IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 武田薬品工業株式会社の特許一覧

特表2023-529929ウイルス形質導入のための半自動化ホローファイバーシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】ウイルス形質導入のための半自動化ホローファイバーシステム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230705BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230705BHJP
   C12N 15/87 20060101ALN20230705BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/00 U
C12N5/10
C12N15/87 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576053
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021022031
(87)【国際公開番号】W WO2021251447
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】63/037,377
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ムーア ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ファシン ファビオ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB11
4B029BB13
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
ベクターを導入するためのシステムは、毛細管内空間、及び多孔膜によって毛細管内空間から分離された毛細管外空間を画成するフィルターモジュールを含む。本システムはまた、毛細管内空間の両端と流体結合し、それぞれが形質導入培地、細胞、及びベクターを受け取る一対の毛細管内ポートも含む。本システムはまた、毛細管外空間の両端と結合し、毛細管外培地の供給源及び廃棄物容器と流体連結した一対の毛細管外ポートも含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターを細胞に導入するためのシステムであって、前記システムは、
毛細管内空間、及び多孔膜によって前記毛細管内空間から分離された毛細管外空間を画成するフィルターモジュールと、
前記毛細管内空間の両端と流体結合し、それぞれが形質導入培地、細胞、及びベクターを受け取る一対の毛細管内ポートと、
前記毛細管外空間の両端と結合し、毛細管外培地の供給源及び廃棄物容器と流体連結した一対の毛細管外ポートと
を備える、前記システム。
【請求項2】
前記毛細管内ポートの少なくとも1つと流体連結した回収容器をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記毛細管内ポートの少なくとも1つに前記形質導入培地、前記細胞、及び前記ベクターのそれぞれの流れを供給するように動作可能な毛細管内ポンプをさらに備える、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記毛細管内ポンプは、第1の期間中に前記細胞及び前記ベクターを前記毛細管内ポートに供給する第1の状態ならびに第2の期間中に前記形質導入培地を前記毛細管内ポートに供給する第2の状態において動作可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
少なくとも1つの前記毛細管外ポートを介して前記毛細管外空間と連通した廃棄物容器をさらに備える、請求項1~4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記毛細管外ポートのそれぞれに前記毛細管外培地の流れを供給するように動作可能な毛細管外ポンプをさらに備える、請求項1~5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記毛細管外ポートから前記廃棄物容器に廃棄物流体の流れを供給するように動作可能な毛細管外ポンプをさらに備える、請求項1~6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記多孔膜は、円筒形である、請求項1~7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記多孔膜は、約50kDa未満のサイズを有する粒子が前記毛細管内空間から孔を通過することを可能にする前記孔を備える、請求項1~8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記毛細管内空間は、形質導入ゾーンを画成する、請求項1~9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
ウイルスまたは非ウイルスベクターを細胞に導入するためのシステムであって、前記システムは、
第1の末端から第2の末端に延びる毛細管内空間を画成するホローファイバーと、
ケーシングであって、前記第1の末端から前記第2の末端において前記1つ以上のホローファイバーを取り囲んで、前記ホローファイバーと前記ケーシングとの間に毛細管外空間を画成し、前記第1の末端と隣接する前記毛細管内空間と流体連結した第1のポートと、前記第2の末端と隣接する前記毛細管内空間と流体連結した第2のポートとを備える、前記ケーシングと、
前記第1のポート及び前記第2のポートのそれぞれを介して前記毛細管内空間と流体連結した形質導入培地供給源と、
前記細胞を含み、前記第1のポート及び前記第2のポートのそれぞれを介して前記毛細管内空間と流体連結した細胞供給源と、
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを含み、前記第1のポート及び前記第2のポートのそれぞれを介して前記毛細管内空間と流体連結したウイルス供給源と
を備える、前記システム。
【請求項12】
前記第1のポート及び前記第2のポートの少なくとも1つを介して前記毛細管内空間と流体連結した回収容器をさらに備える、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記形質導入培地供給源、前記細胞供給源、及び前記ウイルス供給源のそれぞれと流体連結した入口を含む毛細管内ポンプをさらに備える、請求項11または12に記載のシステム。
【請求項14】
前記毛細管内ポンプは、前記第1のポートを介して前記毛細管内空間と流体連結した第1の出口と、前記第2のポートを介して前記毛細管内空間と流体連結した第2の出口とを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記ケーシングは、前記毛細管外空間と連通した第3のポートを含み、前記システムは、前記第3のポートを介して前記毛細管外空間と連通した廃棄物容器をさらに備える、請求項11~14のいずれかに記載のシステム。
【請求項16】
前記第3のポートを介して前記毛細管外空間と流体連結した毛細管外培地供給源をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記第3のポートは、前記毛細管内空間の前記第1の末端に隣接して配置され、前記システムは、前記毛細管外空間と流体連結し、前記毛細管内空間の前記第2の末端に隣接して配置される第4のポートをさらに備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記廃棄物容器及び前記毛細管外培地供給源のそれぞれは、前記第3のポート及び前記第4のポートのそれぞれを介して前記毛細管外空間と連通している、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記ホローファイバーは、複数のホローファイバーを備える、請求項11~18のいずれかに記載のシステム。
【請求項20】
前記ホローファイバーは、約50kDa未満のサイズを有する粒子が前記毛細管内空間から孔を通過することを可能にする前記孔を備える、請求項11~19のいずれかに記載のシステム。
【請求項21】
第1の末端から第2の末端に延びる毛細管内空間及び前記第1の末端から前記第2の末端の毛細管内空間を取り囲む毛細管外空間を画成するホローファイバーを使用した、ウイルスまたは非ウイルスベクターを細胞に導入する方法であって、
ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記ホローファイバーの前記毛細管内空間に充填するステップと、
前記細胞を前記ホローファイバーの前記毛細管内空間に充填するステップと
を含む、前記方法。
【請求項22】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間に充填することは、前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間に充填することは、前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端のそれぞれから充填することを含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞を前記毛細管内空間に充填することは、前記細胞を前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む、請求項21~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記細胞を前記毛細管内空間に充填することは、前記細胞を前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端のそれぞれから充填することを含む、請求項21~23のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記ホローファイバーの前記毛細管内空間内の前記細胞に形質導入するステップと、
前記ホローファイバーの前記毛細管内空間から前記形質導入細胞を回収するステップと
をさらに含む、請求項21~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記毛細管内空間から前記形質導入細胞を回収することは、フラッシング流体を前記ホローファイバーの前記毛細管外空間に充填することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記毛細管内空間から前記形質導入細胞を回収することは、前記フラッシング流体を前記第1の末端または前記第2の末端の1つから前記毛細管内空間に充填することを含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記毛細管外空間から廃棄物を回収することをさらに含む、請求項21~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記細胞及び前記ウイルスまたは非ウイルスベクターは、同時に充填される、請求項21~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記細胞及び前記ウイルスまたは非ウイルスベクターは、別々に充填される、請求項21~29のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記細胞は、前記ウイルスまたは非ウイルスベクターに先立って充填される、請求項21~29のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターは、前記細胞に先立って充填される、請求項21~29のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記細胞は、1×10から1×1010細胞/mlの間の範囲の濃度で充填される、請求項21~33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記細胞を充填することは、前記ホローファイバーの内側表面積の大きさの関数である速度で細胞を充填することを含む、請求項21~34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターは、ウイルス粒子として充填される、請求項21~35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターは、核酸ベクターとして充填される、請求項21~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
