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特表2023-540259肺感染症の治療および予防用のグルコシダーゼ阻害剤
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  • 特表-肺感染症の治療および予防用のグルコシダーゼ阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(54)【発明の名称】肺感染症の治療および予防用のグルコシダーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/445 20060101AFI20230914BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 31/133 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230914BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230914BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A61K31/445
A61K31/437
A61K9/12
A61K9/14
A61K31/133
A61P31/12
A61K47/18
A61K9/72
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513877
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 AU2021050978
(87)【国際公開番号】W WO2022040741
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】2020903051
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523066794
【氏名又は名称】コビリックス・メディカル・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】COVIRIX MEDICAL PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】マルクッチョ,セバスティアン マリオ
(72)【発明者】
【氏名】モートン,デイビッド アレクサンダー ボッデン
(72)【発明者】
【氏名】タッカー,サイモン ピーター
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA26
4C076AA32
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC32
4C076CC35
4C076CC41
4C076DD51
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086CB05
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB07
4C086ZB09
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZB35
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA29
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA33
4C206NA14
4C206ZB33
4C206ZC20
(57)【要約】
本発明は、一般に、グルコシダーゼ阻害剤に、および肺疾患の治療または予防におけるその使用に関する。特に、本発明は、SARS-CoV-2を含む、呼吸器の細菌またはウイルス感染症を治療または予防するためのα-グルコシダーゼ阻害剤の使用に向けられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的に効果的な量のα-グルコシダーゼ阻害剤を対象に経肺投与することを含む、該対象でのウイルス呼吸器感染症を治療または予防する方法であって、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が、式(ID):
【化1】
[式中:
はC1-10アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはLRであり;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-4アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリールまたはC1-9ヘテロアリール基(1または複数のR基で置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で置換されてもよい)より選択され;
はHまたはC(O)C1-6アルキルであり;
はCH-OHであり;
およびRは、H、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、またはC(O)NH-C1-4アルキルより独立して選択されるか;
またはRとRとが、それらの結合する原子と一緒になって、ヒドロキシル基で置換される5員のヘテロシクロアルキル環を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C3-10シクロアルキル、C1-4アルコキシおよびCO(O)C1-4アルキルより独立して選択される]
で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩である、方法。
【請求項2】
呼吸器感染症がウイルス感染症であって、コロナウイルス感染症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コロナウイルス感染症がSARS-CoV-2である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
がC1-6アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)またはLRである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
LがC1-6アルキル-O-、またはC1-6アルキル-NR-より選択される二価リンカー基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
が、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジドおよびC3-10シクロアルキルより独立して選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
α-グルコシダーゼ阻害剤が
【化2】
より選択されるか、またはその医薬的に許容される塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
α-グルコシダーゼ阻害剤が
【化3】
より選択されるか、またはその医薬的に許容される塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
α-グルコシダーゼ阻害剤が経口吸入を介して投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
α-グルコシダーゼ阻害剤が乾燥粉末製剤として供給される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
乾燥粉末製剤がスプレー乾燥製剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
乾燥粉末製剤の粒子の空気動力学的質量中央粒子径が10μm未満である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
乾燥粉末製剤がエアロゾルの形態にて投与される、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
α-グルコシダーゼ阻害剤が1または複数のさらなる治療剤と組み合わせて投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
さらなる治療剤が、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗レトロウイルス剤、免疫調節剤、免疫刺激剤、抗生物質および抗炎症剤からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象でのウイルス呼吸器感染症を治療または予防するための医薬の製造におけるα-グルコシダーゼ阻害剤の使用であって、治療または予防することが該α-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が、式(ID):
【化4】
[式中:
はC1-10アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはLRであり;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-4アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリールまたはC1-9ヘテロアリール基(1または複数のR基で置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で置換されてもよい)より選択され;
はHまたはC(O)C1-6アルキルであり;
はCH-OHであり;
およびRは、H、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、またはC(O)NH-C1-4アルキルより独立して選択されるか;
またはRとRとは、それらの結合する原子と一緒になって、ヒドロキシル基で置換された5員のヘテロシクロアルキル環を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C3-10シクロアルキル、C1-4アルコキシ、およびCO(O)C1-4アルキルより独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、使用。
【請求項17】
対象でのウイルス呼吸器感染症を治療または予防するのに経肺投与を介して用いるα-グルコシダーゼ阻害剤であって、ここで式(ID):
【化5】
[式中:
はC1-10アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはLRであり;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-4アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリールまたはC1-9ヘテロアリール基(1または複数のR基で置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で置換されてもよい)より選択され;
はHまたはC(O)C1-6アルキルであり;
はCH-OHであり;
およびRは、H、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、またはC(O)NH-C1-4アルキルより独立して選択されるか;
またはRおよびRは、それらが結合する原子と一緒になって、ヒドロキシル基で置換される5員のヘテロシクロアルキル環を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C3-10シクロアルキル、C1-4アルコキシ、およびCO(O)C1-4アルキルより独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、α-グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項18】
α-グルコシダーゼ阻害剤と、医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントまたは賦形剤とを含む吸入可能な組成物であって、該α-グルコシダーゼ阻害剤が、式(ID):
【化6】
[式中:
はC1-10アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはLRであり;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-4アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリールまたはC1-9ヘテロアリール基(1または複数のR基で置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で置換されてもよい)より選択され;
はHまたはC(O)C1-6アルキルであり;
はCH-OHであり;
およびRは、H、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、またはC(O)NH-C1-4アルキルより独立して選択されるか;
またはRとRとは、それらの結合する原子と一緒になって、ヒドロキシル基で置換される5員のヘテロシクロアルキル環を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C3-10シクロアルキル、C1-4アルコキシ、およびCO(O)C1-4アルキルより独立して選択される]
で示される化合物、またはその医薬的に許容される塩である、吸入可能な組成物。
【請求項19】
対象でのウイルス呼吸器感染症を治療または予防する方法であって、治療的に効果的な量のα-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が、
【化7】
またはその医薬的に許容される塩である、方法。
【請求項20】
対象でのウイルス呼吸器感染症の治療または予防用の医薬の製造におけるα-グルコシダーゼ阻害剤の使用であって、治療または予防することがα-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が、
【化8】
またはその医薬的に許容される塩である、使用。
【請求項21】
対象でのウイルス呼吸器感染症を治療または予防するのに経肺投与を介して使用するα-グルコシダーゼ阻害剤であって、
【化9】
またはその医薬的に許容される塩である、α-グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項22】
α-グルコシダーゼ阻害剤と、医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントまたは賦形剤とを含む吸入可能な組成物であって、該α-グルコシダーゼ阻害剤が、
【化10】
またはその医薬的に許容される塩である、吸入可能な組成物。
【請求項23】
対象での呼吸器感染症を治療または予防するための医薬の製造におけるα-グルコシダーゼ阻害剤の使用であって、治療または予防することがα-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が、
【化11】
[式中:
はH、ヒドロキシ、C1-10アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-10アルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-10アルキニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはLRより選択され;
LはC1-10アルキル-O-またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-6アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で置換されてもよい)より選択され;
はH、ヒドロキシまたはOC1-6アルキルより選択され;
、RおよびRは、H、C1-6アルキル、C1-6アルキル-OHまたはC(O)C1-6アルキルより独立して選択され;
はH、ヒドロキシまたはC1-6アルキル-OHより選択され;
およびRは、H、C1-6アルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で置換されてもよい)、またはC(O)NH-C1-6アルキルより独立して選択されるか;
またはRとR、またはRとRのいずれかが、それらの結合する原子と一緒になって、5または6員のヘテロシクロアルキル環(1または複数のR基で置換されてもよい)を形成し;および
が、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C3-10シクロアルキル、C5-10シクロアルケニル、C2-6ヘテロシクロアルキル、C6-10アリール、C1-9ヘテロアリールまたはCO(O)C1-6アルキルより独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、オーストラリア国仮特許出願番号2020903051の優先権を主張するものであり、その全内容が相互参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、一般に、グルコシダーゼ阻害剤に、および肺疾患の治療または予防におけるその使用に関する。特に、本発明は、呼吸器の細菌またはウイルス感染症を治療または予防するためのα-グルコシダーゼ阻害剤の使用に向けられる。
【背景技術】
【0003】
呼吸器感染症(RTI)は数百万人の人々が感染しており、毎年、世界中で何十万人もの人の死亡に関与している。RTIは、副鼻腔、咽頭、気道または肺を含む、上部または下部の呼吸器に影響を及ぼすことが可能であって、本質的には細菌性またはウイルス性とすることができる。上部RTIは、風邪、喉頭炎、咽頭炎、急性鼻炎、および急性鼻副鼻腔炎を包含する。下部RTIは、急性気管支炎、細気管支炎、肺炎、および気管炎を包含する。RTIの徴候は軽症から重症までとすることができ、重度の場合には入院および人工呼吸を必要とすることが多い。
【0004】
COVID-19のパンデミックの原因であるコロナウイルス株の、新型重症後天性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、世界中で2億人以上の人々が感染し、約440万人の死亡をもたらした、RTIである。従って、SARS-CoV-2に対する治療オプションが早急に必要である。数あるRTIの中で、SARS-CoV-2に対する治療法を開発する最も手際のよい方法として、既知の治療剤を再利用することが挙げられる。現在、レムデシビルおよびファビピラビルを含む、多数のそのような薬剤が、SARS-CoV-2を治療するための様々な臨床開発の段階にあり、それらはどちらも、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害するものである。
【0005】
SARS-CoV-2が上部および下部呼吸器の両方にて宿主細胞に侵入するには、ウイルスの表面から突出している高グリコシル化三量体スパイク(S)糖タンパク質を媒介とする。スパイク糖タンパク質はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と結合し、ウイルスと宿主細胞膜とが融合するに至る。融合プロセスではスパイクタンパク質が大きく構造変化する。一旦、細胞内に入ると、そのRNA依存性RNAポリメラーゼ活性を介して新たなRNAを合成するのに必要とされる複製機構をコードする、ウイルスのポリタンパク質が合成される。次に、構造タンパク質が合成され、ウイルス粒子のアセンブリーが完成し、放出されるに至る。これには、膜貫通タンパク質であり、分泌されて原形質膜に曝される前に、小胞体(ER)を通して折り畳みとグリコシル化を受ける、スパイク糖タンパク質が含まれる。
【0006】
Rajasekharanら(2020)による最近の研究では、ゴーシェ病およびニーマン・ピック病C型などの希少遺伝性リソソーム貯蔵疾患の治療用にザベスカ(Zavesca)(登録商標)として市販されている、ミグルスタット(N-ブチル-1-デオキシノジリマイシン;NB-DNJ)、α-グルコシダーゼ阻害剤(AGI)が、SARS-CoV-2に拮抗してインビトロ活性を有することが示された。その作用機序はミグルスタットのERに存在するα-グルコシダーゼIおよびIIに対する阻害活性にあり、それがスパイク糖タンパク質に付着したN-結合型糖鎖上にある3つの末端グルコース部分を順次トリミングすることが示された。これらの反応はスパイク(他の糖タンパク質の中でも)の適切な折り畳みと機能の発揮に不可欠である。α-グルコシダーゼのミグルスタットによる阻害は、スパイクが小胞体から細胞表面に成熟化する間のその適切な折り畳みを破壊し、ウイルスタンパク質の著しい減少および感染性ウイルスの放出の低下に至ることが示された。また、イミノ糖がACE2受容体の糖鎖形成パターンおよび機能を改変することがこれまでに示されている(Zhaoら、2014)。
【0007】
AGIは1980年代の初期に抗ウイルス剤として最初に記載され(Panら、1983;Romeroら、1983)、いくつかのAGIは抗ウイルスの臨床試験に進んだが、現在まで、ウイルス感染症の治療に臨床的に承認されたAGIはない。最近のレビュー(Alonziら、2017)はイミノ糖抗ウイルス剤(すなわち、AGI)の臨床的可能性および挑戦を詳述しており、ミグルスタット、UV-4(N-7-オキサデシルデオキシノジリマイシン)およびセルゴシビルなどの種々のAGIが臨床開発に採用されているが、いずれも開発可能な臨床的候補を提供できなかったことを示す。その理由は様々であり、AGIの血清中での治療用濃度を維持することの困難性、治療用濃度での望ましくない副作用、および/または臨床効果の欠如が挙げられる。さらには、RTIを治療するには肺薬物デリバリー(例えば、経口または鼻腔吸入による)が望ましいが、肺薬物デリバリーの生物学的成果を予測することは第一原理を理由として困難であった(Hickey, 2020)。薬物分子を呼吸器および下肺にデリバリーし、治療効果を得ることも困難と言える。
【0008】
従って、SARS-CoV-2などの呼吸器感染症を治療または予防するための改善された、または代替となる方法に対する要求が継続してある。
【発明の概要】
【0009】
現在のところ、α-グルコシダーゼ阻害剤、およびそれを含む医薬組成物は経肺投与に適しており、呼吸器感染症を治療する代替法を提供し得ると考えられる。
【0010】
1の態様において、本発明は、対象での呼吸器感染症を治療または予防する方法であって、治療的に効果的な量のα-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含む、方法を提供する。
【0011】
もう一つ別の態様において、本発明は、対象での呼吸器感染症を治療または予防するための医薬の製造におけるα-グルコシダーゼ阻害剤の使用であって、ここで治療または予防が該α-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含む、使用を提供する。
【0012】
もう一つ別の態様において、本発明は、対象での呼吸器感染症を経肺投与を介して治療または予防するのに使用するα-グルコシダーゼ阻害剤を提供する。
【0013】
さらにもう一つ別の態様において、本発明は、α-グルコシダーゼ阻害剤、および医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントまたは賦形剤を含む、吸入可能な組成物を提供する。
【0014】
本発明の上記した態様によれば、α-グルコシダーゼ阻害は、一般式(I):
【化1】
[式中:
はH、ヒドロキシ、C1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルキニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはLRより選択され;
