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特表2023-533658急性呼吸窮迫症候群を治療又は予防する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-04
(54)【発明の名称】急性呼吸窮迫症候群を治療又は予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230728BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230728BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230728BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/4706 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/7052 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/366 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230728BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230728BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20230728BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230728BHJP
   C07K 14/765 20060101ALI20230728BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230728BHJP
   C07D 215/46 20060101ALN20230728BHJP
   C07D 239/10 20060101ALN20230728BHJP
   C07D 277/28 20060101ALN20230728BHJP
   C07H 17/00 20060101ALN20230728BHJP
   C07J 5/00 20060101ALN20230728BHJP
   C07D 403/10 20060101ALN20230728BHJP
   C07D 309/30 20060101ALN20230728BHJP
   C07D 487/04 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00 ZNA
A61P31/14
A61K39/395 D
A61K38/02
A61P43/00 111
A61K31/675
A61P43/00 121
A61K31/4706
A61K31/513
A61K31/427
A61K31/7052
A61K38/16
A61K39/395 N
A61K31/573
A61K31/616
A61K31/4178
A61K31/366
A61K31/519
C07K16/28
C07K16/24
C07K19/00
C07K14/765
C07K14/705
C07D215/46
C07D239/10
C07D277/28
C07H17/00
C07J5/00
C07D403/10
C07D309/30 D
C07D487/04 140
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574594
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(85)【翻訳文提出日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 AU2021050568
(87)【国際公開番号】W WO2021243424
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】2020901843
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521239819
【氏名又は名称】シーエスエル イノベーション プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アドリアーナ バズ モレッリ
(72)【発明者】
【氏名】イアン キース キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】カロリーナ クルスチェブスキ
【テーマコード(参考)】
4C050
4C057
4C063
4C084
4C085
4C086
4C091
4H045
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB04
4C050CC08
4C050EE03
4C050FF10
4C050GG01
4C050HH04
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057KK30
4C063AA01
4C063BB06
4C063CC47
4C063DD25
4C063EE01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB33
4C084ZC41
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086BC28
4C086BC42
4C086BC62
4C086BC82
4C086CB05
4C086DA10
4C086DA17
4C086DA38
4C086EA12
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA07
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZC41
4C086ZC75
4C091AA01
4C091BB03
4C091BB05
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE07
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH03
4C091JJ03
4C091KK12
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN04
4C091PA03
4C091PA05
4C091PA09
4C091PB02
4C091QQ01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA11
4H045DA50
4H045DA70
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を使用して急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療又は予防する方法に関する。本開示は、ARDSの治療又は予防に使用される化合物、並びにARDSを治療又は予防するための医薬品の製造におけるこのような化合物の使用にも関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療又は予防するための方法であって、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)シグナル伝達を阻害する化合物を前記対象に投与することを含む前記方法。
【請求項2】
前記ARDSが以下
(a)感染症、
(b)異物の吸入又は吸引、
(c)身体外傷、及び
(d)炎症性疾患
のうちの1つ以上と関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ARDSがウイルス感染症と関連する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ARDSがコロナウイルス感染症と関連する、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記対象がコロナウイルス病2019(COVID-19)である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が間質性肺炎である、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が以下
(a)分当たり30回を超える呼吸数、
(b)室内空気下で93%以下の酸素飽和度(SpO)、
(c)300mmHg未満の吸気酸素濃度に対する動脈血酸素分圧の比(PaO/FiO)、
(d)218未満のSpO/FiO比、及び
(e)50%を超える程度の肺浸潤のX線写真
のうちの1つ以上又は全てを有する、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が気管内挿管又は気管内挿管前の死亡を防ぐために充分な量で投与される、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が、以下
前記対象の人工呼吸器非装着生存日数の増加、
前記対象の入院期間(LOS)の減少、
8ポイント米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)順序尺度で評価された前記対象の臨床状態の改善、
持続的気道陽圧法(CPAP)又は二相式気道陽圧法(BiPAP)の使用の減少又は阻止、
高流量鼻カニューラ法(HFNC)の使用の減少又は阻止、
体外式膜型人工肺(ECMO)の使用の減少又は阻止、及び
前記対象の多臓器不全評価(SOFA)スコアの増加の抑制又は阻止
のうちの1つ以上又は全てを達成するために充分な量で投与される、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が、G-CSF又はG-CSF受容体(G-CSFR)に結合する、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が、G-CSF又はG-CSFRに結合又は特異的に結合し、G-CSFシグナル伝達を無効にする抗原結合部位含有タンパク質である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が、Fvを含むタンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が、
(i)単鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体型scFv(di-scFv)、又は
(iii)ディアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)Fab、
(vii)F(ab’)
(viii)Fv、
(ix)抗体定常領域Fc若しくは重鎖定常ドメイン(C)2及び/若しくはC3に結合した(i)~(viii)のうちの1つ、
(x)アルブミンに結合した、若しくはアルブミンの機能性断片若しくは変異体に結合した、若しくはアルブミンに結合するタンパク質に結合した(i)~(viii)のうちの1つ、又は
(xi)抗体
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記タンパク質が、G-CSFRに結合又は特異的に結合し、且つ、配列番号4に示される配列を備える重鎖可変領域(V)及び配列番号5に示される配列を備える軽鎖可変領域(V)を含むG-CSFRに対する抗体C1.2Gの結合を競合的に抑制する抗体可変領域を含む、請求項11から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が、配列番号1の111~115、170~176、218~234、及び286~300から選択される1領域、又は2領域、又は3領域、又は4領域の内の残基を含むエピトープに結合する、請求項11から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列を備える重鎖可変領域(VH)及び配列番号5に示されるアミノ酸配列を備える軽鎖可変領域(VL)を含む抗体可変領域を含む、請求項11から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を備えるVH及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を備えるVLを含む抗体可変領域を含む、請求項11から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列を備えるVHの3CDRを備えるVH及び配列番号5に示されるアミノ酸配列を備えるVLの3CDRを備えるVLを含む抗体可変領域を含む、請求項11から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質が、
(i)配列番号14に示されるアミノ酸配列を備える重鎖及び配列番号15に示されるアミノ酸配列を備える軽鎖、又は
(ii)配列番号16に示されるアミノ酸配列を備える重鎖及び配列番号15に示されるアミノ酸配列を備える軽鎖
を含む、請求項11から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質が融合タンパク質である、請求項11から19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記融合タンパク質が、
(a)血清アルブミン若しくは血清アルブミンの変異体、又は
(b)可溶性補体受容体若しくは可溶性補体受容体の変異体
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が、前記対象において連続7日を超える期間にわたってグレード3又はグレード4の持続性好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される、請求項1から21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が、前記対象において連続2日を超える期間にわたってグレード2又はグレード3又はグレード4の持続性好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される、請求項1から21の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記タンパク質が0.1mg/kg~0.8mg/kgの間の用量で投与される、請求項11から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記タンパク質が0.1mg/kg~0.6mg/kgの間の用量で投与される、請求項11から24の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記タンパク質が0.1mg/kg又は0.3mg/kg又は0.6mg/kgの用量で投与される、請求項11から25の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
複数用量の前記タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記タンパク質が2日~5日毎に一度の頻度で投与される、請求項11から26の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質の第1回目の用量が後続の用量よりも高い、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも2用量の前記タンパク質を前記対象に投与することを含む、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記対象に0.1mg/kgと0.4mg/kgとの間の初回用量で前記タンパク質を投与すること、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の用量をさらに1回以上投与することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記初回用量の3日後に第2用量があり、前記第2用量の4日後に第3用量がある、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が静脈内投与される、請求項1から26の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が標準治療と併用投与される、請求項1から32の何れか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記標準治療が以下
(a)腹臥位、
(b)体液管理、
(c)一酸化窒素の投与、
(d)神経筋遮断薬の投与、
(e)人工呼吸、
(f)体外式膜型人工肺、及び
(g)抗ウイルス薬又は抗生物質の投与
うちの1つ以上又は全てを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記標準治療がレムデシビルの投与を含む、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本願は、2020年6月4日に出願された「急性呼吸窮迫症候群を治療又は予防する方法」という表題のオーストラリア特許出願第2020901843号に基づく優先権を主張する。その出願の内容全体を参照によりここに援用する。
【0002】
配列表
本願は、電子形式の配列表と共に出願される。この配列表の内容全体が参照によりここに援用される。
【0003】
分野
本開示は、対象において急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療又は予防する方法に関連する。
【背景技術】
【0004】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、いくつかの全身性障害及び肺に対する直接的な傷害の重篤で生命にかかわることが多い合併症である。急性呼吸窮迫症候群には主に多臓器不全の結果として高い死亡率が伴う。肺胞内で液体が蓄積したときにARDSが生じ、結果として血流に到達する酸素が少なくなり、そのため臓器が機能するために必要な酸素が臓器から奪われる。ARDSの症状には重度の息切れ、呼吸困難及び呼吸の異常な促迫、低血圧、並びに混乱及び極度の疲労が挙げられ、これらの症状は大元の疾患又は外傷から数時間以内~数日以内に発症することが通常である。
【0005】
数十年の研究及び医療技術の進歩にもかかわらず、ARDS関連の死亡率は高いままであり、ARDSの臨床経過を効果的に改善する薬物療法は存在しない。例えば、大規模治験に失敗した薬品候補としては少なくともグルココルチコイド、アルプロスタジル、界面活性剤、ケトコナゾール、N-アセチルシステイン、プロシステイン、リソフィリン、及び部位不活化遺伝子組換え第VIIa因子が挙げられる。現在の標準治療は、酸素投与、人工呼吸、体液管理、及び腹臥位などの支持療法に限定される。
【0006】
したがって、ARDSを治療及び予防するための新しい介入法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の開発において、本発明者らは顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)シグナル伝達をARDSの薬理学的介入のための有望な経路として特定した。本発明者らは、G-CSF受容体(G-CSFR)に結合し、且つ、G-CSFシグナル伝達を阻害する抗体によって肺炎症のいくつかの指標をARDSの動物モデルにおいて低下させ得ることを見出した。これらの知見から、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の投与によって対象においてARDSを治療又は予防する方法の基盤が与えられる。
【0008】
よって、一例では本開示は、対象においてARDSを治療又は予防するための方法であって、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象に投与することを含む前記方法を提供する。
【0009】
本開示は、対象におけるARDSの治療又は予防に使用されるG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物も提供する。
【0010】
本開示は、対象においてARDSを治療又は予防するための医薬品の製造におけるG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の使用も提供する。
【0011】
有利なことに、G-CSFシグナル伝達阻害剤は、その作用機序のため、あらゆる基礎症状を伴うARDSの治療又は予防のために本開示の前記方法に従って使用可能である。いくつかの例では前記ARDSは、以下
(a)感染症、
(b)異物の吸入又は吸引、
(c)身体外傷、及び
(d)炎症性疾患
のうちの1つ以上と関連する。
【0012】
一例では前記ARDSはウイルス感染症と関連する。一例では前記ARDSは細菌感染症と関連する。一例では前記ARDSは真菌感染症と関連する。一例では前記ARDSは敗血症と関連する。
【0013】
一例では前記ARDSはコロナウイルス感染症と関連する。
【0014】
一例では前記ARDSは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-COV)感染症と関連する。一例では前記ARDSはSARS-CoV-2感染症と関連する。したがって、いくつかの例では前記対象はコロナウイルス病2019(COVID-19)である。具体的には、重症のCOVID-19はARDSを引き起こすことが多い。本開示の前記方法は、重症のCOVID-19患者においてARDSを治療又は予防するために使用され得る。よって、いくつかの例では前記対象は重症のCOVID-19である。
【0015】
いくつかの例では前記ARDSは異物の吸入又は吸引と関連する。例えば、高濃度の煙又は化学煙霧を吸い込むことで、吐しゃ物の吸引又は溺水のエピソードで生じ得るようにARDSが生じ得る。
【0016】
いくつかの例では前記ARDSは重症の肺炎と関連する。重症の肺炎は肺の5つの葉の全てを侵すことが通常であり、ARDSを引き起こす可能性がある。したがって、いくつかの例では前記対象は間質性肺炎である。
【0017】
いくつかの例では前記ARDSは身体外傷と関連する。例えば、頭部の傷害、胸部の傷害、及び他の主要部の傷害はARDSを引き起こし得る。転落又は自動車衝突などの事故は、直接的に肺又は呼吸を制御する脳の部分に損傷を与える可能性があり、それによってARDSが生じる。いくつかの例では前記ARDSは肺損傷と関連する。いくつかの例では前記ARDSは脳損傷と関連する。いくつかの例では前記ARDSは火傷と関連する。
【0018】
いくつかの例では前記ARDSは炎症性疾患と関連する。例えば、膵炎は、他の重症の炎症性疾患が引き起こし得るようにARDSを引き起こし得る。いくつかの例では前記ARDSは輸血と関連する。
【0019】
いくつかの例では前記対象はARDSである。
【0020】
いくつかの例では前記対象はARDSのベルリン定義を満たす。したがって、いくつかの例では前記対象は、
(a)臨床的侵襲又は初期呼吸器症状から1週間以内でのARDSの発症、
(b)少なくとも5cmの持続的気道陽圧(CPAP)又は呼気終末陽圧(PEEP)における300mmHg以下の吸気酸素濃度に対する動脈血酸素分圧の比(PaO/FiO比)によって判断される急性低酸素性呼吸器不全、
(c)浸出液、硬結、又は無気肺では完全には説明できない胸部X線写真上での両側不透明像、及び
(d)心不全又は体液過剰では完全には説明できない呼吸器不全
を有する。
【0021】
本開示の前記方法のいくつかの例では前記ARDSは軽症ARDSである。いくつかの例では前記ARDSは中等症ARDSである。いくつかの例では前記ARDSは重症ARDSである。ARDSの重症度は以下のようなベルリン定義に従って分類され得る。
(i)軽症ARDSでは少なくとも5cmのCPAP又はPEEPにおいてPaO/FiOが200~300mmHg
(ii)中等症ARDSでは少なくとも5cmのPEEPにおいてPaO/FiOが100~200mmHg
(iii)重症ARDSでは少なくとも5cmのPEEPにおいてPaO/FiOが100mmHg以下。
【0022】
本開示の前記方法は、既存のARDSの治療に加えてARDSの発症を予防するために使用可能であることが利点である。したがって、いくつかの例では前記対象はARDSではない。
【0023】
いくつかの例では前記対象はARDSを発症するリスクを有する。ARDSを発症するリスクを有する対象を特定する方法は当業者に理解され、それらの方法としては本明細書に記載される方法が挙げられる。
【0024】
いくつかの例では前記対象は、以下
(a)分当たり30回を超える呼吸数、
(b)室内空気下で93%以下の酸素飽和度(SpO)、
(c)300mmHg未満の吸気酸素濃度に対する動脈血酸素分圧の比(PaO/FiO)、
(d)218未満のSpO/FiO比、及び
(e)50%を超える程度の肺浸潤のX線写真
のうちの1つ以上又は全てを有する。
【0025】
上記の基準は、いくつかの例では対象がARDSを発症するリスクを有するか評価するために使用可能である。
【0026】
いくつかの例では前記対象は、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物を投与する時点において高流量酸素療法(HFOT)又は非侵襲的換気(NIV)を受けていない。
【0027】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、ARDSの1つ以上の症状の重症度を低下させるため又はそれらの症状の発症を予防するために充分な量で投与される。
【0028】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、気管内挿管を防ぐため又は気管内挿管前の死亡を防ぐために充分な量で投与される。気管内挿管は、前記対象の口から気道内へチューブ、すなわち気管内チューブを挿入して前記対象が人工呼吸器につながれるようにする過程である。したがって、本開示の前記方法は、ARDSを有する対象の機械的換気を防止又は抑制する方法であって、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を前記対象に投与することを含む前記方法をさらに提供する。
【0029】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、以下
(a)前記対象の人工呼吸器非装着生存日数の増加、
(b)前記対象の入院期間(LOS)の減少、
(c)8ポイント米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)順序尺度で評価された前記対象の臨床状態の改善、
(d)持続的気道陽圧法(CPAP)又は二相式気道陽圧法(BiPAP)の使用の減少又は阻止、
(e)高流量鼻カニューラ法(HFNC)の使用の減少又は阻止、
(f)体外式膜型人工肺(ECMO)の使用の減少又は阻止、及び
(g)前記対象の多臓器不全評価(SOFA)スコアの増加の抑制又は阻止
のうちの1つ以上又は全てを達成するために充分な量で投与される。
【0030】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象の肺の炎症を抑制又は肺の炎症の増加を阻止するために充分な量で投与される。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、肺機能を強化するために充分な量で投与される。
【0031】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象の気管支肺胞洗浄液(BALF)中の総細胞数及び/若しくは総タンパク質量を減少させるため又はその総細胞数及び/若しくは総タンパク質量の増加を阻止するために充分な量で投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象のBALF中に存在する好中球の量を減少させるため又はその好中球の量の増加を阻止するために充分な量で投与される。
【0032】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象のBALF中の好中球エラスターゼ活性及び/若しくはミエロペルオキシダーゼ活性のレベルを低下させるため又はその好中球エラスターゼ活性及び/若しくはミエロペルオキシダーゼ活性のレベル上昇を阻止するために充分な量で投与される。
【0033】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、以下のG-CSF、プラスミノーゲン活性化抑制因子-1(PAI-1)、Dダイマー、好中球エラスターゼ、可溶性AGE受容体(sRAGE)、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン1β(IL-1β)、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12p70、IL-13、及び腫瘍壊死因子α(TNF-α)のうちのいずれか1つ以上又は全てのレベルを低下させるため又はそのレベル上昇を阻止するために充分な量で投与される。これらのバイオマーカーは、治療の有効性を評価するため又はARDSを発症するリスクがある対象の特定を支援するために使用可能である。
【0034】
いくつかの例では上記タンパク質のレベルが前記対象の肺において低下する又は上昇抑制される。いくつかの例では上記タンパク質のレベル前記対象の血液において低下する又は上昇抑制される。
【0035】
前記の項目の各々を評価するための方法は、当技術分野において知られている及び/又は本明細書に記載されている。さらに、当業者は、「低下させる」及び「上昇を阻止する」という用語は、上記の項目のうちのいずれかの量がG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物を投与する前の前記対象における量又は対応する対照被検者における量のどちらかと比較して少ないことを指すために本明細書において使用されることを理解する。例えば、この対照被検者は、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物ではなくプラセボ及び/又は標準治療を受けた対象であってよい。
【0036】
いくつかの例では上記の項目の量の減少又は上記の項目の量の増加の阻止は、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物の1回目の投与から30日以内に評価される。いくつかの例では上記の項目の量の減少又は上記の項目の量の増加の阻止は、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物の1回目の投与から1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後、14日後、17日後、21日後、24日後、又は28日後に評価される。
【0037】
G-CSFシグナル伝達の阻害は、(例えば、G-CSFに結合する化合物を使用する)G-CSFの阻害又は(例えば、G-CSFRに結合する化合物を使用する)G-CSFRの阻害によって達成可能であることが適切である。この点に関し、G-CSFに結合する抗体及びG-CSFRに結合する抗体が両方ともG-CSFシグナル伝達の阻害及び関節炎のマウスモデルにおける疾患重症度の低下に有効であることが示されている(Campbell et al., 2016 J Immunol 197: 4392-4402)。したがって、いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSF又はG-CSF受容体(G-CSFR)に結合する。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFに結合する。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSF受容体(G-CSFR)に結合する。
【0038】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物はタンパク質である。
【0039】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFRに結合又は特異的に結合し、G-CSFシグナル伝達を無効にする抗原結合部位含有タンパク質である。本明細書におけるG-CSFRに「結合」するタンパク質又は抗体に対する言及は、G-CSFRに「特異的に結合」するタンパク質又は抗体に対応する。
【0040】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFに結合又は特異的に結合し、G-CSFシグナル伝達を無効にする抗体可変領域含有タンパク質である。
【0041】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、Fvを含むタンパク質である。いくつかの例では前記タンパク質は、
(i)単鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体型scFv(di-scFv)、
(iii)ディアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)Fab、
