(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(54)【発明の名称】がん治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20230705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230705BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230705BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230705BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230705BHJP
A23L 33/135 20160101ALN20230705BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/00
A61K39/395 N
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576547
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2021065698
(87)【国際公開番号】W WO2021250200
(87)【国際公開日】2021-12-16
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521339784
【氏名又は名称】プロカリウム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デバン,リヴィヤ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィツキー,ハイアム
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018ME08
4C084AA19
4C084NA06
4C084ZB262
4C084ZB272
4C085AA14
4C085BB01
4C085EE03
4C085GG08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC35
4C087CA09
4C087MA52
4C087MA70
4C087NA05
4C087NA06
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、がん治療の分野に関する。特に、本発明は、弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子T細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、
前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与され、皮下に投与され、又は筋肉内に投与される、
弱毒生グラム陰性菌。
【請求項2】
チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、
前記弱毒生グラム陰性菌は、治療の第1期に投与されることになっており、
前記チェックポイント阻害薬療法、前記養子T細胞療法又は前記同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与されることになっている、
弱毒生グラム陰性菌。
【請求項3】
弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、
前記弱毒生グラム陰性菌は、非組換え型である、又は前記弱毒生グラム陰性菌は、治療タンパク質をコードする真核生物の異種DNAを含まない、
弱毒生グラム陰性菌。
【請求項4】
前記弱毒生グラム陰性菌は、サルモネラ菌種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項5】
前記弱毒生グラム陰性菌は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella Enterica)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項6】
前記弱毒生グラム陰性菌は、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)であるか、又は前記弱毒生グラム陰性菌は、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項7】
前記弱毒生グラム陰性菌は、遺伝子操作した非天然細菌である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項8】
前記弱毒生グラム陰性菌は、Ty21a、CVD908-htrA、CVD909、Ty800、M01ZH09、x9633、x9640、x8444、DTY88、ZH9PA、MD58、WT05、ZH26、SL7838、SL7207、VNP20009又はA1-Rを含む群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項9】
前記チェックポイント阻害薬は、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3、BTLA、TIGIT、VISTA又はこれらの任意の組み合わせに対して
作られた遮断薬である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項10】
前記チェックポイント阻害薬は、CTLA-4、PD-1又はPD-L1に対して作られた遮断薬である、請求項9に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項11】
前記養子細胞療法は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、操作したT細胞受容体(TCR)療法及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞療法である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項12】
前記腫瘍性疾患は、固形腫瘍又は造血器腫瘍に関連し、好ましくは前記腫瘍性疾患は、固形腫瘍に関連する、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項13】
前記腫瘍性疾患は、前立腺癌、肝癌、腎癌、肺癌、乳癌、結腸直腸癌、膀胱癌、膵癌、脳癌、肝細胞、リンパ腫、白血病、胃癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、メラノーマ、細胞腫、頭頸部癌、皮膚癌又は肉腫から選択される癌に関連する、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項14】
前記腫瘍性疾患は、肺癌、膀胱癌、胃癌、卵巣癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、メラノーマ、腎癌又は乳癌から選択される癌に関連する、請求項13に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項15】
前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項16】
前記弱毒生グラム陰性菌は、治療の第1期に投与され、前記チェックポイント阻害薬療法、前記養子T細胞療法及び/又は前記同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与される、請求項1、3又は請求項1、3に係属中の任意の請求項のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項17】
前記治療の第1期及び治療の第2期は、少なくとも1週間離して投与され、好ましくは、前記治療の第1期及び治療の第2期は、2週間離して投与される、請求項2、若しくは請求項2に係属中の任意の請求項、又は請求項16に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項18】
使用時に、前記弱毒生グラム陰性菌は、前記対象において全身性免疫応答を発生させる、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項19】
前記全身性免疫応答は、骨髄系細胞の活性化及び/又は成熟を増大させる、請求項18に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌。
【請求項20】
対象における腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、
前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与され、皮下に投与され、又は筋肉内に投与される、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を、前記対象に、同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、
前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、
方法。
【請求項21】
前記方法は、請求項1又は請求項1に係属中の任意の請求項に記載の使用に供するための弱毒生グラム陰性菌を含む、請求項20に記載の対象における腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療の分野に関する。本発明は特に、対象における腫瘍性疾患の発生を予防、治療又は抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療の分野は、がんの形成及び進行に関連する根底にある機構についての理解が進むので、新規な治療を伴い絶えず発展している。
【0003】
がん患者にとって現在最も有望な治療戦略の1つは、免疫療法の治療戦略である。この種類の治療法は、がん又は腫瘍と戦うために身体の自然防御力を上昇させることが目的である。免疫療法は、免疫系機能を改善する又は回復するために身体が作成する、又は実験室で人工的に作られた物質を利用する。免疫療法の種類としては、モノクローナル抗体、臓器横断的療法、非特異的免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス療法、養子細胞移入、例えばCAR-T細胞療法及びがんワクチンが挙げられる。非特異的免疫療法としては、インターフェロン又はインターロイキン、免疫系ががんと戦い、がん細胞の増殖を遅くする、又はいくつかの例においてはがんを破壊するのに役立つ分子での治療が挙げられる。免疫療法は、化学療法若しくは放射線療法などの従来のがん治療の代わりに、又はこのような治療と併用して施してよい。
【0004】
免疫療法はある程度は成功するが、克服すべき重要な難題がまだ残っている。このような問題点は、免疫療法の結果として生じる副作用である。免疫療法の目的は、免疫系が作用するように促し、結果としてがん又は腫瘍が巡回している免疫細胞の攻撃を受けやすくすることである。しかしながら、免疫活性化の制御機構を遮断することにより、免疫療法のなかには自己免疫毒性のため副作用を起こすものもある。さらに、免疫療法のなかには癌性及び健常細胞を区別できないものもある。結果として、個人の生活の質が深刻な影響を受けることができる。
【0005】
さらに、免疫療法は有効であると分かっているが、がん治療に効果がないままの個人がまだ大部分いる。このような治療が、一部の個人では最初に予想したほど効果的ではない理由はたくさんある。これらには、治療すべきがんの複雑さ、治療を受ける個人の健康状態(高齢の個人及び基礎疾患を有する個人は、免疫系が弱いことが知られている)、がん細胞が免疫系から「隠れる」能力及び免疫系の応答を弱める能力を有するがん細胞の難題が挙げられる。
【0006】
したがって、がんの分野には、現在用いられている免疫療法の毒性プロファイルを改善することができる一方、正に応答する個人におけるこの治療の有効性を維持する方法に対するかなりの必要性が残っている。同時に、免疫療法治療の有効性を改善できなければこの治療に効果がない個人の免疫療法治療の有効性を改善することができる方法に対するかなりの必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2000/68261号
【特許文献2】国際公開第2019/110819号
【特許文献3】国際公開第2020/157203号
【特許文献4】国際公開第2012/001352号
【特許文献5】国際公開第2005/052167号
【特許文献6】国際公開第2020/157203号
【特許文献7】欧州特許第109942号明細書
【特許文献8】欧州特許第180564号明細書
【特許文献9】欧州特許第231039号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,HaRBor Laboratory Press 2001)
【非特許文献2】Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.(Ausubelら、John Wiley & Sons 1999)
