(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-21
(54)【発明の名称】基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20230814BHJP
【FI】
C25D17/00 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023506281
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2021068902
(87)【国際公開番号】W WO2022022967
(87)【国際公開日】2022-02-03
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518264310
【氏名又は名称】セムシスコ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SEMSYSCO GmbH
【住所又は居所原語表記】Karolingerstrasse 7C 5020 Salzburg Republic of Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス グライスナー
(72)【発明者】
【氏名】マリアンヌ コリッシュ-マタルン
(57)【要約】
本開示は、基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム、及び基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムの製造方法に関する。基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムは、分配体及び分配媒体を備える。分配体は、プロセス流体及び/又は電流のためのいくつかの開口部を備える。分配媒体は、分配体の開口部の少なくともいくつかを覆っている。分配媒体は、プロセス流体及び/又は電流を分配体から分配する通路を有する網状のフレームワークを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(20)の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム(10)であって、
分配体(11)と、
分配媒体(12)と、を備え、
前記分配体(11)は、プロセス流体及び/又は電流のためのいくつかの開口部(13)を備え、
前記分配媒体(12)は、前記分配体(11)の前記開口部(13)の少なくともいくつかを覆っており、
前記分配媒体(12)が、前記プロセス流体及び/又は前記電流を前記分配体(11)から分配する通路(14)を有する網状のフレームワークを含む、分配システム(10)。
【請求項2】
前記網状のフレームワークが、ランダムに分布した通路(14)を有するスポンジを形成している、請求項1に記載の分配システム(10)。
【請求項3】
前記網状のフレームワークが、一様に分布した通路(14)を有するグリッドを形成している、請求項1に記載の分配システム(10)。
【請求項4】
前記分配媒体(12)が多孔質体である、請求項1~3のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項5】
前記分配媒体(12)が、0.1~0.95、好ましくは0.4~0.9、より好ましくは0.6~0.85の範囲の多孔率を有する、請求項1~4のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項6】
前記分配媒体(12)が、10
-4~10m/s、好ましくは10
-3~1m/s、より好ましくは10
-3~10
-1m/sの範囲の透水係数を有する、請求項1~5のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項7】
前記多孔率及び/又は前記透水係数が、異方的である、請求項5又は6に記載の分配システム(10)。
【請求項8】
前記網状のフレームワークが、小区画及び通路(14)の単一の層を備える、請求項1~7のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項9】
前記網状のフレームワークが、小区画及び通路(14)の少なくとも2つの層を備える、請求項1~7のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項10】
小区画と通路(14)の隣接する層の前記通路(14)が、互いに対して部分的にずれている、請求項1~9に記載の分配システム(10)。
