に生じることができ、ここで、第1の値は第1の値より高いか又は低い。そのコース(経路)は、例えばランプ(傾斜路)の形で直線的であってもよいが、同様に、逸脱したコースも可能である。変化が起こる遷移時間間隔の長さは、その間に層が0.5μm-20μmまで成長するように選択することができる。
【0036】
他の好ましい実施形態では、その変動(変化)は、一つのセクション又は全体のコーティング継続期間に亘って、二つの値の間で段階的又は連続的に振動することができ、それにより、例えば、層内に、多層構造が、好ましくは二つよりも多い個々の層を備えて形成される。ここで、遅延時間は、第1のスイッチングサブインターバル(第1の切替部分区間)中における第1の値、及び第2のスイッチングサブインターバル(第2の切替部分区間)中におけるそれから逸脱する第2の値をとることができる。スイッチング時間間隔中において、第1及び第2のスイッチングサブインターバルは、1回又は複数回互いに続くことができる。そうすることで、第1及び/又は第2のスイッチングサブインターバルの継続時間は、その間に層が5nm-2μmだけ成長するようにするように、それぞれ選択され得る。好ましい実施例は、ナノ層構造について、例えば5-100、好ましくは5-50nmの個々の層の厚さと、例えば多層構造の場合に、層内に合計で6-40の個々の層を備えて、例えば0.1-2μmの範囲の個々の層の厚さである。
【0037】
さらなる好ましい実施形態は、本発明による装置に関する。したがって、当該装置は、好ましくは、一つ又はそれ以上のHIPIMSカソード、すなわち、HIPIMS電源に接続されたカソードを備える。HIPIMS電源は、好ましくは、HIPIMSパルス用の電力を供給するためのコンデンサと、コンデンサ用の充電装置とを備える。電源は、好ましくは電力調整(安定化)されている。真空チャンバー内に配置された複数のカソードには、異なる組成のターゲットが取り付けられ得る。したがって、真空を中断することなく、連続プロセスで関連する電源のスイッチをオン又はオフにする(又はそれぞれ電力を増減する)ことにより、種々の組成の層を互いの上に堆積させることが可能である。これは、好ましくはコントローラを介して行われる。
【0038】
以下では、実施形態が図面を参照しつつ説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】電気回路を備えたコーティングシステムの概略図である。
図2】カソードパルスとバイアスパルスの時間進行を示す図である。
図3】カソードパルスのトリガーから始まる時系列におけるプラズマ中のイオンの量とタイプを表す図である。
図4a図3におけるプラズマ中のイオンの数及びタイプによるバイアス電圧の様々なタイムコースの時間的重ね合わせを示す図である。
図4b図3におけるプラズマ中のイオンの数及びタイプによるバイアス電圧の様々なタイムコースの時間的重ね合わせを示す図である。
図4c図3におけるプラズマ中のイオンの数及びタイプによるバイアス電圧の様々なタイムコースの時間的重ね合わせを示す図である。
図4d図3におけるプラズマ中のイオンの数及びタイプによるバイアス電圧の様々なタイムコースの時間的重ね合わせを示す図である。
図5】コーティングされたボディ(被覆体)の表面領域の概略図におけるコーティングの例示的な実施形態を示す図である。
図6a】時間進行図としてのコーティングの第1の例示的な実施形態を示す図である。
図6b】コーティングされたボディの表面領域の概略図におけるコーティングの第1の例示的な実施形態を示す図である。
図7a】時間進行図としてのコーティングの第2の例示的な実施形態を示す図である。
図7b】コーティングされたボディの表面領域の概略図におけるコーティングの第2の例示的な実施形態を示す図である。
図8a】時間進行図としてのコーティングの第3の例示的な実施形態を示す図である。
図8b】コーティングされたボディの表面領域の概略図におけるコーティングの第3の例示的な実施形態を示す図である。
図9a】時間進行図として、コーティングの第4の例示的な実施形態を示す図である。
図9b】コーティングされたボディの表面領域の概略図におけるコーティングの第4の例示的な実施形態を示す図である。
