(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-03
(54)【発明の名称】プロポキシル化されたパラ-トルイジン類の液状混合物
(51)【国際特許分類】
C07C 217/08 20060101AFI20230727BHJP
C07C 213/06 20060101ALI20230727BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20230727BHJP
C08F 299/04 20060101ALI20230727BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
C07C217/08
C07C213/06
C08G59/50
C08F299/04
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580204
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2021067363
(87)【国際公開番号】W WO2021260118
(87)【国際公開日】2021-12-30
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506207853
【氏名又は名称】サルティゴ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ヘプフナー
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4J036
4J127
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB40
4H006AB48
4H006AC43
4H006BA02
4H006BA29
4H006BC10
4H006BC31
4H006BC34
4H039CA61
4H039CL10
4J036AA01
4J036DC05
4J036DC10
4J036DC12
4J036DC14
4J036HA12
4J127AA06
4J127BB041
4J127BB071
4J127BB181
4J127BC021
4J127BC131
4J127BD131
4J127DA23
(57)【要約】
本発明は、2種以上の異なった、ジ-若しくはトリ-プロポキシル化されるか又はより多くプロポキシル化されたp-トルイジンを特定の重量比で含むプロポキシル化された4-トルイジンの混合物、それらを調製するための方法、並びに、重合促進剤若しくは加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂における硬化剤成分としてのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の2種以上の異なる化合物を含む混合物であって、
【化1】
[式中、R
1は、水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子上のR
1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、m及びnは整数を表す]、ここで
4-トルイジンが、混合物の中の前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、2重量%以下、好ましくは0.001重量%~1重量%の比率で存在し、かつ
式(I)中でm及びnの総合計が整数の2である前記式(I)の化合物が、前記混合物の中に、前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、20重量%以下、好ましくは0.01重量%~20重量%、より好ましくは0.01重量%~12重量%の比率で存在し、かつ
式(I)中でm及びnの総合計が少なくとも整数の6である前記式(I)の化合物が、混合物の中に、前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、40重量%以下、好ましくは0.01重量%~40重量%、より好ましくは0.01重量%~20重量%の比率で存在する、
ことを特徴とする、混合物。
【請求項2】
式(I)中でm及びnの総合計が整数の3である前記式(I)の化合物が、前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、7重量%~49重量%、好ましくは15重量%~49重量%の比率で、前記混合物の中に存在することを特徴とする、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
式(I)中でm及びnの総合計が整数の4である前記式(I)の化合物が、前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、10重量%~49重量%、好ましくは10重量%~40重量%の比率で、前記混合物の中に存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
前記式(I)の化合物のそれぞれの同族グループが、前記混合物の中に、前記混合物の中の前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、50重量パーセント未満の比率で存在していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項5】
前記混合物の中の前記式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、0.1重量%未満の比率の4-トルイジンしか含んでいないことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項6】
5~40℃の温度において液体の状態にある物質であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項7】
DIN 53019に準拠して、回転粘度計を使用し、25℃の温度において測定して、500~20,000mPasの動的粘度を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項8】