【請求項11】
前記通路(14)が、相互に連結している、請求項1~10のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項12】
前記分配媒体(12)によって覆われた前記開口部(13)が、前記基板(20)に向かって前記プロセス流体を方向づけるように構成された噴出口(15)である、請求項1~11のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項13】
前記分配媒体(12)によって覆われた前記開口部(13)が、前記基板(20)に対して、前記プロセス流体を排出するように構成された排出口(16)である、請求項1~12のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項14】
前記分配媒体(12)が、前記分配体(11)を少なくとも部分的に覆っている、請求項1~13のいずれか一つに記載の分配システム(10)。
【請求項15】
基板(20)の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム(10)を製造する方法であって、
分配体(11)を準備することであって、前記分配体(11)が、プロセス流体及び/又は電流のためのいくつかの開口部(13)を備えることと、
分配媒体(12)を用いて、前記分配体(11)の少なくともいくつかの開口部(13)を覆うことであって、前記分配媒体(12)が、前記プロセス流体及び/又は前記電流を前記分配体(11)から分配する通路(14)を有する網状のフレームワークを備えることと、を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム、及び基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面積の大きいプリント回路板(PCB)を製造するときの最良の処理結果は、高速めっき技術を含むシステムを意味する、いわゆるHSPシステムで実現される。高速めっき技術においては、1つ又は2つのHSP(高速プレート)が、1つ又はいくつかのアノード及び1つ又は2つの基板と共に、液体電解質を含むタンクに浸漬される。電解液の流れを、(複数の)HSPプレートの内側から、噴出口を経由して(複数の)基板表面に向かわせ、同時に、電流を、排出口を経由して、HSPを通じて基板表面に向かわせる。排出口は、基板から離れて、使用された電解液を排出する役割を果たす。基板へのHSPの距離が短く、噴出口からの電解液の出口流速が速いため、電解液の流れを散らしにくく、点別に基板表面に影響を与え得る。影響を受けた領域は、ノズルを出てくる液体電解質の流れの直径とほとんど同一の直径を表す。基板上に均一な材料の堆積を達成するために、また、噴出口からの液体電解質の流れで対象の表面を完全に覆い、排出口を通じて電流を均一に分布させるために、噴出口及び排出口の配置が重要であり、また、基板がパターンのある表面を表す場合には、より一層重要である。
【0003】
噴出口からの液体電解質の流れ及び排出口を通じた電流の点状の出力を克服するためには、HSPの表面上の噴出口及び排出口を様々な配置にすることが、従来技術から知られている。これらの配置の主な目的は、液体電解質の流れ及び電流の流れによって、HSPを十分な被覆率に到達するようにすることである。しかしながら、電気化学的に被覆されるパターンのある表面を有する基板であると、これらの配置は限界に達してしまう。特に、排出口及び噴出口が、基板の穴又はキャビティのちょうど真正面に位置する場合、この領域においては膜厚が増加し得る一方、隣接する領域は、膜厚が減少し得る。これは、望ましくない不均一な被覆表面につながり得る。使用できる噴出口及び排出口の密度を増加させることにより、この問題を低減しようとすると、HSPプレートの製造の点で大きな制限が課される。これらの穴の最小直径と同様に、個々の噴出口と排出口の間の最小距離を確保する必要がある。特定の最小直径及び距離未満の噴出口及び排出口を有するHSPを製造することは、現在では技術的に不可能である。
【発明の概要】
【0004】
それゆえ、特により均一な表面処理を可能とする、基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の改良された分配システムを提供する必要があり得る。
【0005】
