(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-05
(54)【発明の名称】共沸様挙動を示す洗浄溶剤組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C11D 7/22 20060101AFI20230829BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20230829BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20230829BHJP
C11D 1/62 20060101ALI20230829BHJP
C11D 1/34 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C11D7/22
C11D3/43
C11D1/72
C11D1/62
C11D1/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511612
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 US2021046198
(87)【国際公開番号】W WO2022040114
(87)【国際公開日】2022-02-24
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523050553
【氏名又は名称】ザイノン・テクノロジーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴェニーシャ・エル・ハートビス
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003DA05
4H003DA09
4H003DA15
4H003DB02
4H003DB03
4H003EB02
4H003EB04
4H003ED03
4H003ED26
4H003ED28
4H003ED29
(57)【要約】
共沸洗浄溶剤組成物は、約96~約98質量%の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン(「HFMOP」)及び約2~約4質量%のアセトン、例えば、約97質量%のHFMOP及び約3質量%のアセトンを有する。本発明の別の組成物は、HFMOPとアセトンとの、約24~約99、例えば、約24~49の質量比を有する。従来の添加物、例えば、界面活性剤、潤滑剤、及び共溶剤は、組成物の約10質量パーセントを超えない量で存在してよい。本発明の方法は、製造品を洗浄するために、製造品を溶媒組成物と接触させる工程、及び、その後、前記製造品から溶媒組成物を除去する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共沸様特性を有し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及びアセトンを含む溶剤組成物であって、HFMOP及びアセトンは、アセトン1部に対してHFMOPが約24~約99部の質量比で存在する、溶剤組成物。
【請求項2】
HFMOPとアセトンが、アセトン1部に対してHFMOP約24部~から約49部の質量比で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物の共沸様特性に悪影響を及ぼすことなく、存在する場合には、組成物の約10質量%を超えない量で存在する、1つ以上の添加剤をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
添加剤が、存在する場合には、界面活性剤、潤滑剤、及び共溶剤の1つ以上からなるクラスから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
界面活性剤が、存在する場合には、アルキルホスフェートアミン塩、エトキシル化アルコール、及び第四級アンモニウム塩の1つ以上からなるクラスから選択され;潤滑剤が、存在する場合には、鉱油、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ペルフルオロポリエーテル、フルオロシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリトリフルオロクロロエチレンの1つ以上から選択され;並びに、共溶剤が、存在する場合には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エステル、エーテル、エーテルアルコール、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタンの1つ以上からなるクラスから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
HFMOP及びアセトンが、アセトン1部に対してHFMOP約27.6部~約39.0部の質量比で存在する、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
共沸様特性を有し、約96~約99質量パーセントの1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及び約1~約4質量パーセントのアセトンを含む、溶剤組成物。
【請求項8】
約96~約98質量パーセントの1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及び約2~約4質量パーセントのアセトンを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