図10a】時間進行図としてのコーティングの第5の例示的な実施形態を示す図である。
図10b】コーティングされたボディの表面領域の概略図におけるコーティングの第5の例示的な実施形態を示す図である。
図11a】時間進行図としてのコーティングの第6の例示的な実施形態を示す図である。
図11b】コーティングされたボディの表面領域の概略図におけるコーティングの第6の例示的な実施形態を示す図である。
図12】コーティングを有する工具の例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、コーティングシステム10の概略図を示す。コーティングシステム10は、ここでは概略的に示されている真空システム14を備えた真空チャンバー12を含み、真空システム14により、真空チャンバー12の内部に真空を生成することができる。また、真空チャンバー12は、プロセスガス供給源16及び反応性ガス供給源18を有し、これらによって、プロセスガス、好ましい実施形態ではアルゴン、及び反応性ガス、例えば窒素を、真空チャンバー12内に導入することができる。
【0041】
遊星回転する基材キャリア22を有する回転基材テーブル20が、真空チャンバー12内に配置されている。コーティングされるべき基材60、すなわち、ベースボディ(基体)、例えば工具(図12を参照)は、基材キャリア22上にそれぞれ配置され、基材キャリア22及び基材テーブル20と電気的に接触させられる。
【0042】
また、マグネトロンカソード30,34及びアノード28が、真空チャンバー10内に配置されている。マグネトロンカソード32,34の各々は、不平衡磁石システム(不図示)及び平板状のスパッタリングターゲット32,36を備える。
【0043】
マグネトロンカソード30,34、基材テーブル20、及びアノード28は、それぞれ、真空チャンバー12の壁を通る電気フィードスルーによって、真空チャンバー12の外側からコーティングシステム10の外部電気回路に接続される。
【0044】
図示の実施例では、マグネトロンカソード34は、DCカソードとして配線され、すなわち、アノード28に対してDC電圧をそれに供給するDC電源44に接続されている。アノード28は、真空チャンバー12の導電性壁に対してDC電圧をそれに供給するアノード電源46に接続されている。マグネトロンカソード30は、HIPIMSカソードとして配線され、すなわち、チャンバー壁に対してパルス電圧Vをそれに印加するHIPIMS電源40に電気的に接続されている。基材テーブル20は、アノード28に対してバイアス電圧Vをそれに供給するバイアス電源42に接続されている。
【0045】
コーティングシステム10には、コントローラ48が装備されており、これによって、バイアス電源42及びHIPIMS電源40が、以下で詳細に説明されるように制御される。さらに、コントローラ48は、プロセス全体、すなわち、真空システム、基材テーブル20の回転駆動、プロセスガス及び反応性ガスの供給、及び他の全ての電源44,46も制御する。コントローラは、プログラム可能であり、すなわち、コーティングプログラム用のメモリを備えており、以下に説明される手順及び方法ステップが指定される。
【0046】
図示された電気回路及びコーティングシステム10と電極との適合は、純粋に例示的であると理解されるべきであることに留意すべきである。代替の実施形態では、例えば、HIPIMSカソード30は、アノード28に対して接続されることができ、又は、例えば、アノード28が省略されて、チャンバー壁が全てのカソード及び基材テーブル20のアノードとして配線されることができる。複数のDCカソード34を設けることも、全く設けないこともできる。HIPIMSカソード30に加えて、追加のHIPIMSカソードを真空チャンバー12内に設けることができ、それぞれが独自のHIPIMS電源に接続される。カソード30,34には、同じ又は異なる組成のターゲット32,36を取り付けることができる。
【0047】
HIPIMS電源40は、HIPIMS法に従って電力をHIPIMSカソード30に供給し、すなわち、供給電圧V、電流I、及び瞬時電力は、短くて非常に高いパルス形状のタイムコース(経時的軌跡)を有する。
【0048】
