(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-31
(54)【発明の名称】慢性腎症を治療する方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/517 20060101AFI20230824BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230824BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230824BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20230824BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20230824BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
A61K31/517
A61P13/12
A61P3/10
A61K31/426
A61K31/138
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023509760
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 CN2021106355
(87)【国際公開番号】W WO2022033265
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】202010794864.0
(32)【優先日】2020-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523046578
【氏名又は名称】チョントゥ ウェンティン テクノロジー ディベロップメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Chengdu WenDing Technology Development Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】22 Qidaoyan street, Wuhou District, Chengdu, Sichuan, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツォン ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン チェンイェン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086BC82
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA14
4C086MA03
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4C086MA66
4C086NA05
4C086ZA81
4C086ZC75
4C206AA01
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4C206MA72
4C206MA86
4C206NA05
4C206ZA81
4C206ZC75
(57)【要約】
本願は、慢性腎症を治療する方法及び医薬組成物に関する。本願の方法及び医薬組成物は、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩、及びメトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩の組み合わせの使用に関し、慢性腎症を有意に改善し、尿中アルブミン排泄率UACRを有意に低下させ、糸球体濾過率eGFRを有意に改善し、腎機能低下の末期腎不全への進行を効果的に遅らせることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性腎症治療用医薬組成物であって、
有効成分として、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩、及びメトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
0.5重量部~45重量部(好ましくは1重量部~10重量部)のプラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩、5重量部~160重量部(好ましくは5重量部~80重量部)のドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩、及び50重量部~2000重量部(好ましくは100重量部~1000重量部)のメトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩を含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
経口投与剤形又は静脈内注射剤形、好ましくは経口投与剤形である、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、臭化水素酸塩又は硝酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩又はp-トルエンスルホン酸塩から選択される、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記慢性腎症は、糖尿病性腎症である、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物の製造における、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩、及びメトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩の組み合わせの用途であって、
前記医薬組成物は、必要とされる被験者の慢性腎症を治療するために用いられる、
用途。
【請求項7】
前記医薬組成物は、経口投与剤形又は静脈内注射投与剤形、好ましくは経口投与剤形である、
請求項5に記載の用途。
【請求項8】
前記医薬組成物は、霊長類被験者、特にヒト被験者に適している、
請求項6又は7に記載の用途。
【請求項9】
ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩は、1日投与量の範囲が0.5mg~16mg、好ましくは0.5mg~8mgであり、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩は、1日投与量の範囲が0.05mg~4.5mg、好ましくは0.1mg~1mgであり、メトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩は、1日投与量の範囲が5mg~200mg、好ましくは10mg~100mgである、
請求項8に記載の用途。
【請求項10】
前記薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、臭化水素酸塩又は硝酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩又はp-トルエンスルホン酸塩から選択される、
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の用途。
【請求項11】
前記慢性腎症は、糖尿病性腎症である、
請求項6乃至10のいずれか1項に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、疾患治療及び医薬の分野に関し、具体的には、慢性腎症、特に糖尿病性腎症の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎症(CKD:Chronic Kidney Disease)は、人間の健康、特に高齢者の健康を厳重に影響する疾患である。統計によると、アメリカ成人のCKDの罹患率は11.3%に達し、中国のCKDの罹患率は約10%と推定されている。糖尿病、高血圧は、CKDの主な誘発因子とされている。
【0003】
糖尿病は、人間の健康に影響するよくある病気の1つである。2015年には全世界で4.2億人近くの糖尿病患者がおり、2040年までに糖尿病患者数は6.4億人に達すると予測されており、20%~40%の糖尿病患者が糖尿病性腎症を発症する可能性があると予測されている。糖尿病性腎症は糖尿病の主要な合併症であり、文献ではDKD(Diabetic Kidney Disease)又はDN(Diabetic Nephropathy)とも呼ばれている。糖尿病性腎症は、糖尿病慢性微小血管病変により腎の構造と機能が異常になる病変であり、臨床所見とは、高血圧、タンパク尿、水腫などが主であり、病理学的所見とは、糸球体血管の損傷、硬化により結節性病変が形成され、さらに腎機能異常と持続性尿タンパク質が引き起こされ、最終的に腎機能不全による末期腎症(ESRD:End Stage Renal Disease)が形成されることであり、高い致死率を有する。
【0004】
DKDは、環境と遺伝要素が共に作用する複雑な疾患であり、既に報告された発生・進行機序は非常に複雑であり、酸化ストレス、炎症、腎機能損傷、腎間質繊維化、血流動力学変化、遺伝要素など多種の病理的病態変化に関わる。そのうち、酸化ストレスは発症機序において重要な役割を果たし、DKDの発生・進行と密接に関連していると考えられている。
【0005】