本発明の課題は、独立請求項の主題によって解決でき、さらなる実施形態が、従属請求項に組み込まれる。以下で説明する開示の態様を、基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム、及び基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムを製造する方法にも適用することに注意されたい。
【0006】
本開示によると、基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムが提示される。該分配システムは、分配体及び分配媒体を備える。分配体は、プロセス流体及び/又は電流のためのいくつかの開口部を備える。分配媒体は、分配体の開口部の少なくともいくつかを覆っている。分配媒体は、プロセス流体及び/又は電流を分配体から分配するための通路を有する網状のフレームワークを備える。
【0007】
従来技術の限界を克服するために、分配媒体を有する分配システムを発明し、該分配システムは、分配媒体の通路の外側で、プロセス流体の流れ及び/又は電流の流れの散乱又は散らばりを確保し得る。分配媒体を用いることで、基板の表面上のプロセス流体の流れ及び/又は電流の流れの衝突領域の直径が、大幅に増大し得る。これにより、プロセス流体を点状に基板表面に作用させないで、分配体と基板との間の距離が小さく、小さな開口部、及び/又はプロセス流体の流れの流速が速いのを維持することが可能になり得る。極端な点状の衝突又は衝撃がないか又は少ないため、プロセス流体の流れで完全に又は少なくともより良く基板表面を覆うこと、及び/又は基板表面に電流の流れをより均一に分布させることが、より簡単になり得る。さらに、分配媒体を使用することにより、開口部から出てくるプロセス流体の流れ/電流の流れの散乱で、基板表面のトポロジーによる不均一な被覆への影響は、より小さくなり得る。結果として、表面処理がより均一になり得、例えばより均一な被覆につながり得る。これは、特に、パターンのある表面を有する基板に当てはまる。
【0008】
通路を有する網状のフレームワークとは、フレームワークが、互いに連通して、チャネルのネットワークを形成する一群の通路(又はチャネル)であることを意味する。網状のフレームワークに入るプロセス流体及び/又は電流は、連結した経路に移動し、チャネルのフレームワーク全体に広がり得る。ここでは、チャネルのネットワークとは、プロセス流体及び/又は電流を、一方から他の一方に通過させることができる相互に連結した通路又はチャネルを意味する。網状のフレームワークは、プロセス流体及び/又は電流の予測可能な流路をもたらすため、処理される基板の特定の領域に標的とする流れ(プロセス流体/電流の局部的な出力)を作り出すことも可能である。
【0009】
分配システムの分配能力が高い結果、分配体及び/又は分配媒体を、処理される基板よりも小さい寸法で形成することができる。その結果、基板の大きさにより使用される分配システムの大きさに課される制限がなくなるか、或いは少なくとも大幅に低減され、分配システムの大きさを、完全に又は少なくとも部分的に、処理される基板と無関係に選択できる。
【0010】
表面処理は、基板の化学及び/又は電解表面処理であってもよい。当該表面処理は、材料堆積、電気めっき、リソグラフィー、ウェット若しくはドライエッチング、ウェット若しくはドライクリーニング、水若しくは薬品洗浄、及び/又は同様のものであってもよい。
【0011】
基板は、基板表面の少なくとも1つの面上に構造及び/又は層を有する又は有しない任意の板状の材料であってもよい。基板は、半導体、絶縁体(例えばガラス、石英、プラスチック、ポリマー等)、太陽電池、プリント回路基板製品、(フラット)パネルディスプレー及び/又は同様のものであってもよい。共に又は同時に処理される2つの基板が存在してもよい。
【0012】
分配体は、プロセス流体の流れ(例えば電解液)及び/又は電流密度の分布を基板に向かわせる、数個、複数又はずらりと並んだ開口部を有するプレート又は任意のプレート状の材料として理解できる。分配体は、アノードとカソードを形成する基板との間に配置されていてもよい。
【0013】
開口部は、分配体を通して延在している穴、キャビティ又はチャネルとして理解できる。開口部は、基板に面している分配体の前面に出口を有していてもよい。開口部は、アノードに面している分配体の裏面に入口を有していてもよい。(複数の)入り口及び/又は(複数の)出口は、例えば分配体が挿入される又は浸漬される処理チャンバーの開口部、側壁又は底面に面している外側面にあってもよい。開口部は、分配体を通して線形に又は角度をつけて延びていてもよい。開口部は、プロセス流体を分配体から基板に向かわせる噴出口であってもよい。開口部は、基板から戻り、分配体を通過するプロセス流体の戻り流用の排出口であってもよい。
【0014】