LはC1-10アルキル-O-またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)より選択され;
はH、ヒドロキシまたはOC1-6アルキルより選択され;
、R、RおよびRは、H、C1-6アルキル、C1-6アルキル-OHまたはC(O)C1-6アルキルより独立して選択され;
はH、ヒドロキシまたはC1-6アルキル-OHより選択され;
およびRは、H、C1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC(O)NH-C1-6アルキルより独立して選択されるか;
あるいはRとR、またはRとRとは、それらの結合する原子と一緒になって、5または6員のヘテロシクロアルキル環(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C3-10シクロアルキル、C5-10シクロアルケニル、C2-6ヘテロシクロアルキル、C6-10アリール、C1-9ヘテロアリールまたはCO(O)C1-6アルキルより独立して選択される]
で示される化合物またはその立体異性体、あるいはその医薬的に許容される塩であってもよい。
【0015】
ある実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、一般式(IA):
【化2】
[式中:R、R、R、RおよびRは、一般式(I)にて上記されるとおりである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩であってもよい。
【0016】
別の実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、一般式(IB)または(IC):
【化3】
[式中、RおよびRは一般式(I)にて上記されるとおりであり、nは1または2である]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩であってもよい。
【0017】
好ましい実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、一般式(ID):
【化4】
[式中:
はC1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはLRであり;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-4アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール、またはC1-9ヘテロアリール基(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)より選択され;
はHまたはC(O)C1-6アルキルであり;
はCH-OHであり;
はRは、H、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、またはC(O)NH-C1-4アルキルより独立して選択されるか;
またはRとRとは、それらの結合する原子と一緒になって、ヒドロキシル基で置換された5員のヘテロシクロアルキル環を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C3-10シクロアルキル、C1-4アルコキシおよびCO(O)C1-4アルキルより独立して選択される]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩であってもよい。
【0018】
式(ID)の化合物の好ましい実施態様においては、RがC1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)またはLRである。
【0019】
式(ID)の化合物の好ましい実施態様においては、LがC1-6アルキル-O-、またはC1-6アルキル-NRより選択される二価リンカー基である。
【0020】
式(ID)の化合物の好ましい実施態様において、Rは、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロおよびアジドより独立して選択される。
【0021】
他の実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、
【化5】
またはその医薬的に許容される塩であってもよい。
【0022】
他の実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、
【化6】
またはその医薬的に許容される塩であってもよい。
【0023】
もう一つ別の実施態様において、本発明は、対象でのウイルス呼吸器感染症を治療または予防する方法であって、α-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が、上記した式(I)、(IA)、(IB)、(IC)または(ID)の化合物、またはその医薬的に許容される塩である、方法を提供する。好ましい実施態様において、ウイルス感染症はコロナウイルス感染症、好ましくはSARS-CoV-2である。
【0024】
もう一つ別の実施態様において、本発明は、対象でのコロナウイルス感染症、好ましくはSARS-CoV-2を治療または予防する方法であって、α-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が上記される式(ID)の化合物、またはその医薬的に許容される塩である、方法を提供する。
【0025】
ある実施態様において、式(ID)のα-グルコシダーゼ阻害剤は:
【化7】
またはその医薬的に許容される塩より選択される。
【0026】
もう一つ別の実施態様において、本発明は、対象でのコロナウイルス感染症、好ましくはSARS-CoV-2を治療または予防する方法であって、α-グルコシダーゼ阻害剤を該対象に経肺投与することを含み、ここで該α-グルコシダーゼ阻害剤が:
【化8】
またはその医薬的に許容される塩である、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の実施態様は、この度、単なる例示とするに過ぎない、下記の図面を参考にして説明されるであろう。
【0028】
図1】噴霧乾燥したミグルスタット(NB-DNJ)アスパラギン酸塩の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す(EHT=3.00kV;WD=10.4mm)。
【0029】
図2】ステアリン酸マグネシウム不含でエアージェット粉砕したグリセット(ミグリトール)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す(EHT=3.00kV;WD=12.7mm)。
【0030】
図3】5%w/wステアリン酸マグネシウムと共にエアージェット粉砕したグリセット(ミグリトール)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す(EHT=3.00kV;WD=12.9mm)。
【0031】
図4】3%w/wステアリン酸マグネシウムと共にエアージェット粉砕し、つづいてメカノフュージョンに付したグリセット(ミグリトール)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す(EHT=3.00kV;WD=10.5mm)。
【0032】
図5】ミグリトールおよびミグルスタットをステアリン酸マグネシウムと一緒に微粒化した圧力分散試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
別段の定めがない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明の属する分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意義を有する。
【0034】
本明細書の文脈において、「肺感染症」および「呼吸器感染症」なる語は、互換的に使用され、同じ意義を有するものとする。
【0035】
本明細書の文脈において、「組成物」および「製剤」なる語は、互換的に使用され、同じ意義を有するものとする。
【0036】
特記されない限り、本明細書にて使用される「a」、「an」および「the」なる不定冠詞は複数の態様も含む。かくして、例えば、「剤」への言及は、単一の剤、ならびに2またはそれ以上の剤を含み;「組成物」または「製剤」への言及は、単一の組成物、ならびに2またはそれ以上の組成物または製剤等を含む。
【0037】
本明細書にて使用される場合、「約」なる語は、言及された値の±10%を意味する。
【0038】
本明細書、および添付した特許請求の範囲を通して、文脈がそうでないと要求しない限り、「含む」なる語、およびその変形(含んでいるなど)は、記載の整数または工程、または一群の整数または工程を含むが、他のいずれの整数または工程、または一群の整数または工程も排除しないことを意味するものと理解されるであろう。
【0039】
「からなる」なる語は、「のみからなる」ことを意味し、すなわち、その整数または工程あるいは一群の整数または工程を含み、それに限定され、他のいずれの整数または工程あるいは一群の整数または工程をも排除することを意味する。
【0040】
「本質的に…からなる」なる語は、記載される整数または工程あるいは一群の整数または工程を含むことを意味するが、本発明の実施を実質的に変更させず、またはその実施に寄与しない他の整数または工程あるいは一群の整数または工程もまた、含まれてもよい。
【0041】
本明細書と通して、含量パーセント(%)への言及は、重量パーセント(wt%)を意味すると解される。特記されない限り、本明細書に記載の組成物または製剤の成分の重量パーセント(wt%)への言及は、該組成物または製剤の全成分に対する特定の成分のwt%をいう。
【0042】
本明細書にて使用される場合、「アルキル」なる語は、一価(「アルキル」)および二価(「アルキレン」)のいずれかの直鎖または分岐鎖の飽和脂肪族基をいう。アルキル基は1~10個の炭素原子を有してもよく、C1-10アルキルで表されるか、または1~6個の炭素原子を有してもよく、C1-6アルキルで表されるか、または1~4個の炭素原子を有してよく、C1-4アルキルで表される。適切なアルキル基の例には、メチル、エチル、1-プロピル、イソプロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、アミル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピルおよび1,1,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書にて使用される場合、「アルケニル」なる語は、鎖中のいずれかの位置に少なくとも1個の二重結合を有する、一価(「アルケニル」)および二価(「アルケニレン」)のいずれかの直鎖または分岐鎖の不飽和脂肪族炭化水素基をいう。特記されない限り、各二重結合の回りの立体化学は、適宜、独立して、シスまたはトランスであっても、あるいはEまたはZであってもよい。アルケニル基は2~10個の炭素原子を有してもよく、C2-10アルケニルで表されるか、または1~6個の炭素原子を有してもよく、C2-6アルケニルで表されるか、あるいは1~4個の炭素原子を有してもよく、C2-4アルケニルで表される。適切なアルケニル基の例には、エテニル、ビニル、アリル、1-メチルビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテンチル、1,3-ブタジエニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1,3-ペンタジエニル、2,4-ペンタジエニル、1,4-ペンタジエニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、および2-メチルペンテニルが含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書にて使用される場合、「アルキニル」なる語は、少なくとも1個の三重結合を有する、一価(「アルキニル」)および二価(「アルキニレン」)のいずれかの直鎖または分岐鎖の不飽和脂肪族炭化水素基をいう。アルキニル基は2~10個の炭素原子を有してもよく、C2-10アルキニルで表されるか、または2~6個の炭素原子を有してもよく、C2-6アルキニルで表されるか、あるいは2~4個の炭素原子を有してもよく、C2-4アルキニルで表される。適切なアルキニル基の例には、エチニル、1-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-メチル-2-ブチニル、3-メチル-1-ブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニルおよびメチルペンチニルが含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0045】
本明細書にて使用される場合、「アルコキシ」なる語は、直鎖または分岐鎖のアルコキシ(O-アルキル)基をいい、ここでアルキルは上記されるとおりである。適切なアルコキシル基の例には、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、sec-ブトキシ、およびtert-ブトキシが含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書にて使用される場合、「アリール」なる語は、所望により置換されてもよい単環式、または縮合した多環式の芳香族炭素環(すなわち、環原子のすべてが炭素である環構造)をいう。アリール基は環当たりに6~10個の原子を有してもよく、C6-10アリールで表される。適切なアリール基の例には、フェニル、ナフチル、フェナントリルが含まれてもよいが、これらに限定されない。本明細書にて使用される場合、「アリール」なる語はまた、フェニルと、シクロアルキルまたはシクロアルケニル基とが一緒になって縮合し、テトラヒドロナフチル、インデニルまたはインダニルなどの環構造を形成する、所望により置換されてもよい、部分的に飽和した二環式芳香族炭素環基を包含するものとする。該アリール基は末端基または架橋基であってもよい。
【0047】
本明細書にて使用される場合、「シクロアルキル」なる語は、飽和または部分飽和の単環式、縮合した、またはスピロ多環式の炭素環をいう。シクロアルキル基は環に付き3~10個の炭素原子を有してもよく、C3-10シクロアルキルで表される。適切なシクロアルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、スピロ[3.3]ヘプタニル、デカリンおよびアダマンチルが含まれてもよいが、これらに限定されない。シクロアルキル基は末端基または架橋基であってもよい。
【0048】
本明細書にて使用される場合、「シクロアルケニル」なる語は、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含有する、非芳香族の単環式または多環式環系をいう。シクロアルキル基は環に付き5~10個の炭素原子を有してもよく、C5-10シクロアルケニルで表される。適切なシクロアルケニル基の例には、シクロペンテニル、シクロヘキセニルおよびシクロヘプテニルが含まれてもよいが、これらに限定されない。シクロアルケニル基は末端基または架橋基であってもよい。
【0049】
本明細書にて使用される場合、「ハロゲン」または「ハロ」なる語は互換的であり、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素をいう。
【0050】
本明細書にて使用される場合、「ヘテロシクロアルキル」なる語は、飽和または部分飽和の単環式、縮合した、またはスピロ多環式炭素環であって、ここで少なくとも1個(例えば、1、2、3、4または5個)の環原子が、O、N、NH、またはSより独立して選択されるヘテロ原子である、炭素環をいう。ヘテロシクロアルキル基は環に付き2~6個の炭素原子を有してもよく、C2-6ヘテロシクロアルキルで表される。適切なヘテロシクロアルキル基の例には、アジリジニル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、キヌクリジニル、モルホリニル、ジアザスピロ[3.3]ヘプタン(例えば、2,6-ジアザスピロ[3.3]ヘプタン)、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニルおよびテトラヒドロピラニルが含まれてもよいが、これらに限定されない。ヘテロシクロアルキル基は末端基または架橋基であってもよく、ヘテロ原子または任意の炭素環原子を介して結合されてもよい。
【0051】
本明細書にて使用される場合、「ヘテロアリール」なる語は、所望により置換されてもよい単環式、または縮合した多環式の芳香族ヘテロ環をいい、ここでは少なくとも1個(例えば、1、2、3、4、5、6、7または8個)の環原子が、O、N、NH、またはSより独立して選択される、ヘテロ原子である。ヘテロアリール基は環に付き1~9個の炭素原子を有してもよく、C1-9ヘテロアリールで表される。適切なヘテロアリール基の例には、フリル、イミダゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、オキサゾリル(例えば、1,3-オキサゾリル、1,2-オキサゾリル)、ピリジニル(例えば、2-、3-、4-ピリジニル)、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピロリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、トリアゾリル(例えば、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル)、およびトリアジニルが含まれるが、これらに限定されない。二環式ヘテロアリールの代表例には、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾキサジアゾリル(例えば、2,1,3-ベンゾキサジアゾリル)、シンノリニル、ジヒドロキノリニル、ジヒドロイソキノリニル、フロピリジニル、インダゾリル、インドリル(例えば、2-または3-インドリル)、イソキノリニル(例えば、1-、3-、4-、または5-イソキノリニル)、ナフチリジニル(例えば、1,5-ナフチリジニル、1,7-ナフチリジニル、1,8-ナフチリジニル等)、ピロロピリジニル(例えば、ピロロ[2,3-b]ピリジニル)、キノリニル(例えば、2-、3-、4-、5-、または8-キノリニル)、キノキサリニル、テトラヒドロキノリニル、およびチエノピリジニルが含まれるが、これらに限定されない。1または複数の実施態様において、ヘテロアリール基は1または複数の窒素ヘテロ原子、例えば、個々の構造に応じて、1、2、3または4個の窒素ヘテロ原子を有する、N-ヘテロアリール基である。N-ヘテロアリール基はまた、窒素原子以外のヘテロ原子を有してもよいが、N-ヘテロアリール基は少なくとも1個の窒素ヘテロ原子を有することを特徴とする。例示としてのN-ヘテロアリール基には、イミダゾリル、インドリル(例えば、2-または3-インドリル)、ナフチリジニル、ピラジニル、ピリジル(例えば、2-、3-または4-ピリジル)、ピロリル、ピリミジニル、キノリニル(例えば、2-、3-、4-、5-、または8-キノリニル)、イソキノリニル、キナゾリニル、キノキサリニルおよびトリアジニルが含まれる。本明細書にて使用される場合、「ヘテロアリール」なる語はまた、ヘテロ環とシクロアルキルまたはシクロアルケニル基が縮合して一緒になり、環構造を形成している、所望により置換されてもよい部分飽和の二環式芳香族ヘテロ環式部分を包含するものとする。ヘテロアリール基は末端基または架橋基であってもよく、ヘテロ原子または任意の炭素環原子を介して結合してもよい。
【0052】
本明細書にて使用される場合、「所望により置換されてもよい」なる語は、特定の基を参照して使用される時、その基が1または複数の水素以外の置換基でさらに置換されていても、または(多環系を形成するように)縮合されていても、いなくてもよい。適切な任意の置換基は当業者に明らかであろう。任意の置換基の例には、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C3-10シクロアルキル、C5-10シクロアルケニル、C2-6ヘテロシクロアルキル、C6-10アリール、C1-9ヘテロアリール、またはCO(O)C1-6アルキルが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書におけるいずれかの先行技術への言及は、その先行技術が共通の一般知識の一部を形成するものではなく、形成するものとして考慮されるべきではなく、その形成を認めるものではなく、そのいずれの示唆を形成するものでもない。
【0054】
詳細な説明
本発明は、α-グルコシダーゼ阻害剤(AGI)に、該阻害剤を含む組成物に、および肺疾患、特に肺感染症の治療または予防におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、経肺投与を介して呼吸器の細菌またはウイルス感染症(すなわち、肺感染症)を治療または予防するための、AGIの、およびそれを含む特定の医薬組成物の使用に向けられる。本明細書にて開示される特定のAGIは、経肺経路で投与される場合、ウイルス呼吸器感染症、特にSARS-CoV-2などのコロナウイルス関連の感染症を治療するにおいて使用するのに特に適し得る。
【0055】
本明細書にて使用される場合、「経肺投与」なる語は、AGIに関連して使用される時、AGIを呼吸器(上気道および/または下気道を含む)に直接導入することに関与するいずれの投与方法をもいう。特に、経肺投与は、経口吸入、鼻腔吸入、またはその両方を含んでもよい。経肺投与は局所および全身の両方の治療のために薬物を肺に直接デリバリーすることを標的とするのが可能であるため、特に有利であり得る。好ましくは、AGIは経口吸入で投与される。AGIを局所デリバリーするための経鼻投与は、例えば、対象の鼻腔の大きさにより制限される可能性がある。さらには、経口吸入によって投与される小粒子の濃度喪失は、鼻腔吸入で投与される対応する粒子よりも活性部位で有意に小さくなり得る。
【0056】
前にWO2013/016754で記載されるように、RTIの治療用の吸入可能な製剤を製造することに対する大きな技術的障壁は、実用的かつ費用効果のある方法で、高効率でのデリバリー(例えば、>50%の用量を治療部位にデリバリーすること)、再現可能なデリバリー(例えば、用量デリバリーの変動係数(CV%)が<10%であること)、および高負荷(例えば、>1mgの粉末を治療部位にデリバリーすること)に適する薬物含有のエアロゾルを加工処理することの実用性にあった。乾燥粉末は薬物デリバリーにて魅力的な手段を提供するが、高効率のエアロゾル化に適する微粒子の生成には技術的に有意な問題があった。吸引されると、エアロゾル化された大きな薬物の粒子は、咽頭および上気道の後部で衝撃および重力沈降により堆積する傾向があり、そこで該粒子は胃腸管への粘膜繊毛クリアランスを、その後で代謝を受けやすくなる。また、薬物の大きな粒子は、気管支が狭いため、下肺まで深く進行できない。以前から、気管、気管支および肺胞を含む呼吸器系への効果的な局所エアロゾル輸送およびデリバリーには、空気動力学的粒径が5μmよりも小さい粒子が好ましく、一方で肺深部、気管支および肺胞では、3μmよりも小さい粒子が好ましい、と想定されていた。
【0057】
標的とされる吸引デリバリーを達成するには、呼吸器にある上および下の両方の部位を標的とする空気動力学的粒径のサイズ分布を有する吸入可能なエアロゾルを提供することが好ましい。この点で、乾燥粉末のエアロゾルとしての吸入エアロゾルデリバリーは魅力的なデリバリーフォーマットを提供し得る。しかしながら、高効率のエアロゾル化に適する微粒子を生成することは、標的とされるエアロゾルのデリバリーに必要とされる空気動力学的粒径が5μmよりも小さい薬物粒子には固有の凝集性があるため、困難であり得る。この課題に加えて、個々の薬物の独特な界面特性によってもたらされる現実の世界の変動があり、それには同じ薬物のバッチ間で生じる変動が含まれ得る。
【0058】