現在、DKD管理策略は主に最適な血糖・血圧制御を実現し、血中脂質代謝異常を是正し、インシュリン抵抗を逆転し、タンパク尿を減少し(アンギオテンシン変換酵素阻害剤とアンギオテンシン受容体遮断剤を使用)、それによって腎機能低下を遅延し、心血管リスクイベントを減少することである。アンジオテンシン変換酵素阻害剤ACEI及び/又はアンジオテンシン受容体拮抗剤ARBを使用することによるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)活性化の抑制は、現在DKDを治療する主要な手段である。バルサルタン(Valsartan)は、臨床上よく使用されているARBであり、糸球体の選択的透過性を改善することにより、糸球体濾過孔の半径を一定に保ち、それによって、糸球体濾過率(eGFR)の低下を引き起こさずに尿中アルブミンを持続的に低下させ、現在よく使用されているDKD治療用医薬である。しかしながら、現在の治療手段と医薬は、糖尿病性腎症の進行の予防や制御と有効性の面ではまだ不十分である。研究によると、ARBは心筋梗塞発病のリスクを増加せず、さらに心不全、脳卒中のリスクを減少できるが、また、この研究では、ARBが患者の全死因死亡(All-Cause Mortality)を減少できないことを見出した。また、血圧が正常でタンパク尿のない糖尿病患者にACEIやARBの医薬を投与しても、微量タンパク尿の発生を阻止することができなかった。
【0006】
そのため、臨床では、CKD及び/又はDKDを効果的に治療し、CKD/DKDのESRDへの進行を効果的に遅らせる新規な医薬の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本願の1つの目的は、慢性腎症(特に糖尿病性腎症)を治療するためのより優れた又は代替的な治療方法及び医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、驚くことに、慢性腎症、特に糖尿病性腎症の治療において、ドキサゾシン、プラミペキソール及びメトプロロールの組み合わせが有意な効果を有することを見出した。
【0009】
したがって、本願の第1態様は、有効成分として、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩、及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)を含む慢性腎症治療用医薬組成物に関する。
【0010】
本願の第2態様は、医薬組成物の製造における、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)の組み合わせの用途に関し、前記医薬組成物は、必要とされる被験者の慢性腎症、特に糖尿病性腎症を治療するために用いられる。
【0011】
本願の第3態様は、必要とされる被験者の慢性腎症、特に糖尿病性腎症の治療における、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)の組み合わせの用途に関する。
【0012】
本願の第4態様は、慢性腎症、特に糖尿病性腎症を治療する方法に関し、前記方法は、治療有効量のドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)を必要とされる被験者に投与することを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、自発性慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルをモデル動物として用いて、ヒトDKD患者を模擬したところ、意外なことに、ドキサゾシン、プラミペキソール及びメトプロロールの組み合わせを用いると、動物モデルにおいてタンパク尿を有意に低下させ、糸球体濾過率を有意に改善し、それによってDKDの末期腎症(ESRD)への進行を抑制又は遅延させ、しかも投与期間中に投与に関連する副作用が見られず、良好な安全性を示すことを見出した。したがって、本願の医薬の組み合わせは、慢性腎症、特に糖尿病性腎症の新規な治療方法を代表するものとなっている。
【0014】
以下、図面を参照して、本願の具体的な実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】各群のアカゲザルの投与治療30日(D30)におけるアルブミン尿(UACR、尿中アルブミン排泄率)の変化の比較を示す(**:プラセボ群と比べると、p<0.01である;*:プラセボ群と比べると、p<0.05である)。
【
図2】各群のアカゲザルの投与治療58日(D58)におけるアルブミン尿(UACR、尿中アルブミン排泄率)の変化の比較を示す(**:プラセボ群と比べると、p<0.01である;*:プラセボ群と比べると、p<0.05である)。
【
図3】各群のアカゲザルの投与後のeGFR変化を示す(各群に組み入れるeGFR:30~59ml/min/1.73m
2について分析を行い、DOX+PMP+MTP1#実験群とDOX+PMP+MTP2#実験群を1つの群に組み合わせて分析を行う;*:DOX+PMP+MTP群をプラセボ群と比べると、p<0.05である)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願は、複数のGPCR医薬の組み合わせ及び対応する組み合わせ治療方法に関する。
【0017】
Gタンパク質(グアニンヌクレオチド-結合タンパク質)共役型受容体(GPCR)は、膜貫通タンパク質の1種であり、細胞内のシグナル伝達を調節し、細胞内の定常状態に必要なものである。GPCRシグナル経路が糖尿病誘導過酸化物の生成と関係があることが文献研究により示されている(Du,Y.,et al.,Adrenergic and serotonin receptors affect reti/l superoxide generation in diabetic mice:Relationship to capillary degeneration and permeability.2015.29(5):p.2194.)。酸化ストレスはDKDの発生・進行過程における重要な発生機序であり、糖尿病誘導過酸化物の生成を調節するGPCR類医薬は、理論上DKDの進行に一定の影響を与える可能性があるが、現在の研究は発病機序に限られており、DKDに対するGPCR類医薬の治療効果はまだ研究が必要である。また、GPCR類医薬は極めて多い異なる物質を網羅しており、その中からDKDに対して臨床的に有効な医薬を選別することが困難である。
【0018】
なお、現在、糖尿病性腎症動物モデルは、そのほとんどがげっ歯類動物であり、例えば医薬誘導マウスモデル、自発性db/dbマウス、ob/obマウス、Agout突然変異マウスやニュージーランド肥満マウス、トランスジェニックマウスモデルなどである。しかしながら、糖尿病性腎症は、発病機序が複雑で、関連するプロセスが多いため、これらの動物モデルの腎機能の損傷は患者のDKDの病気の経過を正確に反映することができず、疾患治療手段の効果を評価することが難しい。非ヒト霊長類は、生理的、生化学的、系統生物学的に、人間と極めて似ており、既に報告されている多数の研究によると、自発性慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルの疾患特徴は臨床のDKD患者と非常に似ており、同様に中重度の尿中アルブミン増加、eGFR低下などの特徴を示しているため、自発性慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルは、CKD/DKDの研究と新薬の発展に重要な研究手段を提供する(Najafian,B.,et al.,Glomerulopathy in spontaneously obese rhesus monkeys with type 2 diabetes:a stereological study.Diabetes Metab Res Rev,2011.27(4):p.341-7.Liang Y,Yang Z,et al.Diabetic Kidney Disease(DKD) in Nonhuman Primates(NHP’s) is Comparable to Humans for Glomerular Filtration Rate(GFR),Histology and High Risk Factors.ADA2017)。
【0019】
本発明者らは、ヒト糖尿病性腎症の研究におけるげっ歯類動物モデルの制限を考慮して、自発性慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルを動物モデルとしてヒト患者を模擬し、多くのGPCR類医薬を大量かつ詳細に研究し、広範にスクリーニングした。その結果、意外なことに、あるGPCR類医薬が組み合わせられた場合にDKDに対して明らかな治療効果があることを見出した。具体的には、ドキサゾシン、プラミペキソール及びメトプロロールの組み合わせは、CKD-EPIでG3期と評価され且つ中重度タンパク尿を合併しているアカゲザル動物モデルにおいて、タンパク尿(UACR)を有意に低下させ、糸球体濾過率eGFRを有意に改善し、DKDの末期腎症(ESRD)への進行を抑制し、その治療効果が臨床的によく使用される医薬であるバルサルタン(Valsartan)と同等であることを見出した。これに基づいて、本願は、慢性腎症、特にDKDを治療する医薬組成物及びその医学的使用を開示する。
【0020】
一 医薬組成物
本願の第1態様は、有効成分として、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)を含む慢性腎症、特に糖尿病性腎症を治療するための医薬組成物を提供する。
【0021】
本願の明細書、実施例、及び特許請求の範囲において特定の用語が使用されている。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。
【0022】
「含む」、「含有」、「有する」という用語は、包含的でオープンな意味で使用され、これは、指定されたものに加えて、追加の要素を含むことができることを意味する。本明細書で使用される「ような」、「例えば」という用語は非限定的であり、単に説明の目的のために使用される。「含む」と「含むがこれに限定されない」は、互換的に使用され得る。
【0023】
文脈で別段明示的に示されない限り、「又は」という用語は、本明細書で使用される場合、「及び/又は」を指すものとして理解されるべきである。
【0024】