分配媒体は、分配体の基板に面する表面上に位置していてもよい。分配媒体は、少なくとも部分的に分配体を覆っていてもよい。分配媒体は、穿孔体として理解することができる。分配媒体は、通路又はチャネルを有する網状の又はメッシュ状のフレームワーク又は骨組みを備えていてもよく、分配媒体を通じてプロセス流体及び/又は電流を移動させ、分配媒体から離れて、かつ、好ましくは基板に向かって、プロセス流体及び/又は電流を分配又は噴霧する。
【0015】
分配媒体及び/又はその網状のフレームワークは、多孔質体、発泡体、スポンジ、グリッドなどとして理解できる。網状のフレームワークは、ランダム又は非ランダムに分布した通路又はチャネルのネットワークを、バルク材内に含むことができ、該通路は、分配媒体の一方の側から他方の側に、プロセス流体の流れ及び/又は電流の流れを送ることができる。ネットワークは、交差する水平の及び垂直の線の配列である。少なくともいくつかの線が、水平又は垂直ではない角度で配置されていてもよい。通路又はチャネルを交差させることにより、分配媒体の他の部分にプロセス流体及び/又は電流を拡散させることが可能になり、それらから処理される基板上へ出ていくことを可能にする。通路又はチャネルは、分配媒体を通して、線形又は角度をつけて延びていてもよい。通路又はチャネルは、延在していてもよく、プロセス流体の流れ及び/又は電流の流れは、分配媒体のある側(例えば裏面又は外側面)から分配媒体の他の側(例えば前面又は外側面)に流れてもよい。
【0016】
一実施形態において、分配媒体によって覆われている開口部は、プロセス流体を基板に向かわせるように構成された噴出口である。噴出口又はノズルは、分配体から基板にプロセス流体を向かわせる開口部であってもよい。一実施形態において、加えて又は代わりに、分配媒体によって覆われている開口部は、基板に対して、プロセス流体を流出させるように構成された排出口である。排出口又はドレインは、基板から戻り、分配体を通過するプロセス流体の戻り流のための開口部であってもよい。これは、プロセス流体の流れの分配をより良くするために、噴出口の形の開口部のみを分配媒体で覆うことができ、排出口の形の開口部を覆わないことができることを意味する。逆もまた同様で、排出口の形の開口部のみ覆って電流の流れを散らすことができ、また、噴出口の形の開口部を覆われないままにすることができる。好ましくは、どちらのタイプの開口部(噴出口及び排出口)も分配媒体で覆われているか、又はそれぞれが異なる型の分配媒体で覆われている。
【0017】
排出口を、噴出口の隣又は周りに配置することができる。言い換えると、少なくとも噴出口のために設けられた又は噴出口に割り当てられた排出口が存在する。好ましくは、より少数の噴出口のために設けられた複数の排出口又はより少数の噴出口に対応する複数の排出口が存在する。排出口により、流路をかなり短くすること及び/又はフローセルをかなり小さくすることが可能になる。これは、分配体の開放端部を経由してバックフローを導くことにより、はるかにより長い流路及び/又はより大きいフローセルを形成する従来技術の分配体と、とりわけ対照的である。プロセス流体を基板に向かわせる複数の噴出口、及び基板から戻り、排出口を通過するプロセス流体の戻り流用の複数の排出口を備える分配体は、高速プレート(HSP)を形成する。HSPにより、プロセス流体を加速することが可能になり得、及び/又は基板に向かう電流分布の制御、バランス及び/又は釣り合いをより簡単にすることが可能になり得る。
【0018】
例において、分配体の開口部は、分配媒体の通路より多くてもよく、或いは開口部の数及び通路の数が等しくてもよい。分配システムにおける開口部の数と通路の数が等しい場合、各通路は、1つの開口部と対応し得る。したがって、分配体を通って移動するプロセス流体及び/又は電流の全てを、分配媒体を通じて効率的に基板に向かわせることができる。当然のことながら、他の例においては、通路が開口部より多くてもよい。
【0019】
一実施形態において、分配媒体は、分配体から分配媒体を通過し、分配媒体から基板に向かって又は基板に対してプロセス流体及び/又は電流を分配する通路を有する網状のフレームワークを備える。一実施形態において、網状のフレームワークは、ランダムに分布した通路を有するスポンジを形成する。これは、通路を、ポリマー鎖のように不規則に分布させられることを意味する。ランダムな分布では、単位面積当たりの網状のフレームワークを形成する通路の数が、分配媒体全体で同じでないこともあると理解することもできる。他の実施形態において、網状のフレームワークは、一様に分布した通路を有するグリッドを形成する。これは、通路を、格子柄のように規則的に分布させられることを意味する。一様な分布は、単位面積当たりの網状のフレームワークを形成する通路の数が、分配媒体全体で等しいと理解することもできる。全ての実施形態において、通路は、網状のフレームワーク内のチャネルのネットワークであると理解でき、該通路は、第1の表面(例えば、分配体に面する表面)から他の表面である分配媒体の第2の表面(例えば、基板に面する表面)に、プロセス流体の流れ及び/又は電流の流れが流れるようにする。