【非特許文献3】Protein Methods(Bollagら、John Wiley & Sons 1996)
【非特許文献4】ORT-VAC;Garmoryら、2005年、Infect.Immun.、73巻:頁2005~2011
【非特許文献5】Degryse、1991年、Mol.Gen.Genet.、227巻:頁49~51
【非特許文献6】Adoptive cellular therapies:the current landscape,Rohaanら、2019,Virchows Arch.474(4):449-461
【非特許文献7】Rohaanら、2019, Virchows Arch.474(4):449-461
【非特許文献8】Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990
【非特許文献9】Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990,pp.1289-1329
【非特許文献10】Duan and Luo,Targeting macrophages in cancer immunotherapy,Signal Transduction and Targeted Therapy,2021(6:127)
【非特許文献11】Quaranta and Schmid,Macrophage-Mediated Subversion of Anti-Tumour Immunity,Cells,2019 (8(7):747
【発明の概要】
【0009】
本発明は、弱毒生グラム陰性菌をチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法と併用投与することにより、対象における腫瘍性疾患を治療及び/又は予防するのに有効な方法を提供する。発明者らは驚くべきことに、この組み合わせを用いると、対象をいずれかの要素単独で治療した場合より治療効果が高い、すなわち相加的又は相乗的効果を達成することを見出した。弱毒生グラム陰性菌の投与から観察される全身性改変は、この弱毒生グラム陰性菌の腸管からの取り込みと併せて、がん免疫療法の抗腫瘍活性を増強することができると考えられる。
【0010】
本発明の第1の態様において、弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与され、皮下に投与され、又は筋肉内に投与される、弱毒生グラム陰性菌がある。
【0011】
本発明の第2の態様において、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、治療の第1期に投与されることになっており、前記チェックポイント阻害薬療法、前記養子T細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与されることになっている、弱毒生グラム陰性菌がある。
【0012】
本発明の第3の態様において、弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、非組換え型であるか、又は前記弱毒生グラム陰性菌は、治療タンパク質をコードする真核生物の異種DNAを含まない、弱毒生グラム陰性菌がある。
【0013】
本発明の第4の態様において、対象における腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与され、皮下に投与され、又は筋肉内に投与される、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を、前記対象に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、方法がある。
【0014】
本発明の第5の態様において、対象における腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、治療の第1期に投与されることになっている、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与されることになっている、を前記対象に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、方法がある。
【0015】
本発明の第6の態様において、対象の腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、非組換え型であるか、又は前記弱毒生グラム陰性菌は、治療タンパク質をコードする真核生物の異種DNAを含まない、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を前記対象に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、方法がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】
図1Aは、経口投与したサルモネラ菌は、全身骨髄系細胞の長期的表現型に著しい変化を誘導することを示す。A)グラフは、生存可能なCD11c
high、HLA-DR
+、CD11b
+/-、PDCA-1
-通常型樹状細胞及び生存可能なCD11c
-/low、PDCA1
+、HLA-DR
-/Int、CD11b
-形質細胞様樹状細胞のマーカーCD80、CD86及びPD-L1の蛍光強度の中央値を示す。n=4又は5匹のマウス/群。
【
図1B】
図1Bは、経口投与したサルモネラ菌は、全身骨髄系細胞の長期的表現型に著しい変化を誘導することを示す。B)グラフは、生存可能なCD11c
high、HLA-DR
+、CD11b
+/-、PDCA-1
-通常型樹状細胞及び生存可能なCD11c
-/low、PDCA1
+、HLA-DR
-/Int、CD11b
-形質細胞様樹状細胞のマーカーCD80、CD86及びPD-L1の蛍光強度の中央値を示す。n=4又は5匹のマウス/群。
【
図1C】
図1Cは、経口投与したサルモネラ菌は、全身骨髄系細胞の長期的表現型に著しい変化を誘導することを示す。C)グラフは、生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
+、F4/80
-単球及び生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
-、F4/80
+マクロファージのマーカーPD-L1、CD80及びHLA-DRの蛍光強度の中央値を示す。n=4又は5匹のマウス/群。
【
図1D】
図1Dは、経口投与したサルモネラ菌は、全身骨髄系細胞の長期的表現型に著しい変化を誘導することを示す。D)グラフは、生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
+、F4/80
-単球及び生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
-、F4/80
+マクロファージのマーカーPD-L1、CD80及びHLA-DRの蛍光強度の中央値を示す。n=4又は5匹のマウス/群。
【
図2A】
図2Aは、サルモネラ菌で誘導された表現型変化の時間経過を示す。A)実験の予定表を詳述した実験模式図である。
【
図2B】
図2Bは、サルモネラ菌で誘導された表現型変化の時間経過を示す。B)グラフは、生存可能なCD11c
high、HLA-DR
+、CD11b
+/-、PDCA-1
-通常型樹状細胞(cDC)及び
-生存可能なCD11c
-/low、PDCA1
+、HLA-DR
-/Int、CD11b形質細胞様樹状細胞(pDC)についてのPBS対照群平均割合としてのマーカーCD80及びCD86の蛍光強度の中央値を示す。n=4~5匹のマウス/群の平均を示す。
【
図2C】
図2Cは、サルモネラ菌で誘導された表現型変化の時間経過を示す。C)グラフは、生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
+、F4/80
-単球及びCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
-、F4/80
+マクロファージについてのPBS対照群平均割合としてのマーカーCD80、PD-L1及びHLA-DRの蛍光強度の中央値を示す。n=4~5匹のマウス/群の平均を示す。
【
図3A】
図3Aは、サルモネラ菌を経口投与すると骨髄造血が増強されることを示す。A)グラフは、骨髄細胞全体のLKS細胞と称される、c-Kit及びSca-1の両方を発現する系統陰性(CD5
-、CD11b
-、B220
-、GR-1
-、Terr-119
-、Ly-6B.2
-)生存可能細胞の割合を示す。n=4~5匹のマウス/群である。
【
図3B】
図3Bは、サルモネラ菌を経口投与すると骨髄造血が増強されることを示す。B)サルモネラ菌を経口的に処置した動物の骨髄中の生存可能なLKS細胞の増加を示す代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図3C】
図3Cは、サルモネラ菌を経口投与すると骨髄造血が増強されることを示す。C)サルモネラ菌処置後14日目の骨髄細胞全体に対する生存可能なLKS細胞の割合は、スピアマンの順位相関を用いると、同時点の単球(生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
+、F4/80
-細胞)の割合と相関した。
【
図4】
図4は、経口投与したサルモネラ菌は、全身樹状細胞の少なくとも14日間持続する応答性亢進状態を誘導することを示す。単独試験で群あたりn=5匹のマウス;バーは、平均+/-SEM;示される統計値は、マン・ホイットニー検定である。
【
図5A】
図5Aは、サルモネラ菌の経口投与により処置すると、免疫チェックポイント阻害薬と併用投与する場合、腫瘍増殖が遅くなり、有効性が増強されることを示す。A)グラフは、経時的なMC38腫瘍体積を示し、腫瘍増殖を描写する。表は、対象群(溶媒+アイソタイプ)に対する14日目~30日目の種々の処置による腫瘍増殖の平均抑制率を要約する。データは、10匹のマウス/群の平均+/-SEMである。
【
図5B】
図5Bは、サルモネラ菌の経口投与により処置すると、免疫チェックポイント阻害薬と併用投与する場合、腫瘍増殖が遅くなり、有効性が増強されることを示す。B)グラフは、経時的な腫瘍体積を示し、腫瘍増殖を描写する。表は、対象群(溶媒+アイソタイプ)に対する16日目~18日目の種々の処置による腫瘍増殖の平均抑制率を要約する。データは、9~10匹のマウス/群の平均+/-SEMである。
【
図6】
図6は、マクロファージをサルモネラ菌でインビトロで条件付けするとM1細胞が炎症性表現型へとさらに極性化し、M2をM1様表現型マクロファージにさらに誘導することを示す。データは、3人の別個のドナー由来の単球由来マクロファージを表す。
【
図7A】
図7Aは、ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、M2の抑制能力を低減することを示す。A)グラフは、応答するT細胞及び2回を超える分裂を受けるT細胞の割合が倍に拡大したことを示す複製指数を表す。
【
図7B】
図7Bは、ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、M2の抑制能力を低減することを示す。B)抗CD3/28抗体によりT細胞を効果的に刺激することを示す正の対照データである。
【
図7C】
図7Cは、ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、M2の抑制能力を低減することを示す。C)サルモネラ菌で条件付けした単球由来マクロファージの存在下T細胞増殖が増加することを示す代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図8A】
図8Aは、ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、抗PD-L1 Ab活性を増強することを示す。サルモネラ菌で条件付けしたヒト単球由来マクロファージは、PD-L1遮断活性を増強する。A)グラフは、応答するT細胞及び2回を超える分裂を受けるT細胞の割合が倍に拡大したことを示す複製指数を表す。
【
図8B】
図8Bは、ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、抗PD-L1 Ab活性を増強することを示す。サルモネラ菌で条件付けしたヒト単球由来マクロファージは、PD-L1遮断活性を増強する。B)抗-CD3/28抗体によりT細胞を効果的に刺激することを示す正の対照データである。
【
図8C】
図8Cは、ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、抗PD-L1 Ab活性を増強することを示す。サルモネラ菌で条件付けしたヒト単球由来マクロファージは、PD-L1遮断活性を増強する。C)PD-L1遮断及びサルモネラ菌で条件付けされた単球由来マクロファージを組み合わせるとT細胞増殖が増加することを示すCellTrace希釈の代表的なフローサイトメトリープロットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をより容易に理解することができるように、まず特定の用語を定義する。追加の定義は、詳細な説明全体を通して説明する。
【0018】
本明細書において用いられる場合、用語「弱毒」とは、ヒト又は動物対象/モデルに病気を起こさないよう遺伝子操作した細菌を指す。
【0019】
