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特表2023-537369ベータコロナウイルス感染症に関連する疾患を治療または予防するための組成物及び方法
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  • 特表-ベータコロナウイルス感染症に関連する疾患を治療または予防するための組成物及び方法 図1
  • 特表-ベータコロナウイルス感染症に関連する疾患を治療または予防するための組成物及び方法 図2
  • 特表-ベータコロナウイルス感染症に関連する疾患を治療または予防するための組成物及び方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ベータコロナウイルス感染症に関連する疾患を治療または予防するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4535 20060101AFI20230824BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 27/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 9/68 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/603 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/121 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/421 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/618 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A61K31/4535
A61P11/02
A61P11/04
A61P11/14
A61P29/00
A61P27/00
A61P31/14
A61P21/00
A61P19/02
A61P9/00
A61P13/12
A61P1/16
A61P25/00
A61P7/00
A61K9/08
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/68
A61K47/02
A61K31/405
A61K31/192
A61K31/616
A61K31/196
A61K31/603
A61K31/407
A61K31/5415
A61K31/121
A61K31/421
A61K31/618
A61K31/40
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023508084
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 US2021044897
(87)【国際公開番号】W WO2022032069
(87)【国際公開日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】63/062,138
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523040196
【氏名又は名称】セン-ジャム ファーマシューティカル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイバーセン ジャクリーン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ダール トーマス エー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA69
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB27
4C076CC05
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC15
4C076CC17
4C076CC35
4C076DD01
4C076DD24
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA071
4C084ZA081
4C084ZA341
4C084ZA361
4C084ZA511
4C084ZA591
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZA941
4C084ZA961
4C084ZB111
4C084ZB331
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC05
4C086BC15
4C086BC21
4C086BC69
4C086BC89
4C086BC90
4C086CB03
4C086CB22
4C086DA17
4C086GA04
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA47
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA59
4C086MA63
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA07
4C086ZA08
4C086ZA34
4C086ZA36
4C086ZA51
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206DA22
4C206DA23
4C206FA44
4C206KA01
4C206KA04
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA33
4C206MA36
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA72
4C206MA76
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA31
4C206ZA34
4C206ZA36
4C206ZA51
4C206ZA59
4C206ZA75
4C206ZA81
4C206ZA94
4C206ZA96
4C206ZB11
4C206ZB33
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、SARS-CoV-2及びCOVID-19を含む、ベータコロナウイルス感染症を治療もしくは予防するため、または対象におけるベータコロナウイルス感染症によって引き起こされる疾患の症状を阻害するための方法及び組成物に関する。様々な実施形態において、組成物及び方法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とケトチフェンとの組み合わせを含む。例示的な実施形態において、ナプロキセン及び/またはインドメタシンは、単一の単位用量または別個の組成物で療法のためにケトチフェンと組み合わされ、この組み合わせは、SARS-CoV-2ウイルス負荷を低減し、COVID-19を治療するのに驚くほどかつ予期せぬほど効果的である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータコロナウイルス感染症または関連疾患の治療または予防を必要とする対象においてそれを行うための方法であって、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)及びケトチフェンを投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記対象が、哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、ヒトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベータコロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が、SARS-CoV-2感染症に対して陰性である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が、1人以上のSARS-CoV-2陽性個人と濃厚接触したことがある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、医療従事者またはファーストレスポンダーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、SARS-CoV-2の検査で陽性となったことがある、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記SARS-CoV-2が、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、またはラムダ変異体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が、65歳を超えている、及び/または任意選択で免疫抑制剤による療法のために、免疫不全である、及び/または慢性的な健康状態を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記慢性的な健康状態が、