【0020】
一実施形態においては、少なくともいくつかの通路が相互に連結していてもよい。これは、少なくとも1つの通路が、少なくとも他の1つの通路と連結しており、分配媒体のある表面から分配媒体の他の表面に通過し得ることを意味する。相互に連結した通路により、分配媒体を横断するある通路から他の通路に、プロセス流体の流れ及び/又は電流の流れが、(中継装置のように)より良く移動することが可能になる。相互に連結した通路は、ある表面から他の表面、好ましくは分配媒体の反対の表面に真っすぐな穿刺を形成し得る。相互に連結した通路は、分配媒体のある表面と他の表面の間で、曲がった、横断する又は斜めの相互連結を、追加で又は代わりに形成し得る。また、相互に連結した通路は、分岐及び/又は分路を形成してもよい。相互に連結した通路は、流路を妨げないで、プロセス流体及び/又は電流が流れることができるように構成されるのが好ましい。その結果、プロセス流体及び/又は電流のエネルギー損失及び速度低下を、最小限に維持できる。
【0021】
ある程度空洞の通路の間の分配媒体のバルク材料は、小区画、細孔又は(蜂の)巣として理解できる。一実施形態において、網状のフレームワークは、小区画及び通路の単一の層を備える。これは、分配媒体が、1つだけの層の(分配媒体の表面から垂直に見た)高さを本質的に有しており、その中で、1つの小区画が、1つの通路に隣接して配置されて重なりがないと理解できる。他の実施形態において、網状のフレームワークは、少なくとも小区画及び通路の2つの層を備える。これは、2つだけ又は2つ以上の層の(分配媒体の表面から垂直に見た)高さを本質的に有しており、ここで、層という用語は、重なりがなく、1つの通路に隣接して配置された1つの小区画と定義される。
【0022】
網状のフレームワークが、小区画及び通路の少なくとも2つの層を備えるとき、ステープル層を、例えば、れんがの層がずれたれんが壁のように、互いに対して少なくとも部分的にずらすことができる。これは、第1の層の第1の通路が、その上に並んでいる第2の層の第2の通路と少なくとも完全に重なっていないことを意味する。当然のことながら、その一方で、ステープル層の通路を、第1の層の第1の通路が、その上に並んでいる第2の層の第2の通路に、少なくとも部分的に重なるように互いを配列してもよい。
【0023】
網状のフレームワークが2つの層を備える例において、該層は、異なる強度の通路(言い換えると、異なる数の通路)を有し得る。層の通路の割合を変化させることにより、分配体からのプロセス流体及び/又は電流の流速及び散乱度合いを制御できる。
【0024】
分配媒体及び/又は網状のフレームワークは、高い透過性を有していてもよく、開口部(特に噴出口)におけるさらなる電流抵抗を防ぎ、及び/又は開口部(特に排出口)を通過するプロセス流体の排出が悪くなることを防ぐ。透過率は、多孔率、透水係数などとして説明することができる。多孔率は、多孔質材料のバルク体積に対する細孔体積の量として理解できる。透過率は、多孔質材料の細孔間の連結の品質又は性質を説明する手段として理解できる。一実施形態において、分配媒体は、0.1~0.95、好ましくは0.4~0.9、より好ましくは0.6~0.85の範囲の多孔率を有する。「多孔率」という用語は、有効多孔率、即ち、連結した細孔及び又は相互に連結した通路を通じて利用できる空隙比、材料の空の(すなわち「空洞」)スペースの尺度、並びに、全体積に対する空の体積の割合、として理解できる。
【0025】
多孔率を測定するいくつかの方法があり、多孔質サンプルのバルク体積を決定し、その後、細孔のない骨格材の体積を決定することにより(細孔の体積=全体積-材料の体積)、直接多孔率を測定する方法、顕微鏡で見える材料の面積対細孔の面積を決定することにより、光学的に多孔率を測定する方法、隙間を含む外側及び内側の形状の3Dレンダリングを作り出すCTスキャンを使用し、コンピュータソフトウェアを使用して欠陥解析を実行する計算トモグラフィー法を用いて多孔率を測定する方法、などがある。
【0026】