一例として、このような周期的なタイムコースの周期継続時間Tが、図2に示されている。HIPIMSカソード30に印加される電圧Vは負電圧である。タイムコースは、パルス継続時間Tのほぼ矩形の電圧パルス50を含む。周期継続時間Tの残りの時間では、電圧は印加されない。
【0049】
例として、HIPIMS法の好ましいパラメータが以下に述べられる。電圧Vは、例えば100-10,000Hz、好ましくは500-4000Hzの周波数で周期的に印加され、それ故に、周期継続時間Tは、好ましくは250-2000μsの範囲内である。パルス継続時間Tは、好ましくは小さく、例えば200μsより短く、好ましくは40-100μsである。好ましくは、デューティサイクル(デューティ比)T/Tは、1%-35%、好ましくは10-30%、特に好ましくは20-28%の範囲である。HIPIMSカソード30の操作は、好ましくは、例えば、HIPIMSカソード当たり3-20kW、好ましくはカソード当たり10-16kWの値に電力調整された方法で行われる。パルス中に生じるピーク電流は、ターゲット32の前面に関して、好ましくは0.4-2A/cm、さらに好ましくは0.5-0.8A/cmである。
【0050】
コーティングシステム10が、ミリングカッター66について図12に例として示されるように、コーティング64を基材60の機能領域62に適用する(付着させる)ために操作されるとき、コーティングされるべき基材60は、真空チャンバー12内において基材キャリア22上に配置される。真空チャンバー12内には真空が生成される。オプションの準備ステップ(例えば、加熱、イオンエッチングによる基材60の表面処理、カソード30,34のスパッタクリーニング等)の後に、ターゲット32,36をスパッタリングしながら、一つ又はそれ以上のHIPIMSカソード30(及び、オプションで、同時に一つ又はそれ以上のDCカソード34)を操作することによって、プラズマが生成される。プラズマの成分は、基材60の表面に付着して層64を形成し、ここでは、プラズマの正に帯電したイオンが、負のバイアス電圧Vによって基材表面に向かう方向に加速される。
【0051】
図3は、一例として、チタン及びアルミニウムで作られたターゲット32を備えたHIPIMSカソード30について、プロセスガスとしてアルゴンを供給しながら、t=0μsでカソードパルス50を開始した後、プラズマ内で測定されたイオンを時間分解能で示している。図示されるように、プラズマは様々な種の金属及びガスイオンを含むが、ここでは、異なる種は互いに逸脱するタイムコースを示す。したがって、アルゴンイオンの数は、約35μsで局所的最大値まで比較的急速に増加し、そして減少し、約90μsにて開始する後のコースにおいて再び大幅に増加する。金属イオンは、ややゆっくりと増加し、t=50-60μsの範囲でほぼ最大値に達し、その後再び減少する。
【0052】
概略的に示すように、三つの時間セクション54,56,58を規定することができ、第1の時間セクション54(約0-40μs)ではガスイオンが優勢であり、続く第2の時間セクション56(約40-100μs)では金属イオンが優勢であり、続く第3の時間セクション58(約100μsから)ではガスイオンがかなり優勢である。
【0053】
プラズマの正のガス及び金属イオンは、負のバイアス電圧Vによって基材60の表面に向かう方向に加速され、そして、そこに付着するコーティング64の一部となる。DCバイアス、すなわちバイアス電圧Vとしての連続DC電圧の場合、全てのイオンが例外なく層形成のために選択される。図4dでは、これは、バイアス電圧Vが一定に印加される三つの時間セクション54,56,58の全てがクロスハッチングで示されている例として示されている。
【0054】
DCバイアスの代わりに、バイアス電圧Vは、HIPIMSカソード30における電圧Vのタイムコースに同期して、パルスタイムコースで印加することができる。バイアス電圧Vのこのようなパルスタイムコースは、図2において一例として示されている。バイアス電圧Vは、カソードパルス50の間のバイアスパルス継続時間Tの間に印加される矩形パルス52(バイアスパルス)を有する。この場合、バイアスパルス52は、カソードパルスに対して遅延時間Tだけ時間的に遅延される。
【0055】