約5~100μl/分/cmの間の、前記ホローファイバーの内側表面積の1平方センチメートル当たりの流量で前記細胞及び前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを充填することをさらに含む、請求項21~37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記ホローファイバーの内側表面積の1平方センチメートル当たりの流量での充填は、約5~20μl/分/cmである、請求項21~38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記ベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはハイブリッドウイルスに由来する、請求項21~39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記ベクターは、レトロウイルスである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ベクターは、レンチウイルスである、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記ベクターは、ナノ粒子、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン、及び/またはポリアミンナノスフェアを含む、請求項21~39のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記細胞及び前記ウイルスベクターは、約0.25から約4.0の範囲の感染多重度(MOI)で前記毛細管内空間に充填される、請求項21~43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記細胞及び前記ウイルスベクターは、約2.5のMOIで前記毛細管内空間に充填される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞は、B細胞、T細胞、NK細胞、単球、前駆細胞、または細胞株である、請求項21~45のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
請求項21~46のいずれかに記載の方法によって生成された、細胞の集団。
【請求項48】
請求項21~46のいずれかに記載の方法によって生成された細胞を含む、医薬組成物。
【請求項49】
1つ以上の形質導入細胞を含む細胞療法製品を製造する方法であって、
(i)細胞に形質導入するための、第1の末端から第2の末端に延びる毛細管内空間を画成するホローファイバーを備えるシステムを準備することと、
(ii)細胞の集団及びウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間に充填して、前記毛細管内空間において1つ以上の細胞の形質導入をもたらすことと、
(iii)前記毛細管内空間から1つ以上の形質導入細胞を含む細胞の集団を回収することと
を含む、前記方法。
【請求項50】
前記細胞の集団は、αβ T細胞、γδ T細胞、NK細胞、HSC、マクロファージ、樹状細胞及びiPSCから選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターは、組換え受容体を含む、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
前記組換え受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記形質導入細胞は、細胞の表面に組換え受容体を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項54】
前記キメラ抗原受容体は、CD44、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD89、CD123、CS-1、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、Her2、GD-2、CEA、MAGE A3 TCR、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2、CEA及びBCMAのうちの1つ以上から選択される腫瘍抗原を標的とする細胞外リガンド結合ドメインを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記方法は、前記形質導入細胞を単離するステップをさらに含む、請求項49~54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記方法は、前記回収された細胞をバイオリアクターにおいて増殖させるステップをさらに含む、請求項49~55のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記方法は、前記回収された細胞を適した凍結保存培地において凍結保存するステップをさらに含む、請求項49~56のいずれかに記載の方法。
【請求項58】
前記システムは、前記第1の末端と隣接する前記毛細管内空間と流体連結した第1のポートと、前記第2の末端と隣接する前記毛細管内空間と流体連結した第2のポートとを含む、請求項49~57のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間に充填することは、前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む、請求項49~58のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間に充填することは、前記ウイルスまたは非ウイルスベクターを前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端のそれぞれから充填することを含む、請求項49~58のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記細胞を前記毛細管内空間に充填することは、前記細胞を前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む、請求項49~60のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
前記細胞を前記毛細管内空間に充填することは、前記細胞を前記毛細管内空間の前記第1の末端及び前記第2の末端のそれぞれから充填することを含む、請求項49~60のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119(e)のもと2020年6月10日に出願された米国仮出願番号第63/037,377号に対する優先権を主張するものである。この先の出願の開示は、本出願の開示の一部と見なされ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ホローファイバーフィルターモジュールを使用したウイルス形質導入のための半自動化方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
細胞療法は、患者の細胞に治療用遺伝子を導入するための送達媒体(ベクター)として、安全性と機能性のために改変されたウイルス粒子を使用して、自然の形質導入プロセスを利用する。ウイルスベクター形質導入は、現在、治療用遺伝子材料を導入するための細胞療法の製造で最も頻繁に使用される方法である。
【0004】
現在の製造用の形質導入プロセスは、ウイルスベクターの使用において労働集約的で非効率的であり、細胞療法の製造コストが高くなり、これらの療法の産出に必要な時間が長くなる原因となっている。したがって、製造用形質導入プロセスの現在の最先端の技術には重大な制限がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ベクターを細胞に導入するためのシステムを提供する。本システムは、毛細管内空間、及び多孔膜によって毛細管内空間から分離された毛細管外空間を画成するフィルターモジュールを含む。本システムはまた、毛細管内空間の両端と流体結合し、それぞれが形質導入培地、細胞、及びベクターを受け取る一対の毛細管内ポートも含む。本システムはまた、毛細管外空間の両端と結合し、毛細管外培地の供給源及び廃棄物容器と流体連結した一対の毛細管外ポートも含む。
【0006】
本開示のこの態様は、以下の任意の特徴の1つ以上を含んでもよい。いくつかの例では、本システムは、毛細管内ポートの少なくとも1つと流体連結した回収容器を含む。いくつかの実装形態では、本システムは、毛細管内ポートの少なくとも1つに形質導入培地、細胞、及びベクターのそれぞれの流れを供給するように動作可能な毛細管内ポンプを含む。任意に、毛細管内ポンプは、第1の期間中に細胞及びベクターを毛細管内ポートに供給する第1の状態ならびに第2の期間中に形質導入培地を毛細管内ポートに供給する第2の状態において動作可能である。
【0007】
いくつかの例では、本システムは、少なくとも1つの毛細管外ポートを介して毛細管外空間と連通した廃棄物容器を含む。いくつかの実装形態では、本システムは、毛細管外ポートのそれぞれに毛細管外培地の流れを供給するように動作可能な毛細管外ポンプを含む。いくつかの構成では、本システムは、毛細管外ポートから廃棄物容器に廃棄物流体の流れを供給するように動作可能な毛細管外ポンプを含む。
【0008】
いくつかの実装形態では、多孔膜は円筒形である。いくつかの例では、多孔膜は、約50kDa未満のサイズを有する粒子が毛細管内空間から孔を通過することを可能にする孔を備える。いくつかの構成では、毛細管内空間は、形質導入ゾーンを画成する。
【0009】
本開示の別の態様は、ウイルスまたは非ウイルスベクターを細胞に導入するためのシステムを提供する。本システムは、第1の末端から第2の末端に延びる毛細管内空間を画成するホローファイバーを含む。本システムはまた、ケーシングであって、第1の末端から第2の末端において1つ以上のホローファイバーを取り囲んで、ホローファイバーとケーシングとの間に毛細管外空間を画成し、第1の末端と隣接する毛細管内空間と流体連結した第1のポートと、第2の末端と隣接する毛細管内空間と流体連結した第2のポートとを備える、ケーシングも含む。本システムはまた、第1のポート及び第2のポートのそれぞれを介して毛細管内空間と流体連結した形質導入培地供給源も含む。本システムは、細胞を含み、第1のポート及び第2のポートのそれぞれを介して毛細管内空間と流体連結した細胞供給源をさらに含む。本システムはまた、ウイルスまたは非ウイルスベクターを含み、第1のポート及び第2のポートのそれぞれを介して毛細管内空間と流体連結したウイルス供給源も含む。
【0010】
本開示のこの態様は、以下の任意の特徴の1つ以上を含んでもよい。いくつかの例では、本システムは、第1のポート及び第2のポートの少なくとも1つを介して毛細管内空間と流体連結した回収容器を含む。いくつかの実装形態では、本システムは、形質導入培地供給源、細胞供給源、及びウイルス供給源のそれぞれと流体連結した入口を含む毛細管内ポンプを備える。いくつかの例では、毛細管内ポンプは、第1のポートを介して毛細管内空間と流体連結した第1の出口と、第2のポートを介して毛細管内空間と流体連結した第2の出口とを含む。
【0011】
いくつかの構成では、ケーシングは、毛細管外空間と連通した第3のポートを含み、本システムは、第3のポートを介して毛細管外空間と連通した廃棄物容器をさらに含む。いくつかの例では、本システムは、第3のポートを介して毛細管外空間と流体連結した毛細管外培地供給源を含む。いくつかの構成では、第3のポートは、毛細管内空間の第1の末端に隣接して配置され、本システムは、毛細管外空間と流体連結し、毛細管内空間の第2の末端に隣接して配置される第4のポートをさらに備える。いくつかの例では、廃棄物容器及び毛細管外培地供給源のそれぞれは、第3のポート及び第4のポートのそれぞれを介して毛細管外空間と連通している。
【0012】
いくつかの構成では、ホローファイバーは、複数のホローファイバーを含む。いくつかの実装形態では、ホローファイバーは、約50kDa未満のサイズを有する粒子が毛細管内空間から孔を通過することを可能にする孔を含む。
【0013】
本開示のさらに別の態様は、第1の末端から第2の末端に延びる毛細管内空間、及び毛細管内空間を第1の末端から第2の末端まで取り囲む毛細管外空間を画成するホローファイバーを使用した、ウイルスまたは非ウイルスベクターを細胞に導入する方法を提供する。本方法は、ウイルスまたは非ウイルスベクターをホローファイバーの毛細管内空間に充填することと、細胞をホローファイバーの毛細管内空間に充填することとを含む。
【0014】
本開示のこの態様は、以下の任意の特徴の1つ以上を含んでもよい。いくつかの例では、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間に充填することは、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む。いくつかの実装形態では、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間に充填することは、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端のそれぞれから充填することを含む。いくつかの構成では、細胞を毛細管内空間に充填することは、細胞を毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む。