前記式(I)の化合物を96重量%~100重量%含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の混合物を製造するためのプロセスであって、式(I)中でR
1が水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子上のR
1基が両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、かつ式(I)中で、m及びnが整数の1である前記式(I)の化合物を、触媒の存在下で、用いられた4-トルイジンの1モルあたり、1.0~4.0モル、好ましくは1.25~2.50モルのプロピレンオキシドと反応させることを含む、プロセス。
【請求項10】
前記反応が、80~150℃、好ましくは100~150℃の温度で実施される、請求項9に記載の、混合物を製造するためのプロセス。
【請求項11】
前記反応が、使用される、式(I)中でR
1が水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子上のR
1基が両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、かつ式(I)中で、m及びnが整数の1である前記式(I)の化合物(N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン)の1モルあたり0.01~0.05モルの、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属、アルキルリチウム、水素化ナトリウム、複合水素化物、たとえばリチウムアルミニウム水素化物、ナトリウムビス(メトキシエトキシ)アルミニウム二水素化物、又はアルカリ金属アルコキシドから選択される、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩から選択される触媒の存在下で実施される、請求項9又は10に記載の、混合物を製造するためのプロセス。
【請求項12】
4-トルイジンを、使用された4-トルイジンの1モルあたり1.8~2.2モル、好ましくは1.9~2.1モルのプロピレンオキシドと、触媒の非存在下で、80~150℃、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~150℃の温度において反応させることにより、式(I)中でR
1が水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子の上のR
1基が両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、かつ式(I)中でm及びnが整数の1である前記式(I)の化合物(N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン)を製造することを含む、請求項9に記載の、混合物を製造するためのプロセス。
【請求項13】
前記反応が、溶媒の非存在下で実施されることを特徴とする、請求項9~12のいずれか一項に記載の、混合物を製造するためのプロセス。
【請求項14】
前記4-トルイジンが、4-トルイジンを基準にして、0.2重量%以下の比率の3-トルイジンしか含まない、請求項9~13のいずれか一項に記載の、混合物を製造するためのプロセス。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の混合物の使用であって、重合促進剤若しくは加硫促進剤としての、好ましくはポリエステル、特に不飽和ポリエステルの、好ましくはフリーラジカル重合における重合促進剤若しくは加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分としての、使用。
【請求項16】
重合促進剤若しくは加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分としての、請求項1~8のいずれか一項に記載の混合物の存在下で、重合によって、好ましくはポリエステル、特に不飽和ポリエステルの重合によって得ることができるポリマー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の異なったジ-若しくはトリ-プロポキシル化されるか又はより高度にプロポキシル化されたp-トルイジン類を特定の比率で含む、プロポキシル化された4-トルイジン(パラ-トルイジン)類の混合物、それらを調製するためのプロセス、及び重合促進剤として、又は加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋されたポリマーは、フリーラジカル重合によって製造することができる。これには、たとえば不飽和ポリエステルを使用することも含まれる。その重合プロセスは、硬化ともよばれる。その重合は、この群のポリマーのための硬化剤とよばれているものによって開始される。それらは一般的に、フリーラジカル開始剤、たとえばペルオキシドである。最もよく知られており、且つ最も広く使用されている硬化剤は、ジベンゾイルペルオキシドである。これにはさらに、その重合プロセスを促進させ、その硬化プロセス及び/又はそのポリマー製品の性質に有利な効果を及ぼす重合促進剤を使用することも含まれる。いくつかの重合促進剤は、さらなる官能基を介してそのポリマーの中に組み込むのが有利である。N,N-二置換されたトルイジン類の形態である第三級アミンは、そのような重合促進剤の重要なグループであるが、その理由としては、特にエトキシル化及びプロポキシル化されたトルイジン類のグループでは、それらの揮発性が低いこと、及びさらには、有利な毒学的プロファイルを有していることにある。
【0003】