アセトンが、組成物の約2.5から約3.5質量パーセントを構成する、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
アセトンが、組成物の約2~約3質量パーセントを構成する、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
製造品の洗浄方法であって、製品を、共沸様特性を有し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及びアセトンを含む溶剤組成物と接触させる工程であって、前記HFMOP及びアセトンは、アセトン1部に対してHFMOPが約24~約99部の質量比で存在し、前記組成物が、組成物の共沸様特性に悪影響を及ぼすことなく、存在する場合には、組成物の約10質量%を超えない量で存在する1つ以上の添加剤を、任意にさらに含み、前記添加剤が、存在する場合には、アルキルホスフェートアミン塩、エトキシル化アルコール、及び第四級アンモニウム塩の1つ以上から選択される1つ以上の界面活性剤からなるクラスから選択され;前記潤滑剤が、存在する場合には、鉱油、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ペルフルオロポリエーテル、フルオロシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリトリフルオロクロロエチレンの1つ以上から選択され;前記共溶剤が、存在する場合には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エステル、エーテル、エーテルアルコール、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタンの1つ以上からなるクラスから選択される工程、及び、前記製品を前記溶剤組成物と接触させる工程の後に、前記製品から前記溶剤組成物を除去する工程を含む、方法。
【請求項12】
HFMOP及びアセトンが、アセトン1部に対してHFMOP約24部~約49部の質量比で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
組成物を気化させ、生じた蒸気と製品を接触させ、こうした接触の後に、蒸気を凝縮させて液体組成物とする、請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月18日にVenesia L. Hurtubiseの名義で出願された、「共沸現象を示す洗浄溶剤組成物及びその用途」と題する、仮特許出願第63/067,018号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、金属加工、電子機器、及びその他の産業において、金属及びプラスチックを含む多様な製品を洗浄するための工業プロセスで使用されるタイプの、溶剤ベースの洗浄組成物に関する。
【0003】
溶剤ベースの洗浄組成物が、多様な汚染物質及び残留物(以下、「汚れ」又は「汚れ物質」と呼称することがある)を洗浄するための工業プロセスで使用されている。電子産業では、典型的には、部品の組み立ての前後に、様々なデバイスから、フラックス、はんだペースト、接着剤、及びコーティングを洗い落とす。こうしたデバイスは、金属、セラミック、及び合成ポリマー(プラスチック)の基板及び部品を含む幅広い材料の1つ以上を含んでよい。金属加工作業では、金属表面から、潤滑油及び石鹸、研削材及びグリースを除去せねばならない。 これらの汚れの多くは、特に非水性洗浄剤を用いて、金属表面から除去することが非常に困難である。
【0004】
特に興味深いのは、エアゾールパッケージで、またはワイプ液として、あるいはバルク洗浄槽、例えば蒸気脱脂(「VDG」)ユニットにおいて、安全に使用可能な洗浄溶剤を提供する、溶剤の不燃性ブレンドである。典型的に、これらの洗浄溶剤は、それ自体が不燃性であるか、または別のハロゲン化合物との混合物において不燃性とされ得るハロゲン化合物を含む。例えば、塩素化炭化水素、例えば可燃性のトランス-ジクロロエチレン(TDCE)を、洗浄溶剤ブレンドを不燃性にする役割を果たすフッ素化成分と共に溶解性の高い成分として使用することが既知である。さらに、特にVDG用途のためには、洗浄溶剤ブレンドは、不燃性であって、その蒸気も不燃性である、共沸組成物または共沸様組成物であるべきである。したがって、
共沸混合物が、蒸気脱脂で起こるような、蒸留、凝集、及び再混合の後に、著しく分画されないことが非常に望ましい。すなわち、成分比は、ボイルサンプにおいてVDGにおけるリンスサンプと、あるいはボイルフラスコ及びレシーバーにおいて、ほぼ同等であるべきである。
【0005】
産業界では、しばしばカウリ・ブタノール指数(「KB値」)として定義される、製品の洗浄力を最大化することが求められている。このために、ブレンド中のKB値が高い成分の濃度は、実行可能な限り高くされる。しかしながら、組成物中のKB値の高い成分の配合量を増大させると、溶剤ブレンドを不燃性にすることはより困難になる。この分野における顕著な前進は、Vertrel Sionとして提供される、4質量%のメチルペルフルオロヘプテン(MPHE)エーテル、0.8%のVertrel XF、及び95.2%のTDCEの共沸様ブレンドの導入によって、デュポン社によって達成された。これは、現在市販されている製品の中で最も高いTDCE濃度である。しかしながら、TDCEの濃度が高いことは燃焼性に悪影響を及ぼし、すなわち、Vertrel Sion溶剤は、所望よりも燃焼性が高くなる可能性がある。