【0015】
いくつかの例では、細胞を毛細管内空間に充填することは、細胞を毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端のそれぞれから充填することを含む。任意に、本方法は、ホローファイバーの毛細管内空間内の細胞に形質導入することと、ホローファイバーの毛細管内空間から形質導入細胞を回収することとをさらに含んでもよい。いくつかの例では、毛細管内空間から形質導入細胞を回収することは、フラッシング流体をホローファイバーの毛細管外空間に充填することを含む。いくつかの実装形態では、毛細管内空間から形質導入細胞を回収することは、フラッシング流体を第1の末端または第2の末端の1つから毛細管内空間に充填することを含む。
【0016】
いくつかの例では、本方法は、毛細管外空間から廃棄物を回収することを含む。いくつかの実装形態では、細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターは、同時に充填される。いくつかの構成では、細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターは、別々に充填される。いくつかの実装形態では、細胞は、ウイルスまたは非ウイルスベクターに先立って充填される。いくつかの構成では、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、細胞に先立って充填される。
【0017】
いくつかの例では、細胞は、1×10から1×1010細胞/mlの間の範囲の濃度で充填される。いくつかの実装形態では、細胞を充填することは、ホローファイバーの内側表面積の大きさの関数である速度で細胞を充填することを含む。いくつかの構成では、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、ウイルス粒子として充填される。いくつかの例では、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、核酸ベクターとして充填される。
【0018】
いくつかの例では、本方法は、ホローファイバーの内側表面積の1平方センチメートル当たり、約5~100μl/分/cmの流量で細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターを充填することを含む。いくつかの例では、ホローファイバーの内側表面積の1平方センチメートル当たりの流量での充填は、約5~20μl/分/cmである。いくつかの実装形態では、ベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはハイブリッドウイルスに由来する。いくつかの例では、ベクターは、レトロウイルスである。いくつかの実装形態では、ベクターは、レンチウイルスである。いくつかの例では、ベクターは、ナノ粒子、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン、及び/またはポリアミンナノスフェアを含む。
【0019】
いくつかの実装形態では、細胞及びウイルスベクターは、約0.25から約4.0の範囲の感染多重度(MOI)で毛細管内空間に充填される。いくつかの例では、細胞及びウイルスベクターは、約2.5のMOIで毛細管内空間に充填される。いくつかの構成では、細胞は、B細胞、T細胞、NK細胞、単球、前駆細胞、または細胞株である。
【0020】
本開示の別の態様は、上の段落による方法によって生成された細胞の集団を提供する。本開示の別の態様は、上の段落による方法によって生成された細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0021】
本開示の別の態様は、1つ以上の形質導入細胞を含む細胞療法製品を製造する方法を提供する。本方法は、(i)細胞に形質導入するための、第1の末端から第2の末端に延びる毛細管内空間を画成するホローファイバーを備えるシステムを準備することと、(ii)細胞の集団及びウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間に充填して、毛細管内空間において1つ以上の細胞の形質導入をもたらすことと、(iii)毛細管内空間から1つ以上の形質導入細胞を含む細胞の集団を回収することとを含む。
【0022】
本開示のこの態様は、以下の任意の特徴の1つ以上を含んでもよい。いくつかの実装形態では、細胞の集団は、αβ T細胞、γδ T細胞、NK細胞、HSC、マクロファージ、樹状細胞及びiPSCから選択される。いくつかの構成では、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、組換え受容体を含む。いくつかの構成では、組換え受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)である。
【0023】
いくつかの例では、形質導入細胞は、細胞の表面に組換え受容体を含む。いくつかの実装形態では、キメラ抗原受容体は、CD44、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD89、CD123、CS-1、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、Her2、GD-2、CEA、MAGE A3 TCR、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2、CEA及びBCMAのうちの1つ以上から選択される腫瘍抗原を標的とする細胞外リガンド結合ドメインを含む。
【0024】
いくつかの構成では、本方法は、形質導入細胞を単離するステップを含む。いくつかの構成では、本方法は、バイオリアクターにおいて回収された細胞を増殖させるステップをさらに含む。いくつかの実装形態では、本方法は、回収された細胞を適した凍結保存培地において凍結保存するステップをさらに含む。いくつかの実装形態では、本システムは、第1の末端と隣接する毛細管内空間と流体連結した第1のポートと、第2の末端と隣接する毛細管内空間と流体連結した第2のポートとを含む。
【0025】
いくつかの例では、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間に充填することは、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む。いくつかの実装形態では、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間に充填することは、ウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端のそれぞれから充填することを含む。いくつかの構成では、細胞を毛細管内空間に充填することは、細胞を毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端の少なくとも1つから充填することを含む。いくつかの実装形態では、細胞を毛細管内空間に充填することは、細胞を毛細管内空間の第1の末端及び第2の末端のそれぞれから充填することを含む。
【0026】
本開示の様々な態様は、以下のセクションにおいて詳細に記載される。セクションの使用は、本開示を限定するものではない。各セクションは、本開示の任意の態様に適用できる。本出願において、「または」の使用は、別途記載のない限り、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別段であると明確に指示しない限り、単数及び複数の指示対象を両方とも含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】本開示によるホローファイバーを含むホローファイバーシステムを示す。
図1B図1Aの線1B-1Bに沿ったホローファイバーの水平断面を示し、ホローファイバーは、細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターが充填される。
図1C図1Aの線1C-1Cに沿ったホローファイバーの垂直断面を示し、ホローファイバーは、細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターが充填される。
図1D】本開示による複数のホローファイバーを含むホローファイバーフィルターモジュールの例の概略図である。
図2A】細胞及びウイルスベクター充填中の流体の流れ方向を示すホローファイバーを含むホローファイバーシステムを示す。
図2B】細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクター充填中の流体の流れ方向を示すホローファイバーの水平断面を示す。
図2C】細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクター充填中の流体の流れ方向を示すホローファイバーの垂直断面を示す。
図3A】標的または宿主細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入中の流体の流れ方向を示すホローファイバーを含むホローファイバーシステムを示す。
図3B】標的または宿主細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入中の流体の流れ方向を示すホローファイバーの水平断面を示す。
図3C】標的または宿主細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入中の流体の流れ方向を示すホローファイバーの垂直断面を示す。
図4A】細胞の回収中の流体の流れ方向を示すホローファイバーを含むホローファイバーシステムを示す。
図4B】細胞の回収中の流体の流れ方向を示す細胞及びウイルスを伴うホローファイバーの水平断面を示す。
図4C】細胞の回収中の流体の流れ方向を示すホローファイバーの垂直断面を示す。
図5】異なる形質導入条件下におけるレトロウイルス形質導入T細胞を示す。
図6】異なる条件下における形質導入後のT細胞の生存率を示す。
図7】異なる形質導入条件下におけるレトロウイルス形質導入NK細胞を示す。
図8】異なる形質導入条件下におけるレンチウイルス形質導入T細胞を示す。
図9】細胞治療形質導入のための半自動化ホローファイバーシステムの技術的配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
現在の最新技術
形質導入は、ウイルスが標的の細胞または宿主細胞に感染するプロセスである。ウイルスは自然に形質導入プロセスを経て、遺伝物質を標的細胞に非常に効率的に導入するように進化してきた。形質導入が生じるためには、ウイルス粒子が標的細胞と物理的に接触して、最初に標的細胞と結合し、それに侵入し、最終的に遺伝物質を標的細胞に導入しなければならない。結合は、ウイルスと標的細胞の両方に必要な正しいタンパク質との特定のタンパク質間相互作用によって生じる。
【0029】
細胞療法は、患者細胞に治療用遺伝子を導入するための送達媒体(ベクター)として、安全性と機能性のために改変されたウイルス粒子を使用して、自然の形質導入プロセスを利用する。ウイルスベクター形質導入は、現在、治療用遺伝物質を細胞に導入するための細胞療法の製造で最も頻繁に使用される方法である。
【0030】
ウイルスの形質導入に対する現在の業界のアプローチとしては、静的形質導入システム、化学エンハンサーの使用、及びスピノキュレーションが挙げられる。これらの現在の業界のアプローチのそれぞれについて、以下でさらに説明する。
【0031】
静的条件下でのウイルス形質導入は、ウイルス形質導入が現在行われている中で最も一般的な方法である。標準的な静的形質導入法では、ほとんどの形質導入は静的培養条件下で、標準的な培養フラスコまたはバッグで行われる。この手法では、ウイルスベクターは、単一の細胞の直径よりも約100~1000倍深い場合もある培地に懸濁させられる。標準的な静的方法を使用した形質導入は、細胞の非効率的な形質導入をもたらす様々な問題に直面する。例えば、静的方法を使用すると、懸濁液に残って、標的細胞に到達できない小さなベクター粒子が存在することになる。これは、少なくとも部分的に、大きな細胞が培養容器の床にすぐに沈殿するために生じる。形質導入に静置培養法を使用した最終的な結果は、拡散だけではベクター粒子のごく一部しか細胞に到達できないということである。結果として、形質導入効率が低く、かなりの細胞の形質導入を達成するには、ウイルスベクターの量を多くする必要がある。これは、標的細胞へのウイルスベクターの結合が、受容体/リガンドの発現及び物理的接触によって決まるためである。したがって、形質導入率は、与えられた細胞に対するウイルスの局所濃度に比例する。十分な形質導入率を達成するために大量のウイルスベクターを必要とすることは、費用がかかり、また、細胞療法の製造プロセス全体で非効率さを生み出す可能性がある。
【0032】
細胞の形質導入の別の標準的な方法は、結果として細胞へのベクターの結合率を増加させる化学エンハンサーの使用を伴う。しかしながら、化学エンハンサーに頼った方法の使用も費用がかかり、化学エンハンサーの除去は製造プロセスにおける追加の障壁を作り出す。
【0033】