N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン[N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-4-トルイジン、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン、1,1’-(p-トリルイミノ)ジプロパン-2-オール、CAS RN 38668-48-3;ジイソプロパノール-p-トルイジン、N,N-ジ(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン]、すなわち、「ジプロポキシル化された」パラ-トルイジンなどの個々の化合物が公知である。それらの、より高級な同族体は、今日までのところ、単に一般論として開示されているに過ぎない。
【0004】
(特許文献1)には、エトキシル化されたp-トルイジン類、並びに4-トルイジンと、4-トルイジンの1モルあたり3~4モルのエチレンオキシドとから、80±5℃で、溶媒無添加且つ触媒無添加での具体的な調製法が記載されている。これにより、エトキシル化された4-トルイジン類の液状混合物が得られるが、その組成についてのさらなる記載はない。その化学的な収率からは、平均エトキシル化度(4-トルイジンの1分子あたりのエチレンオキシド単位の数)は2~2.5の間と推測することができる。個々の同族体の分布については、何の情報もない。
【0005】
(特許文献2)には、N,N-ビス(2-ヒドロキシアルキル)-p-トルイジンの一般的な同族体が記載されているが、それには、アルコキシル化された4-トルイジンを基準にして、0.2重量%未満のアルコキシル化された3-トルイジンが含まれている。具体的に開示されているのは、0.2重量%未満しか3-トルイジンを含まない4-トルイジンと、4-トルイジンの1モルあたり、2.2~5モル、好ましくは2.3~4モル、より好ましくは2.3~3.5モル、特には2.5~2.6モルのアルキレンオキシドとからの、それらの調製法である。
【0006】
たとえば、4-トルイジンを基準にして0.2重量%未満しか3-トルイジンを含まない4-トルイジンと、使用された4-トルイジンの1モルあたり2.5モルのエチレンオキシドとを、溶媒無添加且つ触媒無添加で、120℃で反応させると、4-トルイジンをもはや含まない(検出限界:100ppm)のエトキシル化された4-トルイジンが得られたが、それは、0.1%未満のN-ヒドロキシエチル-4-トルイジン、50.1%のN,N-ビス(ヒドロキシエチル)-4-トルイジン、及び43.7%のN-オキシエチル-N-(ヒドロキシエチルオキシエチレン)-4-トルイジン、5.4%のテトラオキシエチル-4-トルイジン、0.7%のペンタオキシエチル-4-トルイジン、及び痕跡量のヘキサオキシエチル-4-トルイジンの混合物から構成されていた。
【0007】
4-トルイジンを基準にして0.2重量%未満しか3-トルイジンを含まない4-トルイジンと、使用された4-トルイジンの1モルあたり2.58モルのエチレンオキシドとを、溶媒無添加で、触媒として30%ナトリウムメトキシド溶液を用い、120℃で反応させると、47.4%のN,N-ビス(ヒドロキシエチル)-4-トルイジン、43.4%のN-オキシエチル-N-(ヒドロキシエチルオキシエチル)-4-トルイジン、及び痕跡量の、より高度にエトキシル化された化合物の混合物から構成される、エトキシル化された4-トルイジンが得られた。その文献には、さらなる例の記述も含まれてはいるが、それらにおける同族体の分布については記載がない。
【0008】
4-トルイジンとエチレンオキシドとの反応は、少なくとも触媒を使用した場合には、事実上定量的に進行するので、化学的物質収支に基づいて、その平均エトキシル化度(本文書における一般式(I)の中のmとnとの総合計)が、エチレンオキシドと4-トルイジンとの間のモル比に近いと推測することができる。
【0009】
N,N-ビス(ヒドロキシエチル)-4-トルイジン(CAS RN 3077-12-1)は、エポキシ樹脂のための硬化剤成分として使用するための、黒色~黄褐色の液状又は固体状の製品として、LANXESS Deutschland GmbH/Saltigo GmbHから市販されている。
【0010】
同様にして、エポキシ樹脂のための硬化剤成分として使用するための、無色~淡黄褐色の粘稠液状物である、0.2重量%未満しかエトキシル化3-トルイジンを含まない、「過剰エトキシル化されたN,N-ビス(ヒドロキシエチル)-4-トルイジン」が、Accelerator PT25E/2という名称で、LANXESS Deutschland GmbH/Saltigo GmbHから同様に市販されている。
【0011】
(特許文献3)には、より単純なN,N-ビス(ヒドロキシプロピル)アニリンとそれの、より高級な同族体が開示されている。それらは、N,N-ビス(ヒドロキシプロピル)アニリンを、使用されたアニリンの1モルあたり3~3.6モルのエチレンオキシドの存在下、たとえばアルカリ金属の水酸化物又は混合金属シアニドのような触媒の存在下で、145~165℃の温度で反応させることにより得られる。
【0012】
N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン(CAS RN 38668-48-3)は公知であり、エポキシ樹脂のための硬化剤成分として使用するための淡黄色の固化した溶融物として、LANXESS Deutschland GmbH/Saltigo GmbHなどの供給業者から販売されている。
【0013】
エポキシ樹脂システムの使用分野において、経験が示すところでは、エトキシル化されたアニリン、エトキシル化トルイジン、又はN,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンが、好都合である。しかしながら、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンは、室温では、固化した溶融物の形態であるという欠点を有しており、そのため、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンは、使用する前に、その製品を含む容器を加熱することによって、溶融させなければならない。N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンの各種の異性体が、異なった融点を有しているということが発見された。このことの影響は次のとおりである:その製品を部分的に融解させると、融点の低い異性体が、液相に集まり、すでに液化した画分を除去した後では、残っている固形物の融点が、さらに高くなっている。