(vii)F(ab’)
(viii)Fv、
(ix)抗体定常領域Fc若しくは重鎖定常ドメイン(C)2及び/若しくはC3に結合した(i)~(viii)のうちの1つ、
(x)アルブミンに結合した、若しくはアルブミンの機能性断片若しくは変異体に結合した、若しくはアルブミンに結合するタンパク質に結合した(i)~(viii)のうちの1つ、又は
(xi)抗体
を含む。
【0042】
いくつかの例では前記タンパク質は、
(i)単鎖Fv断片(scFv)、
(ii)二量体型scFv(di-scFv)、
(iii)ディアボディ、
(iv)トリアボディ、
(v)テトラボディ、
(vi)Fab、
(vii)F(ab’)
(viii)Fv、
(ix)抗体定常領域Fc若しくは重鎖定常ドメイン(C)2及び/若しくはC3に結合した(i)~(viii)のうちの1つ、
(x)アルブミンに結合した、若しくはアルブミンの機能性断片若しくは変異体に結合した、若しくはアルブミンに結合するタンパク質(例えば、抗体若しくはその抗体の抗原結合断片)に結合した(i)~(viii)のうちの1つ、及び
(xi)抗体
からなる群より選択される。
【0043】
一例では前記タンパク質はFc領域を含む。
【0044】
一例では前記タンパク質は、前記タンパク質の半減期を増加させる1か所以上のアミノ酸置換を含む。一例では前記抗体は、新生児Fc受容体(FcRn)へのFc領域の親和性を高める1か所以上のアミノ酸置換を含むそのFc領域を含む。
【0045】
一例では前記タンパク質は抗体である。例となる抗体が国際公開第2012/171057号パンフレットに記載されている。
【0046】
一例では前記タンパク質は、細胞表面上に発現したhG-CSFRに少なくとも約5nMの親和性で結合する。一例では前記タンパク質は、細胞表面上に発現したhG-CSFRに少なくとも約4nMの親和性で結合する。一例では前記タンパク質は、細胞表面上に発現したhG-CSFRに少なくとも約3nMの親和性で結合する。一例では前記タンパク質は、細胞表面上に発現したhG-CSFRに少なくとも約2nMの親和性で結合する。一例では前記タンパク質は、細胞表面上に発現したhG-CSFRに少なくとも約1nMの親和性で結合する。
【0047】
一例では前記タンパク質は、hG-CSFRを発現するBaF3細胞のG-CSF誘導性の細胞増殖を少なくとも約5nMのIC50で阻害する。一例では前記タンパク質は、hG-CSFRを発現するBaF3細胞のG-CSF誘導性の細胞増殖を少なくとも約4nMのIC50で阻害する。一例では前記タンパク質は、hG-CSFRを発現するBaF3細胞のG-CSF誘導性の細胞増殖を少なくとも約3nMのIC50で阻害する。一例では前記タンパク質は、hG-CSFRを発現するBaF3細胞のG-CSF誘導性の細胞増殖を少なくとも約2nMのIC50で阻害する。一例では前記タンパク質は、hG-CSFRを発現するBaF3細胞のG-CSF誘導性の細胞増殖を少なくとも約1nMのIC50で阻害する。一例では前記タンパク質は、hG-CSFRを発現するBaF3細胞のG-CSF誘導性の細胞増殖を少なくとも約0.5nMのIC50で阻害する。
【0048】
一例では前記タンパク質又は抗体は、キメラタンパク質若しくはキメラ抗体、脱免疫化タンパク質若しくは脱免疫化抗体、ヒト化タンパク質若しくはヒト化抗体、ヒトタンパク質若しくはヒト抗体、又は霊長類化タンパク質若しくは霊長類化抗体である。一例では前記タンパク質又は抗体はヒトタンパク質又はヒト抗体である。
【0049】
一例では前記タンパク質は、配列番号4に示される配列を備える重鎖可変領域(V)及び配列番号5に示される配列を備える軽鎖可変領域(V)を含むG-CSFRに対する抗体C1.2Gの結合を競合的に抑制する抗体可変領域を含む。
【0050】
一例では前記タンパク質は、配列番号1の111~115、170~176、218~234、及び286~300から選択される1領域、又は2領域、又は3領域、又は4領域の内の残基を含むエピトープに結合する。
【0051】
一例では前記タンパク質は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を備える重鎖可変領域(VH)及び配列番号5に示されるアミノ酸配列を備える軽鎖可変領域(VL)を含む抗体可変領域を含む。
【0052】
一例では前記タンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を備えるVH及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を備えるVLを含む抗体可変領域を含む。
【0053】
一例では前記タンパク質は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を備えるVHの3CDRを備えるVH及び配列番号5に示されるアミノ酸配列を備えるVLの3CDRを備えるVLを含む抗体可変領域を含む。
【0054】
一例では前記タンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を備えるVHの3CDRを備えるVH及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を備えるVLの3CDRを備えるVLを含む抗体可変領域を含む。
【0055】
一例では前記タンパク質は、
(i)配列番号14に示されるアミノ酸配列を備える重鎖及び配列番号15に示される配列を備える軽鎖、又は
(ii)配列番号16に示されるアミノ酸配列を備える重鎖及び配列番号15に示される配列を備える軽鎖
を含む。
【0056】
一例では前記タンパク質は、
(i)配列番号14若しくは18に示される配列を備える重鎖及び配列番号15に示されるアミノ酸配列を備える軽鎖、又は
(ii)配列番号14に示されるアミノ酸配列を備える1本の重鎖及び配列番号18に示されるアミノ酸配列を備える1本の重鎖及び配列番号15に示されるアミノ酸配列を備える2本の軽鎖
を含む。
【0057】
いくつかの例では前記タンパク質は融合タンパク質である。したがって、いくつかの例では前記タンパク質は、G-CSF又はG-CSFRに結合する抗原結合部位を含み、且つ、別のアミノ酸配列を備える。
【0058】
いくつかの例では前記融合タンパク質は、
(a)血清アルブミン若しくは血清アルブミンの変異体、又は
(b)可溶性補体受容体若しくは可溶性補体受容体の変異体
を含む。
【0059】
血清アルブミン及び血清アルブミンの変異体の例となるアミノ酸配列は、国際公開第2019/075519号パンフレットに提示されている。可溶性補体受容体及び可溶性補体受容体の変異体の例となるアミノ酸配列は、国際公開第2019/075519号パンフレット及び国際公開第2019/218009号パンフレットに提示されている。
【0060】
いくつかの例では前記可溶性補体受容体は可溶性補体受容体1型(sCR1)である。
【0061】
いくつかの例では前記融合タンパク質は補体インヒビターを含む。いくつかの例ではこの補体インヒビターは補体成分1(C1)インヒビターである。一例ではこのC1インヒビターはC1-INH(「C1エステラーゼインヒビター」としても知られる)又はC1-INHの機能性変異体若しくは断片である。
【0062】
いくつかの例では前記タンパク質は、G-CSF又はG-CSFRに結合する抗原結合部位及び異なる抗原に結合する別の抗原結合部位を含む。したがって、いくつかの例では前記タンパク質は多重特異的タンパク質(例えば、多重特異的抗体)である。いくつかの例では前記タンパク質は二特異的タンパク質である。
【0063】
いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はインターロイキン又はインターロイキン受容体に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位は補体タンパク質に結合する。
【0064】
いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はインターロイキン6(IL-6)又はIL-6受容体(IL-6R)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はインターロイキン3(IL-3)又はIL-3受容体(IL-3R)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はインターロイキン5(IL-5)又はIL-5受容体(IL-5R)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はインターロイキン4(IL-4)又はIL-4受容体(IL-4R)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はインターロイキン13(IL-13)又はIL-13受容体(IL-13R)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)又はGM-CSF受容体(GM-CSFR)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はサイトカイン受容体共通サブユニットベータ(CSF2RB)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位はC1に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位は補体成分2(C2)に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位は血液凝固因子に結合する。いくつかの例ではこの他方の抗原結合部位は凝固第XII因子(FXII)に結合する。
【0065】
本開示までに至る研究において、本発明者らは、重症の好中球減少症を誘導することなく又は長期間にわたって重症の好中球減少症を誘導することなく対象において循環好中球の数を減少させることができるG-CSFシグナル伝達阻害剤の投与量を特定しようとした。本発明者らは、ARDSを治療又は予防するために循環好中球数を減少させることにより肺の炎症を抑制することができる。したがって、いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象において連続7日を超える期間にわたってグレード3又はグレード4の持続性好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。
【0066】
一例では前記化合物の投与は、前記対象において連続3日を超える期間にわたってグレード3の好中球減少症又はグレード4の好中球減少症(又は重症の好中球減少症)を引き起こさない。
【0067】
一例では前記化合物の投与は、前記対象において連続4日、又は5日、又は6日を超える期間にわたってグレード3の好中球減少症又はグレード4の好中球減少症(又は重症の好中球減少症)を引き起こさない。
【0068】
一例では前記化合物の投与は、前記対象において連続7日を超える期間にわたってグレード3の好中球減少症又はグレード4の好中球減少症(又は重症の好中球減少症)を引き起こさない。
【0069】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象において連続2日を超える期間にわたってグレード2又はグレード3又はグレード4の持続性好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。
【0070】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象において12時間を超える期間にわたってグレード4の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象において12時間を超える期間にわたってグレード3の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象において12時間を超える期間にわたってグレード2の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。
【0071】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象においてグレード4の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象においてグレード3の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象においてグレード2の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。
【0072】
本発明者らは、安全であり、且つ、対象における循環好中球の減少に有効であるG-CSF又はG-CSFRに結合する抗原結合部位含有タンパク質の特定の投与量を特定した。
【0073】
一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと1mg/kgとの間の用量で投与される。一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと0.9mg/kgとの間の用量で投与され、例えば、0.1mg/kgと0.8mg/kgとの間の用量、例えば0.1mg/kgと0.6mg/kgとの間の用量で投与される。
【0074】
本明細書において使用される場合、「間」という用語は、明示された範囲の各終端において列挙されている値を含む。
【0075】
一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと0.8mg/kgとの間の用量で投与される。
【0076】
一例では前記タンパク質は0.3mg/kgと0.6mg/kgとの間の用量で投与される。
【0077】
一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと0.6mg/kgとの間の用量で投与される。
【0078】
一例では前記タンパク質は0.1mg/kg又は0.3mg/kg又は0.6mg/kgの用量で投与される。
【0079】
一例では前記タンパク質は約0.1mg/kgの用量で投与される。
【0080】
一例では前記タンパク質は約0.2mg/kgの用量で投与される。
【0081】
一例では前記タンパク質は約0.3mg/kgの用量で投与される。
【0082】
一例では前記タンパク質は約0.4mg/kgの用量で投与される。
【0083】
一例では前記タンパク質は約0.5mg/kgの用量で投与される。
【0084】
一例では前記タンパク質は約0.6mg/kgの用量で投与される。
【0085】
一例では前記タンパク質は約0.7mg/kgの用量で投与される。
【0086】
一例では前記タンパク質は約0.8mg/kgの用量で投与される。
【0087】
いくつかの例では前記タンパク質は複数回にわたって投与される。複数用量が投与される場合、上記の用量(及び他の用量)のうちのいずれかの用量を組み合わせることができる。
【0088】
いくつかの例では前記タンパク質は複数回にわたって前記対象に投与され、前記タンパク質は2日~5日毎に一度の頻度で投与される。いくつかの例では後続の用量について2日~5日の間隔が空けられる。後続のそれぞれの用量と用量とを分ける期間は、同じでも異なっていてもよい。
【0089】
いくつかの例では前記タンパク質の前記初回用量は後続の用量よりも高い。一例では1負荷用量以上の前記化合物が投与され、続いて1維持用量以上の前記化合物が投与される。概して、これらの負荷用量はこれらの維持用量よりも高くなり、又はこれらの維持用量よりも短い投与間隔で投与される。
【0090】
いくつかの例では少なくとも2用量の前記タンパク質が前記対象に投与される。
【0091】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.8mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0092】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.7mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0093】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.6mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0094】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.5mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0095】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.4mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0096】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.3mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0097】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0098】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0099】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.05mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0100】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記初回用量の後にさらに1用量以上を投与することを含む。
【0101】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0102】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0103】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0104】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.8mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0105】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.7mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0106】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.6mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0107】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.5mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0108】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.4mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0109】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.3mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0110】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0111】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.2mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0112】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.8mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0113】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.7mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0114】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.6mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0115】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.5mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0116】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.4mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0117】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.3mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0118】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0119】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0120】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.8mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0121】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.7mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0122】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.6mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0123】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.5mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0124】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.4mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0125】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.3mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0126】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0127】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.05mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0128】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgと0.4mg/kgとの間の初回用量で前記タンパク質を投与すること、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0129】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgと0.4mg/kgとの間の初回用量で前記タンパク質を投与すること、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0130】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgと0.3mg/kgとの間の初回用量で前記タンパク質を投与すること、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0131】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.3mg/kgの初回用量で前記タンパク質を投与し、0.1mg/kgの用量をさらに1回以上投与することを含む。
【0132】
いくつかの例では前記第2用量は前記初回用量から2日~4日後である。いくつかの例では前記第2用量は前記初回用量から3日後である。
【0133】
いくつかの例では少なくとも3用量の前記タンパク質が前記対象に投与される。
【0134】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgと0.4mg/kgとの間の初回用量で、0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の第2用量で、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の第3用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0135】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.2mg/kgと0.4mg/kgとの間の初回用量で、0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の第2用量で、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の第3用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0136】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.1mg/kgと0.3mg/kgとの間の初回用量で、0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の第2用量で、及び0.05mg/kgと0.2mg/kgとの間の第3用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0137】
いくつかの例では本明細書に記載される前記方法は、前記対象に0.3mg/kgの第1用量、0.1mg/kgの第2用量、及び0.1mg/kgの第3用量で前記タンパク質を投与することを含む。
【0138】
いくつかの例では前記第2用量は前記初回用量から2日~4日後であり、前記第3用量は前記第2用量から3日~5日後である。
【0139】
いくつかの例では初回用量の3日後に第2用量があり、第2用量の4日後に第3用量がある。
【0140】
一例では0.3mg/kgの第1用量が1日目に投与され、0.1mg/kgの第2用量が4日目に投与され、0.1mg/kgの第3用量が8日目に投与される。
【0141】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、全身投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、局所投与される。
【0142】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、静脈内投与される。
【0143】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、皮下投与される。
【0144】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、別の治療法と併用投与される。
【0145】
一例では前記別の治療法は、抗炎症性化合物の投与を含む。一例では前記別の治療法は、免疫調節薬又は免疫抑制剤の投与を含む。
【0146】
いくつかの例では前記別の治療法は、抗原結合部位を含むタンパク質の投与を含む。いくつかの例では前記抗原結合部位含有タンパク質は、抗体である。
【0147】
いくつかの例では前記別の治療法は、インターロイキンシグナル伝達を阻害する化合物の投与を含む。
【0148】
いくつかの例では前記別の治療法は、IL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の投与を含む。
【0149】
一例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、IL-3R、IL-5R、及び/又はGM-CSFRに結合する。一例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、CSF2RBに結合する。一例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、抗体である。一例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、国際公開第2017/088028号パンフレットに記載される抗体である。一例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、CSL311である。いくつかの例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、CSL311のCDRを備える抗体である。いくつかの例ではIL-3シグナル伝達、IL-5シグナル伝達、及び/又はGM-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、CSL311のV及びVを備える抗体である。
【0150】
いくつかの例では前記別の治療法は、IL-4シグナル伝達及び/又はIL-13シグナル伝達を阻害する化合物の投与を含む。いくつかの例では前記別の治療法は、IL-13Rに結合する化合物の投与を含む。いくつかの例ではIL-13Rに結合する前記化合物は抗体である。いくつかの例ではIL-13Rに結合する前記化合物はCSL334(ASLAN004としても知られる)である。いくつかの例ではIL-13Rに結合する前記化合物はCSL334のCDRを備える抗体である。いくつかの例ではIL-13Rに結合する前記化合物はCSL334のV及びVを備える抗体である。
【0151】
いくつかの例では前記別の治療法は、IL-3Rに結合する化合物の投与を含む。いくつかの例ではIL-3Rに結合する前記化合物は抗体である。いくつかの例ではIL-3Rに結合する前記化合物は国際公開第2014/438819号パンフレットに記載される抗体である。いくつかの例ではIL-3Rに結合する前記化合物はCSL362である。いくつかの例ではIL-3Rに結合する前記化合物はCSL362のCDRを備える抗体である。いくつかの例ではIL-3Rに結合する前記化合物はCSL362のV及びVを備える抗体である。
【0152】
いくつかの例では前記別の治療法は、補体インヒビターの投与を含む。
【0153】
いくつかの例では前記補体インヒビターはC1インヒビターである。いくつかの例では前記補体インヒビターはC1に結合する。一例ではこのC1インヒビターはC1-INH又はC1-INHの機能性変異体若しくは断片である。例えば、C1-INHは血漿由来であっても組換え生産されてもよい。
【0154】
いくつかの例では前記補体インヒビターはC2インヒビターである。いくつかの例では前記補体インヒビターはC2に結合する。いくつかの例ではC2に結合する前記補体インヒビターは抗体である。
【0155】
一例では前記補体インヒビターは補体成分C4b及び/又は補体成分C3bに結合する。一例では前記補体インヒビターは補体受容体1型(CR1)の細胞外ドメインを含む。一例では前記C1インヒビターは可溶性補体受容体1型(sCR1)又は可溶性補体受容体1型の機能性断片若しくは変異体である。
【0156】
いくつかの例では前記別の治療法は、血液凝固因子インヒビターを投与することを含む。いくつかの例ではこの血液凝固因子インヒビターはFXIIインヒビターである。いくつかの例ではこの血液凝固因子インヒビターはFXIIに結合する。いくつかの例ではこの血液凝固因子インヒビターはCSL312(ガラダシマブ)である。いくつかの例ではこの血液凝固因子インヒビターはCSL312のCDRを備える抗体である。いくつかの例ではこの血液凝固因子インヒビターはCSL312のV及びVを備える抗体である。
【0157】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、細胞と併用投与される。いくつかの例ではこの細胞は幹細胞、例えば間葉系幹細胞である。
【0158】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、遺伝子療法と併用投与される。