「治療」という用語は、被験者の疾患、病症及び/又は症状を抑制すること、例えば、その進行を阻害すること、疾患、病症及び/又は症状を緩和すること、例えば、疾患、病症及び/又は症状の消退を引き起こすことを意味する。疾患又は病症を治療することは、潜在的な病理生理学が影響を受けない場合であっても、特定の疾患又は病症の少なくとも1つの症状を改善することを含む。特に、本願において、「治療」とは、医薬の投与による疾患の発症リスクの低減の意味も含み、即ち、「治療」とは、発症前の予防だけでなく、発症後の疾患の緩和、抑制及び治癒も含む。
【0025】
「医薬組成物」という用語は、特定の医薬的又は生物学的用途を有する複数の物質の組み合わせであって、一般的に被験者に投与された後に特定の疾患に対する治療又は予防効果が期待されるものを意味する。医薬組成物は、特定の有効成分(生物学的活性物質)のみを含んでもよいし、様々な用途のために従来の薬学的に許容可能な担体と共に提供してもよい。本願における「組成物」という用語は、広義に解釈されるべきである。本願の医薬組成物の一実施形態として、例えば、所定の有効成分(及び任意の薬学的に許容可能な担体)を混合することにより、各成分が区別できない混合物の形態で提供することができる。本願の医薬組成物の別の実施形態として、それぞれの所定の有効成分をそれぞれ独立して小分けに包装し、さらにこれらの小さな独立した包装体をより大きな容器にまとめて一緒に収容することにより、本願の「医薬組成物」を提供することもできる。
【0026】
「有効成分」及び「生物学的活性物質」という用語は、患者又は被験者において、疾患又は病症(例えば、糖尿病性腎症)の治療に作用する生物学的、生理学的又は薬学的活性物質の分子及び他の試薬を意味する。この用語は、「薬学的に許容可能な担体」、「賦形剤」、「助剤」などの用語に関連して使用される。「有効成分」(又は「生物学的活性物質」)は、その薬学的に許容可能な塩及びプロドラッグを含むが、これらに限定されない。これらの試薬は、酸、塩基又は塩であってもよい;これらは、中性分子、極性分子、又は水素結合可能な分子複合体であってもよい;これらは、エーテル、エステル、アミドなどの形態のプロドラッグであってもよく、患者又は被験者に投与されたときに生物学的に活性化される。
【0027】
本明細書で使用される「ドキサゾシン」という用語は、英語名がDoxazosin(DOXと略称)であり、IUPAC名が(RS)-2-[4-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキサン-2-カルボニル)ピペラジン-1-イル]-6,7-ジメトキシ-4-アミン(分子式がC23H25N5O5であり、分子量が451.475g/molである)である下記の分子である。
【0028】
【0029】
「ドキサゾシン」という用語は、その同位体標識化合物、若しくはその光学異性体、幾何異性体、互変異性体又は異性体混合物、若しくはその前駆体薬(即ち、インビボ反応により上記分子を得る化合物)も含む。
【0030】
ドキサゾシンは、主要な各医薬品規制当局(例えばFDA)に承認された市販薬であり、選択的α1受容体拮抗剤であり、ノルアドレナリン(交感神経末梢から放出)と血管平滑筋細胞膜上のα1受容体との結合を抑制し、原発性高血圧の治療によく用いられる。
【0031】
本願の医薬組成物は、有効成分として、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩を含むことができる。ドキサゾシンの市販薬は、そのほとんどが塩の形態であり、特にそのメタンスルホン酸塩、例えばファイザー社により提供されるメタンスルホン酸ドキサゾシン放出制御錠(カルデュラ)、中国杭州康恩貝製薬有限会社により提供されるメタンスルホン酸ドキサゾシン錠などである。
【0032】
本明細書で使用される「プラミペキソール」という用語は、英語名がPramipexole(PMPと略称)であり、IUPAC名が(S)-N6-プロピル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1,3-ベンゾチアゾール-2,6-ジアミン(分子式がC10H17N3Sであり、分子量が211.324g/molである)である下記の分子である。
【0033】
【0034】
「プラミペキソール」という用語は、その同位体標識化合物、若しくはその光学異性体、幾何異性体、互変異性体又は異性体混合物、若しくはその前駆体薬(即ち、インビボ反応により上記分子を得る化合物)も含む。
【0035】
プラミペキソールは、主要な各医薬品規制当局(例えばFDA)に承認された市販薬であり、抗ヒスタミン薬であり、ドーパミン受容体D2/D3アゴニストとして、主にパーキンソン病の治療に臨床的に使用されており、単独(レボドパなし)又はレボドパと併用されている。文献では、プラミペキソールは、「ミラペックス(Mirapex)」、「ミラペキシン(Mirapexin)」、「シフロール(Sifrol)」などと呼ばれることもある。
【0036】
本願の医薬組成物は、有効成分として、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩を含むことができる。プラミペキソールの市販薬は、そのほとんどが塩の形態であり、特にその塩酸塩、例えばベーリンガーインゲルハイム社により提供される塩酸プラミペキソール錠(シフロール)などである。
【0037】
本明細書で使用される「メトプロロール」という用語は、英語名がMetoprolol(MTPと略称)であり、IUPAC名がRS-1-[4-(2-メトキシエチル)フェノキシ]-3-[(プロパン-2-イル)アミノ]プロパン-2-オール(分子式がC15H25NO3であり、分子量が267.37g/molである)である下記の分子である。
【0038】
【0039】
「メトプロロール」という用語は、その同位体標識化合物、若しくはその光学異性体、幾何異性体、互変異性体又は異性体混合物、若しくはその前駆体薬(即ち、インビボ反応により上記分子を得る化合物)も含む。
【0040】
メトプロロールは、主要な各医薬品規制当局(例えばFDA)に承認された市販薬であり、選択的アドレナリンβ1受容体遮断剤であり、高血圧と狭心症の治療によく用いられる。本願の医薬組成物は、有効成分として、メトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩を含むことができる。メトプロロールの市販薬は、そのほとんどが塩の形態であり、特に酒石酸塩であり、例えば、アストラゼネカ社により提供される酒石酸メトプロロール錠(ベタロック)、中国広州白雲山天心製薬株式有限会社により提供される酒石酸メトプロロール放出制御錠(立君寧)などである。
【0041】
本願の組成物に含まれる有効成分(ドキサゾシン、プラミペキソール、メトプロロール)は、いずれもその薬学的に許容可能な塩で置き換えることができる。化合物の「薬学的に許容可能な塩」という用語は、薬学的に許容可能であり、且つ母体化合物の所望の薬理学的活性を有する塩を意味する。本明細書で使用される薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容可能な酸又は塩基と形成する塩である。薬学的に許容可能なとしては、塩酸、硫酸、リン酸、ピロリン酸、臭化水素酸又は硝酸のような無機酸;クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、ベンゼンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸のような有機酸を含むが、これらに限定されない。薬学的に許容可能な塩基は、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)の水酸化物、並びにアルキルアミン、アリールアミン又は複素環アミンのような有機塩基を含む。疑義を回避するために、本願に記載のある有効成分の「薬学的に許容可能な塩」には、当該有効成分の同位体標識化合物、若しくはその光学異性体、幾何異性体、互変異性体又は異性体混合物、若しくはその前駆体薬から形成される薬学的に許容可能な塩も含まれる。
【0042】
薬学的に許容可能な塩は、従来の化学的方法により塩基性部分又は酸性部分を含む母体化合物から合成することができる。通常、これらの塩は、これらの化合物の遊離の酸又は塩基の形態と、化学量論量の適切な塩基又は酸とを、水又は有機溶媒中で、又は両者の混合物中で反応させることによって調製することができる。通常、エチルエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールやアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。塩のリストは、Remington’s Pharmaceutical Sciences第18版(Mack Publishing Company,1990)から調べることができる。例えば、塩は、本願に記載の化合物の塩酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などを含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
理解すべきこととして、様々な有効成分又は薬学的に許容可能な塩のすべての記載は、同一の有効成分又は塩の溶媒付加形態(水和物、エタノール溶媒和物、アセトン溶媒和物などのような溶媒和物)又はその様々な結晶形態(例えば、非晶質、多結晶形体など)を含む。
【0044】
本願の医薬組成物においては、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)の含有量は、実際の必要に応じて調整することができる。例えば、医薬組成物中の各医薬の含有量や割合は、医薬組成物の投与方法(経口又は注射など)に応じて変化することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、本願の医薬組成物は、通常、0.5重量部~45重量部(好ましくは1重量部~10重量部)のプラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩、5重量部~160重量部(好ましくは5重量部~80重量部)のドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩、及び50重量部~2000重量部(好ましくは100重量部~1000重量部)のメトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩を含む。