この点に関しては、この現象は、一種の「意図されない溶融精製法」である。この現象を回避しようとすると、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンを、たとえば、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)-p-トルイジンよりもかなり高い温度にまで加熱する必要があり、このことが、実用上での欠点を構成する。調製のための反応剤として使用されたプロピレンオキシドの中の中央の炭素原子が、不斉であるために、R-又はS-プロピレンオキシドの二つの分子が、4-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンの一つの分子と反応して、各種の異性体、たとえばRR、SS、又はメソの混合物の形態をとる。それに加えて、4-トルイジンのエポキシ環が、末端のCH2基(これが主である)又は中央のCH基のところで結合して開環しうる。
【0014】
(非特許文献1)は、4-トルイジンとラセミ体のプロピレンオキシドの二つの分子との反応において、異なった構造が形成されることを明らかにしている。
【0015】
N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンの各種の融解画分を社内で分析したところでは、光学的に不活性なメソ異性体が、光学活性な異性体よりも高い温度で溶融するということが分かった。このことは、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンが、固化した溶融物の形態にある複雑な混合物の形態をとるという技術的な難点を有していることを意味しており、個々の成分の均一な混合物として、複雑な方式で工業的用途に導入することしかできないということを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】ロシア国特許出願公開第2063960A号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1650184A1号明細書
【特許文献3】中国特許公開第101200432A号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】A.Zoltanski,et al.,Current Applied Polymer Science,2018,2(2),89~93,The structure of Propoxylated p-Toluidine,Used as a Polymerization Accelerator or in Unsaturated Polyester Resin Curing
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、ここで検討した技術的課題は、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンの欠点を有しないが、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンが使用可能なポリマーシステムの中において、重合促進剤として、又は加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分として、少なくとも同等又はより良好に使用することが可能な、プロポキシル化された4-トルイジンを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、驚くべきことには、以下のものを提供することにより達成された:
一般式(I)の2種以上の異なった化合物を含む混合物
【化1】
[式中、R
1は、水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子の上のR
1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、m及びnは整数を表す]、ここで特徴としているのは、
4-トルイジンが、その混合物の中の式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、2重量%以下、好ましくは0.001重量%~1重量%の比率で存在し、かつ、
その中でm及びnの総合計が整数の2である式(I)の化合物が、その混合物の中に、式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、20重量%以下、好ましくは0.01重量%~20重量%、より好ましくは0.01重量%~12重量%の比率で存在し、かつ、
その中でm及びnの総合計が少なくとも整数の6である式(I)の化合物が、その混合物の中に、式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、40重量%以下、好ましくは0.01重量%~40重量%、より好ましくは0.01重量%~20重量%の比率で存在する、ということである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
したがって本発明は、式(I)の2種以上の異なった化合物を含む、本発明の混合物を提供する。「2種以上の異なった化合物を含む」という文言は、たとえばN,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン又はN,N-ビス(2-ヒドロキシプロピルオキシプロピレン)-p-トルイジンなどの同族体が、もっぱら1種だけ存在するということを排除している。その中でm及びnの総合計が同じである式(I)の化合物は、そのm及びnの総合計に関して、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンの一つの同族体である。したがって、同族体は、その中のオキシプロピレン単位の合計数が異なっている式(I)の化合物を指している。
【0021】
プロポキシル化度に対応する分布は、たとえばGC-MSによって確かめることができる。較正物質を用いて、GC測定の較正をおこなうことによって、ガスクロマトグラフィーによってでも、重量パーセントを定量することも可能である。