【0159】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記別の治療法と同時に投与される。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記別の治療法の前に投与される。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記別の治療法の後に投与される。
【0160】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、標準治療と併用投与される。この標準治療はARDSの根底にある原因の標準治療であってもARDS自体の標準治療であってもよい。
【0161】
いくつかの例では前記標準治療は、以下
(a)腹臥位、
(b)体液管理、
(c)一酸化窒素の投与、
(d)神経筋遮断薬の投与、
(e)人工呼吸、
(f)体外式膜型人工肺、及び
(g)抗ウイルス薬又は抗生物質の投与
うちの1つ以上又は全てを含む。
【0162】
一例では前記標準治療は抗ウイルス薬の投与を含む。一例では前記標準治療はレムデシビルの投与を含む。一例では前記標準治療は以下
(a)ヒドロキシクロロキン、
(b)クロロキン、
(c)ロピナビル、
(d)リトナビル、
(e)アジスロマイシン、
(f)インターフェロンβ、
(g)アナキンラ、
(h)トシリズマブ、
(i)サリルマブ、
(j)デキサメタゾン、
(k)アスピリン、
(l)ロサルタン、
(m)シンバスタチン、及び
(n)バリシチニブ
のうちの1つ以上の投与を含む。
【0163】
一例では前記対象はヒトである。一例では前記対象は、例えば18歳以上の成人である。一例では前記対象は、例えば18歳未満の子供である。一例では前記対象は18歳と90歳との間である。一例では前記対象は50歳と80歳との間である。
【0164】
一例では前記対象は慢性閉塞性肺疾患(COPD)ではない。一例では前記対象は喘息ではない。
【0165】
一例では本明細書に記載される前記方法は、G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を用いる治療に応答性である者として前記対象を特定することをさらに含む。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を用いる治療に応答性である者として前記対象を特定することは、前記対象が肺(例えば、痰)の中で好中球の量を増加させていると判定することを含む。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を用いる治療に応答性である者として前記対象を特定することは、前記対象が(例えば、血液又は気管支生検組織の中で)G-CSF及び/又はG-CSFRの発現を上昇させていると判定することを含む。
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0166】
図1図1は、実施例1に記載されるように0.1mg/kg、0.3mg/kg、0.6mg/kg、0.8mg/kg、及び1.0mg/kgの単回用量のCSL324を投与された健常被験者における平均血清中CSL324濃度を経時的に示しているグラフである。
図2図2は、実施例1に記載されるように0.1mg/kg、0.3mg/kg、0.6mg/kg、0.8mg/kg、及び1.0mg/kgの単回用量のCSL324を投与された健常被験者における標的受容体(G-CSFR)占有率(%)を経時的に示しているグラフである。
図3図3は、実施例1に記載されるように0.1mg/kg、0.3mg/kg、0.6mg/kg、0.8mg/kg、及び1.0mg/kgの単回用量のCSL324を投与された健常被験者における好中球減少症評価尺度(すなわち、グレード1、グレード2、グレード3、及びグレード4)に従う絶対好中球数(ANC)を示しているヒートマップである。
図4図4は、実施例1に記載されるように0.6mg/kgの用量のCSL324を3回投与された健常被験者における好中球減少症評価尺度(すなわち、グレード1、グレード2、グレード3、及びグレード4)に従う絶対好中球数(ANC)を示しているヒートマップである。
図5図5は、好中球上でのG-CSF誘導性のCXCR1(図5A)及びCXCR2(図5B)の発現に対するCSL324の効果を示しているグラフを示す。G-CSFが存在しない状態ではCXCR1又はCXCR2の発現は、CSL324(灰色)によって培地単独と比べて変わることがなかった。G-CSFのみが存在する状態(黒色)での好中球の培養により、細胞表面でのCXCR1及びCXCR2の発現が培地単独と比較して増加した。CSL324(灰色)とのプレインキュベーションによってCXCR1発現及びCXCR2発現のG-CSF誘導性上方制御を抑制することができた。
図6図6は、G-CSF誘導性の好中球遊走に対するCSL324の効果を示しているグラフを示す。G-CSFのみが存在する状態でのプレインキュベーションによって好中球のMIP-2への遊走が誘導され(図6A、黒色のバー)、この遊走はCSL324によって培地単独と同じレベルにまで減少した(図6A、灰色のバー)。G-CSFとのプレインキュベーションによってCXCR1及びCXCR2が発現上昇し、これは好中球のMIP-2への遊走と相関した(図6B及び6C)。
図7図7は、PBS対照(図7A)及びアイソタイプ抗体対照(図7B)と比較したARDSのマウスモデルにおける気管支肺胞洗浄(BAL)中の細胞数に対するVR81(CSL324のマウス代用抗体)の効果を示しているグラフを示す。
図8図8は、ARDSのマウスモデルにおける気管支肺胞洗浄(BAL)中の絶対免疫細胞数に対するVR81(CSL324のマウス代用抗体)の効果を示しているグラフである。
図9図9は、PBS対照(図9A)及びアイソタイプ抗体対照(図9B)と比較したARDSのマウスモデルにおける気管支肺胞洗浄(BAL)中の総タンパク質量に対するVR81(CSL324のマウス代用抗体)の効果を示しているグラフを示す。
図10図10は、PBS対照(図10A)及びアイソタイプ抗体対照(図10B)と比較したARDSのマウスモデルにおける気管支肺胞洗浄(BAL)中の好中球エラスターゼ活性レベルに対するVR81(CSL324のマウス代用抗体)の効果を示しているグラフを示す。
図11図11は、実施例3において使用されたARDSの動物モデルにおける肺炎症の進行を示す。図11Aは、3μgのLPSの投与後の様々な時点でマウスから得られた気管支肺胞洗浄液(BALF)に由来する総細胞数を示す。カラムは平均値±SEMを示す(群当たりn=5匹のマウス)。一元配置ANOVAとダネットの検定によりPBS対照と比較してP<0.01、P<0.0001。図11Bは、3μgのLPSの投与後の様々な時点でマウスから得られた気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好中球エラスターゼ活性(60分のアッセイ)を示す。カラムは平均値±SEMを示し(群当たりn=5匹のマウス)、点は個々のマウスを表す。一元配置ANOVAとダネットの検定によりPBS対照と比較してP<0.01、P<0.0001。
図12図12は、疾患発症から6時間後に投与されたときのVR81の治療有効性を示しているグラフを示す。3μgのLPS(右の2カラム)又はPBS(左のカラム)を挿管投与してから24時間後にマウスから得られた気管支肺胞洗浄液(BALF)に由来するリンパ球、好中球、及びマクロファージについて、総細胞数が積み上げ式のカラムに示されている(平均値±SEM)。挿管投与から6時間後にマウスを500μgのVR81又はアイソタイプ対照BM4の静脈内注射により処理した。VR81群とBM4群との間では好中球数に有意差(P<0.0001)が存在した(スチューデントのt検定、n=2匹(PBS)、6匹(BM4_LPS)、及び7匹(VR81_LPS))。
図13図13は、実施例4において説明される試験プロトコルの模式図である。
図14-1】図14は、実施例4において説明される投与計画についての経時的な予測受容体占有率と予測ANC数を示す。
図14-2】図14は、実施例4において説明される投与計画についての経時的な予測受容体占有率と予測ANC数を示す。
図15図15は、ARDSのマウスモデルにおける肺湿乾(W/D)重量比によって評価される肺浮腫に対するVR81(CSL324のマウス代用抗体)の効果を示しているグラフである。LPSの1日前の500μg/マウスのVR81の投与によってアイソタイプ対照抗体BM4を投与されたマウスと比較して有意にW/D比が減少した。
【発明を実施するための形態】
【0167】
概要
本明細書を通じて、特に明記されている場合又は文脈上他の解釈が必要な場合を除き、単一の工程、単一の組成物、単一の工程群、又は単一の組成物群に対する言及は、複数の工程、複数の組成物、複数の工程群、又は複数の組成物群のうちの1つ及び複数(すなわち、1つ以上)を包含すると理解されるべきである。
【0168】
本開示は、具体的に記載されるもの以外にも様々な変更と改変を受けやすいことを当業者は理解する。本開示は全てのこのような変更及び改変を含むことを理解されたい。本開示はまた、本明細書において個々に又はまとめて言及又は提示される工程、特徴、組成物、及び化合物のうちの全てを含み、前記工程又は特徴のありとあらゆる組合せ又はいずれか2つ以上も含む。
【0169】
本開示は、本明細書に記載される特定の例によって範囲を限定されず、それらの例は例示のみを目的としたものである。機能的に等価の生産物、組成物、及び方法は明らかに本開示の範囲内にある。
【0170】
本明細書中の本開示のどの例も、特に明示される場合を除き、必要な変更を加えて本開示の他のいずれの例にも当てはまると理解されるものとする。
【0171】
特別に別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、(例えば、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学の)当業者が共通して理解するものと同じ意味を有すると理解されたい。
【0172】
別段の指示がない限り、本開示において利用される組換えタンパク質技法、細胞培養技法、及び免疫学的技法は、当業者によく知られている標準的方法である。このような技法は、J. Perbal著、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons(1984年)、J. Sambrookら著、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989年)、T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、第1巻及び第2巻、IRL Press(1991年)、D.M. Glover及びB.D. Hames(編)、DNA Cloning: A Practical Approach、第1巻~第4巻、IRL Press(1995年及び1996年)、並びにF.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(1988年、現在までの全てのアップデートを含む)、Ed Harlow及びDavid Lane(編) Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory(1988年)、並びにJ.E. Coliganら(編) Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons(現在までの全てのアップデートを含む)などの文献を通じて記載及び説明されている。
【0173】
本明細書中の可変領域及び可変領域の部分、免疫グロブリン、抗体、並びに抗体の断片の説明並びに定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、メリーランド州、ベセスダ、米国国立衛生研究所、1987年及び1991年の中の考察、Bork et al., J Mol. Biol. 242, 309-320, 1994、Chothia and Lesk J. Mol Biol. 196:901-917, 1987、Chothia et al. Nature 342, 877-883, 1989、並びに/又はAl-Lazikani et al., J Mol Biol 273, 927-948, 1997によってさらに明確にされ得る。
【0174】
「及び/又は」という用語、例えば「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のどちらかを意味すると理解され、両方の意味又はどちらかの意味に対応すると理解されるものとする。
【0175】
本明細書を通じて「含む(comprise)」という単語又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」などの変形体は、指示された要素、整数、若しくは工程、又は要素群、整数群、若しくは工程群を内包することを意味するが、他のあらゆる要素、整数、若しくは工程、又は要素群、整数群、若しくは工程群を排除することを意味しないと理解されたい。
【0176】
定義集
「化合物」は、本開示によって考慮される場合、天然化合物、低分子化合物、又は生体化合物、又は巨大分子を含む様々な形のうちのいずれの形を取ってもよい。例となる化合物には抗体又は抗体の抗原結合断片を含むタンパク質、核酸、ポリペプチド、ペプチド、及び小分子が挙げられる。
【0177】
本明細書における「顆粒球コロニー刺激因子」(G-CSF)の参照は、天然型のG-CSF、変異体型のG-CSF、例えばフィルグラスチム、及びペグ化型のG-CSF又はフィルグラスチムを含む。この用語は、G-CSFR(例えば、ヒトG-CSFR)に結合し、且つ、シグナル伝達を誘導する活性を保持する変異体型のG-CSFも包含する。
【0178】
G-CSFは顆粒球生産の主要な調節因子である。G-CSFは骨髄間質細胞、内皮細胞、マクロファージ、及び線維芽細胞によって生産され、炎症性刺激によって生産が誘導される。G-CSFはG-CSF受容体(G-CSFR)を介して作用し、G-CSF受容体は早期骨髄系前駆細胞上、成熟好中球上、単球/マクロファージ上、Tリンパ球及びBリンパ球上、並びに内皮細胞上に発現する。
【0179】
限定を目的とせずに命名のみを目的としてヒトG-CSFRの例となる配列をNCBI基準配列NP_000751.1の中(及び配列番号16の中)に提示する。他の種のG-CSFRの配列は、本明細書において提供される配列及び/若しくは公開データベース中の配列を用いて決定可能であり、並びに/又は標準的技法(例えば、Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(1988年、現在までの全てのアップデートを含む)又はSambrookら著、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年)に記載されるような標準的技法)を用いて決定可能である。ヒトG-CSFRの参照は、hG-CSFRに略記される場合があり、カニクイザルG-CSFRの参照は、cynoG-CSFRに略記される場合がある。可溶性G-CSFRの参照は、G-CSFRのリガンド結合領域を含むポリペプチドを指す。G-CSFRのIgドメイン及びCRHドメインはリガンド結合及び受容体二量体化に関与する(Layton et al., J. Biol Chem., 272: 29735-29741, 1997、及びFukunaga et al, EMBO J. 10: 2855-2865, 1991)。この受容体のこれらの部分を含む可溶型のG-CSFRは、この受容体の様々な研究に使用されてきており、この受容体の78番、163番、及び228番の位置の遊離システインの突然変異が、リガンド結合に影響せずにこの可溶性受容体ポリペプチドの発現と単離を助ける(Mine et al., Biochem., 43: 2458-2464 2004)。
【0180】
本明細書において使用される場合、「疾患」又は「健康状態」という用語は、正常な機能の混乱又は正常な機能への妨害を指し、いかなる特定の健康状態、疾患、又は障害にも限定されないものとする。
【0181】
本明細書において使用される場合、「治療する(treating)」、「治療する(treat)」、又は「治療(treatment)」という用語は、特定の疾患又は健康状態の少なくとも1つの症状を抑制、予防、又は排除するために本明細書に記載される化合物を投与することを含む。
【0182】
本明細書において使用される場合、「予防する(preventing)」、「予防する(prevent)」、又は「予防(prevention)」という用語は、本明細書に記載される化合物を投与することによって健康状態の少なくとも1つの症状の発症を例えばその症状が前記対象において完全に発症する前に停止又は抑止することを含む。例えば、対象のPaO/FiO比が300mmHgより下に落ちることを防ぐために本開示の前記方法に従って化合物を対象に投与することができる。
【0183】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、ヒトを含むあらゆる動物、例えば哺乳類動物を意味すると理解されるものとする。例となる対象にはヒト及び非ヒト霊長類動物が挙げられるがこれらに限定されない。一例では前記対象はヒトである。
【0184】
「タンパク質」という用語は、単一のポリペプチド鎖、すなわちペプチド結合によって連結された一連の連続アミノ酸、又は共有結合若しくは非共有結合によって相互に連結された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むと理解されるものとする。例えば、その一連のポリペプチド鎖は、適切な化学結合又はジスルフィド結合を用いて共有結合によって連結され得る。非共有結合の例としては水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、及び疎水性相互作用が挙げられる。いくつかの例では前記タンパク質は融合タンパク質である。本明細書において使用される場合、「融合タンパク質」は、単一のユニットとして翻訳されて単一のタンパク質を産出するように連結された少なくとも2つのドメインを含むタンパク質である。
【0185】
「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」という用語は、ペプチド結合によって連結された一連の連続アミノ酸を意味すると前段落から理解されたい。
【0186】
「単離タンパク質」又は「単離ポリペプチド」という用語は、そのタンパク質又はポリペプチドの起源又は導出起源のため、天然状態ではそのタンパク質又はポリペプチドに付随している天然結合成分と結合していないタンパク質又はポリペプチドであり、同じ起源に由来する他のタンパク質を実質的に含まない。タンパク質は、当技術分野において知られているタンパク質精製技術を用いて天然結合成分を実質的に含まないようにする又は単離により実質的に精製状態にすることができる。「実質的に精製された」は、前記タンパク質が汚染混入因子を実質的に含まない、例えば汚染混入因子を少なくとも約70%、又は約75%、又は約80%、又は約85%、又は約90%、又は約95%、又は約96%、又は約97%、又は約98%、又は約99%含まないことを意味する。
【0187】
「組換え体」という用語は、人工的遺伝子組換えの産物を意味すると理解されるものとする。よって、抗体抗原結合ドメインを含む組換えタンパク質という文脈ではこの用語は、B細胞成熟時に起こる自然の過程による組換えの産物である対象の身体内で自然の過程により生じる抗体を包含するものではない。しかしながら、このような抗体が単離された場合にはその抗体は、抗体抗原結合ドメインを含む単離タンパク質であると考えられるべきである。同様に、このタンパク質をコードする核酸が単離され、組換え手段を用いて発現させた場合にはそれにより生じるタンパク質は、抗体抗原結合ドメインを含む組換えタンパク質である。組換えタンパク質には、その組換えタンパク質が発現する細胞、組織、又は対象等に前記核酸が存在するときに人工的組換え手段によって発現するタンパク質も含まれる。
【0188】
本明細書において使用される場合、「抗原結合部位」という用語は、抗原に結合又は特異的に結合することができるタンパク質によって形成される構造体を意味すると理解されるものとする。抗原結合部位は、一連の連続アミノ酸である必要はなく、又は単一のポリペプチド鎖の中のアミノ酸である必要すらない。例えば、2本の異なるポリペプチド鎖から形成されるFvでは抗原結合部位は、抗原と相互作用するV及びVの一連のアミノ酸であって、且つ、常にというわけではないが、概ね各可変領域中のCDRのうちの1つ以上の中に存在するそれらの一連のアミノ酸から構成される。いくつかの例では抗原結合部位はV、又はV、又はFvである。いくつかの例では抗原結合部位は抗体の1つ以上のCDRを含む。
【0189】
「抗体」は、複数のポリペプチド鎖、例えばVを含むポリペプチドとVを含むポリペプチドから構成される可変領域を含むタンパク質であると一般的に考えられていることを当業者は理解する。抗体は一般的に定常ドメインも含み、それらの定常ドメインのうちのいくつかは定常領域に配置される場合があり、その定常領域は重鎖の場合では定常断片又は結晶化可能断片(Fc)を含む。V及びVは相互作用して、1種類又は数種類の近縁の抗原に対して特異的に結合することができる抗原結合領域を含むFvを形成する。一般に、哺乳類動物の軽鎖はκ軽鎖又はλ軽鎖のどちらかであり、哺乳類動物の重鎖はα、δ、ε、γ、又はμである。抗体は、あらゆるタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgA)、又はサブクラスの抗体であり得る。「抗体」という用語にはヒト化抗体、霊長類化抗体、ヒト抗体、及びキメラ抗体も含まれる。
【0190】
「完全長抗体」、「完全抗体」、又は「全長抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片とは違って実質的に完全型の抗体を指すために互換的に使用される。具体的には、全長抗体にはFc領域を含む重鎖及び軽鎖を有する抗体が含まれる。定常ドメインは野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)又は野生型配列定常ドメインのアミノ酸配列変異体であってよい。
【0191】
本明細書において使用される場合、「可変領域」は、抗原に対して特異的に結合することができ、且つ、相補性決定領域(CDR)、すなわちCDR1、CDR2、及びCDR3並びにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む、本明細書において定義される抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指す。例となる可変領域は、3つのCDRと共に3つ又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3、及び所望によりFR4)を含む。IgNARから派生したタンパク質の場合ではこのタンパク質はCDR2を欠く場合がある。Vは重鎖の可変領域を指す。Vは軽鎖の可変領域を指す。
【0192】
本明細書において使用される場合、「相補性決定領域」(CDR、すなわちCDR1、CDR2、及びCDR3と同義)という用語は、存在することが抗原結合に必要な抗体可変領域のアミノ酸残基を指す。各可変領域は、CDR1、CDR2、及びCDR3として特定される3CDR領域を有していることが典型的である。CDR及びFRに割り当てられているアミノ酸の位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、メリーランド州、ベセスダ、米国国立衛生研究所、1987年及び1991年、又は本開示の実施における他の付番システム、例えばChothia and Lesk J. Mol Biol. 196: 901-917, 1987、Chothia et al. Nature 342, 877-883, 1989、及び/又はAl-Lazikani et al., J Mol Biol 273: 927-948, 1997の標準付番システム、Lefranc et al., Devel. And Compar. Immunol., 27: 55-77, 2003のIMGT付番システム、又はHonnegher 及び Pluekthun J. Mol. Biol., 309: 657-670, 2001のAHO付番システム に従って定義され得る。例えば、Kabatの付番システムによるとVのフレームワーク領域(FR)及びCDRは、残基1~30(FR1)、残基31~35(CDR1)、残基36~49(FR2)、残基50~65(CDR2)、残基66~94(FR3)、残基95~102(CDR3)、及び残基103~113(FR4)のように位置を確認される。Kabatの付番システムによるとVのFR及びCDRは、残基1~23(FR1)、残基24~34(CDR1)、残基35~49(FR2)、残基50~56(CDR2)、残基57~88(FR3)、残基89~97(CDR3)、及び残基98~107(FR4)のように位置を確認される。本開示はKabat付番システムによって定義されるFR及びCDRに限定されないが、本開示は、上で議論した付番システムを含む全ての付番システムを含む。一例では、本明細書におけるCDR(又はFR)の参照は、Kabat付番システムによるこれらの領域に関するものである。
【0193】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDR残基以外の可変領域残基である。
【0194】
本明細書において使用される場合、「Fv」という用語は、複数のポリペプチドから構成される場合でも単一のポリペプチドから構成される場合でも、V及びVが連結して抗原結合部位を有する複合体、すなわち抗原に対して特異的に結合することができる複合体を形成するあらゆるタンパク質を意味すると理解されるものとする。抗原結合部位を形成するこのV及びVは、単一のポリペプチド鎖の中にあっても異なるポリペプチド鎖の中にあってもよい。さらに、本開示のFv(並びに本開示のあらゆるタンパク質)は、同じ抗原に結合しても結合しなくてもよい複数の抗原結合部位を有してよい。この用語は、抗体から直接的に導出される断片並びに組換え手段を用いて作製されるこのような断片に対応するタンパク質を包含すると理解されるものとする。いくつかの例ではこのVは重鎖定常ドメイン(C)1に限定されず、及び/又はこのVは軽鎖定常ドメイン(C)に限定されない。例となるFv含有ポリペプチド又はタンパク質にはFab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、若しくは高次複合体、又は定常領域若しくは定常領域のドメイン、例えばC2ドメイン若しくはC3ドメインに結合した前述のポリペプチド若しくはタンパク質のうちのいずれか、例えばミニボディが挙げられる。「Fab断片」は、免疫グロブリンの一価抗原結合断片から構成され、完全な軽鎖と重鎖の一部から構成される断片が生じるように酵素パパインで全長抗体を消化することによって作製可能であり、又は組換え手段を用いて作製可能である。抗体の「Fab’断片」は、完全な軽鎖とV及び単一の定常ドメインを含む重鎖の一部から構成される分子が生じるようにペプシンで全長抗体を処理した後に還元することによって得ることができる。このように処理された抗体当たり2本のFab’断片が得られる。Fab’断片は組換え手段によっても作製可能である。抗体の「F(ab’)2断片」は、2本のジスルフィド結合によってまとめられた2本のFab’断片である二量体から構成され、酵素ペプシンで全長抗体分子を処理し、その後で還元しないことによって得られる。「Fab」断片は、ロイシンジッパー又はC3ドメイン等を用いて連結された2本のFab断片を含む組換え断片である。「単鎖Fv」又は「scFv」は、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域が適切な可撓性ポリペプチドリンカーによって共有結合されている抗体の可変領域断片(Fv)を含む組換え分子である。
【0195】
本明細書において使用される場合、「結合する」という用語は、抗原と化合物又はその化合物の抗原結合部位との相互作用に関し、相互作用がその抗原上の特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存していることを意味する。例えば、抗体は一般的にタンパク質というよりもむしろ特定のタンパク質構造を認識し、結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、エピトープ「A」(又は遊離状態の未標識の「A」)を含む分子の存在は、標識済み「A」及び前記タンパク質を含む反応ではその抗体に結合した標識済み「A」の量を減少させることになる。
【0196】
本明細書において使用される場合、「特異的に結合する(specifically binds)」又は「特異的に結合する(binds specifically)」という用語は、本開示の化合物が、他の抗原又は細胞との場合よりも頻繁に、短時間で、長い期間にわたり、且つ/又は高い親和性で特定の抗原又は同抗原を発現する細胞を認識する又は特定の抗原又は同抗原を発現する細胞と結合することを意味すると理解されるものとする。例えば、化合物が、他のサイトカイン受容体又は多反応性天然抗体(すなわち、天然界でヒトに見られる様々な抗原に結合することが知られている天然の抗体)が共通して認識する抗原に結合する場合よりも実質的に高い(例えば、20倍、又は40倍、又は60倍、又は80倍~100倍、又は150倍、又は200倍の)親和性でG-CSFR(例えば、hG-CSFR)に結合する。必ずというわけではないが、結合の参照は、概して特異的な結合を意味し、各用語は、他方の用語に対応すると理解されるものとする。
【0197】
タンパク質又は抗体は、別のポリペプチドに対する前記タンパク質又は抗体の解離定数(K)よりも小さいKでポリペプチドに結合する場合にそのポリペプチドに対して「優先的に結合する」と考えられる。一例ではタンパク質又は抗体は、別のポリペプチドに対する前記タンパク質又は抗体のKの少なくとも約20倍、又は40倍、又は60倍、又は80倍、又は100倍、又は120倍、又は140倍、又は160倍の親和性(すなわち、K)でポリペプチドに結合する場合にそのポリペプチドに対して優先的に結合すると考えられる。
【0198】
明確化のため、及び当業者が本明細書中の例示内容に基づいて認識するように、本明細書中の「親和性」の参照は、タンパク質又は抗体のKの参照である。
【0199】
明確化のため、及び当業者が本明細書中の説明に基づいて認識するように、「少なくとも約~の親和性」の参照は、その親和性(又はK)が挙げられた値と同等又はそれより高い(すなわち、親和性として挙げられた値の方が低い)ことを意味すると理解され、すなわち、2nMの親和性の方が3nMの親和性よりも高い。別の言い方をすると、この用語は「X以下の親和性」であり得、その場合にXは本明細書において挙げられる値である。
【0200】
「少なくとも約~のIC50」は、そのIC50が挙げられた値と同等又はそれより高い(すなわち、IC50として挙げられた値の方が低い)ことを意味すると理解され、すなわち、2nMのIC50の方が3nMのIC50よりも高い。別の言い方をすると、この用語は「X以下のIC50」であり得、その場合にXは本明細書において挙げられる値である。
【0201】
本明細書において使用される場合、「エピトープ」(「抗原決定基」と同義)という用語は、抗体の抗原結合部位を含むタンパク質が結合するG-CSF又はhG-CSFRの領域を意味すると理解されるものとする。この用語は必ずしも前記タンパク質が接触するこれらの特定の残基又は構造に限定されない。例えば、この用語は、前記タンパク質が接触するアミノ酸にわたる領域、及び/又はこの領域の外側の5~10アミノ酸、若しくは2~5アミノ酸、若しくは1~3アミノ酸を含む。いくつかの例ではこのエピトープは、G-CSF又はhG-CSFRが折り畳まれると互いに近接する一連の不連続アミノ酸、すなわち「立体構造エピトープ」を含む。例えば、hG-CSFR中の立体構造エピトープは配列番号1の111~115、170~176、218~234、及び/又は286~300に対応する領域のうちの1つ以上の領域、又は2つ以上の領域、又は全ての領域の中のアミノ酸を含む。当業者は、「エピトープ」という用語はペプチド又はポリペプチドに限定されないことも理解する。例えば、「エピトープ」という用語は、糖側鎖、ホスホリル側鎖、又はスルホニル側鎖などの化学的活性表面分子基を含み、ある特定の例では特定の三次元構造特性及び/又は特定の荷電特性を有する場合がある。
【0202】
「競合的に抑制する」という用語は、本開示のタンパク質(又はそのタンパク質の抗原結合部位)が挙げられた抗体又はタンパク質のG-CSF又はG-CSFR、例えばhG-CSFRへの結合を抑制又阻止することを意味すると理解されるものとする。このことは、前記タンパク質(又は抗原結合部位)及び抗体が同じエピトープ又は重なり合うエピトープに結合することに起因する可能性がある。前記タンパク質は前記抗体の結合を必ずしも完全に抑制するわけではないことが前述の説明から明らかになり、前記タンパク質はむしろ統計学的に有意な量、例えば少なくとも約10%、又は20%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%、又は90%、又は95%だけ結合を抑制すればよい。前記タンパク質は、前記抗体の結合を好ましくは少なくとも約30%だけ抑制し、より好ましくは少なくとも約50%だけ抑制し、より好ましくは少なくとも約70%だけ抑制し、さらにより好ましくは少なくとも約75%だけ抑制し、さらにより好ましくは少なくとも約80%又は85%だけ抑制し、さらにより好ましくは少なくとも約90%だけ抑制する。結合の競合的抑制を測定するための方法は、当技術分野において知られている及び/又は本明細書に記載されている。例えば、前記タンパク質が存在する又は存在しないどちらかの状態で前記抗体がG-CSF又はG-CSFRに曝露される。前記タンパク質が存在しない状態よりも前記タンパク質が存在する状態で結合した抗体が少ない場合、前記タンパク質は前記抗体の結合を競合的に抑制すると考えられる。一例ではこの競合的抑制は立体障害に起因するものではない。