【0046】
本願の医薬組成物において、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩の量は、通常、0.5重量部~45重量部であり、例えば、0.5重量部~42重量部、0.5重量部~40重量部、0.5重量部~35重量部、0.5重量部~30重量部、0.5重量部~25重量部、0.5重量部~20重量部、0.5重量部~15重量部、0.5重量部~10重量部、1重量部~45重量部、1重量部~42重量部、1重量部~40重量部、1重量部~35重量部、1重量部~30重量部、1重量部~25重量部、1重量部~20重量部、1重量部~15重量部、1重量部~10重量部、2重量部~45重量部、2重量部~40重量部、2重量部~35重量部、2重量部~30重量部、2重量部~25重量部、2重量部~20重量部、2重量部~15重量部、2重量部~10重量部、5重量部~45重量部、5重量部~40重量部、5重量部~35重量部、5重量部~30重量部、5重量部~25重量部、5重量部~20重量部、5重量部~15重量部、5重量部~10重量部、10重量部~40重量部、10重量部~30重量部、10重量部~25重量部などであってもよい。本願の好ましい実施形態において、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩の含有量は、1重量部~10重量部である。
【0047】
本願の医薬組成物において、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の量は、通常、5重量部~160重量部であり、例えば、5重量部~150重量部、5重量部~130重量部、5重量部~120重量部、5重量部~100重量部、5重量部~80重量部、5重量部~60重量部、5重量部~50重量部、5重量部~40重量部、10重量部~150重量部、10重量部~130重量部、10重量部~120重量部、10重量部~100重量部、10重量部~80重量部、10重量部~60重量部、10重量部~50重量部、10重量部~40重量部、15重量部~160重量部、15重量部~150重量部、15重量部~130重量部、15重量部~120重量部、15重量部~100重量部、15重量部~80重量部、15重量部~60重量部、15重量部~50重量部、15重量部~40重量部、20重量部~160重量部、20重量部~150重量部、20重量部~130重量部、20重量部~120重量部、20重量部~100重量部、20重量部~80重量部、20重量部~60重量部、20重量部~50重量部、20重量部~40重量部などであってもよい。本願の好ましい実施形態において、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の含有量は、5重量部~80重量部である。
【0048】
本願の医薬組成物において、メトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩の量は、通常、50重量部~2000重量部であり、例えば、50重量部~1800重量部、50重量部~1600重量部、50重量部~1500重量部、50重量部~1300重量部、50重量部~1200重量部、50重量部~1000重量部、50重量部~800重量部、50重量部~600重量部、50重量部~500重量部、50重量部~400重量部、100重量部~1800重量部、100重量部~1600重量部、100重量部~1500重量部、100重量部~1300重量部、100重量部~1200重量部、100重量部~1000重量部、100重量部~800重量部、100重量部~600重量部、100重量部~500重量部、100重量部~400重量部、150重量部~2000重量部、150重量部~1800重量部、150重量部~1600重量部、150重量部~1500重量部、150重量部~1300重量部、150重量部~1200重量部、150重量部~1000重量部、150重量部~800重量部、150重量部~600重量部、200重量部~2000重量部、200重量部~1800重量部、200重量部~1600重量部、200重量部~1500重量部、200重量部~1300重量部、200重量部~1200重量部、200重量部~1000重量部、200重量部~800重量部、200重量部~600重量部などであってもよい。本願の好ましい実施形態において、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の含有量は、100重量部~1000重量部である。
【0049】
本願の医薬組成物において、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の重量を基準(=1)にすれば、メトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩は、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩に対する重量比が、一般的に、0.3:1~400:1の範囲内であり、例えば、0.4:1、0.5:1、0.6:1、0.7:1、0.8:1、0.9:1、1:1、1.5:1、2:1、3:1、4:1、5:1、10:1、12.5:1又は15:1以上であってもよく、好ましくは、1:1、1.5:1、2:1、3:1、4:1、5:1、10:1、12.5:1又は15:1以上であり、また、350:1、300:1、250:1、200:1、150:1、100:1、90:1、80:1、70:1、60:1、50:1、40:1、30:1又は20:1以下であってもよく、好ましくは、100:1、90:1、80:1、70:1、60:1、50:1、40:1、30:1又は20:1以下であり、同様に、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の重量を基準(=1)にすれば、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩は、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩に対する重量比が、一般的に、0.003:1~10:1の範囲内であり、例えば、0.004:1、0.005:1、0.006:1、0.007:1、0.008:1、0.009:1、0.01:1、0.015:1、0.02:1、0.03:1、0.04:1、0.05:1、0.06:1、0.07:1、0.08:1、0.1:1又は0.2:1以上であってもよく、好ましくは、0.005:1、0.006:1、0.007:1、0.008:1、0.009:1、0.01:1、0.015:1、0.02:1、0.03:1、0.04:1、0.05:1、0.06:1、0.07:1、0.08:1又は0.1:1以上であり、また、9:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、0.9:1、0.6:1、0.5:1、0.4:1又は0.3:1以下であってもよく、好ましくは、1:1、0.9:1、0.6:1、0.5:1又は0.4:1以下である。
【0050】
二 医薬剤形
いくつかの実施形態において、本願の医薬組成物は、原薬の形態(例えば、均一な混合物又は各成分の独立した包装)として提供してもよい。別の実施形態において、本願の医薬組成物は、必要に応じて、薬学的に許容可能な担体を加えて、様々な医薬剤形(製剤)としてもよい。この目的のために、様々な液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒又はカプセル化材料を「薬学的に許容可能な担体」として使用することができる。本願において、「薬学的に許容可能」とい短句とは、合理的な医学的判断の範囲内において、本願の組成物の他の成分と適合性であり、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、その他の問題又は合併症なしにヒト及び動物の組織と接触するのに適した化合物、組成物、ポリマー及びその他の材料を意味する。いくつかの好ましい実施形態において、薬学的に許容可能な担体は、パイロジェンフリーである。薬学的に許容可能な担体として有用な材料のいくつかの例として、以下を含む:(1)ラクトース、グルコース、スクロースのような糖;(2)コーンスターチやジャガイモスターチのようなデンプン;(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、セルロースアセテートのようなセルロース及びその誘導体;(4)トラガカントゴム粉末;(5)マルトデキストリン;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバターや座薬ワックスのような副原料;(9)落花生油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、コーン油や大豆油などの油類;(10)プロピレングリコールのようなジオール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールのような多価アルコール;(12)オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルのようなエステル類;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張性塩水;(18)リンゲル液;(19)エタノール;(20)リン酸緩衝液;(21)医薬製剤に使用される他の非毒性の適合性物質。
【0051】