【0022】
本発明の混合物が、その混合物の中に、その中でm及びnの総合計が整数の3である式(I)の化合物を、式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、7重量%~49重量%、特に好ましくは15重量%~49重量%の比率で含んでいるのが好ましい。
【0023】
本発明の混合物が、その混合物の中に、その中でm及びnの総合計が整数の4である式(I)の化合物を、式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、10重量%~49重量%、より好ましくは10重量%~40重量%の比率で含んでいるのが同様に好ましい。
【0024】
さらに好ましい実施態様においては、本発明の混合物の中に、式(I)の化合物のそれぞれの同族グループが、その混合物の中に、その混合物の中の式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、50重量パーセント未満の比率で存在している。式(I)の化合物の同族グループとは、m及びnの総合計が同じではあるが、m及びnの組合せ方が異なっていてよい化合物の各種のグループを指している。たとえば、m及びnの総合計=4である同族化合物のグループには、以下の化合物が含まれる:
・ m=0且つn=4、又はm=4且つn=0、
・ m=1且つn=3、又はm=3且つn=1、及び
・ m=n=2
並びに、上述のm及びnの値を有する化合物の個々の異性体。
【0025】
このことは、その物質混合物が、特定の地域又は国において、化合物関連法律でポリマーとして分類され、そのため、化合物関連法律の下で、個々の物質として、異なった条件下に置かれるという点で有利である。
【0026】
同様に好ましい実施態様においては、本発明の混合物が、その混合物の中の式(I)のすべての化合物の合計質量を基準にして、0.1重量%未満の4-トルイジンの比率を有している。
【0027】
本発明の混合物は、式(I)の化合物と共に、さらなる成分をさらに含んでいてもよい。それらは、触媒の残渣、水、又はプロピレンオキシドの他の重合反応生成物であってよい。式(I)のすべての化合物の重量パーセントと、それらさらなる成分の重量パーセントを総合計すると、100重量パーセントとなる。典型的には、本発明の混合物には、96重量%~100重量%の式(I)の化合物が含まれる。
【0028】
本発明の混合物は、典型的には、室温及び/又は5~40℃の温度では、液体の状態にある物質である。それに加えて、本発明の混合物には、固体の成分がいっさい含まれないのが好ましい。本発明の混合物が、懸濁液でないのが好ましい。したがって、本発明の混合物は、周囲温度では、均一な液状物として取り扱うことが可能であるのが好ましい。このことは、本発明の混合物を、重合促進剤として、又は加硫促進剤として、又は硬化剤成分として使用する場合、液状状態での単純なやり方で、精確な量及び安定した所定の組成で容器から取り出すことが可能であり、その用途において、精確な量及び安定した所定の組成で使用することが可能であるという点で好都合である。本発明においては、その混合物が、それが25℃において0.1~20,000mPas(ミリパスカル・秒)の動的粘度を有している場合には、液体の状態にある物質である。
【0029】
動的粘度は、各種の方法、たとえば毛管粘度計又は回転粘度計によって測定することができる。特に断らない限り、動的粘度は、DIN 53019に準拠し、所定の温度で、コーンプレート測定システム(参考:DIN 53019-2、10.3章)の原理により、回転粘度計を使用して測定したものである。本発明の混合物が、25℃の温度において、DIN 53019に準拠して回転粘度計で測定して、500~20,000mPasの動的粘度を有しているのが好ましい。
【0030】
本発明の混合物は、本発明の製造プロセスから直接得られる反応生成物である。
【0031】
したがって本発明は、本発明のプロセスによって得ることが可能な本発明の混合物も提供する。
【0032】
本発明の混合物は、驚くべきことには、単純且つ安定したプロセスによって製造することができる。ガスクロマトグラフィーによる検出限界が100ppmである場合においては、本発明の混合物の中には、未転化の4-トルイジンがもはや、まったく検出されないのが好ましい。このことは、極めて重要であるが、その理由は、窒素上でアルキル化されていないトルイジンは、重度のヘモトキシンであり、発がん性ありと分類されるからである。
【0033】
それらの混合物を調製するための本発明のこのプロセスには、式(I)の化合物(式(I)中で、R1が水素又はメチルであるが、ただし、直接隣接している炭素原子上のR1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、式中でm及びnが整数の1である)(N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン)を、使用された4-トルイジンの1モルあたり、1.0~4.0モル、好ましくは1.25~2.50モルのプロピレンオキシド(1,2-エポキシプロパン)と、触媒の存在下で反応させることが含まれる。
【0034】
本発明のプロセスにおいて反応剤として使用されたN,N-ジプロポキシ-p-トルイジン、すなわち、式中でR1が水素又はメチルであるが、ただし、直接隣接している炭素原子上のR1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、式中でm及びnが整数の1である式(I)の化合物は、製品として商業的に入手可能であるか、又は、社内で製造しそれに続けて単離することにより別途得られた反応剤であるか、又は社内で製造し別途に単離することなく得られた反応剤である。後者の場合においては、その反応剤は、その中で本発明のプロセスが実施される反応容器の中で製造される。
【0035】