肥満;糖尿病;エイズ;喘息、COPD、肺線維症、嚢胞性線維症、肺高血圧症、肺気腫、及び気管支炎から任意選択で選択される慢性的な肺状態;好中球増加症;心筋梗塞または脳卒中の病歴;冠動脈疾患;うっ血性心不全;心筋症;認知症またはアルツハイマー病;慢性腎臓または肝臓病;臓器移植;ならびに自己免疫疾患のうちの1つ以上から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象のSARS-CoV-2関連疾患が、無症候性である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、COVID-19の1つ以上の症状を経験している、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記症状が、喉・鼻の詰まり、咳、発熱、味覚喪失、嗅覚喪失、筋肉痛、関節痛(筋痛)、疲労、喉の痛み、頭痛、心筋炎、凝固障害、腎傷害もしくは不全、肝臓の損傷もしくは不全、神経学的障害、低酸素症、低酸素症の有無にかかわらず肺炎、急性呼吸器症候群、または多臓器不全のうちの1つ以上を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、低酸素症及び/または急性呼吸窮迫症候群の症状を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、慢性頭痛及び/または疲労を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、ロングCOVIDを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、別個の組成物で投与される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、同じ組成物中で投与される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、経口、静脈内、吸入用の溶液もしくは粉末エアロゾル、筋肉内、皮下、経皮的、または鼻腔内に投与される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、ネブライザーによって投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、錠剤、カプセル、ロゼンジ、またはチューインガムの形態である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物が、活性薬学的成分としての前記NSAID及び前記ケトチフェンから本質的になる、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、活性薬学的成分としての前記NSAID及び前記ケトチフェンからなる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、薬学的担体、薬学的賦形剤、甘味剤、香味剤、味覚マスキング成分、希釈剤、ミョウバン、安定剤、緩衝液、着色剤、呼吸中和剤、乳化剤、懸濁剤、噴霧剤、及びこれらの組み合わせをさらに含む、請求項20~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、COVID症状の発症前に投与される、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、COVID症状の発症後に投与される、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、COVID-19の症状の最初の出現時、任意選択で初期感染期中に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、ベータコロナウイルスまたはSARS-CoV-2のワクチン接種時に投与される、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、少なくとも1日1回投与される、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、約1日1回~約1日3回投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、少なくとも1週間投与される、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、少なくとも2週間投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、少なくとも3週間、または約1ヶ月間投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記NSAIDが、インドメタシン、ナプロキセン、アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサール、エトドラック、ケトプロフェン、ケトロラック、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダク、及びトルメチン、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記NSAIDが、インドメタシンである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記インドメタシンの1日用量が、約20mg~約300mg、約40mg~約200mg、または約75mg~約150mgである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記NSAIDが、ナプロキセンである、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記ナプロキセンの1日用量が、約100mg~約1600mg、約200mg~約1400mg、約400mg~約1200mg、約600mg~約1000mg、または約700mg~約900mgである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ケトチフェンの1日用量が、約1mg~約10mgである、請求項35~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記ケトチフェンの1日用量が、約1mg~約6mgである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ケトチフェンの1日用量が、約2mg~約5mgである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ケトチフェンの1日用量が、約3mg~約4mgである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記NSAID及び前記ケトチフェンが、単位用量で組み合わされる、請求項35~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記NSAIDが、インドメタシンであり、前記単位用量における前記インドメタシンの量が、約50mgであり、前記ケトチフェンの量が、約1mgであり、前記単位用量が、1日に2回または3回投与される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記方法が、前記対象におけるウイルス負荷を低減し、及び/または疾患の症状を予防または軽減する、請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
ベータコロナウイルス感染症または関連疾患を予防するか、または治療する際に使用するための薬学的組成物であって、前記薬学的組成物が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)及びケトチフェンを含む、前記薬学的組成物。
【請求項48】
前記組成物が、経口、静脈内、エアロゾル、筋肉内、皮下、経皮、または鼻腔内投与のために製剤化される、請求項47に記載の薬学的組成物。
【請求項49】
前記組成物が、ネブライザーによる投与のために製剤化される、請求項48に記載の薬学的組成物。
【請求項50】
前記組成物が、錠剤、カプセル、ロゼンジ、またはチューインガムの形態である、請求項49に記載の薬学的組成物。
【請求項51】
前記組成物が、活性薬学的成分としての前記NSAID及び前記ケトチフェンから本質的になる、請求項47~50のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項52】
前記組成物が、活性薬学的成分としての前記NSAID及び前記ケトチフェンからなる、請求項51に記載の薬学的組成物。
【請求項53】
前記組成物が、薬学的担体、薬学的賦形剤、甘味剤、香味剤、味覚マスキング成分、希釈剤、ミョウバン、安定剤、緩衝液、着色剤、呼吸中和剤、乳化剤、懸濁剤、噴霧剤、及びこれらの組み合わせをさらに含む、請求項48~52のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項54】