細胞の形質導入のための別の標準的な方法は、スピノキュレーションの使用である。スピノキュレーションとは、遠心力利用の細胞の接種を指す。スピノキュレーションは、細胞が占める体積を減らす。この手法には、例えば細胞への損傷、スケールアップの難しさなどの様々な否定的な側面があることが示されており、一般に、小さなベクターにはあまり効果がない。
【0034】
ウイルス、特に、レトロウイルスの形質導入効率を向上させるためのさらに別の方法は、レトロウイルスと結合する細胞接着物質、例えば、フィブロネクチンまたはフィブロネクチンフラグメントCH-296[レトロネクチン(登録)(組換えヒトフィブロネクチンフラグメント)またはレトロネクチン]の使用によるものである。この方法は、レトロウイルスベクターを含む溶液をレトロネクチンでコーティングされた容器に添加し、続いてウイルスベクターのみがレトロネクチンに結合するのを可能にする一定の時間インキュベートし、ウイルス感染に対する阻害物質を含む上清を除去した後、標的細胞を添加することを必要とする。容器表面のレトロネクチンによるコーティングは、時間がかかり、この方法をやや費用がかかるものにする。さらに、この方法は、大量の細胞に遺伝子導入をすることが必要とされる場合、スケールアップが難しい。
【0035】
ホローファイバーシステムを使用した細胞形質導入
本開示は、レンチウイルス、レトロウイルス及びその他のウイルスならびに非ウイルスベクターの両方に適用可能な自動化または半自動化された高効率の細胞形質導入を可能にさせる、ホローファイバーシステムを使用した細胞に形質導入する極めて効率的な方法、例えば、接線流体流法に関する。本明細書に記載の方法は、現在の最先端の方法の制限を回避するホローファイバー形質導入へのアプローチを提供する。
【0036】
図1Aは、カスタム設計されたポンプ/バルブベースの構成内に組み込まれた1つ以上のホローファイバーを含むホローファイバーシステム100を示す。本開示のいくつかの実施形態では、ホローファイバーシステム100は、毛細管内培地容器104と、細胞容器108と、ウイルス容器112と、毛細管外培地容器116と、廃棄物容器120と、回収容器124と、毛細管内ポンプ128と、毛細管外ポンプ132と、1つ以上のホローファイバー136を含むフィルターモジュール134とを含む。下でさらに詳細に記載されるとおり、フィルターモジュール134は、様々な材料をホローファイバーシステム100に及びレトロウイルス材料を導入するための便利な手段を提供する。
【0037】
毛細管内培地容器104は、毛細管内培地または形質導入培地106を収容し、形質導入培地導管140を介して毛細管内ポンプ128に接続される。細胞容器108は、細胞110を収容し、細胞導管144を介して毛細管内ポンプ128に接続される。細胞としては、B細胞、T細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、単球、その他のリンパ系細胞または前駆細胞を挙げることができる。
【0038】
ウイルス容器112は、ウイルスまたはベクター粒子114を収容し、ウイルス導管148を介して毛細管内ポンプ128に接続される。ベクター114としては、ウイルス粒子を挙げることができる。他の例では、ウイルスとしては、核酸ベクターを挙げることができる。いくつかの例では、ウイルスは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはハイブリッドウイルスに由来する。いくつかの実施形態では、ウイルスとしては、レトロウイルスまたはレンチウイルスを挙げることができる。いくつかの例では、ウイルスの代わりに非ウイルスベクター(複数可)が使用される。ここで、非ウイルスベクターとしては、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン、ポリアミンナノスフェア、及び/または無機ナノ粒子を挙げることができる。非ウイルスベクターのさらなる例としては、例えば、とりわけ、スフェロプラスト、赤血球ゴースト、コロイド金属、無機ナノ粒子、DEAEデキストランプラスミド、またはそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、無機ナノ粒子は、リン酸カルシウムナノ粒子である。
【0039】
本開示は、それぞれ導管140、144、148によって独立して毛細管内ポンプ128に接続された3つすべての容器104、108、112を示しているが、容器104、108、112の2つ以上が共通の導管を共有してもよい。例えば、3つすべての容器104、108、112が単一の導管を介して毛細管内ポンプ128に接続されてもよい。別の実施形態では、細胞容器108及びウイルス容器112は、形質導入培地導管140から独立して共通の導管を介して毛細管内ポンプ128に接続されてもよい。
【0040】
毛細管内ポンプ128は、毛細管内培地106、細胞110、及びベクター粒子114の1つ以上を受け取り、それらを所望の速度でフィルターモジュール134に供給する。示される例では、毛細管内ポンプ128は、フィルターモジュール134と流体連結した第1の出口152A及び第2の出口152Bを含む。第1の出口152Aは、第1の毛細管内導管156Aを介してフィルターモジュール134と流体結合し、第2の出口152Bは、第2の毛細管内導管156Bを介してフィルターモジュール134と流体結合している。示されるとおり、フィルターモジュール134は、フィルターモジュール134の第1の末端に配置された第1の毛細管内ポート160Aを介して第1の毛細管内導管156Aに、及びフィルターモジュール134の反対の第2の末端に配置された第2の毛細管内ポート160Bを介して第2の毛細管内導管156Bに接続される。毛細管内ポート160A及び160Bは、流体/培地のフィルターモジュール134への通過を選択的に調節するように動作可能なバルブを含んでもよい。
【0041】
引き続き図1Aを参照して、毛細管外培地容器116は毛細管外または回収培地118を収容し、廃棄物容器120はフィルターモジュール134から流体廃棄物122を受け取るように構成される。毛細管外ポンプ132は、フィルターモジュール134と毛細管外培地容器116及び廃棄物容器120のそれぞれとの間で流体の流れを供給するように構成される。ここでは、毛細管外ポンプ132は、毛細管外培地導管176を介して毛細管外培地容器116と接続され、廃棄物導管180を介して廃棄物容器120と接続される。毛細管外ポンプ132は、それぞれが、それぞれの毛細管外ポート164A、164Bを介してフィルターモジュール134に接続される2つ以上のポンプポート172A、172Bを含み、毛細管外ポート164A、164Bは、毛細管外培地118及び廃棄物122のフィルターモジュール134への流れ及びフィルターモジュール134から出る流れを調節するように構成されたバルブを含んでもよい。第1の毛細管外ポート164Aは、第1の毛細管外導管168Aを介してフィルターモジュール134を毛細管外ポンプ132の第1の毛細管外ポンプポート172Aに接続する。第2の毛細管外ポート164Bは、第2の毛細管外導管168Bを介してフィルターモジュール134を毛細管外ポンプ132の第2の毛細管外ポンプポート172Bに接続する。
【0042】
毛細管内ポンプ128及び毛細管外ポンプ132のそれぞれは、様々な容器104、108、112、116、120とフィルターモジュール134との間で流体の流れを供給するように動作可能な任意のタイプのポンプを含んでもよい。示される例は、単一のポンプとして具現化された各ポンプ128、132を示しているが、システム100の他の実施形態は、それぞれが容器104、108、112、116、120の1つ以上へまたはそれらからの流体を供給するように動作可能な複数の毛細管内ポンプ128及び/または複数の毛細管外ポンプ132を含んでもよい。ポンプ128、132は、シリンジなどの手動ポンプとして、または定量ポンプなどの動力ポンプとして具現化されてもよい。任意に、各容器104、108、112、116、120から各ポンプ128、132への流れは、導管140、144、148、176、180または容器104、108、112、116、120に実装される1つ以上のバルブによって調節されてもよい。他の例では、各導管140、144、148、176、180が独立したポンプ128、132に個別に接続されてもよく、それにより、各容器104、108、112、116、120からの流れがそれぞれのポンプ128、132の操作によって直接調節される。
【0043】
図1Bは、ホローファイバー136の簡略化された例の水平断面を示す。水平断面は、図1Aに示される線1B-1Bに沿ったホローファイバー136の断面である。ホローファイバー136は、ケーシング137内に封入され、フィルターモジュール134の例を形成することができる。示されるとおり、ホローファイバー136内の空間は毛細管内空間138を画成し、ホローファイバー136外の空間は毛細管外空間139を画成する。例えば、毛細管外空間139は、ホローファイバー136とケーシング137との間の空間である。示される例は、毛細管内空間138を画成する単一のホローファイバー136を示しているが、当然のことながら、図1Dに示される例においてなど平行して配置され、毛細管内空間138を協同的に画成する複数のホローファイバー136が存在してもよい。フィルターモジュール134の一例は、RepligenのMicroKrosホローファイバー、または同種のものである。引き続き図1Aを参照して、第1及び第2の毛細管内ポート160A、160Bは、ホローファイバー136の両端で毛細管内空間138と流体結合する一方で、第1及び第2の毛細管外ポート164A、164Bは、ケーシング137の両端で毛細管外空間139と流体結合する。
【0044】
図1Cは、本開示のホローファイバー136の垂直断面を示す。垂直断面は、図1Aに示される線1C-1Cに沿ったホローファイバー136の断面である。垂直断面はまた、ケーシング137内に配置されたホローファイバー136も示す。ホローファイバー136は、毛細管内空間138と毛細管外空間139との間のフィルター通路を画成する複数の孔を有する膜を含む。上で記載し、図1Dに示されるとおり、複数のホローファイバー136がフィルターモジュール134に実装されてもよく、この場合、すべてのホローファイバー136は、ケーシング137内に収容される。ここでは、各ホローファイバー136は、毛細管内空間138の別個の部分を画成する。
【0045】
一実施形態では、ホローファイバー136は円筒形であり、500μmの直径を有する。いくつかの実施形態では、ホローファイバーは、形状が円筒形である。いくつかの例では、ホローファイバーの直径は、約80μm、100μm、150μm、200μmより大きい。ホローファイバー直径は、約250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、900μm、950μm、または約1,000μmである。
【0046】
いくつかの実施形態では、ホローファイバー136は、複数の孔径を有する膜を含む。一実施形態では、膜の孔径は、750kDである。いくつかの例では、ホローファイバー136の膜の孔径は、約50から100kDaの間であってもよい。いくつかの例では、ホローファイバー136の膜の孔径は、約50kDaより大きい。いくつかの実施形態では、ホローファイバー136の膜の孔径は、約100kDaから約200kDaである。いくつかの例では、ホローファイバー136の膜の孔径は、約300kDa、400kDa、500kDa、30nm、40nm、50nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、または1μmである。
【0047】
いくつかの実施形態では、ホローファイバー膜としては、ポリスルホン(PS)、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)、セルロース混合エステル(ME)、ポリエーテルスルホン(PES)、またはそれらの混合物が挙げられる。いくつかの例では、ホローファイバー膜としては、セラミック(複数可)、金属(複数可)またはそれらの混合物が挙げられる。任意に、ホローファイバー膜は、レトロネクチン、フィブロネクチン、及び/またはポリブレンを含まない(すなわち、レトロネクチン、フィブロネクチン、及び/またはポリブレンがない)。いくつかの実施形態では、細胞110へのベクター114の導入は、ホローファイバー136の膜を化合物でコーティングすることによって増加させることができる。いくつかの実施形態では、ホローファイバー136は、レトロネクチンでコーティングされる。いくつかの実装形態では、ホローファイバー136は、フィブロネクチンでコーティングされる。いくつかの構成では、ホローファイバー136の膜は、ポリブレンでコーティングされる。いくつかの例では、ホローファイバーは、レトロネクチン、フィブロネクチン、及び/またはポリブレンの混合物でコーティングされる。
【0048】
ホローファイバーシステムを使用したウイルス形質導入プロセス