本願の医薬組成物は、必要に応じて、経口投与、胃腸外(皮下、筋肉、皮質及び静脈を含む)投与、気管支投与、硝子体腔内注射又は経鼻投与のような投与経路に適した剤形に配合され得る。ここで、本願の医薬組成物は、経口投与に適した剤形(製剤)に配合されることが好ましい。
【0052】
固体キャリア剤を使用する場合、当該製剤は、錠剤にして、粉末又は顆粒の形態で硬質ゲルカプセルに入れてもよいし、糖衣錠剤や錠剤の形態にしてもよい。固体キャリア剤は、バインダ、充填剤、打錠潤滑剤、崩壊剤、湿潤剤などの従来の賦形剤を含むことができる。この錠剤は、必要に応じて従来技術によりフィルムコーティングしてもよい。液体キャリア剤を使用する場合、当該製剤は、シロップ、エマルジョン、ソフトゲルカプセル、注射用無菌担体、水性又は非水性の液体懸濁液の形態であり、又は使用前に水又は他の適切な担体で復元された乾燥物であり得る。液体製剤は、懸濁剤、乳化剤、湿潤剤、非水性担体(食用油を含む)、防腐剤、並びに芳香剤及び/又は着色剤などの従来の添加剤を含み得る。胃腸外投与のために、通常、担体は、そのほとんどが少なくとも無菌水を含むが、塩水溶液、グルコース溶液などを使用することもできる。注射可能な懸濁液を使用することもでき、このような場合、従来の懸濁剤を使用することができる。胃腸外投与剤形には、従来の防腐剤、緩衝剤などを添加することもできる。
【0053】
非腸管注射に適した剤形は、生理学的に許容可能な無菌の水性又は非水性の溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョン、及び無菌の注射可能な溶液又は分散液用の無菌粉末を含むことができる。好適な水性及び非水性担体、希釈剤、溶媒の例としては、水、エタノール、多価アルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパントリオールなど)、それらの好適な混合物、植物油(例えば、オリーブ油)、及び注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)を含む。
【0054】
これらの医薬剤形は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤のような様々な賦形剤も含み得る。微生物の作用に対する抑制は、各種抗菌剤や抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸など)により確実に行うことができる。糖類、塩化ナトリウムなどのような等張化剤も含み得る。吸収遅延試薬(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゲル)を使用することにより、注射可能な薬学的剤形の吸収を延長することができる。
【0055】
経口用固形剤形には、カプセル、錠剤、丸剤、粉末及び顆粒が含まれる。このような固体剤形において、活性化合物は、少なくとも1つの不活性賦形剤(又は担体)(例えば、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム)と混合され、(a)充填剤又は混合剤(例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及びケイ酸);(b)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸エステル、ゲル、ポリビニルピロリドン、スクロース及びアラビアガム);(c)保湿剤(例えば、プロパントリオール);(d)崩壊剤(例えば、寒天-寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある合成されたケイ酸エステル、炭酸ナトリウム);(e)溶液遮断剤(例えば、パラフィン);(f)吸収促進剤(例えば、第四級アンモニウム化合物);(g)湿潤剤(例えば、セタノール及びモノステアリン酸プロパントリオール);(h)吸着剤(例えば、カオリンやベントナイト)、及び(i)潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム)又はこれらの混合物をさらに含み得る。
【0056】
類似のタイプの固形組成物は、例えばラクトース、高分子量ポリエチレングリコールなどを賦形剤として使用するソフトゲルカプセル及びハードゲルカプセルに充填剤として使用することもできる。
【0057】
固体剤形(例えば、錠剤、糖衣丸剤、カプセル、丸剤及び顆粒)は、コーティング及びシェル(例えば、腸溶性コーティング及び当技術分野で既知の他のもの)を用いて調製することができる。これらは遮光剤を含んでもよく、活性化合物又は様々な活性化合物の組成物を腸管のある部分で遅延的に放出するものであってもよい。使用可能な包埋組成物の例は、ポリマー物質及びワックスである。有効成分は、マイクロカプセル化された形態であってもよく、適切であれば、上記賦形剤の1種又は複数種を有してもよい。
【0058】
経口用液体剤形には薬学的に許容可能なエマルジョン、溶液、分散液、シロップやエリキシル剤が含まれている。液体剤形は、活性化合物以外にも、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤(例えば、水又は他の溶媒)、可溶化剤及び乳化剤(例えば、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンゾイル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルミルアンモニウム)、油(具体的には、綿実油、落花生油、コーン油、オリーブ油、ひまし油、ゴマ油)、プロパントリオール、テトラヒドロフランアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル又はこれらの混合物などを含み得る。
【0059】
医薬剤形は、これらの不活性希釈剤以外にも、例えば、湿潤剤、乳化と懸濁剤、香化剤、矯味剤、及び加香味剤を含み得る。
【0060】
懸濁液は、活性化合物以外にも、エトキシル化イソオクタデカノール、ポリエチレンオキシドソルビトール、ソルビタンエステル、微結晶繊維、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天-寒天やトラガカントゴム、又はこれらの混合物などのような懸濁剤を含み得る。
【0061】
本願の医薬剤形は、軟膏剤、粉末剤、スプレー剤及び吸入剤も含む。当該有効成分は、無菌条件下で、生理学的に許容可能な担体及び任意の所望の防腐剤、緩衝剤や噴射剤と混合される。
【0062】
医薬組成物及び医薬剤形における有効成分の量は、当業者が必要に応じて適切に決定することができ、例えば、各有効成分が医薬組成物又は剤形に治療有効量で一般的に存在する。
【0063】
例えば、本願の医薬組成物は、経口投与剤形(例えば、1日2回~3回の経口投与剤形又は長期徐放性経口投与剤形)、静脈内注射剤形、筋肉注射剤形に配合することができる。
【0064】
本願の好ましい実施形態において、本願の医薬組成物は、経口投与の剤形である。本願のさらに好ましい実施形態において、本願の医薬組成物は、1日1回の経口投与剤形、1日2~3回の経口投与剤形、又は長期徐放性経口投与剤形である。
【0065】
本願の好ましい実施形態において、本願の医薬組成物は、経口投与の剤形である。本願のさらに好ましい実施形態において、本願の医薬組成物は、毎日経口投与の剤形である。
【0066】
三 医薬組成物及び医薬剤形の用途
本願の医薬組成物及び医薬剤形が慢性腎症(CKD)、特に糖尿病性腎症(DN又はDKD)の治療に使用できることは、当該分野において知られている。
【0067】
したがって、本願の第2態様は、医薬組成物の製造における、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)、及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)の組み合わせの用途に関し、前記医薬組成物は、必要とされる被験者の慢性腎症、特に糖尿病性腎症を治療するために用いられる。
【0068】
本願の第3態様は、必要とされる被験者の慢性腎症、特に糖尿病性腎症の治療における、ドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)の組み合わせの用途に関する。
【0069】
本願の第4態様は、慢性腎症、特に糖尿病性腎症を治療する方法に関し、前記方法は、治療有効量のドキサゾシン(又はその薬学的に許容可能な塩)、プラミペキソール(又はその薬学的に許容可能な塩)及びメトプロロール(又はその薬学的に許容可能な塩)を必要とされる被験者に投与することを含む。
【0070】
本願の医薬組成物及び剤形は、様々な段階の糖尿病性腎症の治療に適し、発症前の予防的治療にも適している。
【0071】
本願の方法により治療される「患者」又は「被験者」は、ヒト又は非ヒト動物であってもよく、例えば、霊長類である。好ましくは、前記「患者」又は「被験者」は、ヒトである。
【0072】
本願の治療方法は、複数の有効成分の併用投与に関するものであり、「組み合わせ治療」又は「組み合わせ療法」とも呼ばれる。前記「併用投与」又は「組み合わせ治療」とは、本願に記載の複数の有効成分を投与して、共同作用により有益な効果をもたらすことをいう。上記の組み合わせの有益な効果には、上記の有効成分の組み合わせによって生じる医薬動力又は薬効の面での共同作用が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらの有効成分の組み合わせ投与は、通常、所定の期間内で完成される(通常、分、時、日又は週であり、これは医師の判断に基づく)。「併用投与」又は「組み合わせ治療」は、これらの有効成分を順番に投与すること、即ちそれぞれの有効成分が異なる時期に投与されることを含み、これらの有効成分を実質的に同時に投与することも含み、又はこれらの有効成分のうちの少なくとも2種を投与することを含むことを意図している。実質的に同時の投与は、例えば、各有効成分が一定の割合で充填された単一のカプセルを宿主に投与するか、又は各カプセルに1種の有効成分が充填された複数のカプセルを宿主に投与することによって達成され得る。各有効成分の逐次的又は実質的に同時的な投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織を介した直接吸収を含むがこれらに限定されない任意の適切な経路によって影響を受ける可能性がある。前記有効成分は、同じ経路又は異なる経路で投与されてもよい。例えば、選択された組み合わせにおける第1種類の有効成分は、静脈内注射により投与され、前記組み合わせにおける他の有効成分は、経口投与により投与されるようにしてもよい。或いは、例えば、全ての有効成分を経口投与してもよいし、全ての有効成分を静脈内注射投与してもよい。前記有効成分の投与順序は厳密には制限されない。