一実施形態において、分配媒体は、10-4~10m/s、好ましくは10-3~1m/s、より好ましくは10-3~10-1m/sの範囲内の透水係数を有する。「透水係数」という用語は、流体が隙間や細孔を通って移動できる容易さを説明するプロパティとして理解できる。該透水係数は、材料の固有の透過性、飽和度、及び流体の密度や粘度に依存し得る。定義によると、透水係数は、多孔質媒体の透過性を示す動水勾配に対する速度の比率である。
【0027】
透水係数を測定するためのいくつかの方法が存在する。試料に流れている水の体積を時間ごとに測定しながら、定水位条件下で、試料に水を移動させることを可能にする定水位法がある。水によって異なる円柱の高さである水位hだけでなく、長さL及び断面積Aの試料を通った、時間Δtで測定された水の体積ΔVが分かることにより、透水係数Kを
【数1】
により、導き出せる。
【0028】
また、変水位法があり、該変水位法では、試料が、まず特定の水位条件で満たされている。如何なる液体も加えないで、液体が長さLの試料を通過するにつれて圧力水頭が低下するように、液体(好ましくは水)を試料に流すことを可能にする。水位が、時間Δtで高さh
iから高さh
fに低下する場合に、透水係数Kは、
【数2】
に相当する。
【0029】
一実施形態において、透過率、多孔率及び/又は透水係数は、異方的である。これは、透過率、多孔率及び/又は透水係数が、分配媒体の至る所において、第1の方向(例えば分配媒体の表面に平行)と第2の方向(例えば分配媒体の表面に垂直)で異なることを意味する。例えば、透過率、多孔率及び/又は透水係数が、分配媒体の表面に平行な方向で、分配媒体の表面に垂直な方向より小さくてもよい。これにより、外側で又は分配媒体から離れて、好ましくは基板に向かってプロセス流体及び/又は電流を分配又は噴霧する前に、プロセス流体及び/又は電流を、まず分配媒体内で拡散又は分配することが可能になる。これにより、より広い分配及びより均一な基板の表面処理が可能になる。当然のことながら、透過率、多孔率及び/又は透水係数は、分配媒体の表面に平行な方向で、分配媒体の表面に垂直な方向よりも高くなることもある。確かに、異方性がないこともあり、浸透率、多孔率及び/又は透水係数は、全ての方向で同様である。
【0030】
通路又はより正確には、分配媒体の通路の隙間若しくは開口部は、例えばレーザー書き込みにより、局所的に閉じることができる。そのような閉じる方法により、隙間を、基板における基板の大きさ及び/又は構造の位置によって、選択的に密封することができる。密封されていない隙間は、流体の流れ及び電流を供給し、基板における対象のプロセス、すなわち、金属堆積を可能にし、一方で、密封された隙間は、流れ及び電流を制限するため、基板における目的のプロセスを制限する。分配媒体の隙間により、単一の隙間又は一群若しくはずらりと並んだ隣接する隙間のいずれかを選択的に閉じて、例えばランダム又は非ランダムなパターンを形成できる。
【0031】
通路又は分配媒体の通路の隙間若しくは開口部が、部分的に閉じられていてもよく、言い換えると、狭くなっていてもよい。通路の出口(通路の開口部又は隙間)を狭くすることにより、例えば、基板表面の特定の部分で必要とされる厚さによって、プロセス流体及び/又は電流の流れの局所制御が可能になる。
【0032】
分配媒体の1つの又は一群の密封していない隙間は、円形、角形又は線形であってもよい。線形の開口部又は一群の開口部は、直線形、円形、ジグザグ形又は波形形状などであってもよい。複数の隙間は、異なる形状又は異なる大きさの開口部の組み合わせを含んでもよいし、或いは全て同一であってもよい。(周囲の開口部からプロセス流体及び/又は電流の重なりによって)基板の中央部分に到達させる、プロセス流体及び/又は電流の密度をより高く釣り合わせるために、分配媒体の端部の開口部は、分配媒体の中央部における開口部より大きくてもよい。同様に、開口部の大きさは、中央での基板の化学及び/又は電解表面処理を減少させ、基板の側面でのより少ない表面処理を釣り合わせるために、分配媒体の中央部でより小さくすることができる。分配媒体の通路の直径又は断面の大きさは、マイクロメートルからミリメートルの範囲内であってもよい。
【0033】
分配媒体は、任意の材料で、並びに任意の形状及び/又は厚さで製造できる。さらに、分配媒体は、1つの材料のみ又は複合材料を代表とした様々な材料を含むことができる。
【0034】