下でさらに詳細に説明されるとおり、本開示によるホローファイバーシステム100を使用した細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクター導入は、一般に以下の3ステップを含む:1)細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターを毛細管内空間138に充填すること、2)毛細管内空間138内における細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入、及び3)毛細管内空間138から細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターを回収すること。各ステップで流体の流れ方向は、調節することができる。
【0049】
いくつかの例では、形質導入免疫細胞を含む回収された細胞は、増殖のために適したバイオリアクターまたは培養容器に移される。次に、形質導入細胞は、適した培養培地において3~20日間増殖させられた後、洗浄され、最終製剤緩衝液に懸濁させられ、後での治療的使用に適した製剤として凍結保存される。
【0050】
いくつかの例では、回収されたら、形質導入細胞は、当該技術分野における適した手段を使用することによって、例えば、形質導入細胞の細胞上に発現しているキメラ抗原受容体(CAR)と結合する抗体を使用したベクター及び形質導入されていない細胞からの形質導入細胞のアフィニティ単離またはフローサイトメトリーの使用によって形質導入されていない細胞及びベクターから分離される。使用可能な当該技術分野における他の適した手段としては、サイズ排除分離またはいくつかのその他の方法、例えば、ベクターから細胞を分離するためのカラム、膜などの使用が挙げられるが、これらに限定されない。回収ステップ後に細胞が単離、分離または除去されたら、細胞は、増殖させられた後に凍結保存されても、または回収ステップ後に凍結保存されてもよく、その後、凍結保存された細胞は、後での治療的使用のために使用することができる。
【0051】
細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクター充填中の流体の流れ方向
図2A~2Cは、細胞及びベクター充填プロセス中のホローファイバーシステム100の構成及び流体の流れ方向を示す。導管140、144、148、156A、156B、168A、168B、176、及び180;毛細管内空間138;ホローファイバー136;ならびに毛細管外空間139の矢印の方向は、充填プロセス中の流体の流れ方向を示す。図2Aに示されるとおり、細胞及びベクター充填プロセス中、毛細管内ポンプ128は、細胞容器108からの細胞110の流れ及びウイルス容器112からのベクター114の流れを受け取るが、毛細管内培地容器104から毛細管内培地106は受け取らない。したがって、各容器104、108、112は、毛細管内ポンプ128と流体結合していてもよいが、各容器からの流れは、1つ以上のバルブにより選択的に制御され(例えば、オン及びオフにされ)てもよい。
【0052】
引き続き図2Aを参照して、毛細管内ポンプ128は、第1及び第2の毛細管内導管156A、156Bのそれぞれを介して細胞110及びベクター114を毛細管内空間138に供給する。前述のとおり、毛細管内導管156A、156Bは、ホローファイバーフィルターモジュール134の両端に配置された毛細管内ポート160A、160Bを介して毛細管内空間138に接続されてもよい。したがって、細胞110及びベクター114は、毛細管内導管156A、156Bを介してホローファイバー136の両端からホローファイバー136の毛細管内空間138に導入されて、毛細管内空間138内に細胞110とベクター114の逆流を作り出す。細胞110及びベクター114が毛細管内空間138の両端から流れるため、細胞110とベクター114の逆流が、毛細管内空間138内の共通の領域でぶつかり、及び/または混じり合って、形質導入ゾーンを画成する。したがって、図3A~3Cに関して下に示される形質導入ステップ中に、細胞110は、逆流に基づいて毛細管内空間138の局所的な領域内で形質導入され得る。
【0053】
充填ステップ中、細胞110及びベクター114は、同時に毛細管内空間138に供給されてもよい。他の例では、細胞110は、ベクター114の供給に先立って毛細管内空間138に供給されてもよい。反対に、いくつかの例では、ベクター114が、細胞110の前に毛細管内空間138に供給されてもよい。別の例では、細胞110及びベクター114は、層状の細胞110及びベクター114が毛細管内空間138内に供給されるよう、ポート160A、160Bの両方を介して断続的及び二者択一的に毛細管内空間138に供給されてもよい。任意に、細胞110及びベクター114は、ポート160A、160Bの一方が閉鎖状態にある間にポート160A、160Bの他方を介して充填されてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、細胞は、1×10から1×1010細胞/mlの間の範囲の濃度でホローファイバーに充填される。いくつかの実施形態では、細胞は、約1×10から1×10細胞/mlの濃度でホローファイバーに充填される。いくつかの実施形態では、細胞は、約1×10、1×10細胞/ml、2×10細胞/ml、3×10細胞/ml、4×10細胞/ml、5×10細胞/ml、6×10細胞/ml、7×10細胞/ml、8×10細胞/ml、9×10細胞/mlまたは1×10細胞/mlの濃度でホローファイバーに充填される。
【0055】
いくつかの実施形態では、ウイルス粒子は、1×10IUウイルス/mlから1×10IUウイルス/mlの間の範囲の濃度で充填される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、約1×10IUウイルス/ml、2×10IUウイルス/ml、3×10IUウイルス/ml、4×10IUウイルス/ml、5×10IUウイルス/ml、6×10IUウイルス/ml、7×10IUウイルス/ml、8×10IUウイルス/ml、9×10IUウイルス/ml、1×10IUウイルス/ml、または1×10IUウイルス/mlの濃度で充填される。
【0056】
いくつかの実施形態では、ウイルスまたは非ウイルスベクターを充填するための流量は、ホローファイバー136の膜の内側表面積の大きさの関数である。いくつかの実施形態では、ホローファイバー136の膜の内側表面積の1平方センチメートル当たりの流量は、0.25ml/分/cmから100ml/分/cmの範囲にわたる。いくつかの実施形態では、細胞をホローファイバーに充填するための一定の流量は、0.25ml/分/cmから100ml/分/cmの間である。例えば、いくつかの実装形態では、一定の流量は、約0.25ml/分/cm、0.5ml/分、1ml/分/cm、5ml/分/cm、10ml/分/cm、15ml/分/cm、20ml/分/cm、25ml/分/cm、30ml/分/cm、35ml/分/cm、40ml/分/cm、45ml/分/cm、50ml/分/cm、55ml/分/cm、60ml/分/cm、65ml/分/cm、70ml/分/cm、75ml/分/cm、80ml/分/cm、85ml/分/cm、90ml/分/cm、95ml/分/cmまたは100ml/分/cmである。
【0057】
いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約0.25、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、または4.0の感染多重度(MOI)でホローファイバー毛細管内空間に充填される。したがって、いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約0.25のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約0.5のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約1.0のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約1.5のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約2.0のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約2.5のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約3.0のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約3.5のMOIで充填される。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルス粒子は、約4.0のMOIで充填される。
【0058】
細胞110及びベクター114が毛細管内空間138内に充填されると、ホローファイバー136は、細胞110及びベクター114を保持し、ホローファイバー136の毛細管内空間138内に濃縮する。結果として、細胞110及びベクター114は、毛細管内空間138(例えば、ホローファイバー136の膜の内側表面上)で濃縮される。細胞110及びベクター114からの廃棄物または流体122は、ホローファイバー136の孔を通過して毛細管内空間138から毛細管外空間139に至る。図2Bに示されるとおり、廃棄物122は、毛細管外空間139を通って両方向に流れてフィルターモジュール134の両端に配置された毛細管外ポート164A、164Bへ至る。ここで、毛細管外ポート164A、164Bへ向かう廃棄物122の反対の流れは、細胞110及びベクター114の流入する流れに対する廃棄物122の流出する流れのクロスフローをもたらす。廃棄物122は、毛細管外ポート164A、164Bから毛細管外導管168A、168Bを介して毛細管外ポンプ132の毛細管外ポンプポート172A、172Bに移動した後、ポンプ132によって廃棄物導管180を介して廃棄物容器120に排出される。
【0059】
ウイルスまたは非ウイルスベクター導入中の流体の流れ方向
細胞110及びベクター114が毛細管内空間138に充填されると、ホローファイバーシステム100は、形質導入を促進するために毛細管内培地106を毛細管内空間に導入するように構成される。毛細管内流体充填ステップは、毛細管内空間138(例えば、ホローファイバー136の膜の内側表面上)における細胞110とベクター114の相互作用を促進し、これは、細胞110とのベクター114の結合、及び結果として生じる細胞110へのベクター粒子114の侵入をもたらす。図3A~3Cは、形質導入プロセス中のホローファイバーシステム100の構成及び流体の流れ方向を示す。矢印の方向は、形質導入プロセス中のそれぞれの材料122、140に関する流体の流れ方向を示す。図3Aに示されるとおり、形質導入プロセス中、細胞容器108及びウイルス容器112は毛細管内ポンプ128と流体連結していないが、毛細管内培地容器104は毛細管内ポンプ128と流体連結している。したがって、毛細管内ポンプ128は、毛細管内培地106の流れを受け取るが、細胞110もベクター114も受け取らない。
【0060】
引き続き図3Aを参照して、毛細管内ポンプ128は、第1及び第2の毛細管内導管156A、156Bのそれぞれを介して毛細管内培地を毛細管内空間138に供給して、ベクター導入を開始する。したがって、細胞110及びベクター114のように、毛細管内培地106は、ホローファイバー136の両端から毛細管内空間138に充填されてもよい。一実施形態では、形質導入時間は、約90分である。
【0061】
毛細管内培地106は、ウイルスが細胞から離れて拡散するのを防ぐために低流量の連続的な一定の流体の流れを使用して毛細管内空間138に供給されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入のための一定の流量は、10μl/分から5ml/分の間である。いくつかの実施形態では、細胞にベクターを形質導入するための一定の流量は、10μl/分から5ml/分の間である。例えば、いくつかの実施形態では、一定の流量は、約10μl/分、25μl/分、50μl/分、100μl/分、250μl/分、500μl/分、750μl/分、1ml/分、2ml/分、3ml/分、4ml/分、または5ml/分である。
【0062】
いくつかの実施形態では、細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターは、約5分からおよそ数日の間、流体の流れにさらされる。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルスは、5分から約18時間の間、流体の流れにさらされる。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルスは、60分から約120分の間、流体の流れにさらされる。いくつかの実施形態では、細胞及びウイルスは、約90分、流体の流れにさらされる。いくつかの実施形態では、細胞は、形質導入の後、ホローファイバーシステムにおいて数週間さらに培養される。
【0063】