「免疫療法」によって、抗体若しくは免疫細胞などの免疫系成分を調節することを目標とした、又は免疫系を刺激、抑制、若しくは調節する薬剤若しくは他の作用薬による特定の治療法を指す。本発明の文脈においては、用語「免疫療法」とは、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T細胞療法を指す。
【0020】
「免疫系の細胞成分」によって、T及びBリンパ球、γδT細胞、及びNK細胞などのリンパ球などの免疫細胞を指し、これらの免疫細胞は、プリオン、ウイルス、細菌、酵母、真菌、寄生虫、腫瘍関連若しくは腫瘍特異的抗原、又は特定の疾患、障害若しくは条件と関連する他の抗原などの特異的抗原を認識することができる。言及する他の免疫細胞としては、白血球が挙げられ、白血球は、顆粒球又は無顆粒白血球であってよい。免疫細胞の例としては、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球及びマクロファージが挙げられる。樹状細胞、ミクログリア及び他の抗原提示細胞も本定義内に含まれる。
【0021】
「免疫療法組成物」によって、免疫療法薬を含有する任意の組成物を指す。例は、薬学的に許容される担体、免疫応答を増強する生体応答修飾物質及び/又はアジュバント/添加物又は希釈剤であってよい。
【0022】
本明細書において用いられる場合、本発明の文脈における用語「弱毒」とは、微生物の生存率を維持しながら、微生物の病原性を低減し、微生物を宿主に対して無害にする微生物の変化を指す。この方法は、許容される安全性プロファイルを維持しながら非常に特異的な免疫応答を誘発する能力のため、ワクチンの開発に通常用いられる。このようなワクチンの開発方法には多くの方法が関与してよいが、例としては、病原性が失われるまでインビトロ条件下で病原体を継代すること、化学的突然変異誘発及び遺伝子工学技術が挙げられるが、これらに限定されない。このような弱毒微生物は好ましくは弱毒生微生物であるが、非弱毒生微生物も開示されている。
【0023】
「非天然細菌又は複数の非天然細菌」によって、天然起源の細胞に関して変化したような遺伝子を改変した又は「操作した」菌体(原核生物)を表す。このような遺伝子改変は例えば、細胞への追加の遺伝情報の組込み、既存の遺伝情報の改変又は実際は既存の遺伝情報の欠失であってよい。これを、例えば、細胞への組換えプラスミドの遺伝子導入又は細菌ゲノムの直接的な改変により実現してもよい。
【0024】
「不活性化変異」によって、遺伝子の本来の機能が消失する又は測定できない程度まで減少するように特定の遺伝子が適切に転写されない若しくは翻訳されない又は非活性タンパク質へと発現されるように、ヌクレオチドコードの変化、又はヌクレオチドセクションの欠失又は非コードヌクレオチド若しくは非天然ヌクレオチドの追加による改変などの、特定の遺伝子又はその遺伝子に関連する遺伝子プロモーターの天然遺伝コードの改変を表す。したがって、遺伝子の変異は、その遺伝子の機能又はその遺伝子がコードするタンパク質の機能を不活性化する。
【0025】
用語「腫瘍(tumour)」、「がん(cancer)」及び「新生物(neoplasia)」は、互換的に用いられ、成長(growth)、増殖(proliferation)若しくは生存率が正常な対応細胞の成長、増殖若しくは生存率より大きい細胞又は細胞集団、例えば、細胞増殖若又は分化障害を指す。典型的には、成長は制御されない。用語「悪性腫瘍(malignancy)」とは、近くの組織の浸潤を指す。用語「転移」とは、腫瘍、がん又は新生物の対象内の他の部位、位置、又は領域への広がり又は播種を指し、この部位、位置、又は領域は、原発腫瘍又は癌とは異なる。
【0026】
「チェックポイント阻害薬」は、免疫応答のチェックポイントとみなされる表面タンパク質に働く作用薬であり、表面タンパク質は、TNF受容体若しくはB7スーパーファミリー、又は他の物のいずれかの種類であり、負の共刺激分子に結合する作用薬を含む。このようなチェックポイント阻害薬の例としては、CTLA-4、PD-1、TIM-3、BTLA、TIGIT、VISTA、LAG-3、及び/又はPD-L1を含む、CTLA-4、PD-1、TIM-3、BTLA、TIGIT、VISTA、LAG-3のそれぞれのリガンドと結合する作用薬が挙げられるが、限定されない。本発明の文脈において、用語「作用薬」は、抗体、小分子、抗体断片又は任意の他の結合及び/又は遮断薬を指してよい。
【0027】
用語「プログラム死1」、「プログラム細胞死1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、CD279及び「PD1」は、互換的に用いられ、ヒトPD-1の変異体、アイソフォーム、種の相同体、及びPD-1と少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含む。完全なPD-1配列は、GenBankアクセッション番号第NP005009.2で見ることができる。
【0028】
用語「PD-L1」、「PDL1」、「プログラム死リガンド1」、CD274及び「プログラム細胞死1」は、互換的に用いられ、ヒトPD-L1の変異体、アイソフォーム、及び種の相同体、並びにPD-L1と少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含むと考えられる。完全なPD-L1配列は、GenBankアクセッション番号第NP054862.1で見ることができる。
【0029】
用語「細胞傷害性Tリンパ球抗原4」、「CTLA-4」、「CTLA4」、CD152及び「CTLA-4抗原」は、互換的に用いられ、ヒトCTLA-4の変異体、アイソフォーム、種の相同体、及びCTLA-4と少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含む。完全なCTLA-4配列は、GenBankアクセッション番号第NP_005205.2で見ることができる。
【0030】
用語「LAG-3」、「LAG3」、CD223及び「リンパ球活性化遺伝子3」は、互換的に用いられ、ヒトLAG-3の変異体、アイソフォーム、及び種の相同体、並びにLAG-3と少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含むと考えられる。完全なLAG-3配列は、GenBankアクセッション番号第NP_002277.4で見ることができる。
【0031】
用語「TIM-3」、「TIM3」、「HAVCR2」、「A型肝炎ウイルス受容体2」、CD366及び「T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3」は、互換的に用いられ、ヒトTIM-3の変異体、アイソフォーム、及び種の相同体、並びにTIM-3と少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含むと考えられる。完全なTIM-3配列は、GenBankアクセッション番号第NP_116171.3で見ることができる。
【0032】
用語「BTLA」、「B及びTリンパ球アテニュエーター」及び「CD272」は、互換的に用いられ、ヒトBTLAの変異体、アイソフォーム、及び種の相同体、並びにBTLAと少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含むと考えられる。完全なBTLA配列は、GenBankアクセッション番号第NP_861445.4で見ることができる。
【0033】
用語「VISTA」、「Vセット免疫調節性受容体」、「B7H5」、「B7-H5」、「PD-1H」及び「T細胞活性化のVドメイン抑制因子(V-domain Ig suppressor of T cell activation)」は、互換的に用いられ、ヒトVISTAの変異体、アイソフォーム、及び種の相同体、並びにVISTAと少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含むと考えられる。完全なVISTA配列は、GenBankアクセッション番号第NP_071436.1で見ることができる。
【0034】
用語「TIGIT」、「Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)」、「WUCAM」及び「Vstm3」は、互換的に用いられ、ヒトTIGITの変異体、アイソフォーム、及び種の相同体、並びにTIGITと少なくとも1つの共通エピトープを有する類縁体を含むと考えられる。完全なTIGIT配列は、GenBankアクセッション番号第NP_776160.2で見ることができる。
【0035】
本明細書において言及される用語「治療抗体」は、治療効果をもたらす抗体全体及び任意の抗原結合断片(すなわち「抗原結合部分」)又は抗原結合断片の単鎖を含む。
【0036】
このような治療抗体は、上で指示されたチェックポイント阻害薬に向けられてよく、ICOS(誘導性T細胞共刺激分子/CD278)、GITR(グルココルチコイド誘導性TNF受容体/TNFRSF18/CD357/AITR)、4-1BB(CD137)、CD27及びCD40などの共刺激分子に向けられるアゴニスト抗体を含む。いくつかの例において、対象にとっては両方の種類の治療抗体を受けることが望ましくてよい。
【0037】
本明細書において用いられる用語「モノクローナル抗体」とは、単一分子組成物の抗体分子の製剤を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性及び親和性を示す。このモノクローナル抗体は、ヒト抗体であってもヒト化抗体であってもよい。
【0038】
用語「養子細胞療法」は、対象、好ましくはヒトへの細胞の移入/投与を含む任意の治療を指すことを意図する。細胞は、同種であっても自己であってもよい。好ましくは、細胞は通常、免疫機能性を改善することを目的として、免疫系に由来する。養子細胞療法としては、CAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体T細胞)、TIL療法(腫瘍浸潤リンパ球)、TCR療法)操作したT細胞受容体療法、NK療法(ナチュラルキラー細胞)及び/又はiPSC由来療法(人工多能性幹細胞)を挙げてよいが、限定されない。
【0039】
用語「有効量」又は「薬学的有効量」とは、望ましい生物学的又は治療的結果をもたらすのに充分な作用薬の量を指す。その結果は、1つ又は複数の徴候、症状又は疾患の原因の減少、回復、寛解、軽減(lessening)、遅延、及び/若しくは軽減(alleviation)又は生命システムの他の任意の望ましい変化であってよい。がんに関しては、有効量は、腫瘍を収縮させる及び/若しくは腫瘍の増殖速度を低下させる(腫瘍増殖を抑制するなど)又は他の望まれない細胞増殖を阻止又は遅延させるのに充分な量を含んでよい。いくつかの実施形態において、有効量は、癌又は腫瘍の発生を遅延させる若しくは生存期間を延ばす又は安定化を誘導するのに充分な量である。
【0040】
いくつかの実施形態において、治療有効量は、再発を予防又は遅延させるのに充分な量である。治療有効量は、1回又は複数回の投与で投与されてよい。治療有効量の薬剤又は組み合わせは、以下の1つ又は複数、(i)がん細胞の数を減少させる、(ii)腫瘍サイズを減少させる、(iii)がん細胞の末梢臓器への浸潤をある程度抑制する、遅延させる(retard)、遅くし(slow)、好ましくは停止する、(iv)腫瘍転移を抑制する(すなわちある程度遅くし、好ましくは停止する)、(v)腫瘍増殖を抑制する、(vi)腫瘍の発生及び/若しくは再発を予防する又は遅延させる、並びに/又は(vii)癌に関連する1つ又は複数の症状をある程度軽減する、を起こしてよい。
【0041】
例えば、腫瘍の治療に関して、「治療有効量の用量」は、少なくとも約10%、又は約20%、又は約60%又はそれ以上など、ベースライン測定値と比較して、少なくとも約5%の腫瘍の収縮を含んでよい。ベースライン測定値は、未治療の対象に由来してよい。
【0042】
治療有効量の治療化合物は、腫瘍サイズを減少させる、又は対象の症状を回復することができる。当業者の一人ならば、対象の大きさ、対象の症状の重症度、及び選択される特定の組成物又は投与経路などの要素に基づいてこのような量を決定することができるだろう。
【0043】
用語「免疫応答」とは、例えば、人体の癌性細胞に対する選択的障害、破壊、又は除去を引き起こすリンパ球、抗原提示細胞、貪食細胞、顆粒球、及び上の細胞又は肝臓によって産生される可溶性高分子(抗体、サイトカイン、及び補体を含む)の作用を指す。
【0044】
用語「治療(treatment)」又は「治療(therapy)」とは、状態(例
えば疾患)、病態の症状を治癒する、治す、軽減する(alleviate)、軽減する(relieve)、変化させる、治療する、回復する、改善する、若しくは影響する又は症状、合併症、疾患の生化学的兆候の開始を予防する若しくは遅延させる、又は疾患、病態、若しくは障害のさらなる悪化を統計的に有意に停止する又は抑制する目的で作用薬を投与することを指す。
【0045】
本明細書において用いられる場合、用語「対象」は、ヒト及び非ヒト動物を含むよう意図される。好ましい対象には、免疫応答の増強を必要とするヒト患者が含まれる。方法は、免疫応答を増強することにより治療することができる障害を有するヒト患者の治療に特に好適である。特定の実施形態において、方法は、癌のインビボ治療に特に好適である。
【0046】
本明細書において定義される「同時」投与は、弱毒生細菌及び免疫療法組成物を互いに約2時間又は約1時間以内、さらにずっと好ましくは同時に投与することを含む。
【0047】
本明細書において定義される「個別」投与は、弱毒生細菌及び免疫療法組成物を約12時間超、又は約8時間、又は約6時間又は約4時間又は約2時間離して投与することを含む。