前記NSAIDが、インドメタシン、ナプロキセン、アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサール、エトドラック、ケトプロフェン、ケトロラック、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダク、及びトルメチン、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項48~53のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項55】
前記NSAIDが、インドメタシンである、請求項54に記載の薬学的組成物。
【請求項56】
前記インドメタシンの1日用量が、約20mg~約300mg、約40mg~約200mg、または約75mg~約150mgである、請求項55に記載の薬学的組成物。
【請求項57】
前記NSAIDが、ナプロキセンである、請求項54に記載の薬学的組成物。
【請求項58】
前記ナプロキセンの1日用量が、約100mg~約1600mg、約200mg~約1400mg、約400mg~約1200mg、約600mg~約1000mg、または約700mg~約900mgである、請求項57に記載の薬学的組成物。
【請求項59】
前記ケトチフェンの1日用量が、約1mg~約10mgである、請求項54~58のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項60】
前記ケトチフェンの1日用量が、約1mg~約6mgである、請求項59に記載の薬学的組成物。
【請求項61】
前記ケトチフェンの1日用量が、約2mg~約5mgである、請求項60に記載の薬学的組成物。
【請求項62】
前記ケトチフェンの1日用量が、約3mg~約4mgである、請求項61に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベータコロナウイルス感染症に関連する疾患を治療または予防するための組成物及び方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、一般的な風邪から中東呼吸器症候群(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)、及びコロナウイルス疾患2019(COVID-19)などのより深刻な疾患に及ぶ病気を引き起こす大家族のウイルスである。コロナウイルスは、人獣共通感染症であり、それらは、動物とヒトとの間で伝染することを意味する。COVID-19は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染性疾患である。SARS-CoV-2ウイルスは、エンベロープを持った、陽性センスの一本鎖RNAベータコロナウイルスである。この疾患は、2019年から世界的に広がっている。
【0003】
SARS-CoV-2は、しばしば咳の間に生成される呼吸器液滴を介して拡散する。曝露から症状の発症までの時間は、一般に2~14日であり、平均5日である。診断の標準的な方法は、鼻咽頭スワブまたは痰試料からの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)によるものである。抗体アッセイも、血清試料を使用して使用することができる。感染症は、症状、リスク因子、及び肺炎の特徴を示す胸部CTスキャンの組み合わせからも診断することができる。
【0004】
COVID-19は、効果的な治療法が限られている新規の、ほとんど理解されていない疾患である。COVID-19の一般的な症状には、発熱、咳、及び息切れが含まれる。筋肉痛、痰の産生、及び喉の痛みは、あまり一般的ではない症状のうちのいくつかである。症例の大部分は軽度の症状に終わるが、一部は肺炎、重症急性呼吸器症候群、多臓器不全、及び死亡にまで進行する。症例の致死率は、1%~5%と推定され、年齢及び他の健康状態によって異なる。この疾患は、年齢、免疫抑制療法、慢性疾患、心理的ストレス、または他の要因により免疫系が損なわれる人々に発生する可能性が高い。
【0005】
したがって、SARS-CoV-2などのベータコロナウイルスの感染症を予防もしくは治療する、及び/または関連疾患(例えば、COVID-19)の症状を軽減する効果的かつ安全な方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、SARS-CoV-2及びCOVID-19を含む、ベータコロナウイルス感染症を治療もしくは予防するためか、または対象におけるベータコロナウイルス感染症によって引き起こされる疾患の症状を軽減するための方法及び組成物に関する。様々な実施形態において、組成物及び方法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とケトチフェンとの組み合わせを含む。例示的な実施形態において、ナプロキセン及び/またはインドメタシンは、単一の単位用量または別個の組成物で療法のためにケトチフェンと組み合わされ、この組み合わせは、SARS-CoV-2ウイルス負荷を減少させ、及び/またはCOVID-19症状を軽減させるのに驚くほどかつ予想外に効果的である。
【0007】
様々な実施形態において、本方法は、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を治療もしくは予防する、及び/またはその症状を軽減させるのに有効な量で、1つ以上の薬学的組成物を、哺乳動物、典型的にはヒトに投与することを含む。SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患の例としては、コロナウイルス疾患2019(すなわち、COVID-19)が挙げられる。
【0008】
実施形態において、本開示は、SARS-CoV-2(または他のベータコロナウイルス)によって引き起こされる疾患を発症するリスクがある対象の治療を提供する。いくつかの実施形態において、対象は、年齢、免疫不全状態に起因してか、または1つ以上の既存の状態に起因して、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を発症するリスクがある。
【0009】
様々な実施形態において、療法は、COVID-19症状の発生の前または症状の発生の後に開始され得る。いくつかの実施形態において、療法は、症状の最初の出現から間もなく(すなわち、症状の最初の出現の直後)に開始される。いくつかの実施形態において、本開示による対象は、無症候性であるが、SARS-CoV-2(または他のベータ-コロナウイルス)の検査で陽性と出る。いくつかの実施形態において、本開示による療法は、個人がSARS-CoV-2(または他のベータコロナウイルス)によって引き起こされる感染症または疾患を有することが最初に疑われて直ぐであるが、疾患の症状(複数可)の発症前に開始される。様々な実施形態において、対象は、COVID-19の1つ以上のリスク因子を有する。様々な実施形態において、対象は、喉・鼻の詰まり、咳、発熱、味覚喪失、嗅覚喪失、筋肉痛、関節痛(筋痛)、疲労、喉の痛み、頭痛、心筋炎、凝固障害、腎傷害もしくは不全、肝臓の損傷もしくは不全、神経学的障害、低酸素症、低酸素症の有無にかかわらず肺炎、急性呼吸器症候群、または多臓器不全から選択される1つ以上の症状を経験している。
【0010】
様々な実施形態において、本発明は、対象におけるベータコロナウイルス感染症または関連疾患を治療または予防するのに有効な量で、1つ以上の薬学的組成物をヒト対象に投与することを提供する。NSAID及びケトチフェンは、単一の単位用量(組成物)としてか、または別個の組成物で投与されてもよい。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、有効量のインドメタシン及びケトチフェンを投与することを含む。ある特定の実施形態において、インドメタシン及びケトチフェンは、少なくとも1日1回投与され、インドメタシンの1日用量は、約20mg~約300mg、約40mg~約200mg、または約75mg~約150mgである。様々な実施形態において、ケトチフェンの1日用量は、約1mg~約10mg、または約1mg~約6mg、または約2mg~約5mg、または約3mg~約4mgである。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、ナプロキセン及びケトチフェンを投与することを含む。ある特定の実施形態において、ナプロキセン及びケトチフェンは、少なくとも1日1回投与され、ナプロキセンの1日用量は、約100mg~約1600mg、約200mg~約1400mg、約400mg~約1200mg、約600mg~約1000mg、または約700mg~約900mgである。様々な実施形態において、ケトチフェンの1日用量は、約1mg~約10mg、または約1mg~約6mg、または約2mg~約5mg、または約3mg~約4mgである。ある特定の実施形態において、本開示の単位用量は、50mgのインドメタシン及び1mgのケトチフェンを含み、この単位用量が1日に2回または3回投与される。
【0011】
いくつかの実施形態において、本開示は、活性医薬成分としてのNSAID(例えば、インドメタシン及び/またはナプロキセン)及びケトチフェンから本質的になる医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、活性医薬成分としてのNSAID(例えば、インドメタシン及び/またはナプロキセン)及びケトチフェンからなる。これらの実施形態において、組成物は、不活性成分、例えば、医薬品賦形剤、甘味剤(複数可)、香味剤(複数可)、味覚マスキング成分(複数可)、希釈剤(複数可)、ミョウバン、安定剤(複数可)、緩衝液(複数可)、着色剤(複数可)、呼吸中和剤(複数可)(例えば、ペパーミントまたはメントールの香り)、乳化剤(複数可)、懸濁化剤(複数可)、及び送達を制御する薬剤を含み得る。いくつかの実施形態における組成物は、組成物の基本特性及び新規特性に影響を与えない追加の成分(活性成分を含む)を有してもよい。