本発明のプロセスは、80~150℃、好ましくは100~150℃の温度において実施するのが好ましい。より低い温度では、転化率が不完全となる可能性があり、いずれの場合においてもコスト的に不利な長い反応となり、そうなると、プロピレンオキシドの計量仕込み速度の調節がされていない場合には、反応器中での圧力の増大が、かなり大きく、したがって危険となる可能性がある。それとは対照的に、より高い温度(特に、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジンの場合では150℃である、制限温度Texo(TRAS410による)を超えるような温度)では、圧力増大を伴う、制御不能な発熱による破壊がもたらされるおそれがある。
【0036】
本発明のプロセスにおいて、使用される触媒は、好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属、アルキルリチウム、水素化ナトリウム、複合水素化物たとえばリチウムアルミニウム水素化物、ナトリウムビス(メトキシエトキシ)アルミニウム二水素化物、又はアルカリ金属アルコキシドである。使用される触媒は、より好ましくはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩であり、最も好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。本発明のプロセスにおいては、式中でR1が水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子上のR1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、式中で、m及びnが整数の1である、式(I)の化合物(N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン)の1モルあたり、好ましくは0.01~0.05モル、より好ましくは0.02~0.035モルの触媒が使用される。
【0037】
本発明のプロセスのための、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン反応剤、すなわち、式中でR1が水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子の上のR1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、式中で、m及びnが整数の1である、式(I)の化合物は、4-トルイジンを、使用された4-トルイジンの1モルあたり、1.8~2.2モル、好ましくは1.9~2.1モルのプロピレンオキシドと、80~150℃、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~150℃の温度で、触媒の非存在下で反応させることによって得ることができる。
【0038】
このことは、次のことを意味している:本発明の混合物を調製するための本発明のプロセスにはさらに、4-トルイジンと、使用された4-トルイジンの1モルあたり、1.8~2.2モル、好ましくは1.9~2.1モルのプロピレンオキシドとを、80~150℃、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~150℃の温度において、触媒の非存在下で反応させて、反応剤、すなわち、式中でR1が水素又はメチルであるが、直接隣接している炭素原子の上のR1基が、両方ともに水素を表すこともないし、両方ともにメチルを表すこともなく、式中で、m及びnが整数の1である、式(I)の化合物を得て、次いでその反応剤を、使用された4-トルイジンの1モルあたり、1.0~4.0モル、好ましくは1.25~2.50モルのプロピレンオキシドと、触媒の存在下で反応させることが含まれる。
【0039】
本発明のプロセスは、典型的には、その反応を開始させる前に、プロポキシル化される成分、すなわち、4-トルイジン又はN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンが液状の形態にある温度を選択するようにして実施される。次に、不活性ガス、たとえば窒素を用いてその反応器を不活性化させ、次いでその内圧を下げて、約50~700ヘクトパスカル(hPa)の圧力とする。本発明のN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンのプロポキシル化においては、その反応器を閉じる前に触媒を添加するのが好ましい。本発明の触媒は、固体の形態で、たとえばフレーク、ビーズ、又はパウダーの形態で添加するのが好ましい。それを、水溶液として使用することもまた可能であるが、その場合には、さらなる反応の前に水を留去することもできるし、或いは、この水の除去無しで済ませることもできる。
【0040】
不活性ガスを用いて4-トルイジン又はN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンの反応剤を追い出した後でもなお、その反応器の中にプロピレンオキシドが存在しているのが好ましい。
【0041】
典型的には、4-トルイジン又はN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンとプロピレンオキシドとの反応は、密閉された耐圧反応器、たとえばオートクレーブの中で実施される。その反応においては、前もって設定された圧力から進んで、典型的には400hPa~2000hPaの範囲の圧力が達成されるまで、圧力が上昇する。0.3メガパスカル(MPa)を超えるような反応器中の絶対圧力には、典型的には達しない。しかしながら、反応温度に達する前又は後のいずれかで、反応器の中のプロポキシル化対象の4-トルイジン又はN,N-ジプロポキシ-p-トルイジン成分に対して、ガス状のプロピレンオキシドを全部添加したり、或いは、反応温度に達する前又は後に、その反応器の中に、あまりに急速に計量仕込みしたりした場合には、それらの圧力が、明らかに超えてしまう可能性はある。それらはいずれも、安全上の観点から、実務では避けるべきである。典型的には、プロピレンオキシドは、プロポキシル化対象の4-トルイジン又はN,N-ジプロポキシ-p-トルイジン及びプロピレンオキシド成分から形成される反応混合物の中に、圧力が約0.2MPaを超えないようにしながら、計量添加される。
【0042】