【0203】
2つのエピトープという背景の中での「重なり合う」は、2つのエピトープが充分な数のアミノ酸残基を共にして一方のエピトープに結合するタンパク質(又はそのタンパク質の抗原結合部位)が他方のエピトープに結合するタンパク質(又は抗原結合部位)の結合を競合的に抑制するようにすることを意味すると理解されるものとする。例えば、これらの「重なり合う」エピトープは、少なくとも1アミノ酸、又は2アミノ酸、又は3アミノ酸、又は4アミノ酸、又は5アミノ酸、又は6アミノ酸、又は7アミノ酸、又は8アミノ酸、又は9アミノ酸、又は20アミノ酸を共にする。
【0204】
本明細書において使用される場合、「無効化する」という用語は、化合物が細胞内のG-CSFRを経過するG-CSF介在性シグナル伝達を遮断、抑制、又は阻止することができることを意味すると理解されるものとする。無効化を測定するための方法は、当技術分野において知られている及び/又は本明細書に記載されている。
【0205】
本明細書において使用される場合、「好中球減少症」という用語は、正常範囲の下限より下の絶対好中球数(ANC)、例えば2000細胞/μL血液未満、又は1500細胞/μL血液未満、又は1000細胞/μL血液未満、例えば500細胞/μL血液未満のANCを指すために使用される(Sibille et al. 2010 Br J Clin Pharmacol 70(5): 736‐748を参照されたい)。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記抗体は、重症の好中球減少症を引き起こさない量で投与される。本明細書において使用される場合、「重症の好中球減少症」という用語は、1000細胞/μL血液未満の絶対好中球数(ANC)を指すために使用される。本開示の目的のため、以下
・グレード1は2.0×10/L未満(2000/mm未満)及び1.5×10/L超(1500/mm超)
・グレード2は1.5×10/L未満(1500/mm未満)及び1.0×10/L超(1000/mm超)
・グレード3は1.0×10/L未満(1000/mm未満)及び0.5×10/L超(500/mm超)
・グレード4は0.5×10/L未満(500/mm未満)
というANCを用いて好中球減少症のグレードを定義する。
【0206】
急性呼吸窮迫症候群の治療及び予防
本開示は、対象において急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を治療又は予防するための方法等を提供する。
【0207】
ARDSは、両側性肺浸潤、重症低酸素血症、及び非心原性肺浮腫を特徴とする生命にかかわる状態である。ARDSの結果として重症の肺損傷及びARDSに起因する30%~50%の死亡率が生じる。現在のところ、有効な薬物療法は存在しない。敗血症及び肺炎(インフルエンザ感染症及びコロナウイルス感染症を含む)などの感染症がARDSの主因である。したがって、これらの原疾患又は基礎疾患(例えば、感染症)の治療も本開示の前記方法と組み合わせて考慮される。
【0208】
組織学的には、ヒトのARDSは、肺における重症で急性の炎症反応及び好中球性肺胞炎を特徴とする。微生物病原体に由来する炎症性刺激、例えばエンドトキシン(リポ多糖、LPS)は、肺の炎症を誘導する能力をよく認識されており、LPSの実験的な全身投与と気管内投与の両方が、本明細書に記載されるようにARDSの動物モデルにおいて肺の炎症を誘導するために用いられている。LPSはToll様受容体4(TLR4)を介して作用して炎症性サイトカイン及び炎症性ケモカインの発現並びに白血球接着分子の発現を上昇させ、結果として内皮細胞を活性化する。
【0209】
ARDSの生理学的特徴は、タンパク質性浸出液が肺胞腔に貯留し、ガス交換を損ない、且つ、呼吸不全を促進する非心原性肺浮腫の発生に至る肺胞毛細血管膜障壁の破壊(すなわち、肺血管血液漏出)である。肺胞の上皮細胞と内皮細胞の両方の細胞傷害及び/又は細胞死がARDSの発病に関係するとされている。ARDSは、集中治療室(ICU)では機械的換気の長期化の重要な寄与因子であり続けており、ARDS関連の死亡率は、最適なICU支持療法にもかかわらず30%~50%と高いままである。
【0210】
ARDSは、2012年に専門家委員会(米国胸部学会及び集中治療医学会に支持されたヨーロッパ集中治療医学会の首唱)によってベルリン定義として定義された。現在では軽症、中等症、及び重症の3ステージが存在し、それらのステージに付随して死亡率が上昇し(それぞれ、27%の死亡率、95%信頼区間(CI)は24%~30%、32%の死亡率、95%CIは29%~34%、及び45%の死亡率、95%CIは42%~48%、P<0.001)、生存者機械的換気期間の中央値が増加する(それぞれ、5日間、四分位範囲[IQR]は2~11、7日間、IQRは4~14、及び9日間、IQRは5~17、P<0.001)。この定義は、4セットの多施設臨床データセットに由来する4188人のARDSの患者及び生理学的情報を含む3セットの単一施設データセットに由来する269人のARDSの患者の患者レベルメタ分析を用いて経験的に評価された。
【0211】
ベルリン定義によるとARDSは、
(1)1週間以内の臨床的侵襲の提示又は呼吸器症状の発症、
(2)少なくとも5cmの持続的気道陽圧(CPAP)又は呼気終末陽圧(PEEP)におけるPaOが動脈血酸素分圧であり、FiOが吸気酸素分圧である場合の300mmHg以下のPaO/FiO比によって判断される急性低酸素性呼吸器不全、
(3)浸出液、硬結、又は無気肺では完全には説明できない肺X線写真上での両側不透明像、及び
(4)浮腫/心不全又は体液過剰では完全には説明できない呼吸器不全
によって定義される。
【0212】
本開示の前記方法の一例では前記対象は上記のARDSのベルリン基準を満たす。他の例では前記対象はARDSのベルリン基準をまだ満たしていなくてもよいが、ARDSを発症するリスクがあると特定されている。このような対象にはARDSの発症を防止するためにG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が投与され得る。
【0213】
本明細書において使用される場合、「リスクがある」という用語は、前記対象が正常な個体と比較して増加したARDSを発症する機会を有することを意味する。対象は、当技術分野において知られているあらゆる方法を用いてARDSを発症するリスクがあると特定され得る。例えば、前記対象は、その対象がARDSの一般的な基礎疾患(例えば、敗血症、肺炎、外傷等)を有し、且つ、呼吸器症状、例えば呼吸促迫及び/又は息切れを有する場合にARDSを発症するリスクがあると特定される場合がある。ARDSを発症するリスクがある対象の特定に適切な他の方法には国際公開第2018/204509号パンフレット、Luo et al., 2017, J Thorac Dis 9, 3979‐3995、de Haro et al., 2013, Annals of Intensive Care 3, 11、Iriyama et al., 2020, Journal of Intensive Care 8, 7、Gajic et al., 2011, Am J Respir Crit Care Med 183, 462‐470、及びYadav et al., 2017, Am J Respir Crit Care Med 195, 725-736に記載される方法等が挙げられる。
【0214】
ARDSの重症度は以下のように分類され得る。
(1)軽症ARDSではPaO/FiOが200~300mmHg
(2)中等症ARDSではPaO/FiOが100~200mmHg
(3)重症ARDSではPaO/FiOが100mmHg以下。
【0215】
本開示の前記方法のいくつかの例では前記ARDSは軽症ARDSである。いくつかの例では前記ARDSは中等症ARDSである。いくつかの例では前記ARDSは重症ARDSである。
【0216】
G-CSF阻害剤の作用機序のため、本開示の前記方法はARDSの全ての原因に適合する。ARDSの最も一般的な原因は敗血症、有害物質の吸引、肺炎、重篤な外傷(両側性肺挫傷、長骨骨折後の脂肪塞栓症、重篤な外傷又は火傷から数日後に生じる敗血症、及び重度の組織外傷)、大量輸血、輸血関連急性肺損傷、肺造血幹細胞移植、他の急性炎症性疾患、薬物及びアルコール、並びにサーファクタントプロテインB(SP-B)遺伝子の突然変異などの遺伝的決定因子である。
【0217】
さらに最近になってARDSは重症のコロナウイルス病2019(COVID-19)、すなわちSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)感染に由来するウイルス性肺炎の結果として生ずることが示された。過去の他のコロナウイルス感染症はSARS及びMERSを引き起こした。SARS及びMERSもARDSを生じさせ得る。SARS-CoV-2感染症は、特異的なPCR検査を用いる鼻咽頭分泌物中のウイルスRNAの陽性検出によって確認可能である。COVID-19病は、一致する臨床歴、疫学上の接触、及びSARS-CoV-2検査陽性によって確認可能である。COVID-19に関連するARDSは、COVID-19感染が確認された対象が上記のベルリンARDS診断基準を満たすときに診断され得る。
【0218】
抗体
一例では、いずれかの例に従う本明細書に記載されるような化合物は、抗体の抗原結合部位を含むタンパク質である。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は抗体である。いくつかの例では前記抗体はG-CSFRに結合する。いくつかの例では前記抗体はG-CSFに結合する。
【0219】
抗体を作製するための方法は、当技術分野において知られている及び/又はHarlow and Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988年)に記載されている。概してこのような方法ではG-CSFR若しくはG-CSF(例えば、hG-CSFR若しくはhG-CSF)又はG-CSFR若しくはG-CSFの領域(例えば、細胞外ドメイン)又はG-CSFR若しくはG-CSF免疫原性の断片若しくはエピトープ又はこれらのいずれか(すなわち、免疫原)を発現し、提示する細胞であって所望によりいずれかの適切な又は所望の担体、アジュバント、又は薬学的に許容可能な賦形剤と共に製剤されたものは、非ヒト動物、例えばマウス、ニワトリ、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ、又はブタに投与される。前記免疫原は鼻腔内経路、筋肉内経路、皮下経路、静脈内経路、皮内経路、腹腔内経路、又は他の公知の経路によって投与され得る。
【0220】
モノクローナル抗体は、本開示によって企図される1つの例となる形の抗体である。「モノクローナル抗体」又は「mAb」という用語は、同じ抗原に、例えばその抗原内の同じエピトープに結合することができる均一な抗体集団を指す。この用語は、前記抗体の起源又は前記抗体が作製される方法に関して限定されることを意図してはいない。
【0221】
mAbの作製のためには、例えば、米国特許第4196265号明細書又は上掲のHarlow and Lane(1988)において例示される方法などの多数の公知の技術のうちのいずれか1つが用いられ得る。
【0222】
あるいは、ABL-MYC技術(NeoClone社、マジソン、ウィスコンシン州53713、米国)が、(例えば、Largaespada et al, J. Immunol. Methods. 197: 85-95, 1996に記載されるような)mAb分泌細胞株を作製するために使用される。
【0223】
抗体は、ディスプレイライブラリー、例えばファージディスプレイライブラリー、例えば米国特許第6300064号明細書及び/又は米国特許第5885793号明細書に記載されるようなディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによっても作製又は単離され得る。例えば、本発明者らはファージディスプレイライブラリーから完全ヒト抗体を単離した。
【0224】
本開示の抗体は合成抗体であってよい。例えば、前記抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又は脱免疫化抗体である。
【0225】
一例では本明細書に記載される抗体はキメラ抗体である。「キメラ抗体」という用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種(例えば、マウスなどのネズミ科動物)に由来する抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の中の対応する配列と同一又は相同である一方でその/それらの鎖の残りの部分が別の種(例えば、ヒトなどの霊長類動物)に由来する抗体又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の中の対応する配列と同一又は相同である抗体を指す。キメラ抗体を作製するための方法は、例えば米国特許第4816567号明細書及び米国特許第5807715号明細書に記載されている。
【0226】
本開示の前記抗体はヒト化抗体又はヒト抗体であってよい。
【0227】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種の抗体に由来する抗原結合部位又は可変領域とヒト抗体の構造及び/又は配列に基づく残りの抗体構造とを有するキメラ抗体のサブクラスを指すと理解されるものとする。ヒト化抗体ではこの抗原結合部位は、ヒト抗体の可変領域中の適切なFRに移植された非ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)及びヒト抗体の残りの領域を一般的に含む。抗原結合部位は野生型(すなわち、前記非ヒト抗体の抗原結合部位と同一)であっても1つ以上のアミノ酸置換による改変型であってもよい。いくつかの例では前記ヒト抗体のFR残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられている。
【0228】
非ヒト抗体又は非ヒト抗体の部分(例えば、可変領域)をヒト化するための方法は、当技術分野において知られている。米国特許第5225539号明細書又は米国特許第5585089号明細書の方法に従ってヒト化が実施可能である。抗体をヒト化するための他の方法が除外されることはない。
【0229】
本明細書において使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト、例えばヒトの生殖細胞若しくは体細胞に見られる配列に由来する又はそれらの配列に対応する可変領域(例えばV、V)を有し、所望により定常領域を有する抗体を指す。
【0230】
例となるヒト抗体は本明細書に記載されており、C1.2及びC1.2G並びに/又はC1.2及びC1.2Gの可変領域を含む。これらのヒト抗体は、非ヒト抗体と比較して低下したヒトにおける免疫原性という利点を提供する。例となる抗体が国際公開第2012/171057号パンフレットに記載されている。本開示の前記方法に従う使用にとって適切な他の抗体には国際公開第2018/145206号パンフレットに記載される抗体が挙げられる。
【0231】
一例では前記抗体は多重特異的抗体である。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSF又はG-CSFRに結合する抗原結合部位及び異なる抗原に結合するその他の抗原結合部位を含むタンパク質であってよい。したがって、いくつかの例では前記抗体二特異的抗体である。
【0232】
抗体結合ドメイン含有タンパク質
単一ドメイン抗体
いくつかの例では本開示の化合物は、単一ドメイン抗体(「ドメイン抗体」又は「dAb」という用語と互換的に使用される)である又は単一ドメイン抗体を含むタンパク質である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変領域の全体又は一部を含む単一のポリペプチド鎖である。ある特定の例では単一ドメイン抗体はヒト単一ドメイン抗体(Domantis社、ウォルサム、マサチューセッツ州、例えば米国特許第6248516号明細書を参照されたい)である。
【0233】
ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ
いくつかの例では本開示のタンパク質はディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、若しくは高次タンパク質複合体、例えば国際公開第98/044001号パンフレット及び/若しくは国際公開第94/007921号パンフレットに記載される高次タンパク質複合体である、又はディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、若しくは高次タンパク質複合体を含む。
【0234】
単鎖Fv(scFv)
当業者は、scFvは単一のポリペプチド鎖の中にV領域及びV領域を含み、このscFvが抗原結合のための(すなわち、この単一のポリペプチド鎖のV及びVが相互に結合してFvを形成するための)所望の構造を形成することを可能にするポリペプチドリンカーをこのVとVとの間に含むことを理解する。例えば、このリンカーは12アミノ酸を超える残基を含み、(GlySer)がより好ましいscFv向けのリンカーのうちの1つである。
【0235】
重鎖抗体
重鎖抗体は、軽鎖を含まずに重鎖を含む限り、他の多くの形の抗体と構造的に異なる。よって、これらの抗体は「重鎖のみ抗体」とも呼ばれる。重鎖抗体はラクダ科動物及び軟骨魚類(軟骨魚類ではIgNARとも呼ばれる)等に見られる。
【0236】
ラクダ科動物の重鎖抗体及び重鎖抗体可変領域並びにラクダ科動物の重鎖抗体及び重鎖抗体可変領域の作製方法及び/又は単離方法及び/又は使用方法の概要は、特に次の参照文献、すなわち国際公開第94/04678号パンフレット、国際公開第97/49805号パンフレット、及び国際公開第97/49805号パンフレットに見られる。
【0237】
軟骨魚類の重鎖抗体及び重鎖抗体可変領域並びに軟骨魚類の重鎖抗体及び重鎖抗体可変領域の作製方法及び/又は単離方法及び/又は使用方法の概要は、特に国際公開第2005/118629号パンフレットに見られる。
【0238】
他の抗体及び抗体断片
本開示は、
(i)米国特許第5731168号明細書に記載されるような「キー・アンド・ホール型」二特異的タンパク質、
(ii)米国特許第4676980号明細書等に記載されるようなヘテロ結合タンパク質、
(iii)、米国特許第4676980号明細書等に記載されるような化学架橋剤を使用して作製されたヘテロ結合タンパク質、及び
(iv)(例えば、欧州特許出願公開第19930302894号明細書に記載されるような)Fab
などの他の抗体及び抗体断片も企図している。
【0239】
V様タンパク質
本開示の化合物の一例はT細胞受容体である。T細胞受容体は、合同して抗体のFvモジュールに類似した構造になる2つのVドメインを有する。Novotny et al., Proc Natl Acad Sci USA 88: 8646-8650, 1991は、どのようにT細胞受容体の2つのVドメイン(アルファ及びベータと呼ばれる)を単鎖ポリペプチドとして融合して発現させるかを説明しており、どのように疎水性を直接的に抗体scFvに類似する疎水性にまで低下させるために表面残基を改変するかをさらに説明している。単鎖T細胞受容体の作製又は2つのVアルファドメイン及びVベータドメインを備える多量体T細胞受容体の作製について説明している他の刊行物には国際公開第1999/045110号パンフレット又は国際公開第2011/107595号パンフレットが含まれる。
【0240】
抗原結合ドメインを含む他の非抗体タンパク質にはV様ドメインを含むタンパク質が挙げられ、これらのV様ドメイン含有タンパク質は単量体であることが一般的である。このようなV様ドメインを含むタンパク質の例としてはCTLA-4、CD28、及びICOSが挙げられる。このようなV様ドメインを含むタンパク質のさらに詳しい開示が国際公開第1999/045110号パンフレットの中に含まれる。
【0241】
アドネクチン
一例では本開示の化合物はアドネクチンである。アドネクチンは、抗原結合性を持たせるためにループ領域が改変されているヒトフィブロネクチンの第10フィブロネクチンIII型(10Fn3)ドメインに基づく。例えば、10Fn3ドメインのβサンドイッチの一端にある3本のループを改変してアドネクチンが抗原を特異的に認識できるようにすることができる。さらに詳しくは、米国特許出願公開第2008/0139791号明細書又は国際公開第2005/056764号パンフレットを参照されたい。
【0242】
アンチカリン
その他の例では本開示の化合物はアンチカリンである。アンチカリンは、ステロイド、ビリン、レチノイド、及び脂質などの小疎水性分子を輸送する細胞外タンパク質のファミリーであるリポカリンに由来する。リポカリンは、抗原に結合するように改変することができる円錐構造の開放末端に複数のループを有する強固なβシート二次構造を持つ。このような改変リポカリンがアンチカリンとして知られている。アンチカリンのさらに詳しい説明については米国特許第7250297(B1)号明細書又は米国特許出願公開第2007/0224633号明細書を参照されたい。
【0243】
アフィボディ
その他の例では本開示の化合物はアフィボディである。アフィボディは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの、抗原に結合するように改変することができるZドメイン(抗原結合ドメイン)に由来するスキャフォルドである。Zドメインは約58アミノ酸の3ヘリックス束から構成される。表面残基のランダム化によりライブラリーが作成されている。さらに詳しくは、欧州特許第1641818号明細書を参照されたい。
【0244】
アビマー
その他の例では本開示の化合物はアビマーである。アビマーは、Aドメインスキャフォルドファミリーに由来するマルチドメインタンパク質である。約35アミノ酸の天然型のドメインが規定のジスルフィド結合構造を取っている。Aドメインファミリーが示す天然型をシャッフルすることによって多様性が作られる。さらに詳しくは、国際公開第2002/088171号パンフレットを参照されたい。
【0245】
DARPin
その他の例では本開示の化合物は人工アンキリンリピートタンパク質(DARPin)である。DARPinは、膜内タンパク質の細胞骨格への結合に介在するタンパク質ファミリーであるアンキリンに由来する。単一のアンキリンリピートは、2つのαヘリックスと1つのβターンから構成される33残基モチーフである。DARPinは、各リピートの1つ目のαヘリックスとβターンの中の残基を無作為に変えることによって様々な標的抗原に結合するように改変され得る。DARPinの結合接触面は、モジュール数を増加させること(親和性成熟の方法)によって増大可能である。さらに詳しくは、米国特許出願公開第2004/0132028号明細書を参照されたい。
【0246】
可溶性G-CSFR
本開示は、G-CSFとの相互作用について天然の膜結合G-CSFRと競合する可溶型G-CSFRも企図している。当業者は可溶型の前記受容体を容易に調製することができ、例えば米国特許第5589456号明細書及びHonjo et al, Acta Crystallograph Sect F Struct Biol Cryst Commun. 61(Pt 8):788-790, 2005を参照されたい。
【0247】
脱免疫化タンパク質
本開示は、脱免疫化抗体又は脱免疫化タンパク質も企図している。脱免疫化抗体及び脱免疫化タンパク質は、哺乳類動物においてこの脱免疫化抗体又は脱免疫化タンパク質に対する免疫応答が生じる可能性が低下するように1つ以上のエピトープ、例えばB細胞エピトープ又はT細胞エピトープを除去させている(すなわち、1つ以上のエピトープに変移を入れさせている)。脱免疫化抗体及び脱免疫化タンパク質を作製するための方法は、当技術分野において知られており、例えば、国際公開第2000/34317号パンフレット、国際公開第2004/108158号パンフレット及び国際公開第2004/064724号パンフレットに記載されている。
【0248】
当業者は、適切な突然変異を導入するための方法及びそれにより生じるタンパク質を発現するための方法及びこのタンパク質をアッセイするための方法を本明細書中の説明に基づいて認識することになる。
【0249】
タンパク質に対する突然変異
本開示は、変異体型の本開示のタンパク質も企図している。例えば、このような変異体タンパク質は、本明細書において示される配列と比較して1つ以上の保存的アミノ酸置換を含む。いくつかの例では前記タンパク質は、30以下の、又は20以下の、又は10以下の、例えば9つ、又は8つ、又は7つ、又は6つ、又は5つ、又は4つ、又は3つ、又は2つの保存的アミノ酸置換を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖及び/又は疎水性親水性及び/又は親水性を有するアミノ酸残基で置き換えられるアミノ酸置換である。
【0250】
一例では変異体タンパク質は、天然型タンパク質と比較するとたった1つ若しくは1つ以下、たった2つ若しくは2つ以下、たった3つ若しくは3つ以下、たった4つ若しくは4つ以下、たった5つ若しくは5つ以下、又はたった6つ若しくは6つ以下の保存的アミノ酸変化を有する。保存的アミノ酸変化の詳細を以下に提示する。当業者が例えば本明細書中の開示から理解するように、このようなわずかな変化は前記タンパク質の活性を変化させないことが合理的に予測可能である。
【0251】
類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野において定義されており、それらの側鎖には塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0252】
本開示は、本開示のタンパク質中、例えばCDR3などのCDR中での非保存的アミノ酸変化(例えば、置換)も企図している。例えば、本発明者らは、本開示のタンパク質の活性を保持しつつ実施可能ないくつかの非保存的アミノ酸置換を特定している。一例では前記タンパク質は、例えばCDR3などのCDR3の中に6より少ない数、又は5より少ない数、又は4より少ない数、又は3より少ない数、又は2より少ない数、又は1より少ない数の非保存的アミノ酸置換を含む。
【0253】
本開示は、本明細書において示される配列と比較して1つ以上の挿入又は欠失も企図している。いくつかの例では前記タンパク質は10以下、例えば9つ、又は8つ、又は7つ、又は6つ、又は5つ、又は4つ、又は3つ、又は2つの挿入及び/若しくは欠失を含む。
【0254】
定常領域
本開示は、抗体定常領域を含む本明細書に記載されるタンパク質及び/又は抗体を包含する。このタンパク質及び/又は抗体は、Fcに融合した抗体の抗原結合断片を含む。
【0255】
本開示の前記タンパク質の作製に有用な定常領域の配列は、多数の異なる起源から得られる場合がある。いくつかの例では前記タンパク質の定常領域又は定常領域の部分は、ヒト抗体に由来する。この定常領域又は定常領域の部分は、IgM、IgG、IgD、IgA、及びIgEを含むあらゆる抗体クラス、並びにIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むあらゆる抗体アイソタイプに由来してよい。一例ではこの定常領域はヒトアイソタイプIgG4定常領域又は安定化IgG4定常領域である。
【0256】
一例ではこの定常領域のFc領域は、例えば天然型又は野生型のヒトIgG1 Fc領域又はヒトIgG3 Fc領域と比較して低いエフェクター機能誘導能を有する。一例ではこのエフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)及び/又は抗体依存性細胞介在性貪食(ADCP)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)である。Fc領域含有タンパク質のエフェクター機能レベルを評価するための方法は、当技術分野において知られている及び/又は本明細書に記載されている。
【0257】
一例では前記Fc領域はIgG4 Fc領域(すなわち、IgG4定常領域に由来)、例えばヒトIgG4 Fc領域である。適切なIgG4 Fc領域の配列は、当業者に明らかになり及び/又は公開データベース中で利用可能(例えば、米国国立生物工学情報センターから入手可能)である。
【0258】
一例では前記定常領域は安定化IgG4定常領域である。「安定化IgG4定常領域」という用語は、Fabアーム交換又はFabアーム交換の行いやすさ又は半抗体の形成又は半抗体の形成しやすさを抑制するように改変されているIgG4定常領域を意味するものと理解される。「Fabアーム交換」は一種のヒトIgG4のタンパク質修飾を指し、Fabアーム交換では重鎖軽鎖対についてIgG4重鎖及び結合した軽鎖(半分子)が別のIgG4分子と交換されている。したがって、IgG4分子は、2つの別個の抗原を認識する2つの別個のFabアームを獲得する場合がある(結果として二特異的分子が生ずる場合がある)。Fabアーム交換はインビボでは自然に起こり、インビトロでは精製済み血液細胞によって又は還元型グルタチオンなどの還元剤によって誘導され得る。「半抗体」は、IgG4抗体が解離してそれぞれ単一の重鎖と単一の軽鎖を含む2つの分子を形成するときに生じる。
【0259】
一例では安定化IgG4定常領域は、Kabatシステム(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest、米国、ワシントンDC、米国保険福祉省、1987年及び/又は1991年)によるヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。この位置は、EU付番システム(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest、米国、ワシントンDC、米国保険福祉省、2001年、及びEdelman et al., Proc. Natl. Acad. USA, 63, 78-85, 1969)によるヒンジ領域の位置228に相当する。ヒトIgG4ではこの残基は概ねセリンである。プロリンに代えてセリンを置換した後にこのIgG4ヒンジ領域は配列CPPCを備える。この点に関し、当業者は、「ヒンジ領域」がFc領域及びFab領域を連結し、抗体の2本のFabアームに可動性を与える抗体重鎖定常領域の高プロリン部分であることを理解する。このヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド結合に関与するシステイン残基を含む。このヒンジ領域は、Kabatの付番システムによるヒトIgG1のGlu226からPro243までの伸長部分として規定されることが一般的である。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド(S-S)結合を形成する最初と最後のシステイン残基を同じ位置に配置することによってIgG1配列と整合する場合がある(例えば、国際公開第2010/080538号パンフレットを参照されたい)。
【0260】
安定化IgG4抗体の追加の例は、ヒトIgG4の重鎖定常領域中の(EU付番システムによる)位置409にあるアルギニンが(例えば、国際公開第2006/033386号パンフレットに記載されるように)リシン、トレオニン、メチオニン、又はロイシンで置換されている抗体である。前記定常領域のFc領域は、アラニン、バリン、グリシン、イソロイシン、及びロイシンからなる群より選択される残基を(EU付番システムによる)405に対応する位置に追加として又は代わりに含んでよい。所望により、このヒンジ領域は、(上記のように)位置241にプロリンを含む(すなわち、CPPC配列)。
【0261】
別の例では前記Fc領域は、低下したエフェクター機能を有するように改変された領域、すなわち、「非免疫刺激Fc領域」である。例えば、前記Fc領域は、位置268、位置309、位置330、及び位置331からなる群より選択される1つ以上の位置に置換を含むIgG1 Fc領域である。別の例では前記Fc領域は、以下のE233P変化、L234V変化、L235A変化、及びG236の欠失のうちの1つ以上、並びに/又は以下のA327G変化、A330S変化、及びP331S変化のうちの1つ以上を含むIgG1 Fc領域である(Armour et al., Eur J Immunol. 29:2613-2624, 1999、Shields et al., J Biol Chem. 276(9):6591-604, 2001)。非免疫刺激Fc領域の追加の例は、例えば、Dall’Acqua et al., J Immunol. 177 : 1129-1138 2006、及び/又はHezareh J Virol ;75: 12161-12168, 2001)に記載されている。
【0262】