カソードパルス50とバイアスパルス52との間の時間的同期を適切に選択することによって、すなわち、特にバイアスパルス継続時間T及び遅延時間Tを適切に選択することによって、さまざまな時点においてプラズマに存在するガス及び金属イオンの中から選択することができる。
【0056】
例えば、バイアスパルス継続時間Tが約60μs及び遅延時間Tが約40μsであるバイアスパルス52のタイムコースの事前設定の効果は、図4aに示される。すなわち、バイアスパルス52は、金属イオンが支配する第2の時間セクション56と同期される。バイアス電圧Vのそのようなタイムコースを予め設定することによって、アルゴンの割合が非常に低いコーティング64が生成される。
【0057】
チタン,シリコン,及びアルミニウムにより作られたHIPIMSターゲット32を用い、Ti-Al-Si-N材料系で形成されるコーティング64を堆積させるための反応性ガスとして窒素を供給し、図4aに示されたバイアス電圧Vのタイムコースを備える実験において、コーティング64中において0.03at%(原子パーセント)のアルゴンの割合が得られた。コーティング64は、-1.6GPaの内部応力及び26GPaの硬度を有していた。
【0058】
これと比較して、DCバイアス(図4d)を適用し、その他の点では同一の構成及びプロセス制御においては、コーティング64内のアルゴンの割合は0.12at%、内部応力は-5.3GPa、硬度は30GPaを示した。
【0059】
バイアス電圧Vの可能なタイムコースの別の例として、図4bは、バイアスパルス継続時間Tが約60μs及び遅延時間Tが約100μsのタイムコースを示しており、それにより、バイアスパルス52は、ガスイオンが優勢である第3の時間セクション58と同期される。バイアス電圧Vのこのタイムコースを予め設定することによって、アルゴンの割合が高いコーティング64が生成される。
【0060】
別の例として、図4cは、バイアスパルス継続時間Tが約100μsであり、遅延時間Tが約20μsである、バイアス電圧Vのタイムコースの効果を示している。バイアスパルス52は、第2の時間セクション56を完全にカバーし、第1及び第3の時間セクション54,58をそれぞれ部分的にカバーしている。バイアス電圧Vのこのタイムコースを予め設定することにより、中程度の割合のアルゴンを有するコーティング64が生成される。
【0061】
したがって、バイアス電圧Vのタイムコースを予め設定することによって、層組成に影響を与えることが可能であり、特にアルゴンの割合を、制御された方法で最小割合(図4a)と最大割合(図4b)との間の値に設定することが可能である。
【0062】
結果として、層の特性、特にコーティング64の内部応力及びその硬さが、かなり影響を受ける。
【0063】
コーティングシステム10によって、コーティング64が基材60のそれぞれに適用される。これらのコーティングは、進行するコーティング継続期間Dとともに成長し、それぞれが基材60の表面から始まる厚さSを有するようになる。コントローラ48によって、HIPIMS電源40及びバイアス電源42の両方がコーティング継続期間D中に制御され、それにより、コーティング継続期間D中の様々な時間間隔において、互いにずれたバイアス電圧Vのタイムコースを設定することができる。この結果、層厚さSに亘ってコーティング64の組成が変化する。すなわち、それぞれの場合に設定されたタイムコースに応じて、アルゴンのそれぞれの割合が異なる結果となる。
【0064】
カソードパルス50と同期したバイアスパルス52(図2)において、タイムコースは、遅延時間T及びバイアスパルス継続時間Tによって特徴付けることができる。一例として、バイアスパルス継続時間Tは、これから例えば60μsの固定値に設定することができるが、遅延時間Tはコーティング継続期間Dに応じて変化する。
【0065】
例示的な実施形態を、図5を参照して以下に説明する。この実施形態では、コーティング継続期間中のバイアス電圧Vの同期の一回だけの変更によって、基材62上に二つの層コーティング64が堆積される。
【0066】
コーティング66を設けるために、最初に、基材材料62で形成されたコーティングされるべきボディ60が、例えば、コバルト含有量が6at%の炭化物(WC/Co)で形成された直径6mmの二重ブレードボールエンドミルが、真空チャンバー12内の基材キャリア22上に配置される。