【0048】
本明細書において定義される「連続」投与は、弱毒生細菌及び免疫療法組成物を各々複数アリコート及び/又は用量で及び/又は別の時に投与することを含む。弱毒生細菌の投与の前後に、免疫療法組成物を患者に投与してよい。あるいは、弱毒生細菌での治療後に、免疫療法組成物を患者に投与し続ける。
【0049】
代替物の使用(例えば「又は」)は、代替物のこれらのいずれか1つ、両方、又は代替物の任意の組み合わせを表すと理解されるべきである。本明細書において用いられる場合、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、任意の記載された又は列挙された構成要素の「1つ又は複数」を指すと理解されるべきである。
【0050】
本明細書において用いられる場合、「約」は、当業者によって決定された特定の値の許容誤差範囲内を表し、この範囲は値をどう測定する又は決定するか、すなわち測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当該技術分野の実行あたり1以内又は1超の標準偏差を表してよい。あるいは、「約」は、20%以下の範囲を表してよい。本願及び特許請求の範囲において特定の値を提供する場合、別段の定めがない限り、「約」の意味は、その特定の値についての許容誤差範囲内にあると推定されるべきである。
【0051】
本明細書において用いられる場合、用語「非組換え」及び「非組換え菌株」は、互換的に用いられ、本発明の文脈においてはこれらの菌株は真核生物由来の遺伝子又は遺伝子断片を含有しないという事実を指す。このように、本明細書に開示される菌株は、対象/患者に治療分子を送達する目的の「キャリア菌株」として働かない。したがって、本明細書に開示される菌株は、真核生物の異種DNA、又は治療分子をコードする真核生物の異種DNA、又は抗原を意図するタンパク質、若しくはタンパク質の断片をコードする真核生物のDNAをコードしない。
【0052】
本明細書において用いられる場合、用語「全身性」及び「全身で活性化された」は、互換的に用いられ、本発明の文脈においては、局所的な、空間的に制限された応答とは対照的に、対象の身体全体の広範な免疫応答を指す。好ましくは、全身性免疫応答は、骨髄系細胞、例えば、樹状細胞、単球及び/又はマクロファージなどの活性化及び/又は成熟化に関わり、本発明の文脈においては、対象がチェックポイント阻害薬、養子細胞療法及び/又はCAR-T細胞療法などの免疫療法により反応するように、対象の免疫系を条件付けするのに役立つと考えられる。したがって、グラム陰性菌は、第2の組成物の投与後に
対象の免疫応答を「刺激する」、「ブーストする」、「増幅する」、「増強する」、「改善する」、「増大する」、「予め活性化する」又は「促進する」よう働いてよい。前述の用語は、用語「条件付けられた」と互換的に用いられる。
【0053】
本明細書において用いられる場合、用語「臓器横断的療法(tumour-agnostic therapy)」又は「腫瘍タイプに依存しない(agnostic to tumour type)」は、互換的に用いられ、癌の種類又は体内で癌が始まった場所にかかわらず遺伝的及び/又は分子的特徴に基づいて癌を治療するために薬剤又は他の物質を用いる治療の種類を指す。
【0054】
本発明の第1の態様において、弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与され、皮下に投与され、又は筋肉内に投与される、弱毒生グラム陰性菌がある。
【0055】
本発明の第2の態様において、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、治療の第1期に投与されることになっており、前記チェックポイント阻害薬療法、前記養子T細胞療法及び/又は前記同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与されることになっている、弱毒生グラム陰性菌がある。
【0056】
本発明の第3の態様において、弱毒生グラム陰性菌の投与と同時に、別々に、又は経時的に、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を受ける又は受けるよう意図される対象における腫瘍性疾患の治療、低減、抑制又は制御に使用する弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、非組換え型であるか、又は前記弱毒生グラム陰性菌は、治療タンパク質をコードする真核生物の異種DNAを含まない、弱毒生グラム陰性菌がある。
【0057】
前記弱毒生グラム陰性菌はしたがって、対象の免疫系の調整剤として働いてよく、チェックポイント阻害薬、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法で治療した場合、対象の免疫系は腫瘍性疾患に対する有効な免疫応答を開始することができると想定される。
【0058】
本発明の弱毒生細菌は、グラム陰性菌である。本発明において使用するグラム陰性菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ菌(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、シュードモナス(Pseudomonas)、モラクセラ(Moraxella)、ヘリコバクター(Helicobacter)、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)、デロビブリオ(Bdellovibrio)、レジオネラ(Legionella)、クラミジア(Chlamydia)及びエルシニア(Yersinia)が挙げられるが、限定されない。
【0059】
好ましくは、弱毒生グラム陰性菌は、サルモネラ菌種である。本発明において使用するサルモネラ菌種の例は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella Enterica)及びサルモネラ・ボンゴリ(Salmonella bongori)である。サルモネラ・エンテリカ(Salmonella Enterica)は、異なる血清型又は血清型(serotypes or serovars)にさらに細分することができる。本発明において使用するこの血清型又は血清型(serotypes or serovars)の例は、Salmonella enterica Typhi、Salm
onella enterica Paratyphi A、Salmonella enterica Paratyphi B、Salmonella enterica Paratyphi C、Salmonella enterica Typhimurium及びSalmonella enterica Enteritidisである。好ましい実施形態において、弱毒生グラム陰性菌は、Salmonella enterica Typhi又はSalmonella enterica Typhimuriumである。
【0060】
本発明の別の実施形態において、弱毒生グラム陰性菌は、遺伝子操作した非天然細菌である。好ましい実施形態において、弱毒生グラム陰性菌は、非組換え型細菌である。別の好ましい実施形態において、本明細書に開示されるグラム陰性菌は、真核生物由来の遺伝子又は遺伝子断片を含有しない。
【0061】
当業者によって理解されるように、遺伝子は、関心のある遺伝子を標的にする組換えプラスミドを用いる相同組換えなどの、当該技術分野において周知の多くの方法によって変異導入してよく、相同組換えの場合、標的遺伝子に対する相同性を有する遺伝子操作した遺伝子を適切な核酸ベクター(プラスミド又はバクテリオファージなど)に組み入れ、組み入れた核酸ベクターを標的細胞に遺伝子導入する。相同的な遺伝子操作した遺伝子は、天然遺伝子を置換又は変異導入のいずれかを行って望ましい不活性化変異を達成するよう天然遺伝子と組み換えられる。このような改変は、遺伝子の翻訳部又はプロモーター領域などの任意の調節部にあってもよい。当業者によって理解されるように、関心のある遺伝子に変異導入するために、例えばCRISPR/Cas9などのCRISPR/Casシステムなどの、任意の適切な遺伝子改変技術を用いてよい。
【0062】
したがって、菌種を遺伝子操作するための多数の方法及び技術が当業者にとって周知である。これらの技術には、染色体組込又は安定な常染色体性自己複製遺伝要素の導入により、異種遺伝子を細菌に導入するために必要とされるものが含まれる。菌体を遺伝子改変する(「形質転換する」又は「遺伝子操作する」とも称される)方法の例としては、バクテリオファージの感染、形質導入、接合、リポフェクション又は電気穿孔が挙げられる。分子細胞生化学におけるこれらの及び他の方法についての一般的な議論は、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3などの標準的な教科書に見出すことができ、これらは、参照により本明細書に援用される。
【0063】
したがって、本発明は、使用するための弱毒生グラム陰性菌を開示し、この弱毒生グラム陰性菌は、Ty21a、CVD 908-htrA、CVD 909、Ty800、M01ZH09、x9633、x9640、x8444、DTY88 ZH9PA、MD58、WT05、ZH26、SL7838、SL7207、VNP20009又はA1-Rを含む群から選択されてよい。好ましくは、本明細書に開示される細菌は、例えばTy21a、CVD 908-htrA、CVD 909、Ty800、M01ZH09、x9633、x9640、x8444、DTY88、MD58、WT05、ZH26、SL7838、SL7207、VNP20009又はA1-Rなどの非組換え菌株である。別の実施形態において、本明細書に開示される細菌は、例えばZH9PAなどの原核生物の異種DNAを含有するよう改変されている菌株である。前述の菌株に加えて、任意の弱毒、非病原性のチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)又はネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)菌株を、本明細書に開示されるように、すなわち調整剤として用いて、対象への免疫療法投与後により有効な免疫応答を開始してよいと想定される。
【0064】
1つの実施形態において、遺伝子操作した非天然細菌は、Salmonella Pa
thogenicity Island 2(SPI-2)遺伝子の弱毒化変異及び第2の遺伝子の弱毒化変異を含んでよいサルモネラ菌種に由来してよい。このような弱毒生細菌の適した遺伝子及び詳細は、特許文献1に記載され、その全体を参照により本明細書に援用される。
【0065】
1つの実施形態において、SPI-2遺伝子は、ssa遺伝子である。例えば、本発明は、1つ又は複数のssaV、ssaJ、ssaU、ssaK、ssaL、ssaM、ssaO、ssaP、ssaQ、ssaR、ssaS、ssaT、ssaD、ssaE、ssaG、ssaI、ssaC及びssaHの弱毒化変異を含む。好ましくは、弱毒化変異は、ssaV又はssaJ遺伝子にある。さらにずっと好ましくは、弱毒化変異は、ssaV遺伝子にある。
【0066】
遺伝子操作した非天然細菌はまた、第2の遺伝子に弱毒化変異を含んでよく、弱毒化変異は、SPI-2領域にあってもなくてもよい。この変異は、SPI-2領域の外側にあってよく、芳香族化合物の生合成に関与してよい。例えば、本発明は、aro遺伝子に弱毒化変異を含む。好ましい実施形態において、aro遺伝子は、aroA又はaroCである。さらにずっと好ましくは、aro遺伝子は、aroCである。
【0067】
遺伝子操作した非天然細菌は、1つ又は複数の遺伝子カセットをさらに含んでよい。このような遺伝子カセットは、免疫系を条件付けする目的で遺伝子操作した非天然細菌の機能を維持するために、又は関連する免疫療法、すなわちチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又はCAR-T細胞療法の活性を維持するために追加の原核生物の分子を送達するために用いてよい。当業者は、このように送達される維持分子は、投与予定の免疫療法に依存してよいことを認識する。
【0068】
さらに別の実施形態において、遺伝子操作した非天然細菌は、サルモネラ菌種に由来してよく、pltA、pltB、cdtB及びttsAから選択される1つ又は複数の遺伝子に不活性化変異を含んでよく、aroA及び/又はaroC及び/又はssaVから選択される1つ又は複数の遺伝子に弱毒化変異をさらに含んでよい。これらの遺伝子及び変異の詳細は、特許文献2に記載され、その全体を参照により本明細書に援用される。
【0069】
遺伝子pltA、pltB及びcdtBに不活性化変異(例えば欠失)があると、サルモネラ菌種は腸チフス毒素の産生を妨げられ、ttsAに不活性化変異(例えば欠失)があると、サルモネラ菌種は腸チフス毒素の分泌を妨げられると想定される。非天然細菌は、特にサルモネラ・エンテリカ(Salmonella Enterica)に由来してよい。
【0070】