別の例では前記Fc領域は、例えばIgG4抗体由来の少なくとも1つのC2ドメイン及びIgG1抗体由来の少なくとも1つのC3ドメインを含むキメラFc領域であり、このFc領域は、(例えば、国際公開第2010/085682号パンフレットに記載されるように)位置240、位置262、位置264、位置266、位置297、位置299、位置307、位置309、位置323、位置399、位置409、及び位置427(EU付番)からなる群より選択される1つ以上のアミノ酸位置に置換を含む。例となる置換には240F、262L、264T、266F、297Q、299A、299K、307P、309K、309M、309P、323F、399S、及び427Fが挙げられる。
【0263】
その他の改変
本開示は、本開示の抗体又はタンパク質に対するその他の改変も企図している。
【0264】
例えば、前記抗体は、前記タンパク質の半減期を増加させる1か所以上のアミノ酸置換を含む。例えば、前記抗体は、新生児Fc受容体(FcRn)へのFc領域の親和性を高める1か所以上のアミノ酸置換を含むそのFc領域を含む。例えば、前記Fc領域は、エンドソーム内でのFc/FcRn結合を促進するために低めのpH、例えば約pH6.0でFcRnに対して上昇した親和性を有する。一例では前記Fc領域は、約pH7.4における親和性と比較して上昇したFcRnに対する親和性を約pH6において有し、この親和性が細胞再循環後のFcの血液中への再放出を容易にする。これらのアミノ酸置換は、血液からのクリアランスの低下によるタンパク質半減期の延長に有用である。
【0265】
例となるアミノ酸置換にはEU付番システムによるT250Q及び/又はM428L又はT252A、T254S及びT266F又はM252Y、S254T及びT256E又はH433K及びN434Fが挙げられる。追加又は代わりのアミノ酸置換が、例えば、米国特許出願公開第2007/0135620号明細書又は米国特許第7083784号明細書に記載されている。
【0266】
前記タンパク質は融合タンパク質であり得る。したがって、一例では前記タンパク質はアルブミン、アルブミンの機能性断片、又はアルブミンの変異体を追加に含む。一例ではこのアルブミン、アルブミンの機能性断片、又はアルブミンの変異体は、ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミンである。一例ではこのアルブミン、アルブミンの機能性断片、又はアルブミンの変異体は、1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を含み、例えば5つを超えない、又は4つを超えない、又は3つを超えない、又は2つを超えない、又は1つを超えない置換を含む。本開示での使用に適切なアミノ酸置換は当業者に明らかになり、そのようなアミノ酸置換には天然置換、並びに国際公開第2011/051489号パンフレット、国際公開第2014/072481号パンフレット、国際公開第2011/103076号パンフレット、国際公開第2012/112188号パンフレット、国際公開第2013/075066号パンフレット、国際公開第2015/063611号パンフレット、及び国際公開第2014/179657号パンフレット等に記載される置換などの人工置換が含まれる。
【0267】
一例では本開示の前記タンパク質は可溶性補体受容体又は可溶性補体受容体の機能性断片若しくは変異体を追加に含む。一例では前記タンパク質は補体インヒビターを追加に含む。
【0268】
タンパク質生産
一例ではいずれかの例に従う本明細書に記載されるタンパク質は、前記タンパク質を生産するために充分な条件、例えば本明細書に記載されるような条件及び/又は当技術分野において知られているような条件の下でハイブリドーマを培養することにより生産される。
【0269】
組換え発現
別の例ではいずれかの例に従う本明細書に記載されるタンパク質は組換え体である。
【0270】
組換えタンパク質の場合では同組換えタンパク質をコードする核酸を発現コンストラクト又は発現ベクターにクローン化することができ、形質導入されなければそのタンパク質を生産することがない宿主細胞、例えば大腸菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又はサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞、若しくは骨髄腫細胞などの哺乳類細胞の中にその発現コンストラクト又は発現ベクターが後に形質導入される。タンパク質の発現に使用される例となる細胞はCHO細胞、骨髄腫細胞、又はHEK細胞である。これらの目的を達成するための分子クローニング技術は、当技術分野において知られており、例えば、Ausubelら(編), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(1988年、現在までの全てのアップデートを含む)又はSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) に記載されている。多種多様なクローニング方法及びインビトロ増幅方法が組換え核酸の構築に適切である。組換え抗体を作製する方法も当技術分野において知られており、例えば、米国特許第4816567号明細書又は米国特許第5530101号明細書を参照されたい。
【0271】
単離した後に前記核酸は、さらにクローニングする(このDNAを増幅する)ために又は無細胞システム中若しくは細胞中での発現のために発現コンストラクト又は発現ベクター中のプロモーターに機能可能であるように連結させて挿入される。
【0272】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語はこの用語の最も広い文脈の中で受け取られるべきであり、この用語には、核酸の発現を例えば発生刺激及び/若しくは外部刺激に応答して又は組織特異的に変化させる追加の調節配列(例えば、上流活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー、及びサイレンサー)と共に又はこれらの追加の調節配列を伴わずに正確な転写開始に必要な、TATAボックス又は開始配列を含むゲノム遺伝子の転写調節配列が含まれる。本背景において、「プロモーター」という用語は、そのプロモーターが機能可能であるように連結している核酸を発現させる、その核酸の発現を活性化する、又はその核酸の発現を増強する組換え核酸、合成核酸、若しくは融合核酸、又は誘導体を説明するためにも使用される。例となるプロモーターは、発現をさらに増強するため並びに/又は前記核酸の空間的発現及び/若しくは時間的発現を変化させるための1つ以上の特異的な調節配列のうちの追加のコピーを含み得る。
【0273】
本明細書において使用される場合、「機能可能であるように連結している」という用語は、核酸の発現がプロモーターによって制御されるようにそのプロモーターをその核酸に対して配置することを意味する。
【0274】
細胞内での発現のための多くのベクターが利用可能である。ベクター成分には一般的に以下のシグナル配列、(例えば、本明細書において提供される情報から導出された)タンパク質をコードする配列、エンハンサー配列、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上が含まれるがこれらに限定されない。当業者は、タンパク質の発現のための適切な配列を理解する。例となるシグナル配列には原核生物分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、又は耐熱性エンテロトキシンII)、酵母分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、又は酸ホスファターゼリーダー)又は哺乳類分泌シグナル(例えば、ヘルペスシンプレックスgDシグナル)が挙げられる。
【0275】
哺乳類細胞において活性のある例となるプロモーターにはサイトメガロウイルス最初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、サルウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β-アクチンプロモーター、CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター又はそのプロモーターの活性断片を備えるハイブリッド調節配列が挙げられる。有用な哺乳類宿主細胞株の例はSV40で形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL1651)、ヒト胚性腎臓株(293細胞又は懸濁培養での増殖のためにサブクローニングされた293細胞)、ベイビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10)、又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0276】
酵母細胞、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、及び分裂酵母(S. pombe)を含む群から選択される酵母細胞での発現に適切な典型的なプロモーターには、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター、又はTEF1プロモーターが含まれるがこれらに限定されない。
【0277】
単離核酸又は同単離核酸を含む発現コンストラクトを発現用の細胞に導入するための手段は、当業者に知られている。所与の細胞に使用される技法は、公知の成功した技法に依存する。組換えDNAを細胞に導入するための手段には、何よりも、マイクロインジェクション、DEAEデキストラン介在性形質移入、リポフェクタミン(Gibco社、メリーランド州、米国)及び/又はセルフェクチン(Gibco社、メリーランド州、米国)等の使用によるリポソーム介在性形質移入、PEG介在性DNA取込み、電気穿孔法、並びにDNA被覆タングステン粒子又はDNA被覆金粒子(Agracetus社、ウィスコンシン州、米国)等の使用による微粒子ボンバードメントが挙げられる。
【0278】
前記タンパク質を生産するために使用される前記宿主細胞は、使用する細胞の種類に応じて様々な培地の中で培養され得る。HamのF10(Sigma社)、最小基本培地(MEM、Sigma社)、RPMI-1640(Sigma社)、及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma社)などの市販の培地が哺乳類細胞の培養に適切である。本明細書において考察される他の細胞種を培養するための培地が当技術分野において知られている。
【0279】
タンパク質の単離
タンパク質を単離するための方法は、当技術分野において知られている及び/又は本明細書に記載されている。
【0280】
タンパク質が培地中に分泌される場合、このような発現系に由来する上清は、最初に市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して濃縮され得る。タンパク質分解を阻害するために前工程のいずれにおいてもPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤が含まれてもよく、偶発的な混入汚染菌の増殖を防止するために抗生物質が含まれてもよい。あるいは、又は加えて、上清は、例えば連続遠心分離を用いて前記タンパク質を発現する細胞から濾過及び/又は分離され得る。
【0281】
前記細胞から調製される前記タンパク質は、例えば、イオン交換、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、親和性クロマトグラフィー(例えば、プロテインA親和性クロマトグラフィー又はプロテインGクロマトグラフィー)、又は前記手段のあらゆる組合せを用いて精製され得る。これらの方法は、当技術分野において知られており、例えば、国際公開第1999/57134号パンフレット又はEd Harlow and David Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)に記載されている。
【0282】
当業者は、タンパク質が精製又は検出を容易にするためのタグ、例えばポリヒスチジンタグ、例えばヘキサヒスチジンタグ、又はインフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)タグ、又はサルウイルス5(V5)タグ、又はFLAGタグ、又はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグを含むように改変され得ることも理解する。それにより生じるタンパク質は、後に親和性精製などの当技術分野において知られている方法を用いて精製される。例えば、ヘキサヒスチジンタグを含むタンパク質は、ヘキサヒスチジンタグに対して特異的に結合する固形担体又は半固形担体に固定化されたニトリロ三酢酸ニッケル(Ni-NTA)と前記タンパク質を含む試料を接触させ、この試料を洗浄して結合しなかったタンパク質を除去し、その後に結合したタンパク質を溶出することによって精製される。あるいは、又は加えて、タグに結合するリガンド又は抗体が親和性精製方法において使用される。
【0283】
核酸ベースのG-CSFシグナル伝達阻害剤
本開示の一例では本開示のいずれかの例に従う本明細書に記載される治療方法及び/又は予防方法は、G-CSF及び/又はG-CSFRの発現を低下させることを伴う。例えば、このような方法は、G-CSF又はG-CSFRをコードする核酸の転写及び/又は翻訳を抑制する化合物を投与することを伴う。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物はアンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、PNA、干渉RNA、siRNA、マイクロRNA等の核酸である。
【0284】
別の例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFシグナル伝達を阻害するタンパク質化合物(例えば、抗体又は抗体の抗原結合断片)をコードする核酸である。
【0285】
アンチセンス核酸
「アンチセンス核酸」という用語は、本開示のいずれかの例の本明細書に記載されるようなポリペプチドをコードする特定のmRNA分子の少なくとも一部に対して相補的であり、且つ、mRNAの翻訳などの転写後の事象に干渉することができるDNA又はRNA又はその誘導体(例えば、LNA若しくはPNA),又はそれらの組合せを意味すると理解されるものとする。アンチセンス法の使用は、当技術分野において知られている(例えば、Hartmann and Endres(編)、Manual of Antisense Methodology, Kluwer (1999)を参照されたい)。
【0286】
本開示のアンチセンス核酸は、生理学的条件下で標的核酸にハイブリダイズすることになる。アンチセンス核酸には構造遺伝子若しくはコード領域に対応する配列又は遺伝子発現若しくはスプライシングに対する制御を成立させる配列に対応する配列が含まれる。例えば、このアンチセンス核酸は、G-CSF若しくはG-CSFRをコードする核酸の標的とされるコード領域、又は5’非翻訳領域(UTR)、又は3’UTR、又はこれらの領域の組合せに対応する場合がある。このアンチセンス核酸は、転写中又は転写後にスプライシングで切り出されることがあるイントロン配列に対して部分的に相補的であり、例えばこの標的遺伝子のエクソン配列にのみ相補的である場合がある。このアンチセンス配列の長さは、G-CSF又はG-CSFRをコードする核酸の少なくとも19連続ヌクレオチド、例えば少なくとも50ヌクレオチド、例えば少なくとも100ヌクレオチド、少なくとも200ヌクレオチド、少なくとも500ヌクレオチド、又は少なくとも1000ヌクレオチドであるほうがよい。遺伝子転写物全体に対して相補的な全長配列が使用されてもよい。その長さは100ヌクレオチド~2000ヌクレオチドであり得る。前記標的転写物に対する前記アンチセンス配列の一致度は、少なくとも90%、例えば、95~100%であるほうがよい。
【0287】
G-CSF又はG-CSFRに対する例となるアンチセンス核酸は、例えば、国際公開第2011/032204号パンフレットに記載されている。
【0288】
触媒性核酸
「触媒性核酸」という用語は、ある特定の基質を特異的に認識し、この基質の化学的修飾を触媒するDNA分子若しくはDNA含有分子(「デオキシリボザイム」又は「DNAzyme」としても当技術分野において知られる)又はRNA若しくはRNA含有分子(「リボザイム」又は「RNAzyme」としても知られる)を指す。この触媒性核酸中の核酸塩基は塩基A、C、G、T(及びRNAにはU)であり得る。
【0289】
前記触媒性核酸は、標的核酸の特異的な認識に適したアンチセンス配列及び核酸切断酵素活性(本明細書では「触媒ドメイン」とも呼ばれる)を含むことが典型的である。本開示において有用なリボザイムの種類はハンマーヘッド型リボザイム及びヘアピン型リボザイムである。
【0290】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、特定のタンパク質の生産の特異的阻害に有用である。理論によって限定されるものではないが、この技術は、目的の前記遺伝子のmRNA又はそのmRNAの部分と基本的に同一である配列を含有するdsRNA分子の存在に依存しており、本事例ではG-CSF又はG-CSFRをコードするmRNA又はそのmRNAの部分と基本的に同一である配列を含有するdsRNA分子の存在に依存している。都合の良いことに、このdsRNAは、組換えベクター宿主細胞中において単一のプロモーターから産生可能であり、その場合にセンス配列とアンチセンス配列の脇に無関係の配列が配置され、この無関係の配列によってこのセンス配列とアンチセンス配列がハイブリダイズして前記dsRNA分子を形成することが可能になり、この無関係の配列はループ構造を形成する。本開示に適切なdsRNA分子の設計と作製は、具体的に国際公開第99/32619号パンフレット、国際公開第99/53050号パンフレット、国際公開第99/49029号パンフレット、及び国際公開第01/34815号パンフレットを考慮すると充分に当業者の能力の範囲内にある。RNAi用のこのようなdsRNA分子には短鎖ヘアピンRNA(shRNA)及び二機能性shRNAが含まれるがこれらに限定されない。
【0291】
ハイブリダイズする前記センス配列及びアンチセンス配列の長さは、それぞれ少なくとも19連続ヌクレオチド、例えば少なくとも30ヌクレオチド又は50ヌクレオチド、例えば少なくとも100ヌクレオチド、少なくとも200ヌクレオチド、少なくとも500ヌクレオチド、又は少なくとも1000ヌクレオチドであるほうがよい。遺伝子転写物全体に対応する全長配列が使用されてもよい。その長さは100ヌクレオチド~2000ヌクレオチドであり得る。前記標的転写物に対する前記センス配列及びアンチセンス配列の一致度は、少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば95~100%であるほうがよい。
【0292】
例となる低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、前記標的mRNAの約19~21連続ヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を備える。例えば、前記siRNA配列は、ジヌクレオチドAAで始まり、約30~70%(例えば、30~60%、例えば、40~60%、例えば約45%~55%)のGC含量を有し、且つ、標準的なBLAST検索等で測定すると、前記siRNA配列が導入される哺乳類動物のゲノム中の前記標的以外のどのヌクレオチド配列とも高いパーセンテージの同一性を有しない。
【0293】
アプタマー
別の例では化合物は核酸アプタマー(適合可能オリゴマー)である。アプタマーは、タンパク質又は小分子などの特定の標的分子、例えばG-CSF又はG-CSFRに結合する能力を付与する二次構造及び/又は三次構造を形成することができる一本鎖オリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド類似体である。したがって、アプタマーは抗体に類似するオリゴヌクレオチドである。一般に、アプタマーは約15ヌクレオチド~約100ヌクレオチド、例えば約15ヌクレオチド~約40ヌクレオチド、例えば約20ヌクレオチド~約40ヌクレオチドを含み、これはこれらの範囲内にある長さのオリゴヌクレオチドは従来法によって調製可能であるからである。
【0294】
アプタマーは、アプタマーライブラリーから単離又は特定され得る。アプタマーライブラリーは、ランダムオリゴヌクレオチドをベクターに(又はRNAアプタマーの場合では発現ベクターに)クローニングすることにより作成され、PCRプライマーの結合部位となる既知配列をこのランダム配列の脇に配置する。前記所望の生物活性を付与するアプタマー(例えば、G-CSF又はG-CSFRに対して特異的に結合するアプタマー)が選択される。活性が上昇したアプタマーは、例えば、SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化)法を用いて選択される。アプタマーライブラリーの作成及び/又はスクリーニングに適切な方法は、例えば、Elloington and Szostak, Nature 346:818‐22, 1990、米国特許第5270163号明細書、及び/又は米国特許第5475096号明細書に記載されている。
【0295】
化合物の活性のアッセイ
G-CSFR及びG-CSFRの変異体に対する結合
当業者は、本開示のいくつかの化合物がG-CSFRのリガンド結合ドメイン及び特定の変異体型のhG-CSFRのリガンド結合ドメイン(例えば、特定の点突然変異を有しない又は有する配列番号1)に結合し、並びに/又はヒト及びカニクイザルの両方のG-CSFRに結合することを本明細書中の開示から理解することになる。タンパク質への結合を評価するための方法は、例えばScopesの著作(Protein purification: principles and practice、第3版、Springer Verlag、1994年内)に記載されているように、当技術分野において知られている。このような方法は、前記タンパク質を標識すること、及び固定化された化合物と前記タンパク質を接触させることを伴うことが一般的である。非特異的に結合したタンパク質を除去するために洗浄した後に標識の量、及び結果として結合したタンパク質の量が検出される。当然、前記タンパク質を固定化し、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物を標識する場合も可能である。パンニング型のアッセイも使用可能である。あるいは、又は加えて、表面プラズモン共鳴アッセイが使用可能である。
【0296】
上記のアッセイは、hG-CSFR又はhG-CSFRのリガンド結合ドメイン(例えば、配列番号1)又は変異体型のhG-CSFRに対する化合物の結合レベルを検出するためにも使用可能である。
【0297】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置167のリシンについてアラニンが置換されており、及び/又は配列番号1の位置168のヒスチジンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1に結合するのと実質的に同じレベル(例えば、10%以内、又は5%以内、又は1%以内)で結合する。
【0298】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置287のアルギニンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約100倍、又は少なくとも約150倍、又は少なくとも約160倍、又は少なくとも約200倍低いレベルで結合する。一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置287のアルギニンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約160倍低いレベルで結合する。
【0299】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置237のヒスチジンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約20倍、又は少なくとも約40倍、又は少なくとも約50倍、又は少なくとも約60倍低いレベルで結合する。一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置237のヒスチジンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約50倍低いレベルで結合する。
【0300】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置198のメチオニンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約20倍、又は少なくとも約40倍、又は少なくとも約60倍、又は少なくとも約70倍低いレベルで結合する。一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置198のメチオニンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約40倍低いレベルで結合する。
【0301】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置172のチロシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約20倍、又は少なくとも約30倍、又は少なくとも約40倍低いレベルで結合する。一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置172のチロシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約40倍低いレベルで結合する。
【0302】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置171のロイシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約100倍、又は少なくとも約120倍、又は少なくとも約130倍、又は少なくとも約140倍低いレベルで結合する。一例では本開示のタンパク質は、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも配列番号1の位置171のロイシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、少なくとも約140倍低いレベルで結合する。
【0303】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置111のロイシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約20倍、又は少なくとも約40倍、又は少なくとも約60倍、又は少なくとも約70倍低いレベルで結合する。一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置111のロイシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも少なくとも約60倍低いレベルで結合する。
【0304】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置168のヒスチジンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも5倍以下、又は4倍以下、又は3倍以下、又は2倍以下、又は1倍以下低いレベルで結合する。
【0305】
一例では本開示のタンパク質は、配列番号1の位置167のリシンについてアラニンが置換されている配列番号1のポリペプチドに対し、そのタンパク質が配列番号1のポリペプチドに結合するときよりも5倍以下、又は4倍以下、又は3倍以下、又は2倍以下、又は1倍以下低いレベルで結合する。
【0306】
前記結合レベルは、バイオセンサを用いて便利に決定される。
【0307】
本開示は、前述の特徴のあらゆる組合せを企図している。一例では本明細書に記載されるタンパク質は、先行する7段落の中で記載されている結合特性の全てを有している。
【0308】
エピトープマッピング
別の例では本明細書に記載されるタンパク質が結合する前記エピトープがマップされる。当業者はエピトープマッピング法を認識することになる。例えば、目的のエピトープ、例えば10~15アミノ酸を含むペプチドを含むhG-CSFR配列又はhG-CSFR配列の領域に及び一連の重複ペプチドが作製される。その後、前記タンパク質を各ペプチドに接触させ、前記タンパク質が結合するペプチドが決定される。これにより、前記タンパク質が結合する前記エピトープを含むペプチドが決定される。前記タンパク質が複数の非連続ペプチドに結合する場合、前記タンパク質は立体構造エピトープに結合し得る。
【0309】
あるいは、又は加えて、アラニンスキャニング突然変異形成等によってhG-CSFR内のアミノ酸残基に変異を形成し、タンパク質結合を抑制又は阻止する突然変異が決定される。前記タンパク質の結合を抑制又は阻止するどの突然変異も前記タンパク質が結合するエピトープの内部にある可能性がある。
【0310】
その他の方法が本明細書において例示され、その方法は、hG-CSFR又はhG-CSFRの領域を本開示の固定化タンパク質に結合させること、及びそれにより生じる複合体をプロテアーゼで消化することを伴う。その後、その固定化タンパク質に結合したままであるペプチドが単離され、そしてマススペクトロメトリー等を用いて分析してそれらのペプチドの配列が決定される。
【0311】
その他の方法は、hG-CSFR又はhG-CSFRの領域の中の水素を重陽子に変換すること、及びそれにより生じるタンパク質を本開示の固定化タンパク質に結合させることを伴う。その後、それらの重陽子が水素に戻され、hG-CSFR又はhG-CSFRの領域が単離され、酵素で消化され、そしてマススペクトロメトリー等を用いて分析して酵素で消化され、そしてマススペクトロメトリー等を用いて分析して本明細書に記載されるタンパク質の結合によって水素への転換が防止されたと考えられる重陽子を含む領域が特定される。
【0312】
所望により、hG-CSFR又はhG-CSFRのエピトープに対するタンパク質の解離定数(Kd)が決定される。hG-CSFR結合タンパク質の「Kd」又は「Kd値」は、一例では放射性標識又は蛍光標識hG-CSFR結合アッセイによって測定される。このアッセイは、滴定シリーズの未標識hG-CSFRが存在する状態で前記タンパク質を最小濃度の標識済みG-CSFRと平衡させる。未結合のhG-CSFRを除去するために洗浄した後に標識の量が決定され、その量が前記タンパク質のKdを表す。
【0313】
別の例によると、前記Kd又はKd値は、表面プラズモン共鳴アッセイを用いることにより、例えば固定化されたhG-CSFR又はhG-CSFRの領域と共にBIAcore表面プラズモン共鳴(BIAcore社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を用いることにより測定される。
【0314】
いくつかの例ではC1.2又はC1.2Gと類似のKd又はより高いKdを有するタンパク質は、hG-CSFRへの結合について競合する可能性があるため、これらのタンパク質が選択される。
【0315】
競合的結合の測定
当業者は、モノクローナル抗体C1.2又はC1.2Gの結合を競合的に抑制するタンパク質を決定するためのアッセイを認識することになる。例えば、C1.2又はC1.2Gに検出可能標識、例えば蛍光標識又は放射性標識を結合させる。その後、hG-CSFR若しくはhG-CSFRの領域(例えば、配列番号1を備えるポリペプチド)又はhG-CSFR若しくはhG-CSFRの領域を発現する細胞とこの抗体及び前記被験タンパク質を混合し、接触させる。その後、標識済みC1.2又はC1.2Gの量を決定し、前記タンパク質が存在しない状態で前記標識済み抗体が前記hG-CSFR、前記領域、又は前記細胞と接触したときに決定された量と前記量を比較する。標識済みC1.2又はC1.2Gの量が前記被験タンパク質の存在時に前記タンパク質の不在時よりも減少する場合に前記タンパク質はhG-CSFRへのC1.2又はC1.2Gの結合を競合的に抑制すると考えられる。
【0316】
所望により、前記被験タンパク質にはC1.2又はC1.2Gの標識とは異なる標識を結合させる。この交互の標識により、hG-CSFR又はhG-CSFRの前記領域又は前記細胞への前記被験タンパク質の結合レベルが検出される。
【0317】
別の例では前記タンパク質は、C1.2又はC1.2GとhG-CSFR又はhG-CSFRの領域(例えば、配列番号1を備えるポリペプチド)又はhG-CSFR若しくはhG-CSFRの領域を発現する細胞が接触する前に前記hG-CSFR、前記領域、又は前記細胞に結合するようにされる。前記タンパク質が存在しないときと比較して前記タンパク質が存在する状態でのC1.2又はC1.2Gの結合量の減少は、前記タンパク質がhG-CSFRへのC1.2又はC1.2Gの結合を競合的に抑制することを示している。交互アッセイも、標識済みタンパク質を使用し、そして最初にC1.2又はC1.2GをG-CSFRに結合させて実施され得る。この場合、C1.2又はC1.2Gが存在しないときと比較してC1.2又はC1.2Gが存在する状態でhG-CSFRに結合した標識済みタンパク質の量が減少することは、前記タンパク質がhG-CSFRへのC1.2又はC1.2Gの結合を競合的に抑制することを示している。