【0067】
コーティングシステム10には、基材テーブル20の周りに配置された二つ四つのHIPIMSカソード30が取り付けられている。互いに隣り合って配置された二つのカソード30のそれぞれには、チタンアルミニウム材料(例えば、60at%のTi、40at%のAl)で形成されたターゲット32が取り付けられ、残りの二つには、チタンシリコン材料(例えば、80at%のTi、20at%のSi)で形成されたターゲット32が取り付けられている。
【0068】
真空システム14を操作することにより、真空が生成される。真空チャンバー12の内部は加熱される。基材60の表面は、カソード30,34が作動している間にガスイオンエッチングによって洗浄される。ターゲット32,36は、スパッタ洗浄によって準備される。
【0069】
コーティングの開始時に、最初に、第1の層80aが第1の時間間隔で基材60上に堆積される。この目的のために、Al-Tiターゲットを有する二つのカソード30がそれぞれ12kWのカソード電力で操作されるが、Ti-Siターゲットを有する残りの二つのカソード30は最初に操作されない。その電力は、周波数4000Hz、パルス長70μsでHIPIMSカソードパルス50の形で供給される。これにより、基材テーブル20及び基材キャリア22を介して、基材60にバイアス電圧Vが印加される。バイアス電圧Vは、60Vのバイアスパルス52及び40μsのバイアスパルス継続時間Tでパルス化され、カソードパルス60と同期されるが、40μsの遅延時間Tを伴って生じる。
【0070】
第1の層80aは、1.5時間の第1の時間間隔の継続時間後に1.5μmの厚さに達するように、約1μm/hの層速度で堆積される。遅延時間Tが40μsのパルスバイアス電圧Vにより、制御された方法で金属イオンが選択されてコーティング64が形成され、一方、各パルスの後の時間曲線で最初に増々に発生するアルゴンイオンは、僅かしか存在しない(図4a)。第1の層80aにおけるコーティング64のアルゴン含有量は、0.03at%以下であるため、-1.6GPa以下の内部応力が生じる。
【0071】
続いて、第2の時間間隔において、第2の層80bが、1.5μmの厚さの第1の層80a上に堆積される。この目的のために、コーティングプログラムのさらなる実行において、コントローラ48は、Ti-Siターゲットを有する二つのカソード30の電源をそれらが各々に12kWのカソード電力で操作されるように制御し、一方、Al-Tiターゲットを有する残りの二つのカソード30は操作されないように制御する。第2の時間間隔における電源のHIPIMSパラメータは、第1の時間間隔と同じであり、すなわち、周波数が4000Hz、パルス長が70μsである。
【0072】
しかしながら、第1の時間間隔から第2の時間間隔への遷移(移行)においては、バイアス電圧Vのタイムコースの変化は、第2の時間間隔ではパルス状のタイムコースではなく、連続DC電圧として印加されるようになされ、その結果、アルゴンイオンはコーティング64にかなりの程度含まれる。
【0073】
第2の層80bは、1.5時間の第2の時間間隔の継続時間後に1.5μmの厚さに達するように、約1μm/hの層速度で堆積される。非パルスバイアス電圧Vにより、第2の層80b内のコーティング64のアルゴン含有量は、少なくとも5.3GPaの内部応力が生じるように、少なくとも0.12at%である。
【0074】
結果として、層64は、二層であり、第1の層80aは、内部応力が低くて延性が高いため、非常に良好な層付着を達成し、一方、外側の第2の層80bは、コーティングされたボディ66の硬くて滑らかな表面を保証する。このようにコーティングされたボールエンドミルは、エマルジョン無しでHRC60を超える高炭素鋼のフライス加工に適している。
【0075】
以下では、コーティング164,264,364,464,564,664が基材62上に生成されるさらなる個々の例示的な実施形態が示され、コーティングの組成及び特性は、コーティング継続期間中のタイムコースの変化によって、特に、バイアス電圧Vの同期を変更することによって、それぞれの場合において変化させられる。以下の説明では、コーティング手順の全てのさらなる詳細について、例えば、ターゲットや具体的なパラメータ及び時間継続期間のフィッティング等につては言及しない。それは、様々な材料系に様々なパラメータで適用できる主要な実施形態を示すことに関するものだからである。