【0012】
本開示の実施形態によれば、薬学的組成物(複数可)は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、吸入、または鼻腔内投与され得る。さらなる実施形態において、ケトチフェン及びNSAID、例えばインドメタシン及び/またはナプロキセンを含む組成物は、錠剤、カプセル、ロゼンジ、またはチューインガムの形態で組み合わされる。
【0013】
本開示の他の態様及び実施形態は、以下の詳細な説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】COVID-19疾患の進行を示す。先天性免疫系の活性化を伴う早期感染期、適応性免疫系の活性化を伴う肺期、及びサイトカインストームを伴う高炎症期。
図2】ナプロキセン及びケトチフェンの単独及び組み合わせての用量反応曲線を示す。EC50は、生成物の有効濃度、すなわち、ウイルス感染症が50パーセント阻害される濃度である。
図3】インドメタシン及びケトチフェンの単独及び組み合わせての用量反応曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、SARS-CoV-2及びCOVID-19を含む、ベータコロナウイルス感染症を治療もしくは予防するためか、または対象におけるベータコロナウイルス感染症によって引き起こされる疾患の症状を軽減するための方法及び組成物に関する。様々な実施形態において、組成物及び方法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とケトチフェンとの組み合わせを含む。例示的な実施形態において、ナプロキセン及び/またはインドメタシンは、単一の単位用量または別個の組成物で療法のためにケトチフェンと組み合わされ、この組み合わせは、SARS-CoV-2ウイルス負荷を減少させ、及び/またはCOVID-19症状を軽減させるのに驚くほどかつ予想外に効果的である。
【0016】
したがって、本開示は、SARS-CoV-2を含むベータコロナウイルスによって引き起こされる疾患のための治療用及び予防用の薬学的組成物を提供する。SARS-CoV-2ウイルスは、エンベロープを持った、陽性センスの一本鎖RNAベータコロナウイルスである。実施形態では、本開示の方法及び組成物は、SARS-CoV-2のB.1.1.7(すなわち、アルファ)、B.1.351(すなわち、ベータ)、p.1(すなわち、ガンマ)、B.1.617.2(すなわち、デルタ)、及びC.37(すなわち、ラムダ)変異体を含む、SARS-CoV-2の区別できる遺伝的変異体によって引き起こされる疾患の症状を治療、軽減、または予防するのに効果的である。
【0017】
様々な実施形態において、本方法は、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を治療もしくは予防する、及び/またはその症状を軽減させるのに有効な量で、1つ以上の薬学的組成物を、哺乳動物、典型的にはヒトに投与することを含む。SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患の例としては、コロナウイルス疾患2019(すなわち、COVID-19)が挙げられる。COVID-19の臨床的進行は、無症候性の保因から、呼吸不全、多臓器機能障害、及び最終的には死亡を伴う激しいサイトカインストームに及ぶ。早期感染(またはステージI)は、先天性免疫系の活性化を特徴とし、サイトカイン及びケモカイン産生の増加を呈する。このステージは、SARS-CoV-2が繁殖し、主に呼吸器系に焦点を当てて宿主に居住を確立する潜伏期間である。初期の感染時に報告される症状は、通常軽度であり、しばしば非特異的であり、発熱、咳、下痢、及び頭痛を含む。COVID-19感染症は、肺期(または「ステージII」)に進行し、これは、低酸素症を伴わない肺炎(ステージIIA)または低酸素症を伴う肺炎(ステージIIB)の2つの区別できる部分に分けることができる。ステージIIBでは症状が悪化し、患者は、入院及び酸素補給を必要とする可能性が高いであろう。いくつかの感染症は、ステージIIIに進行し、これは、サイトカインストームによって引き起こされる肺外全身性過剰炎症症候群として現れる。ステージIIIは、インターロイキン(IL)-6及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)などの高循環サイトカインに起因する熱烈な炎症を特徴とする。これらの炎症性メディエーターは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)ならびに心臓及び腎機能障害を含む多臓器損傷の原因となる。一般に、ステージIIIからの予後及び回復は、不良である。
【0018】
肥満細胞は、SARS-CoV-2感染中に強く活性化され、肺組織への損傷を引き起こし、肺に出血及び肺内の液体蓄積が見られるだけでなく、他のCOVID-19症状を引き起こす。伝統的に、ケトチフェンなどの肥満細胞安定剤は、アレルギー及び喘息の治療のためにヒトで使用されており、これらの薬物は、肥満細胞の脱顆粒を防止することによって作用すると考えられている。したがって、様々な実施形態において、本発明は、コロナウイルス感染症または関連疾患を予防または治療するための肥満細胞安定剤とNSAIDとの組み合わせを伴う。例となる肥満細胞安定剤は、ケトチフェンである。
【0019】
実施形態において、本開示は、SARS-CoV-2(または他のベータコロナウイルス)によって引き起こされる疾患を発症するリスクがある対象の治療を提供する。本明細書で使用される場合、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を発症するリスクのある対象は、SARS-CoV-2または他のベータコロナウイルスに感染していない(すなわち、SARS-CoV-2の検査で陰性)か、またはそうでなければSARS-CoV-2に感染していることが知られていない。いくつかの実施形態において、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を発症するリスクのある対象は、1人以上のSARS-CoV-2陽性個人と濃厚接触したことがある。本明細書で使用される場合、濃厚接触者とは、例えば、合計で少なくとも15分間、または合計で少なくとも1時間、または24時間以上にわたって、SARS-CoV-2に感染した個人の6フィート以内にいたか、またはいたと疑われるヒトを意味する。COVID-19が確定したヒトとの濃厚接触者には、デイケアセンター、飛行機、レストラン、学校、医療機関(医師のオフィスまたは病院など)で1人以上のSARS-CoV-2陽性個人と接触したか、または接触した疑いのある対象が含まれるが、これらに限定されない。濃厚接触者には、SARS-CoV-2に感染しているか、または感染している疑いのあるヒトと接触した医療従事者またはファーストレスポンダー(これらに限定されないが、法執行官、救急医療技術者、看護師、医師、または消防士など)である対象も含まれる。
【0020】
いくつかの実施形態において、対象は、年齢、免疫不全状態に起因してか、または1つ以上の既存の状態に起因して、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を発症するリスクがある。例えば、リスクがある対象は、高齢者(すなわち、65歳以上)であり得るか、または疾患(遺伝的または後天的疾患)もしくは免疫抑制剤による療法のために免疫不全であり得る。ベータコロナウイルス関連疾患を発症するリスクがある対象には、既存の状態、例えば慢性的な健康状態、例えばこれらに限定されないが、肥満;糖尿病(1型または2型);エイズ;喘息、COPD、肺線維症、嚢胞性線維症、肺高血圧症、肺気腫、及び気管支炎などの慢性的な肺状態;好中球増加症;心筋梗塞または脳卒中の病歴;冠動脈疾患;心筋症;認知症またはアルツハイマー病;慢性腎臓または肝臓病;臓器移植;ならびに自己免疫疾患(例えば、SLEまたはRA)の1つ以上を有するものも含まれ得る。いくつかの実施形態において、対象は、タバコ喫煙歴を有する。
【0021】
免疫系が弱体化または損なわれた対象としては、がん患者、特に化学療法、放射線療法、または免疫療法を受けている患者;臓器または組織移植を受けた個人;免疫応答を抑制するために医薬品を服用している個人(例えば、コルチコステロイド、シクロスポリン、タクロリムス);HIVまたはエイズを有する個人:糖尿病;病気、手術または外傷から回復している個人;及び栄養不良の個人が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
NSAID及びケトチフェンの予防的投与は、ワクチンに耐えられない(またはそれから利益を得ることができない)個人にも適している。例えば、多くの高齢者は、ワクチンに効果的に反応しないことが知られている。実施形態において、本開示による薬学的組成物の予防的投与は、対象がSARS-CoV-2に感染する前、または対象においてSARS-CoV-2が検出される前に投与することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、本開示による療法は、ワクチン接種時(1日または複数日)に提供されて、ワクチンに含有されるか、またはワクチンによってコードされるベータコロナウイルススパイクタンパク質に関連する炎症症状を阻害する。