【0318】
前述のアッセイのいずれも、変異体型のhG-CSFR及び/又は配列番号1及び/又はC1.2若しくはC1.2Gが結合するhG-CSFRのリガンド結合領域、例えば本明細書に記載されるようなリガンド結合領域を用いて実施可能である。
【0319】
G-CSFシグナル伝達の阻害の測定
本開示のいくつかの例では化合物はhG-CSFRシグナル伝達を無効にすることができる。
【0320】
受容体を介したリガンドのシグナル伝達を無効にする化合物の能力を評価するための様々なアッセイが当技術分野において知られている。
【0321】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、hG-CSFRへのG-CSFの結合を抑制又は阻止する。これらのアッセイは、標識済みG-CSF及び/又は標識済みタンパク質を使用する本明細書に記載されるような競合的結合アッセイとして実施され得る。
【0322】
別の例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFが存在する状態でCD34骨髄細胞が培養されるときにCFU-Gの形成を抑制する。このようなアッセイでは被験化合物が存在する又は存在せず、且つ、G-CSFが存在し(例えば、約10ng/ml細胞培養培地)、所望により幹細胞因子が存在する(例えば、約10ng/ml細胞培養培地)状態で半固体細胞培養培地の中にCD34骨髄細胞が培養される。顆粒球クローン(CFU-G)の形成に充分な時間が経過した後にクローン又はコロニーの数が決定される。G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が存在しないときと比較してG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が存在する状態でコロニー数が減少することは、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物がG-CSFシグナル伝達を無効にすることを示している。複数の濃度のG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物を試験することにより、IC50、すなわちCFU-G形成阻害の最大値の50%が起こる濃度が決定される。一例ではこのIC50は0.2nM以下、例えば0.1nM以下、例えば0.09nM以下、又は0.08nM以下、又は0.07nM以下、又は0.06nM以下、又は0.05nM以下である。一例ではこのIC50は0.04nM以下である。別の例ではこのIC50は0.02nM以下である。前述のIC50は、本明細書に記載されるどのCFU-Gアッセイにも関連する。
【0323】
その他の例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFが存在する状態で培養されるhG-CSFRを発現する細胞(例えば、BaF3細胞)の増殖を抑制する。細胞は、被験化合物が存在する又は存在せず、且つ、G-CSFが存在する(例えば、0.5ng/ml)状態で培養される。細胞増殖を評価するための方法は、当技術分野において知られており、それらの方法は、例えば、MTT還元及びチミジン取込みを含む。前記化合物が存在しない状態で観察されるレベルと比較して増殖レベルを低下させる化合物は、G-CSFシグナル伝達を無効にすると考えられる。複数の濃度の前記化合物を試験することにより、IC50、すなわち細胞増殖阻害の最大値の50%が起こる濃度が決定される。一例ではこのIC50は6nM以下、例えば5.9nM以下である。別の例ではこのIC50は2nM以下、又は1nM以下、又は0.7nM、又は細胞、又は0.6nM以下、又は0.5nM以下である。前述のIC50は、本明細書に記載されるどの細胞増殖アッセイにも関連する。
【0324】
その他の例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、G-CSFの投与後にインビボで造血幹細胞及び/若しくは内皮始原細胞の動員を抑制し、並びに/又は(必須ではないが)例えばG-CSFの投与後にインビボで好中球の数を減少させる。例えば、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、所望によりG-CSF又は修飾型のG-CSF(例えば、PEG化G-CSF若しくはフィルグラスチム)の投与前、投与時、又は投与後に投与される。造血幹細胞(例えば、CD34及び/又はThy1を発現するもの)の数及び/又は内皮始原細胞(例えば、CD34及びVEGFR2を発現するもの)の数及び/又は好中球(形態学的に特定される並びに/又は例えばCD10、CD14、CD31、及び/若しくはCD88を発現するもの)の数が評価される。前記化合物が存在しない状態で観察される量と比較して前記細胞の量を低下させる化合物は、G-CSFシグナル伝達を無効にすると考えられる。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、好中球減少症を誘導することなく好中球の数を減少させる。
【0325】
G-CSFシグナル伝達の無効化を評価するための他の方法が本開示によって企図されている。
【0326】
エフェクター機能の測定
本明細書において考察されるように、本開示のいくつかのタンパク質はエフェクター機能を低下させている。ADCC活性を評価するための方法は、当技術分野において知られている。
【0327】
一例ではADCC活性のレベルは、51Cr放出アッセイ、ユウロピウム放出アッセイ、又は35S放出アッセイを用いて評価される。これらのアッセイの各々において、G-CSFRを発現する細胞は、列挙されたG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物のうちの1つ以上と共に、前記細胞が前記化合物を取り込むために充分な時間と条件下で培養される。35S放出アッセイの場合ではhG-CSFRを発現する細胞は、35S標識済みのメチオニン及び/又はシステインと共に、新規合成されるタンパク質の中にこれらの標識済みアミノ酸が取り込まれるために充分な時間にわたって培養され得る。この後で細胞は、前記タンパク質が存在又は存在せず、且つ、免疫エフェクター細胞、例えば末梢血単核細胞(PBMC)及び/又はNK細胞が存在する状態で培養される。その後、細胞培養培地中の51Crの量、ユウロピウムの量、及び/又は35Sの量が検出され、前記タンパク質が存在しないときと比べて前記タンパク質が存在するときにほとんど又は全く変化が無いこと(又はヒトIgG1 Fcを備える抗hG-CSFR抗体が存在する状態で観察されるレベルと比較して前記化合物のレベルが低下していること)は、前記タンパク質がエフェクター機能を低下させていることを示す。タンパク質により誘導されるADCCのレベルを評価するためのアッセイを開示する例となる刊行物にはHellstrom, et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 83:7059-7063, 1986及びBruggemann, et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361, 1987が含まれる。
【0328】
タンパク質により誘導されるADCCのレベルを評価するための他のアッセイにはフローサイトメトリー用ACTI(商標)非放射性細胞傷害アッセイ(CellTechnology社、カリフォルニア州、米国)又はCytoTox96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイ(Promega社、ウィスコンシン州、米国)が含まれる。
【0329】
C1q結合アッセイは、前記タンパク質がC1qに結合可能であり、CDCを誘導する可能性があることを確認するためにも実施され得る。CDCアッセイは、補体活性化を評価するために実施され得る(例えば、Gazzano-Santoro et al, J. Immunol. Methods 202: 163, 1996を参照されたい)。
【0330】
半減期の決定
本開示が包含するいくつかのタンパク質は改善された半減期を有し、それらのタンパク質は、例えば、未改変のタンパク質と比較して半減期が延長されるように改変されている。当業者は、改善された半減期を有するタンパク質を測定するための方法を認識することになる。例えば、新生児Fc受容体(FcRn)に結合するタンパク質の能力が評価される。この点に関し、増加したFcRnに対する結合親和性は、前記分子の血清半減期を増加させた(例えば、Kim et al., Eur J Immunol., 24:2429, 1994を参照されたい)。
【0331】
本開示のタンパク質の半減期は、薬物動態学的研究によって、例えばKim et al, Eur J of Immunol 24:542, 1994が説明する方法に従って測定されることも可能である。本方法によると、放射性物質で標識したタンパク質がマウスに対して静脈内注射され、その放射性物質で標識したタンパク質の血漿中濃度が、例えばその注射の3分後から72時間後まで時間の関数として定期的に測定される。あるいは、又は加えて、非放射性物質で標識したタンパク質は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて検出可能である。このようにして得られたクリアランス曲線は二相、すなわちアルファ相とベータ相からなるはずである。前記タンパク質のインビボ半減期を決定するため、ベータ相のクリアランス速度が計算され、前記野生型又は未改変型のタンパク質のクリアランス速度と比較される。
【0332】
治療有効性
G-CSFシグナル伝達を阻害する化合物の治療有効性は、前記化合物が投与された対象における前記疾患又は症状の重症度を前記化合物が投与されなかった対象に対して比較することによって評価され得る。あるいは、又は加えて、候補化合物の治療有効性は、動物モデルにおいて評価され得る。
【0333】
気管内リポ多糖(LPS)誘発性肺炎は、ARDSのよく知られており、且つ、充分に文書で説明されている動物モデルである(例えば、Matute-Bello et al., 2011, Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 44, 725‐738、Orfanos et al., 2004, Intensive Care Med. 30, 1702‐1714、Tsushima et al., 2009, Intern. Med. 48, 621‐630を参照されたい)。特に、動物にLPSを気管内投与するモデルは、血管の質の低下、好中球浸潤、及び肺の空間内でのタンパク質に富む液体の蓄積(Dagvadorj et al., 2015, Immunity 42, 640‐653)を含むいくつかの重要なARDSの病理過程を再現するため、この気管内モデルが他の類似のモデル(例えば、鼻腔内投与)よりも好ましい。
【0334】
ARDSのLPS誘発性動物モデルにおいて、候補化合物は、適切な対照(すなわち、プラセボ)と比較して前記動物の肺の炎症の程度を測定することにより有効性を評価され得る。肺の炎症は、気管支肺胞洗浄(BAL)に由来する細胞数の測定、並びにBALF中及び肺柔組織ホモジェネート中の総タンパク質量又は炎症促進性サイトカイン量の測定により評価され得る。肺におけるLPS誘発透過性(すなわち、急性肺損傷の程度)が測定されることも可能である。
【0335】
いくつかの例では化合物の治療有効性を評価することは、前記対象におけるバイオマーカーの発現レベルを検出すること及び/又は定量することを含む。ARDS治療の有効性を評価するための適切なバイオマーカーにはG-CSF、プラスミノーゲン活性化抑制因子-1(PAI-1)、Dダイマー、好中球エラスターゼ、可溶性AGE受容体(sRAGE)、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン1β(IL-1β)、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12p70、IL-13、及び腫瘍壊死因子α(TNF-α)が挙げられる。
【0336】
バイオマーカーの検出及び/又は定量は、当技術分野において知られているあらゆる方法によって実施され得る。例えば、一例ではバイオマーカーのレベルは、マススペクトロメトリーを用いて評価される。このマススペクトロメトリーは超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフィー/マススペクトロスコピー(GC/MS)、及びUPLC等と併せて実施されてもよい。バイオマーカーのレベルを評価するための他の方法には、限定されないが、ELISAアッセイ、ウェスタンブロット、及び多重免疫アッセイ等の生物学的方法が含まれる。他の技法には定量的アレイ、PCR、ノーザンブロット分析を用いることが含まれる場合がある。成分又は因子のレベルを決定するためには、成分全体、例えば完全長タンパク質又はRNA転写物全体が存在している又は完全に配列解析される必要は無い。言い換えると、分析中のタンパク質断片等のレベルを決定することは、分析中の前記バイオマーカーのレベルが増加又は減少することを結論付ける又は評価するために充分であり得る。同様に、例えば、アレイ又はブロットが成分レベルの決定のために使用される場合、検出可能シグナルの存在/不存在/強度がバイオマーカーのレベルの評価のために充分であり得る。
【0337】
バイオマーカーのレベルを評価するため、試料が前記対象から採取され得る。その試料は、バイオマーカープロファイルの成分のレベルをアッセイする前に処理されても処理されなくてもよい。例えば、全血が個体から採取される場合があり、その血液から血漿又は血清を単離するためにその血液試料が処理される、例えば遠心分離にかけられる場合がある。この試料は処理又は分析の前に貯蔵されても貯蔵されなくてもよく、例えば凍結されても凍結されなくてもよい。
【0338】
本発明の方法で検査され得る生体試には全血、血液血清、血漿、気管吸引物、BALF、尿、唾液、又は他の体液(大便、涙液、滑液、痰)、呼気、例えば濃縮された呼気、又はそれらからの抽出物若しくは精製物、又はそれらの希釈物が含まれる。生体試料には組織ホモジェネート、組織切片、及び生存対象に由来する又は死後採取された生検試料も含まれる。これらの試料は、調製、例えば適宜希釈又は濃縮され、且つ、通常の方式で貯蔵され得る。
【0339】
組成物
いくつかの例では本明細書に記載されるような化合物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーにより、吸着により、吸収により、局所的に、直腸的に、経鼻的に、口腔に、経腟的に、脳室内的に、従来の無毒で薬学的に許容可能な担体を含む剤形の移植されたリザーバーを介して、又は他のあらゆる好都合な剤形によって投与され得る。本明細書において使用される「非経口」という用語には皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、及び頭蓋内の注射術又は輸液術が含まれる。
【0340】
化合物を投与に適切な形態(例えば、医薬組成物)に調製するための方法は、当技術分野において知られており、それらの方法には、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第18版、Mack Publishing社、イーストン、ペンシルバニア州、1990年)及びU.S. Pharmacopeia: National Formulary(Mack Publishing社、イーストン、ペンシルバニア州、1984年)に記載されるような方法が挙げられる。
【0341】
本開示の前記医薬組成物は非経口投与に有用であり、例えば静脈内投与又は皮下投与又は体腔内への投与又は臓器若しくは関節の内腔内への投与に特に有用である。投与される前記組成物は、薬学的に許容可能な担体に、例えば水性担体に溶解されたG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物の溶液を共通して含むことになる。様々な水性担体、例えば緩衝生理食塩水等が使用可能である。前記組成物は、生理学的条件に近づけるためにpH調節剤及び緩衝剤、毒性調節剤等、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等の薬学的に許容可能な補助剤を必要に応じて含んでよい。これらの製剤中の本開示の化合物の濃度は多様であってよく、選択される特定の投与モード及び患者の必要に従って主に液体の体積、粘度、体重等に基づいて選択されることになる。例となる担体には水、生理食塩水、リンゲル溶液、ブドウ糖溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが含まれる。混合油及びオレイン酸エチルなどの非水性ベヒクルも使用され得る。リポソームも担体として使用され得る。これらのベヒクルは、等張性及び化学的安定性を高める少量の添加剤、例えば緩衝剤及び保存剤を含んでよい。
【0342】
本開示の化合物は、製剤されると剤形に適合した方式且つ治療的/予防的に有効な量で投与されることになる。製剤は、上記の注射可能液剤などの様々な剤形で容易に投与されるが、他の薬学的に許容可能な剤形、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤又は経口投与に適した他の固形剤形、坐剤、膣坐剤、点鼻液剤又は点鼻スプレー剤、エアロゾル剤、吸入剤、リポソーム剤等も企図されている。薬学的「徐放性」カプセル剤又は組成物も使用され得る。徐放性製剤は、一般的に長期間にわたって一定の薬品レベルを実現するように設計されており、本開示の化合物を送達するために使用され得る。
【0343】
国際公開第2002/080967号パンフレットは、呼吸器症状の治療のための抗体を含むエアロゾル化組成物を投与するための組成物及び方法を説明しており、それらの組成物及び方法は、本開示の前記方法に従う化合物の投与にも適切である。
【0344】
併用療法
一例では本開示の化合物は、併用治療ステップ若しくは追加治療ステップとして又は治療製剤の追加成分としてARDSの治療又は予防に有用な別の治療法と組み合わせて投与される。
【0345】
いくつかの例では前記別の治療法は、ARDSを治療又は予防するために一般的に用いられる治療法である。本開示の前記方法との組合せを考慮しているARDSの治療法には肺の炎症の減少、肺胞壁の浮腫の減少、肺胞及び/又は内皮の炎症の減少、ARDSの基礎疾患の治療、及び/又は前記ARDSの別の症状の緩和を伴う治療法が含まれる。前記別の治療法は化合物、細胞、若しくは他の分子の投与を含む場合があり、並びに/又は前記別の治療法は物理的若しくは機械的な形の治療法、例えば人工呼吸及び腹臥位を含む場合がある。
【0346】
いくつかの例では前記別の治療法は、腹臥位、体液管理、酸素投与、人工呼吸(高頻度振動換気法を含むがこれに限定されない新式の機械的換気を含む)、グルココルチコイド、界面活性剤、吸入一酸化窒素、抗酸化剤、プロテアーゼ阻害剤、組換えヒト活性化型プロテインC、β2-アゴニスト、リソフィリン、スタチン、吸入ヘパリン、利尿薬、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、抗ウイルス薬、抗生物質、吸入プロスタサイクリン、吸入合成プロスタサイクリン類似体、ケトコナゾール、アルプロスタジル、表皮細胞増殖因子、β刺激薬、TS因子7aに対するヒトmAb、インターフェロン受容体アゴニスト、インスリン、パーフルオロカーボン、ブデソニド、組換えヒトACE、組換えヒトCC10タンパク質、組織プラスミノーゲン活性化因子、ヒト間葉系幹細胞、又は栄養療法を含む。併用療法の他の例では前記別の治療法は、例えばメチルプレドニソロン、デキサメタゾン、プレドニゾン、プレドニソロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドブデソニド、及びベクロメタゾンなどのグルココルチコイド、例えばアルブテロールなどのβ刺激薬、リソフィリン、ロスバスタチン、吸入ヘパリン、吸入一酸化窒素、組換えヒト活性化型プロテインC、例えばイブプロフェン、ナプロキセン、及びアセトアミノフェンなどのNSAIDS、ベシル酸シサトラクリウム、プロシステイン、アセチルシステイン、吸入プロスタサイクリン、ケトコナゾール、アルプロスタジル、表皮細胞増殖因子、TS因子7aに対するヒトmAb、インスリン、パーフルオロカーボン、組換えヒトACE、組換えヒトCC10タンパク質、組織プラスミノーゲン活性化因子、ヒト間葉系幹細胞、又はオメガ-3脂肪酸、抗酸化剤、及びγ-リノレン酸の同等カロリーを持つ食物との組合せなどの栄養療法、並びに体外式膜型人工肺(ECMO)である。
【0347】
NSAIDSにはアスピリン、アセトアミノフェン、ジフルニサル、サルサラート、イブプロフェン、デキシプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、インドメタシン、トルメティン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ナブメトン、ジクロフェナク、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、セレコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、及びフィロコキシブが挙げられるがこれらに限定されない。
【0348】
鎮痛剤にはNSAIDS及びオピオイド(麻薬)が挙げられるがこれらに限定されない。オピオイドにはデキストロプロポキシフェン、コデイン、トラマドール、タペンタドール、アニレリジン、α-プロジン、ペチジン、ヒドロコドン、モルヒネ、オキシコドン、メサドン、ジアモルフィン、ヒドロモルフォン、オキシモルホン、レボルファノール、7-ヒドロキシミトラギニン、ブプレノルフィン、フェンタニル、スフェンタニル、ブロマドール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、及びカルフェンタニルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0349】
グルココルチコイドにはヒドロコルチゾン、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニソロン、メチルプレドニソロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、又はフルドロコルチゾンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0350】
いくつかの例では前記別の治療法は標準治療である。ARDSを治療又は予防するために一般的に用いられる標準治療には基礎症状(例えば、感染症)の治療、機械的又は非侵襲的換気、体液血行動態治療、腹臥位、日和見感染の治療、栄養、及び薬物治療が挙げられる。例えば、集中治療医学会(FICM)及び集中治療学会(ICS)は近年、ARDSの成人患者向けの標準治療についてのガイドラインを公開した(Griffiths et al., 2019, BMJ Open Resp Res 6:e000420)。機械的換気が必要である場合、少量の一回換気量(理想体重当たり6ml/kg未満)及び低い気道内圧(30cmHO未満の定常圧)の使用が推奨された。中等症/重症ARDS(150mmHg以下のPaO/FiO比)の患者については一日当たり少なくとも12時間にわたる腹臥位が推奨された。全ての患者に保存的体液管理戦略の使用が示唆され、高呼気終末陽圧を用いる機械的換気及び神経筋遮断薬であるシサトラクリウムの48時間にわたる使用が吸気酸素濃度に対する動脈血酸素分圧の比(PaO/FiO)が200mmHg以下であるARDSの患者及び150mmHg以下であるARDSの患者についてそれぞれ示唆された。体外式膜型人工肺が非常に重症のARDSの患者について保護機械的換気の補助として示唆された。本開示の前記方法は、ARDSの治療又は予防のための上記の治療法のうちのいずれかと組み合わせて実施され得る。
【0351】
いくつかの例では前記別の治療法は、ARDSの基礎疾患を治療するために用いられる治療法である。例えば、一例では前記別の治療法は、(例えば、ARDSの基礎疾患が感染症である場合では)抗ウイルス薬又は抗生物質の投与を含む。一例では前記別の治療法はレムデシビルの投与を含む。
【0352】
一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記別の治療法と同時に投与される。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記別の治療法の前に投与される。一例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記別の治療法の後に投与される。
【0353】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、細胞と併用投与される。いくつかの例ではこの細胞は幹細胞、例えば間葉系幹細胞である。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、遺伝子療法と併用投与される。
【0354】
投与量及び投与のタイミング
本開示の化合物の適切な投与量は、前記特定の化合物及び/又は治療を受ける前記対象に応じて変化することになる。適切な投与量を決定することは熟練の医師の能力の内にあり、例えば最適に近い投与量から開始して投与量を徐々に増やすことにより最適又は有用な投与量を決定する。あるいは、治療のための適切な投与量を決定するために細胞培養アッセイのデータ又は動物モデルのデータを使用することができ、その場合に適切な用量は、毒性がほとんど又は全くない前記活性化合物のED50を含む循環濃度範囲内にある。この投与量は、使用される剤形及び利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化し得る。治療有効用量は最初に細胞培養アッセイから推定され得る。細胞培養において測定されるIC50(すなわち、症状の抑制の最大値の半分を達成する前記化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度を達成するように用量が動物モデルにおいて策定され得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。血漿中濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。
【0355】
いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、全身投与される。いくつかの例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、局所投与される。
【0356】
いくつかの例では本開示の方法は、治療有効量の本明細書に記載される化合物の投与を含む。
【0357】
「治療有効量」という用語は、投与されると前記対象の予後及び/若しくは状態を改善する量、並びに/又はARDSの1つ以上の症状をその症状の臨床診断に役立つレベルよりも下のレベル若しくはその症状に特徴的なレベルよりも下のレベルにまで低減若しくは抑制する量である。あるいは、治療有効量は、投与されるとARDSの1つ以上の症状の発症又は悪化を妨げる量である。投与量は、治療されるARDSのサブタイプの具体的な特徴、治療されている症状の種類と病期、投与モード、並びに前記対象の特徴、例えば一般健康状態、他の疾患、年齢、性別、遺伝子型、及び体重に依存することになる。当業者は、これらの要因及び他の要因に応じて適切な投与量を決定することができる。よって、この用語は、本開示を特定の量、例えば化合物の重量又は物質量に限定すると解釈されてはならず、むしろ本開示は、表示されている結果を対象において達成するために充分なあらゆる量のG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物を包含する。一例では治療有効量のG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は好中球減少症を誘導しない。
【0358】
いくつかの例では本開示の方法は、予防有効量の本明細書に記載される化合物の投与を含む。本明細書において使用される場合、「予防有効量」という用語は、ARDSの1つ以上の検出可能な症状の発症を阻止するため、妨害するため、又は遅らせるための充分な化合物の量を意味すると理解されるものとする。当業者は、このような量が、例えば、投与されるその特定の化合物、及び/又はその特定の対象、及び/又は症状の種類若しくは重症度若しくはレベル、及び/又はその症状になりやすい(遺伝的又は他の)体質に応じて変化することを理解する。よって、この用語は、本開示を特定の量、例えば化合物の重量又は物質量に限定すると解釈されてはならず、むしろ本開示は、表示されている結果を対象において達成するために充分なあらゆる量のG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物を包含する。一例では予防有効量のG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は重症の好中球減少症を誘導しない。
【0359】
本明細書に記載される前記化合物のインビボ投与については、通常の投与量は一日当たり個体の体重に対して約10ng/kgから最大で約100mg/kg以上まで変化し得る。例となる投与量及び投与量の範囲は本明細書に記載されている。数日以上の期間にわたる反復投与については、治療される前記疾患又は障害の重症度に応じ、望まれている症状の抑制が達成されるまでその治療が継続されることが可能である。
【0360】
一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと1mg/kgとの間の用量で投与される。一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと0.9mg/kgとの間の用量で投与され、例えば、0.1mg/kgと0.8mg/kgとの間の用量、例えば0.1mg/kgと0.6mg/kgとの間の用量で投与される。この文脈の中で使用される場合、「間」という用語は、明示された範囲の各終端において列挙されている値を含む。
【0361】
一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと0.8mg/kgとの間の用量で投与される。一例では前記タンパク質は0.3mg/kgと0.6mg/kgとの間の用量で投与される。一例では前記タンパク質は0.1mg/kgと0.6mg/kgとの間の用量で投与される。一例では前記タンパク質は0.1mg/kg又は0.3mg/kg又は0.6mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.1mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.2mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.3mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.4mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.5mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.6mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.7mg/kgの用量で投与される。一例では前記タンパク質は約0.8mg/kgの用量で投与される。
【0362】
いくつかの例では前記タンパク質は複数回にわたって投与される。複数の用量が投与される場合、上記の用量のいずれかを組み合わせることができる。
【0363】
いくつかの例では後続の用量について2日~5日の間隔が空けられる。後続のそれぞれの用量と用量とを分ける期間は、同じでも異なっていてもよい。
【0364】
いくつかの例では1負荷用量とその負荷用量よりも低い後続の1維持用量以上のG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物が投与される。
【0365】
治療に対して適切に応答しない対象の場合では一週間に複数の用量が投与され得る。あるいは、又は加えて、用量を増やしてそれらの用量が投与されてもよい。
【0366】
別の例では、有害反応が発生した対象に対しては、前記初期(又は負荷)用量は1週間の中の数日にわたって又は連続数十日間にわたって分割されてもよい。
【0367】
本開示の前記方法に従う化合物の投与は、例えば、受容者の生理学的条件、その投与の目的が治療であるのか又は予防であるのか、及び当業者に知られている他の要因に応じて連続的投与又は断続的投与であり得る。化合物の投与は、あらかじめ選択した期間にわたって基本的に連続的であってよく、又は間隔を空けた一連の投与回に例えば症状の発症時若しくは発症後に投与されてよい。
【0368】
別の例ではG-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物は、前記対象において連続7日を超える期間にわたってグレード3又はグレード4の好中球減少症を引き起こさずに循環好中球を減少させるために充分な量で投与される。
【0369】
キット
本開示の別の例は、上記のARDSの治療又は予防に有用な化合物を含むキットを提供する。
【0370】