【0073】
「併用投与」又は「組み合わせ治療」は、前述の有効成分をさらに他の生物学的有効成分及び非医薬療法(例えば、外科的治療又は機械的治療)と組み合わせて投与することも含む。前記組み合わせ治療にさらに非医薬療法が含まれる場合、前記有効成分と非医薬療法との組み合わせの共同作用による有益な効果が得られる限り、前記非医薬療法は任意の適切な時点で実施することができる。例えば、適切な場合には、前記有効成分の投与から前記非医薬療法を一時的に停止した後も、そのような有益な効果を達成することができ、前記停止は数日又は数週間でさえある。
【0074】
所期の効果を得るためには、通常、本願の医薬組成物又は剤形、又は単独した各有効成分の治療有効量を患者又は被験者に投与することが必要である。
【0075】
「治療有効量」という短句は、本分野で周知の用語である。いくつかの実施形態において、当該用語は、特定の治療手段のターゲートを除去、減少又は維持するために必要又は十分な量を意味する。有効量は、治療される疾患又は病症、投与される特定の標的構築物、被験者の年齢、又は疾患や病症の重症度などの要因に応じて変化することができる。当業者又は医師は、過剰な実験を行うことなく、経験的に特定の化合物の有効量を決定することができる。いくつかの実施形態において、インビボで使用される治療薬の治療有効量は、投与方式や方法と、薬剤以外にも医薬に含まれる任意の他の材料と、を含む多くの要因にも依存する。インビトロ又はインビボ試験を使用して最適な投与範囲を決定することができる。
【0076】
本願のいくつかの実施形態において、通常の体重が約60キログラムの成人の場合、本願の医薬剤形又は医薬組成物を経口投与する場合、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の1日投与量の範囲は、0.5mg~16mgであってもよく、例えば、0.5mg~15mg、0.5mg~13mg、0.5mg~12mg、0.5mg~10mg、0.5mg~8mg、0.5mg~6mg、0.5mg~5mg、0.5mg~4mg、1mg~15mg、1mg~13mg、1mg~12mg、1mg~10mg、1mg~8mg、1mg~6mg、1mg~5mg、1mg~4mg、1.5mg~16mg、1.5mg~15mg、1.5mg~13mg、1.5mg~12mg、1.5mg~10mg、1.5mg~8mg、1.5mg~6mg、1.5mg~5mg、1.5mg~4mg、2mg~16mg、2mg~15mg、2mg~13mg、2mg~12mg、2mg~10mg、2mg~8mg、2mg~6mg、2mg~5mg、2mg~4mgなどである。本願の好ましい実施形態において、ドキサゾシン又はその薬学的に許容可能な塩の1日投与量の範囲は、約2mgであってもよい。本願の別の好ましい実施形態において、ドキサゾシンの1日投与量は、約4mgである。
【0077】
本願のいくつかの実施形態において、通常の体重が約60キログラムの成人の場合、本願の医薬剤形又は医薬組成物を経口投与する場合、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩の1日投与量の範囲は、0.05mg~4.5mgであってもよく、例えば、0.05mg~4.2mg、0.05mg~4mg、0.05mg~3.5mg、0.05mg~3mg、0.05mg~2.5mg、0.05mg~2mg、0.05mg~1.5mg、0.05mg~1mg、0.1mg~4.5mg、0.1mg~4.2mg、0.1mg~4mg、0.1mg~3.5mg、0.1mg~3mg、0.1mg~2.5mg、0.1mg~2mg、0.1mg~1.5mg、0.1mg~1mg、0.2mg~4.5mg、0.2mg~4.2mg、0.2mg~4mg、0.2mg~3.5mg、0.2mg~3mg、0.2mg~2.5mg、0.2mg~2mg、0.2mg~1.5mg、0.2mg~1.0mg、0.5mg~4.5mg、0.5mg~4.2mg、0.5mg~4mg、0.5mg~3.5mg、0.5mg~3mg、0.5mg~2.5mg、0.5mg~2mg、0.5mg~1.5mg、0.5mg~1mg、1mg~4mg、1mg~3mg、1mg~2.5mgなどであってもよい。本願の好ましい実施形態において、プラミペキソール又はその薬学的に許容可能な塩の1日投与量の範囲は、約0.1mg~1mgである。本願の好ましい実施形態において、プラミペキソールの1日投与量は約0.0625mgである。本願の別の好ましい実施形態において、プラミペキソールの1日投与量は、約0.125mgである。
【0078】
本願のいくつかの実施形態において、通常の体重が約60キログラムの成人の場合、本願の医薬剤形又は医薬組成物を経口投与する場合、メトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩の1日投与量の範囲は、5mg~200mgであってもよく、例えば、5mg~180mg、5mg~160mg、5mg~150mg、5mg~130mg、5mg~120mg、5mg~100mg、5mg~80mg、5mg~60mg、5mg~50mg、5mg~40mg、10mg~180mg、10mg~160mg、10mg~150mg、10mg~130mg、10mg~120mg、10mg~100mg、10mg~80mg、10mg~60mg、10mg~50mg、10mg~40mg、15mg~200mg、15mg~180mg、15mg~160mg、15mg~150mg、15mg~130mg、15mg~120mg、15mg~100mg、15mg~80mg、15mg~60mg、20mg~200mg、20mg~180mg、20mg~160mg、20mg~150mg、20mg~130mg、20mg~120mg、20mg~100mg、20mg~80mg、20mg~60重量であってもよい。本願の好ましい実施形態において、メトプロロール又はその薬学的に許容可能な塩の1日投与量の範囲は、10mg~100mgである。本願の好ましい実施形態において、メトプロロールの1日投与量は、約20mgである。本願の別の好ましい実施形態において、メトプロロールの1日投与量は、約40mgである。
【0079】
前記1日投与量は、例えば、2時間毎、6時間毎、8時間毎、12時間毎、及び約24時間毎に、定期的に連続して投与することができる。好ましくは、前記1日投与量は、1日に2~3回の形態で患者に投与されてもよいし、徐放性錠剤を用いて投与されてもよい。上記の3種類の有効成分の経口投与量の差は比較的に大きく、これは各有効成分の体内医薬代謝動力学によって決定される。
【0080】
当業者が理解できるように、本願の医薬組成物が、静脈点滴又は筋肉注射のような他の剤形に適合するように配合されている場合、個々の有効成分の投与範囲は、上記の経口投与範囲と異なる場合があり、当業者又は医師はインビボ及びインビトロ実験を組み合わせて、各種投与経路の異なる医薬代謝動態の特徴を考慮して合理的に決定することができる。
【0081】
本願の好ましい実施形態において、本願の医薬組成物は、霊長類の被験者、特にヒトの被験者に使用される。
【0082】
当業者が理解できるように、本明細書に記載の本願の様々な態様は、本願の主題及び思想から逸脱することなく、当業者に周知の様々な方法でそれぞれ組み合わせることができる。前記組み合わせも本願の範囲に含まれる。例えば、本願に係る一部の成分の使用量の範囲は、明細書に記載の任意の下限及び任意の上限の任意の組み合わせを含み、また、各特定実施例における当該成分の具体的な含有量は、上限又は下限の組み合わせとして構成される任意の範囲を含み、これらのすべての範囲は、本願の範囲内に含まれる。また、明細書に列挙された本願の各特徴は、発明の他の任意の特徴と組み合わせることができ、このような組み合わせも本願の開示の範囲内である。
【実施例】
【0083】
本発明者らは自発性慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルを実験動物とし、実験により、糖尿病性腎症に対する3種類の市販のGPCRシグナル経路医薬であるドキサゾシン(DOX)、プラミペキソール(PMP)及びメトプロロール(MTP)の併用投与の有効性と医薬の安全性や忍容性を検証した。実験では、現在よく見られるDKDによく使用されている医薬であるバルサルタンを陽性対照とした。
【0084】
一 実験材料
具体的には、以下の3種類の市販薬を被検試料として実験に用いた。
【表1】
【0085】
被検試料1:
名称又は略称(英語名):メタンスルホン酸ドキサゾシン(DOX:Doxazosin mesylate)
純度:98% HPLC
メーカー:中国上海子起生物科技有限会社
【0086】
被検試料2:
名称又は略称(英語名):塩酸プラミペキソール(PMP:Pramipexole 2HCL Monohydrate)
純度:99.55% HPLC
メーカー:中国上海子起生物科技有限会社
【0087】
被検試料3:
名称又は略称(英語名):酒石酸メトプロロール(MTP:Metoprolol tartratesalt)
純度:98% HPLC
メーカー:アラジン(上海)試薬有限会社
【0088】
陽性対照薬:バルサルタン
名称又は略語(英語名):Valsartan
メーカー:中国上海畢得医薬科技有限会社
【0089】
二 具体的な実験スキーム
実験動物:
動物種:アカゲザル、Macaca mulatta(Rhesus Macaque)。