【0024】
様々な実施形態において、療法は、症状の発生の前、または症状の発生の後に開始され得る。いくつかの実施形態において、療法は、症状の最初の出現から間もなく(すなわち、症状の最初の出現の直後)開始される。いくつかの実施形態において、本開示による対象は、無症候性であるが、SARS-CoV-2(または他のベータ-コロナウイルス)の検査で陽性と出る。本明細書で使用される場合、SARS-CoV-2(または他のベータ-コロナウイルス)の検査には、これらに限定されないが、遺伝子検査(例えば、PCR、または核酸増幅ベースの検査)、抗原検査、または抗体(すなわち、血清学)検査が含まれる。いくつかの実施形態において、本開示による療法は、個人がSARS-CoV-2(または他のベータコロナウイルス)によって引き起こされる感染症または疾患を有することが最初に疑われて直ぐであるが、疾患の症状の発症前に開始される。様々な実施形態において、対象は、すでに記載されるように、COVID-19の1つ以上のリスク因子を有する。
【0025】
様々な実施形態において、対象は、喉・鼻の詰まり、咳、発熱、味覚喪失、嗅覚喪失、筋肉痛、関節痛(筋痛)、疲労、喉の痛み、頭痛、心筋炎、凝固障害、腎傷害もしくは不全、肝臓の損傷もしくは不全、神経学的障害、低酸素症、低酸素症の有無にかかわらず肺炎、急性呼吸器症候群、または臓器不全から選択される1つ以上の症状を経験している。
【0026】
いくつかの実施形態では、本開示による療法は、ウイルスが増殖し、対象内、主に対象の呼吸器系内に居住を確立する、ベータコロナウイルスまたはSARS-CoV-2の潜伏期間中に開始される。このステージの症状は、通常軽度であり、しばしば非特異的であり、発熱、咳、喉の痛み、下痢、味覚または嗅覚の喪失、疲労、及び頭痛を含む場合がある。
【0027】
いくつかの実施形態において、本開示による療法は、低酸素症を含み得る肺期の間に開始され、酸素補給を必要とし得る。
【0028】
さらに他の実施形態において、本開示による療法は、肺外全身性炎症過剰症候群を経験する対象において開始される。例えば、対象は、インターロイキン(IL)-6及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)などの高循環サイトカインに起因する熱烈な炎症を呈し得る。いくつかの実施形態において、対象は、急性呼吸器症候群及び/または多臓器不全を経験し得る。
【0029】
いくつかの実施形態において、本開示による療法は、COVID-19の初期症状を有する対象に投与される。初期のCOVID-19症状の例としては、呼吸器症状(実質的な低酸素症なし)、喉・鼻の詰まり、咳、発熱、味覚もしくは嗅覚の喪失(嗅覚障害)、筋肉痛、関節痛(筋痛)、疲労、喉の痛み、または頭痛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
いくつかの実施形態において、本開示による療法は、ロングCOVIDの症状を有する対象に投与されるか、または本開示による療法は、ロングCOVIDの可能性を予防または低減する。本明細書で使用される場合、ロングCOVIDとは、対象がSARS-CoV-2に最初に感染した後か、またはCOVID-19の症状を経験した後に数週間もしくは数ヶ月続くことがある一連の新規または進行中の症状を指す。ロングCOVIDは、たとえ病気が軽度であっても、または初期症状がなかった場合でも、COVID-19を患ったことがある対象に生じ得る。ロングCOVIDの症状には、呼吸困難または息切れ、疲労感または疲労、身体的または精神的活動後に悪化する症状、思考困難または集中力低下(「脳霧」と呼ばれることもある)、咳、胸または胃の痛み、頭痛、心拍が速いか、または激しく鼓動を打つ心臓(すなわち、心臓の動悸)、関節または筋肉の痛み、下痢、睡眠障害、発熱、立位時のめまい(立ちくらみ)、発疹、気分の変化、匂いまたは味の変化、月経周期の変化が含まれる。
【0031】
本開示によるNSAIDには、これらに限定されないが、アスピリン(すなわち、アセチルサリチル酸)、イブプロフェン(すなわち、イソブチルフェニルプロパン酸)、ナプロキセン(すなわち、6-メトオキシ-a-メチル-2-ナフタレン酢酸)、ジクロフェナク(2-[(2,6-ジクロロフェニル)-アミノ]ベンゼン酢酸)、ジフルニサール(2’,4’-ジフルオロ-4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸)、エトドラック((1,8-ジエチル-1,3,4,9-テトラヒドロピラノ[3,4-b]インドール-1-イル)酢酸、インドメタシン(2-{l-[(4-クロロフェニル)-カルボニル]-5-メトキシ-2-メチル-lH-インドール-3-イル}酢酸)、ケトプロフェン(3-ベンゾイル-a-メチル-ベンゼン酢酸)、ケトロラック(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-l,3-プロパンジオール)、メロキシカム(4-ヒドロキシ-2-メチル-N-(5-メチル-2-チアゾリル)-2H-1,2-ベンゾチアジン-3-カルボキサミド-1,1-ジオキシド)、ナブメトン(4-(6-メトキシ-2-ナフチル)-2-ブタノン)、オキサプロジン(3-(4,5-ジフェニル-l,3-オキサゾール-2-イル)プロピオン酸)、ピロキシカム(4-ヒドロキシ-2-メトキシ-N-2-ピリジニル-2H-l,2-ベンゾチアジン-3-カルボキサミド1,1-ジオキシド)、サルサレート(2-(2-ヒドロキシベンゾイル)-オキシ安息香酸)、スリンダク({(lZ)-5-フルオロ-2-メチル-l-[4-(メチルスルフィニル)-ベンジリデン]-lH-インデン-3-イル}酢酸)、及びトルメチン([l-メチル-5-(4-メチルベンゾイル)-lH-ピロール-2-イル]酢酸)が含まれる。
【0032】
特定の実施形態において、NSAIDは、ナプロキセン(6-メトキシ-α-メチル-2-ナフタレン酢酸)及び/またはインドメタシン(2-{l-[(4-クロロフェニル)-カルボニル]-5-メトキシ-2-メチル-lH-インドール-3-イル}酢酸)を含む。いくつかの実施形態において、本開示は、インドメタシン、ナプロキセン、及びケトチフェンを含む薬学的組成物を提供する。
【0033】
本明細書で使用される場合、NSAID(例えば、ナプロキセン及びインドメタシン)またはケトチフェンは、それらの全ての薬学的に許容されるバージョンを含み、例えば、その全ての薬学的に許容される塩、立体異性体及び/またはそれらの任意の混合物、全ての薬学的に許容される両性イオン及び/またはそれらの任意の混合物、全ての薬学的に許容される多型形態及び/またはそれらの任意の混合物、ならびに全ての薬学的に許容される複合体(溶媒和物を含む)及び/またはそれらの任意の混合物が含まれる。塩としては、それらのラセミ体、エナンチオマー、またはそれらの任意の混合物が挙げられる。特に好適な塩は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及び/またはカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム及び/またはカルシウム塩)、アルミニウム塩、アンモニウム塩、好適な有機塩基の塩(例えば、アルキルアミン及び/またはメチル-D-グルタミンの塩)、アミノ酸の塩(例えば、アルギニン及び/またはリジンの塩)を含む。塩にはまた、薬学的に許容されるキラル酸及び/または塩基、及び/またはこのような塩のエナンチオマーの任意の混合物(例えば、(+)酒石酸塩、(-)酒石酸塩、及び/またはラセミ混合物を含むそれらの任意の混合物)で形成される全てのエナンチオマー塩を含む。典型的な塩の例としては、ナプロキセンナトリウム、インドメタシンナトリウム、及びフマル酸ケトチフェンが挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される場合、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を「治療すること」は、疾患の少なくとも1つの症状を軽減、排除、もしくは予防すること、または対象におけるSARS-CoV-2感染症の存在もしくは活性を低減もしくは排除することを意味する。治療には、疾患に関連する症状及び/または罹患率の予防及び/または減衰が含まれる。治療は、ベータコロナウイルスまたはSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患に関連する症状を予防または軽減する、特に喉・鼻の詰まり、咳、発熱、味覚喪失、嗅覚喪失、筋肉痛、関節痛(筋痛)、疲労、喉の痛み、頭痛、低酸素症、低酸素症の有無にかかわらず肺炎、重症急性呼吸器症候群、または臓器不全を軽減または予防する場合に効果的である。さらに、治療は、疾患の症状の持続時間または重症度を短縮する場合に効果的である。
【0035】
本明細書で使用される場合、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患を「予防すること」は、対象がSARS-CoV-2に感染することを予防すること、または対象におけるSARS-CoV-2の存在もしくは活性を低減もしくは排除することなどによって、SARS-CoV-2に感染した対象が疾患を発症すること、もしくは疾患の進行を予防することを意味する。