ある実施形態において、遺伝子操作した微生物は、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)に由来してよく、パラチフスA菌(Salmonella enterica serover Paratyphi A)のリポ多糖O2 O抗原を発現する改変を含んでよい。さらに別の好ましい実施形態において、遺伝子操作した微生物は、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)に由来し、この菌株は、パラチフスA菌(Salmonella enterica serover Paratyphi A)の鞭毛タンパク質を発現する改変を含む。いくつかの例において、遺伝子操作した微生物は、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)に由来してよく、パラチフスA菌(Salmonella enterica serover Paratyphi A)のリポ多糖O2 O抗原及び鞭毛タンパク質の両方を発現する改変を含んでよい。このような改変の詳細は、特許文献3に見出すことができる。このような菌株は、用語「非組換え」が真核生物の遺伝子若しくは遺伝子断片を含有しない細菌、又は治療分子の送達、若しくは治療分子をコードする真核生物の異種DNAの送達を目的とする「キャリア」菌株として働く細菌を指すので、本発明の文脈においては非組換えであるとみなされる。
【0071】
本明細書に記載される方法がプラスミドの使用に関わる場合、このプラスミドは理想的には、pMB1、ColEI、p15A、pSC101及びRK2から選択される複製起点を有する。プラスミドは、β-ラクタマーゼ(bla)、カナマイシンホスホトランスフェラーゼ(kan)、テトラサイクリン排出タンパク質(tetA)、又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)から選択される抗生物質耐性遺伝子を含んでもよい。理想的には、抗生物質耐性遺伝子は、例えば「X-mark」(Cranenburgh及びLeckenby、2012年、特許文献4)などの機構により、媒介生菌株への形質転換の前又は直後に切除される。プラスミドの損失を防ぐために、プラスミド保持システムを必要としてよい。これらは、天然染色体遺伝子を異種プロモーター下に置くための機構を含んでもよく、例えば、「Operator-Repressor Titration for Vaccines」システム(非特許文献4)又は「oriSELECT」システム(Cranenburgh、2005年、特許文献5)などがあり、これらはいずれも、追加の選択マーカー遺伝子をプラスミド上に存在させる必要がない。あるいは、例えば、宿主細胞変異を補完するための遺伝子(非特許文献5)など、抗生物質耐性遺伝子ではない選択マーカー遺伝子を用いる。
【0072】
本発明はまた、上記の弱毒化生菌株であって、この菌株は、得られる血清型をHd血清型からHa血清型に変化させるように、菌株の天然fliC遺伝子をパラチフスA菌(Salmonella enterica serover Paratyphi A)のfliC遺伝子と置換させてよく、「血清型」とは細菌種内の別個の変種を指す、菌株も含んでよいと想定される。このような改変の詳細は、特許文献6に見出すことができる。
【0073】
本発明のさらなる実施形態は、上述した弱毒化生菌株であって、この菌株は、長鎖O抗原鎖が生成されるような機能的なfepE遺伝子を含むようさらに改変されてよく、好ましくはこのO抗原鎖は100反復単位長の三糖骨格である、菌株である。このような改変の詳細は、特許文献6に見出すことができる。
【0074】
fepE遺伝子は、超長鎖O抗原鎖の長さを制御する因子をコードし、「超長鎖」とは、100反復単位超の三糖骨格を表すものとみなされる。チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)は、この遺伝子に終止コドンを導入する変異により、これらの長鎖O抗原鎖を有していない。多くの方法により、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)にこれらの長鎖O抗原鎖を発現させるよう操作してよく、fepEの天然プロモーターを、ParaBADなどの別のプロモーターと置換してもよく、チフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)におけるfepEの染色体変異を修復してもよく、又はfepEの機能的コピーをチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)染色体のどこかに挿入してもよい。インビボ誘導性プロモーター又は構成的プロモーターを利用してよく、このようなプロモーターの例としては、PpagC、PnirB、PssaG、PsifA、PsifB、PsseA、PsseG、PsseJ、Plac、Ptac、Ptrc、及びλPL/PRが挙げられる。類似の改変配列としては、PpagC、PnirB、PssaG、PsifA、PsifB、PsseA、PsseG、PsseJ、及びλPL/PRのいずれかの野生型配列に対し、少なくとも約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、又は約99%の同一性を有するものを挙げることができる。
【0075】
好ましくは、これらの長鎖O抗原鎖の導入は、LPS特異的な免疫応答を誘導するのに
有益であってよい。LPSがfepEの発現などから天然で超長鎖型である場合には、さらなる利点があってよい。
【0076】
上述した弱毒生菌株は、gtrCを構成的に発現する、又はgtrCをトランス型で発現するよう改変されてもよいことが、さらに想定される。このような改変の詳細は、特許文献6に見出すことができる。
【0077】
上述した弱毒生菌株は、ファゴソーム誘導型のプロモーターの制御下に追加のtviA遺伝子コピーを含むようさらに改変されてもよいことが、さらに想定される。このような改変の詳細は、特許文献6に見出すことができる。
【0078】
対象に投与される弱毒生グラム陰性菌の量は、天然又は非天然にかかわらず、対象の免疫応答を誘発するのに充分であり、その結果対象の免疫系は、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又はCAR-T細胞療法を受けるよう効果的に条件付けされ、この治療法で治療される場合、対象の免疫系は癌又は腫瘍に対する有効な免疫応答を開始することができる。弱毒生グラム陰性菌の投与により開始される免疫応答は、免疫応答自体が治療レベルであっても、治療効果を発揮するために前述の免疫療法の投与を必要とする治療レベル以下であってもよい。
【0079】
弱毒生グラム陰性菌を、2週間離して少なくとも1回又は2回投与してよいと想定される。弱毒生グラム陰性菌を、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞移入療法及び/又はCAR-T細胞療法の前、治療中、又は後に投与してよい。好ましくは、少なくとも1回の弱毒生グラム陰性菌の投与が免疫療法治療の前に起こり、このような投与は免疫療法治療の少なくとも1週間前に起こってよい。弱毒生グラム陰性菌の投与は、免疫療法の治療計画に応じて繰り返してよいと想定される。弱毒生グラム陰性菌を105~1012CFUの投与量で投与してよく、ここでCFUはコロニー形成単位である。例えば、適した投与量は、105~106CFU、105~107CFU、105~108CFU、105~109CFU、105~1010CFU、105~1011CFU、106~107CFU、106~108CFU、106~109CFU、106~1010CFU、106~1011CFU、106~1012CFU、107~108CFU、107~109CFU、107~1010CFU、107~1011CFU、107~1012CFU、108~109CFU、108~1010CFU、108~1011CFU、108~1012CFU、109~1010CFU、109~1011CFU、109~1012CFU、1010~1011CFU、1010~1012CFU、又は1011~1012CFUであってよい。
【0080】
1つの実施形態において、免疫療法は、チェックポイント阻害薬であり、本明細書における用語「チェックポイント阻害薬」とは、チェックポイント分子に対して作られた遮断薬を指す。遮断薬は、拮抗薬、阻害薬又は遮断抗体であってよい。したがって、遮断薬は、小分子又は生物学的製剤であってよく、特定の例においてはモノクローナル抗体である。好ましい実施形態において、チェックポイント阻害薬は、CTLA-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3、BTLA、TIGIT、VISTA又はこれらの任意の組み合わせに対して作られる。例えば、チェックポイント阻害薬は、PD-1及びPD-L1、PD-1及びCTLA-4、PD-L1及びCTLA-4に対して作られてよい。
【0081】
さらにずっと好ましくは、チェックポイント阻害薬は、CTLA-4、PD-1又はPD-L1に対して作られる。いくつかの例において、遮断薬は、イピリムマブ(CTLA-4を標的とするヤーボイ(登録商標))、ニボルマブ(PD-1を標的とするオプジーボ(登録商標))、ペムブロリズマブ(PD-1を標的とするキイトルーダ(登録商標)
)、アテゾリズマブ(PD-L1を標的とするテセントリク(登録商標))、セミプリマブ(PD-1を標的とするLibtayo(登録商標))又はデュルバルマブ(PD-L1を標的とするイミフィンジ(登録商標))であってよい。
【0082】
PD-L1/PD-1シグナル伝達経路は、いくつかの理由によりがんが免疫逃避する主要な機構である。第1に、そして最も重要なことに、この経路は、末梢組織に見出される活性化されたエフェクターT細胞の免疫応答の負の制御に関わる。第2に、PD-L1は、がんの微小環境で上方制御されるが、PD-1も活性化された腫瘍浸潤性T細胞上で上方制御されるので、事によると抑制の悪循環を増強する可能性もある。第3に、この経路は、双方向的なシグナル伝達により自然及び適応免疫制御の両方に複雑に関与する。これらの要因により、PD-1/PD-L1複合体はがんが免疫応答を操作でき、がん自身の悪化を促進できる主要な問題となる。結果として、腫瘍は免疫チェックポイント分子の抑制経路を活性化することができ、免疫系を抑制し、癌性細胞を継続的に無妨害で増殖する。T細胞の活性化後、CTLA-4は、抗原提示細胞(APC)上の同一のリガンドについてCD28と競合する表面に輸送され、CD28を抑制し、続けてT細胞の活性化及び増殖を抑制する。PD-1、PD-L1及びCTLA-4を標的化するのは、これらの事象が生じるのを防ぐことを目標としている。
【0083】
本明細書に開示される本発明は、自然免疫系を条件付けできてよく、したがってチェックポイント阻害薬によって誘導される抗腫瘍適応応答の発生、活性化及び/又は維持の優れた、より完全な、及び/又はより耐久性のある支持を提供すると想定される。
【0084】
1つの実施形態において、免疫療法は、養子細胞療法であり、免疫細胞は、最も一般的には改善された機能性及び特性のため、患者/対象に移入される。移入されることになっている細胞は、この対象(自己)又は別の対象(同種)に起源をもったものでよい。このような養子細胞療法の例としては、操作した又は非操作のマクロファージ、操作した又は非操作のγδT細胞、操作した又は非操作のナチュラルキラー細胞が挙げられるが、限定されない。したがって、本発明の文脈における養子細胞療法としては、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、遺伝子操作T細胞受容(TCR)体療法及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞療法が挙げられるが、限定されず、これらの詳細は当業者に周知である(非特許文献6)。
【0085】
別の実施形態において、免疫療法は、CAR-T細胞療法である。CAR-T細胞療法は、同種であっても自己であってもよい。いくつかの例において、CAR-T細胞療法は、B細胞に由来するがんに存在する抗原CD19に対して作られる。したがって、このような治療法は、急性リンパ性白血病(ALL)及びびまん性大細胞リンパ腫(DLBCL)などのB細胞に由来するがんに特に好適であってよい。他の例において、CAR-T細胞療法は、腫瘍関連抗原(TAA)に対して作られ、したがって固形腫瘍の治療により好適である。このような抗原の例としては、CD133、CD138、BCMA、CEA、EGFR、EpCAM、GD2、GPC3、HER2、HerinCAR-PD1、MSLN、MG7、MUC1、LMP1、PSMA及びPSCAが挙げられるが、限定されない。このような技術は当業者に公知であり、読者は、さらなる情報については「Adoptive cellular therapies: the current landscape」と表題を付けられた総説を指示される(非特許文献7)。
【0086】
チェックポイント阻害薬は、がん又は腫瘍を対象とした治療抗体であってよい。特定の実施形態において、治療抗体は、モノクローナル抗体であってよく、さらにずっと好ましい実施形態においては、ヒト化又はヒトモノクローナル抗体であってよい。このようなモノクローナル抗体の取得方法は、当業者に公知である。治療抗体は、がん細胞の異常タンパク質を遮断し、がん細胞上の特定のタンパク質に付着する又は抗癌剤などの細胞傷害性
分子と結合することができる。後者のものはがん細胞を免疫系に知らせ、その結果異常細胞は続けて免疫系の細胞成分によって標的とされ、破壊されることができる。チェックポイント阻害薬であるモノクローナル抗体の例としては、イピリムマブ(ヤーボイ(登録商標))、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標))及びペムブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標))が挙げられるが、限定されない。