【0076】
図6a及び図6bは、二層コーティング164を有するコーティングされたボディ166の第1の例示的な実施形態を示す。
【0077】
コーティング164を堆積するとき、バイアス電圧Vは、それぞれの場合に、カソードパルス50と同期するバイアスパルス52を有するパルス化されたタイムコースで印加される。しかしながら、図6aに示されるように、その同期はコーティング継続期間Dの間中において変化させられる。すなわち、遅延時間Tは、第1の時間間隔170aにおいて最初は40μsであり、続く第2の時間間隔170bでは110μsである。
【0078】
図6bは、基材62上にコーティング164が形成された、対応するコーティングされたボディ166の断面図を概略的に示す。コーティング164は、基材62上において、低い割合のアルゴンを有する第1の層180aと、その上部により高い割合のアルゴンを有する第2の層180bを含む。第1の層180aは、アルゴンの割合が低いため、かなり延性があり、内部応力が低く、それ故に、基材62に対する良好な接着剤として機能することができる。第2の外側層180bは、アルゴンの割合が高いため、高い硬度を有する。このような層は、要求の厳しい機械加工の用途に使用される工具、例えば、エンドミル、ボールエンドミル、及びスローアウェイチップ(交換可能なインサート)等のドリル及びフライス(ミリング)工具に特に適していることが示されている。
【0079】
図7a及び図7bは、第1の例示的実施形態と本質的に反対であるプロセス制御を伴う第2の例示的実施形態を概略的に示す。第2の例示的な実施形態では、遅延時間Tは、第1の時間間隔270aにおける最初の110μsから、続く第2の時間間隔270bにおける40μsに変更される。コーティングされたボディ260での得られたコーティング264は、アルゴンの割合が高い第1の層280aと、アルゴンの割合が低い第2の層280bとを有する。
【0080】
このようなコーティング264は、摩擦学的用途のために提供されるコーティングされたボディ260にとって特に有利であり得る。第1層280bは、内部応力を有する硬質ベース層として機能する。第2の層280bは、その最上部の最上層として機能し、延性が高いために良好な慣らし特性を有する。考えられる用途には、ねじ切りタップ、フォーミングタップ(盛上げタップ)、ドリル、パンチチング(打ち抜き)及びスタンピング(打刻)工具等がある。
【0081】
図8a及び図8bは、第3の例示的な実施形態を概略的に示す。第3の例示的実施形態は、コーティング継続期間Dに亘って、三つの時間間隔370a,370b,370cで段階的に変化する遅延時間Tのコース(経時的軌跡)を示す。この場合、遅延時間Tは、第1の例示的実施形態のように、段階的に増加する。コーティングされたボディ360での得られたコーティング364は、アルゴンの割合が低い第1の層380a、アルゴンの割合が中程度の第2の層380b、及びアルゴンの割合が高い第3の外層380cを有する。
【0082】
図9a及び図9bは、第4の例示的な実施形態を示しており、遅延時間Tしたがってアルゴンの割合は、コーティング継続期間に亘って段階的に変化せず、ここでは例えば直線的に増加するランプ(傾斜路)の形で徐々に変化する。したがって、コーティングされたボディ460の生成されたコーティング464は、基材62から表面に向かう方向に増加するアルゴン含有量を示す。したがって、コーティング464は、基材62との界面領域において低い内部応力しか持たず、接着を促進する。表面の領域においては、コーティング464は高い硬度を有するため、特に機械加工用途の工具にとって有利である。
【0083】
図10a及び図10bには、第4の例示的な実施形態とは反対のプロセス制御を有する第5の例示的な実施形態が示されており、すなわち、遅延時間T及びコーティングされたボディ560のコーティング564中のアルゴン含有量は、コーティング継続期間Dに亘ってコンスタントに低くなり、ここでは、直線的に減少するランプ(傾斜路)の形となる。