プロピレンオキシドは、典型的には、少なくとも99%の純度を有する、市販されているラセミ体の形態で使用される。本発明のプロセスにおいては、個々の鏡像異性体、すなわち、R-及び/又はS-プロピレンオキシド、又は各種所望のそれらの混合物を使用することも可能である。
【0043】
本発明の、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジンとプロピレンオキシドとの反応は、常に、触媒を用いて実施される。それとは対照的に、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジンを得るための4-トルイジンのプロポキシル化は、触媒の非存在下で実施される。
【0044】
溶媒の非存在下に、本発明のプロセスを実施するのが好ましい。
【0045】
本発明のプロセスの好ましい実施態様においては、そのN,N-ジプロポキシ-p-トルイジン反応剤は、4-トルイジンを基準にして0.5重量%以下の3-トルイジンの比率を有する4-トルイジンを反応させることにより得られる。本発明のプロセスのそれに代わる好ましい実施態様においては、そのN,N-ジプロポキシ-p-トルイジン反応剤は、4-トルイジンを基準にして0.2重量%以下の3-トルイジンの比率を有する4-トルイジンを反応させることにより得られる。
【0046】
限定された3-トルイジン含量を有する、特定の、特に純粋な4-トルイジンを得るためには、慎重に蒸留することにより、工業グレードの4-トルイジンから3-トルイジンを除去する必要があるが、その理由は、それら二つの異性体の沸点が相互に近いからである(4-トルイジンの沸点:200.5℃;3-トルイジンの沸点:203.4℃)。
【0047】
最大で0.2重量%の3-トルイジン含量を有する4-トルイジンを調製するためのさらなる手段は、工業グレードのN-アセチル-4-トルイジンを再結晶し、次いで加水分解及び蒸留する方法である。0.2重量%未満の3-トルイジン含量を有する4-トルイジンは、好ましい方法においては、最初にトルエンをニトロ化し、そのようにして得られた2-、3-、及び4-ニトロトルエンの異性体混合物から二つの望ましくない2-及び3-ニトロトルエン異性体を、所望の純度が得られるように還流比を極めて効率的に最適化した蒸溜によって除去し、次に、得られた4-ニトロトルエンを水素化にかけて、所望の純度の4-トルイジンを形成させることによって調製される。このようにすると、0.2重量%未満、好ましくは0.1重量%未満の3-トルイジン含量を有する4-トルイジンを、工業的な量でも得ることが可能である。
【0048】
本発明の混合物は、必要とされるプロピレンオキシドの全量及び触媒、或いは触媒なしでの必要とされるプロピレンオキシドの全量のいずれかを、4-トルイジンの初期仕込みに添加するような、4-トルイジンから始める1ステップで調製することはできない。このような場合においては、望ましくない副生物が歴然とした程度で形成されたり、及び/又は使用された4-トルイジンの転化が不完全であったりする。
【0049】
本発明のプロセスの好ましい実施態様の実施においては、式(I)のプロポキシル化された4-トルイジンの個々の同族体の所望の狭い分布を達成するためには、プロピレンオキシドと4-トルイジンとの間及び/又は触媒と4-トルイジンとの間のモル比、並びに/又は反応温度に関連するパラメーターの狭い限度に注意を払うことが極めて重要である。これらのパラメーターは、相互に影響しあうので、他のパラメーター、たとえば計量仕込み速度、液状の4-トルイジンの反応相、触媒、及び計量仕込みされるガス状のプロピレンオキシドの混合とも関連させて、それらのパラメーターの、すべての限度以上又はすべての限度以下を組み合わせると、個々の場合において、本発明ではないプロポキシル化された4-トルイジンの混合物が形成されるという結果も起こりうる。しかしながら、当業者であれば、実験の構成又は反応容器のサイズに応じて、これらの厳しい限度内で、これらのパラメーターを調節することによって、特別な困難はなく、単純なやり方で、パラメーターの好適な組合せを把握し、それによって、上述の限度内の本発明の混合物を得ることができるであろう。
【0050】
本発明のプロポキシル化の収率は、事実上定量的であり、たとえば、移す際に、反応器の壁面への残存量の付着によって起こるような、ハンドリングにおける損失によってのみ限定される。プロポキシル化が終わった後では、その反応混合物を、60~100℃の範囲の温度にまで冷却し、その反応混合物の中へ窒素をある時間かけて通過させて、存在しているプロピレンオキシドを完全にその系から除去することが有用であるということが発見された。
【0051】
その反応混合物は、当業者には公知の方法によって処理することもできるし、或いはそうではなく、さらなるステップで直接使用することもできる。
【0052】
プロポキシル化剤としてプロピレンオキシドを使用することにより、他の反応剤(たとえば、1-クロロプロパン-2-オール、1-ブロモプロパン-2-オール、又は1-ヨードプロパン-2-オール)よりも、補助的な反応剤(たとえば、ハロゲン化水素捕捉剤としての化学量論量の塩基)を使用する必要もなく、したがって、別なステップで除去しなければならない塩が生成することもないという点で有利となる。ハロプロパノールを使用する場合のまた別の欠点は、たとえば、使用した金属製の装置の腐食である。
【0053】
本発明はさらに、好ましくはポリエステル、特に不飽和ポリエステルの重合の際の重合促進剤若しくは加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分としての、本発明の混合物の使用も提供する。本発明の混合物を0.1~5重量%の量で使用するのが有用であることが見いだされた。本発明の混合物を使用することが可能な重合は、好ましくは、フリーラジカル重合である。
【0054】
公知のN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンが、エトキシル化されるか又は他のアルキル化された4-トルイジンよりも有利に使用される重合系においては、本発明の混合物は、改良されたハンドリング性、及び/又はより良好な加工性、及び/又はより低い適用量、及び/又はより高い反応性を有している。ポリエステル、特に不飽和ポリエステルのフリーラジカル重合において、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分として、固形物の溶融物の形態をとることが知られているN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンを本発明の液状混合物で置き換えることによって、それを用いて製造されたポリマーの物理化学的及び/又は物理機械的性質に、有利な影響を与えることができる。