【0006】
日本国公開特許公報、特開平10-130183号(「Yujiら」)には、電子部品等の洗浄に有用な共沸組成物が開示されており、開示された組成物の一実施態様は、55~75質量%の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(HFMOP)と25~45質量%のアセトンのブレンドからなる。後述の実施例2のパートAの燃焼性試験に示されるように、75質量%のHFMOPと25質量%のアセトンを含むYujiらの組成物は、高度に燃焼性である。Yujiらによって教示されている、25質量パーセント超で45質量パーセントまでのアセトンの増量により、可燃性はさらに増加するであろう。Yujiらに開示されている別の溶剤洗浄組成物は、HFMOPをシクロヘキサン、ヘキサン、またはシクロペンタンと組み合わせたものである。YujiらのHFMOP/シクロヘキサン組成物については、75~95質量%のHFMOPが開示されている。
【0007】
Zhihung Yeの米国特許公報第2020/0024553号は、2020年1月23日に公開され、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンと、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、及びトランス-1,2-ジクロロエチレンからなる群より選択される第2成分とのブレンドを含む共沸組成物を開示している。この共沸組成物は、一定の圧力で実質的に一定の沸点を示し、様々な洗浄及び脱脂の用途に有用であるとされている。
【0008】
2009年5月12日に発行された、B.H.Minorらに対する米国特許公報第7,531,496号には、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)及び1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(HFC-43-10mee)またはノナフルオロメトキシブタンから本質的になる、2成分共沸様組成物が開示されている。また、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン及び1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタンまたはノナフルオロメトキシブタンから本質的になり、さらにトランス-1,2-ジクロロエチレン、臭化n-プロピル、アセトン、メタノール、エタノール、またはイソプロパノールを含む、3成分または4成分共沸様組成物が開示されている。
【0009】
1991年11月12日に発行された、A.B.Merchantらに対する米国特許第5,064,559号には、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン及びメタノールまたはエタノールまたはイソプロパノールの共沸混合物を含む洗浄溶剤が開示されており、この共沸混合物は、溶剤洗浄用途において、発泡剤、冷却剤、加熱媒体、及びエアゾール推進剤として有用である。
【0010】
2013年4月2日に発行された、J.E.Barteltらに対する米国特許第8,410,039号には、メチルペルフルオロヘプテンエーテルとトランス-ジ-クロロエチレンとの共沸製剤のブレンド及び用途が開示されている。
【0011】
2001年11月6日に発行された、T. Yamadaらに対する米国特許第6,312,759号には、洗浄組成物またはキャリア流体として使用される、95%以上のヘプタフルオロシクロペンタン(HFCP)と多くの別の溶媒とのブレンドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10-130183号
【特許文献2】米国特許公報第2020/0024553号
【特許文献3】米国特許公報第7,531,496号
【特許文献4】米国特許第5,064,559号
【特許文献5】米国特許第8,410,039号
【特許文献6】米国特許第6,312,759号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般に、本発明は、共沸様挙動を、例えば蒸気脱脂操作において示す、低燃焼性洗浄溶剤組成物、及びこうした洗浄溶剤の使用に関する。さらにまた、本発明の洗浄溶剤組成物は、蒸留時に本質的に非分画性であって、このことは洗浄操作の効率的且つ安全な操作と、例えば、バルク溶剤としての、及び溶剤エアゾール、ワイプ、及びポンプスプレーなどの、様々な溶剤パッケージの安全性との両方にとって重要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の洗浄溶剤組成物は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン(「HFMOP」)エーテルとアセトンとのブレンドを含む。 HFMOPは、以下の構造:
【化1】
及び以下の特徴:
【表1】
を有するフルオロエーテルである。
【0015】
具体的には、本発明の一態様によれば、共沸様特性を有し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及びアセトンを含む溶剤組成物が提供され、前記HFMOP及びアセトンは、アセトン1部に対してHFMOPが約24~約99、例えば約24~約49部の質量比で、例えば、アセトンに対するHFMOPの質量比が約27.9~39.0で存在する。
【0016】