【0087】
病因の多因子性のため、本明細書に記載される免疫療法、すなわちチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又はCAR-T細胞療法は、患者/対象に併用投与してよいと理解される。例えば、養子細胞療法及びチェックポイント阻害薬を併せて用いてよい。併用療法が必要かどうかは、個別の症例に基づいて判断され、多数の要因、例えば治療すべき腫瘍性疾患の複雑さ、及び/又は治療予定の患者/対象の病歴などに依存すると理解される。
【0088】
対象に投与される免疫療法がどんな種類であれ(用いられる免疫療法は腫瘍性疾患の形態及び複雑さに依存してよい)、弱毒生グラム陰性菌の投与後のこの免疫療法の有効性は、免疫療法成分の単独投与より大きくなる。いくつかの例において、弱毒生グラム陰性菌の投与後の免疫療法の有効性は、単独で投与される成分のいずれかよりも大きくなる。したがって、本発明は、腫瘍性疾患を治療する相加的又は相乗的方法のいずれかを提供する。この相加的又は相乗的効果は、より複雑な及び/又は固形腫瘍を治療する場合特に有利であり、免疫療法単独での治療に対して無反応者である患者/対象にとって特に有利である。
【0089】
本発明において使用する弱毒生グラム陰性菌を、固形腫瘍又は造血器腫瘍に関連する腫瘍性疾患を治療するために用いてよい。このような疾患としては、肉腫、癌腫、腺癌、メラノーマ、骨髄腫、芽細胞腫(blastoma)、神経膠腫、リンパ腫又は白血病が挙げられる。好ましい実施形態において、腫瘍性疾患は、固形腫瘍に関連する。特定の態様において、腫瘍性疾患は、前立腺癌、肝癌、腎癌、肺癌、乳癌、結腸直腸癌、膀胱癌、膵癌、脳癌、肝細胞癌、リンパ腫、白血病、胃癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、メラノーマ、癌腫、頭頸部癌、皮膚癌又は肉腫から選択される癌に関連する。
【0090】
新生物、腫瘍及びがんには、良性、悪性、転移性及び非転移性の種類が含まれ、任意のステージ(I、II、III、IV若しくはV)若しくはグレード(G1、G2、G3、など)の新生物、腫瘍、若しくはがん、又は進行中、悪化中、安定化した又は寛解している、新生物、腫瘍、若しくはがん若しくは転移が含まれる。本発明により治療することができる癌としては、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸(gastrointestines)、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、上咽頭、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、又は子宮の細胞又は新生物が挙げられるが、限定されない。さらに、癌は、以下に限定されないが、特に以下の組織タイプ、新生物、悪性癌、癌腫、未分化癌、巨細胞及び紡錐形細胞の癌、小細胞癌、乳頭癌、扁平上皮癌、リンパ上皮癌、基底細胞癌、pilomatrix carcinoma、移行上皮癌、乳頭移行上皮癌、腺癌、ガストリン産生腫瘍、悪性癌、胆管細胞、癌、肝細胞癌、複合肝細胞癌及び胆管細胞癌、線維柱帯腺癌(trabecular adenocarcinoma)、腺様嚢胞癌、腺腫性ポリープの腺癌、腺癌、家族性大腸ポリポーシス、固形癌、カルチノイド腫瘍、悪性癌、細気管支肺胞腺癌、乳頭状腺癌、嫌色素性癌、好酸球がん、好酸性腺癌、好塩基性癌、明細胞腺癌、顆粒細胞がん、濾胞腺癌、乳頭及び濾胞腺癌、非被包性硬化性癌、副腎皮質癌、類内膜癌、皮膚付属器癌、アポクリン腺癌、皮脂腺癌、耳道腺癌、粘表皮癌、嚢胞腺癌、乳頭状嚢腺癌、乳頭漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、粘液癌、印環細胞癌、浸潤性乳管癌、髄様癌、小葉癌、炎症性癌、パジェット病、乳腺、腺房細胞癌、腺扁平上皮癌、扁平上皮化生を伴う腺癌、悪性胸腺腫、悪性卵巣間質腫瘍(ovarian stromal tumour)、悪性莢膜細胞腫、悪性顆粒膜細胞腫、悪性アンドロブラストーマ、セルトリ細胞癌、悪性ライディッヒ細胞腫、悪性脂肪細胞腫瘍(lipid cell tumour)、悪性パラガングリオーマ、悪性乳房外パラガングリオーマ、褐色細胞腫、血管球血管肉腫(glomangiosarcoma)、悪性メラノーマ、無色素性メラノーマ、表在拡大型黒色腫、巨大色素性母斑の悪性メラノーマ、類上皮細胞メラノーマ、悪性青色母斑、肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胎児性横紋筋肉腫、胞巣状横紋筋肉腫、間質肉腫、混合腫瘍、ミュラー管混合腫瘍、腎芽腫、肝芽腫、癌肉腫、悪性間葉腫、悪性ブレンナー腫瘍、悪性葉状腫瘍、滑膜肉腫、悪性中皮腫、未分化胚細胞腫、胚性癌腫、悪性奇形腫、悪性卵巣甲状腺腫、絨毛癌、悪性中腎腫、血管肉腫、悪性血管内皮腫、カポジ肉腫、悪性血管外皮腫、リンパ管肉腫、骨肉腫、傍骨性骨肉腫、軟骨肉腫、悪性軟骨芽細胞腫、間葉性軟骨肉腫、骨の巨細胞腫、ユーイング肉腫、悪性歯原性腫瘍、ameloblastic odontosarcoma、悪性エナメル上皮腫、エナメル芽細胞線維肉腫(ameloblastic fibrosarcoma)、悪性松果体腫、脊索腫、悪性神経膠腫、上衣腫、星状細胞腫、原形質星状細胞腫、線維性星細胞腫、星状芽細胞腫、神経膠芽腫、乏突起神経膠腫、oligodendroblastoma、原始神経外胚葉性腫瘍、小脳肉腫、神経節芽細胞腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、嗅覚神経因性腫瘍(olfactory neurogenic tumour)、悪性髄膜腫、神経線維肉腫、悪性神経鞘腫、悪性顆粒細胞腫、悪性リンパ腫、ホジキン病、Hodgkin’s; paragranuloma、悪性リンパ腫、小リンパ球性、悪性リンパ腫、大細胞型、びまん性、悪性リンパ腫、follicular、菌状息肉症、他の特定の非ホジキンリンパ腫、悪性組織球症、多発性骨髄腫、マスト細胞肉腫、免疫増殖性小腸疾患、白血病、リンパ性白血病、形質細胞性白血病、赤白血病、リンパ肉腫細胞白血病(lymphosarcoma cell leukemia)、骨髄性白血病、好塩基球性白血病、好酸球性白血病、単球性白血病、マスト細胞白血病、巨核芽球性白血病、骨髄性白血病、及びヘアリーセル白血病であってよい。好ましくは、腫瘍性疾患は、前立腺癌、肝癌、腎癌、肺癌、乳癌、結腸直腸癌、膵癌、脳癌、肝細胞癌、リンパ腫、白血病、胃癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、メラノーマ、頭頸部癌、皮膚癌並びに軟部肉腫及び/又は他の形態の細胞腫から選択される癌に換算する腫瘍であってよい。腫瘍は、転移性又は悪性腫瘍であってよい。
【0091】
好ましい実施形態において、腫瘍性疾患は、肺癌、腎癌、膀胱癌、胃癌、卵巣癌、結腸直腸癌、メラノーマ、頭頸部癌又は乳癌から選択される癌に関連する。
【0092】
本発明の好ましい実施形態において、弱毒生グラム陰性菌は、免疫系の全身活性化と適合する投与方法なので、経口で、皮下に、又は筋肉内に投与される。本明細書において用いられる場合、用語「経口の」又は「経口投与される」は互換的に用いられ、グラム陰性菌が患者/対象の口から投与されることを指す。用語「皮下の」又は「皮下に投与される」は、互換的に用いられ、グラム陰性菌を患者/対象の皮下に投与することを指す。用語「筋肉内」又は「筋肉内に投与される」は、互換的に用いられ、グラム陰性菌を患者/対象の筋肉中に投与することを指す。最も好ましい実施形態において、弱毒生グラム陰性菌は経口投与される。しかし、他の投与方法を使用してよい場合もあるとも考えられる。したがって、特定の例において、本発明の弱毒生グラム陰性菌は、当業者であれば既知であろう注射、注入、持続点滴、静脈内、皮内、動脈内、病巣内、腟内、直腸内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、粘膜、心膜内、臍内、眼内(intraocularally)、頭蓋内、関節内、前立腺内(intraprostaticaly)、胸膜内、気管内、鼻腔内、吸入(例えばエアロゾル吸入)、カテーテル経由、洗浄経由(via a lavage)、若しくは他の方法により、又は前述のものの任意の組み合わせにより投与されてよい(例えば非特許文献8を参照する)。好ましくは、本発明のグラム陰性菌は、粘膜、腟内、静脈内、鼻腔内、胸膜内又は皮内に投与されてよい。好ましい実施形態において、本明細書に開示されるグラム陰性菌は、腫瘍内には投与されない。
【0093】
本発明の別の実施形態において、弱毒生グラム陰性菌は、この対象に治療の第1期に投与され、チェックポイント阻害薬療法、養子T細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与される。
【0094】
「治療の第1期」及び「治療の第2期」によって、治療の第1期及び第2期の間に患者/対象が本明細書に開示されるグラム陰性菌又は本明細書に開示される免疫療法を受けていない時間の間隙があるように、治療の第1期及び治療の第2期が時間的に間隔を隔てる治療過程を意図する。
【0095】
理論によって拘束されるものではないが、問題になっている免疫療法前に(すなわち治療の第1期に)弱毒生グラム陰性菌を投与すると、免疫療法が行われる前に免疫系を効果的に条件付けすることが可能にされ、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法、及び/又はCAR-T細胞療法の投与前にがん又は腫瘍をより効果的に標的にすることができると考えられる。
【0096】
弱毒生グラム陰性菌を免疫療法組成物より前に投与することは好ましい一方、弱毒生グラム陰性菌を同時又は後で投与することが必要とされる例もあってよい。したがって、弱毒生グラム陰性菌及び免疫療法は、同一の又は別々の医薬製剤に存在し、同時又は異なる時点で投与してよい。
【0097】
好ましくは、治療の第1期及び治療の第2期は、少なくとも1週間離して投与され、好ましくは治療の第1期及び治療の第2期は、2週間離して投与される。
【0098】
本明細書に開示される弱毒生グラム陰性菌は、使用すると、対象に全身性免疫応答を発生させる。好ましくは、弱毒生グラム陰性菌は、骨髄系細胞の活性化及び/又は成熟化を増強する全身性免疫応答を発生させる。このような骨髄系細胞の例としては、通常型樹状細胞、形質細胞様樹状細胞、単球及び/又はマクロファージが挙げられるが、限定されない。したがって、本発明の文脈における全身性免疫応答は、循環/全身骨髄コンパートメントの長期的な表現型の変化を指してよい。
【0099】
本発明の第4の態様において、対象の腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、経口投与され、皮下に投与され、又は筋肉内に投与される、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法を、前記対象に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、方法がある。
【0100】
本発明の第5の態様において、対象の腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、治療の第1期に投与されることになっている、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法は、治療の第2期に投与されることになっている、を前記対象に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、方法がある。
【0101】
本発明の第6の態様において、対象の腫瘍性疾患を治療、抑制又は制御する方法であって、前記方法は、(i)弱毒生グラム陰性菌であって、前記弱毒生グラム陰性菌は、非組換え型であるか、又は前記弱毒生グラム陰性菌は、治療タンパク質をコードする真核生物
の異種DNAを含まない、弱毒生グラム陰性菌、及び(ii)チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種若しくは自己CAR-T療法をこの対象に同時に、別々に、又は経時的に投与することを含み、前記方法は、前記弱毒生グラム陰性菌又はチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/若しくは同種若しくは自己CAR-T療法の単独投与と比較して治療効果を増強する、方法がある。
【0102】
したがって、本発明の方法は、原発腫瘍若しくはがんが他の部位へ転移すること又は転移性腫瘍若しくはがんが原発腫瘍若しくはがんから遠位の他の部位に形成される若しくは樹立されることを低減する若しくは抑制し、これにより腫瘍若しくはがんの再発若しくは腫瘍若しくはがんの悪化を抑制又は低減するために使用されてよい。したがって、本発明は、細胞増殖性若しくは細胞過剰増殖障害、新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移の存在に関連する1つ又は複数の有害な(身体的)症状又は結果を軽減又は寛解させること、すなわち治療効果又は有益な効果など、特定の対象の状態の検出可能又は測定可能な改善を提供する。
【0103】
本発明の方法はしたがって、弱毒生グラム陰性菌及び免疫療法、すなわちチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又はCAR-T細胞療法の投与を含む併用療法であり、治療効果が増強した強力で持続的な免疫応答を誘発する可能性がある。本明細書に開示される併用療法の相加的又は相乗的性質により、より低レベルの治療法又は治療が必要とされてよく、毒性プロファイルが有利なので有害作用が低減する。