【0036】
本発明の方法は、1つ以上の薬学的組成物をヒト対象に、対象におけるベータコロナウイルス感染症または関連疾患を治療または予防するのに有効である量で投与することを含む。NSAID及びケトチフェンは、単一の単位用量(組成物)としてか、または別個の組成物で投与されてもよい。投与には、医師によるか、または自己投与による投与が含まれる。特定の場合における活性薬剤の実際の量は、製剤化された特定の組成物、適用様式、特定の適用部位、及び治療される対象(例えば、年齢、性別、サイズ、薬物に対する耐性など)によって変化し得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、有効量のインドメタシン及びケトチフェンを投与することを含む。ある特定の実施形態において、インドメタシン及びケトチフェンは、少なくとも1日1回投与され、インドメタシンの1日用量は、約20mg~約300mg、約40mg~約200mg、または約75mg~約150mgである。様々な実施形態において、ケトチフェンの1日用量は、約1mg~約10mg、または約1mg~約6mg、または約2mg~約5mg、または約3mg~約4mgである。
【0038】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、ナプロキセン及びケトチフェンを投与することを含む。ある特定の実施形態において、ナプロキセン及びケトチフェンは、少なくとも1日1回投与され、ナプロキセンの1日用量は、約100mg~約1600mg、約200mg~約1400mg、約400mg~約1200mg、約600mg~約1000mg、または約700mg~約900mgである。様々な実施形態において、ケトチフェンの1日用量は、約1mg~約10mg、または約1mg~約6mg、または約2mg~約5mg、または約3mg~約4mgである。
【0039】
ある特定の実施形態において、本開示の方法は、有効量の、約20mg~約300mg、約40mg~約200mg、または約75mg~約150mgの用量のインドメタシン、及び約1mg~約6mg、約2mg~約5mg、または約3mg~約4mgの用量のケトチフェンを含む薬学的組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、本開示は、単位用量で組み合わせたケトチフェン及び少なくとも1つのNSAIDを含む薬学的組成物を投与することを含む。ある特定の実施形態において、本開示の単位用量は、約50mgのインドメタシン及び約1mgのケトチフェンを含み、単位用量は、1日に2回または3回投与される。
【0040】
いくつかの実施形態において、本開示は、活性医薬成分としてのNSAID(例えば、インドメタシン及び/またはナプロキセン)及びケトチフェンから本質的になる医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、活性医薬成分としてのNSAID(例えば、インドメタシン及び/またはナプロキセン)及びケトチフェンからなる。これらの実施形態において、組成物は、不活性成分、例えば、医薬品賦形剤、甘味剤(複数可)、香味剤(複数可)、味覚マスキング成分(複数可)、希釈剤(複数可)、ミョウバン、安定剤(複数可)、緩衝液(複数可)、着色剤(複数可)、呼吸中和剤(複数可)(例えば、ペパーミントまたはメントールの香り)、乳化剤(複数可)、懸濁化剤(複数可)、及び送達を制御するための薬剤を含み得る。いくつかの実施形態における組成物は、組成物の基本特性及び新規特性に影響を与えない追加の成分(活性成分を含む)を有してもよい。いくつかの実施形態で具体的に除外することができるこのような成分としては、シクロオキシゲナーゼ-2-選択的阻害剤(すなわち、COX-2-選択的阻害剤)またはそのプロドラッグ、アドレナリン作動剤、抗コリン作用剤、亜鉛(例えば、酢酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛)、プレコナリル、ホスホルジエステルエステラーゼ4型調節剤、組換えヒト子宮グロビン、IL-9拮抗剤またはIL-8拮抗剤(遮断モノクローナル抗体またはペプチドを含む)、グリセロホスフェートカルシウム、鎮静抗ヒスタミン剤、鼻づまり薬、ジンセノサイド、アミノキノロン(例えば、クロロキン、ヒドロクロキシクロキン)、プロテアーゼ阻害剤(例えば、ロピナビル、リトナビル、ナファモスタット、及びカモスタット)、H2受容体拮抗剤(例えば、ファモチジン)、ウミフェノビル、チアゾリド(例えば、ニタゾキサニド)、イベルメクチン、コルチコステロイド、トシリズマブ、サリルマブ、ベバシズマブ、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(例えば、フルボキサミン)、レムデシビル、アクテムラ、バリシチニブ、デキサメタゾン(糖質コルチコイド)、アビプタジル、及びアジスロマイシンが挙げられる。
【0041】
いくつかの実施形態において、本開示は、NSAID(例えば、インドメタシン及び/またはナプロキセン)及びケトチフェンを少なくとも1日1回投与することを含む。さらなる実施形態において、NSAID及びケトチフェンは、約1日1回~約1日3回投与される。ある特定の実施形態において、NSAID及びケトチフェンは、少なくとも1週間投与される。さらにさらなる実施形態において、NSAID及びケトチフェンは、少なくとも2週間投与される。なおさらなる実施形態において、NSAID及びケトチフェンは、少なくとも約3週間、または約1ヶ月間投与される。
【0042】
いくつかの実施形態において、本開示は、NSAID及びケトチフェンを含む薬学的組成物を提供し、組成物は、薬学的担体、薬学的賦形剤、甘味剤、香味剤、味覚マスキング成分、希釈剤、ミョウバン、安定剤、緩衝液、着色剤、呼吸中和剤(例えば、ペパーミントまたはメントールの香り)、乳化剤、懸濁剤、噴霧剤、及びこれらの組み合わせをさらに含む。
【0043】
本発明の方法において投与される1日量の例を以下に示す。1日量は、1つの用量、または複数の用量、典型的には2つの用量で投与することができる。数量は、範囲によって、ならびに下限及び上限の境界範囲によって定義することができる。例示的な下限及び上限が以下に示され、各々は、別個の要素として取られ得る。
【0044】
ケトチフェンは、約0.5mg~約10mgで投与されてもよく、この範囲の下限の例としては、約1mg、約3mg、及び約4mgが挙げられる。この範囲の他の上限の例としては、約5mg、約6mg、及び約2.8mgが挙げられる。典型的な投与量の例は、約1mg~4mg/日であり、典型的には1~2mgとして1日2回投与される。
【0045】
ナプロキセンは、約110mg~約1650mgであり、この範囲の他の下限の例としては、約220mg、約320mg、約550mg、及び約720mgが挙げられる。この範囲の他の上限の例としては、約880mg、約1000mg、約1300mg、及び約1500mgが挙げられる。典型的な投与量の例は、約220mg~1100mg/日であり、1日に2回、より典型的には、220mgのナプロキセンナトリウムを1日に2回、または550mgのナプロキセンナトリウム1日に2回投与される。
【0046】
インドメタシンは、約25mg~約300mgであり、この範囲の他の下限の例としては、約50mg、約75mg、約100mg、及び約125mgが挙げられる。この範囲の他の上限の例としては、約150mg、約175mg、約200mg、及び約250mgが挙げられる。典型的な投薬量の例は、約50~150mg/日であり、典型的には25mgとして1日3回、または50mgとして1日3回投与される。
【0047】
本開示の実施形態によれば、薬学的組成物(複数可)は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、吸入、または鼻腔内投与され得る。さらなる実施形態において、ケトチフェン及びNSAID、例えばインドメタシン及び/またはナプロキセンを含む組成物は、錠剤、カプセル、ロゼンジ、またはチューインガムの形態で組み合わされる。
【0048】
さらなる実施形態では、本開示の組成物は、肺への局所送達のために、ネブライザーによってか、または粉末もしくは溶液エアロゾル(エアロゾルスプレー、ミスト、または粉末)によって投与される。このような局所送達は、すでに肺障害を経験している対象に有用である。
【0049】
実施形態では、本開示による組成物は、当該技術分野で既知の任意の方法によって経口投与され得る。例えば、組成物は、例えば、経口溶解性錠剤、チュアブル錠剤を含む錠剤、カプセル、ロゼンジ、丸薬(例えば、パスチル、糖衣)、トローチ、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェーハ、チューインガム、ストリップ、フィルム(例えば、経口溶解性薄膜)、可溶性粉末、発泡性組成物などの形態で投与することができる。いくつかの実施形態において、組成物は、経口送達(例えば、腸内送達または口腔送達)のための錠剤またはカプセルである。
【0050】