分配媒体を、いくつかの様式、取り外せる又は取り外せない、すなわち、機械的な様式、化学的な様式などで分配体に取り付けることができる一方、これらの方法の1つにより、又はこれらの方法の組み合わせにより取り付けることもできる。分配媒体の機械的連結は、クランプ又はねじなどの締結装置によってできる。分配体を機械的に取り付ける利点は、分配媒体又は分配体を破壊しないで、いつでも分配体を取り外すことができ、また、取り換えられることである。他の可能性としては、2つの接触部分の間の化学結合によって、分配体への分配媒体の化学的な取り付けである。これは、2つの接触部分の間に直接化学結合を形成することにより、又は分配体が接着剤の片面に化学的に結合しているところと、分配媒体が接着剤のもう一方の面に化学的に結合しているところとの間で、接着剤の一種を使用することにより、実現できる。分配体と分配媒体との化学的な取り付けの利点は、それらの間の結合が強く、所要の位置で、固定された配置や、取り外せないことを保証することである。化学結合は、熱的又は機械的に、すなわち、圧力をかけることで誘導でき、或いは、分配媒体の製造を分配体の上に直接行う、すなわち、分配体上への直接の分配媒体の3Dプリントにより行うことができ、又は分配体及び分配媒体を同一の製造ステップ中に共に製造することができ、すなわち、3Dプリントすることができる。
【0035】
本開示によると、基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムの製造方法も示されている。該製造方法は、必ずしも以下の順序である必要はないが、次のステップを含む。
- 分配体を準備することであって、該分配体が、プロセス流体及び/又は電流のためのいくつかの開口部を備えること。
- 分配媒体によって分配体の少なくともいくつかの開口部を覆うことであって、該分配媒体が、分配体からプロセス流体及び/又は電流を分配する通路を有する網状のフレームワークを備えること。
【0036】
本製造方法は、分配媒体を有する分配システムの簡単な製造を可能にし、分配媒体の通路を通過して流れ出すプロセス流体の散乱若しくは散らばり、及び/又は分配媒体の通路を通過する電流の流れの散乱を増加させ得る。結果として、分配システムを用いた表面処理がより均一になり得、例えばより均一な被覆につながり得る。
【0037】
分配媒体及び/又は網状のフレームワークは、多孔質体であってもよく、例えばスポンジやグリッドであってもよい。分配媒体及び/又はその網状のフレームワークは、物質内にランダムに又は非ランダムに分布したチャネル又は通路のネットワークを備えることができ、該ネットワークにより、分配媒体のある面から他の面へのプロセス流体の流れ及び/又は電流の流れを可能にする。通路の少なくともいくつかが、相互に連結していてもよく、これは、少なくとも1つの通路が、少なくとも他の1つの通路と連結されていることを意味する。
【0038】
分配媒体によって覆われた開口部は、プロセス流体を基板に向かわせるように構成された噴出口であってもよい。分配媒体によって覆われた開口部は、基板に対して、電解液を流出させるように構成された排出口であってもよい。噴出口のために設けられた又は噴出口に割り当てられた少なくとも1つの排出口があってもよい。より少ない数の噴出口のために設けられた又は噴出口に割り当てられたいくつかの排出口があるのが好ましい。分配体は、基板にプロセス流体を向かわせる複数の噴出口、及び基板から戻り、排出口を通過するプロセス流体の戻り流用の複数の排出口を備える高速プレート(HSP)であってもよい。
【0039】
独立請求項によるシステム及び方法は、類似の及び/又は同一の好ましい実施形態を包含し、具体的には、従属請求項で定義される実施形態を有することを理解されたい。本開示の好ましい実施形態は、各独立請求項と従属請求項との任意の組み合わせであってもよいことをさらに理解されたい。
【0040】
本開示のこれらの又は他の態様を、以下で説明する実施形態を参照して明らかにし、明瞭にする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本開示の実施形態の例を、添付の図面を参照して以下で説明する。
【0042】
【
図1】本開示による基板の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システムの実施形態を、概略的及び例示的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、基板20の化学及び/又は電解表面処理のためのプロセス流体の分配システム10の実施形態を、概略的及び例示的に示している。分配システム10は、分配体11及び分配媒体12を備える。
【0044】
分配体11は、ここではプレートであり、具体的には、プロセス流体の流れF(電解液)及び/又は電流密度分布Cを基板20に向かわせる、プロセス流体及び/又は電流のための複数の開口部13を有する高速プレート(HSP)である。分配体11は、アノード21とカソードを形成する基板20との間に配置される。分配システム10は、プロセス流体及び少なくともアノード21及び少なくとも基板20を含んだタンクに浸漬され得る。