上記した課題に加えて、乾燥粉末のいずれの実用的な経肺デリバリーシステムも投与の際の粒子の凝集を回避または最小とし、流動特性が低いか、凝集にむらがあることに起因する送達される用量において変動が小さく、および/または粉末がデリバリー装置の壁に付着することによって粉末を該装置から完全に移すことができないことを回避または最小とする点で、とりわけ有利である。
【0059】
吸入用の液体または懸濁液の製剤などの他の吸入可能な製剤を開発するのに関連付けられる有意な技術的課題もあり、これには、薬物と、組成物の任意の噴射剤、界面活性剤、および他の成分との物理化学特性、ならびに相互の、および/または投与に使用される装置とのその相互作用としてのそのような変数のバランスを取ることが含まれる。
【0060】
この度は、AGI、またはそれを含む組成物の経肺投与は、呼吸器感染症の治療に適する可能性があると考えられる。特に、吸入投与によるAGI製剤のデリバリーは、治療濃度を維持し、AGIの経口投与で観察される用量制限の副作用を回避するのに適する可能性がある。
【0061】
アルファ-グルコシダーゼ阻害剤
マルターゼ、デキストラナーゼ、スクラーゼおよびグルコアミラーゼなどのアルファ-グルコシダーゼは、複合体としての炭水化物を、血流中に吸収され得る、グルコースへの分解に関与する酵素である。アルファ-グルコシダーゼ阻害剤(AGI)は、α-グルコシダーゼと可逆的に結合する、炭水化物のアナログである。本明細書にて使用される場合、「グルコシダーゼ阻害剤」なる語は、グルコシダーゼの少なくとも1つの機能または生物学的活性を減少させ、阻害し、または損傷させる、いずれかの剤を包含する。例えば、本明細書にて使用される場合、「アルファ-グルコシダーゼ阻害剤」、「α-グルコシダーゼ阻害剤」および「AGI」なる語は互換性があり、α-グルコシダーゼIおよびIIを含む、α-グルコシダーゼの少なくとも1つの機能または生物学的活性を減少させ、阻害し、または損傷させる、剤をいう。
【0062】
特に、RTI、とりわけSARS-CoV-2の迅速な治療を求めるには、以前に治療的使用を調査したAGIが特に適しているかもしれない。好ましくは、AGIはヒトへの使用が承認されている。以前に治療的使用を調査したAGIの例には、とりわけ、アカルボース(2型糖尿病の治療に承認)、ミグルスタット(NB-DNJ;I型ゴーシェ病の治療に承認)、グリセット(ミグリトール;2型糖尿病の治療に承認)、エミグリテート(BAY1248;グルコース誘発性インスリン放出の阻害剤)、N-ノニルデオキシノジリマイシン(NNDNJ;リソソームβ-グルコシダーゼの阻害剤および薬理学的シャペロン)、N-7-オキサデシルデオキシノジリマイシン(UV-4;SP116;インビトロおよびインビボでのデング熱抗ウイルス活性)、ボグリボース(糖尿病患者の食後の血中グルコースレベルを下げることが承認)、カスタノスペルミン(インビトロでの抗ウイルス活性)、セルゴシビル(6-O-ブタノイルカスタノスペルミン;C型肝炎ウイルス(HCV)感染症)が含まれる。ヒトに用いるのに適する可能性のある他の既知のAGIには、とりわけ、NAP-DNJ(N-(6’-[4’’-アジド-2’’-ニトロフェニルアミノ]ヘキシル)-1-デオキシノジリマイシン)、IHVR-19029(3-tert-ブチル-1-シクロヘキシル-1-[6-[(2R,3R,4R,5S)-3,4,5-トリヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)ピペリジン-1-イル]ヘキシル]尿素)およびAMP-DNM(N-アダマンタンメチルオキシペンチル-1-デオキシノジリマイシン)が含まれる。しかしながら、上記されるとおり、AGIは、以前には、RTIを治療するための実行可能な臨床的抗補体を提供することができず、吸入によるAGIの投与はこれまでに検討されていない。
【0063】
一例として、ミグルスタット(ザベスカ(Zavesca)(登録商標)として市販されており、N-ブチル-1-デオキシノジリマイシン、NB-DNJとしても知られる)は、ゴーシェ病およびニーマンピック病の治療用に多くの管轄区域で承認されている、AGIである。ミグルスタットは、最初は、抗HIV剤として同定され、かつ開発され、AZT(ジドブジン)と組み合わせて第2相試験で有望な抗ウイルス作用を示した。しかしながら、HIV単剤療法としてミグルスタットを用いる用いるさらなる用量漸増試験は、毒性の恐れがあるため(最終的には杞憂であったが)停止され、HIVについてその治験薬の開発は停止となった。ミグルスタットはまた、他の多くのウイルスについての抗ウイルス剤としても研究されており、相II/III臨床試験にまで進んでいるが、抗ウイルス剤として未だに承認されていない。ミグルスタットは100mgのカプセルで経口経路で送達される。ゴーシェ病の用量は、長期慢性治療で100-300mgt.i.d.であるが、HIV試験で、および安全性の研究ではより高用量が使用された。ミグルスタットは、インビトロにてHIV-1について報告されている効果的な濃度と類似する、約100μg/mlのEC50でインビトロにてSARS-CoV-1に対して活性であると報告されている。また、培養した細胞による耐性が極めて高く、細胞毒性もほとんどないことが報告されている。
【0064】
この度、AGIの経肺送達は、特に吸引用に乾燥粉末として処方された場合には、呼吸器感染症(RTI)を治療するための別法を提供し得ると考えられる。適切なα-グルコシダーゼ阻害剤は当業者に知られており、アカルボース、ミグルスタット(NB-DNJ)、グリセット(ミグリトール)、エミグリテート(BAY1248)、N-ノニルデオキシノジリマイシン(NNDNJ)、N-7-オキサデシルデオキシノジリマイシン(UV-4;SP116)、ボグリボース、カスタノスペルミン、セルゴシビル(6-O-ブタノイルカスタノスペルミン)、NAP-DNJ(N-(6’-[4’’-アジド-2’’-ニトロフェニルアミノ]ヘキシル)-1-デオキシノジリマイシン)、IHVR-19029((3-tert-ブチル-1-シクロヘキシル-1-[6-[(2R,3R,4R,5S)-3,4,5-トリヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)ピペリジン-1-イル]ヘキシル]尿素)およびAMP-DNM(N-アダマンタンメチルオキシペンチル-1-デオキシノジリマイシン)を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書に開示のAGIは不斉中心を有してもよく、従って、複数の立体異性体の形態にて存在し得ることが認識されるであろう。かくして、本明細書にて開示されるAGIは単一の立体異性体、ラセミ体、および/またはエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーの混合物として存在してもよい。かくして、特記されない限り、本明細書におけるAGIへの言及はその立体異性体を包含する。本明細書にて使用される場合、「立体異性体」なる語は、分子構造が同じで、空間でのその原子団の三次元配置のみが異なる、2またはそれ以上の異性体をいう。立体異性体はジアステレオ異性体またはエナンチオマーであってもよい。いくつかの実施態様において、本明細書にて開示されるAGIは、1または複数の不斉中心で実質的に純粋な異性形態(例えば、約90%ee、95%ee、97%eeまたは99%eeよりも大きい)、またはそれらの混合物(ラセミ混合物を含む)であってもよい。
【0066】
ミグルスタット(NB-DNJ)、グリセット(ミグリトール)、エミグリテート(BAY1248)、N-ノニルデオキシノジリマイシン(NNDNJ)、N-7-オキサデシルデオキシノジリマイシン(UV-4;SP116)、カスタノスペルミン、セルゴシビル(6-O-ブタノイルカスタノスペルミン)、NAP-DNJ、IHVR-19029およびAMP-DNMなどの多くの既知のAGIは、各々、共通のイミノ糖構造モチーフを有している。従って、イミノ糖誘導体の経肺投与は、RTIの治療または予防に有用である可能性がある。
【0067】
従って、本発明において使用するのに適したAGIは、一般式(I):
【化9】
[式中:
はH、ヒドロキシ、C1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルキニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはLRより選択され;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)より選択され;
はH、ヒドロキシ、またはOC1-6アルキルより選択され;
、R、RおよびRは、H、C1-6アルキル、C1-6アルキル-OH、またはC(O)C1-6アルキルより独立して選択され;
はH、ヒドロキシ、またはC1-6アルキル-OHより選択され;
およびRは、H、C1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC(O)NH-C1-6アルキルより独立して選択されるか;
あるいはRとRとの、またはRとRとのいずれかは、それらの結合する原子と一緒になって、5または6員のヘテロシクロアルキル環(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C3-10シクロアルキル、C5-10シクロアルケニル、C2-6ヘテロシクロアルキル、C6-10アリール、C1-9ヘテロアリール、またはCO(O)C1-6アルキルより独立して選択される]
で示される化合物またはその立体異性体、あるいはその医薬的に許容される塩が含まれてもよい。
【0068】
式(I)で示されるAGIの好ましい実施態様において、RはHである。
【0069】
好ましい実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、一般式(IA):
【化10】
[式中:
はH、ヒドロキシ、C1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルキニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはLRより選択され;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NR-より選択される二価リンカー基であり;
はC1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)より選択され;
、RおよびRは、H、C1-6アルキル、C1-6アルキル-OH、またはC(O)C1-6アルキルより独立して選択され;
はH、ヒドロキシル、またはC1-6アルキル-OHより選択され;
およびRは、H、C1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC(O)NH-C1-6アルキルより独立して選択されるか;
またはRとRとの、またはRとRとのいずれかは、それらの結合する原子と一緒になって、5または6員のヘテロシクロアルキル環(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C3-10シクロアルキル、C5-10シクロアルケニル、C2-6ヘテロシクロアルキル、C6-10アリール、C1-9ヘテロアリール、またはCO(O)C1-6アルキルより独立して選択される]
で示されるか、またはその医薬的に許容される塩である。
【0070】
一般式(I)および/または(IA)のAGIの好ましい実施態様においては、R、RおよびRが、各々、Hである。
【0071】
一般式(I)および/または(IA)のAGIの好ましい実施態様においては、RがCH-OHである。
【0072】
一般式(I)および/または(IA)のAGIの好ましい実施態様においては、R、RおよびRが、各々、Hであり、RがCH-OHである。
【0073】
一般式(I)および/または(IA)のAGIの好ましい実施態様においては、RとRとが、それらの結合する原子と一緒になって、5員のヘテロシクロアルキル環(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)を形成する。好ましくは、Rはヒドロキシである。
【0074】
特に好ましい実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、一般式(IB)または(IC):
【化11】
[式中:
はH、ヒドロキシ、C1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-10アルキニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはLRより選択され;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NR-より選択される二価リンカー基であり;
はC1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)より選択され;
はH、C1-6アルキル、またはC(O)C1-6アルキルより選択され;
およびRは、H、C1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC(O)NH-C1-6アルキルより独立して選択され;
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、C3-10シクロアルキル、C5-10シクロアルケニル、C2-6ヘテロシクロアルキル、C6-10アリール、C1-9ヘテロアリール、またはCO(O)C1-6アルキルより独立して選択され;および
nは1または2である]
で示されるか、またはその医薬的に許容される塩である。
【0075】
一般式(I)、(IA)および/または(IB)のAGIの好ましい実施態様においては、RがヒドロキシまたはC1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)である。好ましくは、Rがヒドロキシである。他の実施態様においては、RがLRであり、ここでLはC1-6アルキル-O-またはC1-6アルキル-NH-であり、Rは1または2個のR基で所望により置換されてもよいフェニルである。
【0076】
一般式(IC)のAGIの好ましい実施態様においては、nが1である。
【0077】
一般式(I)、(IA)、(IB)および/または(IC)のAGIの好ましい実施態様においては、RがLRである。好ましくは、LがC1-6アルキル-O-またはC1-6アルキル-NR-である。好ましくは、RがC1-4アルキル(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチルまたはt-ブチル)(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、フェニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはRである。
【0078】
一般式(I)、(IA)、(IB)および/または(IC)のAGIの好ましい実施態様においては、RがHまたはC(O)C1-6アルキルである。好ましくは、C(O)C1-6アルキルがC(O)-メチル、C(O)-エチル、C(O)-n-プロピル、C(O)-イソプロピル、C(O)-n-ブチル、C(O)-sec-ブチルまたはC(O)-tert-ブチルなどのC(O)C1-4アルキルである。
【0079】
一般式(I)、(IA)、(IB)および/または(IC)のAGIの好ましい実施態様においては、RがC1-4アルキル(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチルまたはt-ブチル)であってもよい。別の好ましい実施態様においては、Rが、ヒドロキシ、ニトロ、またはアジドより独立して選択されてもよい。他の実施態様においては、Rがアダマンチルであってもよい。さらに別の好ましい実施態様においては、Rがメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチルまたはt-ブチルエステルであってもよい。
【0080】
特に好ましい実施態様においては、α-グルコシダーゼ阻害剤が、式(ID):
【化12】
[式中:
はC1-10アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはLRであり;
LはC1-10アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NRより選択される二価リンカー基であり;
はC1-4アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール、またはC1-9ヘテロアリール基(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、R、C3-10シクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C5-10シクロアルケニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C2-6ヘテロシクロアルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、C6-10アリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)、またはC1-9ヘテロアリール(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)より選択され;
はHまたはC(O)C1-6アルキルであり;
はCH-OHであり;
およびRは、H、C1-4アルキル、C3-6シクロアルキル、またはC(O)NH-C1-4アルキルより独立して選択されるか;
あるいはRとRとは、それらの結合する原子と一緒になって、5員のヘテロシクロアルキル環(ヒドロキシル基で置換される)を形成し;および
は、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジド、C3-10シクロアルキル、C1-4アルコキシおよびCO(O)C1-4アルキルより独立して選択される]
で示されるか、またはその医薬的に許容される塩である。
【0081】
式(ID)の化合物の好ましい実施態様においては、RがC1-6アルキル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)またはLRである。
【0082】
式(ID)の化合物の好ましい実施態様においては、LがC1-6アルキル-O-、またはC1-6アルキル-NR-より選択される二価リンカー基である。
【0083】
式(ID)の化合物の好ましい実施態様においては、Rが、各々、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、アジドおよびC3-10シクロアルキルより独立して選択される。
【0084】
一般式(ID)のAGIの別の好ましい実施態様においては、RがC1-10アルキル(ヒドロキシ基で所望により置換されてもよい)である。好ましくは、RがC1-6アルキル(ヒドロキシ基で所望により置換されてもよい)である。
【0085】
一般式(ID)のAGIの別の好ましい実施態様においては、LがC1-6アルキル-O-より、好ましくはC4-6アルキル-O-、またはC1-10アルキル-NR-より、好ましくはC4-6アルキル-NR-より選択される。
【0086】
一般式(ID)のAGIの別の好ましい実施態様においては、RがLRであり、RがC1-4アルキル(C3-10シクロアルキルで所望により置換されてもよい)である。好ましくは、LがC1-10アルキル-O-であり、より好ましくは、C1-6アルキル-O-であり、RがC1-2アルキル(C6-10シクロアルキルで所望により置換されてもよい)である。特に好ましい実施態様においては、Rがアダマンチル基で置換されたメチルであってもよい。
【0087】
一般式(ID)のAGIの別の好ましい実施態様においては、RがLRであり、RがRである。好ましくは、LがC1-10アルキル-NR-であり、より好ましくは、C1-6アルキル-NR-である。好ましくは、RおよびRのうち少なくとも1個はHまたはC3-6シクロアルキル(例えば、シクロヘキシル)である。特に好ましい実施態様においては、RがHであり、Rがフェニル(1または複数のR基で所望により置換されてもよい)である。もう一つ別の特に好ましい実施態様においては、RがC3-6シクロアルキルであり、RがC(O)NH-C1-4アルキルである。
【0088】
好ましい実施態様において、α-グルコシダーゼ阻害剤は、次の群:
【化13】
より選択される。
【0089】
α-グルコシダーゼ阻害剤は、好ましくは、ミグルスタット(NB-DNJ)、グリセット(ミグリトール)、NNDNJ、UV-4、カスタノスペルミン、セルゴシビル、NAP-DNJ、IHVR-19029、AMP-DNM、およびエミグリテートより、より好ましくは、ミグルスタット(NB-DNJ)、グリセット(ミグリトール)、NAP-DNJ、IHVR-19029およびAMP-DNMより、さらにより好ましくは、NAP-DNJおよびAMP-DNMより選択される。
【0090】
式(I)、(IA)、(IB)、(IC)または(ID)の実施態様において、個々の基は1または複数のR基で置換され、R基のその数は、好ましくは、1または2である。
【0091】
他の炭水化物アナログも本発明での使用に適する。かくして、もう一つ別の好ましい実施態様において、本発明における使用に適するAGIは:
【化14】
である。
【0092】
さらにもう一つ別の好ましい実施態様において、本発明における使用に適するAGIは:
【化15】
である。
【0093】
α-グルコシダーゼを阻害する他の適切な炭水化物アナログは、当業者に知られている標準的な技法を用いて容易に同定され得る。
【0094】
本発明における使用に適するAGIは、市販されていても、当業者に既知のいずれか適切な方法に従って製造されてもよい。本明細書にて開示されるAGIの立体異性体は、自然界で存在するものであっても、不斉合成により、例えば、キラル中間体を用いて、またはキラル分割により製造されてもよい。
【0095】
医薬製剤
本明細書にて開示されるAGI(その立体異性体を含む)は医薬的に許容される塩、水和物または溶媒和物として提供され得ることを理解すべきである。「医薬的に許容される塩」なる語は、本明細書に開示のAGIの医薬的に許容される溶媒和物および水和物、および医薬的に許容される付加塩を包含する。「溶媒和物」なる語は、本明細書にて開示されるAGIまたはその立体異性体と、1または複数の医薬的に許容される溶媒分子、例えば、エタノールを含む、分子複合体を包含する。「水和物」なる語は、溶媒が水である場合に利用される。本明細書にて開示されるAGI(その立体異性体を含む)が獣医学的用途での使用に適し得ることも考慮されている。かくして、「医薬的に許容される塩」なる語はまた、本明細書にて開示されるAGIの獣医学的に許容される溶媒和物および水和物、および獣医学的に許容される付加塩を包含するものとする。
【0096】
いくつかの実施態様において、AGI塩は酸付加塩および四級アミンの塩を包含し得る。医薬にて使用するには、AGI塩は医薬的に許容される塩であろうが、医薬的に許容されない塩も医薬的に許容される塩を製造する際の中間体として有用であり得るから、本発明の範囲内にあると理解されよう。医薬的に許容される塩は、塩化物イオン、酢酸イオン、硫酸イオンまたは他の対イオンなどのもう一つ別の分子を含むこともある。対イオンは親化合物の電荷を安定化させる有機または無機のいずれの部分であってもよい。さらには、医薬的に許容される塩はその構造にて複数の荷電原子を有してもよい。複数の荷電原子が親薬物に存在する場合、その医薬的に許容される塩は複数の対イオンを有するであろうし、これらは同じ対イオンの数種の例または異なる対イオンの例とすることができる。従って、医薬的に許容される塩は、親化合物中に1または複数の荷電原子を、および/または1または複数の対イオンを有し得る。
【0097】