経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体には、ラクトース及びトウモロコシデンプンが含まれ、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤が一般的に添加される。カプセル形態での経口投与の場合、有用な担体には、ラクトース及びトウモロコシデンプンが含まれる。担体及び賦形剤のさらなる例としては、乳、糖、ある特定の種類の粘土、ゼラチン、ステアリン酸またはその塩、ステアリン酸カルシウム、タルク、植物性脂肪または油、ガム、及びグリコールが挙げられる。
【0051】
水性懸濁液を経口投与に使用する場合、乳化剤及び/または懸濁剤が一般的に添加される。加えて、甘味剤及び/または香味剤を経口組成物に添加してもよい。
【0052】
追加の実施形態において、本開示による組成物は、腸内に、または非経口で、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、注射可能な溶液もしくは懸濁液として、腹腔内、舌下、または直腸(例えば、坐剤によって)投与することができる。筋肉内、腹腔内、皮下、及び静脈内使用については、薬学的組成物の滅菌溶液を用いることができ、溶液のpHを好適に調整及び緩衝することができる。静脈内使用については、調製物を等張にするために、溶質(複数可)の総濃度を制御することができる。
【0053】
ある特定の実施形態において、NSAID及びケトチフェンは、味覚マスキング成分、希釈剤などの有無にかかわらず、経口溶解錠剤として提供される。このような錠剤は、水なしで舌の上に投与することができ、直ぐに溶解し、かつ胃腸または口腔に吸収される。経口溶解錠剤は、当業者に知られているように、圧縮及び凍結乾燥を含むいくつかの技術によって製剤化することができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、組成物は、味覚マスキング成分、希釈剤などの有無にかかわらず、NSAID及びケトチフェンを含むロゼンジまたはトローチである。このようなロゼンジ/トローチは、水なしで投与することができ、口の中でゆっくりと溶解することができるか、または飲み込んだり噛んだりすることができる。このようなロゼンジ/トローチは、当業者に知られているように、圧縮によって製剤化することができる。
【0055】
様々な実施形態において、薬学的組成物は、制御放出組成物である。制御放出薬物送達は、特定の期間にわたって薬物の一定レベルを達成する。レベルは、典型的には、血漿濃度によって測定される。薬物の制御放出のための方法は、当該技術分野において周知である。制御放出製剤の一例は、ビーズを含有するカプセルであり、ビーズのいくつかは瞬時に溶解し、ビーズのいくつかは、異なるタイプのビーズコーティングにより遅延時間で溶解する。
【0056】
本開示の他の態様及び実施形態は、以下の例示的な実施例から明らかになるであろう。
【実施例
【0057】
2019年のコロナウイルス感染性疾患(COVID-19)は、新しい重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染によって引き起こされる。COVID-19の治療選択肢は、限られている。これらの実施例の目的は、ケトチフェン、ナプロキセン、及びインドメタシンの単独または組み合わせによる、SARS-CoV-2複製の低減における有効性を実証することであった。加えて、薬物の細胞毒性を評価した。この知見は、ケトチフェンとインドメタシンまたはナプロキセンとの組み合わせが両方ともウイルス収量を低下させることを実証する。ケトチフェン単独(EC50で60%阻害)と比較して、SARS-CoV-2の阻害パーセンテージの79%、83%、及び93%への増加が、それぞれ25、50、及び100μMのインドメタシンと共投与されたときに見られた。ケトチフェン単独と比較して、SARS-CoV-2の阻害パーセンテージの68%、68%、及び92%への増加が、それぞれ25、50、及び100μMのナプロキセンと共投与されたときに見られた。両方の薬物の組み合わせについて、観察結果は、薬物単独の投与と比較して、相加的または相乗的効果を示唆している。ケトチフェン、ナプロキセン、及びインドメタシンの投与された量に関して、細胞毒性効果は観察されなかった。
【0058】
材料及び方法
ケトチフェン、インドメタシン、及びナプロキセンは、Sigma Aldrichから、レムデシビルは、MedChemExpressから得た。SARS-CoV-2 hCoV-19/Australia/VIC01/2020は、メルボルンのPeter Doherty Institute for Infection and Immunityから与えられた。アフリカグリーンモンキーの腎臓(Vero E6)細胞を、ATCC(ATCC-CRL1586)(Noble Park North,VIC,Australia)から得た。
【0059】
ウイルスストックは、成長培地中のVero E6細胞内における継代を介して拡大し、成長培地は、1%(w/v)のl-グルタミン、1.0μg/mLのTPCK-トリプシン、0.2%のBSA、1×Pen/Strep、及び1%のインスリントランスフェリンセレン(ITS)を補充した、L-グルタミンを含まない最小必須培地を含んだ。
【0060】
アフリカグリーンモンキーの腎臓(Vero E6)細胞(ATCC-CRL1586)を継代培養して、細胞成長培地中の細胞バンクストックを生成し、細胞成長培地は、10%(v/v)熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)及び1%(w/v)l-グルタミンを補充した、l-グルタミンを含まない最小必須培地(MEM)からなった。Vero E6細胞を最大13代継代のために継代させた後、さらなる使用のために、液体窒素から新しいワーキング細胞バンクストックを回収した。
【0061】
細胞変性効果(CPE)アッセイ
インドメタシン、ケトチフェン、及びナプロキセンの細胞変性効果を、レムデシビル(陽性対照)と比較した。
【0062】
Vero E6細胞を、100μLの播種培地(1%(w/v)のl-グルタミン、2%のFBSを補充したMEM)中で、2×10細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。プレートを37℃、5%COで一晩インキュベートした。試験化合物を試験当日に新鮮に調製し、ボルテックスし、目視検査して、完全溶解を確認した。
【0063】
陽性対照化合物レムデシビルを、ジメチルスルホキシド(DMSO)中の10mMストックとして調製し、-20℃で保管した。化合物希釈液を実験当日に調製した。100mM~0.045mMの範囲で、4つの試験化合物の各々の3倍、8点のDMSO希釈系列を最初に実施した。ウイルス成長培地(1%(w/v)のl-グルタミン、2%のFBS、8μg/mLのトシルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)-トリプシンを補充したMEM)中の中間希釈系列を、800μM~0.37μMの範囲で生成した。各化合物の中間希釈系列からの50μLの体積を、Vero E6細胞を予め播種したアッセイプレートの3重のウェルに添加した。アッセイプレート中のDMSO濃度を0.2%に維持した。1つの化合物当たり1枚のアッセイプレートを生成した。
【0064】
同様に、レムデシビルを初期DMSO希釈系列に供し、アッセイプレート中のDMSO濃度を0.2%に低下させるために中間希釈系列に供した。レムデシビルを20μMの開始濃度で試験した。
【0065】
0.05の感染多重度(moi)を生成するためにウイルス成長培地中で希釈した50μLの体積のSARS-CoV-2を、アッセイプレートに添加した。このmoiは、4日で100%の細胞変性効果(CPE)を提供することが以前に決定された。抗ウイルス活性を評価するために、ウイルスを3重の列に添加し、細胞毒性を評価するために、ウイルスを含まないウイルス成長培地を3重の列に添加した。
【0066】
ウイルス感染細胞における陽性対照(レムデシビル)及び被験物質によって達成された細胞保護率は、以下に示されるように、Pauwelsらの式によって計算し(J.Virol.Methods 1988,20,309-321)。
細胞保護率=([ODt]ウイルス-[ODc]ウイルス/[ODc]モック-[ODc]ウイルス)×100
式中:
[ODt]ウイルス=ウイルス感染細胞に対する所与の被験物質または陽性対照の濃度の効果を調べる、ウェル内で測定される光学密度。
[ODc]ウイルス=ウイルス感染細胞に対する陰性対照の効果を調べる、ウェル内で測定される光学密度。
[ODc]モック=モック感染細胞に対する陰性対照の効果を調べる、ウェルで測定される光学密度。
【0067】
Hill(sigmoid Emax)の式を使用した非線形回帰分析によって、細胞保護率の結果からEC50値を計算した。
y=最小+(最大-最小)/1+(EC50/X)
式中:
X=被験物質または対照試料の濃度、
Y=細胞保護率、
Min=最小、
Max=最大、
D=勾配係数。
【0068】
収量低下アッセイ
Vero E6細胞を、100μLの播種培地(1%(w/v)L-グルタミン、2%のFBSを補充したMEM)中で、2×10細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。プレートを37℃、5%COで一晩インキュベートした。
【0069】
組み合わせ研究のために、化合物を1:1の比率で深いウェルプレート中で一緒に添加し、次いで、100μLの体積の化合物の組み合わせを細胞単層に添加した。200μLの体積のウイルス(B3)をプレートに添加した(moi0.003)。
【0070】