本発明の別の態様は、組成物が、本発明の組成物の共沸様特性及び不燃性特性に著しく悪影響を及ぼすことなく、存在する場合には、組成物の約10質量%を超えない限定された量で存在する1つ以上の添加剤を、さらに任意に含むことを提供する。
【0017】
こうした添加剤は、存在する場合には、洗浄溶剤組成物において従来使用されている界面活性剤、潤滑剤、及び共溶剤の1つ以上からなるクラスから選択される。本発明の関連する態様においては、界面活性剤は、存在する場合には、アルキルホスフェートアミン塩、エトキシル化アルコール、及び第四級アンモニウム塩の1つ以上からなるクラスから選択され;潤滑剤は、存在する場合には、鉱油、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、及びペルフルオロポリエーテル、フルオロシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリトリフルオロクロロエチレンを含むフッ化潤滑剤の1つ以上から選択され;並びに、共溶剤は、存在する場合には、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、及びベンジルアルコール、エステル、エーテル、エーテルアルコール、及び炭化水素、例えばペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタンの1つ以上からなるクラスから選択される。
【0018】
本発明の別の態様は、共沸様特性を有し、約96~約99質量%の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及び約1~約4質量パーセントのアセトンを含み、あるいは約96~約98質量%のHFMOP及び約2~約4質量%のアセトンを含む溶剤組成物を提供する。関連する態様において、アセトンは組成物の約2.0~約3.5質量パーセントを構成し、例えば、アセトンが組成物の約2.5~約3または約3.5質量パーセントを構成し、同時にHFMOPが組成物の約96.5~約98質量パーセントを構成してよい。添加剤は任意に本発明の組成物中に存在してもよく、またはこの組成物は、市販のHFMOP及びアセトンに見出され得る微量の不純物を除いて、実質的にHFMOP及びアセトンのみを含んでよい。
【0019】
本発明の方法の態様によれば、製造品の洗浄方法であって、製品を、共沸様特性を有し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパンエーテル(「HFMOP」)及びアセトンを含む溶剤組成物と接触させる工程であって、前記HFMOP及びアセトンは、アセトン1部に対してHFMOPが約24~約99部、またはアセトン1部に対してHFMOPが約24~約49部の質量比、例えば、アセトンに対するHFMOPの質量比が約27.6~39.0で存在し、この組成物が、組成物の共沸様特性及び不燃性特性に悪影響を及ぼすことなく、存在する場合には、組成物の約10質量%を超えない量で存在する、1つ以上の添加剤をさらに任意に含む工程による方法が提供される。前記添加剤は、存在する場合には、上述の界面活性剤、潤滑剤、及び共溶剤である。溶剤組成物は、物品を溶剤組成物と接触させた後に物品から除去される。
【0020】
本発明のさらなる方法の態様は、組成物を気化させ、生じた蒸気と物品を接触させ、こうした接触の後に蒸気を凝縮させて液体組成物とすることを提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、以下の詳細な説明から明らかであろう。
【0022】
特記のない限り、所定の成分の全てのパーセンテージは、「質量パーセント」、「%」、「wt%」として表現されるか否かによらず、組成物の総質量に基づく、溶剤組成物中の成分の質量パーセントである。
【0023】
本明細書中で使用されるように、本発明の洗浄溶剤ブレンドに関して使用される、「共沸様」なる語または挙動または同義の用語は、溶剤ブレンドが完全な共沸特性を示さないとしても(本発明のブレンドにはそうした特性を示すものもある)、蒸留サイクルを繰り返した後の組成の変化が小さいことを意味する。実際問題として、溶媒ブレンド組成物の主要成分の出発量の20wt%以下の変化は、しばしば許容可能であるとみなされる。以下の実施例1に示すように、本発明の3wt%アセトンの実施態様におけるHFMOPの出発量の、7時間の蒸留後の変化は、かなり小さい。こうした変化は、好ましくはHFMOPの出発含有量の10wt%未満、より好ましくは5wt%未満、例えば、約2wt%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、
図2~5に示されるデータの開発に使用されるタイプの「デュアルバルブ」装置を含む、標準的な2サンプ蒸気脱脂装置のベンチトップシミュレーションの立面概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の装置のボイルサンプで測定される、7時間の運転に亘る本発明の洗浄溶剤の実施態様の、HFMOP及びアセトン成分の組成の変化をプロットしたグラフである。
【
図3】
図3は、デュアルバルブ装置のリンスサンプにおける組成の変化を示すこと以外は、
図2のグラフと同一のグラフである。
【
図4】
図4は、装置の運転時間に対して
図2及び3のデータをプロットしたグラフであるが、ボイルサンプ及びリンスサンプ中のHFMOP成分の量の変化を示す。
【
図5】
図5は、アセトン成分の量の変化をプロットしたこと以外は、