酸付加塩は、AGIと、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、クエン酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、サリチル酸、スルファミン酸、または酒石酸を含むが、これらに限定されない、医薬的に許容される無機または有機酸とから形成され得る。四級アミンの対イオンには、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、リン酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、マロン酸塩、フマル酸塩、スルファミン酸塩、および酒石酸塩が含まれるが、これらに限定されない。また、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド、例えば、メチル、エチル、プロピル、およびブチルクロリド、ブロミドおよびヨーダイド;ジメチルおよびジエチル硫酸塩のようなジアルキル硫酸塩等のような剤で四級化されてもよい。上記される医薬的に許容される塩および他の典型的な医薬的に許容される塩の製造は、Bergeら、「Pharmaceutical Salts」, J. Pharm. Sci., 1977:66:1-19にてさらに詳細に説明される。
【0098】
いくつかの実施態様において、AGI塩は、本明細書にて開示される組成物に組み込む前に、別個の合成工程にて遊離形態の化合物から製造されてもよい。さらに別の実施態様において、AGI塩は投与される組成物を製造する間に系内にて製造されてもよい。例えば、投与される組成物は、遊離形態のAGIと接触すると、投与される所望の医薬的に許容される塩を系内にて形成する、適切な酸をさらに含んでもよい。
【0099】
さらには、本明細書にて開示されるAGIが、遊離化合物として、または溶媒和物(例えば、水和物)としてのいずれかで、結晶形態であってもよく、両方の形態が共に本発明の範囲内にあるものとすることが理解されよう。溶媒和方法は当該分野で一般的に知られている。
【0100】
本発明はまた、本明細書にて開示されるAGI(その立体異性体を含む)の医薬的に許容される誘導体またはプロドラッグを意図する。例えば、AGIは、対象に投与されると、AGI、またはその活性な代謝物または残基を(直接または間接的に)提供する能力を有する、プロドラッグの形態にて提供され得る。「プロドラッグ」なる語は最も広い意味で使用され、インビボにて活性剤(すなわち、AGI)に変換される、それらの誘導体を包含する。このような誘導体は当業者であれば容易に思いつくであろう。限定を意図しない例として、当業者であれば、セルゴシビル(6-O-ブタノイルカスタノスペルミン)がカスタノスペルミンのプロドラッグであることを理解するであろう。
【0101】
上記されるように、本発明は、肺疾患の治療において、AGIの、遊離塩基の形態として、またはその医薬的に許容される塩または溶媒和物としての使用を包含する。本明細書にてAGIの特定の投与量または濃度が言及される場合、その特定の投与量または濃度はAGIの遊離塩基の濃度またはそれに相当する量をいうと理解すべきである。従って、AGIの医薬的に許容される塩が使用される場合、当業者であれば、その塩に関する濃度または投与量がAGIの遊離塩基の形態の相当する濃度または投与量をいうことを容易に理解するであろう。
【0102】
本明細書にて開示されるAGI、またはその医薬的に許容される塩は、1または複数の医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤と一緒に投与され得る。担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤が使用される場合、それらは、組成物の他の成分と適合し、対象に有害でないという意味で「医薬的に許容される」ものでなければならない。かかる医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントまたは賦形剤は当業者に明らかであり、意図する投与方法に依存し得る。例えば、担体、希釈剤、アジュバントまたは賦形剤は、製剤が乾燥粉末であるか、液体製剤であるか、製剤が経口または鼻腔吸入を意図するか、および/または、液体製剤の場合には、それらをスプレーまたはエアロゾルとして投与することを意図するのかに応じて変化し得る。
【0103】
本明細書にて使用されるAGI製剤は、好ましくは、経肺投与のための徐放性製剤である。
【0104】
経肺投与用の、すなわち、経口または鼻腔吸入による投与用の医薬組成物の処方および/または製造における一般的な考察は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Sixteenth Edition, E.W. Martin(Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1980)、およびRemington:The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition(Lippincott Williams & Wilkins, 2005)で見ることができる。
【0105】
本明細書にて開示されるAGIは経肺投与するいずれかの適切な方法によって投与されてもよい。経肺投与は、典型的には、定量加圧式吸入器、乾燥粉末吸入器またはネブライザーを用いて達成される。好ましい実施態様において、本明細書にて開示されるAGIは乾燥粉末吸入器または鼻腔スプレーにより投与される。有利には、本明細書にて開示される乾燥粉末製剤は、投与の際の粒子の凝集を回避または最小とし、流動特性が低く、凝集にむらがあることに起因する送達される用量の変動が小さく、および/または粉末がデリバリー装置の壁に付着することによって粉末を該装置から完全に移すことができないことを回避または最小とし得る。
【0106】
他の好ましい実施態様では、本明細書にて開示されるAGIは、液体を呼吸器にて吸入に適する大きさのエアロゾルに変換する、定量加圧式吸入器を含む、ネブライザーによって投与される。特に、該定量加圧式吸入器は、用量の信頼性の改善をもたらす、AGIの正確かつ一貫した用量を提供することが有利である。適切な噴射剤の使用を含む、適切な製剤の製造は当業者の視野の範囲内であろう。
【0107】
1の実施態様では、本明細書にて開示されるAGIは、水溶液として、対象の肺にはエアロゾルとして送達され得る。該エアロゾルは医薬的に既知のネブライザーを用いて送達されてもよい。当該分野にて既知の適切なネブライザーには、圧縮空気式ネブライザー、超音波式ネブライザー(振動メッシュ式ネブライザーを含む)および音響波式ネブライザーが含まれる。ネブライザーは、患者の吸入操作だけで、または吸入操作の最適化された部分だけで、エアロゾルを送達するようにコントロールすることを含み得る。
【0108】
経肺投与は、典型的には、微粉化粒子の生成を必要とする。微粉化粒子は、乾燥粉末吸入器を用いて投与されてもよく、あるいは乾燥粉末は、ネブライザーまたは鼻腔スプレーで投与される液体(例えば、溶液またはエマルジョン)として、処方されてもよい。微粉化粒子は、典型的には、粉砕または噴霧乾燥のいずれかによって製造される。粒子を微粉化する適切な方法および考察は当業者であれば容易に決定することができる。特に、吸入によって送達するための生物学的に活性な剤の製剤を製造する適切な方法がWO 2013/016754に開示されており、その内容のすべてを相互参照により本明細書に組み込むものとする。
【0109】
特に、微粉化粒子は、サイズ縮小をいずれか適切な形態で行うことによって生成され得る。例えば、アトリション、粉砕、および共粉砕を用いて適切に大きさを調整した粒子を得ることができる。典型的には、エアージェット粉砕を用いてもよく、それでは薬物の大きな粒子が高速エアージェットに巻き込まれて衝突を誘発し、それが粒子の破砕をもたらす。エアージェットミルには、ホソカワミクロン株式会社で製造されるような、多数の形態のエアージェットミルが知られており、スパイラルジェットミルまたは流動床ジェットミルが含まれてもよい。あるいはまた、ボールミルまたはビーズミルなどの他の形態の粉砕もある。
【0110】
微粉化粒子は、添加材料の存在下での共粉砕プロセスにて、既知のいずれかの粉砕工程で形成されてもよい。
【0111】
かかる工業的微粉化は、本明細書にて開示される微粉化されたAGIの表面に非晶質の領域を誘発し得ることが、判明した。かかるケースでの微粉化は、必要とされるサイズ縮小を生じさせるために、バルク材料に激しい衝撃を与えることで起こる。機械的な微粉化の結果として、少量の非晶質材料が存在する場合であっても、物理的に不安定な粒子が作り出され、それが粉末中に速やかに固形ブリッジを形成し、エアロゾル化を妨げ得ることが観察された。この状況では、粉砕工程にて第2材料を添加することで微粉化プロセスを修飾することが有利かもしれない。かくして、微粉化プロセスは、共粉砕プロセスにおいて、接着性改良剤の存在下で行われることが好ましい。かかる接着性改良剤には、限定されないが、ステアリン酸マグネシウムまたは他の金属ステアリン酸塩、L-ロイシンまたはトリロイシンなどのその誘導体、または他の適切なアミノ酸(例えば、リジンおよびシステイン)、ペプチドまたは脂質材料が含まれてもよい。好ましくは、接着性改良剤はL-ロイシンまたはステアリン酸マグネシウムである。接着性改良剤は、共粉砕組成物中に、AGIに対して、約0.01と10重量%との間、好ましくは約0.02と5重量%との間、約0.02と3重量%との間、または約0.1と2重量%との間の量で存在してもよい。
【0112】
いくつかの実施態様において、微粉化粒子は、AGIを含むか、またはAGIからなる。他の実施態様において、微粉化粒子は、AGIと接着性改良剤とを含むか、またはそれらからなる。本明細書にて開示されるAGIを含む微粉化粒子の製剤は、1または複数の医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントおよび/または賦形剤をさらに含んでもよい。他の賦形剤には、限定されないが、増量剤、緩衝剤、および風味または匂いの修飾剤、付着修飾剤、流動剤または溶解修飾剤などの安定化剤が含まれる。
【0113】
微粉化粒子は、以下の:Nektar社が開発したプルモスフィア(Pulmosphere)(登録商標)またはプルモソール(Pulmosol)(登録商標)技法、Alkermes社が開発したエアー(AIR)(登録商標)多孔質粒子技法、Mannkind社が開発したテクノスフィア(Technosphere)(登録商標)技法、Vectura社が開発したパウダーホール(Powderhale)(登録商標)技法によるなどの方法で入手し、プロソニックス(Prosonix)超音波結晶化法により作り出される粒子、例えば、Elan、HovioneまたはSavara社が開発した湿式または乾式ナノ粉砕技法により作り出される粒子などの既知のいずれかの粒子工学システムに設計変更されてもよいが、これらに限定されない。
【0114】
あるいはまた、噴霧乾燥技法を用いて所望する範囲のミクロンの大きさを有する粒子を含有する薬物を生成することもできる。「噴霧乾燥」なる語は、1または複数の溶質の溶液または懸濁液が液体で形成され、それによって該液体が物理的に個々の液滴に噴霧化され、次にそれを乾燥させて乾燥粒子の粉末を形成する、いずれの方法をも包含するものとする。液滴から粒子を形成するプロセスのいずれの形態をも包含し、噴霧凍結乾燥、噴霧冷却および噴霧乾燥などの関連するプロセスを包含し得る。液滴は、加圧噴霧化、空気力学噴霧化、2またはそれ以上の流体式噴霧化、回転盤噴霧化、電気流体力学噴霧化、超音波噴霧化、およびかかる噴霧化プロセスのいずれの変形をも含むが、これらに限定されない、既知のいずれの噴霧化プロセスによっても形成され得る。噴霧化は1の噴霧源または複数の噴霧源から発生させることができる。液体ビヒクル噴霧は水性であっても、なくてもよく、所望により共溶媒に溶解または懸濁させた添加成分を加えて含んでもよい。好ましくは、液体は水を包含する。液体は溶媒として水を単独で利用してもよく、または1または複数の有機共溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、アセトン等をも包含してもよい。液体に使用されるいずれの有機溶媒も、それが任意の爆発限界または燃焼限界を有意に下回る蒸気を生成するように、選択されるべきである。液体は、外界条件で蒸気または固体であるが、選択されたプロセス条件下で液体として存在する、材料を包含し得る。形成された液滴は加熱された乾燥気体の形態にて熱を加えることで乾燥させてもよく、あるいは、他の方法で、例えば乾燥チャンバーの壁から放射状に、またはマイクロ波として熱を加えて乾燥させてもよい。この乾燥プロセスから回収されると、該粒子は、真空乾燥または凍結乾燥などのプロセスを経て、制御された水分レベルにさらに乾燥させるか、または調整させてもよい。あるいはまた、乾燥は、凍結させ、つづいて乾燥させて、あるいは真空を適用することで達成され得る。かかる粒子を得る他の任意の手段、例えば、超臨界流体合成、エマルジョンからの合成、および実質的に球状の粒子を形成する沈殿を制御する任意の他の形態もまた、本明細書にて意図されていると認識されるであろう。
【0115】
粒子を噴霧乾燥させる場合、該粒子を、ステアリン酸マグネシウムまたは他の金属のステアリン酸塩、L-ロイシンまたはトリロイシンなどのその誘導体、あるいは他のペプチドまたは脂質材料などの接着性改良剤と一緒に共噴霧乾燥させるのが有利である。好ましくは、接着性改良剤はL-ロイシンである。共粉砕するか、または縮合/沈殿によるかのいずれかにより、L-ロイシンを添加することによって得られる可能性のある有利な特性が、StaniforthおよびGandertonらによって最初に示された(例えば、WO 96/23485およびWO 00/33811を参照のこと)。この研究では、このアミノ酸の特定の物理特性がその性能向上作用を提供することが示された。その後、いくつかのグループが、特に活性剤および賦形剤と一緒に噴霧した場合に、L-ロイシンが粉末のエアロゾル化に提供する利点を研究してきたが、そのようなシステムでの構造と性能との関係における真の特性は不明なままである。より広義には、噴霧乾燥した粒子構造中の特定のペプチド/タンパク質、例えば、アルブミン、イソロイシンまたはトリロイシンもまた、使用時にエアロゾル化性能の改善を付与する可能性もあるようである。あるいはまた、リン脂質(例えば、DPPC)、レシチンなどの、脂質および脂肪酸物質もまた、この点でいくつかの有利な点を提供する可能性がある。
【0116】
当業者に公知の他の適切な材料もまた、共噴霧乾燥される溶液中に含めることができる。
【0117】
いくつかの実施態様においては、噴霧乾燥の溶液において本明細書で開示されるAGIを接着性改良剤(例えば、L-ロイシン)と一緒に噴霧乾燥させ、物理的に不安定な非晶質性の高い粒子の形成を妨げる必要があるかもしれない。本明細書にて開示される特定のAGIの非晶質形態は高い吸湿性を有する可能性があり、その結果、固形にて沈殿する際に、それらは、噴霧乾燥機の雰囲気下にある固有の水分を含め、存在するいずれの水分も直ちに取り込み、乾燥チャンバーの温度よりもすぐ下の温度であっても液滴を再形成する。この場合、噴霧乾燥機から純粋なAGIを実践的に回収することが困難である可能性があり、回収したとしても、外界の雰囲気への暴露に対して物理的に不安定であるかもしれない。かくして、好ましい実施態様において、噴霧乾燥溶液は、L-ロイシンまたはその誘導体(例えば、イソロイシン)をAGIに対して約5重量%と約50重量%との間の量で含んでもよい。好ましくは、該溶液はL-ロイシンまたはその誘導体をAGIに対して約7重量%と約30重量%との間、約10重量%と約25重量%の間の量で含んでもよい。好ましい実施態様において、該溶液はL-ロイシンをAGIに対して約20重量%の量で含んでもよい。
【0118】
接着性改良剤(例えば、L-ロイシンまたはステアリン酸マグネシウム)を含む乾燥粉末の製剤の粒子は、該接着性改良剤の少なくとも一部が粒子の表面に位置することとなるであろう。該粒子の表面に接着性改良剤が存在することは粒子の凝集する傾向を減少させ得る。接着性改良剤が粒子の表面にある相対的割合は、接着性改良剤を粒子表面にさらに分散させるように、高せん断処理に付すことにより増加させることができる。せん断処理は、当該分野において既知の任意の適切な方法を用いて、例えば、Eirich EL1高せん断ブレンダーまたはHosokawa Micron CyclomixまたはAMSを用いて実施され得る。好ましい実施態様において、表面は、接着性改良剤で少なくとも50%の、より好ましくは75%以上の、最も好ましくは90%以上の被覆を含むであろう。接着性改良剤(例えば、L-ロイシンまたはステアリン酸マグネシウム)を表面に濃縮することが、乾燥した活性な薬物を含有する粒子を凝集から、および水分の浸入から保護するように作用すると考えられる。表面に存在する接着性改良剤の評価は、ToFSIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)またはXPS(x線光電子分析法)などの技法を用いて直接測定され得る。あるいはまた、逆相ガスクロマトグラフィーによっても評価され得る。表面にある接着性改良剤の存在を評価する好ましい方法は、粉末の凝集力を測定することを介する間接的な方法である。
【0119】
いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGIを含む乾燥粉末の微粉化粒子は、エアロゾル化および吸入に適する大きさである。例えば、微粉化粒子は10μm未満、6μm未満、5μm未満、3μm未満、または2μm未満などの15μm未満の物理的な大きさを有してもよい。この実施態様での粒子では、空気動力学的質量中央粒子径が10μm未満であるが、好ましくは5μm未満、または3μm未満であろう。
【0120】
典型的には、上記した大きさの均等性に加えて、粒子の90体積%が、10μm未満、8μm未満、6μm未満、5μm未満、または3μm未満の空気動力学的直径を有してもよい。
【0121】
いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示される噴霧乾燥製剤は、AGIおよび接着性改良剤を含むか、またはそれらからなる。好ましくは、噴霧乾燥製剤はAGIと接着性改良剤との二元混合物である。
【0122】
本明細書にて開示されるAGIを含む微粉化粒子が、1または複数の医薬的に許容される担体、希釈剤または賦形剤をさらに含む場合、これらの医薬的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤もまた、その表面にL-ロイシンまたはステアリン酸マグネシウムまたは他の接着性改良剤があるように製造されてもよい。これらがより大きな、典型的には中央直径が20ミクロンよりも大きく、または40ミクロンよりも大きな担体粒子である場合、これらは高せん断混合によって接着性改良剤で被覆されてもよい。より大きな担体粒子は、ラクトース、マンニトール、または吸入器で担体として用いるのが公知の他の賦形剤を含んでもよい。いくつかの担体は、特に接着性改良剤で被覆される場合、10ミクロン程度と小さく、流動化補助剤として当該分野にて公知のものであってもよい。
【0123】
本明細書にて開示される粉末は、付加的に、いずれか既知の担体粒子、または風味、匂いまたは感覚刺激性修飾剤などの他の添加剤の賦形剤と組み合わせて処方されてもよい。また、該粉末を粉末の流れを改善したソフトペレットにペレット化し、それに応じて乾燥粉末の吸入器を適切に選択することによっても、ある程度の改善がなされるかもしれない。
【0124】
乾燥粉末製剤の粒子は、典型的には、空気動力学的質量中央粒子径が10μm未満、より好ましくは5μm未満、最も好ましくは3μm未満である。
【0125】
本明細書にて使用される場合、「空気動力学的直径」(Dae)」なる語は、問題となる実際の粒子と同じ終端沈降速度を有する単位密度の等価体積の球体の直径として定義される。医薬粉末の肺沈着は、一般に、粒子の空気動力学的挙動の観点で表される。「空気動力学的質量中央粒子径」(「MMAD」)」なる語は、空気動力学的直径に従って等級付けされた粒子の大きさの分布を統計的に表したものであり、本明細書にて質量加重をベースに表される空気動力学的中央直径として定義され、エアロゾルの分野の科学者によって広く用いられ、受け入れられているパラメータである。空気動力学的質量中央粒子径(MMAD)は米国薬局方によって規定される薬局方インパクター法により、アンデルセン・カスケード・インパクターにより、またはネクスト・ジェネレーション・インパクター(NGI)によって測定され得る。この点において、乾燥粉末を高度にエアロゾル化するために、粒子は、一般的に、空気動力学的質量中央粒子径が10μm未満であるが、好ましくは6μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは3.5μm未満、または最も好ましくは2μm未満である。
【0126】
MMADはまた、マルバーン・マスターサイザー(Malvern Mastersizer)3000装置を用いるなどのレーザー光分散法を利用して近似されてもよい。マルバーン・マスターサイザー3000はMMADではなく、質量中央粒子径(MMD)を測定するが、粒子の密度がバルク材料の密度に近い場合に、MMDを比較分散試験で用いてMMADを概算することができる。「質量中央粒子径(「MMD」または「D50」)なる語は、エアロゾルの質量の半分が、直径のより小さな粒子に含まれ、他の半分がより大きな粒子に含まれる粒子の直径をいう。好ましくは、本明細書にて開示される乾燥粉末の製剤の粒子はMMDが10μm未満、より好ましくは5μm未満、最も好ましくは3μm未満である。接着性改良剤を含む時の本明細書に開示される乾燥粉末の製剤の粒子のMMDは、接着性改良剤を含まない対応する製剤よりも、MMDが小さいかもしれない、例えば、接着性改良剤を含む時の本明細書に開示される乾燥粉末の製剤のMMDは、0.2Barの分散圧で測定した場合に、接着性改良剤を含まない製剤よりも、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%またはそれ以上小さくなることがある。接着性改良剤を含む時の本明細書に開示される乾燥粉末の製剤のMMDは、0.2Barの分散圧で測定した場合に、接着性改良剤を含まない製剤よりも、少なくとも25%小さいことが好ましい。
【0127】
MMADは、例えば、噴霧乾燥する間の液滴の形成を制御することによって調節され得る。例えば、ノイズの大きさの選択、気流の速度、および乾燥工程を用いて、所定の大きさで、狭いサイズ分布の液滴を形成することができる。粒子の大きさを調節し、噴霧乾燥した粒子の微粒子の送達量を改善する適切な方法がWO 2004/093848にて論じられている。放出量(ED)は作動後に装置より放出される活性剤の総質量である。これには、装置の内部または外部表面に、または例えば、カプセルまたはブリスターを含む計量システムに残っている材料は含まれない。EDは装置から放出される総質量を集めて測定される。それは送達量均一性試験装置(DUSA)として頻繁に識別される装置で行われてもよく、これは検証された定量的湿式化学アッセイ(重量測定法が可能であるが、これは精度が低い)によって回収されてもよい。別法として、インパクターまたはインピンジャーが用いられる場合には、インパクターまたはインピンジャーシステムの個々のすべての段階にわたって収集された送達量を合わせることでEDが測定される。
【0128】
微粒子送達量(FPD)は、規定された限界値よりも小さい空気動力学的粒子径にて存在する、作動後に装置から放出される活性剤の総質量である。この限界値は、3μm、2μmまたは1μm等などの別の限界値が明示されていないならば、一般に、5μmであると考えられる。FPDは、ツインステージインピンジャー(TSI)、多段階式インピンジャー(MSI)、アンダーセン・カスケード。インパクター(ACI)またはネクスト・ジェネレーション・インパクター(NGI)などのインパクターまたはインピンジャーを用いて測定される。TSIを用いる場合、FPDは一般に6.4μmであると考えられる。というのも、このインピンジャーには、この値で推定されるカットポイントが1つしかないからである。各インパクターまたはインピンジャーは、各段階で所定の空気動力学的粒子径を収集するカットポイントがある。次にFPD値は、検証された定量的湿式化学アッセイ(重量測定法が可能であるが、これは精度が低い)によって定量化されたステージ毎の活性剤の回収を解明することで得られ、これでは単純なステージカットを用いてFPDを決定するか、またはより複雑な数学的内挿のステージ毎の堆積を用いて決定するかのいずれかである。細粒分(FPF)は、普通は、FPDをEDで割り、パーセントで表されたものと定義される。本明細書では、EDのFPFをFPF(ED)といい、FPF(ED)=(FPD/ED)x100%で計算される。細粒分(FPF)は、FPDをMDで割り、パーセントで表されたものとして定義されてもよい。本明細書では、MDのFPFをFPF(MD)といい、FPF(MD)=(FPD/MD)x100%で計算される。FPF(MD)はまた、「投与効率(Dose Efficiency)」ということもでき、デリバリー装置から分注される際に、特定の空気動力学的粒子径よりも下にある、乾燥粉末の医薬製剤の投与量である。