48時間のインキュベーション後、ウイルスを各濃度で収穫し、ウイルス成長培地中で1:10(n=1)または1:100(n=2)に希釈した。100マイクロリットルを、Vero E6細胞を含有する96ウェルプレートの3重のウェルに添加し、プレート全体で3倍に連続希釈し、合計9つの異なるウイルス濃度を得た。ウェルのうちの6つは、アッセイ培地単独(すなわち、ウイルスなし)を含有し、対照として用いた。プレートを、加湿した5%CO雰囲気中、37℃で3日間インキュベートし、その間、CPEを発生させた。次いで、エンドポイントとして使用されたウイルス誘導CPEの視覚的スコアリングを用いて、細胞単層を顕微鏡的に観察した。ウイルス懸濁液のTCID50を、Reed-Muenchの方法を使用して決定した。(Reed,L.J.;Muench,H.A simple method of estimating fifty percent endpoints.Am.J.Hyg.1938,27,493-497)。ウイルス収量は、各濃度について、薬物を添加しなかった場合のウイルス成長に対するパーセンテージとして表した。
【0071】
細胞毒性アッセイ
Vero E6細胞に対するインドメタシン、ケトチフェン、及びナプロキセンの細胞毒性効果を4日間または48時間にわたって試験して、抗ウイルスアッセイまたは収量低下アッセイのいずれかを模倣した。薬物は、セクション2.1及びセクション2.2で使用したものと同じ濃度で試験した。生細胞を、MTTまたは結晶バイオレットで染色することによって決定した。100μLの体積の3mg/mLのMTT溶液をプレートに添加し、5%COインキュベータ内で、37℃で2時間インキュベートした。ウェルを乾燥するまで吸引し、200μLの100%の2-プロパノールを室温で30分間添加することによって、ホルマザン結晶を可溶性化した。吸光度をプレートリーダー上で、540~650nmで測定した。クリスタルバイオレットで染色した細胞から培地を除去し、PBSで1回洗浄した。40μLの体積の0.25%の結晶バイオレット/20%のメタノール染色を各ウェルに添加し、室温で30分間インキュベートした。結晶バイオレット染色を吸引し、単層をPBSで3~5回洗浄し、染色を100μLの1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加して可溶化した。室温で30分後、吸光度をプレートリーダー上で、540~650nmで測定した。50%細胞毒性濃度(CC50)は、モック感染細胞の吸光度を、対照値の50%減少させる試験化合物の濃度として定義した。CC50の値は、以下のように計算した。
CC50=[ODt]モック/[ODc]モック。
【0072】
結果
CPEアッセイの結果を表1に示す。いずれの治療も、4日間のCPEアッセイにおいて抗ウイルス活性を呈さなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
収量低下アッセイ(YRA)についてのケトチフェン及びナプロキセンの結果を表2及び図2に要約する。ケトチフェン単独では、SARS-CoV-2を阻害し、48.9μMのEC50を呈した。ナプロキセン単独では、SARS-CoV-2を阻害せず、100μMを超えるEC50を呈した。EC50は、有効濃度、すなわち、ウイルス感染が50%阻害される濃度である。
【0075】
【表2】
【0076】
ケトチフェンを単一濃度で添加すると、ウイルス収量を低下させるナプロキセンの能力が向上した。ナプロキセンのEC50は、6μM未満に減少し、ケトチフェンの存在下で約17倍の効果に相当した。用量反応曲線を図2に示す。これらのデータは、相加的または相乗的効果を示す。
【0077】
ケトチフェン及びインドメタシンの結果を表3及び表4に要約する。表3は、ケトチフェン単独(EC50で60%阻害)と比較して、SARS-CoV-2の阻害パーセンテージの79%、83%、及び93%への増加が、それぞれ25、50、及び100μMのインドメタシンと共投与されたときに観察され、相乗効果を示すことを明らかにしている。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
インドメタシン単独でSARS-CoV-2を阻害し、100.1μMのEC50を示した(表4を参照されたい)。インドメタシンは、50μMのケトチフェンの存在下ではEC50に達しなかったが、60%の阻害が6.25μMで観察され、希釈系列がより低い範囲をカバーしていれば、EC50はおそらく約3μMで到達するであろうと示した。これらのインビトロデータは、50μMのケトチフェンの存在下でウイルス増殖を阻害するために、より低用量のインドメタシンが必要であり、相加的または相乗的効果を示すことを示す。インドメタシンは、25μM、12.5、6.25、または3.1μMのケトチフェンの存在下でEC50に達しなかった。
【0081】
ケトチフェンを単一濃度で添加すると、ウイルス収量を低下させるインドメタシンの能力が向上した。インドメタシンのEC50は、6μM未満に減少し、ケトチフェンの存在下で約13倍の効果に相当した。図3は、インドメタシン及びケトチフェンの単独及び併用における用量反応曲線を示す。用量応答曲線は、ケトチフェンとインドメタシンとが組み合わせて投与されるときの、SARS-CoV-2に対する相加的または相乗的抗ウイルス効果を示唆する。
【0082】
細胞毒性評価の結果を表5に要約する。50%細胞毒性濃度(CC50)は、細胞生存率を50%低下させるために必要な化合物濃度として定義した。試験した濃度では、インドメタシン、ナプロキセン、及びケトチフェンについて細胞毒性は観察されなかった。
【0083】
【表5】
【0084】
現在の知見は、ケトチフェン/インドメタシン及びケトチフェン/ナプロキセンの両方の組み合わせがウイルス収量を低下させることを示す。ケトチフェン単独(EC50で60%阻害)と比較して、SARS-CoV-2の阻害パーセンテージの90%、97%、及び94%への増加が、それぞれ25、50、及び100μMのインドメタシンと共投与されたときに見られ、相加的または相乗的効果を示す。インドメタシンのEC50は、6μM未満に減少し、ケトチフェンの存在下で約13倍の効果に相当した。ケトチフェン単独(EC50で60%阻害)と比較して、SARS-CoV-2の阻害パーセンテージの68%、68%、及び92%への増加が、それぞれ25、50、及び100μMのナプロキセンと共投与したときに見られた。これはまた、相加的または相乗的効果を示す。最後に、試験したケトチフェン、インドメタシン、及びナプロキセンの濃度について細胞毒性効果は観察されなかった。
【0085】
結論
これらの実施例は、ケトチフェンとインドメタシンまたはナプロキセンとの組み合わせが両方ともウイルス収量を著しく低下させることを示す。ケトチフェン単独と比較して、インドメタシンまたはナプロキセンとの組み合わせは、相加的または相乗的効果を有する。試験したケトチフェン、ナプロキセン、及びインドメタシンの濃度に関して、細胞毒性効果は観察されなかった。
【0086】
さらなる考慮事項
本明細書で使用される場合、一連のアイテムに先行する、「のうちの少なくとも1つ」という語句は、一連のアイテムを分けるための「及び」または「または」という用語を伴って、リストの各メンバー(すなわち、各アイテム)ではなく、リスト全体を修飾する。「のうちの少なくとも1つ」という語句は、リストされた各アイテムのうちの少なくとも1つの選択を必要とせず、むしろ、その語句は、アイテムのうちのいずれか1つの少なくとも1つ、及び/またはアイテムの任意の組み合わせの少なくとも1つ、及び/またはアイテムの各々の少なくとも1つを含む意味を許可する。例として、「A、B、及びCの少なくとも1つ」または「A、B、またはCの少なくとも1つ」という語句は、各々、Aのみ、Bのみ、またはCのみ、A、B、及びCの任意の組み合わせ、及び/またはA、B、及びCの各々の少なくとも1つを指す。
【0087】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、文脈が必要としない限り、関連する数値の±10%を意味する。
【0088】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、指定された特徴の存在を示すが、特定されていない他の特徴の可能性を許可する。この用語は、指定された特徴の任意の特定の割合を暗示するものではない。「含む(comprising)」という用語、例えば、「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」の変形は、対応して同様の意味を有する。
【0089】
「例示的」という用語は、「例、実例、または例示としての役割を果たす」ことを意味するために本明細書で使用される。「例示的」として本明細書に記載されるいかなる実施形態も、必ずしも、他の実施形態よりも好ましいか、または有利であると解釈されるべきではない。
【0090】
単数形の要素への言及は、特に明記されていない限り、「1つ及び1つのみ」を意味することを意図するものではなく、むしろ「1つ以上」を意味する。当業者に知られているか、または後に知られるようになる、本開示を通して説明される様々な構成の要素に対する全ての構造的及び機能的同等物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれ、対象技術によって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】