図4と同一のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、VDGユニットの動作をシミュレートし、以下に示すデータを生成するために利用されるタイプの、従来のデュアルバルブベンチトップ実験用ガラス器具を概略的に示す。実験用ガラス器具10は、リンスバルブ14内に突出するネック12aを有する、ボイルバルブ12を含む。ネック12aには、リンスバルブ14内に配置される開口部12bが形成されている。コンデンサ16は、その出口端部でリンスバルブ14に嵌め込まれ、コンデンサ16内に配置された冷却コイル18を備えている。冷水入口18aは冷却水の供給源(図示せず)に接続され、冷水出口18bは排水口(図示せず)に接続されている。ボイルバルブ12は加熱マンテル20の上に配置されている。
【0026】
使用中、試験しようとする溶剤組成物をボイルバルブ12に導入し、加熱して溶剤組成物を沸騰させて、矢印V1で示されるようにリンスバルブ14に上昇し、次いでコンデンサ16に上昇する蒸気を発生させる。蒸気は、冷却コイル18との接触により凝縮され、矢印C1で示されるようにリンスバルブ14に流入する。リンスバルブ14で回収された凝縮物が開口部12bのレベルに達すると、あふれた溶剤は矢印C2で示されるようにボイルバルブ12中に逆流する。
【0027】
標準的な試験手順
試行を、ボイルフラスコ上にサンプリングポート(
図1には示されていない)を有する、
図1に示されるタイプの「デュアルバルブ」装置を用いて、標準的な2サンプ蒸気脱脂装置のベンチトップシミュレーションにおいて実施した。様々な位置及び時点からの試料を、Agilent社製DB-200キャピラリーカラム(トリフルオロプロピルメチルジメチルシロキサン固定相)とFID検出器を用いて、ガスクロマトグラフィーによって分析される。以下の実施例は、この標準的な試験手順に従って行った試験結果を報告する。
【0028】
実施例1
97質量%のHFMOP及び3質量%のアセトンを含む本発明の製剤実施態様(17-90-1とする)を、
図1に概略的に示されるタイプの実験用ガラス器具で蒸留する。
【0029】
パートA:蒸気脱脂装置を模した実験用ガラス器具での蒸留による、ボイル組成の変化
【表2】
【0030】
HFMOPの出発含有量の変化は、97.00-95.58=1.42である。これは、蒸留7時間に亘るボイル組成物中におけるHFMOPの減少が、1.42/97.00=1.46質量%であることを意味する。
【0031】
パートB:蒸気脱脂装置を模した実験用ガラス器具での蒸留による、リンス組成の変化
【表3】
ボイル組成物と同様に計算した、蒸留7時間に亘るリンス組成物中におけるHFMOP含有量の変化は、0.90/97.00=0.93質量%の増加である。
【0032】
上記データが示すように、プロトタイプ17-90-1は共沸特性を示す。プロトタイプ17-90-1の沸点は51.3℃と測定され、これは算出された沸点より4.5℃低い。蒸留データは、組成が、当初のアセトン3質量%から、システムのリンス部では2質量%、ボイル部では4質量にシフトすることを示す。蒸留7時間の評価は、最初のシフト後のブレンドの安定性を示す。
【0033】
実施例1は、
図2及び3に示されるように、
図1の装置においては、7時間の蒸発及び凝縮期間の後にも、ボイルサンプ及びリンスサンプ中でブレンドの各成分の初期存在量には限定的変化が起こるのみであることを示す。
図4及び
図5は、
図1の装置のボイルサンプ及びリンスサンプにおける、HFMOP及びアセトンそれぞれについての組成の変化を示す。
【0034】
記載の割合でアセトンと組み合わせたHFMOPは、高KB可燃性溶剤と組み合わせた別のヒドロフルオロエーテル(「HFE」)を含む既知の組成物に、有利な代替物を提供することが判明した。洗浄溶剤中にヒドロフルオロカーボン(「HFC」)に代えてHFEを使用する主な利点は、環境特性の改善である。HFMOPは、燃焼性抑制特性を示し、このため高いKB値を有する炎症性溶剤、例えばアセトンとブレンドすることができ、不燃性組成物を提供することが判明している。むろん、HFEと可燃性洗浄溶剤とで不燃性共沸物を形成することが非常に望ましい。
【0035】
以下の組成物を、燃焼性について「パンテスト」によって試験した。ドラフト内で金属パンを10mLの溶剤で満たした。炎源に液体表面上を通過させ、炎のサイズ及び継続時間を観察した。炎が消えたところで、蒸気を30秒間放散させた。その後、炎源に再び溶媒表面上を通過させた。この作業を、全ての溶剤が蒸発するまで繰り返した。10秒以内に炎が自己消火しない場合は、試験を終了した。5秒未満で炎を自己消火させた溶剤は「"不燃性」と判断された。5秒経過後も消火しない溶剤は「可燃性」と判断した。この試験方法は、密閉法または開放法による試験の前に、溶剤ブレンドの燃焼可能性を測定するために採用された手順である。
【0036】
実施例2
各組成物は、記載された質量%の溶媒と残量のHFMOPを含んでいた。
パートA:比較例
【表4】
【0037】
【0038】
実施例2の燃焼性試験は、先行技術で教示されているHFMOPまたは別のHFEと所定のアルコールまたはトランス-ジクロロエチレンとのブレンドが燃焼性であることを示す。対照的に、HFMOPとアセトン(3質量%アセトン)とのブレンドであるプロトタイプ17-90-1は、自己消火性である。さらに、プロトタイプ17-90-1の燃焼性試験は、このブレンドが、時間の経過とともに燃焼性になるものではないことを示す。アセトンの含有量が1%未満のものは、むろん不燃性であるが、洗浄力が劣る結果となる。
【0039】
本発明は、その具体的な実施態様に関して詳細に説明されているが、これらの具体的な実施態様は、本発明の範囲を制限するものと解されることを意図しない。
【国際調査報告】