【0129】
好ましい実施態様において、本発明で使用する乾燥粉末製剤は、FPF(ED)を少なくとも約40%、好ましくは約40と99%の間、より好ましくは約50と99%の間、さらにより好ましくは約60と99%の間で含む。さらには、好ましい実施態様において、本発明で使用する乾燥粉末製剤は、好ましくは、FPF(MD)を少なくとも約350%、好ましくは、約40と99%の間、より好ましくは50と99%の間で含む。好ましくは、L-ロイシンまたはステアリン酸マグネシウムなどの接着性改良剤は、本明細書にて開示される粉末製剤の乾燥成分の約5と50重量%の間にある。より好ましくは、本発明に係る乾燥粉末製剤は、接着性改良剤を該製剤の乾燥成分の約10と40重量%の間の量で含んでもよい。好ましくは、L-ロイシンまたはステアリン酸マグネシウムなどの接着性改良剤は、本明細書にて開示される製剤の粒子を含有する活性薬物の約0.20と20重量%の間にある。より好ましくは、接着性改良剤は該製剤の粒子を含有する活性薬物を0.25と10重量%の間で含む。
【0130】
経口および/または経鼻吸入可能な製造に用いるための他の適切な担体、希釈剤および/または賦形剤は当業者に公知であろう。いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示される組成物はさらに、抗酸化剤、界面活性剤、共溶媒、接着剤、安定剤、滑沢剤、湿潤剤、浸透圧調整剤、pH修飾剤、感覚刺激剤(sensory agent)、保存剤、浸透促進剤、キレート剤、甘味剤、香味剤、味マスキング剤、臭覚修飾剤、または着色剤を含んでもよい。増粘剤(例えば、グリセロール、PVPまたは変性セルロース)も、該製剤にさらなる粘度、保湿、および/または快適な感触、および匂いを提供するのに含まれてもよい。さらには、本明細書にて開示される製剤のいくつかの薬剤または成分は、例えば、pH調整剤と浸透圧調節剤の両方として、あるいは感覚刺激剤と共溶媒の両方として、同時に作用してもよい。本明細書にて開示される製剤の所定の薬剤または成分が特定の機能のために選択されているとしても、それは決して単一の機能だけに限定されていると見なされない。薬剤または成分が、代替となるか、複数の機能をさらに果たし得ることを当業者であれば理解するであろう。
【0131】
いくつかの実施態様においては、AGIおよび/または本明細書にて開示されるその乾燥粉末製剤は、医薬的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液または同様のかかる多相組成物または他の分野にて公知の医薬分散体として製造されてもよい。好ましくは、剤形は、等張生理食塩水および医薬的に許容される緩衝剤の担体を含む。エアロゾル化を行うのに、1または複数の噴射剤もまた、製剤に含まれてもよい。適切な噴射剤は当業者に公知であろう。
【0132】
いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGIの製剤は、経肺投与を行うために水性溶液または懸濁液として製造され得る。本発明の製剤が水性溶液または懸濁液である場合、該製剤は水を全組成物の50重量%よりも多い、好ましくは全組成物の約60重量%よりも多い、より好ましくは全組成物の約70重量%よりも多い、さらにより好ましくは全組成物の約80重量%よりも多い量で含んでもよい。さらに他の実施態様において、本明細書にて開示される製剤が水性溶液または懸濁液である場合、該製剤は水を全組成物の約80重量%ないし約99重量%の範囲で、より好ましくは全組成物の約85重量%ないし約98重量%の範囲で含んでもよい。
【0133】
活性成分に加えて、本明細書にて開示される液体剤形は、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油類(例えば、綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにその混合物などの可溶化剤および乳化剤などの当該分野にて一般的に使用される不活性な希釈剤を含んでもよい。不活性な希釈剤の他に、該液体剤形は湿潤剤、乳化剤および沈殿防止剤、甘味剤、香味剤、および香料などのアジュバントを含んでもよい。付加的な不活性希釈剤が、例えば、浸透促進剤、共溶媒等としても作用し得ることが認識されている。
【0134】
かくして、本発明は、α-グルコシダーゼ阻害剤および医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバントまたは賦形剤を含む、吸入可能な組成物に関する。該組成物は経口吸入可能な組成物、鼻腔吸入可能な組成物またはその両方であってもよい。好ましい実施態様にて、乾燥粉末製剤はエアロゾルの形態で投与される。
【0135】
本明細書にて開示される経肺投与用のAGIを含む医薬組成物は、薬学の分野において公知の任意の方法によって製造され得る。一般に、かかる製造方法には、AGIを1または複数の担体、希釈剤、アジュバント、賦形剤または他の付属成分(例えば、接着性改良剤)と組み合わせるようにし、ついで、必要に応じて、および/または所望により、その生成物を所望の単回投与または複数回投与の単位に成形および/または包装する工程が含まれる。
【0136】
特定の実施態様において、単位用量組成物は、本明細書にて上記したように、一日の用量または単位、一日の小分け用量の、あるいはその適切な分量のAGIを含有する組成物である。本明細書にて使用される場合、「単位用量」とは、所定量の活性成分を含む、医薬組成物の分離量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう活性成分(すなわち、AGI)の投与量に、および/または、例えば、投与量の2分の1または3分の1のような、かかる投与量の都合のよい分数に等しい。
【0137】
治療的使用
本明細書にて開示されるAGIまたはかかるAGIを含む組成物は、上部RTI、下部RTI、またはその組み合わせを含む、呼吸器感染症(RTI)の治療または予防に適し得る。さらには、本明細書にて開示されるAGIはウイルス性RTI、細菌性RTI、またはその組み合わせの治療または予防に適し得る。かくして、いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGIはウイルス性RTIおよび細菌性RTIの同時治療または予防に適し得る。
【0138】
ウイルス性および/または細菌性RTIの治療または予防に加えて、本明細書にて開示されるAGIは、例えば、炎症と関連付けられる1または複数の受容体を調節することにより、そのような局所的な炎症反応を引き起こすことが知られている肺感染症の任意の炎症性後遺症を付加的に治療または予防する可能性があるものとする。かくして、いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGIは、任意の関連する炎症と一緒にウイルス性RTIを、または任意の関連する炎症と一緒に細菌性RTIを、あるいはウイルス性RTIおよび細菌性RTIの一方または両方と関連する任意の炎症と一緒にウイルス性RTIおよび細菌性RTIの両方を同時に治療または予防するのに適するかもしれない。このことは、SARS-CoV-2などの炎症反応と関連付けられる肺感染症の治療結果を改善するのに、特に有利であり得る。
【0139】
本明細書にて開示されるL-ロイシンを含む製剤はまた、L-ロイシンが正常細胞にて代謝して、抗炎症特性を有することが分かっている、β-ヒドロキシ β-メチルブチレート(HMB)を産生することは公知であるため、局所的炎症反応を引き起こすことが知られている肺感染症の任意の炎症性後遺症を治療または予防するのに有用であり得るとも考えられる。かくして、いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGI製剤はHMBを含んでもよい。
【0140】
本明細書にて開示されるAGIは、呼吸器のウイルス性感染症を治療するのに特に適するかもしれない。ウイルスは、一般には、それ自体が糖鎖形成機構を欠いており、従ってウイルスを複製するのに宿主の機構に依存している。ウイルスの複製には、例えば、宿主細胞の表面受容体および/またはウイルスの付着および融合タンパク質として、糖タンパク質が関与していることが多い。これらの糖タンパク質は、宿主小胞体(ER)にて糖鎖形成、成熟および折り畳みを経験する。AGIは、より詳細には、イミノ糖は、糖タンパク質の折り畳みのサイクルに参入するのに重要である、グルコシダーゼを標的としており、これらの必須当タンパク質の成熟に干渉して折り畳みを誤った方向に導く(Alonziら、Biochem Soc Trans., 2017, 45(2), 571-582)。従って、AGIは広域スペクトルの抗ウイルス活性を提供するものと考えられる。有利には、本明細書にて開示されるAGIなどの広域スペクトルの抗ウイルス剤は、2種またはそれ以上のウイルス感染症が呼吸器で同時に起こった場合を含め、呼吸器のウイルスによる共同感染症を治療するのに有用であり得る。かくして、いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGIは、1または複数の(例えば、2または3種の)ウイルス性呼吸器感染症を治療または予防するのに有用であり得る。
【0141】
本明細書にて開示されるAGIによって治療され得る呼吸器のウイルス性感染症には、限定されないが、アデノウイルス、コロナウイルス、エンテロウイルス、ヒトメタニューモウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルスまたはライノウイルス、あるいはその任意の組み合わせによって引き起こされる感染症が含まれる。好ましい実施態様において、本明細書にて開示されるAGIは、コロナウイルス、例えば、中東呼吸器症候群(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス1(SARS-CoV-1)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、229E、NL63、OC43およびHKU1を治療するのに適している可能性がある。特に好ましい実施態様において、本明細書にて開示されるAGIは、SARS-CoV-2の治療に適している可能性がある。本明細書にて開示されるAGIは、現在、ヒトで有意な疾患を惹起し、および/または将来の伝染病/パンデミックの起源となる危険性のあるウイルスの治療に特に有用であり得る。かかるウイルスには、以下のファミリー:オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザA H3N2、インフルエンザA H1N1(例えば、pdm09)およびインフルエンザB)、パラミクソウイルス科(例えば、Nipah(NiV)、呼吸器合胞体ウイルスAおよび呼吸器合胞体ウイルスB)、コロナウイルス科(例えば、SARS、MERS、ヒトコロナウイルスOC43)およびピコロナウイルス科(EV68、ポリオおよびエンテロウイルス)が含まれ得る。
【0142】
抗ウイルス活性を評価する適切なアッセイには、ウイルス不活性化アッセイ、プラーク減少アッセイ、細胞病理作用阻害アッセイ、結合および融合アッセイが含まれるが、これらに限定されない(例えば、Antiviral Methods and Protocols, Gong, E. Y.編, 2013, MIMB, 1030巻を参照のこと)。他の適切な抗ウイルスアッセイは当業者に明らかであろう。本明細書にて開示されるAGIが、重症急性呼吸器症候群(SARS)、例えば、SARS-CoV-2、インフルエンザ、パラミクソウイルスおよびピコロナウイルスを含む、種々のウイルスRTIに対して、インビトロにて活性を有することが証明されている。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、デング熱、C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)、コロナウイルス(例えば、とりわけ、MERS、SARSおよびHCoV-229E)を含む、多くの包囲型ウイルスもまた、インビトロにてAGIで阻害され得る。インフルエンザおよびパラミクソウイルスに対する活性を評価するための適切なアッセイが、渡辺ら(MTT colorimetric assay system for the screening of anti-orthomyxo-and anti-paramyxoviral agents. J Virol Methods 1994, 48(2-3), 257-65)、Bondら(The discovery of 1,2,3,9b-tetrahydro-5H-imidazo[2,1-a]isoindol-5-ones as a new class of respiratory syncytial virus (RSV) fusion inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2014, 25(4), 969-975)およびMacDonaldら(Potent and Long-Acting Dimeric Inhibitors of Influenza Virus Neuraminidase Are Effective at a Once-Weekly Dosing Regimen. Antimicrobial Agents And Chemotherapy, 2004, p.4542-4549)によって説明されている。ピコロナウイルスについての適切なアッセイが、Feilらによって説明されている(An Orally Available 3-Ethoxybenzisoxazole Capsid Binder with Clinical Activity against Human Rhinovirus. ACS Med. Chem. Lett. 2012, 3(4), 303-307)。
【0143】
本発明者らは、特定のAGIが、SARS-CoV-2の少なくとも1つの菌株に対してインビトロにて良好な活性(例えば、IC50<100μg/mL)を示すことをSARS-CoV-2ウイロスポット(Virospot)減少アッセイ(Viroclinics, Netherlands)を用いて見出した。いくつかの実施態様においては、特定のAGIは、2、3種またはそれ以上のSARS-Cov-2の菌株に対してインビトロにて良好な活性を示す。例えば、グリセット(ミグリトール)、ミグルスタット(NB-DNJ)およびボグリボースは、少なくとも1種のSARS-CoV-2の菌株に対して活性であることが見いだされた。IHVR-19029、NAP-DNJおよびAMP-DNMは、少なくとも3種のSARS-CoV-2の菌株に対して活性であることが見いだされた。特に、NAP-DNJおよびAMP-DNMは、SARS-CoV-2ウイロスポット減少アッセイを用いて、IC50<10μg/mLおよびIC90<40μg/mLを示すことが示された。NNDNJ、エミグリテートおよびUV-4が、ミグルスタットおよびミグリトール(グリセット)よりも親油性であることを考えると、これらの化合物もまた、SARS-CoV-2に対して良好なインビトロ活性を示すであろうと予想される。さらには、セルゴシビルはウイロスポット減少アッセイにおいてIC50>200μg/mLを示したが、Rajasekharanら(Viruses, 2021, 13, 808)は、最近になって、ACE2受容体を発現するように遺伝子操作したヒト細胞株Huh7(Huh7-hACE2細胞)を用いて、セルゴシビルがSARS-CoV-2に対して活性であることを証明した(EC50=1±0.2μM)。ミグルスタットもまたこのシステムにて活性であることが判明した(EC50=19.9±3.4μM)。いずれの場合も、処理後に生存した核の数が増加し、感染からの保護がもたらされ、試験した最高濃度(各々、500および200μM)までで細胞毒性が無かった。CC50もまた、アラマー(Alamar)ブルーアッセイで測定され、両薬物で1000μMを超える値を示した。
【0144】
細胞株の特性が、例えば、とりわけ、受容体発現の効果、酵素の発現の違いおよびプロドラッグ活性化に関与する他のプロセス、翻訳後修飾に関与するグルコシダーゼなどの宿主標的の発現および活性の違いを通して、インビトロのシステムにおいて説明できる活性に影響を与え得ることは周知である。従って、SARS-CoV-2活性のあるAGIを見出したことは、Rajasekharanらが、異なるアッセイおよび代替となる細胞株を用いて報告される高活性と比べて、ウイロスポット減少アッセイにてプロドラッグのセルゴソビル(celgosovir)が相対的に不活性であることによって明らかにされるように、チャレンジであったとすることができる。この点に関して、セルゴシビルはRajasekharanらによって使用されるアッセイではカスタノスペルミンに代謝されるのに対して、ウイロスポット減少アッセイは必須となる酵素変換を欠いている。従って、セルゴシビルとカスタノスペルミンは、両方共に、SARS-CoV-2をインビボにて阻害するであろうと予想される。
【0145】
かくして、好ましい実施態様において、本発明は、コロナウイルス感染症を治療または予防する方法を提供する。特に、本明細書にて記載される式(ID)のAGI、またはその医薬的に許容される塩は、コロナウイルス感染症、特にSARS-CoV-2の治療に特に適している可能性がある。SARS-CoV-2の治療に適する、式(ID)のAGIの例には、ミグルスタット(NB-DNJ)、グリセット(ミグリトール)、NNDNJ、UV-4、カスタノスペルミン、セルゴシビル、NAP-DNJ、IHVR-19029、AMP-DNM、およびエミグリテートが含まれる。ボルジボースなどの他のAGIもまた、コロナウイルス感染症、特にSARS-CoV-2の治療に適しているかもしれない。
【0146】
本明細書に開示されるようにAGIによって治療され得る呼吸器の細菌感染症には、限定されないが、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌、インフルエンザ菌、肺炎クレブシエラ、大腸菌、緑膿菌、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ属菌、嫌気性菌、結核菌、クラミジア・プシタチ、クラミジア・トラコマティスまたは肺炎クラミジア、あるいはそれらの任意の組み合わせによって引き起こされる感染症が含まれる。細菌感染症は、上部RTI、下部RTI、またはその両方に存在し得る。適切な抗菌アッセイは当業者に明らかであろう。例えば、アッセイは、CLSIにて記載される方法、Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that Grow Aerobically, Approved Standard, 9th ed., CLSI document M07-A9. Clinical and Laboratory Standards Institute, 950West Valley Road, Suite 2500, Wayne, Pennsylvania 19087, USA, 2012に従って行われ得る。
【0147】
本明細書にて開示されるAGIは、RTIの治療を必要とする対象に投与されてもよく、または予防的な意味で投与されてもよい。特に、本発明の方法は、予防的に、ならびに呼吸器感染症の徴候を緩和するために使用されてもよいのは明らかである。従って、本明細書での「治療」等への言及は、そのような予防的治療、ならびに急性症状または兆候の治療的処置を含み得る。従って、1または複数の実施態様において、本発明は、呼吸器感染症の治療的処置にて用いるためのAGIを提供する。他の実施態様において、本発明は、呼吸器感染症の予防的処置にて用いるためのAGIを提供する。
【0148】
従って、本発明は、有効量の本明細書に開示されるAGIを対象に経肺投与することを含む、呼吸器感染症を治療または予防する方法に関する。
【0149】
本発明はまた、対象における呼吸器感染症を治療または予防するための医薬の製造におけるAGIの使用であって、治療または予防がAGIの該対象への経肺投与を含む、使用に関する。
【0150】
本発明はさらに、経肺投与によって対象における呼吸器感染症を治療または予防するのに用いるためのAGIに関する。
【0151】
症状に関して「治療する」、「治療している」または「治療」なる語は、該症状の原因および/または作用を緩和または中止することをいう。本明細書にて使用される場合、「治療する」、「治療」および「治療している」なる語は、1または複数の治療剤(例えば、1または複数の本明細書に開示される化合物または組成物などの1または複数の治療剤)の投与から生じる、症状の進行、重篤度および/または期間を低減または改善するか、または症状の1または複数の徴候(例えば、1または複数の識別可能な徴候)の改善(すなわち、症状を「治癒」することなく「管理」することをいう。特定の実施態様では、「治療する」、「治療」および「治療している」なる語は、本明細書に記載される症状の少なくとも1つの測定可能な物理的パラメータの改善をいう。他の実施態様において、「治療する」、「治療」および「治療している」なる語は、例えば、識別可能な徴候の安定化によって物理的に、または例えば、物理的パラメータの安定化によって生理学的に、あるいはその両方で、本明細書に記載される症状の進行を阻害することをいう。
【0152】
本明細書にて使用される「予防する」および「予防」なる語は、症状の1または複数の徴候の出現を回避または避けるために、予め医薬を投与することをいう。医療の分野における当業者であれば、「予防する」なる語が絶対的な用語でないことを認識する。医療の分野では、症状、または症状の徴候の可能性または重篤性を実質的に軽減させる薬物の予防的投与をいい、これが本開示において意図する意味であると理解される。当該分野の標準的なテキストである、the Physician’s Desk Referenceにて使用されるように、症状に関して「予防する」、「予防している」および「予防」なる語は、症状がそれ自体を完全に発現する前に、該症状の原因、作用、徴候または進行を回避することをいう。
【0153】
いくつかの実施態様においては、呼吸器感染症の治療または予防を必要とする対象は哺乳動物である。本明細書にて使用される場合の「哺乳動物」なる語には、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ロバ)、実験室試験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット)、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ)および飼育野生動物(例えば、カンガルー、シカ、キツネ)が含まれる。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0154】