【0084】
図11a及び図11bは、第5の例示的な実施形態を示しており、ここでは、遅延時間Tは、コーティング継続期間D中に、次々と繰り返し続く、第1の時間間隔670a及び第2の時間間隔670bにおいて急激に変化する。第1の時間間隔670aにおいて遅延時間Tは、40μsであり、第2の時間間隔670bにおいて遅延時間Tは、110μsである。
【0085】
結果として、コーティングされたボディ660の得られたコーティング664は、層の厚さS方向に交互に連続する、低いアルゴン含有量を有する第1の層680aと、高いアルゴン含有量を有する第2の層680bと有する。界面領域において基材62上に直接堆積された層は、接着を促進する内部応力の低い第1の層680aである。表面領域の最外層は、高硬度の第2層680bである。
【0086】
層680a,680bの厚さは、一定の層速度で時間間隔670a,670bの継続時間によって予め設定される。時間間隔670a,670bの時間継続期間とそれに応じてスイッチ(切り替え)の数を選択することによって、例えば、個々の層680a,680bの厚さが例えば0.1-2μmである多層コーティング664を生成することができる。同様に、個々の層680a,680bの厚さが例えば5-50nmであるナノ層コーティング664は、時間間隔670a,670bをより迅速に切り替えることによって生成することができる。
【0087】
以下の表1は、コーティングの他の例示的な実施形態を示している。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例1によるコーティングは、例えば、基材材料として、鋼、ステンレス鋼、又はCrMo鋼で作られた、ミリングカッター、ドリル、スローアウェイチップ(交換可能なインサート)、又は同様のものなどの工具に適用することができる。それらは、界面領域において内部応力が殆ど無く、表面に向かって内部応力が高い標準的な層である。
【0090】
実施例2においては、それらは、界面領域において内部応力が殆ど無く、表面に向かって内部応力が高い特殊な用途向けの層(特に、滑らかな層)である。これらは、例えば、アルミニウム、チタン、又は非鉄金属を機械加工するためのミリングカッター、ドリル、スローアウェイチップ(交換可能なインサート)等の工具に適用することができる。可能性のある用途としては、材料の蓄積を避ける必要があり、つまり滑らかな層が必要である、特殊な材料のための要求の厳しい機械加工用途である。
【0091】
実施例3によれば、アルゴンの含有量が、堆積の開始時に高く、表面に向かって減少する。このような層は、例えば、ねじ切りタップ、フォーミングタップ(盛上げタップ)、ドリル、又はパンチング(打ち抜き)及びスタンピング(打刻)工具に使用することができる。例えば、鋼、ステンレス鋼、又はCrMo鋼は、基材材料として機能することができる。これらの層は、内部応力が高い硬質ベース層と、慣らし特性が良好で内部応力が低い軟質トップ層によって特徴付けられる。このような層を備えた工具の可能な適用としては、特にトライボロジー用途である。
【0092】
実施例4においては、コーティングの表面に向かってアルゴン含有量が段階的に増加するため、コーティングは滑らかで視覚的に魅力的である。このような層は、全てのタイプの機械加工用工具及び全てのタイプの基材材料に使用することができる。考えられる用途は、例えば、装飾的なものである。着色された最上層は、別のプロセスで適用することができる。
【0093】
実施例5,6,及び7による層は、一方では、互いに続く層の変更された組成を提供し、他方では、アルゴン含有量の変更を提供する。これは、例えば、真空チャンバー内の様々なHIMIPSマグネトロンカソードに、異なる材料で作られたターゲットを取り付け、互いに別々に制御することで達成することができる。例えば、Ai-Tiターゲットが取り付けられた第1のカソードの電源をオフにし、同時にTi-Cターゲットが取り付けられた第2のカソードの電源をオンにすることによって、例えば、実施例5において、第1から第2層への変更を行うことができる。相応して取り付けられたカソードのオンとオフのスイッチング(切り替え)は、短いランプ(傾斜路)の形で突然に又は徐々に行うことができる。