一例では前記キットには(a)本明細書に記載されるようなG-CSFシグナル伝達を阻害する化合物を含んでいる容器であって、所望により薬学的に許容可能な担体又は希釈剤の中の前記化合物を含んでいる容器、及び(b)対象においてARDSの作用を治療するため、予防するため、又は抑制するための指示を含む添付文書が含まれる。
【0371】
本開示のこの例によると、この添付文書は前記容器上にあるか、又は前記容器に付けられている。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル瓶、注射筒等が挙げられる。前記容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。前記容器は、前記ARDSの治療又は予防に有効な組成物を保持又は包含し、前記容器は滅菌アクセスポートを有してよい(例えば、前記容器は、皮下注射針を突き刺すことができるストッパーを有する静脈内輸液バッグ又はバイアル瓶であってよい)。前記組成物中の少なくとも1種類の活性薬剤は、G-CSFシグナル伝達を阻害する前記化合物である。このラベル又は添付文書は、治療を受けるのに相応しい対象、例えばARDSを有する対象又はARDSを発症するリスクがある対象に前記組成物が投与されることを投与中の化合物及び他のあらゆる医薬品の投与量及び投与間隔についての具体的な指針と共に表示している。前記キットは、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル溶液、及び/又はブドウ糖溶液などの薬学的に許容可能な希釈用緩衝液を含む追加の容器をさらに含む場合がある。前記キットは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、注射針、及び注射筒を含む商業的視点及び使用者視点から望ましい他の材料をさらに含む場合がある。
【0372】
本開示は以下の非限定的な実施例を含む。
【実施例
【0373】
実施例1:健常成人被験者に投与されるG-CSFRに結合する抗体であるC1.2Gの安全性、薬物動態学(PK)、及び薬力学(PD)
第1相治験を実施して健常被験者におけるCSL324(本明細書ではC1.2Gとも呼ばれる)の単回漸増用量(パートA及びパートB)静脈内(IV)注入及び反復(パートC)静脈内(IV)注入の安全性及び忍容性を評価した。
【0374】
方法
前記治験は、健常ヒト被験者における静脈内(IV)CSL324の単回漸増用量及び反復用量の安全性、忍容性、PK、及び薬力学(PD)を評価するファースト・イン・ヒューマン単一施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験であった。この試験はパートA、パートB、及びパートCの3パートから構成された。用量の選択を指導するために安全性審査委員会(SRC)が通常の盲検下レビューを安全性データ、忍容性データ、PKデータ、及び選択されたPDデータについて実施した。この治験は、オーストラリアニュージーランド治験登録機関(ANZCTR)において登録番号ACTRN12616000846426、「健康な成人におけるCSL324の安全性及び忍容性を評価するための用量漸増プラセボ対照第1相試験」という表題で説明されている。
【0375】
パートA:単回漸増用量
パートAは、5連続群(第A1群~第A5群)に投与された単回漸増用量のCSL324を評価した。各群は、CSL324(n=4人)又はプラセボ(n=2人)のどちらかを1日目に受けるように無作為に割り当てられた6人の被験者を含んだ。これらの5連続群については0.1mg/kg、0.3mg/kg、1.0mg/kg、3.0mg/kg、及び10mg/kgのCSL324の単回漸増用量を計画した。SRCの推奨で最も高い投与用量は1.0mg/kgのCSL324であり(第A3群)、第A4群及び第A5群はそれぞれ0.6mg/kg及び0.8mg/kgのCSL324を受け取った。85日目まで被験者をフォローアップした。
【0376】
パートB:G-CSF負荷を含む単回漸増用量
パートBは、G-CSF負荷時の単回用量のCSL324を評価した。第B1群、第B2群、及び第B3群は、CSL324(n=3人)又はプラセボ(n=1人)のどちらかを1日目に受けるように無作為に割り当てられた4人の被験者をそれぞれ含んだ。SRCの推奨で第B1群は0.1mg/kgのCSL324を受け、第B2群及び第B3群はそれぞれ0.3mg/kg及び0.8mg/kgのCSL324を受け取った。CSL324の前後(3日前、2日前、1日前、1日目、2日目、及び3日目)に負荷用量のG-CSF(5μg/kgのフィルグラスチム)を被験者に投与した。第B4群は、CSL324(n=4人)又はプラセボ(n=2人)のどちらかを1日目に受けるように無作為に割り当てられた6人の被験者を含んだ。被験者は0.8mg/kgのCSL324を受け、CSL324後(2日目、3日目、及び4日目)にのみ負荷用量のG-CSF(5μg/kgのフィルグラスチム)を投与された。85日目まで被験者をフォローアップした。
【0377】
パートC:反復用量
パートCは、21日間の間隔(1日目、22日目、及び43日目)で投与される3反復用量のCSL324を評価した。CSL324(n=6人)又はプラセボ(n=4人)のどちらかを受けるように10人の被験者を無作為に割り当てた。SRCの推奨で0.6mg/kgのCSL324を被験者に投与した。126日目まで被験者をフォローアップした。
【0378】
安全性、薬物動態学(PK)、及び薬力学(PD)の評価
全ての試験パートにおいて、安全性評価は有害事象(AE)、起立負荷を含むバイタルサイン、身体神経学的検査、12誘導心電図(ECG)、ECGテレメトリーを用いる心臓モニタリング、臨床検査(血液学、血液化学、血液凝固、及び尿検査)、視覚的アナログ尺度で測定される疲労、及びCSL324免疫原性を含んだ。
【0379】
CSL324は、血清中(全ての群)及び脳脊髄液中(第A5群のみ)で測定された。
【0380】
PD評価項目には好中球の機能的属性(食細胞活性、酸化的破壊活性、G-CSF受容体リン酸化シグナル伝達兼転写活性化因子3[pSTAT-3]シグナル伝達[パートAのみ]、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子[GM-CSF]受容体pSTAT-3シグナル伝達[パートA及びパートCのみ])、好中球G-CSF受容体占有度/飽和度(パートA及びパートCのみ)、並びに血清中G-CSF、血清中サイトカイン、及び血清中ケモカインが挙げられる。
【0381】
診断及び主要な選択基準
被験者は、年齢が18歳~55歳であり、肥満度指数が18.5kg/m~32.0kg/m(両端値を含む)であり、体重が50kg以上100kg未満の健康な男性又は女性であり、書面によるインフォームドコンセントを提出した。女性被験者は妊娠している可能性がある者であってはならず、男性被験者及びそれらの男性被験者の妊娠可能な女性配偶者/パートナーは、スクリーニング時から最終静脈内(IV)注入後90日目まで2形式の非常に有効な避妊を行うことを求められた。
【0382】
治験担当者によって判断される何らかの臨床的に重大な心血管の疾患若しくは悪性病変、消化器の疾患若しくは悪性病変、内分泌の疾患若しくは悪性病変、血液の疾患若しくは悪性病変、肝臓の疾患若しくは悪性病変、免疫の疾患若しくは悪性病変、代謝の疾患若しくは悪性病変、泌尿器の疾患若しくは悪性病変、肺の疾患若しくは悪性病変、神経の疾患若しくは悪性病変、皮膚の疾患若しくは悪性病変、精神の疾患若しくは悪性病変、腎臓の疾患若しくは悪性病変、及び/若しくは他の主要な病気若しくは悪性病変の病歴若しくは証拠、静脈血栓症、赤血球増加症、若しくは栓友病の病歴、自己免疫疾患の病歴、循環好中球減少症若しくは2.0×10/L未満の絶対好中球数(ANC)のスクリーニング、スクリーニング時若しくは試験参加時において特定された何らかの臨床的に重大な異常、1分当たり40拍未満若しくは100拍超の心拍数、スクリーニング時若しくは試験参加時の145mmHgを超える平均収縮期血圧若しくは90mmHgを超える平均拡張期血圧、スクリーニング時の450ミリ秒を超えるフリデリシア式補正平均QT間隔、又はパラセタモールの随時使用(最大で2g/日)を除く静脈内(IV)注入前の10日間における何らかの処方薬若しくは非処方薬の使用が被験者にあった場合、それらの被験者は除外された。パートA及びパートBについてのみ、何らかの刺青若しくは皮膚健康状態の悪化、又はケロイド形成、肥厚性瘢痕形成、若しくはリンパ管炎の病歴が被験者にあった場合、それらの被験者は除外された。
【0383】
CSL324抗体の用量及び投与モード
CSL324を10mLのバイアル瓶の中に注射用の無菌溶液として準備した。CSL324を、1日目における前記被験者の体重及び試験群の用量によって決定される体積で静脈内投与した。
【0384】
プラセボである0.9%塩化ナトリウムを、1日目における前記被験者の体重及び試験群の用量に応じたCSL324と等しい体積で静脈内投与した。
【0385】
全てのCSL324注入は、シリンジポンプを使用して前腕静脈に60±5分間にわたって行われた(用量は1.0mg/kg以下)。
【0386】
処理期間
パートA又はパートBの被験者は、1日目に単回用量のCSL324又はプラセボを受け、85日目までフォローアップされた。パートCの被験者は、21日間隔で1日目、22日目、及び43日目に合計3用量のCSL324又はプラセボを受け、126日目までフォローアップされた。
【表2】
【0387】
統計学的方法
分析対象集団
最大分析対象集団(FAS)は、書面によるインフォームドコンセントを提出し、且つ、スクリーニング後に本試験に組み入れることについて問題ないとされた全ての被験者から構成された。このFASを人口統計、ベースライン特性、及び免疫原性について使用した。安全性集団は、少なくとも1用量のCSL324を受け、受け取った用量と薬品治療に応じて分析され、そして全ての安全性分析について使用された全ての被験者から構成された。
【0388】
PK集団は、少なくとも1用量のCSL324を受け、少なくとも1つのPK濃度測定値を有し、そして全てのPK分析に使用された全ての被験者から構成された。
【0389】
PD集団は、少なくとも1用量のCSL324を受け、且つ、PDがCSL324注入の前及びCSL324注入後の少なくとも1時点について利用可能である全ての被験者から構成された。このPD集団は全てのPD分析に使用された。
【0390】
一般考慮事項
全てのデータを項目毎に記載した。記述統計を用いて要約統計量を提示した。別段の指示がない限り全ての統計検定は両側検定であり、5%レベルの有意性で実施された。
【0391】
薬物動態学的(PK)分析
実際の試料採取時間を用いて標準ノンコンパートメント分析により血清中CSL324濃度からPKパラメータを導出した。パートA及びパートBの単回用量群のPKパラメータであるCmax、AUC0~t、及びAUC0~infについてそれぞれ用量比例性を評価した。対数変換体重調整用量レベルを独立変数として含むべき乗モデルを用いて用量比例性を分析した。このPKパラメータと用量との間の一次比例性は、90%信頼区間(CI)が0.85~1.15の限界間隔の内部にある場合にそうであると宣言され得る。PKパラメータであるCmax、AUC0~t、及びAUC0~infの総用量(mg)及び体重調整用量(mg/kg)との相関は、ピアソンの相関分析を用いてパートA及びパートBについて調査された。
【0392】
G-CSFの共投与を含まない場合(パートA)及び含む場合(パートB)のCSL324の相対的生物学的利用率は、(固定効果としての処理及び変量効果としての被験者を含む)混合効果モデル並びに対数変換PKパラメータであるCmax、AUC0~t、及びAUC0~infを用いて評価された。G-CSFの共投与を含まない場合(パートA)及び含む場合(パートB)のCSL324の投与は、幾何平均比の90%CIがどの比較についても80%と125%との間にある場合に等価であると考えられた。
【0393】
CSL324の21日毎の3回の投与後(パートC)における定常状態の到達度を最低トラフ血中濃度(Cmin)の反復測定分散分析(ANOVA)によって評価した。第1の非有意比較は、定常状態が到達したときの投与間隔であった。
【0394】
薬力学的(PD)分析
標準ノンコンパートメント分析を用いてPDパラメータを導出した。パートAの血清中サイトカイン濃度及び血清中ケモカイン濃度、好中球食細胞活性及び酸化的破壊活性、G-CSF受容体占有度、並びにpSTAT-3シグナル伝達についてのPDパラメータをANOVAによってパートAの各CSL324用量と併合プラセボ群との間で比較した。
【0395】
PDパラメータのCSL324総用量(mg)及び体重調整用量(mg/kg)と相関は、ピアソンの相関分析を用いて調査された。
【0396】
安全性分析
医薬規制用語集(MedDRA、第20.1版)を用いて試験治療下発現AE(TEAE)をコード表記した。治験担当者が、クラブ第1相基準を用いて等級を付けられる異常ANC値のTEAEを除き、米国国立がん研究所有害事象共通用語規準第4版を用いて各TEAEの重症度を評価した。CSL324クリアランス(CLtot又はCLtot、ss)及び選択されたPDパラメータ(ANC及びG-CSF濃度)について、累積陽性免疫原性成績を有する被験者と累積陰性免疫原性成績を有する被験者との間のボックスプロット比較を行った。
【0397】
結果
被験者の割付
合計で58人の被験者がインフォームドコンセントを提出し、無作為に本試験に割り当てられた。パートA(n=30人)では5群(第A1群~第A5群)の各々において4人の被験者がCSL324を受け、2人の被験者がプラセボを受け取った。パートB(n=18人)では第B1群~第B3群の各々において3人の被験者がCSL324を受け、1人の被験者がプラセボを受け、第B4群において4人の被験者がCSL324を受け、2人の被験者がプラセボを受け取った。パートC(n=10人)では6人の被験者がCSL324を受け、4人の被験者がプラセボを受け取った。
【0398】
まとめると、55人の被験者(94.8%)が本試験を完了し、1人のプラセボ処理被験者が同意の撤回のためにパートA(第A5群)から離脱し、2人の被験者(1人のCSL324処理被験者及び1人のプラセボ処理被験者)が他の理由のためにパートCの3用量の完了後に離脱した。本試験のパートCを完了した2人の被験者は3用量目のCSL324をSRCの推奨で受けなかった。
【0399】
人口統計
被験者は男性(100%)で主に白人(65.5%)であり、平均年齢は30.3歳(19歳~54歳の範囲)であった。パートA、パートB、又はパートCの被験者の間に主な人口学的特徴の違いはなかった。まとめると、前記被験者の医療歴及び手術歴は健康なボランティア集団と一致した。
【0400】
薬物動態学(PK)
単回のCSL324の静脈内(IV)投与後に平均血清中CSL324濃度は注入の終了時にピークに達し、CmaxはCSL324用量に対する一次比例性を示した(図1)。AUC0~t及びAUC0~infとして測定されるCSL324への曝露は、両パラメータの信頼限界が0.85~1.15の限界間隔の外側にあった(AUC0~tについて傾きの推定値1.68[90%CIは1.58~1.79]、及びAUC0~infについて傾きの推定値1.67[90%CIは1.56~1.78])ため、CSL324が高用量になるにつれて増加したが、用量比例性を示さなかった。CSL324の平均CLtotは試験した用量範囲にわたって一定ではなく、CSL324の用量の10倍の増加で80%減少した。
【0401】
単回の静脈内(IV)投与後に平均t1/2は、0.1mg/kgのCSL324による40.5時間から1.0mg/kgのCSL324による206時間までの範囲であった。21日間隔で投与される0.6mg/kgのCSL324の3回の投与後に平均t1/2は251時間であった。
【0402】
CSL324の注入前及び注入後のG-CSFの投与は、AUC0~inf及びAUC0~tとして測定される単回用量のCSL324の相対的生物学的利用率を低下させ、且つ、Cmaxに対して最小の効果を有した。G-CSFによるCSL324曝露の減少は、CSL324投与のみの後と比較してCSL324投与の前後にG-CSFが投与されたときに大きかった。
【0403】
トラフ濃度に基づくと定常状態は、21日間隔で投与される0.6mg/kgのCSL324の3回の投与の後に達成されなかった。ピーク平均血清中CSL324濃度は、1用量目の後と3用量目の後で同等であった。
【0404】
CSL324は、単回の0.8mg/kgのCSL324投与の後に脳脊髄液中に検出できなかった。
【0405】
薬力学
平均ANCは、G-CSF負荷を加えずに投与された単回CSL324用量及び反復CSL324用量の後にプラセボと比較して減少した。これらの単回CSL324投与で平均ANC最小効果(Emin)は1.0mg/kgのCSL324用量で最低(1.3×10/L)であり、プラセボで最高(2.49×10/L)であった。平均ANC Eminは反復CSL324投与の後に1×10/Lまで減少し、Eminは3用量目の後(約48日目)に生じた。
【0406】
高用量のCSL324(0.3mg/kg及び0.8mg/kg)になるほどG-CSF介在性ANC増加刺激が抑制された。G-CSF負荷に対するANC応答は、0.1mg/kgのCSL324及びプラセボで同等であった。AUC0~tに基づくと、ANCはCSL324用量及びCSL324曝露と負に相関した。
【0407】
CSL324は、好中球食細胞活性及び酸化的破壊活性として生体外で測定されると、明らかな効果を好中球機能に対して有した。高単回用量のCSL324(0.3mg/kg~1.0mg/kg)になるほどプラセボと比較して好中球pSTAT-3シグナル伝達の生体外刺激の最大半量G-CSF有効濃度(EC50)が上昇したが、しかしながらこのアッセイデータは大きな変動性を示し、解釈を限定した。非刺激好中球pSTAT-3シグナル伝達に対するGM-CSF刺激pSTAT-3シグナル伝達の比率に対しては、一貫したCSL324の効果は見られなかった。
【0408】
好中球G-CSF受容体飽和は、0.1mg/kg~1.0mg/kgまでの単回CSL324用量で急速に達成された。約100%の受容体占有度の継続期間はCSL324用量の増加と共に長くなり、0.1mg/kgのCSL324では3日目まで継続し、0.8mg/kg及び1.0mg/kgのCSL324では29日目まで継続した(図2)。
【0409】
単回CSL324投与は、プラセボと比較してピーク血清中G-CSF濃度と曝露を増加させ、G-CSFのAUEC0~t及びAUEC0~24はCSL324の全身曝露及び用量との正の相関を示した。反復CSL324投与は血清中G-CSFを持続的に増加させ、各投与の2日後にピーク濃度が生じた。G-CSFは、単回の0.8mg/kgのCSL324投与の後に脳脊髄液中に検出できなかった。
【0410】
サイトカイン及びケモカインの血清中濃度は、プラセボとの比較においてCSL324投与後に明確な経時的パターンを示さなかった。血清中インターロイキン(IL)8濃度はCSL324及びプラセボについてわずかな上昇を示し、静脈内(IV)注入の効果を示唆した。血清中IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)濃度はG-CSF負荷の後に上昇し、その後のより高用量のCSL324(0.3mg/kg~1.0mg/kg)の投与の後に低下した。
【0411】
安全性
まとめると、TEAEの頻度はCSL324(82.1%)及びプラセボ(94.7%)で同等であった。試験治療関連TEAEは、CSL324群全体の被験者のうちの64.1%について生じ、プラセボ群の57.9%について生じた。プラセボよりもCSL324で頻繁に生じたTEAEは、好中球減少症(19.2%の被験者対ゼロ被験者)、注入部位痛(7.7%の被験者対ゼロ被験者)、及び鼻づまり(7.7%の被験者対ゼロ被験者)であった。重症又は致死的なTEAEは無かった。2人の被験者は3用量目をSRCの推奨で受けなかった。
【0412】
複数の投与群にわたって全体的なTEAE頻度にCSL324用量依存性の傾向は存在しなかった。全ての被験者(100%)がCSL324又はプラセボの反復投与の後にTEAEを経験した。
【0413】
TEAEの大部分がグレード1又はグレード2であった。CSL324処理後の全ての試験治療関連TEAEは、進行中のグレード2の紅斑という1件のTEAEを除き、安全性フォローアップ通院によって解消した。
【0414】
CSL324はANCを用量依存的に減少させ、これはグレード3までの重症度の好中球減少症を特徴とし、翌日には自然に解消した(図3及び図4)。
【0415】
1人の被験者において1.0mg/kgの用量のCSL324の単回投与後4日目にグレード3の好中球減少症のTEAEがあり(図3)、4人の被験者において0.6mg/kgの用量のCSL324の反復投与によって7件のグレード3の好中球減少症のTEAEがあった(図4)。1件より多い件数のグレード3の好中球減少症を経験した2人の被験者は、利用可能な安全性データ、忍容性データ、PKデータ、及び選択されたPDデータをよく調べた後にパートCの3用量目のCSL324をSRCの推奨で受けなかった。グレード3の好中球減少症の全てのTEAEが、治療しなくとも翌日までに自然に解消した。
【0416】
単回CSL324用量で処理された20人の被験者のうちの6人がグレード2又はグレード3の好中球減少症の基準に合うANCを経験し、このANCはCSL324投与後1日~4日の内に生ずる傾向を示した。反復CSL324用量を受けた6人の被験者のうちの5人がグレード2又はグレード3の好中球減少症の基準に合うANCを有し、このANCは3用量目の後に生じる傾向を示した。
【0417】
輸液反応又は局所的忍容性反応は観察されなかった。CSL324処理被験者の5%以下が注入部位痛、穿刺部位紅斑、及び穿刺部位痛のTEAEを経験し、プラセボ処理被験者でこれらのTEAEを経験した者はいなかった。
【0418】
安全性シグナルは、臨床検査パラメータ、起立負荷を含むバイタルサイン、ECG、身体的所見、又は疲労スコアから特定されなかった。
【0419】
単回静脈内(IV)投与及び反復静脈内(IV)投与の後に抗CSL324抗体を発生させた被験者はいなかった。
【0420】
結論
CSL324は、最大で0.8mg/kgまでの単回用量として投与されるとき、又は21日間隔で0.6mg/kgの反復用量として投与されるときに安全であり、且つ、よく忍容された。CSL324はANCレベルを用量依存的に減少させ、これはグレード3までの重症度の好中球減少症を特徴とし、治療しなくとも翌日までに自然に解消した。CSL324の全身曝露は用量増加と共に増加し、CmaxはCSL324用量に対する一次比例性を示した。高用量のCSL324になるほどt1/2が長くなり、CLtotが遅くなった。CSL324は高用量になるほど急速なG-CSF受容体飽和を示し、且つ、ANCのG-CSF介在性刺激を抑制し、炎症メディエーターに対する効果は最小であった。
【0421】
最後の投与後の数週間)及びフォローアップ評価
【0422】
実施例2:CSL324は、CXCR1発現と関連する好中球遊走を抑制する
CSL324は、G-CSFにより誘導されるCXCR1発現とCXCR2発現を抑制する
健康なヒトドナーから得られた全血試料を使用して好中球上でのケモカイン受容体CXCR1及びCXCR2の発現を評価し、且つ、G-CSFが存在する又は存在しない状態でのこれらの遊走に関する受容体のレベルに対するCSL324の効果を評価した。組換えヒトG-CSFを用いた前記細胞の刺激の前(30ng/mL、n=11)又は組換えヒトGM-CSFを用いた前記細胞の刺激の前(30ng/mL、n=4)に試料を1mg/mLのCSL324と共に30分間にわたってプレインキュベートし、そして20時間にわたって37℃、5%COで培養した。高側方散乱光(SSC)及びCD11b+CD49d-表現型によって好中球を特定した。複合体化抗体のCXCR1又はCXCR2に対する平均蛍光強度を培地単独で培養された細胞と比較して正規化した。
【0423】
図5に示されるように、G-CSF単独と共に好中球を培養すること(黒色)により、培地単独と比較してCXCR1及びCXCR2の細胞表面での発現が増加した。G-CSFが誘導したCXCR1及びCXCR2の発現上昇がCSL324(灰色)とのプレインキュベーションによって低下し、CXCR1染色又はCXCR2染色の平均蛍光強度(MFI)は、細胞培養培地単独の中で好中球が培養されたときと同等であった。GM-CSFが存在する状態での細胞培養は、表面マーカーのレベルを著しく変化させることはなく、さらに、試料のCSL324とのプレインキュベーションによって変化することはなかった。
【0424】
CSL324はG-CSF誘導性細胞遊走を抑制する
MIP-2へのG-CSF介在性好中球遊走を阻害するCSL324の能力を評価するために細胞遊走アッセイを用いた。具体的には、精製された好中球(95%超の純度)を単離し、1μg/mLのCSL324と共に又はCSL324無しで30分間にわたってプレインキュベートした後に30ng/mLのヒトG-CSF又は30ng/mLのヒトGM-CSFを用いてこれらの好中球を一晩にわたって刺激した。トランスウェルインサート(5μm孔)を使用してMIP-2(500ng/mL)への化学走性を測定した。
【0425】
図6に示されるように、G-CSFとのプレインキュベーションによって好中球のMIP-2への遊走が増加し、この遊走の増加はCSL324とのプレインキュベーションによって培地単独条件と同じレベルにまで減少した(図6A、灰色のバー)。GM-CSFの遊走促進効果はCSL324とのプレインキュベーションによって抑制されず、このことは、G-CSF受容体を関与させる作用への特異性を示した。G-CSFとのプレインキュベーションによってCXCR1及びCXCR2が発現上昇し、これは好中球のMIP-2への遊走と相関した(図6B及び6C)。
【0426】
まとめると、これらのデータは以下のことを実証している。
・CXCR1(及びCXCR2)の発現は好中球遊走と正に相関する(図6B及び6C)。
・CSL324は好中球上でのG-CSF誘導性のCXCR1(及びCXCR2)の発現を阻害する(図5A及び5B)。
・CSL324はG-CSF誘導性好中球遊走を抑制する(図6A)。
【0427】
実施例3:VR81はARDSの動物モデルにおいて肺の炎症を抑制する
材料と方法
抗体
VR81は、マウスG-CSFRの細胞外ドメインに対して作製されたマウスモノクローナルIgG1κ抗体であり、説明のようにG-CSFのG-CSFRへの結合を阻止する(Campbell et al. Journal of Immunology, 197(11) (2016) 4392-4402)。この点に関し、VR81は本明細書及び国際公開第2012/171057号パンフレットに記載されるC1.2及びC1.2Gのマウス代用抗体である。BM4はモノクローナルマウスアイソタイプIgG1κ対照抗体である。
【0428】
ARDSの動物モデル
雌の8週齢~12週齢のC57BL/6マウスをオーストラリア西オーストラリア州カンニング・ベールの動物資源センター(ARC)から得た。マウスを麻酔し、その後に3μgのLPSの気管内(i.t.)投与によりこれらのマウスに肺への挿管投与を行った。50μlのハミルトン注射器に取り付けたカニューレを丁寧にマウスの口に入れ、その後で気管に挿入することでこれを行った。LPSの挿管投与から24時間後にペントバルビタールの致死量注射によりマウスを安楽死させた。
【0429】
予防プロトコルと治療プロトコルの両方を評価した。(i)予防プロトコルではLPSの挿管投与の24時間前に500μg(25mg/kg)のVR81又はBM4をマウスに静脈内(i.v.)投与した。(ii)治療プロトコルではLPSの挿管投与から6時間後に500μg(25mg/kg)のVR81又はBM4をマウスに静脈内(i.v.)投与した。両プロトコルについて、LPS投与から24時間後に肺の炎症(例えば、総細胞数)、タンパク質濃度、及びBALF中の好中球エラスターゼ活性を評価した。
【0430】
20Gのカテーテルを気管にカニューレ処置することによりBALFを得た。両側の肺を3回にわたって洗浄し(各アリコットは0.4mlのPBS)、総収量は平均して0.9ml/マウス~1.1ml/マウスであった。
【0431】
BALF中の細胞数の測定
血球計算版を用いて計数することにより、最初にBALF中の総細胞数を決定した。血球遠心分離(Cytospin 4、Thermo Scientific社)され、固定され、ギムザ(Sigma社)で染色された調製物に対して分画計数を行った。分画計数は、細胞を好中球、マクロファージ又はリンパ球として分類するための標準的形態学基準を用いる200細胞の計数に基づいた。処理群について知らされていない1人の観察者によって計数が行われた。
【0432】
BALF中の総タンパク質量の測定
BALFを4000rpmで5分間にわたって4℃で遠心分離した。Pierce(商標)BCAプロテインアッセイキット(Thermo Scientific社)を使用して無細胞上清中の総タンパク質量を測定した。
【0433】
BALF中の好中球エラスターゼ活性の測定
無細胞BALF試料を96ウェル黒色蛍光プレートに移し、0.5MのNaCl及び0.1mMのCa2+を含む0.1MでpH8.0のトリス緩衝液の中に70μMの終濃度に希釈された発色性エラスターゼ基質(エラスターゼV基質、Calbiochem社)と共にこれらの試料を保温した。37℃で1時間の保温の後に蛍光性産物を390nmの励起波長及び460nmの放射波長で測定した。これらの条件下で蛍光性産物の生成は酵素濃度に対して比例した。ブタ膵臓エラスターゼ(Sigma-Aldrich社)を2nM~200nMで対照として使用した。結果を任意単位で表す。
【0434】
肺湿乾重量比の測定
LPSを投与されたマウスの肺における浮腫形成を評価するために肺湿乾(W/D)重量比を使用した。W/D比を決定するためにこの動物から切除してすぐに左肺葉の重量(湿潤重量)を量った。その後、一定の乾燥重量になるまでこの肺組織を60℃のオーブンの中で5日間にわたって乾燥した。湿潤重量を乾燥重量により割り算することでW/D重量比を計算した。
【0435】
VR81はBALF中の細胞数を減少させる
BALF中の高細胞数は肺の炎症の指標であり、ARDSと関連付けられる。上記のARDSの動物モデルを使用してLPS誘発性炎症に応答して肺の中に存在する細胞の量、すなわち総細胞数と絶対免疫細胞数の両方を減少させるVR81が能力を評価した。
【0436】
図7は、LPSの1日前に500μgのVR81をマウスに投与することによってPBS(図7A)又はアイソタイプ対照抗体であるBM4(図7B)を投与されたマウスと比較してBALF中の総細胞数が有意に減少したことを示している。同様に、図8は、VR81の投与によってPBSを投与されたマウスと比較してBALF中の絶対免疫細胞数が有意に減少したことを示している。この免疫細胞数の減少には、VR81投与に応答した好中球量の約70%の減少が含まれた。
【0437】
VR81はBALF中の総タンパク質量を減少させる
BALF中の高総タンパク質量は、細胞数と同様に、両方ともARDSに付随する肺の炎症及び浮腫の指標である。上記のARDSの動物モデルを使用してLPS誘発性炎症に応答して肺の中に存在する総タンパク質量を減少させるVR81が能力を評価した。
【0438】
図9は、LPSの1日前に500μgのVR81をマウスに投与することによってPBS(図9A)又はアイソタイプ対照抗体であるBM4(図9B)を投与されたマウスと比較してBALF中の総タンパク質量が有意に減少したことを示している。
【0439】
VR81はBALF中の好中球エラスターゼ活性を低下させる
好中球エラスターゼは、好中球中の細胞質の好アズール顆粒内に蓄えられている酵素であり、免疫刺激を受けて放出されると遊離タンパク質として作用するか又は細胞外トラップネットワーク(NET)と結合し、炎症及び侵入病原体の分解を引き起こす。好中球エラスターゼはARDSの発症と進行に重要な役割を果たす。
【0440】
上記のARDSの動物モデルを使用してLPS誘発性炎症に応答して肺の中の好中球エラスターゼ活性のレベルを低下させるVR81の能力を評価した。図10は、LPSの1日前に500μgのVR81をマウスに投与することによってPBS(図10A)又はアイソタイプ対照抗体であるBM4(図10B)を投与されたマウスと比較してBALF中の好中球エステラーゼ活性レベルが有意に低下したことを示している。
【0441】
VR81は肺湿乾重量比を減少させる
上記のARDSの動物モデルを使用してLPS誘発性炎症に応答して肺湿乾(W/D)重量比を減少させるVR81の能力を評価した。W/D比は肺浮腫の尺度として使用可能である。
【0442】
図15は、LPSの1日前に500μgのVR81をマウスに投与することによってアイソタイプ対照抗体であるBM4を投与されたマウスと比較してW/D比によって評価される浮腫形成が有意に減少したことを示している。
【0443】
VR81は疾患発症後に投与されると免疫細胞数を減少させる
図11Aは、3μgのLPSを気管内投与されたマウスのBALFの中の総細胞数が投与から6時間後までに著しく増加し、投与から24時間後にピークに達することを示している。同様に、図11Bは、好中球エラスターゼ活性も投与から6時間後に著しく増加し、48時間の時点でピークに達することを示している。これらのデータは、本実施例で使用されたARDSのマウスモデルでは疾患の進行がLPS投与から6時間後までに起こることを示している。
【0444】
疾患の発症後のVR81の治療有効性を評価するためにLPS投与から6時間後に500μgのVR81又はアイソタイプ対照BM4を使用する静脈内治療をマウスに行った。図12に示されるように、VR81群とBM4群の間でBALF中の好中球数に有意差(P<0.0001)が存在した(スチューデントのt検定、n=2匹(PBS)、6匹(BM4)、及び7匹(VR81))。この実験が繰り返され、類似の結果が得られた。