本明細書にて開示されるAGIは治療有効量でそれを必要とする対象に投与されることとなる。いくつかの実施態様においては、治療有効量は治療的に効果的な量または予防的に効果的な量である。本明細書にて使用される場合の「治療的に効果的な量」なる語は、呼吸器感染症に付随する徴候を治療または緩和するのに十分なAGIの量を意味する。投与される化合物の治療的に効果的な量はかかる考えによって管理されており、該症状あるいは1または複数のその徴候を改善、治癒または治療するのに必要な漸増的な最大耐性用量であるか、最小量のいずれかである。「予防的に効果的な量」なる語は、疾患または障害となる機会を防止または実質的に減らすのに効果的な量、あるいは疾患または障害を獲得する前にその重篤性を軽減するのに、または徴候を発症する前に1または複数のその徴候の重篤性を軽減するのに効果的な量をいう。大まかには、予防的措置は一次予防(疾患または徴候の発症を防止する)と二次予防(疾患または徴候を既に発症しており、患者をこのプロセスの悪化から保護する)に分けられる。予防には暴露後の予防(例えば、RTIに暴露されていることが分かっている対象に、本明細書にて開示されるようなAGIを有効量で投与すること)が含まれてもよい。本明細書にて使用される場合、「効果的な量」なる語は、望ましい投与計画に従って投与した場合に、所望の治療活性が得られる、AGIの量に関する。例えば、AGIまたはその立体異性体の効果的な量は、ウイルスまたは細菌の増殖または複製を阻害、遅延、中断、停止、防止または阻止するのに十分な量であり得る。適切な有効量は、患者の年齢、性別、体重および健康状態に依存し、主治医が決定し得る。適切な投与量は1回の投与に付き体重1kg当たり約0.1ng~体重1kg当たり100gの範囲内にある。投与量は1回の投与に付き体重1kg当たり1mg~1000mgの範囲内にあるように、1回の投与に付き体重1kg当たり1μg~10mgの範囲内にあってもよい。1の実施態様において、投与量は1回の投与に付き体重1kg当たり1mg~500mgの範囲内にあってもよい。もう一つ別の実施態様において、投与量は1回の投与に付き体重1kg当たり1mg~250mgの範囲内にあってもよい。さらにもう一つ別の実施態様において、投与量は、1回の投与に付き体重1kg当たり50mgまでのような、1回の投与に付き体重1kg当たり1mg~200mgの範囲内にあってもよい。
【0155】
本明細書にて開示される化合物、組成物または製剤に関して「投与する」、「投与している」または「投与」なる語は、活性剤(すなわち、AGI)の治療を必要とする対象のシステムに導入することを意味する。活性剤が1または複数の他の活性剤と組み合わせて提供される場合、「投与」およびその変形は、各々、AGIと他の活性剤の同時および/または連続的な導入を含むものと理解される。
【0156】
特定の実施態様において、70kgの成人に1日に1または複数の回数投与する場合のAGIの効果的な量は、1個の単位剤形に付き、約0.0001mg~約4000mg、約0.0001mg~約3000mg、約0.0001mg~約200mg、約0.001mg~約1500mg、約0.01mg~約1000mg、約0.1mg~約1000mg、約1mg~約1000mg、約1mg~約100mg、約10mg~約1000mg、または約100mg~約1000mgの抽出物または化合物を含んでもよい。
【0157】
特定の実施態様において、本明細書にて開示される吸入可能な組成物は、対象の体重1kg当たり1日に約0.001mg~約100mg、約0.01mg~約50mg、約0.1mg~約40mg、約0.5mg~約30mg、約0.01mg~約10mg、約0.1mg~約10mg、および約1mg~約25mgで送達され、1日に1または複数回、望ましい治療効果を得るのに十分な投与レベルであってもよい。
【0158】
1用量に付き投与されるAGIの量、または投与される組成物の総容量は、徴候の性質および重篤度、患者の年齢、体重および健康状態、ならびに投与経路などの因子に依存するであろう。本明細書にて開示されるような医薬組成物中の賦形剤、溶媒、希釈剤、塩、増粘剤、感覚刺激剤、緩衝剤、および/または任意の添加成分の相対量もまた、治療される対象の身元、大きさ、および/または状態、ならびに投与経路に依存してもよい。
【0159】
例えば、いくつかの実施態様においては、治療的に同等な効果を達成するのに必要なAGIの投与量は、経口吸入剤形と比べて、経鼻吸入剤形では多いかもしれない。本明細書にて使用される場合の「治療等価」または「治療的に同等な」なる語は、同じ臨床効果および安全特性をもたらし、および/または互いに医薬的に均等である同じ活性剤を含む、異なる組成物をいう。
【0160】
本明細書にて開示される吸入可能な製剤は、単回用量にて、または一連の投与量で投与されてもよい。適切な投与量および投与計画は主治医によって決定され得、それは治療される個々の症状、該症状の重篤性、ならびに対象の年齢、健康状態および体重に依存するかもしれない。本明細書にて記載されるような用量範囲は、付与される医薬組成物の成人への投与に関する指針を提供することが理解されよう。投与されるべき量は医療従事者または当業者によって決定され得る。
【0161】
本明細書にて開示される製剤は、任意の適切な肺送達方法によって、それを必要とする対象に投与されてもよい。経口または経鼻吸入を含め、経肺投与に適する方法は、当業者に周知であろう。
【0162】
好ましくは、本明細書にて開示される吸入可能な組成物は、エアロゾルの形態にて投与されてもよい。特に、本明細書にて開示されるような乾燥粉末製剤は、当該分野にて公知の装置および技法を用いて投与されてもよい。この点に関して、患者に乾燥粉末を吸入させることを目的として、当該分野にて記載される吸入装置が多くあり、この装置は本発明の乾燥粉末の投与のために使用されてもよい。
【0163】
乾燥粉末吸入装置(DPI)は当該分野にて周知であり、種々の異なる型がある。一般に、乾燥粉末はその装置内に貯蔵され、装置を作動させると貯蔵した場所から取り出され、その際に粉末は該装置から粉末のプルームの形態にて排出され、それが対象によって吸入されることになる。大抵のDPIでは、粉末は、例えば、所定量の乾燥粉末製剤を含有するブリスターまたはカプセル中に、単位的方式にて貯蔵される。いくつかのDPIは、粉末リザバーを有し、粉末の用量が装置内で計量される。これらのリザバー装置は、処置が孤立した治療の1回または少数の投与である可能性がある場合には、あまり好ましくないかもしれない。
【0164】
乾燥粉末吸入器は受動的であっても能動的であってもよい。受動的吸入器は、患者が内呼吸することで該装置を通って吸い込まれる空気を用いて粉末をエアロゾル化するものであり、能動的装置は粉末が、例えば、Nektar Exubera装置またはVectura Aspirar装置などの圧縮気体源であるか、振動(Microdose装置など)または衝撃などの機械エネルギーの形態であってもよい、別のエネルギー源によってエアロゾル化されるものである。
【0165】
本発明における使用に適する乾燥粉末吸入器の装置には、「単回投与」装置、例えば、ロタヘイラー(Rotahaler)(登録商標)、スピンヘイラー(Spinhaler)(登録商標)およびディスクヘイラー(Diskhaler)(登録商標)が含まれ、それには個々の用量の粉末組成物が、例えば、単回投与のカプセルまたはブリスターにて該装置に導入される。装置は、例えば、(GSKディスカス装置のように)粉末をブリスターストリップにて予め計量して提供することができ、その予め計量したフォーマットは複数の用量を含むか、あるいは患者が、薬物を含有するカプセルなどの予め計量された外部投与形を挿入するものである(例えば、Boehringer Ingelheim Handihaler、またはMiat Monodose)。あるいはまた、該装置はリザバー装置であってもよく、患者が操作している間に粉末の用量が粉末リザバーから装置内で計量される(例えば、Astra Turbuhaler)。これらの吸入器の装置はいずれの型でも使用され得る。
【0166】
該装置は、好ましくは、単回使用の装置であっても、または少数回の投与で用いるように設計された装置であってもよく、使い捨てとすることができる。例えば、ツインカー(Twincer)装置、ダイレクトヘイラー(Direct Haler)装置、ツインキャップ(Twin Caps)装置またはパフ-ヘイラー(Puff-haler)である。これらの装置の利点は、そのシンプル性、構成要素の少なさ、および低コストにある。独立した構成要素が10個よりも少ない装置が好ましい。より好ましくは5またはそれ以下であり、最も好ましくは3またはそれ以下である。達成される投与効率に影響を与えるであろう、送達装置と関連付けられる多くの要因がある。第1に、用量の摘出がある。加えて、生成される粉末プルームの動力学も投与送達に影響を与えるであろう。好ましくは、装置は高放出用量および高効率脱凝集を可能とするであろう。高効率脱凝集は、しばしば、作動する際に生じる高レベルの粉末衝突と関連付けられる。該装置は低、中または高度の空気流抵抗を有してもよい。当業者であれな、本発明の組成物が受動的または能動的吸入器装置のいずれかで投与され得ることを理解するであろう。
【0167】
本明細書にて開示される経鼻吸入可能な組成物は当業者に公知のいずれか適切な方法を用いて投与され得る。例えば、本明細書にて開示される鼻腔内用組成物はスプレーまたは点滴として投与されてもよい。従って、鼻腔内製剤を含有する適切な市販パッケージは、当該分野にて公知の任意のスプレー容器とすることができる。1または複数の実施態様において、本明細書にて開示される製剤はスプレー装置または容器を介して投与され得る。スプレー装置は、例えば、ボトル、ポンプおよび/またはアクチュエータを含む、単回単位投与システムまたは複数回投与システムであってもよい。かかるスプレー装置は市販されている。適切な市販されているスプレー装置には、Nemera、Aptar、BespakおよびBecton-Dickinsonから入手可能なものが含まれる。さらに別の実施態様において、本明細書にて開示される製剤は、米国特許第5,655,517号に記載されるような静電スプレー装置を介して投与されてもよい。本発明に従って経鼻吸入を介して製剤を投与するのに適する他の手段が、点滴器、シリンジ、スクイーズボトル、および正確および反復して可能な方法にて鼻腔に液体を塗布するのに当該分野にて既知の他のいずれかの手段を介するものが含まれる。
【0168】
本明細書にて開示されるような組成物を投与するのに使用されるスプレー装置は、単回使用に計量した投与スプレー装置から複数回使用に計量した投与鼻腔スプレー装置へと多岐にわたってもよく、溶液を各鼻孔(ナリス)にスプレーすることに限られず、プランジャー、シリンジ等からの緩やかな液体流として、または単位用量または複数回用量のスクイーズボトルからの点滴として、あるいは正確および反復して可能な方法にて鼻腔吸入によって投与するのに当該分野にて既知の他の手段として投与され得る。
【0169】
1または複数の実施態様において、本発明で使用するのに適するスプレー装置は、典型的には、1回のスプレー作動で、0.01~0.15mLの範囲の容量の液体を送達し得る。鼻腔スプレー製品の典型的な投与計画は、単一の鼻孔(ナリス)への1回のスプレーから各鼻孔(ナリス)への2回のスプレーへと多岐にわたってもよい。同じ鼻孔(ナリス)への反復投与も受諾され得る。
【0170】
反復投与計画を含む、経肺投与の投与計画は、所望の薬物動態学的プロファイルを得るのに修飾されてもよい。さらには、投与計画は、RTIに付随する徴候の重篤性の速やかな減少、好ましくは停止を達成するのに修飾されてもよい。1または複数の実施態様において、反復投与は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、または24時間毎に起こってもよい。いくつかの実施態様においては、RTIの徴候の重篤性の減少、または徴候の停止を達成するのに、反復投与量において漸増が必要とされる可能性がある。例えば、RTIの徴候の重篤性の減少、または徴候の停止を達成するために、反復投与量を25%、50%、75%、100%、150%または200%増加させる必要があるかもしれない。
【0171】
特定の実施態様において、本明細書にて記載されるAGIが、他の従来の投薬の代替薬または置換薬として、その必要とする対象に投与され得ることが想定される。他の実施態様において、本明細書にて開示されるAGIが、従来の薬物の補足薬または補助薬としてその必要とする対象に投与され得ることが想定される。さらに別の実施態様において、本明細書にて開示されるAGIが補助療法の不在下でその必要とする対象に投与され得ることが想定される。
【0172】
呼吸器感染症の治療のために従来の医薬品を本明細書にて開示されるAGIと置き換えることは、特に従来の医薬品が1または複数の副作用と関連付けられる場合に、利点があり得る。
【0173】
併用療法
他の実施態様において、本明細書にて開示されるようなAGI(その立体異性体を含む)は、RTIの特定の徴候に対処するために、別々の期間にわたって、1または複数の他の医薬と一緒に、その必要とする対象に投与されてもよい。さらに別の実施態様において、その必要とするヒトは、その治療期間にわたって、AGIと1または複数の付加的な医薬(順次または組み合わせて投与される)とで治療されてもよい。かかる併用療法は、例えば、相加または相乗的な治療効果が望まれる場合に、特に有用であり得る。
【0174】
本明細書にて開示されるAGIは、1または複数の付加的な治療剤との併用療法にて使用されてもよい。1より多くの活性剤を用いる併用療法で、該活性剤が別々の剤形に配合されている場合、該活性剤は別々に投与されても、組み合わせて投与されてもよい。加えて、1つの要素の投与は、他の薬剤の投与の前であっても、同時であっても、または後であってもよい。
【0175】
本明細書にて使用される場合の「併用療法」なる語は、例えば、本明細書にて記載されるようなAGIまたはその医薬的に許容される塩の第1の量と、付加的な適切な治療剤の第2の量とを用いて、効果的な量を投与することをいうと解されるべきである。
【0176】
他の薬剤と共投与される場合、第2の薬剤の「効果的な量」は使用される薬物の型に依存するであろう。適切な投与量は承認されている薬剤では公知であり、対象の症状、治療される症状の型、使用される化合物、抽出物または組成物の量に従って当業者が調整し得る。量が明示されていない場合には、効果的な量は想定されるべきである。例えば、本明細書に記載される化合物は、約0.01~約10,000mg/kg体重/日、約0.01~約5000mg/kg体重/日、約0.01~約3000mg/kg体重/日、約0.01~約1000mg/kg体重/日、約0.01~約500mg/kg体重/日、約0.01~約300mg/kg体重/日、約0.01~約100mg/kg体重/日の投与量の範囲にて対象に投与され得る。
【0177】
特定の実施態様において、本明細書にて開示されるAGI(またはその医薬的に許容される塩)および付加的な治療剤は、各々、効果的な量(すなわち、単独で投与された場合に治療的に効果的であろう量)で投与される。他の実施態様において、AGIおよび付加的な治療剤は、各々、単独では治療効果を付与しない量(治療量以下の量)で投与される。さらに別の実施態様において、AGIは効果的な量で投与され得、その一方で付加的な治療剤は治療量以下の用量で投与される。さらなる別の実施態様において、AGIが治療量以下の用量で投与され得、その一方で付加的な治療剤が効果的な量で投与される。
【0178】
本明細書にて使用される場合、「併用」または「共投与」なる語は、1種より多くの治療剤(例えば、1または複数の予防および/または治療剤)の使用をいうのに互換的に用いられ得る。該用語の使用は、治療剤(例えば、予防および/または治療剤)がそれを必要とするヒトに投与される順序を制限しない。
【0179】
共投与は、AGIと、1または複数の付加的な治療剤とを、単一の医薬組成物、例えば、第1と第2の量が固定された割合であるエアロゾルまたは経鼻スプレーのように本質的に同時に、あるいは別個の剤形として投与することを包含する。加えて、かかる共投与はまた、各化合物をいずれかの順序で連続して使用することも包含する。共投与が第1の量のAGIと、第2の量の付加的な治療剤との別々の投与を包含する場合、それらは所望の治療効果を有するように時間的に十分に近い範囲で投与される。例えば、所望の治療効果をもたらし得る、各投与間の期間は、数分から数時間の範囲とすることができ、効力、溶解性、生物学的利用能、血漿中半減期、動力学的プロフィールなどの各化合物の特性を考慮して決定され得る。
【0180】
AGIが付加的な治療剤と一緒に投与される1または複数の実施態様において、その付加的な治療剤は、所望の治療成果をもたらすいずれの治療剤であってもよい。特に、該治療剤は1または複数の呼吸器感染症の徴候を含むその感染症の治療または予防のための既知の治療剤より選択され得る。
【0181】
本明細書にて開示されるAGIは、他の抗ウイルス剤または抗レトロウイルス剤、抗菌剤、あるいは免疫調節剤、免疫刺激剤、抗生物質等などのウイルスまたは細菌感染症の治療にて用いるのに適する他の治療剤と組み合わせて投与されてもよい。適切な抗ウイルスまたは抗レトロウイルス剤の非限定的な例には、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、タフェノキン、レムデシビル、ロピナビル、リトナビル、ダルナビル、ファビピラビル(ファビラビル)、リバビリン、ガリデシビル、ニタゾキサニド、オセルタミビル、ザナミビル、ウミフェノビル、テノフォビル、ニクロサミド、リファンピシン、ムトリシタビン、ベルパタスビル、レジパスビル、ネルフィナビル、ダルナビル、コビシスタット、ウミフェノビル、トリアザビリン、ジスルフィラム、ニタゾキサニド、ナファモスタット、カモスタットメシル酸塩、アルミトリンビスメシル酸塩、イベルメクチン、β-D-N4-ヒドロキシシチジン、他のイムノ糖類(PCT/US09/55658にて同定されるものなど)、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤、ステノパリブ、フィンゴリモド、コルヒチン、N4-ヒドロキシシチジン、メチルプレドニゾン、オセルタミビル、イカチバント、ペルファニジン、ビラセプト、エメチン、ホモハリングトニン、アロキシスタチン、バルビシン、ファモチジン、アルミトリン、アンプレナビル、ヘスペリジン、ビオロビン、クロモリンナトリウム、トシルズマブおよびサリルマブが含まれてもよい。適切な免疫調節剤および免疫刺激剤の非限定的な例には、種々のインターロイキン、シダコム、抗体製剤(主要な炎症性サイトカインまたは自然免疫応答の他の態様に対して向けられたモノクローナル抗体、例えば、トシリズマブ、サリルマブ、バリシチニブ、イマチニブ、ダサチニブ、ルキソリチニブ、アカラブルチニブなど)、インターフェロン-αおよび-β、シクロスポリン、輸血および細胞輸送が含まれてもよい。適切な抗生物質の非限定的な例には、抗真菌剤および抗菌剤が含まれてもよく、その例は当業者に周知である。
【0182】
いくつかの実施態様においては、本明細書にて開示されるAGIは、1または複数の抗炎症剤と組み合わせて投与されてもよい。適切な抗炎症剤の非限定的な例には、吸入可能なコルチコステロイド(ブデソニド、フルチカゾン、ベクラメタゾンジプロピオン酸塩、モメタゾン、シクレソニドなど)、他のコルチコステロイド(デキサメタゾン、プレドニソロン、プレゾニゾン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、フルドロコルチゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾンなど)、非ステロイド性抗炎症剤(イブプロフェン、アスピリン、ナプロキセン、ジクロフェナク、セレコキシブなど)、b-アドレナリン受容体アンタゴニスト(ナドロールなど)、およびAMPK活性剤(AICARなど)が含まれてもよい。他の適切な抗炎症剤は当業者に明らかであろう。
【0183】
本明細書にて開示されるAGIと共投与され得る他の薬剤の例には、粘液溶解剤および抗血栓剤(ヘパリン、アセチルシステイン、ジピリダゾールなど)、他の呼吸療法薬(ベータアゴニスト、長期作用型ベータアゴニスト、抗コリン剤、抗ムスカリン剤および長期作用型抗ムスカリン剤など)、肺線維症治療薬(ピルフェニドン(エスブリエット)、ニンテダニブ(オフェブ)、プレドニゾン、ミコフェノール酸塩、モフェチル/ミコフェノール酸、アザチオプリン、メトトレキセート、シクロホスファミド、ラパマイシン(シロリムス)、およびタクロリムスなど)、肺高血圧症治療剤、ニコチン、テルピンおよび関連性カンナビノイド誘導体、亜鉛および一酸化窒素生成材料(アルギニンなど)が含まれる。しかしながら、AGIはまた、呼吸器感染症、例えば、SARS-Cov-2、または肺の炎症に付随する他の疾患および/または損傷を治療または予防するのに有用な他の薬剤と組み合わせて投与されてもよいことが理解されるであろう。
【0184】
AGIが付加的な治療剤と組み合わせて投与される場合、第2の薬剤は、上記のように、所望の治療活性を付与する任意の「効果的な量」で投与されてもよい。その付加的な治療剤の適切な投与量および投与計画は主治医が投与することができ、対象の治療される特定の症状、該症状の重篤性、ならびに一般的な年齢、健康状態および体重に依存してもよい。特記されない限り、本明細書に記載される用量の範囲は、医薬組成物を成人に付与する投与のための指針を提供することが理解されるであろう。投与すべき量は、医療従事者または当業者が決定し得る。
【0185】
キット
本明細書にて開示されるAGIおよびその製剤はキットに含まれてもよい。そのキットは、例えば、AGIおよび添加剤を含んでもよく、各々が個々に、包装または処方されても、一緒に包装または処方されてもよい。かくして、AGIを第1の容器に入れ、キットが所望により1または複数の剤を第2の容器に含んでもよい。容器をパッケージ内に入れ、そのパッケージには投与または用量の仕様説明書を含めることができる。本明細書にて開示されるキットは、AGIを経肺投与(例えば、吸入器またはスプレー装置および容器または包装)に適する形態にて含んでもよい。該キットは、本明細書に記載の1または複数の方法(例えば、RTIを予防または治療する方法)で、医薬組成物を用いる方法を説明する仕様書を所望により含んでもよい。該キットは、共治療で用いるための本明細書に記載される1または複数の添加剤、医薬的に許容される担体、アジュバントおよび/または賦形剤を含む第2の医薬組成物を所望により含んでもよい。キットに含有される、AGIを含む医薬組成物、および第2の医薬組成物は、所望により、同じ医薬組成物中に配合されてもよい。
【0186】
当業者であれば、本明細書に記載される発明が、具体的に記載される発明以外の変形および修飾に供されることを認識するであろう。本明細書に記載される発明はそのようなすべての変形および修飾を含むことを理解すべきである。本発明はまた、個別にまたは包括的に、本明細書にて言及されるか、または示される、そのようなすべての工程、特徴、方法、組成物および化合物を、そして該工程または特徴の任意の2またはそれ以上のありとあらゆる組み合わせを包含する。
【0187】
本発明の特定の実施態様を、この度、以下の実施例を参照にして説明する。その実施例は、説明を目的とするに過ぎず、上記した一般性の範囲を限定することを意図とするものではない。
【0188】
実施例
ウイルスの本明細書に記載のα-グルコシダーゼ阻害剤に対するインビトロでの感受性を、定量アッセイを用いて評価し、漸増濃度の試験製品(すなわち、AGI)の有無でのウイルス複製を測定した。
【0189】
有効濃度50(EC50)の測定
ウイルス感染細胞において陽性対照および試験製品で達成される細胞保護%を、以下に示すPauwelsら(Journal of Virological Methods, 1998, 20(4), 309-321頁)の式:
【数1】
式中:
[ODt]virus=所定の濃度の試験製品または陽性対照の効果をウイルス感染細胞で試験する、ウェルにて測定される光学密度
[ODc]virus=陰性対照の効果をウイルス感染細胞で試験する、ウェルにて測定される光学密度
[ODc]mock=陰性対照の効果をmock感染細胞で試験する、ウェルにて測定される光学密度
【0190】
EC50値は、下記に示されるHill(シグモイドEmax)の式:
【数2】
[式中:
x=試験または対照製品の濃度;
y=細胞保護%;
Min=最小値;
Max=最大値;
D=勾配係数]
を用いて、非線形回帰分析による細胞保護%の結果より算出した。
【0191】
50%細胞毒性濃度(CC50)は、mock感染細胞の吸光度を、対照値の50%減少させる試験化合物の濃度として定義される。CC50値を[ODt]mock/[ODc]mockの割合として計算した。
【0192】
IDBS XLFit4 Excel Add-in(ID Business Solutions Inc., Alameda, CA)を用いて上記の計算を行った。
【0193】
アルファ-グルコシダーゼ阻害剤
以下の実施例にて使用されるAGIは次のように商業的に入手可能である:
・ アカルボース(Acarbose):Sigma-Aldrich/AK Scientific, Inc.