形質導入プロセス中、流体は、ポート160A、160Bを介してフィルターモジュール134の毛細管内空間に入り、毛細管内空間138からホローファイバー136の孔を通過し、毛細管外空間139に流れ出る。形質導入プロセスからの廃棄物または流体122は、ホローファイバー136の孔を通過して毛細管内空間138から毛細管外空間139に至る。図3Bに示されるとおり、廃棄物122は、毛細管外空間139を通って両方向に流れてフィルターモジュール134の両端に配置された毛細管外ポート164A、164Bへ至る。ここで、毛細管外ポート164A、164Bへ向かう廃棄物122の反対の流れは、毛細管内培地140の流入する流れに対する廃棄物122の流出する流れのクロスフローをもたらす。毛細管外ポンプ132は、毛細管外ポート164A、164Bから毛細管外導管168A、168Bを介して廃棄物122を受け取った後、廃棄物導管180を介して廃棄物122を廃棄物容器120に排出する。
【0064】
細胞及びウイルスまたは非ウイルスベクターの回収中の流体の流れ方向
図3A~3Cに示される形質導入プロセスの後、システム100は、毛細管内空間138から形質導入細胞126を回収するように構成される。図4A~4Cは、細胞回収プロセス中のホローファイバーシステム100に関する構成及び流体の流れ方向を示す。矢印の方向は、細胞回収プロセス中の流体の流れ方向を示す。図4Aに示されるとおり、回収プロセス中、毛細管外ポンプ132は、毛細管外ポート164A、164Bのそれぞれを介して毛細管外培地容器116から毛細管外空間139に毛細管外培地118の流れを供給する。図4B及び4Cに示されるとおり、毛細管外培地118は、毛細管外空間139から毛細管内空間138に通過して、形質導入細胞126を毛細管内空間138から移動させる。例えば、毛細管外培地118は、毛細管外ポート164A、164Bのそれぞれを介してフィルターモジュール134の毛細管外空間に導入されて、ホローファイバー136の膜の内側表面から毛細管内空間138への形質導入細胞126の移動を最大にする。
【0065】
引き続き図4Aを参照して、毛細管内ポンプ128はまた、毛細管内空間から放出された形質導入細胞126を洗い流すために、毛細管内培地容器104から毛細管内空間138に毛細管内培地106(または他のフラッシング流体)の流れを供給してもよい。ただし、毛細管内培地106が毛細管内ポート160A、160Bの両方を介してホローファイバー136の両端から供給される形質導入プロセス(図3A~3C)中とは異なり、回収プロセス中、毛細管内培地106は、1つの毛細管内ポート160Aのみを介して供給されて、毛細管内空間138を通る単一方向の流れを開始する。毛細管内空間を通る繰り返される単一方向の流体の流れは、他方の毛細管内ポート160Bを介して毛細管内空間138から回収容器124に形質導入細胞126を回収することを可能にする。
【0066】
いくつかの例では、形質導入細胞126は、毛細管内空間138から完全培養培地に回収された後、直接適したバイオリアクターまたは培養容器に移される。形質導入細胞は、次に、生成物に依存する培養緩衝液中で増殖期間(例えば、3~20日間)増殖させられる。増殖させられたら、細胞は、洗浄され、最終製剤緩衝液中に懸濁させられてから、治療的使用のために凍結される。他の例では、形質導入細胞126は、毛細管内空間138から最終製剤緩衝液に回収されてもよい。ここでは、形質導入細胞126は、標的細胞のサイズ選択及び不必要なウイルスの除去のための膜、カラム、またはその他のものをベースにしたプロセスに導入される。次に、選択された標的細胞は、後での治療的使用のために凍結される。
【0067】
半自動化ホローファイバーシステムを使用したレトロウイルス及びレンチウイルス形質導入
実施例1.半自動化ホローファイバーシステムを使用した、レトロネクチンを用いないT細胞のレトロウイルス形質導入
この実施例は、半自動化ホローファイバーシステムを使用したレトロネクチンを用いないT細胞のレトロウイルス形質導入を示す試験を示す。この実施例は、以下の6つの異なる条件下で達成された形質導入率を比較する:a)形質導入されない(UTD)静的バッグのみ、b)レトロネクチン(RN)コーティングなしの静的バッグ、細胞及びウイルスを90分間コインキュベート、c)レトロネクチンコーティングありの静的バッグ、90分間インキュベート、d)レトロネクチンコーティングなしの静的バッグ、細胞及びウイルスを一晩コインキュベート、e)レトロネクチンコーティングありの静的バッグ、細胞及びウイルスを一晩コインキュベート(標準プロセス)、及びf)レトロネクチンを用いない半自動化ホローファイバーシステム、細胞及びウイルスを90分間コインキュベート。6つすべての条件に関する比較の形質導入率を図5に示す。
【0068】
この実施例では、最適な感染範囲を求めるためにレトロウイルスの3倍希釈物を調製した。CD4/CD8単離T細胞を解凍し、48時間活性化させた。静的対照条件において、100万細胞/mLの濃度の予め活性化させた700万個のT細胞を培養バッグに入れた。次に、これらの予め活性化させた細胞にウイルス(MOI 2.5)で一晩または90分間のいずれか形質導入した。レトロネクチン対照を調製し、細胞バッグを10μg/mLで一晩レトロネクチンによりコーティングした。レトロネクチンコーティングバッグを、レトロウイルスとともに2時間プレインキュベートした。
【0069】
半自動化ホローファイバーシステム100において、細胞及びウイルスをMOI 2.5でフィルターモジュール134に充填し、90分間形質導入した。ホローファイバーシステム100にはレトロネクチンを使用しなかった。90分の形質導入プロセスの終わりに、細胞及びウイルスをフィルターモジュール134から回収し、続いて洗浄して、ウイルスを除去した後、細胞をGREX-6Mに播いた。一晩形質導入した静的バッグの細胞も、翌日に同様のプロセスを行った。すべての細胞を、形質導入後5日間増殖させた後、フロー分析のために回収した。
【0070】
データは、細胞を同様の時間間隔で形質導入した場合、レトロネクチンコーティングバッグが、レトロネクチンコーティングなしのバッグと比較して高い形質導入率を示すことを示した。例えば、図5に示すとおり、90分間インキュベートしたレトロネクチンコーティングありの静的バッグは、レトロネクチンコーティングなしで、同様の時間間隔でインキュベートした静的バッグと比較して高い形質導入率を示した。同様に、図5に示すとおり、一晩インキュベートしたレトロネクチンコーティングありの静的バッグは、レトロネクチンコーティングなしで、一晩インキュベートした静的バッグと比較して高い形質導入率を示した。図5で明らかに認識できるように、90分間インキュベートしたレトロネクチンコーティングなしの半自動化ホローファイバーシステム100は、一晩インキュベートしたレトロネクチンコーティングありの静的バッグ(すなわち、標準プロセス)の形質導入率とほぼ同じ形質導入率を示した。
【0071】
さらに、図6に示すとおり、形質導入後にバッグから回収した細胞(すなわち、静的対照)とホローファイバーから回収した細胞の生存率に顕著な差はなかった。同様に、バッグにおいて形質導入された細胞とホローファイバーシステムにおいて形質導入された細胞との間の細胞の拡大または増殖に顕著な差はなかった。
【0072】
実施例2.半自動化ホローファイバーシステムを使用したレトロネクチンを用いないNK細胞のレトロウイルス形質導入
この実施例は、ホローファイバーシステムを使用したNK細胞のレトロウイルス形質導入を実証する概念証明試験を示す。この実施例は、以下の2つの異なる条件下で達成された形質導入率を比較する:a)レトロネクチンコーティングなしの静的プレート、90分間インキュベート、b)レトロネクチンコーティングなしの半自動化ホローファイバーシステム100、90分間インキュベート。これら2つの条件に関する比較の形質導入率を図7に示す。
【0073】
この実施例では、レトロウイルスを最適な感染範囲に調製した。新鮮な臍帯血NK細胞を単離し、形質導入の前に6日間活性化させた。静的制御条件において、100万細胞/mL濃度の予め活性化させた500万個のNK細胞に、ウイルス(MOI 2)を用いて90分間形質導入した。半自動化ホローファイバーシステムにおいて、細胞及びウイルスをMOI 2でホローファイバーに充填し、90分間形質導入した。90分の形質導入プロセスの終わりに、細胞及びウイルスをホローファイバーシステム100から回収し、続いて洗浄して、ウイルスを除去した後、細胞を組織培養プレートに播いた。形質導入した静的細胞も、同様のプロセスを行った。すべての細胞を、形質導入後9日間増殖させた後、フロー分析のために回収した。
【0074】
データは、図7に示すとおり、ホローファイバーシステムが、静的プレート対照と比較してNK細胞への高い形質導入率を示すことを示した。
【0075】
実施例3.半自動化ホローファイバーシステムを使用したレンチウイルス形質導入
この実施例は、半自動化ホローファイバーシステムを使用したレンチウイルス形質導入を実証する概念証明試験を示す。この実施例は、以下の4つの異なる条件下で達成された形質導入率を比較する:a)形質導入されないバッグ(すなわち、静的バッグのみ)、b)90分間インキュベートした静的バッグ、c)一晩インキュベートした静的バッグ、及びd)90分間インキュベートした半自動化ホローファイバー。これら4つすべての条件に関する比較の形質導入率を図8に示す。
【0076】
この実施例では、ZsGreenレポーターを有するレンチウイルスベクターを使用した。CD4/CD8単離T細胞を解凍し、48時間活性化させた。細胞及びウイルスの混合物の単一のバイアル[感染多重度(MOI)1]を調製した後、等しいMOIを確保するために別々のバイアルに等分した。
【0077】
静的対照条件において、100万細胞/mLの濃度の予め活性化させた700万個のT細胞を細胞バッグに入れた。次に、これらの予め活性化させた細胞に、MOI 1でウイルスにより一晩または90分間のいずれかで形質導入した。
【0078】
半自動化ホローファイバーシステムにおいて、細胞/ウイルス混合物をホローファイバーに充填し、90分間形質導入した。90分の形質導入プロセスの終わりに、細胞及びウイルスをホローファイバーから回収し、続いて洗浄して、ウイルスを除去した後、細胞をGREX-6Mに播いた。一晩形質導入した細胞も、翌日に同様のプロセスを行った。すべての細胞を、形質導入後5日間増殖させた後、フロー分析のために回収した。
【0079】
図8に示すとおり、一晩形質導入した静的バッグは、90分間形質導入した静的バッグと比較して高い形質導入率を示した。図8で明らかにわかるように、90分間のみインキュベートした半自動化ホローファイバーシステム100は、一晩インキュベートした静的バッグの形質導入と比較して約1.4倍高い形質導入を示した。さらに、形質導入後にバッグから回収した細胞とホローファイバーから回収した細胞の生存率に顕著な差はなかった。同様に、形質導入後のバッグとホローファイバーとの間の増殖に顕著な差はなかった。
【0080】
細胞療法形質導入のための半自動化ホローファイバーシステム
図9は、細胞療法形質導入のためのホローファイバーシステム200の別の例の概略の配置を示す。配置は、投入材料206、210、214、218、産出材料222、226、及びホローファイバー236を特徴とする。
【0081】
投入材料は、形質導入培地206、細胞210、ベクター214、及び回復/回収培地218を含む。投入材料のための各容器204、208、212、216は、泡センサー284及びホローファイバー236への投入材料206、210、214の流れを制御するバルブ260A~260Dにも接続される。泡センサー284A~Dは、投入材料206、210、214、218中の泡の存在を検出し、確実にホローファイバー236が泡のない投入材料206、210、214、218を受け取るのを助ける。
【0082】
産出材料は、回収された細胞226及び廃棄物222を含む。各産出材料の容器220、224は、ホローファイバー236から産出材料容器220、224への流体/培地の流れを制御する1つ以上のポート164A、164Bにも接続される。
【0083】
ホローファイバー236は、バルブ260E~260G、264A~264D及び圧力センサー288を介していくつかのポンプ228A、228B、232に接続される。これらのポンプ228A、228B、232は、ホローファイバー236に関して上で記載したのと同様の様式でホローファイバー236を用いて行われる細胞及びウイルス充填プロセス、形質導入プロセス、及び回収プロセス中のホローファイバー236の毛細管内空間及び毛細管外空間への流体の流れの速度を制御する。
【0084】
本明細書に開示されるシステム及び方法は、ホローファイバーシステムを使用してベクターと標的細胞との間の接触を増加させることによって、細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入の効率を著しく高める。このようにして、大量の細胞が、細胞の効率的な形質導入を可能にする十分な濃度のベクターにさらされる。これにより、ベクターの無駄を最小限に抑えながら、細胞に形質導入する時間を短縮する。したがって、本開示は、細胞の高い形質導入を達成するために使用されるベクターの総量を低減するだけでなく、形質導入時間も著しく短縮するシステム及び方法を提供する。したがって、一態様では、本明細書に記載のシステム及び方法は、従来の形質導入システムと比較して、低コストで効率的な細胞の形質導入を達成する。本明細書に開示されるシステム及び方法のさらなる利点には、形質導入細胞の量の増加、形質導入プロセス中に消費されるウイルスの減少、処理時間の短縮、及び製造コストの削減が含まれる。これは、少なくとも本方法が、処理時間を速くさせ、より有効な治療薬を作り出すため、ひいては患者に利益をもたらす。