【0094】
実施例6においては、第1のカソードにAl-Tiターゲットが取り付けられ、第2のカソードにTi-Cターゲットが取り付けられ、層が変更されるとき、両カソード間の切り替えが行われる。
【0095】
実施例7においては、第2のカソードにTi-Cターゲットが取り付けられ、反応性ガスとしての窒素の供給が、第2層の堆積の開始時にオフにされる。
【0096】
三つの実施例5,6,及び7の全てにおいては、アルゴン含有量が、第2層の開始時に急激に減少する。このようにして生成された層は、例えば、鋼、ステンレス鋼、又はCrMo鋼等の基材材料で作られた、ねじ切りタップ、フォーミングタップ(盛上げタップ)、ドリル、パンチング(打ち抜き)及びスタンピング(打刻)工具等の工具に適用することができる。用途としては、例えばトライボロジー用途があり、この用途では、生成された層が、内部応力を持つ硬いベース層と、良好な慣らし特性と小さな内部応力を持つより柔らかいトップ層を有することが望ましい。
【0097】
実施例8による層は、実施例5,6,及び7によるものと同じタイプの工具、基材材料、及び用途に使用することができる。コーティング継続期間中のアルゴン含有量の急激な段階的減少とは対照的に、実施例8によれば、アルゴン含有量は、徐々に、すなわち、ランプ(傾斜路)の形で減少する。
【0098】
また、実施例9,10,及び11による層は、層の変更された組成を提供し、これは、ターゲットの異なった取り付け及びそれに応じて電気制御が変更されるカソードによって達成される。その層は、例えば、高炭素鋼、Ni基合金、チタン合金、又はステンレス鋼等の基材材料で作られた、エンドミル、ボールエンドミル、ドリル、又はスローアウェイチップ(交換可能なインサート)等の工具に適用することができる。硬くて滑らか(高アルゴン含有量の機能層としての第2層の特性)で、良好な接着性(低アルゴン含有量で接着剤として機能する第1層の特性)を有する得られた層の可能な用途は、特に要求の厳しい機械加工用途である。
【0099】
実施例12,13,及び14は、全てのタイプの機能層上の装飾層、又はより良好な摩耗検出のための層等の用途に役立つことができる。したがって、このような層は、例えば、トップ仕上げとして他の層に組み合わせた方法で適用することができる。全てのタイプの機械加工用工具は、例えば、鋼、鋳鉄、CrMo鋼、又はステンレス鋼で作られた基材と考えることができる。下層は機能層として機能し、上層は例えば良好な摩耗検出を可能にする金色の装飾色層として機能する。
【0100】
アルゴン含有量が段階的に変化する実施例5は、実施例12,13,及び14と同じ用途及び基材の代替例を示す。炭素(C)の第2層を備えた前述の変形例では、灰色の最上層が生成され、これにより、簡単な視覚的摩耗検出が可能になる。
【0101】
実施例16による多層による層及び実施例17によるナノ層による層おいては、高アルゴン含有量(すなわち、高硬度、高内部応力)の層が、低アルゴン含有量の層と交互になっている。一定の交互積層により、クラックの形成が防止され、システム全体の内部応力が低くなる。このような層は、全てのタイプの機械加工用工具、及び、鋼,特にステンレス鋼,高炭素鋼,CrMo,Ni基合金,チタン合金等のような基材材料に設けることができる。
【0102】
要するに、本発明は、様々なコーティング方法、コーティング装置、及び得られるコーティングされたボディ(被覆体)によって実行することができ、個々の実施形態は、それぞれ、様々な用途に対して特定の利点を提供する。ここで詳細に述べた実施形態は、それぞれ実施例を表し、例示として理解されるべきであり、限定的ではないと理解されるべきである。示された実施形態に対する様々な改変及び代替が可能である。例えば、前述の実施形態は、多種多様な層材料を用いて、すなわち、ターゲットの取り付けをずらして、様々な反応ガスを供給して、又は反応ガスを供給せずに、実施することができる。様々な層領域の特性を制御して設定することにより、得られるコーティングをそれぞれの用途に合わせて最適化できるという利点が常に残っている。


図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b
図11a
図11b
図12
【国際調査報告】