レベル:普通レベル。試験前の検疫に合格し、検疫内容は、身体検査、2回の結核菌試験、寄生虫、サルモネラ菌、赤痢菌、Bウイルス検査を含む。
動物標識:首の輪にアラビア数字が刻まれたステンレス製のナンバープレートをつけ、胸にはタトゥーを入れた。
供給元:中国雅安普莱美生物科技有限会社
生産ライセンス番号:SCXK(川)2019-027
試験系は、AAALAC要件とGLP標準に準拠している。
【0090】
飼育環境:
環境レベル:普通レベル。温度:18~26℃。相対湿度:40~70%。換気:1時間ごとに8回以上の換気を行い、100%の新しい風を使用する(空気の循環はない)。照明時間:自動照明であって、12hrごとに明暗が交互になり、7:30PM消灯し、翌日7:30AMに点灯する。動物ケージ:850*900*2365mmの二層ステンレス製ケージ。飼育密度:1匹/ケージ。
【0091】
実験では、自発性慢性糖尿病性腎症(DKD)に罹患しているアカゲザル16匹が組み入れられ、組み入れる基準は以下の通りである。
1)16匹のオス/メス、年齢14~24歳(40~75歳の成人と同等);オスは、14匹であり、体重が7~13kgである;メスは、2匹であり、体重が6~8kgである。
2)糖尿病経歴2年以上:空腹時血糖値(FPG):4.8mmol/Lを超え、vs年齢適合対照群(age-matched controls) 4.1±0.3mmol/Lである。
3)CKD-EPIで評価されたG3a~G3bは、糸球体濾過率eGFR:30~59ml/min/1.73m2vs年齢適合対照群(age-matched controls)92±11ml/min/1.73m2である;又は、タンパク尿の中重度増加(A2~A3)は、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR):15mg/g~350mg/g(4~6時間の尿を採取)、vs年齢適合対照群3±2mg/gである。
4)正常な血圧、I度又はII度高血圧(臨床患者の基準と一致する)。
【0092】
除外基準は、下記のとおりである。
1)重篤な肝機能異常
2)薬効の評価に影響を及ぼす可能性のあるその他の疾患
【0093】
以下の表1にベースライン期間-各群の自発性慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルの基礎病因と徴候を示す。
【0094】
【0095】
群分けと投与計画:
今回の試験は、DOX+PMP+MTP群(n=8)、Valsartan群(n=4)、及びプラセボ群(n=4)とした。その中で、DOX+PMP+MTP群はさらに1#実験群と2#実験群に分けられた。各群の投与計画は具体的に以下のとおりであり、投与経路は経口投与である。ベースライン期間を1カ月とし、その後58日間連続して経口投与した。
【0096】
1#実験群:動物数4匹
D0~D14:DOX+PMP+MTP:0.133+0.002+0.833mg/kg、1日2回
D15~D28:DOX+PMP+MTP:0.266+0.002+1.667mg/kg、1日2回
D29~D58:DOX+PMP+MTP:0.266+0.004+0.833mg/kg、DOXとMTP薬は1日2回、PMP薬は1日1回
【0097】
2#実験群:動物数4匹
D0~D14:DOX+PMP+MTP:0.133+0.002+0.833mg/kg、1日2回
D15~D28:DOX+PMP+MTP:0.133+0.002+1.667mg/kg、1日2回
D29~D58:DOX+PMP+MTP:0.266+0.002+1.667mg/kg、1日2回
【0098】
Valsartan群:動物数4匹、用量2.67mg/kg(臨床の等価用量40~80mgに相当)、D0~D58に毎日投与し、投与期間では、1~2週目が1日1回、3~8週目が1日2回である。
【0099】
プラセボ群:動物数4匹とし、飲用水や果物を与え、58日間連続して観察した。
【0100】
医薬組成物中の各有効成分の薬効への影響をさらに評価するために、自発性慢性糖尿病性腎症に罹患している別のアカゲザル群を選択して試験を行い、ここでは、DOX+MTP組成物とプラセボを別々に投与した場合の効果を並行して比較した。
【0101】
各群の投与計画は具体的に以下の通りであり、投与経路は経口投与である。ベースライン期間を1カ月とし、その後60日間連続して経口投与した。
【0102】
DOX+MTP実験群:動物数4匹
D0~D30:DOX+MTP:0.266mg/kg+1.667mg/kg、1日2回
D30~D58:DOX+MTP:0.532mg/kg+3.334mg/kg、1日2回
【0103】
プラセボ群:動物数3匹とし、飲用水や果物を与え、60日間連続して観察した。
【0104】
以下の表1Aは、追加試験における各実験動物のベースライン期間の基礎病因と徴候を示す。
【0105】
【0106】
三 主な観察指標及び監視方法
1 主な薬効指標
糸球体濾過率eGFR:クレアチニン(Cr-P)、尿素窒素(BUN)、シスタチン(CysC)を検査し、eGFR値を算出した。投与前のベースライン期間に1回、投与後の所定時間(例えば、D14、D28、D45、D58など)にそれぞれ検査を行った。参考文献(Levey AS, Stevens LA,Schmid CH et al.A new equation to eatimate glomerular filtration rate. Ann Intern Med 2009;150:604~612)を参照し、eGFR計算式は下記の通りである。
eGFRmale=135×min(Cr/0.9,1)-0.207×max(Cr/0.9,1)-0.601×min(CysC/0.8,1)-0.375×max(CysC/0.8,1)-0.711×0.995Age×3
eGFRfemale=135×min(Cr/0.7,1)-0.284×max(Cr/0.7,1)-0.601×min(CysC/0.8,1)-0.375×max(CysC/0.8,1)-0.711×0.995Age×3×0.969
【0107】
尿中アルブミン排泄率UACR:4h/6h尿を採取し、尿微量アルブミン(Malb)と尿クレアチニン(Cr-U)を検査し、UACR値を算出した。投与前に1回、投与後の所定時間(例えば30日とD58にそれぞれ1回)に検査した。UACR=Malb/Cr-U。
【0108】
血圧:麻酔後に、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、平均血圧(MBP)及び心拍数(HR)を含む血圧検査を行った。投与前に1回、投与58日目に1回(投与終了)とした。
【0109】
2 副次的な薬効と安全性の指標
血中カリウム:投与前に1回、投与後の所定時間(例えばD14、D28、D45及びD58にそれぞれ各1回)に検査した。
糖脂質代謝及び肝機能:投与前に1回、投与後の所定時間(例えばD28とD58にそれぞれ1回)に、FPG、FRA、LDL-c、HDL-c、TG、TC、ALT、ASTなどを検査した。
血液学的指標:投与前に1回、投与後の所定時間(例えばD28とD58にそれぞれ1回)に検査した。
体重:投与前に1回、投与期間は2週間ごとに1回とした。
投与後は毎日24時間の摂食や行動などの変化を観察した。
【0110】
3 サンプル採取及び保存
血液サンプルの採血方法:動物は採血操作前に、一晩断食させ、麻酔をせず、動物を馴化した後、バックプレートを軽く押して動物を拘束し、前腕静脈から採血し、採血後に滅菌乾燥綿球で採血部位を軽く圧迫して止血した。
【0111】
尿サンプルの採取方法:動物は尿を採取する操作前に、一晩断食させた。操作当日に代謝ケージに移送し、4~6時間で排泄された尿をすべて尿採取袋に採取した。
【0112】
サンプルの処理方法:表3-1を参照
【0113】
【0114】
4 検査方法及び装置
検査方法:表3-2と表3-3を参照
血液分析装置:Siemens ADVIA 2120i Hematolagy Systems
血液生化学と尿液指標検査装置:Roche cobas6000 analyzer series C501モジュールで検査し、NT-proBNPはELISAキットで検査した。
【0115】
【0116】
【0117】
5 血圧検査
検査方法:ケタミン塩酸塩15mg/kgを筋肉注射することで動物を麻酔し、麻酔後に仰臥位にし、そして、標準に従って適当な大きさのカフを縛り、血中酸素濃度プローブを動物の指や足指(左手を除く)に挟み、赤色の感光面を指の腹側に置き、自動モードを用いて動物の血圧を1min間隔で連続的に3回検査した。3回の血圧のSBP、DBP及びMBPの差が大きくなければ(最大値と最小値の差が15mmHg未満)、測定を終了し、そうでなければ、測定を継続した。
【0118】
検査指標:検査指標には収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、平均血圧(MBP)、心拍数(HR)が含まれる。
検査機器:GE B40i電気生理信号モニタ
【0119】
6 臨床観察
観察回数:1日に1回観察
観察方法:ケージ越し観察
観察内容:注射部位、皮膚、被毛、眼、耳、鼻、口腔、胸部、腹部、泌尿器生殖部、四肢などの部位、及び呼吸、運動、泌尿器、排便や行動変化など。
【0120】
7 体重測定
秤量時間:当日の給餌前
測定方法:体重秤量前に動物を14~16h断食させ、覚醒状態で動物を移送ケージに入れた後、大型動物用秤で体重を秤量した。
測定器具:METTLER TOLEDO電子台秤
【0121】
8 データ処理
実験結果は個体データの形式で表される。各計量資料は「Mean±SD」(平均値±標準偏差)で表される。対合T検定の分散分析方法を用いて、投与前と投与後の各時点の指標に対して統計学的分析を行い、P<0.05の場合は有意差があり、統計学的に有意である。
【0122】
四 実験結果及び検討
1 タンパク尿(UACR)への影響
尿中に含まれるタンパク質は尿の浸透圧を高め、腎の濃縮機能に悪影響を与え、糸球体と尿細管の機能にダメージを与える。タンパク尿は糸球体繊維化の独立危険因子である。そのため、臨床治療では、UACRをコントロールすることは腎繊維化のリスクを減少し、末期腎不全への進行を遅らせることができ、非常に重要な治療戦略である。