【0104】
治療効果又は有益な効果は、状態若しくは病態の任意の客観的若しくは主観的な、一過性の、一時的な若しくは長期的な改善、又は新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害に関連する若しくは細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害によって起こる有害症状の発生、重症度、持続期間若しくは頻度の減少である。治療効果又は有益な効果により、生存期間が改善してよい。本発明による治療法の満足な臨床エンドポイントは、例えば1つ又は複数の関連する病態、有害症状若しくは合併症の重症度、持続期間若しくは頻度の増加的な若しくは部分的な減少、又は新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害の1つ又は複数の生理学的、生化学的若しくは細胞性の徴候若しくは特性の抑制若しくは回復がある場合に達成される。治療効果又は改善はしたがって、標的増殖性細胞(例えば新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移)の破壊又は新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害に関連する若しくは細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害によって起こる1つ又は複数の、たいていの又は全ての病態、有害症状若しくは合併症の消失であってよいが、限定されない。しかしながら、治療効果又は改善は、全ての標的増殖性細胞(例えば新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移)の治癒若しくは完全な破壊又は新生物、腫瘍若しくはがん、又は転移などの細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害に関連する若しくは細胞増殖若しくは細胞過剰増殖障害によって起こる全ての病態、有害症状若しくは合併症の消失である必要はない。例えば、腫瘍若しくはがん細胞集団を部分的に破壊する、又は腫瘍若しくはがんの進行若しくは悪化を抑制することにより腫瘍若しくはがんの量、大きさ若しくは細胞数を安定化させると、腫瘍若しくはがんの量、大きさ若しくは細胞の一部若しくは大部分が残るとしても、死亡率を減少させ、たった数日、数週間又は数か月であっても寿命を延ばすことができる。
【0105】
治療効果の特定の非限定的な例としては、新生物、腫瘍若しくはがん、若しくは転移体積(大きさ又は細胞量)若しくは細胞数の減少、新生物、腫瘍若しくはがん体積の増加の抑制若しくは予防(例えば安定化)新生物、腫瘍若しくはがんの進行、悪化若しくは転移の緩徐化若しくは抑制、又は新生物、腫瘍若しくはがんの増殖(proliferation)、増殖(growth)若しくは転移の抑制が挙げられる。
【0106】
発明の方法は、即時には奏功しなくてよい。例えば、治療後に新生物、腫瘍若しくはがんの細胞数若しくは体積が増加してよいが、その後特定の対象の腫瘍細胞体積、大きさ又は細胞数の安定化又は減少が徐々に結局起こってよい。
【0107】
抑制、低減、減少、遅延又は予防することができる新生物、腫瘍、がん及び転移に関連する追加の有害症状及び合併症としては、例えば、悪心、食欲不振、倦怠感(lethargy)、疼痛及び不快感が挙げられる。したがって、細胞過剰増殖障害に関連する又は細胞過剰増殖障害によって起こる有害症状又は合併症の重症度、持続期間又は頻度の部分的な若しくは完全な減少又は低減、活力、食欲、心理的幸福の増加などの対象の生活の質の改善及び/又は幸福は全て、治療効果の特定の非限定的な例である。
【0108】
治療効果又は改善はしたがって、治療された対象の生活の質の主観的改善を含むこともできる。さらなる実施形態において、方法は、対象の寿命(生存時間)を延長する又は延ばす。さらなる実施形態において、方法は、対象の生活の質を改善する。
【0109】
本発明は、チェックポイント阻害薬、養子細胞療法及び/又はCAR-T細胞療法での以前の治療で効果がなかった個人に対して特に適してよい。「効果がなかった」によって、治療に反応しない任意の腫瘍性疾患への言及を意図する。本発明は、前の免疫療法治療に対して以前は低い反応者、中程度の反応者又は高い反応者だった個人に特に適するとも想定される。
【0110】
問題になっている弱毒生グラム陰性菌及び免疫療法は典型的には、有効量の弱毒生グラム陰性菌又は免疫療法を含み、薬学的に許容される担体/アジュバント/希釈剤又は添加物をさらに含む組成で対象に投与される。フレーズ「薬学的に又は薬理学的に許容される」とは、必要に応じて、例えばヒトなどの動物に投与した場合、有害な、アレルギー性の又は他の都合悪い反応を生じない分子実体及び組成物を指す。このような製剤は、当業者に公知である。さらに、動物(例えばヒト)投与については、製剤は、適用できる場合、無菌性、発熱性、一般的安全性及び純度の基準を満たすべきであると理解される。
【0111】
本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体/アジュバント/希釈剤/添加物」には、当業者に公知であるように、任意の及び全ての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌薬、抗真菌薬)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬剤、薬剤安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、香味料、色素、このような物質及びこれらの組み合わせが挙げられる(例えば、非特許文献9を参照する)。例としては、リン酸水素二ナトリウム、大豆ペプトン、リン酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、スクロース、ホウ酸緩衝液、滅菌生理食塩水(0.9%NaCl)及び滅菌水が挙げられるが、限定されない。
【0112】
組成物、弱毒生グラム陰性菌組成物又は免疫療法のいずれかはまた、免疫応答を増強することを目的とする追加成分を含んでよい。このような追加成分の例としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、フロイント完全アジュバント及びフロイント不完全アジュバントなどの油性アジュバント,ミコール酸系アジュバント(例えばトレハロースジミコレート)、細菌リポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン(例えばムレイン、ムコペプチド又はN-Opacaなどの糖タンパク質、ムラミルジペプチド[MDP]、又はMDP類似物)、プロテオグリカン(例えば、肺炎杆菌(Klebsiella pneumoniae)から抽出した)、連鎖球菌性調製物(例えば、OK432)、ムラミルジペプチド、免疫刺激複合体(特許文献7、特許文献8及び特許文献9に開示される「Iscoms」)、サポニン、DEAE-デキストラン、中性油脂(ミグリオールなど)、植物油脂(落花生油など)、リポソーム、ポリオ
ール、Ribiアジュバント系(例えば、GB-A-2 189141を参照する)、ビタミンE、カーボポール、インターフェロン(例えば、IFN-α、IFN-γ、若しくはIFN-β)、又はインターロイキン、特に細胞免疫を刺激するもの(例えば、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16及びIL-17)が挙げられるが、限定されない。
【0113】
本発明の発明者らは驚くべきことに、弱毒生グラム陰性菌及び免疫療法を併用すると、いずれかの成分を単独で用いた場合よりも腫瘍性疾患を予防及び/又は治療する治療法が有効であることを見出した。本発明を、以下の非限定的な例を参照してさらに説明する。
【実施例】
【0114】
実施例1―全身骨髄系細胞の長期的表現型変化の誘導
成体の、メスのBALB/cマウスを1×10
9CFUのネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株MD58(ΔaroC)で経口的に処置した。21日後、脾臓を回収し、単一の細胞懸濁液を作成し、フローサイトメトリー染色を実行した。生存可能なCD11c
high、HLA-DR
+、CD11b
+/-、PDCA-1通常型樹状細胞及び
-生存可能なCD11c
-/low、PDCA1
+、HLA-DR
-/Int、CD11b
-形質細胞様樹状細胞のマーカーCD80、CD86及びPD-L1の蛍光強度の中央値を測定した(
図1A及び1Bを参照する)。生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
+、F4/80
-単球及び生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
-、F4/80
+マクロファージのマーカーPD-L1、CD80及びHLA-DRの蛍光強度の中央値も測定した(
図1C及び1Dを参照する)。
【0115】
図1に見られるように、骨髄系細胞、例えば通常型樹状細胞、形質細胞様樹状細胞、単球及びマクロファージの各種細胞マーカーは、サルモネラ菌での治療21日後に有意な増加を示し、サルモネラ菌での治療後の免疫細胞の活性化に対する効果は、かなりの期間にわたり持続可能であると示唆される。
【0116】
実施例2-サルモネラ菌で誘導された表現型変化の時間経過
図1で観察された骨髄系細胞の活性化/成熟化表現型変化の動態を調査するために、時間経過試験を実行した。成体の、メスのBALB/cマウスを1×10
9CFUのネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株MD58(ΔaroC)で経口的に処置した。1、14、21又は42日後に脾臓及び大腿骨を回収し、単一の細胞懸濁液を作成し、フローサイトメトリー染色を実行した(
図2Aの実験模式図を参照する)。
【0117】
全身性の通常型(cDC)及び形質細胞様(pDC)樹状細胞の活性化マーカーは、サルモネラ菌の経口投与後増加し、投与後3週間でピークになり、投与後6週間までにベースラインレベル近くに戻ることが分かった(
図2Bを参照する)。全身性単球及びマクロファージの活性化マーカーもまた、サルモネラ菌の経口投与後増加し、投与後3週間でピークになり、投与後6週間までにベースラインレベル近くに戻ることが分かった(
図2Cを参照する)。
【0118】
実施例3-サルモネラ菌の経口投与は、骨髄造血を増強する
成体の、メスのBALB/cマウスを1×109CFUのネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株MD58(ΔaroC)で経口的に処置した。1、14、21又は42日後に分離した骨髄細胞のフローサイトメトリー染色を実行した。
【0119】
骨髄中の造血幹細胞/前駆細胞の数は、経口投与後2週間で有意に増加したことが分かる(
図3Aを参照する)。代表的なフローサイトメトリープロットから、サルモネラ菌で経口的に処置した動物の骨髄中の生存可能なLKS細胞が増加したことも実証される(
図3Bを参照する)。さらに、サルモネラ菌処置後14日での骨髄細胞全体に対する生存可能なLKS細胞の割合は、スピアマンの順位相関を用いると、同時点の単球(生存可能なCD11c
-、CD11b
+、Ly6C
+、F4/80
-細胞)の割合と相関した(
図3Cを参照する)。
【0120】
したがって、本実施例のデータは、サルモネラ菌を投与すると免疫系、特に免疫系の骨髄アームが条件付けされるという仮説を支持する。そのうえ、サルモネラ菌によって誘導される条件付け変化が3~6週間の期間であると実証されるように、これらのデータから、サルモネラ菌が免疫系を条件付けする長期的な効果が示される。これらの変化は、骨髄造血前駆細胞及び脾臓単球の間の正の相関によって示唆されるように、全身的に/中枢的に媒介されるようである。
【0121】
実施例4-サルモネラ菌の経口投与は、全身樹状細胞の少なくとも14日間持続する応答性亢進状態を誘導する
成体の、メスのBALB/cマウスを1×10
9CFUのネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株MD58(ΔaroC)で経口的に処置した。14日後、脾臓を回収し、単一の細胞懸濁液を作成し、CD11c発現細胞を磁気分離により濃縮し、1×10
5細胞/ウェルを24時間、指示された刺激(TLR9、TLR2/6、若しくはTLR4/2アゴニスト又は溶媒)と共にインキュベートした。上清中のIL-6をLegendPlexアッセイにより測定した(
図4を参照する)。
【0122】
図4から明らかなように、グラム陰性菌、例えばサルモネラ菌で処置した動物由来のCD11c発現細胞は、溶媒対照群と比較すると多様な刺激に応じてIL-6分泌(細胞の免疫応答性レベルの指標)の増加を示した。このことはさらに、本発明のグラム陰性菌を投与すると免疫細胞が条件付けされ、免疫細胞を続く刺激に対してより応答性にすることを裏付ける。
【0123】