【0445】
本実施例における上記の結果は、抗G-CSFR抗体が疾患の発症前又は発症後に投与されるとき、抗G-CSFR抗体を使用するG-CSFシグナル伝達の阻害がARDSの動物モデルにおける肺の炎症の抑制に有効であることを実証している。
【0446】
実施例4:コロナウイルス病2019(COVID-19)と関連するARDSにおいてCSL324を評価するための第2相多施設二重盲検無作為化プラセボ対照試験
本試験は、重症のCOVID-19患者におけるCSL324の安全性と有効性を評価する。CSL324は、
・高まった好中球の肺内への輸送を減弱化すること、
・G-CSF介在性好中球生存を阻止することによって肺に浸潤する好中球の寿命を減少させること、及び
・IL-1及びIL-6を含む好中球由来炎症メディエーターを減少させること、並びに接触相系を活性化することによって炎症を悪化させ、血管漏出の原因となることが知られている好中球細胞外トラップ形成を抑制すること
によってCOVID-19患者における好中球介在性肺損傷を軽減すると仮定される。
【0447】
試験の概要
本試験は、COVID-19の患者における標準治療(SOC)と組み合わせて静脈内(IV)投与されたCSL324の安全性と有効性を評価するための第2相前向き多施設無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間試験である。本試験は、最大で2日間のスクリーニング期間と最大で28日間の治療期間から構成される。適格性を有する被験者は、1日目、4日目、及び8日目にSOC治療に加えてCSL324又はプラセボのどちらかの複数の静脈内(IV)用量(CSL324+SOC又はプラセボ+SOC)を受けるように無作為に割り当てられる。本試験の主要エンドポイントは、無作為割り当てから28日目までの気管内挿管又は気管内挿管前の死亡の発生率である。
【0448】
潜在的なリスクとベネフィット
CSL324が静脈内投与された健常被験者において実施された以前の試験(実施例1)からCSL324は安全であることが分かっている。
【0449】
COVID19患者におけるリスク
CSL324の静脈内(IV)投与の潜在的なリスク及び軽減方法が表1に記載されている。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0450】
COVID-19の患者におけるCSL324の潜在的な利益、及び本プロトコルに組み入れられるリスク軽減方法(すなわち、所定の選択基準/除外基準、被験者・試験停止規定、AESIのモニタリング、並びにANC及びプロカルシトニン測定を含む定期的な医学モニタリング)を考慮すると、関連のベネフィットリスク評価は許容できると考えられる。CSL324のベネフィットリスクプロファイルは(進行中及び計画中の)患者試験のデータとして決定され、利用可能になる。
【0451】
試験の主要目的及び主要エンドポイント
主要目的
本試験の主要目的は、COVID-19の患者における静脈内(IV)注入後のCSL324の治療利益を評価することである。
【0452】
主要エンドポイント
主要エンドポイントは、気管内挿管又は気管内挿管前の死亡の発生率である。この主要エンドポイントは、無作為割り当てから28日目までに気管内挿管又は気管内挿管前の死亡にまで進行した被験者の割合によって評価される。
【0453】
試験の副次的目的及び副次的エンドポイント
副次的目的
本試験の副次的目的は、
1.CSL324の有効性をさらに評価すること
2.CSL324の安全性を評価すること
3.CSL324の薬物動態(PK)を評価すること
である。
【0454】
副次的エンドポイント
【表4】
【0455】
試験の探索的目的及び探索的エンドポイント
探索的目的
本試験の探索的目的は、
・探索的有効性エンドポイントを評価すること
・CSL324の薬力学(PD)プロファイルを評価すること
・(利用可能であれば)挿管された患者の血液及び気管吸引物中の探索的バイオマーカーを評価すること
・PK、PD、及び臨床転帰の相関を探索すること
である。
【0456】
探索的エンドポイント
前記探索的臨床的有効性エンドポイントは以下の通りである。
【表5】
【0457】
薬力学的及び探索的調査バイオマーカーには以下のバイオマーカーが挙げられるがこれらに限定されない。
・ANCのベースラインからの変化
・炎症促進性サイトカイン(例えば、IL-1、IL-6、IL-8、IL-18、TNF、G‐CSF)の血清中レベル
・ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好中球エラスターゼ(NE)α1プロテアーゼインヒビター複合体、プロテイナーゼ3(PR3)α1プロテアーゼインヒビター複合体、並びにNE及びPR3のα-2-マクログロブリン及びNE特異的フィブリノペプチドとの複合体の血清中レベルがインビボ好中球活性化の状態を理解する助けになる場合がある。
・肺損傷の潜在的マーカー(可溶型終末糖化産物受容体[sRAGE]及びプラスミノーゲン活性化抑制因子-1[PAI-1])の血清中レベルは、微小血管損傷の程度を反映する可能性がある。
・全血mRNA分析(RNAseqを含む)
・これらの探索的分析は、以下のことを理解することを目的としている。
・COVID-19の発病及び重症度
・臨床状態及びCSL324治療への応答との相関
・疾患予後及びCSL324への応答の予測因子
・CSL324への応答
・CSL324の薬理学
・COVID-19患者におけるCSL324の安全性
【0458】
試験デザイン
本試験は、COVID-19の患者における標準治療(SOC)と組み合わせて投与されたCSL324の静脈内(IV)投与の安全性と有効性を評価するための第2相前向き多施設無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間試験である。本試験デザインの重要な要素を図13及び表3に提示する。
【表6】
【0459】
本試験に参加登録した被験者の安全性を確実にするために本試験の実施期間の初期と所定の間隔の両方において独立データモニタリング委員会(IDMC)が被験者群に由来する集計データを頻繁によく調べる。
【0460】
用量の理論的根拠
COVID-19の患者におけるCSL324の潜在的な臨床上のベネフィットを最大にするためには、G-CSF受容体との標的直接作用を最大化し(約90%の受容体占有度)、且つ、循環好中球の減少を約14日間にわたって示す用法であるが、好中球減少症を回避し、且つ、ANCを1.5×10/Lよりも上に維持する前記用法が利用される。CSL324は、1日目に0.3mg/kgの用量、4日目に0.1mg/kgの用量、及び8日目に0.1mg/kgの用量で静脈内(IV)注入により投与される。この用法は、健常者ボランティアでの第1相試験(CSL324_1001、実施例1)で認められた安全性データ、PKデータ、及びPD(RO及びANC)データ、並びに半機械的集団PK及びPDモデルから得られたシミュレーション結果に基づいて選択される。
【0461】
モノクローナル抗体開発のICH要件に対応するこの非臨床毒性プログラムは、1時間の低速静脈内(IV)ボーラス注射として毎週投与される1mg/kg、10mg/kg、30mg/kg、及び100mg/kgの用量を評価するカニクイザルにおける重要な12週間反復投与GLP試験を含む。本試験ではCSL324関連有害効果は特定されず、無毒性量(NOAEL)が100mg/kgとして規定され、したがって予想臨床Cmax及びAUC曝露量のために100倍を超える曝露マージンを含む提案臨床用量が裏付けられた。
【0462】
健常被験者における完全ファースト・イン・ヒューマン(FIH)単一施設無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験(CSL324_1001-実施例1)においてCSL324の薬物動態学及び安全性を評価した。CSL324は、0.8mg/kgの最大耐量までの単回用量として又は21日間隔での0.6mg/kgの3反復用量として投与されたときに安全であり、且つ、よく忍容された。一時的なグレード3の好中球減少症が、1mg/kgの用量のCSL324を単回投与された1人の被験者(1件)及び0.6mg/kgの用量のCSL324を反復投与された4人の被験者(7件)において認められた。CSL324曝露と循環好中球に対する効果との間の関係を理解するため、CSL324の単回投与後及び反復投与後の前記FIH試験から得られた観察データに基づいて受容体占有とANCの経時変化を説明することができる半機械的集団薬物動態及び薬力学モデルが開発された。
【0463】
したがって、このモデルは、COVID-19患者における本試験の代替的投与計画向けに受容体占有プロファイル及びANCプロファイルを予測するために使用された。経時的な受容体占有度及びANC数の予測が図14に示されている。この用法に付随する前記曝露量は、表4に記載されるようなFIH試験及びGLP毒性学試験(試験番号APQ0045)の中のMTDにおいて観察される曝露量に満たない。
【表7】
【0464】
予定被験者数
本試験は、合計で約124人の被験者を参加登録している。
【0465】
予定試験期間
個々の被験者の試験参加期間は最大で31日であることが予想される。この推定は、
・最大で2日のスクリーニング期間
・最大で28日の治療期間
に基づく。
【0466】
全体の試験期間(すなわち、最初の被験者のスクリーニングのための来院から最後の被験者の試験のための来院まで)は約4.5か月である。
【0467】
調査対象の医薬品の説明
CSL324
CSL324の重要な特徴が表5に記載されている。
【表8】
【0468】
CSL324は、ICH医薬品製造基準(GMP)ガイドライン及び地域の規制上の要件に従って製造される。
【0469】
プラセボ
プラセボ対照薬は、市販されており、且つ、試験場によって供給される通常の無菌生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)である(表6)。
【表9】
【0470】
救急薬/救急薬物治療
好中球減少症
必要であれば組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)であるサルグラモスチム(リューカイン(登録商標))を使用して重症の好中球減少症を治療する。
【0471】
試験期間中のどの時点でも治験担当者が判定した重症の好中球減少症を有する被験者は、緊急の顆粒球形成のために臨床的に適応となった場合にサルグラモスチムを投与される。CSL324はGM-CSFの作用に拮抗しないため、サルグラモスチムが使用され、このことも顆粒球形成の助けになり得る。GM-CSF(サルグラモスチム)の投与が考慮中である場合、好中球減少症の管理を専門とし、理想的にはサルグラモスチムなどのGM-CSFの使用を専門とする医師と相談することを強く推奨する。250μg/m/日のサルグラモスチムを4時間にわたって静脈内(IV)注入する投与方式又は一日一回皮下(SC)注射する投与方式を用いることができる。しかしながら、サルグラモスチムの使用に詳しい医師が助言するように他の投与方式を使用してもよい。完全リューカイン(登録商標)米国処方情報によって調製及び投与量及び投与についての情報がさらに与えられる。
【0472】
臨床的に有意な低ANCを有するどの被験者にとっても適切な治療は、常に治療担当医師の医学的判断によって進められなくてはならず、好中球減少症の管理を専門とする医師との相談を含む必要がある。退院後に被験者が感染症の何等かの兆候若しくは症状を有する場合、又は合併症を起こす高いリスクを有する場合(すなわち、7日間を超える0.5×10/L未満のANCの長期化、臨床的不安定性、制御不良の併存症又は他の被験者特異的な因子の存在)に入院が考慮されるべきである。
【0473】
低絶対好中球数を有する被験者の管理が表7に要約されている。
【表10】
【0474】
適格基準
本試験集団は、以下の節に記載される選択基準及び除外基準に基づいて選択される。被験者の適格性は、本試験に被験者が組み入れられる前に本研究チームの適切な医療資格を有するメンバーによって吟味され、文書にまとめられる。
【0475】
選択基準
被験者は、本試験に参加登録され、無作為に割り当てられるためには以下の選択基準の全てに合わなくてはならない。
1.書面によるインフォームドコンセントを提出することが可能である(この被験者の代理として医学上の決定をすることが法的に許されている個人は、書面によるインフォームドコンセントを提出することができる)。
2.プロトコルが要求する全ての事項を守る意思があり、且つ、守ることが可能である
3.インフォームドコンセントを得た時点で18歳以上の年齢である。
4.米国食品医薬品局(FDA)が認可した又は緊急使用許可の下で許される診断検査による判定でSARS-CoV-2感染症陽性である。
5.胸部コンピュータトモグラフィー(CT)スキャン又はX線検査の結果から間質性肺炎が確認されている。
6.以下の事項のうちの少なくとも1つである(被験者が、まだ呼吸補助を受けることが適切であるとされる一方で改善を示している)。
・1分当たり30回を超える呼吸数、
・室内空気下で93%以下の末梢(毛管)酸素飽和度(SpO)、
・300未満の吸気酸素濃度に対する動脈血酸素分圧の比(PaO/FiO)、
・218未満のSpO/FiO比(PaO/FiO比が利用可能ではない場合)、又は
・50%を超える肺浸潤のX線写真
【0476】
除外基準
被験者が以下の除外基準のいずれかに合う場合、それらの被験者は本試験に参加登録されてはならず、又は無作為に試験治療に割り当てられてはならない。
1.拡大アクセス又はコンパッショネート使用を含むIMPの投与を必要とする臨床試験に現時点で参加登録している、参加登録することを計画している、又は過去30日以内に参加した。
・例外
・COVID19の治療のために承諾された緊急使用許可を得ての治験薬製剤(例えば、レムデシビル)の投与は許されている。
・拡大アクセス、緊急患者IND、又はコンパッショネート使用などの認可された特殊アクセス部分としての回復期患者血漿療法は許されている。
2.妊娠中又は授乳中である(女性被験者)。
3.無作為割り当ての時点で挿管されており、機械的換気(ECMOを含む)を必要としている。
・例外として、HFNC酸素療法の使用及び非侵襲的換気は許されている。
4.治験担当者の意見として気管内挿管がありそうである。
5.治験担当者の意見として前記対象は入院後に48時間を超えて生存することが予期されない。
6.無作為割り当ての前及びSARS-CoV-2感染症の前に以下の併発症のうちのいずれかが存在する。
(a)ニューヨーク心臓協会クラス4の心不全がある
(b)ステージ4以降の末期腎不全がある又は腎代替療法を必要とする
(c)生検で診断された肝硬変、門脈高血圧症、又は肝性脳症がある
(d)ステージ4の悪性腫瘍がある
(e)在宅酸素療法を必要とする慢性肺疾患がある
(f)活動性結核(TB)があり
7.肺胞蛋白症の病歴又は証拠がある。
8.スクリーニング時に細菌性肺炎又は活動的で制御不良の細菌性感染症、真菌性感染症、若しくは非SARS-CoV-2ウイルス感染症の確定診断又は臨床上の疑いがある。
9.ANCが5×10細胞/L未満である(CSL324誘発性好中球減少症が安全性の懸念として評価されない場合ではIDMCによる安全性データの吟味の後に低下させることができる)。
10.G-CSF、GM-CSF、又は抗IL-6/6Rを含む禁止された治療法を現時点で受けている。
11.治験担当者の意見として前記被験者を本試験に参加するには不適切とするあらゆる臨床上若しくは臨床検査上の異常又は他の基礎症状(例えば、精神障害、物質乱用)がある。
【0477】
追加の及び/又は代替的な除外基準には以下のものが含まれることがある。
1.被験者に挿管禁止又は蘇生禁止の命令が出ている。
2.プロカルシトニンレベルが0.25ng/mLを超えている。
3.前記初回用量のCSL324の投与前の3か月以内にいずれかの生ウイルスワクチン接種若しくは生細菌ワクチン接種を受けたか、又はスクリーニング前の12か月以内にバチルス・カルメットゲリン(BCG)ワクチン接種を受けている。
4.モノクローナル抗体療法に対する輸液関連反応若しくは過敏症(有害事象共通用語規準[CTCAE]による)、又は前記IMP若しくは前記IMPのあらゆる賦形剤に対する過敏症が知られている又は疑われている。
5.男性被験者又は妊娠可能な女性被験者であって、試験期間中のどの時点でも及びIMPの投与後の3か月以上にわたって妊娠を回避するための非常に有効な避妊方法を使用しない若しくは使用する意思がない又は性的に禁欲ではない。
【0478】
試験の評価
28日目の予定された評価のスケジュールが以下の表8に示されている。
【表11-1】
【表11-2】
【表11-3】
【表11-4】
【0479】
有効性評価
アウトカム評価には前記被験者の酸素補充の使用、CPAPの使用、BiPAPの使用、HFNCの使用、気管内挿管/機械的換気の使用、抜管、標準尺度での臨床状態、ICU入室及び退室、並びに退院又は死亡が含まれる。
【0480】
人口統計及び安全性評価
安全性の評価に関して本試験期間中に行われた臨床的診断法を以下の表9において提示する。
【表12-1】
【表12-2】
【0481】
薬力学評価
薬力学エンドポイントには血清中G-CSF濃度が含まれる。好中球活性化及び急性呼吸窮迫症候群の病態生理学に関連するその他の探索的バイオマーカー分析が実施され、それらの探索的バイオマーカー分析は、限定されないが、sRAGE、PAI-1、好中球エラスターゼ、及び炎症性サイトカインを含み得る。
【0482】
停止基準
被験者
本試験の参加中に被験者が以下の基準のいずれかに合致する場合、その被験者の安全性についての評価が完了するまでその被験者へのIMPのさらなる投与を停止する(すなわち、一時的に休止する)。
・重篤なAE(SAE)が発生し、治験担当者及び/又はCSLがCSL324の投与に関連すると考えている。
・注入中又は注入終了後の最初の24時間以内でのグレード(G)3又はグレード(G)4の全身投与関連反応(SARR)臨床症状がある。
・無作為割り当て後のどの時点もANCが1.5×10細胞/L未満であり、12時間以内の反復測定で確認される場合。
・院内感染症の臨床上又は臨床検査上の証拠又は疑いがある。
・本試験の前記被験者に許容できないリスクをもたらすと治験責任者(PI)及び/又は治験依頼者が考える何等かの事象又は臨床検査上の異常がある。
【0483】
試験
以下の基準のいずれかに合致する場合、本試験を継続すること又は継続しないことの全体的な安全性の評価が完了するまでさらなるIMPの投与及びさらなる新規被験者の参加登録の全てを停止する(すなわち、一時的に休止する)。
・1人以上の被験者が、死亡に至り、且つ、治験担当者及び/又はCSLがCSL324の投与に関連すると考えているSAEを発生させる。
・1人以上の被験者が、本試験の他の被験者に許容できないリスクをもたらすとみなされており、且つ、治験担当者及び/又はCSLがCSL324の投与に関連すると考えている他のあらゆる重大な事象を発生させる。
・医療監視員、CSL、又はIDMCがCSL324に関連すると考え、且つ、個々の事象については軽微に見えるかもしれないが、まとまると重大な安全上の潜在的な懸念になり得る有症状事象、臨床上の事象、又は臨床検査上の事象の全体的なパターン
・以下のいずれかに前哨安全群(すなわち、試験従事中の最初の5人、10人、20人、30人、及び45人の被験者)の評価時にグレード4の好中球減少症(0.5×10細胞/L未満のANC)がある。
・最初の5人の従事中の被験者のうちの1人以上
・最初の10人の従事中の被験者のうちの2人以上
・その後の3人以上の被験者
・2人以上の被験者がグレード2以上の関連好中球減少症(1.5×10細胞/L未満のANCとして定義される)を経験しており、明らかな好中球減少症の後の院内感染症の証拠と共に反復測定で確認される。
【0484】
有害事象
ICH E2A(治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて)によると、有害事象(AE)は、医薬品を投与された患者又は臨床試験被験者のあらゆる好ましくない出来事であって、必ずしもこの処理と因果関係を有しないものである。したがって、AEは、医薬品(治験薬)の使用と時間的に関連付けられるあらゆる好ましくなく且つ意図しない兆候(異常な臨床的に重大な臨床検査所見を含む)、症状、又は疾患であってよく、その医薬品(治験薬)と関連すると考えられているか否かは問われない。
【0485】
AEの観察期間は、インフォームドコンセントを得た時から試験終了時までである。
【0486】
有害事象には以下が含まれ得る。
・既存の症状の悪化(すなわち、頻度又は重症度の上昇)。試験開始前に存在する病気は、eCRFの病歴の欄に記録される必要があり、本試験中に頻度又は重症度の上昇が存在する場合にのみAEとして報告される必要がある。
・同意後且つIMP投与前の臨床事象の発生。
・IMPの投与後の併発病の発症。
【0487】
有害事象には以下が含まれない。
・除外基準に合うスクリーニング時に特定される事象。
・内科的又は外科的治療(この治療につながる症状はAEである)。
・好ましくない医療上の出来事が起きていない状況。例えば、
・既存の症状のために入院が予定されているが、その症状が悪化していないこと。
・AEではない原因で手術(例えば、美容外科手術)のために入院すること。
・病因滞在が24時間未満の期間である診断手順のために又は通常の管理手順(例えば、化学療法)のために入院すること。
・なんら有害兆候又は有害症状を生じないIMPの過剰投与又はいずれかの併用療法。
【0488】
臨床検査安全性パラメータについて、治験担当者が臨床的に重要であると考える基準範囲の外側にある絶対値のあらゆる例又は試験開始後のあらゆる通院時の変化も、eCRFにおいてAEとして記録されなければならない。また、治験担当者の判断で臨床検査パラメータのどんな経時的変化又は傾向も、そのような変化又は傾向が臨床的に適切であると考えられる場合にはたとえそれらの絶対値が基準範囲の内側にあるとしてもeCRFにおいてAEとして記録され得る。
【0489】
以下の場合には臨床検査の所見はAEとして報告されることを要しない。
・それらの臨床検査パラメータがスクリーニング時点で既に基準範囲を超えていること。ただし、臨床検査パラメータのさらなる増加/減少が既存の症状の悪化であると考えることができる場合を除く。
・血液試料に対する機械的又は物理的な影響(例えば、インビトロ溶血)を原因とし、臨床検査によって臨床検査報告に目印を付けられる異常な臨床検査パラメータ。
・明らかに生物学的に信じがたい異常なパラメータ(例えば、生命と相容れない値又は測定範囲の外側の値)。
・分析を好ましくは同じ臨床検査で繰り返した後に確証することができない異常な臨床検査値(すなわち、以前の結果が有効ではないとみなされる可能性があり、AEとして報告されることを必ずしも要しない)。
【0490】
重篤な有害事象
重篤な有害事象(SAE)は、用量にかかわらず生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事であって、以下の出来事として定義される。
・死亡を引き起こす事象。この重篤基準に合うよう、この事象はSAEの死因でなくてはならない。
・生命を脅かす事象。「生命を脅かす」という用語は、生じたときに被験者に死亡リスクがある事象のことをいい、さらに重篤であったのなら死亡していた仮説上の可能性があった事象を指すのではない。
・治療のための入院又は入院期間の延長が必要となる事象。24時間以上の期間にわたる「入院又は入院期間の延長」はSAEの定義基準として考える。予定された手術又は通常の疾患管理手順(例えば、化学療法)のための入院はSAEの定義基準として考えない。
・永続的又は顕著な障害又は機能不全に陥る事象。
・先天的異常又は出生時欠損である事象。
・医学的に重要である事象。医学的に重要である事象は、これらのSAE基準のいずれにも必ずしも合わないが、医師によって被験者を危うくする可能性があると判断される事象又はSAE基準として挙げられた上記の結果のうちの1つを防ぐために医学的介入若しくは外科的介入を必要とすると判断される事象として定義される。
【0491】
上記の分類に入らない有害事象は非重篤AEとして定義される。
【0492】
特に注目すべき有害事象
本試験時にCSL324の適切なベネフィットリスク評価を可能にするために特に注目すべきAE(AESI)として特に厳密にモニターされるいくつかのAEが存在し、これらの事象については追加データが要求される可能性がある。前記AESIは、
・グレード3及びグレード4の好中球減少症(それぞれ1×10細胞/L未満のANC及び0.5×10細胞/L未満のANC)
・グレード3及びグレード4の院内感染症
である。
【0493】
AEの等級付けはCTCAE基準(第5版、2017年11月27日)による。
【0494】
有害事象の重症度
各AEの重症度(すなわち、非重篤AE及び重篤なAE)は以下のように評価される。
【表13】
【0495】
主要有効性の分析
本試験の主要エンドポイントは、試験治療の実施後28日以内における気管内挿管又は死亡へ進行する割合である。その割合は、各治療群の被験者総数で除算された気管内挿管又は死亡まで進行した被験者の数として計算される。目的の治療効果(すなわち、推定値)は、追加の治療が用いられるかどうか又は最初のSOCが変更されたかどうかと無関係に、標的集団内で気管内挿管又は死亡まで進行することのオッズ比(CSL324+SOC対プラセボ+SOC)として定義される。ITT分析セットが主要エンドポイント分析のために使用される。
【0496】
処理群、年齢(65歳未満又は65歳以上)、性別(男性又は女性)、及び喫煙状態(有り又は無し)を中に含むFirthのロジスティック回帰モデルを使用して前記割合を2処理群間で比較する。90%信頼区間(CI)が付けられている前記オッズ比(OR)及び片側p値がこのモデルから推定される。mITT分析セットが主要有効性エンドポイント感度分析のために使用される。
【0497】
副次的有効性の分析
以下の副次的有効性エンドポイントについて被験者の頻度と割合を要約する。
・全死因死亡率
・無作為割り当てから28日目までの気管内挿管発生率
・8ポイントNIAID順序尺度で評価された臨床状態
・独立して捕捉される(1)CPAP若しくはBiPAP、(2)HFNC、又は(3)ECMOの使用
【0498】
主要有効性変数に使用される同じ検定方法が、前記2処理群間の副次的有効性エンドポイントを比較するためにも使用される。95%信頼区間(CI)が付けられている前記オッズ比(OR)及び両側p値を報告する。
【0499】
人工呼吸器非装着生存日数
被験者が生存し、且つ、人工呼吸器を装着していなかった日数の中央値を各処理群について分析する。
【0500】
8ポイントNIAID順序尺度での臨床状態の評価
8ポイントNIAID順序尺度の各カテゴリー内の被験者の頻度と割合を各処理群について要約する。ベースラインからの少なくとも2ポイントの改善を示す被験者の頻度と割合を分析する。
【0501】
入院期間
入院期間(LOS)は、無作為割り当てから退院までの時間として定義される。この分析では退院しなかった(すなわち、退院日の記録がない)被験者は、その被験者が28日間の試験治療期間を完了していなかった場合には最終の退院時評価日を退院までの時間とする。無作為割り当て後の最初の28日以内に事象が無かった若しくは打ち切り時間が来なかった被験者又は死んだ被験者については管理上の打ち切りを28日の時点で適用する。
【0502】
多臓器不全評価(SOFA)
SOFAスコアのベースラインからの変化を処理群毎に要約する。連続変数の記述統計を報告する。ウィルコクソンのノンパラメトリック順位和検定を用いて前記2処理群を比較する。
【0503】
ITT分析セット及びmITT分析セットが副次的有効性エンドポイント分析のために使用される。
【0504】
全ての分析は、α=0.05での両側検定に基づく。
【0505】
安全性分析
医薬規制用語集(MedDRA)第21.1版(又はそれ以後の版)を用いて有害事象をコード表記する。試験治療下発現有害事象(TEAE)は、試験治療の最初の実施時又は実施開始後に報告されたAEとして定義される。TEAEだけを要約する。
【0506】
何らかのTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、試験治療に関するTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、試験治療の永久的な中断につながるTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、用量改変につながるTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、重篤なTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、試験治療に関する重篤なTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、致命的なTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、試験治療に関する致命的なTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、重症度毎のTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージ、並びに特に注目すべきTEAEを有する被験者の数及びパーセンテージを含むTEAEの概要を作成する。
【0507】
TEAEは、器官別大分類及び基本語毎に要約される。TEAEは因果関係及び重症度毎でも要約される。全てのTEAEの要約は、各処理及び処理全体について提示される。
【0508】
血清中抗CSL324抗体を有する被験者の数及びパーセンテージは、処理群毎及び処理群全体で要約される。
【0509】
臨床検査評価(血液学、生化学、及び尿検査)は、処理群毎に記述して要約される。
【0510】
バイタルサインの所見は被験者毎及び時点毎に記載される。各通院時の値及びベースラインからの変化は、処理群毎に記述して要約される。
【0511】
薬物動態分析
血清中CSL324濃度についてのPKデータは、各処理の公称時間毎に要約される。血清中濃度の概要について以下の記述統計、すなわちn、算術平均、SD、CV%、中央値、幾何平均、最小値、及び最大値が提示される。
【0512】
ノンコンパートメント方法を用いて導出されるCSL324のPKパラメータは、処理群毎に記述して要約される。
【0513】
以下のPKパラメータが導出され、要約される。
・Cmax
・投与期間の0時間から最後までのAUC(AUC0~t
・Tmax
【0514】
maxを除き全てのPKパラメータについて以下の記述統計、すなわちn、算術平均、SD、CV%、中央値、幾何平均、最小値、及び最大値が提示される。Tmaxについてはn、中央値、最小値、及び最大値が要約される。
【0515】
探索的分析
生存分析法を用いて以下の事象変数までの時間が分析される。
・機械的換気時間。挿管された被験者について単に挿管から抜管までの時間として定義される。この分析では抜管されなかった(すなわち、ICUから退室した日付の記録がない)被験者は、その被験者が28日間の試験治療期間を完了していなかった場合には最後の抜管時評価日を抜管までの時間とする。無作為割り当て後の最初の28日以内に事象が無かった若しくは打ち切り時間が来なかった被験者又は死んだ被験者については管理上の打ち切りを28日の時点で適用する。
・ICU滞在期間。ICUに入室した被験者について単にICU入室からICU退室までの時間として定義される。この分析ではICUを退室しなかった(すなわち、ICUから退室した日付の記録がない)被験者は、その被験者が28日間の試験治療期間を完了していなかった場合には最後のICU退室時評価日をICU退室までの時間とする。無作為割り当て後の最初の28日以内に事象が無かった若しくは打ち切り時間が来なかった被験者又は死んだ被験者について、管理上の打ち切りを28日の時点で適用する。
【0516】
CSL324のPDプロファイルは、探索的バイオマーカーアッセイを介して探索される。バイオマーカーデータは、各処理群の試験通院毎に要約される。連続変数について以下の記述統計、すなわちn、算術平均、SD、CV%、中央値、幾何平均、最小値、及び最大値が提示される。分類変数については数及びパーセンテージが処理群毎に提示される。
【0517】
ITT分析セット及びmITT分析セットが探索的有効性分析のために使用され、PD分析セットが全てのPD分析のために使用される。全ての分析は、α=0.05での両側検定に基づく。
【0518】
本明細書において引用される全ての刊行物の全体をここに参照により援用する。URL又は他のそのような識別子若しくはアドレスを参照する場合、そのような識別子は変更可能であり、インターネット上の特定の情報は移り変わることがあり、しかしインターネットを検索することによって同等の情報を見出し得ることが理解される。URL又は他のそのような識別子若しくはアドレスへの参照は、そのような情報の入手可能性及び公衆への普及の証拠となる。
【0519】
本明細書に含まれている文書、活動、材料、装置、物品、又はそのようなものについてのあらゆる考察は、単に本開示の内容を提示することを目的とする。そのような考察は、本出願の各請求の優先日よりも前に存在したため、これらのものの一部又は全てが先行技術基準の部分を形成すること又は本開示に関連する分野の共通一般知識であることを認めたものと理解されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
【配列表】
2023533658000001.app
【国際調査報告】