【0055】
一つの代替の実施態様においては、プロポキシル化された3-トルイジンを少ない比率でしか含んでいない本発明の混合物の特徴は、無色のポリマーの製造における重合促進剤又は加硫促進剤として特に有利にそれを使用することが可能であることであるが、その理由は、それを使用しても、そのポリマーに何の変色ももたらさないからである。そのポリマーが所望される使用に応じて、このことは極めて重要であり、従来技術の重合促進剤及び加硫促進剤のいずれであっても到達可能ではない
【0056】
本発明はさらに、重合促進剤若しくは加硫促進剤として、又はエポキシ樹脂のための硬化剤成分としての本発明の混合物の存在下で、好ましくはポリエステル、特には不飽和ポリエステルを重合させることによって得ることが可能な、ポリマー性反応生成物も提供する。本発明の混合物を使用することが可能な重合は、好ましくは、フリーラジカル重合である。
【実施例】
【0057】
実施例1a~1e:N,N-ジプロポキシ-p-トルイジンから出発する、プロポキシル化されたトルイジンの製造
実施例1a
撹拌機、内部温度計、プロピレンオキシドのための浸漬型導入チューブ、及び除去のためのライザーチューブを備えた、3リットルのオートクレーブ(ステンレス鋼)に、最初に、1425gの溶融状態にある98%N,N-ジプロポキシ-p-トルイジン[式(I)の化合物で、式中、m及びnがそれぞれ整数の1;6.25モル]、及び10.9gの約90%水酸化カリウムフレーク(0.175モル)を仕込んだ。そのオートクレーブを閉じ、窒素の注入、除圧、及び約670ヘクトパスカル(hPa)(絶対圧力)へ脱気することにより、不活性化させた。その内容物を、80℃より高い温度にまで加熱して、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジンをほとんど溶融させた。次いでその溶融物を加熱して、所望の反応温度(120℃)とした。この温度で、想定した量のプロピレンオキシド(この場合、690.1g=11.88モル、N,N-ジプロポキシ-p-トルイジンを基準にして1.9モル当量に相当、すなわち、4-トルエンを基準にして、合計して3.9モル当量に相当)を、約163g/時間の速度で計量仕込みしたところ、短時間の内に0.18MPa(絶対圧力)の圧力に達した。典型的には、他の実施例でもやはり、この圧力は超えなかった。計量添加が終わってから約90分には、全圧が低下して約800hPaの圧力となったが、それはその後約15分間、一定であった。これに続けて、反応温度でさらに60分間撹拌し、次いで冷却して40℃とし、窒素を用いて減圧分を補い、窒素を用いて残存しているプロピレンオキシドを全部追い出し、浄化用フィルターを通してその混合物を分配した。2109.3g(収率:99.2%、使用量ベース)の反応生成物が得られたが、それは、次のような、式(I)の同族体の分布(単位、重量パーセント)を有している。
【0058】
【0059】
実施例1b~1eは、それが適切であれば、0.5リットルのオートクレーブの中で、同様にして実施した。実施例1aで想定した量ではなく、実施例1b~1eは、表1に特定したデータを用いて実施した。
【0060】
【0061】
実施例2a~2e:4-トルイジンから出発しての、プロポキシル化されたトルイジンの製造
実施例2a
撹拌機、内部温度計、プロピレンオキシドのための浸漬型導入チューブ、及び除去のためのライザーチューブを備えた、3リットルのオートクレーブ(ステンレス鋼)に、最初に、672.1gの、溶融状態にある99.7%4-トルイジン(6.25モル)を仕込んだ。そのオートクレーブを閉じ、窒素の注入、除圧、約670hPa(絶対圧力)へ脱気することにより、不活性化させた。その内容物を、最初は撹拌無しで、45℃より高い温度にまで加熱して、4-トルイジンを完全に溶融させた。次いでその溶融物をさらに加熱して、所望の反応温度(120℃)とした。その温度において、触媒の非存在下に、726.4gのプロピレンオキシド(12.49モル)を、約163g/時間の速度で計量仕込みしたところ、短時間の内に0.27MPa(絶対圧力)の最高圧力に達した。典型的には、他の実施例でもやはり、この圧力は超えなかった。計量添加が終わってから約3.5時間には、全圧が、低下して約770hPaの圧力となったが、それはその後約15分間、一定であった。次いで、反応温度で撹拌をさらに60分間続けてから、混合物を冷却して80~100℃とし、減圧分を、窒素を用いて補った。サンプリングの手段により、典型的な組成物のN,N-ジプロポキシ-p-トルイジンが得られたかどうかを検証することが可能である。
【0062】
次に、想定された量(使用した4-トルイジンを基準にして、2.8モル%)の固体の約90%水酸化カリウムを添加し、オートクレーブを再び閉じ、先に述べたようにして不活性化させ、脱気させ、加熱して、所望の反応温度の120℃とした。その後で、さらに690.1g(11.88モル)のプロピレンオキシドを、約163g/時間で計量仕込みすると、約760hPaから最終的には約0.143MPa(絶対圧力)への圧力上昇が観察された。計量添加が終わってから約50分には、全圧が、低下して元の670hPaの圧力となった。これに続けて、反応温度でさらに60分間撹拌し、次いで冷却して40℃とし、窒素を用いて減圧分を補い、窒素を用いて残存しているプロピレンオキシドを全部追い出し、浄化用フィルターを通してその混合物を分配した。2087.4g(収率:99.4%、使用量ベース)の反応生成物が得られたが、それは、次のような、式(I)の同族体の分布(単位、重量パーセント)を有している。
【0063】
【0064】
実施例2b~2eは、適切であれば、0.5リットルのオートクレーブの中で、同様にして実施した。実施例2aで想定した量ではなく、実施例2b~eは、表2に特定したデータを用いて実施した。
【0065】
【国際調査報告】