【0085】
本明細書に記載の方法は、ホローファイバーの一方の側からホローファイバーの他方の側への接線方向の流体の流れを可能にするホローファイバーシステムを使用する。本ホローファイバーシステムは、1つ以上のホローファイバーを備える。ホローファイバーは、膜を越えた接線方向の流体の流れを可能にする多孔性の円筒形表面を備える。接線方向の流体の流れは、ベクターを細胞と接触/接近させ、これは、ウイルス形質導入効率の増加に寄与する。
【0086】
ホローファイバーの多孔性の円筒形表面は、流体及び小分子を流通させるが、同時に細胞及び大きな分子を流通させない。したがって、本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ホローファイバーは、選択的に特定の分子がホローファイバーを通って、流出するのを可能にする一方で、同時に細胞及び他の大きな分子を保持する孔径を含む。さらに、本明細書に記載のホローファイバーは、標的または宿主細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの高効率の導入を達成するための所望の流れ特性をさらに高めるために50kDaから1μmの間の孔を有するように調整することができる。ホローファイバーの孔はまた、使用されるウイルスまたは非ウイルスベクターのサイズに基づいて調整することもできる。いくつかの実施形態では、ホローファイバーの孔径は、ウイルスまたは非ウイルス粒子のサイズの4分の1である。いくつかの実施形態では、ホローファイバーの孔径は、ウイルスまたは非ウイルス粒子のサイズの3分の1である。いくつかの実施形態では、ホローファイバーの孔径は、ウイルスまたは非ウイルス粒子のサイズの半分である。標的または宿主細胞へのウイルスまたは非ウイルスベクターの導入の効率をさらに最適化するために調節可能なホローファイバーのさらなるパラメーターは、ホローファイバー自体の直径である。
【0087】
形質導入細胞の使用
本明細書に記載の方法を使用してウイルスまたは非ウイルスベクターにより導入された細胞は、改変された細胞が有することができる任意の目的のために細胞を使用することを可能にする。改変された細胞は、高い生存率を維持し(例えば、70%、75%、80%、85%、もしくは90%超、または最大98%)、例えば、養子細胞療法用途などの細胞療法のためなどの様々な用途に使用することができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、ホローファイバーシステムを使用した形質導入細胞の生存率及び増殖は、一晩の静的条件を使用した形質導入細胞の生存率及び増殖と同じである。
【0089】
養子細胞療法
本明細書に記載の方法は、とりわけ、例えば、養子細胞療法用途に使用するためを含む、様々な治療方法に使用するための細胞を遺伝子操作するために使用することができる。
【0090】
養子細胞療法(「ACT」)は、疾患を治療するために自己細胞または同種異系細胞を患者へ注入することを指す。B細胞、T細胞、NK細胞、単球、前駆細胞、または細胞株などの様々な細胞タイプをACTベースの治療に使用することができる。前駆細胞は、患者または患者以外のドナーから直接単離することができる。前駆細胞としては、例えば、患者または患者以外のドナー由来のiPSCなどの成体幹細胞及び多能性細胞が挙げられる。いくつかの実施形態では、ACTは、遺伝子改変された造血幹細胞(「HSC」)の移植を使用する。
【0091】
ACT法の1つのカテゴリーである造血幹細胞(「HSC」)の移植は、自己幹細胞または同種異系幹細胞の注入を含み、骨髄または免疫系が損傷または欠損している患者の造血機能を回復させる。また、例えば、先天性遺伝病の治療など、遺伝子改変HSCの導入も可能にする。典型的なHSCの移植では、HSCは骨髄、末梢血、または臍帯血から得られる。
【0092】
いくつかの実施形態では、末梢血から得られた細胞は、ACT法で使用するために遺伝子操作される。末梢血は、骨髄または臍帯血と比較して幹細胞及び前駆細胞の含量が高いため、自家移植に使用される。さらに、末梢血から得られたHSCは、移植後の生着がより速いことを示している。末梢血中のHSCは低濃度で存在するため、ドナーは通常、骨髄環境へのHSCの接着に影響を与えてそれらを末梢血に放出させる、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などの動員用の因子で治療される。
【0093】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、T細胞免疫療法に基づくACT法のためにT細胞を遺伝子改変するべく使用される。T細胞免疫療法は、ACT法の別のカテゴリーであり、特定の抗原、例えば、腫瘍関連抗原などを標的とするよう選択され、及び/またはエクスビボで操作された自家または同種異系Tリンパ球の注入を伴う。Tリンパ球は、典型的には白血球除去法によってドナーの末梢血から得られる。一部のT細胞免疫療法では、腫瘍浸潤リンパ球(「TIL」)などのドナーから得たTリンパ球を培養で増殖させ、それらの本来の特異性を変えることなく抗原特異性について選択する。他のT細胞免疫療法の方法では、ドナーから得られたTリンパ球は、通常はウイルス発現ベクターによる形質導入によってエクスビボで操作され、所定の特異性のキメラ抗原受容体(「CAR」)を発現する。CARは、典型的には、所望の抗原に対する特異性を付与する、scFv由来の結合ドメインなどの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及びCD3ζまたはFcRγからの細胞内ドメインなどのT細胞エフェクター機能を誘発する1つまたは複数の細胞内ドメイン、及び任意に、例えばCD28及び/または4-1BBから引き出される1つまたは複数の共刺激ドメインを含む。さらに他のT細胞免疫療法では、ドナーから得られるTリンパ球は、典型的にはウイルス発現ベクターによる形質導入によってエクスビボで操作され、特定のHLA対立遺伝子の状況で提示される抗原に対する所望の特異性を付与するT細胞受容体(「TCR」)を発現する。
【0094】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、造血幹細胞(HSC)を遺伝的に改変するために使用される。いくつかの実施形態では、HSCは、レシピエント対象への移植の前に、HSCの集団を拡大するための追加の処理を受けるか、または本明細書に記載の組換え方法によって操作されて、異種遺伝子または追加の機能を、同種異系HSCに導入する。ある特定の実施形態において、追加の治療はHSCの成熟をもたらす。
【0095】
自家または同種異系のいずれかのドナーから得られたHSCは、レシピエント対象への移植前に追加の処理を受けることができる。いくつかの実施形態では、HSCは、例えば、適切な培地で1つまたは複数のHSCを培養することによって、HSCの集団を拡大するために処理される。
【0096】
いくつかの実施形態では、自家または同種異系いずれかのHSCは、組換え法によって操作され、本明細書に開示される方法によって異種遺伝子を導入する。このような遺伝子操作は、遺伝的な欠陥を修正するために使用できる、及び/または移植前にHSCに追加の機能を導入できる。いくつかの実施形態では、機能する野生型遺伝子をHSCに導入して、遺伝的欠陥、例えば、先天性造血障害(例えば、βサラセミア、ファンコニ貧血、血友病、鎌状赤血球貧血など)、原発性免疫不全症(例えば、アデノシンデアミナーゼ欠乏症、X連鎖重度複合免疫不全症、慢性肉芽腫症、Wiskott-Aldrich症候群、ヤヌスキナーゼ3欠乏症、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)欠乏症、白血球接着不全タイプ1など)、及び先天性代謝疾患(例えば、ムコ多糖症(MPS)I型、II型、III型、VII型、ゴーシェ病、X連鎖副腎白質ジストロフィーなど)を修正する。ある特定の実施形態では、HSCは、リコンビナーゼ系、例えば、CRISPR/Cas9系またはCre/Loxリコンビナーゼを用いたゲノム編集による遺伝子操作に供される。例えば、リコンビナーゼ系を使用して、遺伝子を除去したり、遺伝子欠損を修正したりすることができる。様々な実施形態において、HSCの機能を変更する他の方法としては、とりわけ、アンチセンス核酸、リボザイム、及びRNAiの導入が挙げられる。
【0097】
いくつかの実施形態では、前駆細胞または細胞株は、ウイルスまたは非ウイルスベクターを前駆細胞または細胞株に導入することによって改変される。本明細書に記載の方法及びシステムに従って、任意の適した前駆細胞または細胞株を使用することができる。非限定例として、適した前駆細胞としては、例えば、患者または患者以外のドナーから直接単離された細胞が挙げられる。前駆細胞としては、例えば、患者または患者以外のドナー由来のiPSCなどの成体幹細胞及び多能性細胞が挙げられる。様々な細胞株も、本明細書に記載の方法及びシステムとともに使用することができ、これらとしては、例えば、ヒトまたは非ヒト由来の哺乳動物細胞株が挙げられる。
【0098】
本開示の他の特徴、目的、及び利点は、以下の実施例において明らかである。ただし、実施例は、本開示の実施形態を示しているが、限定ではなく、例示としてのみ示されていることを理解するべきである。実施例から、本開示の範囲内での様々な変更及び改変が、当業者に明らかになるであろう。
【0099】
定義
養子細胞療法:本明細書で使用される場合、「養子細胞療法」、「養子細胞移植」または「ACT」という用語は、細胞の移植を必要とする患者への細胞の移植を指す。細胞は、それを必要とする患者から得て、増殖させられてもよく、または患者以外のドナーから得たものでもよいであろう。いくつかの実施形態では、細胞は、リンパ球などの免疫細胞である。例えば、T細胞、CD8+細胞、CD4+細胞、NK細胞、デルタガンマT細胞、制御性T細胞及び末梢血単核細胞などの様々な細胞型をACTに使用することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を導入するために遺伝子改変される。
【0100】
動物:本明細書で使用される場合、「動物」という用語は、動物界の任意のメンバーを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、発達の任意の段階にあるヒトを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、発達の任意の段階における非ヒト動物を指す。ある特定の実施形態では、非ヒト動物は、哺乳動物(例えば、齧歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類、及び/またはブタ)である。いくつかの実施形態では、動物は、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚、昆虫、及び/または蠕虫を含むがそれらに限定されない。いくつかの実施形態では、動物は、トランスジェニック動物、遺伝子操作された動物、及び/またはクローンであってもよい。
【0101】
およそまたは約:本明細書で使用される場合、1つ以上の目的の値に適用されるとき、「およそ」または「約」という用語は、言及された値ばかりでなく言及された基準値に類似する値も指す。特定の実施形態では、「およそ」または「約」という用語は、別に明記されない限り、または文脈から別のことが明らかでない限り(そのような数が可能な値の100%を上回る場合を除いて)、言及される基準値(を上回るか、または下回るか)のいずれかの方向の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%以内にある値の範囲を指す。
【0102】
キメラ抗原受容体(CAR):本明細書で使用される場合、「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、本明細書に記載の方法を使用して形質導入される細胞(例えば、免疫細胞、例えば、NK細胞、iPSC由来のNK細胞(iNK細胞)、T細胞、例えば、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、ガンマデルタT細胞、制御性T細胞またはそれらの組み合わせ)に抗原特異性を付与することができる操作受容体を指す。CARは、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、またはキメラ免疫受容体としても知られている。様々な実施形態では、本明細書に記載のCARは、抗原特異的標的化ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、任意に1つ以上の共刺激ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインの1つ以上を含んでもよい。
【0103】
凍結保存:本明細書で使用される場合、「凍結保存」という用語は、一般に、生物材料(例えば、細胞の集団または形質導入細胞)を、そうでなければ材料を損傷させる可能性もある化学反応を止め、それによって材料を保護するよう、十分に低い温度に凍結することを指す。凍結保存された細胞は、凍結保存状態において1、5、10年またはそれ以上など、凍結状態において長期間、生存性を維持する。凍結保存された細胞は、解凍されたら、インビトロ及びインビボ用途の両方のために増殖することができる。