【0045】
開口部13は、分配体11を通して延在している通り抜けられる穴である。開口部13は、基板20及び分配媒体12の方向に面する分配体11の前面に出口を有する。開口部13は、アノードに面する分配体11の裏面に入り口を有する。
【0046】
開口部13のいくつかは、分配体11から基板20及び分配媒体12にプロセス流体を向かわせる噴出口15である。開口部13のいくつかは、基板20及び分配媒体12から戻って分配体11を通過する、電流を流出させるプロセス流体の戻り流用の排出口16である。排出口16は、噴出口15に隣接して配置される。各排出口16は、噴出口に割り当てられる。好ましくは、噴出口15よりも多くの排出口16がある。
【0047】
分配媒体12は、分配体11の前面に接して位置しており、基板20に面している。分配媒体12は、分配体11及び分配体11の開口部13を覆っている。
【0048】
分配媒体12は、穿孔体、多孔質体、発泡体、スポンジ、グリッド又は同様のものとして理解できる。分配媒体12は、通路14を有する網状のフレームワークを備えており、分配体11から分配媒体12を通過してプロセス流体及び/又は電流を移動させ、分配媒体12から離れて、基板20に向かってプロセス流体及び/又は電流を分配する。
【0049】
通路14は、分配媒体12のある側(ここでは、分配体11に面する第1の表面又は裏面)から他の側(ここでは、基板20に面する第2の表面又は前面又は反対の面)へのプロセス流体の流れF及び/又は電流の流れCを可能にする。分配媒体12内の通路14は、バルク材料中で、ランダム又は非ランダムに分布し得る。分配媒体12中の通路14は、ランダムな分布の通路14を有するスポンジを形成でき、これは、通路14が、ポリマー鎖のように分布し得ることを意味する。分配媒体12中の通路14は、一様に分布した通路14を有するグリッドを形成でき、これは、通路14が、格子柄に分布し得ることを意味する。
【0050】
通路14は、ここでは相互に連結しており、これは、通路14が少なくとも他の1つの通路14と連結しており、プロセス流体の流れF及び/又は電流の流れCが、分配媒体12のある表面から分配媒体12の他の表面に通過することを意味する。通路14は、分岐、ジャンクション及び/又はバイパスを形成してもよい。
【0051】
ある程度空洞の通路14の間の分配媒体12のバルク材料は、小区画、気孔、(蜂の)巣又は同様のものとして理解できる。ここでは、網状のフレームワークは、小区画及び通路14のいくつかの層を備える。これは、分配媒体12が、2つ以上の層の(分配媒体12の表面に垂直な方向から見た)高さを本質的に有することを意味し、ここで、層という用語は、重ならずに1つの通路14に隣接して配置される1つの小区画と定義される。ステープル層は、第1の層の第1の通路が、その上に並んでいる第2の層の第2の通路14にぴったりかさならないように、互いに対してずれている。
【0052】
本開示の実施形態は、異なる主題を参照して説明されることに留意されたい。特に、いくつかの実施形態が、方法の請求項を参照して説明される一方で、他の実施形態が、デバイスの請求項を参照して説明される。しかしながら、当業者であれば、上記及び下記の説明から、特に断らない限り、1つの主題に属する特徴の任意の組み合わせに加えて、異なる主題に関連する特徴の任意の組み合わせもこの出願で開示されていると考えられると推測する。しかしながら、全ての特徴を組み合わせて、特徴の単純な足し算どころではない相乗効果をもたらすことができる。
【0053】
本開示は、図面及び前述の記述で示し、説明してきたが、そのような図及び説明は、実例又は例示であり、限定するものではないと考えられたい。本開示は、開示される実施形態を限定するものではない。開示される実施形態の他の変化物を、図面、開示及び従属請求項の研究から、特許請求された開示を実行することで当業者によって理解され、もたらされ得る。
【0054】
請求項において、「含んでいる(comprising)」という用語は、他の要素又はステップを除外せず、「1つの(a)」又は「1つの(an)」という不定冠詞は、複数存在することを除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、請求項内で列挙されるいくつかの製品の機能を実行し得る。特定の手段が複数の異なる従属請求項で列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが利益をもたらすために使用できないことを示すものではない。請求項中の任意の参照符号は、範囲を限定するものであると解釈されるべきではない。
【国際調査報告】