・ AMP-DNM: Cayman Chemical Company/Santa Cruz Biotechnology, Inc.
・ ミグルスタット(Miglustat)(NB-DNJ):Sigma-Aldrich/Biosynth Carbosynth Limited
・ グリセット(Glyset)(ミグリトール):Sigma-Aldrich/AK Scientific, Inc.
・ エミグリテート(Emiglitate)(BAY1248):LabNetwork/Medchemexpress
・ N-ノニルデオキシノジリマイシン(NNDNJ):Sigma-Aldrich/Santa Cruz Biotechnology, Inc.
・ N-7-オキサデシルデオキシノジリマイシン(UV-4;SP116):LabNetwork/Medchemexpress
・ カスタノスペルミン(Castanospermine):Sigma-Aldrich/Biosynth Carbosynth Limited
・ セルゴシビル(Celgosivir)(6-O-ブタノイルカスタノスペルミン):Sigma-Aldrich/Biosynth Carbosynth Limited
・ IHVR-19029:AbovChem LLC/Medchemexpress
・ ボグリボース(Voglibose):Sigma-Aldrich/AK Scientific, Inc.
【0194】
NAP-DNJは、WO 2011028779、US 20070275998A1およびRawlingsら(Synthesis and Biological Characterisation of Novel N-Alkyl-Deoxynojirimycin α-Glucosidase Inhibitors. ChemBioChem. 2009, 10(6), 1101-1105)に記載の1または複数の方法によって合成され得る。
【0195】
実施例1. ミグルスタットおよびミグリトールの塩製剤
ミグルスタット L-アスパラギン酸塩
【化16】
ミグルスタット(NB-DNJ)(5.00g、0.0228モル、1.0当量)、L-アスパラギン酸(3.03g、0.0228モル、1.0当量)、および蒸留脱イオン水(100mL)を250mLの丸底フラスコにて合わせた。該フラスコを手で5~10分間かき混ぜ、大部分の固体を溶かした。固体がすべて溶けたならば、フラスコの中身を液体窒素を用いて凍結させ、該フラスコを凍結乾燥機に入れ、22時間乾燥させて無色の固体(8.60g、定量的収量)を得た。NMR:H NMR(400MHz、DO) δ 4.04(dd,J=13.4、1.7Hz、1H)、3.94(dd,J=13.4、3.0Hz,1H)、3.85(dd,J=8.8、3.8Hz,1H)、3.75(ddd,J=11.4、9.4、4.9Hz,1H)、3.62(dd,J=10.5、9.4Hz,1H)、3.54(dd,J=12.3、5.0Hz,1H)、3.47(t,J=9.4Hz,1H)、3.32(td,J=12.3、11.8、5.3Hz,1H)、3.17(ddd,J=12.9、11.0、5.6Hz,2H)、3.04(t,J=11.9Hz,1H)、2.77(dd,J=17.5、3.8Hz,1H)、2.63(dd,J=17.5、8.8Hz,1H)、1.78-1.58(m,2H)、1.35(hd,J=7.2、2.5Hz,2H)、0.90(t,J=7.4Hz,3H)
【0196】
ミグルスタット L-グルタミン酸塩
【化17】
ミグルスタット(NB-DNJ)(5.00g、0.0228モル、1.0当量)、L-グルタミン酸(3.35g、0.0228モル、1.0当量)、および蒸留脱イオン水(100mL)を250mLの丸底フラスコにて合わせた。該フラスコを手で5~10分間かき混ぜ、大部分の固体を溶かした。固体がすべて溶けたならば、フラスコの中身を液体窒素を用いて凍結させ、該フラスコを凍結乾燥機に入れ、22時間乾燥させて無色の固体(9.10g、定量的収量)を得た。NMR:H NMR(400MHz、DO) δ 4.04(dd,J=13.4、1.8Hz,1H)、3.95(dd,J=13.4、3.0Hz,1H)、3.81-3.67(m,2H)、3.62(dd,J=10.5、9.4Hz,1H)、3.54(dd,J=12.3、5.0Hz,1H)、3.47(t,J=9.4Hz,1H)、3.32(ddd,J=13.1、11.3、5.6Hz,1H)、3.23-3.10(m,2H)、3.04(dd,J=12.3、11.4Hz,1H)、2.44-2.24(m,2H)、2.16-1.94(m,2H)、1.68(dddt,J=18.3、14.5、12.3、6.3Hz,2H)、1.35(ttd,J=14.3、7.2、2.6Hz,2H)、0.90(t,J=7.4Hz,3H)
【0197】
ミグリトール L-アスパラギン酸塩
【化18】
グリセット(ミグリトール)(5.00g、0.0241モル、1.0当量)、L-アスパラギン酸(3.21g、0.0241モル、1.0当量)、および蒸留脱イオン水(100ml)を250mLの丸底フラスコにて合わせた。該フラスコを手で5~10分間かき混ぜ、大部分の固体を溶かした。固体がすべて溶けたならば、フラスコの中身を液体窒素を用いて凍結させ、該フラスコを凍結乾燥機に入れ、22時間乾燥させて無色の固体(9.01g、定量的収量)を得た。NMR:H NMR(400MHz、DO) δ 4.09-3.89(m,4H)、3.86(dd,J=8.6、3.8Hz,1H)、3.79(ddd,J=11.4、9.4、5.0Hz,1H)、3.70-3.61(m,2H)、3.55(ddd,J=13.9、7.0、4.5Hz,1H)、3.48(t,J=9.4Hz,1H)、3.29(ddd,J=14.0、5.3、4.0Hz,1H)、3.21(dt,J=10.5、2.6Hz,1H)、3.07(dd,J=12.3、11.4Hz,1H)、2.79(dd,J=17.6、3.8Hz,1H)、2.65(dd,J=17.6、8.6Hz,1H)
【0198】
ミグリトール L-グルタミン酸塩
【化19】
グリセット(ミグリトール)(5.00g、0.0241モル、1.0当量)、L-グルタミン酸(3.55g、0.0241モル、1.0当量)、および蒸留脱イオン水(100ml)を250mLの丸底フラスコにて合わせた。該フラスコを手で5~10分間かき混ぜ、大部分の固体を溶かした。固体がすべて溶けたならば、フラスコの中身を液体窒素を用いて凍結させ、該フラスコを凍結乾燥機に入れ、22時間乾燥させて無色の固体(9.18g、定量的収量)を得た。NMR:H NMR(400MHz、DO) δ 4.07-3.96(m,2H)、3.95-3.85(m,2H)、3.77(ddd,J=11.3、9.4、4.9Hz,1H)、3.70(dd,J=7.1、5.0Hz,1H)、3.66-3.58(m,2H)、3.57-3.42(m,2H)、3.26(ddd,J=13.9、5.4、4.0Hz,1H)、3.16(dt,J=10.5、2.6Hz,1H)、3.08-2.98(m,1H)、2.41-2.24(m,2H)、2.15-1.94(m,2H)
【0199】
実施例2 グリセット(ミグリトール)
試料製造
グリセット(ミグリトール)(溶液2A):
溶液2Aは、10gのグリセット(ミグリトール)を200mLの水に溶かし、少し撹拌して完全な溶解を得ることで製造された。
【0200】
グリセット(ミグリトール)/L-ロイシン(溶液2B):
溶液2Bは、8gのグリセット(ミグリトール)および2gのL-ロイシンを200mLの水に溶かすことで製造された。該混合物を5分間撹拌してL-ロイシンの完全な溶解を得た。
【0201】
溶液の噴霧乾燥
1.0mmのノズル径を取り付けたAcross International SD-S15 Spray Dryerをこれらの実施例にて用いた。Niro SD Microの、Buchi 290またはProcept Spray Dryerなどのいずれの実験室用噴霧乾燥機もこの工程に適している。
【0202】
噴霧乾燥機の準備
実験を開始する前に、最初に噴霧乾燥機に約50mLの水をパージした。まず、ファンをオンにし、8に設定し、つづいて190℃に設定して加熱を行った。装置が操作温度に達したなら、次に空気ポンプをオンにし、つづいて蠕動ポンプを30に設定し、ニードルをスクリーニングするパルスを8秒に設定した。次に該システムを定常状態に達するようにさせた。
【0203】
実験2A-溶液2Aの噴霧乾燥
準備操作を終えたなら、次に水流をグリセット(ミグリトール)溶液(溶液2A)と交換した。200mL容量を噴霧乾燥するにはこれらの条件下で約20分間を要した。グリセット(ミグリトール)はサイクロンで収集する際に極めて吸湿性であることが判明した。乾燥粉末というよりも、サイクロン表面にて最初に乾燥物が堆積し、それは速やかにサイクロンチャンバーの回りで蓄積するスラリーとなり、収集フラスコに回収された材料はほとんどなかった。粉末は回収できなかった。
【0204】
実験2B-溶液2Bの噴霧乾燥
次に同じ条件下で該実験を繰り返し、溶液2Bを噴霧乾燥させた。この工程もまた、これらの条件下で約20分間続いた。グリセット(ミグリトール)/L-ロイシン溶液(溶液2B)はこれらの条件下で全く異なる結果をもたらした。白色の粒子状の固体が主としてサイクロンの収集フラスコに集まったが、サイクロンの上部セクションには堆積物も形成された。得られた噴霧乾燥した生成物は極めて微細な白色粉末であった。
【0205】
その微細な白色粉末の生成材料は、周辺の実験室条件で容易に回収でき、容易にエアロゾル化され(実施例6を参照のこと)、相対的に低粘着性であるが、中程度の粘着特性を示し、それでいずれの接触表面にも細かな粉塵残渣が残った。グリセット(ミグリトール)/L-ロイシンの噴霧乾燥した生成物のサンプルの嵩密度は約0.238g/mLであった。このシステムの収集効率は約60%と推定された。
【0206】
まとめ
グリセット(ミグリトール)/L-ロイシン(溶液2B)は、エアロゾル化が容易である、細かな白色で粉塵の生成物の粉末に噴霧乾燥された。ニートなグリセット(ミグリトール)生成物(溶液2A)は、その吸湿性のため、これらの標準的な操作条件下では粉末として回収できなかった。
【0207】
実施例3. ミグルスタット(NB-DNJ)の噴霧乾燥
サンプルの準備
ミグルスタット(NB-DNJ)(溶液3A)
溶液3Aは、5gのミグルスタット(NB-DNJ)を100mLの水に溶かし、5分間にわたって少し撹拌し、完全に溶解させることで製造された。
【0208】
ミグルスタット(NB-DNJ)(溶液3B)
溶液3Bは、4gのミグルスタット(NB-DNJ)と、1gのL-ロイシン(Sigma Aldrich)とを95mLの水と5mLのエタノール(L-ロイシンの溶解を促進するために添加された)とに溶かし、10分間にわたって少し撹拌し、完全な溶解を得ることで製造された。
【0209】
ミグルスタット(NB-DNJ)(溶液3C)
溶液3Cは、3gのミグルスタット(NB-DNJ)と、0.75gのL-ロイシン(Sigma Aldrich)とを95mLの水と5mLのエタノール(L-ロイシンの溶解を促進するために添加された)とに溶かし、10分間にわたって少し撹拌し、完全な溶解を得ることで製造された。
【0210】
ミグルスタット(NB-DNJ)アスパラギン酸塩(溶液3D)
溶液3Dは、4gのミグルスタット(NB-DNJ)アスパラギン酸塩(実施例1にて製造された)と、1gのL-ロイシン(Sigma Aldrich)とを、95mLの水と5mLのエタノール(L-ロイシンの溶解を促進するために添加された)とに溶かし、10分間にわたって少し撹拌し、完全な溶解を得ることで製造された。
【0211】
ミグルスタット(NB-DNJ)グルタミン酸塩(溶液3E)
溶液3Eは、3gのミグルスタット(NB-DNJ)グルタミン酸塩(実施例1にて製造された)と、0.75gのL-ロイシン(Sigma Aldrich)とを、85mLの水と5mLのエタノール(L-ロイシンの溶解を促進するために添加された)とに溶かし、10分間にわたって少し撹拌し、完全な溶解を得ることで製造された。
【0212】
溶液の噴霧乾燥
直径が0.7mmのノズルを取り付けたビュッヒ(Buchi)290実験室噴霧乾燥機をこれらの実施例において用いた。実施例2と同様に、Across International SD-S15またはProcept Spray Dryer、またはNiro SD Microなどの実験室噴霧乾燥機もまた、この工程に適しているであろう。
【0213】
噴霧乾燥機の準備
実験を開始する前に、最初に噴霧乾燥機に約20mLの水をパージした。まず、アスピレーターをスイッチオンにし、100%に設定し、つづいて目的とする入口温度に設定して加熱を行った。装置の目的とする操作温度に達したならば、次に霧化空気ポンプをオンにして空気流を45L/時間にし、つづいて蠕動ポンプを20%に設定した。ついで、システムを定常状態にし、その後で蠕動ポンプを試料を噴霧乾燥させるようにスイッチを切り替えた。
【0214】
実験3A-溶液3Aの噴霧乾燥
噴霧乾燥機の準備は上記のとおりであり、(ビュッヒ290の操作について指示された標準設定として)入口温度を180℃に設定し、それは実施例2で使用される入口温度と同じくらいであった。出口温度は約125℃と記録された。
【0215】
準備操作を終えたなら、次に水流をミグルスタット(NB-DNJ)溶液(溶液3A)と交換した。100mL容量の噴霧乾燥にはこれらの条件下で約15分間を要した。サイクロンで収集する際に白色の粉末が観察されたが、下部の乾燥チャンバーとサイクロンに入る入口にて固形材料の有意な堆積が観察された。実験の終了の際には、約300mgの粉末が該サイクロンから回収されたに過ぎず、回収率は約6%であった。サイクロンの入口には大量のオフホワイト色の残基がケーキ状で認められ、それは粉末形態というよりも固体であり、質量で該材料の大部分であるように見えた。
【0216】
実験3B-溶液3Bの噴霧乾燥
噴霧乾燥機の準備は、上記したとおりであり、入口温度を180℃に設定した。出口温度は約125℃と記録された。
【0217】
準備操作を終えたなら、次に水流をミグルスタット(NB-DNJ)&L-ロイシン(溶液3B)と交換した。
【0218】
100mL容量の噴霧乾燥にはこれらの条件下で約15分間を要した。溶液3Aと比べて、白色の粉末の量の増加がサイクロンにおける収集にて観察されたが、またもや固形材料の著しい堆積が、下部乾燥チャンバーにて、およびサイクロンに入る入口で観察された。実験を終えて、約1gの粉末がサイクロンより回収されたに過ぎず、回収率は約20%であった。サイクロンの入口には白色の残基がケーキ状で認められ、それは粉末形態というよりも固体であった。
【0219】
実験3Aおよび3Bの観察から、サイクロンでの収集不良は、おそらくは、生成された粉末の融点が低いため、結果として収集している間に粒子が軟化し、下部乾燥チャンバーおよびサイクロン入口で粘着性となり、溶けて固まり易いと結論付けられた。その後の実験は入口および出口の温度を下げて行われた。
【0220】
実験3C-溶液3Cの噴霧乾燥
噴霧乾燥機の準備は、上記したとおりであり、入口温度を135℃に設定した。出口温度は約80~85℃と記録された。
【0221】
準備操作を終えたなら、次に水流をミグルスタット(NB-DNJ)&L-ロイシン(溶液3C)と交換した。
【0222】
100mL容量の噴霧乾燥にはこれらの条件下で約15分間を要した。下部乾燥チャンバーおよびサイクロンへの入口で固形材料の量の減少が観察された。実験を終えて、約1.1gの粉末がサイクロンポットより回収され、0.87gの粉末がサイクロン本体より回収され、回収率はサイクロンポットで約30%であり、サイクロンからは約50%が回収された。
【0223】
実験3D-溶液3Dの噴霧乾燥
噴霧乾燥機の準備は、上記したとおりであり、入口温度を135℃に設定した。出口温度は約80~85℃と記録された。
【0224】
準備操作を終えたなら、次に水流をミグルスタット(NB-DNJ)アスパラギン酸塩&L-ロイシン(溶液(3D)と交換した。
【0225】
100mL容量の噴霧乾燥にはこれらの条件下で約15分間を要した。噴霧乾燥は非常に効率的であるようで、ほとんどの粉末がサイクロンポットに集まり、サイクロンの他の部分または乾燥チャンバーでは堆積はほとんどなかった。実験を終えて、約3.2gの粉末がサイクロンポットより回収され、そのサイクロンポットでの回収率は約65%であった。該粉末は純白であり、高いエアロゾル化挙動を示し、撹拌すると大きなエアロゾル化した雲を発生させた。噴霧乾燥した塩のSEM画像から、粒子が凝集していないこと、分散を助けるために明確な皺々の形態であることが分かった(図1)。