【0104】
宿主細胞または標的細胞:本明細書で使用される場合、「宿主細胞」または「標的細胞」という用語は、トランスフェクトも感染も形質導入もされていない細胞を含む。いくつかの実施形態では、「宿主細胞」または「標的細胞」という用語は、本開示の組換えベクターまたはポリヌクレオチドでトランスフェクト、感染、または形質導入されたものを含む。宿主細胞には、パッケージング細胞、プロデューサー細胞、及びウイルスベクターに感染した細胞が含まれる場合がある。特定の実施形態では、本開示のウイルスベクターに感染した宿主細胞は、治療を必要とする対象に投与するのに適している。いくつかの実施形態では、標的細胞は幹細胞または前駆細胞である。ある特定の実施形態では、標的細胞は体細胞、例えば、成体幹細胞、前駆細胞、または分化細胞である。好ましい実施形態では、標的細胞は造血細胞、例えば造血幹細胞または前駆細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞には、B細胞、T細胞、NK細胞、単球または前駆細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、標的細胞は、哺乳動物細胞、昆虫細胞、細菌細胞、または真菌細胞である。
【0105】
哺乳動物細胞株
いくつかの実施形態では、「宿主細胞」または「標的細胞」は、細胞株を含む。様々な細胞株が当該技術分野において知られており、本開示と使用するのに適している。適した細胞株としては、例えば、ヒトまたは非ヒト由来の哺乳動物細胞株が挙げられる。
【0106】
細胞培養、及びポリペプチドの発現が可能な任意の哺乳動物細胞または細胞タイプを、宿主細胞または標的細胞として、本開示に従って利用することができる。本開示に従って使用可能な哺乳動物細胞の非限定例としては、ヒト胎児由来腎臓293細胞(HEK293)、HeLa細胞;BALB/cマウス骨髄腫株(NSO/l、ECACC番号:85110503);ヒト網膜芽細胞(PER.C6(CruCell、Leiden、The Netherlands));SV40によってトランスフォームされたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児由来腎臓株(浮遊培養での増殖のためにサブクローニングされた293または293細胞、Graham et al., J. Gen Virol., 36:59 (1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞+/-DHFR(CHO、Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4139 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1 587);ヒト子宮頸癌細胞(HeLa、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W136、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝細胞癌株(Hep G2)が挙げられる。いくつかの実施形態では、適した哺乳動物細胞は、エンドソームの酸性化欠損細胞ではない。
【0107】
さらに、ポリペプチドまたはタンパク質を発現する商業的及び非商業的に入手可能なハイブリドーマ細胞株をいくつでも、本開示に従って利用することができる。当業者は、ハイブリドーマ細胞株が異なる栄養要件を有する場合もあり、及び/または最適な増殖及びポリペプチドまたはタンパク質発現のために異なる培養条件が必要になる場合もあることを理解し、必要に応じて条件を改変することができるであろう。
【0108】
非哺乳動物細胞株
細胞培養、及びポリペプチドの発現が可能な任意の非哺乳動物由来の細胞または細胞タイプを、宿主細胞として、本開示に従って利用することができる。本開示に従って使用可能な非哺乳動物宿主細胞及び細胞株の非限定例としては、酵母菌に関するPichia pastoris、Pichia methanolica、Pichia angusta、Schizosacccharomyces pombe、Saccharomyces cerevisiae、及びYarrowia lipolytica;昆虫に関するSodoptera frugiperda、Trichoplusis ni、Drosophila melangoster及びManduca sexta;ならびに細菌に関するEscherichia coli、Salmonella typhimurium、Bacillus subtilis、Bacillus lichenifonnis、Bacteroides fragilis、Clostridia perfringens、Clostridia difficile;ならびに両生類のXenopus Laevis由来の細胞及び細胞株が挙げられる。
【0109】
機能的等価物または派生物:本明細書で使用される場合、「機能的等価物」または「機能的派生物」という用語は、アミノ酸配列の機能的派生物の文脈において、元の配列のものに実質的に類似する生物学的活性(機能または構造のいずれか)を保持する分子を意味する。機能的派生物または等価物は、天然の派生物であってもよいし、合成的に調製されたものであってもよい。例示的な機能的誘導体としては、タンパク質の生物学的活性が保存されているという条件で、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、または付加を有するアミノ酸配列が挙げられる。置換アミノ酸は、置換アミノ酸と同様の化学物理特性を有することが望ましい。望ましい類似の化学物理特性には、電荷、かさ高さ、疎水性、親水性などの類似性が含まれる。
【0110】
インビトロ:本明細書で使用する場合、「インビトロ」という用語は、多細胞生物の内部ではなく人工的な環境、例えば、試験管内または反応容器内、細胞培養内などで生じる事象を指す。
【0111】
インビボ:本明細書で使用される場合、「インビボ」という用語は、ヒト及び非ヒト動物などの多細胞生物内で起こる事象を指す。細胞ベースのシステムの文脈において、この用語は、(例えば、インビトロのシステムとは対照的に)生細胞内で起こる事象を指すために使用される場合もある。
【0112】
非ウイルスベクター:本明細書で使用される場合「非ウイルスベクター」という用語は、例えば、ナノ粒子、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン及び/またはポリアミンナノスフェアを含む。
【0113】
初代細胞:「初代細胞」という用語は、対象から直接単離され、その後増殖させられる細胞を指す。
【0114】
ポリペプチド:本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸の連続鎖を指す。この用語は、任意の長さのアミノ酸鎖を指すために使用されるが、当業者には、この用語が、長い鎖に限定されないことと、ペプチド結合を介して連結された2つのアミノ酸を含む最小鎖を指すこともあることとが理解されよう。当業者に既知のように、ポリペプチドは加工されていても及び/または修飾されていてもよい。
【0115】
タンパク質:本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、個別の単位として機能する1つ以上のポリペプチドを指す。単一のポリペプチドが別個の機能単位であり、別個の機能単位を形成するために他のポリペプチドとの永続的または一時的な物理的結合を必要としない場合、「ポリペプチド」と「タンパク質」という用語は交換可能に使用され得る。別個の機能単位が、互いに物理的に会合する複数のポリペプチドから構成される場合、「タンパク質」という用語は、物理的に結合され、別個の単位として一緒に機能する複数のポリペプチドを指す。
【0116】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、または霊長類)を指す。ヒトは、出生前及び出生後の形態を含む。多くの実施形態では、対象はヒトである。対象は、患者であり得、患者は、疾患の診断または治療のために医療提供者を訪れるヒトを指す。「対象」という用語は、本明細書において、「個体」または「患者」と互換的に使用される。対象は、疾患もしくは障害に苦しんでいる可能性があるかまたはそれらにかかりやすいが、疾患または障害の症状を表してもまたは表さなくてもよい。
【0117】
実質的に:本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、対象とする特徴または性質のすべてまたはほぼすべての範囲または程度を表す定性的状態を指す。生物学分野における当業者には、生物学的及び化学的な現象が、あるとしてもめったに完全にまで至らないか及び/または完全性まで進まないかあるいは確かな結果に達しないまたはそれを回避しないものと理解されよう。「実質的に」という用語は、したがって、多くの生物学的及び化学的な現象に内在する潜在的な完全性の欠如を表現するために使用される。
【0118】
罹患している:疾患、障害、及び/または状態に「罹患している」個体は、疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状があると診断されているか、またはそれらを示す。
【0119】
治療的有効量:本明細書で使用される場合、治療剤の「治療的有効量」という用語は、疾患、障害及び/または状態に罹患しているかまたはそれらにかかりやすい対象に投与されるときに、疾患、障害及び/または状態の症状(複数可)の発症を治療、診断、予防及び/または遅延させるのに十分な量を意味する。治療的有効量は典型的に、少なくとも1回用量を含む投与計画によって投与されるものであることが当業者にはわかるであろう。
【0120】
治療すること:本明細書で使用する場合、「治療する」、「治療」または「治療すること」という用語は、特定の疾患、傷害及び/または状態の1つ以上の症状または特徴を部分的にまたは完全に軽減、改善、緩和、阻害もしくは予防するために、それらの発症を遅らせるために、その重症度を軽減するために、及び/またはそれらの発生率を低下させるために用いられる任意の方法を指す。治療は、疾患に関連する病状の発症リスクを低下させる目的で、疾患の兆候を示さない及び/または疾患の初期兆候のみを示す対象へも施されてよい。
【0121】
ベクター:本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、任意の担体と任意の外来遺伝子(複数可)の組み合わせを意味する。ベクターには、とりわけ、非ウイルスベクター、ウイルスベクター、及びそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。例えば、非ウイルスベクターには、とりわけ、リポソーム、スフェロプラスト、赤血球ゴースト、コロイド金属、リン酸カルシウム、DEAEデキストランプラスミド、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。ウイルスベクターには、とりわけ、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ハイブリッドウイルス、及びそれらの任意の組み合わせが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0122】
形質導入:本明細書で使用される場合、「形質導入」という用語は、外来のDNAがウイルスベクターを介して別の細胞に導入されるプロセスを意味する。様々なウイルスベクターが当技術分野で知られており、例えば、とりわけ、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0123】
トランスフェクション:本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、非ウイルス法によって核酸を細胞に導入するプロセスを意味する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、目的の細胞のトランスフェクションに適している。
【0124】
本明細書における端点による数値範囲の列挙は、その範囲内に含まれるすべての数及び小数を含む(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.9、4及び5が含まれる)。すべての数及びその小数は、「約」という用語によって修飾されると推定されることも理解されるべきである。
【0125】
本開示の様々な態様が、以下のセクションにおいて詳細に記載される。セクションの使用は、本開示を限定するものではない。各セクションは、本開示の任意の態様に適用できる。本出願において、「または」の使用は、別途記載のない限り、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別段であると明確に指示しない限り、単数及び複数の指示対象を両方とも含む。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】