【0123】
各群の投与による尿中アルブミン排泄率(UACR)への影響は
図1、
図2及び表4-1に示される。各群では、ベースライン尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が15mg/g~350mg/g(4~6時間の尿採取)であるようなタンパク尿の中重度増加を示すDKDアカゲザルを選択し、ベースラインと投与D30、投与D58のUACR変化を分析した。結果は下記のとおりである。
【0124】
プラセボ群(n=4):ベースラインと比べ、試験期間終了後D58のUACR(mg/g)は平均27.16±23.57%上昇し、4例の動物のUACRレベルは一定の範囲内で安定して変動し、急速な進行を示さなかった。
【0125】
Valsartan群(n=4であり、3/4匹はタンパク尿増加が中重度であって統計に組み入れる):ベースラインと比べ、投与D30のUACRは平均約30%程度低下し、D58まで有意な低下を維持したUACRは平均40.71±8.27%低下し、プラセボ群と比べて極めて有意な低下を示した(p<0.01)。
【0126】
DOX+PMP+MTP1#実験群(n=4であり、4/4匹はタンパク尿増加が中重度であって統計に組み入れる):ベースラインと比べ、投与後D30のUACRは平均50.57±23.86%低下し、プラセボ群と比べて極めて有意な低下を示し(p<0.01)、D58まで有意な低下を維持していたUACRは平均68.75±12.73%低下し、プラセボ群と比べて極めて有意な低下を示した(p<0.01)。
【0127】
DOX+PMP+MTP2#実験群(n=4であり、3/4匹はタンパク尿増加が中重度であって統計に組み入れる):ベースラインと比べ、投与後D30のUACRは平均41.56±17.57%低下し、プラセボ群と比べて極めて有意な低下を示し(p<0.01)、D58まで有意な低下を維持したUACRは平均42.37±3.50%低下し、プラセボ群と比べて極めて有意な低下を示した(p<0.01)。
【0128】
要約すると、DOX+PMP+MTPを30日間投与すると、タンパク尿を有意に低下させ、しかも治療効果は投与後58日まで維持でき、治療効果は時効性を示した。
【0129】
なお、単独で行った付加実験(DOX+MTP群vsプラセボ群)では、そのUACR実験データを表4-1Aにまとめた。プラセボ群(n=3):ベースラインと比べ、試験期間終了D58のUACR(mg/g)は平均44.26±52.39上昇した。
【0130】
DOX+MTP群(n=4):ベースラインと比べ、投与後D30のUACRは平均27.10±75.86(mg/g)上昇し、プラセボ群と比較して統計学的差がなく、ベースラインと比べ、投与後D58のUACRは平均11.44±38.86(mg/g)上昇し、プラセボ群と比較して統計学的差がなかった。
【0131】
実験データから、DOX+MTPを58日間投与した場合、糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルのタンパク尿を有意に低下させる効果は認められなかった。
【0132】
【0133】
【0134】
2 糸球体濾過率eGFRへの影響
各群のeGFRへの影響は、
図3、表4-2、表4-3に示される。各群に組み入れるeGFR:30~59ml/min/1.73m
2であり、ベースラインと投与後D58の糸球体濾過率の変化を分析した。
【0135】
プラセボ群(n=4):ベースラインと比べ、4例の動物の糸球体濾過率eGFRは一定範囲内で安定的に変動し、急速な進行を示さなかった。
【0136】
Valsartan群(n=4であり、3/4の動物は、eGFRが30~59ml/min/1.73m2であって、統計に組み入れない):ベースラインと比べ、投与後のD58の糸球体濾過率eGFRは平均10±7ml/min/1.73m2増加し、プラセボ群の変化値と比べて有意に増加し(p<0.05)、糸球体の悪化を有意に改善し、しかも治療効果は時効性を示した。
【0137】
DOX+PMP+MTP1#実験群と2#実験群(組み入れるeGFR:30~59ml/min/1.73m2、n=5で統計し、DOX+PMP+MTP1#実験群とDOX+PMP+MTP2#実験群を組み合わせて1群として分析する):ベースラインと比べ、投与D58の糸球体濾過率eGFRは平均10±4ml/min/1.73m2増加し、プラセボ群の変化値と比べて有意な増加を示し(p<0.01)、しかも治療効果は時効性を示した。
【0138】
要約すると、DOX+PMP+MTP実験群では、投与D58に糸球体濾過率eGFRは有意に改善された。
【0139】
【0140】
【0141】
なお、単独で行った付加実験(DOX+MTP群vsプラセボ群)では、そのeGFR実験データを表4-2Aにまとめた。表4-2Aのデータから、プラセボ群と比較して、DOX+MTP投与30日間と58日間でeGFRに有意な変化が見られなかったことが分かった。
【0142】
【0143】
3 CysC、Cr-P、及びBUNへの影響
各群の投与によるCysC、Cr-P及びBUNへの影響は、表4-4から表4-6に示されている。CysCは糸球体濾過率の変化を反映する内因性マーカーであり、Cr-Pは腎機能の主要な評価指標として40年余りがあり、本試験では、糸球体濾過率eGFRはCysC、Cr-Pから算出した。BUNはまず腎機能評価指標としては用いられているが、内因性GFRマーカーとしての要件を満たすことはできず、本試験では補助的な指標とした。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
4 血圧への影響
各投与群の投与による血圧への影響は表4-7と表4-8に示される。
【0148】
プラセボ群(n=4であり、2/4高血圧):ベースラインと比べ、4例の動物の血圧は一定範囲内で安定して変動した。
【0149】
Valsartan群(n=4であり、2/4高血圧):ベースラインと比べ、投与後D58に、SBPは平均13±6mmHg低下し、低下値はプラセボ群と比べて有意に低下し(P<0.05)、DBPは平均8±5mmHg低下し、プラセボ群の変化値と比べて極めて有意に低下した(p<0.01)。
【0150】
DOX+PMP+MTP1#実験群(n=4であり、2/4高血圧):ベースラインと比べ、投与D58に、SBPは平均10±3mmHg低下し、低下値はプラセボ群と比べて有意に低下し(P<0.05)、DBPは低下活性を示さなかった。血圧が正常な動物では低血圧になるリスクはなかった。
【0151】
DOX+PMP+MTP2#実験群(n=4であり、2/4高血圧):ベースラインと比べ、投与D58に、SBPは平均5±5mmHg低下し、低下値はプラセボ群と統計学的意がなかった。DBPは低下した活性を示さなかった。血圧降下活性が低かった。
【0152】
要約すると、DOX+PMP+MTP組成物は5~10mmHgの高血圧活性を低下させた。
【0153】
【0154】
【0155】
5 K+への影響
各投与群の投与によるK+への影響は表4-9に示される。ベースライン期間と比べ、投与D58では、各試験群の動物血清K+レベルは明らかな変化が見られなかった。要約すると、DOX+PMP+MTP治療群では、D58投与による高K血症のリスクは認められなかった。
【0156】
【0157】
6 安全性と忍容性についての研究
市販薬としては、DOX、PMP、MTPの安全な用量範囲と毒副反応が知られている。DOXの常用錠剤は4~8mg/回、1日2回投与される。PMPの推奨個人用量は1日0.375mgから4.5mgで、特発性パーキンソン病の治療に使用する場合は1日0.375mgを開始し、その後5~7日ごとに最大用量が1.5mgである。1日投与量が1.5mgより高い場合、眠気の発生率が増加した。MTPの推奨用量は50~200mg/日で、必要に応じて300mg/日又は400mg/日にしてもよく、低血圧は副作用として知られている。
【0158】
本試験では、DOX、PMP及びMTPを併用して慢性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルを治療する場合の投与量から推定された臨床患者の等価人用量はいずれも上述の推奨用量の最大値よりはるかに低く、このため、理論的には本願のDOX+PMP+MTPの三剤併用は安全性が非常に良い。
【0159】
また、投与期間中に投与と関連する有害事象は見られず、肝機能、腎機能、体重、生化学指標(FPG、LDL、HDL、TC、TG、ALT、AST、TP、ALBなどを含む)などはすべて明らかな変化が見られず、このことから、本願のDOX+PMP+MTP三薬併用は確かに良好な生物安全性指標を有することが示された。
【0160】
五 結論
以上の実験結果により、3種類のGPCRアゴニスト(DOX+PMP+MTP)を58日間経口投与して自発性糖尿病性腎症に罹患しているアカゲザルを治療すると、中重度のタンパク尿を有意に低下させ、糸球体濾過率の悪化を有意に改善し、末期腎不全の発生を抑制することができることが明らかになり、また、良好な安全性と忍容性を有し、治療期間に高血K症と体液貯留が見られなかった。
【0161】
六 医薬組成物の実施例1
10kgのサルに対して、メタンスルホン酸ドキサゾシン(DOX:Doxazosin mesylate)の原薬粉末1.5mg、塩酸プラミペキソール(PMP:Pramipexole Dihydrochloride)の原薬粉末0.02mg、酒石酸メトプロロール(MTP:Metoprolol tartratesalt)の原薬粉末8mgを均一に混合すると、医薬組成物が得られた。本願の医薬組成物は、動物に直接食品を混入して給餌してもよいし、適当な賦形剤や添加剤を配合して経口錠剤にしてもよい。
【0162】
以上は、特定の実施形態について具体的に説明したが、当業者であれば、上記明細書の開示及び教示に基づいて、本願の当業者が上記実施形態を適切に変更及び修正することも可能であることを理解することができる。したがって、本願は、上記で開示及び説明された具体的な実施形態に限定されるものではなく、本願へのいくつかの修正及び変更も、本願の特許請求の範囲の特許範囲内に含まれる。
【国際調査報告】