【0226】
実験3E-溶液3Eの噴霧乾燥
噴霧乾燥機の準備は、上記したとおりであり、入口温度を135℃に設定した。出口温度は約80~85℃と記録された。
【0227】
準備操作を終えたなら、次に水流をミグルスタット(NB-DNJ)グルタミン酸塩&L-ロイシン(溶液3E)と交換した。
【0228】
90mL容量の噴霧乾燥にはこれらの条件下で約15分間を要した。噴霧乾燥は効率的であるようで、大部分の粉末がサイクロンポットに集まり、サイクロンの他の部分または乾燥チャンバーではほとんど堆積しなかった。実験を終えて、約2.5gの粉末がサイクロンポットより回収され、そのサイクロンポットでは回収率が約67%であった。実験3Dと同様に、この粉末は純白であり、回収の際にエアロゾル化挙動を示した。しかしながら、実験3Dと異なり、実験3Eで生成される粉末は、回収時に吸湿性であり、水分を吸い上げて、速やかにより粘着的となり、50~60%の相対湿度で外界の空気に2、3分間暴露すると、接触面とくっつくようになる。
【0229】
実施例4:微粉化および共微粉化
スタートヴァント(Sturtevant)社製Micronizer Fluid Energyの4インチのジェットミルを用いて一連のグリセット(ミグリトール)例を粉砕し、本発明の粉末を提供するのに必要とされる最適化を明らかにした。グリセット(ミグリトール)を実証材料として用い、その物理特性はそれが本発明の他のアミノグリコシドと同様であることを意味する。
【0230】
そのジェットミルの供給圧を約4Barに、粉砕圧を約7Barに設定した。効果的な供給と粉砕を確保するための最適化が、各ケースで必要とされる。粉砕した粉末はサイクロンとそのサイクロンの出口の上に取り付けられたバッグフィルターに集められる。
【0231】
実験4A-グリセット(ミグリトール)の微粉末化
5.11gのグリセット(ミグリトール)を秤量し、約2g/分の一定速度でミルに手動で供給した。粉砕が終了してから、該サイクロンの上にあるフィルターバッグを振ることで、該システムからその加工処理した粉末を回収した。このシステムから回収される粉末の量は少量であることが分かった。約7%に相当する、約0.37gの粉砕された粉末が回収された。残りの粉末は、その粘着性のために、バッグフィルター媒体に付着しているようである。粉末のSEM画像では、微粉化粒子の多くが凝集したクラスター認められた(図2)。
【0232】
実験4B-グリセット(ミグリトール)と2%ステアリン酸マグネシウムとの共微粉化
5.14gのグリセット(ミグリトール)を秤量し、0.10gのステアリン酸マグネシウムと合わせた。混合物をスパテラを用い、手で約2分間にわたってブレンドした。この混合物を約2g/分の一定速度でミルに手動で供給した。粉砕が終了してから、該サイクロンの上にあるフィルターバッグを振ることで、該システムからその加工処理された粉末を回収した。約48%に相当する、約2.51gの粉砕された粉末が回収された。この粉末は実験4Aから由来の粉末と比べて粘着性が著しく低かった。
【0233】
実験4C-グリセット(ミグリトール)と5%ステアリン酸マグネシウムとの共微粉化
5.06gのグリセット(ミグリトール)を秤量し、0.25gのステアリン酸マグネシウムと合わせた。混合物をスパテラを用い、手で約2分間にわたってブレンドした。この混合物を約2g/分の一定速度でミルに手動で供給した。粉砕が終了してから、該サイクロンの上にあるフィルターバッグを振ることで、該システムからその加工処理された粉末を回収した。約58%に相当する、約3.1gの粉砕された粉末が回収された。この粉末も実験4Aから由来の粉末と比べて粘着性が著しく低かった。粉末のSEM画像では、凝集したクラスターと、より分散した一次微粉化粒子との混在が認められた(図3)。
【0234】
まとめ
本明細書に記載される共微粉化が、意外にも、アミノグリコシド単独での微粉化と比べて、微粉化した粉末をはるかに容易、かつ大きく回収することを可能とする、改善方法を提供することは明らかであった。
【0235】
実施例5:共微粉化粉末の高エネルギー共混合(メカノフュージョン)
実験4Bおよび4Cの共微粉化に付した試料を合わせ、1mmのギャップ加工処理ステータで、ホソカワ(株)(Hosokawa)製AMS Mini Nobilta粉末プロセッサにて加工処理するのに十分な粉末の塊を提供した。3.7w/w%ステアリン酸マグネシウムと共微粉化したミグルスタット(NB-DNJ)を含む4.6gの試料を得、それをNobiltaプロセッサに装填した。
【0236】
粉末は、最初に、1分間にわたって1000rpmまでゆっくりと速度を上げ、1000rpmで1分間保持した後に停止することで、予備ブレンドに付された。この操作により、粉末の良好な混合が確保されるものとする。
【0237】
次に該粉末を1分間にわたって3000rpmまでゆっくりと速度を上げ、約3000rpmで5分間保持することで、加工処理に付した。この間に、電力の読取り値が50Wから40Wに落ちており、これはプロセッサでの抵抗が減少したことを示し、これには粉末の粘着性の低下が反映しているかもしれない。SEM画像は、実験4A、4Bおよび4Cの粉末で観察されるよりもより分散した一次微粉化粒子を示した(図4)。
【0238】
粉末の注型(poured)嵩密度は3g/ccと測定され、これは微粉化した医薬品粉末としては高密度である。
【0239】
高密度だと乾燥粉末吸入器で所定の容量にてより大きな用量レベルが可能となるため、高密度とするのが有利である。このことは、Miat MonohalerまたはNovartis Breezhalerで、0.3ccの容量で使用されるように、サイズ3 HPMCカプセルを可能とし、90mgまでの非タップの用量を保持し、PH&T TurbospinまたはNovartis Podhalerで、0.37ccの容量で使用されるように、サイズ2 HPMCカプセルを可能とし、110mgまでの非タップの用量を保持するであろう。
【0240】
これを、0.19g/ccと測定された、実験3Dからの粉末の注型嵩密度と比較する。
【0241】
実施例6:加工処理されたマイクロ粉末のエアロゾル化の評価
処方された粉末の相対的なエアロゾル化を比較するのに、ハリスおよびモートン(HarrisおよびMorton)によって最初に開発された方法(「Powder Dispersibility: A Screening Method for Dry Powder Inhaler Development」, Proceedings of Aerosol Society Drug Delivery to the Lungs XIV, London, UK, 2003)を適合させて本明細書に記載の実施例の粉末を評価した。
【0242】
これらの試験では、各試料から由来の約30mgの粉末を、所定のパラメータ(すなわち、粉末屈折率の値)を用いて、Malvern Mastersizer 3000 乾燥分散ユニットに供給した。分散は加圧した4種の分散空気圧で行われた(0.1Bar(システムで測定可能な最低値)、0.2Bar、0.5Barおよび1Bar)。粒度分布データを誘導化し、この技法を用いて従来の研究のように、分散を質量中央径(D50)で表した。担体粒子が存在しないため、MMDがMMADの有効な近似値であると考えられた。
【0243】
試験4Aおよび4Cから由来の粉末で試験を行い、ステアリン酸マグネシウムとの共微粉化の効果を粉末分散性について評価し、ついで実施例3および5から由来の粉末についても評価した。実験3Aからは1回の分散に十分な粉末しか得られず、それを識別する圧力として0.5Barで分散させた。
【0244】
結果を以下の図5ならびに表1および2に示す。ここで、中央径(D50)は、直径がこの値よりも上または下にある粒子の割り当てが50%である、際の値であり、D90は、直径がこの値よりも下にある粒子の割り当てが90%である、際の値である。
表1. 圧力分散試験での中央径(D50)
【表1】
表2. 圧力分散試験でのD90
【表2】
【0245】
これらの圧力分散試験から、処方された粉末が全く異なる相対的エアロゾル化を示すことは明らかである。実験3Cの粉末の、20w/w%のL-ロイシンと共噴霧乾燥させたミグルスタット(NB-DNJ)は、135℃の入口温度にて、0.1Barの最低圧で略完全な分散がもたらされ、すべての圧力で良好に分散した。Malvern Mastersizerで測定される質量中央径は光散乱によって誘導化されるものであり、空気動力学的直径よりもむしろ幾何学的直径であることに留意すべきである。当業者であれば、噴霧乾燥粉末では、微粉化した粉末と比べて、粒子密度が減少することが多く、従って、これらの測定値が有効空気動力学的直径よりも大きく見えることを理解するであろう。比較すると、実験3Aから由来のL-ロイシン不含で噴霧乾燥したミグルスタット(NB-DNJ)の分散測定だけが、0.5Barで極めて十分に分散しなかったに過ぎない。
【0246】
5w/w%のステアリン酸マグネシウムと共微粉化した実験4Cの粉末のグリセット(ミグリトール)は、0.1Barで中程度の分散を、0.2Barで良好な分散を、そして0.5Barおよび1Barで完全な分散を提供する。比較した場合、実験4Aの粉末の微粉化したグリセット(ミグリトール)では、0.5Barまでのすべての圧力で分散は満足いくものではなく、1Barでだけ良好な分散を提供する。実験5は相対的なエアロゾル化が、共ジェット粉砕で、つづいて高せん断工程でさらに改善され、粒子表面の接着性改善剤の被覆を改良することを示す。
【0247】
これらの分散試験は、本発明に必要とされる高用量デリバリーの課題を処理するために、薬物粉末を薬物に富む分散形態とするのに適切な製剤化の解決方法を確立するとの技術的要求を明確に示している。高用量デリバリー製剤の開発は大きな課題であり、各新規クラスの薬物分子においては特別なケースである。
【0248】
実施例7. SARS-CoV-2アッセイ
SARS-CoV-2試験は、SARS-CoV-2ウイロスポット減少アッセイを用い、オランダ国の独立契約研究機関であるウイロクリニックス(Viroclinics)によって実施された。これは、他のアッセイ形式(従来のプラークカウントアッセイなど)と比べて、推定抗ウイルス化合物のIC50/IC90(EC50/EC90とも称される)を測定するためのハイスループットアッセイであり、生データから結果までのトレーサビリティを改善する。該アッセイでは、ウイルス特異的免疫染色や、感染細胞の自動画像化によって、細胞単層でのウイルス増殖の薬物-または抗体-介在性減少を測定する。感染病巣(すなわち、「スポット」)の数の自動カウントは、IC50/IC90を計算するための生データを提供する。
【0249】
試験品の連続希釈したシリーズを固定量のウイルスと混合し、ウイルス/阻害剤をVeroE6細胞に添加する。阻害剤不含のウイルス対照ウェルと、薬物とウイルス不含の細胞対照とが含まれる。ウイルス増殖は、16~24時間のインキュベーションに付した後に、感染細胞のツルーブルー(TrueBlue)免疫染色およびウイルス「スポット」(ウイルスが増殖し、タンパク質を発現する領域に相当する)の自動カウントによって測定され、そのIC50値は4回反復操作を用いて計算される。
【0250】
方法
接着細胞をマルチウェルプレートに播種した。細胞培養物に、連続希釈した化合物の有無の下で、標準化された量のウイルスを接種し、つづいて18~24時間のインキュベーションおよび適切なウイルス検出法(CTL Immunospot Image Analyserを用いる免疫染色およびカウントスポット)を行った。
【0251】
ウイルスシグナルを各濃度の化合物の存在下で検出し、50%阻害濃度(IC50)および90%阻害濃度(IC90)を測定した。IC50およびIC90値を、Zielinskaら(Virol J. 2005, 2(84))が記載する方法を用いてウイルスシグナルから算定した。
【0252】
陽性対照としてレムデシビルを用いた。
【0253】
細胞毒性は直接的には測定されなかったが、該アッセイでは結果を導き出すのに無傷の細胞の単層を必要とした。重度の細胞傷害性が視覚検査で明らかとなり、化合物の細胞の健全性に対する何らかの有害な作用は、「スポット」の形成に負の影響を及ぼす可能性がある。このことは報告されなかった。
【0254】
種々のAGIのSARS-CoV-2の3種の異なる菌株に対する活性を表3に示されるように測定した。
表3. AGIのSARS-CoV-2に対する活性
【表3】
【0255】
実施例8. 代替となるSARS-CoV-2抗ウイルスアッセイ
【0256】
SARS-CoV-2hCoV-19/オーストラリア/VIC01/2020は、1%(w/v)L-グルタミン、1.0μg/mLのTPCK-トリプシン、0.2%BSA、1xPen/Strep、および1%インスリン・トランスフェリン・セレニウム(ITS)を補足した、L-グルタミン不含の最小必須培地を含む、ウイルス増殖培地を用いてアフリカ緑ザル腎臓(Vero)細胞(ATCC-CCL81)にて増殖させることができる。
【0257】
Vero細胞を96ウェルプレートに2x10細胞/ウェルで100μLの播種培地(1%(w/v)L-グルタミン、1%ITS、1xPen/Strep、0.2%BSAを補足した最小必須培地)にて播種してもよい。プレートを37℃、5%COで一夜インキュベートさせてもよい。
【0258】
抗ウイルス剤のストック溶液を、試験当日に新たに製造し、かき混ぜ、目視して検査し、完全に溶解していることを確認した。陽性対照化合物のレムデシビルはDMSO中の10mMストックとして製造され、-20℃で保存されてもよい。
【0259】
抗ウイルス剤のDMSO希釈シリーズは、V字底のスカート付きPCRプレートの行Aおよび行Bの列2に10μL(5mg/mL)を添加することで行われ得る。15μLの容量のDMSOを行AおよびB、列3~11に添加し得る。5μLの化合物を列2から列3に、列3から列4に、列10まで連続して移し、その後で廃棄することにより抗ウイルス剤を連続して1:3に希釈することができる。
【0260】
ウイルス増殖培地(1%(w/v)L-グルタミン、1%ITS、0.2%BSA、1μg/mL TPCK-トリプシン、1xPen/Strepを補足した最小必須培地)における中間希釈シリーズは、4μLの化合物を行AおよびB、列2~11から496μLのウイルス増殖培地に移すことにより生成され得る。
【0261】
各化合物の中間連続希釈体から取り出した50μLの容量をアッセイプレートの行B~Gに添加してもよい。
【0262】
0.05の感染多重度(moi)を生成するために、ウイルス増殖培地にて希釈した50μL容量のSARS-CoV-2を5個の96ウェルプレートに添加してもよい。このmoiは4日で100%CPEを提供するのに予め測定された。ウイルスを行B、CおよびDに添加し、抗ウイルス活性を評価し、ウイルス不含のウイルス増殖培地を行E、FおよびGに添加し、細胞傷害性を評価してもよい。プレートを37℃、5%COで4日間インキュベートし、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)で染色してもよい。
4日間インキュベートした後、MTTで染色することにより生存細胞を測定することができる。100μLの容量の3mg/mLのMTTの溶液をプレートに添加し、37℃、5%COインキュベーター中にて4時間インキュベートしてもよい。ウェルを真空チャンバーに取り付けたマルチチャネルマニホールドを用いて乾固状になるまで吸引し、200μLの100%2-プロパノールを室温で30分間にわたって添加することで、ホルマザン色素の結晶を可溶化させてもよい。プレートリーダー上にて540-650nmで吸光度を測定してもよい。
【0263】
参考文献
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Rajasekharan S, Bonotto RM, Kazungu Y, Alves LN, Poggianella M, Orellana PM, Skoko N, Polez S, Marcello A.、Repurposing of Miglustat to inhibit the coronavirus Severe Acquired Respiratory Syndrome SARS-CoV-2. 2020, bioRxiv. doi: 10.1101/2020.05.18.101691
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図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】