実施例1~4に示されるように、本実施例において開示される実験データから、弱毒生グラム陰性菌、例えばサルモネラ菌で処置すると、複数の免疫細胞型(例えば樹状細胞、単球及びマクロファージ)が予想外に長期的に活性化され、加えて骨髄中の造血幹細胞/前駆細胞が増加することが示される。理論によって拘束されるものではないが、このような弱毒生グラム陰性菌の投与によって誘導される全身性応答は、免疫療法、例えばチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法又はCAR-T細胞療法と併用投与される場合に、このような免疫療法の抗腫瘍活性を増強するように、対象又は患者の免疫系を条件付けすることができると考えられる。このことは以下の実施例5でさらに実証される。弱毒生グラム陰性菌の投与から観察される全身性改変、すなわち複数の免疫細胞型の活性化及び骨髄造血に対する効果(本明細書において示される)は、この弱毒生グラム陰性菌の腸管からの取り込みと併せて、観察される抗腫瘍効果の増強の原因となると考えられる。当業者は、弱毒生グラム陰性菌によって誘導される広範な全身性効果は、有利な効果が無数のチェックポイント阻害薬及び/又は養子細胞療法にわたり観測される、すなわち有利な効果が単一の治療法に制限されず、治療法の種類全体に適用できるように、患者/対象の免疫系を条件付けすることができると容易に理解するだろう。さらに、対象/患者の免疫系を条件付けするためにグラム陰性菌を用いることは、免疫療法を単独で用いた場合に免疫療法に対して抵抗性であると分かっている患者/対象に特に有利であってよい。
【0124】
実施例5-サルモネラ菌の経口投与により処置すると腫瘍増殖が遅くなり、免疫チェックポイント阻害薬と併用投与すると有効性が増強される
成体の、メスのC57BL/6マウスに1×106MC38(結腸癌)又はB16-F10(メラノーマ)腫瘍細胞を皮下に播種した。
【0125】
図5Aについては、MC38腫瘍を有する動物を、腫瘍播種後15及び22日後に1×10
9CFUネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株MD58(ΔaroC)、又はPBS対照で、並びに17日目から毎週2回10mg/kg抗PD-L1で経口的に処置した。グラフは、経時的な腫瘍体積を示し、腫瘍増殖を描写し、対応する表は、14日目~30日目にサルモネラ菌及びアイソタイプ対照、サルモネラ菌及びαPD-L1、又は溶媒及びαPD-L1で処置した後の、対照溶媒及びアイソタイプ群に対する腫瘍増殖の平均抑制率を要約する(
図5Aを参照する)。
【0126】
図5Bについては、B16-F10腫瘍を有する動物を、腫瘍播種後8日目に1×10
9CFUネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)株MD58(ΔaroC)、又はPBS対照で、及び10、13及び17日目に10mg/kg抗PD-1抗体で経口的に処置した。グラフは、経時的な腫瘍体積を示し、腫瘍増殖を描写し、対応する表は、対照群(溶媒+アイソタイプ)に対する14日目~30日目の種々の処置による腫瘍増殖の平均抑制率を要約する(
図5Bを参照する)。
【0127】
上で論じたように、チェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及びCAR-T療法などの免疫療法は、患者の亜集団には奏功するが、これらの治療法がほとんど効果を示さないからなんの効果も示さない大部分の患者が依然としていることが知られている。このように、腫瘍学の分野において未だ対処されていないこの必要性に対処する治療法を見出すことは最も重要である。この問題は
図5A及び5Bに示される表に反映されており、チェックポイント阻害薬での処置は腫瘍増殖の抑制になんの効果も示さない又は最小の効果しか示さないが、溶媒及びアイソタイプ対照によって生じる効果より有意に良好な効果とは示されない。しかしながら、全く対照的に、チェックポイント阻害薬を弱毒生グラム陰性菌、例えばサルモネラ菌と併用投与する場合、腫瘍増殖抑制率は有意に改善される(
図5Aのチェックポイント阻害薬単独群で見られるものの約13倍の増殖抑制)。この効果はまた、サルモネラ菌単独処置で見られるものよりかなり高く、2個の成分を組み合わせて用いる利点が強調される。したがって、本発明の発明者らは驚くべきことに、チェックポイント阻害薬、養子細胞療法及びCAR-T療法などの免疫療法の抗腫瘍活性は、弱毒生グラム陰性菌と併用投与する場合、有意に増強することができることが分かった。
【0128】
さらに、発明者らは、2個の無関係の腫瘍モデルにおける、2個の異なるチェックポイント阻害薬による相加的及び/又は相乗的効果の同一の傾向も実証し、弱毒生グラム陰性菌によって誘導される条件付け効果は、有利な効果が無数のチェックポイント阻害薬及び/又は養子細胞療法にわたり観察され、さらに多数のがんの徴候にわたり潜在的に有利であるように、患者/対象の免疫系を条件付けするという仮説を実証し、裏付ける。したがって、当業者は、本発明の効果は腫瘍タイプに依存しないことを容易に理解するだろう。
【0129】
実施例6-マクロファージをサルモネラ菌でインビトロで条件付けするとM1細胞が炎症性表現型へとさらに極性化し、M2をM1様表現型マクロファージにさらに誘導する
マクロファージは典型的には、マクロファージの表現型及び機能性に基づいてM1マクロファージ(炎症誘発性、古典的に活性化される)及びM2マクロファージ(抗炎症性、選択的に活性化される/抑制性)に分けることができると広く受け入れられている。マクロファージは従来、血管新生、侵襲性、転移、腫瘍微小環境の制御、及び治療抵抗性を含
む、悪性腫瘍のいくつかの主要な特徴に、直接的又は間接的のいずれかで、関与することが分かっている。しかしながら、マクロファージは、腫瘍が治療法に対してより影響されやすくなるように、腫瘍抗原を提示し、腫瘍特異的なT細胞の増殖(proliferation)及び増殖(expansion)を支援し、癌性細胞を貪食し、そして腫瘍微小環境を再構築する能力も有する。M2表現型マクロファージをM1表現型マクロファージに再極性化することは、抗腫瘍効果を起こすのに充分であることも知られている(非特許文献10)。したがって、このような再極性効果を開始することができる治療方針があれば、養子細胞療法及びチェックポイント阻害薬などの他の免疫療法の抗腫瘍効果を支援し、強化するのに役立てるために特に有利だろう。
【0130】
本明細書に示されるように、M2マクロファージをグラム陰性菌でインビトロ処理すると、様々な免疫細胞を活性化し骨髄造血を起こすだけでなく(実施例1~4を参照する)、抑制性M2マクロファージからM1様表現型への表現型の切り替えも開始する(実施例6を参照する)。理論によって拘束されるものではないが、M2マクロファージからM1マクロファージへのこのような再極性化は、本明細書に示される抗腫瘍効果にさらに寄与すると考えられる。
【0131】
3人の別個のドナー由来のPBMCをバフィーコートのFicoll-Paque勾配遠心分離法により分離した。CD14+単球をCD14ミクロビーズ分離キット(MiltenyiBiotec)を用いて分離し、M1細胞はGM-CSFで、M2細胞はM-CSFで6日間培養した。サイトカインカクテルを8日目に加えて細胞をM1及びM2細胞に極性化した。結果として生じるマクロファージを回収、洗浄し、感染効率1でSalmonella enterica Typhi菌株ZH9(ΔaroC, ΔssaV)を用いて処理するか、未処理のままにした。1時間後、細胞を回収、洗浄し、48時間培地中で培養した。フローサイトメトリー解析前に、細胞をCD163及びCD86に対する抗体で染色した。
【0132】
図6に示す結果から、サルモネラ菌は、M1及びM2マクロファージの両方に効果を有することが示される。M1マクロファージをサルモネラ菌で条件付けする場合、ほとんど全ての細胞がCD86を発現し、CD163を減少させ、これらの特徴の組み合わせは、炎症促進性抗腫瘍マクロファージに特有である。同様に、M2抑制性マクロファージに存在しない/少ないこの同一のCD86
+CD163
-集団は、サルモネラ菌で条件付けした後のこの細胞集団に現れる。このことから、腫瘍微小環境(TAM―腫瘍関連マクロファージと称されることも多い)及び予後不良に一般的に関連する抑制性M2マクロファージは、サルモネラ菌で変化することができ、抗腫瘍応答を良く支援するようなより炎症促進性の表現型へと条件付けする。
【0133】
実施例7-ヒト単球をインビトロで条件付けするとM2極性化を克服し、M2の抑制能力を低減する
M2様マクロファージ、例えば腫瘍関連マクロファージは、いくつかの機構を介して、T細胞を含む多様な免疫細胞タイプに免疫抑制効果を与えることが知られている(非特許文献11)。T細胞の抗原に向けられる既知の細胞傷害性能力により、T細胞は種々の免疫療法の開発の主要な標的である。したがって、グラム陰性菌でヒト単球をインビトロで条件付けした後のT細胞増殖に対する効果を調べた。
【0134】
PBMCをバフィーコートのFicoll-Paque勾配遠心分離法により分離し、CD14+単球をCD14ミクロビーズ分離キット(MiltenyiBiotec)を用いて分離した。単球を感染効率1で30分間、Salmonella enterica Typhi菌株ZH9(ΔaroC,ΔssaV)で処理するか(条件細胞)、培地のみでインキュベートした(非条件細胞)。細胞をPBSで2回洗浄してサルモネラ菌を
除去し、ゲンタマイシンを補充した培地で6日間培養した。細胞を免疫抑制マクロファージへと極性化するために、次にIL-4、IL-10及びTGFβを48時間加えた。自己CD4+T細胞を分離し、CellTrace Far Redで標識した。T細胞を抗CD3/CD28Abの存在下マクロファージと共培養した。5日後、細胞を回収し、フローサイトメトリーを用いてT細胞増殖を評価した。
【0135】
サルモネラ菌で条件付けしたヒト単球由来のM2マクロファージは、非条件付けマクロファージと比べてサルモネラ菌で条件付けしたマクロファージの存在下T細胞増殖が大きかったことにより実証されるように、T細胞増殖をあまり抑制しないことが分かった(
図7A及び7Cを参照する)。
図7Cから分かるように、非条件付け(培地)骨髄系細胞は、抑制性M2細胞のようにふるまい、2回を超える分裂を受ける活性化T細胞はわずか平均10%で、T細胞増殖を効果的に抑制する。対照的に、サルモネラ菌で条件付けした骨髄系細胞は、2回を超える分裂を受けるT細胞は平均20%で、あまり抑制しない。したがって、サルモネラ菌で条件付けした単球由来マクロファージは、M2極性化にあまり影響されない。
【0136】
これらのデータから、骨髄系細胞をグラム陰性菌で条件付けすると、腫瘍微小環境などの抑制性条件下においてT細胞増殖を増強することができ、グラム陰性菌の経口投与により条件付けすると養子的に移入された、及びCAR-T細胞療法の増殖を増強するという仮説を支持する。
【0137】
実施例8-ヒト単球をインビトロで訓練するとM2極性化を克服し、抗PD-L1 Ab活性を増強する
骨髄系細胞をグラム陰性菌で条件付けすると抑制条件においてT細胞増殖を増強することができるという知見を得た後、このような効果が免疫療法の有効性に影響を及ぼすかどうかを続けて調べた。
【0138】
PBMCをバフィーコートのFicoll-Paque勾配遠心分離法により分離し、CD14+単球をCD14ミクロビーズ分離キット(MiltenyiBiotec)を用いて分離した。単球を感染効率1で30分間、Salmonella enterica Typhi菌株ZH9(ΔaroC,ΔssaV)で処理するか(条件細胞)、培地のみでインキュベートした(非条件細胞)。細胞をPBSで2回洗浄してサルモネラ菌を除去し、ゲンタマイシンを補充した培地で6日間培養した。細胞を免疫抑制M2マクロファージへと極性化するために、次にIL-4、IL-10及びTGFβを48時間加えた。自己CD4+ T細胞を分離し、CellTrace Far Redで標識した。細胞を抗CD3/CD28 Ab、及び抗PD-L1 Ab又は関連するアイソタイプAb対照のいずれかの存在下マクロファージと共培養した。5日後、細胞を回収し、フローサイトメトリーを用いてT細胞増殖を評価した。
【0139】
サルモネラ菌で条件付けしたヒト単球由来マクロファージでは、サルモネラ菌に曝露しなかったヒト単球由来マクロファージと比べてPD-L1遮断活性が増強したことが分かった(
図8A及びCを参照する)。
図8Cから分かるように、PD-L1遮断と併せた非条件付け(培地)骨髄系細胞は、腫瘍微小環境を模倣したこの実験設定においてはT細胞増殖の抑制を反転させるのに有効でない。しかしながら、PD-L1遮断と併せたサルモネラ菌で条件付けした骨髄系細胞では、この抑制がチェックポイント阻害薬に感受性になり、2回を超える分裂を受ける細胞が~50%と、PD-L1遮断の存在下T細胞増殖の抑制を反転する。
【0140】
これらのデータから、骨髄系細胞をグラム陰性菌で条件付けすると、チェックポイント阻害薬療法に応答性でない患者においても、腫瘍微小環境などの免疫抑制性が強い条件に
おいてチェックポイント遮断がT細胞増殖の抑制を反転する有効性を可能にし、増強する。したがって、このデータは、グラム陰性菌の投与による条件付けは、チェックポイント阻害薬、養子細胞療法及びCAR-T療法などの免疫療法の有効性を増強するという仮説を支持する。
【0141】
したがって、本発明の発明者らは、げっ歯類及びヒト細胞の両方での多くのアッセイ全体を通して、グラム陰性菌を、例えばチェックポイント阻害薬療法、養子細胞療法及び/又は同種又は自己CAR-T療法などの免疫療法と組み合わせると、免疫療法を単独で用いる場合と比較してこれらの治療法の抗腫瘍効果を増強することができることを示した。したがって、本発明は、腫瘍学の分野において著しい改善を示し、少なくとも、現在、理由は分からないが、診療所で用いられている現在の免疫療法に無応答な患者にとって新規な治療方針を提供する。
【国際調査報告】